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グローバル・インテリジェンス
2009年7月 グローバル・インテリジェンス グローバル経済見通し ビル・チェイニー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 1ページ 米国市場見通し グローバル経済 見通し マーク・シュミーア . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4ページ カナダ市場見通し パット・マックヒュー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6ページ 欧州市場見通し デイビッド・ハッセー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8ページ 新興国市場見通し ピーター・メニー . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10ページ 日本市場見通し 津本 啓介 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12ページ ビル・チェイニー 米国のリセッションが秋までに終焉 するという可能性は依然として考え られますが、現実的には2009年末 まで継続すると考えます。 グローバル債券市場見通し バリー・エバンズ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14ページ 世界経済の収縮スピードはようやく鈍化してきましたが、 今後の見通しは依然として不透明であり、その見解は真っ 向から対立しています: ■「景気回復の芽(green shoots)」論によると、これま での各国政府による大規模な財政および金融刺激策の 効果が浸透し、2009年後半は在庫回復やエネルギー価 格の大幅下落(2008年と比較した場合)に支えられ企 業活動は回復、2009年末にはリセッション(景気後退) が終焉するとしています。そして業績の好転から2010 年は経済全体に安堵感がもたらされ、住宅、消費耐久 財および設備投資に資金が回帰するとしています。 ■ 一方で、IMF(国際通貨基金)をはじめとする弱気筋は、 現在のリセッションは2009年末まで長引くとし、金融 レバレッジの解消によるインパクトが主要経済国の信 用力の低下を招き、今後数年に亘って主要経済国の経 済成長が低水準で推移するとの見解を示しています。 1 グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス グローバル経済見通し(つづき) 短期的には多くの問題が発生すると見ています。たとえば、 商業用不動産市場はなお一層の低下余地をはらんでおり、 雇用削減は消費に重くのしかかっています。また、このと ころの信頼感の回復も株価が下落すればすぐに後退するお それがあります。秋までに米国のリセッションが終焉する という可能性は依然として考えられますが、決して確実と はいえないのが現状です。 2.0 1.50 1.5 1.45 1.0 1.40 0.5 0.0 1.35 - 0.5 1.30 - 1.0 1.25 - 1.5 1.20 - 2.0 - 2.5 Q1 2007 Q2 2007 Q3 Q4 2007 2007 Q1 2008 Q2 Q3 2008 2008 企業在庫変化率(%、左軸) Q4 Q1 2008 2009 Q2 2009 (F) Q3 2009 (F) 1.15 在庫・売上高比率(右軸) 長期的には、投資家に安心感が戻り経済回復が安定軌道に 出所:Data Insight、MFCグローバル 乗れば、各国の金融機関が現在抱える諸問題が経済成長を 一方で、悲観的な見通しではリセッションの長さより、回 阻害することはないと考えます。無論、これまでのレバレ 復力の度合いが弱くなる可能性に焦点を当てています。こ ッジの急成長で恩恵を受けた幾つかの投機的な手法や信用 こでは消費者が負債(ローン等)を返済する間、消費抑制 力の低い金融機関は、市場でのシェアを失うこととなりま が掛かることや、経済成長を支えるのに必要な資本をクレ すが、経済が成長する過程においては信用力のある借り手 ジット市場が提供できないことを主たるリスクとして挙げ には資金が集まり、金融機関はこれを支えるという点で持 ています。 続的な成長を続けるのは明らかです。潜在成長率を下回る 経済成長は数年にわたって失業率が上昇することを意味し ますが、この可能性は新たな投資家層や資金調達市場が誕 生する可能性よりも低いと思われます。 カナダでは大規模な景気刺激策にもかかわらず、輸出の大 幅減少により2009年のGDP成長率は2.4%のマイナス成長 が予想されています。雇用削減が増大し、住宅市場は軟化、 カナダ国内の自動車産業も米国の影響を大きく受けて統廃 しかしながら、楽観は禁物と考えます。現在我々が置かれ 合が差し迫るなど、厳しい国内情勢はなおも続きます。し ている状況は、これまでの経済予測算出に使用されてきた かしながら、原油や商品価格が再び上昇を始めており、こ 過去のデータ水準から大きく逸脱しており、今後我々の想 こに米国景気回復が加わり輸出環境が好転すれば、カナダ 定を超える展開となる可能性は十分に考えられます。弊社 経済は復活する見通しです。 は今後も、大手金融機関の資本不足あるいは機能不全に陥 ったABS(資産担保証券)の新規発行市場が経済成長に与 える影響を慎重に分析する予定です。 米国が回復を牽引 カナダ経済は比較的堅固な財政状況を有しており、金融シ ステムも健全です。また家計のバランスシートも特に問題 がないことから、米国の景気が回復すれば、国内景気は浮 揚するでしょう。特にカナダについては原油等の天然資源 があることから、グローバル経済の回復に伴い原油・商品 米国では2009年第2四半期(4∼6月)、市場は劇的な転換 価格が上昇すれば、景気拡大は一段と高い水準となります。 を見せました。株式市場は大幅に上昇し、金融システムは しかしながら、現状ではカナダの運命は相変わらず米国に 足がかりを見つけつつあるようです。消費者信頼感指数も 大きく左右されています。 回復し、リセッションはまもなく終わるというコンセンサ スが形成されています。今回の米国の景気回復の牽引材料 となるのは、企業の在庫水準、投資家および消費者の信頼 感、金融システムの健全性そして政府政策による効果(財 政出動および金融刺激策)です。さらに、住宅市場の回復 も加われば、経済成長は大きな足かせから開放されるでし ょう。 