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広義の脳科学 AAAS科学技術政策年次フォーラム報告

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広義の脳科学 AAAS科学技術政策年次フォーラム報告
No.87 2008.6
6
6 /2008
2008
No.87
2008年6月号 第8巻第6号/毎月26日発行 通巻87号 ISSN 1349-3663
p2.8
広義の脳科学
p3.27
AAAS科学技術政策年次フォーラム報告
ライフサイエンス分野
p4
世界の幹細胞研究者により
i PS 細胞の課題が討論された
情報通信分野
ロバストなメディア検索技術の
実証実験
特別記事
p33
「科学技術動向」発行状況および
ホームページ公開版へのアクセス状況
ライフサイエンス分野
p5
高病原性鳥インフルエンザ感染者に
対する迅速・簡便な検査法
環境分野
p7
下水道事業における
温室効果ガス削減の取り組み効果
2008
No.87
6
今月も「科学技術動向」をお届けします。
科学技術動向研究センターは、約 2000 名の産官学から成る科学技術
人材のネットワークを持ち、科学技術政策において重要な情報あるいは
意見の収集を行い、また科学技術予測に関する活動も続けております。
月刊「科学技術動向」は、科学技術動向研究センターの情報発信手段
の一つとして、2001 年 4 月以来、毎月、編集・発行を行っています。意
識レベルの高い科学技術関係者の方々、すなわち、科学技術全般に関し
て広く興味を示し、また科学技術政策にも関心をお持ちの方々に読んで
いただけるものを目指しております。「トピックス」では最近の科学技術
および政策から注目される話題をとりあげ、また、「レポート」では各国
の動向や今後の方向性などを加えてさらに詳しく論じています。これら
は、科学技術動向研究センターの多くの分野のスタッフが学際的な討議
を重ねた上で執筆しています。「レポート」については、季刊の英語版の
形で海外への情報発信も行っています。
今後とも、科学技術動向研究センターの活動に有効なご意見を読者の
皆様からお寄せいただけることを期待しております。
文部科学省科学技術政策研究所
科学技術動向研究センター センター長
奥和田 久美
このレポートについてのご意見、お問い合わせは、下記のメールアドレスまたは電話
番号までお願いいたします。
なお、科学技術動向のバックナンバーは、下記の URL にアクセスいただき「科学技術
動向・月報一覧」でご覧いただけます。
文部科学省科学技術政策研究所
科学技術動向研究センター
【連絡先】〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-2-2 中央合同庁舎第7号館東館16F
【電 話】03-3581-0605【FAX】03-3503-3996
【 U R L 】http://www.nistep.go.jp
【 E-mail】[email protected]
Science & Technology Trends June 2008
1
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
科学技術動向
本文は p.8 へ
概 要
広義の脳科学
精神・神経の科学には、1940 年代から様々な分野が参入し、拡大してきた。1990 年
代以降、脳の科学として推進される過程で、「脳の機能やこころのあり方は、脳と全身、
自己と他者、ヒトと社会・環境の相互作用という広い現象として捉えるべきである」とい
うことが明確になってきた。現在の脳科学は、臓器としての脳を超えた心身の科学・こ
ころの科学であり、『広義の脳科学』になっている。
日本では、20 世紀後半の急激な社会変動に同期して、『広義の脳科学』の研究、脳科学
推進の政策、精神神経疾患の変遷が起こってきた。この時期に浮上して解決し残した課
題を見直し、将来に予測される社会的需要に基づいて、今後の『広義の脳科学』を進めて
ゆく必要がある。典型的な課題の一つは、社会の急激な変化や価値の多様化に伴う、ス
トレスと気分(感情)障害の問題である。
ヒトの「自己」という認識は、知覚と行動の連関によって、常に作り続けられている。又、
知覚・行動を統合する際には、近い過去と現在の状況を参照として近い将来を予測する
という予測的制御や、現在の状況から省みて過去を解釈するという機序が働いている。
この様な、時間的に発展・再帰する複雑な精神の特性を研究するため、非線形力学や精
神病理学、また、これらに構想を得た概念枠の研究が重要となっている。これらの研究を、
胎生期・乳幼児期・思春期から老齢期まで縦断的に貫いて、ヒトの精神のあり方を調べ
る国家計画の一環として推進する必要がある。
脳は、情報・意味・精神・こころという、物質では表すことの出来ない階層と、身体
という物質的階層の関り合う場である。工業化時代のような物質・エネルギーの産業化
による成長のみを志向する体制は限界点を迎えている。情報産業時代の特徴は、脳・感
覚器産業あるいは精神産業による成熟である。『広義の脳科学』と環境科学は共に人文社
会科学を含む巨大科学技術になっており、協調して推進することが肝要である。
2
2008/6/10㩷 䋶᦬ภ䋨ᩏ⺒ᓟୃᱜ䋩
科学技術動向
本文は p.27 へ
概 要
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AAAS科学技術政策年次フォーラム報告
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5
10
[᭎ⷐ]
2008 年 5 月 8 ~ 9 日、ワシントン DC にて全米科学振興協会(AAAS)の科学技術政策
2008 ᐕ 5 ᦬ 8䌾9 ᣣ䇮䊪䉲䊮䊃䊮 DC 䈮䈩ో☨⑼ቇᝄ⥝දળ䋨AAAS䋩䈱⑼ቇᛛⴚ᡽╷ᐕᰴ䊐
年次フォーラムが開催された。AAAS は、科学者、科学教育者、政策決定者等の会員を
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回目となった今回は、大統領選およびその
䉕⵬䈦䈩擁する世界最大規模の非営利団体である。33
ACI 䈪␜䈘䉏䈢 10 ᐕ㑆䈱੍▚୚Ⴧ䈏น⢻䈫䈭䉎䇯࿖㒐✚⋭䋨DOD䋩䈱౓ེ㐿⊒䉇⥶ⓨ
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後に向けた構成となり、全体セッションテーマとして
「2009 年度予算と政策的背景」「21
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世紀の世界と科学技術」
「科学技術-
2008 大統領選とその後」「科学とニューメディア」
࿖㒐✚⋭⑼ቇᛛⴚ䋨DOD
“S&T”䋩䇮ㄘോ⋭䋨USDA䋩䈭䈬䈲ᷫዋ䈚䈩䈇䉎䇯䈢䈣䈚䇮ᓟੑ⠪䈱ᷫዋ
が設定された。
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5
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「2009
年度予算と政策的背景」
セッションでは、J.Marburger 科学技術政策局長官が基
䇸2009
ᐕᐲ੍▚䈫᡽╷⊛⢛᥊䇹䉶䉾䉲䊢䊮䈪䈲䇮J.Marburger
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䈪䈅䉎䇯調講演を行い、科学コミュニティは次期政権で物事が動き始める前から働きかけを行う必
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要があると述べた。また、研究開発費配分に関して、米国には調整のフレームワークがな
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いこと、依然として分野間に不均衡があること等の問題点を挙げた。次いで、AAAS
研
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究開発予算プログラムのディレクターである
K. Koizumi 氏が
2009 年度研究開発予算に
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関する講演を行い、米国競争力イニシアチブや米国競争力法に沿った予算配分がなされて
䈪䈅䉎 K. Koizumi ᳁䈏 2009 ᐕᐲ⎇ⓥ㐿⊒੍▚䈮㑐䈜䉎⻠Ṷ䉕ⴕ䈇䇮☨࿖┹੎ജ䉟䊆䉲䉝䉼䊑
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いることを示した。
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ACI 㑐ㅪ䈱Ⴧട䈏䉦䉾䊃䈘䉏
「21 世紀の世界と科学技術」および「科学技術- 2008 大統領選とその後」
セッションで
15
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は、次期政権の課題として、世界中の科学技術力を結集して、気候変動、エネルギー問題
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等の地球規模問題の解決に取り組むべきことが示された。「科学とニューメディア」セッ
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ションでは、ブログおよびバーチャルワールドのサイエンスコミュニケーション手段とし
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ての有用性が示された。
(対前年度)
20米国の 2009 年度研究開発予算の省庁別変化
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FY2009 R&D Request
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NIST:㩷 ࿖┙ᮡḰᛛⴚ⎇ⓥᚲ
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DHS:㩷 ࿖࿯቟ో଻㓚⋭
NIST:㩷 ࿖┙ᮡḰᛛⴚ⎇ⓥᚲ
NIH:㩷 ࿖┙ⴡ↢⎇ⓥᚲ
VA:㩷 ㅌᓎァੱ⋭ DHS:㩷 ࿖࿯቟ో଻㓚⋭
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NOVA:㩷
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NOVA:㩷 ᶏᵗᄢ᳇ዪ
USGS:㩷 ☨࿖࿾⾰⺞ᩏᚲ
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USDA:㩷 ㄘോ⋭
DOE Science+21%
NSF+16%
DOT
DOD weapons
NASA
NIST
DHS
DOE defense
DOE energy
NIH
VA
NOAA
EPA
USGS
DOD"S&T"
USDA
-15%
-10%
-5%
0%
Source:AAAS,based on OMB R&D data and agency estimates for FY 2009.
DOD "S&T" =DOD R&D in "6.1"through "6.3"categories plus medical research.
DOD weapons =DOD R&D in "6.4" and higher categories.
MARCH '08 REVISED C 2008 AAAS
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20
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1)
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Koizumi講演スライド
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出典:K. Koizumi
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Science & Technology Trends June 2008
3
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
ライフサイエンス分野
TOPICS
Life Science
ヒト i PS 細胞は、2007 年にヒトの皮膚細胞に 4 つの遺伝子を導入することで初めて作り出され、
筋肉や神経組織など様々な細胞に分化する能力を持っている。細胞の作成にヒト胚を使用しないこと
で、ヒト ES 細胞が抱える倫理問題や細胞移植の際の免疫拒絶反応の問題も解決されると考えられ、
医療において幅広い応用の可能性が世界中から期待されている。5 月 11 ~ 12 日に国立京都国際会館
で開催された国際シンポジウム
「i PS 細胞研究が切り拓く未来」では、世界の幹細胞研究者 16 名が集
まり、動物モデルを用いた鎌状赤血球の i PS 細胞による治療や、低分子を用いた i PS 細胞の作製の試
みなど、i PS 細胞関連の最先端の研究成果が示された。また、今後の国際協力としての可能性として、
i PS 細胞の標準化や細胞バンクなどが提案された。今回のシンポジウムでの討論がきっかけになり、
今後、さらに、i PS 細胞研究の進展は世界的に加速されると考えられる。
トピックス
1 世界の幹細胞研究者により iPS 細胞の課題が討論された
国際シンポジウム「iPS 細胞研究が切り拓く未
来」が、(独)科学技術振興機構の主催で、5 月 11 ~
12 日に国立京都国際会館で開催された。このシン
ポジウムの目的は、iPS 細胞関連の最先端を行く世
界の研究者が議論し将来を展望するとともに、各
国とどのような国際協力ができるかを話し合うこ
とである。
シンポジウムは、内閣府、文部科学省、厚生労
働省、経済産業省、京都大学、Cell Press 社の後援
で行われ、昨年 11 月にヒト iPS 細胞の樹立を発表
し、世界の注目を集めた山中伸弥教授(京都大学)
ら日本人研究者に加えて、世界 10 カ国から幹細胞
研究の最先端をいく 16 名の研究者が集まった。
ヒト iPS 細胞は、2007 年にヒトの皮膚細胞に
4 つの遺伝子を導入することで初めて作り出され、
筋肉や神経組織など様々な細胞に分化する能力を
もつ。この分化能は、ヒト胚を用いて作製される
ES 細胞に匹敵すると期待されることから、“人工
多能性幹細胞 (induced Pluripotent Stem cell : iPS
cell)”と呼ばれている。細胞の作製にヒト胚を使用
しないことで、ヒト ES 細胞が抱える倫理問題や細
胞移植の際の免疫拒絶反応の問題も解決されると
考えられ、医療において幅広い応用の可能性が世
界中から期待されている。
シンポジウムでは、以下のように iPS 細胞を使
った最先端の研究が報告された。
ルドルフ・イエーニッシュ教授(MIT、米国)か
らは、免疫細胞から作製した iPS 細胞を使い、ヒ
ト疾患の動物モデルで、鎌状赤血球貧血、パーキ
ンソン病の治療を試みた結果が示された。特に、
鎌状赤血球貧血では、異常である鎌状赤血球の減
少や動物の体重の増加など、臨床応用に期待がで
きる良好なデータが示された。
シェン・ディン准教授(スクリプス研究所、米国)
からは、遺伝子と低分子化合物を用いて iPS 細胞
4
樹立を行った結果が示された。スクリプス研究所
の低分子ライブラリーを用いて、体細胞に iPS 細
胞のような万能性を持たせることができる低分子
を探し、その結果、山中教授が iPS 細胞作製で使
用した 4 遺伝子の内の 2 遺伝子と低分子とを組み
合わせることで、マウスの iPS 細胞を樹立するこ
とができた。ディン博士は、今後数年以内に低分
子だけで iPS 細胞が樹立できるだろうという見通
しを示した。
また、日米以外の国における研究への取り組み
状況についても紹介された。アラン・コールマン
博士(シンガポール幹細胞コンソーシアム)は、国
を挙げてバイオや医学研究を推進しているシンガ
ポールでも、iPS 細胞はまだ緒に就いたばかりと述
べた。また、コールマン博士は、iPS 細胞はヒト胚
を使用しないことで倫理的な問題の解決は果たし
たが、iPS 細胞開発によって細胞治療が容易になっ
たわけではないとコメントした。
このシンポジウムにおいては、ヒト iPS 細胞研
究の国際協力の可能性として、iPS 細胞の標準化や
国際的な細胞バンクの設立などが提案された。ま
た、ヒト iPS 細胞には、次のように、基礎研究な
どによって解決しなければならない様々な課題が
残されていることもあらためて認識された。(1) ヒ
ト iPS 細胞を作製するために細胞に遺伝子を導入
する際に、遺伝子の運び屋としてウイルスを使わ
ない方法の確立、(2) リプログラミング(iPS 細胞
作製)の効率向上、(3) エピジェネティクスのメカ
ニズム解明、(4) 多能性の本質の解明、(5)iPS 細胞
と ES 細胞の相違の明確化、(6) 目的とする細胞へ
の分化誘導など。
今回のシンポジウムでの討論がきっかけになり、
今後、さらに、ヒト iPS 細胞研究の進展は世界的
に加速されると考えられる。
ライフサイエンス分野
TOPICS
Life Science
近年、世界の各地で高病原性鳥インフルエンザ
(HPAI)
ウイルスのヒトへの感染・発症・死亡事例が
報告されている。国立国際医療センターの国際疾病センターは、(株)ミズホメディーと共に HPAI ウ
イルス感染者に対する迅速・簡便な検査法を開発した。検体を試薬に混ぜて検査装置に垂らすのみの、
所要時間 15 分の判定方法である。ベトナムにおける実験では、本検査法によりウイルスの検出およ
び感染の有無を正確に判定することができた。この検査法は迅速かつ簡便であり早期診断につながる
ことから、感染の拡大を防ぐために今後の活用が期待される。
トピックス
2 高病原性鳥インフルエンザ感染者に対する迅速・簡便な検査法
近年、 世界の各地で高病原性鳥インフルエンザ
ウ イル ス(Highly Pathogenic Avian Influenza
Virus; HPAI ウイルス)のヒトへの感染・発症およ
び死亡事例が相次いで報告されている。世界保健機
関(WHO)の報告によると、世界中で HPAI ウイル
スに感染・発症したヒトの数は 373 人で、そのうち
死亡者数は 236 人と死亡率が極めて高い(2008 年
3 月 18 日までの累積)。特にアジア、中でもインドネ
シアとベトナムで感染・発症・死亡事例が多く、深刻
注 1)
な状態が続いている 。
HPAI ウイルスに感染したヒトを迅速かつ簡便に
診断するための研究も進められている。この度、国
立国際医療センター(IMCJ)
の国際疾病センターは、
(株)ミズホメディーと共に、HPAI ウイルス感染者に
対する迅速かつ簡便な検査法を開発したと、5 月 9
日付けで発表した(特許出願中)
。
ヒトインフルエンザの検査法には、培養細胞によ
りウイルスを分離する方法、ウイルスに対する抗体
を測定する血清診断法、あるいはウイルスの遺伝子
を検出する方法が用いられている。近年では、比較
的迅速・簡便な検査法も開発され、臨床応用されて
いる。HPAI ウイルス感染者に対する検査も、上記
のヒトインフルエンザ迅速・簡便検査法を転用した
ものの、正確に判定できなかったため、HPAI ウイ
ルス専用の新たな検査法の開発が待たれていた。
IMCJ らが開発した検査法は、HPAI ウイルスの一
注 2)
種である H5 亜型 のウイルスの感染の有無を判定
する。判定方法は、ヒトの気管支・肺の浸出液(検
体)を試薬に混ぜて検査装置に数滴垂らすのみであ
る(所要時間 15 分)
。H5 亜型ウイルスに感染して
いた場合には、検査装置上に線が浮き出る。この線
は、ヒト検体中に含まれる H5 亜型ウイルスに特異
な蛋白質と検査装置中の物質とが反応し、その反応
物が発色したものである。
IMCJ らは、本検査法の有用性を検証するために、
ベトナムの研究所・病院、および(独)理化学研究所
の感染症研究ネットワーク支援センター(CRNID)
注 3)
と共同で、以下の 2 つの実験を行った 。一つは、
ベトナムで 2004 ~ 2007 年の間に検出・保存され
ていた HPAI ウイルス(H5N1 亜型)を用いたもの
で、この実験では 10 種類以上のウイルス全てが検
出でき、同国で検出されたヒトインフルエンザウ
イルスを対照として検証も行った。もう一つの実
験はヒトの検体を用いたものであり、これは同国
で HPAI 患者と確定された数例の保存検体、および
2008 年 1 ~ 2 月に感染の疑いがあるとみなされた
未確定診断 3 例の検体を用いた。実験の結果、前者
については、検体中のウイルス量の不足で判定不能
だった 1 例を除き、全て HPAI ウイルスの感染が判
定できた。後者は 3 人中 2 人がウイルスに感染、1
人はウイルスに感染していないことを正確に判定で
きた。この実験については、別の検査方法による追
試を行い、本検査法での判定の正確性を確認した。
この度開発された検査法は、上述のように高い信
頼性が迅速かつ簡便に得られ、病床や空港の検疫所
などでも利用可能である。早期診断は、感染の拡大
を防ぐために有益であり、今後、この検査法の活用
拡大が期待される。
注 1:日本では、HPAI ウイルスの感染が疑われた
ヒトの事例はあるが、いずれも発症はしていない。
注 2:HPAI ウイルスは、その外皮蛋白であるヘマ
グルニチン(H)とイラミニダーゼ(N)の違いによって
いくつかの亜型に分類されている。
注 3:ベトナムで行われた実験のデータについては、
IMCJ の秋山徹氏から提供を受けた。
参 考
1) IMCJ 国際疾病センター、鳥インフルエンザに
関する臨床研究プロジェクト :
http://www.dcc.go.jp/dis_center/project_bird_infl.
