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有料老人ホーム契約について - 広島県大学共同リポジトリ
有料老人ホーム契約について ─高齢者の居住とケアにかかる法律問題覚書(1)─ 吉村 朋代 abstract Recently, nursing homes in Japan have increased steadily against the background of the rise of their needs. At the same time, many troubles happens concerning a contract of nursing home. However, the nursing home has so particular purposes, the residence and the nursing service for aged persons until their terminal stage, that it is very difficult to understand the contract of the nursing home through a traditional theory of contract. In this paper, we discuss that the clarification of the characteristics of a nursing home contract is necessary for the fairness in the market and the reasonable handling of its disputes with the reinforcement of regulations of laws and administrative guidances. キーワード:有料老人ホーム、複合的役務提供契約、経営者責任 1 はじめに 平成 19 年 4 月 1 日施行の改正医療法は、「医療サービスと福祉・住居サービスの融合に より、地域における医療の重要な担い手である医療法人が必要なケアを切れ目なく提供」 することを目的として1)、医療法人の「業務の範囲」を拡大し、附帯業務として有料老人 ホームを設置することが可能になった(医療法第 42 条第 8 号)2)。この法改正は、医療制 度改革の基幹項目の一つである療養病床再編を推進するための制度的支援策でもある。 平成 17 年 10 月、厚生労働省が取りまとめた医療制度構造改革試案で、医療給付費の推 計が示され、平成 18 年度で 28.3 兆円(国民所得比 7.3%)のところ、平成 37(2025)年度に は 65 兆円(国民所得比 10.5%)にまで達するとされた。この是正策として平均在院日数の 短縮を含む医療費適正化方策の枠組みが示されたが、療養病床再編はこの医療費適正化計 画の一環である。平成 18 年 2 月、厚労省は、療養病床 38 万床(医療保険適用 25 万床、介 護保険適応 13 万床)を平成 24 年度までに医療保険適用の 15 万床にする方針を打ち出し、 ここで削減される 23 万床は、医療の必要性の低い、いわゆる社会的入院と見て老人保健施 設、ケアハウス、有料老人ホーム、グループホーム、在宅療養支援拠点等に病床転換する こととした3)。厚労省は、医療法人が有料老人ホームや高齢者専用賃貸住宅を設置するメ リットとして、「必要に応じて在宅医療と介護サービスを一体的に提供することにより、 医療機関併設という特色を活かした安心の提供と経営の多角化が可能となる」と謳い、医 療法人経営の選択肢の拡大を示唆した。これを後押しすべく、平成 20 年度の診療報酬改定 ─ 7 ─ 有料老人ホーム契約について では、居住系施設の入居者等に対して提供される医療サービスに、従来の訪問診療と同様 の評価をすることとした4)。 この療養病床再編は、「それまでの日本の医療の基本ポリシーであった『施設入所を中 心とする医療サービス提供』というパラダイムにメスを入れた、大胆な供給サイドの改革」 とされ、「医療依存度の低い高齢患者が多数入所している『介護型療養病床』を…『介護 保険施設』に転換させ、並行して在宅ケアの充実を図る」ものである。「つまり医療提供 サイドからみれば、…現状の医療機関の非効率を改善し、医療機関の保有する資源をより 有効に…活用できる状況を生み出そうとしている」と評価されるところでもある5)。しか し、政策実行のため厚労省が各都道府県を通じて調査し、必要とされる療養病床数を積み 上げたところ、現状と同じ 25 万床前後となり、現場の同意が得られていないことがあから さまになった。そして早くも平成 20 年 5 月には削減計画の変更を余儀なくされ、政策は迷 走の域に入って行く。民主党への政権交代後の平成 21 年 11 月には、長妻厚労相(当時) が療養病床削減計画の見直しの意向を明らかにして実態調査を指示し、厚労省は平成 22 年 1 月と 4 月に「療養病床の転換意向等調査」を実施した。調査結果から、平成 22 年 3 月までの転換状況(1 月調査)は、医療療養病床からの転換が、一般病床 76%と最も多く、 介護老人保健施設への転換 10%、その他の施設はわずか 1%に留まることが分かった。そ れどころか、医療療養病床を増床している施設も多くあり、増床数は合計で 29,057 床に上 っている。介護療養病床からの転換では、医療療養病床が 85%と圧倒的であった。このよ うに、病床から病床への転換が大部分で、厚労省が計画していたような病床から居住系ケ ア施設への転換はほとんどなされていないのである。さらに、平成 24 年 3 月までの転換意 向の問いには、医療療養病床全体の 71%が「現状維持」、25%が「未定」と回答しており (4 月調査分)、96%が転換への具体策を持っていないと答えている。平成 23 年度末に介 護型療養病床の廃止が決まっているにもかかわらず、現場は全く動いていない現状が露呈 したかたちだ。この調査結果を受けて、平成 22 年 9 月 8 日、計画の凍結が正式に表明され た。 こうして政策は仕切り直しを迫られることになったが、医療費の抑制はもはや一刻を争 う焦眉の課題であり、その中で療養病床の再編も、実現プロセスに課題は多いものの、い ずれ何らかのかたちで断行しなければならないことは確かであろう。また超高齢社会にお いて、医療と介護や生活ケアの連携ニーズは高まる一方であり、「高齢者(特に後期高齢 者)は、複数の疾病を抱える場合が多いだけでなく、身体機能の低下や認知症の発症に伴 い介護需要も高まる。臓器別ではない全人的な医療、介護・福祉等と連携し日常的な生活 をサポートする医療、尊厳ある看取りの医療等が重要となる」6)。医療法人が地域に必要 なケアを切れ目なく提供することは強く求められている。 ところで、医療現場の躊躇とは裏腹に、計画で病床転換先としてあがっていた有料老人 ホームは近年急増している。ここに潜在する医療ニーズに応えることができれば、大いに ─ 8 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 ビジネスチャンスになる様相である。有料老人ホームは、これまで民間経営で展開されて きたが、その契約の特殊性には配慮を必要とすることも多い。本稿では、有料老人ホーム の現状等を分析し、法的課題を整理して、有料老人ホーム契約の公正な運用のためには何 が必要かを考えたい。 2 有料老人ホームへの期待の加速 有料老人ホームは、平成 12 年の介護保険法施行以来、施設数、在所者数とも増加の一途 である。