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フレーズ・リーディング チャンクを意識したリーディング指導……
【特集】フレーズ・リーディング 【特集】フレーズ・リーディング チャンクを意識したリーディング指導 北海学園大学教授 塩川 春彦 1. はじめに:チャンクを意識したリーデ ィング 言語も含めて,人は入ってくる情報を一定の操 は導いた / 彼女が公使になることに / 日本の代 表団の / 国連で / 1976 年に 2.3 フレーズ・リーディングの利点 ちなみに,筆者は,フレーズ・リーディングを, フレーズ・リーディングの利点は,第一にチャ リーディングに困難を感じる学習者を支援する指 ンクのあり様,並べ方を学べることである.この 導法として使うことが多いので,概して,チャン ことは,リスニング,スピーキング,ライティン クは小さくした. グ能力の向上につながる.上で述べたようにチャ ンクは「理解・生成の単位」なのであるから,当 3.2 小さいチャンクの区切りから 然である.第二に,返り読みを防ぐための矯正装 小さいチャンクに区切ろうとする場合には,ど 置として効果があり,言語情報のオンライン処理 こで区切るかで悩むことがある.一般的には,統 作単位で処理する.この情報処理の単位はしばし これは, 「スラッシュ・リーディング」あるい 能力を向上させることである.オンライン処理と 語的情報に基づき区切る.まず,文頭副詞句の後, ばチャンクと呼ばれる.言語情報の処理のチャン は「チャンク・リーディング」と呼ばれることも は,次々と入ってくる情報を頭(ワーキングメモ 補文境界の前で区切る.次いで,節内の統語的な クは,句(フレーズ)単位,リズム単位を基盤と 多い.いずれも, 「センス・グループで分割して リー)に一時的に保存し,その内容を解析,さら 境界,つまり,前置詞,接続詞,関係詞,不定詞, す る「 理 解・ 生 成 の 意 味 単 位(perceptual / 提示し,英語を英語本来の順序でより直接的に理 に入ってくる情報を保持しつつ,以前入ってきて 分詞の前で区切るのが原則である.さらに,次の productive sense unit)」である.チャンクは,母 解する」ことを主眼とする点で同じものとみなし, 解析されたものとどうつながるのかを解析して意 ように主語が長い場合なども分割する. 語話者だけではなく学習者においても,理解・生 本稿では,これらを一括して,現時点でもっとも 味を決定していくという,一連の作業である.第 成の単位であることはよく知られている.英語教 流通している呼び名であるフレーズ・リーディン 三に,フレーズ・リーディングは,初級・中級者に, 育学の世界では,近年,チャンクがキーワードの グと呼ぶこととする. 主語と主動詞,主節と従属節,関係詞などの後置 一つになっている.本稿では,フレーズ・リーデ 修飾といった統語構造を理解させるのに役立つ. ィングの指導法と展開法を概説することで,チャ 2.2 ヴァリエーション ンクを意識した指導の利点と留意点を論じたい. ヴァリエーションとしては,チャンクごとに日 The large transnational companies / of the US and Japan / are almost falling over themselves / to invest in the emerging markets / in the region. しかし,これらは,絶対的なものでない.区切 り方のルールの一貫性を厳格に求めない方がよい. で英語を直接理解することを促すやり方がある. 3. フレーズ・リーディングの指導 3.1 チャンクの区切り方:大きいチャンクか 小さいチャンクか また,センス・グループごとに改行して提示する チャンクの区切り方は,まず,句単位に小さく てればいいだろう. チャンクを意識した英語指導法として代表的な やり方もある.まず生徒たちに統語上の区切り, 区切るやり方と,節単位に大きく区切るやり方が ものは, フレーズ・リーディングである.フレーズ・ 意味の区切りを考えさせ,英文にチャンクごとに ある.チャンクが大きいと意味の素早い理解が難 3.3 テキスト自動分割システム リーディングは,次のように英文を,スペースや スラッシュを書き込ませ,それから意味の把握に しくなるが,逆に言えば,大きいチャンクでも意 英文のテキストが自動的に分割されるシステム スラッシュによって,センス・グループ(主に句 努めさせる,というやり方は,フレーズ・リーデ 味の理解ができれば,読むスピードが上がる.