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Title 冬季上向き雷で観測される放電現象( 本文(Fulltext) ) Author(s) 髙
Title
冬季上向き雷で観測される放電現象( 本文(Fulltext) )
Author(s)
髙松, 謙与士
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(工学) 甲第485号
Issue Date
2015-09-30
Type
博士論文
Version
ETD
URL
http://repository.lib.gifu-u.ac.jp/handle/123456789/53635
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
博
士
論
文
(題目)
冬季上向き雷で観測される放電現象
Several discharge phenomena observed in winter upward
lightning
平成 27 年度
指導教官
高木
伸之
教授
岐阜大学工学部電子情報システム工学専攻
電子物性工学講座
髙松
謙与士
1
第一章
序論
1.1. 研究概要 ··································································································· 3
1.2. 雷放電現象 ································································································ 3
1.2.1. 落雷の種類 ·························································································· 3
1.2.2. 落雷の放電過程 ···················································································· 5
1.2.3. 多重落雷 ····························································································· 7
1.2.4. 後続帰還雷撃 ······················································································· 8
1.2.5. 冬季雷 ································································································ 8
1.2.6. 冬季の上向き雷 ···················································································· 8
1.2.7. 冬季の正極性落雷 ················································································· 9
1.2.8. 高層大気での放電現象 ·········································································· 10
1.3. 観測機器 ·································································································· 12
1.3.1. 電流測定装置 ······················································································ 12
1.3.2. 電界アンテナ ······················································································ 14
1.3.3 高速度カメラ ······················································································· 17
1.3.4 スプライト観測用カメラ ········································································ 18
4.観測概要 ······································································································· 18
第二章 正極性雷リーダー進展時に発生する瞬間再放電現象
2.1. 導入 ········································································································ 21
2.2. 観測結果 ·································································································· 21
2.3. 解析・考察 ······························································································· 26
2.3.1. 発生原理 ···························································································· 26
2.3.2. 進展距離と速度 ··················································································· 28
2.3.3. 形 ····································································································· 29
2.3.4. 進展方向 ···························································································· 31
2.3.5. 電流・電界波形 ··················································································· 32
2.4. 結論 ········································································································ 34
2
第三章 上向き落雷の放電路への後続雷撃について
3.1. 導入 ········································································································ 35
3.2. 観測結果 ·································································································· 35
3.3. 解析・考察 ······························································································· 40
3.4. 結論 ········································································································ 42
第四章 レッドスプライトを発生させる落雷電流
4.1. 導入 ········································································································ 43
4.2. 観測結果 ·································································································· 43
4.3. 解析・考察 ······························································································· 46
4.3.1.
スプライトを発生させた落雷の電流波形について····································· 46
4.3.2.
スプライトを発生させた落雷の電界波形について····································· 47
4.4. 結論 ········································································································ 48
第五章 Y字に枝分かれする放電路の光強度の推移について
5.1. 導入 ········································································································ 50
5.2. 観測結果 ·································································································· 50
5.3. 解析・考察 ······························································································· 52
5.3.1. 各枝での光強度の差について ································································· 52
5.3.2. 各枝が他の枝の光強度に及ぼす影響について ············································ 53
5.3.3. 各放電路の光強度の和と、キルヒホッフの法則の比較について ···················· 54
5.3.4
分岐点における電流の反射について ························································· 58
5.4. 結論 ········································································································ 59
第六章 結論
謝辞 ················································································································ 65
参考文献 ·········································································································· 66
3
第一章 序論
1.1.研究概要
降雨や雷といった大気における諸現象は、人類の生活や産業に深く影響する事柄である。
その影響は農業や建築においても大きいが、特に落雷に関しては、近年の自然エネルギー
の利用や高度情報化社会の発展に伴い、雷害や停電による被害が大きな社会問題として関
心を寄せられている。
しかし、地球上において大気の運動が太古から途切れることなく続いているにも関わら
ず、現在の人類が持つ雷放電現象に関する知見は、決して多くない。
