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人間が生活していく上で有益 な森林の機能とは何か? ここでは森林
森林の機能 人間が生活していく上で有益 な森林の機能とは何か? ここでは森林について理解を 深めることを目的とする 注)ここでは機能として、水の流出に関わる機能につ いて考える 主要引用文献 「森林水文学」塚本良則編 文永堂出版 豊 か な 森 林 土 壌 森林の働きについては一般的なコンセンサスが得られてきた (ブナの森は緑のダム、太田 威著、あかね書房) 広葉樹は水を作るか? ・岩見三内川では融雪出水が一気に出ることはなく、その後の季節にも水 量を保っている (ブナの森は緑のダム、太田 威著、あかね書房) 生態学的に平衡状態に達した広葉樹林 ...例えば、1994年、 1995年の大渇水で は、放置したままの広 葉樹の樹林からは水 が涸れているのに、 手をかけて育ててき た杉の森林からは、 それがわずか30年生 の少年のような森林 であっても、例年と変 わりなくとうとうたる流 れが保たれ、明暗を 分けている... (富山和子、”水と緑 の国、日本”) ▲ 広葉樹か、針葉樹か? そもそも、このような設問は適切か? ・扱っているのは”環境” ・環境とは多数の要素からなり、相互に関連があり、空間に配置されており、 歴史によって形成される 多様性、関連性、空間性、歴史性 このような対象に対して科学的な議論を行うにはどのような観点が必要か: ・広葉樹...自然林、里山の二次林、落葉広葉樹、常緑広葉樹、... ・針葉樹...人工林、自然林、落葉針葉樹、常緑針葉樹、... ・どのような管理をされているか、生態学的に平衡状態にあるか、... ・歴史的経緯...森林利用、林齢、崩壊の履歴、... ・空間...地質、地形、気候 総合的な環境認識 ・これが行われないと同じ対象に対して異なった結果を与えることさえあり得る ・環境問題には白黒で決着が付かない問題が多い ”∼の場合には∼だが、∼の時は∼である” 環境問題をどう捉えたら良いか 多様性、関連性、空間性、歴史性 ・間違った認識からは正しい対策は生まれない モデルに代表される演繹的手法は境界条件、初期条件を仮定する必要 がある →与えられた条件に対して答えは一つ ・正しい、境界条件、初期条件は総合的な環境認識から生まれる みんな、外に出よう! 野外科学の勧め ■概説 a.森林保全の重要性 なぜ森林を保全するか? 人間の歴史は森林破壊の歴史 →環境考古学、文明と環境、気候と文明 ・19世紀の終わり頃にヨーロッパで反省の機運 ・近代林学の発展を促し、日本、アメリカに波及 Global Forest Watch http://www.globalforestwatch.org/ 現在の森林被覆 人間活動が無かった場合の森林 被覆 現在残されている自然林 世界の森林分布 Global Forest Resources Assessment 2000 http://www.fao.org/DOCREP/ 004/Y1997E/Y1997E00.HTM 日本語版あり 「世界森林白書2000」農文協 森林面積の変化 森林の再生、保全に対して近代林学が出した答え 森林と土壌は与えられた気候条件における定常状態に向かって発達 よって、”森林・土壌を生態学的定常状態に保持すること”、が重要 保全のプライオリティー 1)土壌の保全 2)森林の保全 3)水保全 森林・土壌・水は一つのシステムを構成する ・緑化の手順としては上記の順 ・実際には相互に関連する ・環境の本質 この順序を無視すると、すべてを失う!? ■.