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21.骨量測定

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21.骨量測定
N―424
日産婦誌5
3巻12号
研修医のための必修知識
研修医のための必修知識
B
.産婦人科検査法
G
y
n
e
c
o
lo
g
ica
n
dO
b
s
te
ricE
x
a
m
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a
tio
n
2
1
.骨量測定
M
e
a
s
u
re
m
e
n
to
fB
o
n
eM
a
s
s
骨は骨基質と骨塩からなり,両者を併せて骨量というが,骨塩量を骨密度で評価したも
のを通常骨量として測定し,取り扱っている.骨量測定の目的は,骨粗鬆症のリスクの高
い患者を早期に見出し,骨折を起こさないように管理することであり,また骨粗鬆症患者
に対して治療の効果が得られているか確認することにある.したがって骨量測定は骨粗鬆
症の診療に欠くことのできない方法であると認知されている.
(1
)骨量測定法の変遷
骨の測定法としては,従来より inv
itroとして組織形態計測法があり,inv
iv
oとして
レントゲン写真を用いた骨萎縮度評価法が行われてきた.そして骨量を定量化する目的で
多くの骨量測定法が開発されてきた経緯がある.骨量の定量法が確立される以前における
骨粗鬆症の診断は,専らレントゲン写真で行われていた.すなわち,現在も行われている
胸・腰椎の X線像から椎体骨折の有無を診断するとともに低骨量の半定量法として骨萎
縮度分類を行っている.レントゲン写真によるこれらの方法は多大な情報を入手すること
が可能であり,わが国の骨粗鬆症診断においても,今なお二重エネルギー X線吸収測定
法(d
u
a
le
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e
rg
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ya
b
s
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rp
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try:D
X
A
法)と と も に d
o
u
b
les
ta
n
d
a
rdと し
て重要な位置付けを占めている.しかしながら,X線フィルムから得られる情報は撮影お
よび現像条件などに影響されることや,情報量の質と量は読影医の経験によるところが大
であるなどの問題点がある.
レントゲン写真による評価が長期間続いていたが,C
a
m
e
ro
ne
ta
l.による単一光子吸
収測定法(s
in
g
lep
h
o
to
na
b
s
o
rp
tio
m
e
try:S
P
A
法)
による橈骨骨量測定が1
9
6
3
年に報
告された.本法は当時としては画期的なもので,骨粗鬆症の診療に大いに期待された.と
ころが,ガンマ線を使用するので施設が限定され,さらにガンマ線の減衰による線源の定
期的交換を要するために,その普及は期待されるほどのものではなかった.
一方,両手を基準ファントムとともに X線撮影し,得られたフィルムを濃度計にて測
定する m
ic
ro
d
e
n
s
ito
m
e
try
(M
D
法)
は,X線撮影装置を有する施設では測定可能なため
に,骨粗鬆症の臨床において大変な普及をしたことは周知のことである.その後 M
D
法
は測定精度の向上と骨量の指標のための解析に要する時間の短縮のために各種の改良が行
われた.その中でわが国では d
ig
ita
lim
a
g
ep
ro
c
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s
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(D
IP法)
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dX
-ra
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a
b
s
o
rp
tio
m
e
try
(C
X
D
法)
が開発され,今でもなお広く使用されている.
これらの S
P
A
法や M
D
法は皮質骨を主体とした末梢骨の骨量測定法である難点が
あった.すなわち,海綿骨を主体とした躯幹骨の骨量測定が望まれるに至った.そして,
全身用 C
Tスキャンの出現により,C
T装置と基準ファントムを使用した第 3腰椎海綿骨
の骨量測定を可能にした定量的 C
T
(q
u
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tita
tiv
ec
o
m
p
u
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dto
m
o
g
ra
p
h
y:Q
C
T法)
が臨床に用いられるようになった.上記は単一エネルギーでの測定であるため,測定腰椎
2001年12月
N―425
(2
)骨量測定の意義
骨量の評価は骨粗鬆症や代謝性骨疾患を診断・評価し,その経過の観察や治療効果の判
定のためには極めて重要である.骨量測定は骨の質を評価する方法として,現在最も有用
で広く利用されている方法である.心筋梗塞や狭心症などの虚血性心疾患において,高脂
血症や高血圧が危険因子であり,これらの因子はその発症をある程度予測し得る.これら
の関係と同様に低骨量は骨折の危険因子であり,骨折の予測に役立つとされている.
