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地すべり学 - 鹿児島大学
←地すべり学会のロゴ 地すべり学 棚口地すべり 鹿児島大学理学部地球環境科学科 岩松 暉 火星における地すべり 地すべり学講義もくじ 地すべりの定義 地すべりの分類 日本の地すべり 地すべり地形 地すべりと第四紀地史 地すべりの運動様式 地すべりの原因 素因(内的条件) 誘因(外的条件) 地すべり調査法 地すべりの予知予測 地すべりの対策と防 止工法 地すべりとは 地殻表層物質が重力によって斜面下方 へ移動する現象 地質学…堆積作用の一過程 地形学…造地形運動の一種 Mass 媒質中を分散して移動→土石流・崩壊 Mass Transport Movement マスとしての形を保って移動→地すべり 地すべりの定義 地すべり等防止法(1957) 土地の一部が地下水などに起因してすべる現象 またはこれに伴って移動する現象 高野秀夫(1960) 山腹斜面の一団の範囲が摩擦抵抗を排し,すべ りによって安定化しようとする現象 Zaruba & Mencle(1969) 明確な分離面によって斜面の下の静止した部分 から分離した滑動岩の早い動き 小出 博(1973)の解説 地すべりの定義はむつかしい。定義のよ うな簡単な形で表現するのは不可能 人体に例えるならば,異常体質におこる 慢性的な病気 ex.喘息 原因よく分からない慢性病 治療決め手なし 時期が来れば自然治癒 一見激しい症状を呈しても致命的でない 喘息と地すべりのアナロジー 花粉・ハウスダ スト・大気汚染 アレルギー体質 軽症 (素因) (鼻 水) (誘因) 降雨・融雪 軟弱な地質 過労・不安 重症 (拡大要因) (喘 息) 地すべり 地すべりの分類基準 植村(1980) 分類とは何らかの基準に基づいて行われる 形態的特徴…円弧型地すべり,板状すべり 材料物質の種類…岩盤すべり,崩積土すべり 運動様式…クリープ型すべり,断続型すべり 地域性…第三紀層地すべり,北松型地すべり 時代性…活地すべり,化石地すべり 歴史性…一次すべり,幼年型地すべり 小出の三大分類 ― 小出 博(1955)による地質構造に基づく分類 ― 第三紀層地すべり(新潟・北陸) 第三紀層は固結度が低く,風化して粘土化し やすいため,地すべりが発生しやすい 破砕帯地すべり(三波川帯) 地層が地殻運動による歪力を受け破砕された 地域に発生,結晶片岩地すべりも含める 温泉地すべり(箱根・霧島) 火山地帯では温泉変質により粘土化してお り,慢性的なクリープ型地すべりが起こる 日本の地すべり(1) 地すべりは特定の 地質構造帯に偏在 グリーンタフ地帯地すべり 三波川帯地すべり 日本の地すべり(2) 地すべりは特定の地質のところに偏在 グリーンタフ地域(日本海側) 北陸:面積比率5.18% 中でも新潟県は日本一の地すべり県 外帯結晶片岩地域(四国三波川帯) 中国・四国:面積比率2.32% 九州は0.54%と少ないほうだが,長崎・佐賀 両県の北松型地すべりが有名 各地の地すべりの特徴 北海道 0.01% 圧倒的に日本海側に集中 長野・姫川・富士川・嶺岡 関東山地・赤石山地 北陸 5.18% 新潟県南部・富山周辺・奥 能登 融雪期に多い 東海・近畿 0.25% 但馬・丹後・北神戸・淡路 島・紀ノ川・十津川 中国・四国 2.32% 関東 0.92% 道央増毛山地に群発 融雪期と秋雨期に多い 東北 0.48% 山陰・津山・和泉層群 三波川帯・秩父北帯 九州 0.54% 北松地域・天草・日南 臼杵八代線・仏像線 霧島温泉地すべり 沖縄は島尻層群 梅雨期・台風期に多い 北陸の地すべり 新潟県東頸城の地すべり 地すべり地形 侵食域 ③ ① ② 堆積域 ⑥ ⑦ ⑤ ④ 地すべり地各部の名称(Vernes,1978) ①冠頂…引張亀裂 ②滑落崖…馬蹄型頭部 ③頭部…窪地(池) ④すべり面…粘土層 ⑤脚…すべり面下端と 原地盤との交線 ⑥舌部…先端隆起 ⑦舌端部…先端 地形図上での判読 馬蹄型滑落崖 等高線不整 Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 谷型斜面の先が凸 型になる 山腹に台地状地形 Ⅰ 河川の屈曲 押し出しによる 地すべりタイプと地形 個所数 地すべりの傾斜 地すべりの傾斜 200 新潟 徳島 100 起伏量 平均傾斜(度) 46-50 41-45 36-40 31-35 26-30 21-25 16-20 11-15 6-10 0-5 新潟…11゚~20゚ 長野…16゚~25゚ 徳島…25゚~30゚ 新潟…200m~300m 徳島…300m~600m 岩質の差の反映 新潟・長野…軟岩 徳島…結晶片岩 地すべりと棚田 新潟県山中背斜 地すべり地は棚田や桑 畑として利用される 地すべり地の棚田はうまい 「こしひかり」が採れる 山間部では平坦地が得 られる稀なところ 地すべり地は水が豊富 天然に深耕が行われる • 地形図で地類を塗色する と,地すべり地の分布や ひいては褶曲軸や断層の 位置が分かることもある 地すべりの地形発達史的分類 (渡,1975) 発生前 幼年期 青年 期 岩盤型の再活動 結晶片岩地帯に多い 崩積土地すべり(壮年型) 老年期 一次すべり,予知困難 風化岩地すべり(青年型) 池沼 壮年期 岩盤地すべり(幼年型) 最も一般的,ブロック化 第三紀層地すべりに多い 粘質土地すべり(老年型) クリープ型の動き 地すべり多発時代 (1970 ) 第四紀学的に地すべりを見る先駆的研究 その後,絶対年代測定などで実証 ケーススタディーから一般的理論化へ 地すべりと第四紀地史 地すべり多発時代(津田,1970) 芋川地すべり(魚沼層の流れ盤地すべり) • • • Ⅰ(比高200m)~Ⅶ(50m)の7段の段丘を識別 Ⅲ段丘形成後(更新世末~完新世初)一次すべり 腐植土混じり地すべり粘土の花粉分析 * 1,300m以上の高山のflaura,平均気温3-4℃低い 活地すべりと化石地すべり(青木,1976) 新潟県の地すべりの約8割は崩積土の再活動 • 魚沼変動後海面変動と河床低下で斜面が崩壊浸食 地すべり多発年代 年代 (Ka) 年 代 測 定 結 果 古 気 候 -10℃ 5 海水準変動 -100m ←縄文海進 10 15 20 ウルム氷期 25 30 大西・寺川(1983) 更新世初期の山地丘陵の形成(魚沼変動)伴う初生崩壊・地すべり 更新世中~末期の氷河性海面低下による二次・三次移動 完新世初期の日本海温暖化に伴う融雪地すべりの発生 段丘と地すべり 1200 m 1000 末端が現河床に達していないもの 800 600 段丘面 400 末端が現河床に達しているもの 200 0 10 砂質片岩 20 30 泥質片岩優勢互層 40 50 御荷鉾 緑色岩 祖谷川における地すべり末端高度と段丘面(古谷,1977) km 初生的巨大地すべり 高浜(1991) 巨大地すべりの特徴 活地すべり 面積106m2・深度1002m 主要亀裂長103m 発生時代…後期更新世 頭部には長大亀裂 末端部には圧縮構造 中に二次地すべり分布 活地すべりは三次 二次地すべり 500m 1 km 1 km 地すべりの運動様式(1) 引張応力領域 (主働横領) 地すべり面 遷移領域 圧縮横領領域 (受働応力) 変位計計測から見た運 動の実態(福本・他,1980) 斜面上部から徐々に下方 に向かってすべり面を形 成しながら進行性破壊 • -+ - ++ - - + - + ++ すべり面 - ++ + -+ -+ まだ切れていない - + ++- - + - ++- + - -+ パイプひずみ計 + 引張ひずみ - 圧縮ひずみ 下方の圧縮応力領域では 変位小さく,すべり面は未完 成 すべり面付近の変位は地 表より大きい • 地表で亀裂発見された時は 既に遅く相当進行 地表変動に関する植物指標 生育不整 この間地すべり 植物は場の環境因子に 支配規制されて生育 植物は移住できない 地すべり前 現在 ムラサキツユクサ→大気汚染の良い指 標 この間地すべり 地文要因の把握には木 本が適している あてred wood(根曲がり) 異常発育した夏材 あて材の年輪解析からいつ滑ったか がわかる。