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タスキ∼雑草達の走り - タテ書き小説ネット

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タスキ∼雑草達の走り - タテ書き小説ネット
タスキ∼雑草達の走り∼
ルーバラン
タテ書き小説ネット Byヒナプロジェクト
http://pdfnovels.net/
注意事項
このPDFファイルは﹁小説家になろう﹂で掲載中の小説を﹁タ
テ書き小説ネット﹂のシステムが自動的にPDF化させたものです。
この小説の著作権は小説の作者にあります。そのため、作者また
は﹁小説家になろう﹂および﹁タテ書き小説ネット﹂を運営するヒ
ナプロジェクトに無断でこのPDFファイル及び小説を、引用の範
囲を超える形で転載、改変、再配布、販売することを一切禁止致し
ます。小説の紹介や個人用途での印刷および保存はご自由にどうぞ。
︻小説タイトル︼
タスキ∼雑草達の走り∼
︻Nコード︼
N8319E
︻作者名︼
ルーバラン
︻あらすじ︼
今日から高校生になった妹思いでシスコン兄のヤス。親友のケン
とともに大山高校に入学する。そして、陸上部の部活動のメンバー
達との、苦しくとも楽しい高校3年間。ほのぼのコメディスポーツ
小説。
1
1話:プロローグ
目覚まし時計のアラームが鳴り響き、俺の耳にがんがんと起きろと
訴え続ける。
布団を顔からかぶって聞こえないように抵抗していたが、目覚まし
時計は訴えをやめてくれない。
いい加減うっとうしくなってきたので、布団から飛び出て目覚まし
時計を叩き、とめてやった。
これでようやく眠れる⋮⋮お休みなさい⋮⋮。
ようやく夢うつつになった頃、また目覚まし時計が自己主張し始め
た。
この高機能目覚まし時計ってやつはきちんととめないと5分ごとに、
毎回覚醒して俺をおこそうと画策する。
窓から日がはいり、夢うつつだった状態から、だんだんと意識が覚
醒してきた。
まだまだ寝ていたいが、もうそろそろ起きないとまずいはずだ。
俺はうんうんうなりながら、もぞもぞと布団から這い出て、片手で
目をこすりながら、目覚まし時計をつかんだ。
午前6時6分。
うん、ちょうどいい時間だ。
この朝の一連の動作は確定事項で、毎日のように同じ行動をしてい
る。
毎回のように1回はとめて、そのまま寝る。この2回目の睡眠とい
うのがとても気持ちいいのだ。
2
ぐーっと体を伸ばし、眠気を覚ます。今日はちょっと体がだるい。
昨日の疲れがずいぶん残っている感じがする。
昨日は春休み最後の日。
学校が始まってしまうと、もう中々遊べなくなるからと友達に誘わ
れ、朝から思いっきり遊び倒した。
朝9時に友達と妹とボーリング場に行って、昼食をとった後、カラ
オケ、漫画喫茶、最後はビリヤードで締めた時にはもう夕方19時
を回っていた。
妹もずいぶん疲れたようで、家に帰ってから夕飯も食べずに寝てし
まった。
まったく、いくら何でも遊び過ぎたな。まあ、楽しかったからいい
けど。
俺は制服に着替えて自分の部屋から出て1階に下り、洗面所で顔を
洗う。
髪はぼさぼさのままなんだが、クセッ毛なので、すごい時間をかけ
ないと髪の毛は整わない。
なので、面倒なのでひどいのだけ直してこのままですましておく。
中学の時とは違う制服を着たの自分を見て、
﹁今日から俺も高校生か⋮⋮﹂
とつぶやいてしまう。
今日、4月7日は俺が今年から通う事になる大山高校の入学式だ。
最寄りの駅から15分程度歩くと見えて来る高校で、学校からなん
3
と富士山を見る事が出来る。
1学年200人の中規模な学校だ。
自分の中学校からはそれほど近くないので、そんなには進学してい
ない。俺と後、4∼5人ってとこかな。
成績は中の上、上の下って所だと思う。
爆発していた髪の毛がある程度︵まだ人が見ればぼさぼさと言うだ
ろうが︶落ち着いたら、キッチンに向かう。
毎日の朝夕の飯作りは俺の役目だ。
両親ともに、朝の寝起きがめちゃくちゃに悪い。
まあ、毎日夜遅くまで仕事をしているのだから仕方がないのだけれ
ど。
今日は朝に炊けるようにセットしといたご飯に、わかめとねぎのみ
そ汁、それに卵焼きを焼いて、ついでに食後のリンゴをむいておい
た。
忙しい朝の時間にはこの程度で十分だ。
食事の準備ができた所で、妹の五月<サツキ>を起こしに行く。
今、サツキは中学3年生だ。
始業式は明日なのだが、今日は朝早くに行って、新入生たちの先導
をしなくちゃいけないという事で、朝起こしてくれるように頼まれ
たのだ。
こいつも両親と同様に寝起きは最悪だ。
ほっておくと延々と寝続けるのじゃないかと思ってしまう。
実際一度ほっておいたら、もう日が落ちる頃になってようやく起き
てきて、そして22時にはもう寝ていたなんて事もあった。
﹁サツキー、起きてるかー? 入るぞー?﹂
4
サツキの部屋をノックして、返事を待たずに入る。
寝てるに決まっているからだ、起きていたためしがない。
案の定サツキは布団にくるまって、ミノムシのようになって寝てい
た。
すーぴーと、幸せそうに寝ているのを見ると、何となくイタズラし
たい気持ちがむくむくとわいてくる。
そんな感情を我慢してゆさゆさと揺らしながら、声をかけ続ける。
﹁サツキー、今日は学校行くんだろ、さっさとおきないとまずいぞ
!﹂
﹁おーきーろっ、おーきーろっ、さっさとおーきーろっ!﹂
﹁起きないとお前の日記読んじゃうぞ!﹂
しょぼい脅し文句も交えつつ、おもいっきりぐらぐらと体を揺らし
ているのに、いっこうに起きる気配がない。
いつもひどいが今日は特に目覚めが悪い。
春眠暁を覚えずというのは本当だな⋮⋮。
﹁ふぅ、こうなったら⋮⋮⋮⋮でやっ!﹂
﹁ぎゃふっ!?﹂
どすっと鈍い音がしたかと思うと、布団がはねた。
思いっきりミノムシになっている妹に、エルボーを叩き込んでやっ
たのだ。
今はぴくぴくと震えている⋮⋮ついに動かなくなった。
5
少しの間、その状態が続いていたが、突然、がばっと起き上がると、
俺に向かってうめいた。
﹁も、もうちょっと優しく起こしてよ⋮⋮朝から激しすぎるよ⋮⋮﹂
﹁朝から変な事言ってないでさっさと起きる、もう時間あんまりな
いだろ?﹂
﹁えっ、そう? ⋮⋮って、もう7時じゃん!まずいまずい!﹂
﹁さっさと着替えて下におりてこいよー、朝食はもう出来てるから
な﹂
﹁はいはい、わかったから先したおりててよ。﹂
﹁りょーかい⋮⋮あ、サツキ!﹂
﹁なに、ヤス兄﹂
﹁おはようさん﹂
﹁ん、おはよう﹂
一度起きてしまえばサツキは楽だ。ぼーっともしないし、不機嫌に
もならない。
食卓に戻ってサツキがおりてくるのを待つ。
﹁ふー、お待たせ、ヤス兄﹂
﹁待った待った、だからさっさと席れ。はよ飯食べるぞ﹂
6
﹁はいはい﹂
制服に着替えたサツキは、空いている俺の前の席に座る。
﹁んじゃ、﹃いただきます﹄﹂
手を合わせて、いつもの声を出した後、2人して食べ始める。
食事中、サツキは黙るという事がない。とにかくしゃべり続ける。
食事は礼儀正しく食べよ、という意見もあるかもしれないが、
これはこれで楽しいので俺としては全然構わない。話題もぽんぽん
飛ぶので、適当に相づちを打つ。
﹁春休みも終わっちゃったねー、また学校が始まると思うとめんど
いよ﹂
﹁そうだな⋮⋮。まあ、お前の場合は学校なんてサキちゃんとか、
クロちゃんとかに会いに行くもんだって思っとけばいいんじゃない
?﹂
﹁だって部活でだって2人には会えるし⋮⋮勉強がめんどいの、特
に数学とか!﹂
﹁はいはい、高校に入るために適当には頑張っとけよ﹂
﹁ヤス兄の高校ぐらいなら、今の成績で十分いけるもん!﹂
﹁⋮⋮あれ? お前、俺の高校受けるの? お前なら、もう少し上
の高校もいけるんじゃん?﹂
7
﹁⋮⋮いいの、とりあえずはそこで。って、ヤス兄の方こそ高校大
丈夫なの?﹂
﹁まだ、行ってないから何とも言えんさ。まあ、ケンもいるし、な
んとかなるよ。﹂
﹁ヤス兄、ケンちゃんばっか頼ってないで、もっと社交的になりな
さいよね。ああ、なんで私のお兄ちゃんなのにこんなにも人付き合
いが下手なのかしら⋮⋮﹂
﹁うっさいな。お兄ちゃんなんて気持ち悪い呼び方するなよ。明日
から起こしてやんねーぞ﹂
﹁うっわー、器が小さいねー、お・に・い・ちゃ・ん?﹂
﹁あーもう!ごちそうさま!!自分の分の食器は自分で水に浸しと
けよ、俺は先に学校行くからな!﹂
﹁はいはい、いってらっしゃーい﹂
俺は乱暴に食器を片付けて、家を出る。
ふー、ちょっと大人げなかったな。
俺に社交性がないというのは本当の事だ。実際中学3年生の頃は友
達のケンぐらいしか付き合いがなかった。ケンがいたから、中学の
時は1人にならずにすんだようなもんだしな。
でも、高校でも、適当な友達付き合いなんていらないよな。いろい
ろとめんどいし。
8
とぼとぼと物思いにふけっていると、改札口についた。
俺の家から大山高校までは距離が結構あるので電車で通う事になる。
これから電車通学か⋮⋮。
中学校のときは徒歩だったので、電車通学というのは初めてだ。
まあ、そのうち慣れるだろう。
俺は改札口を通り、ホームに入っていった。
9
1話:プロローグ︵後書き︶
はじめまして、初投稿です。
なので、途中でつじつまが合わなくなったり、変な所がたくさん出
てくると思います。
指摘・批評・感想・何でもいいのでお待ちしております。
まだ、1話しか投稿していないので、批評も感想もあったもんじゃ
ないですが、投稿数が増えましたら、適当によろしくお願いします。
10
2話:ケン
先ほどのもやもやした気分が抜けないままホームに入ると、電車に
乗り込むために学生やサラリーマンの人たちが、列になって並んで
いた。
さすがにこの時間帯は人が多い。
この駅から学校の最寄りの駅までは、そんなに都市化している訳で
もないのに、何でこんなに人がいるのか。
明日からは、時間をずらして学校に来た方がいいかと考えていると、
知っている人物を見つけた。
向こうもこちらに気がついたようで、思いっきり手を振りながら、
俺に近づいてくる。
⋮⋮恥ずかしい。もうちょっと周りの目を気にしてくれ。
心の中でそう突っ込んでおいて、俺は手を上げて答える。
﹁おっす! ヤス! 超久しぶりだな!﹂
﹁昨日も会ったばかりだろうが、だいたいぶんぶん手を振り回すな
! 周りを見ろ! 恥ずかしいだろ!﹂
﹁おー、今日も元気だなヤス。昨日あんなに激しく奇声を上げてた
のに、まだ元気が有り余っているみたいだな﹂
﹁変な言い方をするな! カラオケで歌を歌っただけだろうが! しかもお前がリンダリンダを何回も入れたからだ! おかげであの
11
後のどが枯れたぞ!﹂
﹁枯れたって、なんて卑猥な⋮⋮﹂
﹁枯れたのはのど! そっちじゃねえ!﹂
﹁声が出けーなー、周りが見てるぞ、恥ずかしくないのか﹂
﹁叫ばせているのはお前だろうが! これ以上、変な事は言うなよ
!﹂
﹁言い訳は見苦しいぞ、ヤス。その後、妹と突きあって喜んでたじ
ゃないか﹂
﹁⋮⋮妹って⋮⋮﹂
﹁最低だな⋮⋮﹂
﹁⋮⋮うらやましい⋮⋮﹂
﹁それ、ビリヤード! 突いてたのはボール! 喜んでたのは、9
ボールで妹に勝ったから! 変な言い方をしない! 俺が変態みた
いだろ! くそ、うらやましいとか変な事言ってるやつもいるし⋮
⋮﹂
﹁妹に勝てて喜ぶってのも、器がちいせえな﹂
﹁うっさい! 器が小さいって言うな、朝に妹にも言われたよそれ
! 大体その前に何連敗したと思ってる!? 10連敗だぞ10連
敗! 喜ぶに決まってるだろ!?﹂
12
﹁ヤス、うるさい。通勤ラッシュはみんなイライラしてんだから、
もうちょっとまともに行動してよ。﹂
﹁誰のせいで⋮⋮⋮⋮ふぅ、まあいいや⋮⋮ケン、おはようさん﹂
﹁やっと挨拶が出来たか。挨拶はコミュニケーションのための基本
だぞ﹂
﹁黙れ、元凶﹂
やっと挨拶が終わった⋮⋮。
ケンといるとこんな言い争いがしょっちゅうだ。
まあ、これからの嫌なことばかり考えてて、鬱々としてたから、気
分転換になってちょうどいい。
ケンは俺の友達⋮⋮まあ、親友と言ってもいいかもしれない、恥ず
かしいから絶対に言わないけど。
ちなみに本名は健次<ケンジ>だ。だれもかれもがケンと呼ぶから
時々本名は健次だったか健太郎だったか分からなくなるやつもいる。
最初はケンって呼ばれると、
﹁犬みたいだから嫌だ!﹂
と反発していたけれど、最近はもう完全に慣れてしまっている。
人間慣れって大事だよな⋮⋮。
小2の頃、同じクラスになってから、何かとうまがあって、一緒に
行動するようになった。小2からずっと一緒だから、幼馴染と言っ
13
ても言いのかな。男同士の幼馴染って言うのも気持ち悪いが。こう
いうのは腐れ縁って言うんだな、うん。
中学校の時の部活も、こいつに誘われて一緒の部活に入った訳だし
な。
運動神経はかなりいい。とにかく足が速く、小学校でも中学校でも
毎回運動会、体育祭ではリレーのアンカーを務めてた。それに比べ
て俺は平々凡々なレベルだ。
これから通う高校も、ケンと一緒の高校を受けた⋮⋮ってか、ケン
が無理矢理受けたんだが。
ケンはあまり成績が良くなかったから、当日の試験の出来が良くな
いと、無理だって言われてた。
それでもこの高校に受かろうと必死になって勉強してた。
俺もいろいろ教えてたけど、何とかなったのは、ケンの努力のたま
ものだな。
理由を聞くと、
﹁この学校の先輩にめちゃくちゃきれいな人がいるって聞いた﹂
って言ってたけど、実際は俺に合わせてくれたってのは分かってる。
どちらにしても、ケンが同じ学校に来てくれるというのはありがた
い。
高校に入っても、ケン以外のやつと上手く話せるかどうかは分から
ない。
そう考えると、ケンって本当に貴重な存在だなと思えた。
14
﹁なんだよ、ヤス。俺の顔をまじまじと見てきて﹂
﹁いや、別に。同じクラスになれるといいな﹂
﹁そうだな﹂
そう言って、とりあえず会話を打ち切った。
それと同時に、俺たちの乗る電車がホームにやってきた。
乗ってみると、そこまできつくない。電車内で身動きができず、周
りの人たちにつぶされるというのをイメージしていたが、どうやら
そんな事はないらしい。あれは、東京とか大阪みたいな大都市で起
きる現象みたいだな。
﹁いやー、これぐらいの混雑ぶりでよかったよ。もっと増えてたら、
学校行く前に疲れきって、学校では何も出来なくなるとこだったよ﹂
﹁ケン、お前は中学の時も疲れてなくても授業中ぐーすか寝てやが
っただろうが。どうせ高校でも授業中寝て過ごすつもりだろ﹂
﹁それはもちろん﹂
﹁テストどうすんだよ﹂
﹁それはもちろん﹂
﹁ノートは貸してやらねーぞ﹂
﹁いや、ヤスに借りなくたって、優しい女の子が俺に貸してくれる
んだよ。﹃頑張ってね﹄みたいに声をかけてくれたりして﹂
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﹁言ってろ、そんな妄想ばっかりしてると全員逃げてくから﹂
﹁ひでーな、ヤス。その毒舌っぷりは相変わらず健在だね﹂
電車が目的の駅に到着したので、降りて学校に向かう。
隣で相変わらずケンがしゃべり続けていた。
妹とケンと3人で遊ぶときはとにかくやかましい。
女3人集まると姦しいとは言うけれども、男2人と女1人でもここ
までうるさくなるものなのかと思ってしまう。
﹁おっ、掲示板の前に人が集まってる﹂
どうやら、学校に到着したらしい。
聞き流してばかりで上の空だったから気付かなかった。
﹁おしっ!さっさと見に行こう!﹂
ケンがそう言って先に走っていく。俺は焦る必要もないかとのんび
りとついていく事にした。
﹁ヤスー! 俺たちの名前あったぞー! 2人とも1年3組だー!﹂
﹁そんな大声で叫ばなくても聞こえる! 周りが振り向いてる!﹂
﹁気にするなー! いきなり俺たち、有名人だなー!﹂
﹁そんな有名人にはなりたくない! 恥ずかしいだろ!﹂
俺は慌てて掲示板の前からケンを引っ張っていって、校舎内へ連れ
16
て行った。
周りの全員が俺たちに注目してた。きっと俺の顔は真っ赤になって
いたに違いない。
﹁ところで、俺を引っ張っていっているけど1年3組はどこかわか
ってるの?﹂
﹁⋮⋮あ⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ヤスって、変なとこで抜けてるな。真面目すぎるのも考えものだ
な﹂
﹁うっさい! お前が叫ぶから悪いんだよ!﹂
﹁はいはい、いいから、もう一度掲示板に戻って場所を確かめない
と﹂
﹁また戻るのか⋮⋮﹂
仕方なしに、また掲示板の前に戻った。自意識過剰なのは分かって
いるんだが、周りの視線が自分に注がれているようで気まずくてし
ょうがない。
1年生は3階のようだ。2年生も3階で、3年生が2階、その他特
別教室等も2階にあるらしい。
先ほどは恥ずかしくてみれなかったのだが、どうやら自分の中学か
ら3組になる人は俺とケン以外いないみたいだ。
ケン以外仲が良かったやつもいないのだから、それはそれでよかっ
たかもしれない。
17
1年3組に入ると、半分くらいの人が既に座っていた。
どうやら、今の所はどの席に座ってもいいみたいだ。
俺とケンは適当な席に前後に座って、話を続けていた。
﹁ヤス、いい加減に携帯持てよなー﹂
﹁いいじゃねえか。どうせかけるやつなんかいないんだし。ケンだ
ったら口笛を吹いたらどこからでも駆けつけるだろ﹂
﹁俺はイヌかよっ! ⋮⋮ってそうじゃなくて! 昨日だってわざ
わざお前ん家に電話しただろ。その時、サツキちゃんが出て﹃まだ
寝てたのに!﹄って怒ってたじゃん。﹂
﹁そりゃ、春休みの7時に電話されりゃまだ寝てるやつもいるだろ、
俺は手が離せなかったし。⋮⋮っていうか昨日は電話ぐらいでサツ
キはよく起きたなー。普段は全然起きない癖して﹂
﹁話がずれてるって。だからさ、携帯持ってたらわざわざ家に電話
する必要もなくなるし、サツキちゃんを困らす必要もなくなるだろ。
だから、お前も携帯持とう﹂
﹁お前のためだけに買うのはやだ﹂
﹁うわ、ばっさり切り捨てやがった。お前なあ、例えば今ここで俺
たちに話しかけてきて、お友達になろって言ってくる女の子がいた
とするだろ。そんときに携帯でアドレス交換しておくのと、携帯持
ってないよって言ってそこで終わるのと、どっちがその女の子と仲
良くなれると思う?﹂
﹁大丈夫、そんな奇特なやつはいないから﹂
18
﹁ひどっ! お前、俺の事をどんな風に見てる訳?﹂
﹁面白い友人&万年彼女欲しい病にかかっている変人﹂
﹁そんな微妙な答えは嫌だ⋮⋮﹂
がっくりときているやつをほっといて、教室全体を見ていると、隣
の席に女子が座った。
﹁こんにちは﹂
なんと、隣の席に座った女子が俺たちに話しかけてきた。
や、ひょうたんからこまと言うか、うそからでたまことと言うか、
さっきケンが話してた事が現実に起こりうるとは思わなかった。
女の子は、もう座っているから実際の身長は分からないけど、結構
背は高め。
髪は長くて、後ろで結んでポニーテールにしている。
かわいいよりもきれいってイメージな人。
偏見だけど、眼鏡をかけているだけで、委員長って思うのは俺だけ
だろうか。
﹁どうも⋮⋮﹂
﹁その人、どうしたんですか﹂
﹁いや、別にどうもしないですけど⋮⋮﹂
俺が歯切れ悪く答えていると、隣の女子は気にする風でもなく、
19
﹁あなたたちって、掲示板の周りで騒いでた人たちですよね﹂
﹁あ、多分そうです⋮⋮﹂
﹁すっごい元気でした! いけないって思ったんですけどついつい
笑っちゃいました、すみません﹂
﹁いや、別にいいです⋮⋮﹂
ずっと尻すぼみにしゃべっていたら、ケンが見かねたのか
﹁ってヤス、さっきから何ぼそぼそとしゃべってんだよ。もっとち
ゃんとしゃべれよ。あ、俺、ケンジ言います! フルネームは早川
健次、どぞ、親しみを込めてケンとお呼びください!﹂
﹁私は木野あおいっていいます。好きに呼んでいいですよ。これか
ら1年間、同じ1年3組同士、よろしくお願いします﹂
﹁俺、近藤康明<ヤスアキ>って言います⋮⋮よろしくお願いしま
す。﹂
﹁こいつ、めちゃ人見知りするんだよ。別にそんな警戒しなくても
いいてのにさ。あおいさん、こいつはヤスって呼んでくれれば言い
から﹂
﹁って勝手に決めるなよ!﹂
﹁はい、わかりました。ケン君に、ヤス君。⋮⋮⋮⋮うん、覚えた。
これからよろしくお願いしますね﹂
20
﹁あい、よろしく、⋮⋮あおいさん、もしよかったら︱︱﹂
ケンが何か言いかけた時、がらっと前の扉が開いて、
﹁新入生、移動するよー! 今から体育館に行くから適当にやって
きてー!﹂
﹁だって、じゃまた後でね、ケン君、ヤス君﹂
﹁あ、うん、また後で﹂
﹁⋮⋮⋮⋮じゃ⋮⋮﹂
そう言い残して、木野さんは教室から出て行った。
俺は、ふーっとため息をつき、ケンはがっくりと肩を落とした。
そんなケンを一瞥して、
﹁じゃ、俺たちもいこうぜ﹂
﹁そだな﹂
そう声をかけ、体育館に向かって、廊下に出ていった。
21
2話:ケン︵後書き︶
大山高校はモデルにしている高校がありますが、実際に通った事も
ありませんし見た事もありません。
インターネットや資料で調べて、残りは自分で想像して作りました。
モデルにした高校にアタリを付けて、その高校とは全然違っている!
とか言わないでくださいね。
モデルにした高校はすぐに分かると思います。よかったら当ててみ
てください。
22
3話:入学式
入学式はつらい。
普通は、入学式にいる生徒たちは、校長先生の話を聞く気はなくて
も、聞いているポーズをとる事くらいはしているだろう。
今回、実際に俺は校長先生の話は聞いていた。
﹁1年生諸君、入学おめでとう。桜は残念ながらもう散ってしまっ
ているが、君たちの桜は咲いて何より⋮⋮﹂
うーん、上手いことを言ったのか微妙なラインなセリフを残したな。
﹁⋮⋮ですね。今日はこのように晴れ渡って、天気も君たちをお祝
いしています⋮⋮﹂
小学生の運動会の時に言いそうなセリフだな、しかもさっき空見た
ら、いきなり雲が出てきて、しっかり曇りになってしまっていたが。
﹁⋮⋮この高校では全校生徒が校技として茶道と弓道を体験します
⋮⋮﹂
へー、そうなんだ。どっちも経験ないな。でも、弓道ってそんな簡
単に身に付くもんなんかな。
﹁⋮⋮。今年の3月、私の初孫が生まれました。ぱっちりしたおめ
めのかわいい女の子です。息子夫婦は私に命名してくれって言って
くれて、3月3日に生まれたから、ひなたってつけました。目に入
23
れても痛くないほどかわいいんです。将来あなたたちが求婚してこ
ようとお前らなんぞには絶対にやらん!⋮⋮﹂
いきなり話変わった! なんで孫娘の話!? 赤ん坊がかわいいの
は分かるけど、俺たちが求婚したら、年の差15だよ!
いや、年の差15って意外といるけど、今から狙うってどんだけロ
リコンだよ!? 最後口調変わり過ぎだよ校長!!
﹁⋮⋮孫についてはそう言うことです。話は変わりますが、この高
校では、約4分の3の数の人は卒業後4年生の大学に進学していま
す⋮⋮﹂
多いんか少ないんかよく分からない数字だな。進学校ではないんだ
ろうが⋮⋮
﹁⋮⋮しかし、高校という物は学業を修めるだけの所ではありませ
ん、部活動やクラス活動を通じ、集団での行動、そして得られる達
成感というものも学んでいって欲しいと思います。﹂
何言ってんだか。そんなもんある訳がないだろ。集団行動なんて面
倒臭さとうっとうしさしかないって。
﹁そこで、せっかくの高校生活なのですから、我が校では1年生に
は全員部活動に参加してもらっています﹂
なに!? 何でそんな事になってんだよ!? 普通高校に入ったら、
放課後なんて自由になるに決まってるだろ!? おかしいってこの
高校! 帰宅部がよかったのに!
﹁⋮⋮。1年生の皆さん、これから3年間、頑張っていきましょう。
24
以上を持ちまして、校長式辞といたします。﹂
そこそこに拍手をして、礼をする。
ふう、大体7∼8分くらいだったかな。
世間一般の校長先生の式辞がどんなもんかしらないが、10分以内
なら許容範囲だろう。
途中、変な脱線もあったおかげでなんとか聞き続ける事ができたな。
10分間もまじめな話を続けられたら、正直聞いていられない。
この後のPTA会長の祝辞も普通に進んだし、このまま終われば普
通の入学式として印象に残らなかっただろう。
﹁新入生誓いの言葉。新入生代表、1年1組、谷田太郎君﹂
﹁はい!﹂
頭が坊主のガタイのいい少年が席を立った。ガタイがいいと言うか
太っていると言うか微妙な体型だ。
そして、壇上にあがり、第一声を叫んだ。
﹁僕は﹃ドカベン﹄に憧れています!﹂
⋮⋮⋮⋮。
知らねえよ! だからどうしたよ!
﹁あの作品はすばらしい! 野球漫画の筆頭に挙げられます! 他
の野球漫画何ぞ目じゃありません!﹂
25
今、﹃星飛雄馬﹄や、﹃MAJOR﹄とかが好きな人を敵に回した
ぞあいつ。
俺は野球漫画なら﹃ラストイニング﹄がお気に入りなんだが。
ま、漫画と現実は全然別物だけどな。
﹁あの作品のもっともすばらしい点の一つは、﹃山田太郎﹄こと﹃
ドカベン﹄との対決です!他の選手達が、いかにしてドカベンを打
ち取るか、そこに水島先生の知恵が積み込まれています。﹂
もういいよ、いつまで語る気だよ。
﹁そして⋮⋮⋮⋮だからこそあの時ドカベンは、⋮⋮⋮プロ野球編
になってからも⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮はっ!いかん、気付いたら意識が飛んでいた。
周りを見ると、聞いている人は誰一人としていやしない。
かと言って、雑談を許されるような雰囲気ではなく、ただただやつ
の大声だけが体育館内に響く。
教師達ですら、目が空ろになっている。
誰か、あいつをとめようとする挑戦者はいないのか⋮⋮。
26
﹁だから、僕はサッカー部に入って、平成のサカベンになるのです
!以上!1年1組、谷田太郎!﹂
やっと終わった。
なんて無駄に長いんだ。1時間20分もしゃべり続けやがった。
しかも野球部じゃなくてサッカー部なんだ⋮⋮最後サカベンになっ
てたし、サカベンって何だよサカベンって。今年のサッカー部かわ
いそうに。あんな変なやつが入部するなんてな。
もちろん拍手なんておきるはずもなく⋮⋮
おきてるよ! まばらだけどめちゃくちゃ強く拍手してるヤツがい
るよ!
なんなんだあいつら? あいつらもドカベンに憧れている奴らか?
あいつらまでサッカー部に入ったら、今年のサッカー部はすごい事
になるな。
27
予定時間を1時間もオーバーして入学式が終わり、教室に帰るため、
ケンと廊下を歩いていた。
他の生徒達も、順次帰ろうと、式のときの静かな時間はもうなくな
り、ざわざわとそこかしこで話をしていた。
﹁ヤス、やつはありえないだろー﹂
﹁だよなー。俺、式の途中意識が飛んだ﹂
﹁1組は災難だな、あいつがいる訳だろ。学校にいる間中あのテン
ションを続けられたら、ちょっとつらい﹂
﹁ケンはほぼずっとハイテンションだろ、ケンならあいつに対抗で
きるんじゃないのか?﹂
﹁ヤスってほんと毒を吐くよな、その毒っぷりを他のヤツラにも見
せつけてやれよ﹂
と、その途中、中学校の時同じ部活だった同級生が前を歩いていた。
ケンは声をかけようとしていたが、俺は気付かなかった振りをして
こそっと気付かれないように教室を目指した。
ケンは俺に何か言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わずに俺
と一緒に教室にきてくれた。
ケンの言いたい事は分かっている。お前が気にしすぎる事はないっ
て言いたいんだと思う。
でも⋮⋮無意識にさけてしまう。
まあ、単純に中学校のときの苦い思い出ってだけなんだけどな。
28
3話:入学式︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ほとんどの学園物の小説って1日目って絶対に長くなりますよね。
私の場合もやっぱり長くなってます。
小説内の時間進行は遅いですが、のんびりとみてやってください。
29
4話:回想∼苦い思い出∼︵前書き︶
今まで主人公のヤスは高校生でしたが、この話から数話、回想とし
て中学校時代に戻ります。
混乱してしまうかもしれませんが、ご了承ください。
30
4話:回想∼苦い思い出∼
中学校の時、俺とケンは野球部に所属していた。
ケンの兄貴が野球をやってて、小学校のときなんか俺もケンもケン
の兄貴にキャッチボールしてもらったりしてた。野球部に入部した
のはケンの兄貴の野球している姿に憧れて、だったな。
少しでもケンの兄貴みたいになりたかったので、野球部の練習とは
別に、ケンの兄貴には練習をつけてもらっていた。監督は自分の目
の届かない所で勝手に練習している事にいい顔してなかったけど、
そう言う事とは関係なしに野球部の連中とは結構仲が良かったし、
野球部での練習もまじめにやっていた。
このときはケン以外のやつとも普通にしゃべっていたんだよな。
俺もケンも、練習して守備はそこそこにできるようになった。でも、
バッティングが上手くいかずいくら素振りをしてもなかなかボール
に当たるようにならなかった。バッティングセンターでもたくさん
練習したけど、野球部の中では下手だったな。
だから、俺とケンとで別の練習した。バントだ。
ケンの兄貴の指導のもと、ひたすら反復練習を繰り返した。
送りバント用のバントだけじゃなく、プッシュバントとか、セーフ
ティバントとかいろいろ。
他の人より、バントにかけた時間は軽く倍は超すと思う。
バッティングは相変わらず下手だったが、バントはすごく上手くな
った。
特にケンは持ち足の俊足を生かして、セーフティバントでの出塁が
31
できるようになると、1番センターというポジションで使われるよ
うになった。
俺も足は速くないけれども、送りバントがほぼ確実にできるように
なると、ケンを確実に進塁させる為に、2番ライトというポジショ
ンで使ってもらえるようになった。
どちらも2年生の新人戦がすぎた後、残る公式戦は3年の中総体を
残すのみというかなり遅いタイミングで、ようやく2人ともスタメ
ンになることができた。
そして、中学最後の大会である中総体、地区予選、これに勝てば県
大会出場が決定するという大事な試合。
序盤から接戦だった。
先攻は自分のチームだ。
自分のチームは1回、ケンのセーフティバントに、相手ピッチャー
の隙をついた盗塁、俺の送りバントで、1アウト3塁のチャンスを
作り、3番の選手が外野フライを打ってその間にタッチアップをし
て1点先取。いきなり先制点を取る事ができた。幸先がいいかと思
っていたが、この1点を取った後、ケンのセーフティバントは警戒
され、ケンは全く出塁する事が出来なくなり、3番4番5番を打つ
クリーンナップを打つ3年生達も、ヒットは時々出るが、そのヒッ
ト一本だけで止まってしまい、打線がつながらない。6番7番8番
9番の下位打線に至っては完全に沈黙してしまっていた。
対する相手チームもこちらの投手を攻めあぐねていた。
こちらのピッチャーは速球で押すタイプ。ただし、コントロールは
いまいちで、結構フォアボールを出している。初回から相手チーム
のバッターはバットに当てて入るが、どうしてもボールの下の部分
を打ってしまうらしく、内野フライが量産されている。
32
しかし5回裏、相手チームの攻撃。2アウトながら自分のチームの
ピッチャーの2連続フォアボールで2アウトながら1塁2塁、そし
て次の打者の時、ワンバウンドボールをキャッチャーが後ろに逸ら
してしまう。この間に、そして2アウト2、3塁の場面で相手チー
ムの4番がバッターボックスにたっている。既に2アウトなので、
バックホーム体制はとらず、内野はいつも通りのポジションにとる。
外野は、2塁ランナーまでホームにかえって欲しくないので、かな
り浅めに守っていた。
ここまでの4番の打席は、セカンドゴロにピッチャー返しのライナ
ー。まだヒットは打っていないが、向こうのチームで唯一タイミン
グが合っているバッターである。
カウントはノーストライク2ボール。ここで、バッテリーは出来る
だけストライクをとりたいと思ってしまった。
1塁が空いているので、次の5番で勝負してもよかったのだが、バ
ッテリーとベンチの判断は勝負。そもそもこのバッテリーは勝負を
さけた事はなかった。
ピッチャーが投げた、いつもより甘く入っていったストレート。相
手バッターは見逃さず、コンパクトに振り抜いた。
ピッチャーの脇を越えてセンターへ抜けるタイムリーヒット。
3塁ランナーは悠々ホームイン。2塁にいたランナーも3塁を回っ
て突っ込んでくる。相手のランナーもかなりの俊足のようで、3塁
ベースをちゅうちょなく周り、ホームに向かう。
センターのケンはダッシュして前に突っ込み、出来るだけ浅い所で
ボールをとる。
中継がなくてもホームに直接ノーバウンドで勢いよく届きそうな距
離までケンは走ってきていた。
33
走りの勢いをつけたまま、ホームに向かって投げる。
これ以上ない返球がきた。だが、タイミングはギリギリ。
キャッチャーとランナーが激しくぶつかりあう、クロスプレーにな
った。
判定を両チームがじっと待つ。
﹁セーフ!!﹂
主審であるアンパイヤが告げる。
﹁おっしゃあああああ!!!!﹂
ランナーが思いっきりガッツボーズをして吠えた。
相手チームはもう既に勝利を確信したかのような歓声だ。
たしかに、これで2対1で相手がリードしている。
だが、まだ終わった訳ではない。
この後、ピッチャーは後続を三振でしめ5回裏は終了した。
そして、そのまま両チームのエースが踏ん張り、お互いに点が入ら
ないまま、ついに最終回になった。
表の攻撃で、俺たちが点を入れないとこのまま試合は終わってしま
い、最終回裏には×がつく×ゲームとなってしまう。
﹁いいか、この回で絶対逆転するぞ! 相手はただの中学生だ! ましてやあのピッチャーはここまで一人で投げ抜いてきてる。競り
合いの試合での疲れは相当な物だ! 絶対に打てるぞ!﹂
34
﹃おおおおっっ!!!!﹄
俺たちは円陣を組んで、監督から檄をうけとる。
俺たちの打順は9番から。9番はここまでノーヒットだ。
相手ピッチャーも疲れがたまり、さらに9番という事で油断したの
か、今までで一番甘い球を放る。
9番はボールを叩き付け、1塁に走る。ショートとサードの間を抜
けるかという位置にボールははねていく。
ショートがボールをとったが、送球する事が出来ず、内野安打でノ
ーアウトランナ−1塁になる。
1回以来のノーアウトのランナー。
次は1番の俊足のケンだ。
﹁ケン、頑張れよっ!!﹂
2番バッターのおれはネクストバッターサークルに行き、ケンに声
をかける。
﹁任されよ!! 見とけっ! ダイヤモンド1周してきてやるから
!﹂
ケンは1回以来出塁していない。成功はしていないが、その後もケ
ンはセーフティバントを狙い続けていた。それによって、向こうの
チームもセーフティバントを警戒して、前進守備をとっている。
今もケンは送りバントの姿勢をしていて、相手チームはバントの警
戒がすごい。
35
1球目バントしようとしたとたん、ファーストとサードの選手が普
通に考えてありえないくらいのスピードで突っ込んできた。
ケンは慌ててバットを引く。
ストライク。
相手チームはケンにバントをさせない気だ。今までヒッティングを
全くしなかったので、バント一本だと思われている。
⋮⋮実際そうなんだが。
ケンはそれでも諦めずに、送りバントの姿勢を崩さない。
2球目。相手ピッチャーが投げると同時にまたもやファーストとサ
ードが突っ込んでくる。
と、その時ケンはバットを引いた。ヒッティングの構えをしている、
これは⋮⋮バスターだ!
﹁おらああああぁっ!!!﹂
ケンは思いっきり叫んで、バットを振り抜いた。
真芯には当たらなかったが、突っ込んできていたファーストの頭上
を越えるライト前ヒット。
﹁よっしゃああああ!!!!﹂
ファーストベースで雄叫びをあげるケン。というかバスターなんて
今まで練習はしてたけど、1回も試合でやった事ないじゃんか。普
通のバッティングですら下手なのに、バスターなんて上手くいく確
率は、ものすごく低そうだ。
その博打っぷりには恐れ入る。
36
﹁ナイスだ! ケン!!﹂
俺も思いっきりケンにエールを送る。
さあ、次は俺の番だ。
現在、ノーアウトランナー1塁3塁。先ほどケンのヒットの間に、
1塁ランナーは3塁まで進塁した。
﹁打ってまえ! ヤス!﹂
﹁おう! 任せとけ!﹂
ケンの声援に応え、素振りをする。
だが、実際は狙っているのはスクイズ。ベンチからもまずは同点と
言う思惑があるのか、そう言う指示が飛んだ。
俺の場合、セーフティスクイズをして間に合うだけの足の速さがな
い。だから、1打席目の送りバント以外はヒッティングをしている
から、ケンほどバントを警戒されているとは思えない。
もう試合は最終回、出来れば早く決めてしまいたいこの試合。この
最終回で逆転しようと思っている。俺たちが逆転するには2点必要
なんだから、相手チームには1点取ってまずは同点に持ち込むとい
うこちらの考えは分からないはずだ。
バッターボックスに入り、構える。
初球目から狙えという指示。
相手ピッチャーが1球目を投げた!さっと俺はバントの姿勢に入る。
37
3塁ランナーがホームに突っ込んでくる。
って、やばい!! 外された! 読まれているとは思わなかった!
このままだと、3塁ランナーはアウトになってしまう。
くそっ! 俺とケンはバントの練習だけは誰よりも練習したんだ。
届け!!!
俺は必死でバットを伸ばした。
かつん、という音がして、ボールは前に転がった。
よかった⋮⋮届いたんだ⋮⋮。
3塁ランナーがホームインする。ケンもその間に2塁に進塁する。
俺はそのまま、アウトをとられベンチに戻る。
いくらバントが得意とはいえ、同点にするためのバントはすごい神
経を使った。
ほっと一息ついて、ベンチにへたり込んだ。緊張の糸が完全に切れ
てしまったようだ。
試合は終わってないのに、自分とは関係ないかのようにぼけっと試
合を見ている。
その後、3番はライトフライに倒れ、その間にケンは2塁から3塁
にタッチアップ。
そして4番のレフト前ヒットで逆転。
ケンが先ほど言った通り、ダイヤモンドを一周してかえってきた。
﹁お疲れ! ケン!﹂
﹁おう! ヤスこそナイススクイズ!﹂
俺とヤスはハイタッチをかわした。
38
5番がファーストゴロに倒れ、俺たちの攻撃が終わった。
最終回の裏。俺たちは既に全員勝利を確信していた。
監督ですら、多少浮かれ気分で指示していたように思える。
多少浮ついた状態だったが、それでも相手の下位打線の8番9番は
内野フライに押さえた。
そして、上位打線にもどる。2アウト。そして今日はまだヒットが
ない1番バッター。
俺たちはこいつが最後のバッターになると思っていた。
自分のチームのピッチャーの高めの球。1番が振り抜いた。
今まで1回も外野に飛んでこなかったのに、最後の最後にライト、
つまり俺の所に飛んできた訳だ。
快晴、雲一つないいい天気。目測なんか誤るはずのないこのコンデ
ィションの中で、俺は一瞬太陽に目がくらんだ。本当に一瞬だった
はずなのに、ボールのゆくえを見失った。慌てているのに誰も気付
かない。
内野のメンバーはもう終わったとばかりに背を向け、ベンチに戻ろ
うとする人までいる。
くそっ、どこだ! どこにあるんだ!!
﹁おい! ヤス! 後ろ!!﹂
ケンが声をかけてくれた時には既にボールは俺の後ろにぽてんと落
ちて、ころころと転がっていた。
39
﹁あっ⋮⋮﹂
エラーをしてしまった事で、さらに悪い事に動きが一瞬固まってし
まった。
﹁ヤス! 内野にボールを返せ!﹂
ケンの声に慌ててボールをとり、内野にボールを投げたが、既にラ
ンナーは3塁に到達していた。
2アウト3塁。
本来ならばもう勝っていたはずの試合なのに、俺のエラーのせいで
ピンチになってしまっている。
俺はもう地に足がつかない状態になっていた。なんで?どうして?
なにがまずかった?
混乱していて、目の前の試合展開についていけてなかった。
ピッチャーもふてくされたのか、普段なら絶対投げないようなど真
ん中への棒球を投げる。
相手バッターは見逃さず、レフト前へ引っ張る。
相手チームに1点追加。3対3の同点、最終回にして試合は振り出
しへ戻ってしまう。
そして迎えた3番。今日はまだヒットはないが、相手チームの4番
に次いでそこそこいいあたりをしている。
2アウト1塁。初球はバッターが見てボール。ノーストライクワン
ボールになる。
そして、ピッチャーが2球目を投げる。投げたと同時に1塁ランナ
ーが走る。
40
盗塁かと思ったら、バッターがバットを鋭く振り抜く。最終回2ア
ウトの状態でエンドランなんてかけるか!?
カキーン、といい音がしたと思ったら、ファーストの左を抜ける。
ラインぎりぎりのヒット。長打コースになる。
これは俺が処理しないと! さっきのミスをどうにかして取り返さ
ないと!
焦ってダッシュでボールに駆け寄る。エンドランをかけていたため、
1塁にいたランナーはもう既に3塁近くにいる。
間に合わせるには、一気にホームまで投げないと間に合わない!!
慌てた俺は中継にきていた仲間を無視して、ホームに向けて遠投す
る。
だが⋮⋮慌てた事で、精度がかなり落ちてしまったのだろうか。
ボールは大きくそれて、しかも2バウンドもしてようやくキャッチ
ャーミットに収まる。
ホームベースとは10m以上も離れていた。
その状態では、タッチも間に合うはずがなく⋮⋮
さよならヒットでゲームセット⋮⋮
4対3で相手チームの勝ち。
相手チームは県大会へいける喜びからか、歓声を上げて、ヒットを
打ったやつをもみくちゃにしていた。
しまいには胴上げを始めようとしている⋮⋮。
くそっ⋮⋮おれがあの時ボールを見失わなければ⋮⋮。
41
試合に負けた。これで、中学校での野球は終わったんだ。
42
4話:回想∼苦い思い出∼︵後書き︶
中学校時代はヤスとケンは野球部でした。
ただ、私自身野球の経験がなく、高校野球やプロ野球の観戦、後は
インターネットの資料だけで書いた物なので、間違いがあるかもし
れません。
また、野球に関して知らない人が読んだら、どのように読めるのか
も判断着きません。
出来るだけ読めるようにしたつもりですが、分からない場合は教え
ていただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。
43
5話:回想∼おかしな連絡∼︵前書き︶
まだ中学生編は続きます。
高校生時代に戻るのは、もう少し待ってください。
44
5話:回想∼おかしな連絡∼
中学校の野球はもう終わった。
俺は気持ちを切り替えて、また高校でも野球をしようと思っていた。
中総体は基本的には夏休みに行われるものだ。
試合が終わった後、疲れもあるので、そのまま解散となり、後日反
省会と3年生お別れ会ミーティングを行う事になった。
全員の前で、最終回、エラーした事を謝ると、﹁仕方がないよ﹂﹁
気にするな﹂と納得しない顔をしながらもそれぞれが言ってくれた。
結構ほっとしたもんだ。
その後、俺はケン以外のメンバーと別れ、ケンと家に向かった。
﹁ヤス⋮⋮終わっちゃったな⋮⋮中学の野球⋮⋮﹂
﹁そうだな⋮⋮ごめん⋮⋮﹂
45
﹁いいって。大体ヤスってさ、1回表の送りバントに最終回表のス
クイズ。全ての得点に絡んでるんだぞ。だから、ヤスがいなかった
らそもそも最終回裏にもいけず、そのまま終わってたって事じゃん﹂
﹁それを言うならケンだろ。1回表も、最終回もケンがホームベー
ス踏んでるんじゃん! 俺がいなくても点はとれたかもしれないけ
ど、ケンがいなかったら絶対点取れてないよ﹂
それからもお前が、いやお前がと2人して言い合っていたが、ばか
ばかしくなってどちらからともなくお互いに言い合う事をやめた。
﹁でもさ、ヤスは高校入っても野球、続けるよな?﹂
﹁もちろん! ケンもだろ? また、俺たちで1番2番を組もうな
!﹂
﹁⋮⋮おう!﹂
ケンはにかっと笑うと俺に向けて手をかかげた。
それに向けて俺は思いっきり右手を叩き付けた。
パチンッといい音がして、俺たちはハイタッチをかわした。
46
最後のミーティングは夏休み最初の出校日にあるので、それまで俺
は宿題をしたり、ケンと一緒に遊びにいったり、妹のサツキのショ
ッピングにつきあったりと、楽しく過ごしていた。
そして、出校日。
俺はサツキと家を出た。相変わらずねぼすけなサツキを叩き起こし
た時には、遅刻ぎりぎりの時間となっていた。
夏休みという事もあり、サツキの寝起きの悪さは普段にもましてひ
どいものになっていた。
俺はサツキを自転車の後ろにのせて、道路を駆けた。
サツキは俺の腰に手を当て、落ちないようにぎゅっと抱きついてい
る。
まったく、こんなシチュエーション、実の妹とやって何が楽しいん
だかなぁ。
﹁おいサツキッ! ひっつきすぎ! こぎにくいだろ! もう少し
離れろ!﹂
﹁またまたー、ヤス兄、照れちゃってー。ほらほら、こんなかわい
い子が抱きしめてあげてんだよ。男冥利に尽きるってもんじゃない
の﹂
﹁うっさい! だれが妹にひっつかれて照れにゃならんのじゃ!﹂
﹁もうー、素直じゃないな、ヤス兄は。顔、真っ赤だよ﹂
47
﹁それはお前を乗せて坂を上ってるからだろーがっ!!﹂
﹁そんな叫んでないで、しっかりこいでよ。遅刻しちゃうでしょ﹂
﹁お前がさっさと起きないから悪いんだろうが! あーむかつく、
降りろ! サツキ! そこから走りやがれ!﹂
﹁わ、ひどいんだ。 こんなはかない妹をこんな所にほっぽって、
あまつさえ走らせようとするなんて。ヤス兄、それでも人間?﹂
﹁もういい加減黙れー!﹂
と、サツキといちゃつき︵?︶ながら、息も絶え絶えに学校に到着
する。
なんだかんだいいながらも、結構なハイスピードでこれたのか、朝
のホームルームまでそこそこの時間があった。
﹁じゃ、サツキ。また後でな、今日は野球部の最後のミーティング
があるからもしかすると家に帰るの昼すぎるかもしれん﹂
﹁ん、わかった。私も今日昼まで部活あるし、ヤス兄がミーティン
グ終わるのまってるよ。一緒に帰ろ?﹂
﹁はいよ。んじゃこの駐輪場で待ち合わせな、終わったら寄り道せ
ずにここで待っている事﹂
﹁うん、じゃあね﹂
サツキと別れ、俺は3年1組の教室をあける。
このクラスにはなぜか野球部の連中が集まり、スタメンの9人中5
48
人が、ベンチ入りの3人がこのクラスに集まってた。
ついでにいうと、担任も野球部の監督だ。
ケンは3年2組、残念ながら別のクラスだ。
﹁はよーっ﹂
挨拶をして、教室内に入る。こんな声はほとんど無視されて教室内
の喧噪にかき消される。
俺がなんとなく挨拶をしておきたいからしておく。それだけだ。
が、今日に限っては一瞬こちらを全員がちらっと見てまた会話に戻
っていった。
ん?なんかあったか?髪がぼさぼさなのはいつもの事だし、サツキ
と自転車で来るなんて事も週に1回くらいは経験してる。
今日の行動に何も変なとこなんてないよな。
俺はみられた事を気のせいという事にして、自分の席に着いた。
と、ベンチ入りしていた野球部のメンバーの一人が、
﹁なあヤス、今日のミーティング、中止になったんだって﹂
﹁え? そうなの?﹂
﹁ああ、そうそう。監督が午後から急な用事ができたみたいでさ﹂
﹁ふーん、そうなんだ。最後に監督から何かもらえるって聞いてて、
楽しみにしてたのにな﹂
49
﹁また、次回別に全員の都合がいい時にやるらしい。また連絡する
ってさ﹂
﹁はいよ、教えてくれてサンキュな﹂
そう言って、自分の座席に戻っていった。
出校日なんて本当にすぐに終わる。
教室全体の掃除をして宿題の進み具合を確認して、あとは担任の先
生から適当な話を聞いて終わりだ。
サツキと一緒に帰る約束をしていたのに、ミーティングがなくなっ
て手持ち無沙汰になってしまった。
仕方ないので、中学校の図書館に向かう。
中学校の図書館は意外に穴場だ。
ほとんどの生徒が利用しない割に、結構たくさんの本が置かれてい
る。図書館で予約でいっぱいの本でも、ここに来ると意外とあった
りする。
若者の活字離れが進んでいるって言うのは本当かもな。
その上、静かで読むのには最適な環境だ。
50
適当に面白そうな小説を1冊選び、カウンターにいく。
貸し出しをお願いして、その本を手に取り駐輪場に向かう。ここで
読んでいてもいいのだが、
熱中してしまってサツキを待ちぼうけにさせてしまうかもしれない
ので暑いけれど仕方がない。
当然と言うか、まだサツキは部活のようだ。そりゃ、昼まで練習っ
て言ってたからしょうがないよな。
かんかん照りで暑い上蝉がみんみん鳴いてうるさい中、俺は適当な
段の所に腰掛け先ほど借りてきた本を読み始める。
高校球児の話だった。といっても、エースピッチャーが活躍するよ
うな話ではない。むしろ全くの逆で、補欠の野球部員の話だった。
本の紹介によると、舞台は甲子園常連校の野球部。
全国から優秀な選手が集められて、一般入試で受けた主人公がどう
にかベンチ入りして甲子園にいくのを夢見ていたけれども普通の高
校生みたいなことも楽しんでみたい。
煩悩を全快にしながら、夢を追い、破れ、大事な事に気付いていく
話だそうだ。
今度映画化もされるようで、そのために一般の図書館では借りる事
が出来ないでいた。
しばらくの間暑さも忘れて読みふけっていた。
俺も高校行ってからも野球をやるからには甲子園に行きたい。でも、
甲子園常連校なんぞに行っても、俺のバッティングじゃ使ってもら
える訳がない。逆に、弱小校に行けば、レギュラーになれるかもし
れないが、よっぽどの事がない限りは、甲子園出場なんて難しいん
じゃないか⋮⋮。
51
そんな事を考えながら3分の1くらい読んだ所で
﹁ヤス兄、何読んでんの?﹂
﹁ああ、サツキか。これ読んでたんだ﹂
俺は表紙をサツキに見せる。
﹁ふーん⋮⋮そういえば、今日の野球部のミーティング早かったん
だね。今日こっちの部活も早く終わっちゃったから、結構待たされ
るだろうなって覚悟してきたのに﹂
﹁部活お疲れさん。なんか今日の野球部のミーティングがなくなっ
たみたいでさ。でも、何もしないでお前待ってんの退屈だろ? だ
から、図書館行って本借りて待ってた﹂
﹁あれ? ミーティングなくなったんだ? 珍しいね、あの先生生
真面目だからスケジュールずらさなそうなのに﹂
﹁確かに⋮⋮ま、いいじゃん? サツキ、また後ろ乗ってく?﹂
﹁⋮⋮わ、ヤス兄、大胆だね? 私に抱きついて欲しくて、そんな
事言うなんて?﹂
﹁はいはい、言ってろ。じゃ、俺は自転車に乗って帰るから、お前
は歩いて帰ってきな﹂
﹁わ! ちょっと待って冗談です! ごめん、ヤス兄、後ろ乗せて
ってください!﹂
52
﹁よろしい、最初からそう言えばいいの! んじゃ、行くぞ﹂
﹁ハイヨー、シルバー! ハイヨー、ヤス兄!﹂
﹁おい! 俺は馬じゃないって!﹂
そんなこんな、またぎゃあぎゃあ言いながら、俺は家に帰っていっ
た。
その日の夜、19時頃になって、電話が鳴った。
サツキはちょうど風呂に入っているし、両親はまだ帰ってきてない。
必然的に俺が受話器を取った。
﹁もしもし、近藤ですが﹂
﹁お、ヤスか!? 俺だよケンだよ!﹂
﹁落ち着けよ、ケン。どうかしたか?﹂
﹁お前さ、今日なんでミーティングさぼったんだ?﹂
最初、ケンが何の事言ってるのか俺はよく分かってなかったんだよ
な。
53
5話:回想∼おかしな連絡∼︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
会話が楽しくて、全然話が進みません。
ゆっくりですけど、進めていきますので見捨てずによろしくお願い
します。
54
6話:回想∼変な空気∼︵前書き︶
中学生編はまだ続きます。
長くなりすぎたなと感じてます。
55
6話:回想∼変な空気∼
﹁ケン、今なんて言った?﹂
﹁だからさ、今日なんでミーティングさぼったのかを聞いてるんだ
けど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮えっと、今日ってミーティング中止になったんじゃない
の?﹂
﹁何言ってんの!? 中止になる訳ないじゃん!! 監督カンカン
だったよ、﹃最後の最後に無断でさぼったりするなんて、あいつは
結局大会が終われば部活なんてどうでもいいんだって思ってんだな﹄
って﹂
⋮⋮ちょっと待て、俺はちゃんと今日は中止だって聞いたぞ。だか
ら俺はミーティングに行かずに家に帰ったんだ。
﹁俺は、クラスの野球部のやつから今日は中止だって聞いたぞ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁そいつに聞けば分かる、そいつに聞いてみてくれ﹂
﹁⋮⋮あのさ﹂
﹁何?﹂
56
﹁⋮⋮今日、ヤスのクラスの野球部のメンバー、ミーティングにヤ
ス以外全員参加してた﹂
﹁⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮でさ、今日ヤスが休んだ理由、聞いてるやついるかー? っ
て監督が聞いてたけど、誰も聞いてないって言ってたぞ?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮本当にさぼってないよな?﹂
﹁⋮⋮さぼってないよ、俺は中止って聞いたんだ﹂
﹁⋮⋮そか、それならいいや。あー、悪かったな、怒鳴ったりして。
なんか野球部の中でお前が完全に悪者扱いになってたもんだから、
気が立っちまってた﹂
﹁⋮⋮ま、仕方がないよ。あのときのエラーは本当に最悪だったし。
あーあ、あの後すぐに謝ったときは、許してくれたと思ったんだけ
どな﹂
﹁時間が立てば自然に許してくれるって。夏休みが終わったらいつ
も通りになってるさ﹂
﹁⋮⋮そうだな、この事は気にしないでおくよ﹂
﹁ああ、じゃあな﹂
﹁ケン、ありがとな。おやすみ﹂
57
電話を切り、深いため息をつく。よくわからない、あいつは何のた
めにそんな事したのか。
いや、理由は簡単だ。あの大会でのエラーが許せないんだろう。
それに、新人戦まではあいつがライトのポジションを守っていたか
ら俺がポジションを奪ったという事になる。
理由なんて他にも思いつくが⋮⋮他のやつらもあいつに同調したっ
て事は、俺に対してまだいらだちがくすぶっているってことだよな。
しょうがない。イライラがおさまるまではあまり刺激しないように
するか⋮⋮。
出校日の後は始業式まで学校に行く予定はなく、ずっと夏休みだ。
中学3年で高校受験が待っているので、宿題を済ませた後も午前中
は勉強にあてていた。
午後はケンと遊び、夕方からはサツキとゲームをして遊んでいた。
最近はチェスにはまっていて、2人そろって盤面をにらめっこして
いる。
夏休みの間、ケンと妹のサツキとしか遊んでない。
ケン以外の野球部の仲間と顔を合わせにくいから、会う相手なんて
どうしても限定されてしまう。
58
野球部以外のメンバーには夏休みにまで会おうって友達はいないし、
こればっかりはしょうがない。
野球部に顔を出そうかとも思ったが、まだ怒っている気がして何と
なく後回しにしていた。
そして中学3年の夏休みも終わり、2学期が始まった。
始業式の朝、今日もサツキと一緒に登校だ。
⋮⋮相変わらず寝坊しやがって! 今日なんて朝飯食べ損ねたじゃ
んか! せっかく作ったのに!
﹁ほらほら、ヤス兄。もっと急がないと遅刻しちゃうよ!﹂
﹁黙れ! この野郎! お前がもっと早く起きればいいだけの話だ
ろうが!﹂
﹁あー! レディーに向かって﹃野郎﹄はないでしょ、﹃野郎﹄は。
そんなんじゃモテないよ﹂
59
﹁うっさい! お前に言われたくはない!﹂
﹁私は今年の夏休みにちゃんとデートしたもん﹂
﹁部活の男女で集団で遊びにいっただけだろうが、そんなんはデー
トなんて言わん!﹂
誰がどういおうとそれはデートじゃないやい!
﹁ちゃんと3対3だったよーだ! トリプルデートって言うんだよ。
ところで、ヤス兄はなんで私の日程知ってるの!? まさかストー
カーしてたの!? ヘンタイー﹂
﹁お前が夕食の時にずっとしゃべってたんだろうが! なにが悲し
くて休みに妹の尾行をせにゃならんのさ!?﹂
いや、実はしようとは思ってたんだけどさすがにそれはまずいだろ?
﹁まあまあ、私に彼氏ができても彼氏をいじめちゃだめだよ﹂
﹁⋮⋮なに、そのときのメンバーに本命でもいんの?﹂
﹁さあ? 秘密だよー。ん? ヤス兄、気になるの?﹂
﹁別に、こんなんと付き合ってくれるいいヤツなんているかなーっ
て思っただけだ﹂
﹁うわ、ひどいー! あ、そっかそっか、ヤス兄ったら、私が他の
男のものになるかもしれないってヤキモチ焼いてるんでしょ﹂
60
﹁そんな訳ないだろ! どれだけポジティブなんだよお前!﹂
﹁ムキになる所が怪しいー! ヤス兄はほんとにシスコンなんだか
らー﹂
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
いや、その確信はどこから生まれてくるんだろ? ⋮⋮俺の日頃の
行動からだな。
といつも通りの会話をしながら学校へ急ぐ。
今日は予鈴の寸前に教室に入る事ができた。
チャイムが鳴る前に入れたはずだったのだが、既に先生が教壇の上
に立っていて全員の生徒が着席していた。
⋮⋮あれ?間に合わなかったか?
﹁ほら、さっさと席に着け! お前が全員を待たせているんだぞ!﹂
﹁⋮⋮あれ、でもまだチャイムなってませんよね? 何でみんな既
に席に着いてるんですか?﹂
﹁ぐだぐだ言い訳するな!! ったくお前ってやつはやっぱりいい
加減なやつだな!﹂
61
﹁⋮⋮すいません﹂
﹁もういい! じゃ、ホームルーム始めるぞ!﹂
⋮⋮なんだかよく分からないまま、ホームルームが始まってしまっ
た。クラスの雰囲気もおかしいし。
ホームルームが終わると始業式だ。
﹁なあ、今日なんかあったのか?﹂
﹁いや、別に何もないよ⋮⋮それじゃ﹂
隣の席のやつに話しかけてもなんだか微妙な反応を示す。
他のやつも同様だ。いままでとても仲が良かったという訳でもない
けど、こんなよそよそしいという空気はなかった。
﹁まったく、何なんだよ⋮⋮﹂
よくわからないまま、時間だけが過ぎていった。
62
6話:回想∼変な空気∼︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
全然タスキと関係ない話が続いていて、小説タイトル変えようかな
あと思ってしまいます。
今後ともよろしくお願いします。
63
7話:回想∼埋まらなかった溝∼︵前書き︶
中学生編の最後です。
とりあえず、回想はここで終了です。
64
7話:回想∼埋まらなかった溝∼
始業式も終わって下校時間になり、ケンと帰ろうと隣のクラスに顔
を出す。
﹁おーい、ケン。帰ろー!﹂
﹁ういっす、ちょっと待ってなー!﹂
よかった、ケンは普通みたいだ。
﹁なんかお前さ、結構変な事言われているみたい﹂
﹁⋮⋮何それ?﹂
﹁なんかさあ⋮⋮﹂
ケンの話によるとどうやら出校日のミーティングに行かなかった事
が、完全にさぼった事になってしまったらしい。
監督に会いにいくのが気まずくて、ほとぼりが冷めるのを待ってい
たのが逆によくなかったようだ。
それが原因で監督の先生に完全に嫌われてしまったらしい。
前にも言ったが、もともと俺とケンは中学校の練習とは別にケンの
兄貴に野球を教えてもらっていたので、監督からは俺の指導が気に
くわんのか! とそこまでいい印象を持たれてなかった。
それでも、部活中は他のメンバーと一緒に普通に練習していたので
特に差別する事なく接していた。
65
それが、試合が終わった後にあった最後のミーティングに無断で出
席しない事になり、その後夏休みの間中なにも謝罪を言ってこなか
った事で、完全に嫌われてしまったようだ。
野球部の監督である先生は、この学校へ来てから7年目、中学校内
でも強面で知られる先生で、教師内でもびびる先生がいると言う教
師だ。
ただし、生徒への指導もしっかりしていてほとんどの生徒や先生か
らの信望は厚い。当然ながら、他の先生や生徒への影響力も大きい。
⋮⋮まったく、まずい人に嫌われてしまったもんだ。
﹁⋮⋮俺、今から謝ってくるよ﹂
﹁ああ、そうだな。待っててやるから行ってこいよ﹂
俺は職員室に急いだ。職員室に入ると3年生の担任達の机が集まっ
ている所に監督の姿もあった。
俺は監督に近づき声をかけた。
﹁監督、少しよろしいですか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮何だ?﹂
監督がめんどくさそうに顔だけをこちらに向ける。
﹁出校日のミーティング、無断で欠席をしてしまった事について話
があるのですが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮それで?﹂
66
﹁あのとき、自分のクラスの野球部の人からミーティング中止とい
う話を聞きまして、それで⋮⋮﹂
﹁他人のせいにするな! 大体、その時だれもお前からの連絡を受
けていなかったぞ! ったく、なんで嘘をつく!?﹂
﹁⋮⋮嘘なんてついてません。ミーティング中止という話、確かに
聞いたんです。﹂
﹁自分勝手な上に嘘つき、その上強情ときたか⋮⋮。もういい、別
にちゃんとした謝罪を求めてた訳じゃないしな﹂
﹁いや、だから!!﹂
﹁⋮⋮この話はもう終わりだ。俺はお前に話す事はない。きちんと
した謝罪ができるまで、しっかり反省しろ﹂
そう言うと、顔もまた机の方を向き、仕事に戻った。この後は、自
分がいくら話をしようとしても、こちらに顔を向けてくれる事はな
かった。
⋮⋮結局、信じてもらえなかった⋮⋮。
俺の話を信じてもらえなかった事で焦っていて、ミーティングに参
加しなかった件を謝る事も忘れてしまってた。
勝手にミーティングをさぼった上に、嘘をついてチームメイトをけ
なし、謝ろうともしなかったという俺の事は、クラス内に広まって
いった。
俺に嘘の話をしたやつはいままでと全く変わらない顔をしていた。
俺が問いつめても、知らぬ存ぜぬの一点張り。次第に俺を煙たがる
ようになった。
67
信望の厚い監督である先生や、ケン以外のチームメイトが俺の話を
嘘と決めつけた状態では、俺がいくら言っても、クラスメイト達は
信じてくれなかった。むしろ、全然態度を変えようとしない俺に対
して、いらだっている印象だった。
まあ、もともと素行が悪い生徒と言われてたしな。誰も信じようと
しないのも無理無いか。
それからというもの、さすがに学校全体にまで悪い評判が行き渡る
事はなかったが、3年生では大体の人が知っていて、何となく非難
の目で見てくるし特にクラス内での居心地は最悪だった。
挨拶をしても、返事が返ってこない。給食の時間は俺一人を無視し
てみんなでしゃべり続ける。初めは何とか混じろうと声を出してい
たが、自然とそれもなくなった。
監督もその状態を黙認していた。俺が嘘をついたと認めるまでは、
この状態を続けて俺に反省させようというつもりだったようだ。
この空気には耐えられなかったが、自分が間違っているとは思えな
かったので俺は謝ろうとはしなかった。
⋮⋮1日中、教室の隅っこでぼーっと外を見る時間が増えた。
学校内では、ケンとサツキだけが俺の話を信じてくれた。
正直、この2人がいなかったら、まともに中学卒業できたかも怪し
い。
68
クラスでの付き合いとかいろいろあるだろうに、登下校の時間だけ
でも、一緒にいてくれたこの2人には、全く頭が上がらない。
2人としゃべっているときだけは以前と同じようにしゃべる事がで
きたが、この中学3年生の時期のせいで、野球部やクラスメイトだ
けでなく、初対面の人やあまり親しくない人たちとしゃべる時は相
手が信用できず、警戒しながらぼそぼそとしゃべるようになってし
まった。
表面的には仲良くしてても、いつ手のひらを返すか分からない。
親しくない人にはあまり話しかけられたくなくなっていた。
勉強もあまりやる気にならず、今まで5をとっていた教科も4、3
に落ちた。
高校に進学する際、このクラスメイト達、ひいてはこの学校のやつ
らとは、正直顔を合わせたくなくなっていたので、出来る限り同じ
中学のやつが少ない所という事で、この中学校から年に4∼5人し
か受けない大山高校を受験した。
ケンも、同じ高校を志望してくれた。いろいろ言い訳していたが、
心配だったんだろう。本当にこいつには頭が下がる。
成績がかなり落ちていたので、受かるかどうか微妙だったが、なん
とか合格した。試験が終わった後自己採点してみたけれど、本当に
ボーダーぎりぎりというラインだった。面接その他の印象は最悪の
はずだったので、本当にラッキーとしか言いようがない。
結局、俺はクラスメイトや野球部のメンバーとは最後まで埋まらな
かった溝をしたまま、中学校を卒業する事になった。
もう、チームプレイとか、クラスでの一致団結とかなんてこりごり
だ。
高校に入ったって、適当に部活も行事もやっていこう、そう思った。
69
7話:回想∼埋まらなかった溝∼︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
こういう過去の話を秘密にしといて、最後のほうでこんな過去があ
ったってばらす話がよくありますが、そう言う伏線を張るのは、上
手い人じゃないと書けないので、さっさとばらしちゃいました。
その程度の話をわざわざ隠してたのかよってつっこまれると、なん
か悲しいですし。今の所今後回想は予定してませんが、変更するか
もしれないです。
次回から舞台は高校に戻ります。今後ともよろしくお願いします。
70
8話:1年3組︵前書き︶
今回から高校に舞台は戻ります。
71
8話:1年3組
あの後、野球部だった中学校のときの同級生から逃げるように教室
に戻ったら黒板上に座る席順が書いてあった。出席番号順になって
いて俺は近藤で出席番号4、ケンは早川で出席番号12だから、必
然的に席が離れる事になった。
俺は窓側の前から4番目の席。ケンは真ん中の前から6番目の席だ。
そして、戻って席に着いたら、ついさっきまで物思いにふけってし
まってた。
周りを見渡すと、もうほとんどの人が席についている。
﹁あ、お隣さんですね﹂
そう言って話しかけてきたのは、入学式の前に会った、
﹁えっと⋮⋮木野⋮⋮さん?でしたっけ⋮⋮?﹂
﹁はい、﹃木野あおい﹄です。確か、ヤス君でしたよね。﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹂
くそ、ケンのせいでヤスって呼ばれるようになっちまった。
あの野郎、覚えてろよ!
面倒なので特に話がないのなら、あまり話しかけないで欲しいんだ
が。
72
﹁康明<ヤスアキ>で、ヤス君なんだから、私の場合はアオになる
んですね﹂
﹁さ、さあ⋮⋮﹂
﹁じゃ、私はアオちゃんですね﹂
い、いきなり何言ってんだ!? このひと。
﹁えと木野さん⋮⋮何の話⋮⋮?﹂
﹁だって、私だけヤス君って呼ぶのは不公平じゃないですか? だ
ったら、こっちもなにかあだ名つけませんと﹂
﹁いや、俺は木野さんでいいんだけど⋮⋮﹂
﹁駄目駄目、せっかく同じクラスで1年過ごすんですから。そんな
他人行儀じゃよくないです﹂
﹁いや、木野さん⋮⋮﹂
﹁だから、木野さんなんて他人行儀は駄目です。これから木野さん
って呼ばれても、私無視しますよ﹂
﹁⋮⋮いや、別にいいですけど⋮⋮﹂
むしろ、そのほうがいい。人付き合いなんて事務連絡程度の最小限
でいいんだ。
73
﹁な、なんてひどいことおっしゃるんですか!? コミュニケーシ
ョンは大事ですよ! 人は一人では生きていけないんですよ! 人
という字は支え合っているんですよ!? そうは思いませんか?﹂
人という字は片方は乗りかかっているだけで、実際に支えているの
はもう片方だけだと思う。
⋮⋮そんなツッコミを入れたくなったが、これ以上会話をするのも
面倒になり、妥協する事にする。
﹁⋮⋮アオイさんでお願いします⋮⋮﹂
﹁うーん、まあいいです。いつかアオちゃんって呼ばせます﹂
よくわからん。変な風に呼ばれたいのだろうか?
まあいいや、これからそんなに関わり合いにならなければいい事だ
し。
ちょうどその時、前のドアが開き、先生っぽい人が入ってきた。
制服を着ていないから先生っぽいだけで、まだすごい若い先生だ。
さすがに高校1年生には見えないが、10代と言い張れる顔立ちだ。
実年齢はどうなんだろう?
スーツを着ているから社会人だと分かるけど、スーツに着られてる
感じが否めない。
髪の毛はショートカットにして、ほんの少しだけ茶色に染めている。
背は150くらい、小ささがより若く見せている。
うん、出来れば見ないようにしてたんだが、胸は⋮⋮すごい。
スーツでしっかり押さえているが、それでも一歩一歩歩くごとに振
動してる。
振り返ってケンを見てみると、完全に釘付けになっている。
おい、もうちょっと自制しろ。その反応はまずいだろ。
74
﹁はい、みなさん、もう席に着いてるね。⋮⋮これから1年間1年
3組の担任をつとめる、室井春乃<ムロイハルノ>と言います。
担当教科は英語、まだ2年目なので、ミスもしてしまうかもしれま
せんが、そこはフレッシュさと勢いで乗り切りますのでみなさんよ
ろしく!﹂
ハキハキとしゃべる。若いのにしっかりしているように見えるなあ。
まあ、見た目じゃ判断できないけどな。
﹁室井センセ、よろしくお願いします! 俺はケンって言います!
あなたのためにも、ヤスが英語で1番になってみせます! あ、
ヤスって言うのはあそこに座っている髪がぼさぼさのやつです!﹂
ケンが大声で返事をしやがった。よく分からんセリフをくっつける
な! 何で自分で一番にならねえんだ、俺が英語苦手なの知ってる
だろ!? あと俺を指差すな、さらし者の気分だ!
﹁えっと⋮⋮うん、早川君に近藤君だよね、よろしく。﹂
﹁そんなぁ、ケンって呼んでくださいよ! 俺はあなたの犬になり
ますから。ついでにヤスは猫になります!﹂
﹁だから、わざわざ俺を巻き込むな! 俺を指差すな! 大体、何
で俺が猫なんだよ!﹂
﹁普段はツンツンしててつれない仕草なのに、寂しくて構ってほし
がる猫っぽいから﹂
﹁いつ俺がツンツンしたよ、寂しくなんてねえよ!﹂
75
﹁一人じゃ寂しくて寝られないからって妹と一緒に寝てる変態のく
せに﹂
﹁それは中三の頃の話だ! 今は一人で寝てる! 大体なんでお前
がその事知ってるんだよ!﹂
﹁サツキちゃんから聞いた﹂
﹁あのクソ妹がーー!!﹂
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄
いままで、俺たちのやり取りをのほほんと聞いていたクラスメイト
達が、絶句したように俺の方に視線を向ける。
﹁⋮⋮⋮⋮え? えっ?﹂
﹁ヤス﹂
﹁な、なんだよ⋮⋮﹂
76
﹁中三で妹と一緒に寝てるって言うのは﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あっ!! いや、違う! 今のは違う!﹂
﹁ちなみにこいつの妹は現在中三でーす!﹂
うわ、なんか全員の目が軽蔑・好奇・哀れみと言った目になった。
そんな目で俺を見るな!
﹁ばらすな!! もう黙れ!﹂
﹁自爆しといて何言ってるんだか﹂
﹁ケン! この野郎!﹂
バン! と大きな音がした。びくっとして教壇を見ると、室井先生
が持っている出席簿で教卓を叩いていた。
目が笑ってない怖い笑顔をにっこりと浮かべ、静かに述べる。
﹁2人とも、いい加減にしましょうね。2人が仲がいいのは分かり
ましたから、続きはホームルームが終わった後やってください﹂
﹁はーい﹂
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
くそ、やっぱりケンが相手だと、つい怒鳴っちまう。
いい事なんだが、さすがに恥ずかしかった。
﹁えと、それじゃ、私の自己紹介だけじゃなくて、みなさんの自己
77
紹介もお願いします。みなさん元気よくお願いしますね! ケン君
とヤス君ほど元気じゃなくてもいいけど﹂
﹁おー、ケンって呼んでくれた!﹂
﹁ケン君、自分の番まで待ってくださいね。﹂
﹁はーい!﹂
﹁じゃあ、窓側の席の人から順番に言ってって下さい。えと、まず
は相原君﹂
﹁はい!﹂
4番目かよ、早いな。
⋮⋮ってか、さっきはケン相手だったから普通にしゃべってたが、
他のやつにはちゃんとしゃべる気なんてさらさらない。
いつのまにか2番目まで終わっていて、3番目のヤツが自己紹介を
始めた。
﹁僕は加藤守<カトウマモル>って言います。中学校の部活は帰宅
部でした、まだ高校で何の部活に入るかは決めてませんが、運動部
に入ろうと思ってます。僕は趣味は鉄道で、月に一回は電車に乗っ
てます。鉄道が好きな人、僕と一緒に鉄道の旅を満喫しましょう!﹂
俺は遠慮します。他の誰かと楽しんで下さい。
そういえば、こいつ結構太ってるし、そんな運動得意なようには見
えないんだけどな。中学も帰宅部だって言うし。なんで突然運動部
に入りたいって思ったんだろ?
78
⋮⋮ま、俺には関係ない。
あ、次は俺か、面倒だ。
﹁近藤康明<コンドウヤスアキ>です⋮⋮よろしくお願いします⋮
⋮﹂
それだけ言って俺は座ろうとする。
﹁ヤスー!それはないんじゃない?名前しか分からないじゃん﹂
ケンの声を無視して座る。
いいんだよ、別に仲良くする気なんてないんだから。あと、声をか
けるな。
﹁まったく、相変わらずのひねくれ者だな。みんな、あいつの事は
ヤスって呼んで。俺とあいつは幼馴染の間柄で、親友。性格は見て
の通り、ひねくれ者、頑固、でも構って欲しい寂しがりや。そして
重度のシスコン。﹂
﹁うるさい、お前が解説するな﹂
﹁やっぱり、シスコンは否定しないんだな。遊びにいくと、兄妹の
ラブラブっぷりがみられる﹂
もう無視する。とにかく無視する。何を言おうと無視する。
﹁エロ本の隠し場所は︱︱﹂
79
﹁ストップ! こんな所で言うな! ってかまたなんでお前が知っ
てる!?﹂
﹁サツキちゃんに教えてもらった﹂
﹁何でもお前に筒抜けだなおい! それに何で妹まで知ってるんだ
!?﹂
妹よ、人の部屋を漁らないで下さい。
﹁他にも⋮⋮⋮⋮⋮⋮と、まあこんな所かな。後は追々、知ってけ
ばいいよ﹂
ケンのやつ、無視を決め込んでいたらいつの間にかきれいに締めて
るな。
﹁それじゃ、次の人⋮⋮﹂
俺は、後はめんどくさくなってほとんど聞いてなかった。
いつの間にか、40人全員終わってたな。
ケンはやっぱりはっちゃけてた。ケンのときだけ、笑いが起きたも
んな。さすがはケンだ。
自己紹介も終わり、後は帰るだけとなった。
﹁それじゃ、明日は部活紹介があるから楽しみにして下さい。まだ
部活を決めてない人も多いと思うので、明日、話を聞いて参考にし
ましょう。それじゃ号令! ヤス君、お願い!﹂
え、何で俺? 普通委員長が決まってないこういう時って出席番号
80
1番とかがやるもんじゃん?
﹁だって、寂しくて構って欲しいんでしょ?﹂
真に受けるな! 寂しくなんかない、むしろ放っておいてくれ!
⋮⋮つっこみたい気分だったが、そんな風に叫んで、またいろいろ
話す事になるのはごめんだったので素直に従う。
室井先生はしっかりした印象を持っていたが、どこかぬけてる気が
した。
﹁⋮⋮きりーつ、れい﹂
﹃さよーなら!﹄
午前中だけだったけど、なんだか長い入学式が終わった。
81
8話:1年3組︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
一応、このクラスは全部で40人います。
席順ですが、一応こうなってます。
教壇
□□□□□□
□□□□□□
カ□□□□□
窓 ヤア□□□□ 廊
側 □□□□□□ 下
□□ケ□□□ 側
□□□□
ヤ:主人公ヤス ケ:親友ケン
ア:木野あおい
カ:加藤守<カトウマモル>
という席順です。
現在の1年3組のキャラクターはこれだけです。
増えていくかどうかはまだ分かりませんが、
主要登場人物は増やしすぎないよう気をつけます。
82
9話:家にて
あの後、俺とケンは一緒に下校した。
ケンの家は今日は昼は誰もいないらしいので、俺の家で昼食を一緒
に食べる事にした。
家に着くと、もうサツキが帰ってきていた。
﹁ただいま﹂
﹁おかえり、ヤス兄。⋮⋮って遅いよ。12時には帰るって言って
たのにもう1時だよ! 昼、ヤス兄が帰ってくるの待ってたから、
もうおなかと背中がくっついちゃってるよ!﹂
﹁あー、ごめん⋮⋮。入学式が1時間延びたんだ。新入生代表が誓
いの言葉を言うのに、1時間以上もしゃべりやがった﹂
﹁言い訳はいいから、早く食べようよ。準備全部しちゃったよ﹂
﹁あ、そうだな。ごめんごめん、んじゃ食べようか﹂
﹁うん!﹂
サツキは嬉しそうにとてとてと戻っていった。
俺は靴を脱いで、玄関をあがって居間に向かう。
﹁おい! そこの2人、俺を無視するな!﹂
83
﹁ん? なんか空耳が⋮⋮﹂
﹁きっと空耳だよ、ヤス兄、私には何にも聞こえなかった!﹂
﹁そだな﹂
﹁そうそう﹂
﹁お前ら、いい加減にしろ! このケンちゃんを無視するな!﹂
﹁自分でケンちゃんって言うなよな、気持ち悪い﹂
﹁サツキちゃんにはケンちゃんって呼ばれてるからいいんだよ!﹂
﹁ごめん、ケンちゃん、今のは私も気持ち悪かった⋮⋮﹂
﹁おい⋮⋮ほんといい性格してるな。おまえら兄妹は⋮⋮﹂
軽くケンをへこませといて、居間へ行く。
今日、学校で散々いじられたお返しだ。
ケンは玄関で落ち込んでのの字を書いている⋮⋮あんなんきっとポ
ーズだろ、わざとらしいやつめ。
少し放っておいたら本気でへこみ始めたので、慌てて俺は玄関に呼
びに行く。
同時にぴょこっと居間から、サツキが顔を出して、ケンに呼びかけ
る。
﹁ケンちゃんごめんね、からかいすぎた。一緒に昼食べよ?﹂
84
﹁ほら、いつまでもうじうじするな。さっさと飯を食べるぞ﹂
それぞれがケンに声をかけると、途端にケンは嬉しそうな顔になり、
居間へ入っていく。
⋮⋮なんか、しっぽが着いてたら、おもいっきり振ってそうだな。
今日、自分のことを犬って言ってたけど、本当に犬みたいだ。
居間の上のテーブルにはサツキが作ってくれたサンドイッチの数々
がある。大皿2枚に山盛りになって載せられている。
急遽ケンを呼んだはずなのに、3人でも余裕を持って食べれそうだ。
むしろ、食べきれるのか?
もしかして、俺がケンを呼ぶって感づいてたのかな?
﹁それじゃ、いただきまーす﹂
﹃いただきまーす﹄
手を合わせてそう言うと、各々が自分の好きな食材のパンを取って
食べ始める。
俺はツナサンド、サツキは卵サンド、ケンはハムチーズサンドを取
った。
やっぱりツナサンドは最高だ。ツナとマヨネーズが絶妙に絡まり合
っている。どうやら、自分は油分が好きなようで、そんなんばっか
り食べてると肥満になるよとサツキにたびたび注意されているがや
められない。
黙々と食べていた俺は、パンばかり食べていたからか、口の中がパ
サついてきて喉が渇いてきた。
サンドイッチにはやっぱり牛乳かな、と俺は冷蔵庫から牛乳を取り
出し、右手に1リットルの牛乳パック、左手にコップを3つもって
85
居間に戻る。
基本的に食事中の会話はケンとサツキの2人でしていて、お互いの
今日の出来事をしゃべっている。この3人で集まると、俺は聞き役、
もしくはツッコミに徹する事が多い。
今は、サツキが新入生について話しているようだ。
﹁⋮⋮でね、新入生の子達の胸に花をつけてたんだけど、緊張しち
ゃってて反応が初々しくて、もーとってもかわいかった。あー、自
分にもこんなときがあったんだなーとしみじみ思っちゃった﹂
﹁来年になったら、今度はまたサツキちゃんがその初々しい反応を
する事になるよ。高校入学の時もやっぱり緊張してるから、慌てち
ゃったりするんじゃないかな﹂
﹁あー、やっぱりそんなもんなのかな? ヤス兄とケンちゃんはど
うだったの?﹂
サツキが俺にも聞いてきたので、素直に答える事にした。
﹁ケンは全然緊張してなかったぞ。むしろ中学校の時と同様に、ハ
イテンションで付き合わされた俺はとても疲れた﹂
﹁ヤスも俺にツッコミしまくってたな。まるで緊張なんてしてなか
った﹂
﹁別に高校生活に大した期待を抱いてないからじゃないかな? 適
当に行事に参加して、適当に卒業するつもりだった﹂
﹁ヤス兄! まだそんな事言ってんの? 駄目だよ、もっと楽しま
86
ないと! 高校生活は人生で1回しかないんだからね﹂
﹁いや、別にそれでいいし。それより、高校でも部活に参加しない
といけないってのが面倒だな。帰宅部ですませるつもりだったのに、
帰宅部って部活ないかなー﹂
﹁ほら、青春を謳歌しなよ! 将来振り返ったときつまんないよ﹂
﹁おじさんみたいな事言ってるな、サツキ。とうとう精神年齢が4
0になったか?﹂
﹁老けてるヤス兄に言われたくない! ねえ、ケンちゃん。こうな
ったらケンちゃんだけが頼りだよ。ケンちゃん、このダメ兄にどう
にか青春を感じさせてあげて﹂
﹁OK! サツキちゃんのお願いなら、ライバルどもを蹴散らして、
たとえ火の中水の中、森の中草の中あの子のスカートの中⋮⋮﹂
﹁スカートの中は犯罪! っていうか変なネタをいれるな!﹂
﹁ケンちゃん、ほんとに大丈夫? 私、結構真面目にお願いしてる
んだけど﹂
﹁大丈夫、ちゃんとどっかの部活にいれて、きちんと参加させてや
るよ。もちろん、俺と一緒の部活にいれて、さぼるなんて事させな
いから。な、俺たちは昔から2人で1つだったんだから、アキラ﹂
﹁ああ、シュウジ⋮⋮ってだから、ネタをいれるな!﹂
﹁ノッたくせにー、責任転嫁するなー﹂
87
﹁うるさい!﹂
俺とケンの口論が始まった。と言っても、俺が一方的に怒鳴ってた
だけだが。
﹁まじめに考えてるのかな⋮⋮ケンちゃんに頼むだけでいいか、ほ
んと心配⋮⋮﹂
サツキがぽつりともらしたセリフ。しっかりと聞いたケンは素早く
反応した。
﹁大丈夫! このケンちゃんに任せなさい!!﹂
﹃だから自分でケンちゃんっていうな! きもい!﹄
2人同時につっこまれ、ケンはへこんだ。まったく、学習能力がな
いやつめ。
こんな風にわいわいやりながら昼食は消化されていった。あれだけ
あって食べきれるかと思っていた量だったが、きれいに食べきって
しまった。
昼食が遅くなって、腹のすきっぷりがよかったのかもしれない。
昼食が終わった後は、3人で夕方までボードゲームをして遊んだ。
3人で遊ぶなら、やっぱりダイヤモンドゲームだ。
途中までは普通にやっていたが、ケンとサツキが途中から負けが込
んでくると、2人でタッグを組んで邪魔し始めた。
一人が俺を妨害して、一人がその間に勝ちを目指す。妨害する人は、
完全に勝ちを譲る形になるが、確実に2回に1回は勝てる算段だ。
そんな事されたら、俺に勝ち目はない。
88
なんか腹が立ってきたので、ケンの事を暴露する事にする。
﹁ケンってさー、巨乳好きだよなー﹂
﹁うえっ!? 何!? 突然!?﹂
﹁や、俺たちの担任の先生さ、めちゃくちゃ巨乳だったんだよ。一
歩歩くたびにプルプル震えててさ。﹂
﹁そうだったかな﹂
﹁そうそう、ケンのヤツ、延々と胸を凝視しちゃって、もうすごい
顔がにやけちゃってんの。まずいと思ったのか、顔を1回両手では
たくと、真顔になってさ。でも目だけはずっと胸を追ってんの﹂
﹁って、何で今ここで話すんだよ!? そんな事ばれたらサツキち
ゃんに白い目で見られるじゃん!?﹂
﹁ん? ただの憂さ晴らし﹂
﹁それだけのために話すなよ⋮⋮それに、途中からはヤスの想像だ
ろ? 別にそんなに凝視なんてしてねえよ!﹂
﹁またまたー、何言ってんだよ。あげくの果てには﹃俺はあなたの
犬になります﹄って叫んでさ。しらふでよくそんなセリフが言える
なー﹂
﹁うわーケンちゃん、そこまで言うとさすがの私もひくよ⋮⋮﹂
﹁あ、あの、でも、巨乳だぞ! サツキちゃんは見てないから分か
89
らないかもしれないけど、もう巨乳なんて言葉を通り越して、爆乳
って感じだぞ! あれを見てドキドキしない男はいない! そうだ
ろ、ヤス!﹂
﹁んーと⋮⋮いや、俺は別に⋮⋮﹂
ドキドキはしなかったな。あれだけでかいのは珍しいなーと思った
くらいで。
﹁はーっ? お前のほうこそありえねえよ、お前の頭にびっくりだ
よ! お前、どんな精神構造してるんだよ﹂
﹁だってヤス兄は、ちっちゃな胸のほうが好きなんだもんね﹂
くそ、サツキは突然何言い出すんだ!?
﹁え、そーなんだ?﹂
﹁いや、違うって! サツキも変な事言うなって!﹂
﹁違わないよー、本棚の本の中にカバーを変えて、さらに家族に見
つからないように私たちじゃ手の届かない一番上の段に他の本に混
ぜて隠してるでしょ。まだ中身はケンちゃんに教えてなかったんだ
けど、あれの中身ね⋮⋮﹂
﹁いや、言うなって! ってかお前ももうちょっと恥じらいを持て
って!﹂
﹁まあ、何となく中身を推測できたからいいけど、ヤスってそう言
うのが好きだったんだな﹂
90
﹁だから、もうちょっとお前らさ⋮⋮!﹂
﹁ヤス兄がむっつりすぎるんだよ。女には興味ありませんみたいな
顔しちゃってさ。ケンちゃんほどにはならなくていいけど、もっと
オープンにならなきゃ﹂
﹁たしかに、ヤスってむっつりだよなー。むっつりなやつほど、実
はエロイってよくあるよな﹂
﹁そうそう、ヤス兄って絶対めちゃくちゃエロイんだよ!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
くそう、ケンをいじるはずが何でこんな事に⋮⋮ほんと、こいつら
の相手は疲れるよ。
まあ、ケン1人でもサツキ1人でも手に余るんだから、2人そろっ
たら、手に負えないのは当たり前だな。
結局いつの間にかボードゲームもいつの間にかそっちのけで、いろ
いろしゃべる事になった。
夜が更けて、ケンが帰り、俺たちも寝る事にした。
明日は部活紹介か⋮⋮。俺にとってはサツキ、父さん、母さん、ケ
ンとケンの家族くらいいれば十分で、他の人とは親しくなんてする
つもりないんだが。
それ以外の人と嫌でも話したりしなきゃいけない部活は面倒でしょ
うがない。
なるべく、人と話さないですみそうな部活を探すかな。
91
9話:家にて︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
やっと入学式1日目が終わりました。
長い⋮⋮9話で1日ってどれだけ長いんだって自分にツッコミ入れ
たいです。
回想が4話入っているのを考えても、1日に5話かかってます。
だんだんと1日の経過は速くなると思います。
今後ともよろしくお願いします。
92
10話:クラス委員
今日も朝からサツキと一悶着を起こし、ケンと言葉遊びをしながら
学校に行く。
学校は午前中だけで、ホームルームの後、体育館で部活紹介を行う。
教室に入って自分の席に着くと、ホームルームが始まるまでは、ぼ
ーっと外を見てる。
中学3年の時から、空を見るのが習慣になった。
特に何を考えているという訳ではない。こうしてれば、教室内の喧
噪を無視できるからだ。
﹁おはようございます﹂
それなのに、隣の席のアオイさんが話しかけてきた。
﹁⋮⋮おはようございます⋮⋮﹂
とりあえず、顔だけアオイさんに向け、挨拶をする。
そして俺はまた、空に顔を向ける。
﹁ヤス君、話しかけてるんですから、きちんとこっち向いてくださ
いよ﹂
﹁アオイさん、何か用ですか⋮⋮?﹂
﹁用ってわけじゃないんですけどおしゃべりしましょうよ。そんな
風に外ばっかり見ててもつまりませんよ﹂
93
﹁⋮⋮いや、いいです。空見てるの好きなんですよ﹂
別に好きなわけじゃなかったが、話しているのがめんどい。
﹁そうなんですか? それじゃ仕方ないですね﹂
アオイさんはすぐにひいてくれた、ありがたい。
こういうときにこっちの言うことも聞かずにしゃべり続けるやつは
うっとうしくて仕方ないからな。
外を見ていたら、室井先生がきて、ホームルームが始まった。
﹁じゃあ、ヤス君、今日も号令お願いね﹂
また俺かよ! なんかこのまま号令係になってしまいそうで嫌だ。
言いたい事はあったが、やっぱりツッコミするのが面倒なので、し
ぶしぶ従う。
﹁きりーつ、れい﹂
﹃おはようございまーす!!﹄
⋮⋮なんかこのクラスって元気が有り余ってるな。特にケン、声大
きすぎだろ。周りがびびってたぞ。
ケンのやつ、完全に犬になりきってやがる。
﹁はい、おはよう。今日はまず、今年1年間のスケジュールを簡単
に話しときます。その後、クラスで委員会を決めていこうと思いま
すね﹂
94
1年間のスケジュール表を渡され、それを見てみるとこんな感じだ
った。
4月 入学式
課題テスト︵英・数・国︶
体力テスト・身体測定
集団宿泊研修
5月
中間テスト
6月
大山祭︵文化の部・体育の部︶
7月
期末テスト
富士山学習
8月
部活合宿
9月
課題テスト
球技大会
10月
中間テスト
11月
実力テスト
マラソン大会
12月
期末テスト
1月
課題テスト
95
百人一首
2月
かるた大会
実力テスト
3月
卒業式
期末テスト
というか、テストが多いな。ほとんど毎月テストがあるじゃんか。
高校生なると勉強漬けになるのか?
室井先生がいろいろしゃべっていたが、俺はプリントを見ていて、
ほとんど聞いちゃいなかった。
﹁それじゃ、次は委員会を決めちゃいましょうか? まずはクラス
委員やりたい人いる?﹂
そんなんいるわけないだろ?