平成 15 年の施設増加率は 50.6%に上り、それ以降も 3 割以上の増加率で推移して おり7)、平成 21 年 10 月 1 日現在、施設数は 3,565、定員 183,245 人、在所者数 148,402 人 となっている(図 1)。また、経営上の採算ラインは、一般に在所率 70%といわれるとこ ろ、平成 12 年以降も継続してこれを上回り、平成 21 年には 81.2%に達している(図 2)。 (図1) 有料老人ホームの施設数・定員・在所者数の年次推移 200000 4000 3500 160000 定員(人) 140000 在所者数(人) 120000 施設数 3000 2500 100000 2000 80000 1500 60000 施設数 定員・在所者数(人) 180000 1000 40000 500 20000 0 0 2 平成(年) 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 (資料) 厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成8年~21年)より作成 注 : 平成21年は調査対象施設のうち回収できなかった施設があるため、定員、在所者数は20年以 前との年次比較には適さない。 (図2) 有料老人ホーム在所率年次推移 100% 95% 90% 85% 80% 75% 70% 65% 60% 55% 50% 81.2% 採算ライン70% 平成 2年 在所率 77.6% 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 71.2%70.9%70.9%70.1%71.4%71.0%71.2%74.3%75.1%72.9%72.5%74.3%77.4%79.6%81.2% (資料) 厚生労働省「社会福祉施設等調査」(平成8~21年)より作成 近年は、高齢者向けの住宅・施設も多様化して、高齢者の個別事情に対応できるように ─ 9 ─ 有料老人ホーム契約について なり、各施設・住宅ともそれぞれその在所者数を伸ばしているところが多い。その中で、 施設数の伸びこそ小規模な施設である認知症高齢者グループホームが有料老人ホームをや や上回るものの、在所者数では、有料老人ホームが最も大きな伸びを示している(図 3)。 (図 3) 主な高齢者向け住宅・施設数及び在所者数の推移等 資料:消費者委員会「有料老人ホームの契約に関する実態調査報告」より転載 ビジネス展開にあたっては、こうした状況がいつまで続くのかが問題であるが、次のよう なデータが参考になろう。 国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口―平成 18(2006)~67(2055)年」 の推計によると、日本の総人口は 2005 年以降長期にわたって減少が続くが、老年人口(65 歳以上)は平成 53(2041)~54(2042)年まで増え続ける見込みで、ピーク時には最小推計値 でも現在より約 1 千万人増の 37,256 千人になるとされる(平成 20 年の老年人口は 28,217 千人8))。また、家族構造の変化も著しく、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世 帯数の将来推計(全国推計)」(2008 年 3 月推計)によれば、平均世帯人員は 2005 年の 2.56 人から 2030 年の 2.27 人にまで縮小し、家族類型も「単独世帯」「ひとり親と子から 成る世帯」が増加するという。世帯主が 65 歳以上の世帯に限って見ると、 「単独世帯」は、 2005 年の 387 万世帯から 2030 年の 717 万世帯へと 1.86 倍に増大する見込みであり、「夫 婦のみの世帯」も 2030 年には 569 万世帯になるという。2030 年には世帯主が 65 歳以上の 世帯の 67.6%が「単独」または「夫婦のみ」の世帯になるというのである9)。今後四半世紀 にわたって、高齢期の単独世帯、夫婦のみ世帯が増加することは、誰かの見守りと手助け を必要とする終末期の居住と介護の選択として、有料老人ホームのニーズの益々高まるこ とが予測される。 実際、内閣府の「介護保険制度に関する世論調査」(平成 22 年 9 月)によれば、「自分 自身が介護を受けたい場所」について、「介護付きの有料老人ホームや高齢者住宅に住み 替えて介護を受けたい」と答えている人は 18.9%になる。これが女性に限れば 21.9%とさ ─ 10 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 らに高くなる。年齢階層別にみると、「有料老人ホーム」は 60 歳以上では 10%台に留ま るものの、60 歳を境に指向が変わり 50~59 歳では 20.2%、20~29 歳になると 26.6%と若 い世代ほど多くなっている(図 4)。また「家族に介護を受けさせたい場所」でも、やは り年代層が低くなるにつれて「有料老人ホーム」を希望する人は多くなり、20~29 歳では 25.5%になる。これから老後に備える世代、これから介護に備える年代層ほど有料老人ホ ームへのニーズと期待が高くなっていることが伺える。さらに、介護を受けたい場所とし て各種施設を選択した人が「介護施設等を選ぶ際に重視する点」として挙げた一位は、「具 合が悪くなった時にすぐに治療や看護が受けられること」で 63.7%であった。施設を指向 する人にとっては医療的ケアの充実が大きな選択の誘因となっていることがわかる。こう した中で、例えば医療法人の参入の意味を、「経営主体の問題というよりは、有料老人ホ ームの医療体制の大きな変化を促す」契機と捉える向きもある。「現在は、名目では『終 身介護』を謳っていても、最終的には連携する医療機関に転院して最後を迎えることが多 い。今後は、本当に最後の看取りまで可能な有料老人ホームや、人工透析等の特殊な医療 が必要な高齢者のみを対象とするような有料老人ホームが出てくる」ことが期待されてい る10)。 (図4) 自分自身が介護を受けたい場所 0% 総数〔3272人〕 20% 37.3 40% 60% 80% 18.9 100% 26.3 12.9 〔性別〕 男性〔1493人〕 女性〔1779人〕 44.7 31.1 15.3 21.9 22.6 12.7 29.3 13 〔年齢階層別〕 20~29歳… 34.6 26.6 26.2 7 30~39歳… 34.4 24 30.1 7.8 40~49歳… 34.1 25.1 27.7 10.7 50~59歳… 60~69歳… 70歳以上… 65~74歳… 75歳以上… 32.2 39.9 43.9 40.0 45.0 20.2 30.7 15.5 7.7 14.7 20 特別養護老人ホームや老人 保健施設などの介護保険施 設に入所して介護を受けたい 病院に入院して介護を受けた い その他 一概に言えない 18.7 23.1 18.3 介護付きの有料老人ホー ムや高齢者住宅に住み替 え て介護を受けたい 12.8 25.6 10.3 14.8 現在の住まいで介護を受け たい 17.9 わからない 19.9 (資料) 内閣府「介護保険に関する世論調査」(平成22年9月)より 3 有料老人ホームの類型と規制 3-1 有料老人ホームの類型 有料老人ホームは、老人福祉法において「老人を入居させ、入浴、排せつ若しくは食事 の介護、食事の提供又はその他の日常生活上必要な便宜であって厚生労働省令で定めるも のの供与(他に委託して供与をする場合及び将来において供与をすることを約する場合を ─ 11 ─ 有料老人ホーム契約について 含む。)をする事業を行う施設であって、老人福祉施設、認知症対応型老人共同生活援助 事業を行う住居その他厚生労働省令で定める施設でないもの」と定義される(第 29 条第 1 項)。