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摂食・嚥下リハビリテーションと口腔ケア

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摂食・嚥下リハビリテーションと口腔ケア
看護職員研修会開く 特集2
摂食・嚥下リハビリ
テーションと口腔ケア
舘村 卓
大阪大学大学院歯学研究科 高次脳口腔機能学講座 准教授
非経口的な栄養法は
長期的には栄養障害を起こす
医療や介護の現場で、最近、経口摂取が強く求
められるようになってきた。なぜそうなってきた
のかというと、これまで病院で上部消化管である
ると腸は小さくなってしまい、液体の栄養剤を使
っているにもかかわらず便秘を起こす。これで使
い始めた当初の下痢が治まるので下痢止めが効い
たように思うが、実は長期間的には腸管がやせて
しまって便秘を起こしている場合がある。
腸は表面で栄養を吸収するが、表面のひだひだ
口や咽頭、食道を使わないようにするときには、
もやせてしまい吸収面積が落ちるために栄養吸収
経鼻栄養チューブや胃ろうなどの非経口的な栄養
障害になる。液体の栄養剤を使っていると、初期
法が行われてきたが、これを長期的に行うと栄養
から回復期、慢性期までずっと栄養吸収障害を起
障害を起こすことがわかってきたからだ。
こす。
では、なぜ栄養障害を起こすのか。腸はぜん動
その結果、やせて体重減少を起こす。肌のつや
運動という尺取り虫のような動きをして、食べた
がなくなって、褥瘡ができることにもなるし、ア
ものをどんどんゆっくり送っていきながら、腸の
ルブミン値が基準値あたりに下がっていくことに
表面で栄養を吸収していく。
もなる。液体栄養剤を長期に使っていると、電解
一方、液体の栄養剤は大変通過が速いため、最
初は下痢を起こしやすく、病院ではたくさんの下
質バランスが崩れてきて、低ナトリウム血症にも
なる。
痢止めを出す。下痢止めを出して、しかも通過が
また、少しタイプの違う患者になるが、例えば
速いため腸のなかに液体がとどまっている時間が
長期に病院でずっと過ごすような遷延性意識障害
短く、吸収時間が少ないということになり、栄養
の患者などは、自分の体重が骨にかかっていない
吸収障害を起こすわけだ。
ので、骨がどんどんやせていってしまう。いわゆ
さらに私たちの身体は必要最小限の努力で最大
る骨粗鬆症と同じような状態になってしまって、
効果を狙っているので、液体が速く腸を通過する
溶けた骨の成分、すなわちカルシウムが血中に入
なら、腸を動かす必要がなくなってしまう。すな
ってくる。一部の液体の栄養剤ではカルシウムイ
わちぜん動運動が少なくなる。筋肉は動かしてい
オン濃度が非常に高いものがあり、その結果、尿
なければ、だんだん動かなくなってくるのである。
路結石が生じることもある。液体の栄養剤を使っ
これを廃用性の変化、廃用性萎縮と言い、腸を使
ているといろいろな問題が出てくる。
わなければどんどん腸はやせていってしまう。す
私たちの身体は、1 万年前と基本的には変わっ
老健 2011.6 ● 29
特集2 看護職員研修会開く
ていない。エネルギー源となるものは積極的に吸
看護職員研修会開く 特集2
ところが残念なことに、経口摂取は大変難しい。
た対応が求められる。
食べ物の調整は
リスクマネジメント
収する。身体を動かさずベッドの上でずっと過ご
呼吸が同じ経路を使うわけで、この呼吸の経路の
起きてすぐのときは口が渇いている。そこに何
していたり、車椅子に乗ったままになると、エネ
安全性を確保しながら、口で食事をとってもらう
も処置していないパンがあって食べたら、パンは
ルギーを使わないので、コレステロールだけがど
ことが大変難しいのである。口から食べることの
だ液を吸うから口のなかはもっと乾いた状態にな
3 年前に、小学 5 年生が学校で提供された給食
んどん上がっていってしまう。見かけ上、ふくよ
支援は、QOLの向上やADLの改善、すなわち人
る。しかもだ液には、アミラーゼというでんぷん