html
2) CRNID、新興・再興感染症研究拠点形成プログ
ラム、最新のニュース「IMCJ、高病原性鳥インフ
ルエンザ H5N1 ヒト感染の迅速診断法を開発」
(2008 年 5 月 9 日)
Science & Technology Trends June 2008
5
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
Information & Communication
TOPICS
情報通信分野
2008 年 4 月 22 日より日本電信電話(株)は米 BayTSP 社と共同で、投稿サイトやブログサイトで使
用された音楽、映像、動画のオリジナルタイトルを特定する実証実験を開始した。同社コミュニケー
ション科学基礎研究所の開発した
「ロバストメディア検索技術」
を使い、音や映像の特徴数値を抽出し
てあらかじめ登録されたものと照合する。
この技術は、
編集や加工、
音質や画質の劣化など、
信号に様々
な変化が加わっていても精度よく元のコンテンツを特定できる。今回の実証実験では、権利者から預
託された音楽や映像に対し、1 日あたり数千件から数万件の規模で照合を行う予定である。
トピックス
3 ロバストなメディア検索技術の実証実験
6
今回の実証実験は、「ロバストメディア検索プラ
ットフォーム」(図表右側)と「コンテンツ認識プ
ラットホーム」(図表左側)を結合して行う。まず、
BayTSP 社が権利者から預託された音楽や映像の
コンテンツから、NTT のコミュニケーション科学
基礎研究所が RMS 技術により特徴データを抽出
し、これをデータベースに格納する。次に、任意の
投稿サイトやブログサイトから音楽や映像を収集し
て、特徴データに変換してデータベースとの照合を
行い、その結果の統計や分析を行う。これを、1 日
あたり数千件から数万件の規模で行う予定である。
ロバストメディア検索 (RMS) 技術の実証実験
投稿サイトなど
メディアファイル収集
メディアファイル
分析・報告
結果
コンテンツ
ホルダ
預託
オリジナル
コンテンツ
コンテンツ
データベース
コンテンツ
CAP・RMSPインタフェース
日本電信電話株式会社(NTT)は、インターネッ
ト上のコンテンツの音や映像の特徴を照合するこ
とにより、あらかじめ登録された特定の音楽や映
像が含まれるかどうかを高速に検出できる「ロバ
ストメディア検索技術(RMS 技術:Robust Media
1)
Search)」を開発した 。また、同社は米 BayTSP
2)注)
と共同で、投稿サイトやブログサイトで使用
社
された音楽、映像、動画のオリジナルタイトルを特
定する実証実験を 2008 年 4 月 22 日より開始した。
動画投稿サイトやブログサイトが急速に普及し、
コンテンツが豊かになる一方で、著作権侵害の事
例も増加して世界的に問題となっている。また、
急激なコンテンツ量の増加により、人手による確認
作業は不可能になっている。一方、NTT のコミュ
ニケーション科学基礎研究所は、音や映像の短い断
片の中に特定の音や映像が含まれているかを高速
で判定するメディア検索技術の研究を進めており、
今回の実証実験に応用することになった。
従来のメディア検索技術では、音の波形や映像
の 1 コマを細かなブロックに分割して、ブロック
毎の特徴数値を抽出し、あらかじめ登録されたデ
ータと比較する。しかし、処理データが膨大とな
るうえに、編集や加工された動画を検出できない
という欠点があった。これに対して、上記の RMS
技術は、音や映像において特に特徴的な部分だけ
を選択的に数値化し、さらにその数値の一貫性を
判定することによって、高いロバスト性を実現し
ている。ここで言うロバスト性とは、信号の変化
に影響されにくい性質のことを指す。RMS 技術に
よって、編集や加工、音質や画質の劣化など、信
号に様々な変化が加わっていても精度よく元のコ
ンテンツを特定できる。また、特徴的な部分の配
置が似ている動画を探し出すことができるため、
映画館などで盗撮された動画も探し出すことがで
きる。特徴データのサイズを圧縮する時間整合性
フィルタ技術も今回新たに開発された。これによ
り、ロバスト性を失うことなく、大容量での照合
処理を高速で行うことにも成功している。
コンテンツ特定
特徴抽出
特徴照合
メディアファイル
の特徴データ
特徴抽出
コンテンツの
特徴データ
米国に設置
特徴
データベース
日本に設置
出典:参考文献
注:BayTSP 社は、インターネット上の著作権侵害
調査を行う企業で、米国の大手メディア企業や主要
な映画制作会社を顧客としている。
参 考
1) NTT ニュースリリース:http://www.ntt.co.jp/
news/news08/0804/080422a.html
2) BayTSP 社ニュースリリース:http://www.baytsp.
com/pressroom/BayTSNTTpressrelease.pdf
1)
環境分野
Environment Science
TOPICS
2008 年 4 月、東京都下水道局は、温室効果ガス排出量を計画的に削減する取り組み
「アースプラン
2004」の進捗状況を報告した。2006 年度の排出量実績は 91.6 万 t-CO2/ 年、2009 年度の見込みでは
91.3 万 t-CO2/ 年であり、2009 年度までに 1990 年度比で 6% 以上削減という数値的目標を達成可能で
ある。CO2 の 310 倍の温室効果がある N2O の削減は最も効果が大きいことから、同局は汚泥処理工程
汚泥の高温焼却や炭化などの新技術を全国に先立って実証し、
導入した。
で発生する N2O の削減のため、
また、この他にも従来の下水道事業には無かった NaS 電池などの設置新技術も導入した。同局は産官
の共同研究により新技術の評価を行う制度を設け、民間技術の実証試験を行い、実用化につなげた。
4 下水道事業における温室効果ガス削減の取り組み効果
2008 年 4 月、このほど東京都下水道局は、温室
効果ガスを計画的に削減する取り組み「アースプ
1)
ラン 2004」 (以下、アースプラン)の進捗状況に
2)
ついて報告した 。報告によれば、新技術の導入に
より、2006 年度の実績が 91.6 万 t-CO2/ 年、2009
年度の見込みが 91.3 万 t-CO2/ 年と、計画は順調
に推移している(図表 1)。
下水道事業は汚水処理や雨水の排除などにより、
住民の生活環境の整備に多大な貢献をしている。
しかし、その一方で下水道事業は大量のエネルギ
ーを要し、大量の温室効果ガスを排出してきた。
また今後は、公共用水域の一層の水質向上のため
に下水処理の普及率の向上や高度処理の導入など
が計画されており、それに伴うエネルギー消費の
増加および温室効果ガスの排出増加も懸念される。
全国の下水道事業からの温室効果ガス排出量は、
日本の総排出量の 0.5% に相当する。また東京都の
下水道事業は、都庁の事業活動の総排出量の 43%
に相当している。同局は 2004 年にアースプランを
策定し、温室効果ガス排出量を 2009 年度までに
1990 年度比で 6% 以上削減(101.7 万 t-CO2/ 年か
ら 95.6 万 t-CO2/ 年以下)することを数値的目標と
した(図表 1)。図表 2 に示す新技術導入により、
この目標は達成できる見込みである。
アースプランの取り組み(図表 2)のうち、N 2O
は CO2 の 310 倍の温室効果があるため、汚泥処理
工程で発生する N2O 削減が最も効果が大きい。同
局は、汚泥の高温焼却や炭化などの新しい N2O 削
減技術を全国に先立って実証した。そのほかにも、
バイオマス発電や NaS 電池の設置など、従来の下
水道事業には無かった新技術を導入した。これら
を推進するために、同局は産官の共同研究により
技術評価を行う制度を設け、同局は民間に設備を
提供し、民間のもつ新技術を実証試験して実用化
につなげた。
図表 1 東京都下水道局における温室効果ガス排出量推移
温室効果ガス排出量 [ 万 t-CO 2/ 年 ]
トピックス
110
基準年度 開始年度
100
101.7
対策を講じなかった
場合の予測排出量
18.8
91.6
91.3
102.6
95.6
95.2
90
対策を
講じたこ
とで得
られた
削減量
80
70
1990 年度 2004 年度 2005 年度 2006 年度
(実績) (実績) (実績) (実績)
2009 年度
(見込)
出典:参考文献
2)
図表 2 アースプランの取り組み一覧
策定のポイント
削減計画
水処理工程で消費
する電力量の削減
主な施策
微細気泡散気装置の導入
省電力型攪拌機の導入
汚 泥 処 理 工 程 で 発 生 汚泥の高温焼却
水処理により発生する する N 2 O の削減
汚泥の炭化
温室効果ガスの削減
省エネルギー型機器・器具
の導入
維持管理の工夫
夜間電力を活用した設備の
運転
下水熱・汚泥焼却廃熱に
よる熱供給・発電
再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 小水力発電
温室効果ガスの排出が の活用
バイオマス発電
少ない資源・エネルギ
ーへの転換
風力発電(導入検討)
新電源の導入
NaS 電池の設置
燃料転換の推進
原油から都市ガスへの転換
再生水の供給
まちづくりとの連携 環境用水の供給
ヒートアイランド対策
民間活力の導入
PFI 事業の導入
関係機関等との連携
新技術の開発・導入 民間との共同研究
グリーン電力制度
新たな制度の活用
国内排出量取引制度
出典:参考文献
1)
参 考
1) 東京都下水道局:アースプラン 2004
2) 小団扇浩:東京都下水道局における地球温暖化
防止計画 -
「アースプラン 2004」の概要と取り組
み状況- ,下水道協会誌 , pp.12-14, Vol.45, No.546,
2008
Science & Technology Trends June 2008
7
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
科学技術動向研究
広義の脳科学
石井 加代子
ライフサイエンスユニット
1
はじめに● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
今日、
「脳」という言葉の意味合い
は、拡大しつつある。神経科学・精
神神経学などにおける内発的事情と
しては、脳の発達、機能、こころ
のあり方などは、脳という臓器だけ
では語ることが出来ないことが明ら
かとなった。現在は、脳と全身、自
己と他者、人間と世間・環境の相互
作用という視点を踏まえて研究が行
われている。1940 年代の後半以降、
多様な方法論や知識体系が連合・融
合し続けて来たが、今日
『広義の脳
科学』
といえる学問分野
(以下、
『脳科
学』と呼ぶ)が形成され、更に拡大を
続けている。
一方、外的要因として、
『脳科学』
への社会からの期待も高まってきて
1)
いる。先ず、1963 年梅棹忠夫が
情報産業時代の到来を看破し、これ
を、脳・感覚器産業と呼んだ。知識
に訴える情報のみならず、感覚に訴
える感覚情報、五感を総合的に刺激
2
意識されるようになり、2000 年を越
えて国民の間では、数十年後の社会
にむけて、子供の健全な成長・生涯
の様々な時期における学び、寛容さ
や多様性、こころの豊かさを追求
できる社会、
「足る」
を知る心、高齢
者・傷病者の自立と生活の質、安
3)
全・安心への希求が高まっている 。
これに応えるため、
『脳科学』
の進展に
よって生活者を支援することが、行政
4)
上の重要課題の一つとなっている 。
脳は、情報・意味・精神・こころ
という、物質では表すことの出来な
い階層と、身体という物質的階層の
関りあう場である。
『脳科学』は、実
証的な自然科学と、意味の成り立ち
を取り扱う学問の関りあう場として重
要となっている。本論では、このよう
な
『広義の脳科学』
が形成された過程
を、科学技術・政策・社会の変動と
いう観点から概観し、今後
『脳科学』
の取り組むべき課題について論じる。
『脳科学』を構成する研究領域● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
20 世紀前半には、精神・神経
やこころに関する自然科学的研究
は、精神医学・解剖学・生理学・
心理学などの講座で、それぞれ独
立に行われていた。第二次大戦後
から、サイバネティクスのように
物理・工学・情報科学分野の概念・
8
する体験情報が重要であることを説
いた。近年、特に感覚情報や体験情
報の重要性が増している。又、梅棹
は情報産業の次に来るべき状況を精
神産業時代と呼んでいる。物質とエ
ネルギーの産業化による成長のみに
頼ることの限界が実感されるように
なって、精神産業による持続可能な
成熟への転換が必要とされている。
2)
「加速す
1969 年に、戸田正直 が
る変化・過剰な情報に対し老化する
社会組織は消化不良となり、豊かで
あるがゆえに不満を大きくしてゆく。
豊かになった個人が直接、情報-制
御過程
(いわゆる創造過程)
に参加す
ることを可能にするような社会組織を
生み出すことが、さしあたって人類の
最大目標であり」
、そのために心理学
(今日の認知科学)が重要な役割を果
たすことを予測した。
1990 年代から、共通の価値の希薄
化、情報の過剰、社会の不透明性が
理論や研究者が参入した。また、
生化学・薬理学・分子生物学・発
生生物学・遺伝学などの手法や概
念が次々と導入され、多くの研究
者が参入してきた。一方、計算機
科学・言語学・心理学・哲学など
からは認知科学が形成され、近年、
脳神経科学と認知科学の境界も薄
5)
れつつある 。心理物理学・脳活
動測定・認知心理学などの方法論
が洗練され、ヒトや霊長類の正常
個体の機能に関する研究も進んで
いる(図表 1)。
広義の脳科学
図表 1 『脳科学』の成り立ち
<年代>
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
ゲノム科学
分子神経生物学
解剖学
神経成長因子
神経化学
発生生物学
特異的受容体
SLI(言語特異的障害)
神経科学
神経再生研究
drug design・薬理療法
向精神薬の発見・応用
生物学的精神医学
神経疾患の遺伝子多型研究
精神病理
非・侵襲脳活動解析
機能的画像解析
生体の構造・活動画像解析
動物生態学
発達障害研究、自閉症
文化人類学
比較行動学
霊長類の社会・文化研究
霊長類の言語研究
社会的知性研究:
“心の理論”
発達精神病理
心理物理学
比較認知科学:アイ・プロジェクト
赤ちゃん学
一般システム理論
双子研究
サイバネティクス
・フィードバック制御
・自己組織化
予期的制御
シャノンの情報理論
生理学
人型ロボティクス
システム神経科学
電気生理学
サーヴィス・ロボティクス
サーヴィス・ロボット・システム
神経膜興奮の数理モデル
人工知能
認知科学
言語学(生成文法)
認知ロボティクス
社会的知能発生ロボティクス
医療・福祉ロボティクス
哲学
人工現実感 (VR)
神経線維・回路の
電子・電気化学的モデル
生物物理・ME・生物工学
・バイオニクス
コネクショニズム
ニューロ・インフォマティクス
学習機械
ファジー・曖昧システム
