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ブロードバンド時代にふさわしい 次世代型放送STB
ブロードバンド 新しいTVの見方を実現する放送通信連携技術 デジタル放送 端 末 ブロードバンド時代にふさわしい 次世代型放送STB いしい し ん じ †1 ご と う よ し の り †2 石井 晋司 /後藤 良則 デジタル放送の開始により放送のパラダイムが大きく変わりつつありま さ と う た か こ †2 佐藤 孝子 す.またFTTHをはじめとするブロードバンドの普及は放送のあり方にも大 きな影響を与えつつあります.従来の放送から脱皮し,IP,蓄積機能の活用 といったブロードバンド時代にふさわしい放送を実現するための次世代型 †1 STB(Set Top Box)を紹介します. †2 NTTサイバーソリューション研究所 NTTアクセスサービスシステム研究所 声を提供するだけでは十分ではなくな CAT V 技 術 協 会 ( JCTEA : Japan りつつあります.特に多チャンネル化 Cable 2000年12月に開始されたBSデジタ の進展,衛星放送,F T THなど新し A s s o c i a t i o n ),日 本 ケーブルラボ ル放送を皮切りに110度 C Sデジタル い放送メディアの出現,視聴形態の多 ( JCL : Japan Cable Laboratories)に 放送,地上波デジタル放送など放送 様化といったトレンドを考えるとSTB おいて標準化が進められました.放送 のデジタル化は着実に進みつつありま もそれに合わせて高機能化する必要が 技術の構成を図2に示します.放送 す.デジタル放送には高効率,高品質 あります. は映像音声のほか,データサービスや デジタル放送の発展 といった特徴があります.それに加え てBML(Broadcasting Markup Lan- Television Engineering 電子番組ガイド(EPG:Electronic これまでのSTBとの違いは? Program Guide),CA Sなどさまざま guage)による本格的な双方向サービ 日本において,放送技術は電波産 な技 術 が 盛 り込 まれ, これらが ス , CAS( Conditional Access Sys- 業会(ARIB: Association of Radio MPEG-2システムの上で統合されてい tem)による柔軟な視聴・課金形態の Industries and Businesses),日本 ることが分かると思います.ST Bも放 実現,サーバ型放送など従来のアナロ グ放送の延長線上にはとどまらない 多様な発展の可能性を秘めています 2000 2001 2002 2003 2005 2010 (図1). STBの役割 デジタル放送において行われる豊富 BMLによる 双方向サービス CASによる 視聴管理 BSデジタル放送 チャンネル数 の増大 CS110デジタル放送 地上波デジタル放送 なサービスはユーザ 宅 に設 置 される STB(Set Top Box)等において処 IPの活用 サーバ型放送 理されT Vなどに表示されます.そう 多様な視聴形態 いった意味ではSTBはサービスの“顔” であり,この出来不出来がサービスの 地上波アナログ放送 イメージを左右するといっても過言で アナログ放送 の終了 はありません. 一方で放送サービスは高度化が進 みつつあり,もはやきれいな映像と音 26 NTT技術ジャーナル 2004.5 図1 デジタル放送のロードマップ 特 集 映像音声による 基本的なTV放送 ニュースなど情報サービス に利用されるデータ放送 映像 音声 データ放送 カルーセル PES PSI SI EPG ,限定受信システム に利用されるPSI,SI 映像,音声 ECM EMM Java,HTML RTP,RTCP,RTSP,HTTPなど UDP セクション TCP IP MPEG-TS MAC層 物理層 物理層 デジタル放送のプロトコルスタック IPサービスのプロトコルスタック PES: Packetized Elementary Stream PSI: Program Specific Information ECM: Entitlement Control Message EMM: Entitlement Management Message RTP: Real-time Transport Protocol RTCP: RTP Control Protocol RTSP: Real Time Streaming Protocol UDP: User Datagram Protocol MAC: Media Access Control デジタル放送技術はIPとは独自の発展をしてきた 経緯から従来のIP技術との親和性は高くない 図2 従来のIP放送とデジタル放送との違い 送技術の一部として標準化され,衛星 用,地上波用,ケーブルT V用と各種 ブロードバンド/双方向 ST Bが各メーカから販売されています. 