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都市林および都市近郊林におけるレク リ エーショ ン行動 ー. 都市林
都市林および都市近郊林におけるレクリエーション行動 I.都市林に対するレクリエーション需要と 生活空間からの距離 坂 本 格 (農学部森林計測学研究室) Recreation Behavior in Urban and Ruban I. Re】ationbetween Recreational Demand Forest for Urban Parkand Distance from Space for Living Tadashi Laboratory of Fo?・est Bio−and Sakamoto Kcono-metrics、F°c“1りof Agriculture Abstract z This study is the first step of a serial analysis of natural recreation behavior in urban and ruban forests, and deals with the mathematical relationship between recrea・ tional demand for urban park and distance from regional space for living. Mathematical model used is equation (3), in which P/M is the number of visitors per million population and D route distance, and the data to estimate its parameters are collected from the visitors at 3 parks in Kochi-city. The findings from estimated parameters are as followings。 (1) Routine forest recreation demand in a given regional space is largely related in route distance to the recreation forest from it. Model (3) is suitable to this transportation phenomenon. ヽ (2) Confficient a of the model is able to express the relative recreational value of forest resources。 (3)Exponent b is in minus range which shows that the rate of forest recreational population in a given region is diminished with its distance, and its 】ower limmit is about C-) 1.5. 1t shifts toward o with the increament in the peculiarity of forest resource, the rate of visitors to such an area relatively indifferent in distance. which makes 緒 言 工業化の進展は,都市への急激な人口集中をもたらした。その結果,都市住民の私的生活空間は きわめて細分化され,住居の中に含まれる,いわゆる緑の空間は急速に縮小されてきた。また,都 市圏の私的資本は,直接的な資本増殖につながる土地利用だけを拡大し,公共的な利用に供される 部分を浸食する方向に作用するという性格を運命的にもっていたし,現実にもそのように働いてい る。このように,都市住民は,狭く,緑の欠乏した住居に生活することを強いられ,そのうえに緑 をもった公共空間か,とくに都市中心部から駆遂されてきている状況のもとでは,その日常的生活 空間における自然性が非常に大きく損なわれてきている。さらに,このような自然性の失なわれた 空間が,都心部から周辺部に向ってなだれ的に拡大し,緑をもたない,非自然的過密人口圏域が大 きくふくらんできている。 