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Title カーシェアリングによるCO2排出削減のための普及条件に関する
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カーシェアリングによるCO2排出削減のための普及条件に関する研究
渡邉, 安晋(Watanebe, Yasuyuki)
中野, 冠(Nakano, Masaru)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
修士論文 (2011. 3)
乗用車由来のCO2排出をはじめとした環境負荷を低減させるため,
燃費向上などの乗用車単体への対策だけでなく, 乗用車への過度の依存を抑制し,
より環境負荷の尐ない公共交通機関などの利用を促進するような施策が求められている.
このような観点から, 我が国では近年,
乗用車を複数の会員との間で共同利用するカーシェアリングというシステムが注目されている.
普及推進の際, 特に注意すべき点は, カーシェアリング普及は逆に自動車利用を促進し,
CO2排出を増加させる結果に繋がらないのかという点である. カーシェアリングが普及し,
より便利で快適な交通手段となるにつれて,
従来は鉄道やバスなどの公共交通機関のみを利用していた人々が,
代わりにカーシェアリングを多く利用するようになれば, 自動車利用が増加し,
CO2排出量も増加する恐れがある. そこで本研究では,
東京23区を対象にカーシェアリング利用端末までのアクセス距離やカーシェアリング料金, また,
自家用車からカーシェアリングへの転換割合などのカーシェアリング普及状態を変化させ,
その際の鉄道やバスなど他交通手段利用へ及ぼす影響を考慮した上で,
CO2排出削減効果を明らかにする. その結果に基づき,
カーシェアリングがCO2排出量を増加させず,
CO2排出削減効果を持つための普及における条件を提示する. CO2排出削減効果の推計の結果,
以下の知見を得た. カーシェアリングの利用端末がバス停留所と同等の普及をみせた場合,
通常のガソリン乗用車をカーシェアリングに導入する際にCO2排出削減効果を得るためには,
全自家用車利用者の約4%以上が自家用車を完全に手放し,
カーシェアリングに加入する必要がある. また, CO2削減量は年間約 -7,300t-CO2から約19.7万tCO2を持つ. 同様の条件において,
電気自動車をカーシェアリングに導入する際にCO2排出削減効果を得るためには,
全自家用車利用者の約1%以上が自家用車を完全に手放し,
カーシェアリングに加入する必要がある. また, CO2削減量は年間約–400t-CO2から約20.7万tCO2を持つ.
Thesis or Dissertation
http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40002001-00002010
-0058
修士論文
2010 年度
カーシェアリングによる CO2 排出削減の
ための普及条件に関する研究
渡邉安晋
(学籍番号:80933661)
指導教員 教授 中野 冠
2011 年 3 月
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
システムデザイン・マネジメント専攻
論
学籍番号
80933661
文
要
氏 名
旨
渡邉 安晋
論 文 題 目:
カーシェアリングによる CO2 排出削減のための普及条件に関する研究
(内容の要旨)
乗用車由来の CO2 排出をはじめとした環境負荷を低減させるため,燃費向上などの乗用車単体へ
の対策だけでなく,乗用車への過度の依存を抑制し,より環境負荷の尐ない公共交通機関などの利
用を促進するような施策が求められている.
このような観点から,我が国では近年,乗用車を複数の会員との間で共同利用するカーシェアリ
ングというシステムが注目されている.
普及推進の際,特に注意すべき点は,カーシェアリング普及は逆に自動車利用を促進し,CO2 排
出を増加させる結果に繋がらないのかという点である.
カーシェアリングが普及し,より便利で快適な交通手段となるにつれて,従来は鉄道やバスなど
の公共交通機関のみを利用していた人々が,代わりにカーシェアリングを多く利用するようになれ
ば,自動車利用が増加し,CO2 排出量も増加する恐れがある.
そこで本研究では,東京 23 区を対象にカーシェアリング利用端末までのアクセス距離やカーシェ
アリング料金,また,自家用車からカーシェアリングへの転換割合などのカーシェアリング普及状
態を変化させ,その際の鉄道やバスなど他交通手段利用へ及ぼす影響を考慮した上で,CO2 排出削
減効果を明らかにする.その結果に基づき,カーシェアリングが CO2 排出量を増加させず,CO2
排出削減効果を持つための普及における条件を提示する.
CO2 排出削減効果の推計の結果,以下の知見を得た.
カーシェアリングの利用端末がバス停留所と同等の普及をみせた場合,通常のガソリン乗用車を
カーシェアリングに導入する際に CO2 排出削減効果を得るためには,全自家用車利用者の約 4%以
上が自家用車を完全に手放し,カーシェアリングに加入する必要がある.また,CO2 削減量は年間
約 -7,300 t - CO2 から約 19.7 万 t-CO2 を持つ.同様の条件において,電気自動車をカーシェアリング
に導入する際に CO2 排出削減効果を得るためには,全自家用車利用者の約 1%以上が自家用車を完
全に手放し,カーシェアリングに加入する必要がある.また,CO2 削減量は年間約 – 400 t - CO2 か
ら約 20.7 万 t-CO2 を持つ.
キーワード(5 語)
カーシェアリング,CO2 排出量,需要予測,ロジットモデル,交通
SUMMARY OF MASTER’S DISSERTATION
Student Identification
Number
80933661
Name
Yasuyuki Watanabe
Title
A Study on Requirements for Diffusion of Carsharing to Reduce CO2 Emissions
Abstract
To reduce impact on environment, particularly by carbon dioxide emission, it is expected to promote utilization
of environmentally-friendly public transportation as well as to improve fuel efficiency of private cars.
Carsharing, a system that allows various people to jointly utilize cars, has seen considerable interest in Japan in
recent years.
However, some concerns that promotion of car-sharing may, on the contrary, cause the increase of passenger
cars utilization, which bring about no impact on reduction of carbon dioxide emission.
If those who are accustomed to use public transportation such as trains and buses start to use carsharing as it is
convenient, it would cause increase of carbon dioxide emission as well.
Hence, I present requirements of diffusion of car sharing so as to decrease carbon dioxide emissions in Tokyo's
23 wards considering the mode of public transportation.
the following findings were obtained from the calculation of CO2 emission
Assuming that the number of Carsharing access points was equal to the numbers of bus stop and car sharing
operators introduced gasoline cars as usual, 4 percent of car owners would be necessary to discard their cars to
decrease carbon dioxide emissions. The decrease of carbon dioxide emissions is expected to be from -7,300 t CO2 to 197,000 t- CO2. Assuming that car sharing operators introduced electric cars, 1 percent of car owners
would be necessary to discard their cars to decrease carbon dioxide emissions. The decrease of carbon dioxide
emissions is expected to be from - 400 t - CO2 to 207,000 t - CO2.
Key Word(5 words)
Carsharing , carbon dioxide emissions, demand forecasting, logit model, transportation
目次
第 1 章 はじめに
1.1
研究の背景 ............................................................................................................................... 1
1.2
研究目的.................................................................................................................................... 3
1.3
従来研究とその特徴 .............................................................................................................. 4
1.4
章立て........................................................................................................................................ 6
第 2 章 カーシェアリングの発展
2.1
世界におけるカーシェアリングの発展............................................................................ 7
2.2
海外におけるカーシェアリングの発展.......................................................................... 11
