...

報告書 - 経済産業省

by user

on
Category: Documents
11

views

Report

Comments

Transcript

報告書 - 経済産業省
平成 26 年度インフラシステム輸出促進調査等事業
(リサイクルビジネス海外展開可能性調査)
ベトナムにおける
アルミリサイクル事業展開可能性調査
調査報告書
平成 27 年 3 月
経済産業省
委託先 株式会社大紀アルミニウム工業所
ベトナムにおけるアルミリサイクル事業展開可能性調査 結果概要
ベトナムでは経済成長に伴って廃棄物の発生量が年々増加し、環境問題が深刻化してい
る。2015 年 1 月施行の環境保護法改正からも見られるように、廃棄物のリサイクル・環境
保護に高い関心が持たれるようになってきている。
現在まで、アルミの需要、アルミリサイクルに関する状況等の詳細な内容についてこれ
まで十分に把握できていなかった。
これらのことから本事業ではリサイクルに関する法制度、アルミの市場規模、アルミリ
サイクル状況等の基礎調査を行い、採算性や事業リスクを分析し、ベトナムにおけるアル
ミリサイクル事業の実現を図るために調査を実施した。
本事業で得た情報から検討した結果、危険廃棄物に関するライセンス取得が可能となれ
ば、ベトナムにおけるアルミニウムリサイクル事業の実現は可能だと考えられる。
目次
1. 本調査の背景と目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
2. アルミニウムリサイクルに係る諸規定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.1 アルミニウムに対する廃棄物定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.2 投資形態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.3 会社形態と機関設計等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.4 会社設立と投資ライセンス取得・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2.5 投資優遇制度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
3. アルミニウムリサイクルに関する現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
3.1 アルミニウムに関する市場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
3.2 アルミニウムスクラップ事情・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
3.3 アルミニウムリサイクルの今後の見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・26
4. アルミニウムリサイクル事業化の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
4.1 ビジネスモデル・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
4.2 アルミニウムリサイクル事業の実現可能性・・・・・・・・・・・・・・・・・28
4.3 環境社会面への影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
4.4 工業団地の立地候補・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
4.5 現地既存企業の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
5. 事業計画の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
5.1 試算の前提・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
5.2 事業採算性の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
5.3 日本への裨益・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
6. 今後の課題、方向性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
6.1 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
6.2 今後の方向性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
7. ベトナム基礎情報・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
7.1 ベトナム労務調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38
7.2 ベトナム税制調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
1. 本調査の背景と目的
近年、東南アジア諸国は著しい経済発展を遂げている。一方、環境社会的側面から見る
と環境汚染問題が深刻化し問題となっている事例が多い。その中で、廃棄物の適正な処置・
処理や資源を有効活用するリサイクル活動は各国の政策において重要な位置付けとなって
いる。
ベトナムにおいてもこの数年の経済成長に伴う廃棄物の増加やリサイクル工程における
環境汚染が問題となっており、廃棄物処理及び環境に配慮したリサイクルに対するニーズ
が高まりつつある。
現在のベトナムには多くの日系企業、外資系企業が進出している。北部 Hanoi 周辺には
同国で 70%ものシェアを占めている大手二輪メーカー及びその関連企業が集中し、南部 Ho
Chi Minh 周辺には中小企業が多数進出している。その中にはアルミニウムを使用している
企業も多数存在する。更に新たな工業団地の造成も進んでおり、チャイナプラスワンとし
て進出を検討する企業の受入れ体制も整備され、今後ますます増加していく事が見込まれ
る。
本来、これら製造企業の生産工程で発生する端材や不良品、加工工程で発生する切削粉、
アルミニウム溶解時に発生する溶滓(アルミニウムドロス)等の廃棄物は有価物としてリサ
イクル業者と取引され、環境に配慮した適切な工程を踏み再資源化されるものだが、ベト
ナムではアルミニウム廃棄物が適切にリサイクルされておらず、資源の無駄遣いや環境破
壊の要因となっている事が確認されている。
アルミニウム二次合金地金精錬業は日本及び近隣 ASEAN 諸国において広く展開されて
いる。アルミニウム廃棄物に高い付加価値を付与し、アルミニウム二次合金地金として再
資源化する技術やノウハウがある。
ベトナムにおいても日本の技術やノウハウを利用してアルミニウム廃棄物の適切な再資
源化や環境対策を行うことによって、持続可能且つ安定的なリサイクルビジネスの展開可
能性調査をする事を目的とする。
本調査事業においては、ベトナムにおいてリサイクルビジネスを展開する上での関係法
令や規程、一般市中発生及び工場から発生するアルミニウム廃棄物の収集・処理に関して
の実態や同国におけるアルミニウムマーケットの需給状態を把握し、事業計画の試算を行
った上で、各省・工業団地、国営・法人リサイクル業者などと協調してビジネス展開する
仕組みの構築が可能かを検証する。
1
2. アルミニウムリサイクルに係る諸規定
2.1 アルミニウムに対する廃棄物定義
廃棄物管理の基本原則は、2007 年に制定された「固形廃棄物管理に関する政府決
定(No.59/2007/ND-CP)
」に定めらており、固形廃棄物は「生産・ビジネス・サー
ビス・日常生活・その他の活動から廃棄される固形状のもの」で「通常の固形廃棄
物」と「有害廃棄物を含む固形廃棄物」の 2 つに定義されている。
当該事業にかかわる「アルミニウム」は「有害廃棄物リストを公布する環境資源
省決定」
(23/2006/QD-BTNMT)において「No.4 HS-CODE7602-00-00
Scrap and
fragments of aluminum」と対象リストに記載されており、後者の「有害廃棄物を含
む固形廃棄物」に該当する。
なお、環境保護法の改正(2015 年施行)に伴い、廃棄物関連の法令も改正が予定さ
れているが、本報告書では調査時点で入手可能な法令情報に基づき記載している(以
降の文章も同様)。
2.2 投資形態
WTO 加盟後、
「固体廃棄物の分類・収集・運送・処理」に該当する「アルミニウ
ムリサイクル事業」は、外資 100%独資・外資同士による合弁・ローカル企業との合
弁の何れの形でも投資する事が可能となった。また現地企業との合弁の場合、出資
比率についての規制はない。
2.3 会社形態と機関設計等
2.3.1 外資 100%独資の場合
外資 100%独資の場合は、1 人有限会社での設立となる。また、機関設計等は以下
となる。

出資者数:1 人

出資者の形態:組織もしくは個人

株式発行:不可

責任範囲:払込資本金の範囲内

増資の可否:可

減資の可否:不可

構成機関
・会長または社員総会
-最高意思決定機関
-出資者から 1 人を受任代表者として選任する場合はその者が会長となる
出資者から複数人を受任代表者として選任する場合は社員総会となる
・社長
-会長もしくは社員総会から通常の業務執行を行う機関として選任される
・監査役
2
-出資者が 1 名~3 人を 3 年間任期で任命する。会社の経理・運営に関して
監査し、出資者に報告する義務がある

法的代表者
・一般的には会長もしくは社長とする。
・ベトナムに常駐する義務がある。
・会社の日常運営を管理し、ベトナム政府に対して法的に会社の代表になり、
それに沿って義務及び責任がある。
2.3.2 外資同士による合弁もしくはローカル企業との合弁の場合
合弁の場合は、2 人以上有限会社もしくは株式会社での設立となる。なお、ここで
は外資企業が一般的に用いる 2 人以上有限会社の機関設計等について記載する。

出資者数:2 人~50 人
・出資者は最大 50 人までとされており、それを超えることはできない。それ
を超える場合は、株式会社として設立する必要がある。出資者名簿を作成す
る必要がある。

出資者の形態:組織もしくは個人

株式発行:不可

責任範囲:払込資本金の範囲内

増資の可否:可

減資の可否:実務上困難な状況にある

構成機関
・社員総会および会長
-最高意思決定機関
-出資者全員で構成し、基本的事項についての意思決定を行う
-社員総会の会長を選任する
・社長
-社員総会から通常の業務執行を行う機関として選任される
・監査役
-出資者が 11 名以上の場合は監査役会を設置する必要がある。

法的代表者
・ベトナムに常駐する義務がある。
・会社の日常運営を管理し、ベトナム政府に対して法的に会社の代表になり、
それに沿って義務及び責任がある。
2.4 会社設立と投資ライセンス取得
何れの投資形態によって会社を設立する場合にしても、投資ライセンスの取得が
不可欠である。また、投資ライセンスの取得以外にも事業を開始する前に許認可を
得る必要な内容がある。例えば環境保護報告書の認可・工場建設の許可・消防に関
3
わる許可等である。更に、当事業においては、「有害固体廃棄物取扱いライセンス」
の取得が必須である。なお、2015 年 7 月以降に新たな投資法が施行され手続きフロ
ーが変更になる見通しであるが、当内容は現行法に沿って記載する。
以下が事業開始までの手続きフローとなる。
土地の仮契約
(MOU)
①
投資ライセンス申請
投資ライセンス取得
外国人労働者
使用需要申請
印鑑登録
税コード申請
正式賃貸契約
銀行口座開設
ライセンス税
申告
各ライセンス申請
VAT計算方法
申請
②
環境影響報告
労働許可申請
③
建設許可、防災
④
有害固体廃棄物取
扱いライセンス
工場建設
設備導入
人材採用
就業規定等
労務手続き
各保険の申告
稼働開始
フローにおいて重要となる図中の「赤枠」の項目について、以下にて記載をする。
① 投資ライセンス申請
工業団地に投資する場合、申請手続きの窓口はその工業団地が所在してい
る省の工業団地管理委員会である。併せて、投資ライセンス発行および管理
4
機関も同様である。
工業団地以外に投資する場合、申請手続きの窓口と投資ライセンス発行機
関は操業する工場用地が所在する省の人民委員会となる。ただし、管理機関
は省のその省の投資局となる。投資ライセンスを申請する為に必要な書類は
以下となる。なお、出資者が日本法人の場合として記載する。
・申請書
-ベトナム政府のフォーマットに基づき記載
・出資者の全部事項証明証コピー
-英語版、公証・外務省認証・在日大使館認証済
・出資者の定款コピー
-英語版、公証・外務省認証・在日大使館認証済
・出資者の代表者パスポートコピー
-公証・外務省認証・在日大使館認証済
・出資者の財務諸表コピーもしくは銀行残高証明書
-公証・外務省認証・在日大使館認証済
・出資者における取締役決議書
-公証・外務省認証・在日大使館認証済
-現地法人設立に関する内容と委任代表者への委任内容含む
・出資者リスト(2 名以上の有限責任会社の場合)
・現地法人の定款(案)
・現地法人代表者のパスポートコピー
-公証・外務省認証・在日大使館認証済
・現地法人の事業計画書(投資額が 3,000 億 VND の場合)
なお、ケースによっては、上記の書類以外に「特許証」等の書類提出を
求められる場合があるが、それにはその都度対応する必要がある。
② 環境影響報告
会社設立手続きにおいて、建設許可の承認を得るために環境影響報告書の
承認が大前提としてあるため、当手続きは必須である。審査の厳格度合いは
事業内容や規模に応じて 3 つのカテゴリに分かれている。当事業は最も厳格
なカテゴリⅠに分類される。申請手続きや許認可は、カテゴリにより省の地
域資源環境局もしくは中央政府の資源環境省が管轄機関となる。なお、工業
団地内外での区分はない。
申請書類については以下となる。
・申請書(フォームあり)
・投資ライセンス証
・事業内容の説明資料
5
・事業による環境への影響、それへの対策、それらの予測結果
・モニタリングの方法
-定期モニタリングは四半期毎もしくは半年毎に行う必要がある。
モニタリング機関は環境分野の監査機能を有する民間企業とする事も可
能である。
③ 建設許可・防災
工場建設を行うためには、建設許可を取得する必要がある。また、同時に
防災に関する許可も申請する必要がある。申請に必要な書類は以下となる。
・申請書(フォームあり)
・工場の詳細設計図
・土地使用権に関する書類
・投資ライセンス証
申請窓口および管轄機関については、工業団地に投資する場合は工業団地
管理委員会となり、工業団地以外に投資する場合は、省の建設局となる。
④ 危険廃棄物取扱いライセンス