クラス委員なんてめんどいし特典があるわけでもないのに。
﹁はい、俺やります!!﹂
いたよ! ってかケンだよ! なんかもうほんとに犬だな。
室井先生にしっぽ振りまくってる。振りすぎててちぎれてしまいそ
うだ。
﹁じゃあ、クラス委員はケン君で。もう一人いるんだけど、他にや
りたい人はいませんか?﹂
﹁はい! ヤスがやりたいって言ってます!﹂
﹁言ってねえよ! やりたくねえよ! ケン! 毎回毎回何で俺を
96
巻き込むんだよ!﹂
﹁室井センセ、ヤスのやりたくないは﹃わたし、本当はやりたいん
です⋮⋮!﹄っていう気持ちの裏返しだから﹂
﹁気持ち悪い! へんなしゃべり方するな!﹂
﹁あ、そうなんだ。じゃあ、ヤス君。君もクラス委員でよろしくね﹂
室井先生のその一言で、クラス全員が拍手した。満場一致で決まっ
てしまったようだ。
そんなわけないだろ!! やりたくないって言ってるんだから、そ
う受け取れよ!
⋮⋮くそ、俺はできるだけ関わらないようにしてるのに、なんでケ
ンのやつはいちいち巻き込んで来るんだよ。
﹁ここからはクラス委員の人たちにお願いするね。ケン君、ヤス君、
よろしく﹂
﹁はい! おまかせください!﹂
ケンのやつは無駄に元気だ。何で朝からそんなハイテンションなん
だよ。
﹁もうみんな知っていると思うけど、早川健次、通称ケン! よろ
しく!!﹂
﹁近藤康明です、よろしくお願いします﹂
97
﹁⋮⋮あー、お前、そういえばそんな名前だったな。﹂
﹁何で忘れるんだよ!? おかしいだろ!? どれだけ顔を付き合
わせてきたと思ってるんだよ! 小学校2年からの付き合いだって
のに!!﹂
てか昨日も自己紹介してたじゃん!?
﹁だってヤスとしか呼ばんもん、ってか俺たち付き合ってたのか?﹂
﹁そう言う意味じゃねえよ! お前と付き合うってどれだけ気持ち
悪いんだよ!﹂
くそっ! クラスのヤツが想像してやがる。そりゃ、そんなの想像
したらきもいだろ⋮⋮あれ? 喜んでいるのもいる!? 特に一番
後ろの席の女子! 顔を赤くしてにやけるな!
﹁ほらヤス、漫才してるわけじゃないんだからさっさと進めるぞ﹂
⋮⋮くそ、言い返せん。こいつと言い争ってたら、時間がなくなる。
﹁それじゃ黒板に委員会を書いていくから、やりたいところに自分
の名前書いてって。やりたいのが重なったら、じゃんけんで決める
こと。全員何かしらの委員会に参加しないといけないみたいだから、
さぼろうなんて思わないこと。ヤス、板書していって﹂
﹁はいよ﹂
俺はケンに言われ、一つ一つ書いていく。
98
﹁⋮⋮ヤスって字きたねえなあ﹂
﹁うるせえ、お前よりましだ。お前のノートなんて見る気にもなら
んじゃないか。前にノート借りた時はミミズが踊っているようにし
か見えなかったぞ。テストを採点する先生たちが気の毒でしょうが
ない﹂
﹁⋮⋮まあそうだな。よくあの字を先生達は読めたよなあ。時々暗
号にしてたのに﹂
﹁おいっ、暗号って何だよ!﹂
﹁ん? 暗号ってのは通信の内容が相手以外にわからないように、
当事者の間だけで決めた記号の事だ。主に軍事・外交・警察・商業
などで使われる。大辞泉からの引用﹂
﹁そんな事聞いてねえ!!﹂
軽口をたたきあいながら、ようやく書き終える。
﹁じゃ、決めた人からどんどん書いてって。はやいもの勝ちって訳
じゃないから、ゆっくり考えていいよ﹂
ケンが声をかけるとわらわらと人が動き出す。
そこかしこでじゃんけんが行われ、ようやく全員の委員会が決まっ
た。
﹁室井センセ! 終わりました!﹂
﹁お疲れさま。ちょうどホームルームの時間も終わるし、いい時間
99
配分だったと思うよ。初めてのクラス委員としての仕事は上出来﹂
﹁おっしゃ! 室井センセに褒められた! 頭なでて下さい!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮この後、部活紹介があるから、遅れないように体育館に
移動すること。ホームルーム終わります。クラス委員の人が号令を
かけるんだけど、どっちがやる?﹂
うわ、ケンのやつ、完全に無視されてしまった。室井先生につきだ
された頭がなんだか哀愁を漂わせている。がっくりとうなだれてい
る。
﹁⋮⋮⋮⋮今までヤスがやってきたんだから、これからもヤスでい
いだろ﹂
﹁何でだよ! お前はクラス委員に立候補しただろ! お前がやれ
よ! 俺もうやりたくねえよ!﹂
落ち込んでるからって俺に振るなよ!!
﹁じゃ、ヤス君、お願いね﹂
﹁なんで!? 俺やりたくないって言いましたよ!﹂
しまった、ついつっこんじまった。
あんまり親しくしないようにするつもりなのに。
﹁だって、ヤス君のやりたくないは﹃わたし、本当はやりたいんで
す⋮⋮!﹄という気持ちの裏返しなんでしょ﹂
100
だから、ケンの言うことをいちいち真に受けないでください!
しかもケンの声真似なんてしないでいいですよ。無駄に上手いし。
これ以上逆らうのはまずいと思ったので、号令係も認めることにな
ってしまった。
流されてばっかりだ、俺。
101
11話:部活紹介、パート1
休み時間になってケンとともに、体育館へ移動する。
この学校の部活は、計19の部活がある。
運動部は11個だ。具体的には
野球部、バレー部、剣道部、バスケ部、ハンドボール部、ダンス部、
テニス部、弓道部、サッカー部、陸上部、卓球部、
がある。文化部は8個で、
吹奏楽部、美術部、茶道部、家庭科部、書道部、華道部、写真部、
英語部
だ。
必ずどこかに入らないと行けないかと思うと、気が滅入る。
﹁ケン、どこの部活に入る?﹂
﹁うーん、俺高校では水泳部に入ってみたかったんだけど、この高
校にはないんだな。しょうがないから運動部のどれかに入る事にす
るよ﹂
﹁俺は楽なのでいいや、この中だと茶道部とか、写真部なんかが楽
そうだよな﹂
102
﹁いや、お前は俺と一緒の部活に入るの! 昨日サツキちゃんとも
約束したしな。無理矢理にでも入れてやるよ﹂
﹁⋮⋮律儀に守んなくてもいいよ、そんな約束﹂
ケンがその言葉を聞いて黙り込む。何かを考えているようだが、そ
の後俺の顔をじっと見つめて言う。
﹁⋮⋮なぁ、この学校には中学の奴らなんかほとんどいないし、そ
んなに人を避けなくたっていいんじゃない? 中学の時の事を気に
し過ぎじゃないか?﹂
﹁⋮⋮別に、結局の所あの時の事は最後まで謝らなかった自分も悪
かったんだし⋮⋮気にしてはいないと思う。でも、あの時に人付き
合いって面倒だなって思ったのも事実だ。ちょっとした事で、すぐ
に壊れるもんな。人間関係なんて作っても壊れちゃうんだから、高
校でも人付き合いは最低限でいい﹂
﹁それを気にしてるって言うの! 中学とは違うって! 高校にな
ったら周りの人だって変わってくるって!﹂
﹁そんなん分からないだろ? 俺なんて気にしないで、ケンだけで
も楽しめばいいんじゃないかな。⋮⋮ケンは野球部には入らないの
か?﹂
﹁俺ももういいや、兄貴みたいに才能ないし。さすがにバントだけ
じゃこれからどうしようもないだろ? 野球は兄貴の応援で満足す
る事にするよ。だから、新しい部活を探すんだ! お前も絶対俺と
同じ部活に入ろうや!﹂
103
ケンが野球を辞めるのは、明らかに俺を気にかけてのセリフだとい
うのは分かったが、何を言っても聞き入れてくれなさそうなのは分
かった。
なので、その言葉を受け取る事にする。
﹁その考えは変わらないんだな⋮⋮わかったよ﹂
確かにケンがいたほうが周りを気にしなくてすむから楽だしな。ケ
ンと同じ部活に入ってもいいだろう。
パッと壇上にスポットライトがついた。どうやら今から始まるらし
い。
﹁新入生のみなさん、お待たせいたしました! ただいまより、部
活紹介を始めたいと思います!﹂
いつの間にか壇上には先輩っぽい女子生徒が立っていた。腕章をつ
けてるし、生徒会の人かな。
﹁今日の司会進行を行う、私の名前は生徒会長<セイト カイチョ
ウ>と申します!﹂
それ役職名! 絶対そんな名前じゃないだろ!
﹁生徒会メンバーも随時募集中。今、会計と副会長と書記が空いて
ます!﹂
104
それ、全部だろ! というか、横に並んでいるあの人達も絶対生徒
会役員だろ!腕章つけてるじゃん、わざわざ嘘つくなよ!
﹁今から各部活毎に、自分たちの部活について語っていってもらい
たいと思います﹂
やっとちゃんとした司会になった。
﹁大山学校は定時制もあるため、毎日19時までしか部活を行う事
が出来ません。その分、どの部活も密度の濃い練習を行っておりま
す﹂
定時制か、そういえばこの学校の要項にそんな事が書いてあったな。
﹁来週1週間から仮入部期間ですが、全部の部活を回る事はできま
せん。なので、今日じっくりと聞いて見に行きたい部活を決めて下
さい。部活によっては、パフォーマンスがあると思いますので、約
2時間という長い時間になりますが、楽しんでいって下さいね﹂
2時間もあるのかよ!長いな⋮⋮。
﹁初めに吹奏楽部の発表を行い、そのまま運動部の紹介にうつりま
す。休憩を挟んで、最後にまた、残りの文化部が紹介します﹂
多分、休憩の間に、文化部が色々準備をするんだろう。
﹁では、エントリーナンバー1、吹奏楽部の発表になります。既に
この垂れ幕の裏では吹奏楽部のみなさんが準備しています。どうぞ
!﹂
105
垂れ幕がゆっくりとあがっていく。
既に全員が配置していて、女子生徒がこちらを向いてマイクを握っ
ている。
あれ? 3人くらい楽器もってないんだけど、なんだあいつら?
read
﹁こんにちは、吹奏楽部です! 私たちは現在、2年生13人、3
年生6人の計19人で活動してます﹂
you
そんなに多くないな。むしろ少ないくらいだと思う。
﹁では、私たちの演奏を始めます! ﹃Are
y?﹄﹂ ﹃Yeah!!!!!﹄
後ろの人たちが一斉に叫んだ。な、なんだ?
﹁ヘーイヘイヘイヘーイヘイ!﹂
﹃ヘーイヘイヘイヘーイへイ!﹄
学園天国か! 普通にクラシックを演奏すると思ってたのに、意外
とノリのいい曲を選曲してる。
結構古い曲だが、何度もカバーされているので、知っている人も多
いだろう。
楽器持ってない3人はステージの前に立って、踊り始めた。ストリ
ートダンスって言うのかな。
ってかお前ら、楽器演奏しないのかよ! 吹奏楽部なんだから、演
奏しようよ! しかも何でそんなに無駄に上手いんだよ!
106
3人が手拍子を始めると、新入生達も手拍子をし始めた。
隣ではケンが大声で歌っている。お前、ホント恥ずかしがらないの
な。
バックの演奏者達も、ただ演奏するだけじゃなくて楽器を上に下に
動かしてパフォーマンスしている。
チューバ吹いてる人がきつそうだ、顔真っ赤になってるんだが。
曲が終わると、新入生の手拍子が大きな拍手に変わった。なるほど、
パフォーマンスとしてはクラシックよりも効果が大きそうだ。
2曲目が始まった。これも誰もが一度は聞いた事があるであろう、
﹃天国と地獄﹄。運動会でよく流れているヤツだ。
踊っていた3人が今度は曲にあわせてパントマイムで寸劇を始めた。
2人が画策して、最後の1人を落とし穴に落とすというイタズラを
仕掛ける。
まともに落ちた人が怒って2人を追いかけ回す。
途中、袋小路やら谷やらマキビシやらの障害をよけながら、2人は
逃げる。
最後は2人が2手に分かれて、どっちを追えばいいか分からなくな
った1人が頭を抱えて立ち尽くし、2人はまんまと逃げきってハイ
タッチで喜び合うという話だった。
やっぱり無駄に上手いな。結構ドタバタしてそうなのに、静かにパ
ントマイムして演奏の邪魔をしてないうえ、音楽に合わせてリズミ
カルに動いてる。ってかホントにあの3人は演奏しないのか⋮⋮。
この高校に演劇部が無いのが惜しまれる。せめてダンス部に入った
方が活躍できそうだ。
素人なので実際の所は全く分からないが、吹奏楽部の演奏はとても
上手に感じた。
107
吹奏楽部の発表が終わり、運動部の紹介が始まった。
108
11話:部活紹介、パート1︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
部活紹介はもともと1話の予定でしたが、ふざけていたら長くなっ
たので、二話に分けました。
吹奏楽部の紹介も、結構楽しみました。
このペースで書き続けるのはいつか無理が来るでしょうが、頑張り
ますので、よろしくお願いします。
追記:
部活数23から19に直しました。
男子バレー部と女子バレー部のように男女わけると23だったんで
すが⋮⋮。
ボケてました。
109
12話:部活紹介、パート2
吹奏楽の発表が終わり、次からは運動部の紹介だ。
めんどくなってきたのでダイジェスト版で紹介していく事にする。
野球部:
﹁我々野球部は弱小だ! 去年は甲子園県予選3回戦止まりだった
! 俺たちを甲子園に導いてくれる輝かしい選手を期待している!
双子の弟がいたら、是非野球部に入部してくれ!﹂
そんな堂々と宣言すんなよ! しかも1年生頼りかよ! しかも双
子の弟って危なすぎだろ! 決勝戦前にひどい事になるだろうが!
⋮⋮ツッコミを心の中でたくさん入れたけど、実際問題はどうでも
いいや。
野球部には興味がないし。
バレー部:
﹁私たちは若いファイトで、レシーブにトスにスパイクと頑張って
ます! だけど、涙が出ちゃう。男の子だもん⋮⋮﹂
キモイわ! 男が﹃だもん﹄なんて言うな! せっかくの名曲のは
ずなのに、なんか汚された気分だ⋮⋮。
剣道部:
﹁私たちの突きにはブレードブレイバーが憑いている! 最終必殺
技﹃アトミックファイヤーブレード!!﹄﹂
そのネタが分かってしまった自分はオタクだろうか⋮⋮。
テニス部:
110
﹁てめえら、見学にきて、俺様の美技に酔いな﹂
お前は、そんなに上手いのか! あの漫画のレベルは異常だぞ!
バスケ部:
﹁お前達はバスケットをやる⋮バスケットマンだからだ﹂
やばい、さっきから全部のネタが分かってしまう。っていうか、何
でこの学校はネタばっかりなんだ?
ハンドボール部:
﹁ハンドボール部は、バスケットとサッカーをまとめたような部活
です。女子19人、男子19人でコートを反面ずつ使って練習して
います。合同練習もよくやる仲のいい部活なので、一度見に来て下
さい!﹂
まともだ⋮⋮。初めてまともな紹介があった。よかった、全部が異
常な紹介だったら、ちょっとひくぞ。今年はハンドボール部の入部
が多そうだな。
ダンス部:
﹁私たちのダンス、見ていって下さい!﹂
総勢9人が出て、ダンスを踊り始めた。ダンスの種類が違うから比
べられないのだが、吹奏楽部の時に踊った3人が上手すぎて、どう
しても見劣りしてしまう。なんか可哀想だ。
弓道部:
﹁こんにちは、山王丸ミカエルです! ほとんどの人は弓道をやっ
た事がないと思います。仮入部期間では実際に打つ事ができますの
で、試しにきてみてください﹂
まともな紹介だったが、その名前、絶対に偽名だろ⋮⋮。ネットで
調べたら絶対に別な人でヒットするぞ。お前が名乗ったら、その作
者のファンが怒るぞ。
111
サッカー部:
﹁俺たちサッカー部は﹁平成のサカベンこと、谷田太郎! サッカ
ー部に入部します!﹂﹂
あー、新入生代表のヤツがいきなりステージに乱入したな。リフテ
ィングしてた奴らがびっくりして失敗してる。
サカベン⋮⋮もうちょい自重しようぜ⋮⋮。
陸上部:
﹁我々陸上部の顧問はなんと、ここにおられる、この学校一番の美
人先生、室井先生だ! こんな可愛い先生に教えてもらえる部活は
他にはないぞ! だからこそ陸上部はまじおすすめだ!﹂
顧問しか利点がないのか?陸上部は。
後ろで、陸上部の連中がモモアゲをしてる。球技に比べてずいぶん
地味だな。球技の人たちはいろいろな技をしてたのに。
ってか、うちの担任陸上部の顧問だったのか。ステージ上で手を振
ってる。
﹁ヤス! もう決めたぞ、俺は陸上部に入る!﹂
﹁ケン⋮⋮いくら室井先生の犬でもちゃんと見学くらいはしような
⋮⋮﹂
ヒートアップしているケンを尻目に、つまらなそうにステージを見
てる俺。
﹁ヤス、いくらお前が貧乳好きだからって、そのローテンションは
ないだろ﹂
﹁お前がハイテンションすぎるんだよ! 大体貧乳好きって言うな
112
!﹂
周りの視線が痛い。部活紹介、さっさと終われ!
卓球部:
﹁俺の事はペコちゃんと呼べ! 俺はこの星の一等賞になりたい!
卓球で俺は! そんだけ!﹂
おかっぱ頭の人、ペコちゃんが叫んだ。あの頭はいつもなんだろう
か? それとも今だけそうしたのだろうか? そうだったらどんだ
け体張ってるんだ、あの人は。
⋮⋮やっと休憩になった。長かったな⋮⋮このあとの文化部の準備
のために10分間、休憩を入れる。
ちなみにここからはステージ上ではなくて、それぞれにブースを設
けて1年生は好きな所を回るという方針だ。
仮入部の簡易版みたいな物だな。
で、これが終わったら今日は自由解散になる。
﹁ケン、どっかまわるか?﹂
﹁ああ、俺たちは陸上部に入る事決定してるからどっちでもいいぞ﹂
﹁まだ決定してないから! 俺は楽そうな部活選ぶの! 写真部と
か茶道部とか!﹂
﹁はー、わがままだな。しゃあねえなあ、見るだけだからな﹂
﹁別にわがまま言ったつもりは全くないんだが⋮⋮﹂
113
俺はとりあえず写真部を見に行った。
写真部は、それぞれの部員が撮った写真を展示していた。
⋮⋮なんというか、圧巻だった。素人だから詳しい事は分からない
が、﹃猛吹雪で、前も見えなくなるんじゃないかという中の雪山﹄
﹃暗い夜が明けて山頂からうっすらと出てきた日の出﹄﹃雪がやん
で、日の光に当たりキラキラ光る銀世界の山﹄という、冬の山をテ
ーマにした連作。この人は一体何日冬山に泊まり込んだのだろうか?
﹃眼前に迫ってきている馬﹄﹃ボクサーのカウンターパンチを決め
た瞬間﹄といった、臨場感あふれる写真。こんな決定的瞬間をとれ
るなんて、なんて腕だよ。
﹃ラーメンをいかにも上手そうに食べる人々﹄﹃料理長の技を何と
か盗もうとこっそりのぞき見ている新人﹄といった、人々の感情が
作品からにじみ出ている写真の数々。今にも写真の中で人が動きそ
うだ。
さすがに一緒に見ていたケンも、これらの作品に圧倒されたのか、
言葉もなかった。
目を大きく見開いて、食い入るように見つめている。
無言で俺たちはその場から去った。
﹁あれは俺たちには無理だ⋮⋮﹂
﹁同感だ⋮⋮﹂
114
しばらくして、お互いに確認し合い、次の目的地、茶道部のブース
を目指す。
茶道部をのぞこうとして⋮⋮⋮⋮俺はきびすを返し、すぐに引き返
した。
﹁どうした? そんな青ざめて﹂
﹁悪魔だ! 悪魔がいた!! 入ろうとした瞬間ギロッとにらまれ
た! ここから中には入ってくるなってオーラが出てた!!﹂
﹁バカ言うなよヤス。そんなんいるわけ⋮⋮﹂
同様に茶道部をのぞいたケンも、慌ててくるっと向きを変えて、こ
っちに逃げてきた。
﹁いたよヤス! ホントに悪魔がいた! 俺、何もしてないのにク
ワッと目を見開いてガンつけてきた! めちゃめちゃ怖かった!!﹂
やはり、俺の目に間違いはなかったようだ。
大山高校茶道部には、悪魔がいる! 大山高校7不思議のその一つ
に違いない⋮⋮。
﹁はぁ⋮⋮茶道部も写真部も駄目か⋮⋮他の文化部はちょっときつ
いし⋮⋮﹂
吹奏楽部はそもそも全員で力を合わせなければならない。そんなの
はごめんだ。
華道部⋮⋮男子生徒が入る部じゃなさそうだ。実際誰も男子がいな
115
かったし。家庭科部⋮⋮料理だけならまだしも、刺繍やミシンは全
く駄目だ。
英語は5教科の中で、一番苦手なんだ、英語部もやだ。美術部⋮⋮
俺の中学の美術の成績は3年間ずっと1だった。
﹁あっ! 書道部があるじゃん! よし、書道部にはいろ!﹂
﹁ヤス、書道部は全員経験者だ。小学校の時から書道を習っている
ようなヤツばっか入ってる。そして小学校時代ずっと書道教室に通
っていたにもかかわらず、一向に上手くならなかった俺たちが入部
してもつらい物があるぞ﹂
﹁⋮⋮確かにな⋮⋮﹂
﹁だから俺と一緒に陸上部に入ろう! そして室井センセに手取り
足取り腰取り胸取り⋮⋮﹂
﹁変なのが混じってる!! せめて手取り足取りまでで止めとけ!
! ってか、なんかこのまま陸上部に入るのはお前の思惑通りに動
かされているみたいでやだ!﹂
﹁別に、そんな嫌がらなくてもいいだろ!? ⋮⋮しょうがない、
仮入部してみてそれでもどうしてもお前が嫌だったら、別の部を探
そう﹂
﹁うん、まあそれならいいか﹂
それぐらいなら妥協してもいいだろう。それによくよく考えれば陸
上は個人スポーツ。
チームプレイを考えなくていいというのは俺にとっては魅力的だ。
116
﹁よし! じゃあ今日はもう帰るか! 俺ん家また今日も誰もいな
いんよ。だからヤスん家にお邪魔していいか?﹂
﹁いいよ、昼はどうする?﹂
﹁うーん、そうだな。またお前んちに昼食いにいくか!﹂
﹁そうか⋮⋮では、3000円になります﹂
﹁たけえよ! お前んちは高級料理店か!﹂
﹁サツキの料理をただで食おうなんぞ、ケンにはもったいなさすぎ
る﹂
﹁ひどっ!!﹂
そうして、俺たちは家に帰った。
また、サツキとケンと3人で遊んだのは言うまでもない。
明日は木曜日で、課題テストがある。金曜日には今度は体力測定だ。
受験のせいでなまった体でどれだけの記録が出るのかは微妙な所だ。
117
12話:部活紹介、パート2︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
部活紹介第二弾です。これには、漫画アニメに関する物をかなり入
れました。
私が漫画大好きなので、こんな物になりました。
ちなみに主人公ヤス君も漫画大好きな高校生です。
読んだ方々は全部見つけられましたか?
これって、ファンフィクションにはなりませんよね??
もしくは、著作権等に引っかかったりするのでしょうか?
知っている方がいたら教えて下さい。
調べたんですがよく分からなくて⋮⋮。
今後ともよろしくお願いします。
118
13話:体力測定
4月9日、水曜の課題テストは何とかこなせた。英語の出来はあま
りよくなく、返ってくるのがちょっと怖いが、国語と数学はそこそ
こ出来たと思える。3教科の合計も平均は越えるんじゃないかな。
ケンは春休みの間に勉強した事が全て抜け落ちてしまったのか、ボ
ロボロだったと言っていた。
そんな状態でほぼテストが毎月ある高校生活を乗り切っていけるの
だろうか?
今日は4月10日木曜日、身体測定と体力テストがある。俺は中2
で成長期は終わったようで、それ以来背も伸びてないから、身体測
定にはあまり興味がない。さっさと身体測定をすませ、体力テスト
の計測に行く。
受験勉強のせいで、体がなまってないか心配だ⋮⋮。
身体測定の時はクラス全員でぞろぞろと動いていたが、体力テスト
は出席番号順に前後の人と組んで、好きな所から行っていい。
俺は鉄道好きと言っていた小太りの生徒、加藤守<カトウ マモル
>と一緒に適当に回る事になった。
﹁僕、運動苦手なんだよ﹂
加藤が、俺に話しかけてきた。
もう入学式から4日目だが、席は前後なのに加藤と話した事はなか
ったな。
いつもケンといたし、そもそも加藤と会話しようとなんてしてなか
ったから。
119
﹁小学校の時から太っててね、小6になっても逆上がりできなかっ
たのは僕だけだったから、けっこうからかわれたよ﹂
とりあえず、適当に聞き流す。
﹁ヤスは、結構運動得意そうだよね﹂
加藤、お前もか! 何でみんなヤスって呼ぶ!?
⋮⋮もうこのクラスで近藤とか呼ばれるのは、諦めたほうがいいか
もしれない⋮⋮。
本名、ちゃんと覚えている人いるかな。
﹁⋮⋮俺は、普通だよ﹂
俺は、めんどくさそうに答える。
早々に会話を打ち切りたかったし。
﹁えー、そんなふうには見えないよ。結構筋肉もついてるみたいだ
し、中学のときスポーツやってたでしょ﹂
加藤は気にせず話しかけてくる。
﹁⋮⋮中学は野球部﹂
﹁へー、野球やってたんだね。中学ではどこ守ってたの? 高校で
もやっぱり野球部に入るの?﹂
﹁⋮⋮俺の話なんてもういいだろ、さっさと体力テストすますぞ﹂
120
俺は加藤を置いて、先に歩き出す。
﹁あっ! 待ってよ!﹂
後から追いかけてくるが、ほうっておく。
中学のときの事はあまり話したくない。
﹁まずは、50m走にするか﹂
独り言をつぶやいて、そこへ行く。
ちなみに、体力テストにはこんなんがある。
握力
上体起こし︵腹筋︶
長座体前屈
反復横跳び
シャトルラン
50m走
立ち幅跳び
ハンドボール投げ
昔は立ち幅跳びじゃなくて走り幅跳びだったり、懸垂があったりと
いろいろ変わったらしいが、まあそんな事はどうでもいいか。
50mに行くと、ちょうどケンがスタートするとこだった。他に4
人が並んでる。
他のみんなはクラウチングスタートの格好してるのに、なんであい
つだけ普通に立ってるんだ?
121
﹁位置について⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
バン! と銃声がして、一斉に走り出す。
やっぱりケンは速い。一人だけ飛び出ていて、他を完全に引き離し
てゴールした。
﹁記録、6秒3!!﹂
おお、すげえ! 去年よりもタイムがいいじゃん、あいつの運動神
経ってよすぎだよ。
﹁おしっ、自己ベスト更新! あっ、室井センセ! 俺の華麗なる
走り、見てましたか∼!?﹂
そこですぐ室井先生を見つけるお前が異常だよ! 室井先生は10
0mは離れてるぞ、何で見つけることができんだよ!
次は俺の番か⋮⋮。
俺はクラウチングスタートの構えをする。
﹁位置について⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
バン!
一歩目を踏み込んだら、スタートで少し足を滑らしてしまった。お
かげで他の人たちより少し遅れてスタートになってしまう。
慌てて体制を立ち直らせたが、ちょっと追いつけないぐらい離され
てしまった。
結局スタートの遅れを取り戻せないままゴール⋮⋮。
やっぱり練習した事ないからケンみたいに立ってスタートしたほう
122
が速かったかもしれない。
俺のタイムは7秒5。平均より遅い。文化部の人も合わせての平均
なので、運動部の中ではかなり遅い部類になりそうだ。
加藤は8秒9。⋮⋮さすがに遅すぎないか?
その後もケンは好記録をたたき出していった。毎回毎回ケンが何か
するたびに周りがどよめく。
しかもどこにいても室井先生に大声で報告してた。ケン、室井先生
を気に入り過ぎだ! ちょっとは自重しろ! さっき室井先生をみ
かけたが、苦笑いされてたぞ!
俺はその後は可もなく不可もなく。
握力、ハンドボールは野球をやっていたから、クラスメイト達の記
録よりよかったが、なんせ、化け物級の記録をもつケンがいる。
俺の記録なんて全く目立たない。
その中でも、俺は長座体前屈がひどかった。俺が体が硬いのは分か
っていたが、30cmってあり得ないだろ。
加藤は相変わらずひどい記録のオンパレードだったが、長座体前屈
だけが異常によかった。
お前はタコか! ってつっこみたいくらい体が柔らかくて、足を開
いて体を倒すと、ペタンと床に体がついた。
時々出来る人がいるのを見かけるが、まさか運動音痴の加藤がそん
な事できるなんて思わなかった。
﹁僕さ、昔から体だけは柔らかかったんだ。友達がそれ見てびっく
りするのが楽しくて、硬くしたくないから毎日風呂に入った後、ス
トレッチして体伸ばしてるんだ﹂
123
﹁⋮⋮そ、そうか⋮⋮﹂
友達を驚かす、毎日の習慣としてストレッチを欠かさないというの
は偉いんだが、理由がなんか変だ。
⋮⋮やりたくなる動機なんて高尚な物じゃなくても全然構わないけ
どな。むしろ不純な動機のヤツほど強くなったりするもんだ。
﹁ヤスは体硬すぎだよね、今からでも遅くないから、ちゃんとスト
レッチしよーよ。体硬いと、色々困るよ。﹂
﹁まあ、考えとく⋮⋮﹂
無難に返事しといて、会話を打ち切る。
最後の種目はシャトルランにした。これでばてて、他の種目に影響
が出ないようにするためだ。
俺は後少し、後少しと頑張っていると、108回まで行く事ができ
た。周りの人よりちょっと︵本当にちょっとだったが︶いい記録で、
満足だ。
俺の後に加藤が始めたが、真っ先にリタイアしてた。おい、まだ3
0回しかしてないぞ! どんだけ体力無いんだお前!
﹁もう、無理⋮⋮﹂
他の人たちが涼しい顔をしながらまだ続けているのに、息もたえだ
えになりながら、俺の隣に倒れ込んだ。
﹁あう、きつ、すぎ、るよ、⋮⋮﹂
124
きついならしゃべるなよ!! 黙って息整えるのに集中しろよ!
﹁こん、なんで⋮⋮うんど、うぶ⋮⋮はいって⋮⋮やってけ、るの、
かな⋮⋮?﹂
今はそんな事どうでもいいし。それよりも⋮⋮
﹁まずは息整えろ。しゃべってたらきついぞ。息整うまではしゃべ
るな、黙ってろ。⋮⋮経験者が多い部活になると、未経験者が一緒
に練習するのは大変だ。だから高校から何か始めたいなら、未経験
者が多い部活に入るのがいいと思う。⋮⋮後、お前は体が柔らかい
から、怪我をしにくい。だから、多少きつめの練習しても、壊れに
くいからなんとかやっていけると思う。それか弓道部なら、あまり
走らなくていいから何とかなると思うが﹂
﹁ああ、そうな、んだ、⋮⋮ヤス、ありが、と。⋮⋮でも、しっか
り、うんどう、した、いから、きゅうどうは、やめと、くよ﹂
﹁だからしゃべるなって﹂
﹁うん⋮⋮﹂
つい、変な事口走ってしまった。加藤がどの部活に入ろうが、知っ
た事じゃないんだが。
きっとぜーぜー言いながらしゃべってる加藤がうっとうしかっただ
けだろう。
弓道部は駄目か⋮⋮本当になんで、運動部に入りたいなんて思った
んだろうね。
125
総合評価というものがある、AからEの5段階評価で、Aが一番上
で、Eが一番下だ。
俺は何とかぎりぎりのB判定をゲット。学年全体ではほぼど真ん中
みたいだ。
当然ながら、ケンはA判定をゲットしてた。学年内でもトップをと
ったらしい。
加藤はE判定。長座体前屈だけがよかったが、ほかがあまりにも悪
すぎた。
これから運動部に入るとなると、かなりきつい思いをするかもしれ
ないが、頑張れとしか言いようがない。
126
13話:体力測定︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
体力測定、もうずいぶん前にやったので、ほとんど覚えてないんで
すよね。
ケン君の足は速すぎ?それとも俊足という割には遅い?線引きが難
しいです⋮⋮。
前回の部活紹介、
ジャンプ↓2つ
サンデー↓2つ
チャンピオン↓1つ
青年誌↓2つ
少女漫画↓2つ
映画↓1つ
の計10個をいろいろなとこから取り入れました。
どうなんでしょうね?パロディにすると、知っている人しか分から
ずついていけなくなりますし、自重した方がいいですかね?
でも、パロディは好きなので、時々は入れたいです。
今後ともよろしくお願いします。
127
14話:初授業、あだ名と二つ名
体力テストも終わり、次の日の金曜日からは授業が始まる。
授業が始まると、やっと高校生らしくなってきた感じがするな。
と言っても、今日は先生の自己紹介の後、これからの授業日程と授
業に関する質問会で授業時間の半分くらいが無くなったので、そこ
まできつくは感じなかった。
今から室井先生の初授業だ。英語の教科書を出して準備しておく。
先生の自己紹介はないので、これからの授業日程からの説明だ。他
のより授業の時間が長くなりそうだな。
そんな事を考えていたのだが、室井先生が質問がありますか? と
聞いたときから、何かがおかしくなった。
﹁今度、室井センセとクラス全員で一緒に遊びにいきませんか!?﹂
ケン、それ質問じゃないから! 授業と全く関係ないし! 堂々と
誘うな! しかもクラスメイト全員を巻き込むな!
﹁室井センセの名前の由来って何ですか? 俺は次男で、健康に育
って欲しいからって健次になったんですよ﹂
関係ない話をするな! お前の名前の由来は誰も聞いてない! そ
ういうのは自分の心の中にだけしまっとけ!
﹁室井先生、どう頑張ったらそんなに胸が大きくなるんですか?﹂
128
そこの女子、そう言うのは男子がいない所で聞いてくれ!! 高校
一年生ではまだまだうぶな男の子も多いんだ!
﹁室井センセって今おつきあいしている人はいるんですか?﹂
﹁ケン! さっきから授業内容に関係ない! そんなプライバシー
に関わる事を堂々と聞くな!﹂
さすがにその質問はまずいと思い、声を挟んでしまった。聞かれた
くない話に関わるかもしれないんだからむやみに聞くのはよくない。
﹁えっと、以前付き合ってた人はいたけど、先生になったと同時に
お互い忙しくなって自然消滅しちゃった⋮⋮﹂
﹁先生もそんな事答えなくていいですから! しかもなんかその結
末悲しいです!﹂
しまった、また室井先生につっこんじまった。
くそう、ケンが絡むと他の人にまでつっこみを入れてしまう。
⋮⋮大人の恋愛っていろいろ大変そうだ。
⋮⋮なんかもう収拾がつかなくなってきた。この時間は授業が出来
そうにない。
﹁室井先生、クラス全員のあだ名を付けませんか?﹂
﹁えと、木野さん? ⋮⋮あだ名?﹂
﹁そうです! もしくは二つ名でもOKです。なぜなら、ケン君と
ヤス君だけあだ名で覚えられてるなんてずるいからです! うらや
129
ましいです! 私もアオちゃんって呼ばれたいです! それに、そ
うすればクラスメイトがもっと仲良くなれるじゃないですか!﹂
隣に座っているアオイさんが、訳の分からない事を言い始めた。俺
は別にヤスって呼ばれたくねえよ!
名字で呼んでくれていいよ。
⋮⋮あだ名を付けると、仲良くなるのか? ⋮⋮大体、仲良くなら
なくてもいいし。
﹁確かに、ケン君とヤス君だけ特別扱いになっているのはずるいよ
ね。⋮⋮よし、今日の授業はクラス全員の﹃あだ名プラス二つ名の
命名﹄にあてましょうか﹂
特別扱いしないっていうなら名字で呼んでよ! そんな事に授業つ
ぶしちゃっていいの!?
他の人たち嫌じゃないの? ⋮⋮ってみんな拍手してるよ! すご
い嬉しそうだし! そんなにあだ名で呼ばれたいのか?
後、二つ名をつける事も決定したの?
﹁でも、まだみんなの事をよく知っている訳ではないし、ちゃんと
したあだ名や二つ名を他の人につけてあげる事は出来ないよね。だ
から、自己申告制でいきましょう!﹂
自己申告制??
﹁自分でこう呼ばれたいって名前を付けてね。でも、分かりにくい
のはNGだから。ちゃんとケン君ヤス君みたいにすぐ分かるあだ名
にする事。﹂
まあ、確かに<ヤスアキ>って名前で、ナベってあだ名を付けても、
130
絶対忘れられるだろうしな。
ってか俺は自己申告してないんだけど。
﹁どうしても思いつかないって場合は、ケン君ヤス君に頼めばつけ
てくれます﹂
それはない! 無理です! そんな技能俺にはありません! 大体
まだクラス全員の名前も覚えてないのに。
﹁思いついた人から挙手して、あだ名と二つ名を宣言して下さい﹂
挙手制か⋮⋮こう言うのって気が弱い人とかノリが悪い人は手を挙
げないもんだが⋮⋮
﹁はいっ!﹂
やっぱりケンが速かった。ってかケンは既にあだ名があるぞ。二つ
名のほうか。
﹁出席番号12番、早川健次! あだ名は<ケン>、二つ名は<忠
犬>!﹂
また犬かよ! 忠犬ケンってなんか言いにくいぞ!!
﹁ほら、次はヤスの番だぞ。クラス委員が先頭をきってクラスを引
っ張っていかないと!﹂
﹁なんでだよ! 俺は別に二つ名なんていらねえよ!﹂
毎回毎回俺に振るな!
131
﹁ノリが悪いぞ、ヤス! こう言う時にはテンポ良くポンポンと言
ってったほうが、みんなも言いやすくなるんだぞ﹂
﹁知らねえよ! 大体お前みたいに簡単に二つ名なんて思いつかね
えよ!﹂
﹁簡単だろ? 今の自分の状態を言えばいいんだよ。ツンツンして
るから⋮⋮﹂
﹁なんだよ! また猫だって言いたいのか? じゃあ俺の二つ名は
<猫>でいいよ﹂
もうめんどい。さっさと終わってくれ。
﹁ヤス君はただの猫じゃありません﹂
⋮⋮いままで隣で俺とケンを傍観していたアオイさんが口を挟んで
きた。⋮⋮アオイさん、何を言い出すんですか?
﹁猫は猫でも<猫娘>です!﹂
﹁っ!! ⋮⋮娘って何ですか? 一応男なんですけど⋮⋮﹂
叫びそうになるのを必死で押さえる。
一応じゃなくて完全なる男だが、衝突を避けるためにへりくだって
しゃべっている。
この人は俺をどんな目で見てるのだろうか?
﹁だって、ケン君の面倒を文句をいいながらもかいがいしくみるそ
132
の姿は、あきれながらも駄目な父親の面倒を見てあげてるまさに娘
の鏡です!﹂
﹁いや、そんな娘現実世界にきっといないですから⋮⋮﹂
﹁そうなんです! 現実世界ではほぼあり得ませんが、フィクショ
ンの世界では多々あるこの設定! その設定を地でやるこの2人に
敬意を表して<猫娘>という二つ名をつけるのです!﹂
アオイさんのセリフのどこに感動したのか知らないが、クラスで歓
声が上がった。
﹃猫娘! 猫娘! 猫娘! 猫娘!﹄
いや、そんなアンコールみたいにそろえなくていいから⋮⋮。
﹁<猫娘>でいいです⋮⋮﹂
もう諦めた。二つ名なんてすぐに忘れられるだろう。
ここからは速かった。どうやら、<猫娘>みたいにすごく変な二つ
名があるんだから、自分の好きなのにしてもバカにされないだろう
と言う思考が働いたみたいだ。確かに男に<猫娘>ほどやな二つ名
はないだろ。
とりあえず知り合いのと変なヤツのだけは聞いておこう。
133
﹁出席番号24番、木野あおい! あだ名は<アオちゃん>、二つ
名は<天然>!﹂
⋮⋮自覚あったのか。前々から変な人だとは思ってたが、まさか自
分で天然と言いきるとは⋮⋮。
﹁出席番号3番、加藤守! あだ名は<マルちゃん>、二つ名は<
緑のタヌキ>!﹂
いいのか?確かにマモルでマルちゃんだったら覚えやすいし、小太
りだからマルマルっとしているという意味でもマルちゃんというあ
だ名は分かりやすい。だが、緑のタヌキって⋮⋮食べられるぞ。
﹁出席番号7番、鈴木健太<スズキケンタ>! あだ名は<おじさ
ん>、二つ名は<プレーンヨーグルト>!﹂
いや、確かにお前の顔は老けているが、それをあだ名にしなくても
いいんじゃないか?
同級生におじさんって呼ばれるのは俺は嫌だな。
ってか二つ名のプレーンヨーグルトは分かりにくいだろ。みんなき
ょとんとしているぞ。
﹁出席番号40番、渡辺梨花<ワタナベリンカ>! あだ名は<ナ
ベリン>、二つ名は<腐女子>!﹂
自分で言うな!! 自分から腐女子って宣言しないでくれ⋮⋮。⋮
⋮俺とケンが付き合ってるって話の時に真っ赤になってにやけてた
人だ。
﹁出席番号1番、相川数彦<アイカワカズヒコ>! あだ名は<カ
134
ズ>、二つ名は<ポニーちゃんラブ>!!﹂
⋮⋮バスケ部に入るのかな?? 名前がそうなったのは、偶然だよ
な?
﹁これで全員決まりましたね?﹂
40人分決めるってのはやっぱり大変だった。ほとんどの人が自分
で決めて、ケンに決めてもらった人は1人だけだった。
結構時間かかったな。チャイムまで後2分くらいだ。
﹁室井センセ! まだ残ってます!﹂
ケン、もう終わらせてくれ。俺は疲れた。誰か残ってたっけ?
﹁室井センセが決まってません!﹂
⋮⋮確かにそうだが、俺たちが先生をあだ名で呼ぶ訳にはいかんだ
ろ?
﹁そうね。私だけ仲間はずれってのも嫌だから、決めようかな﹂
いいのか? 先生がそれでいいのか!?
﹁1年3組担任、室井春乃<ムロイハルノ>! あだ名は<ウララ
>、二つ名は<狙い撃ち>!﹂
135
﹃春うらら﹄からとったのか。まあ分かるし、先生の雰囲気に合っ
てるしいいか。
二つ名もまあよくわからんがまともだ。よかった⋮⋮<巨乳>とか
<ボイン>とか言われたら、顔が赤くなる。
⋮⋮考えたら、少し顔が熱くなった⋮⋮。
﹁せっかく決めたんだから、他の授業の時間は無理かもしれないけ
ど、休み時間やこの英語の授業時間だけでもあだ名で呼び合いまし
ょう﹂
嫌です! 呼ばれるだけでも嫌だったのに、呼ばなくちゃいけなく
なるなんて。
﹁あだ名も二つ名も忘れないために、後ろの掲示板に紙に書いて張
っておくね。﹂
何!? 猫娘がずっと1年間ずっと残るの? 先生、勘弁して下さ
い⋮⋮。
こうして、高校入学後の最初の英語の授業は終わった⋮⋮。授業じ
ゃないな、これ。
136
14話:初授業、あだ名と二つ名︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
出席番号1、7、40の3人はサブキャラなので、覚えなくて結構
です。
気に入ったら出てくるかもしれません⋮⋮。
今後ともよろしくお願いします。
137
15話:我が家の休日の過ごし方
土曜日、今日から2日間は休みだ。
土曜日はサツキと映画館に映画に行った。本当は朝一で観に行く予
定だったが、サツキは午前中ずっと寝たままだったせいで、昼から
のを観る事になってしまった。
というか叩き起こさなかったら絶対夕方まで寝てた、こいつは。
観に行った映画はアメリカのコメディ映画。
幸福なアニメの世界に住む姫は王子と出合ってその日のうちに婚約
する。しかし彼女の運命は残酷な悪の魔女により一変する。このお
っとりとした姫は、現代都市のニューヨークへと追放されてしまい、
おとぎ話のような姿のまま、大都市で路頭に迷ってしまう。
ところどころにちりばめられたパロディが楽しく、セルアニメと実
写が混ざっていて珍しい。2人でしっかり笑ってきた。
サツキは映画は基本的にはコメディしか観ない。映画だけでなく、
テレビや小説、漫画も同様だ。
わざわざ作り話の中でまで、悲しい気分になりたくないからだそう
だ。
できれば、思いっきり笑って、現実でのうつうつとした気分を吹き
飛ばしたいのだそうだ。
俺はホラ︱、サスペンス以外なら、大体観る。怖いのだけは苦手だ。
悲劇の話もついつい泣いてしまうのにも関わらず、観てしまう。
138
この日の夜もついつい、テレビの再放送を観てしまって、
﹁うううう⋮⋮﹂
﹁泣くぐらいなら観なきゃいいのに⋮⋮ヤス兄? よちよち、いい
子いい子してあげましょうか?﹂
﹁うるさいっ⋮⋮くっ⋮⋮パトラッシュ⋮⋮ううっ⋮⋮ずっ⋮⋮﹂
﹁汚いなぁ⋮⋮ほら、鼻水ふいてよ﹂
﹁ありがと、サツキ⋮⋮﹂
﹁って、ちょっと! なんでティッシュじゃなくて私の服で鼻水ふ
こうとするの! うわ、べとべと! あー、これ私のお気に入りだ
ったのに⋮⋮ヤス兄のバカ!!﹂
ドタドタとサツキは洗面所に行ってしまった⋮⋮まずったな。機嫌
を直すために何かしてやらないとまずいかもしれない。
結局その後、許してもらうためにゼリーを作らされることになった。
そんな大変な事じゃなくてよかった。
日曜日は両親もたいてい休みなので、ほとんど家族で過ごしてる。
平日は両親は朝は俺たちが学校行った後に起きるし、帰ってくるの
は俺たちが寝る頃で、ほとんど話が出来ないまま終わるから、せめ
て日曜日くらいは家族で過ごそうというのが我が家の考えだ。部活
の大会等がある場合は、家族全員で応援に行く。
前にケンにその事を話してたら、お前の家族は変だって言われた。
ケンによると、普通は高校生にもなったら、そんなに両親と過ごし
139
たりはしないんだと。
いいじゃないか、家族の仲はいいほうが。
今回の日曜日は両親も入れて家族でドライブがてら花見に行った。
桜で一番有名なソメイヨシノはもう散ってしまっているが、種類が
違う桜ならば、まだまだ咲いている桜もある。
サツキが主食のおにぎり、両親がおかず、俺がデザートを担当して、
それぞれが持ち寄って、桜の下で昼食を食べた。
﹁サツキ、梅干し入って無いのどれ?﹂
﹁うーんと、この辺がそうなんじゃない?﹂
﹁サンキュ⋮⋮ってこれ辛い!! 辛い!!﹂
何が入ってるんだ!? 鼻がツーンとして涙が出てくる! きつい、
この状態はきつい!
﹁ロシアンルーレットおにぎり。一つだけわさびがどっさり入って
ます、ヤス兄が当てちゃったみたいだね﹂
﹁ばかか、お前! そんなどっきりいらんわ! それより水! 水
!! 水!!!﹂
﹁はい、ヤス兄﹂
﹁ありがと! ⋮⋮んぐっ! おえっ! 何これ!? 体が熱いん
だけど、げほっ、ごほっごほっ!!﹂
﹁焼酎。ロックで飲むなんて大人だねーヤス兄は﹂
140
﹁未成年にそんなん飲ますなー!!!﹂
全く、サツキってヤツは、お母様お父様、なんぞ微笑んでみていな
いで、注意してやってくださイ。
ってか頭がカッカしてきタ。なんでかぼーっとすル。
﹁ごめんね、だってヤス兄をいじるの楽しいもん﹂
﹁許さんー、お詫びにヤス兄、大好きって言えー﹂
﹁⋮⋮えっと⋮⋮?﹂
﹁何だよー、言ってくれないのかよー俺の事嫌いなのかよー、俺は
サツキの事大好きなのにー﹂
﹁どうしたの? ヤス兄、もしかして酔った?﹂
﹁あの程度で酔う訳無いだろー? それよりどうなんだよー、好き
じゃないのー? お兄ちゃんは悲しいぞー、昔はあんなに可愛かっ
たのに、いつの間にいたずらっ子になったんだか、これはこれでめ
ちゃくちゃかわいいけどー﹂
﹁抱きつこうとするな! ⋮⋮あの程度で酔うなんて弱すぎだし⋮
⋮絡み酒なんて最悪の酔い方だよ、ヤス兄⋮⋮﹂
何言ってんダ? 俺が酔う訳無い。酔ってなイ。よってなイ。ヨッ
テナイ⋮⋮⋮⋮
141
気付いたら、家にいて、何故か布団で寝ていた。もう夜の23時を
回っている。
うーん、頭ががんがんする。確か⋮⋮家族で花見に行って⋮⋮
ッ!! うわ⋮⋮思い出してきた、俺ってやつは何妹に口走ってん
だよ!!?
その後は、恥ずかしさで目が冴えて全然眠れなかった。
朝、鏡の前に立ってみると、クマがすごかった。いままで徹夜した
事なかったので、1日徹夜するだけで顔にすごい出るんだな。
その日はバカな事を口にしたせいで、なかなかサツキを起こしにい
けなかった。
まあ、サツキの部屋の前で、うろうろしてても仕方ないので、入る。
サツキを起こした後、妹は俺の顔見て言い放つ。
﹁ヤス兄の変態。死んでしまえ﹂
ちょっと、いや、すごくへこんだ。
﹁⋮⋮あの後の事、ちゃんと覚えてる?﹂
﹁えっと、サツキに抱きつこうとした所までは覚えてるけど⋮⋮そ
っから先は覚えてない﹂
142
﹁そっか⋮⋮。思い出さないほうがいいよ⋮⋮。恥ずかしくて悶死
しちゃうから﹂
﹁俺何したの!? ってか妹に大好きって告白まがいをした時点で
十分恥ずかしいんだけど! 夜全然眠れなかったし!﹂
﹁そんなんその後の事に比べたら⋮⋮知らないほうが幸せってこと
もあるよ⋮⋮ヤス兄⋮⋮﹂
﹁気になるから! その言い方気になるから!﹂
﹁とにかく、今後は酒禁止、20過ぎても飲んじゃ駄目だよ。クラ
スの打ち上げでも絶対飲んだら駄目だから!﹂
﹁俺は何したんだー!!?﹂
結局何度聞いても何も答えてくれなかった。ケンからの経由で情報
入ってこないかな。
今日からまた学校だ。高校に入学して1週間経った、今日の放課後
からは仮入部の期間が始まる。
143
15話:我が家の休日の過ごし方︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ちょっと話を書いてたら、思いのほか難しく、寝るのが午前4時に
なりました。眠いです。
きっと高校生になったら、あまり家族では過ごしませんよね?
私は部活動ばかりでしたが、どうでしたか?
今後ともよろしくお願いします。
144
16話:仮入部
4月14日月曜日、今日から仮入部期間だ。これから一週間、それ
ぞれが好きな部活を見学する。
今日の授業はまともに進行した。さすがに毎回あんな質問会が起き
てたら、授業が進まなくて困る。
授業も終わり、放課後になった。見学に行くためにケンを誘う。
﹁ケン、見学に行こう﹂
﹁おう、まずは陸上部からだからな、運動する用の服、持ってきた
?﹂
﹁一応。でも、まずは見てからね。まだ練習するか分からないよ﹂
﹁はいはい、わかってるよ﹂
俺たちはしゃべりながら、陸上部の部室に向かう。部室前に着いて、
﹁こんにちは、陸上部の見学にきたんですが﹂
ケンがはっきりとした声でドア越しに呼びかける。
﹁はいよー﹂
中から返事が聞こえてきた。ドアが開くと、先輩達が中で着替えて
いる。
145
開けてくれたのは、2年生の先輩かな?
﹁んーと、陸上部の見学でいいのかな?﹂
﹁はい、そうです﹂
ケンが答える。ケンがこれだけ普通に対応してるのを見るのは久々
だな。
﹁おー、よろしく。来てくれて歓迎するよ。どうする? 今日から
いきなり練習に参加してみる? それとも今日は見学しておくだけ
にする?﹂
﹁今日から参加したいと思っているんですが、いいですか?﹂
﹁もちろん。そっちの1年生も、参加していく?﹂
先輩が俺に質問してきた。
﹁いえ⋮⋮、俺は今日は見学でお願いします⋮⋮﹂
ぼそぼそと小さな声で返事をしておく。ケンと一緒にいようが、初
対面の人には警戒が解けない。
﹁そうか。じゃ、しっかり見学していってくれ﹂
﹁はい⋮⋮﹂
俺は着替えないので、陸上部の人たちが着替え終わるのを外で待つ。
やがて、練習時間になったのかぞろぞろと部室内から出てくる。
146
練習の時は全員が違ったTシャツと短パンを来ているみたいだ。短
パンじゃなくてハーフパンツを履いている人もそこそこいる。
﹁ヤス、お待たせ。他にも1年生が何人か来てるみたい﹂
﹁ふーん⋮⋮﹂
﹁興味無い顔してるな、部活に入れば他のやつとも話しなきゃなん
なくなるし、今のうちにしゃべっとけって﹂
﹁俺はお前がいればそれでいい﹂
﹁うわ、きもいって! 鳥肌立ったぞ今⋮⋮﹂
﹁冗談だよ、でもさっきのは言い方がまずいけど、他の人と仲良く
なる気はないんだけどな﹂
﹁⋮⋮そろそろ部活始まるな、行くか!﹂
﹁あいよ﹂
何か言いたそうにしていたが、飲み込んでくれたようだ。
ほんとにケンっていいやつだよ⋮⋮。
147
集合場所に行くと、総勢30人弱の人がいた。室井先生、もといウ
ララ先生の姿もある。
ウララ先生ってのは当然、室井先生の事。
室井先生なんて、今日﹁室井先生﹂と呼んでも無視しやがった。ウ
ララ先生って呼ばないと反応してくれない⋮⋮なんでウララ先生っ
て呼ばれたいんだよ!? 呼ぶほうも恥ずかしいよ、ウララ先生っ
て。
ウララ先生が、率先してあだ名で呼ぶし、呼ばれようとする上、ケ
ンが全員のあだ名を既に覚えて、あだ名で会話してるからクラスの
みんなもそうしようかって気持ちになったみたいだ。
当然ながら、木野あおいさんもアオちゃんって呼んでるし、加藤守
もマルちゃんって呼んでる。もうこれからは全員本名で呼ばなくな
るんだろう。
そんな風に呼びたくなかったのに、ケンが作ったあのクラスの雰囲
気にどんどん流されている。ケンにいいように操られている気がし
ないでもない。
おっと、意識がそれてしまった。
2、3年生と1年生で分かれて集まっているようだ。
俺たちは1年生グループの中に混ざる。
1年生の中には、俺と一緒で制服のままの人も何人か見かける。
148
俺たちが来た時点で全員集合したみたいで、顧問のウララ先生が1
年生のグループに話し始める。
﹁1年生のみなさん、こんにちは。顧問の室井春乃と言います。ク
ラスでウララってあだ名を付けられたので、ウララ先生もしくは親
しみを込めてウララちゃんと呼んで下さいね﹂
自分でつけてたじゃん! 俺たちがつけたみたいに言わないで下さ
いよ。先生はもう23でしょ! さすがにちゃんをつけるのは無い
と思います。
﹁今日練習に参加する人は、2、3年生の所に移動して、先輩の指
示に従って。特に短距離と中長距離で練習が分かれるので、自分が
どっちに参加するかは考えてね。見学だけの人は、今日の所は邪魔
にならないように、隅っこに移動して見学してください﹂
そう言うと、ウララ先生は2、3年のグループに移動していった。
新入生の指導の仕方や、今日の練習について話しているようだ。
意外だ、陸上やらなさそうなのに、きちんと指導をしてるように見
える。もしかして、陸上経験があるのかな?
﹁ヤス、俺は練習にいくからまた後でな﹂
﹁ああ、頑張ってこいよ﹂
俺はヤスを見送った。
さて、言われた通り隅っこに移動するか。
149
ウララ先生も今日の練習についての確認をしたら、こっちにやって
きた。
﹁ウララ先生って陸上経験あるんですか?﹂
隅っこに集まっている1年生の見学してるメンバーの誰かが聞いた。
ちゃんとウララ先生って言ってるよ。この学校の人たちってほんと
ノリがいいな。
﹁え? うん、高校の時までは陸上で短距離をやってたよ﹂
﹁そうなんですか!?﹂
誰かがびっくりしてた。おれもびっくりだ。普通は女性のスポーツ
選手の胸ってちい⋮⋮げふんげふん⋮⋮ごめんなさい。本当にごめ
んなさい。
﹁本当よ、一応県大会入賞、東海大会出場の実績持ってる﹂
げ、すごすぎ。大山高校みたいな県立の高校で東海大会に出場でき
たら、自慢していいレベルになるんじゃないかな。
150
﹁じゃ、しゃべるだけじゃなくて、ちゃんと見学してね﹂
俺たちに一応釘を刺してきた。
ウララ先生は練習の様子を見ながら、俺たちに説明をしてくれるよ
うだ。
まあ、一応聞いておきますかね。
151
16話:仮入部︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
やっと陸上部が出てきました。
進行が遅すぎですね。気をつけます。
今、オリンピックでも陸上やってますし、時間がある人は見てみま
せんか?
今後ともよろしくお願いします。もしよろしければ、批評、感想何
でも結構なのでお聞かせください。
152
17話:短距離練習風景
さて、移動先には運動着に着替えてなかった制服の人たちがいる。
その中に、見知った顔の人もいた。
﹁ヤス君も陸上部を見に来たんですね? そういえばケン君はウラ
ラ先生のいる陸上部に入る︱! ってずっと言ってましたもんね。
ヤス君はケン君の付き添いですか?﹂
﹁アオちゃん⋮⋮﹂
﹁はい、アオちゃんです、ついに呼ばせる事が出来ました﹂
何でアオちゃんって呼ばれるのがそんな嬉しいんだろう? 俺には
よく分からないが。
﹁俺は、今日の所はケンとの付き合いで来ただけです⋮⋮﹂
﹁そうなんですか、私も今日は付き添いで来ただけなんですよ。だ
から今日は見学だけです。中学校の時は吹奏楽部だったので、吹奏
楽部に入ろうかとも思ってるんですが、今日見てみて、吹奏楽部に
入るか陸上部に入るか決めようと思ってます﹂
﹁アオちゃんって、吹奏楽やってたんですね⋮⋮﹂
アオちゃんが吹奏楽やってたなんて聞いてないなあ。
﹁自己紹介のとき話しましたよ、ヤス君、覚えてないんですか?﹂
153
﹁⋮⋮聞いてませんでした⋮⋮﹂
﹁ヤス君、ひどいです! 私があんなに熱弁していたというのに、
全く聞いてなかったんですね。ショックです⋮⋮﹂
﹁あ、いや、ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁まあ、いいです。今度またしっかり私の話を聞いてもらいますか
ら﹂
﹁いや、勘弁して下さい⋮⋮﹂
アオちゃんは最初会ったばかりはすぐにひいてくれたが、最近はど
んどん押してくる。
たまにはひいて欲しいのだが⋮⋮。
﹁それで、今日はユウに是非一緒に陸上部に入ってくれって言われ
てまして、困ってるんですよ⋮⋮ユウって言うのは同じ中学校から
来た唯一の人です﹂
ユウって名前なんだし、きっと男だろ? って事はアオちゃんの彼
氏かな?
﹁⋮⋮アオちゃんは、吹奏楽部に入りたいんですか⋮⋮?﹂
﹁いえ、絶対に入りたいと思っている訳ではないんですが⋮⋮小学
校の時からトロンボーンを吹いてまして、ずっと続けていた物を止
めるのはどうかなと思いまして⋮⋮﹂
154
﹁⋮⋮惰性でやっているだけなら、止めてもいいと思います。でも、
本当にやりたいなら、吹奏楽部に入ったほうがいいと思いますよ⋮
⋮﹂
俺だって野球が好きなら、どんなに周りに冷たくされようと、また
野球をやろうと思ったはずだ。
仲間の輪に入れなくなったから野球なんてもうやるもんかと思った
時点で、野球に対しては、そこまで強い思い入れはなかったと思っ
ている。
﹁⋮⋮どうなんでしょう? やりたいかどうか、よく分かりません﹂
﹁⋮⋮そのユウって人に嫌われてでもやりたいって思えたら、吹奏
楽に入ってもいいんじゃないですか⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮ふふっ、ヤス君の考えって結構極端ですね、私ってば今そん
な二者択一に迫られてるんですね﹂
ん? 変な事言ってしまっただろうか?アオちゃんに苦笑されてし
まった。
ってか、やっぱり人に干渉してしまっている。
あれだけ仲良くならないって決めてんのに⋮⋮無視される事には慣
れてても、無視する事は向いてないのか?
や、そもそもそんな事に向き不向きってあるのか?
それから、アオちゃんはぼーっとこれからどうするかしばらく考え
ていたようだった。あんまり練習が目に入っているようには見えな
いな。
155
俺はアオちゃんの事は置いといて、短距離の練習を見ていた。長距
離の人たちは分かれてどこかへ走りにいってしまった。
ウララ先生がこちらにやってきて、いろいろと説明をしてくれる。
見ているだけじゃさっぱりだから本当にありがたい。
短距離の練習こんな感じだった。
まずはジョギング、陸上ではこのことをジョグと言うらしい。
その後、ストレッチ。1人でやるのと2人でやるのとあった。それ
にしても、みんな体が柔らかい。俺、大丈夫かな?
次に、フォームをよくするためのトレーニング、ウララ先生はこれ
の事をドリルと呼ぶと言ってた。
自分が見て分かるのだと、モモアゲをしていた。
モモアゲってのは、太ももを高くあげること。言葉にするとそれだ
けなんだが、ただももを上げるだけでは駄目で、モモを上げた時に、
かかともお尻まで引きつけた状態でなければならないとウララ先生
が説明する。極端に言えば、太ももの裏の部分と、ふくらはぎがく
っつきそうになってるといいのかな。
とりあえず、考え込んでてウララ先生の説明を聞いてないアオちゃ
んにも後で分かるように、地面に書いてみる。
156
悪い例
□□□
□□□
□ □
□□□□□□
□ □
□□□□ □
■↑膝□
■ □
■ □
→ □
足の先□
モモを上げた時に
かかとがお尻に
くっついていなくて、
離れてる。
いい例
□□□
□□□
□ □
□□□□□□
□ □
□□□□ □
■■■□
→ →□
膝 足□
の□
先□
157
モモを上げた時に
かかとがお尻に
くっついてる状態。
うーん、俺、やっぱり絵の才能ねえな。こんなんでアオちゃん、わ
かるかな? ■部分が膝より下の部分だ。その部分が膝より上の部
分にくっつくように引きつけないとまずいそうだ。いい例のモモア
ゲをすると、足の接地時間、足が地面についたままの状態が短くな
っていいという事だ。
どういう事かと言うと、悪い例のモモアゲだと、足があまりあがっ
ていないために、足がすぐに地面につく。いい例のモモアゲだと、
しっかり足があがっているので、足を上げている時間が長くなる。
足が地面についたままの状態が短いほうがいい理由、それは簡単だ。
走っているとき、足が地面から離れている時に前に進む。つまり、
速くなればなるほど、足が地面についてる時間は短くなるってこと
だな。
そういえば、かかとをお尻にくっつけようとして、こんな風になっ
ちゃ駄目だぞ。
とても悪い例
□□□
□□□
□ □
□□□□□□□
□足の先
□← □
158
□■
□■
□■
□→
□膝
モモをあげずに、
膝だけ曲げて
かかとをお尻に
くっつけようとしている。
わけわからん⋮⋮これほんとに人間を書いたのか? カカシにしか
見えん⋮⋮何で俺こんなに絵が下手なんだろう⋮⋮
時々、かかとをお尻にくっつける事を意識するあまり、モモがあが
らなくなる人がいるんだってさ。
みんなで練習してる時はいいけど、1人で練習してると、モモがあ
がらなくなってる事に気がつかない事もよくあるんだって。
ほんとかなあ。
オリンピックや世界陸上の100mや200mに出場してる人とか
を見てみると、速くて分かりにくいけど、いい例のモモアゲの動き
をして走ってるってウララ先生が言ってた。
今度じっくり見てみようかな⋮⋮。
ウララ先生の言葉を自分なりに解釈したから、もしかして間違って
いるかもしれん。
聞いていないから分かりませんってのは可哀想だから、後で俺が説
明するが間違ってたらごめん、アオちゃん。
それにしてもウララ先生って陸上の知識が豊富だな。さすが東海大
159
会経験者。
モモアゲの仕方も色々あって、ゆっくり姿勢を見ながら行っている
物から、リズムに合わせてタンッ、タンッとおこなっている物もあ
った。
悪い例のようなモモアゲをしていてはあまり効果はなく、いい例の
ようなきちんとしたフォームで行うことが大事で、1年生の人たち
はさっきから先輩に指導を受けている。徐々に慣れればいいという
事らしいが、やはり先輩と1年ではフォームが違う。
他にもいろんな練習があるが、全部を説明するのは長くなりすぎる。
この練習は普段しないような動きをしなければいけないために大変
だったみたいで、1年生はバテ気味だ。
フォーム修正トレーニング、通称﹁ドリル﹂の後、何本か100m
程度を走る。
流しと言って、全力の70パーセントから80パーセントの気持ち
いいスピードで走る事を言うらしい。
1年生の中には、それが分からず全力で走っているバカがいる。⋮
⋮ケンの事なんだが。
今日のメイン練習として、スタートの練習をする。
立ってスタートしてた、ケンにとってはこれは本当に嫌だったみた
いで、しきりに﹁俺は立って走りはじめたほうが速いんだ!﹂って
主張してた。
んな訳無いだろ! だったら何でオリンピックのスタートはみんな
クラウチングスタートをしてるんだよ。
160
次に、100mを4本、ダッシュした。先ほどの流しの時のフォー
ムや、ドリルの時のフォームを意識しつつ、フォームが崩れないよ
うに全力で走る。結構きつそうだ。
最後に、突然運動を止めて体を壊さないために、徐々に運動を緩め
ていく、クーリングダウン。略してダウンと言うそうだ。これをき
ちんとしないと怪我の原因になる。
クーリングダウンは何をするかと言うと、ジョグをして、ストレッ
チをする。
練習がきつかった場合は、各々の判断でマッサージもしてる。
今日は1年生の初練習、しかもまだ仮入部期間という事で、筋トレ
は無いそうだ。
さらに、筋トレまであるのか。中々大変そうだな。
161
17話:短距離練習風景︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
今回、初めて陸上らしい話になりましたが、全然分からない、分か
ったけど分かりにくい、ここ間違ってる等あれば、教えていただけ
ると幸いです。
今オリンピックやってますね。100mはボルトの世界新記録で終
わりましたが、まだ200mがあります。
200mを見てみると、こんな感じでモモがあがってるように見え
ると思います。
⋮⋮⋮⋮見えますよね?︵ちょっと不安︶
そんな事考えながら、オリンピック見てみるのも面白いかもです。
今後も頑張っていきますので、よろしくお願いします。
162
18話:練習後
練習もほとんど終わった頃、アオちゃんは答えが出たのかすっきり
した顔で宣言してた。
﹁私、陸上部に入ろうと思います。だって、ユウと楽しくやってい
きたいんですもん。吹奏楽部に入っちゃったら、ユウとの時間、減
ってしまいますもんね。中学の時の吹奏楽部も、楽しくやっていた
んですけど、それはトロンボーンを吹くのが好きだったと言うより
も、友達とわいわいおしゃべりするのが好きだっただけなんですよ。
別に休み中に1人で練習なんてしようと思いませんでしたし。だか
ら、陸上部に入ろうと思います﹂
ってか、全く練習見てなかったっぽいけど、そんなんで決めてしま
っていいんだろうか?
ユウって人がいるから陸上部に入るってのも、まあありなのかな。
ユウって人の事大好きみたいだし。
でも、練習についていけるかどうか考えた方がよくないか?
﹁ヤス君、という訳でこれからは陸上部仲間ですね﹂
﹁⋮⋮いや、俺はまだ入るって決めた訳じゃないですし⋮⋮﹂
﹁いーえ、ヤス君は陸上部に入りたくなります! この指の先端を
じっと見つめて下さい﹂
つられてつい、アオちゃんの人差し指を見てしまう。人差し指は俺
にビシッと指している。ドーン!!!! とか言ってココロのスキ
163
マを埋めてくれるのだろうか?
﹁じっと指の先端を見て下さい⋮⋮あなたはだんだん陸上部に入り
たくなってきます⋮⋮﹂
﹁って催眠術かよ! 効かねえよ!﹂
ちっ、まただよ⋮⋮ウララ先生といい、アオちゃんといい、調子が
狂う。
﹁ほら、ケン君としゃべってた時みたいな地が出たほうが、生き生
きしてますよ﹂
﹁⋮⋮別に、俺はこのままでいいですから⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ありゃ、口調も元に戻っちゃいましたか。うーん、ヤス君と
の友達への道はまだまだ先が長そうですね。これからじっくり攻め
ていきますよ、今年の目標です﹂
そんな事を目標にしなくていいよ!
その後、とりあえず陸上部に入部するならと、アオちゃんに今日の
練習内容について説明していた。
俺の絵を見たときは思いっきり笑ってくれた。
⋮⋮くそっ! 悪かったなヘタクソで!
そういえば、なんでわざわざ俺が説明しなきゃいけなかったんだろ
う⋮⋮?
放っときゃよかったな。
164
そして練習を終えたケン達が戻ってきた。
﹁ケン、お疲れ!﹂
﹁まじ疲れたよ! あのドリルとか言うの、ほんと大変だよ。モモ
アゲなんて普段しなかったから、普段使わない所の筋肉が張ってる
感じがする。明日はぜったい筋肉痛だな﹂
﹁俊足のケンでもそんなふうになるんだな。短距離平均以下の俺が
入ったら、どうなることか⋮⋮﹂
俺じゃ1日と持たない気がする。
野球部の時から走り込みはずっとしてきたのにあんまり速くならな
かったんだし。そんなに足が速くなる気がしないな。
﹁じゃあ、長距離やってみたらどうだ? 確か、体力テストでも持
久力は平均以上あっただろ?﹂
﹁長距離? 今日、全く練習見てないんだが⋮⋮んじゃ、明日一応
参加してみるか﹂
確かに長距離なら、足が遅くても何とかなるかもしれない。そりゃ
165
速い方がいいに決まってるが。
﹁おう、お互い陸上部で頑張っていこうな!﹂
﹁まだ決めた訳じゃないから﹂
﹁なんだよ、お前ずっとウララセンセと話せたってのに、そんな事
言ってんのか? ウララセンセと放課後も過ごせるんだぞ! 陸上
部はすごいお得じゃん!﹂
﹁いや、俺は別にウララ先生に対してケンみたいに好意を持ってな
いから﹂
﹁当たり前だ! ウララセンセを好きになるなよ! あの人の犬は
俺だけで十分だ!﹂
﹁そんな変な事を堂々と宣言するな!﹂
﹁大体お前はサツキちゃん大好きなんだろ? 桜の木の下で﹃俺は
お前が大好きなのにー﹄って言ったらしいじゃん?﹂
﹁っ!! それをどこで!?﹂
﹁サツキちゃんから聞いた﹂
﹁その後は!?﹂
﹁抱きつこうとしたんだろ? ほんとにシスコンだな、お前は﹂
﹁いや、その後!!﹂
166
その後もケンに話してくれたら、花見の席で俺がどんな醜態を晒し
たのかが分かる。教えてくれ! ケン!
﹁?? いや、知らないが。⋮⋮ヤス、さらにひどいことしたのか
? それは人間としてどうかと思うぞ﹂
﹁いや、それが全く覚えてないんだよ⋮⋮﹂
くそっ、ケンにも教えてくれてなかったか。ほんとに気になる。
﹁⋮⋮ヤス! それは認知しないという事か!? そんなやつはも
う人間じゃない!!﹂
﹁そんな訳無いだろ!? そんな事はしてない!﹂
﹁だって、記憶が無いんだろ? って事は⋮⋮﹂
﹁そんな事してたらサツキが俺に顔もあわせてくれなくなるさ。大
体それって、きんーー﹂
﹁それ以上言うな! このバカ野郎、こんな場所で言う気か? 気
は確かか?﹂
﹁あ、いや⋮⋮﹂
うわ、陸上部の全員の視線を集めてやがる。視線が痛い。注目を集
めるのは嫌いなんだが⋮⋮しかもいつの間にか長距離の人たちも帰
ってきてるし。最悪だ⋮⋮。
167
﹁はい、ヤス君の妹が可愛いのは分かったから、最後に挨拶するま
でが練習なの。ちゃんとメリハリつけないと駄目!﹂
ウララ先生の笑顔が怖い。目がやっぱり笑ってないし。般若に見え
る⋮⋮。
﹁すみません⋮⋮﹂
今回のは全面的に俺たちが悪い。平謝りするしかない。
﹁よろしい。今後、気をつけて下さい。﹂
そして仮入部1日目が終わった。見てるだけってのは退屈だったな。
明日はやはり参加しないと。
そういや、ケンとの言い争いに意識が向いちゃってて、アオちゃん
の言ってたユウという人を見損ねた。
まあ、どうでもいいか。
168
18話:練習後︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
初めて、評価をいただけました!ありがとうございます。
今後も精進していきますので読んでいただいているみなさん、よろ
しくお願いします。
169
19話:仮入部2日目、部室にて
さて、今日は4月15日火曜日、仮入部2日目だ。
ケンは朝から筋肉痛でうなされていた。
確かに、受験期間は勉強付けの毎日で、運動する暇なんか無かった
んだから、体がなまって筋力が落ちているはず。それで昨日普段使
わない筋肉を使ったんだから筋肉痛になるのは当然かもしれない。
なまっている体で体力テストトップをとるのはすごい⋮⋮あ、でも
他の1年生も同じ条件か。
放課後になってケンと陸上部の部室に行き、ドアを開ける。
昨日と同じ先輩達が、そろっていた。
﹁こんにちはー!﹂
ケン、相変わらず元気だ。その元気を分けてくれ。
﹁おう、こんにちは。2人とも今日も来たって事は、陸上部に決定
したのかな?﹂
﹁いえ、俺はまだ⋮⋮﹂
﹁はい、もちろんです! 俺もヤスも入部決定です!﹂
﹁いや、俺はまだ入らないって言ってるだろ!﹂
勝手に決めるな。俺はまだ他の部活も見たいんだ。
170
﹁⋮⋮んー、ヤス君、あなたは重大なミスを犯しています﹂
そのしゃべり方止めろ。似合っていない上に、声も似ていない。
﹁なんかしたか俺?﹂
﹁んー、部活紹介があった日の事を覚えていますか? ヤス君?﹂
﹁⋮⋮ああ、なんかほとんどの部活が変なボケやってたのが妙に印
象的だったな。まともだったのはハンドボール部くらいだった気が
する﹂
﹁その前です! しっかり思い出しなさい﹂
⋮⋮何したっけ?
∼回想∼
﹁俺ももういいや、兄貴みたいに才能ないし。さすがにバントだけ
じゃこれからどうしようもないだろ?野球は兄貴の応援で満足する
事にするよ。だから、新しい部活を探すんだ! お前も、絶対俺と
同じ部活に入ろうや!﹂
ケンが野球を辞めるのは、明らかに俺を気にかけてのセリフだとい
うのは分かったが、何を言っても聞き入れてくれなさそうなのは分
かった。
なので、その言葉を受け取る事にする。
171
﹁その考えは変わらないんだな⋮⋮わかったよ﹂
確かにケンがいたほうが周りを気にしなくてすむから楽だしな。ケ
ンと同じ部活に入ってもいいだろう。
∼回想終了∼
﹁あなたは、私と同じ部活に入る事を了承しています。すなわち!
あなたは陸上部に入らなければいけないと言う事です!﹂
﹁⋮⋮時効だ! そんなの覚えてねえよ! いい加減その口調止め
ろよ!﹂
﹁わかった、口調は直すか。しゃべりにくかったんだよな。⋮⋮ち
なみにヤス、偽証罪の時効は刑事上では7年。民事上の時効は加害
者が分かった瞬間から3年間。時効になんてならんぞ﹂
﹁こんな事に法律持ってくんなよ、こんな嘘には絶対に適用されね
えよ! ⋮⋮そもそも何でそんな事知ってるんだよ?﹂
﹁ウララセンセの犬になるには常識だぞ!﹂
そんなのが常識として必要なのか?
先輩達は俺たちのやり取りを珍しげに見てる。ケンといると、注目
されっぱなしだな⋮⋮静かに暮らしてえ。
﹁⋮⋮ってか陸上部以外の部活も見てみたいじゃんか。もっと楽そ
172
うなのだってあるだろうし﹂
﹁いやいや、陸上部は最高だぞ。ウララセンセに手取り足取り腰取
り⋮⋮﹂
﹁ケン、毎回毎回同じネタを使うな!﹂
つい最近、そのネタ使った、乱発はよくない。
﹁ヤス、お前何言ってんだ? お笑い芸人の人たちは、毎回同じネ
タを使っているだろ? なぜ同じネタを毎回使うのか。それは観客
に求められているからだ! それが流行語になり、社会に影響を及
ぼしていくのではないか﹂
﹁一発芸人は生き残るのが難しい、同じネタしか使わないやつは淘
汰される!﹂
﹁俺は、打ち上げ花火でいいのさ﹂
﹁一瞬だけ輝くってことか? さっきのじゃ、不発弾にしかならん
ぞ﹂
さっきのネタは苦笑くらいならとれるんじゃないかな?
﹁⋮⋮くっ、お前にそんなに酷評されるとは⋮⋮じゃあ、そんなに
言うならお前が何かやってみろ!﹂
﹁⋮⋮えっ?﹂
﹁芸人をバカにするな、俺達は必死になって無い知恵を振り絞って
173
面白い事を考えているんだ⋮⋮なのに、つまらない、引退しろと世
間の波は荒く⋮⋮俺だって頑張ってるんだ。そんなに言うならネタ
を提供しろってんだ!﹂
﹁お前芸人じゃないだろ、芸人の事を知らないくせに芸人を語るな
!﹂
﹁心意気は芸人だ。だからお前が何かやってみろ﹂
﹁その無茶振りはなんだよ!﹂
﹁いいからやってみろ﹂
俺はツッコミだ。ボケはお前の仕事のはずだ⋮⋮。そんな事を思っ
てもしょうがない。
先輩達もそんなに注目しないでくれ。⋮⋮この空気を変えるには何
かしないと乗り切れない。
⋮⋮くそっ、その振りは難易度が高いんだぞ。面白い事をすると思
っている人たちの期待を答えるのは難しいんだから。
174
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮コマネチ!!﹂
かけ声と同時に股から手をスライドさせる。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
175
部室内の陸上部員の目が痛い。せめて、ケン、反応してくれよ⋮⋮
⋮⋮この空気こそが、芸人をつぶすんだ。
176
19話:仮入部2日目、部室にて︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
昨日はアクセス数が突然増えてびっくりでした。
1日のユニークアクセスがついに100人を突破!!
とても嬉しかったです。みなさんありがとうございます。
昨日のオリンピックはすごかったです。200mの世界新は出ない
かなと思ってみてたので、出た時はほんとに驚きでした。
今後ともよろしくお願いします。
177
20話:ストレッチの仕方
さて、部室も出て今日も練習前の集合をする。︵先ほどのコマネチ
の事は忘れた︶
今日は俺も参加するために、Tシャツにハーフパンツになって、集
合した。
ウララ先生の挨拶も終え、短距離と中長距離に分かれる。
﹁じゃ、俺は長距離にいくから﹂
﹁俺は今日も短距離だ。ヤス、また後でな﹂
ケンと別れ、中長距離が集まっているグループへいく。こっちには
ウララ先生は来ないようだ。
先輩の一人が1年生に向かって挨拶をする。今日来てるのは俺も入
れて2人だけだ。
中長距離の先輩は全部で7人いた。短距離は女子もいたが、長距離
は男子だけだ。
﹁俺が3年生で、長距離ブロックの部長だ。今日もよろしく。今日
初めての人もいるので、軽く説明しておく。
ウララ先生は短距離が専門だから、長距離種目の練習についてはほ
とんど知らない。俺たちは自分たちでメニューを組んで練習してい
る。﹂
178
先輩までウララ先生になったか。いつか全校生徒がウララ先生と呼
ぶ日が来るかもしれない。
ウララ先生は短距離専門だったか。ケンは短距離決定だな。
﹁といっても、見ての通りグラウンドは野球部、サッカー部、ハン
ドボール部、陸上部短距離、それにダンス部が使用していて俺たち
が練習するスペースはない﹂
ダンス部はわざわざグラウンドで練習しなくてもいいんじゃないか
な? むしろダンス部だったら体育館のステージ上で練習した方が、
よっぽど上手くなると思うんですが。スペースを分けて下さい。
﹁だから、俺たちは道路を走る。幸い、この辺りの道路は道幅が広
く、視界もいい上、あまり車が走らない。横に広がらない限りは基
本的に大丈夫だ。﹂
長距離の練習は道路を走るだけなのか?
﹁走りに行く前に、まずは各自ストレッチをする事。15分後に行
くからよろしく﹂
そう言って、長距離の先輩連中は散っていった。
残ったのは俺ともう1年生だけだ。
仕方ないので、昨日短距離で見たストレッチを行いながら、体をほ
ぐしておく。
隣に突っ立ってる1年生は、おろおろしてて何とも頼りない。
﹁⋮⋮あ、あの⋮⋮﹂
179
俺に話しかけているのだろうか?15分後にスタートするんだから、
もっと急いでやらないと、間に合わないぞ。
﹁⋮⋮なんですか⋮⋮?﹂
顔も向けずに、ストレッチしながら答える。
﹁え、と⋮⋮同じ⋮⋮1年生⋮⋮?﹂
何でこんなにこわごわとしゃべっているのだろうか?俺はそんなに
怖い顔してるのか?そいつからは見えてないはずだが。
﹁⋮⋮そうですけど⋮⋮﹂
﹁お、俺⋮⋮山本武<ヤマモト タケシ>⋮⋮﹂
これは、俺も自己紹介をしないとまずいのだろうか?
山本武と名乗ったやつに目を向けると、ぴくっと反応した後、びく
びくと俺を見つめ続ける。
⋮⋮俺、そんな怖い顔してんのかな。今まで言われた事ないんだが。
﹁⋮⋮俺は、近藤康明<コンドウ ヤスアキ>、よろしく⋮⋮﹂
﹁⋮⋮う、うん!!﹂
激しく首を上下に振る。なんか首がちぎれそうだ。⋮⋮想像してし
まった⋮⋮気持ち悪い。
﹁お、俺⋮⋮昨日⋮⋮1人⋮⋮﹂
180
昨日は長距離参加者の1年生が山本武1人だったのだろうか?単語
ばかりで分かりにくい。
それよりも、ストレッチはしないと⋮⋮ウララ先生が言ってたが、
練習前にきちんと体を伸ばして、あたためておかないと、怪我の元
になる。
﹁⋮⋮ストレッチしないの⋮⋮?﹂
こいつをほっといて怪我をするのは寝覚めが悪いため、とりあえず
聞いておく。
﹁⋮⋮え、と⋮⋮﹂
待たされるのはすんごいイライラするが、我慢して待つ。
﹁⋮⋮何⋮⋮?﹂
俺が聞きたい! 何ってなんだ! 何って!
﹁⋮⋮わからない⋮⋮﹂
﹁だから! 何ってなんだよ! 俺の方が分からないよ!﹂
しまった、つい怒鳴ってしまった。
うわ、めちゃめちゃびびってるし⋮⋮ケンとかサツキならこれぐら
い怒鳴っても、全然びびらないし、むしろ俺をいじって楽しんでる
んだが。
﹁あー、悪かった。で、何が分からないんだ?﹂
181
びびりながらでも、なんとか俺に答えようとうなっている。
﹁⋮⋮ス、ストレッチ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ストレッチやった事ないの? 体育の時間でも、初めに体操
するでしょ? 分からなかったら、そう言うのをやればいいんよ﹂
﹁⋮⋮で、でも⋮⋮﹂
ちらちらと先輩達を見つめている。
﹁⋮⋮あー、確かに先輩がやってるのとかは、体育でやるのとはち
ょっと違う事やってるよな。だったら、聞いてくればいいんんじゃ
ないの? ってか昨日も来てたんだろ? 昨日はお前どうしてたん
だよ?﹂
﹁⋮⋮う、うー⋮⋮﹂
あ、一度にいくつも聞きすぎたか?
さっきから一つの質問にすらまともに答えれてないのに、こんなに
聞かれたら、混乱するか?
﹁じゃ、俺がついて行くから先輩に聞いてくれ。そうすればやり方
分かるだろ?﹂
ここで先輩に引き渡して、俺の仕事は終わりだ。後は先輩に任せよ
う。
﹁⋮⋮無理⋮⋮﹂
182
﹁なんでやねん!!!﹂
うわ、めちゃベタなツッコミだ。こんなん使ったの初めてだ。そし
て⋮⋮、
﹁⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
やってしまった。またびびってしまった。
﹁あー! もう、謝らなくていいから! じゃあ、ほら、俺が今か
らやるストレッチを一緒にやるぞ! とりあえず、やり方と効果を
説明するから、きちんと聞いとけよ!﹂
﹁⋮⋮ご、ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁怒ってる訳じゃないから! 謝るな!﹂
﹁⋮⋮う、うん⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮っ!!!﹂
叫びそうになったが、ぐっと我慢する。
怒鳴れば謝り続けるのが分かったからだ。
﹁じゃあ、始めるぞ。まず両方の足を伸ばして座ってくれ。その後、
片方の足だけ折り曲げるんだ。かかとが尻につく感じに曲げる。ス
ライディングしてる格好になるだろ、いや片足だけ正座している感
じかな⋮⋮﹂
自分の体が硬い⋮⋮受験期間でどんだけ硬くなってんだよ。きちん
183
と風呂上がりにストレッチしとけばよかった。
﹁⋮⋮こ、こう⋮⋮?﹂
俺の真似をしながら、山本武が聞いてくる。
﹁そうそう、できたらだんだん後ろに倒していけ。無理はするな。
⋮⋮ってお前も体硬いな⋮⋮ほとんど後ろにいかないじゃん。﹂
俺と同じくらい硬いやつがいるとは思わなかった。
﹁⋮⋮ご、ごめん⋮⋮﹂
﹁別に怒ってないから。で、このストレッチをしているときは、ゆ
っくりと呼吸をしてくれ。鼻から空気を吸って⋮⋮口からゆっくり
と吐く。ストレッチをしている時、ついつい呼吸が止まって力が入
りすぎるが、それはあまり効果がない。ストレッチは体をほぐす事
が目的なんだから、力を入れちゃ駄目だろ?﹂
﹁⋮⋮え、と⋮⋮﹂
﹁よくわからないなら、ストレッチするときは息を止めない。って
ことを覚えておいてくれればいい。で、この体勢を最低でも10秒
は保つ事、本当はもうちょっと長い時間やった方がいいが、時間が
無いからな。焦って短い時間やってもしっかりと伸びないから、効
果がないぞ﹂
﹁どこが伸びてるか分かるか?これは、太ももの前の部分を伸ばし
てる。走ってる時、ここが筋肉痛になる事は無いか?野球部で長い
時間走らされた時、この部分がよく痛くなった。十分に伸ばしてお
184
かないと、怪我しやすくなる。特に俺たちは体が硬いから、怪我し
やすい﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮﹂
﹁これだけじゃなく、別の事前準備をしっかりしておかないと、駄
目だぞ。次のストレッチを始めるぞ﹂
その後、10分程度かけて、ストレッチを終えた。最初に時間がか
かったので、もう長距離の練習が始まる時間だ。
﹁おい、一年生! 練習に行くよー!﹂
呼ばれてしまった。仕方ない、行くか。
﹁ストレッチは一通りした。ほんとは2人組になってするストレッ
チとか、他にもしておいた方がいいが、今日の所はしょうがない。
先輩達についてくぞ﹂
﹁⋮⋮く、詳しい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮昨日の短距離の練習でやってたストレッチだ。全部ウララ先
生の受け売りだ。﹂
途中のドリルの部分は結構忘れてしまったが、ストレッチだけは野
球部のときやっていたのもずいぶんあったおかげで覚えてた。よか
った、覚えてて。
⋮⋮なんで俺は、このおどおどした山本武というやつの面倒を見て
いるんだ?
185
うーん⋮⋮まあ、今日これだけ説明したんだから、明日からは大丈
夫だろ。
明日は俺、別の部活も見てみたいし。
186
20話:ストレッチの仕方︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
東京に友人に会いに行ってカラオケです。
めちゃくちゃ眠いです。今から寝ます。
今後ともよろしくお願いします。
187
21話:長距離の練習
今日の練習は学校周りを回るらしい。ゆっくりとしたペースで全員
で回るから、遅れずについてきてくれと言われた。
⋮⋮おれ、半年も運動してないよ、ブランクがあるから無理だろ⋮
⋮。
そう思ってスタートしたが、本当にペースはゆっくりだった。
俺は先輩達よりさらに5mほど離れて後ろにつき、のんびりと走っ
ていた。
周りの風景を見ながら、淡々と走る。
野球部のときも、長い距離を走らされた事はあるが、かけ声を駆け
ながらだったから、周りの風景を見るなんて事、全く無かったな。
先輩達は余裕なのか、しゃべりながら走ってる。
⋮⋮問題なのは、山本武という俺と同じ1年生だ。
なぜか、ずっと後ろにへばりついて、俺の影のようになって走って
いる。
⋮⋮昨日、先輩達に何かされたのか?
そうなんだったら、よく今日も練習に来たな。
ゆっくり走り続けるだけだったが、少しずつ疲れてきた。ブランク
のせいだ、きっと。
時計も持ってないし、距離が分かる指標も無いから、どれくらいは
知っているのか分からないが、そろそろ終わりにするぞー!という
先輩の声が聞こえたので、学校周りを回るのを止めて、学校内に入
188
ってきた。
その後、軽くストレッチをして終了だそうだ。
なんか、短距離とは全然違うな。これは短距離と長距離の違いなん
だろうか?
俺からひっついて離れようとしない山本武と、練習を開始する前に
したストレッチをもう一度行っておいた。
ちらっと横目で短距離を見てみると、短距離はまだ練習中らしい。
今日は高さが30cmくらいのハードルを出して、タタタッと素早
くそれを越えていっている。
どういう効果があるかは知らない。後でケンにでも聞いてみようか
な。
ウララ先生に練習終了の報告に全員で行って、挨拶をして終わった。
俺は、部室で着替えて、ケンが来るのを待つ。
先輩達はもう帰ったのに、山本武が、何故かまだ部室にいる。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
ただ単に沈黙しているだけなら、俺は全然平気だ。そんな事には慣
れっこになってしまったから。
だが!なんでこいつはずっと俺を見続けているんだ!しかも、ずっ
と真っ正面に座られていると、本当に落ち着かない。
体の向きを変えても、何故か俺の前に来てまたじっと見つめ続ける
⋮⋮。
189
誰か、こいつをなんとかして下さい⋮⋮。
﹁えっと⋮⋮山本武君⋮⋮﹂
﹁は、はい!﹂
﹁⋮⋮何で、帰らないの?﹂
そう聞いたら、人生の終わりのような悲しい顔をした。
お前は俺にどうして欲しいんだよ!!?
﹁⋮⋮え、と⋮⋮その⋮⋮﹂
口を挟んだら負けだ。我慢して次の言葉を待つ。
﹁⋮⋮俺⋮⋮帰る⋮⋮?﹂
疑問系なのがよく分からないが、帰ろうとしてるんだろう。
﹁ん、じゃあな﹂
そう言ったら、悲しげな視線をちらちらとこちらに向けて、帰って
行った。
何故、追い出した気分になるんだ⋮⋮なんか、なんも悪い事してな
いのに悪い事した気分だ。結局あいつは何がしたかったんだろう?
その後すぐに短距離も終わったみたいで、続々と陸上部の面々が部
室内へ入ってくる。
﹁ケン、お疲れ﹂
190
﹁おー、お疲れ!長距離は終わるの早かったんだな﹂
﹁ん、まあね﹂
そしてケンが着替えるのを待って、その後、2人で帰る帰り道。
﹁そういや、あのちっちゃなハードル、どんな意味があるんだ?﹂
﹁あれをやると、足が速くなる﹂
﹁いや、そりゃ分かるんだけど⋮⋮どうして速くなるんだ?﹂
﹁練習するからに決まっているだろ?そんな事も分からないのか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん、自分の馬鹿さ加減に気付いたか?これからもっと努力してい
い頭になるようにしろよ﹂
違うわ!お前の馬鹿さ加減にあきれ果てて声も出なかったんだよ!
お前の方こそ脳みそ取り替えてこい!
﹁ところで、ヤスの方の練習はどうだった?﹂
﹁まあ、初練習だったからか楽だったよ。同じ1年なんだけど、変
191
なやつがいてすっごく疲れた﹂
明日もいるんだろうか?明日は別の部活に行こうと思うし⋮⋮関係
ないな。
﹁お前が変なやつって言うからには、とてもまともなやつか、めち
ゃくちゃ変なやつかどっちかだな﹂
﹁何でだよ!俺はめっちゃまともだよ、変なやつ代表のお前に言わ
れたくねえよ!﹂
﹁自分のことをまともって言うやつは99.9パーセントまともじ
ゃないって統計があるんだ﹂
﹁ねえよ、そんな統計。あるんだったら見せてみろよ⋮⋮もしあっ
たとしても、俺は残り0.1パーセントのまともな人間だ!﹂
俺は断言する。俺がまともなのは自信があるからな。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮コマネチ!!﹂
ケンがかけ声と同時に股から手をスライドさせる。
﹁⋮⋮だーっ!忘れろ!その事は頭の中から焼却処分させろ!﹂
﹁もうサツキちゃんに写メール送っちゃったもんね﹂
﹁お前ほんと最悪だーっ!いつの間に撮ったんだよ!?﹂
192
帰ったら、サツキに馬鹿にされる事間違いなしだ⋮⋮帰るのがおっ
くうになってきた。
家に着いたら、当然ながらサツキに写真を見せられて、大爆笑され
た。
くそう、ケンのやつ、覚えてろ!
