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『演習(生物系)』
2011/6/1 第一薬科大学 4年生 『演習(生物系)』 第2-2回 8章 遺伝子工学 分子生物学研究室 担当:荒牧弘範 (H23.6.1) D.外来遺伝子を細胞内で発現させる手法 ` さまざまな生物のゲノム配列の情報から遺伝 子と推定されたものの中には、機能未知の遺 伝子がまだたくさん存在する。そういった遺伝 子を細胞中で発現させることができれば、そ の機能の情報を得ることができる。 D.外来遺伝子を細胞内で発現させ る手法 (p151) SBO外来遺伝子を細胞中で発現させる方法を概説できる。 D.外来遺伝子を細胞内で発現させる手法 ① もともと宿主がもっていない遺伝子を宿主に 導入することが多いことから、これらの遺伝子 を外来遺伝子とよぶ。 ` また、必要な外来遺伝子を高発現させ、その 遺伝子産物(タンパク質)を多量精製できれば、 構造解析にも利用できるほか、医薬品として 使用するなど応用が期待される。 ` ` ` タンパク質の機能と構造解析 タンパク質の機能や構造を調べるためには、目的の外 来遺伝子を宿主で遺伝子を転写・翻訳させる必要があ る。 このとき、発現ベクターに目的の外来遺伝子をクローニ ングする必要がある。 1 2011/6/1 ① ` タンパク質の機能と構造解析 細菌由来の遺伝子を発現させる場合には、遺伝子操作 がしやすい大腸菌が宿主として利用されることが多い。 ① ` ` バキュロウイルスによる組換え蛋白質 ` バキュロウイルスと昆虫細胞を用いた発現系は、キンウ ワバに感染するAutographa californica nucleopolyhedrovirus(AcNPV)とカイコに感染する Bombyx mori nucleopolyhedrovirus (BmNPV)の系が開 発されている。 これに対して、動物遺伝子の場合には、単細胞真核生 物である酵母や動物の培養細胞が宿主として用いられ る。 その他、昆虫細胞、試験管内転写・翻訳系など種々の異 種タンパク質発現系が開発されている。 バキュロウイルス発現系の特徴 ` ` ` ` ` 試験管内転写・翻訳系 タンパク質の機能と構造解析 強力なプロモーターを利用しているので、目的タンパク 質の大量発現が可能。 真核生物である昆虫細胞を利用するので、糖鎖付加・リ ン酸化などの翻訳後修飾も起こり天然型に近い活性が 得られる。 比較的分子量の大きなタンパク質の発現も可能。 数種類の組換えバキュロウイルスの多重感染による、 複合タンパク質の発現も可能。 無血清培地を用いた目的タンパク質の発現が可能。 ① ` タンパク質の機能と構造解析 異種発現の利点としては、天然組織から得ることが困難 なタンパク質が調製できることである。 2 2011/6/1 ① タンパク質の機能と構造解析 a.タンパク質の大腸菌内発現 ` ` ` ` 大腸菌発現系は目的タンパク質を短時間で大量に得れ ることや操作が簡便であり安価であることから、多量発 現に成功するとタンパク質の構造や機能の解析に大い に役立つ。したがって、最初に構築が試みられる発現系 である。 まず、発現ベクターのプロモーター下流に外来遺伝子を 挿入し、大腸菌に導入する。 培養により大腸菌の増殖とともにプラスミドも増殖し、外 来遺伝子由来のタンパク質が生産される。 本来宿主に存在しないタンパク質を無理やり発現させる ので、少量の発現でも宿主に負担になることがある。つ まり、大腸菌の増殖に悪い影響を及ぼすことがある。 ① タンパク質の機能と構造解析 a.タンパク質の大腸菌内発現 ` このことを避けるため、大腸菌のラクトースオペロンのオ ペレーター(lacオペレーター)の制御機構を利用する。 ① タンパク質の機能と構造解析 a.タンパク質の大腸菌内発現 ` ` ` b.タンパク質の酵母、昆虫細胞、哺乳類細胞 への発現 ` ` 大腸菌中で外来遺伝子として真核細胞由来の遺伝子を 発現させる場合には大きな問題が生じることもある。 