自己組織する神経回路モデル
ニューロ・コンピューティング
Computational Intelligence
複雑系・カオス理論
オートポイエーシス (1973~)
人工生命
ゲシュタルト心理学
生態心理学・アフォーダンス
ホロニック・システム
ダイナミック・システムズ・アプローチ
言語進化
現象学
今日『脳科学』に関連する諸学の連合・融合の大まかな流れを示した模式図。それぞれの枠の左側の位置が、学
説が最初に発表された時期や、学派が形成された時期などを示す。現時点では図の上から大まかに分子生物学・遺
伝子解析の手法を用いた研究、ヒトやサルの個体・集団を対象とした研究、ロボティクスなど工学・数理神経科学
的研究(主に内部モデルを想定した取り組み)、非線形力学・複雑系・カオスの概念に基づく研究という様に大別
される。ヒト・サル・ロボットの集団・社会の中での発達とその障害(ロボット開発上の困難)の比較は、大別し
た領域を超えて研究が進み、有意義な知見が生み出されている(太い実線)。今後は、それぞれに性格・気質を持っ
た個人の、現実生活の中でのこころの動きを解析するために、非線形力学などを用いた領域の研究が益々重要にな
ると考えられる。破線は今後期待される連合・融合。精神病理と行動遺伝学・双子研究・長期的縦断研究・人工現
実観 (VR) などとの連合・融合が期待される。図中では位置が遠いため、関連性を記入していない。現在、認知科
学の誕生は、1956 年における一連の会議や論文の発表に帰されるが、「認知科学」と云う分野として確立された
時期は 1970 年代とした5)。双子研究など、取り組みとしては古いが、現在に近い方法論になった時期を示す。
科学技術動向研究センターにて作成
Science & Technology Trends June 2008
9
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
多様な知見や方法論が蓄積し、コ
ンピュータによる大量・迅速の情報
処理が可能になり、様々な観点の研
究者が結集した結果として生じた変
化として、下記の点が挙げられる。
1) 分子・細胞・モジュール・機能領野・
脳脊髄・末梢神経系など、異なる
階層をつなぐシステム科学的解析
の重要性が増した。
2) ミクロな階層に言及しなくても精
神の現象がわかるような、適切
な程度にマクロな階層でのシミュ
レーション(知的生命体をつくって
みる・構成論的取り組み)が盛ん
になった。この動機には大きく分
けて以下の二つが挙げられる:
・分子やニューロンといった下部の
階層の情報を足し合わせても、脳
の非線形性と複雑性のために、シ
ステム全体の特質が決まらないこ
とがわかった。
・教育・精神医学のような医療・労
働の場では、還元論的でない全
人的言説が求められる。
3)これまでは実証的研究の対象にな
りにくかった、ゲシュタルト的知覚
や、言語進化・認知進化、意思決
定・自由意志、意識・無意識、自己
の成り立ち、等という課題に取り組
む研究者が増えた。このため、過
去に提唱されながら、革新的過ぎ
る・難解・時機尚早などの理由で、
一般の研究者に波及しなかった
仮説や構想(例えば、Vigo、G.B、
Peirce、C.S.、Batson、G.、言語の
起源、Libet、B)が再評価されるよ
うになり、これが更に実証的研究
を促進する環境を作りつつある。
うる事が示されている。
「自己」の認 理論”が発達する。自閉症のヒトでは
識は、知覚と行動の連関によって、 これが発達し難いことから、他者と社
6、7)
。 会的関係を成立するための
『脳科学』
常に作り続けられるものである
的基盤について解析が進んでいる。
2)他者の行動や意図の理解
サルの電気生理学的研究で発見さ
れたミラー・ニューロンは、他者の
行動を理解し、自分の身体像として
想起し、実際に模倣するといった、
自己・他者連関に関与する。ヒトの
非侵襲的脳活動測定を用いた心理実
験でも同様の現象が確認され、他者
の模倣や、他者の意図を理解するミ
ラー・ニューロン・システムの存在が
8)
提唱された 。
3)自由意志・意思決定
6)情動の役割
14)
情動の神経機序 や認知機能、
精神的緊張の生理的意義、意思決
15)
定における情動の役割 。精神的
緊張も、外部からの刺激などに対
して、生体が恒常性を保つために
示す基本的な生体反応
(ストレス
反応)の面から、生物学的に研究
されるようになった。
また、この他にも『脳科学』の中で
技術的に発展した領域の例として以
下が挙げられる。
1)非侵襲脳活動測定装置による解
析の普及によって、脳の実体を対
象とする脳神経科学と、脳の中の
情報処理過程を対象とする認知科
学の間の距離が縮小した。
2)成人脳内の神経幹細胞の発見に
より、個人の認知的来歴による脳
の構造変化を解明する可能性が高
まった。
自分が意図的に判断・選択したと
いう意識は、脳や身体で生じた現象
の事後的な説明である可能性が示さ
れている。例えば、自分の行動を意
図する事に数百ミリ秒先行して、脳
内に生じる準備電位の存在が知られ
9、10)
。
ている
確率的に判断するシステムと、個
体の来歴やその場その場の状況に応
じて判断するシステムといった二種
の意思決定システムの存在が分かっ
11)
てきている 。Bacon 以来科学は 今後更に、或いは新たに推進す
再現性を実証性の基本としてきたが、 べき『脳科学』の研究課題として、例
一瞬にして確固たる思念を持ちうるこ えば下記のものが挙げられる。
とが改めて解析されている。
1)他者との関係性の上に「自己」の認
4)逆行性遡及・予見的制御
識が形成され、それが維持され
ヒトの一人称的時間感覚は、今と
る機序の解明
云う瞬間と直前の過去、直後の未来 2)全ての人に普遍的な特徴だけでな
の予測を含んだ幅をもっている。行
く、それぞれに性格・気質を持つ
動には予見的制御が伴い、予測と現
個人の現象の解明
実の誤差が許容できる範囲ならば無 3)特定の検査課題に対する応答の
視している。正常な制御機序の解明
起きている状態の記述に加えて、
様々な認知・行動が生じては止む
上記のような変化のなかで、特に と、統合失調症の患者の訴える「心
過程の解明
『脳科学』として見出された知見や、 は見透かされ、考えは筒抜けになり、
注目されるようになった新たな課題 どこに行っても先回りされている」と 4)他者から観察した現象としての記
いう感覚や、
「させられ」体験の解明
述ではなく、本人の志向・記憶・
の例を以下に挙げる。
12、13)
。
の関連性が示唆されている
経験に接地した実感や意味の立ち
1)自己・他者の認識
現れる仕方の解明
社会的関係成立の基盤
疾病・損傷研究に加え、健常な人 5)
5)
『脳科学』を生命そのものの解明・
での心理物理学的研究などによって、 ヒトでは幼児期に、他者の意図な
生態系の維持機構の解明と関連
「自己」の認識や自他の区別は変動し ど心的内容を推測し理解する“心の
付けた視点で進める研究
10
広義の脳科学
3
『脳科学』の成り立ち● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
これまでに諸学がどのように連
合・融合して『脳科学』を形成して
きたか、そこから何が分かり、今
後どのように発展する可能性があ
るか、以下に数例を示す。
3‐1
霊長類の『脳科学』
日本の霊長類学は、動物生態学
や文化人類学を基に、1948 年頃に
ニホンザル研究から始まった。そ
の研究の特徴は、個体を識別して
長期継続調査を行うことにより、
「個体間関係の変容のなかから社会
の本質を理解しよう」
と試みること
16)
であった 。これによって、家族
形態や、道具使用など文化の創出・
伝播・変容が観察されるようになっ
た。サルとの比較から、ヒトでは
母親だけでなく父親と祖父母が家
族を形成すること、家族の他にも
社会集団内での助力が得られる事
が特徴的である点が明らかとなっ
た。日本では、ニホンザルは、電
気生理学的研究にも多用され、道
具使用による身体観や認知様式の
変化が研究され、ヒトとの共通点・
7)
相違点が解析されている 。
ヒトでは、子育て戦略として、
閉経後の個体の寿命を延ばして
「お
ばあさんを作った」という仮説が
提唱されている。人類学でも、親
子のような隣接世代間の緊張をは
らんだ関係
(
「忌避関係」
)や、祖父
母-孫のような隔世代の、相手を
からかったり、通常社会では口に
出来ないようなことを気兼ねなく
話したり、許しあえる関係
(
「冗談
関係」
)
は、重要概念の一つであり、
現在でもアジアを含め多くの社会
で実践されていると考えられてい
る。ドイツでは、高齢者自身の健
康にとっても若い世代との共生が
有益であるとの観点から調査が行
われている。
20 世紀初頭に欧米で始まったチ
ンパンジーの心の研究は、1960 ~
80 年代の
“言語”
研究を経て、社会
的知性の研究と比較認知科学の研
究の二方向へ進んでいる。社会的
知性の研究では
“心の理論”が大き
な課題であり、人間の発達心理学
研究や自閉症研究と同様に、
「共感・
社会的参照・模倣・視線認知」
など
の研究が行われている。
一方、日本の
「アイ・プロジェク
ト」
に代表されるような比較認知科
学では、心理物理学の方法論を用
い、感覚や知覚を尺度化して、色覚・
視力・数の概念・記憶容量などを
測定している。心理物理学は、19
世紀以来ヒトを対象に用いられて
きたが、言語による指示や訓練を
与えることが出来ず、言語による
回答を得ることの出来ない赤ん坊
の研究に近年多用されている。又、
ロボットの機能を同様の尺度で解
析することも可能である。これに
よってヒトとチンパンジー及びロ
ボットの認知機能を比較すること
が可能となってきている。
進化や生活環境・社会構造変化
に伴う人類の認知様式の変化を解
析する認知考古学や、 現生人類・
ネアンデルタール人・他の霊長類な
どのゲノム・遺伝子発現解析、ヒト
や他の霊長類の発達・行動比較な
どにより、 ヒトの認知様式・道具
使用や環境の活用・変更の過程が
17)
調べられるようになっている 。
京都大学では、
「もはやサルだけ
を研究対象とする時代は過ぎた」
と認識し、
「生態系の全体を対象と
した研究の推進が必要不可欠」
とし
て、霊長類研究所や野外観察施設
の改変を行っている。米国でも、
「脳
の 十 年 」(1990 ~ 2000 年 )、
「痛
み の 十 年 」(2001 ~ 2010 年 ) に
続く次期
「精神
(the mind)の十年」
18)
を提唱する動きや 、進化という
観点からヒトの疾病などを研究す
るため 2008 年度から University
of California,San Diego (UCSD)
と Salk Institute を 拠 点 と し、 イ
ンターネットによるヴァーチャ
ル 研 究 機 関 も 展 開 さ れ る“ 人 類
発生学”研究・教育センター {the
Center for Academic Research
and Training in Anthropogeny
(anthropo + geny と い う 造 語 )、
19)
CARTA} 計画の中で大型霊長類
研究が重要な要となっている。
3‐2
物理・工学・情報科学・
数理理論
1940 年代末からの電気生理の
進歩に加え、サイバネティクスの
考 え の 普 及、 シ ャ ノ ン の 情 報 理
論に触発された生物の情報処理研
究、エレクトロニクスによる微弱
生体信号の検出・処理・計算など
によって、1960 年代には、生物・
物理・工学・数理科学の連携した
バイオニクスが興った。制御器官
としての神経系の特性や、神経細
胞の形態・電気化学的特質・回路
網形成などの特徴は工学にもなじ
み易く、精力的にモデルの提出と
実証実験が行われるようになっ
た。又、工学と医学の連携による、
人工神経・臓器、生体内情報の遠
隔探知、記憶・学習機械の研究な
20)
どの研究が始まった 。
1970 年代に入ると、計算機の
頭脳とアクチュエータの身体をも
つ人型ロボットの研究が始まる。
1970 年代中盤に、リハビリテー
ションへの要請が高まり、高齢化
社会への移行が問題視されるよう
Science & Technology Trends June 2008
11
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
になると、日本の研究者は迅速に
補綴機器・介護機器や、盲導犬ロ
ボットなど医療・福祉ロボティク
21、22)
。これ
スの研究に着手する
ら の 研 究 は、 今 日 で は サ ー ヴ ィ
ス・ロボティクスやサーヴィス・
ロ ボ ッ ト・ シ ス テ ム、 人 工 現 実
観( ヴ ァ ー チ ャ ル・ リ ア リ テ ィ、
VR)研究へと発展している。
1990 年代に入ると、人間の認
知機能、発達や社会性の基盤とい
う 側 面 を 研 究 す る た め、 機 能 を
持った系を作って認知・行動モデ
ルを検証するという構成論的な取
り組みとして、ロボティクスの研
23)
究が始められる 。これは、複
雑で予測困難な実世界の中で、人
が問題解決しコミュニケーション
を行っていく機序を解明するため
24)
の重要な方法論となっている 。
かつてロボットは、研究室や工場
という統制された閉鎖環境の中で
製造され使用されるものと考えら
れていた。1990 年代に、日本の
ロボティクス研究者や製造企業
は、一般社会の中で、ロボットが
一般の市民と直接接することを想
定して研究開発を進めるという革
新的な発想を生み出した。
研究・製造施設や交通・情報・
意思決定システムなども大型化・
複雑化が進んでいるが、機械的制
御システムを充実させても、ヒト
の不注意・勘違い・疲労・慣れに
よる、手順の軽視・無視・混同な
ど、人的要因によって重大事故の
避けられないことが知られるよう
になった。このため認知・行動様
式の理解に基づいた、ヒト-機械
インターフェースの改良や、VR
を活用した訓練方法などの開発が
行われている。
1954 年久保亮五(東京大学)・冨
田和久(京都大学)らによって生み
出され、以来先導的研究者を輩出
しているが、近年人工生命などの
研究も盛んになっている。
非線形振動子の専門家であった
南雲は、1960 年代初頭、神経線
維の膜の興奮現象に関する数理モ
デ ル(Hodgkin-Huxley モ デ ル )
に基づき、トンネルダイオードを
用いた神経線維の電子回路モデル
や、興奮パターンの残響する電気
化学的モデルを作り、これが日本
のバイオニクス研究の端緒となっ
た。
1973 年、神経生理学者の Maturana
と Varela に よ っ て「 オ ー ト ポ イ
エーシス (autopoiesis、自己生成 )」
3‐3
25)
という概念が提出された 。これ
非線形力学・自己組織化・ は、生命を外部の観察者の視点で
複雑系 記述するのでなく、内部の観点か
ら記述するための理論である。こ
Wiener の「サイバネティクス」 れによって、まだ何かが証明され
の中では、フィード・バック制御 たわけではないが、人工生命、ロ
以外にも、自己組織化について言 ボティクス、教育や医療の為の
26、27)
及されていた。非線形物理学は、 ヴァーチャル・リアリティ
なぜ非線形力学的取り組みが必要か?
