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H21 メディカルイノベーションフォーラム 報告書
経済産業省・文部科学省 地域中核産学官連携拠点形成支援事業「地域中核産学官連携拠点」 文部科学省 産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム:東海 iNET)地域中核産学官連携拠点の形成支援 メディカルイノベーションフォーラム 2009 Needs×Seeds×Resources=Medical Innovation ~大学と企業連携による新製品開発を目指して~ 報 告 書 日時:2009 年 11 月 16 日(月)10:30~19:00 場所:オークラアクトシティホテル浜松 4階 平安の間 主催:静岡大学 豊橋技術科学大学 浜松医科大学 財団法人浜松地域テクノポリス推進機構 共催:浜松商工会議所 豊橋商工会議所 三遠南信バイタライゼーション浜松支部 浜松医工連携研究会 JST イノベーションサテライト静岡 後援:静岡県 浜松市 豊橋市 経済産業省関東経済産業局 財団法人しずおか産業創造機構 静岡 TTO とよはし TLO 浜松地域新技術産業都市構想推進協議会 浜松地域産業支援ネットワーク会議 静岡大学イノベーション共同研究センター協力会 静岡新聞社・静岡放送 中日新聞東海本社 【 目 次 】 プログラム 開会挨拶 石村 和清 (財)浜松地域テクノポリス推進機構 理事長 基調講演 「革新的ゲノム解析技術の進展と医学・医療へのインパクト」 榊 佳之 豊橋技術科学大学 学長 医工連携ノウハウセミナー① 「企業が医療機器認可承認へ取り組むためのステップ」 和田 英孝 ジーニアルライト(株) 取締役 医工連携ノウハウセミナー② 「医療機器審査迅速化アクションプログラム」 鈴木 由香 (独)医薬品医療機器総合機構 医療機器審査第一部長 連携プロジェクト及び連携形成への取り組み紹介① 「注視点検出に基づく乳児の自閉症スクリーニング機器の開発」 海老澤 嘉伸 静岡大学 工学部システム工学科 教授 土屋 賢治 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 特任准教授 徳谷 恵樹 (株)タイカ 主任研究員 連携プロジェクト及び連携形成への取り組み紹介② 「介護・リハビリロボットのボトルネックとイノベーション」 寺嶋 一彦 豊橋技術科学大学 生産システム工学系 教授 柿原 清章 (株)ケーイーアール 代表取締役社長 研究開発シーズ/ニーズの紹介① 「脳深部刺激療法」 杉山 憲嗣 浜松医科大学 医学部脳神経外科 准教授 研究開発シーズ/ニーズの紹介② 「四肢リンパ圧測定の意義と測定機器の開発」 海野 直樹 浜松医科大学 医学部第二外科・血管外科 講師 (本報告書内では、敬称を略させていただきました。) 研究開発シーズ/ニーズの紹介③ 「光線力学的療法用光増感剤の開発」 平川 和貴 静岡大学 工学部共通講座 准教授 研究開発シーズ/ニーズの紹介④ 「骨切削における噴霧冷却」 木村 元彦 静岡大学 工学部物質工学科 教授 研究開発シーズ/ニーズの紹介⑤ 「歩行の特徴分析とリハビリ応用」 河村 庄造 豊橋技術科学大学 機械システム工学系 教授 研究開発シーズ/ニーズの紹介⑥ 「音声に対する脳波活動を音声信号から予測する」 杉本 俊二 豊橋技術科学大学 知識情報工学系 助教 メディカルイノベーションフォーラム2009 開催概要 ■開催 2009年11月16日(月) 10:30~19:00 ■会場 オークラアクトシティホテル浜松 4階 平安の間 ■プログラム 10:30~10:40 10:40~12:00 12:00~13:00 13:00~13:30 13:30~14:00 14:00~14:20 14:20~14:40 14:40~14:50 14:50~15:10 15:10~15:30 15:30~15:50 15:50~16:10 16:10~16:30 16:30~16:50 開会挨拶 (財)浜松地域テクノポリス推進機構 理事長 石村 和清 基調講演 「革新的ゲノム解析技術の進展と医学・医療へのインパクト」 豊橋技術科学大学 学長 榊 佳之 休憩 医工連携ノウハウセミナー① 「企業が医療機器認可承認へ取り組むためのステップ」 ジーニアルライト(株) 取締役 和田 英孝 医工連携ノウハウセミナー② 「医療機器審査迅速化アクションプログラム」 (独)医薬品医療機器総合機構 医療機器審査第一部長 鈴木 由香 連携プロジェクト及び連携形成への取り組み紹介① 「注視点検出に基づく乳児の自閉症スクリーニング機器の開発」 静岡大学 工学部システム工学科 教授 海老澤 嘉伸 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 特任准教授 土屋 賢治 (株)タイカ 主任研究員 徳谷 恵樹 連携プロジェクト及び連携形成への取り組み紹介② 「介護・リハビリロボットのボトルネックとイノベーション」 豊橋技術科学大学 生産システム工学系 教授 寺嶋 一彦 (株)ケーイーアール 代表取締役社長 柿原 清章 休憩 研究開発シーズ/ニーズの紹介① 「脳深部刺激療法」 浜松医科大学 医学部脳神経外科 准教授 杉山 憲嗣 研究開発シーズ/ニーズの紹介② 「四肢リンパ圧測定の意義と測定機器の開発」 浜松医科大学 医学部第二外科・血管外科 講師 海野 直樹 研究開発シーズ/ニーズの紹介③ 「光線力学的療法用光増感剤の開発」 静岡大学 工学部共通講座 准教授 平川 和貴 研究開発シーズ/ニーズの紹介④ 「骨切削における噴霧冷却」 静岡大学 工学部物質工学科 教授 木村 元彦 研究開発シーズ/ニーズの紹介⑤ 「歩行の特徴分析とリハビリ応用」 豊橋技術科学大学 機械システム工学系 教授 河村 庄造 研究開発シーズ/ニーズの紹介⑥ 「音声に対する脳波活動を音声信号から予測する」 豊橋技術科学大学 知識情報工学系 助教 杉本 俊二 16:50~17:40 ミーティング広場(平安の間Ⅲ) 17:40~17:50 移動・休憩 17:50~ 情報交換会(3F チェルシー) 開会挨拶 「メディカルイノベーションフォーラム2009」 の開催によせて 財団法人浜松地域テクノポリス推進機構 理事長 石村 和清 【開会挨拶】 石村 和清 財団法人浜松地域テクノポリス推進機構 理事長 本日ここにメディカルイノベーションフォー 成支援事業の一つと位置づけています。私ども ラム2009を、関係者の皆様のご協力を得て開催 浜松地域テクノポリス推進機構は、地域大学と できますことを厚く感謝申し上げます。また、 産学官連携フォーラムの開催をはじめ、知的ク ご多忙の中、このフォーラムにお集まりいただ ラスター創成事業、地域イノベーション研究開 きまして誠にありがとうございます。厚く御礼 発事業など、産学官連携を積極的に推進してい 申し上げます。 ます。これからも地域産業の振興発展の重要な このフォーラムも今年で3回目になりました。 1回目は、浜松医科大学と静岡大学における医工 施策の柱として、産学官連携をより一層推進し て参りたいと考えています。 連携の発表や、それぞれの大学のシーズやニー 本日の基調講演ですが、豊橋技術科学大学の ズを共有化することによって連携を深め、医療 ゲノム解析の権威である榊学長から「革新的ゲ 分野での応用が期待される製品や技術開発を目 ノム解析技術の進展と医学・医療へのインパク 的として開催されました。前回からは産業界、 ト」についてご講演をいただきます。ゲノム解 行政および知的クラスター創成事業などで、現 読とそれに伴う解析技術の発展も光学との連携 在連携を深めています東三河地域の豊橋技術科 の一つであると考えています。またあと2~3年 学大学にもご参加をいただきまして、より発展 もすると、スギ花粉によるアレルギーも解決す させることができました。 ると漏れうかがっています。これなどもゲノム いまだに経済が低迷し、当地域にとっても取 り巻く環境は大変厳しい状況です。しかし、こ 解析技術の進展の賜物であるのではないかと思 います。 の時こそ厳しい環境を克服するために新技術の 産学官連携の実現は、企業および大学の相互 開発や新たな産業を創造するなど、活力に満ち 理解が不可欠です。双方の立場の違いを充分認 た活動の展開を図ることが大切だと思います。 識し、尊重しあった上でコミュニケーションを そうした中、当地域は本年6月に文部科学省と経 継続していくことが重要です。本フォーラムが 済産業省共同実施による地域中核産学官連携拠 産学官の相互理解をより一層深め、新たな連携 点に採択されました。この計画では、当地域は の契機になることを期待する次第です。 光電子技術分野の革新により、既存産業の高度 結びに、本フォーラムを通じて産学官連携協 化はもとより、医工連携、農商工連携により浜 力による研究開発が一層発展するとともに、本 松東三河地域の新産業の創出を推進していくこ 日ご参加の皆様方の今後の益々のご発展、ご活 とを目指しています。本日のメディカルイノベ 躍を祈念して、簡単ではございますが私の開会 ーションフォーラムも、この産学官連携拠点形 の挨拶とします。どうぞ宜しくお願いします。 基調講演 「革新的ゲノム解析技術の進展と 医学・医療へのインパクト」 豊橋技術科学大学 学長 榊 佳之 講演者プロフィール 1993年 東京大学医科学研究所教授 98年から独立行政法人理化学研究所ゲノム科学総合研究センタープロジェクトディレクターを兼務。 2002年 ヒトゲノム国際機構 HUGO 会長 2004年 独立行政法人理化学研究所ゲノム科学総合研究センター長 2008年 国立大学法人豊橋技術科学大学学長 (専門分野:分子生物学、ヒトゲノム解析) 【基調講演】 「革新的ゲノム解析技術の進展と 医学・医療へのインパクト」 榊 佳之 豊橋技術科学大学 学長 今日は学長という立場ではなくて、ゲノムをやってきた専門家として、どのように医療や医学、あ るいは関連分野に広がってきたのか、今後どのように展開していくのか、私の経験を踏まえてお話を させていただきます。 1.ヒトの多様な遺伝形質 ヒトは受精してから胎児が成長して大体280日 が全く分からないですが遺伝すると思われるこ くらいで生まれてくることになります。こうい とがあります。例えば手を組んだ時に右手の親 ったプログラムは、非常にきちっと刻まれてい 指が上の人と、左手の親指が上の人がいます。 ます。これを担うのが遺伝の情報です。親子は ぱっと自然に組むと右手の親指が上といったこ よく似ているとか、親から子供に何か伝わると とも遺伝すると書いてあります。どういう遺伝 いうことは昔から知られていました。そういっ なのかは分からないのですが、非常に変わった た遺伝の情報を1960年代くらいから丹念に集積 ケースも文献的には遺伝するものがあると書か したのが、Victor A. McKusick というジョン れていて、そういったものがたくさん集積して ズ・ホプキンス大学の先生です。昨年、残念で います。日本で発表された論文も英語のサマリ すが亡くなられました。この方が作ったデータ ーがあれば全部ここに掲載されるという非常に ベ ー ス が OMIM 、 Mendelian Inheritance 優れたものです。 in Man、「人間のメンデル遺伝」です。今、アメリ こういった遺伝的な背景に何があるのか。私 カでは国立医学図書館のオンラインで誰でも見 たちの持っている遺伝情報がそれを支配してい ることができます。エントリー数も始まった ることは誰もが考えるところです。実際に色々 1965年あたりから急速に増えて、2000年頃に1万 な遺伝的な現象は、遺伝の因子だけで決まるわ 件、今は約2万件のエントリーが入っています。 けではなく、環境要因とかなり重複しながら決 皆さん一人ひとりが違うように、あるいは住 まります。ほとんど遺伝要因で決まるものもあ む地域によって人の体つきも皮膚の色も違うよ ります。血液型はその通りですし、病気という うに、たくさんの形質が遺伝しています。有名 視点から見れば血友病とか筋ジストロフィーと なのが血液型です。また東洋人ですとお酒が飲 かハンチントン病といったものは、ほとんど遺 める、飲めないというのも遺伝です。他にも耳 伝要因で決まる病気だと今の医学では思われて 垢が乾いたタイプの人と湿ったタイプの人がい います。一方で遺伝要因はあるのですが、環境 ます。McKusick のデータベースの中には、理由 要因がなければ起きないこともあります。お酒 を飲む、飲まないというのも、お酒を飲まなけ 解析を困難にして解読できませんでした。 れば全く分からないのですが、飲むとアルコー 1972年に遺伝子組み換え技術で、ヒトの DNA ルからアルデヒドができて、アルデヒドを代謝 でもサルの DNA やブタの DNA でも、特定の場所 できない人はすぐに気持ち悪くなって何か反応 を切り出して、それだけを大腸菌を使って増や を起こすわけです。普通の人は何事もないよう す技術ができて、1977年にイギリスのサンガー に過ぎるわけです。現在、我々にとって最も感 が実際に配列を決める方法を明らかにし、これ 心が深い多くのガンや多因子病は、環境要因と によってヒトのゲノム、DNA、遺伝子を取り出し 遺伝要因が理解しがたいくらい複雑に絡み合っ て読むことができるようになったのです。ただ ており、これを理解しようというのが、現在、 実際に取り出して読むのは、実験者が自分の手 医学の最も大きなテーマであると思われます。 で特定の関心のある遺伝子について、非常に苦 このような情報は DNA の中に情報として組み 労をしながら配列を決めるという状況でした。 込まれています。DNA の二重らせん構造は、 上手な人がやれば、たくさん読めるし、下手な 1953年に発表されて、A と T と G と C という、 大学院生がやれば、なかなか決まらないという アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種類 状況でした。こういう技術はプロセスがはっき の塩基の配列の中に遺伝の情報があるというこ りしています。 とは、1953年には既に理解されたところです。 1980年に、日本の和田昭允とアメリカのカリ 以後、この A と T と G と C の配列の中に我々の フォルニア工科大学のリロイ・フードの二人が 色々な遺伝的な背景がどうやって書かれている このプロセスは自動化していけばもっと簡単に のかを明らかにすることが、医学・生物学の20 できるのではないか、あるいは誰でもできる技 世紀の間の最も大きなテーマであったといえま 術に変わるのではないかと実際に配列の自動化 す。 を進める提案をしました。そして日本でもアメ 私が関与したヒトゲノム計画は、2003年の4月 リカでもこれが進められて、1987年には、そろ に全部の染色体、人間の場合は1番から22番まで そろ装置ができそうだということで岡山に集ま 男女を決める染色体 X と Y、全部で24種類あり って、私が子供の時にはカバヤの飴で有名なカ ますが、この全部が解読され、日本は主に11番 バヤ産業の林原生物化学研究所が国際会議を開 と21番を責任持って行ない、あといくつか小さ きました。ここに当時の代表的な研究者たちが い領域を行いました。これが一つ大きく医学を 集まっています。こういったことを経て、自動 発展させ、現代の形の医学を発展させる大きな 配列決定装置=自動シーケンサーは、1980年代 基盤を作ったことになるわけです。 の終わり頃から市場に出てきて、段々進化して 1953年に、ワトソンが DNA 二重らせん構造を いきました。国際ヒトゲノム計画は、これらを 発見しました。誰もがその中に情報が書かれて 受けて1991年からスタートし、先ほどの2003年4 いることは理解できたのですが、具体的にどう 月に解読を終わるというプロセスで進められた 書かれているのかは、そこを読まなければでき わけです。 ませんでした。DNA は A と T と G と C を連ねた 1953年や1977年に、大学のレベルで新しいも 非常に単純な構造をしていることが、逆に構造 のを見つけたことが発端になって、技術や科学 が進みました。自動化も大学の先生から出てき も含めて協議を始め、このためには何が必要か た発想ですが、これには大変たくさんの企業が ということでゴールがはっきりしていて、それ 関わって、日本では日立製作所や富士フィルム に向けて技術の開発が伴い物事が達成されまし 三井情報開発やセイコーエプソンが加わって自 た。基礎研究において技術開発がいかに大切か 動化装置の開発が進みました。アメリカでは関 を示すひとつの非常に良い研究例であったと思 連のいろんなベンチャー企業が出てきて、最終 います。 的にはアプライドバイオシステムズという会社 こういった解読を何故こんな大変な事をして が、これを事業化したという経緯があります。 行ったのか。今になれば DNA のシーケンサーで1 ひとつひとつの基本原理は大学にあったのです 年もかけずに数日でヒトゲノムが読めます。当 が自動化するということになりますと、当時の 時から、なぜ何十年もかけて2000億円くらいの 本当に細かないろんな技術で、ごく少量の液を お金もかけてやったのかという、ご批判という きちっと間違いなく送り出す弁の開発とか、実 か見解もあったかと思いますが、これは全く違 際に読むための計測システムのための蛍光色素 うことです。こういうプロセスをやろうという の開発、それから色々なゲノムのシステムのキ ことで技術開発が行われる、これが進むことで ャピラリー型のゲノムの読み方など、色々な要 更に次の展開が見えるのです。この分野は技術 素技術を加えて、ひとつのものを作り上げまし と、それから出てくる新しいフィールドの発見 た。この技術があったからこそ、発展があった そしてまた新しい技術を生み出す、という非常 からこそ、ヒトゲノムの解読が行われたわけで に連鎖的な展開で急速に発展してきました。も す。 ちろん、究極には我々の健康を維持するという ヒトゲノムの解読は、1991年にスタートしま 大きな目標があって支えられたことです。 した。実際には1985年頃から、既に国際的に私 2.ヒトゲノム解読後の進展 (1)ゲノムの多様性や疾患に関する情報・試料の充実 ゲノムの解読が終わった後、いろいろな研究 には数百万のオーダーであることが分かってき が進展しました。その元になる非常に大切な研 ました。ですから私と誰かを比較すれば、その 究成果が、ヒトゲノム計画から出ました。それ 間には数百万の配列の違いがあって、そういっ は、我々自身のゲノムの中に多様性があるとい たものが二人の間の性格を含めた個人差を現し うことで、個人差があるということです。先ほ ているということです。一塩基多型を SNP とい どのお酒を飲めるとか、耳垢であるとか、ある いますが、SNP の分布を調べ、どういった SNP が いは血液型であるとか、そういったものは全て どんな分布をしているかを調べるプロジェクト 実は我々が持っている遺伝子の中の配列の微妙 が進みました。それが HapMap プロジェクトで、 な違いによって生じてきているということが分 ゲノムの解読が終了する直前くらいからスター かってきました。これを一塩基多型(SNP)とい トして、2005年に日本を含めてたくさんの人た いますが、こういったものが我々のゲノムの中 ちが協力しヒトゲノム多型地図ができました。 それから先ほどの OMIM も含めた、たくさんの情 っと前に分かっていて、1975年にサザンという 報やそれに伴う資料がたくさん集積して、それ イギリスの研究者がそういった原理を開発して が実際の分析対象になりました。それからもう サザンブロッティングという方法でたくさんの ひとつ、実際それを分析するような DNA チップ 人たちが使っていました。それをいろいろ細か を含めた、たくさんの SNP 検出技術が開発され くしていって、最終的に、これをチップという てきたということがあります。 形でそれも非常に高速に読み取るような技術に 一塩基多型というものは、例えばアルコール 変えたのが、1995年のスタンフォード大学のパ が飲める・飲めないということであれば、アル ット・ブラウンの技術だったわけです。サザン デヒド脱水素酵素遺伝子のたった一箇所の G と A の方法は、それまでも生物屋としては全く当た の違いで、アルコールに対して感じやすいかど り前のことでした。しかし、それをこの小さい うかが決まります。こういった情報が集積して チップの上に乗せて、たくさんのものをいっぺ きて、これが次の医学を発展させる大きな基礎 んに読めるという技術に変えたところがスタン になったわけです。 フォード大学のパット・ブラウンの偉いところ もう一つは、DNA のチップという方法論自身が で、原理は1975年のサザンのものからあったわ 非常に発達をして、そういった SNP を非常に迅 けです。特許を争ったときも、独占的な特許に 速に決定できることになりました。この技術自 ならなかったという経緯があります。こういっ 身も、実はこの SNP を決めるという前に、遺伝 た技術はスタンフォード大学によって行われま 子の発現の状況を調べるということをベースに した。それもスタンフォード大学の工学の研究 おいて、スタンフォード大学で1995年に基本的 者たちと生物屋とが組んで、全く新しい検討を な原理が開発されたもので、当時は DNA マイク するのだということからスタートしています。 ロアレーといいました。DNA がその似たもの同士 一回こういうことができるとわかると、いろん をくっつけ違ったものはくっつかないという原 な企業が乗り込んできて、その後大展開をした 理を非常に厳格に使ったのが、このマイクロア ということはご存知の通りです。 レーであり DNA チップです。その原理自身はず (2)ヒトゲノムの多様性情報を活用した疾患・薬剤感受性遺伝子の体系的探索 こういった技術、情報あるいは試料に支えら に遺伝系が明快なものは、ゲノムの多様な情報 れて、医学は大きく発展をします。その大きな を使わなくてもその前からいくつかの方法で決 展開はいろいろありますが、その一つはヒトゲ 定されていましたが、糖尿病とか高血圧症とい ノムの多様性が明らかとなり、私達の様々な形 った非常に複雑なというか、一般的に見られる 質がその多様性とどのように関連しているかと ような環境因子と絡んだような病気は、やはり いう研究です。短く言えば、この数年間は病気 こういった多様性の情報があって、初めていろ と遺伝子のタイプとの間の関係はどうかという いろな形で分かるようになってきたというのが 研究が最も盛んに行われているわけです。それ 現在の状況です。 も、筋ジストロフィーとか血友病といった非常 もう一つ、こういったものの医学に直結する ものとして、薬剤の感受性に関する遺伝子が 昨年、東大のグループと理研のグループによっ 次々と分かったことが挙げられます。これは医 て全く別々に、KCNQ1という遺伝子が日本人の糖 療の現場で既にいろいろ使われようとしていま 尿病患者の中にリスクファクターとして存在す す。この基本となるのは相関解析という方法で ることが明らかになりました。この遺伝子は、 集団を患者グループと、健常者グループとに分 他の人種では稀ですが、日本人集団の中では明 けて、その間に先ほど言った個人差を示す SNP らかにリスクファクターだということが、この がどのように偏りがあるかということを数百万 二つの研究から分かってきました。ただ難しい の SNP について調べるということが基本の原理 問題は、この KCNQ1のあるタイプを持ったら必ず です。ただ実際には数百万の SNP を全部調べる 糖尿病になるかというとそうではなくて、集団 わけにはいかないので、先ほどの HapMap プロジ としてみると倍くらいのリスクがあることが分 ェクトでも約20万の SNP を代表選手として選ん かるということなので、これは難しいところで で、その中でお互いに近いものを見つけていく す。こういうことが分かったといっても、特定 というプロセスをとります。どちらにしても原 の個人に「あなたは、このタイプの遺伝子を持 理は SNP の偏りで、病気との関連を調べようと っているので、必ず糖尿病になるから気をつけ いうことであります。例えば資料9の例では、 なさい。」ということはなかなか言えません。集 A/A というタイプは、患者タイプでは98%ですが 団としての傾向が分かるだけなのです。これが 一般集団では10%に過ぎません。この A/A とい 難しいところです。実際には発症のメカニズム うタイプは、父親と母親からある場所の SNP に が分からないと、そのタイプの人はどういうリ ついて A と A をもらうということで、この結果 スクを持っているかということを即断はできな により、この病気と関連する、あるいはそれに いわけです。 近いことを示唆していることになります。 最近よく遺伝子診断ビジネスといったものが この原理に基づき、日本でも30万人計画とい あって、遺伝子を調べて「あなたは太りやすい う集団相関解析が行われました。これは、例え から気をつけなさい。」と言うことを簡単にやっ ば福岡県の久山町において、九州大学の第2内科 ているのですが、これは集団としてそういう傾 のグループが集団の調査を行った研究によって 向があるというのは分かりますが、個人にとっ 例えば脳梗塞に感受性の高い遺伝子として蛋白 てそうですと断言はできないはずです。これも のリン酸化酵素の中の一つの特定のタイプがあ 発症メカニズムを理解すれば、あなたのタイプ り、その集団の病気の発症リスクが高いことを の場合はこうだったらこういうリスクがありま 明らかにしました。こういった疾患感受性遺伝 すと言えるのですが、現在はまだ糖尿病ではそ 子のデータが次々と出てきているのが現在の状 ういう段階にもなっていないという状況です。 況です。また、例えば糖尿病についても現在ま もう一方、メカニズムがはっきり分かってい でに非常にたくさんの解析が行われています。 るものは、遺伝子のタイプが分かると直ちにリ 日本だけではなく世界中で行われたもので、糖 スクが推定できます。その典型例が薬剤のリス 尿病、特に成人型の糖尿病の関連遺伝子が分か クです。多くの薬はどのように代謝されていく ってきています。興味深い事例の一つとして、 かということは分かるわけなので、皆さんご存 知のように、既に遺伝子による診断、あるいは ると思います。こういったことの検査方法は非 遺伝子による治験の時のいろんな検査に使われ 常に大事かと思います。 ているということになります。これはその一つ しかし、先ほど言いましたように、病気の原 の例でオメプラゾールという胃潰瘍の薬です。 因となる遺伝子や病気を起こすリスクのある遺 これは、普通は肝臓の中で代謝されていくので 伝子というのは次々と分かってくるのですが、 すが、代謝する酵素、(この場合はシトクロム それを実際に医学や医療に使おうと思うと、こ P450というある一種類の遺伝子でそのひとつの れは正直言ってそのメカニズムが分からないと タイプですが、)これが不活性型の人と活性型の 最終的にはきちっと使えないということが明ら 人がいます。不活性型の遺伝子タイプの人は、 かです。従って遺伝学というのは、一番表の現 日本では25%位、白人では13%位いますが、こ 象と最後の遺伝子タイプとの間を関係がありま ういった人たちは、この薬を使うと肝臓で代謝 すといっているだけで、その関係の間のプロセ されなくてかえって肝障害を起こす、というこ スは何も解いていないわけです。その間のプロ とが分かっています。遺伝子解析結果をこのよ セスを解くことがもうひとつ大事なことで、こ うなことに使えば、この薬はリスクが高いから れはヒトゲノム解読が済んだ後で、ヒトゲノム この人には使わない、この人には有効だ、とい はいわば人の基本的な設計図ですから、それに うことができるわけです。このような遺伝子タ 基づいてどのようなメカニズムで我々の身体が イプとリスクの関係を明らかにするといったこ 動いているのかというメカニズムの解析、それ とは、主に抗がん剤を中心にして盛んに行われ も特に病気と関係するようなメカニズムの解析 ています。この解明が進めば、これから一人の を明らかにすることで、これまた医学や医療に 臨床医のところで検査をして直ぐに分かるとい 貢献しようということで、たくさんの研究が進 うことになりますし、あるいはあらかじめ自分 んでいます。 が遺伝子のタイプを全部登録しておけばどの薬 が危ないかということは分かるような状況にな (3)ゲノムの機能発現のメカニズム解明の進展 ヒトゲノムが解読された後で、病気というよ れようとしています。それに基づいて、いろい うなこと、あるいは特定の生命現象ということ ろな発症メカニズムの解析が進み、また新しい を超えて、広く全体にどのような大きなフレー 色々な発見があり、さらに複雑な制御機構が明 ムへ我々のからだの制御が行われているのかと らかになってきました。 いうことを理解しようというプロジェクトで、 遺伝子には、ゲノムの上に遺伝子として私達 わが国ではゲノムネットワークプロジェクト、 のいろんな身体の働きを支える情報が飛び飛び アメリカでは ENCODE 計画と呼ばれるものです。 に存在していて、遺伝子という領域があるとい 体系的に、遺伝子やゲノムが、遺伝子やそれか う風によく言われます。それがこのように RNA ら作られるたんぱく質がどのように働いていく に必要な部分だけコピーされて、それが作用シ かということを理解しようという研究が進めら ステムたんぱく質になるというプロセスです。 まず、遺伝子という情報が化学的な反応を起こ ているということで、これを更に展開できる状 す最初のプロセスは、遺伝子の必要な部分を読 況が生まれつつあるのが現在の状況です。 み取る、コピーをする転写というレベルです。 以上をまとめますと、ヒトゲノムの解読によ この転写について、どのようにこれが制御され って、今まで個々に研究者が研究してきた生体 ているのかを理解することが、我々のメカニズ のメカニズム、病気の発症機構が、ゲノムとい ムを理解する最も基本的なことになります。 う情報を通してまとめることによって、全体と ENCODE 計画でも、あるいは私どもが日本で進め してどのように体系的につながっているかとい たゲノムネットワークプロジェクトでも、転写 うことが、この数年間で非常にはっきり分かっ 制御に相当に焦点を絞って研究が進められまし てきました。神経の系統と免疫の関係が全く独 た。ゲノムネットワークプロジェクトでは、遺 立に動いているかというと、そうではなくて神 伝子の中で、どこの部分のゲノムの DNA のどこ 経と免疫の関係には相互に関連があるというこ の部分が読まれて、どういう遺伝子単位がある とも、こういった研究を通じて分かってきてい かということを非常に詳細に解析する技術開発 る状況です。 を含めて行われています。理研のゲノムセンタ このような研究の中で、この数年間で最も多 ーにいた林崎グループは、RNA 大陸といって今ま 分注目すべき新しい発見は、RNA 大陸の発見とも で予想されていた以外のたくさんの部分が読ま 言われていますが、生体内には多様な RNA があ れて RNA があることを、2005年に最初の論文と ることが分かってきて、この RNA 自身が、結構 して発表しました。 私達の身体のしくみを制御する中で大事なこと そして更にいろいろな制御があります。これ をしているということが分かってきています。 も細かなことで恐縮ですが、遺伝子の発現を制 特にここ数年、マイクロ RNA が非常に注目を浴 御するものは転写制御因子というものがコント びて、マイクロ RNA という小さな RNA が我々の ロールしています。その転写制御因子にもいろ 体のいろいろな制御に関わっています。特にガ んな階層性があって、現場で働くものから管理 ンに関係して、いろいろなマイクロ RNA がその 職までいろんなタイプがあって、非常に系統を ガン細胞の制御にはかなり重要な役割をしてい 持ちながら進められているということも段々分 るらしいということも分かってきています。マ かってきました。 イクロ RNA を使った薬も既に開発されておりま 例えば THP1という免疫系の細胞の場合、単芽 す。特に加齢性黄斑変性という目の網膜がいろ 球から単球に段々生育していくときに、いろい いろ変性していく疾患では、アメリカでフェー ろな働く転写制御因子が、どういう順番で進ん ズ3に入っています。 でいくか、これはある遺伝子の発生を抑える又 それからもう一つ、最近話題の ips 細胞につ これは高めるというプロセスが、時間を追って いてお話します。ips 細胞は再生医療の切り札と どのように進んでいくかということも、このゲ いう風にいわれていますが、これ自身も実はゲ ノムネットワークプロジェクトの中では徐々に ノム研究の非常に大きな成果から生まれてきて 理解できるようになりました。ただ、これは特 おります。(資料19)これは山中先生がある体細 定の細胞について、こういうことが分かってき 胞に4つの遺伝子を入れるとこれが未分化の細胞 に代わるということを発見されたのです。この4 れたわけです。 つの遺伝子がどうやって選ばれたかといいます こういったものも闇雲にやったわけではなく と、実は先ほどのゲノムネットワークプロジェ て、やはり全部遺伝子のリストがあり、それを クトでヒトの遺伝子の発現しているリストが全 使ってさらに丹念にその発現情報を見ながら、 部でき上がって、それからそれを実際にどこの 論理的に考えていくことでこの4つに絞りこんだ 細胞で発現している遺伝子か、どういう性格の ということです。最近はこれを越えて、もっと 遺伝子かというリストがばーっとできていたた 少ないプロセスでこれをできるということがわ めに可能だったわけです。山中先生はそのリス かってきています。更にメカニズムの解明が進 トを全部見ながら、どんどん絞って行って、最 めば、特定のプロセスを押さえれば元に戻ると 初は30種類くらいに、それから20種類くらいと いうことも分かるようになるかと思います。 段々絞りながら、あとは若い方がそれを実際に 以上、ゲノムの解読というひとつの2003年の こういった細胞と組み合わせをやりながらやっ 新しいベースができて、そこから非常にたくさ ていって、この4つのものを組みあわせると未分 んの医学・医療の研究が展開してきているとい 化細胞(ips 細胞)に変わるということを発見さ うことをお分かりいただけると思います。 3.ゲノム情報の集積と次世代技術による新しいゲノム医学・医療の展望 こういったベースを置いて、さらに次の発展 が動いているかという全体のフローシートみた が現在の状況であろうかと思います。現在の中 いなものが分かってくると、それに基づいて現 で色々な医療が進んでいますし、何もゲノムだ 在“システム生物学”と呼んでいる生物学が進 けが研究の先端ではないわけですが、ゲノム研 展してきました。このシステム生物学は、実際 究について言いますとまた色々な新しい展開が に現象を計測するのではなくて、コンピュータ あります。特に今日、革新的技術とお話しする 上で色々なことを予測し、その予測をコンピュ 中で DNA のシーケンサーの驚異的な進歩と、こ ータ上にいわば再現させるようなこういった生 れはもう次世代型と言っていますが、これが現 物学、あるいは情報科学の方法論を使ってこう 在の新しい方向へ非常に強く進めている一つの いったものをまとめていって、いちいち実験し 力です。この技術をベースにいずれ一人ひとり て調べなくても、ある程度のことは予測できる のゲノムを全部読むようになり先ほど言った糖 ようにするという生物学です。これは現在かな 尿病についてもメカニズムが分かってくれば、 り進んでいます。こういったものは進歩してき それを使ってリスクの予測ができるということ ますと本当に役に立つようになります。治験を から、治療する医学から予防する医学へという やってこうだという前に、こういう風にすれば 風に、長い目で見ればこういう方向に物事が動 ここの部分はプロセスが押さえられるはずだと き出しているというのは確かです。 か、こういうふうに展開するはずだとか、ある もう一つは“オミックス情報”と書いたので いは薬の投与について最初にこの薬を投与して すが、先ほどの RNA やたんぱく質やいろいろな その後にこれを投与して、これが起きたら次に ものの発現の情報でどういったプロセスで物事 これを投与だという、そういう非常に戦略的な 治療ができるようになると期待されています。 学というものも実は動き出そうとしています。 それからもう一つ、これはちょっと言い過ぎ 再生医療もある意味で近いところがあります。 かもしれませんが、現在はできるだけ理解をし 我々にとって新しいものを生み出してそれで作 てそれを使って何かをやろうという方向ですが っていこうということです。作るというのはち ゲノムが全部わかってくると、ゲノムの良いと ょっと言い過ぎかもしれませんが、生命の色々 ころ取りをして、それを改変し、更に我々にと な情報が分かってきますと、それを使って新し っては都合の良いもの、我々にとって役立つも い医療を作るということが進む、こういった方 のを作り出していこうという、こういった生物 法が次に動こうとしています。 (1)次世代DNAシーケンサーの急速な進歩 まずシーケンサーの進歩についてお話したい ったのですが、2005年に最初に次世代型といわ と思います。先ほどお話しましたように、1980 れている454という新しい装置がロッシュを中心 年に和田とリー・フードが自動化の装置を考え にしてできました。現在、さらにそれが進んで たらどうかという提案をしました。それから 色々ないくつかの会社が、既にこういったもの 段々進んで、1990年頃には既に市場に最初のタ を開発してどんどん進んでいます。いずれ1000 イプのものが出て、その発表を捕らえてヒトゲ ドルでヒトゲノムを読める時代が現実に来ると ノム解読が進み、ヒトゲノム解読を発展させる 思います。 ために更に新しいタイプのものが開発されると ヒトゲノムの解読が終わった当時の最高の DNA こういう風に進んできました。でも今までのタ シーケンサー、これはサンガー法に基づくもの イプの DNA のシーケンサーはゲノムの配列を決 で、それから島津が改良版を作って2006年に出 めるということが主な目的だったわけです。一 していますけれども、一台でヒトゲノムひとつ 旦ヒトゲノムが決まってしまうと次はどうかと を読むのに数年かかるレベルでありました。こ いうと、DNA チップで個々の個人差を見つけると こまでは、サンガーが1977年に作った原理に基 かそういうことが可能にはなるわけです。 づいて開発していたのですが、次世代型は全く アメリカのプロジェクトは、アメリカ政府 NIH 違う原理でやろうということでありまして、既 を中心にして、ヒトゲノム解読が終了する少し に来年、パシフィックバイオ(PacBio)という 前当たりから、次は個人のゲノムを全部読むと 会社が、ヒトゲノムを1回読むだけだったら2分 こういうことが必要な時代だからそれに対して で読むことができるという技術も開発したわけ の技術開発を行うべきだということで、1000ド です。こういう技術が出てくるなら、何も1990 ルゲノムプロジェクトというものを打ち出しま 年からがんばってヒトゲノム解析をやらなくて した。これは個人のゲノムを1000ドル、約10万 もよかったではないか、という人もいるのです 円で読めるような技術を開発しようということ が、これは先ほどもいいましたように全く違う で、こういう技術開発に対してお金を出してい ことです。ヒトゲノム解読が進んだから、更に るわけです。実際にその後なかなか進歩はなか それをいかにスピードアップするかということ の技術開発がサイクルを追って進んでいったわ ます。現在は、既にこういったゲノムを引き受 けです。特にこういった技術、この454以降に出 けて、10万円とは行きませんが、1000万円程度 てきた技術は、全部個人レベルでのヒトゲノム で読んでもいいという会社も現れているわけで 解析を対象にしています。どういうことかとい す。つまり、個人として頼めば読んであげます いますと、ヒトゲノム計画で全部ゲノムは読ま よという、そういう会社も現れているような状 れたと、それがあることをベースにおいて、で 況です。 は私のゲノムはそのお手本とどう違いますかと こういった流れは、まだ普通に考えると100万 比較するやり方です。