工業化に伴った都市への人口集中は,このように生活空間の非自然化という,いわゆる都市化の 悪い結果の一面をもたらすと同時に,都市労働の非人間的性質からくる影響をまぬがれることかで きない。すなわち,都市生活者は,日常の労働が管理社会の中で,またはげしい競争社会の中で行 なわれることから,とくに精神的にきびしい状態におかれている。 42 高知大学学術研究報告 第28巻.a 学 このように,都市住民は,私的生活だけでなく公的生活の中においても非自然的,非人間的条件 を強いられている。そこから生じる住民の欲求は,いうまでもなくみずからの生活の中に自然性を 回復することである。それを叶えてくれるものの一つはノ日常生活空間における緑である。現代の 都市におけるそれは,私的空間に緑を失なっていることからレまとまりとしてある公共的緑の空間 であり,その代表的なものは都市林および都市近郊林といえよう。 これらの公共的なレクリェーション森林は,理想的には万人平等にその効用を受けとるべきもの ではある。しかし,こうした公共財の効用は,需要者がその所在地に出向かなければ受けることが できない性質のものである。したがって,このような森林を対象とするレクリェーション行動は, 森林の位置,資源性および利用者自身の属性,置かれている環境条件,到達条件などによって大き く変化することになる。 わか国における森林レクリェーション需要は,ヨーロッパなどのようには顕在化しにくい性格を もっているか,あるいはそのような段階にあるのかさだかではないか,さきにのべた都市化の進展 と余暇の増大は,森林レクリェーション需要を顕在,拡大させずにはおかないという認識のもと に,そのレクリェーション需要行動の解析を企画するに至'つた。 その解析の特色は,こうしたレクリェーション需要行動に関する現象を,一つはそれか移動を伴 っていることからして交通現象としてとらえることである。他の一つはそれがレクリェーション対 象が供給されることに対応して生じる選択的利用行動であることから,これを一般商品に関する市 場行動に類するものとみたてて,一種の消費者行動現象としでとらえることである。そして,これ らはすべて,現実のレクリェーション行動者について,行動現地で調査した資料をもとにした実証 的なものである。つらく,春から秋にわたる長期間の野外調査比たえてくれた本学森林計測学研究 室の大学院学生吉村武志,学部学生三浦政義,宮崎伸幸,田中耕太郎,杉本明,杉山滋綱の諸君の 努力か,また岩神正朗助教授の助力がこの仕事を支えてくれる大きな柱となったことを特記して, 謝意を表する。 目 的 これから行なおうとする一連の分析は,森林レクリエーション行動を都市住民の日常的な生活行 勁に含まれるものに限定し,その意味でまず対象を都市および近郊のレクリェーション林の利用者 の行動態様に限定している。そこでは,日常的行動の一環としての森林レクリェーション行動の態 様と規定要因の作用関係を明らかにすることを通じて,その需要特性を抽出しようと考える。 また,その第一段階である今回の分析は,都市住民にとってもっとも身近な存在である都市公園 の森林を対象とした自然レクリェーション行動を直接の対象としている。レクリェーション行動と は,レクリェーション対象森林の中での行動そのものと,そこに至る過程すなわち到達過程に関す る行動とを含むものと定義される。そして,ここでは後者の到達過程における行動態様の特性に問 題を限定する。一般に空間的移動によって財の効用を亨受できる場合に,需要者か財の効用を受け ようとするか否かの意志決定を基本的に規定する要因は,財のもたらす主体的効用の大きさと移動 距離などの到達性であると理解される。そこで,ここでは,白常生活の一環としての都市林におけ るレクリェーション需要の大きさか,都市林資源の特性とのからみ合いの中で,生活空間からの距 離にどのように関係するかということを,レクリェーション人口析出と移動距離との関係を分析す ることを通じて明らかにしたい。 45 方 法 都市林がレクリェーション行動者を吸引する態様は,これを居住空間からの移動過程の面からみ た場合には,一種の交通現象としてとらえることができる。一般に地域空間における交通現象にあ っては,対応する二つの地点間の交通量は,その距離が増大するにしたがって減少する。この場合 には,それらの二つの地点がそれぞれ人ロを移動させる誘引源をもっている。しかし,森林レクリ エーションにおける交通現象にあっては,人口誘引源は森林だけであり,森林に向かっての一方交 通という性格をもっている。このような一方方向への交通現象を規定することのできるモデルとし ては,つぎのものが考えられる。 