193
22話:山本武、もとい⋮⋮
今日は4月18日金曜日。仮入部期間の5日目だ。
昨日と一昨日は、ケンをつれて無理矢理別の部活の見学に行った。
俺が、チーム競技は嫌だと言ったので、個人競技である卓球部とテ
ニス部の練習に参加してきた。
⋮⋮だが、どちらも空振りばっかりだった⋮⋮。
ケンも俺も卓球の試合をさせてもらったのだが、サーブで自分たち
の陣地に入りさえすれば点が入ってしまう。つまりサーブにリター
ンを返せないのだ。
逆に自分たちがサーブのときは、ボールにかすりさえしない。
次の日にテニス部に行っても同様だった。
テニスボールをホームランする初心者はいたが、空振りを連発する
初心者は俺とケンだけだった。顧問の先生も、そんな生徒は今まで
見た事無いと苦心してたし。
最後には顧問の先生もさじを投げて、
﹁もう来るな﹂
ってと言ってしまうなんて思いもよらなかった。
新入生で言われたのは俺とケンだけだ。
はっはっはっ⋮⋮⋮むなしい⋮⋮。
194
まさか野球部のときのバッティングの下手さが、こんな所にまで反
映されるとは思っても見なかった。
だが、個人競技はまだ他に一つ残っているぞ⋮⋮剣道部だ。今日は
そこにいくつもりなのだ!
﹁待ってろ!大山高校のタマちゃん!﹂
﹁⋮⋮ヤス、きもい﹂
今は昼休み、ケンと昼食をとっている。昼食は作る時間が無いから、
俺はコンビニで適当に買って食っている。ケンは家で祖母にお弁当
を作ってもらっている。
﹁ヤス、いくら卓球部とテニス部で酷評されたからって自我を崩壊
させるのはどうかと思うな﹂
うるさい、俺は繊細なんだ。
﹁だいたい、人付き合いは最低限にするんだろ?だったら対人競技
より、陸上の方が一人で集中できる。お前にぴったりだ!﹂
﹁⋮⋮お前に流されているってのが嫌なんだ。自分で探したいとい
う俺のこの心意気が分からんのか?﹂
﹁分からんな﹂
﹁⋮⋮一刀両断に切り捨てたな、ケン⋮⋮﹂
﹁なあヤス、さっきからテンパり過ぎて性格が変わり過ぎだ。もう
お前には陸上の道しか残されてないんだから、腹をくくってさっさ
195
と陸上部に入ろう。そうしないと俺とウララセンセの貴重な時間が
失われるだろ!﹂
﹁最後のが本音だろ!お前の思い通りになんて動いてやるか!最後
まで抵抗してやる!﹂
﹁全く⋮⋮ん?﹂
﹁どした?ケン﹂
﹁いや、さっきからちらちらと廊下から、こっちをのぞいてる人が
いるんだが⋮⋮知り合いか?﹂
﹁廊下?﹂
俺は振り返って廊下を見てみた。
えーと、あれは山本武だったかな?
﹁悪い、俺の知り合いみたいだ﹂
﹁何?お前に高校でこのクラス以外に知り合いがいるなんて、明日
は雪でも降るのか?﹂
﹁お前も見た事があると思うんだが⋮⋮陸上部長距離に1年生で参
加してる、山本武だ﹂
﹁ん?えーと⋮⋮悪い、思い出せん﹂
﹁まあ、たいてい人の後ろとかに隠れるような人みたいだしな、前
に帰り道で行ってた変なやつとはあいつの事だ﹂
196
﹁⋮⋮確かに変だな。お前といい勝負をしそうだ﹂
﹁何言ってんだ!⋮⋮まあいい、ちょっと行ってくるよ﹂
﹁ああ、行ってきな!⋮⋮いい傾向だ﹂
俺は廊下に向かって歩く。
俺が向かってきたのに気付いたのか、おどおどし始める山本武。
⋮⋮こいつがもしも女だったら、すごいいいシチュエーションにな
りそうだ⋮⋮。
﹁よ、山本武。なんか用か?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
黙って俺をびくびくしながらも睨みつける。
﹁えーと、なんか俺に言いたい事があるの?﹂
﹁⋮⋮き、昨日⋮⋮一昨日⋮⋮﹂
やっぱり単語でしか話さない。こいつ、高校入試の面接の時、どう
したんだろ?
﹁昨日、一昨日って⋮⋮あれか?俺が陸上部の仮入部に行かなかっ
た事を言ってるのか?﹂
こくこくとうなずく山本武。いい加減山本武という言い方を変えた
197
いんだが、なんかいい呼び方は無いだろうか?
﹁だって、まだ仮入部期間だろ?それなら、陸上部以外のも回って
みてもいいじゃん。大体俺はまだ陸上部に入るって決めた訳じゃな
いけどな﹂
本当はかなりの確率で決定してるが⋮⋮今日の剣道部が駄目な時点
で自然と陸上部に行く事になってしまう⋮⋮。
山本武はすごくさみしそうな顔をする。いや、俺が悪い事をしてる
みたいじゃん⋮⋮。だからそう言う顔は止めてくれ。
﹁あれ?ヤス君がケン君以外の人と話してるなんて珍しいですね﹂
でた、アオちゃん。クラスで隣の席に位置するからという事で、毎
時間の休みに話しかけてくる。
昼休みの時間は他の女子と過ごすようなんだが、今日はちょっかい
を駆けてきた。
前に一度、何でそんなに話しかけてくるのか聞いたら、
﹁だって、構いたくなるような顔してますもん﹂
って言いやがった。どんな顔だよ!そんな変な顔してないよ!
で、そのアオちゃんが今俺に話しかけてきたという訳だ。
普通に話すようになったら負けな気がするので、相変わらずアオち
ゃんには敬語でしゃべってる。
﹁⋮⋮いや、そんな珍しくもないですよ⋮⋮?﹂
198
﹁珍しいですよ。ケン君以外の人にはヤス君から話しかけたのを見
た事ありませんもん、声をかけられたらちゃんと答えてましたけど﹂
そうだったかな。あんまり覚えてない。
﹁そういえばその人は⋮⋮陸上部の集合の時に見かけた事あります
ね。名前は知りませんが、教えてもらえませんか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁恥ずかしがりやみたいですね。ヤス君は知ってますか?﹂
﹁⋮⋮山本武<ヤマモト タケシ>って言いますよ⋮⋮﹂
﹁そうですか⋮⋮それじゃ、タッちゃんでどうですか?﹂
﹁またあだ名ですか!?しかもタッちゃんは色々まずいです!﹂
﹁⋮⋮うーん、難しいですね。ヤス君。何か無いですか?面白く分
かりやすくでお願いします﹂
またその振りかよ!その振りすごい難しいんだってば!
199
﹁え、えーと⋮⋮<ヤマピョン>⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
200
もうこの展開やだ⋮⋮。アオちゃん、どうつっこめばいいか分かり
ません。って顔しないでくださいよ。
こう言うのはケンが得意だろ?ケンがあだ名考えてくれよ。
﹁⋮⋮お、俺が⋮⋮や、ヤマピョン⋮⋮?﹂
いや、別にそれじゃなくていいよ。ヤマピョンはちょっと恥ずかし
くないか?つけた俺も恥ずかしい。
﹁⋮⋮や、ヤマピョン⋮⋮﹂
なんか決まりそうだ⋮⋮アオちゃん、別のを考えて下さい。お願い
します。そんなあさっての方を向いてないで下さい。
﹁⋮⋮う、うん⋮⋮﹂
いま、きっとこいつの中で、肯定したんだろうな、<ヤマピョン>
を。これからこいつの事を、ヤマピョンと呼ぶのか⋮⋮。
﹁それでは、私が二つ名を与えちゃいましょう!<猫娘キラー、子
犬>なんてどうですか?ヤマピョン。あ、ちなみに猫娘というのは
ヤス君の事ですよ﹂
﹁ちょっと待て!何で俺が絡んだ二つ名になるんだよ!?﹂
﹁だって、このヤマピョンのつぶらな瞳に怒鳴る事も出来ず、猫娘
ヤス君はただただヤマピョンを甘やかしてしまってます。それはま
さに子犬の仕草!私がどんなに苦心しても中々心を開かせる事が出
来ないのに、こんなにも簡単に開かせてしまったこの人には、まさ
201
に猫娘キラーの称号がふさわしいです!﹂
やっぱり、アオちゃんの思考回路はどこかおかしい。というか、別
に心を開いてなんて無いよ。
﹁ところで、何の話をしてたんです?﹂
﹁⋮⋮話をしてた訳じゃないんですが⋮⋮俺、昨日、一昨日には陸
上部の練習に参加しなかったじゃないですか﹂
﹁そうでしたね。私もずっと待ってましたのに⋮⋮よよよよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮そんな変な嘘泣きは止めて下さい⋮⋮、で、どうしたのかと
ヤマピョンが様子を見に来たみたいです⋮⋮﹂
﹁それはそれは⋮⋮ヤス君、なつかれてますね﹂
﹁⋮⋮何かした覚えは無いんですが⋮⋮﹂
﹁せっかくヤマピョンが来てくれたんですし、今日は陸上部に来ま
すよね?﹂
﹁⋮⋮俺、今日は⋮⋮けんど⋮⋮﹂
﹁あっ、ケン君と来るんですね。楽しみに待ってます﹂
﹁いや、ケンとじゃなくて、けんど⋮⋮﹂
202
﹁そんなケンケン言わなくても、ヤス君がケン君大好きなのは、ク
ラスのみんなが知ってますから﹂
その言い方止めて!二つ名<腐女子>ことナベリンが喜びそうだ!
⋮⋮ってか喜んでる!聞き耳たてないでよナベリン!
もうアオちゃんはほっといて、ヤマピョンに直接断ろうとヤマピョ
ンの方を向く。
﹁悪いんだけど⋮⋮今日は俺⋮⋮﹂
その寂しそうな目で見つめるな!お前は捨てられたチワワかよ!
⋮⋮⋮⋮俺は他の人なんてもう気にしないはずだったのに
﹁⋮⋮俺が陸上部に行けばいいのか?﹂
ついつい言ってしまった。⋮⋮負けた。こいつのすがるような目に
負けてしまった⋮⋮。
パッと嬉しそうな顔になり、こくこくとうなずく。
何がこんなになつかせてしまったのだろう⋮⋮。俺、こいつを喜ば
せるような事した覚えは無いぞ。
﹁わかったよ。今日は陸上部の練習に行くよ﹂
これで陸上部の入部が決定的になったな。剣道部の雰囲気がどんな
所かも分からないまま入部はしたくないし。⋮⋮決定打をケンでは
なくこいつにされるとは⋮⋮意外だった。
今回決まった一番大事な事は俺の陸上部入部が決定したという事だ
な。
203
まあいいさ、1人で走るあの雰囲気は嫌いじゃなかったし。
204
23話:マルちゃんの憂鬱
その後、ヤマピョンとは分かれ、午後の授業を受けて、
そのまま放課後になった。
﹁じゃあケン、陸上部に行くか?﹂
﹁あれ?剣道部にいかなくていいのか?﹂
﹁⋮⋮ああ、昼休みの時に、そうなってしまった⋮⋮﹂
俺は遠い目をしながらケンにつぶやく。
﹁よし!そうなったら、さっさと練習に行こう!ウララセンセが俺
を待っている!﹂
多分待ってないと思うよ⋮⋮ケン。
俺はケンとともに教室を出ようとしたが、ケンが立ち止まって、窓
側を見た。
﹁どうしたよ?さっさと行こう﹂
﹁⋮⋮いや、なんかマルちゃんの様子が変だなあって﹂
そうだったか?授業はまともに受けていたような気がするぞ。
﹁休み時間とかほんとに時々だけどボーッとしてるんだよ、で、気
付かれないようにため息をつく。恋の病かな﹂
205
﹁あー、俺、そう言う話はパス。﹂
﹁相変わらず枯れてるなー、⋮⋮いや、サツキちゃんに欲情してる
から、他の人に目がいかないのかな?﹂
﹁妹に欲情する訳ないだろ!?妹に対してそんなヨコシマな思いを
抱いた事はもうずっと前の事だ!﹂
﹁過去にあったんかい!!?⋮⋮そう言えばヤスって、﹃俺はサツ
キと結婚するんだーっ﹄て女の子の告白を振った事が無かったか?﹂
﹁それは小学校5年の時!実の妹と結婚なんて出来ません!﹂
﹁小学校5年で妹と結婚するんだって叫ぶ男は普通いません、って
か実は実の妹じゃないとか無いの?﹂
﹁⋮⋮残念ながら、中学生の時に調べた。ちゃんとした実の妹だ﹂
﹁お前って、このクラスで一番の変態だ﹂
﹁⋮⋮今は俺の事はもういい。で?ケンはマルちゃんになんか言う
の?﹂
﹁いや、俺はマルちゃんとはほとんど話した事がないからな。ここ
はヤス!君に決めた!﹂
﹁俺はケンのモンスターじゃない!﹂
﹁いや、そう言うツッコミはいいから、さっさと話してこいって﹂
206
﹁俺もほとんど話した事ないよ!﹂
﹁大丈夫だ、お前ならできる﹂
﹁その根拠は?﹂
﹁俺の勘だ﹂
﹁薄すぎだろ!むしろ根拠ゼロじゃんか!﹂
﹁時には直感で動く事も大事だぞ、ヤス、早くしないと練習に遅れ
る﹂
﹁⋮⋮⋮⋮わかったよ﹂
そう言い捨てて、俺はマルちゃんの席に向かう。
﹁⋮⋮どうした?何かあったようだけど⋮⋮﹂
俺は全然分からんが。
﹁あれ、珍しいねヤス。僕に君の方から話しかけるなんて⋮⋮でも、
よく分かったね。﹂
俺は気付かなかったけどな。
﹁んじゃ、ヤス君に聞いてもらおうかな﹂
めんどい、聞かせなくてよろしいです。
207
﹁僕さ、好きな子がいるんだ﹂
恋の話だよ!俺はそう言うの勘弁だって言ってるじゃん!ケンが話
をしろよ!
﹁⋮⋮はいよ、それで?﹂
﹁小学校のときからの同級生で、この学校には来てないんだけど⋮
⋮﹂
俺はケンに向かってSOSを送り続けるが、ケンのやつはさっきか
らずっと受信拒否だ。勘弁してくれ。
﹁今まで、すごく仲が良かったんだ。2人で遊園地とか映画とかに
も行ったし、デートもどきみたいな事ならほんと何回も⋮⋮﹂
ノロケか?これは俺はノロケをきかされてるのか?教室にもう誰も
いないからって、誰が聞き耳たててるか分からないんだから。
﹁今ももちろん、仲いいし、お互い家が隣同士だし、毎朝あって話
してるよ﹂
﹁あっ、そうですか⋮⋮﹂
ケンさん、もう帰らせて下さい⋮⋮お願いします、こいつの彼女の
話なんて聞きたくないっすよ。
﹁で、中学2年の秋から意識し始めてて⋮⋮気恥ずかしくなったけ
ど、それからもお互いの家に遊びに行ってたりもしたんだよ﹂
208
ノロケというのは、基本的に独り身の人が聞くと、腹が立つだけだ
という事をこいつは身を持って知るべきだ。
殴っていいか、おい。
﹁ずっと告白できなかったんだけど、高校が別になるからって、卒
業式の日に思い切って告白したんだ﹂
﹁⋮⋮ふーん⋮⋮﹂
王道だな。そこで結ばれてハッピーエンドってか?
幼馴染とのハッピーエンドなんてよかったじゃないか。
そういや、隣に住んでるんだから、別に中学卒業後もいつでも告白
できたと思うんだが⋮⋮いや、そう言うツッコミを言うのはよそう。
野暮だった。
﹁そしたら、返事が﹃おいら、やせててすらっとした人が好みだ、
これからもいい友でいようぜ!﹄だったんだ⋮⋮﹂
あれ?今変な単語が入ったよ?今時おいら?しかも﹁いようぜ﹂っ
てなかなか言わないよ。
﹁お前、それっておと⋮⋮﹂
﹁失礼な!あんな可愛い女の子はどこにもいないぞ!口調は男っぽ
いかもしれないけど、照れたときの仕草なんてそれだけでご飯が1
3杯はいけるよ!﹂
中途半端な数字だな。13っておい。
209
﹁撃沈した⋮⋮卒業と同時にやけ食いしちゃったよ。おかげでまた
太っちゃった﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁で、高校に入って思ったんだ。やせて、すらっとして告白したら、
OKがもらえるに違いないって﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁だから、運動部に入ろうと思ったんだけど⋮⋮ヤスに言われた通
り、初心者が多そうなハンドボール部に行ったんだけど、めちゃく
ちゃきつい上、上下関係が結構厳しくてさ。1日目で行くの止めち
ゃった﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁2日目、3日目も別の所いったんだけど、⋮⋮どれも合わなくて
⋮⋮なんか、僕疲れちゃったよ⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁もうやめよっかな、なんて思っちゃって⋮⋮今のままでも十分仲
いいし、それでいいかもってさ⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁⋮⋮えと、ヤス?どうしたの?途中からなんでずっと黙ってるの
?﹂
210
﹁⋮⋮⋮⋮けるな!﹂
﹁え?え?ヤス?どうしたの?﹂
﹁ふざけるなって言ってんだ!!﹂
﹁え?えと?な、何が?﹂
﹁俺なんか小学校5年の時まで、﹃俺はサツキと結婚するんだ!﹄
って言ってた、本当に結婚するつもりだった、もう妹大好きだった
んだ!そしたらある時、同級生の女の子から、﹃妹とは結婚できな
いよ﹄って言われて⋮⋮そんな訳無いと思って必死で調べたんだ!
でも⋮⋮法律上は妹と結婚できないって分かった⋮⋮その後も、色
々調べたんだ!もしかして養子だったりして血のつながりが無いん
じゃないかって!だから市役所に言って戸籍を見てきた!やっぱり
実の妹だった!海外で結婚できる所は無いかと探しまわったけど、
見つからない⋮⋮。2人だけで暮らして行ける場所なんて世界に無
いし。こうなったらもう結婚はできない⋮⋮せめて同棲でも出来な
いかと思って⋮⋮事実婚と言うやつを考えたんだ。でも!調べてみ
たら兄妹同士で産んだ子供は、障害が起きる可能性が高いんだ⋮⋮
妹のサツキは子供大好きなのに、子供ができても障害児の可能性が
高いなんて⋮⋮せっかくの子供にそんな目にあわせられないだろ?
最後は実は病院の手違いで本当は両親の子供じゃないんじゃないか
って考えも持ったさ。ひどい、俺は馬鹿だって事くらい分かってる
さ。でも、それぐらい必死だったんだ!そして、こつこつとお年玉
をためて、小遣いもやりくりして、3年かけてお金を貯めて病院に
兄弟DNA鑑定をしてもらった。3週間後、結果が帰ってきた⋮⋮
結果は当然ながら兄妹だ!こんなに色々調べたのに、3年も我慢し
たのに!結局残ったのはどうしようも出来ないという事実だけだ⋮
⋮﹂
211
﹁⋮⋮ヤ、ヤス⋮⋮﹂
﹁⋮⋮いいんだ、俺はもう吹っ切ったから。でもな、お前なんてや
せればいいんだろ!?簡単じゃないか!頑張れよ!頑張れば報われ
るんだぞ!世の中にはどんなに頑張ってもどうしようもない事がい
っぱいあるんだぞ!報われない人がこんなに大勢いるってのに、お
前は何甘ったれた事言ってんだ!!﹂
﹁⋮⋮え、えと、ごめん⋮⋮﹂
﹁ごめんですむか!絶対やせろよ!有言実行しろ!﹂
﹁⋮⋮は、はい⋮⋮﹂
﹁声がちいせえよ!やる気あんのか!?﹂
﹁はい!﹂
﹁よし!んじゃ部活行くぞ!!﹂
﹁はい!!って?え?﹂
﹁行くんだよ!部活に!さっさと来い!﹂
﹁いや、僕は⋮⋮﹂
﹁ちゃんとやせる努力するか、俺が見張ってやる!ついてこい!俺
の言う事が聞けんのか!﹂
212
﹁は、はい!!﹂
﹁よし、マルちゃん、陸上部に行くぞ!﹂
﹁俺は何を口走ってんだ⋮⋮﹂
キレる中学生じゃあるまいし⋮⋮あの後、ケンからもうものすごい
哀れみを持った目で見られた。
213
いつもならいじる所だったのだろうが、さすがに内容が内容だった
だけに⋮⋮何も言えなかったのだろう。
結局、今日の長距離には、無理矢理つれてこられたマルちゃんと、
俺になついているヤマピョン、そして意気消沈している俺の3人が
1年生だった。練習は前回と一緒。⋮⋮長距離はこんな物なのかな?
214
23話:マルちゃんの憂鬱︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
オリンピックも終わりましたね⋮⋮。
男子4×100メートルリレーは日本3位!
良かったです。
主人公ヤスは変人です。
いつの間にかこんな人になってました。
今後ともよろしくお願いします。
215
24話:正式入部
土日を過ぎて、今日は4月21日月曜日、部活の正式入部が決まる
日だ。
土曜日は居心地が悪かった。ケンが遊びに来て、ひたすら俺のこの
前の話をサツキに話そうとした。
どうやら、本当に話す気はないようなのだが、ケンに完全に弱みを
握られてしまった。
あの話は全部俺が家族にばれないようにこっそりとおこなった事だ。
家族にばれれば何言われるか分からん。両親は日曜日以外は家にい
ないから何とかなったが、サツキにばれないようにするにはほんと
に苦労した。
今となってはただの思い出だ⋮⋮
﹁さて、今日は自分たちの入る部活を決定する日です。みなさんは
もう決めたかな?﹂
帰りのホームルームで、ウララ先生が確認をとっている。
﹁じゃあ、今から入部届けのプリントを渡すので、それを各部の部
長に渡して下さいね、それを渡した時点で正式に入部した事になる
から﹂
プリントが配られる。陸上部、1年3組近藤康明っと。よし、書い
た。
216
﹁今日部活が無い所もあると思うけど、これからの初めての部活の
時に渡してくれれば大丈夫。⋮⋮後、今週末には新入生の集団宿泊
研修があるから、忘れないようにしておいて。⋮⋮以上で終わりま
す﹂
﹁きりーつ、れい﹂
﹃さよーなら!﹄
俺は号令係、兼クラス委員。毎日号令してる。
最初は渋々だったが、もう慣れた。人間とは慣れる生き物だ。とは
誰かが言っていた気がするが、誰だったかな?
俺は陸上部にケンと行く。ついでにアオちゃんも一緒だ。
マルちゃんも陸上部に入るらしいけど、一緒にはいない。マルちゃ
んは俺のこの前の豹変っぷりにびくついてるのか、完全に俺を避け
るようになってしまった。
アオちゃんは俺の豹変が見られなくて残念ですと、馬鹿な事を言っ
ていた。
自分のクラスからは計4人が陸上部に入る事になったのか⋮⋮。
217
﹁新入生のみなさん、陸上部に入部してくれてありがとう。知って
る人も多いけど、私が顧問のウララです。﹂
先ほど、さよーならって言ったけど、ウララ先生にまた会ってる。
今は陸上部の練習前の集合だ。ウララ先生が挨拶してる。
ってか、自分の名前すら言わなくなったな。あだ名しか紹介してな
い。
そのうち本名が忘れられるんじゃないか?
⋮⋮新入生は全部で10人か。男子が7人、女子が3人。
今、2年生が9人、3年生が10人いるから、大体例年通りなのだ
ろう。
﹁今日から部活が本格的に始まりますが、陸上部のモットーは﹃ノ
ビノビと楽しく明るくたくましく﹄です。きつい練習も当然ありま
すが、そんなときもたくましく頑張って、楽しく明るく声を掛け合
っていきましょう﹂
5・7・5になっているのは覚えやすいようにわざとしてるんだろ
うな。
まあ、どうでもいいか。
﹁今日、練習後に歓迎会やりますから、自己紹介はその時にしまし
ょう。﹂
先生公認の歓迎会か⋮⋮自己紹介をまたしなきゃいけないのか。め
んどい。
﹁それでは、今日の練習を始めましょう﹂
218
その声とともに、短距離と中長距離に別れる。
長距離グループに来た1年は全部で4人だった。
俺、ヤマピョン、マルちゃんにもう一人、初めて見るやつだな。
今まで練習に来た事が無いんじゃないか?今まで来ないで決めてし
まって大丈夫なんだろうか?
まあ、そいつは先輩達の中に知り合いがいるらしく、先輩達に混じ
って話しながらストレッチしてるから、特に問題はないだろう。
俺も本当は長距離のストレッチについて、短距離と違いがあるのか
を聞いておきたいのだが、ヤマピョンが何故か先輩と距離を置こう
とし、それに俺が付き合わされているので、聞けない。
何でヤマピョンはこんなに先輩に対してびびってるのだろうか?先
輩達、一体何をしたんですか?
マルちゃんは俺から距離を置こうとしてるのか、先輩達の方へ行っ
てしまった。
必然的に、ヤマピョンのお世話は俺がしなきゃいけなくなる。
⋮⋮人との付き合いは最低限にって決めてたはずなんだがな⋮⋮
﹁じゃあ、ヤマピョン。とりあえず、ちゃんとストレッチしておく
か﹂
﹁⋮⋮う、うん⋮⋮﹂
ヤマピョンはぼそぼそとしゃべってても、怒鳴ってもビビる。平坦
219
な調子でおだやかにしゃべらないと、びくつく。
単語でしか話さないから、何を言いたいのか、理解に苦しむ場合が
多い。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
お互いに体が硬い。ヤマピョンがつい息を止めて踏ん張ろうとして
しまってるが、それでは逆効果だ。
﹁前にも行ったと思うけど、呼吸はゆっくりとする事。息を止める
のは効果が薄い﹂
﹁⋮⋮ご、ごめん⋮⋮﹂
ごめんって言うなって言うと、またごめんと謝るから、謝られても
もう反応しない事に決めた。
だが、このまま、放っておくと、怒っちゃったのかとまたびくつく
らしい⋮⋮しょうがないから適当に話を振る事にする。
﹁それにしても2回参加したけど、2回とも外回り回るだけだった
よな。他の練習ってしないんかな?﹂
﹁⋮⋮え、と⋮⋮﹂
何か言おうとしているのは分かるんだが、気が長い方ではないぞ。
いや、最近はこいつのおかげで気が長くなった気がする⋮⋮。
﹁⋮⋮い、一緒⋮⋮たくさん⋮⋮ざ、残念⋮⋮﹂
220
⋮⋮難しい⋮⋮、適当に単語をつなぎ合わせてみる。いつも一緒の
練習ばっかりたくさんしているから残念だ。と言いたいのだろうか?
やっぱり、他の練習もしたいって思ってんのかな?
﹁おーい、そっちの2人!今日の練習内容発表するから、こっちに
来い!﹂
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
俺とヤマピョンは呼ばれて、全員の所に集まった。
221
25話:部内レース
俺とヤマピョンが集まると、部長らしき人が話し始める。
﹁まず、1年生の現在の実力を知りたいと思ってる。だから、今日
の練習は全員でレースをするぞ﹂
部長らしき人が、今日のメニューを告げる。いきなりレース!?お
かしくないか、それ?
大体、体力テストで、実力って分かるもんじゃないの?
﹁確かに体力テストの結果でも多少は分かるが、実際に走って、そ
の結果を見た方が分かりやすい﹂
まあ、確かにそうかもしれないが、今日初めて来たやつなんて、い
きなりレースはきつくないか?
今まで仮入部期間、どこにも行ってなかったとしたら、運動を今日
までほとんどしてないってことだぞ?
そんなやつが走ったら、怪我しやすくなるだろ?
﹁コースは、この学校の外回りのコースを3周だ。1周が大体1k
mぐらいだと思う。途中で無理だと思ったら、リタイアしてくれ﹂
なるほど、マルちゃんが走りきるのは無理だと思ったんだろうな。
この前も1周でばてて休んでたし。
﹁じゃあ、後5分後に始めるぞ!﹂
222
時間みじかっ!レース前って何すればいいの!?
とりあえず、周りの先輩達が、流し︵100mくらいの距離を70
∼80パーセントで走る事︶を始めたので、俺も真似して流しをし
ておく。
短距離に比べて、ウォーミングアップの時間が絶対短い気がする。
気のせいか?
﹁じゃあスタートするぞ、この校門前がスタートで、ゴールでもあ
るからな。﹂
﹁位置について﹂
パンと手を打った。あれ?ヨーイって無いの?
一斉に走り出してるし。1年生組は全員で出遅れた。
先輩!教えとけよ!
慌てて走り出す。3周もあるので、50mと違ってこれぐらいの遅
れはどうにかなる。時間にして1秒も無いだろう。
マルちゃんともう一人の1年生はさっさと置いてかれてしまった。
俺は、1番遅い先輩の後ろにつく。初めてのレースなんだから、ど
んなスピードで走ればいいか分からないから、とりあえずついて行
く事にしたのだ。ヤマピョンも同じ事を思ったのか、俺の後ろにつ
いた。
⋮⋮しかし、いままでスローペースでの練習しかしてなかったから、
きつい。
半周走った時点で、もう息が切れてきた。
と、ここで、ヤマピョンが前に出た。なんかじれたみたいに飛び出
223
した。
⋮⋮あいつ、意外と速いんだな⋮⋮もしかすると中学校のときも陸
上部だったのかも。
もう俺の前を走っている先輩をも抜かして、ヤマピョンはどんどん
と前に行く。
俺はヤマピョンは無視して、この先輩に食らいつく。
⋮⋮やっと1周だ。あと2周もあんのか⋮⋮。
まだ半分も走ってないかと思うと、気が遠くなる。
こう言う時は、先の事を考えちゃ行けない⋮⋮。
俺は前の人の足だけをじっと見つめ続ける事にした。
タッタッと走る音に合わせて俺の足も動かす。
なんかこうしてると、体が勝手に動いているような気分になる。
2周目が終わった。
2周目が終わった時点で、今まで後ろにずっと食らいついていたの
に、完全に置いてかれた。
さっきの体が勝手に動いているような感覚はまやかしだったみたい
だ。
息もきれて、ゼーゼーいっている。苦しくて仕方が無い。
ぶっちゃけ、もう止めたい気分だ⋮⋮。
電柱を見るたびに、あの電柱までは知ったら止めよう。そしてそこ
まで走ったら、また次の目印を見つけて、そこまで頑張ろうと叱咤
する。
224
止めるのは負けた気分だ。とりあえず完走だけはしてやる!
後半周だ!ここまで来たら、ゴールが見えてくる。
重くなって動いてくれない足を何とか上げて、ノロノロと走る。
さっきまではタッタッというリズムだったのに、トテ、トテ、と言
うリズムも何もあったような走りじゃない。
そんなに暑くないのに、Tシャツも汗でベトベトだ。
校門のゴールが見えてきた。なんだかゴールが見えた途端に足が回
復したのか、全力疾走する。
きつい⋮⋮もうゴールした人たちが、座って俺の事を見ている。
やっと3周だ⋮⋮何とか走り終わった⋮⋮。
俺は地面に倒れ込んだ。ゼハーゼハーとさっきから声を出す事も出
来ない。
﹁お疲れ様﹂
先輩が声をかける。話しかけないでくれ、きついんだ。
﹁君が最後だね﹂
⋮⋮あれ?俺の後ろにはまだ1年の2人がいたはずなんだが⋮⋮
﹁後ろの2人はリタイアしたから、実質君が最後なんだよ﹂
疑問が俺の顔に出てたのか、先輩が教えてくれる。名も知らぬ先輩
よ⋮⋮ありがとう。
225
数分経って、息が整ってきたので、俺は立ち上がって長距離のグル
ープにいる所に行く。
﹁おー、やっと復活したか。今日のレースで、1年生の実力が大体
分かった。お前はずいぶん速いんだな﹂
ヤマピョンに声をかける。びくびくして返事をしない。ヤマピョン、
何でもいいから声を出せ。
﹁⋮⋮ふぅ⋮⋮後、ドベだったが、何とか完走したお前、お疲れさ
ん。2、3年の最下位とそんなに差はないぞ。追い抜けるかもな﹂
﹁⋮⋮はい、ありがとうございます⋮⋮﹂
俺はとりあえず返事をしておいた。俺にはそこまで期待をかけない
でおいてくれよ。
ってかヤマピョン、ため息つかれたぞ。反応しとかないと、居づら
くなるぞ。
﹁後、残りの2人、今後はもっと距離を走れるように頑張るように、
特に弟よ。お前もっといけただろう?
あ、まだ名前を知らない1年生のやつ、あの人の弟だったんか?だ
から入部したんだな。
結局マルちゃんはどれくらい走ったんだろ?
226
﹁兄貴、それは無理だ﹂
﹁一応、ここでは敬語で話そうな。以上、今日の練習はこれで終わ
りだ。﹂
この後、ストレッチをして、ウララ先生の所に挨拶にいった。
今日は歓迎会があるからか、短距離の方ももう練習は終わってたみ
たいだ。
ふう、初めてまともな練習だった気がするな。
227
26話:新入生歓迎会、開始
部室に行き、着替え、その後新入生歓迎会の会場へ行く。
ここの高校の近くにはいい店が無いみたいで、電車で隣の駅まで移
動だ。自転車通学してる人は、そのまま自転車で隣の駅まで行くら
しい。
﹁あ、ケン、サツキに今日遅くなるって連絡しとくから先に行って
て﹂
﹁あいよー、了解﹂
公衆電話を探して、サツキの携帯に電話をかける。
最近公衆電話減ってるよなー。携帯が普及してるからしょうがない
んだろうけど、携帯持ってない人には不便だ。
﹁お客様がおかけになった電話は、現在、電波の届かない所にある
か、電源が入っていないため、かかりません。お客様の︱︱。﹂
ちっ、サツキのヤツ、電源切ってんのかな。それじゃ携帯の意味な
いじゃん。
もう後2回かけ直したが、やっぱり電源が切れててかからなかった。
仕方ない、後でまたかけ直そう。
行った所は駅から15分ほど歩いた所にあるファミレス。ファミレ
スを選んだのは、ドリンクバーだけで長い時間入れるからとのこと。
228
30人が入れる大会場にしようか迷ったらしいが、高校生の資金を
考えてファミレスを選んだそうだ。
うん、その考えはいいと思うぞ。でも、予約なしでつっこむのはあ
まりにも危険だ⋮⋮﹁30人なんですけど空いてますか?﹂なんて
聞くやつは普通いない!まだ混んでいる時間前に来れたから何とか
全員座れてよかったが、もし座れなかったらどうするつもりだった
んだ⋮⋮。
禁煙席にしてもらって、出来る限り近い所に全員が集まり、オーダ
ーする。
ってか、誰も食事を注文しなかった。全員がドリンクバーのみの注
文だ。
客席の4分の1を俺たちが占めた上に、ドリンクバーしか注文しな
いってどれだけ営業妨害なんだろう。
オーダーと同時に全員でドリンクバーに殺到⋮⋮って他の客がドリ
ンクバーが使えなくなってる!まずいって!20人以上もそこに行
列作るなよ!
せめてテーブルごとに代表者がいこうよ!
全員がドリンクを持った時点で、ウララ先生が、挨拶をする。
﹁じゃあ、みなさん!今から新入生歓迎会を始めます!﹂
パチパチと一斉に拍手する。かなりの大音量がファミレスの店内に
響く。さっきからいいのか!?
﹁最初の自己紹介の時間だけは今座っているテーブルについていて。
全員の自己紹介が終わったら、各自自由に好きな所に移動して構わ
ないから。でも、お店に迷惑かけちゃ駄目だよ﹂
229
もう十分迷惑かけてます!さっきから店にいるお客さんがうるさそ
うにちらちら見てるの気がついてないんですか?ウララ先生!?
⋮⋮もう今後は気にしないようにしよう。気にしたら負けだ。
﹁じゃあ、どっちからにしようか?フレッシュな1年生からか、老
けこんだ3年生からか﹂
ウララ先生!老けこんだはひどいです!まだ先生よりも若いんです
から、みんなフレッシュですよ。それをいうなら、先生が一番老け
こんでます。
﹁⋮⋮今失礼な事考えたヤス君からね!1年生のみんな、恨むなら
ヤス君を恨みなさい!﹂
何で分かるんだよ!先生はエスパー?⋮⋮じゃあ、先生きれいです
よー。
﹁さあ、ヤス君。早くお願いします﹂
今度は心を読んでくれなかったか⋮⋮。
﹁1年3組、こんど⋮⋮﹂
﹁ヤス君!本名なんて言わなくていいですから、あだ名と二つ名、
陸上経験、今後やる種目、過去の汚点、そして自己主張をお願い﹂
﹁なんで!?本名が一番大事じゃないんですか?しかも過去の汚点
ってなんですか?必要ないです!﹂
230
先生、訳分からない事言わないで下さい。ついでに言わなきゃいけ
ない事結構多いな。
﹁本名なんて分からなくても、その人だとわかる言葉さえあれば、
それで十分じゃない。だいたい、呼ばれ方って多すぎると思う!人
によってそんなに呼び方が違ってたら、聞いてる人って混乱すると
思わない!?サザエさんなんて、<サザエ>、<姉さん>、<お姉
ちゃん>、<ママ>、<磯野君のお姉さん>、<サザエさん>、<
奥さん>って多すぎよ!﹂
そんなに呼ばれ方にこだわりがあるのか。でもあの話、別に見てり
ゃ誰の事指してるのかすぐわかるだろ?
﹁ヤス君だって今現在、既に妹さんから<ヤス兄>、男性陣からは
<ヤス>、女性陣からは<ヤス君>。3つもあるのよ!﹂
妹からヤス兄って呼ばれてる事、何でそれを先生が知っているのか
を問いたい。しかも全部に<ヤス>ってはいってるんだから分かり
にくくもないだろ?
﹁これに、本名を入れて見なさい⋮⋮<近藤><近藤君><康明>
<康明君>の4つが増えて、呼ばれ方は計7つ!私はそんなに覚え
られない!﹂
それぐらい覚えようよ、先生。ってか覚えてるじゃん!しかも先生
が、ちゃんと本名言ってくれてるんだから、言ってもいいんじゃね?
﹁それに、本名を名乗ると、呪いをかけられるんだよ。親からもら
った大切な名は心の中にしまっておく事にしなさい﹂
231
﹁先生初めてあったとき、しっかり名乗ってましたよ!?今更何言
ってんですか?だいたい呪いをかけられるのは、忌み名とか真名と
かです!﹂
﹁そんな分かりきった事をつっこまなくて結構よ、そんな訳で、今
日言うのはあだ名と二つ名だけで十分なの。﹂
﹁どんな訳ですか!?脈絡が無いです。それに、それならあだ名だ
けでいいじゃないですか!あだ名と二つ名の2つ覚えるのはそれこ
そ面倒ですよ!﹂
﹁二つ名があった方が面白いのあるかもしれないじゃない﹂
﹁超自己中ですね!この変人教師!!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮はっ、しまった⋮⋮つい本音が
出てしまった。
⋮⋮おそるおそる先生の顔を見ると、死神が乗り移って、俺の魂を
今まさに狩ろうかと言う恐怖の笑顔をしている。
﹁⋮⋮はやく自己紹介始めましょう、過去の汚点は必ず言うこと﹂
232
先生の笑顔が怖い⋮⋮。
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
今のも過去の汚点なんだが⋮⋮その事言っても通じなさそうだな。
あの先生には勝てない⋮⋮。
﹁⋮⋮1年3組、あだ名は<ヤス>、二つ名は<猫娘>。中学まで
は野球部だったので陸上経験はありません。入部したら、長距離を
やっていこうと思ってます。過去の汚点は⋮⋮いくつかありますが、
軽めの物を⋮⋮﹃中学校1年生のプールの授業の時に、飛び込んだ
ら下に同級生の女の子が居て、その子の顔面に、俺の股を激突させ、
しかもその勢いで、海パンが脱げた事﹄です⋮⋮自己主張は特にあ
りません。﹂
﹁⋮⋮うわっ⋮⋮﹂
﹁ほんとに過去の汚点をしゃべった、馬鹿だあいつ﹂
﹁今のが軽いって?俺なら恥ずかしくて、絶対引きこもりになるよ。
一体何して生きてきたんだ?あいつ﹂
⋮⋮あれ?
﹁ヤス君、過去の汚点は私の冗談。これからの人はわざわざ言わな
くてもいいですよ﹂
え!?何それ?俺1人の暴露大会!?
ひどい、ウララ先生!大体さっきまでの恐怖の笑顔で冗談言われて
233
も通じません!
﹁ちなみにその子とはその後どうなったの?﹂
﹁⋮⋮それを言うのは勘弁して下さい⋮⋮﹂
その時は本当なら女の子の首がめちゃくちゃ危なかったけど、プー
ルにほとんど浸かってたからか、奇跡的に怪我をせずにすんだ。
⋮⋮今はどうしてるんだろ、きっと元気にしてるんじゃないかなぁ
⋮⋮。
234
26話:新入生歓迎会、開始︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
プールに飛び込む時は前方に注意して、人がいないのを確認してか
ら飛び込んでください。
ヤス君のような真似はしないでください。
もし事故が起きたらこんな風に笑い話になりませんもんね⋮⋮。
今後ともタスキをよろしくお願いします。
235
27話:新入生歓迎会、自己紹介
俺の恥ずかしい暴露が終わった後、1年生の面々が順々に発表して
いく。
1年3組以外のメンバーは、ほとんどあだ名なんて決まっていなか
ったので、まずは1年3組からの発表だ。
﹁1年3組、あだ名は<ケン>、二つ名は<忠犬>、やりたい種目
は短距離で、今まで野球部だったから陸上経験はありません。俺は
ウララセンセと永遠の愛を育む事を誓います!﹂
おい、こんな場で告白かよ!玉砕に決まってんじゃん!
﹁はい、次はマルちゃんね﹂
ウララ先生、スルーかよ!あんなに頑張ってたのに⋮⋮、ケンって
おちゃらけてるけど、そこまで言った事は無いんだぞ!せめて思い
っきり振ってやれよ!
⋮⋮あ、ケンがショボーンとしてる⋮⋮可哀想に⋮⋮。
﹁1年3組、あだ名は<マルちゃん>、二つ名は<緑のタヌキ>、
やる種目は長距離で、ずっと帰宅部なので、陸上経験どころか運動
経験がほとんどありません。⋮⋮僕は太ってるので、やせる事が目
的です。ヤスに無理矢理連れてこられただけなのですが、そんなの
は忘れて精一杯頑張ります﹂
俺を悪者にするな!わざわざ悪評を垂れ流すのは止めてくれ。実は
236
無理矢理連れてきたの、根に持ってんのか?でも、あの時はしょう
がなかったんだ。
﹁1年3組、あだ名は<アオちゃん>、二つ名は<天然>、私は短
距離志望です。今まで吹奏楽部でしたのでマルちゃんと同じく、陸
上経験はありません。私もヤス君に迫られて、今ここに居ます。ユ
ウと一緒に頑張っていこうと思いますのでよろしくお願いします﹂
アオちゃん、君は俺をどうしたいんだ!?
確かに俺は吹奏楽部にするか、陸上部にするか答えを聞いたよ?だ
から、今言った事は間違いじゃないと思う。
でも、言い方があるだろ!?その言い方は別の意味に感じるぞ!こ
こに居た8割の人間がこっちを軽蔑の目で見たぞ!
特にどこからかはわからなかったが、殺気が感じられた気がする⋮
⋮。ユウって言うアオちゃんの彼氏かな?嫉妬か?
⋮⋮勘弁してくれよ、一瞬寒気がしたぞ⋮⋮。
ここで、1年3組は打ち止めだ。
あと、あだ名がついてるのは、さっきからずっとへばりついて俺の
隣に座っているヤマピョンくらいなんだろうが⋮⋮、こいつがちゃ
んと自己紹介できる気がしない。
と思っていたら、別のテーブルのとこからガタンと立ち上がった女
子生徒が俺を睨みつけてきた。
一言で言えば超ちびっ子。二言目を言うなら、色黒。
目はおおきく、ちょっとつりあがっていてきつそうな印象を受ける。
今は睨まれているからなおさらだ。かわいいんだけど、高校生には
見えない。小学生に見える。
第一印象では、すごい元気そうな子だなあ。
ってか何で俺は睨まれているんだろう?
237
じっと見てたら、俺に向かって叫んだ。
﹁1年2組、さっき、話にも出てきたユウこと<ユッチ>!二つ名
は<黒の弾丸>!!今まで短距離やってきたからこれからも短距離
!中学校3年間陸上部だったから、陸上経験は3年。去年の県大会
決勝のリレーの時に、バトンを落として失格になったから、雪辱を
果たすのが目的だったけど⋮⋮もうひとつ目的が増えた⋮⋮それは、
ヤス!お前をつぶす事だ!!お前みたいな変態に、アオちゃんは渡
さない!!﹂
﹁ちょっと待て、俺はまともだ!変態なんかじゃない!﹂
変態扱いされたままなのは、いくら人誤解されたままでは嫌だった
ので、つい立ち上がってユッチと自称したやつを見据えて怒鳴る。
そういえば、アオちゃんの言ってたユウというのは、女だったんだ
な。きっと彼氏だと思っていたが、親友だったか。
確かに、ユウという名前の女性、友や優衣と言う字を書く人もいる
もんな。
⋮⋮ところで、さっきから新入生歓迎会のはずなのに、なぜこんな
に矢面に立たなくてはならないんだ⋮⋮歓迎会ってのは祝われる事
ではなくて、罵倒される事だったんだな⋮⋮。
﹁嘘をつけ!さっきも女の顔に、自分の何も履いてない股をなすり
付けたって宣言して、アオちゃんに無理矢理迫ったりしたって言わ
れてたじゃないか。それのどこが変態じゃないんだ!?﹂
勘弁して下さい⋮⋮一つ目のは事故です、そんな卑猥な言い方を女
の子が叫ばないで⋮⋮。
二つ目のはアオちゃんの言い方がまずかっただけです⋮⋮。しかも
無理矢理って言ったのはアオちゃんじゃないよ!
238
﹁ついでにアオちゃんから聞いたぞ!お前、中3の頃に、中2の妹
の寝込みを襲ったらしいじゃないか!﹂
ザワッと陸上部員達がどよめく。⋮⋮今日俺は、一体どれくらいの
汚名をかぶればいいんだ⋮⋮。
﹁襲ってない!誤解だ!﹂
﹁そうそう、襲ってないよ﹂
ケンが先ほどまでショボンとしてたが、復活して俺を笑顔で援護し
てくれた。ナイスだ!ケン!今、お前は俺の天使だ!
﹁ヤスはただ一緒に寝ただけだよ、妹を抱きしめて﹂
一瞬でこいつは俺を奈落の底へ突き落とした。くそ、さっきの笑顔
は天使みたいだったけど、実際は悪魔の笑顔だったんだな。
ってか何でそこまで知ってるんだよ!事実だから言い返せんじゃな
いか!
﹁俺を罵声から助けてくれるんじゃないのかよ!﹂
﹁何を言う、こんな良いいじる機会から、何故わざわざ救わなきゃ
いけないんだ﹂
もう、どうにでもなれという感じだ⋮⋮。これ以上、俺の評判が下
がる事は無いだろう⋮⋮なぜなら既に最底辺だからだ。
﹁一瞬でもお前を天使だと思った俺が間違いだった﹂
239
﹁天使か、いい響きだ、確かに俺は天使かもしれない。⋮⋮天界の
しがらみから地面に降り立った墮天使と言うやつさ﹂
﹁訳わかんねーよ!﹂
俺はケンとのいつものやりとりで、この場をごまかそうと試みた。
だが、黒い弾丸ことユッチはそんな俺の狙いを弾丸のごとく粉々に
ぶち壊す。
﹁とにかく、お前はボクの敵だ!半径10メートル以内に入るなよ
!アオちゃんにも同様だ!﹂
﹁いや、お前はともかく、アオちゃんは席が隣なんだけど⋮⋮第一、
今多分距離は10メートル無いぞ﹂
﹁っ!うるさい!減らず口を叩くなあ!この馬鹿!あほ!まぬけ!
オタンコナス!お前なんか嫌いだあ!!﹂
そう言ってがたんと席に着いた。
最後のはガキのケンカだったな⋮⋮ずいぶんと長い自己紹介になっ
た。
ユッチの二つ名、黒い弾丸というのは言い得て妙だな。髪の色も真
っ黒な上に、肌の色も日に焼けていて黒い、いや、この時期に日に
焼けているのは変だから、地肌が黒いのか?
しかも、弾丸のように自分の意見をこれと決めたら、てこでも動き
そうにない。猪突猛進とはユッチのようなやつにある言葉だ。
﹁はい、次の人∼、どんどん言っちゃって下さいね∼﹂
240
⋮⋮ウララ先生は本当にマイペースな方ですね。
241
28話:新入生歓迎会、自己紹介の続き
1年生は10人、かなり長い時間過ごしている気がするのだが、ま
だ半分の5人しか紹介していない。
ユッチとの馬鹿な言い争いを終え、それに続いたのはユッチと同じ
クラスの2人だった。
﹁1年2組、あだ名は<オオリン>、二つ名は<キング>!﹂
﹁1年2組、あだ名は<スギヤン>、二つ名は<ナイト>!﹂
何で2人で立つの!?どっちかどっちか分からなくなるよ!
オオリン:﹁俺たちの種目は短距離だ﹂
スギヤン:﹁中学まではオオリンとともに、バスケをやっていた﹂
オオリン:﹁俺はガードだったから、チームの司令塔である<キン
グ>﹂
スギヤン:﹁俺はドライブしてつっこんでいく役割だから、<ナイ
ト>﹂
オオリン:﹁本来なら、高校でもバスケをやるつもりだった﹂
スギヤン:﹁だが!﹂
2人:﹃陸上部にはエースが、そしてクイーンまでもがいた!﹄
⋮⋮⋮⋮エースって言われる人はどの部活にも結構いるぞ?
野球部だったら、一番手のピッチャーはエースだし。サッカー部だ
ったら、点取り屋をエースアタッカーって言う。
陸上部でも、速い選手の事をきっとエースと言うんだろう。
でも、クイーンってなんなんだ!?女王ってことは鞭でも持ってん
242
のか!?
オオリン:﹁だからこそ、俺たちは陸上部に入った﹂
どんな理由だよ!?ってか訳分からねえよ!
スギヤン:﹁4人そろえば完璧だからな﹂
お前らはトランプか!?そうなんだな?
オオリン:﹁目標は4人でリレーを組むこと﹂
スギヤン:﹁それが俺たちの目標﹂
2人:﹃以上だ!﹄
⋮⋮終わった⋮⋮なんだったんだろうか?みんなぽかーんと2人を
見ている。例外はウララ先生だけだ。
息ぴったりだったんだけど、正直、俺にはもうどっちがどっちかわ
かりません⋮⋮。
ってか、4人でリレーさえ組めればそれでいいのか!?インターハ
イに出場するとかまでは無くても、県大会出場とかあるだろ!?
⋮⋮まあ2人とも短距離で練習を一緒にしないし、こいつらは多分
つっかかってこない。クラスも違うんだから、そんなに接点は無い。
⋮⋮⋮⋮うん、変人だったしもうどっちがどっちかを覚えるのは止
めた。スギヤン&オオリンはコンビで覚えておこう。
残りは3人、隣に居るヤマピョンはいつ自己紹介するのかな?こう
言うのは後になれば後になるほど期待感が高まったり、疲れてきて
やりにくくなるもんなんだが。
243
と、また別の人が立った。
お、この人は、今日一緒に長距離で練習した人だな。どんな人なん
だろ?
﹁1年1組、あだ名は<ノンキ>、二つ名は<凡人>。種目は長距
離、陸上経験はないです。兄貴に誘われて入部です。以上﹂
めちゃくちゃ簡単な紹介だった。まあ、実際毎回毎回長いと、めん
どくなってくるもんな。
﹁ヤマピョン、今自己紹介しないと、1年のトリを締めなきゃなら
ん事になるぞ。﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
フルフルと首を横に振る。自己紹介しないつもりか?
﹁大丈夫。さっきのノンキってやつみたいに、簡単にすませればい
い。無理そうだったら俺がサポートするから﹂
﹁⋮⋮う、うん⋮⋮﹂
ヤマピョンがそーっと立とうとした時、もう1人が立ってしまった。
⋮⋮これでお前はトリだ、頑張れ、ヤマピョン。
立ったのは、3人いる女子の最後の人だ。
結構ドのきつそうな眼鏡をかけて、髪を3つ編みにしている。
うーんと⋮⋮結構ぽっちゃり系な人だな。でも、胸はあんまりおお
き⋮⋮げふんげふん⋮⋮毎回ごめんなさい。
244
そのぽっちゃりとした女子が話し始める。
﹁あだ名は<ポンポコ>、二つ名は<軍師>。私は走るつもりはな
い、マネージャーをする予定だ。陸上経験はないな⋮⋮。若輩では
あるが、よろしく頼む⋮⋮関係ないが、三国志のファンだ、誰か他
に知っている人が居たら、夜通し語り合おう﹂
ポンポコさんか、かわいらしいあだ名だ。しゃべり方は硬いが確か
にポンポコっぽい雰囲気はある。
それにしても、夜通しって⋮⋮すごいファンだな、ポンポコさん。
⋮⋮三国志演義なら読んだ事はあるが、史記の方は無い。夜通し語
るのは俺には無理だ。しゃべり方が硬いのは、その影響か?
それはおいといて、ついにヤマピョン一人になったな。もうブルブ
ル震えてる。
ええ、袖をしがみつかないで下さい、そう言うのは女性にしてもら
いたいです。
男にされても嬉しくない、むしろ悲しいです。
ほんとは放っておきたいんだが⋮⋮くそ⋮⋮目が訴えてる。助けて
くれって⋮⋮。
﹁おーい!後1人残ってるぞ!誰がしてないんだ!?﹂
先輩たちがせかす。分かってるよ、でもちょっとは気を長くして待
ってくれ。
﹁⋮⋮息をゆっくり吸え、で、ゆっくり吐く⋮⋮とりあえず、ほと
んどは俺がしゃべってやるから、あだ名だけ言ってみよう﹂
245
﹁⋮⋮う、うん⋮⋮﹂
そろそろと立つ、本当にゆっくりだったので、自分のテーブル以外
のテーブルに座っている人たちは、立った事に気がついてない。こ
のままじゃ言っても気付かないだろう。
パン!!
手を叩き大きな音をたてて注目させる。みんな見てて、ヤマピョン
がすごい緊張しているのが分かるが、なんとか気を張って立ってい
るようだ。
﹁⋮⋮や、ヤマピョン⋮⋮﹂
消え入りそうな声だったが、聞こえただろうか?
遠くに座っているアオちゃんに合図を送る。手で大きく丸を作って
くれた。
よかった、聞こえたみたいだ。
俺も立ち上がって、残りは俺が引き継ぐ。
﹁じゃ、あだ名は今言った通り、恥ずかしがりやだからこれ以上は
勘弁してやってくれ。二つ名は<猫娘キラー、子犬>だ。おびえた
目で見つめられると何とかしたくなってしまう所からこの二つ名が
ついた。やる種目は長距離だ。俺なんかより、ずっと速く走る。以
上﹂
﹁⋮⋮よ、よろしく⋮⋮﹂
ほんと、消え入りそうな声でしゃべる。注目してくれてなかったら、
246
絶対気付かないぞ。
﹁これで、1年生は全部ね。じゃあ、2年生に移りましょうか?﹂
ウララ先生がそう言って、1年生の自己紹介は終わった。
まあ、2、3年生の人たちも四苦八苦してあだ名と二つ名をつけて
いたが、めんどいんで紹介しない。
すみません、先輩がた。
247
28話:新入生歓迎会、自己紹介の続き︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
既に修正いたしましたが、突然でてきた事のないキャラの名前があ
りました。
後になって別の名前にしようと思って、マサからノンキに名前を変
えたのですが、全ての部分を修正しきれてませんでした。
以前にも同じような事があり、これで2度目です。
修正前に読んでくれた人、混乱させてしまい申し訳ありません。
一応、投稿する前に見直しているのですが、誤字脱字が多いのは承
知してます。
今後も気をつけていきますので、よろしくお願いします。
もしよろしければ、誤字脱字など、報告していただけると嬉しいで
す。
評価、感想もよろしければ書いてくださると励みになります。今後
もよろしくお願いします。
248
29話:新入生歓迎会、中盤
全員の自己紹介が終わり、各々が好きな席に移動し、各自で話し始
めた。
自分の今居るテーブルにも、先輩達数人が来て、話しだす。
立ちっぱなしで話すのも嫌だろうし、俺もここから移動したい。⋮
⋮席譲ってケンの所に移動するか。
というかヤマピョン、自己紹介終わったんだからいい加減袖を離し
て下さい。
なんか、こいつの世話係を押し付けられ、生け贄にされた気分だ。
﹁ヤマピョン、俺は席移動するつもりなんだけど⋮⋮﹂
﹁⋮⋮お、俺⋮⋮移動⋮⋮い、嫌⋮⋮?﹂
俺は移動するのは嫌なんだけど⋮⋮?という事だな。きっと。
﹁うん、移動したくないんだったらそれでいいし。じゃ、俺は行っ
てくるから﹂
そう言い残し俺はグラスを持って、ヤマピョンとわかれる。
きょとんとした顔をしてたけど、まあ放っといても大丈夫だろう。
あ、サツキへの連絡まだしてないな⋮⋮。でも公衆電話ないっぽい
し、また後でいいか。
249
とりあえず、ケンのいる所へいく。
⋮⋮ケンはウララ先生と会話中だった。
﹁ウララセンセ、何でそんなに冷たいんですか!?さっきのスルー
パス、華麗で素敵でしたよ!でも俺をもっと構って下さい!犬は寂
しくなると死んじゃうんですよ!﹂
告白のスルーすら褒めるのか⋮⋮。たまには怒ったらどうだ?
後、それは犬じゃなくてウサギだから!
﹁寂しくて構って欲しいのはヤス君でしょ?ケン君は平気だもんね
ー﹂
それ違うから!だいたい、まだその言葉覚えてたの!?それケンが
言ったの最初のホームルームだったよ!?
ケンは頭をなでられると、ものすごく嬉しそうになってしまった。
お前、そんな簡単に扱われるなよ。完全に手玉に取られてる⋮⋮俺
は情けない⋮⋮。
﹁うん、平気だもん!﹂
﹁ケン、気持ち悪い!!﹃もん﹄って言うな!﹃もん﹄って!﹂
俺はケンに一言つっこんでおいて、ケンとウララ先生のいるテーブ
ルの席に着いた。
﹁⋮⋮なんだよ、ヤス。俺と先生の甘い時間を妬きにきたのか?﹂
250
﹁甘い時間って思ってるのお前だけだから!先生は計算してやって
るって!あの胸にだまされるなよ!﹂
﹁⋮⋮ヤス、お前は先生をなんだと思ってるんだ?﹂
﹁ケンをたぶらかしてる上に、くっつこうとも突き放そうともせず、
キープしてる悪女﹂
うん、まさにそんな感じだ。我ながらいい表現が出来たな。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん?ケンどした?いきなり黙って﹂
﹁⋮⋮⋮⋮先生の顔見てみ?﹂
﹁え、ああ?﹂
そういや、先生隣に座って⋮⋮⋮⋮ってやばい!また思いっきり本
音を言ってしまった!
﹁ヤス君、君とはいつかじっくり話し合わないと行けないみたいね
⋮⋮﹂
﹁いや、俺に対する行動と、ケンへの仕打ち以外は良い先生だと思
ってます!英語の授業もわかりやすいし、発音きれいですし。俺も
あの授業なら英語の成績あがるかもなー﹂
251
﹁今更褒めたって無駄よ。しかも最初の半分は褒めてないし﹂
﹁褒めてませんから。実際もっと接し方を改めるべきだと思います﹂
﹁えー、君たち2人にはこんなに愛情注いでるじゃない?まさに二
つ名の狙い撃ちどおりに2人をピンポイントで狙ってるよ。何がそ
んなに不満?﹂
ケンの頭をなでながら、そんなことを言う。
もうケン、顔を緩ませるの禁止!情けなくて顔見てられねえよ!
﹁というかそれってひいきになってません?いけませんよ、教師が
ひいきしては⋮⋮ってかウララ先生の二つ名ってそんな所から取っ
たんですか?﹂
﹁ひいきじゃありません。今後問題になりそうな生徒を先に手懐け
ておこうとしてるだけです。二つ名は別に由来がありますよ。﹁山
本リンダ﹂の﹁狙いうち﹂という曲からです﹂
聞いた事ないな。どんな歌だ?
﹁ウララーウララーウラウラデーウララーウララーウラウラヨーと
いう歌ですね。高校野球の甲子園でよく流れていますよ﹂
⋮⋮あんま野球の話はしたくないが、まあしょうがないな。
﹁本当はこの歌は絶世の美女が男共を落として玉の輿に乗ってやる
わって歌なんで、甲子園に流すのってどうなんでしょうね?﹂
﹁うわ、ウララ先生ってやっぱりそう言う性格なんですか?﹂
252
﹁⋮⋮⋮⋮ウララって入ってるから選んだだけなんですが、そう言
う目で見るんだね、ヤス君は。本当にヤス君って口が軽いね、次の
授業は覚悟してなさい!﹂
﹁ごめんなさいすみません許してください申し訳ありませんでした
もう2度と言いません﹂
﹁許しません、これは私の生徒に対する愛の鞭ですからね!﹂
﹁ウララ先生はサドですか?今日もトップバッターで自己紹介させ
たり、過去の汚点を暴露させたりして、それが先生の愛の鞭って言
うなら先生はサドに決まってます!﹂
もう俺はさっきから本当に先生に何の遠慮もなく言いたい放題言っ
ていた。
この先生の雰囲気がそうさせたのかもしれない。
﹁あれはヤスの自爆だろ?ウララセンセのせいにするなよ﹂
ケンが先生を援護するが、お前もずいぶんひどい仕打ちを受けてる
気がするよ。
なんでそんなにウララ先生を好きになれるのかが分からん。胸か?
決定打は胸だったのか?
﹁いや、ケンは今目が曇ってるんだ、いつか振り返って今の自分を
想像してみろ、なんであの先生にしっぽ振ってたんだろうって過去
の自分を呪う事になるぞ﹂
﹁⋮⋮ヤス君、明日から覚えてなさい⋮⋮﹂
253
⋮⋮やばい、完全に先生を怒らせてしまった。さっきから口はいく
らでも軽くなってしまっている。ケンが近くにいるからかな。
⋮⋮また死神が先生の中に降臨したみたいだ。
先生の手に鎌が握られているのがわかる。
あれで俺の肉体と魂を切り取るんだ!危険だ、危険すぎる!
これ以上ここにいるのは怖いので、逃げてきた。
さっきいた所へ戻ろうかと思ったが、もう席が埋まっていて、自分
の居場所は無いっぽい。あ、ヤマピョンが縮こまってるな。たまに
は頑張れ、ヤマピョン。
さてどうしようかなと周りを見渡してみた。
アオちゃんがこっちに手を振っていたが、黒い弾丸ことユッチが、
俺に向かって威嚇している。絶対こっちに寄ってくんなよと⋮⋮。
まあ、元々そっちに行くつもりは無かったんだから、どうでもいい。
そんな訳で、ドリンクバーで新たに飲み物を手に入れて、適当に空
いてる席に座る事にした。
その席には軍師、ポンポコがいた。
254
30話:新入生歓迎会、終了
ポンポコさんがいるテーブルの席に俺は今向かい合って座っている。
特に話す気はないので、オレンジジュースをチビチビと飲み、時間
をつぶす。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
2人共しゃべらず、静かな時間を過ごす。
こんな時間も好きだな。普段はサツキやケンとがやがやとやかまし
く過ごしているから、なんか新鮮だ。
そういやサツキ、大丈夫かなあ⋮⋮。ま、サツキなら俺なんかいな
くたって平気だろう。
いつも俺を馬鹿にしてるし。
﹁⋮⋮君は⋮⋮﹂
お?なんか話しかけてきた。
俺も顔を上げてポンポコさんを見る。あ、眼鏡で気付かなかったが、
目がおっきい、ぱっちりしてる。それでいて、たれ目なんだな。た
れ目と言うのは俺的に結構好きだ。
﹁本当に変態か?﹂
初対面の相手に聞く最初の質問がそれかよ!
255
﹁⋮⋮ちがう、確かにすごいシスコンなのは認めるが、別に変態じ
ゃない。女の子に股事件は事故だし、アオちゃんに迫ったりなんか
してない。﹂
﹁⋮⋮そうか、それならいいんだ。世界から変態は抹殺すべきだか
らな﹂
怖いよ!ポンポコさん!何が君をそこまでそうさせるの!?
﹁家族が好きというのは私はいいと思う。私も兄弟がいるが、とて
も気に入っている連中だ。ヤツラはそんな事言うと調子に乗るから、
死ぬまで言わんがな﹂
﹁⋮⋮ポンポコさんも、兄弟いるんだ?﹂
﹁いるぞ?兄が3人に弟が2人居る。男ばっかりの暑苦しい家族だ。
﹂
大家族だ!6人兄弟か。どんな感じなんだろう?
﹁⋮⋮母親もいないしな﹂
﹁え⋮⋮!?﹂
なんかまずい事聞いたか?
﹁ああ、違う。言い方が悪かった。母は、以前、父の単身赴任が決
まって、それについて行ったんだ。あの夫婦は本当に困る!もうす
ぐ50にもなるのに、すごくいちゃつくのだ!小学校の時なぞ、父
256
が会社に有休を取ってまで母と授業参観に来て、教室内で2人でキ
スをしたんだぞ!授業中に、公衆の目の前で!馬鹿か、馬鹿なのか
!?﹂
ポンポコさん、性格が変わっているよ!
⋮⋮うちの両親も別にどこでも結構いちゃいちゃしてたりするけど、
それって駄目なのか?
﹁私は恥ずかしくて他人の振りをしていたが、授業が終わったら抱
きついてきた、ここまできたら他人の振りなんて出来なかった⋮⋮
恥ずかしかった⋮⋮﹂
⋮⋮ごめん、サツキ。俺、小学校の授業参観、同じ事をサツキにし
てた。
今ここにいないサツキに心の中で謝罪をしておく。
﹁さらにだな、兄弟達もすごいのだ⋮⋮高校になって、やっとなく
なったのだが中学までは⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮だったり⋮⋮⋮
⋮﹂
やばい、さっきから俺がサツキにしてる行動を全部言われてる!ポ
ンポコさん達の兄弟よ。あった事は無いけど、きっとめちゃくちゃ
気が合いますね。
これ以上続くと俺の羞恥心が耐えられん!
﹁そ、そう言えば!﹂
﹁⋮⋮なんだか無理矢理な話題転換だが、なんだ?﹂
よかった⋮⋮何とか乗ってくれた。しかし、話す事が思いつかん。
257
⋮⋮そう言えば、三国志が好きって言ってた!
﹁ポンポコさんって、三国志が好きだから、軍師って二つ名なんだ
よね?俺は演義しか読んだ事ないんだけど⋮⋮じゃあ、どの軍師が
好きなの?俺が知ってる人だと⋮⋮孔明、ほう統、徐庶、姜維⋮⋮
くらいかな。﹂
﹁そのかたより方はなんだ。わざとなのか?蜀の人間ばかりではな
いか。⋮⋮仕方ない、ヤスと言ったな、君に三国志の面白さを語っ
てやろうではないか。﹂
仕方ないとか言いながら、めちゃくちゃ嬉しそうですよ!ポンポコ
さん!
⋮⋮しまったな、わざわざ変な言い方しないで、魏とか呉の人間も
言えばよかった⋮⋮
﹁いや、知ってるよ。魏で言うと、司馬懿、荀いく、程いく。呉で
は徐盛、陸遜、呂蒙とかいるよね。あれ?呂蒙は軍人だったっけ?﹂
なんか、そこまでしゃべるとポンポコさんの目が光った気がした。
漫画ならば、キラーンって効果音が鳴りそうだ。
﹁⋮⋮ほう、そこそこには知っているではないか。演義を読んだと
いうのは本当のようだな。漫画を読んだといった輩であると、有名
どころ以外は忘れる傾向が強いのだが、そういうことは無いようだ
な。三国志を知る時に、まず漫画を手に取るというのはとっつきや
すさという点から良い手段だとは思うが、それで満足せず、小説も
読んだ方がいい。君は語りがいがあるぞ﹂
やばい!言わない方がよかったか?これは長引きそうだ。何か手は
258
無いか⋮⋮
﹁本来ならば、正史三国志も読んでいた方が嬉しいのだが、演義し
か読んでいないのならば、それで話を進めようか。いいか、三国志
を愛するならば、魏、呉、蜀だけではなくて、きちんと黄巾の乱の
時代から、最後に呉が滅ぼされ、晋による天下統一がされるまでを
考えなければ駄目だ。この間には、魏、呉、蜀、だけでなく多くの
国が建ち、滅んでいった。それぞれにドラマがある。だからこそ魏、
呉、蜀の軍師だけでなく、別の国にいた軍師も見ていくべきだ。例
えば、君主が策を取り入れてくれなかった悲運の軍師と言えば、呂
布の元にいた陳宮、董卓の元にいた李儒などだな。確かに彼らの策
はあまり実行されなかったが、その知謀は他に遅れをとらないと思
わないか?﹂
始まってしまった!しかもなげえ!ノンストップ、ほとんど息継ぎ
なしで語り続けてるよポンポコさん。
﹁⋮⋮ふむ、乱雑に人を並べていっても混乱してしまうようだな。
ならば、時系列で話せば分かりやすいな。最初から語っていこうか﹂
やめて!読んだ時10時間以上、いやもっとかかったんだよ!話し
てたら確実に20時間越えるよ!
﹁そういえばさ!﹂
﹁なんだ、私が三国志の話を語っているのに、邪魔をするというの
か、それでも君は三国志を愛しているのか!﹂
259
愛してません!そこそこ好きだけど、愛しているなんて言えません。
﹁まったく、自分も語りたいからと言って、人の邪魔をするのはい
ただけないな、きちんと君の番もあるから待っていろ﹂
そう言う理由じゃないですよ!この話を終わらせたかっただけです!
⋮⋮その後、新入生歓迎会が終わるまでの1時間半、ずっと語り続
けられた⋮⋮ってか俺の番はどこへ?
﹁じゃあ、そろそろ遅くなってきたので新入生歓迎会はこれで終わ
ります!みなさん気をつけて帰って下さい!﹂
ポンポコさんの話を聞いてたら、ウララ先生から終了の号令が聞こ
えた、この時まだ、黄巾の乱の収束までしか話してない。
3人の義兄弟の契りの場面をしゃべり過ぎです。確かに重要ですが、
3人のそれぞれの視点から演技までしなくていいです。⋮⋮ってか、
まだ軍師出てきてませんよ。軍師について語るんじゃないんですか?
﹁む、残念だな。今日はここまでか、また語り合おう。その時には
正史も読んでいてくれると嬉しいぞ﹂
語り合ってない!ポンポコさんがずっと語ってただけ!
もういいです⋮⋮。別の人としていて下さいよ。
﹁ん?不満そうだな⋮⋮もしかして君は日本史の方が好きなのか?﹂
260
よし、ここでうなずいておけばもう俺にはとばっちりは来ない!
必死でうなずいた!がくんがくんと首が揺れる。
﹁ふむ、私も源平合戦、建武の新政の前後、安土桃山時代、現代史
ならば大好きだ。他の部分でも1日程度なら語る事が出来るぞ。今
度はそれにしようか?﹂
ってどんだけ歴史好きなんだよ!源平合戦だとポンポコさんは何日
話し続けるの!?
もういいです⋮⋮。別の人として下さい。
でも、このポンポコさんと言う人はとても面白いと思った。こんな
人となら仲良くなってもいいかなと思う。ポンポコさんの兄弟達と
も気が会いそうだし。是非会ってみたい。
一人当たり、400円を徴収して、ウララ先生が代表して払う。
店を出た後、解散となった。
その後は、ケンと帰った。もうずいぶん遅くなっちゃったな。
ケンと適当な話をしながら家路につく。
ケンと別れ、家に着いた時間は、22時。ねぼすけのサツキはもう
寝てるかな?
﹁ただいま⋮⋮ってサツキ玄関でどうしたんだ?まさかずっとそこ
にいたの!?﹂
261
玄関でサツキが膝を抱えてうずくまっていた。
﹁⋮⋮あ、おかえり。⋮⋮ヤス兄、遅かったね﹂
サツキがこちらに顔をむけた後、すごく悲しそうな顔になった。
﹁⋮⋮あ、ごめん、今日陸上部の新入生歓迎会だったんだ﹂
﹁あ、そうなんだ⋮⋮遅くなるんだったら、今度から連絡してね!﹂
﹁⋮⋮ごめん﹂
﹁いいよ、別に。ヤス兄だって高校の付き合いがあるでしょ?せっ
かく新しい環境になったんだから、楽しまないとね!﹂
無理して笑おうとするサツキがいる。
サツキがこういうやつだって事忘れるなんて、どうやら人付き合い
なんてどうでもいいとか言っときながら、ケン以外の高校の人たち
であるヤマピョン、ウララ先生、ポンポコとかとしゃべってて、浮
かれすぎてたみたいだ。
﹁ごめん、絶対に今度からはきちんと連絡する⋮⋮いや、もう遅く
ならない﹂
サツキの頭をなでながら、そう言う。サツキはうっとうしそうな顔
になったり、ホッとした顔になったり、よく分からない顔をする。
﹁いいって。ヤス兄がいつも明るくなってくれるのは私も嬉しいし﹂
262
ふう、サツキにこんな無理した顔をさせるなんて最低だな、俺。
今後こんな事が無いように、明日からはもっと気を引き締めていか
なきゃ!
ついでに、いつでもサツキと連絡が取れるように、俺も携帯を持つ
かな⋮⋮。
263
31話:それからの3日間
月曜日の新入生歓迎会を終え、火曜、水曜、木曜の3日間は比較的
穏やかに過ごした。
⋮⋮まあ、サツキとの朝のドタバタ、ケンとの言い争いを穏やかと
いうのかは分からないが⋮⋮。
変化があったとすると、たびたびユッチが1年3組の教室に現れる
ようになった事だ。どうやら、俺からアオちゃんを遠ざけておこう
と言う狙いのようだ。
休み時間のたびに、教室にやってきて睨みつけていくのは勘弁して
欲しい。
部活の練習は、先週のペースより速くなり、ついていくのが結構き
つくなった。
基本的に練習はいつも学校の周りを走って回る、と言う事だ。
ペースは日によってまちまちで、きつくしたいと思えば、速くなる
し、今日は疲れていると思えば、スピードを緩めるとの事。
ただ、きつい中でも他の連中とのチームプレイとかがいっさい無く、
ただただ自分だけでできる﹃走る﹄と言う事、それが俺はだんだん
と好きになっていってるのが実感できた。
そういえば、三国志大好きな軍師ポンポコさんは短距離のマネージ
ャーになった。
用具を運び出したり、計測をしたりと忙しそうに動き回っている。
いままでウララ先生だけだと手が足りなかったみたいなで、選手が
いろいろしてたみたいだけど、おかげで選手が練習に集中できるよ
264
うになったのかな?よく知らない。
長距離に来てくれたら、むさい中に一輪の花が咲いたのに⋮⋮無理
か。
長距離より、短距離のほうがやらなきゃいけない事が多そうだもん
な。
ケンは、ちゃんと練習してる。ってかウララ先生の飴と鞭の使い分
け方がすごい上手い。
ケンはさぼろうとはした事ないけど、いいかっこしようとして、無
茶をする。そんな時はまず怒る。しかも頭ごなしに怒るんじゃなく
て、何が悪いのかを説明しつつ怒る。さらにすごいのは、道しるべ
を見せた後に、褒めるのだ。
例えば、流しの方法。前に言ったかもしれないが、本練習の前や後
に、70∼80パーセントの力で走ることを言う。
あれは100パーセントで走ってはならない。
理由として、流しと言うものは本練習の為のウォーミングアップの
位置づけ、もしくは練習後のクーリングダウンに行う物だ。それに
対して、100パーセントで走ってしまっては、本練習と一緒にな
り、ウォーミングアップにはならない。
また、十分暖まっていない体で100パーセントで走ると、肉離れ
など、怪我をしやすい。
もう一つ、全力疾走の時は、フォームの事はあまり考えられない。
そのフォームの修正として流しがあるのだ。
ケンは、70パーセントと言うのがよく分からないらしく、どうし
ても速くなるらしい。
そこで、全力疾走がケンと同じくらいの人と、ケンがスピードを覚
えるまで一緒に流しをしてもらう。
ケンが覚えたと判断したら、次からは1人で走ってもらう。
265
そこまで出来るようになったら、フォームの事を考えながら走らせ
るようにする、と段階を踏ませて流しを覚えさせていた。
その間に、さらにはフォームが縮こまらないように気を使って実行
していた。
70パーセントを意識しすぎて、気持ちよく走れなければ意味が無
いらしい。
⋮⋮先輩によると、流しをここまで出来なかった変なやつはケンが
初めてらしいが、目的についてはあまり知らないままやってた人も
いるらしく、勉強になったと言う顔をしてた。
⋮⋮そう言う意味では役に立ってるな、ケン。
そして、出来るようになるたびに褒め、そして次の段階へ進ませる。
従順な犬だからあそこまで上手くいくのかもしれないが、それでも
見事だ。
長距離メンバーの1年たちはこんな感じだ。
俺より速いヤマピョンは、相変わらず俺の後ろを走る。ペースは全
く問題ないみたいで、息一つきらさない。
けど、相変わらず先輩とは話しようとしないし、いつも先輩と一緒
にいるマルちゃんやノンキの1年生とも話をしない。人付き合いは
最低限でいいと言う俺の言葉を代わりに実行してしまっている。
会話も単語だけで、意味が通じないときもある⋮⋮。俺が先輩の方
に質問にいこうとすると、袖をつかんで抵抗する等、ほんと扱いに
困る。
小太りのマルちゃんは、毎回1、2周でダウンして、校門の前で座
266
り他の人が走り終わるのを待っている。
⋮⋮そのままじゃ絶対やせない!と思うのだが、俺を避けるのでど
うもしない。
あの時はやせさせようと思ったが、よくよく考えればやせれないま
まマルちゃんがふられたってどうでもいい。
よく知らないノンキはやる気が無いようで、ペースについてこよう
とせず、適当に自分のペースで走り、そのまま時間になったら練習
を終えている。
マルちゃんとは話すようになったみたいだが、俺はまだ話した事が
無い。
なんかバラバラだな。大丈夫か!?長距離の1年生。
何回か練習して、毎回、学校の周りをぐるぐる走っているばかりな
のが飽きてきたので、別の場所を走りたいなと思うようになった。
それで、先輩に別の場所へ走りに行かないのかと聞いたら、部活内
の活動中に顧問の目の届かない所で事故を起こされると、顧問の監
督不行き届きになるから、教師なしには遠くにはいけないらしい。
この周りなら、車もそんなに通らないからウララ先生もグラウンド
から走っている姿が見えるので、不慮の事故という扱いになり監督
不行き届きにはならないとの事。
5、6年前まではいろんな所を走っていたけれど、その頃にある中
学校で顧問が不在の時に事件︵顧問の人は事故と言ってるらしい︶
が起きた為に今のような状況になったんだとか⋮⋮。
⋮⋮ここの外周を回っているけど、ウララ先生の姿、ほとんど見え
267
ないじゃん。
ぶっちゃけ今の状況も監督不行き届きな気もするのだが⋮⋮。その
辺は大丈夫なんだろうか?
ってか監督不行き届きとかそんなこと言うなら、長距離専門の顧問
をつけてもらいましょーよ⋮⋮。
まあ、こんな感じで3日間が過ぎていった。
268
32話:集団宿泊研修1日目、昼
今日は4月25日金曜日、今日から集団宿泊研修というものがある。
1年生のみの研修で、期間は4月25日︵金︶∼4月26日︵土︶、
場所は富士の麓にある国立中央青少年の家と言う施設だ。
学校よりもさらに富士山が近くなり、晴れた時に見るととても綺麗
だ。
どんな所かと思い、インターネットで調べてみたら、
スポーツ施設、キャンプ場、宴会場、講堂と他にもたくさんで充実
している。
さらに青少年団体は無料で施設を利用できるというお得っぷり!︵
一般人でも一泊250円!︶
食費等の諸経費は実費になるが、それでも安い。宿泊施設には最適
だ!!
⋮⋮ただ、今からここで何をするかと言うと、クラスの親睦を深め
る為の飯ごう炊飯だ⋮⋮。
なんでわざわざ富士山の前まで来て、カレーを作らなきゃならんの
だ!
﹁⋮⋮月に1回は俺、カレー作ってるよ⋮⋮﹂
﹁ほらほら、ブツブツ言ってませんと、早く火をおこして下さい。
まだ火がついてないの、私たちの班だけですよ﹂
﹁⋮⋮わかってます⋮⋮﹂
269
アオちゃんが俺にエールを送る。アオちゃんと俺は同じチームだか
らだ。
今日は、5、6人が1グループになって行動する。グループは出席
番号順に割り当てられる。
プリントを見てみるとこんな感じになっていた。
教室内の様子
教壇
□□□□□□
□□□□□□
窓 □□□□□□ 廊
側 俺ア□□□□ 下
■■□□□□ 側
■■□□
この俺とアオちゃん、それに■の席の人たちが俺の班の人だ。
﹁私が火をおこすの代わりましょうか?ヘタクソなヤス君に任せて
おいたら、いつまでも食べられません﹂
﹁⋮⋮言葉きついですね。でもお願いします﹂
﹁うわ、ヘタレです!そこは意地でもやってやるって場面ですよ!﹂
﹁⋮⋮そんな王道なセリフはいらないです。それより早く作って食
べる事の方が大事なんですから、代わりましょう。むしろ俺、料理
できるんで、食材の方を扱いたいんですが﹂
﹁女性に火をつけさせ、男性が食材を扱うなんてセオリーから外れ
270
過ぎですよ!ここは王道らしく、あなたが火をつけて、薪をくべて、
汗をかいた所を女性が手ぬぐいで拭いてあげるというシチュエーシ
ョンを作りましょう!﹂
なんだその設定は!絶対そんな場面には出くわさないと思う。
﹁⋮⋮今は男女平等な世の中です、というか、アオちゃんって少女
漫画か、少女向きの小説の読み過ぎだと思います﹂
しかも、設定が古い気がする、気のせいかな⋮⋮っと、言い争って
いる間に火がついたな。
﹁⋮⋮じゃあ、火がついたので、後は消さないようにしましょう。
アオちゃん、よろしくお願いします﹂
﹁ちょ、ちょっと待ってください!﹂
俺は無視して食材が置いてある方へ向かう。俺と同じ班の人達が、
やっててくれているはず。
行ってみたら、まあちゃんとしてた。用意していたのが、女子だけ
なのが気になるが⋮⋮⋮⋮。男子はどこへいったんだ?
﹁ちょっと、猫娘!なんでこっち来てるの?あなたの担当は火でし
ょ!猫が熱いの苦手だからって逃げちゃ駄目じゃない!﹂
﹁⋮⋮え?火がついたからこっちを手伝おうと思いまして⋮⋮って、
なんで猫娘なんですか?﹂
熱いの苦手って⋮⋮いや、確かに猫舌だけどさ。それは舌だ!
271
﹁猫娘って実は馬鹿でしょ?あっちをアオちゃん1人にしちゃ駄目
じゃない!あんた分かってんの?あの子の二つ名は<天然>なのよ
!﹂
﹁いや、何かする訳⋮⋮﹂
アオちゃんならやりかねん!
﹁ほら、分かったらさっさと戻りなさい!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
俺は言われた通り、戻る事にした。
戻ってみたんだが⋮⋮⋮⋮アオちゃん、何をした?火柱が立ってる
!!!キャンプファイヤー以上の燃えっぷりだ!
﹁アオちゃん!何をしたの!?﹂
﹁薪をたくさん入れてたら消えそうになっちゃいましたので、油を
入れたらまた燃えてくれるかなって思って⋮⋮で、そこにある油を
272
入れちゃいました﹂
そう言って、指差したのはガソリン携行缶と呼ばれるもの⋮⋮⋮⋮
やばい!!
﹁これ油じゃないよ、ガソリンじゃん!!こんな時にボケないで!
早く消さないと!水持ってきて!﹂
﹁水ですね!バケツリレーなんて初めてです!﹂
﹁嬉しそうに言うな!﹂
タタタッと走っていって、バケツじゃないけどホースを2本持って
きた。既に水を出してるみたいで、勢いよく水が出ている。ナイス
だ!
バケツより強力じゃないか!
ホースを片方を受け取り、火が出てる方に向ける。
﹁よっしゃ行くぞ!﹂
﹁イエッサー!隊長!﹂
入り口を狭め、どどどどっ!っとホースから水が飛び出る。
よし、この勢いなら消えるはずだ!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮⋮??
あれ、消えない!何で!?これだけ水当てたら消えるでしょ?
273
﹁隊長!消えるどころか燃え広がっております!﹂
﹁きっと水の量が足りないんだ!隊員一号アオちゃん!もっとホー
ス持ってこーい!!﹂
﹁サー、イエッサー!﹂
⋮⋮そして今度はホースを5本持ってきてくれた。全部で7本だ。
よし、これならいける!
﹁放水構え!﹂
﹁サー!﹂
﹁発射!!!﹂
﹁ラジャー!!!﹂
2人で計7本のホースを操作する。
よし、これで火が、⋮⋮⋮⋮広がった!
﹁何で?まだ水が足りないと言うのか!?﹂
﹁あ、隊長!忘れておりましたが、ガソリンの炎は、水では消えま
せん!﹂
﹁先に言えこのドアホーーーーッ!!!!!!﹂
﹁⋮⋮隊長!火が先ほどの油に届きそうです!﹂
274
あれ?あのガソリン缶、ふたが開いてるじゃん?
﹁やばい!間に合わない!!総員退避ーーーー!!!!﹂
﹁ラジャー!!!﹂
ガソリン缶にたどり着いた炎は、ボンッ!!!と燃え上がった。し
かもこっち、風下だ!俺たちのほうに炎が来てるよ!!
もう一目散に逃げた。明日の朝事件になってようが知った事か!怖
いんだよ!炎が俺たちを食べにきてるんだよ!!!
はぁ、はぁ、はぁ⋮⋮⋮もう息もたえだえになりながら、2人で木
陰に腰を下ろす。
富士山は雲がかかってて、てっぺんまでは見えないけど、俺たちを
275
見下ろしてる。
﹁⋮⋮⋮はぁ、はぁ、アオちゃん、大丈夫?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮だい、じょう、ぶで、すよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮きつそうだね、はぁ、はぁ⋮⋮⋮﹂
その後、2人とも呼吸が整うまでゆっくりと待つ。
﹁⋮⋮アオちゃん、もう大丈夫?﹂
﹁はい、大丈夫です﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮くくっ﹂
﹁⋮⋮ふふっ﹂
﹃あははっあはははっああっはははは!!!﹄
や、経験ないかな?こうとにかくめちゃくちゃ怖くって、何とか乗
り切ると、もう怖いを通り越して笑っちゃうしかないって言う経験。
﹁この馬鹿野郎。アオちゃんのせいで、大火傷になるとこだった﹂
﹁水、水って騒いで被害を大きくしたのはヤス君ですよ﹂
276
﹁知らなかったんだからしょうがないだろう、だいたいアオちゃん、
知ってたんだったらさっさと言えよ﹂
﹁あの時はもうパニックになっちゃってて、ど忘れしてたんですよ﹂
﹁嘘付け!すごく嬉しそうにしてたじゃん、しかも隊長って何だ隊
長って﹂
﹁違いますよ、パニックになると笑っちゃうしかないじゃないです
か。ヤス君だって、隊員!ってノッてましたよ﹂
﹁あのテンションじゃないと、あの場でやってけ無かったんだ、し
ょうがないだろ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮お互いが悪いってことにしましょう﹂
﹁⋮⋮⋮⋮そうだな﹂
ふう、思いっきり笑ったら、すっきりしてしまった。
﹁⋮⋮⋮⋮やっと、普通に話せました﹂
﹁ん?何の事だ?﹂
﹁⋮⋮だって、ヤス君、ずっと私に対してだけは敬語で話すんです
277
よ。ケン君やヤマピョン、つい最近知り合ったユッチにまで普通に
しゃべってるのに、私にだけ敬語なんですもん、悔しくって﹂
あ、そういや今アオちゃんに対して敬語使うの忘れてた。
﹁でも、アオちゃんだって使ってるじゃん、敬語﹂
﹁私の場合は癖なんですよ。ちっちゃい頃、妹と私と、よく大人達
と話をしなきゃいけなかったんですけど、どうしても子供って馬鹿
にされるじゃないですか?妹は、言葉が遅かったので余計馬鹿にさ
れちゃってて。そんな時、どうしたら馬鹿にされないかって⋮⋮妹
をどうやって守ろうって考えてて、大人達のしゃべり方を真似たん
です。⋮⋮あんまり効果無かったんですけどね。それがいつの間に
か癖になっちゃってて﹂
⋮⋮意外だった、いつもホワワンとしてたから、苦労なんて無いん
だろうなと思ってみてたけど、すごい苦労してんだな。そう思った
けど、それは口には出しては言わなかった。同情なんていらないは
ず。
だから、すごいお姉さんっぽいんだな。
﹁今後は、私に敬語使わないでくださいね﹂
﹁⋮⋮ああ、分かったよ、これでいいだろ?﹂
﹁もちろんです!これでようやく友達ですね!﹂
そっか⋮⋮友達になったのか。ケン以外の友達なんていらないって
思ってたけど、高校の友達一号って訳だ。
⋮⋮うーん、ぶっちゃけ延々と警戒するのは肩こるし、親しくなっ
278
たらちゃんとまともに接するようにするかな。
﹁よろしく⋮⋮ってそういや、あの火事どうなったんだろ!?﹂
﹁あ、忘れてました!まずいです!﹂
﹁戻るぞ!﹂
﹁はい!﹂
⋮⋮⋮⋮あの後、ワーワーやっている俺たちを見て、火事に気付い
たクラスメイトが、いち早く先生とここの施設の人に伝えて、急い
で消火器を持ってきたそうだ。俺たちが逃げた後、すぐに火災は消
し止められたらしい。
もちろん俺たちは、火災を起こした事、逃げ出した事をこってりと
絞られた。ごめんなさい。
279
33話:集団宿泊研修1日目、夜
飯ごう炊飯の後、まだ覚えていない校歌を学年全員で暗唱して歌え
るまで歌わされた。
1年3組は音程を外しまくりでひどかった。それもこれも、音感0
のケンが大声で歌うからだ!
おかげで、こっちまで音が狂った。
その後、夕食になった。今度はもう自分たちでは作らず、バイキン
グ形式だ。
ケンとアオちゃんと3人で、わいわいやりながら食べた。
食べ終わった後、ケンが唐辛子とバナナを持ってきて、
﹁勝負に負けたやつが、この唐辛子バナナを食うんだ!﹂
とかぬかしやがった。
ちょっと待て!何故そんな罰ゲームをせねばならない。
﹁あ、面白そうですね。やりましょう﹂
何でそこでのるの?自分が食べた時のリスクは考えないの!?
﹁ヤス、多数決としてこのゲームは採決となった﹂
﹁おかしい!全会一致の場合のみ、採決できるよう提案する﹂
﹁ヤス君、残念ながらここは民主主義国家です。民主主義イコール
280
多数決が原則なんですよ﹂
アオちゃん、こんな所にまで政治を持ち込まないでください。
﹁だが、例外はあってしかるべきだ!だろ?﹂
﹁勝負は簡単!ジャンケンで決めるぞ!﹂
﹁俺の意見を無視するな!ケン﹂
﹁ジャンケン!ポン!﹂
﹁イッ!?﹂
いきなりジャンケンを始められて俺は出すのが遅れた。
結果は、
ケン:パー
アオちゃん:パー
俺:グー
⋮⋮⋮⋮あれ?俺遅出ししましたよ?
﹁ヤス、お前ってそんなに唐辛子バナナ食べたかったのか⋮⋮あえ
て負けるなんて﹂
﹁いや、違う!ってか、遅出しになっちゃたんだから、ここはやり
直しだろ?﹂
﹁ヤス君、反則したのに負けたんだから、やり直しなんてありえな
281
いですよ、さあバクッと食べちゃってください!﹂
グワッと唐辛子バナナを近づけてくる。
赤い!バナナが赤い!
俺は観念して思いっきり口を開ける。こう言うのは思い切りが大事
だ。
チョビチョビ食べてたって、なかなか無くならない。
嫌な事は一瞬で終わらせるのが吉なのだ。
﹁甘い!辛い!辛いけど甘い!ってか、唐辛子かけ過ぎ!ケン、水
くれ水!﹂
﹁水など無い、気合いで流し込むんだ!﹂
﹁ケン、訳分かんねえよ!辛くて火を噴いちゃうよ!﹂
﹁ヤス君、是非やってください!見てみたいです﹂
﹁比喩表現を理解しろよ!アオちゃんをアホちゃんに改名すんぞ!﹂
﹁ヤス、上手い事言ってるつもりか知れんが⋮⋮﹂
﹁⋮⋮うん、微妙です⋮⋮﹂
どうでもいいから、水をくれ!
282
バタバタした夕食が終わり、クラス毎に時間を分けて風呂に入る。
1年3組は真ん中で、前の組が中々出てこなかったから、慌ただし
くなる羽目になった。
結構広々とした風呂だ。20人なら余裕で入れるな。
シャワーも20個以上ついてるから、全員で体を洗い始めても大丈
夫だ。
俺はシャワーの前に座って、体を洗っていると、隣のケンがちょっ
かいをかけてきた。
﹁おい、ヤス、タオルなんかで隠すなよ!﹂
﹁やめろよ、ケン、男同士で見合って、何が楽しいんだよ。お前は
女風呂でも覗いてくりゃ良いだろ。今ならきっとウララ先生が入っ
てるぞ﹂
﹁ウララセンセを覗くなんて、そんな恐れ多い事が出来るか!だい
たい、俺は愛を育みたいだけであって、変質者になりたい訳ではな
い。﹂
﹁⋮⋮ケン、愛を育むとは具体的にどうなりたいんだ?﹂
﹁ヤス、聞きたいのか?俺の壮大な計画を⋮⋮。ならば語ってやろ
う!﹂
あれ、恥ずかしがって言えない、のような展開を予想してたのにな
283
んだかスイッチが入ったようだ。
﹁ウララセンセは鈍感だ。どんなに言っても全然気付いてない!﹂
いや、気付いてると思うよ。無視してるだけで。
﹁まずは高校1年生の間に、俺の事を意識させるんだ。ちょっと駄
目だけど、手のかかる可愛い生徒って思ってもらえればOKだ。高
校2年生になったら、さらに激しくアプローチを開始する。と言っ
ても手をつなごうとかいきなり抱きつこうとかそう言うのじゃない
ぞ!それじゃただの変態だからな!﹂
ポンポコさんだけでなく、お前にも言われるのか⋮⋮サツキにそう
言う事してた俺はやっぱり変態なんだな。
﹁どうアプローチするかと言うと、英語の成績を上げるんだ。そし
てあなたの授業がとてもよかったから上げる事が出来ましたって。
高校2年生で、俺の印象は、可愛い生徒から頑張りやの私の授業を
褒めてくれる嬉しい人ってイメージに代わる。﹂
英語の成績が上がるくらいで、そんなに変化するかなあ?