その場合には表8・1にまとめた各種発現系を用いる。 すなわち、lacプロモーターの下流に外来遺伝子を挿入し たプラスミドをもつ菌を作製し、ラックリプレッサー(LacI)に より、菌の増殖中は目的のタンパク質の発現を抑える。 菌が一定レベルまで増殖すると、 LacIをIPTG(イソプロピ ル-1-チオ-β-D-ガラクトシド)で不活化して目的のタンパ ク質を効率よく誘導産生させる。 また、繊維状ファージのタンパク質と融合させ、培地に分 泌させる工夫もされている。 b.タンパク質の酵母、昆虫細胞、哺乳類 細胞への発現 ` ベクターのプロモーターとしては、もともと宿主 が大量に発現しているアクチン遺伝子のプロ モーター、 Cu2+でタンパク質が誘導されるメタ ロチオネン遺伝子のプロモーターや、テトラサ イクリンで発現を誘導したり抑制したりするこ とが可能なプロモーターがある。 3 2011/6/1 b.タンパク質の酵母、昆虫細胞、哺乳類 細胞への発現 ` ` ` これらの発現組換えプラスミドの作製は、真核細胞 を宿主に用いると煩雑であるため、まず容易に操作 できる大腸菌を用いる。 つまり、複数の宿主に導入できるようにしたシャトル ベクターが開発されている。 したがって、シャトルベクターに外来遺伝子を挿入し、 大腸菌から得られた組換えプラスミドを真核細胞に 導入し(トランスフェクション)、タンパク質を発現させ る。 c.安定発現と一過性発現 ` ` ` トランスフェクションにより導入されたプラスミドが、細菌 や細胞において排除されることなく保持される場合は、 安定発現である。 長期の解析に向くほか、必要な時に培養して発現タンパ クを調製したり分析したりできるので便利である。しかし、 保存しているうちに発現が低下してしまうことがあるので 注意を要する。 一方、毎回ベクターを菌や細胞に導入し、発現したタン パク質を解析するのが一過性発現である。安定発現細 胞を得る時間を省けるのは利点だが、各回で発現量が 一定しなかったりする。一般に過剰発現するため、局在 性など生理的状態を反映しないことがあり、注意が必要 である。 ② ` b.タンパク質の酵母、昆虫細胞、哺乳類 細胞への発現 局在解析 ② ` ` ` 局在解析 真核細胞では細胞小器官が存在するため、タンパク質 の機能を考察するのに局在部位を明らかにすることは 重要である。 タンパク質を一過的または安定に発現させた細胞を固 定し、蛍光色素を結合した特異的抗体と反応させる。 蛍光顕微鏡下で観察し、細胞内のどの部位が蛍光を発 しているかを調べ、目的タンパク質の局在部位を明らか にする。 ヒアルロン酸合成酵素(HASs) 最近では、緑色蛍光タンパク質GFP(Green Fluorescent Protein)を目的遺伝子の翻訳産物に連結するよう、融合 遺伝子を作成して発現させることが良く行われている。こ の手法では、抗体を用いなくても細胞を生きたまま観察 可能である。 Fig1. HAS 活性と細胞膜上局在が連結している。 (A)では、明瞭な標識色によりゴルジ体内(先頭)、細胞膜および突起(矢印)のGFP-HAS3 の正常な局在が認められる。GFP-HAS3の活性を4-MUにより阻害すると、HASが細胞内 に取り込まれる(B)。HASの細胞膜への進入と微繊毛の形成がブレフェルディンA(C)、酵 素活性部位のポイントミューテーション(D)、16個のアミノ酸(E)または45個のアミノ酸除去 (F)により阻害される。倍率バーは10μm。 4 2011/6/1 ③ ` ` ` ③ ` ③ ` ` プロモーターと調節配列の機能解析 プロモーターと推定される配列の下流にルシフェラーゼ 遺伝子を連結した、レポータープラスミドを作製し、哺乳 類の培養細胞に導入する(図8・15) 。 目的のDNAがプロモーターとして機能があるかどうかを 解析するために、そのDNAの下流に連結した遺伝子の 転写・翻訳量を測定する方法が持ちいられる。 つまり、目的のDNAにプロモーター活性があれば、遺伝 子発現強度が増すことになる。これをレポーター遺伝子 という。 