堀川1'は,交通量が距離的に規定されることを示すつぎのモデルを提示している。 (1) 、y=aD-゛‥‥‥‥‥‥‥‥ y : 交通量,£):距離, a, b:定数 しかし,この(1)式は交通量を析出させるポテンシャル要因を含んでおらず,一般性に欠けてい るように考えられる。 近藤2'は,公園などの利用者の誘致関数としてつぎのモデルを提出している。 R、E、R= titm)……………………………………………(2) R.E.R.:休養率, ?'i(a:):欲求関数,y'2(jy):誘致関数,r(tm):生態的誘致距離 この(2)式においては,?1と9・2の計量化がに困難であるうえに, r (tm)安定性が欠けている ことから,これによることは不適当である。 小川3)は, (1)式に交通量析出ポテンシャル要因を入れたP/M曲線モデルをつぎのような形で提 示している。 ゛ P/M=aD゛…………………………………………………………・(3) P:交通量,M:地域のもつポテンシャル,£):距離, a, b:定数で&<0 (3)式は,ポテンシャル要因を(1)式に加えることによってその欠点を克服したもので,計測上の 工夫によっては,大いに実用にたえるモデルといえる。また,このモデルは,高木4)によって。九 州地方北部の森林レクリェーション行動の解析に応用され,その適合性がすでに実証されている。 そこで,ここでは(3)式として示したモデルを用いて解析を行なうことにする。その手順はつぎ のとおりであるが,大要は高木5'の手順に従っている。 ①レクリェーション行動者の出発する地点,住いの所在地を含む一定の地域空間に対応するゾー ンを設定する。 ②ゾーン別総人[jを(3)式のMにとり,レクリェーション行動者を生みだすポテンシャルに相当 するものとしで機能させる。 ③ゾーン別レクリエーション行動者数をPとする。 ④距離要因に時間距離を用いることも考えられるが,移動交通手段を異にするレクリェーション 行動者が混在する場合生じるかく乱作用をさけて,£)を行動者の出発地点からレクリエーション対 象である都市林までの路線距離とする。 ⑤ソーソ別総人口に対するレクリェーション行動者数の比(P/M)をyとおき,これによって 顕在化したゾーンのレクリェーション需要の大きさを計測する。なお,yには総人口100万人に対 する比率としての数値を与える。 ⑥解析のさいには(3)式を対数変換して 高知大学学術研究報告 第28巻 農 学 44 log Y'=log a十b log D………………………・‥'……………………(4) とおき,これから直接最小自乗法によりα,&を決定する。 解析に必要なレクリェーション行動者数?および路線距離Z:)を求めるための出発点に関する資料 は,高知市にある代表的な森林をもつ3公園すなわち高知,五台山,筆山公園を訪れたレクリェー ション行動者に対して,直接アンケート票を手渡し,その場で記載してもらう方式によってえた。 なお,観光旅行者とくに団体バスによって訪れた人々については,∧自らの意志による森林レクリェ ーション行動者には属しないとの判断から,調査対象から除外することにした。調査時期は,都市 林の資源性,レクリェーション行動条件に季節変動がある可能性を考慮して,春,夏,秋の三季節 とした。総人口訂については,国勢調査結果を利用する。 分析は■ (4)式について推定された回帰係数の特性を検討する形ですすめることにする。 なお,調査地点として選んだ3公園は,高知市内の比較的都市的環境の中に位置し,市民の自然 レクリェーション空間として機能しているが,その位置的,資源的性格にはそれぞれ特異なものが ある。ここでは,それぞれ概況をのべておく。 高知公園は,県立で,街の中央部の丘に位置している。この場所は高知城跡で,その天守閣は全 市街を一望し,近世300年にわたって街の・シンボルとされてきた。園内にはミニ動物園があり, 城山の東面にはサクラ,西面にはウメ,モモ,北面にはスギの大樹などを含む森林が覆っており, その中に遊歩道が多く設けられている。そして,市中心街の人々にとっては,この公園は顔である と同時に庭でもある。 五台山公園は,県立で,市街地の東部のはずれに位置している。園内には竹林寺などの名刹,牧 野富太郎記念館,植物園などがあり,山頂一帯は天然の眺望台となっている。その全体がスギ,マ ツなどの大木を含む照葉樹林に覆われており,古くから自然に親しむ場ともなっている。 筆山公園は,高知市立で,市中心街の南面を流れる川辺の山に位置している。