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民法解説

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民法解説
2015年度B日程入試
民法
[設問1]
(1)Cの請求の根拠ー94条2項の類推(外形他人作出型)(40点)
1)Cは無権利者であるBから甲地と乙建物(以下、本件不動産とする)を譲り受けた者
にすぎず、また、登記には公信力がないので、Cは、本件不動産の所有権を取得すること
はできない。もっとも、AB間の登記の移転がAとBが通謀してなした虚偽の売買契約に
よるものである場合には、この登記を信頼して取引したCは第三者として保護され(94
条2項)、ABは売買契約の無効をCに対抗することかできず、Cは本件不動産の所有権
を取得することができる。だが、本件では、AとBの間に通謀はなく、94条2項は適用
できない。
しかし、登記を信頼して取引をした善意のCを犠牲にして、虚偽の外観の作出に帰責性
のある表意者を保護するのは不当である。そこで、判例は、表意者に虚偽の外観の作出に
帰責性のある場合に94条2項を類推適用し、第三者の保護を図っているが、その1つの
類型として、「他人が不実の登記をしたが、真実の権利者が、他人名義の登記の存在を知
っても、これを明示・黙示に承認していた場合」(外形他人作出型)がある。
なお、この場合にも、94条2項を類推適用する理由として、判例は、「不実の登記が
信実の所有者の承認のもとに存続せしめられている以上、右承認が登記経由の事前に与え
られたか以後に与えられたかによって、登記による所有権帰属の外形に信頼した第三者の
保護に差等を認める理由はないからである」と述べている(最判昭和45年9月22日)。
2)あてはめ
それでは、本件は、上記の「外形他人作出型」に該当するか。
本件では、Aの行為が「明示・黙示の承認」にあたるかが問題となるが、AがBによる
本件不動産の登記名義移転を知ってからCに売却されるまで4年以上放置し、かつ、D銀
行から借入れをなす際にもB名義のままで抵当権設定登記を行っていることなどから、
「明
示・黙示の承認」にあたると判断して良いと思われる(類似の事案である上記昭和45年
最判でも「明示・黙示の承認」にあたると判断されている)。もっとも、婚姻関係にある
者が 配 偶者 に 登記 名 義 の回 復 を求 め るこ と が どの 程 度期 待 でき る か は疑 問 であ り (磯村
保・昭和45年9月22日判例解説・判例百選Ⅰ[21]45頁)、「明示・黙示の承認」
なしとの判断もありうるであろう(上記磯村解説では、同判例は「ボーダーラインケース」
とされている)。
<採点基準>
①本問が94条2項の類推適用の問題であることの指摘ーー25点
②あてはめー15点
(2)Cの無過失(15点)
1)もっとも、本問では、Cは善意ではあるが、有過失である。それでは、Cに過失ある
場合にも94条2項は類推適用されるか。この問題は、94条2項の本来的適用の場合に
も問題となるが、判例・通説は、虚偽の外観を創出したという表意者の帰責性の大きさを
重視し、第三者は単に善意であれば良く無過失までは不要であると解してる。
これに対し、学説では、以下のような理由から、無過失必要説も有力である。
①94条2項は権利外観法理の一態様であり、権利外観法理の適用であると解される他の
規定では、第三者保護要件として無過失も要求されることが多いので、94条2項におい
ても無過失を要求すべきである。
②無過失を要求することにより、よりきめ細かな利益衡量ができる。
2)94条2項類推の場合にも、判例・通説は、無過失不要としている(判例は、意思外
形非対応型等の場合には、無過失を要求しており、94条2項と110条の法意あるいは
類推適用という形をとっている(最判昭和45年6月2日判例プラクティスⅠ[86](意
思外形非対応型)、最判平成18年2月23日判例百選Ⅰ[22]))。もっとも、学説
では、真の権利者の帰責性の小ささから、本件のような「外形他人作出型」についても第
三者の無過失を要求する見解もある。
3)あてはめ
判例・通説の無過失要件不要説に立てば、有過失のCも保護され、その退去請求は認め
られるが、無過失必要説に立てば有過失のCは保護されず、退去請求は認められない。
<採点基準>
①無過失の必要性についての検討ーー10点
②あてはめー5点
(3)Cに登記が必要か(15点)
本問では、本件不動産の登記名義はまだBのままであり、Cは登記を取得していないが、
Cは94条2項の類推適用により保護されるためには、登記が必要か。判例・通説は、登
記不要と解している(最判昭和年月日44年5月27日判例プラクティスⅠ[80](ま
ず94条2項の本来的適用の場合に登記不要とし、さらに94条2項の類推適用の場合で
