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T. Nakazawa
2016.10.18 山口大医 病原微生物学 中澤晶子 1 化学療法(抗菌薬と感染症の治療) An tibacterial Agents and Chemo th erap y 1.化学療法の定義と抗菌薬 2.細菌感染症の過去・現在・未来 3.抗菌薬による感染症治療 4.抗菌薬の作用機構と耐性菌 5.抗菌薬耐性の獲得機構 6.まとめと今後の課題 T. Nakazawa 2 1.化学療法剤の定義と抗菌薬 化学療法剤 Chemotherapeutic agents 原因病原体(癌細胞を含む)に直接作用し増殖を阻害する薬剤 抗菌薬 Antibacterial agents 抗生物質 (Antibiotics*)の構造をもとに改良が重ねられた *カビ、放線菌などが産生する微生物の増殖抑制物質 (微生物生態系を保つはたらきをもつ) 選択毒性 Selective toxicity 標的病原体の増殖を阻害するが人体に無害であること (病原体固有の分子*を標的とする) 抗菌薬) 抗微生物薬 抗真菌薬 抗原虫薬 化学療法剤 抗がん剤 抗ウイルス薬 2.細菌感染症の過去・現在・未来 3 図1 日本人の平均寿命と抗菌薬の開発 CAM Magic bullet 魔法の弾丸 平 均 寿 命 (年 齢 ) 三大死因 肺炎 胃腸炎 結核 女 男 三大死因 悪性新生物 心疾患 脳血管疾患 PC: ペニシリン CP: クロラムフェニコール TC: テトラサイクリン SM: ストレプトマイシン EM: エリスロマイシン KM: カナマイシン(1956) ABPC: アンピシリン CER: セファロリジン NFLX: ノルフロキサシン CAM: クラリスロマイシン 現在の三大死因は3位が 肺炎 4 細菌感染症の過去・現在・未来 細菌感染症は完治する 耐性菌の出現 新薬の開発が必要 耐性菌を増やさない努力 AMR) 現 在 の 耐 性 ( 細 菌 薬剤耐性クライシス 世界のAMRによる死者数: 70万人/2013年 1000万人/2050年 (日経メディカル 2016.10.12) MRSA; メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 VRE; バンコマイシン耐性腸球菌 PRSP; ペニシリン耐性肺炎球菌 MDRMT; 多剤耐性結核菌 MDRP; 多剤耐性緑膿菌 MDRAB; 多剤耐性アシネトバクター ESBL(Extended-spectrum β-lactamase); 拡張型基質特異性β-ラクタマーゼ産生腸内細菌科細菌 CRE; カルバペネム耐性腸内細菌科細菌 3.抗菌薬による感染症治療 5 感染症の可能性が高い場合はエンピリック治療をはじめる 1) 原因菌の同定:グラム染色、培養検査、PCR 2) 薬剤感受性試験: 寒天平板法、ブロス法による感受性試験 MIC(minimal inhibitory concentration) 最少発育阻止濃度 MBC(minimal bactericidal concentration) 最少殺菌濃度 3) 適切な抗菌剤の使用 ① 有効性、耐性が出にくいか(菌種、期間) ② 副作用: 薬物アレルギー(ペニシリンショック) 腎障害、神経障害、蓄積毒性(高齢者) ③ 菌交代症:抗生物質投与により他の非感受性菌が増殖 Clostridium difficile (偽膜性大腸炎), カンジダ ④ 多剤耐性菌による感染の場合は感染の伝播を防止 T. Nakazawa 6 グラム染色性と抗菌薬 ・細胞壁の構造の違いによりG(+)とG(-)に分けられる ・抗菌薬はG(-),G(+)で異なることが多い。(細胞壁作用、取り込み) ・いずれにも有効な広域スペクトラム抗菌薬が開発されている。 