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トピックス Webを利用したまちなみ評価プログラム まちなみとすまい研究
Webを利用したまちなみ評価プログラム まちなみとすまい研究会の活動から 東京大学空間的報科学研究センター 副センター長・教授 浅見泰司 まちなみへの取り組みの難しさ この問題に対して専門家としてな たとえば、壁面位置の連続性がな と専門家の役割 すべきことは以下の3点だろう。第 い状態(一1)とどちらでもない(0)、 住宅地のまちなみは、住宅、塀、門、 一に個々の景観要素を変えることで もしくはどちらでもない状態(0) 植栽などがいくつも集まって作られ どの程度効果があるかが不明確であ と連続性がある状態(1)では、東 る集合的な景観である。多くの住宅 る現状を打破して、その効果を客観 京区部西部の戸建て住宅地において 地では、個々のすまいの持ち主は異 的に示すこと。第二に個々のすまい 敷地面積あたり0,472万円/㎡の住 なる。そのため、まちなみを良くし における行為がまちなみ全体に対し 宅価格の違いがあることを示してい ようとするならば、そこにいるすま て総合的にどのような影響があるの る。分析に用いた東京区部西部の戸 いの持ち主が皆で協力しあっていか かを明示すること。第三にこれらの 建て住宅地の平均単価(住宅の土地 ねばならず、一人だけでがんばって 効果を理解しつつ適切なルールづく 建物を合せた価格を敷地面積で割っ も限りがある。建築協定のように、 りを行い、計画や協定といった社会 た値)が60.24万円/㎡であること 地域でまちなみや住環境を守るため 制度に組み込むこと。 から、これ単独の効果では住宅価格 に対して1%未満の寄与となる。し に決まり事をしていけば良いが、現 実にはそのようなルールを決めるの まちなみの客観的評価 かし、景観に配慮していくと全ての は簡単なことではない。そのため、 第一の点については、近年分析結果 項目について貢献があらわれてくる 多くの住宅地ではあきらめてしまっ が蓄積されつつある。たとえば、Gao ことから、景観によって住宅価格の ているというのが現状だろう。この and Asami(2007)は東京都区部お 1割程度は変化しうることがわかる。 現状をどのように打開すべきなのだ よび北九州市において景観価値が不 その他、この分析では、どちらの都 ろうか? 動産価格に占める割合を調べた(表1)。 市でも景観評価構造は似ているこ と、北九州市の方が相対的な緑に対 東京区部西部 北九州市 単価上昇(万円/㎡) 単価上昇(万円/㎡) A1壁面位置の連続性(1,0,一1) 0,473 0.0439 また、「景観形成の経済的価値分 A2色彩と外装材の統一性(1,0,一1) 0,517 0.0414 析に関する検討報告書」(2007)では、 A3外観と意匠の共通性的な特色(1,0,一1) 0,578 0.0543 景観評価のための指標の選択の仕 A4まちのスカイラインによるまとまり(3,2,1,0,一1) 0,276 0.0255 方、ヘドニック分析によって景観規 一 0.1004 制の是非が判断できること、そして A6緑の連続性と視覚的な広がり(2,1,0) 0.61 0.2387 景観が優れている地区において実際 B1生け垣や植樹等による街路景観(1,0) 1,087 0.2852 に景観規制の存在意義が確認された B2空地と歩行者空間の緑化(2,1,0,一1) 0.79 0.2397 ことなどが示された。実際、町家が B3良好な歩行者空間の形成(1,0,一1,一2,一3) 一 0.1616 地域の景観資源になっている報告書 B4親しみのある街路生活空間(1,0,一1) 一 0,083 記述でのB市においては、今後の建 B5歩行者空間のしかけ等による賑わい(2,1,0) 一 0.0012 て替えにおいて町家の並ぶ景観と調 A5街区のスケールによる開放感(1,0,一1,一2) 表1 2都市の美評価分析結果 66 家とまちなみ58〈2008.9> する価値が高いことなどが示されて いる。 和する5階以下に制限することで地 域全体としてはプラスになることが 示されている。これらの分析は、景 観という主観的に判断されがちなも のが客観的な分析の対象になりうる こと、そして景観を整備する効果が 定量的に評価できることを示してい る。ただ、一つの問題点は、このよ うな評価は手軽にできることではな いということである。 個別景観要素の影響と景観ルー ルの締結 第二の点については、先の分析結 図1 「イメージで探す」の検索結果(ナチュラル・装飾・見せるのク 果を応用することで、個々の整備の ロス検索結果) 効果を求めることができるが、他に、 景観シミュレーションなどにより直 課題はハードルの高さ 索するというものである。たとえば、 観的にその効果を見ることもでき 共通にみられるのは、ハードルの 自宅を改修しようと考えているとき る。景観シミュレーションでは、 高さである。手軽に評価できる方法 に、少しコンセプトを具体化したい CGを利用して、対象となる建築物 はないだろうか? そこで、考えつ が、どうずれば良いかわからない;場 のデザインを変えて、周辺との調和 いたのがWebでの評価ツールとヒ 合に有効である。専門家ならば、イ 状況を調べたり、景観質をチェック ント集である。発想を逆にして、個々 メージを言えば、ある程度自分が手 するということが可能である。しか のすまいから始められるまちなみ改 がけたり、見聞きしたことのある事 し、これも一般の人が手軽にできる 善を考えてみれば良いのではない 例から適切そうなものを思い描いて わけではない。 か。もちろん、それぞれのすまいの 想像することができる。