2 新規売上が在庫水準を底上げする見通し GDP成長率を押し上げ(下げ)水準(%) 弊社では「景気回復の芽」は十分にあると考えるものの、 2009年7月 不透明であることから、経済成長とインフレ懸念の両方に 中国の回復、日本の低迷 アジアでは、域内輸出の減速のペースがようやく鈍化をし 始めたものの今般の記録的な景気収縮はアジア経済に多大 おいて2010年もなおダウンサイドリスクが強く残ると考 えています。 な影響を与えました。唯一、中国のみが想定よりも早く最 明るい材料としては、過去2四半期における欧州の貿易お 悪期から脱出しつつあるようです。中国経済の堅調な成長 よび生産の急減に底打ち感が見えることです。さらに、各 は、その内容が中国国内のインフラ整備やその他の公共事 国政府が取った対応策が金融市場と実体経済の安定の実現 業に関連するものであっても、貿易に依存する周辺諸国か 化を早める可能性も高くなってきました。欧州中央銀行 ら見れば自国景気を押し上げる要因となるため歓迎してい (ECB)による政策措置は、何もなかった初期に比べれば ます。日本については相変わらず深刻なリセッションが続 有益で、欧州経済の回復が米国よりも遅くなるとした以前 いています。減速のペースは鈍化を始めていますが、今般 に比べれば、明るい兆しが見えて来ています。 の大幅な景気収縮から日本では「大不況」という概念が日 常化している状況です。 ビル・チェイニーは、エムエフシー・グローバル・インベストメン ト・マネジメントのチーフ・エコノミストです。本レポート作成にあ たっては同社エコノミストであるオスカー・ゴンザレスとレベッカ・ ブロイも参加しています。三者はいずれも米国ボストンを活動拠点と しています。 アジアの輸出減少は底を打った 40 30 前年同月比(%) 20 10 0 - 10 - 20 - 30 - 40 - 50 08年1月 08年4月 08年7月 シンガポール 08年10月 韓国 中国 09年1月 09年4月 台湾 出所:各国における統計担当局による(対比のため米ドルベースに換算) 。 今回の景気収縮おける中国の一連の対応においては、その 社会主義的な経済統制が各所で見られました。昨年、中国 の輸出の急激な落ち込みが明らかになると、これまで取ら れていた過熱防止のための行政措置は一気に解除されまし た。政府は輸出、投資、消費における刺激策や助成金など を次々と打ち出しましたが、中国について注目すべきは、 政府が単にブレーキから足を離すだけで国内景気が大きく 変化するという点です。これにより貸出は再度急増し、不 動産市場や民間・公共投資は大きく回復しました。 欧州も金融危機と輸出減少という点では諸外国と同じく多 大な影響を受けていますが、欧州に関しては景気浮揚策が それほど積極的ではないため、欧州地域経済は北米よりも 緩やかな回復軌道をたどると考えます。現在、欧州のセン チメントは以前と比較すれば改善しましたが、真の変化を 示す兆候は依然として見受けられません。弊社では欧州の 回復を2010年以降と予想していますが、先行きは非常に 3 グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス 米国市場見通し の統計は、予想に反して軒並み上昇し、いずれも堅調とは 言わないまでも、予想ほど悪くありませんでした。消費者 信頼感指数は、2月の25から大幅上昇して5月には55とな りました。4月および5月両月の主要経済指標は、向こう1 年にわたり平均以上の成長が見込めるほどの堅調ぶりを示 しました。 マーク・シュミーア 前例のない大幅反騰 短期的には株式市場の調整の可能性 がありますが、忘れてならない重要な ことは、市場は依然として史上最高値 からおよそ40%も低く、景気回復に 伴い今後数年にわたって上昇する可能 性があるということです。 弊社は過去のグローバル・インテリジェンスで、ベア(弱 調に推移しました。S&P500指数は15.2%の上昇となり、 同様の上昇(14.9%)を記録した2003年第2四半期(4∼ 6月)以来の堅調な四半期となりました。興味深いことに、 2003年第2四半期はその後4年以上続いた強気市場の幕開 けとなった四半期でした。 しました。これが現実のものとなり、6月12日には相場が 3月の最安値から40%上昇しました。実際、最初の図が示 しているように、今回のような大幅かつ急激な反騰はほと んど前例がありません。市場のアップサイド・リスクとダ ウンサイド・リスクの両方を再評価すべき時でしょう。 まれにみる反騰の強さ 底値を100とした場合の反騰の水準 2009年第2四半期(4∼6月)の米国株式市場は極めて堅 気)相場の底値からの反騰は劇的になる傾向があると指摘 165 155 145 135 125 115 105 95 0 1 2 2009 った金融セクターで、これにより2008年の異常なほどの 出所:ブルームバーグ 景にはクレジット市場の正常化の進捗、スティープなイー ルドカーブ(金融関連企業の収益性アップにつながる)、 および銀行の資本増強によるバランスシートの改善があり ました。一方で電気通信や公益事業といったセクターが出 遅れましたが、これらは基本的には相場が反騰するような 米国株式市場の回復のきっかけとなったのは、約1年半続 いた深刻なリセッション(景気後退)の終わりが近づいて いることを示す兆しでした。上半期(1∼6月)の小売売 上高、5月の就業者数、ならびに4月および5月の個人所得 6 2002 1987 1982 1 8 9 1974 1970 図は、過去20年間における前年比ベースの年間利益成長 率と各四半期の株価収益率(PER)のレンジの推移です。 バリュエーションは利益水準によっては低下する 50% 30x コンセンサス予想 40% 30% 25x 20% 20x 10% 15x 0% - 10% 10x - 20% 5x 1986 - 30% 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 PERレンジ(左軸) 一株当たり利益の%変化率(右軸) 出所:ブルームバーグ、トムソンベースライン 4 7 ン(またはその両方)が改善しなければなりません。次の 株価収益率(PER) ュー株は足並みの揃ったパフォーマンスとなりました。 5 相場がもう一段上昇するには、利益またはバリュエーショ 局面では動きが鈍いセクターです。スタイル別では予想ど おり、中小型株がアウトパフォームし、グロース株とバリ 4 底値から経過する月数 2009年第2四半期における市場の牽引役は35%の上昇とな 弱気さの一部は完全に反転した格好となりました。この背 3 “Can the Corporate Profit Boom Last?