つまりは、生活介護サービスを提供する「老人福祉施設」(特別養護老人ホームや 老人保健施設など)以外の施設ということである。老人福祉施設は、老人福祉法に基づい て社会福祉法人などの公益法人又は市町村などの公的機関が事業主体となっており、建 設・運営などに補助金が投入される。そのため利用料も相対的に安価になる。これに対し て、有料老人ホームは、経営主体に法律上の制限はなく、株式会社や NPO も届出により開 業できる民間の事業であり、原則として建設等に公的な資金援助はないため、各種経費は すべて入居者の支払う入居金や利用料から賄われるという違いがある。しかし、老人福祉 施設は、順番待ちの期間もかなり長くなっており、高い介護度などの入居条件をクリアし なければならず、サービスも一律になる。それゆえ、こうした施設では思うようなケアが 受けられないと感じたり、金銭的に余裕のある人は、多少のお金は払ってでも自分のライ フスタイルにあった生活とケアを提供してくれるところで暮らしたいという人は増えてお り、こうしたニーズをターゲットに新たなサービスを展開しているのが有料老人ホームの 事業といえる。 有料老人ホームは様々な営業形態で自由に展開されてきたが、現在は次のように定型的 に分類される。表示もこれに従わなければならない11)。 まず施設は次の4類型に分類される。 ①介護付有料老人ホーム(一般型特定施設入居者生活介護)12) 介護等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。介護が必要となっても、当該有料老人 ホームが提供する特定施設入居者生活介護を利用しながら当該有料老人ホームの居室で生 活を継続することが可能である(介護サービスは有料老人ホームの職員が提供する)。 ②介護付有料老人ホーム(外部サービス利用型特定施設入居者生活介護) 介護等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。介護が必要となっても、当該有料老人 ホームが提供する特定施設入居者生活介護を利用しながら当該有料老人ホームの居室で生 活を継続することが可能である(有料老人ホームの職員が安否確認や計画作成等を実施し、 介護サービスは委託先の介護サービス事業所が提供する)。 ③住宅型有料老人ホーム13) 生活支援等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。介護が必要となった場合、入居者 自身の選択により、地域の訪問介護等の介護サービスを利用しながら当該有料老人ホーム の居室での生活を継続することが可能である。 ④健康型有料老人ホーム 食事等のサービスが付いた高齢者向けの居住施設。介護が必要となった場合には、契約を 解除し退去しなければならない。 契約内容も定型的に分類される。 ─ 12 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 まず、居住の権利形態の類型には、①建物賃貸借方式(賃貸住宅における居住の契約形 態で居住部分と介護等のサービス部分の契約が別々になっていて、入居者の死亡をもって 契約を終了しない)、②終身建物賃貸借方式(高齢者の居住の安定確保に関する法律の規 定に基づく建物賃貸借契約の特別な類型)、③居住部分と介護や生活支援等のサービス部 分の契約が一体となっている利用権方式の三つがある。このうち最も多いのが利用権方式 である。 利用料の支払い方式の類型には、①一時金方式(終身にわたって受領する家賃相当額等の全部又は 一部を前払金として一括して受領する方式)、②月払い方式(前払金を受領せず、家賃相当額等を月払 いする方式)、③選択方式(入居者により、一時金方式と月払い方式のいずれかを選択できる)、の三 つがある。このうち入居一時金を要する施設が圧倒的に多い。 さらに、介護保険法上の指定の有無で分類される。指定を受けるためには介護保険法に 基づく運営基準等の遵守が要請される。指定を受ければ、介護保険法による居宅サービス が提供でき、特定施設(介護保険法第 8 条第 11 項)、地域密着型特定施設(介護保険法第 8 条第 19 項)と称される。広告、パンフレット等において「介護付き」、「ケア付き」等の表 示を行うことができるのもこれらの施設のみである。 有料老人ホームは、以上のような諸類型の組み合わせで理解される。 3-2 有料老人ホームの規制 有料老人ホーム事業は各種の規制に服さなければならない。高齢者の市場ニーズに応え て契約関係の中で新たなサービスを展開していくのが有料老人ホーム事業だが、精神的・ 肉体的に衰えていくことが必至の高齢者を契約相手にしている上に、事業の破綻やサービ ス低下が高齢者の生活の安全を決定的に脅かすおそれが高いため、この私人間の契約には 行政等が適切に関与する必要性が出てくる。さらに近年の利用者の急増からその要望も高 まっており、各種規制は次第に整備強化される方向に向かっている。 有料老人ホームの法規制は老人福祉法を主軸になされている。平成 2(1990)年の大幅改 正で、同法には新たに有料老人ホームの章が設けられるとともに法規定もかなり詳細にな った。その後も平成 12 年の介護保険制度導入に伴う改正など、最近では平成 18 年の改正 を経て、より規制強化されている。具体的には、有料老人ホームの設置・廃止等には都道 府県知事への事前届出が必要とされること(第 29 条第 1-3 項)、帳簿作成義務(第 29 条 第 4 項)の規定が置かれ、加えて平成 18 年改正老人福祉法には、重要事項説明書の交付(同 法第 29 条第 5 項)、前払金の算定基礎の書面化と保全義務化(老人福祉法第 29 条第 6 項)、 都道府県の立入検査権の付与(同法第 29 条第 7 項)、改善命令(第 29 条第 9 項)等が追 加された。また、有料老人ホーム協会についても、この法律の中に、名称の使用制限、業 務内容、厚生労働大臣の監督など(第 30 条-第 31 条の 5)の規定が置かれている。さら に、虚偽報告、未届け、検査拒否等に対しては、30 万円以下の罰金が課せられている(第 ─ 13 ─ 有料老人ホーム契約について 40 条)。 この老人福祉法の運用にかかるガイドラインとして、厚生労働省「有料老人ホーム設置 運営標準指導指針」がある。昭和 49 年に制定されて以来、行政指導の指針となっているが、 現行の指針は平成 18(2006)年に改正されたものである。この「指針」には、①基本事項、 ②設置主体、③立地条件、④規模及び構造設備 、⑤職員の配置等、⑥施設の管理・運営、 ⑦サービス、⑧事業収支計画、⑨利用料等、⑩契約内容等、⑪情報開示について基準、指 導指針が明記されている。平成 18 年改正では、⑨利用料等に、契約締結日から 90 日以内 の契約解除の場合、一時金の全額を利用者に返還するという短期解約特例制度(いわゆる 90 日ルール)が新たに追加されたことが特記すべきことであろう。この「標準指導指針」 を範型にして、各都道府県が地域の状況に応じて「指導指針」を制定し、実際の指導に当 たっている。 この他、平成 16 年 4 月 2 日公正取引委員会告示第 3 号「有料老人ホームに関する不当な 表示」による不当広告の規制14)や、社団法人全国有料老人ホーム協会による指導・勧告、 標準入居契約15)、各種モデル・ガイドラインの策定16)(老人福祉法第 31 条の 2 第 1 項第 1 号による)などがある。政策融資により育成を図るなどの行政の関与も行われている。 有料老人ホームへの規制は、このように法律、行政指導、業界自主規制と様々なレベル で行われる。しかし、老人福祉法の規定は基本的には抽象的かつ包括的な規定に留まり、 規制は、強制力のない行政指導を基本になされている。