しかし、素 第三の点については、一般の人に 持ち主は、皆それぞれに異なる考え 人には、そのようなことは望めない。 とってはよりなじみはうすい。景観 方を持っている。ただ、それぞれの そうならば、抽象的なイメージから 行政にかかわっていれば、どのよう 人が、少しずつ周辺との調和を考え 具体的な事例を検索できるようにす な手続きが必要か、そのためにどの ていくことで、まちなみが改善でき れば良いではないかと考えたわけで ような組織に協力を仰ぐべきかがわ ていくのではないか。 ある。具体的には、イメージ語(プ かる。しかし、たとえば、隣人に対 そこで、まちなみとすまいの関係 リティ、ロマンチック、カジュアル してさえ、建物のデザインをこうし を通して、より良いあり方を考える など)、建築部位(壁、屋根、柱、 ましょうと合意するということが難 研究会を発足させた。それが、「まち 梁など)、外構部位(フェンス、門、 しそうに見えるのに、それを地区に なみとすまい研究会」(http://sumai. 植栽など)、街並み部位(街路樹、 広げることなど容易には思えない。 judanren.or.jp/pO22,html参照)で 広場、道など)、見えないもの(光、 実際協定を結んでいるところでも、 ある。 気配、歴史など)、手法(見せる、 隠す、分ける、囲うなど)という言 分譲当時に開発会社が協定を決めて 入居者がそれを受諾したというよう 景観上の工夫の検索 葉で絞り込み検索できるようになっ な例が多く、すでに市街化している まちなみとすまい研究会では、ま ている。事例は「まちなみ住宅100選」 地区で協定を締結したというのは、 ちなみとすまいの実例を検索できる などからとられており、ある程度デ 開発事業など共通利害にかかわるイ システムを用意している。これは、 ザイン的に厳選されたものを示して ベントがあった場合を除くと、かな 優れていると思われるまちなみ改善 いる。図1はナチュラル・装飾・見 り締結に苦労している事例が多い。 のための工夫例を、キーワードで検 せるのクロス検索結果を示してい 家とまちなみ 58〈2008.9> 67 る。ナチュラルな雰囲気の見せるこ 評価プログラム ユーザ 参考文献 Xiaolu Gao, Yasushi Asami(2007)“Effect とを意識した装飾が実例画像で示さ of urban landscapes on land prices in two Japanese cities”五a加15capθaηd れている。この他に、家具などで使 乙憂rわaロ飾η11カロg,81,155−166. われるスタイル(シンプル、ナチュ 「景観形成の経済的価値分析に関する検討報 告書」(2007)財団法人都市づくりパブ ラル、モダン、エスニックなど)で リックデザインセンター. 検索するシステムも用意している。 まちなみ景観の評価プログラム もうひとつ、まちなみ評価プログ ラムを用意している。これは、jpeg 形式(ディジタルカメラでよくつか われる画像形式)画像をアップロー ドし、いくつかの質問に答えて評価 図2 システムフロー図 判定が示されるというプログラムで 価値を入力してもらい、それが教師 ある。図2にシステムフロー図を示 データとなって景観評価プログラム す。ユーザは評価したい景観画像 が改善されていく。現状ではまだ、 (jpeg形式)を送信し、合わせて景 データが少なく、十分な精度とは言 観画像に関する指標値を入力する。 い難いが、今後充実させていく予定 すると、プログラムでは送信された である。 画像と指標値をプログラムのデータ ここで紹介したようなハードルを ベースに登録し、送信された画像と 下げるための工美は他にもいろいろ 入力された指標値を用いて評価値を とできるだろう。このような工夫が、 計算する(図3)。そして評価値の結 一般の方々の意識啓発につながっ 果が5段階評価で表示される(図4)。 て、まちなみが改善されることを期 最後にユーザの考える景観画像の評 待したい。 まちなみとすまい[まちなみとす齢、概究会工 まちなみの評価プログラム:まちなみを自動的に評価する 浅見泰司(あさみ・やすし) 1982年東京大学工学部都市工学科 卒業、1987年ペンシルヴァニア大学 大学院地域科学専攻博士課程修了。 Ph. D.。東京大学工学部都市工学科 助手、講師、助教授を経て、2001年 より東京大学空間情報科学研究セン ター教授。専門は、都市計画、都市 住宅学、空間情報解析。主な著書に、 浅見泰司(編)『住環境1評価方法 と理論』東京大学出版会、浅見泰司 (編)『トルコ・イスラーム都市の空 間文化』山川出版社などがある。 まちなみの評価プログラム:まちなみを自動的に評価する .範 馴 f『翠 『.卜, 、.’ 一 @蟻『、.師 ☆☆☆☆☆ @ .、 システムによる評価の結果、この景観画像 @謬 ・ の評価値は”3=普通である’量と判定ざれまし た。 アの画像を受け取りました。続いて、この画像の特徴について以下の各指標を選 してください。 結果はいかがでしょうか?まだシステムの学習デー効沙ないため、精度良い判定ができ 翻した時間帯 日中 鷹 ていないかもしれません。 ャ影時の天気 晴れ 講 B影時の季節 春 ii鍵 皆様の評価をもとに評価システムを改善していきますので、是非フィードバックをお寄せく i観の種類 商菜地 灘 ださい。 r}憶 歴史を感じさせる 購1 囎ィの平均的電高さ 低層(1−3階) 議 この画僅のあなたの景観評価1ま? Oとても悪いと思う O悪いと思う ○普通たと思う ○良いと思う ◎とても良いと思ら ホの量 肪らでもない 麟 ョ然性 整然としている 麟 J放感 開放的 鑛 e近感 ある 鵬 ノぎわい感 どちらでもない 聯 マ化性 やや乏しい 麟 圏 図3 指標値の入力画面 68 家とまちなみ58〈20089> 図4 評価結果の提示画面