Comments
Description
Transcript
妊娠および産後授乳期における骨密度変化に関する研究(第 2
鳥医短大紀要第 2 7号 , 35~38, 1 9 9 8 . 3 5 妊娠および産後授乳期における骨密度変化に関する研究(第 2報) 前 田 隆 子 ・ 三 瓶 ま り ・ 宮 林 郁 子 育 1・田中俊行制 Ta 孟akoMAEDA,MariSANPEI,IkukoMIYABAYASHI and Toshiyuki TANAKA Study onbone density changes duringpregnancy and l a c t a t i o n( I I ) 高齢社会になって、女性の閉経期以降に多発する骨 Py r /Cr (pmo l /μmol)で、表わした。 D- 粗露症が注目されている。 QOLの高い老年期を迎え 2 . 骨密度測定 るためには骨粗懸症予妨対策が重要事項の一つで、あり、 骨密度測定は超音波骨密度榔定装置 ( Achilles その対策として日常の食事、運動に関する生活上の保 Lunar社 A-1000P l u s ) を用い、左足踏骨で行った。 健行動、青年期の最大骨量1)の引き上げ、また更年期 測定は超音波の骨内透過時間 (808)、超音波減衰係 のホルモン補充療法 2、3)等が知られている。最大骨量 数 (BUA) について行い、 8 t i 百n e s s値 6) を算出した。 に及ぼす影響閤子の 1つとして、青年期から成熟期に 0週までの初期、 2) 17~20週、 測定時期は 1)妊娠 1 多くの女性が経験する妊娠、分娩による骨代謝の変化 3) 23~26週、 が考えられる O これについて明らかにする 1つのアプ で ローチとして骨密度の測定がある。我々は第一報 4) 4) 29~32週、 5) 3 6 週である。 統計処理はコンピュータソフト 8 t a tView4 . 0を用 い、有意差の検定はノ γパラメトリック法で行った。 1例を対象にして、超音波による骨密度の測定を 妊婦 1 結果および考察 行い、妊娠中の骨密度に著しい変化はみられないこと を報告した。本研究では、さらに妊婦での症例数を追 1.骨代謝マーカーの変化 加し、産後の授乳中の骨密度変化についても調査する 妊娠中の骨代謝マーカーの変化は、骨吸収のマーカー とともに、妊様ならびに授乳が骨代説におよぼす影響 とされている尿中 pyr 、尿中 D-Pyr が 29~32週以降 を明らかにすることを呂的とした。 で有意に高値となり(図 1、 2)、妊掠後期では骨吸 対象と方法 鳥取大学医学部附属病院産婦人科で出産予定の妊婦 のうち了解が得られた妊婦2 0名、分娩を終了した授乳 2名を対象とし、以下の事項について妊賑初 中の祷婦 1 期から妊娠3 6 週まで、ならびに産後 5白から産後 6ヵ 収が充進していると考えられる。一方骨形成マーカー とされる血清中 I-OC、骨型 ALP は 23~26 週で低下 し 、 3 6週では高値を示す傾向がみられ(図 3、 4、 ) 妊娠3 6 週では骨形成も充進していると考えられる O 妊 P y r / C r ( p m o l / μ m o l ) 月までの期間に継続調査した。年齢は 21~37歳であっ た。本研究はへルシンキ宣言の精神に宣り行った。 1.骨代謝マーカーの測定 骨吸収マーカ _ 5 ) として尿中ピリジノリン ( p y r )、 および尿中デオキシピリジノリシ(D-Pyr)、骨形成 50 40 マーカ _ 5 ) として血清中インタクトオステオカルシン 30 (I-OC)、 お よ び 骨 型 ア ル カ リ フ ォ ス フ ァ タ ー ゼ 20 (ALP) を測定 5) した。尿と晶液の採取は、産科外 1 0 来での検査に併せて、随時行った。 なお、 pyrと D-Pyrについては尿中クレアチニン ( C r ) 値で補正した値である Py r /Cr(pmo l /μmol)、 看護学科、制鳥取大学医学部脳神経小児科学教室、的化学研究室 * 60 O mean土 5D ( n2 0 ) * :p <0 . 0 1 盟 1 0未満 23~26 29~32 36 妊娠週数 図1 妊娠中における尿中ピリジノリンの変化 36 前回隆子ほか である尿中 Pyr 、尿中 D-Pyrが産後 3ヵ月以降で低 O P y r / C r 下傾向となり(図 5、 6)、授乳中では骨吸収が低下 (pmol/μmol) 12 P y r / C r ! E (pmol/μmol) 140 10 8 づ 骨 120 6 100 meanま SO ( n 12) 安 : p<0.05 80 4 mean士50 (n=20) *:p<0.05 2 O 10未満 23~26 盟 60 40 36 29~32 20 妊娠選数 図2 妊娠中における尿中デオキシピリジノリン O トOC (ng/ml) 5 6ヵ 月 穫後の期間 図 5 産撚期における尿中ピリジノリンの変化 58 ヵ 月 3ヵ 月 O P y r / C r 4 (pmol/μmol) 14 3 12 10 2 8 meanこt50 ( n 20) 6 宮 4 O 10未満 23~26 36 29~32 妊娠遇数 mean: l :50 (n=12) 2 回 3 妊娠中における血清中インタクトオステオカルシン O ALP ( U / I ) 120 た ヲ 3 k していると考えられる。