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アジア現地におけるビジネス展開 - 一般財団法人エンジニアリング協会

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アジア現地におけるビジネス展開 - 一般財団法人エンジニアリング協会
ISSN 0910–4593
Engineering Advancement Association of Japan
2 0 1 0 N o v N o .1 2 5
躍動するアジアと
エンジニアリング
特集
財団法人
エンジニアリング振興協会
Engineering Advancement Association of Japan
躍動するアジアと
エンジニアリング
2010 NOVEMBER No.125
Contents
1
随 想
異常気象が示すエンジニアリングの必要性
田代 民治
鹿島建設株式会社 代表取締役副社長執行役員土木管理本部長
2
鼎 談
アジア経済の持続的な成長とエンジニアリングの役割
渡辺 哲也
東 伸行
経済産業省 大臣官房参事官(戦略輸出担当)
併・クール・ジャパン室長
国際協力銀行(JBIC)
アジア大洋州ファイナンス部長
(兼司会)
上地 崇夫
千代田化工建設株式会社 執行役員 技術事業開発副部門長 兼 営業部門副部門長
10
インタビュー
アジア総合開発計画
木村 福成
̶ERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)
の試み̶
慶應義塾大学経済学部 教授/東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)
チーフエコノミスト
14
レポート
アジア現地におけるビジネス展開
レポート1 ̶ インド
レポート2 ̶ ベトナム
椎木 秀樹
星野 郁夫
東洋エンジニアリング株式会社 取締役常務執行役員
日揮株式会社 ハノイ事務所長
レポート3 ̶ インドネシア・ベトナム・シンガポール
堀江 安弘
大成建設株式会社 国際支店 営業部長
24
28
平成22年度
「エンジニアリング功労者賞・奨励特別賞」
表彰式
会員会社をたずねて
日陽エンジニアリング株式会社
古山 富夫
代表取締役社長
29
編集後記
27
パストラーレ
『シドニー港』
中村 庸夫 海洋写真家
表紙の写真:(左上)
日揮株式会社提供
(中央・左下)
大成建設株式会社提供
(右下)
東洋エンジニアリング株式会社提供
随想
「
異常気象が示す
エンジニアリングの必要性」
鹿島建設株式会社 代表取締役副社長執行役員土木管理本部長
田代 民治
たしろ たみはる
1948年生まれ
1971 年
東京大学工学部卒業 鹿島建設株式会社入社
2000 年
6月 東京支店土木部長
2005 年
6月 執行役員東京土木支店長
2007 年
4月 常務執行役員土木管理本部長
2008 年
4月 専務執行役員土木管理本部長
2009 年
6月 取締役専務執行役員土木管理本部長
2010 年
4月 取締役副社長執行役員土木管理本部長
2010 年
6月 代表取締役副社長執行役員土木管理本部長 就任
今年(2010年)
の夏はスーパー猛暑が続き、100年に一度
という長い異常気象の夏であったのは、
皆様記憶に新しいこ
治水や利水、
更には農業用水に関連した食料問題が、1人
ひとりにとって、
重要な位置付けになると考えられる。
とと存じます。
平均気温が日本では最高記録を更新し、
このま
また、21世紀の世界では、
人口問題が大きなテーマとな
までは温暖な冬を迎える予測もあるものの、
実はラニーニャ
る。
日本では、
少子高齢化により人口が減少しているもの
現象等の関連で、
そう単純には行かない様子である。
の、
一方で世界的には人口が増大している。
国連の世界人口
この夏の世界の異常気象は、
大西洋の海面温度(水温)
推計によれば、1950年から2005年までの55年間で約2.5
上昇の影響に伴うモスクワ上空の高温の高気圧による森林
倍に、
また2000年から2007年の直近の7年間に約5億人
火災、
インド洋の水温上昇と上昇気流に伴う低気圧の影響
の人口が増大している。
当然その進展に合せ、
今後「食料と
を受けたパキスタンの豪雨、
そして太平洋の赤道付近での
水」
問題は、
世界的に避けて通れない課題となることは明ら
海面温度上昇の影響に伴う高温の太平洋高気圧による日
かである。
本の異常気象等、
これら従来と異なる連鎖はジェット気流に
よる偏西風の蛇行が原因と説明されている。
エネルギーのみならず、
食料、
そして水がこれからの21世
紀中盤に向けたキーワードになると思われる。
これらについ
この様な気候変動を感じるにつけ、
私は主にダム建設に
ては、
以前から議論がなされているものの、
その具体的対応
係わってきたこともあり、
温暖化とともに、
水に関する問題
方法では、
これまで以上に、
マクロエンジニアリングの発想
で、
最近気がかりになってきていることがある。
に基づくグローバルな検討が重要である。
その1つとして、
我が国では気候変動に伴う高温気象と併
エン振協では、
創設以来、
エネルギーの効率的な有効利
せ、
突発的なゲリラ豪雨が、
特徴的な現象として頻発してい
用と地球環境問題、
地下利用開発等、
成熟したテーマにつ
る。
特に日本では大都市圏における生活環境として、
地下利
いて、
その技術の進展に係わってきたことと思う。
しかしなが
用が普及しているが、
逆に都市型水害の観点からは、
地下空
ら、
これからの21世紀では、
前記の通り、
エネルギー、
地球環
間であるがゆえに危険と直結する現象も考えられる。
地下空
境問題に加えて、
「食料と水」
問題を、
同時に考え合わせてい
間の利用が進むとともに、
この地下空間に対する水害への
くことが肝要と考える。
対応も喫緊の課題と考える。
異業種が連係し、
会員相互の理解力で運営されているエン
第2に、
世界的な大きな問題として、
人間の営みに必要と
振協にとって、
具体的、
かつ真剣に取組む大テーマであると考
なる適宜な経済発展と併せ、
最近では低炭素社会の実現を
える。
一般財団法人化した後のエン振協の新機軸のテーマと
目指すエネルギー問題がクローズアップされてきている。
そ
して、
また時代の変革を踏まえたエポックな新年に向け、
大い
れと同等に、
これからは人類の生命や生活基盤に関連した
に期待したい分野であり、
「Must」
のテーマと考える。
ENAA Engineering No.125 2010.11
1
鼎 談
アジア経済の持続的な成長と
エンジニアリングの役割
我が国は、
失われた20年といわれる長期に亘る経済の低迷が続く一方でアジアの経済発展は目覚
しい。
新成長戦略では、
日本が培ってきたインフラのシステム輸出が明確に打ち出され、
成長し続け
るアジア市場への官民あげての積極的な進出が図られることとなった。
未来へ向けて可能性が広がり、
まさに躍動する感のあるアジアで、
日本が競争力を持つにはどうし
たらいいのか。
これからの官民連携のあり方やファイナンスが果たす役割、
システムインフラ分野に
も積極的に取り組む日本エンジニアリング業界の課題と期待等について熱く語っていただいた。
出
席
者
(兼 司 会)
2
渡辺 哲也
東 伸行
上地 崇夫
ENAA Engineering No.125 2010.11
経済産業省 大臣官房参事官(戦略輸出担当)
併・クール・ジャパン室長
国際協力銀行(JBIC)
アジア大洋州ファイナンス部長
千代田化工建設株式会社 執行役員 技術事業開発副部門長 兼 営業部門副部門長
アジア経済の持続的な成長とエンジニアリングの役割
ギー需要も増大していきます。
これま
JICAの海外投融資を使うという考え
現在、
アジア自身は世界経済危機
で天然ガスや石炭の輸出国だったイン
方もあります。
相手国やプロジェクトに
が続く中でもいち早く成長傾向を示
ドネシアやマレーシア、
ベトナムなどで
応じ、JBICやNEXIを含め政策ツー
し、
日本はバブル崩壊以降、
さらには
も急速に国内消費が伸び、
アジア地
ルを総動員して支援していくというこ
2年前のリーマンショック以来大変厳
域全体がエネルギーの輸入地域化し
とでしょう。ただ、今後とも途上国側
しく、
加えて最近の円高傾向もあり、
海
ていきます。
が、
円で借金をするのかは疑問です。
上地:
外の営業展開は非常に難しい状況で
プロジェクトのファイナンス面から
拡大するアジアのインフラ事業や国
す。
アジアの成長に乗る形で再び成長
見ると、
各国において、
まず発電所建
内市場向けプロジェクトを如何にファ
を目指す絶好の機会という議論があ
設が急務であり、
その膨大な投資を
イナンスしていくか。
ローカル通貨での
り、
まず現状認識や課題等について
賄うためにIPPに期待が集まってい
ファイナンスを含め、
新しい発想で対
お聞きしたいと思います。
ます。
ただ、
各国の制度的な枠組みが
応しなければ追いついていけない状
しっかりないとIPPやそれに対するPF
況に直面していると思います。
アジア経済の発展に
向けて
1
アジア経済と各国の課題
(プロジェクトファイナンス)
の実施は
また、プ ラント輸 出 に 関して は
困難であり、JBICなどもそうした制
OECDの輸出信用アレンジメント、所
度設計自体に早い段階から関ってい
謂OECDガイドラインが存在します。
くことが必要となっています。
このため、
インフラ輸出をパッケージ
また、
ハイドロカーボン・ビジネスの
型で支援するといっても、ODAは使
状況もガラっと変わりました。例えば
えないし、
優遇条件は出せないなど、
ご指摘のように、
中国、
インド、
東南
インドネシアの輸出用LNGプロジェク
さまざまな制約があります。
アジアの国々は力強い成長を果たし
トは外貨を稼ぐのでPF組成は比較的
私は、欧米諸国が作り上げたアン
ており、
アジアの一角にある日本がこ
容易ですが、
現在アジアで内談があ
シャンレジームというようなものが、
日
の成長市場にどう入っていくか、
アジ
るリファイナリーやペトケミ・プロジェ
本や他の国を縛っていると思っていま
ア全体の成長にどう貢献できるかが
クトの多くは、
各国の国内市場向けで
す。
先進国から途上国にものを輸出す
大きな課題です。
アジアはこれから膨
あり外貨を稼ぎません。
最近では鉄道
るという時代にできたこのレジームだ
大なインフラ需要があり、
そのなかに
や道路などもPPPで実施したいとい
けでは、
途上国のインフラやプラント
日本の環境技術、
エンジニアリング技
う傾向がありますが、
こうしたローカル
建設における中国など新興国の台頭
術をどう活用するか、
内需の成長も大
通貨しか売上がないプロジェクトをど
やプラント・エンジニアリング・ビジネス
きい中国や東南アジア、
インドなどの
うファイナンスするかは、
金融技術的
における現地生産化といった新しい
消費マーケットにどう入っていくのか
には大きなテーマです。
時代の動きに、
もはや対応できていな
渡辺:
い、
という問題提起をする必要がある
が、
日本経済の今後を決める分かれ
道だと思います。
鼎 談
上地:
と思います。
ご指摘のとおり現状の融資制度で
東:
は、
国内需要向けの設備では海外か
確かにアジアは成長を続けていま
らの支援を得にくくなるのではないで
すが、
大きな課題のひとつは、
各国が
しょうか。
その問題を解決する具体的
成長とともにエネルギー消費大国化し
なアイデアやサポートについてはいか
てきていることです。ADB(アジア開
がでしょうか。
上地:
この11月に横浜でAPECが開催さ
れました。
アジア太平洋間の経済連携
については、TPPやFTAAPがありま
発銀行)
では、
アジアのインフラ需要
は今後10年間で8兆ドルと見通してい
アジアの経済連携について
東:
ますが、
その半分が電力です。
発電用
収益性の低いプロジェクトに対して
燃料に加え産業用、
民生用のエネル
は、
例えば、
円借款、
ステップ、
さらには
すが、TPPには関税の問題があり、
条件をつけると門前払いをくらうこと
がありそうですね。
ENAA Engineering No.125 2010.11
3
渡辺:
発ファンドが立ち上がり、ようやく個
TPPはいま、関係者が真剣な議論
別のプロジェクトを作っていく段階に
をしていますが、
基本方針が決まりま
なりました。
これからは日本企業の強
した。国内の環境整備をしながら情
みを生かして個別プロジェクトへ入っ
報収集を行い、
さらに関係国との協議
ていく、そのために官民で積極的に
に参加することになりましたので、
日
取り組んでいくことが大事だと思っ
本がアジア太平洋の成長に関わって
ています。4つの地点を決め、4つの
いく重要なステップだと思います。
企業グループがスマート・コミュニティ
作りに着手しています。
フィージビリ
渡辺 哲也
わたなべ てつや
経済産業省 大臣官房参事官(戦略輸出担当)
併・クール・ジャパン室長
1987 年 4月 通商産業省(現経済産業省)
入省
2001 年 1月 経済産業省貿易経済協力局通商金融・
経済協力課長補佐(企画担当)
2002 年 6月 外務省経済協力開発機構日本政府代表部
(一等書記官)
2005 年 7月 通商政策局政策企画官
(通商機構部担当)
2006 年 10月 通商政策局東アジア統合推進室長
2007 年 7月 通商政策局アジア大洋州課長
2010 年 7月 大臣官房参事官(戦略輸出担当)
併・クール・ジャパン室長就任
2
共に成長するための
官民連携
プロジェクトの
推進力は民
上地:
ティ・スタディの段階ですが、4つの
プロジェクトは日印インフラ協力の試
金石となるものですので、
単に絵を描
くだけでなく、具体的な投資案件に
つながっていくことを期待します。政
府としても金融面での支援など必要
なサポートをしていきます。
また、FS
アジアの持続的経済成長のために
を進める過程で現地企業とも関係
産業構造ビジョン2010が 発表され、