2.2.1 スイスにおけるカーシェアリング............................................................................. 11
2.2.2 ドイツにおけるカーシェアリング.............................................................................19
2.2.3 アメリカにおけるカーシェアリング ........................................................................22
2.3
国内におけるカーシェアリングの発展..........................................................................26
第 3 章 カーシェアリングによる環境改善効果
3.1 海外事例...................................................................................................................................30
3.2 国内事例...................................................................................................................................33
第 4 章 カーシェアリングの利用需要および CO2 排出削減効果の推計
4.1
評価方法..................................................................................................................................37
4.2
第 5 回パーソントリップ調査...........................................................................................38
4.3
ロジットモデルとは ............................................................................................................42
4.4
ロジットモデルによる交通手段選択モデルの特定化................................................46
4.5
カーシェアリングの利用需要の推計..............................................................................49
4.5.1 パラメータの推計方法 ..................................................................................................49
4.5.2 パラメータの検定方法 ..................................................................................................51
4.5.3 パラメータの推計結果 ..................................................................................................52
4.5.4 カーシェアリングの効用関数パラメータ設定 .......................................................56
4.5.5 カーシェアリングの利用需要 .....................................................................................57
4.6
カーシェアリングによる CO2 削減量の推計 ...............................................................65
まとめと今後の課題.............................................................................................................................70
参考文献 ..................................................................................................................................................71
謝辞...........................................................................................................................................................73
第 1 章 はじめに
1.1
研究の背景
我が国における乗用車の保有台数は 5,700 万台を超え,CO2 排出量の約 1 割が乗用車か
らのものであり,一世帯からの CO2 の年間平均排出量のうち約 4 分の 1 が車の乗用車利用
によるものである[1].
乗用車由来の CO2 排出をはじめとした環境負荷を低減させるため,燃費向上などの乗用
車単体への対策だけでなく,乗用車への過度の依存を抑制し,より環境負荷の尐ない公共
交通機関などの利用を促進するような施策が求められている.
このような観点から,我が国では近年,乗用車を複数の会員との間で共同利用するカーシ
ェアリングが注目されている.
特に,駐車場用地や維持費の制約により乗用車負担が高い都市部における効率的な乗用
車利用推進策,低環境負荷車の導入促進策として期待が寄せられており,自治体による各
種の行政支援や企業によるカーシェアリング事業への参入が活発化してきている.2010 年
11 月時点での国内におけるカーシェアリング会員数は 57,448 人,車両数は 3,035 台,カー
シェアステーション数は 2,216 ヶ所に達しており,今後更に増加していくことが伺える[2].
カーシェアリングが今後,定着した交通手段となるには,これまで以上に積極的な行政
支援や交通事業者との提携が求められる.
その際,特に注意すべき点は,カーシェアリング普及は逆に自動車利用を促進し,CO2
排出を増加させる結果に繋がらないのかという点である.
カーシェアリングが普及し,より便利で快適な交通手段となるにつれて,従来は鉄道や
バスなどの公共交通機関のみを利用していた人々が,
代わりに カーシェアリングを多く利
用するようになれば,逆に自動車利用が増加し,CO2 排出量が増加する恐れがある.
行政支援や交通事業者との提携を推進していくためには,他交通手段へ及ぼす影響も含
1
め,カーシェアリング普及が CO2 排出量に及ぼす影響について定量的に把握し,支援・協
力の意義を明らかにしていく必要がある.
2
1.2
研究目的
本研究では,カーシェアリング利用端末までのアクセス距離やカーシェアリング料金,
また,自家用車からカーシェアリングへの転換割合などのカーシェアリング普及状態を変
化させ,その際の鉄道やバスなど他交通手段利用へ及ぼす影響を考慮した上で,CO2 排出
削減効果を明らかにする.その結果に基づき,カーシェアリングが CO2 排出量を増加させ
ず,CO2 削減効果を持つための普及における条件を提示することを目的とする.
具体的方法としては,東京 23 区内において完結するトリップの中で,自宅-通勤目的(往
復)及び自宅-私事目的(往復)を対象として,鉄道,バス,乗用車による旅客流動を平成
20 年に実施された第 5 回パーソントリップ調査を用いてモデル化する.得られた各交通手
段のパラメータを用いてカーシェアリングのパラメータの推定を行う.
続いて,カーシェアリングの普及状態,本研究では,カーシェアリングの利用料金や利
用端末(駐車場)までのアクセス距離,自家用車からの転換割合を用いて ,普及状態の変
化に伴う CO2 削減量の変化を推計していく.
3
1.3
既往研究とその特徴
カーシェアリングによる CO2 排出削減効果を推計した従来研究について概観する.
山本氏ら[3]は,カーシェアリング導入による環境改善効果を把握するために,愛知県名古
屋において 2004 年に開始されたカーシェアリング事業を対象として,
アンケート調査によ
り環境改善効果を算出している.その結果,入会前後の会員の総移動距離の減尐はわずか
であるが,共用車および自家用車の走行距離は約 30%減尐したと報告しており,自動車走
行距離の減尐による CO2 削減効果は 157.8 kg-CO2 /人・年であると示している.
また,ryden ら[4]は,ドイツ Bremen 市において,カーシェアリング会員に対してアンケ
ート調査を実施した.その結果,カーシェアリング加入後,会員の自動車による年間走行
距離は約 3098km,約 45%減尐している一方,会員の 7%は走行距離を約 805km,約 60%
増加させたと報告している.走行距離の減尐及び公共交通機関の利用減尐を考慮した CO2
削減率は 54%であるとしている.
次に調査報告について概観する.
NPO 法人カーシェアリングネットワーク[5]は,福岡市におけるカーシェアリング事業に
おける報告書の中で CO2 削減量を試算している.その結果,2003 年 11 月から 11 ヶ月間
における電気自動車・ハイブリッド車利用による CO2 削減効果は約 8 t-CO2 であったと報
告している.
交通エコロジー・モビリティ財団[6]は,シーイーブイシェアリング社の利用者に対して
アンケート調査を実施しており,カーシェアリング加入前後での自動車利用を比較するこ
とによって環境負荷に及ぼす影響について報告している.
同財団によれば,
回答者全体で,
カーシェアリング加入による自動車走行距離減尐により,CO2 削減量は 1 人当たり年間で
1.89 t-CO2 であると推計している.
CO2 削減量に関連するこれら先行研究は,社会実験やカーシェアリング事業での実際の
カーシェアリング利用者の交通行動に基づいた CO2 削減量の推計がなされている.しかし,
これら研究および調査は,カーシェアリング利用者が利用するカーシェアリングシステム
が小規模かつ普及状態(カーシェアリング利用端末までのアクセス距離等)が固定されて
4
おり,カーシェアリングの普及状態の変化が CO2 削減効果に及ぼす影響には着目していな
い.
そこで本研究では,カーシェアリングの普及状態を変化させ,その際の各交通手段の利
用需要に基づく CO2 排出量の推計を行い,カーシェアリングによる CO2 排出削減効果を
検討した.
5
1.4
章立て
第 1 章では,研究の背景および本研究の新規性を述べる.
第 2 章では,カーシェアリングの歴史および現状 ,第 3 章では,カーシェアリングの環
境に及ぼす影響について述べる.
第 4 章では,本研究で用いるモデルの説明,次に,カーシェアリングの利用需要,CO2
排出削減量の推計を行い,考察を述べる.
次に,まとめと課題,参考文献,謝辞を述べる.
6
第2章
2.1
カーシェアリングの発展
世界におけるカーシェアリングの広まり
カーシェアリングは,1 台の乗用車を複数の会員が共同利用する乗用車の新しい利用形
態である.当初,隣人や仲間同士等で自然発生的に行われていた共同利用が組織的に運営
され,拡大を続けてきたものが今日のカーシェアリングである.
今日におけるカーシェアリングの一般的な利用の流れを以下に示す(Figure 2.1)
