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ねじの回転
高エネ研メカ・ワークショップ 高エネルギー加速器研究機構殿との9連超伝導空洞チューニング 装置の送り機構の共同研究とその他のTHKの取り組み THK株式会社 飯田勝也,宮原荘志 温度0℃∼−273℃、真空度10−5∼10−7Paの 1.はじめに 近年、特殊環境でボールねじを使用したいという要 環境で摩擦抵抗が少なく、スムースに動くこと。又ス 求が多くなってきている。その一つとして高エネルギ トロークは10mm(回転角度90°)、最大軸方向荷 ー加速度研究機構の東様からご依頼を受け、9連超伝 重約5kN、回転頻度は5回/1hの仕様である。 導空洞チューニング装置の送り機構の共同研究を行っ 2.3 設計仕様 ている。その送り機構である特殊環境仕様ボールねじ について概要を紹介する。 又当社の特殊環境への取り組み内容と近年のボール ねじ高速化技術について紹介する。 特殊環境仕様ボールねじにおける構成部品としては ねじ軸、ナット、ボールの他、有限タイプでありボー ルの脱落を防止する為、ケージ(ボール保持機)を採 用した。 ボールねじ仕様として、ねじ軸外径はφ277mm 2.特殊環境仕様ボールねじの概要 (中空部φ258mm) 、リードは40mm、材質はね 2.1 特殊環境仕様ボールねじの開発目的 じ軸、ナット、ケージ共にSUS304を使用し、ボ 現在、衝突型加速器の主流である円形加速器を使用 ールはSUS440Cを使用した。又軸方向荷重約5 し粒子を高いエネルギーまで加速するとその粒子は光 kNの作用に対し、ナット内有効ボール数を増加させ を放出しエネルギーを失ってしまう。この為、考えら 要求作用荷重を満足する設計とし、荷重作用時のナッ れた加速器が線形加速器である衝突型線形加速器(リ ト剛性を高める為、オーバーボール予圧タイプとした。 ニアコライダー)である。 ねじ軸(中空) そのリニアコライダーの送り機構に使用できるボー ルねじの開発要求を頂いた。 ナット図2 BN27740外観 2.4 今後の展開 試作については動きも良好であった。今後ボールね 全長 33km, 20,000個のボールねじを使用 じの軽量化を図る為、全長変更を実施する。又加工段 図1 リニアコライダー 階で応力除去し加工による形状変化及び使用環境によ 2.2 要求仕様 る形状変化を抑える試みを実施する。 高エネルギー加速器研究機構殿からの要求としては 低温時での摩擦係数の小さな送り機構としてボールね じを選定された。ボールねじの使用環境としては使用 1 3.THK株式会社の特殊環境への取り組み 3.1 中低真空潤滑システムの開発 3.1.1 開発コンセプト ①大気圧∼真空環境で使用可能であること。 (大気圧∼ 真空10−3Pa) ②真空中で長寿命であること。 (荷重2%Cで5000 km走行可能なこと) ③高温で使用可能であること。 (ベーキング温度20 0℃以下に対応) 3.1.2 中低真空潤滑システムの構造と特徴 中低真空潤滑システムの構造を図3に示す。 図4 試験装置概略 −3 すきまシール上プレート 10 LMブロック Paでの走行試験結果として1040km走 行後、現在も問題なく走行中である。 (現在3000k エンドプレート m走行中)又1040km走行後もグリースの残存は LMレール すきまシールエンド部 すきまシールエンド部 認められ、転がり抵抗値に変化は見られていない。 十字穴付なべ小ねじ 転がり抵抗 3 転がり抵抗値(N) すきまシールサイド部 すきまシールサイド部 潤滑システム=すきまシール(エンド部,サイド部,上プレート) 図3 中低真空潤滑システムの構造 中低真空潤滑システムとはすきまシール(エンド部、 サイド部、上プレート)のことを示し、すきまシール 2.5 2 720km 1040km 0km 1.5 1 0.5 により、中低真空時のグリースの損失を防ぎ、LMガ 0 イドの走行寿命を大幅に増大させることを実現した。 0 20 40 60 80 100 ストローク(mm) 又すきまシールにより高温使用環境においてのグリ ースの気化損失を少量に抑えLMガイドの走行寿命を 図5 転がり抵抗値 増大させることを実現した。 