「雷の正体が電気であ
る」ことは 18 世紀に確かめられたが、それ以上の電気的な理解については、まだ未解明で
ある部分が多く残っている。
雷の科学の進歩は、計測工学の進歩と同時に進められてきた。大気電気学が対象とする
観測範囲は数十 km から地球全体にまでおよび、その範囲での極一部分で、一瞬だけ大きな
光や電流が現れる。しかも大気中における電荷の挙動は、必ずしも実験回路上で再現でき
るものではない。こういった現象を記録することは困難で、様々な観測機器や観測方法が
考案・開発されてきた。またそれと同時に、新たな観測技術によって新たな現象が記録さ
れることで、雷における未知の分野がさらに広がっていった歴史がある。
本研究で取り扱う、雷の光強度に関する研究も、そういった未知の分野の一つである。
近年の高速度ビデオカメラの進化により、今まででは記録できなかった落雷現象を、当研
究室で詳しく観測することが可能になった。この観測結果と、従来の電流・電界解析のデ
ータを併せて、雷に関する新たな理解を得ることができた。
本論文においては、これらの新たな成果を議論し、人類の社会における避雷技術の進歩
に貢献することを目的とする。
1.2.雷放電現象
1.2.1.落雷の種類
雷放電と呼ばれる現象は、正確には雲放電と落雷(対地落雷)と分けることができる。
いずれも雲内に蓄えられた電荷が、放電という過程をとりながら中和される現象である事
に変わりはない。雲放電は雲内放電だけでなく、雲から晴れた空間に向かう放電 (air
discharge)であることが知られている。雲底に沿って長く走る電光も air discharge の一
種であり、地表に達しない雷放電はすべて雲放電に分類される。
一方落雷は雷雲内に蓄えられた電荷が、雲・大地間の放電により中和される現象であり、
英語ではしばしば“lowering charge”と表現される。また、どちらもスケールは同程度で、
放電路の代表的な長さは約 5km であるが、実際の長さは 1km~20km という広い範囲にわたり、
4
放電路の形状はまちまちである。
落雷は図 1.1 に示す四つの種類がある。まず、落雷時に中和される雷雲内の電荷の極性
により二種類に分かれる。雷雲内の正の電荷を中和する落雷を正極性落雷、負の電荷を中
和する落雷を負極性落雷と呼ぶ。夏の落雷の 90%以上が負極性落雷であるのに対し、冬の落
雷では正極性落雷の発生率が高くなり、場合によっては 50%を超えることもある。日本海沿
岸における長期の観測結果から、冬季正極性落雷の発生率は平均値が約 33%であることが分
かっている。また、落雷の放電過程において最初に空気の絶縁を破壊して進展する放電を
リーダーと呼び、リーダーについで同じ放電路を反対方向に進展する放電を帰還雷撃(リ
ターンストローク)と呼ぶが、リーダーの進展する方向により落雷は更に二種類に分かれ
る。進展する方向が上向きの落雷を上向き雷、下向きの落雷を下向き雷と呼ぶ。上向き雷
は放電路の枝分かれ方向が上方向であるのに対して、下向き雷は枝分かれ方向が下方向で
ある。上向き雷は日本海側地方の冬の落雷では頻繁に見られ、高い建造物があるとそこか
らのリーダーの発生率が著しく高くなる。逆に下向き雷は、夏の落雷で発生しやすく、特
に負極性の下向き雷は落雷の代表的な例である。
図 1.1 落雷の四つのタイプ
5
1.2.2.落雷の放電過程
最も発生頻度の高い下向き負極性落雷の例を用いて、落雷の放電進展過程を説明する(図
1.2 参照)
。雷雲内に電荷が蓄積されると、周辺電界強度が高くなり、それが絶縁破壊臨界
値を超えると部分的に空気の絶縁が破られる。このような初期放電が約 100ms 継続する(①)
と、ステップトリーダーが大地に向かって進展を開始する(②)
。ステップトリーダーは大
地の方向に枝分かれしながら、約 20ms で大地近傍に達する(③)
。
大地に接近すると、ステップトリーダー内の負電荷により地上の突起物先端(木の先端
や避雷針など)の電界が上昇し、正に帯電した結合リーダーが突起物先端から上方へ進展
を開始する。これらの 2 つのリーダーが結合すると、その結合点より帰還雷撃が雲に向か
って進展を開始する(④)
。帰還雷撃は負に帯電したステップトリーダーを下から順次中和
していき、約1ms で上昇が終了する(⑤)。最初の帰還雷撃を第一雷撃と呼ぶ。帰還雷撃に
よりアース電位が電荷領域に引き上げられると、アース電位の放電路と電荷領域間の電位
差により、微少な放電を伴った電荷の移動が電荷領域で発生する。この過程をJ過程と呼
び、次のリーダー進展のための準備がされる。
第一雷撃から数十 ms(代表値 40ms)経過すると、ダートリーダーによって再び負電荷が
大地に下ろされる(⑥)
。ダートリーダーは第一雷撃と同じ放電路をステップトリーダーよ
り速く進展する。ダートリーダーが地上に接近する(⑦)と、第一雷撃と同様に帰還雷撃
が発生する。帰還雷撃の上昇が終了(⑧)した後も、雲中に負電荷が多量に残っていると
きは、J過程を経て第三雷撃が起こる(図 1.2 では雲中に少量の負電荷だけが残存してい
るのを示している)
。2 番目以降の帰還雷撃は後続雷撃と呼ばれる。また、第一雷撃だけで
落雷が完了してしまう場合を単一落雷といい、複数の帰還雷撃が含まれる場合を多重雷と
呼ぶ。
帰還雷撃終了から引き続き数百A程度の電流が 20ms~100ms の間流れ続ける場合があり、
これを連続電流と呼ぶ。この間放電路は連続的に発光を続けているが、ときどき1ms 程度
その発光強度が強まる場合があり、この変化を M-コンポーネントと呼んでいる。また、連
続電流が流れていない落雷中、あるいは雲放電中に、雲内で 1ms 程度微弱な発光が 10ms 程
度の間隔で見られるが、これをK変化と呼ぶ。
6
+ + +
+ +
+ + + +
+
-
+ + +
+ +
+ + + +
+
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+ + +
+ +
+
+
+
+
+
-
-
-
-
-
+ ++ +
-
-
-
-
①
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
②
初期放電
-
③
ステップトリーダー発生
ステップトリーダー下降
第一雷撃
+ + +
+ +
+
+
+
+
+
+ + +
+ +
+ + + +
+
-
-
-
-
-
-
-
-
++
+
+
+
+
+
+
+
-
-
-
-
+ -
+ -
+ -
④
-- -
- -
+ - -
の内部にJ過程
-
-
-
-
-
-
-
が発生し、数十 ms 後に
第二雷撃が始まる。
⑤
帰還雷撃上昇
帰還雷撃上昇終了
第一雷撃
+ + +
+ +
+
+
+
+
+
+ + +
+ +
+
+
+
+
+
+ + +
+ +
+ + + +
+
-
雷撃間隔(数十 ms)
- --
- --
- -
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
⑥
+
+
+
+
+
+
+
⑦
ダートリーダー発生
ダートリーダー下降
⑧
帰還雷撃上昇終了
第二雷撃
図 1.2 多重落雷のリーダー、帰還雷撃に伴う電荷移動
7
-
-
-
-
-
-
-
1.2.3.多重落雷
落雷は雷撃と呼ばれる放電の単位からなっている。一つの雷撃で終わる落雷を単一落雷、
複数の雷撃を繰り返す落雷を多重落雷と呼ぶ。多重落雷のリーダーの進展の様子を図 1.3
に示す。第一雷撃のリーダーは階段状にステップを踏むように進展するのでステップトリ
ーダーと呼ばれる。下降する放電路は一旦停止し、50μs 程度の休止時間をおいて次の放電
路が再び雲底から下降し、前の放電路より約 20~50m 長く伸びて停止する。このようにリー
ダーは停止と下降を繰り返し、
の平均速度で地表に向かって進展する。個々の
放電路は一様に弱く発光するが、尖端 10m は比較的明るく発光する。ステップトリーダー
が地表に達すると、帰還雷撃(リターンストローク)が発進する。帰還雷撃が消失してか
ら約 40ms 程の休止時間をおいて、雲底から再びリーダーが第一雷撃と同じ経路をとって下
降する。この休止時間を雷撃間隔という。このリーダーは、ステップを踏まず連続的に下
降し、ステップトリーダーの平均進展速度より一桁高い
の速度で下降する。こ
れが地表に達すると、帰還雷撃が発進する。これが第二雷撃である。雲中の電荷が十分に
残っていると、再びリーダーが下降し雷撃が起こる。この過程を雲中の電荷がすべて中和
されるまで続く。
図 1.3 多重落雷の進展
8
1.2.4.後続帰還雷撃
ダートリーダーが雷雲から地上近くまで降りてくると、ステップトリーダーの場合と同
様に、上向きお迎えリーダーが発生し、両リーダーが結合すると帰還雷撃が発生する。こ
の帰還雷撃を後続帰還雷撃と呼ぶ。後続帰還雷撃は、リーダー内の電荷を中和する進行波
であるという点で第一帰還雷撃と同じであるが、枝分かれをせず、その特性は第一帰還雷
撃の場合と異なる。後続帰還雷撃の電流ピーク値は数 kA~数十 kA である。先行する帰還雷
撃電流の影響で放電路の導電率が高くなっているため、後続雷撃電流の立ち上がり峻度は、
第一雷撃電流のそれに比べておおよそ 4 倍も大きくなる。
後続雷撃を含む落雷を多重雷と呼び、第一雷撃と後続雷撃の数を合わせて雷放電の多重
度が定義されている。例えば、図 1.3 のように後続雷撃が 2 度発生した場合、その落雷の
多重度は3となる。単一落雷の場合、多重度は最小の 1 となるが、多くの落雷は多重雷と
なる。これまでで記録された多重度には 26 という事例があるが、典型的な夏雷雲では多重
度が 4 程度である落雷が最も多い。
帰還雷撃が発生すると、帰還雷撃に伴う大電流が地中もしくは地表に流れる。土の種類
によって接地抵抗は数桁の差があるにもかかわらず、帰還雷撃の電流はほぼ同じであるこ
とが観測されており、帰還雷撃は土の中または地表面での放電を通じてもとの接地抵抗を
かなり低いレベルまで低減させていると考えられる。放電路の下で見つかった雷管石は地
中放電の証拠であり、表面で見られるアークの痕跡が地表面での放電の証拠である。
1.2.5.冬季雷
日本海側地方の冬季雷雲の特徴は、対流活動が弱く、セル構造が不明確であることが挙
げられる。また、雲が水平方向に十数 km も広がることがあり、電荷高度は夏季雷よりも 3km
程度低い。そのため夏季雷とは異なった雷放電特性を示す。
落雷が一つの雷撃だけで終わる単一落雷が発生する割合は、夏季で 35%、冬季では 90%
となっている。多重雷は雷雲内の電荷密度の高い領域をつぎつぎと中和することにより発
生する。冬の雷雲は夏に比べて雷雲の規模が小さく、電荷の塊の数が少ないために多重雷
が少ないと考えられる。
1.2.6.冬季の上向き雷
鉄塔や高層建築物などから雷雲に向かって放電を開始する雷のことである。冬季の雷雲
の電荷高度が低いために地上電界が高くなり、さらに電界が強まる高建造物先端では、雷
雲通過時に絶縁破壊電界強度を容易に超えることができるため、冬季雷には建造物先端か
らの上向き雷が比較的多い傾向にある。
9
下向き雷放電は下の方向に枝分かれするのに対し、上向き雷放電は上向きの方向に枝分
かれする。この頃から、雷の静止写真からも落雷が上向きかそれとも下向きかが分かる。
上向き雷放電が上向きリーダーで開始した後、普通は何百 A もの大きさの初期放電電流が
数百 ms と長時間続く。そのため、上向き雷放電による中和電荷量は下向き雷より大きい。
上向き雷放電にも正極性と負極性がある。負極性上向き雷放電には初期連続電流だけで
終わる場合もあるが、初期連続電流の後に下向きダートリーダーや後続帰還雷撃が続くケ
ースも多い。しかし、正極性上向き雷には初期連続電流で終わるケースがほとんどであり、
初期連続電流の後に下向きダートリーダーや後続帰還雷撃のケースは1例も報告されてい
ない。上向き雷放電の初期放電電流には M-コンポーネントのようなパルス放電が一般的に
多数重畳される。これらのパルスの持続時間は一般的に ms オーダで、電流のピーク値は数
百、立ち上がり時間が数百μs であるが、まれにピーク値が数 kA と大きく、立ち上がり時
間が数μs オーダの電流パルスも観測ケースもあり、帰還雷撃と混同されやすい。
1.2.7.冬季の正極性落雷
図 1.1 で述べたように、雲内の正電荷を地上に運ぶ落雷を正極性落雷と呼ぶ。夏季雷で
は正極性落雷の発生割合が少なく、10%以下とされている。しかしながら、雷雲ごとにそ
の割合は異なり、雷雲の発達段階でもその割合は大きく変化する。一般的に雷雲の消滅期
は正極性落雷の割合が高い。
一方冬季雷では、夏季雷と比べて正極性落雷の発生割合が高い。正極性落雷が 80%、負
極性落雷が 20%という報告もあるが、長期の観測結果では正極性落雷の発生割合は約 3 分