図2 細菌のグラム染色 Gram staining グラム(+) グラム(ー) ①紫の色素で染める ②ヨード処理 ③アルコールで脱色 ・グラム陽性菌は 脱色されない ・グラム陰性菌は 脱色され無色 ④赤の色素で染める 陰性菌が赤色 肺炎の喀痰検査は Bed side で出来る(光学顕微鏡 X1,500) 7 図3 薬剤感受性試験 Drug sensitivity test 寒天平板(plate)法 ①寒天培地に菌を 塗り広げる ②薬剤を含む濾紙 を置く ③37℃,24-48時間 液体培地(broth)法 薬剤濃度(μg/ml) 0 0.25 0.5 1 2 4 8 16 ①系列希釈薬剤を 含む培地に菌を 接種 ②37℃,24-48時間 MICは 2 ㎍/ml Minimal Inhibitory Concentration 4.抗菌薬の作用機構と耐性菌 表1 作用機構による抗菌薬の分類 (1) ペプチドグリカン合成阻害薬 (Inhibitors of peptideglycan) A. β-ラクタム系薬: PC, IPM, CTX B. グリコペプチド系薬: バンコマイシン(VCM),テイコプラニン (2) タンパク質合成阻害薬 (Inhibitors of protein synthesis) A. アミノグリコシド系薬: SM, KM, AMK B. マクロライド系薬: EM, CAM, AZM C. テトラサイクリン系薬:TC D. クロラムフェニコール: CP (3) 核酸合成阻害薬 (Inhibitors of DNA or RNA synthesis) A. DNA合成阻害薬: NA, NFLX B. RNA合成阻害薬: RM (4) 代謝阻害薬 (Metabolic Inhibitors) A. 葉酸合成阻害薬:サルファ剤 SA, トリメトプリム TM 合剤 B. 薬抗結核菌: イソナイアジド INH, ピラジナミド PZA (5) 細胞膜障害薬 (Cell membrane-damaging agents) ポリペプチド系薬:ポリミキシンB, コリスチン 8 図4 作用機構による抗菌薬の分類 9 (1)ペプチドグリカン合成阻害薬 β-ラクタム系、グリコペプチド系 (2)タンパク質合成阻害薬 アミノグリコシド系、マクロライド系 テトラサイクリン系、クロラムフェニコール (3)核酸合成阻害薬 DNA:キノロン系(DNA複製) RNA:リファンピシン(RNA合成) (4)代謝阻害薬 ST(サルファ剤、トリメトプリム)合剤 抗結核薬 (5)細胞膜傷害薬 コリスチン、ポリミキシンB 1)~4)は増殖期に作用 T. Nakazawa (1) ペプチドグリカン合成阻害薬 A β-ラクタム系薬 10 図5 β-ラクタム薬の構造 ペニシリン系 ペニシリンG R = -NHCOCH2- 細菌固有の構造物 セフェム系 セファロスポリン R1= -NHCO(CH2)3CH(NH2)COOH R2= - CH2OCOCH3 R3= - H 選択毒性大、最も種類が多い 図6 ペプチドグリカンの構築と β-ラクタム系薬の作用機構 ブドウ球菌の細胞壁 (I ) ―GlcNAc MurNAc―GlcNAc MurNAc L-Ala L-Ala D-iGn D-iGn (II) (Gly)5- L-Lys (Gly)5- L-Lys D-Ala D-Ala D-Ala PC PBP2 (II) (I) (I) Glycosyl transferase (II) Peptidyl transferase PCの結合 により (I)(II)の 反応阻害 (細胞内) 11 GlcNAc MurNAc L-Ala D-iGn (Gly)5-L-Lys D-Ala D-Ala (II) (I ) GlcNAc MurNAc L-Ala D-iGn (Gly)5- L-Lys D-Ala D-Ala T. Nakazawa 表2 主な β-ラクタム系薬と対象となる細菌 ペニシリン系 セフェム系 S モノバクタム系 H 3N + X=S ペナム系 12 主なβ-ラクタム剤 対象となる細菌 PCG(ベンジルPC) G(+)ブ菌、肺炎球菌など