をのどに詰まらせて死ぬという事故があった。こ
かな栄養失調となる。その結果、見かけ上ふくよ
間らしい行動を支援するという視点だけで行うと
分解酵素が入っているから、パンの表面が溶けて
ういう事故が起こるのは、秋口から冬にかけてだ。
かなので血液検査で調べてみようとしないが、栄
危険である。
しまい、のり状になって張りつく。
春や夏には起こらない。それは秋や冬は鼻が詰り
起きてすぐにパンを口に入れ
窒息死した高齢者
朝、起きてすぐは鼻汁がたくさん出る。すなわ
やすいからだ。前述したように口から食べるため
ち鼻呼吸ができていないということだ。咀嚼する
には、呼吸路の安全性がまず確保されることが大
ためには鼻で呼吸ができないといけないが、鼻で
事で、口とのどの機能を賦活することが重要であ
老健施設を利用していた女性の高齢者が施設で
呼吸ができず口のなかにパンが張りつく。さらに、
る。
私の受け持ち患者で意識障害の方がいた。10歳
転倒し骨折の疑いで近所の病院に入院した。すぐ
NGチューブは咽頭の感覚を鈍麻させることで、
のときに交通事故にあって、28歳のときにおむつ
に個室に入って鼻からチューブを入れられ、検査
嚥下反射は起こりにくくなり、窒息してしまうの
どん落ちていって食べられなくなってしまう。急
を当てられて、交換のたびに大変痛そうにしたの
したが、まったく問題なかった。そこでNGチュ
である。
性期の病院で入れ歯を外したまま長期放置してい
で病院で検査してみると、尿路結石があった。母
ーブから普通食に移そうということになり、夜に
もしも前日の夕食で30パーセントとれたが、白
ると、口がどんどん狭くなってくる。私たちの舌
親が私の診療室に来て、
「先生、こんなん取ってき
普通食が出された。ベッドの上で食べ、看護記録
飯とお汁だけを飲みこんだだけで、咀嚼しないと
は、咀嚼するときには前後・上下・左右に動く必
ました」と結石を出してきた。あまりに大量の石
を見ると30パーセント摂取できたと書いてあった。
いけないような食べ物が残されていたとすれば、
要があるが、口が狭くなっていくと前後運動しか
に驚いて、
「どこの海岸に行ってきたのですか」と
この病院では普通食がとれれば、翌朝の朝食はパ
この高齢者は咀嚼ができず、丸飲みしかできない
できなくなってしまう。その状態でとれる食事と
聞いたら、
「いいえ、病院で取ってもらった娘の尿
ンを提供する。この方にも翌朝パンが提供された
ことは想像に難くない。しかし看護記録にはその
いうのは、初期の離乳食程度のものしかない。食
路結石です」と言う。
が、直後にどうも反応がないということで看護師
ことは書いていなかった。
べ物の調整というのは、口とのどの機能のレベル
養障害になっている。
経口摂取は望ましいものの
大変に難しい
その方がラッキーだったのは、おむつだったこ
が病室に行ったら、窒息死していた。
歯の運動が全然確認されず、口のなかに入れて、
長期に口を使っていなければ、口腔機能はどん
に応じて行う必要がある。その点をよく考えて、
足を伸ばしたままで食事するのは、非常に危ない。
リスクマネジメントの一環であると捉えて取り組
何とかできたのではないかと思うかもしれないが、
その状態で認知のレベルも落ちた方の口にパンが
んでいただきたい。
きなくなってしまう。これが先ほどお話しした高
全老健の調査では、全国3,350の施設の利用者の
入ってきたら、一生懸命飲み込もうとしてパンは
やはり病院では、経口摂取すると、窒息したり
カルシウム血症の結果だ。
85パーセントが認知症だ。アルツハイマー病に脳
どんどん口腔内に張りつく。するとさらに一生懸
誤嚥したりするのが怖いということで、NGチュ
経口摂取をすると口を一生懸命動かして、繊維
血管障害を合併している方と脳血管性認知症を合
命舌を動かして、パンを口の奥へ奥へと送ろうと
ーブを使ってカニューレを入れていることが少な
があるもの、硬いものを食べ、口腔と咽頭と食道
わせると、80パーセントを超える。この方々は脳
するが、パンはどんどん硬くなっていく。こうな
