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プレキャストPC部材組立式地下貯水槽の施工 ~川田の地下貯水槽

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プレキャストPC部材組立式地下貯水槽の施工 ~川田の地下貯水槽
論文・報告
プレキャストPC部材組立式地下貯水槽の施工
∼川田の地下貯水槽「エコマモール」∼
The Construction of Underground Water-Tank using Prestressed Precast
Concrete Blocks
塚本 俊一
Syunichi TSUKAMOTO
佐藤 清美
Kiyomi SATO
関東 継樹
Tsuguaki KANTO
川田建設㈱九州支店
九州工場長
川田建設㈱九州支店
九州工場製造課長
川田建設㈱環境事業推進部
技術課係長
宮崎 貴典
Yoshinori MIYAZAKI
山中 修一郎
Syuichiro YAMANAKA
川田建設㈱九州支店
九州工場製造課
川田建設㈱環境事業推進部
技術課
プレキャストPC部材組立式地下貯水槽「エコマモール」は,部材同士の接合を簡略化することにより施工性を改
善し,短期間での施工を可能にした。また,屋根部材支間を10 mとして貯水効率を高めることにより経済性を優
れたものとし,供用開始後のメンテナンス性も向上させている。本論文では「エコマモール」の特徴・設計方法
および施工事例について報告する。
キーワード:プレキャストコンクリート,治水対策,雨水貯留施設,工期短縮
1.はじめに
2.工事の概要
都市部や市街地では,建築物やアスファルト舗装され
本貯水槽は,工場プレキャスト製の屋根部材(屋根
た道路の割合が多いために,降雨が地面から地中に浸透
梁・屋根版)・壁部材(側面壁・隅角柱・壁柱)・支持
する割合が小さく,大雨が降った場合には,雨水を一時
梁・中間柱と,場所打ちコンクリート製の底版によって
的に貯留しておく設備が必要である。また,土地の有効
構築される1層多径間構造である。
活用や,貯留施設の構築における近隣対策(工期短縮,
騒音・振動防止)も重要である。
プレキャスト部材同士の接合方法としては,図1に示
すように,場所打ち工法やPC圧着工法が一般的である
そこで,雨水流出による水害を回避し,敷地形状に適
が,施工手間が生じる上に工期が長引く要因になってい
応した合理的・経済的な設計・施工を可能としたプレキ
た。そこで本貯水槽では,その接合方法にピン構造を採
ャストPC部材組立式地下貯水槽「エコマモール」を開
用し,省力化と工期短縮をより向上させた。構造概要を
発した。本論文では,大分県杵築市の当社コンクリート
図2に示す。
工場敷地内に設置した地下貯水槽(容量:1 140 m )の
3
施工について報告する。
場所打ち工法
PC圧着工法
場所打ちコンクリート
ピン接合工法
無収縮モルタル
ネジ定着
無収縮モルタル
弾性被覆材
(スポンジ材)
埋込み鉄筋
PC鋼棒
図1 プレキャスト部材の接合方法
60
川田技報 Vol.25 2006
アンカーバー
側面壁(受け台あり)
屋根部
材方向
側面壁(受け台なし)
支持
梁
方向
屋根梁
支持梁
屋根版
隅角柱
壁柱
2.5
中間柱
m
5.0 m
10.0 m
底版
(場所打ちコンクリート)
図2 構造概要図
② 屋根部材に10 mの屋根梁と5 mの屋根版があり,
両者の組み合せで計画貯水量や敷地に適合した形
状に対応できる
③ 部材同士がピン接合なので,校庭の地下等に短期
第2層
N=5
第3層
N=8
第4層
N=6
持管理時の視界や作業性が良好である
⑤ 部材接合部の止水性が良く,貯水槽以外の目的で
使用することも可能である
などである。
GL-9.3 m
GL-12.8 m
基盤面
GL-16.8 m
N=50以上