﹁そして3年生、陸上と両立しつつ、教育学部へ入学する為に必死
で勉強するんだ。そして合格発表と同時に、﹃忙しくて会えないな
んて寂しい思いをさせません。あなたと一緒になる為に、俺は高校
教師になります﹄って告白するんだ!そして、自然消滅してしまっ
た時の失恋の傷跡が残っていたウララセンセは俺の告白を受け、傷
が癒えていくのを感じ、恋に落ちるんだ⋮⋮﹂
やっと終わった、長かったな。
284
﹁そこはまだ序章に過ぎない!﹂
﹁おい!何章まであんだよ!?﹂
﹁高校編が序章、大学編が1章、高校教師編は結婚前編、結婚後編、
出産編、子育て奮闘編の4章仕立てで、その後、娘の花嫁編、孫の
誕生編、老後編と続く。計9章仕立てな壮大な計画だ!﹂
馬鹿がいる、前から思っていたが、本当の馬鹿だ。
まだまだしゃべり続ける馬鹿はほっといて、さっさと湯船につかる。
気持ちいい、この瞬間の為に生きてると言っても過言じゃないな。
俺は十分に風呂を満喫し、部屋に戻った。
夜はクラス内での隠し芸大会だった。こう言うのはひとりひとりの
個性が出ていて、中々面白い。
ただし、気弱な人や、得意芸を持っていない人にとっては苦痛にな
るものだ。俺とか俺とか。
ウララ先生が、俺たちに呼びかける。
﹁それじゃ最初にやりたい人、手を上げて!﹂
285
今回は何故かケンも手を挙げない。不思議に思っていたのだが⋮⋮。
﹁ヤス君、右手、危ないです!ムカデが!ムカデが!﹂
﹁えっ!?ムカデ!?﹂
アオちゃんに耳元で叫ばれ、つい、逃げるように手をどかした。
﹁おー、今日は積極的だね、ヤス君。じゃ前に立ってね﹂
﹁え!?俺が最初ですか?﹂
﹁今手を挙げたじゃない?さ、始めて﹂
やられた!ケンとアオちゃんがこっそりとタッチしてる。俺の苦手
な物についてケンに教えてもらってたな。
こうなったら!俺の底力を見せてやる!
﹁仕方ねえ、1番手ヤス、行くぞ!お題は45連発!﹂
﹁あ!﹃アッシの足!﹄﹂
うす
﹁い!﹃いす、ナイス!﹄﹂
﹁う!﹃臼のかけ声、うっす!﹄﹂
﹁え!﹃円高状態ってえーんだかなあ﹄﹂
﹁お!﹃お金っておっかねえ!﹄﹂
﹁か!﹃勝手に叱って!﹄﹂
﹁き!﹃着物の置物!﹄﹂
﹁く!﹃クルーが来る!﹄﹂
﹁け!﹃ケンの化粧、いけしょう?﹄﹂
﹁こ!﹃コンドルが、よろコンドル﹄﹂
286
﹁さ!﹃さる猿、去る!﹄﹂
﹁し!﹃ジャイアン、しんジャイヤーン﹄﹂
﹁す!﹃スイカを押すイカ﹄﹂
そうだ
﹁せ!﹃生家の成果はこの青果!﹄﹂
たんご
﹁そ!﹃早田さんが死んだそうだ!﹄﹂
﹁た!﹃端午に踊るタンゴ﹄﹂
﹁ち!﹃竹林にいるちんちくりん!﹄﹂
﹁つ!﹃鶴が滑った!﹄﹁つるっ﹂﹂
﹁て!﹁鉄道にて集う﹂﹂
﹁と!﹃隣の家に塀ができたんだってね﹄﹃ヘー﹄﹂
﹁な!﹃何度も納戸を閉める﹄﹂
﹁に!﹃ニトロ爆弾の上にトロ﹄﹂
﹁ぬ!﹃塗り絵を描かぬ、理恵﹄﹂
﹁ね!﹃粘土、足んねーど﹄﹂
﹁の!﹃のび太がノビた﹄﹂
﹁は!﹃ハワイの女の子って、ハ・ワ・イ・イ︵かわいい︶﹄﹂
﹁ひ!﹃昼に湧き出たヒル!﹄﹂
﹁ふ!﹃布団が吹っ飛んだ!﹄﹂
﹁へ!﹃へそで茶を沸かすぜ!﹄﹃へーそー︵へえ、そう︶﹄﹂
﹁ほ!﹃ホットミルクをホッと見る﹄﹂
﹁ま!﹃抹茶を飲むの、待っちゃる!﹄﹂
﹁み!﹃ミミズク、ミミズ食う!﹄﹂
﹁む!﹃虫なんて、無視!﹄﹂
﹁め!﹃眼鏡を取ったら、目がねえ﹄﹂
﹁も!﹃モジモジした文字﹄﹂
﹁や!﹃屋根の上ってやーねー﹄﹂
﹁ゆ!﹃ゆで卵をゆでた孫﹄﹂
﹁よ!﹃ヨットに乗るぞ、あらよっと!﹄﹂
﹁ら!﹃ライスをスライス!﹄﹂
﹁り!﹃りす、すりすり﹄﹂
287
﹁る!﹃留守にするっす!﹄﹂
ロンド
﹁れ!﹃レールの上に乗れーる!﹄﹂
﹁ろ!﹃ロンドンで演奏、輪舞曲!﹄
﹁わ!﹃私、渡しましたわ!﹄﹂
﹁ん!﹃んだんだ文庫ってあるの?﹄﹃んだんだ﹄﹂
⋮⋮⋮⋮ど、どうだったんだ!俺の評価は!?
288
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち⋮⋮⋮
かなりの拍手だな!俺、やった、やったよ!頑張ったじゃんな!
﹁ヤス、君は頑張った!体を張ってくれたよ!スッゲエ面白かった
!﹂
﹁ほんとか!面白かったんだな!よかった、もしかして外したんじ
ゃないかと心配したんだよ!ありがとう、ケン!自信がついた!俺、
45連発の第2弾を考えるよ!﹂
﹁そ、そうか!頑張れよ!﹂
﹁なんか苦笑いしてるな⋮⋮そうか、俺にネタを提供してくれたん
だな!⋮⋮⋮⋮く!﹃苦笑しながら捨て言葉、﹁クショー!﹂﹄!
できたぞ!ありがとうケン!﹂
﹁あ、ああ!どういたしまして!﹂
うん、会場を暖めたし、1番手として最高の仕事をしたな。
﹁すごかった⋮⋮﹂
﹁親父ギャグ45連発⋮⋮﹂
﹁あんなの恥ずかしくて真似できねえよ⋮⋮!﹂
﹁羞恥心をなくしてこそ芸が出来るんだな⋮⋮!﹂
よく聞こえないが、褒めているんだな!そうだ!俺をもっと褒める
289
んだ!
その後、そこそこの盛り上がりを見せ、最後はアオちゃんが皿回し、
ウララ先生が傘の上でボール転がしをして締めた。
うん、よかったな。
290
33話:集団宿泊研修1日目、夜︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
この親父ギャグを考えるのはかなり大変でした、他の人のHPから
とってきたりせず、自分で考えましたよ︵笑︶
で、せっかくブログを開設したんですが、9月1日からフリーター
状態からついに就職いたしまして、ついでに引っ越しました。
まだネット環境がなく、携帯で書いてますが、書くのもネット小説
だけで手一杯です。
落ち着いたらどちらも更新しますので、今後ともよろしくお願いし
ます。
291
34話:集団宿泊研修1日目、深夜
今日の行事も終わり、後はもう寝るだけだ。
青少年交流の家は全部で500人が宿泊でき、大半の人はベッドで
眠る。
一つの部屋に8∼12のベッドがあって、クラスで男女それぞれ1
0人に分かれて寝る。
出席番号順に別れるので、12番のケンとは別の部屋になった。
うーん、高校の友達は、ケンとアオちゃんだけだからな。
23時には消灯なのだが、消灯後も話をやめて寝ようなんて人は俺
くらいだ。
明日の朝は7時に朝の集いがあるから、早く起きなきゃ行けないん
だが
﹁いや、絶対にナベリンだって!﹂
﹁俺はキョンキョンの方が好みだな∼﹂
そういう話になんて加わるのも面倒だし。
﹁アオちゃんなんてどう?﹂
﹁あの子もいいけど、なんかぬけてるよね∼﹂
﹁それがまた良いんじゃん!﹂
292
﹁ドジッ子好きかよ、お前﹂
アオちゃん、マニアックな人に好かれてるぞ。良かったねえ。
﹁さっきから黙ってるけど、マルちゃんは誰が好みなんだよ?﹂
﹁僕?僕はその⋮⋮この高校の子じゃないんだけど﹂
﹁お、って事は!中学校の時の子だな!﹂
﹁よしっ!マルちゃん!たっぷり聞かせてもらうからな!もう今夜
は眠れない!﹂
⋮⋮⋮⋮うるさくて寝られない⋮⋮ちょっと涼みにいってくるか⋮
⋮。
外に出ると、もう真っ暗だ。明かりはほとんどない。
でも、おかげで空を見ると、たくさんの星が見える。
残念ながら天の川は見えなかったが、俺の住んでる所じゃこんなに
は見えない。結構満足していた。
しばらくの間その場にぼーっと立っていたのだが、ジャリ、ジャリ、
293
と後ろの道から音が聞こえてきた。
俺の他にも、涼みにきた人がいるんかな?
振り返ってみると、知った顔だった。
﹁よ、お前も寝られなかったのか?﹂
﹁ああ、私の部屋で、﹃赤裸々告白!中学時代の甘酸っぱい思い出
を語ろうの会﹄というのが発足してしまってな。それに参加するの
が嫌だったから逃げてきたのだ。﹂
中々ヘビーな事するね、あなたの部屋は。
﹁ヤス、君の部屋もそうなのか?﹂
﹁ああ、クラス内の女子で誰が好みかをひとりひとりずっと話し続
けていてな。うるさくて寝られないから逃げてきた﹂
﹁⋮⋮似たような事をする物なのだな。男も女も﹂
﹁全くだ﹂
俺たちふーっとため息をついて、お互いの顔を見合わせ、苦笑した。
部屋を抜け出して来たのは、ポンポコさんだ。確かに、ポンポコさ
んはあまりそう言う話は好きそうじゃ無いな。
﹁ポンポコさん、少し話してかない?今戻っても、まだ部屋の連中
は騒いでる気がするし﹂
﹁私の部屋もそうだ。ふむ、どこか座って何か話すか﹂
294
俺とポンポコは適当にすわれる所に座った。
﹁⋮⋮星が綺麗だよな。俺、これだけの星を見るの初めてだ﹂
﹁そうか?これくらいでは、そんなに多くは見えるとは言えないぞ。
まだ強く光っているのが、見えているに過ぎない﹂
﹁え?ポンポコさんはもっとすごいのを見た事があるの?﹂
﹁ああ、あるぞ。長野の高原にスキーに行った時なんだが、夜中に
兄弟全員で旅館から抜け出て、人工の光が届かないところまで歩い
ていき、夜空を見上げたのだ。もう空いっぱいに星があって、まる
で大小様々な宝石を夜空と言う名のスクリーンにちりばめたようだ
ったぞ﹂
﹁⋮⋮へ、へえ⋮⋮それは是非見てみたいな。そんなにすごいんだ
ったら、これで感動していた俺が馬鹿みたいじゃないか﹂
﹁いや、これはこれで味があると思うぞ﹂
﹁何で?ここじゃ天の川が見えないし、綺麗な空を見てみたい﹂
﹁だから良いのではないか。天の川が無いと言う事は、対岸に離さ
れてしまった彦星と織り姫はいつでも会えると言う事だ。1年に1
回しか会えない2人を阻む天の川。それが消えてしまうというのは、
2人にとってとても喜ばしいではないか。そう考えてこの夜空を見
ると、また違った感想が抱けると思うが。﹂
⋮⋮⋮⋮⋮。
295
﹁どうした?不思議そうな顔をして﹂
﹁いや、意外だった。ポンポコさんって結構ロマンチストなんだな
って思って﹂
﹁ふふ、私とて女子高生だ。ロマンティックな事には興味があるさ﹂
﹁そうなんだ⋮⋮ただの歴史オタクかと思ってた﹂
﹁失礼なやつだな。大体、歴史にもたくさんのロマンが詰まってい
るではないか。日本史だけでも、日本に正しい仏教を教えようと目
が見えなくなってでも中国から旅してやってきた鑑真。新たな世の
中を作ろうと平氏と戦った源義経、その義経に最後まで忠義を貫い
た弁慶。赤穂四十七士の物語も素晴らしいぞ。他にもまだまだ言い
足りない。﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁それに歴史は、一面性のみを伝えられている可能性もある。新た
な発見によって、また別の側面が見つかるかもしれない。最近なら
ば、去年、約3万5千年前の石器が栃木県高原山で、発見されたり
していたな。これによって、旧石器時代の人々の知性は今まで思っ
ていたよりも、もっと高いものだったと推測されるようになった﹂
﹁⋮⋮ごめん、知らない﹂
﹁そうか?一応新聞に載っていたんだが⋮⋮もしかすると見落とし
てしまったのかもしれないぞ﹂
296
うーん、そんなに有名な事だったんだろうか?
﹁日本だけでも、まだまだ多くのドラマがあり、新たなドラマが見
つかる可能性が隠れている。世界ならなおさらだ⋮⋮わかったか?
歴史には壮大なロマンがあるのだ。今後は歴史を馬鹿にするなよ﹂
ポンポコさん、俺は歴史を馬鹿にした記憶は無いんだが⋮⋮
﹁ああ、わかった﹂
ポンポコさんにツッコミできなかった⋮⋮ヘタレだ、俺。
﹁ふむ、まあいいだろう⋮⋮ところで、正史三国志は少しは読んだ
か?﹂
﹁いや、まったく⋮⋮﹂
﹁まだなのか!?ヤスは今まで何をしていたのだ、あれから何日経
ったと思っている!?﹂
﹁まだ4日しか経ってないよ!?﹂
﹁⋮⋮仕方がないな。では、日本史の話にするか?確かお前、好き
なんだろう?﹂
⋮⋮さっきまでの話を聞いてると、俺の知識では確実に聞き続ける
事は不可能だ⋮⋮ポンポコさんの実力は果てしない。
まだ、三国志の話を聞いていた方が⋮⋮いや?
別に他の話をすればいいんじゃないか?
297
﹁ポンポコさん、今日は日本史の話はなしにして、星を見ようよ!
!星について話し合おうよ!!﹂
﹁ふむ、星か?星の観点から話すのか。そうだな⋮⋮諸葛亮孔明が
星を読むと言うのは知っているか?﹂
﹁知ってるけど!それより星座の話とかをしようよ。星座占いとか
楽しいじゃん?﹂
別に占いは好きじゃないんだけど、またエンドレス三国志は嫌だ。
何とか話題を変えたい。
﹁確かにそうだな、占星術と言って、孔明はそれで赤壁の戦いの際、
曹操の寿命はまだあると言う事を占ったそうだな。司馬懿も、大き
な流星が落ちるのを見て、孔明が死んだと知ったと言う。戦いで、
占星術は重要な役割をになっているな。ヤス、目のつけどころがい
いぞ。三国志における他の戦いでも重要な役割を持っていると考え
られる。例えば⋮⋮⋮⋮﹂
また、延々と聞くのか!?しかも今日はウララ先生が終了の合図出
してくれないぞ!!
﹁おい、聞いてるのか!?﹂
﹁はい、聞いてます!﹂
﹁まったく、ヤスは既に﹃三国志を愛する会﹄の一員なのだから、
その自覚を持つべきだ﹂
﹁いつそんな会に入ったの!?俺入会した記憶ないよ!﹂
298
﹁私に三国志について話した時点で入会だ。君は会員6号だな。お
めでとう﹂
そんなにいるんだ!哀れな犠牲者が結構いるもんだ。
﹁ちなみに、残りのメンバーは私の兄弟だからな。一般人では君が
初めてだ、嬉しいぞ﹂
﹁嫌だーーーー!!!!﹂
﹁嘘をつかなくてもいいぞ、部活の練習中にケンやアオちゃんから
聞いた。君は嬉しいのに、嫌って言うそうではないか﹂
﹁それが嘘だ!気付けよ!﹂
﹁君は照れ屋だな。まあいいさ。それが君の味らしいからな﹂
﹁聞けよおい!俺の話を信じろよ!﹂
俺の周りは俺の話を聞かんやつばっかりだよ!
﹁怒鳴ってばかりいては、冷静な判断が出来なくなるぞ﹂
そうだ、落ち着けば俺の話も分かってくれるはずだ!
⋮⋮すぅ⋮⋮はぁ⋮⋮すぅ⋮⋮はぁ⋮⋮よし、落ち着いたぞ。
﹁それでいいんだ、では話を続けようか。今度はボーッとせずに聞
くのだぞ。ヤスも話したくなったら、どんどん口を挟んでくれ﹂
299
落ち着いてちゃ駄目じゃん!また三国志の話が始まるよ!
﹁⋮⋮ちょっと⋮⋮﹂
かんろ
﹁占いから見た三国志だったな。占師としては管輅と言う者がいた
な。ちゃんと覚えているか?﹂
﹁えっと、一応⋮⋮﹂
かんろ
﹁よし、この管輅という人は⋮⋮﹂
始まってしまった⋮⋮今日は眠れるのかなぁ⋮⋮。
300
⋮⋮その後、ポンポコさんは朝まで語り続けた。
朝になっても部屋に帰ってこないと俺の部屋のクラスメイトと、ポ
ンポコさんの部屋の人が大騒ぎを始め、先生達が捜索を開始。
周りを茂みに囲まれている所だったので中々見つからなかったみた
いで、見つかった時にはえらいびっくりされた。
﹁お前らは何してたんだ!﹂と散々に怒られ、本当の事を話しても
全然信用してもらえなかった。
周りからは白い目で見られるし⋮⋮。
危うく停学になりかけたけど、
﹁そんなに言うなら確かめてみればいい、私はまだ⋮⋮﹂
﹁そんなこと言っちゃ駄目ー!!﹂
怒り始めてたポンポコさんが危ない事をのたまいはじめそうになっ
たので結局うやむやになった。
ほんとになんなんだかなぁ、やってらんないっすよ。
301
35話:集団宿泊研修2日目
あの後、そのまま朝の集いに行き、職員さんの話を聞いて、朝食と
なった。
眠いのだが、自分が悪いのだから仕方が無い。
眠気を押さえ、あくびをかみこらえながらもそもそと食事をとる。
食べ終わって、後は今日はクラス対抗鬼ごっこと言うのをやるらし
いのだが、なぜか先生に呼び出された。
﹁なんなんだろうな⋮⋮﹂
独り言をいいながら、学年主任の先生のいる部屋にノックして入る。
﹁失礼しまーす⋮⋮﹂
学年主任の先生の部屋には机と紙の束。ええ、すごい嫌な予感がし
てます。
﹁えっと⋮⋮。何で呼び出されたんですか⋮⋮?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮分からないのか?﹂
﹁えと⋮⋮、さっぱりなんですが﹂
﹁お前、昨日から今日にかけて何したのか覚えてないのか!?﹂
302
﹁飯ごう炊飯でカレー作って、校歌歌う練習して、隠し芸大会をし
ました﹂
﹁それは一般の生徒だ!お前は、小火を起こし、深夜に勝手に部屋
を抜け出し、さらには不純異性交遊までしてただろう!!!﹂
﹁ちょっと待ってください!最後のは誤解です!しかもその事につ
いては全部関係者に謝罪しましたよ!﹂
そう、小火の後はここの職員全員に謝罪し、先生方にもひとりひと
り謝って回り、学年全員の前で土下座までしたんだ。
今日の朝だって、朝の集いで前に行って、謝罪の言葉を5分ほど述
べた。
まだ何かしないといけないんだっけ?
﹁あれだけでは足りない。しかも、小火を起こしときながら、全く
反省もせずに次の問題を起こしているんだ⋮⋮、謝罪の言葉は信用
できん﹂
﹁⋮⋮すみません⋮⋮﹂
それを言われるときつい⋮⋮確かに反省していないように見えるか
ら。
﹁と言う訳で、しっかり反省できるように、今から反省文を書く事。
最低でも50枚は書けよ。私が読んで合格と思うまで、書き続けて
もらうからな﹂
はぅ!先生、それはきついです!50枚って何を書けばいいんです
か!?
303
﹁他の2人も別室で同じ事をしているからな。2人は10枚で済ま
せているが﹂
そんな、差別です!
﹁2人はお前と違って関わっているのは1つだけだからな。それに
免じて減らしている。﹂
言い返せん⋮⋮その通りだし。
﹁俺は鬼ごっこに行くから、帰ってくるまでに書ききっておくこと。
分かったな﹂
今9時で、こっちに戻ってくるのが12時らしいから⋮⋮無理っす
!3時間で50枚ってそんな事できる人いないです!
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
でも言い返せなかった俺、ヘタレすぎる⋮⋮。
何とか1時間かけて12枚終わらせた。だが、このペースでは間に
合わない。さらにペースを上げないと!
304
と、ノックが聞こえた。え!?早すぎるよ!
﹁こんにちはー、ヤス君います?﹂
入ってきたのはアオちゃんだった。後ろにポンポコさんもいる。
﹁どしたの?俺、今話してる余裕無いんだけど﹂
俺は顔も向けず手も止めずに、口だけ動かす。
﹁あの、私こういうの書いた事無いんですよ、だから何を書けばい
いか分からなくて、教えていただけませんか?﹂
﹁無理。時間がない﹂
﹁そんな事言わないでください。ヤス君だけが頼りなんですよ﹂
﹁ポンポコさんがいるじゃん、2人いるんだから何とかなる﹂
﹁⋮⋮ヤス、私もこう言うのを書くのは苦手なのだ。私は読むのは
好きだが、書くのは苦手でな。いつも読書感想文等は、兄達に頼ん
でいた﹂
それ駄目じゃん!いや、俺もサツキの宿題手伝いまくってたから人
の事言えんのだが⋮⋮。
﹁頼む、ヤス﹂﹁お願いします。ヤス君﹂
捨てられた子犬の目をするな!その目をするのはヤマピョンだけで
十分だ!
305
﹁⋮⋮⋮⋮まずは書く事が大事なんだよ。一言でも何でもいいから﹂
仕方ないから少し教えてやる事にする⋮⋮少しだけだからな!!
﹁だから、それが書けないんですよ﹂
アオちゃんはこう言うの出来そうだと思ってたんだけど、苦手な物
ってあるもんだな。
﹁いい言葉で書き始めようと思うから上手くいかない。とりあえず、
﹃ごめんなさい﹄﹃すみませんでした﹄でいいから書いてみろ﹂
﹁うん﹂
﹁ふむ、わかった﹂
2人がそれぞれ返事をする。
﹁書けたか?そしたら、今回の場合は、自分たちが起こした状況を
初めから書き始めるんだ。アオちゃんだったら、﹃薪をたくさん入
れたら火が小さくなってしまい、慌てて火を大きくしようとして油
を入れました。火が燃え上がり⋮⋮﹄と言うように書き始める。ポ
ンポコさんも同様だ。何故初めの状況から書き始めるかと言うと、
まとめやすいからだな。ポンポコさんだって三国志について話す時
は、最初の所から話をした方が話しやすいだろ?﹂
﹁ふむふむ、なるほどです﹂
﹁ヤス、わかった、それでどうするんだ?﹂
306
﹁1場面毎に、問題点を書く。ここはこうしておけばよかったって
な。ポンポコさんの場合は、﹃ヤスが、﹁ポンポコさん、少し話し
てかない?今戻っても、まだ部屋の連中は騒いでる気がするし﹂と
誘った時に、きちんと断って帰ればよかった﹄など、書いておくと
いい﹂
﹁待て、それは別に反省していないぞ﹂
﹁いいんだよ。こういうのは先生が喜ぶって思うのを書くんだ。そ
うしないと、いつまでたっても書けないぞ﹂
﹁それは⋮⋮嘘を書くのも、終わらないのもどちらも嫌だな⋮⋮仕
方ない、ヤスのいう通りにしよう﹂
﹁このような形式的な反省文ではなく、ちゃんとした反省をする場
合は、そんな事はするな。よくないと思った事をきちんと書く。ま
た、問題点だけではなく、良かった点も書いておくといい。悪い所
ばかりに目がいって、自分がしょぼいんだと思わされるからな。﹂
﹁ふむ、わかったぞ﹂
﹁ついでに、ここが悪かったってばかり書いてても、次どうしよう
って事まで書いてないと、何も変化しないまま終わる。ちゃんと、
今後こうなる為にこうするって所まで書いておかんとね﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ヤス君、詳しいですね﹂
﹁⋮⋮中学生の時も色々あったからな⋮⋮﹂
307
ほとんどはケンとサツキにはめられた物ばっかりだったな。次はこ
うするって思って、実際にそうしてみても、先読みするんだよなー
あいつら。
あ、なんか悲しくなってきた⋮⋮⋮⋮。
﹁⋮⋮ヤス君、ここなんですが⋮⋮﹂
﹁ああ、それは⋮⋮﹂
﹁ヤス、この部分の書き方を教えてくれ﹂
﹁それはそう書くんじゃなくて⋮⋮﹂
約2時間かけて、2人は書き終えた。何とか終わった、ありがとう
と言って、帰っていく。うん、終わってよかった。
なんか忘れているような⋮⋮。
308
﹁おい、反省文書き終わってるんだろうな﹂
ん?学年主任?反省文?⋮⋮⋮⋮まずいっ!!!!
﹁おい、まだこれだけしか書けてないのか!?﹂
﹁いや、これは色々ありまして⋮⋮すみません﹂
やってないのは事実だからなー。なんか理不尽な気がするが。
﹁そのやる気の無さは問題だな。反省文100枚にしてやるから、
月曜の朝までに書いてくる事﹂
﹁無理です!100枚なんて書いた事ありません﹂
70枚ならあるけど!
﹁無理でもやる事。出来なかったら1日ごとに50枚増やすからな﹂
何を書けと!?
﹁宿泊研修はもう終わりだ、バスに乗って帰ってさっさと取りかか
れよ﹂
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
日曜日、つぶれたな⋮⋮。
309
36話:靴を買いにいこう、約束
集団宿泊研修から帰った後、日曜日まで潰れる宿題を抱えてきた俺
にサツキはめちゃくちゃに怒った。
当然だ。いままで日曜は、家族で過ごす日と決めてたのに、これじ
ゃ、俺は参加できない。
でも、日曜日当日、反省文を書いている俺の為に、サツキはコーヒ
ーを持ってきてくれたり、肩揉んでくれたりとかいがいしく世話を
焼いてくれ、母親は誤字チェック、父親は内容チェックと、家族全
体でサポートしてくれた。
この家族に産まれてよかった⋮⋮と思った瞬間だった。
⋮⋮終わったと同時に、全ての人が見返りを要求しなかったらな!
なんだよ、サツキの宿題手伝い1ヶ月って⋮⋮。宿題は自分でやら
ないと身に付かないんだぞ!
両親も結構な事を要求された。⋮⋮ちょっと悲しかったな。
310
そんな事もあって、4月28日月曜日、100枚の反省文を無事提
出。
学年主任もまじで書いたのか⋮⋮とびっくりしてたが、一応許して
もらえた。
授業も部活も終わって、さあ着替えて帰ろうと言う時にウララ先生
が1年生を集めた。
﹁ウララ先生、用ってなんですか?﹂
マルちゃんが代表して聞く。
﹁うーん、ほんとはもっと早くに言わなきゃいけなかったんだけど、
言うの忘れてて。みんな、ちゃんと陸上用の買ってないじゃない?
今履いてるのは通学用の普通のウォークングシューズでしょ?ユッ
311
チだけは中学の時から陸上やってたから、ちゃんとしたシューズを
履いてるけど﹂
そう言われれば、先輩達はシューズを履き替えてたな。
﹁ちゃんとしたシューズを履いた方がタイムも伸びるし怪我もしに
くいから、出来るだけ早めに買いにいってください。スパイクも将
来必要になってくるけど、今はまだいいわ。私からはそれだけ。じ
ゃあ、また学校で﹂
スパイクって陸上にもあるんだ、野球のじゃ駄目か?
⋮⋮駄目に決まってるだろうな。
﹁ウララセンセ!さよーなら!﹂
﹁うん、ケン君またね﹂
挨拶されたくらいで有頂天になるな、ケン。
着替え終わって、部室を出る。
俺はケンと相談して一緒に行く事にした。でも、どんなのがいいの
312
か2人とももちろん知る訳が無い。
⋮⋮やっぱり、ここは陸上経験が長いやつに聞くべきだよな。まあ、
ケンもその意見に賛成してくれるだろ。
⋮⋮学校の最寄り駅のホームに着いた。お、ちょうど目的の人物が
いるし。
﹁ユッチ!﹂
﹁ボクの名前をお前なんかが呼ぶなあ!﹂
え!!?俺どんだけ嫌われてんの?
﹁いや、ちょっと頼みたい事があるんだけど⋮⋮﹂
﹁無理!絶対やだ!﹂
﹁せめて聞いて!﹂
﹁聞きたくない!声を出すな!息をするなあ!﹂
俺に死ねと!?俺、ユッチにそんなに嫌われるほど、話しした事な
いよ。
﹁だめだな、ヤス。お前の頼み方が間違っている。俺が頼んでやる﹂
﹁さすがはケン、後は頼む﹂
﹁任されよ!﹂
ケンが頼もしく見える。
313
﹁ユッチ。明日は暇か?﹂
﹁え?うん、暇だよ﹂
ユッチ!俺とケンとの反応の差はなんだ!?
﹁じゃ、デートしよう﹂
﹁は?え、えと、ボクと!?﹂
何誘ってんだよ!?そんな事頼もうと思ってねえよ!しかもウララ
先生はどうなった!?
ユッチも顔を赤らめんな!
﹁ああ、ユッチとヤスが﹂
﹁なんでだよ!?﹂﹁絶対嫌だ!!﹂
俺とユッチが同時に叫ぶ。⋮⋮別に俺もユッチとデートしたくなん
て無いが、そこまで精一杯否定されると傷つくぞ。
﹁ん?ヤス、違うのか?俺はてっきりお前がユッチをデートに誘お
うとしてるのかと思ってたんだが﹂
﹁違うわ!俺はユッチに靴を選んでもらおうと思ってたんだよ!﹂
﹁何でお前なんかの靴をわざわざ見繕ってやんなきゃいけないんだ
よ!お前なんかには今のそのぼろ靴で十分だよ﹂
314
﹁ユッチ、これは俺の大事な靴だ。馬鹿にするのは許さん﹂
サツキが選んでくれた靴だぞ!世界中探しても見つからない最高の
ボロボロ靴だ!⋮⋮2000円だけどな!
﹁⋮⋮ヤス、それはデートじゃないのか?﹂
﹁違うだろ?大体、お前だって一緒に行くんだから﹂
陸上用のシューズを一緒に買いにいこうってさっき話したばかりだ
ろ?
﹁いや、お前いくら恥ずかしいからって初めてのデートに友達を連
れて行くなんてのは止めた方がいいよ﹂
﹁だからデートじゃないって!それに初めてって言うな!﹂
﹁でも、行った事無いだろー?ククッ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ノーコメントで﹂
いじるな、俺を!
﹁ケン、ボクもう帰っていい?﹂
放っとかれたユッチがケンに話しかける。ちょうどユッチが乗る電
車が来たみたいだ。
﹁ああ、同じ方向みたいだから、一緒に乗ろう。もうちょっと楽し
みたいし﹂
315
お前の都合かよ!自己中め!
﹁⋮⋮しょうがない、わかったよ﹂
ユッチは渋々ながら従ってくれた。おお、意外といいやつだ。
﹁で、結局ヤスは何が言いたかったんだ?﹂
﹁⋮⋮ああ、今日ウララ先生に陸上用の靴を買った方がいいって話
があっただろ?で、その時に経験者がいた方が、色々アドバイスし
てもらえるんじゃないかって思ってさ﹂
﹁⋮⋮なんだ。ほんとにデートじゃないのか、つまらん﹂
﹁何でお前の楽しみの為に俺がデートしないといけないんだ!⋮⋮
と言う訳なんだけど、ユッチ、明日俺とケンと一緒に行って、陸上
用の靴選びをしてくれないかな?﹂
俺とケンの話を聞いて、黙っているユッチが答えるのを待つ。
﹁⋮⋮そうだね、一緒に行ってあげるよ。変なの買って、まるまる
損するのもったいないしね。でも、長距離用のはほとんど知らない
からあんまりボクに期待しないでよ﹂
﹁ああ、助かる﹂
それでもいるのといないのとではずいぶん違うだろう。
﹁そうだね⋮⋮明日は大体10000円くらい持ってきといてね﹂
316
﹁え!?そんなにすんの?﹂
びっくりだ。もっと安いかと思ってた。
﹁いいのだともっと高いんだけどね。初心者ならそこまで良いの履
かなくてもいいかって。⋮⋮もちろん、一番高いのを買って、これ
に見合うランナーになるんだ!って考えならそれでもいいよ、それ
なら多分20000円くらい必要になるんだけど、それでもいい?﹂
いや、俺にはそこまでのプロ根性は無いっす。
﹁俺はそこそこの値段のでいい、そんなに金ないし。ヤスは?﹂
﹁同じく。むしろもっと安くならないか?﹂
﹁安すぎると、作りが雑だったり、クッションがちゃんとしてなか
ったりするのがあるんだよね。掘り出し物探すのは難しいし、ボク
はある程度の物を買っておいた方がいいと思うよ﹂
﹁そっか⋮⋮わかった﹂
経験者の意見と言うのは大切だ。失敗しない為にも、言う事は聞い
ておこう。
﹁じゃあ、ヤス、ユッチ。明日は学校の駅前で集合でいいか?時間
は13時で﹂
﹁学校の近くはスポーツ用品店がないからこっちの駅にして、時間
はOKだよ﹂
317
そう言って、ユッチは1つの駅をさす。俺達の住んでる駅からは大
体4駅ほど離れてる所だ。
﹁わかった﹂
﹁あ、ヤス!あんたは明日だけだからね!明日が過ぎたらまた10
メートル以内に近づかないでよ!﹂
﹁まだその設定生きてんのかよ!どうせ毎日破られてんだから、も
うそろそろ破棄しちまえよ!﹂
﹁うるさい!ボクの視界に入るなあ!この変態野郎!﹂
﹁なんだと!このチビ助が!﹂
﹁ぼさぼさ頭!﹂
﹁色黒出っ歯!﹂
﹁ボクは出っ歯じゃないやい!このシスコン!﹂
﹁シスコンの何が悪い!﹂
﹁開き直るなあ!﹂
罵りあってたら、俺たちの降りる駅に着いた。
﹁じゃあな、ユッチ、また明日﹂
318
俺は一応挨拶したんだが、予想通り無視された。
まあ、明日手伝ってくれるってだけでも御の字だな。
そう考えといて、家に帰っていった⋮⋮。
319
37話:靴を買いにいこう、待ち合わせ
4月29日、今日は昭和の日という祝日だ。つい最近、みどりの日
から昭和の日という名前になった。
いいんか?コロコロ名前変えちゃってさ。それに祝日の日付も変え
るのってまずいんじゃないんかな?結構、その日にした由来みたい
なのがあるみたいだし。
ハッピーマンデーとなった成人の日はもともと小正月を忘れないよ
うに1月15日にしたはずだし、同様に体育の日は東京オリンピッ
クの開催日だから10月10日にしてたはずだ。
誰だ!そんな事をした総理大臣は!!
⋮⋮そんな事はどうでもいい⋮⋮本当は現実逃避したくなってただ
けだ⋮⋮。
﹁ヤス兄、どうしたの?遠くを見つめちゃってさ﹂
﹁何であのときああしてればとか⋮⋮考えていたんだ⋮⋮後、今日
どうしようかと⋮⋮﹂
﹁ヤス兄ってば、そんな考え込む事無いのにね﹂
320
今、時刻は12時45分待ち合わせまで後15分だ。俺は既にもう
待ち合わせ場所に着いている。ケンもユッチもまだ来てない。
ケンは13時と言ったら、13時丁度に来るようなやつだ。
誤差もほとんどない。前に聞いたらそれが面白いのだそうだ。遅刻
するかしないかのスリルがたまらないと言っていた⋮⋮馬鹿だよな、
やっぱり。
﹁ヤス兄も、デートならデートって言えばいいのに。素直じゃない
よねー﹂
﹁だからデートじゃないって言った!今日はケンとそのユッチって
子の3人で靴を買いにいくだけだから!大体何でついてくるんだ!﹂
﹁いままで、私以外の女の子と出かけようとしなかったヤス兄がケ
ンちゃんと一緒と言っても女の子と出かけるなんて、びっくりだも
ん。﹂
それは、中学校まではサツキ一筋だったからだろうな⋮⋮もう吹っ
切ったからいいけど。
﹁人数的にはトリプルデートになるね!﹂
﹁なんでもかんでもデートにしようとするな、ほんとにデートだっ
たとしても来たのか?﹂
﹁えー、デートだったら、友達との約束があっても見に来るよ﹂
﹁なんか間違ってる⋮⋮仮にデートだったら、サツキは何をするつ
もりなんだ﹂
321
﹁ヤス兄で遊ぶよ。とりあえず、私と腕組んで歩いてって約束の場
所に向かって、彼女の反応を見てみたいよね﹂
﹁最悪だよお前!絶対彼女が出来てもサツキには教えない!デート
にもばれないようにこっそり行く!﹂
﹁どうせ言っても言わなくてもばれてついてくるんだから、言った
方が印象がいいと思うなー、あ、ついでに今も手つないどいて反応
見ようか?﹂
そう言うが早いか、手をつないできた。ぎゅっと握ってきて、振り
払おうのも面倒になったのでそのままにしておく。
﹁今更家族の印象をアップさせようなんて思わん﹂
﹁わ、ひどいんだー、どう思う?お父さん、お母さん﹂
⋮⋮そう、サツキだけなら全然構わないんだが、何故か両親までつ
いてきてるのだ。
﹁くぅ、家族に覗き趣味があったなんて⋮⋮ってかほんとに陸上用
の靴買いに行くだけだから、来てもつまんないよ﹂
﹁覗いてないでしょ?この前の日曜に馬鹿な兄のせいで出かけらん
なかったからその代わりだよ、ね?お父さん﹂
父さんがうんうんとうなずいてる。くっ、それを言われると弱い⋮
⋮。
322
﹁お前は何をやってるんだあ!この変態!﹂
ゲシッ!と突然、背中をけられた。
痛ってえ、なんなんだよ!?
振り返ってみると、ユッチが仁王立ちしている。ふーっ、ふーっと
鼻息が荒い。
﹁ユッチ、何をする⋮⋮﹂
﹁わざわざボクを誘っておいて、女連れでくるなあ!やる気がある
の?やる気無いならもうボクは帰るからね!﹂
言い方が変!所々単語を省略するのを止めて!
﹁ヤス兄ったら、やっぱりデートだったじゃん、下手な嘘をつくの
を止めようね﹂
﹁これからケンが来るから。そしたらデートじゃないって分かるよ﹂
﹁だから私たちを入れてトリプルデートでしょ?﹂
﹁同じことを何度も言うな!﹂
﹁いいじゃーん、ほらほらもっといちゃいちゃしようよ﹂
﹁やめい、腕を組もうとするな!﹂
323
﹁ふっふっふ﹂
﹁変な笑い方するな!抱きつこうとするな!﹂
﹁嬉しいくせにー﹂
﹁嬉しくないってば!﹂
サツキと言葉の応酬を繰り返していたら、ガキッと頭に激痛がきた。
⋮⋮痛い⋮⋮
﹁ボクを無視していちゃつくなあ!帰るよ、帰るからね!﹂
えと、怒っているのか?
ああ、そう言えばポンポコも目の前で両親がいちゃついてるのを見
るのは嫌だっていってたな。ってか、これは別にいちゃついてる訳
じゃないし。
だって兄妹だし。
﹁この子面白いねー、ヤス兄、結局誰なの?﹂
﹁同じ高校の陸上部で、1年生のユッチ。怒りやすく、猪突猛進。
またの名を黒の弾丸﹂
﹁そうなんだー、ユッチ先輩、来年後輩になるヤス兄の妹のサツキ
です﹂
﹁は?え、い、妹さん?﹂
324
﹁そですよー、彼女じゃないです、よかったですね﹂
﹁えと、あれ?何で妹さんが?﹂
混乱してるなー、ユッチ。楽しいからほっとくけど
﹁ヤス兄が女の子とどっか出かけるって言うから、これは見とかな
いとと思いまして⋮⋮初めてですよー、ヤス兄が女の子とお出かけ
するなんて﹂
﹁いや、実際そうなんだけど、ただ陸上用の靴を買いにいくだけだ
から。変な言い方をするな﹂
﹁は、え?あれ?ボクさっき何した?﹂
まだ混乱してる⋮⋮。もういい加減立ち直れ。
その後、ケンも到着して、俺、サツキ、ケン、ユッチ、父さん、母
さんの6人で買い物に行く事になった。
最初3人だったはずなのに、何で倍になってるんだろうな⋮⋮。
325
38話:靴を買いにいこう、靴選び
俺たち6人はユッチの案内で、ランニングシューズを売ってるスポ
ーツ用品店へ向かった。
その店は駅から10分程度歩いた所にあって、5階建てなんだが、
ワンフロアまるまる陸上用品になってる。
﹁ほえー、こんなに陸上用のシューズの種類って色々あるんだね﹂
サツキがびっくりしたような顔をしてる。確かに、ざっと見ただけ
でも50足以上はあるかな。
﹁短距離用と長距離用でも違うし、初心者が履く靴と早い選手が履
く靴もまた別だったりするからね。その上、それぞれのメーカー毎
に靴を作ってるから、それくらいにはなるよ﹂
ユッチが説明してくれる。
﹁こっちの靴はとげがついてるけど、これは何?こんなので走れる
の?﹂
ケンが1つの靴を持って、じろじろ見てる。確かにケンの持ってる
靴にとげがついてるな。
﹁それはスパイクシューズ、タータントラックを走る用の靴。ター
タンって言うのは、地面がゴムみたいになってる所なんだけど、分
326
かる?﹂
すみません、分かりません。
﹁テレビで陸上の大会見た事無いかな?去年、日本でも世界陸上や
ってただろ?その時に焦げ茶色になっているところがタータンって
言うんだけど﹂
﹁⋮⋮いや、俺マラソンしか見て無かったし﹂
日本がメダルとれそうだったのがそれだけだったからなあ。その時
は投げる系は興味が無かったし。
﹁マラソンでも、最後に競技場に入ってくだろ!その最後の所で、
走った部分がタータンだよ!﹂
﹁あ、ランナー達が走るコースの所の素材をタータンっていうのか。
⋮⋮説明下手だぞ、ユッチ﹂
﹁うるさい!ボク、もうヤスの靴どれがいいか考えてあげないから
ね!﹂
﹁ごめんなさいユッチ様﹂
⋮⋮俺はヘタレです。
﹁もう馬鹿にするなよ。⋮⋮あ、でも、ヤスは長距離だからスパイ
クは無くてもいいかもね。もちろん、持ってる人のが多いんだけど
さ﹂
327
﹁へ?何で?﹂
俺は質問する。
﹁スパイクシューズは速く走れるけど、その分足への負担が大きく
なるんよ。長い距離走るのに、足への負担が大きくて途中で疲れた
らだめでしょ?﹂
﹁なるほど﹂
﹁まあ、ウララ先生も言ってたけど、スパイクを買うのはもっと後
でいいし、今日の所はランニングシューズをさっさと買っちゃおう﹂
﹁ラジャー﹂
おしゃべりはこれくらいにして、靴選びをしよう。
﹁で、結局どんなのがいいんだ?﹂
ケンが聞く。
﹁2人とも、今日の予算はどれくらい?﹂
﹁俺は、10000円こっきりしか持ってきてない。でも、いざと
なったらヤスに借りる﹂
﹁俺をアテにすんなよ!⋮⋮俺も10000円。でも、母さんがい
るからもしかすると小遣い前借りできるかも﹂
母さんを見たが、手で大きくバツ印をしていた。駄目みたいだ。
328
﹁と言う訳で、10000円以内で買えるのでよろしく頼む﹂
﹁2人の足のサイズは?﹂
﹁26.5﹂
これはケン。
﹁27.5だ﹂
これは俺。
﹁22.5です﹂
サツキ、お前には聞いてない!
﹁そうすると⋮⋮買えるのはこの辺かな﹂
そう言って、ユッチは俺たちそれぞれに、何足かの靴を持ってきて
くれた。アシックス、ナイキ、ミズノ等それぞれのメーカーがある。
﹁どのメーカーのがいいんだ?﹂
どれがいいか、さっぱり分からなかった俺は聞いてみる事にした。
﹁どれがいいってのは無いよ。人によって、足の形は違うし。人に
よっては、ナイキがいいかもしれないし、ニューバランスの靴がい
いかもしれないもん。だから絶対に履いて履き心地を確かめてね。
自分にあってない靴を履いたら、靴擦れが起きたり、怪我の元にな
329
るから。だから、今後も靴を買いにいく時は必ずネットで買わずに、
靴専門店かスポーツ用品店にいくこと﹂
ユッチは色々注意を促してくれた。そうなんか⋮⋮じゃ、適当に履
いてみるか。
﹁ま、本来は夕方以降に買いにくるべきなんだけど⋮⋮ボク、門限
あるしね﹂
﹁何で夕方以降がいいんですか?﹂
サツキが質問する。お前が買う訳じゃないんだから、そこまで知ら
なくてもいいんじゃないかな。
ってか、門限あるんだ?しかも夕方には帰らなきゃいけないってめ
ちゃくちゃ早くない?
﹁夕方になると自分の体重で足が大きくなるんだよ、と言っても少
しだけどね﹂
へー、そうなんだ。知らなかった。
﹁うーん、俺はこれがいいな﹂
いつの間にかケンが決めていた。アシックスのウインドスプリント
という靴らしい。
﹁大丈夫?履いてみて、緩すぎたりきつすぎたりするのは駄目だよ﹂
﹁うん、ぴったり。軽いし、今までのより走りやすそう﹂
330
﹁そういえば、今まで普通の靴で走ってたんだよね?それであれだ
けの速さで走れるって⋮⋮ケン、あんたって馬鹿だけどなにげにす
ごいね﹂
ユッチにまで馬鹿にされてるのか?可哀想に。
﹁俺はこれかな﹂
俺は数あるうちからミズノのミズノウェーブエアロと言うシューズ
にした。うん、しっくり来る。
﹁2人とも決めた?それじゃ、レジ行こか﹂
﹁あいよ﹂
俺は、決めた靴を持って、レジに行こうとする。いくらかなと思っ
て値札を見ると、﹁11550円﹂。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁ユッチ!これ10000円以上するんだけど!買えないじゃん!﹂
﹁え、そうなの?⋮⋮あれ?俺のも12600円って書いてあるよ
!?﹂
俺とケンはびっくりしてユッチに問いつめた。
﹁ああ、大丈夫。ボクここの会員だから、このカード見せれば全品
2割引になるんだ。だから買えるよ。さっき計算したから大丈夫﹂
331
おお、ユッチ偉いぞ、それは助かる!
﹁10080円になります﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁あ、あれ?おかしいな?﹂
﹁馬鹿かユッチは!?ちゃんと計算しろよ!﹂
﹁馬鹿って言うなあ!馬鹿って言う方が馬鹿なんだよ!﹂
﹁はん!それはお子ちゃまの理論だ、ちなみに今お前は馬鹿と3回
332
言った。つまり、お前の方が馬鹿なんだよ!﹂
﹁うるさいうるさいうるさい!変なへ理屈言うなあ!せっかく今日
きてやったのにさ、もうお前なんか知らない!﹂
そう言い捨てて、帰ろうとするユッチ。ってか俺まだ買ってないよ
!ユッチがいなきゃ買えないじゃん!
﹁あ、いや、待ってください、ユッチ様!せめて俺の靴買ってから
帰ってよ﹂
﹁なにそれ!?ボクってカードだけが存在意義?﹂
しまった、楽しくてつい口走ってしまった。
﹁そんな事無いぞ、その無駄な元気は周りの人間に安らぎを感じさ
せる。子供が元気に飛び回ってるのを見るのは微笑ましいからな﹂
﹁ボクお前と同い年なんだから!お前なんか嫌いだあ!!﹂
333
⋮⋮⋮⋮結局、言い争いが終わった後、ユッチは買ってくれた。何
とか買えてよかった⋮⋮。
その後、俺の方の靴が9240円だったから、ケンに80円あげて、
この話は終わった。
結論、ユッチって馬鹿だったんだな。
ってか、からかうのがこんなに楽しいって思わなかった。
334
39話:インターハイ地区予選前
次の日の練習から、早速購入したシューズで練習するようになった。
普通の靴との違いは、やっぱり軽さ。
ちゃんとした靴を履くと、こんなに軽くなるんだとちょっとびっく
りした。
走ってみても、今までよりも足が重くなりにくかった。
ケンも購入して、すごく走りやすくなったって喜んでた。
⋮⋮今までのケンの靴はほんとぼろぼろで、右足の親指部分なんか
から靴下見えてるぐらいだったから、当然かもしれない。
お礼をユッチに言おうと思ってたんだが、威嚇する事は無くなった
のだが、俺を見るたびに
﹁この変態!バカ!アホ!間抜け!﹂
と悪口を言うようになった。
幼稚園児並みの悪口なんだが、俺の話を聞こうとしてくれない。何
となく俺も悪口言われると腹が立つので、言い返してしまう。
最後はお互いに悪口を言い合って終わるという日が続いてる。
俺らはほんとに高校生かよ⋮⋮。
長距離組では、ノンキも買ってきてた。
335
兄に連れられて買ったらしい。
そうして、その靴で練習するようになって、今日で3日目、5月2
日金曜日。
今日の練習は、各自それぞれに練習するようだ。
俺たち1年も、各自好きなスピードで、好きな量を走っていいと言
われた。
俺は気持ちよく走れるスピードで、8周走った。だいたい8kmに
なるらしい。
今日、各自で練習な理由は、明後日から始まるインターハイ地区予
選、高校総体東部大会が始まる。2、3年生はそれに出場するので、
各自で調整して練習するそうだ。
中長距離の先輩達が出場する種目は、800m、1500m、50
00m、の3種目。
長距離の種目はあと2つ、3000m障害という種目と5000m
ウォークと言う種目もあるそうなのだが、どちらも練習できる環境
じゃないと言う事で、出場しないと言っていた。
3000m障害と言うのは、長距離の人がハードルみたいな物を越
える種目というもの。
ただ、そのハードルみたいな物は平均台くらいの太さがあって、上
に乗って越えるらしい。
しかも、1周に1回は落とし穴みたいな部分も跳ばなきゃいけない。
落ちると水にびしょぬれになる⋮⋮。
なんて恐ろしい競技なんだ⋮⋮。
336
5000mウォークと言うのは、走るのではなく、5000mを歩
く競技。
しかし、歩くと言っても速い人は、普通に走る人よりも速く歩いて
しまうという⋮⋮まさにびっくり人間だ。
地区レベルでも上位に入賞する人は1kmを5分以内で歩く︵高校
女子3年の体力テストの1km持久走の平均記録が5分︶うえ、そ
れを5kmも歩き続けると言うのだから、すごすぎる。
歩き方にはやり方があって、その通りに歩かないと失格になるらし
く、この学校ではその歩き方を学べないから、出場しないんだって
さ。
﹁と言う事だ、わかったか?ケン﹂
﹁ん?悪い、聞いてなかった﹂
﹁おいっ!何で聞いてないんだよ!お前がプログラムを見て、30
00m障害と5000mウォークって何?って聞くから色々調べて
教えてやったのに!﹂
今は練習が終わって、陸上部全員で集まっている。ウララ先生はち
ょっと用事があってぬけていて、今はそれ待ちだ。その間、ケンと
ヤマピョンとそんな会話をしてた。
﹁だって、ヤスの説明長ったらしくて、クドいんだもん。もっと簡
単に説明しろよな。ヤマピョンもそう思うだろ?﹂
﹁⋮⋮えと⋮⋮﹂
ヤマピョンが俺の顔をちらちら見てくる。なんだよ、おい。
337
﹁ヤスに気を使わなくていいからさ。思った通りの事を素直に言っ
てみ﹂
ケンが促す。あれだけの行動で、ヤマピョンの考えてる事がよく分
かるな。
﹁⋮⋮長い⋮⋮﹂
うわ、オブラートに包まず単語だけで言ってくるから、かなりへこ
む。
﹁やっぱヤマピョンもそう思うよなー。ヤス、もっと簡単に説明で
きないと、人民の心をつかむなんて出来ないぞ!女を口説く時だっ
て、延々と美辞麗句を並べ立てるんじゃなくて、﹃愛してる﹄の一
言の方が効果的な場合が多いんだぞ﹂
ほんとかよ!お前女と付き合った事無いじゃん!
﹁わかったよ!3000m障害は3000メートルの障害物競走で、
5000mウォークは、5000m歩く競技。これでいいんだろ!
?﹂
﹁短すぎて分からん、障害物競走ってなにさ。運動会か?﹂
ヤマピョンもコクコクうなづく。
﹁うがー!!てめえら!自分で調べやがれ!﹂
﹁お、ヤスが壊れた﹂
338
﹁ケン、うっさい!﹂
﹁ヤス君、あなたが一番うるさい!﹂
⋮⋮⋮⋮。
いつの間にか、ウララ先生がきてた。なんで毎回俺ばっかり怒られ
るんだろう?
﹁すみません⋮⋮﹂
﹁うん、毎度毎度ほんとに気をつけてね。自分の行動にほんとに責
任持たないと﹂
ぼろくそに言われてる。俺、今までも基本的には巻き込まれただけ
だと思うんだけど。
﹁それじゃ、今日のミーティング始めます。明後日からインターハ
イ地区予選が始まりますね。明日は祝日で練習が無いので、各自で
調整する事になりますが、もし学校で調整したいと言う人がいたら、
私にこのあと言ってください。私も練習に立ち会いますから﹂
﹁ウララセンセ、明日きていいですか!?﹂
話の途中で遮るなよ、ケン。
﹁その話はあとでね、ケン君。それで、明後日の事ですが愛鷹広域
公園陸上競技場という所で試合が行われます。1年生はまだ行った
事が無いと思いますので、後で先輩達に行き方を聞いておいてくだ
さい。﹂
339
﹁はーい﹂
返事したのはケンだけだ、多分また話しのコシを折った気がするが
⋮⋮
﹁⋮⋮こほん、それで競技場には8時に集合してください。場所取
りをしようとする人たちがあふれてますが、巻き込まれないように
してください﹂
ん、場所取りなんて必要なのか?
﹁1年生は分担してみんなで使う物を持ってきてください。後で決
めといてね、ポンポコさん、代表者としてよろしく﹂
﹁うむ、了解いたした﹂
ポンポコさん、先生に対してもそんなしゃべり方してるんだね。他
の先生もなんも言わんのかなあ。
﹁⋮⋮⋮⋮ある人は県大会出場、ある人は自己記録の更新と目標は
様々と思いますが、全員悔いの内容に全力を尽くしていきましょう
!﹂
﹃はい!!﹄
﹁以上、今日の練習を終わります﹂
﹃ありがとうございました!!﹄
340
うーん、ウララ先生ってなんか印象ががらりと変わるなあ。ふざけ
ていい雰囲気の時は、もうボケボケな先生なのに、今なんかはすっ
ごい真面目でかっこいい。
切り替えが上手ってことだな。
﹁1年生、集合せよ!﹂
﹃ほーい﹄
わらわらと1年生が集まる。
﹁明日必要な物は全部で6つだ。ビデオ、旗、ブルーシート1世、
ブルーシート2世、救急セット、組み立て型のテント﹂
﹁1世2世って何?﹂
﹁私の趣味だ﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
ポンポコさんの趣味ってよく分からんね。
﹁それで、このうちの5つは問題ないのだが、組立型のテントだけ
は重いのでな。力のある男子か、家の近い人に持っていって欲しい
のだが﹂
﹁家の近いやついるかー?﹂
ケンが声を上げるが、誰も反応しない。ケンがため息をついて言う。
341
﹁仕方ないな、これは男子の誰かが運ぼう、後で男子だけのこって
決める。それ以外の物はどうすんの?﹂
﹁うむ、それ以外の物は軽いから、順番で運べばいいと思う﹂
﹃了解﹄
そして、組立型テントを誰が運ぶかでジャンケンする事になった。
組立型点とは意外と重い。持ってくだけで疲れてしまう。持ってく
理由は雨が降ってきた時に、必要になるかもしれないからだって。
﹃ジャンケン﹄
﹃ポン!﹄
俺:チョキ
ケン:パー
ヤマピョン:パー
マルちゃん:チョキ
ノンキ:チョキ
オオリン、スギヤン:チョキ
あ、なんか一発で決まったな。ケンかヤマピョンが持ってく事にな
るのか。
﹁あー、じゃあ、俺が5日に持ってくから、ヤマピョンは6日に持
ってってくれ﹂
コクコクとうなづくヤマピョン。
342
﹁残り1日、5月4日はヤスでよろしく﹂
﹁何でだよケン!?俺勝ったよ?﹂
﹁なんとなく﹂
﹁そんな理由で俺にするな!﹂
﹁しゃあねえな、じゃあ多数決。残りの1日はヤスがいいと思う人
ー﹂
バババッと手があがった。特に女子組の手の上げ方が速かった⋮⋮。
俺、そんなに嫌われてるの?他の人は⋮⋮自分に押し付けられたく
なかったんかな。
﹁決定だな!よろしくヤス!﹂
﹁これいじめだろ!?こう言うのがのちのちいじめに発展していく
んだぞ!﹂
﹁ヤスなら大丈夫!いじめられ慣れてる!﹂
﹁そんな慣れ嫌だー!!﹂
俺の叫びは空しく空に消えていった。
まあそれは置いといて、1年生の人たちは大会には出場せず、応援
のみだ。
それでも生で見る初めての陸上競技だ、楽しみだな。
343
40話:インターハイ地区予選、開始︵前書き︶
携帯で読んでくださってる方、読みにくい部分があります。
読めない場合読み飛ばしてください。
申し訳ないです。
344
40話:インターハイ地区予選、開始
5月4日土曜日、インターハイ地区予選が始まる。
俺は競技場に向かって電車、バスを乗り継ぎ歩いているのだが⋮⋮
⋮⋮。
﹁重い⋮⋮﹂
﹁情けないぞヤス!その程度の重さでひぃひぃ言うなんて、それで
も元野球部か!﹂
﹁うっせえ!ジャンケンに勝ったのに、何で俺が運んでんだよ!め
ちゃくちゃおかしいじゃん!﹂
﹁いじめられっこの本領発揮だな、ヤス﹂
怒鳴るのも疲れるので、もう俺は無視して歩く。
ジャスト8時、俺たちは競技場前についた。もうみんなそろってい
る。
﹁⋮⋮お、おはよう⋮⋮⋮⋮﹂
﹁おはよう﹂
﹁おっす、ヤマピョン!﹂
ヤマピョンから声をかけてきたので、俺とケンがヤマピョンに挨拶
する。
345
﹁全員集合したようね。じゃ、朝のミーティング始めます﹂
ウララ先生が前に立って、話し始める。
﹁今日あるのは、短距離男子が400m、110mハードル。女子
は400m、100mハードル、後、1人走り幅跳びに出ます。長
距離は1500mだけね﹂
男子と女子では、ハードルで走る距離って違うんだな。知らなかっ
た。
⋮⋮⋮⋮俺ってほんとなんも知らないね。
﹁他の学校では1年生が出場してる所もあるけど、今年の1年は初
心者がほとんどだったから、出場は見送りました。ユッチさんも受
験期間中あまり走れてなかったみたいだし、止めといた方がいいか
なって思って勝手に判断しちゃったけど許してね﹂
﹁別に構いません。本当に全く走ってませんでしたし﹂
ユッチが返事する。ユッチ、結構合格ヤバかったのかな?算数でき
てなかったし。
﹁1年生は、応援するとともに、他の選手の走りをよく見ておく事。
上の人の走りを見ておく事もいい勉強になるから﹂
﹃はーい﹄
﹁2、3年生は自分たちの出場にあわせてきちんとウォーミングア
ップをしておく事。きちんと体が温まってないと、体動かないよ。
346
やりすぎてばてるのも駄目だからね﹂
﹃はい﹄
﹁じゃ、私は審判しないといけないから、後はみんな頑張ってね、
応援してます﹂
この後、開門となり、競技場に一斉に高校生がなだれ込んでいく。
危ないって!そんなに慌てなくても場所なんてたくさんあるじゃん!
そんな急いでどうすんの!?
競技場に入って、1時間くらいした頃、大会のタイムテーブルを渡
された。
タイムテーブルと言うのは、いつ、どの競技が実行されるかと言う
事を知る物だ。
ついでだ、見てみるか。
﹁ヤス、そんなん見てないで、大会観に行こう!﹂
﹁ケン、まだ先輩たちは走らない。そんな慌てるな﹂
﹁なんか一番最初の種目がスタートしそうなんだって!先輩でない
けど、一応見とこうよ﹂
﹁俺はどれに先輩が出るかチェックしてから行く、先行っててくれ﹂
﹁へーい、俺は先に行っとくよ。そう言うの、見たいやつだけ見れ
ばいいよ。ユッチ、アオちゃん、行こう﹂
347
﹁あ、ごめん、ボクもタイムテーブル見ておきたい﹂
﹁えー!?ユッチもかよ。アオちゃん、しょうがないから2人でい
こか?﹂
﹁はい、行きましょう﹂
ケンは結局アオちゃんを連れて観に行った。他の連中もほとんど大
会を観に行ったみたいだな。
残った後ろからユッチが覗き込んでくる。
﹁なんだよ?後で見せてやるから、待ってろよ。覗くな﹂
﹁うるさいうるさい!ボクにも見せてくれたっていいじゃんかあ!﹂
﹁駄目、覗かれてると見にくくなる﹂
﹁隣に座れば別に見にくくならないでしょ?﹂
﹁やー、見にくいな。影が出来るし﹂
﹁それぐらいいいじゃんかあ!﹂
﹁だからあとでって言ってるだろ、お子様は待つ事も出来ないのか
?﹂
うーっ!と怒ってそっぽむいてしまった。言いすぎたか?
﹁私にも見せてくれんか?﹂
348
﹁ん?ポンポコさんか、どうぞー﹂
﹁すまぬ﹂
しゃべり方、ほんと面白いなあ。
﹁何でポンポコはよくて、ボクは駄目なんだよ!そんなにボクの事
が嫌いかあ!?﹂
﹁嫌いじゃないよ⋮⋮でも面白すぎて⋮⋮⋮⋮ユッチで遊ぶの﹂
﹁ボクは物じゃない!大体いつも遊ばれてるのはヤスじゃないか﹂
うっ、痛い所をつく⋮⋮。
﹁そういや、お前、俺を潰すんじゃなかったのかよ。俺はこの通り
ぴんぴんしてるぞ﹂
﹁いや、その⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ふっ、所詮ユッチはその程度なんだな﹂
﹁だって⋮⋮ケンにあんなにいじられてるのに、ゾンビのごとく這
い上がってくるんだもん!どれだけ叩きのめせばヤスは潰れてくれ
るのさ!﹂
﹁ゾンビってなんだよ!もっとかっこいい比喩をしろ!不死鳥とか
!﹂
﹁はっ!ヤスが不死鳥だって!?いいとこ便所バエがお似合いだよ
349
!﹂
﹁鼻で笑うなよ!俺も言って似合わないって思ったさ⋮⋮でも便所
バエは無いだろ!?﹂
﹁うーん、蚊とか?﹂
﹁どっちもすぐ殺されるじゃん!?﹂
もっといいの無いの?ユッチの中での俺の価値ってめちゃ低いなあ。
﹁おぬしら、遊ぶでない。3人で見ればいいではないか。﹂
確かにそうだな。時間も無いし⋮⋮結局今日のタイムテーブルはこ
んな感じだった。
第1日
トラックの部
女子 七種競技100mH 10:00
女子 400m予選 5組2着+6 10:20 ☆
男子 400m予選 10組1着+14 10:45 ☆
男子 1500m予選 4組4着+4 11:25 ☆
女子 1500m予選 3組5着+5 11:55
男子 110mH予選 4組1着+4 12:30 ☆
女子 100mH予選 4組1着+4 12:50 ☆
女子 400m準決勝 3組2着+2 13:15 ★
男子 400m準決勝 2組3着+2 13:30 ★
350
男子 110mH決勝 14:40 ★
女子 100mH決勝 14:50 ★
女子 400m決勝 15:00 ★
男子 400m決勝 15:10 ★
男子 1500m決勝 15:20 ★
女子 1500m決勝 15:30
女子 七種競技 200m 15:50
跳躍の部
女子 走幅跳決勝 11:00 ☆
女子 七種競技 走高跳 11:30
男子 走幅跳決勝 14:00 投てきの部
女子 砲丸投決勝 10:30
男子 ハンマー投決勝 13:00
女子 七種競技 砲丸投 14:30
とりあえず、マークをつけといた。
必ず先輩が出場するのが、☆で、勝ち進む事が出来れば出場できる
のが★だ。
﹁ユッチ、この﹃H﹄って何?﹂
﹁ハードルの事だよ、ハードルの頭文字をとってる﹂
﹁じゃ、この﹃5組2着+6﹄ってのは?﹂
351
﹁これは、全部で5組が走って、その内の2着が進出できる。それ
で、+6って言うのは、2着以内に入れなかった3着以下の人たち
の中で、タイムの速い順に6人が勝ち残って次に進む事が出来るっ
てこと。ヤス、知らなすぎ!それぐらい自分で勉強して!﹂
その通りです、ごめんなさい。
﹁知らないついでに、もう1つ教えてあげよう。ここのインターハ
イ地区予選は、12位までが県大会に出場できるんだよ。だから、
もし決勝に行けなくても、予選、準決勝の結果が良かったら、県大
会に出れるかもしれないんだ﹂
﹁ほほう⋮⋮なるほど、教えてくれてサンキュな﹂
﹁そうそう、ボクにもっと感謝してよ!そしてこれからはもうボク
を馬鹿にしないでよ﹂
﹁それは無理、だってユッチ⋮⋮馬鹿だもん﹂
﹁ボクは馬鹿じゃないってば!何べん言ったら分かるのさ!﹂
﹁⋮⋮うーん、ずっと言い続けてみたら?﹂
﹁ボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボク
は馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿
じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃな
いボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボク
は馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿
じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃな
いボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボク
352
は馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿
じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃな
いボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボク
は馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿
じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃないボクは馬鹿じゃな
い⋮⋮!!!﹂
﹁大変だ!ユッチが壊れた!救急車!救急車を呼べ!﹂
﹁ずっと言っただけじゃん!救急車ってなんだよお!!﹂
﹁いや、呪詛のようで怖かったから⋮⋮ってかずっとって言って普
通はそんな事しねえよ。馬鹿だな、ユッチは﹂
﹁ううぅ⋮⋮ポンポコぉ、ヤスがいじめるよお⋮⋮﹂
﹁よしよし、気にするでないぞ。ユッチは馬鹿は馬鹿でも愛される
馬鹿だからな﹂
﹁みんなボクの敵だあ!!!﹂
あ、走ってってしまった。
そろそろ先輩が出場するし、俺たちも応援に行くか。
353
41話:インターハイ地区予選、400m
まずは、女子400mの予選だ。
出場しているのは2人だ。元々女子の方が少ない。選手は3年が4
人、2年が2人、1年が2人。
来年、女子の選手は、1、2年あわせて4人しかいなくなる。
ぎりぎりでリレーを組める程度しかいない。
きっついなあ⋮⋮。
先輩は4組目と5組目に出場する。
1組目2組目が走り終わった。
400mってスタート地点がバラバラだから、どの人が先頭を走っ
ているのかいまいち分かりにくいな。
﹁ヤス、さっきから、5レーンの人が勝ってるな﹂
お、ケンもそう思ったか。レーンって言うのは選手が走るコースの
事な。1レーンが一番内側で、8レーンが一番外側だ。
﹁ああ、俺は次くらいは別のが来るんじゃないかって思う。俺の予
想では7レーンだ﹂
﹁そうか?2回続けて5レーンなんだ。今度も5レーンな気がしな
いか?俺は5に賭ける﹂
﹁よし、ケンは5だな。俺は7だ、7に賭ける﹂
354
﹁ふーん⋮⋮そうだ、ヤマピョンもどっかに賭けないか?﹂
お、ヤマピョンを巻き込むんだ。ヤマピョンはどこに賭けんだろ?
﹁⋮⋮⋮え⋮⋮?﹂
﹁どこが1番になるかだよ。先輩が走ってる時は、応援しないとい
けないけど、それ以外の時はこう言う事しててもいいじゃんね﹂
うーっ、と唸りながら考えてる。ちょっとして手をあげて、指を4
本立てた。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁そっか4レーンか。ケン、当てたらどうする?﹂
﹁うーん、外したやつが、来週当てた人の名前に必ず﹃様﹄をつけ
るって事で、﹂
﹁OKだ﹂
こくこく。とヤマピョンも合意のサインを送る。
バン!
3組目がスタートした。
7レーンの人は、いいスタートを切ったように見える。外側を走っ
ていて、前の方からスタートしてた8レーンの人に100m付近で
追いついてしまった。
355
よし、このままならいける!頑張れ!7レーンのお姉さん!
250mあたりまでは先頭を走っているように見える。
このままいけばトップは確定だ!
100mを切った。
⋮⋮⋮⋮あれ、何でそんなにスピード落ちてるの!?そのままじゃ
抜かれるよ?あ、5レーンの人に抜かれた⋮⋮⋮⋮4レーンにも抜
かれた。
どんどん抜かれてってるじゃん!どうしてそんなに一気にばててる
のさ!?
﹁おっし、勝った!また5レーンが来た!﹂
負けた⋮⋮結局7レーンの人は5位に終わった。ラストのばてっぷ
りはなんだったんだろう?
﹁来週は2人とも﹃様﹄付けでよろしくな!﹂
﹁⋮⋮ちっ!わかったよ﹂
うんうんとヤマピョンもうなずいてる。⋮⋮⋮⋮ヤマピョンってケ
ンの名前読んだ事あったっけ?いや、全くないぞ。
って事はこの罰ゲームって俺のみの適用じゃん!何だよそれ!
俺が意気消沈してる間に、4組目の先輩がスタートしようとしてた。
先輩は3レーンだ。
⋮⋮応援しないと。
356
﹁みんな、せーのでいくよ、せーの﹂
﹃ゴーヤー!!﹄
通称、ゴーヤ先輩。2年の先輩で話した事は無い。今後も話す機会
は無いだろう。
俺はこの場であだ名で叫ぶのって恥ずかしいのだが、みんなどうな
んだろうな?
バン!
スタートした。先輩は3レーンからなので、前を走る人を追う展開
になる。
200mを過ぎても、まだ4コースを走る選手に追いつけない。
まずくないか?このままじゃぬけずに終わるぞ。
300mを過ぎた。
1、2レーンの人は追いつけないまま遅れはじめ、
7、8レーンの人はもう遅れて、とっくに追い抜いている。現在第
4位。
後2人抜かないと、確実ではない。
お、6レーンの人が遅れてきた。後少しだ、350mの地点で⋮⋮
⋮⋮追いついた!そのまま行け!行くんだゴーヤ!
結局、そのままゴールした。自分の応援席からではどちらが先にゴ
ールしたかが分からなかった。
⋮⋮⋮⋮。
357
お、結果がでた。先輩は⋮⋮3位だ!最後抜いてたんだな!
ゴーヤ先輩のタイムは61秒82。いいタイムなのか悪いタイムな
のか俺には判断が出来ない。
今回の順位は4レーンの人が1位で、5レーンが2位。
ここまでが準決勝に確実に進出できるが、ゴーヤ先輩は3位なので、
結果待ちだ。
5組目の先輩も8レーンで走ったが、結果は5位だった。タイムは
65秒85。準決勝にはまず残れないだろう。
5組目までの順位とタイムは電光掲示板と言うのに表示される。で
っかいテレビみたいなやつだ。
今、ポンポコさんが、全員の順位を割り出している。
﹁いけたぞ!ゴーヤ先輩準決勝進出だ!﹂
おー、ゴーヤ先輩、やったな!
俺だけじゃなくて、みんなも喜んでいる。
3位以下の中で、ゴーヤ先輩のタイムは、3番目。全体だと13番
目のタイムだ。
後1人抜かないと県大会には出れない⋮⋮⋮⋮県大会って厳しいな。
男子の先輩たちも3人挑んでいた、こちらも1着しか準決勝に進め
ないと言う厳しい勝負だった為、準決勝にいけたのは2年生の先輩
ただ1人だ。
358
42話:インターハイ地区予選、応援
次は、1500mの予選がある。
この種目には、3年の先輩が2人と、2年の先輩が1人出場だ。
マルちゃんとノンキが付き添って応援してる。1500mは、他の
学校の人もたくさん付き添いで、スタート地点まできてるみたいだ。
陸上の大会ってあんな風に、スタート地点まで応援に来ていいみだ
い。
俺は他の部員と、応援席での応援だけど。
競技開始時間になり、選手がスタート地点に並ぶ。1組目には先輩
が1人走る。
﹁位置について﹂
バン!
一斉にスタートした。内側にいる人たちが速い。1500mは一気
に20人くらいが走るから、人ごみの中に入らないようにしている
のかもしれない。
先輩はと⋮⋮⋮大体中盤後ろの方に位置してるな。15位から16
位くらい。なんだか人に囲まれて、めちゃくちゃ走りにくそうだ。
そのままの状態で、1周目を通過した。その場所で、マルちゃんと
ノンキが精一杯の声を張り上げて応援している。
359
あ、集団から抜け出た。周りを押しのけて前に出ようとしてる。
⋮⋮集団の先頭に立ったな。さっきまでよりも走りやすそうだ。
少し集団のスピードが上がり、それについて行けない人たちは、だ
んだんと遅れはじめていった。
そのまま集団の先頭に立ったまま、2周目を通過した。この時点で、
集団の人数は先輩を含め5人。
現在6位。すでに5位との差は大きく、これ以上の順位アップはの
ぞめそうにない。
このまま行ってくれれば⋮⋮。
残り500m、1000mを走った時点で、後ろにいた4人の集団
が動き出した。
先輩の前にどんどんと出始めたのだ。
これはやばい!このままだと集団全員に抜かれるぞ!
残り400m、1周になった時点で、集団のスピードがさらに上が
った。
この時点で先輩は集団の一番後ろ。現在は10位だ。
先輩は、そのスピードアップについていけず、一気に離されていっ
た。
しかも、一気に離された事がショックだったのか、前半とばしすぎ
たのかは分からないが、ここに来てスピードがダウンしてしまう。
後続の1人が、どんどんと追い上げてきている。後続がこのままの
360
スピードで行けば先輩は追いつかれそうだ。
そのスピードだと、ラストに追い抜かれる!!
俺も声を上げた。最後、抜かれて悔しい思いをして欲しくないから。
残り100mついに並んだ。
ラストは先輩はフォームも崩れ、ただがむしゃらに走っている感じ
だった。
腕の振りも、縦に振るのではなく、抜かれまいと大きく横に振って、
相手が前に出ないように走っている。
けど、勢いが違った。100mから20mほど走った時点で、先輩
の隣を走っていた人は、すっと前に出てそのまま先輩を置いていっ
てしまった。
先輩は、ゴールした。結果は11位。4分29秒03。
1位でゴールした人は、4分13秒34だったので、先輩より16
秒も速くゴールした事になる。しかも、最後1位の人は、もうこれ
は決勝に行けそうだと、スピードを緩めてゴールしてた。
先頭の人はどれくらいのタイムで走っちゃうんだろう。
2組目と4組目にも先輩がそれぞれ出場したが、結果は12位、1
6位と振るわず、結局1500mは全選手が予選敗退と言う結果に
終わった。
いや、地区レベルでも俺の高校とは実力差がすごいな。
361
次にあるのは男子110mハードル、女子100mハードルの予選。
それぞれ1人ずつの出場だ。
﹁ユッチ、なんでこの種目は1人だけの出場なん?﹂
こう言う時は、陸上大好きっ子のユッチに聞くのが一番ですな。
﹁ボクは歩く陸上事典なの!?ボクに聞けば何でもでてくると思っ
てる!?﹂
﹁うん、実際何でも知ってるじゃん、歩く陸上事典っていう言い方
いいな。ユッチの事これからそう呼ぼうか?﹂
﹁やめろお!ユッチって普通に呼んでよ⋮⋮もう、ハードルは跳ぶ
技術が必要だからだよ。ハードリング技術って言うんだけど、聞い
た事ある?﹂
﹁ない﹂
ってかやっぱり知ってるんだ?さすが歩く陸上事典。
362
﹁ちょっとは考えようよ⋮⋮。中学校の体育の時間でも言ってる先
生いるよ?で、その跳ぶ技術なんだけど、結構覚えるのが難しいん
だよね。教科書通りの言葉なら、本見れば言えるけど、やっぱり細
かい部分は分からないし。ちゃんとした指導者がいればいいけど、
ウララ先生があんまり詳しくないみたいだから。出場してる先輩た
ちは中学校の時からハードルやってる人たちだよ﹂
﹁へえ、じゃあこの高校からハードルやるの無理なん?﹂
﹁んー、無理じゃないと思うよ。講習会に行ったり、別の高校と合
同練習したり色々学ぶ方法はあるよ。後は、ひたすら反復練習かな。
アオちゃんは向いてる気がするし⋮⋮でも、ボクにはハードルは無
理だねえ﹂
﹁ん、なんで?﹂
﹁あー、その⋮⋮背がね⋮⋮⋮﹂
﹁そっか、ちびっ子か!チビだと出来ないのか!?﹂
確かに、140cm前半っぽいこいつにはハードル越えるの難しそ
うだ。逆にアオちゃんは結構大きいし、足も長い⋮⋮いや、アオち
ゃんの足を観察した訳じゃないぞ!?
﹁チビっていうなあ!全国のちびっ子陸上部員に謝れ!!チビだっ
て一生懸命走ってるんだあ!跳べないチビはただのチビって言いた
いのかあ!?﹂
﹁最後の訳分かんねえよ!!名セリフをパクるな!!﹂
363
﹁いいの、ファンだから﹂
お、お前もファンか。俺もだ。
っと、先輩がそろそろ走る頃だ。
まずは、男子の先輩だ。3組目で、4レーンを走る。先輩のフォー
ムは綺麗だった。跳んだ後、選手の一部は、スピードが落ちる。い
かにしてそのロスを無くすかが、ハードルを跳ぶ技術らしいのだけ
ど、ほとんど落ちてないように見える。
ただ、ラストになって少し減速してきた。最後のレーンを越えた後、
スピードが落ち、5、6レーンの人に抜かれてしまった。
結果は3位。タイムは16秒38だ。110mという中途半端な距
離のせいで、いまいちタイムがどのくらいすごいのか分かりにくい。
4組走り、1着は必ず決勝に行けて、残りはタイムのいい人4人が
決勝に進む事が出来る。
﹁先輩のタイムは1着をのぞいて現在3番目。行けるか行けんかは
微妙な所だ﹂
ポンポコさん、教えてくれてありがとう。
ラストの組がスタートした。
⋮⋮⋮⋮ゴール。上位3人がほぼ同時にゴールしたように見えた。
トップの人が16秒27と表示されていたから、残り2人もそれぐ
らいだろう。
364
⋮⋮⋮⋮結果がでた。2位が、16秒32。3位が16秒36。
わずかコンマ0.02秒の差で決勝には出場できなかったか。
残念がっている1年生達に、ユッチが声をかける。
﹁今回の成績だと、全体で9位だったから県大会に出場できる。ま
だ、先輩には県大会があるよ、それをもっと喜ばなきゃ!それより、
次の100mハードルの応援をしようよ!﹂
うん、たまにはいい事言うね、ユッチ。
365
次の女子の先輩は、16秒21を出して組の中で2位。2位以下の
選手ではタイムが1位だったので、決勝進出だ。ついでに県大会に
も出場決定。
これで、県大会出場者は2人になったんだな。
うむうむ、喜ばしい事だ。
366
43話:インターハイ地区予選、サポート
女子の100mハードルも終了し、次の時間まで少し間がある。
その間に、昼食を買ってない人は、近くのコンビニに行って買い物
したりする。
俺もケンとヤマピョンの3人で、今日の昼を買いにいこうと、コン
ビニへの道を歩いてた。
マルちゃんとノンキは2人で先に行ってしまったみたいで、短距離
の残り2人︵名前、何だったかなあ?︶と女子組は弁当を持ってき
てた。
長距離の中で、俺とヤマピョン、マルちゃんとノンキって完全に分
かれたな。
時々、選手の人たちがウォーミングアップの為に走ってたり、スト
レッチをしていたりする。
うちの高校の先輩も、偶然ストレッチをしているのを見かけた。
女子400m準決勝に進出したゴーヤ先輩だ。
﹁ゴーヤ先輩、決勝進出に向けて、頑張ってください!!﹂
ケンがエールを送る。
367
﹁うん、頑張るから応援しててね﹂
うわ、なんか普通の反応だ。
1年女子って、ポンポコさんを筆頭に、アオちゃん、ユッチと変な
人がそろってるから、なんか新鮮だ。
ストレッチを終え、流し︵80パーセントの速さで気持ちよく走る
事︶に入ろうとしてた。
俺たちも昼食を買いに行こうと思ってたんだが、
﹁いたたたたたた⋮⋮⋮⋮﹂
ゴーヤ先輩が流しをした瞬間、突然うずくまって、足を押さえてう
めきだしたのだ。
何が起きたのか、どうすればいいかさっぱり分からなかったが、緊
急事態だ!
﹁ケン、えと、あと、んと、どどどどどどど﹂
﹁どどん波?﹂
﹁そう、どどん波ー!悟空やっつけてやる!って桃白白かよ!んな
訳あるか!?﹂
﹁ドドリア?﹂
﹁フリーザ様ぁ!お助けをって、ベジータに殺されちゃうよ!?﹂
﹁ドド⋮⋮思いつかん、何かあったか?﹂
368
﹁そうじゃないだろ?どどど、どうすればいいんだ!?﹂
﹁落ち着け、ヤス。こう言う時は専門家を呼んでくるんだ。ウララ
センセが望ましいな⋮⋮よし!俺が行ってくる!ヤスはウララセン
セが来れない時を考えて、救急セットとユッチを持ってくるんだ!﹂
﹁りょりょりょ、りょ、りょーかい!持って来ればいいんだな!﹂
﹁そうだ、必ず持ってこいよ!ヤマピョン、ゴーヤ先輩に付いて、
色々してあげて!ゴーヤ先輩が何か頼み事するかもしれないから﹂
そう言って、俺とケンはは走り出した。
大山高校の集合場所に行ったら、ユッチとアオちゃんがしゃべりな
がら昼食を食べていた。
とりあえず、俺は荷物の中から救急箱を取り出して、それを左手に
持った。
そして、ユッチを脇に抱え、持っていく事にする。
﹁んぎゃあああああ!!!なに?なんなのさあ!?﹂
﹁アオちゃん!ユッチ持ってくから!﹂
﹁ほえ?あ、はい、どうぞ﹂
﹁ボクは猫じゃないい!!!!﹂
﹁いってらっしゃいー﹂
パタパタと手を振るアオちゃんを置いてユッチを抱えて走る。
369
﹁放せええええ!!!!﹂
﹁ジタバタするな!わめくな!﹂
﹁この変態やろお!!﹂
叫ぶユッチをほかって、ひた走る。
ゴーヤ先輩とヤマピョンがいる所についたとき、まだケンはウララ
先生を連れてきてなかった。
﹁ユッチ、ゴーヤ先輩が怪我したいみたいなんだ。俺らは全く分か
らんから診てやってくれない﹂
﹁いいからおろせえ!!!﹂
あ、持ったままだった。
ユッチをおろして、ゴーヤ先輩の様子を診てもらう。
ゴーヤ先輩はまだ痛いみたいだけど、さっきよりは落ち着いたみた
いだ。
﹁ゴーヤ先輩、痛い部分はどこですか?﹂
﹁⋮⋮太ももの裏が⋮⋮こうしてれば体育座りしてればそんなでも
ないんだけど、歩くと結構痛い⋮⋮﹂
﹁足伸ばすとどうですか?﹂
370
﹁足伸ばすのは痛い⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ゴーヤ先輩、今までもこの部分痛くありませんでしたか?﹂
﹁⋮⋮ちょっとだけ、でも痛くない時もあったし、何とか走れたか
ら大丈夫だと思ったんだけど⋮⋮﹂
﹁ずっと痛かったって事は、足をつったのとは違うかな⋮⋮﹂
ほんの少し考えて、こっちを向いた、
﹁ヤス、氷もらってきて。競技場の救護室に行けばもらえるから﹂
﹁ああ、分かった。それだけでいいのか?﹂
﹁うん、ここに救急箱もあるしね﹂
﹁了解﹂
そう言い残して、競技場に氷をもらいにいく。
行ったら、結構簡単に氷をもらう事が出来た、いろいろ面倒な手続
きが必要かとも思ったけど、そんな事も無いんだな。
戻ったら、ケンとウララ先生も来てた。
﹁多分、肉離れね。今までも軽度の肉離れの状態だったんだと思う
けど、今日の試合で、症状が悪化したみたい﹂
ウララ先生が症状について説明していた。
371
﹁今までの疲れが溜まったのね。残念だけど、今日の準決勝は棄権
しましょう。とてもじゃないけど走れない。残りの試合も全部棄権
しましょう﹂
﹁でも、出たいです⋮⋮﹂
﹁ゴーヤさんはまだ2年だから、来年もある。だから、怪我はしっ
かり治す事。特に肉離れは、今無理すると、動かす事も出来なくな
るよ﹂
ゴーヤ先輩はがっくりとうなだれていた。怪我とはいえ、後一歩で
県大会に出場できるかもしれないのに、棄権しなければいけないと
言うのは確かに悔しいだろう⋮⋮。
﹁それと、今は祝日で病院がやってないけど、平日になったらすぐ
に病院に行って。安静にしてたら痛みもひくかもしれないけど、肉
離れって実は完治してないものだから﹂
ゴーヤ先輩はうつむきながらもうなずいた。⋮⋮こう言う空気は苦
手だ!
﹁あ、ヤス、お疲れ。ゴーヤ先輩、その氷患部にあてて、アイシン
グしましょう﹂
やっとユッチが俺に気付いて、俺は氷をユッチに渡した。
ユッチは氷をゴーヤ先輩の太ももの裏の部分にあてている。
﹁ケン君、ヤス君、ヤマピョン君。応急処置の時はRICEと言う
のを覚えておいて﹂
372
﹃RICE?﹄
ウララ先生の言葉に、俺とケンの声がはもる。
﹁Rはレストといって安静にする事、Iはアイシング、氷とかで痛
い所を冷やすのね。Cはコンプレッション、包帯をきつく巻くなど
して圧迫させる事。、Eはエレベーション、心臓より高い所に患部
をもってくこと。﹂
ごめん、英語苦手。英語で語呂合わせしても覚えられん。やる事だ
け覚えとこう。
﹁肉離れの応急処置する時には、これらをする事。出来る限り速く
治療した方が症状が軽く済むから、ちゃんと覚えておいてね﹂
そう言って、まだ審判の仕事が残っているからとウララ先生は戻っ
ていった。
忙しいんだなウララ先生。
373
その後、俺とユッチはその場に居残り、20分ほどアイシングを行
い、ゴーヤ先輩は安静にしてもらっていた。
もう何とか歩けるからと、大山高校の集合場所まで連れて行き、そ
の場休んでてもらった。
﹁ところで、ヤス。何でボクを抱えてったの?﹂
あれ?なんかユッチ怒ってる?
﹁いや、だってケンから救急箱とユッチを持ってこいって言われて
て⋮⋮﹂
﹁だからってほんとに持ち運ぶやつがいるかあ!!この変態!!痴
漢!!セクハラ親父!!﹂
﹁も、もしかして変なとこ触ったか?そうだったら、ごめん﹂
﹁もう二度とボクに触れるなよ!もし触れたら絶交なんだからあ!﹂
﹁ん?俺とお前友達になれたんだ。嬉しいなあ﹂
﹁っ、うるさいうるさい!!さっきのこと絶対なにもしゃべるなよ
!﹂
さ、さすがにこの剣幕は怖い。何か話題転換しないと⋮⋮!!
﹁そ、そういやユッチ軽かったなあ⋮⋮何キロあるんだ?﹂
374
﹁っっっっ!!女の子に体重を聞くなあ!このセクハラやろお!!
!﹂
ガン!と言ういい音が頭からした、救急箱で俺の頭を殴ったらしい
⋮⋮⋮⋮。
めちゃくちゃ痛い⋮⋮。
ユッチが殴って去っていった。
⋮⋮ふぅ、やっと一段落ついたな。すぐに男子の400m準決勝が
始まるから、応援に行かないと。
あ、昼飯食い損ねたなあ⋮⋮⋮⋮
ちなみに、ケンとヤマピョンはちゃっかり買いにいってしっかり食
べてた。
あいつら、ずるいぞ!
375
44話:インターハイ地区予選、観戦
今日、先輩たちが出場する種目は全て終了した。
女子100mハードルでは、最後のハードルを跳び越えた後転倒し
てしまい、その後立ち上がってゴールはしたが、結果はもちろん最
下位。県大会でリベンジして欲しい。
まだ、競技種目は残っているけど、先輩たちが出る種目は全て終わ
ったので、集合して解散と言うかたちになる。
今日の結果は、3年生の先輩が110mハードルで1人、女子の先
輩が100mハードルで1人、県大会に出場って所だった。
他の学校の速さはなんなんだ?
特に、1500mの結果にびっくりした。自分たちの高校が強いと
思ってなかったけど、実力が全然違う。富士西高校と言うところな
んかは、全員が決勝に出場していた。
自分たちの高校は学校の周りをぐるぐるしているだけで、スピード
を上げる練習をしていないからそうなるのだろうか?
それならば、最終日に行われる5000mなら、先輩たちでも対抗
できるのだろうか?見てみないと分からないな。
ウララ先生が審判員の仕事を抜け出て、大山高校のいる所にきてく
れた。
﹁今日はお疲れさま。怪我してしまったり残念な結果な人もいたけ
ど、だいたいの人は自己ベストを出せたみたいだったね。まだ明日
以降もあるので、選手はちゃんと休養する事。怪我したあなたは、
376
まだ試合は残
無理をせず必ず病院へ行くこと。明日以降は残念だけど、棄権して
ね。まだ、新人戦も来年もあるんだから!⋮⋮⋮⋮
っているから、見ていきたい人は残ってもいいですよ。じゃあ、私
はまだ仕事が残ってるから戻るね。また明日!﹂
そう言って、戻っていった⋮⋮が、途中で振り返って
﹁あ、そうそう、明日から降水確率0パーセントみたいだから、そ
のテントもう持ってこなくていいから。ヤス君、学校に持っていっ
ておいてね。ほんとは今日も0パーセントだったみたいだけど、言
うの忘れちゃった﹂
ウララ先生がそんな発言をした。
ってそれ前に言ってくださいよ!!テヘって笑ってないでさ!
俺の運び損じゃん!
⋮⋮もうこの事は意識の外に持ってく。さて、これからどうしよう
か⋮⋮。
﹁ケン、試合見てく?﹂
﹁ああ、俺400mの決勝見ていきたいな﹂
﹁そっか、俺は1500mの決勝を見てみたいな、見に戻るか﹂
﹁あいよ﹂
テントを持ちながらの移動。重いなあ⋮⋮⋮⋮。
帰った人も入れば、残った人もいる。1年生では、俺、ケン、ヤマ
ピョン、ポンポコさんの4人が残っていた。
ユッチは残りたがってたようだが、今日は家族で夕方から用事があ
377
るらしく、帰らなきゃならないと言って帰ってった。アオちゃんも
それについてったみたいだ。先輩たちが最後まで試合に残ってたら
どうしたんだろ?
他の1年は普通に帰ってった。気にならないのかなあ?
集合していた間に女子400m決勝は終わっていた。
これから男子400m決勝が行われる。
﹁位置について⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
バン!
スタートした!
予選と違うのは、全員が速いと言う事。予選の時は、誰かしら1人
ぐらい、あ、こいつは初心者だなと思うような明らかに走り方がお
かしい人がいたもんだ。
予選の時にはラスト50mぐらいになると、もう勝ったって分かっ
たのか、決勝に体力を温存する為に、スピードを緩める人も結構い
た。
今回はもう全員が速いから、手を抜いて走るような事が無かった。
残り100mの時点では、横1直線だった。誰が優勝してもおかし
くないんじゃないかって思えるぐらい。
ただ、やはり実力差があったみたいで、ここまで走ってきた人の中
で、明らかに失速してる人もいた。
400mは最初とばしすぎてはならない競技なんだと、それを見て
しみじみ思った。
優勝者のタイムは49秒02。しかも1位と2位は同じ学校だ。
378
﹁なあ、ケン。49秒02ってタイムはすごいのか?速いのは見て
れば分かるんだが、イマイチどのくらいすごいのか想像がつかない
んだけど﹂
﹁うーん、お前、50m何秒で走ったっけ?﹂
﹁えっと⋮⋮7秒5だけど﹂
﹁単純に8倍してみたら?﹂
50m×8=400mと言う事か。
⋮⋮⋮⋮。
﹁おお、60秒!って俺おそっ!めちゃくちゃ遅いな俺!﹂
﹁俺の場合は、6秒3だ。8倍してみ﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁50秒4か、って、ケンの50メートル全力走より速いペースで、
400mも走ってんのアイツ!?﹂
﹁まあ、そう考えれば、すごいのは分かるよなあ﹂
⋮⋮⋮⋮。いやあ、びっくりした。速い速いと思ってたけど、そん
な速かったんだな。
﹁私も昨日、ちょっと調べたんだが、49秒02ならば、東海大会
379
にも出場できそうなレベルだな﹂
げ、ポンポコさん、それはまじですか?あいつ、すっげえなあ。
次は男子1500mの決勝だ。
もう選手はスタート位置についている。
バン!