くない。それは安全かもしれないが、対応として
と胃袋を使う。胃袋の役割は、食べ物を入れて充
血管障害に伴う感覚機能障害、運動機能障害と認
ると人間は共通して行うことがある。次のパンを
はどうか。
満させることだ。いっぱいにすることで胃袋が伸
知症に伴う中核症状・周辺症状の 4 つの障害を持
入れるのである。次のパンを入れて、ところてん
ばされ、それでセンサーが働いて「腸よ動け」と
っている。
のように奥に詰まったパンを押し出そうとする。
常に不思議なことがある。自分は絶対にされたく
こうした方が起きてすぐに目の前にあるパンを
そうやってますます一生懸命入れると、もうその
ないことでも、患者・利用者には平気で行えると
ないので、腸を動かす指令が出なくなってしまう。
見て、口のなかに入れる。何も処理していないパ
ときにはパンを口のなかで転がすことができなく
いうことだ。私たち自身もNGチューブを入れた
従って、口から食べ物が入ることは非常によいと
ンを口のなかに入れて、それを嚥下するためには、
なってしまう。
くない理由の 1 つは痛そうだからだ。最初はとて
いうことだ。ゆっくりと腸管のなかを通過するの
咀嚼しなければならない。歯で咀嚼してだ液で混
も痛い。敏感なところに硬いチューブが留置され
で、吸収もゆっくり進み、肝臓での代謝能力を超
ぜることが必要だ。もしもそれができなければ、
るとすごく痛い。ところが人間の体というのは、
えることがない。
フレンチトーストにする、パンがゆにするといっ
強い刺激が臓器にずっと加えられていると、感受
とだ。尿道カテーテルにしていると、カテーテル
何でこんなことになったのか。こうなるまでに
と尿道の間に石がついて、カテーテルの交換がで
いう命令を出す。液体の栄養剤だと胃袋は膨らま
30 ● 老健 2011.6
私たちの医療・介護の専門職の領域において非
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特集2 看護職員研修会開く
性が落ちていき、鈍くなるわけだ。
看護職員研修会開く 特集2
殖する。汚かったチューブの中身は歯垢であって
要介護状態と判定され、老健施設の利用を開始
好みの食は上手に食べられる
食の履歴を知ること
粘着しているため、いくら水で流しても取れない。
するときには、ぜひとも歯科を呼んでいただきた
が、温度に対する感覚や触っている感覚も一緒に
カニューレも真っ赤になる。歯垢を全然ブロッ
い。口のなかを見たこともない人が口腔ケアを行
落ちることである。そうすると口を使って、だ液
クできていない。交換のときに38度 5 分くらいの
おうと思っても、なかなかできない。入れ歯が合
が出てきても、だ液は体温と同じだから刺激強度
熱が出る。そこで肺炎を疑い胸のレントゲンを撮
っているかどうかを見るのもなかなか難しい。
が弱い。カニューレを留置しているのどぼとけが
ってみても何も見つからず、解熱処置すると 1 日
上下することによって、喉頭蓋で気管口にふたを
程度で改善する。ところがそうした方の血液検査
するようにできており、喉頭の上下運動が抑圧さ
を行うと、炎症反応でCRPが高くなっている。誤
ケアですか?」と問うと、
「わかりません」となる。
を利用している高齢者がこういう条件を満たし得
れて、喉頭蓋で気管口にふたをすることができな
嚥している可能性がある。
なぜかというと、口腔ケアの目標が見えないから
るかというと、なかなか難しい。そうすると、や
こういう発熱を 1 週間に 2 回、2 週間に 3 回程
である。介護予防でも、どこまで何をしたらよい
はりベッドサイド、あるいは食事をとっているシ
度出している利用者では予備力が低下しているた
かがわからない。
「うちはヨード製剤でうがいさせ
ーンで嚥下状態を評価していただきたい。
め、風邪をひくと40度くらいの熱が出て、胸のレ
ています」
、
「指にガーゼを巻いてヨード製剤で口
急性期病院のときには食べていたのに、リハビ
ントゲンを撮ると真っ白に写り、肺炎の診断が下
腔内をぬぐってる」などを行っているようだ。こ