ただし,雪国では雪の重み や雪崩でも根曲がりするから要注意。 樹冠不整(生長不整) 根系は土層が1cm動いても切断 上伸枝・不定根など 地すべりの運動様式(2) 生育不整からみた造林地の クリープ現象 (東,1979) 指標植物から見た運 動の実態(東,1979) 植物遷移からおおよ その年代推定可能 • 地質学にないタイムスケール あて材の年輪解析や 樹冠不整・生長不整 などから分析 一斉移動ではなくブ ロック状に滑動 地すべり土塊の性質と運動型式 (植村, 1976) 崩壊物質のレオロジカル な性質が崩壊型式に対 応 Flow…急速混濁乱流 Flow Mean Ductility Creep Slide Fall Ductility contrast 延性度較差 第三紀層黒色頁岩の地すべり Slide…脆性破壊・急速滑落 Low 崩積土が水を含んだ場合 Creep…緩慢塑性流動 Low 平均延性度 High 第三紀層砂泥互層の地すべり High Fall…粉体移動 マサ土の崩落 地すべりの原因 素因(内的条件)…物性 rock factor 岩質(泥質岩・風化岩) 地質構造(断層・褶曲) 層理面・片理面・節理面 火山岩・貫入岩 誘因(外的条件)…場 environmental factor 気象(降雨・融雪),地下水,地震,活褶曲 人為的原因(切り取り・積載荷重・ダム湛水) 地すべりの岩質規制 新潟県西頚城地方の地すべり 第三紀層地すべり 日本海 黒色泥岩(軟岩)に多 い(地すべりは,左図に 空色で示した能生谷層 より上位層準に集中し ている) Montmoriloniteを含 む 凝灰岩の挟みや石 炭層でもすべる 地すべり 指定地 褶曲と地すべり 背斜軸部に地すべり地が集中 (同一層でも軸部にだけ分布) 岩石物性からみると,軸部は翼部 に比して流れやすく,ひずみやすい ため (岩松,1974) ダクティリティー 3 % 新潟県山中背斜 縦ひずみ ヤング率 x104 10 kg/cm2 % 八重沢 塩沢 山中 灰爪層上部 栃ヶ原 2 2 5 西山層 灰爪層下部 1 1 0.5 1 km 0 0.5 1 km 背斜軸からの距離 0.5 1 km 桐山 灰爪層 山中地すべり ←山中地すべり 塩沢地すべり→ (ボトルネック型) 断層と地すべり B級破砕帯 A級破砕帯 C級破砕帯 地すべり地形 鶴川 吉田・木村(1976)に加筆 鶴川断層(関東山地にある活断層?) A級破砕帯…粘土化して“ザグ” • B級破砕帯…小断層が数10cm弱の間隔で密に発達 • すべって平坦地になり集落が立地 地すべり地形多数見られる C級破砕帯…小断層が数m~数100m間隔 流れ盤と受け盤 流れ盤地すべり (順層地すべり) 受け盤地すべり (逆層地すべり) 地層と地形が同方向に傾斜しているのが流れ盤。 地 すべりは圧倒的に流れ盤に多い。 互いに逆方向に傾斜するのが受け盤。崩壊が多い。 片理面と地すべり 藤田・他(1976) 90゚ 60゚ 120゚ 流れ盤 受け盤 秩父帯剣山層群 150゚ 30゚ 御荷鉾緑色岩類 θ=0゚ 10 三波川帯泥質片岩 5 0 5 θ:地すべりの滑動方向と片理面の最大傾斜方向とのなす角 180゚ 10 地すべり個数 徳島県西部三波川帯結晶片岩地すべり S1面が流れ盤(0゚<θ<90゚)をなし,かつ,S1面の傾斜 が20゚~30゚のところで多発 火山岩・貫入岩の役割 長崎県北松型地すべり 新潟県柳沢地すべり 松浦玄武岩 1000m 500 佐世保層群泥岩 石英閃緑岩 八の久保 砂 礫 層 崩積土 泥岩 0 1 2km 石倉地すべり 石倉 典型的北松型地すべり(1990.7.4)…57世帯が9ヶ月避難生活 降雨と地すべり 日雨量10mm内外の降雨が5日間程度降り 続くと地すべりが多発 この程度の雨が最も地下浸透に適する これ以上の豪雨だと地表流となり,あまり地下 浸透しない 降雨のほうが融雪水の3~4倍効果大きい 融雪期の雪はザラメ雪で雪中を水が流れる雪 