(企業収益ブームは終焉を迎えるのか?) ” The Bank Credit Analyst誌 (2007年6月) 2009年7月 実線(右軸)は前年比ベースの年間利益成長率、点線はコ 市場が3月の底値から40%反騰したことを考えると、短期 ンセンサス予想です。コンセンサス予想が間違っていなけ 的には株式に対して慎重姿勢で臨むことは当然と思われま れば、利益は2009年6月現在の前年比マイナス24%から す。夏季はリターンが低迷しがちですし、景気回復および 2010年9月までにプラス26%(予想)となり、株式市場は 利益予想の両方に対するリスクもあります。また、バリュ さらに上昇する可能性があります。 エーション水準が低下しやすくなっているおそれもあります。 しかし、株式市場が利益成長に伴って上昇するのは、PER このように短期的な警戒が得策のように思える一方で、忘 が現行水準の15.5倍から3ポイントほど低下した12.5倍ま れてならない重要なことは、株式が依然として史上最高値 での間に限られます。残念なことに、この先バリュエーシ からおよそ40%も低く、景気回復に伴い今後数年にわたっ ョンは一旦低下に転じるようです。 て上昇する可能性があるということです。向こう1年につ 図からわかるように、利益が増加する5回のうち4回の場 合において市場の株価収益率(PER)は低下しています。 利益水準が現在のコンセンサス予想のように急増した2つ の事例を見ると、1991年から1994年のケースではPERが 3分の1(7ポイント)低下し、2001年から2003年のケー スでは同じく3分の1(8ポイント)低下しました。今回に ついて言えば、これら2前例に比べればより低いバリュエ ーション水準から始まっており、PERのダウンサイド・リ スクが少ないことを示唆していますが、それでもやはり過 去の実績を見るに手放しで喜べるものではなさそうです。 いて言えば、実績ベースの利益に基づくPERは12∼15倍 が妥当でしょう。先述のコンセンサス予想利益成長率 (2010年9月までにプラス26%)に基づくと、20%超のリ ターンが得られる可能性もあります。しかし、今後数四半 期にわたる収益およびバリュエーション両方の予想される ボラティリティを考えると、投資家がそうしたリターンを 得るためには、相当に臨機応変なトレーディングが必要か もしれません。 マーク・シュミーア(CFA)は、エムエフシー・グローバル・インベ ストメント・マネジメントの株式運用および調査部門における最高運 用責任者(CIO)です。同氏はトロントを拠点としています。 短期的な警戒は当然 現状をみるに、どうやらコンセンサス予想利益とバリュエ ーションの両方にリスクがあるようです。弊社は、経済が 回復の初期段階にあることを確信しており、2009年下半 期(7∼12月)に経済成長率が予想を上回る可能性は十分 にあると考えます。しかし、消費者による継続的なレバレ ッジ解消の可能性、主要銀行の追加損失、およびある時点 の増税がほぼ確実である巨額の財政赤字(いずれも、将来 の経済成長と企業収益に影響を与える)を考えると、景気 回復の持続性に危うさが考えられます。 バリュエーションは、多くの点でリスクに直面します。ま ず、先に説明したように、利益が急激に回復しているとき は、PERは低下する傾向があります。次に、多くの投資家 は市場における資金量の大幅増加からいずれ発生するイン フレを危惧します。インフレ率の上昇がバリュエーション に悪影響を及ぼすのはまず間違いありません。 2 “The Effect of China on Global Prices(世界の価格に与える中国の影響) ” Bank of Canada Review誌 (2007年8月) 5 グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス カナダ市場見通し え、赤字は(十中八九、増税で)埋め合わせなければなら ず、銀行その他の金融機関のさらなる損失も考えられない ことではありません。 カナダ株式は依然割安だが、利益水準は一段の低下 パット・マックヒュー 2009年3月の底値からの直近3ヶ月間 のリターン (4∼6月期)は別格でした。 これは弱気相場になることが多い夏季 の警戒が必須であることを示唆して います。 3.15x 16.13% 2.87x 14.39% 2.59x 12.65% 2.31x 10.91% 2.03x 9.17% 1.75x 7.43% 1.46x 5.69% 1.18x 3.95% ‘88 ‘89 ‘90 ‘91 ‘92 ‘93 ‘94 ‘95 ‘96 ‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 (暦年) S&Pトロント総合指数の株価純資産倍率(PBR、左軸(倍)) S&Pトロント総合指数の株主資本利益率(ROE、右軸(%)) RFPのコンセンサス予想(11.2%) 出所:Computerized Portfolio Management Services, Inc. 上図からわかるように、現在のカナダ株式の株価純資産倍 率(PBR)は3ヶ月前の1.5倍から上昇して1.7倍となって 2009年第2四半期(4∼6月)のカナダ株式市場は、グロ います。一方、実績ベースの自己資本利益率(ROE)は ーバル経済回復に対する楽観論の高まりを手がかりにS&P 12.7%で、3ヶ月前の14.2%から急激に低下しました。 トロント総合指数は3月9日の底値から大幅に反騰し、前 2009年12月末までのROEコンセンサス予想は現在11.2% 四半期比プラス20%の著しい上昇となりました。月別では で、引き続き低下しています。弊社は、いつ、どのような しかし、6月のパフォーマンスは横ばいにとどまりました。 水準で収益性が底を打つのか見極めるために、この状況を これは、様々な想定を考慮して景気回復の幅や持続性の再 注視していきます。いずれにせよ、バリュエーションは依 評価を始めたことによる可能性もあれば、3月の底値から 然割安で、株式市場は収益水準の低下を織り込んだ水準で の40%以上の反騰を受けて単に利益を確定したことによる 取引されています。 可能性もあります。 バリュエーションは依然として過去の平均水準を大幅に下回る 反騰はカナダ株式市場全体にわたり、GICS(世界産業分 35.47x 類基準)の10セクターのうち9セクターが上昇しました。 31.74x 最も堅調なパフォーマンスを見せたセクターは情報技術、 28.01x 金融、およびエネルギーで、それぞれ43.3%、34.5%、 24.28x 20.55x 21.6%上昇しました。