この発現強度を測定するための遺伝子として、ルシフェ ラーゼやβ-ガラクトシダーゼ(lacZ)等がよくつかわれる。 ③ ` プロモーターと調節配列の機能解析 プロモーターと調節配列の機能解析 1~2日後にに細胞の抽出物を調製して、ATPとルシフェ リン存在下に化学発光を検出器(ルミノメーター)で測定 する。その発光強度が増せば、プロモーターとして機能 し、ルシフェラーゼ遺伝子が一過的に転写・翻訳された ことになる(図8・15) 。 プロモーターと調節配列の機能解析 プロモーターの配列の長さを変えたり、一部の塩基配列 を変えたりして、エンハンサーやサイレンサーとして機能 するDNA配列を同定することもできる(図8・15)。 このようなレポーターに加え、DNA結合タンパク質を発 現するベクターを同時に導入して、エンハンサーやサイ レンサーへの結合効果を評価することもできる。 E.個体レベルで調べる遺伝子の機 能 SBO 特定の遺伝子を導入した動物、あるい は特定の遺伝子を破壊した動物の作成法を概説 できる。 5 2011/6/1 ポイント ` ` ` 個体レベルで遺伝子の機能を調べるために、トランス ジェニックマウスやノックアウトマウスが作成される。 ES細胞内の相同組換えにより標的遺伝子を破壊後、キ メラマウスを作成し、交配によりノックアウトマウスを得る。 Cre-loxPシステムにより、組織特異的なノックアウトマウ ス作成が可能であり、さらに、遺伝子ノックインの手法に よりプロモーター機能を可視化することもできる。 ①トランスジェニックマウスの作成 ` ` ` ` ①トランスジェニックマウスの作成 ` ` トランスジェニックマウス は、次のようにして作製さ れる。プロモーターの下 流に調べたい遺伝子を連 結した直鎖状DNAを用意 する。 細いガラス管にDNAの溶 液を吸い取り、受精卵(交 配した雌をホルモン注射 し、核が融合する前に排 卵させている)の雄性前 核に注入する。 ①トランスジェニックマウスの作成 ` ` ` ` トランスジェニックマウスでは、誕生した子マウスの10〜 30%が全組織に外来遺伝子を持つが、導入した遺伝子 が染色体のどの場所に入るかは予測不能である。 一般に導入したプラスミドが50コピーも連なって導入され ることもあるが、すべて効率よく発現するわけではない。 さらに、外来遺伝子と同じ遺伝子、内在性の遺伝子が存 在する場合には、導入した遺伝子の発現が十分に高く ないと解析は不可能である。 レポーター遺伝子を導入することも可能であり、ルシフェ ラーゼやβ-ガラクトシダーゼ遺伝子をつないだプラスミド も使用される。 遺伝子機能を直接的に解析するために、特定の遺伝子 を外部から導入して得られた生物個体のことを、トランス ジェニック生物と言う。 トランスジェニックとは形質転換を意味する。 導入した遺伝子の効果、プロモーターの働く場所や遺伝 子の発現調節に重要な配列を、個体レベルで同定が可 能となる技術である。 このような生物は、マウスを始め、ラット、ウシ、ブタ、ハ エ、線虫、植物で作製されている。 ①トランスジェニックマウスの作成 ` ` この受精卵を偽妊娠状態 の雌マウス(仮親の卵管 に移植し、外来遺伝子が 取り込まれたトランスジェ ニックマウスを誕生させる (図8・16)。 仮親は、精管を切断した 雄とあらかじめ交配させ てあり、移植した卵が発 生できる偽妊娠状態に なっている。 ② ノックアウトマウスの作成法 a.遺伝子破壊の基本手法 ` ` ノックアウトマウスは、遺 伝子ターゲティングマウス あるいは遺伝子破壊マウ スともよばれる。 相同組換えを利用し、内 在遺伝子を破壊した遺伝 子と取り替え、本来の遺 伝子機能を個体レベルで 推定するのである。 6 2011/6/1 (1)ターゲッティングベクターの作製と ES細胞への導入 ` 図8・17に示すように、まず破壊を目的とする遺伝子由来 の断片に薬剤耐性遺伝子(ネオマイシン耐性遺伝子 (neor))を挿入する。 (1)ターゲッティングベクターの作製と ES細胞への導入 ` これをターゲッティングベクターとして、レトロウイルス粒 子を用いる遺伝子導入法でES細胞(embryonic stem cell; 胚性幹細胞)に導入する。 (1)ターゲッティングベクターの作製と ES細胞への導入 ` ベクターが相同組換えにより取り込まれた場合には、遺 伝子DNA断片の外側は染色体DNAには挿入されない ので、チミジンキナーゼ遺伝子も組み込まれない。その ため、ガンシクロビルという核酸類似体には抵抗性を示 す。 (1)ターゲッティングベクターの作製と ES細胞への導入 ` 遺伝子DNA断片の外側には、別の薬剤耐性遺伝子(単 純ヘルペスウイルス由来のチミジンキナーゼの遺伝子 (tkHSV)を挿入する。 (1)ターゲッティングベクターの作製と ES細胞への導入 ` うまく導入された細胞には、ネオマイシン耐性遺伝子が 存在するので、ジェネティシン(G418、タンパク質合成阻 害抗生物質)という薬剤に対する耐性を指標にして分離 可能である。 (1)ターゲッティングベクターの作製と ES細胞への導入 ` 一方、非特異的に染色体DNAに取り込まれた場合には、 チミジンキナーゼ遺伝子も取り込まれる。 7 2011/6/1 (1)ターゲッティングベクターの作製と ES細胞への導入 ` ガンシクロビルは細胞に入ると、ウイルスのチミジンキ ナーゼの作用でガンシクロビル三リン酸までにリン酸化 され、DNAポリメラーゼによるdGTPの使用を完全に阻 害する。その結果、細胞のDNA合成を阻害しES細胞を 殺してしまう。 ES細胞 ` ` ` ES細胞。日本語では胚性 幹細胞と表す。 胚とは受精卵が分裂、分 化を繰り返して胎児と呼 ばれる状態になるまでの 間の細胞塊のことを指す 。 ES細胞は、この胚の中か ら取り出した細胞である。 (1) ターゲッティングベクターの作製とES 細胞への導入 ` すなわち、ネオマイシン耐性かつガンシクロビル耐性の 細胞を選択すれば、効率は極めて低いが、内在遺伝子 と薬剤耐性遺伝子が相同組替えにより入れ替わった細 胞を分離することができる(図8・17)。 ES細胞 ` ` ` 1998年にヒトのES細胞が 報告がされた。 この細胞は胎盤を構成す る細胞以外の細胞に分化 できることで、全能性では なく多能性がある。 この細胞を使えば、胎盤 以外の組織・器官を再生 できるのではないか。そ の期待を込め、ES細胞は 「万能細胞」というニックネ ームで呼ばれるようにな った。 文部科学省 iPS細胞等研究ネットワーク ES細胞の問題点 ` ` ES細胞の研究に立ちはだかる倫理上の問題 拒絶の問題 (2)キメラマウスとノックアウトマウス の取得 ` 遺伝子破壊したES細胞を、系統の異なるマウスの胚盤 胞に注入したのがキメラ胚である。これを偽妊娠状態の マウスに戻すと、キメラマウスが生まれてくる(図8・18)。 8 2011/6/1 (2)キメラマウスとノックアウトマウス の取得 ` キメラマウスが破壊遺伝 子(−、マイナスで表す)を 保持していた場合には、 さらに野生型マウスと交 配しヘテロ接合体マウス( −/+)を取得する。 (2)キメラマウスとノックアウトマウス の取得 ` ` コラム:キメラとモザイク ` ` キメラは異なる受精卵に由来する2種類の細胞集団(胚 盤胞とES細胞)からなる。一方、モザイクは、構成する細 胞は異なっているが(外来遺伝子があるかないかで)、 同じ受精卵に由来する。 トランスジェニックマウスの作製時に、受精卵が1回目の 卵割より前に外来DNAを組み込んだ場合はよいが、2 回目以降の卵割で組み込まれた場合には、導入遺伝子 が存在する細胞と存在しない細胞が混在したモザイク個 体となる。 b.組織特異的な遺伝子破壊(図8・20) ` とくに、対象とする遺伝子が胚の発生時期に必須の役割 を果たしている場合には、ホモ接合体(-/-)の胚は死んで しまう。 b.組織特異的な遺伝子破壊(図8・20) ` ` ` ` このような場合、生後に特定組織が形成・成熟するに伴 い遺伝子が破壊されると、遺伝子の機能解析がうまくで きることになる。 