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第二部 アカデミックコミュニティー及び下院科学宇宙
連邦議会議員からの科学研究支援批判の矛先 第二部:アカデミックコミュニティー及び下院科学宇宙技術委員会における動き 米国議会の一部の議員においては、社会科学研究や行動科学研究に対し連邦政府が資金配分を行うこ とに反対し、主に国立科学財団(NSF)のプログラムを規制しようとする動きが見られる。この動きに ついて、 「米国の科学政策」ホームページにおいては「連邦政府議員からの科学研究支援批判の矛先」と して、2013 年 6 月頃までの議会の動きやそれへの行政側の対応を報告した。 本稿はこの第二部として、それ以後、2013 年 12 月中旬までのアカデミックコミュニティーと議会科 学宇宙技術委員会の動きを中心に取りまとめた。 1.アカデミックコミュニティーの対応 (1)米国大学協会理事会の声明 米国大学協会(Association of American Universities: AAU)は、10 月 17 日付けで社会・行動科学に 関する声明を発表した。その概略は次のとおりである。 米国大学協会理事会による社会・行動科学への支援に関する声明の概略 ・米国大学協会(AAU)を構成する 62 の主要な研究大学を代表し、AAU 理事会は社会・経済科学に対 する明確な連邦政府支援を希望する。 ・この声明は、議会の幾人かが、社会・行動科学を、連邦政府研究支援の規制、抑制を行うことにより 2 級の地位に格下げしようとする数々の行動を取ることに対して発出するものである。 ・その行動とは、NSF の政治科学支援に条件を付した 2013 年統合再継続歳出法(Consolidated and Further Continuing Appropriations Act of 2013 (P.L. 113-6)) 、下院小委員会の NIH の経済保健研究の 禁止の動き(法成立には至らず) 、議員による NSF 等の社会科学研究グラントへの疑問の提示等である。 ・これらは研究及び教育の支援を行う裁量的資金を大きく制限するものである。AAU は最良の科学を支 援する最も確かであるメリットに基づく連邦政府研究資金配分を支持し続けてきた。 ・議会の行動は、連邦政府による全ての分野における基礎研究に対する資金配分における歴史的にも生 産的な関与を原則的にも実質的にも損なうものであると考える。人類学、経済学、政治学、心理学、言 語学、社会学他の社会・行動科学は、ビジネスと経済、人類の発展と行動、グループや組織、他国や文 化、そして米国の民主主義とそれを強化することについての基盤的で新たな理解を前進させることよる、 NSF、NIH、国防省他の連邦政府機関のミッションを支援するため資金が配分されてきた。その研究は、 国家安全保障、教育、商業、健康、エネルギー、犯罪と人々の安全、運輸といった分野における国家の 喫緊な重要課題に対応するものである。 ・社会・行動科学による洞察やイノベーションは、物理科学や生命科学と比べその価値が劣ることはな い。更に社会・行動科学が関わる学際研究は、単一の分野においては発展し得なかった新たな知識と理 解を創造している。 ・数十年にわたる NSF、NIH といった連邦政府機関の多大な成功は、議会がメリットレビュー手順に基 づく全ての分野にわたる基盤研究への強力な資金配分機会を提供し、個々のグラントや分野における勝 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------「米国の科学政策」HP 2013 年 12 月 15 日掲載 1 者と敗者を選び出す政治的手順を控えてきたことの結果である。AAU は議会と行政府に対し、不適切な 制限を設けることなく連邦政府研究機関に強力な資金配分を行い、それらの機関が全ての分野にわたる 科学研究全般を支援するというミッションを達成しつづけることができるよう要請する。 https://www.aau.edu/WorkArea/DownloadAsset.aspx?id=14671 (2)学術関係機関から下院科学宇宙技術委員会議長宛ての書簡 米国の 69 の学協会や大学は 10 月 16 日、連名で下院科学宇宙技術委員会 Lamar Smith 議長宛てに社 会・行動科学支援に関する要望を記した書簡を送付した。その主な内容は以下のとおりである。なお、 書簡のレターヘッドは全米科学振興協会(AAAS)のものが用いられている。 下院科学宇宙技術委員会 Lamar Smith 議長宛て関係機関からの書簡 ・米国の科学、工学、高等教育機関を代表し、貴殿の社会・経済科学による社会的課題への貢献の重要 性の認識に感謝する。 ・貴殿は先ごろの研究・技術小委員会の公聴会において「(NSF は)問題のより完全な理解に向けた統 合的な役割を担う。仮説に基づくデータに導かれた社会科学研究は(メタンフェンタミンの)中毒の背 景にある行動科学の理解に用いることができる。 」と発言している。貴殿が示した例は、社会・行動科学 における基盤研究が我々が直面する課題に対しどのように知見を提供するかを示している。 ・我々は、NSF と NSF の幅広い分野にわたる研究を前進させるミッションに対する連邦政府研究開発 予算への支持を表明する。NSF は研究グラント授与がメリットに基づき行われるというピアレビューシ ステムを用いたバランスの取れたポートフォリオにおける全ての分野を支援する、連邦政府においてユ ニークな機関である。 ・貴殿も承知しているとおり、経済的競争力を含む現代社会が直面する主要な課題は、社会・行動科学 が伴う物理科学、生物科学における前進を統合させる複数分野の研究から導き出される知識を必要とし ている。社会・行動科学における基盤的研究は、災害への効果的対応、インテリジェント分析の向上、 意思決定及びその公衆衛生とビジネス投資への影響、国際関係の改善、そして米国民の社会・政治・経 済にかかる行動の重要なデータ基盤の提供に重要である。 ・例えば、NSF は科学技術工学数学分野における女性・マイノリティーへの対応、研究開発支出の経済 的な見返りの評価、経済開発、早熟(思春期等)と公衆衛生の関係、極端な自然環境事象における大量 非難民の反応分析などの研究に資金配分を行っている。 ・世界の政治的安定性の評価を支援する重要な研究は「事象、言語、階調の地球規模的データベース (GDELT) 」に依拠している。GDELT は 1970 年代以降、NSF の政治科学プログラム及び他の社会・ 行動・経済科学局プログラムにより資金配分が行われた。 ・この種の研究の更に多くの事例は、NSF の「Bringing People Into Focus: How Social, Behavioral and Economic Research Addresses National Challenges.」報告書に掲載されている。 ・我々は財政赤字と経済活性化への対応という国家が直面する問題を認識しており、議会がそれを監視 する責務があることを理解している。しかし、国家の指導者は、政治が科学的手順に否定的に介入する ことを決して許してはならない。 ・署名した機関は貴殿に NSF とその独立科学パネルが何が最良の科学的機会で、限られた資源について 2 どのようにバランスを取るかを決定することを確実とする科学活動の公正性を護ることを要請する。連 邦政府投資が科学的メリットレビューを通して競争的に配分することは、この国を科学の世界のリーダ ーに導く手順そのものである。 ・我々の知識基盤を前進させるために、全ての科学者と科学分野が必要である。 (署名機関) AcademyHealth、American Academy of Political and Social Science、American Anthropological Association、American Association for the Advancement of Science、American Chemical Society、American Economic Association、American Educational Research Association、American Institute of Biological Sciences、American Institute for Medical and Biological Engineering (AIMBE)、American Mathematical Society、American Political Science Association、American Psychological Association、American Society of Civil Engineers、American Sociological Association、American Statistical Association、Association of American Geographers、Association of American Universities、Association of Population Centers、Association for Psychological Science、Association of Public and Land-grant Universities、 Association of Research Libraries、Association for Women in Science、Brown University、Consortium of Social Science Associations (COSSA)、Cornell University、Council of Scientific Society Presidents、Council on Undergraduate Research、Federation of Associations in Behavioral & Brain Sciences、Florida State University、Human Factors and Ergonomics Society、Indiana University、International Society for Developmental Psychobiology (ISDP)、Kent State University、Law & Society Association、Linguistic Society of America、Michigan State University、Midwest Political Science Association、National Communication Association、National Postdoctoral Association、Natural Science Collections Alliance、Population Association of America、Penn State