申請
ベトナムにおいて、危険廃棄物取扱いライセンスを取得するに際しては、
環境保護法(55/2014/QH13)に様々な規定が設けられている。申請窓口およ
び管轄機関については、環境資源省環境総局が所管している。
申請の際に必要な書類は以下となる。
・申請書
・事業内容の説明資料
・投資ライセンス証
・承認済の環境影響報告書
・取扱う危険廃棄物の「危険廃棄物リストを公布する環境資源省決定」
-(23/2006/QD-BTNMT)における該当番号(例えばアルミニウムであれ
ば「No.4
HS-CODE7602-00-00 Scrap and fragments of aluminum」
)
・適切な保管方法に関する説明資料
・人間の健康や環境へ悪影響を及ぼさないようにするための、
「保管・運搬・
処理」に関する説明資料

審査
審査においては、環境保護法(55/2014/QH13)に規定されている以下の
点が適切に記載されており、また遵守される事が重要である。
A) 危険廃棄物を処理する前の分類、収集及び一時保管について
環境技術規格を満たした分類分別、収集、一時保管を行わなければなら
ない。また一時保管については、人間の健康や環境へ悪影響を及ぼさない
6
よう専用設備に一時保管しなければならないとされている。
B) 危険廃棄物の運搬
危険廃棄物処理資格に記載されている適切な専用設備・人材・手段によ
り運搬しなければならないと規定されている。また、 外国に危険廃棄物
を輸出する場合には、ベトナムが加盟する国際条約に従わなければなら
ないと規定されている。
C) 危険廃棄物の処理
危険廃棄物処理を行う場所は、承認された環境計画報告書に規定された
場所および設備とし、また. 環境と人間に悪影響を及ぼさない距離を確保す
ると規定されている。更に、技術を担保できる証明書を有する管理者およ
び適切な専門技術者を配置する必要がある。
D) 環境保護計画における危険廃棄物管理の内容
以下の内容を記載し、環境面に配慮した事業活動が可能であることを説
明する必要がある。
・危険廃棄物の排出源と排出量の評定と予測
・排出源における収集と分類能力
・再利用、再生利用とエネルギー回収の可能性
・危険廃棄物処理の技術レベル
・事業活動における組織体制や管理責任
・モニタリング活動の方法
・これまでの環境対策による実績
2.5 投資優遇制度
ベトナム政府は、廃棄物処理分野への投資を奨励しており、
「アルミニウムリ
サイクル事業」に関しても、以下の優遇措置を受けることができる。

インフラ整備への支援
当事業を運営する上で必要となる「道路・電気・給水等」を、地域の各イ
ンフラ施設から得易くするための整備に対して支援を行う。

工場用地確保への支援
工業団地以外で当事業を行う場合に、地域の人民委員会が、工場用地に住
居を有する住民の立ち退きについて支援を行う。

資本調達に関する優遇
廃棄物処理施設の建設費用に対して 50%を政府の予算から支援を受ける事
ができる。

法人税に関する優遇
通常は税率が 22%である中、以下の優遇を得られる。
・特定の地域で当事業を行う場合は、課税所得が発生してから最初の 4 年間
7
は免税、次の 9 年間は 5%、その後の事業活動期間中において 10%の税率
が適用される。
・特定の地域外で当事業を行う場合は、課税所得が発生してから最初の 4 年
間は免税、次の 5 年間は 5%、その後の事業活動期間中において 10%の税
率が適用される。

付加価値税に関する優遇
当事業を行う上で必要な技術開発などに使用する設備や機器を調達する際
に、ベトナム国内で製造された製品では仕様に合わず、ベトナム国外から輸
入された製品を購入せざるを得なかった場合には、付加価値税が免税される。

輸入関税に関する優遇
当事業を行う上で必要な設備・機器・原材料等をベトナム国内に輸入する
場合は免税となる。

環境保護手数料に関する優遇
環境保護手数料(6,000,000VND/トン)が免税となる。

運送費用に関する優遇
当事業で扱う廃棄物を廃棄物排出元から廃棄物処理施設まで輸送する際
に発生する費用の 50%を減額して支払うことができる。

電気代に関する優遇
当事業において直接生産に使用される電気代の 50%を減額して支払う事が
できる。
8
3. アルミニウムリサイクルに関する現状
3.1 アルミニウムに関する市場
ベトナムにおけるアルミニウムリサイクルの市場について、下記要領で調査を実
施した。

調査期間:2014 年 11 月~2015 年 3 月

調査地域:北部(Hanoi 市及びその周辺省)
中部(Da Nang 市及びその周辺省)
南部(Ho Chi Minh 市及びその周辺省)

調査対象社数:全 97 社

調査対象業種分類:
-圧延・押出関連メーカー
アルミ板材、アルミサッシ、アルミ缶の製造・加工業
-鋳物・ダイカスト関連メーカー(以下、AC/DC 関連メーカー)
二輪・四輪車及び関連部品メーカー並びに家電部品メーカー等
-二次合金地金メーカー
アルミニウムリサイクルメーカー

調査方法
-圧延・押出関係メーカー
本調査以前の独自調査における資料を基に「「東アジアのアルミ圧延企業
要覧(日本アルミニウム協会)」、国内関連企業へのヒアリング、インター
ネット検索よりリストアップし、現地訪問により各社より直接ヒアリング
調査を行った。
-鋳物・ダイカスト関係メーカー(以下、AC/DC 関係メーカー)
本調査以前の独自調査における資料を基に国内企業へのヒアリング、同
国関連書籍より関連する企業をリストアップし、現地訪問により各社か
らヒアリング調査を行った。
-二次合金地金メーカー
本調査以前の独自調査における資料と関連会社からの情報提供を基に
リストアップし、現地訪問により各社からヒアリング調査を行った。
※重量の単位:MT(メトリックトン)と表示する。
質量の単位として使われている“トン”とは、キログラム(kg)を基準に定義された
メトリックトン(Metric Ton)のことを指す。1MT は 1,000kg に等しいと定義される。
上記の調査要領にて市場調査を実施した結果は下記表に示す。ベトナムにおける
アルミニウムの総需要は月間約 60,000MT であると推測される。
9
【業種別アルミニウム需要】
数量
企業数
圧延・押出関係
50,000 MT/月
26 社
AC/DC関係
10,000 MT/月
57 社
5,700 MT/月
14 社
業種別
二次合金メーカー
(※二次合金地金メーカーは需要に含まず)
【地域別・業種別アルミニウム需要内訳】
北部
中部
南部
数量
企業数
数量
企業数
数量
企業数
34,000 MT/月
7社
2,900 MT/月
2社
13,000 MT/月
17 社
AC/DC関係
8,000 MT/月
21 社
100 MT/月
2社
2,000 MT/月
34 社
小計
42,000 MT/月
28 社
3,000 MT/月
4社
15,000 MT/月
51 社
圧延・押出関係
3.1.1 圧延・押出関係
圧延とは、金属の加工方法の一つ。2 つあるいは複数のロール(ローラー)を回転
させ、その間に金属を通すことによって板・棒・管等の形状に加工する方法である。
材料に大きな力を加えて加工する、塑性加工の一種。同国ではアルミニウム飲料缶
の製造が主である。押出も塑性加工の一種であり、耐圧性の型枠に入れられた素材
に高い圧力を加え、一定断面形状のわずかな隙間から押出すことで求める形状に加
工する方法である。ベトナムにおけるアルミニウム需要が最も多い分野である。
圧延は中国、オーストラリア等からロール状のアルミニウムを輸入。これを社内
で加工し、ベトナム国内飲料メーカーへ販売している。
正確な統計データは存在していないが、アルミニウム缶年間消費量は 50-60 億缶
と見られている。同国にはスチール缶が存在しておらず、飲料缶は全てアルミニウ
ム缶となる。詰め替えができないことからペットボトルと比べて高級品との位置付
けとなっており、圧延業である製缶メーカー各社は、ペットボトル・紙パックから
の切り替えが進むと予測。また、国内のアルコール消費人口の増加に伴い飲料缶消
費量の増大、国外への輸出需要も増えると見込んで設備増強を進めている。
【圧延の模式図】
【アルミニウム缶】
10
押出に関しても原材料となるアルミニウムビレットを中東より輸入しているメー
カーが大半である。一部メーカーでは、溶解炉を保有しており、アルミニウム新塊
と自社発生スクラップを調合・溶解し、ビレットを製造している。現在、マンショ
ンやビルの建設が増加しており、押出製品のメインである窓枠への需要が増えて
くると見込まれる。各社設備増強の準備を進めている状況である。
【アルミニウムビレット】
【押出成形品】
【北部圧延・押出関係メーカー調査先一覧】
会社名
エリア / 合金使用量(MT/月)
A社
DONG AN
B社
PHU THO
小計
1,700
【南部圧延・押出関係メーカー調査先一覧】
会社名
エリア / 合金使用量(MT/月)
C社
HO CHI MINH
D社
HO CHI MINH
E社
DONG NAI
F社
HO CHI MINH
G社
HO CHI MINH
H社
BINH DUONG
I社
HO CHI MINH
J社
BINH DUONG
K社
HO CHI MINH
L社
DONG NAI
小計
3.1.2
17,260
AC/DC 関係
AC/DC 関係とは、二輪車や四輪車の部品、家電・電子機器製品の部品、その他産
業機器部品及びインテリア関連部品の鋳造を行っている企業と定義している。
過去、ベトナム国策により北部首都 Hanoi 近郊に大企業を誘致したため、その大
企業に関連する中小企業も多数追随して進出することとなった。その結果、ベトナ
11
ム国内における AC/DC 関係メーカーのアルミ需要バランスは、北部 7:中部 1:南
部 2 の割合となり偏析が見られる。進出企業の業種も北部に二輪・四輪車関連の大
手メーカー及びその関連メーカーが集中し、南部に家電・電子機器関連の中小企業
が多くなっている。
ベトナムにおける最大需要家は二輪車部品関連メーカーである。年間 300 万台近
くの需要があり、その需要の 90%以上を日系大手バイクメーカー2 社で占めている。
しかし、直近ではベトナム国内における二輪車需要の目安となる「3 人に 1 台」を上
回る、
「2 人に 1 台」に肉薄していることから飽和状態へと移行しており、足下の需
要は年間 270 万台と減少傾向にある。
国内需要が落ち込んで行く一方、今後 TPP や FTA による関税撤廃が実現される
と、各社は輸出拠点へとビジネスモデルの転換をしていく可能性があり、生産台数
の大きな落ち込みはないと考えられる。また、ベトナムにおける中産階級の増加に
伴い四輪車への乗り換えトレンドも進行する考えられるため、ベトナムにおけるア
ルミ需要は堅調に推移し、AC/DC 関係メーカーの仕事量は確保されると推測される。
【アルミニウム DC(ダイカスト)製品例】
【アルミニウム AC(鋳物)製品例】
12
【北部 AC/DC 関係メーカー調査先一覧】
会社名
エリア / 合金使用量(MT/月)
A社
BACH NINH
B社
HANOI
C社
HANOI
D社
HANOI
E社
HANOI
F社
HANOI
G社
VINH PHUC
H社
HANOI
I社
HANOI
J社
HUNG YEN
K社
HANOI
L社
HANOI
M社
HANOI
N社
HAIPHONG
O社
HAIPHONG
P社
VINH PHUC
Q社
VINH PHUC
R社
HANOI
小計
8,140
【中部 AC/DC 関係メーカー調査先一覧】
会社名
エリア / 合金使用量(MT/月)
S社
DANANG
T社
DANANG
小計
50
【南部 AC/DC 関係メーカー調査先一覧】
会社名
エリア / 合金使用量(MT/月)
U社
HO CHI MINH
V社
HO CHI MINH
W社
BINH DUONG
X社
DONG NAI
Y社
BINH DUONG
Z社
BINH DUONG
AA社
DONG NAI
BB社
HO CHI MINH
CC社
DONG NAI
DD社
DONG NAI
EE社
LONG AN
FF社
DONG NAI
GG社
DONG NAI
HH社
DONG NAI
II社
BINH DUONG
JJ社
DONG NAI
KK社
BINH DUONG
LL社
HO CHI MINH
MM社
HO CHI MINH
NN社
DONG NAI
OO社
DONG NAI
PP社
DONG NAI
QQ社
DONG NAI
RR社
DONG NAI
SS社
DONG NAI
TT社
DONG NAI
UU社
DONG NAI
VV社
HO CHI MINH
WW社
HO CHI MINH
XX社
HO CHI MINH
YY社
HO CHI MINH
小計
2,070
13
3.1.3 二次合金地金メーカー
二次合金地金メーカーは、工場発生及び一般消費市中発生のアルミニウムスクラ
ップを直接又は廃棄物処理業者より購入し、それを原料として加工する事により、
アルミニウム二次合金地金を製造している。製造されたアルミニウム二次合金地金
はベトナム国内外の日系や外資系、ローカル系の AC/DC 関係メーカーへと納められ
る。
またベトナムには“リサイクル村”と呼ばれる地域が存在し、村内には各種スク
ラップのリサイクルを行っている家内工業的商店が軒を連ねる。同村ではアルミニ
ウムに限らず、銅や鉄、ペットボトル、ビニール等の収集・リサイクルも行われて
いる。このような家内工業的にアルミニウムリサイクルを行うコミューンの存在を
ベトナム各地で多数確認することができた。コミューンで生産されたアルミニウム
リサイクル品は、最終的には二次合金地金メーカーへ販売されている。
二次合金地金
二次合金地金製造フロー
メーカー
回
収
前
処
理
調
合
溶
解
精
製
鋳
造
出
荷
鋳造
アッセンブリー
メーカー
メーカー
スクラップ
スクラップ
引取業者
【二次合金地金メーカー】
14
市場
スクラップ
3.2 アルミニウムスクラップ事情
ベトナムにおけるアルミニウムスクラップ事情について、下記要領で調査を実施
した。