3.1.3 性能試験と結果 100 グリース残存率 中低真空潤滑システムにおける走行試験結果を下記 項目 内容 試験品 HSR15M1R1VV+400L ストローク 260[mm] 温度 室温(25℃) 速度 最大200[mm/s] -3∼ -4 圧力 10 10 [Pa] ポンプ 空冷式ターボ分子ポンプ 280[L/s] 排気速度 TMP-280(島津製作所) 油回転ポンプGDP-160 65[L/min] (島津製作所) チャンバー容量 40L 表1 走行試験条件 残存率(%) に示す。 測定値 予想線 80 60 52% 40 合格 24% 20 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 走行距離(km) 図6 グリース残存率 3.1.4 今後の課題 さらなる高真空対応する為に、フッ素系グリースで の真空度の見極めを実施していく予定である。 仕様値:圧力10−3Paにて速度200mm/s、荷 重は静定格荷重の2%にて5000km以上走行のこ と。 2 3.2 オイルフリーLMガイドの開発 塵(浮遊パーティクル)の発生量を大幅に減少させる 3.2.1 開発コンセプト ことができた。一般的なフッ素グリースと比較して1 ○ 固体潤滑による「完全オイルフリー」LMガイド /10以下という評価結果も得られている。 −6 ①大気圧∼超高真空(10 Pa)まで使用可能 ②アウトガスに優れるとともに、超低発塵 (浮遊パーティクルが最小) 3.2.3 寿命特性 LMガイドの寿命とは、転動面や転動体に繰り返し ○ 高信頼性と長寿命 応力が作用したことによって、材料の転がり疲れによ ③特殊スパッタリングにより創製された密着性の高い、 るフレーキング(金属表面のうろこ状の剥離)が発生 低摩擦の固体潤滑膜と、THK独自のサーキュラー するまでの総走行距離のことであるが、オイルフリー コンタクトにより理想的な構造を形成 LMガイドの寿命とは固体潤滑膜の潤滑寿命といえる。 従って、寿命特性を評価するため、LMガイドにラジ 3.2.2 オイルフリーLMガイドの構造と特長 アル荷重を負荷させた状態で寿命試験を実施した。負 オイルフリーLMガイドの構造を図 に示す。 荷荷重は標準ステンレス品基本動定格荷重Cの3% (0.03C)および6%(0.06C)とした。図 にオイルフリーLMガイドの寿命評価結果を示す。 102 負荷荷重 0.06C 0.03C 300 0 50 100 150 200 250 300 350 平均走行距離(km) 図8 図7 オイルフリーLMガイドの構造 オイルフリーLMガイドの寿命評価結果 図8より、試験品の平均走行距離は0.03Cで3 オイルフリーLMガイドとは、LMブロック,LM 00km、0.06Cで102kmであった。負荷荷 レール,エンドプレートをステンレス製とし、グリー 重の大きい0.06Cにおいて、走行初期に異常摩耗 スやオイルの代わりにボールにコーティングした固体 は確認されず、0.03Cの場合と同様に、潤滑膜は 潤滑膜により潤滑をする製品である。オイルフリーに 徐々に消費されていたと推測されることから、オイル することにより、油分の飛散を嫌う環境で使用可能と フリーLMガイドは0.06Cの負荷荷重下において した。また、金属部品を使用しているため、製品から 使用可能であると考えている。さらに試験品数を増や のアウトガスを極力少なくすることを実現した。各部 すことで、評価結果の信頼性を向上させ、寿命推測が 品から検出されたアウトガス成分は、水、窒素、水素 できるように寿命推定式の整備が急務である。 と主に大気に含まれる物質であり、近年、ケミカルク リーンが要求されている半導体やFPD製造装置分野 への適用が可能である。 −6 10 Pa以上の超高真空環境への取り組みは、弊 社高温ガイドの技術を利用することで、150℃(瞬 3.2.4 今後の展開 現在では主に半導体やFPD製造装置への採用を検 討頂いているが、潤滑剤の供給が難しい箇所への要求 にも対応していきたい。 時200℃)で使用でき、ベーキング対応としたこと により、実際の生産現場においても容易に超高真空環 境の達成が期待できる。 また、従来の固体潤滑膜では、多量な摩耗粉の発生 による発塵粒子の飛散が課題であったが、特殊スパッ タリングにより母材との密着性および耐摩耗性を向上 させ、THK独自のサーキュラーコンタクトにより潤 滑膜へのダメージを極力抑えることができたため、発 3 3.3 高温LMガイドの開発 3.3.1 開発コンセプト 図10、11においては常温から150℃×100h ①最高使用温度150℃(瞬時200℃) 加熱後、常温まで冷却したときの変化量を示す。 ②耐食性 (試験資料:HSR25+580L) 3.3.2 高温用LMガイドの構造と特徴 3.3.4 グリースによる転がりデータ 高温用LMガイドの構造を図9に示す。 図9 高温用LMガイドの構造 図12 グリースによる転がりデータ(平均値) 最高使用温度150℃を実現し、高耐食性を実現す る為、LMガイドに次の様な特徴を付与した。 ①LMレール及びLMブロックに寸法安定化処理を施 すことにより高温使用時の寸法変化を最小に抑えた。 ②ステンレス製エンドプレート、高温用ゴムシールを 採用し、高温用グリース(フッ素系)を使用すること により各部品の高温使用を可能にした。 ③金属部品をオールステンレスすることで耐食性の向 上を図った。 3.3.3 寸法安定性データ 図13 グリースによる転がりデータ(変動値) 図10 LMレールの全長 図11 LMレールの曲がり 4 3.4 セラミックスLMシステムの紹介 製品名:RSR7MS+155LMS 3.4.1 製作経緯 近年、医療機器および半導体製造装置のLMシステ ムとしてセラミックスガイドの製作要求があり製作に 対応した為、THKの取り組みとして紹介する。 3.4.2 特徴 ①非磁性 ②軽量化(金属の1/2) 材 レール 質 ブロック セラミックス (Si3N4) ボール 止めねじ チタン製 循環部品 樹脂 ③耐食性 表4 RSR7材質 3.4.3 製品紹介 製品名:HCR15A2MS+100/200RMS 材 レール 質 ブロック セラミックス (Si3N4) ボール 止めねじ チタン製 循環部品 樹脂 製品名:RSR7MS+155LSM 表2 HCR15材質 図16 RSR7外観 3.4.4 今後の展開 今後、非磁性分野、高剛性、高速分野での需要拡大 が期待される。 製品名: HCR15A2MS+100/200RMS 図14 HCR15外観 製品名:2RCR7MS+120/60RMS 材 レール 質 ブロック セラミックス (Si3N4) ボール 非磁性金属 止めねじ チタン製 循環部品 樹脂 表3 RCR7材質 製品名: 2RCR7MS+120/60RMS 図15 RCR7 5 4.近年のボールねじ高速化技術 4.2.2 接線方向へボールを循環 4.1 はじめに ナットの両端に配置した部品によりボールを接線方向 近年、工作機械や一般産業用機械において送り速度の に循環させる。これによりボールの循環部品への衝突を軽 高速化が著しい。従来からの送り機械要素であるボール 減し、高速回転での耐久性を向上させ、発生する騒音も低 ねじに代わり、リニアモータ駆動による高速機も多く見 減させることができる。また従来のリターンパイプによる られるようになった。そこで、高速回転(DN値*1)21 ボール循環のようにナットの外径側ではなく、ナットの端 万相当の回転数)と大リード(軸径と等しいリード)の 面側に循環部品を配置した。これによりナットの外径寸法 組み合わせで、リニアモータ駆動機と同等の200m/ を小さくコンパクトにした。 min送り速度を実現した。また、様々な機能において 4.2.3 クラウニング も高性能なボールねじの開発を行ったので紹介する。 -1 ナットのボール転動溝の入口(循環部品との継部)にク *1)DN値=ボール中心径 mm×ねじ軸の回転数 min ラウニング加工を施した。これによりボールが循環部品側 一般的に、従来品の許容DN値は7万以下 から転動溝側に入るときの応力が緩和され、高速回転での 耐久性を向上させ、また優れた滑動性を得ることができる。 4.2 リテーナ入り高速送りボールねじの構造と特徴 リテーナ入り高速送りボールねじの概略構造を図1 7に示す。 4.2.4 緩面形状 ナットのボール転動溝の入口(循 環部品との継部)に緩面加工を施した。また、循環部品の 入口(ナット転動溝部との継部および循環パイプとの継 部)を緩面形状にした。これにより、ボールがエッジに衝 循環部品 循環パイプ 2条大リードねじ軸 (軸径=リード) 突することを抑え、高速回転での耐久性を向上させること ができる。 4.2.5 小径ボール及び2条列の採用 比較的小さいボール径を採用することで、ボールの循環 部品への衝突を軽減し、高速回転での耐久性を向上させ、 発生する騒音も低減させることができる。また負荷ボール 数も増え剛性も向上する。ねじ溝の条列を2条とすること により有効巻数が増え、従って負荷容量(定格荷重)も増 2条ボールねじ エンドキャップタイプ える。また有効巻数あたりのナット全長寸法が小さくコン パクトになる。 