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第 40 回 月例発表会 - 医療情報システム研究室

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第 40 回 月例発表会 - 医療情報システム研究室
Vol.4, No.8, 2 December 2014
Monthly Lecture Meeting
第 40 回 月例発表会
第4巻8号
同志社大学生命医科学部
医療情報システム研究室
Published by the Medical Information System Laboratory
of Doshisha University, Kyotanabe, Japan
Medical Information System Laboratory
Monthly Lecture Meeting
Contents
脳波を用いた注意散漫検出の検討
田中 健太 . . . 1
fNIRS を用いた動物の画像および鳴き声の認知課題における多感覚統合領域の活動の検討
滝 謙一 . . . 4
活性部位付近の神経線維抽出とアフィン変換を用いた脳の位置合わせ
大谷 俊介 . . . 9
急性ストレス時における唾液内α-アミラーゼと脳活動の検討
岡村 達也 . . . 12
ワーキングメモリ負荷量による脳内ネットワークの変化
小淵 将吾 . . . 18
脳血流変化量に対する Deep Learning を用いた被験者の性別分類の検討
塙 賢哉 . . . 26
アンシャープマスクを用いた内視鏡画像に対するテクスチャ解析手法の検討
林沼 勝利 . . . 32
問診システムの構築に向けた DPC データの LOD 化の検討
三島 康平 . . . 38
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
脳波を用いた注意散漫検出の検討
田中 健太
Kenta TANAKA
背景:交通事故件数減少の背景には自動車の運転支援技術の向上が根底にあり,今後も技術発展が期待される
研究目的:脳波を用いた注意散漫度抽出
発表の位置づけ:今後の研究方針
方法:覚醒度及びプローブ刺激法により得られる覚醒度,及び事象関連電位の検討
結果:今後実験予定
序論
1
近年,センサや演算処理速度の向上から自動車運転の全自動化の研究が行われている.そこ
で重要になるのが,ドライバーの運転への意識集中度合いである.現状では全自動化を導入す
ることで交通事故を皆無にすることは大変難しく,ドライバー自身が最終的に事故を防げるよ
うな状態でなければならない.また,平成 26 年度の警視庁の調べによると交通事事故の原因
は漫然運転 30 %,脇見運転 17 % 1 とドライバーの運転への不注意に起因するものが多く,早
急の対応が必要である.そこで本研究では漫然運転の一要因であるドライバーの運転への注
意散漫状態を脳波計を用いて検知することを目的とし,今後の研究方針を述べる.
注意散漫度検出
2
2.1
脳波による従来の注意散漫度推定方法と課題
脳波 (Electroencephalogram: EEG) は,脳神経活動を測定するために,頭皮上の二点に置
かれた電極差を測定する装置であり,現在あらゆる脳活動の研究や脳機能障害を診断するため
に用いられている 1) .また,脳波計は時間分解能が他の非侵襲脳機能計測装置に比べても非
常に高くリアルタイムでの処理が可能なため,脳波と機械とを直接相互作用させるブレイン・
マシーン・インターフェイス (Brain Machine Interface:BMI) の研究も進んでいる 2) .この
脳波計を用いた従来のドライバー注意散漫状態検出方法を以下に示す.
ドライバーの覚醒状態の定量化方法として,フーリエ解析を用いて特定周波数帯域における
強度を算出する方法がある.石橋らは,脳波のα (アルファ) 波帯域 [8Hz∼13Hz] のパワーの
増加を,ドライバーの覚醒状態の低下と推定している 3) .また,先行車両のブレーキ点灯に
よる注意量の推定として,脳波の事象関連電位 (Event-Related Potentials: ERP) を用いる研
究も行われている 4) .一般的に,事象関連電位とは刺激後 300ms-500ms に起こる脳活動を示
しており,この区間に見られる波形には知覚,認知,判断などの情報処理課程の反応が見られ
る事が知られている 5) .この研究では先行車両のブレーキランプを起点に生じる事象関連電
位を調べ,脳波の振幅が大きければブレーキランプに対する注意量が大きいと判断している.
上記の様にこれまでの研究は周波数解析における覚醒度の低下,及び,特定刺激における事
象関連電位解析によって注意度の推定が行われている.しかし,運転中における注意散漫状態
は特定の刺激から来るものだけでなく,ドライバーの運転全体における注意力低下を示す.そ
のため,ブレーキランプによる単一な刺激による課題だけではドライバーの注意力の有無を
判断することは現状として難しい.また二次課題法を行い被験者を注意散漫状態にし,得られ
たデータの眼球停留関連電位を計測する研究も行われている 6) .そこで本研究ではプローブ
刺激法を用いた実験を行い,得られたデータの覚醒度,及び,二次課題により生じる事象関連
電位を測定することにより注意散漫度を推定する.
1 警視庁 交通事故発生状況レポート
1
2.2
注意散漫状態の定義
運転中の注意散漫状態の定義として,本研究では三通り定義する.一つ目が,運転者自身の
覚醒度である.覚醒度は脳波周波数成分であるα (アルファ) 波 [8∼13Hz] の周波数帯域を示
しており,α波帯の振幅の減少は,覚醒度が低い事を示している.次に二つ目の注意散漫度推
定の尺度として,集中度が挙げられる.運転中はドライバーが運転以外の機器類操作によって
集中力低下を起こすことがあるため,注意散漫状態の要因として考える.最後の指標として
は,眠気によって生じる注意力欠如である.睡眠に入る直前には,意識レベルが低下し,身体
の動きが少なくなる.それと同時に,睡眠の度合いが徐々に進行すると周波数の低速に伴い
α波は消失し,θ (シータ) 波 [4∼7Hz],δ (デルタ) 波 [0.5∼3Hz] が現れ始める.本研究で
は,将来的にこの三要素を考慮した注意散漫度を検出するシステム構築を目的とするが,覚醒
状態による注意力散漫状態と眠気による注意散漫状態では実験の環境構築方法が異なるため,
最初の段階として覚醒度と集中度に的を絞った実験を行う事にする.
3
実験概要
本実験では,覚醒度,及び,注意度を計測することを目的とし,実験概要を以下に示す.注
意散漫状態を作り出すために今回は「プローブ刺激法」を用いる.プローブ刺激法とは二次課
題法の一種で,注意配分量を評価しようとする課題を主課題 (一次課題) として行っている間
に,二次課題として主課題とは直接関係ない物理刺激を提示し,その刺激への事象関連電位を
測定する.その際,二次課題は主課題の遂行が低下しない程度の制約を設けた上で計測を行
う.本研究ではドライバーが運転していることを想定した上で,一次課題として Go/NoGo 課
題を,二次課題として主要課題用のスクリーン隣に設置してある別のスクリーンに矢印を表
示させ,被験者は指定された矢印に合った方向のキーボードを押す課題を被験者に課す.この
操作は被験者がカーナビを見た際に,行きたい方向に合わせてウインカーを点灯させること
を想定している.本実験では,課題の難易度変化による被験者の注意散漫具合を調べるため,
一次課題と二次課題の難易度を三段階ずつ設ける.具体例としては一次課題は Go/NoGo タス
ク提示のスピードを上げ,二次課題は提示する矢印の数を増加させる.
4
脳波の解析手法
本実験により求める結果は各難易度に分けた被験者の覚醒度と二次課題提示後から 300-500ms
後に現れるであろう事象関連電位の二点である.まず覚醒度に関してはすでに既存する注意散
漫度検出器技術の評価方法を用いる 2 .先行研究では覚醒度と全体注意量 (NASA-TLX) の相
関を示すことにより,課題による注意散漫度を測定している.ここで用いられている NASA-
TLX とは主要課題への全体注意量を示す指標でアメリカ航空宇宙局 (National Aeronautics
and Space Administration: NASA) のエイムズ研究所で開発された.また二次課題により生
じる事象関連電位に関する検討方法は,事象関連電位の振幅が大きい程,二次課題への注意量
が大きいと見做し,注意量が散漫であると推定することにする.これら二つの指標を今後実験
で求めることによりタスク全体から見た散漫度,二次課題による注意力散漫度を測定し,シス
テム設計に繋げる計画である.
5
まとめ
本稿では自動車の交通事故状況から推測できるドライバーの注意散漫状態を問題に上げ,問
題改善に向けた試みとして,プローブ刺激方を用いた注意散漫度計測を行うための実験方法,
並びに,解析方法を述べた.今後,本稿で述べた実験,解析方法を実践し、注意散漫度推定を
試みる.
参考文献
1) 末永和栄. 最新脳波標準テキスト. メディカルシステム研修所, 改訂第 4 版, 2014.
2) Prashant Nair. Brain-machine interface. PNAS, Vol. 110, No. 46, 2013.
2 注意散漫検出装置,注意散漫検出方法およびコンピュータプログラム
2
電圧( V)
散漫度:大
電圧( V)
注意散漫度:大
散漫度:中
時間(ms)
電圧( V)
α波量(8~13Hzの周波数強度の合計)
時間(ms)
散漫度:小
注意散漫度:低
注意配分量
時間(ms)
(a) α波と全体注意量相関
(b) 二次課題を起点に生じる事象関連電位
Fig. 1 注意散漫度指標
3) 石橋基範. 覚醒低下に伴う反応時間と脳波の変動. 人間工学, Vol. 36, No. 5, pp. 229–237,
2000.
4) 江部和俊, 小里明男. 事象関連電位を用いた運転注意力計測技術. 自動車技術 = Journal of
Society of Automotive Engineers of Japan, Vol. 58, No. 7, pp. 91–96, 2004.
5) Geoffrey F. Woodman Steven J. Luck and Edward K. Vogel. Event-related potential
studies of attention. Trends in Congnitive Sciences, Vol. 4, No. 11, 2000.
6) 寺田佳久, 森川浩二. 脳波によるドライバー注意散漫状態推定技術の開発. Panasonic
Technical Journal, Vol. 57, No. 3, 2011.
3
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
fNIRS を用いた動物の画像および鳴き声の認知課題
における多感覚統合領域の活動の検討
滝 謙一
Kenichi TAKI
背景:異なる感覚情報を統合,相互作用する知覚機構,多感覚統合が注目されている.
研究目的:知覚における視聴覚情報の相互作用の検討
発表の位置づけ:視聴覚刺激として動物の画像と鳴き声を用いた認知課題における感覚相互作用の検討
方法:認知課題において視聴覚刺激の整合性が一致している場合とそうでない場合の脳活動を比較した.
結果:聴覚野付近に視聴覚刺激の整合性の影響を受ける脳機能部位の存在が示唆された.
はじめに
1
人間は外界と自分自身の状況を感覚器官からの情報を用いて知覚している.この時単一の感
覚情報だけでなく,複数の感覚情報をうまく相互作用させることで精度の高い知覚が可能とな
る.このように複数の感覚情報を相互作用させることを感覚間相互作用と呼ぶ.感覚間相互作
用は感覚野同士だけでなくこれらの情報を統合する多感覚統合領域の影響もうける.この感覚
情報の相互作用は人間の脳の知覚を解明する上で非常に重要な要素となるが,多くの情報を
入力した時の脳活動を検討する必要があるので,解析が困難であり,未だ未知の部分が多い.
本研究では視覚刺激と聴覚刺激を用いた認知課題を行った際の脳活動を機能的近赤外分光測
定装置 (functional Near-Infrared Spectroscopy:fNIRS) で計測し,多感覚統合領域の活動を
検討する.
感覚間相互作用と統合領域
2
これまで各感覚野が各感覚情報をそれぞれどのように処理しているかについては多くの研
究が行われてきた.しかし人間は単一の感覚野で得られた知覚が異なる感覚野の知覚によって
変化させることでより精度の高い認知を行っている.このことから異なる多感覚の情報が入力
された時の脳活動に注目が集まっている.二つ以上の感覚モダリティの相互作用を感覚相互作
用と呼び,主な例としてマガーク効果が挙げられる.マガーク効果は視聴覚感覚相互作用で有
名な現象の一つで,視覚情報によって実際に聞こえる音が変化する錯覚である.被験者に画面
上では「が」と発音している音声のない映像を見せながら「ば」という音声を聞かせると,全
く違う「だ」という全く異なる音が聞こえる場合がある.これは視覚によって捉えた口の動き
と聴覚情報の相互作用によって生じると考えられており,会話をより正確に行う機能に関与し
ている.このことから感覚間相互作用は人間の多感覚知覚を知る上で非常に重要な要素であ
るといえる.
視聴覚の多感覚統合領域と考えられている脳部位として上側頭溝後部が報告されている 1) .
上側頭溝後部の位置を Fig. 1 に示す.マカクザルの解剖においても,上側頭溝への視覚情報
および聴覚情報の入力が確認されており,これらを統合することで音源定位や同一事象の感覚
情報かの判断に関わるとされている 2) .本稿では視覚野および聴覚野に加えて上側頭溝後部
の脳活動に焦点を当てた検討結果を記述する.
実験概要
3
3.1
実験目的
提示刺激に対する反応時間と脳活動から,視聴覚における多感覚統合領域の活動を検討する.
4
Fig. 1 視覚野,聴覚野および上側頭溝後部の位置
左側頭部
右側頭部
後頭部
Fig. 2 計測位置
3.2
被験者と環境
測定機器には fNIRS 装置(LABNIRS:島津製作所製)を使用した.サンプリング周期は
0.021 秒で,測定位置は両側頭部及び後頭部とした.各計測 CH の位置を Fig. 2 に示す.各側
頭部の計測は 12CH ずつ,後頭部は 17CH を配置し,計 41CH で計測を行った.また磁気計
測機器(Fastrak:PHLHEMUS 社製)で測定した各 CH の頭皮表面上の座標を,Statistical
parametric mapping for near-infrared spectroscopy (NIRS-SPM)3) を用いて MNI 標準脳上
に確率的レジストレーション 4) を行うことで皮質表面上の部位を同定した.基準点には国際
10-20 法の基準点 Nz,Cz,AL,AR を用いた.
刺激提示用ソフトとして Presentation(Neurobehavioral Systems 社製)を使用し,次節で
示す実験プログラムを実行した.聴覚刺激の提示にはノイズキャンセラー付イヤホン(ATHANC23:audio-technica 製)を使用し,実験開始前に被験者が十分に聞き取れる音量に調節
した.被験者は健常な成人男女 12 名(平均年齢=22.6 ± 0.9,男性 8 名,女性 4 名)とし,室
温 22.3 ± 0.4 ℃,湿度 58.8 ± 3.0%の室内で,椅子に座った状態で実験を行った.