調査期間:2014 年 11 月~2015 年 3 月

調査地域:北部(Hanoi 市及びその周辺省)
中部(Da Nang 市及びその周辺省)
南部(Ho Chi Minh 市及びその周辺省)

調査対象社数:全 23 社

調査方法
現地協力企業より同国内のアルミニウムスクラップ業者のリストを入手し、
現地訪問によりヒアリング調査を行った。
【廃棄物回収業者調査件数及び割合】
6件26%
2件 9%
北部
15件
65%
中部
南部
3.2.1 廃棄物の収集
ベトナムにおけるアルミニウムスクラップは廃棄物と位置付けられている。アル
ミニウムを含む各種廃棄物の収集方法は、都市部や農村地区と工業団地によって異
なる。廃棄物の回収業者は、国営、民間、個人に分類される。

都市部・農村地区
住民は自宅前にゴミ出しする事が義務付けられている。指定のゴミ箱、も
しくは指定場所へゴミ出しすれば、回収業者が収集し、ゴミ収集車によって
廃棄物処理業者が管理する埋立地又は転送ステーションへと運搬される。

工業団地
工業団地から排出される廃棄物は、普通廃棄物・有害廃棄物・リサイクル
廃棄物の 3 種に分類される。有害廃棄物に関しては、排出者が有害廃棄物の
処理ライセンスを所有する機関から提供される廃棄物処理サービスを利用す
る必要がある。
上記にて回収された廃棄物の多くは、転送ステーションと呼ばれる場所へ運搬さ
15
れ、廃棄物処理業者により段ボール、プラスチック、くず紙、金属屑等に分別され
る。これら分別済みの廃棄物は、個人・法人回収業者や代理店、仲買人を介しリサ
イクル業者へと販売される。
【個人回収業者運搬状況】
【個人回収者】
3.2.2 アルミニウムスクラップの流れ
3.2.2.1 アルミニウムスクラップ回収業者
アルミニウムスクラップ回収業者はベトナム全土に点在している。法人、個人、
家族で営まれているため全体の把握は難しいと判断し、本調査においては 23 社に絞
り込み調査を行った。内訳としては、北部 15 社、中部 2 社、南部 6 社である。
例えば、北部の BAC NINH 省には“リサイクル村”と呼ばれるコミューンが存在
し、そこには各種リサイクル業が集約されており、その殆どが家族単位での経営を
している。同コミューンでの取扱量は多くとも 1 件あたり月間約 20MT 程度だと推
測される。
一方、南部には月間取扱量が数百 MT をも上回る業者が多数存在する事が確認で
きた。
【ベトナム北部地図】
【ベトナム南部地図】
16
3.2.2.2 一般市中アルミスクラップの流通経路
アルミスクラップの回収業者は、独自の回収ルートを持っており、そのルートの
中において集荷・販売を行う。リサイクル村があるように、“解体村”と呼ばれる、
廃棄物解体業者ばかりが集まるコミューンも存在する。ここで解体された二輪車や
四輪車から発生するアルミスクラップが回収業者により回収され、大規模、小規模
のスクラップ収集業者へと販売され、最終的には二次合金地金メーカーへと行き着
く流れとなっている。
3.2.2.3 工場発生アルミスクラップの流通経路
AC/DC 関係メーカーや圧延・押出関係メーカーから発生する製品不良品や端材、
切削粉、ドロス等のアルミニウムスクラップの流通経路や取引形態の調査を行った。

流通経路
・工業団地指定廃棄物回収業者
殆どが工業団地指定廃棄物回収業者により回収されている。回収頻度は
週 1-2 回程で他の廃棄物と共に回収される。回収されたアルミスクラップ
は、仲介業者等を経由して二次合金地金メーカーへ販売される。
・排出企業指定廃棄物回収業者
一部のリサイクルを推進している企業では、工業団地の指定回収業者へ
は販売せずに、直接リサイクル業者へ回収させている。回収させたアル
ミスクラップはリサイクル業者で加工し、素材として排出元企業へと還
元する。
回収業者によっては、品種毎のスクラップ購入単価を提示せず、総重量にて価格
を決定するケースが罷り通っている事が確認できた。
また、環境保護法(55/2014/QH13)に基づく「危険廃棄物リストを公布する環境
資源省決定」
(23/2006/QD-BTNMT)に指定されるアルミニウムドロスに関しては、
その取扱い上の特性から非常に安価、あるいは無償引取の場合が多く、逆有償での
取引も散見された。
ヒアリングによれば、スクラップ販売先の変更や既存回収業者からの切替えには、
既存業者、あるいはその関係者からの妨害行為が発生するおそれもあるとの意見が
多く聞かれた。
17
【スクラップ流通経路】
廃棄物解体業者
廃車・廃棄家電
エンジン・ホイール・機械屑
一般消費者
(一般家庭・レストラン等)
電力会社
製造メーカー
アルミ缶・鍋・釜・フライパン
古電線・不良品・端材
小規模スクラップ収集業者
入札業者
アルミ屑全般
古電線・不良品・端材
大規模スクラップ収集業者
アルミ屑全般
:スクラップの流れ
:資金の流れ
二次合金地金メーカー
3.2.2.4 工場発生アルミニウムスクラップ見込み数量
調査の結果、圧延・押出関係メーカーの大半は原材料となる半製品のアルミニウ
ムコイルやビレットを輸入し、圧延・押出工程などの加工を行うのみであり、自社
で溶解設備を保有していないため、生産工程で発生する端材や不良品等は社内で再
利用ができないのが現状となっている。そのため、発生スクラップはスクラップ収
集業者へ販売する事となる。一部の企業は自社溶解設備を保有しているため、社内
再利用を行っているのでスクラップ排出量は抑えられている。
溶解設備の有無で発生量が異なる事が判明したが、各社とも原料使用量のおよそ
10~18%が端材・不良品として発生している事が推測される。発生見込み数量試算の
前提として、中間値を採用し原料使用量の約 14%が発生量と仮定する。
AC/DC 関係メーカーに関しては、製造部品に応じて社内再溶解比率が異なるが、
本調査でのヒアリング結果から原料使用量の約 14%が発生量と仮定。
本調査の結果、アルミニウム総需要のうち約 14%程度のアルミニウムがスクラッ
プとして発生すると推測される。
上記の条件で試算した場合、アルミニウムスクラップ発生量は下記のようになる
と想定される。
【地域別・業種別アルミニウムスクラップ見込み発生数量】
北部数量
中部数量
南部数量
圧延・押出関係
4,760 MT/月
406 MT/月
1,820 MT/月
AC/DC関係
1,120 MT/月
14 MT/月
280 MT/月
5,880 MT/月
420 MT/月
2,100 MT/月
小計
18
【地域別・業種別アルミニウムスクラップ見込み発生数量】
北部数量
アルミスクラップ
小計
中部数量
南部数量
700 MT/月
300 MT/月
2,000 MT/月
700 MT/月
300 MT/月
2,000 MT/月
【現地協力者からの情報提供】
北部数量
中部数量
南部数量
廃棄物解体業者
1,000 MT/月
- MT/月
- MT/月
一般消費、他
6,000 MT/月
- MT/月
- MT/月
小計
7,000 MT/月
- MT/月
- MT/月
合計
13,580 MT/月
720 MT/月
4,100 MT/月
18,400 MT/月
総計

アルミニウムスクラップの種類と写真
・一般消費者や解体業者から発生するスクラップ
【エンジン】
【機械屑】
【バラのアルミ缶】
【ホイール】
【プレスされたアルミ缶】
19
【フライパンや鍋】
【銅スクラップ】
【アルミ線材】
【被覆線有り電線】
【被覆線無し電線】
被覆線付電線は使い古された電線で、各地区管轄の電力会社から年に数回、入札
が行われる。1 回あたりの入札数量は数百 MT 規模となる。落札業者は、被覆線を剥
ぐ事で品質の格上げを行い、付加価値を付けてアルミ線を他スクラップ業者又は合
金メーカーへ販売している。
20
【押出材スクラップ】
【押出成形品端材】
ベトナムには台湾系押出メーカーの進出が多く、そのほとんどが溶解設備を保有
しておらず、その為発生したスクラップ(不良品、端材及び加工時発生する切削粉)
は販売及び一部加工取引を行っている。なお、加工取引とは材料を支給し、加工費
を支払い再度自社で使用できる状態にして材料が戻ってくるスキームの事である。
3.2.3 危険廃棄物
アルミニウムスクラップのうち、危険廃棄物と指定される主な品種にドロスと油
付切削粉がある。ドロスとは、アルミニウムを溶解する際に発生する溶滓であり、
油付切削粉とはアルミ中間材を切削油を用いて切削加工する際に発生するスクラッ
プの通称である。
これら危険廃棄物は通常のスクラップとは異なる流通経路で取引され、危険廃棄
物取扱いに関するライセンスの所有業者のみが処理する事を許可されている。排出
元企業においても、環境報告書への危険廃棄物発生量や引取先の届出が必要となり、
正式な契約を締結して引取を行わなければならない制度となっている。
ドロスにはアルミ分が残っている。適正な処置でアルミ分を回収することができ
る。アルミ分回収した後のドロスも鉄鋼メーカー向けへ販売することができる。
これにはアルミニウムリサイクル技術が必要となる。同国内では浸透しておらず、
煉瓦やセメントに混ぜ込まれている。更には、埋立て、投棄へとつながっていると
考えられる。
21
日本と比較すると、ベトナム国内ではアルミリサイクルの意識は低く、また環境
面への配慮が非常に薄いと感じられた。今回の調査ではドロスが川端に投棄されて
おり水質汚染が発生している現場を目の当たりにし、またドロスを空き地に投棄す
る現場、黒煙を吐出しながらの操業も確認できた。現在の日本では見られない光景
である。本調査は短期間の内に実施されたが、それでもこのような現場を目の当た
りにしたので、時間を掛けて全国を歩けばこのような汚染現場を見る機会は多々あ
るだろうと推測される。
【空き地へ投棄されたアルミニウムドロス】
【水質汚染状況】
写真下部方向に道路があり、その道路沿いにアルミリサイクル会社が軒を連ねて
いる。これらの会社が自社前にアルミニウムドロスを山積みにしており、ここから
地中を通って水質を汚染していると思われる。
【黒煙を吐出しながらの操業】
22
【個人スクラップ回収者の敷地内】
横たわる木の下は川となっているが、水面を確認することができない。
【工場発生スクラップフロー】
社内再利用
製造メーカー
危険廃棄物
・油付切削粉
通常スクラップ
・不良品
・ドロス
・端材
廃棄物処理業者
スクラップ収集業者
二次合金地金メーカー
:スクラップの流れ
:資金の流れ
23
【アルミニウムドロス】
【油付切削粉】
【油付アルミニウムスクラップ】
福島利武
3.2.4 隣国との経済的結び付き
Ho Chi Minh 市はカンボジアとの国境まで 50km 程、カンボジアの首都であるプ
ノンペンまで 300km 程である。バスも往来していることからアクセスは良い。南部
のスクラップ業者では、カンボジアから安いアルミ缶屑が流入してきている話を聞
くことが多かった。アクセス面、業者の話、そしてカンボジアから流入してきたア
ルミスクラップ現物を見る機会もあったことから南部地域は隣国であるカンボジア
と密接な経済関係を築いているものと思われる。
一方、北部は隣国で有るラオス・中国と経済的な結び付きは、南部と比較すると
薄いと思われるが、一部の業者から中国国境にある Lao Cai 省からアルミスクラッ
プを引取している話を聞くことができた。中国・雲南省等からアルミスクラップが
流入している可能性があるので、現地調査に赴いたがこの事実を確認することは出
来なかった。一方、Hanoi 周辺のスクラップ業者からは中国のバイヤーがアルミス
クラップを購入しに来る話を聞くことができたので、Hanoi 周辺で発生するアルミ
スクラップは中国/ベトナム国境を通じて中国へ輸出されていると推測される。ラオ
スからもアルミスクラップが入ってきている話も聞いたがほんの一部であり、南部
ほど密接につながってはいないものと思われる。
3.2.5 アルミに関する輸出入関税
アルミスクラップ及び二次合金地金に関する輸出入について関係各所よりヒアリ
ングを行った。
24