今回開発したSTB これらのSTBは電波(あるいはCAT V 放送規格との融合 HDTV対応 回線)での放送受信が主な機能で,双 方向回線,特に広帯域のIP回線の利 用 についてはまだ 進 んでいませんで した. IP放送受信 ファイル型コンテンツ 従来の IP-STB 地上波 デジタル 独自技術 放送技術 との親和性 一方,主に海外のメーカから広帯域 のIP回線での利用を想定してIPで放 IP/Ethernet装備 送を受信するSTBが販売されていま BS/CS110 デジタル す.これらは各社独自仕様によるもの で異社間の互換性には特段の配慮が ナローバンド/片方向 払われていません.また図2に示した プロトコルスタックからも分かるように 図3 今回開発したSTBの位置づけ 既存の放送技術との親和性がなく, 豊富で良質な放送局のコンテンツの利 る技術,映像,音声のデコード,デー 用することができます.また映像のデ 用に限界がありました. タ放送の記述言語,実行環境,コン コーダとしてMPEG-2に対応すること 今回開発したSTBの位置づけを図 テンツの暗号方式などさまざまな技術 で BSデジタル放送を皮切りに普及し 3に示します.特徴は大きく2つあり で構成され,放送コンテンツはこれら つつあるHDTV( High Definition ます.1つは従来のIP用のST Bと異 により製作されています.I Pで放送を TeleVision)にも対応できます. なり従来の放送技術と親和性の高い 行う場合,変調方式など物理的な伝 もう1つは広帯域のI P回線を利用 放送コンテンツをIPネットワークから 送技術については変更する必要があり した放送の高度化です.例えば広帯域 受信できることです.放送技術は変調 ますが,それ以外の技術を利用するこ のI P回線を利用することでストリーム 方式,多重化方式など伝送にかかわ とで良質な放送コンテンツを容易に利 型コンテンツだけでなく,ファイル型 NTT技術ジャーナル 2004.5 27 新しいTVの見方を実現する放送通信連携技術 コンテンツの利用の可能性も広がりま ています.入力インタフェースについ dard Definition)の映像であれば約 す.またVOD(Video On Demand) てはRF( Radio Frequency) とIP 37時間,HDであれば約10時間の映 のようなサービスも広帯域のI P回線の の2つのインタフェースを持っていて, 像を蓄積できるものです.HDDが蓄 ほうが電波や CATV回線より効率的 これが大きな特徴となっています.RF 積するコンテンツは① 通常放送されて に実施できます.EP Gについても蓄積 インタフェースはFTTHの映像系配信 いるストリーム型コンテンツ,②カルー コンテンツも含めた豊富なコンテンツ システムへの適用を想定して64Q A M セルにより放送に多重されて伝送され について検索機能とともに提供するこ ( Quadrature Amplitude Modula- るファイル型コンテンツ,③ I Pネット とができます.また視聴形態を多様化 tion)の受信機能を備えています. ワークより取得するファイル型コンテ するという意味でHDD(Hard Disk この64QAMは国内のCATVで広く Drive)を搭載し,各種コンテンツの 用いられていてFTTH以外にも一般の 映像のデコードはSDTVとHDTVに 蓄積も可能です. CATVにも適用可能です.I P系のイ 対応しています.映像の出力端子とし ンタフェースは100 BASE-TXであり, てはコンポジット出力のほかに高品質 IP上での映像配信や各種プロトコル なHDTVを出力するためのコンポーネ に対応しています.これら2つのフロ ント出力(D端子)も搭載しています. ントエンド部 からはほぼ同 一 のT S またデジタル放送で行われる双方向 既存の放送用のSTBは主に物理的 (Transport Stream)がデコーダ部 サービスを含め高度なデータ放送に対 な伝送機能の処理を担うフロントエン に入力され,このため両者の間での 応するため,BMLブラウザを搭載して ド部と映像や音声のデコード,各種 サービス的な差分は最小限になってい います.BM Lは基本的には国内の放 サービスの処理を行うデコード部と大 ます. 送規格(ARIB STD-B24)に準拠し STBの機能と構成 今回開発したSTBの構成を図4に, 主な仕様を表に示します. きく2つの部分で構成されています. 今回のSTBもこの基本構成を踏襲し HDDは容量100 GBのものを1台 搭載しています.