.カー
シェアリングを利用するには,まず,最初に会員登録を行う.会員は年会費や月会費を支
払う必要がある.カーシェアリング車両の利用時には,事前に携帯電話や PC から利用開
始時刻,利用時間,利用駐車場等を指定し予約をとる必要がある.その後,利用開始時刻
に指定の駐車場に向かい,カードリーダーに IC カードをかざして乗車し,利用後は指定の
駐車場に戻す流れである.また,利用持には年会費や月会費とは別途,時間料金や距離料
金が発生することが多い.
Figure 2.1 カーシェアリング利用の流れ
7
カーシェアリングは,1980 年代後半に欧州で始まり,90 年代に入った頃には北米などに
も拡大していった.
2006 年時点において,カーシェアリングは欧米を中心に世界 18 カ国,600 都市で運営さ
れている[7](Figure 2.2)
.また, 2006 年時点の世界のカーシェアリング利用者人口は
348,000 人,車両数は 11,700 台に達している[7](Figure 2.3)
Source:Susan A. Shaheen.WORLDWIDE CARSHARING GROWTH:
AN INTERNATIONAL COMPARISON,2006.
Figure 2.2 世界のカーシェアリングの広まりと導入可能地域
8
Source:Susan A. Shaheen.WORLDWIDE CARSHARING GROWTH:
AN INTERNATIONAL COMPARISON,2006.
Figure 2.3 世界のカーシェアリング利用者人口の推移
2005 年度時点において,行政により実施されてきたカーシェアリング支援策の一部を資
金支援・制度支援および間接支援・直接支援の 2 軸に基づき分類したものを Figure 2.4 に
示す[6].Figure 2.4 からわかるように,カーシェアリングに対して欧米を中心に資金援助,
駐車場の格安または無料提供,公共交通事業者との提携促進など,各種の行政支援が行わ
れてきたことがわかる.
9
日本国内におけるカーシェアリング支援は,技術実験や社会実験における資金援助等に
留まっているのが現状であり,欧米各国に見られるようなカーシェアリングを公共交通と
して戦略的に位置づけ,積極的に支援をするまでには至っていないのが現状である.
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる
環境負荷低減効果及び普及方策検討報告書,2006.
Figure 2.4 カーシェアリングへの行政支援の分類
10
2.2 海外におけるカーシェアリングの発展
2.2.1 スイスにおけるカーシェアリング
ヨーロッパにおいてカーシェアリングの歴史が最も長いのがスイスである.
スイス,チューリッヒでは,仲間や隣人同士で費用を負担し合い乗用車を共同保有する
形態のカーシェアリング SEFAGE(個人が運転手になるための共同組合)が 1940 年代か
ら存在していた. SEFAGE は,乗用車が現在よりも高価であった時代に費用を負担し合
い車を手に入れるという目的で設立された組織であり,近年におけるカーシェアリング組
織とは様相を異にしたものであった.SEFAGE はその後,乗用車の大衆化の進行に伴い,
目的を失い消滅した.
近代のスイスにおけるカーシェアリングの基礎となる組織は,SEFAGE 誕生の約 40 年
後,1987 年にスイスのスタンスとチューリッヒで誕生した ATG(Auto Teilet Schweiz)と
Share Com である.これらの組織は,組合で車を購入し,組合員同士が車の維持・管理に
責任を持つ組織である.
スタンスで誕生した ATG は自動車利用減尐による環境負荷低減を
目的としており,チューリッヒで誕生した Share Com は「所有」から「利用」へと人々の
思想を転換することを目的とした組織であり,乗用車の他,各種電子機器などモノの共同
利用機会を提供していた.
その後,いずれの組織も組合からカーシェアリング組織が急成長を遂げ,組合組織から
営利組織へとビジネス化が進んだ.これらの組織はやがて環境政策を推し進める政府の奨
励により統一され,1997 年にスイス・モビリティ社(Mobility Carsharing Switzerland)が成
立した[6](Figure 2.5)
.
スイスにおいてカーシェアリングは政府と一体となって発展してきたため,公共交通と
いう性格を有している.そのため,利用端末用地の取得,公共交通との共通券制度,スイ
ス国営鉄道との連携等が円滑に進んでいる.
11
12
Figure 2.5 スイスにおけるカーシェリング団体の変遷
効果及び普及方策検討報告書, 交通エコロジー・モビリティー財団, 2006.
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減
スイス・モビリティ社は、個人需要を背景に急成長を遂げ,1999 年末時点で車両数 1200
台,会員数約 3 万人の組織となり,その後も順調に会員数を伸ばし,現在では主要都市を
中心にスイス全土に展開している(Figure 2.6 [8] ,Figure 2.7 [9])
.
2010 年 7 月末時点での車両数は 2350 台,会員数は 93700 人,カーシェアステーション
数は 1200 箇所となっている[10].
スイスのカーシェアリング会員数は全人口の約 1.2%に達
しており,これは世界第一位の普及度である(Figure 2.8 [11])
.
Source:Conrad Wagner.Mobility Services & CarSharing,2009.
Figure 2.6 スイス・モビリティ社のサービス提供都市の分布
13
Source:オリックス自動車株式会社(2008)
:カーシェアリング事業の最新動向
~環境負荷の小さな地域づくりを目指して~
Figure 2.7 スイス・モビリティ社の会員数と車両台数の伸び
14
Source:Bundersverband Carsharing e.V.
http://www.carsharing.de/
Figure 2.8 ヨーロッパ各国の人口に占めるカーシェアリング会員数の割合
また,以下にスイス・モビリティ社の 2000~2003 年における経営の推移を示す[6](Table
1)
.Table1 からわかるように, 同社は 2000 年までは赤字であった.しかし,2001 年以
降は黒字に転換し,2003 年においては,売上高 3,985 万スイスフラン(約 34 億円)
,営業
利益 122 万スイスフラン(約 1 億円)が達成されている.直近のデータによれば,2010
年上半期のみで,売上高は 3,181 万スイスフラン(約 27.4 億円)
,営業利益は 704 万スイス
フラン(約 6 億円)を達成している[12].
このようにスイスにおいてカーシェアリングが発展を続けてきた背景には,環境政策を
推進する政府による強力な支援があった(Figure2.7)
.スイスでは,1990 年の国民投票に
基づき策定された Energy 2000 program により,国家レベルで省エネを推進してきた.その
具体策の一つとして,スイス政府は 1992 年からカーシェアリングに対しても他の交通事
15
業者とカーシェアリング事業者との連携支援を積極的に実施した.1995~1996 年には
Winterrhur 等 4 市においてカーシェアリングと公共交通機関・タクシー・レンタカーとの
連携,1998 年にはスイス国営鉄道との連携が達成されている.2005 年には,共通スマー
トカードにより公共交通機関・その他交通機関とカーシェアリングとのパスが共通化され,
交通利便性や経済性の向上をもたらした.
スイスにおけるカーシェアリングの発展は,国家レベルでの積極的な支援に基づくカー
シェアリング事業者の一本化,他の交通機関との連携が背景にあったと言える.
Table 2.1 スイス・モビリティ社における経営の推移
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減効果及
び普及方策検討報告書,交通エコロジー・モビリティー財団,2006.
スイス・モビリティが提供するカーシェアリングサービスの利用傾向と料金体系につい
て述べる.
16
スイスにおけるカーシェアリングは,主に,休日の利用されることが多い.特に,荷物
の搬送や買い物時に利用されることが多い.スイス・モビリティ社の利用料金の基本プラ
ンを Table2[13]に示す.
10 種類の車両カテゴリーから車種を選択することが可能であり(Figure2.9[13])
,車両カ
テゴリー別に異なる時間料金と距離料金がかかり,最も利用が多い休日と週末の夕方から
夜にかけての時間帯が最も料金が高く設定されている.
Table 2.2 スイス・モビリティ社の料金体系
Source:Mobility Cooperative.http://www.mobility.ch に基づき作成
車両カテゴリー
時間料金(CHF)
車両
月-木7-23h,
金7-15h
金15-23h,
土日7-23h
距離料金(CHF)
夜間料金
1-100km 100km~
(月-日23-7h)
Budget
Citroën C1
2.35
2.8
0.8
0.49
0.26
Micro
smart mhd
2.35
2.8
0.8
0.51
0.29
2.35
2.8
0.8
0.56
0.32
2.61
3.2
0.8
0.64
0.37
2.61
3.2
0.8
0.64
0.37
2.96
3.6
0.8
0.79
0.45
2.96
3.6
0.8
0.79
0.45
2.96
3.6
0.8
0.79
0.45
3.65
4.4
0.8
0.85
0.48
3.65
4.4
0.8
0.85
0.48
e.g. Renault Modus,
Economy
Honda Jazz Automat
Compact
Mazda 3
e.g. Renault
Combi
Mégane III,Combi
Honda
Comfort
Civic Hybrid
Renault Mégane III
Cabrio
Cabrio
Fashion
BMW 1 Series
e.g. Ford S-MAX
Minivan
Diesel
Mercedes Vito
Transport
Diesel
17
Source:Conrad Wagner.Mobility Services & CarSharing,2009.
Figure 2.9 スイス・モビリティ社の提供車両カテゴリー
18
2.2.2 ドイツにおけるカーシェアリング
1988 年に西ドイツでは,乗用車が現在よりも高価であったため,仲間内で費用を負担し
合い車を手に入れるコミュニティが自然発生していた.その後,1991 年には,ドイツにお
いてカーシェアリングが急速に拡大を始め,1998 年には,ドイツカーシェアリング連盟
(Bundersverband Carsharing e.V.)が成立した.
現在,ドイツには 100 以上のカーシェアリング組織(カーシェアリング O)が存在して
いる.ヨーロッパにおいてドイツのカーシェアリング組織の多さは群を抜いており
(Figure2.10 [11])
,それら組織の多くはドイツカーシェアリング連盟に加盟している.ド
イツカーシェアリング連盟は加盟するカーシェアリング組織を横断的に結び,カーシェア
リング業務の一部代行や車両の他組織のステーションへの一部乗り入れを可能にしている.
Source:Bundersverband Carsharing e.V.
http://www.carsharing.de/
Figure 2.10 ヨーロッパにおけるカーシェアリング事業開始年度別の事業者数の推移
19
Figure2.11 にドイツカーシェアリング連盟に加盟しているカーシェアリング組織の会員
数と車両数を示す.会員数及び車両数共に順調に増加していることがわかる.2010 年時点