眺望は前者同様に 良好で,高知公園と向かいあっており,山頂付近はサクラ,全体は照葉樹林に覆われている。前二 者と異なる点は,史跡,文化財などをもたず,森林だけからなっていることである。なお,五台山 同様ここには山頂に至るドライブ・ウェイが設けられている。 結 果 3公園でのアンケート調査は,来訪者の大多数が通過し,あるいは足を止める場所で,1公園あ たり2∼4人の調査者により実施した。調査日は,春季が1977年4月下旬から5月上旬,夏季か7 月下旬から8月上旬,秋季が10月上旬から中旬で,いずれも休,平日を含んでいる。なお,筆山公 園については,台風災害による通行止めのため秋季調査の実施ができなかった。調査時間帯は,来 訪者の多い10時∼16時を原則とした。 アンケート調査の結果を,来訪者の出発点(住いめ位置)別に整理したのがTable 1 。 である が,ここにみられるように遠距離からの来訪者の占める割合いがかなり大きい。アンケート対象か ら純観光者は除外したが,観光行動に付随して自然レクリエーションを行なう人々と,純自然レク リェーション行勘者との分別が困難であることから,一応これら二者についてこの表にまとめてあ る。これらは分析の段階で分別を試みる。 ` モデルのパラメーター推定のための資料整理,収集はつぎのようにして行なった。 まずゾーン設定は,レクリェーション人口析出の多い,都市林に近い地域では狭く,遠い地域で は広くする原則で行なった。そこで,高知市については1町トソーンを原則とし,全体で105ゾー ンを設定した。高知市を除く県内については市郡別15ゾーンを設けた。 高知県外については,東 京,大阪を除いては府県単位に,東京は特別区とそれ以外に,大阪は大阪市とそれ以外に区分した 45 Table \. The estimated number of tjisttors for forest recreation Dwelling placeof visitor Season Survey position 235 Spring Summer Autumn Kochi park Godaisan park prefecture other Kochi city Kochi except Kochi city districts 76 23 60 The number of days for survey Total 138 449 7 261 344 9 243 5 162 38 Spring Summer Autumn 247 150 99 496 6 102 49 182 333 7 206 42 86 334 3 Spring Summer 153 10 2 165 4 54 12 3 69 10 Hitsuzan park 43 ものを用いた。 Pについていえば,アンケート調査が,来訪者がグループである場合には,仲間人数規模と住所 を代表者に聞く形で行なわれたので,グループ住所を代表者のそれとして,所属するゾーン別推定 レクリェーション行動者総数を求め,これを各公園における調査日数で除して1日あたりの平均行 動者数を求めて?とした。 Mについては, 1975年国勢調査によるゾーンぶ人別口をあてた。 £)についていえば,高知市については各町の地図の重心点から調査地点までの最短路線距離を, 県内の高知市を除く市についてはそれらの市役所から,郡についてはその中で最大人ロをもつ町村 の役場からの路線距離を,四国内他3県についてはそれぞれの来庁所在地からの路線距離を用いて 計測した。その他のゾーンについては都府県庁所在地からの鉄道による距離をあてた。 以上のように整理した資料を用い■ (4)式によって行なった回帰計算の結果は, Table 2. ∼4・ に示している。この計算は,公園別,季節別および仝季節資料を集めたものについて行なっている が, Table 2. はすべてのゾーンからのレクリェーション行動者について, からのそれについて, Table 4. Table 3 。 は高知県内 は高知市内からのそれについての回帰結果である。