個人ゲノム解読に特化し 円から1000万円という非常に費用がかかるとい た技術で、1500日かかっていたものが2分ででき うことと、それから精度においてもまだまだ不 るという時代になろうとしているのが事実であ 十分かもしれないということで、いわば大きな り、これによって完全に医療や医学の研究方法 ラボラトリーや研究所というところで行われて は変わってくるという状況があります。 いるレベルです。しかし、全く次の新しい世代 実際にたくさんのゲノムが読めるようになっ のものが、先ほども言いましたパシフィックバ て、個人のゲノムもたくさん読めるようになり イオという会社から出ていまして、これは全く ました。有名な例ではワトソンという人が、自 違う方法で、ナノテクノロジーを駆使した方法 分の DNA を読んでもらって2008年に論文として です。パシフィックバイオのホームページを見 発表しています。これ以外にもたくさんのゲノ ていただければ分かるのですが、要するに超並 ムが読まれています。ガンについても、正常な 列に反応をこなせるということが違います。も 細胞とガン化した細胞と比較してどういう違い う一つ大きな違いとして、先ほどの454はミセル があるかということを配列で見ます。個人のゲ の中に一つの粒子が入ってそれを解読するとい ノムの配列が次々と読まれる時代になってきて うことだったのですが、PacBio は一つのポアの いるわけです。現在まだコスト的にも非常に高 中に DNA の合成酵素を固定化して、ここに DNA いので充分な解析が行われていませんけれども、 が入ってきて、ここで読まれるものを実際に下 最初に読まれて論文になったのが、後で分かっ から光を当てて、どのヌクレオチドが読まれる たのですが、クレイグ・ヴェンターというベン かを光の色々な波長を使って見る。その違いで チャー企業家の彼自身のゲノム配列を読んだも まとめて見ようというわけです。先ほどの454の ので、これは国際チームとの競争の時に出てき 場合には、空のミセルがあったり、解読不能な たデータをさらに精査したものです。ワトソン ミセルがあったり、いろいろなものが一緒にあ のデータが出て、それから Yoruba というアフリ り、その中から上手にパーティクルも DNA の分 カ系のゲノムを調べたデータが出ています。そ 子も1種類ずつ入ったようなものだけを情報とし れから漢民族、その後で中国人の個人のデータ て取り出すので、ある意味でかなり無駄な情報 がでました。これは多分、中国のゲノム研究所 を捨てているわけです。PacBio の場合には、全 のヒュンミン・ヤンという所長がいるのですが、 部のミセルに DNA ポリメラーゼを入れてそこに どうも彼の DNA ではないかと言われています。 DNA が1分子入ってきますから、こうやって集め 更にいろいろなガンでもこういう情報が出てい る情報は間違いなく読めるわけです。DNA が何か ということによって、とにかく情報は穴ごとに のガンだったらガンにかかった時に(ガンの場 違います。この穴ごとの情報を全部読み取って 合には遺伝子が変化していますから)いくつか それを後で重ね合わせるということで、全部の 変化しそうな遺伝子だけを調べてもらって、そ 情報を取ろうということです。 れをきちっと診てもらう。あるいは薬を使う時 これ以外にも、オックスフォードやナノポア という会社も似たような技術を出していまして にどういったタイプだったら使えるかというこ とも検査できます。 多分非常に競争が激しいですが、こういった極 そういうことで、全部が分かった後にその中 端に言うと2分でヒトゲノムを1回分読むくらい でいかに早く特定の必要なものだけを調べるか のスピードのものが、もう間もなく出てくると と、こういう技術が実際にはこの後非常に大事 いう時代になってきているわけです。ですから になってくるかと思います。特にガンの場合だ こういったことを受けて、もう Personalized ったら必ず遺伝子に変異が起きていますし、そ genomes go mainstream というように個人のゲノ の他感染症もそうです。私は不覚にも先週イン ムを読み取ることは技術的には可能になった時 フルエンザにかかってしまったのですが、現代 代である、という風に考えていいと思います。 医学はすごくて、直ぐにそこで粘膜から検体を これに基づいて何をするのかということが次の とって15分もしないうちに結果を抗体反応で出 話となる時代になってきています。 してくれます。それ自身は素晴らしいわけです これもちょっと模式的ですが、日本人のゲノ けれども、例えばガンの患者さんに対して、ガ ムについて、もし全員がよしとすれば、全部読 ンの現場で何のどういう薬を使おうかとか。あ んでデータベースに全部収めることもできるし るいはもっと言いますと、感染症で、今例えば それに基づいて皆さんが許せば糖尿病のいろい 病院の中で多剤耐性菌のリスクが物凄く高くな ろな、あるいは病気のカルテと組み合わせて、 っていますね、あれも培養上で調べて、数日か 疾患感受性の遺伝子とか個人個人のリスクを予 かってこういう多剤耐性菌が居るかが分かるの 測することもできるようになるであろう、とい ですが、もしゲノムの情報が非常に早く出せれ う時代になろうとしています。ただこれらは個 ば直ちに耐性菌のいろいろなものを調べて、ど 人の情報と非常に関わりますので、こういうこ ういう耐性菌がそこに居そうかということを患 とをやれるかどうかということ自体は、今度は 者本人について特定することができるのです。 社会的な問題として議論する必要がありますが そういうことを目指して、実は私が居た理化学 技術的には既にこういうことができる時代が近 研究所のゲノム科学総合研究センターでは、こ づいています。 ういう新しい SNP の遺伝子タイプを調べる方法 もう一つ、こういったたくさんのゲノムを読 論が、既に2007年に論文として発表されていま んで個人を調べるというのはいいのですが、 す。この方法はスマート・アンプリフィケーシ 我々自身からいうと全部調べてもらわなくても ョン・プロセス(SMAP)法と我々は呼んでいる 特定のゲノムのタイプがどうかという情報だけ のですが、非常に特殊な DNA のポリメラーゼを でもわかれば検査に使うことができます。例え 使っています。そして大事なことは、特定のも ば、薬剤感受性の遺伝子のことあるいはその他 のは分かってからしかできないのですが、携帯 電話の電源を使って、実際に反応をすぐ現場で はもはや単なる DNA 配列決定装置ではなくて生 検出できることです。普通は検査場に持って行 命機能解析の重要なツールである」わけです。 って温度を上げたり下げたりとか PCR とか大変 したがって、例えば私たちがガン細胞を取った な方法があるのですが、ともかく現場でできる り、あるいはどこかの特定の血液の細胞を取っ ということ、もちろん抗体があってできる反応 たり、その中でどんな遺伝子のタイプがあるか があるのですが、DNA の場合はより感度が高いの ということではなくて、どんな遺伝子が働いて で、それを DNA のレベルで検査できるという方 いるかということを検出するために RNA を検出 法を開発しています。この方法自身は以前の新 しなければいけないわけですが、RNA は今まで 型インフルエンザのときにすぐに使えるのでは 1995年にパット・ブラウンが開発した DNA のチ ないかということで色々期待もあったのですが ップ、あるいは DNA マイクロアレーで調べたの 薬事的な許可などがあって、まだいろいろな機 ですが、そうではなくて、物凄く高感度に DNA 会で使うことになっておりません。逆にアメリ の配列決定装置でいっぺんに決めることができ カでは非常に興味を示す企業がいて、こういっ ると、こういう時代になっているのです。これ たものを使って診断法を確立していこうという に基づいて非常にたくさんの研究が今進展して ことも進められています。 いますが、我々のところでは私がゲノムネット それでこういった非常に新しいもので個人の ワークプロジェクトに続いてセルイノベーショ 情報はどんどん分かる、あるいは色々な人間に ンプログラムが本年度からスタートしました。 感染するような病原菌の情報が次々分かってく 次世代のシーケンサーの進歩を見ながら、最終 ると、これをゲノムのレベルでどんどん解析す 的にはいろいろなガンとかあるいは最終的には る、検出するという方法ができて、いわばひと 再生医療への応用として、細胞一つを解析でき つの早く確実にそして安く検出する方法が次々 る技術あるいは方法論を開発するというビッグ と今後開発されてくるだろうし、そういったと プロジェクトが進んでいます。 ころが、これからの医療の大事なポイントにな るかと思います。 例えばヒトは受精して細胞がどんどん分裂し て、8細胞になり16細胞になり32細胞に、こうい もうひとつ、ここでお話したいのは、DNA のこ うプロセスでどんどん細胞は特殊な細胞に変化 のシーケンサーは、DNA の配列を決めるというこ していきます。これを分化といいます。分化プ とが基本なのですが、決めるということ自身以 ロセスでは、遺伝子の制御が次々と変わってい 外に DNA と関連するいろいろなことを検出でき きます。ゲノムプロジェクトでは、いろんな基 るということです。例えば RNA にコピーができ 本プロセスがある程度理解されています。そう たら、そのコピーをいち早く調べるということ いったものを一細胞の個々の細胞のレベルでど も可能になり、それから更に DNA にはいろんな う動いているかということを理解しないと、丸 修飾が起きるものですから、そういう修飾もで ごとすりつぶしてやってみても全体のことは分 きるというようなことで、たくさんのことが非 かりません。個々の細胞に戻してみると、何が 常に高感度でできるようになりました。という どういうふうに起こっているかとか、キーファ ことで、ここに書いたように「DNA シーケンサー クターかということが分かるわけなので、こう いった一細胞に近いレベルで検証する技術が必 ループによって、このプロジェクトのもとで開 要になるということです。こういったプロセス 発が進められています。もう一桁さらに下がれ も、現在これが理解できたのは THP1という細胞 ば、ほとんど一個一個の細胞のレベルで解析が の、いわば培養できる実験室でたくさん培養で できるようになり、それによってスイッチのオ きる細胞をたくさん集めて研究してみて分かっ ンオフのメカニズムがどうなっているかという たことです。生体の中ではそれを培養してやっ ことを理解できるようになります。これはいず ていることではもう分からないので、生体の中 れそういったものを使っていろんな細胞の状況 の細胞そのものを一細胞でも数細胞でも解析で を診断する、あるいは予測するということにつ きる技術が必要になるわけです。こういった基 ながるわけです。 本的な情報と基本的な新しい技術を使えばこう メチル化については、ゲノムのメチル化が異 いうことができるようになるだろうと、これが 常を起こすことによってガン化が進行している このプロジェクトの狙いです。 ということが多々知られています。これは国立 こういったプロセスで動いていく中で、どの がんセンターの牛島さんたちの仮説ですが、例 遺伝子がオンして、どの遺伝子がオフするとい えばその胃ガンのピロリ菌がどういうふうにガ うのは、転写制御因子が交互に関わっていくの ン化に作用しているかという時に、彼らの仮説 ですけれども、もうひとつ最近分かってきて非 はピロリ菌によって胃のいろんな粘膜の DNA の 常に注目されているのは DNA の修飾です。DNA が メチル化が非常に進展しているということが分 メチル化される、シトシンのメチル化が起きる かってきて、彼らはこれがガン化の原因ではな か起きないかによって、この遺伝子がある対象 いかということで、メチル化を抑える薬が既に 時期に発現するとかしないとか、こういうこと 前から出ています。こういったものによってメ が制御されていることが分かってきて、DNA のゲ チル化を抑えて、こういったピロリ菌の効果や ノムのメチル化ということの検出自身が、こう いろいろな病気や、ガンの予防あるいは治療に いった一細胞あるいはがん細胞の変化に非常に 使えるのではないかということを言っているわ 大事なことだということが分かってきました。 けです。 バイサルファイトシーケンスという方法で、こ もうひとつ、理研の宮脇さんたちのグループ のプロジェクトの東大の伊藤隆司のグループが は非常に優れた世界のトップのイメージング技 いろいろと研究を進めています。現在、こうい 術を持っています。細胞は一個一個、全て個性 ったプロセスが、これまでいろいろな人たちが が違うわけですが、今まではそれをまとめてす いろいろな方法を駆使して、伊藤さんたち本人 りつぶしていましたから、一個一個の個性は分 も含めて、大体5マイクログラムの DNA でゲノム かりませんでした。集団として何となくこうら 全体を解析できるようになりました。ところが しいという結果は分かっていましたが、イメー 現在、彼らの方法では1ナノグラム、これでも ジング技術によって一個一個の細胞の個性を捉 約100細胞から数百細胞いるらしいのですが、そ えることができるということで、彼らはある状 ういうレベルでメチル化の状態をゲノム全部で 況の細胞にだけ特異的に出るようなたんぱく質 調べることができるという技術が、既に伊藤グ に注目して、それをメルクマールにして、細胞 周期が分裂期から増殖期、間期といわれる時代 わけです。そういう中で、特に微生物が非常に にどんどん変わっていく様子を全部色で識別し 注目を浴びています。今まで微生物がいること て、この色を基にして細胞をソーティングして は分かっていたのですが詳細は分かりませんで 特殊な、例えばこのグリーンの細胞の周囲だけ した。感染症が起きたりするとそれについての をとって、そこを調べることもできると、この 研究は盛んに進んだのですが、微生物の世界全 ような状況も進みつつあるわけです。 体は必ずしも分かっていなかったのです。 こういった技術をいずれは ips 細胞について 例えば我々の体の中にも口の中、皮膚、腸内 も使えるのではないかということを考えていま いろいろなところに細菌がいっぱい居ます。そ す。ips 細胞はご存知のように非常にいろんな細 の細菌の数は600兆かそれを超える位です。人間 胞に分化するのですが、ips 細胞自身を集団の中 の細胞の数は60兆です。人間の細胞よりはるか からこの筋肉細胞に分化しろ、あるいは肝臓の に多い菌数が全体として居るわけです。こうい 細胞に分化しろ、神経細胞に分化しろというこ ったものは、実は私たちの健康に結構絡んでい とは全部一斉にできるわけではありません。今 ます。例えば歯周病と菌の関係など、いろいろ は、たくさんの中でいろいろと動いている中か なことが研究されています。我々の腸内の菌も ら調べて、心筋に変わっているらしいものだけ いろいろなことで影響していることが知られて をピックアップして、それをさらに増やすとい います。最近の研究では、いくつかの菌があり うような段階です。本当にたくさんの細胞の中 ますが、その菌のバランスによって、肥満にな から限られたものを選別するということしか現 りやすい腸内細菌の組成と、肥満になりにくい 在はできないわけですが、もしこういったプロ 腸内細菌の組成があることもわかってきました。 セスがきちっとできるようになればそういった 食べたものをどのように代謝して我々が吸収し 細胞をどんどん選択して、そういったものを集 ていくか、というプロセスを実際にやっている 中的に集めることもできますし、さらにメチル のは腸内細菌です。消化酵素もありますが、腸 化の制御ができれば全部の細胞を一斉に筋肉細 内細菌がたくさんのことをやっていますし、ま 胞あるいは神経細胞に分化させるということも た私たちにとって非常に不都合なものは腸内細 できるようになって ips 細胞の問題は相当に再 菌が分解してくれて病気にならずに済んでいる 生医療に貢献するのではないかと思います。こ わけです。こういったものが実際にどのように ういった新しい技術というものは、今後の再生 生息しているかということはなかなか研究がで 医療にも大きな貢献をすると思います。 きませんでした。しかしゲノム研究により、今 それからシステム生物学的な研究も非常に進 までは一個一個培養して調べていたのですが、 んでいる状況があり、先ほどの戦略を立てるた これをともかく全部 DNA にして配列を決めて、 めのいろいろな研究も進んでいます。 そこでコンピュータ上でこれを再現して、そこ 最後に、これまで我々の身体の DNA や細胞ば から様子を理解する、あるいは新しい遺伝子を かり調べていたのですが、実際にはたくさんの 発見する、あるいは新しい菌を発見する、とい いろんな生物や植物、食物があったり動物があ うプロセスを、実際にはメタゲノム解析と言い ったり、いろんなものと我々は共生をしている ますが、これが可能になってきました。これに よって、我々の身体には現在普通に健康にして ターのグループが、DNA の合成能力として、一つ いる色々な常在菌はたくさん居るのですが、こ の細菌のゲノムを全部いっぺんに作ることがで ういったものの中でどういった菌が本当に我々 きるということを実際に示しました。こういっ にとって健康に役立っているのか、あるいは健 たことがわかるとなると、実際に今まであるこ 康維持のためにどのようなことをするのかこう とはわかっていた沢山の菌から予測される色々 いった問題もこれから有効になると思います。 なプロセスを継ぎはぎにしてベストコンビネー 実際に腸内に菌を入れてみるというわけにはい ションのいろんなプロセスを作ることができる かないので、通常、今までの研究では便を使っ のではないかということになりました。 て行なっています。こういったものも非常に高 これは人間に限りませんが、抗生物質を作ろ 感度に色々なものが検出できるようになるだろ うという時に既にバークレーのグループが、試 うと思います。このようにメタゲノム解析によ 験的なものではありますが抗マラリア剤で植物 って、非常にたくさんの新しい、まだ知られて でしか生成できないものがあり、それを全部そ いない代謝経路や、ものを代謝していくプロセ のプロセスを取ってきて、バクテリアの中でそ スが理解できるようになってきました。 れを作らせてそれを治療に使おうとして合成生 ちょっと話が飛びますが、作る生物学という 物学としてスタートしています。こういったも 話をしたいと思います。実際にゲノムのたくさ のは今後バイオエタノールを作るとか、それか んのことが分かってきて、いろいろなことのプ らさらに水から水素を作るとか、いろいろなプ ロセスが分かってきますと、今まではこういう ロセスで使われるでしょう。こういうバクテリ プロセスでこういうことで物事が起きていたな アは、世界中でも今まで我々が知識として持っ とか、あるいはこういう風に制御すればこうい ているのは全バクテリアの1%位ですが、ゲノ うことは治せるのではないかなど、こういう遺 ムとかプロセスが分かっているもの以外は未知 伝子とこういう遺伝子とこういう遺伝子を組み なのです。その中から新しいプロセスを解明し 合わせる、あるいはこういう遺伝子をはめ込ん て、それでベストコンビネーションを作ってい だらこういう新しいもののプロセスが生まれる こうと、これは明らかに産業応用に利用できる のではないか、ということがコンピュータ上で し、環境保全に役立つということです。こうい はある程度予測できるという状況になってきて った研究も現在進められようとしています。 います。それを現実にするにはゲノムを実際に 最後に、発表したすべてのことは、DNA シーケ そのコンピュータの予測に基づいて作って、新 ンサーや、イメージング技術、あるいはそれに しいプロセスを生物上で再現してみる、こうい 近い色々な技術の進歩によってもたらされてき うことができる時代になりつつあるわけです。 ました。それには膨大な量の情報、データ、そ これから DNA の調査では、合成するという技術 して計算が出てきます。その中で我々がそれを とかどうやって上手く菌の中に細胞をはめ込む 理解しながら色々なことを進めていくのですが かという技術は必ずしも充分ではないのですが 実際にヒトゲノムの個人個人のゲノム、例えば 少なくとも基本的なことはできるということが 日本人1億人のゲノムが全部読まれたとして、そ 既に2008年に、先ほどいったクレイグ・ヴェン れをどうやって処理してどうやって有効に使う かとなると、これはもう明らかに情報科学の進 どんどん出てきているわけです。 歩がなければできないプロセスです。そういう 一昨日の行政刷新会議で、スパコンはなぜ世 意味で、このライフサイエンスにおいても情報 界一でなければいけないのですか?という質問 をいかに処理するかということは非常に大事な が国会議員から出て、文部科学省の担当者がい プロセスになっていて、今は計測器の進歩もあ ろいろと言っていましたけれども、こういった りますけれど、むしろボトルネックは情報処理 ものはもちろんハードだけの競争ということで のところです。先ほどのパシフィックバイオの はなくて、生命科学を含めて、たくさんのもの ものも2分でゲノムを読みますけども、実際には の基盤になるものです。これができることによ 読んだ後で処理するのに多分数日かかるという って、次の非常に新しい発展が、生命科学を含 ことですから、むしろそちらに問題があるとい めて行われるということだと思います。ですか うことになります。こういったことを考えます ら、この基盤を1年遅れてもいいのではないです と、いかにその情報科学の方法論あるいはハー か?とか、アメリカよりもっと劣っていてもい ド面を進歩させるかということが、非常に重要 いのではないですか?という指摘はどうかと思 なものになってきます。シーケンサーやイメー います。もちろん結果的には負けるかもしれま ジング技術が進んでいますが、今後、非常に大 せんし分かりませんが、そういう発想でいくと 事になるのは、私が前に在籍していた理化学研 どんどん先端的なものは、先端的な基盤を持ち 究所の計算機のグループの泰地先生が、今後の 先端的なツールを持ったところが攻めていくこ いろいろな予測をしていますけども、実際にた とになります。科学技術では一番が全てをとる んぱく質レベルでのシミュレーションとか、全 ことが基本です。一番を目指さなければダメな 身レベルでのシミュレーションとか、それから のです。こういった認識を国民に伝えることは 今のゲノム関連のデータとか、こういったもの 科学者だけでなく科学技術行政に携わる方々の を今後きちっと進めていくためには、計算機の 責任といえましょう。 パワーと計算機を使いこなす情報処理の色々な アルゴリズムを含めた方法論、この二つをやっ ていかなければ生命科学はそこで律速段階にな ってしまうでしょう。 計算機は非常に進歩しており、これは泰地グ ループが MDGRAPE-3というたんぱく質の構造解析 に特化したもので、1ペタ FLOPS というスピード を世界で初めて達成した時の図です。汎用型の ものはもう少し遅れていますが、それでも IBM のブルージーンというものや、オークランドの オークリッジのナショナルバイオラボラトリー というアメリカのグループが作っているクレー と組んでやっているものや、こういったものが 【 メディカルイノベーションフォーラム 2009 講演資料 】 ヒトには多様な遺伝形質がある OMIM: 現在約2万エントリー 革新的ゲノム解析技術の進展と 医学・医療へのインパクト 2009年11月16日 榊 佳之 豊橋技術科学大学 . Professor Victor A. McKusick 1921 - 2008 <生命現象は遺伝要因と環境要因からおきる> 割 合 1 ヒトゲノム解読完了 環境要因 (2003年4月) 遺伝要因 130 Mb 0 単因子 多因子病 遺伝病 中毒 糖尿病 デユシェンヌ型 など 心疾患 筋ジストロフィー ハンチントン病 34 Mb 外傷 がん 血友病 非遺伝性疾患 高血圧症 など 痴呆症 など ヒトゲノム解読後の進展 全てはヒトゲノム解読から始まった 1)ゲノムの多様性や疾患に関する情報・試料の充実 • 一塩基多型SNP分布ゲノム地図の完成:HapMap、 コピー数多型CNVのゲノム地図:CNVMapなど ゲノム多様性情報の充実と体系化 一塩基多型SNP地図 HapMap の完成 SNPデータの充実 • OMIMやバイオバンクなど疾患関連の情報・試料の体系 的収集・集積 • DNAチップなどゲノム多様性を検出する技術の著しい発 達・高度化 2005.10 (Conrad & Hurles 2007) ゲノムの個人差SNPを検出する ヒトゲノム解読後の展開 DNAチップ技術 (2)ヒトゲノムの多様性情報を活用した 疾患・薬剤感受性遺伝子の体系的探索 • 糖尿病などCommon Diseaseの感受性遺伝子に関す るゲノムワイドな相関解析が大きく進展 • 薬剤感受性遺伝子の相関解析の進展とその治療へ の応用が始まる 疾患の相関解析の原理 一般集団 福岡県久山町の集団相関解析からの脳梗塞感受性遺伝子型の発見 Letter Published online: 7 January 2007; | doi:10.1038/ng1945 A nonsynonymous SNP in PRKCH (protein kinase Cη ) increases the risk of cerebral infarction 症例集団 健常者集団 Michiaki Kubo1, 2, 3, Jun Hata1, 2, 3, Toshiharu Ninomiya1, 2, Koichi Matsuda3, Koji Yonemoto1, Toshiaki Nakano2, 4, Tomonaga Matsushita2, 3, Keiko Yamazaki3, Yozo Ohnishi5, Susumu Saito5, Takanari Kitazono2, Setsuro Ibayashi2, Katsuo Sueishi4, Mitsuo Iida2, Yusuke Nakamura3 & Yutaka Kiyohara1 1 Department of Environmental Medicine, Kyushu University, Fukuoka 812-8582, Japan. 2 Department of Medicine and Clinical Science, Kyushu University, Fukuoka 812-8582, Japan. 3 Laboratory of Molecular Medicine, Human Genome Center, Institute of Medical Science, University of Tokyo, Tokyo 108-8639, Japan. SNP 解 析 4 Pathophysiological and Experimental Pathology, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, Fukuoka 812-8582, Japan. SNP 解 析 5 Laboratory for Genotyping, SNP Research Center, the Institute of Physical and Chemical Research (RIKEN), Yokohama 230-0045, Japan. Correspondence should be addressed to Michiaki Kubo [email protected] G/G G/A A/A 0.1% 1.9% 98% SNP タ イ プ の 分 布 G/G G/A A/A 40% 59% 10% 相関解析で明らかになった 2型糖尿病関連遺伝子の例 • • • • • • • IGF2BP2 CDKAL1 CDKN2A/2B TCF7L2 SCL30A8 ADIP Kir6 • * • • • • KCNJ11 KCNQ1 HHEX PPARgam FTO GCKR And more Cerebral infarction is the most common type of stroke and often causes long-term disability. To investigate the genetic contribution to cerebral infarction, we conducted a case-control study using 52,608 gene-based tag SNPs selected from the JSNP database. Here we report that a nonsynonymous SNP in a member of protein kinase C (PKC) family, PRKCH, was significantly associated with lacunar infarction in two independent Japanese samples (P = 5.1×10-7, crude odds ratio of 1.40). This SNP is likely to affect PKC activity. Furthermore, a 14year follow-up cohort study in Hisayama (Fukuoka, Japan) supported involvement of this SNP in the development of cerebral infarction (P = 0.03, age- and sex-adjusted hazard ratio of 2.83). We also found that PKCη was expressed mainly in vascular endothelial cells and foamy macrophages in human atherosclerotic 薬剤感受性遺伝子の発見 (例)CYPとオメプラゾール 日本人 agatatgcaataa 活性型 agatatacaataa 不活性型 オメプラゾール(Omeprazole)の代謝不活性 → *Yasuda, et al Nature Genetics 40 1092-1097 (2008) *Onoki, et al Nature Genetics 40 1098-1102( 2008) 25-30% 肝障害の副作用 白人 13% 薬物の効果・副作用に遺伝子多型が関連する遺伝子群 薬剤の分類・代表的薬物 遺伝子名 影響が見られる事象 アンジオテンシン変換酵素(ACE) ACE阻害薬(エナラプリル) 血圧の低下、腎保護作用など β2アドレナリンレセプター β2刺激薬(アルブテロール) 気管支拡張作用、心血管作用 アラキドン酸5-リポキシゲナーゼ ロイコトリエン阻害薬 FEV1の改善 ドーパミンレセプター(D2, D3, D4) 抗精神病薬(プロムペリドール) 抗精神病作用 エストロゲンレセプターα エストロゲン 骨密度上昇、HDL上昇など グリコプロテインⅢaサブユニット アスピリン、グリコプロテインⅡb/ Ⅲa阻害薬 抗血小板作用 セロトニントランスポーター(5-HT) 抗うつ薬(クロザピン) 抗うつ作用 アンジオテンシンレセプター(AT1R) AT1R拮抗薬(カンデサルタン) 腎血液循環改善作用 スルホニルウレアレセプター(SUR1) SU系糖尿病薬(トルブタミド) インスリン分泌促進作用 転写マップの作成、RNA大陸の発見: ヒトゲノム解読後の展開 (3)ゲノムの機能発現のメカニズム解明の進展 ・ゲノムネットワークプロジェクトやENCODE計画などヒトゲノムの機 能情報の体系的解析の進展 ・それらを活用した病態や発症メカニズムの解明の進展、 特にRNAの重要性の再発見(RNA大陸の発見)と 機能分子としての研究の進展 ・ゲノムのメチル化やヒストン修飾などエピジェネティクな現象の 分子基盤研究の進展 転写制御には階層性がある ゲノムネットワークPr:林崎グループ RNA大陸の発見 TSS (180,000) ÷ TU (53,000) > 3 chr2:25489308..25589307 Kyoda et al. コンピュータ予測による THPの分化におけるコア制御ネットワーク PU.1は、初期TFを発現抑制し、かつ後期TFを発現誘導する 単芽球 時 間 林崎良英ほか FANTOM 包括的ヒトタンパク質相互作用地図 抑制 単球 単芽球 誘導 単球 転写マップの作成、RNA大陸の発見: ゲノムネットワークPr:林崎グループ RNA大陸の発見 シグナル伝達経路の解明が進展 FROM: A comprehensive pathway map of epidermal growth factor receptor signaling Kanae Oda, Yukiko Matsuoka, Akira Funahashi and Hiroaki Kitano TSS (180,000) ÷ TU (53,000) > 3 Molecular Systems Biology 1, (25 May 2005) chr2:25489308..25589307 ips細胞は遺伝子発現の 網羅的ゲノム解析の成果を使って開発された 受精卵 ips細胞 遺伝子発現制御 遺伝子発現制御プログラムのリセット スイッチの切りかえ 遺伝子導入 細胞分化 Oct3/4,Sox2 c-Myc,Klf4 ・・・・ ・・・ 筋肉細胞 血液細胞 神経細胞 網羅的遺伝子発現情報の 解析から4つの遺伝子を選択 ips = inducible pluripotent stem-cell MicroRNAは生体制御の新しい標的 ゲノム情報の集積と次世代技術による 新しいゲノム医学・医療の展望 • 次世代シーケンサーの驚異的進歩による “1000ドルゲノム”の実現と 個人ゲノム医療の進展: 治療から予防へ • オミックス情報の集積に基づくシステム生物学の進展と新し い治療戦略の展開 • 「知る」医学・生物学から「創る」医学・生物学へ . 次世代DNAシーケンサーの急速な進歩 2005~ DNA塩基配列決定法 次世代型シーケンサーの大発展 これら次世代シーケンサーではさらなる改良が進行中である。 3‘ プライマー 5‘ 普及年 PacBio# 配列長 (塩基数) 2010? ~ 1,500 HeliScope 2008 20~45 ABI SOLiD 2007 Solexa 2007 454FLX 2006 島津 DeNOVA ABI3730xl 解析試料数* - 解読総塩基数 30億塩基の収集/台 ( 1×分のヒトゲノム) 3‘ 5‘ アニール ~ 1000億/時 約 2分 90,00万/時 ~ 10 億/日 約 3日 25~35 30,00万/実験 ~ 20 億/10日 約 15日 DNAポリメラーゼ 25~50 10,00万/実験 ~ 10 億/5日 約 15日 + ~250 40万/ 日 ~ 1 億/日 約 30日 2006 ~1,000 4,608/ 日 ~ 0.05 億/日 2002 ~800 2,304/ 日 ~ 0.02 億/日 *SOLiDは1回の実験に10日 島津 DeNOVA 454FLX 長い断片 加熱 約 600日 約 1,500日 *Solexaは1回の実験に5日 # Korlach J et al.: PNAS 105, 1176-1181 (2008) 鋳型 DNA ヌクレオチド 特殊ヌクレオ チド 短い断片 ABI SOLiD 次世代シーケンサー454/Roc: 超並列解析による解析の高速化 個人のゲノムのリシーケンシング PLoS Biol. 5, e254 (2007) October Nature 452, 872-877 (2008) April Nature 456, 60-66 (2008) November Nature 456, 53-59 (2008) November がん細胞のリシーケンシング Nature, 2008 Nature 456, 66-72 (2008) 3rd-generation Sequencing 一分子シーケンシング 個人のゲノムのリシーケンシング • Pacific Biosciences – The SMRT™ Chip Provides the World's Smallest Detection Volume 6 10 ZMW zero-mode waveguides (ZMWs) 50bp/sec 20MpixelCCD EMCCD Amplification Detection volume. 100GB/ hr Attenuated light from the excitation beam penetrates only the lower 20-30 nm of each waveguide, creating a detection volume of 20 zeptoliters (10-21 liters). 3rd-generation Sequencing Science 319, 395 (2008) • Pacific Biosciences – The SMRT™ Chip Provides the >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ 個人のゲノム情報 >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ I 全ての日本人のゲノムデータも集積可能 >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ H >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ G >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ F >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ E >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ D >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ C >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ B >・・・・・・・・・・・ >・・・・・・・・・・・ A ヒトゲノム配列へのマッピング A B C D E F G ヒトゲノム再シーケンス 1億人(日本人) 病気との関連解析 SNPの発見 次世代シーケンサー Confidential 5 Cancer Diagnosis During an operation Ratio of mutation Ratio Mutant Template 50% 60000 copies 60000 copies 10% 6000 copies 60000 copies 1% 600 copies 60000 copies 0% 0 copies 60000 copies Application of Next-generation Sequencing Wild type Template Rapid, Specific !! 50% 10% 50% 10% 1% 0% 1% Reaction time DNAシーケンサーはもはや単なるDNA配列決定装置では ない。生命機能解析の重要なツールである。 30min 0% セルイノベーションプログラム ゲノムネットワークプロジェクトと (平成21-25年度) 背景:GNPによる基盤ネットワークの充実 次世代シーケンサーの進歩 イメージング技術の進歩 情報科学的手法の進歩 目標: GNPの成果であるゲノム、RNA、タンパクなど からなる転写制御の分子ネットワークを土台に 次世代シーケンサー、イメージングなど革新的技術を駆使して 細胞のシステム制御プログラムの解明を目指す。 