...

アブストラクトを公開しました。(PDF:2279KB)

by user

on
Category: Documents
18

views

Report

Comments

Transcript

アブストラクトを公開しました。(PDF:2279KB)
独立行政法人海洋研究開発機構 一般向け講演会
「地球環境シリーズ」
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪は
どうなるか?
平成 18 年 8 月 4 日
13:00∼17:00(開場12:30)
会場
国際連合大学 ウ・タント国際会議場
独立行政法人海洋研究開発機構 一般向け講演会
「地球環境シリーズ」
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪はどうなるか?
プログラム
総合司会
室山 哲也 (NHK 解説委員)
13:00∼13:05 開会の辞
加藤 康宏
海洋研究開発機構
理事長
13:05∼13:45 変わりつつあるアジアの雨と雪−はたして「地球温暖化」
の影響か? 安成 哲三
地球環境フロンティア研究センター
水循環変動予測研究プログラム プログラムディレクター
13:45∼14:20 地球を巡る水の流れに架かるダム:
「海大陸」の語る今後の気候
山中 大学
地球環境観測研究センター
水循環観測研究プログラム 特任研究員
14:20∼14:55 アジアの雪と氷は温暖化で減っているのか?
大畑 哲夫
地球環境観測研究センター
水循環観測研究プログラム プログラムディレクター
14:55∼15:15 <休憩>
15:15∼15:50 地球シミュレータが描く将来の雨と雪
江守 正多
地球環境フロンティア研究センター
地球温暖化予測研究プログラム グループリーダー
15:50∼16:25 水が決める未来の環境リスク
安井 至
国際連合大学
副学長
16:25∼16:55 総合討論
16:55∼17:00 閉会の辞
時岡 達志
地球環境フロンティア研究センター
センター長
ご挨拶
平成16年4月に独立行政法人として発足した海洋研究開
発機構は、海洋を中心としたさまざまな地球変動現象の解明、
予測を実現すべく研究活動を行っております。その中で、地球
環境フロンティア研究センターと地球環境観測研究センターは、
地球を一つのシステムとしてとらえ、大気、海洋、陸域の様々
海洋研究開発機構
な地球規模の変動のメカニズムを解明し、その知識に立って将
理事長
来の気候変動の予測を可能とすること、またそれを通じて社会
加藤 康宏
に貢献することを目的として研究活動を行っております。
昨年2月に地球温暖化の原因となる温室効果ガスの削減を目
指す京都議定書が発効し、世界の各界からの地球温暖化防止
への貢献が期待されております。その様な状況の中、地球環境
フロンティア研究センターでは、2007年に発行されるIPCC(気
候変動に関する政府間パネル)の第4次報告書へ、最新の優
れた研究成果を報告するなどの多大な貢献を行っております。
また、地球環境観測研究センターでは、地球観測サミットで承
認されたGEOSS(複数システムからなる全地球観測システム)
という新たな国際的な枠組みの構築に貢献するため、昨年度よ
り開始された「地球観測システム構築推進プラン」による研究
を実施しております。この様に、両研究センターは「地球変動
予測の実現」に向けてモデル研究、観測研究を、お互いに協
力しながら行っております。
「地球環境シリーズ」は今年で第3回となります。第1回
では、増え続ける温室効果ガスが地球温暖化に及ぼす影
響についてご紹介し、第2回では、地球上を取り巻く大気、
海洋そして生態系の変動について研究成果をご紹介しまし
た。第3回では、私たち人類にとって不可欠な「水」に焦
点を当て、雨や雪、氷河、さらには集中豪雨、干ばつ、台
風など、我々の生活を取り巻くさまざまなかたちでの「水」
が、地球温暖化により受ける影響について、第一線で活躍
する研究者が最新の情報を交えてご紹介します。
当機構は、平和と福祉の理念のもと、自然と人類、ひい
ては地球と人類が共生する豊かな未来を築くことに貢献す
るため、引き続き研究活動に邁進して参ります。今後とも、
皆様のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
「地球環境シリーズ」の開催にあたって
海洋研究開発機構の一般向け講演会「地球環境シ
リーズ」へようこそ。
平成16年度に独立行政法人として海洋研究開発機
構が発足したのを機に、同機構内にあります地球環
境に関する観測とモデルの研究を行う「地球環境フロ
ンティア研究センター」と
「地球環境観測研究センター」
とが合同でこの一般講演会を始めました。今回はその
第3回です。これまでに大気組成の変動、生態系の
変動が気候変動といかに関わっているかをそれぞれ
テーマとして取り上げてきましたが、今回は我々の生
活に密接な関わりを持つ地球の水循環と気候変動に
ついて皆様と一緒に考えてみたいと思います。
この講演会で取り上げるテーマはまさに私達が日頃
研究しているテーマでありまして、この講演会を通し
地球環境フロンティア研究センター
センター長
地球環境観測研究センター
センター長
時岡 達志
杉ノ原 伸夫
て私達の研究活動をより多くの方々に知っていただく
と同時に、地球環境の諸問題に関して皆様に考えて
いただく手助けになればと思っております。ごゆっくり
と講演をお楽しみいただければ幸いです。
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪はどうなるか?
変わりつつあるアジアの雨と雪
―はたして「地球温暖化」の影響か?
安 成 哲三
地球環境フロンティア研究センター
水循環変動予測研究プログラム
プログラムディレクター
専門分野:気象学,
気候学, 地球環境学
私たちの住むモンスーンアジアは、夏と冬のモンスーン
降り方がどう変わるか、という問題です。しかしながら、
によって、地球上でも最も雨と雪の多い地域となってい
「地球温暖化」が日本を含む地球上の雨や雪をどう変化
ます。しかし、最近数十年、この地域の降水量は、ある
させるかは、気温予測よりもはるかに難しい問題で、現
地域では増加し、ある地域は減少しつつあります。たと
在の最先端の気候モデルでの予測でもまだ大きな不確定
えば、梅雨前線の強い影響下にある中国の長江流域の
性を示しています。最新の気候モデルの多くは温室効果
降水は増加傾向にありますが、すぐその北の黄河流域の
ガスの増加により、アジアモンスーンは全般的に強くなり
降水は減少しています(図1)。インドモンスーンは全体と
ますが、一部の地域では乾燥化が進むとも予測していま
して弱まる傾向にあります。日本列島の水資源として非
す。梅雨前線は、より活発化するのではないかという予
常に重要な日本海側の冬の降雪は、1980年代以降のシ
測もありますが、干ばつと洪水の地域は隣り合っており、
ベリア寒気団の弱まりで確実に少なくなっており、近年
前線の少しの位置のずれにより、水資源への影響は大き
大きく減少しています(図2)。
く変わりえます。人間活動が雨や雪の降り方をどう変え
CO2などの温室効果ガス増加に伴う「地球温暖化」で
るのか。観測と理論の両面からの研究がさらに必要な、
気温の上昇が心配されていますが、私たちがもっと心配
重要な地球環境研究の分野です。
すべきは、この「温暖化」で、水資源を維持し、いっぽ
私たちは、毎日水道の栓をひねるたびに、将来の水問
うで洪水や干ばつなどの水災害をもたらす雨や雪の量や
題を真剣に考えるべきでしょう。
独立行政法人海洋研究開発機構一般向け講演会「地球環境シリーズ」
増加
緯度
減少
経度
図1. 中国の夏季降水量(6〜8月)の40年間 (1961-2000年)の長期変化傾向
(Endo and Yasunari, 2003)
図2. 日本の年最深積雪の平年比の経年変化
青線:北日本日本海側、緑線:東日本日本海側、赤線:西日本日本海側。
各地域とも、細い線は年々の値、太い線は年々の変化を滑らかにしたもの。
(気象庁異常気象レポート2005より)
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪はどうなるか?
地球を巡る水の流れに架かるダム:
「海大陸」の語る今後の気候
山中 大学
地球環境観測研究センター
水循環観測研究プログラム
特任研究員
専門分野:気象学,
気候学
水循環による気候コントロール
度差を緩和する作用をもちます。緩和の進み具合で気流・
地球には、大気・海洋・地球表面を貫いて流れる
「水循環」
海流の分布も変わるので、大気と海洋は、どちらかが原
が存在します。水は海洋中を海流として循環するととも
因、他方が結果というのではなく、
「相互作用」として変
に、蒸発して大気中の水蒸気となり気流(風)に乗って
動しているのです。
東西南北そして上へと運ばれます。持ち上げられた水蒸
太平洋・インド洋間にあるインドネシア「海大陸」は、
気は、冷やされて水滴や氷粒子つまり雲となり、雨とし
赤道太平洋上を吹く偏東風(貿易風)に流されてきた表
て降り注いで海に戻るか、陸上に降ってから川を経てや
層の海水を堰き止めて世界最高水温の「暖水プール」を
はりまた海に戻ります。
形成し、そこから蒸発する多量の水蒸気によって世界で
地球の気候は、日射による加熱が、赤外線による宇宙
最も活発に雲が生成される領域になっています。この雲
への放熱とバランスして保たれています。日射は、水循
の上昇気流の強さに応じて、太平洋上の貿易風の強さや
環の一部である雲や雪氷で反射されて目減りします(「日
暖水プールの様相も変わり、それが翻って雲の活動度を
傘効果」)。また赤外線は、大気中の二酸化炭素など「温
決めるので、まさに相互作用です。
室効果」ガスにより吸収され再放射されます。したがっ
この暖水の集積つまり雲域が数年ごとに東方の中央太
て地表では、日射-日傘効果+温室効果で与えられる加
平洋にずれる現象が「エルニーニョ」で、これらもそれな
熱が、赤外線による放熱とつりあっているのです。
りにバランスの取れた状態なので異常ではありませんが、
水循環は温暖化・寒冷化の両面に関わり、気候をコン
これが起きるかどうかで小笠原高気圧の位置や強度、さ
トロールしています。水蒸気は温室効果ガスであり、雲
らに梅雨や台風の様相は大きく異なります。その予測は、
に変われば潜熱放出でも大気を加熱し、さらに雲や雪氷
数年程度の気候変動予測として極めて重要ですが、観測
は日傘効果つまり放熱にも寄与します。
と予報モデル両方の不十分によりまだ完全にはできてい
ません。インド洋上でも類似の現象(ダイポールモード)
「海大陸」周辺での大気・海洋相互作用
が起きます。またエルニーニョのミニチュア版というべき、
水蒸気を運ぶ気流は、日射加熱の不均一などによる南
数十日ごとの雲群および暖水域の東進も知られており、
北や海陸の温度差によって駆動されます。したがって気
まずはこの「季節内変動」を、インド洋上から太平洋上
流やそれが吹き流す海洋表層の海流、そして海水の温度
へ抜けていく途中の海大陸上で解明することが大きなポ
や塩分の差で駆動される深層の海流は、全て地球上の温
イントになっています。
独立行政法人海洋研究開発機構一般向け講演会「地球環境シリーズ」
海大陸の気候学的空白を埋めるための戦い
海大陸の主要部を占めるインドネシアでは、蘭領時代
をしようとしています(海外の天気予報や気候変動予測
以来2世紀にわたる雨量観測が行われてきています。ま
の精度向上は、海外に在留する邦人を守ることでもあり
た最近20年間であれば日本の気象衛星による雲の分布
ます)。一昨(2004)年4月東京で開催された第二回「地
の写真もあります。しかし日本の集中豪雨からも明らか
球観測サミット」では、小泉首相が今後10年間に日本が
なように、降雨強度は雲の分布よりもはるかにムラが大
率先して特に温暖化、水循環、地震火山に関する地球上
きく、しかるに現地には日本で威力を発揮している気象
の観測的空白を埋めることを宣言し、昨年のブリュッセ
レーダー連続観測が皆無です(日本ではほとんど報道さ
ルでの第三回地球観測サミットにおいて、日本も主唱国
れませんが、洪水など気象災害で失われる人命を積算す
となって「地 球観 測10年計画」
(GEOSS)の実 施が国
ると、まれにしか起きない地震や津波によるものよりは
際的に決定されました。このGEOSSの一環として、今
るかに大きいのです)。また赤道付近では、日本など中
年度から海洋研究開発機構などが中心となって、海大陸
緯度の天気図で有用な等圧線と風の関係や、低気圧と雲
にレーダー網を構築する計画やインド洋にブイ網を構築
との関係が全く使えないので、気流の観測は別にやらね
する計画が進められつつあります。これらにより、海大
ばなりません。
陸の気候学的空白を埋め、水循環そして気候変動の解明
以上のような状況を踏まえ、日本も積極的な国際貢献
を一段と進めることを心に期しております。
国際協同推進本部
(「海大陸センター」
(ITRC)
印度洋ブイ網(建設・計画中)
太平洋ブイ網(1990年代に建設済)
図 GEOSSで海洋研究開発機構を中心に計画中のインドネシアレーダー網とインド洋ブイ網
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪はどうなるか?
アジアの雪と氷は地 球 温暖化で
減っているのか?
大 畑 哲夫
地球環境観測研究センター
水循環観測研究プログラム
プログラムディレクター
専門分野:雪氷学,
気象・気候学
アジア域には、積雪・氷河・凍土・河川湖氷などがあり、
大陸内陸部を中心として、氷河はその地域の大事な水資
地球の歴史とともにその状態は変化しています。最近こ
源となっています。これが枯渇すると社会生活に大きな
れらは、地球温暖化に代表される気候の変化により冬季
影響が生じます。そのため現在、中央アジアを中心として、
を中心とした気温上昇の影響を受けていますが、雪氷に
山岳積雪・氷河を改めて見定めようとする動きが活発化
とって重要な要素である降水量は、目立った変化はない
しています。
とされています。地球システムの一部を構成している雪
凍土は、凍った地面であり、アジア大陸広範に分布し
氷の変化は、地球温暖化の加速や海水面上昇、陸域で
ています。中には、多量の氷が含まれている地域もあり、
の水循環のタイミングの変化をもたらし、突発的な災害
融解が進むとじわじわと水分が供給されます(図4)。そ
につながる現象を引き起こしたりします。
の量はよくわかっていません。凍土の変化により、凍土
地球の積雪の面積は、衛星観測によると、ここ20年
により存在している北方森林、河川・地下流出の特徴、
余りで2%減少していると言われています(図1)。日本
またメタン等の温室効果 気体の放出に影響が見られま
を見ると、平成18年に豪雪が起こったとはいえ、冬季
す。現在、凍土の温度は上昇している地域が多くなって
の温暖化の影響により多くの地域で積雪が少なくなって
いますが、充分な観測が行われていないため、それが正
きています。また、アジアでも積雪期間が短くなってき
確に把握できていないのが現状です。雪氷現象の中でも、
ています。それに反し、特に寒さが厳しく冬が長いシベ
最も力を入れなければいけない分野です。
リアなどでは、その量(積雪深・積雪水量)は必ずしも減っ
雪氷の変化は直接的に、また間接的に水循環に影響し
ているとは言えません。
ます。大きな関心として地球海洋循環に影響を与えうる
世界的な傾向として、氷河は減少していますが、これも、
北極海流入河川の流量が増えているという事実もあり、
地域差があり、スカンジナビア地方・ロシアのアルタイ
積雪・凍土が深く関わっている、という指摘もあります。
地方などは、減少傾向が小さく、近年、増えているとこ
また、積雪の減少を介して、温暖化が加速する話、いわ
ろもあります(図2)。氷河は、地域の気候の状態、特に
ゆるアルベドフィードバックが気になります。
気温と降水、両方の変化を反映し、変化しているため、
雪・氷の多い地域が今後どう変化するか?これを知る
このような地域差が生まれます。氷河は陸上に蓄積され
ためにも、観測が少ないので、事実を必要な時空間密度
た固形の水であり、これが減り海洋に流れ出ると海水面
で把握し続ける必要があります。また、日本の気候変化
の上昇を招きます。アジア地域でも特に量が多いヒマラ
を予測するためにも、この分野の研究・観測を、特にア
ヤ・カラコラム地域での挙動が心配されます
(図3)。一方、
ジア地域について活発化させる必要があります(図5)。
独立行政法人海洋研究開発機構一般向け講演会「地球環境シリーズ」
図1. 衛星観測による1978年以降の積雪面積の減
少傾向を示した図。縦軸は期間平均値からの偏差
(単位:100万平方m)。22年間で2%の長期的減
少傾向が見られる(Armstrong, 2001)。
図2. 世界各地の氷河に関する1946年以降
の積算質量収支。地域別でカッコ内は統計
対象となった氷河数。縦軸の数値は、観測
開始後の氷河平均表面低下量に対応する数
値(-5000mmWEは 約5m の 表 面 低 下 )。
地 域 に よ って 差 が 大 き い。(Durugerov,
2002,2005)
スバルバール(ノルウェー領)
(2)
スカンジナビア(1)