なお,もっと も日常的レクリェーション行動者とみなされる徒歩による来訪者についての全資料回帰結果をつけ Table 2. Regression results oftotal ・uisttors Regression coefficients Name of park Season −& 沢 564 1.180 228 1.015 750 1.211 210 1.031 0.94 0.96 0.94 0.94 7,538 1.586 0.94 2,651 1.368 0.94 1.630 0.94 1.448 0.95 4 Kochi Godaisan Hitsuzan Spring Summer Autumn Total Spring Summer Autumn Total Spring Summer Total Multiple corelation coefficient 12,377 2、863 1.401 0.80 675 1.505 0.90 945 1.523 0.86 3,015 高知大学学術研究報告 第謎巻 a 学 46 - Table 3、Regression Name of park reeults of the、isitors α 一& R 387 0.678 0.76 186 0.759 0.82 554 0.850 、 0.77 155 . 0.579 0.75 Spring Summer Autumn Total 1,900 0.889 0.65 1,020 0.909 0.67 6,492 1.291 0.63 1,022 0.929 ‘ 0.67 Spring Summer Total Table 4. 2、367 1.222 0.59 457 1.223 0.75 634 1.227 0.65 R・gresston results of the visitors from Kocht ciり Regression coefficients Name of park Season Godaisan Hitsuzan Spring Summer Autumn Total Spring Summer Autumn Total Spring Summer Total 加えれば,高知公園ではa=81, i?=0,68,筆山公園ではa 沢 374 0.472 0.42 206 0.730 0.73 528 0.656 0.53 143 0.323 0.34 341 0.078 0.30 1,489 1.066 0.33 5,208 1.131 0.35 0.675 0.25 657 0.684 0.25 387 1,273 1.070 0.52 392 0.811 0.33 b・= -1,203, 2?=0,78,五台山公園ではa = 12,459, ^'= -2,819, = 222, ^'= -0,399,尺=0,12となっているか,R値が低かったのでと くに表にはのせなかった。またTable Fig. Multiple corelation coefficient −& α Kochi Multiple corelation coefficient Spring Summer Autumn Total Kochi Hitsuzan K。chi prefecture RegressioncoefHcients Season Godaisan from 2. のTotalすなわち全季節合計分に対応する帰回関係は 1 .に代表的な形として示してある。なお,これらの図,表において回帰係数αとして示し たものは,実は演算モデル(4)式の回帰定数log aの真数値であり,便宜的に一占に併記してい る。 考 察 と 結 論 一一 広域的,一般的な森林レクリェーション行動様式の規定式としてモデル(3)あるいは(4)式が有 効であることは,すでにのべたようにかなり明白に証拠だてられている。ここで問題とする,都市 公園に限定した自然すなわち森林レクリェーション行動においても,モデルの適合性に関する判断 は,結論的にいえぱふえんできる。その理由は,つぎのとおりである。 47 P/M 1000 100 10 D 1 10 100 Fig. 1. Relation between the number of visitors per million population in each zone CP/M) and route distance (D,.^). ………total……… Table 2.∼4.の回帰結果について重相関係数JR値をみてみると,全来訪者に関しては,筆 山公園が若干低い値となっていることを除けば,各季節および合計のいずれにあっても0,95程度 の比較的良好な結果を示している。ところが,来訪者の住いの位置を公園に近い範囲のゾーンに限 定するにしたがってその値は急激に低下している。このことは,公園に近いゾーンの各単位地域空 間において,P/Mイ直すなわちレクリェーション行動者の析出率が距離に関して無差別に変動する という調査結果に対応している。 