ヒトの精神神経系には下記のような特徴があり、そのために非線形力学で解析することが有利となる。
脳は非線形的:分子・細胞という階層の情報を足し合わせても、脳というシステム全体の特質が決まらないという非
線形性がある。そのため、システムを(物質的)要素に分解して理解するという、分子生物学のような還元論的取り組みで
は、取り扱えない部分がある。又、知覚モデルや行動モデルの生成過程での非線形性のため、モデルの順逆関係を利用して
他者を模倣しても、必ずしも学習が成功しない場合がある。
運動・知覚の生成:ロボットを用いてヒトのシミュレーションをする場合、現在のロボットの多くには、自発性や動機
付けがない。一般に工学的・計算論的な取り組みは、まず目的ありきで、外部から目的を設定してしまう(例えば、
「ヒトの
運動を模倣する」など)。このため、運動や知覚の生成の仕組みを調べられない場合が多い。合目的性だけの制御を想定す
ると、過剰な自由度による不良設定問題が生じる。これを回避するために拘束条件を導入してしまう。
人間では非目的的行動が多い:人間の行動の多くは非目的的である。同時に目的的であることもあって、切り分けに
くい。行動や知覚の過程で目的や注意・関心は移りかわり、会話や遊びの過程で話題やルールが移り変わりながら、これ
らのゆらぎ・ゆり戻しを含んだ上でヒトの活動は生起する。
意味の生成:感覚器からボトムアップに入ってきた情報はそのままでは多義性を持つ。トップダウンの機構が働いて
ひとつの意味を付与する。しかも、確定した意味の知覚をいったん壊して、別の意味の知覚をつくり続ける(例えば、視覚
刺激の図と地の入れ替わり)。ヒトは外部に客観的に存在するコト・モノをあるがままに認識するのでなく、様々に分節
化して解釈している(意味を創っている)ことになる。
時間的推移:ヒトの主観的時間感覚は、
「今」という瞬間とその近い過去・近い未来のつらなりからなる。又、この時間
の流れは、ヒトの身体性・形態・経験・記憶などによって支えられている。
参考文献
12
28 ~ 30)
広義の脳科学
の構想に取り込まれており、これ
らの分野でのシミュレーション
と、実世界での実証実験を通じて
証明されていく可能性が期待され
ている。神経系の記述に比較的適
用し易く、脳認知機能に関する研
究から、生命の新たな捉えかたが
広まるのではないかと期待されて
いる。
日本では、1978 年清水博が、ホロ
28)
ニック・システムを提唱し 、1986
年脳の視覚パターン認識モデル
に関して「トップダウンとボトム
アップの信号のやり取りによって
認識における意味の解釈が成立」
し、情報の自己組織が脳で起こる
と主張した。1990 年には津田一
郎が神経回路モデルにおけるカオ
ス的遍歴現象を報告し、「脳での
動的連想記憶などの関連」から興
29)
味をもたれている 。
近年、胎児や乳幼児の発達過程
に関して非線形力学による研究
が進められている。(以下、①~
⑰については図表 2 参照)。胎児
の未発達な神経系が,身体を駆動
し,自発的に様々な動き方を探り
あて,繰り返すうちに,大脳皮質
がその構造を反映して自己組織化
して行く過程のシミュレーション
31)
が行われている(③) 。又、新生
児の U 字型発達の中で、ゲシュ
タルト的知覚(⑥)が、2 ~ 3 ヶ月
頃の自由度の低下(④)の後、大脳
皮質による意図によって制御され
るモジュール的知覚(⑦)へ移行す
るという仮説が提唱され検証され
29)
ている 。自発的な言語使用(⑪)
や“心の理論”活用(⑬)の準備段階
での基盤的能力(⑩・⑫)の発達が
解析されている。
今後、『脳科学』として推進す
ることが望まれる課題の例を挙げ
る。
イ)胎児期には神経前駆細胞が盛
んに分裂・増殖する。細胞の
内部にも自由度があるが、こ
の過程で様々な自由度をもつ
神経細胞へと分化する。同一
の前駆細胞から分化した神経
細胞同士の相互作用によって
システム全体としての強靭さ
(ロバストネス)が生成する機
29)
序(①) 。
ロ)皮質下由来の自発運動(②)と
大脳皮質の自発活動(③)が、
いったん自由度の抑制を受け、
図表 2 ヒトの一生の中での神経・身体システムの分化と統合
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Bottom-up
b
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3ᐕ
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成長するにつれて顕在化する困難・障害・疾病も、それに関連する複数の因子が、成長過程の或る時期で比較的
集まっていたり、因子間で相互作用の起こり易かったりする可能性が考えられる。このような時期、即ち科学的に
観た成長の変換点に注目した、長期的で縦断的な観点から、ヒトの一生を俯瞰する必要がある。
参考文献 29 ~ 31)を基に科学技術動向研究センターにて作成
Science & Technology Trends June 2008
13
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
それが脱抑制されることに
よって(④)、随意運動(⑤)が
生じるという仮説。
ハ)新生児のゲシュタルト的知覚
(⑥)のみの状態からモジュー
ル的知覚(⑦)を有する状態へ
移行する過程で、選択注意の
不完全や結合錯誤が生じ、こ
れが将来の共感覚や読み書き
困難(⑮)に関連する可能性。
ゲシュタルト知覚と共感覚の
関連性。
ニ)非言語的知性と言語能力・社
会性との関連性。
・言葉を使用する以前の乳幼
児における論理的推論の解
明(⑧)及び、人に特徴的で
論理的には誤りであるが記
号使用(⑮)など高次の認知
機能に役立っている刺激等
価性の生じる機序の解明。
・非言語的な記憶(⑨)の発達。
ゲシュタルト知覚・共感覚
(ハ)と「記憶の接地」の関係。
・原初的な言語的(⑩)及び社
会的(⑫)能力の発達から言
語ゲームへの引き込みが生
じ、自発的言語(⑪)へ移行
する機序。
ホ)・他者の“心の理論”の理解か
ら、 自 分自 身 に 関す る“ 心
の理論”理解(⑬)への移行の
機序。
・同世代間での遊びや模倣・
教え合いの中での役割の入
れ替えやルールの変遷(⑭)。
へ)・9 ~ 10 歳ころに自分の能力
に関するメタ認知が芽生え、
又他者との社会的相互作用
などとの複合的要素によっ
て自負意識が発達する機序。
又、それが読み書き障害な
どによって阻害される機序。
・思春期の神経系を含む全身
14
の変化に伴い、上記に述べ
た様々なシステムが脱統合・
再統合する機序(⑰)。
が本格化し、精神疾患の薬理療法
が拡大する。1980 年代から分子生
物学的手法の導入によって、多様
な神経系物質の相互作用が解析さ
更にこれら様々な現象の相関関 れるようになった。1990 年代から
係や、時間的に離れて顕在化する 分子段階の研究や生理学が情報科
困難・障害や疾病との関連性を調 学と融合した、システム科学的取り
べるためには、早期から開始し長 組みが行われるようになっている。
い年月にわたる縦断的研究の筋書 又、発生・発達生物学の手法や
きを描き、その一環としてそれぞ 人材の流入によって、個体発生・
れの研究を進める必要がある。又、 系統発生という観点から神経系の
霊長類学におけるチンパンジーや 構成や機能が解析されるように
サル幼仔の発達研究と比較するこ なった。臨床医学では、知能・言
とが有用である。
語機能・社会的相互作用・遂行能
1994 年 Thelen ら に よ っ て 提 力の発達が神経学的要因によって
唱されたダイナミック・システム 障害される例が知られていたが、
ズ・アプローチを契機に、発達研 剖検脳の解析だけで無く、発達段
究や発達心理学の分野で、非線形 階の認知・心理機能や脳活動の解
力学の概念に触発され、物理学の 析が行われるようになった。自閉
非線形性を比喩的に用いてマクロ 症や言語特異的発達障害
(SLI)の
な現象を解析しようとする取り組 研究は、ヒトの高次機能の解明に
みが行われている。今後の発展を 大きく貢献しているのみならず、
注視し、この中から非線形力学で ロボティクスなどにも、有益な概
厳密な解析をすることのできる現 念枠を供給している。又、この様
象を選んで、研究を組み立ててゆ な研究の延長として、訓練による
く事は有益だろう。
能力の向上の可能性を指摘する例
が出てきた。近年になり、一般の
学校教育との関連で議論されるよう
3‐4
32)
になった 。
分子でつながる『脳科学』 ポジショナル・クローニングによっ
て精神神経疾患の関連遺伝子が同
定されるようになり、 言語特異的
20 世紀になって様々な科学的神 な発達障害に家系性のある症例か
経伝達物質が同定され、
「形態的 ら関連遺伝子も同定され始めてい
に著変の無い精神病の病因を物質 る。この様な遺伝子の系統発生学
変化に求めよう」とする試みから、 的解析などによって、認知進化・言
1958 年に神経化学の学術集団が組 語進化の研究が活性化している。
織された。1970 年前後に、神経科 又、古典的神経伝達物質の作用
学の学術集団が形成された。1952 とその神経ネットワークをシミュ
年には向精神薬が発見されて臨床 レーションすることによって、サ
応用されるようになり、神経薬理 イバー・ローデントで期待・探索
学が発展する。1970 年代に入りア 行動・学習などの行動を調べ、分
ヘン様物質の内在性の受容体が同 子・工学・行動科学をつなぐ研究
33)
定され、薬物デザインによる開発 が行われている 。
広義の脳科学
4
日本の科学技術政策の中での『脳科学』● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
現在の『脳科学』は、第二次世界
大戦後の日本の復興・高度成長・
価値の多様化という流れの中で、
社会の変動にともない、将来予測
される社会の状況に備えるため、
又、社会の需要に応えるため、科
学技術政策の中で重要な研究領域
の一つとして推進されてきた。
近年、現実社会の状況によって
研究の方向性が左右される場合
や、社会のなかで実用されること
によって知識や技術が真に成熟す
る例が増え、研究の場と実社会の
境が狭まりつつある。
『脳科学』も、
34)
そのような状況で進められている 。
1990 年代に、各省庁が脳科学
の発展を期してそれぞれの観点か
ら研究推進するようになると、
「脳
に関する研究開発についての長期
的な考え方」に基づき、戦略目標
タイムテーブルが策定された。
『脳
科学』に影響を与えた各分野の政
策の流れを概観する。
れるようになった。
1970 ~ 75 年には高年齢層の受
療率が急激に上昇し、頂点年齢層
が更に高齢化し、75 ~ 79 歳台と
なった。2020 年に向けて高齢者・
傷病者とその介護者を含め通常の
生活に支障をきたす人口が概算さ
れ、来るべき高齢化社会へ対応す
るため、福祉機器の開発が推進さ
36)
「患者の諸条件を単
れた 。又、
に工学的なスペック要件として取
り扱うような」
人間工学的発想は不
十分であるとされ、個人の要求に
応じることの出来る新たな工学思
21)
想が求められるようになった 。
高齢化時代に応じて健康観も変化
し、
「痴呆老人の問題にしても、
「ボ
ケ」
という言葉に象徴されるような
受け止め方から、精神障害という
37)
認識に変化」
した 。
1970 年代後半からは、労働災
害・交通事故の拡大、脳卒中の発
症・後遺症の増加に伴い、医学的
リハビリテーションの需要も急速
に増大し、感覚運動機能・言語機
4‐1
能に関する臨床研究が推進される
福祉医療・労働・交通の ようになった。又、医工連携によ
分野における変化と るコンピュータ化補綴機器・介護
『脳科学』の発展 機器・福祉ロボット(盲導犬ロボッ
トなど)
・人工神経の開発や、これ
第二次大戦後、結核患者の減少 らを運用する外的環境整備が推進
20、22)
。
に伴い、精神障害・脳血管疾患の されるようになった
受療率が上昇し始め、
1955 年には、 1990 年代には過労死・うつ病・
脳研究が重要基礎研究課題の一つ 自殺の増加という問題が顕在化し、
2000 年になってから
「自殺予防と
として着手された。
が検討されはじ
1960 年代には、社会の急激な変 してのうつ病対策」
化と複雑化に伴う
「精神的緊張・疲 めた。又、かつて見逃されていた
『脳科
労・不調和」
・
「ストレス」
が、健康 下記のような様々な課題が
の文脈のなかで検討されるよう
への脅威として指摘されるように 学』
35)
なり 、人間工学などに基づいた になってきた。
対応策への期待が高まった。精神
医学の進歩と向精神薬開発の進展 ・航空機や核燃料工場などの大事
によって、精神障害者の社会復帰
故を引き起こす、不注意・間違
に対する期待が高まり、在宅・地
い・無視など人的要因。
域社会での精神衛生対策が検討さ ・地震など大規模災害時の、意思
決定責任者・救護者・市民の意
思決定を支援する手段。
・認知・知覚や運動に障害のある
人々への効率的な情報伝達手段。
4‐2
社会の歪みの解消に資する
『脳科学』
1960 年代には公害・都市問題・
世代間断絶・地方都市の空洞化な
ど様々な社会的問題が顕在化した。
科学技術会議の諮問第 5 号
「1970
年代における総合的科学技術政策
38)
の基本について」に対する答申
の中で、
「社会の歪み」を解消する
ためには既存の科学技術では不足
の面もあり、新たな総合科学を創
設してこれらの解決に望むことが
提言された。この様な科学技術と
して
「ライフサイエンス」
、
「ソフト
サイエンス」
、
「環境科学」
が重要な
分野として挙げられ、人文社会科
学を含んだ振興が提案された。現
在の
『脳科学』の中で、これらに関
連する項目としては、以下のもの
が挙げられる。
ライフサイエンス
「情報伝達」
、
「記憶と学習」
、
「生物と環境との相互作用」
生命現象そのものの本質的解明、等
ソフトサイエンス
「新しく発生が予想される問題を事
前に予測すること」
「相互の関連が深い複数の問題を全
体的な関連から解明し、全体とし
て整合の取れた総合的な計画をた
てること」
「各種の意思決定、研究活動などに
おいて、創造、判断、管理などの
知的活動を高めること」
「行動科学、社会生態学、創造・判
Science & Technology Trends June 2008
15
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
図表3 今日の『脳科学』に影響を与えた戦後の政策
1940
復興
1950
高度経済成長
1960
1970
1980
公害・都市問題・ 福祉国家
世代間断絶
1990
2000
経済摩擦・国際化 バブル経済崩壊後
2010
2020
2030
広域化
科学技術立国
デルファイ調査
社会経済ニーズ調査
精神衛生法制定
(1950)
教育発展の経済効果
イノベーション25
「人間能力」
(教育白書1962)
重要基礎研究(脳・がん)
安全・安心
「目に見えない研究所」
構想(1955)
自律し生きられ
る社会
精神衛生法改正(1965)、
「精神障害者の社会復帰」
生涯・いつでも
「精神的緊張・ストレス」
自殺予防としてのうつ病対策
第五回諮問に対する答申(1971)
社会の歪みを解消するための
新たな総合科学
ライフサイエンス
・人の高次精神機能の解明
こころの豊かさ
生涯学習振興法(1990)
科学的根拠に基いた医療(1992)
脳科学に基いた矯正教育
特定研究、
脳障害
(1971)
日本
学びたいときに
学べる社会
科学的根拠に基いた教育
高齢化社会
脳科学と教育(2002)
医学的リハビリテーション
補綴機器・介護ロボットシステム
情報産業時代
脳・感覚器産業
知識・感情・体験情報
発達障害者支援法(2005)
特別支援教育(2007)
福祉産業
知識集約型産業構想
製造・制御機器・システム
IT・コミュニケーション
理研フロンティア研究システム
バイオ・ミメティック・コントロール
脳科学総合研究センター
脳を創る
脳を知る
脳を守る 脳を育む
ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム
冷戦終了・経済競争の為の科学技術政策
研究開発の基盤としての知識人材資本
海外
操作的診断法(DSMIII)
OECD・INES
識字率
米国:認知科学的根拠に基いた教育
OECD:学習科学と脳研究
脳の発達と生涯学習
米国:NFP胎児期からの発育支援
英:NFP
米国:1964年経済機会均等法、
1965年~ヘッド・スタート
米国の脳科学10年計画
脳
痛み
Mind
CARTA
今日の『脳科学』に影響を与えた政策の、戦後の大まかな流れを把握するための模式図。枠の左側の位置が、それ
ぞれの政策・報告などが発表された時期を示す。下方に国際機関や欧米の政策の例を示す。
日本の政策の特長は、早期から長期的な予測調査や政策目標の設定が行われ、それが持続してきたこと、諸学の有
機的な連携や総合科学の樹立が努められてきたことである。又、政権が変わってもこの様な政策を遂行する体制のあ
ることである。更に、科学技術行政が教育・文化・スポーツ行政と一体化された点も、他国に先駆けていた。
科学技術動向研究センターにて作成
16
広義の脳科学
断・認識その他の知的活動に関す
る科学技術」
、等
ための研究と、実社会の中で進化
し実社会に適用される可能性の高
い研究開発が同時に展開される。
教育は、障害のある幼児児童生徒へ
の教育にとどまらず、障害の有無やそ
の他の個々の違いを認識しつつ様々な
人々が生き生きと活躍できる共生社会
4‐3
「脳を創る」
という研究の真価は、 の形成の基礎となるものであり、我が
「脳を創る」という政策 50 年、或いは 100 年後にようや 国の現在及び将来の社会にとって重
く一般に理解されてくる類のもの 要な意味を持っている」由、述べられ
44)
で、現時点の外挿では推し量れな ている 。