の重みで地面がしまり,水の浸透を妨害 高野(1960) 融雪地すべり 融雪量(㎝) 移動量(㎜) 新潟県神谷地すべり 60 50 40 日移動量 30 20 融雪量 10 1951/3/1 3/10 3/20 4/1 4/10 (高野,1960) 気温6℃内外,融雪水量5cm程度の時多発 上記の条件が長く続くと地すべりが発生 厳冬期には地面凍結して地下浸透しない 地下水と地すべり 地下水位(㎝) 40 50 新潟県栃ヶ原地すべりは 地下水位が56cmで発生 60 地下水位 地すべり発生 栃ヶ原地すべり 70 1953/11/1 11/5 11/10 11/15 11/20 地下水位と地すべり発生 11/25 11/30 (高野,1960) 70 新潟県神谷地すべり 1.50 1.60 50 地下水位 30 10 1.70 1950/3/1 日移動量 3/10 3/20 慢性地すべりの移動量と地下水位 3/30 (高野,1960) 日移動量(㎜) 地下水位(m) 1.40 地震と地すべり・崩壊 地震に起因する地す べり・崩壊の例 1729年高田地震 (M6.6)→名立崩れ 1847年善光寺地震 (M7.4)→虚空蔵山崩壊 1978年宮城県沖地震 (M7.4)→白石市緑ヶ丘 団地盛土崩壊(左図) 1993年兵庫県南部地 震→仁川地すべり 台湾大地震による地すべり 台中縣太平市虎頭山地すべり(1999.9.21) 地震崩災による堰止め湖 Lake Sarez in Tajikistan 活褶曲と地すべり 水準点変動(1893-1967) +100m 0 -100m 地形 200m 曽地峠 国道8号 S.L. 活褶曲地帯 新潟県中央油帯背斜に沿う地すべり 1km 背斜は山稜,向斜は河川 出る釘は打たれるの理 背斜部に地すべり多発 人為と地すべり 上載荷重…道路盛土 脚部の切り取り…道路拡幅 ダムの湛水 水路の漏水 赤褐色変色部 加久藤火砕流溶結部 すべり面 県道 四万十層群頁岩 非溶結部 大口市白木山ノ神地すべり(1978.6.24) 上載荷重による地すべり 1987年国道付替え工事で盛土 第四紀シルト岩の上に火山岩が 載る やや流れ盤,境界面からすべり 火山岩が水の貯留層の役割 ミニ北松型地すべり(時代は新しい) 応力解放による地すべり 初生堆積構造が関係(隔世遺伝)? ダム湛水と地すべり 1400m すべり面 崩壊前の地形 950m 崩壊後の地形 Cr Malm Dogger 200m Lias 300m イタリアVaiont Damの崩壊(1963年10月9日) 1960年2月湛水開始,1962年11月水位EL700m 1963年8月中旬~長雨と記録的降水量 1963年10月9日10時39分流れ盤地すべり発生 崩土2億7000万m3が移動速度25~30m/secでダム湖に流入 2500万m3の水が溢水,下流で死者2125名,全壊家屋594戸の惨事 イタリアVaiont Dam 放棄されたダム湖 地すべり調査法 予備調査 文献調査・空中写真判読→調査計画立案 この情報量の多寡が調査経費を左右 現地踏査(概査) 精査 基礎調査…気象観測,地下水位観測 機器計測…物理探査,ボーリング,移動量 応急調査 危険度判定,避難,二次災害防止,応急工 予備調査 文献調査 地すべりは特定の地質に集中→機構も類似 地質記載論文・地すべり調査報告書等を収集 周辺地域の地すべり状況・履歴・機構も調べる 現地の大学・役所(国・県)・JR・公団・電力会社 空中写真判読 地すべり地分布図の作成 大ブロックの識別(現地では分からないことあり)とその細分 運動タイプ分けと運動方向の推定 現地踏査(第一次調査) 微地形判読と運動ブロックの識別 地質(表層地質)調査…風化や崩積土にも注意 地質構造調査…テクトニクな構造と地すべり構造 変動構造の発見…滑落崖,主亀裂,側亀裂,陥没 構造物の変状調査…建物の傾斜,擁壁の胎み出し 植生の変状…根曲がり樹木,荒地の枯ススキ,竹林 地下水調査…湧水や井戸の異常,濁り 聞き込み調査…古老から地すべり履歴を聞き出す 