ができていく、あるいは日本企業の
広域インフラの整備と日本がリーダー
技術力が実証されて、
電力や水処理
シップをとっていくことがまとめられま
といった個別プロジェクトに声がか
した。
この広域インフラにどう取り組
かるという効果も期待できます。政
んでいったらいいのでしょうか。
府間の枠組みがしっかりとできてい
ますので、何かあったときもトラブル
渡辺:
を政府間で解決していくことも可能
アジアに8兆円のインフラ需要があ
です。また、プロジェクトが具体化し
り、
それを整備していく中で発電所、
ていけば金融面でのスキームも官民
港湾や鉄道等が建設されていきます
で 知恵を絞って考えていく必 要が
が、
これは、
アジアにとってみれば国づ
あります。
くりということですから、
点というより
線、線というより面、
という意味で、計
4
ENAA Engineering No.125 2010.11
東:
画作りの段階に日本がしっかりと協力
デリー・ムンバイは成功例だと思い
していくことが大事です。
例えば、
メコ
ます。
これは、
日本の政府が構想段階
ンの開発にも日本とメコンの関係国で
から力強いイニシアチブで推進して
枠組みをつくり、
マスタープランづくり
きました。
あえて申しますと、
我が国で
から協力しています。
インドのデリー・
は官民一体というと、どうも「官」が
ムンバイも日本のODAで貨物専用鉄
リードする、
してくれるという響きが
道を背骨として作り、
周辺の産業イン
あるように思います。
しかし、
エンジニ
フラを日印で協力して整備していく、
アリング業界がアジアのインフラに取
マスタープラン作りから始めて、
インド
り組もうというのであれば、
政府のマ
側に開発 会社を設 立し、JBICさん
スタープラン作りを待つだけでなく、
にご苦労頂きながらプロジェクト開
ビジネスの実際を知っている民間の
アジア経済の持続的な成長とエンジニアリングの役割
鼎 談
方々が、
こういうプランはどうか、
こう
作ればビジネスとして儲かるし相手
国のためにもなる、
といったプロジェ
クトを自ら構想して提案していくとい
う発想も重要ではないでしょうか。
プ
ロジェクトの推進力は民間にこそあ
るからです。
実はアジアの途上国も新しい時代
になって、
自分たちはどう産業開発し
ていくべきか、
ベストソリューションは
どういうものか悩んでいます。
日本に
どの観点からの提案が有益ですが、
渉していただく問題、
民間投資家が解
は産業力や技術力がありますから、
インフラ事業の場合の手法を見極め
決すべき問題もいろいろあります。
そう
それを駆使してビジネスモデルを提言
る必要があります。
環境的にこういう
いう問題を一緒にタッグを組んで交
し、大きなマスタープランを提案して
ものを整備するといいというように先
渉していくような場面が重要になって
いけば大きなビジネスチャンスにつな
進国から途上国に公的なアプローチ
くると思います。
がると思います。
があって、
その枠組みの中で協力して
いくのがいいのではないかと考えて
上地:
ある意味、今のエンジニアリング
国と国がトータルで
います。
つきあうこと
あとは、
民間ではとれないリスクが
会社も変わろうとしています。昔は、
ありますので、
その辺は政府が直接
プラント建設で入札・受注・建設・引渡
相手国の政府と話していただいて、
な
原子力分野や鉄道分野において
しで仕事は終わる形でしたが、最近
んとか緩和していただくなど、
政府に
も、
オペレーションやメンテナンスを考
では計画段階から参画させていた
保証していただくことをお願いしたい
えるとプラントメーカーだけでは対応
だき、Feasibility Studyや基 本 設計
のが正直な気持ちです。
が難しい。
今回のベトナム案件では日
(FEED)
から対応し、
顧客に満足して
いただける品質を保ち、
且つ、
競争力
を維持しながらエンジニアリング・調
上地:
本の電力会社がケアしていくというこ
東:
とを聞いています。
そこは、JBICの出番かもしれませ
渡辺:
達・建設を遂行しプラントを完成させ、
ん。
インフラ事業である以上、
民活で
併せてオペレーション&メンテナンス
やるとしても料金設定など相手国政
今回のベトナムの原子力発電の場
にも入り込んでいます。
さらに、
事業の
府の規制・制度に縛られます。
民間に
合は、
電力会社とプラントメーカーが
投資に対しても議論しています。
業容
とっての収益性と公共性をどうバラン
チームを組み、
首脳外交というトップ
に対する対応についてかなりフレキシ
スをとっていくかという制度設計から
セールスもやって、
日本がワンヴォイス
ブルになっています。
相手国と交渉していく必要があり、
民
で交渉したといえます。
原子力だけで
間企業だけでは限界があるでしょう。
なく、
水や宇宙や衛星など人材育成も
の少ない領域であり、付加価値をど
そうした場面では、
「一定の収益性が
含めて日本とベトナムがトータルでつ
うつけていくか、相手国政府と交渉
なければ」あるいは「こういうリスク
きあっていく中で原子力を位置づける
する場合でも、
色々な仕様・条件交渉
は政府が保証しなければ」
ファイナン
ことができたことが成功要因だと思い
においても、営利事業であれば、
「ど
スをつけられない、
というと説得力が
ます。
これまで、
個別に取り組んでいた
うすればコストが下がるとか/効率が
あり、
交渉のレバレッジになります。
無
ことを全体像でまとめて国と国との関
上がる」とかの視点や「条件を緩和
論、
ファイナンスだけで交渉できる問
係でトータルに協力する体制ができ
して貰えれば予備費も抑えられる」
な
題ばかりではなく、
経産省や政府に交
たことは大変いいことだと思います。
ただインフラになると今まで経験
ENAA Engineering No.125 2010.11
5
東:
人、
モノ、
金、
情報の
金融面で言うと、
アジアでも発展段
自由な動き
階によってファイナンスが交渉カード
となる国とそうでない国と差が出てき
上地:
です。特に80年代の日本のエンジニ
アリング会社は、
全部向こうに置いて
帰ってくる。情報もおいてきて、欧 米
がキャッチアップして成長してきまし
ています。
ベトナムやインドネシアなど
広域インフラの課題としては、
ハー
た。
それを反省し、
各社が現地に会社
では引き続き有効な交渉カードです
ドだけでなく、
ソフトも大切であり、
人、
をつくり、O&Mも含めて提供するこ
が、
中国は違う。
インドもルピー経済が
モノ、
金、
そして情報が速やかに動くの
とによって相手側も満足しています。
自律化してきています。また最近は、
が成長の鍵といわれていますが。
インフラ分野も同様で、
官の交流も強
米国の金融緩和の結果、
ドルが新興
国に流れ込み、
タイなどではそれが現
地通貨のオーバーリキディティを生む
めていただきながら、
一緒にやってい
渡辺:
ソフトも含めて、地域内に人、
モノ、
く体制でなくてはもう通用しない。
ビ
ジネスだけれど、
単なるビジネスでは
といった現象が見られます。
こうした
金も自由に行き交う、
それをテコに成
なく、
交流である、
というところは昔か
国では円やドルのファイナンスはあま
長をはかっていくことが大事です。
各
ら変わらないものとして取り組んで
り有効ではない。
マクロの観点では、
国が協力して障害を取り除く、
関税を
います。
そうした現地通貨をインフラ整備に
下げるだけでなく、
インフラをつなぐ、
使っていく絶好の機会ですから、
そう
制度を調和していく、
エネルギーや環
いう仕組みを考えていきたいと思って
境問題に協力して取り組んでいかな
人、
モノ、
金の自由化が重要である
います。
ければならないと思っています。
それ
ことはそのとおりですが、
アジアのな
現在、JBICではアジアの各国にあ
ぞれの国の発展段階や実情に応じ
かでも、
特に日本人は日本というもの
る輸銀や現地銀行とのネットワーク作
て、
国作りにトータルで協力していくと
に固執しすぎている傾向があると思
りに力を入れ、
キャパシティビルディン
いう姿勢が重要ではないでしょうか。
います。
あるエンジニアリング会社では、
そ
グやリスクを分担しあうことにも取り
組んでいます。PFの仕組みや前提と
東:
上地:
こを変えなければいけないと強調さ
なる制度設計などを日本に学びたい
その点は、
いちばんエンジニアリン
れる人もいます。たとえば、情報も現
という国が多く、
金融のソフト面も含め
グ会社にとっても鍵になります。計画
地から一度東京に伺いをたてないと
てアジアでの協力関係を膨らませて
段階からはじめるには、お互い納得
ローカルのプロジェクトが進まない。
時
います。JBICが現地通貨建債券で資
しながらやっていくことが欠かせま
間と金がかかっている。
そのこと自体
金調達して、
現地で還元していく仕組
せん。
そしていま、
いちばん課題なの
を変えなければいけない、
と。
みも有効です。金融協力は、
インフラ
は競争力。その競争力と、日本 政 府
協力と表裏一体で、
現実的に進んで
の支援と現地政府の満足感をうまく
いく可能性があります。
調和するように持っていくことも重要
上地:
日本集中で縦割りになり、隣で何
をやっているかも知らない。
同じ地域
のバンコク、
シンガポール、
ジャカルタ
の社員も日本に報告し、
日本でない
と全体がわからないことが多い。社
内で「グローバリゼーションとは、現
地で全部出来るようになることだか
ら間違えるな」との声も出ています。
そういう意味では、我々も国際化の
波に、
やや乗り遅れているかもしれま
せんね。
6
ENAA Engineering No.125 2010.11
アジア経済の持続的な成長とエンジニアリングの役割
ジャパン・イニシアチブを
ベースに
東:
鼎 談
ある意味、
それも日本
つくることができ、
のアドバンテージになると思います。
渡辺:
韓国は、外に出て必死で現地化し
アジアの成長が著しいこの時期だか
ようとしています。
しかし日本はまだ国
らこそエンジニアリング業界に期待する
内でもそこそこいけるということで、
東
のは、
これからアジアのインフラを整備
京であぐらをかいているような気がし
していく上で、
電力、
港湾、
グリッド、
水、
リ
ています。現地に入り込んで、現地の
サイクル等があり、
それぞれ国内でがん
お客さんにとってベストソリューション
ばってきた人たちが外にでるとき、
それ
は何かを提案する。
それをかなりのス
らを束ねるリーダーが必要だからです。
東 伸行
ピードでできる体制をつくる。
日本の
エンジニアリング業界がこれまで果たし
国際協力銀行(JBIC)
アジア大洋州ファイナンス部長
ユーティリティやオペレーターが出て
てきたプロジェクトのインテグレーション
こないからできない、
などといってい
力、
異文化と接しながらプロジェクトをま
る場合ではないと思います。
とめあげる力は大きな戦力です。
また、
成
1982 年 4月
1999 年 10月
2002 年 4月
2006 年 1月
2008 年 1月
2009 年 7月
長戦略の課題はいかに日本経済全体の
ひがし のぶゆき
日本輸出入銀行
(現国際協力銀行)
入行
国際協力銀行 資源金融部第2班課長
同 エネルギー担当特命駐在員
同 ドバイ首席駐在員
IEA(国際エネルギー機関)
出向
国際協力銀行 アジア大洋州ファイナンス
部長就任
グローバル化をさらに進めるかというこ
渡辺:
基本は、
新しい成功モデルをつくる
とですが、
エンジニアリング業界は、
日本
ことだと思っています。
私どもも当初は
の産業界のなかでは最もグローバル化
オール・ジャパンと言っていましたが、
日
が進んだ業界だと思います。
本のものを丸ごと持って行くのでは相
変わらずの護送船団です。
そうではな
現地へ溶け込み、
く、
日本の良いものを中核としながら、
発展を支える
現地・現場の良いものと組み合わせる、
いわば「ジャパン・イニシアチブ」
を実
東:
現できるかが課題です。
国内の雇用を
私は逆に、
アジアのインフラ受注に向
確保する意味でも日本のいいものは出
けて政府にどう支援してもらうかといっ
し、
現地とJVを組むのが成功の鍵であ
た議論を聞くと、
口幅ったい言い方です
り、
いかに相手国の実情に合ったかた
が、
日本のエンジニアリング業界ですら
ちで現地化するかが重要です。
未だに日本ローカルの産業だったのか
ということを思わざるを得ない。
エンジ
3
エンジニアリング業界の
役割と期待
グローバル化の
リーダーとして
上地:
ニアリング業界は、
世界中からベストな
ものをベストな価格でコーディネートで
きるというグローバルな体制を早くから
構築し、
そのための情報力や組織力な
ど、
そういう会社の体制ができていると
思っていましたから。
私どもJBICも、日本からの輸出や
日本は近隣ですが国境を接している
投資という枠組みでの支援をしてきて
訳ではない(地続きではない)
ため、
第三
いますが、
もはやそういう時代ではな
者的にアジアの途上国の全体の計画を
いのではないかと、
私個人は思ってい
ENAA Engineering No.125 2010.11
7
ます。
パッケージ型インフラ支援という
ときに、
我々は日本からの輸出支援と
か投資支援を考えますが、
すでにグ
ローバル化している企業であれば、
本
当は「日本からの」
という要素は必要
新しいアジアの
時代に向けて
4
メイド・バイ・ジャパニーズ
という発想
ないのかもしれない。
東:
上地:
エンジ専業3社は、
現在、
フィリピン、
まず、
日本企業が受注しなければ
協力してやっていくなどの工夫が必要
なのです。
私自身は、
これからは、
支援の対象
をメイド・イン・ジャパンからメイド・バイ
・
ジャパニーズという発想に変えていか
なければいけないと考えています。
自
国のために輸出競争をして、
アジアの
非OECD諸国と対立するのではなく、
何も始まりません。
そのためにも、
ハイ
対話しながら、
アジア全体のインフラ
ベトナム、
シンガポール、
インド、
タイ等
