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JBICを取り巻く環境 - JBIC 国際協力銀行

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JBICを取り巻く環境 - JBIC 国際協力銀行
JBICを取り巻く環境
営業3部門の課題と取り組み
2
1 資源・環境ファイナンス部門
24
2 インフラ・ファイナンス部門
27
3 産業ファイナンス部門
30
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
23
1· 資源・環境ファイナンス部門
2
を取り巻く環境─
J
B
I
C
営業 部門の課題と取り組み
3
■ 激化する資源獲得競争の中で
の輸出が減少したからです。
資源小国の日本にとって、海外からのエネルギー資源
液化天然ガス
(LNG)の調達環境も近年、急激に変化
や鉱物資源の安定的な確保は、経済活動の維持・発展に
しています。2000年頃までは世界の取引の大半を日本
不可欠な課題です。JBICは、これまで日本企業による海
が占めていましたが、現在は約3割に減りました。中国
外での資源の開発や権益取得、資源の輸入等を金融面か
やインドが輸入を急増させており、今後も膨大な需要拡
ら支援し、その安定的な確保に貢献してきました。
大が予想されます。東日本大震災後、原子力発電による
特に近年は、中国をはじめとする新興国の経済成長に
電力供給が難しくなった日本でも、当面の主要なエネル
伴い、世界の資源獲得競争は一段と厳しさを増しており、
ギー源として、石油に比べて温室効果ガスの排出が少な
日本にとっても、エネルギー資源や鉱物資源をいかに安定
いLNGの存在感が増しています。他方、供給国側も変
的かつ安価に調達できるかが大きな課題となっています。
化しています。日本への主要供給国であると同時に目覚
ましい経済成長を続けるインドネシアやマレーシアでは、
❶ 資源・環境ファイナンス部門
■ 需要・供給の両面で高まるリスク
国内需要が増加を続けており、輸出を減らさざるを得な
新興国のエネルギー需要の拡大は、世界のエネルギー
い状況です。
需給に大きな影響を与えています。中でも中国やインド、
鉱物資源の分野でも、新興国の需要は膨大です。加え
東南アジアを含むアジア・大洋州地域のエネルギー消費
てサプライヤーの寡占化も需給に大きな影響を与えてい
量は、他地域に比べて高い伸びを示しています。
ます。例えば、鉄鉱石では上位3社で世界の鉄鉱石輸出
石油については、埋蔵量の約5割が中東に偏在してい
量の半分以上を 占め、石炭についても上位4社が寡占し
るため地政学的なリスクが大きく、日本の原油中東依存
ている状況です。さらに、資源大国であるオーストラリ
率も一時は下がったものの、現在再び8割以上になって
アでは、輸出の増大により港湾等が混雑して滞船問題が
います。これはアジア諸国で石油需要が増え、これまで
生じており、供給逼迫に拍車をかけています。この結果、
輸出していた原油を自国での需要に充てた結果、日本へ
関係する鉱物資源の価格が急騰しています。
近年の主な資源関連案件への取り組み
ポゴ金鉱山/US
ノルウェー領北海油田
✚
英領北海油田
ウエストムィンクドゥックウラン鉱山/
✚ カザフスタン
カシャガン油田/
タングステン
✚
カザフスタン
鉱山/
ハラサンウラン鉱山/カザフスタン
ポルトガル
BTCパイプライン
✚
ACG油田/
アゼルバイジャン
オハネット ●
カフジ・フート油田
油ガス田/
カタールLNG ●
アルジェリア
◆✚
US
イーグルフォード・シェールオイル/US ●
ADNOC向け原油前払い融資
● オマーン油ガス田
■ 石炭長期引取案件/ベトナム
✚
エンフィールド・ヴィンセント油田
✚
✚
アソマン鉄・マンガン・クロム/
南アフリカ
オーキークリーク・NCA炭鉱
ケストレル炭鉱 ■
◆ ミネルバ炭鉱 ■■ ● カーティスLNG
ゴーゴンLNG
✚
ロレストン炭鉱 ■
シャークベイ塩田
✚
ワースレーボーキサイト鉱山
アルミナ精製
アンバトビー・ニッケル/
マダガスカル
2012年7月31日時点
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
ラスプ✚ ■ ムーラーベン炭鉱
亜鉛・鉛
鉱山
✚
ニュージーランド植林
● メキシコ湾油ガス田/US
ベネズエラ・メトール
ドラモンド炭鉱/コロンビア ■●
PDVSAからの
