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環境経済学(2015 年秋学期
朴勝俊) 第 1 回
原発の危険性と賠償責任
■
福島第一原発事故(2011 年 3 月 11 日~)
・地震→原子炉停止に成功→津波→全電源喪失→冷却不能→水素爆発
・避難区域と居住制限区域(左図は事故後~、右図は 2012 年 4 月 1 日以降)
警戒区域 78200 人、計画的避難区域 1 万人、緊急時避難準備区域 58500 人、計 15 万人。
朝日新聞データベースより。左は 2012 年 4 月の再編前、右は再編後。
■放射線被曝の判断基準、20mSv(ミリシーベルト)はどの程度の危険か
急性障害: 1Sv 以上で吐き気・全身倦怠、4Sv で半数死亡、7Sv で 99%死亡
晩発性障害: ガンなどはどんなに低線量でも確率的に発生すると考えられている。
・直線・しきい値なし仮説(Linear No Threshold; LNT)
根拠となるデータは主に広島・長崎の被爆者。ABCC から「権威ある」ICRP へ。
・1 万人シーベルト[万人 Sv]とは? 集団被曝量の単位。LNT 仮説より、
1[Sv]×1 万[人] = 100[mSv]×十万[人] = 10[mSv]×百万[人] = 1[mSv]×千万[人]
・ICRP2007 年勧告の発ガンリスク: 1715[人/万人 Sv]
・ICRP1990 年勧告のガン死リスク: 500[人/万人 Sv]
治りやすいガンも含む
ガンで死んだ被爆者の数から
・ICRP の勧告には異論もある。ECRR やゴフマンを参照。放射線ホルミシス説も。
c.f. ゴフマンのガン死リスク:全年齢 約 4000[人/万人 SV]、0 歳児約 15000[人/万人 Sv]
1
[計算問題]
(0) 1715[人/万人 Sv]は、1 個人の発ガンリスクで言えばいくら(何[%/Sv])か?
(1) 空間線量が1μSv/時の所でずっと暮らしているあなたの、1 年間あたりの生涯発ガンリスクはいく
ら(何%)か?
(2) 人口 200 万人が 1 年で各 8.76mSv の被曝をした場合ガンにかかるのは毎年何人か?
(3) あなたが 1 年間で 20mSv の被曝をした場合、生涯発ガンリスクは何%か?
(4) 人口 200 万人が 1 年で各 20mSv の被曝をした場合ガンにかかるのは毎年何人か?
(5) 1 日 500Bq のセシウム(Cs137)を 1 年間摂取し続けた場合の被曝量は?
・内部被曝の実効線量係数
核種
半減期
I-129
I-131
I-133
Cs-134
Cs-136
Cs-137
Pu-238
Pu-239
Pu-240
Sr-89
Sr-90
1570 万年
8.04 日
20.8 時間
2.06 年
13.1 日
30.0 年
87.7 年
2.41 万年
6564 年
50.5 日
29.1 年
経口摂取
(Sv/Bq)
1.1×10-7
2.2×10-8
4.3×10-9
1.9×10-8
3.0×10-9
1.3×10-8
2.3×10-7
2.5×10-7
2.5×10-7
2.6×10-9
2.8×10-8
吸入摂取
(Sv/Bq)
3.6×10-8
7.4×10-9
1.5×10-9
2.0×10-8
2.8×10-9
3.9×10-8
1.1×10-4
1.2×10-4
7.9×10-9
1.6×10-7
I はヨウ素、Cs はセシウム、
Pu はプルトニウム、Sr はストロンチウム
※ICRP Publ.72 より。政府などもこの値を引用している。
※日本の食品規制値(セシウム、500Bq/kg)
は、
ギリギリ 500[Bq/kg]
で汚染されている食品・飲料を毎日摂取し続けたとき、年間
10[mSv]の被曝をする値として決められている。「基準内の汚染食
品を 1 回食べたぐらいで神経質になる必要はない」とは言える。
■ 福島事故の被害・損害
・被害(損害)と補償(賠償)はイ
被害と補償