3.3
実験設計
本実験では,画像又は音として提示された動物が哺乳類か否かを被験者に判断させ,その時
の脳活動を計測した.実験は以下に示す 5 通りを行った.
実験 1
実験 2
実験 3
実験 4
実験 5
画像のみが提示され,その動物が哺乳類か否かをこたえる.
音(鳴き声)のみが提示され,その動物が哺乳類か否かをこたえる.
同じ動物の視聴覚刺激が提示され,その動物が哺乳類か否かをこたえる.
不一致な動物の視聴覚刺激が提示され,画像の動物が哺乳類か否かをこたえる.
不一致な動物の視聴覚刺激が提示され,鳴き声の動物が哺乳類か否かをこたえる.
実験の流れを Fig. 3 に示す.実験設計はレストを 30 秒とし,21 秒のタスクを 3 回繰り返す計
183 秒の実験となっている.一つのタスクで異なる動物の画像又は鳴き声が 7 回提示され,被
験者は間違えない範囲で素早く提示された動物が哺乳類か否かをキーボードで答える.画像
はグレースケールのものを使用し,1 回の提示時間は 2.5 秒で,その直後に 0.5 秒間の暗転画
面が提示される.また鳴き声は,提示時間が 2∼2.5 秒以内になるように長さを調節している.
鳴き声のみ提示される実験(実験 2)ではタスク中に灰色の背景と固視点が画面に提示される.
5
21 s
Task
Rest
Task
Rest
Task
Rest
Rest
Total:183 s
Fig. 3 実験設計
Fig. 4 全被験者の課題への反応時間の平均
提示刺激に用いた動物は犬,猫,牛,象,カラス,蛙,鶏の 7 種類である.7 種の動物は 1
回のタスクで必ず一度ランダムに提示される.被験者には実験前に提示される動物を説明し,
実験直前にレスト時間を 3 秒にした練習を行った後に計測を行った.
3.4
データ処理
データ処理及び解析の一部には NIRS-SPM(Statistical Parametric Mapping)を用いた.
データの前処理としてトレンド成分の除去を行うために Wavelet-MDL5) を用い,高周波数成
分を除くために半値全幅を 4 秒としたガウシアン平滑化を行った.活性 CH の判定を行うた
めに NIRS-SPM で General Line Model(GLM) を用いた検定を行った.この検定の有意水準
は 0.05 とした.
実験結果と考察
4
4.1
反応時間
各実験における反応時間を示したグラフを Fig. 4 に示す.incongruent picture は,提示さ
れる画像と音が不一致で,画像に対して判断をした時の反応時間で,incongruent sound は音
に対して判断をした時の反応時間である.反応時間の平均の計算には時間切れによる未回答
は含まれていない.
画像で判断する課題と音で判断する課題の判断時間を比べると後者の方が長くなった.これ
は鳴き声を理解するにはある程度音が再生されている必要があるためだと考えられる.
画像と音が不一致で画像に対して判断をする課題と,画像のみを提示する課題の反応時間を
比較すると,不一致の方が僅かに長い反応時間を要している.これは同時に提示される音の影
響を受けているためだと考えられる.不一致で音に対して判断する場合と,音だけ提示され判
断する課題の反応時間も同様に不一致の方が反応時間が長くなった.これらのことから課題に
おいて異なるモダリティの刺激による相互作用の影響が示唆された.
6
congruent
picture
incongruent
picture
sound
活性した被験者の⼈数
incongruent
sound
Fig. 5 各タスク,各領域ごとの活性人数
4.2
脳活動
Fig. 5 に各タスクごとに関心領域である左右聴覚野,視覚野(V2,V3),上側頭溝後部付近
で活性を示した被験者の人数を図に示す.活性した被験者の数に応じて色付けを行っている.
congruent は画像と鳴き声が一致したタスク,incongruent は画像と鳴き声が一致していない
タスクで後ろの picture または sound は被験者が注目した刺激を指す.picture と sound はそ
れぞれ単一で提示されたタスクを意味する.視聴覚野の CH の選択の条件は確率的レジスト
レーションを行った結果より関心領域に僅かでも該当していることとした.上側頭溝後部の
CH は,感覚間相互作用に関わると報告されている上側頭溝後部の MNI 座標 1) から近い上位
2 つとし,いずれかが活性していれば上側頭溝後部が活性したとみなした.
活性した被験者の人数の最大が被験者の人数である 12 人に対し,半数の 6 人となった.こ
のことから今回行ったデータ解析手法では CH の活性がうまく捉えられていないことが推測
される.
Fig. 5 を見ると一致した刺激,および単一刺激を提示したタスクではその刺激に対応した感
覚野で多くの被験者が活性を示している.これに対して不一致な刺激を提示したタスクでは,
整合性のある刺激を提示した時と比べ聴覚野の活性人数が減少している.これは視聴覚刺激
の整合性の影響を受ける脳機能部位が聴覚野 CH の付近に存在しているためではないかと考
えられる.
上側頭溝後部はどのタスクでも活性した被験者が少なく,視聴覚情報の統合部位としての振
る舞いは見受けられなかった.上側頭溝は大脳皮質ではあるが大脳溝の一つであり大頭回より
も頭皮から深い位置に位置する.これにより上側頭溝の脳活動は fNIRS では捉えずらかった
と考えられる.
5
今後の展望
今回のデータ解析では感覚刺激の入力による感覚野の活動を上手くとらえることが出来な
かった.被験者の疲労などの影響を考慮し,検討するデータ範囲を選択する必要があると考え
られる.したがって解析するタスクブロックが減少した場合,一般線形モデルを用いた活性の
判定は不適切であるためその他の解析法を考える必要がある.また上側頭溝の活動を fNIRS
で計測可能であるかを慎重に検討していき,各感覚野および多感覚統合領域のネットワークを
7
Granger Causality Model を用いてみていく.
6
まとめ
感覚相互作用は人間の多感覚的な認知活動を理解する上で重要である.感覚相互相関を検討
するため,動物の画像と鳴き声による認知課題の実験を行った.聴覚野付近に視聴覚刺激の整
合性の影響を受ける脳部位が存在する可能性が示唆された.解析手法を見直し改めて集団解
析を行う.
参考文献
1) Brenna D. Argall Alex Martin Michael S. Beauchamp, Kathryn E. Lee. Integration
of auditory and visual information about objects in superior temporal sulcus. Neuron,
Vol. 41, pp. 809–823, 2004.
2) 彦坂和雄. 脳における異種感覚の統合様式. 電子情報通信学会誌, Vol. 76, pp. 1190–1196,
1993.
3) Kwang Eun Jang Jinwook Jung Jaeduck Jang Jong Chul Ye, Sungho Tak. Nirs-spm:
Statistical parametric mapping for near-infrared spectroscopy. Neuroimage, Vol. 44, pp.
428–447, 2009.
4) Haruka Dan Valer Jurcak Ippeita Dan Archana K. Singh1, Masako Okamoto1. Spatial
registration of multichannel multi-subject fnirs data to mni space without mri. Neuroimage, Vol. 27, pp. 842–851, 2005.
5) Kwang Eun Jang, Yong Jeong, Jong Chul Ye, Sungho Tak, Jinwook Jung, and Jaeduck
Jang. Wavelet minimum description length detrending for near-infrared spectroscopy.
Journal of biomedical optics, Vol. 14, No. 3, pp. 034004–034004, 2009.
8
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
活性部位付近の神経線維抽出と
アフィン変換を用いた脳の位置合わせ
大谷 俊介
Shunsuke OHTANI
背景:うつ病や統合失調症などの精神疾患が増加しているため,精神疾患の発症メカニズムを解明することが必要である
研究目的:活性部位間の神経線維を評価し,脳内ネットワークを解明するシステムを提案する
発表の位置づけ:活性部位付近を通る神経線維を抽出する.被験者脳同士のスライス画像の位置合わせをする
方法:3D プログラミングを用いて,活性部位付近を通る神経線維を抽出する.アフィン変換を用いて脳座標を変換する
結果:活性部位付近の神経線維のみの抽出,被験者同士のスライス画像での位置合わせが可能なことが確認できた
1
はじめに
近年,職場でのうつ病や本格的な高齢化社会を迎えたことに伴う認知症患者の増加が深刻
な社会問題になっており,これまでの四大疾病 1 に,精神疾患が加わり五大疾病と呼ばれてい
る.精神疾患になるまでの症例は多数報告されているが,発症するメカニズムは解明されてい
ない.このメカニズムが解明されていない最も大きな理由の一つとして,脳内ネットワークが
まだ解明されていないことが挙げられる.そして現在,脳機能を計測する機器は多数存在する
が,それらの装置は,ある部位の活性のみを見ているため,活性部位間の関係性までは見るこ
とができない.その活性部位間の関係性をみることは脳内ネットワークの解明に重要だと考
えられる 1) .そこで本研究では,活性部位間を繋いでいると考えられる脳の白質形態に着目
し,脳内ネットワークの解明を行う.本研究で着目する脳の白質形態とは脳神経線維のことで
あり,これを見ることにより,特定の白質形態が脳内ネットワークに影響があるかどうかを検
討する.様々な刺激を与えた際の脳の活性部位を確認し,その活性部位間の脳神経線維を見る
ことで,白質形態が定量的に判断することが可能であると考えられる.
本研究では,MRI(Magnetic Resonance Imaging) の DTI(Diffusion Tensor Imaging) デー
タから得られる脳神経線維と fNIRS(functional Near-Infrared Spectroscopy) から得られる脳
活性部位を同時に,3D 描画させることで,脳内ネットワークの解明を支援することを目的と
したシステムの提案を行う.
2
脳神経情報と機能情報を同時描画による提案システム
現在,Fig. 1(a) のような 2 次元画像は MRI 装置を用いた拡散テンソル画像法により,脳内
に存在する水の拡散情報を用いることで脳神経線維を画像化できる.しかし,ヒト脳の脳内
ネットワークを評価するために,神経線維の走行を 3 次元的に再構成し,可視化することが重
要である.同時に脳神経線維と Fig. 1(b) に示すような,fNIRS から得られる脳活性部位をみ
ることができれば,脳活性部位付近の神経線維の評価が可能である.本研究では,神経線維追
跡により得られた脳神経線維の走行を 3D 可視化し,また脳活性部位を同時に 3D 表示するこ
とで,脳活性部位付近の神経線維の評価に役立つシステムを提案する.提案システムの一連の
流れを Fig. 2 に示す.それぞれの処理内容について下記に示す.
1. fNIRS から被験者の刺激呈示時における脳血流量変化データと磁気計測によって得ら
れた被験者毎のプローブの 3 次元位置座標の取得
2. MRI の拡散テンソル画像法より,脳神経線維の座標の入手
3. fNIRS のデータと MRI のデータの位置合わせ
4. 脳神経線維と活性部位を同時に 3 次元で描画
1 がん,脳卒中,心臓病,糖尿病
9
(a) 拡散テンソル (b) 脳の活性部位の
画像
画像
Fig. 1 脳撮像画像
脳活性部位画像 脳神経画像
1
fNIRS装置
4
神経線維と活性部位の
同時表⽰
3
2
MRI装置
Fig. 2 提案システムの構成
本システムの評価実験
3
3.1
活性部位付近の神経抽出
活性部位間の神経線維を抽出するための一段階として,活性部位付近の神経線維の抽出を実
験目的とし,目的とする描画が可能かどうか実験を行った. fNIRS データを用いて脳表面に
補間したデータを使い,活性部位を描画する.そして,その活性部位付近を通る神経線維のみ
を抽出した.本評価実験の活性部位は,各ボクセルが持つ脳血流変化データの正規化を行い,
それらの上位 80%以上のデータであると本実験では定義した.
3.2
アフィン変換を用いた脳の位置合わせ
被験者毎の脳を標準脳に対応させた際の脳血流変化データの比較を行うための一段階とし
て,被験者同士の脳のスライス画像を用いて位置合わせを行った.被験者毎で脳の大きさが異
なり,脳領域も異なるため,脳を比較するためには,脳の位置合わせが必要である.位置合わ
せするための脳座標の変換方法としてアフィン変換を用いる.そして,位置合わせができてい
るかを評価するために残差平方和 2) を用いた.
実験結果
4
4.1
活性部位付近の神経抽出
Fig. 3 は,一部の活性部位付近を通る神経線維のみを抽出したものである.本実験では,脳
実質表面の各ボクセルが持つ脳血流変化データの正規化を行い,上位 80%以上のデータを活
性部位とし,赤色で描画した.描画結果から活性部位付近を通る神経線維を抽出ができている
ことが確認できる.今後は,活性部位の時間変化に伴う神経線維の抽出を行うことで,脳領域
が活性している際に使用している神経のネットワークを解明することができると考えられる.
(a) 側頭部
(b) 前頭部
Fig. 3 活性部位付近の神経線維の抽出
10
4.2
アフィン変換を用いた脳の位置合わせ
Fig. 4 は,被験者 2 名のある平面のスライス画像である.これらの画像を位置合わせしてい
く.同じスライス平面だが,大きさが異なり,位置が大きくずれていることがわかる.青が対
象画像で,赤が参照画像と設定する.一致度を評価するために,各ピクセルが持つ値(輝度値)
を用いて残差平方和 (RSS) を用いる.値が小さくなるほど一致度が高いといえる.Fig. 5(a)
は,変換しない状態でスライス画像を重ねた結果であり,一致度を表す RSS の値は,2165 で
あった.変換の方法として,まずは,それぞれスライス画像の中心点を求めて,参照画像の中
心点と対象画像の中心点が合うように対象画像を平行移動していく.次に,大きさを揃えるた
めに,拡大縮小を行う.Fig. 5(b) は,平行移動を行い,位置合わせをした結果であり,RSS
の値は,2054 となった.変換なしの評価値より下がっていることがわかる.この結果より,位
置合わせができていることが確認できる.今後は,拡大縮小を行うために,評価値が最小にな
るパラメータを自動的に探す処理を行うことや 3 次元画像で同じ処理を行えるようにし,被
験者脳を標準脳に対応させる必要がある.