エンドなものは国内で開発し、
汎用的
開発のためにどのような金融協力が
でローカル会社を持ちEPC事業展開
なものは世界から調達し顧客に提供
できるか、
ともに考えていく関係を構
を推進しており、
体制、
情報網、
組織面
できることが重要です。
築していく必要があると思います。
でご指摘の会社のグローバル体制は
JBICの金融支援メニューは、輸出
整ってきております。
しかしながら、
現
金融では「本邦品3割ルール」
があり、
在成長しているアジアにおけるシステ
融資条件はOECDガイドラインの制
ムインフラ輸出は、
大規模かつ多くの
約があります。
投資金融では、
これまで
日本の企業が海外の有力会社を買う
ファシリティ全体をまとめていくという
日本の企業が海外進出する際の設備
という大きなファクターとなります。
実
状況にあるため、
エンジニアリング会社
投資資金を融資し、
最近では現地生
際、2割は日本の製品で8割は海外で
とそのグループ会社だけでは対応する
産した自動車などの販売金融もお手
買うのがハイドロカーボンの世界。
東
ことが困難となっています。
また、
インフ
伝いしています。
しかし、
今やタービン
南アジアでも製缶機器、
バルブなども
ラ分野は、
エンジニアリング業界が今
ジェネレーターやボイラーなど大型プ
生産していますので、
さまざまなケー
まであまり入り込んだことがない領域
ラントもインドで作ってインドで売ると
スが考えられます。
であり、
一足飛びに入るわけには行き
いう時代になりました。
これをどうファ
ませんが、
官民PPPでいろいろ協議・棲
イナンス支援していくか。
輸出金融で
み分けがなされるなかで、
エンジニア
はできませんし、
自動車のオートロー
日本のパートナーとなる現地の会
リング業界が入り込む余地が十分ある
ンとも違います。
より大掛かりな現地
社を育てる。
あるいは円高を活かして
と判断し、
エンジニアリング会社自身は
の販売金融、
それもインドルピー建て
現地企業を買収したり資本参加する
もっと積極的にやるべきというスタンス
のファイナンスが必要となってきます。
という方法もあります。彼らを近代化
を持って取り組もうとしています。
だからこそ、
インド輸銀や現地銀行と
していくために資本注入したり、
ファ
上地:
ぜひそれは進めてほしいですね。
東:
イナンスが必要であれば支 援する。
ジャパン・イニシアチブないしメイド・
バイ・ジャパニーズを強力に進めるた
めには、拠点が世界中に広がってい
くことが大事です。韓国企業や中国
企業であってもパートナーとして組め
るところとは組む。金融面でも、韓国
輸銀や中国輸銀とも競争するところ
は競争し、
協調するところは協調して
やっていくということ。各国と協力す
る体制をつくっていく方向でいくべき
ですね。
8
ENAA Engineering No.125 2010.11
アジア経済の持続的な成長とエンジニアリングの役割
現地との会話を進め、
トータルな視点で
上地:
鼎 談
インフ
あり、
日本が培ってきた分野です。
ラも高効率で低炭素のものを全体のサ
プライチェーンから見て提案していくと
いう発想で、
エンジニアリング会社もやっ
エンジニアリング業界自身もハイド
ていただければいいかと思います。
その
ロカーボンだけでなく、
いろいろな幅
ためにも、
顧客や現地と対話しベストソ
広い分野、
インフラ分野にも参画し、
リューションを提案するということが一
アジアでも存在感を示していきたいと
番大事ではないでしょうか。
思っています。
やはり、
計画の段階から
オペレーション、
メンテナンスも含めて
やっていくところが鍵となります。
渡辺:
お話のあったインドネシアの例のよ
うに、
エネルギーのサプライチェーンを
東:
軸にインフラ作りに協力していくという
とはいえ、
ハイドロカーボンは日本の
のは、
面白い考えですね。
日本の技術
エンジニアリング業界の得意分野です
的な強みを生かせるアプローチだと思
から、
新しい視点でビジネス化していく
います。
先ほどお話のあった金融面を
ことにも注力していただきたいと思いま
含めた制度作りについても事業活動
す。
先般、JBICは、
インドネシア政府と
のグローバル化に対応したものにして
IPPやPPPを進めるための制度設計を包
いく必要があります。JBICやエンジニ
括的に議論するために、
財務政策対話
アリング業界の方々と実態を見ながら
というものを開始しました。
その中で、
イ
議論を深めていきたいと思います。
ンドネシア国内のエネルギー需要増加
最後に繰り返しますが、
現場力といい
と低炭素社会の実現をどう両立させる
ますか、
現場で考え、
問題を解決するの
か、
というテーマで議論しています。
例え
は、
日本のエンジニアリングの強みです
ば、
電力でいえば、
日本は超超臨界圧の
から、
その強みを生かして、
国際化を更
石炭火力を売りたい。
効率もいい、
クリー
に進め、
今後もグローバル化の尖兵とし
ンコールテクノロジーですが、
使う石炭も
て日本の産業界を引っ張っていただく
高品質。
それがアジアでは少なく、
将来
存在であってほしいと思っています。
上地 崇夫
かみじ たかお(兼司会)
千代田化工建設株式会社 執行役員 技術事業開発
副部門長 兼 営業部門副部門長
1975 年 4月
2002 年 10月
2004 年 1月
2007 年 6月
2008 年 7月
2009 年 7月
2010 年 7月
千代田化工建設(株)
入社
同 海外営業本部長
同 調達本部長
同 執行役員 業務統括
同 執行役員 海外営業統括
同 執行役員 営業部門副部門長
同 執行役員 技術事業開発副部門長
兼 営業部門副部門長就任
的にはカリマンタン島のジャングルの奥
を開発しなければならない。
これを開発
上地:
し、
積出すための鉄道、
港、
船などエネル
本日は、
ジャパン・イニシアチブやメ
ギーサプライチェーン全体を同時整備す
イド・バイ
・ジャパニーズなどこれからの
ることを提案したら、
大変好評でした。
石
示唆となる貴重なキーワードもいただ
炭からエネルギーに変えていくことをど
きました。我々エンジニアリング業界
うつなげていくか。
中小ガス田や地熱開
も、
真のグローバル化、
アジアとともに
発も同様で、
電気に変えるまでのサプラ
成長する日本のためにもさらに奮起し
イチェーン構築が重要。
さらには、
鉄道
たいと思っております。
「言うは易し、
行
整備によるモーダルシフトにしても、
低
うは難し」
ということではありますが、
炭素社会をどうつくるか、
ハイドロカーボ
今後、
さらに精進、
努力していきたいと
ンから電気まで如何に効率的にエネル
思っています。
ギー転換を実現していくかということで
本日はありがとうございました。
ENAA Engineering No.125 2010.11
9
Interview
アジア総合開発計画
−ERIA(東アジア・ASEAN経済研究センター)
の試み−
慶應義塾大学経済学部 教授
東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)
チーフエコノミスト
木村 福成 きむら ふくなり
●1982年東京大学法学部卒業(財)
国際開発センター研究助手●1991年ウィスコンシン大学にて経済学博士号
(Ph.D.)
取得●1991年ニューヨーク州立大学オルバニー校経済学部助教授●1994年慶應義塾大学経済学部助教
授●2000年慶應義塾大学経済学部教授●2008年より東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)
チーフエコノミ
スト、2010年より財団法人東京経済研究センター理事、
日本国際経済学会会長●専攻は国際貿易論、
開発経済学
1:東アジアにおける経済統合の現状
日中韓のFTAの進行状況
東アジアの地域経済統合においては、
日中韓が未だFTA
でつながっていないという現状があります。
中国、
韓国は交渉開始に近いと言われ、
日韓も交渉を再開
しようとしています。
しかし日中はもう少し先になりそうです。
日
日本は農業問題があったため、
入れてもらえなかった経緯が
あります。
さらに新しい動きとして、
カナダとマレーシアも参加
するという意向を示しています(カナダの参加は拒否された)
。
2:東アジア経済の特徴と課題
国際的な生産ネットワークの発達
中韓3カ国がFTAで結ばれる体制ができていないので、
東ア
東アジア経済の特徴は、
国際的な生産ネットワークが発達
ジアの広域FTAは2年、3年の間には進展がないでしょう。
東
していることです。
このメカニズムを活用することにより、
深い
アジア経済統合のモメンタムを継続するためには、
新しいト
経済統合と開発ギャップの縮小の両方を達成することが可
ピックを常に注入しないといけません。
東アジアという概念が
能です。
そのために、
貿易の自由化や円滑化を推進し、
サービ
確立する前に、
今どうやって統合の動きを続けていくかという
動きが早いアジア太平洋とTPP
日本は、
今年APECのホスト国ということもあり、APECワ
イドのFTAであるFTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)
も推進
しようとしています。
しかし、
それはそう簡単ではありません。
一
ASEAN+8?
米国とロシア
加わる?
リ、
ニュージーランド、
シンガポールの4カ国がFTAを結び、
そこ
アジア太平洋
自由貿易国
( )
ASEAN+6
∼東アジアサミット∼
日中韓豪印
ニュージーランド
が参加
APEC
方、
ここにきて、
TPP(環太平洋戦略的経済パートナーシップ)
が非常に早く動く可能性が出てきました。
すでに、
ブルネイ、
チ
FTAAP
構想
ASEAN+3
ASEAN10カ国に
日中韓が参加
アジア太平洋
21カ国・
地域で構成
にアメリカ、
オーストラリア、
ペルーが参加、
さらにベトナムがオ
ブザーバーとして参加しています。3月に1回目の会合があり、
10
ENAA Engineering No.125 2010.11
アジアの地域経済統合を巡る動き
︵ 環 太 平 洋 戦 略 的 経 済パートナーシップ︶
米、
ペルー、
チリ、
ベトナム、
ブルネイ、
シンガポール、
豪州、
ニュージーランド
のが、
一つの課題となっています。
TPP
Interview
スリンクのコストを下げていくことが非常に重要です。
さらに
ハード・ソフトのインフラも不足しているため、
発展段階が違う
どの国においても広域インフラ開発は大事なトピックになっ
ています。
東アジアの経済統合は、
貿易交渉より開発に重きをおいて
進められています。
ハード・ソフトのインフラ構築を使って産業
を振興し、
どう経済成長していくのか。
また、
東アジア地域の
開発における発展段階の格差をどう縮小していくかを同時に
考えていかなければなりません。
貧困層の減少と教育、
社会保障制度の見直し
ERIAの概要
現在、
「ASEAN+3」
では、
経済成長が生産セクターに根差
していることにより雇用が創出され、
中間層が急速に増加し、
プロジェクトを始めた2007年より、
エコノミストとして関わっ
政策のウェイトも中間層の手当をどう行っていくかにシフトし
てきました。
ています。
これまで多国籍企業に頼って工業化を推進してきま
したが、
これからは、
どうやって地場系企業や地場系の経営者
と連携しながら、
イノベーションを生み出していくのか、
という
新たな課題に取組む必要があります。
さらに農村から都市へ
の人口流入が起こり、
農村を離れて都市に住む中間層に対す
政策研究の「3本の柱」
ERIAでは、
政策研究がメインの仕事であり、
そのテーマは、
「経済統合の深化」
「発展格差の縮小」
、
「持続可能な経済成
、
長」
の3本柱となっています。
る公的な社会保障制度をつくる必要が生まれます。
そのため、
経済統合では、ASEANエコノミックコミュニティーという
中距離、
長距離のロジスティック・インフラだけではなく、
都市
経済共同体を2015年までにつくることをサポートしています。
圏の高速道路網、
或は都市アメニティーを良くして知識者階
開発格差の是正では、
包括的な開発マスタープランの策定等
級が喜んで住んでくれるような都市にするためのインフラ開
に取り組んでいます。
さらに持続的経済発展では、
省エネがど
発も、
これから10年で大変重要になってくると思います。
れぐらいできるか等を研究しています。
これらの成果は、
全て、
ウェブページに公表されています。
自
3:ERIAの設立
生い立ちと目的
ERIAは、
「ASEAN+6」のサミットにおける決定にもとづ
き、2008年の6月に正式に発足。
インドネシア政府および
ASEANから、
国際機関の認定を受け、
本格的な活動をスター
トしました。
理事会は16カ国から1名ずつとASEAN事務局長
のスリンさんの17名で構成され、
事務局はインドネシア、
ジャカ
ルタにあります。
発的に行っている政策研究プロジェクトに加え、ASEANの首
脳会議や閣僚会議、
東アジアサミットから、
タスクアウトとして
宿題をいただいて取り組んでいるプロジェクトもあります。
4:アジア総合開発計画
インフラ開発と工業化戦略を結ぶ
去年の6月の東アジアサミットのプレスリリースで包括的
なマスタープランをつくるようにと要請があり、
作業がスター
ERIAへの拠出金は、
日本からが一番大きく、
次いでニュー
トしました。
ロジスティックスインフラを中心としたインフラ開
ジーランド、
インド、
オーストラリアに拠出していただいていま
発を、
各国の工業化戦略としっかり結びつけて考えていくこと
す。
設立の目的は、ASEANおよび東アジアの経済統合を進
が、
基本的なフレームワークとなっています。
め、
そのための政策研究を行うこととなっています。
私はテスト
経済統合を深化させると同時に開発格差を是正する。
こ
ENAA Engineering No.125 2010.11
11
れを達成するために、
