Comments
Description
Transcript
無表情認知における気分一致効果の検討
無表情認知における気分一致効果の検討 ○筒井亮太1・菅村玄二 2 ( 関西大学大学院心理学研究科・2関西大学文学部) キーワード: ポーカー・フェイス,真顔,感情 1 The Mood Congruency Effect on Recognition of Neutral Faces Ryota TSUTSUI1 and Genji SUGAMURA2, 1 ( Graduate School of Psychology, Kansai Univ., 2 Faculty of Letters, Kansai Univ.) Key words: poker face, sober face, emotion 目 的 モーフィング技術の登場により,表情認知の実験的な手法 はより向上したが(竹原, 2004),表情認識をする主体の状態 を考慮に入れた研究はまだまだ少ない。刺激である顔面表出 を認識する側の内的状態を扱った上での研究は多くないが, 関連する分野の研究として,気分一致効果(mood congruency effect; Bower, 1981)をあげることができるだろう。 これまでに様々な表情が研究されてきたが,無表情は中性 的な刺激として扱われ,ほとんど研究されてこなかった(渡 邊・山田・厳島, 2002) 。渡邊他(2002)は無表情を, (a)外 面的変化がない,平均的な状態, (b)感情状態が表れていな い(感情状態が読み取れない) , (c)文脈の影響を受けやすく, 何らかの感情価が付加されている場合があるという 3 条件を 想定している。 本研究の目的は,気分一致効果の観点から,中性と措定さ れてきた無表情についての表情認知を検討することである。 本研究では渡邊他(2002)の 3 条件のうち,無表情の文脈の 被影響性について感情と認知の観点から検討していく。 クの種類(ポジティブ誘導・ネガティブ誘導)の 2×2 の完全 無作為要因計画による 2 要因 4 水準の分散分析を行った。結 果,男性 A の幸福評定(F [1, 27] = 6.06, p = .021)と男性 B の驚き評定(F [1, 27] = 4.51, p = .044)の評定において, 群間で有意な差がみられた。フィードバックの種類の効果量 はそれぞれ η2 = .20,η2 = .15,交互作用の効果量はそれぞれ η2 = .02,η2 = .02 であった。それ以外の項目および,女性 A,B いずれも,有意な結果はみられなかった。 考 察 今回の結果から,気分がネガティブな状態の場合,驚きの 表情を知覚しやすいことが示された。渋井・繁桝(2003)や 吉川(2011)は,驚きの表情に関してその特異性を示唆して いる。進化論的に,驚きの表情は,表出者と知覚者の周囲の 環境になんらかの新奇な刺激が存在していることを示してお り,ネガティブな状態のときに認識しやすくなることは,知 覚者の生存を助けることになると憶測できる。驚きの表情に 関しては今後その特性を研究していく必要があるだろう。 Hess et al.(2004)は,男女の感情表出の差に対する表情知 方 法 覚は,知覚者のジェンダーに関するステレオタイプに影響を 参加者 平均年齢 20.9(range 17~34)の関西の大学で受講 受けることを示している。彼らは,中性的な顔に男性的な髪 している高校生・大学生・大学院生 30 名(M: 12, F: 18) 。 形と女性的な髪形をそれぞれ組み合わせた表情がどのように 器具 予備研究から得られた男女 2 名ずつ無表情の写真 認識されるかを研究した。表情は,怒り,幸福,悲しみ,驚 (それぞれ男性 A,男性 B,女性 A,女性 B とする)を 33× きが使用された。結果,女性的な髪形の場合は怒りの表情の 25cm のラップトップコンピュータ上で,同じ人物かつ同じ種 ほうが男性のそれよりも怒りが読み取られ,男性的な髪形の 類の情動表出が重ならないように,1 枚目は必ず無表情にな 場合,幸福の表情のほうが女性のそれよりも幸福が読み取ら る,3 枚 1 セットで,合計 4 セットをランダムに呈示した。 れた。つまり,男性は怒りを表しやすく,女性は喜びを表し 気分誘導を行うための課題の創造性検査の例(野村, 1967)を やすいとされているが,男性の表情にはより幸福が,女性の 用意し,気分誘導が正確に行われているかを測定するために, 表情がより怒りが読み取られやすいことが示された。また, 一般感情尺度(小川・門地・菊谷・鈴木, 2000)のうちポジテ 池上(2000)によると,人はポジティブな感情よりもネガテ ィブ感情の因子とネガティブ感情の因子の 2 因子から 16 組(4 ィブな感情を読み取ることの方が得意とされる。今回の実験 件法) ,写真を評定するための 6 情動カテゴリの視覚的アナロ では,女性の表情は気分誘導の種類に同様に左右されず知覚 グ尺度を用いた。 されたのであろう。 手続き 同意を得た後,フェイスシートと一般感情尺度に Surguladze et al.(2004)は,うつ病患者は悲しみよりも喜 回答してもらった。その後,創造性検査を実施し,課題の成 びの表情の識別に困難があることを示している。つまり,気 果をフィードバックすることで,参加者の気分をポジティブ 分がネガティブな場合,人は幸福の表情を正確に知覚するの な状態とネガティブな状態へと操作した。評定の練習試行を が難しいということを意味し,本研究の結果を支持する。 行ってもらい,一般感情尺度に回答してもらった後,刺激の 本研究では,FACS や JACFEE を日本人の大学生に無表情 呈示を行った。写真呈示の前に 1000ms の注視点を呈示し, として知覚されるかどうか適切かどうか判断しかねたため, その 1000ms 後に 1000ms 写真は呈示された。次の写真が自動 個人の写真を用いたが,その結果,個人的な顔の特徴を統制 的に呈示されるまでの 10000ms の間に評定を行ってもらった。 できなかった。今後は平均顔作成をした写真の使用などの追 評定終了後,一般感情尺度と実験の意図への気づきの質問紙 試が必要であろう。また,動画や 3D を用い生態学的妥当性 に回答してもらった。最後にデブリーフィングを行い,実験 を高める研究が期待される。 は終了した。 文 献 結 果 Hess et al.( 2004). Facial appearance, gender, and emotion 性差はみられなかったため,刺激写真の性別とフィードバッ expression. Emotion, 4, 378-388.