対象: 発生・分化におけるシステム制御プログラム(ips・再生医療への応用) がん細胞のシステム制御プログラム(がんの個性の解明) 目指すは一細胞を解析できる技術・方法論の開発 コンピュータ予測による THPの分化におけるコア制御ネットワーク PU.1は、初期TFを発現抑制し、かつ後期TFを発現誘導する 単芽球 抑制 単球 単芽球 誘導 単球 時 間 林崎良英ほか FANTOM 遺伝子発現のON/OFFのタイミングはゲノムDNAの修飾で制御されている ポスト・バイサルファイト・アダプタ付加法 Bisulfite Sequencingの原理 提供:伊藤隆司、三浦史仁 バイサルファイト処理 AGCTTCGAACGTGCATACTAGACG U TCGAAGCTTGCACGTATGATCTGC U U C:5-methyl-C U U U ランダムプライマー伸長反応 AGUTTUGAACGTGUATAUTAGAUG (第一鎖合成) Bio NNNN TUGAAGUTTGCAUGTATGATUTGU U U U ランダムプライマー伸長反応 AGtTTtGAACGTGtATAtTAGAtG (第二鎖合成) Bio :: :: ::::::: ::: :::: : Original NNNN NNNN NNNN W-type(C-poor) 14/24 AGCTTCGAACGTGCATACTAGACG 溶出 : :::: ::::: ::::::: :: AaCTTCaAACGTaCATACTAaACa μg~ngオーダーのDNAからの鋳型調製 Recovery after size selection NNNN C-type(G-poor) NNNN μg~ngオーダーのDNAからの鋳型調製 4.0% 100% 3.0% 80% 2.0% 60% 3.5% 2.5% 1.5% 454 GS-FLX 40% 1.0% 0.5% 20% 0.0% 1000 ng 100 ng 10 ng 1 ng 0% Amount of genomic DNA read length mapping rate 1000 ng 収率は同等 100 ng alignment length 10 ng redundancy 1 ng 品質も同等 ips細胞は遺伝子発現の 網羅的ゲノム解析の成果を使って開発された 僅か1ngのDNAからでも グローバル増幅なしでBSSが可能 提供:伊藤隆司、三浦史仁 受精卵 Cokus et al. Lister et al. Our previous protocol PBAT protocol Starting DNA 5 μg 5 μg 1 ng End-polishing + - - Restriction - + - 454GS-FLX 収集が困難な微量試料の高精度解析が可能に! Oct3/4,Sox2 c-Myc,Klf4 ・・・・ ・・・ - 454GS-FLX 遺伝子導入 細胞分化 筋肉細胞 IVT Illumina GA 遺伝子発現制御プログラムのリセット スイッチの切りかえ 血液細胞 PCR Sequencer 遺伝子発現制御 神経細胞 Amplification ips細胞 網羅的遺伝子発現情報の 解析から4つの遺伝子を選択 ips = inducible pluripotent stem-cell 細胞制御機構のシステム解明(乳がん、前立腺がん、肺がん) コアモデル Growth factor (EGF / HRG) ErbBreceptor P Cbl P -定量実験解析(理研、畠山真理子ら)- 数理モデル化・ 実験による実証 細胞内シグナル伝達 -sustained ネットワーク推定 graded PLCg Shc Grb2 Grb2 SOS 0 PIP2 PTEN PIP3 PDK Ras Rap1 生物圏 上空:8000 m 地下:5000 m 水深:11000 m HRG EGF PI3K IP3 + PIP2 1,2DAG Microbial World Intracellular signaling 20 40 -transient 60 80 (min) Early transcription 早期遺伝子発現(量的制御) Elongation and stabilization of the signal graded 0 20 40 60 Stabilization or degradation of proteins 未知だった微生物の世界の解明が急進展している 80 (min) Akt タンパク合成 Protein synthesis (with DEF domain) Raf biphasic B-Raf 細胞内シグナルへの MEK フィードバック 0 20 40 60 病原細菌 80 (min) ERK Late transcription TF TF gene expression 後期遺伝子発現(質的制御) ヒト体内常在菌 Cell determination 細胞制御 動物・昆虫・植物共生菌 新規化合物の開発 創薬への応用 EGF HRG ネットワークシミュレーションによって 入力(人工リガンド親和性)と出力(遺伝子発現)の関係を予測 MDシミュレーションによる分子デザイン(リガンド結合の親和性を予測) (服部正平による) ≦1% 細菌のメタゲノム解析 培養 難培養性 従来法 健康 環境 99%≦ ゲノムDNA 細菌集団 ショットガンライブラリー エネルギー アセンブリ 環境生息微生物 シークエンスデータ 群など細菌集団の ゲノム解析 遺伝子発見、菌種同定、 組成解析など 細菌集団のゲノム配列 代謝経路予測例1 Parts marked by red color were mapped by the metagenomic data. 創る生物学の時代へ Molecular Systems Biology 2 Article number: 2006 生命体と人工的機械・装置との対比 ライフサイエンスでの情報爆発 (理研 泰地 による) • 次世代・次次世代シーケンサー Jan. 25, 2008 2Mbp/day 2002 Roche 454 200Mbp/day 2005 計算機・ストレージシステムの illumina 600Mbp/day 2006 性能向上率を上回る率で ABI SOLiD 500Mbp/day 2007 Helicos 20Gbp/day 2008 PacBio 2Tbp/day 2010? 急速に性能向上中 • イメージ情報 1枚あたり1MByte, 100フレーム/s, 顕微鏡100台とすると、10GByte/s, 1日1PBytes弱のデータを産出する メタゲノム情報 人工細菌 + ABI 3730 DNA人工合成技術 WT RNAi (実際にはもう少し圧縮可能であろうが、それでもかなり多くのデータ) ライフサイエンスにおける 計算の取り組みの例 メタゲノム、人類遺伝学 分子ネットワークの解析 ネットワークの構造・パラメータ推定 Src 大規模データの 次世代 シーケンサ 統計解析 =データ量重視 など Cbl Receptor ubiquitination PI3K PIP2 PTEN P Grb2 PDK Shc SOS Grb2 Akt PIP3 PLCg Ras Bad Raf PP2A caspase PIP2 IP3 + 1,2DAG MEK PKC p90RSK ERK [Ca2+] Lig an dP 比較ゲノムなど 情報の不足= まだ情報・計算 STAT3 Proteins p90RSK ERK STAT3 Ets ER STAT1/3 Elk-1 CREBSRFFos Myc MPK3 ゲノム配列の解析 アプローチには限界あり 分子レベルの解析 全身レベルの解析 分子動力学 血流解析 量子化学 心臓シミュレーション ドッキングなど 医用工学計算など 高性能計算機による シミュレーション 高性能計算機によるシ ミュレーション =計算性能重視 =計算性能重視 医工連携ノウハウセミナー① 「企業が医療機器認可承認へ 取り組むためのステップ」 ジーニアルライト株式会社 取締役 和田 英孝 講演者プロフィール トリニティ工業㈱で10年間静電塗装機器の開発。 ㈱潤工社で10年間高速同軸ケーブル、カテーテルの開発。 ジーマ㈱で15年間各種カテーテルの製品化に従事。 ISO13485 取得、高度管理医療機器の製造販売業・製造業許可の取得 現在、ジーニアルライト㈱取締役 (専門分野:機械設計) 【医工連携ノウハウセミナー ①】 「企業が医療機器認可承認へ取り組むためのステップ」 和田 英孝 ジーニアルライト株式会社 取締役 企業が医療機器認可承認へ取り組むためのス をする先生と分担して行います。整形外科の先 テップということで、経営者の視点からお話を 生から、レーザーでこれを切れないか?と言わ させていただきます。 れて開発したのがオステオトミー用レーザーメ 最初にジーニアルライトという会社を紹介さ スです。大きな特徴として、手術では切った後 せていただきます。「ジーニアル」は優しい、 で必ず元に戻さなくてはいけないのですが、ド 「ライト」は光という意味で、光の可能性を医 リルで削った穴は後で塞ぐことが難しいので、 療の可能性にと考えて、事業を進めています。 そこにチタンプレートなどを埋めます。レーザ 会社は光産業創成大学院大学の中にありまして ーメスでうまく切ることができれば、それをま 形成外科、小児外科、整形外科の先生方からニ た元に戻すことができ、任意にカットすること ーズをいただき、光産業大の先生方のシーズを もできます。 いただいて製品化することを考えています。最 実際にウサギで行った時は、先生方にガイド 初に製品化を目指しているのはレーザーメスで 光で切りたい位置を確認して、OK が出たらレー す。それ以外にも二つほどテーマを持っていま ザーを出して切りました。非接触ですし、先生 すが、今日はレーザーメスについてお話ししま 方が手で持つことはありません。現在、秒速2mm す。 のスピードで動かして切っています。その後骨 レーザーメスが使われる用途として我々が考 をはがすのですが、切り代が100ミクロンと小さ えているのは開頭手術や交通事故の手術です。 く逆に骨をはがすのに苦労しています。この部 小児用の先天性奇形の場合、頭頚部だけがどん 分は今後もう少し改良を加えて、骨の取り外し どん肥大化していく中で、頭蓋骨を全部切って も簡単にできるようにしたいと考えています。 繋ぎ合わせて小さくする時に、先生方は骨を切 切り代があったほうが取り外しはしやすいので ることに非常に苦労されています。現在の開頭 すが、最終的に修復するという意味からすると 手術は、ドリルで穴を開け鋸で骨を切ります。 なるべく切り代を小さくしたいのです。 終点と始点が会わなかったときはノミでそこを では本題に入ります。新規医療機器の開発で 割るという、非常に原始的なやり方をしていま は、まず目的を明確にしておかなければいけま す。開頭手術は、少なくとも3人の先生がいない せん。一番は、患者さんの QOL をどのように高 とできません。骨を切るだけで、手に振動をか めるか、ベネフィットを最大限に上げていくこ なり受けます。しびれて震えた手では繊細な脳 とを考えなくてはいけません。当然、安全でな 外科手術ができないので、開頭する先生、手術 くてはいけません。先ほどの開頭手術にしても そうですが、先生方の労力をいかに減らすかと ができないと保険点数がつかないということで いうことも考えていかなくてはいけません。も 拡販するのはなかなか難しい問題があります。 うひとつはトータルで医療コストを下げること 特に新規ということになると新しい医療機器で です。例えば、入院期間を短くするとか、入院 すので、ドクターの先生方にいかに製品を知っ しなくてはいけないものを外来でできるように ていただくかという方策が必要になります。も するといったことです。企業ですから、きちん うひとつ、実際の正確な使い方を理解してもら と利益も出なくてはいけません。新規医療機器 わなくては売れませんので、ドクター研修のよ の開発が成功したかどうかは、この5つ全てが うに先生方を教育する期間も必要です。また当 クリアしたかどうかを考えていかなくてはいけ 然、機器のメンテナンスも必要になります。 ないと考えています。 医療機器を開発するステップの中で一番重要 通常の製品であれば、開発して上手くいけば なのはデザインインプットで、この製品が成功 製造して販売するというプロセスが成り立つわ するかどうかは、この部分で8割が決まるのでは けですが、医療機器の特質として、治験して承 ないかと考えています。デザインインプットが 認を得なくてはいけないわけです。もうひとつ 上手くできると、その次はデザインフリーズに 使用するユーザーと考えられるのは、病院と先 なります。このデザインフリーズがまたなかな 生方しかいないという特徴があるわけです。通 か難しいものです。開発サイドからすると、ど 常の製品ですと開発から製造にすぐに進められ んどん新しいものを作ろう、技術的に革新的な るわけですが、治験を受けるためには製品がな ものを作ろうということでどんどん進化してい いと受けられないわけです。治験の前の段階で るわけですが、それをどこかで止めなくてはい 製造ラインはでき上がっていなくてはいけませ けません。経営者側から考えていくと、一番は ん。ものによって製品自体を作る製造方法にか デザインインプット、次にデザインフリーズ、 なりノウハウがある場合は、必ず製造できない このタイミングを図るのが一番難しいと考えて と治験ができないわけです。企業から考えると います。 治験の前にある意味先行投資が終わっているわ これをどういう形で体制化していくかという けです。ベンチャー企業で一番苦しいのは、製 ことになりますと、ドクター主導型になる場合 造ラインができているのに、治験、承認の間は がほとんどだと思います。デザインインプット 製造も販売できないということです。この期間 のところは、どちらかというと医科大学の先生 をいかに短くするかということを真剣に考えて 方からいただく場合が多くなります。経営者側 いかなくてはいけないと思うわけです。それと として難しいのは、こういう関係や連携を作る 法的に治験に入る前に GCP の審査が入ります。 ところです。今日のような医工連携や産学官連 材料を供給する側にも PL 法の責任があります。 携といった機会はあるのですが、最終的には個 これは製品の治験と別に製造するということか 人的な先生と経営者がいかに上手く関係を持つ ら QMS の審査を受けて、製造許可を取らなくて ことができるかが非常に重要なところかと思い はいけません。販売をすると今度は市販後調査 ます。 があり、承認が取れて製造ができても保険収載 また、企業のスタンスとして多くの会社は、 開発当初は製造販売業を目指して全部自分たち 手く進めようとしてもなかなか製品化できませ だけでやろうと考えます。我々もそうでした。 ん。経営者は、デザインフリーズの時に初めて 自分たちで承認を取って販売をしていこうと考 関わることが多いかと思いますが、本当はデザ えてスタートします。ところが、相当な企業体 インインプットの時に関わるべきではないかと 力がないとこれはなかなか難しいことです。 思います。医工連携はいろんなシステムを使っ 我々も最初は製造販売業を目指しましたが、結 て進めますが、やはり人間対人間の付き合い、 局、部品製造業者として、製造・販売は製造販 経営者と先生とがいかに人間関係を作れるか、 売会社に卸す形で会社を立ち上げました。次に 立場が違うわけですがその立場を超えて連携で 目指したのは、製造業者(製造業者になるため きる環境をいかに作るか、が重要で、これが経 には責任技術者と品質管理責任者が資格を持っ 営者の仕事だと思います。これも理想ですが、 ていなくてはいけません)になることです、さ できれば10名程度の先生方が連携していただけ らに製造販売業者となると、総括、品質管理責 れば、普遍的にいろいろな所で使えるような製 任者、安全管理責任者が必要になり、そのよう 品になる可能性が高いと思います。 な条件を全て整えるとなるとベンチャー企業で その前段として、医療機器を開発したいとい は非常に難しいと思います。考え方として、大 う中において自社のコア技術がどこにあるのか 手医療機器メーカーは一社ですべて賄っている を明確にして、きちんとアピールできる形にし わけですが、ベンチャー企業として生き抜くた ないと話が発展しないわけです。まずこの前段 めには必ずしもこれら全てを整えることは必要 を踏まえた上で、できれば10名程度の先生と面 ないのではと思います。自分たちで全部開発し 識をいただいて自分たちのコア技術をアピール て承認を取る環境まで作って、デザインフリー して、その中でテーマを見つけ出してという環 ズのタイミングの時に、この部分を慎重に考え 境を作っていくことが大事かと思います。この る形がよいと思います。 時点ではまだまだ製造は見えてきません。分か 審査については、この後鈴木先生からお話が らない部分が多くても一応 STED 案を作ります。 あると思いますので簡単に説明します。ただ考 経営者としては、開発の全体像を、最初は安く え 方 と し て 、 STED ( Summary Technical できるとかすぐに商品化できるなど、おおよそ Documentation)に沿って開発を進めるのが良い 掴んで進めるべきなのですが、実際はなかなか と思っています。できればこの段階で精度は悪 そういかない場合がほとんどです。そこで、こ くても全体像を見直すことができるので、やは の段階でまず STED を作って大きな流れを掴んで りここで一回作っておく必要があるのかと思い から開発を進めていく形が良いと思います。つ ます。それからもう一つ、これも理想ですから まり臨床試験の前にかなり先行投資をしなくて なかなかこうはいかないと思いますが、経営者 はいけません。まして臨床試験自体は相当のお 側としては、申請書を作っておいて臨床試験の 金が掛かるので、果たしてその製品を上市した 結果が出たらすぐにその結果と一緒に申請でき 後、ペイできるのかどうかというところを経営 るように準備すべきではないかと考えます。デ 者側としてはどうしても考えなくてはいけませ ザインインプットで間違えると、その後どう上 ん。この段階で、利益計画書をラフ案でもいい から作り、それで経営判断をします。これがで う会社存亡の危機にかかってきます。GXP はかな きていないと、デザインフリーズの時に考えて り信頼性の高い定石だと思います。申請書や GXP もなかなかできません。STED の案も利益計画書 が開発と別にあるのではなくて、それを真ん中 も多分開発を進める中でどんどん状況が変わっ に取り入れて充分に利用しながら進めていく方 てきます。その度に作り変えるのです。変化す が間違いが少ないと思います。 ることは逆にいうと進化しているということで また、専任の薬事担当者となると、なかなか どんどん変わっていくのが当然だと思います。 どこにでもいるという訳ではないので、開発担 これがきちんとできていると、デザインフリー 当者は自分で薬事を勉強しなくてはいけないと ズの時に非常に楽です。これができずにデザイ 思います。GXP もそうですが、開発担当者が薬事 ンフリーズの時になって本当に利益が出るのか のことをよく分かって開発を進めていくことが 実際何台位売れるのか、価格はどうなっている 大事です。薬事担当者がいらっしゃるのであれ のか、ということを考えても多分間に合わない ば、デザインインプットの段階から薬事担当者 と思います。経営者の最大の課題は、このデザ も開発に加わっていくほうがいいと思います。 インインプットの時に、どれだけ新規医療機器 次に、ごく当然のことですが、ベネフィット の開発全体を見通せて次のステップに移してい がどういう形であるのか、他社や今まであった くか、本当にやるのかやらないのかの判断をこ 治療方法と比べても充分に有効性が高いという こで決めるということだと思います。そういう ことを、いかに自分たちで作り出していくか、 意味で、経験上ですが8割方はデザインインプッ 安全性と品質をいかに担保するか、その全てを トのところで成功するかどうか決まるのではな 数字で徹底的に検証していくということが必要 いかと思っています。 だと思います。申請書は、開発過程の中でずっ 次に開発時のポイントです。GXP とありますが と改訂しながら進めていくということ。後から これは、開発から製造、流通、品質情報の管理 作るのではなくて、申請書を作りながら開発を までを含む、安全で効能効果の確実な製品を安 進めるような環境で考えていったほうがいいの 定した品質で提供し、企画通りの安定した効能 ではないかと考えます。 を実現するために必要な一連の基準です。全て 私がこれまでずっと開発に携わっていて思う のグッドプラクティスを総称して GXP というい ことは、どうしても担当者は開発製品そのもの い方をしています。これはなかなか上手くでき だけを考えてしまうということです。しかし、 ています。全てこの GXP に基づいて進めていく それだけでは差別化や売上を伸ばすということ 方が間違いが少なくスピード感もあります。医 に対して難しいと思います。目標は QOL を向上 療機器の開発にあたっていて一番多いのは、開 するということですが、できれば手技全体の向 発がある程度進んだところである理由でもう一 上を目指したいと考えています。我々は過去に 回元に戻らなくてはいけないことがあるという TACE という肝臓がんに対して動脈塞栓術でガン ことです。一番怖いのは、臨床試験まで行って を治そうと試みた時期があります。その時に、 いる製品が、改良が加わったためにそこからま 我々は非常に特殊なカテーテルを作りました。 た臨床試験をやり直すということで、これはも しかし、カテーテルだけでは一生懸命先生が苦 労されて肝臓がんの病巣のところまでカテーテ 険収載が済んで保険点数が出ればある程度見え ルをもっていっても治療にはならないのです。 るんですが、新規医療になる場合は価格設定の そこから塞栓剤を入れて血流をコントロールし ところが非常に難しいところかと思います。そ て、もっと進んでくると塞栓剤に抗がん剤を含 れからもうひとつは後発医療機器であっても、 浸させて、血流を止めた状態でがんを壊死に追 その会社の位置づけで、製造販売業で製品を販 い込みながら、なおかつ抗がん剤を微量放出し 売していくのか、それとも製造業なのか、部品 ます。がん細胞にすると栄養は来なくて抗がん 製造業なのかによって、当然販売価格が変わっ 剤だけ来るという環境が作られて、肝臓がんの てくると考えられます。 治癒もかなり高くなります。カテーテルは、あ 次に海外をどうするかということも視野に入 くまでも塞栓剤と抗がん剤をそこまで運ぶとい れて考えなくてはいけません。日本で治験をし う役割しかないわけです。手技全体が分かって て承認を取るのは難しいところがあります。大 いると、カテーテルの開発そのものも変わって 手企業の考え方からすると、欧州で CE マークを くるのではないかと思います。 取って、その後 FDA を取って、日本の厚生労働 もう一つ利益をどう考えるかということです 省に承認を取る、という流れでされているとこ が、いつも経営者として思うのは、出ていくお ろが多いと思います。これも視野に入れてトー 金は確実に出ていくということです。ところが タル開発コストをどう安くするかということを 売上がどうやって上がるかということになると 考える必要があると思います。治験・審査費用 これはかなり精度が低くなります。これも本当 を日本・米国・欧州で比較した平成17年のデー はデザインインプットの時から考えておかなく タを見ますと、価格的には海外で承認を取るほ てはいけないのですが、売上計画をどうやって うが安くなると思います。我々は、国内から FDA 立てていくかということが重要だと思います。 を取るのはなかなか難しいと思ったので、アメ 一般の製品と違って分かりにくいのがシェア、 リカのメーカーと組んで、アメリカのメーカー 市場規模のところです。後発医療機器であれば に我々の販売権を与えて、承認は米国で取って 先行があるわけなので、マーケットも全部分か もらいました。韓国や中国は自社で承認を取り っているわけですが、新規領域となった場合に ました。 どうやって市場規模を把握するかということで 最後にデザインフリーズのタイミングについ す。これから開発しようとする機器に適応する てお話します。製品は全て要求事項を満足した 患者さんがどれくらいいるのか、症例数がどれ 上で本当は設計変更をしたいのですが、これ以 くらいか、それを使用できる施設がどれくらい 上変更はしないというタイミングを決めます。 あるのか、手技をされる先生方がどれくらいい 申請書は、後は臨床治験の結果が出ればそのま るのか、ということをいかにしてつかむかとい ま出せるというところまで持ってくることが理 うことだと思います。この市場規模に対してシ 想です。事業体制構築は、この時点で自社の位 ェアをかければ販売数量が出てきます。次に問 置づけをどこにするのか、製造販売業で行くの 題になるのは販売価格をどうするかということ か、部品製造業で我慢するのか、当然製造販売 になります。これも後発医療機器であれば、保 業になれば高く売れますがその分だけリスクも 高くなるということで、自社の企業力の中でど の位置づけを考えるかということを決めます。 当然、その時にはもう利益計画書の策定ができ て、このビジネスをやることによって充分に利 益を出せるという確認が終わっていないとデザ インフリーズができないということだと思いま す。デザインフリーズの以上の4点を十分意識 して開発を進めていく必要があると思います。 我々は現在、光を使ってできれば根治治療を したいと考えています。目標は非常に高いので すが、低侵襲から非侵襲に行けないか、浜松発 世界標準ができないかということを考えていま す。 本日はご清聴ありがとうございました。 【 2009年11月16日 メディカルイノベーション2009 発表資料 】 光の可能性を医療の可能性に 形成外科医・ 小児外科医・ 整形外科医 テーマ 光産業創生 大学院大学 企業が医療機器認可承認 へ取り組むためのステップ ジーニアルライト 経営者の視点 ジーニアルライト(株) 和田 英孝 レーザーメス その他 2 従来の開頭手術 レーザーメス適応症例 ●開頭手術 ・脳卒中 ・脳腫瘍 ・脳神経手術 ●交通事故等 ●小児 ・緊急処置の迅速化 ・先天性奇形 ・小児麻痺 ・その他 3 手術器具 ・ノミ、金槌、糸鋸、ドリル 術後 ・金属プレートで保護、 ・骨の癒着まで6週間以上 レーザーメスによる生体開頭手術 オステオトミー用レーザーメス 術後骨の癒着 まで3週程度 安全に 短時間で 任意の形状にカット 短時間で復元 患者様にも先生にも優しい かつてない画期的な レーザーメス 国際特許出願済 5 日本形成外科学会総会で脳外、小児外、形成外、 整形外の医師より高い評価を得ました。 6 医療機器の特質 新規医療機器開発目的 1. QOLの向上 医師労力 軽 減 安全性 2. 3. 開発目的 4. 医療コスト 削 減 利益の確保 新規医療機器上市プロセス 事業化の体制 デザインフリーズ デザインインプット 材料 部品 PL法 医療機関 臨床研究 医師 治 験 開 診療所 病 院 販売代理店 GCP 審査 発 病 院 承 認 動物実験 基礎 医療機器は、人の生命や安全・危険に直結するため、開 発段階からの検討過程だけでなく、製造段階、販売段階 の情報管理にも信頼性が要求される。 医療機器は、出来上がった製品の現物は、製品の一部で あり、開発過程や評価過程の情報が、製品の一部と考え られ、非常に重要である。 医療機器は、製品構成、生体応用方法が多岐にわたり、 製品の使用にあたり、臨床への接近と専門性が要求され る。 製品の性質上、最終評価は人や動物で行わなければなら ない場合が多く、人権の保護や動物愛護までを含めた、 実験取り組み方法が問われる。 QMS 審査 研究 病 院 メンテナンス業者 販売業者 製 造 連携 PL法、市販後調査 機器メンテナンス 販 売 顧客教育 保険収載・保険点数 申請書作成終了 非臨床試験 市 場 調 査 ・ 文 献 調 査 生 物 学 的 安 全 性 試 験 安 定 性 試 験 電 気 安 全 性 試 験 臨 床 試 験 の 必 要 性 検 討 工科大学 医科大学 医師研修病院 臨床試験 探 索 的 臨 床 試 験 検 証 的 臨 床 試 験 申請準備 申 請 書 作 成 1.連携体制の構築 ・自社コア技術の明確化とアピール ・ 10名程度の医師との研究連携 ・医師との信頼関係の構築 ・医師のニーズを正確に把握 2.STED案の作成 ・開発全体像の把握 ・開発推進の手引き ・開発課題の共有化 3.利益計画書の策定 ・経営判断の指標 ・経営課題の共有化 変化 経営者最 大の課題 デ ザ イ ン フ リ ー 開発前 製造販売業者 総括製造販売責任者 品質保証責任者 デザイン 安全管理責任者 インプット デザインインプット時のポイント 開発と各種試験のフロー STED案作成 利益計算書作成 製造業者 大手医療機器 メーカー 使 用 病 院 販売代理店 販売代理店 責任技術者部品製造業者 品質管理責任者 製造管理責任者 病 院 ズ GXPとは 開発時のポイント 各基準は薬事法や通達で根拠付けられており、開発から製造、 流通、品質情報の管理までを含む、安全で効能効果の確実な 製品を安定した品質で提供、企画どおりの安定した効能を実現 するために必要な一連の基準。 1.開発手順は申請書とGXPに基いて 申請書の要求事項を満足させることが開発。 GXPは、信頼性ある医療機器開発・製造の定石。 2.開発担当者は薬事のプロに 薬事担当者の参画は早めに。 GLP=Good Laboratory Practice GCP=Good Clinical Practice 総称して GMP=Good Manufacturing Practice = GXP GVP=Good Vigilance Practice GQP=Good Quality control Practice GPMSP⇒(GCP+PMS)+GVP 製造販売業への要求 GQP+GVP 製造業への要求 QMS(ISO13485)=ISO9000+GMP 構造設備規則 3.常に、有効性、安全性、品質を担保 統計的に、数字で徹底的に。 4.申請書は、開発過程で作られる 5.コンテンツで考える 手技の全体像を把握 GXPに共通する考え方 コンテンツ的考え方 固有の要素 試験機関の信頼性 データーの再現性と信頼性 GLP GCP 共通の要素 データー信頼性のほか、 ヘルシンキ宣言、人権の尊重 個人情報擁護 • 手順書の整備と遵守 • 組織的な業務遂行と責任権限の 明確化 • 承認と監査 • ドキュメンテーション(記録保存) • PDCAの原則 製品の信頼性確保 • 科学的な根拠 QOLの向上 薬 剤 計画(承認) ⇒実施⇒検証(承認)⇒アクション GMP GVP, GQP 情報の確実な入手・伝達 売 材 手 技 売上計画表 ‘10 ‘11 ‘12 ‘13 ‘14 ‘09 ‘15 売 上 料 国 内 シェアー(%) 製 造 原 価 販売数量 開 販売価格 発 費 臨床治験費 売 P M D A 費 市場規模 承認申請費 海 外 上 シェアー(%) 設備投資費 販売数量 販 販売価格 管 費 営 業 利 益 ‘10 ‘11 上 市場規模 費 外注加工費 画像診断装置 • 統計的処理 • トレーサビリティー 利益計画表 ‘09 医 師 治療機器 バリデーション ベリフィケーション 総売上 適応患者数 症例数 使用施設数 手技医師数 新医療機器 改良医療機器 後発医療機器 ‘12 ‘13 ‘14 ‘15 治験・審査費用比較 治験制度の日米欧比較 日 本 米 国 国 欧 州 治験 承認 臨床治験 GCP 原則必要 原則必要 同一でないクラスⅢ 以上は原則必要 旧GCP準拠 リスクの高い医療機器 は必要 リスクの低い医療機器 は簡素化 自己認証制度 メーカーの自己責任 自己担保が原則 原則安全性試験が 必要(臨床とは限ら ない) MDDの臨床評価は 文献で可 ICHに準拠 患者保護規制、 IRS規則は別 EN540 名 国 欧州 有 有 治験費用 1~3億 有償治験 基準なし、臨床な しの新規申請 申請 費用 米 治験の有無 基準なし、臨床有 りの新規申請 基準有り、臨床な しの新規申請 基準有り、臨床な し(管理医療機 器)の新規申請 3,849 1,268 1ドル=115円 1ユーロ=135円 (千円) 日本 無 無 通常額 27,512 小企業適用 10,455 通常額 5,915 小企業適用 2,248 通常額 1,981 702 387 318 小企業適用 753 通常額 403 小企業適用 322 保険医療材料専門部会H17年 臨床試験推進と合理化 1. 開発システムの中に、臨床評価要否、重要度のフローをパターン 化、マニュアル化しておく。 2. 必要な書式を整備、誰でも考えることなく、準備できるよう にしておく(臨床機関でも臨床評価を受諾できない施設は 脱落するので、多くの施設でも準備している)。 デザインフリーズのタイミング 5. 『臨床性能試験』も臨床評価に準じて情報管理しておくと、 役立つ場合がある。 QOLを極限まで高める 目指すは、根治治療 非侵襲治療 日本発世界標準 ジーニアルライト株式会社 ご清聴有難うございました。 臨床治験結果待ち デザイン フリーズ 3. 定常組織の組織機能の中に、臨床評価推進時の役割分 担を割りつけておく。 4. 開発初期から、共同研究臨床機関、臨床試験機関の見通 しを立てておくこと。 申請書 製 品 要求事項満足 設計変更なし 事業体制構築 利益計画書策定 製造販売業、製造業、 販売業、部品製造業 グローバル化 競合、差別化 医工連携ノウハウセミナー② 「医療機器審査迅速化アクションプログラム」 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療機器審査第一部 部長 鈴木 由香 講演者プロフィール 1999年 国立医薬品食品衛生研究所、医薬品医療機器審査センター 第四部配属 医療機器の承認審査を担当する。 2004年 独立行政法人医薬品医療機器総合機構、医療機器審査部 審査役 2008年 独立行政法人医薬品医療機器総合機構、医療機器審査部 部長 (専門分野:生化学) 【医工連携ノウハウセミナー ②】 「医療機器審査迅速化アクションプログラム」 鈴木 由香 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 医療機器審査第一部 部長 日本の医療機器の開発について技術は大変素 けで市販できる形になっています。一方、少し 晴らしいけれどもそれが医療現場になかなか供 リスクが高いもの、不具合が生じた場合でも人 給されない、とよくご指摘いただいています。 体に対するリスクが比較的低いもの、例えば MRI 私も日々、医療機器の審査を行っていますが、 装置や電子内視鏡のようなものは、現在、第三 その中でいかに新しい技術、新しい医療機器、 者認証を取ることによって市販できる形になっ 日本発の技術が世界にもしくは医療現場に早く ています。また、高度管理医療機器といって不 供給されないかと日々願っています。本日は、 具合が生じた場合に人体へのリスクが比較的高 審査の立場から我々が日々考えていること、課 いもの、もしくは生命への危機に直結するよう 題は一体どういうところにあるのか、それから なもの、例えば人工関節とか心臓ペースメーカ 我々の取り組みについて少しお話をさせていた ー、人工心臓、このようなものについては現在 だきたいと考えています。少しでも参考になれ 厚生労働大臣の承認が必要な医療機器となって ばと思いますので、よろしくお願い致します。 います。厚生労働大臣の承認に当たっては、 まず、医療機器の薬事規制と審査について簡 PMDA が承認審査の実務を担当しています。 単にご説明して、それから PMDA と略しています 承認審査については、薬事法の第14条に規定 医薬品医療機器総合機構についてご紹介したい されています。医療機器を製造販売する者は品 と思います。最後に、本日私が与えられた課題 目ごとにその製造販売について厚生労働大臣の の医療機器をめぐる最近の動向と審査迅速化ア 承認を受けなければならないとされています。 クションプログラムについてお話をします。 ですから、製品ごとに一つずつ承認を受けるこ まず、医療機器の薬事規制と審査についてで とが必要です。承認審査で実際何をしているか す。医療機器と一口に申しましても多種多様な といいますと、薬事法に定められている承認拒 ものがございます。医療機器をすべて一つの規 否要件に製品が合致しないことを確認するのが 制で規制しますとなかなか煩雑になるというこ 承認審査の過程になります。承認拒否要件とは とで、現在、医療機器については生体に対する 申請にかかるその医療機器が効能、効果、性能 リスクによってクラス分類を行っています。生 を有すると認められない時、すなわち有効性が 体に対するリスクが極めて低いと考えられるも ない時は承認してはいけないということです。 の、例えばメスやはさみ、X 線フィルムといった もう一つの条件がありまして、その医療機器が ものについては、現在は一般医療機器という分 効能、効果、性能に対して著しく有害な作用を 類になりまして承認が不要です。届出を出すだ 有することにより、医療機器としての使用価値 がないと認められる時、すなわち効能に対して 査第2部の2部体制としています。診療科ごとに リスクが高すぎて使用価値がない時には承認を チームを分けて、現在8チームで審査を行ってい 与えてはいけないということになっています。 ます。体外診断薬も審査第2部で行っています。 したがって、我々が審査で行っているのはリス 次に平成16年度~20年度までの医療機器の申 ク・ベネフィットの分析をして、そのバランス 請件数の推移を示します。医療機器の場合には がしっかり取れていることを確認する。この作 薬事法がその間に2度平成17年度と平成21年度に 業が承認審査の過程ということになります。 変わっていますので、申請件数がかなりばらつ 続いて医療機器の審査の流れについてお話し いていますが、年間2000件程度の承認を出しま ます。我々はまず申請書を申請者から受け取っ す。新医療機器とは全く新しい医療機器です。 て、リスク・ベネフィットのバランスがとれて 既存のものがないというものについては、昨年 いるかどうかを確認します。必要に応じて専門 度で16件の承認を出しまして、行政側、つまり 協議を行って、外部の専門家、現在約千人の専 我々の審査期間が中央値で8.9ヶ月です。申請か 門家がおりますが、その中から必要な専門家の ら承認までの審査期間の中央値が16ヶ月という 意見を聞きながら審査を行っていきます。新し データが出ています。 い医療機器の場合は、その結果を厚生労働省に 臨床データを用いて承認した品目数について 報告して、厚生労働省が薬事食品衛生審議会の スライドに示しました。医療機器の場合は必ず 意見を徴収して承認という過程になります。 しも全てのものに臨床試験が必要なわけではな 次に PMDA についてご紹介します。PMDA は平成 く、既存のものとの同等性により臨床試験を省 16年4月1日に設立された機関です。旧医薬品医 略できるものもあります。従って、それほど多 療機器審査センターは、国立衛研の下で審査を い数にはなっていません。平成20年度は、全体 行っていた部署です。旧財団法人医療機器セン の承認の中で28品目については臨床試験が添付 ターは、医療機器の同一性調査を行っていた部 されていました。そのうち医療機器の場合には 署です。それから旧医薬品機構は医薬品の同一 物理的な作用で効果を発するものが多いので、 性調査や治験相談を行っていた部署です。これ 海外の臨床試験だけでも受け入れているものが らが統合されて PMDA ができました。PMDA は医薬 多くあり、平成20年度は26品目を海外臨床試験 品医療機器の有効性・安全性の承認・審査、市 のみで受け入れています。 販後の安全対策、副作用が起こった場合の被害 次に PMDA が提供しております対面助言、相談 救済の業務の3つの業務を主に行っています。 メニューの説明をいたします。PMDA は審査を行 私は医療機器の審査業務の部署に所属していま っているだけではなくて、開発の段階から承認 す。昨年の9月に、PMDA は理念を発表しました。 審査にどのようなデータが必要か、どのように PMDA 理念は、医薬品医療機器について3大業務を 開発をしていったらいいのかについて助言を行 通して国民の健康・安全の向上に積極的に貢献 っています。