では,会員数 158,000 人,車両数は 4600 台に達し,全国に 2200 のカーシェアステーショ
ンが置かれている[14].ドイツはヨーロッパにおいて最もカーシェアリングの会員数が多
く,また,人口に占めるカーシェアリング会員数の割合は約 0.2%程度であり,ヨーロッパ
の中でも普及度が高い国である(Figure2.8)
.
Source:Bundersverband Carsharing e.V.
http://www.carsharing.de/
Figure 2.11 ドイツカーシェアリング連盟の会員数と車両台数の伸び
20
ドイツカーシェアリング連盟に加盟している事業者の中で最大の事業者は stadtmobil 社
である.stadtmobil 社は,2010 年時点において,会員数約 25,400 人,車両数約 1070 台,カ
ーシェアステーション数約 450 箇所を有する.
その次に cambio 社が続く.
cambio 社は 2010
年時点において,会員数約 22,700 人,車両数約 690 台,カーシェアステーション数約 150
箇所を有する[14].
これらのカーシェアリング事業者が業績を伸ばしているのは,大都市での業務利用顧客
を集中的に獲得している点,また,各都市における公共交通機関との共通パス導入などの
積極的な提携関係にあると思われる.
ドイツではスイスとは異なり,カーシェアリング組織に対して政府による積極的な支援
は実施されてこなかった.しかし,最近では,カーシェアリングの環境性や公共性が注目
され,助成金や優遇制度の導入が進んできている.公共交通機関との提携は stadtmobil 社
や cambio 社などの大規模なカーシェアリング事業者においては進んでいるが,連携の度
合いには組織ごとに大きな差異があるのが現状である.
21
2.2.3 アメリカにおけるカーシェアリング
アメリカにおけるビジネスを目的としたカーシェアリングは,
1998 年にオレゴン州ポー
トランドで開始された.2005 年時点において,カーシェアリングは北米 15 の大都市をは
じめとした多くの中小都市で利用可能である[15](Figure2.12)
.
アメリカ全土における2010 年時点の会員数は516,100 人,
車両数10,405 台に達しており,
世界最大の会員数を有する[16](Figure2.13)
.
2010 年時点での全人口に占めるカーシェアリング会員数の割合は約 0.16%に達し,1998
年から高成長を維持している.
Source:Transit Cooperative Research Program.TCRP Report 108 Car-Sharing:Where and How
It Succeeds,Transportation Research Board,2005.
Figure 2.12 北米におけるカーシェアリング利用可能都市の分布
22
Source:CarSharing.net
http://www.carsharing.net/
Figure 2.13 アメリカにおけるカーシェアリング会員数と車両台数の推移
アメリカにおけるカーシェアリング事業は Zipcar 社に会員が集中している.
Zipcar 社は 2000 年に boston 市で設立され,
2001 年にWashington, D.C.,
2002 年には New
York 市へ進出した.2007 年には,Seattle 市において 1999 年に設立され,当時アメリカ第
2 位の会員数を有していた Flexcar 社を吸収した.その後も急速な成長を遂げ,2010 年 12
月末時点では,アメリカ,カナダ,イギリスの都市部や大学キャンパスにおいてカーシェ
アリング事業を展開するなど,事業規模を拡大させている.
Zipcar 社の 3 カ国における会員数は計 500,000 人以上,車両数は計 8,000 台以上を有する
23
世界最大のカーシェアリング事業者となっている[17].アメリカでは,2010 年 12 月末時点
において,32 の州,61 都市でサービスを提供している.
Zipcar 社の料金体系について述べる.Zipcar 社の利用料金の基本プランをTable3 に示す.
利用時には,基本的に時間料金のみ必要であり,走行距離が 180 マイルを超えるような移
動の場合には加算料金が発生する料金体系となっている.スイス・モビリティ社の料金体
系と比較して簡素な料金体系となっている(Table 2.2 and Table 2.3)
.
Table 2.3
Zipcar 社の料金体系
Source:Zipcar.http://www.zipcar.com/ に基づき作成
入会時
年会費
月会費
入会料金
運転割引
$60
なし
$25
なし
運転時
月曜日-木曜日
時間料金($/h)
一日料金($/day)
$8
$88
金曜日-日曜日
時間料金($/h)
一日料金($/day)
$8
$115
料金に含まれるもの
✔
✔
180マイルまで無料
ガソリン代
保険料
距離料金
24
アメリカにおけるカーシェアリング事業者の多くは,自動車交通に起因する大気汚染や
渋滞,駐車場不足等の問題改善を期待され,各自治体から資金援助や駐車場提供等の優遇
措置を受けてきた.
Zipcar 社の場合には,ボストン州の各自治体から無償または格安料金での駐車場提供を
受けてきた.また,Virginia 州 Arlington 郡では,Zipcar 社に対して駐車場の提供や宣伝だ
けでなく,事業開始 6 ヶ月間は毎月車両 1 台当たり US$500~US$1,500 の保障を実施し,
カーシェアリングの普及促進を図るための積極的支援を行ってきた[15].
25
2.3 日本国内におけるカーシェアリングの発展
日本におけるカーシェアリングは,1998 年頃から ITS の実用化や電気自動車の普及を目
的とした技術実験として開始された.そのうちの一つであり,横浜市で行われていた ITS /
EV シティカーシステム社会実験を引き継ぐ形で 2002 年 4 月,我が国初のカーシェアリン
グ事業会社としてシーイーブイシェアリングが誕生した(Figure 2.14)
.
国内における 2010 年 11 月時点でのカーシェアリング会員数は 57,448 人,車両数 3,035
台,カーシェアステーション数 2,216 ヶ所に達している[2](Figure 2.15)
.特に 2010 年時に
は前年比 9 倍の会員数,5.4 倍の車両数となっており,急激な速度で普及が進んでいる.
しかし,全人口に占めるカーシェアリング会員数の割合は約 0.05%程度であり,欧米に
比べればまだまだ普及は進んでいない.
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:全国のカーシェアリング事例一覧
http://www.ecomo.or.jp/ に基づき作成
Figure 2.14 国内におけるカーシェアリング会員数と車両台数の推移
26
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減効果
及び普及方策検討報告書, 交通エコロジー・モビリティー財団,2006.
Figure 2.15 日本におけるカーシェアリングへの取り組みの推移
27
国内におけるカーシェアリング事業者は最近になり急速に増加を始め,2010 年 11 月時
点において,カーシェアリング組織数は 32 組織に上る[2].その中でも,マツダレンタカ
ーが展開するタイムズプラス,オリックス自動車が展開するオリックスカーシェアの 2 社
に会員の集中が進んでいる.
マツダレンタカーは 2005 年 2 月にカーシェアリングサービスの提供を開始した.
広島や
福岡を中心に事業展開を進めてきたが,2009 年 5 月よりマツダレンタカーと時間貸駐車場
「タイムズ」を運営するパーク 24 が提携し,2010 年 6 月よりブランド名を「タイムズプ
ラス」に変更した.北海道から沖縄まで全国の都市部に展開しており,夜間定額料金プラ
ンの導入,学生・法人の月額基本料無料化,豊富な共用車車種の用意等を進め,急速に事
業規模を拡大させている.
2010 年 11 月時点での会員数は 23,397 人,車両数は 1,030 台,ステーション数は 746 ヶ
所を抱えている[2].
オリックス自動車は1999年9月にカーシェアリングサービスの提供を開始した.
首都圏,
中京圏,京阪神圏の都市部で事業展開を進めてきた.
2010 年 9 月時点での会員数は 24,000 人,車両数は 1,018 台,ステーション数は 730 ヶ所
を抱えている[2].
日本国内でのカーシェアリング事業の普及速度は 2008 年頃までは比較的緩やかであっ
た.その後,2009 年,2010 年においてメディアからの注目が集まったこと,また,インタ
ーネット等による積極的な広告活動により,急速なカーシェアリング会員数の増加を生ん
だ.しかし,カーシェアリング事業者に対する国や自治体の支援はあまり進んでいない[14].
今後さらに国内においてカーシェアリングが普及するためには,日本人のマイカー保有意
識の変化,未だ不十分なカーシェアリングの認知度改善に加え,欧米のような積極的な行
政支援や他の交通事業者との連携が欠かせないと思われる.
28
29
アイシェア(i share)
駅すぷれす
名鉄協商カーシェア cariteco(カリテコ)
三福カーシェアリング事業部
まちのりくん
2009年11月
2009年11月
2009年11月
2009年12月
2009年10月
2008年3月
2008年3月
2008年5月
2009年1月
2009年1月
2009年3月
2009年3月
2009年3月
2009年4月
2009年11月
2009年7月
2009年8月
2009年10月
カーシェア四国
エコロカカーシェアリング
QuiCar(クイッカー)
careco(カレコ)・カーシェアリングクラブ
ウィルカ
ウィズリー
ecoレン太
コミューカ
Gulliverカーシェアメイト
レオガリバーカーシェアリング
日産レンタカーカーシェアリングクラブ
カーシェアリング大阪
アクティオカーシェアリング「アクティオイードライ
㈱シェアーズ
名鉄協商㈱
㈱三福綜合不動産
昭和シェル石油㈱
2007年11月
トヨタカーシェアクラブ
㈱日本カーシェアリング
㈱日産カーレンタルソリューション
㈱ライムオートリース
㈱アクティオ
2007年4月
2007年10月
2005年11月
2006年11月
カテラ
㈱アスク
カーシェア金沢(北星産業㈱・辻商事㈱共同事業
体 提携:オリックス自動車㈱)
エコヴィレッジ鶴川「きのかの家」乗物部会
㈱エブリカ
トヨタ自動車㈱、㈱トヨタレンタリース東京、㈱トヨタ
レンタリース愛知、㈱トヨタレンタリース新大阪
㈱駅レンタカー四国
日本駐車場開発㈱
㈱ディズム
カーシェアリング・ジャパン㈱
㈱ビィーアール
クレアティー・サービス㈱
ジェイアール東日本レンタリース㈱
コミューカ㈱
㈱ガリバーインターナショナル
2005年3月
きのかの家VSクラブ
エブリカ・カーシェアリング
Windcar(ウインドカー)
ウインド・カー㈱
2005年2月
カーシェア金沢
タイムズプラス
㈱マツダレンタカー
2004年4月
2004年4月
2004年5月
2004年12月
2005年1月
2003年11月
モビシステム
彩都カーシェアリングシステム
エコ乗りくらぶ
志木「手作りカーシェアリング」
UPRカーシェアリングシステム
ちょこモ倶楽部
2003年2月
OUR CAR
西尾レントオール㈱
1999年9月
オリックスカーシェア
オリックス自動車㈱
㈲移動サポート 早稲田大学交通計画浅野研究
阪急電鉄㈱、(社)コミュニティ彩都
JR西日本レンタカー&リース㈱
利用者、NPO法人「志木の輪」
ユーピーアール㈱
タウンモービルネットワーク北九州
開始時期
(事業名/システム名/実験名)
運営組織・関連団体等
香川県高松市
東京都、大阪市、名古屋市
東京都世田谷区、板橋区、新宿区、文京区、江東区