原油等買取/
ベネズエラ
アマゾンアルミナ精製・アルミニウム製錬/ブラジル
バイオバール燐鉱山/ペルー✚
アンタミナ銅鉱山/ペルー ▲
セロベルデ銅鉱山/ペルー ▲
サンクリストバル亜鉛鉱山/ボリビア✚
●●●
ケープランバート鉄鉱石積出港
ウェストアンジェラス鉄鉱山
24
アルエットアルミ精錬/
✚カナダ
● マーセラス・シェールガス/
シミルコ銅鉱山/カナダ▲
マレーシア・ガス田
●
✚タガニート・ニッケル/フィリピン
●
マレーシア・第3次LNG
タヤン・アルミナ/インドネシア✚
●タングーLNG/インドネシア
パガルデワ油田/インドネシア
●
● PNG LNG
カンゲアン油ガス田/インドネシア
▲バツヒジャウ銅鉱山/インドネシア
ウィートストーンLNG
● バユウンダンLNG
プルートLNG
モザール・
アルミニウム精錬/
モザンビーク
オイルサンド/カナダ
■ グランドキャッシュコール炭鉱/カナダ
サハリンⅠ/ロシア
● サハリンⅡ/ロシア
石油
天然ガス
石炭
鉄鉱石
銅鉱石
その他
鉱物資源等
コルドバ・シェールガス/カナダ
●
■ ネリュングリ炭鉱/ロシア
木材チップ/
モザンビーク
●
■
◆
▲
✚
シエラゴルダ
銅鉱山/
チリ
▲
モリブデン引取金融/チリ✚▲
エスコンディーダ銅鉱山/チリ▲
カセロネス銅鉱山/チリ▲
ロスペランブレス銅鉱山/チリ▲
エスペランサ
銅鉱山/
チリ
✚
セニブラ
パルプ/
ブラジル
✚
◆
◆
◆
鉄鉱石
輸送用鉄道/
ブラジル
フラージ油田/
ブラジル
NAMISA鉄鉱山/ブラジル
MUSA鉄鉱山/ブラジル
このように需要面でも供給面でもさまざまなリスクが
2
高まっています。日本企業の海外投資も変化していく必
要があり、JBICはこれまで以上に資源保有国やサプライ
J
B
I
C
ヤーとの関係強化を重視して業務を進めています。
を取り巻く環境─
■ クリーンエネルギーとして期待される天然ガス
中でも重要課題として取り組んでいるのが天然ガスの
調達です。福島第一原子力発電所の事故を契機として、
電力の安定供給が日本の国民生活や経済活動にとって喫
日本企業が参画しているボリビアでの亜鉛・鉛・銀鉱山プロジェクト
ルギー源として天然ガスの安定的かつ安価な調達への支
ザンビーク、モンゴル等に対してもアプローチを広げ、
これに対し、JBICは日本企業による海外でのLNG関
日本の技術、
実績を活かした提案を通じて、
相手国のニー
連の権益取得や開発、LNGの輸入に必要な資金を積極
ズに応えていくことが大きなテーマとなっています。
的に支援しています。
第二は、これまで手をつけられていなかった非在来型
こうした中、新たな開発対象として注目を集めている
資源の活用です。この分野ではベネズエラの超重質油や
「非在来型」
の天然ガスであるシェールガスや炭層メタン
米国等のシェールガスやシェールオイルの開発などが本
ガス
(CBM)
の権益取得等への支援も行っています。
(注1)
3
❶ 資源・環境ファイナンス部門
援期待が高まっています。
営業 部門の課題と取り組み
緊の課題となっており、前述のとおり、当面の主要エネ
格化しています。シェールガスについては、既に米国、
2011年にはカナダのシェールガス鉱区権益を日本企業
カナダでのプロジェクトに融資を行ったほか、シェールオ
が取得し、シェールガスを開発・生産するために必要な
イルについても米国でのプロジェクトに融資しています。
資金を融資したほか、オーストラリアのクイーンズラン
ド州でのCBMの権益取得や開発、さらにはLNG化に必
■ 資源国との重層的な関係強化
要な資金を融資しました。
一方、日本との間で、既に良好で安定的な関係を築い
さらに、日本企業による海外での天然ガス開発促進に
ている資源供給国や資源サプライヤー等との重層的・戦
向けて、産出国との協力関係の強化に取り組んでいます。
略的な関係強化も重要です。
2011年6月には、インドネシアの石油・天然ガス上流
中東の産油国は近年、原油高による潤沢な収入をもと
政策実施機関であるBPMIGASとの間で、インドネシア
に自国の産業の多角化やインフラの整備を進めており、
での天然ガス総供給量の拡大に向けたビジネスモデルの
その技術の導入に際して海外の政府や企業の支援を求め
構築や、日本企業が同国で展開するガス関連ビジネスの
ています。こうした流れの中で、中東と日本との経済関
促進を目的とした覚書に調印しました。
係も、従来のような原油の需要者と供給者という単純な
関係から、エネルギー関連プロジェクト、インフラ開発