開発の流れに応じて、我々は相談 するということで、ホームページにも乗ってい メニューを準備しています。開発のデザインの ますので見ていただければと思います。 フリーズができていない段階でも開発前相談と 医療機器の審査はこの8月より審査第1部と審 いうものがありますので、ぜひ PMDA の方にお越 しいただいて、できるだけ早いうちから連携が は、申請者の方の消費期間が長すぎるとか、審 取れる形で承認審査にどういうハードルがある 査側の審査が遅いという問題があることが分か のかを見据えて開発していただけたらと考えて りました。申請前の遅れに対する解決策は、承 います。 認のガイドライン等で出来るだけ審査の中身を 次に審査迅速化のアクションプログラムにつ 透明化しましょうということが一つ。それから いてです。背景として最近の動きについて、 相談の体制について、開発の初期段階から、先 2007年からはやはり医療機器の審査が遅いので ほどの講演でも企業の方と医療現場の方のコミ はないかということで動きがございます。その ュニケーションがありましたが、そこに我々も うちの主なものとしては、自民党の国際競争力 入れていただいて連携を取っていくことで開発 調査会の「医薬品に関する WT」報告書の中にも が効率化できないかと考えています。申請後の 医療機器の審査の迅速化が挙げられておりまし 遅れについては、できるだけガイドライン等で て、このような内容が提示されています。また 皆さんにどんな申請資料が必要かを明示してい 対日投資有識者会議の提言でもデバイスラグと くと同時に審査体制の強化をしていくことを考 いっていますが、海外で標準的に使用されてい えています。 る医療機器が、日本でなかなか使えないという アクションプログラムはこれらに基づいて策 問題がありまして、そのデバイスラグの問題を 定されていまして、より有効でより安全な医療 解消するための取り組みとして、審査基準の見 機器をより早く医療現場に届けるために、我々 直しや審査プロセスの透明化、審査体制の強化 の努力もさることながら、申請者側、開発者側 が提言されています。我々も業界の方々と一緒 双方の努力の下、申請者側の負担にも配慮しつ になって、審査をどうやったら早くでき、開発 つ、科学的で合理的な対策を打とうというのが が促進できるのか随分ディスカッションをして このアクションプログラムです。具体的な内容 きました。承認審査の期間が遅れる、長くなる の1番目は審査体制の強化です。昨年度末まで医 のはどういうことかというと、必ずしもデバイ 療機器審査部は審査員が35人だったのですが、5 スラグだけではなく、開発期間をいかに短縮し 年間で104人に増員する計画です。しかし審査員 てくるか、申請した後の期間をいかに短縮でき 数を増やしただけでは審査は早くなりません。 るかということで読み替えていただければいい 審査の技術、スキルがないといけませんので、 と思います。この遅れについては、開発期間の 研修プログラムをしっかり策定します。2番目は 遅れと申請後の遅れの二つがあると我々は考え 3トラック制です。審査人数が少ない時は、新し ています。 い医療機器も後発の今までと同じような医療機 申請前の遅れの原因は、審査指標が不透明と 器も一律に審査をしていました。そうすると負 か、臨床試験が必要かどうか良く分からないと 担の重い新しい品目にひっぱられて、負担の軽 か、審査期間が一体どのくらいかかるか分から い後発の品目も審査の期間が長くなってしまう ないから開発するにもなかなか元が取れないん という問題がありました。そこで、新医療機器 じゃないかという不安があるとかいう問題があ トラック、それから少し改良されている改良医 ることが分かりました。申請後の遅れについて 療機器トラック、それから今までと同じような 機器の後発医療機器トラックという3つのトラッ その他に情報公開の充実ということで、現在 クに分けて審査しましょうという制度が3トラッ は新医療機器の審査資料概要をホームページで ク制です。また、類似の原材料への変更など簡 公開していまして、過去にどのような審査が行 単な審査や変更だけのものについては、特定変 われたか分かるようになっています。また、ク 更として2ヶ月程度で審査できないかということ ラスⅡの品目で認証基準がないものは現在我々 で、短期審査方式を導入します。 が審査していますが、クラスⅡのリスクの低い 新医療機器における事前評価制度は、治験を 品目についてはできるだけ認証基準を策定して 行っている最中に非臨床の部分について我々と 第三者認証制度で行うことを考えております。 相談しておいて、審査を前倒ししましょうとい それから進捗状況は、半年後ごとに業界の方々 う考えです。事前評価制度を導入すると同時に も含めて我々のパフォーマンスについてレビュ 相談業務ももう少し拡充して、皆さんの使いや ーをしていただいて、先ほど示した審査期間が すい相談区分にしていきましょうということで どのくらい短縮されたのかを見ていくことにな こちらも現在検討しているところです。 ります。 3番目は審査基準の明確化です。簡単な変更に 最後に、アクションプログラムのお話をまと ついては届出のみでよいとするとか、臨床試験 めます。医療機器の審査の迅速化においては、 が必要なケースについてはどういうケースを明 開発前の遅延と申請後の遅延の二つがあると 確にするということです。それから一品目の範 我々は考えていまして、それぞれについて対策 囲及びその手続きを明確にする取り組みも行っ を打とうというのがこのアクションプログラム ています。そのような取り組みを行った結果と です。開発前についての目玉は、できるだけ早 して、標準的な審査期間を定めてそれを目標に 期の相談から我々も仲間に入れていただいて、 できるだけ審査を迅速化しようというのがアク 我々も勉強させていただいて、連携を取って進 ションプログラムです。平成20年度の実績に対 めていくということです。申請後は審査体制の して、今年度から5年間かけてデバイスラグをな 拡充とともに、審査の基準をできるだけ明確化 くしましょうという目標になっています。年度 していくということです。これにより開発前の ごとに新医療機器、改良医療機器及び後発医療 現在12ヶ月あるデバイスラグを短縮します。そ 機器それぞれの審査期間を定めています。例え して開発後は、FDA との開発期間の違いで7ヶ月 ば新医療機器ですが、現在21ヶ月かかっていま 我々は遅れていますので計19ヶ月短縮するのが すが、最終的には14ヶ月で承認することを目標 このアクションプログラムの方向、目的になっ としています。その時行政側である我々の使う ています。それに向けて PMDA は現在毎年マイル 期間、それから申請者側が使う期間も定めてい ストーンを決めて、それが達成できるように取 ます。申請者側の使う期間がかなり減っていま り組んでいます。デバイスラグ解消のための対 すが、こちらは相談等で我々もできるだけ協力 策の進捗についてですが、審査基準の整備や手 することで期間を減らしていきたいというのが 続きの合理化については、既にもう通知でいく このアクションプログラムの考え方とご理解い つか明確化されているものもあります。現在、 ただきたいと思います。 通知が出ていないところについては更に進める べく、厚労省と共に検討しているところです。 以上、本日は医療機器の審査迅速化のアクシ ョンプログラムについて説明させていただきま した。日本の医療技術、皆さんの技術は大変素 晴らしいものがあると考えています。これをい かに医療現場に早く届けられるかは、やはり開 発の初期の段階からの連携にかかっていると考 えています。そのためのアクションプログラム です。このアクションプログラムは、今年が初 年度で目標達成に向けて努力しているところで す。皆さんもぜひご協力いただきますようお願 いします。 【 発表資料 】 医工連携ノウハウセミナー② 本日の内容 医療機器審査迅速化アクションプログラム メディカルイノベーションフォーラム2009 2009.11.16 医療機器の薬事規制と審査について PMDAについて 医療機器をめぐる最近の動向と審査迅速化 アクションプログラム 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 医療機器審査第一部 鈴木 由香 医療機器の分類と規制 小 分類 規制 医療機器の薬事規制と審査について 具 体 例 国際分類 承認審査とは 薬事法第十四条 -医薬品(略)、医薬部外品(略)、化粧品又は医療 機器の製造販売をしようとする者は、品目ごとに その製造販売についての厚生労働大臣の承認を 受けなければならない。 薬事法第十四条の2 -次の各号のいずれかに該当するときは、前項の 承認は与えない。 ・・・後略・・・ リ ス ク 一般医療機器 管理医療機器 承認等不要 第三者認証 (認証基準があるもの) •不具合が生じた場合でも、 •不具合が生じた場合でも、 人体へのリスクが極めて 人体へのリスクが比較的低 低いと考えられるもの いと考えられるもの •(例)体外診断用機器 • 鋼製小物(メス・ピンセット等) • X線フィルム、 • 歯科技工用用品 クラスⅠ (平成17年4月より施行) 大 高度管理医療機器 大臣承認(総合機構で審査) •不具合が生じた場合、 人体へのリスクが比較 的高いと考えられるも の •(例)MRI装置、電子内視鏡、 • 消化器用カテーテル、超音波 • 診断装置、歯科用合金 •(例)透析器、人工骨、 • 人工呼吸器、 • 心臓血管用バルー • ンカテーテル クラスⅡ クラスⅢ •患者への侵襲性 が高く、不具合が 生じた場合、生命 の危険に直結す る恐れがあるもの •(例)ペースメーカ、 • 人工心臓弁、 ステント クラスⅣ 承認審査とは -承認拒否要件に合致しないものを承認する- 承認拒否要件(薬事法第十四条第二号抜粋) ・申請にかかる医療機器が、その申請に係る効能、効果又 は性能を有すると認められないとき ・申請にかかる医療機器が、その申請に係る効能、効果又 は性能に比して著しく有害な作用を有することにより、医療 機器として使用価値がないと認められるとき リスク・ベネフィット バ ランスの評価 承認のための基本的考え方 申請にかかる医療機器・体外診断薬が、その申請に係る “効能、効果又は性能”を有しており、その“効能、効果又 は性能”に比して著しく有害な作用を有していないことを確 認する 医薬品・医療機器審査の流れ PMDAについて PMDAの業務概要 医薬品医療機器 審査センター 改良・新医療用具の審 査 財団法人 医薬品機構 医療機器センター 後発医療用具の同一性 調査 医薬品の同一性調査、治験相談 、信頼性調査 治験相談・申請前相談 医薬品医療機器の有効性・ 安全性の審査・調査 有効性・安全性の審査 承認申請資料の信頼性調査 GLP,GCP,GMPへの適合性調査 安全性情報の一元的収集(データベース) 医薬品医療機器の安全対策 平成16年4月1日 . 情報の提供・消費者くすり相談 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 医薬品・医療機器の承認審査、安全対策、健康被害救済 医療費、障害年金、遺族一時金等を支給 医薬品等の副作用・感染に よる健康被害の救済 PMDAの理念 チーム担当分野(H21.8より2部体制) 審査第一部 ● 国民の命と健康を守るという絶対的な使命感に基づき、医療の進歩を目指して、判断の 遅滞なく、高い透明性の下で業務を遂行します。 ● より有効で、より安全な医薬品・医療機器をより早く医療現場に届けることにより、患者に とっての希望の架け橋となるよう努めます。 ● 国際調和を推進し、積極的に世界に向かって期待される役割を果します。 ● 過去の多くの教訓を生かし、社会に信頼される事業運営を行います。 審査第二部 ● 最新の専門知識と叡智をもった人材を育みながら、その力を結集して、有効性、安全性に ついて科学的視点で的確な判断を行います。 特定C型肝炎感染被害者に給付金を支給 スモン、HIVの被害者に健康管理手当等を 支給 ※特殊法人等整理合理化計画(平成13年12月19日閣議決定)を踏まえ独立行政法人化 9 わたしたちは、以下の行動理念のもと、医薬品、医療機器等の審査及び安全対策、並びに 健康被害救済の三業務を公正に遂行し、国民の健康・安全の向上に積極的に貢献します。 安全性情報の科学的評価分析、調査検討 第三分野 の一 主として脳・循環器、呼吸器、精神・神経領域 (材料系)のうち、イン ターベンション機器関係 第三分野 のニ 主として脳・循環器、呼吸器、精神・神経領域(材料系)のうち、インター ベンション機器以外の機器関係 第四分野 主として脳・循環器、呼吸器、精神・神経領域 (機械系) 第八分野 主として多科に関わる医療機器、高度医用電子機器 及び 他分野に 属さない医療機器 第一分野 主として眼科、耳鼻咽喉科領域 第二分野 主として歯科領域 第五分野 主として消化器系、泌尿器系、産婦人科領域 第六分野 主として整形外科、形成外科、皮膚科関係領域 第七分野 主として臨床検査領域 (体外診断用医薬品関係) 12 医療機器審査部 医療機器の申請品目数 1分野;眼科、耳鼻咽喉科領域 2分野;歯科領域 3分野;脳・循環器、呼吸器、精神・神経領域(材料系) 3-1:インターベンション関連機器 3-2:インターベンション関連機器以外 4分野;脳・循環器、呼吸器、精神・神経領域(機械系) 5分野;消化器系、泌尿器系、産婦人科系 6分野;整形外科、形成外科、皮膚科関係領域 7分野;臨床検査領域(体外診断用医薬品関係) 16年度 18年度 20年度 19年度 医療機器合計 4,720 369 1,811 4,972 1,243 新医療機器 56 9 27 37 32 承認基準なし、 臨床試験あり - 14 20 31 28 承認基準なし、 臨床試験なし - 213 570 982 697 承認基準あり、 臨床試験なし - 61 841注1 3,463注1 124 承認基準なし、 認証基準なし - 改良医療機器注2 8分野;多科に関わる医療機器、高度医用電子機器及び他 分野に属さない医療機器 17年度 後発医療機器 72 353 459 362 325 - - - - 4,339 - - - - 注1:移行承認申請を含む。 注2:ヒト動物等に関わる申請を含む。 本データの申請件数については、申請日を基にしている。 14 医療機器の承認品目数 16年度 17年度 18年度 新医療機器の承認状況 19年度 20年度 医療機器合計 3,309 1,827 1,342 2,222 2,459 新医療機器 8 11 23 26 16 承認基準なし、 臨床試験あり - 0 5 14 31 承認基準なし、 臨床試験なし - 16 189 552 563 承認基準あり、 臨床試験なし - 3 444注1 1,141注1 1,512注1 承認基準なし、 認証基準なし - 1 146 335 286 改良医療機器 注2 後発医療機器 154 263 136 78 31 3,147 1,533 399 76 20 注1:移行承認申請を含む。 注2:ヒト動物等に関わる申請を含む。 (データには再審査期間中の一変等を含む) 17年度 承認件数 8件 行政側 審査期間 (中央値) 12.7月 7.7月 [50%] [82%] * 35.8月 22.4月 総審査 期間 (中央値) 18年度 うち16年度 以降申請分 ** 16年度 11件 5件 23件 1.8月 6.0月 [100%] [83%] * 10.3月 19.7月 15件 26件 3.4月 8.6月 [100%] [73%] * 15.3月 20年度 うち16年度 以降申請** 17.1月 23件 うち16年度 以降申請分** 16件 16件 8.2月 8.9月 8.9月 [83%] [75%] * [75%] 15.1月 16.0月 16.0月 *[ ]内の%は申請から12か月以内に審査を終了した件数の割合。17年度~20年度の数値は中期計画の目標対象 外である平成16年3月以前の申請分も含んだ数値。 **17年度~20年度のうち平成16年4月以降の申請分を対象としたものの再掲。 15 16 医療機器の開発段階に応じた相談メニューの拡充 臨床データを用いて承認した品目数 24品目 20年度 26品目 2品目 28品目 14品目 安全性確認 相談 現行(9) 改正前相談区分(2) 申請前相談 治験相談 申請前相談 18品目 24品目 申請手続相談 24品目 4品目 申請準備 申請書作成 2品目 20品目 治験相談 22品目 19年度 検証的臨床試験 18年度 臨床試験 探索的治験相談 16品目 電 気 安 全 性 試 験 探索的臨床試験 34品目 臨床評価相談 1品目 臨床試験の必要性検討 33品目 性能試験相談 8品目 17年度 生物学的安全性試験 国内臨床のみ 品質相談 12品目 安定性試験 計 1品目 開発前相談 外国臨床+国内臨床 11品目 非臨床試験 市場調査・ 文献調査 外国臨床のみ 16年度 性能試験 <開発の各段階における様々なニーズにきめ細かく対応することにより、開発の促進や承認審査の迅速化に寄与> 開発前 17 19年度 うち16年度 以降申請分** 最近の動き 2007年4月 革新的医薬品・医療機器創出のための 5か年戦略 2008年3月 自民党国際競争力調査会 2008年5月 経済財政諮問会議 2008年5月 革新的医薬品・医療機器創出のための 5か年戦略 改定 2008年6月末 経済財政改革の基本的方針2008 医療機器をめぐる最近の動向と 審査迅速化アクションプログラム 「医薬品に関するWT」報告書 対日投資有識者会議の提言 対日投資有識者会議の提言 自民党国際競争力調査会 「医薬品に関するWT」報告書 デバイスラグ解消に向けた取組み 臨床研究の推進 未承認の医薬品・医療機器の臨床研究データ収集の迅速化 臨床実績のない医療機器の企業試作品を臨床研究に提供 臨床研究関連予算に関する関係省連携と重点化・拡充 医療機器の審査の迅速化 医療機器の審査体制の充実強化 治験を要する申請、軽微変更届出対応の範囲の明確化 承認基準の整備 標準的審査期間の設定 バイオベンチャー企業の育成 申請前の遅れ 米国 医療機器審査体制の強化 承認審査期間の遅れと必要な対策 臨床試験の実施 一変手続きの煩雑さ 審査期間の予測不能性 大企業とのマッチングの機会の提供 ベンチャー及びベンチャー向けファンドに対する資金的支援 薬事特許等の相談支援事業の提供 申請前の遅れ(米国申請から日本申請までの時間) その原因 申請 評価指標が不明確 承認 審査プロセスの透明化 医工学連携による研究・審査の人材の育成を推進 承認ガイドライン、次世代評価指針の策定 臨床評価、治験要不要ガイダンスの策定 GCP運用改善による治験の円滑化 国際共同治験の推進 一変不要範囲、軽微変更届範囲の検討 審査プロセスの見える化 相談制度の効果的運用方策の検討 相談体制の拡充、質の向上 申請後の遅れ 申請 承認 日本 申請後の遅れ(申請から承認までの時間) その原因 申請者側消費時間 ・資料不備 ・照会事項の理解不足 審査側消費時間 ・審査待ち時間 申請チエックリストの策定 申請の手引きの策定 相談制度の活用 講習会の開催 クラスⅡ機器の認証制度への早期移行 承認基準、承認ガイドラインの策定 一変不要範囲、軽微変更届範囲の検討 審査体制の拡充、質の向上 第三者認証の範囲をクラスⅡ全てに拡大。 一変申請が必要になる範囲の明確化 承認審査の迅速化に会わせた市販後調査の充実強化 安定性試験データの合理化 リスク分類等の国際整合化の推進 医療機器等の革新性に対する適切な医療保険での評価 人材育成 審査基準の見直し 総合機構の審査業務プロセスの標準化 審議会議事録の公開の推進 審査員をおおむね5年間で3倍増(100人程度) 研修の充実、大学等との交流等による審査員の質の向上 治験相談の質・量の拡充 治験期間中の事前評価制度の導入 新・改良・後発の3トラック制審査の導入 標準審査期間の設定 経済財政改革の基本方針2008 (機器抜粋版) ( 戦略実行プログラム) 医療機器の審査迅速化アクションプログラムの策定 医療現場で最先端の機器を世界に先駆けて使える魅力的な国 内市場とするよう、厚生労働省、経済産業省等関係府省及び産官 学等が連携して、審査体制の拡充を始めとする、「デバイス・ラグ」 の解消に向けたアクションプログラムを平成20年秋中に策定する 。 医療機器の審査迅速化 アクションプログラム 1.審査員の増員と研修の充実による質の向上 平成20年12月11日 より有効でより安全な医療機器をより早く医療の現場に提供 すること、また再生医療等の新しい医療技術に速やかに対応 することは、国民保健の向上にとって極めて重要である。 このため、医療機器の品質、有効性及び安全性の確保を前 提に、申請者側の負担にも配慮しつつ、以下の各取組を通じて、 医療機器審査・相談体制の拡充を図るとともに、行政側と申請 者側双方の努力のもと、科学的で、合理的な対策に積極的に 取り組むことにより、医療機器の審査迅速化をはじめとする医 療機器の承認までの期間の短縮を図る。 医療機器の審査人員を5年間で、現在の35名から1 04名に増員する。(平成25年度まで計画的に実施) 内外の大学や研究所等との交流や米国FDAの審査 機関の研修方法を参考にして審査員の研修の充実を 図ることとし、そのための研修プログラムを策定する。 (平成21年度中に実施) 審査の手順については、手順書に基づいた標準化に 努める。(平成21年度から着手) 2.新医療機器・改良医療機器・後発医療機器 3トラック審査制の導入等 3トラック審査制の導入 新規性の程度によって審査プロセスを明確化したうえで、それ ぞれの区分ごとに専門の審査チームを設ける3トラック審査 制を導入する。(平成23年度から順次実施) 改良医療機器、後発医療機器の申請資料の合理化を図る( 一部変更承認申請を含む)。(平成21年度から順次実施) 後発医療機器について同等性審査方式の導入を図る。(平成 21年度から実施) 新医療機器等への事前評価制度の導入 相談業務の拡充 類似の原材料への変更など、一定範囲の変更を対象にした 短期審査方式の導入を図る。(平成21年度から順次実施) →特定 治験終了を待たずに、生物学的安全性試験、電気安全性試 験、性能試験などを申請前相談を活用して評価していく仕組 みを構築する。(平成22年度から順次実施) 相談区分の見直しを行い、治験相談を含む相談の質・量の 向上を図る。(平成21年度から実施) 変更(特変)、資料が具備されてから起算して2ヶ月 3.審査基準の明確化等 標準的審査期間の設定、進捗管理の徹底 ① 新医療機器 審査基準の明確化 承認基準、審査ガイドラインを策定することにより、審査の迅速化を進 めていくこととし、特に以下の事項について明確化を図る。 ① 軽微な変更について、一部変更承認申請の不要な 範囲、軽微変更届の必要な範囲の明確化 平成20年10月23日 薬食機発1023001号 「医療機器の一部変更に伴う手続きについて」 新医療機器について承認までの期間を19か月短縮(申請前 12か月、申請後7か月)することを目指すものとする。 申請前については、行政側も相談体制の充実や審査基準の 明確化等を通じ積極的な助言等を行いつつ、申請者側の努力 のもと12か月の短縮を目指す。 申請から承認までについては、行政側、申請者側双方の努 力により、7か月の短縮を図るものとし、標準的な総審査期間( 中央値)について以下の目標を達成する。 (平成25年度までに実施) ② 臨床試験の必要なケースの明確化 平成20年8月4日 薬食機発第0804001号 「医療機器に関する臨床データの必要な範囲等について」 ③ 一品目の範囲や類似変更の手続きの明確化 (平成21年度から着手) ・ 通常審査品目 ・ 優先審査品目 14か月 10か月 審査期間目標値について 【別添1】 行政側、申請者側双方の改善努力により、以下のとおり、総審査期間を短縮する。 標準的審査期間の設定、進捗管理の徹底 新 規 目 標:総審査期間(中央値)による設定(単位:月、承認コホート) 実績 ② その他の医療機器 その他の医療機器の申請から承認までの標準的な総審査期間 (中央値)について、以下の目標を達成する。 新 医 療 機 器 (平成25年度までに実施) そのため、審査の進捗状況の管理の徹底に努める。 通常 優先 21月程度 行政側期間 8月程度 申請者側期間 14月程度 総審査期間 16月程度 行政側期間 総審査期間 臨床 あり 臨床 なし 後発医療機器 (+基準あり) 平成21年度 9月程度 申請者側期間 改 良 医 療 機 器 (ア) 改良医療機器 ・ 臨床試験データが必要な場合 10か月 ・ 臨床試験データが不要な場合 6か月 (イ) 後発医療機器 4か月 総審査期間 9月程度 16月程度 行政側期間 9月程度 申請者側期間 7月程度 総審査期間 11月程度 行政側期間 6月程度 申請者側期間 5月程度 総審査期間 8月程度 行政側期間 5月程度 申請者側期間 3月程度 平成22年度 平成23年度 平成24年度 平成25年度 21 8 14 16 8 9 16 8 7 11 6 5 21 8 14 16 8 9 16 8 7 11 6 5 20 8 12 15 7 8 14 7 6 10 6 5 17 7 10 13 7 6 12 7 5 9 5 4 14 7 7 10 6 4 10 6 4 6 4 2 8 5 3 6 4 2 5 4 1 4 3 1 4 3 1 ○審査期間の算定は、従来どおり、平成16年度(機構創設年度)以降の申請品目について、各年度ごとに、当該年度に承認された品目の承認までの期間とする。 ○新医療機器については、企業側の各回答期限は原則として6ヶ月以内とする。要請により1回に限り6ヶ月を限度に延長ができる。回答期限を越えても回答ができない場合は、 取下げを行うものとする。その場合の審査の継続は再申請によることとする。 ○指摘事項に対するすべての回答が提出された時点で審査側期間が再開する。 ○申請者側期間は、行政側及び申請者側の努力と責任によるものである。行政側及び申請者側は、申請者側期間の目標参考値を達成するため、双方最善の努力を行う。 医療機器審査迅速化アクションプログラム 4.その他 開発期間 (1)情報公開の充実 新医療機器の審査資料について、承認された品目の 資料概要を医薬品医療機器総合機構(PMDA)ホーム ページ上で公開していくなど、積極的な情報公開を行う。 対策 (平成21年度から順次実施) (2)クラスⅡ品目の第三者認証制度への完全移行 原則、全てのクラスⅡ医療機器を第三者認証制度へ 移行し、クラスⅢ、Ⅳ医療機器といったハイリスク品目 に対する審査の重点化に努める。 承認審査期間 承認申請 ● 相談体制の拡充強化 - 人員の拡充 ・医療機器の審査・相談人員を5年間で 3倍増(現行35名を104名に) - 相談の質・量の向上 ・相談区分の見直し ・開発初期段階からの助言による開発 期間の短縮 ・企業の申請準備期間の短縮 等 ● 審査基準の明確化等 ・承認基準・審査ガイドライン等の策定 承認 ● 審査体制の拡充強化 - 人員の拡充 (同左) - 審査業務の充実・改善 ・新医療機器・改良医療機器・後発医療 機器の3トラック審査制の導入 ・申請前の事前評価制度の導入による 申請後の業務の効率化 ・後発医療機器の同等性審査方式の導入 等 ● 情報公開の充実 ・新医療機器の申請資料概要の公開 (平成23年度までに実施) (3)進捗状況のレビュー 年2回定期的に官民による会合を開催し、本アクショ ンプログラムの進捗状況のレビューを行う。 審査迅速化に向けた目標の設定・年度別のマイルストーン 機構の体制整備 に関する目標 21年度 22年度 人員拡大 48名(13名増) 62名(14名増) 研修の充実 新たな研修プロ グラムの策定(機 器) 相談・ 審査の質・ 量向上に関する目標 3トラック審 査制の導入 申請内容の 事前評価 及び相談の 大幅拡充 23年度 24年度 25年度 76名(14名増) 90名(14名増) 104名(14名増) 研修の更なる充実、内外の大学、研究所との交流の推進、審査手順の標準化 改・後区分の明確化 改・後の申請資料の合理化 審査プロセスの明確化 後発同等審査方式の導入 導入展開 短期審査方式の一 部実施 短期審査方式の本 格実施 (日本版リアルタイム審査) (日本版リアルタイム審査) 事前評価ガイダン ス整備 事前評価制度の 導入 3トラック制の 導入 順次実施 実施の推進 審査基準 の明確化な ど 中央値 申請前 新医療機器 12か月短縮 申請後 総審査期間 デバイスラグ解消のための対策の進捗 実務者レベル合同作業部会等において対策の実現化に 向けて検討を行っている。 審査基準の整備 新医療機器 通常 14か月 実施の推進 加速安定性試験適用の 明確化 実施の推進 改良医療機器 臨床あり 10か月 臨床なし 6か月 臨床試験の必要な範囲の 明確化 承認基準、審査ガイドラインの策定(順次実施) 原則、平成23年度末までに移行 35 治験の必要な範囲の明確化 8月4日付通知 一変不要、軽微変更届の範囲の明確化 10月23日付通知 安定性試験の取扱いの明確化 9月5日付通知 特定範囲の一変手続きの迅速化 11月10日通知 申請資料の合理化(後発品、改良品) 3月27日通知 相談事業の拡充 国際共同治験の推進 後発医療機器 4か月 承認基準、審査ガイドラインの策定 順次作成中 認証基準の策定(クラスⅡ品目の第三者認証制度への移行) 手続きの合理化、明確化 順次実施 実施の推進 一品目の範囲の明確化、類似変更の手続きの明確化の検討、実施 クラスⅡ品目の 第三者認証への 移行 パフォーマン ス目標 (25年度) 相談区分の見直し 一変不要範囲、軽微変更 届出範囲の明確化 ・新医療機器の 申請から承認までの期間を 7か月短縮 新医療機器の承認までの期間を19か月短縮(平成21年度から5年間) 優先 10か月 治験相談を含む相談の大幅拡充 • 新医療機器の 開発から申請までの期間を 12か月短縮 目標 (平成25年度 達成) HBDを通じたFDAとの共同治験相談等の枠組み作り 検討中 医療機器の審査体制の充実強化 標準的審査期間の設定 別添の通り 21年度より増員 医療機器の審査迅速化アクション プログラム初年度の今年、PMDA は目標達成に向け、 尽力いたします。 皆様のご理解、ご協力をお願いし ます。 総合機構のウェブサイトをご参照下さい。 ・ URL : http://www.pmda.go.jp/ PMDA業務情報からアクセスできます。 連携プロジェクト及び連携形成 への取り組み紹介① 「注視点検出に基づく乳児の自閉症 スクリーニング機器の開発」 静岡大学 工学部システム工学科 教授 海老澤 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 特任准教授 土屋 株式会社タイカ 主任研究員 徳谷 嘉伸 賢治 恵樹 【連携プロジェクト及び連携形成への取り組み紹介 ①】 「注視点検出に基づく乳児の 自閉症スクリーニング機器の開発」 海老澤 嘉伸 静岡大学工学部システム工学科 土屋 教授 賢治 浜松医科大学子どものこころの発達研究センター 特任准教授 徳谷 恵樹 株式会社タイカ 主任研究員 注視点検出に基づく乳児の自閉症スクリーニング機器の開発ということで、静岡大学、浜松医科大 学、そして株式会社タイカで、現在研究を行っています。 最初に、これまでの経緯について説明します。1年半ほど前に、乳幼児の自閉症の子供の診断に役立 つような注視点検出装置ができないかと、浜松医科大学からお話がございまして共同研究が始まりま した。昨年のメディカルイノベーションフォーラムで発表後、株式会社タイカから機器開発を行いた いという申し出がありまして、次の共同研究が始まりました。その後、独立行政法人科学技術振興機 構の「先端計測分析技術・機器開発事業」プロトタイプ実証・実用化プログラムを申請、採択され、 今年度より3年間のプロジェクトを開始しています。 それでは自閉症の乳児についてと、どうして注視点検出を行うことになったかを、浜松医科大学の 土屋先生からお話しいただきます。その後私から装置についての概要をお話しさせていただきます。 土屋 賢治 特任准教授 研究のバックグラウンドのお話をさせていた だきたいと思います。 社会的相互作用というのは、例えば皆さんと 私の間にあるなんとも言えない空気、空気を読 自閉症という言葉が、最近非常に人口に膾炙 む/読まないという言い方も可能ですし、ある してよく知られるようになってきました。発達 いは私がしゃべったことをどういうふうに皆様 障害とかアスペルガーとか、いろんな言葉をお が聞いてくださるかということを私は注意して 聞きになったことがあると思いますが、元々の ずっと見ているわけですが、皆様も私が次に何 根っこにあるのがこの自閉症という疾患です。 をしゃべるだろうかと空気を読みながら会場に 簡単に言いますと、3歳までに発症するのが一つ いらっしゃるという感じが分かるのが、私は自 の特徴で、それから主に三つの特徴、つまり、 閉症ではないという一つの証です。 社会的相互作用、意思伝達、限局した興味があ げられます。 次に、意思伝達の障害は、言いたいことを伝 え(られ)ないと書きました。自分の中にどう いう気持ちが起こっているか、あるいは自分の 心を持っているという特徴があります。 中でどんなことをしたいかということを人に伝 自閉症というのは拡がりのある疾患で、申し えずに自分だけで行動する、あるいは何も行動 あげました三つの特徴を持っているのが自閉症、 しない、いろんなパターンがあるのですが、そ 古典的にいうところの自閉症というグループに ういった特徴が一つあります。 なります。ところが高機能自閉症であるとか、 それから三つ目に、非常に狭い範囲、融通が アスペルガー障害であるとか、特定不能の広汎 きかない形の行動を繰り返します。例えば車が 性発達障害とか、いろんなタイプの疾患があり 大好きな子供というのはどこにでもいるのです ます。これは全部、自閉症の関連疾患で、それ が、自閉症の中で車が好きな子というのは、車 ぞれの三つの症状のうち一つが無いとか、三つ 全体が好きだというパターンはもちろんありま の症状があるのだけれどもそれぞれの強さが非 す。例えばサスペンションが好きだとかスピー 常に弱いとか、知的障害を伴わないといったも ドメーターが好きだとか、あるいは日産のこう のがこの一群です。実はこの関連疾患が大変増 いう車のこのスピードメーターはこんな形をし えていることが報告されておりまして、問題と ているみたいなことには非常に詳しいのですが、 しては1~2%、クラスに一人は確実にいると 車全体がどういう形をしているかは実は見えな いうことが今日の一番大きな問題となっており いという特徴があります。話だけ聞くと面白い ます。 人たちだということになるのですが、彼らがこ もう一つ大きな問題は、彼らがどうして放っ のまま何も教育的な配慮を受けずに大きくなっ ておかれるとまずいかということです。我々が ていってしまうと、融通がきかない、社会との 当たり前に行っている基本的な生活のベースに いろんなコミュニケーションが、うまく取れな なるものが何もないわけです。何もケアを受け いという大きな問題が出て参ります。 ないと社会適用が非常に上手くいかなくて、仕 例えば、資料左下の写真にあるように、この 事をすることも(運がよければ仕事はできるか 子は缶詰、食べ物の缶を見ても食べ物とは思わ もしれませんが)、周りの人や家族とコミュニケ なくて、缶の同じ形に注目して、ずっと積み上 ーションを取ることも、そもそも家族を作ると げるという遊びをしています。これは小さい子 いうことすらままならないということもあるわ なら誰でもするかもしれませんが、基本的に彼 けです。そういったことが、障害が原因で起こ らの物の着目の仕方は非常に似ていて、例えば っているにもかかわらず、周りから叩かれる。 黄色いあひるで遊ぶのではなくて、あひるの玩 すると、どんどんいじけてしまいます。社会適 具を一つの物として扱うという特徴があったり 用が非常に遅れてしまうということがあるわけ します。資料右下の写真の子は、車に興味があ です。これをどうしたらいいか。いかに早く彼 るのではなくて、車のキーエントリーの部分に らの障害を見つけてあげて、いかに早く教育的 大変強い興味があり、そこをチクチクいじって なアプローチに引っ張りこんであげるかという 遊んでいます。この子の場合は、車本体が大好 ことが重要です。 きというよりキーエントリーが好きということ 近年、3歳までの診断が非常に重要だろうとい です。こんなふうに広い部分よりも、一部に関 うことが、ほぼコンセンサスになってきていま す。しかし、現時点で3歳までの診断をやるため した。これを大きくしてみますと定型発達児、 には、熟練した小児科の先生や精神科のお医者 自閉症のないお子さんたちは、人の顔が動画で さんしか診断できないという非常に不幸な状況 動き出すと目とか口とかこの辺に動くのです。 があります。熟練した先生でなければ診断が難 自閉症の子供達は、目はあまり見ない。口がち しい、あるいは見逃されてしまうということが ょこちょこ動いているのを見て、今度は下の方 頻繁に起こります。例えば、身体疾患のように に目が移ってしまう。定型発達児の人たちが目 血液検査をしたら簡単に診断できればいいと考 を見るのに対して、自閉症の人たちは口や体を え、今そのようなものも試してはいますが、実 見るという特徴があります。 際にはまだ充分なエビデンスはあがっておらず 私たちはこういった特徴に注目して、3歳まで 実用化には至っていません。今回、私どもが海 にこういったことを発見できるようなツールを 老澤先生やタイカ様にめぐり合わせていただい 作っていただくことができないかという、いさ たのは、実はこのことがきっかけなのです。 さか乱暴なお願いだったのですが、海老澤先生 発達の初期段階である2歳くらいの子供さんた ちの中で、自閉症の子供たちだけがどうも人の とめぐり合わせていただくことになりました。 以上です。 顔の見ている場所が違うということがわかりま 海老澤 嘉伸 教授 自閉症乳幼児が、健常者と注視点の分布が異 まず、目の瞳孔を検出します。そのために二 なることが分かれば診断に役立つだろうという つ、ここに光源が見えるのですけれども、この 土居先生のお話に対し、元々私どもは頭部の動 内側の LED が点滅しますとこういう明るい瞳孔 きを許容して視線を検出する研究をやっており の画像が得られて、外側が光りますとこのよう ましたので、それらが合致するのではないかと な暗い瞳孔の画像が得られて、これらを差分し いうことで、研究を始めました。 て瞳孔を浮き彫りにしてから検出します。内側 今回目指す装置は、頭部の移動を許容して、 と外側で近赤外線の LED は目に見えないのです 注視点校正が最小限で済むというものです。ど けれども、瞳孔の反射率の違う波長の LED を使 こを見ているかということは、あらかじめ画面 って光源を小型化しています。左右に二つカメ 上の何点かを見てもらわないと、正しい視線が ラを設けていますのは、ステレオ構成をして瞳 測れないというものが一般的な装置です。それ 孔の3次元座標を求めるためです。それぞれの光 をなんとかできないかということでチャレンジ 源を交互に内側・外側を光らせて、明瞳孔・暗 しています。今年になり、この装置の光源の部 瞳孔画像を交互に見ます。こちら側が今の明瞳 分を少し小さくしたり、二つのカメラと光源を 孔画像と暗瞳孔画像で、差分したものがこれに 用意したりすることで、注視点を検出できるよ なります。 うにしました。隣のミーティング広場の会場に も展示してありますので是非ご覧下さい。 このように瞳孔が浮き彫りになってきて、画 像処理で比較的簡単にコストを安く瞳孔を検出 できるようになります。この部分を再度、高分 とで、注視点を求めることができます。結局、 解能化しますとここに小さな点が出ます。これ 較正というのはありますけれども、補正によっ は光源の角膜反射といいまして、角膜の表面で てほぼ正確な注視点結果が得られます。較正と の反射像になります。この角膜反射像と瞳孔の いうのは、このkの値を求めることにつながり 中心の相対位置関係から、視線の方向を検出で ます。 きるという方法を取っています。 ここでちょっと動画を見ていただきます。目 これが先ほどの装置のイメージです。