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1.脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術

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1.脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術
● 推薦論文
1.脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術
須磨
松崎
1)
健 ,渋谷
1)
粛統 ,梅沢
1,
2)
1)
肇 ,高田 能行 ,中村
3)
1,
3)
武彦 ,石原隆太郎 ,片山
要
1)
真
1)
容一
旨
【目的】脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術(CAS)では,血行再建による脳
血流の変化と合併症を予測して治療戦略を立てることが重要と考えられる.そこで,頸動脈狭窄症に脳血管病変
を合併しているため,CAS に際して複数手技が必要であった症例について検討したので報告する.
【対象】2004
年 1 月から 2011 年 6 月までに当施設および関連病院で頸動脈狭窄症に対して CAS を行った 128 例中,脳血管
病変を合併した 10 例(7.8%)
,11 病変を対象とした.合併した脳血管病変は脳動脈瘤 6 例,頭蓋内内頸動脈狭
窄(tandem lesion)3 例,4 病変,硬膜動静脈瘻 1 例であった.【結果】脳動脈瘤に対して瘤内塞栓術が 5 症例,
経過観察が 1 例,頭蓋内内頸動脈狭窄に対するステント留置術が 3 症例,硬膜動静脈瘻に対する液体塞栓物質に
よる経動脈的塞栓術(TAE)が 1 例行われていた.脳動脈瘤合併例では,CAS の血流変化による悪影響がある
と判断した 4 例では一期的な全身麻酔下の CAS と瘤内塞栓術を行った.CAS の血流変化による影響が少ないと
判断した 2 例では 1 例で CAS に先行して瘤内塞栓術を二期的に行い,1 例では経過観察とした.Tandem lesion
例では,CAS のみでは血流改善が得られないと判断して,頭蓋内内頸動脈へのステント留置術は CAS を行った
後に一期的に施行した.硬膜動静脈瘻合併例では,access route の問題と脳血流への影響を考慮して,硬膜動静
脈瘻に対する TAE を先行させてから CAS を一期的に行った.治療成績は Glasgow Outcome Scale で GR が 8
例,MD が 3 例であり,治療による症状悪化例は認められなかった.
【結語】
CAS による脳血流の変化を予測し,
十分な治療戦略を立てることで脳血管病変を合併した CAS を安全に行うことが可能であった.
(脳循環代謝
23:120∼128,2012)
キーワード:carotid artery stenosis,carotid artery stenting(CAS)
,multiple cerebrovascular lesions
えられる.そこで,頸動脈狭窄症に脳血管病変を合併
はじめに
し,CAS に際して複数手技が必要であった症例につ
いて検討したので報告する.
近年,脳梗塞の予防的治療として頸動脈狭窄病変に
対
対して外科的血行再建術が多く行われてきており,特
象
に頸動脈ステント留置術(CAS)の増加傾向が著し
い.頸動脈狭窄症は冠動脈狭窄など他の部位の動脈硬
2004 年 1 月から 2011 年 6 月までに当施設および関
化性病変を合併しやすいことはよく知られているが,
連病院で頸動脈狭窄症に対して CAS を行った 128 例
頭蓋内の脳血管病変を合併している症例もしばしば経
中,脳血管病変を合併した 10 例(7.8%)
,11 病変を
験される.このような症例に対して CAS を行う際に
対象とした.全例男性で 64 歳から 80 歳までで,平均
は,血行再建によって生じる脳血流の変化を予測して
年齢は 73.2 歳であった.合併した脳血管病変は脳動
合併症の発生を防ぐ治療戦略を立てることが重要と考
脈瘤 6 例,頭蓋内内頸動脈狭窄(tandem lesion)3 例,
4 病変,硬膜動静脈瘻 1 例であった.
1)
日本大学医学部脳神経外科,2)相模原協同病院脳血管内治
療科,3)相模原協同病院脳神経外科
― 120 ―
1.脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術
Fig. 1. Right common carotid(CCA)artery angiogram of the cervical portion showing severe
stenosis(arrow)
(A)
, and after CAS showing slightly stenotic lesion of the carotid bifurcation
(B)
. Right CCA angiogram of the intracranial portion showing unruptured aneurysm of the
IC-PC(arrowhead)
(C)
. Right CCA angiogram after coil embolization by balloon assisted technique. The unruptured aneurysm was almost totally occluded with coils(D)
.