輸入関税
HSコード
品目
税率
760120
ALUMINIUM ALLOYS
2%
760200
ALUMINIUM WASTE AND SCRAP
0%
280469
SILICON UNDER 99.99%
0%
フレイトコスト差(HCMC 港)は日本の港揚げと比較し$160 程安かった。
HCMC 港揚げ 25MT 積の場合、日本の港揚げと比較し$6/MT コストメリット
がある。ロシア港から北部 HAI PHONG 港まででも日本の港揚げと比較し
$40 程高いだけであり、ほぼ同等価格であった。

輸出関税
HSコード
品目
税率
7601.20
ALUMINIUM ALLOYS
15%
7602.00
ALUMINIUM WASTE AND SCRAP
22%
ベトナムからアルミニウム二次合金地金を国外へ輸出販売する場合、15%
もの輸出関税が課せられる。アルミニウムスクラップにおいては、最大 22%
の関税となる。
3.2.6 アルミニウムスクラップの処理方法
回収業者のアルミスクラップの処理は、手作業によって行われている。調査した
23 社いずれのスクラップ業者においても手選別以外の方法を確認することはでき
なかった。
例えば 6063B と呼ばれるアルミサッシには、アルミ以外の部品(ビス、ゴム)が付
いている。これらを人の手で一つ一つ除去している。他にも袋に入れられた機械屑
もアルミ・鉄・銅などに人海戦術で選別されている。人件費の安さから設備を入れ
てアルミ屑を処理している業者は皆無と考えられる。
25
【サッシに付着している不要品を除去】
3.3 アルミニウムリサイクルの今後の見通し
ベトナムにおけるアルミリサイクル市場の今後の見通しを述べる。
本調査において明らかになった同国のアルミニウム需要は 60,000MT/月であった。
アルミスクラップの発生量は、一部試算ベースとなるが圧延・押出及び AC/DC 関
係メーカーから発生するアルミスクラップは 8,400MT/月と推測すれ、また、一般市
中発生スクラップ等は 10,000MT/月と見込まれる。これらのスクラップのうち
5,700MT/月が二次合金メーカーによりリサイクルされ、アルミニウム需要の一部を
満たしている(5,700MT/月のリサイクル量には二次合金メーカー間の取引量が含ま
れるため、最終的な二次合金生産量は 5,700MT/月より小さい)。スクラップ発生量
18,400MT/月に対するリサイクル量は最大でも 1/3 程度であり、リサイクル余地は大
きい。
日本では圧延・押出関係への二次合金地金の販売は可能であるが、ベトナムにおけ
る圧延・押出メーカーのほとんどは二次合金地金の利用に必要な溶解炉を保有してお
らず、当面販売は難しいと考えられる。また、AC/DC 関係の 10,000MT/月の二次合
金地金需要に対して 5,700MT/月の供給能力があるが、全てを AC/DC 関係で使用し
ているわけではなく、半数近くは二次合金メーカーの原材料として使用されている。
なお、同国 AC/DC 関係で使用されている二次合金地金のほとんどは輸入されている
ことがヒアリング調査で明らかになっており、国内生産地金は国内需要を満たすこと
ができていない。この理由としては、品質・技術面において AC/DC 関係において多
くを占める日系企業が使用できるレベルではないことが考えられる。これらのことか
ら、本事業で検討しているアルミニウムリサイクル事業展開の可能性があると思われ
る。
今後、同国におけるアルミニウムの需要は益々増加することが予想される。AC/DC
関係は大幅に増える見込みではないが、二輪車の需要は概ね例年通りに推移する予想
に対し、四輪車関連需要が増えてくると考えられている。圧延分野のメインであるア
ルミ缶需要は、アルコール摂取人口増加に伴い増加すると見込まれており、各社能力
26
増強を進めている。アルミサッシなどの押出関係については、商業施設やマンショ
ン・ビルの建設が増えていることから確実に需要が増加すると推測される。数値を示
すのは困難だが、1.5~2 倍ぐらいになると予想する。また、アルミニウム製品の生産・
消費が増えることでスクラップの発生量も増加することになる。これに伴いリサイク
ル市場も拡大することになる。リサイクルメーカーにおいては、顧客ニーズに合わせ
たリサイクル技術の確立が必要となる。しかし、現状では品質・技術面において厳し
いと考える。その為、今後増加すると予想されるスクラップ発生量を同国内でリサイ
クルさせることは難しいのではないかと考える。
今は国内消費がメインとなっているが、日本の輸入通関統計データを見るとベトナ
ムからアルミスクラップが輸入されていることがわかる。詳細情報は未調査であるが、
今後はベトナムから日本及び AEAN 近隣諸国への輸出も増えてくることが考えられ
る。
アルミ品質については「アルミならば値段が安ければどのようなものでも受け入れ
可」との意識が全体として見受けられ、品質要求基準が日本と比較して低い。今後、
現地アルミリサイクルメーカーと日系企業との取引が拡大していけば「日系スタンダ
ード」に合わせざるを得なくなり、品質に対する意識、品質管理力は格段に上がって
くるものと思われる。
4. アルミニウムリサイクル事業化の検討
4.1 ビジネスモデル
検討しているビジネスモデルは、ベトナム国内で発生するアルミニウムスクラップ
を集荷・回収し、アルミニウムインゴットを製造・販売することである。原材料と
なるアルミニウムスクラップの購入先(回収先)として 2 つのルートを考えている
1 つは、進出企業(工場)から発生するスクラップを直接回収。もう 1 つは、廃棄物引
取業者からの購入である。
工業団地に入居している部品メーカーは、製造工程において端材や不良品が一定の
割合で発生する。これらのスクラップをメーカー側の発生頻度に合わせて集荷・回収
し、適切な処理を行う。売買形態は、単純な買取りもしくは加工ビジネスを行う。現
地にて適切な価格評価ができるだけでメーカー側にメリットを享受できる。更に加工
ビジネスを行うことでキャッシュフローのメリットも享受できる。
(加工ビジネス:回収したスクラップのアルミ回収率(歩留)を設定し、加工賃のみで
の売買)
一方、既に部品メーカーとの商流が出来上がっている廃棄物引取業者からの購入に
関しては、コストアップ要因となるが同国内で事業を展開する上では必要である。危
険廃棄物取扱いライセンス所有業者に限定し購入すると共に、独自でのライセンス供
27
与が可能となるかを協議・検討していく必要がある。
ベトナムで発生するアルミニウムスクラップを区別すると、①不良品(部品、サッシ)
②使用済みアルミ缶 ③危険廃棄物(油付き削り粉、溶滓:ドロス)となる。
①及び②に関しては、直接又は廃棄物引取業者からの購入が可能である。③に関
してはライセンス保有業者からの購入に限定される。これらスクラップをリサイクル
技術を用いることにより、製造→販売→回収のループを構築しアルミニウムイン
ゴットのリサイクルを行う。
鋳造メーカー
製品・部品
二輪・四輪部品製造
家電製品部品製造
アルミスクラップ
不良品
アッセンブリー
メーカー
二輪・四輪メーカー
家電メーカー
住宅資材メーカー
アルミ缶メーカー
製品
市場
消費者
消費
廃家電
廃棄物
アルミスクラップ
不良品
引取業者
アルミスクラップ、ゴミ、廃棄物etc.
アルミニウム
再生地金
検収・処理・調合・溶解
アルミスクラップ
非鉄金属原料
アルミ
リサイクル
メーカー
アルミリサイクル
フロー
4.2. アルミニウムリサイクル事業の実施可能性
想定しているビジネスモデルは、ベトナムローカルにおいても実施されている。そ
の為、事業展開については問題ないと考える。
現在までの調査において明らかになったこととして、まずは工業団地の選定が必要
とある。これは、その工業団地の事業許可申請の種類に中に「リサイクル事業」が含
まれてるかどうかがポイントとなる。含まれていれば容易に進出が可能となるが、
含まれていない場合、工業団地側が事業許可申請に追加する作業が発生することに
なり、時間的なロスが生じる。
また、環境保護法の改正(2015 年 1 月施行)に伴い、今後行われるガイドラインの変
更により、新たな規制・制限が設けられるのか様子を見る必要がある。また、危険廃
28
棄物取扱いに関するライセンス供与が可能なのかどうか、関係機関への調査と協議を
進める必要がある。
4.3. 環境社会面への影響
4.3.1 環境改善効果等
ベトナム国内におけるアルミニウムリサイクル業者(同業者)のほとんどが石炭を燃
料としている。これはベトナムでは良質かつ安価な石炭が豊富にあるからである。石
炭以外にはリサイクルオイル(廃油、エンジンオイル等)が使用されている。リサイク
ルオイルも潤沢にあるようだが品質が安定しないことと石炭に比べると高価になる。
多くの業者は、集塵設備を備えることなく、黒煙を排出しながら操業をしている現
状である。また、危険廃棄物に分類されている油付きの切削粉、ドロスについても
取扱いは環境的な配慮が不足している。油の付着したものを溶かせば煙が出るが上記
同様煙を吐き出している。ドロスについては、処理技術がないからか産業廃棄物とし
て埋立処分されるものはまだ良いとしても、自社裏の空き地に投棄されている現状で
ある。
検討するビジネスモデルにおいては、日本品質のリサイクル技術及び環境保全設備
も導入される。リサイクル技術の活用で、投棄されたり、埋立処分されているドロス
が価値のある有価物として適正に処理し、アルミインゴット製造の原料へとすること
ができる。また環境保全設備の導入により、アルミスクラップ取扱い時・溶解時に発
生する埃や煙は集塵設備を通過することにより、クリーンな状態として大気へ排出さ
せることができる。
現状の投棄量及び埋立処分されている数量は不明であるが、多くの投棄・埋め立て
処分量を減らすことに寄与できると考えられる。また公害防止設備の導入により、溶
解時に発生する煙を無害化させて大気へ放出することができるので環境保全への対応
が可能である。
4.3.2 環境規制法規の概要とその対応
ベトナムにおいて、アルミニウムリサイクル工場の設置に当っては環境保護法に
基づく環境アセスメントが必要であり、投資許可申請手続きの際に環境悪影響評価報
告書を提出し、環境ライセンスを取得する必要がある。
同国における排水及び排気の基準として、環境保護法(LEP)と環境保護法実施のため
の政令(Government Decree No.175/CP)に基づくベトナム基準(TCVN)として 4 つの基
準がある。
日系企業の活動に大きな影響を与える排水基準に関しては、産業排水基準
(TCVN5945-1995)で規定されており、この基準を満たす必要がある。
排気に関しては、産業からの無機物質及び煤塵等の大気排出基準(TCVN5939-1995)
及び産業からの有機物質の大気排出基準(TCVN5940-1995)によって実施されており、
29
これらの基準を満たす必要がある。
なお、環境保護法の改正(2015 年施行)に伴い、廃棄物関連の法令も改正が予定され
ており基準等についても変更が行われる可能性がある。(「本報告書 2.4 会社設立と投
資ライセンス取得」も参照のこと。)
4.4. 工業団地の立地候補
アルミに関わらずリサイクル事業を展開する上での条件があり、外資企業である場
合は、工業団地内での事業展開が必須となり、必要な許認可については各工業団地管
理委員会の協力が必須となることがわかった。
現地視察で訪問した工業団地は下記の 9 つ。
1. タンロンⅡ工業団地(Thang Long Ⅱ)
2. VSIP バクニン工業団地(VSIP Bach Ninh)
3. ホアラック工業団地(Hoa Lac High Tech Park)
4. ロンソン工業団地(Long Son)
5. ビーパンテクノパーク(Vie Pan Techno Park)
30
6. ニョンチャック工業団地(Nhon Trach)
7. アマタ工業団地(Amata)
8. VSIP(Ⅰ,Ⅱ)工業団地(VSIP Ⅰ,Ⅱ)
9. ロンドゥック工業団地(Long Duc)
この内、3.ホアラック工業団地はリサイクル事業を受け入れることができないと明
言された。5.ビーパンテクノパークはレンタル工場をメインとしており、当社が検討
している敷地面積を準備できない。8.VSIPⅠは完売しているとのことで、その他の工
業団地について調査し、比較検証を行った。
工業団地名
事業資本
開設
立地
開発面積
空き面積
リース価格
(㎡あたり、VATなし)
イ
ン
フ
ラ
関
連
今
後
の
流
れ
電力供給
工業用水
地下排水処理
1. タンロンⅡ工業団地
6. ニョンチャック工業団地
8. VSIPⅡ工業団地
9. ロンドゥック工業団地
住友商事他
TIN NGHIA CORPORATION
シンガポールTEMASEK GROUP SEMBCORP他
LONG DUC INVESTMENT COMPNAY LIMITED
1997年2月
-
1996年
2012年10月
ハノイ中心部から30分
ホーチミン中心部から60分
ホーチミン中心部から80分
ホーチミン中心部から40分
346ha
697ha
345ha
270ha
無
有
有
101ha
USD80~100
USD70
USD55
USD90
EVNから供給
EVN及び工業団地発電所
EVNから供給
EVN及び工業団地発電所
18,000㎥
20,000㎥/日
7,900㎥/日
3,000㎥
8,000㎥
2,000㎥
N/A
-
-
11,000㎥/日
専門スタップによる24時間365日保守管
理及び定期点検による設備維持管理
ベトナム工業団地発のクラウドコン
通信設備
ピューティングサービス
及び高速の光ファイバー回線を敷設
進出可能か?
投資ライセンス取得可能か?
投資ライセンス取得難易度
廃棄物取扱いライセンス
の取得難易度
操業までの流れ
主要都市から経過する省数
日系入居企業
優遇税制
可
可
可
可
普通
普通
普通
普通
高
高
高
高
1.工業団地選定
2.賃借交渉
3.投資許可書申請
4.投資許可書取得、税コード取得、印鑑作成
5.賃貸契約締結(賃料の50%支払)
6.土地譲渡(賃料の残り30-40%を支払)
7.環境報告書作成
8.工場建設許可書申請、建設完了
9.各種サブライセンス取得
10.操業開始
0
1
1
1
45社(すべて日系企業)
14社(日系企業のみ)
27社
18社
法人税2年免税
法人税2年免税
2016年より22%、優遇税制15年間10%
2016年より22%、優遇税制15年間10%
4年間半額減税
4年間半額減税
4年間免税、その後9年間半減税
4年間免税、その後9年間半減税
【工業団地比較一覧】
31
4.5. 現地既存企業の動向
ベトナムでアルミニウムリサイクル(インゴット製造)を行っている企業に関して調査
した。
地域
社名
生 産 能 力 ( M T / 月 )
A社
B社
北部
エリア
C社
9 , 8 5 0
D社
E社
F社
G社
H社
I社
南部
エリア
J社
5 , 3 0 0
K社
L社
M社
N社
北部(Hanoi)地域においては、各社共に増産の計画を持っている。しかし、大規模新
規参入メーカーが台頭してきており、今後の動向に注視する必要がある。南部(Ho Chi
Minh)地域においても各社増産体制を取る準備がある。
一部メーカーにおいては既に設備増強を行っている。今回の調査における同国内ア
ルミニウム合金需要から見ると現在の生産能力は供給過多の状態にある。しかし、
同国内で展開しているローカル及び台湾系同業者は、製造設備・品質力・環境面への
配慮においても日系企業が有する技術には及ばない。また、大手日系・外資系が要求
する品質要求を満足に満たすことができない為、多くの企業は海外からの輸入に頼っ
ていると考えられる。ヒアリング調査の結果、AC/DC 関係のアルミニウム合金需要は
10,000MT/月あるが、その内訳は輸入 90%、国内 10%程度と推測される。
32
5. 事業計画の検討
5.1. 試算の前提
5.1.1. 事業領域と事業規模
ベトナム南部の工業団地に進出している二輪・四輪車メーカー及び部品メーカー
等から発生するアルミニウムスクラップのリサイクル事業の展開を前提とする。概
要は下記の通り。

