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民間開放型情報ハイウェイの限界~自治体に求められるIT 需要喚起策~

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民間開放型情報ハイウェイの限界~自治体に求められるIT 需要喚起策~
民間開放型情報ハイウェイの限界
∼自治体に求められる IT 需要喚起策∼
行政情報コンサルティング部
主任コンサルタント 三崎
1.はじめに
冨査雄
経済の活性化を図る」というものである。こ
れら公共情報通信基盤の最大のターゲットで
筆者は、本地域経営ニュースレター44 号
ある企業ユーザに向けては、通信相手との距
(2002 年 4・5 月合併号)にて、広島県の
離や接続形態に依らない料金体系をとる I P-
事例を参考に「公共情報通信基盤の動向と今
VPN サービスが通信事業各社から提供され、
後の推進策に関する提案」を示した。しかし
安価な料金を武器に急激に普及しつつある。
ながら、情報通信技術の変化の動きは早く、
また、ATM 網によるサービスにおいても、
公共情報通信基盤、とりわけ民間開放型の中
NTT 東 日 本 ・ 西 日 本 が 「 メ ガ デ ー タ ネ ッ
継系ネットワーク(以下、「民間開放型情報
ツ」サービスを提供しており、これを利用す
ハイウェイ」と呼ぶ)を取り巻く状況は短期
れば最大 10Mbps 以上の通信サービスを県
間のうちにもう一段の変化を見せている。
内均一料金にて受けることが可能となってい
結論を先取りして言えば、「都道府県は今
る(2002 年 11 月現在)。
後、民間開放型情報ハイウェイを自ら整備す
るという方向は取るべきではない」とほぼ断
3.公共情報通信基盤の整備時期とその特徴
言できる状況になってきた。情報通信インフ
ラ整備は民間通信事業者に任せ、自治体はむ
民間通信サービスの拡充を背景に、実際、
しろこれら情報通信インフラを県民や企業に
各自治体における公共情報通信基盤の整備方
活用してもらうことを促進するソフト施策に
法も大きく変化してきている。我が国最初の
対して、従来以上のコミットメントを行うべ
都道府県による中継系ネットワーク構築は岡
きである。
山県の「岡山情報ハイウェイ」であるが、こ
の時期の各県の取り組みを第1期とすると、
2.情報通信技術の革新と業者間競争に伴う
民間通信サービスの拡充
現在は第3期を迎えていると位置づけられる。
以下、これまでの経緯とそれぞれの時期の特
徴を述べる。
民間開放型情報ハイウェイを取り巻く最大
の環境変化は、民間の通信事業者におけるサ
1)第1期(平成 10∼12 年度)
ービスの拡充である。技術革新と事業者間競
第1期は、中継系回線を「自治体による自
争が進み、利用者が低廉で多様なサービスを
設 」 に よ り 整備 し よ う と す る も の で あ り 、
利用したいと思えば利用できる環境が整いつ
「岡山情報ハイウェイ」や「広島メイプルネ
つある。
ット」がこれに相当する(ただし「広島メイ
各県における民間開放型情報ハイウェイの
プルネット」は一部借り上げ)。
整備の目的としてまず挙げられるのが、「地
「自治体による自設」方式が採られた背景
元企業の情報化や情報産業の集積により地域
としては、当時まだ十分に民間通信事業者の
NRI 地域経営ニュースレター December 2002 vol.51
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当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
Copyright © 2002 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
中継系回線網が整備されておらず、大都市圏
3)第3期(平成 14 年度∼)
に含まれない地域で全県的なネットワークを
第1期及び第2期におけるネットワーク整
構築するためには、行政が自ら回線を敷設す
備が「中継系回線整備」に着目されていたの
る方法しかなかったという理由が挙げられる。
に対し、今年度になってからは、島根県など
また、民間通信事業者のサービス価格も現在
において、自治体の役割を「アクセス系回線
より格段に高く、中継系回線網の使用料が無
整備」と「需要喚起」に限定する動きが出て
料になることのインパクトも現在に比べて高
きている。中継系回線網の整備は民間事業者
かったと言える。このような状況下において、
に任せ、自治体はアクセス系回線整備の補助
各自治体が地域の情報化推進施策として中継
や企業の通信費への補助、県民向け I T 講習
系回線網の自設という方法を選択することは、
の充実化などのネットワーク利用者拡大につ
その時点での妥当性があったと考えられる。
ながる施策に徹するというものである。
このような「第3期」と位置づけられる新
2)第2期(平成 12∼平成 13 年度)