脳梗塞を認めた.脳血管撮影では右頸部内頸動脈に病
代表症例
変長 6.4 mm,
80% の狭窄を認め,(Fig. 1A)右内頸
動 脈―後 交 通 動 脈 分 岐 部 に 8.5 mm×4.5 mm の 1.8
Case 1(case No. 6)80 才男性(未破裂脳動脈瘤合
mm の neck を有する未破裂脳動脈瘤を認めた(Fig.
1C)
.動脈瘤は造影剤が静脈相後期まで pooling する
併例)
所見が見られた.
既往歴:高血圧
現病歴:左半身の脱力感を主訴に他院を受診し,
頸動脈病変に対しては年齢を考慮し CAS を選択し
Magnetic Resonance Imaging(MRI)で 右 頭 頂 葉 の
た.また CAS 後の血流増加によって脳動脈瘤破裂の
脳梗塞と診断され内科的加療を行った.脳梗塞の原因
危険性が高いものと判断し,CAS に引き続いて未破
精 査 を 行 っ た と こ ろ 3 dimensional-CT angiography
裂脳動脈瘤に対する瘤内塞栓術を一期的に行った.術
(3D-CTA)で右内頸動脈狭窄と未破裂内頸動脈瘤を
前より抗血小板剤を 2 種類投与した.
脳血管内治療
指摘され,当科へ紹介された.
全身麻酔下に右大腿動脈より Co-axial 法でウルト
現症:軽度の左上下肢の麻痺を認めた.
神経放射線学的検査:MRI にて右前頭葉に陳旧性
ラロングシースの 7 Fr Shuttle Select(COOK Medi-
― 121 ―
脳循環代謝
第 23 巻
第2号
Fig. 2. Left common carotid artery angiogram showing more than 50% stenosis of the cervical segment of the left internal and external carotid artery(arrow)
(A)and 90% stenosis of
the petrous portion of the ipsilateral ICA(B).Right common carotid artery angiogram showing mild stenosis of the cervical segment of the left internal carotid artery(C)and 80% stenosis of the petrous portion of the ipsilateral ICA(D).
Case 2(case No. 8)72 才
cal)を左内頚動脈に留置し,distal protection device
で あ る FilterWire EZ(Boston Scientific)を 内 頸 動
男性(頭蓋内内頸動脈
狭窄合併例)
既往歴:高血圧,糖尿病,両側変形性膝関節症
脈 末 梢 部 に 留 置 し 展 開 し た.PTA balloon で predilatation を行いステント挿入のための血管径を確保
現病歴:前胸部痛で近医を受診し,急性心筋梗塞の
した後,Carotid wallstent(Boston Scientific)5 mm×
診断で当院循環器内科へ入院し,同日 Percutaneous
31 mm を留置し,PTA(percutaneous transluminal
Coronary Intervention を施行した.入院 10 日後,起
angioplasty)balloon で post-dilatation を 行 っ た.
床時より構語障害,右不全片麻痺,
体幹失調を自覚し,
頸動脈狭窄が改善したことを確認し(Fig. 1 B)総頸
頭部 CT, MRI で両側放線冠部に梗塞巣認め,当科へ
動脈に留置していたガイディングカテーテルをステン
転科した.当科入院中,内科的治療を行っていたが
ト内に進めて内頸動脈に留置した.引き続き瘤内塞栓
Transient ischemic attack が頻発していた.精査の結
術を行うために working angle を RAO 38°
,CAU 19°
果,左頸部内頸動脈や両側の頭蓋内主幹動脈に高度狭
として balloon
窄を認め(Fig. 2A,B,D)
,脳血管内治療による血
assisted
technique でコイリングを
行った(Fig. 1D).術中合併症の発生はなく手技を終
行再建術を行った.
脳血管内治療
了とした.
全身麻酔下に右大腿動脈が閉塞しているため左大腿
動脈よりバルーン付きガイディングカテーテルである
― 122 ―
1.脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術
Fig. 3. Left common carotid artery angiogram after CAS and PTA showing excellent dilatation of the tandem stenosis(A, B). Likewise, contralateral tandem stenosis of the ICA was
improved(C, D).
