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審査の要旨 - 広島大学

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審査の要旨 - 広島大学
第6号様式
論 文 審 査 の 要 旨
博士の専攻分野の名称
博
学位授与の要件
学位規則第4条第1・2項該当
論
文
題
士
(
保健学
)
氏名
三木
恵美
目
高齢がん患者の認知機能低下に対する速度フィードバック療法の有効性に関する研究
論文審査担当者
主
査
教
授
片岡
健
審査委員
教
授
宮下
美香
審査委員
教
授
宮口
英樹
審査委員
教
授
花岡
秀明
審査委員
教
授
岡村
仁
〔論文審査の要旨〕
近年,がん罹患者数の増加と超高齢化を背景に,高齢がん患者数も依然として増加傾向
にある。一方,高齢者は心身機能が脆弱であることが多いため,がんの治療方針を決定す
る際には,心身機能状態についても十分に考慮する必要がある。わが国においても,高齢
がん患者の 17-24%に治療選択に関する意思決定能力の障害が存在すると報告されてお
り,それに関連する要因として,認知機能低下が指摘されている。高齢がん患者の認知機
能低下は,適切な治療を選択するうえで必要な意思決定能力に影響を与えるだけでなく,
日常生活活動能力や Quality of Life (QOL),死亡率にも関連すると報告されており,認
知機能を適切に評価し,機能の維持・向上に努めることが重要と考えられる。高齢がん患
者の認知機能評価には,現在 Mini-Mental State Examination (MMSE)が用いられることが
一般的であるが,がん患者の認知機能低下を捉えにくい等の問題点が指摘されている。高
齢がん患者の認知機能に影響を与える要因としては,加齢に伴う機能低下に加えて,がん
治療による影響の可能性も指摘されており,いずれも前頭葉が関与している可能性が高い
と考えられる。
そこで研究 1 として,高齢がん患者の認知機能の中でも特に前頭葉機能に焦点を当て,
前頭葉機能を広範囲に評価できるとされる Frontal Assessment Battery (FAB)を高齢がん
患者に適用し,認知機能評価における臨床的有用性を検討することを試みた。対象者は広
島大学病院を受診している 65 歳以上のがん患者 54 名(男性 30 名,女性 24 名)であり,
FAB,MMSE,Barthel Index (BI),Instrumental Activities of Daily Living (IADL)を
用いて評価を行い,各評価尺度間の関連を検討した。その結果,FAB と MMSE(r=0.283,
p=0.038),FAB と IADL(r=0.452, p=0.001)の間に有意な相関が見られた。また,MMSE は教
育年数との間に有意な相関が見られたのに対し(r=0.320, p=0.039),FAB では関連が見ら
れなかった(r=0.257, p=0.100)。更に,FAB 得点により 2 群に分けて群間比較を行った結
果,一般的なカットオフポイント(10~12 点)より高い 16/17 点において,IADL 得点に有意
差が見られた(p=0.014)。これらの結果より,FAB は教育年数の影響を受けず,高齢がん患
者の日常生活状況をよく反映し,わずかな認知機能低下も敏感に捉えることができると考
えられ,高齢がん患者の認知機能評価において臨床的有用性が高いことが示唆された。
研究 2 では,高齢がん患者の認知機能の改善を目指して速度フィードバック療法を行い,
その有効性を FAB を用いて検証することを試みた。速度フィードバック療法は,認知機能
向上を目的としたリハビリテーション方法の一つで,コンピューター画面上に任意に表示
される目標速度に合わせて自転車エルゴメーターを駆動するもので,認知症高齢者におい
て認知機能改善に有効であることが確認されている。対象者は広島大学病院を受診してい
る 65 歳以上の乳がん患者(女性 43 名)と前立腺がん患者(35 名)の合計 78 名とした。対象
者を介入群(38 名)と対照群(40 名)に無作為割付けし,介入群に対して週 1 回 4 週間,計 4
回の速度フィードバック療法を実施した。介入群において,開始から終了までの間に脱落
者や体調不良を訴える者はいなかった。全対象者について,ベースライン,介入終了時に,
FAB,BI,IADL,Hospital Anxiety and Depression Scale (HADS),Cancer Fatigue Scale
(CFS),Functional Assessment of Cancer Therapy–General(FACT-G)を用いて評価を行い,
各得点変化について二元配置分散分析を行った。その結果,FAB 得点において介入群と対
照群の間に有意差が見られ,速度フィードバック療法は高齢がん患者に対して安全に実施
することができ,かつ,前頭葉を中心とした認知機能の改善に有効であることが示唆され
た。
以上,本論文は高齢がん患者の認知機能に焦点を当て,評価尺度としての FAB の有用性
及び認知機能低下に対する速度フィードバック療法の有効性を検証しており,今後の高齢
がん患者の治療選択における意思決定能力等への支援に繋がることが期待できる。従って,
本研究は高齢がん患者の認知機能評価及びリハビリテーション実践における活用性が高
く,臨床的に重要かつ有用な研究であり,今後の高齢がん患者に対するリハビリテーショ
ンの推進に貢献するものとして高く評価される。よって審査委員会委員全員は,本論文が
著者に博士 (保健学)の学位を授与するに十分な価値のあるものと認めた。
第7号様式
最 終 試 験 の 結 果 の 要 旨
博士の専攻分野の名称
博
学位授与の要件
学位規則第4条第1・2項該当
論
文
題
士
(
保健学
)
氏名
三木
恵美
目
高齢がん患者の認知機能低下に対する速度フィードバック療法の有効性に関する研究
最終試験担当者
主
査
教
授
片岡
健
審査委員
教
授
宮下
美香
審査委員
教
授
宮口
英樹
審査委員
教
授
花岡
秀明
審査委員
教
授
岡村
仁
〔最終試験の結果の要旨〕
判
定
合
格
上記 5 名の審査委員会委員全員が出席のうえ,平成 24 年 7 月 19 日の第 104 回広島
大学保健学集談会及び平成 24 年 7 月 19 日 本委員会において最終試験を行い,主とし
て次の試問を行った。
1 がん患者に神経心理学的検査を用いる意義とその適応
2 高齢がん患者の認知機能に対する影響要因
3 がん患者の治療選択における意思決定阻害因子
4 高齢がん患者と一般高齢者の認知機能面から見た相違点
5 速度フィードバック療法を導入する上での問題点
これらに対して極めて適切な解答をなし,本委員会が本人の学位申請論文の内容及び関
係事項に関する本人の学識について試験した結果,全員一致していずれも学位を授与する
に必要な学識を有するものと認めた。
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