最も軟調なパフォーマンスとなった 16.82x セクターは電気通信サービス(-1.0%)、素材(+4.3%)、 13.09x 9.36x およびヘルスケア(+8.0%)でした。 カナダ経済は底入れの過程へ 6 ‘88 ‘89 ‘90 ‘91 ‘92 ‘93 ‘94 ‘95 ‘96 ‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 ‘09 (暦年) S&Pトロント総合指数の実績株価収益率(PER) 出所:Computerized Portfolio Management Services, Inc. 多くの経済指標は依然としてマイナス基調ですが、以前よ カナダ株式市場の株価収益率(PER)は実績ベースで13.5 り上向きの指標や少なくとも予想以上に好調な指標が少な 倍であり、2009年のコンセンサス予想ベースでは15.3倍 くありません。弊社の見るところ、経済は底入れの過程に になります。2つ目の図を見ると、これが歴史的に極めて ありますが、この過程はどうやら長引きそうな情勢です。 魅力的な水準であり、1980年代後半以来の水準であるこ 消費者および企業のレバレッジ解消は収益性に影響を与 とは明白です。 2009年7月 市場は将来の増益を織り込み済み 2009年第2四半期の急騰で、その後の注意が必要 弱気相場終焉後のリターン 2009年のコンセンサス予想は引き続き悪化しており、今 点として、2009年第1四半期(1∼3月)の予想利益の低 弱気相場(期間) 期間中の 下落率 下はほぼ全面的にエネルギー・セクターに起因していまし 1957年5月∼12月 1969年5月∼1970年6月 1973年10月∼1974年9月 1981年6月∼1982年6月 1987年7月∼11月 1989年12月∼1990年10月 1998年4月∼8月 2000年8月∼2002年9月 メジアン -26.9% -25.4% -35.9% -39.2% -25.4% -20.1% -27.5% -43.2% 27.2% 2008年6月∼2009年3月 -50.4% 42.7% のところ28%の減益を見込んでいます。注意すべき重要な たが、第2四半期のコンセンサス予想ではGICSの10セクタ ーのうち7セクターで減益が見込まれることが挙げられま す。エネルギー、素材、資本財・サービス、一般消費財・ サービスのセクターでは大幅減益が見込まれています。し たがって、最近の反騰は、投資家が今年の予想の先を読ん でいることを示唆しています。暫定的ですが、2010年の コンセンサス予想は27%の増益を見込んでいます。弊社が 特に注目するのは、第2四半期の修正業績発表、ならびに 予想を上回る企業およびセクターの業績発表です。しかし、 現時点でカナダ株式市場の予想リターンを示すことは無意 味であり、最初の2つのバリュエーションのグラフを見れ ば、リターンを予想するためには、まずバリュエーション の底を決める必要があるのは明白です。 6ヵ月 後 12ヵ月 24ヵ月 後 後 7.0% 13.2% 2.9% 18.7% 8.4% 7.3% 15.2% 7.5% 8.0% 31.2% 37.3% 27.5% 45.5% 23.2% 35.9% 86.9% 76.3% 14.5% 42.1% 18.6% 16.4% 28.1% 109.4% 22.5% 45.4% 25.4% 43.8% ? ? 出所:Computerized Portfolio Management Services, Inc. パット・マックヒュー(CMA)は、エムエフシー・グローバル・イン ベストメント・マネジメント(カナダ)のバイス・プレジデント兼シ ニア・ポートフォリオ・マネジャーです。同氏はトロントを拠点とし ています。 右表からも明らかなように、S&Pトロント総合指数はベア (弱気)相場の底入れ後、大きく反騰して忍耐強い投資家 に報いてきました。しかし、2009年3月の底値からの直 近3ヶ月間のリターン(4∼6月期)は別格でした。これは 弱気相場になることが多い夏季の警戒が必須であることを 示唆しています。 際立って堅調な最近のパフォーマンスを考えれば、魅力的 なバリュエーションでも調整は健全です。投資家は最近の 相場動向に刺激を受けて、カナダ株式市場の堅調なファン ダメンタルズを生かす準備を整える必要があるかもしれま せん。 7 グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス 欧州市場見通し 第2四半期(4∼6月)には、明らかに景気関連銘柄がディ フェンシブ銘柄をアウトパフォームしました。今期最も堅 調なパフォーマンスを見せたのは金融セクターで、これは 第1四半期(1∼3月)の資本市場における景気動向の改善 によるところが大きいです。欧州大手金融機関は東欧での 事業で追加的な評価損に直面するとの国際通貨基金(IMF) からの警鐘があったにもかかわらず、今回の回復を実現し デビッド・ハッセー ました。 弊社では欧州企業の利益率低下と経済 成長の減速を見越した株価予測を立 てていますが、それでもなお、多くの セクターで豊富な投資機会が見受け られます。 このほかには中国が国内の在庫を積み増したことを背景 に、素材セクターも大幅に上昇しました。資本財・サービ スおよび情報技術セクターも堅調でした。一方、電気通信 サービス、ヘルスケア、エネルギーなどのディフェンシブ 銘柄は出遅れました。 ストレスの高まりに直面する欧州連合 2009年第2四半期(4∼6月)の欧州市場は回復し、MSCI 欧州指数は米ドル・ベースで約26%上昇しました。3月の 底値の後、その他の指標が景気減速の鈍化を示したことか ら、景況感が回復し株価は大幅に反発しました。また重要 な点として、この相場上昇に伴いクレジット市場が改善し たことから、企業による資金調達(株式・債券ともども) 欧州中央銀行(ECB)は、今後2、3年にわたる重大な課題 を抱えています。伝統的かつ革新的な金融刺激策を講じて 景気回復を促すことは米連邦準備制度理事会(FRB)の任 務と似ていますが、ECBはこれをユーロ圏通貨同盟「全体 に適応(フィット)する」よう達成しなければなりません。 件数が増加しました。 たとえばスペインは、ドイツと比べれば競争力が劣ってお 2009年4∼6月:欧州連合(EU)諸国の景況感が改善 り、単一通貨という制約の中で自国の貿易競争力を取り戻 120 そうと奮闘しても、低い賃金と高い失業率がスペインを相 対的なディスインフレに位置づけてしまいます。このよう な展開に伴う国民の不安を無視するわけにはいきません。 100 このため、ECBは経済競争力が相対的に弱い加盟国が取り 残されないよう、緩やかな金融政策を継続する可能性が高 80 いものと思われます。