Fig. 4. Xenon computed tomography scan, revealing hypoperfusion in the bilateral frontal
lobe(left),and increased perfusion in the bilateral frontal lobe postoperatively(right)
.
9 Fr Optimo(Tokai Medical Products)を左総頸動
より血液を吸引したが debris は認められなかった.
脈に留置し,バルーンを inflation し proximal protec-
Optimo のバルーンを deflate した後に造影を行い,
tion 下に guide wire を true lumen の中を確保しなが
対側の内頸動脈の径を参考に proximal protection を
ら左中大脳動脈まで進めた.左内頸動脈海綿静脈洞部
再び行いながら 2 本の Driver stent(Medtronic)4.0
より逆行性に PTA を行い,PTA 後に親カテーテル
mm×30 mm を overlap するように頭蓋内内頸動脈に
― 123 ―
脳循環代謝
第 23 巻
第2号
Fig. 5. Left common carotid artery angiogram of the cervical portion showing severe stenosis
(arrow)
(A). Left common carotid artery angiogram showing a dural arteriovenous fistula of
transverse-sigmoid sinus fed by occipital artery and draining into the left sigmoid sinus(B)
.
Fig. 6. Left CCA angiogram of the cervical portion after CAS showing no stenosis of the carotid bifurcation(A). Left CCA angiogram showing complete occlusion of the dural arteriovenous fistula following transarterial embolization(B).
留置した.その後,頸部の頸動脈狭窄に対して Carotid
sprint stent(Medtronic)4.0 mm×30 mm を 留 置 し
Wall stent 10 mm×31 mm を 留 置 し た.さ ら に
た.Optimo より血液を吸引したが debris は認められ
Driver stent と Carotid Wall stent の 間 を 各 々 over-
ず,DSA を行うと狭窄病変は改善した(Fig. 3D)
.
lap さ せ る よ う に 位 置 決 め の 容 易 な Pricise Pro RX
右外頸動脈に留置していた Carotid Guardwire を内頸
carotid stent(Cordis)6 mm×30 mm を 留 置 し,頸
動脈に入れ替え,distal protection device として用い
部内頸動脈と頭蓋内動脈の十分な拡張が得られた
て Precise stent 8 mm × 40 mm で CAS を行った
(Fig. 3A,B)
.引き続き Optimo を右総頸動脈に,右
(Fig. 3C)
.合併症は認めず,術後の Xe-CT で脳血流
外頸動脈に Carotid Guardwire PS(Medtronic)を留
はわずかに改善し,過灌流の所見は認めなかった
(Fig.
置した.外頸動脈と総頸動脈の血流を遮断した後に頭
4)
.
蓋内内頸動脈狭窄部に対して PTA を行い,Driver
― 124 ―
1.脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術
Table 1. Summary of the CAS complicated by multiple vascular lesions
Case
No.
Age/Sex
Carotid artery
stenosis
Complicated CVD
Treatment
Prognosis
1.
2.
71/M
71/M
R-ICA/L-ICA occ.
L-ICA
BA-BIF AN
L-MCA AN
R-CAS after Coiling
L-CAS & Coiling
GR
GR
3.
78/M
L-ICA
Acom AN
L-CAS & Coiling
GR
4.
76/M
R-ICA
Acom AN
Coiling & R-CAS
GR
5.
66/M
Bil.-ICA
Acom AN
R-CAS
GR
6.
7.
80/M
64/M
R-ICA
R-ICA
R-ICPC AN
R-intracranial ICA stenosis
R-CAS & Coiling
R-CAS & PTA/stenting
GR
GR
8.
72/M
L-ICA
L-intracranial ICA stenosis
L-CAS & PTA/stenting
GR
8.
72/M
R-ICA
R-intracranial ICA stenosis
R-CAS & PTA/stenting
GR
9.
80/M
R-ICA
R-intracranial ICA stenosis
R-CAS & PTA/stenting
GR
10.