たな考え方が登場してきた背景には、都市部
その後、平成 12 年度後半から平成 13 年
だけでなく地方部においても光ファイバ等の
度にかけて計画・構築を行ってきた自治体で
インフラ整備やサービス提供が展開されるよ
は、民間通信事業者からの回線借り上げ方式
うになってきたことと、ブロードバンドの通
という新しい手法が採られるようになった。
信料金が十分に安価になってきたことが挙げ
この第2期に位置する自治体としては、福岡
られる。特に後者に関しては、2でも述べた
県や兵庫県が挙げられる。
通り、民間通信事業者が距離に影響されない
回線借り上げ方式が採られるようになった
低価格なサービスを開始したがために、企業
背景としては、地方部においても民間通信事
にとって従来最もコストがかかるとされてい
業者による先行投資として中継系回線網の整
た中継系回線は、自治体のネットワークを利
備はかなり進んだものの、需要不足のために
用せずとも、十分に低廉な価格での利用が可
サービス提供エリア自体に行き詰まりが見え
能となった。また、民間通信事業者が設備増
始めていたことが挙げられる。このような状
強・更新を積極的に進めるなかで、数年前に
況下で全県的なネットワーク整備を実現する
整備された自治体ネットワークでさえ、技術
には、自治体が借り上げ料という形で民間通
面ですでに陳腐化しているという“設備投資
信事業者に対して収入保証を行うことが、合
リスクの顕在化”も、自治体が「中継系回線
理的であったと考えられる。
整備」から距離を置こうとする考え方を後押
ししている。
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図1
ネットワーク整備時期でみた整備手法の分類
行政における情報ハイウェイの整備動向
整備時期
事例
民間通信事業者のサービスの動向
ネットワーク整備施策の特徴
サービスの低価格化
第一期
岡山県
(
平成10年) 広島県
第ニ期
福岡県
(
平成13年) 兵庫県
第三期
(
平成14年) 島根県
サービスの多様化
光ファイバ整備
利用コスト高
(
H11年4月:
100)
(
※)
専用線サービス
など距離に依存
した料金体系
都市部のみ
普及
利用コスト低
(
H14年4月:
62)
(
※)
距離に依存し
ない料金体系
の通信サービ
ス登場
地方部にも
普及
完全自設又は一部自設
完全自設又は一部自設
による中継系整備
による中継系整備
民間通信事業者からの回線
民間通信事業者からの回線
借り上げによる中継系整備
借り上げによる中継系整備
影
響
アクセス系補助および
アクセス系補助および
ユーザ育成施策中心
ユーザ育成施策中心
(注)※印の利用コストは、単位距離当たりのネットワーク利用コストを指数化したものであり、ATM 専用サ
ービス 135Mbps シングルクラス 2 芯式タイプ 2 を総延長 420 ㎞利用した場合の価格の変化を基に計
算している。
(出所)総務省資料より野村総合研究所作成
4.ユーザ側に利用ニーズのない民間開放型
情報ハイウェイ
一般的に、「岡山情報ハイウェイ」や「広
島メイプルネット」、「ふくおかギガビット
ハイウェイ」などの民間開放型情報ハイウェ
各自治体における民間開放型情報ハイウェ
イは、県内に複数のアクセスポイントを持ち、
イの整備の目的は、概ね以下の3つに収斂さ
アクセスポイント間の中継系回線通信コスト
れる。すなわち、①都市部と同様に地方部に
をすべて県が負担するというものである。た
おけるブロードバンドのインフラ整備を積極
だし、これらネットワークでは、アクセスポ
的に推進する必要がある、②通信料金を廉価
イントから事業所までのアクセス系回線のコ
に抑える必要がある、③広範なインフラ整備
ストと、アクセスポイントに設置する機材の
(①)と廉価な通信コスト(②)を背景に、
設置コスト(電気代等を含む)をユーザが負
県民や県内企業の I T 化を促進し「I T 先進
担しなければならない。このため、県内の複
県」の実現をはかる必要がある、というもの
数拠点間を企業ユーザが接続しようとした場
である。
合、拠点数分のアクセス系回線について民間
しかしながら、①・②については、2で述
通信事業者からサービス提供を受けなければ
べた民間企業のサービス拡充により、都道府
な ら ず ( 図 1 を 参 照 ) 、 結 果 的 に I P-VPN
県などの自治体が積極的に整備を行う必要が
サービスや「メガデータネッツ」など県内均
なくなった。そのような整備をせずとも、充
一で低価格のサービスを利用した場合のほう
分に廉価な通信サービスが、地方部において
が、民間開放型情報ハイウェイを利用した場
も提供されるようになってきたということで
合と比較して極めて安価になるというケース
ある。
が当たり前になってきたわけである。
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図2
民間通信サービス利用と情報ハイウェイ利用の比較
