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社会の
教 えて! 先 生 社会の Vol.12 想起の文化 このコーナーでは、社会の気に の 穴 ぞき なるニュースや 学 問 を 様 々な 角度からノゾき、コラム形式で みなさんにご紹介していきます。 ∼過去をつなげる 今年の夏はドイツ南部のバイエルン州にあるミュンヘンに短 時の現物を陳列するのではなく、説明パネルや映像によって、次 期出張してきました。わたしは政治史が専門なので、図書館や文 世代に伝えたい「過去」を提示する場となっていることです。実 書館で資料を眺める日々だったのですが、休日を利用して今年 5 際、訪問したナチ記念館も、最新の歴史学を反映した文章がびっ 月に開館したばかりのナチ記念館に行ってきました。 しり記してあるパネルばかりで、とても一日では読み通せません 記念館の正式名称は「ナチ資料センター・ミュンヘン:ナチズ でした。 ムの歴史を学び想起する場」という長いもの。ミュンヘンはヒト ところで、今回の出張は、大量の難民がミュンヘンに押し寄せ ラー率いるナチ党発祥の地であり、この記念館はナチ党本部跡 始めたのと同時期でした。わたしが帰国する頃は、ミュンヘン市 地に建てられています。40 億円近くの建設費は、国・州・市が共 民も支援物資を携え、難民たちを歓呼で迎えていました。しかし 同で負担したそうです。 そうした歓迎ムードも、現在では少し怪しくなっています。 かつてナチスは、その暴力的な政策によって大量の難民を生 み出しました※。そうした「過去」をもつドイツが、現在の難民にど 二次世界大戦から70 年経ち、ナチスや戦争を直接体験した世代 ういった態度をとるのか。「想起の文化」はいまアクチュアルな がどんどん減少するなかで、いかにして「過去」を次の世代に伝 形で試されていると言えるでしょう。 えていくか。そこで推進されているのが「想起の文化」というもの ※「ホロコースト」 ( ユダヤ人大量虐殺 )という巨大な犯罪の影に隠れがちです です。 「想起の文化」にもとづく記念館の特徴は、博物館のように当 が、第二次世界大戦は 1000 万人以上の難民も生みました。この問題につい て興味がある方は、今年翻訳されたベン・シェファード『遠すぎた家路―戦後 ヨーロッパの難民たち』 ( 忠平美幸訳、 河出書房新社 )をぜひお読みください。 法学部 板橋拓己 准教授 近年、ドイツではこうした公的な記念館・記念碑が続々と設立 されています。ナチ犯罪の訴追や戦後補償が一段落する一方、第