したがって骨量測定の目的は,
(1
)症状が出現する前に骨粗鬆症による骨折の危険群を
みつけること,
(2
)骨粗鬆症の診断をすること,
(3
)薬物療法の治療効果を判定すること
である.骨量測定によって骨密度(b
o
n
em
in
e
ra
ld
e
n
s
ity:B
M
D
)
と骨塩量(b
o
n
em
in
e
ra
lc
o
n
te
n
t:B
M
C
)
が得られる.また骨量測定によって現時点の骨強度を評価するこ
とは可能であるが,その後の骨量の変化まで示唆するものではない.また測定精度は改善
されつつあるが,その変動係数(c
o
e
ffic
ie
n
to
fv
a
lu
e:C
V
)
は1
∼2
%である.これに対
して骨量の変化は通常年間で最大数%である.そのため,骨粗鬆症の進行や治療効果を骨
量にて判定するには少なくとも 4
∼6カ月を要する.一方,骨代謝を評価し得る各種の骨
代謝マーカーが開発され,臨床応用されている.この中で,ある種の骨代謝マーカーと骨
量測定を組み合わせることによって,将来の骨量変化を予測することが可能となりつつあ
るので,骨量測定の臨床における意義は今後さらに高まると思われる.
(3
)骨粗鬆症の定義と診断
骨粗鬆症とは低骨量でかつ骨組織の微細構造が変化し,そのため骨が脆くなり骨折しや
すくなった病態と定義されており,一般に原発性および続発性骨粗鬆症の 2つに分類さ
れている.
そして骨量測定の重要性については1
9
9
3
年の香港における国際骨粗鬆症会議にて提
唱・承認され,1
9
9
4
年W
H
O
にても採択された.W
H
O
では骨量の評価を主体とした骨
1
)
粗鬆症の診断基準 を提唱している.それによれば,骨粗鬆症の診断は若年成人平均値
(y
o
u
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ga
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u
ltm
e
a
n:Y
A
M
)
と標準偏差(S
D
)
を求め,Y
A
M
から1
S
D
以上減少した場
合を骨量減少(o
s
te
o
p
e
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)
,2
.5
S
D
以上減少した場合を骨粗鬆症(o
s
te
o
p
o
ro
s
is
)
と定
義している.さらに2
.5
S
D
以上の骨量の減少に加え,
脊椎椎体骨折を有する場合を s
e
v
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o
p
o
ro
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iso
re
s
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b
lis
h
e
do
s
te
o
p
o
ro
s
isとしている(表 1
)
.この W
H
O
の診断基
準はどの骨量測定法でどの部位を評価した場合に使用できるのか,男性例にも適用できる
のか,人種差などを考慮せずに一律の基準にて適用できるのかなどのいくつかの課題が
残っているが,全世界的に広く受け入れられている.
研修医のための必修知識
の脂肪量による正確度に問題があったが,2つの X線エネルギーによって測定する方法が
開発され,これらの点が是正された.
その後1
9
8
0
年代に入り,2つの異なるエネルギーをもつガンマ線による二重光子吸収測
定法(d
u
a
lp
h
o
to
na
b
s
o
rp
tio
m
e
try:D
P
A
法)
が開発された.それにより腰椎や大腿骨
頸部の躯幹骨や全身骨の骨量測定が可能となった.この D
P
A
法による躯幹骨の測定は確
かに画期的なものであったが,測定に時間を要すること,測定精度がやや不良なこと,お
よび先の S
P
A
法同様,線源の減衰があるなどの問題点があった.そのため,線源をガン
マ線から X線に代えた D
X
A
法に取って代わられることになった.D
X
A
法については後
に記載するが,本法が骨粗鬆症診療における骨量測定に欠くことのできないものとなって
いることは周知の事実である.