ABPC(アンピシリン) 経口 G(+)ブ菌、肺炎球菌など G(-)大腸菌など、 (緑膿菌X) PIPC(ピペラシリン) G(-)に有効、抗緑膿菌ペニシリン X=C カルバ IPM(イミペネム) ペネム系 MEPM(メロペネム) 広域、緑膿菌にも 第1世代 CEZ(セファゾリン) G(+),一部G(-) (肺炎桿菌・プロテウス・緑膿菌X) 第2世代 CTM(セフォチアム) より広域 第3世代 CTX(セフォタキシム) G(-)広域 第4世代 CFPM(セフェピム) G(+),G(-)に有効、緑膿菌にも AZT(アズトレオナム) 抗緑膿菌薬 B グリコペプチド系薬 バンコマイシンVCM、テイコプラニンTEIC 13 7 つのアミノ酸と2つの糖からなる巨大分子 2糖ペプチド末端に結合しG(+)の細胞壁合成を阻害 図7 バンコマイシンの構造と結合部位 GlcNAc MurNAc L-Ala D-iGn L-Lys(Gly)5 D-Ala D-Ala Van D-Ala D-Lac 結合部位 ペプチドグリカン合成阻害薬の耐性菌 ① β-ラクタマーゼ 14 図8 β-ラクタマーゼ β-ラクタムを分解 ペニシリナーゼ セファロスポリナーゼ セリンβ-ラクタマーゼー クラスA(ペニシリナーゼ) ペニシリン系を分解 クラスC*(セファロスポリナーゼ) セファロ系を分解 メタロ・β-ラクタマーゼー(MBL)=クラスB(カルバペネマーゼ) カルバペネムを分解 *C→D訂正 β-ラクタム薬とβ-ラクタマーゼ阻害薬の併用 クラブラン酸(A阻害)+アモキシシリン、スルバクタム(C阻害)+セフォペラゾン ESBL(拡張型 β-ラクタマーセ)産生菌 AC*を持つ大腸菌、肺炎桿菌が出現 カルバペネムを用いる CER(B=MBLを持つ腸内細菌科細菌)出現 カルバペネム無効! MDRP(多剤耐性緑膿菌=Bの他多くの耐性も持つ) 15 ② PBP(ペニシリン結合タンパク質)の獲得、変異 MRSA:Methicillin-Resistant Staphylococcus Aureus (メチシリン耐性黄色ブドウ球菌) ・PC耐性黄色ブドウ球菌に対して開発されたメチシリンの耐性菌 ・メチシリンが結合できないPBP2‘ 遺伝子mecAを獲得 ・院内感染の重要な原因菌 ・MRSA感染症の治療にはグリコペプチド系の バンコマイシン、テイコプラニン、アミノグリコシド系のアルベカシンなど VREからvan遺伝子を獲得する可能性がある! PRSP:Penicilln-Resistant Streptococcus pneumoniae (ペニシリン耐性肺炎球菌) ・PBP1A, PBP2A, PBP2B に変異が見られる 16 (2)タンパク質合成阻害薬 A アミノ配糖体系薬(アミノグリコシド系薬) 作用機構: タンパク質合成開始阻害 殺菌的、好気性菌に有効、嫌気性菌には無効 種類と対象: ①SM、KM(結核菌)、②AMK(アミカシン)(緑膿菌)、 ③アルベカシン(MRSA)、④スペクチノマイシン(PC耐性淋菌) 図9 カナマイシン KMの構造と修飾による耐性化 難聴に注意 リン酸化 修飾酵素獲得に より不活化 アデ二リル化 アセチル化 B マクロライド系薬: 巨大環状ラクトンにアミノ糖、デオキシ糖が配位 17 作用機構:50Sに結合しペプチド転位を抑制、静菌的 対象: ①G(+)菌感染のPCアレルギー、 ②淋菌・髄膜炎菌 ③細胞内感染菌(マイコプラズマ、クラミジア、リケッチア) ④ピロリ菌(クラリスロマイシンCAMが用いられる) 特徴:組織移行性がよい、広域、安全(呼吸器・耳鼻科・小児科) 耐性化:23S rRNAの変異 図10 14員環マクロライド(エリスロマイシン)とクラリスロマイシン)の構造 EM CAM C テトラサイクリン系薬 Tetracycline TC テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリン 作用機構: 30Sリボソーム に結合しaa-tRNAの結合を阻害 