銃声が轟いた。一斉にスタートする。
予選の時点で全力出してるのかと思ったけど、全く違う。
予選は様子見だったみたいだ。ほとんどの選手が、予選より速いペ
ースで走っている。
決してスピードがないレースではなく、今回のレースは全員が始め
380
から全力で挑んだレースのように見える。
だが、それぞれの実力がそんなに変わらないのか、中々ばらけない。
集団のまま2周目に突入した。
実力が足りない人だけが少しずつ振り落とされていく中、変化が起
きたのはラスト1周になった時だった。
ラスト1周から集団の先頭あたりを走っている人たちがさらにスピ
ードを上げ、スパートをかけたのだ。
もうそれまでの走りが目一杯、全力で走っていると思ってたから、
びっくりした。
ラスト100mで、直線に入っても2人が先頭に立って、お互いに
譲ろうとしない。
腕は思いっきり振って、足も1cmでも前に出そうと素早く動いて
いる。
最後、ゴールした瞬間でも、どちらが先にゴールしたのか分からな
かった。
そいつらの差は0.05秒。4分03秒45と4分03秒50。
⋮⋮⋮⋮。
一番速かった先輩のタイムは4分25秒だけど、先輩たちのタイム
は最初から全力だ。
先輩達より遥かに遅い俺なんて、勝負にもなりゃしない。
⋮⋮⋮⋮どうすっかなあ⋮⋮⋮⋮。
381
﹁⋮⋮⋮⋮うん⋮⋮⋮⋮﹂
ん?ヤマピョンがなんかしゃべった気がするけど?
﹁ヤマピョン。どした?﹂
﹁⋮⋮っ⋮⋮と⋮⋮走る⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮ま、そうか。先の事ばっか考えててもしょうがないし、とりあ
えず、走っておこう。
その後、俺はテントを持ち帰った。帰りもやっぱり重かった。
⋮⋮後で気付いたのだが、明日はケンが持ってくる予定だったんだ
から、ケンが持ち帰るべきだったんじゃん⋮⋮。何で俺が持って帰
ってるんだろ?
382
45話:インターハイ地区予選、2日目以降
2日目、3日目は、あまり振るわなかった。
特にゴーヤ先輩は女子のエースだったようで、200m、4×10
0mリレー、4×400mリレーと出場する予定だったのに、怪我
のせいで出場できなくなったので、急遽補欠が選出される事になっ
た。
けど、ゴーヤ先輩ほどの記録は出せるはずも無く、4×100mリ
レー、4×400mリレーも予選敗退と言う結果に終わった。
2日目以降で唯一、女子で県大会に出場できたのは、400mハー
ドルの選手だけだ。
その人は、100mハードルの人とは別の人で、高校からハードル
を始めたそうだが、結構練習してたみたいで、ハードルを跳ぶ時に
そんなにスピードが落ちると言う事は無かった。
ただ、400mハードルって言うのは、ハードル技術をしっかり身
に付け、そこそこのスピードが出せるなら、県大会に行く事は他の
種目より簡単そうな印象を受けたな。
なぜなら、女子400mハードルは他の種目に比べ出場選手が少な
く、今年は15人しか出場がいない。上位12位までが出場できる
のだから、県大会に行けないのは3人だけだ。去年は21人の参加
があったらしいが、他の競技より競技人口が少ないのは間違いなさ
そうだ。
ちなみに行けなかったうちの1人は大山高校、うちの高校の先輩で、
383
100mハードルで県大会に出場してる先輩だ。隣のレーンに入っ
てしまって失格になった。
実質タイムで行けなかった人は2人だけって事だな。
上位に行けば、ハードル技術もスピードもすごいレベルが要求され
るだろうが、県大会出場目標ならば、400mハードルって結構狙
い目かもしれない⋮⋮ごほん、400mハードルを真面目にやって
る人に失礼な発言だったな。
男子も同様だ。
男子も、短距離で出場できたのは400mハードルのみ、この選手
は110mハードルで出場した先輩だ。この先輩は110mハード
ルでは9位だったが400mハードルでは57秒54を記録し、6
位に入賞する事が出来た。大山高校唯一の入賞者だ。
4×100mリレー、4×400mリレーは絶対的なエースが大山
高校にはおらず予選敗退。200mでかろうじて準決勝に進出した
先輩がいたが、準決勝で敗退した。
長距離は県大会に出場できた選手はいなかった。
特に長距離、5000mなんてひどかった。勝負にもなりゃしない。
実際に全選手のタイムをプログラムに記録しておいた。
本当はマネージャーのポンポコさんの仕事なんだが、あまりにも大
変そうだったので代わったのだ。
タイム
学年
高校
見直してみるか、別にとばしても構わないけど。
順位
384
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
15:44.00
15:42.16
15:40.74
15:39.71
15:38.90
15:34.58
15:34.53
15:34.41
15:30.49
15:20.02
15:08.43
15:02.55
2
1
3
3
3
3
2
3
2
2
2
3
勝島学園
杉崎
富士見北
勝島学園
富士見北
勝島学園
杉崎
24
23
22
21
20
19
18
17
16
15
14
13
16:30.04
16:29.71
16:27.37
16:26.75
16:21.74
16:21.73
16:19.98
16:16.27
16:13.66
16:09.23
16:01.35
15:56.20
15:45.33
3
2
2
3
3
3
2
3
3
3
3
1
2
3
杉崎
富士見北
12
25
16:32.12
ここまで県大会出場
26
385
56
55
54
53
52
51
50
49
48
47
46
45
44
43
42
41
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
29
28
27
17:52.22
17:51.43
17:40.90
17:40.37
17:39.45
17:39.44
17:38.73
17:38.37
17:35.55
17:35.16
17:30.75
17:29.01
17:27.20
17:25.61
17:25.33
17:24.66
17:16.45
17:15.43
17:14.81
17:12.21
17:09.69
16:59.33
16:57.27
16:52.25
16:51.54
16:47.52
16:45.85
16:37.43
16:34.01
16:33.82
3
2
2
3
3
3
3
2
2
3
3
3
2
2
3
2
3
3
1
3
3
3
2
3
3
3
3
2
2
2
大山
386
69
68
67
66
65
64
63
62
61
60
59
58
57
19:28.60
19:04.21
18:59.33
18:52.62
18:45.54
18:38.33
18:38.11
18:22.19
18:09.71
18:07.63
18:03.25
18:00.54
17:54.23
2
3
2
3
2
3
3
3
1
2
2
3
2
これ書くのは疲れたな⋮⋮⋮。
大山
大山
プログラムに記録を書くのってこんなにめんどいのか。
﹁ん?全部のタイム書いたのか?書くのは自分の学校のと、入賞者
だけで良かったのだが﹂
ポンポコさん、それ先に言って!
⋮⋮⋮⋮とりあえず、大山高校がめちゃくちゃ弱いのだけは分かっ
た。
1番速かった先輩でも36位、1番遅い先輩は下から数えて3番目
だ。
逆に、強い選手と言うのは、1つの高校にかたまるようだ。
見てみると、杉崎、富士見北、勝島学園の3校だけで県大会出場者
387
12人のうちの8人が出場している。去年もこの3校で12人のう
ち7人が出場したそうだ。
びっくりなのが、富士見北と杉崎の高校には1年生が出場していて、
2人とも上位に入っていると言う事だ。
俺と同じ1年なのに、この実力差はなんなんだろう⋮⋮?
全種目が終了した。結局、大山高校にて県大会に出場できたのは、
男子は110mハードルと400mハードルで両方とも1人の先輩
が走る。女子は100mハードルと400mハードルの2種目。計
4種目3人の出場だ。
出場する種目が全部ハードルなのは何でなんだろうね。
ウララ先生ってハードル詳しくないのに、出場種目はハードルのみ
って⋮⋮⋮⋮。
とりあえず、全員が集まっている。
ウララ先生の言葉待ちだ。
388
﹁みんな、3日間お疲れさまです。県大会に出場できた3人は、今
度は県大会に向けて頑張っていきましょう!自己ベストを更新でき
た人、おめでとう﹂
うん、県大会へ向けて頑張れ、先輩たち。
﹁⋮⋮3年生のほとんどは、今日で引退になりますね。3年間お疲
れさまでした﹂
ハードルで出場した選手は男子は2年で、女子は2年と3年だから、
まだまだ現役になるのは女子の3年生1人だけか。
﹁明日の部活は、反省会をかねて、3年生の引退会見も一緒に行い
ます﹂
別に会見はしないでしょ!?どこに向かって発表するのさ!
﹁私は、去年からのおつきあいなので、実質1年とちょっとしか付
き合いがありませんが、色々ありました⋮⋮ええ、ほんといろいろ﹂
何があったんだろ!?そんな遠い目をしてると気になるよ!
﹁私が顧問になった途端に、集団食中毒が起きたり、去年の大会は
全部雨だったり、合宿に行ったら霧が激しくて全員で迷子になった
事もありましたね⋮⋮⋮⋮﹂
そんな事があったんですか!?
悲惨すぎる!ウララ先生疫病神でもついてたんですか!?
﹁今となっては思い出したくもありません﹂
389
そこは思い出したくなくても、いい思い出ですって言おうよ!!
﹁3年生のみなさん、お疲れさま、今後は受験一色になるね、死ぬ
まで勉強しよう﹂
死んじゃ意味ないから!えぐいよその言い方!3年の先輩が一斉に
嫌な顔をしたし。そりゃ大学受験の為の勉強なんてしたくないもん
なあ。
﹁これからは2年生が主役ね!1年生は脇役だ!﹂
そこは全員が主役って言う場面じゃない!?
﹁真面目な話はここまでにして、5月か6月に﹃ウララちゃん主催
3年生のみんなお疲れさま後は俺たち私たちに任しとけじゃあなバ
イバイキン会﹄、略して﹃追い出しコンパ﹄を行います﹂
自分でウララちゃんっていうな!途中から真面目じゃなかったよ!
長いよ!長いよその長さ!しかもどこも略してないから!追い出し
コンパの1文字も入って無いじゃん!
⋮⋮何全部につっこんでんだろね、俺。
﹁明日も学校あるし、しっかり休んでね。今日はここまで、またね﹂
﹃ありがとうございました!﹄
と言う訳で、これにてインターハイ地区予選が終了だ。
能力の差を激しく感じた大会だったな。
390
明日から、また頑張りますか。
391
46話:3年生の引退
今日は5月7日水曜日だ。
昨日まではインターハイ地区予選で、応援に行ってた。応援ってだ
けでもいるだけでなんか疲れたな。
﹁⋮⋮重い⋮⋮﹂
覚えている人はいるんだろうか⋮⋮。
ジャンケンに勝ったのに、何故か俺が組立型テントを運ばされてる
事なんて。
しかも今日は雨。大会中に降らなかったのはよかったけど、運びに
くくてしょうがない。
高校の最寄り駅のホームに着いたら、ケンがいた。同じ電車に乗っ
てたんだな。気付かなかった。
﹁おっす、ヤス!疲れた顔してんな!﹂
﹁ケン、お前のせいだ!なんで結局全部俺がテント運ぶはめになっ
てんだよ!じゃんけんに負けたケンとヤマピョンが運ぶべきだろ、
せめてこっからはケンが運べ!﹂
﹁ヤス、400メートルの賭けの事を忘れたのか?﹃様﹄をつけろ
﹃様﹄を﹂
﹁うっ﹂
嫌だ、こんなヤツに﹃様﹄をつけるなんて⋮⋮。
392
﹁早く言え!言うんだ!﹂
﹁ケン⋮⋮様⋮⋮﹂
屈辱だ⋮⋮。
﹁ふむ、それでよろし。それで、君は我が輩に何を押し付けようと
言うのだね?﹂
﹁テント、ケン様がじゃんけんで負けたのだから、ケン様が運ぶべ
きです﹂
﹁やだ﹂
﹁何で!﹂
﹁それヤスのだから﹂
﹁これ俺のじゃないし!学校のだし!﹂
﹁ヤスが馬鹿だから﹂
﹁お前に言われたくない!お前のが馬鹿だろ!﹂
﹁いじられっ子だから﹂
﹁いじるのはお前が筆頭だろうが、もっと自重しやがれ!﹂
﹁ヤスの修行?﹂
393
﹁修行ってなんだよ!重りをつけての修行なんて今時はやらんよ!﹂
﹁面白いから﹂
﹁ケン様を喜ばせる為だけに俺はこれを運んでんのか?俺どんだけ
お前に尽くしてんだよ!?﹂
﹁運ぶのが好きだから?﹂
﹁好きなわけないだろ!?誰がこんな重いの運んで喜ぶんだよ!俺
はマゾじゃない!﹂
﹁俺がサドだから﹂
﹁ケン様ってサドなのか?ウララ先生にあんなに放置されても喜ん
でるからむしろマゾのほうかと⋮⋮﹂
そんな事を言ってたら、
﹁ヤス、もう学校着いたぞ﹂
﹁へ?あれ?ほんとだ﹂
﹁ふ、お前の為を思って、意識を会話に集中させてやったのだ。そ
うすれば重いのも気にならなくなるだろう?﹂
﹁確かに⋮⋮いつの間にか学校に着いてたもんな﹂
﹁お前の事を思っての行動だ。楽が出来てよかったじゃないか。そ
394
れじゃ俺は先に教室に行くから、それ返してこいよ﹂
﹁ああ、心配してくれてありがとよ!﹂
﹁気にするな!﹂
うん、おかげで楽に学校に来れた。ケンもたまにはいい事するよな
あ。
教室に戻って、アオちゃんにその事を話してたら、
﹁ケン君はただ単に、運びたくなかっただけですよ。馬鹿ですね、
ヤス君は﹂
はぅ⋮⋮俺ってやっぱり馬鹿なんだろうか⋮⋮。そう考えると俺が
馬鹿にできるユッチって貴重な存在だ。
395
放課後になって、陸上部員が集合した。今日は雨だから、教室を借
りて集合だ。
ウララ先生が前に立って、最初の挨拶をする。
﹁さて、今日は反省会とともに、3年生の引退ですね。3年生のみ
なさんは、引退の言葉を1人ずつ話してください。湿っぽいのが好
きな人は面白く、面白いのが好きな人は湿っぽく話しましょう﹂
なんでわざわざ逆にする必要あるの!?湿っぽいのが好きな人は湿
っぽく話そうよ!
﹁それじゃ2年生の人からまず順に大会の反省をしてってください
ね﹂
大会の反省については、ふざける人もおらず、別に普通だった。
ここがまずかった、あの時のスパートが速すぎたなど、普通の反省
396
会だ。
いろいろ思う所はあるが、つっこむのは野暮だろう。
30分くらい聞いていて、これから3年生の引退の言葉が始まる。
2年以上も頑張ってきた訳だから、思う所はあるだろう。
ん、長いのでダイジェストにするか。
男子短距離、サボ先輩
﹁俺、1年の頃はさぼってばっかだった。でも、2年になってウラ
ラ先生に会ったおかげで、ちょっとは頑張ろうって思った瞬間に怪
我して、結局まともに練習したのは半年だったんだ。みんな、絶対
怪我しないようにな!あと学校はサボるなよ!﹂
サボ先輩のあだ名の由来はサボリだったのか。ってか部活じゃなく
て学校をサボってたのね。
女子短距離、サン先輩
﹁私、大会に出たのは2年生からなんですよ。県大会には1度も出
られなくて残念なんですけど、初めて太陽の下で大会を走れました
!最高の思い出です!﹂
⋮⋮そっか、去年は全部雨って言ってたもんな⋮⋮。ただ晴れた日
に走れただけで嬉しいって言うのは⋮⋮今までが不憫すぎる⋮⋮。
男子長距離、ラッキ先輩、ノンキの兄貴
﹁一言、﹃頑張∼れ∼、負け∼るな∼﹄﹂
タオルズか∼。
いい歌なんだけど、何でその部分しか歌わないんだろ⋮⋮そこしか
知らないんじゃね?
女子短距離、チキ先輩
397
﹁み、み、み、み、み、みんな、頑張って⋮⋮﹂
すぐ逃げた。チキって言うのはチキンの事か?人前に立つのが苦手
だったのかな?
陸上のスタートの瞬間とかは平気そうだったけど⋮⋮。話すとなる
と何か違うんだな。
男子長距離、ドン先輩、5000mを17分09秒で走り、この高
校では1番だった人。
﹁何も咲かない寒い日は、下へ下へと根をのばせ。やがて大きな花
が咲く。⋮⋮よく使われているが、俺も大好きな言葉だ。特に、ゴ
ーヤは今は怪我できついかもしれないが、くさらずに頑張れば来年
きっと大きな花が咲くさ﹂
⋮⋮なんかゴーヤ先輩といい雰囲気作ってる。ふたりの世界に入ら
ないでください!他の人たちがすごく困ってます!早く次の人にい
きたいのに誰も声がかけられない!
⋮⋮⋮⋮5分後、やっと次の人になった。先輩たち、さすがにちょ
っとうざかったです。
男子長距離、ハニ先輩
﹁僕からは、残った君たちにこれを送ろう!﹂
⋮⋮そう言って、1人1人に花を渡してくれた。白いちっさな花だ、
何の花これ?
﹁この花の名前は﹃タネツケバナ﹄だ!﹂
げ、そんな名前の花を贈らないでください!!俺たちに何を求めて
るんですか!?
﹁この花の花言葉は﹃勝利﹄﹃不屈の心﹄﹃情熱﹄﹃熱意﹄﹃燃え
る思い﹄だ、これからの部活
398
でも、情熱、熱意を持って取り組み、自分への勝利をつかんでくれ
!﹂
⋮⋮⋮⋮うわ、恥ずかし!
先輩はちゃんとまともな事考えてたのにめちゃ邪推してしまった。
俺ってやっぱかなりエロイよなあ⋮⋮。
女子短距離、ユミ先輩
﹁今までありがと、それじゃね!﹂
おい!走って出てっちゃったよ!最後だろ!帰っていいの!?
⋮⋮⋮⋮⋮あ、戻ってきた。
あー、泣いてたんだな、でも泣いてるの人に見られたくなくて⋮⋮
すみません。けなしたりして。
女子短距離、オーちゃん先輩。400mハードルにて県大会に行く人
﹁私は、まだ残るけど、これからの練習もハードルの練習も取り込
むから、あまり一緒には練習しないかもしれない。今までもそうだ
ったから、1年生の中には知らない人もいるかもね⋮⋮でも、気持
ちはいつでも一緒だから!﹂
かっこいい⋮⋮ここで男子の先輩が言ったらクサいセリフ言ってん
じゃねえ!とか言いそうだけど、この先輩が言うとなんか決まって
るな。
男子長距離、ぐるぐる先輩
﹁⋮⋮ごめん、何も思いつかん﹂
⋮⋮もう9人目だからな。前の人と話すにしてもネタするにしても
399
かぶるもんな。
でも、後少しなんだ!もうちょい頑張れよ!
男子短距離の先輩、部長
﹁俺がトリか⋮⋮これからは、新体制になる、1年生も2年生もお
互いに仲良く楽しくやっていってくれ。そこで、今から新部長を発
表する⋮⋮ゴーヤ!君しかいない!﹂
﹁⋮⋮分かりました、部長﹂
﹁俺はもう部長ではない⋮⋮ゴーヤ、君だ﹂
﹁⋮⋮!そうですね。分かりました、元部長!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮くぅ⋮⋮⋮俺からは以上だ⋮⋮⋮⋮﹂
がっかりしてるなあ。そういや、この人だけ部長って呼ばれてて、
あだ名が無かったな。
⋮⋮⋮⋮覚えてもらえなかったか、可哀想に。
こうして、3年生は引退し、1、2年生の新チームが始動した。
今日は雨だし、この反省会兼3年生引退宣言会で、時間が潰れたの
で、練習は明日からだ。
ふむ、3年がぬけて何か変わるかな?
400
47話:携帯購入
あれからの部活もいつも通りだった。
練習は3年生がぬけて、する人数が減ったが、ただそれだけだ。
いや、むしろ3年生の1番速い先輩がいなくなった分、学校周りを
走るスピードが緩くなって、楽に走れるようになった。
マルちゃんは相変わらず俺を避けて、2周走ればもうダウンしてや
めているし、ノンキもやる気が感じられず、とてとてと自分のペー
スで走っている。
ヤマピョンはというと、前以上におどおどするようになった。時々
何か俺に話そうとする仕草をするのだが、何も話さない。
﹁えっと、なんか話があるなら聞くよ?﹂
ってそんなに強く聞いたつもりは無いのに、ふるふると首を振って、
結局何も話さないままだ。
と言う訳で、今の長距離はそんな感じだ。
401
今日は5月11日土曜日だ。
前々から買いにいこうと思ってたが、中々暇がなくて買いにいけな
かった携帯をついに買いにいく。ついでにその後は妹と遊びにいく
予定だ。
⋮⋮⋮⋮午前中から行く予定だったのに、何故か家を出たのは午後
2時になってからだったけどな⋮⋮。
で、今は携帯ショップに向かってる訳だ。
昨日夜遅くまで起きて親から親権者同意書も手に入れたからな。購
入に向けての準備は完璧さ。
﹁サツキ、俺携帯買うの初めてだし、どんな機種がいいか教えてく
れよ﹂
﹁べつに私のとお揃いでいいじゃん、これヤス兄も可愛いって言っ
てたでしょ?﹂
﹁そんなかわいらしいの俺が持てるか!?ケンにどんだけ馬鹿にさ
れるんだよ?﹂
﹁んー、じゃあこの色を止めて、シルバーとかブラックのにすれば
402
?﹂
﹁あ、それならありだな。その機種ってどんな色があるんだ?﹂
﹁えー、知らないよ?ほんとにシルバーとかブラックとかあるのか
な?﹂
﹁くそ、ピンクしか無かったら別の機種にしてやるからな﹂
﹁ぶーぶー、可愛い妹のお願いが聞けないのー?﹂
﹁それとこれとは別なの﹂
⋮⋮お、携帯ショップに着いたな。
﹁さて、どれにするかな⋮⋮﹂
とりあえず、入り口にあるサンプル品を眺めてみるが⋮⋮うん、ど
れがいいやらさっぱり分からん。
﹁何をお探しですか?﹂
お、お姉さんが出てきたっぽい。
﹁え、え、えと﹂
﹁ああ、新規のお客様ですか?とりあえずご説明いたしますのであ
ちらのカウンターへどうぞ﹂
﹁あ、はい﹂
403
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁くそっ、この色しか置いてないなんて⋮⋮⋮⋮﹂
そう、サツキのと一緒の機種にしようと思ったら、ピンクしか在庫
が無かったのだ。
他のにしようとしたら、サツキが怒った。別にいいじゃんか。
機種が一緒じゃなくたって。
無視して別のにしようとも思ったんだが、一番安いのが結局サツキ
の機種で、それ以外のは異常に高かった。
なんか、基本料金やらを安くしといて、商品価格を高く設定する事
で儲けをだすとか何とか⋮⋮。
あれだけ安い安いCMで言っときながら、ちゃんと儲けるとこで儲
けてんだなあ。
機種は高いですってCMで言えばいいのに。
くそう、ちゃんとブラックとかシルバーとかも置いとけよ!
﹁やったね、ヤス兄!これで私と完全にお揃いだよ!﹂
404
﹁ピンクなんて⋮⋮今度学校でケンになんて言われるんだろうな⋮
⋮﹂
﹁大丈夫!馬鹿笑いされて終わりだよ!いつもの事じゃん﹂
﹁そんなのがいつもの事なんて嫌だ!絶対に笑われないように隠す
!﹂
﹁すぐにばれるよー、さっきケンちゃんにメール送っちゃったもん、
﹃ヤス兄携帯ゲット!﹄って﹂
﹁何でお前はすぐにケンにメール送るの!?﹂
﹁ヤス兄いじり同盟のメンバーだから。今会員はケンちゃんの家族
全員と、ヤス兄を除いた家族全員。後お隣さん3軒が同盟に入って
るよ﹂
﹁めちゃくちゃ多いなおい!最近朝挨拶するたんびになんか言われ
てたのはサツキのせいか!?昨日もいきなり隣に住んでるおばちゃ
んが俺の腕つかんで、サツキしか知らない秘密をしゃべってきたん
だけど!?﹂
﹁あ、ばれた?うーん、どれの事だろ?﹂
﹁中2の正月の時の事!ってかそんなに色々しゃべってるの?﹂
﹁あー、あれか。ケンちゃんもケンちゃんの家族も知ってるよ、そ
の時のメールは当然保護してあるし﹂
405
﹁見せてくれ!!﹂
俺はサツキの携帯を借りて、そのメールを見た。
ーーーーーーー
From:サツキ
to:ケンちゃん
やほー、ケンちゃん、昨日ぶり!!
そう言えばすっごい面白い事件があったの思い出したんだ。
ついでだから教えちゃうね。
あれはヤス兄が中2の正月の事だったんだけど⋮⋮。
ヤス兄は凧をあげて遊んでたんだ。そしたら、いつの間にか木に引
っかかったんだって。
木に登って凧を取りにいったんだけど、取ったはいいけどあまりに
も高い木で降りられなくなったんだって。ヤス兄って馬鹿だよねー。
私はそのとき家で正月の特番見てたんだけど、全くヤス兄が帰って
こないまま2時間もたっちゃったから心配になって、ヤス兄が行っ
たとこ見に行ったんだけど⋮⋮。
ヤス兄はだんだんとトイレに行きたくなって、もう我慢できない!
ここでしちゃえ!そう思った瞬間、私が来ちゃったんだって⋮⋮。
もうオチが読めたかな?
﹁ヤス兄どうしたの?﹂
﹁な、何でも無いから﹂
406
﹁もしかして降りられないの?馬鹿だねー、まるで猫だね﹂
﹁いいから、とりあえず誰か呼んできてくれない?﹂
﹁えー、私、そんなに邪魔?どっか行って欲しいの?ひどいなヤス
兄﹂
﹁いいから!ヤバいんだって!ほんとお願い!どっか行って!﹂
﹁うう⋮⋮ヤス兄、私の事、嫌いになっちゃったんだね⋮⋮﹂︵当
然嘘泣きだけどね、ヤス兄の焦った顔は面白かったあ︶
﹁そ、そんな事無い!全然嫌いなんかじゃない!﹂
﹁だって、どっか行けって言った⋮⋮﹂︵もう焦りまくりのヤス兄
の顔。心の中で大爆笑︶
﹁だから、ヤバいんだって!!あ、あ、あ、あああああーーーーー
!!!!!﹂
なんかヤス兄が絶叫したから上を見たら、じょろろろって水が漏れ
てきてんの。
﹁うわ︱お漏らしだー!!﹂
﹁サツキ見るな見るな見ないでくれー!!!﹂
もう泣きべそかきながらお漏らししてお願いするんだもん。ちょっ
とひいちゃった。
でも、すぐに家に帰ってヤス兄のその姿、カメラに収めたよ。今度
407
ケンちゃんにも見せてあげるね。
ケンちゃんも面白いネタあったら教えてね。ではでは、ばいばーい
!!
ーーーーーーー
⋮⋮⋮⋮。
﹁えと、妹よ、こんなメールが他にもたくさん?﹂
﹁まだまだネタは私の心の中にストックしてあるけど、そうじゃな
いのは大体送ってるからね。軽く40はあるんじゃないかな?心の
中には後半分はありそうだよね﹂
﹁まじ!?ケンのやつ何でも知ってるなと思ってたら、そんなに知
ってるのか!?﹂
﹁これだから携帯は手放せないよね﹂
﹁そんな事に携帯使うなよ!﹂
﹁大丈夫だよ。ヤス兄の携帯はそんな事には使われないから。どん
なネタが漏れてるかを全部ヤス兄が知ったら面白くないでしょ﹂
﹁もうこれ以上止めて!!﹂
こうして、携帯購入騒動は幕を閉じた。
きっと止めないんだろうなあ、そうだろうなあ⋮⋮⋮
408
48話:シスコン&ブラコン
携帯を買って、日曜日を挟み学校に行く日になった。
今日は5月13日月曜日。
今は昼休みの時間だ。ケンに会って、当然のごとく笑われた。
﹁ヤスにピンクは似合わなすぎ!ヤスの頭ん中はいつもピンクだけ
どな!﹂
うるさい、ほっとけ。お前に言われたくない。
まあ、俺もこれで携帯を持つようになった訳だ。
よし、いつでもサツキに連絡できると言う事だな。
﹁ヤス、せっかく買ったんだから、電話番号とアドレス交換しとこ
う!﹂
﹁うーん⋮⋮ケンの機種はなんなんだ?﹂
﹁え?俺はauだけど?﹂
﹁そっか、俺はソフトバンクだ。お前に電話をすると通話料が発生
しちゃうからな。だから俺からは電話もメールもしないけど、それ
でもいいなら交換しよっか﹂
﹁何でそんなにケチケチするんだ?ちょっとくらいいいじゃん﹂
409
﹁携帯料金は小遣いからひかれるから、本当にぎりぎりなんだ。少
しでも使ったら、俺の小遣いは即座にマイナスになる。マイナスに
なった分は夏休みアルバイトでもして返済しないと行けないから、
出来る限り節約したい。⋮⋮普段はアルバイトする暇無いしね﹂
﹁お前の小遣い月いくら?﹂
﹁⋮⋮2000円﹂
﹁そのうち電話の基本料は?﹂
﹁⋮⋮1700円だ、2000−1700円で、だから俺は毎月3
00円で生活しなきゃいけないんだ!﹂
これじゃ誰かに連絡なんて出来ない。するとしても、通話料無料に
なるソフトバンクだけだ。
﹁だってお前、今まで昼食とか部活で必要なものとか、電車代とか
色々あっただろ?そういうのはどうしてたんだ?﹂
﹁昼食代と部活代は別にあるんだ。ただ、全てレシートやら、切符
料金とかは確かめられるから、そこからちょろまかす事は出来ない
んだけどな⋮⋮﹂
﹁サツキちゃんは?もう持ってるだろ?お金大丈夫なの?﹂
﹁サツキは母さんを上手く丸め込んで、携帯代も別にしてもらって
るから大丈夫だ。基本料含め3000円越えたら小遣いからひかれ
るけどな﹂
410
﹁ってそれ⋮⋮ヤスが丸め込まれたんじゃない?いくら何でも30
0円で1月過ごさせようとか思わねえだろ?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
そういや、昨日母さんと言い争いになって︵俺が怒鳴ってるばっか
だったので、言い争いと言うのかは微妙なのだが︶、いつの間にか
﹁じゃあ俺の小遣いからひけばいいだろ!?﹂
とか叫んでたなあ。
⋮⋮⋮⋮。
﹁しまったあああ!!!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮御愁傷様、ヤス﹂
411
ふう、一瞬意識がとんでたみたいだ。小遣いに関しては、もう覆り
そうにないし何とかしていくしか無い。
﹁そういや、ヤスってアルバイトする暇本当に無いの?土日は基本
的に暇だろ?﹂
﹁土曜日はサツキの為に開けてあるんだ!ケンとだって、時々会っ
てんだろ?それができなくなるぞ。日曜日は家族で過ごす日って決
まってるからな、バイトなんて入れてらんねえよ﹂
﹁⋮⋮ほんと不思議なんだけど、お前んちって仲良すぎだよなあ。
俺んち別に日曜日にわざわざ家族で過ごそうなんて思わねえよ﹂
﹁いいじゃん、家族仲はいい方が、ケンだって兄貴大好きのくせに﹂
﹁まあね、俺の兄貴は最高だからな!んじゃ部活終わってからは?
夕方7時くらいには家に帰れるだろ?﹂
﹁月水金は俺が夕飯作ってるから無理。火木はサツキが作ってるけ
ど、夕飯サツキ1人で食べさせると思うと⋮⋮ちょっと無理だな﹂
﹁朝は?朝ならバイトする暇あるんじゃん?新聞配達とかさ﹂
﹁⋮⋮うーん、朝飯って俺が作ってるんだよね。だから、朝6時、
どんなに遅くても6時15分頃には家に帰らないと⋮⋮で、その前
にバイトって事は朝3時頃からか?雨降ったらもっと時間かかるっ
て言うし⋮⋮⋮⋮なんとかなんのか?それ﹂
412
そもそも高校生って何時から何時まで働いていいんだ?夜は10時
までだった気がするんだが。
﹁ヤス⋮⋮⋮⋮頑張れ!﹂
﹁絶対無理だって顔しながらそんな事言ってるんじゃねえ!﹂
﹁じゃあ、夏休みに死ぬほどバイトしろ!そうすりゃ別に電話代気
にする必要ないって﹂
﹁絶対やだ!それだったら、電話しない方を選ぶ!﹂
﹁⋮⋮しょうがない、わかったよ、メールも電話もしなくていいよ。
だから交換してくれ﹂
﹁おう、了解。家族を除いてなら第1号だな﹂
⋮⋮⋮⋮。
よし、交換完了。
﹁サンキュ!お前からは送らなくていいけど、俺からはもうばんば
んメール送ってやるからな!1ヶ月で3000件は超すと思え!﹂
﹁そんなに来たら迷惑だよ!そんなに送る内容無いだろ!?﹂
﹁あるぞ!ウララセンセへの熱い思いとか、ウララセンセとの今日
の出来事とか、ウララセンセとのスキンシップとか、俺の兄貴につ
いてとか⋮⋮⋮⋮後は、ヤスの今日の醜態日記だな﹂
413
﹁そんなん送るな!最後のは特に止めてくれ!﹂
もうこれ以上生き恥を聞きたくない。
⋮⋮⋮⋮あ、そうだ。
﹁なんだ?にやけちゃって。怖いぞ﹂
﹁せっかく携帯を持ったんだ。今からサツキに電話しようかと思っ
てさ。家族同士なら24時間無料だし﹂
﹁さりげなくコマーシャルするな!今一瞬お前が犬のお父さんに見
えた⋮⋮auだって上手く契約すれば家族間なら電話無料なんだぞ
!﹂
ん、お前もさりげなくコマーシャルしてるぞ。
そんなケンは無視して、俺は電話する。
発信音が数回なった後、
﹁もしもし、ヤス兄?なんか用?今日もうヤス兄から電話来るの6
回目だよ﹂
﹁ん、サツキの声が聞きたくなった﹂
﹁⋮⋮このヤス兄の変態﹂
ツー、ツー、ツー、ツー
﹁切れた⋮⋮﹂
414
切れた携帯をガックリと見てた⋮⋮。
﹁ヤス、っくくくっ⋮⋮面白すぎっ!!あっはは!くっ⋮⋮は、腹
が痛いっ!ろ、6回ってなんだよ!まじ泣ける!アホだ!も、もう
だめ⋮⋮!!あははははっ!!﹂
﹁う、うるさいっ!うれしいんだよ!電話したいんだよ!使いたく
なるじゃんか!サツキに電話したっていいじゃんか!﹂﹁あ、は、
はらが⋮⋮も、これいじょう、しゃ、しゃべるな!ひぅひっ、ひぃ
ひひひっ!﹂
くそう、悪いか!携帯持てるってすごく嬉しいんだ。いくら電話し
たってただなら、サツキに電話したっていいだろ!
﹁あ、あははっ、ひひぃひっ、はぁ、はぁ、はぁ⋮⋮⋮⋮も、今日
はお前の顔見らんない、今日だけは話しかけてくるなよ!ぶふっ⋮
!﹂
もういいよ、ケン、絶対話しかけてやるもんか。
415
その後、今日の部活の練習が終わり、家に帰って明日からは用がな
いのに電話するなとサツキに思いっきり注意された。
うう、せっかく買ったんだから、電話したいなあ。
次の日の昼食。相変わらずケンと食事をしてるとき。
416
あれ?電話が震えてる。お、サツキからじゃん。
﹁はい、もしもし?﹂
﹁あ、ヤス兄?私、サツキだけど﹂
﹁どうした?なにかあった?﹂
﹁いや、その、今日電話が無かったからどうしたのかなあと思って
⋮⋮﹂
﹁昨日サツキが電話するなって言ったから、したかったけど電話し
なかったんだが⋮⋮もしかして、サツキ電話待ってた?﹂
だとしたらすごく嬉しいなあ。
﹁なわけないでしょ!?変態兄のくせに調子に乗るな!﹂
﹁じゃあ何で電話したのさ﹂
﹁⋮⋮もういい、じゃあね!﹂
ツー、ツー、ツー、ツー
また切れた。結局なんだったんだろな。
﹁今の電話、サツキちゃんから?﹂
﹁ああ、そうだけど?結局用もなかったみたいで、さっさと電話が
417
切れちゃった﹂
﹁⋮⋮サツキちゃんもヤスほどじゃないけど、重度のブラコンだよ
な⋮⋮﹂
﹁お、ケンもそう思う!?やっぱりサツキも俺の事好きだよな!よ
し、明日からまた電話しよっと!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮お前のが重症だよ⋮⋮⋮⋮﹂
俺はケンのそんな声はもう聞いちゃいなかった。
さてさて、今日の部活も頑張りますか!
418
49話:プレゼントを買いに、いつもと違うメンバー
﹁終わったあ!!!﹂
ケンの叫び声が聞こえる。
うん、お前の終わったっていうのはどっちの意味なんだろうな⋮⋮。
﹁ケン、大丈夫だったのか?﹂
﹁いや、もう全然。さっぱりだったさ﹂
﹁⋮⋮進級できなくても知らんぞ﹂
﹁ま、補習があるし、それやれば何とかなるんじゃん?﹂
﹁⋮⋮お前がそれでいいなら別にいいよ﹂
うん、俺はもう気にしない。
﹁そう言うヤス君はどうだったんですか?﹂
アオちゃんが俺に聞いてきた。そう言えば、アオちゃんも最近は勉
強ばかりであんまりしゃべってなかったから久しぶりだ。
﹁俺は2科目を除いて大体出来た。7、8割とれたと思うよ﹂
﹁残りの2科目は?多分、英語IとOCですよね?駄目だったんで
419
すか?﹂
﹁ごめん、聞かないで⋮⋮﹂
そう、苦手な英語は、全然出来なかった。かろうじて丸暗記した部
分が何とかとれただけな気がする。
﹁そう言うアオちゃんはどうなのさ!?実はアオちゃんもケン並み
に勉強できなかったりしないの?﹂
﹁現代文以外は9割いったと思いますよ?現代文も丸暗記したので、
8割はいけたと思います﹂
天才だ。本当の天才がここにいる。
﹁く、その程度でいい気になるなよ!今度会う時は覚えてろ!﹂
﹁お、ヤス君、それは悪役の捨て台詞の王道ですね。ここはなんて
返すべきなんでしょう?ライバル的存在なら、﹃私も次会うまでに
もっと精進しておきます﹄ですよね。でもヤス君はどっちかって言
うとやられキャラっぽいですから﹃ごめんなさい、もう忘れてしま
いました﹄って返しましょうか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮やられキャラか⋮⋮⋮⋮﹂
もうこのクラスや部活での俺のキャラが確定してきたな⋮⋮。始め
の頃はケンに毒舌とか言われてたのに⋮⋮⋮⋮。
いいさ、俺はきっといじられシスコン野郎なのさ!
420
﹁さ、久しぶりの部活だ!張り切ってこう!﹂
﹁ああ、そうだな﹂
ケンに促されて部活に行く。
今日は5月22日木曜日、中間試験の最終日。5月19日︵火︶∼
5月22日︵金︶の間、テスト期間になってたのだ。
その間は部活中止。15日までは練習していたが、テスト3日前か
らはやってはいけないと言う学校のルールがあるらしい。
県大会に出場する先輩たちは、その間も練習を許可されていた。県
大会は5月30日︵金︶∼6月1日︵日︶に行われるので、こんな
時期に休んでいたら活躍するなんて不可能だからな。
先ほどまでの会話はケンにテストの出来を聞いていたんだが、芳し
くないようだ。
1年の最初からそれでは先が思いやられる。
そういや、俺がケンにアドレスを教えてから、ほんとに月に300
0件送るつもりなんじゃないかってくらいメールが来た。
既に1000件近くになっている。
おかげさまでメールボックスは
受信箱
ケン
ケン
ケン
ケン
ケン
421
ケン
ケン
ケン
ケン
の状態だ。
⋮⋮俺が教えてから、まだ10日経ってないから、1日100件の
ペースで書いていると言う事だ。
一応律儀に読んではいるが、正直そろそろきつい。しかも毎回写メ
ールで送ってきて、この写真がどうだ。あの写真がこうだとメール
してくる。やめろと言ってもやめてくれないし⋮⋮はぁ⋮⋮そんな
事してるくらいなら勉強しろよと言いたい。
さて、今日からまた練習開始だ!
422
⋮⋮今日の練習もいつもと一緒、学校の周りをぐるぐる回るだけ。
いい加減、飽きた。ほんとに飽きた。
この練習がもう1月続いてる。他にする事無いんだろうか。
よく先輩たちは飽きないなと思いながらも、ぐるぐると回る。
スピードもジョギングほどではないが、俺が息を切らさずについて
いける程度のスピードだ。
短距離7.5秒、シャトルラン108回の俺が息を切らさずについ
ていけるってかなり練習量が少なくないかな?
入学した頃は適当でいいと思ってたし、実力差が激しい他の高校の
事を考えるとやる気がなえるが、それでももうちょっときちんと練
習したい。
⋮⋮無理か。まず顧問が見てないと練習できないもんな。顧問が見
える範囲で、練習できる環境と言うと、この学校周りぐらいしかな
さそうだ。
しかも先輩たちはこの環境に満足してるっぽいしな。
⋮⋮ふぅ、なんかなじむ気が起きないな。アオちゃんと友達になっ
てから、もっと周りと仲良くしてみようかと思ってたんだけど、こ
の先輩たちとはどうもそんな気分になれない。
今日は7周、7キロメートル程度を走って、今日の練習が終わった。
423
短距離も今日はテストあけと言う事で、軽めの練習だったようだ。
長距離が終わったと同時に短距離のメンバーも終わってる。
﹁ケン、今日は俺行くとこあるから一緒に帰れんわ﹂
﹁ん?どこ行くん?﹂
﹁サツキの誕生日プレゼント買いに。ケンも行く?﹂
今日は午前中、10時半頃でテストが終わる。なので、部活も早め
に終える事が出来るのだ。今はまだ13時半。
﹁そういやもうすぐサツキちゃんの誕生日かあ、でも今日は無理、
今日はこれから兄貴に会いにいくんよ。明日から試合でさ、応援に
行くんだ!ついでに兄貴のアパートに泊まりにいく!﹂
﹁お、明日から試合なんだ?試合には出れるの?﹂
424
﹁もちろん!明日は1番ショートで出場の予定だ!めっちゃ楽しみ
だよ!﹂
ケン、お前も十分重度の兄好きなんだが⋮⋮、言うのはよそう。
﹁ヤス、明日暇?暇なら応援に来てくれよ!﹂
﹁うーん、サツキが行くって言ったら行くよ。ほどほどに期待しと
いてくれ﹂
﹁もし来れないようだったら、メールで実況中継してやるから!期
待しといてくれ!﹂
もうメールは送らないでくれ、ケンしかいないんだ。俺の携帯の受
信箱。
﹁そういや、お前月300円でどうやって買うんだよ?﹂
﹁何の為にお年玉をもらうと思ってるんだ?サツキと父さん、母さ
んにプレゼントを贈る為だろ?今年の母の日もサツキと一緒にカー
ネーションを買って贈ったけど﹂
﹁お前の家、異常だよ⋮⋮﹂
ん?そうか?仲が良いだけの普通の家族だと思うが。
﹁じゃ、また今度な!﹂
そういって、ケンは帰ってった。久々に兄貴に会えるから嬉しいの
425
だろう。すごい顔がほころんでいた。
昔から、俺とケンはケンの兄貴を尊敬し慕ってたからな。特にケン
は俺なんかとは比べもんにならないくらい尊敬してたもんな。
﹁さて、1人で行くのも寂しいな⋮⋮﹂
俺は暇そうな人を捜した。
ノンキとマルちゃんはさっさと帰ってるし、ユッチとアオちゃんも
今日は既に帰ったみたいだ。
となると、残ってるのは後片付けしてるポンポコさんと、ヤマピョ
ンだな。
ポンポコさんとヤマピョンと言うのは不思議な組み合わせかもしれ
んが、2人を誘ってみるか。
とりあえず、ヤマピョンを誘ってみよう。
﹁ヤマピョン、この後俺、買い物行くんだけど、一緒に行かね?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮え、と⋮⋮⋮⋮俺⋮⋮?﹂
きょろきょろと周りを見ながら聞く。
﹁そう、ヤマピョン。妹の誕生日プレゼントを買いにいくんだけど、
1人で行くのも寂しいし、他の人の意見も聞きたいから一緒に行か
ね?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
426
とりあえず、コクコクとうなずいているから、行くと言う事でいい
んだろう。
さて、ポンポコさんにも聞いてみるか。
﹁ポンポコさん、この後暇?俺と買い物に行かない?﹂
﹁む?それは何のお誘いなのだ?デートならばお断りだぞ﹂
ポンポコさん、そこまではっきり断られるとちょっとへこみますが
⋮⋮。
﹁や、違うって。ヤマピョンもいるし。今度妹の誕生日なんだけど、
今からプレゼント買いに行くんだ。で、他の人の意見も聞きたいか
ら、来て欲しいかなって﹂
﹁ふむ、いいだろう、行こうか。ところで妹さんの誕生日はいつな
のだ?﹂
﹁5月27日生まれ。サツキって名前だ﹂
﹁5月生まれだからサツキか。なるほど﹂
そう、ポンポコさんの言う通り、5月生まれだからサツキって名前
になった。でももっといろんな意味が込められてる。サツキって花
は、どんなに環境が悪い所でも、毎年元気な花をつけるんだ。木そ
のものが枯れてしまうなんて事は、ほとんど無い。そう、サツキっ
て花は、がんばり屋なんだ。そんな、元気で頑張りやな女の子にな
って欲しいって意味を込めて、サツキって名前を付けたんだ。⋮⋮
正直、時々元気すぎる気がするけどな。
427
まあ、そんな事は言わなくてもいい事だ。
﹁そうなんだ。だから、いいものをプレゼントしたいんだけど、ポ
ンポコさんも考えてくれない?﹂
﹁私が考えていいのか?サツキと言う者の事はほとんど知らないぞ﹂
﹁うん、むしろポンポコさんが選んだものなら絶対喜ぶと思う﹂
﹁⋮⋮その根拠はなんだ?﹂
﹁シスコン兄弟に囲まれてる環境がそっくり﹂
﹁⋮⋮⋮⋮確かに、私とサツキと言う者はその一点に置いて誰より
も似ているかもしれん。ケンからいろいろ聞いているぞ?ヤスの妹
溺愛っぷりを﹂
やめて!それは頭の中から消去して!!
﹁サツキと言う者と私がされていた事が全く一緒だったので、思わ
ず笑ってしまった。私とサツキはとても気が合う気がするな﹂
俺も思いました。あなたの兄弟とは絶対に気が合うって。
﹁よし、一緒に行こうではないか。⋮⋮ところで、ヤスは誕生日は
いつなのだ?﹂
﹁俺?俺は6月22日生まれ。サツキとは1年も年齢差が無いんだ
よね﹂
428
﹁ほう?私は6月21日生まれだ。ヤスと私はほとんど同じ時に産
まれたのだな﹂
ほー、ポンポコさんとほとんど同じ日か。中々に偶然だな。
﹁それでは行くか?ヤス、ヤマピョン﹂
﹁あいよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮うん⋮⋮﹂
こうして、いつもとは違うメンバーで買い物に行く事になった。
429
50話:プレゼントを買いに、道中
今、俺はヤマピョンとポンポコさんと一緒に、サツキの誕生日プレ
ゼントの買い物に来ている。
とりあえず、昼食を食べた俺たちは商店街に向かう事にした。
﹁ところでヤス、予算はいくらなのだ?﹂
﹁んーと、1万円は持ってきたけど、実際の所このプレゼントにそ
んなに使ったら、あとあと支障が出るから出来れば2000∼30
00円。どんなに高くても4000円くらいで押さえたいなあ﹂
﹁ふむ、4000円か、それでは服とか時計と言った高そうな物は
買えんな。ブランド物も無理そうだ﹂
﹁あー、うちの妹はブランド物には興味ないから。いつもは実用性
の高い物か、記念になる物を買ってるんだが⋮⋮﹂
﹁今まではどのような物を買って来たんだ?﹂
﹁去年はオルゴール、一昨年はソフトテニス始めたからリストバン
ドセット、3年前はぬいぐるみ、4年前はスイミングに通ってたか
らゴーグル、5年前は自作の鉛筆立て、6年前は貯金箱、7年前は
本、8年前はクレヨン、9年前は1日命令券、俺に何命令してもい
いよってやつね、ひどい目に会ったから今後それはしなくなったけ
ど。10年前は似顔絵描いた絵、11年前は海行ってきた時に拾っ
た貝殻、12年前は⋮⋮ごめん、覚えてないな。クリスマスプレゼ
430
ントの方も言おうか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ん?ヤマピョンとポンポコさんがびっくりした顔をしてるな。
﹁⋮⋮⋮⋮なぜそんなに覚えてるんだ?﹂
﹁可愛い妹との出来事を忘れる訳が無いだろ?サツキだってきちん
と使ってくれてるし、使えなくなった物も保管してくれてるぞ⋮⋮
むしろ12年前の事を忘れてしまったのが悔しくて仕方が無い﹂
﹁⋮⋮くっ、私にはお前の妹の気持ちがすごくよく分かるぞ⋮⋮私
の兄弟にそっくりだこいつは⋮⋮﹂
﹁ん?なんか言った?﹂
﹁いや、何も言ってないぞ﹂
遠くを見て悟ったような顔をされたが、何かまずかっただろうか?
﹁それで、今年は何を買おうと思ってるんだ?﹂
﹁うーん、それなんだけど、今年から妹も携帯持ったからさ、スト
ラップでも買おうと思ってるんだよね。可愛いの買ってあげれば喜
ばないかなーって﹂
﹁ふむ、悪くないのではないか?私としてはアクセサリーもいいと
思ったが﹂
431
﹁アクセサリー?でもあんまりサツキってオシャレには気を使わな
⋮⋮﹂
﹁いやいや、そんな事は無いぞ。女の子と言うのはオシャレが好き
な物だ。出来れば可愛くなりたいと言う願望を誰もが持ってるぞ﹂
⋮⋮でも、ポンポコさんはあまりオシャレしているようには見えな
いけど。
俺の言いたい事が伝わったのか、ポンポコさんは語りはじめた。
﹁ああ、私は兄弟から止められてな⋮⋮高校入学時にコンタクトに
買えて、三つ編みからもっと別の髪型に変えてみようかと思ったの
に、兄弟から、﹃そんな事してお前に誰かが言い寄ってきたらどう
するんだ!!!﹄って言われた。一応私も2度ほど告白された経験
はあるんだが⋮⋮両方ともきっちり断ってたけどな、兄弟達にも言
ってないが⋮⋮ま、それは置いといて、無視して変えようとしたら
﹃そんな事言うなら死んでやる!﹄とか言い出したんだ!それでも
無視したさ、そのような事ははったりだと思ったからな。そしたら
2番目の兄が2階から飛び降りたんだぞ!飛び降りた振りをしたん
じゃない!ほんとに飛び降りたんだ!馬鹿だ!真性の馬鹿だ!!幸
いひどいねんざだけで住んだんだが、﹃今度は3階から飛び降りて
やる!やめるって言うまで俺たちは飛び降り続けるからな!﹄とか
言いだしたんだ!これではもうコンタクトに変える事も髪型を変え
る事も出来ないではないか⋮⋮条件付きで家の中だけでなら髪型変
えてもいいって言われて、1回だけ変えた事があるんだが、兄弟の
反応がひどくて⋮⋮それ以来もうしていない﹂
⋮⋮さすがだ⋮⋮俺にひけをとらないポンポコさんの兄弟達。是非
夜通し妹自慢をし合いたい。ポンポコさんのイメチェンの格好も見
てみたいけど。
432
話の中でこっそりと告白された経験を言いましたね、ポンポコさん。
﹁と言う訳だ。女の子と言う者は心の中でオシャレしたいという願
望を持っているぞ、ヤスもまさか妹にオシャレをするなと言う者か
?﹂
﹁や、サツキは俺が何言っても聞かないよ?俺が涙ながらに頼んで
も、けらけら笑いながら一蹴する妹だ。オシャレしたいと言えば、
どんなに俺が反対したってするさ﹂
﹁2階から飛び降りたりはしないのか?﹂
﹁効果があるんだったらするけど⋮⋮サツキはきっと﹃馬鹿だねー
ヤス兄は、そんな事しても結果は変わらないのに、むしろこの場面
を写真に残しとかないとね﹄とか言うんだ⋮⋮ま、さすがに3階か
らは落ちないよ、サツキを残して死ねないし。⋮⋮多分ポンポコさ
んの兄も3階から落ちるってのははったりだよ。そんなにポンポコ
さんが好きなら、ねんざ以上の大怪我して病院に入院になったりし
て、ポンポコさんに会えなくなる方が嫌だろうから﹂
﹁⋮⋮という事は、私はもしかして兄達など気にせず何してもいい
のか?﹂
﹁うん、絶対死なないから大丈夫﹂
その励まし方ってどうなんだろ?オシャレすると死ぬ⋮⋮⋮⋮訳分
からんな。
﹁⋮⋮⋮⋮あの⋮⋮⋮⋮﹂
433
お、ヤマピョンが何かいおうとしてる。
﹁ん、何?ヤマピョン﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あそこ⋮⋮⋮⋮﹂
そうつぶやいて、ヤマピョンは指差した。お、アクセサリーショッ
プか⋮⋮⋮⋮。ポンポコさんがいてよかった!!あんなとこ男だけ
で入るの恥ずかしすぎる。
﹁よし、行こうか﹂
こくこくとヤマピョンがうなずき、アクセサリーショップに入るこ
とにした。
434
50話:プレゼントを買いに、道中︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
自宅のネットですが、NTTから10月半ばまで工事出来ないと言
われました。最初に聞いたときには今日あたりには工事完了って言
いやがったくせに⋮
サスガに腹がたちました。
話題のコミュファにすればよかったかなあ⋮
それまでは携帯投稿です、携帯で書くのはPCで書くより時間がか
かるので、ブログの方は更新できそうにないです。インターネット
カフェとかも考えましたが、金がかかりすぎるので断念です。
大変申し訳ありません。
どうか今後もよろしくお願いします。
435
51話:プレゼントを買いに、店内
店内は別世界だった。
ヤマピョンとポンポコさんと俺の3人でアクセサリーショップに入
った感想はこれだった。
平日なので、そこまで客は多くはないが、男の姿なんてほとんど見
かけない。
あ、1人発見。
彼女と一緒に来たみたいだけど、彼女に放っておかれてるみたいで、
すごく居心地悪そうにしてるなあ。
﹁さて、サツキに何をプレゼントすればいいんだろうな?﹂
俺はきょろきょろと店内を見回した。
そんなに大きくはないけれど、様々な物が取り扱われているようだ。
イヤリング、ピアス、指輪、ネックレス、ブレスレット等々⋮⋮、
携帯ストラップや香水なんて物も置いてある。
しかし、兄がプレゼントして問題ないアクセサリーって何さ?
ピアスは穴をあけて欲しくないし、イヤリングなんかプレゼントし
ても、テニスとか自転車とかで動き回ってるヤツだからすぐ無くし
ちゃうだろう⋮⋮そういえば、指輪とかプレゼントしてもいいもん
なのかな?全く分からん。
436
﹁なあ、ポンポコさんは兄弟から何をもらうと嬉しい?﹂
﹁私は⋮⋮去年は長兄からは指輪をもらったぞ。一度しかしていな
いが﹂
指輪か、指輪はプレゼントOKなのか。
﹁でも、何で一度しかしてないの?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ポンポコさん?﹂
黙ってしまった。何かあったんだろうか?
﹁⋮⋮馬鹿兄が悪い!何故サイズを左手薬指に合わせたものを買う
のだ!?他の指ならまだましだが、薬指では恋人からのものみたい
ではないか!﹂
⋮⋮く、薬指か、確かにそれは駄目かもしれないな。
﹁それでも一度だけはつけたさ⋮⋮。その指輪はとても綺麗だった
からな﹂
お、ポンポコさんも中々優しい所があるね。
﹁ところが、つけた途端、長兄は大喜びでそれ以外の兄弟は号泣を
始めた。その後は兄弟で取っ組み合いのケンカが始まって、夕方か
ら始まったケンカなのに、収拾がついたのは夜明けだ⋮⋮もうこん
な馬鹿兄弟の前ではもう2度と指輪はつけん﹂
437
﹁⋮⋮そ、そっか﹂
﹁だから、ヤスも指輪はやめておけ。⋮⋮まあ、ヤスの場合はサイ
ズを知らないだろうから買えないな﹂
ごめんなさい、知ってます。
言うとどんな反応されるか怖かったので、心の中で思うだけにして
おいた。
﹁しかし⋮⋮そうするとネックレスか、ブレスレットかって所かな
あ。﹂
俺は適当に物色を始めた。ポンポコさんもヤマピョンもいろいろ見
始めたみたいだ。
﹁⋮⋮お、これなんか可愛くていいんじゃないかな?﹂
俺が手に取ったのは羊がくっついたブレスレット。もこもこした羊
がちょこんとついていてかわいらしい。
﹁妹さんにはこういうものはどうなんだ?﹂
ポンポコさんが選んでくれたのは、色とりどりのビーズ。ピンク色
のや、レッド、パープル、ブラウン、イエロー、グリーンと、様々
な色があるし、形もさまざまだ。
ビーズを使って、自分の好きなものを作るって事か。中々いいかも
しれない。実はさつきもこういうの好きかもしれないし。
438
﹁うん、俺の選んだヤツよりいいと思う。これにしよっかな﹂
俺がそれに決めようとした時、くいくいと俺のシャツを引っ張って
俺を呼んで、ヤマピョンが1つの商品を差し出した。
﹁⋮⋮⋮⋮こ、これ﹂
ヤマピョンが差し出したのはネックレスだった。ネックレスには四
葉のクローバーがついている。四葉のクローバーがキラキラ輝いて
いてすごく綺麗。⋮⋮ヤマピョンってすごくセンスがいいかも。
﹁いいな⋮⋮これ。値段はいくらなんだろ?﹂
値段を見てみると2100円。十分に購入可能だ。
﹁うん、サツキへの誕生日プレゼントはこれにするよ。ヤマピョン、
ありがと﹂
ヤマピョンがコクコクとうなずく。
ポンポコさんのビーズも捨てがたいけど、幸せの象徴でもある四葉
のクローバーに惹かれてしまった。
⋮⋮せっかくポンポコさんもここまで来てくれて選んでくれたのに、
結局ヤマピョンの方を選んでそのまま帰るのはなんだか悪い気がす
るな。
俺が思っている事に気付いたのか、ポンポコさんは手を振って答え
る。
﹁気にしなくていいぞ。そのネックレスは確かに綺麗だからな。つ
けていると本当に幸せが舞い降りてくる気がする﹂
439
﹁でも、せっかく選んでくれたのに悪いなって⋮⋮﹂
﹁そうか?そんな事を気にする必要は無いと思うが⋮⋮。ヤス、5
月27日に誕生日会でもするのか?﹂
﹁え?ああ、そのつもりだけど?﹂
中3にもなって誕生日会かよっ!?って思ったやつ、でてこい!俺
がしばいてやる。
﹁では、このビーズは私が買って、その時に私がプレゼントしても
いいか?﹂
﹁え?ポンポコさんも参加するの?﹂
﹁参加しては駄目なのか?﹂
ポンポコさん、寂しそうに言わないでくれ。
高校入ってから思ったんだが、その顔されると断れない⋮⋮。
﹁いや、全然構わないよ。多分参加者はケンと俺とサツキの3人だ
けだったし、ポンポコさんが増えるのはサツキも喜ぶと思う⋮⋮で
も、家の方は大丈夫?19時頃から始めるから、家に帰るのかなり
遅くなると思うけど﹂
遅くなるから、サツキの友達は呼ばずに、ケンと俺と3人だけで行
うのだ。
サツキは自分の友達とは土曜日に何かをするらしい。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮まあ、大丈
440
夫だろう。私の兄弟も⋮⋮⋮⋮⋮⋮大丈夫だ﹂
ポンポコさん、答えるまでのその間は何だ!?
本当に大丈夫なんだろうな!?
﹁分かった。じゃあ来週、部活終わった後、俺んちに行こか。ヤマ
ピョンも来る?﹂
せっかくなのでヤマピョンも誘ってみる事にした。
多い方が楽しいだろうし。
﹁⋮⋮⋮⋮む、無理⋮⋮﹂
そうか、無理か。
ヤマピョンもすごく残念そうな顔してるから、本当に無理なんだろ
う。
﹁じゃあしょうがないな、またなんかあった時誘うよ﹂
﹁⋮⋮う、うん⋮⋮﹂
そう言って、俺は四葉のクローバーのネックレスを買いにレジに行
った。
⋮⋮お、これは⋮⋮。
441
店を出てから、ポンポコさんの手にポンッと乗せる。
﹁ポンポコさん、これあげる﹂
俺が渡したのは、ピンクのヘアゴム。アクセントに猫の顔がついて
る。
レジの前にいろんな種類の小物が置いてあり、その中にこれがあっ
た。値段も手頃だったので、つい買ってしまった。
﹁突然なんだ?もらうような事をしていないが﹂
﹁今日誕生日プレゼント買うのに、付き合ってくれた俺のお礼の気
持ち。ほら、ポンポコさんもオシャレしたいって言ってたじゃん?
ヘアゴムぐらいだったら、兄弟達も文句言わないだろうし、別のを
つけてみるのもいいんじゃないかな?﹂
普段はポンポコさんは三つ編みを黒のゴムでまとめてる。カラフル
なものも悪くないかなと⋮⋮。
442
﹁ふむ、そういう事ならいただこうか、ありがとう。今度早速つけ
てみる事にする﹂
﹁うん、きっと似合うよ﹂
うん、後は⋮⋮。
﹁ヤマピョンにはこれあげる﹂
シマウマのキーホルダーがついた携帯ストラップ。ポンポコさんに
だけあげるのは不公平だしな。
﹁⋮⋮⋮⋮と⋮⋮ありが⋮⋮とう⋮⋮﹂
﹁あいよ﹂
うん、喜んでくれたみたいで何よりだ。どっちも安物だったから、
ちんけだとか言われたらどうしよかと思ってた。
その後、駅まで歩いてってポンポコさんとヤマピョンと別れた。
443
そして、月曜日の部活。
ポンポコさんは俺の買ってくれたヘアゴムをしててくれた。
⋮⋮よかった、結構似合ってる。これで不似合いだったら最悪だも
んな。
﹁あれ?ポンポコ、そのゴム見ないね。結構似合ってるよ﹂
ユッチが気付いたみたいだ。
ふふ、ポンポコさんにイメージチェンジの発端を促す俺の功績をた
たえるがいい!!
﹁ああ、ヤスにこの前もらったんだ﹂
﹁え、あのヤスが!?何がどういう経緯でそんな事に!?﹂
⋮⋮⋮⋮ポンポコさん、別に言わなくていいよ。
ユッチ、﹃あの﹄って何だよ﹃あの﹄って。お前は俺をどういう目
で見てるんだ!?
﹁付き合ってくれた俺の気持ち、と言ってくれたぞ。似合ってるか
?﹂
﹁えええええええええっ!!ヤスとポンポコが!?﹂
ユッチ、びっくりし過ぎ!ってか付き合ってない!
﹁ポンポコさんとヤス君付き合いはじめたんですか?ヤス君は手が
444
早いですね⋮⋮陸上部1年で第1号です﹂
アオちゃん、違う!付き合ってません!
﹁ポンポコさん!なんかぬけてる!おかしいって!﹂
﹁ヤス君、そんな焦らなくてもいいですよ⋮⋮私たちにばれたから
って﹂
﹁だからアオちゃん違うから!﹂
くそっ!何で俺の話は信じない!?
ユッチは驚きすぎて放心状態になってる。
﹁それでいつなんですか?付き合う事になった日は﹂
﹁ん?ああ、先週の金曜日だ﹂
何一つ間違ってないんだけど、言い方がおかしい!
﹁ポンポコさん!なんか言ってない事があるでしょ!ちゃんと全部
言おうよ!﹂
﹁ん?そうだったか?⋮⋮ああ、私の兄弟達に文句を言われないよ
うに、だったか?﹂
﹁確かにそんな事も言ったけど!それじゃ勘違いされる!﹂
﹁ご家族にまで既に配慮されてるんですね。もう公認なんですか?﹂
445
﹁だからアオちゃん!公認も何も!付き合ってないから!ポンポコ
さんもなんか他の事言って!?﹂
もうこの話題はやだ!さっさと打ち切ろう!
﹁他の事か⋮⋮そうだな、今度ヤスの家に行くぞ﹂
﹁ポンポコさんのアホーーーーー!!!!!﹂
何でその話題!?
確かに来るけど!呼んだけど!
﹁ヤス君、恥ずかしいからってアホなんて言っちゃ駄目ですよ﹂
﹁違うから!アオちゃん、お願いだから俺の話を聞いて!﹂
﹁私は嘘なんて一言も言ってないぞ﹂
﹁ポンポコさんは確かに嘘言ってないけどさ!﹂
﹁ほら、全部ほんとなんじゃないですか。ああ、部員とマネージャ
ーの恋物語なんてまさに王道ですね。このままいけば次に現れるの
はどちらかの新たな恋敵?それとも陸上のライバル?﹂
﹁アオちゃんはほんとそういうの好きだな!でも違うから!残念な
がら違うから!何べんでも言うけど残念だけど違うんだ!﹂
﹁ヤス君、顔真っ赤ですよ、照れちゃって可愛いです﹂
あー、いい加減聞け!俺の話を!
446
ええ、あの後ウララ先生が現れて、ようやく事態に収拾がつきまし
た。
アオちゃん、今後はあおるのはやめてくれ。
447
52話:サツキ誕生日会、準備
5月27日火曜日。今日はサツキの誕生日!
陸上部での部活もいつも集団で走ってたが、今日は気分が高揚して
たので1人抜け出して気持ちよく走る。
4周、大体4キロメートルでばてたが⋮⋮。
今日のノルマは8周、8キロメートルだったので残りはめちゃくち
ゃしんどかった。
走りきった後も、ちゃんと走れって先輩から怒られるし⋮⋮。
お前らの方こそちゃんと走れってんだ。
その時にヤマピョンも抜け出して走ったので、一緒に怒られた。
ヤマピョンは俺なんかよりずっと速く走ってた。
せめてヤマピョンについていけるぐらい走りたいなあ⋮⋮。
そんなこんなで部活も終わり、今日はケンとポンポコさんと帰る。
サツキの誕生日会の参加メンバーだ。
﹁そういえば、ポンポコさんの家は大丈夫だったの?兄弟達の話を
聞いてると、﹃遅くなったら絶対外に出してやるか!﹄とか言いそ
448
うな雰囲気な気がするんだけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ああ、大丈夫だ。全く問題ない﹂
だからその間は何さ?なんか怖いって!
家に着いたら、誕生日会の準備を始める。と言っても、そこまで特
別な事をする訳じゃない。
いつものように夕飯を食べて、しゃべって盛り上がるくらいだしな。
特別なのはプレゼントくらいなものだ。
現在は18時。サツキは今日は19時に帰ってくると言っていたか
ら、それまでに準備しなければいけない。
﹁ケン、部屋の飾り付けはお前に任せる、居間を綺麗に飾ってくれ。
ポンポコさんは料理は出来る?﹂
﹁いや、私は料理は大の苦手でな⋮⋮一度作った事があるが、兄弟
全員、次の日までトイレにこもりっきりになった。﹂
そ、それはまたきつそうな料理だ。
449
﹁じゃあ、ケンの手伝いお願い。ケンが邪魔だったらポンポコさん
1人でやっちゃってもいいから﹂
﹁了解した﹂
さて、俺は料理を頑張りますか!
既に朝のうちに下ごしらえをしておいたので、そんなに時間はかか
らない。
料理は、箸を使わずに手でつかんで食べられるようなものばかりを
作った。
その方が、料理に気を取られずにおしゃべりしやすいしな。
デザートだけは、ケーキを丹念に作ってやった。1時間で作るのは
ギリギリなのだが、誕生日にケーキは欠かせない!
﹁ケンはセンスがいいな。私ではこんなに上手く飾り付けは出来な
いぞ﹂
450
お、何か話してるな。確かにケンの飾り付けは上手いからな。
﹁ふっふっふ、任せたまえ!これでも小学、中学と美術の授業では
褒められなかった事は無いぞ!一度県コンクールでも銀賞を受賞し
た経験ありなのさ!﹂
﹁ほほう、それはすごいな﹂
﹁逆にヤスの美的センスはめちゃくちゃ変だぞ。何か描く時も、と
にかく動物を入れようとするんだ。空を描こうとしたら必ず鳥が入
ってるし、海を描こうとしたら、魚かカモメが描かれてるな。いっ
ぺん夜空を描いてきた時には、風景画のはずなのにイカとタコを描
いてて、﹃これは宇宙人だ!俺の前に現れたんだ!﹄とか叫んでた
し﹂
俺の話に変えてんじゃない!しかもまた俺の恥ずかしい過去をしゃ
べるな!
﹁ふむ、じゃあこのヘアゴムもそうなのか?﹂
﹁あ、それヤスからのプレゼントなんだ?うん、絶対猫が入ってた
からそれを選んだね。今までのサツキちゃんへのプレゼントもどっ
かに動物が入ってるから﹂
いいじゃん、動物って可愛いじゃん。
﹁ふむ、そうなのか?﹂
﹁えっと、俺の覚えてる範囲だと⋮⋮去年のオルゴールにはリス、
451
ぬいぐるみは犬だったかな﹂
﹁まあ、そのぐらいならいいのではないか?﹂
そうだ!ポンポコさん、俺を援護してくれ!
﹁でも、一昨年のリストバンドはコウモリ、鉛筆立ては深海魚だっ
たんだよ。動物なら何でもいいと思ってんのかね?﹂
そんなことはないぞ、ムカデは嫌いだ。噛まれた事があるからな。
あと、あの台所にいる黒いのも嫌いだぞ。蚊とかハエとかも好きで
ないし⋮⋮うん、動物全てが好きって訳でもないな。
﹁ふむ⋮⋮人の好き嫌いは他の人には理解できない事が多いからな、
仕方が無いのかもしれん⋮⋮﹂
ポンポコさん!?
今、さじ投げたね!?俺の趣味について理解できないって言い切っ
たね!?くぅ、ポンポコさんなら分かってくれるかと思ったのだが。
452
俺の料理も完成し、ケンたちの飾り付けも終わり、後はサツキが帰
ってくるのを待つばかり。
時間は18時57分。ぎりぎりで間に合ったな。
さて、やっぱりこういう祝い事の時にはクラッカーは大事だろ。俺
はクラッカーをケンとポンポコさんに渡しサツキが帰ってくるのを
待つ。
玄関で祝いの言葉を言う為に、今日だけはサツキにインターフォン
を押してもらう事になってる。
ピンポーン
﹁お、鳴ったな﹂
俺がつぶやいて立ち上がり、受話器を取り﹁どうぞー﹂と一声かけ
る。
﹁よし、スタンバイするぞ!﹂
﹁イエッサー!﹂
そう合図して、3人で玄関で待つ。
ガチャリ⋮⋮玄関の戸が開く。
よし、今だ!
﹃ハッピーバースデイ!!サツキ!!﹄
453
パンパンパン!!
3つのクラッカーが同時に響き渡った。うん、いい始まりだな!
⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮あれ?
﹁た、宅配便なんですけど⋮⋮﹂
宅配員さんにクラッカーから飛び出た紙テープが大量にかかってる!
向こうの人もどうしていいかめちゃ困ってるよ!?
﹁ヤス!この場は任せた!﹂
﹁ええ!?俺!?﹂
﹁当然だ!ここはお前の家なんだからな!﹂
く、確かにケンの言う通りだ⋮⋮。だが、この空気は⋮⋮。
﹁名も知らぬ宅配員さん!今日はこの家に宅配が来てちょうど99
454
回目なんです!﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹂
﹁今のはそのお祝いなんです!さあ、一緒に叫びましょう!ハッピ
ーバースデイと!﹂
﹁な、なんでハッピーバースデイ?﹂
﹁いいですか、99と言えば100より1個少ないんです!漢字の
百から一を無くしたら白です!﹂
﹁は、はあ⋮⋮﹂
﹁宅配99回目の日、タクハイが99回でシロの日、タクハイシロ
デイ︵DAY︶、タックハーイシデイ、ハッピバースデイだ!イエ
イ!イエイ!﹂
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄
や、やばい⋮⋮は、はずしまくってるっぽい。
こ、こうなったら!!!
俺は2階に上がって祭りに着るあの服を持ってきた。
そして玄関に戻り、
﹁ただい﹂﹁ハッピーバースデイにハッピ︵法被︶、ワー、すげい
!!﹂﹁⋮⋮⋮⋮ま﹂
⋮⋮
455
⋮⋮⋮⋮
今の状況
法被を着て背中を見せながら親父ギャグを言っている俺。
未だに紙テープを大量にかぶっている宅配員さん。
ちょうど帰ってきた所のサツキ。
何故かいなくなってるケンとポンポコさん。
⋮⋮サツキ、バッドタイミングだ。
俺はサツキに白い目で見られながら宅配員さんに平謝りして、ハン
コを押して帰ってもらった。
うん、何で最初から謝んなかったんだろうなあ⋮⋮。
﹁お疲れー、あ、その宅配便俺のサツキちゃんへの誕生日プレゼン
ト。今日サツキちゃんの誕生日だからここに送ってもらった﹂
居間に戻ったら、それを受け取ってケンが何くわぬ顔で偉そうにふ
んぞり返って宣言しやがった。
456
﹁じゃあお前が対応しろ!!この大馬鹿野郎!!﹂
今までに無く変な空気でのスタートとなった誕生日会だった。
457
53話:サツキ誕生日会、開催
﹁では、改めまして⋮⋮サツキ、誕生日おめでとー!!﹂
﹃おめでとー!!﹄
変な空気を消す為に、元気よく祝いの言葉を述べる。
﹁ありがと、ヤス兄、ケンちゃん、⋮⋮と、会った事ありましたっ
け?﹂
﹁いや、初対面だ。ヤス、ケンと同じ陸上部でマネージャーをして
いる。陸上部ではポンポコと呼ばれているので、そう呼んでくれて
構わない。よろしく頼む。⋮⋮サツキと呼んでもいいか?﹂
﹁あ、はい、もちろんです。よろしくお願いしますね、ポンポコ先
輩﹂
ポンポコ先輩。なんか微妙な呼ばれ方な気がするのは俺だけか?
﹁私はサツキって言って、残念ながらこの馬鹿兄の妹なんですよ﹂
﹁馬鹿とは何だ馬鹿とは﹂
確かに親バカならぬ兄バカなのは認めるけどな。
﹁うむ、よく聞いているぞ。お互い兄弟では苦労するな﹂
458
﹁え、ポンポコ先輩もなんですか!?﹂
そんな話を始めないでくれ、やな予感がする。
﹁それより、早く飯食べよ、飯。﹂
﹁あ、そうだね。せっかく作ってくれたんだもんね。食べながらそ
の話しよっか⋮⋮で、ポンポコさんは何か面白いエピソードはあり
ますか?﹂
しまった!話がしやすい食べ物ばっかりだ!これじゃあ俺の暴露話
が始まってしまう。
﹁例えば⋮⋮、私が中学校の時、委員会の仕事で同じクラスの男子
生徒と話していた時なんだが⋮⋮﹂
よし、向こうの話なら何でも来いだ。
﹁あ、それヤス兄もしましたよ。突然﹃俺のサツキに何してる!?
触れようとするな!﹄って怒鳴り込んできて、その男子の胸ぐらを
つかんだんですけど。﹂
﹁サツキ、それ以上言うな!!﹂
最近ご近所さんの井戸端会議が俺の事ばっかりになってるんだ!
どんどん広がってるのに、これ以上広めようとしないで!
﹁つかんだ途端、ブワッと投げられて、目を白黒させて失神しちゃ
ったんですよ、口からヨダレたらしはじめて、これはヤバいかな?
と思った瞬間、ばっと立ち上がって今度は机に頭ぶつけてまた失神。
ほんと見てて最高ですよ﹂
459
あーうー、また過去の汚点が広がっていく。
﹁私の兄弟より面白い結末を迎えるのだな。さすがはヤスだ﹂
そんな褒め言葉いらないっす!!
﹁その時の写真ありますよ、見ませんか?﹂
﹁ああ、見せてくれ﹂
﹁見せなくていいから!お願い!ってか何でそんなんが残ってんの
!?﹂
俺の必死の説得も空しく、女2人組は俺の恥ずかしい写真集なるも
のを持ち出してきて、きゃいきゃい言い始めた。
何でそんな写真集を作ってるのか、俺は1時間近く問いつめたい。
460
しばらく見て満足したのか、ようやく終わってくれた。
かなりの量の俺の馬鹿話がばれた気がする⋮⋮。
﹁これ、前編なんですよ。次回来た時は中編か後編を見せてあげま
すね﹂
﹁ああ、よろしく頼む﹂
やめて!そこの2人!!
﹁それにしてもヤス兄も、この前のユッチ先輩といい、ポンポコ先
461
輩といい、最近女を連れ歩いてるねー﹂
﹁どっちも部活の友達だよ。サツキ、妬いてんの?﹂
﹁いやいや、ついにヤス兄が妹離れを初めてくれたのかと思うと、
嬉しくて。やっと一歩大人になった感じ?﹂
どういう感じだ、それは。
﹁サツキも寂しくないの?﹂
﹁うーん、どうだろね。ちょっと寂しい感じもするけど、ね⋮⋮﹂
うん、こう言う可愛い事を言ってくれるから、妹離れが出来ないん
だ。
﹁寂しいなら、ずっと一緒にいてやるから安心しな、サツキ﹂
﹁それは嫌、ってかキモイ、ヤス兄﹂
くっ、これぐらいの言葉、いつも言われ慣れてるしな。
﹁ヤス、不思議でしょうがないんだが、サツキちゃんからそんなに
けなされ、馬鹿にされてるのに、何で怒ったりしないんだ?や、怒
鳴ってるのは見た事あるんだけど、こう怒る所って見た事無いんだ
が⋮⋮﹂
ケンの言葉も最もだが、まあそれは秘密という事にしておこう。
どんどんと俺の秘密が暴露されるのは嫌だ。
462
﹁昔1回だけ怒った事あるよねー、ヤス兄﹂
﹁もうやめてくれ!これ以上色々ばらさないでください!﹂
﹁別によくある話じゃん。ヤス兄が怒って、私が泣いて、おろおろ
したヤス兄がもう絶対怒らないって誓ったってだけの話でしょ?そ
の時からこんなに仲良くなったんだもんねー﹂
﹁いや、誓ったとか言うの恥ずかしいし⋮⋮﹂
確かにそれだけなんだが、細部を語るともっと恥ずかしいからな。
﹁ヤス、恥ずかしがる事じゃないぞ。俺もヤスが初めて俺の前で泣
いた時、﹃こいつはなんて面白いヤツなんだ!これからはもっとい
じってやる!﹄と誓ったものだ﹂
﹁お前最悪だよ!そんな事誓ってんじゃねえ!﹂
﹁そしてその誓いは今も続いてる。将来、俺たちがじじいになるま
で続けるつもりだ﹂
﹁馬鹿か、お前は!そんなに長い間腐れ縁が続くかってんだ!﹂
﹁いや、分からんぞ。大学、就職先と全く同じ所に行くかもしれん
しな﹂
﹁いやいや、そんな偶然はごめんです﹂
ほんとに、そんな時までケンのお世話になっているのは勘弁です。
463
54話:サツキ誕生日会、プレゼント
そして、食事もデザートのケーキも食べ終わり、そろそろ誕生日プ
レゼントの贈ろうかという雰囲気となった。
﹁じゃあ、俺から渡すか﹂
最初は俺から渡す事にした。
この前買ってきた、あの四葉のクローバーのネックレスだ。
﹁ほい、誕生日おめでとさん﹂
﹁え!?これ?ほんとにヤス兄が?﹂
﹁ああ?そうだけど?﹂
何をそんなに驚く事がある?
﹁ヤス兄が、動物のついてないものをくれた⋮⋮感動するね、ケン
ちゃん﹂
﹁まったくだ。やっと自分のセンスの変具合に気付いて、直そうと
する意思が見られるようになったな﹂
﹁ほんとだよ、しかもすごく綺麗だし⋮⋮ありがとヤス兄。今まで
で最高だね﹂
464
⋮⋮すごいひどい事を言われた気もするんだが、喜んでくれてるな
らよかったかな。
﹁次は私が渡そうか﹂
お、次はポンポコさんか。色々なビーズだったよな、確か。
﹁初めてなので上手くいかなかった部分も多いのだが、もらってく
れ﹂
初めて?何か作ったのか?
﹁ビーズを組み合わせて、携帯ストラップを作ってみた。一応タン
ポポをイメージして作った、上手く見えてくれれば幸いだ﹂
そう言って、ビーズで作った花のストラップを出して、サツキの手
に乗せた。
ってか上手すぎだろ⋮⋮。小さなビーズを組み合わせただけなのに、
ちゃんとタンポポに見えるし。
﹁すご⋮⋮こんなんもらっちゃっていいんですか?﹂
﹁ああ、慣れれば結構出来るようになる。ビーズの教本と、ビーズ
各種も一緒にプレゼントするから、サツキも時間があったらやって
みるといい﹂
なんかそんなレベルのものじゃない気がしますが。ポンポコさんっ
てすごいなあ⋮⋮。
﹁ありがとうございます、今つけちゃいますね!このストラップ﹂
465
携帯を取り出し、早速つけている。ピンクの携帯に黄色のタンポポ
のストラップはよく映えるね。
﹁ポンポコ先輩、本当にありがとうございます。今度いただいたビ
ーズで何か作ってお返ししますね!﹂
サツキ、そんな事出来るのか?そのタンポポのレベルはかなり高い
ように見えるが⋮⋮。
﹁うむ、根を詰めすぎないようにな﹂
なんか俺のネックレスがかすんでしまった気がするなあ。まあしょ
うがないけど。
﹁⋮⋮じゃ、最後は俺だな。﹂
あのプレゼントの後じゃ、よっぽどのものじゃないと感動は薄そう
なんだが。
贈る気持ちが大事であって、プレゼントに優劣は無いとか言うかも
しれないが、どうするんだろうなあ⋮⋮。
﹁俺のは、これだ!﹂
どん!と出されたものは、ボードゲーム。
﹁なに?これ?﹂
﹁いやあ、確かお前ら兄妹ってボードゲームにすごくはまってただ
ろ?じゃあ、なんかまだ家に無いボードゲームをあげたら、なかな
466
かいいんじゃないかなって思ってさ。で、このモノポリーにしたわ
けだ!!﹂
﹃モノポリー?﹄
俺もサツキも知らないゲームだな。
﹁私は知っているぞ、兄弟とやった事があるからな﹂
﹁お、ポンポコさん、これを知ってるとはやるねえ⋮⋮。せっかく
だし、今からやらねえ?6∼7人いるともっと面白いらしいけど、
4人いれば出来るからさ﹂
﹁俺とサツキはいいけど、ポンポコさん、帰らなくても大丈夫?も
うすぐ21時になるけど。それにケンだって帰らないとまずくない
か?﹂
﹁俺は大丈夫。今日はヤスの家に泊まるって言ってあるから﹂
﹁俺OKしてねえよ!勝手に決めるな!﹂
﹁そうだったか?ま、いいじゃん﹂
よくない!!叫びそうになったが、サツキもこのモノポリーという
物で遊んでみたいようなので、ここは妥協する。
﹁今度から、絶対に先に言っとけよ。別にいえば泊めてやるから﹂
﹁さすがヤス。断れない男﹂
467
﹁なんだよその不名誉な称号は!⋮⋮ったく、ポンポコさんは?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮待ってくれ、電話をするから﹂
﹁あいよ、了解﹂
そう言って、ポンポコさんは電話しに行った。
﹁もしもし、ああ、一兄か、私だ﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!!!!!!
な、なんかすごい罵声が聞こえるんだが、大丈夫なんだろうか?
﹁今日は友人の所へ行くと言っておいただろう?そんなに怒る事は
無いと思うのだが﹂
⋮⋮!⋮⋮!⋮⋮!⋮⋮!?
﹁ああ、大丈夫。男じゃない。﹂
えと、どんな話してるか知りませんが、俺は男です。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁それで、今から友人とともにモノポリーをしようと誘われてて、
これからやっていきたいと思っているのだが﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!!!!!!
468
﹁いや、今日は泊まっていくかもしれないという事は先週から言っ
ておいたはずだ﹂
いや、俺聞いてないよ!?ポンポコさんも勝手に俺んちに泊まりに
こようとしないで!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!!!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!!!!!!
⋮⋮!!!!!
⋮⋮⋮⋮!!!!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮!!!!!!
な、なんかポンポコさんの携帯の向こうから大勢の声が聞こえるん
だが⋮⋮泣き声と言うか、悲鳴と言うか⋮⋮恐ろしい。
﹁とにかく、私は今日はヤスの家に泊まるからな!電話してきても
電源切っておくからそのつもりでいてくれ﹂
プツッ、ツー、ツー、ツー、ツー⋮⋮
⋮⋮これ、明日本当に大丈夫なんだろうか?しかも最後にヤスって
言っちゃったし。
﹁お待たせした。兄弟からは了解を得たので、モノポリーを始めよ
うか﹂
469
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹁む?どうした?何かおかしいか?﹂
お互いが顔を見合わせていたが、サツキが代表して聞いてくれるよ
うだ。
﹁えと、ポンポコ先輩。大丈夫なんですか?電話からは明らかに反
対されていたみたいなんですけど﹂
﹁ああ、大丈夫だ。あの兄弟は過保護でな。中学校の時の修学旅行
も危うく行けなくなりかけたほどだ。今日も先週のうちからきちん
と言っておいたのだから、問題ない﹂
色々問題ありまくりな気がします⋮⋮。まず俺に伝わってない時点
で問題です。
﹁ケン。モノポリーを始めようではないか。言っておくが、私は強
いぞ﹂
もう、ポンポコさん、ノリノリですね。
﹁そ、そうだな!始めるか!﹂
ケンが空元気をだす。
まあ、しょうがない。ポンポコさんも泊めますか。
﹁サツキ、お前の部屋にポンポコさんの寝る場所後で作っといて﹂
﹁ん、分かった﹂
470
そして、今夜の闘いが始まった。
471
54話:サツキ誕生日会、プレゼント︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
どうでもいい事ですが、当初の予定では54話から2年生編でした。
話のびすぎです⋮⋮。
いつ終わるかわかりませんが、一応ラストまでの予定表は出来てる
ので︵変わるかもしれませんが︶気長にお付き合いください。
これからもよろしくお願いします。
472
55話:サツキ誕生日会、バトル開始
﹁さて、サツキちゃんとヤスはモノポリーというゲームを知らない
んだったな?﹂
﹃まったく﹄
﹁よろしい!ではこのケン様が教えてやろうではないか!﹂
何でそんな偉そうなんだ?
﹁プレイヤーはすごろくと同じようにさいころを振って、ボード上
を周りながら、他のプレイヤーとボードの上のこの不動産を取引す
ることにより、自らの資産を増やし、最終的に他のプレイヤーを全
て破産させれば勝利だ! Wikipediaを参考にして、俺な
りに言い直してみたぞ!﹂
﹁勝手にパクるな!それは盗作だぞ!﹂
﹁ヤスよ。参考にする事は別に盗作ではないぞ。人の物を無断で転
載、乱用する事が盗作なのであって、参考にする事は盗作にはなら
ない。なにも言わずに使ったら盗作になる。だからWikiped
iaを参考にして書いたとキチンと言えば、別に問題は無いのだぞ
!大体今までお前、俺たち今までどれだけパロってると思ってんだ
!﹂
﹁くっ、確かに⋮⋮しかし、パロるのはいいのか、知らなかった⋮
⋮﹂
473
﹁そうだ、大体そんな事を言ったら、2次創作物はどうなるんだ?
あれは全て盗作か?﹂
﹁確かに⋮⋮俺が間違えていたのか﹂
﹁ヤスが馬鹿なだけだ。あ、だからと言って海賊版は犯罪だからな﹂
﹁ん?さっきの言い方なら、パクリは駄目でも参考にしただけなら
海賊版もいいんじゃないの?﹂
﹁お前、本当に馬鹿だな∼、ニセブランドモノとかに本家がどれだ
け被害こうむってると思ってんだ?中国とかあり得ねえだろ、オリ
ジナルと言い張ってミッキーやらドラえもんが遊園地で歩き回って
たんだぞ、韓国もセブンイレブンとかファミリーマートを真似して
セブンファイブにファニーマートってあるんだぞ、OKなのはあく
まで参考にして、独自のものを作り上げることだ﹂
よく知ってるな、何でそんな事知ってる?
﹁2次創作だって遊びの範囲内ならOKってだけだぞ。ドラえもん
最終回の同人誌とか、裁判沙汰になりかけたじゃん﹂
﹁そなの?﹂
﹁そうそう、同人誌なんて取り締まってたらキリがないから普通は
ほっとくんだけど、あんまりにも売れちゃって、しかも内容が内容
なもんだから、小学館が著作権侵害だ∼って。普通はそんなん無い
のに、書いた人悲惨だよな﹂
474
﹁うわ、小学館も変な事してんな∼⋮⋮小学館には結構好きな漫画
家も多いのに﹂
ってか何でそんな雑学は知りまくってんのに、成績は悪いんだ?勉
強にもちょっとは頭使えよ。
﹁ヤスも気をつけろよ、今度コメディ小説書くんだろ?楽しみにし
てるからな﹂
﹁書かねえよ!いつそんな事言った!?﹂
﹁ふっ⋮⋮まあ、期待してるよ﹂
なんか含みのある言い方するな。
﹁ヤス兄、ケンちゃん。話脱線しすぎ。早くモノポリーしようよ﹂
﹁そうだな、そんな事は置いといて、結局モノポリーとは頭をすご
く使う人生ゲームと思えばいいんじゃないか?﹂
﹁⋮⋮なかなか難易度が高そうだな。覚えられるのか?﹂
覚えられないのなら、やってもつまらんし。
﹁ヤス、こう言うゲームはやりながら覚えればいい。⋮⋮ケンは経
験者ではないのか?﹂
ポンポコさんの言う通りだな。やりながら覚えればいいか。
﹁残念ながら、俺も今日初めてだ﹂
475
﹁ふむ、では私が銀行係をやろう。お金や権利書、物件を管理する
係だ。⋮⋮ふふふ、モノポリーの恐ろしさを見せてやろうではない
か﹂
なんかポンポコさんが怖い!
﹁ところで、何か罰ゲームはやるか?﹂
﹁ケン、変な事いうな!そういう罰ゲームをつけて、勝てたためし
がないんだ﹂
俺は即座に反対したのだが、
﹁もちろん!スリルがあった方が面白いもんね!﹂
サツキは即座に賛成。
﹁ふむ、兄弟でやった時は罰ゲームなど無かったが、あるのもいい
かもしれんな﹂
ポンポコさんも賛成してしまった。
⋮⋮俺はいつも少数派に属している気がする。
ハッピ
﹁じゃ、最下位だった人は、さっきの法被を着て、ついでに1位の
人に顔に油性ペンで落書きされた状態で明日学校に行く事。﹂
﹁きついっすよ!明日生徒指導室に連れて行かれるって!﹂
﹁ヤスと俺、サツキちゃんも中学校で何度も経験してるだろ?大丈
476
夫だ﹂
確かにそうだけどな!やな経験だな、おい!
﹁うむ、私もそれでいいぞ﹂
ポンポコさん!ほんとリスクを考えましょう!
結局その罰ゲームのまま、やる事が決定してしまった。
順番は
1、サツキ
2、ケン
3、俺
4、ポンポコさん
となった。このゲームでは、最初にマスに止まった人が土地をゲッ
トできるらしい⋮⋮ってことは順番が1番の人が有利なんじゃない
のか?
各自に1500ドルを配って、勝負開始だ!
ターン1:サツキ
﹁えと、3、だね﹂
3動いたその先は
﹁ここは不動産の場所だ。購入すれば、その後そのマスに止まった
477
プレイヤーがサツキにレンタル代を払わなければならない﹂
﹁購入しなかったらどうなるんですか?﹂
﹁購入しなかったら、競売にかけられるが、序盤はどんどん購入し
ておいた方が有利だ。終盤になって土地も権利も何も持っていなか
ったら絶対に勝てないぞ﹂
﹁わかりました、買います﹂
ポンポコさんの説明により、サツキは土地を購入した。
﹁手に入れた土地は、自由に他の人に売る事が出来るぞ。他の人の
土地と交換するという手もあるから、覚えておくといい。これらを
交渉と言って、モノポリーでは一番の醍醐味だ﹂
﹁うん、ポンポコ先輩、わかりました﹂
﹁あと、様々な色の土地があるだろ?同じ土地を集めると、家を建
てたり、ホテルを建てる事が出来る。だから、交渉の時も同じ色の
土地を集めるように交渉するのがいいな﹂
ふむふむ、中々参考になるな。しかし⋮⋮
﹁ふっ、ポンポコさんよお、そんなに俺たちにアドバイスしてもい
いのかい?俺のボードゲームの強さを知らないな﹂
﹁ヤスの発言はモノポリーの奥深さを知らない素人のいう戯れ言だ
な。本当の強さは人から聞くのではなく自分でつかんでいかないと
いけないというのに⋮⋮﹂
478
ポンポコさんも中々言う。倒しがいがありそうだ!
ターン1:ケン
﹁俺は、5、だな﹂
﹁これは鉄道だ。一気に次の駅に移動する事が出来る。1周回るご
とに200ドルはいるから、早く回った方が勝負に有利になる。だ
から鉄道を買い占めるというのはこのゲームでは重要な事だぞ﹂
﹁よし!買った!﹂
ターン1:俺
﹁俺は、6、か﹂
﹁そこも土地だな。購入するか?﹂
﹁もちろん﹂
ターン1:ポンポコさん
﹁私は⋮⋮3か﹂
﹁あれ?私の所に止まったね?﹂
﹁うむ、今サツキの所有地に止まってしまったからな。サツキに4
ドル支払わねばならんのだ﹂
479
﹁へぇ、そうなんだ⋮⋮とりあえず、一歩リードだね!﹂
サツキが嬉しそうだ。ククッ、まだまだ序盤というのに、そんな風
では勝ち目はないぞ!
﹁と、このようにぐるぐると順番にさいころを振って、土地を買い
占め、相手を叩き潰すのが目的だ。大体の流れは分かったか?﹂
﹃OK!!﹄
覚えたら、こっちのもんだ!絶対負けん!
480
55話:サツキ誕生日会、バトル開始︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ほんとはブログで書こうと思ってましたが、この舞台は2008年
です。今年ですね。
2008年5月って何があったかなと思いながら書きました。
気になった
韓国のパクリ話は矢場トンの事書こうと思ってたんですが、記事に
なったのが2008年6月26日だったので断念。
ら﹁韓国 矢場トン﹂で検索してみると色々でてきます。
これからもよろしくお願いします。
481
56話:サツキ誕生日会、バトル決着
モノポリーバトルの続きだ!絶対に負けん!
