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52 ŠÕ`°„¤‰ƒ 3“Z
山梨医大誌 16(4)
,117 ∼ 124,2001
臨床研究
外傷性四肢骨幹部骨折に対する創外固定器の治療成績
佐
藤
栄
一, 萩
野
哲
男, 前
川
慎
吾,
小
野
尚
司, 相
馬
真, 市
川
二
郎,
浜
田
良
機,
山梨医科大学整形外科学教室
要 旨:髄内釘など内固定法の適応が困難なため初回治療として創外固定法を施行した多発外傷
151 例を含む外傷性四肢骨幹部骨折 387 例 432 骨折の治療成績から本法の骨折治療における有用性
を検討した。骨折部位別では大腿部 180 骨折,下腿部(全例脛骨)が 185 骨折,上腕部と前腕部が
各々 43 骨折と 23 骨折であった。このうち開放性骨折は 285 骨折と多数を占め,また創外固定器を
複数の部位に装着した症例は 33 例 78 骨折であった。治療成績では,創外固定法単独で骨癒合を得
る一期的骨癒合率は,大腿部の 90.6 %から上腕部の 93.5 %の平均 92.1 %,骨癒合期間は下腿部
16.9 週から前腕 22.8 週の平均 18.7 週であった。創外固定法に起因する合併症は,ピン周囲の皮下
浅層感染が 11.0 %と最も多かったが,骨髄炎に進展した症例はなく,創外固定抜去後に全例治癒
している。ついで偽関節および遷延治癒骨折で,これらは骨移植術や内固定術が施行され,全例骨
癒合をみていた。
以上より創外固定法は骨折治療法の 1 つとして有用である。
キーワード
外傷性骨折,創外固定法,合併症,適応
1.はじめに
て,受傷後に施行しても,その後は可及的早期
に内固定法に変更するのが一般的意見で,骨癒
骨折治療の原則は,受傷後早期の解剖学的整
合を得ることを目的とした固定法としての有用
復位の獲得,強固な固定と早期のリハビリテー
性については意見の一致がない。そこで今回は
ションである。そのため保存的治療よりも内副
創外固定法単独で骨癒合を獲得することを目的
子や髄内釘による観血的整復固定術が好んで施
として治療を行なった症例の治療成績を調査
行されてきた。しかし本法は開放性骨折での感
し,創外固定法の骨折治療法としての有用性を
染頻度が高い,あるいは多発外傷例には手術侵
検討したので報告する。
襲が大きいなどの問題点があって,その適応に
苦慮する症例も少なくなかった。このような問
対 象(表 1)
題点を解決する骨折治療法として創外固定法が
着目され,最近治療症例数が増加している。し
1984 年から 2000 年までの 16 年間に山梨医科
かしピン刺入部よりの感染の危険性などがあっ
大学付属病院ならびに関連病院で,初回治療と
〒 409-3898 山梨県中巨摩郡玉穂町下河東 1110
受付: 2001 年 9 月 6 日
受理: 2001 年 11 月 28 日
して創外固定法を施行され,それ単独で骨癒合
の獲得を意図した外傷性四肢骨幹部骨折症例は
387 例 432 骨折である。性別では男 286 例,女
佐
118
藤
栄
一,他
表 1.治療成績と合併症
大腿部(n = 180) 下腿部(n = 185) 上腕部(n = 43) 前腕部(n = 24)
一時的骨癒合率(%)
90.6
93.5
93.0
91.7
骨癒合期間(週)
19.2
16.9
19.8
22.8
16.1
7.8
3.9
5.4
5.4
2.2
11.6
7.0
2.3
8.3
4.2
なし
合併症発生頻度(%)
1)ピン刺入部感染
2)偽関節,遷廷治癒骨折
3)ピンの緩み
※
※重複例有り
101 例で,受傷時年齢は 3 歳から 84 歳,平均
35.6 歳,受傷原因は交通事故が 320 例,労災事
故 33 例などで,このうち多発外傷例が 151 例
であった。骨折分類では,開放性骨折が 279 骨
折,閉鎖性骨折が 153 骨折で,部位別では大腿
部 180 骨折,下腿部 185 骨折,上腕部 43 骨折,
前腕部 24 骨折であった。創外固定器を複数部
位に装着した症例は 33 例で,2 部位が 24 例,3
部位が 7 例,4 部位と 5 部位が各 1 例で,内固
定材と併用した症例はない。これら症例の各部
位別の創外固定法単独で骨癒合を獲得する一期
的骨癒合症例数の割合(一期的骨癒合率)と,
創外固定器装着から抜去するまでの期間(骨癒
合期間),さらには合併症の発生頻度,機能障
害や四肢変形の有無などにつき検討した。
使用した創外固定器はハーフピンタイプの
Orthofix 創外固定器(TOKIBO )である。原
則として上肢では伝達麻酔,下肢では腰椎麻酔