一方骨形成マーカーとされる 、 骨 型 ALPは産後 1ヵ月から高値を 血清中 I-OC 100 mean土 50 n=20) 801 ( * :p<0.01 60 す傾向がみられた(図 7、 8)。授乳開始と共に骨形 成は充進していると考えられる。これらのパラメーター 、D-Pyr、 については Yamagaら7)の報告があり、 Pyr I-OCの変動は我々の結果と同じ傾向であった。骨型 40 ALPは妊線中については Yamagaら7)と同じ傾向で 20 O 1ヵ 月 3ヵ 月 6ヵ月産後の期間 産櫛期における尿中デオキシピリγノリンの変化 5日 図6 あったが、授乳中の骨型 ALPについては、彼等は著 しい減少を報告しており、我々の結果と逆の変化で、あっ 10未満 図4 23~26 29~32 36 妊娠遡数 妊娠中における骨型 ALPの変化 娠中の骨代謝は、妊娠中期では骨吸収が寝位であり、 ナ ' . . . . 0 2. 骨密度の変化 妊婦20名における骨密度の変化を図 9に指標とされ 妊娠後期では吸収、形成とも充進し、骨代謝回転が増 るS t i f f n e s s値で示した。妊娠初期から妊娠 36週まで 加していると推察される。 の骨密度の推移を検討したが、各妊娠時期における 授乳中の骨代謝マーカーの変化は、骨吸収のマーカー S t i f f n e s sの平均値に有意な変動はみられなかった。 妊娠および授乳中の骨密度 o c ト ( n g / m l ) 3 7 s t i f f n e s s値 110 牢 η 1 4 100 1 2 1 0 90 8 6 4 γ mean土SO ( n = 1 2 ) *:p<0.05 2 O 1ヵ 月 5日 3ヵ 月 6ヵ 月 80 70 ♂ 産後の期間 図 7 産掬織におけるイン灼トオステオカルンの変化 10未満 17~20 23~26 29~32 tSO mean: ( n = 2 0 ) 3 6 分娩直後 妊娠選数 図 9 妊娠中における s t i f f n e s s値の変化 s t i f f n e s s f l 直 105 ALP ( U / I ) 安 「 一 一 一 一 一 一 一 1 0 9 5 1 2 0 90 8 5 80 QU 1ヵ 月 3ヵ 月 6ヵ 月 直後 ~後の期間 図8 産栂期における骨型 ALPの変化 ~後の授乳期における骨密度変化を示したものが図 mean土 SO ( n =1 2 ) マ r 5日 ヴ r O nur3nunU mean土SO ( n =1 2 ) 安 : p < 0 . 0 5 40 図 10 8 ) 月 1ヵ 3ヵ 月 l l .後における s t i f f n e s s値の変化 6ヵ 月 産後の期間 の報告と類似していた。しかし、妊娠全期間を通じ 1 0である。産後 5日から産後 6ヵ月までの期間におけ て母体より胎兇へ供給されるカルシウムは約30gで 、 る各測定時期の S t i f f n e s sの平均値にも有意な議はみ に相当 9) し、かな これは母体総カルシウム量の約 3% られなかった。 り多い。骨代謝マーカーの変化からは骨吸収に運れて 従って妊娠および授乳中の腫骨における骨密度変化は 骨形成がなされていると推察され、母体のカルシウム ごくわずかであると結論することができる。 経口摂取が不足する場合には骨密度への影響を否定で 妊娠中の骨鶴度変化について、 Yamagaら7)は同様 の装置による SOS (n= 18) を妊娠中に 3回測定し た結果、 5~9 週と比較してお ~31週では有意に低下 きない。 l O 産後の授乳期における骨密度について、 Sower ) は 産後 6ヵ月で大腿骨頚部骨、腰椎骨の双方が最も減少 し 、 3 6週まで低値であったとしている。しかし、 し 、 1 2カ月で授乳前の状態に復婦すると報告している。 C h r i s t i a n s e n8) は1 3名の妊婦の前腕骨密度を DPA法 しかし、 B a r b a r a ω は産後 6ヵ月の授乳期には、大腿 (放射線測定法)で測定し、骨密度に有意な変化はみ 骨頚部骨で減少し、腰椎骨ではむしろ増加傾向を示す られなかったと報告しており、これまで妊娠中の骨密 と報告しており、授乳期における骨密度についても、 度変化について異なった結果が得られていた。今回の これまで異なった結果であった。本研究では、これら 対象者における瞳骨の骨密度は、上記のように変化が の報告とは異なって産後 6カ月までの躍骨における測 少なく、第一報 4)と同様の傾向であり、 C h r i s t i a n s e n 定で変化が認められなかった。骨代謝マーカーから骨 3 8 前田隆子ほか 形成が優位で、あると推察されることを考慮するとうな 学医学部産科婦人科学教室寺川直樹教授ならびに入江 ずける結果であるが、対象のカルシウム摂取、運動等 隆先生に深謝し、同附属病院産科婦人科仲田豊実婦長 の個別の骨補強圏子の違い等の影響によることも考え ならびに助鹿婦、看護婦の皆様に御協力頂だいたこと られる。