リテーション病院に移ると食べられなくなったと
る。38度程度の発熱の段階で必ず歯科衛生士を呼
れも前述した「自分はやられたくないのに、人に
いう例をたくさん経験した。なぜかというと、リ
歯垢のなかに入っているばい菌は 1 グラム中
び、徹底して口腔清掃をやっていただきたい。そ
はできること」だ。
ハビリテーション病院に移ったら、嚥下造影検査
11
れによって誤嚥性肺炎の予防に努めてもらいたい。
その問題は、痛みだけを抑えられたらよいのだ
い。すなわち誤嚥してしまう。これでは呼吸路の
安全性は確保できない。
歯垢と栄養剤と胃酸が逆流して
誤嚥性肺炎に
10 個ある。体にもう 1 か所これと同量の 1 グラ
11
ム中10 個ばい菌がいるところが直腸だ。直腸の
大便と同程度の汚れを持つものが歯垢ということ
になる。歯垢には基質という、ばい菌がつく菌体
介護予防のなかでも
栄養改善と口腔機能の向上は別
よく「口腔ケアはしていますか?」と聞くと、
「しています」と答が返ってくるが、
「どんな口腔
安全に嚥下検査ができる条件は、①覚醒してい
ること、②気道保護のための誤嚥防止姿勢をとれ
ること、③咳反射や咳が可能なこと、④口腔衛生
状態が改善されていること――である。老健施設
ヨード製剤が効くためには、製剤がその場所に
や内視鏡検査を行う。それを待っている間にNG
留まって乾燥する必要がある。ヨード製剤が無効
チューブを入れ、栄養不全の状態でリハビリをや
になる条件は血液や浸出液などの有機物に触れる
ったらいけないからといって寝かせたままにして
ことだ。だから炎症があるときにはヨード製剤は
いる。その方を、ぼーっとした状態で造影室に連
無効になる。ガーゼで口のなかをぬぐうと粘液を
れて行っても、頭で「これは造影剤だ。おいしく
外多糖、糖たんぱくがあり、それが歯について酸
介護予防では、栄養改善と口腔機能の向上の保
を出して虫歯にしたり、歯周病にしたりする。こ
険請求が一番少ないようだ。①運動機能の向上、
取ってしまうから、粘膜が裸になり敏感になる。
ないけど飲まないといけない」とは考えられず、
れは舌の表面にもつく。
②閉じこもり予防・支援、③認知症予防・支援、
そこにヨード製剤をつけると収れん効果のために
口のなかに入ってきてもうまく処理できない。
④うつ予防・支援――と比べて、⑤栄養改善、⑥
痛い。さらにヨード製剤は細胞毒だから気管に流
では、人はなぜ誤嚥するのか。四足歩行動物は
口腔機能の向上は、少し趣が異なる。
れていくと、気管支粘膜がずたずたになる。だか
誤嚥することはない。二足歩行するようになって、
らヨード製剤を誤嚥させてしまうと、肺炎を起こ
顔がおなかの側に移動してきた。その結果、気道
す。
が90度曲がり、軟口蓋が舌と喉頭蓋の間から引き
口をきれいにする場合は、歯をケアするだけで
は不十分で、舌の表面をきれいにしなければいけ
ない。食事介助を受けていて、歯垢がはがれて流
れると肺炎を起こすことになる。
栄養改善と口腔機能の向上は、
「食べることと、
話すこと」だが、これはあまりにも随意的だ。私
チューブを入れて 1 週間経った人のNGチュー
たちは食べること・話すことは、かなり自分勝手
口腔ケアは大事だが、嚥下機能も知っておいて
ブを歯垢染出し液で染めると、胃袋のなか、下部
な好みでやっている。小学校のときに「 1 口30回
いただきたい。口腔ケアをすると、刺激性だ液が
して、口のほうに呼気を誘導できるようになり、
食道半分のところが染まった。さすがの歯垢も胃
噛みましょう」と言われて、果たしてそのとおり
出てくる。これを誤嚥させてはいけないというこ
声を口から出せるようになったが、誤嚥という障
酸には負けると思っていたが、米国CDC(米国
にやっているだろうか。どうしてやらないのかと
とで、ガーゼを使ってしまう。子供用の歯ブラシ
害を有するようになった。すなわち咽頭が長けれ
感染予防センター)がいろいろなガイドラインを
いうと、気持ちが悪くなって全然おいしくないか
がよいと言うが、子供用の歯ブラシは毛が短く硬