N―426
日産婦誌5
3巻12号
研修医のための必修知識
(表1) W
H
O
における骨量測定値による骨粗鬆症の診断基準
分類
Normal
Osteopenia
Osteoporosis
Severe osteoporosis or
Established osteoporosis
基準
Bone mineral density
(BMD)or bone mineral
content
(BMC)≦ 1 standard deviations
(SD)
below average peak young adult
BMD or BMC > 1 SD but < 2.5SD
below average peak young adult
BMD or BMC ≧ 2.5 SD
below average peak young adult
BMD or BMC ≧ 2.5 SD
below average peak young adult and fragility
fracture
わが国ではこの W
H
O
の概念を基本とし,かつ骨粗鬆症の鑑別診断の重要性を取り入
れた骨粗鬆症診断基準が提唱されている.1
9
9
5
年日本骨代謝学会によって提唱されたこ
2
)
3
)
の原発性骨粗鬆症診断基準(一部1
9
9
6
年改訂 )
は,鑑別診断の必要性を最重要視するた
めに,レントゲン写真による骨萎縮度評価や骨折の評価を必須としたうえで,骨量による
評価基準値を併記した画期的なものである.骨粗鬆症あるいは低骨量者の判定基準は,
個々
の年齢を考慮せずに,どの年代でも同一の基準とすることが基本となっている.この概念
は,骨量からみた骨折発生のリスクは年齢を問わず一律であるとの考え方から成り立って
いる.W
H
O
が提唱した骨粗鬆症の診断基準も,わが国の原発性骨粗鬆症の診断基準もこ
の概念が基本となっており,年齢を問わず一律の基準で設定されている.このことは骨強
度の低下が主な原因となる骨折を扱うには,骨の絶対的な強度を反映する指標が必要であ
るという基本的な指針に基づく.すなわち,骨量については各年齢層での分布からの偏移
(Z値)
ではなく,若年成人の平均値からの偏移(T値)
を採用することが認められている.
わが国の原発性骨粗鬆症の診断基準において,骨量減少と判定される骨量の基準値は,
骨萎縮のない症例と萎縮度 度の症例を効率よく分離する若年成人の骨量から2
0
%(−1
.5
S
D
に近似)
減少した骨量と設定された.また骨粗鬆症と判定される骨量の基準値は,脊
椎骨折症例と非骨折症例を効率よく分離する若年成人の骨量から3
0
%(−2
.5
S
D
に近似)
減少した骨量と設定された.
(4
)骨量測定法の選択
1
9
8
0
年代から1
9
9
0
年代にかけて各種の骨量測定法が実用化され,用いられている.こ
れらを測定法の原理で分類すると 5種類に大別可能である(表 2
)
.脊椎椎体や踵骨は海綿
骨の豊富な偏平骨であり,大腿骨近位部や橈骨遠位部は長管骨の骨幹端である.したがっ
て,これらの骨量測定法は,測定法の原理の違いの他に,測定の対象となる骨の解剖学的
特徴を考慮する必要がある.すなわち,脊椎や大腿骨近位部などの躯幹骨を測定する方法
と,橈骨遠位部や踵骨,中手骨などの末梢骨を測定する方法に 2分することができる(表
3
)
.なお,この中で産婦人科領域や検診施設で主に普及している超音波は,1
9
9
9
年保険
適応を受けたが,わが国の診断基準にはいまだ基準値が明記されておらず,現在検討中で
ある.