これは、契約自由の原則を基本と しつつ、創意工夫によって多様なサービスに応える民間の自由な活動への制限を最小限に して、市場の規範・秩序を維持するのに最低限必要な規制について、その実効性を確保す るというスタンスによるものである。しかし、有料老人ホーム施設数の急激な増加と利用 者増加に伴って苦情が急増してきたこと、加えて、そもそもこの契約が不確定で特異な性 質のものである上、契約弱者になりがちな高齢者を一方当事者としていることなどを背景 に、規制の各レベルで次第に強化がなされてきている。次に、急増する苦情の実態と規制 の実情を見てみよう。 4 有料老人ホーム契約の問題点 4-1 実態調査から 平成 22 年 12 月の消費者委員会「有料老人ホームの契約に関する実態調査報告」17)から この契約の現状を整理する。 調査結果によると、全国の消費者センターや独立行政法人国民生活センターに寄せられ る有料老人ホームに関する相談件数は年々増加しており、平成 21 年度は 428 件と平成 17 年度の 1.7 倍になっている。もっとも、入居者は一旦入居した後で不満に思うことがあっ たとしても、代わりの施設等を容易に見つけることもできないので、苦情や相談を言い出 さずに済ますことも多いといわれており、データに現れない潜在的な相談件数が少なくな ─ 14 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 いことは留意すべきであろう。相談内容を見ると、全体の 8 割にあたる 340 件に「契約・ 解約」に関する相談が含まれており(図5)、具体的には、「入居後短期間で退所したが、 少額しか返還されない」、「退去時に原状回復費用として高額なリフォーム代を請求され た」、「解約をしたが、返還期日が過ぎても返還金が支払われない」といった内容となっ ている。さらに、トラブルの中には、返金支払遅延(ホームの資金繰り等を理由に契約ど おりの時期に返還金を返さない等)に関するもの等の深刻な問題も少なからずあり、その 内容には明らかな法令違反をうかがわせるものもあって、データを分析した消費者委員会 は、改正老人福祉法による規制強化が十分に機能していないことが疑われると評価してい る。 (図5) 資料:消費者委員会「有料老人ホームの契約に関する実態調査報告」 このような基礎データを背景に、消費者委員会は、首都圏 4 都県(埼玉県、千葉県、東 京都、神奈川県)の有料老人ホーム(平成 22 年 11 月末現在 1,357 施設)を対象に有料老 人ホームの契約にかかる実態調査を実施した。これらの 4 都県には、全国の消費者センタ ーや独立行政法人国民生活センターに寄せられた相談件数のうちの 4 割が集中しており、 今後、他の道府県でも高齢化の進展に伴って 4 都県と同様の問題が顕在化する可能性があ ると予想されるため、パイロット的サンプルとされたものである。調査内容は①入居一時 金の徴収の有無、金額の実態、②入居一時金の償却(初期償却率、償却期間)の実態、③ 短期解約の特約(90 日ルール)についての記載の有無、④保全措置の実施実態である。 調査の結果、4 都県内の施設で前払金を受領する方式の合計 1,196 施設のうち、重要事 ─ 15 ─ 有料老人ホーム契約について 項説明書において 90 日ルールの適用に関する規定が確認できないものが 370 施設(30.9%) もあり、また、90 日ルールの適用期間が実質的には 90 日より短い期間となっているとみ られるものが相当数みられるなど、「指導指針」の趣旨とは異なる取扱いの契約内容が規 定されている例が多数確認された。加えて、90 日ルールを適用している施設のうち、約 4 割が、死亡した場合は同ルールを適用しないとしており、これも「指導指針」の趣旨に合 致するものではない。 前払金についても、その保全方法(老人福祉法施行規則第 20 条の 10)は、「厚生労働 大臣が定める有料老人ホームの設置者等が講ずべき措置」(平成 18 年 3 月 31 日厚生労働 省告示第 266 号)に定められた方法に従わなければならないが、4 都県内で平成 18 年 4 月 1 日以降に事業を開始18)したとする 519 施設のうち、前払金の保全措置義務に違反してい るとみられる事業者が計 148 施設(28.5%)にも上っていることがわかった。 その他、一時金の償却年数については、「指導指針」で平均余命を勘案し決められてい ることと規定しているところ、4 都県内で前払金を受領する 1,196 施設のうち、年齢によ り償却期間等の設定を変えているものは 398 施設(33.3%)に留まり、残り 798 施設(66.7%) においては一定期間の設定又は部屋のグレードや支払いプランによる料金体系となってい ることがわかった。 以上のように、90 日ルール、一時金の保全措置ともに、どちらも約 3 割が違反した状態 にある。一時金の償却年数の設定に至っては、7 割近くも守られていない状態である。保 全措置については、間接罰だが罰則もある(老人福祉法第 39 条)19)。こうした結果からは、 老人福祉法等関係法の規制が有効に機能しているとは言い難い状況にあることがわかる。 この調査の後、消費者委員会は厚生労働大臣に対して「有料老人ホームの前払金に係る 契約の問題に関する建議」20)(平成 22 年 12 月 17 日)として次の3点を提示した。 1、90 日ルールの法制化・明確化(90 日ルールを老人福祉法及び施行規則に新たに条項 を追加する措置など)。 2、前払金の保全措置の徹底(老人福祉法第 29 条第 6 項の保全措置義務規定の実効性を 確保する観点から、直罰規定の導入などの措置を講ずること)。 3、その他設置運営指導指針規程の徹底等(前払金の償却年数は一定のひな型を設ける、 老人福祉法第 29 条第 6 項の前払金の算定基礎の書面明示義務を指導指針等で明確に規定す る、消費者が有料老人ホーム入居契約前に相談できる公的な仕組みを整備する)。 さらに、厚生労働省に対して、平成 23 年 6 月までにこれらの建議事項の実施状況の報告 が求められている。 消費者委員会は、平成 21 年(2009 年)9 月 1 日に内閣府に設置された新しい組織である が、本建議は、平成 22 年 8 月に「自動車リコール制度に関する建議」に続く2例目の建議 であり、この問題の緊急性が伺われよう。 この消費者委員会の建議は、細部にわたるきわめて具体的なものであるが、基本的には、 ─ 16 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 既存の法規定の罰則を強化し、規程をより具体的に明確化することで実効性を高めようと いうものである。しかし、法制化・規程化されて 4 年以上経っても十分機能しているとは いえず、罰則が科されている条項でさえ未だ 3 分の 1 程度もの違反が見られるというのは、 規定を作り、罰則を設けるだけでは解決にならず、個別の監督強化・摘発をきめ細かに行 わなければならないことを教えている。しかし、法的制限や行政指導に頼る方向で契約の 公正さを保つことは、多大なコストを要することとなる。こうした指導監督・摘発は、現 在、都道府県等地方自治体が主体となって行っているが、今、自治体はどこも財政難に喘 いでおり、必要性は高くても、今後、他の行政施策を削ってでもこうした民間の事業の監 督にコストをかけることは考えにくい。業界団体やオンブズマン、第三者機関をチェック 機関として育成していくことが必要になろう。 規制強化以外に問題解決の方途はないのだろうか。