図 1. 左大腿骨骨幹部骨折に
対する,Orthofix 創外
固定器の装着。
下に骨折を徒手的に整復したのち,中枢,末梢
骨片へ各々 2 から 3 本のピンを刺入し,創外固
定器を装着した(図 1)。
った。創外固定法を中断して内固定法に変更し
た 34 骨折は最終的には全例骨癒合を得ていた。
結 果
2.骨癒合期間
内固定法変更例を除いた 398 骨折の骨癒合期
1.一期的骨癒合率
間は平均 18.7 週(6 週から 32 週),部位別では
432 骨折のうち 398 骨折 92.1 %に骨癒合が得
大腿部 19.2 週(10 週から 25 週),下腿骨 16.9
られたが,34 骨折は仮骨形成が不良やピンの
週(6 週から 20 週),上腕部 19.8 週(12 週から
緩みが原因のため,治療途中で内固定法に変更
24 週)で,前腕部 22.8 週(18 週から 32 週)で
されていた。部位別では大腿部 90.6 %
あった。前腕が長期になったのは,初期の 3 症
(163/180),下腿部 93.5 %(173/185),上腕部
例で橈骨と尺骨の両者に創外固定器を装着する
93.0 %(40/43),前腕部 91.7 %(22/24)であ
という手技的な誤りをおかしたためで,これを
創外固定法による治療成績
119
除くとその期間は 18.6 週であった。
直ちに腹壁縫合を受け,肘関節脱臼を徒手的に
3.合併症とその対策
整復の後,骨折部には直達牽引を行なった。し
創外固定法に起因する合併症としては,ピン
かし術翌日には意識レベルの低下および脳内血
刺入部の創よりの浸出液をみとめ,皮下表層感
腫の増大をみたため,翌日に血腫除去を行ない,
染と考えられたものが 44 骨折,10.2 %と最も
同時に右上腕骨,前腕,さらに左大腿骨骨折に
多かった。これらは抗生剤投与や局所の薬浴に
対して創外固定器を装着した(図 3)。術後の
よる清拭操作により骨髄炎などの深部感染に進
経過は良好で,術後 1 年で仕事に復帰している
展した症例はなく,創外固定器の除去とともに
(図 4)。
全例治癒している。そのほか偽関節あるいは遷
延治癒骨折が 28 骨折,6.5 %,ピンの緩みが
症 例 2
12 骨折 2.8 %にみられ,これら 40 骨折中 34 骨
折は創外固定法を中断し,内固定材に変更され,
14 歳,男児。自転車走行中,自動車と接触
そのうち 27 骨折には骨移植が追加されていた。
し受傷した。近医にて左下腿開放性骨折と診断
またピンの緩みのなかった 6 例は創外固定器の
され直達牽引を施行された後,受傷 5 日目に当
装着を継続したまま,骨移植術が施行されてい
院紹介受診となった(図 5)。骨折部は高度に
た。最終観察時には合併症をみた症例を含めて
転位し,さらに皮膚の腫脹と骨片の圧迫による
432 骨折全例に骨癒合を得ていた。
局所的循環障害をみたため,ただちに全身麻酔
4.機能予後
最終観察時に骨折部近傍の関節可動域制限を
みたものは,10 例 2.6 %であったが,その程度
は軽度で日常生活や仕事での障害となるものは
なかった。四肢の変形は,外観上あるいは機能
的に問題となるものは,下腿粉砕骨折で 30 度
の下腿内反変形があって,矯正骨切り術を予定
している 1 例を除いて,これをみるものはなか
った。
5.創外固定法選択の根拠
開放性骨折のため内固定法が困難と考えられ
た症例が 279 骨折と最も多く,その他多発骨折
の 33 例 78 骨折,骨折部の粉砕が高度で内固定
法による治療が困難と考えられた 30 骨折,手
術侵襲の点で内固定法による治療が困難と考え
られた多発外傷の 10 例 19 骨折などであった。
症 例 1
19 歳,男性でオートバイ走行中,対向車と
接触してブロック塀に激突して受傷。X 線所見
で右上腕骨骨折,肘関節脱臼骨折,前腕骨折,
左大腿骨骨折をみとめ,さらに脳内血腫と腹壁
損傷による腸管脱出を合併していた(図 2)。
図 2. 初診時 X 線像で,右上腕骨骨折・肘関節脱
臼骨折・前腕骨折,左大腿骨骨折をみる。
120
佐
藤
栄
一,他
図 3. 右上腕骨骨折・前腕骨折,左大腿骨骨折に対
して創外固定器を装着した。
図 4. 術後 6 カ月の X 線像では骨癒合は完成し,術
後 1 年で仕事に復帰した。
創外固定法による治療成績
121
下に徒手整復操作を行なって創外固定器を装着
した(図 6)。その後皮膚は島状に壊死となり,
創外固定器装着後 1 か月で有茎皮弁植皮術を行
なった。その後創は良好に治癒,骨癒合も順調
で,術後 2 か月で創外固定器を抜去した(図 7)。
術後 6 か月では,約 10 度の足関節底屈制限を