■ 調達先の多角化によるリスク分散
プロジェクトなどへの協力を通じた産業多角化への支援
資源を安定的に確保するためには、調達先の多角化に
や第三国への共同投資といった、
「重層的」
な関係が求め
よるリスク分散も重要です。
られるようになってきています。
第一は地理的な分散です。前述のとおり、原油は中東
例えばサウジアラビアでは、JBICは雇用創出と高付加
への依存が高く、中東以外の調達先の開拓や中東域内に
価値製品づくりによる産業振興等に協力する形で、サウ
おける調達先の分散化が急がれます。LNG関連では、
ジアラビア国営石油会社が計画する、世界最大級の石油
JBICはロシアのサハリンⅡプロジェクトやパプアニュー
化学プラントに対し、2006年3月、プロジェクトファ
ギニア、ならびにオーストラリア等でのLNGプロジェ
イナンス(注2)による融資を行いました。カタールのLNG
クトに融資を行い、日本のLNG供給源の多様化に貢献
してきました。石炭についても、これまで日本への輸入
がほとんどなかったコロンビアの一般炭開発プロジェク
トに融資を行ったほか、新規供給国として期待されるモ
(注1)炭層メタンガス(CBM)とは、石炭層とその周辺から採掘されるメタンガスのこ
とです。シェールガスと共に「非在来型」天然ガスとして注目を集めています。
(注2)プロジェクトファイナンスとは、発電事業や石油・ガス等の資源開発等、大型プ
ロジェクトの資金調達手段として活用されるもので、その事業のキャッシュ・フ
ロー等を担保とする融資手法のことです。
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
25
私募円建外債
(サムライ債)
に対し保証を供
2
与し、同国の資金調達の多様化を支援しま
した。
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C
加えて資源関係では競合関係になりやす
を取り巻く環境─
い中国についても、個別案件や政策動向に
関する情報交換チャネルの確保、協調案件
の可能性の模索等を念頭に、中国輸銀ほか、
同国の政策金融機関等との関係を構築して
います。
営業 部門の課題と取り組み
■ パッケージ型の資源開発へ
3
これまで日本は、各種資源について世界
日本企業が参画しているカタールでのLNGプロジェクト
有数の買い手として資源調達を進めること
❶ 資源・環境ファイナンス部門
プロジェクトに対しては、1980年代の開発初期段階か
ができましたが、中国をはじめとする新興国の旺盛な需
ら、ガス田開発、LNGプラント建設、港湾整備など一
要増加を背景に世界的な資源獲得競争が進む中、その需
連のLNGサプライチェーンの構築を支援してきました。
要家としての地位は相対的に低下しているといえます。
カタール産LNGは日本のLNG輸入量の17%を占める一
このような状況の中、今後も各種の資源を安定的に確
方、カタールにとって日本は最大のLNG輸出先です。
保していくためには、日本企業による権益取得や長期引
LNGのサプライチェーン全体に対する継続的な協力が
き取り契約を支援するだけでなく、中東産油国等に対す
両国の信頼関係に寄与し、安定供給につながった好事例
るアプローチと同様、相手国のニーズに応じて、資源開
といえます。
発に付随して必要となる鉄道、道路、港湾、電力などの
また、オーストラリアは日本のLNG、石炭、鉄鉱石
インフラ整備や産業の高度化等を含めた総合的な資源開
の調達先として、それぞれ約2割、約6割、約7割のシェ
発を提案していくことが必要になっています。また、資
アを占めています。地理的に日本に比較的近く、政治的
源開発との関係は間接的ではありますが、日本企業が有
にも安定し、各種資源も豊富なことから、資源供給先と
する高効率石炭火力発電技術や環境負荷低減技術の供与
しての重要性が一層増している国の一つです。JBICは従
なども、相手国の電力開発や環境対策に貢献でき、権益
来からの継続的な融資を通じて、同国の資源開発業者と
獲得や価格交渉を優位に導く重要な要素となり得ます。
も良好な関係を築いており、前述の炭層メタンガス
(CBM)
JBICは、こうした資源供給国のインフラ整備等への支
を原料とする非在来型LNGプロジェクトや日本企業に
援も含め、引き続き各種分野への金融支援を通じて、日
よる炭鉱権益取得等を支援しました。さらにこうした基
本経済の健全な発展のために不可欠な資源の安定的な確
盤のうえに、JBICは西オーストラリア州政府やクィーン