(a) 対象画像 (青)
(b) 参照画像 (赤)
Fig. 4 MRI スライス画像
(a) 変換なし (RSS=2165)
(b) 平行移動 (RSS=2054)
Fig. 5 対象画像と参照画像を重ねた画像
5
まとめと今後の展望
本稿では,脳内ネットワークの解明を目的とし,目的の描画が正確にできているかの確認の
ために評価実験を行った.評価実験では,活性部位付近の神経線維のみの抽出と被験者間の脳
の位置合わせという 2 つの実験を行った.前者では,実験結果の表示画像から正確に目的とす
る描画ができていることが確認できた.後者では,評価値が下がることにより,位置合わせが
できていることが確認できた.これらより,活性部位付近の神経線維のみの抽出,被験者同士
のスライス画像での位置合わせが可能なことが確認できた.今後は,活性部位の時間変化に伴
う神経線維の抽出,スライス画像同士を自動的な位置合わせができるようになり,3 次元で処
理し,被験者脳を標準脳に対応させる必要がある.
参考文献
1) S. Junghyup, D. Foster, H. Davoudi, M. Wilson, and S. Tonegawa. Impaired hippocampal
ripple-associated replay in a mouse model of schizophrenia. Neuron, Vol. 80, pp. 484–493,
2013.
2) 金澤靖, 金谷健一. 解説コンピュータビジョンのための. 電子情報通信学会誌, Vol. 87,
No. 12, pp. 1043–1048, 2004.
11
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
急性ストレス時における
唾液内 α-アミラーゼと脳活動の検討
岡村 達也
Tatsuya OKAMURA
背景:ストレスに対する詳細で簡便な診断手法が求められている.
研究目的:ストレスの多様なパターンを脳活動により定義し,唾液内ホルモンとの関係性の解明を目指す.
発表の位置づけ:Montreal Imaging Stress Task 時の脳活動と唾液内α-アミラーゼ濃度変化を調査する.
方法:fMRI を用いて課題時の脳活動を計測し,その前後で唾液を採取しα-アミラーゼ濃度を計測する.
結果:脳活動に個人差がみられた.唾液内α-アミラーゼ濃度の統制の必要性が示唆された.
はじめに
1
現在,社会には様々なストレス刺激が存在する.そのような状況下では,常にストレス刺激
に曝される可能性がある.そして,慢性的にストレス状態であると,免疫力の低下などから心
身症などの健康被害を受ける危険性があり,この発症報告は年々増加傾向にある 1) .これは,
ストレスに対して適切に対応出来ていないからであるが,それは自分がストレス状態にある
という自覚がない場合や,どのようにその状況に対応すればよいのかが分からないことに起
因すると考えられる.また,ストレスには個人差があり,同じ状況下でも人によってストレス
になる場合とならない場合やストレスへの対処法が異なる場合がある.これらの状況から,個
人においてストレス状態にあるかどうかを評価し,その個人ごとのストレスへの対処法を提
案できる手法が求められている.
先行研究において,ストレスマーカーとされる唾液内コルチゾールをストレスの指標とし,
ストレス度合いが異なるときの脳活動を調査しているものが多数存在する 2)
3) 4)
.しかし,
まだストレス状態と脳活動の関係は解明されていない.その要因として,ストレスは上述した
ように非常に複雑であることから,唾液内コルチゾールの変化だけでストレス状態を判断す
ることが不十分である可能性が考えられる.そこで本研究では,多様な情報を含む脳活動に着
目し,ストレス時の様々な状態を脳活動からパターン分けすることを目的とする.また,ホル
モンの分泌や抑制のコントロールは脳を起点として行われているため,これらのパターンと
相関する唾液内ホルモンが存在する可能性がある.そのようなホルモンが発見されれば,唾液
を採取することによりその被験者の脳活動を推定することが可能になり,簡便に詳細なストレ
ス状態の診断が可能になると考える.
そこで本研究では,ストレス状態での脳活動と唾液内ホルモンの変化の関係性の解明を目的と
する.そのための検討として,本稿では非侵襲生体計測装置である fMRI(functional Magnetic
Resonance Imaging)を用いてストレス課題時の脳活動を計測し,その前後に唾液内α-アミ
ラーゼ(salivary alpha-amylase:sAA)濃度を計測することによって,急性ストレス時の脳
活動と唾液内ホルモン変化について調査した.
実験方法
2
2.1
実験デザイン
本実験の目的は,急性ストレス時の脳活動と唾液内ホルモン変化について調査することで
ある.そのために,2 種類の実験を行った.1 つ目として,ストレスタスクとしてタスク時の
脳機能イメージングが可能でかつ,安定したストレス反応が得られるとされている Montreal
Imaging Stress Task(MIST)5) を採用した.MIST 時の脳活動を fMRI を用いて計測し,そ
の前後で唾液を採取し sAA を計測した.この実験を本稿では MIST 実験とする.次に,脳
機能イメージングは出来ないが,より安定したストレス反応が得られるとされる Maastricht
12
Acute Stress Test(MAST)6) を実施し,タスク前後で唾液を採取し sAA を計測した.この
実験を MAST 実験とする.
本稿では,MIST 実験時の脳活動が,個人により異なったパターンを示すか調査した.また,
MIST 時の sAA と MAST 時の sAA を比較し,ストレス時の sAA について調査した.被験者
は健康な男性 3 名(21∼23 歳,非喫煙者)を対象とした.
2.2
MIST 実験
実験設計は先行研究を一部参考とした 5) .MIST 実験はブロックデザインであり,ブロッ
クは Rest と Task で構成されている.Rest は 30 秒で,Task は 90 秒である.Rest と Task を
交互に 2 回行い,これを 1 セッションとし,計 3 セッション行った.Task では回答インター
フェースに表示される暗算課題を制限時間内に回答させた.制限時間は緑色のプログレスバー
で表示した.回答はインターフェースに表示されるボタンを回答用ボタンデバイスを用いて選
択することによって行わせた.制限時間と難易度は被験者によって自動で調整され,回答に対
して正誤のフィードバックを与えた.被験者には平均の正答率が 80%以上になるように指示
し,自分の現在の正答率も回答インターフェースの制限時間バーの上の白色の四角の位置に
よってフィードバックした.平均正答率が 80%に到達しなかった場合,セッションの間に口頭
で負のフィードバックを与えた.実験前に 10 分間タスクを練習させ,また MRI の中におい
てもさらに 2 分間タスクの練習をさせた.Rest では暗算課題が表示されていない状態のイン
ターフェースを表示し,ボタンタッピングを行わせた.MIST の回答インターフェースを Fig.
1 に示す.
Fig. 1 回答インターフェース
先行研究において,visual association cortex,sensory cortices,motor cortices,angular
gyrus,thalamus,cingulate gyrus などがタスク時に賦活すると報告されている.またタスク
に関連して,ストレスマーカーとして知られる唾液内コルチゾール濃度が上昇すると報告さ
れている 5) .しかし,同タスク時に帯状回など,ストレスや情動に関連するとされる大脳辺
縁系に賦活がみられず,唾液内コルチゾール濃度についても変化する被験者としない被験者に
分かれたとする論文も報告されている 7) .
2.3
MAST 実験
実験設計は先行研究を一部参考にした
6)
.MAST は Hand Immersion Trials(HIT)と
Mental Arithmetic Trials(MAT)という 2 つのコンディションから構成される.HIT では
2 ◦ C に保たれた氷水に一定時間手を浸し続けさせる.時間は 60∼90 秒の間でランダムに決め
られる.MAT では一定時間 4 桁の数字から 17 を連続して引き算させ続けた.回答は口頭で
行わせ,回答が不正解だった場合最初の数字に戻りそこから引き算を再開させた.時間は 45
∼60 秒の間でランダムに決められる.この 2 つのコンディションを交互に連続して行わせた.
先行研究において,唾液内コルチゾール濃度と sAA がタスク後有意に上昇すると報告され
ている.
2.4
唾液サンプリング
MIST 実験と MAST 実験における唾液サンプリングと sAA の計測では,唾液アミラーゼモ
ニター(NIPRO)を使用した.唾液採取用テストストリップを口腔に挿入し,30 秒間舌下部
に置き全唾液を採取する.採取した唾液から免疫測定法(ELISA)を用いて sAA を計測する
13
8)
.採取のプロトコルを以下の Fig. 2 に示す.
Fig. 2 唾液採取プロトコル
実験 1 時間前からは被験者に水以外口にしないようにさせ,過度の運動は控えさせた.安静
時は過度の作業以外で自由に過ごさせた.
2.5
実験環境とデータ処理方法
MIST 実験では,日立メディコ製 ECHELON Vega(1.5 T)の MRI 装置を使用した.画像
撮像のパラメータを Table. 1 に示す.データ処理は SPM8(Statistical Parametric Mapping)
9)
を用いて体動の補正,標準化,平滑化を行った.有意水準を 0.001 とし,個人解析を行っ
た.刺激画像の提示に関しては,MRI 室には磁性体を持ち込めないため,隣室のプロジェク
ターから画像提示する光を取り込む.取り込んだ光をスクリーンに映し,被験者頭部のコイル
に取り付けた鏡に反射させ,被験者に刺激画像が見える環境を構築した.また,回答には Fig.
3 に示す非磁性体のボタンを用いた.
Table. 1 スキャンパラメータ
パラメータ
スライス方向
TR [ms]
TE [ms]
FOV [mm]
スライス厚 [mm]
スライス [枚]
Matrix Size
値
Axial
2500
50
256
5
28
64×64
Fig. 3 回答用ボタン
実験結果
3
3.1
MIST 実験時の脳活動と sAA レベル変化
MIST 実験により得られたタスク時の脳活動に関して,被験者それぞれで個人解析を行った.
ストレスや情動に関連するとされる大脳辺縁系の部位に着目すると,被験者 C にのみ海馬に
賦活がみられ,他の 2 人には賦活がみられなかった.賦活のマップを Fig. 4 に示す.
Fig. 4 MIST 時の賦活(個人解析,p<.001,y=-22,HC:海馬)
MIST 時の sAA 変化を Fig. 5 に示す.
青色のバーは MIST を実施した時間を示しており,各プロットはそのとき採取した唾液か
14
Fig. 5 MIST 時の sAA レベル変化
ら測定された sAA レベルを示している.被験者 A において,タスク後に sAA の低下がみら
れ,一定時間後にタスク前の状態に戻る結果となった.被験者 B,C はタスク前後で安定する
ことが無かった.
3.2
MAST 時の sAA
MAST 時の sAA レベル変化を Fig. 6 に示す.
Fig. 6 MAST 時の sAA レベル変化
赤色のバーは MAST を実施した時間を示しており,各プロットはそのとき採取した唾液か
ら測定された sAA レベルを示している.被験者 A において,MIST 実験の結果と同様,タス
ク後に sAA の低下がみられ,一定時間後にタスク前の状態に戻る変化がみられた.また,被
験者 B,C はタスク前後で安定することが無かった.
考察と展望
4
4.1
MIST 時の脳活動
MIST 実験における脳活動の計測結果は先行研究から予想された通り,ストレスに関連する
とされる大脳辺縁系において,賦活する被験者としない被験者に分かれた.このことから,同
じストレスタスクを実施したときでも,個人によってストレス状態が異なり,脳活動のパター
ンの違いとしてあらわれる可能性が示唆された.しかし,被験者が 3 人ではこの違いがパター
ンの違いに起因するものではなく,ノイズである可能性があるため,今後被験者を増やし,ま
た同じ被験者に対して何度か実験を行うことにより再現性を調査する必要があると考える.
4.2
sAA レベル変化の個人差と統制
MAST 実験の結果より,被験者 A において先行研究の結果と異なり,sAA レベルはタスク
後に低下した.現在,先行研究において,唾液内コルチゾール濃度は同じストレス課題に対し
ても,個人によって異なると報告されている 7) .今回の結果から sAA についても,唾液内コ
ルチゾールと同様に,個人によってストレス時の変化が異なる可能性が考えられる.また,被
験者 A は MIST 時にも sAA レベルが低下している.ストレスタスクとして確立された MIST
15
と MAST のどちらに対してもストレスを感じなかったとは考えにくいので,この被験者 A は
ストレスを感じたときに sAA レベルが下がるような反応をする性質があること可能性が示唆
された.これについて検討するため,ストレス刺激を与えないコントロールタスクなどを実施
し,その結果と比較することで sAA レベルの変化の要因を調査する必要であると考えられる.
4.3
sAA レベル変化の要因
被験者 B,C は sAA レベルがタスク前後を通して安定しなかった.その要因として,まず
唾液分泌流量の影響が考えられる.sAA レベルは唾液分泌流量に比例してその活性が増加す
ることが知られている.つまり,sAA レベル変化の主要因としては,ストレスに起因し,交
感神経を介する耳下腺唾液アミラーゼ産生・分泌(エキソサイトーシス)の増減だけでなく,
耳下腺唾液の全唾液量に対する割合の変化に起因した唾液分泌流量の変化による見かけ上の
増減である可能性もある.この唾液分泌流量は唾液中に含まれる総タンパク質量(唾液総タン
パク)と良好な相関を示すことが知られている 10) .このことから,唾液総タンパクを同時に
モニターすれば,唾液分泌流量が sAA レベルに与える影響をキャンセル出来る可能性が示唆
されている 11) .sAA レベルを安定させる,また変化の要因からノイズを除くために,今後こ
れらについての調査が必要だと考えられる.
また,ストレスに対する被験者の性質も sAA レベルの変化に影響を与えると考えられる.
先行研究において,State-Trait Anxiety Inventory(STAI)という被験者の不安に対する性質
と現在の状況を評価出来るアンケートを用いて,それによって得られた評価とストレス課題時
の唾液内ホルモン変化の関係が報告されている 12) .今後はこの STAI についても調査するこ
とで,実験前の被験者の状態や実験後の状況を把握し,より多角的に被験者の状況を把握,調
整する必要があると考える.
5
まとめ
本稿では,MIST 時の脳活動と sAA レベル変化,MAST 時の sAA レベル変化を計測した.