これはSD(Stan- ンツの3種類です. たものですが,一部拡張されています. EPGには従 来 SI( System Infor- CAS CAS カード(1) カード(2) ICカードリーダ 64QAM DEM RF系 AVデコード TS 分離 (HDD) CAS(1) TS Demux BML TV CAS(2) デスクランブル SI 処理 メタ データ イーサネット インタフェース IP系 カルーセル EPG ECG CATVで実績のある 64QAM-NIM部 放送規格準拠のデコード部 (市販チップセットの流用可) IPに対応した フロントエンド部 図4 STBの構成 28 NTT技術ジャーナル 2004.5 CAS(1): BS/CS110度用CAS CAS(2): 本開発によるCAS NIM: Network Interface Module ECG: Electronic Contents Guide 特 集 mation)で行われているEP G情報と 類似の情報をメタデータで送信する方 表 STBの主な仕様 項 目 仕 様 式と利用者の嗜好情報を基にコンテン RFインタフェース 64 QAM(29.162 Mbit/チャネル) ツの検索・推奨機能を強化したものの IPインタフェース 100 BASE-TX 2種類のEP G機能を備えています. 出力インタフェース コンポジット(RCA,S端子),コンポーネント(D端子) 映像フォーマット MPEG-2(MP@ML,MP@HL) 音声フォーマット MPEG-2 処理可能レート SDTV: ∼15 Mbit/s,HDTV: ∼22 Mbit/s 利用シーン 従来のSTBでは基本的には放送さ ACC データ放送 BML(ARIB STD-B24,一部拡張) れている信号をリアルタイムで視聴す メタデータ TVA SP003準拠 るものでした.今回開発したSTBは Webブラウザ HTML4.0 HDDを搭載しているので放送されて HDD容量 100 GB いる信号を1度 HDDに蓄積して任意 デスクランブル Multi2,AES,Camellia 適用サービス デジタル放送受信(ストリーム,ファイル),VOD,放送蓄積・再生 の時間に再生して視聴することができ ます.これは従来のHDDレコーダの 延長ですが,こういった基本機能も商 品としては重要と考えています. 想定するサービス・ビジネス 策事業をこれまでになく安価に実施で きる可能性があります.またIPには伝 HDDに蓄積されるコンテンツは通 放送と一口にいっても実はさまざま 送距離の制限がほとんどないので,国 常どおり放送されているものも蓄積で なプレイヤーがその中で活動していま 際配信を含めた新しい配信形態も想 きますが,ファイルとして送られたコ す.番組の制作・編集を担う放送事 定されます. ンテンツ(ファイル型コンテンツ)も 業者は当然ながら重要なキープレイヤー 蓄積できます.これを利用することで です.しかし,放送事業者だけでは放 放送事業者が深夜の時間帯や通常の 送というビジネスは成り立ちません. 放送で余った帯域を有効に利用して 衛星放送などで番組の多重,視聴管 コンテンツを配信することが可能にな 理を行うプラットフォーム事業者は縁 ります. の下の力持ちといえるでしょう.また 例えば定時のニュース,天気予報な 衛星放送や地上波放送がカバーできな ど即時性にこだわらないコンテンツは い領域を補完するCATV事業者も重 こういった方法で配信することであた 要なプレイヤーです. かも毎朝新聞を読むイメージで視聴で きます. 今回のSTBの機能を活用すること で特に蓄積機能を中心に従来ものと差 HDDに蓄積できないコンテンツは 別化した放送プラットフォームの展開 VODにより配信することもできます. が可能になります.プラットフォーム VODにふさわしいコンテンツとしては それ自体が収益源として有望ですが, 特定の嗜好に特化した番組,例えば E P Gの検索機能を有料で提供するこ 趣味に関するものなどが想定されます. とで直接,視聴者から収益をあげる事 また録画し損なった番組をVODによ 業も可能です. り提供することも考えられます. (左から)石井 晋司/ 後藤 良則/ 佐藤 孝子 デジタル放送はデータ放送や蓄積機能の 活用により,これまでの放送のイメージか ら大きく脱皮していくと思います.皆さん もSTBの機能を活用してTV放送の新しい進 化形態を楽しんでください. また今回のSTBはIPによる放送の HDDの蓄積コンテンツやVODのコ 受信機能を持っています.基本的に ンテンツまで含めるとSTBでは多数の は既存の放送技術との高い親和性を コンテンツを扱うことになります.こ 保っているのでFTTHによる放送再送 れらを効率よく利用するためにはEP G 信事業にも有効です.特にIPは安価 の検索機能が威力を発揮します. にインフラが構築できるので難視聴対 ◆問い合わせ先 NTTサイバーソリューション研究所 第一推進プロジェクト TEL 046-859-2522 FAX 046-855-3495 E-mail [email protected] NTT技術ジャーナル 2004.5 29