ある特定の組織で注目する遺伝子がどのように機能し ているか知りたい時には、その組織でのみ遺伝子が破 壊できれば都合がよい。 b.組織特異的な遺伝子破壊(図8・20) ` ` ヘテロ接合体マウスが得 られれば、それら同士を 交配して両方の染色体に 破壊遺伝子を保持するホ モ接合体(−/−)が得ら れる(図8・19)。 もしホモ接合体の胚や胎 児が致死の場合には、ど の時点まで発生が進行す るのかを調べる。 この目的のために工夫されたのが、Cre-loxPシステムで ある。 Cre(causes reconbination)はリコンビナーゼ(DNA組換 え酵素)で、 loxPはCreの認識配列である。したがって、 Cre酵素がloxP配列のところで組換えを起こす。 loxとはlocus of crossing-over(交叉部位)に由来する。 Creを発生時期特異的あるいは組織特異的に発現させ ることで、時期特異的・組織特異的に標的遺伝子をノック アウトすることができる。 9 2011/6/1 (1)ターゲッティングベクターの作製 ` ` ある組織でのみ転写を促進するプロモーターの下流に、 Cre遺伝子を連結する。 このDNAで形質転換したトランスジェニックマウスでは、 その組織で特異的にCreが発現する。 (2)個体組織での標的遺伝子の欠失(図8 ・20) ` ` ターゲッティングベクターはES細胞に導入し、相同組換え による破壊用遺伝子と内在遺伝子の交換を行う。 続いて、Cre-loxPシステムにより、ネオマイシン耐性遺伝 子を欠失させる。 (1)ターゲッティングベクターの作製 ` ` 一方、破壊したい遺伝子の両側にはloxP配列を挿入し、 ターゲッティングベクターとする(図8・20)。 この遺伝子の隣には、loxP配列を挟みネオマイシン耐性 遺伝子も連結しておく。 (2)個体組織での標的遺伝子の欠失(図8 ・20) ` ` この後、キメラマウスを作 製して、破壊用遺伝子が 導入された子孫マウスを 得る。 子孫マウスとCre遺伝子 導入マウスを交配した子 マウスでは、Cre-loxPシス テムが組織特異的に働き 、目的遺伝子を欠失させ ることができる。 c.遺伝子ノックイン ` ` ` ` ノックアウトマウス作成の手法と同様にして、またノックア ウトマウスの破壊された遺伝子部分の配列を利用して、 新たな遺伝子を導入することができる。このような操作を ノックインと言う。 lacZ(βガラクトシダーゼ)や緑色蛍光タンパク質(GFP)の 遺伝子をノックインすれば、内在性のプロモーターの働 きを可視化することができる。 組織を固定して、βガラクトシダーゼの発現を指標に、ど のような時期にどの部位でプロモーターが活性化される のかを知ることができる。 一方、GFPの場合は、マウス個体や細胞を生かしたまま で発現を追跡可能である。 F SBO 組換えDNA実験指針 組換えDNA実験指針を理解し守る。(態度) 10 2011/6/1 ① ` 組換えDNA実験指針の歴史的背景 わが国で組換えDNA実験の安全性を確保するため 1979年に制定された「組換えDNA実験指針」は2004年 に廃止となり、現在は「遺伝子組換え生物等の使用等の 規制による生物の多様性の確保に関する法律」が施行 されている(2004年2月18日施行)。この法律が新たに施 行された背景は、遺伝子組換え生物を環境に放出する ことによる生物多様性に与える影響に配慮すること、輸 出入に際しては必要な措置をとることなどが義務付けら れて2000年に多くの国が参加して採択された国際協定 である「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティ に関するカルタヘナ議定書」の趣旨が盛り込まれたこと による。 ② 遺伝子組換え生物等の使用等の規制に よる生物の多様性の確保に関する法律 ` ` 第一種使用等の事前承認・届出の義務(文部科学大臣 の承認)、第二種使用等の安全措置のほか、輸出入の 際の情報提供、回収・使用中止命令、違反に対する罰 則などが本法に定めている。 