ターン4:サツキ
﹁やった!1周したよ!﹂
﹁ふむ、これで200ドルもらえるわけだ。回るのが速いな﹂
﹁へっへー、ポンポコ先輩にも負けませんからね!﹂
ターン6:俺
﹁なあ、ケン。俺のこの土地と、お前のその鉄道、交換しねえ?﹂
﹁なんでだよ!?その交換条件じゃ俺が不利だろ?﹂
﹁そんな事はない!この土地をお前が手に入れたら、ここの領土は
お前が独占だ!そうすれば、家も建てられるようになるから、今ま
で以上に他のプレイヤーから搾取できるようになる!﹂
﹁ふん、俺の手持ちのお金の少なさを見てそんなことを言うのか?
家を建てるにはお金がかかる!そのお金は誰が出してくれるって言
うんだ?﹂
482
﹁くっ⋮⋮俺が少し出そう⋮⋮70ドルでどうだ?﹂
﹁少ないな⋮⋮せめて200ドルは必要だ﹂
﹁俺の手持ちは200しかないんだ!そんな事をしたら破産だ!﹂
いままで土地を買いまくったツケが回ってきたか?
﹁仕方ないな。150までなら妥協してやる。これ以上はびた一文
負けねえぞ!﹂
﹁しょうがない⋮⋮150出そう。これで交渉成立だな!﹂
﹁ああ、お互い頑張ろう!﹂
俺とケンはお互いにエールを送って、無事交渉を終えた。
﹁ヤス、お前は交渉が下手だな。私ならむしろ相手にお金を出させ
る事が出来たぞ﹂
うそっ!?ポンポコさん、あの状況からケンにお金を出させれるの?
﹁私のこれからを見てるがいい。ヤス﹂
嘘かほんとか確かめてやるからな!
ターン7:ポンポコさん
483
﹁ふむ、ここに止まったらカードを引かないとな。⋮⋮よし、新し
い鉄道をゲットしたぞ﹂
ポンポコさん、途中からいい追い上げを見せているな、侮れない。
﹁ヤス、お前、今私が手に入れた鉄道、欲しくないか?﹂
﹁欲しい!是非くれ!﹂
それを手に入れれば、鉄道制覇だ!
﹁なら、ヤスのその土地とその土地で交換だ。どうだ?﹂
﹁⋮⋮それは、あまりにも俺の条件が悪すぎる。その二つの土地は
高級な土地だ。色が違うとはいえ、あげる事は出来ん﹂
﹁そうか⋮⋮やはりヤスはモノポリーの事をよく知らないらしいな﹂
﹁うんちくを聞いた所で、俺は交換する気はないぞ﹂
﹁鉄道を制覇する物は、モノポリーを制覇するとまで言われてるほ
ど、鉄道の需要は大きいのだぞ。土地は色毎に2つか3つしかマス
がないが、鉄道は4つある。つまり、自然と鉄道に止まる事が多い
という事になるな。とくに独占できる場合は、800ドル出しても
買えと言われているのだぞ?﹂
ほ、ほんとなのか?
﹁まあ、2つも土地を渡したくないという気持ちはよく分かる。だ
から、どうだ?こちらの土地と、400ドルで手を打とうではない
484
か。今、ぎりぎり400ドルくらいあるだろう?﹂
﹁⋮⋮ああ、ギリギリあるな﹂
﹁どうだ?私とそれで交渉しないか?﹂
﹁⋮⋮わかった。それで手を打とう﹂
﹁うむ、さすがはヤスだ。お互いいい買い物をしたな﹂
お互いに堅く握手を交わした。
﹁サツキちゃん、ヤスのヤツしっかりお金を出させられてるね﹂
﹁ケンちゃん、ヤス兄気付いてないんだから、言っちゃ駄目だよ﹂
サツキとケンがこそこそ言っているが、勝つのは俺だ!
お、父さん、母さんが帰ってきた。
もう23時だもんな。そろそろ帰ってくるか。
﹁お帰りー母さん、父さん﹂
こちらに向かって手を振って、サツキに誕生日おめでとうと言って
る。
うん、5月27日までに言えてよかったな。
485
⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
結局、第一戦の結果は1位ポンポコさん、ダントツ1位。強いと豪
語しただけあって、全く歯が立たなかった。
2位、サツキ。終盤ポンポコさんに対してかなり粘ってたが、結局
土地の数が圧倒的に違って、負けてしまった。
3位、ケン。特に可もなく不可もなく。だんだんとポンポコさんに
追いつめられ、消えていった。
4位、俺。鉄道を全部揃えたまではいいんだが、さいころ運に見放
され、誰も鉄道に止まってくれなかった。
⋮⋮負けた。惨敗だ。だが、このゲームは⋮⋮燃える!
﹁もう一回だ!次は負けん!﹂
﹁ふっ、何度でも迎え撃ってやろうではないか!私に勝てると思う
なよ﹂
486
ポンポコさんもすごいやる気だ。
﹁俺もやりたいけど、罰ゲームはどうする?ヤスに決まりでいいか
?﹂
ケン!まだ闘いは終わってない!
﹁ちょっと待て!ここは総合評価で行こう!あと何回かやって、最
下位が一番多かった人がやるってことでどう?﹂
﹁私はいいよ、このままヤス兄が罰ゲームって言うのも面白くない
し。どうせなら完膚なきまでにヤス兄をやっつけちゃおう!﹂
﹁私も構わない﹂
ありがとう、サツキ、ポンポコさん。
﹁あ、お母さんもお父さんもやらない?このゲーム8人まで出来る
んだって﹂
そうサツキが誘ったが、父さんも母さんも明日仕事があるから無理
らしい。
まあ、仕方ないか。
その後も一進一退の闘いが続いた。
朝の6時まで結局やり続けた。
ってか徹夜したんだよな。今日の授業とか絶対寝そうだ。
結局、結果はこのようになった。
487
サツキ :1位1回、2位1回、3位0回、4位2回
ケン :1位0回、2位1回、3位3回、4位0回
俺 :1位1回、2位0回、3位1回、4位2回
ポンポコさん:1位2回、2位2回、3位0回、4位0回
やっぱりポンポコさんは強かった。さいころ運が悪くても、どうに
か立て直して最下位にならないように逃げた。
俺とサツキはお金が足りる限りぎりぎりまで土地を購入してたりし
たので、さいころ運がいい時は優勝できたが、最下位を2回してし
まった。
ケンは、上手に立ち回ってたなあ。
﹁さて、この結果優勝はポンポコさん、最下位はサツキちゃんとヤ
スという事になったわけですが、罰ゲームはどうしようか?﹂
⋮⋮そうだったな、罰ゲームの事なんてすっかり忘れてたよ。
﹁ハッピは1着しかないから、ヤス兄着てってね﹂
﹁まあ、サツキにそんなん着せられないしな。仕方ないからそうす
るよ﹂
﹁では、ポンポコさん!この兄妹の顔に好きなように落書きをして
ください!﹂
ケンめ、自分が罰ゲーム受けなかったからってすっごい楽しそうだ
な。
﹁うむ、わかった﹂
488
きゅっきゅっと俺とサツキの顔に落書きが加わる。
俺は目をつぶっていて見えないから、どうなっているか分からない
な。
﹁よし、こんなものでいいか﹂
どうやら終わったみたいだ。
俺はそうっと目を開ける。
﹁ん?別にサツキの顔に、落書きされてなくないか?﹂
﹁ああ、さすがに女の子にそんな大きな落書きをさせるのは可哀想
だと思ったのでな。ほくろを1つ増やすだけにとどめておいた﹂
ああ、確かに1つほくろが増えてる。でも言われなきゃ気付かない
ぞ。
﹁俺の方はどうなってるんだ?自分じゃ分からないんだが﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹁おい!ポンポコさんは一体何をしたんだ!ほんとに今日学校行っ
ていいんだろうな!?﹂
﹁大丈夫だヤス。お前なら﹃またヤスがなんかやってるよ﹄くらい
にしか思われないって。今日はちゃんと鏡見ないで登校しろよ⋮⋮
ぷっ﹂
﹁うわ!ケンのヤツ、吹き出しやがった。⋮⋮鏡見てくる!﹂
489
俺はとたとたと洗面所まで行く事にした。
﹁ふんぎゃああああ!!なんだこれは!?﹂
両側にヒゲが描かれ、濃いめのアイラインが入り、鼻を黒く塗られ、
鼻の下に点々が⋮⋮。
ええ、猫です。猫がここにいます。
﹁ポンポコさん!なんなのさこれ!?﹂
﹁ああ、確かヤスの二つ名は﹃猫娘﹄だったからな。やはり猫にち
なんだ物がいいかと思ってな﹂
﹁二つ名って懐かしいな!そんなんもう俺は忘れたよ!﹂
うう、この顔で学校に行きたくない⋮⋮。
﹁なあ、これまじで洗っちゃ駄目?﹂
﹃駄目﹄
声を揃えるな!
﹁⋮⋮仕方ない⋮⋮罰ゲームだし、今日はこれで学校行くよ⋮⋮俺
は朝飯作っとくから、みんな順番にシャワー浴びとけよ⋮⋮まじ最
悪だ⋮⋮﹂
﹁ヤス、今日は語尾に﹃にゃあ﹄をつけてしゃべってくんない?﹂
﹁誰がやるか!﹂
490
﹁じゃあさ、このネコミミつけてくんない?いや、絶対似合うから
!﹂
﹁絶対嫌だ!ってか何でケンはそんなんを持ってる!﹂
﹁ヤスいじり必需品﹂
﹁そんなんいらねーよ!﹂
その後、シャワー浴びて全員で朝食食べて、学校へ向かった。
サツキとわかれた時の笑いをこらえた顔が気になるが、もう気にし
ない!
491
57話:サツキ誕生日会、その後、徹夜明けで
ケンとポンポコさんと学校へ向かってるのだが、ハッピを着て顔に
落書きされてる俺は、先ほどから通行人にすごいちらちらと見られ
てる。
中には凝視してくる人もいて、とても居心地が悪い。
ポンポコさんと分かれ、1年3組の教室に入ったら、教室にいた生
徒がみんなしてこっちを見てきた。⋮⋮俺をそんなに見ないでくれ
⋮⋮。
俺は席に着いたら、誰にも顔が見られないように、話しかけられな
いように顔を伏せて寝た。
元々徹夜明けで眠かったし、ゆっくり寝られるだろう。
その後も、授業開始と授業終了の号令の時だけ顔を上げて、全部寝
た。今日は体育が無くてほんとよかったよ。
いやあ、徹夜明けってほんとぐっすりだね。
ってか、先生達もよく何も言わなかったなあ。生徒指導室覚悟して
たのに。
492
そんな風に授業は過ぎていき、放課後、部活だ。
この時ばかりは顔を隠すわけにも行かず、普通に集合した。
陸上部員全員の視線が痛い⋮⋮。
ケンはまだ来てないので、この場で事情を知ってるのはポンポコさ
んただ1人だけだ。
ポンポコさん、何か弁明してやってくれ。
﹁ヤス、その面白い顔どうしたの?新たな趣味に目覚めた?プッ⋮
⋮似合ってるよ!﹂
そんなわけないだろユッチ!笑うな!
﹁これはポンポコさんにやられたんだよ!俺がそんな趣味に走るわ
けないだろ!﹂
﹁へ?ポンポコ?またポンポコとなんかしたの?﹂
きょとんとした顔をユッチがした。ユッチのそんな顔もなかなか面
白いな。
そんな事を考えてたら、ポンポコが答えた。
﹁ああ、私が昨日ヤスの家に泊まったからな﹂
﹁ほんとだよ!ちゃんと事前に言っとけよ!いきなり泊めろ言われ
ても困るぞ!﹂
493
﹁ああ、言ってなかったか?すまない事をした﹂
﹁え?え?ポンポコがヤスの家に泊まった?﹂
何を混乱している?ユッチ。
﹁⋮⋮まあ、いいけどさ⋮⋮。しかし、やっぱり徹夜はつらかった
な。今日は1日中寝てたぞ﹂
﹁ああ、私もだ。昨日の夜はすごかったからな﹂
確かにな、あのゲームはほんとに燃えたからな。
﹁ね、ねえ。ヤスとポンポコは昨日の夜何してたの?﹂
ユッチが聞いてくるが、俺とポンポコは顔を見合わせてうなりなが
ら答えた。
﹁あれは一言では語り尽くせないよな⋮⋮﹂
﹁ああ、私も今までに何回もした事があるが⋮⋮とても燃える物だ
という事だけ言っておこうか、1回やったら病み付きになるな﹂
﹁も、燃える物⋮⋮?﹂
ユッチがどもってる。
﹁やっぱり夜明けまでプレイし続けるというのはきつい物があった
な⋮⋮﹂
494
﹁ヤスがずっとやりたがったんじゃないか。私は最後は眠いからや
めようと言ったのに、あと1回、あと1回って何度も言いおって﹂
﹁そ、そんなに何回もしたの?﹂
﹁え?えーっと、全部で4回したかな、ポンポコさんもすっごい乗
り気で、どんどん攻めてきてさ。2回目なんか俺、すぐに吹っ飛び
そうになったじゃん﹂
危うく開始10分で破産になる所だった。ポンポコさんはモノポリ
ーがほんと強い。
﹁だが、ちゃんと耐えたじゃないか﹂
﹁あんな簡単に負けるわけにはいかないからね。ポンポコさんもそ
れじゃつまらんでしょ﹂
﹁確かにな⋮⋮それにしても、ヤスは口が下手だったな。もう少し
上手じゃないと駄目だぞ﹂
﹁いや、俺が下手なんじゃなくて、ポンポコさんがうますぎなんだ
よ!俺あれで何度やられそうになった事か⋮⋮﹂
最初のゲームでは、気付いたら2倍の価値がある土地を普通にポン
ポコさんと交換させられたりしたしなあ。
あの弁論の上手さはどうやって身につけたんだろ?
﹁ぽ、ポンポコって口が上手いんだ⋮⋮﹂
495
﹁うむ、経験者は違う物だ。初めてのヤスでは仕方ないぞ﹂
﹁え、えと、ヤスは昨日が初めてだったんだ⋮⋮﹂
﹁ああ、そだな。やっぱりめっちゃ下手くそでさ。基本的にはポン
ポコさんが攻めてばっかだったな﹂
﹁いやいや、だんだんとヤスも上手になっていっていたではないか、
私もやり返すのが楽しかったぞ﹂
﹁そうか?そういわれると嬉しいけど⋮⋮そんな事言って最後まで
ほとんど主導権握らせてくれなかったくせに﹂
﹁ふむ、そうだったか?気付かなかったな⋮⋮﹂
気付けよ!ずっと1位か2位を独占してたじゃん!
ほんとポンポコさんの交渉術は見事だった。誰もあれには太刀打ち
できん。外交官とか意外とやっていけるんじゃないか?
﹁くくっ⋮⋮駄目だ。その顔を見ていると笑いが止まらん﹂
﹁ポンポコさんが描いたんじゃんか。その上語尾に﹃にゃあ﹄をつ
けろとかネコミミつけろとか、何考えてんだかなあ﹂
﹁ふむ、それはそれで見てみたかったのだがな。仕方が無い、次回
する時に期待しようか﹂
﹁この顔の落書きはもう絶対やらないから!と言うかそういうのは
するのはやめて!﹂
496
﹁そ、そんな変なプレイをしたの?﹂
﹁いや、変なプレイっていうか⋮⋮やられたら顔に落書きするって
話で、それで猫顔にされただけだ。ポンポコさんはもっと色々した
かったみたいだけど﹂
﹁当然だ。落書きだけでは物足りないぞ、もっと色々してみたくな
る﹂
﹁ごめん、次回は勘弁して⋮⋮﹂
﹁残念だが⋮⋮了解した。次回は普通にしようか﹂
﹁その方がいいって!そういうのがあると、そっちに意識がいって、
プレイに集中できなくなるかもしれんじゃん﹂
﹁うむ、それは一理あるな﹂
﹁今後はそういう事は無しですること﹂
罰ゲームなんてもうこりごりだからな。
それをゲームに組み込むと、何故か俺、異様に弱くなるし。
﹁⋮⋮うーん⋮⋮それにしてもホテルは難しいな﹂
﹁ヤスが先を見据えてないからだ。もっとお金を貯める事も考えな
いと、やっていけないぞ﹂
﹁ポンポコさん、まさにその通りです﹂
497
﹁そんな事言っていては、お金が足りなくてホテルなんぞまだまだ
先だな﹂
﹁確かに⋮⋮結局昨日はお金が足りなくてホテルは無理だったもん
な⋮⋮ああ、ホテル⋮⋮まあ、まずは家だよな!﹂
ホテル建てるより、家建てるのが先だからな。昨日は家すらあんま
り建てらんなかった。
﹁うむ、頑張るがいい。またやりたいな⋮⋮そうだ、毎回毎回ヤス
の家でやるというのは悪いし、今度、私の誕生日の時に家に来ない
か?﹂
﹁えと、6月21日だったよね?﹂
﹁うむ、確か土曜日だったはずだ。そして6月22日はヤスの誕生
日だったな。土日だし、2日連続で思う存分色々出来るぞ﹂
﹁おお、その案いいな!絶対しよう!うわ、今から楽しみだ﹂
﹁うむ、私も楽しみにしているぞ⋮⋮また私のテクニックを見せて
やるからな﹂
﹁ふっ、俺もそれまでに鍛えておくさ⋮⋮﹂
うむ、楽しみだ。
ついでに色々連絡する為に携帯のアドレスを交換する約束しておい
て、練習に向かった。
498
なんか、今日の部活の雰囲気は微妙だったな。
みんな俺から離れてたし⋮⋮、やっぱりこの顔が微妙なんだろうな
⋮⋮。
まあ、1人で走れるんだからいいけどね!
今日は自分のペースで8周、8キロメートルを走った。
前回、途中でばててしまったから、今日はそれより遅めに走ったが、
遅くしすぎたみたいで練習後かなり息が切れたけど、まだ余力があ
りそうだった。徹夜明けだったのは多少響いたな。スポーツする上
で、やっぱ徹夜はよくないね。
499
練習後、ユッチがおずおずとやってきた。なんかこう言うおどおど
してるのは似合わないな。
﹁どした、ユッチ?﹂
﹁あ、あのさ⋮⋮昨日、ポンポコと⋮⋮したの?﹂
﹁ん?気になるの?﹂
﹁いや⋮⋮えっとね⋮⋮あんな大声でしゃべるのは⋮⋮やめて欲し
いっていうか⋮⋮﹂
﹁何言ってるかよく分からんが、ユッチもやりたくなった?今度ユ
ッチも家来てやる?﹂
﹁は!?ボクと!?ヤスは馬鹿なの?絶対嫌だから!!﹂
﹁む、大勢でプレイした方が楽しいのに⋮⋮残念だな﹂
﹁お、大勢でプレイって⋮⋮昨日はポンポコとヤスの2人だったん
じゃないの?﹂
﹁いや、後ケンと妹のサツキと4人でプレイだったぞ﹂
﹁よ、4人プレイ?妹?ケンも?﹂
﹁ああ、最低2人から出来るけど、やっぱり4人は欲しいよな?7
500
∼8人でやるのが一番燃えそうだよな!﹂
﹁は、8人?﹂
﹁本当は父さんと母さんにも混じってもらおうと思ったんだけど、
ちょっと駄目だったんだよね﹂
﹁母、父!?﹂
﹁あれはまじはまるけど、毎日やってたら身が持たないし⋮⋮悩み
どころだねえ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん?どしたのユッチ?﹂
﹁このド変態!!!妹にまで手を出すなあ!!むしろ複数プレイっ
てなんだあ!﹂
﹁な、何の事だよ?お前またお得意の勘違いをしてないか!?﹂
﹁しかも両親まで誘うって何考えてるんだあ!?この節操なし!﹂
﹁訳分からん!話を聞け!﹂
﹁うるさいうるさい!どっか行っちまえーー!!!﹂
あ、また走って逃げてった。
⋮⋮⋮⋮結局なんだったんだろ?
501
その後、ケンとポンポコさんが色々言ってくれたみたいで、何とか
誤解は解けたみたい。
んー、あの会話って聞いてるとそんな風に脳内変換されるんだ。
めちゃめちゃ恥ずかしいではないですか!
これから、ちゃんとモノポリーって最初に言っとこ。
502
58話:インターハイ県大会、厚き壁
あれから完全にユッチから避けられるようになってしまった。
アオちゃんから聞いたのだが、あの勘違いがあまりにも恥ずかしす
ぎて、顔を合わせるのが嫌らしい。
うん、確かにこの前の勘違いは俺がやっても絶対めちゃくちゃ恥ず
かしい気がするな。
まあ、ほっとけばそのうちまた普通に戻るだろう。
ケンからのメールは最近さらに増えてきた。
もう数えるのも止めたのだが、一気に500件送ってきて、
﹁この写メールを組み合わせるとどうなるでしょう?﹂とか来た時
があり、その時はまじで切れそうになってしまった。
ケンの兄貴のホームランを打った瞬間をとらえた写真を分割したも
のだったらしい。
そんな手間かけてんなよ⋮⋮。
今日は5月31日土曜日、小笠山総合運動公園静岡スタジアムにて
インターハイ県大会がある。
前日にも県大会があったのだが、金曜日で普通に学校があったため、
応援に行く事は出来なかった。
昨日出場した110mハードルの先輩と100mハードルの先輩は
どちらも予選落ちしてしまったみたいだ⋮⋮。
503
今日は、男子女子400mハードルで大山高校の先輩が出場する。
ポンポコさんによると、県大会から東海大会に出場する為には、6
位入賞を果たさなければならないらしい。
地区大会は12位まで上の大会に出場できたのに比べ、随分狭き門
になったもんだ。
男子400mハードル予選は6組2着+4で10時50分から、女
子400mハードル予選はそのすぐあとに行われる。
2着以内に入れば確実に準決勝進出、そうでない場合は3位以下の
中で4番目以内のタイムに入れば準決勝に進出できる。
地区予選の時は予選、決勝の2回だけだったが、県大会は予選、準
決勝、決勝の計3回行われる。
今から男子400mハードルの予選が開始される。
先輩は2組、6レーンだ。
1組目が走る。
⋮⋮先輩のベストタイムより遅いタイムで1着の人がゴールしたし、
これなら準決勝は余裕だな。
2組目。先輩の番だ。
504
スタートした。いい感じにスタートしているように見える。
このまま行けばトップでゴールする事も出来そうだ。
ゴール。タイムは57秒88。ベストではないけど、着順は2位、
全体でもタイムでは6位で準決勝に進出できた。
うん、先輩なら県大会でも意外と行けるんじゃないか?
俺はそう思った。
次は、女子400mハードルの予選だ。
女子400mハードルは、県大会からはいきなり厳しくなるのか、
地区予選では何とか戦えてた先輩だったけど、どんどん引き離され
ていった。
結果は70秒33で4位。準決勝進出は出来なかった。
やはり、地区予選と県大会は実力が違うようだ。
せめて地区大会で入賞できるレベルに無いと、県大会では準決勝に
も残れなさそうだ。
400mハードルの他、800mや100m等も見ていたが、地区
大会でぎりぎりで県大会に通った人たちはやはり準決勝に残れない
まま姿を消していっている。
﹁ケン、やっぱり県大会になると、レベルが上がるね﹂
505
﹁そうだなー、地区予選でほとんどの人数が敗退する大山高校じゃ、
相手にもならんな﹂
﹁大山高校って人材不足なんかな?﹂
﹁どうなんだろうな?⋮⋮確かに1年では中学から陸上やってたの
ってユッチだけだもんな。でも、高校からでも十分通用するもんじ
ゃん?それは俺が証明してみせる!﹂
﹁へいへい、頑張ってな﹂
﹁何を言う。ヤスも証明するんだよ!全国大会出場を目指そうって
誓い合ったじゃないか!﹂
﹁誓ってねえよ!勝手に過去をねつ造すんな!﹂
﹁お前はあの誓いを忘れてしまったのか⋮⋮ああ、ヤスはあの夕日
に向かって叫んだ思い出を忘れてしまったのだろうか⋮⋮﹃俺は全
国大会に出場する!!サツキー!!見ていてくれー!!﹄って﹂
それ中学時代!もう妹ネタ暴露するのは止めて!
この後、400mハードルの準決勝だ。準決勝は2組3着+2で行
506
われる。
先輩は1組目、先ほどのタイムを見れば、3着以内に入れるはずだ。
6レーンでのスタートだ。
パン!!
スタートした。いい感じで跳んでいっている。
100mまでは誰にも離されていない。
200mを過ぎた。ここまでは横1線だ。
あれ?他の人たちのペースがあがった⋮⋮今まで温存してたのか?
やばい、300mを過ぎた時点で5位まで落ちてる!6位の人にも
抜かれそうだ。
6位になってしまったら、次の組の結果を待たずして、準決勝敗退
が決まってしまう。
最後のハードルを跳び越え、後はもう走るだけだ。
6位だった人とはもうほぼ横並びになっていて、どっちが前にいる
か分からない。
ゴール。2人が走り抜けた。最後の最後でまくられてしまったよう
に見えた⋮⋮。
結果は⋮⋮出た!やっぱり最後に抜かれてしまっていたようだ。
タイムは56秒78で自己ベストをマークしていた。
自己ベストをマークしたのに決勝にも残れないなんて⋮⋮。という
か予選では他の選手はすごく力を温存して走ってるんだな。やっぱ
り1日に3本も走るから、決勝でばてないようにという考えからな
んだろう。
507
結局、県大会は誰も入賞どころか、決勝に残る事さえ出来ずに、大
山高校の県大会は終わった。
うん、レベル低いな俺の高校。
というか、東海大会に出場するのってめちゃくちゃ壁が厚いんだな。
400mハードルだけでなく他の競技でも、強豪高校が上位を占め
ていて、大山高校のような弱小高校は全然勝てない。
⋮⋮そういや、ユッチが東海大会出場するって歓迎会の時に宣言し
てたけど、東海大会出場を目指すってだけなら、もっと陸上部が強
い所に行けばよかったのに、なんでこの高校を選んだんだろうな?
ウララ先生の挨拶を聞いて、その日は解散となった。
そう言えば、明日も大会あるんだよな。
508
59話:インターハイ県大会、3日目
6月1日日曜日、今日は家族みんなで小笠山総合運動公園に来てい
る。
今日は県大会3日目だ。200m、4×400mリレー、競歩、5
000m等がある。
大山高校は今日は誰も出場しないので、今日は別に大会には来なく
てもいいとウララ先生が言ってた。
けど俺は、せっかくなので、他の競技も見てみたかったのだ。
日曜日で休みたいだろうに父さん母さんに、無理言ってついてきて
もらった。
ケンも来るかと思ったけど、今日は兄貴のアパートに遊びにいくと
言ってた。
競技場には、ユッチとポンポコさんもいた。離れてるけど、女子の
先輩、ゴーヤ先輩と誰だったかな?、も2人とも来てるみたい。女
子で来てないのはアオちゃんだけみたいだ。
男子はと⋮⋮誰も来てないな。
この差はなんだろう?
ユッチとポンポコさんの座ってる所に近づいてった。
ユッチは俺を見ると逃げていきそうな気もするけど⋮⋮。
﹁あ!ユッチ先輩にポンポコ先輩!おはようございます!﹂
﹁え?あれ?何でサツキちゃんがここに?ってサツキちゃんがいる
って事はあの馬鹿も?﹂
﹁ユッチおはよう、馬鹿と言われたヤスです﹂
509
﹁な、な、な、何でお前がここにいるんだよう!?今日は会わない
ですむと思ってたのに﹂
﹁ヤス兄、ユッチ先輩になんかしたの?﹂
﹁いや?俺は何も?したと言うなら、サツキとポンポコさんとケン
としたって言えばいいのか?﹂
﹁もうその話は忘れろお!!話題に出すなあ!ヤス、いい!?そう
しないとこれからも逃げるからね!﹂
﹁それはそれで面白いし、もう少しからかいたかったんだけど⋮⋮
了解﹂
﹁からかおうとするなあ!ほんとにわかってるの?ヤスは﹂
﹁おはよう、ポンポコさん﹂
﹁ああ、ヤスおはよう﹂
﹁ボクを無視するなあ!﹂
叫んでいるちびっ子ユッチはほっといて、ポンポコさんに話しかけ
る。
サツキが慰めてるな。どっちが年上か分からん。
﹁ユッチはいるかもとか思ってたけど、ポンポコさんも来てるとは
思わなかったな﹂
510
﹁ふむ、マネージャーとして他の高校のレベルを知っておくという
のは大事かと思ってな。一応見ておこうと思ったのだ﹂
﹁おー、偉い。それにしても、女子の出席率は高いねえ。来てない
のはアオちゃんだけか?﹂
﹁はい、私ですか?呼びました?﹂
﹁うわ!?アオちゃんも来てたんか?今まで気付かなかった﹂
﹁今、ちょうどジュースを買いにいってましたから。おはようござ
います、ヤス君﹂
﹁おはよう⋮⋮ってかこれで女子は出席率100パーセントか。熱
心だな﹂
﹁ユッチがリレーで東海大会出場を目指してますからね。今、女子
の選手は4人しかいませんから。ユッチが練習でもすごい鼓舞して
るんですよ﹂
﹁へえ、やる気だな。ユッチが出たいのって4×100メートルリ
レーの方?それとも4×400メートルリレー?﹂
よんけい
﹁4継でほんとは出たいみたいなんですが、マイルのが可能性が高
いって言ってましたね﹂
﹁えと、4継とかマイルって?﹂
﹁4×100メートルリレーの事は4継って言います、そして4×
400メートルリレーの事をマイルって言うんですよ?地区大会の
511
時から言ってましたが、聞いてませんでしたか?﹂
﹁⋮⋮ええと﹂
﹁4×100メートルリレーは4人で400メートルをつなぐこと
から4継と呼ばれます。4×400メートルリレーは全部で160
0メートル走る事からマイルって呼ばれます。1マイルは約160
0メートルの事ですからね﹂
﹁知りませんでした⋮⋮﹂
﹁陸上部内では、何とかメートルリレーと言わず、4継とか、マイ
ルと言うので、覚えておいてくださいね﹂
﹁⋮⋮はい﹂
俺の勉強不足、コミュニケーション不足がこんな所で明かされてし
まいました。
﹁で、なんでマイルのが可能性が高いの?﹂
﹁ゴーヤ先輩がいるからだそうですね。今はまだ県大会ぎりぎり出
場レベルですけど、来年にはもっと記録伸ばせるってウララ先生が
言ってました。それに、私も100mより400mの方が向いてる
らしくて﹂
﹁へえ?ウララ先生が言ったの?﹂
﹁ええ、私、加速するのが遅いみたいで、100mだと短すぎるみ
たいなんです。練習すれば100mでもそこそこ走れるかもしれな
512
いけど、400mの方が上の大会を目指せるんじゃないって言われ
ました﹂
﹁ああ、400mに向いてる選手が2人いるから、マイルの方が可
能性が高いってわけか﹂
﹁3人ですね。100mハードルで県大会に出場した先輩、覚えて
ますか?今日も来てますが﹂
﹁ああ、あだ名は覚えてないけど﹂
﹁キビ先輩です。ヤス君はそんなに接点ありませんから、また忘れ
るかもしれませんが⋮⋮一応何となく覚えていてください。キビ先
輩は本当は400mハードルの方が主だったんですけど、400m
ハードルは地区予選で隣のレーンに入って失格になっちゃいました
からね。ハードルがない場合でも400mの方が得意ですよ﹂
﹁そっか、じゃあマイルのが東海行ける確率高そうだね﹂
﹁ええ、そんな感じらしいです。選手は4人だけなので同じメンバ
ーでマイルも4継も走りますけど﹂
うわ、大変だ。
予選決勝とか会わせたら、一体何本走る事になるんだろ?
﹁じゃあ、1回の大会に個人種目とリレー種目とあるから、3、4
種目出場するんだ﹂
﹁そうなりますね、200mと400m、それにリレー種目、全て
が決勝に残ったら⋮⋮11本走る事になりますね﹂
513
無理!俺にはそんなに無理!
﹁話してばっかいないで、ちゃんと大会見ようよ、もう競技やって
るんだよ﹂
サツキが俺に言ってくるんだが⋮⋮
﹁この競技ってやってる人見るときつそうなんだけど、ずっと見て
るのはあんま面白くないから仕方ない﹂
﹁まあ、それは分かるけど、選手だって頑張ってるんだからちゃん
と見てあげようよ﹂
﹁そうだな⋮⋮そうするか﹂
俺は改めて競技をしっかり見始めた。しかし⋮⋮やっぱりあまり面
白くない。
力の差ははっきりしていて、競技者の距離は開いてるし、最初真剣
に見ていなかったから、どこが先頭かも分からん。
⋮⋮今やっているのは女子3000mウォーク決勝。速い人は15
分切るくらいで歩くけど、遅い人は20分かかると言う競技だ。
さっきからずっと歩き続けて、今先頭の人がゴールした。
⋮⋮何とも盛り上がりに欠ける競技だったな。
もっと上の大会に行くと競歩も面白いらしいのだが。
その後、200m決勝、5000m決勝、マイル︵4×400メー
トルリレー︶などを見た。
514
5000mは浜松体育高校という所が14分57秒77という記録
で優勝していた。
その他、藤枝明星高校が4位と5位で入賞と、今年は自分たちの地
区ではない所の方が強いのだと言う事が分かった。
自分たちのいる東部地区からは勝島学園の選手が6位入賞を果たし、
なんとか1人出場したのみで終わった。
しかも、1位から6位のうち、5人が2年生。来年もいるって事だ。
⋮⋮まあ、出場すらしていなくて実力差が歴然としてる俺やうちの
高校には全く関係ない話だな。
ユッチとアオちゃんは女子のマイル決勝を真剣に見てた。
優勝したチームは3分53秒41というタイム。
他のチームとは4秒以上も離しての大差の勝利だった。
東海、インターハイとまだ期間があるから、さらにタイムを伸ばし
てきそうだ。
6位のチームは4分02秒33。東海大会出場の為にはこれを上回
らないとならない。
今年の東部地区大会では、大山高校は4分25秒55だった。
ゴーヤ先輩が出てなかったと言っても、とても勝負にならない。
これからほんとに頑張らないと東海は厳しいぞ、ユッチ。
見終わった後、ユッチ、ポンポコさん、アオちゃんとうちの家族で、
フリスビーを持ってきてたので、遊んで帰った。
いや、フリスビーって意外と楽しいな。
515
60話:日が暮れて、サツキと
さて、インターハイ県大会も終わり、完全に1、2年生のみとなっ
た陸上部。
これからは秋の新人戦まで大きな大会は無いので、それに照準を絞
って練習していく事になるそうだ。
と言っても、長距離は相変わらずだ。
集団となって走る以外の練習をあまりしない。
1年生では、マルちゃんはすぐに止めちゃうし、ノンキも適当に走
ってるだけだ。2人とも先輩と仲が良いから、特に何も言われてな
い。
ちょっと変わったのは、ヤマピョンが集団を無視して、思いっきり
走り始めた事。
後で、規律を守れって先輩に言われてるけど、なにを言われても次
の日には忘れたみたいに自分のペースでタッタカと走ってる。
うん、気持ち良さそうだ。
俺もあんな感じで集団無視して走ろうかなあ。
変わったと言えば、女子陸上部のやる気がすごい。
この前の県大会を見て、明確な目標が見えたからかもしれない。
今までは土日は練習していなかったのだが、土曜日も学校に来て練
習をする事を決めたそうだ。
ウララ先生も、本人達のやる気に触発されたのか、前よりも指導に
516
力が入ってる。
⋮⋮男子と女子の温度差が激しい⋮⋮。
あの県大会を見た俺としては、もう少し男子もやる気になって欲し
いのだが⋮⋮ま、そんなのは無理か。
今日は6月6日金曜日、今は学校も終わって、サツキと夕飯も食べ
おわり、オセロをしつつマッタリと過ごしてる。ほんとはケンから
もらったモノポリーをしたいんだが、あのゲームは2人でやっても、
盛り上がらなそうだからな。
﹁あ!ヤス兄、そろそろいいかな?﹂
﹁ん?もうそんな時間か?んじゃぼちぼち行きますか﹂
そう言って、俺とサツキは適当なTシャツとハーフパンツに着替え
て、出かける準備をした。
向かう先は近くの公園。サツキを自転車の後ろに乗せて、キコキコ
と出発。
517
﹁やっぱり一家に一台はヤス兄がいると便利だよね∼﹂
﹁一家に一台って、俺はロボットか!﹂
﹁送り迎えは絶対してくれるし﹂
﹁運転手か!﹂
﹁料理はできるし﹂
﹁家政婦か!﹂
﹁朝は必ず起きれるし﹂
﹁目覚まし時計か!﹂
受け答えがどっかのお笑い芸人のネタっぽくなってるが気にしない。
﹁頼みは断れないし、断れない男だっけ?﹂
﹁その不名誉な称号はやめろって、ケンが言ってるだけだし﹂
不名誉な称号は﹃猫娘﹄だけで十分だ。
﹁そして何より一緒にいれば笑いに困らないのが最高だよね。いつ
ネタを考えてるの?﹂
﹁考えてないから!全部ただの失敗談だから!⋮⋮たまには俺の成
功談もご近所さんに言ってくれない?﹂
518
﹁え?ヤス兄に成功談なんてあった?﹂
あったよ!⋮⋮ほんとにちょっとだけどな。
話しているうちに公園に到着。もう19時半であたりはかなり暗い
けど、ここだけ電灯がついてて他よりあかるい。
﹁じゃあ、始めるけど、ヤス兄は?﹂
﹁いつも通り隣で筋トレでもしてる﹂
﹁オッケ﹂
サツキが今からするのは壁打ち。中学の部活でソフトテニス部に入
ってて、小学6年生の時からこのくらいの時間になるとやってる。
俺とケンがケンの兄貴に野球でノックを受けてたりして練習してる
間、退屈そうに見えたからと言う理由でケンの兄貴からラケットと
ボールをもらって始めたのがきっかけだ。
最初は全然上手く出来てなかったのに、いつの間にかずっと続くよ
うになってた。
俺やケンが相手できたらよかったんだが、空振りばっかしてたら、
519
サツキに
﹁壁の方がいい﹂
と言われてしまった。
中学生になってからもソフトテニス部に入り、練習してる。
1人でやってたもんだから変なクセが出来てたみたいで、直すのに
めちゃくちゃ苦労したとか⋮⋮。
この練習は雨の日とか、特別な日を除いて欠かした事がないからな。
おかげで中学2年生の時からレギュラーになれてたし。練習量って
大事だな。俺やケンも練習量は他の奴等より多かったからレギュラ
ーになれたんだろうし。
まあでも、中学3年生の夏に初めてレギュラー入りできた俺とはえ
らい違いだよな∼。いや、さすがサツキ、俺の自慢の妹だ!最高の
妹だよな!
ぼけ∼っと腹筋をしつつそんな事を考えてたら、顔面にボールが飛
んできた。
ビシッと鼻の頭にくらった。
﹁イテッ!﹂
ソフトテニスのボールなんて柔らかいんだから痛いわけないんだけ
ど、反射的に言ってしまう。
﹁ごめん、わざと﹂
520
﹁わざとかよ!謝ってるけどその気持ちゼロじゃん!﹂
﹁ヤス兄がニヤニヤしてるもんだから、つい腹が立って手が滑った﹂
﹁そんな事で腹立てるなよ!大体ニヤニヤって失礼だな!サツキの
事を考えてただけだ!﹂
﹁うわ、今の言葉はキモいよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮キモいって言うなよ、これでも傷つくんだぞ﹂
﹁大丈夫、ヤス兄は私がどんなにイジッテもへこたれないって信じ
てるから﹂
﹁なんだよ、それは⋮⋮﹂
まあ事実だけどな。
痛くはないけど、もうボールを当てられるのは勘弁なので、いろい
ろ考えるのは止めて、腹筋に専念する事にし、サツキも壁打ちを再
開した。
そんなに連続して腹筋ばっか出来ないから、背筋に変えたり、腕立
て伏せに変えたり、腕降りに変えたりしながら過ごす。
21時ちょっと前になったら終了。大体毎日1時間ちょっとやって
るんかな?
﹁サツキ、そろそろ帰るべ﹂
521
﹁あ、了解。帰りはのぼりだけど、頑張ってね﹂
﹁毎日やってるからわかってるよ⋮⋮﹂
ラスト100mが全部のぼりなんだよな∼。サツキも降りてくれれ
ばいいのに絶対降りないし。
さて、今週末は何して過ごそうかな。
522
60話:日が暮れて、サツキと︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
数話前に中国韓国批判っぽいこと書きましたが、中国人韓国人は別
に嫌いじゃないです。
中国人の友達も何人もいますし。
詳しくはブログに後々書こうと思います。
NTTに文句を言ったら10月4日に工事してくれるようになりま
したので、4日か5日にもブログを書けると思います。
今後ともよろしくお願いします。
523
61話:授業参観、サツキ 前編
土日はケンが家に遊びにきて、サツキとケンとで1日中モノポリー
をやりまくった。
3人だと、他の人に土地を独占されてしまうような事はなく、運よ
り実力で勝負が決まる感じだ。
日曜日は両親も交えてやった。
2人とも初めてのクセに、やけに強かった。
特に母さんが強かった。母さんの無言の圧力の前には誰もかなわな
い。何故か交渉の時、ついつい土地を安く売ってしまう。
と、モノポリーに始まりモノポリーに終わる週末だったな。
ポンポコさんとの再戦が楽しみだ!
今日は6月9日月曜日、サツキの学校の授業参観の日だ。
中学校の5時間目が授業参観の時間である。今、大山高校の4時間
目が終わった。
﹁ケン!今、俺は猛烈に腹が痛くなったから早退する!部活頃には
また腹が治ってるだろうからよろしく頼む!﹂
﹁任されろ!ちゃんと説明しといてやる!﹂
524
﹁さすがケンだ!ありがと!﹂
そう言い残して俺は鞄を持って学校を出てった。さて、電車に乗っ
て中学校へレッツゴーだ。
今から俺はサツキの授業参観に行くのだ。俺の両親は今日もどうし
ても仕事が外せなかったので、代わりに俺がいく事にした。
サツキはその事を知らないけど、まあ大丈夫だろう。
⋮⋮あ、そういえば野球部の監督とかまだ中学校にいるんだったな
⋮⋮あんまり会いたくないなあ⋮⋮。
中学校に到着した。サツキのクラスは3年4組だったな。
あの監督に見つからないようにこっそりとはいる。他の先生達にも
あんまり会いたくないんだよなあ。
サツキのクラス以外の人には会わないように気をつけよ。
さとし
﹁さて、この時の智の心情というのは⋮⋮﹂
お、このクラスだな、やってる教科は国語か。よかった、俺の見た
事ない先生だ。中学校の知ってる先生には会いたくなかったから、
525
よかった。
裏のドアから侵入する。中学校だけど、結構親の人が来てるな。1
5∼16人くらいか。
題材はと⋮⋮
﹁卒業ホームラン 重松清作﹂。
ああ、俺も去年やったな。
掲示板に保護者達にも今日来て内容がすぐ分かるようにあらすじが
書かれてる。
⋮⋮小学校6年生の智の父は、智の所属する野球チームの監督で、
智は上手ではないことから、今まで一度も試合に出たことがない。
智は6年間練習して努力してきたが、彼には才能がなかった。フラ
イも捕れないし、素振りしても妙にアッパースイングになる。
今までは補欠でベンチに座っていた智だが、試合に出たことはない。
父は、最後の試合、補欠として我が子を登録するかどうか迷ったが、
相手チームは強く、連勝もかかっていて、智より上手い下級生がい
るので、6年生の部員の中でただ一人外した。
試合は完全な負け試合。最後の試合だったので、補欠の選手も出し
てやることにした中、智はメンバー登録されてなかったので最後ま
で出場は叶わなかった。
試合が終わって、
﹁中学校に入ったら、部活はどうするんだ?﹂と聞く父に、﹁野球
部、入るよ。﹂と答える智。﹁三年生になっても球拾いかもしれな
いぞ。そんなのでいいのか?﹂と確認する父に、智は﹁いいよ。だ
って、僕、野球好きだもん。﹂ときっぱり答える。
そんな智を見て、﹁頑張れば報われる﹂とはいえないけど、今なら
何事にもやる気のない長女の典子に、何か言ってあげたいと思う父
親。
その他、やる気の無く、
526
﹁がんばったってしょうがないじゃん﹂と言う中2の典子や、最後
の試合なんだから智を試合に出させてあげて、なんで自分の息子な
のに出させてあげないのと言う母親など、家族を中心に物語は進ん
でいく。
掲示板に載ってるのはこんな感じの話だ。
実際は他の子供の親が
﹁私の子供を試合に出せ!﹂
という口出しとかもあったけど、そっちは話題にしないんだな。
﹁じゃあ、この物語の人物の中の智について、グループに分かれて
議論してください。保護者の方は色々移動してみてくださって結構
ですよ、授業の最後にグループごとに出た内容について発表するの
で、グループ内でまとめておいてください﹂
わお、ありがたい!俺はサツキの席の近くに移動する。
俺には気付かないみたいだけど、こっそりと話を聞いてみる。サツ
キの班は6人か。
男子生徒A
﹁やっぱり、このひたむきさに惚れるよなあ、がんばっても報われ
ないけど、それでも好きだからがんばる。かっこいい!﹂
ふーん⋮⋮。そう言う考えもあるんだね。
女子生徒B
﹁自分は出れなかったけど、試合に出れる人を精一杯応援するその
527
気持ちがいいよね。﹂
気持ちは分からなくもないが⋮⋮。
男子生徒E
﹁アッパースイングって言うのはこんな風になってるんだ。中々修
正って難しいんだよね、中学入っても頑張って欲しいなあ﹂
野球部の後輩だ⋮⋮。会いたくなかったんだけどな。ってか全く違
う話をしてる。ただの感想になってるよ。
女子生徒D
﹁うん、うん、うん、うん﹂
うんだけ?あなた、何か言いましょう!
男子生徒C
﹁球拾いでもいいから好きだから野球したいって言うその気持ちが
大事だよね﹂
球拾いでも好きだからしたいだなんて、なんてけなげな子なんだろ
うね。理解できません。
サツキ
﹁ん?なんかこの智君ってすごいの?全然分からなかった﹂
おい、妹よ、空気読め!
528
61話:授業参観、サツキ 前編︵後書き︶
今回の題材の﹁卒業ホームラン﹂は実際に中学3年生の教科書で使
用されております。︵東京書籍だったかな?︶
また、﹁日曜日の夕刊﹂と言う重松清作短編集の1つです。
﹁日曜日の夕刊﹂で図書館などで調べてみれば読む事が出来ます。
また後々ブログに書こうと思います。今後ともよろしくお願いしま
す。
529
62話:授業参観、サツキ、後編
さて、妹のサツキの空気を読まない発言が出たわけだが、どんな風
に議論していくのやら。
﹁えー、自分の好きなことに対して、希望をもってやり抜こうとす
る気持ちがあっていいじゃない!そしてこれからも頑張ろうとして
る所もさ!﹂
﹁んー、まず、笑えないから大減点だよね﹂
サツキ、教科書に笑いを求めてどうする。
﹁感動しないの!?﹂
﹁えっ?どこかに笑えるポイントあった?大負けしてて、他の選手
はみんな出られる状況なのに、6年生で1人だけ試合に出られず試
合を見てる智を笑うの?みんなそれは性格悪いよ﹂
智が俺だったら、サツキならもしかして笑うか?
多分わざと笑って、俺を怒鳴らせて、落ち込ませないようにするん
だろうなあ。サツキ優しいから。
﹁いや、そんな所を笑う人はいないって﹂
﹁じゃあどこで笑うの!?﹂
笑いからいい加減思考を外せよ、サツキ。
530
﹁全然成果が出なくても、頑張る姿に感動するでしょ?﹂
﹁そっかなあ、私はむしろ鼻で笑ったけどね、ハッて﹂
﹁何で!?﹂
﹁だってさ、試合に出れないんだよ、1回も試合に出れなかったん
だよ。それで、選手の人たちをにこやかに応援し続けるんだよ?こ
んな聖人君子なんている訳ないじゃん!こういう人読むと、何か鳥
肌たってくるんだよねえ﹂
俺もそう思うけど、そう言う事ははっきり言わない方がいいと思い
ます、サツキさん。
﹁そんな事ないって!こう言う事考える人だっているよ!こういう
人目指したくなるじゃん!﹂
野球部の彼が言い返した。お前がそれを言うか。
﹁ふーん⋮⋮じゃあ、今度の中総体、レギュラー落ちして、ベンチ
にも入れなくても、ちゃんとそう言う事言ってよねー。恨んだりせ
ず、頑張れって言い続けてよねー﹂
﹁え、いや、それは⋮⋮﹂
うん、お前ボーダーギリギリだったもんな。今でもそうなんだな。
﹁ほら、言えないじゃん。でも、それが普通じゃない?頑張ったら、
何か成果は欲しくなるもんでしょ?テニス部でも、私が中2のとき
531
似たような事あったしねー﹂
ああ、あったなー。
﹁どんなことあったの?﹂
﹁ん?私が中2で団体戦のメンバーに選ばれて、中3の先輩が外さ
れちゃった事があったんだよね。で、その先輩それから部活に来な
くなっちゃってさ。﹃試合に出れないなら、続けてる意味がない﹄
って言ってさ﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹁私の兄も野球部だったけど、最後の最後に試合に出れるようにな
って、すっごい喜んでたんだけど、それまではめちゃくちゃ悔しそ
うにしてたもん﹂
俺の話は出さないで!後輩もいるし!
﹁えー、お前の兄ってヤス先輩だよな?ヤス先輩は何か嫌だよ。部
活は一応やってたけど、他の先輩たちが居残りして練習してる中、
さっさと帰ってさ。それで最後は試合に出られるようになってんだ
もん。出られなくなった先輩たちが悲惨じゃん。最後はあの先輩の
エラーで負けたし、その後のミーティングはバッくれるし﹂
うわ、後輩からもそんな目で見られてたの俺?嫌われてんなあ、俺。
﹁ふふふ、私の前でヤス兄の悪口を言うとは⋮⋮ヤス兄をけなして
いいのは私とケンちゃんとお父さんとお母さんとケンちゃんの家族
と、ポンポコ先輩とユッチ先輩だけなんだからね!﹂
532
多いなおい!そこは私だけなんだから!って言えよ!
﹁は、話がずれてるよ、今はサツキちゃんのお兄ちゃんの事じゃな
くて、智の事でしょ?﹂
む、確かにな。話がずれてる。
﹁あ、そうだったね。だから、私には﹃いいよ。だって、僕、野球
好きだもん。﹄に感動ってよく分かんないね﹂
だよなー。俺だけじゃなかったんだな。
﹁なんで?﹂
﹁ん?だから言ったじゃん。お前は試合に出たくないんか!と言い
たくならない?みんな球拾いでもいいの?﹂
﹁ええっと⋮⋮智って子は野球が好きだったんだからいいんじゃな
い?﹂
﹁野球が好きなら試合やりたくならないものなのかな?私はテニス
は見てるよりやってる時のが100倍は楽しいけど﹂
﹁きっとこの智って子は見るのが好きなんだよ!﹂
﹁ええ?じゃあ試合見に行くだけでいいじゃん。わざわざ入部しな
くてもさ、入部すると色々お金かかるし﹂
お金の話すると妙に現実的になるな。
533
﹁確かに⋮⋮じゃあやっぱり野球やりたいんじゃないかな?﹂
﹁だったら球拾いでもいいよって言ったあの言葉はなんなの?﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
あー、みんなして黙ったな。このよく分からない議論はいつ決着が
つくんだろう。
﹁あのさ⋮⋮﹂
お、女子生徒D︵さっき﹃うん﹄しか言わなかった子︶が初めて発
言する。
﹁きっと智は、野球が好きなんじゃなくて、球拾いが好きなんじゃ
ないかな?﹂
スッゲー発言が出た!
﹁でも、最後に﹁いいよ。だって、僕、野球好きだもん。﹂って言
ってるよ?素振りもしてるし﹂
﹁でもさ、確かに6年も練習してて、全然上手くならないって言う
のはいくら才能なくてもおかしいでしょ?だから、智は球拾いが好
きで、球拾いが好きだから下手なままなんだよ。もしくは、下手な
振りをしてるんじゃないかな。スイングもそれで、球拾いが好きな
んて言うのは変なヤツだと思われるから、最後は野球が好きって言
ったんだよ﹂
534
﹃な、なるほど⋮⋮﹄
すげえ!みんな納得してる!
﹁そう考えれば、中学に入って、試合に出れなくても野球部に入り
たいって言ったあの言葉が自然だよね﹂
﹁そうだな⋮⋮球拾いできるのは野球部やテニス部⋮⋮野球部に入
りたいと思うというのはすごく自然だ﹂
﹁試合を観に行くだけじゃ球拾いできないもんな。そっか、智は球
拾いが好きな変な人だったのかあ﹂
﹁そう考えればこの物語はとても笑えるものになるかも。感動作だ
ね⋮⋮﹂
サツキの感動ポイントは笑えるか笑えないかだけなんだなあ。
﹁そろそろ意見交換は終わりましたでしょうか?保護者の方は一旦
下がってください⋮⋮では、班ごとに、出た意見を発表していって
ください。﹂
一個一個班ごとに意見を発表してる。
あのグループにも最初に出た、感動した、報われなくても頑張って
る姿がいい。という意見ばかりだった。
最後はサツキの班だ。
立ち上がったのは野球部の子で、
﹁智は球拾いが好きな変人という結論に達しました!﹂
535
と宣言した。
他の班の人はびっくりしてたね。先生も保護者もびっくりしてたっ
ぽい。ええ、何でそんな結論になるんでしょうか?と。
その流れを作ったのは妹のサツキだ。さすが俺の妹!
授業が終わり、サツキに会いにいく。抱きつきたかったけど、前に
ポンポコさんに恥ずかしいと言われたので我慢だ。
﹁やほ、サツキ﹂
﹁ヤス兄!?何でこんなとこに!?学校はどうしたの!?﹂
﹁ふっふっふ、サツキの授業参観の為なら!高校なんてどうでもい
い!﹂
﹁この馬鹿兄!何で制服で来てるのさ!保護者の中で明らかに浮い
てるよ!﹂
﹁ん?確かに中学校とは制服違うしなあ、転校生に見えない?﹂
﹁見えない、むしろヤス兄って老け顔だから、大学生がコスプレし
てるように見える﹂
うわっ、ぐさっと来る。そんな事言われたらへこむなあ⋮⋮。
﹁と、ところでさ⋮⋮﹂
536
﹁はい、そこの学生服の君?ここの中学生じゃないよね?ちょっと
生徒指導室まで来てもらおうかな?﹂
﹁へ?﹂
﹁うん、そうだよー、今﹃へ?﹄って言った君の事だよ。多分君、
大学生だよね?社会人かな?コスプレ?コスプレで中学校入ってく
るってどういうこと?ロリコンなのかな?﹂
﹁えと?高校生?﹂
﹁高校生!?高校生がこんな時間に何でこんな所にいるのかな?サ
ボり?高校はどこ?﹂
﹁え?いや?OB?﹂
﹁そんなの関係ねぇ!さっさと来ないと不法侵入で警察呼ぶぞ!﹂
いや、さすがに警察は勘弁です!!
その後、会いたくもなかったたくさんの中学校の時の教師に会い、
高校にも連絡され、どっちからもこってりと絞られた。
ケンにちゃんと言ってくれるように頼んどいたけど、本当にちゃん
と﹁腹が痛くなって妹の中学校へ行きました﹂と言ったらしい⋮⋮。
ケンを信じた自分が馬鹿だった。
反省文は前回よりも多くという事で150枚書けと言われた。無理
なら停学だってさ⋮⋮。
脅しだとは思うが⋮⋮。150枚って何書けばいいのさ!?
537
63話:授業参観、アオちゃん妹、前編
思いっきり絞られ、反省文150枚とか言う馬鹿みたいな量を何と
か書ききり、迎えた次の週の月曜日。今日は6月16日月曜日。
反省文に土曜日日曜日を潰されない為にも、部活が終わって、夕飯
食べて寝る直前に、毎日30枚ずつ書いた。
おかげで先週は寝不足だ。1日2時間も寝てない⋮⋮
部活も2時間睡眠じゃ体が重くてしょうがなかった。なんとか9周、
9キロメートルくらいは毎日走ったけど。
今週もまだ眠い感じが残ってる。
﹁あー、眠い⋮⋮﹂
﹁お疲れさん、やっぱり高校生が授業参観に向かうってのは無理が
あるよなあ﹂
今は昼休みだ。ケンとともに昼食をとってる。
﹁ケン!お前任されろって言ってたじゃん!何で思いっきりおとが
め受けなきゃいけなくなるんだよ!ほんの少しくらいフォロー入れ
といてくれよ!﹂
﹁楽しいから﹂
﹁俺は楽しくない!ケンも反省文150枚書いてみろ、絶対そんな
事言えなくなるから﹂
538
﹁150枚も何書いたんだ?﹂
﹁最初の25枚は今回の出来事を詳細に書いた。次の25枚は反省
すべき点について﹂
﹁それでやっと50枚か。残り100枚は?﹂
﹁妹のサツキについて。今回は妹のサツキの為にこのような行動に
及んだという事を事細かく書いておいた﹂
﹁⋮⋮さすがシスコン⋮⋮ってか、先生って読むんかな?150枚
も俺読みたくねえよ﹂
﹁俺だって読みたくないな。誰が読むんだろ?書かずに廃棄の可能
性もあるけど、あんなに書いたんだから少しは読んで欲しいな﹂
﹁⋮⋮よし!今度の反省文はきっと200枚書く事になるから、読
みやすいように、反省文じゃなくて、コメディ小説を書くんだ!﹂
﹁無理だって!ってかもう反省文書かないから!体力が持たないか
ら!﹂
もう書きたくない!原稿用紙を見るのも嫌だ。
﹁そういう事言うと、書いちゃう事になるのが王道ですよね?﹂
﹁いや、アオちゃん⋮⋮突然現れて怖い事言わないでください⋮⋮
王道は覆されるべきじゃない?﹂
539
﹁いえ、基本的には王道というのは沿っていかれるものですよ?レ
ンジャー系のものなんて、毎回赤が主役というのは絶対じゃないで
すか﹂
﹁最近はピンクがいなかったり、王道は少しずつ覆されてるよ﹂
﹁いーえ!アンパンマンでバイキンマンがやられるというのも必ず
です。王道は絶対なものなんです﹂
﹁⋮⋮アオちゃんは俺に反省文を書かせたいの?﹂
﹁いえ、そう言う訳ではないのですが⋮⋮反省文を書く行為をして
欲しいだけです﹂
﹁何で!?そんなに俺をいじめるのが楽しいの!?﹂
訳分からん、反省文を書く行為をしろって⋮⋮。
﹁あのですね、今日小学校の授業参観なんですよ、その小学校に私
の妹が通ってるんですが⋮⋮﹂﹁⋮⋮はあ、そうなんだ⋮⋮﹂
先週が中学校だったから、ずらしてるのかな?
﹁それでですね、今までは母親が行ってたんですけど、今年は今日
仕事でいけないんですよ﹂
﹁ふむ、それで?﹂
﹁私が代わりに行こうかどうしようか迷ってるんですけど⋮⋮﹂
540
﹁是非行くべきだ!うん、行け!今すぐ行け!﹂
授業参観は来てくれると意外と嬉しいものだ。
﹁あの、1人じゃ心細いんで一緒に行っていただけないかなと思い
まして⋮⋮﹂
﹁へ?⋮⋮いや、俺、アオちゃんの妹さんの事知らないし﹂
﹁一緒に来てくれればいいんですよ、既にそう言う事を経験してい
て、他にもいっぱい恥ずかしい経験してるヤス君なら、どんな辱め
にも耐えきるでしょう?﹂
﹁ごめんなさい、1人で行ってください﹂
﹁何でですか!?こんなに誠心誠意お願いしているというのに断る
んですか?﹂
﹁どこに誠意がこもってんだ!思いっきり俺の事けなしてるじゃん
か!﹂
﹁今のどこが馬鹿にしているんですか?ヤス君への最大級の賛辞で
すよ﹂
﹁辱めにも耐えるってのが賛辞に聞こえるのか!?﹂
﹁忍耐強いと言いたかったんですよ﹂
﹁⋮⋮ものは言いようだよな﹂
541
﹁それで、来てくれませんか?1人で行くのはどうしても怖いんで
す﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮分かったよ、今から行けば間に合うの?﹂
アオちゃんの為というより、アオちゃんの妹さんの為だな。
⋮⋮ばれたら、今度は反省文200枚ですむのかなあ⋮⋮。停学は
ないよな?暴力行為も犯罪もしてないし。
﹁はい!では行きましょう!﹂
﹁あいよ、⋮⋮ケン、今度こそ本当にまともな言い訳作って言って
くれないか?﹂
﹁大丈夫だ。今回はアオちゃんもいるからな、まともな理由を作っ
ておくさ﹂
﹁俺1人だったら!?﹂
﹁小学校へ変質者をしにいきましたとかか?﹂
﹁くっ、お前はそう言うヤツだ⋮⋮まあ、今回はよろしく頼む﹂
﹁任されろ!﹂
そして、アオちゃんと小学校へ行った。
542
結構小学校は遠かった。アオちゃんってかなり遠くから通ってたん
だな。
﹁妹さんは何年何組?﹂
﹁今小学6年生です。1組ですよ﹂
6年1組⋮⋮と。ここか。
もう授業は始まってるので、こっそりと侵入する。
授業は⋮⋮社会、歴史か、今日は通常の授業とは異なり、自分の好
きな時代についてグループで調べて、発表するという事をしている
ようだ。
今、ちょうど1組目が終わったようで、静岡の武将今川義元につい
て発表していた。
大体1グループ4∼5人で組んでいるみたい。
小学生でかなりの量を調べ上げていたみたいで、大きな用紙いっぱ
いに書き込みがなされていた。
ちょっと見てみたかったな。
まあいい、次を見よう、次を。
543
63話:授業参観、アオちゃん妹、前編︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです
今日からブログも再開出来そうです。夕方頃にNTTが来るので、
夜にはちょっと更新されると思います。
今後ともよろしくお願いします。
544
64話:授業参観、アオちゃん妹、後編
今は小学校の授業参観に来ている訳だが、中々面白い。
2組目の人達は織田信長について調べ上げ、3組目の人達は斎藤道
三、4組目は上杉謙信、5組目は武田勝頼、6組目は毛利元就につ
いて発表した。
⋮⋮確かに面白いんだが、戦国武将ばかりで、戦国時代に偏りすぎ
てる気がするぞ。
さあ、7組目だ。今までのチームは大きな用紙に何かを色々書き込
んで説明していたが、何も持ってないな。
何するんだろ?
﹁あ、このグループに私の妹がいますよ!あの子です﹂
うーんと、あ、あの子か。
確かにアオちゃんによく似てる。小6にしては大人っぽいし、小学
生の中に入っていると、お姉さんみたいに見える。
そう言えば、忘れ去られてるかもしれないが、アオちゃんの二つ名
は﹁天然﹂だ、あの子も同じような行動をしないかちょっと楽しみ
だ。
﹁我々は、狂言について調べもうした!﹂
グループの1人がしゃべってる。狂言か。悪いけど全く知らないな
あ。
何を発表してくれるんだろう。
545
﹁狂言とは、南北朝、室町時代に発達した、滑稽なしぐさやふりを
混えた庶民劇のことなり。猿楽の喜劇性のある部分より発達し、庶
民の側から大名、山伏、僧侶などを風刺したものが多数ある。狂言
面と言う仮面を付けて演じる演目もあるのだ﹂
ふむふむ。猿楽ってのはなんだ?
﹁さてさて、この狂言、現代でも演じられておる。現在では和泉流
と大蔵流の2流派が現存しているのである。過去には鷺流と呼ばれ
る流派もあったのだが、明治時代に断絶いたした﹂
ほほう、確かに歌舞伎とかまだあるらしいから、狂言もまだあって
も不思議じゃないな。
で、猿楽ってなんだ?
﹁今日は授業参観に来た父上、母上殿たちにもこの狂言の魅力に病
み付きになられて帰っていただきたく存ずる﹂
⋮⋮結局猿楽ってのは分からないままっぽいな。
ぶす
﹁我々が演ずる題目は﹃附子﹄、ただし我々は素人なりて至らぬ部
分も多いかと存ずるので、そこはご容赦いただきたい﹂
あ、今から伝統芸能を演じるからそんな変なしゃべり方してたのね。
﹁では、とくとご覧あれ、﹃エセブス﹄の始まり始まりー﹂
自分でエセって言っちゃったなあ。エセって言うのは偽物って事で、
小学生が演じるんだから、そう言わざるを得ないのかもな。
546
主人︵以下主︶﹁やいやい!太郎はいないんか!太郎は!﹂
主人役の男の子!その口調はなんですか!?さっきまでの男子は堅
い口調だったのに!
太郎︵以下太︶﹁はいはい、なんですかご主人様?﹂
お、アオちゃんの妹さんだ。太郎役なんだな。
主﹁ご主人様って響きがいいな⋮⋮、もう一回言ってくれんか?こ
う甘えた感じで﹂
お前、小学生のうちからそんな事言ってんなよ。
太﹁ご主人さまあん⋮⋮これでいいですか?﹂
﹁⋮⋮ああ、私も妹にあんな風に言われたいです⋮⋮﹂
隣に居るアオちゃんが壊れた!
主﹁うん、いいぞー。もっと言って欲しいが、話の進行をしないと
な。太郎や、次郎も呼んできてくれんか?﹂
太﹁はいはい、ただいま呼びますね、ジロー、ジロー、出ておいで
!﹂
次郎登場。次郎役の子も女の子だ。ってかすごい呼び方をしたなあ。
ジローはイヌか?
547
次郎︵以下次︶﹁ナーニ?つーか超うざいんですケドー﹂
うわ、すごいしゃべり方。太郎や主人もひどかったけど、次郎はさ
らにひどいっす。
太﹁いえいえ、ご主人様が何かを申し付けするみたいなんですよ。
うざいのは事実で現実でもうざいですが、もっと影でこっそり言い
ましょう﹂
はっきり言ってますよ!太郎さん!
主﹁ひどい⋮⋮今から俺は外出しないと行けないんだ﹂
次﹁二度と帰ってくんナー﹂
主﹁⋮⋮ごほん⋮⋮それでな、この壷を預かっておいて欲しいんだ﹂
太﹁その壷の中身は何なんですか?﹂
主﹁この中身はな⋮⋮﹃ブス﹄と言って猛毒なんだ⋮⋮だから絶対
覗いちゃいけないし、食べちゃいけないぞ﹂
太﹁覗くなと言われたら覗くのが王道です。そこは覗いちゃいまし
ょう!﹂
あ、アオちゃんの妹さんも王道好きな性格なんだ。
主﹁ご主人様が居る前で堂々と宣言するな!いいか、絶対にブスを
覗いちゃいけないぞ﹂
548
次﹁ブスブスってうるセーヨ、このブス!﹂
うわ、ひでー。男でもブスって言われたら傷つくんだぞ!しかもあ
の男の子かなりかっこいいように見えるんだけど。
主﹁⋮⋮じゃ⋮⋮行ってくるよ⋮⋮﹂
背中に哀愁が漂ってたな。あれは演技なのか本気なのか⋮⋮演技だ
ったらすごく上手いな。
太﹁さてさて、次郎さん。時間もありませんし、さっさと開けちゃ
いましょう﹂
次﹁ハーイ、太郎さん﹂
次郎さん、性格変わってます。
それからも、﹁エセブス﹂は続いた。しゃべり方はめちゃくちゃだ
ったけど、アオちゃんいわくきちんと内容にそって話は展開された
みたい。最後の太郎の主人に怒られそうな時のとんちは秀逸で、な
るほどなあと思ってしまった。
俺もついつい本物を見てみたいと思ってしまったな。
549
最後の組は、現在放映中の﹁篤姫﹂について、色々語っていた。
1人めちゃくちゃ詳しく見てる人が居るみたいで、びっくりした。
小学生の時から、大河ドラマって見るもんなんだな。
授業が終わり、小学生は休み時間をそれぞれ過ごしてた。
アオちゃんは、妹さんの所に話しに行ってる。妹さんがすごく嬉し
そうだ。
さて、俺も少し話をするかな。
﹁アオちゃん、来れてよかったね﹂
﹁あ、ヤス君、ありがとうございました。おかげで妹の勇姿を見る
事が出来ました﹂
﹁えっと⋮⋮お姉ちゃんの彼氏ですか?﹂
﹁いえ、全く違います。クラスメイトで、私はヤス君の高校の友達
第一号です﹂
うーん、はっきり言うね。
﹁お姉ちゃん、そこは友達でも、﹃実は⋮⋮﹄とか言ってじらした
方が面白いですよ﹂
﹁ああ、そうでしたね。失敗しました﹂
てへっとか笑うアオちゃん。ってかそんな事を面白がらないでくだ
さい。
550
﹁妹さんも敬語で話すんだね﹂
﹁ええ、そうですよ。⋮⋮変ですか?﹂
﹁いや、全然。むしろ似合ってるよ﹂
﹁そうですか⋮⋮それはよかったです。お姉ちゃんに憧れてて、真
似すれば近づけないかなって思ってるんですよ﹂
﹁うん⋮⋮いいんじゃないかな?﹂
俺としてはアオちゃんを目指すのは止めて欲しい気持ちもあるんだ
けどね。
﹁あ、ありがとうございます!⋮⋮あ、そうだ!お姉ちゃんの彼氏
じゃないなら、私なんてどうですか?﹂
﹁え?え?え?どしてそうなんの?﹂
﹁⋮⋮嫌なんですね⋮⋮残念です⋮⋮﹂
﹁あ、いや、そうじゃなくて⋮⋮﹂
﹁だって今⋮⋮嫌って言いました﹂
﹁違うって!そんな事思ってないって﹂
﹁じゃあ付き合ってくれるんですね!﹂
551
﹁え、え、え、え、えと⋮⋮その⋮⋮﹂
な、なんて答えればいいの?ここは素直にごめんなさいでいいのか?
いや、隣でアオちゃんが見てるし、変な断り方するとすごい怒って
きそうだ。
アオちゃん妹さん大好きっぽそうだし。
﹁ほら、ふざけるのもいい加減にしましょうね﹂
﹁はーい、お姉ちゃん﹂
﹁⋮⋮え?﹂
﹁ヤス君、冗談に決まってるじゃないですか。それとも小学生と付
き合いたかったんですか?﹂
﹁へ?冗談?﹂
俺って今小学生にからかわれてたの?めちゃくちゃショボくね?
ってか何でみんな俺をからかうかなあ。
﹁あのさ⋮⋮﹂
﹁そこの2人、制服姿でどうしたの?高校生でしょ?学校はどうし
たの?﹂
﹁うえっ!?﹂
またこの展開!?
552
﹁今日はお姉ちゃんは私がどうしても来てってお願いして来てもら
ったんです!悪いのは私なんです!お姉ちゃんを叱らないでくださ
い!﹂
そう言いつつ、妹さんはアオちゃんにがばっと抱きついた。
ナイスだ!このままフォローしてくれ!
﹁でもね、高校生は学校にいなきゃ⋮⋮﹂
﹁だって私昨日、誰も来ないんだったら、もう学校なんて行かない
ってわめいたんです!だからお姉ちゃんは悪くありません!﹂
まるでかばうようにギューってしてるな。サツキもこんな風にかば
ってくれたらなあ⋮⋮。
無理か。先週は勝手に俺が行っただけだもんな。
﹁そ、そう。あなたがそう言うなら⋮⋮じゃあ、こっちのコスプレ
男もあなたが呼んだの?﹂
コスプレ男って何ですか!?そんなに老けてますか!?
﹁いえ、私は呼んでません﹂
うん、確かに君は呼んでないね。アオちゃんに連れてこられた訳で
すから。
でも、俺のフォローもして欲しいな。
﹁じゃああなたは何で来たの?この学校に妹か弟、もしくは親戚で
も居たりするの?﹂
553
﹁⋮⋮いえ⋮⋮﹂
﹁なら、あなたは知り合いが誰もいないのにこの学校に来たって言
うの!?﹂
﹁⋮⋮はい⋮⋮﹂
﹁この変質者!!ちょっと職員室まで来なさい!﹂
﹁アオちゃん、説明して!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮あれ?アオちゃーん⋮⋮
⋮⋮あぅ、妹さんに抱きつかれて至福な表情を浮かべてる。
あれがわざとだったら本気で怒るよ!
﹁あのお姉さんはあなたの事無視してるじゃない。誰に誘われたっ
て言うの?嘘までつくなんて⋮⋮﹂
﹁つ、つ、ついてない!﹂
﹁はいはい、言い訳は職員室で聞きますから、こっち来なさいね﹂
あーうー、結局またこの展開かよ!
その後、復活したアオちゃんの弁明を受け、多少の恩赦はあったも
のの、やっぱり高校からはかなりのお叱りを受けた。
今回はケンの口添えもちゃんとしてたみたいで、反省文はたった5
0枚ですんだ。
554
50枚でたったって言うようになってしまった自分って一体なんな
んだろうね。
ちなみにアオちゃんは妹さんが全力でかばったみたいで、0枚だっ
た。ええ、ほんとに何なんだろうね⋮⋮。
コメディ小説50枚書いてみるかなあ。
555
64話:授業参観、アオちゃん妹、後編︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
すみません。書くだけ書いて、投稿するのを忘れてました。
ブログの方も、昨日投稿すると言いつつ、ネットの設定を色々して
ましたら、寝てしまいましてブログへ投稿できたのつい先ほどです。
携帯の方のブログリンクも作ってなかったの今日気付きました。ご
めんなさい。
忘れないよう気をつけます。
それでは今後ともよろしくお願いします。
556
65話:ヤス、反省文を書く
アオちゃんの妹の授業参観も終わり、数日後。
今日は6月18日水曜日。
学校も部活も終わって、家で夕飯を食べている。
家にはケンが遊びにきていて、夕飯もサツキとケンと俺の3人でだ。
﹁サツキ、ケン、月曜夜から書き始めて、今日やっと終わらせたぞ﹂
﹁ああ、ヤス兄また反省文書かされてたもんね。高校生になって結
局何枚書いたの?﹂
﹁ん?えーと、宿泊研修で100枚、サツキの授業参観で150枚、
今回ので50枚だから、計300枚だな﹂
﹁うわ、まだ2ヶ月チョットしか経ってないのにそんなに書いてる
の?ヤス兄、高校入って素行が悪くなったんじゃない?﹂
何を言う、300枚のうちの半分はサツキの為に書く事になったも
のだぞ。
﹁サツキちゃん、中学のときもたくさん書いてたじゃん。ヘッドス
ライディングした拍子に女子のスカートに頭をつっこんで泣かせた
り、上履き吹っ飛ばしたら教頭先生の頭に当たってカツラも一緒に
吹っ飛ばしたりして反省文書いてたの覚えてないか?﹂
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﹁それ、ケンのせいだろ!俺があの子のスカートにツッコム羽目に
なったのは、突然ケンが﹃掌底!﹄とか言って吹っ飛ばしたからじ
ゃん!あの後どんだけ俺白い目で見られ続けたか知ってんのか!?﹂
﹁どんまい、ヤス﹂
﹁どんまいじゃねえ!大体あの時だってなんで俺だけ被害こうむっ
てんの!?ケンはどこへ消えた!?﹂
﹁チーズはどこへ消えたのパロか?微妙だぞ﹂
﹁そんな訳無いだろ!?﹂
そんな事気付くヤツいないって!
﹁ヤス兄、自分が悪いのにケンちゃんのせいにしちゃ駄目だよ﹂
何でそうなる!?明らかにケンのせいだろ!?
﹁そう言えば、教頭先生がカツラだって知らしめたのってヤス兄だ
ったんだね。ケンちゃん、教えてくれないと﹂
﹁ああ、てっきり知ってるもんだと思ってた。俺らが中1の頃、﹃
上履きがあるじゃん?あーした天気になーあれっ!って叫んで逆さ
になったら次の日雨になるんだぞ﹄って言ったら本気にしてさ﹂
﹁ケン、うるさい!﹂
﹁その日の朝に、サツキちゃんが﹃明日、晴れたらデートなんだよ
ね﹄とか言ったらしいじゃん?﹂
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﹁えっと⋮⋮そんな事あったかな?ヤス兄、そういう事言うとすご
い面白いリアクションするから、実際のとこほとんど嘘ばっかなん
だよね。実は部活の友達の家に行ってるだけみたいな﹂
ってかサツキ!?そうだったの!?俺のあの浮き沈みって一体なん
だったの!?
ホッとしたような損したような微妙な気分だ。
﹁まあいいや、その言葉聞いてどうしても雨にしたかったらしくっ
て、ほんとに﹃あーした天気になーあれっ!﹄って叫んで、思いっ
きり蹴りあげて5mくらい先にいた教頭先生の頭に上履きがストラ
イク!﹂
﹁それでそれで?﹂
﹁教頭先生の頭からふさふさだった髪がスコーンと飛んで、おでこ
の方からがばっとはげちゃってたんだよね。しかも頭にヤスの足跡
までついて、笑っちゃいけないと思いつつも、周りにいた人たち、
大爆笑しちゃったよ﹂
﹁違う!俺が悪いんじゃない!カツラで隠す方が悪いんだ!大体ハ
ゲってかっこいいじゃん!ブルースウィルスだってハゲじゃん!で
もダイハードのアクションシーンとかめっちゃかっこいいじゃん!
ビバ、ハゲって感じじゃん!﹂
﹁そんなに力説せんでも﹂
﹁いいや、ケン。堂々としたハゲの人はかっこいいんだ。将来俺は
ハゲになってもハゲの何が悪いって言い切ってやる!﹂
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﹁ヤス兄、頑張ってね。⋮⋮私その頃小6だったからなあ。ヤス兄
のその姿見られなくて残念﹂
そんな姿見なくていい!
﹁で?結局反省文がどうかしたのか?﹂
﹁ああ、そうそう。ケンが話逸らすからじゃんか⋮⋮今回の反省文
は、俺は今までとちょっと趣向を変えてみたんだ﹂
﹁ヤス兄、趣向を変えるって何したの?﹂
﹁毎回毎回似たような反省文を読むのは先生もつまらんとおもって
さ、俺も書いてるのつまんないし。コメディ小説風反省文にしてみ
た﹂
﹁コメディ小説風反省文って何なの?反省文なんてどう頑張っても
書き方変わんないよ﹂
サツキが文句を言ってくるが、気にせず続ける。
﹁いやいや、要は最後で俺は反省しましたって事を書けばいいんだ
から、過程はどうでもいいと思わないか?だから俺は途中に少しフ
ィクションを加えたんだ﹂
﹁それもう反省文じゃないよねー﹂
サツキも反省文の経験があるからさっきからブツブツ言ってくる。
560
﹁ほら、俺が予言した通りになっただろ。ヤスはいつかコメディ小
説を書くって﹂
﹁そんな事言ってたか?﹂
﹁サツキちゃんの誕生日の時に言ってただろ?それぐらい覚えとけ
よ﹂
﹁んー、そう言えば⋮⋮それがどっか頭に残ってたのかな?だから
今回コメディ小説風反省文にしようかと思ったんかも﹂
まあ、そんな事はどうでもいいか。
﹁始まりはこの前のアオちゃんの妹の授業参観だな。主人公、今回
は俺だな、が変質者と間違えられて、こってりと怒られてとぼとぼ
と家に帰るシーンから始まる﹂
﹁ヤス兄、小学校でも変質者に間違えられたの!?ヤス兄って一体
初めて見る人が見ると何歳に見えるんだろうね?﹂
﹁俺の外見の事は今はほっとけ!⋮⋮で、哀愁漂う背中の主人公の
前に颯爽と5人組の集団が現れるんだ。そして主人公を囲んでやさ
しく話しかける!﹃君、そんなに元気がなくてどうしたんだい?﹄﹂
﹁うわ、こわっ!それこそ変質者じゃん﹂
またサツキが言ってくる。
﹁イチイチつっこんでくるなあ。小説なんだからいいだろ?﹂
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﹁だってつっこみどころ満載なんだもん、5人組の集団って何?不
良軍団?金たかるの?﹂
﹁いいから聞いとけって!聞いてれば分かるから!でだな、主人公
は今日あった事を延々と語るんだよ。アオちゃんに一緒に小学校に
行ってくれって頼まれ、小学校に行って、授業参観を見て、小学生
にからかわれて、変質者に間違えられた事﹂
⋮⋮何か自分で言ってて悲しくなってきたな。
﹁ヤス兄って小学生にもいじられたんだねー﹂
﹁⋮⋮で、そんな落ち込んだ主人公に対して、5人組は叫ぶんだ!
﹃俺たちは、君のようなこんな理不尽な世界で落ち込んでいる人た
ちを、励ます為に活動している!その名も!﹄﹂
﹁その名も?﹂
﹁﹃⋮⋮円陣戦隊、オウエンジャー!!!﹄﹂
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66話:円陣戦隊オウエンジャー
﹃円陣戦隊オウエンジャー?﹄
サツキとケンが声を揃える。
﹁そう、円陣戦隊オウエンジャー!戦隊ヒーロー物は万人受けする
だろ?小説読んだ時に、わははと笑ってくれたら、それで反省文も
免除されそうじゃん﹂
﹁ヤス兄、コメディ小説風反省文とか言っといて、前々反省文じゃ
ないんじゃん﹂
﹁う⋮⋮ま、まあいいじゃん!でさ、読者層としては特にちっちゃ
な子がいる30代中頃のお父さんとか相手ならよさげじゃん?﹂
反省文を提出する学年主任はちょうどそれぐらいの年だ。
子供時代にはまってたらなおさら受けるかもしれない。
﹁で、ヤス、何で円陣戦隊オウエンジャー?﹂
﹁いやー、今さ、日曜日の朝、7時半から﹃炎神戦隊ゴーオンジャ
ー﹄ってやってるじゃん?﹂
﹁一応知ってるけど。ってかわざわざ日曜の朝早起きしてそんなの
見てんの?﹂
﹁ああ、何か毎日の習慣で日曜にも6時に目が覚めるんだよな。で、
563
サツキも父さんも母さんも9時頃までは起きてこないから、その間
暇じゃん?朝ご飯も作ったり、洗濯してんだけど、7時半頃には終
わっちゃうんだよね﹂
﹁相変わらず主夫してるな、立派な婿をもらえよ﹂
﹁うるさい!俺は男だ!⋮⋮で、家族が起きてくるまで、﹃炎神戦
GoGo!﹄と見てるんだけど﹂
隊ゴーオンジャー﹄、﹃仮面ライダーキバ﹄、﹃YES! プリキ
ュア5
﹁プリキュアは女の子向けだろ﹂
﹁いいだろ!暇なんだよ!⋮⋮その中の炎神戦隊が俺にはどうして
も円陣戦隊にしか聞こえないんだ﹂
﹁重症だな、ヤス﹂
ほっとけ!ケンも聞いてみろ!ずっと聞いてると円陣戦隊に聞こえ
るから!
﹁⋮⋮⋮⋮それで円陣と言ったら応援だろ!と言う事でオウエンジ
ャーに決定した。エール戦隊オウエンジャーというのも考えたんだ
けど、炎神戦隊を参考にした事がわかりやすいように円陣戦隊にし
た。響きもいいしな﹂
﹁⋮⋮まあ、生い立ちは分かったけど、そのオウエンジャーは何と
戦うんだ?戦隊ものは基本的に戦わなきゃいけないぞ﹂
﹁誰とも戦わない。応援するだけだ!﹂
564
﹁⋮⋮⋮⋮それは、戦隊なのか?﹂
﹁戦隊ものが戦わなきゃいけないなんて誰が決めたんだ?時には斬
新なアイディアが受けるだろ?﹂
﹁でもヤス兄、戦隊って﹃戦う部隊﹄って書くよね?﹂
﹁あ⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
び、微妙な空気を作ってしまったな⋮⋮。
﹁え、円陣センタイは、﹃戦う部隊﹄じゃなくて﹃選ばれた部隊﹄
なんだよ!だから、円陣戦隊は本当は円陣選隊なんだ!ただ、戦隊
って言った方がかっこいいから円陣戦隊って言ってるんだ!﹂
﹁苦し紛れだが、何とか言い逃れたな、ヤス﹂
﹁もっといじりたかったのにね、ケンちゃん﹂
2人していじろうとするな!
﹁それでは!円陣戦隊オウエンジャーの人員を紹介していく!まず
565
は跳んで跳ねて回って!大道芸なら何でも来い!でも最後にはミス
をしちゃうよ!イエローモンキー!﹂
﹁最後はしまらないんだ。微妙なキャラクターだね?お笑い担当?﹂
﹁まあ、初代からイエローって言うのは3枚めキャラと言う位置づ
けが定番だもんな﹂
﹁そうなの?﹂
﹁そうそう、初代﹃ゴレンジャー﹄の時なんて、技は相撲の技で、
カレー好きと言う、笑いを狙っているとしか思えないキャラだぞ﹂
﹁ケンちゃん、相撲の技ってどんなふうに敵をやっつけるの?﹂
﹁﹃どすこいどすこい﹄いいながら、敵を張り手でやっつけんの。
やっつけられた方も空しいよな。⋮⋮まあ、ゴレンジャー以降では
イエローでそこまで狙ったキャラはいなかったかな?そこまでは知
らん﹂
ってかほんとに何でそんな事まで知ってる?ケン。
﹁お次は、旗をぶんぶん振ってみんなを応援!でも振ってるんじゃ
なくて振り回されてるよ!元気なちびっ子女の子!フラッグリーン
!﹂
﹁⋮⋮ヤス兄、それってユッチ先輩がモデルでしょ?﹂
﹁お、よく分かったな。ユッチはやっぱりどんな所にも使えるよな
ー、おいしい性格してるよ﹂
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5人の中で1番最初に思いついたのもこのグリーンだ。ユッチをモ
デルにすると書き易くていいな。
﹁サツキちゃん、ヤスがいじれるのって学校でもユッチぐらいしか
いないんだよね。だからユッチの事すごいお気に入りでさ﹂
﹁ユッチ先輩、可哀想に⋮⋮﹂
そこ!俺に内緒でこそこそ話し合うな。
﹁3人目は応援の花形!ブラスバンドの1人だ!最後まで最高音量
で吹き荒らすぜ!俺の曲を聴いてくれ!でもめっちゃ音痴だ!お前
が吹くと耳が腐る!ブラックラリネット!﹂
﹁⋮⋮それってモデル俺じゃないよな?﹂
﹁何言ってんだ!音痴と言ったらケンしかいないじゃん。このキャ
ラのモデルはケンに決まってるだろ。さあ!クラリネットをオパキ
ャマラドと吹き荒らすんだ!﹂
﹁耳が腐るとまで言うな!ヤス、今度カラオケ行くときは覚えてろ
よ!俺の変貌っぷりを見せてやるからな!﹂
事実を行って何が悪い。お前の音痴はなおらんさ。
﹁4人目、どんどんいくぞ!女の子の応援と言ったらチアガールだ
!立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!でも、胸が小さい
のが悩みなの、チアピンク!﹂
567
﹁ヤス兄、それって私?﹂
﹁もちろん、ヒロイン役のピンクはサツキにぴったりだろ!ユッチ
の次に決まったキャラだな﹂
﹁胸が小さくて悪かったね!ヤス兄、一言余計!﹂
﹁大丈夫だって、サツキ﹂
俺はそんなサツキが好きだぞ。
﹁ヤス兄の趣味なんて聞いてないから、ヤス兄に好かれててもどう
でもいいし﹂
﹁うっ⋮⋮﹂
サツキが明らかに怒ってる。どうでもいいとか言われると傷つく⋮
⋮。
﹁じゃ、じゃあ5人目。ラストだな。オウエンジャーのリーダー!
学ラン姿が似合ってる!どんな時でも頼りになるぜ!かっこよくて、
みんなの中心、チアピンクの兄貴、レッドン!﹂
﹁そのモデルってヤス兄?﹂
﹁おう!チアピンクとは、とっても仲が良くてな。周りからは恋人
じゃないの?って言われるくらいの仲の良さなんだ﹂
﹁うわっ!⋮⋮頼りになるとか、馬鹿じゃない?ヤス兄なら、みん
なの中心じゃなくて、みんなのいじられ役って言葉がぴったりじゃ
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ん﹂
﹁サツキちゃん、言っちゃ駄目だって。自分の願望が混じってるだ
けなんだから﹂
ケンもサツキもひどいよ⋮⋮小説の中でぐらい、いい思いをしたっ
ていいじゃんか!
﹁5人の紹介が長くなったが、そんな5人が主人公を応援する訳だ
な、こっからOP曲が流れるんだ!﹂
﹁ヤス兄、説明聞くより、本文読んだ方が早いから、書いた原稿用
紙ちょうだい﹂
﹁あ、ああ。わかったよ⋮⋮はい﹂
そう言って、俺は今回の原稿用紙を渡した。
569
20分後、2人とも読み終えた。感想を言って欲しいんだが⋮⋮。
﹁ヤス兄、オウエンジャーの設定はそこそこ笑えるんだけど、中身
がしょぼい﹂
﹁そうそう。こう、落ち込んでる主人公のその理由がばかばかしい
せいで、オウエンジャー達が応援しているのがアホらしく見えるん
だよな﹂
﹁そうだよね、ケンちゃん分かってる!ヤス兄、もう少し笑えるも
のにしようよ﹂
な、なかなか酷評してくれるなあ。
﹁しょ、しょうがないじゃん!今回は俺が落ち込んでる役にするし
かないんだから!ってかお前ら、変質者に間違えられるのって、馬
鹿馬鹿しい理由になるのか!?﹂
﹁普通の人なら激しく落ち込むのかもしれないけど、ヤス兄なら平
気かなって思っちゃうんだよね。あ、だからこの小説も浅く感じる
のかな﹂
サツキ!俺だってへこむんだ!特にお前に言われるのは誰に言われ
るより傷つくんだぞ!
﹁サツキちゃんの言う通り、本文も、ついでにOP曲も微妙だった
けど、ED曲はどうなんだろう?俺の評価だけじゃよくわからんし
570
なあ⋮⋮理不尽な世の中だけど頑張れって言うメッセージか⋮⋮﹂
﹁ED曲か⋮⋮んじゃ、明日提出して、評価もらってみよかな﹂
﹁ん?ヤス、明日これ提出すんの?﹂
﹁もちろんそのつもりだけど﹂
﹁⋮⋮まあ、がんばってな﹂
何か微妙な言い方されたな。
まあ、明日になれば分かるさ!
571
66話:円陣戦隊オウエンジャー︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
友人に見てもらって、とりあえずGOサインも出た、円陣戦隊オウ
エンジャーの歌詞、載せようと思います。
小説家になろうでも﹃詩﹄として投稿してよかったと思うので、気
が向いたら見てやってください。
今後ともよろしくお願いします。
572
67話:小説提出
6月19日木曜日、朝に学年主任にオウエンジャーを書いた原稿用
紙を渡して、4時間目まで終了し、今は昼休みだ。
﹁ケン、今度の休みはポンポコさんの家に行くけど、残念ながら定
員オーバーでお前は呼べないようだ﹂
﹁なんでだよ!?今度の休みってヤスの誕生日だろ?ヤスを最もい
じれる日なのに、なんで行けないんだよ!?﹂
いじれる日ってなんだ、いじれる日って。
﹁俺とサツキ、父さん母さんに、ポンポコさんの家族が8人らしい
から、12人になるんだ。ポンポコさんの家はそんなに広くないら
しいから、12人も入ったらギリギリだ。出来る限り人を減らした
いらしいからな。ケンは残念ながら対象外となった﹂
﹁くそ、ポンポコさんにヤスのネタを大量に提供してやろうと思っ
てたのに﹂
﹁そんな事考えんな!﹂
まったく、ポンポコさんの家族にまで変な印象を持たれたら、最悪
だからな。
﹁しょうがないな、ヤスの誕生日の日は兄貴に会いに行くよ。って
か兄貴も自宅から通ってくれりゃいいのになあ。ギリギリ通える距
573
離なんだし。そうすりゃわざわざ会いに行く必要ないのに﹂
﹁ケンがいっつもつきまとってるからうっとうしくなったんじゃな
いのか?﹂
﹁そんな訳無いだろ、兄貴も俺の事大事にしてくれてるはずなんだ
から﹂
﹁⋮⋮まあ、確かにな﹂
中学で野球やってたときのケンの兄貴のケンへのしごきもすさまじ
かったからな。
あんなん嫌いなヤツには普通あそこまでしないだろ。
まさに愛の鞭ってヤツだよなあ。
ピンポンパンポーン、ピンポンパンポーン。
ん?珍しいな。誰かの呼び出しでもあんのかな?
﹁1年3組、ヤス君。1年3組、ヤス君﹂
お、ウララ先生だ。って俺かよ!?俺、今日なんかしたかなあ⋮⋮?
ってか、ウララ先生、校内放送でもヤス君って言うのやめてくださ
い。
﹁今からヤス君の反省文を朗読します﹂
574
⋮⋮⋮⋮は!?今、ウララ先生なんて言った!?
﹁今回、近藤康明ことヤス君は、無断で学校を抜け出して小学校に
侵入して、小学生を口説いたとして、反省文を書きました﹂
そんなこと、校内放送で言わないでください!
しかも小学生を口説いてなんていません!アオちゃん妹に口説かれ
ましたけど⋮⋮からかいでしたが。
﹁それで反省文を今日提出してもらったのですが、これが中々笑え
まして﹂
おお、ウララ先生にはウケたんだ。昨日は酷評ばっかりもらったか
ら、あんまり自信なかったんだけど、それならよかったな。
﹁私たち教師の批判まで混じってましたしね﹂
あれ、何かウララ先生怒ってる?
なんかそんな教師批判の文なんて書いたかな?⋮⋮ああ、俺を社会
575
人扱いして、変質者と決めつけた事を怒ったんだったかな。
﹁今後もこんな反省文を書いてくれたら、校内放送で読んであげる
ので、ヤス君どんどん書いてね﹂
やめて!読まないで!
﹁お題﹃円陣戦隊オウエンジャー!∼小学校ヤス君編∼﹄﹂
﹁お題まで読まないで!ストップ!ストップ!﹂
ここで叫んだってウララ先生に聞こえる訳がない!放送室まで行こ
うと思ったのだが、ケンとアオちゃんに止められた。
﹁離せ!ウララ先生を止めないと俺の心に一生の傷が残る!﹂
﹁大丈夫ですよ、ヤス君。ヤス君は既に傷物ですから﹂
やな言い方だな!おい!
ケンとアオちゃん、2人なら何とか引きずってでも行けそうだ!
這いつくばってでも、ウララ先生を止めてやる!