University、SAGE、Society of Behavioral Neuroendocrinology、Society for Computers in Psychology、Society of Experimental Social Psychology、Society for Judgment and Decision Making 、 Society for Personality and Social Psychology Southern Political Science Association、The Ohio State University、The Society for Industrial and Organizational Psychology、University of California System、University of California, Davis、University of California, Irvine、University of California, San Francisco、University of California, Santa Barbara、University of Colorado, Boulder、University of Maryland http://www.cossa.org/advocacy/sbe_intersociety_2013.pdf (3)社会科学協会コンソーシアム 多くの社会科学関係の学協会や大学を会員とする社会科学協会コンソーシアム(Consortium of Social Science Associations)は、以下のウェブサイト上にこの問題に関し情報を収集・掲載している。 http://www.cossa.org/advocacy/Protecting_NSF_SBE_Sciences.shtml また、11 月 4、5 日に開催した科学・行動科学及び公共政策コロキアム(Colloquium on Social and Behavioral Science and Public Policy)においてはこの問題が取り上げられた。この中で Elizabeth Warren 上院議員(民主党)は研究支援に制限を付すことに対する無意味さを述べ、直面する課題には強 力な研究コミュニティーが政策立案者と協力し解決の努力を行うことが必要と述べた。 http://www.cossa.org/annualmtg/2013/SenatorElizabethWarrenCOSSA2013-11-4.pdf 2.連邦議会議員の動向 2013 年後半におけるこの問題に関する議会の動きとしては、Lamar Smith 下院科学宇宙技術委員会 議長(共和党)を中心とした法案の準備等がある。全米科学振興協会による Science 誌ウェブサイト ScienceInsider においては、9 月頃には下院科学宇宙技術委員会の共和党メンバーは NSF のピアレビュ ーに関する条文を含む新たな競争力強化法案の提出の準備をしていることが報じられていたが、11 月 13 日にはその公聴会が開催された。下院科学宇宙技術委員会研究技術小委員会は「米国と第一とする:NSF、 NIST、OSTP における研究、科学および技術、及び機関間科学技術工学数学プログラムへの連邦政府投 資(Keeping America FIRST: Federal Investments in Research, Science, and Technology at NSF, NIST, OSTP and Interagency STEM Programs) 」の表題による公聴会を開催したが、同公聴会におい 3 ては、かねて Smith 同委員会議長が構想していたと言われる「2013 年イノベーション、研究、科学及び 技術におけるフロンティア法案(Frontiers inn Innovation, Research, Science, and Technology Act of 2013)または、2013 年 FIRST 法案(FIRST Act of 2013)」の草稿が提出されている。この草稿は法案 として提出されたものではないが、科学宇宙技術委員会ウェブサイトにおいては公聴会資料として掲載 されている。 この草案は、これまでの競争力強化法(アメリカ COMPETES 法及びアメリカ COMPETES 再授権法) を引き継ぐ形で起草されており、本稿で扱う NSF の社会・行動科学支援に限定することなく、科学技術 工学数学(STEM)教育や大統領府科学技術政策室(OSTP)や商務省国立標準技術局(NIST)等に関 する条文も含まれている。 なお、米国においては提出された法案の多くは成立することなく審議未了となっており、法案提出以 前の段階の本草稿も(公聴会が開催されたとは言え)、今後の見通しが立ったものではない点、了解して おく必要がある(他の競争力強化法案の提出の動きも見られる) 。 なお、本公聴会の冒頭において Smith 科学宇宙技術委員会議長は、 「本法案はまた、NSF が個々のグ ラント申請が国家の利益に適うものであることを確かなものとする。法案は NSF スタッフが何故グラン トに連邦政府資金が授与させるかということに関する明白な正当性の説明を行うことが求められてい る。」と述べている。 注:公聴会の内容については、別途「米国の科学政策」HP の「議会情報」の「ヒアリングレポート」に 掲載予定である。 