生産能力:月産 1,000MT のアルミニウム二次合金地金製造

回 収 物 : アルミニウムスクラップ(不良品、切削粉)
危険廃棄物(油付切削粉、ドロス)

回 収 量 : 2,000MT/月

主要設備:溶解炉、集塵機、灰冷却装置、灰絞り機、フォークリフト、
分析装置
5.1.2. 土地使用権、建屋及び主要設備試算
5.1.2.1. 土地使用権
土地使用権対応年数は 50 年となっているが前年年数は入居する工業団地により異
なる。価格は米ドル建てなので、円換算には為替 1 米ドル 120 円と仮定する。
ベトナム南部における主要工業団地の土地使用権価格比較を下表に示す。
工業団地
Nhon Trach Ⅲ
VSIP Ⅱ
Long Duc
地域
単価(USD/㎡)
㎡
計(千USD)
計(千JPY)
Dong Nai
70
7,000
490
58,800
Binh Duong
55
7,000
385
46,200
Dong Nai
90
7,000
630
75,600
本試算においては、今後の採算性を厳格に試算する指標として、最も単価の高い
Long Duc 工業団地の単価を採用する。
5.1.2.2. 建屋建設試算
事業展開するにあたり必要とする建屋は、事務所、倉庫、工場建屋、厚生棟、守
衛棟とする。調査を通し、変電設備、工業排水設備、下水配管は工業団地に付随し
ている事が判明したため、本試算より除外する。
設備名
事務所棟
溶解工場
倉庫
原料ヤード
バイクパーキング
電気室・ポンプ室
計
単価
㎡
(US D)
352
220
220
220
132
2,585
500
2,000
1,500
1,000
450
40
33
計
計
(千US D)
(千J P Y )
176,000
440,000
330,000
220,000
59,400
103,400
21,120
52,800
39,600
26,400
7,128
12,408
159,456
5.1.2.3. 主要設備試算
ベトナム国内二次合金地金需要を鑑み、月産 1,000MT の内訳として、汎用合
金地金と特殊合金地金の生産を前提とする。そのため、10MT 溶解炉については 2
基の据え付けを予定している。その他、品質保証に要する個体発光分光分析装置や
公害防止設備として集塵機 2 基の導入が必要となる。
主要設備一覧及びコスト試算は下表の通り。
設備名
数量
10トン溶解炉
4トン溶解炉(揺動型)
るつぼ溶解炉(800kg)
集塵機(800N㎥/min)
集塵機(600N㎥/min)
灰冷却装置
鋳造設備
灰絞り機
内装工事
フォークリフト(3.5トン)
コンプレッサー
水道設備
石炭気化装置
個体発光分光分析装置
その他
2
1
2
1
1
1
1
1
1
3
1
1
1
1
1
計
計(千JPY)
60,000
27,000
2,500
40,000
30,000
12,000
1,500
9,000
2,000
5,100
3,000
6,156
5,000
15,000
2,000
218,256
5.2. 事業採算性の検討
試算に基づく事業採算性の結果を以下に示す。今般の事業採算性の検討において
は、二つの異なる見解から切り込み、設立から 5 年目までの採算を試算した。一つ
はリサイクル事業における堅実な業績推移を、もう一方は好調な業績推移を想定し
て実現可能性調査を実施した。

売上
ベトナムに進出している日系、外資系及びローカル企業へのアルミニウム
二次合金地金の販売及び加工取引、並びに生産工程での副産物である鉄鋼用
アルミニウム副資材の販売を含めた売上高で試算した。
本事業においては、アルミニウム二次合金地金の単純販売以外に、スクラ
ップ排出企業から発生するアルミニウムスクラップを回収、加工してアルミ
ニウム二次合金地金として返却する加工取引も主たる業務としている。
34

コスト
原料は一部輸入品を除き、ベトナム国内調達を前提とする。国内での原料
調達ルートは排出企業からの直接購入、もしくは廃棄物処理業者からの購入
となり、試算においては危険廃棄物に指定される油付切削粉及びドロスも購
入原料として想定している。
漸次、販売数量が増加する過程において設備増強を実施する事とし、それ
に伴う減価償却費の増加も見込んでいる。