MIST 時の脳活動については,賦活に違いがみられ,同じストレスタスク実施時でもストレス
状態が異なり,それを脳活動によりパターン分け出来る可能性が示唆された.また,sAA レ
ベル変化については,タスク後低下する被験者がみられ,ストレス時の sAA レベルの変化に
も個人差があることが示唆された.今後は被験者を増やし,再現性を高めるとともに,被験者
の統制をより詳細に行うことにより,脳活動や唾液内ホルモン変化の要因を調査する必要性が
示唆された.
参考文献
1) 井澤忍. 唾液を用いたストレス評価-採取及び測定手順と各唾液中物質の特徴-. 日本補完
代替医療学会誌, 第 4 巻, pp. 91–101, OCT 2007.
2) Katarina Dedovic, Miriam Rexroth, Elisabeth Wolff, Annie Duchesne, Carole Scherling,
Thomas Beaudry, Sonja Damika Lue, Catherine Lord, Veronika Engert, and Jens C
Pruessner. Neural correlates of processing stressful information: an event-related fmri
study. Brain research, Vol. 1293, pp. 49–60, 2009.
3) Katarina Dedovic, Annie Duchesne, Julie Andrews, Veronika Engert, and Jens C Pruessner. The brain and the stress axis: the neural correlates of cortisol regulation in response
to stress. Neuroimage, Vol. 47, No. 3, pp. 864–871, 2009.
4) Najmeh Khalili-Mahani, Katarina Dedovic, Veronika Engert, Marita Pruessner, and
Jens C Pruessner. Hippocampal activation during a cognitive task is associated with
subsequent neuroendocrine and cognitive responses to psychological stress. Hippocampus, Vol. 20, No. 2, pp. 323–334, 2010.
5) Katarina Dedovic, Robert Renwick, Najmeh Khalili Mahani, Veronika Engert, Sonia J
Lupien, and Jens C Pruessner. The montreal imaging stress task: using functional
16
imaging to investigate the effects of perceiving and processing psychosocial stress in the
human brain. Journal of Psychiatry and Neuroscience, Vol. 30, No. 5, p. 319, 2005.
6) Tom Smeets, Sandra Cornelisse, Conny WEM Quaedflieg, Thomas Meyer, Marko Jelicic, and Harald Merckelbach. Introducing the maastricht acute stress test (mast): A
quick and non-invasive approach to elicit robust autonomic and glucocorticoid stress
responses. Psychoneuroendocrinology, Vol. 37, No. 12, pp. 1998–2008, 2012.
7) Jens C Pruessner, Katarina Dedovic, Najmeh Khalili-Mahani, Veronika Engert, Marita
Pruessner, Claudia Buss, Robert Renwick, Alain Dagher, Michael J Meaney, and Sonia
Lupien. Deactivation of the limbic system during acute psychosocial stress: evidence
from positron emission tomography and functional magnetic resonance imaging studies.
Biological psychiatry, Vol. 63, No. 2, pp. 234–240, 2008.
8) 山口昌樹, 花輪尚子, 吉田博. 唾液アミラーゼ式交感神経モニタの基礎的性能. 生体医工
学: 日本エム・イー学会誌, Vol. 45, No. 2, pp. 161–168, 2007.
9) 菊池吉晃, 妹尾淳史, 安保雅博, 渡邉修, 米本恭三. SPM8 脳画像解析マニュアル. 医歯薬
出版株式会社, 2012.
10) Jorma O.Tenovuo, 石川達也, 高江洲義矩. 唾液の科学. 一世出版, 1998.
11) 山口昌樹, 金森貴裕, 金丸正史, 水野康文, 吉田博. 唾液アミラーゼ活性はストレス推定の指
標になり得るか. 医用電子と生体工学: 日本 ME 学会雑誌= Japanese journal of medical
electronics and biological engineering: JJME, Vol. 39, No. 3, pp. 46–51, 2001.
12) Noriyasu Takai, Masaki Yamaguchi, Toshiaki Aragaki, Kenji Eto, Kenji Uchihashi, and
Yasuo Nishikawa. Effect of psychological stress on the salivary cortisol and amylase
levels in healthy young adults. Archives of Oral Biology, Vol. 49, No. 12, pp. 963–968,
2004.
17
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
ワーキングメモリ負荷量による
脳内ネットワーク変化
小淵 将吾
Shogo OBUCHI
背景:広範な認知機能に関連するワーキングメモリの脳内ネットワークの解明の必要性
研究目的:ワーキングメモリの脳内ネットワークの解明
発表の位置づけ:n-back 課題時の脳内ネットワークと負荷量によるネットワークの変化の検討
方法:グラフ理論に基づくネットワークのクラスタリングと領域の中心性を解析
結果:2-back 時において前頭と頭頂間のネットワーク形成が示唆された
はじめに
1
ヒトの脳は構造的ネットワークを基礎として,機能的ネットワークのつながりによって,認
知活動を行っている.特に日常の会話や文章の理解,暗算,推論など様々な認知活動に重要
な役割を果たすのがワーキングメモリである.ワーキングメモリは複雑な思考のために,情
報の処理をしつつ一時的に必要な情報を保持する働きを担うシステムである 1,
キングメモリには個人によって異なる容量が存在し,文章読解力
して問題解決能力
5)
3)
2)
.このワー
や論理的推論能力 4) ,そ
などの広範な認知機能との関連があると報告されている.ワーキングメ
モリ容量を測定するテストとして広く用いられているのが n-back 課題である.この課題を用
いて,ワーキングメモリの神経基盤を探る研究が多くなされてきた.Owen ら (2005)
6)
に
よる n-back の神経基盤の総説では,以下の 6 つの領域がワーキングメモリに関与するとさ
れている:(1) bilateral posterior parietal cortex, (2) bilateral premotor cortex, (3) dorsal
cingulate/medial premotor cortex, (4) bilateral rostral prefrontal cortex or frontal pole, (5)
bilateral dorsolateral prefrontal cortex, (6) bilateral mid-ventrolateral prefrontal cortex.つ
まり,両頭頂皮質,両前頭皮質,そして帯状回付近がワーキングメモリに関与していると考え
られる.また n-back はワーキングメモリの負荷を変化させることが可能であることから,負
荷の変化と脳活動の関係が研究されてきた 7,
8)
.しかし,従来のワーキングメモリ研究では
ワーキングメモリ課題中の脳活動の推定を中心に行っており,脳領域間における情報伝達の
ネットワークに関してはまだ解明されていない.
脳内ネットワーク解析として非侵襲生体計測装置である Magnetic Resonance Imaging (MRI)
を用いた,Diffusion Tensor Imaging (DTI) による構造的ネットワークと functional MRI
(fMRI) による機能的ネットワークの研究が盛んに行われている 9) .これらの生体情報を解
析する手法として,グラフ理論に基づいた解析がある 10,
11)
.グラフ理論はノードの集合と
エッジの集合で構成されるグラフの性質について研究する分野であり,ボクセルや脳領域を
ノードとし,その繋がりをエッジとしてネットワークの解析に利用される.グラフ理論を用い
たネットワーク解析はアルツハイマー病患者の診断の指標となることが報告されており,ネッ
トワーク解析に有効である 12) .
したがって,本研究ではワーキングメモリの脳内ネットワークを検討するため,n-back 課
題時の脳内ネットワークをグラフ理論に基づいた解析手法を用いて検討する.また,n-back
課題の記憶負荷の変化による脳内ネットワークの変化も同時に検討する.
実験方法
2
2.1
被験者
本実験には,健常成人 12 名(女性:5 名,男性:7 名,平均年齢:21.3 ± 0.65)が参加した.
本研究は同志社大学生命医科学部・生命医科 学研究科倫理委員会の承認のもとで行った .被
18
験者に研究の方法,危険性などを事前に説明し,書面による同意を得た.
2.2
実験設計
ワーキングメモリ課題として n-back 課題を用いた.被験者は 2-back と 3-back の計 2 セッ
ションの課題を MRI 中で行った.1 セッションはレスト:30 秒,タスク:50 秒を 4 回繰り返
し行うブロックデザインの設計である.レスト中,被験者は ’X ’の文字が表示されたら,ボ
タンを押すように指示された.タスク中では,’A ’
,’B ’
,’C ’
,’D ’
,’E ’
,の文字が擬似
ランダム(正解が 25%になるように調整)に表示され,被験者は 2-back か 3-back かに合わ
せて 2 個前,あるいは 3 個前の文字と一致していれば正答ボタンをそれ以外は誤答ボタンを
押すよう指示された.それぞれの文字は 500 msec 提示され,1500 msec の刺激のインターバ
ルを設けた.
2.3
撮像パラメータ
全ての MRI データの撮像は Echelon Vega 1.5-T (日立メディコ) を用いた.また fMRI 撮
像時の画像提示ソフトとして,Presentation (Neurobehavioral System Inc.) とボタン押し
の評価用インタフェースとして,fORP 932 Subject Response Package (Cambrige Research
Systems) を使用した.脳機能画像は Gradient-Echo Echo-Planer Imaging (GE-EPI) シーケ
ンスで撮像した (TR = 2500 ms, TE = 50 ms, FA = 90◦ , FOV = 240 × 240 mm, matrix
= 64×64, thickness = 6.0 mm, スライス枚数 = 20).拡散強調画像は Diffusion-Weighted EPI
(DW-EPI) シーケンスで撮像した (TR = 2317 ms, TE = 74.3 ms, FA = 90◦ , FOV = 240×240
mm, matrix = 256 × 256, thickness = 3.0 mm, スライス枚数 = 50, b value = 1000s/mm2 ,
direction = 21).T1 構造画像は Rf-Spoiled Steady state Gradient echo (RSSG) シーケンスで
撮像した (TR = 9.4 ms, TE = 4.0 ms, FA = 8◦ , FOV = 256 × 256 mm, matrix = 256 × 256,
thickness = 1.0 mm, スライス枚数 = 192).
2.4
解析方法
DTI データは DSIstudio (http://dsi-studio.labsolver.org) を用いて以下の処理を行った.全
脳を ROI として,Euler 法を用いて Fiber Tracking を行った(FA threshold = 0.25, Angle
threshold < 70◦, step size = 0.5).そして Automated Anatomical Labeling (AAL) 13) を用
いて脳領域の特定を行った後に,神経が結合する本数を値とした隣接行列を作成した.
fMRI データの前処理は Matlab (MathWorks, Sherborn, MA) で動作する SPM 8 (Wellcome
Department of Cognitive Neurology, London, UK) を用いて行った.磁場不均一の影響を除外
するため,fMRI データのはじめの 6 枚を除き,計 134 枚の画像を解析に用いた.全ての画像
は計測中の頭部の動きを補正し,個人脳の機能画像と構造画像間での位置合わせを行い,個々
の脳画像を Montreal Neurological Institute (MNI) 標準脳に合うように調整した後に,ガウ
シアンフィルタ (full width at half maximum (FWHM) = 8 mm) を用いて平滑化を行った.
これら前処理の後にそれぞれのタスクに対する脳活動の推定のために一般線形モデルを用い
た.そして,脳活動領域における機能的結合を解析するため,conn
14)
を用いて functional
connectivity MRI 解析を行った.SPM 8 での前処理に追加して band pass filter (0.008 Hz―
0.09 Hz) をかけた後に,全脳の平均 BOLD 信号,頭部の動きによるアーチファクト,白質と脳
脊髄液の BOLD 信号を回帰子として除いた.n-back 課題時の相関値を算出するため,n-back
のタスク期間中の BOLD 信号を抽出し血流動態反応に畳み込み積分を行い,それぞれのタ
スク期間中の BOLD 信号を結合した.AAL を用いて脳活動領域の特定し,AAL の Region
of Interest (ROI) ごとの BOLD 信号値の平均を算出した.最後に ROI 間の相関値を算出し
フィッシャーの Z 変換の後に,母相関係数の推定を行った.そして ROI ごとにわかれた相関
行列としてデータを抽出した.
抽出された DTI による隣接行列と fMRI による相関行列に対して,Brain connectivity
toolbox15) を用いて以下の解析を行った.得られた隣接行列と相関行列をそれぞれ全被験
者で加算し,集団の隣接行列と,2-back と 3-back それぞれの集団の相関行列の計 3 つの行
列を作成した.次に modularity を用いて ROI のクラスタリングを行った.modularity とは,
ネットワークからクラスタへの分割の質を定量化するものである.ネットワークの与えられた
分割に対して,グループ内のノード同士が繋がるリンクの割合からリンクがランダムに配置
19
された場合の期待値を引いた値として定義され,これを最大化することによって,ネットワー
クのクラスタリングを行う.したがって,modularity を用いたクラスタリングによって,相
互に繋がりのある領域をまとめることが可能である.modularity の式を以下に示す.
Q=
∑
(eii − a2i )
(1)
i=1
さらに ROI の中心性を示す betweenness centrality の算出を行った.betweenness centrality
とは,そのノードを通過しないと他のノードに到達できない度合い,つまり,ある点がその他
の 2 点を結ぶ最短経路である度合いである.したがって,betweenness centrality が大きい領
域はクラスタ間の情報伝達の媒介中心役を担う領域である.以下に式を示す.
g(v) =
∑ σst (v)
σst
(2)
s6=v6=t
結果
3
3.1
行動データ
2-back 課題時と 3-back 課題時の平均正答率はそれぞれ 93.85 ± 5.499% と 84.69 ± 6.150% で
あった.対応のある t 検定によって有意な差があることが示された (t(11) = 4.51, p < 0.001).
3.2
構造的ネットワーク
集団の隣接行列の modularity の最大値は 0.2415 であった.この時の modularity を用いて整
列を行った集団の隣接行列を Fig.1(a) に,各領域における betweenness centrality を Fig.1(b)
に示す.Fig.1(a) は領域間で結合する神経本数が多いほど高い値をとる.modularity によっ
て 5 領域に分割されたクラスタと脳の分布を Fig. 2 に,それぞれの領域名を Table 1 に示
す.各クラスタにおいて betweenness centrality が最大の領域はそれぞれ,Occipital Sup (L),
Precentral (R), Frontal Mid Orb (L), Cerebelum 8 (R), Temp Inf (L) であった.