ば長いほど、誤嚥しやすくなるのである。
出しており、それによると、NGチューブ、カニ
らである。
いため、痛い。だから大人の歯ブラシの柔らかい
一方、声を持つようになって私たちは文化をつ
抜かれ、長い咽頭ができた。単独で軟口蓋を動か
ューレの交換は 2 週間でよいとなっている。とこ
私たちは、
「身体によい」と言われても、やらな
ものを使って、ヘッドが大きいので毛を抜いても
くったが、この文化のなかの 1 つである食文化と
ろが 2 週間経って染めてみると、先まで真っ赤に
いことはいっぱいある。だからそういう概念では
らう。吸引チューブ付の歯ブラシを使ってもらえ
いうものが、随分と私たちの臨床現場に影響する。
なるのだ。チューブの先に栄養剤を流す穴が開い
なく、
「口から食べることはリスクマネジメントで
ればガーゼは使う必要はない。
同じカップ麺でも横浜で売られているものの粉末
ているが、ここから歯垢がチューブの内側にも繁
ある」と考えて取り組んでいただきたい。
32 ● 老健 2011.6
スープは大阪のものよりも濃い味付けになってい
老健 2011.6 ● 33
特集2 看護職員研修会開く
看護職員研修会開く 特集2
る。関東の食事は、武士の食事だ。平時は農民で、
そのためにはバスタオルを使う。このバスタオル
して踏み台を入れ、そこに体重を乗せられるよう
下動くようになったら、中期食を選択する。そし
有事には武士になる。肉体労働をして濃い味をお
はぼろぼろがよい。繊維がずたずたに切れている
にして、テーブルを上に持ってくればよい。本来
て舌が前後・上下・左右に動くようになったら、
いしく感じるのである。一方、関西は公家の食事
と、任意の形状に変えやすく、しかもざらざらし
は、食事の際には普通の椅子に座ってもらうこと
後期食に至るというようにしていく。
で、肉体労働をしないため、薄味が好まれる。こ
ていて摩擦抵抗が大きいため身体が逃げていかな
が一番よい。
うしたなかで私たちの嗜好は就学前に完成するの
い。
ソファーは腰が前方に流れていき、お腹が横隔
入れ歯の役割は、食事をとるためだけだと思っ
ている歯科医師が多いが、実はそれだけではない。
で、関東の味つけに慣れた成人が関西の病院に入
なぜ起こさないといけないかというと、まっす
膜をぐっと上に上げるので、咳払いができなくな
総入れ歯を外すと、唇が内側に入る。一方、入れ
院して、関西風の味つけの食事を出されてもおい
ぐ立っているとき、あるいは座っているときは、
り、また十分に空気が吸えなくなる。ベッドの上
歯があると唇が内側に入ろうとするのを邪魔する。
しいと思わないため、食欲は低下し、検査でAlb
一体となっている下顎と舌に重力が下前向きの力
に座っている姿勢とまったく同じだ。ベッドの上
筋肉が収縮し、運動する方向に障害物があって邪
値が低値になると非経口的栄養法が選択されるこ
をかける。したがって前下に向かうベクトルによ
で足を伸ばしている状態は、お腹で横隔膜を上に
魔されると、筋肉は常に負荷が与えられ訓練され
とも多々ある。
って口は開けやすくなっている。
上げてしまい、十分な吸気ができず咳払いができ
ていく。この効果が入れ歯にはある。
従って、この方は今までどのような食事をとっ
ところが寝た姿勢では、頬の重い筋肉が背中の
てきたかという「食の履歴」が必要だ。好みの食
側に流れて顔が伸びる。この重い筋肉は下の前歯
介護シューズは靴のかかとはついていても、そ
唇の力が落ちていく。スプーンで食べ物を口のな
は障害を持っても上手に食せるが、好みと異なる
のところの唇で支える。下の前歯は、舌が前に行
のなかでかかとが浮いていることがある。これは
かに入れて抜くと、スプーンにのせた食べ物がそ
ものは食指が弱いため、その履歴に応じた食の提
く力と唇が内側に入る力のバランスがとれた位置
なかなか見抜けないのでどうするか。かかとがつ
のまま出てきてしまう。食事をとっていなくても
供が求められる。
に並んでいるが、寝ていると、頬の重みが下唇を
いていると、太ももと椅子との間にすき間ができ