74/M
R-ICA
R-transversus sigmoid DAVF
TAE & R-CAS
GR
ICA;internal cerebral artery,CVD;cerebrovascular disease,AN;aneurysm,DAVF;dural arteriovenous fistula,
CAS;carotid artery stenting,PTA;percutaneous transluminal angioplasty,GR;good recovery
Case 3(case No. 10)74 歳
男 性(硬 膜 動 静 脈 瘻
結
合併例)
果
既往歴:高血圧,高脂血症
現病歴:一過性の右片麻痺,失語症で近医受診し,
脳動脈瘤合併例では,CAS 後の脳血流変化によっ
脳梗塞の診断で保存的に加療した.精査で左内頚動脈
て悪影響が生じると予想された 4 例で全身麻酔下に
に高度狭窄(Fig. 5A)と左 S 状静脈洞部の硬膜動静
CAS と瘤内塞栓術を一期的に行った.CAS 後の血流
脈瘻(Fig. 5B)を認め,治療目的で当科に入院した.
変化による影響が少ないと判断した 2 例では,1 例で
脳血管内治療
CAS に先行して瘤内塞栓術を行い,1 例では経過観
全身麻酔下に右大腿動脈よりウルトラロングシース
察とした.CAS は全例において完遂し,瘤内塞栓術
の 7 Fr Shuttle select system を 左 総 頸 動 脈 に 留 置
も塞栓状況は Roy & Raymond score1)の class 1∼2 で
し,flow direct catheter を左後頭動脈(OA)の硬膜
あった.
枝 の 末 梢 ま で 誘 導 し,28% NBCA 0.22 ml,30%
Tandem lesion 症例では,頭蓋内 ICA 狭窄部の径
NBCA 0.08 ml を用いて slow injection による塞栓術
が細い例が多く,CAS のみでは脳血流改善が得られ
を行うと大部分の A-V shunt は消失した.しかしな
ないと判断して複数ステントによる治療を CAS と同
が ら,細 か な feeder が 残 存 す る た め,さ ら に 30%
時に施行した.
NBCA 0.03 ml で左 OA の硬膜枝を完全 に 塞 栓 し た
硬膜動静脈瘻合併例では,access route の問題と脳
(Fig. 6B)
.引き続き左内頸動脈狭窄症に対する CAS
血流への影響を考慮して硬膜動静脈瘻の TAE を先行
を施行した.左内頸動脈狭窄症は,pseudo-occlusion
してから CAS を施行した.
で約 30 mm 長の高度狭窄であった.Angioguard XP
これら CAS と頭蓋内病変に対して脳血管内治療を
(Cordis)を distal ICA までの誘導しようと試みたが
行った症例群において合併症を発生した症例は認め
困難であったため,先に guide wire を lesion cross さ
ず,退 院 時 の Glasgow Outcome Scale(GOS)は 全
せ,buddy wire technique で Angioguard XP を distal
例において GR であった(Table 1)
.
ICA ま で 誘 導 し た.Distal filter protection にて pre-
考
dilatation を 4 mm×40 mm の PTA balloon で 行 い,
察
ICA か ら CCA ま で Precise Pro RX carotid stent 8
mm×40 mm を留置した.post-dilatation は 5 mm×20
頸動脈狭窄症に未破裂脳動脈瘤する割合は約 3∼
mm の PTA balloon で行い洞反射による徐脈・低血
5% とされている2).このような 2 つの疾患を合併す
圧は認められなかったが,post-dilatation 後に内頸動
る症例の治療に際してジレンマが生じる.すなわち,
脈の slow flow が認められ,aspiration catheter で血
未破裂脳動脈瘤を先行して治療した場合は虚血性の合
液吸引を 3 回行うと fibrin を主体とする debris が中
併症が,頸動脈狭窄病変を先行し治療した場合は未破
等量認められた.DSA 上,十分な血管拡張(Fig. 6A)
裂 脳 動 脈 瘤 の 破 裂 が 懸 念 さ れ る.North American
と頭蓋内血管の循環改善が得られた.