(a) Adjacency matrix
(b) Betweenness centrality
Fig. 1 Structural connectivity
3.3
機能的ネットワーク
2-back と 3-back の相関行列の modularity の最大値はそれぞれ 0.3277 と 0.3494 であった.こ
の時の modularity を用いて整列を行った 2-back と 3-back の相関行列を Fig.3 示す.modularity
によって 2-back は 4 クラスタ,3-back は 3 クラスタに分割された.それぞれのクラスタと脳を
Fig. 4 と Fig. 5 に,領域名を Table 1 に示す.エッジは加算された相関係数が 6 以上のものの
みを描画している.また,各領域における betweenness centrality を Fig.6 に示す.各クラス
タにおいて betweenness centrality が最大の領域はそれぞれ,2-back: Temp Mid (R), Temp
Inf (R), Cerebellum Crus1 (R), Cerebelum 4-5 (L), 3-back: Cerebelum Crus1 (R), Temp Inf
(L), Temp Sup (R) であった.
20
Fig. 2 Cluster of the brain regions
(a) 2-back
(b) 3-back
Fig. 3 Similarity matrix
Fig. 4 Cluster of the brain regions in 2-back (edges are drawn if similarities are above the
threshold)
21
Fig. 5 Cluster of the brain regions in 3-back (edges are drawn if similarities are above the
threshold)
(a) 2-back
(b) 3-back
Fig. 6 Betweenness centrality
22
Table. 1 Regions
Cluster
1
2
3
4
5
structure
Occipital Sup (L)
Cuneus (L)
Calcarine (L)
Lingual (L)
Precuneus (L)
Cingulum Post (L)
Hippocampus (L)
ParaHippocampal (L)
Hippocampus (R)
Vermis 3
Cingulum Post (R)
Precuneus (R)
Lingual (R)
Vermis 6
Calcarine (R)
Cuneus (R)
Occipital Sup (R)
Paracentral Lobule (L)
Cingulum Mid (L)
Supp Motor Area (L)
Vermis 10
Rectus (R)
Frontal Inf Orb (R)
Temporal Pole Mid (R)
Insula (R)
Amygdala (R)
Pallidum (R)
Rolandic Oper (R)
Precentral (R)
ParaHippocampal (R)
Heschl (R)
Thalamus (R)
Temporal Sup (R)
Postcentral (R)
Temporal Inf (R)
SupraMarginal (R)
Paracentral Lobule (R)
Cerebelum 3 (R)
Temporal Mid (R)
Vermis 1 2
Cerebelum 4 5 (R)
Parietal Inf (R)
Parietal Sup (R)
Cerebelum 7b (R)
Angular (R)
Occipital Mid (R)
Occipital Inf (R)
Postcentral (L)
Thalamus (L)
Rolandic Oper (L)
Precentral (L)
Pallidum (L)
Putamen (L)
Insula (L)
Caudate (L)
Frontal Inf Oper (L)
Olfactory (L)
Frontal Inf Tri (L)
Frontal Inf Orb (L)
Frontal Mid (L)
Frontal Sup (L)
Cingulum Ant (L)
Rectus (L)
Frontal Sup Orb (L)
Frontal Sup Medial (L)
Frontal Mid Orb (L)
Frontal Mid Orb (L)
Vermis 10
Frontal Mid Orb (R)
Frontal Sup Medial (R)
Frontal Sup Orb (R)
Cingulum Ant (R)
Frontal Mid (R)
Frontal Sup (R)
Frontal Inf Tri (R)
Olfactory (R)
Frontal Inf Oper (R)
Temporal Pole Sup (R)
Caudate (R)
Putamen (R)
Supp Motor Area (R)
Cingulum Mid (R)
Cerebelum Crus2 (L)
Cerebelum Crus1 (L)
Cerebelum 6 (L)
Cerebelum 7b (L)
Cerebelum 8 (L)
Cerebelum 9 (L)
Cerebelum 4 5 (L)
Cerebelum 3 (L)
Vermis 9
Cerebelum 10 (R)
Fusiform (R)
Cerebelum 9 (R)
Vermis 4 5
Cerebelum 8 (R)
Cerebelum 6 (R)
Vermis 8
Cerebelum Crus1 (R)
Cerebelum Crus2 (R)
Vermis 7
Occipital Mid (L)
Occipital Inf (L)
Angular (L)
Parietal Sup (L)
Parietal Inf (L)
Fusiform (L)
SupraMarginal (L)
Temporal Mid (L)
Cerebelum 10 (L)
Temporal Inf (L)
Temporal Sup (L)
Heschl (L)
Amygdala (L)
Temporal Pole Mid (L)
Temporal Pole Sup (L)
Cluster
1
2
3
4
2-back
Thalamus (L)
Rolandic Oper (L)
Heschl (L)
Pallidum (L)
Insula (L)
Heschl (R)
Thalamus (R)
Insula (R)
Putamen (L)
Putamen (R)
Rolandic Oper (R)
Temporal Sup (L)
Pallidum (R)
Temporal Pole Sup (R)
Supp Motor Area (R)
Temporal Pole Sup (L)
Precentral (R)
Temporal Sup (R)
Supp Motor Area (L)
Postcentral (L)
Postcentral (R)
SupraMarginal (L)
Paracentral Lobule (L)
SupraMarginal (R)
Frontal Inf Oper (L)
Precentral (L)
Frontal Inf Oper (R)
Frontal Inf Tri (R)
Frontal Inf Orb (L)
Temporal Mid (R)
Frontal Inf Orb (R)
Frontal Inf Tri (L)
Temporal Mid (L)
Parietal Inf (L)
Parietal Inf (R)
Frontal Mid (R)
Frontal Mid (L)
Angular (R)
Temporal Inf (R)
Angular (L)
Paracentral Lobule (R)
Temporal Inf (L)
Parietal Sup (L)
Frontal Mid Orb (R)
Olfactory (L)
Frontal Mid Orb (L)
Cingulum Mid (R)
Frontal Sup (R)
Parietal Sup (R)
Cingulum Mid (L)
Frontal Sup (L)
Frontal Sup Orb (L)
Precuneus (L)
Frontal Sup Medial (L)
Frontal Sup Orb (R)
Caudate (L)
Rectus (L)
Caudate (R)
Frontal Sup Medial (R)
Precuneus (R)
Cingulum Post (L)
Olfactory (R)
Cingulum Post (R)
Frontal Med Orb (L)
Rectus (R)
Cingulum Ant (L)
Cingulum Ant (R)
Frontal Med Orb (R)
Cerebelum Crus2 (R)
Cerebelum 9 (R)
Cerebelum Crus2 (L)
Cerebelum 8 (R)
Cerebelum 7b (L)
Vermis 9
Cerebelum 10 (R)
Vermis 10
Cerebelum 7b (R)
Cerebelum 8 (L)
Cerebelum 9 (L)
Cerebelum 10 (L)
Vermis 8
Cerebelum Crus1 (R)
Vermis 7
Cerebelum Crus1 (L)
Vermis 6
Cerebelum 6 (R)
Cerebelum 6 (L)
Occipital Inf (L)
Cerebelum 4 5 (L)
Vermis 4 5
Occipital Sup (L)
Cerebelum 4 5 (R)
Occipital Mid (L)
Lingual (R)
Fusiform (L)
Fusiform (R)
Occipital Inf (R)
Lingual (L)
Occipital Sup (R)
Occipital Mid (R)
Calcarine (R)
Vermis 3
Cerebelum 3 (L)
Cuneus (R)
Calcarine (L)
Cuneus (L)
Temporal Pole Mid (L)
Cerebelum 3 (R)
Vermis 1 2
Amygdala (L)
Hippocampus (L)
Temporal Pole Mid (R)
ParaHippocampal (L)
Amygdala (R)
ParaHippocampal (R)
Hippocampus (R)
23
Cluster
1
2
3
3-back
Lingual (L)
Hippocampus (R)
Vermis 1 2
Vermis 3
Cerebelum 10 (R)
Cerebelum 4 5 (L)
Cerebelum 10 (L)
Cerebelum 3 (L)
Occipital Inf (L)
Vermis 10
Hippocampus (L)
Calcarine (L)
Cerebelum 3 (R)
ParaHippocampal (L)
Cerebelum 4 5 (R)
Occipital Sup (L)
Occipital Sup (R)
Lingual (R)
Cerebelum 9 (R)
Vermis 9
Calcarine (R)
Cerebelum 8 (R)
Cerebelum 8 (L)
Vermis 4 5
Vermis 8
Vermis 6
ParaHippocampal (R)
Cerebelum Crus1 (L)
Cerebelum 9 (L)
Cerebelum 6 (L)
Cerebelum 7b (R)
Cerebelum Crus2 (R)
Fusiform (L)
Cerebelum 7b (L)
Vermis 7
Cuneus (R)
Occipital Inf (R)
Temporal Pole Mid (L)
Fusiform (R)
Cerebelum 6 (R)
Parietal Sup (L)
Parietal Sup (R)
Cerebelum Crus1 (R)
Cuneus (L)
Occipital Mid (R)
Cerebelum Crus2 (L)
Precuneus (L)
Occipital Mid (L)
Precuneus (R)
Angular (L)
Cingulum Ant (R)
Frontal Sup Medial (R)
Frontal Sup Orb (L)
Angular (R)
Cingulum Ant (L)
Frontal Sup Orb (R)
Frontal Mid Orb (R)
Frontal Med Orb (R)
Frontal Sup Medial (L)
Frontal Med Orb (L)
Frontal Mid Orb (L)
Frontal Sup (L)
Cingulum Post (R)
Frontal Sup (R)
Frontal Mid (L)
Rectus (R)
Frontal Mid (R)
Parietal Inf (R)
Cingulum Post (L)
Rectus (L)
Temporal Inf (R)
Temporal Pole Mid (R)
Temporal Inf (L)
Frontal Inf Orb (L)
Parietal Inf (L)
Frontal Inf Tri (L)
Temporal Mid (R)
Frontal Inf Tri (R)
Frontal Inf Orb (R)
Temporal Mid (L)
Frontal Inf Oper (L)
Frontal Inf Oper (R)
Insula (R)
SupraMarginal (R)
Temporal Sup (R)
Temporal Pole Sup (L)
Temporal Pole Sup (R)
Olfactory (L)
Cingulum Mid (R)
Pallidum (R)
Precentral (L)
Insula (L)
SupraMarginal (L)
Thalamus (R)
Rolandic Oper (R)
Putamen (R)
Thalamus (L)
Temporal Sup (L)
Cingulum Mid (L)
Rolandic Oper (L)
Supp Motor Area (L)
Olfactory (R)
Caudate (L)
Amygdala (L)
Pallidum (L)
Amygdala (R)
Heschl (R)
Paracentral Lobule (R)
Putamen (L)
Caudate (R)
Precentral (R)
Postcentral (L)
Supp Motor Area (R)
Postcentral (R)
Paracentral Lobule (L)
Heschl (L)
4
考察
Fig.1(a) より,構造的ネットワークは 5 つのクラスタに分割できた.それら 5 つのクラスタ
は後頭葉,頭頂葉・右側頭葉,前頭葉,小脳,左側頭葉に大別されていると考えられる (Table
1).特にそれぞれの betweenness centrality が最大の領域は Occipital Sup (L), Precentral (R),
Frontal Mid Orb (L), Cerebelum 8 (R), Temp Inf (L) であるため,これらは各クラスタの
情報伝達の媒介中心役を担う領域だと考えられる.また 2-back は 4 クラスタ:頭頂葉,前頭
葉・両側頭葉,小脳,後頭葉に大別されていると考えられる.3-back においては 3 クラスタ:
小脳・後頭葉,前頭葉,頭頂葉に大別された.また Fig.3, 6 より,2-back と 3-back における
機能的ネットワークの betweenness centrality が高いものはそれぞれ 2-back: Temp Mid (R),
Temp Inf (R), Cerebellum Crus1 (R), Cerebelum 4-5 (L) と 3-back: Cerebelum Crus1 (R),
Temp Inf (L), Temp Sup (R) であり,特にワーキングメモリの機能において重要な役割を担
うとされている前頭葉と同じクラスタ内での betweenness centrality 最大の領域は Temp Inf
であった.したがって,側頭葉は構造的にも,機能的にも betweenness centrality が高いため,
ワーキングメモリの情報伝達は側頭葉が中心となり,前頭葉へと繋がるネットワークが存在す
ることが推測される.
行動データにおいて,2-back と 3-back の正答率に有意な差が得られたことより,3-back は
2-back よりも記憶の負荷が大きく,ワーキングメモリの機能に障害が生じることが推測され
る.この認知的行動の違いは脳内ネットワークの変化に現れている.Table 1 より前頭葉を含
むクラスタにおいて,2-back では Precuneus と Parietal Sup が同じクラスタである一方で,
3-back は Frontal Inf が同じクラスタである.先行研究より,Precuneus や Parietal Sup は
ワーキングメモリにおいて重要な役割を果たすことが報告されている 6) .また Frontal Inf は
負荷が増えるにしたがって活動が増強する場所だと報告されている 16) .したがってワーキン
グメモリが正常に機能している場合は前頭前野に加え,頭頂葉が協調して働くとが考えられ
る.一方で負荷が増え,より注意を向けようとする場合は前頭前野と下前頭回が協調して働く
と考えられる.
5
結論
本稿では,ワーキングメモリ課題である n-back 時の脳内ネットワークと記憶負荷によるネッ
トワークの変化を検討した.健常成人 12 名を被験者として fMRI を用いて n-back 課題時の脳
活動を,DTI を用いて白質形態の統合性を計測した.機能的・構造的ネットワーク解析のた
め,グラフ理論の modularity と betweenness centrality を用いて,領域のクラスタ分割と中
心性の高い領域を求めた.結果,n-back 課題時の脳内ネットワークは記憶負荷によってネッ
トワークに変化が生じた.2-back では頭頂と前頭にネットワークが形成され,ワーキングメ
モリのパフォーマンスが安定していた一方で,3-back では負荷量が増加し,下前頭回と前頭
とのネットワーク形成が必要となった.展望として,構造的ネットワークをもとにした,機能
的ネットワークの信号経路のパスを最適化問題として検討する.これにより効率的な情報伝達
経路の解明を行う.
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and motivation, Vol. 8, pp. 47–89, 1974.