企業所得税
一般企業において企業所得税率は 22%となっているが、弊社のビジネスモ
デルには 2 年間の免税措置、また 2 年経過したのちの 4 年間は税率半減の優
遇措置が適用される。
また、7-2-3. 「優遇制度と優遇税制」の項に記載した通り、2015 年 7 月施
行予定の新投資法での優遇投資分野として「廃棄物の収集及びリサイクル」
が指定される見込みである事から、当面は無税を前提とした。
【堅実な業績推移事業計画】
1ヶ月生産量
製品販売
加工販売
原料販売
製品単価(USD)
加工賃(USD)
製品(USD)
加工(USD)
原料(USD)
売上高合計(USD)
材料費(USD)
製造費(USD)
売上総利益(USD)
運送費(USD)
一般管理費(USD)
営業利益(USD)
営業外費用(USD)
支払利息(USD)
経常利益(USD)
特別利益(USD)
税引前純利益(USD)
法人税、住民税、事業税
純利益(USD)
第1期
150
第2期
500
第3期
700
第4期
1,000
第5期
1,000
130
450
600
900
850
20
50
100
100
150
12
40
56
80
80
2,230
2,230
2,230
2,230
2,230
590
590
590
590
590
289,900 1,003,500 1,338,000 2,007,000 1,895,500
11,800
29,500
59,000
59,000
88,500
1,200
4,000
5,600
8,000
8,000
302,900 1,037,000 1,402,600 2,074,000 1,992,000
304,500
910,650 1,158,300 1,752,300 1,663,200
40,051
96,506
125,108
167,675
167,675
-41,651
29,844
119,192
154,025
161,125
4,873
24,366
34,113
48,733
48,733
25,316
31,645
63,290
63,290
63,290
-71,840
-26,167
21,789
42,002
49,102
0
0
0
0
0
2,447
12,237
16,929
24,815
24,815
-74,287
-38,404
4,860
17,187
24,287
0
0
0
0
0
-74,287
-38,404
4,860
17,187
24,287
0
0
0
0
0
-74,287
35
-38,404
4,860
17,187
24,287
【好調な業績推移事業計画】
第1期
150
第2期
500
売上高合計(USD)
材料費(USD)
製造費(USD)
売上総利益(USD)
運送費(USD)
一般管理費(USD)
営業利益(USD)
営業外費用(USD)
支払利息(USD)
経常利益(USD)
特別利益(USD)
税引前純利益(USD)
法人税、住民税、事業税
75
75
12
2,230
590
167,250
44,250
1,200
212,700
152,250
40,051
20,399
4,873
25,316
-9,790
0
2,447
-12,237
0
-12,237
0
350
500
750
700
150
200
250
300
40
56
80
80
2,230
2,230
2,230
2,230
590
590
590
590
780,500 1,115,000 1,672,500 1,561,000
88,500
118,000
147,500
177,000
4,000
5,600
8,000
8,000
873,000 1,238,600 1,828,000 1,746,000
700,500
990,000 1,485,000 1,386,000
96,506
125,108
167,675
167,675
75,994
123,492
175,325
192,325
24,366
34,113
48,733
48,733
31,645
63,290
63,290
63,290
19,983
26,089
63,302
80,302
0
0
0
0
12,237
16,929
24,815
24,815
7,746
9,160
38,487
55,487
0
0
0
0
7,746
9,160
38,487
55,487
0
0
0
0
純利益(USD)
-12,237
1ヶ月生産量
製品販売
加工販売
原料販売
製品単価(USD)
加工賃(USD)
製品(USD)
加工(USD)
原料(USD)
7,746
第3期
700
9,160
第4期
1,000
38,487
第5期
1,000
55,487
5.3. 日本への裨益
ベトナム国内においてアルミニウムリサイクルビジネスを展開することにより、
同国に進出している日系企業に対し高品位且つ安価なアルミニウム二次合金地金を
供給することが可能となり、既存進出企業の原価低減や品質問題の防止に繋がる事
が想定される。現状、輸入アルミニウム二次地金に頼っている既存企業に対し、同
国で日本基準の品質を備えた地金の調達が可能となる。且ついつでも指定納期に対
応することで在庫量の低減につながり、総合的に見て安価なアルミニウム二次合金
地金を供給することができると考える。また、アルミニウムリサイクルビジネスの
展開によって、同国におけるアルミニウム二次合金地金の供給ソースが確立され、
鋳造メーカーの更なるベトナム進出を後押しする事となると予想される。リサイク
ルビジネスの潜在的顧客の現地での事業活動の果実は、結果的に日本親会社への配
当、ロイヤルティ等として資金還流され、日本における研究開発費、設備投資や株
主への配当に活用されると考えられる。これらが、新たな消費や投資を誘発し、最
終的には日本国内経済にプラスの効果を及ぼすと想定される。
36
また、ベトナムで生産したアルミニウム二次合金地金を日本の顧客へ輸出販売す
ることも可能となる。
上記内容により、検討しているビジネスモデルにおける予想売上高は、初期投資
が足枷となる初年度を除き、順調に推移すると考えられる。
【堅実な業績推移事業計画】
月 間 利 益 予 測 (円 )
為替:1USD = \120.00
1年目
2年目
3年目
4年目
5年目
-8,914,440 -4,608,480
583,200 2,062,440 2,914,440
【好調な業績推移事業計画】
月 間 利 益 予 測 (円 )
為替:1USD = \120.00
1年目
2年目
3年目
4年目
5年目
-1,468,440
929,520 1,099,200 4,618,440 6,658,440
6. 今後の課題、方向性
6.1. 今後の課題
6.1.1. アルミニウムスクラップ集荷ルートの構築
前述のように、工業団地入居企業から発生するアルミニウムスクラップを一定量
集荷することができれば十分に採算性が認められ、更に、環境問題やリサイクルに
関する関心が高まっている昨今、リサイクル事業へのニーズは今後ますます高まる
ことが期待される。
しかし、同国でのビジネス展開においては政府関係者の恣意的な意向が強く反映
される傾向が一部で見受けられ、廃棄物収集・処理やリサイクル事業においても同
様の事が言えると思われる。その為、集荷ルート構築の際、既存商流に入り込む事
を試みると何らかの制約が発生することが想定されるので、政府関係筋とのパイプ
を持ち法令の運用把握等、注意深く情報収集することが必要である。
6.1.2. 危険廃棄物取扱いに関するライセンス
今回検討したビジネスモデルで使用する主原料の内、切削粉及びドロスが危険廃
棄物に指定されている。
これらを取り扱うためには、ベトナムにおける危険廃棄物ライセンスの取得が必須
となっておるが、環境法の改訂に伴いライセンス新規発行について不透明な状況と
なっている。
何れにせよ、当該事業を同国で展開する上で法定必須ライセンスとなる為、早急
に取得可否の確認が必要である。
37
6.2. 今後の方向性
ベトナムでの事業展開には、先ず、集荷ルート構築による安定したアルミニウム
スクラップのボリューム確保、そして、危険物取扱に関するライセンスの取得条件
を明確にする必要がある。これらの前提条件がクリアされた段階で、現地法人の設
立に着手することができる。
調査を通し、事業実施体制は独資、合弁いずれの形態でも進出可能である事が判
明しているが、今後の課題で挙げた諸般の事情から、現地事情に精通したパートナ
ーと合弁での進出を前提とする。
なお、今後の操業開始までのスケジュールは下記表の通り。
検討事項
実施内容
初年度 2014年 ・現地市場調査
事業展開可能性調査
・現地法体系調査
・事業展開の検討
2年目
2015年 ・進出工業団地決定
・原料となるアルミスクラップの
回収先、回収ルート開拓
回収スキーム調査
・危険廃棄物取扱ライセンス
関係省庁と協議、方向性の決定
取得可否
・事業計画の策定
3年目
現地法人設立手続き
2016年 ・投資ライセンス取得
現地工場建設
・リサイクル事業の許認可
回収ルートの確立
販売先の確立、販売先からの回収模索
4年目
2017年 ・製品の販売
現地工場の本格稼働
・加工ビジネスの展開
回収ルート拡大
販売先の拡大、販売先からの回収
5年目
2018年 ・輸出ライセンス手続き
輸出販売先の模索
近隣諸国からのスクラップ回収模索
7. ベトナム基礎情報
7.1. ベトナム労務調査
7.1.1. 人材採用
2001 年 11 月 2 日以前は、1999 年 7 月 1 日付の政令 46/1999/ND-CP に基づく規
定により、自社の裁量による自由な採用がすぐにはできず、はじめに公的な人材紹
介機関に依頼し、依頼後 15 日以内に満足できる人材の紹介かを受けられない場合に
なってはじめて、自主的な求人を行うことが可能となる制度であった。しかし、そ
の制度も 2001 年 11 月 2 日に廃止となり、現在でははじめから、新聞・ラジオ・イ
38
ンターネットなどを活用して自社独自での採用、または外部の人材紹介会社を活用
した採用をする事が可能となっている。
7.1.2. 就業規則及び雇用契約
雇用契約は、労働者を雇用する事業所すべてに義務付けてられている。また、就
業規則は、10 人以上の労働者を雇用する場合に義務付けられており、ベトナム語若
しくは英語で記載されていなければならない。日本企業では、双方とも労働者への
説明用に日本語で作成されることもあるが、その際はどの文章が主たる契約、規程
であるか明確にしておく必要がある。
7.1.2.1. 就業規則の内容
ベトナムでは就業規則に法的な効力を持たすうえで、労働組合執行委員会からの
意見聴取があるほか、省または直轄市の労働傷病兵社会問題局に登録をしなければ
ならない。内容については、
「労働時間、休憩時間、社内秩序・職場の労働安全と
衛生、社内資産、技術、事業機密の保全、就業規則違反に対する罰則や物的損害に
対する措置」を記載する必要がある。省または直轄市の労働傷病兵社会問題局から
の不備の通知がない場合、登録日から有効となる。内容の修正を求められる場合も
あるため、労働者と雇用契約をする前に行い、労働者・従業員を雇用する際は、労
働条件など就業規則をベースとした雇用契約書を締結する。
7.1.2.2. 雇用契約の内容
雇用契約書の内容については、一般的に「雇用期間・試用期間・従事する業務内
容・就業場所・労働時間(休憩時間)・賃金・賃金支払い方法・残業、休日出勤・賞
与・退職金・昇格・昇給・社会保険・安全、衛生」に関する事項を定める。
これらの中から、ポイントとなる事項について以下に記載する。
7.1.2.3. 雇用期間
ベトナムでは、3 種類の雇用期間の形態「①12 か月以内の契約(季節労働または
特定業務に係る期限の定めのある契約)②12 か月以上 36 カ月以内の契約(期限の定
めある契約)③期限の定めのない契約」がある。また①②は、更新は 1 度のみ結ぶ
ことができる。契約期間が終了した後も労働者が継続雇用を希望するときには、
契約終了の日から 30 日以内に新しい雇用契約を締結しなければならない。なお、新
たな雇用契約を締結しない場合、既に締結していた期限の定めのある雇用契約は、
「③期限の定めのない雇用契約」となるため注意が必要である。
また、雇用期間中の解雇については非常に困難を伴う。法律では、3 回警告をして
も改善が見られない場合には、解雇が可能とされているが、訴訟になる場合もある
ため、警告の際には、その警告書に関してしっかりと説明を行い、必ず労働者のサ
インを取得しておく等の対応をとる必要がある。
7.1.2.4. 試用期間
雇用契約の締結にあたっては、雇用者と労働者の合意により、試用期間を定める
39
事ができる。試用期間は、高度な技術を持つ労働者(短期大学卒業以上の学歴レベ
ル)は最長 60 日間、技能を持つ労働者(専門学校卒業レベル)は最長 30 日間、
その他の労働者については最長 6 日間まで定めることがでる。試用期間内であれば、
雇用契約について雇用者あるいは労働者どちらか一方の通知により契約書の取消が
可能となっている。尚、試用期間中の賃金は、正規雇用時の賃金の 70%以上である
必要がある。
7.1.2.5. 労働時間、休憩時間、残業時間、休日
労働時間は、1 日 10 時間・1 週間 48 時間となっている。旧労働法では、1 日 8 時
間を超過すると残業時間となっていたが、現行法の第 104 条 2 項では、1 日 10 時間
までを通常の勤務として規定する事が可能となっている。但し、1 週間の上限勤務時
間数は旧法と同様に 48 時間となっている。なお、従事する業務が、労働・傷病兵・
社会問題省および保健省が定めた有害・危険作業リストに該当する場合には、1 日の
労働時間につき 6 時間とする必要がある。
休憩時間は、8 時間以上連続で勤務した場合、勤務時間内に少なくとも各 15 分の
休憩を設ける必要がある(夜勤の場合は少なくとも合計 45 分)
。なお、通常の職場
で「4 時間勤務+食事休憩+4 時間勤務」といった場合には、8 時間連続での勤務と
は見なされない。また有害・危険作業リストの場合も 1 日の勤務時間は 6 時間であ
るが、途中で休憩を置けば 6 時間連続勤務とはならない。これらについて、誤った
解釈に基づく指導を、行政担当者が企業に対して行っている事例が、特に地方の工
業団地では散見されるため注意が必要である。休日は週 1 日以上の休日を設ける必
要がある。
7.1.2.6. 賃金
最低賃金は、2015 年 1 月から企業法の下で設立された企業・ベトナムにおける外
資系企業・協同組合・農場・個人事業者等に対して新たに施行された。なお、労働
者が属する組織の所在地域により 4 つに分かれている。なお、各地域について旧法
と現行法下での最低賃金対比も記載する。

第 1 地域
Hanoi 市、Ho Chi Minh 市および Haiphong、Dong Nai、Binh Duong、Ba Ria、
Vung Tau の都市区画
「月額 270 万ドン(約 130 ドル)⇒月額 310 万ドン(約 150 ドル)」(14.8%増)

第 2 地域
Hanoi 市、Ho Chi Minh 市の農村部および Haiphong、
Quang Ninh、
Vung Tau、
Binh Duong 省等周辺各省の一部の地区
「月額 240 万ドン(約 115 ドル)⇒月額 275 万ドン(約 130 ドル)」(上昇率 14.6%)

第 3 地域
Vinh Phuc、Quang Ninh、Khanh Hoa、Ninh Thuan 省等の一部の地区
40
「月額 210 万ドン(約 100 ドル)⇒月額 240 万ドン(約 115 ドル)」(上昇率 14.3%)