﹁ヤス!円陣戦隊オウエンジャー?ついでに小学生から変質者扱い
されたんだって?﹂
﹁何でユッチがここにくるんだ!?俺は今ウララ先生を止めないと
いけないんだ!﹂
﹁せっかくヤスを馬鹿にできるチャンスなんだから、邪魔するに決
576
まってるじゃん﹂
﹁くそう、この暇人ども!﹂
すっごく嬉しそうに駆けつけてきたユッチに押さえつけられ、身動
きが取れないまま、円陣選隊オウエンジャーが朗読された。
その後、30分にわたり延々と校内放送された。
クラスの中には思いっきり吹き出してくれた人もいたんだが、そこ
はウララ先生の朗読の上手さもあったんだろう。
フラッグリーンの下りになった途端、ユッチが怒り出したのは笑え
たけど。
⋮⋮この日から、ヤスという名前は、この学校で校長先生以上に有
名になってしまった。
この学校にヤスという名前を知らないものはいないというほどだ。
⋮⋮ウララ先生、勘弁してください。
﹁ヤス君、何で私はモデルになってないんですか?﹂
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﹁え?えと⋮⋮﹂
アオちゃんは確かにちょっとボケてて、王道好きという特殊な趣味
を持ってるんだけど、基本的にはしっかりしてるから、今回のキャ
ラにあわなかっただけなんだが。
﹁ユッチだけモデルにしといて、私をモデルにしないなんてひどい
です。ヤス君と私はその程度の関係だったんですね﹂
﹁い、いやそんな事ないって!アオちゃんにも実はキャラがあった
んだけど、今回の話って50ページって言う短編じゃん?だから今
回は仕方なく減らしたんだよ﹂
嘘も方便だ!
﹁じゃあ、私はどんなキャラだったんですか?﹂
﹁え?えーと⋮⋮﹂
やばい、考えてないっすよ。
﹁ほら、やっぱりないんじゃないですか﹂
﹁いや、あるって!え、えと⋮⋮今回は登場してないけど、世の中
のブルーな人を探し出す!しっかり者のお姉さんに見えるけど、ど
っかぬけてて面倒事を引き起こす!王道好きだよトラ﹃ブルー﹄!﹂
﹁⋮⋮ヤス君、王道ではブルーは男がなるものですよ。﹂
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そこまで知らないっす!アオちゃん、字は違うけど、あおいって名
前なんだからブルーでいいじゃん!
﹁まあいいです。今度の小説では私も活躍させてくださいね﹂
﹁はい⋮⋮﹂
あれ?えと⋮⋮ってかまた小説書かないといけないの?
579
68話:ポンポコ&ヤスの誕生日、訪問
6月21日土曜日、今日はポンポコさんの誕生日だ。
そして明日が俺の誕生日なので、今日はポンポコさんの家に泊まっ
て、2日連続で誕生日会を実行するという計画だ。
ってか昨日はひどかった⋮⋮。昨日は部活の後、3年生の﹃ウララ
ちゃん主催3年生のみんなお疲れさま後は俺たち私たちに任しとけ
じゃあなバイバイキン会﹄略して追い出しコンパ、というものが開
催された。サツキにもう帰るの遅くならないって約束してたので、
遠慮して帰ろうとしたのだが、ウララ先生に捕まった。事情を話し
たら、
﹁じゃあ妹さんも呼んじゃいましょう!﹂
とか言いだしたのだ。
確かに間違ってはないけど、サツキとケンがそろうと、確実に俺の
暴露話が始まるんだよ。
やっぱり1つ小学校の時の話が暴露されたし⋮⋮。
ユッチ、アオちゃんは大喜びだったなあ。特にユッチなんか普段俺
にいじられてるもんだから、
ここぞとばかりに色々言ってきた。
まったくなあ⋮⋮。勘弁してくれ。
で、土曜日。今日はサツキしか一緒に行かないけど、明日は父さん
母さんもポンポコさんの家にやってくる。
既にポンポコさんから地図をもらって、両親にも渡してあるから完
璧だ。
580
今日の夜中にはポンポコさんの両親も帰ってくるらしい。1週間連
続の休暇を取ったと言っていた。
むこうの家族と俺の家族をあわせると計12人にもなる。
⋮⋮ポンポコさんの家、そんなに入れんのかな?
これ以上多くなるのはまずいと言う事で、ケンは今回は呼ばなかっ
た。
ポンポコさんのシスコン兄弟に会うのが今から楽しみだ。
今は17時。今日は短距離女子は午前中練習があったので、午後か
ら行く事になっていた。
実は、短距離女子は今日は岐阜へ行くかという話もあった。今日は
東海大会が岐阜で行われているのだが、誰も出場しない上、岐阜と
言う遠い所で行うので、結局観に行ってない。
そんな事があったので、もしかすると誕生日会は中止になるかもと
思ってたが杞憂に終わった。
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本来は15時頃からお邪魔する予定だったのだが、サツキが16時
まで目を覚まさなかったので、こんな時間からのお邪魔になってい
る。
えと⋮⋮本堂、本堂と⋮⋮あ、ここだ!
ちなみに本堂<ホンドウ>と言うのはポンポコさんの名字だ。
忘れてくれても構わない気がするが。
ここがポンポコさんの家か、2階建てなんだな。4LDKって言っ
てたけど、部屋割りどうなってんだろうな。
とりあえずインターフォンを押して、ポンポコさんを呼ぶ。
﹁おっす、ポンポコさん﹂
﹁こんにちは、ポンポコ先輩﹂
﹁ヤス、サツキ、待っていたぞ、入ってきてくれ﹂
﹃おじゃましまーす﹄
ポンポコさんに居間に連れて行かれたのだが⋮⋮。
男が5人居る。これがポンポコさんのシスコン兄弟か。
﹁お、この人がヤスか⋮⋮って男がいる!?おい!お前、女の所に
泊まりにいったって言ってたじゃん!﹂
﹁ちゃんと女も居るだろう?嘘は言っていないぞ﹂
あー、確かに嘘は言ってないね。
582
﹁⋮⋮ポンポコ、泊まりにいった時にこの男に何もされてないな!
?﹂
﹁ふむ、私は何かされたか?﹂
﹁⋮⋮いや、何もしてないよ﹂
﹁お前!こんな可愛い妹が泊まりに行ってて、何もしないとはどう
いう事だ!?それでも人間か?﹂
﹁一兄は私が何かされてた方がよかったのか?﹂
﹁そんな訳無いだろう!もしそんな事をしたやつが居たら、地獄の
果てまで追いつめて殺してやる!﹂
俺は一体どうすればよかったんだろう?
一兄さん、怖いです。あなためちゃくちゃ怖いです⋮⋮。
﹁ポンポコ先輩のお兄さんって、反応がヤス兄にそっくりだね⋮⋮
同じ境遇の人がいるって素晴らしいです⋮⋮﹂
﹁私もサツキにあった時は奇跡に出会えたかと思ってしまったぞ﹂
サツキもポンポコさんも結構言いたい放題言うね。俺たちが聞いて
るってのに。
﹁そう言えばお前、ポンポコとはどういう関係なんだ?﹂
﹁一兄さん、俺とポンポコさんは﹂
583
﹁お前なんぞが一兄と呼ぶな!!そう呼んでいいのはポンポコだけ
だ!﹂
えええ?じゃあどうやって呼べばいいんですか?むしろ他の兄弟達
はなんて呼んでんですか?
﹁ヤス、他の兄弟達は一兄の事は一と呼んでいる。他の兄弟達も二、
三、四、五でいいぞ﹂
﹁ポンポコさん、それじゃただの番号じゃん!﹂
﹁名前に数が入っているから大丈夫だ。そもそも一兄と二兄は本当
に一、二、だしな﹂
﹁それはひどくないっすか?ポンポコさんの両親﹂
﹁書くとひどいようにみえるが、名前は普通だぞ、一<ハジメ>、
二<ジン>、三太<サンタ>、四狼<シロウ>、五王<ゴオウ>だ﹂
んと、五王は普通なのか?かっこいいけど。四狼ってのもなんかか
っこいいな。
﹁始めはちゃんと呼んでいたのだが、私がだんだんと面倒になって
いってな、私が一兄<いちにい>、二兄<ににい>と呼ぶようにな
ったら、兄弟全員がそれに合わせて一二三四五と呼ぶようになった﹂
ほんとかよ!それでいいのかお前ら?
﹁私の兄弟の呼び方は一二三四五だ。わかりやすくていいだろう?﹂
584
⋮⋮そうなんだけど⋮⋮いいんかなあ?
⋮⋮ん?あれ?
﹁ポンポコさんって前に兄が3人、弟が2人って行ってなかった?﹂
﹁ん、そうだが?﹂
﹁三さんの後、四なら、ポンポコさんは?﹂
﹁ああ、私と四は双子だからな。どっちにも四が入ってる﹂
﹁あ、そうなんだ﹂
ってか未だにポンポコさんの名前知らないってどうなんだろう?
﹁じゃあ四も同じ大山高校通ってんの?﹂
﹁うるさい!落ちたんだよ!﹂
﹁え?え?﹂
俺がそう聞いた途端、
﹁この野郎!ポンポコと同じ高校に通っているからっていい気にな
るなよ!﹂
﹁い、いや、別になってないけど﹂
﹁そもそも何で俺が落ちなきゃ行けないんだ!?筆記試験もばっち
り決めて、内申点も悪くなかったのに!﹂
585
いや、俺にそんな事言われても⋮⋮。
﹁それは四の面接があまりにひどかったからだろう?私も隣で受け
ていて、ものすごく恥ずかしかったぞ﹂
ポンポコさんに言われて、がっくりと口を閉ざした四。な、なんか
可哀想だ。
あのおどおどしたヤマピョンがちゃんと面接して受かってんのに、
面接で落っこちた四って、どんな面接したんだろうな?気になる。
﹁まあ、四の事は置いとけ。俺の事は一でいい。よろしく﹂
一さんが手を差し出してきたので、俺も手を差し出して握手する。
﹁ヤスです。よろし⋮⋮く⋮⋮!!!﹂
痛い痛い痛い痛い!!!そんな締め付けるように握らないで!!!
ギリギリ言ってます!!!
﹁今までは家族だけで過ごしてたのに⋮⋮この家は家族だけの聖域
だったんだ。今年は友達が、しかも誕生日に来るってだけでも悔し
かったのに、それがまさか男だと?この野郎⋮⋮!!﹂
ほんと痛いんです!勘弁してください!
他の四兄弟ももっとやれって目で俺と一さん見てるし⋮⋮!痛いー
!!
﹁そういえば、私が友人を家に呼んだのは初めてだな。一兄、そろ
そろ勘弁してやってくれ。こんなやつでも一応は友達なのだ﹂
586
ほほう、初めてのお客さんですか俺は。
それより、こんなやつですか俺は⋮⋮しかも一応なんですね⋮⋮
﹁仕方ない⋮⋮今はこのくらいですましてやるが⋮⋮今夜は眠れる
と思うなよ⋮⋮!﹂
うわっ、めちゃこええ⋮⋮。
シスコン兄弟を侮っていたなあ⋮⋮俺、明日五体満足で家に帰れる
だろうか?
587
69話:ポンポコ&ヤスの誕生日、食事
全員の自己紹介をしていたら、そろそろ18時になったので夕食の
開始だ。
﹁そういやポンポコさんの家って誰が料理作ってるの?﹂
﹁ああ、二兄と三兄が交代で作っている。今日は2人で作ったらし
いが⋮⋮他の者の料理は食えたものじゃないからな。全部2人に任
せている﹂
﹁そ、そうなんだ⋮⋮﹂
8人で食卓につき、全員グラスを持つ。一さんは20をこえている
けど、みんなに合わせてジュースを持っている。
﹁それでは、ポンポコ&ヤス16歳をお祝いして、カンパーイ!!﹂
﹃乾杯!!﹄
俺は本当は明日なんだが、ついでに祝ってしまおうと言う事だ。
と言う訳で、食事会兼誕生日会が始まった。
適当に話をしていたのだが、ある程度食事が進んだ所で、サツキが
こんな事を切り出した。
﹁ねえねえ、ポンポコ先輩の兄弟には面白エピソードはないんです
か?この前私の誕生日の時はヤス兄の話を色々したんで、今日はポ
ンポコ先輩とその兄弟のエピソードを聞きたいです﹂
588
ふむ、確かに。俺ばかりばらされるのは不公平だしな。
﹁俺たちはそのヤスのエピソードを聞いてないからな。まずは1つ
でいいからヤスのエピソードを聞かせてくれないか?ギブアンドテ
イクと言うやつだな﹂
三さん!こういう場ではギブアンドテイクなんて言葉は発生しませ
ん!
どんどん暴露していきましょうよ!
﹁うーん、1個くらいならいいよね?ヤス兄﹂
﹁ほんとはやだけど⋮⋮この場が盛り上がるならいっか。どの話に
する?﹂
﹁ちょっと待ってね、携帯で調べるから﹂
﹁その携帯にいくつ詰まってんの!?出来れば全部削除して!﹂
﹁やだ﹂
サツキ!たまには俺の頼みも聞いてくれ!
﹁⋮⋮私が小学校5年生の頃の﹃妹を捜して3000里事件﹄とか
?﹂
﹁ああ、あれか⋮⋮うん、それならいいよ﹂
﹁了解。私が小学校5年の5月、ヤス兄が風邪を引いて、3日間く
589
らい寝込んでた事があったの。40度近くでたから、もうろうとし
ちゃって、ほとんどその間の記憶がなかったらしいんだけど﹂
あれ?俺が思ってたやつと違うっぽいんだけど。
﹁風邪引いた3日目かな?確か金曜日だったと思うんだけど⋮⋮ヤ
ス兄がようやく熱が下がってきて起きたとき、家に誰もいなくて﹂
えーと?そんな事あったっけ?まじ記憶にないんだけど。
﹁家中探したのに誰もいないもんだから、俺を残してどこかへいっ
ちゃったの?って外へ私を捜しに行ったんだって﹂
あ、あれか!⋮⋮それってタイトル違うんじゃね?
﹁それで1日中私を捜しまわって、聞いて回ってたのに、全くわか
らなかったんだって。学校に行けばわかるかもって気付いた時には
もう遅くなってて誰も残ってなくて﹂
﹁あーうー、もうそれ以上言わないで欲しいな﹂
﹁家に帰って泣き寝入りして、起きたらやっぱり誰もいなくて﹂
﹁サツキさん、お願いします。その話はここでストップしてくださ
い﹂
﹁また1日中同じ事したけど、やっぱりわからなかったんだって﹂
﹁サツキ!ストップ!俺の馬鹿っぷりがばれる!﹂
590
﹁3日目、日曜日は起きてすぐに家を飛び出したみたいでさ。偶然
学校の先生に会った時に、サツキちゃんならあそこへ行ったよって
聞いて電車に乗って慌ててその場所へ行ったのに、誰もいなくて﹂
ストップしてくれないのかあ⋮⋮。何でケンとサツキは俺の恥ずか
しい過去をばらすのが好きなのかな?たまにはわずかにあるかっこ
いい過去とかを公表してくれてもいいのに。
今現在でもたくさんエピソード作ってんのにな。宿泊研修の小火と
か、授業参観の時とか、ユッチ持ち運びとか。
⋮⋮俺は高校入学から3ヶ月でどれだけエピソード作ってんの!?
﹁泣きながら家に帰ってきたんだもん。びっくりしちゃった。私見
た途端抱きついてきて、服に鼻水つけるんだよ。その日私も家にヤ
ス兄がいなくてびっくりしてたけど﹂
﹁うん、結局それは3日間探しまわって見つからなかった馬鹿な兄
の話なんだよ、結局サツキは小学校のキャンプに2泊3日で行って
ただけだし、父さん母さんは普通に仕事に行ってたんだよね。俺が
起きた時にはもう会社に行っててさ、書き置きとかあんのに気付か
なかった俺ってまじアホだよ。日曜日なんか普通に家にいたのに、
外に飛び出ちゃったし。馬鹿だよなー﹂
﹁むー、話を途中から奪わないでよ﹂
ここで締めるのがベストなんだ!これ以上サツキに話はさせられん。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん?ポンポコさん、どうかしたの?﹂
591
﹁いや⋮⋮ヤスのエピソードにしてはオチが弱いなと思ってな。ヤ
スの場合はもっといいオチが待っているはずなのだが﹂
﹁ポンポコさん!?俺をどんな目で見てるの?別に今のも十分壮絶
なオチじゃん!﹂
﹁ポンポコ先輩さすがです!この話にはもう少し続きがあるんです
よ。ちょっと今は切り抜きは持ってないんですけど⋮⋮ほら、この
ページ見てください!﹂
くそっ!携帯の馬鹿野郎!インターネットをわざわざ見れるように
なんてするなよ!
﹁ふむふむ⋮⋮﹃この町の珍生物、植物と交信するパジャマ少年あ
らわる!!﹄⋮⋮これ、もしかしてヤスか?﹂
﹁そうです!なんと3日間全部パジャマで行動してたんですよ!し
かも聞いて回ってたのは人間じゃなくて植物!周りの人も気味悪が
って話しかけられなかったんですけど、写真とビデオに撮った人が
いて、なんと新聞とテレビに放映されたんですよ!﹂
そうだよ、悪いか!おかげさまで次の日は学校で大笑いされたさ!
﹁その日の新聞の切り抜きは今も記念に取ってありますよ。小学校
の間は額縁に飾ってあったんですけどさすがにもうはがしちゃいま
した﹂
﹁そうだよ!おかげでケンが遊びにくるたびに馬鹿にされたぞ!﹂
﹁ふむ、さすがだヤス。お前はメディアを利用してまで笑いを広め
592
ようとしているのだな﹂
﹁そんな事考えた事もないって!⋮⋮俺の話はここまで!三さん!
今度は話してくださいよ﹂
﹃ごちそうさまでした﹄
﹁おい!また俺の暴露話だけ!?三さん!ギブアンドテイクの心は
どうした!﹂
﹁んー、やっぱり搾取できるだけ搾取できるならそれでいいよね﹂
﹁お前の心真っ黒だな!﹂
くぅ⋮⋮。俺って損ばっかりしてる気がするぞ。
593
70話:ポンポコ&ヤスの誕生日、プレゼント
さて、食事も終わったら、次からは誕生日会の目玉、プレゼントタ
イムだ。
さっきの乾杯と同様、俺のも一緒にやってしまおうと言う感じだな。
ちゃんとポンポコさんへのプレゼントは先週の土曜日に買いにいっ
てるぞ。
どんなのかは開けてみてのお楽しみだけどな。
まずは、兄弟達からみたいだ。
一:三国志11 Wii
﹁本を読むのも楽しいが、ゲームをするのもたまにはいいかと思っ
てな﹂
ってもしかして、ポンポコさんが三国志好きなのはこの一さんの影
響なのか?
⋮⋮そんな事はないか。むしろ一さんがポンポコさんの影響で三国
志好きになったんだろうな。
二:図書カード10000円分
﹁本屋に言って三時間悩んだんだが、何がいいかわからなかったか
らこれにした。好きな本を買って欲しい﹂
金額がすごい!10000円って何さ!?さすが大学生⋮⋮。
月々300円生活の自分には無理ですな。夏休みのバイト頑張ろ。
三:猫のぬいぐるみ
594
﹁名前はにゃんにゃんでよろしく﹂
女がぬいぐるみに名前つけてるのは見た事があるんだけど、18歳
の大学生の男がつけるのはどうなんだろうなあ?
四:チョコレート詰め合わせ
﹁甘いもの、特にチョコは大好きだったろ?結構高級なチョコなん
だ、それ﹂
おお、ナイス情報。ポンポコさんはチョコ好きだったのか。
友達でもそう言う話って実はあんまりしないから、人の好みってわ
からないもんなんだよな。
五:タオルセット。
﹁陸上部に入ったじゃん?マネージャーだけど炎天下にいるから汗
はすごいかくかと思ってさ。部員の人にも使ってよ。でも男子に渡
しちゃ駄目だから!﹂
部員の大半は男子なんですが⋮⋮。
まだ小学生なのに色々考えて、お金がかからず役に立つ者を渡そう
としてる所は姉思いのいい弟に見える。
だけど、最後の言葉だけは余分な気がするぞ、さすがシスコン。
そういや、去年は一さんが指輪をプレゼントしたみたいだったけど、
今年はそう言うのは誰もなかったんだな。
じゃ、次は俺の渡そ。
﹁はい、ポンポコさん﹂
紙袋にラッピングした物をポンポコさんの手の上にポンと置く。
﹁ありがとう、開けてみてもいいか?﹂
595
﹁おう、もちろん﹂
カサカサと開ける。でてきたのは猫と魚のブレスレット。
ポンポコさんが以前、オシャレをしたいけど、兄弟がうるさいと言
っていたので、兄弟達にあまり言われなさそうなあまり派手じゃな
い落ち着いたのにしてみた。
ウッドビーズでブレスレットを作り、ココナッツを削って猫と魚の
モチーフを作ってる。
⋮⋮友達に贈る物として適当かは知らん。友達からの物だとちょっ
と重いか?
思いつかなかったんだよう⋮⋮。
今回は1人で買いにいったから、誰のアドバイスももらえなかった
し。
﹁くくく⋮⋮やはり、ヤスと言ったら動物なのだな。しかもまた猫
か。猫娘の二つ名に恥じないな。面白いぞ﹂
﹁いや!猫娘の事は忘れて!﹂
﹁ふむ、早速つけてみる事にしようか⋮⋮似合うか?﹂
うむ、思ってたより悪くない。身につける系の物ってほんとは一緒
に買いにいった方がいいよなー。似合うか似合わんかつけてみんと
わからんし。
﹁おー、よく似合ってますよ、ポンポコ先輩。ヤス兄も動物の中で
はまともなの選んだね。ヘビとかでてきたらどうしようかと思った
よ﹂
﹁ヘビか⋮⋮来年のサツキのプレゼントはヘビにするか?﹂
596
﹁絶対やめてよね!って事で最後は私ですね。自信作ですよ、見て
くださいポンポコ先輩!﹂
と言って渡したのは、またブレスレット⋮⋮。しまった!!かぶっ
た!!
サツキはこの前ポンポコさんにプレゼントしてもらったビーズで、
カラフルなブレスレットを作ってるので、印象は全く違うんだが⋮
⋮。
しまったなあ、サツキときちんと相談しておけばよかった。
﹁ふむ、兄妹そろって同じ種類の物をくれるとは⋮⋮やはり息があ
ってるな。どちらもそれぞれ気に入ったぞ、ありがとう﹂
そう言って、ポンポコさんは反対の手にサツキのをつけてくれた。
全く印象の違うのを両手にそれぞれつけるのはちぐはぐな感じがす
るけど、それはポンポコさんの気遣いだろうな。
でも、よかった。喜んでくれて。
﹁くっ、今年は去年のケンカを反省してアクセサリー類のプレゼン
トはなしにしようと決めてたのに、他のヤツに渡されてしまうとは
⋮⋮﹂
﹁三、今はキレるな。ポンポコの為のこの会が台無しになってしま
うからな。終わったら、あの男を闇討ちしよう﹂
﹁二、その通りだ!こっそりとやっつけてやるからな!覚悟しとけ
よ、ヤスとやら⋮⋮分かったな、お前ら!﹂
﹃おう!﹄
597
一二三四五、こっそり話してるつもりかもしれませんが、俺の耳に
もしっかり聞こえてます。
そう言えば去年、指輪を争って夜明けまでケンカしたって言ってた
なあ。
⋮⋮ほんと怖いですからやめてください。
次は俺の番な訳だが、ポンポコさんの兄弟とは今日が初対面な訳だ
から、まあプレゼントなんてない。
もらえるのは、サツキとポンポコさんからだけだなあ。
でも、毎年もらえるのはサツキだけだったし、今年は1つ増えるか
らすっごい嬉しいんだ。
ケンからはもらってない。小学校二年生の時にめちゃくちゃ怖いび
っくり箱をもらって、開けてみた時についチビってしまってから、
アイツからはもらうもんかと思ってる。
両親はプレゼントなんて買いにいく暇無いからな。平日は仕事だし、
休みは俺とサツキと一緒だから。
﹁私たちからは、合同でプレゼントだよ。先週一緒に行って買って
きたんだ﹂
ラップメモリ
なに!?今年は2つもらえると思って期待してたのに⋮⋮。
﹁はい、これ﹂
ブルー﹄。
そう言ってくれたのは腕時計。名称は﹃F︱RUN
ー50B
598
﹁ヤスは長距離を走るのだからな。ラップタイムや合計タイムが計
れないと走る時に困るぞ、むしろ何故今までつけてなかったのか不
思議だ﹂
﹁そうなのか?そもそもラップタイムって何?﹂
﹁⋮⋮ふむ、まだヤスは陸上に対してあまり真剣になってないよう
だな⋮⋮。その内やる気になってくれる事を期待しているぞ﹂
県大会であれだけの実力差を見せつけられると、やる気も失せるっ
てもんですよ。
それに長距離の先輩方を見てください。あのやる気のないメンバー
にいるとやる気がなくなります。
﹁ラップタイムというのは中間距離での通過タイムの事だ。マラソ
ンを走る選手などは5キロメートル毎にラップタイムを計って、自
分のペースが速いか遅いかを考えつつ走っている。練習中も学校周
りを走っているのだから、一周ごとに何分で走ったか分からないの
では、自分のペースが速いか遅いか分からないぞ﹂
﹁そっか⋮⋮。1周何分くらいで走るのがいいんだろうな?﹂
﹁それは人によって様々だ。学校周りは何キロあるんだ?﹂
﹁いや、よく知らない。大体一キロメートルって事くらいしか﹂
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄
あれ?みんな黙ってしまったぞ。
599
﹁ん?どうかした?﹂
﹁みんな呆れてるんだよ。今までもずっとそうだったのか?﹂
一さんが聞いてくる。
﹁ええ、3年の先輩も大体1キロって言ってましたし﹂
﹁ポンポコから聞いてたけど、ひどいなあ⋮⋮。指導者もいないし、
悲しい環境にいるな。⋮⋮ヤス君、まず、今度の練習の時に正確な
距離を測りな。それで正確な距離が分かったら、自分がどれぐらい
のタイムでその距離を走れるか確かめてみるといい﹂
﹁あ、はい、分かりました﹂
﹁学校の周りってロードだろ?アスファルトと、競技場のトラック
とじゃ勝手は違うけど、秋になったら駅伝もあるしな。頑張ってく
れよ﹂
一さんが教えてくれるけど、経験者なんだろうか?
﹁ありがとうございます。一さん、陸上やってたりするんですか?﹂
﹁ああ、高校までな。高校では1500mを中心にやってたぞ。一
応1500mのベストタイムは4分3秒22だ﹂
はやっ!うちの高校の先輩とは大違いじゃん!
﹁まあ、練習すればある程度は行けるもんだぞ、ヤス君も頑張って
600
みな⋮⋮例えば、競技場は一般開放をよくしてるからな。今度の土
曜日か日曜日、行ってみたらどうだ?﹂
﹁あ、はい。教えてくれてありがとうございます。サツキ、ポンポ
コさん、これありがとな!﹂
せっかくなので、今からつけてみる。
﹁うん、馬子にも衣装だね。今までよりほんの少しだけ陸上部っぽ
くなったね﹂
﹁⋮⋮サツキ、今までどんな風に見てた?﹂
﹁帰宅部?私よりいつも帰るの早いし﹂
めちゃ急いでるんだよ!サツキ俺が先に家に帰っていないとへこむ
じゃん!
﹁⋮⋮まあいいや、じゃあ俺も1500mで一さん目指して頑張り
ます!﹂
俺が意気込んで言ったら、
﹁いや、ヤスは50m7秒5だろ?スピード無さすぎるから150
0mは絶対無理だ﹂
⋮⋮ポンポコさん、そんなに俺をおとしめて楽しいっすか?
﹁ヤスは5000mにしておいた方がいいのではないか?その方が
上を目指せると思うぞ。せっかく部活をするんだからな。適当な気
601
分でやるより、真剣にやった方がいいだろう?﹂
まあ、そうだよな。負けた時も適当な気分でやっていたら何も残ら
んかもしれん。
中学校の時の部活も真面目にやっていたから、あれだけ悔しい思い
をして、他の人との溝が残ったんだよな。
⋮⋮あれ?溝が残る方がいいのか?それなら何も残らん方がよくね?
﹁⋮⋮まだ、何かあるみたいだが、その内やる気になってくれるだ
ろう。今日は私とヤスの誕生日会なんだから、楽しもうじゃないか﹂
ま、そうだな。
今日は楽しもう。
602
71話:ポンポコ&ヤスの誕生日、ポンポコ両親登場
﹁さて、そろそろモノポリー大会を始めますか!﹂
今日のこの時の為に、日曜日は家族でモノポリーばっかりやってた
からな。
父さん母さんもはまってしまって、たまにケンも来て毎回4∼5人
でモノポリーばっかしてた。
ふふふ、俺とサツキの上達っぷりを見せてやる!
﹃ただいまー!﹄
あれ?誰か帰ってきた。あ、ポンポコさんの両親は今日帰るって言
ってたしな。
ポンポコさんの両親か。
﹁あら、知らない間に私たちの子供が増えてる?﹂
﹁ほほう、いつの間に生んだんだね?母さん﹂
なんかとぼけてる2人ですね。
腕を組んでの登場か、なるほど⋮⋮。そのくっつきっぷりはうちの
両親によく似てる。
違う所はよくしゃべりそうな所か。父さん、母さん2人ともに無口
だもんなあ。
﹁私の友人のヤスとサツキだ。この2人は兄妹でな、今日は私の誕
603
生日なので呼んだ、このまま泊まっていってもらう予定だ﹂
﹁おお!母さん、ついに私たちの孫が見れるかもしれないぞ!﹂
﹁ええ、誰と誰が付き合ってるの?サツキちゃんと一?サツキちゃ
んと二?サツキちゃんと三太?サツキちゃんと四狼?まさかサツキ
ちゃんと五王じゃないよね?﹂
何でサツキとのカップリングばっかりなんだ!?
いや、俺が一二三四五と組まされるのは絶対嫌なんだが⋮⋮。
﹁ごめんなさい、全員ヤス兄に似てるわりに、ヤス兄ほどいじりが
いがなくて面白くなさそうなので友達までならOKですが付き合う
のは無理です﹂
あ、はっきり言ったね。ってかそんなにあの一二三四五に似てるか
?会ってみたけど、そこまで似てるイメージがわかないんだが⋮⋮。
それより、今サツキは誉めてくれたのか⋮⋮?ま、俺のがいいって
言ってくれて、すごく嬉しいからいいや!
﹁じゃあ、まさか娘とこのヤスと言う冴えない男?⋮⋮それはあり
えないか﹂
ひどいっす!ポンポコさんのお母さん!本人がいるのに冴えないっ
て何ですか!?初対面なのに何でそんなにけなすの!?
﹁その通りだ、ヤスと私は友人に過ぎないぞ。﹂
ポンポコさん!冴えないってのを否定はしてくれないんですか!?
﹁まあ、実際ヤス兄って顔はあんまり冴えないよね。ぼさぼさ頭だ
604
し、老け顔だし﹂
サツキまで言うか!もういいよ老け顔って言うの、俺をけなすな!
お前は俺の妹なんだから、似てる部分もあるんだぞ!
﹁残念ね、もしかして孫の顔が期待できるかと思ったのに⋮⋮サツ
キちゃんみたいに可愛い子が家の嫁に来てくれたら大歓迎だったの
になあ。うちの息子達、ポンポコばっかりかまっちゃって、誰とも
付き合おうとしないのよ。特に一なんて22でしょ?心配になっち
ゃう﹂
はう!サツキは可愛いになるのか!?
あ、今似てるなと思ってしまったぞ、一二三四五。
﹁ほんとに兄妹?あんまり似てないよね?サツキちゃんの方は可愛
いけど、兄は⋮⋮﹂
﹃⋮⋮﹄って何ですか!?ポンポコさんのお母さん!ってか似てな
いのかあ⋮⋮。ちょっとショックだなあ。
﹁まあまあ、母さん、ヤス君がへこんでるよ。事実をはっきり言う
のもいいけど、オブラートに包んであげるのが優しさだ。私が例を
見せてあげよう﹂
聞こえてます!ポンポコさんのお父さん!今のが一番傷つきました!
﹁初めまして、ポンポコの父だ。君の顔は中々味わいがあるね。他
の人では見ることができないよ!﹂
既に馬鹿にしまくっておきながら、褒めようとしても何も感じませ
605
ん。
﹁例えば、その髪!笑いを狙っている人の髪としては最高だ!その
頭だけでキノコ頭と同等の笑いを取れるぞ。さらにはその顔。第一
線で働く20代後半のエリートサラリーマンのようだ!いいぞ、か
っこいいぞ!﹂
﹁馬鹿にしてるんですね!全然オブラートに包んでません!別に芸
人じゃないですから!しかも20代後半って何ですか!?まだ俺1
5です!﹂
﹃ええっ!?15歳!?﹄
何で一二三四五まで驚く?さっき同じ高校の陸上部だって紹介した
だろ?
﹁てっきり留年して高三で今19歳くらいかと⋮⋮﹂
﹁四!それはひどい!﹂
﹁いや、初めて会った時は大学生か社会人かと思ってたよ。もしか
して一より年上かなあって﹂
四の言葉に一斉にポンポコさんの家族全員がうなずく。
﹁みんな俺一体何歳に見えたの!?﹂
﹁23﹂これは一、一さんは22だから、自分より年上に見えてた
んですね。
606
﹁22﹂これは二、一さんと同年代に見えてたのか。
﹁19﹂これは三、今んとこ一番年下だけど、それでも自分より年
上だと思ってたんだね。
﹁25﹂これは四、ってか実年齢より10も上に見えるの!?
﹁⋮⋮﹂答えろよ五!目を逸らすな!
﹁29﹂ポンポコさんのお父さん、ひどいっす⋮⋮。
﹁30以上?﹂ポンポコさんのお母さん。ついに30代を突破っす
か⋮⋮。五!そこで同意してうなずくな!
⋮⋮なんかなあ⋮⋮。
﹁きっと俺の人生が苦労しっぱなしだからだな。高校入って反省文
だけ見ても既に350枚、中学校時代は1000枚はこえたもんな
あ⋮⋮﹂
﹁うわ、ヤス兄ってそんなに書いてたの!?ケンちゃんはまだ中学
高校合わせても100枚いってないって言ってたよ、私もまだ50
枚くらいだよ﹂
それはサツキとケンが俺に押し付けたから!
﹁えっ?サツキちゃんも素行の悪い子だったの?それが事実なら⋮
⋮あまり家の娘と友達付き合いして欲しくないね﹂
うん、その言葉だけ聞いたらそんな印象持つかもね。
607
﹁大丈夫だ。私も色々話を聞いたが、この兄妹の反省文は素行が悪
いのではなく、ただのドジだからな。サツキの方は兄に巻き込まれ
て書いただけだ﹂
逆です、ポンポコさん!ほとんどの場合、俺が巻き込まれてるんで
す!その内の1つはポンポコさんも書いたでしょ!
⋮⋮サツキの授業参観は違ったな。俺のせいか。
﹁じゃあしょうがないねえ。出来の悪い兄を持つと苦労するね、サ
ツキちゃん﹂
﹁大丈夫です。こんな兄ですが結構好きですよ。大事に思ってくれ
てますし﹂
サツキ、ありがとう!めちゃくちゃ嬉しいよ!
﹁⋮⋮ふむ、この兄の方もそこそこはいいヤツみたいね。まあ、こ
れからもポンポコや一二三四五の兄弟をよろしく頼むよ﹂
﹁はい、お母さん!よろしくお願いします!﹂
﹁お前ごときが私をお母さんというな!﹂
ビシッとチョップを食らった⋮⋮痛い⋮⋮兄の時と同じあやまちを
繰り返してしまったなあ。
まあ、とりあえずポンポコさんの友達として認められたようなので
よかったです。
608
71話:ポンポコ&ヤスの誕生日、ポンポコ両親登場︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ポンポコさんの両親もポンポコさんの事を﹁ポンポコ﹂と呼ぶのは
違和感あるかもしれませんが、気にしないでください。
⋮⋮本名はいつでてくるんだろう?
609
72話:ポンポコ&ヤスの誕生日、バトル開始
﹁さあ、今度こそモノポリー始めよう!﹂
もうさっきからやりたくてしょうがなかったんだ。
ポンポコさんの両親の登場から既に1時間が経過している。もうす
ぐ22時になる時間だ。
俺のかけ声とともに、モノポリーの準備がはじま
﹁ヤス、モノポリーは最大8人でしか出来ないんだ。私の家族とヤ
スとサツキをあわせたら10人になる。残念ながらモノポリーは無
理だ﹂
な、なんだと⋮⋮。
ポンポコさん⋮⋮この日の為に毎週日曜に特訓してきたのに⋮⋮め
ちゃ楽しんでたけど。
﹁と言う訳で今日は別のをやらないか?UNOなんかどうだ?一応
10人でも遊べるゲームだ﹂
ウノか⋮⋮確かに遊べるな。
﹁だけど、最初にクリアした人は待ってるのつまらなそうなんだけ
ど﹂
﹁ふむ、本来は最初にクリアした人がでた時点でゲームは終わるの
だが⋮⋮﹂
610
そんなルールがあるのか!?知らなかったなあ。
﹁では3位までが決定した時点でゲームは終了。残りの順位はカー
ドの枚数。同じ枚数の場合は特殊カードが多い方の負け。それでも
勝負がつかない場合は同着というルールでどうだ?﹂
﹁待て待て、整理させてくれ⋮⋮うん、いいぞ、それならスピーデ
ィにいけそうだ﹂
﹁ルールは分かるか?一応ルールの書かれた紙があるが﹂
﹁大丈夫だポンポコさん。ルールくらい覚えてるよ﹂
UNOはきっと誰もが一度は経験したんじゃないか?
﹁ポンポコ先輩。見せてもらってもいいですか?﹂
﹁あ、俺も見たい﹂
五!やった事ないのか!?サツキはやった事あるだろ!?
俺が変な目で見てたからか、サツキが文句いってきた。
﹁何?一応確認しとこうと思っただけじゃん。ヤス兄こそ、そんな
目で見るんだったら、ゼッッッッッタイにルール間違えないでよ﹂
﹁わ、分かったよ。俺が悪かった、俺にも見せてくれ﹂
確かに俺の知らないルールがあったし、確認しといた方がいいかも
しれない。
611
﹁ヤス、君はヘタレだな﹂
ポンポコさん、事実をいわなくて結構です。
という訳で一応ルール説明だ。
ポンポコさんは知ってるみたいだから読まないんだな。
1、各プレーヤーに7枚ずつカードを配り手札とする。余った札は
山札にする。
2、山札の一番上のカードをめくり、そのカードからスタートだ。
3、手札の中から順に、場札と数字もしくは色の一致するカードを
出していく。手札に出せるカードがない場合は山札から1枚取る。
山札から取ったカードが出せるなら、出していいし、出せないなら
次の人の番になる。また、同じ数字ならば重ねて出す事が出来る。
4、手札が1枚になったら、﹃UNO﹄と宣言する。しなかった場
合は2枚山札から取る。特殊カードが最後に1枚残ってしまった場
合も同様に2枚山札から取る。また、あがる場合は必ず1枚であが
らなければならない。重ね出しであがってはならない。
5、手札を全てなくしたものが勝利者となる。
次に特殊カードの説明だ。特殊カードにはこんなのがあるな。
リバース:順番が反対周りになる。
スキップ:次の人の番を飛ばす。
612
ドロツー:次の人に無条件で山札から2枚取らせる。ただし、次の
人もドロツーを持ってたら出して、さらに次の人にプラス2枚取ら
せる事が出来る。これをドロツー返しと言う。これはドロツーがあ
る限りどこまででも続く。
ワイルド:場の札に関係なく、自分の手番ならいつでも出すことが
でき、現在の場の札の色を指定できる。
ドロフォー:場の札と同じ色がない場合いつでも出すことができ、
現在の場札の色を指定できる上に次の手番の者に山札から4枚取ら
せる。ドロフォーもドロツー同様の事が出来る。さらにドロフォー
はドロツーの上にかぶせる事も出来る。ただし、ドロツーでドロフ
ォーを返す事は出来ない。
大体こんな感じかな?
ポンポコさんによると、競技会や地方によって、結構ルールが変わ
って、ドロツー返しが出来ないルールや、重ね出し禁止のルールも
あるんだって。
ポンポコさんってもしかしてゲームに関してかなり詳しい?
では、改めて、ゲーム開始だ!
ポンポコさんのお父さんが全員にカードを配る。
10人もいると中々自分の番が回ってこないが、それはそれで戦略
を練る時間があり楽しい。
少人数よりも予測不能な事が多くて、戦略の立て方も難しくなる。
俺の持つカードは赤の1、3、6。黄の2、3。青のドロツー、緑
613
のリバース。
ドロツーの出すタイミングが大事だ。
﹁ふふふ、俺は負けん!今日こそはこの前の雪辱を晴らしてやるぞ
!ポンポコさんよ!﹂
﹁ふん、私にゲームで勝とうというのが間違いだ。モノポリーでも、
UNOでも、その他のゲームでも、ヤスに負ける気はしないな﹂
くぅ、ポンポコさんめ、その強気っぷりが腹立たしいな。
UNOではリバースやスキップがあるから、順番はコロコロ変わる
から、紹介するのはやめとこう。
とりあえず最初に出すのは俺だ。
最初におかれているのは緑の6。
⋮⋮特殊カードは後回しにしたいから、ここは無難に赤の6を出し
ておく。
﹁ヤスよ、君は考えている事が顔にですぎているな。今、2枚のカ
ードでどちらを選ぶか悩んだだろう?特殊カードか普通のカードか
で。もっとポーカーフェイスを身につけないと、ゲームには勝てな
いぞ﹂
くっ、そんなに顔に出ているのか?
ポンポコさん、そんなに言うならポンポコさんのポーカーフェイス
っぷりをとくと拝見させてもらうぞ!
614
73話:ポンポコ&ヤスの誕生日、バトル中盤
UNO1回戦。俺が赤の6を出した所だな。
俺の持つカードは赤の1、3。黄の2、3。青のドロツー、緑のリ
バース。
勝敗の付け方は、3位まであがった時点で終了。持ち札の数の少な
さで順位を決定し、同じ枚数の場合は特殊カードの多いほうが負け。
それでも順位がつかない場合は同着だ。
その後順々に出していき、俺の左隣がポンポコさんだ。
ポンポコさんが出した後に、俺の番になる。
﹁私はこれを出そうか﹂
﹁くっ、リバースか⋮⋮﹂
これで俺の番が遠ざかる。当分俺の番が来ないじゃん!
﹁ふふふ、その程度で焦るなんて、ヤスはまだまだ初心者だな﹂
﹁焦ってなんてないさ、ポンポコさん、見てろよ!﹂
﹁そこ、2人で盛り上がってないで、もっと全体でしゃべってよね
!ヤス兄は特にポンポコさんに敵意を向け過ぎ!﹂
サツキの叱責が飛ぶ。すみません。熱くなってました。
615
そして1周回ってやっと次は俺の番、右隣の二さんが出したら俺の
番になる。
﹁じゃ、俺はこれ﹂
﹁スキップ!?勘弁してくださいよ二さん。さっきから出してない
っすよ俺﹂
﹁まあ、戦略の1つって事で﹂
くそう、色々考えたって、自分の番が回ってこなきゃどうしようも
ないじゃないか。
﹁次はこれ﹂
お、よかった。緑の9だ。リバースカードが出せる。
﹁ほい、リバース﹂
ふふふ、これでポンポコさんの順番はまた中々回ってこない。
﹁んじゃ俺も﹂
二さん!?そこでリバースなんてあり得ないっす!!しかも緑じゃ
何も出せません。
﹁くそう⋮⋮﹂
俺は山札から1枚取る。
616
﹁ふむ、せっかくのチャンスなのに、運がなかったな、ヤス﹂
悔しいなあ、余裕の表情のポンポコさん。
その後、少しずつ枚数を減らしていったのだが、
﹁ほい、あがりだな!﹂
やばっ!ポンポコさんのお父さんがあがってしまった。
﹁やった、私もあがり!﹂
くっ、サツキもあがったか。
﹁後1人だな⋮⋮﹂
﹁ああ、俺があがってやる﹂
一二三四五兄弟がすごいやる気だ!
俺も負けられん!
今の俺の手持ちは、赤の1、青のドロツーの2枚だけだ。
次のターンにアオのドロツーが出せれば、UNOを宣言できる!
﹁ここでワイルドをだすぞ、色は青でよろしく﹂
隣の二さんが宣言した。青に変えてくれたおかげで俺はドロツーを
出せる。
﹁二さんありがと!俺はドロツーを出してUNOだ!﹂
617
これでポンポコさんにも2枚余分に持たせれるし、俺の有利は動か
ない!
﹁馬鹿だな、ヤスは﹂
ん?ポンポコさんがなんか言ってるが⋮⋮。
﹁ヤス、君は今日ドロツーを1回でも見たか?﹂
﹁いや、そう言えば見てないけど?⋮⋮⋮⋮ってもしかして?﹂
﹁そうだ、私もだが、誰もがドロツーを出せない状況に追い込まれ
ていたのだ、誰かがドロツーを出すまで場は動かない状態だった⋮
⋮ドロツーを何枚も持っている人もいて、動いたヤツが負けやすい
という状況だったのに⋮⋮勝つとしたらドロフォーを出すしかなか
ったのに、まさかドロツーとはな。ヤスは今一枚しか持っていない、
すなわちそのカードは特殊カードではありえない⋮⋮君の負けは決
定したな﹂
くっ、正論か?まだ分からない!途中でドロツーを持っていない人
が現れる可能性がある!
﹁わずかな希望をも打ち砕いてやる。ドロツー2枚だ。ついでにU
NOだな﹂
ポンポコさん、2枚も持ってたの!?
﹁私もドロツー﹂
ポンポコさんのお母さん、やめて!?
618
﹁俺もドロツーだな﹂
﹁俺はドロツー3枚だしするぞ﹂
三、四止めてくれ!誰かこの流れを止めるんだ!特に四、ドロツー
3枚だしって何考えてんの?
残りは一、五、二の3人か。今、ドロツーは8枚でたから、もうド
ロツーはないはずだ。
﹁ふぅ、これだけドロツーが出たら、もう大丈夫だろ。3人そろっ
てドロフォー持ってるなんて馬鹿な事あるわけないし⋮⋮﹂
にやりと3人そろって笑いましたよ!?
﹁ヤス、気付かなかったのか?途中、一や五は全然カードを出さず、
山札ばかり取っていたのを。あれはドロフォーを探してたんだ﹂
枚数を減らす事より強力な特殊カードを集める戦略!?そんなアホ
な戦略するの?途中で3人あがったらアウトなんだよ!?
﹁ふふふ、俺と五は今回は最下位を逃れる戦略を選んだのさ、とり
あえず誰かにドロフォーをあてて枚数を増やさせれば、自分の最下
位の可能性は下がるからな﹂
くっ、そんな戦略があるとは⋮⋮。UNOって意外と奥が深いな。
立て続けに一と五がドロフォーを出した。残りは二さんだけなんだ
が⋮⋮。
619
﹁お前はもう死んでいる⋮⋮血の赤でいこう﹂
そう言って、ドロフォーを出した。どうして北斗の拳なんだろうな
あ⋮⋮。
﹁ヤス兄、ヒデブとか言わないの?﹂
﹁うるさい、へこんでるんだ。ドロツーが8枚にドロフォーが3枚
⋮⋮28枚!?まじありえん!﹂
﹁今日は誕生日なんだし、ノリノリでいこうよ!ヤス兄!﹂
﹁ちょっとまって、山札だけじゃ足りないからと⋮⋮これで28枚
か。全部で29枚になってしまった⋮⋮﹂
はぁ⋮⋮あほじゃね?この枚数⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
﹁まだまだ!こっから挽回してやる!﹂
﹁ふむ、あがりだ﹂
﹁⋮⋮あおおえへげえっ!!!!!﹂
﹁ちょっとタイミングが遅いな、ヤス兄。タイミングが遅れて死ん
じゃう秘孔を突かれたんだね﹂
29枚、ダントツの最下位だ⋮⋮。
モノポリーを初めてやった時も最下位だったし⋮⋮こういうアナロ
620
グゲームは好きなはずなのに、何で勝てない!?
﹁ヤスは普通にやっても弱いのだな。罰ゲームなしでやれば勝てる
と言っておきながらこのザマとは⋮⋮情けない⋮⋮﹂
ポンポコさんに言い返せん⋮⋮。
﹁まだ1回じゃん!これから何度もすれば絶対に勝てる!総合順位
でも勝ってみせるさ!﹂
﹁ふむ、言ったな⋮⋮そこまで言うのだから、今度こそ私に負けた
ら来週一週間顔に落書きしてネコミミつけて語尾に﹁にゃあ﹂をつ
けてもらおうかな﹂
﹁くっ、さすがにそれは⋮⋮﹂
﹁本当にヘタレなのだな、ヤスは。この程度の状況すら受け入れら
れんのか?﹂
ヘタレでいいですよ。1週間ネコミミ&にゃあって何さ!?長すぎ
っすよ!
﹁⋮⋮ヤス、君はいつもリスクばかりを考えている。なぜ勝った時
のリターンについて考えないんだ?﹂
リスクを考えんのは大事なんだぞ!
﹁確かにノーリスク、ハイリターンが一番望ましい。しかし現実に
はそんな状況は滅多に起こりえない。ならば、ハイリスクハイリタ
ーンを覚悟する勇気が必要じゃないのか?﹂
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﹁ローリスクローリターン、見返りが少ない代わりに危険も少ない
という考えもあると思うんだが⋮⋮大体、ポンポコさんの方は負け
たら何をしてくれんのさ!?﹂
﹁ヤスが決めていいぞ、よほどの物じゃない限りは受け付ける﹂
⋮⋮⋮⋮。
この完全アウェーな空気の中、俺に決めろと?
めちゃ、ポンポコさんの家族が睨んでますよ?
眼鏡を外した顔を見せてって言ったくらいで一二三四五兄弟が殴り
掛かってきそうなんだけど⋮⋮。
ましてや、ネコミミとか落書きとか言ったら⋮⋮。
しかもやる事決定になってしまった!
﹁えと⋮⋮﹂
﹁何もないのか?つまらないな﹂
﹁あ、じゃあ、どっかの1週間で、長距離の方のマネージャーさん
をやるってのでどうでしょうか?来週は突然すぎるので、どこでも
いいからさ﹂
﹁ふむ、それでいいのか?他のに変えてもいいのだぞ﹂
﹁いや、それでいい!むしろそれがいい!!﹂
それ以上のお願いをしたら、本当に一二三四五兄弟が怖い。これだ
けのお願いなのに、睨みが鋭くなってるじゃん!
622
﹁⋮⋮了解した。それでいこう﹂
自分が決めたから文句は言えないんだが、ハイリスクローリターン
な気がするのは気のせいかなあ⋮⋮。
﹁総合順位とはどうやってつける?全部やった時の順位の平均でい
いか?﹂
﹁OKっす﹂
絶対に勝たないとなあ、負けたらネコミミ&﹃にゃあ﹄か⋮⋮。
623
74話:ポンポコ&ヤスの誕生日、バトル終了
UNOの戦いは白熱した。
夜明けの午前6時までと時間を決めて、ひたすらUNOをする。
一二三四五兄弟はポンポコさんに負けさせないよう、上手く立ち回
ろうとしていたが、そんなのは中々上手くいくわけない。
1、2回試してみて、結局普通にUNOを楽しみ始めた。
サツキは運がいいのか、たいてい2位か3位をキープしている。ま
だ1位にはなっていないが。
俺とポンポコさんは大抵1位から10位までまんべんなくとってい
る。
席が離れた時は勝手に進めて上位をとったりもするが、隣りになっ
た時にはお互いに足を引っ張り合って、下位になる。
そして午前5時半。
後1ゲームできるかという時点で、現在の総合順位はこのような感
じになっている。
1位 サツキ
2位 ポンポコさんのお父さん
3位 四
4位 一
5位 ポンポコさんのお母さん
6位 五
624
7位 三
8位 ポンポコさん
9位 俺
10位 二
ってかそういや、俺とポンポコさんしか罰ゲーム決めてないなあ⋮
⋮。
せっかく二さんが最下位になってるんだから、二さんに何かさせれ
るようにすればよかった。
俺とポンポコさんは隣になったとき毎回下位になるもんだから、総
合順位も2人そろって下の順位だ。
俺とポンポコさんの差はほとんどない。
ここでポンポコさんより順位が3つ上回れば逆転だ。
ちなみに他の所での順位の変動はもうない。既にサツキの1位も二
の最下位も決定している。
﹁ポンポコさん、最後は勝たせてもらう!﹂
﹁残念だったなヤス、今回の私のカードは素晴らしい。万が一にも
負けはない﹂
このポンポコさんの発言はブラフの可能性も高い。嘘を言って相手
を惑わせ、ドロツーやスキップの出すタイミングを混乱させるのが
目的だ。
﹁ふっ⋮⋮もうポンポコさんの口車には乗せられないぞ﹂
﹁何を言う、軍師の二つ名の実力を今見せてやる﹂
625
そんなのあったなあ⋮⋮。
とりあえず、ゲームスタートだ。
﹁今回は本当に素晴らしいのだぞ。UNOだ﹂
何!?いきなりUNO?6枚が同じなんてなんてそんな少ない確率
をものにしてんの!?
くぅ、俺は今回は席が離れてるので、妨害行為は全く出来ない。
運にかけるしかないというのがきつい。
もしくはポンポコさんの隣にいるサツキかポンポコさんのお父さん
に賭けるしかない。
⋮⋮無理か。どっちもポンポコさんの味方みたいなもんだしな。
﹁はい、ドロフォー。ポンポコ先輩、4枚よろしくお願いします。
色は今ポンポコ先輩の顔が青ざめたので、青ですね﹂
﹁⋮⋮サツキから攻撃が来るとは思わなかったな。いじっていても
ヤスが好きか﹂
﹁まあ、既に今日結構好きって言いましたけどね。さすがに1週間
ネコミミ&﹃にゃあ﹄をさせて学校に行かなくなったりしたら、妹
として恥ずかしいですし﹂
﹁既に落書き顔で学校に行っているんだから大丈夫だと思うのだが
⋮⋮まあ、しょうがないな。⋮⋮ヤス、命拾いしたな﹂
﹁サツキ、ほんとありがと!最高の妹だ!﹂
626
﹁これぐらいで大げさ、そんな風に言われると気持ち悪い﹂
大げさじゃないぞ、ネコミミ&﹃にゃあ﹄は本当に嫌なんだ。
﹁さて、俺は6枚、ポンポコさんは5枚⋮⋮いい勝負になってきた
な﹂
﹁そうだな⋮⋮だが、私は負けん﹂
﹁⋮⋮ポンポコさん、そんなに長距離のマネージャーが嫌なの?﹂
何となく真面目な話になるかもしれないと思ったけど、とりあえず
聞いてみた。
﹁ん?そうだな⋮⋮あのやる気のない集団の相手をするのは正直嫌
だな、短距離女子の相手をしているのが一番楽しいぞ。特にユッチ
の相手は最高に楽しい、あれだけやる気になっていると応援しがい
もあるぞ﹂
ん、確かにな。そこまでやる気になってない俺でもあの2年生集団
には正直辟易する。
それより適当なノンキや全然走らないマルちゃん⋮⋮。うわ、俺で
もマネージャーなんてしたくねえな。
俺の番が来た。んー、青の4でいっか。
﹁本当は長距離のマネージャー志望だったのだが、あの練習を見て
な⋮⋮まあ必要ないかと思って短距離のマネージャーを志望したの
だ、今日話を聞いて実態はさらにひどいのかと知ったが﹂
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﹁⋮⋮確かに⋮⋮否定できないな。あれはひどいもんなあ。でも、
高3がいた時、ドン先輩とかはこの高校にしてはそこそこのタイム
じゃなかった?﹂
ドン先輩とは、地区予選の時に5000mを走って、17分09秒
で走った先輩なのだが⋮⋮。
﹁ああ、ヤスは知らないのか?私はマネージャーだから、先輩たち
の過去のデータを調べていたのだが、ドン先輩は高校入学時から1
7分10秒で走っていたぞ。あの先輩は入学してから1秒しかタイ
ムを縮めてないという事だな﹂
うわ、しょぼっ!
﹁それで三年生の引退宣言の時だったか?﹃何も咲かない寒い日は、
下へ下へと根をのばせ。やがて大きな花が咲く。﹄などと偉そうな
事言って⋮⋮思わず鼻で笑ってしまったぞ﹂
ポンポコさんでもそう思う事あるんだなあ。ちょっと意外だ。
んー、緑のリバース。
﹁あのような言葉は、真面目にやってきた人が言うから心に響くの
だ。ゴーヤ先輩とあの時付き合おうかという雰囲気になっていたが、
ドン先輩の不真面目っぷりをゴーヤ先輩が知って、3日と経たずに
破局したそうだぞ﹂
ふーん、ドン先輩ってそんな不真面目には見えなかったのだが、自
分の知らんうちにそんな事があったんだね。
あ、出せるカードがないや。山札から一枚ゲット。
628
﹁ヤスは何か理由があってやる気がないのか?才能にあふれてると
は思わんが、練習すればある程度はのびると思うぞ﹂
うーん、褒めてんのか?それ。やる気を出させるつもりなら、もう
少しいい言い方がある気もするんだが。
まあ、ポンポコさんならしゃべってもいいよな。
黄色の3。
﹁ん、まあ中学校時代に野球部の最後の試合、自分のミスで負けさ
せちゃってさ。何か溝みたいなのが出来たんだよね。真面目にやっ
てても、あんまり気持ちのいい終わり方出来なかったし、正直高校
は適当にすればいいかなって。陸上部もケンに誘われたから来ただ
けだし﹂
うん、まあ別にそれを聞いてポンポコさんがどう判断するかは自由
だ。
赤の4だ。
﹁ふむ、入部の理由というのは何となくでもいいんじゃないか?そ
れより入った後どうするかだ⋮⋮それにしても、何となくユッチの
話に似てるな﹂
﹁そうか?あいつはやる気があるだろ?俺とは違うじゃん?﹂
﹁まあ、今の状態は違うが、ユッチも中学校の時にバトンのミスを
してチームを負けさせたのだろ?その後どうなったかは知らないが
⋮⋮かなり遠くから通ってるという事は、もしかしてユッチもまた
中学校のチームのメンバーと仲違いでもしてるんじゃないか?私の
推測に過ぎないが。UNO。だから、中学校の時の人が誰もいない
この高校に来たとか⋮⋮ヤスも野球のミスが原因で溝が出来て遠く
629
から電車で通っていると言うじゃないか。何となく似てないか?偶
然だが、ケンとアオちゃんと、どちらも親友を一緒の高校に連れて
きているしな﹂
なるほどな。確かにそうかもしれない。
うーん、緑のスキップでも使うか。
﹁うーん、でも、やっぱり違うって。俺にはユッチみたいに借りを
返そうなんて気分が起きなくて、野球やめた訳だし。そもそもチー
ムプレイはもううんざりだから、陸上にしたんだからさ﹂
﹁⋮⋮なるほど⋮⋮まあ色々あるものだからな。⋮⋮よし、あがり
だ。私の勝ちだな﹂
﹁ええっ!?いつUNOって言った?﹂
﹁会話の中に挟み込んでおいたぞ。きちんと聞いておけ。せっかく
のサツキの手助けも無駄になったな。ネコミミ&﹃にゃあ﹄。楽し
みにしているぞ﹂
﹁うわ!やだよ!サツキ!助けてくれ!﹂
﹁うーん、途中から勝負の事を忘れて、話に夢中になってたヤス兄
の自業自得だよね﹂
﹁ごめんなさい、なんでもしますからネコミミだけは勘弁してくだ
さい!﹂
﹁ふむ、本当に何でもするのか?じゃあ猫のシッポでもつけてみる
か?﹂
630
﹁ごめん!何でもしますって嘘でした。そんなもん俺の羞恥心に耐
えられません!﹂
俺はそう言って逃げた、トイレにでも逃げれば何とかなるさと思っ
たし。
まあ、結局逃げたせいで1個増えてネコミミ&猫のシッポ&﹃にゃ
あ﹄の3つを1週間強制になった訳だが⋮⋮。
その後、こんな会話がされてたみたいだけど、帰ってきた時にサツ
キに聞いて知った。
﹁ポンポコ先輩、ヤス兄今何でもしますって言ったんだから、部活
を真面目にやってって言えば、ヤス兄の事だから、真面目にやり始
めますよ﹂
﹁うむ、そうかもしれないんだが、始める理由は適当とか押しつけ
とかでも、熱中し始める理由は押しつけでは長続きしないんじゃな
いかと思ってな。﹂
﹁ふーん、そんなもんですか?﹂
﹁うむ、一兄もそうだったぞ﹂
﹁ああ、俺が中3の頃、体育祭のリレーで、アンカーに選ばれてな。
で、その時ポンポコが見に来てくれてたんだ。張り切ってめちゃく
ちゃ頑張って走ったら、見事1位! ポンポコもすごく喜んでくれ
て、﹃一兄ちゃん、かっこよかった!﹄って言ってくれて⋮⋮。そ
れから俺は陸上をやろうと思ったんだ。そのうち、陸上自体にはま
り始めたんだけどな﹂
631
﹁うむ、やはり陸上自体が楽しくならないとなかなか伸びないから
な。ヤスにもそんな風になってもらいたい﹂
﹁ポンポコ先輩、結構ヤス兄の事気にかけますね。ヤス兄の事気に
入ってますか?﹂
﹁ん?ヤスの事はいい友人だと思ってるぞ。三国士同盟の会員だし
な。⋮⋮そう言えば、今回はまだ話をしていないな。明日は1日そ
の話をするか⋮⋮﹂
﹁あ、あはははは⋮⋮⋮⋮﹂
うーん、そんな顔してるのか?よくわからん。
ってか明日は1日三国志!?暇を見て正史は読んでおいたけど⋮⋮。
1日はさすがにやだなあ。
とりあえず、ネコミミ&猫のシッポ&﹃にゃあ﹄は決定した訳か⋮
⋮。
632
75話:誕生日会が終わり、月曜日
今日は6月23日月曜日⋮⋮この日は来て欲しくなかったな。
今日からポンポコさんとの罰ゲームで、1週間顔の落書き&ネコミ
ミ&猫のシッポ&語尾に﹃にゃあ﹄をつけると言う屈辱的な事をし
なければならない。
誕生日会でUNOが終わった後、サツキはポンポコさんの部屋に、
俺は一二三四五兄弟の二さんと三さんの部屋に泊まったのだが、お
互いの妹自慢ですごく盛り上がった。
いや、昨日はあんなにポンポコさんの事でツンツンしてたなんて考
えられないくらい、寝るのも忘れてずっと話し込んでたね。
妹自慢エピソードを話してたら気付いたら昼の16時、朝の6時頃
から話してたから、10時間は話してた事になる。
うん、やっぱりこのポンポコさんのシスコン兄弟は最高だ!
16時半頃、うちの両親が食材を持って夕方頃に来て︵それまでず
っと寝てたらしい︶、夕食は俺の家族でポンポコ家にごちそうした。
633
お互いの両親も意気投合したみたいで、延々と盛り上がってた。
サツキとポンポコさんもうちに来た時以上に仲が良くなったみたい。
サツキは既に
﹁ポンポコ先輩のいる大山高校へ絶対に行きます!﹂
なんて言ってたし、よっぽど意気投合したみたいだ。
後で聞いたらサツキとポンポコさんも全く寝ないで、家族、特に兄
弟達についてずっと話してたという。
やっぱやる事は一緒だよな!
で、サツキが途中でポンポコさんに二つ名の軍師の由来を聞いて、
﹁ヤス、この誕生日会でまだ三国志について語りあっていない。今
から語り明かそう﹂
と言い始めた。
サツキ!こうなるとポンポコさんノンストップなんですよ!
二さん、三さんに聞いたのだが、一二三四五兄弟も実はこの状態の
ポンポコさんは苦手らしい。今はもう避難してる。
一さん、苦手なら三国志のゲームなんて買わないでくださいよ!
﹁ヤス、正史はもう呼んだか?﹂
﹁あ、うん、一応﹂
﹁さすがだ、ヤス。私の親友なだけはある﹂
634
いつの間にか親友にランクアップされました。
⋮⋮親友と言ってくれるのはありがたいのだが、三国志の話を続け
るのは⋮⋮俺もそこそこの知識は蓄えたので、結構受け答えが出来
て楽しくなり始めてたのだが⋮⋮。
途中、
﹁三国志を知らない人に、魅力を話したりはしないの?﹂
とつっこんだら、
﹁趣味の押しつけというものはやたらと鬱陶しくないか?確かに魅
力を知らない人に好きになってもらいたいという気持ちはあるが、
一度友人にそれをしたら、﹃今度やったら縁を切る!﹄とまで言わ
れるほど鬱陶しかったらしくてな。それ以来、むこうから三国志に
ついて話しかけてこない限りはしないようにしてるのだ。⋮⋮それ
について話しかけてくれたのはヤスが初めてだったがな。ところで
⋮⋮﹂
と言う事らしい。
その友人も結構ひどいことを言うな⋮⋮。
好きな事について語るのってすごく楽しいのに⋮⋮。
まあ俺も結局、めんどいと思う事もなくなり、逆にすごく楽しくな
り、結局終電まで延々と語り合い続けた。
ポンポコさんが一方的に語り続けたのではなくお互いに語り合った
と言うのが進歩だ。
ポンポコさんも
﹁今まで兄弟達と話してきたが、今日が一番楽しかったぞ。ありが
とうな﹂
635
と言ってくれたし、すごく気分がいい誕生日会だったな。
と言う訳で月曜日になった訳だが⋮⋮、土曜日は完全な徹夜で、日
曜日も普段ほど寝てないせいで、かなり眠い。
あの気分の良さとはすごく対照的な状態だ。
その上現在の格好は猫っ子か⋮⋮。ポンポコさんの兄弟は何でこん
なん持ってたんだろう?
駅のホームにいてもすごい注目っぷりだな。穴があったら入りたい
気分だ。
﹁おっす、ヤス!何か久しぶりだな!﹂
﹁ケン、おはようにゃあ。確かに、普段は土日もあってるからにゃ
あ。3日振りでも久しぶりな気がするにゃあ﹂
徹夜のせいもあり、ずっと会ってなかった気分だ。
﹁ぶっ⋮⋮!やめて!ぶふぅ⋮⋮!その格好でその口調は笑えすぎ
る!サツキちゃんから聞いて、心構えはしてきたんだけど⋮⋮無理
!もう駄目!くくっく⋮⋮﹂
この野郎⋮⋮!俺がどれだけ恥ずかしい思いをしていると思ってる
んだ。
636
﹁うるさいにゃあ!そう思うんにゃら、話しかけるにゃあ!﹂
﹁や、やめて⋮⋮!は、はなれてくれ⋮⋮!お、俺の腹が壊れる⋮
⋮!!﹂
携帯買ったときも似たような反応したよなあ。
うん、何かむかつく。
今日はもう話しかけてやんねえ!
登校中も朝の会の前の教室内にいる間もほんとに恥ずかしい。
あの後、ケンの事は無視して学校に行ったのだが、ぶっちゃけケン
と一緒の方がよかった気がした。
延々と注目を集められ続けると言うのがこんなにきついもんだとは
知らなかった。
ケンが入ればケンとの会話に集中できたかも⋮⋮今日は無理か、会
話が成り立たんもんなあ。
ウララ先生にもすごくびっくりされてしまった。
⋮⋮そろそろ機転をきかさないと俺の神経が持たない。
﹁あのですにゃあ、ウララ先生!これは、来週行われる文化祭の宣
伝のためなんだにゃあ!﹂
﹁そ、そうなの?え、えと?猫娘に関係ある事私たちのクラス何か
やったっけ?﹂
﹁このクラスは、﹃何でも揃った占いの館﹄じゃないかにゃあ。そ
の中の1つに生年月日で12種類にわける動物占いがありましたに
ゃあ!だから猫娘になったんだにゃあ﹂
637
﹁え?でも、動物占いの結果に猫っていないよ﹂
あれ?そうだっけ?
サル、チータ、クロヒョウ、ライオン、トラ、タヌキ、コアラ、ゾ
ウ、ヒツジ、ペガサス、オオカミ、コジカ。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ふにゃーーーー!ウララ先生なんて嫌いだにゃあ!せっかく体は
って頑張ってたんだにゃあ!!台無しだけど、これからもにゃあに
ゃあ言い続けるんだにゃあ!!﹂
﹁ああ、猫娘ごめんね。そんなに笑って欲しかったのね。今から思
いっきり笑ってあげるから⋮⋮ぷぷぷっ⋮⋮あははははははははは
はははははははははははっ﹂
﹁ウララ先生、笑うにゃあ!!﹂
﹃あははははははははははははははははははははっ!!!﹄
638
﹁クラスのみんな、みんな敵だにゃあ!!﹂
﹃あははははははははははははははははははははっ!!!!!!﹄
ううう、このクラス、嫌いだ。
ケンがきちんと罰ゲームをしているか見張りをしてるので、律儀に
ルールを守っているのだが、ウララ先生以外の頭の固い先生にはち
ょっと参った。
この格好は文化祭の時に使うもので、今の内から羞恥心に慣れてお
かないと、成功できそうにないと言うシナリオを考えて、何とか場
を流していった。
そして、長かった授業も終わり、今日の部活が始まる。
サツキとポンポコからもらったこの時計を初めて使うのだ。
ちょっと楽しみだな。
639
76話:学校周りの距離の計測
さて、部活の時間になった訳だが、一度既に顔に落書きをして練習
に来た事があったので、みんなそれほど驚いていなかった。
またか、くらいの感想のようだった。
ユッチはすっごい笑いをこらえてる顔をしてた。
ほんとはいじりたくてたまらないのに、笑いがこみ上げてきて話し
かけられない、とジェスチャーで教えてくれた。
⋮⋮お前のそのジェスチャーも中々面白いのだが⋮⋮俺が言っても
説得力ねえなあ。
今日の集合が終わり、短距離と長距離にわかれる。
﹁ヤス、体を張っているな。中々笑えるぞ﹂
﹁ポンポコさん⋮⋮、勘弁してにゃあ﹂
お、ポンポコさん、俺が買ったブレスレットをしてくれている。中
々嬉しいものがあるな。
﹁ふむ、そんな声を出されると、どんどんいじめたくなるぞ﹂
ポンポコさん!あなたSですか!?
﹁まあ冗談は置いといて、まずは学校周りの距離を測定しようか。
ヤスは距離の測定方法は知っているか?﹂
﹁いや、知らないにゃあ﹂
640
﹁⋮⋮仕方ないな、最初は私も一緒に測ろう。距離も分からずにた
だ走るだけではな⋮⋮﹂
﹁わかったにゃ、ありがとうにゃ﹂
一緒に計ってくれるならありがたい。
しかし、どうやって測るんだろうな?
﹁ポンポコさん?どうやって測るのにゃ? まさか小学校の時見た
いに、歩幅を測定して、歩数×歩幅で距離を測るとかするのかにゃ
?﹂
﹁それでは、ちゃんとした距離が測れんではないか。そんな方法一
体どこで使うんだ?﹂
えと、どこだろう?
確かに、正確な距離が分かんなきゃ地図作成するときも使えないし、
あの方法って一体なんで勉強したんだろ?
﹁まあいい、さっさと学校周りを測ろう。2年生の長距離組は今日
は無視してしまえ、一兄が言っていたが、あんな練習はずっと続け
ててもそんなに効果はないぞ﹂
﹁了解にゃあ、一応先輩に了解を得てくるにゃあ﹂
確かに、あの練習には辟易してたからな。
うー、今日に限って言えば、真面目な話をしてるはずなんだが、﹃
にゃあ﹄のせいと、このネコミミ&猫のシッポのせいでふざけてい
641
るようにしか見えん。
﹁⋮⋮えと、せ、先輩⋮⋮﹂
先輩と話すのは、まだ慣れんなあ。
﹁ん?なんだ?﹂
﹁⋮⋮えと、今日ずっとこの格好なので⋮⋮﹂
﹁ふんふん﹂
﹁⋮⋮邪魔になると思うので⋮⋮別に練習⋮⋮﹂
﹁何でその格好でいないといけないんだ?ネコミミと猫のシッポを
外して顔洗ってくればいいだろ?﹂
う⋮⋮実に正論を言う人だ。
先輩たちとと練習がしたくないってはっきり言いたいんだが⋮⋮。
﹁ウララ先生の命令で⋮⋮﹂
﹁ウララ先生の命令か⋮⋮じゃあ仕方ないな⋮⋮わかった。別に練
習してろよ﹂
ウララ先生ごめんなさい、あなたの名前を借りました。
それにしてもこんなに簡単に納得するなんて、ウララ先生の名前の
力は偉大ですね。
﹁ポンポコさん、OKもらってきたにゃあ。﹂
642
﹁うむ、では行くぞ﹂
﹁でも、どうやって測るのにゃ?﹂
﹁ロードカウンターと言うものがある。これだ﹂
ポンポコさんが出してくれたのは、1本の長い棒だ。先端に1個だ
け車輪がついていて、それの横にメーターがついている。
﹁これを車輪を地面につけ、転がすだけで簡単に距離測定が可能だ。
これでまずは学校周りの距離を測るぞ﹂
コロコロと転がしながら、距離を測る。
こんな簡単に測れるのに、何で今まで測らなかったんだろうなあ?
﹁これって学校にあったものかにゃ?﹂
﹁ん?ああ、そうだ。多分大体の高校にあると思うぞ。なくても6
000円程度で買えるから、なかったら部費で買おうと思っていた
んだ﹂
﹁へー、そうなんだにゃあ﹂
ぶっちゃけ﹃にゃあ﹄をつけるのはめんどくさいのだが、そろそろ
終わらせてくれないかなあ。
⋮⋮無理だよなあ。
643
2人とも無言で距離を測る。途中、先輩たちの集団が隣を走ってい
ったが、無視して測り続けた。
先輩たちの集団の中に既に1年生達の姿はなく、ノンキとマルちゃ
んは既に遅れてて、ヤマピョンはそれよりも先に走っていた。
﹁ふぅ、長距離の1年生は本当にやる気がないな⋮⋮特にノンキと
マルは最悪だ⋮⋮﹂
ほんとその通りです。
﹁ヤスもこんな環境では今後やる気になったとしても、モチベーシ
ョンを保つのが大変だと思う。その時にヤスが取る方向は2つだな。
1つは、自分だけ全く別に練習する方法、もう1つはあのやる気の
ない1、2年生を何とかやる気にさせて、ともに練習する方法。﹂
うーん、後者はめんどくさすぎるな。
﹁最低限、ヤマピョンだけはやる気にさせる事は可能だと思う﹂
﹁ヤマピョンは結構やる気なんじゃないかにゃあ?いつもちゃんと
走ってるし﹂
﹁いや、あいつはただ単に自分の好きなように走っているだけだ。
もし、ヤツのギリギリの能力できつい練習を思い切りさせようとす
ると、今の気持ちの持ちようではやめてしまうだろうな﹂
よくみてるな、ポンポコさんは。
自分が感心した目で見てると、ポンポコさんはたいしたことでもな
いと首を振った。
644
﹁ただ単に私とヤマピョンと私は同じクラスだからな。ほんの少し
は話もしたから分かるだけだ。﹂
﹁あのヤマピョンと話が出来たの!?すごいねポンポコさん!!﹂
﹁ん?語尾にちゃんと﹃にゃあ﹄をつけてくれ。約束は守るべきだ
ぞ﹂
﹁⋮⋮ご、ごめんにゃあ﹂
あまりにびっくりしてつい口調が元に戻ってしまってたが⋮⋮もう
そろそろほんとに﹃にゃあ﹄は嫌です!1週間もやりたくないっす!
それにしてもヤマピョンときちんと会話するなんてすごいな。俺に
は無理だ。
﹁あいつに関しては、うなずく事と首を振る事は一応するからな。
イエスノーで答えられる質問をしただけだ。⋮⋮っと測り終わった
な。ん?1キロメートルくらいあるって言っていたが、820メー
トルしかないぞ。サバを読み過ぎだなこれは﹂
えーと、つまり⋮⋮今まで9周走っていて、9キロメートルだと思
っていた距離は、820×9で7380メートル。
うわ、1.5キロ以上短いじゃん!
﹁最近は練習の質が大事だと言われているが、長距離の練習は、ど
んなに質が大事と言っても、ある程度の距離を走らないときついと
思うぞ。10000メートルに出場するのに、練習で8キロメート
ルまでした経験していなかったら、絶対残り2キロメートルはばて
ると思うぞ﹂
645
確かに、本番で120%の力を出せ!とか訳の分からん小説やドラ
マがあるけど、基本的には練習でやった事しか出せないもんだよな。
﹁わかったにゃ。ありがとうにゃ⋮⋮ところでどんな練習をすれば
いいのにゃ?﹂
﹁⋮⋮私は知らないな。ヤスこそ、今まで練習していたんだから知
らないのか?﹂
﹁知らないにゃ。しょうがないにゃ、指導者もいないし、先輩もや
る気もないし、場所もないのにゃ﹂
﹁三重苦みたいな言い方をするな、ヘレンケラーでもあるまいし﹂
ふむ、よく知ってるなあ。
⋮⋮どうでもいいが、﹁にゃあ﹂って付けてしゃべり方を変えると
別人みたいだな⋮⋮。今後はゲームする時、挑発されても罰ゲーム
なんてもう乗らねーぞ。
﹁それじゃ、私は短距離の練習に戻るが、こんな環境でもくじけず
頑張れよ﹂
﹁わかったにゃ、ありがとうにゃ﹂
﹁﹃にゃあ﹄をいい損ねたら、1日ずつ増やしてもらうからな﹂
ぽんぽこさん、ひどい!
これ以上俺に生き恥をさらさせないで!
646
77話:大山祭
あれから1週間、登下校中、授業中、部活中もずっと猫娘の姿でい
た。
正直しんどかった⋮⋮。
部活では学校周りの距離も分かり、時計も付けて走っているんだが、
一体どの程度で走ればいいのかさっぱり分からない⋮⋮。
1周820mだとどのくらいのタイムで走ればいいんだろ?
結局、ラップタイムなる1周ごとのタイムと合計タイムをノートに
メモるようになっただけで、今までとそう変わらない日々が続いた。
そう言えばこの前、ヤマピョンの話をしてたけど、最近どんどん元
気がなくなってるな。
ヤマピョン、先輩に対してもおどおどとした対応しか出来ないから、
ほんときつい言葉言われてる。
⋮⋮大丈夫かな?
大山祭初日、6月27日金曜日、体育祭の時には自分以外にも変な
格好をしてる人が大勢いた。
俺に触発されたようで、体育祭くらい、みんなして変な格好をしよ
うというのが流行ったみたい。
647
ウララ先生は大喜びだったけど、固い先生は渋い顔をしていたなあ。
体育祭はケンの大活躍で、うちのクラスは1年生の中では1位にな
れた。
ユッチのクラスは1年の中で2位だった。俺に対してめちゃくちゃ
悔しそうな顔してたなあ。
ユッチの悔しそうな顔を見れただけでも体育祭は満足だ。
2日目の文化祭は学内限定公開だ。
うちのクラスの、﹃何でも揃った占いの館﹄は中々の混雑っぷりを
見せた。
特に人気だったのは、手相占いと姓名占い、そして俺の担当する動
物占いの中の相性占いだ。
⋮⋮意外と学校内でもカップルって多いのな。
まあ、カップルだけじゃなくて、親友同士とか、部活内で誰と誰が
いちばん相性がいいでしょう!?
のようなノリで来る人も大勢いた。
占いってみんな好きなんだなあ。サツキもこういうの好きなのかな?
今度聞いてみよ。
後、困ったのが、これだ。
普通のカップルで来るならいいんだけど、1回だけ、四角関係の女
648
男女女で来たのだ。
⋮⋮えと?ハーレム男?
まあ、ただのハーレム男ならまだいいんだけどなあ⋮⋮俺の前でド
ロドロの話をしないでくれ⋮⋮。
しまいにゃ女同士で大げんかし始めるし。男ももっとずばっと言っ
てくれよ。
何で俺がとばっちりを食わなきゃいけないんだ!
そういや陸上部1年同士ってそんな話全くないなあ。
陸上部って平和だなあ。
最終日、6月29日の大山祭は例年にない盛況っぷりだったそうだ。
どうやら、俺のあの格好が、近隣の住民へのいいコマーシャルにな
ったみたいだ。
1週間延々と猫娘の格好をしてたからなあ。
今まで、あまり近隣の人たちへポスターでの告知等あんまりしてい
なかったんだとか。
それが、今年は猫娘が堂々と町を歩いていたから、町の人たちも何
かあるのかな?と思ったらしい。
ついでにケンのヤツが、俺といる時にそこら中で猫娘の俺を宣伝し
てたからな。
649
ついでに今日になって知ったんだが、いつの間にか俺の写真を勝手
に撮って、
﹁6月29日は大山祭!猫娘と一緒に写真を撮ろう!﹂
とか俺のポスターを作成して作ってた。しかも無駄に上手い。
ケンのヤツ、肖像権の侵害で訴えてやる!
ちょっと腹が立ったのが、マルちゃんが自分の持ち場を放棄して、
お隣に住んでいるという幼馴染と一緒に俺の前に相性占いを来たと
きだ。
持ち場を放棄すんな!
マルちゃんのお隣さんは本当に女だった。
おいらって聞いたときはちょっと男?とか思ったけど、さすがにそ
んな事は無かったな。
しかし⋮⋮スポーティッシュなイメージを持っていたんだけど、外
見だけだと静かにしてるようなイメージに見えるなあ。めっちゃ綺
麗だし。
うむ、マルちゃんと並んだらまさに美女と野獣だな。
﹁ちょっとお願いがあるんだけど、占ってくれないかな?⋮⋮すぐ
に済むでしょ?はやくしてよ﹂
⋮⋮なんか、久々に話しかけられたけど、マルちゃん前と態度が違
うな。何でそんなに偉そうなんだ?
650
ああ、そっか。お隣さんがいるからか。お隣さんにいい所を見せた
いんだな⋮⋮まあいっか、占うか。
﹁えと⋮⋮生年月日を教えてくれないかにゃ?﹂
﹁僕は1992年4月13日﹂
4月13日か、中々不吉な生まれ方をしてる。誕生日が金曜日だっ
たりするのかな?
﹁⋮⋮お隣さんはなんにゃ?﹂
﹁おいら?おいらは1993年4月1日﹂
あ、ほんとに、おいらって言うんだね。
4月1日じゃ、あと少し遅く生まれたら後輩じゃん。
﹁さてさて、では占うにゃ。マルちゃんが黒ひょう、お隣さんが虎
だにゃ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
ちょっとは溜めないと面白くないもんな。
みのもんたみたいに溜めすぎると腹立つけど。
651
﹁⋮⋮相性は5段階の中の1。⋮⋮最低だにゃあ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮うそ?﹂
﹁ほんとだにゃあ。でも、これは占いだからにゃあ?そんなに気に
する事無いにゃあ﹂
実際俺の両親もこの占いやってみたら最低だったしな。
でも、羨ましくなるくらい仲良くしてる。
﹁ヤス、ちゃんと占ってよ。にゃんにゃん言ってないで真面目にや
ってよ﹂
﹁えと、ちゃんとやってるにゃ?﹂
むしろお前がサボってるじゃんと言いたい。俺なんか、ケンがCM
しまくったせいで、自由時間がほとんどないんだよ。
さっきここの担当が終わった時は、何故か写真撮影会!とかさせら
れたし。
﹁そんなん嘘だよ。猫なんて気まぐれだもんね。占いだって気まぐ
れで変えちゃうんでしょ﹂
えーと、そんなに占いの結果気になるの?
652
他のとこ回ってみたら?きっと星座占いや血液型占いで毎回占いの
結果変わるんだから。
﹁⋮⋮ごめん。マルのヤツがこんなので。最近話してても、君の事
馬鹿にしまくってるんだ。やめろって言ってもやめてくれなくて⋮
⋮﹂
﹁にゃ?⋮⋮馬鹿にされたのかにゃ?⋮⋮気付かなかったにゃ⋮⋮﹂
お隣さんが謝ってきたが、馬鹿にされてたんだな、俺。
ってか、あの程度で怒っていたら、ポンポコ家族の悪意の無い暴言
の数々や、ウララ先生の校内放送には耐えられんぞ。
﹁君ってタフだなあ⋮⋮あ、次の所も回るから、もう行くよ。また
会えたら会おうぜ!﹂
そう言って、マルちゃんと去っていった。
あの外見であの口調。
⋮⋮面白い、ギャップが。
653
結局、大山祭、1年3組は学校全体の2位で終わった。
1位には2年4組の﹁格付けチェック!君に映す価値はあるか!?﹂
というものが大受けしたらしい。
映す価値なしになると、その日1日顔にマスクをかぶって過ごすん
だとか。
ユッチがマスクをかぶって参上したときは、さすがに
﹁にゃはははははははは!ば、ばかじゃないのかにゃ?﹂
﹁わ、笑うなあ!ヤスだって変な格好のくせに!﹂
﹁だ、だってアントニオ猪木はにゃいよ。ほら、1、2、3、ダー
!ってやるんだにゃ﹂
﹁う、うるさいい!ボクだって好きでやってるんじゃない!せっか
く遊びに来たのに、ヤスなんて嫌いだあ!﹂
あ、行っちゃった。せっかく遊びに来てくれたのに、悪い事したな
あ。
でも、猪木か。確かに面白そうだったなあ。俺もやってみたかった。
654
77話:大山祭︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
すみません、学園祭はさらっとながしちゃいました。
私たちの高校では、いろんな小説でやってる、喫茶店みたいなのは
無かったんですが︵お金の取り扱いが基本的に禁止でした︶、他の
高校ではどうなんでしょう?
大山高校でも、似た感じで。
それではまた。
655
78話:お疲れさま会&古本談義
や、やっと猫娘期間が終わった。
ようやくあの恥ずかしいネコミミ&猫のシッポ&語尾に﹁にゃあ﹂
の期間が終わった。
6月29日の大山祭終了までという約束だったからな。
今は6月29日日曜日の夕方。大山祭が終わり、うちで俺とサツキ
とケンとアオちゃんでお疲れさま会をしてる。
ユッチやポンポコさん、ヤマピョンも来るかと思ったけど、自分た
ちのクラスでお疲れさま会をやるからって来なかったな。
ウララ先生も自分たちのクラスでお疲れさま会を開催してたけど、
俺はめんどくさかったので逃げてきた。
ケンはウララ先生と行きたかったみたいだけど、1人で帰るのが嫌
だった俺が頼んで来てもらった。
で、それにアオちゃんがついてきた。アオちゃんは一度俺の家に来
てみたかったみたい。
みんなにジュースが行き渡った所でケンが音頭をとる。
﹁では、大山祭、準優勝を祝いまして﹂
﹃カンパーイ!﹄
さてさて、それにしても今週は疲れた。
﹁あー、ヤス兄の接客見たかったなあ。一般客にもにゃんにゃん言
656
ってたんでしょ?﹂
﹁そうそう、ヤスの真面目な顔で、口調が﹃にゃあ﹄だからな。そ
のギャップが馬鹿ウケだった。写真撮影会も、あれだけ告知しまく
っただけあって、大勢来たぞ﹂
﹁ってか、あれじゃ晒しじゃん!﹃俺と撮影会をしよう!﹄じゃな
くて、途中から俺を携帯でぱしゃぱしゃ取るだけだったじゃん!﹂
実際のとこ、俺と一緒に写真に映ろうってしたのって、アオちゃん
とヤマピョンの2人だけじゃないか?
他の人はただ単に俺を撮って楽しんでただけだったなあ。
﹁撮られる快感に目覚めたりしなかった? ヤス兄?﹂
﹁誰がするか!﹂
二度と撮影会なんてしない!
﹁ヤス君、1週間ずっと﹃にゃあ﹄って言ってたのに、普通の口調
に戻ると違和感がありますね。これからは毎回﹃にゃあ﹄をつけま
せんか?﹂
﹁いやだ!﹂
何故そんな辱めを受けねばならん。
﹁残念です⋮⋮面白いのに⋮⋮﹂
﹁だよなあ、今思い出しても笑える⋮⋮ククッ﹂
657
俺はアオちゃんやケンのおもちゃじゃないから!
﹁そういや、サツキちゃんは何で来なかったの?日曜だからいつも
なら来そうなのに﹂
ケンがサツキに聞く。そんな事聞くな。分かりきってるんだから。
﹁午前中は寝てた﹂
ほら、俺の家族は基本全員ねぼすけなんだよ。
﹁午後からは何で来なかったの?﹂
﹁午後からソフトテニスの練習。もうすぐ最後の大会だからね﹂
﹁だな、楽しみだ。絶対に応援に行くからな!﹂
﹁ぎゃーぎゃー騒がないでよ。ヤス兄﹂
そんな事はしない。ちゃんとマナーは守るぞ。
658
大山祭について色々話している時に、アオちゃんが聞いてきた。
﹁それにしても、ヤス君の部屋って漫画多いですね。何冊くらいあ
るんですか?﹂
﹁えっと⋮⋮だいたい500冊くらいかな?これって多いの?﹂
﹁多いですよ。普通そんなに持ってません。そんなに買ったんです
か? ヤス君ってケチじゃなかったでした?﹂
﹁節約家と言ってくれ。スーパーに毎日通ってれば、嫌でもそうな
るぞ﹂
アオちゃんってわざと俺を怒らせるような言い方を選んでるのか?
﹁そうそう、そう言いたかったんですよ。でも、ほんと多いですね﹂
﹁大丈夫、全然金かかってないから。これ全部古本屋で買ったヤツ
だし。3冊で100円とかで買ったりもしたから。小学生から集め
ててずっとそんな風にしか買ってないし﹂
﹁⋮⋮ヤス君、それはまずくないですか?﹂
659
﹁ん、なんで?サツキも漫画持ってるけど、全部古本だよな?﹂
﹁え?そだよ。新品って高いじゃん。他の人が読んでたって言って
も、別に気にならないし。そんなに潔癖性じゃないよ﹂
うむ、アオちゃんってそんな潔癖性なのか?人が読んだもんなんて
読みたくないなんて、図書館が利用できないじゃないか。
﹁いえ、そう言う訳じゃないんですが⋮⋮﹃21世紀のコミック作
家の著作権を考える会﹄って知ってます?﹂
﹁ああ、知ってるけど、それがどうかした?﹂
﹁えと、どうかしたって⋮⋮古本って書いた人の所にお金が入らな
いじゃないですか?だから新品買ってあげないと、漫画家の人たち、
生活できないですよ?﹂
﹁はあ⋮⋮﹂
アオちゃんは高校生の財布の事情を分かってないなあ。
﹁で、お小遣いくらいしか収入の無い中学高校生に新品を買えとア
オちゃんは言うのか⋮⋮月々300円で生活する俺に、新品を買え
と言うのか⋮⋮﹂
﹁な、何か嫌らしい言い方しますね、ヤス君﹂
あ、ちょっと怒ったかな?
660
﹁でも、アオちゃん先輩?実際私だって月々1500円ですよ?ヤ
ス兄と映画観に行ったら、残り500円しか無いんですよ?新品買
ったら、100円しか無いですよ?﹂
﹁あ、うん、そうですね。だから、私も、月々1冊くらいしか買っ
てませんし﹂
おお、初めてかもしんない。アオちゃんがどもってるの聞くの。
ってか、アオちゃんもそんなに金ある訳じゃないんだね。
いや、失礼な言い方しちゃったな。申し訳ないです。
﹁安く買えるなら、安く買えた方がいいに決まってるんですよ。ア
オちゃん先輩だって、たくさん買いたくないですか?﹂
﹁ええ、それは⋮⋮でも、そうすると、漫画家さん達が⋮⋮﹂
サツキ、攻め過ぎ。アオちゃん困ってる困ってる。
もう少し押さえよう。
﹁だから、﹃21世紀のコミック作家の著作権を考える会﹄とかい
う所のアプローチが変なんですよ。なんで古書店を無くそうって考
えになるんですか?あんな便利なシステム無いですよ?資源の無駄
遣いも無くなりますし﹂
まあ、そうだなあ。
環境問題とか、よくわからんけど。
﹁えと?じゃ、どうすればいいんでしょう?﹂
﹁古書店にも、印税みたいなものを支払わせればいいんじゃないで
661
すか?カラオケだって1曲歌われるたびに、歌手にお金が入るって
話ですよ﹂
カラオケはそうらしいけど、漫画はよく分からんね。
なんで漫画に歌詞を載せるとJASRACとか言うよく分からんと
ころにお金が入るんだろ?
﹁そ、そうなんですか⋮⋮﹂
﹁ほら、サツキ、押さえて押さえて。アオちゃんがビビってるから﹂
﹁あ、ごめんなさい。ついヤス兄としゃべってるときみたいになり
ました﹂
﹁え!?俺としゃべる時、そんな攻め口調!?﹂
﹁ヤス兄、気付かないから楽しくて﹂
﹁楽しむな!﹂
全くサツキは⋮⋮。
﹁でも、確かにそうですね、全く同じ品なら安い方がいいですよね﹂
﹁そうそう﹂
アオちゃんも納得したみたいだ。
うん、上手くまとまったかな?
ってか、アオちゃんが聞きたかった事ってそれだったんか?
662
78話:お疲れさま会&古本談義︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
さっき調べたら、カラオケでも、JASRACって関係してるみた
いです。
JASRACというところ、著作権管理とかをしてるそうです。
でも、結局具体的に何してるかここのサイト読んでも、全然分かり
ません⋮⋮。
アホな自分が悔しい⋮⋮。
それではまた。
663
79話:漫画談義、ヤス編
﹁そういや、アオちゃんが聞きたかったのって、古本の討論?﹂
そんな訳無いよな。
﹁え?いえ、漫画の種類にバラツキがあるなあと思いまして。どう
いう基準なんですか?﹂
んー?そんなにばらつきあるかなあ?
﹁完全な超人ものは嫌い。駄目人間に、実は隠れた才能が⋮⋮って
言って、トントン拍子に話が進むのも好きじゃない。スポーツもの
で、試合の最中に勝手にアホみたいに強くなってく話も好きじゃな
い。異世界飛んで、そこでいきなり会話が成立するの見るとむかつ
く。あと、恋愛ものも基本的に嫌い。特に、スポーツ中に恋愛感情
が絡んで、強くなったり弱くなったりするの見ると腹立つ。﹂
﹁ヤス君、好き嫌いが激しいですね。食わず嫌いは駄目ですよ﹂
一応一度は食ったけど、受け付けないんだ。悪いか。
﹁なんで嫌いなんですか?﹂
﹁完全な超人系は全てそいつが解決してくから、読んでて面白くな
い。そんな万能なやついるかって思う﹂
﹁ヤス兄、ひがんでるんだよ。何でこいつは!って。フィクション
664
なのにね﹂
﹁うるさい!﹂
何か読んでて腹立つんだよ、﹃YAWARA﹄とか。猪熊柔、負け
ないじゃん!悔しいじゃん!