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3) Marcel A. Just and Patricia A. Carpenter. A capacity theory of comprehension: Individual differences in working memory. Psychological Review, Vol. 99, pp. 122–149,
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24
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11) Martijn P. van den Heuvel and Olaf Sporns. Rich-club organization of the human
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Gabrieli. Load-Dependent Roles of Frontal Brain Regions in the Maintenanceof Working
Memory. NeuroImage, Vol. 9, pp. 216–226, 1999.
25
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
脳血流変化量に対する Deep Leaning を用いた
被験者の性別分類の検討
塙 賢哉
Kenya HANAWA
背景:近年,脳機能をマッピングする装置が発達したが,脳血流変化量から被験者の特徴や状態を推定することは困難
研究目的:脳血流変化量より被験者の特徴あるいは状態を推定するシステムの開発
発表の位置づけ:Deep Learning を用いた被験者の分類により,脳血流の違いが見受けられる部位を推定するための検討
方法:ホワイトノイズ音環境下における数字記憶課題時の脳血流データより男性と女性の脳血流の違いを識別器を用いて検討
結果:時間領域のデータセットにおいて識別率が高い CH が存在し,本実験課題において男女の脳活動の違いを示唆
はじめに
1
近年,非侵襲である脳機能イメージング装置の一つとして fNIRS(functional Near Infrared
Spectroscopy) 装置が注目を集めている.fNIRS 装置は近赤外光を用いて血液中のヘモグロビ
ン濃度変化を計測する装置である.fNIRS 装置を利用することで,特定の課題における脳血
流変化量を測定し,その脳血流変化量から脳の賦活部位の解析が行われている.しかし,脳血
流時系列データと脳機能の関連性については未だに解明されていないことが多く,脳血流変化
量から被験者の特徴や状態を推定することは困難である.本稿では,脳血流時系列データに対
して機械学習の一種である Deep Learning による分類と識別を行うことで脳血流変化から被
験者の特徴あるいは状態を分類し,脳血流時系列データと脳機能の関連性を検討することを
考える.また,近年,Deep Learning は脳機能イメージングにおける問題において注目されて
おり,深い層の学習だけではなく,脳内のニューロンと同様の特徴を抽出することが知られて
いる.本稿では,脳血流時系列データより被験者分類を行うために血流変化に関係が深いこと
が報告されている音環境における脳血流データを用いる.音環境が知的活動に与える影響に
ついての研究は数多くある 1,
2, 3)
.先行研究では,音環境が知的作業に及ぼす影響の男女差
について検討している.音環境には,静音,ピンクノイズ,ホワイトノイズを用い,知的作業
には数字記憶課題を用いている.その結果,ホワイトノイズの音環境において,課題成績への
影響に男女差が見られたことが報告されており 4) ,課題時の男女の脳機能には何らかの違い
があると考えられる.そこで本稿では,Deep Learning を用いて,ホワイトノイズ音環境下に
おける数字記憶課題時の脳血流時系列データに対して男女の識別を行うことで,男女の脳血
流変化量の違いを検討することを目的とする.
2
Deep Learning
Deep Learning とは,多くの層を持った Neural Network を用いる機械学習のアルゴリズム
である.Deep Learning の学習は主に pre-trainig と fine-training に分かれる.pre-trainig と
は,入力層に近い層から順に各層において教師なし学習を用いて重みの初期化を行う前処理
のことである.また,fine-training では主に誤差逆伝搬法 (Back Propagation) を用いる.
前処理を行うことで入力側の特徴量を効率よく出力側に伝搬できると考えられている 5) .
そして,その後に誤差逆伝搬法を用いたときに出力層の誤差の拡散を防ぎ,より良い解を得る
ことができる 6) .本稿では pre-training の手法として,Denoising Autoencoder を用いる.
2.1
Denoising Autoencoder
Denoising Autoencoder とは入力の一部をランダムに破損させて,それを元の入力に修復さ
せるために再構築を行うことで訓練される.これは,最初に確率的マッピング Cr(e
x|x) によっ
て,元の入力 x を x
e に破損させる事によって行われる.その後,破損した入力 x
e は,シグモ
26
イド関数 f s を用いて y に写像される.またこの写像は encode と呼ばれる.
y = fs (W x
e + b)
(1)
ここで,W は d’ 次元× d 次元の重み行列であり,b は d’ 次元ユニットのバイアスである.そ
して写像された y は再びシグモイド関数を用いて再構築するために z に写像される.この写
像は decode と呼ばれる.
z = fs (W ′ y + b′ )
(2)
W’ にはよく W の転置行列が用いられる.また,b’ は d 次元ユニットのバイアスである.パ
ラメータ (W,b,b ’) を再構築した際の z を元の入力 x 近づくような値に設定する.すなわ
ち,学習データによって再構築した際の z と元の入力 x の誤差が最小になるように学習する.
誤差関数には交差エントロピー LH (x, z) が用いられる 7) .
LH (x, z) = −x log z − (1 − x)(1 − log z)
(3)
パラメータをランダムに初期化した後,確率的勾配降下法 (Stochastic Gradient Descent) に
よって誤差が最小になるように最適化される.
W new
=
W old −
bnew
=
bold −
b′new
=
b′old −
N
η ∑ ∂LH
N n=1 ∂W
N
η ∑ ∂LH
N n=1 ∂b
N
η ∑ ∂LH
N n=1 ∂b′
(4)
(5)
(6)
なお,η は学習係数,N は入力データ数を表している 8) .図 1 に Denoising Autoencoder の
処理の流れを示す.また,Denoising Autoencoder を用いて,全ての層の重みの初期値を設定
する手法は Stacked Denoising Autoencoders と呼ばれる.このようにあらかじめ教師なし学
習で重みとバイアスを調整することで NN よりも遥かに巧妙な学習を行うことができる.
Fig. 1 Denoising Autoencoder
2.2
Deep Learning の処理の流れ
次に Deep Learning を行う際の処理の流れを示す.
step.1 各層の初期化
任意の K 層のネットワークを構築し,乱数を用いて各層間の重みを初期化する.
step.2 pre-training(Stacked Denoising Autoencoders)
初めに,入力側に最も近い中間層である第 2 層目と第 3 層目の間の重みの調整を行う.
重みの調整には前節で示した教師なし学習である Denoising Autoencoder を用いる.次
に,第 2 層目と第 3 層目の重みを固定し,同じように第 3 層目と第 4 層目の間の重みの
調整を行う.第 3 層目の入力信号には,固定した際の重みを用いた第 3 層目の出力信号
を用いる.以降同じ処理を K-1 層まで行う. 27
Fig. 2 step1.ネットワークの構築
step.3 fine-training(Back Propagation)
最後に誤差逆伝搬法によりネットワーク全体の重みの調整を教師あり学習を用いて
行う.
Deep Learning を用いた脳血流変化量による男女の識別
3
本稿では,ホワイトノイズ音環境下における短期数字記憶課題において男女の脳血流変化の
違いから機械学習の一種である Deep Learning を用いて男女の分類の検討を行うことを目的
とする.
3.1
使用データ
使用する fNIRS データを以下に述べる.fNIRS 装置 (ETG-7100,日立メディコ製,サンプ
リング周波数:10Hz) を用いて脳血流変化を計測した.被験者は成人男性 11 名 (平均年齢:
22.5 ± 1.5 歳,利き手:右,1 名のみ左),成人女性 11 名 (平均年齢:22.5 ± 1.5 歳,利き手:
右) である.なお,計測は室温 22.4∼25.1 ℃,湿度 40∼61 %の環境で 11:00 ∼17:00 の時間帯
に行った.fNIRS 装置のプローブは国際 10-20 法に従い配置した.また,本稿ではホワイトノ
イズ (音圧レベル 65.0 ± 0.5[dB]) を音刺激として与えたときの数字記憶課題に対する脳血流
変化より男女を分類するため,先行研究で男女の脳血流変化の違いが報告されている左側頭
部(計 24CH)の酸素化ヘモグロビン濃度変化のデータを使用する 4) .
計測の流れ
3.1.1
計測は,知的作業時にホワイトノイズを提示し,安静時は静音状態を保つようにした.課題
の提示は,ノートパソコンに接続した液晶ディスプレイで行い,ディスプレイの左右に設置し
たスピーカを通して音を出力した.知的作業として行った数字記憶課題は,被験者により知的
作業の終了時間が異なるため,イベントデザインで設定した.計測の流れを Flow1-6 と図 3 に
示す.
Flow1.安静:30 秒間画面を注視しながら指を動かす.
Flow2.作業 (記憶):ランダムに円形に表示される
8 個の数字を 3 秒間で記憶する.
Flow3.作業 (保持):1 秒間記憶を保持する.
Flow4.作業 (入力):記憶した数字を
順番通りに 7 秒以内に入力する.
Flow5.作業 (繰り返し):Flow2-5 を 30 回繰り返す.
Flow6.安静:30 回秒間画面を注視しながら指を動かす.
ここで,計測の流れにおいての Flow2-5 の課題時をタスク区間,Flow1,6 の安静時をレスト
区間とする.ローパスフィルタは 1.0Hz,移動加算平均処理のサンプルは 10 秒間に設定した.
3.2
データセット
左側頭部の 24CH 分の酸素化ヘモグロビン濃度変化から全被験者 22 人分の特徴量を抽出し
た.周波数領域と時間領域に分けてそれぞれデータセットを作成した,周波数領域の特徴量に
28
ホワイトノイズ呈示
静音
180~330s
解答(7s以内)
記憶(3s)
30s
9
2
5
6
4
1 0 3
レスト
静音
30s
92630145
タスク
レスト
Fig. 3 数字記憶課題の計測の流れ
おいては実験開始から 2048 サンプルを FFT により周波数領域に変換した.信号は呼吸によ
る影響,血圧変動など生態の揺らぎの影響,実験課題より長い周期の変動における計測トレン
ドの影響を取り除くために 0.01Hz-0.15Hz のバンドパスフィルタを通して補正された (計 30
サンプル)9)
10)
.また,時系列領域の特徴量においては実験開始から 204 秒間の 1 秒間隔の
平均値 (計 204 サンプル) を用いた.各チャンネルごとに min-max 正規化を行った.また,特
徴量に対して識別を行うために男性を 0.0,女性を 1.0 の値でラベリングした.
3.3
Deep Learning を用いた脳血流による男女分類
上記で示した脳血流変化量の特徴量を用いて,CH ごとに男女の識別を行った.入力層の各
ニューロンには被験者 1 人分の抽出した特徴量 1CH 分を用い,出力層でラベリングされた値
に近づくように重みの学習を行う.その様子を図 4 に示す.なお,本稿では中間層の数を 2 層
に設定し,それぞれのニューロンの数は時間領域のデータセットで 204,周波数領域のデータ
セットで 30 としている.
Fig. 4 各ニューロンへの入力の様子
識別する際の妥当性を検証するために被験者 22 人に対して leave one out cross validation
1
により交差検定を行った.本稿で利用した各パラメータ等を表 1 に示す.
Type
Table. 1 Data information
Parameters
Total dataset
Pre-training
Fine-training
Cross validation
Threshold function
22
Stacked Denoting Autoencoders
Back Propagation
leave one out cross validation
Sigmoid function
1 標本群から一つを抜き出し,その 1 つをテスト事例とし,残りを訓練事例とする.その後,残りの標本群をそれ
ぞれテスト事例としてデータセットの個数回検証を行い,結果を平均して 1 つの推定を得る
29
3.4
結果・考察
図 5 に時間領域におけるデータセットを用いて識別した際の各 CH の識別結果を示す.ま
た,図 6 にこれらの CH の配置と識別率をカラーマップを用いて示す.なお,図 6 の数字は
CH の番号を示しており,識別率が 50%以下を白色,100
Fig. 5 時系列データに対する各チャンネル (CH) ごとの識別率
Fig. 6 左側頭部のチャンネル (CH) の配置と識別率
図 7 に周波数領域におけるデータセットを用いて識別した際の各 CH の識別結果を示す.ま
た,図 8 にこれらの CH の配置と識別率をカラーマップを用いて示す.
Fig. 7 周波数データに対する各チャンネル (CH) ごとの識別率
図 5,7 より,本実験においては時間領域のデータを用いて識別した方が平均的に男女の識
別が高かった.これは時間領域の特徴量が 204 に対して周波数領域の特徴量が 30 と少ないた
めに男女を判断する特徴量が正しく抽出されていないためと考えられる.また,図 6 のカラー
マップより,本実験課題において男女で前頭前野背外側部,頭頂葉,聴覚野付近の脳活動に違
いが存在する可能性が考えられる.
30
Fig. 8 左側頭部のチャンネル (CH) の配置と識別率
4
まとめ
fNIRS 装置で計測した脳血流時系列データに対して,Deep Learning を用いることによって
被験者の分類を行った.本稿では,ホワイトノイズ音環境下における数字記憶課題時の脳血流
時系列データから男性と女性の識別を行うことで.脳血流の違いが見られる部位を推定した.
その結果,時間領域のデータセットで左側頭部の前頭前野背外側部,頭頂葉,聴覚野において
65%以上の確率で男性と女性を正しく識別することができた.これより,本実験課題において
男性と女性で脳活動に違いが存在する可能性が示唆された.
参考文献
1) 中山実, 清水康敬: 音環境が与える音読速度への影 響と瞳孔面積変化, 日本音響学会誌,
Vol. 45, pp.368-373,1989.
2) 中山実, 清水康敬: 数字記憶課題における脳波への音環境の影響, 電子情報通信学会論文
誌, Vol. J87-D-I, pp.420-423,2004.
3) 相馬洋平, 松永哲雄, 曽我仁, 内山尚志, 福本一朗: 音楽環境の違いによる作業効率に関す
る人間工学的基礎研究, 電子情報通信学会技術研究報告, Vol. 105, pp.43-46,2005.
4) A. Masadumi: Gender differences in influence of sound environments on performance of
the memorizing numerical string task and cerebral blood flow changes, NeuroScience,
2013.
5) D. Erhan, Y. Bengio, A. Courville, P. Manzagol, P. Vincent, and S. Bengio: Why
Does Unsupervised Pre-training Help Deep Learning?, The Journal of Machine Learning
Research, Vol. 11, pp.625-660,2010.