保に貢献していきます。
ズランド州政府との間で包括的戦略パートナーシップの
構築を目的とする覚書を締結しました。これらの覚書の
■ 地球環境保全業務
(GREEN)
の取り組み
中には、日本企業が行う投資に関する情報交換や定期的
2011年度には、地球環境保全業務(GREEN)の一環
な協議会を設けることなどが盛り込まれており、日本企
として( スキーム等はP.69をご参照ください)、インド、メキ
業のビジネス展開に向けた基盤づくりにつながることが
シコおよび中南米地域の再生可能エネルギー事業や省エ
期待されています。
ネルギー事業を支援すべく、ICICI Bank Ltd.、メキシ
その他、石炭・銅等の鉱物資源が豊富なモンゴルでは、
コ外国貿易銀行(BANCOMEXT)、中米経済統合銀行
同国財務省との間で、輸出クレジットライン等を含む金
融面での協力関係強化を目的とする覚書を締結しました。
温室効果ガス排出削減へ貢献することはもちろん、日本
また、中東、NIS(旧ソ連新独立国家)諸国、東欧諸
の優れた環境技術が各国・地域に普及する一助となるこ
国と国境を接し、地政学上の要衝として近年その重要性
とも期待されています。
が高まっているトルコについては、同国政府が発行した
26
(BCIE)向けの融資を行っています。これらの融資では
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
(
環境分野への取り組みについてはP.53-55をご参照ください)
2· インフラ・ファイナンス部門
近年、アジアをはじめとす
2
る開発途上国において急速な
経済成長を背景に、電力、鉄
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B
I
C
道、道路、港湾、空港、上下
を取り巻く環境─
水道等のインフラ需要が急増
しています。先進国において
も、旧式のインフラ設備の更
新需要や、鉄道網の新規整備、
環境問題や地球温暖化への対
営業 部門の課題と取り組み
応を目的とした再生可能エネ
ルギーによる発電、スマート
3
グリッド導入等に向けた動き
が高まりつつあります。こう
した膨大なインフラ需要を日
本の成長につなげようと、
❷ インフラ・ファイナンス部門
パッケージ型インフラ海外展
開の促進が政府の新成長戦略
(2010年6月閣議決定)およ
海外水インフラ事業(海外淡水化プラント)のために輸出される日本企業製の主要機器
び日本再生戦略
(2012年7月
閣議決定)
にも盛り込まれました。
寄せられるようになっています。
JBICは、これまで電力、鉄道、港湾、道路、水関連な
そこで、日本としては相手国のニーズに応えて、高度
どさまざまな分野で多くの海外インフラプロジェクトに
な技術・ノウハウをコアにインフラプロジェクト全体に
関わってきた経験や、これまで培ってきた相手国との信
関与していく
「パッケージ型インフラ」
を積極的に提案し
頼関係を活かして、海外での各種インフラプロジェクト
ていくことが大きなテーマとなってきました。
への日本企業の参画を積極的に支援していきます。
■ パッケージ型インフラ整備への支援体制を強化
■ 急増しつつある海外インフラ需要
このようなアジアを中心とした旺盛なインフラ整備需
日本と経済的なつながりが深いアジアでは、経済成長
要に対応し、日本の経済成長につなげていこうと、日本
が著しい国も多く、2010~20年の間に総額約8兆ドル
政府は2010年6月に閣議決定された「新成長戦略」に
ものインフラ整備需要が見込まれています(注1)。一方、
パッケージ型インフラ海外展開の推進を盛り込み、その
欧州でも、スマートグリッド導入や発電設備の改修・新
後2012年7月に閣議決定された「日本再生戦略」におい
設などのために2020年までに1.5~2兆ユーロ
(約1.9~
ても重点施策として明記し、その支援に力を注いできて
の投資が必要と見込まれています(注3)。世
2.6兆ドル(注2))
います。
界全体で見ると年間約1兆2,000億ドル超もの膨大なイ
パッケージ化の取り組みの例としては、電力や水、交
ンフラ整備需要があるとの試算もあります(注4)。
通、通信といった分野が挙げられます。電力分野では、
こうした海外でのインフラ整備は、多くの日本企業や
少ない燃料で効率よく発電が可能な超々臨界圧式プラン
地方自治体等にとっても、長年培ってきたその高度な技
トで、日本企業はアジアを中心に納入や事業参画実績を
術力を活かせる機会といえます。しかし、最近の傾向と