構造物等の変状 建物…柱の傾動,戸・障子等の立て付け,開閉 道路・鉄道…凹凸,水平変位,亀裂,落石 擁壁・法面…胎み出し,亀裂,ずれ,排水孔の水 トンネル…歪み,亀裂,湧水 電柱・電線…傾動,電線の緊張・弛緩 井戸…水量の急増・涸渇,濁り 水田・畑…稲列の乱れ,水抜け(亀裂),荒地化 池・沼・湿地…頭部陥没の結果形成された 地すべりの前兆現象 亀裂・段差の発生,陥没 家屋の変形 田畑の変形・陥没 樹木が傾く 家屋の変形 擁壁の変形 亀裂の発生 亀裂の発生 井戸水の濁り 水位の変化 道路の浮き上がり すべり面 すべり面 聞き込み調査 古老へのインタビュー 地すべり履歴,旧地形,旧村落の立地場所,伝 説・民話 壮年・青年へのインタビュー 最近の地物・植生・構造物等の変化 地すべり当時の運動状況・降雨状況 インタビューの留意点 聞き上手になる←リラックスさせる(方言) 100%鵜呑みにしない←脚色もある ひと休み―岩松さまの狛犬 決まり文句 地すべりの前兆現象 石や梢などの擦れる音 子孫が地すべりの研究をしています 神社仏閣は不動地にあることが多い むかしあったてんがの。 中野俣の新山(あらやま)で,山犬が7日7晩気味わりい声 で鳴き続けたと。村人はおっかながって一人去り二人 去り,とうとうだーれもいなくなってしもうたてや。 と,その晩山抜け(地すべり)が起こって,部落はみー んな埋まってしもうた。だどもだっれも死ななかった。 翌朝,みんなしてたった一つ残った岩松さまの屋敷 鎮守に集まったてや。すっと,誰かがこま犬の足の裏 さ,べと(泥)がべっとりついているのを見つけた。 んだ,あの山犬はこのこま犬さまに違いねえ。鎮守 さまがおら達を逃がすために遣わされたんだべ。あー, ありがたや,ありがたや。 これで息がぽーんとさけた。 ― 越後の民話より ― 新山地すべり(宝暦10年) 岩松屋敷跡 こま犬様 機 器 計 測 (1) 弾性波探査 P波の屈折法が普通→Vpの逆転層では不可 電気探査…安価簡便 移動層と基盤に物性差がないと不可 自然放射能探査 Rn,Trガスが断層や亀裂を通って散逸 地温測定 移動量計測…伸縮計・移動杭 ジオトモグラフィー 比抵抗映像法 (応用地質㈱パンフより) まだまだコンターマップを見ているよう 機 器 計 測 (2) ボーリング調査 コア採取→土質試験(c・φ)→安定計算 すべり面・風化層確認 ボアホールの利用 ボアホールテレビで割れ目等観察・計測 地下水位観測,地下水検層 地下水追跡(トレーサー)・水みち パイプひずみ計・孔内傾斜計 応急調査 危険度判定 変動徴候観察→亀裂等の発見 伸縮計2mm/h,1~2cm/day以上だと危険 応急対策 原因・機構の推定と二次災害の予知予測 避難命令を出して住民救出 応急工事 末端押さえ盛土,頭部土塊除去,亀裂被覆 応急排水(横ボーリング),天然ダムの排水 地すべり調査の問題点 ルーチン化 マニュアル通り 無駄なボーリングも 多い • アンカートンネル ハードしか金にならな いのも現実 一方,地表地質踏査 おざなり 大学教育でマスムー ブメント教えていない 地形を見る目ない 地すべりの予知予測 空間的予知 多くは化石地すべりの再活動 →地形判読で地すべり地分布図作成 地すべり指定地の指定 時間的予知 変動徴候の発見(地すべりモニター) 機器観測に基づく警報 クリープ破壊と崩壊予測 (1)定常ひずみ速度による概略予測 ε クリープ破壊時間tr'(min) 105 斉藤・上沢式 . log tr'=2.33-0.916log(ε×104)±0.59 104 3次クリープ 1次クリープ 103 102 10 t 試験片のクリープ曲線 浅虫 地すべり 95%信頼幅 崩壊実験 1 10-7 2次クリープ (定常クリープ) 10-6 10-5 10-4 10-3 . 定常ひずみ速度ε(/min) 10-2 10-1 斉藤迪孝は,定常ク リープのひずみ速度 と破壊時間との間に 左図のような関係を 見出し,左記の経験 式を得た(Saito,1965)。 