図3 設計条件例
間のうちに構築できる
④ 柱間隔が従来工法よりも2倍程度大きいので,維
300
第1層
N=2
100 600
8×10 000=80 000 4×5 000=20 000 300
屋根梁
屋根版
地表面
GL-2.0 m
600
300
800
H=5 000
700
な施設を構築できる
GL
表層地盤(粘性土)16 800
4 000 3 500 7 300 2 000
① 柱による阻害率が小さいので,経済的かつ効率的
土被り
6 950 1 000
750 5 700 500
300
本貯水槽の特徴は,
(2)常時の設計
常時の断面力の算出は,部材厚の中心線を通る骨組み
モデルを用い,平面解析によって行う。屋根部材と側面
壁・中間柱の結合条件はピン結合とし,支持条件は側面
壁と中間柱の下端を鉛直固定とする(図4)。
3.設計条件・設計方法
(1)設計条件
常時に考慮する荷重は,躯体自重・埋め戻し土砂・水
平土圧・地下水圧および地盤反力とする。
常時に対しては,許容応力度法によって設計する。し
設計条件の一例を,以下に示す(図3)。地震時荷重は,
「下水道施設の耐震対策指針と解説」((社)日本下水道協
たがって,各部材に発生する応力度が許容応力度以下で
あることを照査する。
会:1997年)に準拠した。
上載荷重+土砂+屋根部材自重
柱高さ :H=5.0 m
一辺長寸法 :100 m
側面壁自重
側面壁自重
基盤面の位置:地表面より−16 m
上載荷重 :28 kN/m2
下床版自重
(上載土:1.0 m+活荷重:10 kN/m2)
地震時荷重 レベル1:応答速度=0.24 m/s
レベル2:応答速度=0.80 m/s
土圧(側圧)
土圧(側圧)
地盤反力
図4 常時荷重の解析モデル図
61
照査断面は屋根部材・側面壁・中間柱・底版等におい
て,断面力が極大となる断面とする。プレキャスト部材
4.施工紹介
同士の接合部については,アンカーバーに作用するせん
(1)工事概要
断力を照査するとともに,アンカーバー埋込み部のコン
工事場所:大分県杵築市 川田建設㈱九州工場 敷地内
クリートの縁端破壊についても検討する。
構 造:壁・柱部材 プレキャストRC造
(3)地震時の設計
屋根部材 プレキャストPC造
地下構造物は,みかけの重量が周辺地盤と比較して軽
底 版 場所打ちRC造
いかもしくは同程度で,構造物の周囲が地盤で囲まれて
寸 法:30.6(長さ)×10.6(幅)×5.47(高さ)m
いるために逸散減衰が大きく,地震によって生じた自己
貯 水 量:1 140 m3
振動がすぐに収まる。また,慣性力によって地下構造物
構造一般図を図6に示す。
が地盤の中で自由に振動することがなく,地盤の振動に
(2)部材製作
プレキャスト部材の製作は,当社九州工場で行った。
追従した動きをする。
したがって,地下構造物に生じる応力は,慣性力による
影響よりも周辺地盤の相対変位によって生じさせられる。
本貯水槽の耐震計算は,地震時に生じる地盤の変位を
強制的に構造物に与えて静的に計算する応答変位法を用
部材製作数量を表1に示す。
PC部材は,工場設備のプレテンションアバットを用
い,ロングライン方式で製作した。PC・RC部材とも,
蒸気養生を行い,打設の翌日に脱型した(写真1,2)。
基本的に,PC構造の部材は,設計基準強度50 N/mm2
いる。
地震時の断面力の算出は,常時と同様の骨組みモデル
のコンクリートを用い,RC構造の部材は,30 N/mm2の
を用い,側面壁と底版を地盤バネで弾性支持した構造系
コンクリートを用いた。ただし,中間柱は大きな軸圧縮
に対して行う(図5)。
力を受けるため,RC構造ではあるが50 N/mm2のコンク
地盤変位
地震時土圧
リートを用いて製造した。
地震時土圧
慣性力
周面せん断力
図5 地震時荷重の解析モデル図
地震の影響で考慮する荷重は,
① 地盤の水平変位による土圧
