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第3章 兵器用核分裂性物質生産禁止条約

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第3章 兵器用核分裂性物質生産禁止条約
第3章
第1節
兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約)
カットオフ条約の概要とその意義
兵 器 用 核 分 裂 性 物 質 生 産 禁 止 条 約 は 、 通 称 FMCT( Fissile Material
Cut-off Treaty)またはカットオフ条約と呼ばれ、96 年に採択された包括
的核実験禁止条約(CTBT)に続く、現実的かつ実質的な多数国間の核
軍縮・不拡散措置である。すなわち、核兵器不拡散条約(NPT)が核兵
器国から非核兵器国への核兵器やその他の核爆発装置の移譲を防止し、
CTBT がすべての核実験を禁止することで核兵器の開発を防ぐのに対し、
カットオフ条約は兵器用の核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウ
ム等)の生産を禁止することで、新たな核兵器の生産を防ごうとするも
のである。
カットオフ条約が成立すれば、米露による核兵器削減の方向性を支え、
新たな核保有国の出現を防ぎ、また、核軍備競争をなくすことが可能と
なる。これは、核軍縮・不拡散の歴史上大きな意味をもつだけでなく、
国際安全保障環境の安定にも大きく貢献することになる。ブッシュ米政
権においても、カットオフ条約の交渉開始を支持していることは、前向
きの要素である。
この条約の主な目的は、核兵器国及び NPT 未締結国(特にインド、パ
キスタン、イスラエル)の核兵器製造能力を凍結することにある。元来
想定されている条約上の義務としては、(1) 核爆発装置の研究・製造・
使用のための兵器用核分裂性物質の生産禁止、(2) 他国の兵器用核分裂
性物質の生産に対する援助の禁止、(3) 条約遵守を検証する措置の受け
入れなどがあげられる。
第2節
これまでの経緯
1.交渉の場としてのジュネーブ軍縮会議
カットオフ条約は、93 年 9 月にクリントン米大統領(当時)が国連総
会演説で提案したものであるが、同年 11 月には、その交渉を適当な国際
的フォーラムで行うことを勧告する国連総会決議がコンセンサスで採択
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さ れ た 。 そ の 後 、 交 渉 の 場 を ジ ュ ネ ー ブ 軍 縮 会 議 ( CD:Conference on
Disarmament)とすることが合意された。
95 年のジュネーブ軍縮会議第 1 会期末において、特別報告者としてシ
ャノン・カナダ大使が取りまとめた交渉マンデート案が採択されたこと
により、カットオフ条約を扱う特別委員会の設置が決定された。しかし、
その後、カットオフ条約の交渉開始とジュネーブ軍縮会議の特定分野に
関する作業計画の策定とをリンクさせる主張が一部の国から行われたた
め、カットオフ条約の交渉は開始されないままとなっていた。
兵器用核分裂性物質生産禁止に関するシャノン・カナダ大使報告概要
(いわゆるシャノン・マンデート)
1.軍縮会議は、「核兵器その他の核爆発装置のための核分裂性物質の生産禁止」
に関する特別委員会を設立することを決定する。
2.軍縮会議は、特別委員会に対し、非差別的、多数国間的、かつ国際的・効果
的に検証可能な兵器用核分裂性物質生産禁止条約に関する交渉を行うよう
命ずる。
2.現状
98 年 5 月のインド及びパキスタンによる核実験の実施といった新たな
状況の出現により、同年 8 月 11 日、ジュネーブ軍縮会議において、改め
てカットオフ条約特別委員会の設置が決定された。しかし 99 年の会期で
は、再びジュネーブ軍縮会議の作業計画を巡る議論が紛糾したため、同
委員会の再設置は実現しなかった。
2000 年 NPT 運用検討会議において、ジュネーブ軍縮会議に対し、「カ
ットオフ条約の即時交渉開始及び 5 年以内の妥結を含む作業計画」への
合意が奨励された。これを受けて、2000 年会期において、カットオフ条
約交渉に新たな進展があることが期待された。しかし、米国のミサイル
防 衛 に 反 発 し て い る 中 国 が 、「 宇 宙 空 間 に お け る 軍 備 競 争 の 防 止 」
(PAROS)についての交渉を同時に開始することを主張し、米国は PAROS
に関して交渉を行うことは受け入れられないとしている。こうした米中間
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の対立により、現在までにもカットオフ条約の交渉は始まっていない。
第3節
わが国の基本的考え方
カットオフ条約は、核兵器国や NPT 未締結国の核能力を凍結するとい
う観点から極めて意義のある条約である。わが国は、条約の交渉を速や
かに開始し、妥結することが重要と考え、カットオフ条約の交渉開始に
向けた努力を継続する考えである。
また、条約交渉が 5 年以内に妥結したとしても、発効までには長期間
を要すると思われる。したがって、条約交渉が終了して発効するまでの
間、核兵器国が兵器用核分裂性物質の生産停止(生産モラトリアム)を
一方的に宣言することが有意義である。このことは、わが国が 2001 年に
国連総会に提出し、圧倒的多数で採択された核軍縮決議の中でも言及し
ている。
第4節
カットオフ条約交渉開始に向けてのわが国の外交努力
カットオ フ条約交渉開始に向けてのわが国の外交努力
わが国は、これまで、2000 年 NPT 運用検討会議や国連総会第一委員
会(軍縮・安全保障担当)などの場において、カットオフ条約交渉の早
期開始及び 5 年以内の交渉妥結を強く推進してきた。具体的には、98 年
5 月にジュネーブにおいてカットオフ条約セミナーを開催し(議長:栗
原弘善外務省参与)、主に技術的側面から同条約の検討を行った。条約交
渉開始に向けての勢いを加速するために、また、来るべき交渉に備えて、
米国、英国、カナダ、オーストラリアと二国間協議を順次行ってきてお
り、今後も主要国との間でこれを継続する考えである。
さらには、2001 年 5 月には、ジュネーブにおいて、カットオフ条約交
渉に関連するあらゆる論点について、各国の担当者の知識・情報量を向
上させ、来るべき条約交渉に備えるという目的で、ワークショップを開
催した(オーストラリアと共催)。在ジュネーブの外交官(主に大使レベ
ル)、各国専門家等、約 100 名が出席し、核軍縮・不拡散の取組の中に占
めるカットオフ条約の重要性が認識され、条約交渉開始に対する強い政
治的意思が確認された。
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