も同様に登記不要と判示している)。その理由は、次の2点にある。①94条2項によっ
てAB間の売買はCとの関係では有効になり、Cからみれば、AとCは前主・後主の関係
になるので、「対抗要件としての登記」は不要である。②自ら虚偽の外観を作出した原権
利者の帰責性が大きいので、「権利保護要件としての登記」も不要である。従って、判例・
通説の立場に立てば、Cは登記なくして保護されることになるので、Aに対して退去請求
しうることになる。
<採点基準>
①登記の必要性についての検討ー10点
②あてはめー5点
[設問2](30点)
1)本問は、いわゆる絶対的構成・相対的構成の問題である。絶対的構成・相対的構成の
問題とは、第三者保護規定があり、第三者が善意であるとして保護される場合に、その保
護された第三者から譲り受けた悪意の転得者は保護されるのかという問題である。第三者
保護規定がある各場合に問題となるが、94条2項についても問題となる。
2)絶対的構成は、善意の権利取得者(本問ではC)からの転得者(本問ではD)が悪意
の場合にも保護される(有効に権利取得しうる)とする考え方であり、相対的構成は、保
護の有無は、財産を取り戻そうとする当の相手方が誰であるかに応じて個別的・相対的に
判断されるべきであるとする考え方である(本問では、Dについて個別的に判断すること
になる)。
3)絶対的構成を取る理由として示されているのは、主として以下の点である。
①相対的構成をとると、悪意の転得者(本問ではD)は、真の権利者(本問ではA)か
ら追奪され、その結果として前主である善意者(本問ではC)が担保責任(561条)を
追求されることになるが、このことは善意者を保護しようとした94条2項の趣旨に反す
る。
②法律関係を早く確定・安定させることができる。
4)これに対して、相対的構成が主張される理由は、以下の点にある。
①具体的公平に合致する。
②悪意者が、「わら人形(善意者)」を介在させて不当に保護を受けようとするのを防止
しうる。
5)判例・通説は、94条2項については、絶対的構成を採用している(大判昭和6年1
0月24日新聞3334号4頁)。
6)従って、判例・通説の立場に立つと、Dは本件不動産の所有権を有効に取得し、その
結果、AのDに対する登記抹消請求は認められないことになる。逆に相対的構成を採用す
ると、Dは有効に本件不動産の所有権を取得しえず、AのDに対する登記抹消請求が認め
られることになる。
<採点基準>
①問題点の明示ー5点
②絶対的構成・相対的構成の説明ー15点
③判例・通説の立場ー5点
④あてはめー5点
<採点講評>
<B日程>
本問におけるCの保護は、判例・通説では、「民法94条2項の類推」理論で処理され
ているが、「94条2項の類推」は、民法における最も基本的な論点の1つであるので、
[設問1]の出題意図は、Cの保護は「94条2項の類推」によるのは当然として、本問
のような類型(「意思外形対応型ー外形他人作出型」として分類されている類型 )におい
てCが保護されるためには、善意以外の要件(Cの無過失および登記の具備)が必要かど
うかを検討してもらうという点にあった。問題文にある、CはAと親しく、Aに確認すれ
ば甲地と乙建物がBではなくA所有の物であるということが容易に分かる状況にあった、
また、甲地と乙建物の登記名義はまだBのままである等の記述は、これらの要件を具体的
に検討してもらいたいという意図によるものであった。
しかし、解答のなかには、Cの保護を「94条2項の類推」ではなく、Bの日常家事代
理権に基づく表見代理の問題として処理しているものが少なからず見られたのは残念であ
る。本問では、BはAの代理人として甲地等を売却しているのではなく、自己の物として
売却しているのであるから、代理の問題とならないことは明らかで、このような解答は、
民法の基本的な点の理解が不十分であることを示していると思われる。また、「94条2
項の類推」とする解答でも、Cの無過失要件についての記述は一部の解答を除いて十分で
なく、また、Cの登記の具備の問題については、そもそも言及している解答が少なかった。
[設問2]は、いわゆる絶対的構成・相対的構成の問題で、判例のとる絶対構成の立場
で説明する解答が多かったが、何故、絶対的構成にたつのかの説明が十分でないものが目
立った。また、絶対的構成・相対的構成の問題を論じないで、Dが背信的悪意者であれば
保護されないとする解答が一定数あったが、Dの背信的悪意者性は、絶対的構成に立った
場合にのみ問題となりうると考えられるので(相対的構成では、その背信性を問題にする
までもなく、そもそも悪意であるだけでDは保護されない)、絶対的構成・相対的構成の
問題を論じないで、Dの背信性を問題とするのは疑問である。
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