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<自己表現力を高める一般科目のあり方> 聞き取りトレーニングの紹介とアイデア募集 大阪府立高専 一般教養科(国語担当) 湯城吉信 はじめにーディベートを行って気づいたこと 筆者は、ここ数年、国語教育の中心としてディベートを行ってきた*。ディベ ートは、「問題設定→調査→議論の組み立て→討論(発表)」という一連の知的 創造活動を体験させる上で有効な教育である。 *拙稿「教育方法としてのディベート」 (『大阪府立工業高等専門学校研究紀要』31、1997) および、拙稿「4 年国語ディベート教育の報告」(『府立高専教育』3、1997)参照。 また、パターンが決まっているので、繰り返しによるトレーニング効果も期 待できる。例えば、討論の最初に述べる立論はすべて「哲学(自分たちの理想) →現状分析(現状の問題点:証拠をつけて)→プラン→メリット(自分たちの プランを実行した場合の結果)」というパターンで作らせる。クラスで 5 対戦 した場合、毎回このパターンで立論が述べられるので、刷り込みにより、学生 は自然とこのパターンを身につける(このパターンは一般に小論文を書く場合 に非常に有効なものである)。 また、議論の際には、必ず相手の発言に対応した反論をする必要があるので、 聞く力のトレーニングにもなる。議論を明確にするため、学生には毎回フロー シート(実例参照)を書かせている。 以上のように、ディベートは総合力を養う上で有効なトレーニングであると 言える。だが、実践の中で問題点も感じてきた。それは、聞く、話すなど個々 の能力の低さである。特に、聞いてメモを取る力の不足には頭を悩ませてきた。 上記のフローシートを書くこと自体トレーニングなのだが、ディベートを円滑 に行うためにも、その前にトレーニングをして能力を高めておく必要がある。 すべて、技能を高めるには、個々の能力を高める基礎練習が不可欠である。 スポーツで各技能を個別トレーニングで鍛えることを想起されたい。 今回の発表では、私が考え出した聞く力の向上を目指すトレーニングを紹介 したい。 「自己表現力を高める一般科目のあり方」という題にしては羊頭狗肉の 嫌いがあるが、個々の能力の向上なくしては、総合的表現能力を高めることは 不可能である。なお、問題提起として行いたいのは、高専の授業で実行可能な トレーニングを考え出すことの必要性である。後に紹介するポイントをクリア するトレーニング方法のアイデアがいただければ幸いである。 有効な教育実践となりえるための必要条件 教育は、ねらい・意図がすばらしくても、実行可能で、しかも意図通りの効 果がなければ意味がない。それでは、実行可能で、効果が見込める教育とはど のようなものであろうか。私が考える、有効な教育実践となりえるための必要 条件とは次の 2 点である。 ・継続実施できる。 ・単調にならない。 現在、従来の教育に閉塞感が高まりの中、新しい教育(方法)が模索されて いる。だが、研究授業や教育雑誌で取り上げられる様々なアイデア授業は、日 常のパターン化された授業の単調さを打ち破るスパイスとはなりえても、ロー テーションとして日常の授業に組み込むことはむずかしい。それは、そのよう な授業の多くが、時間と労力をかけた力作であるからである。力作を日常的に 作り出すことは無理である。 ある技能を身につけるためには、繰り返しトレーニングを行うことが不可欠 である。日常の授業で求められるべきなのは、スタンドプレーではなく、日常 的に繰り返し行えるという意味での実行可能なメニューである。 以上のような理由から、私は、授業実践にとっては「繰り返し継続実施でき る」ということが最大のポイントであると考える。 だが、一方、勉強、スポーツともに、繰り返し行う基礎トレーニングは単調 で、学生の興味を喚起しにくい。 継続実施できて、しかも単調にならないトレーニング、これが求められるべ き授業である。聴衆の皆さんには、このポイントをクリアする授業アイデアを 募集したい。 聞き取りトレーニング(実演) まず、概要を述べる。毎回 1 人、順番に 200~300 字の新聞記事を持ってく る。その記事を朗読し、聴衆はメモを取る。朗読後、問題を 5 問出す。