6) S. Rifai, G. Mesnil, P. Vincent, X. Muller, Y. Bengio, Y. Dauphin, and X. Glorot:
Higher Order Contractive Auto-Encoder, Machine Learning and Knowledge Discovery
in Databases Lecture Notes in Computer Science, Vol. 6912, pp.645-660,2011.
7) P. Vincent, H. Larochelle, I. Lajoie, Y. Bengio, and P. Manzagol: Stacked denoising
autoencoders: Learning useful representations in a deep network with a local denoising
criterion, The Journal of Machine Learning Research, Vol. 11, pp.3371-3408,2010.
8) P. Vincent, H. Larochelle, Y. Bengio, and P. Manzagol: Extracting and composing
robust features with denoising autoencoders, ICML ’08 Proceedings of the 25th international conference on Machine learning, Vol. 307, pp.1096-1103,2008.
9) K. Yanagisawa, H. Sawai and H. Tsunashima: Brain Activity Detection Method for
NIRS-BCI Rehabilitation System, 2013TheJapanSocietyofMechanicalEngineers, Vol.
79, pp.43-55,2013.
10) S. Matsuzaki, M. Yamada, Y. Wada: Cortical Activation Changes During Simple Motor
Task over Repeated Sessions, IEEJ Trans. EIS, Vol.131, No.12, pp.2222-2223, 2011.
31
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
アンシャープマスクを用いた内視鏡画像に対する
テクスチャ解析手法の検討
林沼 勝利
Katsutoshi HAYASHINUMA
背景:内視鏡画像における早期胃癌の進展範囲の診断は医師の熟練度に依存してしまう.
研究目的:内視鏡画像を定量的に解析することにより医師の診断の支援を行う.
発表の位置づけ:減色による胃粘膜の模様の消失を解決する.
方法:アンシャープマスキング処理を行うことにより胃の粘膜を強調した画像を作成する.
結果:カラーマップを表示することにより正常部位と病変部位の Demarcation Line が確認された.
はじめに
1
近年,早期胃癌に対する治療法の選択肢の一つに内視鏡治療が挙げられる.内視鏡治療は開
腹手術よりも低侵襲で胃の機能を温存できるため,患者の QOL(Quality of Life)を高める
治療として注目を集めている.現在,早期胃癌の内視鏡治療では腫瘍を一括切除することが原
則とされている 1) .そのため,術前の進展範囲診断は極めて重要とされている.
内視鏡画像において病変範囲を識別する手法としては,八尾らが VS classification system
を提唱している 2) .これは内視鏡で観察される微小血管構築像および表面微細構造を判断す
ることにより病変範囲を特定している.しかし,この指標は表在血管の配列が規則的である
か,胃粘膜の模様が規則的てあるかなどといった視覚的な基準である.そのため,医師の主観
による影響や熟練度による判断基準の差異が問題となる.
この問題点を解決するため,これまでに胃の内視鏡画像における CAD(Computer Aided
Diagnosis)に関する様々な研究が行われてきた.Riaz らは Gabor フィルターを用いることに
より色素内視鏡や NBI 内視鏡画像の癌,前癌,非癌の識別を行っている 3) .また,長見らは
SIFT(Scale Invariant Feature Transform)特徴量を用いて画像の腫瘍,非腫瘍の識別を行っ
ている 4) .しかし,これらの研究は内視鏡画像の識別が目的であり,病変範囲を定量的に示
すことはできない.
そこで,我々は同時生起行列(Gray Level Co-occurrence Matrix: GLCM)とランレング
ス行列(Gray level Run-length Matrix: GLRM)を用いて内視鏡画像に対してテクスチャ解
析を行い,特徴量をカラーマップとして表示することにより病変範囲を定量的に示す手法の提
案を行った 5) .しかし,一部の画像においては正常部位と病変部位とで特徴量に差が見られ
ない結果となっている.この原因の一つとして減色による胃粘膜の模様の消失が考えられる.
そこで,本稿では入力画像に対して前処理としてアンシャープマスキング処理を行い,鮮鋭化
された画像に対して特徴量を取得する手法の検討を行う.
GLCM および GLRM を用いた内視鏡画像の解析
2
2.1
解析手法
我々はグレスケールに変換後 16 階調に減色した内視鏡画像に対して window を走査し,各
window 内において GLCM の COR(correlation)と GLRM の GLN(Gray Level Nonuniformity)を算出し,これらを組み合わせたものを特徴量としてカラーマップを作成する手法
を提案している 5) .
2.1.1
GLCM
GLCM は Fig. 1(a) に示すように濃度 i のピクセルから,一定の変位 δ = (r, θ) だけ離れた
ピクセルの濃度が j である確率 Pδ (i, j),(i, j = 0, 1, · · · , n − 1) を要素とする行列である.角
32
0
1
1
3
1
4
2
0
3
0
2
2
1
2
0
2
0
2
0
0
θ = 0°
0
0
2
3
(a) GLCM の変位
2
3
1
3
1
2
1
0
2
2
1
0
3
3
1
0
2
0
2
3
0
0
3
0
0
4
0
2
θ = 45°
0
3
2
2
1
2
0
2
θ = 90°
(b) 入力画像
2
0
0
4
0
2
3
0
2
0
0
3
3
0
0
1
0
3
1
0
θ = 135°
(c) 各方向の GLCM
Fig. 1 GLCM
度 θ は一般的に,0◦ ,45◦ ,90◦ ,135◦ が用いられる.例えば Fig. 1(b) のような大きさが 4×4,
階調数 4 の画像に対しては Fig. 1(c) の GLCM が得られる.
Haralick らはこの行列より 14 種類の特徴量を提案しており 6) ,そのうち COR は次の式で
求まる.
∑n−1 ∑n−1
i=0
COR =
j=0
i · jPδ (i, j) − µx · µy
σx · σy
ここで,
µx =
n−1
∑
i=0
µy =
σx2 =
i=0
σy2 =
i=0


j
j=0
{
(i − µx )2

}
Pδ (i, j)
(j − µy )2
(2)


Pδ (i, j)

n−1
∑
i=0

n−1
∑
j=0
i
n−1
∑
n−1
∑  n−1
∑
j=0
n−1
∑
{
(1)
n−1
∑
j=0
(3)
}
Pδ (i, j)


Pδ (i, j)

(4)
(5)
である.この COR は濃度の組み合わせの相関を表しており,内視鏡画像においては病変部位
ほど値は低くなる傾向が見られる.
2.1.2
GLRM
GLRM は,ある角度 θ に沿って並んだ一列の画素集合に対して,同じ濃度を持つ画素が連
続する長さを行列で表したもので,同一の濃度 i が角度 θ の方向に j 個連続する頻度を要素と
する行列 P (i, j : θ) で求められる.一般的に,角度 θ は 0◦ ,45◦ ,90◦ ,135◦ の 4 方向が用いられ
る.例えば Fig. 2(a) のような大きさが 4×4,階調数 4 の画像に対しては Fig. 2(b) の GLRM
が得られる.
Galloway はこの行列より 5 種類の特徴量を提案しており 7) ,そのうち GLN は次の式で求
まる.

2
g−1 ∑
N
∑
1

P (i, j : θ)
GLN =
T i=0 j=1
ここで,
T =
g−1 ∑
N
∑
P (i, j : θ)
(6)
(7)
i=0 j=1
である.この GLN は濃度の偏りを表しており,内視鏡画像において病変部位ほど値は高くな
る傾向が見られる.
33
濃度
ランの⻑さ
0
1
2
3
1
4
1
3
3
2
0
0
0
1
3
0
1
0
0
4
0
0
0
0
4
4
0
3
θ = 0°
0
0
2
3
1
2
1
0
2
3
1
3
2
4
3
3
3
3
1
0
1
0
0
1
0
0
0
0
0
0
1
0
0
0
1
0
θ = 45°
0
0
0
0
4
4
3
5
θ = 90°
(a) 入力画像
0
0
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
θ = 135°
(b) 各方向の GLRM
Fig. 2 GLRM
特徴量の統合
2.1.3
2.2.1 項および 2.2.2 項で求めた COR および GLN の統合を行う.病変部位ほど COR は低
く,GLN は高くなる傾向があるため,まず各角度において次の式で COR と GLN の統合を
行う.
Fθ = (1 − CORθ ) × GLNθ
(8)
次に,画像全体の勾配の比率を求めるため,画像 I 中の各ピクセルで勾配強度 m(u, v) と勾配
方向 θ(u, v) を以下の式で求める.
m(u, v) =
√
fu (u, v)2 + fv (u, v)2
θ(u, v) = tan−1
fv (u, v)
fu (u, v)
(9)
(10)
ここで,
fu (u, v) = I(u + 1, v) − I(u − 1, v)
(11)
fv (u, v) = I(u, v + 1) − I(u, v − 1)
(12)
である.そして,勾配方向を8方向に量子化し,0◦ ,45◦ ,90◦ ,135◦ の 4 方向の勾配強度ヒ
ストグラムを作成する.この時,180◦ ,225◦ ,270◦ ,315◦ のものは 0◦ ,45◦ ,90◦ ,135◦ とし
て扱う.最後に,各方向のヒストグラムの比率 hθ に応じて,式 (8) で求めた特徴量 Fθ を足し
あわせ新たな特徴量 F を作成する.
F =
∑
Fθ × hθ
(13)
θ
2.2
問題点
前節で述べた特徴量を用いてカラーマップを作成した結果を Fig. 3 に示す.Fig. 3(a) にお
いては DL(Demarcation Line)1 に沿って病変部位が強調されていることがわかる.一方,
Fig. 3(b) においては正常部位と病変部位とで境界が曖昧となっている.
3
提案手法
前章で述べた通り,すでに提案されている手法では入力画像はグレースケールに変換後 16
階調に減色している .Fig. 4 に減色した画像の一例を示す.16 階調まで減色すると,十分な
コントラストが得られていない部位では胃の粘膜の特徴を十分に表現できていない画像となっ
てしまう.そこで,前処理として画像の鮮鋭化手法であるアンシャープマスキング処理を行う
ことにより,また減色の程度を下げることにより胃粘膜の模様の強調を行う.
1 病変部位と正常部位の境界線.
34
(a) 正しく検出された例
(b) 誤って検出された例
Fig. 3 カラーマップの作成例(図中の破線は医師による DL)
(a) 原画像
(b) 減色後の画像
Fig. 4 減色の一例
アンシャープマスキング処理は,画像の高周波成分を強調することによりエッジが強調され
た画像を生成する処理のことである.周波数領域における高域強調フィルタは次の式で求まる.
Hh−emph (u, v) = 1 + kHhigh (u, v)
(14)
ここで,Hh−emph は高域強調フィルタ,Hhigh はハイパスフィルタである.k は強調の程度を
指定する係数である.これを周波数領域において画像に適用すると以下の式となる.
Gh−emph
= F (u, v)Hh−emph (u, v)
= F (u, v){(1 + kHhigh )}
= F (u, v){(k + 1) − kHlow (u, v)}
=
(k + 1)F (u, v) − kGlow (u, v)
(15)
ここで,Gh−emph ,F (u, v),Hlow ,Glow はそれぞれ周波数領域における強調後の画像,入力
画像,ローパスフィルタ,ローパスフィルタ後の画像である.つまり,原画像を k + 1 倍した
画像にから k 倍の平滑化画像を引けばエッジを強調した画像が得られる.Fig. 4(a) に対して
アンシャープマスキング処理を施した画像を Fig. 5(a) に,Fig. 5(a) をグレースケールに変換
後,32 階調まで減色した画像を Fig. 5(b) に示す.Fig. 4(b) と比べ,模様が強調された画像
になっていることがわかる.
実験
4
4.1
実験概要
本実験では Fig. 6 に示す 8 枚の NBI 内視鏡画像に対して,前章で提案した手法を用いてカ
ラーマップの作成を行った.部位は img1・2 が胃前庭部小弯,img3・4 が残胃小弯縫合線上,
img5・6 が胃角部大弯後壁,img7・8 が体中部小弯である.img3・4 は IIa+IIb 型と診断さ
れ,他の画像は IIc 型の早期胃癌と診断されている.画像のサイズは 481 × 408 [pixel] である.
GLCM を作成するときの距離 r は 1 とした.また,ローパスフィルタ後の画像は入力画像に
σ = 5,サイズ 5 × 5 のガウシアンフィルタを用いて作成し,式 (15) における強調の程度 k は
0.5 とし,画像は 32 階調まで減色した.
4.2
実験結果
カラーマップの作成結果を Fig. 7 に示す.各画像において最大値が赤,最小値が青となる
ようにカラーマップを表示している.img1,2,3 においては病変部位と正常部位との境界が
35
(a) 鮮鋭化後の画像
(b) 鮮鋭化後,減色した画像
Fig. 5 画像鮮鋭化の結果
(a) img1
(b) img2
(c) img3
(d) img4
(e) img5
(f) img6
(g) img7
(h) img8
Fig. 6 実験で使用した画像(図中の破線は医師による DL)
赤色や黄色から水色にかけてに現れていることがわかる.また,img4,7,8 においては水色
から青色にかけて正常部位と病変部位との境界が現れている.しかし,img7 においては正常
部位の一部においても高い値を取る結果となった.また,img5,6 においては正常部位と病変
部位との境界においては明確な差は確認できなかった.
4.3
考察と今後の展望
img5 および img6 は画像内において内視鏡の光源の光が届いておらず,胃の粘膜が写って
いない領域が存在する.そこで,これらの領域を除くようにトリミングを行った画像に対して
カラーマップを作成した結果を Fig. 8 に示す.その結果,どちらの画像も病変部位の方が正
常部位に比べ高い値を取っていることがわかる.これらの画像において Fig. 7 の結果で暗い
領域が高い値を取った理由としては,アンシャープマスキング処理を行った際にノイズが強
調されてしまい,複雑な模様となってしまったためだと考えられる.今回提案した手法はノ
イズの影響を大きく受けるため,今後ノイズの影響を減らす工夫が必要であると考えられる.
また,解析を行う画像のトリミングを行うことにより病変領域の視認性が増加したことより,
正常部位や病変部位においてどのような値を取り得るのかの検討を行いカラーマップを表示す
る領域の検討をおこうなう必要があると考えられる.
