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第2節 地域・大学協働による実 践型インターンシップの 展開

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第2節 地域・大学協働による実 践型インターンシップの 展開
第2節
1
地域・大学協働による実
践型インターンシップの
展開
実践型インターンシップ展開のモデ
ルケースの拡大
実践型インターンシップの展開
産業構造審議会産学連携推進小委員会(2
0
0
3.
5.
9)の資料「企業と大学の連携による人材育成
」によると「我が国の産業競争力を担う真に実
践的な人材育成を行うためには、大学と企業の強
固な連携が不可欠。質に注目したインターンシッ
プ推進へ向けた検討が必要。
」として実践型イン
ターンシップの積極的な導入により実践的人材育
成を図ることとしている。
従来型のインターンシップは、職業意識の醸成
を主たる目的としており、企業側の参加理由は
「地域貢献・社会貢献」であるため、企業にとっ
ても負担感が大きく、参加企業の拡大がなかなか
進まない欠点がある。
対する実践型インターンシップでは、学生・企
業双方にとってメリットが直接的かつ明確な取組
であり、道内においても導入を検討していく必要
があるだろう。
実践型インターンシップについて上記資料では、
表4‐9
実践型インターンシップの事例
プログラム名
京都大学大学院生ビ
ジネスカウンシル
非営利組織インター
ンシップ
生活者の社会参加
社会調査法
NPO スクール
多摩美術大学産学協
同プロジェクト
人コミュ倶楽部
まちづくり
創造性開発フィール
ドワーク ACT
顧客満足演習ゼミ
企画講座「会社をつ
くる」
プロジェクトイン
ターン
ベンチャーインター
ンシッププログラム
運 営 主 体
京都大学大学院生ビジネスカ
ウンシル(KGC)
慶應義塾大学
花田教授ほか
慶應義塾大学 花田教授ほか
慶應義塾大学 妹尾教授
大学コンソーシアム京都
多摩美術大学
名古屋学院大学 水野助教授
一橋大学 林教授
一橋大学
米倉教授ほか
宮城大学
久恒教授
立教大学
廣江教授
立命館大学
村山教授
早稲田大学オープン教育セン
ター
(出所)
「起業型人材育成のための産学協同教育プログラ
ム(実践 型 イ ン タ ー ン シ ッ プ 等)に つ い て の 調 査 研
究」
(平成1
4年度経済産業省委託調査、NPO 法人 ETIC.
実施)
(備考)上記調査では実践型インターンシップを「起業
家型人材育成のための産学協同プログラム」と位置付
け、
「E−COOP」
(Entrepreneurial Cooperative Education)と称している。
専門職大学院(ロースクール、ビジネススクール
など)の制度創設とともに「我が国の産業競争力
を担う実践的人材の育成」のための方策と位置付
けられており、先進地である米国では、バブソン
実践型インターンシップ(E−COOP)には3
つの分類がある。
(表4‐
1
0参照)
表4‐10 E−COOP における産学協同のスタイル
大学の「ビジネス・メンター・プログラム」やカ
リフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)
、ア
ンダーソンスクールの「PBL(プロジェクト・
インターンシップ
型
産学協同プロジェ
を提供しあい、協同で実施されるプロ
クト型
ジェクトに学生が参画し、共有する目
国内でも京都大学、早稲田大学などで取組が進
標を達成するための活動に取り組む
大学のカリキュラムの中で学生が自主
められており、
「起業型人材育成のための産学協
同教育プログラム(実践型インターンシップ等)
についての調査研究」
(平成1
4年度経済産業省委
託 調 査、NPO 法 人 ETIC.実 施)で は、1
3の 事
例が紹介されている(表4‐9参照)
。
達成に貢献する活動に取り組む
企業・団体と大学がお互いにリソース
ベイスト・ラーニング)
」などの取組が進められ
ている。
企業・団体に学生が参画し、その目的
学生プロジェクト
的にプロジェクトを立ち上げ、外部の
型
支援を受けながら設定した目標を達成
するための活動に取り組む
(出所)
「起業型人材育成のための産学協同教育プログラ
ム(実践型インターンシップ等)についての調査研究」
(平成1
4年度経済産業省委託調査、
NPO 法人 ETIC.