瞳孔と を見てみますと、角膜反射と瞳孔との相対位置 角膜反射検出に基づく頭部移動を許容して、較 が移動していることが分かると思います。それ 正容易な注視点検出ということで理論を考えた と同時に注視点を出しています。マウスカーソ ものです。二つのカメラでステレオ構成にして ルを出していますが、これが素早く動いている ありますので、瞳孔の3次元座標が分かります。 ことが分かります。 向かって左側のカメラに注目していただきます この結果は、頭部を動かしても注視点がぴっ と、カメラの位置が分かっていますので、瞳孔 たり合うことを示すために出したもので、カメ までのベクトルが分かることが理解いただける ラ二つとそれから画面上の真ん中にある指標、 と思います。これと垂直な面を仮想視点平面と 計3点を3秒ずつ見て視点較正をして、画面上の9 定義しました。目が動きますと瞳孔が動いて、 点ある指標の位置を順番に3秒ずつ見てもらった 仮想視点平面が顔にいつも垂直になるように動 ときの注視点分布を出しています。画面から きます。視線は瞳孔から視対象面といって、モ 80cm 離れたところに基準の頭の位置がありまし ニターの画面だと思っていただければいいので て、そこから左右5cm、それから前後5cm とか動 すけども、この位置まで向きます。見ていると かしてもらって、9点を見たときの注視点を出し ころを“注視点”と今は定義しています。仮想 たものです。このように重なっておりまして、 視点平面と視線との交点を定義して、水平面と 精度は充分であると考えられます。 仮想視点平面上の注視点がなす角度φ(ファ こちらは、今年になって考えたもので、画面 イ)というもの、それから、もう一つのカメラ 上を3秒間くらい見ているうちに自動較正して、 から瞳孔への直線とこの視線ベクトルとの間の 先ほどのkという値が求められるというもので なす角度θ(シータ)というものが定義できま す。データとしては、右目の黄緑と左目の水色 す。これらから、こちらのカメラに映る画像の の注視点が、このように今求められたものを出 上の角膜反射と瞳孔中心へのベクトルrという しています。それでも数センチのズレで、画面 ものを求めますと、この傾きφ’とこのrの長 上の注視点が求められることが分かりました。 さとに1対1対応があるという関係をつくること このずれをどうしても無くさなくてはいけない ができます。結果的に、こちらのφ’が求めら ということで、画面上の1点を見てもらってこれ れれば、こちらのφも分かりますし、このrの を補正することができ、平行移動してこの赤の ベクトルの長さが分かれば、それを定数倍して ように左右の目を合わせますと、注視点に合う やるとθが求められるということで、この点が ことが分かりました。 求められます。その先に注視点があるというこ これは健常者のお子さんです。実験装置を使 って見てもらって、注視点の精度等を調べる実 験を行いました。例えばこの左上の注視点分布 は、大きな丸が左右に動くのを目で追ってもら った結果で、右上の図は人工的に作画した女の 子の顔を見てもらった時のものです。それから 下の図は、ロゴが動くのを追ってもらった時の 注視点分布です。実際に動画を見ていただきま すと、少し視線が遅れていますけれども、これ はお子さんに「画面を見てください」とだけ言 って何も指示は出していないためです。今回、 いくつか不具合が見つかっていますので、それ は今後改善していきたいと思っておりますが、7 ~8割の部分ではうまくいっています。 今回、頭部移動を許容して較正が容易な注視 点検出装置を開発して、小学生を対象に動画を 表示した場合の注視点検出実験を行い、精度等 を確かめました。今後の開発事項としては、眼 瞼が瞳孔にかぶさってしまいますと精度が下が るということ、頭部が動いた瞬間に注視点誤差 がでるということ、これらの解決を次の目標と したいと思います。そして、まばたきの部分は 注視点データが飛んでしまうことがあるため、 これをどうやって提示、表示していくかという ことを検討したいと考えています。また、今は アナログの白黒の NT 方式の普通のカメラを使っ て実験しているのですが、これをデジタル化す ると間違いなく精度が向上しますので、カメラ のデジタル化に向けて高精度化を図っていきた いと思います。 最後に、刺激画像と注視点分布の結果からど うやって診断をするのかということ。これは浜 松医大のほうが中心になるかと思います。以上 です。ありがとうございました。 【 配布資料 】 これまでの経緯 注視点検出に基づく 乳児の自閉症スクリーニング機器の開発 海老澤嘉伸 静岡大学 工学部 システム工学科 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 土屋 賢治 鈴木 勝昭 株式会社タイカ 次世代商品開発室 徳谷 恵樹 • 昨年のメディカルイノベーションフォーラム2009「研 究開発シーズ/ニーズの紹介」にて、浜松医科大学と 静岡大学との同テーマに関する共同研究について紹 介 • 成果として、株式会社タイカ が機器開発に参画 • 科学技術振興機構 先端計測分析技術・機器開発 事業「プロトタイプ実証・実用化プログラム」に採択 支援期間:2009年度~2011年度 自閉症:わかっていること 3歳までに発症する発達障害 • 社会的相互作用の障害 他人の情緒がわからない、他人に接近できない、視線を合わせ ない • 意思伝達の障害 気持ちを伝え(られ)ない、 ジェスチャーを使えない • 限局した興味と行動 順序へのこだわり、 特殊な感覚への興味、 反復的な行動 社会生活に大きな支障 自閉症とその関連疾患 自閉症 ★社会的相互作用の障害 ★意思伝達の障害 ★限局した興味と行動 高機能自閉症 子どもの 知的障害のないもの (IQ>70) アスペルガー症候群 1~2% 自閉症児の予後 早期に教育的介入を始めないと、 社会生活の基礎的なトレーニングが不足し、 社会適応が不十分なものとなる。 二次障害(うつ・不安など)の出現により、 社会適応は一層遅れる。 知的障害がなく、言葉の遅れのないも の 特定不能の広汎性発達障害 3症状がそろわないもの 3歳までの診断 現在の自閉症診断における問題点 現在の自閉症診断における問題点 現在の診断法(行動学的評価) 現在の診断法(行動学的評価) 小児科医・児童精神科医・保健師が行動特徴から 評価 小児科医・児童精神科医・保健師が行動特徴から 評価 ※専門家が少なく、早期診断が難しい マレーンスケール法 [pg/ml] 1200 マレーンスケール法 ※専門家が少なく、早期診断が難しい VEGF 血管内皮成長因子 [pg/ml] 1200 800 検討中の診断法(生物学的評価) 検討中の診断法(生物学的評価) 400 ①特定血清分子法 0 (血管内皮成長因子・血小板由来成長因子) 0 5 ※実用化に至っていない 10 15 20 25 30 健常者 PDGF 血小板由来成長因子 [pg/ml] 10000 自閉症 7500 2500 今回の開発 0 400 0 ①特定血清分子法 (血管内皮成長因子・血小板由来成長因子) 5 10 15 20 25 30 年齢(年) 10 15 20 25 30 PDGF 血小板由来成長因子 健常者 自閉症 5000 2500 0 今回の開発 特定血清分子法 5 7500 ②注視点検出法 0 0 [pg/ml] 10000 ※実用化に至っていない 5000 ②注視点検出法 VEGF 血管内皮成長因子 800 0 5 10 15 20 25 30 年齢(年) 特定血清分子法 定型発達児 自閉症児 注視点検出法の有用性 定型発達児 定型発達児の注視点分布 (n=36) 目 口 体 他 自閉症児の注視点分布 (n=15) 目 口 体 他 使用装置・条件 80 60 定型発達児の注視点分布 (n=36) 注視点分布(%) 注視点分布(%) 2歳児を対象とした注視点分布 人物の顔を視覚刺激として与えると ●定型発達児 注視点は主に目の部分に集中 ●自閉症児 目を見ずに口やその他の部分を 見る 自閉症児 注視点分布(%) 自閉症児の注視点分布異常 40 20 80 自閉症児の注視点分布 (n=15) 60 40 20 ISCAN社 非装着式 Jones et al., 2008 車用チャイルドシートに固定し、体の動きを規制 新しい診断・スクリーニング法としての期待 ●侵襲がなく簡便・制約が少ない ●2歳以前でも検出可能 ●再現性がある ●保健所の1歳6ヶ月検診に導入 注視点検出法による 3歳までの診断 0 目 口 体 他 0 目 口 体 他 カメラからの距離: 76.2cm、 目の高さ一定 自閉症乳児診断用の注視点検出装置の研究開発 ・自閉症乳幼児が健常児と注視点分布が異なることを利用した 診断支援 ・頭部の移動を許容し、注視点較正が最小限で済む装置が必要 試作した注視点検出のための装置構成 注視点検出のための眼の特徴点検出 ・瞳孔検出法: 2台のカメラの同期を1ms程度ずらし、各カメラの 露光に合わせて各光源を点灯させ、各カメラで瞳孔画像と暗瞳孔 画像を交互に得る。それらの差分画像から瞳孔を抽出し、両瞳孔 の3次元座標を検出。 注視点検出のための眼の特徴点検出 ・高分解能化した眼の画像からの瞳孔中心と角膜反射 の検出 光源の角膜反射 差分画像 明瞳孔 明瞳孔 暗瞳孔 暗瞳孔 瞳孔と角膜反射検出に基づく 頭部移動を許容し、較正容易な注視点検出理論 y x 瞳孔中心 z 差分画像 φ θ φ' r Y X 明瞳孔画像 暗瞳孔画像 右カメラの画像 暗瞳孔画像 頭部移動を許容できることを示す実験 方法:ディスプレイ上の中央の1点と2台のカメラの計3点を見て注視点較正 した後、9点の視標を3秒間注視した時の頭部移動に対する注視点を検出 結果:基準位置から頭部を左右前後に各5cm移動させても、検出された注 視点位置は変化しない。 方法:使用前に画面の任意の位置を3秒間観察させ自動較正。その後、中 央の視標1点を1秒見て補正 結果:自動較正のみでは、どの位置の視標に対しても同様に若干平行移 動した注視点検出結果となった。補正によって、ほぼ正確な注視点結果 が得られた。 250 ● 基準(80cm) ● 右 5cm 50 ● 前 5cm ● 後 5cm -50 ○ 視標 -150 0 100 X [mm] 200 300 ● 右眼(補正前) 150 ● 左 5cm 150 Y [mm] 注視点自動較正による注視点結果と補正の結果 ● 左眼(補正前) 250 -250 -300 -200 -100 φ = φ' と θ =k|r| の関係を利用して較正 左カメラの画像 ● 左眼(補正後) Y [mm] 明瞳孔画像 角膜反射 50 ● 右眼(補正後) ● 平均(補正後) -50 ○ 視標 -150 -250 -300 -200 -100 0 100 X [mm] 200 300 子供を被験者にした実験の様子 PC画面に表示した動画像と注視点分布の例 黒円が左右にゆっくりと3往復 ロゴが回転しながら前後左右に移動 おわりに 頭部の移動を許容し、較正が容易な注視点検出装 置を開発した。動画を表示し、小学生を対象に注視 点検出実験を開始した。 今後の開発事項 • 瞳孔が眼瞼に隠れたときや、頭部が動いた瞬間に注視 点誤差が生じるため、それらを解決する。 • まばたきの部分の除去した注視点結果の提示法の検討 • カメラのディジタル化による注視点検出の高精度化 • 刺激画像と注視点分布結果からの診断法の検討 連携プロジェクト及び連携形成 への取り組み紹介② 「介護・リハビリロボットの ボトルネックとイノベーション」 豊橋技術科学大学 生産システム工学系 教授 寺嶋 株式会社ケーイーアール 代表取締役社長 柿原 一彦 清章 【連携プロジェクト及び連携形成への取り組み紹介 ②】 「介護・リハビリロボットの ボトルネックとイノベーション」 寺嶋 一彦 豊橋技術科学大学 生産システム工学系 柿原 教授 清章 株式会社ケーイーアール 代表取締役社長 本日は、介護・リハビリロボットのボトルネ 従来はロボットを搬送・移動する際に、柵を ックとイノベーションというテーマで、私と共 作り隔離して行ったのですが、将来的に新しい 同研究をしている株式会社ケーイーアール代表 ロボットでは、搬送してから組んで仕上げる形 取締役社長の柿原清章の二人の研究についてお を目指して、セル生産ロボットも含め、今取り 話します。 組まれています。介護・リハビリロボットにつ 私は全方向移動型電動車椅子を10年近く研究 いても、将来的にはやはり総合的な一つのロボ しておりまして、1号機と2号機の両方を隣のミ ットでいろんなことができるといいのですが、 ーティング広場に展示しています。まず、その なかなかそういうわけにはいきません。ホンダ 中のからくりをお話させていただきます。次に の ASIMO も技術としては非常に素晴らしいので これをもう少し発展させた歩行リハビリ訓練ロ すが、実用化されるにはまだ少しかかります。 ボットのボトルネックと解決に向けて、ビデオ 筑波大学のパワースーツも素晴らしい技術です を見ながらお話させていただきます。 が、力のアシストには限界もありますし、人に 最近、次世代ロボットという言葉が流行って よっては信号が伝わりにくいとか、装着型が必 おりましてロボットの研究は非常に活発です。 ずしも気分がいいわけではなさそうだというこ 21世紀は超高齢化社会、男女共同参画社会であ とがあるようです。 り、楽しく働ける労働、生きがいのある社会の 私どもは、重労働軽減・介護支援におけるロ 形成が求められています。次世代ロボットはそ ボット開発のコンセプトとして、使われるロボ れに対する解決策として非常に有望視されてい ット、活用されるロボットというのは何だろう ます。次世代ロボットの活躍分野は、フィール と考えながら研究しています。やはりこれがな ド応用・支援ロボット、それから産業応用・支 いと社会貢献とはなかなかいえないと思います。 援ロボット、生活応用・支援ロボット、社会応 “いつか”ではなくて、私の生きている間にそ 用・特殊環境支援ロボットといったものがあり れを何とかしたいと思います。完全自立型ロボ まして、私の狙っているところは産業応用・支 ットの導入は、いろんな面でコスト的にも技術 援ロボットと生活支援です。この分野に関して 的にも問題点がまだまだあります。丸抱えで支 は、ホンダの ASIMO などが非常に有望視されて 援するのではなくて、働きたくなる、訓練した います。 くなるような環境を作ることが大切だと思いま す。例えば大学でも優秀な学生にはアシスト量 ものを考えて、トータル的に介護の機器を開発 を少なめにしてモチベーションを与えてやる、 して、トータルに評価していく。トヨタの生産 かなり指導しないといけない学生には十分指導 方式も、全体最適化を考えてやっています。こ してあるレベルまで引っ張ってやるほうが良い の分野も、やはり全体の最適化を考えて進めて と思います。ロボットも丸抱えではなくて、人 いかなくてはいけないと思っています。 の状況に応じて、働きたいとか訓練したくなる 私どもの研究室では、クレーン式のパワーア ように自立性を持たせることができればと考え シスト装置を使ってお風呂への移入浴や歩行訓 ています。人間に自立性を持たせて足りないと 練を行い、マッサージロボット(人間型の多指 ころをロボットがやるということです。そして ハンドを使ったマッサージなど)、あるいは遠隔 働けば働くほど元気になり、生きがいを見出す でのマスタースレーブ(原子炉など人間が入っ ことのできる、そういう職場環境にすることが ていけない、あるいは完全自動が難しい所をマ 理想で、人から楽しい創造的な仕事を奪っては スタースレーブでやるなど)、あるいは遠隔リハ いけないと思っています。つまり人と協調する ビリや介護、車椅子の研究をしています。 アシストロボットです。力やスキルは装置であ 今回、車椅子と移動式リハビリ装置の開発で るロボットやパワーアシストやスキルアシスト はケーイーアールさんと一緒にやらせていただ を使って、判断や操作は人の方が優れているの いています。この会社は、これまでシーケンサ で人がやる、そんなロボットを開発したいと考 ー、制御ボックス、コントローラーの開発をさ えています。これは、介護する側にもされる側 れていましたが、今はそれだけではなくて介護 にも、優しい動作を実現していると思いますの のような身近なロボットも開発されています。 で、これを融合して協調するロボットを開発し 柿原社長と私は10数年以前からの知り合いです ようと現在研究しています。 が、ある研究会で一緒になって、豊川と豊橋と ターゲットとしては、介護のナーシングステ は近いですので、いろいろ行き来している間に ーション、スマートナーシングステーション、 こちらからいろんなシーズを提案して共同研究 あるいはワーカーロボットの協調作業のステー をすることになりました。大学でのモノづくり ションを作って、皆がここへ来て、一緒に開発 は、学生が中心になって製作してくれますけれ し、一緒にフィードバックし、利用化技術や活 ども、やはり難しい面があります。現在は、あ 用化技術を発展させていこうという取り組みを る程度大学で設計して、モノは会社で作ってい 考えています。介護はベッドから起き上がらせ ただき、利用化技術の段階で一緒にあれこれ検 て車椅子に移乗させ、リハビリをしたり、歩行 討しながら作っています。 訓練をしたり、トイレに入ったり、浴槽に入っ 現在は、このようなやり方で、全方向移動型 たり、働くことができるようにすることです。 車椅子を開発しています。全方向移動型といい このようにトータルで見ますと、車椅子だけ開 ますのは、例えば農作業をする時は、前・後の 発していても、移乗などに問題があれば車椅子 移動に加えて横にも行きたいのですが、切り返 がいくら素晴らしいものでも全体としてはなか して行かないといけないので難しいわけです。 なか難しいのが現状です。ですからトータルに つまり全方向といいますのは、いろんな方向に 瞬時に行けるということです。普通の車椅子で 前横モーメントが速度に変わってまいります。 すと切り返して横に行きますが、この全方向移 そのためにはゲインがありまして、これで増幅 動型車椅子は、横にすっと蟹歩きができます。 するわけです。ノイズカットのためにローパス 病院や医療福祉、あるいは AGV でも使えます。 フィルターが入っています。何故こうしたかと 例えば、救急車で助けに行った時に、邪魔にな いいますと、人間がすぐ止めたいとか、ちょっ らずにすっと入ることができます。全方向移動 と早く行きたいとか、そういうことを自分の力 というのは、介護だけではなくて、いろんな分 で即座にできるためには、センサーをつけてや 野に将来性があるということです。 ったほうがいいと考えたからです。これをボタ これは1号機です。7~8年前に作って、外側 ンでやりますと、一定の時は一定で行くのです は4年前にリニューアルしたのですが、中身は最 が、減速しようと思うとまたボタンを押さない 初に作ったそのままです。4つの車輪がありまし といけません。そうではなくて、自分の気持ち て、オムニホイールです。ロボコンなんかに使 が直ぐに手の操作を通して対応できる形がよい われていますが、これは私たちが開発したもの わけです。ところがそうしますと、手振れの問 です。車輪が4つありますので、これで前へ行き 題があります。手振れをセンサーがキャッチす ます。普通は車輪が抵抗になるのですが、ここ ると車椅子が脈動してしまいますが、これは困 にフリーローラーが付いていますので、抵抗な るわけです。上手な方はそういうことはないの くまっすぐ進みます。 ですが、下手な人には高周波が乗らないように それからパワーアシストは、ここを押した時 専門的にいいますとローパスフィルターをつけ に、前に行きたいのか横に行きたいのか、意図 て、カットします。そうすると手振れの問題は を推定するためにセンサーを使っています。こ 解決します。ところが上手な方は巧みにやりま れはミーティング広場で見ていただければと思 すからそんなアシストはいりません。ローパス います。それからジョイスティックでも動かせ フィルターをつけて帯域を少なくすると、動き ます。昔はロボットの研究のために、全自動で 出すときや止まるときに敏感に動かないので、 障害物を認識させるといったことも試したので 上手な人にはそのアシストが邪魔になります。 すが、手の機能がある人にはジョイスティック そのために私どもは、熟練度を推定して、力セ を使って、自分で運転してもらうことにしまし ンサーで熟練度に応じてローパスフィルターの た。ただし、全方向に行くので、危ないときに 帯域を変えるということをしました。 はセンサーでキャッチして障害物を回避するよ 1つ目の改良は、下手な人にはローパスフィ うにしています。これは老老介護を目標にして ルターを効かして手振れが入らないようにし、 おりまして、老人が老人を外へ連れて行く時に 動き出す時も止まる時も、ゆっくりやってもら 力が要るので、ここを押して意図をセンサーで う、上手な人はフィルターを掛けずに、自分の キャッチして、行きたい方向にパワーアシスト スキルでやってもらう、というふうにしたこと で動くようにしました。しかし、ただこれだけ です。2つ目は、全方向に行くことができるよ で動くというわけではないので、アイデアがい うに、前後だけではなくて横も45度も回転もす ります。パワーアシストというのは力を加えて べてセンサーでやるようにしました。自分が45 度方向に行きたくても、上手に45度の力を加え 次に振動制御についてお話します。脈動もそ るのはなかなか難しいのです。センサーはおか うですけれども、乗っている人が快適に乗って しな操作に対してそのまま反応するからです。 もらいたい、あまり振動させたくないと考えて そこで私たちは、本当は45度方向に行きたいの います。私たちは、他の分野ですが、振動制御 だがちょっとずれているという場合に、タッチ も研究しております。液体、たとえば水をタン パネル等を使って、センシングして学習させ、 クで運ぶといった、あるところからあるところ この人はこういう癖なのでこのような操作の時 へ液体を動かすと、どうしても揺れます。位置 はこっちに行きたいのだな、と設定して上手く はフィードバックしますが、液体というのはな いくようになりました。この学習にはファジー かなか測りにくいのでセンサーレスです。自分 推論のニューラルネットワークを使いました。 が動かして揺れるのですから、同じ時間でも揺 このファジー・ニューラルを使わないと、前後 れないように搬送すれば、止まった時もぴたっ は誰でも簡単にできるのですが、横は、なかな と止まっています。ですから振動に関してはセ か完全に横だけの力を加えるのが難しくて、ち ンサーレスで、これが特徴です。これをもっと ょっと流れます。そして、回転も慣れていない 速くできないかと考えました。加減速の制御で と、軸を中心に回れないのです。そこを学習さ すけれども、もっと速くやってもぴたっと止ま せて、ファジー・ニューラルでやりますと、前 るというものを使えば、乗っている人も非常に 後、横も流れずに行くことができ、回転も、座 楽じゃないかと考えました。クレーンの搬送は っている人の重心を中心に容易に回ります。意 ジョイスティックでやりますが、方向制御は人 図推定をセンサーベースだけでなく学習させる 間がやります。その時に、下手な人がやります ことで、きちんと意図を推定させることが可能 と揺れてしまうわけです。人間は眼があります となり、知能化されているということがわかり から、どちらの方向に行くかとか、速さはどう ます。 したらいいかという判断はできるのです。けれ それから手振れがあると速度が変化します。 ども振動制限は難しいのです。ぴたっと停める 手振れのない人は速度が変化しません。上手な と、どうしても揺れてしまいます。そのために 人はいいのですが、操作に不慣れな人はこんな なかなか降ろせないということです。こちらは ものではたまったものではありません。要する 信号を入れて、コントローラーで加速度カーブ に手振れが熟練度になるので、手振れの大きい を揺れないように変形していて、そこにはアル 人にはローパスフィルターのゲインを大きくす ゴリズムがあります。そうすると停まった時に るようにしました。普通のパワーアシストと熟 きれいに停まるのですぐに降ろせます。 練度に合わせてやるやり方を比べて見ますと、 こういうことを人間にあうように作ろうと考 普通のパワーアシストでは脈動してがちゃがち えました。我々は、人間の胴や首、脚の部分を ゃして乗っている人はたまりません。熟練度に モデル化して、パラメータがあるのですが、で あわせるやり方ではスムーズに行きます。スキ きるだけ人間の動作に合うように作りまして、 ルに応じてアシストを変えていくので、スキル それに対して振動しないように設計しました。 アシストと申します。 それに対して主観的ばかりではなく、何か客観 的に快適性が測れないかということで、発汗セ していますと容量は半分で済みます。機構を使 ンサーをつけました。振動すると汗が出やすい いまして新しいものを作りました。そうすると からです。あまり振動しないとストレスがたま 普通のタイヤでできますので、従来の小さいタ らなくて小さいので、これによって快適、不快 イヤでオムニホイールというものではなくて、 適も測れるのではないかと測定した結果が次の 段差越えもできるし、振動も受けにくいものが 通りです。加速度制限をあまりせずによく揺れ できます。そういうことで段差越えが大体6cm、 るほうが点線です。そうすると発汗も多く頭も スロープは傾斜角10°、重量は100kg まで耐えら 胴も揺れています。振動制御をしてできるだけ れるものを作りました。悪路、坂道も登れるし 揺れを小さくした方が緑線で胴も頭もあまり揺 段差のところも越えられます。スラロームもで れず、精神的発汗も少なくなっています。これ きるということで、蟹歩き、真横にも瞬時に行 だけの差が、このように精神的発汗に影響して けます。 います。現在は、快適な走行について研究して います。 最後に、ボトルネックと解決に向けてお話し ます。技術は良いが使われないロボット開発の もうひとつ、ジョイスティックで運転される 問題への解決策として、トータルにものを考え 方について、例えば障害物が前にあってうっか て、つなぎ、移乗ということを考えて、トータ り進んでしまった時に、急に停まるのではなく ルシステムとして介護システムを考えないとい て近くなるとジョイスティックが反力でもって けないと思います。それから、よくいわれる安 後に戻してくるようにします。手に教えて自分 全性の問題をやりたいと思っています。それか で停まるようにするわけです。それでもどんど らコストダウン。基本的にはたくさん売れれば ん進んでしまう場合は、行きたいほうが左です コストダウンはできるのでしょうけれども、コ とジョイスティックが自動的に動いてくれる。 ストダウンをできないとものは売れないと思い そのように、手に教えるというふうにしていま ます。それからスペースの問題。今の車椅子は2 す。距離が近づけば近づくほど反力が大きくな 号機といえども少し大きいです。それを小さく ります。速度は、同じ距離だったら速度が速い します。今はまだターゲットとしては、屋外で ほど危ないので、速度が速いほど反力が強くか 老人をゆったりした感じで運ぶ。だから多少大 かります。速度に比例、距離の2乗に反比例して きくてもいいのではないかと考えていますけれ バネの硬さを変えるように、危険度提示システ ども、横にも機動性があるので、部屋の中でも ムを作っています。 使いたいとなると、あの大きさでは少し難しい 2号機は、平歯車を使って、二つの歯車が違う でしょう。ですから小型化して、備え付けでは 方向ですと駆動軸が回り、同じ方向に歯車を回 なく動けるようなものがいるのではないかとい すと操舵をするようになっています。普通、操 うことで、今回、開発した椅子を2台持ってきま 舵と駆動は別のモーターでやります。そうする した。それについての技術的な紹介と、ボトル と、あまり使わないほうも同じだけの容量のモ ネックと解決に向けての話をさせてもらいまし ーターを用意することになるのですが、このよ た。どうもありがとうございました。 うに単独の動きでも2つのモーターを常に動か 【 配布資料 】 研究開発シーズ/ニーズの紹介 ① 「脳深部刺激療法」 浜松医科大学 医学部脳神経外科 准教授 杉山 憲嗣 ② 「四肢リンパ圧測定の意義と測定機器の開発」 浜松医科大学 医学部第二外科・血管外科 講師 海野 直樹 ③ 「光線力学的療法用光増感剤の開発」 静岡大学 工学部共通講座 准教授 平川 和貴 ④ 「骨切削における噴霧冷却」 静岡大学 工学部物質工学科 教授 木村 元彦 ⑤ 「歩行の特徴分析とリハビリ応用」 豊橋技術科学大学 機械システム工学系 教授 河村 庄造 ⑥ 「音声に対する脳波活動を音声信号から予測する」 豊橋技術科学大学 知識情報工学系 助教 杉本 俊二 【研究開発シーズ/ニーズの紹介 ①】 「脳深部刺激療法」 杉山 憲嗣 浜松医科大学 医学部脳神経外科 准教授 今日は脳深部刺激療法の話をします。まず脳 やって、疼痛を抑えてやろうということで、こ 外科の中の説明です。脳外科の中にも、腫瘍を の治療法が開発されました。外科としては下降 研究しているグループ、血管障害を研究してい 性抑制系がありまして、脳室の周囲から脊髄を るグループ、それからサブスペシャリティにな 下に降りている脳内モルヒネなどが作用する疼 りますが、装置を研究しているグループがあり 痛を非常に強力に抑制するシステムがあり、こ その中に機能的脳外科があります。“機能的”と ちらのほうが刺激されていて疼痛が抑制されて は、腫瘍や血管障害のような器質的な疾患に対 いるのだということになっています。 する意味で呼ばれています。主に、疼痛、頑痛 各レベルに電気刺激の治療法があり、一番末 症といわれる非常に強い疼痛や、不随意運動、 梢では皮膚の上に電気刺激を置くもの、脊髄の てんかんなどの疾患を扱っています。 後索を刺激するもの、そして今日お話する脳深 昔、psychosurgery という悪名高い療法があり ました。脳深部刺激は、もともと疼痛の治療か 部刺激、脳の中に電極を入れて運動野を刺激す るもの、があります。 ら始まったのですが、不随意運動に非常に多く これは神経因性頑痛症の方ですが、2階のバル 使用されるようになっています。欧米では、て コニーから転落してしまいまして、ここの L1の んかんや、一部うつ病、強迫性障害などの精神 ところの腰髄損傷をおこし、このように左側の 疾患などの治療にも使われるようになっていま 足に非常に強い疼痛を訴えられるようになりま す。脳深部刺激は最初、疼痛に対しての治療と した。薬物治療が効かず、神経ブロックが効い して開発されていました。世界的には1970年代 てくれないということでした。それからこの方 です。現在使っている機械は、1986年に疼痛治 は、脊髄後索刺激も行ったのですが余り効果が 療の機械として保険承認され、2000年に不随意 ないということでペインクリニックから浜医大 運動の機械として保険承認されています。 に紹介となりました。この方はこのように視床 ゲートコントロールセオリーが1965年位に出 のところに電極を入れて刺激しました。そうし てきまして、体系の線維を伝わる触覚系の線維 ますと大体70~80%位の疼痛の消失がありまし を刺激することで、細い線維を通ってくる痛覚 て、自制可能となり、仕事に復帰されました。 の刺激を抑制でき、それが脊髄のところで行わ 脳深部刺激療法は、もともとこのような使い方 れているという説でした。しかし、調べてみま をしておりました。これがやがて、不随意運動 したら、このようなことではなかったのです。 の方にも及ぼされて参りました。 そこで、これをもとに太い神経の方を刺激して 今一番使われているのはパーキンソン病に対 する治療です。もともと1950年代頃からパーキ るというそういう風な病気です。 ンソン病などの不随意運動に対して凝固療法が 詳 し く は 、 UPDRS ( Unified Parkinoson's ありましたが、それがこの脳深部刺激療法に変 Disease Rating Scale)という統一スケールで わってきています。その中でも視床下核への脳 評価をしますが、大変に多い病気で10万人あた 深部刺激は特に効果があります。今は、移植や り年間発症率が10人です。静岡県の場合、その 遺伝子治療などがパーキンソン病に対する外科 まま当てはめますと379人の方が年間新たにこの 治療として視野に入ってきていまして、今日は 病気に罹患されるということになります。有病 この話をします。 率は更に多くて1000人に1人いらっしゃいます。 パーキンソン病の説明をちょっとしますと、 従って、静岡県ですと3790人いらっしゃるとい これは中脳の黒質のところにドパミンを出す神 うことになりますが、お年を取るに従って増え 経細胞がありまして、それを中心にした変性疾 ていきますので、今後日本が老齢化していくと 患です。変性というのは神経の調子が悪くなっ 益々増えるのではないかと思われます。大変有 てきてしまって最終的に脱落してしまう病気だ 名な方もパーキンソン病になっていまして、ボ と思っていただければよいかと思います。運動 クサーの方とか俳優の方、それから前のローマ には4大徴候がありまして、まず手の震えが出ま 法王もパーキンソン病ということが知られてい す。4~7ヘルツ位の特に手を楽にしている時に ます。 安静時振戦といいますが、それが起こります。 最初は薬物療法をします。L-dopa というドパ それから動きが非常にスローになります。特に ミンの原材料になるものや、ドパミンの状態の 体筋を使う運動がやりにくくなります。それか 作動薬、分解酵素阻害薬、放出促進薬などを使 ら固縮、手足を他動的に動かしますと、手足が ってみますが、やがて病気が段々進行していく 硬くなります。そして歩行姿勢障害が起こりま に従い、これらの薬の効きが悪くなっていきま す。からだが前傾姿勢になりまして、よちよち す。このような L-dopa の長期使用の副作用を運 と歩くような非常に特徴的な歩行になります。 動合併症といいます。どのようなことが起こっ これを運動の4大徴候といっています。立つのも ていくかといいますと、薬物が効いているはず 非常に時間がかかるようになります。その立っ の時に、このような身体がくねくねするような ている姿勢が非常に不安定になります。前かが 不随意運動が出てきます。こちらの方はこのよ みになって、手を振ることがなくなります。横 うに足がばたばたしてしまいまして、これのた から見ますとこのような非常な小刻みな歩行に めにいつも車椅子を使っていらっしゃいます。 なり、前かがみになるのが特徴です。 これは、実はお薬が効いている時にこうなりま このような hoehn & Yahr の分類がありますが すので、効かない時、オフになってしまうとい 片方から始まりまして両側性になり、歩行性障 うのですが、そのオフの時は動けない。オンの 害へ、さらにそれが進みまして、最終的に車椅 ときもこのようにからだが動いてしまって動け 子生活またはベッド生活になってしまうという ない。そのようなことになってしまいます。 ように進行して参ります。大体 hoehn & Yahr の もうひとつ、日内変動が出て参ります。こち Stage 1から Stage 5に至るまで平均10年位かか らがその日内変動が出ているパーキンソン病歴8 年の方です。オンのときはこのように動けるの ってくるということかと思います。 ですが、オフになってしまうと、このように手 視床下核脳深部刺激ですが、このようになっ を上げてくださいといっても、このくらい小さ た場合に医者はどのようにするかといいますと い手の動きになってしまいます。グーパーをし L-dopa を少しずつ分割投与にします。ちょびち てくださいといっても、これもよく見ますとグ ょびと L-dopa を飲みますと、その都度代謝され ーパーをしようとしてくださっているのですが ましてドパミンになりますので動けるという発 このくらいの手の動きになってしまいます。ご 想です。水に溶いて投与する。ちょっと胃瘻で 自分では立てませんし、歩けません。寝返りを 申し訳ないのですが本当は腸瘻ですが、持続ポ 打つこともできなくなってしまいます。この方 ンプで水をずっと注入してやるなんていう治療 はもう一つ問題点があり、このようによい時間 法もあります。まだ詳細は不明ですが、視床下 帯が1日1時間しかなかったという方です。あと 核の脳深部刺激というのはこの先にあるものだ 23時間は全部オフになってしまうという方でし と思っています。L-dopa をずっと飲ませるのと た。 同じような効果があると思っています。余り理 何故こういうことが起こるかといいますと、 山に木が生えていて雨が降れば小川はいつも流 論的ではないのですが、そのような効果になり ます。 れているという風なことがありますがパーキン よくいわれる“底上げ効果”または“肩代わ ソン病も同じようなものだと思っていただけれ り効果”は、このように、日内変動が出ていい ばいいかと思います。ドパミン神経細胞があり 時に dyskinesia が出てしまうところを、このオ まして、そこに L-dopa の雨が降ります。そうし フのところを持ち上げる。Dyskinesia を減らす ますと L-dopa が代謝され、ドパミン神経細胞の ために抑制を切りますと dyskinesia は出るので 中に蓄えられて、身体を動かす時に使われる。 全体的に動けなくなってしまうのですが、それ よって最初は1日中良い効果が出ています。L- を持ち上げてやりまして、刺激を加えることで dopa は大体1時間から2時間位しか効いていませ 両方の流れを作ってやるとそういう風なことに んので、いつもこうなるわけではありません。 なろうかと思います。 それでも代謝されてドパミン神経細胞の中に蓄 先ほどのこのウェアリングオフ、日内変動が えられますので、いつも使われるという風なこ あった方ですが、この方は実は11年、もう直ぐ とで最初は良い効果ですが、これがだんだん、 12年ですが、10年前に脳深部刺激をしました。 ドパミン神経細胞の数が減って参りますと、L- そして、このように走れるようになり、このオ dopa が入りますと(L-dopa はドパミン神経細胞 フのところが全く1回もなくなりました。この方 以外でも代謝されますので、)全部がどっとドパ にお願いして、ちょっと走っていただいた後に ミンに代謝されてしまいまして、ドパミンの鉄 刺激装置を取らせていただきました。昔は実は 砲水のようになってしまい、dyskinesia が出ま 皮膚の上からアンテナを貼り付けまして刺激を す。ドパミン神経細胞の中には蓄えるところが する装置だったのですが、それを取らせていた ありませんので、これが多くなり過ぎてしまい だきました。そうしますと、このように段々動 ますと、ドーパがなくなってしまい動けなくな けなくなってきます。この方はまだご自分で立 てますので、手術の前の全くのオフのときより に比べまして、振戦、固縮、歩行姿勢障害とも はいいのですが、このようにだんだん動けなく 手術の前よりは優位な改善が見られています。 なって参りまして、大体10分から20分くらいし これは同じようなことですが、オンオフのあ ますと完全に切れてしまうという風な状況にな る方が対象です。オンの時には症状がよい方で ります。それでもう一回刺激をします。もう一 すと、そこに大体揃ってオフの状態がなくなり 回刺激をしますと、このように段々また動ける ますので、大変に良い適用になります。この方 ようになって参ります。これも、1回刺激を切っ もオフの時には、立ち上がろうとしても立ち上 てしまいますと、定状態になるまでに大体10分 がれないのですが、オンのときは立ち上がれま から20分くらいかかります。 す。オフになって手を組みますと全く立ち上が ご本人は切ってしまうと手が痺れてどうも硬 れない。手をついてやっと立ち上がれると、オ くなってしまう、変な感じになるというような ンのときはこのように手の振りもよく、歩きも ことを言ってらっしゃるのですが、10分たった いいのですが、オフになりますとなかなか立ち 後でじゃあ歩いて見ましょうというと、このよ 上がるのも、歩くのもままならないのですが、 うにまた歩けるのです。走ってみてくださいと これが脳深部刺激をしますとこちらに揃うとい いいますと、ご本人はまだちょっと変だという う風になります。 