消費者委員会は、有料老人ホームの 規制について「契約自由の原則を基本としつつ、市場の規範・秩序を維持するのに最低限 必要な規制について、その実効性を確保する必要がある」21)との視点を基本にしている。 であるなら、なによりまずこの契約の性質決定をより明確にし、紛争解決手段を提示して おくことで、市場規範の中で公正に運用する基盤をつくることが必要と考えられる。さら には判例の集積による規範化も重要だろう。そこで、次に有料老人ホーム契約の特性を考 えてみたい。 4-2 有料老人ホーム契約の特性と問題点 有料老人ホーム類型のうち、居住の権利形態として利用権方式が最も多いことから、以 下、利用権方式を念頭に有料老人ホーム契約を考えてみたい。有料老人ホーム契約の特性 や問題点の指摘には、数は少ないものの先行の優れた研究があり22)、それらに従えば次の ような論点が挙げられよう23)。 1) 契約の法的性質は、強いて言えば、賃貸と準委任との混合契約的な無名契約である。 つまり、一つの契約の中に、居住施設の利用という賃貸借的要素と、食事の提供や健康管 理、各種生活・介護サービスの提供という準委任やサービス供給契約的要素を複合した契 約である。この契約の性質については他にも一種の有償の終身定期金契約や賃貸借、居住 権等を持ち出す議論もあるが、「既存の典型契約の規定を寄せ集めてきて類推するだけで は終身利用型のホーム契約を捉えることは難しい」24)というのが正当であろう。こうした 多様で不確定要素の多い性質を、次のような新たな契約構成の中でトータルに考えようす る論者もいる。河上教授は、「当事者の意図は、単なる居室の利用に向けられているわけ ではなく、同等あるいはそれ以上に、これに結びつけられたサービス(とりわけ老後の身 の回りの世話や介護)への期待にも向けられていること、しかも、対価(とくに入居一時 金)が厳密に個々の給付と対応関係に立っているのではないことからすると、まずもって 『ホームが終生にわたって入居者の生活の場を提供し、世話をし、支援する』という、極 ─ 17 ─ 有料老人ホーム契約について めて抽象的かつ包括的な債務を目的とした大きな『枠契約(Rahmenvertrag)』を考える立体 的理解が適当である」と提言する25)。また、内田教授の提示される「制度的契約」という 新しい契約概念は、特定の当事者同士の契約関係でありながら「国が財やサービスを国民 に対して提供する場面に要請される配慮」と共通するような配慮を要するような性質の契 約を指すが、有料老人ホーム契約を考えるにあたって、この「制度的契約」の考え方も参 考になると思われる 25-1)。 2) 契約当事者双方にも特性がある。まず設置主体は、厚労省の指導指針が一定の基準 を設けている。それによれば、社会福祉法人である必要はないが法人である必要があり、 個人は設置者になれない。加えて、「事業を確実に遂行できるような経営基盤が整ってい るとともに、社会的信用の得られる経営主体であること」、さらに「役員等の中には、有 料老人ホーム運営について知識、経験を有する者等を参画させること」が挙げられている。 多数の老人の終身利用を目的とする長期にわたる継続的な契約という特色から、有料老人 ホームは一旦事業を開始すると撤退が困難ないし社会的に好ましくない事業であり、継続 的かつ安定的な経営が他と比較して強く要求される公益的色彩の強い事業であることか ら、こうした規制が設けられている。 他方、入居者となる高齢者は、確実に肉体的精神的に衰えていく存在であり、財産管理、 身上監護の両面において保護を必要とする契約当事者である。この点で、消費者保護的発 想だけでは処理しえず、社会福祉的発想をも必要とする法律問題を提起する契約類型であ るといえる。それゆえ、設置主体が経営困難ないし倒産した場合の入居者の保護手段、入 居者が支払い不能と成った場合の対応策が特に強く要求される。 このように、契約当事者である設置主体たる事業者と利用者の間には、きわめて不均衡 な関係が初期条件としてあり、契約の公正さを保つには相当な配慮が必要なことがわかる。 3) 契約内容の特性は多く複雑でもある。まず、事業者の債務は、長期にわたる継続的 な、あるいは回帰的な給付であるだけに、社会状況やホーム設置者や入居者の事情の変更 に応じた可変的なサービスの提供が必要とされ、どの程度のサービスを提供すれば、債務 の本旨に従った履行となるのかが争われる可能性が高い契約である(手段債務の特性でも ある)。このような債務不履行の場合の債権者の保護手段として、通常の契約解除や損害 賠償の請求といった保護手段では必ずしも十分とはいえない。また入居者の債務について も、入居金支払債務の性質・内容、そして管理費等の費用増額問題、支払能力の減退した 場合の措置が問題になる。 こうした給付内容、とくに役務について、その種類、範囲が定量化できないことが契約 内容を不明瞭にし、理解しづらくしているだけでなく、対価関係の透明度が低くなること も特記すべきであろう26)。 また、有料老人ホーム、特に利用権方式の設計思想には、「それぞれのサービスの低廉 化のみならず、保険的な手法を用いることで入居者各人が介護費用を拠出し、将来の予想 ─ 18 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 しがたい費用負担に対する不安を断ち切ろうとする手法が導入されている」27)。介護部分 については、平成 12 年から介護保険がカバーすることとなったが、生活部分についての費 用は、入居費用にこうした相互扶助の保険的要素があることも特徴としてあげられる。つ まり「入居者達は、有料老人ホームという集団に参加することによって、いわば『長寿リ スク』を保険的に分散させる射倖契約」28)に組み込まれるという対価の構成原理と充当の 仕組みに従っており、対価的目的物の私的購入部分と入居者相互の保険的部分の混在もま た、対価関係を不明瞭にしやすいといえる。 4) ホーム契約の終了は、入居者の死亡、病気、解約等が予想されるが、その際、入居 金の精算問題、入居者の持込財産の処理の問題、さらには他の施設への移転(病気や経済 的理由による解約の場合)をめぐる問題がある。 とくに入居一時金が高額なことも手伝ってホームを退去すること、契約解消が難しいこ とはしばしば指摘されるところである29)。ホーム側からの一方的解消が入居者にとって文 字どおりの死活問題になりかねず、それまでの住居を処分したり、手持ちの老後資金の大 部分を投入せざるをえない多数の入居者の存在を考えると、契約関係を解消することによ って問題を解決使用とする手法では、さらなる問題を生み出すことになる30)。ホーム側の 債務不履行に対する入居者からの解除であっても同様であり、これについては以下の裁判 例で取り上げる。これと関連して、ホームが第三者に譲渡されたり、倒産した場合、入居 者が契約上の権利を主張できるのは契約の当事者であるホームに対してだけであり、ホー ム以外の第三者にまで基本的には権利主張はできないし、こうした状態になったとしても、 返金がほとんどないか少額になる以上、入居者は現実問題として出るに出られないという のが実状である31)。 以上のような論点が挙げられるが、さらに付け加えると、入居契約成立までの取引は、 他の商品と同様、市場に開かれているが、「いったん入居してからは、顧客は市場とは切 り離されて、もっぱら大きな消費共同体の構成員として存在することになる。極端ないい 方をすれば、閉じた社会の中で、入居者が持ち寄った資金を共同で消費していくにすぎな い」という入居契約時の市場的性格と入居後の閉鎖的性格も一般的な契約とは大きく異な るところである。さらにいえば、有料老人ホーム契約のような継続的給付においては、「当 初の目論見とは異なる経済的社会的状況の変化や、入居者からも様々な新たな要求が生じ てくることが避け難い」が、先にも挙げたように契約関係を解消して新たな取引先を求め ることの難しさを考えると、集団そのものは「終身にわたる運命共同体」という性格も有 することになる。