今回、頻回の骨密度測定を実施することによ を感謝致します。 り、カルシヴム摂取の意識を促していたと考えられる 年度本学研究助成費による) (本研究は平成8 が、一般的に授乳中のカルシウム所要量の 1100mg を 文 日々満たすにはかなりの努力が必要で、どうしても不 献 足しがちである。今後も、カルシウム摂取量を考慮し、 1)広田孝子, C l i nCalcium,5 ,6 0 7 6 1 4,1 9 9 5 . 継続して検討する必要があると考えている。 2) 福永仁夫, C l i nCalcium,5 ,5 7 8 5 8 2, 1 9 9 5 . 3)藤田拓男, C l i nCa1cium,5 ,5 7 3 5 7 6,1 9 9 5 . 要 約 4)前田隆子,三瓶まり,平田すが子,田中俊行,鳥 妊娠および授乳中の骨密度変化をみるために、骨塩 6 ,6 7 7 0 ,1 9 9 7 . 取大学医療技術短期大学部紀要, 2 量の指標として、超音波測定装置を使用し、左足の麗 7,3 2 3 3 5 5,1 9 9 5 . 5)中村元一,産婦人科の世界, 4 t i f f n e s s値を算出し、併せて種々の骨代 骨における S 6) 山崎譲, TherapRes,1 3,5 8 5 5 9 3,1 9 9 2 . 0名、祷婦 1 2名 謝マーカーを測定した。対象者は妊婦2 7) Yamaga A,Taga M ,Minaguchi H,and 6 遇、産後から 6ヵ月後 で、妊娠初期受診時から妊娠3 Sato K,JClin Endocrino1 Metabo1,8 1, の授乳期間の骨密度に明らかな変化はみられなかった。 7 5 2 7 5 6,1 9 9 6 . 骨代謝の指標の骨吸収マーカーは妊娠中に漸増し、授 乳中で、は漸減した。一方、骨形成マーカーは妊娠中期 に軽度低下、後期に軽度上昇する傾向がみられ、授乳 期には漸増した。妊娠と授乳期婦人の骨は骨密度調整 8) C r i s t i a n s e n C,Actao b s t gynec Scandinav, 3 5,1 4 , 1 1 9 7 6 . 9)阪本知子, Perinata1 care, 1 4,1056-1059, 1 9 5 5 . j 凶在A,2 6 9 3 1 3,1 9 9 3 . 1 0 ) Sower,J 機構の働きで保護されていると推察された。 4,1 5 3 1 6 0, 1 1 ) BarbaraL,Bone andMinera1,1 本研究をすすめるにあたり御指導を賜わった鳥取大 1 9 9 1 . Summary I nt h i ss t u d y,wemeasureds p e e do fsoundi nt h e1 e f tc a l c a n e u sbyanu l t r a s o u n dboned e n s i t o m e t e r, andc a l c u 1 a t e ds t i f f n e s sv a 1 u e sa si n d i c a t i o n so fbone d e n s i t yt od e f i n et h ee f f e c t so fpregnancyand 1 a c t a t i o n . We a 1 s o measuredfourb i o c h e m i c a 1 markers o fbone turnoveri n2 0 pregnant and 1 2 postpartump a t i e n t s . Bone d e n s i t yi nt h ec a l c a n e u swasnot s i g n i f i c a n t l yd i f f e r e n tfromt h a tthroughoutpregnancyand b r e a s t f e e d i n g duringthe six-month p e r i o d . Ana1ysis o fbiochemica1 markers r e v e a 1 e dt h a t both bonef o r m a t i o n andbone a b s o r p t i o nweree 1 e v a t e di nt h e3 r dt r i m e s t e ro fpregnancy,bonef o r m a t i o n waseven e 1 e v a t e da tpostpartum,and bone a b s o r p t i o nd e c l i n e d . These r e s u 1 t s mayi n d i c a t et h a t bones a r ep r o t e c t e dbyt h emechanismo fcalciummetabolismduringpregnancyand1 a c t a t i o n .