重ねてきました。今後も新興国の電力需要の伸びが見込
して、インフラ整備に関連する機器を単体で輸出しよう
まれる中、高効率の発電所の建設・運営のみならず、IT
としても、台頭著しい新興国をはじめとする競合国企業
との価格競争にさらされるほか、相手国側からも、周辺
分野での協力や設備の運転・保守・人材育成などを含め
た総合的なパッケージとしてのインフラ整備への期待が
(注1)アジア開発銀行「Infrastructure for a Seamless Asia」
(2009年)
(注2)1ユーロ=1.3ドルで換算
(注3)欧州委員会「Stakeholder Consultation Paper, Commission Staff Working
Paper on the Europe 2020 Project Bond Initiative」
(2011年2月28日)
(注4)経済産業省「産業構造審議会 貿易経済協力分科会 インフラ・システム輸出部
会 実務者レベル検討会報告」
(2012年6月)
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
27
2
近年の主な海外インフラプロジェクトへの取り組み
北米・欧州 ✚ インフラファンド出資
J
B
I
C
●
■
◆
▼
✚
モロッコ
石炭火力発電設備輸出
中国
を取り巻く環境─
■ 重慶モノレールプロジェクト
電力
水
港湾・鉄道・道路等インフラ
放送・通信
再生可能エネルギー事業
その他
韓国
英国
ガス火力発電設備輸出
■ 都市間高速鉄道プロジェクト
エジプト
■ 地下鉄輸出
トルコ
▼ 再生可能エネルギー事業TSL
営業 部門の課題と取り組み
カザフスタン
■
ガス火力発電設備輸出
3
中南米
▼ 再生可能
エネルギー事業TSL
▼
■
■
●●
●
■
カタール
● ラスラファン
IWPPプロジェクト
メサイッド
IPPプロジェクト
■▼
▼
インド
●
❷ インフラ・ファイナンス部門
●
UAE
● シュワイハットS2
IWPPプロジェクト
● フジャイラF2
IWPPプロジェクト
シュワイハットS3
IPPプロジェクト
■ デリームンバイプロジェクト
石炭火力発電設備
製造・販売事業
石炭火力発電設備輸出
▼ 再生可能エネルギー
事業TSL
▼ 再生可能エネルギー
関連機器輸出
◆
シンガポール
セノコ・パワー・
リミテッド社
株式取得
● 海水淡水化
プラント機器輸出
■
フィリピン
IPP権益取得
パナマ
■ パナマ運河拡張プロジェクト
コロンビア
ポルセⅢ水力発電プロジェクト
水力発電設備輸出
▼
■◆
◆■
■
タイ
モルディブ
ノンセン・ガス焚複合火力発電所プロジェクト
● 上下水道運営プロジェクト
ブラジル
オマーン
南アフリカ
■
石炭火力発電設備輸出
水力発電設備輸出
■ ダーバン港拡張プロジェクト
送配電設備敷設プロジェクト
石炭火力発電設備輸出
IPP権益取得
◆ 通信網拡充プロジェクト
▼ 再生可能エネルギー事業TSL
ベトナム
スリランカ
■ ソハール港湾整備プロジェクト
スールIPPプロジェクト
◆
▼
メキシコ
アジア中心 ✚ インフラファンド出資
インドネシア
◆ TELKOM向け通信機器輸出
チレボンIPPプロジェクト
パイトンIPPプロジェクト
タンジュンジャティB IPPプロジェクト
ジャワ・バリ間海底送電線設備輸出
■
■
■
◆
◆
▼
サンパウロ環状道路プロジェクト
サンパウロ地下鉄4号線プロジェクト
貨物鉄道網整備プロジェクト
放送局向け放送設備輸出
通信網拡充プロジェクト
再生可能エネルギー事業TSL
(注) IPP (Independent Power Producer)=自前で設備を建設・運営・販売する独立系発電事業者。
IWPP (Independent Water and Power Producer)=自前で発電・淡水化設備を建設・運営し、電力・水を販売する独立系発電・淡水化事業者。
2012年7月31日時点
を活用して効率的な送配電を図るスマートグリッドやス
このため、プロジェクト所在地の政府が適切な支援を行
マートメーターの導入など、海外電力プロジェクトへの
うことに加え、景気の変動やカントリーリスクに対応す
事業参画拡大に期待が高まっています。
る長期かつ安定的なファイナンスがプロジェクトの成功
交通分野では、米国をはじめとする先進国で、車から
にとって重要となってきています。
環境負荷の少ない鉄道システムへシフトさせる機運が高
28
まっているほか、ベトナムや中国などの新興国でも都市