入れ歯を入れてほしいというのは唇の力を鍛える
介して下の前歯に乗って前歯を内側に倒し、舌は
る。ここに手が入れば、かかとはついている。手
ためだ。上唇の力がついていけば、スプーンにの
のどに沈下して開口状態となり、口が乾燥し、1
が入らなければ、かかとは浮いている。そうした
せたあるいはお箸ではさんだ食べ物を上下の唇で
日に1,000ccから1,500cc出るだ液も乾燥すると全
ら踏み台を入れる。
ぬぐい取ることができるようになる。
食べるときの姿勢が
誤嚥防止のポイント
誤嚥を防止する姿勢というのがある。座位をと
るときには「うなずく姿勢をとれ」とされるが、
部失ってしまい、ついには脱水を起こす場合もあ
る。
ない。
歯ブラシは
奥歯から始める 入れ歯を外したままだと抵抗がなくなるので、
増粘剤にも注意がいる。
「ポタージュスープ状に
なる」とメーカーがコメントする増粘剤を10種類
うなずくためには体幹保持が重要だ。体幹保持が
また、立っているときは、内臓は下に下がり横
できる姿勢を保つためには、足が床についている
隔膜を下方に引っ張って胸郭が十分広がり、十分
介護する人が立ったまま介助すると、利用者は
ことが大事であり、まず足を見て、足が床につい
呼吸ができる状態だ。だから食べ物を飲み損ねそ
下から上を見上げる。この状態では喉頭運動が抑
120分経ったものの粘性を測ると全然違う。一方、
ているかどうかを確認してほしい。
うになったとき、咳払いがすぐにできる。ところ
制される。右利きの介助者が対象者の左からアプ
水に溶かしたときの結果と塩分が加わった食品で
足が床についていなかったり、椅子が非常に高
がずっと寝かせておくと内臓が流れ、横隔膜が上
ローチすると、嚥下経路がねじれてしまう。
は傾向はまったく違ってくる。すなわち水やお茶
かかったりしたときは、足の下に踏み台を入れる。
方に偏位して胸郭が狭くなるので、咳払いができ
ベッドで寝ている場合は、背の部分をギャッジす
なくなってしまう。
集め、この粘性を測ってみた。
AからJの製品について、作成後30分・60分・
歯ブラシをするときに気をつけてもらいたいの
にとろみはつくが、塩分のある食事にはとろみが
は、恐らく多くの人が自分でブラッシングすると
つかないものがあったり、食事はとろとろにはな
るが、高齢者はギャッジするとズルズルと滑って
車椅子の問題もある。車椅子で、テーブルが低
きには奥歯から行っているが、奥歯は硬いものや
るけれども水やお茶にはとろみがつかないという
いって、首だけがギャッジされることも多い。こ
いところにあると、食べ物を口から迎えに行って
尖ったものを咀嚼するために鈍くできており、奥
ものがあったり、時間安定性が悪かったりと、い
の姿勢は喉頭の運動が抑制され誤嚥しやすい。
しまう。ならば、テーブルを上げて胸のところに
歯から磨くと利用者は抵抗をしない。ところが前
ろいろだ。
そのようなことにならないように、ギャッジ後
つけたらと思うかもしれないが、それだけでは安
歯からケアすると、前歯の部分は敏感なので痛み
に膝の裏にバスタオルを丸めたものを入れ、足の
全に食べる姿勢にはならない。車椅子のペダルの
が強く嫌がられてしまうのである。
裏とベッドの立板の間に段ボールのようなものを
ところに体重をかけようとすると、転倒するため
舌が前後にしか動いていないときは、初期の離
入れればよい。段ボールを踏める状態にし、上半
体重を車軸の上に残しておくことになり、口から
乳食しかとれないことは前述した。舌が前後・上
身が落ちてこないようにするのである。また麻痺
迎えに行ってしまうことによって頸部が伸展され
がある側を上にし、非麻痺側を下にしてもらう。
喉頭運動が障害され誤嚥する。だからペダルを外
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最後に「実践無き理論は無力である。理論無き
実践は暴力である」という言葉で終わらせていた
だく。
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