拡大フラグメンテーション理論と空間
達することにはつながりません。
経済発展を推進すると同時
経済学を応用しています。
特に生産ネットワークのメカニズム
に開発の格差を是正していくためには、
ただ道路を作るだけ
を活用して工業化をどう広げるか、
或は集積の中でのイノベー
ではなく、
補足的な経済政策を同時に取っていくことが大事
ションをどうやって高めていくか。
そういった開発戦略を考え
だということも分析してきました。
また、
メコンの開発において
つつ、
それぞれの発展段階に合わせたインフラを開発していく
は、
異なる経済回廊、
南北回廊、
東西回廊、
南部回廊がありま
ために具体的にどんなプロジェクトが有効なのかということ
す。
南北回廊は、
沿線の貧困層のところで生活が変わるため、
を研究し、
まとめています。
経済効果はありますが、
製造業の製品や部品が運ばれるとい
生産ネットワークごとの研究
う道ではなく、
基本的には農産品と雑貨が運ばれる道です。
それに対して、
例えば南部回廊は、
ホーチミン市とバンコック
東アジアは生産ネットワークが世界に類を見ないかたち
を結ぶことになりますので、
両側に大きな産業集積を持ち、
製
で築かれていますが、
地域格差もあります。
そのため、
すでに
造業のリンクができてきます。
回廊によってかなり経済効果が
生産ネットワーク段階に入り、
集積がではじめているところを
違ってきます。
ティア1、
第1層と呼び、
これから生産ネットワークにはいってく
る第2層をティア2。
それから遠隔地であってロジスティクスイ
ンフラができれば開発の可能性が広がるというティア3として
います。
このように生産ネットワークにどれくらい参加できてい
東アジア産業動脈構想について
ヒト、
モノ、
カネをさらに自由に動けるようにすることを目的
として、
東アジア産業動脈構想にも取り組みました。
るかという基準で3つの層に分け、
それぞれについて、
課題や
アジア経済研究所のグループと一緒に行った研究は、
道路
必要なインフラの開発、
そして、
それがどういうふうな工業化
網、
或は海のルートのインフラ開発をハード・ソフト同時に発
戦略に結び付いていくのかというテーマについて研究してま
達することによって、
物流がスピードアップされ、
さらに、
そうい
とめています。
うことが起きるとどういう経済的な効果があるかというシミュ
開発格差の是正とプロジェクト提案
高速道路や高速鉄道をつくっても、
その沿線が自動的に発
レーションです。
メコン・インド産業大動脈がありますが、
その経路はホー
チミン市からカンボジア、
バンコックを抜けてミャンマーへ。
デリー
ムンバイ
チェンナイ
フィリピン
ホーチミン
ブルネイ
マレーシア
インドネシア
アジア総合開発計画
※経済産業省 通商政策局 の資料より抜粋
12
ENAA Engineering No.125 2010.11
Interview
我が国独自の取組
メコン諸国
ベトナム
タイ
インドネシア
フィリピン
インド(DMIC)
インド南部
フォーラム
●日メコン・サミット
●日インドネシア経済
●日メコン経済大臣会合 ●日越 二 国 間 会 談
合同フォーラム
●日フィリピンPPP
● A M E I C C・W E C ( 経 済 産 業 省・計
●日タイPPP協力WG ●インドネシア経 済
協力WG
画投資省)
特別会合
回廊(IEDC)政策
→日メコン経済産業協 ●日越PPP政策対話
対話
力行動計画の策定
経済・産業
回廊
●東西経済回廊
●ハノイ首都圏、ホー
●バンコク首都圏
●南部経済回廊
チミン市の中核拠
(都市鉄道沿い)
●ベトナム南北ルート
点開発
●インドネシア経 済
●インド南部の中核
回 廊( 6 つの 経 済 ●ルソン島産業回廊
拠 点 開 発( チェン
●デリー∼ムンバイ
回廊沿いの開発) ( マニラ首 都 圏が
ナイ∼バンガロー
産業大動脈
●ジャカルタ、スラバヤ
中心)
ル産業回廊)
等の中核拠点開発
対象
プロジェクト
● 経 済 回 廊 沿 いの
道 路 、港 湾 、工 業
●ハノイ上水道
団地・物流パーク
●バンコクMRT
●南部籾殻発電
●発電所、送電線網
パープルライン
●高速道路へのITS
●都市関連インフラ
導入
( 都 市 鉄 道 、環 状
道路、上下水道)
●インド貨物専用鉄道
●ドゥマイ港
●マニラ国際空港貨
●高速鉄道
(チェンナ
●スマトラ縦断鉄道
●スマート・コミュニ
物ターミナル
イ∼バンガロール)
●ジャカルタ新港
ティ
●マニラ空港アクセ
●日系企業向け工業
●高効率火力発電、
● 工 業 団 地 、物 流
ス高速道路
団地
地熱発電
パーク、発電所等
PPP関連の
制度整備
●二国間PPP対話
●新PPP法への働き ●PPPガイドライン
の設置
(JBIC ●VGFへのファイナ
●PDF、VGFの設置 ●PDF、VGFの設置 ●PDFの設置
への働きかけ
かけ
●PDF、VGFの設置
ンス支援
によるPDFへの75
● 民 間 提 案 型 案 件 ● 都 市 鉄 道 の 上 下 ●地熱発電開発ファ ●地熱発電開発ファ
●日本のPPPファイ
●土地収用の円滑化
億円の融資)
ンドの設置
ンドの設置
分離PPP方式の
の支援
ナンススキームの
確立
●VGFの設置
拡充
●日印首脳会談
●経済産業省・タミル
●日印経済大臣会合
ナドゥ州政策対話
●DMICタスクフォース
※経済産業省 通商政策局 の資料より抜粋
そのミャンマーを越えると、
ダウェイという村があり、
そこに港
を作って、
南インドのチェンナイまでの回廊をつなげるという
APECと未来へ向けて
アイデアです。
バンコックやホーチミン市は成長著しく、
ここが
11月に日本でAPECが開催されます。
その一つの大きなトピックは
チェンナイとつながることになると、大変大きな経済効果が生
ボゴール宣言がどこまで実施できたかという評価ですが、
むしろ、
次
まれます。
従来のようにシンガポールを回るよりも、4 ∼ 6日
の目標を考えなければいけないというのが、
APECの本当の眼目だ
間早くなる。
こんなことも一つの眼目になる研究成果として提
と聞いております。
たとえばFTAAP構想においてある程度のタイム
案しています。
スケジュールを示すことができるか。
もう一つは、
通商政策だけでは
なく、
広い意味での成長、
たとえば、
3種類、
4種類、
5種類の成長
5:次のステージへ
エンジニアリングへの期待
のアンブレラをもっと大きく広げることです。
それにより、
日本の立場
から言うところの新成長戦略への波及効果も期待できます。
つい最近、ERIAとJICAはMOUを結びました。ERIA自体
にはファイナンスの能力がなく、
提案を実行していくには実際
海外では、
ビジネスモデルをどう組み合わせて売るかとい
にプロジェクトを遂行する組織や東アジア各国との連携が
う基本的なところから戦わなければいけません。
たとえば鉄
不可欠です。
アイデアとしては、
様々なインフラファンドをつくっ
道でも、
ただ車両を売るだけでなく、
オペレーションまで含め
ていくことも並行して走っており、
入札システムについても検
たシステムとしてどこまで売り込めるかという大きな課題が
討していく方針です。PPPの導入は極めて重要です。
あります。
そういうところに出ていける日本人がいったい何人いるか。
最もボトルネックになるのが人材だと思います。
エンジニアリ
さらにASEAN+6にアメリカとロシアが入るというニュース
があり、
これによりASEANプラス8が早まり、
新たな動きが生
まれるかもしれません。
ング産業は、
基本的にシステムを売るビジネスであり、
ノウハ
今後の発展と拡大が期待されるアジアの活力を日本の成
ウも蓄積され、
人材も豊富です。
ある意味で人材のプールとし
長の糧にするためにも、
政治経済の両面で幅広い視野にたっ
て、
貴重であり、
他の業界には望めないものがあると思いま
てイニシアチブを握っていかなければいけないと考え、
また期
す。
狭い意味のオペレーションだけではなく、
プロジェクト全
待もしているところです。
体をコーディネートするという役割に期待をしています。
聞き手
広報誌編集分科会 分科会長
笠原 文東
ENAA Engineering No.125 2010.11
13
レポート
躍 動 するアジ アとエンジ ニ アリン グ
INDIA
Report1-India
アジア現地におけるビジネス展開
─ インド
VIETNAM
VI
VIE
IET
TNAM
TNA
東洋エンジニアリング株式会社 取締役常務執行役員 椎木秀樹
エンジニ
エンジ
インドにおける当社のビジネスは、1963年の円借款による
ある。これまで、Toyo-Indiaと共同受注した大規模プロジェク
肥料プラントの受注に始まり、それ以降、石油精製・石油化学・
トでは日本にプロジェクトチームをおき、日本人を中心とした
肥料・パイプライン・産業プラント等の分野において約60件の
組織を作って設計や調達を日本人の指揮下で行っていたため、
プロジェクトを継続受注しつつ今日に至っている。
プロジェクトに関与する日本人の比率は全プロジェクト要員の
30∼40%程度というのが普通であったが、本件ではプロジェク
進出当初は、日本から大勢のエンジニアを動員したが、
トチームをインドにおき、日本人・インド人を一つの組織にイ
1976年 にToyo Engineering India Limited(Toyo-India)
ンテグレートした形式で運営する体制とした結果、日本人の比
を設立してからは、現地の優秀なエンジニアの採用を開始し、
率を大幅に減少することができた。特に調達については、本来
ローカル化を推し進めた結果、現在のToyo-Indiaは、約2,000
は調達の中心的役割を果たす本社の調達部門も調達拠点の一つ
名の従業員を有し、インド国内でのEPC拠点としての役割だ
としてのサポート役に回り、調達先の選定・発注・検査まで全
けではなくToyo-Japanのパートナーとして海外プロジェク
てToyo-Indiaでコントロールした。この様にして、Toyo-India
トへの支援機能をも持つ東洋エンジニアリング・グループ
として初めての大規模プロジェクトを主体的にマネージし完成
(Global Toyo)のコア拠点としての確固たる地位を築き上
させたことは、今後Toyo-Indiaの業態拡大に繋がっていくもの
げている。
インドにおける最近のハイドロカーボン分野でのトピック
14
と大いに期待している。
最近では、Toyo-Japanとの共同プロジェクトだけでなく、
は、今年の4月にインディアン・オイル・カンパニー社(IOCL)
Toyo-Indiaとしての単独受注プロジェクトも増加している。
から受注したパニパット・エチレンプラントが完成したことで
昨年度の受注実績としては、ヒンドスタン・ペトロリアム社
Toyo-India本社
IOCLパニパット・エチレンプラント
ENAA Engineering No.125 2010.11
アジア現地におけるビジネス展開
(HPCL)向け軽油水素化脱硫装置プロジェクト、マンガロー
ル・リファイナリ&ペトロケミカル(MRPL)社向け常圧/
減圧蒸留装置能力増強プロジェクト・熱分解装置プロジェク
ト、チェンナイ・ペトロリウム社向け水素製造装置プロジェ
クト、インディアン・オイル社(IOCL)向け熱分解装置プ
ロジェクト等が挙げられる。今年度以降も、自動車需要急増
に伴う大気汚染対策の一環として、2010年4月から自動車排
気ガスに対する環境基準「バーラト・ステージ4」が主要都
市で適用されたため、製油所では新設・既設の如何を問わず、
環境対応のためのプロジェクトが多数計画されており、この
様なプロジェクトにおいてもToyo-Indiaとして単独受注を図
り、インド国内のプロジェクトはインド国内で受注から工事
まで一貫して取り組む体制をより強固なものにしていく方針
Atlatec社の公共下水処理施設
である。
さて、昨今、インドにおける当社の顧客に、インド市場開
での長距離にわたる工事マネジメントのノウハウや知見はそ
拓を目指す日系進出企業が増えてきているが、欧米を含む外
のまま鉄道案件に活かすことができるし、鉄道に関わる個別
資によるインドへの投資が加速度的に増加していることから
システム間のインテグレーションは元来エンジニアリング会
も、インド経済は引き続き高い成長率を維持していくものと
社の最も得意とする領域である。とは言っても、それぞれの
予測される。一方で、インドにおける経済成長の制約要因と
システムに固有の要件が有り、これらを習得するのに時間を
してインフラの未整備が上げられて久しく、港湾・道路・鉄道・
要したのも事実で、漸く積極的に受注活動を展開できる体制
電力・水・通信といったインフラの整備はまったなしに解決
を確立することができ、上述の独立した営業本部の新設に
しなければならない喫緊の課題である。
至ったところである。
インフラ案件は、PPPなど官民合同の取り組みが求められ
しかしながら、海外におけるインフラ案件への取り組み
る分野で、インドでもジャパン・イニシアティブにより幾つ
においては、特に、水や鉄道分野で顕著だが、O&Mの知
かのプロジェクトが推進されており、インフラ整備という国
見を巧みに取り込んだビジネスモデルを創り上げている欧
家的課題の解決に向けて日本が官民一体となって支援してい
州メジャーの市場占有率が高く、実績面で大きく後塵を拝
く体制を作りあげていることは、誠に時宜を得た取り組みだ
していることを認めざるを得ない。その様な市場環境の中
と思う。
にあって、当社としては長年にわたるプロジェクトの履行
経験に裏付けられたプロジェクト完工能力と様々な課題に
当社は、ここ数年来、インフラ案件への取り組みを強化し
てきており、今年4月にはインフラ営業本部として独立した
対するソリューション提供力を持って挑戦していきたいと
考えている。
営業組織を立上げた。インフラとエンジニアリング会社とい
当社は、2008年に三井物産株式会社と共に、メキシコの
うと一見結びつきが薄いように思われがちだが、元々ハイド