東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県
大阪市
東京都中央区、品川区、江東区
東京都千代田区、八王子市、川崎市
東京都世田谷区、目黒区
千葉県市川市、浦安市
東京都、神奈川県、埼玉県
横浜市
大阪市
東京都江戸川区
東京都世田谷区、江東区、葛飾区、品川区、大田区、足立区、
横浜市、川崎市
東京都新宿区、世田谷区、杉並区
名古屋市
愛媛県松山市
東京都練馬区、杉並区、世田谷区
東京都区内、名古屋市、大阪府豊中市
東京都町田市
大阪市
石川県金沢市・野々市町・能美市
提供エリア
首都圏エリア(東京都、神奈川県、千葉県)、中部エリア(愛知
県、三重県)、近畿エリア(京都府、大阪府、兵庫県)
東京都三鷹市
北海道、宮城県、福島県、栃木県、東京都、千葉県、神奈川県、
愛知県、大阪府、兵庫県、広島県
大阪府茨木市
大阪市、神戸市、京都市
埼玉県志木市
東京都港区、新宿区、つくば市
北九州市、筑紫野市
北海道、東京都、神奈川県、千葉県、愛知県、大阪府、兵庫県、
京都府、広島県、福岡県、沖縄県
北海道天塩郡豊富町、北海道留萌市、札幌市、埼玉県川口市、
大阪府箕面市、池田市、東大阪市、兵庫県宝塚市、広島県府中
東京都、神奈川県、大阪府、千葉県、埼玉県、茨城県、兵庫県
http://www.ecomo.or.jp/environment/carshare/carshare_list.html.に基づき作成
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:全国のカーシェアリング事例一覧
Table 2.4 国内におけるカーシェアリング組織の一覧
第 3 章 カーシェアリングによる環境改善効果
3.1 海外事例
(1) 自動車走行距離に及ぼす影響
Table 3.1 にカーシェアリングへの加入前後での自動車走行距離の変化を調査した事例の
一部を示す.
カーシェアリング加入以前に自家用車を保有していなかった会員の場合には,
100%を大きく超える自動車による移動距離の増加の報告もなされている.その一方,加入
以前に自家用車を保有していた会員の場合には,約 30~70%程度の自動車走行距離の減尐
が報告されている.
カーシェアリング加入による自動車移動距離の増減比率の観点で見れば,カーシェアリ
ング加入以前に自家用車を保有していなかった会員による自動車移動距離の増加比率の方
が遙かに高いことがわかる.しかし,自家用車を保有していた会員によるカーシェアリン
グ加入以前の年間自動車移動距離は 5,000km~16,000km 程度であるため,カーシェアリン
グ加入による自動車走行距離の減尐幅が大きい.一方,自家用車を保有していなかった会
員の加入以前の年間自動車移動距離は 500km 以下であることから,カーシェアリング加入
による自動車走行距離の増加幅は小さいと言える.
自動車移動距離の増減幅についての点から,カーシェアリング普及によって自動車走行
距離が削減される可能性は高いと言える.しかし,加入以前に自家用車を保有していた会
員よりも非保有であった会員の割合が非常に高い場合等においては,走行距離は増加に転
じてしまう恐れもある.また,これらの調査事例は,サンプル数が尐ない点,アンケート
調査の定性的回答を基にしている点にも注意が必要である.
30
Table 3.1 カーシェアリングが自動車走行距離に与える影響の調査事例
Source:Transit Cooperative Research Program.TCRP Report 108 Car-Sharing:Where and How
It Succeeds,Transportation Research Board,2005.に基づき作成
31
(2) 自動車以外の交通手段利用に及ぼす影響
カーシェアリングが各交通手段利用に及ぼす影響について,Philadelphia市(アメリカ)
のカーシェアリング事業者であるPhillyCarShareの会員に対して実施されたアンケート調
査結果について以下に示す(Figure 3.1).
カーシェアリング加入前に自動車を所有していた会員では,徒歩,鉄道,タクシーの利
用頻度が 4 割近く増加した一方,自動車利用は 7 割近く減尐している.カーシェアリン
グ加入以前に自動車を非保有であった会員では,バイク,鉄道,タクシーの利用頻度が減
尐し,自動車の利用頻度が 3 割以上増加している.
Source:Lane,Clayton.PhillyCarShare:First-Year Social and Mobility Impacts of
Car Sharing in Philadelphia.Paper presented at Transportation Research Board
84th Annual Meeting,Washington, DC, January 9-13,2005.
Figure 3.1 カーシェアリング加入前後の交通手段利用頻度の変化
32
3.2 国内事例
日本国内におけるカーシェアリングが環境負荷に与える影響に関する調査・研究は十分
に行われていないのが現状である.カーシェアリングが環境負荷に及ぼす影響についての
調査・研究は,一般的に会員の1週間の交通行動を記録した交通日誌を収集する必要があ
る.そのため,海外においても調査事例はそれほど多いわけではない.
国内におけるカーシェアリングに関する調査では,カーシェアリングシステムの技術開
発や EV をはじめとした環境配慮型自動車の普及に焦点を当てた技術実験・社会実験によ
るものが多い.研究においても,カーシェアリングの事業性やシステムの実用化に関する
ものが多く見受けられる.カーシェアリングが環境負荷にどのような影響を及ぼすかにつ
いては十分な検討はなされていない.
カーシェアリングが環境負荷に及ぼす影響について調査した国内の一事例を示す.
交通エコロジー・モビリティ財団がシーイーブイシェアリング社の利用者に対してアン
ケート調査を実施しており,カーシェアリング加入前後での自動車利用を比較することに
よって環境負荷に及ぼす影響について報告している[6].
シーイーブイシェアリング社は,2006 年調査時点において,契約会員数は 155 人(この
下に 650 人の利用会員がいる)
,低排出ガソリン車 25 台,電気自動車 15 台を保有してお
り,東京都から神奈川県にかけてステーション数 22 箇所を展開している.
アンケート発送数は,個人会員 92・法人会員 63 の計 155 通,回収率は個人会員 56.5%,
法人会員 34.9%であった.
同財団によれば,回答者全体では,カーシェアリング加入により年間自動車走行距離は
9,365km から 2,004km へと約 79%減尐,自家用車保有台数は会員 1 人当たり 0.65 台から
0.15 台へ約 77%減尐したと報告している(Figure3.2).また,自動車走行距離減尐による
CO2 排出量削減量については,1 人当たり年間で 1.89 t-CO2 であると推計している.
居住地別に詳しく見ていくと,神奈川県の都心在住者では,カーシェアリング加入前に
自家用車を保有していた会員全員が自家用車非保有となっていることがわかる(Figure
3.3)
.これは,都心では公共交通機関が充実しており,また,駐車場費用負担が郊外地域
33
と比較して重いことからカーシェアリングサービスの提供により自家用車を手放す傾向が
読み取れる.また,自動車走行距離減尐による CO2 排出量削減量については,1 人当たり
年間で 2.12 t-CO2 であると推計している.
東京都および神奈川県の郊外在住者では,都心と比較すると公共交通機関の充実度が低
いことから自家用車を完全に手放すことはせず,2 台目,3 台目に保有する自家用車をカー
シェアリングサービスによって代替する傾向が読み取れる(Figure 3.4)
.また,自動車走
行距離減尐による CO2 排出量削減量については,1 人当たり年間で 1.10 t-CO2 であると推
計しており,都心部でのカーシェアリング利用者よりも CO2 削減量が低い結果となること
を報告している.
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減効果
及び普及方策検討報告書, 交通エコロジー・モビリティー財団,2006.
Figure 3.2 回答者全体における加入前後の保有台数と走行距離の変化
34
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減効果
及び普及方策検討報告書, 交通エコロジー・モビリティー財団,2006.
Figure 3.3 神奈川県都心在住者における加入前後の保有台数と走行距離の変化
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減効果
及び普及方策検討報告書, 交通エコロジー・モビリティー財団,2006.
Figure 3.4 東京・神奈川郊外在住者における加入前後の保有台数と走行距離の変化
35
交通手段の利用頻度または利用時間の変化については,自動車利用が大幅に減尐し,公
共交通機関の利用が増加していることがわかる(Figure 3.5 and Figure 3.6)
.鉄道やバスの利
用について減尐したと回答した会員は存在するが,それ以上に多くの会員が公共交通機関
の利用が増加したと回答した.
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減効果
及び普及方策検討報告書, 交通エコロジー・モビリティー財団,2006.
Figure 3.5 カーシェアリング加入による交通手段割合の変化
Source:交通エコロジー・モビリティ財団:カーシェアリングによる環境負荷低減効果
及び普及方策検討報告書, 交通エコロジー・モビリティー財団,2006.
Figure 3.6 カーシェアリング加入による交通手段利用の増減率
36
第 4 章 カーシェアリングの環境改善効果の推定
4.1 評価方法
本研究では,カーシェアリング利用時の普及状態の変化が利用需用及び環境負荷に及ぼ
す影響に着目する.
東京 23 区内において完結するトリップの中で,自宅-通勤目的(往復)及び自宅-私事目
的(往復)を対象を対象として,鉄道,バス,乗用車による旅客流動を平成 20 年に実施さ
れた第 5 回パーソントリップ調査を用いてモデル化する.得られた各交通手段のパラメー
タを用いてカーシェアリングのパラメータの推定を行う.
続いて,カーシェアリングの普及状態,本研究では,カーシェアリングの利用料金や利
用端末(駐車場)までのアクセス距離,自家用車からの転換割合を用いて ,普及状態の変
化に伴う CO2 削減量の変化を推計していく.
37
4.2 第 5 回東京都市圏パーソントリップ調査
パーソントリップ調査とは,
「どのような人が」
「どのような目的で・交通手段で」
「どこ
からどこへ」移動したかなどを明らかにするための調査である(Figure 4.1)
.
東京都市圏では,パーソントリップ調査を昭和 43 年以降,10 年ごとに実施しており,
本研究で用いる第 5 回調査は平成 20 年 10 月頃に実施されたものである.
第 5 回調査では,満 5 歳以上の都市圏居住者のうちの約 2%の人々から 1 日の移動情報
抽出している.
Source:東京都市圏交通計画協議会 webpage http://www.tokyo-pt.jp/
Figure 4.1 パーソントリップ調査とは
38
パーソントリップ調査の基本計測単位は「トリップ(trip)
」である.トリップは,人また
は車両がある移動目的を持って出発地から目的地まで移動する際の,一方向の移動を表す
計測単位である(Figure 4.2)
.
Source:東京都市圏交通計画協議会 webpage http://www.tokyo-pt.jp/
Figure 4.2 パーソントリップ調査とは
39
また,以下に本研究で扱うパーソントリップ調査関連の主要な用語を定義する.