また,ヒトの骨格のうち約8
0
%が皮質骨によって構成され,海綿骨より 4倍多い.し
かし骨の表面積に関しては,海綿骨の方が皮質骨よりも約 8倍大きく,骨代謝回転はよ
り活発である.そのため骨の変化は,海綿骨が豊富な偏平骨や長管骨の骨幹端に現れやす
N―427
2001年12月
(5
)骨粗鬆症診断ための骨量測定
)
原発性骨粗鬆症の診断基準3
(1
9
9
6
年度改訂版)
を設定する際の基本的な
考え方として,診断は脊椎 X線像お
よび骨密度値を用いて行うことになっ
ている.そして低骨量の判定は,症例
により脊椎 X線像または骨密度値の
いずれを用いてもよいとされた.骨密
度値は原則として腰椎の骨密度値と
し,腰椎骨密度値の評価が困難な場合
のみ橈骨,第二中手骨,大腿骨頸部,
踵骨の骨密度値を用いるとされた.こ
れらに対し,原則として骨密度値を用
いるべきではないかという問題点が指
摘されていた.また高齢者では脊椎変
形などがあるうえに,脊椎椎体骨折よ
(表2) 各種骨量測定法(写真 1∼ 5
)
(1)X 線フィルムの濃度定量法
MD 法,DIP 法,CXD 法などの
RA
(radioabsorptiometry)法
(2)ガンマ線を用いる方法
SPA
(single photon absorptiometry)
法
DPA
(dual photon absorptiometry)
法
(3)X 線を用いる方法
SXA
(single energy X-ray absorptiometry)
法
DXA
(dual energy X-ray absorptiometry)
法
(4)CT を用いる方法
QCT
(quantitative computed tomography)
法
pQCT
(peripheral QCT)
法
(5)超音波を用いる方法
QUS
(quantitative ultrasound)法
(表3) 測定対象骨による測定部位と骨組成および骨量測定法
測定対象骨
測定部位
第 2 中手骨
骨幹部
脊 椎
腰 椎
大腿骨
頸 部
大転子部
橈 骨
遠位 1/3 部
遠位部
踵 骨
全身骨
骨組成
骨量測定法
皮質骨優位
CXD 法・DXA 法
海綿骨優位
DXA 法・QCT 法
皮質骨優位
海綿骨=皮質骨
DXA 法・pQCT 法
DXA 法・pQCT 法
皮質骨優位
海綿骨優位
DXA 法
DXA 法・SXA 法・
pQCT 法・CXD 法
DXA 法・SXA 法・QUS 法
海綿骨優位
皮質骨優位
研修医のための必修知識
いので,閉経期などにおける急激な骨の変化は海綿骨が豊富な部位の骨量を測定した方が
その変化を捕捉しやすいことに留意する必要がある.一方,皮質骨の骨変化は加齢によっ
て現れるので,骨粗鬆化が進行した高齢者などにおいては皮質骨の骨量を測定した方がそ
の骨変化を捉えやすいことがある.
思春期後半から性成熟期に認められる最大骨量の到達年齢に関しても骨の部位によって
若干の異なりがある.踵骨では1
0
歳代後半,大腿骨近位部では2
0
歳前後,腰椎や中手骨
はこれよりもう少し遅いという.このように一般的には荷重骨の最大骨量に達する時期は
非荷重骨のそれよりも早いといわれている.
測定方法の原理,測定する骨の特性などをよく理解したうえで,骨量測定の被験者の年
齢なども考慮し,適格な骨量測定法を選択し実施・運用する必要がある.
N―428
日産婦誌5
3巻12号
研修医のための必修知識
(写真 1)C
X
D
による中手骨骨密度測定装置
(写真 3
)Q
C
T法:C
T装置と基準ファントムを
用いた第 3腰椎海綿骨を測定する
(写真 2
―1
)前腕骨 D
X
A
骨密度測定装置
(松下電器:D
X
A
-7
0
)
(写真 4
)p
Q
C
Tによる前腕骨骨密度測定装置
(L
u
n
a
r社製:X
C
T
-9
6
0
)
―2
)全 身 骨・腰 椎 骨・大 腿 骨 D
X
A
骨密
(写真 2
度測定装置
(H
o
lo
g
ic社製:Q
D
R
6
5
0
0
A
)
(写真 5
)踵骨超音波骨密度測定装置
(L
u
n
a
r社製:A
c
h
ille
s
)
2001年12月
N―429
(6
)D
X
A
法による骨量測定
D
X
A
とは 2種の異なるエネルギーを有する X線を用いて骨量を測定する方法である.
単一のエネルギー光子(X線,ガンマ線)
では,骨組織部分のみの減弱を測定できない.し
かし,異なるエネルギーの光子を用いることにより,骨組織と軟部組織とでは減弱に差が
あるために,数学的に骨組織における密度を把握することが可能となる.D
X
A
法の最大
の欠点は骨量値が面積あたり,すなわち密度で得られることである.つまり,定量的 C
T
法のごとく体積あたりの骨量値が得られないことにある.このことから大きい骨ほど骨密
研修医のための必修知識
りも大腿骨頸部骨折が問題となるの
(表4) 原発性骨粗鬆症の診断基準(2
0
0
0年度
改訂版)
で,腰椎骨密度値での評価が難しかっ
たり,他の部位の骨密度から骨折の
低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発
性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が下記の条
危険性を評価するのはいかがなもの
件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する.