の1とされている。正極性落雷は単一落雷となる場合が 90%と高く、この結果とも関係し
て、正極性落雷の約 90%が連続電流を含んでいるという報告もある。
ここに、正極性落雷を発生させる要因をいくつか挙げておく。
【a】強いウインドシャーがある場合には正電荷領域が負電荷領域の真上からずれ、正電
荷領域から進展を開始したリーダーが負電荷領域に向かう確率が減るため。
【b】電荷高度が低くなると、相対的に大地側の鏡像電荷による電界強度が増し、正電荷
領域から水平方向に進展を開始したリーダーが大地に向かう確率が増すため。
【c】上昇気流が弱くなると、あられに担われた負電荷が早期に落下し、正電荷だけが存
在する期間が長くなるため。
(夏季雷の正極性落雷はこのような状況下になる雷雲衰
弱期によく見られる。
【d】激しい雷雨となる場合、雷雲の組織構造が複雑になり、正電荷領域と負電荷領域が
相互に入り混じるようになるため。
10
1.2.8. 高層大気での放電現象
雷雲下で落雷が起きた直後に、その雷光とは別の形状を持った光が、高度 50km~70km の
電離層で発生するケースがある。この現象は総称して高高度発光現象(Transient Luminous
Event)と呼ばれていて、1989 年におけるミネソタ大学の Franz らによる観測(R.C Franz
1990)で偶然撮影され、この報告の後、高高度発光現象における研究が急速に発展していっ
た。
1994 年のアメリカでの観測の報告(Walter A. Lyons 1994)において、高高度発光現象
は初めて「スプライト」という名前で呼ばれた。高高度発光現象には発生位置・形などに
より、何種類かに区別ができる。スプライトはその内の一つであり、この位置に発生する
スプライトは赤く発光するため、強調して「Red Sprite」という名称で呼ばれている。
次の図 1.4 に、100km ほど先の地点で起きた落雷の光と、その落雷で発生したスプライト
の映像の例を示す。
図 1.4 撮影されたスプライトの一例(カラム型とキャロット型)
スプライトは、落雷のリターンストロークが起こってから数 ms~数十 ms 後に発生してい
る。また、(D. D. Sentman and E. M. Wescott 1995)において、特に正極性落雷が起こ
ったときにスプライトが発生しやすく、負極性落雷では 200~400 に一回、正極性落雷では
20~40 に一回という数値が報告されている。スプライトは、落雷が起これば必ず発生する
ものではなく、有効なデータを記録することが難しいため、スプライトの発生原理や性質
などは、詳しくわかってない部分も多い。
スプライトの発生原理については現在さまざまな説が考えられているが、そのうちの一つ
が、次の図 1.5 に示すような、正極性落雷後に、雷雲内に残った負の電荷が発する電磁波
が、電離層の N2+に作用してスプライトが光るのではないか、というモデルである。
11
図 1.5 スプライト発生の概念図
雷雲の放電過程にともなって、その周囲には電磁場が発生する。電磁場はそこから周り
に伝播していくが、上空に伝播する場合、高度のべき乗で減衰していく。しかし、大気の
絶縁破壊電場は大気密度に比例するため、高度の指数的に減少する。そのため、電磁波の
強度と絶縁破壊電場がつりあった、50km~70km の一定の高度でスプライトが発生する、と考
えられている。
しかし、別の高度に発生するケースや、負極性落雷で発生するケースも多数報告されて
いるため、現在においても様々な研究が活発に進んでいる。
落雷の極性との関係や、スプライトが発生する高度より考えるに、図 4.6 のような雷雲
内の電化が電磁波により絶縁破壊を引き起こすというのが、現在までのところでの有力な
説である。しかし、この原理だけでは全ては説明しきれないため、本研究のような活動が
近年活発に進んでいる。
12
1.3.観測機器
1.3.1. 電流測定装置
当研究室では、2004 年度より石川県内灘町の風力発電設備において、冬季落雷観測を毎
年行っている。主に使用する観測機器の詳細を、以下に述べる。
次の図 1.4 に示すように、風車と避雷鉄塔(以下、鉄塔)にそれぞれ直径 4m と 1m のロゴ
スキーコイルと積分器を用いた電流測定装置を設置し電流を測定した。記録部は OMRON 社
のモバイルデータレコーダを使用した。本レコーダの最大サンプリング速度は1
M[sample/s]、入力チャンネル 8ch、垂直分解能は 16bit、記録容量 40byte である。電流の
観測では GPS の 1[s]信号と電流の 2ch 入力で、サンプリング速度は 500k[sample/s]、記録
時間は落雷の前 20 秒、後 10 秒とした。また、2008 年度から鉄塔に低感度のロゴスキーコ
イルも設置したので、鉄塔の電流観測では GPS の 1[s]信号と高感度電流、低感度電流の 3CH
入力でサンプリング速度は 200k[sample/s]とした。GPS の 1PPS 信号の立ち上がり、立下り
の変化が必ず記録される。電流が Window trigger level out を超えると自動的に記録され、
記録が終わると自動的にトリガ待ち状態となる。
図 1.4 電流測定装置
観測で使用した直径 1[m]の高感度ロゴスキーコイルと直径 1[m]の低感度ロゴスキーコイ
ル入出力特性をそれぞれ図 1.5 と図 1.6 に示す。
直径 1[m]のロゴスキーコイルの入出力特性は、 V [V ]  0.3685I [kA]  0.0179 である。
測定可能最大電流は 6[kA]となる。最小感度は 1[A]程度であった。
13
また、2008 年度から低感度の直径 1m のロゴスキーコイルも設置した。このロゴスキーコ
イルの入出力特性は V [V ]  0.0252I [kA] である。最大出力電圧は 2.5[V]であり、この場合
測定可能最大電流は、100[kA]である。最小感度は 1A 程度であった。
ただし、鉄塔は 4 脚の 1 本にロゴスキーコイルを設置しているため、測定電流を約 4 倍
した値を雷撃電流とした。
図 1.5 直径 1m高感度の入出力特性
図 1.6 直径 1m低感度の入出力特性
観測で使用した直径 4[m]のロゴスキーコイルの入出力特性をそれぞれ図 1.7 に示す。直
径 4[m]のロゴスキーコイルの入出力特性は、V [V ]  0.3958I [kA]  0.0094 であり、測定可
能最大電流は 6[kA]となる。最小感度は 1[A]程度であった。
図 1.7 直径 4mの入出力特性
次に、直径 1m 高感度ロゴスキーコイルと直径 1m 低感度ロゴスキーコイルと直径 4m のロ
ゴスキーコイルの周波数特性をそれぞれ図 1.8・図 1.9・図 1.10 に示す。どのロゴスキー
コイルも通過帯域は 1[Hz]~100k[Hz]であり、下限周波数が 1[Hz]より数秒の変化成分も測
定できる。上限周波数 100[kHz]より 2[ S ] 程度の立ち上がりならば測定器は追従できる。
14
図 1.8 直径 1m高感度の周波数特性
図 1.9 直径 1m低感度の周波数特性
図 1.10 直径 4mの入出力特性
1.3.2.電界アンテナ
電界アンテナは、次の図 1.11 のように設置される機器であり、雷雲が近づいた時の地上
の電界変化を、円平板で感知して、内部の積分回路で増幅し、オシロスコープで記録する
ことができる。電界アンテナには、スローアンテナとファストアンテナと呼ばれる2種類
のアンテナがあり、地上電界の変化を感知し出力することができる。
スローアンテナの測定周波数帯域は、直流付近から数 kHz 付近、時定数は数秒である。
スローアンテナで測定される電界変化は、雷放電の前後で起こる比較的緩やかな電界変化
を対象としており、その記録からは、雷放電の頻度、落雷と雲放電の区別、落雷の極性や
多重度などを知ることが出来る。
また、ファストアンテナの測定周波数帯域は、数百 Hz~数 MHz、放電時定数が数ms であ
る。ファストアンテナによって測定される電界変化は、帰還雷撃などに伴う急峻な変化を
対象としている。これら2種類のアンテナは、増幅器の入力の RC が測定系の時定数を決め
ていて、時定数の違いによって便宜的に名付けられたものである。
15
円平板アンテナ
デジタルオシロスコープ
電界アンプ
電界電源
図 1.11 観測状態の電界アンテナの図
積分回路の原理について説明する。図 1.12 は積分回路の原理図である。R2の両端の電
圧は0であり、-入力端子と+入力端子は同電位であるから、オペアンプの-入力端子の
電圧は零である。よってR1を流れる電流I1は、
I1 
V1
R1
となる。この電流はすべてコンデンサCを流れる。ここで、V1はアンテナの電圧である。
出力電圧Voはコンデンサの両端の電圧に等しい。一方、コンデンサの両端の電圧は、コ
ンデンサに流入する電流を積分した値を静電容量Cで割ればよいから、
V0  

1
I1dt
C
1
V1 dt
CR1 
で出力電圧は与えられ、入力電圧V1を積分した電圧に比例する。
次に図 3.12 において、EとVo の関係について説明する。雷が発生することにより電界
Eが生じ、結果、図の円平板アンテナに電荷Qが誘導される。これをガウスの法則を用い
て表すと次の式になる。
E   
Q
S
16
Sは円平板アンテナの面積でεは誘電率である。そしてここに
Q  CV0
を代入することにより、次の式が得られる。
E
CV0
S
Cは積分回路のコンデンサの値Cであるから、この式を用いることにより、大気電界E
がわかる。そして、落雷の極性、多重度(一回の落雷に含まれる電撃数)
、立ち上がり時間
について知ることができる。
図 1.12 積分回路の原理図
電界アンテナの周波数特性を、図 1.13 に示す。入力電界を 0.75V/㎝一定とした周波数特
性測定結果である。この時、Rs=100MΩ、Cs=2200pF、時定数は 0.22 秒である。したが
って、低域遮断周波数は 7Hz である。図 3.15 より、低域の-3dB 周波数はおよそ 7Hz なの
で一致している。高域の遮断周波数は、この例では 5MHzであり、雷観測を行うには十分
な性能(立ち上がり時間 0.05μsec の変化を増幅可能)を有している。
入力電界0.75V/cm 一定
Rs=100MΩ 、Cs=2200pF
6
0dB
5
出力電圧(mV)
4
-3dB
3
2
1
0
0.01
0.1
1
10
100
1000 10000 1000001000000 1E7
周波数(Hz)
図 1.13 電界変化受信回路の周波数特性
17
1E8
図 1.14 に入出力特性を示す。入力電界の周波数を 1000Hz 一定として,入出力特性測定
結果である。 この時、Rs=100MΩ、Cs=2200pF である。入力電界の増加に伴い出力電圧
はほぼ直線的に増加している。この結果より、Cs=2200pF の場合、入力電界 10V/m から
34kV/m まで測定可能である。
周波数1000Hz一定
Rs=100MΩ 、Cs=2200pF
16
14
出力電圧(mV)
12
10
8
6
4
2
0
0
500
1000
1500
2000
2500
入力電界(mV/cm)
図 1.14 電界変化受信回路の入出力特性
1.3.3 高速度カメラ
雷放電の進展様相の観測としては、以前からストリークカメラなどの回転カメラが使わ
れ、多くの結果を得ている。しかし、回転カメラは、日中の観測や無人観測が出来ない(フ
ィルムを用いるためハレーションや光の漏れ等による)など、観測装置としては限界があ
る。このため、本研究ではハイスピードデジタルカメラシステムを用い、風力発電設備(避
雷鉄塔も含む)への冬季雷の自動観測をした。
次の図 1.15 に示したものは、2011 年度、2012 年度の雷観測で用いた高速度カメラであ
る。最大60万 Flame/sec(1Flame=1.6μs)で撮影可能なカメラで、主な仕様を表 1.1 に
示す。
撮像素子
ISO感度(推奨
露光指数)
撮影速度
図 1.15 高速度カメラ(ナック社製)
131万画素固体撮像素子:カラー/モノクロ
(購入時選択)
カラー/ISO 5,000相当、モノクロ/ISO 20,000
相当
撮影コマ数/秒
ピクセル設定例(ヨコ×タテ)
10,000
672×504、640×480
20,000
448×336
30,000
352×264、320×240
40,000
50,000
60,000
80,000
288×216
240×180
208×156
176×132
電子シャッタ
最短0.6μ秒
濃度階調
8、10、12bitの中から選択可能
表 1.1 主な仕様
18
1.3.4
スプライト観測用カメラ
長距離から夜間にスプライトを観測するため、超高感度・多機能型モノクロ CCD カメラ
WAT-902H2 ULTIMATE を使用した。カメラの撮像素子は 1/2 型インタ-ライン転送 CCD、最