水処理エンジニアリング事業会社であるAtlatec社に参画し
ロカーボン・プラントのユーティリティーとして、発電設備
た。同社はメキシコ国内の産業廃水処理・下水処理分野での
や水処理設備の建設においては豊富な経験を有しているし、
DBFO(Design, Built, Finance, Operation)事業を展開し
昨今ではユーティリー設備全体がアウトソースされるケース
ており、その知見をインド市場においても活用したいと考え
も増えてきており、個別システムだけではなくユーティリ
ているが、日本の水処理関連商品や信頼性の高いO&Mノウ
ティー全体を一括して取りまとめるという案件にも取り組ん
ハウの活用を含めて、多様性をもったソリューションの提供
でいる。また、当社が海外で施工してきたパイプライン案件
を心がけていきたい。
ENAA Engineering No.125 2010.11
15
レポート
上述のO&Mを取り込んだビジネスモデルの創出は、当社
くに亘るプロジェクト実績に裏付けられた当社の完工能力を
としての差別化を図る意味で、是非とも追求していきたい課
遺憾なく発揮して、インドの最大の課題とも言えるインフラ
題であるが、一番肝心なのは、どの様にしてマーケットや顧
の早期整備に貢献していきたいと考えている。
客のニーズを抽出していくかにある。幸いにして、インドで
は長年に亘り地域に密着した営業を展開してきたこともあり、
折りしも、日本・インド両国政府間で経済連携協定(EPA)
マーケットの動向やニーズを掌握し、地域としての特性をも
の締結が正式合意に至り、両国間の経済関係がより一層強化
見極めた上で最適なソリューションを提供できるものと自負
されていく中にあって、当社としてもインドにおけるビジネ
している。インドという地域に根ざした提案力と、半世紀近
スの拡大を追求していきたい。
躍 動 するアジ アとエンジ ニ アリン グ
Report2-Vietnam
VIETNAM
アジア現地におけるビジネス展開 ─ ベトナム
日揮株式会社 ハノイ事務所長 星野郁夫
1:はじめに∼近年のベトナム・悲願の自国製油所∼
ロジェクト遂行面では、1990年頃から外資系石油企業(BP
永年の宗主国・フランスとの戦いと米国を巻き込んだ南北
やShellの)小規模施設中心にプラント設計・建設の実績を
内戦、その後のカンボジア侵攻と中国との戦いで破壊された
積み重ねてきた。(図−1、表−1「日揮のベトナムにおける
国土と疲弊した国民経済には、1986年にドイモイ政策が開
EPC実績」
)2000年にはJGCシンガポール65%、日揮35%
始されたものの、現在でも社会・工業インフラ及び重化学工
でホーチミン市にJGC Vietnam Co., Ltd. を設立。現地に根
業のベースは十分ではない。交通、電力、水処理などの社会
付いた小規模プロジェクトの遂行体制を整えつつあったが、
インフラについては日本をはじめとする先進各国からの援助
外資系プロジェクトの減少により、2004年、ホーチミンに
で基盤は形成されつつあるが、その遅れを取り戻すのはこれ
おけるエンジニアリング拠点の一時休眠を余儀なくされた。
から、と言わざるを得ない。
Oil & Gas Industryの世界においても、1975年にエクソ
ンが発見し、1986年からロシアとの合弁で生産を開始した
バクホー油田に始まる原油、天然ガスの生産/輸出国であり
ACHIEVEMENTS IN VIETNAM
Lube Oil Blending
Bio Ethanol
• 100,000 KL/Y, 2009
Phu Tho
(in progress)
Hanoii
• 5,000 T/Y, 1999
Hai Phong
Bitumen Terminal
• 50,000 T/Y, 1998
JGC Hanoi Office
LPG Terminal
• 1,000 Ton, 1997
ながら、国内の石油製品は殆ど輸入で賄われていた。
Grassroots Refinery
ベトナムにおいて本格製油所建設と石油製品の国内生産は
• 148,000 BPSD, 2009
Quang Ngai
まさに国家の悲願であった。
Maintenance & Engineering Service
Lube Miniplant
• O&M Service, 2009
• 6,000 T/Y, 1994
Two Additional Tank & Pump
• (65,000 cbm x 2), 2009
(in progress)
Ho Chi Minh
2:ベトナムと日揮∼第一製油所以前
Condensate Refinery Upgrade
• 5,000 BPSD, 2009
(in progress)
Lube Oil Blending Plant, 1996
Can Tho
ベトナムにおける日揮の営業活動は「日本揮発油」時代の
ベトナム戦争中(1975年以前)にさかのぼるが、具体的プ
16
ENAA Engineering No.125 2010.11
Nha Be
• 50,000 T/Y (Lube Oil)
2,000 T/Y (Grease)
N1-EX-CO-01-
図−1「日揮のベトナムにおけるEPC実績」
アジア現地におけるビジネス展開
ACHIEVEMENTS IN VIETNAM
Client
Location
Project
Scope
Completion
Basic Eng.
& Furnace
in progress
E.P. and
Commissioning
in progress
Hai Phong
Ha Noi
Namviet Oil
Can Tho
Existing Condensate Refinery
Upgrading Project
Dung Quat Refinery
Dung Quat,
Quang Ngai
Two Additional High Sulfur
Crude Pumps & Tank Project
Phu Tho
Bio Ethanol Plant
Detailed
Eng.
in progress
Vietnam Oil and
Gas Corp.
Dung Quat,
Quang Ngai
Grassroots Refinery
CDU:148,000 BPSD
E. P. C.
2009
Shell Vietnam Ltd.
Ho Chi Minh
Lube Oil Blending
(20,000 T/Y)
E
2000
Hai Phong
Lube Oil Blending
(5,000 T/Y)
E. P. C.
1999
Hai Phong
Bitumen Terminal
(50,000 T/Y)
FEED
E. P. C.
1998
Caltex Vietnam Ltd.
Ho Chi Minh
LPG Terminal
(1,000 Ton)
FEED
1997
Shell Gas Hai
Phong Ltd.
Hai Phong
LPG Terminal
E. P. C.
1997
Nha Be
Lube Oil Blending
(50,000 T/Y)
E. P. C.
1996
Ho Chi Minh
Lube Mini-plant
(6,000 T/Y)
E. P. C.
1994
Caltex Vietnam Ltd.
Caltex Vietnam Ltd.
BP PETCO Ltd.
Shell Codamo
Ltd.
LPG & Propylene
Recovery
Da Nang
Petro Vietnam
Construction
Schematic Block Flow Diagram
Clean
Gasoline
Vietnam
Crude
148,000BD
Dung Quat
LPG & C3=
Gasoline
Production
Middle
Distillate
Crude
Tower
GO & Kero.
Production
Ho Chi Minh
RFCC
Fuel Oil
Client
Total EPC value
Product in tank
: Vietnam Oil and Gas Group
: US$ 2 billion (Lump sum contract)
: 1st quarter of 2009
図−2「ズンクアット製油所プロジェクトの概略」
4:DQR-PJから次の段階へ
表−1「日揮のベトナムにおけるEPC実績」
3:ズンクアット第一製油所プロジェクト
(DQR-PJ)
一 方 ベ ト ナ ム 悲 願 で あ る 本 格 製 油 所 プ ロ ジ ェ ク ト は、
1990年代初頭より外資導入の前提で立地サイト選定が行
われ、仏トタル等の海外石油各社も興味を示していたが、
DQR-PJはベトナム初の大型EPCターンキー契約であり、
発展途上のリモートな立地、不慣れなローカルサブコントラ
クター、建設期間中の資機材費高騰などの困難に直面しつつ
も、2009年2月石油製品の生産が開始された。日揮がこのプ
ロジェクトから学んだものは少なくない。
(写真−1「ズンク
アット製油所主要設備全景」)
1996年4月、ベトナム政府は油田からも消費地からも遠く離
れた過疎地、中部クァンガイ省ズンクアット地区での建設を
決定する。その後のアジア経済危機を経た1998年4月、ベト
ナム・ロシア両政府は同計画をペトロベトナム(PVN)とロ
シアの国営石油企業ザルベージュネフチの合弁事業とするこ
とに合意し、Vietross社が設立された。
同合弁事業に対しては、日本からもエンジ会社/商社連合
がプラント受注活動に注力し、競争入札の末、2002年3月、
日揮/テクニップ/テクニカス・レウニダス連合がEPCコント
ラクターに選定された。
ところがその後、建設計画策定や資金問題でベトナム・ロ
シア双方の思惑の違いが露呈し、2002年12月ロシアが撤退
を決定。プロジェクトは国家プロジェクトとしてPVNが単独
で実施する事業となった。
かくして2005年、十年有余の年月を経て、原油処理日量
14万8千バレルのガソリン・ディーゼルMAX新鋭製油所の設
写真−1「ズンクアット製油所主要設備全景」
計・建設工事は、日揮(40%)
、テクニップ(仏20%、マレー
DQR-PJ最盛期の2007年3月、日揮はハノイに代表事務
シア20%)、テクニカス・レウニダス(スペイン20%)の
所を設立する。DQR-PJを足がかりに、Oil & Gas セクター
国際コンソーシアムとペトロベトナムの間で、約20億ドルの
のみならず、非鉄、原子力発電、インフラ等プロジェクトの
ランプサム・ターンキーコントラクトが締結されるに至った。
EPC、更には有望ビジネスへの投資を視野に入れた広範な活
(図−2「ズンクアット製油所プロジェクトの概略」
)
動を行うベースを形成する橋頭堡である。
ENAA Engineering No.125 2010.11
17
レポート
5:JGC Vietnam 再開
6:ギソン第二製油所プロジェクト
2008年9月、それまでホーチミンで一時休眠していた現地
DQR-PJに 続 い て 計 画 さ れ て い る 第 二 製 油 所 は 北 部・
エンジニアリング法人JGC Vietnam Co., Ltd.を、登録地を
Thanh Hoa省Nghi Son経 済 区 に 建 設 が 予 定 さ れ て い る。
ハノイに移して再開。
(写真−2「JGC Vietnamがオフィス
出光興産、Kuwait Petroleum International、Petrovietnam、
を構えるハノイ新都心のThe Manor Towers」)本格的EPC
三井化学が出資する同製油所は、原油処理日量20万バレ
会社を目指し、横浜本社より15人の日本人社員を派遣し、活
ル、Kuwait原油を原料に同じくベトナム国内消費ガソリン・
動を再開した。2010年9月末現在、現地National Staff含め
ディーゼル燃料の約3分の1を、また化学製品としてポリプロ
約90人の陣容で5年後には300人体制を目指している。現在
ピレン、パラザイレンを生産する。DQR-PJを大きく凌ぐ超
はPVN・DQR向け原油受入設備増設、PVN向けバイオエタ
大型プロジェクトである。日揮は日本・欧州・韓国のエンジ
ノールプラント、Nam Viet Oil Refinery向けコンデンセー
ニアリング・コントラクターとコンソーシアムを組みEPC受
トリファイナリー改造工事等の設計あるいはEPCコントラク
注に向け全力を傾注している。
トを遂行中である。
ベトナムには国際エンジニアリング・コントラクター関連
7:Oil and Gas以外の分野への取り組み
のEPC現地法人はほとんど設立されておらず、100%直轄運
Oil and Gas分野のEPC コントラクターとしての活動以外
営となると皆無である。これまで、オフショアのアップスト
で、日揮がベトナムにてチャレンジしている案件・分野の一
リーム石油・ガス生産設備を除き、陸上ハイドロカーボン分
部をご紹介したい;
野の諸設備でEPC一括発注となるプラントは限られていたか
① ホーチミン市都市鉄道プロジェクトから交通インフラ参入へ
らである。
市内中心から郊外東北東へ抜ける約20kmのベトナム初
今後は第二・第三製油所の建設・運転開始、Long Song
の都市鉄道。日本円借款のSTEP案件で、日揮は車両メー
Petrochemical Complexの始動など大型ハイドロカーボン
カー・商社・電機メーカーとともにコンソーシアムを組
プロジェクトの進展に伴い、下流のケミカルプラント、合成
み、車両を含めた電気・機械EPCパッケージに応札中で
樹脂プラント等への投資が伸び、当該現地法人の活躍の場が
ある。ベトナムの都市鉄道はホーチミン、ハノイ中心に
広がることが期待される。
数多くの計画が策定されており、世界の先進国・公的金
融機関が融資合戦を繰り広げている。(図−3「ホーチミ
ン市都市鉄道1号線 路線図」)
図−3「ホーチミン市都市鉄道1号線 路線図」
(JETROホームページ資料より Copyright © 2010 JETRO All rights reserved.)