5
まとめ
本稿では,テクスチャ解析において減色後に胃の模様が十分に表現できていない問題を解
決するため,前処理としてアンシャープマスキング処理を行うことを提案した.実験の結果,
一部の画像において正常部位と病変部位の DL を確認することができた.また,光源が届いて
いない領域が多いため DL が確認できなかった画像でも,トリミングを行うことにより DL を
確認することができた.今後の課題としては,ノイズに対する対策,正常部位と病変部位にお
36
(a) img1
(b) img2
(c) img3
(d) img4
(e) img5
(f) img6
(g) img7
(h) img8
Fig. 7 カラーマップ作成結果
(a) img5
(b) img6
Fig. 8 トリミング後の結果
ける特徴量の差の検討などが挙げられる.
参考文献
1) 日本胃癌学会(編). 胃癌治療ガイドライン. 金原出版, 2010.
2) K. Yao, G. K. Anagnostopoulos, and K. Ragunath. Magnifying endoscopy for diagnosing
and delineating early gastric cancer. Endoscopy, Vol. 41, No. 5, pp. 462–467, 2009.
3) R. Riaz, F. B. Silva, M. D. Ribeiro, and M. T. Coimbra. Invariant Gabor Texture Descriptors for Classification of Gastroenterology Images. IEEE Transactions on Biomedical
Engineering, Vol. 59, No. 10, pp. 2893–2904, 2012.
4) 長見諭, 徐睿, 平野靖, 木戸尚治, 阿部清一郎, 坂本琢, 斎藤豊. NBI 内視鏡画像を用いた早
期胃がん病変のコンピュータ支援診断. 第 33 回日本医用画像工学会大会予稿集 CD-ROM,
No. OP4-1, pp. 1–5, 2014.
5) 林沼勝利, 山本詩子, 市川寛, 八木信明, 廣安知之. テクスチャ解析を用いた内視鏡画像に
おける早期胃癌の評価手法の検討. 第 33 回日本医用画像工学会大会予稿集 CD-ROM, No.
PP22, pp. 1–6, 2014.
6) R. M. Haralick, K. Shanmugam, and I. Dinstein. Textural Features for Image Classification. IEEE Transactions on Systems, Man and Cybernetics, Vol. SMC-3, No. 6, pp.
610–621, 1973.
7) M. M. Galloway. Texture analysis using gray level run lengths. Computer Graphics and
Image Processing, Vol. 4, No. 2, pp. 172–179, 1975.
37
第 40 回 月例発表会(2014 年 12 月 02 日)
医療情報システム研究室
問診システムの構築に向けた
DPC データの LOD 化の検討
三島 康平
Kohei MISHIMA
背景: 近年医療機関において様々な箇所で電子化が進んでいる.その代表的なものとして電子カルテが挙げられる
研究目的: 動的にすることにより汎用性を高め,患者の症状に合わせた情報を柔軟に提供できる問診票システムの開発
発表の位置づけ: DPC データの LOD 化と LOD サーバ構築による DPC データの再利用方法
方法: Opne Refine を用いて DPC データの LOD 化と Openlink Virtuoso Universal Server を用いて LOD サーバの構築
結果: 自作 LOD サーバに DPC データを貯蓄し,SPARQL により病院名と経度・緯度情報の引き出しが可能であることが確
認できた
1
はじめに
近年医療機関において様々な箇所で電子化が進んでいる.その代表的なものとして電子カル
テが挙げられる.電子カルテとは,従来紙媒体であったカルテの代わりに,コンピュータに患
者の医療情報を書き込んでいくシステムである.電子カルテを使用することにより,データの
やり取りや保管が容易になることや患者の待ち時間を減らすなどの利点がある.また,電子カ
ルテ作成において必要な情報は問診から得られた情報が多くを占めているため,問診票も紙
媒体ではなく電子化されてきている.電子化された問診票アプリケーションを利用することに
より,患者が入力を行うと,医師のコンピュータに情報が届き,スムーズに診断が可能になる
ことが挙げられる.さらに,データとして得られた患者の症状を処理することによって,疑わ
しき病名を出力するシステムを構築することも可能になる.問診票とカルテの電子化は医療
の質の向上にとても有効であり,様々な病院に適用されている.
しかし,既存の問診票アプリケーションは静的な質問に対する限定的な情報しか扱えなかっ
た.そのため,用途に合わせた問診票アプリケーションを選択する必要があることや,患者の
詳しい情報を抽出することが困難であった.また,問診票アプリケーションによって得られた
電子カルテは,カルテの形式や専門用語など医療に素人である患者には分かりづらいもので
あった.そこで,より患者のことを考えた問診票アプリケーションが必要である.そのため
に,問診票アプリケーションを動的にすることにより汎用性を高め,患者の症状に合わせた情
報を柔軟に抽出できる.その詳しい情報により,生成される電子カルテも患者によって見やす
い形に表示形式を変えていくことによって,患者のための問診票アプリケーションを作成可能
である.
本稿では,2003 年より開始された診断群分類包括評価を用いた入院医療費の定額支払い制
度である DPC データを問診に用いる有用性と LOD ( Linked Open Data ) 化について検討
する.検討項目は次の 2 点である.1 点目は,問診を行うために問診の質問項目に関するデー
タや病院に関するデータ,また疾患に関するデータが必要であること.2 点目は,その必要な
データは web 上の蓄積されているデータを活用することによって補えることであり,その方
法として LOD ( Linked Open Data ) を用いる.LOD を用いて情報を統合的に表示すること
により,病状の詳しい情報や視覚的にも分かりやすい電子カルテの作成が可能になる.
2
臨床指標としての DPC データの有用性
近年,医療の質の向上のために注目を集めているものが DPC データある.この章ではその
有用性に述べる.
38
2.1
DPC ( Diagnosis Procedure Combination ) の概要
DPC は 2003 年より,閣議決定に基づき,特定機能病院を対象に導入されている,急性期
入院医療を対象とする診断群分類に基づく 1 日あたり包括払い制度 (DPC 制度) に用いられ
る患者データである.
2.2
DPC データを活用した臨床指標
医療の質を向上する方法として現在主流なのは二つある.一つ目が「根拠に基づく医療」と
して患者にとって最善の治療を行う EBM ( Evidence-Based Medicine ) のようなプロセスア
プローチ,二つ目が疾患・手術・処置等の分類ごとに在院日数,転帰情報などの臨床指標を設
定し,これをモニタリングするアウトカムアプローチの研究が進められている.プロセスアプ
ローチとアウトカムアプローチを単独で実施すると,それぞれ診療内容と診療後の結果をリ
ンクさせた形でのデータベースの構築で乖離する恐れがある.そのため,国際疾病分類 ICD
( International Classification of Diseases )-10 などの標準化された用語や患者ベースでの並列
化させたデータベースを作る必要がある.しかし現状ではまだ ICD-10 でも細粒化しすぎる点
や特定の疾患が網羅されていないなど問題が介在しているため,結果として質 (構造、過程、
結果) 評価指標として活用できる仕組みである共通比較言語「DPC」単位で設定することが最
適であると言える 1) .
2.3
DPC データの活用
医療の質を評価する際に共通情報のプラットフォームとして DPC の活用は可能であり,DPC
データの基本ベースとなる ICD-10 レベルでは,世界各国の DRG コードや医療オントロジー
の関連づけが完了しているデータベースとのベンチマーク分析も可能となる.ICD-11 レベル
ではどのような目的にも対応出来るように作られた汎用オントロジーの利用が可能であり,傷
病名コードや ICD-10,臨床検査や副作用の初期症状データベース,そして DPC データに至
まで既存の関連オントロジー情報の利用が可能になる.LOD を用いる事によりこれらのデー
タを共有させ,データ処理の標準化や医療データベースの解析可用性を飛躍的に向上させる
ことができる.次節では医療分野における LOD について述べていく 1) .
3
LOD ( Linked Open Data )
LOD とは,Linked Data の方法を Open Data に適用したものである.それにより,web 上
で情報を統合的に利用することが出来る.この Linked Data はセマンティック web の概念を
もった形式であり,この概念をもつことによりデータを構造化し,web 上で相互的にリンク付
けなど情報を利用しやすくすることが出来る.
3.1
セマンティック web
セマンティック web は web 上の情報を機械的に処理するための枠組みである.セマンティッ
ク web では,HTML1 文書を人工知能的に解析して内容を機械に理解させるのではなく,機
械的に処理可能なメタデータを HTML 文書に反映させることができる.W3C2 によって web
リソースのためのメタデータ記述形式として RDF3 が策定されており,主語 ( Subject ) と述
語 ( Predict ) と目的語 ( Object ) の RDF トリプル ( RDF Triple ) の集まりとして定義さ
れている.このトリプルはグラフ理論におけるグラフで表現できる.通常のリソースを丸で示
し,テキストノードを四角で示す.トリプルの関係はこれらのノードを述語を重みとしたエッ
ジで結ぶことで表現する.問診票の質問項目を例に挙げて説明すると,主語は「東京」,述語
は「国」,目的語は「日本」となり,Fig. 1 のような構造で表現する.LOD では,あらゆる事
物に対して URI ( Uniform Resource Identifier ) を付与することを原則としているので,Fig.
2 のように URI を用いて表現する.
3.2
LOD の利点
LOD の一種である Linked Data はセマンティック web の概念をもつ形式であり,構造化さ
れたデータを web 上で相互的にリンクづけして,それらを公開できる一連の仕組みを提供す
1 Hyper
Text Markup Language の略.web 上の文書を記述するためのマークアップ言語である.
Wid Web Consortium の略.web で利用できる技術の標準化をすすめる国際的な非営利団体
3 Resource Description Framework の略.情報についての情報(メタデータ)の表現方法についての枠組み
2 World
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Fig. 2 Example of RDF Triple with URI
Fig. 1 Example of RDF Triple
る実践的方法である 2) .その方法を Open Data4 に適用することにより情報を多くの人々へ
広くかつ迅速に伝えることが可能になる.例えば,地図のデータと交通事故などのデータをリ
ンクさせることにより,通行止めになっている場所を地図上で確認することができ,目的地ま
での最適なルートを迅速に確認することが出来る.このように,web 上の情報を統語的に把握
することにより新たな情報の使い方や価値が見いだされるといったメリットがある.
3.3
医療情報と DPC データの LOD の活用
DPC データや臨床検査や副作用の初期症状データなどを LOD として活用することで,情
報収集が用意にできるだけでなく,オントロジーから疾患や症状の説明を自動文書化して,そ
れを患者も web 上で閲覧でき,電子医学書や医学知識ナビなどかの付随情報から診断支援が
可能となる.そのために,現在公開されてる DPC データを LOD 化する必要があり,その他
問診を行う際に必要となる情報の LOD 化も必要となる.そこで,前段階として DPC データ
の LOD 化とその利用の過程を次節から述べる.
提案システムの概要
4
DPC データは問診により得られた患者情報は医師により判定を行い治療を行う際に有効な
データである.しかし,DPC データだけでは専門用語であることや,独自の ID によるデータ
構造による示されているため,想定ユーザである患者はこの DPC データを読み解くことが困
難である事が予想される.この問題を回避するために,DPC データだけでなく,ICD データ
やそれらに載っている病名と関連する症状のデータ,またそれらを治療可能とする病院のデー
タが必要と考えられる.これらのデータを LOD を用いる事により,多角的に患者の状態を把
握し問診を行う事ができる.
提案システムの開発状況
5
本章では問診システム構築に必要となるデータの LOD 化とそれを貯めておく LOD サーバ
について述べる.また,扱ったデータとしては平成 24 年の DPC データの病院名と経度・緯
度情報である.それらデータの LOD 化と貯蓄・再利用までが現在の開発状況であり,次節よ
り詳しく述べていく.
5.1
データの LOD 化
Fig. 3 の ( a ) に示すように,web 上に公開されている平成 24 年の DPC データの病院名と
経度・緯度情報だけを取り出し,Google Refine5 を用いて,RDF/Turtle 変換した.それの一
部 RDF 形式を Fig. 3 の ( b ) に示し,グラフ化したものを Fig. 4 示す.その際に,DBpedia
Japanese とひも付けを行い DBpedia Japanese に乗っている病院の詳細を参照出来るように
した.
5.2 LOD サーバと LOD データの再利用
OpenLink Virtuoso Universal Server を用いて LOD データを貯蔵し,再利用するために
LOD サーバを構築した.その TOP 画面を Fig. 5 に示す.このサーバでは GUI や CUI によ
る LOD データのアップロードや再利用を行うことができる.先ほどの病院名と経度・緯度情
報の LOD データをアップロード・再利用の方法を次に示す.Fig. 6 では LOD データをサー
バ上へアップロードの方法を示しており,Fig. 7 ではその SPARQL を用いた検索方法,そし
て Fig. 8 ではその結果を示している.
4 特定のデータが,一切の著作権や特許などの制限なしに,全ての人が利用・掲載できるデータ
5 様々なデータをきれいに整形し,変換できるソフト(https://code.google.com/p/google-refine/)
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Fig. 3 ( a ) DPC Data in CSV ( b ) DPC
Data in RDF/Turtle
Fig. 4 rdfGraphDPC
Fig. 5 Top Page of LOD Server
Fig. 6 Uploading the DPC Data
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Fig. 7 Search the DPC Data using SPARQL
Fig. 8 Result of Searching the DPC Data
6
今後の展望
DPC データに載っている病院を web 上の MAP に表示させる事を次の段階とする.そして,
DPC データの経度・緯度情報だけでなく病床数や手術回数なども LOD 化しデータを結びつ
けていく.この際に注意することが医療情報のオントロジーである.本来,LOD データ探索
にはセマンティック web のグラフ理論が用いられているため,目的とするデータ探索が複雑
であればあるほど探索時間がかかってしまう.今回は病院名と経度・緯度情報だけであったの
で,探索時間は問題にならなかったが,これからそれ以外のデータも結びつけていくので,探
索時間が問題となってくる.そこで,適切なオントロジー構築により目的のデータを効率よく
迅速に探索できるよう目指していく.
参考文献
1) 藤森 研司小林 美亜. 臨床指標と dpc データ. 医療と社会, Vol. 20, No. 1, pp. 5–22, 2010.
2) T. Heath and C. Bizer. Linked Data: Evolving the Web into a Global Data Space. Morgan
and Claypool Publishers, 2011.
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