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(6)芸術科音楽と「総合的な学習の時間」
(6)芸術科音楽と「総合的な学習の時間」 1 はじめに 音楽による教育活動は、本来、教科の特性上「総合」的な要素を多く含んでいる。なぜ なら、一つの楽曲の表現活動や鑑賞活動において、楽曲の構造的側面、文化的側面、歴史 的側面を学び、生徒一人一人の感性で味わい、表現につなげていくプロセスは、まさに、 生徒の主体的かつ創造的な問題解決能力を必要とするからである。これまでの音楽科の授 業実践で培った創意工夫や経験則を「総合的な学習の時間」の展開に生かすことができる と と も に 、「 総 合 的 な 学 習 の 時 間 」 で 深 化 ・ 発 展 さ せ た 内 容 を 教 科 に フ ィ ー ド バ ッ ク す る ことで、音楽科教育の充実に資することにもなると考える。 「総合的な学習の時間」のテーマ設定にあたっては、学校や地域の実態を踏まえ、何よ りも、生徒の興味・関心に基づき、各自が課題と感じていること、また、将来の進路との か か わ り を 考 慮 す る 必 要 が あ る 。 ま た 、「 知 の 総 合 化 」 の 観 点 か ら 、 教 科 横 断 的 ・ 実 生 活 密着型の課題を設定し、新しい「学び」の在り方を創造していくことも肝要である。 そ こ で 、 音 楽 の 役 割 と い う 視 点 か ら 、「 音 楽 の メ ッ セ ー ジ 性 」「 音 楽 レ ク リ エ ー シ ョ ン を 通 じ た 心 の 交 流 」「 地 域 の ホ ー ル の 活 用 に つ い て 考 え よ う 」、 音 楽 と 文 化 と い う 視 点 か ら 、「 シ ル ク ロ ー ド と 音 楽 」 と 題 し て 、「 総 合 的 な 学 習 の 時 間 」 の 展 開 例 を 考 え て み た い 。 2 展開例 ①音楽のメッセージ性「−音楽の意味スルモノと意味サレルモノ−」 参 考 文 献 : F.R.Noske『 The Signifier and The Signified. Studies in the Operas of Mozart and Verdi』 <ねらい>楽曲分析を通して、音楽の意味スルモノについて考察し、演奏や鑑賞活動に 役立てるとともに、楽曲分析を通して学んだ手法を創作活動へ発展させる。 生 1 . 楽 曲 分 析 の 方 法 を 学 び 、 楽 譜 を 構 造 的 に 捉 え る ( 原 書 講 読 を 含 む )。 徒 ・音楽の一貫性や連続性により劇の効果を高める手法 の ・音楽による人物描写(分析例) 学 ・死のモティーフの効果 習 2.シェイクスピア原作の劇「オセロ」と歌劇「オテロ」とのかかわりを調べる。 活 3.楽曲分析によって理解した音楽のメッセージ、すなわち、作曲家の意図を聴き 動 手として感受し、演奏者として聴き手へ伝える。 4.楽曲分析によって学んだ手法を用いて、創作活動を行う。 「オテロ」の登場人物に与えられた音楽的特質を〈意味スルモノ〉として、メッ セージを〈意味サレルモノ〉として考える。 <意味スルモノ> <意味サレルモノ> ヤーゴ ♪前打音付1オクターブの下降 ・冷笑する様子や残忍さ、他者への巧みで、最 分 跳躍、トリル も信用のおけない扱い、ふざけや悪意 ♪半音階的下降音型 ・毒の作用:ヤーゴの音楽的特質をオテロの旋 析 3拍子・3連符 律に取り込ませることで、ヤーゴの魔力がオ 企みのモティーフ テロへ影響を及ぼす様子を音楽で表現する。 例 オテロ ♪ 不 安 定 な 調 性 、 断 片 的 な 楽 節 ・オテロの苦しみ、破滅 や言葉 ♪ホ長調・ホ音上の長3和音 ・オテロとデズデモナの絆 デズデモナ ♪全音階的下降音型 ・純真さ、悪に対する無知、ヤーゴと対極の位 4拍子・2連符 置にあり、毒の作用を受けない。 ②音楽レクリエーションを通じた心の交流 <ねらい>音楽が人に働きかける作用について学習し、老人福祉施設等での音楽レクリ エーションを通じた心の交流を図る。そのなかで、人とのコミュニケーションの方法や 生き方について考える。 生 徒 の 学 習 活 動 1 . 