② 中部ボーキサイト開発における水酸化アルミ精錬工場プロジェクト
ベトナムのボーキサイト埋蔵量は世界第3位を誇る。
(表
−2「世界のボーキサイト埋蔵量」)鉱山が分布する中南
写真−2「JGC Vietnamがオフィスを構えるハノイ新都心のThe Manor Towers」
18
ENAA Engineering No.125 2010.11
部のカンボジア国境の省には数多くの鉱山開発・精錬工
アジア現地におけるビジネス展開
場の計画がひしめいている。日揮は、ベトナムでのボー
ベトナムに不足するインフラの中でも、水供給・水処理
キサイト開発を推進している国営企業・Vinacomin(ベ
のニーズは高く、近年の水分野でのこれら新しい実績を
トナム石炭鉱物資源公社)が日本商社・化学メーカーと
ベースにベトナム水市場へも投資を含めたビジネス展開
協業して計画中の水酸化アルミプロジェクトのPre FSを
を加速していきたい。
実施した。今後は、フィリピンの大型ニッケルプラント
④ 原子力発電計画
建設等の実績を生かし、EPC受注を目指す。
日揮の原子力分野への取組みは1967年の動燃東海再処
(1000 metric dry tons)
World Bauxite Mine Production and Reserves:
Mine production
理工場の詳細設計受注に始まる。その後、放射性廃棄物
の処理・処分、六ヶ所村原燃再処理工場プロジェクトへ
Reserves
の参画を経て、昨年は日米コンソーシアムの一員として
UAE原子力発電所の入札に参加した。ベトナムは2030
2008
2009
United States
NA
NA
Australia
61,400
63,000
6,200,000
Brazil
22,000
28,000
1,900,000
China
35,000
37,000
750,000
Greece
2,220
2,200
600,000
Guinea
18,500
16,800
7,400,000
Guyana
2,100
1,200
700,000
ベトナムは2000kmにわたる海岸線と南北に長い国土が
India
21,200
22,300
770,000
東南アジアのほぼ中心に位置し、十二分とは言えないまでも
Jamaica
14,000
8,000
2,000,000
Kazakhstan
4,900
4,900
360,000
Russia
6,300
3,300
200,000
Suriname
5,200
4,000
580,000
Venezuela
5,500
4,800
320,000
30
30
2,100,000
Japan Gasoline)は幸運にして当国最初の石油精製工場の
6,550
5,410
3,200,000
設計・建設を遂行する機会に恵まれた。我々はこれまで長年
204,900
200,940
27,080,000
培った技術と経験を余すところなく発揮し、この国の経済と
20,000
年までに8サイト14基の原子力発電所を稼働させる計画
を政府承認している。日揮はDQR-PJでの大型プラント
/プロジェクト遂行の経験を生かし、
「日本製原子力」の
実現に寄与したいと考えている。
8:おわりに
恵まれた天然資源と有能なポテンシャルを持つ8700万人の
人口を擁し、一昨年の世界経済危機も乗り越えてようやく一
人当たりのGDPが1000ドルを超えようとしている。本稿は
じめに述べた不幸な過去のために社会インフラの不足をはじ
Vietnam
Other countries
World total (rounded)
U.S. Geological Survey, Mineral Commodity Summaries, January 2010
め様々な問題を抱えてはいるが、将来への大きなポテンシャ
ルは誰の目にも明らかである。日揮(旧名「日本揮発油」=
社会の発展に貢献し続けていくことを誓いたい。
表−2「世界のボーキサイト埋蔵量」
数年前、現日揮グループ代表、当時の重久会長が、元シン
ガポール首相(現Minister Mentor)のリー・クアン・ユー
③ 水ビジネス
に訊いた。
「これから東南アジアで発展する国はどこでしょ
日揮は近年水ビジネス分野にも標準を合わせている。中
うか?」31年間シンガポールの首相を務めたこの稀有なリー
東での造水・発電事業参画に加え、シンガポールの新興
ダーは「そりゃベトナムに決まっていますよ。
」と即答した。
水処理ハイフラックス社との提携で、2009年12月、中
彼はさらに付け加えて言った。
「汚職体質をはじめとする諸
国・天津に工業用水供給事業を立ち上げ、本年4月には、
問題点が近い将来解消されれば、更に発展間違いないです。」
日本における水処理エンジニアリングの草分け、荏原製
様々な矛盾を孕みつつ歩むベトナムであるが、今後も発展
作所の水処理部門・荏原エンジニアリングサービス(EES)
は続いていくだろう。私はその本当の晴れの日の姿を是非と
に三菱商事とともに資本参加した。
もこの目で確かめたいと思う。
ENAA Engineering No.125 2010.11
19
レポート
躍 動 するアジ アとエンジ ニ アリン グ
VIETNAM
Report3-Indonesia,Vietnam and Singapore
SINGAPORE
アジア現地におけるビジネス展開 ─ インドネシア
ネシア・ベトナム・シンガポ
シンガポール
ル
建設業の視点から
INDONESIA
インドネシア
Indonesia
大成建設株式会社
大成建設
設株式会社 国際支店 営業部長 堀江安弘
営業部長 堀江安弘
ている。
この様な状況下で、昨年より大型インフラ整備計画が、鉄
道・高速道路・港湾拡張・水力発電所・地下鉄などの分野で
インドネシア共和国は、2億4千万人ともいわれる世界第4
位の人口を誇るイスラム共和国であり、今後の経済成長が期
原子力発電所、スンダ海峡大橋などの大型案件が計画されて
待されている。
いる。当社としては資金の確かな日本のODA円借款のプロ
リーマンショック以降の経済についてもインドネシア経済
ジェクトを、受注目標として取り組みたいと考えており、特
の外需への依存度が30%と低いことから、ダメージを最小限
に当社の総合力を生かした大型プロジェクトに参画するため
に食い止めることができた。昨年10月に再選されたユドヨノ
の準備を進めている。またIPP事業による新規発電所建設へ
大統領は、2014年の国内総生産成長率7.7%達成を掲げてお
の参画も視野にいれている。
り、実現すると、1期目就任時の2004年と比べ、10年間で
経済規模が4倍に膨れ上がる計算となる。
国際的にも、ASEAN(東南アジア諸国連合)を代表して、
G20のメンバーにもなり、名実ともに新興国の仲間入りを果
20
進んでおり、将来的には地下鉄の延伸、ジャワ縦断高速鉄道、
新たなビジネス展開としては、PPP方式のインフラプロジェ
クトが脚光を浴びてきているが、この方式は日本のPFI方式
にODAを活用した官民連携にてインフラ整備を進める方式
で、当社はいち早くこのプロジェクトにも参画している。
たしつつある。同国の強みは安定した国内需要であり、その
インドネシア共和国と当社の歴史は、戦後賠償としてのホ
国内市場に軸足を置いてきたメーカーが輸出拠点として活用
テルインドネシア建設工事を皮切りに50年にわたる歴史があ
する例も目立ってきている。今後一段の成長を実現するには、
り、当社の海外事業の先駆けとなった国であり、施工実績と
長年の課題であるインフラ整備や外資導入の加速が鍵とされ
しては、ホテル・精油所プラント・地下水力発電所及びダム・
ジャカルタ地下鉄計画予定地 M,H. Tahamrin通り
港への接続高架道路が計画されているYos Sudarso通り
ENAA Engineering No.125 2010.11
アジア現地におけるビジネス展開
火力発電所・国際空港・港湾・国立感染症センター・生物多
様性保全センター等々多岐にわたっている。
今後の戦略としては、これまで培ってきた経験を基に、同
国を重点地域に指定し、現地化による営業力・競争力の強化
を図り、海外要員の任命基準を設け、現地での人材採用・最
終的には現地人幹部の育成により積極的な戦略を実施し、事
業の拡大を目指している。
ベトナム
Vietnam
ハノイ市キムリエン交差点(アンダーピーニング工法による立体交差)
ベトナムは、2008年に一人当たりのGDPが1,000米ドル
を突破し、同年のリーマンショックの影響を受けたものの、
その後東南アジア諸国の中で、いち早く経済が回復し、急速
な経済成長を続けている国である。この10月には首都ハノ
イにて遷都1000年祭が盛大に開催され、ベトナム国の近代
化が進行していることを国内外に印象づけた。日本のODA
開発援助もここ数年増大し、年間1,000億円レベルに達して
いる。
ベトナム国内では、エネルギー、道路、鉄道、港湾、空港、
環境など全ての分野において盛んなインフラ建設が進められ
ている。
カントー橋
■ エネルギー分野
により分断されているデルタ地帯のため、大規模橋梁の
近年の急速な工業化を受けて電力需要が逼迫し大都市部
建設プロジェクトが多数進行中である(北部ニャッタン
で慢性的な電力不足に陥っていることから、今後10年間
橋、写真参照:南部カントー橋など)。
で20件以上の火力発電所、水力発電所を建設する計画が
進行している。また、南部ニントゥアン省においては、
■ 鉄道分野
4,000MW原子力発電所計画が進行しており、第1期工事
現在運行中の、ハノイ∼ホーチミンを結ぶ南北鉄道の改
はロシア勢が受注内定しており、第2期工事は実質的に
修プロジェクトが進行中であり、また同線の高速化とし
日本勢の受注がほぼ確実となっている(2010年11月)
。
て、一部区間に新幹線の導入案も計画されている。都市
鉄道網の計画、建設も進められており、ハノイ、ホーチ
■ 道路分野
ミンで各8線の都市鉄道計画がある。その内、ハノイの1
ハノイ・ホーチミン間1,500kmを結ぶ南北高速道路の
号線と2号線、ホーチミン1号線は日本のODAにて建設
建設が各区間で順次進められており、大都市での慢性的
されるものである。
な渋滞を解決するために、都市環状道路の整備、交差点
の立体化などの整備が進められている(写真参照:ハノ
■ 港湾分野
イ市キムリエン交差点:アンダーピーニング)。
コンテナ船の大型化に対応する大規模港湾がベトナム各
また、ハノイやホーチミンの大都市近郊は、多数の河川
地で計画・建設中である。南部のカイメップ・チーバイ
ENAA Engineering No.125 2010.11
21
レポート
港は日本のODAにより建設中であり、北部のラクフェ
現地法人やベトナムの地場企業との連携を主体とした現地密
ン港も日本のODAにて建設する計画が進行中である。
着型の従来からのビジネス展開も精力的に進めている。さら
に、ラオス、カンボジア、タイなどのメコン川流域諸国との
その他環境分野として、ベトナム各地での上・下水道施設
関連も含めて、単に道路、鉄道という交通インフラネットワー
の建設が進行中である。また、大規模工業団地がハノイ、ホー
クのみならず、日本政府との政治、経済のネットワークとし
チミン近郊で開発され、バイク、工業部品、食品など各種製
てベトナム市場を捉えていく必要がある。
造業による工場参入が進んでいる。(写真参照:ハノイ近郊
タンロン工業団地)
日本のODA支出が検討されているハノイ近郊のホアラッ
クハイテクパークの整備事業などもある。
シンガポール
Singapore
上記のようにベトナムのインフラ建設は大規模プロジェク
トが目白押しの状態にあるものの、一方では、プロジェクト
シンガポール政府は2007年に地下鉄及び高速道路の整備
用地の収用遅延、高いインフレ率、ベトナム通貨ドンの切り
計画を発表した。同計画は2007年の人口450万人を2020
下げ、開発関連法の不備などの各種の問題を抱えている。さ
年に550万人、シンガポールを訪れる観光客数を年間900万
らに、他の東南アジア諸国と同様に、韓国勢、中国勢の進出
人から2017年に1,700万人になると想定し、インフラ整備
が目覚ましく、激しい価格競争が始まっている。しかし、こ
の一環として、2020年までの陸上輸送計画をとりまとめた
のような状況を考慮しても、ベトナムの旺盛なインフラ開発
ものである。その後、若干の見直しはあったが、順次工事が
状況は魅力的であり、周到なリスク対策を講じた上で各種プ
発注され、計画が達成されれば、現在の地下鉄路線総延長
ロジェクトを遂行している状態である。日本勢としては、我
138kmのほぼ2倍にあたる278kmになる予定であり、高速
が国の高度な技術力が活かせる案件、特に日本のODA案件
道路も現在の9路線が11路線になる予定である。
を中心にビジネス活動を行っており、最近では原子力案件、
新幹線案件を中心に進められている官民一体となったオール
ジャパン型のビジネスモデルにも注目している。その一方で、
ハノイ近郊のタンロン工業団地
22
ENAA Engineering No.125 2010.11
今、シンガポール国内の地下鉄工事は、環状4&5号線、ダ
ウンタウン1,2号線、南北線延長線が工事中で、高速道路は
アジア現地におけるビジネス展開
マリーナ高速道路が建設中である。今年9月からはダウンタ
ウン3号線の入札が始まり、2017年の営業開始が予定されて
いる。
当社は、1983年のシンガポール地下鉄第1期工事より参
入しており、これまでに地下鉄C108工区、地下鉄C107A工