第 4 地域
上記以外の地域
「月額 190 万ドン(約 90 ドル)⇒月額 215 万ドン(約 100 ドル)」(13.2%)
しかし、現地日系人材紹介会社によると、第 1 地域で事業活動を行う日系企業に
おける実勢賃金については、月額基本給 320 万ドン(約 153 ドル)~400 万ドン(約
190 ドル)となっている。更に企業ごとに支給する項目数に差はあるが、
「職能手当・
生活手当・年次手当・技能手当・住宅手当・猛暑手当・皆勤手当・納期遵守手当・
生活支援手当・精勤手当・報償手当・通勤手当・シフト交代手当・月次評価・特別
手当・子供手当」等の手当てを支給している。某省の日系企業連絡会からのデータ
によると、2014 年 6 月現在の月額手当総額は 40 万ドン(約 20 ドル)~105 万ドン
(約 50 ドル)、またそれらの平均は約 65 万ドン(約 30 ドル)となっており、最低賃
金より大幅に支払給与が多い状況となっている。
7.1.2.7. 残業と残業手当
残業時間の上限については、1 日の通常の勤務時間の 50%を超えない範囲とする。
残業時間を含めて 1 日 10 時間を越えて勤務する者には、合計 30 分の休憩を取得さ
せる必要がある。よって、8 時間勤務とする場合には、被雇用者を残業させる場合も、
2 時間以内とする事が望ましい。仮に 2 時間を超える残業が予想される場合には、ま
ず 30 分間の休憩を与え、その後に残業をさせる形が好ましい。
なお、残業手当の算出方法は下記表の通りとなる。
通常勤務日
週休日
祝日・有給休暇
規定時間内の労働
A×100%=A
A×200%
A×300%
規定時間を越えた労働
A×150%
A×200%
A×300%
深夜労働
A+(A×30%)
(A×200%)+(A×30%)+(A×200%×20%)
(A×300%)+(A×30%)+(A×300%×20%)
規定時間を越えた労働で
且つ深夜労働
(A×150%)+(A×30%)+(A×20%)
(A×200%)+(A×30%)+(A×200%×20%)
(A×300%)+(A×30%)+(A×300%×20%)
また、ベトナム人労働者の出張時の残業手当支給については、ベトナムは日本の
ように労働関連法規に見なしの労働時間の規定がないため、雇用者は出張時の時間
外勤務についても残業手当を支払う義務がある。
なお、一日あたりの出張手当額は一般的に、国内出張の場合は 10 万ドン(約 4 ド
ル)~30 万ドン(約 12 ドル)
、国外出張の場合は、20 ドル~30 ドルとなっている。
更に、ベトナム人管理職の時間外勤務についてであるが、多くの外資企業において、
管理職に対しては役職手当を支給することで残業手当を支給していないが、管理職
を時間外勤務手当の支給対象から外す労働関連法規がベトナムには存在しない。
41
よって、本来であれば支給すべきであるが、この件はベトナム人も理解しており、
問題となったケースは現時点では見受けられない。なお、管理職への残業手当の廃
止に関して、就業規則・雇用契約書・労働協約への記載をした場合は労働法違反と
なるため注意が必要である。そもそも就業規則の場合、労働局が登録を認めない。
また、雇用契約書や労働協約に記載した場合、該当部分が無効となる。
7.1.2.8. 社会保険、健康保険、失業保険
社会保険、健康保険、失業保険の保険料は基本給を基準として、一定の料率を掛
ける事で算出する。なお、手当についてはどのような名称の手当であったとして保
険料の計算対象とならない。各保険の内容については下記表の通り。
加入対象者
給付概要
社会保険
3ヶ月以上の雇用契約または無期雇用契約のあるベトナム人
【傷病給付】
疾病、療養により勤務できない期間に対して、基準給与の75%を支給
【出産給付】
・出産の際に、基準賃金の1か月分を支給
・産後の休暇期間中(6ヶ月)に基準給与の100%を支給
【労災補償】
・治癒後、労働能力の喪失度合に応じて、最低賃金を基準とした一時
金または月払いの給付金を支給
・労働能力の喪失度合いが81%以上の場合は、追加で給付金を支給
※企業は、治療中の賃金、医療費の全額負担の義務がある
【退職給付・年金】
・原則として保険金の納付期間が20年以上ある場合は、男性は60歳、
女性は55歳から年金の支給を開始
【葬祭手当】
労働者、年金受給者が死亡した場合、葬祭を行う者に対して葬祭手当
を支給
健康保険
3ヶ月以上の雇用契約または無期雇用契約のあるベトナム人
(ホーチミン市では外国人にも適用)
【医療給付】
・登録先の病院であれば、治療の程度にもよるが、基本的には無料で
受診できる。
登録外の病院で受診する場合は、登録病院からの証明書が必要。
ない場合は全額負担となる。
失業保険
10人以上の労働者を雇用している企業で、12ヶ月以上の雇用契 ・失業以前24ヶ月の間に、保険料納付期間が12ヶ月以上ある場合、平
約または無期雇用契約のあるベトナム人
均給与の60%を支給
負担割合
企業 労働者
17%
8%
3%
1.5%
1%
1%
【失業給付】
・給付日数は失業理由等に応じて3~12か月
7.1.3. 労働者の登録
ベトナム人を雇用後、企業は採用したベトナム人労働者リストを地方労働当局に
提出し、登録する必要がある。また、定期的にそのリストを更新し報告する事が求
められる。
また、外国人がベトナムで就労する場合には「労働許可証」の取得が必要となる。
企業は、ベトナム人労働者が企業側の要求する基準に応えることのできない、以下
の職位に属する業務でのみ外国人を雇用することができる。なお、年齢の制限は設
けられていない。
42

Managers / Executive Directors(管理職/経営陣)

Experts(専門家)

Technical Laborers(技術者)
労働許可書の申請に必要な書類について、上記 3 つの職位毎にその経歴や学歴を
証明する資料が異なる。また地域によっては追加の書類かを要求される場合もある
ので、注意が必要である。また、企業は外国人を採用する予定日の遅くとも 30 日前
までに、労働許可書の取得の申請書類、外国労働者の使用需要についての報告書(職
務位置、人数、専門レベル、経験、給与レベル、勤務期間を含む)を提出する必要が
ある。提出先は市・省の労働傷病兵社会事業局となる。工業団地進出企業の場合、
一般的には工業団地管理委員会の管轄だが、労働傷病兵社会事業局管轄となる地域
もあるため確認が必要である。提出後 15 日以内に、同局から承認するか否かを回答
が出される。
7.1.3.1. Managers / Executive Directors(管理職/経営陣)
Managers / Executive Directors(管理職/経営陣)の労働許可書申請に必要な書
類を下記に示す。

雇用契約書、任命状(管理職として在職したことを証明するもの)、勤務経歴の
証明書(同左) の何れか一つ

市・省レベルの人民委員会の委員長が承認した外国人の雇用需要に関する文書

申請書

投資証明書等の公証写し

健康診断書

無犯罪証明書

パスポートの公証写し

写真
7.1.3.2. Experts(専門家)
Experts(専門家)の労働許可書申請に必要な書類を下記に示す。

大学以上の学歴の証明書および当該分野での 5 年以上の勤務経歴の証明書

国外の企業等による専門家であることを証明する文書
上記二つの何れか一つが必要で、その他必要書類は 2-1-3-1.の第 2 項以下と同等。
7.1.3.3. Technical Laborers(技術者)
Technical Laborers(技術者)の労働許可書申請に必要な書類を下記に示す。

管轄機関あるいは国外の企業が、当該分野で 1 年以上のトレーニングを行った
事を証明する文書

当該分野で 3 年以上の勤務経歴の証明書
その他必要書類は 2-1-3-1.の第 2 項以下と同様。なお、技術者とはスキルを持った
人材の意味で、事務系の職種も含まれている。例えば会計業務に通じた者なども該
43
当する。
7.1.3.4. その他
補足として、無犯罪証明書の取得に必要な手続きは以下となる。
【過去にベトナムに居住していた者の場合】

国家司法履歴センターの発行する司法履歴書(ベトナムにおける無罪犯罪証
明書)
、居住している地域の管轄機関が発行する無犯罪証明書が必要。
【現在ベトナムに居住している場合】

市・省の司法局の発行する司法履歴書、および外国人が居住していた地域の
責任機関の発行する無犯罪証明書が必要。
【ベトナムに居住したことがない者の場合】

居住している地域の管轄機関が発行する無犯罪証明書。
上記に記載した、“過去にベトナムに居住していた者”の定義は不明確であるが、
従来の司法履歴の取得の必要性から推測すると、ベトナムに 6 カ月以上居住してい
た者(連続的に合計 6 カ月以上のビザ発給を受けていた者)と考えられる。
また、国家司法履歴センターは Hanoi 市にあるが、委任状を用いて取得手続きを
第三者に委任することも可能である。申請に必要な書類を下記に記載する。

申請書

パスポートの写し(公証版)

居住証明書(公証版)
なお、司法履歴書の提出日から取得までの期間は約 15 日程度である。
7.1.4. 労働組合と集団労働協約
7.1.4.1. 労働組合
ベトナムは社会主義国であり労働者主導の国であるため、事業所内の労働組合と
いえども、ベトナム労働総連盟の傘下となる公的な組織である。
職場に労働組合を設立する事は雇用者の責任ではなく、労働者が地域を管轄する
労働団体の指導に基づき設立されるものである。労働組合の設立時期については、
旧労働法では雇用者の営業開始日から 6 カ月以内と規定されていたが、現行法では
具体的な期限については記載がなくなっている。これは期限を設けることが非現実
的とされたのだと考えられる。現行法にある組合の非専従幹部とは、職場の労働組
合の幹部のことで、専従の幹部とは地域を管轄する上部の労働団体の者を指す。
また、雇用者による労働組合への妨害、干渉等についての罰則は、組合に社内の
施設・設備を利用させなかった場合には、100 万ドン~ 300 万ドン、組合の被専従
幹部の勤務時間内での活動を認めない、その活動時間分の給与の不払い、組合員へ
の待遇上の差別、上部労働団体幹部の職場での活動を認めなかったなどの場合には、
500 万ドン~1,000 万ドン、組合の設立・加入・活動への妨害、組合の設立・加入・
退会の強制、被専従幹部の任期中にもかからず雇用契約を延長しなかったなどの場
44
合には 1,000 万ドン~ 1,500 万ドンとなっている。
更に、雇用者が組合の非専従幹部である被雇用者を、解雇、一方的な雇用契約の
解除、異動する場合には、組合の執行委員会、あるいは上部の労働団体の執行委員
会の文書での同意が必要となる。またこれに加えて退職の強要も禁止事項となって
いる。組合の非専従幹部である雇用者に対しては、雇用契約の終了後も組合での役
職の任期が終わるまで雇用契約を延長する規定があるため注意が必要である。なお、
組合の非専従幹部の任期に関して、職場の労働組合の大会は 5 年に1回ないし 2 回
開催される事になっており、これに従うものとなると考えられる。
その他に、勤務時間内の組合活動について、旧労働法では対象者について限定が
なく、少なくとも月に 3 日以上は給与が保障された上で行う事ができるとなってい
たが、新労働法では時間数の制限についての記載がない。しかし、新労働組合法に
おいて、非専従である組合の役職者に対象が限定され、委員長、副委員長で月 24 時
間、他は月 12 時間となっている。
尚、労働組合についての法的記載を下記表にまとめる。
旧労働法
新労働法
・労働協約、賃金テーブル、ノルマ、賃金の支払い規定、褒
賞規定、就業規則などの交渉、締結
新労働法
・その履行の監視
188条 第1項
・労働争議の解決への参加、支援
・記載なし
・旧労働組合法には同主旨の記載あり
果たす役割
・雇用者は、被雇用者の権利、義務等の規定公布前に職場の 新労働法
労働組合の執行委員会の意見をヒヤリングする必要がある
192条 第5項
雇 用 者 に よ る ヒ ヤ リ ン グ ・記載なし
雇用者に禁止される行為
備考
(参照法令)
・組合の設立、加入、活動への妨害、組合の設立、加入、活
・組合の設立、加入、活動への妨害、賃金、労働時間等での
新労働法
動への強制、被雇用者の組合への不参加、退会の強要、賃
組合員への差別
190条
金、労働時間などでの組合員への差別
上 部 団 体 に よ る 宣 伝 活 動 ・記載なし
・雇用者は、上部団体が職場での組合の設立、加入の宣伝活 新労働法
動、専従幹部の配置に関して、協力、有利な条件を与える
192条 第2項
非 専 従 幹 部 と の 雇 用 契 約 ・記載なし
・雇用者は、非専従幹部との雇用契約が、組合での任期中に
新労働法
終了した場合、任期の終了時まで雇用契約を延長する義務が
192条 第6項
ある
組合幹部の解雇等
・雇用者が、組合の執行委員である被雇用者を解雇、雇用契
約の一方的な終了を行う場合、執行委員会の同意が必要
・その者が執行委員長である場合、上部の労働団体の同意が
必要
・雇用者が、組合の非専従幹部である被雇用者を解雇、雇用
契約の一方的な終了、移動を行う場合、執行委員会あるいは 新労働法
上部の労働団体の執行委員会と文章で合意する必要がある
192条 第7項
(執行委員長の場合に関する記述がない)
就業時間内の組合活動
・非専従である組合幹部は、勤務時間内に通常の賃金を得つ
・組合活動を行う被雇用者は、勤務時間内に通常の賃金を得 つ、組合活動が可能
つつ、組合活動が可能。
(その時間数については、労働法上の記述はないが、労働組
・その時間数については、月に3営業日以上とする。
合法では組合の委員長・副委員長は月24時間、執行委員会の
委員・リーダー・サブリーダーは月12時間)
新労働法
193条 第2項
新労働組合法
第24条 第2項
組合の設立時期
・新規設立企業は営業開始日から6か月以内
旧労働法
153条 第1項
・記載なし
7.1.4.2. 集団労働協約
集団労働協約とは雇用者と職場の労働組合が団体交渉を行って合意した労働条件
についての合意書となる。よって、職場に労働組合がある雇用者にのみ、集団労働
協約の作成義務が発生する。集団労働協約は就業規則とは異なり、省または直轄市
の労働傷病兵社会問題局へ送付するだけでよい。有効期間は、1~3 年である。ただ
し、初めて締結する場合には、特例で 1 年未満の期間も認められている。多くの企
業の方が就業規則と関連で混乱されるが、就業規則が優先される。
また、双方の違いは下記表の通りとなる。
45
就業規則
対象
10人以上を雇用する雇用者
締結者
法人の法的代表者
提 出 方 法 省・直轄市の管轄機関に登録
提 出 の 期 限 公布日より10日以内
審 査 機 関 提出日より7日以内
発行日
当局の受理日から15日
有 効 期 間 無期限
・勤務時間、休憩時間
・職場での秩序
・職場での労働安全、労働衛生
・雇用者の資産、経営、技術上の
記載内容
機密、知的所有権の保護
・被雇用者による労働規律違反、
労働規律処分の形態、物的な賠償
責任
集団労働協約
職場に労働組合がある雇用者
雇用者と職場の労働組合の代表者
省・直轄市の管轄機関に送付
締結日より10日以内
規定なし
締結日より10日以内
通常は1~3年
・勤務時間、休憩時間
・職業および職業の保証
・給与、手当、賞与
・労働基準量
・労働安全、労働衛生
・社会保障
・その他で労使が合意した条件な
ど
7.1.4.3. 集団労働協約違反に対する罰則規定
集団労働協約に関する雇用者に対する罰則は、以下の通り規定されている。
【警告あるいは 50 万ドン~100 万ドンの罰金】