「2013 年イノベーション、研究、科学及び技術におけるフロンティア法案(Frontiers inn Innovation, Research, Science, and Technology Act of 2013)または、2013 年 FIRST 法案(FIRST Act of 2013) ○ 草稿の構成 草稿は以下の項目により構成されている。 ・タイトルⅠ.国立科学財団(NSF) ・タイトルⅡ.科学、技術、工学及び数学 ・タイトルⅢ.科学技術政策室(OSTP) ・タイトルⅣ.イノベーション及び技術移転 サブタイトル A. 国立標準技術局(NIST)再授権 サブタイトル B. 技術移転に対する革新的アプローチ ・タイトルⅤ.ネットワーキング及び情報技術研究開発 ○ NSF に関する記述 タイトルⅠ.国立科学財団(NSF)には、同財団にかかる幅広い内容が規定されているが、社会・行 動科学研究支援にかかる条文は以下のとおりである。 セクション.102. 政策目標 本サブタイトルにおける資源配分において、NSF は以下の政策目標を有することとする。 (1) 以下により米国の科学技術における優越性を強化する。 (A) 米国の一般科学研究における投資の増加及び米国の利益に不可欠な戦略分野における投資の増加 4 (B) 生命科学、数学、物理科学、コンピューター及び情報科学、社会・行動・経済科学の全ては持続 的な国際競争力に必要なことを実現させる技術の継続的は開発のために重要であるが、それらの国家に おけるポートフォリオのバランスを取ること (C) 米国の科学者と工学者のプールの拡大 (D) 米国の研究基盤の近代化 (E) 優れた研究機関との間の国際的共同関係の確立及び維持 (2) 以下により全般的な労働力の技能水準を向上させる。 (A) 幼稚園から第 12 学年までを中心とした数学及び科学教育の質とそれへのアクセスの改善 (B) 高等教員機関における科学技術工学数学トレーニング機会の拡大 (3) 地域及び地方のレベルにおける競争力とイノベーションの政策への焦点を拡大することによるイノ ベーションの強化 セクション.103. 定義(略) セクション. 104. 研究に対する連邦政府資金配分におけるアカウンタビリティーの拡大 (a) グラント授与の基準-NSF はサブセクション(b)及びサブセクション(e)に基づき発表される正当性 に関する文書の下における肯定的な決定が行われた場合にのみ、新たなグラントあるいは共同契約を通 して科学における基礎研究及び教育への連邦政府資金配分を行うことができる。 (b) 決定-決定とは、サブセクション(a)が何故研究グラントや共同契約が以下であるかについて所長が 決定することである。 (1) 国家の利益におけるものであること (2) 連邦政府資金配分を行う価値のあるものであること (3) 以下の目標のうちの一つあるいはそれ以上を達成するものであること (A) 米国の経済的競争力の向上 (B) 米国民の保健および福祉の向上 (C) 米国における科学技術工学数学労働力と国民の科学的リテラシーの発展 (D) 米国における大学と産業の連携の増大 (E) 米国の科学の進歩の促進 (F) 国防の支援 (e) 正当性に関する文書-サブセクション(a)に記載された連邦政府資金授与に先立ち、NSF はその公開 されるウェブサイトにおいてサブセクション(b)による決定に関する正当性に関する文書を、決定を行っ た NSF 被雇用者の氏名及び研究提案に関する NSF 長官が適当と考えられる他の情報の記述を付して公 表しなければならない。 (d) 実施-サブセクション(b)に基づく決定は、グラントあるいは共同契約の提案がメリット及びより幅 広いインパクトに関する NSF の評価(reviews)の要件を満たした後に行われなければならない。 (e) 被雇用者訓練-NSF 長官は、NSF の被雇用者がサブセクション(a)に示された制限を認識し、被雇用 者が本セクションに示された決定と正当性に関する文書作成に関する訓練を受けることについて、確か に実施しなければならない。 (f) 年次監査-NSF 長官は、サブセクション(a)の基準が、前会計年度において NSF の研究グラント及び 共同契約の年次監査において適切に適用されるようにしなければならない。NSF 長官はこの監査の年次 5 報告書を下院科学宇宙技術委員会及び上院商務科学運輸委員会に翌年の 2 月までに提出しなければなら ない。 セクション. 105. 社会及び行動科学 NSF の社会行動経済科学局以外の局は、当該研究がその局のミッションのポートフォリオにおいて他 の研究よりも重要性が高いと決定した場合、そのミッションの分野に焦点を絞った社会行動科学研究に 対し資金を配分することができる。 http://science.house.gov/hearing/subcommittee-research-and-technology-hearing-keeping-america-fi rst-federal-investments 3.NSF の対応 ScienceInsider によると、上述の一連の動きに対し NSF Cora Marrett 長官代理は、Peter Arzberger NSF 所長上級顧問や Mark Weiss NSF 行動・社会科学課長を主査とするワーキンググループを設置した。 今後数か月をかけて、NSF のアカウンタビリティーや透明性を向上させる検討を行うとしており、個々 の研究プロジェクトが幅広い社会的課題に対応するものであるかといった説明の改善などがこの検討の 視野に含まれているとのことである。 6