第二種使用に相当する通常の組換えDNA実験では、関 連省令である「研究開発等に係わる遺伝子組換え生物 等の第二種使用等に当たって執るべき拡散防止措置等 を定める省令」に準じて実験内容に応じた拡散防止措置 を執らねばならない。 ② 遺伝子組換え生物等の使用等の規制に よる生物の多様性の確保に関する法律 ` ` ` 本法は、遺伝子組換えなどのバイオテクノロジーによっ て作製された生物の使用等を規制するための法律であ る。 この法律の対象は、遺伝子組換え、あるいは異なる科に 属する生物の細胞融合によって得られた核酸を含む生 物(ウイルス、ウイロイドを含む)である。 これらの生物の使用にあたって、遺伝子組換え生物が 外界に拡散しないよう防止して行う場合、すなわち、大 気、水または土壌中への拡散を防止する「第二種使用 等」と、それを意図しない「第一種使用等」(遺伝子組換 え作物の栽培など)に分けられる。 ② 遺伝子組換え生物等の使用等の規制に よる生物の多様性の確保に関する法律 ` ` 現行法では、B1、B2認定系として“認定宿主ベクター系” を指定し、生物学的封じ込みを施している。 また、物理的封じ込めとして、遺伝子組換え実験に必要 な微生物使用実験の拡散防止措置P1からP3レベルが規 定されている(表8・2)。 G 遺伝子取り扱いに関する安全性と倫 理 SBO 遺伝子取り扱いに関する安全性と倫理について配慮 する(態度) 11 2011/6/1 ポイント ` 遺伝子取り扱い技術を正しく有効に施行するために配慮 する要因を理解する。 G ` 遺伝子取り扱いに関する安全性と倫理 さらに、発生生物学と遺伝子工学が結びついて発生工 学が発展し、マウスの発生段階で本来持っていないよう な遺伝子を挿入することにより新たなマウス(トランス ジェニックマウス)を作製したり、特定遺伝子の塩基配列 を少し変えたり、遺伝子自体をそっくり別の遺伝子と取り 替えてしまったり、あるいは、取り出したりできるように、 ある特定の遺伝子(ターゲット)を操作(遺伝子ターゲッ チィング)し、キメラ動物を作製できるようになった iPS細胞の誕生 G ` 現在、遺伝子取り扱い技術が高度化し、インスリンや成 長ホルモンなどがリコンビナント医薬品(遺伝子組換え 医薬品)として臨床利用され、英国ロスリン研究所で誕 生した初の体細胞クローンヒツジ“ドリー”で代表されるよ うに多くのクローン動物が作製されている。 G ` ` 遺伝子取り扱いに関する安全性と倫理 遺伝子取り扱いに関する安全性と倫理 これらの技術は、あらゆる細胞に分化できる能力をもつ 全能性の胚性幹細胞(embryonic stem cells, ES細胞)や 人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cellsl, iPS 細胞)の樹立と相まって、近い将来の再生医療や遺伝子 治療に大きく貢献しようとしている。 しかし、これらの遺伝子取り扱い技術が正しく発展する には、前章で述べた組換えDNA実験が正しく施行される こと、リコンビナント医薬品の安全性の評価、クローン人 間作製等に関する生命倫理的問題を常に念頭に置き、 遺伝子取り扱い技術が正しく有効に施行されるようにし なければならない。 ヒト神経細胞を直接作製=皮膚からiPS 経ず―米大学 ` ` ヒトの皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入し、神経細胞に 直接変えたと、米スタンフォード大の研究チームが27日 、英科学誌ネイチャー電子版に発表した。 アルツハイマー病やパーキンソン病などの難病患者の 神経細胞を作るのに、万能細胞「人工多能性幹細胞(iP S細胞)」に変えてから神経細胞に分化させるより、早く 効率的な方法になる可能性がある。これら難病のメカニ ズム解明や、将来の再生医療への応用が期待されると いう。 