区、カラン・パヤレバ高速道路、地下鉄C853工区を完成させ、
現在、地下鉄C854工区、地下鉄C907工区を建設中である。
現在入札中の地下鉄ダウンタウン3号線は、チャイナタ
ウン駅からシンガポール東部のエクスポ駅を結ぶ、全長約
23km、17駅とシールドトンネルからなっている。工事は全
て施工のみであり、仮設工事を含むすべての設計は施主側の
ダウンタウン2号線C921
コンサルタントによるものである。この工事で特筆すべき点
は、施主側が、マシンの納期短縮を図るため、3つの工区で
計10台のシールドマシンを直接メーカーへ発注し、施工業者
へ支給することであり、現在、このシールドマシンの入札も、
他の工事の入札と並行して行われている。
地下鉄の将来線としては、シンガポール北部のウッドラン
ドから南部マリーナ・ベイを結ぶトムソン線、南部マリーナ・
ベイから東南部イースト・コーストの住宅地を経て東部チャ
ンギ地区を結ぶ東部線、東西線のブーンレイからシンガポー
ル西部の工業地帯であるトゥアスに乗り入れるトゥアス延長
線がある。
高速道路計画としては、シンガポール北部センバワンと市
街中心地を結ぶ地下高速道路が2013年入札予定である。
地下鉄及び高速道路の計画(2007 年発表)
線 名
延長
駅数
完成予定(年)
ダウンタウン3号線
23km
16
2017
トムソン線
27km
19
2018
東部線
23km
12
2020
トゥアス延長線
7.5km
4
2015
南北高速道路
22km
NA
2020
ダウンタウン線2号線C921
シンガポールの人口は2010年中間期の予測では、約507
万人、海外からの観光客も2007年から開催されているF1
レース、及び今年のセントーサ島およびマリーナ・ベイの2ヶ
所の総合カジノリゾートの完成により、着々と増加しつつあ
り、シンガポールの地下鉄及び高速道路工事は、2007年の
計画(上記参照)に沿って順調に進められている。
当社は、これまでの長期に亘る工事経験より得たノウハウ、
また現地化を進めることにより競争力を高め、今後も、ビジ
ネスの継続を図りたいと考えている。
発注者本部と地下鉄工事現場
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会員会社をたずねて
企 業データ
名
:
日陽エンジニアリング株式会社
本 社 所在地
:
〒335-8502
電 話 番 号
:
048-420-1000(代表)
設 立 年月日
:
1967(昭和42)
年12月1日
代 表 者 名
:
古山 富夫
資
金
:
3億円
従 業 員 数
:
384名
平 均 年 齢
:
45.9歳
社
埼玉県戸田市新曽南三丁目17番35号
本
今後の事業戦略を語る古山富夫社長
オーナーエンジニアリングとしての強みと確かな実績。
中期経営計画を基に力強く、未来へ。
1967年、前身となる日鉱エンジニアリング株式会社の設立以来、数度の統合を経て、石油エネルギー、石油化学、金属
鉱山、製錬に関わる技術を核として今日まで技術力を拡充してきた日陽エンジニアリング。近年も、過去3年間好調な業績
を維持するなど、オーナーエンジニアリング系企業として、確かな実績を誇っている。埼玉県戸田市にある本社を当協会
小澤専務理事が訪ね、古山社長にこれまでの歩みや今後の経営計画、人材・教育への取り組みなどをお聞きした。
❶ オーナーエンジとしての歩み
更。
その後2003年に、
鹿島エンジニアリング(株)
と統合し、
現在に至っています」
統合の歴史
と古山社長は、歴史を振り返る。日陽エンジニアリング
の特質は、
こうした統合を経て様々な得意分野の複合体
新宿からJR埼京線で約20分、
荒川を渡るとそこは、
埼玉
となったことと言えそうだ。
たとえば、
日鉱エンジニアリング
県戸田市。
その一帯は、
かつて江戸時代には御鷹場として
は、非鉄 精錬や化学プラント。
甲陽建設は、
タンクの建設。
栄えていたが、
近年では、
市街地が全域に広がっている。
ま
JOMOエンタープライズは、
石油の油槽所やガソリンスタン
た東京に近いこともあって、
工場や物流センターも多く、
その
ド等における塗装関係を主業務としていた。
工場地帯の一画、JX日鉱日石エネルギー株式会社戸田事
業所内に、
日陽エンジニアリングの本社はある。
価値観の共有「日陽憲章」
「私どものルーツは、1967年に設立された日鉱エンジニア
リング(株)
です。2001年に日鉱エンジニアリングと甲陽建
24
4社それぞれ歴史と文化の異なる企業が集まったため、
設工業(株)
、JOMOエンタープライズのエンジニアリング部
統合後の企業の一体感や融合をどう行っていくかが大きな
門、
この3つが統合し、
社名を日陽エンジニアリング(株)
に変
課題となった。
ENAA Engineering No.125 2010.11
会員会社をたずねて
日陽エンジニアリング株式会社
「それぞれ生い立ちが違い、
また異なるカルチャーの中で
やってきましたから一つの会社としての価値観を共有するこ
とに、
努力を傾注してきました。
その一例が、
『日陽憲章』
を設
壁に飾られた額と、
社員証の
裏面に印刷された
「日陽憲章」
定したことです。
これは、
社員全員がひとつの共通理念のも
とに、
考え、
行動できるようにという願いを込めたものです」
と、
古山社長は語り、
さらにその理念に基づいた行動基準
や行動規定を冊子にして、
社員全員に配布するだけでなく、
日陽憲章強化月間を設定したり、
発表会を年に2回開催する
など、
工夫をこらして価値観や全社の一体感の醸成を図っ
てきたことも付け加える。
❷ 中期計画の実行でさらなる発展へ
中期計画と集められたメモ
変更が必要であればそれも思い切って見直すのもいいと
思っています」
社長就任早々、
古山社長は、
中期経営計画の実現のため
に、
体質強化を図る取り組みを行った。
上記の7つのテーマ毎に、
具体的な実行プランを集中して
作成し、
速やかに実行に移したいと古山社長は語る。
「すでに中期3カ年計画のアウトラインは決まっていまし
た。
しかし、
何をもってそれを達成するのか、
その達成方策
❸ 技術開発の挑戦と実績
を具体的にしていく必要を実感しました。
そこで、
まず、
役員
クラスの方々に問いかけてみました。
これまで会社の仕事
環境分野での技術開発
をしてきている皆さん方が、現状をどうとらえているのか。
問題があるとしたらそれは何で、
皆さん方は役員として、
ど
これまで日陽エンジニアリングは、
時代の趨勢を反映し、
ういうふうにしていきたいと思っているのか。
それを全員か
排水処理設備、
廃プラ資源化設備、
有機物のコンポスト化
らメモとして提出してもらったところ、
その中には、
共通する
設備等の環境浄化、
資源リサイクル設備に
項目、
課題と呼べるものがたくさんありました」
も進出してきた。
「ペットボトルのリサイクル工場は、
もう
成長のための7つの柱
5、6件の実績があります。
それから特に、
PCB。
これはグループ内に石油からできる
そのメモを参考にして、
新たなプロジェクトを立ち上げるこ
いい洗浄剤があり、
それと我々の開発した
ととなった。
それが、
課題ごとに改善を行っていく7つの分科
洗浄機を組み合わせることによって可能
会である。
性が広がります。
例えば電力会社保有の絶
「1つは、
組織そのものの見直しです。
部門間の壁があると
縁油に低濃度のPCBが混入した柱状トラ
いうことで、
組織を見直すチームをつくりました。2つ目は、
ま
ンスの各部品を洗浄していくことを実際に
だお客様によっては、
『日陽エンジニアリングって何をやって
行っています。
いるのですか』
と聞かれることもあり、
お客さんに対するPR、
お話を伺う
当協会の
小澤専務理事
また、
亜臨界を使用して、
汚泥からメタン
紹介に力を入れていく。
それを営業というテーマで一つにま
を作るプログラム。
これはかなり進化してお
とめていき、
受注計画まで見える化をしていくこと。3つ目は、
り、
今年の下期ぐらいから実証段階に入りますので、
早く使っ
社員と同時に協力会社の方も含めた人づくり。4つ目は、
協
てもらえるようにPRしていきます。
さらに民間で保管されて
力会社さんとの協業の推進で、
地域とネットワークの強化と
いる低濃度PCB混入のトランスの処理という問題がありま
もいえます。
すが、
容器の洗浄をし、
それを完全無害化していくことまで
さらに、5つ目が海外 事業の取り組みです。
国内の事業
手がけ、PCBを除去し、
最終の素材をリサイクルするという
そのものが減る方向の中で、
今後どういうステップで海外に
パッケージまでも視野に入れて取り組んでいきたいと考えて
アプローチにしていくか、
というテーマに取り組むこと。
それ
います」
と語る古山社長。
から、6つ目は、
新事業ですが、
既存の技術を今まで適用し
ていない領域に広げていこうと考えています。
そして、
最後
独自の技術、
触媒の充填設備
がコスト競争力です。
コスト削減ではなく、
コスト効率(cost
efficiency)
を検証する、
そうした仕組みづくり。
人事制度の
さらに環境分野以外でも、
持てる要素技術の個性や可能
ENAA Engineering No.125 2010.11
25
会員会社をたずねて
性も多様だ。
会員会社をたずねて
日陽エンジニアリング株式会社
❺ 協会への期待と未来への挑戦
「現在、バイオエタノールの話が進んでいますが、
そこに
は、
脱水技術が必要になりますので、
現在、
大学の先生方と
ENAAの人材育成プログラムを活用
の共同研究を進めています。
また、
アドバンテージとして、
自社開発の触媒の充填設備
新人をはじめ、
若手、
そしてベテランも含めた社員力こそ
があります。
石油精製の脱硫触媒を容器に充填する際、
きち
が、
日陽の総合力をどう発揮できるか、
のポイントになるだろ
んと我々の充填機を使いますと、
一定の容量の反応器によ
うと語る古山社長。
また日陽エンジニアリングでは、
エンジニ
り多く詰めることが可能です。
また、
触媒によっては、
コーク
アリング振興協会が、
取り組んでいる人材育成プログラムに
が溜り、
ホットスポットができて連続運転ができないことが
も早くから注目してきた。
ありますが、
その流れを均一にすることができる、
優れた充
填機です」
と自信を持って紹介する日陽エンジニアリングならではの
充填機の技術とノウハウ。
この技術は、
国内ではほとんどの石
「協会の人材育成プログラムは大いに活用させていただ
いています。
毎年参加していますが、
今回は、
参加者がこの
教育を受けて、
どういう感想や印象を受けたのかというヒア
リングを行い、
その発表会も行っています」
油会社に利用され、
高く評価されているという。
さらにこうし
た技術を高精度で行うための技術開発を行っていくという。
❹ 人材育成への取り組み
新たなる時代へ
最後に、
エンジニアリングの使命や役割、
協会への期待を
古山社長は語る。
「人が財産」
をテーマに
「昔のいわゆる匠(たくみ)
の技が、
日本の中から消えつつ
あると思います。
そういうものを補完するようなことを、
国全
先の7つの分科会には社員に積極的な参加を促し、
取り
体で考えていかないと。
韓国や中国では、
目の色変えて一生
組んでいる。
そこには、
古山社長の考える、
社員像と企業の
懸命やっていますから、
ものづくりの日本とか言われた時代
姿勢が見える。
は過去の話になってしまう。
ですから、
国を挙げての教育投
「みんなが、
いろいろと自由に意見を言う、
問題があれば
資が必要であり、
昔みたいにエンジニアリングが力そのもの
『問題だ』
と言う、
そういうチームであり、
会社になることが
を取り戻すことが大事だと思います。
一朝一夕には変えられ
理想です。我々の財産はやはり人ですから、人がみんな生
ませんが、
現在、
協会が行っている産官学の学校教育のよう
き生きと目をいかに輝かせて、
仕事をしてくれるかというの
なところから、
見直さないといけないかもしれません。
協会に
がすべてのベースだと思います。
ですから、
今のプロジェク
は今後も、
そういう警鐘を鳴らしたり、
新たな提案をなさった
トチームにも、
若手にも入っていただき、
若いときから会社
りするというところで、
常に引っ張っていただいて、
声を上げ
をどうするかというようなことまで、
議論をする機会をつくっ
ていただくといいのではないでしょうか」
ていきたい」
と人材への期待と熱い思いを語る古山社長。
中期経営計画の実現に向けた7つのプロジェクトの推進
と積極的な技術開発や人材育成を通じてオーナーエンジ
系企業としてさらなる成長を目指している日陽エンジニア
人材育成と人事評価
リング。
国内はもとより海外も視野に入れた、
その未来への挑戦
さらに、
平成17年から新卒の採用を再開し、
徹底した新人
は、
今、
まさに加速しようとしている。
教育も日陽エンジニアリングの伝統となっている。
また、
新人
教育のみならず、
専門技術やノウハウ、
知識の修得にも力を
注ぐなど教育には力を注ぐ。
「入社5年目以降の人が、
どれだけ技術教育、
技能教育の
ところでレベルを上げるかというのも大きな課題だと考えて
います。
また、
例えば溶接技術はいつまでにという設定をす
1971年
ることで、
嫌でも身に付けざるを得ないような仕組みも重要
1999年
です。
当社の千葉製作所は、
タンク鋼材の加工工場ですが、
2003年
そこでは、
技術系社員を対象に溶接技術の実技研修を行っ
2004年
ております。
これは、
非常に体験者が達成感を感じると言い
2008年
ますから、