低被写体照度 0.0001lux となっている。表 1.2 にカメラとレンズの主な仕様を示す。
表 1.2 にカメラとレンズの主な仕様
1.4.観測概要
当研究室では、石川県の内灘町の風力発電設備とその避雷鉄塔において、2004 年度から
毎年冬季落雷観測を行っている。図 1.16 に周辺地図と、主な観測機器の配置図を示す。
図 1.16 冬季落雷観測の機器の配置図
19
本研究の観測においては、通常の 30fps のビデオカメラのほか、3.3.節で述べた露光時
間 25μs(40000fps)の高速度カメラ(MEMRECAM GX-8)を用いて、石川県内灘町の風力発電
設備とその避雷鉄塔を監視した。次の図 1.17 に、設置したカメラの視界を示す。風車の中
心の高さは 65m で、避雷鉄塔の高さは 105mである。また右端の風車と鉄塔のほか、左端に
は橋桁を視界にとらえた。こちらに落雷が起きた例も多数記録されている。
3.1.節・3.2.節で述べたように、電流波形観測については、風車と鉄塔には,通過帯域
1[Hz]~100k[Hz]ロゴスキーコイルを設置し、1Ms/sec 16bit で記録をした。電界観測につ
いて、風力発電設備の周辺に、時定数 2.2ms・47μs の SLOW・FAST の電界アンテナを設置
し、100/sec 16bit で記録した。
図 1.17 高速度カメラの視界
スプライトの観測については、石川県内灘町から 130km 離れた岐阜大学工学部棟屋上か
ら、
夜間に高感度ビデオカメラで直接映像を記録している。次の図 1.18 にその視界を示す。
図 1.18 岐阜大学からの内灘方向のカメラ映像
20
図 1.18 における A~D の方位は、真北を 0 度とすると、A:-1 度
B:3 度 C:25 度
D:29 度 になっている。したがって、内灘の鉄塔の方向は B の山の真上からやや左であ
る。内灘の鉄塔がある位置での図 1.18 の視界は、カメラの画角から上端が高度 76km、下
端が高度 17km と計算された。
21
第二章 正極性リーダーの近辺で発生する瞬間再放電について
2.1.導入
落雷時に正極性リーダーが進展するにつれて、その放電路の近辺において、主要放電路
の形成とは別の、瞬間的な放電が発生していることが、(T. Ogawa et al; 1964)によって
見出された。当初はその放電は Recoil Steamer と呼ばれたが、単体で進展を続けるその性
質から、Recoil Leader(RL)と名付けられた(Vladislav Mazur; 2002)。
RL の研究の動機として、雷観測システムの拡張が挙げられる。各研究(P. Richard et al;
1985) (A. Bondiou; 1990)において、DTOA や Interferometric techniques といった雷観測
システムが利用されているが、これらは負リーダーが発する VHF-UHF 帯を利用しているた
め、正リーダーの放電を感知することはできない(X.M. Shao et al; 1999)。そこで、RL の
負のリーダーが検知できるようになれば、従来の雷観測システムによって正リーダーの放
電を感知できるようになる、と期待されている(Marcelo M. F. Saba et al; 2008)。
RL の発生の様子は、当初は Cloud to Cloud(CC)・Cloud to Ground(CG)のどちらにおい
ても、詳しい観測をすることが困難であったが、近年は(M. G. Stock; 2014)(Manabu Akita;
2014)によって干渉計による観測が行われ、RL の発生の様子を観察することができるように
なった。しかし RL の性質や発生要因についてはまだ解明されてない点が多く残っている。
本研究では特に、RL が発生する放電路の形状について取り扱う。今回の研究で行った観
測においては、通常見られる一本線の I 型だけでなく、途中で方向が変わる V 型や、三方
向に分かれる Y 型といった、様々な形の RL を複数例記録されているが、これらは従来考え
られていた RL の発生原理では説明がしきれない。そのため、RL とは異なった別の現象であ
る、という仮説を立て、これらを Brief but Bright discharge(BB)と総称して、従来の
RL との性質の比較・議論を行う。
2.2.観測結果
CG に伴って起きる RL は直接の光学観測が可能であり、高速度ビデオカメラによって、多
くの例が記録されている。特に、(Tom A. Warner et al; 2012)において、多くの自然落雷
に伴う RL が記録されている。
第一章で述べた 2011 年度から 2013 年度の間の観測において、今回全部で 15 例の落雷に
伴う 273 例の BB を記録することに成功した。また、15 例の落雷のうち、3 例の落雷におい
ては、電流・電界の同時記録に成功している。この 3 例の落雷で記録された BB の詳細を、
次の表 2.1 に示す。
22
2011/12/24
occured time (+F)
0
98
161
271
286
334
363
365
372
378
440
481
498
512
593
691
1684
1(F)=25(μ s)
14:51:50 tower and windmill
shape
duration time (F) duration time (μ s) variation direction speed(10^6m/s) length(m)
I
2
50
97
V
2
50
one side
2.96
104
I
1
25
I
1
25
I
2
50
one side
0.17
44
V
4
100
one side
1.92
I
1
25
I
1
25
V
1
25
I
1
25
V
3
75
one side
3.52
209
I
2
50
V
3
75
one side
0.72
V
2
50
I
1
25
I
2
50
I
3
75
one side
1.84
114
2012/1/4
occured time (+F)
0
6
95
160
769
1169
2222
1:19:50
shape
・
I
V
I
I
V
I
1(F)=25(μ s)
tower
duration time (F) duration time (μ s) variation direction speed(10^6m/s) length(m)
1
25
4
2
50
207
2
50
one side
145
2
50
one side
1
25
44
3
75
one side
116
6
150
-
2013/1/25
occured time (+F)
0
45
267
577
640
719
783
1423
0:25:02
shape
・
・
I
Y
I
V
V
I
1(F)=25(μ s)
tower
duration time (F) duration time (μ s) variation direction speed(10^6m/s) length(m)
1
25
11
1
25
11
1
25
5
125
3
75
one side
0.96
30
750
one side
19
475
one side
131
4
100
one side
0.44
-
表 2.1 電流波形・電界波形が同時に記録できた落雷の RL の一覧
次の図 2.1 に、Table.2 における 2011 年 12 月 24 日 14:51:50 の落雷の映像と、その落雷
で発生した BB を重ね合わせた図をそれぞれ示す。この落雷は風車・鉄塔の他発同時落雷で
あり、鉄塔に落ちた方の落雷は上向き負極性落雷であった。図 2.2 には、図 2.1 に発生順
に応じて青から赤に色を付けた図を示す。紫色の点線は RS が確定した主要放電路を意味す
る。また、二次元観測ではあるが、風車と鉄塔がある位置での画像の範囲は 342m*432m と
算出された。
23
図 2.1
2011 年 12 月 24 日
14:51:50 の落雷
(A)全放電の時間積分図 (B)BB のみの時間積分図
図 2.2 発生した BB に、発生順に色を付けた図。
次の図 2.3 に、図 2.1 の落雷の電流・電界変化の時間同期グラフを示す。鉄塔では上向
きの負極性落雷、風車では下向きの負極性落雷であったことが伺える。BB のおよそ 0.02s
前に雲放電が始まっていて、それによる多発雷であったことも映像から確認できた。RL の
発生はリーダーの進展している時間帯に集中して発生していた。
24
図 2.3 2011 年 12 月 24 日
14:51:50 の落雷の電流波形と電界波形
(a)鉄塔電流(b)風車電流(c)FAST アンテナによる電界波形(d)SLOW アンテナによる電界波形
次の図 2.4 には、図 2.3 の BB が発生した箇所の拡大図を示す。灰色のラインの時刻で BB
が発生していて、後の考察で言及するように、いくつかの例においては BB の発生のタイミ
ングに合わせて、電流・電界の変化が確認できた。
25
図 2.4
図 2.3 の、BB が発生している時間帯の拡大図
また、これらの 2011 年 12 月 24 日 14:51:50 の落雷とは別の落雷である、2012 年 11 月
19 日 9:50:12 の落雷において、BB をともなう下向き落雷を高速度カメラで記録することに
成功した。図 2.2 と同様に、BB の発生順に青から赤に色を付けた図を、次の図 2.5 に示す。
26
図 2.5 下向き落雷で発生した BB の積分図と、その発生順
2.3.解析・考察
2.3.1.発生原理
(Vladislav Mazur; 2002)で記録された VHF 観測により、現在のところ、RL の発生原理は
以下の図 2.6 のように推定されている。
上向きの対地放電の場合は、
(1)進展する正極性リーダーが、枝分かれした放電路を電離する。
この放電路の光は弱く、リーダーが進むにつれて、主要放電路に近い下部の方は弱くな
り消えていくが、上部の方は進展を続け、新たな電離路を形成する(V. Mazur et al; 1993)。
(2)電離した放電路上で、正負の両極性のリーダーの進展が開始する(V. Mazur; 2011)。こ
のリーダーの光強度も弱く、光学的にとらえることは難しい。正極性の方のリーダーは
進展が遅いが、負極性の方のリーダーが大きく主要放電路に向かって伸びる。
(3)リーダーが持っていたエネルギー(V. Mazur et al; 2013 )分だけ進展すると、負極性
のリーダーが通ってきた放電路をたどって、リターンストロークのように強く光る(T.
Ogawa et al; 1964)。
以上の(1)~(3)のシークエンスにより、RL が発生していると考えられている。
27
図 2.6 RL の発生原理として現在議論されているもの
(1)電離された放電路の形成
(2)正負のリーダーが両方向に進展
(3)放電路を戻り RL が発効する
28
2.3.2.進展距離と速度
次の図 2.7 に、今回記録された、BB の進展の一例を示す。BB の発生は使用した高速度カ
メラの素子感度に強く依存しているが、BB の発光の強度はある一定の閾値を持つ。図 2.7
の例に示すように、8bit の画像出力で、輝度に 20 以上の差が確認できた例を、BB の発生
として分類している。
図 2.7 BB の光強度の解析
(A) 高速度カメラの映像の拡大
(B) (A)の光強度の図
次の図 2.8 と図 2.9 において、画像より算出した BB の進展距離と、そこから換算した
BB の進展速度を示す。ただし、この観測は二次元観測であるため、最大で 30%ほどの誤差
が存在している可能性がある。
図 2.8 BB の進展距離のヒストグラム(上向き落雷/下向き落雷)
29
図 2.9 BB の進展速度のヒストグラム(上向き落雷/下向き落雷)
BB の進展速度は、およそ 0.1*10^6 から 3*10^6(m/s)の範囲に分布しているが、低い数値
には、先の正極性側が遅く進展する例も含まれている。そのため BB の進展速度は、通常の
ダートステップトリーダーの進展速度(5*10^6(m/s))とおおむね近い値をしていることが
分かった。また、上向き雷と下向き雷における速度の差は見られなかった。
したがって進展速度の面では、BB の発生は 3.1.節で言及した RL の発生原理に従ってい
ると考えられるが、次の 3.3.節で述べる発生する形については、従来の RL の発生原理では
考えにくい形が多く記録されている。
2.3.3.形
今回観測した 273 例の BB の観測結果から、BB の発生する形には、以下の図 2.10 に示す