こうしたことから、有料老人ホーム契約は、事業者対消費者という『対 抗の図式』にも、団体内部の利害調整という『協調の図式』にも、うまく乗りにくいとい う特性が明らかになる32)。 このように有料老人ホーム契約は、終身にわたる居住と介護サービスという極めて特殊 な給付を目的とする契約であるだけに、伝統的な契約理論による把握には容易ならざるも ─ 19 ─ 有料老人ホーム契約について のがある。そもそも営利に馴染まないものを、有償のサービス契約として位置づけること等 からくる無理や危険の存在は否めず、契約法あるいは約款法上の問題としても極めて不完 全な形でしかとらえられないということである。また、入居者の能力が衰退中であるとい う事実は、有料老人ホーム契約の著しい特徴であり、様々な方向で伝統的な考え方に対す る修正を必要とするであろう33)。有料老人ホーム契約は極めて新しいタイプの契約類型で あるといえるが、それゆえ抜本的には、既存の法適用や付加的な改正では間に合わず、有 料老人ホームを対象とした特別立法を制定すべきという主張もしばしばなされる。 とはいえ立法化には契約全般を見渡した議論の深化と時間が必要であり、事はそう容易 でない。しかし、その場合でも判例による規範化はある程度代替手段になりうる。次には、 そうした判例の一つを取り上げよう。 5 有料老人ホーム経営者の責任 有料老人ホームの法律関係に関する判決は未だ数少ないが、次の判例は、一時金方式の 終身利用型有料老人ホームの特質やそこから導かれる設置者の責任等に言及した興味深い 裁判例である。 津地裁判決平成 7(1996)年 6 月 15 日(判例タイムズ 884 号 193 頁、判例時報 1561 号 95 頁)34) 【事実の概要】 有料老人ホームAは、昭和 60 年 12 月に開業、定員が 413 名というかなり大規模 な施設であり、入居時には合計 3000 万円近い一時金を必要とするほか、食費・管 理費として月額約 10 万円を支払うこととされていた。しかし、実際の入居者は昭 和 61 年中に入居した原告ら 17 名を含む 23 名で、入居率が開業当初からわずか 6% に留まっていた。また昭和 61 年 6 月からは積極的な販売活動も行われていない。 そのため、収入の見込みが計画を大幅に下回り、サービス・設備ともに不十分であ るとして原告らは、平成 2 年夏頃に入居契約解除し、退去前には入居金全額等の返 還がなされた。しかし、原告らは、精神的苦痛などを被ったとして、有料老人ホー ムAとその親会社及び役員ら 4 名を相手取って、不法行為もしくは債務不履行に基 づく慰謝料等の損害賠償を求めて訴訟を提起した。 【判決要旨】 終身利用型の有料老人ホームの場合、入居者は将来の介護等を施設に委ねること を予定し、孤独感から開放された充実した晩年を送るべく終の棲家として入居して いる。この点で、一般のマンションや別荘の購入・賃借とは大きく異なり、契約上 も人的な各種のサービスの提供が重視されている。また多くの入居者は、持ち家を 処分するなどして入居金等を作るため、やり直しのきかない買い物となるのが通常 ─ 20 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 である。このような特質に鑑み、一般に老人ホーム経営者には次のような義務があ るという。「ホームの設置者は、入居者の期待に応えるべく契約内容とした諸施設 の充実を図つて役務の提供に努めるべきは勿論であるが、同時に、入居者に対する 契約内容の完全な履行のためには、相当数の入居者を確保し、かつ、その後これを 維持して安定した経営状態を作りホームの永続性を図るべき義務があると解され る。・・・・・また、老人ホームの設置者は、仮にホームを維持・継続するに足りる程 度の入居者が確保されないことが予測される場合には、将来契約上の債務の履行が 不完全に終わることが明らかなのであるから、早急に対応策を検討し、その事実を 入居契約者に告知して、入居者に不測の損害あるいは不満や不安を与えないように すべき注意義務があるものと解される。」しかるに被告有料老人ホームAの場合、 「事業計画に基づく老人ホームの経営が早晩破綻し、入居者に対する契約内容の履 行が完全に不可能になることが十分予測可能であったと認められる。したがって、 原告らに対し、これらのことを看過して、原告らと本件入居契約等を締結し、ホー ムに入居させて損害を生じさせたことにつき過失責任があるというべきである。」 また、有料老人ホームAの被告親会社(100 パーセント株式保有)も、「形式的に は別法人の事業とされているが、両会社は実質的には損益を共通にした一つの事業 体であると評価しうるものであり、対外部との関係ではともかく、特にAの入居者 であった原告らに対する関係においては、被告親会社は被告Aと共同一体的な会社 として、同一の責任を負うべきものと解するのが相当である」。親会社及びAの役 員であるその他の被告についても、経営が早期に破綻することは、十分予測可能で あったとして共同不法行為を認めている。以上から、被告らは原告ら 17 名各人に 対し、慰謝料、転居費用、弁護士費用(一人 825 万円から 275 万円、合計 9449 万 円)を支払うべきであるとした。 本件は、有料老人ホームの経営破綻につき、入居者から設置者らに対して不法行為を理 由とする損害賠償請求がなされ、しかもそれが一部容認された初めての裁判例である。 まず注目すべきは、本件が契約解消に伴い、既に入居金全額の返還がなされているにも かかわらず、訴訟が提起され、さらに裁判所も施設側の責任を認めたことだろう。本判決 は、有料老人ホームの特質を次のように述べている。「このような老人ホームの入居者は、 すべて相当の高齢者であって、近い将来介護を必要とする事態が生じたとき、自分を介護 してくれる近親者がいないか、あるいは近親者に介護を依頼することを希望せず、これを 全てホームの施設に委ねることを予定し、かつ、同世代の多数の人と生活・交際すること により、孤独感から開放され、心身共に充実した晩年を送ることを期待して、終の住処と して入居するものである。この点において一般の人がマンションや別荘地を購入、賃借す る場合と大きく異なっており、老人ホームの入居契約の場合には、入居者は単に物的施設 ─ 21 ─ 有料老人ホーム契約について を利用するだけでなく、人的な各種サービスの提供、特に病気や寝たきりになったときの 医療サービス・介護を受けることを重視しており、また、入居者は多くの場合持ち家を処 分するなどして入居金等を作るため、一旦入居すると他へ転所することは容易にできず、 終生その施設を利用することを予定して入居契約を締結するのであって、やり直しのきか ない一生に一度の買い物となるのが通常である。・・・・しかし、入居者は一般に、老人ホー ムの経営状態の健全性等を正しく把握し、これを監視することは難しい現状にある」。こ こに挙げられている特質は、前節で有料老人ホーム契約の特質として検討した要素の一部 にあたる。本件では特に、有料老人ホームの事業が、入居した高齢者の終身までの生活を 引き受けるものであること、入居者は人的なサービスの提供を重視して入居契約し、一旦 入居したなら転居が現実的に困難であるとった特徴を有すること、したがって、有料老人 ホームが破綻した場合、「高齢者は財産的損失の自力回復が困難であり、転居の現実的困 難さから生活基盤が危うくなり、精神的肉体的ダメージが相対的に大きいといった特徴」35) があることを重視しているようである。この入居者側の契約解消に伴うダメージへの配慮 は、慰謝料認定の背景にもあるように思える。