生物学の新たな取り組みとし い面が大きい。当面の問題として 1990 年代後半から、法務省管轄
て、 生 物 の よ う な 機 能 を 持 っ た も、構成論的な研究は、分析的・ 下の少年院の一部では、矯正教育の
系を創ることが 1960 年に提唱さ 記述的な研究とは、評価や推進の 向上をめざした実践的試みの中で、
れ、人工頭脳だけ創るのでは、人 仕方が必ずしも同じではない。又、 認知科学・行動科学や精神医学、発
間全体としての機能には対応し 両方の型の研究から出る成果を組 達精神病理学などの
『脳科学』
に基づ
な い か ら、 そ れ は 生 物 の 人 造 に み合わせて、始めてわかってくる いた矯正教育の開発とその実用・検
39)
はならないと指摘されていた 。 こともあるだろう。それぞれの特 証が試みられている。軽度発達障害
1980 年代には、研究者が単独で 徴を把握して、効率よく科学技術 も考慮した綿密な学習指導、食餌療
構成論的に知能システムや人工生 政策を運営してゆく必要がある。
法・指導、体力の育成、他者理解・
命を創る研究に着手した。1990 「 脳 を 創 れ る?・ 創 れ な い?・ 対人関係の育成、自尊感情の向上、
年代にはいり、日本では、身体を それは何故なのか?」という問い 生活の規律・集団行動訓練など、生
もって他者や社会と相互作用する は、一般市民との対話を引き出し 活モデルに基づいた矯正教育が行わ
45)
知能システムを創るという構成論 発展させる恰好の話題となるだろ れている 。又、保護者の理解や協
力を引き出すことも行われている。こ
的取り組みに、多方面からの研究 う。
のような試みを行っている少年院で
者が協同して参画するようになっ
23)
は、再院率が低下している。
た 。1997 年に、日本の脳科学
4‐4
推進の指針として、「脳を知る」、
特別支援教育や矯正教育を進める
「脳を守る」と共に、「脳を創る」と
「こころ」重視の日本の教育 過程で、脳の多様性や、学力向上よ
いう構想が提唱され、脳だけでな
りも先ず子供の自負心を養うことが、
く、自発的に動く身体(ロボット・
重要視されるようになっている。自負
ヘリコプターなど)を創ることに 日本の伝統的学問とは、人格を高 とは、自尊心の増大ではなく、自分
よって脳の機能を解明するとい めるためのものであった。江戸時代後 の得手・不得手に対する自覚 ( メタ
う、構成論的取り組みを、科学技 期から藩校・寺子屋への就学者数は 認知 )、それを踏まえた上での学力
術政策としても行う試みとなった。 多く、習熟度を考慮した教育が行わ の向上、他者との意思疎通と他者か
「手習い らの評価、等の基盤の上に育まれる
「脳を創る」構想の特徴をいくつ れていた。又、習字によって、
読む」という感覚・運動・行動・対人 資質である。又、一般の児童・成人
か挙げる。
関係が統合された教育が中核となっ や老人であっても、それぞれ困難や苦
40)
一斉就学によっ 手を抱えている場合のあること、その
1)脳のような、分析的方法では解 ていた 。明治以降、
41)
明しきれない、非線形システム て教育の普及が徹底された 。高度 ような困難を補う対策がこれまで十分
の理解。要素を壊してその必要 経済成長が意識された 1960 年代に 図られていなかったことが、意識され
性を知るのと異なり、何を加え 至り、日本の経済成長の根拠として、 るようになってきている。
42)
ればヒトの脳らしい機能が生じ 高い教育普及の効果が解析された 。
「ここ
るかということを知る取り組 しかし、この間、教育の目的は
4‐5
ろを育む」ものであるという見解が一
み。
2)外部からの情報に意味を付与し 貫して大局であり続けた。
『脳科学』に関連した海外・
『脳科学』の進展によって、
たり、新たな意味情報を創出す 近年、
国際動向
脳の多様性が注目されるようになり、
る機序の科学的研究。
「幼児児童一人一人の教育的 1980 年代の経済摩擦のなかで、
3)第三者が外部から観察したのでは 教育も
に応じるという方針が採られる 日本では研究開発の国際化が課題
ない、自己の中から生じる記述。 ニーズ」
43)
4)実社会での検証:複雑で予測不可 ようになった 。2007 年 4 月からは と な っ た。 日 本 の 提 案 に よ っ て
「特別支援 1989 年に発足したヒューマン・フ
能な実社会の中での知性を知る 特別支援教育が実施され、
Science & Technology Trends June 2008
17
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
ロンティア・サイエンス・プログ
ラムは発足当初から、国際的協同
による脳科学を推進した。発達心
理学の分野では、1970 年代に赤ん
坊が誕生直後から多彩な能力を示
すという知見が増え始めた。上記
プログラムによって助成された国
際的な調査によって、この能力が
文化・地理的差異を越えた生物学
的なものであることが示された。
冷戦終了後、各国は軍備に変わっ
て科学技術に基いた経済力による
競争に方向転換し、科学技術の基
になる知識創出の機序に注目する
ようになった。又、研究開発・高
度な技能に携わる人々を資源とみ
なすようになり、高等教育のみな
らず早期教育・養育段階での知能・
技能育成の効率化を図るように
なっている。OECD でも 1980 年
代の終わり頃から、識字率の向上
universal literacy、
「脳科学と教
育」
に関する実態調査や知識普及を
図っている。
米国では、文化的経済的に貧困
な家庭の子供も必要な養育をう
5
に
「痛みの十年」
(2001 ~ 2010 年)
48)
を議会で採択設し 、目下次の
「精神
(the Mind)の十年」に向けて
研究者集団などを主体に行政機関
や一般社会への働きかけが進めら
18)
れている 。痛みは、受容器の段
階では刺激と反応の相関性は高い
が、脳の非線形性のため、最終的
に
「どのような痛みなのか・どの程
度痛いのか・それがどれほどつら
いのか」
は、本人にしか分からない。
米国の十年計画では、<脳⇒痛み
⇒ mind >というように課題の抽
象度を上げてきている。
「痛みの解
明・理解増進運動」
は、国際疼痛学
会などを通じて、欧州でも展開し
ている。ドイツでは、学際的研究・
49)
臨床の体制作りなどが活性化した 。
日本では、分子段階では優れた研
究が進んでいるにも関らず、シス
テムや認知・行動段階での解明を
可能にする学際的な研究推進が行
われておらず、
「痛みの十年」も殆
50)
ど注目されなかった 。
『脳科学』推進の事例 -精神医学- ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
精神疾患は時代や社会と共に変
遷する。先ず、病態が変化する。こ
れは古典的な意味合いの遺伝では説
明できない特質であり、遺伝学的方
法だけで精神疾患は解明できない。
又、人々が何を正常或いは異質と
みなすか、異質な面を持つ個人が、
家族や社会の中でどう受け止められ
るか、或いは疎外されるかという事
も、時代や社会によって変化する。
この他者の「みなし方・受け止め方」
が、患者自身の自己の受け止め方に影
響し、病態を変えてゆく。したがって
精神医学は、自己・他者・環境・社
会の相互作用に関する理解が、重要
な要素として顕在化する領域である。
身体の物理化学的所見から十分に
定義できない、個人の体験や行動の
18
け、順調に学校教育を始められる
よう、1964 年の経済機会均等法
に基づいた幼児教育計画
「ヘッドス
46、47)
。
タート」が実施されている
1983 年の報告書
「危機に立つ国家」
以降、米国では認知科学的根拠に
5)
基いた教育を進めている 。英国
では、伝統的に子供の教育は家庭
の 問 題 と さ れ て き た が、Brown
首相の行政改革以降、新教育省に
当たる
「児童・学校・家庭省 (the
Department for Childre, Schools
and Families, DCSF)」は、 子 育 て
や家庭支援を含む、子供の育成を
とり扱うことになった。出生以前
からの養育や生まれ出る家族・環
境も含めた支援に乗り出している。
又、 英・米では、 反社会的行動・
非行・犯罪を脳神経科学や発達精
神病理の観点から捉える傾向が強
く、早期介入によってこれらの事例
を低減することが検討されている。
脳科学自体の研究振興に関して
は、 米 国 で は 議 会 議 決 に よ っ て
1991 年から 2000 年まで
「脳の十
年」という政策を布いた。2000 年
特異性を把握し、これに基づいて治
療を進める精神医学の取り組みは、
精神病理と呼ばれてきた(図表 4)。
日本では、精神病理の伝統に基づき、
日本人の特質も活かした、きめ細か
な医師と患者の間の関係に基づく治
療体制が存続する。今後も、精神
病理の概念枠や医師の熟達知・暗黙
知を活かして、ミクロな階層の知識
をマクロな階層の知識につなげる研
究設定を行うことが有意義である。
一方、19 世紀半ばに Griesinger
が
「精神の病は脳の病である」
と述べ
てから、自然科学的方法論に基づ
いて生物学的な脳の病態を解明す
る生物学的精神医学が行われてき
た。1950 年代以降、薬理療法が重
要視されるようになり、近年では関
連遺伝子の同定や遺伝子多型の研
究が精力的に行われている。米国
の
「精神障害の診断と統計の手引き
(Diagnostic and Statistical Manual
of Mental Disorders)」は 1980 年 の
3版
(DSM-III) 以降、操作的診断方
法を採用している。これは生物学的
精神医学や、精神医学ゲノミクスに
とっては有利であり、生物学的研究
やその成果の応用を促進した。日本
の厚生
(労働)
省統計では 1990 年以
降、WHO の統計分類 ICD10 を採
用しており、臨床においては DSMIII、-IV、
-IV-TR の影響も大きい
(図表
5)
。操作的診断法に過度に頼るこ
とは、患者の微妙な症状を見逃し、
精神医学で重要な医師と患者の信
頼関係の醸成を損なう場合もある。
広義の脳科学
5‐1
うつ病と自殺を低減する
社会の構築
図表 4 精神医学の取り組み方の変遷
年代
精神医学
1800
感覚印象の直接的な刻印を受ける感情や悟性こそが、精神疾患の座である
生物学的精神医学
「精神の病は脳の病である」
境界領域
精神病理
全人的把握
身体的所見からは十分に定義できない
うつ病の様相や発症頻度は、個人
1850
体験や行動の特異性、こころ
自然科学の方法論
の性格・気質、身体的要因、他者
主観・直感、自己・他者・状況
や社会との相互作用、又、社会の地
1930 ショック療法
誌・文化的背景などに大きく影響され
Palo Alto 派 (Batson) の社会的コミュ
1950 薬物療法
る。日本では、もともと日本人の一部
ニケーション・家族療法
の人々に認められていた気質や日本社
1960
病前性格論
会の特性に加え、第二次大戦後の急
双生児研究
激な社会変化に同期して、うつ病な
1980 操作的診断基準、DSM-III
エピジェネティッ
ク・パズル
どの気分(感情)障害の類型や患者
神経疾患関連遺伝子の同定
数が大きく変化してきた。自殺者数
1990
発現調節機構・遺伝形質の解析
とうつ病等気分(感情)障害の相関
遺伝子多型
‘うつ病関連遺伝子’は、疾患でなく、そ
2000
中間形質
は明確であり、1990 年代の終盤か
行動遺伝学
の病前性格を規定しているのではないか
ら年間自殺者数は 3 万人台に達して
いる。
生物学的精神医学でも、所謂‘うつ関連遺伝子’について、人種・地域差
を考慮したり中間形質を想定したりするようになり、病前性格論を掲げる精
時々刻々変化する患者の精神の
神病理への接近が見られる。又、行動遺伝学など生物学的研究と、精神病理
あり方を解析するためには、精神病
が協同して発展してゆく可能性も増している。
理学や、非線形力学に基盤を置いた
参考文献 51 ~ 53)を基に科学技術動向研究センターにて作成
方法論が必須である。分子段階の研
究で、うつ病関連分子群と調節機構
が同定されたとしても、予防・治療 要ではない。例えば簡易な HMD システムを構築することも可能と
やモバイ なるだろう。
にまでつなげる為には、
個人や家族・ (head mounted displays)
社会に至るマクロな階層での現象 ル PDA のように、利用者が一人で 精神病理は、遺伝や薬理などに
使える治療段階に至れば、生活環 よっては説明することの出来ない、
と関連付ける必要がある。
認知様式が、長期的に身体
(脳・ 境の中で活用できる装置のほうが 個人と他者や環境との相互作用の
遺伝子)
のあり方を変更してゆく可 治療効果が見込まれる場合も多い。 中で創発する疾患を取り扱う。多
能性も考えられる。生物学的精神医 近年、VR 装置の駆動が通常のパー くの場合、病態は定常的なもので
学と精神病理学の臨床医や研究者が ソナルコンピュータで十分行える なく、正常と病的状態が混在し揺
ようになってきている。研究開発 れ動く。このような精神の摂動の
協同して進めることが重要である。
の重点は、ソフトウェアや認知・ 機序を解明するために、VR は有
心理学的文脈の枠組み作りや設定 益な手法となる可能性がある。特
5‐2
に移っている。
に、統合失調症やうつ病・双極性
ヴァーチャル・リアリティ 日本では、これまで VR 研究開 障害は、VR を用いた研究に適し
(VR)
・システムの導入 発者の関心が、大掛りで高価な機 ていると考えられる。このような
器の開発に向けられがちであった。 課題に取り組むことが、VR の研
個人と他者や環境との相互作用 又、環境の設定に重点を置くよう 究開発にとっても、ソフトウェア
の状況を再現し、解析或いは介入・ な VR は、これまで
『脳科学』とは や認知・心理学的手法を充実させ
変更するために、VR は有力な手 距離があった。しかし、
『脳科学』 る好機となるだろう。又、日本で
段 で あ る。1993 年 に VR を心 理 において、環境のあり方がヒトの は VR 研究者は、ロボティクス研
療法に用いることが提案され、現 認知のあり方と不可分であるとみ 究者と重複することも多い。ロボ
在では欧米で恐怖症・摂食障害の なされるようになった為、今後は ティクス分野は、既に脳神経科学
26、27)
。 VR も
治療などに実用されている
『脳科学』で扱われるだろう。 や認知科学と相互浸透している。
没入感が、ヒトに対して有益な効 一方、
『脳科学』の知見・仮説・方 VR とロボティクスを統合するよ
果を与えると認められるものなら 法論を活用して VR を開発し、医 うなシステムの研究開発を進める
ば、大掛かりな装置は必ずしも必 療や教育に活用出来る新たな VR ことが有意義だろう。
身体の疾患
Science & Technology Trends June 2008
19
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
図表 5 気分(感情)障害の変遷
1940
1940
1950
1950
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1960
1960
1970
1970
1980
1980
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1990
1990
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2010
2010
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2000
2000
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抗うつ薬の発見と臨床応用
᛫䈉䈧⮎䈱⊒⷗䈫⹜↪
࿖㓙⛔⸘ಽ㘃(ICD-10䇮WHO)
ᠲ૞⊛⸻ᢿᴺ
(DSM-III䇮☨࿖)
෺ᭂ䌉䌉ဳ㓚ኂ
䋨㪛㫌㫅㫅㪼㫉 㩽㩷㪝㫀㪼㫍㪼䇮☨䋩
ᠲ૞⊛⸻ᢿᴺ
(DSM-IV, DSM-IV-TR䇮☨࿖ )
䇸෺ᭂ䌉䌉ဳ䇹ᱜᑼ∛ฬ䈫䈚䈩⊓㍳
෺ᭂ䉴䊕䉪䊃䊤䊛
㩿㪘㫂㫀㫊㫂㪸㫃䇮☨䋩
mood stabilizer
䋨⵾⮎ડᬺ䇮☨䋩
NEWMOOD⸘↹
䋨᰷Ꮊㅪว䋩
♖␹කቇ䉭䊉䊛䉶䊮䉺䊷
䋨CSHL䇮☨䋩
太枠は、気分(感情)障害(うつ病・双極性障害)の主な類型の例で、地誌・年代とともに変遷する。枠の左端が
用語・概念・出来事の初出時期を示す。日本や西独では、第二次大戦からの復興と高度成長が達成されつつある時期に、
真面目で組織に対する貢献度や帰属意識が高いが、「目的達成後の物語をもたない」メランコリー親和性のうつ病が
主な病態であった。高度成長の終焉とともに、この典型的なうつ病類型は減少傾向にある。一方、経済安定期やバブ
ル崩壊後には、躁状態を含む双極型など、うつ病類型が多様化し患者数も増えている。自殺者数は気分 ( 感情 ) 障害
患者数と相関性があり、近年は年間ほぼ 3 万人台である。1990 年代からは、自殺した会社員の遺族と会社側の間で、
過剰労働とうつ状態・自殺の因果関係などを争点に裁判が起こるようになっている。
参考文献 52)を基に科学技術動向研究センターにて作成
6
今後の課題● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
6‐1
『脳科学』から見た
イノベーション
これまでの『脳科学』の成果に
よって、必ずしも疾病の治療の目
的でなくとも、ヒトの精神神経活
動自体を変更することのできる可
20
能性が議論されるようになってき
た。ここで、何に対する変更なの
か・何がヒトにとって自然な状態
なのかを改めて熟慮することが重
要になる。現在のヒトの状態は、
生物学的要因と社会的要因・知識
技術による人為的変遷という因子
が複合した状態である。そのこと
を踏まえて、ヒトの自然な状態・
基準点を定めようとすれば、普遍