特に政策決定者は、利上げを急ぎす ぎて景気回復が頓挫することを警戒するはずです。弊社は 60 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 出所:ブルームバーグ、欧州共同体(EC) これを株式市場の支持材料と見ています。 長期的に見ると、「全体に適応(フィット)する」ユーロ 8 より一般的には、投資家がグローバル経済回復の可能性に 圏金融政策の成功には加盟各国の規制と財政政策の統合強 合わせてポジションを積み増す中、リスク選好が資産クラ 化が必要になるでしょう。このような政治的かつ経済的な ス全体にわたって改善したようです。しかしながら時を同 統合は、特に英国などの懐疑論者にとっては理解しがたい じくしてドル安傾向が再開し、為替レートが1ドル1.40ユ ものです。英国は経済通貨同盟(EMU)に加盟していな ーロにまで戻りました。これは欧州経済の速やかな回復願 いことから、非常時の貴重な手段としてポンドを切り下げ 望をくじきかねない水準です。 る切り札を持っています。残念なことに、ポルトガル、イ 2009年7月 タリア、スペイン、ギリシャおよびアイルランドには同じ ような政策の柔軟性がなく、それがこうした国々の回復が 長引くことを意味しています。 えています。 当面の間、欧州株式市場の見通しを左右するのはグローバ ル経済の回復見込みです。欧州の経済成長は前代未聞のペ 欧州株式の長期的なバリュエーションは、第2四半期株式 ースで、また1970年代以降のどの期間より急激に収縮し 市場の急騰にもかかわらず、依然として魅力的に思えます。 ています。 過去のグローバル・インテリジェンスでは欧州企業の過去 10年間の平均利益に対する現在の株価で導いたシラーの 長期的には、魅力的なバリュエーション水準と高いキャッ 株価収益率(PER)をご紹介しました。ここで問題なのは、 シュ比率から、株式市場における一段の上昇が期待できま ここ数年間の欧州企業の成長が多額の借り入れにより作ら す。しかし中期的には、政策決定者は、育ちつつある回復 れた成長であったことです。生産余剰の低下と物価上昇に の芽を摘まず、さらなるバブルも発生させないような金利 伴って、多くの企業の利益率が高くなりすぎていました 水準の舵取りをするという困難な役目をこなさなければな (次の図をご参照ください)。 経済が不確実な時期に重要なのは、企業価値の大半は近い 将来ではなく、さらに数年先にもたらされる企業活動の回 復を見越して価格付けられていることを理解することで す。シラーの株価収益率(PER)は長期的な見通しを示し、 当面の景気低迷の中での将来的なバリュエーションを可能 にします。 りません。 欧州には今後数年で達成すべき独自の課題があります。す なわち、より強いユーロ圏加盟国のインフレを煽らずに、 より弱いユーロ圏加盟国の便宜を図る政策フレームワーク を提供することです。結局のところ、欧州連合諸国(EU) はそれ自体が循環経済単位であり、新興国市場の持続的な 成長は欧州先進国企業や欧州株式市場の活力になるはずで 長期的なバリュエーションは80年代半ばの水準に 40x す。欧州の主要経済諸国の状況は良好で、消費者の負債は 少なく、賃金には競争力があります。一方、消費と賃金の 35x 苦しい再調整を必要とするのはその周辺諸国です。 30x 25x 20x 全体として見ると、このような厳しい環境の中にも投資機 15x 会はあります。セクター内のバリュエーションは豊富な選 10x 5x 択余地があり、銘柄選択には都合の良い状況にあります。 0x 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 シラーに基づく欧州株式(除く英国)の株価収益率(PER) 出所:UBS証券 弊社では欧州企業の利益率低下と経済成長の減速を見越し た株価予測を立てていますが、それでもなお、多くのセク ターで豊富な投資機会が見受けられます。 市場は長引くリセッションを織り込み済み 上の図の重要な点は、現在のバリュエーション水準が 1970年代の不安定な期間に見られた水準を依然として下 デビッド・ハッセーはエムエフシー・グローバル・インベストメン ト・マネジメント(欧州)リミテッドの欧州地域株式担当責任者です。 本レポートは、同社の欧州株式ポートフォリオ・マネジャーのグレゴ ール・ラプリッチ(CFA)および、欧州株式アナリストのデイビッ ド・ダグデール(CFA)、ウィル・ハムリン(CFA)と共同で作成され ました。4名はいずれも英国ロンドンを拠点としています。 回っていることです。1970年代の特徴は好不況の循環と 政策ミスでした。弊社では現在の水準を見るに、市場が持 続可能な回復を過剰なまでに悲観的に捉え、インフレ関連 で起こりうる政策ミスを織り込んでいるのではないかと考 9 グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス 新興国市場見通し 現在の中国における新規融資の増加は、(まだ少し先の話 でしょうが)いずれは不良債権の増加につながるでしょう。 新興国市場が先進国市場を上回る(2009年初来) 450 400 2009 1999年7月を100とする 350 300 250 200 ピーター・メニー 150 100 50 短期的には、世界の株式市場は調整 リスクの可能性がありますが、中長期 的には依然として新興国市場株式は 魅力的な投資であると確信しています。 2009年第2四半期(4∼6月)の新興国市場は、引き続き 極めて魅力的な資産クラスとして米ドル・ベースで約35% の上昇となりました。第1四半期(1∼3月)に下げの様相 がグローバルに強かった中、新興国市場は先進国市場を上 回り、第2四半期の上げ相場でも引き続き堅調に展開しま した。その他の地域のマイナス成長予測に対し新興国市場 のプラス成長の継続もこうしたパフォーマンスの追い風と なりました。 年初来ではグローバル株式市場のほとんどが上昇している 現在を考えると、第2次世界大戦以来最悪のリセッション (景気後退)を各国が切り抜けてきたことは非常に価値の あることと思えます。しかしながら、これまでに原油価格 の反騰やバルチック海運指数などの指標の改善が確認され ていますが、万事順調に進むという確率はそう高くなく、 着実な世界的成長の軌道に戻ることも時間がかかりそうで す。現在進捗しているものの大半は、在庫の積み増しと財 政出動の結果です。いずれも重要ですが、経済回復に与え る効果は一度限りです。 中国は5兆元超の新規融資額を伴う巨額の財政出動を打ち 出していますが、これは弊社の試算によると、中国のGDP 比20%超に相当します。