② 躯体自重に起因する慣性力
③ 地盤のせん断変形による周面せん断力
とする。
レベル1地震時に対しては,許容応力度法によって設
写真1 中間柱(RC部材)の製作
計する。したがって,地震によって構造物全体系として
の力学的特性が弾性域を超えないことを照査する。また,
レベル2地震時に対しては,限界状態設計法によって設
計する。したがって,各部材が終局限界に達していない
ことを照査する。
(4)その他の検討
地下水位が浅い場合には,貯水槽が浮き上がる可能性
があるので,浮力に対する検討を行う必要がある。浮力
に対する抵抗性が不足する場合の補助工法としては,
① 均しコンクリートの重量を増やすことで安定させ
る工法
② 上部の土被り重量を増やすことで安定させる工法
等がある。
62
川田技報 Vol.25 2006
写真2 屋根梁(PC部材)の製作
平 面 図
1-1断 面
3
4
30 600
L=30 000
32×625=20 000
300
2×2 500=5 000
隅角柱
屋根版
300
2×2 500=5 000
屋根梁
マンホール孔
中間柱
300
支持梁
5
2×5 000=10 000
B=10 000
10 600
清掃機械等
投入孔
(グレーチング)
壁柱
2
300
2
外階段
側面壁
(受台あり)
4
隔壁
側面壁
(受台なし)
5
3
側 面 図
2-2断 面
300 2×2 500=5 000
32×625=20 000
屋根版
2×2 500=5 000 300
アスファルト舗装
屋根梁
1
中間柱
隔壁
底版(場所打ちコンクリート)
1 500
3 050
1 300
ポンプピット
19 500
1 300
3 050
断 面 図
4-4断 面
5 470
5 470
300
排水溝
排水勾配
外階段
6 400
1 250
1 500
5-5断 面
10 600
10 000
アスファルト舗装 屋根梁
300
300
10 600
2×5 000=10 000
300
マンホール孔 アスファルト舗装 屋根版
支持梁
側面壁
(受台あり)
3 800
10 600
1 800
1 000 1 800 2 100
2 100 1 800 1 000
流入管孔
800 アスファルト舗装
5 470
3-3断 面
6 000
5 470
壁柱
支持梁
3 800
H=3 500
1
梯子
泥溜め
排水勾配
底版(場所打ちコンクリート)
8 700
1 250
1 250
側面壁
(受台あり)
隔壁
ポンプピット
底版(場所打ちコンクリート)
8 700
1 250
図6 構造一般図
表1 プレキャスト部材製作数量
構 造
RC構造
コンクリート強度
(N/mm2)
部材数
(個)
部材重量
(t)
側 面 壁(受け台あり)
○
30
24
17.5
側 面 壁(受け台なし)
○
30
8
13.4
隅 角 柱
○
30
4
11.6
壁 柱
○
30
2
11.5
中 間 柱
○
50
2
9.6
H= 3.5 m
部材名称
PC構造
備 考
支 持 梁
○
50
2
5.2
L = 2.5 m
屋 根 版
○
50
3
10.5
L = 5.0 m
屋 根 梁
○
50
32
5.8
L =10.0 m
63
(3)施工手順
施工手順を図7に示す。
START
壁部材設置
壁部材接合
高さ調整ボルト
中間柱設置
支持梁架設
場所打ち底版工
屋根部材架設
写真4 側面壁の設置
E N D
図7 施工手順
(4)壁部材・中間柱の設置
本工事では,プレキャスト部材の設置にトラッククレ
ーンを使用した。
壁部材(側面壁・隅角柱・壁柱)および中間柱は,製
造・運搬の際は横置きの状態になっており,架設クレー
ンによって搬入用トレーラから一旦取り下ろし,吊り具
を付け替えて建て起こした(写真3)。
写真5 側面壁の設置完了
(5)壁部材の接合
壁部材同士は,目地の表面をポリマーセメントモルタ