■ 新規のニーズに対応
化の進展や経済成長を背景に、高速鉄道や都市鉄道の必
これまでのJBICの取り組みは、途上国における日本企
要性が指摘されるようになりました。
業のビジネスへの支援が中心でしたが、前述のとおり、
これらの分野で増加が見込まれるパッケージ型のイン
インフラ需要は途上国のみならず先進国にも存在してい
フラ整備は投資規模が大きくなりますが、電気や交通な
ます。米国や英国などにおける高速鉄道整備計画、オー
どは経済活動や日常生活の基盤となるサービスを提供す
ストラリアにおける都市鉄道や水道事業など、先進国に
る重要なものである一方で、短期間で大きな利益をあげ
おけるインフラビジネスのチャンスは枚挙に暇がありま
て投資回収を図れるような性格のものではありません。
せん。このような状況を踏まえ、日本政府も法制度面の
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
と考えられるインフラをはじめとする特定分野について、
ship: PPP)
の形で実施するケースも増えてきています。
JBICが民間金融機関と共に輸出金融
(日本からの機器・
大型のインフラプロジェクトの場合、途上国側はPPPの
設備等の輸出を支援するための金融)
や投資金融
(日本企
形式を通じて民間資金を活用することにより自国政府の
業による海外投資を支援するための金融)による支援を
債務負担を軽減する一方、民間事業者のノウハウを有効
先進国のプロジェクトに対しても行うことができるよう
に活用することで、より効率的なインフラサービスを提
にしました。
供できるとして期待が高まりつつあり、JBICもこうした
JBICは、アジア各国をはじめとする多くの開発途上国
事業にプロジェクトファイナンス等による数多くの支援
でのインフラ事業やプラント等に対するファイナンスに
を行ってきました。こうしたPPP案件においては 、政府
多くの経験を有しており、今後従来以上に相手国政府等
によるコミットメントと一定の関与が期待されており、
との対話を進めるなど案件初期段階からの関与を行い、
政府と民間事業者の間で責任とリスクをいかに適切に分
相手国の需要を踏まえつつ、日本企業の強みを適切かつ
担するかがポイントとなります。このため、JBICとして
効果的に活かせるような支援を行っていく所存です。
は、融資などによる直接的な支援はもとより、途上国側
2
J
B
I
C
営業 部門の課題と取り組み
行うのではなく、官民連携
(Public-Private Partner-
を取り巻く環境─
整備を行い、日本企業にとってビジネスチャンスがある
3
の制度のあり方への助言、途上国と日本企業双方のニー
ズのマッチングなどを通じた初期段階からの案件形成支
JBICは、これまでも日本企業による海外インフラビジ
援も重要な役割と考え、相手国政府との財務政策対話を
ネスへの取り組みを、出融資や保証といったさまざまな
はじめとしたさまざまな取り組みを進めています。
金融ツールにより支援してきました。途上国政府や政府
今後もJBICは、従来の日本企業によるプラント等の関
系機関、民間事業者等が日本企業からインフラ関連の設
連設備・機器の輸出とともに、インフラプロジェクトへ
備・機器を導入する際の資金や、日本企業が直接出資者
の日本企業の事業参画も積極的に支援し、拡大しつつあ
として事業参画する際に必要となる資金など、多くの分
る海外インフラ需要について、日本企業のビジネス機会
野での支援を通じ、各国のインフラ整備を金融面から支
の創出・拡大につなげていくことができるよう、さまざ
えてきました。
まな側面から政策金融機関としての役割を果たして参り
特に近年は、こうしたインフラ整備を政府部門が直接
たいと考えています。
❷ インフラ・ファイナンス部門
■ JBICの実績と最近の取り組み
日本企業が出資参画するインドネシアでの火力発電プロジェクト
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
29
3· 産業ファイナンス部門
2
第一に、急激な円高の進行が挙げられます。特に、中国
や韓国等の新興国企業と競争する輸出企業にとっては逆
風となっています。第二に、欧州危機に端を発し、主に
欧州の民間金融機関のドル資金調達が困難になる中、こ
●回答企業全体
(611)
0.7%
(611)
2.0%
(594)
0.7%
(586)
0.2%
16.8%
20.1%
32.2%
16.5%
12.6%
82.2%