みるが,日常生活,スポーツなどには障害をみ
ない。
症 例 3
9 歳,男児で自転車にて走行中に自動車と接
触し転倒受傷し,当院に搬送された。左大腿骨
骨幹部骨折(図 8a)に対して,当日より直達
牽引を行ない,受傷後 6 日目に創外固定器を装
着した(図 8b)。術後 5 日目より 1/3 荷重によ
図 5. 当科初診時の X 線像では,直達牽引され
ているが,骨折の整復は不良である。骨
折部は腫脹と骨片には圧迫のため,局所
の循環障害を伴った開放創をみる。
る松葉杖歩行訓練を開始,術後 14 日目で退院
した。術後 12 週では良好な仮骨の形成があっ
て(図 8c),創外固定器を外来にて除去して,
大腿部に機能的装具を装着した。術後 15 週で
全荷重を許可したが,術後 8 か月では膝関節可
動域制限はなく正坐可能で,脚長差や跛行は認
めない(図 8d)。
図 6. 当科初診日,創外固定器を装着した。その後足関節部の皮膚
は島状に壊死となったので,有茎植皮術を施行した。
佐
122
藤
栄
一,他
図 7. 受傷後 1 カ月間開放創の経過をみたが,改善がなかったため有茎
皮弁を施行し,創の状態は良好となった。また創外固定術後 2 カ
月で骨癒合は完成した。
a
b
c
d
図 8. 初診時 X 線所見で,左大腿骨骨幹部骨折をみる(a)。左大腿骨骨幹部骨折を整復後,創外固定器を装着
した(b)。術後 12 週で,骨癒合は完成した(c)。術後 8 カ月で,脚長差や跛行は認めない(d)。
創外固定法による治療成績
考 察
123
位または固定性の不良が原因で発生する。われ
われの症例でも 2.8 %に発生した骨癒合不良例
創外固定法を施行した四肢の外傷性骨折の骨
は,内固定法への変更や骨移植の追加により最
癒合率と癒合期間について,われわれの使用し
終的には全例に骨癒合を得ているが,正しい解
た創外固定器を開発した De Bastiani ら 1,2)の報
剖学的整復位の獲得などに問題があると思われ
告では,前者が 94 %,後者が 17.6 週と述べて
る症例があって,手術操作に一層熟練する努力
いる。骨折の種類や部位が異なるため,一概に
が必要と考えている。
比較できないが,われわれの症例の治療成績は
それと比べてほぼ同等と考えられた。
今回の検討では大腿部の骨癒合率が他の部位
外傷性骨折に対する創外固定法の利点 4)は,
骨折部と周囲の軟部組織にさらなる手術侵襲を
加えることなく骨折部の強固な固定が可能で,
に比べて多少低い傾向があった。その理由とし
装着後の創の観察や処置,さらにはナーシング
ては,大腿部は軟部組織が多く,徒手的に解剖
ケアが牽引療法などに比べて容易となり,早期
学的整復位の獲得が他の部位に比べれば困難で
のリハビリテーション開始による関節可動域制
あることが挙げられる。
限の軽減や在院期間の短縮であるとされてい
これに対する対策としては,徒手整復が不十
る。今回の検討では,多発外傷や多発骨折症例
分な場合には,骨折部に小切開を加えて整復操
において重篤な合併症をみることなく良好な骨
作を行なうことを考えている。一方骨癒合期間
癒合と機能回復をみたことは,最少の手術侵襲
では,前腕部の骨折が他の部位に比べて長かっ
で骨折部の固定と早期のリハビリテーションが
たが,これは前腕の回旋運動によって骨折部に
可能となる本法の利点が十分に生かされた結果
回旋力が作用したためで,橈骨と尺骨の両者に
である。
創外固定器を装着した初期の症例の影響が大き
いと考えられる。
一方,問題点 5,6)としては,ピン刺入部の定
期的な消毒処置が必要である,創外固定器が突
創外固定法の合併症 3)としては,ピン刺入
出しているため,これが邪魔になって通常の衣
部の感染,刺入したピンによる神経・血管損傷,
服の着脱が困難,あるいは入浴が制限されるな
偽関節や遷延治癒骨折などが報告されている。
どがある。また創外固定器の装着による患者へ
われわれの症例でもピン刺入部よりの滲出液の
の心理的な影響や装着時の生活動作の障害につ
漏出がみられ,表層感染と考えられる症例があ
いては詳細な調査をしていないが,本法施行例
った。その発生頻度は 10.2 %と従来の報告と
に対して精神的な治療を要した症例などはな
比べても少なくない。しかし滲出液の漏出がみ
く,数多くの症例の経験から,この点が創外固
られた場合,頻回の創処置や皮膚の清拭,さら
定法の適応を制限するものではないと考えてい
には薬浴などを行なうことで深部感染に進展し
る。
た症例はないので,その発生は創外固定器の適
以上より創外固定法は,四肢の開放性骨折,
応を制限するものではないと考えている。ピン
