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高専生の睡眠健康に関する実態調査 -学寮生と自宅生の比較を通じて

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高専生の睡眠健康に関する実態調査 -学寮生と自宅生の比較を通じて
論文集「高専教育」、第 35 号、655-660、2012
高専生の睡眠健康に関する実態調査
-学寮生と自宅生の比較を通じて-
西尾幸一郎 *1,笹本康太郎 *2,廣田麻希 *2
田村隆弘 *1,重村哲至 *3,米田郁生 *4,鈴木厚行 *5
Survey on the Sleep Health of College of Technology Students
-Between Dormitory Students and Students who living at home-
Koichiro NISHIO, Kotaro SASAMOTO, Maki HIROTA,
Takahiro TAMURA, Tetsuji SHIGEMURA, Ikuo YONEDA, and Atsuyuki SUZUKI
This study aimed to compare and analyze the sleeping habits and the degree of risk in the sleep health of
students who live in dormitory and students who live at home and, through conducting a questionnaire, to
obtain an understanding of the sleep health of students at this school and issues concerning this. Results
showed that, compared to students who live in dormitory, the sleep patterns of those who live at home are
not regular and that there was a trend of many of these students napping during the day. On the other hand,
compared to students who live at home, the overall sleep health of students who live in dormitory is good but
there was a trend of difficulty in falling asleep.
KEYWORDS: sleep environment, dormitory, school facility, joint habitation
1.はじめに
睡眠不足は,日中の強い眠気や居眠りを誘発し,
学習機能や短期記憶にも影響を与えることから 1),
良好な睡眠を得ることは学習効果を高める上でも
大変重要であると言える。しかしながら,年齢層別
の睡眠状況をみると,高専生と同じ年齢層である
大学生の睡眠状況(睡眠の規則性・睡眠障害の程
度)が他の年齢層と比べて著しく悪いこと,高校生
でも高学年になるほど悪くなる傾向がみられるこ
となどが明らかになっている 2)。
とりわけ,高専生の学校生活を見た場合,一般の
高校生や大学生と比べて演習課題や実習が多く,
*1 徳山工業高等専門学校土木建築工学科(Dept. of Civil Engineering & Architecture, Tokuyama College of Technology)
〒745-8585
山口県周南市学園台
E-mail: [email protected]
*2 徳山工業高等専門学校環境建設工学専攻 (Advanced Course Student of Tokuyama College of Technology)
*3 徳山工業高等専門学校情報電子工学科(Dept. of Civil Mechanical & Electrical Engineering, Tokuyama College of Technology)
*4 徳山工業高等専門学校一般科目(数学)(Tokuyama College of Technology)
*5 徳山工業高等専門学校機械電気工学科(Dept. of Computer Science & Electronic Engineering, Tokuyama College of Technology)
655
表 1 睡眠健康危険度得点関連項目
カリキュラムが過密であるために,精神的にも肉
体的にも負担が大きく,睡眠が乱れやすい状況に
あると推察される。そこで,高専生の睡眠状況や問
題点を把握することは教育的な観点からも極めて
重要であると考える。
これまでに高校生や大学生の睡眠状況に関する
研究は多数報告されており,食習慣や運動習慣,深
夜 の ア ル バ イ ト な ど の 生 活 習 慣 3)-6), 身 体 的 疲
労・精神的ストレス 7) などが睡眠障害と大いに関
係していることが明らかになっているが,高専生
を対象とした研究は少ない。また,近年,睡眠環境
と睡眠状況との関連性に注目した研究が盛んに行