小 を,立命館大学の田中省作氏がウェブ上で公開し 単位)で分割して提示し,英語を英語本来の順序 ィングに慣れてきた生徒たちに向いたやり方であ さいチャンクは,チャンクごとの意味の理解は容 て お ら れ, 無 料 で 利 用 で き る(http://www. で,より直接的に理解する習慣をつけさせること る. 易になるが,読むスピードは大きいチャンクを理 cl.ritsumei.ac.jp/CALL/SR/). こ の シ ス テ ム は, を目的とした指導法である.分割の仕方は,スペ 「フレーズ・リーディング」を比較的新しい指 解できる学習者よりも遅くなる.また,小さいチ 処理が比較的迅速であるし,チャンクの大きさを ースによるものと,スラッシュによるものがある. 導法のように考える人もいるが,すでに 30 年以 ャンクは,単語・句間のつながりなどの周辺情報 いくつかのモデルから利用者が選ぶことができる 上前から,通訳訓練で行われているサイトトラン が失われ,戻り読みや先読みを誘引することもあ など,たいへん優れたシステムである.しかし, スレーション(sight translation)を取り入れたリ るという指摘もある. このシステムで作られた区切りは,利用者が補正 ーディング教材が, 「同時通訳方式」というキャ 一般的には,初級学習者を対象とする時あるい を施す必要があることは言うまでもない.現場で ッチフレーズで販売されている.これは今でいう は難度の高い英文を扱う時は小さなチャンクにし, 生徒と向き合っている指導者の判断が最終的なも 「フレーズ・リーディング」と同じである.また, 上級学習者を対象とする時あるいは難度の低い英 のである. 2. フレーズ・リーディング 2.1 フレーズ・リーディングとは何か After returning to Japan, / she taught / at several universities. // During this time, / she became involved / in some UN activities, / which eventually led / to her becoming a minister / at the Japanese mission / at the UN / in 1976. 本語訳を書かせるやり方と,日本語訳をさせない 学習者が理解しやすいチャンクにすることが重要 なので,テキストを通してある程度の一貫性が保 筆者自身,1980 年代から,その当時は高校教員で 文を扱う時は大きなチャンクにする,というのが チャンクごとの訳: あったが,フレーズ・リーディングを指導に熱心 原則になるだろう.また,指導開始当初は,小さ 3.4 分割された英文テキストの提示 日本に帰ってきて / 彼女は教えた / いくつかの に取り入れ始めた. めのチャンクにし,徐々にチャンクの大きさを大 分割された英文テキストの提示の仕方としては, 大学で // この間に / 彼女は関わるようになっ きくしていく,というのも当然なされるべき配慮 もっともオーソドックスなものが,チャンクに分 た / いくつかの国連の活動に / それはやがて だろう. 割された英文テキストをワークシートにして配布 【特集】フレーズ・リーディング 【特集】フレーズ・リーディング する方法である.チャンクごとに訳を書き込ませ いてもリピーティングにおいても,最初はチャン ができること.意見と理由,原因と結果,問題と フレーズ・リーディング用の『予習ノート』とマ る実践例が多いが,日本語訳を介在させないで理 クを短めにして,短期記憶への負荷をできるだけ 解決策などの論理構成が読み取れること,などな ッピング用の『予習ノート』を, それぞれ“Activity 解を促そうという志を持った指導をする人もいる. 抑えるように配慮し,徐々にチャンクを長めにし ど. Book”として,新学期に印刷製本して配布して 指導者の指示の下で,英文のテキストにスラッシ て負荷を増していくと,処理能力が高まる. こうしたマクロでの理解を支援する指導法とし いる(ちなみに,樽井教諭は,筆者が高校教員で ュを書き込ませる,という手がかからないやり方 ては,マッピング(semantic mapping とも言う) あったとき,一緒に教材作成やワークシートづく をすることもできる. 4.2 速読 が代表的なものである.つまり,パッセージの論 りに励んだ仲間である) .