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脱法ハーブの検査における指定薬物の検出について
脱法ハーブの検査における指定薬物の検出について 食品薬品部 菅谷 京子 1 はじめに 平成 24 年度に検査を実施した、 いわゆる 「脱法ハーブ」 から指定薬物を検出したので報告する。 2 試験方法 2.1 検体 平成 24 年 9 月に本県薬務課が買い上げた、いわゆる 脱法ハーブ 5 件 2.2 試薬類 2.2.1 試液 水:新たに調製した超純水 メタノール、アセトニトリル:関東化学㈱製高速液 体クロマトグラフィー用 0.1%ギ酸:関東化学㈱製特級ギ酸を水で希釈して調 製した。 10mmol/L ギ酸アンモニウム緩衝液(pH3.0):和光純 薬工業㈱製高速液体クロマトグラフィー用1mol/Lギ酸 アンモニウム溶液を水で希釈し、ギ酸で pH3.0 に調整 した。 2.2.2 標準品(35 品目) JWH210、JWH203、JWH073、JWH019、JWH122、JWH251、 JWH015、JWH081、JWH250、JWH200、CP-47,497:Cayman Chemical 社製 インダン-2-アミン、ジフェニルプロリノール、 4FPP:和光純薬工業㈱製 サルビノリン A 、5-MeO-DMT、4MPP:シグマ社製 ALEPH-4、MIPT、5-MeO-MIPT、bk-MDEA、5-MeO-EIPT、 黒﨑 かな子 2C-E、ALEPH-2、5-MeO-EPT、2C-C、DOC、5-MeO-DALT、 DIPT、5-MeO-DET、DON、4FMP、N-メチル-4FMP、5-MeO-AMT、 5-MeO-DPT:国立医薬品食品衛生研究所より供与 2.2.3 標準液 標準品より、メタノール標準原液を調製した(100、 200 または 400µg/mL) 。 標準原液を分取しメタノールで適宜希釈して、混合 標準溶液を作成した(4.0 及び 1.0µg/mL)。 2.3 検査項目 2.2.2 標準品に記載した項目の他、買い上げ時点に おける亜硝酸エステル類以外の指定薬物と、覚せい剤 (メタンフェタミン及びアンフェタミン) 、大麻(テトラ ヒドロカンナビノール、カンナビジオール、カンナビ ノール) 、メチロンについてもスペクトル情報等を参考 にスクリーニング試験を実施した。 2.4 装置と分析条件 1)2)3) 2.4.1 GC/MS 表 1 に示した。 モニターイオンを設定するため、検体の測定に先立 ち標準液について測定を行った。 分析条件 1 では 1 項目につき、観察された親イオン または特徴的なフラグメントイオン 1 つをモニターイ オンとした。 分析条件 2 では 1 項目につき、観察された親イオン と特徴的なフラグメントイオンの 2 つをモニターイオ ンとした。 表 1 GC/MS の分析条件 測定対象 装置 カラム イオン化法、イオン化電圧 注入量 分析条件1 分析条件2 全項目 合成カンナビノイド Agile n t Te c h n ologie s 5 9 7 5 C HP- 1 MS (Agile n t Te c h n ologie s 0 .2 5 mm i.d. ×3 0 m, 0 .2 5 µm) E I 7 0 e V 1 µL カラム温度 8 0 ℃(1 m in )~5 ℃/ m in ~1 9 0 ℃(1 5 m in )~1 0 ℃/ m in ~3 1 0 ℃(1 0 m in ) 2 0 0 ℃(1 m in )~5 ℃/ m in ~3 1 0 ℃(7 m in ) インジェクター温度 スキャン範囲(m/ z) 2 0 0 ℃、スプリットレス 3 0 ~4 0 0 2 5 0 ℃、スプリット(2 0 : 1 ) 7 0 ~4 5 0 -- 120 120 -- 表 2 LC/MS の分析条件 分析条件1 JWHs及びサルビノリンA 測定対象 装置 カラム温度 流速 注入量 PDA測定範囲 イオン化法 カラム 分析条件2 分析条件3 CP- 4 7 ,4 9 7 1 、2 以外の項目 Wate rs ZQ 40℃ 0 .3 ml/ min 1 µL 2 1 0 ~4 5 0 n m ESI (- ) ESI (+ ) Atlan tis T3 2 .1 ×1 5 0 mm(5 µm) ESI (+ ) Xbridge C1 8 2 .1 ×1 5 0 mm(3 .5 µm) 移動相 A: 0 . 1 % ギ 酸 1 0 m m o l/ Lギ 酸アンモニウム 緩衝液(pH3 . 0 ) B: 0 . 1 % ギ 酸アセトニトリル / メ タノール (6 : 4 ) -アセトニトリル (3 : 7 ) A: B 5 0 : 5 0 -3 0 m in -1 0 : 9 0 (5 m in h o ld) A: 1 0 m m o l/ Lギ 酸アンモニウム 緩衝液(pH3 . 