代表交通手段
1 トリップの中で複数の交通手段を用いている場合,そのトリップの中で利用した最も
優先順位の高い交通手段を代表交通手段としている.代表交通手段を決める優先順位は,
鉄道→バス→自動車→二輪(自転車,原付・自動二輪車)→徒歩の順である.

トリップ目的
トリップ目的は大きく,1. 自宅-勤務,2. 自宅-通学,3. 自宅-業務,4. 自宅-私事,
5. 帰宅,6. 勤務・業務,7. その他私事の 7 区分がある(Figure4.3)
.業務目的は販売,配
達,会議,作業,農作業などの仕事上の目的であり,私事目的は買い物,食事,レクリエ
ーションなどの生活関連の目的である.
Table 4.1:トリップ目的の分類
Source:東京都市圏交通計画協議会:東京都市圏パーソントリップ調査利用の手引,2009.
40

ゾーン
Table 4.2 のように東京都市圏を分割している.
Table 4.2:ゾーンの分類
Source:東京都市圏交通計画協議会:東京都市圏パーソントリップ調査利用の手引,2009.
41
4.3 ロジットモデルとは
本研究では,
カーシェアリング利用時の需要を推計するためにロジットモデルを用いる.
ロジットモデルを用いることで Figure 4.1 のように,個人が複数ある交通手段の中から一
つを選択する際に,運賃や所要時間等どのような要因をどれだけ重視するかを明示的に表
現することが可能である.
Figure 4.3 ロジットモデル説明図
ロジットモデルとは,
「個人は利用可能な選択肢郡の中から最大の効用を与えるものを選
ぶ」というランダム効用理論に基づく合理的選択行動を仮定したモデルであり,効用の確
42
率分布を特定することにより,人々の選択行動を確率的に表すことができる.ロジットモ
デルは非集計行動モデルの中で最も広く利用されているモデルである.
ランダム効用理論における効用とは,個人属性など観測可能な選択肢固有の変数とそれ
以外の誤差項によって表現される( 式(1),式(2) )
.
U in  1 x1in   2 x2in・・・  K xKin   in .......(1)
U in  Vin   in .......(2)
Uin:個人 n の選択肢 i に対する直接効用
x1in・・・ xKin :個人 n の選択肢 i に対する観測可能な 1~K 個の説明変数
Vin :個人 n の選択肢 i の間接効用
εin:個人 n の選択肢 i に対する誤差項(確率項)
β1~βK:1~K 個のパラメータ
ロジットモデル一般形を以下に示す( 式(3)
)
.効用関数の誤差項の確率分布としては
ガンベル分布を想定している.
Pin 
exp(Vin )
.......(3)
Jn
 exp(V
j 1
jn
)
43
Pin :個人 n の選択肢 i の選択確率
Vin :個人 n の選択肢 i の効用確定項(観測可能要因)
Jn :個人 n の選択肢数
選択肢数の違いによりロジットモデルは以下のように分類される.

