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Oct 15

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Oct 15
H14/10/15
多電子原子の項の決定
原子の電子状態(即ち波動関数)に名前を付ける。原子中の電子は、原子の球対称性ゆえに、高い軌道角運
動量や全角運動量を持つ。これらの量を目印にして「項」(term)と呼ばれる名前を付ける。分子の項について
は他所で述べるであろう。
水素原子の復習
1電子系である水素原子を使って、軌道角運動量とスピン角運動量の復習をしよう。水素原子中の電子の波
動関数は、主量子数 n 、方位量子数 L 、磁気量子数 m L で指定することができる。方位量子数は通常には小文
字で書くが、見づらいので大文字の L にした。
(1)軌道角運動量
物体が何かの回りを軌道運動すると角運動量を持つことになる。これを軌道角運動量と呼ぶ。原子中の電子
の軌道角運動量は自由に連続な値をとることが出来ずに飛び飛びの値となる(量子化されていると言う)。軌
道角運動量は整数(方位量子数) L で指定される。 L =0,1,2, 3 は s, p, d, f-軌道に対応する。ここで、 L =1 の電
子状態(p 状態)を例として考える。 L =1 の電子状態(p 状態)にはさらに3個の状態が存在しており、それらは
磁気量子数 m L で指定される。
L =1
→
1

mL =  0
− 1

この3つの状態をミクロ状態と呼び、それぞれ角運動量値( m L h )を持っている。これら3個のミクロ状態は、
エネルギー的には同じである。これを、エネルギー的に縮退していると表現する。一般には、ミクロ状態の数
は m L = L , (L − 1),...0,..., − (L −1), − L のように( 2 L + 1 )個となる。
電荷を持った粒子が軌道角運動量を持つと磁気モーメントが生じる。磁気モーメントは磁場と相互作用して
エネルギー変化をもたらす。それゆえミクロ状態は、磁場 B の中では ( e / 2 m)( mL h) B のエネルギーが付与され
る( m は電子の質量、 e は電子の電荷)。我々は、 L =1 の電子状態(p 状態)が3個あることを「磁場下の観測」
によって始めて知ることができる。
(2)スピン角運動量
軌道角運動量とは別に、電子にはそれ自身で角運動量を持っている。これをコマや地球の自転(スピン)に
なぞらえてスピン角運動量と呼ぶ。電子の持つスピン角運動量 S は半整数 1 / 2 である。 S にも2個のミクロ状
態 m S が存在する。即ち、
1
S=
2
→
 1

mS =  2
1
−
 2
である。
軌道角運動量と同様に、スピン角運動量も磁気モーメントを与える。それゆえ、磁場と相互作用によって
g ( e / 2 m)( mS h) B のエネルギー間隔で分裂する( m は電子の質量、e は電子の電荷、g は通常ほぼ 2.0 である)。
一般には、ミクロ状態の数は m S = S , (S − 1),...0,..., − (S −1), − S のように( 2 S + 1 )個となる。1電子系で
は S = 1 / 2 ゆえいつも2個であるが、多電子系のときに役に立つのでここに記しておく。
(3)スピン−軌道相互作用
スピン角運動量と軌道角運動量がそれぞれ磁気モーメントを生じさせるので、両者は磁気的な相互作用を持
つ。これはスピン―軌道相互作用(Spin-Orbit Interaction)と呼ばれる。この相互作用のハミルトニアンは、通
常のハミルトニアンに
1 Sˆ ⋅ Lˆ
h2 1
=
σˆ ⋅ ( r ×∇ ) ⋅ ( −i )
2 m2c 2 r 3
2 m2c 2 r 3
を加えればよい。ここで σ̂ は Sˆ = hσˆ と定義して Ŝ を無次元化したものである。この式は原子核を原点として
Hˆ SO =
おり、原子の場合についての式である。
スピン―軌道相互作用が存在するために、スピン角運動量と軌道角運動量はそれぞれが勝手に独立な値を取
らずに、一定の関係を保つようになる。それゆえ、スピン角運動量と軌道角運動量を足し合わせた全角運動量
J という量が一定の値をとる(保存される、とも言う)。 J は J = L + S から J = L − S までの飛び飛びの値
をとる。p 状態の場合、 L =1 で S =1/2 であるので、
3 1
J= ,
2 2
となる。全角運動量 J に対するミクロ状態 m J が存在すると考えてよい。
 3/2
1
 1/ 2