この財政出動が世界的な株価の上 昇を支えているのは明らかです。また、米国の景気刺激策 も今般の世界的な株価上昇を支えています。しかし、この ような水準の刺激は持続できるものではなく、いずれは 「通常の」経済成長に戻らなければならなりません。実際、 10 0 99年7月 00年7月 01年7月 02年7月 03年7月 04年7月 05年7月 06年7月 07年7月 08年7月 MSCI世界指数 MSCIエマージング指数 出所:MSCI、MFCグローバル、トムソンQA インドに対する警戒 第2四半期のインド株式市場は、米ドル・ベースで約60% 上昇しました。好感されたのは総選挙の結果で、国民会議 派(Congress Party)が議席数を大きく伸ばし再び政権を 握ったことによります。国民会議派は引き続き連立パート ナーを必要としますが、今回の選挙結果を受けて、より構 造的な改革が可能になるとの期待が高まりました。しかし ながら弊社はインドへの若干の警戒感を崩していません。 バリュエーションは割高ですし、ほかにこれといった好材 料も見当たりません。弊社は構造改革の可能性を認識して いますが、構造改革はその過程に潜在的な障害物が数多く あるため、時間がかかると見ています。 ロシアについては、第2四半期の半ばに弊社の株価予測モ デルはシグナルを「買い」から一旦「売り」に転じました が、その後6月の軟調な展開後、バリュエーションは再び 魅力的な水準に戻り、下方修正圧力の深刻度も緩和された ことから現時点では「中立」としています。ロシアへの投 資には多くのリスクがありますが、それは現在のバリュエ ーションに織り込まれているものと思われます。 期待できるブラジル ラテンアメリカについては、弊社は引き続きブラジルを最 も魅力的な市場と見ています。ブラジル株式市場は妥当な バリュエーションに支えられていますが、新興国市場ベー スでは相対的に投資比率が低く、上昇余地が十分に残され 2009年7月 新興国市場の経済成長は今後も先進国市場を上回ると弊社 は確信しています。但し、株式市場では短期的には世界的 な調整リスクの可能性が考えられます。とはいうものの、 長期的に見ると、新興国市場の人口構造は「若く」、先進 国市場では「高齢化」に伴う依存人口が急上昇するのに比 べれば、新興国市場の、今後労働年齢となる若年層人口比 率が高いのが魅力です。したがって中長期的には依然とし て新興国市場株式が魅力的な投資であると確信していま す。 1 人口動態では新興国市場に今後の投資妙味が見て取れる 70 68 66 労働年齢人口比率 ていると考えます。商品市況が下落した場合のリスクがあ りますが、ブラジルの銀行の自己資本比率が健全な水準に あるという強みがあることから、さらなる利下げの余地も 十分に考えられます。 64 62 60 58 56 54 52 50 1950 1960 1970 1980 1990 先進国 2000 2010 2020 2030 2040 2050 新興国 出所:国連(UN) ピーター・メニーはエムエフシー・グローバル・インベストメント・ マネジメント(欧州)リミテッドのシニア・ポートフォリオ・マネジ ャーです。同氏は英国ロンドンを拠点としています。 低迷時:88-90年、94-95年、97-98年、99年、00-01年、03-04年。2四半期、12カ月先物リターン単純平均 11 グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス 日本市場見通し 高いためです。 7月1日に発表された日銀短観調査によれば、企業の業況判 断は底打ちした模様ですが、2009年度の利益予想は過去最 低の水準に近いものです。また、輸出の持ち直しや生産の回 復にもかかわらず生産設備の稼働率は低水準で推移してお り、企業の設備投資計画はきわめて慎重です。さらに、多く 津本 啓介 の業種で雇用判断が「過剰」とされており、年後半に雇用が 改善すると見込むことはかなり難しい情勢です。こうした 短期金利が実質ゼロパーセントで維 持されるなか、日本の長期金利は年内 レンジ内での推移となる見込みです。 環境下、企業物価指数は当面下落を続け、消費者物価指数の 前年比はマイナス圏で推移するものと思われます。 日銀は今四半期を通じて金融政策を現状維持としました。 グローバルな経済・金融環境の先行きは依然不透明であ 東証株価指数(TOPIX)は2009年第2四半期(4∼6月) り、日銀は当面緩和的な金融政策を維持する見込みです。 に約20%上昇しました。経済の先行きに懸念は残るもの の、グローバルな経済・金融環境は改善の兆しを見せてお 設備判断(製造業)は「過剰」 60 り、投資家心理を下支えしました。投資適格社債のクレジッ Extended指数から算出)は6月末に66ベーシスポイント (bps)となり、3月末の96bpsから大きく縮小しました(ち DI指数(%) トスプレッド(国債に対する利回り格差、野村BPI- 50 40 30 20 「過剰」超 10 0 なみに2008年9月の水準は50bps)。10年国債利回りは、4 ∼6月の殆どを約1.4%から1.5%のレンジで推移しました。 - 10 「不足」超 - 20 1974 1979 大企業 グローバル経済が回復するという思惑から、6月前半には 一時1.56%まで上昇しましたが、その後楽観論が後退して 1984 1989 1994 中堅企業 1999 2004 2009 中小企業 出所:日銀短観調査 3月末とほぼ同じ水準の1.35%まで利回りが低下しました。 ここで過去10年の日銀の金融政策を振り返ってみたいと 日本経済は一旦底打ちの見込み 国内需要の低迷と輸出の鈍化から日本の2009年第1四半 期(1∼3月期)国内総生産(GDP)は前期比年率14.2% の大きな下落となりました。4∼6月期のGDPは、最近発表 になった経済指標から推定すると、前期比横這いか若干の プラス成長となる見込みです。在庫調整が急速に進展する とともに輸出が回復しており、非常に低い水準からではあ りますが、鉱工業生産は力強い回復を見せました。しかし、 年後半の日本経済は依然として脆弱なものに留まると思わ れます。政府の経済対策が景気をサポートするものの、国内 民間需要、企業業績、雇用は今後もう一段悪化する可能性が 12 思います。日銀がゼロ金利政策を初めて導入したのは1999 年の初めのことでした。それ以降の約10年間で日銀は数回 ゼロ金利政策を解除していますが、その間10年国債の利回 りは2%を越えることなく、ほとんどの期間で1%から2% の間で推移しました。 2009年7月 国債利回りはレンジ推移。