ように、以下の 5 種類の形に分類ができると考えられる。ただし、先に述べたように二次
元観測であることと、カメラの素子の感度に強く依存することから、あまり厳密な区別で
はない。次の図 2.11 に 273 例の BB の形の分類の結果を示す。上向き下向きでは形の分布
に相違は見られず、どちらの例でも一番多い形は I 型であり、次が V 型で 30%ほどだった。
S 型と Y 型はそれよりも数が少なく珍しい例だった。
図 2.10 BB の形の分類
30
図 2.11 BB の形の統計結果
RL が I 型に進展する理由は、図 2.6 のように説明されているが、BB はかなりの割合で V
の字型に進展することが確かめられた。RL が V 型に進展する理由は、次の図 2.12 のような
仮説が立てられている。図 2.6 の(3)において、放電路に直結する電離路がすでに弱く短く
なっていて、残っていた通りやすい電離路が上の方にあった場合が、V 型になる例であると
考えられている(Tom A. Warner et al; 2012)。
図 2.12 V 型に進展する BB の原理の仮説
また、Y 字型になる例はとても少なく、Y 字の辺が長いものはさらに少ない。もし残った
放電路の強さだけに依存するなら、こういった例も一定以上出てくるはずであるので、進
路の選ばれ方にはある程度の閾値があるものだと考えられる。
さらに、V 字型に曲がった後は進行方向が逆になり、たとえ電離路が強く残っていたとし
ても進展は遅く短くなるはずだが、曲がった後の方が長く進展するケースが複数見られる。
また、V 型に曲がるときは、鋭角に曲がるケースばかりで、鈍角に曲がるケースが皆無であ
った。
31
このように、一直線でない Y 字型、レ型、S 型は、通常の I 型の RL とは異なった原理に
より発光していることが考えられる。言葉の意味から言っても、当初の正リーダーの進行
方向に対して Recoil はしておらず、別の進路を進んでいるため、Recoil Leader という単
語でくくるべき現象ではない可能性がある。
あるいは、図 2.12 に示すように、何か空中の別の電荷により引っ張られた結果、一直線
から外れた形の発光になっている可能性がある。
2.3.4.進展方向
RL は、上向きの+CG の場合は、正リーダーが上方向に進展するのに対して、負リーダー
の RL が下向きに進展して瞬間的に強く光る。この様子から、正リーダーの進展に対して逆
方向に反射して戻ってくるため、Recoil と呼ばれるようになった。
図 2.2、図 2.5 において、BB が発生した位置の全体のシルエットが、上向き性極性落雷
の枝分かれの位置と似通っている。また、Fig.3 の上向き放電の場合は、リーダーの進展に
伴い低い高度から高い高度の順に BB が発生している。逆に、下向き放電の Fig.7 において
は、高い高度から低い高度の順に BB が発生することが確かめられた。
RL の進展方向が片側であるか両側であるかは長い間議論が続いていたが、(V. Mazur et
al; 2013 )において、両側に進展する映像が高解像度の高速度ビデオカメラにより撮影さ
れた。次の図 2.13 に示すように、本研究における観測結果においても、両側に進展するケ
ースが複数例観測された。図 2.13 の(A)のように放電路に近い片方だけが大きく進展する
例、それとは違って(B)のように同じぐらい両方に進展する例も記録されている。図 2.14
に示すように、今回の観測においては、257 例中 60 例において片側の進展が、15 例におい
て両側の進展が確認できた。残りの 182 例については、1F しか持続しなかった例や、進展
せずに同じ箇所で長く残り続ける例であった。
図 2.13
(A)片側進展の BB の例 (B)両側進展の BB の例
32
図 2.14 記録された BB の両側進展と片側進展の割合
2.3.5.電流・電界波形
次の図 2.15 に、図 2.3 の風車電流を拡大した図を示す。この落雷で発生した 14 例の BB
のうち、3 例の BB では、BB の発生と一致するタイミングで、地上において電流変化が記録
された。BB を発生させる電流の測定は、(F. Heidler; 2002)において行われているが、BB
が主要放電路に接続したときの電流変化が記録された例は今までにない。
図 2.15 BB 発生と同時に記録された電流変化
33
(Tom A. Warner et al; 2012) でも記録されているように、BB が強く残った場合は、主
要放電路に接続されて、その電流が地面にまで流れ込んでいることが確かめられた。その
電流は弱く、-5.5(A)、44(μs)ほどであり、これが BB で流れた電化量だと考えられる。
図 2.15 で示している拡大図のように、この例では主要放電路への接続と電流変化が確認で
きたが、この例のように接続はしていても、電流変化が確認できない例は多く存在した。3
次元的には実際は接続していなかったか、単に電流レベルが小さすぎたか、あるいは何か
別の要因で地面へ電流が流れるのが抑制されたか、といった理由が考えられる。
次の図 2.16 に、同じ落雷での別の BB で、電界変化も同時に記録できた例を示す。FAST
アンテナのみで確認できた急峻な変化であり、値は電流変化が-5.2 (A)、135(μs)程で、
電界変化は 4.1(kV/m)程であった。図 2.6 で示したように、BB の負極性のリーダーが地面
に向かって接近してきているため、それにより地上では正の電界変化が記録されたと考え
られる。また、この例では電流変化も記録できたが、図 2.15 と違って、主要放電路との接
続は確認できていない。
図 2.16 BB 発生と同時に記録された電流変化と電界変化
34
2.4. 結論
今回の観測によって、14 例の落雷において 273 例の BB を記録することができた。また、
下向きの負極性落雷で発生する RL を記録することに成功した。下向き落雷が光学観測され
る例は珍しく、上向き雷下向き雷のどちらの場合でも、RL の速度・形・持続時間は差異が
なく、発生高度と発生順においてのみ違いが見られる。このことから、先の RL の発生原理
をより強固なものにしている。
また、RL が主要放電路に接続した際の地上での電流・電界変化を記録することにも成功
した。今回記録できた例は 3 例だけであるが、この電流変化が、RL で中和している電化量
に大きな関係があるものだと考えられる。
RL の進展の方向については、257 例中 60 例が従来の原理で考えられていた片側進展であ
ったが、257 例中 15 例において、両側に進展する例が確認された。
これらの結果のように、RL の速度や発生位置といった発生原理については、(Vladislav
Mazur; 2002)で説明ができるが、V 型や Y 型といった RL の発生する形については、I 型と
同じ原理を適用すると、以下の理由が説明しきれない。
・残った電離路の強さだけで決まるのならば、Y 型はもっと発生していてもおかしくない。
記録された Y 型の例は、Fig.19 のように Y の辺がとても短いものが殆どである。
・V 型は一度曲がった後は進行方向が逆になり、たとえ電離路が強く残っていたとしても進
展は遅く短くなるはずだが、曲がった後の方が長く進展するケースが複数見られる。
・V 型に曲がるときは、鋭角に曲がるケースばかりで、鈍角に曲がるケースが皆無である。
鈍角に曲がるケースは I 型に近くなるはずだが、そういった例が記録されていない。
したがって V 型・Y 型については、放電の原理は I 型と同じであるとしても、その形になる
原理には何か別の要因があると考えられる。また、当初の Recoil という言葉の定義からし
ても、進行方向が異なっているため、これら V 型・Y 型については Recoil Leader だとは単
純に分類できない可能性がある。今回の研究においては、空中にある電荷が作る電界 E に
より、その電荷を中和する方向に BB が引っ張られるため、だという仮説を立てた。
35
第三章 複数の枝で発生する後続落雷の性質について
3.1.導入
第一章で述べたように、一つの落雷で雲中の電荷がすべて中和しきれなかった場合は、
同じ放電路で多重落雷が起きる。落雷が一つの雷撃だけで終わる単一落雷が発生する割合
は、夏季で 35%、冬季では 90%となっている。
多重雷は雷雲内の電荷密度の高い領域をつぎつぎと中和することにより発生する。冬の
雷雲は夏に比べて雷雲の規模が小さく、電荷の塊の数が少ないために多重雷が少ないと考
えられる。最初のステップトリーダーで作られた放電路は電離したままであり、導電率が
高い状態で、その経路をそのままダートリーダーが通る。したがって、ダートリーダーの
速度は 10 倍程度早い。
当研究室の雷観測においても、多重雷をふくむ落雷の例を複数記録したが、そのなかで
一例だけ、元の放電路とは違う位置で起こったダートリーダーを含む後続雷を記録するこ
とに成功した。最初に形成された放電路の中間地点に、新たな後続落雷の放電路が接続さ
れる様子を、高速度ビデオカメラにより記録した。
この例の高速度カメラの映像解析のほか、電流・電界の変化を解析したところ、通常の
冬季後続来とは異なる特徴をいくつか発見することができた。この章ではこれらのデータ
を用いて、冬季後続来の性質・原理を議論する。
3.2.観測結果
第二章と同じく、当研究室では 2004 年度から石川県内灘町において、冬季の落雷観測を
行っている。2011 年 12 月 24 日
14:51:50 に起きた落雷の電流・電界波形を、次の図 3.1、
その拡大図を図 3.2 に示す。
図 3.2 で示したように、電流波形は複数のパルスとそれに対応する電界変化を含んでい
て、それらに①から⑩までの番号を付けて区別した。
36
図 3.1 2011 年 12 月 24 日
14:51:50 に起きた落雷の電流・電界波形
図 3.2 図 3.1 の拡大図
37
図 3.2 に示した①から⑩のパルスと同時のタイミングで、次の図 3.3 に示すように、後
続来のパルスが確認できた。
パルス⑦⑧は、最初に形成された主要放電路で起こった後続落雷であるが、パルス①③④
は主要放電路の高度 47M の地点に接続された。同様にパルス②⑥では高度 91M の地点に接
続されて、パルス⑨⑩では高度 98M と、三か所の異なる地点に後続落雷のパルスが確認で
きた。
図 3.3 図 3.2 におけるパルス①~⑩の接続地点
これらのパルスのうち、パルス①④⑥の三つについては、後続落雷が進展する際のダー
トリーダーを記録することに成功した。その映像の光強度の図を、次の図 3.4・図 3.5・図
3.6 に示す。またこれらのパルスの電流変化を、図 3.7 に示す。
図 3.3 において、図 3.3 において、パルスが接続する高度の順番については、規則性や
関連性は見られなかったが、図 3.4 のダートリーダーの進展速度に注目すると、最初のパ
ルス①はあとのものと比べて明らかに遅いスピードであることがわかる。この例の後続落
雷でも通常のステップトリーダーと同様の進展をしていると考えられる。
図 3.7 の電流波形について、
パルスのピーク時に逆方向への波形の段差が確認できるが、
①④⑥以外のパルスでも同様の形も見られ、この点でも特に規則性や関連性は見られない。
しかし、これらの電流値の立ち上がり速度・ピーク値などの統計を、次節で取り扱う。
38
図 3.4 パルス①の光強度の推移
39
図 3.5 パルス④の光強度の推移
図 3.6 パルス⑥の光強度の推移
40
図 3.7 パルス①④⑥の電流変化
3.3.解析・考察
今回記録された、新たに放電路を形成し、主要放電路の中間地点に接続するタイプの後
続落雷をタイプ A と分類する。それに対して、元の放電路と同じ位置で電流の強弱を繰り
返すタイプを、タイプ B と分類する。図 3.3 の落雷においては、パルス⑦⑧がタイプ B、そ
れ以外がタイプ A と分類できる。
次の図 3.8 に、タイプ A のパルスとタイプ B のパルスの、各パラメーターの中央値・平
均値を比較したグラフを示す。この比較において、タイプ A・タイプ B とは別に、夏季落雷
における後続落雷の一般値との比較を行った。(Rakov et al (2003))
41
図 3.8 後続落雷のパルスの各パラメーターの比較
(持続時間・ピーク値・立ち上がり時間・立下り時間)
ダートリーダーにより新たな放電路が形成される後続落雷(タイプ A)と、元の放電路
で起きる後続落雷(タイプ B)では、各パルスの持続時間・強度が異なる傾向にあることが
分かった。一つのパルスにおける立ち上がり時間と中和電化量に 10 倍程度の差があり、
ピーク電流値にも 2 倍程度の差があることが確かめられた。また電流の継続時間も、夏季
の方が長い傾向にある。