多発外傷を伴う骨折症例で,良好な治療成績が
の緩みについては,やや高価であるが創外固定
期待できる優れた治療法のひとつである。
用で先細りのオリジナルピンを使用した症例に
は,これをみないことから,常にオリジナルピ
ま と め
ンを使用すべきである。なお血管,神経損傷を
みた例はなかったが,これは決められた正しい
創外固定法で初回治療を行なった 432 骨にお
手順でピンを刺入するという手術の基本を遵守
ける治療成績としては一期的骨癒合率 90.6 %,
した結果であると思われる。
偽関節や遷延治癒などの骨癒合不良は,整復
平均骨癒合期間 18.7 週とほほ満足できるもの
であった。合併症はやや高率であったが,対策
佐
124
藤
を講ずることでその発生頻度は低下し,かつそ
れに対する対応は困難ではない。したがって創
外固定法の適応は開放性骨折,多発骨折,粉砕
骨折,全身状態の悪化した症例に対する侵襲の
少ない骨折部固定法として,有用な治療法の 1
つである。
文 献
1) G. De Bastiani, R. Aldegheri, L. Renzi Brivio:
The treatment of fractures with a dynamic axial
fixator. J. Bone Joint Surg. 66-B: 538–-545, 1984.
2) G. De Bastiani, R. Aldegheri, L. Renzi Brivio: Dy-
栄
一,他
namic axial fixation, a rational alternative for the
external fixation of fractures. Int. Orthop., 10:
95–99, 1986.
3) 浜田良機,穂苅行貴,益山宏幸,萩野哲男,雨
宮 毅,佐藤栄一:創外固定による長管状骨骨
折治療のコツと落とし穴.JMIOS, 10: 45–54,
1999.
4) 益山宏幸,横山 巖,佐藤英昭,萩野哲男,雨
宮 毅,佐藤栄一:開放性骨折に対する一時的
骨癒合―創外固定法による初期治療.骨・関
節・靭帯,12: 1757–1764, 1991.
5) 井上四郎:創外固定の歴史・種類.特徴および
適応.別冊整形外科,19: 2-6, 1991.
6) 横山巌,益山宏幸: Orthofix 創外固定器による
骨折治療.別冊整形外科,19: 27–30, 1991.
Clinical Results in the Traumatic Fractures of Diaphysis of the Long Bone Treated with External Fixator
Eiichi SATO, Tetsuo HAGINO, Shingo MAEKAWA, Takashi ONO, Makoto SOMA,
Jiro ICHIKAWA and Yoshiki HAMADA
Department of Orthopaedics, Yamanashi Medical University
Abstract: We reviewed the clinical results of 432 traumatic fractures in 387 patients by external fixation between
1984 and 2000. The sites of involvement were as follows: tibia,185; femur, 180; humerus, 43; and forearm, 23. The
average rate of bone union was 92.1 % and average period for bone union was 18.7 weeks by using only external fixation. The complication was frequently superficial pin tract infection. The treatment of external fixation is one of a
useful cures for fractures, and we are going to treat various fractures by external fixation in the future.
Key words: traumatic fracture, external fixation, complications, indication
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