社債に投資機会 国債利回りは過去約10年間レンジ内で推移 2.5% 日本の長期金利は年内レンジ内で推移し、そのボラティリ 2.0% ティは海外の主要債券市場に比べて小さいと予想します。 1.5% 日銀の実質ゼロ金利政策に加えて、経常収支の黒字と日本 1.0% の投資家のリスク許容度の低さが債券への需要を支える見 0.5% 込みです。弊社は、ポートフォリオのデュレーションをベン 0.0% 98年 12月 99年 12月 00年 12月 JGB10年物利回り 01年 12月 02年 12月 03年 12月 04年 12月 05年 12月 06年 12月 07年 12月 08年 12月 オーバーナイト翌日物誘導目標 注:2001年3月から2006年3月の間、日銀は量的緩和政策を採用しており、 その間、金利を目標とした金融調節を行っていない。 チマーク対比若干長めとし、中期債をオーバーウェイトす る戦略を当面維持する予定です。 過去3∼4ヶ月にわたってクレジットスプレッドは大きく 出所:ブルームバーグ 縮小しました。AAA∼AA格の高格付社債のスプレッドは現 日銀が初めてゼロ金利政策を導入した時、ゼロ金利政策が 在の経済・金融環境を考えると割高な水準まで縮小しまし インフレ率や長期金利に与える影響について市場の見方は たが、A∼BBB格の低格付社債のスプレッドはまだ割安な水 大きく二つに分かれました。一つは、金融緩和がいずれイン 準で取引されています。したがって弊社は、こうした低格付 フレもしくはハイパーインフレにつながり、長期金利は大 の社債を選別的にポートフォリオに組み入れる予定です。 きく上昇するという見方でした。もう一つは、日本経済の需 投資家は金利収入を獲得するために次第にクレジットリス 給ギャップは大きなデフレ圧力であり長期金利が上昇する クを取りにいくと見込まれ、社債市場は引き続き重要な収 可能性は小さいとする見方でした。もし日銀の流動性供給 益の源泉となるでしょう。 が理論通りマネーサプライの増加に繋がっていたならば、 インフレと長期金利上昇を招いていたかもしれません。し A格、BBB格が割安 250 効果が現れず、マネーサプライの顕著な増加は見られませ んでした。その間「日本株式会社」はレバレッジの解消(債 務の削減による財務の健全化)を進めており、金融政策に よる信用創造支援の効果を打ち消していたからです。結果 としてインフレよりもデフレが深刻な問題となりました。 さて、現在のグローバル債券市場を取り巻く環境を見てみ ると、過去の日本の状況に似通っているように見えます。マ クロ経済のレベルで供給が需要を上回っている場合(負の 需給ギャップ)は、中央銀行が金融緩和を行ってもギャッ ベーシスポイント かし、実際は経済学の教科書に書いてあるような信用乗数 200 5年社債利回り(対JGB) 150 100 50 0 01年4月 02年4月 03年4月 04年4月 AAA 05年4月 AA 06年4月 A 07年4月 08年4月 09年4月 BBB 出所:野村BPI、日興シティグループ。 注:格付けはムーディーズをS&Pより優先 津本啓介はエムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメ ント・ジャパン株式会社の債券運用部長です。同氏は東京を拠点とし ています。 プの解消には力不足で、インフレや長期金利の上昇にはつ ながりません。そうしたデフレ環境下でグローバルに中央 銀行が金融緩和を行っている現在の状況は、過去の日本の 経験に照らせば、投資家にとって魅力的な債券投資機会と なるかもしれません。とくに金融市場が過度にインフレ懸 念を織り込んだ場合はそうなる可能性が高いと言えます。 13 グ ロ ー バ ル ・イ ン テ リ ジ ェ ン ス グローバル債券市場見通し バリー・エバンズ 留まる事のない米国国債の供給と、 歴史的なクレジット・スプレッド水準 から、債券市場では今後もクレジット・ セクターが選好される環境が継続する と考えます。 ぞれ約600および250ベーシス・ポイント縮小しました。 市場では環境が改善されたことにより企業による資金調達 が増加、市場の流動性が回復しています。つい最近では、 米連邦準備制度理事会(FRB)のターム物資産担保証券貸 出制度(TALF)に関連して、クレジット・カードおよび 自動車ローン両方の資産担保市場でABS債の新発債発行が 行われました。ABS市場における資金調達は景気回復にと 2009年第2四半期(4∼6月)のグローバル経済情勢は引 って極めて重要です。米国クレジット市場では、昨年12 き続き弱含んでいるものの、減速スピードは鈍化し、世界 月までは不況のピークを見込んだリスク・プレミアムが価 的なリセッション(景気後退)の終わりが近づいていると 格に上乗せされていましたが、現在までにはこれは現時点 の楽観論が生まれています。第1四半期(1∼3月)の米国 のリセッションを反映したスプレッド水準となっていま のGDP成長率は5.5%のマイナス成長となりましたが、そ す。留まる事のない米国国債の供給と、歴史的なクレジッ の後、ほとんどのエコノミストが第2四半期の縮小幅が小 ト・スプレッド水準から、債券市場では今後もクレジッ さくなると予想しています。雇用削減は第2四半期も継続 ト・セクターが選好される環境が継続すると考えます。米 しましたが、ここでもペースは緩やかになっています。失 連邦準備制度理事会(FRB)は、景気刺激策として政策金 業率は9.6%に上昇し、年末までに10%を突破する見込み 利を低く誘導し、金融緩和策を維持する見通しです。 月初めに3.95%に達しましたが、第2四半期末までに約40 ベーシス・ポイント下げました。原油価格が1バレル70ド ル超に戻り、投資家が巨額の財政赤字から米国国債の過剰 供給を予想する中、利回りの急上昇を促したのは、市場に 忍び寄るインフレ懸念でした。 引き続き堅調に推移するクレジット市場 クレジット市場の修復と市場の再評価のペースは第1四半 クレジット市場の環境の改善からスプレッドは縮まる 2500 ベーシス・ポイント です。第2四半期の米国金利は上昇し、10年物利回りは6 Q2 2009 2000 1500 1000 500 0 05年 6月 05年 12月 06年 6月 06年 12月 投資適格社債指数 07年 6月 07年 12月 08年 6月 08年 12月 09年 6月 ハイイールド債指数 出所:メリルリンチ(オプション調整スプレッド) 期(1∼3月)から加速しました。ハイイールド債と投資 14 適格債は米国国債と政府機関債を大幅にアウトパフォーム 米ドルはクレジット市場の混乱が最も顕著だった時点で急 し、この2つのセクターのクレジット・スプレッドはそれ 伸した後、投資家のリスク選好が市場に戻り始めた3月か 2009年7月 ら下落しています。