音 や 音 楽 の 効 用 に つ い て 調 べ る ( 麹 の 発 酵 に 有 効 な モ ー ツ ァ ル ト の 音 楽 等 )。 2.音楽療法について調べたり、専門家の講義を受けたりする。 3.施設の職員や老人の方々にインタビューをし、対象者の状況(音楽の嗜好や運 動の程度等)を踏まえ、音楽レクリエーションプログラム を作成する。 ♪音楽療法・・・音楽の持つ生理的、心理 的 、社会的働きを、意図的・計画的に活 用しながら、個人の幸福や人間的成長を 追求することを前提に、心身の機能の回 復・維持・改善、健康増進、生活の質の 向上などへの過程を援助すること ①雰囲気作り ②はじめのあいさつ ③呼吸・発声 ④合奏:季節の歌 ⑤リズムトレーニング:民謡 ⑥終わりのあいさつ 4.交流を通じて、コミュニケーションのとり方や生き方について考える ③地域のホールの活用について考えよう <ねらい>地域のホールについて、設計や音響上の特徴等、ホールの構造的な面につい て、また、地域住民とのかかわりについて調べ、ホールの活用法を考える。さらに、コ ンサートを企画し、実施に向けて、計画案を作成する。 生 徒 の 学 習 活 動 1.ホールの施設・設備等の調査:舞台の広さ、客席数、音響・照明設備等 2.人に優しい設計となっているか:車椅子席、エレべーターやスロープ等の設置 3.ホール側のコンセプト、年間の企画、イベント内容の調査 4.地域住民のニーズやホールの活用度、演目と集客率の関係等の調査 5.地域の音楽文化について調べ、今後、地域の音楽文化の発展のためにどのよう なホールの活用法があるかを考える。 6.コンサートの企画・実施に当たって、当日までの計画表を作成する ①内容の検討、練習計画表の作成 ②会場の確保、打ち合わせ ③ 宣 伝 方 法 ( 案 内 状 の 送 付 、 Webペ ー ジによる宣伝、ポスター、チラシ、 チケット、プログラムの作成) ④立て看板の作成 ⑤セッティング図、楽屋割りの作成 ⑥当日の役割分担(受付、司会、誘導 セッティング、写真、ビデオ等) ⑦反省会 ④シルクロードと音楽 <ねらい>シルクロードの国々の音楽について、様々な楽器の音色や歌唱法等の独自の 美しさに触れ、音楽的視野の拡大を図り、幅広い音楽観を身に付ける。また、音楽と気 候、社会、歴史、宗教とのかかわりについても考察し、伝統文化から新しい文化への変 容の様子を探るとともに、それぞれの文化のすばらしさを認める姿勢を養う。 生 徒 の 学 習 活 動 1.音楽の素材である声や楽器の種類や特性、及びそれらが楽曲にもたらす効果に ついて、実演家による演奏や視聴覚教材 に よ り ( 映 像 、 音 声 等 )、 鑑 賞 す る 。 ♪声:モンゴルのホーミーと日本 ・ 声 に は 、言 語 の 特 性 な ど と か か わ り 、 の民謡の発声等 固有の音質や声域、発音法や発声法 ♪楽器:ラオスのケーン 、中国の しょう がある。 シェンと日本の 笙 等 ・楽器には、材質や形状、発音原理の ♪ 同 じ 発 音 原 理 ( 弦に)この 楽 器 : 馬 違いにより、それぞれに音質や音色 頭琴、シタール、二胡、琵琶等 の特徴がある。また、同じ発音原理 の楽器でも、民族によって、音色や奏法に違いが見られる。 2.音楽の構造:音階、旋法、リズム、拍子や演奏スタイルについて考察する。 3.音楽の背景にある風土、生活、歴史について調べる。 4.伝統文化と新しい文化とのかかわり、我が国と諸外国の文化の特徴を調べる。 3 学習活動における指導上の留意事項 ① 生徒の学習活動においては、必要に応じて、他教科とティームティーチングを組ん で指導に当たる。 ② 情報収集等、課題追究に必要な人的・物的両面の環境整備を行う。 ③ 課題追究や成果発表の際には、保護者や専門家、地域の方々との連携を密にし、生 徒とのコミュニケーションの場を設定し、双方向からの学びを大切にする。 ④ 活動計画表を作成し、活動内容、調査や情報収集の方法を明確に示す。 ⑤ 効果的なプレゼンテーションの方法(意見交換、成果発表、演奏)を工夫させる。 ⑥ 毎時間の活動記録表を作成し、適宜、生徒・教師間で情報交換を行い、次課題へス ムーズに進められるようにアドバイスする。 ⑦ 評価表を作成し、自己評価・相互評価を行う。