すなわち、本判決では、被告らが倒産回避 に努力していたことや、原告らに対して入居金等の全額を支払い、また仮処分費用の補償 として入居者一名当たり 60 万円の金員を支払っていることを評価しながらも、 「諸般の事 情を考慮して」一人 700 万円から 250 万円の慰謝料認定に至っている。結論としては概ね 妥当であろうが、この慰謝料の算定根拠は明らかでなく、範とするには事足りないといえ よう。有料老人ホーム契約は契約内容も多様であり、料金設定や算出方法もまちまちであ ることから、一般化しにくいことは確かであるが、契約の性質特定はもう少し踏み込む必 要があるのではなかろうか。 次に注目すべきは、事業者に対する義務を明示したことである。本判決では、上記のよ うな契約の特質から、有料老人ホーム経営者には次のような義務があることも明言してい る。「ホームの設置者は、入居者の期待に応えるべく契約内容とした諸施設の充実を図っ て役務の提供に努めるべきは勿論であるが、同時に、入居者に対する契約内容の完全な履 行のためには、相当数の入居者を確保し、かつ、その後これを維持して安定した経営状態 を作りホームの永続性を図るべき義務があると解される」。また、将来契約上の債務の履 行が不完全に終わることが明らかな場合は、「早急に対応策を検討し、その事実を入居契 約者に告知して、入居者に不測の損害あるいは不満や不安を与えないようにすべき注意義 務がある」としている。したがって、経営者がこうした義務を怠った時、債務不履行ない し不法行為責任を負うことになる。 この判決以降に、改正された老人福祉法では、倒産なども含めて一時金の返還債務を負 う場合に備えて、一定額の保全措置義務が設けられた(第 29 条第 6 項)。また、同じく改 訂された「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」では、冒頭の基本事項の中で、有料老 人ホームで事業を計画するに当たって留意すべき事項として、「有料老人ホーム経営の基 ─ 22 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 本姿勢としては、入居者の福祉を重視するとともに、安定的かつ継続的な事業運営を確保 していくことが求められること」が規定され、さらに、市場調査の実施に基づく事業収支 計画の策定や情報開示が求められることになった。これらは、平成 7 年の本件判決で明示 された事業者の義務を基盤にして、さらに詳細に規定化したものといえよう。しかし、こ うした事業者に対する規制は、行政指導のレベルではなく、法律上の参入規制として一定 の財産的基礎要件が検討されてよい業種であり、また現行の前払金保全措置義務のさらな る徹底、破綻時の相互受け入れシステムなどが整備されるべきという提言があることも付 け加えておこう36)。 最後に注目すべき点は、親会社にも設置主体と同等の責任を認めたことである。判決は、 設置主体は親会社の 100 パーセント子会社であり、取締役の多くが共通であることから、 両社は実態的に同一の会社であると評価し、法人格否認の法理を採用したと見られている。 しかし、このケースでは、法人格否認の法理の要件である①法人格の濫用も、②法人格の 骸化も認めがたいことから、疑問を呈する意見が多い37)。 6 おわりに 以上、増加する有料老人ホームビジネスが、社会や地域、高齢者のニーズに応えて、そ の使命を果たしつつ事業展開してゆくためには、有料老人ホーム契約の公正さをいかに確 保するかが課題であり、本稿では法的規制強化、契約の明確化、判例による規範化といっ た三つの方法を取り上げた。 最後に取り上げた、判例による規範化の例では、判例の中で有料老人ホーム契約の性質 が定義され、経営者の責任の範囲が示されたが、こうした判例が集積されれば、規範形成 の一つの形になる。ところが、有料老人ホームの法律関係に関わる判例は数少ない。もち ろん、施設数と利用者数の増加は、これからこうした訴訟が次々と提起され、判例が蓄積 されて規範を形成していくだろうとも考えられる。しかし、当事者が終の住処を求めて入 居してきた高齢者であり、多くの場合訴訟への時間と労力、費用を投じる精神的肉体的経 済的エネルギーに乏しいことが予想される。さらに既に指摘したようなこの契約の特質で ある、事業者対消費者という『対抗の図式』にも、団体内部の利害調整という『協調の図 式』にもうまく乗りにくい性質は、同時に訴訟の形式にも乗せにくいということでもある。 こうしたことから、訴訟に至るケースが簡単には増加しないと考えるのが順当であろう。 また、提訴はしても、当事者の時間的・経済的利益を考慮して和解で解決し、判決に至ら ないケースは多い。以上を考慮に入れると、判例の蓄積による規範形成に多くを期待でき そうにはない。 そもそも、有料老人ホームのトラブルは事後救済が困難なケースが多く、事前規制で調 整をしっかりすべき領域である。しかし、行政改革の波は各方面でそのようなコストを削 減する方向に向かっており、この分野は保護の必要性があるとしても規制の強化が劇的に ─ 23 ─ 有料老人ホーム契約について 進むことも考えにくい。有料老人ホーム事業が、このまま市場の中で運用・展開されざる をえないのだとすれば、まずは契約の性質決定とサンクションの方法、紛争処理手続の提 示が必要であろう。さらに、契約の適正運用を見守るためには、行政も共同した社会的監 護が機能しなければ運用不全に陥ることは明らかであり、行政と業界、消費者団体は、有 料老人ホームの自治組織の育成、監督・監視を担う第三者機関、オンブズマンの育成に尽 力すべきであろう。 冒頭に取り上げたように、厚生労働省は医療費削減対策として療養病床削減を打ち出し、 その転換モデルとして、医療法人に有料老人ホームを含む居住ケア事業への参入を示唆し た。医療法人がこうした経営の多角化に乗り出し、市場である程度の予測可能性をもって 事業展開できるためにも、契約の型や効果の明確化は基礎作業として急務と思われる。 注 1) 「医療法人の附帯業務について」平成 19 年 3 月 30 日付厚生労働省医政局長通知 医政 発第 0330053 号。ただし「附帯業務を委託すること、又は本来業務を行わず、附帯業務の みを行うことは医療法人の運営として不適当である」と明記される。 2) さらに、平成 19 年 5 月 30 日からは、(1) 介護保険法施行規則(平成 11 年厚生省令第 36 号)第 15 条第 3 号に規定する適合高齢者専用賃貸住宅の設置、(2) 高齢者の居住の安定確 保に関する法律施行規則(平成 13 年国土交通省令第に規定する高齢者専用賃貸住宅の設置 が可能になった(「医療法人の附帯業務の拡大について」平成 19 年 5 月 30 日付厚生労働省 医政局長通知 医政発第 0530011 号)。 3) 厚生労働省「療養病床の再編成について」平成 18 年 2 月。 4) 厚生労働省『療養病床の再編成と円滑な転換に向けた支援措置について』(平成 20 年 3 月版)14-15 頁。 5) 安川文朗・岸川洋紀「療養病床再編で病院経営に問われるものとは」『医療経営白書』 2007 年度版 117-118 頁。 6) 島崎謙治「高齢社会における医療制度と政策」ジュリスト第 1389 号 40 頁。 7) もっとも、平成 18 年施行の改正介護保険法による特定施設の総量規制(介護保険法第 70 条第 3 項・第 4 項等)の導入後から、新設数はやや頭打ちとなっている。 8) 総務省統計局「日本の統計 2010」。 9) 小島武彦「高齢社会の現状と将来像、そこから見えてくる課題」ジュリスト第 1389 号 16-23 頁参照。 