のですが、一応このように走れるようになる。 こちらは、術前術後と6年後です。こちらの方 ということでこの方は薬物の上ではオフの状態 も術後、これは両方とも術後ですが、術後のオ だったのですが、脳深部刺激によってオンにな フの振戦が非常に強いときです。これが刺激の っているという風な状態だということがわかり オン、それから6年後ということで、かなり長期 ます。 に渡ってよい効果があげられることがこの脳深 これが5年半後、これが8年後、そして11年半 部刺激の特徴だと思います。 後で、これは実は今年撮ったものです。この間 残念ながら今の所そういうことで、対症療法 に何があったかといいますと、歩行だけ少し悪 として根治癒を目指す治療ではありません。そ 化しましたが、まだオフの状態というのはなく れから効果がある症状とない症状がありまして 現在でも外来に歩いて通ってこられています。 運動症状には効果がありますが、自律神経症状 歩行はやはり向きを変えるときなどにすくみ足 には無効だと思っています。それから嚥下とか が出てらっしゃいます。残念ながらパーキンソ 涎、それが出るという方が多いのですが、そう ン病の進行は止まらなかったのですが、パーキ いう方への効果はケースバイケースです。 ンソン病の症状は、11年半たってもかなり抑え これは昔からこういうような破壊術がありま られているという風なことだと思います。hoehn して、視床、淡蒼球などが対象になっておりま & Yahr の Stage3から5に至るまで大体この位の して、電気刺激の方は視床の刺激、淡蒼球の刺 期間で、この期間はとっくに経過していますの 激、視床下核の刺激とあるのですが、このよう で、パーキンソン病の進行を遅らせることはで な運動症状に関しては視床下核が最も効果がよ きたのではないかと考えています。 いという風なことが知られています。 こちらは3年以内の患者さんですが、手術の前 最近この脳深部刺激が大変に広がりを見せて おりまして、不随意運動の方ではパーキンソン ますが、先端が4連の電極になっていまして、後 病振戦以外にジストニアという非常にやっかい でどの電極を選ぶか、刺激に使うかを選べるこ な病気があるのですが、それに対しても適用さ とになっています。ただこのような刺激装置、 れています。ヘミバリスムにも一部適用されて 外側からあてがいまして刺激のセッティングを います。それから疼痛の方は、群発頭痛という します。ただ、これはどう見ましても大変に大 非常に強い大変な頭痛があるのですが、それに きいです。なるべくなら小型のもの、リチャー 対して適用されておりまして、日本では行われ ジャブル電池になるというものができたらいい ておりませんが精神科疾患、難治性のうつ病、 と思っています。できましたら頭の中に全部埋 強迫性障害、摂食障害などに対してこの脳深部 め込めるようなものが求められます。頭の中に 刺激が適用されてきています。認知症に対して 全部入るようになるということです。それから も一部適用され、アメリカではてんかんに対し 運動の場所だけ刺激したいわけです。今、電極 て適用されてきています。 はこのように入っているのですが、できました なぜこうなるかということですが、大脳基底 らこういう風に入れたいのです。そうすると頭 核それから視床を介しましたループがありまし の脳表で電極を置く場所が非常に弱くなります て、ドパミンが出なくなりますのでその結果と ので、できましたら曲げられるまたはカーブで して脱抑制がおこり、視床下核とか淡蒼球内節 きるようになるといいなと思っています。脳深 のあるところが非常に興奮してしまうという風 部刺激は、今いろんな疾患に使われるようにな なことが考えられています。よって興奮してい ってきまして、今後も適用される疾患が増えて るところが一部凝固するという風なことで元に くることになると思いますが、小型の電池また 戻そうというのが凝固術だったわけですが、凝 は脳内に埋め込み型のプローブがもう少し小さ 固法をしますと合併症のようなものが出やすい なもの、改善されたものができたらと思ってい のでこのような脳深部刺激をして、これらの場 ます。どなたか企業の方、是非手を上げていた 所の興奮しているところの邪魔をして元に戻す だければ大変嬉しいと思います。宜しくお願い という風な理屈になっています。 します。 やり方ですが、視床下核(ターゲットになる ところですが非常に小さい下核で5~12ミリで す。)の中でも運動の領域がありまして、これが 大体6~3ミリ位です。そこに大分高いところか ら1ミリくらいの電極を入れていくというような ことをします。このような視床下核は非常に興 奮していますので、それを確かめましてそこに 電極を入れていくということをします。これは 今使っている装置で、こちら側が脳の中の電極 これが刺激装置で3分の2が電池です。これが電 極の大体この辺のあたりに埋め込むことになり 【 研究開発シーズ/ニーズの紹介① 脳深部刺激療法 浜松医科大学 脳神経外科 杉山憲嗣 配布資料 】 機能的脳外科 腫瘍 血管障害 外傷 てんかん psychosurgery 脊髄 機能的脳外科 疼痛(頑痛) 治療 不随意運動 パーキンソン 氏病の外科治療 電気刺激療法 今日的な脳深部刺激療法、電気刺激療法 は、まず疼痛の治療に使われた。 1)経皮的末梢神経刺激(TENS) 3) 4) 脳 transcutaneous electrical nerve stimulation 2)脊髄後索電気刺激(DCS) 1) 2) dorsal column stimulation 世界的には、1970年代から使用。 日本では、1986年に保険医療となった。 3)脳深部電気刺激(DBS) deep brain stimulation 4)運動野電気刺激 electrical motor cortex stimulation 適応:各頑痛症、振戦、パーキンソン病 などの不随意運動 神経因性頑痛症に対する脳深部刺激術 46歳、男性。L1 腰髄損傷 50歳、男性。DBS(右側視床刺激) 2階バルコニーから転落し、受傷、対まひとなる。 直後から存在した左側下肢のしびれ感が2-3ヶ月後より疼痛と なり、増強。「左下肢を切り取りたい」と訴える。 薬物治療、神経ブロック、脊髄後索刺激が効果なく、ペインクリ ニックから紹介。 刺激条件:持続250μsec, 頻度10-60 Hz, 強度1.5-3V 手術後、電気刺激により疼痛の70-80%の消失あり、自制内 の痛みとなる。仕事に復帰。 脊髄 パーキンソン病に対する外科治療 • 定位的破壊術 視床中間腹側核(Vim核)破壊術 淡蒼球内節破壊術 • 脳深部刺激療法 (deep brain stimulation DBS) 視床刺激 淡蒼球刺激 視床下核刺激 無名質(下視床部) • ガンマナイフによる破壊手術 • 移植 • 遺伝子治療 パーキンソン氏病:中脳黒質のドパミン神経 細胞を中心とした変性疾患 変性部位 運動4大徴候 黒質 蒼班核 縫線核 迷走神経背側 核 振戦 寡動 固縮 歩行姿勢 障害 扁桃体 嗅球 交感神経節 Hoehn & Yahr stage Stage 0: Stage 1: Stage 2: Stage 3: Stage 4 Stage 5 疫学 統計 症状なし 症状は一側性で体幹障害なし 両側性だがバランス障害なし バランス障害を伴う軽度から中等度 の両側障害。身体的には自立 かなり進んだ障害。介助なしに何とか 歩行、起立が可能 要介助。車椅子あるいはベッド生活 Yahar 0 → I Yahar I → II Yahar II → III Yahar III → IV Yahar IV → V :平均1年3カ月 :平均2年3カ月 :平均2年10カ月 :平均4年 :平均1年9カ月 (A.D.Rocco 1996) L-ドパ長期使用の副作用(運動合併症) ・薬剤が効いている時に不随意運動(ジス キネア) が起こる。 ・薬剤の効果に日内変動が起こる ウェアリングオフ、オンオフ ・年間発症率: 約10/10万人 ・有病率: 117.9/10万人(’89-92年 米子市) 50歳以上 100人に1人! ・男女比: 一般に男:女=1.3:1 日本では男:女=1:1.5 (1988 全国) ・パーキンソン氏病の死亡率:日本では、健康成人と 差がない。 ・地域差あり オランダ イタリア フィンランド アイスランド 0.8 1 1.8 2.8 視床下核脳深部刺激療法 (STN-DBS) (まだ詳細な機序は不明ですが、) STN-DBSの作用≒L-dopaの作用 L-dopa投与 分割投与 水に溶いて投与 腸瘻を作成して持続ポンプで投与 STN-DBS 視床下核脳深部刺激療法の効果 外科治療の注意点 対症療法。 ・底上げ効果 現在のところ、治癒を目指す治療では(ま だ)ない 効果の有る症状と無い症状がある ・L-dopaの肩代わり効果 運動症状には効果がある 便秘、立ちくらみなどの 自律神経症状には無効 嚥下,流涎への効果はcase by case 電気刺激療法 破壊術 振戦 固縮 寡動 歩行・ 姿勢障害 DID (ディスキネジア) 視床 淡蒼球 ◎ ○ ◎ ○ ◎ △ ◎ △ ◎ ◎ × ◎ × ◎ ◎ × △ × ○ ◎ △ ◎ ○ ◎ ◎ 視床 淡蒼球 視床下核 最近の脳深部刺激療法の広がり <脳深部刺激療法の広がり> ・不随意運動疾患 ジストニア、ヘミバリスム ・疼痛疾患 群発頭痛 ・精神科疾患 うつ病、強迫性障害、摂食障害 ・認知症疾患 アルツハイマー病 ・その他 肥満 (薬を減らすことにより) 新たな脳深部刺激装置として欲しい物 ・小型のもの(小型の電池、リチャージャブル電池 体温などを使用した発電機能を持った物) 出来たらburr hole typeが良い。 またはflexibleな薄い物(頭皮下に挿入できる) 現在の刺激装置は 大きすぎる ・長持ちする物 Peter Tass教授のように刺激アルゴリズムを変える ・可能であれば、MRI耐性のもの ・電極の向きを脳内で変えられるシステム カーブ出来るだけでも良い。 顔手体足足体手顔 motor Limbic 5 mm association 12 mm 電極も視床下核には 大きすぎる 【研究開発シーズ/ニーズの紹介 ②】 「四肢リンパ圧測定法の意義と測定機器の開発」 海野 直樹 浜松医科大学 医学部第二外科・血管外科 講師 今日の題名は、四肢リンパ圧測定の意義と測 は開放系とありますけれど、どこかからくるわ 定機器の開発です。リンパというのは、実はか けではありません。血液がずっと末梢まで巡っ らだの全身に張り巡らされている細い管です。 て、手足の末梢、四肢の末梢まで回って、回っ 体中をめぐっている血液の管としては動脈と静 た血液がそのまま静脈となって戻ってくるわけ 脈の管があるわけですが、血管のあるところは ではなくて、血液から染み出たものが透明な液 ほぼ大体どこにでもリンパ管があります。黄色 体となって、赤血球を除く透明な液体となって で示してありますような細かい微細なリンパ管 一部はリンパ管に入って、そしておのおの集合 それからそれが集まって集合リンパ管となって してきて、結局は首の辺りで合流するという形 流れているわけです。体表のところでは皮膚か になっています。血管のようにどこか1箇所に針 ら本当に浅いところ、せいぜい1センチ以内の浅 を刺して、そこから薬を注射すれば全身を回る いところを走っているのがリンパ管です。リン ということはないわけです。即ちそれぞれが中 パ管は非常に重要な働きをしていて、栄養分、 心性に伸びてきていますけれども、一方通行で 逆に老廃物も運搬します。リンパ管の中にはリ あるということになります。 ンパ球といって、生体防御に欠かせない外敵に しかし、いま巷は非常にリンパというのがブ 対する防御反応をするリンパ球が流れていて、 ームになっていて、新聞広告とかインターネッ 体中を巡っています。しかし血液と違って、透 トとかを開くと、リンパという言葉が非常に多 明で無色の液体なので、我々外科医が手術して く出てきます。主には美容、エステ、それから 体を切った時に、血管は傷つけて出血すると赤 健康という分野で、リンパというものはすごく い血となって出てきますので直ぐに分かって血 脚光を浴びています。リンパで美しくなる、リ 管を損傷したぞということで修復できるわけで ンパで健康になるというタイトルで、リンパと すけれどリンパ管に関しては透明な非常にサラ いう言葉は非常に多く出てきます。NHK で「ため サラした液体でその流れも非常にゆるやかで、 してガッテン」という番組 DVD がでていますけ ほとんどの場合、リンパ管というのは可視化で れど、こういう NHK の健康特集番組でもリンパ きません。そして、その中を流れているリンパ で健康になろうとか、リンパをいかにして滞り 液というものも見えません。 なくむくみを解消しようかということを特集し 血管は心臓から体中を巡って、動脈そして静 ています。しかし、それを本当にそうなのか。 脈と巡っていきますので、閉鎖径路、閉鎖回路 という観点で検証した番組は存在しません。な といわれています。しかし一方、リンパ管の方 ぜかというと、リンパは検証する手段がないの です。リンパというのは流れを見る方法があり 物質を使って、これを皮膚に注射して、これが ません。繰り返しになりますけれど、非常にブ リンパ管の方に入って蛍光を発することで、リ ームになっていますけれども、リンパマッサー ンパ管というものを見てきました。形態学的診 ジあるいはリンパエステ、リンパの何とかとい 断です。このインドシアニンググリーンという うのは、全部それを検証することなく、多分こ 物質は、もう30年以上前から医学の分野では、 れがいいだろうということで全部マスコミに載 主に肝機能検査のために必要な物質として、世 っています。逆に効かないと証明する手段もな 界中で安全かつ簡易に使われている検査試薬で いものですから、一方的に美容産業とかエステ す。これは、実は非常に面白い特徴があって、 の分野で、あるいは健康産業の分野で花盛りと インドシアニンググリーンそのものは蛍光物質 なっていますが、医学的に見れば、それぞれは ではないのですが、760ナノメートルの光を当て 検証されていないということになります。 ますと励起されまして、そこからインドシアニ 一方、全く医学的にこのリンパを見る手段は ンググリーンは840ナノメートルの近赤外光を出 無いかというと、一つあります。これはラジオ します。インドシアニンググリーンそのもので アイソトープ、放射性同位元素を皮膚に打った は発光しませんけども、生体に打って、生体内 ところです。皮膚というより皮下です。皮下に のたんぱく質とくっつくことによって、こうい 打ちますと、この左側が正常のものですけども う性格を獲得します。そしてその励起光の波長 足に打つとその放射性同位元素が身体の方に上 そこから出てくる近赤外光、両方とも生体の分 がってきます。正常であれば連続的にあがって 光的窓、即ちヘモグロビンにも吸収されない、 きます。ところが、これはリンパ浮腫という病 水にも吸収されない、即ち比較的生体を深く透 気で、腿の付け根のところにリンパ液が停滞し 過しやすいところにこの波長が属しているため ている人ですが、そうしますとラジオアイソト に、この光を用いてインドシアニンググリーン ープの放射性同位元素が集積していてここでリ を励起させて光らせることができます。インド ンパの澱みがあるよと、これが精一杯の画像診 シアニンググリーンそのものでは光りません。 断法です。しかしラジオアイソトープというの これに血液を混ぜる、あるいはたんぱく質を混 は原子力発電所で作られるものですので、なか ぜると、こういうふうに励起されて光を出しま なかコンスタントに供給されない。1回あたり5 す。この方法を用いれば非常に安いです。1バ 万円以上のお金が掛かる。そして放射性同位元 イアル当たり600円でできますので非常に安い。 素ですので、妊婦さんには使えないとかあるい 先ほどのラジオアイソトープに比べると非常に は放射線遮蔽の装置がいるとか、いろいろな制 安価かつ安全ということで、これを用いれば新 限があり、なおかつ保険適用されていない検査 しいリンパに対する診断手段が獲得できるだろ 法ですから、ちょっと体にむくみがあるからと うということで研究を進めてきました。 かリンパを見たいといっても、簡単にさあ使い ましょうというわけにはいきません。 これは浜松ホトニクス社が作っています PDE、 フォトダイナミックアイという赤外線カメラで そこで我々は、従来からリンパを見る手段と す。プローブのところから先ほどのインドシア して、インドシアニンググリーン(ICG)という ニンググリーンを励起させる励起光を出して、 そしてそれを受光する。プローブが両方の役目 さんです。先ほどと違うのは、これは脚ですけ を果たしているのですが、それを用いることで れども、これは脚の甲に打ったのですが、脚全 これは足ですけれども、足に打って、その後、 体がピカピカと蛍光を発して光っています。そ 流れをカメラプローブで、リアルタイムで観察 の後、正常で見られたようなリンパ管の形態は していくというしくみです。 破壊されていて、描出できません。ところどこ これはリンパの停滞した究極の状態です。象 ろ白い沈殿したような形で蛍光を発する物質が 皮病という範疇に入るリンパ浮腫という病気で あって我々がこの形態のことを天の川サイン、 す。リンパが滞ると脚はむくみます。むくんだ ミルキーウェイサインと命名しました。リンパ だけでなくて、線維化があって皮膚は非常に硬 管の流れが非常に悪くなっている状態というも くなって、こうなります。先天的なものもあれ のも、この方法で分かるようになりました。静 ば、乳がんとか子宮がんのような手術の後にリ 止画で見てみますと、正常人では連続的なリン ンパ管が破壊されたがために、そこでリンパが パ管のイメージが追えますけども、リンパ浮腫 停滞してという二次的なものがあります。日本 の患者では天の川のように、星屑のように蛍光 でだいたい20万人の方が、この二次性のリンパ 物質がずっとディフューズ、びまん性に沈殿し 浮腫になっているといいます。 ているということが分かりました。 しかし一方、世界ではフィラリアという病気 これは子宮がんの後の患者さんです。真ん中 があって、開発途上国などでフィラリアという は従来の方法の放射線同位元素を用いた方法で 一種の虫ですけれども、虫による感染症のため す。それと同じようにリンパ液が停滞している に、インドや中国などで実に合計5千万人の人が よということが一目瞭然で分かります。 リンパ浮腫という病気にかかっているだろうと これは乳がんの後の左の上腕のリンパ浮腫の いわれています。ものすごくポピュラーな物質 方です。同じように手全体がむくんでいるわけ ですけれども、今まで治療の手段はない、検査 ですけれども、そこにリンパが停滞していると 法すらないという状況です。このようにインド いうことが蛍光状から分かります。 シアニンググリーンそのものは緑色の色素なも いろんなパターンがあって、パターン化しま のですから、皮膚の浅いところにツベルクリン すと、A のように皮膚にバックフローしてくる。 反応のように打ちます。そうしますとこの色素 つまり、途絶しているがためにそれから手前の が組織中のたんぱく質とくっついてリンパ管に 皮膚にリンパが出てくるわけです。これをダー 入ってきます。この光っているところが注射し マルバックフローサインといいます。B は脚全体 たところですが、そこからたちどころに細いリ がぴかぴか光る状態です。C は非常に太く拡張し ンパ管に入っていきます。この蛍光イメージを たリンパ管と途絶。そして D がミルキーウェイ 追っていくことで、リンパの流れを観察するこ サインというふうに形態学的に命名しました。 とが可能です。あっという間といっても膝まで このセンシビティー、スペシィフィシティ、即 到達するのに5分から10分、それから鼠蹊部、腿 ち信頼性を、従来のラジオアイソトープのそれ の付け根まで到達するのに20分位かかります。 と比較しても95%以上の信頼性がありました。正 これはリンパが澱んでいるリンパ浮腫の患者 しい形態異状を見る検査法として有用だろうと いうことで、来年度の高度先進医療としてイン も、そのスピード、時間を測ればリンパのスピ ドシアニンググリーンを用いた蛍光脈菅撮影法 ードがわかるだろうということになります。こ を申請中です。これが通れば、いろんな病院で ういうふうに脚に打ってから、膝まで、そして この申請の元に混合診療にひっかかることなく 鼠蹊部までと到達する時間を測れば、その後ろ この検査法が行えるようになるだろうと思いま のリンパの機能も分かるだろうと思います。 す。そして、この高度先進医療が将来の保険診 実際に、マッサージはいいよといいます。ど 療の一貫として、(どこの病院でもこの検査法は のくらい効果があるかというと、その到達時間 別に大規模の設備がいらず、開業医の先生の小 を測ってみますと、やはりなるほど立っていて さなクリニックの机の横で簡単にできる検査で マッサージした分はリンパの到達がぐんと上が すので、)最終的には保険診療として認められて るのです。スピードが上がる、リンパの流れは 普及されることを願っています。もちろんこれ 促進されるということが分かりました。こうい は日本での研究しかまだ行っていませんので、 うふうに自転車に乗って、エルゴメータですけ 世界に向けての普及発展ということも視野に入 ども、自転車に乗って運動するとどうだろう、 れています。 自転車もこういう脚の運動も、やはりリンパ流 これまでは、形態的にリンパ管が異状、破壊 を促進するということが分かりました。 されたり障害を受けたりして形態的な異状につ これは日本人によくある病気です。脚の静脈 いて申し上げてきました。こういうふうにリア 瘤。女性に多いですが、脚の静脈が浮き出てい ルタイムで医師あるいは患者さんが目の前でリ る方。これは静脈の流れが悪くて、静脈の中に ンパ管の異状を可視化できるということは、他 血液が澱んでいるわけです。それでこういうふ の方法、即ち機能的な診断にも使えるだろうと うに、こぶになっているのですが、足がむくむ いうことで、研究を進めてきました。即ち形態 というのは静脈、血管が澱んでいるからだと今 的には、肉眼的な形的には異状はないけれども まで思われてきました。実際その通りですけれ 機能的に劣っているという状態があるのではな ども、教科書にはこの病気でリンパが関与して いかと思っています。そこで、一つの形態的、 いるなんてことはどこにも書いてありませんで 機能的診断として、この流速を測ることにしま した。しかしこの方法でリンパの流れを見てみ した。リンパは当然流れていますから、流れる ると、静脈瘤の患者さんではスピード、リンパ スピードがあるわけです。これはリンパが流れ のスピードが落ちている。即ち、リンパ機能に ているところです。こういうふうにゆっくり流 も影響を及ぼしているということが分かりまし れていきます。リンパはなぜ流れるかというと た。 心臓が流しているわけではなくて、リンパ管そ まだまだいろいろな病気でこのリンパが関与 のものに筋肉がついていて、リンパ管の自立的 しているだろうということは推測できるわけで な律動運動、収縮運動によってリンパ液を押し すけれど、リンパを見る手段がなかったために 上げています。リンパ管そのものの機能ともい 全く、その分野は白紙という状態になっていま えます。ですから、この矢印で示していますよ す。最近、今のことをちょっと発表させていた うに、矢印がだんだん進んでいくわけですけど だいて、実際に静脈瘤の手術をしてみるとリン パの機能は改善するよ。という論文を書かせて いただきました。 することができるようになりました。 実際、本当にそれがリンパ圧なのかというこ ここからが、表題のリンパ圧の測定というこ とを、従来のラジオアイソトープの方法と比較 とになります。機能的診断でリンパの流速とい してみました。従来のラジオアイソトープを皮 うことを申し上げました。流速、速度があるの 膚に打って、もちろんこれは寝た状態でしかで であれば圧があるだろうと、圧というものを見 きないのですが、それをガンマカメラで見てみ てみることにしました。世の中にはリンパ圧を ますと、従来法と同じように相関関係が得られ 測るというのは存在しませんでしたが、血圧と ましたので、従来のラジオアイソトープの方法 いうのは非常に今普及しています。一家に一台 と比べても信頼の値がでるだろうと。これは、 血圧計がある時代です。それは血圧を測定する その足背に打ったところから上がっていく蛍光 という意義が非常に重要だということを皆さん の動きを透明マンシェット、透明の加圧帯を見 ご存知だからです。病院にいって、あるいはお ているところです。だんだん加圧を弱めていけ 医者さんの先生のところにいって、必ず血圧を ば見えるということです。 測るという状態です。血圧はひじの所にマンシ リンパ圧を測定する意義がなかったら、当然 ェット、加圧帯を巻いて聴診器で音を聞くこと 普及もしませんし、こんな測定をしても意味が によって血圧を測ります。この加圧帯を血圧よ ないわけです。これからの課題ですけども、リ りも上げれば、血液がここで止まりますので、 ンパ圧という、今まで医学の中で無かった概念 音は消えます。だんだん圧を緩めていくと、血 ですので、いろんな病気で測っていくと、いろ 圧の方が勝って血流が再開しますので、そこで んなことが分かると思います。リンパ浮腫の患 音が聞こえて、それを血圧収縮期圧というふう 者さんで早速分かったことは、リンパが停滞し に測っているのです。もう何世紀も前からやら ている患者さんでは、リンパ圧が正常な人に比 れている技術です。この方法を応用することに べて低下していることが分かりました。ガンの しました。 手術やフィラリアに感染した後に、リンパ浮腫 これは先ほどの PDE、フォトダイナミックアイ で脚がむくんでくる前に、早期発見に使えない です。カメラプローブです。ここは透明の加圧 だろうかというのがひとつの考え方です。ある 帯です。透明の加圧帯であれば、リンパの流れ いは、最近は高齢者の方で手足がむくむという をこのカメラが見ることができます。そして、 方がいっぱいいらっしゃいます。ここには何か 四肢を加圧します。先ほどと同じ原理でリンパ リンパの機能的な異状がないだろうかと思って をリンパの圧よりも強い圧で加圧すれば、そこ 年代ごとにいろいろ測ってみました。そうしま でリンパの流れは止まります。そこで加圧帯の すと、なるほど70歳以上の方では、リンパ圧が 圧を弱めていったところでリンパの圧が上回れ 低下しているということが分かります。即ち健 ば、それがリンパ圧ということになります。そ 康の指標として、あるいは老化、加齢のひとつ ういう簡単な原理です。こういうふうに、脚の として、リンパの老化というのもあるのではな 場合は透明の加圧帯を巻いて、PDE で見ながら少 いかというふうに現在推測しています。しかし しずつ圧を下げていくことで、リンパ圧を測定 70歳以上の方でも、非常に個人差があります。 非常にお元気な方もあって、非常に個人差が大 きいので、どういう生活、どういう方がリンパ の圧の低下を来たし、どういう方がその低下を 予防できるのか、そういうことも調査して研究 していけたらと思っています。 浜松医大の付属病院は、リンパ圧あるいはリ ンパの機能を測定する専門の検査室を立ち上げ て、脈管検査室というのですが、そこで専門の 看護師さん、専門の臨床検査技師さんがリンパ の機能を測定するという体制を整えました。そ れで大規模な、多くの患者さんを測定すること で、いろいろなエビデンスがこれからでてくる だろうと期待しています。 ご清聴ありがとうございました。 【 発表資料 】 リンパ 四肢リンパ圧測定の意義と測定機器の開発 リンパ管は血管とともに身体のあらゆる組織、臓器に張り巡らされており、外敵に対 する防御、免疫、老廃物の排出、静脈への水分、タンパク質の還流を司っている。 海野直樹 リンパ 浜松医科大学第2外科・血管外科 動脈 身体における体液の循環系 静脈 リンパは今、ちょっとしたブームとなっています。 脈管 心臓血管系 閉鎖系回路 リンパ系 開放形回路 社会の健康志向に乗っかり、美容、健康、エステ、などの分野でブームになってい ますが、これら“リンパ改善療法、健康療法”の効果について検証したものはなく、 また検証方法も現段階ではありません。 なぜ検証方法、手段がないのでしょうか? ためしてガッテン(3)リンパで健康/むくみスッキリ解消 法 NHK 2007年2月7日放送 リンパ管の画像診断方法 リンパ管シンチグラム: Gold standard 撮影に数時間を要する。 放射性同位元素を注射しなければならない。 そのため、妊婦には使用できない。 放射性同位元素が高価である(約5万円/人)。 高額、大規模な撮影機器、設備が必要。 画像の解釈に熟練を要する。 インドシアニングリーンリンパ管蛍光リンパ管造影 法によるリンパ還流異常の新しい形態学的診断 本邦では保険適応がなされていない。 リンパの停滞 放射線同位元素を 皮膚に注射 スクリーニング目的では使用できない。 正常人 リンパ浮腫症 インドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影法 インドシアニングリーン(ICG) 血液や組織中の蛋白とまぜると蛍光を発する ICG溶液 <特性> ICGは蛋白との結合により波長760nm光で励起され、840nmの近赤外光を発します。こ の波長は生体組織を良く透過する分光的窓(波長700-1000nm近赤外線)に属します。 ICGは副作用をほとんど有さず安価な薬物です(一回の検査あたり約600円) ICG溶液+血液 安価である (一人あたり約600円) 副作用はほとんどなく、安全な薬品である。 肝機能検査や、眼底検査(眼科)で日常的に使用されている。 動物実験や、基礎実験による安全試験を行うことなく、即、臨床の現場 で行うことができる。 リンパ還流異常の代表的疾患:リンパ浮腫 新しいリンパ画像診断方法を開発いたしました インドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影法 足背に10 % ICG液0.2mlを 皮下注 浜松ホトニクス社製 Photodynamic Eye 赤外線カメラシステム 現在リンパ浮腫症に対する根本的 な治療方法はありません。 リアルタイムで患 者と一緒にモニ ター上で観察 浜松医科大学倫理委員会の研究実施承認取得 (2006年1月) ICG皮下注射 健常者 インドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影法 リンパ浮腫患者 健常人 リンパ浮腫患者 子宮癌手術後リンパ浮腫患者リンパ管像 75歳 女性 乳癌手術後の右上肢リンパ浮腫 右下肢のむくみ シンチグラム ICG リンパ造影 リンパ管の形態的異常所見 従来法であるラジオアイソトープ注射によるリンパ管シンチグラム法との 比較において、リンパ還流異常の検査法として sennsitivity、specificityともに95%以上あることが判明いたしました。 平成22年度の高度先進医療として “インドシアニングリーンを用いた脈管蛍光撮影法” として申請いたしました。 インドシアニングリーンリンパ管蛍光リンパ管造影 法によるリンパ還流異常の新しい機能的診断 リンパ流リアルタイム観察 インドシアニングリーンリンパ管蛍光リンパ管造影 法によるリンパ還流異常の新しい機能的診断-1 四肢リンパ流速の測定 リンパ管機能検査-1 リンパ流real time観察 足背部に注射したICGがソケイ部に到達する時間測定からリンパ流速を測定できる。 リンパ管機能検査-1 リンパ管機能検査-1 VS マッサージの効果について検証 VS 運動の効果について検証 立位 左足 P = 0.094 T TG (sec) T TG (sec) 立位 マッサージ 立位 マッサージ P = 0.047 T TG (sec) P = 0.007 P = 0.009 立位 左足 右足 マッサージ 右足 T TG (sec) 立位 運動 運動 立位 運動 運動はリンパ流を促進する マッサージはリンパ流を促進する リンパ管機能検査-1 下肢静脈瘤患者(日本人の50歳以上の女性では5人に1人が罹患)におけるリンパ流 を測定。 800 * TT(s) 600 400 200 0 Vx (-) 静脈瘤(-) Vx (+) 静脈瘤(+) 静脈瘤のある足ではリンパ流の速度が遅い。 “下肢静脈瘤患者におけるリンパ機能障害は、手術(ストリッピング術)により 改善する“ ICGリンパ管撮影法を応用した四肢リンパ圧の測定 ・四肢の血圧を測定する手技を応用 インドシアニングリーンリンパ管蛍光リンパ管造影 法によるリンパ還流異常の新しい機能的診断-2 四肢リンパ圧の測定 血圧は四肢にマンシェット(加圧帯)をまき、圧を加えて血流を止め、次第に圧を 下げていき血流が再開された時点を聴診器による音で判定して収縮期圧としていま す。 四肢リンパ圧の測定 手背や足背の皮下にICGを注射した後に、リンパ管に取り込まれたICGの動き を赤外線カメラで観察しながら、次第にマンシェットの圧を下げ、リンパ流の再開 が認められた時点をリンパ管のポンプ圧(リンパ圧)として測定します。 リンパ管シンチグラムを利用したリンパ管圧の測定 実際のリンパ圧測定風景と測定のアルゴリズム 皮下に注射されたリンパ管内のICGの動きは60mmHgの加圧で容易にストップ出来 ます。ここから圧を5~10mmHgづつ下げていき、赤外線カメラでICG蛍光がマン シェットを超える時の圧を記録します。 リンパ管圧測定検査 リンパ管の収縮圧、すなわちリンパ駒出圧を測定した。 足に通常の血圧計を巻いて加圧した状態 でICGを足背部に注射し、 徐々に圧を下げていき、ICGが膝上まで 上ってこれた時の圧をリンパ駒出圧とし て測定した。 測定のアルゴリズム 透明マンシェットを用いた蛍光リンパ圧測定 ICG蛍光リンパ圧測定法とリンパ管シンチグラムによる測定値 の相関関係 リンパ浮腫患者にけるリンパ圧の低下 実際に健常人54人とリンパ浮腫患者26人における下肢リンパ圧を測定しました。 リンパ浮腫患者は、子宮または卵巣癌の手術と術後放射線 療法を施行され、下肢の腫脹を来している患者です。その結果、リンパ浮腫患 者では健常人に比し、有意にリンパ圧が低下していることが判明しました。 加齢による四肢リンパ圧の低下についての調査 Modiらはリンパ浮腫患者の上肢リンパ圧をラジオアイソトープによるリンパシンチグ ラム法により測定し、健常人よりていかしていることから、リンパ浮腫発症の早期診 断検査法として有望であると報告している。(2007年) 今後の展開-1 40 本研究は浜松医科大学倫理委員会の承認の下で行 mmHg 30 われており、附属病院内にリンパ圧測定検査を行 う脈管検査室が既に整備されました。今後、リン パ環流不全と疾患の関わりや加齢との関連などリ ンパ圧の異常と病気との関連についてさらなる研 究を行う予定です。 * 20 10 >7 0 40 -6 9 20 -3 9 0 •P < 0.05 • n = 30 each group Age (yrs) 70歳以上の高齢者において、リンパ駒出圧の低下が認められる 参考文献 N.Unno: Preliminary experience with a novel fluorescence lymphography using indocyanine green in patients with secondary lymphedema. Journal of Vascular Surgery Vol.45, pp1016-1021, 2007 N.Unno: Quantitative lymph imaging for assessment of lymph function using indocyanine green fluorescent lymphography. European Jounal of Vascular and Endovascular Surgery Vol.36(2) pp230-236, 2008 N.Unno:Impaired lymphatic function recovered after great saphenous vein stripping in patients with varicose vein. Venodynamic and lymphodynamic results. Journal of Vascular Surgery Vol.50, pp1085-1091, 2009 海野直樹:形態学的・機能的異常をとらえる新しい画像診断法 ICG蛍光Navigation Surger すべて 草野満夫監修 (株)インターメデイカ pp301-302, 2008 【研究開発シーズ/ニーズの紹介 ③】 「光線力学的療法用光増感剤の開発」 平川 和貴 静岡大学工学部共通講座 准教授 今回は、光線力学的療法用光増感剤の開発と っていることから光増感剤の薬の評価にも利用 いうことで、がんを光で治療する技術とその薬 できるのではないかと考えております。その他 の基礎研究についてご紹介いたします。私は医 関連して、例えば DNA の光化学、ポルフィリン 学に関しては全くの素人で、物理化学や光化学 合成、光触媒、金属ナノ粒子といったようなこ の研究を行っておりました。ある時、たまたま とをキーワードにして研究を行っています。 医学部の方で仕事をさせていただく機会があり 今回お話しますこのがんの光治療、光線力学 まして、その時に光化学をつかったがんの治療 的療法ですが、フォトダイナミックセラピーと 法があることを知りました。光増感剤と呼ばれ 書きまして PDT と略します。こちらの治療法は、 る薬はポルフィリンといわれる物質を使います 浜松医科大学さんをはじめとして、浜松地域で が偶然にもポルフィリンの合成も行っておりま は大学や病院、企業など多くの関係機関におい したので、それまで行ってきた研究が人の役に て非常に高いレベルで行われております。世界 立つ分野に活かせるのではないかと考え、静岡 的に見ても、世界トップレベルの地域ではない 大学に着任してから力を入れて研究を行ってお かと私は思っています。 ります。 PDT ですが、始めにまず薬をがん細胞の中に入 私どもの研究室では、がんの光線力学的療法 れなければいけません。主に静脈注射によって 用の光増感剤の開発を目標として設計や合成、 血液に乗せ、血流によって全身に薬がいくわけ 植物由来成分を使用する可能性の検討、活性評 ですが、ある時間がたちますと特定の臓器にだ 価そのメカニズムの解明を研究しております。 け溜まる時間帯ができます。がん細胞は薬を比 今回は、その薬についてのお話です。従来、ど 較的取り込みやすく、また外に出しにくいとい のようなメカニズムでガンを攻撃するかといい った特徴があります。すると、特定の時間だけ ますと、活性酸素を武器にしております。がん を見計らいますと、特定の臓器の腫瘍のがん細 細胞の中にあります酸素を活性酸素に変えて武 胞にばかり薬が溜まった時間ができますので、 器にし、がん細胞にダメージを与えるという方 そこを見計らい外から光ファイバーなどを使っ 法でした。そこで新しいメカニズム、酸素に依 てピンポイントで光照射を行います。その結果 存しないタイプの薬ができないかと考え、研究 細胞の中で光化学反応が起こり細胞にダメージ を行っています。その他にいくつか関連研究を が与えられると、細胞の壊死、アポトーシスな 行っており、活性酸素の検出・定量法について どが引き起こされます。現在、日本では胃や食 も研究しています。がんの治療で活性酸素を使 道、肺、子宮頸部がんの早期治療の保険適用と なっています。この治療法の特徴は、非侵襲的 は行っていないので、何とか特別のターゲット であるということです。手術に比べ、光ファイ を狙うことができないかと考えています。こち バーを挿入するだけであり、非常に低侵襲で、 らは少しプラスの電荷をもった、TMPyIP という 麻酔がかけられないなどの理由で手術ができな ポルフィリンと呼ばれる物質の一種です。こち い場合には重要な選択肢になるといわれていま らも核の中に入りまして光照射をしますと、一 す。また臓器の温存ができるということが非常 重項酸素を発生させまして、DNA を酸化して、ア に大きな特徴とされています。