79.2%
65.8%
82.8%
87.2%
2007年度
2008年度
2009 年度
2010 年度
2011年度
れら欧州金融機関の与信姿勢が好転しないことが考えら
れ、日本製品を求める海外企業や海外事業を行う日本企
業にとって、引き続きファイナンスが大きな課題となる
と考えられます。第三に、日本の主要業界においては、
グローバル化の進展によりサプライチェーンのネット
ワークが複雑・大規模化しています。その中で、2011
年の東日本大震災とタイにおける洪水は、日本企業に
とってサプライチェーンを見直す契機になりました。
■ 日本企業の積極的な海外投資
■ 強化・拡大する
❸ 産業ファイナンス部門
(595)
1.0%
■ 現状程度を維持する
営業 部門の課題と取り組み
3
昨今の日本企業の海外展開をめぐる主な状況としては、
図表1-1 中期的(今後3年程度)海外事業 展開見通し
■ 縮小・撤退する
を取り巻く環境─
J
B
I
C
■ 日本企業の海外展開をめぐる主な状況
一方、円高も背景としながら、日本企業による海外投
資が顕著になってきています。1980年代以降の日本企
業による海外直接投資は、プラザ合意以降の円高を受け
た90年代初め、およびリーマンショック前の2008年に
大きなピークを経験しましたが、リーマンショック以降、
2009年、2010年と減少に転じました。しかし、2011
年度は約10.1兆円と前年度比108%の増加となっており、
特にアジア
(約3.0兆円、前年度比42%増)、欧州
(約3.2
兆円、同127%増)
向けの投資が多くなっています(注1)。
特に、少子高齢化に伴う国内市場の縮小が避けられな
(注1)財務省
インドでの日本企業の自動車部品製造工場 (㈱ベステックス・キョーエイ提供)
30
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
(注1)「海外事業」の定義:海外拠点での製造、販売、研究開発などの活動に加えて、
各社が取り組む生産の外部委託、調達などを含む。
(注2) 棒グラフの上の( )内の数は、「中期的(今後3年程度)な海外事業にかかる見通
し」について回答した企業数。
[出所]JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2011年度 海外直
接投資アンケート結果(第23回)―」
図表1-2 海外生産比率と海外売上高比率の推移
図表2 JBIC投資金融の地域別融資承諾状況
(2007~2011年度)
(%)
40
38.5
中期的計画(2014年度)
35.9
35
33.5
34.0
34.7
34.2
34.7
北米
12%
34.2
33.3
海外売上高比率
29.1
30
27.9
30.5
30.6
30.8
アフリカ
3%
31.0
29.2
26.0
26.1
金額
53,711億円
大洋州
11%
ヨーロッパ
(ロシアを含む)
23%
(注) 日本の民間金融機関向けツー・ステップ・ローン等
は除きます。
24.6
営業 部門の課題と取り組み
2011年度
実績見込
28.0
25
中東
12%
J
B
I
C
アジア
23%
を取り巻く環境─
中南米
17%
2
3
海外生産比率
20
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
(年度)
い状況の下、世界の成長センターであるアジアを中心と
られます。海外生産比率は今後も一段と上昇し、4割に
する新興国の需要の獲得に取り組む日本企業が増えてき
迫る見込みです
(図表1-2参照)。なお、企業の国際展開
ました。中でも
「ボリュームゾーン」
と呼ばれる新興国で
に伴う国内空洞化の懸念については、
「海外事業を強化・
増加する中間所得層をターゲットにした商品開発が幅広
拡大する」とした企業の約9割が国内事業を維持・拡大
い業種・分野で顕著になっており、日本企業が技術を提
する姿勢を示しており、注目すべき点となっています。
❸ 産業ファイナンス部門
(注1) 海外生産比率:
(海外生産高)/(国内生産高+海外生産高)
(注2) 海外売上比率:
(海外売上高)/(国内売上高+海外売上高)
(注3) 各比率は、回答企業の申告値を単純平均したもの。
[出所]JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告―2011年度 海外直接投資アンケート結果(第23
回)―」
供し、現地企業との合弁で新興国に新たな市場を創造す