次の図 3.9 に、図 3.3 における後続雷の接続高度と、それぞれのパルスのパラメーター
との比較した散布図を示す。
新たな放電路が形成される後続落雷(タイプ A)においては、接続した高度とパルス持
続時間・中和電化量が反比例する傾向があることがわかった。逆に持続時間やピーク値は
関係性が見いだせず、雷科学の現在の理解からでは説明がしづらい現象が起こっているこ
とが明らかになった。
42
図 3.9 後続雷の接続高度と、各パラメーターとの比較
(持続時間・ピーク値・中和電化量・立下り時間)
3.4. 結論
今回、主要放電路と異なる経路が複数形成される多重落雷を、高速度カメラで記録する
ことに成功した。
これらの後続落雷のうち、ダートリーダーにより新たな放電路が形成される後続落雷を
タイプ A、元の放電路で起きる後続落雷をタイプ B と分類すると、立ち上がり時間と中和電
化量において、10 倍程度、ピーク電流値にも 2 倍程度タイプ B の方が大きいことが確かめ
られた。また、リーダーの進展速度から、最初の後続雷は新たな放電路がステップトリー
ダーにより形成されていて、以降の後続雷はその放電路を通るダートリーダーであったこ
とが分かった。また、これらの後続落雷が主要放電路に接続した高度を分類したところ、
接続した高度とパルス持続時間・中和電化量が反比例する傾向があることがわかった。
今回のような、主要放電路と異なる経路での後続落雷は、通常のステップトリーダーに
よる放電路の形成と同じような現象が、多重雷においても起きうることが確かめられた。
しかし、それに対して接続高度が高いほど後続落雷が短く・弱くなる傾向にあることが分
かったが、後続落雷の順番はバラバラであり、これ以外の理由が存在していると考えらえ
る。
43
第四章 高高度発光現象の発生要因について
4.1.導入
落雷に関する現象のうち、まだ完全に原理が判明していないもののひとつとして、第一
章で述べた高高度発光現象がある。高高度発光現象(以下、スプライトと総称する)はプ
ラズマ科学の研究分野にかかわってくるだけでなく、航空機や宇宙船の電磁波障害の要因
の一つだとも考えられている。そのため近年研究が進んでいるが、スプライトは落雷ごと
の発生率が低く、光強度も高くないため、観測が困難である。
今回の雷観測で、2009 年度の観測において、スプライトを発生させた落雷の電流波形の
直接測定に成功したほか、2010 年度にはスプライトが発生した電界波形 5 例と、スプライ
トが発生しなかったと確認できた電界波形を 33 例記録することに成功した。
これらスプライトに関する雷データは貴重であり、特に電流波形は他に観測例が報告さ
れていない。これらのデータが、スプライト発生に関する原理を考察する手掛かりになる。
本研究において、これらのうちスプライトに関係すると思われるデータを抽出し、スプ
ライトの発生条件を考察した。スプライトと電流波形の同時測定に成功した例より、現在
仮定されているスプライトの発生原理とある程度一致するデータを確認できたほか、2010
年度に撮影された電界データから、電界変化の特定の波形が発生要因になっているという
ことを仮定することができた。
4.2.観測結果
第二章と同じく、当研究室では 2004 年度から石川県内灘町において、冬季の落雷観測を
行っている。2009 年度の観測において、一例の落雷でスプライトの映像と電流・電界波形
の同時測定に成功した。次の図 4.1 にスプライトの映像とその拡大図、図 4.2 に電流・電
界波形とスプライトの映像の同期波形を示す。
図 4.1 電流波形が記録できたスプライトの映像(拡大図)
44
図 4.2 図 4.1 の落雷の電流・電界と映像の同期波形(12 月 18 日 02:45:40)
2010 年度の観測では、電界アンテナにより 38 例の電界変化を記録することに成功した。
そのうち 5 例では、130km 離れた岐阜大学工学部屋上からスプライトの映像を記録すること
に成功した。残る 33 例では、スプライトが発生していないことが映像上で確認された。
また後の解析で述べるように、スプライト発生時に電界変化に特徴的な形を見ることが
できた。図 4.2 で①②と印をつけてあるのがそれで、
・急峻な電界変化の前に当たる部分の 40ms 程度の一定の負の変化を①
・正の方向に電界変化しているとき、単体で 10ms 程度の負の変化があるものを②
としてカウントした。その結果をまとめた図を、次の表 4.1 に示す。
45
スプライトが発生した落雷の電界変化
日付
時刻
12月9日
12月9日
12月18日
12月28日
12月28日
4:23
4:52
0:20
19:27
21:06
2010年度
事前の負の電界変化①(時間・大きさ) 急峻な正の電界変化②(大きさ)
15m (s) 64k (V/m)
1k (V/m)
36m (s) 149k (V/m)
192k (V/m)
×
4.2k (V/m)
×
277k (V/m)
13m (s) 2k (V/m)
2.5k (V/m)
スプライトが発生しなかった落雷の電界変化
日付
時刻
12月9日
12月9日
12月9日
12月9日
12月9日
12月18日
12月18日
12月24日
12月24日
12月26日
12月27日
12月27日
12月27日
12月27日
12月28日
12月30日
12月30日
12月30日
12月30日
12月30日
12月30日
12月30日
12月31日
1月1日
1月12日
1月12日
1月12日
1月12日
1月15日
1月15日
1月16日
1月16日
1月16日
4:27
4:42
4:46
4:55
20:18
0:15
0:28
1:21
1:43
17:56
0:30
1:03
1:58
3:14
21:22
19:15
21:33
21:41
21:50
22:50
22:57
23:04
3:44
6:12
3:05
3:06
3:10
3:12
1:32
1:40
0:15
0:22
0:32
2010年度
事前の負の電界変化①(時間・大きさ) 急峻な正の電界変化②(大きさ)
×
160k (V/m)
×
4k (V/m)
×
×
28m (s) 192k (V/m)
1.4k (V/m)
20m (s) 0.2k (V/m)
×
×
×
26m (s) 234k (V/m)
×
×
×
19m (s) 85k (V/m)
299k (V/m)
×
2.1k (V/m)
×
×
98m (s) 2.3k (V/m)
×
×
×
×
×
×
×
×
×
26m (s) 2k (V/m)
3k (V/m)
×
×
×
×
×
×
131m (s) 170k (V/m)
9.6k (V/m)
138m (s) 106k (V/m)
×
116m (s) 3k (V/m)
10.6k (V/m)
×
469k (V/m)
×
×
×
7k (V/m)
×
3.2k (V/m)
×
32k (V/m)
×
×
×
×
×
×
×
×
×
×
表 4.1 2010 年度の観測で記録したスプライトに関する電界変化
46
4.3.解析・考察
4.3.1 スプライトを発生させた落雷の電流波形について
次の図 4.3 に、
図 4.2 で示したスプライトを発生させた落雷の電流波形の拡大図を示す。
図 4.3 スプライトを発生させた落雷の電流波形の拡大図
この落雷の全体の中和電荷量は合計 47(C)であり、31(C)中和した時点でスプライトが発
生した。電流ピーク値については、最大 5.447(kA)であり、0.455(kA)の時点で、継続時間
については、合計 0.1039(s)であり、0.0672s の時点でスプライトが発生している。
スプライトを発生させた落雷の直接波形が報告されているのは本研究の一例のみである
ため、確定的な議論は行えないが、第一章で述べた発生原理のように、スプライトは電流
のピークよりあとで発生することが確かめられた。電流波形や中和電化量の波形から判断
するに、微小ではあるがスプライト発生位置に合わせて波形の傾きの変化も確認できる。
過去の観測では、スプライトは正極性落雷にともなって発生する例が多く報告されてい
たが、今回は負極性落雷でスプライトが発生することが確認された。さらに、今回の落雷
は継続時間・電流ピーク値の両面において、他で記録された落雷と比べて低い値で発生し
ていた。他の研究の報告では、スプライトはピーク値 50kA 以上、中和電荷量 200C 以上の
落雷で発生しているケースが多い。今回観測できた例では、この値よりかなり低い値、な
おかつ負極性落雷でスプライトが確認できた。
47
4.3.2
スプライトを発生させた落雷の電界波形について
スプライトを発生させた落雷の電流波形の測定に成功した例は、3.1 節で述べた一例のみ
であるが、電界波形のみの例は、2010 年度の合計 38 例記録されている。スプライト発生時
に電界変化に特徴的な形を見ることができた。
図 4.2 で①②と印をつけてあるのがそれで、
・急峻な電界変化の前に当たる部分の 40ms 程度の一定の負の変化を①
・正の方向に電界変化しているとき、単体で 10ms 程度の負の変化があるものを②
表 4.1 にまとめた結果より、次の図 4.4 に 38 例の電界波形全体での、電界変化①・②の
有無についてまとめた図を示す。
図 4.4 スプライトを発生させた落雷の電界変化の有無
・スプライトが発生していた電界波形のうち、①の変化を伴っていたものが 5 例中 3 例
・スプライトが発生していた電界波形のうち、②の変化を伴っていたものが 5 例中 5 例
・スプライトが発生してない電界波形のうち、①の変化を伴っていたものが 33 例中 9 例
・スプライトが発生してない電界波形のうち、②の変化を伴っていたものが 33 例中 12 例
という結果を得ることができた。第一章で述べた原理の通り、負の方向の電界変化①・②
がスプライトの発生に関係していることが見て取れる。特に、②の急峻な電界変化はスプ
ライトが発生したときは必ず発生していた。
また、
スプライトが発生しなかった 33 例では、
①と②の電界変化はバラバラに発生していて、①②が同時に発生していた例は 33 例中 5 例
だけであった。
以上の結果より、①と②の電界変化が同時起こると、スプライトが起こりやすいという
仮説が立てられる。直前のゆっくりした電界変化により強まった負電界が、急峻な負電界
でトリガーされることによりスプライトが発生する、というモデルを立てることができる。
次の図 4.5 に、それぞれの電界変化①と②の値の統計結果を示す。スプライトが発生し
た落雷での変化を赤色、しなかった落雷での変化を青色で示してある。
48
図 4.5 スプライトを発生させた電界変化の値の統計
図 4.5 より、電界変化①②は、10kV/m より小さい変化と、100kV/m 以上の大きな変化
に二分されることが読み取れる。グラフの分類の精度による要因もあるが、中間の値はあ
まり現れていない。これらの①②の電界変化が、特定のタイミングで起こることが、スプ
ライト発生の一因となっていると考える。
図 4.4 より、小さい電界変化であってもスプライト発生の要因になり得ることがわかるが、
図 4.5 の結果は電界アンテナの周波数特性や、観測位置などの問題で、電界観測の結果が変
化する、という要素も含まれている。
4.4
結論
本研究では、1 例スプライトを伴う落雷の電流・電界波形と 5 例のスプライトを伴う落雷
の電界波形を記録することに成功した。さらに、33 例のスプライトが発生しなかった電界
変化を記録することに成功したため、これらのデータを用いて、スプライトの発生原因を
探ることができた。
他の研究の報告では、スプライトはピーク値 50kA 以上、中和電荷量 200C 以上の落雷で
発生しているケースが多いが、今回の落雷ではピーク値 5.447(kA)・継続時間 0.1039(s)で
49
あり、他で記録された落雷と比べて低い値で発生していた。さらに、負極性落雷でスプラ
イトが発生することが確認された。スプライトを発生させた落雷の直接波形が報告されて
いるのは本研究の一例のみであるため、確定的な議論は行えないが、スプライトは電流の
ピークよりあとで発生することが確定的であったほか、電流波形や中和電化量の波形から
判断するに、微小ではあるがスプライト発生位置に合わせて波形の傾きの変化も確認でき
た。
合計 38 例の電界データの解析を行ったところ、スプライト発生時に電界変化に特徴的な
形を見ることができた。このような電界変化を、
・急峻な電界変化の前に当たる部分の 40ms 程度の一定の負の変化を①
・正の方向に電界変化しているとき、単体で 10ms 程度の負の変化があるものを②
として分類した結果、負の方向の電界変化①・②がスプライトの発生に関係していること
が確かめられた。特に、②の急峻な電界変化はスプライトが発生したときは必ず発生して