集団労働協約を管轄当局に送付しない。

同協約の協議、締結、修正、補則、送付する費用を支払わない。

締結した同協約を公布しない。
【300 万ドン~500 万ドンの罰金】

労働組合が集団討議を要求する際に、生産、経営活動に関する情報提供を行
わない。

同協約の締結、修正、補則のための協議に要求しても応じない。
【1,000 万ドン~1,500 万ドンの罰金】

無効を宣言された同協約を実施する。
7.1.4.4. 組合費の負担
雇用を行う全ての企業・機関・組織等は組合費を負担する義務がある。負担する
額は、雇用主(機関、組織、企業)が労働者へ支払う給与から社会保険料を差し引
いた賃金基本額の 2%と規定されている。それを以下の要領で四半期毎に納付する。

事業所内に既に労働組合が設立されている場合には、労働組合に 65%、上部
の労働団体に 35%を納付する。

労働組合が事業所内にまだ設立されていない場合には、上部の労働団体に全
額を納付する。
雇用者が、労働団体に未納、納付が遅延した場合の罰則は、労働総連盟の決定に
より、
「企業、組織が組合費を、上部の労働団体に対して期限通り十分の納付しない
場合“競争”の称号 に関する顕彰の対象にならない」と規定されている。
“競争”
とは、国営企業や国家機関などでは“競争運動”が展開されており、そこでの成果
46
や貢献に応じて顕彰される制度があり、その対象から外されるというのが罰則に規
程されている。よって、外資企業にとっては影響のないものである。Ho Chi Minh
市のように、区レベルの労働団体が納付規定を細かく公表している事例もあるが、
詳細が不明の地域も多いので、実際に上部の労働団体からそのような通知が来てか
ら対応すれば良いと考える。これら組合費に関するトラブルについてであるが、事
業所内に労働組合がある雇用者に対しても上部の労働団体が雇用者に対し、組合費
全額納付を要求する事例が発生している地域がある。このような場合には、事業所
内の労働組合と連携し、労働団体に対して、どのような規定に基づいてこのような
要求を行っているのか、公文書で回答を依頼する等の対応を行うべきである。
7.1.4.5. 労働法違反により生じるリスク
昨今のベトナムは当局による調査が厳しくなってきている。それにより、税務局・
税関・労働局などのベトナム行政当局による日系企業への立ち入り調査が工業団地
を中心として増加している。また、それにより違反内容に基づき、多額の罰金を科
せられ企業も少なくない。
労働法に関する罰金額の最高は、不法就労の外国人の雇用者に対する 750 万ドン
(約 3,500 ドル)等であるが、給与・労働時間・残業時間および外国人の不法就労
の場合には、当局の判断により企業は 1~3 カ月の操業停止を科される恐れもある。
7.2. ベトナム税制調査
7.2.1. 概況
ベトナムへの投資の最盛期は 2007 年~2008 年頃。国民の平均年齢が 30 歳前半と
若く、経済は加工貿易中心からサービス産業内需目的へ変化しつつある。実質GD
P成長率は足下 5.4%となっている。
直近では、2015 年 7 月 1 日に新投資法の施行を控えており、これからのベトナム
に対する投資に関しては注視が必要である。積極的に国外からの投資、とりわけ付
加価値の高い製造業を奨励し、内需拡大による経済成長と国富の増大を目指すもの
と思料される。
7.2.2. ベトナムの税制
ベトナムでの関連税及び各内容については下記の通りとなっている。これらの中
から、ポイントとなる事項について下記表に記載する。
47
税目
内容
企業所得税
法人が事業活動によって取得した所得を課税対象とする税金
個人所得税
個人が取得する事業所得、賃金・給与所得、投資所得等を課税対象とする税金
付加価値税(消費税)
課税物品の販売やサービスが提供される場合に課される税金
外国の法人・個人がベトナムの法人・個人に対し、契約に基づいてベトナム国内で
外国契約者税
サービスを提供し、対価を得る場合に、発生した所得や付加価値に対して課される税金
特別消費税
煙草、酒、車等の特定の奢侈品の輸入段階ないし製造段階で課される税金
関税
物品の輸出入を行う際に、物品価格(CIF価格)を課税標準として課される税金
7.2.2.1. 企業所得税
ベトナムにおける企業所得税は日本の法人税に相当する税であり、基本的な所得
計算は日本の法人税計算と変わらない。法令に基づくインボイスにより証明された
費用については損金算入可能とされている。更なる投資を呼び込むため、税率は現
在 22%であるが、2016 年度より 20%へ引下げる予定となっている。
【日本の法人税との主な相違点】

外貨建資産・負債の評価替えによる為替差損は損金不算入。

2000 万 VND
(約 11 万円)
以上の現金支払いを行っている費用は損金不算入。
定款に規定する資本の不足額に相当する借入金の利息は損金不算入。不足資
本を借入で賄う状態であり、実質的に借入が資本とみなされると考えられる。
【減価償却について】

耐用年数について上限と下限がありその範囲内で償却年数を決定。

事業活動に使用されない固定資産に係る減価償却費は損金不算入。
【源泉徴収制度(対非居住者企業)
】

配当、利子、ロイヤルティの国外送金時に係る源泉税である。

ベトナム国内法の税率の方が低いので、当該税率が適用される。
各項目における適用税率は下記表の通りとなる。
国内法
(対非居住者企業)
日越租税条約
適用税率
配当
0%
10%を超えない
0%
利子
5%
10%を超えない
5%
ロイヤルティ
10%
10%を超えない
10%
項目
【課税所得の範囲】

ベトナム企業についてはベトナム国外所得についても課税を受けているため
二重課税の状態となる。従って、外国税額控除により二重課税を排除する必
48
要がある。
下記表が課税所得の範囲となる。
居住者企業(ベトナム企業) 非居住者企業(日本企業)
所
得
の
源
泉
地
国
内
ベトナムで課税
ベトナムで課税
国
外
ベトナムで課税
ベトナムで非課税
7.2.2.2. 個人所得税
ベトナムでの個人所得税は日本の所得税に相当する。日本の所得税と同様に保険
料控除、扶養控除、基礎控除等各控除があり、駐在員については『住居費、車代、
電気代、水道光熱費、その他サービス料、保険料、ゴルフクラブ等の会員権費用・
プレーフィー、ヘルスケア、娯楽等の施設利用料』等の項目についても給与として
給与所得に加算される。税率については超過累進税率を採用している。
課税所得に応じた税率を下記表に示す。
月額課税所得
年額課税所得
税率
税率
(VND)
(VND)
(居住者)
(非居住者)
~500万
~6,000万
5%
500万超~1000万
6,000万超~1億2,000万
10%
1,000万超~1,800万
1億2,000万超~2億1,600万
15%
1,800万超~3,200万
2億1,600万超~3億8,400万
20%
3,200万超~5,200万
3億8,400万超~6億2,400万
25%
5,200万超~8,000万
6億2,400万超~9億6,000万
30%
8,000万超
9億6,000万超
35%
給与所得は一律20%
7.2.2.3. 付加価値税(消費税)
付加価値税(VAT)はインボイス方式を採用、納税者番号を取得した事業者が発行・
交付した『税制適格インボイス』を保管していないと仕入税額控除を行うことがで
きない。消費税率は原則 10%だが一部軽減税率が設けられており、日本の輸出免税
に該当する 0%税率とされる以下の取引がある。

商品又はサービスの輸出取引
※輸出サービスには、海外・保税区域内におけるサービス提供も含まれる。

輸出加工区の企業に対する建設据付サービス

国際運輸
49
7.2.2.4. 外国契約者税
ベトナム固有の税制として外国契約者税がある。外国契約者税とは、外国法人や
私人が、ベトナム法人或いは私人との契約に基づき事業活動を行う場合に得られる
対価に対して課される税金であり、企業所得税部分と付加価値税部分から構成され
る。なお、外国契約者税はベトナムに恒久的施設(PE)があるか否かにかかわらず
課税される。
企業所得税部分と付加価値税部分は下記の式に基づいて算出される。

企業所得税部分=契約金額×税率

付加価値税部分=契約金額×付加価値率×税率
付加価値税部分の付加価値率は取引内容毎に定められている。主要サービスに係る
外国契約者税の税率を下記表に示す。なお、下記表の付加価値税率は、各取引の付
加価値率に税率 10%を乗じた最終税率となる。
サービスの種類
付加価値税率
物品販売サービス
ー
法人税率
1.0%
一般サービス(リースを含む)
5.0%
5.0%
資材または機械設備の供給を伴わない
建設・据付及び関連サービス
5.0%
2.0%
資材または機械設備の供給を伴う
建設・据付及び関連サービス
3.0%
2.0%
運輸サービス
3.0%
2.0%
利子
ー
5.0%
ロイヤルティ
ー
10.0%
再保険
ー
2.0%
証券譲渡
ー
0.1%
製造及びその他の事業活動
3.0%
2.0%
外国契約者税に関する留意すべき事項を以下に挙げる。

契約書に物品とサービスを分割して明記する。
※外国契約者税はサービス部分のみにかかるが、区分していないと契約金額
の全額に課税される。

契約書に税込みか税抜きかを明記する。
※怠った場合、税抜き表示とみなされて、課税額を増加させられることがあ
る。
7.2.2.5. 移転価格税制
移転価格税制は関連者間の取引に対して適用される。関連者間取引に係る文書の
作成を怠っても罰則は無いが、みなし課税をされるおそれがある。なお、文書はベ
トナム語で作成しなければならない。
【日本の移転価格税制との主な違い】
50

日本の税制では、関連の有無を持分の 50%以上保有しているか否かで判定す
るが、ベトナムの税制では 20%以上が判定基準となる。

国外関連者だけではなく、国内関連者にも適用される。
7.2.3. 優遇制度と優遇税制
2015 年 7 月の施行が予定される新投資法では、下記の通り優遇投資分野が選定さ
れ、優遇税制が設定される見込みである。
【新投資法における優遇投資分野】

ハイテク事業、ハイテクを支える工業製品、研究開発活動

新しい素材及びエネルギー又は再生可能エネルギーの生産、
並びに付加価値 30%以上の省エネ製品

電気製品、重点工業製品、農業機械、自動車及び自動車部品の製造、
並びに造船

衣類、繊維製品等の製造

IT 製品の製造及びソフトウエア製作等

農水産品の栽培、養殖及び加工、植林及び森林保護、塩製造、漁業、
バイオ技術製品の製造等

廃棄物の収集及びリサイクル

インフラ設備の開発及び管理、並びに都市の公共交通機関の開発

幼児教育、一般教育及び職業訓練教育

医療コンサル及び処置、医薬品及びその素材等の製造並びに
バイオ技術の開発等

身体障害者又は職業スポーツ家へのスポーツ訓練等並びに文化遺産の保護
及び推進

老人センター、枯葉剤患者の処置、身体障害者及び孤児の保護センター等

マイクロファイナンス等
新投資法上の優遇制度で、
『廃棄物の収集及びリサイクル』事業が優遇投資分野に
含まれる見込みとなった。しかし、新投資法は未施行であり、法律の施行後の運用
は不透明な部分が多く予測可能性が低いので、個別具体的な適用要件については随
時精査を要する。
以上
51
Fly UP