0 ) B: アセトニトリル A: B 9 0 : 1 0 -8 0 : 2 0 (5 0 m in )-3 0 : 7 0 (6 0 m in 1 5 m in h o ld) スキャン範囲(m / z)と コーン電圧 1 0 0 ~7 0 0 (スクリーニング: 3 0 V) (同定及び定量: 3 0 ,5 0 ,7 0 V) 1 0 0 ~7 0 0 ( 3 0 V) 1 0 0 ~7 0 0 (4 0 V) 2.4.2 LC/MS 表 2 に示した。 モニターイオンについては、原則として[M+H]と した。サルビノリン A と CP-47,497 については、 [M+H]が観察されなかったので各々の特徴的なフラ グメントイオンとして「373、433」及び「317、363」 を用いた。 コーン電圧はそれぞれのモニターイオンがもっ とも大きく観察される電圧に設定した。 2.5 試験溶液の調製方法 通知 1)に従い調製した。すなわち、検体 1g を乳鉢 で粉末化したのち、粉末 100mg にメタノール 2mL を 加え超音波抽出しフィルターろ過した。測定に際し、 適宜メタノールで希釈した。 なお、メタノール 2mL について検体と同様に超音 波処理しフィルターろ過したものをブランクとした。 3 結果及び考察 3.1 スクリーニング試験 3.1.1 GC/MS 分析条件 1 でスクリーニング試験を実施したとこ ろ、検体①に JWH122 と保持時間の一致するピークが 観察された。他に検査項目に該当するピークは観察 されなかった。 さらに、分析条件 2 で合成カンナビノイドを確認 する目的で再測定したところ、検体①に JWH122 と保 持時間の近いピークが観察された(図 1)が、MS ス ペクトルは一致しなかった。 3.1.2 LC/MS 分析条件 1 で、 検体①に JWH122 と保持時間の一致 するピークが観察され、UV スペクトル(図 2)及び MS スペクトルも一致した。他に検査項目に該当する ピークは観察されなかった。 分析条件 2 と分析条件 3 では全ての検体で、 検査 項目に該当するピークは観察されなかった。 3.2 JWH122 の同定及び定量 3.1 に述べた、検体①における JWH122 の疑いのあ るピークについて同定を試みた。GC/MS では異なる 2 つの条件でも保持時間が標準品と一致するものの MS スペクトルは一致しなかった。これは、他の物質と 重なっている可能性があると考え、カラムを変えて 分離を試みたが、分離できなかった。しかし、ター ゲットイオンとクォリファイアイオンの比は標準品 と一致した。 LC/MS 分析条件 1 でコーン電圧を段階的に変えた ところ、フラグメントイオンの変化が標準品と一致 。また、試料液に標準液を添加して測定し した(図 3) た時のピーク形状及びスペクトルも一致した。 以上のことから当該ピークは JWH122 と判断した。 3 点検量線による3 回繰り返しの定量を行ったとこ ろ、検体中濃度は 31.8µg/g であった。 4 まとめ 脱法ハーブの検査を実施した結果、5 検体中 1 検体 から検査時点で指定薬物であった JWH122 を検出した。 今後も同様の検査を実施し、違法ドラッグによる健 康被害防止の一助としたい。 5 資料 1)平成 19 年 5 月 21 日薬食監麻発第 0521002 号「指定 薬物の分析法について」他 2)平成 22 年 9 月 14 日薬食監麻発 0914 第 5 号 「指定薬 物の測定結果等について」他 3)厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課編「指 定薬物分析研修会会議資料」 -- 121 121 -- 21.30 分(JWH122) 21.37 分 混合標準液(4.0µg/mL) 検体① 図 1 SIM クロマトグラム(GC/MS 分析条件 1) 22.57 分(JWH122) 混合標準液 (4.0µg/mL) JWH122 316.4nm 221.4nm 検体① 22.57 分 221.4nm 22.57 分のピーク 316.4nm MS クロマトグラム UV スペクトル 図 2 SIR クロマトグラムと UV スペクトル(LC/MS 分析条件 1) 70V 168.8 356.2 356.2 70V 168.9 50V 30V 混合標準液(4.0µg/mL) 356.2 356.2 50V 30V 検体① 図 3 図 2 の 22.57 分におけるピークのコーン電圧の変化に伴う MS スペクトルの変化 -- 122 122 --