10) 吉武毅人「介護付き有料老人ホーム経営に関する一考察」 『第一福祉大紀要』第 5 号 133 頁。 11) 厚生労働省「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」(平成 18 年 3 月 31 日改正)別表「有 料老人ホームの類型及び表示事項」による。指針では、広告表示にあたってはこの別表の とおりに分類表示することとしている。 12) ただし、後述の特定施設入居者生活介護の指定を受けていない有料老人ホームについて は介護付と表示することはできない。②外部サービス利用型も同様。 13) 特定施設入居者生活介護の指定を受けていないホームにあっては、広告、パンフレッ ト等において「介護付き」、 「ケア付き」等の表示を行ってはならない。④健康型有料老人ホ ─ 24 ─ 広島国際大学医療経営学論叢 第4号 2011年3月 ームも同様。 14) 広告やパンフレットなど有料老人ホーム事業者が行う表示行為については、「設置運 営標準指導指針」中の「表示規定」、不当景品類及び不当表示防止法第 4 条第 1 項第 3 号 の規定による「有料老人ホーム等に関する不当な表示」に関する公正取引委員会告示と運 用基準、(社)全国有料老人ホーム協会の「有料老人ホームの広告等に関する表示ガイド ライン」などによって、ある程度の成果と改善が見受けられる。 内田耕作「有料老人ホームの取引の適正化と不当表示規制」『彦根論叢』第 367 号 (2007)pp.75-96 がこの問題について詳細に論じている。 15) 『有料老人ホーム標準入居契約書及び標準管理規程(4 訂版)』全国有料老人ホーム協会 (2006)。 『特定施設入居者生活介護等標準利用契約書及び解説(4 訂版)』全国有料老人ホー ム協会(2009)。 16) ケアリスクマネジメントモデル、身体拘束廃止行動計画モデル、有料老人ホームサービ ス評価システム、自主行動基準モデル、内部統制モデル、広告等に関する表示ガイドライ ン、個人情報保護ガイドライン、等 がある。 17) 消費者庁及び消費者委員会設置法第 6 条第 2 項第 1 号に基づく。 18) なお、前払金の保全義務については、原則として平成 18 年 4 月 1 日以降に届け出た有 料老人ホームに対して適用されるものであり、それ以前から事業を開始し、届け出ている 有料老人ホームについては努力義務とされている(老人福祉法附則(平成 17 年 6 月 29 日 法律第 77 号)第 17 条第 2 項及び同法施行規則附則第 3 項並びに指導指針) 。 19) 保全措置義務違反に対する罰則は、違法行為に対し即時に適用される直接罰ではなく、 まず都道府県知事による改善命令(老人福祉法第 29 条第 9 項)があり、次にこの命令に違 反した者に罰則(6 月以下の懲役又は 50 万円以下の罰金)が科される(老人福祉法第 39 条)間接罰になっている。 20) 消費者庁及び消費者委員会設置法第 6 条第 2 項第 1 号に基づく。 21) 消費者委員会「有料老人ホームの契約に関する実態調査報告」 (平成 22 年 12 月) 22) 下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995) 。丸山英氣編『高齢者居住法』信山社 (2003)。特集「有料老人ホームの法律問題」ジュリスト 949 号(1990)の諸論攷。後藤清「有 料老人ホームに関する若干の考察」民商法雑誌第 104 巻第 4 号(1991)445-457 頁。山口純 夫「有料老人ホーム契約―その実態と問題点」判例タイムズ 633 号(1987)59-69 頁など。 23) 下森定「問題の提起」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995)3-6 頁を中心に 整理した。 24) 矢田尚子「有料老人ホーム」丸山英氣編『高齢者居住法』信山社(2003)127-128 頁。 25) 河上正二「ホーム契約と約款の諸問題」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995) 170-171 頁。 25-1) 内田貴『制度的契約論─民営化と契約』羽鳥書店(2010)57-70 頁。 26) 矢田尚子「有料老人ホーム」丸山英氣編『高齢者居住法』信山社(2003)128-129 頁。河 上正二「ホーム契約と約款の諸問題」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995)163-165 頁。 27) 渡邊義夫「各国の老人ホームの現状―日本」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣 (1995)64-65 頁。 28) 河上正二「ホーム契約と約款の諸問題」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995) 166 頁。 ─ 25 ─ 有料老人ホーム契約について 29) 矢田尚子「有料老人ホーム」丸山英氣編『高齢者居住法』信山社(2003)127-128 頁。 河上正二「ホーム契約と約款の諸問題」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995) 165 頁。 31) 矢田尚子「有料老人ホーム」丸山英氣編『高齢者居住法』信山社(2003)129 頁。 32) 河上正二「ホーム契約と約款の諸問題」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995) 163-164 頁。 33) 河上正二「ホーム契約と約款の諸問題」下森定編『有料老人ホーム契約』有斐閣(1995) 162 頁、175 頁、182-183 頁。矢田尚子「有料老人ホーム」丸山英氣編『高齢者居住法』信 山社(2003)128 頁。 34) 本判決の評釈として、丸山絵美子『社会保障判例百選〈第 4 版〉 』230 頁、河上正二『社 会保障判例百選〈第 3 版〉 』228 頁、濱田盛一「取締役の第三者に対する責任・任務懈怠・ 会社の契約不履行」『立命館法学』第 308 号(2006)145-155 頁、前田修志ジュリスト第 1140 号 139 頁。 35) 丸山絵美子『社会保障判例百選〈第 4 版〉』231 頁。 36) 丸山絵美子『社会保障判例百選〈第 4 版〉』231 頁。 37) 濱田盛一「取締役の第三者に対する責任・任務懈怠・会社の契約不履行」 『立命館法学』 第 308 号(2006)154 頁、前田修志ジュリスト第 1140 号 142 頁。 30) 参考文献 丸山英氣編(2003)『高齢者居住法』信山社. 下森定編(1995)『有料老人ホーム契約』有斐閣. 内田貴(2010)『制度的契約論─民営化と契約』羽鳥書店. 後藤清(1991) 「有料老人ホームに関する若干の考察」 民商法雑誌第 104 巻第 4 号 pp.445-457. 濱田盛一(2006)「取締役の第三者に対する責任・任務懈怠・会社の契約不履行」『立命館 法学』第 308 号 pp.145-155. ジュリスト(2009)1389 号(特集「高齢社会と法の取組」) ジュリスト(1990)949 号(特集「有料老人ホームの法律問題」 ) 山口純夫(1987) 「有料老人ホーム契約─その実態と問題点」判例タイムズ 633 号 pp.59-69. 安川文朗・岸川洋紀(2007)「療養病床再編で病院経営に問われるものとは」 『医療経営白 書』2007 年度版 pp.117-131. 消費者委員会「有料老人ホームの契約に関する実態調査報告」(平成 22 年 12 月). (よしむら ともよ 医療経営学科 准教授) ─ 26 ─