われており 8)-11),その中で学生の睡眠に注目した
ものとして樋口ら 12)の研究がある。樋口らは,居
住形態の違いと睡眠状況との関係性に着目し,学
生寮に住まう高校生と自宅に住まう高校生の就寝
時刻や平均睡眠時間量,睡眠不足に関する愁訴の
実態等を比較・分析している。その結果, 学寮生
は自宅生よりも眠りが浅い,授業中居眠りをする
ことが多い等の愁訴が多いなど,睡眠状況が悪い
ことが明らかにされている。一方で,入眠障害や睡
眠時無呼吸等の睡眠健康危険度について,学寮生
と自宅生とで比較・分析した研究はみられない。
以上のことをふまえ,本研究では,居住形態の異
なる学寮生と自宅生の生活習慣や睡眠健康危険度
を比較・分析し,高専生の睡眠健康状態とその問題
を把握することを目的とする。なお,本研究は,学
生寮の睡眠環境改善に向けた研究の一環として実
施したものであり,既報 13)では学生寮における同
室者の有無が夜間の睡眠や日中の居眠りに及ぼす
影響などについて検討している。
睡眠維持障害関連項目(第 1 因子)
①中途覚醒回数,②熟眠感,③夜間排尿回数,④早朝覚
醒感
睡眠随伴症状関連因子(第 2 因子)
⑤寝ぼけ発生の頻度,⑥金縛り発生の程度,⑦恐怖性入
眠時幻覚発生の頻度,⑧むずむず脚・四肢運動異常発生
の程度
睡眠時無呼吸関連因子(第 3 因子)
⑨いびき発生の程度,⑩睡眠時無呼吸発生の程度
起床困難関連因子(第 4 因子)
⑪起床困難感,⑫床離れまでの時間
入眠障害関連因子(第 5 因子)
⑬睡眠薬使用の程度,⑭入眠潜時
無に関わらず,睡眠維持関連障害や睡眠随伴症状,
睡眠時無呼吸などの睡眠問題因子ごとにその危険
度を算出することができる。
なお,睡眠健康調査票は,中高年者の睡眠改善や
高齢者の不眠予防を目的として開発されたもので
あるが,本稿で使用する簡易版は,幼児から高齢者
まで共通する項目が用いられているため幅広い年
齢層で用いることができ,教育現場でも多く用い
られており 16),様々な研究の中でも用いられてい
る 17)-19) 。
調査項目は,性別・年齢・睡眠に関わる生活習慣
に関する項目(平日・休日の就床時刻,起床時刻,
睡眠時間等)が 8 項目,睡眠健康危険度関連項目
14 項目(表 1 参照)の 22 項目で構成されている。
なお,「睡眠健康危険度得点関連項目」における各
質問項目の得点化は白川ら 14)-15)に従って算出し,
得点が高いほど,睡眠健康に関わる危険度が高い
ことを示している。さらに第 1 因子から第 5 因子
の得点の総和を「睡眠健康危険度総得点」と定義
し算出した。
調査の実施時期は,調査実施以前の 1 ヶ月間に
中間・期末テスト,文化祭などの睡眠が大きく乱れ
やすい学校行事がないことに留意して,2010 年 7
月中旬におこなった。なお,回答の際には「あまり
特別な場合は考えずに,ここ一ヶ月のふつうの生
活についてお答えください」という教示をおこな
った。
集計および分析に際しては,統計解析ソフト
spss を用いて,学寮生群と自宅生群の 2 群にわけ
て比較をおこなった。
2.調査概要
T 高専の学生を対象にアンケート調査をおこな
った。調査票の配付数は 289 部(学寮生 110 部,
自宅生 179 部)であり,有効回答数は 236 部(回収
率 81.7%)であった。なお,学寮生の有効回答数
は 104 部(男性 91 部,女性 13 部,平均年齢 17.3
才)で,自宅生の有効回答数は 132 部(男性 73 部,
女性 56 部,性別不明 2 部,平均年齢 17.9 才)であ
った。
調査票は,睡眠健康調査票(簡易版) 14)-15) を使
用した。この調査票は,日常生活下における総合的
な睡眠健康の良否を調べる指標として信頼性・妥
当性が検証されており,睡眠関連愁訴の自覚の有
656
図1
生活習慣等についての比較
3.結果
3.1
表2
就床・起床時刻,睡眠時間についての比較
学寮生
n=104
自宅生
n=132
24 時 20 分±47 分
24 時 07 分±55 分
[休日前]
24 時 46 分±61 分
24 時 39 分±78 分
起床時刻[平日]**
7 時 11 分±27 分
6 時 33 分±44 分
7 時 59 分±50 分
8 時 44 分±119 分
生活習慣の比較
就床時刻[平日]+
表 2 は,学寮生群と自宅生群の就床・起床時刻と
睡眠時間について比較した結果を示したものであ
る。
起床時刻に関しては,自宅生群は平日の起床時
刻は有意に早いが(p<.01),休日の起床時刻は有
意に遅い(p<.01)。自宅生群では,休日において約
2 時間の起床時刻の後退が認められた。
就床時刻に関しては,平日・休日ともに両群間で
統計的な有意差は認められず,休日における就床
時刻の後退は両群とも 30 分程度であった。
平日の睡眠時間は,学寮生群が 6.62 時間,自宅
生群 6.25 時間となり,学寮生群の睡眠時間が有意
に長かった(p<.01)。一方で,休日の睡眠時間は,
学寮生群が 7.22 時間であるのに対し,自宅生群
8.24 時間となり,自宅生群の方が有意に長かった
〃
〃
[休日]**
睡眠時間[平日]**
〃
[休日]**
6.62 時間±0.87 時間 6.25 時間±0.95 時間
7.22 時間±1.34 時間 8.24 時間±1.79 時間
平均±標準偏差,t-検定 **:p<0.01