せっかくいい舞台がありますので、
もっと現場を活
2010年
用したいと思っています」
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古山富夫
日陽エンジニアリング株式会社
代表取締役社長
ENAA Engineering No.125 2010.11
京都大学工学部卒業
日本鉱業株式会社入社
株式会社ジャパンエナジー 理事
水島製油所 副所長
株式会社ジャパンエナジー 執行役員
事業開発部・精製部・環境安全部担当
鹿島石油株式会社 取締役
常務執行役員 鹿島製油所長
鹿島石油株式会社 取締役
副社長執行役員 鹿島製油所長
日陽エンジニアリング株式会社
代表取締役社長就任
現在に至る
Pastorale
海洋写真家
中村 庸夫
なかむら つねお
Marine Photographer : Tsuneo Nakamura
パストラーレ
『シドニー港』
客船ターミナルから離れつつある、
シドニーを訪れた飛鳥Ⅱ
岬に挟まれた狭い入り口、
奥深く入り組んだポート・ジャクソ
ン湾。
その湾奥の西から注ぐパラマタ川河口に造られたのが
シドニー港である。1770年にジェームズ・クックが訪れ、
ポート
・
ジャクソン湾や奥の入江をシドニーと命名したものだ。
現在も、
広々とした海、
起伏が多い北側の緑の海岸線は当時
のままで、
ポート・ジャクソン湾はまさに天然の良港なのである。
湾奥の岬の内側にシドニー・サーキュラー・キー(波止場)
が
あり、
桟橋にフェリーが並び、
湾内や川上流各地を網の目のよう
に結ぶ。
そのすぐ裏手がシドニーの中心街で、
官庁、
企業、
商業
施設などが密集し、
高層ビルが聳え、
港にまで迫っている。
飛鳥Ⅱ
フェリー乗り場の西側に外航客船ターミナルがあり、
など大型クルーズ船が発着し、
サーキュラー・キーは正にシド
ニーの海の玄関口なのだ。
このサーキュラー・キーの南に突き出した岬の先端に1973
年に完成した、
シドニー・オペラハウスが白く輝く。
斬新なデザイ
ンで、
貝殻やヨットの帆を思わせる外観は20世紀を代表する
建築物で、
オーストラリアのシンボルとしてシドニー湾を美しく
彩る。
外航客船ターミナルの裏手にはノース・シドニーとを結ぶ
ハーバー・ブリッジがある。
南岸・商業地区のダウン・タウンと、
北岸のベッド・タウンとを道路と路面電車で繋ぐため、1932年
に完成したクラッシックな鉄橋だ。
橋の中央経間503mの両端
に高さ100m程の石造りの4本の支柱がそそり立ち、
これを支
えに鉄のアーチがかかり、
橋げたを吊り下げている。
その独特
な形状から「コート・ハンガー」
とも呼ばれ、
シドニー子自慢の
橋なのである。
現在は8車線のハイウェイと複線
橋の幅員は48.8mもあり、
の鉄道線路や歩道が走り、
ギネスに認定された世界一車線が
多い鉄橋としても知られる。
観光客は歩道を渡ってシドニー湾の景観を楽しめるほか、
アトラクションとして、ガイド付きで、アーチ最 上部の134m
まで登る「ブリッジ・クライム」
もできるのだ。
そして桁下52.4mは大型客船やマストの高い帆船も通過
し、
橋奥のダーリング・ハーバーにも着岸できる。
ダーリング・ハー
バーには工場や倉庫が建ち並んでいたが、
オーストラリア建
国200年の1988年に大規 模な再開発が行われ、博 物館や
水族館、
レクリエーション施設などが集まるシドニーきっての観
光スポットとなったのである。
こうした人工物と自然地形や豊かな緑が調和し、
湾の北側
に面した水際や、
起伏に富んだ丘陵には、
オペラハウスとハー
バー・ブリッジを見渡す高級住宅が立ち並び、
人々の生活とも
結びついた港がシドニー港なのである。
アメリカのサンフランシスコ港、
ブラジルのリオデジャネイロ
港と並んで世界三大美港と称えられるのは当然で、
岸から見
た美しさばかりでなく、
上空や橋の上、
湾内を
行き交うフェリーなどか
ら、
パノラマのように広
がる景観を望むと、
どこ
からでも絵になってし
まう素晴らしい港なの
である。
シドニー港夜景
◆「第3回 海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞)
」
受賞
このたび、
中村先生は、
「第3回 海洋立国推進功労者表彰(内閣総理大臣賞)
」
において、
「海洋に関する顕著な功績」
分野で表彰されました。
ENAA Engineering No.125 2010.11
27
平成22年度
「エンジニアリング功労者賞・奨励特別賞」
表彰式挙行される
を通じエンジニアリング産業の発展に著しく貢献したグループ表
彰11件および個人表彰4件が決定され、
昨年度より設置の「エン
ジニアリング奨励特別賞」
は、
商業的実用化が期待される先駆的
技術の開発に顕著な功績のあったグループ表彰4件が決定され、
増田会長の式辞に続き、
受賞者の表彰が行われました。
来賓の経済産業省製造産業局国際プラント推進室長の
和泉 章殿による局長祝辞(代読)
と受賞者代表として個人表彰
を受けられた藤原 治氏(
(株)
大林組)
の謝辞があり、
表彰式は
平成22年度「第30回エンジニアリング功労者賞」
および、
昨年度より設置の「エンジニアリング奨励特別賞」
の表彰式
が平成22年7月22日(木)17時から東海大学校友会館(霞
が関)
において執り行われました。
厳粛に執り行われ、
出席者一同より、
心からお祝いの拍手をもっ
て終了しました。
表彰式終了後、
協会懇親パーティが開催されました。
山田理
事長の挨拶に続き、
経済産業省大臣官房審議官の市川 雅一
受賞者は、
多数の案件の中から、
小島圭二氏(東京大学名誉
殿の来賓挨拶、
小島エンジニアリング功労者選考委員長の乾
教授)
を委員長とする選考委員会の厳正なる審議の結果、
「エンジ
杯の音頭で始まったパーティは、
功労者表彰を受けられた方々
ニアリング功労者賞」
はエンジニアリング産業に関与し、
その活動
を中心に賑やかかつ和やかな夕べとなりました。
名 称
代表者 / 現職 / 構成員数
トルコ・ボスポラス海峡横断沈埋
トンネルプロジェクトチーム
大成建設
(株)
小山 文男/
大成建設
(株)横浜支店 土木部部長/
16名
プラント建設工事遂行管理システム
作成・導入グループ
日揮
(株)
(株)産業・国内プロジェクト本部
内藤 秋男/日揮
国内エネルギー事業部 建設グループマネージャー/
8名
環境貢献
名 称
代表者 / 現職 / 構成員数
回転炉床式還元炉
(RHF)
チーム
新日鉄エンジニアリング
(株)
増田会長、
山田理事長、
小澤専務理事及び
小島エンジニアリング功労者選考委員長と
「エンジニアリング功労者賞」
受賞者一同
[ 第30回 エンジニアリング功労者賞 ]
岡本 照/東京電力
(株)
川崎市千鳥・夜光地区蒸気配管連係
本店火力ECエネルギーソリューショングループ 副長
プロジェクトチーム
中野 陽二/JFEエンジニアリング
(株)
ト
(株)
、
東京電力
(株)
、
川崎スチームネッ
パイプライン事業部 パイプライン部技術室 課長/
JFEエンジニアリング
(株)
18名
名 称
台湾・国姓高架橋建設
プロジェクトチーム
鹿島建設
(株)
、
互助営造
代表者 / 現職 / 構成員数
特別テーマ
花田 紀明/
前田建設工業
(株)作業所所長/
9名
名 称
洞爺湖サミット国際メディアセンター
プロジェクトチーム
国土交通省、
(株)
山下設計、
(株)
日本設計、
(株)
竹中工務店
28
代表者 / 現職 / 構成員数
地盤表層CO2ガスモニタリングによる
田崎 雅晴/清水建設
(株)
油汚染土壌調査チーム
技術研究所 地球環境技術センター 環境バイオグループ長/
清水建設
(株)
(有)
、 エコルネサンス・エン
8名
テック、
(有)
トレンド、
中外テクノス
(株)
個人表彰
国際協力
氏 名
代表者 / 現職 / 構成員数
越川 昌治/東洋エンジニアリング
(株)
執行役員 海外第一プロジェクト 本部長/
34名
森廣 和幸/国土交通省
北海道開発局営繕部 営繕整備課 課長補佐
柏倉 正裕/
(株)
山下設計 東京本社第3設計部 部長
田代 太一/
(株)
日本設計
取締役常務執行役員 企画本部長
河合 有人/
(株)
竹中工務店
北海道支店設計部門 設計課長/
43名
ENAA Engineering No.125 2010.11
現 職
1955年(昭和30年)
生まれ
トーヨー・タイ・コーポレーション・パブリック・カンパニー・リミテッド
社長
藤原 治
(株)
大林組 マルワイ新橋工事事務所 所長
入矢 洋信
1952年(昭和27年)
生まれ
エンジニアリング振興
シンガポール・シェル殿向け
エチレンプロジェクトチーム
東洋エンジニアリング
(株)
中小規模のプロジェクトを対象とした特別枠
名 称
古川 直樹/
鹿島建設
(株)中部支店 第二東名野田川橋工事事務
所 所長/10名
台湾・台中港LNG受入基地建設
プロジェクトチーム
八十 芳樹/
(株)
、
(株)
IHI、
東亜建設工業
(株)
IHI プラントセクター 国内プロジェクト統括部 次長/
CTCI CORPORATION、
46名
Resources Engineering Services, Inc.
香港・ストーンカッターズ橋建設工事
プロジェクトチーム
前田建設工業
(株)
、
日立造船
(株)
、
(株)
横河ブリッジ、
新昌営造
(株)
森重 敦/JFEエンジニアリング
環境プラント事業部 設計部 部長/
24名
ハイパー21ストーカシステム
開発推進チーム
JFEエンジニアリング
(株)
グループ表彰
国際協力
高橋 誠/
新日鉄エンジニアリング
(株)取締役 常務執行役員/
36名
エンジニアリング振興
氏 名
柵瀬 信夫
1949年(昭和24年)
生まれ
末岡 徹
1948年(昭和23年)
生まれ
現 職
鹿島建設
(株)
環境本部 環境ソリューショングループ 専任部長
大成建設
(株)
技術センター 副技術センター長
[ 第2回 エンジニアリング奨励特別賞 ]
名 称
アスベスト無害化・再資源化
プロジェクトチーム
西松建設
(株)
、
戸田建設
(株)
、
大旺新洋
(株)
代表者 / 現職 / 構成員数
千葉 脩/
戸田建設
(株)常勤顧問/
7名
高圧ジェット水を用いた洗浄技術に
よる絶縁油汚染土浄化プロジェクト 佐藤 博/東京電力
(株)
チーム
技術開発研究所設備基盤技術G 主席研究員/
東京電力
(株)
、
東電設計
(株)
、
16名
(株)
間組、
(株)
土壌環境プロセス研究所
濃縮
低濃度炭鉱メタン
(CMM)
プロジェクトチーム
大阪ガス
(株)
(株)
田中 啓一/大阪ガス
エンジニアリング部 CMMPJチーム・マネジャー/
12名
加藤 崇/
電波源位置特定システム開発チーム
大成建設
(株)技術センター 建築技術開発部/
大成建設
(株)
6名
増田会長、
山田理事長、
小澤専務理事及び
小島エンジニアリング功労者選考委員長と
「エンジニアリング奨励特別賞」
受賞者一同
編集後記
ENAA Engineering 2010
No.125
●11月1日の朝刊に、
東アジアサミットで訪越中の菅首相とベトナムのズン首
相は、10月31日ハノイにおける首脳会談で、
ベトナムの原子力発電所建設
(ニントウアン第2発電所1,000MW×2基)
について日本が輸出することで
合意したとのニュースが飛び込んで来た。
日本はプラント建設の他、O&M、
技術移転と人材育成、
全事業期間を通じて燃料供給をも保証するものとの
ことである。
日本政府は、UAEでの原発建設で韓国に敗退したのを受け、
官民一体の「インフラ・システム輸出」
を指向してきた。
そして、
電力会社、
重
電会社及び政府(産業革新機構)
出資による「国際原子力開発」
を立ち上
げ、
官民挙げてベトナムに売り込みをかけてきたことが奏功したものと思わ
れる。
●元来、
エンジニアリング企業はインフラ建設には充分な実績や経験がある
わけではない。
しかし。
我国の多くのエンジニアリング企業は、1960年代か
ら50年に亘ってアジア、
南米、
中東、
アフリカ等々逸早く世界へ出てプラント
建設を行ってきた。
現地での労働力の動員・管理をはじめ、
海外調達、
建設工
事、
品質管理、
そして何よりもプロジェクトマネジメントに力を発揮し、
多くの
経験と実績を持つ。
インフラ建設に係るメーカー、
建設業者、
事業者に対し
て、
そのノウハウや経験を提供し得ると言えるであろう。
日本の多くのエンジ
ニアリング企業が、
インフラ・システム輸出に貢献し、
日本の活力を取り戻す
のに力を発揮してもらいたい。
(笠原 文東)
広報部会「広報誌編集分科会」
分 科 会 長 : 笠原 文東
(日揮)
副分科会長 : 藤村 久夫
(鹿島建設)
員 : 浅川 時生
委
事
発
務
(IHI)
坂田 文彦
(荏原製作所)
塚原 義智
(大林組)
広常 雅也
(JFEエンジニアリング)
古賀 敏博
(石油資源開発)
大久保 澄
(大成建設)
岸本 健夫
(千代田化工建設)
宮脇 邦彦
(東洋エンジニアリング)
河野 浩一
(三菱重工業)
局 : 小倉 三枝子
行 : 財団法人 エンジニアリング振興協会
〒105-0003
東京都港区西新橋一丁目4番6号
TEL. 03-3502-4441 FAX. 03-3502-5500
http://www.enaa.or.jp/
制
作 : 東洋美術印刷株式会社
ENAA Engineering No.125 2010.11
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