的な回答は存在せず、それぞれの
地誌・文化的背景に基づいて集団
の内部で合議し意思決定する事が
必要となる。そのためには先ず、
『脳科学』からヒトの進化を理解す
る必要があるだろう。
広義の脳科学
(1)外部記憶
推進する事が優先すると認識され
近年 IT に関連して外部記憶や るようになった。地球環境や生態
外部脳という比喩が語られるが、 系の維持を達成するためには、ヒ
認知考古学の観点では、ヒトは少 トの欲求構造を理解することが必
なくとも 5 万年前から外部記憶の 須である。又、避けがたい脳のポ
17)
形成を行ってきた 。その誘引 ジティブ・フィードバックを制御
は、ヒトの利用する情報が増えた するための制約要件として、現時
事とされる。なぜ情報が増えたの 点で最も説得力のあるのは、地球
か、なぜ利用情報を増やしたのか、 環境や生態系の維持という課題だ
増やす欲求は何に起因するのか、 ろう。ヒトのイノベーション欲求
ということが、次に解明すべき課 を、物質・エネルギー消費を介し
題となっている。
たポジティブ・フィードバックで
はなく、精神的な探索のポジティ
(2)イノベーションへの希求
ブ・フィードバックに向かわせる
『脳科学』や人工生命の研究者の ような、新たな工学や産業の創生
一部では、
「ヒトの脳に、イノベー が必要とされる。
ション自体に対する避けがたい欲
求構造がある」という説が唱えら
6‐2
1、2、7、28、30)
。他の生物
れている
も、自らの認知様式に合わせて環
長期的縦断(コホート)研究
境を利用・変更し、環境に合わせ
て自らの新しい認知様式を形成す
54)
ることはある 。しかし、ヒト 個々の人の個性の発達や発達障
は、「知識獲得 ⇒ 技術開発 ⇒ 環 害・精神疾患の発症の機序を調べる
境の改良 ⇒ 更に良質の情報を沢 ためには、長期的縦断研究が重要で
山得る ⇒ 更に良い技術を開発す あり、国が主体となって推進すべき
る」という、ポジティブ・フィー である。
ドバックを行っている。環境の制 人の一生の中でも特に、胎生期・
圧と情報保守技術の革新によって 新生児期及び思春期は、様々な神
ネガティブ・フィードバックから 経・身体システムの統合・脱統合
開放され、ポジティブ・フィード の起こる時期である。従来
「生得的」
バックのモノポリーに転じかねな と考えられてきた精神神経疾患の
2)
い状況に至っている 。ヒトのイ 中でも一部のものは、遺伝的因子
ノベーションへの希求を自ら調節 の浸透度が低く、実際に形質とし
するため、ポジティブ・フィード て現れるか否かは神経・身体シス
バックの機序を解明することが求 テムの統合・再統合の過程に依存
められる。
する可能がある。そこで、3‐3 で述
べたような発達期に注目した研究に
(3)ヒトの欲求構造
よって、障害形質の表層化する過程
30 年程前、工学者は、人間の の早期検出・制御方法を見出せば、
欲求構造をどう工学に組み込むか 遺伝的な危険因子を持つ子供の発症
ということを新たな課題として研 を防ぐ可能性が期待される。又、神
究し始めた。長い間、「必要は発 経学的要因による軽度発達障害は、
明の母」ではなく、「発明が必要の 脳の多様性・個性とも不可分な問題
母だった」(川田順造)。環境問題 であり、単に
「障害を治す」という観
や社会問題が顕在化し、地球環境 点でなく、現在の養育・教育・社会シ
や生態系の維持、有限な資源が実 ステムが必ずしも多数のヒトの脳機能
感されるようになって、科学技術 にとって最適化されていないことを考
政策では、社会の需要に基づいて 慮し、これらシステムの改良に向けて
研究・開発を行うことも重要である。
このためには、胎児期・乳幼児期
から始まる長期的縦断研究によっ
て、脳神経のみならず、家族や地域
社会など、社会・環境因子を含む
多様な因子の相関関係を調べる必
要がある。最初から、教育や保健
医療のすべての課題に着手するこ
とは困難であるため、様々な課題
の検討に発展しやすい核となる課
題に絞って始めることが望ましい。
初期から検討すべき点としては、下
記のような例が挙げられる。
・非言語的な論理や記憶、ゲシュ
タルト的知覚:「分かった」と
いう実感を伴う、自分の記憶・
経験・身体性に接地した、知
識を得る機序の解明につなが
る可能性。
・個々のモジュール的知覚の発
達とそれらの連合機能の発達:
読み書き計算能力の発達やそ
の障害の解明につながる可能
性。
・“心の理論”と社会的遂行能力
の発達の解析
・一卵性双生児における共通点
と 差 異 の 解 析: 特 に 差 異 は、
遺伝的要因によらず、個人が
他者や環境と相互作用する過
程で創発する精神神経的特性
の解析に役立つ。先ずは、運
動・知覚の発達に関する力学
的解析や、子どものストレス・
うつの解析と組み合わせた研
究が有意義である。
この様な研究に参加する研究者
は、長期にわたって研究に専念す
る必要があり、論文や著作が研究
途上では発表しにくい可能性も大
きい。縦断研究期間中の体制整備
や、研究終了後の個々の研究者の
職歴持続のために、公的な保護・
支援体制が必要だろう。
長期的縦断研究を国の主催で行
う際、被験者に
「参加することは
不利にならないのか・参加するこ
Science & Technology Trends June 2008
21
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
との利点は何か」を説明する責任
が求められる。調査研究に参加す
ることによって関係者の間で意識
水準が向上することにより、長期
的な観点から便益を得られるよう
に、調査を設計・運営してゆく必
要がある。
先ずは研究特区を設定して、個
別地域社会の地誌・文化を考慮に
いれて、綿密な研究を推進すること
が重要である。これが軌道に乗り
始めたら、それよりも緩和な条件で、
全国的に市民の参加する運動のよ
うな形で広めることも可能であろ
う。日本全体を実験場として『脳科
学』の縦断研究を行うことの利点と
して下記のような点が挙げられる。
日本の利点
・比較的大きな言語圏(母国語とし
て世界 9 位、公用語として 11 位、
1993 年 the Cambridge Fact
Finder)。
・地理的に比較的閉鎖環境にある。
・江戸時代後期以来の高い識字率、
旺盛な知的探究心。
・近代化を達成しながらも、狩猟
採集民族的な自然崇拝・祖先崇
拝・アニミズム的世界観が残っ
5)
ている 。
・他者の気持ちを推測して、自分
の行動を調整する習慣が強く、
同じ認知心理的テストをしても
欧米の被験者とは異なった特色
55 ~ 57)
。
のある結果がでる
・精神医学においても、精神病理
に基づいた、きめ細かな医師と
患者の関係による治療体制が未
だ失われていない。
・印欧語と異なる漢字文化圏に属
し、言語研究や、視覚イメージ・
体性感覚の総合による抽象概念
の表現・伝達の研究がし易い(習
字、白川文字学、読み書き困難
への対応策、など)。
・『脳科学』や進化に関して、イデオ
ロギー上の大きな対立がない。
情報が過剰・変化が急激・需要
が多様な社会状況のなかで、市民
22
の需要に基づいて『脳科学』を推進
するためには、持続的に大量の情
報を収集することが必要になる。
多くの市民が自発的に参加して、
有益な情報を発信し、共有の情報
を活用しあうシステムを構築する
ことが必要である。科学技術面で
の根拠や基盤の確かな、情報発信
活用システムを構築する端緒とす
ることが考えられる。
繰り返し、やがて養育者達の言語
ゲームに引き込まれていくのである。
音楽については、聞き手にとっ
て、親近性
(予測との一致)だけで
はなく、新奇性
(予測可能性からの
逸脱)
が必要で、両者の間のブレ
(タ
イミングやバランス)
が快感となる
のではないかいう構想の下に研究
が進められている。統合失調症な
どの例を鑑みると、このような関
係性のブレの中に引き込まれなが
らも、自我がブレないかのように
6‐3
信じ続けていられることが、
「こ
「こころの豊かさ」と『脳科学』 ころの豊かさ」を成り立たせるため
には必要であろう。良い演奏者や
会話者には、
“心の理論”が必要と
「こころの豊かさを求められる されることが指摘されている。音
事・実感できる事」
について、現時 楽や言語の文節を伝達すること
(予
点で
『脳科学』が何を語れるだろう 想可能性)
だけに専念するのではな
か。少なくとも、脳は
「こころその く、
「自分の発したものが受け手に
もの」ではなく、脳の一部に
「ここ どう解釈され」
、
「それによって受
ろ」に相当する部分を見つけたり、 け手がどのような思いを抱くか」
「こころの豊かさ」が脳の活動状態 (予想可能性からの逸脱)を更に予
に還元されたりする可能性は考え 測しつつ演奏し、或いは語らう。
難い。しかし、人間の外部に
「ここ 流暢な会話には、視線の方向性と
ろの豊かさ」
があって、それを探せ 相手の視線の読み方が必要だという
13)
ばよいというものでもない。むし ことが、明らかにされつつある 。
ろこころは、
身体と脳、
自己と他者、 自閉症では、これが活用されない。
自己と環境との相互作用する
「場」 生まれつき盲目の子供でも自閉症
でその都度創発するという考え方 特有の言語使用の混同が見られる
30)
がある。この創発の場には、脳が ことがあるという 。
個々のヒトが、様々なときに何に
関っているだろう。
「こころの豊かさ」
先ずは、
「こころの豊かさ」の成 よってどのように
り立ちを調べるという取り組みが を感じるか。心理物理学や複雑系、
研究、精神医学、人文社
考えられる。ヒトは時として、音 “心の理論”
楽や旅、会話について、聞いた・ 会科学など各方面から、着実な取り
見た・感じた・話した内容はすっ 組みを進めてゆく事が有益であろ
こころの豊かさを求められない・
かり忘れてしまったけれど、とに う。
かく楽しかった事だけは覚えてい 実感できない状態である、統合失調
る場合がある。この様な時、ある 症やうつ病の原因を解明し、社会の
意味内容が伝わるというよりも、 なかでその誘因を出来るだけ減ら
むしろ相互作用の構造自体によっ してゆくことも、こころの豊かさを
て意味が作り出され伝達されてい 求める一つの試みだろう。
る可能性がある。典型的な例が、
赤ん坊と養育者の関係である。赤
6‐4
ん坊は、養育者の語りかける内容
や微笑の意味は、理解していない。
人文・社会科学による研究
しかし、養育者と応答を交わすこ
と自体が快楽であるため、これを
広義の脳科学
外部に客観的な世界があって、
その世界のことを正確に知った内
容が知識だという考え方から、そ
れぞれの観察者や対象・状況毎に
知 識 の あ り 方 は 多 様 で あ り、 知
識は創られるものだという考え
方 に 変 わ り つ つ あ る。 科 学 技 術
の世界では、19 世紀に発明発見
のための方法論自体が研究され
るようになり、20 世 紀には言 語
自体 が 研 究 対 象となり (Russell,
Wittgenstein)、21 世 紀 は 思 考・
知識をつくること・分かるという事
自体が研究対象となっている。知
識を「 創る」という概 念 が 重要と
なっている。19 ~ 20 世紀の科学
技術では、外部に普遍的で客観的
な世界があり、物質的基盤や再現
性のある検証方法によって信頼性
の有る知識を得ることの出来ると
いう、DesCartes や Bacon 以来の
思想系譜の貢献が大きい。一方、
これとは異なる Vigo,G.B.、富永仲
基、Pierce,C.H.、Batson,G. の よ う
な思想系譜も人文社会科学の領域
で研究されてきた。21 世紀以降の
『脳科学』の中で、人文・社会科学
的研究を進めることが有用である。
『脳科学』によって、
「自己」意識
は、他者や共同体との相互作用を
通じて生じ、維持されるという可
能性が、科学的に示唆されるよう
になった。又、日本の研究者の中
には、明治以降導入された近代西
洋的な自我の捉え方の影響で、
「個
人」
を過度に強調して来たのではな
いかという見直しが起こっている。
江戸後期・明治以降の自我の概念
の遍歴を見直す研究は、文学や精
神病理学
(病跡学)では行われてい
るが、
『脳科学』の一環としても、
進める必要があると思われる。自
我について語ることに関して、現
在の脳神経科学は一部の文学ほど
成熟していない。
今日のヒトの認知様式は、生物
学的要因と文化・社会的要因の双
方が交じり合って成り立っている。
特に文化・社会学的要因に関して
は、一万年程前に農耕・牧畜を始
めてからの変化が大きいと考えら
れるので、
『脳科学』の成果を実社
会に適用する際は、人類学や歴史・
社会科学などの関与が重要となる。
このため、日本語で書かれた人
文・社会科学系の文献
(専門誌上の
論文・書籍 ・ 講演録 ・ 選書・デジ
タル媒体、など)
を様々な分野の研
究者や一般人が広く活用できるよ
う、データ・ベースの構築と維持、
著者の同定できるデータ・ベース
58)
の充実が必須である 。
6‐5
その他の関連領域
関連領域
特徴
人間行動理解のためのオープ
ン・プラットフォーム
デジタルヒューマン研究センターのオープンライフ:人間の主観など通常統計解析に乗り難い
要素を取り組んで解析する Bayesian 法などを用い、人の広範な認知行動モデルを作る試み
が始まっている。例えば、子供の身体観や認知様式について、これまでは大人の視点から推
測した偏向が入りがちであったが、医師や心理学者の観察や洞察などを交え、様々な発達段
階にある子供自身の視点に立った認知・行動モデルをつくること、更にこれを子供の事故防止
59)
プログラムの開発などに用いることが可能になる 。
人間行動理解のためのオープ
ン・ソフトウェア・プラットフォ
ーム
社会的知能発生学研究会は、すでに認知発達ロボティクスを展開してきたが、国立情報学研
究所 (NII) を基盤に、広範な利用者の参加や長期にわたる連続実験を可能とするソフトウェア・
プラットフォームの開発を進めている。ロボット実機・仮想エージェント或いは利用者(ヒト)な
ど、多数のエージェントが複雑な環境内で行動することが出来、知覚・動力学・対話行為の統
合シミュレーションを可能にすることを目指している。NII では、自然科学系のみならず人文社
会科学系を含む複数のデータベース構築が行われており、これらを効率的に統合して推進する
58)
ことは有意義である 。
オントロジー(哲学&情報科学)
『脳科学』の構成領域ごとの言説の精緻な意味合いを損なわないように、様々な知識体
系の表現体系を守りながら、複数領域の用語・知識・概念をつなぐ。
セマンティック・エディタ
「機械に分かるように書けば、専門外の人間にも分かる」という基準で、専門外の人々も研究成
果の意味を把握できるようにする目的で、著作物(論文・著書・論文・書籍 ・ 講演録 ・ 選書・紀要・
60)
デジタル媒体など)の、標準化した要旨を作成する 。
開かれた査読の情報媒体の活用 Vision、仮説、萌芽的創案に基づく研究を発表する機会。
Science & Technology Trends June 2008
23
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
7
終わりに● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
持続可能な「成熟」
「イノベーション 25」の議論の中
で、技術は消長が激しく予想が難
しいのに比べ、ヒトの需要は変動
しがたいので需要を指標にするの
が肝要であるという意見が交わさ
れた。目前の新奇技術・機器・薬
物で外部からヒトの能力や耐性を
増強することよりも、どのような
人間でありたいか、どのような世
間に生きたいかという需要に合わ
せて、人間の内部と社会システム
を改善してゆくことは有益であり、
広義の
『脳科学』をそれに貢献する
ように進めてゆくことが肝要であ
ろう。
nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/
1960 年代に提起された問題意
stt040j/0407 _ 03 _ feature _
識は、
「変化の加速」による社会の
articles/200407 _ fa01/200407 _
歪みだった。
『脳科学』的視点から
fa01.html
すれば、ヒトの脳の特徴は、イノ
6) 開一 夫、
「 乳幼児における自己認
ベーションの避けがたい希求であ
知と発達的変遷」 臨床神経医学
る。イノベーション自体が関心事
(Japanese Journal of Clinical
となったとき、社会は指数関数的
Psychiatry), Vol.36 No.8, 947-951.
に変化する可能性がある。今後は、
(2007)
むしろイノベーションの希求を調
7) I R I K I , A . , & SA K U R A , O . ,
整する新たな方策を見出すことが、
‘The neuroscience of primate
intellectual evolution - natural
社会や地球の環境・生命系を維持
s ele c t i o n a n d p a s s ive a n d
するために不可欠な要件であると
intentional niche construction
考えられる。
-,’Philosophical Transactions
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Royal Society London B, Vol.363,
筋肉・骨の成長になぞらえた。物質・
p2229-2241 (2008)
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外胚葉産業時代の夜明け」
(初出、放
Trends in Neuroscience, vol.21
となっている。ヒトは避けがたい
送朝日1963年1月号、
No.104、
p4-
(5) 188-94 (1998).