実施)
9
3
それぞれについて、目的は「実践経験の提供」
教授)という指摘はあり、参加する学生・大学・
「スキル・能力の向上」
「社会的アウトプットの
企業の負担を少しでも軽減するようなシステムの
創出」のいずれかに比重をおいており、運営体制
構築と併せ、そうしたコストにもかかわらずメ
については担当教員・大学事務局・独自事務局・
リットが大きいものに進化させる英知が必要と
学生団体などのタイプが存在する。
なってくる。
例えば、表4‐9中の大学コンソーシアム京都
「産業人材の育成に関するアンケート(企業向
が実施している「NPO スクール」は「インター
け)
」では、
「社会人としての最低の基礎教養が不
ンシップ型」であり、
「実践経験の提供」を主た
足」
「基本的な人間としての育成」などもあげら
る目的とし、
「大学事務局」が運営している。
れており、短期間の就業体験ではなく、長期間に
また、KGC は「産学協同プロジェクト型」で
わたって企業の社員と一緒に働く経験は、社会人
「社会的アウトプットの創出」を目的とし、
「学
としての常識を身につけ、課題解決能力を修得す
生団体」が運営している。
るいい機会となる。
今回の調査研究でフィールドワークを行った道
また、実践型インターンシップは「体験」では
内外の事例については第3章(P4
8、P5
3)を参
なく、
「何かをなす」ことであるので、学生の取
照願いたい。
組による成果が、参加する企業・地域にとって利
益のあるものであることが重要である。
2
実践型インターンシップ展開の効果
と課題
実践型インターンシップの効果
効果的な実施のための要件
「効果的に実施するための要件」としてあげら
実践型インターンシップ(E−COOP)の効果
れているのは、
「自ら課題を発見・定義すること
(目的)は「実践の経験の提供」
「スキル・能力
ができる就業機会であること」
「価値創出(課題
の向上」
「社会的アウトプットの創出」の3つに
解決)の実現やその質を厳しく要求する顧客等が
整理されている。
(ETIC.
2
0
0
2)
存在すること」
「諦めることなく、質の高い思考
上記の3つの視点のうち、前二者は参加する学
生にとっての効果であり、最後の一つは参加する
企業・地域社会にとっての効果と言える。
・行動を支えるメンター注16が存在すること」であ
る。
(ETIC.
2
0
0
2)
実践型インターンシップは、長期間にわたる取
道内においてもインターンシップ参加希望者は
組であり、学生が企業・地域等に主体的に関わっ
年々増加しており、職業意識を高めるための短期
ていくことが求められるため、参加学生の動機付
間の体験的なインターンシップのみならず、より
けは一般的には高いことが予想される。しかし、
長期間実践的な活動に従事したいと希望する学生
学生はあくまでも「学ぶ立場」であり、現場のビ
も増えている。これらの学生に対し、実践型イン
ジネスマンに対するような過度の期待をすべきで
ターンシップの機会を提供することで、より意識
はないのは当然である。重要なことは、企業課題
が高く、スキルを習得した学生を輩出することが
に取り組む学生に対し、大学教員が有効なサポー
できるだろう。
トをすることであり、企業は学生の専門知識より、
また、企業にとっては「地域貢献・社会貢献」
若く、捕らわれるもののない豊かな感性に期待す
などイメージ的な参加動機ではなく、自らの企業
るべきかもしれない。学生が持つ特性プラス大学
が持つ課題を解決するための活動として実践型イ
の指導教員と企業が持っている具体的なヒト・モ
ンターンシップに参加することが可能となる。こ
ノ・カネ・情報との相乗効果が、新たな価値のあ
うした参加者双方にとって実利性が高く、社会的
る成果を生み出す可能性が高いことに注目したい。
課題にも応えうる実践型インターンシップでは、
注1
6 「メンター」は、担当教官や社会人サポーターな
今後、参加企業・大学の増加が期待できる。ただ
ど参加学生の指導者、パートナーを指す。
し、
「より長期間、より実践的になればなるほど、
企業側の負担・コストも増大する」
(北大亀野助
9
4
実践型インターンシップの課題と普及のため
自分の側にはメリットがないだろう」という先入
の対策
観が制度そのものの普及に対する阻害要因となっ
実践型インターンシップの課題については、
ており、企業・地方自治体・NPO 等参加側団体
「プログラムコーディネーターをどのように確保
に正しい認識を持ってもらうことが、参加団体の
するか」
「いかにして企業側の高いコミットメン
増加につながる。大学・学生の取組や企業・地域
トを確保するか」という点が指摘されている。
の受入事例(特に明確に成果が認められる成功事
(ETIC.
