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大脳皮質アストロサイトに発現するPax6遺伝子と 脳高
A03-4 公募 グリア−ニューロン回路網を介した脳機能発現機構とその異常に関する研究 大脳皮質アストロサイトに発現する Pax6 遺伝子と 脳高次機能との関連を探る 野村 真 1,2、櫻井 勝康 1、大隅 典子 1 1 東北大学・大学院医学系研究科・創生応用医学研究センター・形態形成解析分野、2 現所属:カロリン スカ研究所・分子細胞生物学部門 Pax6 は Pax ファミリーに属する転写因子であり、胎生期の いる Wnt 遺伝子の発現低下が認められた。以上の結果か 脳において神経幹細胞の増殖、神経細胞の分化、移動、突起 ら、Pax6 が生後脳の海馬歯状回において神経前駆細胞の維 伸展といった脳の発生過程で重要な機能を果たしている。一 持と分化の方向性の決定に関与している可能性が示唆された 方、生後・成体脳では、海馬歯状回・脳室下帯などに Pax6 (Maekawa et al. Genes to Cells, 2005)。 の発現が認められるが、その機能は不明な点が多い。また さらに解析を進めた結果、生後大脳皮質および海馬のほぼ Pax6 遺伝子に変異を持つラット (rSey2) は攻撃性の増加、 すべてのアストロサイトが Pax6 遺伝子を発現していること 感覚—運動ゲート機構の低下などの神経機能異常を示すこと が明らかになった。生後脳のアストロサイトにおける Pax6 の機能を探るため、まず野生型胚と Pax6 変異胚の大脳皮質 が確認されている(大隅ら、未発表)。そこで我々は生後ラ よりアストロサイト前駆細胞を単離し、培養系において増殖 ット脳における Pax6 遺伝子の機能解析を行い、脳高次機 能・行動異常との関連を探ることを本研究の目標とした。 率および遺伝子発現の比較を行った。その結果、Pax6 変異 近年、生後脳の局所的な領域(海馬、脳室下帯)での神経 胚由来のアストロサイト前駆細胞は、GFAP や S100 βとい 新生が報告されており、脳の高次機能との関連が示唆されて った成熟アストロサイトのマーカーの発現量が野生型に比べ いる。そこでまず、神経新生がさかんに起こっている、成体 低下していることが判明した。一方、Pax6 変異胚由来の前 ラット海馬歯状回における Pax6 発現細胞の同定を行った。 駆細胞は細胞増殖率が顕著に亢進しており、Nestin や RC2 、 その結果、Pax6 陽性細胞は Nestin や Musashi1 といった神 Sox2 および Prominin-1 といった未分化な細胞のマーカー 経幹細胞・神経前駆細胞マーカーを発現し、また BrdU で標 の発現も増加していた。さらに野生型由来細胞にドミナント 識されることから、未分化でかつ増殖能を持つことが判明し ーネガティブ型の Pax6 を導入し、Pax6 の機能を阻害する た。また rSey2 ラットの海馬歯状回を観察すると、野生型と と、細胞増殖率が顕著に上昇した。また Scratch-wound 比較してアストロサイトの減少・形態変化を認めた。さらに assay を行った結果、野生型と比較して Pax6 変異胚由来の rSey2 ラットの歯状回では野生型と比較し BrdU 標識細胞の数 が約 30 %減少しており、これらの細胞がアストロサイトへ 分化する割合も減少していた。さらに、rSey2 ラットの海馬 アストロサイト前駆細胞は非常に高い移動能力を持つことが 歯状回では、細胞の増殖・未分化性に関わることが知られて 伝子のホモ接合変異個体は生後直後に死亡するため、in vivo 示された。 大脳皮質のアストロサイトは生後に成熟するが、Pax6 遺 図 アストロサイトで発現する転写因子 Pax6 成体マウスの海馬、大脳皮質のすべてのアストロサイトにおいて転写因子 Pax6 の発現が認められる(細胞中央の白い核の部分) 。 Pax6変 異体を用いた解析より、アストロサイトが前駆細胞から成熟する過程で Pax6の機能が不可欠であることが判明した。従って、 Pax6は神 経細胞分化だけでなく、グリア細胞の分化にも必要な、神経発生のマルチプレイヤーとして機能している。 112 最終研究成果報告書 における Pax6 遺伝子の機能解析を行うことができない。そ こで、アストロサイトの成熟が胎生期に完了する脊髄に着目 し Pax6 遺伝子変異胚におけるアストロサイトの発生過程を 解析した。その結果、野生型胚と比較し、Pax6 遺伝子変異 胚では、アストロサイト前駆細胞の数が顕著に増加してい た。 上記に示した Pax6 遺伝子変異胚のアストロサイトの表現 型(高い増殖率、移動能)は、ヒト悪性グリオーマの表現型 と類似している。一方グリオーマでは、PI3kinase や Akt と いったリン酸化酵素の発現上昇が報告されている。そこで、 野生型と Pax6 遺伝子変異胚のアストロサイト前駆細胞にお ける Akt の発現比較を行ったところ、Pax6 遺伝子変異胚で はリン酸化 Akt の発現が上昇していることが明らかとなっ た。