人命・健康被害
精神的・
知的障害
多発性骨髄症
・被害には人命・健康被害と
財産被害
心臓病
ガン
白血病
コールではない。
財産被害ある。
文化的喪失
補償対象
土地喪失
漁業損害
急性障害
急性死
・因果関係が認められやすく、
補償がなされやすいものと、
認められにくいものがある。
避難・移住
農業損害
職場喪失
盗難
被害者本人も気付かないよ
うな被害もある。
・被害全体に比べれば、補償
ぶらぶら病
遺伝的障害
精神的苦痛
自殺
観光客減少
自主避難
がなされるのはごく一部で
ある。
精神的苦痛
2
・賠償されるべき損害の区分と詳細(原子力損害賠償紛争審査会)
区分
詳細
政府の避難指示による
検査費用、避難費用(人)、一時立入費用、帰宅費用、生命・身体的損害、精神的損害、営
もの
業損害、就労不能等に伴う損害、検査費用(物)、財物価値の損失または減少等
政府の飛行・航行禁止
営業損害、就労不能等に伴う損害
区域の設定によるもの
政府の農林水産物等出
営業損害、就労不能等に伴う損害、検査費用(物)
荷制限
その他の政府指示等に
営業損害、就労不能等に伴う損害、検査費用(物)
よるもの
いわゆる風評被害
農林漁業・食品産業、観光業、製造業・サービス業等、輸出
いわゆる間接被害
放射線被曝による損害
急性・晩発性(作業員、自衛官・警官・消防隊、住民)
その他
地方公共団体等の財産的損害等
原子力損害賠償紛争審査会「 東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関す
る中間指針」平成23年8月5日
・賠償額の概算(東京電力に関する経営・財務調査委員会)
億円
(1)政府の避難等の指示
一過性
5775
初年度
2 年目
7372
3 年目
6098
4 年目
6098
5 年目
6098
計
6098
37539
(2)政府の航行禁止等
被害実態が明らかでなく、現時点では推計不能
0
(3)農林水産物出荷制限
「風評被害」の内数に含めて試算した
0
(4)その他の政府指示
被害実態が明らかでなく、現時点では推計不能
0
(5)いわゆる風評被害
13039
0
0
0
0
0
13039
(6)いわゆる間接被害
7370
2874
2874
2874
2874
2874
21740
(7)放射線被曝による損害
放射線被曝の該当者が存在しないことから、損害額をゼロと試算した
0
(8)地方公共団体等
被害実態が明らかではなく、現時点では推計不能
0
計
26184
10246
8972
8972
8972
8972
72318
東京電力に関する経営・財務調査委員会「委員会報告」(平成 23 年 10 月 3 日), pp.89-97 より作成
■
福島事故は「最悪の事故」ではなく「最後の事故」でもない
・世界の1割以上の地震が日本で。
「あれが無かったらと思うとぞっとする」清水・元東電社長。
・免震重要棟/大飯原発/活断層(破砕帯)
・吉田所長「死ぬかと思った」/菅(元)首相の「3000 万人避難」証言
・メルトダウン→大規模な水蒸気爆発→さらに大きな事故に発展する可能性もあった。
■
チェルノブイリ事故(1986 年 4 月 26 日)
・放出された放射能は福島の約 6 倍に相当。汚染の範囲も広大。
・産経新聞(2011 年 4 月 26 日) 「チェルノ 25 年教訓を福島に伝えたい」
病気は小児甲状腺ガンだけ、問題は「心の病」
、死者は 60 人?
・小児甲状腺ガン:半減期の短い放射性ヨウ素によって引き起こされ、発生頻度は 100 万人に 1 人程度。多発す
れば、推進派でも放射能の影響を否定できない。
・小児甲状腺ガン以外は無視: 大人の甲状腺ガン、小児白血病、ガン以外の病気も全て無視
Greenpeace(2006)は発ガン 27 万人、ガン死 9.3 万人と予測した。それ以上との推定もある。
・広河隆一さん(写真報道家): 小児白血病で亡くなった子ども等、多数の被害者を写真集や本で報告。
3
■ 日本で巨大事故がおこったら?