しかしいいとこ ポドーシス(細胞自殺)などを起こすというこ ろばかりではなくて、やはり取り残しという問 とが解りました。これによれば DNA だけを狙う 題、それから抗がん剤で現在いろいろな研究が ことも可能ですが、この物質は光が当たると無 されていますけれども、特定のターゲットを狙 差別に一重項酸素を発生しますので、もう少し うというところがなかなか難しいとされていま 選択性をあげられないかと考えております。 す。またその後、副作用として日焼けが起こり これはポルフィリンではありませんが私ども やすいといったことがあるということです。こ がいろいろ調べたもので、ベルベリンとパルマ こでターゲットとなるのが、がん細胞の中の細 チンというプラスの電荷をもった物質で、これ 胞膜のたんぱく質などで、DNA がターゲットにな は植物から単離されるものです。DNA はマイナス らないかと考えております。 の電荷を持ったチェーンのようなものですので こちらが実際に治療で使われている ALA とい ここに静電気的にプラスとマイナスが引き合っ う物質です。細胞の中に入りますと、がん細胞 てはまり込みます。この作用により DNA を狙う の中でプロトポルフィリンⅨと呼ばれるリング ことができるのではないかということが一つご 状の物質が作られます。これは診断にも使えま ざいます。また、この物質の面白いところです すが、光が照射されると細胞内酸素から一重項 が、この物質に光を照射しても、ただ失活され 酸素を発生できるので、治療にも使えるという るだけで、吸収した光のエネルギーが熱となっ ことです。こちらは共同研究者と一緒に行った て回りに出ていくだけということがあります。 研究の共著論文で私が直接行った部分ではない これが DNA にはまった状態で光照射を行います のですが、例えば細胞の核、核の周り、中には と、酸素分子にエネルギー移動を行いまして一 入りませんので、には、実際 DNA の損傷部分は 重項酸素という活性酸素の一つを生成します。 できません。PDT で DNA を傷つけ正常な細胞に万 これは普通の酸素よりも非常に酸化力が強いも が一ダメージを与えてしまいますとガン化が起 ので DNA やたんぱく質などにダメージを与える きてしまうので、むしろ、まずいということも ことができるものです。 あり DNA を避けたほうがいいという考え方もあ 浜松医科大学の光量子医学研究センターで測 ります。現在抗がん剤はやはり DNA をターゲッ 定させていただいたデータで見ますと最初は何 トとしたものが研究されていまして、特定の塩 もないのですが、DNA にはまるとスペクトルピー 基配列だけを狙ったところもかなり大きなプロ クが出てきます。これは近赤外発光を示してお ジェクトとして行われています。ただ PDT では りまして、1270nm 付近に一重項酸素がこういう 特に特別のターゲットを狙うというところまで 特徴的な発光を示すということです。これに消 去剤を入れるとピークが消えます。こういう方 ニンに結合するとどうなっていくかということ 法にしますと、例えばたんぱく質などにも多少 を、実験と理論でさらに研究を進めています。 組み込まれますが、DNA ほどはこういった活性の まだこれはそれほど大きなことは分かっていな 発現は起こりませんので、DNA だけを狙ったもの いのですが、例えばこの二つの物質ともにアデ もこの物質を使えばできるのではないかという ニンとチミンだけの配列には比較的はまりやす 可能性がございます。 くなります。AT-リッチ配列に結合しやすいので 次に、そのメカニズムについてベルベリンで すが、グアニンが入りますと少し結合力は下が 説明致します。このプラスのチャージを持った ります。このようなことが分かりまして、ある 部分が活性部位になります。ここが光を吸収し 程度この近くの塩基配列により、活性の制御を そのエネルギーを酸素分子に渡して活性酸素の できるのではないかということも分かってきま 一重項酸素に変えるという部位になります。ま した。また一重項酸素の生成効率などについて たこちらの部位がスイッチのようになりまして も、こちらの塩基配列によってある程度制御で ここを励起した場合でもここから電子移動が起 きるというようなこともいろいろ分かってきま こります。これにより失活が起こりまして、エ して、この辺を上手く使っていきますと、実際 ネルギー移動で酸素を一重項酸素に変える前に に臨床で使っているようなものに何とか応用で こちらを失活させるというメカニズムです。し きるのではないかと考えながら研究を行ってい かしプラスの電荷があるところがありまして、 ます。 DNA に結合しますと多少電子状態が変わってきま ここまで一旦まとめますと、水溶液の中、あ して、この電子移動が抑えられ、このような一 るいはたんぱく質などがあった場合にはほとん 重項酸素の発生が可能になることがわかってき ど活性化せずスイッチが入らないのですが、DNA ました。これは DNA の代わりに、マイナスのチ を認識することで活性化がオンになります。こ ャージを持ったポリマーでも同様のことが起こ れにより DNA をターゲットとすることができる ります。このようなメカニズムが分かり、現在 のではないかと考え現在研究しております。私 ポルフィリンなどにも応用できることも分かっ どもでは化学レベルでの研究しかできません。 てきまして、研究を進めているところです。 細胞を使った実験や、動物を使った実験といっ これは、この一重項酸素で DNA を酸化した結 た生物学的に高いレベル、更に高次のレベルと 果で、P16のヒトのがん抑制遺伝子を損傷させた いうのは全くノウハウも何もございませんので ものです。がん抑制遺伝子を狙っても全くいい お力を貸していただける方を現在探していると ことはないのですが、これは1つのモデルとし ころです。 て行ってみた研究で、グアニンだけを酸化する 次 のトピッ クス「 新たな 機構の光 増感剤 開 ことが分かっています。一重項酸素もグアニン 発」についてお話します。これまでは活性酸素 だけを狙えるのですが、さらにこれを特定の塩 を使ったがん治療に関するものでしたが、現在 基配列だけを狙っていけないかということを考 の PDT の課題として治療効果の向上がございま えました。これはシミュレーションですが DNA す。その原因の一つとなっていますのが、活性 の GAAA、グアニン、アデニン、アデニン、アデ 酸素を武器としているために、がん細胞内の酸 素濃度が低い事があります。そのため酸素を使 紫外線は人体に有害ということもあり、可視光 わないと武器が作れないにも関わらず、その原 線は先ほどのご講演でもありましたが、丁度 料がない、材料がないということで苦戦すると 600nm とか800nm 位の長い波長、赤い色の光でし ころになります。ここをどうするかということ たら透過率が高いということで非常に使いやす ですが例えば酸素に依存しない新しい薬ができ いということがあります。そこで大体エネルギ ないかということが、化学分野の研究者が挑戦 ーにして2エレクトロンボルト程度でできないか すべきテーマではないかなと考えて研究してい ということを考えたのですが、なかなかエネル ます。 ギー的に難しいということがございました。そ 光によって、DNA やたんぱく質といった生体分 こで着目しましたのが、ポルフィリン環の真ん 子を傷つけるメカニズムには、このような光を 中にリンを結合したポルフィリンのリン錯体で 吸収した励起状態となった物質が酸素にエネル す。こちらはポルフィリンの中でも特異的に高 ギーを渡して生成する一重項酸素があります。 い酸化力を持っています。これは分子の安定性 その他にマイナーな活性酸素もありまして、こ を崩さないで酸化力だけを高めるといった非常 ちらが大部分のメカニズムとして関わるわけで に絶妙な電子配置があるからですが、これを使 すが、もう一つ、生体分子から電子を引き抜く いますと活性酸素の精製も起こり、物質からの という反応があります。DNA やたんぱく質から電 電子の引き抜きも比較的起こりやすいというこ 子がなくなりますから、酸化されたことになり とがわかって参りました。これにより、比較的 ます。DNA が酸化され、傷つけばアポドーシスに 低酸素濃度のがん細胞内でも活性を示す可能性 もつながることが分かってきています。この電 が見えてまいりました。これは試験管の中の実 子移動が何とかできないかということで、その 験でしかありませんがヒト血清アルブミンなど 研究を進めて参りました。 の水溶性のたんぱく質と相互作用して、(これは これは、これまでに私どもが調べた DNA の損 たんぱく質の中にアミノ酸の示す自家蛍光です 傷のメカニズムと光増感剤の励起エネルギーの けども、)酸化されますとこの蛍光が落ちてきま 依存性です。紫外線を吸収するようなものでは す。そういった方法で調べたところ、これは一 ET と書いてありますが、これは電子移動、エレ 重項酸素の消去剤などを入れても活性が持続す クトロントランスファーの頭文字ですが、電子 るということから、この電子移動によって酸素 移動でほとんど損傷が起こります。電子移動と の少ないところでも効くのではないかと、その は電子を引き抜くことですが、これは非常に高 ようなことが分かってきています。 い酸化力が必要で、比較的大きなエネルギーが それから DNA に対するダメージですが、例え 必要とされます。紫外線を使うものには非常に ば窒素などを流し込みまして酸素を無くした場 得意なメカニズムですが、可視光線ではほとん 合にも起こるというようなことですとか、電子 ど起こらないメカニズムです。可視光線の場合 移動の場合、例えばグアニンが連続したところ は、一重項酸素によるメカニズムがメインにな が特異的に酸化されるということが分かってい ってきます。一重項酸素は、非常に少ないエネ ます。このような電子移動に特徴的なダメージ ルギーでもできることがわかっておりまして、 が起こるということも確認しておりまして、電 子移動を使ったメカニズムで効くのではないか などに、うまく含ませておきまして簡単に測る ということがまだ化学レベルの研究ですけども ことができるのではないかと考えているところ 分かってきました。現在、もう少し水溶性を上 です。 げる方法や、さらに酸化力を高める方法、使い 以上をまとめますと、まず光線力学的療法の やすさの向上ということを研究しているところ 光増感剤の開発で、抗がん剤のように DNA をタ です。 ーゲットとできるようなものがだんだんわかっ まとめますと、ポルフィリンのリン錯体を使 て参りました。抗がん剤ではやはり副作用とい うと一重項酸素の生成もするのですが電子移動 う大きい問題がありますが、こちらの PDT では でダメージを与えるということができます。こ 光が当たったときしか毒性が発現しませんので の二つのメカニズムがあるので、低酸素濃度の 非常に副作用が少ないということに特徴があり がん細胞内でも活性を維持できる可能性がある ます。その特徴を活かしつつ最先端の抗がん剤 のではないかと考えています。例えばマウスに のように特定の DNA を狙うというようなことが 経口投与した場合にはほとんど急性毒性はない できるのではないかということが分かってきま ということが分かっておりまして、他の抗がん した。その他この新しいメカニズムの光増感剤 剤などに使っている物質と比べましてもかなり の研究を行っておりまして、いろいろお力を貸 動物実験のレベルですが、毒性が低いというこ していただける方を探しているところです。 とが分かっております。今後こういったことで 最後に、こちらの研究では私どもだけではな 細胞レベル、また更に高次のレベルでできれば かなかできないことがございまして、特に浜松 ということを考えています。 医科大学の先生方にいろいろお力をお借りしま 最後に、活性酸素の定量法の研究について少 しご説明いたします。こちらは葉酸、ビタミン の一種ですが、人体にも無害で安全でまた非常 に安い試薬になります。これを使うことにより まして、先ほどの一重項酸素などが比較的に簡 単に測れます。これは蛍光を使いまして、始め は蛍光がないのですが一重項酸素によって酸化 されますと強い蛍光が発現するようになるとい うことで、発光を測定する手法です。現在まだ これも実験室レベルの研究しか行っておりませ んが、いろいろな応用や実用化について研究を 進めております。例えばこういったマイクロプ レートを使って簡便に迅速にいろいろなものを 評価する方法が考えられますし、それからもう 少し簡単にこういったチューブなどを使って簡 単にサンプルを測るとか、こういった試薬を紙 した。ここで御礼を申し上げたいと思います。 【 配布資料 】 ご紹介する研究テーマ メディカルイノベーションフォーラム2009 光線力学的療法用光増感剤の開発 ・がんの光線力学的療法用光増感剤の開発 (設計・合成・探索・活性評価・作用機序の解明) 1. ターゲット選択的に攻撃できる光増感剤の機構 ~ターゲット選択性の向上と低酸素条件の克服~ 2. 酸素に依存しない光増感剤の候補 静岡大学工学部 平川 和貴 OH N +N O P N N O HO 次世代光増感剤 細胞内分布 DNA結合 その他、 安全・安価な試薬を用いた活性酸素の検出・定量法 1. 光増感剤の活性評価 2. 食品添加物、化粧品等の安全性や抗酸化作用の評価 3. DNAの光化学、4. ポルフィリン合成、5. 光触媒、 6. 金属ナノ粒子等をキーワードにした研究を行っております。 2009年11月16日 がんの光治療:光線力学的療法 PDTにおけるDNA光損傷 PhotoDynamic Therapy 光ファイバー等 CH 3 N (A) - N N CH2CH2COO- OOCH2CH2C N NH N CH 3 Zn H 3C N N N N H2C HN C H N CH 3 (B) 薬剤(光増感剤) 投与 ~時間 の経過 腫瘍へ 薬剤が集中 HC TMPyP CH2 ALA derived PPIX 光照射 → がん細胞の壊死 アポトーシス ・ 胃、食道、肺、子宮頸部がんの早期に保険適応 ・ 非侵襲的、臓器温存可能 ・ 取り残しの問題、ターゲット選択性、日焼け Detection of intracellular TMPyP and 5-aminolevulic acid (ALA)-derived prptoporphyrin IX (PPIX). (A) HL-60 cells (1×106 cells / mL) were treated with 100 µM TMPyP or ALA at 37 for 2-6 h and analyzed with a flow cytometer (FACScan). (B) The intracellular location of TMPyP and ALA-derived PPIX in HL-60. DNAに結合すると1O2を生成可能に 1. ターゲット選択的に作用する光増感剤 + 20 mM NaN3 (1O2消去剤) ベルベリン O O N + H3CO OCH3 パルマチン OCH3 hν OCH3 1O 2 1O 2 N + H3CO OCH3 + 100 bp-µM DNA DNA鎖に静電的相互作用で簡単に結合 50 µM Berberine マイナーグルーブ結合 特定のターゲットを選択的に攻撃できる光増感剤の開発へ 1150 1250 1350 Wavelength / nm Chem. Res. Toxicol. 2005. Photochem. Photobiol. 2008. 等 一重項酸素由来近赤外線スペクトル 3O 3O2 2 Berberine (Palmatine) 11O generation O2 generation OFF ON 1O 生成でDNAのグアニンを選択的に損傷 2 DNA認識による活性制御機構 OR e- OR CT S 700 1 S0 スイッチ (Charge) OCH3 - SO3Na n - - - - 2 (3’) (5’) (3’) ベルベリン Sensitizer-DNA DNAモデルにアニオン性ポリマー H2 H C C 3O (5’) OR OR パルマチン Absorbance H3CO 2 T1 hν N + 1O Absorbance 活性部位 (Sensitizer) hν - N + H3CO OCH3 - Nucleotide number of human p16 tumor suppressor gene - 電気泳動の結果から解析したDNA損傷の塩基配列特異性 Poly(sodium 4-styrenesulfonate): PSS DNA鎖との相互作用と活性制御 DNAとの相互作用における熱力学的データ 計算で求めたDNA-光増感剤の結合状態 DNA-binding parameters of berberine and palmatine Compound G:C A:T A:T A:T - ∆H kJ mol-1 DNA K M-1 AATT AGTC 13100 8200 47.0 14.4 AATT AGTC 9600 6600 42.9 23.2 Berberine < 0.001 Palmatine Side-View ATリッチマイナーグルーブに結合 Top-View 塩基配列と相互作用の関係を実験と理論で解析 この光増感剤の機構を利用して、特定のターゲットを 選択的に攻撃できる光増感剤を開発中 光増感剤 (ベルベリン、 パルマチン) 1O 2 生成活性 OFF AT-リッチ配列に結合しやすい。 塩基配列によって相互作用の強さおよび活性が異なる。 PDTの課題の一つ: 治療効果の向上 その原因の一つ: ・がん細胞内の低い酸素濃度 ・PDTの武器である一重項酸素 の生成に制限 考えられる対策: ・酸素に依存しないメカニズム ・新規光増感剤の開発 hν 1O 2 3O 0.093 0.043 < 0.001 0.054 0.031 2. 新たな機構の光増感剤開発へ まとめ1 hν Φφ 1O DNA 2 3O 2 2 DNA-光増感剤複合体 ON 化学分野の研究者が挑戦すべきテーマ 光化学反応による生体分子損傷 のメカニズム 光増感剤の吸収波長とDNA 損傷機構 Photosensitizer 一重項酸素 3O 2 1O 2 紫外線 活性酸素生成 O2・- 光増感剤 1Sens* (Sens) 3Sens* H2O2 Metal or hν •OH e- 生体分子からの 電子引き抜き 電子移動 生体分子 (DNA、タンパク質等) O N +N P N O 1O 2 HO 3O 2 2つの機構で作用 生体分子 (DNA、タンパク質等) ・光励起状態において強い酸化力 ET Sb(V)porphyrin 2.1 1O 2, ET P(V)porphyrin 2.1 1O 2, ET TMPyP 1.9 1O 2 Methylene blue 1.9 1O 2 + + + 5 10 20 20 (µM) 0min 10min 20min 30min 1000 800 600 400 ヒト血清アルブミン (HSA) 350 400 450 500 N +N P O N HO 200 0 300 OH N O 60min 90min 120min P(V)ポルフィリン 550 メカニズム: 1O は部分的、電子移動が主な機構 2 リンポルフィリン(ポルフィリンP(V)錯体) Single-strand + 0 2.7 まとめ2 P(V)ポルフィリン:DNAを光酸化 + 20 20 O2·- (major), OH· (minor) Riboflavin HSAのアミノ酸残基に由来する蛍光が光酸化で減少 J. Photochem. Photobiol. B 2007. 日本レーザー医学会誌 2009. 等 + 10 ET 3.1~3.3 Fluorescence spectra of HSA photosensitized by P(V)porphyrin. ・低酸素濃度のがん細胞内でも活性を示す可能性 + 5 3.4 Wavelength/ nm ・電子移動機構でDNAやタンパク質を損傷可能 hν + P(V)TPP 0 O2·- Pteridine P(V)ポルフィリン: 水溶性タンパク質HSAを光酸化 Fluorescent intensity OH N e- Double-strand ET 3.6 1200 一重項酸素(1O2)生成 光誘起電子移動 3.6 NADH 可視光線では、1O2 機構が主要になり、電子移動は困難 酸素に依存しない光線力学的療法用光増感剤 ポルフィリンP(V)錯体 hν DNA-damaging Mechanism Xanthone TiO2 可視光線 hν S1 energy eV HO + P OH 水溶性タンパク質HSAやDNAを光酸化 e- ・一重項酸素:部分的 ・電子移動反応が重要 Autoradiogram of DNA fragments photoirradiated in the presence of P(V)porphyrin. The reaction mixture containing 32P-labeled 98 bp DNA fragment, 10 µM CT DNA, P(V)porphyrin and 2.5 v% ethanol in 100 µL of 10 mM sodium phosphate buffer (pH 7.8) was irradiated (365 nm, 8 J cm-2). Then, the DNA fragments were treated with piperidine and analyzed by electrophoresis. Double Strand (二本鎖) Single Strand (一本鎖) 電気泳動でDNA損傷を評価、電子移動機構の関与を確認 * P(V)porphyrin R + P 3O 2 R 1O 2 HSA ポルフィリンP(V)錯体: 低酸素濃度のがん細胞内でも 活性を維持できる可能性 3. 安全・安価な活性酸素の定量法 活性酸素検出・定量のイメージ (1) 蛍光 特許第4247393号 ON 活性酸素による 葉酸誘導体の蛍光増強 R1 R4 N N (1) スクリーニング 1. 試薬キット(葉酸等) 2. 評価するサンプル 400 反応 N N 300 光増感剤* 200 1O マイクロプレート 2 3O 2 光化学反応 + 活性酸素 100 OFF R1 0 350 450 N CH2N マイクロプレートリーダー N 活性酸素検出・定量のイメージ (2) 結論・将来展望 蛍光(強度)測定 発光 2. 酸素に依存しない光増感剤 ・臨床試験を目指した試験・研究、薬剤の共同開発を希望 (セル) 励起光 光線力学的療法用光増感剤の開発 1. DNAを選択的ターゲットにできる光増感剤 励起光 評価するサンプル Number N (2) 簡易測定 キット + 評価物質 光増感剤など 評価 R3 Wavelength / nm H2N 発光ダイオード R2 N 550 測定 Signal Intensity H2N 反応後 蛍光増強したサンプル 発光 その他、 ・副作用の光毒性の化学予防物質の探索 ・活性酸素定量や光毒性モデル系による光増感剤の評価 試薬を含んだ紙 ご清聴ありがとうございました。 本研究にご協力頂いている方 平野 達 客員教授 (浜松医科大学 岡崎 茂俊 特任教授 光量子医学研究セ) (浜松医科大学 光量子医学研究セ) 瀬川 浩司 教授 (東京大学 野坂 芳雄 教授 (長岡技術科学大学) 川西 正祐 教授 (鈴鹿医療科学大学) 西村 賢宣 准教授 (筑波大学) 新井 達郎 教授 (筑波大学) 先端研) お問い合わせ先 静岡大学 イノベーション共同研究センター TEL:053-478-1704 FAX:053-478-1711 E-mail:[email protected] 【研究開発シーズ/ニーズの紹介 ④】 「骨切削における噴霧冷却」 木村 元彦 静岡大学工学部物質工学科 教授 本日は現場のニーズから展開した研究の紹介 をさせていただきます。 オリジナルのものです。従来は、ノズルから水だ けを出していたのですが、そこに生理食塩水と窒 医療の現場では、骨をドリルで削ることがあり 素ガスを混ぜて、二相流で霧状にして冷却をしよ ます。今は煙を出して削っていますが、実際医療 うというわけです。こういったものを工学の分野 の現場でこんなに煙を出して削ることはほとん では噴霧冷却と呼びます。 どないかと思います。実際には生理食塩水をかけ では冷却を全くしないとどうなるでしょうか。 て冷却します。生理食塩水をかけずに、骨をドリ これはドリルで骨を削っているところですが、温 ルで削ると高温になります。医療で使うドリルは 度計の目盛りを見ていただくと120℃をはるかに 一般に、普通の工業用途に使われている毎分数千 越えており、ドリルのヘッドそのものが物凄い温 回転というような低い回転のものではなく、1分 度になっていることが分かっていただけると思 間に10万回転する歯医者さんで使っているよう います。実は骨よりもドリルのヘッドの方が熱く なドリルを使います。冷却をしないと、ものすご なっています。毎分10万回転という物凄いスピー い温度になります。100℃以上になります。骨も ドで回っているものですから、冷却水が当たりま 含め、ほとんどの細胞は40数度で死んでしまうた せん。冷却水を当てても高温になります。液にガ め冷却をするのです。 スを混ぜると境膜抵抗というのですが、伝熱の抵 骨切削では熱とは別に水溜り、水飛沫の問題も 抗を減らすことができます。これは工業分野では あります。水をかけると冷却はできるのですが、 既に多くの場面で使われておりまして、特に製鉄 その水をかけたところに10万回転という物凄い 所で真っ赤な鉄板を冷却する為に水をかけるの スピードのドリルを当てると、(想像していただ ですが、単純に水をかけてしまうと膜沸騰といい ければ分かると思うのですが、)物凄い水しぶき まして非常に伝熱効率が悪くなります。それを防 が出て、非常に見辛い状況になり、その中で先生 ぐために実際は二相流で冷却をするというやり 方は手術をやっておられるのが現状です。解決し 方が、化学工学では極めて常識の範囲です。温度 たい問題は二つありました。一つはもっとしっか の差は低いのですが、ドリルの回転によって、膜 り冷却をしたい。もう一つのより大きなニーズは 沸騰とは違いますが、水が直接当たらないような 視野をもっとよく見えるようにしたい。その二つ 膜ができてしまっているので、それを破壊する方 の問題を解決する技術になります。 法はないかという事で、二相流を使うアイデアで 研究に使ったドリルは、市販の脳外科用のドリ ルです。先端の刃はいろんなものがあるのですが 始めたところです。 実験は3項目やっています。1つ目は、温度の測 定です。骨を削りながら、赤外線のカメラで温度 す。水だけの時は、水しぶきができるので少し大 を測定しています。ポンプで水と空気を送ってい きな値になります。それにエアを混ぜて黒っぽく ますが、これは窒素ガスを送る形に相当します。 なると、RGB 値は小さくなって下の黒が見えてく 2つ目が、定量的な伝熱量の測定です。具体的に るということです。 は伝熱係数を測定したいということで、中にヒー これが実験条件です。単相流、水だけの時と、 ターを入れて暖めた金属の表面が二相流でどの 二相流、空気を混ぜた時、それぞれここに示した くらい冷えるのかということをみています。この 条件で実験しました。ドリルは毎分10万回転する 類の研究は機械分野で既に古くから行われてい 医療用のドリルです。カメラは、アビオニクスの ますが、その復習みたいな研究になります。3つ 赤外線のカメラを使いました。 目は視野がどれほど良くなるかという実験です。 1つ目の温度変化についての実験結果は次の これが実は一番大きいニーズでした。ビデオカメ 通りです。いずれも30秒間一定の力で削った場合 ラで二相流によって削っているところの画を撮 の加熱の値です。このグラフは、横軸が空気の流 り、どれほど見やすくなったかを定量化いたしま 量で縦軸が温度になります。エアを全く入れない した。定量化するにはどうやって撮ればいいかと とそれなりに温度が上がります。エアを入れると いうことで大分いろいろ行いました。骨で実験す 温度の上昇が押さえられるということが、赤外線 る代わりに、ファントムとして木材の表面を黒く の画で見ても分かるという状況になります。これ 塗って、そこを削るような状態で、二相流の水を は、もう少し長く測定したグラフで、横軸が水の かける。あるいは水だけをかけて高速のドリルで 流量、縦軸が温度です。空気の量を段々増やして 攪拌すると、水しぶきが立って白っぽくなります いきますとプロットは上から下に落ちてきます。 ので、画像解析をして白っぽさや見難さを測定し 水の量を増やせば当然冷却効果が増えますが、同 ました。画像解析では、撮影した画像をビットマ じ水の流量でも空気を増やせば冷却効果も大き ップのデータにして評価しました。画像の RGB の くなることが分かります。時間的な安定性はどう 値、レッド、グリーン、ブルーの値は0から255ま かということも実は大事です。水だけではちょろ でありますが、その値が大きいということは明る ちょろ流すと当たったり外れたり不安定になり いということです。明るいということは、水しぶ ますが、水の流量を増やすと温度も一定に下がっ きがあって見辛くなっているということになり ていきます。同じようなことが空気を入れた二相 ます。逆に値が小さければ黒いということで、下 流でも起こります。空気を段々増やしていくと、 の黒が見えているということで視野の阻害が少 水の流量はたった毎分10ml、非常に低い水量でも ないという評価をしました。 エアを混ぜると低い温度で安定させることがで 具体的にプログラムをかけて解析をすると次 きます。霧の水滴のスピードが速いものですから のような値が出ます。平均値で表現していますか ドリルヘッドまで到達するというお話を冒頭に ら、0から255の値になり、結果として30くらいの しました。横軸に霧のスピードを計算値で求めて 値が出るということになります。もう少し表現を 縦軸に冷却効果を取ってみると、水の流量が増え 変えると RGB では、0が真っ黒で、255が真っ白で れば当然下がるのですが、エアの液滴速度が増加 す。その値がこのようなグレースケールになりま します。液滴の速度が速いということは、粒のス ピードが速いということで、冷却効果が大きくな るということが分かります。骨の表面に対する論 理的な評価もしています。伝熱係数というパラメ ータで表すとこんな形になります。エアを混ぜて やると伝熱係数を上げていくことができます。 3つ目の視野がどのくらい良くなるのか、は次 の 通 り で す 。 縦 軸 が 視 野 の 阻 害 係 数 、 view obstruction value です。横軸が水の量です。値 が小さいほど視野が良いということになります。 実際の画を見て頂くとこんな感じになります。こ の辺ですと白っぽくなっているのが分かるので すが、エアを混ぜていくと白い水しぶきがほとん ど分からなくなってくるというような状態です。 視野の改善の状況とドリルのヘッドの加熱状 態を、様々な条件でプロットしたのがこれです。 冷却効果、視野改善効果とありますが、空気の流 量が少ないとこの楕円の辺りにきますが、エアを いっぱい混ぜていくとどんどん0に近づいていき ます。温度も下げられるし、視野も改善できると いうわけです。冒頭に言いましたけれども、ドリ ルの回転が毎分10万回転とすごく早いものです から、液滴がはじかれてしまう、あるいは溜まっ た水がはねてしまって視野の阻害になるという 問題点が改善される技術というわけです。 結論としては、冷却、伝熱において二相流を使 うことがキーポイントです。人工腎臓など物質移 動でも同じですが、境膜の所の伝熱の抵抗、ある いは物質移動の抵抗を小さくする方法として、二 相流にする方法と振動させる方法があります。い ろんなところで、2つの抵抗を減らす技術を応用 して頂けると良いのかなということも併せてご 紹介します。 以上です。ありがとうございました。 【 発表資料 】 背景 成形外科手術での骨切削時 ドリルと骨との間で摩擦熱が発生 骨切削における噴霧冷却 冷却なしでは約160℃まで加熱 脊椎手術などでは、摩擦熱により神経損傷など生体に悪影響 一般に人の細胞は42.5℃以上で細胞死を起こす 現在 生理食塩水での注水冷却 静岡大学工学部 木村元彦 問題点 多量の注水が必要 水溜り、水飛沫により視野が妨げられる 手術の進行に支障 有効な冷却効果とともに良好な視野を確保するための技術が必要 骨切削用高速ドリル 骨切削時の温度変化(無冷却) 生理食塩水 噴霧冷却ノズル 窒素ガス 実験操作 骨切削時のドリルヘッドに対する噴霧冷却効果 気液二相流での冷却(噴霧冷却) 噴霧冷却 : 空気流れに微細液滴を添加して冷却をおこなう方法 1. サンプル(豚の大腿骨)を噴霧冷却をおこないながら切削(約30秒間) 2. 赤外線温度測定装置で温度変化を測定・1秒毎に温度を記録 ・境膜抵抗の減少効果 ・液滴の潜熱効果 高い冷却効果 3. 測定された最高温度を用いて冷却効果を評価 幅広い工業分野で利用 (主に鉄鋼製造過程での高温壁面の冷却) ⑤ ② ① 本研究の目的 水量の削減による良好な視野の確保 気液二相流での冷却、視野改善効果の評価 ⑤ ⑧ ⑥ 気液二相流を使用 高い冷却効果 ④ ③ ⑦ ①IR camera ②drill ③sample (bone) ④nozzle ⑤flow meter ⑥valve ⑦pump ⑧compressor 骨表面に対する冷却効果 骨切削時の視野改善の評価 1. 患部を模擬したくぼみ(木材:半径1cm 深さ0.5mm)を作製 2. 噴霧冷却装置を取り付けたドリルヘッドを設置 流量計(air) 3. 噴霧をおこないながらドリルを回転 4. ビデオカメラで撮影し、画像処理 流量計(water) 5. 本研究で作成したプログラムにより画像解析 ⑤ 噴霧ノズル 加熱部 ① ② 温度測定部 ④ ⑤ ⑧ ⑥ ⑦ ③ ①video camera ②drill ③hole plate ④nozzle ⑤flow meter ⑥valve ⑦pump ⑧compressor 幅 3 px x 高さ 3 px [24 bit] (9 画素) 画像解析プログラム概要 視野阻害の主な原因 : 水飛沫、水溜り Bmpファイル(24Bit)を使用 白色 Height 「どれだけ白くなるか」を視野阻害を評価する指標とした y Width a : 座標 (x、y)=(1、1) 色 (R、G、B)=(0、0、0) 1 2 b : 座標 (x、y)=(2、1) 1 a 色 (R、G、B)=(255、255、255) b 0 値増大 白くなる 視野阻害増大 値減少 黒くなる 視野阻害減少 Height 2 2 3 pixel 0 1 0 x 0 1 2 Width *基準値:噴霧をしてない場合の画像解析値 プログラム実行 解析値= 全ての座標の色の値((R、G、B)値の平均)の合計 画像解像度(縦[pixel]×横[pixel]) 解析値 29.26 Blue 255 255 0 1 0 0 0 0 2 255 255 255 1 0 255 0 0 1 1 0 255 255 1 2 255 0 255 2 0 255 255 255 2 1 0 0 255 2 2 0 255 0 R 平均値:141.67 色を値として評価をおこなう 視野阻害度 = 噴霧中の画像解析値 - 基準値 Green 0 ---------- 3 pixel Red 0 G 平均値:141.67 B 平均値:141.67 0 Air 2 l/min Water 0.02 l/min Water 0.08 l/min 実験条件 水 空気 ノズル内径 流量 [ml/min] 温度 [℃] 流量 [l/min] 温度 [℃] [mm] 単相流(水のみ) 10~80 20 二相流 10~30 0.5~2 25 1.1、1.45、1.69、1.99 R 平均値:49.88 R 平均値:34.01 ドリル : Sommet (回転数:100,000rpm) G 平均値:42.16 G 平均値:29.39 赤外線温度測定装置 : 日本アビオニクス B 平均値:35.88 B 平均値:25.95 結果 ドリルヘッドに対する冷却効果 (赤外線カメラでの観察) 骨切削時のドリルヘッドに対する噴霧冷却効果 90 wat e r 0 . 0 1 l / m i n wat e r 0 . 0 2 l / m i n 0.6 water 0.08l/min 0.4 0.2 0 0 0.5 1 1.5 2 ai r [l / m i n ] water 0.02 l/min air 0 l/min 約45℃ 約30℃ water 0.08 l/min air 0 l/min 約30℃ water 0.02 l/min air 2 l/min drillhead temperature [℃] 上昇温度 [℃] 1 0.8 a ir flow = 0 l/min 80 a ir flow = 0.5 l/min 70 a ir flow = 1 l/min 60 a ir flow = 1.5 l/min 50 a ir flow = 2 l/min 40 30 20 水流量増加とともに、冷却効果増大 10 0 10 20 30 40 50 60 70 空気流量増加とともに、冷却効果増大 80 water flow [ml/mim] 気液二相流では少ない水流量でも高い冷却効果が得られた 骨切削時のドリルヘッドに対する噴霧冷却効果(経時変化) 骨切削時のドリルヘッドに対する噴霧冷却効果(経時変化) drillhead temperature [℃] 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 water flow [ml/min] 10 20 30 40 60 80 0 5 10 15 20 25 time [s] 水流量が増大すると、安定した冷却効果が得られる 30 drillhead temperature [℃] 二相流(水流量10ml/min)の場合 単相流(水のみ)の場合 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 air flow [l/min] 0 0.5 1 1.5 2 0 5 10 15 20 25 30 time [s] 空気流量が増大すると、安定した冷却効果が得られる 骨表面に対する冷却効果 骨切削時のドリルヘッドに対する噴霧冷却効果(液滴速度の影響) 1.骨を模擬したサンプル(duralumin cylinder)をヒーターで加熱 drillhead temperature [℃] 120 2.一定の熱量を与えながら、サンプル表面に気液二相流を用いた噴霧冷却 water flow = 10 ml/min water flow = 20 ml/min water flow = 30 ml/min 100 3.3本の白金抵抗体(表面より2mm、7mm、12mm)でサンプル内部の温度変化を測定 4. 