Symptomatic Carotid Endoarterectomy Trial(NAS― 125 ―
脳循環代謝
第 23 巻
第2号
CET)の 2,885 例のうち 90 症例 99 病変に未破裂脳動
フォン部より末梢の狭窄病変に対してステント留置を
脈瘤が合併していたと報告されている.これらのうち
行う場合,サイフォン部の通過性に問題がある.また
頸動脈狭窄病変と同側にあった動脈瘤は 51 例で,
70% か ら 99% の 頭 蓋 内 動 脈 狭 窄 に 対 し て
CEA を行った 25 例のうち 1 例において術後 6 日目に
SAMMPRIS(Stenting and Aggressive Medical Man-
3)
くも膜下出血となり 4 日目に死亡している .CAS を
agement for Preventing Recurrent Stroke and In-
行う症例においては術前より抗血小板剤の投与が必要
tracranial Stenosis)trial が 行 わ れ た が9),30 日 以 内
になり,もし未破裂脳動脈瘤が破裂した場合には,動
の stroke & death が 内 科 的 治 療 群 に 比 べ wingspan
脈瘤の治療が困難となることが予想される.
を用いたステント群で有意に高くなったため登録中止
したがって私どもは,CAS によって血流が著しく
となった.SAMMPRIS trial では発症後平均 10 日以
増加すると予想される同側の内頸動脈などに脳卒中ガ
内に血管内治療が行われており,不安定なプラークに
イドラインで外科的治療を検討するように勧められる
操作を加えることによって虚血性合併症が増加した可
大きさや形状,部位の未破裂動脈瘤を認めた場合に
能性が考えられる10).今回,検討した症例では虚血性
は4),CAS に引き続いて一期的に瘤内塞栓術を行う方
合併症を呈した症例はなかったが,頭蓋内主幹動脈に
針としている.CAS と coiling を一期的に行うためや
血管形成術を行う際はその適応や治療を行う時期に関
や被曝量や造影剤の増加が懸念されるが,永続的な合
しては慎重に検討する必要があると思われる.
頸動脈狭窄症と硬膜動静脈瘻を合併した症例を治療
併症を発生した例はなく良好な成績が得られた.
50∼99% 狭窄の頭蓋内主幹動脈病変に起因する虚
した報告例は少ないが,Ishihara らは視力障害で発生
血 性 脳 血 管 障 害 に 対 し て WASID 試 験(Warfarin-
した前頭蓋底部の d-AVF と頸動脈狭窄を合併した症
Aspirin Symptomatic Intracranial Disease Trial)が
例を報告している11).この症例は外頸動脈系,主に顔
行われたが,ワルファリン投与群に死亡と重篤な出血
面動脈より AVF を介して皮質静脈へ逆流する retro-
性合併症が明らかに多いことから推奨できず,アスピ
grade venous drainage を認める Cognard typeIII12)
リンは安全であるが脳卒中再発予防効果は不十分であ
で,また内頸動脈高度狭窄のため外頸動脈系より眼動
るとされた.また,70∼99% 狭窄例においては,発
脈を介して retrograde flow によって内頸動脈が灌流
症後 2 年間に 25% の症例が狭窄血管の支配領域に脳
さ れ て い た.ま ず d-AVF に 対 し て N-butyl-
梗塞が再発したと報告している5).したがって,高度
cyanoacrylate(NBCA)を用いて transarterial emboli-
な頭蓋内動脈狭窄に起因する脳卒中症例は再発率が高
zation を行った後に一期的に CAS を施行し良好な結
いと考えられている.このような頭蓋内動脈狭窄に頸
果 を 得 て い る.呈 示 し た 症 例 の d-AVF は Cognard
動脈狭窄に合併したいわゆる tandem stenoses は脳梗
type I であったが CAS によるステントが障壁となり
6)
外頸動脈へのアプローチが困難になることが予測され
塞の発生率が高いことが知られている .