民間通信サービス利用の場合
情報ハイウェイ利用の場合
アクセスポイント
拠点2
(場合によっては
不要)
拠点2
拠点3
拠点3
拠点1
拠点1
• IP-VPN等の民間通信サービスを利用
• 利用企業が費用負担(有料)
情報ハイウェイ
(
無料)
• アクセス回線として専用線サービス
等の民間通信サービスを利用
• 利用企業が費用負担(有料)
さらに、企業ユーザにとって、近年大きな
情報ハイウェイ整備の目的の③として先述し
関心となっているのが“セキュリティ”であ
た「広範なインフラ整備と廉価な通信コスト
る。県が用意する民間開放型ハイウェイは、
を背景に、県民や県内企業の I T 化を促進し
県民や県内企業に対して公平かつ平等に利用
『I T 先進県』の実現をはかる」ことは未達
してもらうべく、帯域保証を行っていないケ
であり、これを実現するための別の方策が求
ースが多く、また保守サービスについても民
められる。その施策の方向性としては、誰も
間通信サービスと比較して優位性が高いとは
が IT を使いたくなるようにする「I T 需要喚
言えない。
起」と、誰もが I T を使うことができるよう
既に情報通信ネットワークを整備している
にする「I T 利用支援」が適切である。
企業にとっては回線切り替えのコスト負担も
具体的な I T 需要喚起策としては、行政機
発生するうえ、県外にも拠点を有する企業で
関自らが魅力的なコンテンツを県民や企業に
は当該県のみ異なるネットワークを利用する
対して提供することのほか、“コンテンツ”
ことで生じる様々な弊害やコスト負担も想定
の意味を拡大的に捉え、ブロードバンドイン
されるわけで、これらの条件を勘案すれば、
フラを利用して迅速かつきめ細かい電子自治
自治体が第1期∼第2期型の民間開放型情報
体サービスを県民・企業に対して積極的に提
ハイウェイを整備しても、企業等に利用され
供していくことも有効と考えられる。県民や
る可能性が極めて低いと結論付けられる。
企業にとって便利で使いやすい電子県庁を積
極的に作り上げるとともに、自治体職員自ら
5.今後求められる自治体によるブロードバ
ンド需要喚起・利用支援策
がユーザとして積極的に電子メールなど I T
を活用することにより、「I T を利用するほ
うがいろいろと便利だ」というように県民や
自治体における中継系回線の整備は今後不
要と結論付けられたものの、社会における
企業関係者の意識改革を促し、積極的な I T
利用を促進すると考えられるからである。
IT 化は急激かつ着実に進展しており、I T 社
また、県民が I T と触れ合う場づくりを積
会における産業振興や県民の豊かな生活を実
極的に行うという観点から、県庁や市町村役
現するためには、行政として然るべき施策を
場、出張所等の公共施設に充分な数のフリー
検討する必要がある。すなわち、民間開放型
アクセス PC を多数配備する、といった方策
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も有効であろう。公共施設における現状の
に任せきりでは地方の郡部における情報通信
様々な利用制限を撤廃し、県民が自由にブロ
基盤整備が進まない」という指摘を踏まえ、
ードバンドを活用できるようにすれば、多数
第1期∼第2期と同様の情報通信基盤整備を
の県民が公共施設に自由に出入りするように
推進している、と聞く。しかしながら、どん
なり、公共施設がブロードバンドユーザの情
な過疎地であっても固定電話サービスはユニ
報交換サロンとして機能することも期待され
バーサルサービスとして提供されており、イ
る。
ンターネット利用はこれらアナログ回線網や
さらに、「I T 利用支援」という観点から
ISDN 網を通じて可能である。むしろ、ブロ
は、中継系回線の整備ではなく、アクセス系
ードバンドサービスを利用したいというニー
回線の利用を後押しすることが求められる。
ズを掘り起こすことが重要であり、十分な需
例えば、どうしてもブロードバンドを利用し
要が郡部で発生すれば、民間通信事業者がブ
たいという県民がいるのに民間通信事業者の
ロードバンドサービスの提供を行わないはず
都合によりネットワーク整備が遅れている地
がない。
域において、熱望する県民がサービスを利用
情報通信インフラ整備においては、電電公
できるよう民間通信事業者に対して行政が働
社の民営化以降、民間通信事業者に任せるこ
きかけを行うなどの個別対応を検討するなど
とが前提となっていた。逆に、公共情報通信
の施策が挙げられる。
基盤整備の第1期∼2期にかけての一時期が
特異な時期であったとの認識を持つべきであ
6.最後に
ろう。
一部の自治体では、未だに「民間サービス
筆 者
三崎 冨査雄(みさき ふさお)
行政情報コンサルティング部
主任コンサルタント
専門は情報化政策・社会システム変革
E-mail: [email protected]
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