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講演要旨(日本語概要版)

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講演要旨(日本語概要版)
第 59 回
海洋フォーラム講演要旨
平成 21 年 3 月 10 日
フランス漁業資源管理と生態系アプローチについて(英仏海峡での学際的取組み)
André Carpentier(オンドレ
カーペンティエー)
(フランス海洋開発研究所(IFREMER))
英仏海峡頭部は北海と大西洋をつなぐイギリス東南部とフランス北西部に挟まれた
狭い海峡である。この海峡は海運の為の航路として頻繁に利用されているほか、漁場と
して、また娯楽の場としても幅広く活用されている。しかしながら、それゆえにこの海
域に及ぼされる人為的な環境負荷も重く、ここに生息する海洋生物への悪影響及び漁業
資源状況の悪化がみられる。
この状況を懸念し、CHARM(Channel Habitat Atlas for Resource Management – 英仏海
峡資源管理の為の生息環境海図) プロジェクトが、さまざまな海洋科学の専門家を集
めた学際的研究プロジェクトとして開始された。これは生態系アプローチを用いた斬新
かつ統合的な海洋環境研究プロジェクトで、第一期目(2003-2005)は英仏海峡東部の
ドーバー海峡に焦点を当てて行われた。フランスとイギリスがこの海峡の資源管理に対
して共通の認識を持ち、また幅広く社会に海峡の資源状況の悪化と持続性の重要さにつ
いて理解してもらうために、EU(Interrege 3a Programme)より助成金を受け行われた。
第一期に作成した Atlas は、主にその海域の環境値に焦点を当て分析された結果である。
この Atlas は、(http://charm.canterbury.ac.uk) よりダウンロードが可能である。
第二期(2006-2008)においては、調査海域や調査魚種を第一期より拡大し、地域漁業
活動の社会学的な調査や、イギリス、フランスの法制の整理も行った。さらに、これら
の収集された科学的、社会学的データを MARXAN 空間計画シミュレーションプログラ
ムによって解析し、環境保護計画を作成した。この Atlas は、自分で海図づくりをインタ
ーネット上で楽しめるインタラクティブマップとして 2009 年 4 月下旬より
http://www.ifremer.fr/charm に発表される。
これらの調査経験を生かしてフランス海洋開発研究所(IFREMER)は英仏海峡全体
を調査地域に指定し、生息環境と地域海域の環境機能について調査研究するプロジェク
トを現在進めている。この研究は、生態系アプローチを基盤とした海洋資源管理の為に
行われ、この海域の生物資源利用がその生産能力を超えない持続可能なものとするため
の一助となることを目的としている。 “Defi Manche – Channel Challenge” 「海峡への
挑戦」と名付けられたこのプロジェクトはその目的として1)海洋、沿岸域の生態系の
理解の為の学際的な調査能力の向上、2)人為的活動が生態系へ与える影響に対して耐
久性のある管理体制の確立、3)政策施行者に地域海域に関する知識を供給し、地域利
害者間の衝突を避け、持続性のある資源を保護する、4)管理者に現在の生態系の知識
を供給し、人為的活動の影響と管理体制の効率性を提示する。
があげられる。
このプロジェクトは英仏海峡において現在行われている多数の科学的海洋調査を統
合する機能を果たし、科学委員会を設立し、ArcAtlantic との共同によって、英仏横断的
な科学機関 ArcMache に科学的知見を提供している。
「海峡への挑戦」プロジェクトは生態系アプローチを強化し、地域とヨーロッパ全体
の政策、研究機関を結束するであろう。また、このプロジェクトはヨーロッパの海洋青
書、BLUE BOOK が表明する EU 共同体の海洋戦略に寄与するものであり、情報の共有
と政策の調和を求めるヨーロッパ地域全体の為の横断的な海洋政策にとってユニーク
で重要な役割を担うのではないかと思われる。
このプロジェクトによってフランス、イギリス、ベルギー、アイルランドの科学者の
協力が継続することを期待しており、今後、カナダまた、日本においても国際的な交流
を通して同様の研究が進められて行く事を願っている。
質疑応答
質問:生態系アプローチということで、空間管理の手法を主に発表されたが、漁獲枠の
算定に生態系について考慮するオプションも含まれているのか。具体的には、餌生物と
捕食生物の関係を反映した生態系モデルにもとづく漁獲枠の設定もされているのか。
回答.:生態系モデリングについては、別のプロジェクトで研究を実施している。将来
