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令状審査(勾留・保釈)
展 開 講 座 刑事裁判実務講座 展開 講座 刑事裁判実務講座 第 1 回〔新連載〕 令状審査(勾留・保釈) 東京地方裁判所判事 早稲田大学法科大学院派遣裁判官 福岡地方裁判所判事 九州大学法科大学院 派 遣裁判官 下津健司 江口和 伸 Shimotsu Kenji Eguchi Kazunobu 課題 1 分,V の発言に激高した A は,手拳で V の顔 《事例 1》を読み,勾留担当裁判官として, 出血し,顔面を押さえてその場にうずくまっ A を勾留すべきか否かを検討せよ。 た。 面を複数回殴打した。その結果,V は,鼻から 3 同日午後 9 時 35 分,甲県乙警察署所属 《事例 1》 の K 巡査部長が 110 番通報により現場に駆け 1 A(本件当時 29 歳) は,大学卒業後,定 つけた。K 巡査部長は,V が鼻から出血して顔 職にはつかず,現在は,甲県乙市内のデパート 面を押さえてうずくまっており,その横で A でアルバイトをしている。昨年末までパート従 が「ふざけるな」と怒鳴っていたことから,た 業員の母親と実家に住んでいたが,今年から乙 だならぬ雰囲気を察し,V に話を聞いたとこ 市内のアパートで一人暮らしをしている。な ろ,A から顔面を何回も殴られたとの申告を受 お,A に婚姻歴はない。 けた。A に話を聴いても大声を上げて質問に対 A には,平成 14 年(当時 20 歳) に,酔余, してまともに答えなかったが,W が V と同様 飲食店の窓ガラスを割ったという器物損壊罪に の申告をしたことから,同日午後 9 時 45 分, より罰金 20 万円に,平成 17 年(当時 23 歳) K 巡査部長は,A を傷害の現行犯人として逮捕 には,酔余,友人と口論となって顔面を殴打し し,同日午後 10 時,乙署に引致した。 て全治約 2 週間の顔面打撲の傷害を負わせた 4 A は,乙署での弁解録取において,上記 という傷害罪により罰金 50 万円に処せられた 傷害の被疑事実に関し,「かなり酔っていたた 前科(なお,各罰金は言い渡された直後に納付さ め,当時のことは覚えていません」と供述した れている)がある。 ので,K 巡査部長は,その旨の弁解録取書を作 2 A は,平成 23 年 10 月 10 日午後 7 時か 成 し た。 翌 11 日 午 前 11 時,K 巡 査 部 長 は, ら行きつけの居酒屋で一人で酒を飲んでいた A からさらに事情を聴いて A の身上経歴や犯 が,同日午後 9 時頃にはかなり酔って大声で 行状況に関する簡単な供述調書を作成した。 愚痴を言い始めた。その時,A の横で飲んでい 一方,治療を受けて同日午後に乙署に来た V た常連客 V(本件当時 40 歳)が,A をうるさく からは被害届及び診断書(「鼻骨骨折及び顔面打 感じて「ちょっと静かにしてくれませんか」と 撲により全治までに約 1 か月間を要する」) が提 A を注意したところ,A が飲酒していた勢いも 出された。K 巡査部長が V から事情を聴いた あって V に反論したため,両者の間で口論と ところ,V は, 「昨日,私は行きつけの居酒屋 なった。居酒屋の店長 W が仲裁に当たったも で飲んでいたのですが,A が大声を出して迷惑 のの,口論は激しさを増したため,同日午後 9 に感じたので,『静かにしてくれませんか』と 時 25 分,W は,110 番 通 報 を し, 引 き 続 き 注意したのです。しかし,A が『ふざけやがっ 仲 裁 に 当 た っ た。 し か し, 同 日 午 後 9 時 30 て』と反論してきたので口論となったのです。 128 法学教室 May 2012 No.380