この無差別変勘傾向はとくに 5∼lOKm以内ゾーンに著しい。 この傾向は,近距離の単位ゾーン面積が相対的に小さく,調査期間も短いことからくる析出率のふ らつきにも帰因することも考えられるが,最大の原因は地域内にこうしたレクリェーション空間か 欠乏していることによる対象選択性の少なさであろう。 もし多くの都市林が地域空間に存在ずれ ば,レクリエーション行動者は,その資源特性と距離との関係において行先を自由に選ぶことかで きる。しかし,都市林の数が少なければ,そこには選択の余地はなく,距離にも無関心に行動せざ るをえないのである。高知市の緑地空開かきわめて少ないこと,その範囲に多くの森林レクリェー ション対象地を含んでいるTable 1 。 の全ゾーンからの来訪者についてのR値が高いことから も,この推理を補強できるものと考える。したがって,地域空間からの都市林における森林レクリ エーション人口析出率,ひいてはそうしたレクリエーション需要量の顕在化は距離に規定される し,その規定関係はモデル(3)で表現されるといえるのである。 さて,モデル(3)の係数αについてみよう。この値は,レクリェーション対象から1 線距離にあるゾーンの地域空間における, Kmの路 100万人単位に換算した1日あたりのレクリェーション 行動者析出率を表わしている。 1Kmゾーンは,今回の資料からみても,都市林レクリェーショ ン行動における最短路線距離空間とみなすことができる。ちなみに,居住地域空間が1Km以内 ゾーンに位置している例は,居住空間がもっとも近接している高知公園において9ゾーンにすぎ ず,その大部分は1Kmに近い路線距離にある。 この近似的最近点におけるレクリェーション行 動者析出率を表わす副直は,レクリェーション対象の資源性に対応しているといえる。もしその値 48 高知大学学術研究報告 第2a巻 a 学 が高ければ,その場所はレクリェーション対象としての要件か,そ,の質,mにおいて高い水準で備 わっているはずである。 今回の調査においては,各公園のレクリェーション行動者の捕捉率に差かおり,しかもこれを補 正すべき利用者数統計がない。 したがって, Table 2.∼4.に示した各公園のα値か,そのま ま各公園の資源性に対応したレクリェーション行動態様の差を示すものとはいえない。恐らくは, 出入口が他に比べて多い高知公園における捕捉率がかなり低く,その関係で,表におけるこの公園 のα値がとくに低くなっているものと考えられる。しかしとれは,それぞれの公園において,α値 の季節変化を観察することの有効さまでは否定しない。 さきにみたように,来訪ゾーンの範囲を狭く限定するほど尺値が大きく低下している。したがっ て副直の検討も,最狭範囲のTable 4. 以外によって行なう。 Table 2. と3.において季節別 にその値をみると,いずれの公園の場合でもその大きさは秋,春,夏の順位となっている。筆山公 園の春,夏のひ,らきは大きいが,他は春が夏の約2倍,秋が約3倍程度である。このことは,他の 自然レクリェーション空間との資源の誘引力の相対的な関係にも影響されている。とくに夏季の落 ちこみは,海の誘引力に対抗する資源をもたない都市公園の性格,現実には運動要素と庇陰の少な さに関係すると考えられる。これは,大樹のない筆山公園の夏季のα値かとくに低いこと,3公園 とも森林特性としては春の新緑が共通し,大樹をもたないのは筆山だけであることから推論でき る。いささか少なすぎる証拠ではあるが,要するにレクリェーション対象の資源性の高さが,行隠 者の析出を決定し,資源性の高さを測る相対尺度としてモデル(3)の副直柴用いうることはいえよ う。そしてこの大きさは,その資源性に反応してレクリエーション行動を起すところの,いわばも っとも自宅の裏庭的に都市公園を利用する基本的レクリエーション人口率を示すものとして機能す るものといってよい。 つぎに係数飼こついてみよう。これは原モデル(3)式の指数,対数線型モデル(4)式の勾配とな る係数で,いずれにしても居住空間からの路線距離との関係におけるレクリェーション行勁者析出 率の変動を規定するものである。これについて想定している仮説の=一つは,とりたてていう必要も ないが,レクリェーション対象から遠い地域空間ほど行動者を少なく析出するであろうことから, 当然負値をとらなければならないことである。他の一つは,α値が資源性の一般的な高さを表わす のに対して,&値は対象資源の特殊性の度合を行動様式の中に表現するということである。