森林の変化が長期流出に与える影響 長期流出:時間単位が年または季節程度の長期間の流出 長期流出に影響する因子 ・蒸発: 量に影響 ・他の要因: 流出の時間遅れに関係、流出の時間配分 短期流出(時間、日単位)では流出の時間遅れが重要 以下では、森林の変化が地上部のみで、土壌に変化が及ばないケースを扱う R (1)流出量変化の評価法 流域を単位とする水収支式: R=Q+E+ΔS Q E ΔS ここで、R:降水量、Q:流出量、E:蒸発散量、ΔS:期間前後の貯留量差 流域貯留量: 土壌水分としての不飽和流と斜面下部の山脚部に見られる飽和流で構成 ・降雨分布が毎年類似していると、年間の同時期ではΔS≒0 ・長期間ではΔSはゼロと見なせる よって、R=Q+E によって森林の変化の影響を評価 →E=R-Q Eをどのように評価するか ・微気象学的方法 ・水収支法→小流域試験 小流域試験の方法 対照流域法: 森林処理前に二つの並行した小流域で降雨量と流出量を測 定し、両者の関係を正確に求めた後に、片方を処理 その他: 処理前後の流出特性を比較する ハイドログラフ ・横軸に時間、縦軸に流量をとり、河川流量の時間変化を表したグラフ (2)小流域試験の代表例 アメリカ南東部アパラチア山系にあるCoweeta試験地 ・日本とほぼ同じ緯度 ・平均降雨量 1775mm(1939∼1953年) ・平均流出量 925mm ・平均蒸発量 825mm ただし、年間の降雨分布はほぼ一様 ここで、どのような観測が行われて きたか、解説をしよう! 積上型の地道な研究の重要性を 理解してください ここで、様々な歴史的研究が行われてきた a.広葉樹を伐倒し、そのまま放置したときの年流出量変化 ・伐倒初年度の流出量増加 370mm (降雨の20%、森林状態の時の蒸発散 量の44%) 年 ・伐倒により森林の蒸発は皆無、代 わって成長した下草の蒸散と地面蒸発 が増加 ・伐倒後、流出量の増加は指数関数的 に減少 ・増加は20年も続く ・23年後に再生林を伐倒すると全く同 僚の流量増加が見られる 森林を除去すると流量は増える b.広葉樹林を針葉樹林に変えたときの年流出量変化 ・(落葉)広葉樹を伐倒し、その 後、再生樹の伐倒を繰り返し、 最後に松(white pine)を植裁 ・再生樹の刈り払いを行うと、約 300mm弱の流量増加 ・松の生長に伴い、流量減少 ・松が欝閉して10年経過すると 広葉樹の時より200mm弱の流 量減少 →針葉樹が広葉樹より蒸発散 量が大きい →針葉樹の葉量が大きく、遮断 量が大きいこと、蒸散の期間が 長い 針葉樹に変えると流量は減少 (土壌の変化がないという点を忘れるな) 広葉樹林皆伐 →広葉樹の再生林→間伐 →white pine植裁→間伐 →草地 Coweetaは冬降水も多い →LAIの影響大 伐採後の年数→ ■広葉樹林を皆伐し、他の樹種に変換したときの流量変化 c.広葉樹林を草地に変えたときの年流出量変化 ・広葉樹林を伐倒・焼き 払い、表土を掘り返し、 十分施肥を行い、牧草を 播いた ・草が最も旺盛に繁茂し た初年度は草地の蒸発 散量は広葉樹とほぼ同 一 ・肥料分が減少して、草 の生産量が減ると流量 は増加 草地だって最初は元気がいいよ、肥料さえあればバ ンバン光合成します! d.森林伐採が年蒸発散量変化に及ぼす斜面方位の影響 図136 森林の伐採率と 年流量増加の関係を小 流域の方位向きにプロッ ト その関係は流域の方位 をパラメータとして直線で 表される ・南向き斜面では、伐採により森林の蒸散が無くなっても蒸発散総量は変化が 少ない →地面蒸発に相当する部分が蒸散の減少を補っている (土壌の状態は変化させていない点に注意) e.森林伐採が月流出量に与える影響 図137 対照流域法により、森 林伐採とその後の再生樹刈り 払いによる月流出量増加の7 年間の平均値 ・流量の増加は7月から大きく なり、11,12月を最高として 3月まで続く 蒸散期間 ・Coweetaでは5月初旬から 10月中旬が蒸散期間 ・蒸発散最盛期と流出量増加の発生には3ヶ月の遅れ →地中流の流出の遅れが、この小流域では3ヶ月程度 (3)森林伐採初年度の年流出量増加の予測 予測はできるのか? Bosh & Hwelett,1982による古典的な成果 →森林伐採による流量増加が森林帯で分かれ、針葉樹が広葉樹より増加量 が大きい ・針葉樹は広葉樹より 高緯度に分布すること