グローバル経済情勢はなお不透明なま まですが、2009年後半の経済成長回復を期待する楽観的 バリー・エバンズ(CFA)は、エムエフシー・グローバル・インベス トメントの債券運用における最高投資責任者(CIO)です。同氏は米 国ボストンを拠点としています。 な見方が投資家のセンチメントを向上させました。株式お よびコモディティ市場が回復するにつれて、豪ドル、ニュ ージーランドドル、カナダドルなどの「コモディティ通貨」 に対し、米ドルは最も大幅に下落しました。中国とロシア による代替準備通貨の要求もやはりドルを圧迫しました。 英国ポンドは、債務負担の増大、AAAのソブリン格付け、 および政治不安に関する問題を乗り越え、それにもかかわ らずこの四半期には、ほとんどの主要通貨に対して値を上 げました。 当面の米ドルのレンジ 景気回復への兆しが経済環境の現実によって弱まることも あることから、米ドルは当面、一定のレンジにとどまるも のと思われます。グローバル経済についてはリセッション の終盤に差し掛かるに当たり、ショックを受ける可能性が 考えられます。東欧については、これら地域の経済問題が ヨーロッパ先進国とその他の新興国市場に与える影響が払 拭しきれず、ユーロやスウェーデン・クローナなどの通貨 が圧迫されると考えます。また、ここしばらく好調であっ た株式市場が調整のリスクに直面していることも懸念材料 の一つです。弊社は「コモディティ通貨」に対して慎重な 姿勢を崩さず、クロスによるポジションを選好します。豪 ドルは最近、堅調なパフォーマンスで推移しています。オ ーストラリアの高い金利と中国との密接な関係は引き続き 豪ドルの支持材料となるはずですが、弊社としてはカナダ ドルと比べれば豪ドルに対してやや控えめな姿勢をとる 考えです。日本の弱体化している輸出依存経済により、日 本円についてはマイナスの評価に変わりありません。一方 でアジアの発展途上国市場には、通貨がアウトパフォーム する機会が考えられます。特にインドネシアについては、 回復力に富んだ国内経済、安定した政治システム、および 高金利が、今後も引き続きルピアの支持材料になると考え ます。 15 主要オフィス一覧 トロント エムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメント (Canada) 200 Bloor St. E., NT-6 Toronto, Ontario M4W 1E5 Canada TEL:+1-416-852-2204 香港 エムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメント (Asia) 47/F Manulife Plaza, The Lee Gardens 33 Hysan Avenue Causeway Bay, Hong Kong TEL:+852-2910-2600 ボストン エムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメント (U.S.), LLC. 101 Huntington Ave. Boston, MA. 02199 United States TEL:+1-617-375-1500 東京 MFCグローバル・インベストメント・マネジメント・ジャパン 株式会社 〒104-0031東京都中央区京橋1-2-5京橋TDビル7階 TEL:03-5204-5540 (セールス・顧客サービス部代表) ロンドン エムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメント (Europe) リミテッド 10 King William Street London, U.K. EC4N 7TW TEL:+44-20-7256-3500 エムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメント®について エムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメント®(以下、MFCGIM)は、生命保険および資産運用サービスにおいて世界有数の金融サービス会社 であるマニュライフ・ファイナンシャル・コーポレーション(本社トロント)の事業部門のひとつです。MFCGIMおよび系列会社は、グローバルな資産運用サー ビスを世界主要各国の機関投資家、投資ファンドおよび個人のお客様に提供しており、伝統的な株式や債券運用のみならず、石油・天然ガス、不動産、森林、農 地、非公開株式などのオルタナティブ投資を含めたあらゆる資産クラス、およびアセット・アロケーション戦略を展開しています。 MFCGIMの運用拠点は米国、 カナダ、英国、日本、香港およびアジア全域に配置され、2008年12月末時点の運用資産残高はおよそ22.8兆円(2,313億米ドル)にのぼります。 www.mfcglobal.com 日本における展開 日本では国内外のマニュライフ・グループや海外顧客に対し国内株式や国内債券の運用をご提供するほか、日本の年金基金をはじめとする機関投資家のお客様に MFCグローバルが運用する国内外の運用商品(森林投資等のオルタナティブ含む)をご提供しています。東京ではCIOを含め総勢14名の運用プロフェッショナル (2009年7月現在)を擁し、海外拠点のファンド・マネージャー、アナリスト、エコノミストとグローバルな市場動向について情報を共有しつつ、豊かな経験に 基づいた質の高い運用サービスをご提供しています。エムエフシー・グローバル・インベストメント・マネジメントに関する詳しい情報についてはセールス・顧 客サービス部(03-5204-5540あるいは[email protected])までご連絡ください。 ディスクレーマー MFC Global Investment Management®ロゴマークはザ・マニュファクチャラーズ・ライフ・インシュアランス・カンパニーのトレードマークであり、同社および マニュライフ・ファイナンシャル・コーポレーションを含むグループ企業に帰属するものです。当資料に記載される見解は2009年7月現在における弊社独自のも のですが、これらは市場環境等によって変動します。当資料は作成時において信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、信頼 性、完全性を保証するものではありません。当資料に記載される見解およびコメントは現状に基づいた一般的なものであり、マニュライフ・ファイナンシャル、 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