2 項ロジットモデル(Binary Logit Model)
P1 
exp(V1 )
exp(V2 )
, P2 
 1  P1
exp(V1 )  exp(V2 )
exp(V1 )  exp(V2 )
.......(5)
Figure 4.4 2 項ロジットモデルの例
44

多項ロジットモデル(Multinomial Logit Model)
Pj 
exp(V j )

N
k 1
.......(5)
exp(Vk )
Figure 4.5 多項ロジットモデルの例

ネスティッドロジットモデル(Nested Logit Model)
多項ロジットモデルの IIA 特性(
「選択確率比の文脈独立」
)があるため,各選択肢の
確率的効用の間に相関がある場合には,非現実的な選択率を与えてしまう可能性)に
よる制約を緩和したロジットモデル. 入れ子構造を持つ.
Figure 4.6 ネスティッドロジットモデルの例
45
4.4 ロジットモデルによる交通手段選択モデルの特定化
ゾーン i からゾーン j へ移動する交通手段利用者は,代表交通手段として鉄道,路線バ
ス,乗用車のいずれかをロジットモデルに従って選択すると仮定する.本研究では集計さ
れた起終点間交通量データを使用するため,集計型のロジットモデルを用い, 交通手段選
択モデルを構築する.
ゾーン i からゾーン j へ移動する旅行者が交通手段 k を選択する確率を pijk,効用を Vijk
とおく.また,交通手段 k,番号 l の説明要因を Xkl,説明要因にかかるパラメータを δkl
として,モデル構造を以下に示す.
p ijk 
e
Vijk
e
Vijn
.......(6)
n
Vijk    kl X kl .......(7)
l
説明要因を以下のように定める(Figure 4.4)
.

xijk2:ゾーン i の代表点からゾーン j の代表点へ交通手段 k を用いた際の所要時間[min]

xijk3:ゾーン i の代表点からゾーン j の代表点へ交通手段 k を用いた際の所要費用 [yen]

xijk4 ≡ xik4:ゾーン i の各丁目から交通手段 k の最寄利用端末までの平均距離[m]

xijk5 ≡ xjk5:ゾーン j の各丁目から交通手段 k の最寄利用端末までの平均距離[m]
46
Figure 4.7 記号説明図
47
効用 Vijk は交通手段別に以下のように定める.
Vij1 : train   12 x ij12   13 x ij13   14 x i14   15 x j15 .......(8)
Vij 2 : bus   21   22 x ij 22
  23 xij 23   24 x i 24   25 x j 25 .......(9)
Vij 3 : car   31   32 xij 32   33 x ij 33 .......(10)
Vij 4 : cs   41   42 x ij 42
  43 xij 43   44 x i 44   45 x j 45 .......(11)
目的地までの所要時間および費用については全手段に共通のパラメータを与える.アク
セス・イグレス時間およびアクセス・イグレス費用の代替として用いたアクセス距離およ
びイグレス距離については鉄道と路線バスで異なるパラメータを与える.
48
4.5 カーシェアリングの効用関数パラメータの推計
4.5.1 パラメータの推計方法
ロジットモデルのパラメータ推計方法は一般に,以下のような手順をとる(Figure 4.4)
.
Figure 4.8 ロジットモデルのパラメータ推計手順
最尤推定法とは,未知の母数を推定する方式のひとつで,未知の母数 θ は,現実に分析
者が観測したデータのパターンを高確率で発生させるような値に違いないという発想に基
づく推定法である.
母数が θ である母集団 f ( x | θ ) から,n 個の標本 X1,X2,X3 .
.
.
,Xn が抽出されたと
する.このとき,確率密度は次式で表せる.
f ( X 1 |  ) f ( X 2 |  ) f ( X 3 |  ) ・・・ f ( X n |  ).......(12)
49
ここで,x が固定されていると考えれば(1)式は θ の関数と捉えることができる.このと
き,(12)式を尤度関数と呼ぶ.
また, θ がとり得る様々な値に対する L を θ の 尤度 と定義し,次式に示す.
n
L   f (Xi | ) 
i 1
f ( X 1 |  ) f ( X 2 |  ) f ( X 3 |  )・・・ f ( X n |  ).......(13)
最尤推定法とは,X1,X2,X3 .
.
.
,Xn を固定した場合に θ の尤度が最大となるように最
尤推定量を求めることである.最尤推定量は(13)式を θ で微分することにより求めるこ
とができる.しかし,実際の計算においては,L はあまりに小さい値であるため,L の対
数をとった次式を用いるのが一般的である.
n
log L   log f ( X i |  ).......(14)
i 1
50
4.5.2 パラメータの検定方法