カスケード山脈(1)
アルタイ(ロシア)
(1)
テンシャン山脈(2)
コーカサス(ロシア、アルメニア、アゼルバイジャン、グルジアにまたがる)
(1)
アルプス山脈(1)
アラスカ(1)
図3. ネパールヒマラヤ東部のEB050 氷河
の末端の後退の様子。
(朝日他、2005)
図4. 東シベリアにおける、地中の氷の塊である氷楔
(WI)の規模変化と融解に伴う「くぼみ」の成長(S
は窪みの深さをmで表示)。
(Russian Academy of
Science, 2003)
図5. 北方大流域河川での水循環模
式 図。JAMSTECでは雪 氷 の 介 在
する水循環の物理過程・変動実態の
解明、モデル構築を目指して観測網
を展開している。
(鈴木作図)
大気放射
日射
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪はどうなるか?
地球シミュレータが描く将来の雨と雪
江 守 正多
地球環境フロンティア研究センター
地球温暖化予測研究プログラム グループリーダー
専門分野:気候モデリング,
地球温暖化の将来予測
2004年に新潟や福井を襲った集中豪雨や、2005年
のスーパーコンピュータである「地球シミュレータ」を用
にアメリカを襲った大型ハリケーンカトリーナの被害は記
いることにより、世界で最も詳細な温暖化シミュレーショ
憶に新しいと思います。近年、このような洪水災害の報
ンを行い、温暖化と豪雨の関係を調べています。
道があるたびに地球温暖化との関係が取り沙汰されるよ
温暖化すると大気中の水蒸気量が平均的に増加するた
うになりましたが、科学的に言うと、ある年にある場所
め、同じ強さの低気圧が来ても、現在よりも多量の雨が
で起こった個別の現象が地球温暖化の影響であるかどう
降ると考えられます。これにより、熱帯と中高緯度の多
かを議論するのは難しいのです。なぜなら、豪雨のよう
くの地域で豪雨が増加します(図1)。一方、南米や地中
な極端な現象はもとより、気象・気候には極めて確率的に、
海周辺などの地域では平均降水量は増加しないと予測さ
不規則に生じる変動があるからです。
れ、これらの地域では洪水と渇水の両方の頻度が温暖化
では、近年の現象と温暖化の関係が全く分からないか
により増加する恐れがあります。日本については、冬は
というと、そうではありません。温暖化がこのままずっ
気温の上昇により降雪量が減少する効果が卓越すると予
と進行したときの気候の状態をコンピュータシミュレー
測されるので、昨冬のような豪雪は基本的には自然の変
ションで予測することにより、近年の傾向が温暖化によ
動と捕らえるべきでしょう。夏は梅雨が活発で長引く冷
り期待される傾向と整合的かどうかを議論することがで
夏の気圧配置パターンが卓越すると予測されます(図2)。
きます。我々は、東京大学気候システム研究センターお
暑く、天気が悪く、豪雨も多い夏が増えることになるで
よび国立環境研究所と協力して、日本が誇る世界最大級
しょう。
10
独立行政法人海洋研究開発機構一般向け講演会「地球環境シリーズ」
緯度
図1. シミュレーションにより予測された
(a)年平均降水量と(b)豪雨強度(年間
第4位の日降 水量)の変 化率。灰色は、
解析が難しい領域。
(a)を見ると、熱帯で増え、亜熱帯では
減るところが多く、中高緯度では増える。
(b)もおおまかな様 子では似ているが、
特に亜熱帯を中心として、豪雨強度増加
率が年平均降水量増加率を上回っている
地域が見られる。
経度
緯度
経度
図2. シミュレーションにより予測された、将来
の日本周辺の夏季(6・7・8月)における降水量(カ
ラー)、500hPa高度(等値線)、850hPa風(矢
印)変化の分布。Hは周囲と相対的に高気圧性、
Lは周囲と相対的に低気圧性の変化。
緯度
経度
11
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪はどうなるか?
水が決める未来の環境リスク
安井 至
国際連合大学
副学長
専門分野:ライフサイクルアセスメントなどによる環境総合評価法
地球が提供し人類の生存を支えているもののうち、大
水に関する災害は、温暖化の進行によって、気象変動
気組成と並んで、もう一つの重大な要素である水は、気
幅が増加するにしたがって、回数として多くなると同時に、
候変動によって大きな影響を受ける可能性があります。
これまであまり経験したことが無いような形態をとるの
水に関連する環境リスクとしては、まず、水の衛生面
ではないでしょうか。日本の大都市でも、例えば博多で
があり、次に農 業 生 産へ の影 響があります。第三に水
すでに起きたように、地域特有の狭い範囲内での水害の
が災害を起こす可能性について考察をする必要があるで
発生が多発する可能性があり、今後、特定の地域の集中
しょう。そして、水に関わる究極の災害は、地球温暖化
豪雨に関する予報精度を高める必要があるとともに、早
に伴う海面上昇であろうと思われます。
期警戒警報を出すシステムの整備などが重要でしょう。
気候変動が降水に影響を与えることは確実で、トータ
図1に、博多で起きた水害のシミュレーション結果を示し
ルには降水量は増えるものの、どこに降るかは不確実で
ます。
す。となると、水の衛生面、農業生産、災害のすべての
途上国では、ベトナムのハノイの例に見られるように
(図
要素にとって、不利な状況が作られると言わざるを得ま
2)、堤防内に多数の住居が存在しているような状況が
せん。
あり、これを放置していては大きな被害が起きることは
水の農業生産への影響については、これが世界の持
ほぼ確実です。図3に、この地域を含めて、ハノイの洪
続可能性にとって、最重要の鍵である可能性があります。
水被害のシミュレーション結果を示しますが、このよう
すでに、世界各地は水ストレスが過大な状況になってい
な状況に明確に警告を出す方法の開発と、そのための能
ます。アジアでは、中国北部の水不足は重大な事態です。
力開発をそれぞれの国で行うことが重要であるように思
特に、国境を越えて流れる国際河川、例えばメコン河な
います。
どの水利権については、それが国際紛争の原因になる可
特に、注意すべき地域として、ネパール、ブータンな
能性すらあって、上流におけるダム建設と水利権などの
どの山岳国家があり、この地域への気象予測システムと
問題を国際的に解決する枠組みを準備する必要があり
早期警戒システムの支援が必須のように思います。
ます。
12
独立行政法人海洋研究開発機構一般向け講演会「地球環境シリーズ」
図1. 福岡市で発生した都市型洪水のシミュレーション。
図2. ハノイ市の 状 況。川
の堤防内部に住居が密集し
ている。
図3. シミュレーション結果。赤
い部分は、被害の程度を示す。
13
地球温暖化と水循環
アジアの雨と雪はどうなるか?