クリープ破壊と崩壊予測 (2)第3次クリープによる近接予測 2 1/2(t2-t1) tr-t1= (t2-t1)-1/2(t3-t1) 図式解法 Δ tr:破壊時刻,C :定数 未知数が3個だから,クリープ 曲線上の3点の座標値から破 壊時間trが求められる Saito(1965) A3に対応す る標示点 解析基準線 第3次クリープ領域 で,ひずみ速度と崩壊 までの余裕時間に逆 比例関係がある tr-t0 ε= C log tr-t 計算式 A1’ A3 M’ N’ M N A2 A3’ Δ A1’とA3'との中点 A1 t1 A1’とA2との中点 t2 t3 tr 地すべり自動警報システム 雨量計 解析システム 防災機関 伸縮計 水位計 歪 住民広報 計 ・ ・ ・ 各種センサー 直接サイレンが鳴るシステム だと,狼少年的なパニックにな る恐れもるので,専門家の判断 が介在するほうがよい。 Landslide Risk Assessment Landslide risk assessment Currently stable slopes History of landsliding Currently unstable slopes No history of landsliding Quantifying extent of movement Effect of development ls risk Low,moderate or high? Effect of development with and without controls Quantifying risk Cost of assessment Cost of controls Aleotti & Chowdhury(1999) 地すべりの安定計算 O 各種の方法がある 分割法(Bishopの簡便解析法) Fs= 高校物理の知識で解けます。 やってみてください。 市販パソコンソフトあり。 円弧すべりを仮定 有効応力に関するCoulombの 式を適用 土塊を鉛直細片に分割し,力 の釣り合いを考える方法 1 ΣWsinα A Σ{c'l+tanφ'(Wcosα-ul)} Fs:安全率,c':粘着力,φ':内部摩擦角 u :間隙水圧,W:細片の重量 D l :細片すべり面の長さ α:細片すべり面の傾斜角 W すべり面 B C α P BC=l 地すべり防止工法(1) 抑制工 抑止工 地表水排除工 水路工 浅層地下水排除工 地下水排除工 深層地下水排除工 地下水遮断工 浸透防止工 砂防ダム 暗渠工 明渠工 横ボーリング工 排水トンネル工 集水井工 集水ボーリング工 排土工 押え盛土工 河川構造物 ガス抜き工 床固め,護岸,水制等 杭工 深礎工(シャフト工) アンカー工 擁壁工 地すべり防止工法(2) 排水トンネル工 集水ボーリング工 アンカー工 暗渠工 明暗渠工 杭工 排土工 水路工 押え盛土工 (すべり面) 集水井工 シャフト工 景観と環境に配慮した工法 ↑覆道 ラウンディング→ 地形改変を小さくし,構造物の出現を少なくする 次善の策→新風景の創造 高速道路景観整備実践マニュアル(日本道路公団,1994) 斜面との共生21プラン 毘沙門自然の森 総合的な地すべり研究を 斜面災害研究推進会議(1998発足) 研究と現場と住民との乖離 もう一度原点に返る=住民(患者)の立場 研究…思弁的 メカニズム論ずるだけ,実践に役立たず 現場…ルーチン化 ともかくボーリング調査と対策工 行政…土木行政のみ ハード対策一辺倒,景観無視 ソフト対策(防災行政)の重要性 避難・誘導,住民生活の維持,防災教育 ケーススタディー 甚之助地すべり 白山の西側斜面 手取層群の上に白山 火山堆積物が載る 1911年以来砂防工事 1927年以降直轄事業 流れ盤地すべり 破砕ないし温泉変質 した手取層群中に主 すべり面 甚之助谷・別当谷地質図 ←甚之助谷頭部 別当大崩れ→ 砂防ダムと排水トンネル 国際貢献 Machu Picchu Landslide (Sasa et al., 2002) The End お疲れさま…