以上の結果より、Pax6 遺伝子は、神経前駆細胞の未分 化性の維持だけでなく、アストロサイトが前駆細胞から分 化・成熟するために必須の役割を果たしていることが明らか となった (Sakurai and Osumi, J Neurosci. 2008). 【文献】 別 項 1 1) Nomura, T. and Osumi, N*. Misrouting of mitral cell progenitors in the Pax6/small eye rat telencephalon. Development 131, 787-796, (2004 ) 2) Maekawa, M., Takashima, N. Arai, Y., Nomura, T., Inokuchi, K., Yuasa, S. and Osumi, N*. Pax6 is required for production and maintenance of progenitorcells in postnatal hipocampal neurogenesis Genes Cells. 10,1001-1014, (2005) 3) Arai, Y., Funatsu, N., Numayama-Tsuruta, K., Nomura, T., Nakamura, S. and Osumi, N*. Role of Fabp7, a downstream gene of Pax6, in maintenance of neuroepithelialcells during early embryonic development of the rat cortex. J Neurosci. 25, 9752-9761, (2005) 4) Nomura, T., Holmberg, J., Frisen, J, and Osumi, N*. Pax6-dependent boundary defines alignment of migrating olfactory cortex neurons via the repulsive activity of ephrin-A5. Development 133, 1335-1345. (2006) 5) Kanakubo, S., Nomura, T., Yamamura, K-I., Miyazaki, J-I., Tamai, M. and Osumi, N*. Abnormal migration and distribution of neural crest cells in Pax6 heterozygous mutant eye, a model for human eye diseases. Gene Cells. 11, 919-933. (2006) 6) De Pietri Tonelli, D., Calegari, F., Fei, J.F., Nomura, T., Osumi, N., Heisenberg, C.P. and Huttner, W.B*. Single-cell detection of microRNAs in developing vertebrate embryos after acute administration of a dual-fluorescence reporter/sensor plasmid. Biotechniques. 41, 727-732. (2006). 7) Tamai, H., Shinohara, H., Miyata, T., Saito, K., Nishizawa, Y., Nomura, T. and Osumi, N*. Pax6 transcription factor is required for the interkinetic nuclear movement of neuroepithelial cells. Genes Cells, 9, 983-996, (2007) 8) Nomura, T., Takahashi, M., Hara, Y. and Osumi, N*. Patterns of neurogenesis and amplitude of reelin expression are essential for making a Mammalian-type cortex. PLoS ONE 16, e1454, (2008) 9) Sakurai, K. and Osumi, N. The neurogenesis-controlling factor, Pax6, inhibits proliferation and promotes maturation in murine astrocytes. J. Neurosci. 28. 4604-4612 (2008) 別 項 2 別 項 3 別 項 4 別 項 5 別 項 6 別 項 7 別 項 8 別 項 9 別 項 10 113