的には今日発表したプロジェクトと統合する可能性もあるが、現在のところは難しく、
基礎となる情報を集めて科学的知見を充実させている段階である。また、漁獲枠は政治
的にも難しい論点であるので、簡単にはいかない部分も多い。資源ストックのアセスメ
ントはほかの事業にて行われているので、このプロジェクトにおいてはそれのみに重点
を置いていない。CHARM project では、35 種の魚種を扱っているが、資源アセスメン
トは 6 種の魚しか扱っていない。さらに、餌生物と捕食生物の関係を反映した生態系モ
デル(trophic model)は現状では実際の資源管理の為の TAC の設定には寄与できていない。
これは、科学的なデータの不足と横断的な取り組みがいまだ全体として十分でないこと
による。資源ストックと TAC の問題は非常に政治的な問題でもあるので、簡単に生態
系・科学的アプローチのみによって、より一層資源管理に効果的な管理制度に移行でき
ないのも事実だ。
質問:あなたのリサーチプロジェクトが発生したバックグランドをもっと知りたい
回答:実際に英仏海峡で起きている利害関係者間の競合を科学的な知見に基づいたアド
バイスを持って解決したかったことと、生態系アプローチという総合的な、そして海洋
環境保護には今後必要とされる取り組みを進めていきたかったからである。またこれは
個人的なことであるが、おじいさんの代まで漁師で、地域の漁業資源の持続性に深い関
心を持っていたからでもある。
質問:
プロジェクトの経費は?
回答:EU から資金提供を受けている。研究所の職員は約 50 名だがそのうち 3-4 人が
この CHARM
Project にかかわっている。
質問:国家間で法のシステムは異なるが、そのすり合わせはうまくいっているのか?
問題があるとすればどのように解決するつもりなのか?
回答:それは大変複雑な問題である。基本的にはうまくいくよう努力しているというの
が実情である。政策的なプロジェクトとしては 6 ヶ月に 1 回会合を開いて、法律のすり
合わせをしているが、地域から国家への政策の移行は容易ではない。たとえば、イギリ
スがフランスのすぐそばで砂利採集をしているが、フランスは将来の自国での同事業の
発展を鑑みて苦言を呈しようとはしない。また、漁業管理は政治的な問題として、ヨー
ロッパがこれからもどのように管理していくのかというのは大変難しい課題である。
質問:その地域で海洋観光は盛んなのか?
回答:英仏海峡では海洋観光はあまり多くないが釣りのレジャーは多い。しかしレクリ
エーションながら最近釣りによる漁獲量が増大し、資源に影響が出ている。
質問(コメント):日本にも CHARM Project のようなマップがあればよいと思う。
日本ではかなりの沿岸が埋め立てられ、浅場がなくなり、漁場がこわされている。
海底の海藻を再生させる試みが出てきているが、魚の生産に海藻は定量的にどのくらい
重要なのか知りたい。フランスやイギリスは海藻にあまり関心はないのか?
回答:海藻には関心がある。海藻は魚の卵を保護したり、魚の産卵にとって大変重要だ
と認識している。ヨーロッパでは学術論文にて、科学的にこの事を論じているので参考
にされればいいのではないか。
質問:フランス、イギリスの漁業者は増えているのか?また、将来的にはどうなるのか?
回答:資源の枯渇による問題が出ている。また、資源管理も十分とは言えないが取締り
によって漁業者が減っているのも事実である。フランスはもっと漁業を発展させたいと
考えているが漁業者個人としては経済的なプレッシャーが強く、また跡継ぎも見つから
ないことが多い。イギリスは 1990 年代から漁業については規制がきびしくなった。小
規模漁業は将来的に減少の一途をたどるのではないか。
質問:10 年まえにイギリスの研究所を訪れたが、財政的にきびしく調査船もなかなか
出せない状況だった。そのような、財政の危機から調査船の合理化は進んでいるのか?
また、フランスはスペインと共同で調査船を作っていると聞いたがどうなのか?
回答:フランスはスペインから全体の 20%
の出資を受け、共同で新しい調査船を建
造したが、これはフランス国籍の調査船で年に 2 ヶ月ほどスペインが調査に使用してい
る。個人的には、資金だけの問題ではなく、いろいろな国が共同で調査することが大事
だと考えている。そうすれば資金を重複して使うこともないし、調査場所が重複するこ
ともない。科学的な調査をすすめることがとにかく大事である。今研究に使用している
データは漁業者からもらったものが多いが、科学的に質の良いデータではないため、よ
り一層の国際的な協力による合理的で、無駄のない調査が必要である。
以上
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