るといった取り組みも行われています。同時に、日本の
■ 日本企業の海外事業展開支援
主要企業が海外生産や現地調達を拡大していることに伴
以上のような状況、企業動向を踏まえ、JBICは、我が
い、国内の中堅・中小企業も積極的に海外展開に取り組
国産業の国際競争力の維持・向上のため、さまざまな切
んでいます。
り口から日本企業の海外事業展開への支援を行っていま
また、昨今の円高の進展を背景として、海外における
す。まず、日本企業の海外投資への支援です。日本企業
M&Aも活発化しています。日本企業による海外企業の
による海外事業に必要な設備資金や、販売金融に必要な
M&Aは、2011年度に624件、5兆7,800億円となり、
資金を、プロジェクトファイナンスや現地通貨建ファイ
2008年度を上回り過 去最高となりました(注2)。
ナンスといった手法も駆使しながら供与しています。
2011年度にJBICが行った、
「わが国製造業企業の海外
事業展開に関する調査報告
(第23回、2011年7月~9月
■ 船舶・プラント輸出支援
( P.56をご参照ください)
でも、こ
実施、回答企業603社)
」
円高が継続する中、日本企業の輸出支援にも積極的に
のような動きを確認できます。
取り組んでいます。特に、欧州での経済混乱の深化・長
例えば、今後3年程度の中期的事業展開見通しについ
期化により欧州民間金融機関の与信姿勢が従来よりも消
て、
「海外事業を強化・拡大する」
とした企業が過去最高
極化する中、日本の政策金融機関であるJBICに対しても、
(87.2%)となり、中堅・中小企業も含め海外事業の強
化姿勢が鮮明になっています
(図表1-1参照)。海外生産
船舶・プラント等の輸出案件を中心とした融資期待が強
く、これに積極的に対応しています。
比率、海外売上高比率はいずれも一貫して上昇しており、
リーマンショック後、さらに海外展開が加速したと考え
(注2)トムソン・ロイター社
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
31
2
を取り巻く環境─
J
B
I
C
営業 部門の課題と取り組み
3
■ 円高対応緊急ファシリティによる
投資環境をはじめとする各種情報提供などの面でも、中
海外M&Aへの支援
堅・中小企業の海外事業展開を支援しています。
2011年8月、急激な円高の進行に対応した日本政府
による
「円高対応緊急パッケージ」
の発表を受け、JBICは
中堅・中小企業の海外事業展開支援についてはP.49-52をご参照
ください)
円高メリットの活用等を図るべく、「円高対応緊急ファ
シリティ」を創設し、日本企業による海外企業の買収や
■ タイ洪水被害への対応
資源の開発・権益確保等を支援しています( P.68をご参
2011年10月のタイ洪水では、多くの日系企業も甚大
照ください)
。
な被害を受けたところ、これら日系現地法人の復旧およ
M&Aの促進では、JBICからの直接投資のみならず、
び事業活動を支援するため、日本の中堅・中小企業の現
本邦金融機関との間でM&Aクレジットライン
(融資枠)
地法人および日本企業のサプライチェーンを構成する地
を設定し、海外でのM&Aに必要な日本企業の中長期外
場企業を対象として、タイの商業銀行であるカシコン銀
貨資金を、迅速かつ機動的に供給することを企図してい
行向けツー・ステップ・ローンの貸付契約に調印しまし
ます。
た。また、浸水被害を受けた日系現地法人に対し、機械
設備入れ替えのための資金も供与しています。
■ 中堅・中小企業の海外事業展開支援
❸ 産業ファイナンス部門
日本の中堅・中小企業の優れた技術力は、国内外で高
■ ニーズへの的確な対応
く評価され、一方、開発途上国も高度な技術力を持つ企
JBICは今後も、我が国産業の国際競争力の維持・向上
業の投資誘致に力を入れています。しかしながら、中堅・
のため、日本企業が海外事業展開で直面する諸課題を踏
中小企業は、大企業に比べて海外事業に必要な資金調達、
まえつつ、そのニーズに的確に対応し、融資、出資、保
情報収集、人材等の面で制約を抱えている場合があるた
証等の各種ファイナンス機能を有効に活用しながら、積
め、JBICは、融資等の資金調達面での支援に加え、海外
極的に支援を行って参ります。
日本企業が参画するサウジアラビアでの石油精製・石化プロジェクト
32
(
株式会社国際協力銀行 年次報告書 2012
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