から考えると、気候学 的な蒸発散能力と比 較して針葉樹の実蒸 発散量が大きいこと 樹 葉 針 ・針葉樹の遮断量が大 きいことも一因 (4)森林の変化が無降雨期の地下水流出に与える影響 低水時(地下水流出)の逓減曲線と森林の関係 図140 愛知演習林白坂流域において夏期に無降雨日が継続し、流量が小 さくなったときのハイドログラフ 日周期の変化 →河道面や河岸周辺から昼間活発に蒸 発散が起こり、流量を減少させる 注)この現象はその後太田によって数値 計算で確かめられているが、最近、HP誌 にこの現象に関する評論が載っている →日本の成果をアピールすべき 森は生きて呼吸をしている 図141 月ごとの地下水逓減 曲線(日周期の頂点を使用) 雨が止んだ後の河川の水位の 低下のはやさ 早い→雨が地表に達して、川に達する までの途中で水が消費されて いる 遅い→途中で消費されていない ・地下水逓減曲線の勾配は年 間を通して暦周期とほとんど 一致したサイクルを作っている ・冬季に比較して夏期の地下水逓減が極めて大きい 竜の口山流域では夏期に流量が急激に減少 →瀬戸内地方は日本の中では乾燥地域 →森林は渇水になると水を消費することを意味している 日本の豊かな森林土壌は雨を吸収し、ゆっくり流出させる緑のダム機能を有 しているが、渇水時には樹木の生存のために水を消費する 森林土壌の機能 Coweeta試験地の斜面に設 置された大型ライシメータ (長さ61m、幅1.4m、深さ 2.1m) ①5月に無植生状態で十分 飽和させた後、ビニールシー トで蒸発抑制 このサイズの土層でも、90日 以上にわたって流出を継続 させる効果がある ②牧草を植裁して数年流出を観測したときの地下水流出逓減曲線 ・冬は蒸発散の影響はほとんど無い ・夏期は無効雨期間が20日を越えると表層は著しく乾燥し、流出を抑制 土層中を不飽和降下浸透する速度の小さな土壌水が地下水涵養、流出維持 のために重要な役割を果たしている ここまでのまとめ 森林を伐採すると河川の流量はどうなるか? ただし、森林土壌はきちんと保全されるとする A)流量は増える *樹木からの蒸発散量がなくなる分だけ河川の 流量は増える 年降水量1800mm程度の流域で、360mmも増えた 注)水柱高は単位の面積あたりにたまる水の深さ 水量=水柱高×流域面積 例)360mm/年は1km2の流域で、年36万m3の増加(1辺約71mの立方体) 針葉樹の森と広葉樹の森では、どちらが多くの 水を育むか? A)科学的な森林小流域試験の結果によると、広 葉樹林の流域の方が、針葉樹林の流域より河川 流量は多い *広葉樹の方が針葉樹より蒸発散量が少なく、 その分だけ河川に流出する量は増える なぜ、いまだ論争になっているのか? *対象である森林をどれだけ正確に認識しているか −生態学的に平衡状態に達した森林か −森林の手入れは十分に行われているか −気候帯の違いによって森林の応答が異なる (これは今後の課題) 環境認識では、なかなか白黒つけられない場合も多い(世論 は白黒決着を付けたがるが)。環境の多様性、関連性、空間 性、歴史性によって結果が異なる場合もあるからである。 環境の見方 −復習− ・環境とは多数の要素からなり、相互に関連があり、空間に配置されており、歴 史によって形成される 多様性、関連性、空間性、歴史性 このような対象に対して科学的な議論を行うにはどのような観点が必要か: ・広葉樹...自然林、里山の二次林、落葉広葉樹、常緑広葉樹、... ・針葉樹...人工林、自然林、落葉針葉樹、常緑針葉樹、... ・どのような管理をされているか、生態学的に平衡状態にあるか、... ・歴史的経緯...森林利用、林齢、崩壊の履歴、... ・空間...地質、地形、気候 これらの前提を明確にしないと、同じものを扱っていても、全く逆の主張が行わ れることもある ”総合的な環境認識”が重要 総合的とは 多様性、関連性、空間性、歴史性 ・間違った認識からは正しい対策は生まれない モデルに代表される演繹的手法では多くの場合、境界条件、初期条件を 仮定する必要がある ・境界条件、初期条件を間違えば、正しい結果は得られない ・正しい、境界条件、初期条件は総合的な環境認識から生まれる みんな、外に出よう! 