頭蓋内外の動脈に狭窄性病変が存在する場合どちら
たため d-AVF に対する transarterial embolization を
の病変が灌流障害に起因しているかは Poiseuille の法
行った後に CAS を一期的に施行した.Dural-AVF と
則によって計算すると狭窄率の高い病変がより関与し
頸動脈狭窄の合併例では dural AVF を開頭手術で優
ていると報告されている7,8).すなわち 2 つの狭窄病変
先して行った場合には頚動脈狭窄症による虚血性合併
のうち,狭窄率の高度な病変を治療することによっ
症の発生が懸念される.また,頚動脈狭窄症に対して
て,血行再建術の目標である脳灌流圧の改善が得られ
carotid endarterectomy や CAS を優先した場合には
るものと思われる.頸部の頸動脈狭窄の方がより狭窄
術後一定期間,抗血小板剤を投与しなくてはならない
率が高ければ CEA または CAS の治療選択が可能と
ため,特に脳内出血をきたす可能性のある leptomini-
なるが,頭蓋内動脈とくに内頸動脈狭窄が高度な場合
geal venous drainage を有する d-AVF は同時手術に
には EC-IC bypass などの血行再建術が必要となり手
よって治療することが望ましいと考えられた.
術侵襲が大きくなると考えられる.一方,血管内治療
結
による CAS と頭蓋内動脈狭窄病変に対する血管形成
語
術は一期的に治療が可能で侵襲が少なく,親カテーテ
ルなどの device も同一のものを用いることができ医
頸動脈狭窄症に脳血管病変を合併している症例に対
療費の低減にもなるものと考えられる.今回の検討に
する CAS は血行再建によって生じる脳血流の変化を
おいても全例において一期的に治療が可能で合併症を
予測し,十分な治療戦略を立てることで CAS を安全
呈した症例はなかった.しかし,現在のところ保険収
に行うことが可能であった.
載されている頭蓋内ステントはなく,内頸動脈サイ
― 126 ―
1.脳血管病変を合併した頸動脈狭窄症に対する頸動脈ステント留置術
文
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― 127 ―
脳循環代謝
第 23 巻
第2号
Abstract
Carotid artery stenting for carotid artery stenosis associated with cerebrovascular lesions
Takeshi Suma1), Tadashi Shibuya1,2), Yoshiyuki Takada1), Shin Nakamura1), Toshinori Matsuzaki1),
Takehiko Umezawa3), Ryutaro Ishihara1,3) and Yoichi Katayama1)
Division of Neurosurgery, Department of Neurological Surgery, Nihon University School of Medicine,
Tokyo, Japan1)
Department of Neuroendovascular Therapy, Sagamihara Kyodo Hospital, Kanagawa, Japan2)
Department of Neurosurgery, Sagamihara Kyodo Hospital, Kanagawa, Japan3)
When carotid artery stenting(CAS)is performed for carotid artery stenosis accompanied by intracranial
cerebrovascular disease, such as unruptured intracranial aneurysms(UIAs)and intracranial artery stenosis, it
is desirable to predict the alteration of cerebral blood flow and complications caused by CAS in order to improve the clinical outcome. Here we present a retrospective analysis of 11 CAS for carotid artery stenoses accompanied by intracranial cerebrovascular disease conducted from January 2004 to November 2011.
One hundred and twenty-eight patients with carotid artery stenosis over 70% have received CAS at our
institute and affiliated hospital. Eleven of them(8.6%)had intracranial vascular lesions, of which six had UIA,
four had intracranial artery stenosis and one had dural arteriovenous fistula of the transverse-sigmoid sinus(all
male, age range 64 to 80 years, mean age 73.2 years)
. Of the 6 patients who had UIA, 4 showed UIA in the ipsilateral to carotid region, and coiling was performed simultaneously with CAS. One patient with bifurcation of
the basilar artery received staged endovascular procedures(CAS and coiling)and the other patient who had
a small anterior communicating artery aneurysm of the contralateral to carotid region was kept under observation. Four patients with tandem stenosis were treated by CAS, percutaneous transluminal angioplasty and
stenting simultaneously. A case of symptomatic carotid stenosis associated with dural arteriovenous fistula of
the transverse-sigmoid sinus was treated by CAS after transarterial embolization for d-AVF.
All patients had good recovery of the Glasgow Outcome Scale. There was no subarachnoid hemorrhage, no
cerebral infarct and no procedure-related complication. The safety and effectiveness of endovascular treatment
of carotid stenosis associated with intracranial cerebrovascular disease appear to be improved by prediction of
the alteration of blood flow caused by CAS.
Key words : carotid artery stenosis, carotid artery stenting(CAS),multiple cerebrovascular lesions
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