いた。①と②の電界変化が同時起こると、スプライトが起こりやすいという仮説が立てら
れる。直前のゆっくりした電界変化により強まった負電界が、急峻な負電界でトリガーさ
れることによりスプライトが発生する、というモデルを立てることができる。
電界変化の量の統計結果からも、10kV/m より小さい変化と、100kV/m 以上の大きな変
化に二分されることが分かり、これらの①②の電界変化が、特定のタイミングで起こるこ
とが、スプライト発生の一因となっていると考える。
50
第五章 枝分かれする放電路における光強度の変化について
5.1.導入
落雷の主要放電路は、多くの例では一本線だけでなく、複数の枝に分かれて進展する。
上向き放電の場合、主要放電路の形を V 字型と表現できるような、鉄塔先端などの落雷開
始地点から分岐が始まっているケースが多いが、放電路の途中の点において分岐する、Y 字
型のケースも一定割合で存在する。今回の観測においても、Y 字型のケースを高速度カメラ
で複数記録することに成功した。
この Y 字型に進展する放電路の光強度を解析した結果、従来の雷放電の理解では説明し
難い現象が、多く存在することが明らかになった。
例えば一例として、放電路の Y 字型をなす三つの辺を、[\:A][/:B][|:C]と呼ぶこと
にする。各放電路を流れる電流については、キルヒホッフの法則により電流 A と電流 B の
和が電流 C となるはずであるが、光強度 A と光強度 B は、光強度 C と単純な比例関係が成
り立っていないことが確かめられた。また、放電路 C だけが強く光るケース、あるいは光
強度 B が光強度 C より大きくなるケース、放電路 A から放電路 C に電流が反射して流れ込
む、等といった現象が複数例で記録された。
本研究において、これらの現象について解析を行い、Y 字型の放電路における光強度の推
移について、いくつかの傾向を明らかにした。その結果から、落雷放電路における電流の
動きを考察し、光強度から電流を推し量る手がかりを提示することを目的とする。
5.2.観測結果
第二章と同じく、当研究室では 2004 年度から石川県内灘町において、冬季の落雷観測
を行っている。2013 年度までの観測において、高速度カメラによる Y 字型の放電路の進展
を含む落雷は、解析できるものでは全部で 3 例記録することに成功した。次の図 5.1 に、
それら 3 例の放電路の画像を示す。それぞれの放電路には、A~F まで名前を付けて区別し
ている。
2012/11/14 の落雷と 2012/12/8 の落雷では、二か所の Y 字型放電路が見られ、それぞれ
で解析を行っている。また、2013/4/30 の落雷では光強度が強く、高速度カメラの出力が飽
和しているため、後の 3.3 節では解析の結果から外してある。
51
図 5.1 今回解析した 3 例の落雷での Y 字型放電路
次の図 5.2 では、一例として 2012/11/14 9:39:38 の落雷の、放電路 A・B・C の光強度の
推移のグラフを示す。横軸は高速度カメラの映像の経過フレームを表し、第一章で述べた
とおり、1 フレームは 0.000025(s)である。また高速度カメラで記録された、リーダーが進
展を始める前の状態をダークフレームとして扱い、その状態を光強度ゼロとして補正して
いる。
図 5.2 各放電路の光強度の推移の一例 (2012/11/14 9:39:38)
52
5.3.解析・考察
5.3.1 各枝での光強度の差について
次の図 5.3 のように、各枝のそれぞれの位置ごとに光強度の差がないかを検証した。
2013/4/30 の放電路 C を例にとり、各点 C1~C5 の光強度の推移を示す。図 5.4 には、図 5.3
の拡大図を示す。
図 5.3 各枝での位置ごとでの光強度の差
図 5.4
図 5.3 の拡大図
53
今回使用した高速度カメラの 1 フレームは 0.000025(s)であり、リターンストロークの進
展までは捉えることができなかった。
図 5.4 より、全域にわたって、放電路 C1~C5 の位置では、10~15 程度の強度差が確認さ
れた。しかしこの差は、ダークフレームの状態でも記録されているため、図 1.17 で示した
カメラの視界特有の差であり、地面に近いほど反射光が当たりにくくなった結果だと考え
られる。
5.3.2
各枝が他の枝の光強度に及ぼす影響について
一つの枝と近い位置の枝が強く光ると、ほかの枝の光強度と同時に記録されてしまう可
能性がある。その効果を検証するため、次の図 5.5 のように、各放電路から画面上の距離
での光の減衰をグラフ化した。また、放電路の光が減衰していくときに、その波形はどの
ような変化をしていったかを示した。
図 5.5 各枝が他の枝の光強度に及ぼす影響のグラフ
図 5.5 の例では、放電路の中心となっている光強度のピーク以外のところならば、ほか
の放電路が及ぼす光強度は少なく、高速度カメラの画像のピクセルの表す場合、放電路か
ら 100pix 離れると+1~+2 程度の強度差であることが分かった。放電路が二つならその倍の
差が出ることが考えられるが、
先の 3.1 節で述べた画像のダークフレームの差に比べれば、
小さな誤差として扱えることが分かった。
以上の結果より、各枝の位置ごとの差や他の放電路の影響の差は小さいものとして、図
5.2 でも用いているように、
解析の結果には各枝の出力 5 点の加算平均をとった値を用いる。
54
5.3.3
各放電路の光強度の和と、キルヒホッフの法則の比較について
次の図 5.6 に、図 5.2 における放電路 A と放電路 B の和と、放電路 C を比較したグラ
フを示す。
図 5.6 放電路 A+B と放電路 C の光強度の比較
放電路 A・B・C が、右の図のように分岐していると仮定するならば、キルヒホッフの法
則により IA+IB=IC のように各放電路で電流の和が成り立っているはずである。また、光強
度もそこで流れる電流に比例していると仮定すれば、光強度で LA+LB=LC が成り立つはずで
あるが、図 4.6 では A+B の波形と C の波形では、パルスのタイミングはほぼ完全に一致し
ているにも関わらず、波形の大きさ・絶対値では一致していないことが読み取れる。
そこで、各放電路が結合する場合は、電流においては IA+IB=IC、光強度においては
LA+LB>LC が成り立っているとして、次の図 4.7 に述べる一次方程式による光強度の和の補
正式におけるαとβを仮定した。
図 5.7 放電路における光強度の和の補正式の仮定
55
2012/11/14 の落雷と 2012/12/8 の落雷の放電路における 4 例の Y 字放電で、各波形を 5
~10 ブロック程の区間に分けてαとβを決定した。その結果を次の図 5.8 に示す。
図 5.8 各例での光強度の和の補正式α・βの推定
56
次の図 5.9 に、先の図 4.8 のグラフより求めたαとβの値のヒストグラムを示す。ただ
し、2012/12/8 の落雷の C・D・E の放電路のように、高速度カメラの出力が飽和していると
考えられる点は除外した。
図 5.9 αとβの値の分布
今回の解析では、図 4.8 におけるブロックの分け方にも依存するが、αとβの最頻値を
求めることができた。
放電路 C が放電路 A と B に分岐する際には、光強度においては単純にキルヒホッフの法
則で LA+LB=LC は成り立たず、(LA+LB)*β=LC+αの補正式が必要になる。その値はα≒0、
β≒1.3 であることが、今回の解析で分かった。
図 5.7 のグラフから分かるように、(LA+LB)*β=LC+αの補正式において、α>0 であるこ
とは、放電路の進展を考える上では、「一度形成された放電路では、電流がなくてもある程
度光る」現象のことを意味する。放電路上か空間上に何らかのキャパシタンス成分が存在
していたことが考えらえる。また逆に、α<0 であることは、
「ある程度以上の電流が流れな
いと発光を始めない」現象のことを意味する。これに対しては、放電路上に何らかのリア
クタンス成分が存在することや、暗流の成分などが考えられる。
今回解析したαの値は、最頻値はα≒0 であったが、今回の四例の結果においては、-45
から+30 まで分布していた。α>0 の効果とα<0 の効果の両方が起こっていたと考えられる
が、その割合はわずかにα<0 の方が大きかった。
βの値はほとんどのフレームでβ=1.3 が成り立っていて、ほぼすべての個所でβ>1 であ
った。また、βはαに比べて振れ幅も少ない。αと同様にβの値を考察すると、
(LA+LB)*β=LC+αの補正式において、β>1 であることは、
「放電路が結合すると導電率が
下がる」現象のことを意味する。これもα同様に、放電路のリアクタンス成分による非線
形成や、ピンチ効果などが原因として考えられる。
57
図 5.6 の波形の例からも分かる通り、各放電路の光は弱くなっていても、パルスの位置
はほぼ完全に一致しているため、何らかの形で流れ続けていることが想像できる。また、
今回求めたα・βの値の分布は、(M. Zhou et al; 2014)などで行われている研究の知見とも
ある程度一致する。すなわち、放電路の光強度がそこで流れる電流に比例していると仮定
すれば、放電の過程において導電率が変化していると考えられる。
次の図 5.10 のグラフは、2012/11/14 の落雷の各放電路で、光強度(A+B)-C の表している。
図 5.10
2012/11/14 の落雷における光強度(A+B)-C
この図 5.10 の波形は、各枝の光強度が LA+LB=LC の仮定からずれている量を表す。仮に
キルヒホッフの法則により、LA+LB=LC が完全に成り立っているとしたら、この波形がゼロ
点の一直線になるはずである。
この波形をゼロ点の一直線に補正する式が(LA+LB)*β=LC+αであるが、この図 5.10 にお
いて、放電路が形成されたばかりの前半部分は上下への細かい変化が多いが、後半になっ
てくると変化が安定してくるという傾向を見ることができる。
今回解析した4例の Y 字放電路のすべてで、この性質を確かめることができた。この結
果も、放電の過程によって導電率が変化し、その結果αとβも序盤はよく振動する、とい
う効果を裏付けることができる。
また、放電路の導電率が放電のステージによって変化する、と仮定した場合、その導電
率が変化する境目は、各放電路の Y 字の分岐点であることも、今回の観測結果から分かっ
た。次の図 4.11 に、放電路 A だけが強く光った例、放電路 C だけが強く光った例の画像を
示す。放電路の分岐点においては、電荷の流入量が急激に変化するため、先に述べたリア
58
クタンスやキャパシタンスの成分が大きくなっていると考えられる。
図 5.11 2013/4/30 の落雷 (1)分岐点を境に、放電路 A だけが強く光る例
(2)分岐点を境に、放電路 C だけが強く光る例
5.3.4
分岐点における電流の反射について
図 5.6 で言及したように、放電路の分岐においては、光強度の変化のパルスのタイミン
グはほぼ完全に一致している。したがって、分岐点を境に導電率が変化し、電流は弱くな
って流れている、という結果を 3.3 節に述べた。
そこで、
分岐点を境に導電率が変化しているならば、第二章で述べたような RL のように、
分岐点において V の字型の反射を起こすのではないか、という仮説を立てた。
次の図 5.12 に、2012/12/8 の落雷の放電路で、放電路 A+B と放電路 C を比較した図と、
放電路 B-A と放電路 C を比較した図をそれぞれ示す。
図 5.12 放電路 A+B と放電路 C の光強度を比較した図
59
図 5.12 より、部分的には放電路 A+B よりも放電路 B-A のほうが一致性が高い部分があ
る。次の図 5.13 に示す通り、放電路 B-C が大部分でゼロと一致するため、右図のように放
電路 A から放電路 B 反射を起こし、電荷が流れ込んでいた可能性も考えられる。
図 5.13 放電路の結合点における反射のイメージ
このような反射の現象は、落雷の一部分だけで起こっていた可能性がある。2012/12/8
の落雷の例だけでなく、ほかの落雷においてもこのようなパターンが散見された。特に、
図 5.10 で述べたように、放電仮定の前半部分の不安定な点でこのような現象が起こりやす
いと考えられる。このような反射を起こすことで、今回記録されたような、分岐した枝の
方が元の枝より強く光る現象、などが説明できる。
こういった現象を部分ごとに考慮すれば、先の 3.3 節で述べた補正式のαについては、
値を小さくすることが可能である。しかし、βについては依然β≒1.3 の補正式が必要であ
り、各放電路の結合点においては、やはりリアクタンス成分・ピンチ効果などにより、導
電率の急峻な変化が起こっていると推測できる。
5.4.