4.2.6 樹脂製のボール循環路 ボールリテーナ ボールの循環路を可能な限り樹脂化し、ボールの金属接 ボール 触部を少なくした。ボールの金属への衝突が少なくなり、 接線方向へ循環 リード角方向へ循環 高速回転での耐久性を向上させ、発生する騒音も低減させ ることができる。 4.2.7 THK AFJグリースの採用 低トルクに優れたTHK AFJグリースを使用す ることにより、高速回転時の発熱を抑えることができる。 4.2.8 2条大リードねじ軸(軸径=リード)の採用 高速回転(DN値21万相当の回転数)と大リード(軸 径=リード)の組み合わせで、200m/minの送り クラウニング加工、緩面加工 速度を実現した。 4.3 性能試験と結果 図17 リテーナ入り高速送りボールねじの概略構造 4.3.1 高速耐久試験 図18に試験装置、表5に 試験条件を示す。 4.2.1 ボールリテーナ配置 ボール間にスペーサタイプのボールリテーナを配置し、 ボール同士の金属接触を解消した。これによりボール相互 の摩擦は解消され、ボールとボールリテーナ間の潤滑剤に より、摩擦トルクが安定し、優れた滑動性を得ることがで きる。 6 形番 最高回転数 ストローク 潤滑 負荷荷重 表6 試験条件 SBK3636-5.6RRG0+1380LC5(N=3) SBK4040-5.6RRG0+1400LC5(N=2) − SBK5050-5.6RRG0+1440LC5(N=2) -1 min 3800(MAX) mm 800 THK AFJグリース kN 予圧荷重のみ 90 85 従 来 騒音レベル dB(A) 図18 高速耐久試験装置 表5 試験条件 形番 − SBK5050-5.6RRG0+1440LC5(N=2) -1 最高回転数 min 4000(DN21万) ストローク mm 800 停止時間 S 1.5 加減速 2.6G 潤滑 THK AFJグリース 負荷荷重 kN 1.91(予圧荷重) 80 75 70 リテーナ入り高速送 65 り 60 100,000 1,000,000 上記のような試験装置により軸最高回転数4000m 10,000,000 ボール径×B.C.D×回転数 in−1(DN値21万)の高速回転で、試験品を稼動 させている。06年02月現在で、総走行距離は約5 図22 騒音比較データ 000kmとなるが、試験品に異常は確認されていな 図22に従来品ボールねじ(10形番)とリテーナ い。今後も稼動させ、高速耐久性を実証していく。1 入り高速送りボールねじ(3形番)の騒音比較データ 000km走行後の循環部品入口部およびリテーナ状 を示す。それぞれの代表値を比較するとリテーナ入り 態の図19、20に示す。 高速送りボールねじは従来品に比べて騒音が低いこと 【1000km走行後】 が確認できる。また、図23には、送り速度による騒 音比較を行った。その結果、リテーナ効果およびリー 新品 ドを大リード化することにより、高速送り時の騒音が 低減できる。 90 従 来 図19 循環部品入口部 図20 リテーナ 4.3.2 騒音試験 図21に試験機概略図、表6に 試験条件を示す。 騒音計 FFT 騒音レベル dB(A) 85 80 75 70 リテーナ入り高速送 65 り 60 防音材 1000mm 55 0 40 80 120 160 送り速度(m/min) 図23 送り速度による騒音比較 M 図21 試験機概略図 7 4.3.3 トルク測定 図24に測定機概略、表7に 測定条件を示す。 FFT 記 録 ロードセル ロードセル M ボールねじ軸 A ステー M ボールねじナット A矢視 測定方向 図24 測定機概略図 表7 測定条件 最高回転数 min 60,100,400,1200 ストローク mm 700 潤滑 THK AFJグリース 負荷荷重 kN 予圧荷重のみ トルク(N・m) -1 1 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 AFG マルテンプLRL3 AFJ 0 200 400 600 800 1000 1200 −1 回転数(mi n ) 図25 グリースの違いによるトルク比較データ 図25にグリースの違いによるトルク比較データを示 す。その結果、AFJグリースが最もトルクの上昇が少 ない。そのため、高速回転時の発熱を抑えることができ る。 4.4 今後の課題 さらなるボールねじの高速化に向けて、潤滑方法(ね じ軸の高速回転に伴う潤滑剤の飛散を抑える技術)やボ ールの高速循環に最適な構造を確立していきます。 8