かとの指摘もあった.
¿.脆弱性骨折(注1) あり
これらの諸問題に対して日本骨代
À.脆弱性骨折なし
謝学会骨粗鬆症診断基準検討委員会
脊椎 X 線像で
で は 検 討 を 加 え,新 た な 診 断 基 準4)
の骨粗鬆症
骨密度値(注2)
(2
0
0
0
年度改訂版)
を作成した(表 4
)
.
化(注3)
そして,低骨量の評価には原則とし
正常
YAM の 80% 以上
なし
骨量減少 YAM の 70% 以上∼
疑いあり
て骨密度値を用い,脊椎 X線像は骨
80% 未満
密度の測定または評価が困難な場合
骨粗鬆症 YAM の 70% 未満
あり
に用いるとした.さらに骨密度は原
YAM:若年成人平均値(20 ∼ 44 歳)
則として腰椎骨密度としたが,それ
注 1 脆 弱 性 骨 折:低 骨 量(骨 密 度 が YAM の
はそのまま変わらなかった. ただし,
80% 未満,あるいは脊椎 X 線像で骨粗鬆
高齢者の場合には以下が付記された.
化がある場合)が原因で,軽微な外力に
よって発生した非外傷性骨折,骨折部位
すなわち,高齢者において,脊椎変
は脊椎,大腿骨頸部,橈骨遠位端,その
形などのために腰椎骨密度の測定が
他.
適当でないと判断される場合には大
注 2 骨密度は原則として腰椎骨密度とする.
腿骨頸部骨密度とするとした.つま
ただし,高齢者において,脊椎変形など
り高齢者の場合には,脊椎の変形な
のために腰椎骨密度の測定が適当でない
と判断される場合には大腿骨頸部骨密度
どにより腰椎骨密度測定が必ずしも
とする.これらの測定が困難な場合は橈
適当でない場合があることを想定し
骨,第 二 中 手 骨,踵 骨 の 骨 密 度 を 用 い
たもので,また大腿骨の頸部骨折が
る.
危惧されることから,他の部位を選
注 3 脊椎 X 線像での骨粗鬆化の評価は,従来
定するとしたら,同部位にて評価し
の骨萎縮度判定基準を参考にして行う.
ようというものである.そして,こ
脊椎 X 線像での
従来の骨萎縮度
骨粗鬆化
判定基準
れらの測定,つまり腰椎や大腿骨頸
なし
骨萎縮なし
部が測定困難な場合には,橈骨でも
疑いあり
骨萎縮度¿度
よいし,第二中手骨でもよいし,踵
あり
骨萎縮度À度以上
骨でもよいとした.
なお,大腿骨頸部の骨密度の測定
については,測定精度が不良なこと
や,頸部 R
O
(r
I e
g
io
no
fin
te
re
s
t:関心領域)
の設定が困難な症例が存在するため,近位
部T
o
ta
lの測定が勧められるとの付記がなされている.
N―430
日産婦誌5
3巻12号
研修医のための必修知識
度が大きくなり,体格の大きい方が,あるいは男性の方が D
X
A
で得られる骨量は大きく
なるといえる.
D
X
A
法は診断基準においても骨密度測定の基準となる方法であり,最も広く繁用され
ている.D
X
A
法により腰椎,大腿骨,全身骨,前腕骨,踵骨の骨密度が測定される.装
置としては躯幹骨用と末梢骨用に大別され,前者はベッド大の大きさで,後者は小型で持
ち運びも可能である.躯幹骨用では,腰椎,大腿骨,全身骨,前腕骨の測定が可能である
が,踵骨も前腕骨用測定ソフトにて測定可能である.末梢骨用では前腕骨と踵骨専用に測
定される.
原発性骨粗鬆症診断基準による骨量値としては第二中手骨以外はすべて D
X
A
によって
測定された値が用いられる.その中でも最も基準となる部位は腰椎である.腰椎は海綿骨
を多く含むとともに骨折を予知する重要な対象のひとつである脊椎骨の骨量を代表する.