総合司会
昭和51年NHK入局。
「ウルトラアイ」
「クローズアップ」などの科学番組ディレクターの後、
チーフプロデューサーとして「NHKスペシャル」や「クローズアップ現代」を担当。特
に脳科学(「多重人格」「ザ・ブレイン」「驚異の小宇宙人体2~脳と心」「脳死」)科
学技術(「チェルノブイリ原発事故」
「残留化学兵器」
「原爆」ほか)環境問題(「北極圏」
ほか)災害
(「阪神大震災」ほか)を重点テーマに制作。現在解説委員として、科学技術、
環境、宇宙工学、生命・脳科学などを中心に論説を行っている。また、環境関連のシ
ンポジウムなどで司会を務めたり、子供向け科学番組「科学大好き土曜塾」の塾長と
して、科学に関する様々な質問や疑問を、科学分野で活躍の先生方の解説や実験な
室 山 哲也
NHK解説委員
どを交えながら視聴者に分かり易く伝えるなど、多方面で活躍中。モンテカルロ国際
映像際金獅子賞、放送文化基金賞、上海国際映像際撮影賞、科学技術映像際科学
技術長官賞、橋田寿賀子賞ほか多数受賞。
参加者のみなさまへのメッセージ
私がNHKに入局したとき、報道のエースと呼ばれるプロデューサーに
「放送の極意とは何か?」と質問したことがあります。
答えは「高度な平凡性を持つこと」ということでした。
放送に長く携わって、この言葉の大切さと難しさが身にしみます。
NHKの「週刊こどもニュース」を見ている大人が意外と多いのは、社
会のことが、
「分かったつもりで分からない」人が多いからだとよく言
われます。
「なるほど」という納得感は、
「思い込み」や「羞恥心」を捨て、素直
な好奇心を持つところから始まるのかもしれません。
そういう意味で、私たちは、もっと子供のように「なぜ?」と問い、自
分の言葉で考える必要があります。
同時に、専門家と呼ばれる人々は、自分の目線をぐっと下げ、日常的
な普通の言葉で、物事の本質をわかりやすく、市民に説明する努力を
するべきだとも思います。
言うは易く、行うは難し。
今回の講演会で、それがどのくらいできるものか。
ごいっしょに共同作業してみませんか?
14
独立行政法人海洋研究開発機構一般向け講演会「地球環境シリーズ」
展示パネル一覧
地球環境フロンティア研究センター
気候変動予測研究プログラム
熱帯域の変動に関する研究/中・高緯度の変動に関する研究
/ JCOPE プロジェクト
水循環変動予測研究プログラム
計算機で描く雲と空/オホーツク海の海氷とアムール川の流量の関係
大気組成変動予測研究プログラム
二酸化炭素(CO2)の放出量と吸収量の見積もり及びそれらの変動要因
生態系変動予測研究プログラム
陸域生態系と水循環の相互作用
地球温暖化予測研究プログラム
地球温暖化による気温上昇量の推定精度の向上/最終氷期における海洋炭素
循環の再現/海洋の温暖化による歴史的水位変動
地球環境モデリング研究プログラム
次世代大気モデルの開発/次世代海洋モデルの開発
/海洋データ同化:観測データと数値モデルの融合
人・自然・地球共生プロジェクト
課題 1 / 課題 2 / 課題 3 / 課題 5 / 課題 7
地球環境観測研究センター
気候変動観測研究プログラム
海洋深層にも季節がある?
−気候変動における海の役割−
水循環観測研究プログラム
なぜスマトラ近海は夜に多量の雨が降るのか?
−インドネシア海大陸における降雨分布・日変化の研究−
地球温暖化情報観測研究プログラム
変わりゆく白い海、北極海
−太平洋水の流入による北極海海氷の急激な減少−
海洋大循環観測研究プログラム
黒潮が日本東方の黒潮続流域に運ぶ流量・熱量を測る
海大陸観測研究計画
熱帯海洋上空に発達する大規模雲群
15
主催
共催:国際連合大学 後援:文部科学省
主催:独立行
地球環境
地球環境
海洋地球
共催:国際連
後援:文部科
Fly UP