(2)式の θ の最尤推定量を  とすると,

n (   ).......(15)
(15)式は,n → ∞ のとき,漸近的に正規分布
N (0,1 / I ( )).......(16)

に従うことが知られている.つまり,最尤推定量  は正則条件が満たされる場合,漸近的
な正規性と一致性がある.I(θ)はフィッシャー情報量であり,スコアの分散である.
本研究では,パラメータ δkl が複数あるためフィッシャー情報量は,フィッシャー情報行
列となる.観測データの数を n,パラメータを θ = (θ1,θ2,θ3,
・・・θN) ,θ の真の値を θ0,
とすると,フィッシャー情報行列 I(θ0) は次式で表すことができる.
  2 ln L 
I ( 0 )   E 
.......(17)
t 
     0


(17)式の期待値を取り除き最尤推定量  により評価したヘシアン推定量を H(  ) の逆行
列の第n 番目のパラメータの対角要素がパラメータθの第n 番目のパラメータの分散であ
ることを利用して t 値を算出する.
51
4.5.3 パラメータの推計結果
最尤推定法を用いてパラメータ推計を行った.第 5 回東京都市圏パーソントリップ調査
における小ゾーン i から小ゾーン j への代表交通旅行者流動のうち,交通手段 k を選択した
人数を Qijk とする.対数尤度関数を
ln L   Qijk ln pijk .......(18)
ijk
として,これを最大化するように準ニュートン法により交通手段選択関数 pijk を構成する
パラメータ δkl を推定した.
自宅-通勤目的のパラメータ δkl の推計結果を Table 4.2 に,モデルによる再現と誤差率を
Table4.3 に示す.また,同様に,自宅-私事目的のパラメータ推計結果を Table 4.4,モデ
ルによる再現と誤差率を Table4.5 に示す.
52
Table 4.2:自宅-通勤目的のロジットモデルのパラメータ推計結果
l \k
1(定数)
1(鉄道)
2(バス) 3(乗用車)
-0.5741
-4.9920
(-28.29) (-497.57)
-0.1199(共通)
2(所要時間)
(-269.19)
-0.0107(共通)
3(費用)
(-298.97)
-0.0006
-0.0033
4(アクセス距離)
(-41.94)
(-28.25)
-0.0047
-0.0004
5(イグレス距離)
(-280.52)
(-4.37)
0.0399
6(バスターミナルダミー)
(4.34)
adjusted rho^2
0.726
()内はt値
Table 4.3:自宅-通勤目的のモデルによる交通手段選択数の再現と再現率
通勤
鉄道
バス
乗用車
実データ(A) ロジットモデル(B) 誤差率(A-B)/A*100
1900643
1899508
0.0597
87923
87630
0.3332
105848
107276
-1.3493
53
Table 4.4:自宅-私事目的のロジットモデルのパラメータ推計結果
l \k
1(定数)
2(所要時間)
3(費用)
4(アクセス距離)
5(イグレス距離)
adjusted rho^2
1(鉄道)
2(バス) 3(乗用車)
-0.7465
-3.4306
(-35.68) (-313.09)
-0.1455(共通)
(-189.1)
-0.0056(共通)
(-222.73)
-0.0002
-0.0050
(-14.76)
(-48.32)
-0.0065
-0.0005
(-273.65)
(-4.2)
0.276
()内はt値
Table 4.3:自宅-私事目的のモデルによる交通手段選択数の再現と再現率
私事
鉄道
バス
乗用車
実データ(A) ロジットモデル(B) 誤差率(A-B)/A*100
390155
390156
-0.0003
119593
119592
0.0009
165265
165265
-0.0001
54
推計されたパラメータは全て符号的整合性を満たしている.費用,所要時間,アクセス
距離,イグレス距離のパラメータは負であり,増加するにつれて効用が低下することを示
している.
また,算出された全ての t 値の絶対値は 1.96 を超えており,全てのパラメータが 5%の
有意水準でゼロではないと言える.
誤差率についても,ほぼ 1%以内に収まっており良好な結果が得られた.
55
4.5.4 カーシェアリングの効用関数パラメータ設定
本研究で扱うカーシェアリングは,利用の際に,最寄りのカーシェアリング利用端末(駐
車場)まで徒歩でアクセスし,共用車で目的地まで向かい,目的地付近のカーシェアリン
グ利用端末で返却するワンウェイ型のシステムと仮定する.また,利用費用は 15 分利用ご
とに¥200 かかるとする.
カーシェアリングは基本的には,自家用車にアクセス距離とイグレス距離が付加された
交通手段と考えられる.
そこで,
カーシェアリングの効用関数 Vij4 の 3 つのパラメータを以下のように設定する.
 41   31,.......(19)
 44   24 ,.......( 20)
 45   25........( 21)
つまり,定数項パラメータは乗用車のものを,アクセス距離パラメータおよびイグレス
距離パラメータはバスのものをそれぞれ用いる.これは,駅までの交通手段には,バス,
乗用車,二輪車など複数あり,また,費用を要することがあるのに対し,停留所までのア
クセス手段としては,徒歩がほとんどであり,カーシェアリング利用時のアクセス性と類
似していると考えられるためである.
56
4.5.5 カーシェアリングの利用需要
(1) アクセス距離の変化に伴うカーシェアリングの潜在的な利用需要の推計
乗用車を選択肢集合から除き,乗用車による自宅-通勤目的トリップ及び自宅-私事目的
トリップ全てを鉄道・路線バス・カーシェアリングの各交通手段へロジットモデルに従う
合理的選択によって分配させることで,カーシェアリングの潜在的な利用需要を探る.
これは,従来,鉄道・路線バスのみを利用していた者に加え,自宅-通勤目的及び自宅私事目的で乗用車を利用していた者が全て乗用車を手放した場合におけるカーシェアリン
グの潜在的な利用需要である.
推計に際し,アクセス距離及びイグレス距離は出発ゾーンが変われば同一のものと考え
ることができるため,同一のものとして同時に変化させた.
Figure 4.9 は,アクセス距離別のカーシェアリングの潜在的な利用需要の推計結果である.
カーシェアリング利用端末までのアクセス距離・イグレス距離の変化に伴い,何回カーシ
ェアリングを利用する可能性があるかを表している.
カーシェアリングの利用端末までのアクセス距離およびイグレス距離が増加していくに
つれてカーシェアリングの利用需要が減尐していくのがわかる.当然ながら,アクセス距
離およびイグレス距離が 0 の場合にはカーシェアリングの利便性が最大となるため,需要
が最大量となり,自宅-通勤目的で約 10,000 trip/day,自宅-私事目的で約 93,000 trip/day の潜
在的な利用需要がある結果となる.
自宅-通勤目的トリップにおいて,利用需要の中間値をとるアクセス・イグレス距離は約
190m の地点であり,自宅-私事目的では,約 140m の地点となった.
自宅-通勤目的と比較し,自宅-私事目的では約 4 倍~9 倍の需要があるという結果となり,
これは,一般的なカーシェアリングの利用傾向に沿う結果である.
なお,今回本研究で対象としたトリップ目的は,往復を含めた自宅-通勤目的及び自宅私事目的のみであり,これは,東京 23 区内で完結する代表交通手段全目的自家用車トリッ
プの約 54%を占めるトリップ量であることに注意されたい.
57
Figure 4.9
カーシェアリング端末までのアクセス距離とカーシェアリング選択数の関係
58
(2) 費用の変化に伴うカーシェアリングの潜在的な利用需要の推計
次に,カーシェアリングのアクセス距離およびイグレス距離をバス停留所の平均アクセ
ス・イグレスである約 130 m と設定する.カーシェアリングの利用端末がバス停留所と同
程度の普及状況にあると仮定した条件において,費用がカーシェアリングの潜在的な利用
需要に与える影響を考察する.費用の設定値を¥ 0 / 15min ~ ¥ 1000 / 15min まで変化させ
た際の利用需要の変化を Figrure 4.10 に示す.
費用が増加していくにつれ,カーシェアリングを選択する延べ人数が減尐していくこと
がわかる. ¥ 100 / 15min の条件の場合,自宅-通勤目的トリップでは約 30,000 トリップ,
自宅-通勤目的トリップでは,約 108,000 トリップの潜在的な利用需要があるという結果と
なった.
59
Figure 4.10
カーシェアリングの費用とカーシェアリング選択数の関係
60
(3) 自家用車非保有者を対象としたアクセス距離の変化に伴うカーシェアリングの利用
需要の推計
自家用車の非保有者を対象として,アクセス・イグレス距離の変化がカーシェアリング
の利用需要に及ぼす影響を推計する.
推計にあたり,自宅-通勤目的及び自宅-私事目的の乗用車利用トリップをロジットモデ
ルで使用するデータから除外する.この設定により,乗用車利用者は今までと同じだけ乗
用車を利用しているのであるから,乗用車利用者はカーシェアリングを利用しないと仮定
できる.そのため,乗用車を除く鉄道・路線バス・カーシェアリングの 3 手段のロジット
モデルにより推計されるカーシェアリングの利用需要は,自家用車非保有者によるものと
解釈できる.
自家用車非保有者におけるカーシェアリング利用端末までのアクセス距離とカーシェア
リング選択数の関係を Figure 4.11 に示す.アクセス距離・イグレス距離が増加していくに
つれ,カーシェアリングを選択する延べ人数が減尐していくことがわかる.
自家用車非保有者によるカーシェアリング利用が 4.6 章(1)で示したカーシェアリングの
潜在需要に占める割合は,自宅-通勤目的で約 9 割,自宅-私事目的で約 6 割であるという
結果であった.つまり,カーシェアリングの利用者は,元々の自家用車利用者による割合
よりも,カーシェアリングという選択肢を得た鉄道・路線バスのみを利用してきた人々に
よる割合が高い.これは,鉄道・路線バスと乗用車とのトリップ数の母数の違いによると
ころが大きい.23 区内で完結するトリップのうち,代表交通全目的乗用車トリップは計約
123 万トリップであるのに対し,鉄道及び路線バスの全目的トリップは計約 762 万トリッ
プある.
61
Figure 4.11
自家用車非保有者におけるカーシェアリング端末までのアクセス距離と
カーシェアリング選択数の関係
62
また,Figure 4.12 にカーシェアリング導入によるカーシェアリング利用端末までのアク
セス距離と各交通手段選択増減数の関係を示す.
これは,4.6 章(3)と同様,推計にあたり,自宅-通勤目的及び自宅-私事目的の乗用車利用
トリップをロジットモデルで使用するデータから除外し,選択肢集合から乗用車を除外し
た場合,鉄道及び路線バスの利用需要がどのように変化するかを示している.
通勤目的においては,鉄道・路線バス双方共に利用者を減らしている.また,私事目的
の鉄道利用では,カーシェアリング導入により大幅に利用が増加している一方,私事目的
路線バス利用では大幅な利用減となっている.
これは,カーシェアリング利用者の中で比較的高い割合を占める自家用車非保有者が従
来行っていた鉄道・路線バストリップが,カーシェアリング導入によりカーシェアリング
側へ流れたものと解釈できる.3.1 章で紹介したように,カーシェアリング加入前に自家用
車を保有していなかった会員の場合,鉄道や路線バス等の利用が減尐し,カーシェアリン
グ利用が増加する傾向がある.この結果は,この傾向に沿うものであると言える.
63
Figure 4.12 カーシェアリング導入によるカーシェアリング端末までのアクセス距離と各
交通手段選択増減数の関係
64
4.7 カーシェアリングの環境改善効果の推計
Figure 4.12 で示したように,カーシェアリングに加入する者が元々自家用車を保有して
いなかった場合,鉄道や路線バスの利用が減尐し,カーシェアリング利用が増加する.環
境負荷の観点で見れば,CO2 排出原単位の違いからカーシェアリング導入によりむしろ
CO2 が増加してしまうことになると言える.
カーシェアリングが環境改善効果を持つためには,カーシェアリング加入前の自家用車
保有者の自動車走行距離が,加入後には減尐すると同時に,この走行距離の減尐による
CO2 削減量が元々自家用車を保有していなかった会員による CO2 増加量を上回る必要が
ある.
カーシェアリングは利用毎に費用が発生するため,乗用車利用習慣が形成されず,交通
手段選択の際に合理的選択を促す特徴が知られている.この特徴により,カーシェアリン
グ加入前に自家用車を保有していた会員が,加入後には,合理的選択により乗用車走行距
離を減尐させている.
そこで,これらを考慮した上で,CO2 削減量の変化を推計する.
アクセス・イグレス距離を路線バス停留所の普及状況と同程度である 130m と仮定し,
自宅-通勤目的及び自宅-私事目的の乗用車トリップが,0 ~100 %の割合で鉄道・路線バ
ス・カーシェアリングへ配分可能なトリップとなった場合の CO2 削減量の変化を推計する.
乗用車の CO2 排出量は,燃費 9.01(km/l)[18] ,ガソリンからの CO2 排出量
2.32(kg-CO2/l)[19],鉄道は 0.0165(kg-CO2/人・km)[20],路線バスは 0.094(kg-CO2/人・km)[20]
及びトリップデータを用いて CO2 排出量を計算する.
推計結果を Figure 4.13 に示す.自家用車からのトリップの転換がない場合には,自家用
車保有者からの CO2 削減効果はないため,自家用車非保有者のカーシェアリング利用増加
および公共交通機関利用減尐により CO2 は増加する.自家用車からの転換トリップが増加
していくにつれ,CO2 削減量は年間約 7,300 t-CO2 のマイナスから約 19.7 万 t-CO2 まで上
昇していく結果となった.
また,カーシェアリングで利用する車両に電気自動車を導入した場合には,年間約
65
400t-CO2 のマイナスから約 20.7 万 t-CO2 まで上昇していく結果となった(Figure 4.14)
.
カーシェアリング普及による CO2 削減量を見込むには,全乗用車トリップ(本研究では
往復分の自宅-通勤目的及び自宅-私事目的)のうち,約 4%以上,つまり,全乗用車利用者
数の約 4%以上がカーシェアリング会員になり,自家用車を手放す必要がある(Figure 4.15)
.
一方,電気自動車を導入した場合には,製造段階 CO2 は考慮していないものの,走行段階
だけで評価すると,約 1%以上という結果となった.
この結果より,カーシェアリング普及は自家用車保有者からの転換を確実に促進するこ
とで CO2 排出量削減効果を見込むことができることがわかった.自家用車非保有者がカー
シェアリング会員になることよる CO2 排出増加効果は確かに確認できたが,自家用車から
の転換が進むにつれて無視できるレベルにまで相対的に小さくなることがわかった.
66
Figure 4.13 自家用車からの転換に伴う CO2 削減量の推移
67
Figure 4.14 EV 導入よる CO2 追加削減量
68
Figure 4.15 Figure 4.13 の細分化表示
69
まとめと今後の課題
本研究では,東京 23 区内で完結するトリップ,その中でも約 54%を占める自宅-通勤目
的および自宅-私事目的トリップを対象に,カーシェアリングの利用需要および CO2 削減
効果の推計を行った.
カーシェアリング普及は自家用車保有者からの転換を確実に促進することで CO2 排出
量削減効果を見込むことができることがわかった.
自家用車非保有者がカーシェアリングに加入することによる CO2 排出増加効果は確か
に確認できたが,自家用車からの転換が進むにつれて無視できるレベルにまで相対的に小
さくなるという結果を得た.
今後の課題としては,効用関数としてどのような説明要因を入れるべきかなどのモデル
の精緻化が必要である.また,CO2 削減量推計の対象都市圏の拡大により日本全体での
CO2 削減効果を把握し,日本全体の CO2 削減量にどのような影響を与えうるかの考察も
必要であろう.
70
参考文献
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[25] 岡部篤行,鈴木敦夫:最適配置の数理,朝倉書店,pp.52-112,1992.
72
謝辞
本研究を行うにあたり,研究の場を与えていただきました慶應義塾大学システムデザイ
ン・マネジメント研究科の先生方に心から感謝いたします.
本論文を作成するにあたり,主査として最もお世話になりました,同大学院同研究科教
授,中野冠先生には,非常に多くの適切なご指導をいただきました.心より深く感謝いた
します.
同研究科教授,春山真一郎先生,手嶋龍一先生,同研究科助教授,湊宣明先生には,副
査として本論文へ多くのご示唆に富むご意見,ご指導をいただくことができました.心よ
り深く感謝いたします.
本論文のデータ収集に当たっては,神奈川県交通企画課,岩本氏にデータを提供してい
ただくとともに,有益なご助言をいただきました.心より深く感謝いたします.
また,様々な示唆に富む助言をしていただいた中野研究室の学生の皆様には,大変お世
話になりました.心より深く感謝しております.
本論文作成にあたっては,様々な方々にお世話になりました.協力していただいた皆様
へ心から感謝の気持ちと御礼を申し上げたく,謝辞にかえさせていただきます.
73
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