3
1

J=
→ mJ = 
J=
→ mJ =  2
2
2
−1/ 2
− 1
 2
− 3 / 2
ミクロ状態の合計は6個である。この数は、 L =1 のミクロ状態3個が、 S =1/2 によって各々さらに2個ずつ
に分裂したと考えた場合のミクロ状態の数 2 × 3 =6個と同じである。J のミクロ状態の数と L と S を独立に考
えたミクロ状態の数はいつも一致するので、状況に応じて使いやすい方を選んで考えればよい。
多電子原子
次に2個以上の電子を持つ多電子系の場合を考える。全電子の m L と m S を合計した値を考える。即ち
M L = ∑ mL 、 M s = ∑ ms とする。炭素原子を例にする。1s と 2s 軌道には m S = ±1 / 2 の電子(即ち alpha
スピンと beta スピンの電子)が1個づつ占有するので、合計 M S = 1 / 2 − 1 / 2 = 0 となる。1s と 2s 軌道は L =0
ゆえ m L =0 である。従って 1s と 2s 軌道にある電子は、全体の L と S を決めるときには考えなくてよい。
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
1
0
-1
図1.p 軌道( m L = −1, 0, 1 )を2個の電子が占有する電子配置
1
0
1
1
-1
0
0
-1
-1
このような電子配置は、
パウリの排他原理より存在しない
それゆえ 2p 軌道を占有している2電子のみを考える。2p 軌道の3つの状態を2個の電子が占有する方法(電
子配置)を図で表示すると上図の様になる。 m S = ±1 / 2 は矢印で示し、 m L =-1,0,1 は3本の横線で示してい
る。電子配置の数は15個であり、許されるミクロ状態が15個であることと一致している。
この図から、この電子が持つ全 L と全 S を考えてみよう。まず、電子が占有した軌道の m L を合計すると、
この2電子系には M L = −2, −1,
0, 1, 2 が存在することが判る。従って、 L =2, 1, 0 が存在する可能性
がある。最大の L は必ず存在する(つまり L =1 には M L =2 は存在できないが、逆に L =2 には M L =1 は存在で
きる)。ゆえに、値の大きな L や S から検討するのが得策である。
(i) ( L =2、 S =0):
M L = −2, 2 であるためには L =2 が必要である。この時、下図のように S =0 しかありえない(確定)。
1
0
1
-1
0
ML = 2
MS = 0
-1
M L = −2
MS = 0
(ii) ( L =1、 S =1):
図1の点線以下は同種のスピンであるので M S = 1 or -1 となり S =1 が存在する。このとき M L = 1, 0, -1
であるので L =1 が存在する(確定)。
(iii) ( L =1、 S =0):
電子配置としては存在の可能性がある(保留)。ミクロ状態は3個。
(iv) ( L =0、 S =1):
電子配置としては存在の可能性がある(保留)。ミクロ状態は2個
(v) ( L =0、 S =0):
電子配置としては存在の可能性がある(保留)。ミクロ状態は1個
(i)と(ii)は必ず存在するので、それらのミクロ状態は5+9=14個である。許されるミクロ状態は15個なの
で、あと1個のミクロ状態が許される。従って、(iii)と(iv)は存在することができず、(v)の存在のみが可能であ
る。以上より、図1の電子配置には、( L =2、 S =0) 、( L =1、 S =1)、( L =0、 S =0)で指定される3種類の電
子状態(項)が存在する。
以上のような項の探し方は場当たり的(ad-hoc)だと感じる人もいるだろう。事実、上述のような方法であら
ゆる原子の項が必ず決定できる保証はない。系統的な方法も存在するが、今回はここまで。
項の命名
L と S に応じて項を
2 S +1
A
と名付ける。 A には L =0, 1, 2, 3 に応じて S, P, D, F の記号を記す。 A の左
肩には電子スピンによるミクロ状態の数を書く。前節の炭素の場合には、
( L =2、 S =0)…. 1 D 、
( L =1、 S =1)…. 3 P 、
( L =0、 S =0)…. 1S
スピン−軌道相互作用を考慮した場合には、右下に J を付記する。前述したように J は L + S から L − S まで
の整数(もしくは半整数)である。即ち、
( L =2、 S =0、 J =2)…. 1 D 2 、
( L =1、 S =1、 J =2)…. 3 P2 、
( L =1、 S =1、 J =1)…. 3 P1
( L =1、 S =1、 J =0)…. 3 P0
1
S0 は singlet-S-zero、 3 P2 は triplet-P-two と読む。
( L =0、 S =0、 J =0)…. 1 S0
基底状態の項の決定
ひとつの原子には複数の項が存在するが、エネルギー的に最も安定な項(エネルギーの低い項:基底状態)
は次に示す Hund の規則で与えられる。
(1) 最大の S
(2) S が同じなら最大の L (3) S と L が同じで電子が副殻の半分より少ないなら最小の J 、電
子が副殻の半分より多いなら最大の J 、である項が最安定である。副殻とは p 軌道や d 軌道のことをいう。
クーロン相互作用とスピン−軌道相互作用
炭素の励起状態 2p13s1 の項は 3 P2 ,
3
P1 , 3 P0 および 1 P1 である。14 族の原子の励起配置 np1 (n+1)s1 (n =
3,4,5,6 は Si, Ge, Sn, Pb に対応する)の項も炭素と同様である。これらのエネルギーレベルを下図に示す。
3
P と 1 P のエネルギー差はクーロン的な相互作用が起源であり、 3 P2 , 3 P1 , 3 P0 間のエネルギー差はスピン−
軌道相互作用に由来する。 3 P2 ,
3
P1 , 3 P0 のエネルギー差は炭素では極めて小さい。炭素ではクーロン相互作
用に比べてスピン−軌道相互作用は格段に弱いことがわかる。一方、Sn や Pb ではスピン−軌道相互作用の方
がクーロン相互作用より大きいことが理解できよう。
3
1
1
右図は各原子の P0 と P1 のエネルギーを揃えて
1
P1
示してある(原子間で絶対値は比較できない)。
1
P1
1
P1
1
Energy
3
3
3
3
3
P1
P0
P2
3
3
3
C
P0
Si
3
P2
P2
P2
P1
P2
3
P1
P1
P0
Ge
3
P1
3
P0
Sn
3
P1
3
P0
Pb
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