ルで目止めし,接合面に設けた空隙にグラウトを注入し
て接合した。目地グラウトが硬化した後,一面となった
壁体をPCケーブルで緊張して一体化し,止水性能の向
上を図った。
(6)支持梁の架設
支持梁は,中間柱や壁柱とピン接合される。支持梁の
写真3 側面壁の建て起こし
建て起こした壁部材・中間柱を設置位置まで吊り込
支点部にはプレキャスト部材の製造段階でアンカー孔を
設けておき,中間柱の天端にゴムパッドを敷設してから,
中間柱に埋設されたアンカーバー上に落とし込むように
み,所定の位置に設置した。壁部材はその底版幅に対し
して架設した。アンカー孔とアンカーバーとの隙間部は,
て部材高が高いため,均しコンクリートの微妙な不陸に
架設後に無収縮モルタルを流し込んで充填し,地震時等
対しても壁頂部での部材の通りに与える影響が大きい。
の水平力を伝達できるピン接合とした。
そこで,壁部材の底版部に高さ調整ボルトを取り付け,
(7)壁部材の接合
このボルトを調節することによって,高さ・倒れを調整
する方法を採用した。設置の際は部材の水平方向の設置
誤差を5 mm以内とすることを目標として管理したが,
その精度は容易に確保することができた(写真4,5)。
壁部材・中間柱の設置後,上部荷重が確実に基礎地盤
へ伝達されるよう,部材の底版と均しコンクリートの天
端との間隙にグラウトを注入した。
64
川田技報 Vol.25 2006
屋根部材も,支持梁と同様に側面壁や支持梁とピン接
合する構造とした(写真6)。
本工事では,屋根部材として支間10 mの屋根梁と支間
5 mの屋根版の両者を組み合わせて使用した。接合方法
を簡素化し,壁部材の設置精度も容易に確保でき,屋根
梁・屋根版とも施工性は良好であった。
屋根部材の架設後,プレテンション方式の床版橋にお
排水溝
打継ぎ目地
機械式継ぎ手
アンカー孔
(アンカーバー)
写真6 屋根梁の架設
写真8 場所打ち底版コンクリートの打設
写真7 横締PC鋼材の緊張
写真9 完成した貯水槽の内部
ける間詰コンクリート施工と同様の要領で,屋根部材間
荒しするとともに,止水板のまわりをバイブレーターに
に間詰コンクリートを打設した。本貯水槽の場合は屋根
よって入念に締め固めた。
アンカーバー
部材の上を直接アスファルトで舗装し,場内運搬車両を
通行させるため,屋根梁には横締PC鋼材を配置し,屋
根部材全体の一体化を図った(写真7)。
(8)場所打ち底版の施工
壁部材で囲まれた底版は,設計基準強度 24 N/mm2の
5.おわりに
本貯水槽の立地が臨海部であったため,地下水位が
GL−1 m程度の位置にあった。そのために,常時水替え
を行いながらの施工であったが,構造が完成して埋め戻
場所打ちコンクリートで施工した。底版と壁部材・中間
した後にも,貯水槽内に地下水が浸入することもなく,
柱の継ぎ目部は,プレキャスト部材から機械式継ぎ手に
実構造物での止水性も良好であることを確認することが
よって鉄筋を突出させ,RC構造として連続化した。底
できた。貯水槽の内部は,写真9に示すように,重機に
版は,場所打ちコンクリート造なので,1%の排水勾配
よる清掃が十分に行える空間が確保されていることも実
を付けたり,ピット部に導水するために中央部に排水溝
証できた。
を設けるなどの細工が容易に行うことができた(写真8)。
今回開発した地下貯水槽「エコマモール」の技術は,
場所打ち底版は,構造的に問題となるひび割れを回避
平成16年10月に(財)土木研究センターの建設技術審査証明
するために,分割施工の打継ぎ目地を10 m間隔に設け,
を取得しており,その構造特性,機能特性,施工特性が
止水性を確保するために止水板を挿入した。打継ぎ部に
評価されている。
ついてはコンクリートの打設に先立って,打継ぎ目を目
65
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