1 問目 ではタイトル(全体)を問い、2~4 問目では、内容の詳細を問う(当然、答え が記事の中に見つかるものに限る)。5 問目は漢字を書かせる。なお、実力に応 じて、メモを元に、記事全体を再現させる(口で言わせる)ことも行う。これ は、聞き取りから表現への橋渡しになるトレーニングである。 次に、百聞は一見に如かずとの諺に基づき、一例を実演する(実演)。 このトレーニングは、通訳のトレーニング法を援用したものである*。 * 拙稿「目的意識を明確化した中国語教育について」(『大阪府立工業高等専門学校研究 紀要』38 号、2004)参照。 なぜ新聞かというと、新聞の文章は、標準的かつ実用的な文章だからである。 特に、事件を扱った記事では、5W1H が明確に述べられている。タイトルも奇 を衒うよりも達意を第一にしており、キーワードが取り上げられている。学生 が目標にすべき文章の典型であると言えよう。また、表記も、漢字は基本的に 常用漢字(高校三年までに習得が望まれる漢字=日本人が身につけるべきとさ れている漢字)の範囲に収まっている。以上の、文章の特徴上の問題以外に、 もちろん学生が新聞を読むきっかけになればという思いもある。 このトレーニングは、聴衆にとっては、何より、聞く力を高める練習になる。 聞く力を高めるとは、1つは集中して聞くことであり、もう1つはメモをとる 練習になるということである。本来、授業でノートを取ること自体、聞く力の トレーニングである。だが、普通、授業においては、学生が聞いたことを自分 でノートにまとめるのではなく、教員が黒板にまとめたことを学生に写させる という形態を取る(授業評価がうるさい昨今、教員が黒板に「まとめる」こと がますます要求されている)。このような授業では、学生にメモを取る能力を養 成させることはできまい。 一方、担当者にも教育効果が見込める。それは、否応なく「聞いてわかる朗 読」を要求されるからである。国語や時に他の授業でも、教室で朗読が行われ ることがある。だが、高校生になって、大きな声ではっきりと朗読するのはま ずいない。恥ずかしいからである。また、朗読は一般に全員が持っている教科 書を読むので、別に聞き取れるように読む必要もない。それに対して、聞き取 りトレーニングにおいては、聞き取れなくては聴衆から文句が出るので、わか る朗読をする必要性がある。恥ずかしいなどとは言っておれないのである。ま た、担当者は、問題を考える際、否が応でも、文章の組み立てを意識せざるを えない。これは、文章構造を考える一助になるのではないかと考える。 さて、このトレーニングは上述の「有効なトレーニングとなりえるための条 件」に適っている。まず、方法が確立しており、また、学生が行うので、継続 実施が可能である。また、学生が担当することは、マンネリ化を防ぐ手だてに もなる。学生は、友達がどのような記事を取り上げるかということには関心が あるからである*。 * 学生が取り上げる記事は、事件物が多い。それは 1 つには問題が出しやすいからであ る。ただ、電子情報科は、パソコン関係の記事もかなり多い。 教師 1 人が毎回担当することは、私の経験ではかなりきつい。また、取り上げ る記事も偏るので、マンネリに陥りやすい。実行可能性の面からはやめておい た方がいい。 最後にー聴衆の皆さんからのアイデア募集 実例紹介は以上にして、最後に、聴衆の皆さんにアイデアを募集したい。各 高専の様々な専門の方が集まったこの機会に様々なアイデアが飛び出すことを 期待したい(紙の配布)。 参考:オーラルコミュニケーション教育の必要性 オーラルコミュニケーションの必要性が強調される中、国語教育界において も最近ようやく「話す・聞く」能力を高めるための教材が登場した。それが、 全国高等学校国語教育連合会編『話す・聞くの実践トレーニング』(明治書院) である(目次参照)。我が校では、この教材を、平成 15 年度より、2 年生で使 用している。 筆者にとっては、同書にある内容の半分以上はすでに実施してきたものであ る。ただ、正規の授業の一つとして教材に取り上げられた意義は大きい。 ただ、この教材にも問題点はある。それは、前節に述べた「継続性」に欠け る点である。例えば、発声練習を一度行っても、トレーニング効果は得られま い。