2
0
0
2)
例)について情報公開を進め、
「参加企業にとっ
また、道内でのインターンシップの実施の結果
からは、
「受入企業の確保の難しさ」
「大学側の教
職員の負担」
「受入企業のメリットの少なさ」な
どが挙げられている(第3章 P.
6
6参照)
。
てもメリットのある取組である」ことを広く知っ
てもらうことが、制度普及への一助となる。
一方、学生の参加意欲を高めるためには、参加
団体の増加が必要である。学生によって「どうい
前述したとおり実践型インターンシップは通常
う業種の企業」で「どういうこと」をやりたいか
の体験型インターンシップに比較すると、事前研
は異なる。学生の希望と企業の希望のミスマッチ
修や企業と学生のマッチング、インターンシップ
がインターンシップの課題となっている面もあり、
中のフォローなど学生・大学・企業など参加する
参加団体が増えることでミスマッチの解消につな
各主体の労力やコストが大きくなる。個々の大学
げることができる。
の教員・職員が本来業務の片手間に取り組むので
企業・自治体・NPO 等の参加を促進するため
はなく、道内(あるいは圏域ごと)で中間組織を
に参考となる事例は前述した大学コンソーシアム
設け、企業の窓口機能や学生に対する研修やフォ
京都の取組である。
ローを集約化することが実践型インターンシップ
インターンシップへの企業等の参加については
の普及のためには必要であろう。先進的なモデル
学部教員等の個人的なネットワークによるものが
ケースとしては大学コンソーシアム京都があげら
大勢となっているが、大学コンソーシアムの場合
れる。ただし、大学コンソーシアム京都はイン
は、京都に所在する5
0の国公私立大学・短期大学
ターンシップの専業団体ではなく、多様な活動を
が参加した組織であることから、同コンソーシア
行っている団体であることに留意すべきである。
ムのインターンシップ・プログラムに参加する企
業・団体・行政機関は8
8
5団体と非常に多くなっ
3
参加側団体(地方自治体、企業、NPO、
NGO 等)
参加側団体の役割
ている。そのため、参加企業等にバリエーション
が多く、参加学生から見ても、自分の体験したい
企業がなにがしか選べる状況になっている。道内
それでは参加側団体はどうすべきであろうか。
においても実践型インターンシップを実施するに
上記報告書では「高いコミットメントで取り組む
あたっては、単独の大学・学部で実施するのでは
こと」
「大学・学生とのコラボレーションを目的
なく、複数の大学による受皿組織により、事業を
と す る こ と」が 必 要 と さ れ て い る。
(ETIC.
展開することが有効であろう。
2
0
0
2)
ちなみに2
0
0
2年(H1
4年)に財団法人北海道地
加えて「成果(ベネフィット)に対する強い意
域総合振興機構が北海道経済産業局から委託を受
識」が必要である。
「学生のやることだから使え
けて行った「インターンシップフォローアップ調
なくてもしょうがない」とか「ボランティアのつ
査」によると、実習先企業等が希望していた企業
もりで参加しているんだ」といった姿勢が参加者
かという質問に対し「希望業種だった」が4
9.
6%、
側にあるとすれば、学生のモチベーションに負の
「どちらでもない」が3
3.
8%、
「希望業種ではな
影響を与え、そのコミットメントは形式的なもの
かった」が1
6.