噴霧冷却を温度が一定になるまで続け、温度を測定 5. そのときの温度から伝熱係数 h を算出 80 te mpratu re [℃] f low rate [l/ min ] 60 ④ 20 40 0.04 0.06 0.08 -2 -1 h [W・m ・K ] wa ter flow ra te [ l/min] view obstraction value [-] 0.02 2 l /m i n 1 l /m i n 0.5 l /m i n 0 l /m i n 40 35 悪 30 視野 air air air air 25 20 air air air air air 15 10 5 気液二相流では少ない水流量で高い冷却効果が得られた □ □ □ □ □ □ ◇ ◇ ◇ △ △ △ × × × * * * 30 視野改善効果増大 view obstruction value [-] 35 5 冷却効果増大 50 = = = = = 0 l/min 0.5 l/min 1 l/min 1.5 l/min 良 2 l/min 20 40 60 water flow [ml/min] 空気流量増大とともに視野阻害度が減少 視野改善効果 ノズルから直接かかる冷却水による冷却 各流量における冷却、視野改善効果 40 flow flow flow flow flow 0 0 空気流量を増加させることによって、伝熱係数が増加 30 ⑧ ①heater ②thermometer ③duralumin cylinder ④spray ⑤flow meter ⑥valve ⑦pump ⑧compressor 約2倍 1000 0 20 ⑦ 骨切削時の視野改善効果 5000 4000 3000 2000 0 ③ ① 7000 6000 0 10 ⑤ ⑥ ② 10 20 30 spray velocity [m/s] 骨表面に対する冷却効果 15 ⑤ 液滴速度増加とともに、冷却効果増大 0 20 Wate r 20 0 .0 1 ~0 .0 8 40 0 25 Air 25 0 ~2 60 70 wat e r air [m l/ m in ] [l/ m in ] 10 0 20 0 30 0 40 0 60 0 80 0 10 0.5 20 0.5 30 0.5 10 1 20 1 30 1 10 1.5 20 1.5 30 1.5 10 2 20 2 30 2 80 drillhead temperature [℃] 気液二相流を用いることで高い冷却効果と良好な視野の確保が可能 ドリル回転により、気流が発生 気液二相流にすることで液滴速度が増加 液滴の速度が低いとはじかれてしまう ドリルヘッドを直接冷却可能 ドリルヘッドを直接冷却できない 冷却効果の向上 冷却効果の低下 切削部に貯留した冷却水による冷却 気液二相流の場合 単相流の場合 冷却水が貯留 気流により冷却水の貯留を抑制 水溜り、水飛沫の原因 良好な視野の確保 視野阻害 80 結論 気液二相流の噴霧冷却において、 空気流量増加とともに冷却効果が増大 空気流量増加とともに視野阻害度が減少 骨切削時の冷却技術として有効 【研究開発シーズ/ニーズの紹介 ⑤】 「歩行の特徴分析とリハビリ応用」 河村 庄造 豊橋技術科学大学 機械システム工学系 教授 私の研究は、題名を見て分かりますように、 あることが悪いのではなくて、健常な人に現れ 歩行やリハビリですので、歩行分析・動作分析 るということが言われています。私は歩行とい という関係に近いものになります。最初にメイ う動作も結局は脳の働きから来ているわけなの ンである歩行関係の研究紹介をして、次に過去 で、健常な人にはカオス性があるのではないか 私が行ってきたメディカルへの応用例、最後に と考えました。当時、医学部の整形外科教室や スポーツも広い意味でメディカルとか人の動き リハビリテーションの方々と相談をしながら、 と考えまして、スポーツ関係の研究例を紹介し カオス、つまり歩行のゆらぎを使って、生体の ます。 状態、つまり今どういう状態にあるかを評価し 最初に、これまでどのような研究を行ってき たかを簡単に説明いたします。私は機械工学科 て、リハビリテーションにどうやって応用した らいいかを考えました。 で人工物の振動、振動工学を研究しています。 具体的には、まずカオスとゆらぎによって、 その中で、特に人の膝関節関係の動力学を研究 正常なのか疾患があるかが分かるのか、という してきました。具体的には、人体の再建をどう 話が最初にあります。そこで、健常者と疾患者 やったらいいかということで、前十時とか後十 に対して歩行運動中の膝関節の屈曲角度を測り 時とか関節支持機構、LPFL 等の再建手術、ある ました。センサーを付けて自由に歩いてもらい いは人工膝関節の最適設計をしています。どう 角度を見たわけです。膝にゴニオメーターを装 したら衝撃力が少なくて且つ曲がりやすいか、 着して測定した場合もありますし、マーカーを 膝装具を装着した時に歩行はしやすいのか等、 取り付けて3次元で精密に計測した場合もあり 筋力同定をやってきました。これにより、膝関 ます。計測しますと角度の変化が出てきます。 節に関するいろいろな治験を得ました。元々振 それをリアプノフ指数という指標を使って、ゆ 動を研究していますので、膝関節に関係するリ らぎの程度を見て、平均値の比較や、T 検定によ ハビリテーションに役立つ技術の研究・開発と る比較を行い、健常者と疾患者との違いを定量 いう視点で行っています。 化しました。膝関節屈曲角度を測定した結果、 次に、研究の背景についてお話します。生体 健常者の一例では、ダブルニーアクションとい 信号の特徴を調べる方法としてはカオスを使い って、ちょうどこのような波形になります。疾 ます。カオスはゆらぎだと思っていただいたら 患者では、そういう動きがないことが分かりま 結構です。かなり以前に、脳波や心拍などいろ す。この結果で注目すべきことは、この疾患者 いろなところでカオスが観察されて、カオスが が運動、動きのいろいろな制約を受けているこ とです。痛いということを含めて、制約を受け 場合と変えて、どう違いが出るかをみました。 ています。疾患者の波形は、次のパターン、ま 事前にどれくらいのサンプリングでやったらい た次のパターンと見ていった時に、比較的きち いか、ノイズなのか、ゆらぎなのかをどうやっ んと重なります。一方、健常者の波形は少し複 て判別するかといった準備も色々ありました。 雑な形をしています。これを全部重ねると、意 この実験を行うに際して最初の重要なポイン 外に重ならず少しずれています。リアプノフ指 トになったのは、トレッドミルの速度をどう設 数という数式を使って評価したところ、数的に 定したらいいかということです。画一的に何 はそれほど多くないのですが、平均値を見ると km/h と決めることができますが、まずはいろい 健常者の平均が2.17、疾患者が1.50ということ ろな被験者にとって一番歩きやすい速度に設定 で、この程度の差がありました。他の色々な検 しておいて、音環境を入れるとより歩きやすく 定をしても、それなりに有意差があることがわ なるのかどうかを見まようと考えました。その かりました。論文は、理学療法科学に日本語で ため、例えば A さんなら A さんで、いろいろな 出しました。これが第一段階だったわけです。 トレッドミルの速度を設定して、膝関節の屈曲 次に、私たちは、ゆらぎがあることが健常者 角度のカオス性を見ました。リアプノフ指数は として判別できるのであれば、疾患者の歩き方 カオス性の大小を意味します。大きいほうが、 が画一的だったものを、ゆらぎを持たせるよう その人にとっては歩きやすいと考えました。こ な環境を作り出したら、回復の手助けになるの の A さんの場合は、4.5km/h と3.5km/h で比較的 ではないかと考えました。この提案は、すべて 高いリアプノフ指数を示して、微妙に3.5km/h の やり直すほうがいいという意味ではなくて、現 方がよかったので、被験者 A は3.5km/h で設定し 在やっている方法に、このような考え方を入れ て、この A さんにとっては、これが一番歩きや て、少しでもプラスになる方法があるのではな すい速度だろうと考えました。同じように B さ いかということです。 ん、C さんといろいろな人で調査したのですが、 まず、歩行に対する環境の影響をカオスの立 当然少しずつ違いました。例えば A さんでは、 場から検証しました。今回は、トレッドミルを 時速3.5km でトレッドミルを設定して歩いたとき 用いています。疾患者に対しても行なっていま 歩行周期が1.156sec.となりました。 す。疾患者はそんなに長い距離を歩けませんの 次に、それをベースにして、例えばこの A さ で、センサーをつけてゆっくり歩いてもらいま んに対して規則的な音を外から与えました。音 した。通常トレッドミルなので操作盤で時速何 が何もなくて、自分で一番歩きやすいと思った キロと設定するとその速度で一定に動きます。 ときは、リアプノフ指数で2.175のゆらぎを持っ 普通はそうやってリハビリをするものですし、 ています。それに完全に同調させたブザーを鳴 健康器具として使う時も同じです。ここで健常 らしますと、その音に引きずられて歩きますの 者の歩行に対して、周期的な音を与えて、それ で、歩き方が画一的になっていって、ゆらぎの をリードとして歩行訓練をしたらどうかと考え 程度が下がります。音がない場合よりもカオス てみました。与える音も、一定周期のきちんと 性は低下するわけです。正常な歩行が、むしろ した音を与える場合、カオス的な周期で与える 規則的な音に引き込まれてしまったということ が分かります。その次に、例えば A さんは歩行 しゆらいでいるというものでもいいわけです。 周期が1.156秒なので、それをプログラミングし 環境が画一的ではないことがポイントだと考え て、ある時は1.15秒、次は1.145秒、その次のブ ました。ただこのようなことは、工学者として ザーが鳴るためには1.13秒と、完全にその値で はやれますがリハビリの現場でやってよいもの はなく、少しずつゆらぎを持たせてブザーを鳴 か、本当に悪くないのかということを一回検証 らしてみました。カオス感覚ブザー音が1.6の場 しないと実際には使えません。このようなこと 合は、一定間隔ブザー音の場合より、若干ゆら は非常に重要だと思いますが、まだそこまでは いでいます。このブザー音の間隔によって、私 至っておりません。カオスの話は数値シミュレ たちが聞いても歩きにくいだろうなというくら ーションでもいろいろできますので、シミュレ いまで、ゆらぎを持たせることができます。若 ーションもしていくとより良いのではと思って 干揺らいでいるブザー音の環境下で歩行します います。 と、歩行するときのカオス性が上がります。ブ ただ最近、アメリカ等ではいろいろな論文で ザー音が2.3の時はカオス性が下がって3.1の時 必ずしも健常者、疾患者がカオスだけで判別で は上がっていますが、少なくとも何も音がない きないのではないかという議論もあります。あ 場合よりはカオス性が上がる音環境が作れるの くまでも工学者として非線形振動を研究してい ではないか、そういう環境を上手く作れれば、 る私が、非線形振動という範疇でいろいろ調べ リハビリの助けになるのではないかと考えまし て、ここまでは分かったということです。 た。これは A さんですが、B さん、C さん、D さ 次にヒトの膝関節に関する研究を簡単にご紹 ん、他の人でどうかを見てみます。B さんは、少 介します。具体的には、靱帯の再建、膝関節の し音がゆらいでいたほうが常にカオス性が高い 人工関節、骨折治癒のシミュレーションについ ことが分かります。一定音でやると最適トレッ てです。人工膝関節の形状設計に関しては、生 ドミル速度よりカオス性が小さくなって、歩行 体膝の特性を調べて高機能な人工膝関節の設計 は画一的になってしまいます。ところが若干ゆ をしようとしました。これもいろいろな大学、 らぎを持たせるとカオス性は多くなります。た 企業で沢山の研究がありますので、その中で私 だし、中には E さんのように全然違う人もいる たちが行った例になります。ポイントとしては ことが分かりました。 衝撃力をどう伝達するかということ、伝達をで 今はブザー音でやっていますが、健常者のデ きるだけ抑えること、高屈曲ができるというこ ータを収集し、リハビリ中の患者に対してこう とです。これは有限要素法のモデルを作って、 いうことができると、より使えるかどうかがわ その解析をして、最終的には実際の特に頚骨の かるのではないかと考えています。今の音環境 トレイや大腿骨側、頚骨側のトレイの設計をし は、実験なので室内で単なるブザーが鳴ってい ました。 るだけですが、例えば、音楽などを利用して音 次に、スポーツ工学について、メディカルま 楽のゆらぎの程度を見ながら、できたら良いの では行きませんが、広い意味で人の関係なので ではと思っています。今のカオス環境そのもの 少しご紹介します。私自身、以前にスポーツの は音で作っていますがトレッドミルの速度が少 用具の設計もやっておりました。例えばテニス で、用具を把持して行うスポーツにおいて、テ ニスエルボーなど上肢に障害が起きる場合があ ります。実際に三次元計測をして、例えばトッ プスピンを打っている時の腕の回転動作を見て その動作をするためには筋力がどう動いている かを数式モデルで求め、その筋力を出すために はどの部分に力が入っていて、だから障害の原 因となっているのではないかといった研究を現 在進めています。 最後に医工連携、産学連携の可能性について 資料にございますので、ご覧ください。 【 発表資料 】 研究開発シーズ/ニーズの紹介⑤ これまでの研究・現在の研究 歩行の特徴分析と リハビリ応用 • 機械工学(振動工学)を援用して,ヒトの膝関節に関する動力学 的研究を行ってきた(**大学医学部整形外科教室,**県リ ハセンターとの共同研究). • 具体的には, *前十字靱帯・後十字靱帯・関節支持機構の再建手術の 際の最適方法 *人工膝関節の最適設計 *膝装具装着時の歩行中の筋力同定など 紹介内容 p.3~p.13: 歩行関係 p.14~p.17:過去の研究例 p.18,19:現在のスポーツ工学の研究例 豊橋技術科学大学 機械システム工学系 河村 庄造 2009/11/16 • 現在はそれらを基礎として,福祉,主に膝関節に関係するリハビ リテーションに役立つ技術の研究・開発を行っている. 2009/11/16 1 メディカルイノベーションフォーラム2009 メディカルイノベーションフォーラム2009 研究の背景 2 目的1:診断・評価へ応用 • 生体信号の特徴を調べる手法としてカオス解析を用いる. • 脳波,心拍や指尖脈波などでカオス的挙動が観察されている.さ らにこれらの研究では,カオスは必ずしも病的なものではなくむし ろ健康な状態と密接に関連している可能性も示されている.歩行 は脳神経系や筋骨格系により生成される運動であるので,同様の カオス特性を示す. カオス→ここでは[ゆらぎ]と考える. • そこで *カオス性によって生体の状態を評価する研究 *それをリハビリテーションへ応用する研究 を段階的に進めている. これらの成果を,現在のリハビリ手法の補助として使用すること を考えている. 2009/11/16 3 メディカルイノベーションフォーラム2009 目的 健常者と疾患者に対し,歩行運動中の膝関節屈曲角度データを カオス解析して,両者の違いを定量的に評価する. • 手順・方法 *ゴニオメータを用いて歩行動作 中の膝関節屈曲角度を計測 *カオス性をリアプノフ指数によっ て評価 *リアプノフ指数の平均値の比較 やT検定による比較を行い,カオ ス性の立場から健常者と膝OA患 者の違いを定量化 2009/11/16 メディカルイノベーションフォーラム2009 4 目的1:診断・評価へ応用 目的1:診断・評価へ応用 • 結果・考察 *健常者の平均値2.17,疾患者の平均値1.50,両者の比1.45であり, 疾患者のカオス性が低下している. • 結果 *膝関節屈曲角度の例 (a) 健常者の一例 60 20 40 15 20 頻度 flexion angle(deg.) 25 80 0 0 1 2 3 4 10 5 time(sec.) 5 (b) 疾患者の一例 0.1 0.3 0.5 0.7 0.9 1.1 1.3 1.5 1.7 1.9 2.1 2.3 2.5 2.7 2.9 3.1 3.3 3.5 3.7 3.9 4.1 4.3 4.5 4.7 4.9 0 最大リアプノフ指数 健常者 2009/11/16 2009/11/16 メディカルイノベーションフォーラム2009 5 疾患者 メディカルイノベーションフォーラム2009 6 目的2:リハビリ応用への基礎 • 目的 疾患者のカオス性を高めることができる環境を作り出せば,回復 の手助けになる可能性がある. 歩行に対する環境の影響をカオスの立場から検証する. • 手順・方法 トレッドミルを用い,健常者の歩行に周期的(一定周期,カオス的 周期)な音を与え,その際の膝関節屈曲角度をカオス解析して影 響の度合いを調査する. AD・DA Conversion unit Sound source Treadmill Goniomatar Computer 2009/11/16 7 メディカルイノベーションフォーラム2009 2009/11/16 目的2:リハビリ応用への基礎 目的2:リハビリ応用への基礎 • 結果・考察 規則的な音環境における歩行では,音がない場合よりもカオス性 が低下する.即ち健常者の正常な歩行が規則的な音に引き込ま れ,正常な状態から離れたことを示している. • 結果・考察 被験者ごとにカオス性が高くなるトレッドミル速度がある. → 歩きやすい速度がある 被験者(A) トレッドミル速度 4.5km/h トレッドミル速度 4.0km/h 対応する 歩行周期 (sec.) 3.5 1.156 被験者(B) 4.0 1.020 被験者(C) 3.5 1.054 カオス間隔ブザー音(程度1.6)あり 被験者(D) 3.5 1.014 カオス間隔ブザー音(程度1.9)あり 被験者(E) 3.0 1.328 カオス間隔ブザー音(程度2.3)あり 被験者(A) カオス性 低下 2.121 トレッドミル速度 3.5km/h 2.175 トレッドミル速度 3.0km/h 2.08 最適 トレッドミル 速度(km/h) 被験者(A) 2.174 2.114 2.09 2.1 2.11 2.12 2.13 2.14 最大リアプノフ指数 2.15 2.16 2.17 2.18 2.175 最適トレッドミル速度 2.001 一定間隔ブザー音あり 2.306 2.108 2.073 2.252 カオス間隔ブザー音(程度3.1)あり 2.033 カオス間隔ブザー音(程度4.8)あり 1.8 2009/11/16 9 メディカルイノベーションフォーラム2009 被験者(A) 2009/11/16 2.306 2.3 2.35 10 1.953 2.119 2.221 2.061 カオス間隔ブザー音(程度2.3)あり カオス間隔ブザー音(程度3.1)あり 2.064 カオス間隔ブザー音(程度3.1)あり 2.125 1.95 2 2.05 2.1 最大リアプノフ指数 2.105 2.253 カオス間隔ブザー音(程度1.9)あり カオス間隔ブザー音(程度2.3)あり 1.9 1.718 カオス間隔ブザー音(程度1.6)あり カオス間隔ブザー音(程度1.9)あり 1.85 1.97 最適トレッドミル速度 一定間隔ブザー音あり カオス間隔ブザー音(程度1.6)あり 1.84 2.011 2.112 カオス間隔ブザー音(程度4.8)あり 2.15 2.2 2.25 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2 最大リアプノフ指数 2.1 1.962 一定間隔ブザー音あり 2.42 2.181 カオス間隔ブザー音(程度1.6)あり 3.173 カオス間隔ブザー音(程度1.9)あり 2.3 2.225 最適トレッドミル速度 1.957 2.2 全く違う被験者もあり 被験者(E) 2.137 最適トレッドミル速度 カオス間隔ブザー音(程度1.6)あり 2.125 カオス間隔ブザー音(程度2.3)あり 2.033 カオス間隔ブザー音(程度4.8)あり 2009/11/16 2.25 2.081 カオス間隔ブザー音(程度1.9)あり 2.252 カオス間隔ブザー音(程度3.1)あり 1.8 2.2 被験者(C) 1.963 最適トレッドミル速度 一定間隔ブザー音あり 一定間隔ブザー音あり カオス性 向上 2.073 カオス間隔ブザー音(程度2.3)あり 2.05 2.1 2.15 最大リアプノフ指数 被験者(D) 2.108 カオス間隔ブザー音(程度1.9)あり 2 被験者(B) 1.8 カオス間隔ブザー音(程度1.6)あり 環境の カオス性が 大 1.95 • 結果・考察 カオス性 向上 2.001 1.9 メディカルイノベーションフォーラム2009 カオス間隔ブザー音(程度4.8)あり 2.175 最適トレッドミル速度 1.85 目的2:リハビリ応用への基礎 目的2:リハビリ応用への基礎 • 結果・考察 カオス的な音環境における歩行ではカオス性が向上する.即ちヒ トが本来備えている非線形特性を,適切な環境を整えることによっ て引き出すことができると思われる. 一定間隔ブザー音あり 8 メディカルイノベーションフォーラム2009 1.85 1.9 1.95 2 2.05 2.1 2.15 最大リアプノフ指数 2.2 2.25 メディカルイノベーションフォーラム2009 2.3 2.802 カオス間隔ブザー音(程度4.8)あり 2.35 2009/11/161.5 11 1.7 1.9 2.1 1.963 カオス間隔ブザー音(程度2.3)あり 3.083 カオス間隔ブザー音(程度3.1)あり 2.3 2.5 2.7 最大リアプノフ指数 2.145 カオス間隔ブザー音(程度3.1)あり 2.051 カオス間隔ブザー音(程度4.8)あり メディカルイノベーションフォーラム2009 2.9 3.1 3.3 1.8 1.85 1.9 1.95 2 2.05 2.1 最大リアプノフ指数 2.15 2.2 2.25 12 今後の研究の展望 ヒト(ヒト膝関節)に関する研究 • 音環境の影響 now 健常者に対してデータ蓄積 next 健常者に対する追加 リハビリ中の患者に対するデータ蓄積 など • 音環境の種類 now ブザー音(ゆらぎを有する周期) next 音楽等の利用 など • カオス環境 now 音環境 next ゆらぎを有するトレッドミルの速度 など 研究例(平成元年~平成15年) • 膝十字靱帯の再建 • 膝関節の衝撃力伝達特性 • 人工膝関節の形状設計 • 骨折治癒のシミュレーション 人工膝関節の形状設計 • リハビリの現場での検証が必要(このようなことをしても悪くならない ことの検証) • 工学的には,中枢パターン発生器(CPG)を組み込んだ数値シミュレー ションが必要 2009/11/16 メディカルイノベーションフォーラム2009 13 研究経過 生体膝の特性を調べ,その後,高機能な人工膝関節の設計を実施. 研究項目 膝関節の衝撃力伝達特性 人工膝関節(脛骨トレイ)の設計 2009/11/16 人工膝関節の形状設計 人工膝関節の形状設計 膝関節の衝撃力伝達特性の解析 メディカルイノベーションフォーラム2009 15 2009/11/16 16 • 手順・方法 上腕の筋骨格モデルの構築を行い,トップスピン打球時の 動作計測結果から逆動力学解析を行うことで,筋力同定を 行っている. 即ち,実際の動作を行うための筋力の挙動を解明し,急激 な筋力の変化が障害の原因となる可能性について検討して いる. • 目的 テニスやバトミントンなど,用具を把持して行うスポーツにお いて上肢に障害が発生する場合がある. その問題を工学的に解明するためには,用具と上腕を連成 系とみなした解析が必要である. テニスのトップスピン打球時を対象とし,上腕の筋肉の作用 を研究し,身体に優しい用具設計を考える. メディカルイノベーションフォーラム2009 メディカルイノベーションフォーラム2009 現在のスポーツ工学研究の一例 用具と人体の連成系解析(テニス) 現在のスポーツ工学研究の一例 用具と人体の連成系解析(テニス) 2009/11/16 キールに特徴有り 膝関節の衝撃力伝達特性の解析 • 脛骨トレイの形状を解析結果と臨 床的知見を評価して設計 • 生体膝,人工関節置換膝の有限 要素モデル構築 • 解析ソフトウエア(LS-DYNA)による 解析 2009/11/16 14 メディカルイノベーションフォーラム2009 17 2009/11/16 メディカルイノベーションフォーラム2009 18 医工連携・産学連携の可能性 • 人体の運動解析 • 人体の運動解析のリハビリ応用 • 人体の運動解析のスポーツ工学応用 Thank you for your attention. • なお 計測システムは有していない. 医工連携(靱帯再建,人工関節設計)の経験は長い. 産学連携(スポーツ用具開発)の経験は長い. 研究室は,機械システム工学科に属しており,機械工学(振 動工学関連)の研究を行ってる. 2009/11/16 メディカルイノベーションフォーラム2009 19 2009/11/16 メディカルイノベーションフォーラム2009 20 【研究開発シーズ/ニーズの紹介 ⑥】 「音声に対する脳波活動を音声信号から予測する」 杉本 俊二 豊橋技術科学大学 知識情報工学系 助教 今回のテーマは「音声に対する脳波活動を音 による音情報を聴神経に直接与えることによっ 声信号からの予測する」です。本研究の動機は て聴力を回復するもので、環境の情報を直接脳 言語的な思考イメージを読み取って声に結びつ 活動に変換するものになります。特に人工内耳 けるようなインターフェースを構築したいとい は、既に実用化のレベルになって広く使われて うことからでした。つまり、実際には言葉に出 いる状況です。これに対して解読型の BMI は、 さずに何らかの音声イメージを考えて、それを 何らかの思考イメージに対応して脳活動から思 直接脳活動から取り出し声に結び付けたいとい 考イメージを取ってくる方になります。ところ うことです。それが可能になれば、例えば考え が、どういった思考イメージがどういった脳活 るだけでパソコンを操作できる、あるいは何か 動に対応しているかというのは必ずしも明らか を考えるだけで考えた音声が文字としてモニタ ではないので、解読法の構築は非常に困難なも に出力されてコミュニケーションができるよう のになります。そこで、一つの解決方法の提示 になります。また、ALS と呼ばれる筋肉が萎縮す をしました。そもそも環境情報がどのような変 る難病等の患者の方々に対する支援や将来的な 換を得て伝達活動を経て脳活動に置き換わるの 少子高齢化といった問題に対する何らかの助力 か、あるいは何か意図した時にどのような伝達 になるのではないかと考えています。 を経て運動に至るのか、この変換過程、伝達関 環境情報と脳を人工的に繋ぐインターフェー 数を求めて、それをもとに一種の問題を解くよ スのことを一般に“ブレーンマシンインターフ うな形で解読法を構築していく方法が有効な手 ェース(BMI) ”といいます。BMI には大きく分け 段になります。ただ、いったいどういった伝達 ると、環境の物理的な情報を人工的に直接脳活 関数が必要になるかというのは、どういった感 動に変換する符号化型の BMI と、逆に脳活動か 覚が対象になっているかによって大きく違って ら思考や意図等を読み取って環境に働きかける きます。 解読型の BMI とがあります。ここでテーマにな 大脳皮質というのは、大まかにある程度機能 っているのは解読型の BMI になります。これら 局在を持っています。例えば見る機能の視覚で の例についていくつか簡単にご紹介します。符 したら後頭のあたりが中心になって働きます。 号化型の BMI としては、人工網膜や人工内耳と 聴くという機能でしたら側頭のあたり、それか いったものがあります。人工網膜は、カメラに ら身体的な運動や話すといった機能は前頭葉が よる映像を直接神経に与えることによって失わ 中心になって働くという局在があります。その れた視力を回復するもの、人工内耳は、マイク 中でも特に運動領域とか体性感覚、あるいは視 覚領域というのは、機能構成に関してより解明 解読する BMI ということで、聴く、話すといっ されています。解読型の BMI としても開発はや た領域が関連します。これらの領域は視覚等に や進んだ状況にあります。例えば、脳運動イメ 比べて余り解明されていません。音は、聴覚経 ージを解読する BMI の例は、理研とトヨタの連 路において、耳から入って脳幹等を経て聴覚皮 携センターで共同開発されているもので、ある 質というところに至ります。聴覚皮質は、耳の 被験者の方が車椅子に座っていて、その時に脳 上のちょうど溝のあたりに入っているので、頭 波を計測します。この方は手足を一切動かさず 皮上から脳活動を計測するのは比較的難しくな に、手足を動かすイメージを持ちます。運動領 ります。本研究では、最終的には音声イメージ 域というのは、身体のマップが形成されていま を解読する BMI を実現したいと考えていますけ す。例えば脚を動かすイメージを持った時は、 れども、3つの段階を想定しています。まず音 上から見るとこの中心のあたりが活動し、右 声入力があった時、脳においてどのような伝達 手・左手を動かすイメージを持つとこのように 過程を経て音声知覚に対応した脳活動になるか 左右により分かれて活動が見られます。これを を明らかにするため、伝達関数を得てそれを利 利用して、例えばこの辺が活動したときには車 用して音声知覚に対応した脳活動を解読するア 椅子が前に進むようにプログラムして、左右の ルゴリズムを考え、音声知覚を取り出して解読 ときは左右に進むようにプログラムすると、運 します。さらにこれらを参考に知覚音声のみで 動イメージのみを解読して車椅子を移動させる はなく、頭の中でイメージした音声を解読する BMI が開発されるわけです。実際にその車椅子を 方法を作っていきます。最終的には音声イメー 九十何パーセントの割合で移動させることがで ジを解読する BMI が実現できればと考えていま きるといった画期的な結果が得られています。 す。現時点では伝達関数を作成して、音声入力 次に視覚内容を解読する BMI の例です。まず のみから脳活動を予測するというところまでを 被験者が図形の表示されているモニタ画面を見 作成しつつありますので、以下ご紹介したいと ているとします。その時の後頭葉の活動を測定 思います。 して、この脳活動のみからどんな図形を見てい 脳活動には32チャンネルの脳波計がついてい るかということを予測することが可能になって ます。そこで、32チャンネルの電極を置いて脳 きています。これは、後頭の辺りというのは特 活動に応じた電位変化を検出します。また一回 定の線分に対応して反応するような神経細胞が の音声入力に対する脳活動というのは背景脳波 ある程度組織的に並んでいるので、それを検出 に埋もれていますので、100回提示して加算平均 することによって図形の復元が可能になってい を求めることによって、背景脳波を除去した脳 るからです。これは ATR の神谷(かみたに)先 波を得ています。このことを事象関連電位 ERP 生という方を中心に研究されているもので、世 といいます。純音に対する脳波活動の例として、 界的に高い評価を受けています。以上、運動イ 「ごゆっくりおくつろぎください」という音声 メージあるいは視覚内容を解読する BMI の例を を与えた場合、どういった脳波が出るかをみま 紹介しました。 す。音声の物理的な情報を示すデータを見ると 本研究でテーマとするのは、音声イメージを 各周波数帯域に応じた振幅映像が見られます。 先程の音声を聴いてもらった時にどのような脳 モデルと実測で同じような傾向を示します。最 波が見られるかというと、この FC1という前頭中 初に陰性成分が出て、次に陽性成分が出て、更 心部での脳波になりますが、複雑な波形が見ら に陰性の振動が出る様子が再現されています。 れます。この波形を何とかして音声信号のみか 実際に取り出した伝達関数に対して、先ほど ら予測したい、予測できる伝達関数もどうにか の「ごゆっくりおくつろぎください」という音 して取りたいということになります。どのよう 声の振幅情報を入力して、実際の波形とどのよ な手法を使うかといいますと、より簡単な純音 うに近いのかを見ていきます。これは今 FC1で観 という特定の周波数のみを持った音を聴いた時 測した波形ですけれども、このように赤で示し の脳波を使います。ここでは1kHz の純音を使っ た予測波形と青で示す実測波形が、大体傾向と ています。このような簡単な音を聴いたときの して一致している様子がわかります。若干タイ 脳波を見ますと、音の立ち上がりに対して特徴 ミングがずれたり、後半ちょっと違ってきたり 的な振動が見られます。一般に最初の鋭い立ち という点はありますが、ほぼ特徴を捕らえてい 上がりを N1、それから若干ゆっくりした成分を ることが分かりました。各点での予測波形をプ P2といいまして、その後やや振動が残るといっ ロットして、各陰性・陽性成分での空間マップ た変化を示します。N と P は陰性と陽性の略で、 を見ると、このように予測した空間マップは大 それぞれの成分が出てくるときのマップを見ま 体のところ実際の脳波マップと近いことも分か す。前頭中心部に陰性成分が出て、その後陽性 りました。いまのところ純音に対する脳波をモ 成分が出て、さらに振動が残るといった変化を デル化したものによって、音声信号のみから脳 示します。これを使ってどのように伝達関数を 波の時空間的な特性を予測できるという傾向を 作るかといいますと、これは方法としては非常 得ています。 に簡単です。この波形に沿ったカーブを簡単な 次に別の例になります。「いぬもあるけばぼう 振動計を使って取り出します。詳細は省きます にあたる」という音声に対して、FC1での実測波 が、純音という単純な音を与えた時にこのよう 形と予測波形を比べると、大体傾向としてはや な振動として変換して取り出すしくみが脳にあ はり一致しています。この音声の場合、「け」 ると仮定して、純音に対してこのようなリズム 「ば」「ぼ」のあたりに非常に振幅の激しい変動 の波を出すフィルターという形で取り出してき があります。それに対しても大体の傾向を捕ら ます。このフィルターに対して音声の振幅情報 えていることが分かりました。空間的なマップ を与えた時、どこまで脳波を予測できるかとい を見ても、このあたりは違いがありますが大体 うことも確かめました。このモデル波形は FC1で 傾向として同じような結果が得られています。 作ったものですが、各頭皮上の点において、そ これまでの研究をまとめますと、今は、特に れぞれ伝達関数を求めることができます。それ 純音に対する脳波を使って伝達関数を得て、音 を求めてプロットしたのが、モデルマップにな 声入力を与えてやると脳波活動を予測できると ります。これによりほぼ実測と同じような傾向 いう結果が得られています。今後はまずこの伝 を示すものが得られます。実際のモデルマップ 達関数を参考にして解読アルゴリズムを作り、 のアニメーションを見ますと、大体同じような 知覚した音声の内容を読み出すような解読法を 構築します。その後更に音声イメージに対応し た脳活動を解読するものを作って、最終的には 聴覚における解読型の BMI が構築できればと考 えています。最終的には、非常に大掛かりなプ ロジェクトになると考えていますので、是非皆 様のご協力をいただきましたら幸いに存じます。 ご清聴どうもありがとうございました。 【 配布資料 】 本研究の動機 考えるだけで 操作できれば… 音声に対する脳波活動を 音声信号から予測する 念じるだけで 移動できれば… ○杉本 俊二†‡ 塚原 伸亮† 池田 尚生† 山口 陽子‡ 堀川 順生† †豊橋技術科学大学工学部知識情報工学系 ‡理化学研究所脳科学総合研究センター創発知能ダイナミクス研究チーム メディカルイノベーションフォーラム2009 2009年11月16日 オークラアクトシティホテル浜松 思考イメージを読み取るには? ブレインマシンインタフェース (Brain Machine Interface, BMI) 符号化型BMI 環境の物理的情報を脳活動へ変換する 環境 BMI 脳 符号化型BMI 解読型BMI 環境と脳を人工的に繋ぐインタフェース 人工網膜 カメラによる映像を 視神経へ直接与える 解読型BMI 大脳皮質の機能局在 脳活動から思考イメージを読み取る 環境 BMI 頭頂葉 前頭葉 脳 体 運 性 動 感 覚 神経末梢系と 中枢系での伝達 過程(伝達関数) 話す 思考 イメージ 解読法の構築 (判別/復元関数) 人工内耳 マイクによる音情報を 蝸牛神経へ直接与える 思考イメージに 対応した脳活動 側頭葉 聴く 視 る 後頭葉 運動イメージを解読するBMIの例2 運動イメージを解読するBMIの例1 “Honda、ATR、島津製作所が共同で、考えるだけでロボットを制御するBMI技術を開発” Honda Press Information 2009.最新更新2009.3.31.http://www.honda.co.jp/news/2009/c090331.html (2009.10.30) “脳波で電動車いすをリアルタイム制御” 独立行政法人理化学研究所 2009年 プレスリリース.最新更新2009.6.29. http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2009/090629/index.html (2009.10.30) 本研究テーマのねらい: 音声イメージを解読するBMIの実現 視覚内容を解読するBMIの例 求心性聴覚経路 環境 脳 BMI 音声 入力 聴覚皮質 1. 伝達関数による 脳活動の予測 Kamitani & Tong, 2005 蝸牛 音声 知覚 2. 解読 音声知覚に 対応した脳活動 音声 イメージ 3. 解読 音声イメージに 対応した脳活動 Miyawaki et al., 2008 純音に対する脳波活動 脳波活動の計測 ・32チャネルデジタル脳波計(Active Two System, BIOSEMI)を用いて 音声に対する脳波活動の予測を行う ・各音刺激を100回提示し,脳波の加算平均を求めることによって,背 景脳波を除去した電位(事象関連電位ERP)を計測する ・1kHzの純音が惹起する脳波成分に基づき,音声に対する脳波活動 の予測に用いる伝達関数を求める Voltage (uV) -6 N1 -4 FC1, n = 4 -2 0 2 P2 純音 1 kHz 4 0 500 1000 1500 2000 Time (ms) + - N1 P2 音声に対する脳波活動の予測例1 純音に対する脳波活動をモデル化する / ごゆっ くり お く つろぎ く ださい / Voltage (uV) -6 N1 -4 モデル波形 実測波形 -2 8000 6000 4000 0 2000 Hz 2 0 P2 500 1500 1000 2000 Time (ms) 4 -4 500 1000 2000 1500 Voltage (uV) 0 Time (ms) 聴覚系の伝達関数 N1関数 予測波形 音声入力 予測波形 FC1, n = 5 -2 0 2 実測波形 r = 0.60, p < 0.001 4 0 500 1000 P2関数 1500 2000 Time (ms) 音声に対する脳波活動の予測例2 聴覚におけるBMIの実現へ向けて / い ぬ も あ る け ば ぼう に あ た る / 8000 6000 4000 2000 Hz 0 500 1000 1500 2000 Time (ms) Voltage (uV) -4 FC1, n = 5 実測波形 -2 0 2 予測波形 4 0 500 1000 Time (ms) r = 0.44, p < 0.001 1500 2000 これまでの研究のまとめ ・純音に対する脳活動が,音声に 対する脳活動の基礎となってい ると仮定し,音声入力を脳活動 へ変換する伝達関数(線形フィ ルタモデル)を作成 ・本モデルを用いて,音声に対す る脳波活動を音声信号のみから 予測可能であることを確認 今後の展望 ・脳活動から知覚内容を解読する アルゴリズムの作成 ・音声知覚の判別に基づき,脳活 動から音声イメージを解読 パソコン起動… 経済産業省・文部科学省 地域中核産学官連携拠点形成支援事業「地域中核産学官連携拠点」 文部科学省 産学官連携戦略展開事業(戦略展開プログラム:東海 iNET) 地域中核産学官連携拠点の形成支援 メディカルイノベーションフォーラム2009 (2009/ 11/16)報告書 発行日:○○○○年○○月○○日 編集:国立大学法人静岡大学 知的財産本部 〒432-8561 静岡県浜松市中区城北 3 丁目 5-1 電話:053-478-1414 FAX:053-478-1711 本報告書の各発表者の資料の著作権は各発表者が保有しておりますので、本報告書の全部または一部 の複写・複製・転載・訳転載、および磁気または光学等の記録媒体への入力等を禁じます。これらの 許諾については各発表者までご照会ください。それ以外の部分については静岡大学知的財産本部が保 有しておりますので下記までご照会ください。但し、他所からの引用・転載などの場合はその限りで はありません。 本報告書についてのお問い合わせ先 : 静岡大学 知的財産本部