朝日新聞 2011年5月27日10時6分 12 2011/6/1 ヒト神経細胞を直接作製=皮膚からiPS 経ず―米大学 ` ` 同チームは昨年1月、マウスの皮膚の線維芽細胞に3 種類の遺伝子を導入して神経細胞を作り、「誘導神経(i N)細胞」と名付けたと発表した。 3種類の遺伝子は、山中伸弥京都大教授らがiPS細胞 を開発するのに使った遺伝子群とは違う「Brn2」と「Asc l1」「Mytl1」。今回、ヒトでは「NeuroD1」と呼ばれる遺 伝子も加えた。 ヒト神経細胞を直接作製=皮膚からiPS 経ず―米大学 ` ` 朝日新聞 2011年5月27日10時6分 振りかけるだけでiPS細胞 わずリスク低減 ` ` ウイルス使 振りかけるだけで、さまざまな細胞になりうるiPS細胞( 人工多能性幹細胞)を作ることに大阪大の森正樹教授( 消化器外科)らのチームが成功した。振りかけるのは、 遺伝子の働きを制御する分子「リボ核酸(RNA)」の断片 。ウイルスを使う遺伝子組み換え技術に頼る従来の手 法と違い、がん化の危険性は低く、手軽で安全性の高い 作製法になると期待される。 26日付の米科学誌「セル・ステムセル」(電子版)で発表 した。チームはマウスの細胞を調べ、何の細胞になるの か決まる前段階の「幹細胞」だけにあるRNA断片六十 数個を発見。うち特定の3種を組み合わせると一部の細 胞が幹細胞に変わることを突き止めた。 朝日新聞 振りかけるだけでiPS細胞 わずリスク低減 ` 2011年5月27日3時0分 この方法で作った神経細胞をマウスの大脳皮質の神経 細胞と一緒に培養すると、細胞間の結合が生じて機能 が確認された。 iPS細胞が開発された後、皮膚細胞に遺伝子群を導入 してさまざまな細胞に直接変える研究も盛んとなり、マウ スでは心筋細胞など、ヒトでは血液細胞の前段階の細 胞が作られた例がある。 朝日新聞 2011年5月27日10時6分 振りかけるだけでiPS細胞 わずリスク低減 ` ` ウイルス使 できあがった幹細胞はiPS細胞とほぼ同じ性質を持って いた。さらに、ヒトの細胞でも同じ組み合わせでiPS細胞 が作れることを確認。「mi―iPS(ミップス)細胞」と名付 け、特許も申請した。 従来のウイルスを運び屋にして遺伝子を組み込む方法 と比べて細胞内の遺伝子を傷つける心配がなく、がん化 のリスクは低い。断片を含む溶液を細胞にかけるだけで いいため、将来はiPS細胞を簡単に作る試薬の開発な ども期待できる。 朝日新聞 2011年5月27日3時0分 ウイルス使 ウイルスを使わないiPS細胞の作り方 iPS細胞の作製法は、今回とは別のRNAを使ったり、が ん化のリスクの少ないウイルスを使ったりするなど国内 外で激しい開発競争が続いている。今回の手法はiPS 細胞が得られる効率が1%未満と低いが、森教授は「現 時点で世界で最も安全にiPS細胞を作る方法といえる。 効率を上げて臨床応用に活用したい」と話す。 朝日新聞 2011年5月27日3時0分 朝日新聞 2011年5月27日3時0分 13 2011/6/1 問1 問2 問3 •一般的な構造特性により特徴 的なパリンドローム認識配列を 持ちます。 •回転対象の配列で逆向きでも 完全に同じように読める配列を 認識します。 問4 問5 2本のDNA鎖をつなぐ酵素、DNAリガーゼである。 5'-AGTCTGATCTGACT GATGCGTATGCTAGTGCT-3' 3'-TCAGACTAGACTGACTACG CATACGATCACGA-5' ↓ 5'-AGTCTGATCTGACTGATGCGTATGCTAGTGCT-3' 3'-TCAGACTAGACTGACTACGCATACGATCACGA-5‘ ATPまたはNAD+を基質として、DNAの3‘-水酸基と5'-リン酸基をつなぐ。生物 ではDNA複製の際の岡崎フラグメントをつなぐ段階と、DNA修復に必要である。 14 2011/6/1 問6 問7 RNA 問8 問9 問10 問11 15 2011/6/1 問12 問13 問14 問15 問16 問17 16 2011/6/1 問18 問19 問20 問21 問22 問23 17 2011/6/1 問24 問25 問26 問27 18