対象: 広域 G(+)、G(-)、ただし緑膿菌には無効 マイコプラズマ、クラミジア、リケッチアにも有効 組織や細胞内移行性がよい D クロラムフェニコール系薬 chloramphenicol CM 組織や細胞内移行性がよい 重篤な副作用:造血機能障害(再生不良性貧血) 他の薬が使えない場合に限り使用 図10 テトラサイクリンTCとクロラムフェニコールCMの構造 TC CM 18 (3)核酸合成阻害薬 A DNA合成阻害薬 19 キノロン系薬 作用機構: DNAジャイレースgyrase阻害 耐性化: gyrA の変異 種類と対象: オールドキノロン系薬:ナリジクス酸NA G(-)のみ ニューキノロン(=フルオロキノロン)系薬:F導入、広域(G(-),G(+)菌) ①シプロフロキサシン CPFX(腸内細菌科、緑膿菌) ②レボフロキサシン LVFX(肺炎球菌にも) 特徴: 腸管吸収、組織移行性がよい。Fe,Ca,Mg,Znなどに結合 成人に最も多く用いられている(小児には原則使用しない) 図11 キノロン系薬の構造 ナリジクス酸(NA) ノルフロキサシン(NFLX) 20 B RNA合成阻害薬 リファンピシン Rifampicin RFP 作用機構: RNAポリメラーゼのβ-サブユニット(RpoB)に結合 転写阻害、殺菌的、長期投与で rpoB変異(耐性化) 対象: 最も重要な抗結核薬 MDRMT 図12 リファンピシン RFP の構造 多剤耐性結核菌 RFP, イソニアジドINH 耐性 耐性化を防ぐため 多剤併用 RMP, INH, ピラジナミドPZA, ストレプトマイシンSM, など (4) 代謝阻害薬(Metabolic Inhibitors) A 葉酸合成阻害薬 ST合剤:サルファ剤(SA,SMX)+トリメトプリムTMP 広域、耐性菌出にくい、安全、静菌的 B 抗結核剤 イソニアジド INH: ミコール酸合成阻害 ピラジナミド PZA: ファゴゾーム内で働く デラマニド: ミコール酸合成阻害、2014年承認(40年ぶり) 5) 細胞膜障害薬 ポリミキシンB、コリスチン: ポリカチオン性環状ペプチド LPSに結合し外膜破壊、内膜のリン脂質にも結合(殺菌) 多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターに有効 腎障害、神経障害などの副作用がある 21 5. 抗菌薬耐性の獲得機構 22 表3 抗菌薬耐性の獲得と耐性菌 獲得機構 遺伝子の機能 抗菌薬耐性菌 RIF耐性結核菌(MDRMT) 遺伝子の RNAポリメラーゼ 突然変異 DNAジャイレース ニューキノロン耐性緑膿菌* PBP PC耐性肺炎球菌(PRSP) 薬剤排出ポンプ亢進 緑膿菌* ポリン機構低下 緑膿菌* 遺伝子の β-ラクタマーゼ (A+C* ESBL産生大腸菌など 水平伝達 型) *C→D訂正 イイミペネム耐性大腸菌、緑膿菌* β-ラクタマーゼ(B型) AMK耐性緑膿菌* アミカシン修飾 メチシリン耐性PBP バンコマイシン耐性PBP MRSA VRE *MDPR(多剤耐性緑膿菌) 23 図13 ポリン、ポンプ変異による緑膿菌の多剤耐性 ポリン機能低下 排出ポンプ亢進 ポリン 排出ポンプ IMP AMK CPFX 外膜 IMP TolC OprM MexA MexB 内膜 AMK CPFX ATP ADP 6.まとめと今後の課題 24 ・細菌感染症は全臨床科で必ず出会う疾患である。 ・耐性菌に注意し適切な抗菌薬を用いる。 ・不適切な抗菌剤の使用で高度耐性菌が出ること に注意する。耐性菌を出さない。拡散させない。 ・世界的規模での取組みが必要である。 薬剤耐性クライシス 世界のAMRによる死者数:70万人/2013年、1000万人/2050年 2015.5 WHO AMR(antimicrobial resistance)Action 2016.4 厚生労働省 AMR対策アクションプラン 2016.9 G7保健大臣会合(神戸) AMR対策アクションプラン