次のページに二つの『予 筆者は,高校教員時代には,チャンクに分割さ 先に触れた,PC によってチャンクの提示をす 理構成をチャート化して,それを空所補充問題に 習ノート』の例を載せたので,ご覧いただきたい. れた教科書の英文を,一冊分すべて印刷・製本し, る場合,うまく時間をコントロールして提示し, して取り組ませるのである.筆者は,フレーズ・ 6. おわりに 『予習ノート』として教科書使用開始時に配布し 意味を頭のなかで確認させながら進めていくと, リーディングは省略することはしばしばあるが ていた.生徒たちには,チャンクごとに訳を書き 速読の訓練としてとても有効である.ワークシー (上級者クラスやテキストが平易な場合) ,マッピ 込ませていた.授業での答え合わせは難しい部分 トを使った速読訓練としては,センス・グループ ングだけはほぼ必ず取り入れている. ついて,フレーズ・リーディングを中心に概説し だけで済ませ,残りは模範訳を配布するなどして ごとに改行してプリントアウトして提示し,視線 マッピングも予習の段階でさせるとよいので, た.フレーズ・リーディング自体は,特別新しい 後述の展開活動にできるだけ多くの時間を使いた を上から下へ一方通行で動かすことを求める.こ 筆者は,高校教員であった時も大学教員の現在も 指導法ではない(実際,本誌 2006 年 5 月 10 日号 い. の場合も,時間をコントロールすれば,自ずと学 テキストの全課のマッピング活動のワークシート にも,実践報告が掲載されている) .したがって 最近では,マルチメディアによってチャンクを 習者は直読直解をすることを促される. を, 『予習ノート』として,事前配布している. 一部の先生方にとっては「何を今さら」という感 長野県長野高等学校の樽井千寛教諭は,10 年以上 じをもたれると思われるが,できるだけトータル 提示することは,まったく珍しくない.PC 画面 以上,チャンクを意識したリーディング指導に に次々とチャンクが現れて消えていく,というよ 4.3 英文再生 にわたって,自分がある学年の英語担当者のチー に概説したつもりである.授業改善のヒントを一 うな仕掛けは,上述したオンライン処理を促すた 次に,チャンクごとの訳を英語に直す活動をす フになった時は,採用教科書の一冊分に対応する, つでも見出していただければ幸いである. めに効果的である.このような提示法は,マルチ る.これは紙の上に書かせる活動でもよいし,PC メディアコンテンツ作成支援ソフトを使わなくて の画面上にチャンクごとの訳を表示し,それを口 も,PowerPoint のアニメーション機能で容易に 頭で英語に直す活動でもよい.この活動を通して, できる.PowerPoint にはサウンドを挿入できる 英語表現のチャンクが長期記憶に残っていき,ス ことは言うまでもない. ピーキングやライティング能力の向上に役立つこ とは言うまでもない. 4. フレーズ・リーディングを他の活動に どう発展させるか 4.1 ポーズ入りリスニングとリピーティング 5. フレーズ・リーディングを補完するト ップダウン・アプローチ フレーズ・リーディングは,訳したところで安 これまで説明してきた諸活動には欠けている視 心させてしまうのでなく,リスニングやリピーテ 点がある.それは,英文をマクロで見る視点を学 ィングにつなげて,英語そのものに触れさせる時 習者に持たせることである.フレーズ・リーディ 間を増やし,英語表現が記憶に残るようにしたい. ングとそれに付随した活動だけでは,いわば英文 チャンクごとにポーズを入れた模範リーディング のボトムアップ処理をさせただけなのである.英 を聞かせ(ポーズ入りリスニング) ,チャンクご 文の理解はそれだけでなく,トップダウン処理す との音声から内容を想起させる.そのあとに,チ なわちパッセージ全体の構造の理解を促さなけれ ャンクごとに模範リーディングを真似て読むリピ ばならない.言い換えれば,パッセージ全体の論 ーティング(逐次リピート,リプロダクションと 理構造を理解させるのである.たとえば,以下の も言う)につなげる.発話の強勢・抑揚・声調など ようなことがあげられる.パラグラフレベルであ のプロソディをできるだけ真似るように促したい. れば,トピックセンテンスとサポートの識別がで これはリスニング力やスピーキング力の向上に役 きること.テキストレベルであれば, 序論 (メイン・ 立つと言われている.ポーズ入りリスニングにお アイデアの提示) ,本論(サポート) ,結論の識別 筆者が高校教育時代に作 成した『予習ノート』と樽 井教諭作成の『予習ノー ト』 【特集】フレーズ・リーディング 二つの『予習ノート』