現場主義で考えよう! もし、森林が無かったら流出はどうなるか 森林の機能 ・蒸発散 → 水を消費(緑のポンプ) ・森林土壌を作る → 大量の水を一時蓄え、 徐々に流出させる機能 (緑のダム) 裸地と植裁地の短期流出の違い ・裸地:ハイドログラフの立ち上が りが急、逓減も急 裸地→ピーク流量大 ・植裁地:ともに緩やか 裸地→逓減速やか 違い→森林土壌があるかないか 植裁地→基底流量が多い 裸地→基底流量が少ない 森林土壌の重要性 森林伐採が感覚的に”悪”とされることが多いのは、土壌を 保全しない略奪的な伐採が原因 森林伐採自体を論じるよりも、そのような略奪的な伐採が行 われる理由を考えることが重要 例)伝統的な焼畑−略奪的な焼畑→人口問題 (持続可能) (持続不可能) 環境は感覚的、一面的に捉えるのではなく”総合的”に理解 する訓練を大学でしておこう! 多様性・関連性・空間性・歴史性 ・JERS1の合成開口レーダーで撮影したブラジ ル、ロンドニア地方(上) ・赤い部分が森林伐採が行われた地域.魚の骨 に似ているのでfishboneと呼ばれる. ・約800km四方の広さを撮影した画像である. 伐採が進行しているという事実がわかる 背後にどんな事情があるのか? 水源涵養機能(利水ダムとしての機能) ・森林は多くの孔隙を含む森林土壌を作り出す ・そこに、浸透した水はゆっくり地下を流れ、年間を通して河 川の基底流量を保つ しかし、森林は蒸発散を通して水を消費 ・水量を増やすためには、森林を伐採すれば良い(極論) →大前提:森林土壌を保護する ・十分成熟し、土壌が発達した人工林では枝打ち、間伐に よって損失量(蒸発散量)を調整できる→林業との共存 ・生態学的に平衡状態に達した広葉樹林は豊かな水を育む 注)気候帯によって異なる→今後の研究課題 ...例えば、1994年、 1995年の大渇水で は、放置したままの広 葉樹の樹林からは水 が涸れているのに、 手をかけて育ててき た杉の森林からは、 それがわずか30年生 の少年のような森林 であっても、例年と変 わりなくとうとうたる流 れが保たれ、明暗を 分けている... (富山和子、”水と緑 の国、日本”) 緑のダム(治水ダム) ・大きな葉面積(LAI)を持つ森林は雨水をいったん樹冠に受け止 める(遮断) ・地表に達した雨水はいったん地中にしみ込み、時間が遅れて流 出する しかし、”記録的な豪雨”に対してはダム機能を発揮できるとは限 らない ・貯水容量に限界あり 自然が制御できない分を人間が制御すればよい →下流に守るべき財産があるか ・自然を扱う事業は白黒で判断できるものではない →総合的に ・1997年河川法改正 河川事業における環境への配慮、地域住民の意向を十分くみ取ること ・1998年利根川、那珂川、阿武隈川洪水 ・2000年9月東海豪雨災害 ・2001年水防法改正 情報システムのあり方、水害ハザードマップの作成と公開が地方自治体に義務づけられた 旧法制度 ・「お上任せ」、被災した場合はクレームや訴訟 新法制度 ・自己責任の世界、環境を重視して地域の意向を十分くみ取った場合は、そ の計画が完了した時点で、それ以後の被災には保証は期待できない ・環境を重視して、大規模施設による「洪水リスクコントロール」を放棄する場 合は、そのリスクを軽減する智慧を地域ぐるみで出さなければならない 住民の移転、保険に加入→「自己責任において決定」 (左)昭和58年7月山陰豪雨災害時 の花崗岩の樹枝状崩壊(山地の地 形工学、古今書院より) ・豪雨、・崩壊、・土石流 谷の出口に住みたいと思うか? (右)1999年6月広島豪雨災害(ア ジア航測).砂防ダムを乗り越えた 土砂が住宅地まで侵入. (クリックして土砂災害防止法) 森林の機能 終わり 現在の森林被覆 人間活動が無かった場合の森林 被覆 現在残されている自然林