・大飯原発 1 基は約 118 万 kW、チェルノブイリ原発 4 号炉は 100 万 kW
・100 万 kW の原発が発電すると、毎日広島原発 3 発分、1 年で約 1000 発分、3 年で 2000~3000 発分が貯まる。
その放射能量は 13.6 億テラベクレル(瀬尾 1995)。
・まんべんなく日本列島(38 万平方 km)に散布すると、3.3 億 Bq/㎡の汚染(瀬尾 1995)。1mSv/時の被曝。
チェルノブイリの緩い避難基準は 148 万 Bq/㎡、厳しい避難基準は 55.5 万 Bq/㎡、
日本の年間 20mSv、3.8µ/時は 128 万 Bq/㎡、に相当する。 上記は、その約 300 倍の汚染濃度になる。
・被害推計: 炉内の放射能の何%が放出され、どこへ行くか、そして被害地域の人口と経済活動水準から計算。
・科学技術庁/原子力産業会議(1960): 東海原発 1 号(16.6 万 kW)から 37 万 TBq の放出を想定。
この放出量は福島[政府や東電の公式発表]の半分程度。最悪 3.7 兆円の被害(当時の貨幣価値で)→秘密
・朴勝俊(2003/2005): 大飯原発 3 号機をモデルに計算。事故被害額のみ試算。事故確率は対象外。
※確率論的安全評価(PSA):さまざまなシナリオで、機器のトラブル確率、安全装置の失敗確率を掛け合わせて事故確率を計算
する手法。たいてい 1000 万炉年に 1 回程度の低い炉心損傷確率が出る。この手法は「想定内」のシナリオの確率を計算するも
ので、真の事故確率の「証明」にはならない。
・被害は風向きによる。最悪の被害となるのは大都市(京都・大阪など)が風下となる北風の場合。
168km まで避難した場合: 50 万人がガン、うち 15 万人がガン死、被害額約 460 兆円 (割引率 0%のとき)
50km まで避難した場合: 355 万人がガン、うち 102 万人がガン死、被害額 469 兆円 (割引率 0%のとき)
(ICRP のガン死リスク係数でなく、ゴフマンのガン死リスク係数を用いると、8 倍のガン死が生じる。)
・日本の国内総生産(GDP)は 500 兆円程度。最悪の被害額はそれに匹敵する程度。
ドイツの研究例でも、原発事故の被害額は国内総生産(300 兆円程度)の 0.3 倍~3 倍程度とみられる。
参考文献:
エネルギー・環境会議(2012)『革新的エネルギー・環境戦略』2012 年 9 月
エネルギー・環境会議(2012)『エネルギー・環境に関する選択肢』平成 24 年 6 月 29 日
大島堅一(2012)『原発はやっぱり割に合わない―国民から見た本当のコスト』東洋経済新報社
原子力市民委員会(2014)『原発ゼロ社会への道-市民がつくる脱原子力政策大綱』原子力市民委員会
原子力損害賠償紛争審査会(2011)『東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損
害の範囲の判定等に関する中間指針』平成 23 年 8 月 5 日
経済産業省(2015)『長期エネルギー需給見通し』平成 27 年 6 月 30 日
東京電力に関する経営・財務調査委員会(2011)『委員会報告』平成 23 年 10 月 3 日
朴勝俊(2013)『脱原発で地元経済は破綻しない』高文研
朴勝俊(2003)「原子力発電所の事故被害額試算」
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/genpatu/parkfinl.pdf
朴勝俊・沼田大輔(2013)「原子力災害の経済学の基礎知識」所収:馬奈木編『災害の経済学』中央経済
社
※ 授業ホームページ http://www.ksc.kwansei.ac.jp/~park/
以後のレジュメは随時ここに掲載しますので、授業前に印刷して持参して下さい。
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