結論
本研究では、2013 年度までの内灘落雷観測において、3 例の落雷で Y 字に分岐する放電
路を高速度カメラで記録した。そのうちの 4 か所の Y 字に分岐する放電路において、光強
度の推移の解析を行った。
放電路を分岐点で区切ってそれぞれを A・B・C のように分類した。その中で、各放電路
の位置ごとでは光強度の変化は見られず、一つの放電路の光が他の放電路の光強度に及ぼ
す影響も小さいものであることが分かった。
60
キルヒホッフの法則により、各放電路を A・B・C を流れる電流 IA・IB・IC には、IA+IB=IC
が成り立っていると考えられている。しかし光強度 LA・LB・LC においては、LA+LB>LC であ
り、放電路 C より分岐した枝 B のほうが強く光るケース、結合点を境に放電路 A だけが強
く光るケースなど、従来の理解では考えにくい現象が多く記録された。
そこで、LA+LB=LC を成り立たせるための補正式、(LA+LB)*β=LC+αを仮定し、今回記録
された各例において、αとβを推定したところ、最頻値はα≒0、β≒1.3 であることが分
かった。
このαとβの値は、放電仮定の前半部分では変化しやすく、後半においては変化が安定
するといった傾向が確認できた。このことより、落雷の放電仮定においては放電路で導電
率が変化する、という効果が仮定できる。今回記録された映像により、導電率が変化する
境目は、放電路の分岐点であることが分かった。
今回の例ではαの値は正と負の両方に分布していたが、βはほとんどの場合でβ>1 であ
り、放電路のリアクタンス成分による非線形成や、ピンチ効果などが関係していると考え
られる。
また、各放電路において分岐点で電流が反射して、放電路 A から放電路 B に電荷が流れ
込むようなケースを仮定した場合は、αの値をより小さくすることができる。今回の記録
された例では、部分的にはこのような現象も起こっていたと考えられる。
61
第六章 結論
本論文では、大気中における落雷現象、特に放電路の光強度に関する研究を扱った。
近年では、情報化社会の発展や、自然エネルギーの発電設備に対する安全対策として、
避雷に関する技術の進歩が強く求められている。しかし第一章で述べたとおり、広範囲に
わたる大気の状態を計測することは通常困難であり、大気電気科学の進歩は計測技術の進
歩と並列している側面がある。そのため、落雷現象にはいまだ明確な理解に至っていない
現象が数多く残っている。本研究では、これらの研究成果を落雷現象の解明や、大気の観
測技術の進歩に貢献することを目的としている。
当研究室では、2004 年度より毎年冬に、石川県内灘町の風力発電設備において、冬季の
落雷観測を行っている。フィールドミルや電界アンテナによる電界観測、ロゴスキーコイ
ルによる電流波形の直接計測等、多くの観測を成功させているが、2010 年度からは、
40000F/s の高速度カメラによる光学観測も行っている。以下に述べる研究では、主にこれ
らのデータを用いた放電路における光強度に関する研究を行った。
第二章では、正極性リーダーの放電路の近辺で起こる瞬間再放電の性質に関する研究を
行った。
正極性リーダーが進展する際には、その近辺に形を成す特徴的な放電が一瞬だけ発生す
る現象が確認されているが、それらの詳しい性質・発生原理は未だ分かっていない部分が
多い。この現象は、正極性落雷の進展方向に対して負リーダーが反射するように進展する
様子から、Recoil Leader(RL)と名付けられ、各方面で研究が進んでいる。
従来の雷観測においては、DTOA や Interferometric techniques といった雷観測システム
が広く利用されているが、これらは負リーダーが発する VHF-UHF 帯を利用しているため、
正リーダーの放電を感知することはできない。そこで RL の負リーダーが検知できるように
なれば、従来の雷観測システムによって正リーダーの放電を感知できるようになる、と期
待されている。
当研究室においても高速度カメラにより、全部で 15 例の落雷に伴う 273 例の瞬間再放電
を記録することに成功した。また、15 例の落雷のうち、3 例の落雷においては、電流・電
界の同時記録に成功している。
二次元観測ではあるが今回記録された映像より、瞬間再放電は I 型,V 型,S 型,Y 型,・型
の 5 種類の形に発生する傾向があることが分かった。一番発生率が高いのは I 型が 6 割ほ
どであるが、
従来の RL に関する研究ではこれらはすべてまとめて RL として扱われてきた。
本研究では、V 型や Y 型の RL は、従来考えられてきた I 型の発生原理では説明がし難いと
考え、これらの発光現象を Brief but Bright discharge(BB)と総称して、従来の RL との
性質の比較・議論を行った。従来考えられてきた RL の発生原理は、大まかに述べると以下
62
の①~④のシークエンスを経ていると考えられている。
①進展する落雷の正極性リーダーが枝分かれした電離路をつくる。
②その電離路で空中の電荷が正負両極性に分かれて進展する。
③両極性のうちの負のリーダーが正極性の放電路に近付く。
④電離路の端まで到達したらリターンストロークのように放電路を戻り、強く光る。
今回の観測では、上向き落雷と下向き落雷の両方で、BB を記録することに成功した。発
生した BB の画像を重ね合わせると、BB の発生位置は上向き・下向きともに、放電路の枝分
かれと酷似した位置に発生していることが確かめられた。また、発生順も落雷のリーダー
の進展に沿っていることが分かった。リーダーの進展速度に関しても、通常の落雷のダー
トステップトリーダーと近い値をしていることが確かめられた。
しかし BB の発生が枝分かれした電離路の位置と強さのみに依存すると仮定した場合、V
型・Y 型の発生率が I 型よりも大幅に少ない点や、Y 型のうち2辺がほとんど進展しないこ
との説明ができない。また RL の進展方向に関しても不明瞭である。従来の原理のように正
極性リーダーに近付く負のリーダーだけが大きく進展する例と、正と負の両方のリーダー
が同程度に大きく進展する例の両方が今回記録された。
RL の言葉の意味から言っても、V 型は当初の正リーダーの進行方向に対して Recoil はし
ておらず別の進路を進んでいるため、Recoil Leader という単語でくくるべき現象ではない
と考える。本研究においては、RL とは別に残っている空中電荷がつくる横方向の電界によ
り、通常の I 型の RL が引っ張られて V 字型をなす、という仮説を立てた。
また、本研究では RL の映像だけでなく、RL を発生させた落雷の電流波形・電界波形の直
接測定に成功した。電離路の配置によっては、発生した BB は正リーダーに接続し、落雷電
流に加算されることが、今回初めて記録された。また電界波形については、RL の規模に関
わらず地上電界に現れるケースと現れないケースがあり、さらに正と負のどちらの変化も
取り得ることが分かった。以上の結果から、RL の電流・電界変化の規模を推測することが
でき、BB は RL の変形で向きが変化したものである、という仮説を裏付けることができた。
第三章では、高度ごとに分かれる後続落雷の性質に関する研究を行った。
通常の落雷で、一度の落雷で雷雲内の電荷が中和しきれなかった場合、最初の落雷と
同じ放電路を通って多重落雷が起きる。そのため、多重落雷では中和電化量は少ないが、
進展速度は最初の落雷と比べて 10 倍程度速い。
冬季の落雷では多重落雷が発生する割合が低いが、本研究においては、多重雷をふくむ
落雷の例を複数記録した。そのなかで一例だけ、元の放電路とは違う位置で起こったダー
トリーダーを含む後続雷を記録することに成功した。
この落雷は、高速度カメラの映像により、最初に形成された放電路の中間地点に新たな
後続落雷の放電路が接続されていたことが判明した。この落雷(タイプ A)の電流・電界の
63
変化を解析したところ、通常の冬季後続来とは異なる特徴をいくつか発見することができ
た。この章ではこれらのデータを用いて、冬季後続来の性質・原理を議論することを目的
としている。
今回記録された電流波形には、高速度カメラの映像に対応する 10 個のパルスが記録され
た。これらのパルスの持続時間・ピーク値・立ち上がり時間・立下り時間の統計を取り、
通常の同じ放電路上で起こる後続落雷(タイプ B)のデータ、夏季の後続落雷のデータの一
般値との比較を行った。その結果、タイプ A の後続落雷は、ピーク電流値を除いてタイプ B
の後続落雷の方が 3~5 倍ほど大きいことが分かった。
また、後続落雷時に新たな放電路が作られる際に、高速度カメラでリーダー進展の様子
を記録することに成功した。通常のステップトリーダーと同じく、最初の後続落雷におい
てはリーダーの進展速度が 10 倍程度速いことが確かめられた。
タイプ A の後続落雷は、最初に形成された放電路の 3 か所の高度地点に接続していた。
その接続高度と持続時間・ピーク値・中和電化量・立下り時間の散布図をとった結果タイ
プ A においては、接続した高度とパルス持続時間・中和電化量が反比例する傾向があるこ
とがわかった。逆に持続時間やピーク値は関係性が見いだせず、雷科学の現在の理解から
では説明がしづらい現象が起こっていることが明らかになった。
以上の結果より、今回のような主要放電路と異なる経路での後続落雷でも、通常のステ
ップトリーダーによる放電路の形成と同じような現象が、多重雷においても起きうること
が確かめられた。しかし、それに対して接続高度が高いほど後続落雷が短く・弱くなる傾
向にあることが分かったが、後続落雷の順番はバラバラであり、これ以外の理由が存在し
ていると考えらえる。
第四章では、高高度発光現象の発生原理に関する研究を行った。
第一章で述べたように、落雷に関する現象のうち、まだ完全に原理が判明していない
もののひとつとして、高高度発光現象がある。高高度発光現象(以下、スプライトと総称
する)はプラズマ科学の研究分野にかかわってくるだけでなく、航空機や宇宙船の電磁波
障害の要因の一つだとも考えられている。
そのため近年研究が進んでいるが、スプライトは落雷ごとの発生率が低く、光強度も高
くないため観測が困難である。スプライトは雷雲の 60km~の航空に発生するため、地上か
ら高額観測をする場合は、数十 km 以上は離れた地点で観測する必要がある。そのため、ス
プライトを発生させる落雷の直接電流や近傍電界については、スプライトの映像と同期し
たデータが貴重であり、特に電流波形については本論文以外の報告例が現在のところ存在
していない。
当研究室の雷観測においては、2009 年度の観測で、スプライトを発生させた落雷の電流
波形の直接測定に成功したほか、2010 年度にはスプライトが発生した電界波形 5 例と、ス
64
プライトが発生しなかったと確認できた電界波形を 33 例記録することに成功した。
本研究においては、これらのスプライトの発生に関係するとデータを解析し、スプライ
トの発生条件を考察した。スプライトと電流波形の同時測定に成功した例より、現在仮定
されているスプライトの発生原理とある程度一致するデータを確認できたほか、2010 年度
に撮影された電界データから、電界変化の特定の波形が発生要因になっているということ
を仮定することができた。
スプライト発生時にみられる電界変化を、
・急峻な電界変化の前に当たる部分の 40ms 程度の一定の負の変化を①
・正の方向に電界変化しているとき、単体で 10ms 程度の負の変化があるものを②
として分類した結果、負の方向の電界変化①・②がスプライトの発生に関係していること
が確かめられた。特に、②の急峻な電界変化はスプライトが発生したときは必ず発生して
いた。①と②の電界変化が同時起こると、スプライトが起こりやすいという仮説が立てら
れる。直前のゆっくりした電界変化により強まった負電界が、急峻な負電界でトリガーさ
れることによりスプライトが発生する、というモデルを立てることができる。
電界変化の量の統計結果からも、10kV/m より小さい変化と、100kV/m 以上の大きな変
化に二分されることが分かり、これらの①②の電界変化が、特定のタイミングで起こるこ
とが、スプライト発生の一因となっていると考える。
第五章では、Y字に枝分かれする放電路の光強度の推移に関する研究を行った。
落雷の主要放電路は、多くの例では一本線だけでなく、複数の枝に分かれて進展する。
今回の観測において、放電路の途中の点において分岐する、Y 字型のケースを高速度カメラ
で複数記録した。この Y 字型に進展する放電路の光強度を解析した結果、従来の雷放電の
理解では説明し難い現象が、多く存在することが明らかになった。
例えば一例として、放電路の Y 字型をなす三つの辺を、[\:A][/:B][|:C]と呼ぶこ
とにする。放電路の電流 IA・IB・IC においてはキルヒホッフの法則により IA+IB=IC が成
り立っていると仮定できる。しかし光強度 LA・LB・LC においては、LA+LB>LC であり、放電
路 C より分岐した枝 B のほうが強く光るケース、結合点を境に放電路 A だけが強く光るケ
ースなど、従来の理解では考えにくい現象が多く記録された。
そこで、LA+LB=LC を成り立たせるための補正式、(LA+LB)*β=LC+αを仮定し、今回記録
された各例において、αとβを推定したところ、最頻値はα≒0、β≒1.3 であることが分
かった。このαとβの値は、放電仮定の前半部分では変化しやすく、後半においては変化
が安定するといった傾向も確認できた。今回の例ではαの値は正と負の両方に分布してい
たが、βはほとんどの場合でβ>1 であり、放電路のリアクタンス成分による非線形成や、
ピンチ効果などが関係していると考えられる。
このことより、過去に行われた研究における、落雷の放電仮定においては放電路で導電
65
率が変化する、という説を裏付けることができた。今回記録された映像により、導電率が
変化する境目は、放電路の分岐点であることも確かめられた。
また、各放電路において分岐点で電流が反射して、放電路 A から放電路 B に電荷が流れ
込むようなケースを仮定した場合は、αの値をより小さくすることができる。今回の記録
された例では、部分的にはこのような現象も起こっていたと考えられる。
大気電気学における計測技術の並列性を冒頭に述べたが、雷観測において、カメラの光
強度からその落雷の電流を推測することは、各研究者たちに共通する一つテーマとなって
いる。本研究でも行ってきたように、電流の直接波形は雷の放電現象を理解する有力な証
拠となるが、落雷の各データの中では、電流データを収集することが一番困難であると言
える。そこで、カメラの映像から電流を推測する技術が確立すれば、大気電気学に巻子研
究が加速度的に進むと期待されている。
本研究では、光強度の変化の放電路上での特性をいくつか明らかにすることに成功した。
これらの結果が、カメラの光強度から電流を推測する技術の発展に貢献できるものだと考
えている。
謝辞
本研究を進めるにあたり、懇切丁寧なご指導、ご助言をくださった岐阜大学教授
伸之氏、同准教授 王 道洪氏、周 蜜氏に心より感謝の意を表します。
66
高木
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1995, vol. 22, no10, pp. 1205-1208
68
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