5%という結果となっている(図4
にとどまり、企業経営の核心部分には到達しない
‐5参照)
。
ため、真のコラボレーションとはならないだろう。
参加団体側の「どうせ学生のやることなので、
次に参加団体種別ごとに期待される役割を詳述
する。
9
5
図4‐5
実習先と希望のマッチング状況
て、資金的な流れがない中で、NPO 等側は学生
を労働力代わりとせず、アウトプットに対する高
い意識を持ってコミットすることが必要となる。
時代の流れを背景に学生側も NPO 的活動への関
心が高くなっているので、そのモチベーションを
保つことが重要であろう。
自治体の役割
自治体(第3セクター等を含む)は、前二者と
同様に実践型インターンシップのシステムに参加
(出所)
「インターンシップフォローアップ調査」
北海道地域インターンシップ推進協議会(2
0
0
2)
して学生を受け入れることが期待されるとともに、
事業システムの構築に関してコーディネーターの
企業の役割
企業は、積極的なコミットメントにより実践型
役割を果たすことが期待される。
自治体はある程度の資金を負担して、担当者が
インターンシップ事業に参加することが期待され
積極的にコミットすることは可能と考える。但し、
る。
アウトプットを実行に移すという局面では企業経
積極的なコミットメントを達成するためには、
営者のような意思決定力があるかどうか問われる
「企業→学生(大学)
」への資金の流れを作るこ
だろう。実施が危ぶまれる「調査報告」よりも、
とが有効である。企業が資金を負担することで、
学生・住民・自治体職員の協働で「何か」を実施
取組へのコミットメントは格段に強まるであろう。
する取組の方が参加者の達成感を高めることがで
逆に言うと、企業に対する利益(ベネフィット)
きるかもしれない。E−COOP の事例では「住民
が確実となるシステムの構築が必要となる。
参画型イベントの実施」
(生活者の社会参加)
、
E−COOP の事例では「新製品・新サービスの
「商店街での実験店舗の運営」
(人コミュ倶楽部)
、
開発」
(京大大学院生ビジネスカウンシル(KG
「共有自転車プロジェクトの実施」
(ま ち づ く
C)
)
、
「新業態店舗のデザイン」
(多摩美大産学協
り)などがあげられている。
同プロジェクト)
、
「小売店のサービス改善提案」
また、コーディネーターとしての役割も自治体
(顧客満足演習ゼミ)などが成果として挙げられ
に求められる重要な要素である。残念ながら大学
て い る。こ れ ら KGC、多 摩 美 大 産 学 協 同 プ ロ
の地域貢献の取組は地域に浸透しているとは言い
ジェクト、顧客満足演習ゼミはいずれもクライア
がたく、産業人材の育成に関するアンケート調査
ント企業との間に業務委託契約が締結され、予算
(市町村向け)でも、ほぼ7割の市町村が「イン
は企業からの受託金で賄われている。
ターンシップ」
「地域プロジェクトへの学生の参
加」
「地域課題解決のための学生との協働」など
NPO、NGO 等の役割
NPO、NGO 等(以下「NPO 等」
)も、企業同
大学の人材育成と連携して事業について「実施意
向なし」と回答している。
様、積極的なコミットメントの下に参加すること
企業向けアンケートでも「理論と実践には取り
が求められる。NPO 活動の推進については、マ
除くことのできない壁がある。現在の環境では問
ネジメント能力の不足が活動の停滞を招いている
い以前の問題がある。
」
「特に期待していない。従
ことが指摘されており、実践型インターンシップ
来この様な形に何度か見受けられるのは、その職
への積極的な参加により NPO 活動の活性化につ
場のアリバイ作りのような形でリアリティーが感
ながることも期待される。
じられないし、大学の先生方も専門化され、どう
しかし、NPO 等の場合は、企業と異なり成果
しても幅がないのは仕方ないことと思う。
」など
による利益が明確だったとしても、資金的な負担
の厳しい声があがっているが、これは、大学の取
を行うことは困難であることが予想される。従っ
組が十分伝わっていないために受けている誤解で
9
6
ある面も大きい。
特に大学が(近隣に)所在しない市町村にとっ
ては、
「自分たちには関係のない話」という認識
も強いようだ。しかし、例えば国土交通省(都市
・地域整備局)では「地域づくりインターン事
業」として、三大都市圏の学生や社会人などを対
象として、7月から9月までの期間中、全国1
3の
市町村の派遣希望地で地域の体験プログラム(地
域づくり活動、産業体験、地元の人との交流な
ど)に参加してもらう事業を実施しているなど、
地元での若干の経費負担を許容すれば、いろいろ
な形で大学との連携事業は可能となっている。
また、実践的インターンシップの推進にあたっ
ては、大学との連携に関する知識が十分でない企
業や市町村に対して情報提供を行い、時には地域
と大学のマッチングを行う広域的なシステムの存
在も必要である。
9
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