イノベーションの希求を内に向け、
17)
「
、
〝精神産業時代〟への予察-
9 ) L ibet , B . ‘
, Mind Time:
成熟を目指して精神産業を発展さ
偉大な未来への本質的な歩み」
(初
The Temporal Factor In
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出、朝日新聞1963年1月1日)、in「情
Consciousness (Perspectives
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「成長」
報の文明論」
中央公論社
(1988)
in Cognitve Neuroscience)’
に腐心せず、
「成熟」に専心すべき
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『児童心理学の進歩』、金
(2005)/
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岩波書店 決し残した問題を見直し、複雑化
meetings/archive/toda-hatano(2005)
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future.pdf
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「行為の能動性はどこへ
を見出すことが必要であり、この
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いくのか?―意思決定の神経メカ
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ニズムをめぐって―」、日本機械学
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社会・経済ニーズ調査」、NISTEP
会誌、Vol.109 No.1049, p261-264
進めることが有意義であると思わ
Report No.94 (2005):
(2006)/「知覚判断、意思決定の神
れる。
http://www.nistep.go.jp/achiev/
経機構―潜在的な脳情報処理を
ヒトの認知様式が環境との相互
ftx/jpn/rep094j/idx094j.html
めぐって―」、生体の科学、Vol.57
作用で変化するとするならば、ヒ
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No.1p13-21(2006)
トは未だ進化の途上にあり、完全
展による生活者の活動支援」、in
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に制御できなくとも、少なくとも
『2025年に目指すべき社会の姿―
Tsukada, M.,&Sakagami,
望ましい方向へ進化をデザインす
「科学技術の俯瞰的予測調査」
に基づ
M.,
‘Reward prediction based
ることが可能かもしれない。人間
く検討―』
、
NISTEP Report No.101
on stimulus categorization in
は新たに獲得した能力の制御機能
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を未だ進化させていないとするな
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て」
、星和書店 (2005)
ゲーム、Vol.56,No.3,p61-65(2002)
www.dh.aist.go.jp/projects/
50) 熊澤孝朗、
「痛みと脳」、脳の科学、
Vol.25, p933-936 (2003)
52) 内海健、
「
【精神科医からのメッ
セージ】うつ病新時代:双極 II 型
障害という病」
、勉誠出版(2006)
53) 加藤忠史、
「気分障害の生物学的
研究の現状」in 脳と精神の医学、
57)
山岸俊男、
「日本人の自己卑下と
自 己 高揚に関する実験的研究」
『社会心理学研究』Vol.20、No.2,
p17-25 (2004)
58) 「欧州で進む人文科学分野の文献
執 筆 者
石井 加代子
ライフサイエンスユニット
科学技術動向研究センター
主任研究官
http://www.nistep.go.jp/index-j.html
26
child/
60)
橋田浩一、
「オントロジーと制約
に基づくセマンティックプラッ
トフォーム」
、人工知能学会誌、
Vol.21, No.6, p712-717 (2006)
AAAS科学技術政策年次フォーラム報告
科学技術動向研究
AAAS 科学技術政策年次フォーラム報告
横尾 淑子
総括ユニット
1
はじめに● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
2008 年 5 月 8 ~ 9 日、ワシントン となった今回は、基調講演を行った
DCにて全米科学振興協会
(American 7 回連続参加の J.Marburger 科学
Association for the Advancement 技術政策局長官
(兼、科学技術担当
注 1)
of Science:AAAS) による科学 大統領補佐官)
を始め、政策関係者、
技術政策年次フォーラムが開催さ 議会関係者、学協会関係者、シン
れた。本フォーラムは、米国の科 クタンク関係者等、400 名を超え
学・工学・高等教育のコミュニティ る参加があった。
が直面する政策課題について何が 全 体 セ ッ シ ョ ン の テ ー マ は、
起こりつつあるのかを知り、議論 「2009 年度予算と政策的背景」
「
、21
する機会を科学技術関係者に提供 世紀の世界と科学技術」
、
「科学技
することを目的として毎年開催さ 術- 2008 大統領選とその後」
、
「科
れており、米国の科学技術政策の 学とニューメディア」
である。予算
重点課題を把握するのに有用な場 に関するセッションでは、基調講
である。参加者として想定されて 演および次年度研究開発予算分析
いるのは、科学技術と政策との関わ に続いて、政策的背景に関する講
りに関心のある科学者、技術者、政 演が行われるのが近年の常である。
策策定者、学生等である。33 回目 しかし今回は基調講演と予算分析
のみとなり、別途、
「21 世紀、科
学技術はどのような世界に直面す
るのか、どのような世界を創るこ
とに貢献するのか」
という、グロー
バルな視点のセッションが設けら
れた。その他、今回の特徴として、
大統領選およびその後に向けた構
成であること、安全保障や感染症
など現存の脅威への対応が影を潜
めた平時のテーマ設定となってい
ること、特定分野に焦点を当てる
のではなく科学全般の進展を今後
どのように支援していくかが中心
となっていることが挙げられる。
図表 1 に、最近 5 回のセッショ
ンテーマの推移を示す。
図表1 セッションテーマ(2004 ~ 2008 年)
開催年
2004
2)
2005
2006
3)
2007
4)
2008
全体セッション
パラレルセッション
・2005 年度予算と政策的背景
・新技術融合の政策的含意:ナノ、バイオ、インフォ、コグニティブ
・地球規模経済発展の中での米国の挑戦
・科学技術は民主主義を拡大するのか、蝕むのか
・9.11 後の安全保障政策の科学への影響
・現在のリサーチユニバーシティは持続可能か
・2006 年度予算と政策的背景
・サイエンスコミュニケーションの未来
・米国および世界経済における研究開発の役割
・科学技術労働力の体系的見通し
・科学 vs. 社会?科学的興味と一般の考え方の衝突
・科学と健康を脅かす地球規模の災害
・2007 年度予算と政策的背景
・21 世紀のエネルギー問題のための科学技術
・地球規模でのイノベーションチャレンジ:産業と政策策定者 ・リスクとレスポンス:インフルエンザ等地球規模の健康への
による回答
脅威の不確実性への対処
・科学の健全性を守る
・国家安全保障:科学は安全をもたらすか
・2008 年度予算と政策的背景
・科学技術政策において拡大する州政府の役割
・製薬産業とバイオテクノロジー研究開発
・途上国における科学・技術・イノベーション能力の構築
・科学情報の秘匿と公開の問題
・監視・プライバシーと科学技術の役割
・2009 年度予算と政策的背景
・人間の能力増強:希望か脅威か
・21 世紀、科学技術はどのような世界に直面するのか、どの ・研究・イノベーションへのファンディングの新しいモデル
ような世界を創ることに貢献するのか
・科学の支援活動:将来のための新しいモデル
・科学技術、2008 大統領選とその後
・科学とニューメディア
1)
出典:AAAS 科学技術政策年次フォーラムウェブサイト の各年プログラムより抜粋。各年の会合概要については、本誌レポー
2 ~ 4)
ト
を参照のこと。
Science & Technology Trends June 2008
27
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
2
基調講演● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
J.Marburger 科学技術政策局長
官は、まず、次期政権における科
学コミュニティの人材の必要性に
言及した。次期政権の科学技術政
策に関わる重要な役職に招かれる
可能性のある者は準備が必要であ
り、また、科学コミュニティはこ
うした大変な仕事をやってもよい
という適切な候補者を検討するな
ど、次期政権が始まるから動き出
す必要がある、と述べた。
研究開発費配分に関しては、他
の多くの国が調整のフレームワー
クを持つのに対し、米国では様々
なアクターが絡んで決定される仕
組みになっているため、調整のフ
3
レームワークがないことを改めて
指摘した。一方、全体を見ると、
注 2)
を圧
義務的経費が裁量的経費
迫しているものの、研究開発予算
の裁量的経費に占める割合は不思
議にも安定しているとも述べた。
未調整の一例として、議会やプロ
ジェクト支援者等の意向を反映し
たイヤマーク予算を挙げ、それぞ
れに有用であるが、資源配分の最
適化がなされているとは言えない
とした。
連邦議会において成立した
2008 年 度 研 究 開 発 予 算 に つ い
て は、 い く つ か の 重 要 領 域 が 増
額 さ れ た も の の、 大 統 領 教 書 に
示した米国競争力イニシアチブ
(American Competitiveness
注 3)
Initiative: ACI) や米国競争力法
注 4)
(America COMPETES Act) に
沿った優先順位づけが十分には反
映されていないと評した。また、
ブッシュ政権中はその前の 8 年間
と比べ研究費が増加したが、次期
政権でこれに匹敵するのは難しい
と思われるため、適切な予算配分
がより重要であると述べた。また、
バイオメディカル研究支援の伸び
はこの 5 年間抑えられてはいるも
のの依然として大きな割合を占め
ており、分野間に不健全な不均衡
があることを併せて述べた。
2009 年度連邦政府研究開発予算に関する講演● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
K.Koizumi 氏(AAAS)は、2009
年度研究開発予算分析に関する
次のような講演を行った。
2008 年 2 月に公表された 2009
年度大統領予算教書によると、予
算総額は 3.1 兆ドルで、昨年度か
ら横ばいである。研究開発予算
(研
究、開発、設備)
は 1,474 億ドルで、
これも近年横ばい状態が続いてい
る。このうち、研究予算は 2004
年度をピークに減少傾向にある。
で示された 10 年間の予算倍増が
2009 年 度 予 算 案 で は、 上 述 可 能 と な る。 国 防 総 省
(DOD)の
の ACI や 米 国 競 争 力 法 に 沿 っ 兵器開発や航空宇宙局
(NASA)の
て、 物 理 の 基 礎 研 究 へ の 厚 い 支 予算も増加している。国立衛生研
援が示されている。国立科学財団 究所
(NIH)は横ばい、環境保護庁
(NSF)
、エネルギー省科学局
(DOE (EPA)
、国防総省科学技術
(DOD
Science)
、 国 立 標 準 技 術 研 究 所 “S&T”
)
、農務省
(USDA)な ど は
(NIST)予算の大幅増が示されて 減少している。ただし、後二者の
おり
(図表 2)
、これが実施されれ 減少は、比較対象である 2008 年
ば、これまでの不足を補って ACI 度予算
(歳出法による)がイヤマー
■用語説明■
注1:AAASは、科学者、技術者、科学教育者、政策決定者など総計14万人以上の会員を擁する世界最大規模の非営利
の会員制団体であり、Science誌の発行元として知られている。
(参考文献 4)より引用)
注2: 義務的経費とは、年金、医療保険、公債等、法律によって政府に支出が義務づけられている経費。裁量的経費とは、議
会が可決する毎年の歳出予算法により金額が決められる経費で、研究開発費はここに含まれる。
注3:2006年2月、大統領予算教書と同時期に科学技術政策局(OSTP)から公表された報告書。米国の競争力を高めるため、
物理学・工学の基礎研究への支援、
初等教育から高等教育に至るまでの数学・科学・工学教育の基盤強化等が謳われてい
る。中核となる基礎研究支援については、10年間で予算を倍増するとし、対象機関としてNSF、DOE Science、NISTが挙げら
れている。
注4:米国の競争力強化のためイノベーションや教育への投資を推進する法律で、2007年8月に成立。2005年の米国アカ
デミー報告書(Rising above the Gathering Storm)を受ける形で作成されており、基礎研究の支援、科学・工学・数学教育
の拡充、ハイリスク・ハイリワード研究の推進等が挙げられている。
28
15
䇸21 ਎♿䈱਎⇇䈫⑼ቇᛛⴚ䇹෸䈶䇸⑼ቇᛛⴚ䋭2008 ᄢ⛔㗔ㆬ䈫䈠䈱ᓟ䇹䉶䉾䉲䊢䊮䈪䈲䇮ᰴᦼ᡽
䉎น⢻ᕈ䈏䈅䉎䈫䈱੹ᓟ䈱⷗ㅢ䈚䈏ㅀ䈼䉌䉏䈢䇯
ᮭ䈱⺖㗴䈫䈚䈩䇮਎⇇ਛ䈱⑼ቇᛛⴚജ䉕⚿㓸䈚䈩䇮᳇୥ᄌേ䇮䉣䊈䊦䉩䊷໧㗴╬䈱࿾⃿ⷙᮨ໧
㗴䈱⸃᳿䈮ข䉍⚵䉃䈼䈐䈖䈫䈏␜䈘䉏䈢䇯䇸⑼ቇ䈫䊆䊠䊷䊜䊂䉞䉝䇹䉶䉾䉲䊢䊮䈪䈲䇮䊑䊨䉫෸䈶䊋䊷
AAAS科学技術政策年次フォーラム報告
࿑⴫ 2㩷 ☨࿖䈱 2009 ᐕᐲ⎇ⓥ㐿⊒੍▚䈱⋭ᐡ೎ᄌൻ䋨ኻ೨ᐕᐲ䋩
䉼䊞䊦䊪䊷䊦䊄䈱䉰䉟䉣䊮䉴䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮ᚻᲑ䈫䈚䈩䈱᦭↪ᕈ䈏␜䈘䉏䈢䇯
ク予算を含んでいることによる影 図表 2 米国の 2009 年度研究開発予算の省庁別変化(対前年度)
注 5)
20
☨࿖䈱 2009 ᐕᐲ⎇ⓥ㐿⊒੍▚䈱⋭ᐡ೎ᄌൻ䋨ኻ೨ᐕᐲ䋩
である。
響
講演では世界の研究開発予算額
FY2009 R&D Request
Percent Change from FY 2008
も併せて示され、米国は依然とし
DOE Science+21%
DOE:㩷 䉣䊈䊦䉩䊷⋭
て1位を保っているが、5 年前に
NSF:㩷 ࿖┙⑼ቇ⽷࿅
NSF+16%
DOE:㩷 䉣䊈䊦䉩䊷⋭
DOT:㩷 ㆇャ⋭
DOT
はあまり目立たなかった中国、イ
DOD:㩷 ࿖㒐✚⋭ NSF:㩷 ࿖┙⑼ቇ⽷࿅
DOD weapons
DOT:㩷 ㆇャ⋭
NASA:㩷 ⥶ⓨቝቮዪ
ンドなどのアジア諸国が存在感を
NASA
DOD:㩷 ࿖㒐✚⋭
NIST:㩷 ࿖┙ᮡḰᛛⴚ⎇ⓥᚲ
NIST
NASA:㩷
⥶ⓨቝቮዪ
DHS:㩷 ࿖࿯቟ో଻㓚⋭
増したことが紹介された。研究開
DHS
NIST:㩷 ࿖┙ᮡḰᛛⴚ⎇ⓥᚲ
NIH:㩷 ࿖┙ⴡ↢⎇ⓥᚲ
DOE defense
VA:㩷 ㅌᓎァੱ⋭ DHS:㩷 ࿖࿯቟ో଻㓚⋭
発 予 算 の 対 GDP 比 に つ い て は、
NIH:㩷 ࿖┙ⴡ↢⎇ⓥᚲ
DOE energy
NOAA
NOVA:㩷 ᶏᵗᄢ᳇ዪ
EPA:㩷 ⅣႺ଻⼔ᐡVA:㩷 ㅌᓎァੱ⋭
NIH
日本、韓国、中国が上昇傾向にあ
NOVA:㩷 ᶏᵗᄢ᳇ዪ
USGS:㩷 ☨࿖࿾⾰⺞ᩏᚲ
VA
USDA:㩷 ㄘോ⋭ EPA:㩷 ⅣႺ଻⼔ᐡ
NOAA
ることが示された。
USGS:㩷 ☨࿖࿾⾰⺞ᩏᚲ
EPA
USDA:㩷 ㄘോ⋭
また、大統領教書では ACI に沿っ
USGS
DOD"S&T"
た予算配分がなされているが、予
USDA
算総額上限が変わらないとすれば、
-15% -10% -5%
0%
5%
10%
15%
Source:AAAS,based on OMB R&D data and agency estimates for FY 2009.
಴ᚲ䋺K. Koizumi ᳁䋨AAAS䋩⻠Ṷ䉴䊤䉟䊄[1]
DOD "S&T" =DOD R&D in "6.1"through "6.3"categories plus medical research.
議会審議において、他のプログラム
DOD weapons =DOD R&D in "6.4" and higher categories.