もしレ クリェーション対象の資源がきわめて特殊性の高いものであれば,そこへの来訪者は遠距離からで も多く吸引されるはずであり,その場合モデル(4)についていえば,レクリェーション行動者析出 率曲線の勾配は緩かで,距離の増加による析出率の低下は少ないことになる。つまり,この場合一 占値は低い。これに反して資源特殊性かない場合,つまりどこにでもあるような資源であれば,距 離との関係で対象を選択するというレクリェーション行動論理か生じ,近い範囲に類似対象が多く あるほど距離に関して鋭敏に行動することになる。この場合は,いうまでもなくー&値は高く,勾 配は急となる。裏庭の雑木林か集積したような,特殊性の乏しい都市林ならば,こうした特性か顕 著に現われよう。 さて,現実の回帰結果に目を向けてみよう。この飼直は,モデル(4)による曲線の勾配であるか ら,その大きさには公園間の来訪者捕捉率の差は影響を与えない。したがってこの値は,正しく現 実を説明するものといえる。曲線の原点近くでは,書きにも一部ふれたように分散か大きく,この 回帰分析はこれに対応する重みづけを行なっていない。それゆえ,分散はいささか不均一ではある が,この点は,都市林の本来的利用者がその周辺住民であるという本質を重視した結果である。と もあれ,み値は,全範囲来訪者についてのTable 2. の場合には全公園,全季節において有意で ある。 この表における&値は,高知公園にあっては,季節別にみれば-1.015∼-1.211,仝季節分では 49 −1.031.五台山公園にあつては,―1.368∼―1.630,全季節分で1.488,筆山公園では―I.4O1∼ −1.5O5’全季節分で―1.523となつているo いずれも季節間に有意差は認められないが,公園間 については高知と他二者に有意差があるo 要 約 都市林および都市近郊林を対象とする自然レクリェーション行動を,都市化の進行との対応関係 においてとらえ,その行動態様についてのいろいろな要因との規定関係を解明することを通じて, 都市空間におけるに日常的行動としての森林レクリエーション行動の特性を明らかにするための一 連の試みを企画した。今回の分析はその第一段階であり,都市的地域空間におけるもっとも日常的 50 高知大学学術研究報告 第28巻 a 学 な自然レクリェーション空間,都市林におけるそのレクリェーション行動を,主として交通現象と いう視点からとらえたものである。ここでは,都市林に対する地域空間のレクリェーション需要の 大きさと,行動者の属する生活空間からの路線距離との間にある規定関係を明らかにすることを目 的とした。 分析は,高知市内にあり,都市林をもつ3公園を,自然レクリエーションを目的として来訪した 人々に対する直接調査資料によって実証的に行なった。規定関係に適合させようとした数学モデル は(3)式の指数関係であり,需要量は地域空間人口に対する一日あたりの自然レクリェーション行 動者数の比によって計測し,説明変数は最短路線距離をあてた。 モデルのパラメーター分析を通じて検証することができた点は,つぎのとおりである。 ①都市林を対象とした,日常的自然レクリェーション需要を,地域空間における居住人口に対す る比で表わしたとき,その大きさは路線距離の増加にともなっててい減する。モデルは,レクリェ ーション対象を自由に選択して行動できるという条件下で,この現象によく適合する。 ②モデルの係数α値は,距離との関係において需要曲線の高さに関係し,その大きさがレクリェ ーション対象の,相対的な資源性の高さを表現するようである。 ③指数&値は負数をとり,需要のてい減性を示すが,レクリヱージ包ン対象資源の特殊性か高い ほど大きな値を示す。すなわち,特殊性の高さに対応して∵需要は距離による影響度を低下させ る。特殊性をまったく備えていない場合,すなわちもっとも平凡な日常的レクリェーション空間に ついてのみ値,いわばその下限値は-1.5ていどと推定される。 文 献 jヽノヽノー 1234 堀川侃,生態地理学, p. 76-130,朝倉書店,東京(1963). 近藤公夫,緑地レクリエーションの計画的研究第1報,京大演習林報告, 小川博三,交通計画, p. 16,朝倉書店,東京(1966). 高木勝久,森林レクリェーション行動の計n化に関する基礎的研究, No. 36, 40-57 (1963) . p. 256-325,九大博士論文,未刊 jj 56 行. 高木勝久,前掲iS, p. 257-265. 高木勝久,前掲轡,p.310. (昭和54年8月23日受理) (昭和54年12月21日発行)