*:p<0.05
+:p<0.1
(p<.01)。自宅生群では平日と比べると休日の睡
眠時間が約 2 時間長くなっている。
図 1 は両群の生活習慣等を比較した結果を示し
たものである。居眠りやうたた寝の有無に関して
は,「しょっちゅう」
「ときどき」
「たまに」を合わ
せて自宅生群は 88.0%,学寮生群 63.5%となり,
両群ともに日中の居眠りの混入がある者の割合は
657
図2
各睡眠健康危険度得点の比較
就床時刻の不規則性に関しては,「かなり不規
則」
「やや不規則」を合わせて自宅生群は 50.8%,
学寮生群 49.0%となり,両群ともに約半数が就床
時刻は不規則であることがわかった。なお,両群間
で統計的な差は認められなかった。
以上のように,生活習慣等に関しては,いずれの
項目についても自宅生よりも学寮生の方が良好な
数値を示していることがわかった。
高い。両群を比較すると,自宅生群の方が居眠りの
混入がある者の割合が有意に高かった(p<.05)。
起床時刻の不規則性に関しては,「かなり不規
則」
「やや不規則」を合わせて自宅生群は 35.9%,
学寮生群 25.0%となり,両群ともに起床時刻は規
則的である者の割合が高かった。両群を比較する
と,自宅生群の方が不規則である者の割合が高い
傾向がみられた(p<.1)。
睡眠時間の不規則性に関しては,「かなり不規
則」
「やや不規則」を合わせて自宅生群は 56.0%,
学寮生群 44.3%となり,両群ともに約半数が睡眠
時間は不規則であることがわかった。両群を比較
すると,自宅生群の方が不規則である者の割合が
高い傾向がみられた(p<.1)。
睡眠の不足感(睡眠時間は十分か)に関しては,
「十分である」とした割合が学寮生群は 30.8%,
自宅生群 21.2%となり,睡眠時間が十分であると
した者の割合は低かった。両群を比較すると,学寮
生群の方が睡眠時間に関する満足度が高い傾向が
みられた(p<.1)。
3.2
睡眠健康危険度得点の比較
図 2 は,因子ごとの睡眠健康危険度得点および
睡眠健康危険度総得点について,学寮生群と自宅
生群とで比較した結果を示したものである。なお,
各因子の得点は高いほど,睡眠健康に関わる危険
度が高いことを示している。
睡眠健康危険度に関しては,各因子の得点およ
び睡眠健康危険度総得点ともに両群間で統計的な
有意差は認められなかった。ただし,入眠障害因子
では 10%水準で有意な傾向が認められ,自宅生群
658
5.今後の課題
と比べて学寮生群は,寝床に入ってから寝つくま
での時間が長いなどの入眠障害に関わる問題を抱
えやすい傾向にあることが示された。
4.まとめ
本研究では,居住形態の異なる学寮生と自宅生
の生活習慣や睡眠健康危険度を比較・分析し,高専
生の睡眠健康状態とその問題を把握することを目
的にアンケート調査をおこなった。その結果,次の
ようなことが明らかになった。
高専生の生活習慣をみると,学寮生・自宅生とも
に起床時刻は規則的である者の方が多いが,就寝
時刻については約半数が不規則であり,日中の居
眠りの混入がある者の割合が高く,睡眠時間が十
分であるとした者の割合は低かった。
両群間の比較では,学寮生は,自宅生と比べて,
起床時刻や睡眠時間が規則的であり(p<.01),睡
眠不足に関する愁訴が少ない傾向が認められた
(p<.1)。また,日中の居眠りやうたた寝の頻度も
少ないという結果が得られた(p<.05)。
上記のように高専生の生活習慣等に関しては,
自宅生よりも学寮生の方が全体的に良好であると
いう結果となった。なお,この結果は,高等学校を
対象に実施された樋口ら 12) の研究結果と相反し
ている。その理由としては,高等学校の学生寮の運
営が業者に委託されることが多いのに対して,多
くの高専では教職員等によって宿日直や就寝・起
床時の点呼,消灯確認などが行われており,学寮生
に対する管理や指導が行き届いていること。自宅
生に関しては,高等学校とは異なり,高専では学区
制による入学者の制限がないために,結果として
遠方から通う学生も多いことから,早寝の習慣が
なければ睡眠時間が不足しやすいこと等が考えら
れる。
一方で,睡眠健康危険度に関しては,全体的にみ
て学寮生と自宅生の間に顕著な違いはみられない
が,入眠障害因子(寝つきが悪い,など)について
学寮生の方が危険度は高い傾向が認められた
(p<.1)。
上記のように学寮生の方が寝つきの悪い傾向が
みられるが,このことは学生寮が共同生活の場で
あるがゆえに,同室者を含む他の学寮生との相互
干渉により,消灯時間以後にも睡眠が妨げられや
すいことが関係していると考えられる。
本研究では,以下のようないくつかの課題が残
されている。教職員等による学生寮の管理・指導
体制の異なる複数の高専を対象に調査を実施し,
学生寮の管理・指導体制と学寮生の睡眠健康状態
との関係性を明らかにすること。高専生とその他
の高校生・大学生の睡眠健康状態を比較・分析す
ること等の課題である。
謝辞
本研究は,平成 22 年度徳山工業高等専門学校特
別研究促進費を受けて行ったものである。アンケ
ート調査に協力して下さった学寮生ならびに自宅
生の方々に記して謝意を表します。
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660
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