2008 AAAS
MARCH '08 REVISED
に予算を振り向けるため ACI 関連
䋴䋮䈠䈱ઁ䈱⻠Ṷ
の増加がカットされる可能性があ
಴ᚲ䋺㩷 K. Koizumi ᳁䋨AAAS䋩⻠Ṷ䉴䊤䉟䊄
1)
20
䋴䋭䋱䋮21
਎♿䈱਎⇇䈫⑼ቇᛛⴚ
出典:K. Koizumi 氏(AAAS)講演スライド
るとの今後の見通しが述べられた。
C
䇸21 ਎♿䇮⑼ቇᛛⴚ䈲䈬䈱䉋䈉䈭਎⇇䈮⋥㕙䈜䉎䈱䈎䇮䈬䈱䉋䈉䈭਎⇇䉕ഃ䉎䈖䈫䈮⽸₂䈜䉎䈱
4
䈎䇹䈫㗴䈚䈢䉶䉾䉲䊢䊮䈮䈍䈇䈩䇮㐳ᦼ䉕ዷᦸ䈚䈢਄䈪䇮࿾⃿ⷙᮨ໧㗴䈻䈱ኻᔕ䇮෸䈶䇮⑼ቇ䈏䈧䈒
䉎ᣂ䈚䈇␠ળ䈮䈧䈇䈩䈱⻠Ṷ䈏ⴕ䉒䉏䈢䇯਎⇇ਛ䈱⑼ቇᛛⴚജ䈮䉋䉍↢䉂಴䈘䉏䉎⍮⼂䉕⛔ว䈘
1
その他の講演● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
䈞䈩䇮䉣䊈䊦䉩䊷䉇᳇୥ᄌേ䈭䈬䈱࿾⃿ⷙᮨ໧㗴䈱⸃᳿䈮ข䉍⚵䉃䈼䈐䈖䈫䈏␜䈘䉏䈢䇯
チャー研究所)
は、トレンドを多層
4
化し複雑な社会を把握する学際的
21 世紀の世界と科学技術 アプローチに基づいた将来社会の
予測について述べた。地球規模の
リスク項目としてエネルギー、人
「21 世紀、科学技術はどのよう 口、食料、水、健康、貧困、気候変動、
な世界に直面するのか、どのよう テロ等を挙げ、特にエネルギー問
な世界を創ることに貢献するのか」 題および水問題を優先課題として
と題したセッションにおいて、長 挙げた。同氏は、これらの課題解
期を展望した上で、地球規模問題 決の鍵はイノベーションであり、
への対応、および、科学がつくる イノベーションを加速するのは科
新しい社会についての講演が行わ 学であると述べた。また、科学に
れた。世界中の科学技術力により ついて、ナノテクノロジー、バイ
生み出される知識を統合させて、 オテクノロジー、情報科学、量子
エネルギーや気候変動などの地球 科学、認知科学が融合していくと
規模問題の解決に取り組むべきこ いう見通しを述べた。
とが示された。
M.Kimble 氏
(国連財団)は、地
J.Canton 氏
(グローバル・フュー 球の持続性を脅かすものとして、
4‐1
水問題、無秩序な都市化、社会的
経済的不均衡、気候変動を挙げた。
危機に瀕している現在、科学的根
拠に基づいて正しい政策決定を行
うべきであり、地球を救うため何
をなすべきか、いかに協力・連携
を行うかを考えるべきである、と
述べた。
C.Hill 氏
(ジョージメイソン大学)
は、今後の社会は
「科学社会」から
「ポスト科学社会」
に移行すると述
べた。同氏の言う
「ポスト科学社会」
とは、世界中で生み出される新し
い知識を統合して、気候変動、エ
ネルギー需給等の地球規模問題や、
富の創出、経済成長等の様々な要
求に応えていく社会である。そこで
は、科学技術は依然として重要で
■用語説明■
注5:イヤマーク予算とは、議会の予算審議過程で特定の目的のために付加される予算である。大統領予算教書の
時点では存在しないため、議会で成立した2008年度歳出法による予算と2009年度大統領予算教書の予算を比較し
て研究開発費が減少したように見えても、実際に減少しているとは限らない。昨年のフォーラムにおいて、マーバ
ーガー大統領補佐官がAAASの予算分析における不備としてこの点を指摘4)した。AAASは、2009年度予算について
イヤマーク予算を除いた省庁別増減も併せて算出し、DOD科学技術は5.6%増、USDAは1%の減としている。
Science & Technology Trends June 2008
29
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
あり続ける。移行の背景として、グ
ローバル化、各国の科学技術力の
向上、人材の遍在化を挙げた。
4‐2
大統領選および
その後に向けての提言
「科学技術- 2008 大統領選と
その後」セッションにおいて、米
国大統領選およびその後に向け
て、次期政権の課題、ならびに、
科学者の採るべき行動について、
講演が行われた。総じて、重要課
題としてヘルスケア、気候変動、
エネルギーなどが挙げられ、また、
科学コミュニティは次期政権の科
学技術政策にもっと関わるべきで
あるとされた。
P.Orszag 氏( 議 会 予 算 局 )は、
次期政権の重要課題としてヘルス
ケア問題と気候変動を取り上げ
た。ヘルスケアについては、技術
進歩に伴う一人当たり医療コスト
の高騰や医療保険受給者数の増加
により、ヘルスケア経費が増加し
続ける可能性を指摘した。気候変動
については、将来破滅的状況をもた
らす可能性のある小さなリスクを
減らしてゆくべきと述べた。
R.Cresanti 氏
(オーシャン・ト
モ社)は、次期政権では、税金で
支援した研究を社会に役立つ有形
無形の資産に変える方策を採る必
要があり、また、知的財産を実際
の経済にどう生かすかを考える必
要があると述べた。また、現在の
問題点として、科学技術に関する
省庁間連携のための投資が減少し
ていることを挙げた。科学コミュ
ニティについては、政権内部への
関与が不足していると指摘した。
G.Omenn 氏( ミ シ ガ ン 大 学 )
は、前回の政権交代、9.11、その後、
と政策の変化をたどった後、次期
政権においては、優先順位の再設
定が必要と述べた。次期政権の優
先課題として、①エネルギー、地
球環境、経済、労働力、教育、健康、
インフラといった長く保留にされ
てきた課題への取り組み、②防衛、
宇宙、国家安全保障、諜報につい
ての新たな戦略計画策定、③国際
関係修復、④科学技術が国民の将
来に貢献することの明確化、研究・
イノベーション基盤の強化、政策
助言の強化、を挙げた。
J.Porter 氏
(前下院議員)は、科
学技術を大統領選や両院議員選挙
での政策議論の俎上に載せるよう、
候補者に向けて科学コミュニティ
が様々な形で積極的に働きかける
ことを促した。具体的な例として、
科学技術関連の重要ポストへの就
任候補者の選択肢を提供するこ
と、大統領候補者に科学技術に関
する公開討論の実施を呼びかける
注 6)
に署名す
Science Debate 2008
ること、議員を大学に招待して研
究の実際を見せること等を挙げた。
E.Moniz 氏
(MIT)
は、エネルギー
分野を例に、政権交代に伴う研究課
題の存廃について述べた。科学コミュ
ニティ間の合意により設定された基礎
研究課題は続行される可能性が高い
が、開発や実証段階の研究は政権
交代を機に方向性が変わりそれまで
の投資の成果が生かされないおそれ
があるとした。また、実証段階の研
究に当たって、年毎の予算配分ゆえ
の経費確保の不確実性という問題点
や、エネルギー以外の政策と併せた
検討を行う必要性を述べた。
4‐3
科学とニューメディア
インターネットの発展・普及に
より生まれたブログおよびバー
チャルワールドを中心に、サイ
エンスコミュニケーション手段
としてのニューメディアの現状
と可能性に関する講演が行われ、
将来的にも非常に有用であるこ
とが示唆された。
A.Bly 氏(SEED メディアグルー
プ)は、一般向け科学誌の発行や
美術館での科学展示企画の経験を
もとにデザインの重要性を強調し、
科学者とアーティストの相互作用に
より新しい表現が生まれるだろうと
述べた。次いで、同氏が運営する
科学ブログサイトにおいて、外国か
らのアクセスが増加しグローバル
ディスカッションが始まっている現
状を述べ、これは科学者と一般との
コミュニケーションの新しい動きで
あるとした。そして、ブログという
手段がピアレビュー、科学技術の
公衆理解、科学教育などに役立つ
だろうと述べた。
S.Kirshenbaum 氏
(デューク大
学)は、自身もブロガーである立
場から、科学者からの発信手段と
してのブログを高く評価し、科学
の専門的知識と政策のギャップを
埋めることに役立つだろうと述べ
た。同氏によれば、ブログの特徴
は、そのスピード、ならびに非常
に広範な読者とのつながりにある。
こうした特徴をもつブログの威力
の 一 例 と し て、Science Debate
2008 がわずか数か月で組織的な形
態をなすに至ったことを挙げた。
■用語説明■
注6:大統領選に立候補する可能性のある候補者に科学に関する公開討論を呼びかける無党派の活動。討論会の
日時、場所を設定し、1人でも応えれば開催するとして、参加を呼びかけている。ウェブ上でこの活動の賛同者を継
続的に募っており、ノーベル賞受賞者を始めとする著名な科学者、政府関係者、大学関係者等の個人、AAAS、競争力
評議会、米国科学アカデミー等の関連団体が名を連ねている。
「科学とニューメディア」セッションの講演者である
Kirshenbaum氏は本活動の運営委員の1人である。
30
AAAS科学技術政策年次フォーラム報告
A.Crider 氏(イーロン大学)は、
バーチャルワールド Second Life
の中に SciLands という科学と技
術の展示と体験が可能な島を立ち
上げたこと、そこには自ら設置し
たプラネタリウムの他、大学、博
物 館、NASA 等 の 施 設 が 設 置 さ
れていることを紹介した。多くの
子供が様々なバーチャルワールド
に 参 加 し て い る こ と や、NASA
がツールの開発と運営に関する協
力機関を募集していることを挙
げ、バーチャルワールドは将来的
に科学教育において大きな役割を
果たすだろうと述べた。
J.Crowley 氏( 米 国 人 文・ 自 然
科学アカデミー)は、予算の厳し
い 折、 先 の 見 え る 研 究 に フ ァ ン
ディングする傾向が見られると
し、 成 果 の 見 え に く い ト ラ ン ス
フォーマティブリサーチ推進のた
めには、レビュープロセスを工夫
する必要があると述べた。具体例
として、成果が出るまでに長時間
を要することに配慮し、新しいア
イディアや創造性を評価の対象に
すること等を挙げた。
S.Merrill 氏(米国アカデミー)
は、様々な賞を特徴ごとに分類し
て紹介した後、賞の効果として、
研究開発の目標達成以外に、当該
領域研究への参加促進、投資誘因
4‐4
効果、一般への教育効果などがあ
新しいファンディングモデル ることを述べた。併せて、賞授与
のための組織化には多大の費用と
労力を要すると課題を指摘し、ま
支援する研究開発段階や支援主 た、賞の効果を促進・阻害する要
体の異なる、米国のファンディン 因について理解を深める必要があ
グ 形 態 が 報 告 さ れ た。 研 究 開 発 ると述べた。
の段階に関しては、特に重要性が S . F i t z p a t r i c k 氏(James S.
指摘されているトランスフォーマ McDonnell 財団。当日欠席のため、
注 7)
、 な ら び に、 モデレータの D.Dean 氏 (Lewisティブリサーチ
ベンチャービジネスが取り上げら Burke 協会 ) が紹介)は、米国に
れ、支援主体については、連邦政 お い て 慈 善 活 動( フ ィ ラ ン ソ ロ
府以外の支援である、財団による ピー)精神に則って多くの財団が
支援、賞授与、州政府の支援が取 多様な方針のもとに支援を行って
り上げられた。性格の異なる支援 いる状況を紹介した。財団による
システムが連邦政府の支援を補完 支援の一般的特徴として、リスク
していることが示された。
をとって、コミュニティに広く受
5
け入れられる前のアイディア(政
府が扱わないトピック、研究初期
段階にあるトピック等)を支援で
きると述べた。
D.Berglund 氏(州科学技術研究
所)は、各州政府による支援につ
いて、基本的にミッション指向で
あり、目的として、研究能力の向
上と経済発展、特に経済発展を重
視しているという特徴を挙げた。
事例として、ノースカロライナ州
がリサーチトライアングルパーク
の取り組みにより 40 年間で大き
く成長したことを示し、結果が出
るのはかなり先であるが、手を打
つか否かで州の将来が大きく異な
ると述べた。
R.Kapur 氏(Anudeza コンサル
ティンググループ)は、ベンチャー
支 援 に つ い て、 ベ ン チ ャ ー キ ャ
ピタルがリスク回避の方向にある
ことを紹介し、政府による支援の
有効性を高めるべきと述べた。ア
イディアを創造する基礎研究に焦
点を当てるあまり、商業化のため
のイノベーションを疎かにするな
ら、それは他国のイノベーション
を支援することになりかねない。
米国政府は、基礎研究に配分する
経費とイノベーションに配分する
経費との不均衡を熟慮すべきであ
ると述べた。
おわりに● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
各講演からは、同時多発テロ、
イラク戦争など大きな事態が出来
したブッシュ政権がまもなく終わ
るに当たり、仕切り直して今後の
科学技術政策を議論すべしとの意
向が強く感じられた。背景には、
中国やインドの急成長を目にし
て、科学技術分野において世界第
一位の地位を占めてきた米国の優
位もこのままでは危ういのではな
いか、との危機感がある。講演の
中では、随所に中国とインドへの
■用語説明■
注7: NSFが2005年に公表した「2020 Vision for National Science Foundation」において提示した研究の概念。
「既存
分野に変革をもたらし、新たな分野を創造し、パラダイムシフトを起こし、新たな発見を支え、新たな技術に導く研
究」
のことを指す。
具体例として、
アインシュタイン、
バーバラ・マクリントック、
チャールズ・タウンズの研究が挙
げられている。
Science & Technology Trends June 2008
31
科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
言及があった。一方、欧米や日本
への言及はほとんどなかった。
また、多くの講演の中で、昨年の
同フォーラムにおいて AAAS 理事会
4)
表明が配布された気候変動問題 、
ならびに、一昨年セッションが組ま
3)
れたエネルギー問題 が、次期政
権が優先的に取り組むべき科学技
術の課題として挙げられた。持続可
能な社会を構築するための科学技術
という、長期的視点で課題解決を目
指す方向性が窺える。
AAAS は、次期大統領選を前に、
科学コミュニティの意見を政策に反
映させるべく、様々な活動を行って
いる。例えば、ウェブサイトに「大
統領選における科学技術」のページ
を設け、両党候補者の政策や立場に
ついての情報を提供している。また、
2008 年 2 月に開催された年次大会
においては、オバマ氏とクリントン氏
の科学技術戦略担当者を招いて、方
針説明と質疑応答の場を設けた。そ
して、本フォーラムは、科学者一
人一人および科学コミュニティに
対して、大統領候補者や議員に向
けて情報発信のみならず、積極的
な行動を起こすよう、あるいは、
科学技術政策により深く関与する
よう促すものであった。政治の仕
組みが異なることを考慮してもな
お、我が国の科学コミュニティと
の大きな違いが実感された。
参考文献
1) AAAS 科 学 技 術 政 策 年 次
フォーラムのサイト:http://
www.aaas.org/spp/rd/
執 筆 者
横尾 淑子
科学技術動向研究センター
総括ユニット
http://www.nistep.go.jp/j/index.html
◎
科学技術政策研究所にて、資源および
科学技術人材に関する調査に従事。
現在、科学技術予測に関する調査を担当。
32
forum.htm
2)
伊神正貫、
「米国の科学技術
政策動向- AAAS 科学技術
政策年次フォーラム速報-」
、
科 学 技 術 動 向 No.38、2004
年 5 月号
3)
浦島邦子、
「AAAS科学技術政
策年次フォーラム報告」、科学
技術動向No.63、
2006年6月号
4)
光盛史郎、
「AAAS 科学技術
政策フォーラム報告」
、科学
技 術 動 向 No.75、2007 年 6
月号
5)
Science Debate 2008のサイ
ト:
http://www.sciencedebate
2008.com
特別記事
「科学技術動向」発行状況および
ホームページ公開版へのアクセス状況
「科学技術動向」日本語版および英語版(季刊)
■ 印刷物発送数
●
日本語版:2110 部 ● 英語版:200 部
■メールマガジン配信
(主として科学技術専門家ネットワークの専門調査員の方)
●
日本語版のみ:2155 名
科学技術政策研究所のホームページでも公開(2008 年5月現在)
累積レポート数
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年度
ライフサイエンス
情報通信
環境
製造技術 ・ ものづくり
社会基盤
フロンティア
ナノテク ・ 材料
政策
エネルギー
その他
Science & Technology Trends June 2008
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No.16
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No.17
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No.18
06.01
No.19
06.04
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No.20
06.07
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期間:2005 年 8 月~ 2008
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2007 年 4 月
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2007 年 7 月
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2006 年 4 月
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2006 年 7 月
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2005 年 4 月
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2004 年 4 月
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2005 年 7 月
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2003 年 4 月
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英語版(季刊)
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日本語版
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科 学 技 術 動 向 2008 年 6 月号
ホームページ公開版への月別アクセス数の推移
35000
30000
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最近は、> 2 万件 /月程度
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2008 年 4 月
7000
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2000
1000
2008 年に入って材料や
エネルギー関係の数件
のレポートへのアクセ
ス数が増加
海外から注目されているレポート
(ホームページ公開英語版へのアクセス数)
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年4月
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この1年間に注目されているレポート
(ホームページ公開日本語版へのアクセスランキング)
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期間:2007 年 5 月~ 2008 年 4 月
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読み書きのみの学習困難(ディスレキシア)への対応策
No.45
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再生医学の最近の動向 - 幹細胞を用いた再生医学について No.8
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高純度シリ
コン原料技術の開発動向
太陽電池用シリ
コンの革新的製造プロセス
への期待
No.70
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カーボンナノチューブ製造技術開発の動向
No.4
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8
汚染された土壌環境の対策技術の動向
No.12
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エネルギー資源作物とバイオ燃料変換技術の研究開発動向
No.75
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10
ドラッグデリバリーシステム
(DDS)
の研究開発動向
No.21
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マグネシウム合金の研究開発動向 - 自動車用構造材料の軽量化の視点から No.53
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音声認識・合成と自然言語処理の研究開発動向
-人に優しいヒュ
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ス実現への課題
No.12
12
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第三の生命鎖糖鎖とポストゲノム解析
No.10
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道路構造物のストックマネジメントのための技術動向
No.74
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発電用ガスタービン高効率化に向けた耐熱材料の開発動向
No.34
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エピジェネティック・がん研究の必要性 - ポストゲノム時代のがん研究 No.26
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バイオインフォマティクスの動向
No.9
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再生医療を中心とした生体材料研究の現状
No.72
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安全安心な社会構築に忘れてはならない雷害リスク対策
No.73
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2001 年 12 月
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2001 年 10 月
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2002 年 3 月
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年
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2001 年 11 月
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2007 年 6 月
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年
12
月
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2002
年
3
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2002 年 1 月
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2007 年 5 月
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2004 年 1 月
2945
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2003 年 5 月
2847
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2001 年 12 月
2824
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2007 年 3 月
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2007 年 4 月
2724
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2693
20
微細結晶粒金属材料の研究開発動向 - 次世代高強度材料を目指して No.16 2002 年 7 月
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2602
21
化石資源を用いない水素製造技術 - 持続可能な水素エネルギーシステムへの鍵 No.19 2002 年 10 月
22
植物由来プラスチックスの研究開発動向 - 自動車用ナノ複合ポリ乳酸の視点から -
No.65
2006 年 8 月
2537
23
遺伝子組換え植物・食品に関する動向
No.5
2001 年 8 月
2505
24
光通信技術の研究開発動向
No.5
2001 年 8 月
2486
25
外科手術支援ロボットの導入と開発の動向
No.29
2003 年 8 月
2385
26
RNA 研究の動向
No.22
2003 年 1 月
2249
27
二つの合理性と日本のソフトウェア工学
No.42
2004 年 9 月
2209
28
希少金属資源に関する我が国の採るべき方策
No.79
2007 年 10 月
2176
29
新規超伝導体 MgB2 と研究開発動向
No.4
2001 年 7 月
2159
30
アナログ技術の動向と人材育成の重要性 - CMOS 高周波 LS I にみる新時代のアナログ技術を中心に-
No.70
2007 年 1 月
2138
注)検索技術の普及により、公開時間の長いレポートほど過去のアクセス数が多いために、平均的には古いレポートほど有利である。
Science & Technology Trends June 2008
35
No.87 2008.6
6
6 /2008
2008
No.87
2008年6月号 第8巻第6号/毎月26日発行 通巻87号 ISSN 1349-3663
p2.8
広義の脳科学
p3.27
AAAS科学技術政策年次フォーラム報告
ライフサイエンス分野
p4
世界の幹細胞研究者により
i PS 細胞の課題が討論された
情報通信分野
ロバストなメディア検索技術の
実証実験
特別記事
p33
「科学技術動向」発行状況および
ホームページ公開版へのアクセス状況
ライフサイエンス分野
p5
高病原性鳥インフルエンザ感染者に
対する迅速・簡便な検査法
環境分野
p7
下水道事業における
温室効果ガス削減の取り組み効果
Fly UP