また大腿骨近位部においても解剖学的に複雑なため Q
C
T法の適用が難しく,D
X
A
法の
よい適用である.特に大腿骨頸部骨折は骨粗鬆症に伴う骨折の中でも最も重要で予後不良
であり,その予防は重要な課題のひとつとなっている.大腿骨の D
X
A
法はわが国では再
現性が低いとの誤解とデータ解析の煩わしさからか,欧米にくらべるとあまり行われてい
ないのが実状であり,今後はもっと行われてもよい骨量測定法である.
全身骨測定は,測定範囲が大きいのでその分時間を要するが,面積が大きいゆえに再現
性がよく,高齢者や乳幼児の測定に適している.また全身脂肪量と全身筋肉量も合わせて
算出できるため,肥満などの栄養状態の把握にも利用できる.
末梢骨測定である前腕骨測定から解析される橈骨遠位部と踵骨の測定は,その部位の骨
量を知ることよりも診断基準で示される骨量評価優先順位のごとく,その骨量から主に腰
椎(あるいは大腿骨)
の骨量を予測することが目的である.これらの躯幹骨と末梢骨の骨量
に高い相関があればよいが,相関係数が0
.5
∼0
.6
くらいであり,対象によってはそれ以下
の場合も当然ありうる.よって末梢骨測定から躯幹骨量を推定するのには限界があること
も留意しなければならない.そのようなわけで診断基準における優先順位が記載されてい
ると考えるべきであり,ましてや海綿骨量の少ない D
IP法や C
X
D
法による第二中手骨
においてをやである.
骨量の低下は最大骨量値の到達と同様に,各部位において一様に始まるわけではないし,
各個体によってもさまざまであると考えるのが妥当である.また,海綿骨量の豊富な部位
の方が代謝の影響を受けやすいため,腰椎と大腿骨をくらべると,大腿骨は皮質骨の割合
が多いため,骨量の低下は腰椎よりも少し遅れて始まると考えるべきである.したがって
D
X
A
法のみならず,骨量測定では何歳であるか,あるいは閉経の有無によって,どの部
位を測定するのが最もよいか考える必要がある.骨量低下の始まる閉経前後においては,
腰椎の測定が第一選択となる.しかし,すでに脊椎の骨折を有するような高齢者において
は,次の骨折である大腿骨頸部骨折を予知するために,大腿骨の骨量測定が優先されるべ
きであろう.
(7
)骨量測定における精度管理
骨量測定では,たかだか数%の変化を捉えるわけである.したがって,その再現性は極
めて高いことが要求されるので,理想的には1
%以下であることが望ましい.D
X
A
法の
再現性は現在のところ,部位にもよるが約1
.5
∼2
.5
%で,許容限界であるが,各種の骨量
測定の中ではこれでも際だって高い方である.
上記のごとく,骨量測定では高い再現性を保つことが重要であり,細心の注意が要求さ
N―431
2001年12月
*
H
iro
a
k
iO
H
T
A
Department of Obstetrics and Gynecology, Tokyo Women’
s Medical University, Tokyo
K
e
yw
o
rd
s:B
o
n
em
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s
s
・B
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n
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s
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・B
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s
u
re
m
e
n
t・D
X
A
・
O
s
te
o
p
o
ro
s
is
研修医のための必修知識
れる.測定に際しては熟練した同じ技師が繰り返し行うことが望ましく,欧米のこの種の
施設のごとく骨量測定専属技師がいるのが理想である.
骨量測定は年 1回ごとのように継続して行うことに意味があり,各患者ごとに毎回ど
のポジションで測定したかを記載しておく必要がある.再現性が腰椎にくらべて低い大腿
骨では,特にその種の注意を要する.また骨量データの解析においても,使用装置の解析
ソフトによって各種の注意を要するが,一般的には R
O
Iの設定は毎回とも同じにし,継
続測定例では比較モードを使用し,同一の R
O
Iを用いることが必要である.さらに測定
面積に大きな差異がないようにするとともに,解析も含めた骨量測定のトレーニングも必
要である.さらに D
X
A
法では,毎日ファントムを測定し,その値に大きな変動であるド
リフトという現象が生じていないかを確認する必要がある.
《参考文献》
1
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〈太田 博明*〉
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