確かにレスリングのあの人とか、100何連勝とか現実でもしてた
けどさ。
﹁んで、隠れた才能があって、トントン拍子に話が進むやつ?それ
とスポーツで試合中に強くなるやつ?ふざけんなって感じするじゃ
ん?練習量で勝ててないやつが勝てるか!って思うじゃん?﹂
あ、前言撤回。﹃YAWARA﹄はありだ。基本的には練習してる
人が勝つし。
﹁ヤス、漫画なんだから気にするな。だいたいその方が盛り上がる
だろ?弱いやつが強いやつに勝つ話ほど盛り上がるもんなんだぞ﹂
﹁ああ、確かにケンの言う通り弱いやつが勝つ話は確かに面白いけ
ど勝ち方があるだろ?いきなり強くなってく話とか、ありえないじ
ゃん﹂
﹁⋮⋮ああいえばこう言うやつめ⋮⋮﹂
うるさい、好みの問題だ、好みの。
﹁後は、異世界とんで、いきなりむこうでも日本語使ってるとか、
ありえないじゃん﹂
665
﹁そんな話だけじゃなくて、道具を使ってたり主人公の特殊能力だ
ったりもしますよ?﹂
﹁それはずるい、苦労しないで身につけてる力ってずるすぎる﹂
﹁いいじゃないですか。異世界飛んだ場合はたいてい救世主なんで
すから。救世主は何でもありなんですよ﹂
いや、そこまで行くと主人公ずるすぎるから駄目。
十二国記も、主人公だけ最初から翻訳して聞こえるってずるいやん
と思った。⋮⋮ただ、それ以外の部分が面白くて、読み切ってしま
ってるけど。あ、これは小説の話か。
﹁じゃあ、恋愛ものは何で駄目なんですか?﹂
﹁だってさ、何となくエンディングが予想つくじゃん。﹃ああ、き
っとこの人とこの人がくっつくんだなあ﹄って。外れたら外れたで
違和感が残るよ?﹃どう考えてもそんな雰囲気無かったよなあ﹄っ
て。だからといって振られる話にするとめちゃめちゃ読んだ後、後
味が悪いじゃん? 予想がつくと面白くないし、外れると違和感が
残り、バッドエンドにすると後味が悪すぎ⋮⋮読まなくてもいいと
思わない?﹂
﹁バッドエンドの恋愛漫画は読まなくていいです。恋愛漫画は疑似
恋愛を楽しむものなんですよ。だからハッピーエンドでいいんです﹂
アオちゃんは恋愛漫画、結構読むんかな?
﹁そうなんかな?でも、サツキもあんまり恋愛漫画読まないよな?﹂
666
﹁そうだね、恋愛漫画って基本的にあんまり笑えないもん。嫉妬し
たり、ドキドキしたり、ほんわかしたりって笑えないじゃん?何で
笑えないのを読まないといけないの?﹂
サツキの基準は笑えるか笑えないかだからな。
⋮⋮それでいいのか、サツキよ。
﹁それで、結局どんなのが好きなんですか?﹂
﹁戦術、策謀が巡る話。もしくは、隠れた才能があっても、イチイ
チ苦労する話。あとはホームドラマだな。ただ、ホームドラマは好
き嫌いがあるけど。ちなみにちびまる子ちゃんはOK。﹂
﹁なかなか選びにくいですね。ヤス君に漫画を紹介してもらうとひ
どい目に遭いそうです﹂
そんな事無い。俺の漫画選びは上手いはずだぞ。
﹁えと、あるのは⋮⋮スポーツものだと﹃ラストイニング﹄﹃ダイ
ヤのA﹄﹃大きく振りかぶって﹄﹃スラムダンク﹄﹃P2﹄﹃オフ
サイド﹄ですか。で、ホームドラマ系が﹃ちびまる子ちゃん﹄﹃あ
かちゃんと僕﹄﹃動物のお医者さん﹄﹃よつばと!﹄。⋮⋮あ、戦
争ものもあるんですね、﹃三国志﹄﹃項羽と劉邦﹄﹃山賊王﹄。他
には⋮⋮﹃ダイの大冒険﹄⋮⋮やっぱり選び方がよく分からないで
すね。スラムダンクとか、ダイの大冒険でも、全部超人じゃないで
すか?﹂
﹁スラムダンクの桜木花道は確かに超人だけど、完璧って訳じゃな
いじゃん?毎回退場してたし、桜木のミスで負けたりしてたし。2
万本とか頑張ってたじゃん?﹂
667
﹁あー、そうですね﹂
﹁で、ダイの大冒険はダイはどうでもいいんだ。この作品の主役は
ポップだ。悩んで悩みまくって弱いながらも知恵絞って強くなって
くところがいいじゃん?⋮⋮終盤でアバン先生が﹁この数ヶ月間の
話は聞きました﹂って聞いた瞬間、かなりがっくり来たけど﹂
そんな数ヶ月で一気に強くなってたまるか!?
と思うんだが。
﹁ヤス君、ほんと選び方が厳しすぎですよ。もうちょっと幅を広げ
ないと。視野が狭すぎです﹂
なかなか、漫画で大げさな発言をするな。
アオちゃんもこだわりが激しいんかな?
668
80話:漫画談義、サツキ、ケン編
﹁ヤスの漫画選びも偏りあるけど、サツキちゃんの漫画選びもすご
いものがあるよな﹂
﹁え?そっかなー? 普通だと思うんだけど。ケンちゃんの方こそ
感覚おかしいんじゃない?﹂
俺から見たらどっちもどっちなんだが⋮⋮。
﹁ケン君とサツキさんはどんなのを読んでるんですか?﹂
﹁俺はスポーツ物だな!﹂
﹁私は笑える漫画、それが一番です!﹂
﹁⋮⋮分かり易いですね。ヤス君とは大違いです﹂
うるさい、こだわりがあって何が悪い。
﹁でもケンちゃん、スポーツ物とか言ってもありえない技を繰り出
す物まで混ぜてるよね。消える魔球を投げる作品とか。後、ヤス兄
が嫌いな恋愛色ばりばりの作品とか﹂
﹁いいんだよ、それで。スポーツやる理由だって色々あるんだから。
サツキちゃんだって﹃テニスの王子様﹄持ってるじゃん。あれもあ
りえない技を繰り出しまくるよ⋮⋮俺も全巻揃えているけど。 で
もあれ、お笑いの漫画?﹂
669
﹁ケンちゃん、何言ってるの! それがすごい笑えるの! 例えば、
手塚部長の腕はみんなして﹃もう、やめてくれ!﹄とか叫ぶのに、
﹃バーニング!﹄って叫ぶ河村先輩は、天王寺戦で大怪我してるの
に、試合後存在を完全に忘れられて触れられないんだよ! そのギ
ャップは笑えるよ。 特に最終戦、立海大附属の雪村との試合は爆
笑物だよね。今までいろんな技が繰り出されたのに、分身するボー
ルだと、﹁ボールは分身などしない⋮常に1つだよ﹂と今までの話
を全否定する身もふたもない事言ったり、リョーマ君が吹っ飛ぶビ
ックバンサーブがあったのに、﹁力はあるけど打球が単純すぎる⋮
⋮﹂って言って普通に返したり⋮⋮。ほんと笑いが止まらないよ﹂
まあな。確かに、あそこまでめちゃくちゃしてくれると、スポーツ
なめるなとかどうでもよくなってくる。
﹁ヤス兄も意外と﹃テニスの王子様﹄好きだよね?﹂
﹁ああ、途中で﹃テニスの王子様﹄のロゴじゃなくて、﹃ビーチバ
レーの王子様﹄、﹃焼肉の王子様﹄みたいに細かい部分にこだわっ
てるのが楽しいし﹂
最後の大怪我してぐるぐるのミイラ男状態になった乾先輩の病院が
﹃包帯巻々総合病院﹄とか、その芸がいいよな。
﹁他にはどんな漫画持ってるんですか?﹂
﹁え?ええと、﹃みなみけ﹄﹃今日の5の2﹄﹃あずまんが大王﹄
﹃おそ松くん﹄﹃笑ゥせぇるすまん﹄﹃天才バカボン﹄﹃みつども
え﹄﹃お茶にごす﹄等々⋮⋮4コマ漫画系もたくさんありますよ。
全部ギャグ漫画ですけど﹂
670
サツキの部屋も漫画だらけだよな。俺ほどじゃないけど、300冊
くらい持ってた気がする。
﹁少女漫画、持ってないんですね。ほとんど少年漫画ですか﹂
﹁だって、少女漫画ってほとんど恋愛漫画しかないんですもん。笑
えないじゃないですか。⋮⋮あ! ﹃アニマル横町﹄は持ってます
よ﹂
それ、やっぱりギャグ漫画だけどな。
﹁あはは⋮⋮。人の好みは好きずきですよね﹂
アオちゃん、そんな苦笑いしなくても。
きっとアオちゃんは少女漫画、結構持ってるんだろうなあ。その話、
したかったんかな?
﹁ところで、ケン君はどんなのを持ってるんですか?﹂
あ、アオちゃん、強引に話を変えたな。
﹁俺? 俺は﹃風光る﹄﹃Dreams﹄﹃H2﹄﹃タッチ﹄﹃ク
ロスゲーム﹄﹃Mr.FULLSWING﹄﹃MAJOR﹄﹃ドカ
ベン﹄﹃野球狂の詩﹄﹃あぶさん﹄﹃巨人の星﹄﹃プレイボール﹄
﹃キャプテン﹄﹃おれはキャプテン﹄﹃クロカン﹄﹃ショーバン﹄
⋮⋮﹂
﹁⋮⋮野球漫画ばっかりですね﹂
671
野球漫画と言っていい物かどうかも混じってるけど。
﹁え? ああ、気付かんかった。他にも持ってるよ。﹃奈緒子﹄﹃
マラソンマン﹄﹃なぎさMe公認﹄﹃涼風﹄﹃シュート!﹄﹃アイ
シールド21﹄﹃はじめの一歩﹄﹃バンブーブレイド﹄﹃六三四の
剣﹄⋮⋮まだまだあるけど、とりあえずきりがないからな。﹂
多分、ケンの所持数はダントツだな。1000冊超えてる気がする。
まあ、ケンの兄貴と一緒に揃えてるから、自分で買った分は俺とそ
う変わらんだろうけど。
それにしても、スポーツ漫画、多いなあ。
﹁その中での俺の最高の作品は﹃バッテリー﹄だな!﹂
﹁ん? ケン。そんな漫画持ってたっけ?﹂
そもそもそんな漫画あったっけ?
﹁ヤス、知らないのか? あさのあつこ作の名作だぞ! 巧と豪が
主役の作品だ! ドラマ化もされたのに、何で知らないんだ!?﹂
﹁⋮⋮それ漫画じゃないから。小説だから﹂
﹁あ、そうだったな。気にしない気にしない﹂
ケン、お前は一休さんか?
⋮⋮全くケンのヤツは。いつの間に小説の話に変わった?
﹁ヤス君、﹃バッテリー﹄は漫画化されてますよ﹂
672
﹁え? そうなの?﹂
﹁ええ、﹃月刊Asuka﹄にて連載中です。私も読者の1人です
よ﹂
月刊Asukaって少女漫画じゃなかったか? 少女漫画で面白そ
うなのは時々読んだりするけど、そこまで守備範囲は広くないから
なあ。
﹁ヤス君達、少女漫画を全然読んでませんね。⋮⋮仕方ありません。
次は私が少女漫画の面白さを語ってあげましょう!﹂
えと、一応﹃ちびまる子ちゃん﹄と﹃赤ちゃんと僕﹄、﹃動物のお
医者さん﹄持ってるし、読んでない事はないつもりなんだけどなあ。
ってか、この漫画の話、いつまで続くんだろ?
673
81話:漫画談義、アオちゃん編
アオちゃんが少女漫画について語ってくれると言っていたんだが、
さて、何を語るんだろう?
﹁少女漫画は確かに恋愛漫画が多いです。その辺りで、ヤス君、サ
ツキさんが敬遠するのも仕方ないかもしれません﹂
うむうむ、よく分かっているじゃないか。
﹁しかし! 少女漫画だからといって、別に恋愛一筋の漫画ばっか
りじゃありません!﹂
ほほう、何を言い出すかと思えば。俺を本当に納得させる事ができ
るかな?
﹁例えば、﹃スケバン刑事﹄! 刑事ものです!﹂
まあ、確かに恋愛色は低そうだな。しかし、古い作品だな。
﹁例えば、﹃アタックNo.1﹄! スポコンです!﹂
まあ、確かに。しかし、また古い作品を。
﹁例えば、﹃エースをねらえ﹄! スポコンです!﹂
えと、さっきと説明が一緒だぞ。またまた古い作品だし。
674
﹁例えば、﹃ガラスの仮面﹄! あれは恋愛色は弱く、演技の話が
中心です!﹂
まあ、確かに。
しかし、やっぱり古いな。後、あれだけ主人公を不幸な目に遭わせ
るのは個人的には嫌なんだが。⋮⋮ああ、姫川亜由美は大好きだ。
﹁例えば、﹃あさりちゃん﹄! ホームコメディです!﹂
あれは面白いな。⋮⋮やっぱり昔からのだけど。
あの暴れっぷりがホームコメディというかは疑問だけど⋮⋮確かサ
ツキが全巻持ってたんじゃないかな?
あれって少女漫画になるのか?
﹁例えば、﹃プリキュアシリーズ﹄! 戦いばっかりです﹂
今見てるけど、漫画じゃないし。アニメだし。
﹁例えば、﹃セーラームーン﹄! タキシード仮面なんてほとんど
出てこず、戦いばっかりです!﹂
⋮⋮新装版、ついに最終回って聞いて立ち読みしたら、最終回はベ
ッドシーンな上に妊娠宣言だったんだけど。勘弁してよ。
﹁例えば、﹃彼氏彼女の事情﹄! ホームドラマです!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮あれって、そうだっけ?
﹁例えば、﹃NANA﹄! あれも、バンドの話が中心です!﹂
675
ちょっと待て、あれはばりばり恋愛だろ。しかもドロドロ。
大人気と聞いてコンビニでちらっと見たけど、あれってエロ漫画じ
ゃね?
本気で年齢制限いいんか?
﹁どうです? なかなか少女漫画もよくないですか?﹂
﹁⋮⋮昔はよかったなあ﹂
﹁なにじじ臭い事言ってるんですか!?﹂
﹁⋮⋮いや、昔の少女漫画なら読んでもいいかなと思ったから。っ
てか最近の少女漫画ってエロ漫画しかないの?﹂
﹁え?何でそんな風に思うんですか?﹂
﹁いや、﹃セーラームーン﹄﹃彼氏彼女の事情﹄﹃NANA﹄って
エロ漫画でしょ?﹂
﹁そんな訳無いじゃないですか。ヤス君、何言ってるんです?﹂
﹁いや、ちらっと読んだんだけど、全部ベッドシーンあるじゃん。
俺は漫画にそう言うのは求めてないんだけど、勘弁してって感じな
んだが﹂
せめて会話内で下ネタ入れるくらいにして欲しい。
⋮⋮そういや﹃YAWARA﹄にもあった気がするなあ。
﹁ヤス兄はそういうのはエロ本で。だもんね﹂
676
﹁サツキ! 言わなくていいから!﹂
妹よ、そう言う事をはずかしげも無く宣言しないでください。
﹁それを言うなら、﹃マガジン﹄の﹃涼風﹄だってそうじゃないで
すか。あれ、本当に少年誌に連載していいんですか?﹂
俺に言うな。その漫画を持ってるのはケンだ。⋮⋮ケンの方を向い
たら、知らん顔してる。⋮⋮あの野郎。
しかし、言われてみれば少年漫画にも載りまくってるよなあ。
﹁それに少女漫画でも﹃ちゃお﹄はそんな雰囲気はゼロです﹂
﹃ちゃお﹄か。⋮⋮えっと、今やってるのは﹃こっち向いてみい子﹄
とか﹃きらりん、レボリューション﹄だったかな?
確かに面白いのもあったな。﹃ぷくぷく天然回覧板﹄とか。
でも⋮⋮
﹁あれって小学生向きじゃない?﹂
さすがにもう読んでないんだが。サツキが昔母さんに買ってもらっ
てた頃は読んでたなあ。
﹁え? そうなんですか? 今でも妹と一緒になって読んでますよ
?﹂
ああ、妹とかいると、一緒になってみるもんだよな。
ちっちゃな頃、サツキに合わせて﹃おジャ魔女どれみ﹄とか、少女
アニメをよく見させられたもんだ。
677
⋮⋮いつの間にか俺も一緒になってはまってたけど。
﹁﹃ちびまる子ちゃん﹄やサツキさんの持ってる﹃アニマル横町﹄
はリボンの作品ですし﹂
ああ、﹃リボン﹄もそう言うのはなさそうだな。
﹁他にも、﹃花とゆめ﹄は全然そんな事ないですよ﹂
そういや、俺の持ってる﹃赤ちゃんと僕﹄﹃動物のお医者さん﹄も
﹃花とゆめ﹄の作品だった気がする。
﹁別に他の雑誌だって、そんな作品ばかりじゃないですよ。一部で
すって﹂
一部でも、雑誌を買う人は全部読んじゃう気がするんだけどなあ。
⋮⋮何か、考えてみたらエロ本の年齢制限って意味ない気がしてき
た。
﹁どうです!? 読んでみたくなりませんか!?﹂
﹁ええっと⋮⋮? どうよ、サツキ﹂
﹁うーん⋮⋮やっぱり笑えなそう? ⋮⋮えと、少女漫画ですと、
﹃桜蘭高校ホスト部﹄は面白いって友達から聞いた事あるんですけ
ど﹂
﹁ああ、あの作品は楽しいですから是非読んでください。私持って
ますから、今度お貸ししますよ﹂
678
﹁え? あ、はい、ありがとうございます﹂
今度ってこの2人、いつ会うんだろ? 会う機会って無くないか?
﹁ケン君はどうです!?﹂
な、何かアオちゃん、いつもの余裕さが今日は無いな。
よっぽど少女漫画好きなんだな。ちょっとは同意した方がいいんか
な。
﹁⋮⋮うむ、結論を言ってやろう!﹂
おお、なんか堂々としてるなあ。何言うんだろ?
﹁漫画本 好きなの読めば それでいい!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
679
ケン、全員あぜんとしてるぞ。わざわざ5・7・5にするとかアホ
だろ。
どうするんだこの空気。
﹁おいっ! 身もふたもない事言うな!﹂
アオちゃんの今までの必死な説明は何だったんだ?
﹁ん? ヤスは今の俺の結論に反対なのか?﹂
﹁あたりまえだろ! 紹介してたアオちゃんが馬鹿みたいじゃんか
!﹂
﹁そうか?﹂
﹁そうだって! あれだけ力説してたって事は面白いって事だろ?
じゃあちょっとは読んでみようと思うだろ? 普通!﹂
﹁ヤスはそう思ったのか?﹂
﹁もちろんだ! ものすごく読んでみたいさ!﹂
﹁うむ、じゃあ貸してもらえ。楽しかったら俺にも教えてくれ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮へ?﹂
あれ?何か変な事言ったような。
﹁ヤス君、ありがとうございます。今度学校に持っていきますね﹂
680
﹁え?ああ、うん﹂
﹁うわ、ヤス兄。そこで﹃うん﹄って言っちゃってどうするの?﹂
え? なんで? 返事するってまずいのか?
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あああああああっ!!!﹂
失敗した!
ケンにはめられた!
﹁あんな誘導に引っかかるの、ヤス兄くらいだよね。そこが面白い
んだけどね﹂
﹁⋮⋮くぅ、もういいよ。アオちゃん、面白いの頼むな! 恋愛色
は出来る限り薄いのをお願い!﹂
﹁ええ、わかりました。ヤス君にもサツキさんにも楽しめる漫画持
ってきますね﹂
うん、アオちゃんの感性に期待しよう。
そんな感じで大山祭お疲れさま会は終了した。
ってか、お疲れさま会っていうより、ただの漫画談義だったな。
681
81話:漫画談義、アオちゃん編︵後書き︶
こんにちは、やりすぎた気分でいっぱいなルーバランです。
ヤスとサツキの持っている本が私の好きな漫画ですね。
他にもありますが。
ケンとアオちゃんの持っている漫画もほとんどは読んだ事ある漫画
です。
⋮⋮﹃スケバン刑事﹄だけはないですね。
それらの漫画、もちろん読んでなくても全く問題ないです。
それではまた。
682
82話:請求書パニック
﹁な、なんじゃこりゃーーー!!!!!﹂
今日は7月3日⋮⋮。そんな事はどうでもいい。
長距離の練習を終え、家に帰ってソフトバンクさんからの請求書を
見た時の第一声です。ソフトバンクさん⋮⋮桁を1つ間違えてない
っすか?
17430円
⋮⋮⋮⋮。
何度見ても17430円に見える。
おれ、サツキ以外に誰にも電話してないっすよ。しかも、家族とケ
ン、ポンポコさん以外にはアドレスも教えてないのに⋮⋮。
今現在、俺のアドレス帳には5件のみ、サツキ、ケン、ポンポコさ
ん、母さん、父さんの5つ。
しかし⋮⋮。
ポンポコさんとは部活で毎日会うから結局何もしてないし、サツキ
とはソフトバンク同士の電話が0円になるってはずだから、やっぱ
り原因はケンか!?
俺は急いでケンに電話する事にした。
﹁もしもし?早川です﹂
683
﹁お、ケンか!?なんか先月の携帯代がすごい事になってんだけど
!お前の仕業か!?﹂
﹁え?ああヤスか。ええと、先月の携帯代がどうかしたのか?﹂
﹁なんでか1万円越えてんの!絶対お前のせいだろ!﹂
﹁⋮⋮あれ?ヤスってパケ放題とか契約してないの?サツキちゃん
も契約してるからてっきりヤスもしてるかと思ってた。﹂
﹁いや、してないよ。ってかパケ放題って何?﹂
﹁えーと、正式名称は覚えてないけど、それに契約すると、メール
とかウェブとかをいくら見ても定額料金で済むんだよ。たいていど
この携帯会社でもあるサービス内容なんだけど﹂
﹁ええと、俺は最低限のサービスでいいと思ってたから、そんなん
契約してない。ってか、月々の基本料金お前に教えただろ!そんと
きに気付けよ!﹂
﹁ああ、そういや聞いたなあ。忘れたけど﹂
﹁忘れるな!それでなんで17430円もいくんだよ!﹂
﹁知らないのか?メールって受信するだけで金がかかるんだぞ﹂
﹁やっぱりお前のせいか!!17430円なんて払えねえよ!どう
してくれんだお前!﹂
684
﹁俺パケット定額にしてるから気付かんかった。ごめんごめん、⋮
⋮大変だなヤス﹂
﹁同情するなら金をくれ!﹂
﹁懐かしいなそのネタ、家なき子か?きっと分かる人少ないぞ﹂
﹁まあ、そうなんだけど。ネタじゃなくてほんとに金ください、貯
金かき集めても17430円いきません﹂
﹁⋮⋮しょうがないな、今度ちゃんと返せよ﹂
﹁ケンのせいなんだが⋮⋮くっ、夏休みのバイト決定かよ﹂
﹁いいじゃないか、﹃勤労少年﹄という響き。ついでだから今年の
夏はバイトしまくって、金貯めとかねえ?﹂
﹁別に借金返せる程度でいいよ﹂
﹁分かってねえな、ヤス。借金を返す程度しか働かないとどうなる
と思う?﹂
﹁ん?どうなるって言うんだ?﹂
﹁俺がメール送り続けるから、結局また借金生活に逆戻りだ﹂
﹁もうやめい!メール送るな!﹂
﹁ってのは冗談にしても、それから後も月々300円で生活する気
か?どう考えたって無理があるだろ?﹂
685
﹁ん⋮⋮確かに﹂
﹁だからさ、バイトしまくってその後の秋からの生活を楽しまねえ
?サツキちゃんとのデートにも金は必要だろ?﹂
﹁兄妹でデートも何もないんだが⋮⋮それは確かに言えてるな﹂
﹁だろ?だから夏は一緒に汗水たらして働いて、金を貯めるんだ!﹂
﹁⋮⋮一緒に働く必要があるのか?﹂
﹁ふっふっふ﹂
﹁気持ち悪い笑い方は止めろ﹂
﹁お前は人付き合いがなおったと思ってるかもしれないが、それは
大いなる間違いだ!﹂
﹁突然何を行ってるんだ?ケン﹂
﹁思い出してみろ、高校に入って2ヶ月半。クラスメイトの内、会
話したことあるのは何人だ?﹂
﹁⋮⋮ケンとアオちゃん、マルちゃんに名も知らぬ女子生徒の4人
かな﹂
﹁⋮⋮名前くらい覚えとけ⋮⋮それで、今まともに話をしてるのは
何人だ?﹂
686
﹁⋮⋮ケンとアオちゃんの2人だな﹂
マルちゃんとは大山祭で話したっきりで、また全く話してないしな。
﹁俺は小学校の時からの付き合いだから、除外しようか。⋮⋮つま
り!ヤスは高校に入ってまだクラスで1人しか話せるようになって
いないという事だ!陸上部の人達を入れてもヤマピョン、ユッチ、
ポンポコさん、ウララセンセの5人!それで人付き合いがなおった
と言えるのか?﹂
﹁ん⋮⋮言えんかもしれんが、それがバイトとどうつながるんだ?﹂
﹁ふぅ、1から10まで全て説明せんと気付かないのか。馬鹿だな、
ヤスは﹂
﹁いいから話せ!﹂
﹁いいか、ヤスは未だ一般人とは話が出来てないんだ。そんなヤス
じゃ、1人じゃバイトできないだろ?だからこそ俺が一緒にバイト
してやろうというのだ﹂
﹁なんか偉そうだな、別にこの前アオちゃんの妹さんともしゃべっ
たし、ポンポコさんの家族ともめちゃ仲良くなったぞ。中学校小学
校の先生ともしゃべったぞ。普通にしゃべる程度なら平気だ﹂
﹁アオちゃんの妹さんはアオちゃんに雰囲気が似てたから平気だっ
たんだろう。ポンポコさんの家族も同様だな。ってかヤスって、友
達の友達なら平気だったりするのか? ミクシィみたいなヤツだな﹂
﹁ミクシィ? なんだそれ?﹂
687
よく分からんが、腹立つ言われ方をした気がする。
﹁ま、それはどうでもいっか⋮⋮本当に中学校の先生とは普通にし
ゃべってたのか? 俺はサツキちゃんから違う報告を受けたんだが﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁みろ、無理じゃないか。だから夏は俺と一緒にバイトしよう!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮仕方ないな、一緒にやるか﹂
﹁さすがヤスだ! 俺の親友なだけある、もう既に申し込んでおい
たからありがたく思えよ!﹂
﹁何で!? 俺まだ今了解した所だよ!? 何で既に申し込んであ
るのさ?﹂
﹁ヤスなら俺の話に必ず食いつくと分かっていたからな。じゃあ夏
休みはよろしくな!﹂
﹁⋮⋮もしかして、一緒にバイトさせる為に17430円もの携帯
代を負わせた訳じゃないよな?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁おい! 返事しろよ!﹂
﹁じゃあな!﹂
688
﹁おーい!!!﹂
プツッ、ツー、ツー、ツー
きれた⋮⋮まさかほんとにバイトに巻き込む為だけにあんなにメー
ルを送り続けたのか?
分からん⋮⋮。どちらにしろ、高校生初めての夏休みはバイトに大
半を奪われるというのが決定した訳だな。
689
82話:請求書パニック︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
うーん、今までの読み直して、人付き合い悪いようには全く見えま
せんが⋮⋮気にしないと言う方向で。
それではまた。
690
83話:英語で遊ぼ、言えるかな?
さて、今日は7月4日金曜日、悪夢のような請求書が届いた翌日だ。
来週から期末テストが始まるから、午前中の授業なんか半分以上の
人が内職してた。
夜に勉強するんだって言って、ぐーすか寝てるヤツもいた。
⋮⋮せめていびきはするな、ケン。
真面目に授業聞いてたのはアオちゃんくらいかなあ。
漫画貸してくれる事になってたけど、来週から試験期間と言う事で
貸してもらうのはもう少し後になりそうだ。
今は5時間目の英語Iの時間だ。
うちのクラスの英語Iは担任のウララ先生が受け持っている。
それにしても⋮⋮昼飯食べた後は眠い⋮⋮。
﹁それでは、次の文を読んでね。じゃあ⋮⋮ヤス君﹂
691
﹁へ?ふぁい⋮⋮えと⋮⋮どこでしたっけ?﹂
﹁もう、ちゃんと聞いてなさい! ほら、ケン君を見習いなさい、
あんなに真剣になって授業受けてるじゃない!﹂
それはウララ先生だからです! ケンのヤツ、午前中の授業全部寝
てました!
﹁うーん、ヤス君はボケてるし、他のみんなも眠そうにしてたり、
内職してたり⋮⋮これじゃ授業にならないわね﹂
寝ぼけてるんです、ボケてる訳じゃないです!
しょうがない、来週からテストなんだから。そう思うなら、テスト
をなくしてください。
﹁よし! 今日は授業はやめましょう!﹂
おお、すげえ! って事はおおっぴらに眠れるな。
他のクラスメイトからも歓声が上がった。高校生なんてこんなもん
だ。
﹁今日は英語の言葉遊びにしましょう!﹂
へ? なんだそれ?
﹁じゃあ、そこで立ちっぱなしのヤス君。﹂
立ちっぱなしにさせたのはウララ先生です。
692
﹁なんでもいいから、早口言葉、言ってみて?﹂
﹁へ? 早口言葉ですか?﹂
﹁そうそう、早く早く﹂
﹁ああ、はい。⋮⋮無気味なぶ男だがぶりをぶら下げてブルドッグ
にかぶりつかれた!﹂
どうだ! すごいだろ!
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
あれ? 反応が鈍いな⋮⋮。何でだろ?
﹁⋮⋮それ、ヤス君の事ですか?﹂
⋮⋮おい、アオちゃん⋮⋮。
﹁んな訳無いだろ! 確かに犬にかぶりつかれた事はあるけど!﹂
﹁⋮⋮やっぱりあるんだ﹂
693
﹁まあ、ヤスだからな﹂
﹁⋮⋮それがヤスクオリティってやつ?﹂
何で俺の話になる! 話した事無いヤツまで俺の事を語るな!
﹁今は早口言葉の話だろ!? 言ってみろよ! 難しいから!﹂
﹁早口言葉くらい簡単ですよ。⋮⋮この高竹がきに高竹立てかけた
のは高竹立てかけたかったから高竹立てかけたのです!﹂
⋮⋮おお⋮⋮なんか俺のよりすごい⋮⋮。
﹁アオちゃんのはすごいわね。それで今ヤス君とアオちゃんに言っ
てもらったように日本語にも色々早口言葉はあるけど、英語にもい
ろんな早口言葉があるのよ。世界中にこう言うのはあるものよ﹂
ほお、そうなんだ。早口言葉ってのは万国共通なんだな。
﹁そこで、今日はみんなには英語の早口言葉に挑戦してもらいまし
ょう!﹂
﹁ゲッ!?﹂
﹁⋮⋮ヤス君? なんで﹃ゲッ﹄なんて言うんですか?﹂
﹁いや、俺発音苦手ですし⋮⋮﹂
﹁大丈夫! 発音なんて下手でいいのよ! そうやってしゃべろう
694
としないのが一番まずいの!﹂
wicked
wish.﹂
The
a
wicked
wish.
witch
下手でいいって言ってくれる人に限って、上手い気がするのは何で
だろう?
a
﹁さあ、挑戦してみましょう!まずはこれ!
wished
⋮⋮今ウララ先生はなんて言ったんだ?
wished
﹁あ、よく分からなかった?じゃあ、黒板に書こっか﹂
witch
カツカツ⋮⋮。
The
ああ、こんな事言ってたんだ。難しいな。
﹁じゃ、ケン君、この意味分かる?﹂
﹁わかりません!﹂
嬉しそうに言うな! 少しは考えろ!
﹁⋮⋮えと、じゃあキョンキョンさん?﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹃その魔女は邪悪な願いをかけた。﹄ですか?﹂
﹁その通り! まあ、早口言葉だし、意味はそんなに気にしなくて
いいかもね。では、みんなで言ってみましょう!﹂
695
え? それ無理! 難しすぎだから!
﹁さんはい!﹂
﹁ザウィッチウィッちゅドアウィックドびぃッちゅっ!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ば、ばれてないかな?
﹁ヤス君、大丈夫でちゅか? 舌噛んでないでちゅか?﹂
もろばれてる!? しかもウララ先生ごっつむかつく!
﹁次のはちゃんと言ってやるさ! ウララ先生! 来いやあ!﹂
sea
shells
by
﹁ヤス君、1人で熱くなってないでみんなで言いましょうね。﹂
分かってるさ。気持ちの問題だ!
sells
seashore.﹂
﹁じゃあ次の、She
the
くぅ、またわけ分からんのを。
⋮⋮黒板に書いて、みんながぼそぼそと練習する。
﹁じゃあ、いくよ、さんはい!﹂
﹁シーセルズシーシェルじゅバイじゃシショーあ!﹂
⋮⋮なんかすごい馬鹿にされてる気分だ。
696
sycamore
sli
saplings.﹂
sick
﹁くくぅ、ヤス君のミスっぷりは笑えるわね。次はどんな風にとち
ってくれるのかな?﹂
ウララ先生なんかに負けるか!
slim
﹁じゃあ、これを最後にしましょうか。Six
ck
な、中々難しいな、だが、俺は負けん!
ウララ先生が音頭をとる。
﹁⋮⋮では、いきましょうか。さんはい!﹂
﹁シックスシックスリックスリムシカモアサプリングス!﹂
⋮⋮おし! 言えた!
﹁どうだ! ウララ先生!﹂
﹁甘いね、ヤス君は。早口言葉って日本でも3回言う物でしょ? 3回連続で言えなきゃ、本当の意味で言えたとは言えないよ﹂
なかなか、鋭い指摘を。
﹁おし、言ってやるからな! ウララ先生みてろよ!﹂
スーハースーハー、深呼吸。
697
﹁おし、シックスシックスリックスリムシカモアサプリングス! シックスシックスリックスリムシカモアサプリングス!せっ⋮⋮﹂
あぶない!
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮えと⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮みんなの視線が痛い。
﹁⋮⋮⋮⋮ごめんなさい﹂
早く授業よ、終われ。
698
slim
by
83話:英語で遊ぼ、言えるかな?︵後書き︶
sea
slick
the
s
se
sycamore
shells
こんにちは、ルーバランです。
私はめっちゃかみました。
早口言葉、苦手です。
sells
ちなみに早口言葉の意味。
She
ashore.
sick
彼女は海辺で貝殻を売っている。
Six
aplings.
病気で痩せ細った6本のアメリカスズカケノキの苗木
です。
それではまた。
699
84話:Let's Sing a Song
うう、まだまだ時間が残ってるなあ。
こんな痛い空気の中、この場にいたくないんだが。
﹁⋮⋮こほん、ヤス君がおさかんなのは置いといて、英語はさっき
みたいに楽しめばいいのね﹂
ウララ先生に置いとかれたー。ちくしょー。
﹁ところで、質問。英語ってどこが必要なの?って思ってる人、ど
のくらいいる?﹂
バババッとクラスの半分以上が手を挙げた。
もちろん俺もだ。
あれ? ケンが手を挙げてねえな。今まで英語なんていらんって言
ってたのに、なんでだろ?
﹁そうよねー。日常生活で、英語が必要な場面なんてほとんどあり
ませんもんね。﹂
おい、英語の先生がそんな事言っていいのか?
﹁じゃ、手を挙げなかった人に質問、英語が必要な理由ってどんな
所?﹂
﹁ウララセンセと英語で話がしたい!﹂
700
そんな理由かい⋮⋮。
⋮⋮ケン。頑張れな。
﹁あはは⋮⋮Good
luck!
Ken!﹂
ウララ先生に励まされたぞ、頑張れ、ケン。
﹁じゃあ、他には⋮⋮ペンタゴン、君はどう?﹂
あいつは⋮⋮誰だっけ?
﹁えと、将来、必要になりますよね?﹂
まあ、そうかもな。
﹁うん、もちろん。正解よ。﹂
まあ、やっぱり先生だもんな。そこは肯定するよなあ。
﹁ただ将来、会社に入ってから役に立つなんて言われたって、﹃そ
んな先の事知らないよ﹄と思う人もでしょう﹂
うんうん、その通りだ。
﹁確かに今、英語力が問われている会社はどんどん増えてきてるか
な。でも、実際会社に入っても英語が必要なのは、海外に工場を持
ってたり、外資系の企業だったりするような大企業で、地方の企業
で働く人には必要なかったりする事も多々ありますね。それに部署
によっては全然必要ないところ、ありますよー。﹂
701
うぉい! 英語の必要全否定!? ⋮⋮違うか、将来大企業に就職して、出世したかったら英語を学べ
って事だな。
そんな理由だけって⋮⋮やだなあ。
﹁さて、だるそうな顔をしてる人たち! 特にヤス君! しょぼし
ょぼの顔になってるよ﹂
うっさい! これが素の顔じゃい!
﹁英語を勉強する理由は他にもあるの! 例えば、海外旅行とか﹂
﹁海外なんて行きませーん﹂
﹁ヤス君、チャチャを入れない! 日本で海外旅行のツアーとかあ
るけど、わざわざ海外に行ったのにしゃべったのは一緒にツアーに
行った日本人だけって人多いのよ﹂
うわ、それなら日本の観光名所で十分じゃね?
お前らは日本の名所をちゃんと巡ったのかと聞きたい。⋮⋮巡った
人、ごめんなさい。
﹁せっかく海外に行ったんだったら、英語しゃべれたほうがよくな
い?﹂
ふむ、なるほど。
⋮⋮まあ俺は行かんから関係ないな。
﹁他には、本とか映画ね。日本語に翻訳されて出版されてる本や、
日本で公開されてる映画ってたくさんあるけどやっぱり意訳されて
702
る事が多いのよね。特にさっきの早口言葉とか、英語のジョークな
んか、訳しようが無いから適当に訳されてるのよ﹂
なに!? そうなのか?
﹁英語がわかれば、そんなジョークも全部分かっちゃうからね。⋮
⋮それに、ハリーポッターの最終巻も私はさっさと読んじゃったも
んね﹂
くそぅ、ウララ先生、自慢か? 日本語でしか読めない俺への当て
つけか?
﹁後は、やっぱり歌よね! 洋楽は最高よ!﹂
﹁歌?﹂
別に俺は邦楽だけで十分じゃ。
﹁あー、みんな、あんまり洋楽聞いてないな。洋楽はいいよ﹂
んな事言われても、知らんもんは知らんし。
﹁みんなが知ってそうなのだと、﹃ビートルズ﹄﹃マライアキャリ
ー﹄﹃セリーヌディオン﹄﹃バックストリートボーイズ﹄とか?﹂
﹁⋮⋮おい、今の分かったか?﹂
ケンが俺に聞いて来たが、
﹁俺は邦楽しか知らん!﹂
703
言い切ってやったさ。うん、邦楽だけでもすごい曲数があるからな。
⋮⋮いや?
Oh
Happy
﹁⋮⋮あれだな、﹁天使にラブソングを﹂﹁天使にラブソングを2﹂
は最高だったな。﹂
うん、ビバ、ウーピーゴールドバーグ!
﹁それは映画だぞ﹂
そんな冷静なツッコミを入れるな、ケン。
は最高よね!﹂
﹁いえ、ヤス君の言う通りあの映画の挿入歌の
Day
Joyful
Joyful
に決まってるじゃないです
﹁は? ウララ先生何言ってるんですか? あの映画といえば、ラ
ストの
か!﹂
Happy
Day
は、今までおっきな声で人前で歌う
全く、ウララ先生は洋楽が好きだといいながら、何も分かってねえ
な。
﹁Oh
事が出来なかった少年の才能が開花する瞬間よ! そして学校にも
Joyful
こそ最高ですよ! 今までいがみ
音楽ありと見せつけた瞬間じゃない!? なんでそれが分からない
の?﹂
﹁Joyful
704
合っていた先生と生徒、生徒と生徒が1つになって最高の歌を作り
上げるんです! それがもとで⋮⋮﹂
おっと、映画のラストを言ってしまうのはよくないな。
Day
ですよ! 歌の
、このタイトル聞く
しかし、ああいう話にはあこがれるなあ。⋮⋮現実には上手くいか
Happy
ない事も多いもんなあ。
﹁何言ってるの!Oh
Joyful
だけで、幸せな気分になるじゃない?﹂
﹁それを言うなら、Joyful
タイトル見て思いませんか? 日本語訳は﹃歓喜の歌﹄です!!﹂
﹁まさに俺の為にあるような言葉だな﹂
Joyfulです!﹂
Dayよ!﹂
follow
hi
うっさいケン! お前は楽しみすぎだ! 自分に正直に生きすぎだ!
Happy
﹁何はともあれ、Joyful
﹁いーえ、Oh
will
く、このままじゃいつまでたっても平行線か⋮⋮。
﹁まあまあ、間を取ってここはI
mでいきましょう﹂
⋮⋮アオちゃん、そんな微妙な発言しないでくれ。ただの三つども
えになるだけじゃん。
﹁⋮⋮こほん、私が大人げなかったわね。⋮⋮と言う事で、英語を
705
覚えたら、洋楽も聴き放題よ。曲を聴いてるだけでも楽しいけど、
歌詞の意味が分かるだけで、より楽しくなるんだから﹂
その英語を覚えるのが大変なんだって。
﹁逆に、歌から英語を覚えるのもいいよね﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ああ、どっかの漫画でそんなよ
うな事言ってたような気がするな。
﹁別に勉強の為に洋楽聴けって言ってる訳じゃないからね。そこは
勘違いしないように。音楽というものはあくまで﹃音を楽しむ﹄も
のなんだぞ﹂
うむ、その通りだよな。下手でも楽しめばいいもんだよな。さらに
勉強の為に音楽聞くなんてやってられないっすよ。
﹁と言う訳で、これからは授業を始める前に歌いましょうか!﹂
え!? 今のどこでそう言う流れになったの?
Will
Rock
Youにで
﹁やっぱり教科書読んでても楽しくないから、まずは楽しまなきゃ
ね。 ⋮⋮えーと、最初はWe
もしましょうか?﹂
なんだその曲?
﹁ドゥ・ドゥ・バーン、ドゥ・ドゥ・バーン、ドゥ・ドゥ・バーン、
ドゥ・ドゥ・バーンって曲ね。ちょうどここにCDとラジカセがあ
るから、みんなで歌いましょうか。歌詞カードも人数分印刷してあ
706
るわよ﹂
ちょっと待て! 何でそんなに準備がいいんだ! ウララ先生、もともと歌う気満々だっただろ!
﹁さあ、いくわよ!﹂
ノリノリっすね、ウララ先生。
ドゥ・ドゥ・バーン!
⋮⋮お?
ドゥ・ドゥ・バーン!!
おお?
ドゥ・ドゥ・バーン!!!
これは⋮⋮
ドゥ・ドゥ・バーン!!!!
最高だ!!!
﹁ウィーウィルウィーウィルロックユー!﹂
﹃ウィーウィルウィーウィルロックユー!!﹄
おお、こんな名曲が洋楽に埋まってたとは⋮⋮洋楽も侮れん。
707
﹃ウィーウィルウィーウィルロックユー!!!!﹄
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮思いっきり大声で歌ってたせいで、どう
やら隣のクラス、いや、学校中に俺たちの歌が響き渡っていたらし
い。
特に地鳴りを食らわせてたからな。下の階の人たちはひどい目にあ
ったそうだ。
延々と怒られました⋮⋮なぜか俺だけ。
また反省文かあ、今回は俺たちのクラス全員らしいけど、俺だけみ
んなの3倍なのは何故だ!?
⋮⋮いや、一番騒いでたのは認めるけどさあ。
いいじゃんか。音楽とは﹃音を楽しむ﹄ものなんだぞ。
708
85話:サツキの中総体、地区予選開始
昨日までで期末テストも終わった。
ユッチのへこみっぷりが面白かったなあ。
⋮⋮よっぽどやばかったんかな? 大丈夫かな⋮⋮ユッチ。
ケンも話を聞く限りはヤバかったはずなんだが、全く気にしたそぶ
りがない。
その辺りはさすがケンと言う感じだったな。
今日は7月12日土曜日。快晴だ。
今日明日に渡って、ソフトテニス大会中総体地区予選が行われる。
初日が団体戦、2日目が個人戦だ。
中学ソフトテニス団体戦はダブルス1、ダブルス2、ダブルス3と
あり、2回先に勝った方の勝ちだ。
もうすぐ1回戦が始まる。
709
既にアップも終了し、もうあと少しでダブルス1、サツキとクロち
ゃんのペアの出番だ。
⋮⋮クロちゃん、今年に入って初めて会ったな。懐かしい。
﹁サツキ、頑張れよ!﹂
﹁⋮⋮ヤス兄、はずかしくない?﹂
はずかしいさ! 何で男子と女子の会場がそんなに離れてるんだ!
この辺にいる男、俺しかいないんだけど⋮⋮。
しかも、ここにいるのは中学の部活の人ばっかりで、みんなTシャ
ツにハーフパンツの格好だ。
私服で歩いてるの、俺だけなんだが⋮⋮せめて俺もスポーツする時
の格好でいればよかったな。
めっちゃ浮いてるっすよ。⋮⋮お願い、せめてもう1人くらい男を
この場に連れて来てくれ!
﹁あ、私そろそろ試合だから行くね。⋮⋮クロちゃん! いこ!﹂
﹁うん、ヤス先輩、応援よろしくお願いします﹂
﹁はいよ、クロちゃんも頑張ってな!﹂
﹁はい!﹂
クロちゃん、いい子だ⋮⋮。久々に普通な人と話をした気がする。
さて、サービスかレシーブかのトスをおこなって、ついでに軽くラ
リーをしてウォーミングアップして、試合開始だ!
710
﹁7ゲームマッチ、ダブルス1。サツキ&クロダ vs マナベ&
カスガ﹂
ん? 何でサツキだけ名前?
ああ、7ゲームマッチって言ってるけど、7ゲームとった方が勝ち
じゃなくって、4ゲームで勝ちだぞ。
最高7ゲームまでやりますよって意味だからな。
﹁よろしくお願いします!﹂
うん、頑張れ。サツキ!
⋮⋮まずはサツキのサービスからだな。
﹁せいっ!﹂
そこそこのスピードで相手のコートにつっこんでいく。
よしっ、いいコースだ。ナイスサーブ。
﹁ふっ!﹂
相手も返したか。中々やる。
﹁やっ!﹂
おお! 前衛にいたクロちゃん、ナイススマッシュだ! 返球を読
んでいたとは、さすがクロちゃん!
⋮⋮決まったか。まずは1ポイント先取だな。
711
パチパチパチ。
決めたクロちゃんに拍手を送る。
テニスの応援は静かに、だぞ。
大事なのはコンセントとレンコン? だっけ? まあいいや、集中
だ、集中。
選手の集中をかき乱しちゃ駄目だ。
﹁ワン・ゼロ﹂
⋮⋮ソフトテニスと硬球のテニスとじゃ数え方が違うんだよな、混
乱する。
さあ、サツキ。サービスエースを決めるんだ!
﹁せいっ!﹂
さっきと似たようなコースに決まる。
よしっ、今度こそ。
﹁むんっ!﹂
くそっ、また返されたかあ。
サツキのサービスはそんなに速くないってのは知ってるけど、コー
スはきっちり決めるのに⋮⋮相手もやるなあ。
﹁やっ!﹂
おっ? またクロちゃん、スマッシュ決めたな。クロちゃん、すげ
え。
712
﹁ツー・ゼロ﹂
さて、サービス交代か。ソフトテニスでは、2回ごとにサービスが
変わるんだってさ。
クロちゃんのサービス。
﹁やっ!﹂
おー、豪速球。あれはとれんだろ。
﹁フォールト﹂
ああ、惜しい。
ちょっと、ラインをオーバーしてたなあ。
さあ、セカンドサービスだ。
﹁やっ!﹂
さっきより少し遅めの球が打たれた。
﹁ふっ!﹂
ああ、やっぱり返されるか。
⋮⋮くっ、サツキの方にはいかないか。
﹁やっ!﹂
クロちゃんが返した。うん、いい感じだ。
713
﹁ふっ!﹂
相手も返す、⋮⋮これは長いラリーになるか?
﹁てやっ!﹂
⋮⋮えと、クロちゃんはなんで既に前衛にいるんでしょう? ⋮⋮
ロブ︵ふわっとした返球で、相手の奥のコートに落とすヤツの事だ
な︶打たれたらどうするつもりだったんだろ?
そしてスマッシュを決めるクロちゃん。
さっきからクロちゃんばっかり決めてるが⋮⋮クロちゃん、最近見
て無かったけど、めちゃくちゃ上手くなってないっすか?
﹁スリー・ゼロ﹂
よし、後1ポイントでこのゲームはキープできるぞ。
﹁てやっ!﹂
クロちゃんのサーブ、相変わらず豪速球だ。
﹁くっ!﹂
相手も何とか当てたけど、返球する事は出来ない⋮⋮。
おしっ! まずは1ゲームキープだ! この調子で頑張れ! サツ
キ、クロちゃん!
714
うん、圧巻だったな。
その後、相手のサービスのときはブレイクして、自分達のサービス
はきっちりキープ。
結局、4−0でゼロゲームで勝ってしまった。
その内のほとんどをクロちゃんが決めてたからなあ。
すげえ、クロちゃん。
﹁ありがとうございました!﹂
相手と握手を交わしてベンチに戻ってくる。
﹁ナイスゲーム、サツキ、クロちゃん﹂
﹁ありがと、ヤス兄。でも、まだダブルス2とダブルス3があるか
ら、ちゃんと応援してよね﹂
715
﹁わかってるよ﹂
母校が嫌いな訳じゃないからな。是非勝って欲しいさ。
﹁おしっ! ナイスゲーム!﹂
ダブルス2のメンバーも大勝した。こっちは4−1だ。
相手側のサービスの時に、1ゲーム落としたな。まあ、サービス側
が有利なものだからな。しゃあない。
ダブルス2が勝った時点でサツキ達の中学の勝ちだ。
﹁まずは一回戦突破だな、サツキ﹂
716
﹁そうだね。キリもマイマイも頑張ってたね﹂
﹁そうだな。よっぽど練習したんだな。あのキリとマイマイがあん
なに上手くなってるとは⋮⋮﹂
キリとマイマイのプレイを去年見た事があったけど、お世辞にも上
手いもんじゃなかったからな。
ちなみにずっと前に話してたサキちゃんという子はダブルス3での
登場だ。
1回戦、2回戦は勝負が決まってしまっても、ダブルス3まで対戦
する。
⋮⋮そうしないと、試合が出来ないまま引退、なんて悲惨な子が出
て来ちゃうもんな。
サキちゃんと組んでるのは、えと、ミキミキだな。
﹁サキちゃん、ミキミキ、頑張ってね!﹂
サツキのエールがとぶ。
﹁サキちゃん、ミキミキ、ファイトだ!﹂
俺も声をかける。
﹁ヤス先輩。私たち見て興奮して鼻血出さないでくださいよ﹂
サキちゃん、どんな返事だそれは!
717
﹁俺はエロイけどこんな所で興奮するほどはエロく無い!﹂
馬鹿にすんない!
﹁⋮⋮いえ、応援でテンション上がって鼻血出すなって意味で、別
にヤス先輩がエロイかどうかは言ってませんが⋮⋮﹂
サキちゃん、分かりにくい! ⋮⋮恥ずかしい。他の人がめっちゃ白い目で見てますよ。
﹁ヤス兄、ドンマイ﹂
⋮⋮ありがと、サツキ。味方はサツキだけだよ。
おし!ダブルス3のサキちゃん&ミキミキコンビも順調に勝ったな。
しかし⋮⋮4−0のゼロゲームで勝ってしまうとは⋮⋮。
かなりの成長っぷりを見せてるな、サキちゃん、ミキミキ。
﹁この調子で頑張れよ。サツキ﹂
﹁うん、今年こそみんなで全国大会出たいもんね﹂
718
えーと、去年は先輩が個人戦で県大会出場が最高だったかな。
なかなかこころざしが高いじゃないか。
うん、頑張れサツキ!
719
85話:サツキの中総体、地区予選開始︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
毎回心配になるスポーツのシーン。
間違ってないかな、ちゃんと伝わるのかなと。
ソフトテニス中、普通全員が全員叫びながらプレイはしませんが、
分かり易さの為に全員に叫ばせてます。︵余計分かりにくくなって
いましたらすみません︶
サービス:テニスの最初の打ち始め
キープ:サービス権を持ってる時にゲームをとる事
ブレイク:相手側にサービス権がある時にゲームをとる事
ゼロゲーム:どちらかが1ゲームもとらせないままゲームが終わる
事、硬式テニスでは﹁ラブゲーム﹂と言います。
一応下調べはしましたが、間違ってたらご指摘してくださると助か
ります。
ちなみにヤス君の﹁コンセントとレンコン﹂は本当は﹁コンセント
レーション﹂です。
それではまた。これからもよろしくお願いします。
720
86話:サツキの中総体、地区予選決勝、開始
さて、団体戦は今1回戦が全部終了した所だ。
団体戦は元々中学校がそんなに多くないから、14校での対戦だ。
今、ベスト8が全て出そろった。
ベスト4へ進出へ向けて、頑張れ! サツキ!
ベスト4進出への準々決勝、準決勝の試合も、サツキ達は危なげな
く勝利した。
ベスト4はダブルス1が4−0、ダブルス2も4−0、ダブルス3
は4−1での勝利だ。
準決勝ではダブルス1が4−0、ダブルス2も4−1でこの時点で
勝利だ。
⋮⋮サツキ達、レベル高いな。
特にサツキとクロちゃんペア、1回もゲームを落としてないんだが
⋮⋮。いや、凄すぎ。
サツキに関しては、毎日19時近くまで家に帰らず、そのあと俺と
個人練習までしてたからな。
頑張った成果だよな。
721
最近、サツキは家に帰って来てもバテバテっぽいし、俺が先に家に
帰るようにしてるから火木のサツキの料理当番も俺が代わって作っ
てる。
土日も俺が基本作ってるし⋮⋮今日の弁当も俺だったし⋮⋮俺、最
近本当に主夫してるな⋮⋮たまにはサツキの作ったチャーハンが食
べたいよう。
この辺りの地区予選は、2位以内に入れば県大会に進出できる。
﹁まずは県大会進出決定、おめでと、サツキ﹂
﹁ありがと、ヤス兄。まあでも、この調子で地区予選は優勝したい
ね﹂
﹁そだな、県大会への弾みにもなるもんな! このままの勢いで勝
っちまえ!﹂
﹁うん! 頑張るからね! 応援よろしく!﹂
頑張れ。サツキ、クロちゃん。
722
さあ、地区予選決勝だ。
⋮⋮ってか相手チーム、でかっ!
160越えしてるぞ、あれ。
いや、2人ほどちっちゃい子もいるけど⋮⋮、全体で見るとでっか
いなあ。
vs
タナカ&
ふん、ソフトテニスは身長で勝負するもんじゃないんだぞ!
﹁7ゲームマッチ、ダブルス1 サツキ&クロダ
スズキ﹂
うん、やっぱりサツキだけ名前なんだなあ。
﹁よろしくお願いします!﹂
相手、ほんとでっけえなあ。
サツキ、背ちっさい方だから、相手が余計に大きく見えちゃうな。
まずは相手側からのサービスだ。
﹁さー!﹂
うん、でっかいだけあって、サービスもすんごいな。
⋮⋮とれるか、サツキ?
﹁せいっ!﹂
おっ、ナイスリターン!
723
あの急角度ならバックでしかとれん!
﹁あっ!?﹂
おしっ、フワッとしたボールがあがったぞ。チャンスボールだ。ク
ロちゃん!
﹁てやっ!﹂
おしっ! ナイススマッシュ!
ってか、1回戦のときは気付かなかったけど、サツキって相手のと
りにくい球とりにくい球を打ってたんだな。
で、相手が何とか返したチャンスボールをクロちゃんが決める。
中々いいペアだ。
﹁ゼロ・ワン﹂
サツキ達にポイントが入った、いいぞ。
﹁さー!﹂
相手のサービスだ。
今度のレシーバーはクロちゃんだ。
﹁てやっ!﹂
おお、力には力で対抗って感じだな。
また豪速球のリターンを。クロちゃんは力強いな。
724
﹁さー!﹂
お、相手も中々の返球をする。
﹁てやっ!﹂
﹁さー!﹂
﹁てやっ!﹂
﹁さー!﹂
﹁てやっ!﹂
﹁さー!﹂
﹁てやっ!﹂
﹁さー!﹂
ラリーが続く。
⋮⋮おい、サツキ。クロちゃんにばっかり打たせてないで、何かし
ろ。立ってるだけじゃん。
﹁てやっ!﹂
おっ、相手の前衛の隙間をぬった打球だ!
あれは、後衛の人もとれんだろ。
⋮⋮なるほど、サツキのヤツ、ただ突っ立ってた訳じゃなくて、微
725
妙に移動して、相手の打つコースを限定してたのか。ソフトテニス
中々奥が深い。
よしっ、ポイントだ。
﹁ゼロ・ツー﹂
次はサツキのリターンだな。
相手も、サーバー交代だ。
⋮⋮なんか不機嫌そうなんだけど。サツキ、大丈夫か?
﹁たー!﹂
うーん、似たような球を。
このペアは豪速球オンリーなんだな。
﹁ほいっと﹂
お、ロブか。サツキがロブ打ったのって、今日初じゃないか?
むこうの後衛が走ってる。
﹁たー!﹂
まあ、おいつくよな。
またかなりのスピードの球が返ってくる。
﹁ほいっと﹂
ま、またロブか。
おー、またむこうの後衛の人、走ってる走ってる。
726
﹁たー!﹂
お、また追いついた。頑張ってるな。むこうの後衛。
﹁ほいっと﹂
⋮⋮サツキ、3連続ロブはやらしいだろ。
走ってばっかじゃん、相手の後衛。
⋮⋮相手陣地もロブ攻めが嫌になったのか、2人そろって後衛に回
った。
ダブル後衛という戦術らしいが⋮⋮。
大変だからってそう言う事すると⋮⋮、
﹁はいっ﹂
⋮⋮クロちゃん、やっぱりやるよなあ。
前衛がら空きなんだから、前の方にぽこんと落とす球。﹁ドロップ
ショット﹂ってやつだ。
﹁ゼロ・スリー﹂
圧倒してるな、サツキとクロちゃん。
しかし⋮⋮相手チーム、決勝だけど大して強くないのか?
いや、去年この学校が地区予選優勝してたし、指導者も替わってな
いっぽいからいきなり弱くなるなんて事は無いよな。
サツキ達が凄く強いとか⋮⋮よくわからんな。
ああ、ちなみにさっきサツキがやった事は、左右のコート奥深くに
727
ロブをあげてたんだ。
左右にボールを散らす事で、相手を走らせ、チャンスボールをかえ
させるのが目的かな。
⋮⋮図にした方が分かり易いか。誰に説明する訳でもないんだが。
□□□□敵□
□□□□□□
□□□□□□
□敵□□□□
□□□□□□
ーーーーーー
□□□□□□
□□□□ク□
□□□□□□
□□□□□□
□サ□□□□
これがテニスコートだ。誰がなんと言おうとテニスコートだ!
⋮⋮下手で悪かったな。
ま、まあ、こんな風に陣取っている訳だが
●□□□敵□
□□□□□□
□□□□□□
□敵□□□□
□□□□□□
ーーーーーー
□□□□□□
□□□□□□
□□□□ク□
728
□□□□□□
□サ□□□□
●の所にロブをあげる訳だ。
●敵□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□敵□□□□
□□□□□□
ーーーーーー
□□□□□□
□□□□□□
□□□□ク□
□□□□□□
□サ□□□□
後衛の人はボールに走る。このままだと前衛の人が打つ時邪魔だから
●敵□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□敵□
□□□□□□
ーーーーーー
□□□□□□
□□□□□□
□□□□ク□
□□□□□□
□サ□□□□
729
こんな感じに反対側に移動する。
で、敵さんがボールを返したら、サツキはまた
□敵□□□●
□□□□□□
□□□□□□
□□□□敵□
□□□□□□
ーーーーーー
□□□□□□
□□□□□□
□□□□ク□
□□□□□□
□サ□□□□
反対側の奥深くにロブをあげる訳だ。
また敵さんは走らなきゃならん。
□□□□敵●
□□□□□□
□□□□□□
□敵□□□□
□□□□□□
ーーーーーー
□□□□□□
□□□□□□
□□□□ク□
□□□□□□
□サ□□□□
730
で、またこんな風に移動する訳だ。この繰り返しが嫌になった敵さ
んは
□敵□□敵□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
ーーーーーー
□□□□□□
□□□□□□
□□□□ク□
□□□□□□
□サ□□□□
こんな風に2人そろって後衛についたんだけど、
□敵□□敵□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□□●□□□
ーーーーーー
□□□ク□□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
731
□サ□□□□
クロちゃんが前の所にポコンと落としたわけだ。
2人そろって後ろに回ったときは、このドロップショットに気をつ
けなきゃいけないんだけど、相手側はロブを警戒しすぎた訳だな。
以上、先ほどの攻防の解説だ。
攻め方が変わったのは気になるけど、負けるなよ、サツキ&クロち
ゃん!
732
86話:サツキの中総体、地区予選決勝、開始︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
今更ですが⋮⋮キーワードに﹃陸上﹄﹃駅伝﹄と入ってますが、こ
れって陸上小説? というつっこみは無しでおねがいします。私自
身自覚してますので。
それでは今後ともよろしくお願いします。
733
87話:サツキの中総体、地区予選決勝応酬
さあ、今は1ゲーム目、相手側のサービスで、ゼロ・スリーの状態
だ。
﹁たー!﹂
相手のサービスだ。
クロちゃん、さっきみたいに豪速球ラリーを続けるのかな?
﹁ほいっ﹂
え?クロちゃんもロブすんの?
⋮⋮あ、その間にサツキとクロちゃん、位置入れ替わってるでやん
の。
ロブ打って時間稼ぎしたのかな?
別にクロちゃん、後衛が下手とか無いよなあ。
何がしたいんだろ?
﹁たー!﹂
うん、中々のスピードの返球だ。
﹁ほいっと﹂
またロブ攻めっすか、サツキさん。
734
今回は2人とも後衛に下がると、さっきみたいにクロちゃんにドロ
ップショットを打たれてきついのが分かってるので、1人は下がろ
うにも下がれないんじゃないか?
﹁たー!﹂
おお、がんばる。
﹁ほいっと﹂
またロブだ。
﹁たー!﹂
﹁ほいっと﹂
⋮⋮ロブか。
﹁たー!﹂
﹁ほいっと﹂
⋮⋮またロブか。
﹁たー!﹂
﹁ほいっと﹂
⋮⋮またまたロブか。
735
﹁たー!﹂
﹁ほいっと﹂
いい加減しつこくないか?
﹁⋮⋮たー!﹂
﹁ほいっと﹂
相手、ばててるぞ。
﹁⋮⋮たー﹂
﹁ほいっと﹂
嫌らしいぞ、サツキ。
しかも、今回相手スタートが遅れてるんだから、狙えば届かない所
にロブ落とせただろ。
わざわざ届きそうな所に落とすってどんだけやらしいのさ。
﹁⋮⋮﹂
あ、かけ声も消えたな。
﹁ほれ﹂
まだ走らせますか、妹よ。
相手もロブ打ちゃいいのに。
736
﹁⋮⋮﹂
あ、ロブ打った。
これは、サツキが余裕で追いつきそうだな。
﹁せいっ!﹂
また急角度の返球を、あれだけばててちゃとれんだろ。
⋮⋮あんな返球がかえってくると思うと、次からは相手チーム、ロ
ブも打てなくなるんじゃないか?
さあ、どうすんだろ? 相手チーム。
﹁え、えと、ゲーム。ゲームカウント、0−1﹂
ああ、審判の人も微妙な顔してるな。
うん、きっと完全にサツキとクロちゃん、悪役に回ったな。
737
その後も一方的だったなあ。相手チームの監督もいろいろ指示出し
てたけど、結局何もさせてもらえないままだったな。
しかも、相手チームをひたすら走らせて、ばてさせて、ミスらせる
という、今までとは全然違った作戦。
⋮⋮俺は嫌いじゃない作戦なんだけど、サツキはそう言うの嫌いな
はずのに。何故?
どしたんだろ?
いままではクロちゃんのすかっとするようなスマッシュで勝ってた
のに。
﹁⋮⋮えー、ゲーム。ゲームカウント、4−0。サツキ&クロダ﹂
おい、審判の心証を悪くしてどうするんだ。
審判だって人間、ましてや中学生なんだから、気持ちで公平に審判
ができなくなっちゃう可能性、無くはないんだぞ。
﹁お疲れさん、サツキ、クロちゃん。今回はどしたの?﹂
﹁あー、ヤス兄。ちょっと相手チームに腹が立って﹂
﹁なんで?﹂
別にまともにプレーしてたぞ。
﹁だって、私たちが対戦した人たち、実力的にはナンバー3のペア
738
だったんだよ!﹂
はて、どういうことだ?
﹁ヤス先輩、普通はソフトテニスの団体戦って強い順に並べるんで
すよ﹂
まあ、最後に強い人を残して、その前に負けるとかバカみたいだも
んな。
﹁だから、ほとんどのチームってダブルス1、2、3の順に強い人
を並べるんです。まあ相性の関係もありますから、多少順番を変え
る所もありますが、基本的には強い順に並べます﹂
ああ、なるほど。サツキ達の学校もそうやって並べてるな。
サツキ&クロちゃんペア、兄のひいき目も少しはあるが、うちの中
学では一番上手い。
﹁そこをあえて実力3番目のペアをダブルス1に持って来て、1番
強いペアをダブルス2、2番目に強いペアをダブルス3にするとど
うなります?﹂
えーと⋮⋮。
1 vs 3
2 vs 1
3 vs 2
となる訳か。
⋮⋮ああ、なるほど。最初の1チームは捨て駒扱いな訳だな。それ
739
で2戦で勝って全体として勝利! となる訳か。
﹁ん? でも何でそんな事が分かるんだ?﹂
アイツらがナンバー1かもしれないじゃん?
﹁だって、4月の時にあの中学とは練習試合してるもん。その時に
見たよ、もっと上手い人。私たちもその時負けちゃったし﹂
なるほど、そうなのか。
﹁ヤス兄も腹立つでしょ! 捨て駒扱いされたあの2人組も可哀想
だし、私とクロちゃんペアとまともに勝負に来なかった相手チーム
にも腹が立つの! 私たちに勝つ気は無いの!?﹂
まあ、作戦としては普通にありなんだけどな。
真っ向勝負が好きなサツキとしては腹立たしいだろうな、そりゃ。
﹁しかし、可哀想と言いつつ走らせまくってたじゃん、前の試合み
たいにぱぱっと終わらせてやればよかったのに﹂
﹁ああ、それじゃ腹の虫が治まらなかったもんね、クロちゃん。そ
れにそんな采配を許したあの2人も同罪かなって﹂
﹁そうだね、ほんとは毎回スマッシュで相手チームの監督にボール
ぶつけてやりたくなったりもしたんですけど、そんな事毎回してた
ら負けちゃいますし。私たち、我慢した方だよね﹂
怖い、怖いから君たち!
740
次のダブルス2のキリとマイマイや、ダブルス3のサキちゃんとミ
キミキの事も考えてやってください。
このアウェーな空気の中対戦させるのは可哀想っすよ。
741
フクシマ&カミムラ﹂
88話:サツキの中総体、地区予選決勝、ダブルス2
vs
ダブルス2、キリとマイマイの出場だ。
﹁ダブルス2、キリタニ&マイサカ
フクシマ&カミムラが実質相手チームのナンバー1か。
キリ、マイマイ、負けるなよ⋮⋮。
まずはキリのサービスからだ。
﹁ふっ!﹂
キリはスライスサーブだ。しかも回転のかかり方が凄い。
サーブはとりにくい。今まで何本もサービスエースを決めている。
特に右側から打つときは、ボールがコートの外へ逃げていくもんだ
から、相手にとっちゃとりにくい事この上ない。
ちなみにサツキとクロちゃんはフラットサーブだ。
特に回転はかけてない。
クロちゃんの場合はスピード重視のサーブを打つからフラットサー
ブが適してるんだろうけど、サツキはコースを狙うタイプだからキ
リみたいにスライスかけたりした方が、相手はとりにくいだろうに、
742
なんでフラットサーブなんだ?
﹁せやっ!﹂
くっ、追いついたか。
何か腹立つな、あいつは⋮⋮カミムラか。
﹁ふっ!﹂
カミムラの足下あたりでバウンドするような球を打った。
よし、それはとりにくい!
﹁せやっ!﹂
うわ、バウンドした瞬間あたりの球を跳ね返しやがった。あれはめ
ちゃくちゃとりにくいんだぞ。
確か、ライジングショットって言うはず。
カミムラ、上手すぎだろ。
﹁くっ!﹂
ああ、キリも足下あたりに打たれたな。
何とか返球はしたけど、ふわっとしたチャンスボールだ。
﹁てい!﹂
ちっ、フクシマがスマッシュを決めたか。
後衛がチャンスを作り、前衛が決める。ダブルスの基本だが、そこ
まできっちりされると悔しいな。
743
﹁ゼロ・ワン﹂
キリ、次こそスライスサーブ決めてやれ!
﹁ふっ!﹂
相手のフォアではなく、バックを狙ったスライスサーブ。
そもそもバック自体、フォアより苦手な人が多い。
﹁てい!﹂
フクシマ、何でそんなに綺麗にバックを打つんだ!
この野郎!⋮⋮あ、女の子だな。野郎は無いな。
しかもきっちり、キリのバックに返してるし。
キリ、フォアに比べるとバック苦手なんだよな。
﹁ふっ!﹂
お、かなり綺麗にかえったぞ。しかも足下。
﹁てい!﹂
フクシマー!お前もかー!
フクシマもあんなに綺麗にきっちりライジングショットが打てると
は⋮⋮。しかもバックのライジングショットってどんだけー。
﹁あぅ﹂
744
ち、また相手にチャンスボールがいったか。
前衛にいたマイマイもスマッシュを警戒して後衛に下がってる。
﹁せやっ!﹂
ヒュッとボールがコートのど真ん中を突っきった。
くぅ、お見合いしてしまったか。
基本は真ん中はフォアの人が打つもんなんだが、やっぱり真ん中に
来ると反応が鈍る。
反応できてもとれるかどうか微妙ないいスマッシュだったけど。
﹁ゼロ・ツー﹂
くそ、キリのサービスの時にポイントがとれないとは⋮⋮。
フクシマ&カミムラめ。強いな。
マイマイのサービスだ。
﹁やっ!﹂
マイマイのサーブはスピンサーブだ。
このダブルス2のキリ&マイマイペアはサーブでかなりの得点をと
ってたから、このスピンサーブが決まって欲しいんだが⋮⋮。
﹁せやっ!﹂
カミムラ、スピンサーブの軌道に慣れてるっぽい。
軽々と返しやがった。悔しいな。
745
﹁やっ!﹂
お、これはいけるか?
足下狙っても、返されてたからな。角度を急にして狙ったな。
﹁サイドアウト﹂
なに!?
⋮⋮くそう、攻め方はよかったけど、狙いすぎたな。
﹁ゼロ・スリー﹂
まずい、こっちのサービスなのに、1ポイントもとれないままブレ
イクされてしまいそうだ。
﹁やっ!﹂
フクシマへスピンサーブがとぶ。右のコート外へ逃げてくスピンサ
ーブ。
フクシマ、バックが得意っぽかったけど、この急角度のサーブはと
れるか?
﹁ていっ!﹂
く、追いつかれたか。
フクシマ&カミムラペア、ストロークやボレーと言った技術だけじ
ゃなくて、動きも素早い。
かなりフットワークが軽いな。
﹁ふっ!﹂
746
おっ、キリ!ナイススマッシュだ!これはとれんだろ!
﹁ていっ!﹂
⋮⋮さっきまでコートの外までボールをとりに走ってただろ。
何故既にそこにいる、フクシマ。足速すぎじゃないかい?
しかもフクシマのやつ、ただ返すだけじゃなくて、キリもマイマイ
もいないコート奥深くにロブで返しやがった。
さらにはふわっとした時間稼ぎのロブじゃなくて、素早いロブだ。
マイマイ、追いつけ!
﹁あっ!﹂
な、何とか当てたか⋮⋮。相手コートに戻せたな。
ん? 落下地点でカミムラがスマッシュのポーズで待ち構えてるよ?
マイマイ、まだ自分のポジションに戻れてない!
キリが何とかカバーしようと後衛に下がった。
﹁せやっ!﹂
ひゅっとボールが突っ切る。
⋮⋮なんであんな隅っこを狙う。とれるわけねーだろ!
﹁ゲーム。ゲームカウント0−1﹂
747
あっさりブレイクされてしまった。
⋮⋮カミムラ&フクシマペア、強すぎだろ。
まだ負けてないぞ、頑張れ!キリ、マイマイ!
その後も一方的な試合が続いた。
さっきのダブルス1以上のワンサイドゲームだ。
相手のサーブは、スピン、フラット、スライス、さらにはリバース
サーブ、アンダーカットサーブまで使い分けて、的を絞らせない。
テニスやってる人は得意なサーブがあって、大体そればっかりを使
うようなイメージがあったんだが⋮⋮俺の勘違いか?
必死で食らいつこうとしているキリもマイマイもカミムラ&フクシ
マの前にただただ翻弄された。
748
⋮⋮あいつら、上手すぎないか?
﹁上手いに決まってるよ。あいつら、2年生の時にもう個人で東海
大会に出場してるんだよ﹂
サツキ、それほんとか?
⋮⋮そんなヤツらが同一地区にいるとは、中々厳しい戦いだ。
今はゲームカウント0−3で負けてる。
ポイントもワン・スリーのマッチポイントだ。
これをとられると負けてしまう。
フクシマのサーブだ。
﹁ていっ!﹂
スピンサーブか。
バックで、しかもコート外へ逃げてくあのサーブはバックが苦手な
キリにはきつい。
最初っからそれしか来ないと分かってれば、まだ対処のしようがあ
るのかもしれんけど、あれだけ多彩なサーブを打たれたら⋮⋮。
﹁ふっ!﹂
おしっ! 何とか返したな。ロブで返したから、自分のポジション
に戻る時間は十分に稼げる。
﹁ていっ!﹂
くそう、キリの足下ばっかり狙いやがって、返しにくいんだ。それ
749
は。
﹁ふっ!﹂
よし、上手いぞ。キリ。
むこうのチームほどライジングショットは上手く打てないから、コ
ート外の後ろの方にまで下がって返球した。
﹁ていっ!﹂
ふ、フクシマ⋮⋮今度はコートの前の方に落とすか。
後ろの方に下がってたから⋮⋮キリ、追いつけ!
﹁えいっ!﹂
ダイビングして何とか拾った。
おし、ナイスだキリ!
⋮⋮って、カミムラ! 予測すんな! 毎回毎回なんでボールが落
ちてくるそのポジションで待ち構えてるんだ!
﹁せやっ!﹂
スマッシュを打つ。後衛に下がっていたマイマイ、とってくれ!
﹁えいっ!﹂
おし、な、何とか当てたぞ。
ぽーんと山なりに相手コートに戻っていく。
750
フクシマが返球するかと思ったのだが、そのままスルーした。
⋮⋮?なんで?
﹁バックアウト﹂
うそ! 今の入ってなかったのか!?
﹁くそう、今のほんとはインだったんじゃないのかよ﹂
さっき、サツキとクロちゃんに腹立ててるとか⋮⋮ありえそうだ。
﹁⋮⋮あの審判、ちゃんとジャッジしてるよ。今の、ギリギリアウ
トだった。大体、インだったらフクシマが返球するでしょ﹂
く、確かにサツキの言う通りだな。
というか、今回はフクシマ&カミムラペアが悪役っぽくなってたな。
﹁ゲーム、ゲームカウント4−0。ウィナー、カミムラ&フクシマ
ペア﹂
﹁⋮⋮ありがとうございました﹂
終わった後は握手してこちらに戻ってくる。
﹁お疲れ、キリ、マイマイ﹂
サツキが声をかける。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
751
ここまで惨敗だと、なんて声をかけたらいいか分からん。
負けたときって一体なんて声をかければいいんだろう?
﹁ほら、サツキもクロちゃんも、ヤス先輩もそんなしけた顔してち
ゃ駄目ですよ。まだ負けが決定した訳じゃないんですから。サキち
ゃんとミキミキの応援しましょう!﹂
⋮⋮さっきのダイビングの時に所々擦りむいたみたいで痛そうなの
に、そんなん気にもとめずキリが言う。
⋮⋮キリに言われちゃったな。
悔しそうな顔しつつも、次の人の応援に意識が向いてるキリとマイ
マイ。
その通りだ。まだ負けた訳じゃないからな!
﹁サツキ、相手のダブルス3はどれくらい上手いんだ?﹂
﹁ダブルス3で出てくる2人はどのくらい上手いか知らない⋮⋮他
のメンバーがあの2人についていけてないから、去年は団体戦では
県大会どまりだったんだけどね⋮⋮﹂
つまり、ダブルス1の2人組と同レベルくらいの可能性も無くはな
い訳か。
それなら、サキちゃんとミキミキなら勝てる!
負けるなよ! サキちゃん、ミキミキ!
752
88話:サツキの中総体、地区予選決勝、ダブルス2︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ブログ更新できなくてすみません。
中々時間とれなくて⋮⋮。
本編はずっと更新させますので、よろしくお願いします。
話は変わりますが、相手がいるスポーツってめちゃ登場人物増えま
すね。
テニスの試合から、ここまで一気に登場人物が増えちゃいました。
ラグビーとかサッカーを書いたらどんな事になるやら⋮⋮。
のはず
ほとんどがテニスの試合中だけの登場なので、適当に読み流してく
ださい。
753
89話:サツキの中総体、地区予選決勝、ダブルス3、接戦
さあ、サキちゃんとミキミキ。
vs
オカ&オカ﹂
優勝できるかどうかがかかってる。ダブルス3で母校に白星をつけ
てやれ!
﹁ダブルス3、サキ&ミキ
⋮⋮ああ、サツキだけじゃなく、サキちゃんもミキミキも名前で呼
ばれてるじゃないかと思ったかもしれないが、サキちゃんもミキミ
キも名前っぽいけど名字だからな。崎と三木だ。
ただし、サキちゃんは崎早紀だ。ミキミキも三木美樹だ。
名字と名前が一緒ってのも珍しいよな。
⋮⋮どうでもいい話だったな。
相手は同じ名字?
おお、同じ顔が2つ並んでる。双子か?
﹁いくよ! 恵理<エリ>!﹂
﹁ういっす、椎子<シイコ>姉!﹂
ん? 今あの姉妹はなんて言った?
オカ⋮⋮シイコ? オカ⋮⋮エリ? おかしい子とお帰り?
ミキミキ達といい、オカ姉妹といい⋮⋮ここのダブルスは名前遊び
組か?
754
さて、最初はオカシイコさんのサーブだ。
﹁そいやっさーっ!﹂
や、その叫びは無しだろ? 確かにすんごい声あげるトッププロも
いるけど。卓球でポイントとった後、何か叫ぶ日本のプロの選手も
いるけど。
ふざけた叫び声とは裏腹に、とても綺麗なスピンサーブを打った。
相手のバックに向かって突っ切る返しづらいサーブだ。
﹁ふんっ!﹂
ミキミキがバックで返す。
おい、女の子。﹃ふんっ!﹄は無いぞ。
﹁そいやっさーっ!﹂
⋮⋮もう叫び声については何も言うまい。
755
オカシイコさんの返球は毎回バックに向かっている。
普通の人はフォアよりバックの方が苦手な人が多いからな。
ミキミキも打ちづらそうだ。
﹁ふんっ!﹂
バックの方向に毎回打たれる事を嫌ったのか、ロブを打ち上げた。
うん、あの位置からなら相手もバック方向には打ちにくいぞ。
後衛のオカシイコさんが走って追いつく。
﹁ほいさっさー!﹂
⋮⋮⋮⋮ごめん、やっぱりつっこんでもいいかい?
その叫びは何だ!? ほいさっさっておい!? ⋮⋮相手に脱力させるのが狙いか?
相手もお返しとばかりにロブを打ち上げた。
今度はミキミキが走る。
﹁ふんっ!﹂
ミキミキがぼけっと突っ立っているように見えたオカエリさんの右
の隙間を縫うように返球する。
よしっ、決まったか!?
﹁甘いっす!﹂
オカエリさん、ぼーっとしてるように見えたけどちゃんと見てたん
だな。
ボレーでミキミキとサキちゃんの間を狙う。
756
﹁そっちこそ!﹂
サキちゃんがギリギリで追いついたか。
オカエリさんの頭上を越えるロブをあげる。
﹁シイコ姉、頼むっす!﹂
﹁無理!﹂
おいっ! 無理は無いだろ、無理は!
いや、確かに今のに追いつくのはかなり無理っぽそうだったけど。
﹁ナイス! サキちゃん!﹂
﹁ありがと、ミキミキ!﹂
ハイタッチを交わす2人。
うん、いい感じだ。頑張れ、ミキミキ、サキちゃん。
﹁ゼロ・ワン﹂
さあ、オカシイコさんのサーブだ。
﹁そいやっさーっ!﹂
かなりの回転がかかったスピンサーブだ。
⋮⋮だが、あれくらいのボールなら、サキちゃんならとれる!
﹁ばっかやろーっ!!﹂
757
⋮⋮⋮⋮⋮⋮どうかしたのか? サキちゃん?
普通にストロークを返す。相手のバックに向かってボールが入る。
﹁何がだーっ!!?﹂
おい、オカシイコさん。
試合中に相手チームと会話するなよな。
⋮⋮その割に、ちゃんとしたボールを返すから不思議だ。
コートの最奥を狙ったボールが返球される。
サキちゃんはコート外まで下がって、前衛の頭を越すロブで返す。
⋮⋮元のポジションに戻る時間作りかな?
﹁財布落としたんだボケーッ!!﹂
わー、悲惨。いくら入ってたんだろ?
オカシイコさんとオカエリさんは左右のポジションをチェンジして、
普通のストロークで返す。
かなりのスピンがかかっているからとりにくそうだ。
﹁いくら入ってたんだー!!?﹂
俺の心が分かるのか? オカシイコさん?
ってか、言葉のキャッチボールと言う言葉もあるけど、試合中にそ
んな事叫ばねえよ。
サキちゃんがちょっと前に飛び出してボレーで相手に返す。
﹁200円だーっ!!﹂
758
すくなっ!
⋮⋮いや、俺も300円で生活してるから、笑い事じゃないのは分
かるけど、そこまで叫ぶ事じゃねえよ。
テニスに集中⋮⋮してるか、叫んでる割に集中してるなあ。
オカエリさんとミキミキは今の所手出しをしていない。
チャンスボールを虎視眈々と狙ってる。
オカシイコさんがライジングショットで相手のバックを狙ったボー
ルを打つ。
﹁だからどうしたっ!﹂
⋮⋮それはこの会場中が思った事かもしれません。オカシイコさん、
あなたはおかしくありません。
おお、バックボレーだ。
⋮⋮サキちゃんも上手い。
﹁悲しいだろっ!﹂
まあ、確かに悲しいよ。サキちゃん。
オカシイコさんが前に飛び出してるサキちゃんの後ろを狙ったロブ
を打つ。
﹁私なんかなっ!﹂
オカシイコさん、あなたも最近何かあったんかい?
後ろに戻ったサキちゃん、思いっきり振り抜く。
759
﹁どうしたっ!?﹂
ただのラリーになってない所が凄い。さっきから難易度の高いボー
ルを応酬し合っている。
審判ってつっこみ入れなくていいんだろうか?
﹃私語は慎むように﹄って。
﹁昨日素足で犬のうんこ踏んづけたんだーっ!﹂
⋮⋮悲惨すぎる。
俺も経験したが、あんな惨めな経験は無いぞ。
どうやって経験したか? 春に家族で海にいった時、砂浜で散歩し
てたら、素足で歩きたくなったんだ。で、靴を脱いで歩いてたら走
り回りたくなって、走ってたらいきなり﹃ぬちゃ﹄という感触を味
わったんだ。
⋮⋮思い出したくもない。犬のうんこは飼い主がきちんと片付けて
くれ。
﹁ざまーみろっ!﹂
サキちゃん!
傷口に塩を塗り込むような発言はやめてあげて!
あっ、今までほとんど動かなかったオカエリさんが突然動いた!
サキちゃんとオカシイコさんのラリーに割り込んで、スマッシュを
放つ!
﹁私も混ぜるっすー!﹂
760
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮論点はそこかい。
サキちゃんとミキミキのど真ん中を狙ったスマッシュを放った。
2人とも今度は動く事が出来なかったな。
﹁サスガ、エリ!﹂
﹁実力っすよ!﹂
今度はむこうの陣地でハイタッチだ。
﹁えーと、ワンワン?﹂
いや、それを言うならワン・オールだ。犬になってるぞ審判の女の
子。
さっきから選手達の叫び声で審判も頭の中が混乱してるな。
まあ、ダブルス1やダブルス2のときのような悲壮感は漂ってない
分、こちらもほのぼのと見ていられるが⋮⋮。
これって地区優勝を決める大事な1戦のはずだよな?
実力伯仲してるっぽいから、中々勝負が決まらなさそうだ。
どっちも、頑張れ!
あ、でもミキミキ達、勝ってね。
761
89話:サツキの中総体、地区予選決勝、ダブルス3、接戦︵後
書き︶
こんにちは、ルーバランです。
名前、本当にいるんでしょうか?
他にどんなんがあるんでしょう?
﹁小田真理﹂﹁矢場いよ﹂﹁大場加奈子﹂﹁岬美咲﹂
あたりはいそうです。
実際に親が付けたのでしたらさらにびっくりです。
⋮⋮作中のこの子達の設定は親が付けたですが。
結婚でそう言う名前になったのなら、きっとすごいいい関係だった
んでしょう。
それでは今後ともよろしくお願いします。
762
90話:サツキの中総体、地区予選決勝決着
さあ、面白名前ペア同士の対決。勝つのはどっちだ!?
その後も完全に互角の戦いを繰り広げている。
オカシイコ&オカエリペアは言っては悪いがむこうのチームのダブ
ルス1のペアより断然上手い。
双子と言う事もあるのか、息もぴったりだ。
ペア相手のミスのカバーがすっごい上手だ。
対するサキちゃん&ミキミキペアも、お互いに声を掛け合ってコー
ト内をちょこまかと動き回っている。
この2人の運動量はかなり多い。
それだけ動いてもばてないだけの練習を積んできたと言うのはすご
いな。
ただ、どちらのペアにも決定打の様なものが無いみたいだからな。
余計にラリーの応酬で長引くのだろう。
⋮⋮しかし、さっきからボールを打つときの叫びが、自分の悲劇自
慢になっているのはどうにかならんか?
ネタになりそうなものばかりで、本当に悲劇っぽいのは1つもない
のが救いだが、そのせいで緊張した戦いのはずなのになんとなくほ
のぼのしてる。
とても決勝とは思えん。
さっきまで腹を立ててたはずのサツキがずっとお腹を抱えてうずく
763
まってるのはどうしよう?
サツキ、そう言う笑えるネタ大好きだもんなあ。
﹁おーい、サツキ。応援できるかー?﹂
﹁む、無理⋮⋮お腹痛い、笑い死にしそう⋮⋮﹂
⋮⋮サツキにとっては至福のひとときだ。相手の監督に対して腹立
ててた事は完全に頭からぬけてるな。
さあ、現在はゲームカウント3−3。ポイントは5−4でオカシイ
コ&オカエリペアが1ポイントリードだ。
ファイナルゲームはルールが少し変わる。
今までのように4ポイントではなく、7ポイント先制した方が勝利
になる。
しかしこの試合に関しては、さっきからジュースばっかだったから
4ポイントでゲームという印象が無いな。
また、サービスは2ポイントごと、コートも4ポイントごとに交代
764
だ。
今はオカエリさんのサーブだ。
﹁いくっすよ! うっす!﹂
フラットサーブがとぶ。クロちゃんほどじゃないが中々のスピード
だ。
受けるのはサキちゃん、暴露大会をおっぱじめた張本人だ。
﹁自動販売機のバカッ!!﹂
その叫びはよく分からんが、そんなに叫んでばてない君たちは一体
なんだ?
すぐにばててたむこうのチームのダブルス1が何か惨めすぎるぞ。
相手のバックを狙ってリターンする。
オカエリさんはバックの方に来る事を予測していたのか、既に回り
込んでフォアで打つ体勢だ。
オカエリさんのフットワークもまだまだ軽い。
﹁コーラを買ったんすねっ!﹂
オカエリさん⋮⋮なんでサキちゃんの考えている事が予測できるん
だ?
何となく俺もオチが読めたぞ。
フォアで思いっきり振り抜いた、かなりのスピードのボールが返球
される。
サキちゃんも予測してたのか、既にかなり後ろに下がってボールを
765
受ける。
﹁その通りっ!﹂
わざわざ返事せんでいいよ⋮⋮この試合中何回思った事か。
サキちゃんもボールを返す。
ここで、オカシイコさんが動いた。
﹁開けた途端にっ﹂
ドロップショットか!
サキちゃん後ろに下がってるから追いつけん。
⋮⋮ミキミキ、届くか?
﹁顔面に炭酸がヒット!﹂
⋮⋮ダイビングしながら叫ぶ事じゃないぞ。それ。
何とか返球したが、完全にオカシイコさんのスマッシュの体勢の位
置にボールが落ちてくる。
ダイビングしたミキミキはまだ倒れてる。
この広いコート、サキちゃんだけでカバーしきれるか!?
﹁しかもホットだったんだあっ!!﹂
そう叫びつつ、スマッシュを放つオカシイコさん。
そ、それは悲惨だ⋮⋮ってかお前ら4人、同じ経験を共有してるの
か?
サキちゃん、やっぱりとる事は出来なかったかあ⋮⋮。
⋮⋮これで6−4。相手のマッチポイントだ。
766
このままでは負けてしまう。最低でも2連続でポイントしないと!
頑張れ、サキちゃん、ミキミキ!
サービスは交代で、次はオカシイコさんのサービスだ。
﹁これで決めるよ! ドッセイ!!﹂
わ、わからん。お前らの叫びは本当に。
しかし、本当に綺麗なスピンサーブだ。
オカシイコさんのサービスエースは今までに2回ある。
ここでサービスエースとられんなよ、ミキミキ。
﹁ウッセイ!﹂
さすがに何発も食らって慣れたのか、多少の余裕を持ってバックで
返した。
ただ、コート外まで走らされてる。急いで戻らないと!
ボールが相手のバック方向へ突き刺さる。
ってかそれ、本音か? 確かにこの試合、ずっとうるさかったのは
認めるが⋮⋮。
767
﹁クッセイ!﹂
オカシイコさんはミキミキのいる所とは反対方向へロブをあげる。
追いつけ、ミキミキ!
⋮⋮オカシイコさん、おならでもしたんですか?
コート内、クサいのかなあ?
﹁アッセイ!﹂
ギリギリ追いついたミキミキが、何とか返す。だが、これはチャン
スボールになる。
ああ、汗臭いのか。そりゃそうだ。お前ら走りすぎだ。
ってかこの試合長すぎだ。
叫びが楽しくて帰る人がほとんどいないどころか、ギャラリーは増
えてるけどな。
ってか、﹃ッセイ﹄つながりだと言うのがやっと分かった。
試合中そんな事を考えてるなよ⋮⋮。
オカエリさんがスマッシュの体勢だ。ヤバい!
このままじゃ決められてしまうぞ!
﹁コッスイ!!﹂
768
⋮⋮あれ? ボールはどこだ?
﹁シックス・ファイブ﹂
おや? サキちゃん、ミキミキにポイントが入ってる。
何が起こったんだ?
﹁サツキ、何が起きたんだ?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮駄目だ、笑えてどうしようもないっぽい。
今度、オカシイコ&オカエリペアと対戦する事になった時、こんな
んで大丈夫なんだろうかなあ?
﹁クロちゃん、さっきどうなったの?﹂
とりあえず平常心っぽいクロちゃんに聞く。
﹁ああ、オカエリさんがスマッシュを打った目の前にサキちゃんが
いて、オカエリさんが反射的に打つ方向を変えちゃったんですよ。
無意識にぶつけるのやめようとしたんでしょうか? そしたらそれ
がコート外に出ちゃって。ちょっとこずるいですね、サキちゃん﹂
ああ、だから最後オカエリさんが狡い︵こすい︶って言ったんだな。
769
まあ、後1ポイントで負けちゃう訳だから何でもしたくなるのは分
かるが、思いっきり顔面にぶつけられたらどうするつもりだったん
だよ?
ソフトテニスでもそんな至近距離であたったらそこそこ痛いんじゃ
ないか?
⋮⋮考えるのは置いとこう、まだ相手チームのマッチポイントは続
いてるんだ。
オカシイコさんのサーブだ。
﹁今度こそ決めてやる! そいやっさーっ!!﹂
スピンサーブ、受けるのはサキちゃんだ。
ギリギリの所に決まった、とりにくそうだ。
何とか返せ! サキちゃん!
770
﹁ヤス先輩のバカっ!﹂
⋮⋮え? 俺?
俺、なんかしたかなあ?
サキちゃんの球は何とか返った。
ただ、後衛のオカシイコさんにとってはかなり打ち頃の球だな。
﹁誰だそいつはっ!?﹂
⋮⋮俺です。
オカシイコさん、コートの浅めの所に返した。
コートのライン上にいたサキちゃんはダッシュで前に詰める。
﹁無理矢理私のっ!﹂
ポン、とロブを打つ。オカエリさんの頭を超える。それをとる為に
今度はオカシイコさんがダッシュ。
サキちゃんがそのまま前衛になり、後衛にミキミキがつく。
な、何したっけ? 色々心当たりが多すぎてわからん。
﹁唇を奪ったのかっ!?﹂
いや! 俺のキスの経験は1回で⋮⋮思い出したくもない!
あんなんはキスとは言わん!!
なんか焦りまくりで試合に集中できなくなって来た。
﹁それはケン先輩とヤス先輩っ!﹂
ミキミキ⋮⋮ばらすなよ⋮⋮ああ、ミキミキってその決定的瞬間に
771
居合わせたっけ。
忘れろ! あれは記憶から抹消したいんだ!
﹁じゃあ何されたんだっ!?﹂
お前ら、真面目にテニスをしろ!
⋮⋮ってめっちゃ真面目にやってるな。
あんなに汗だくにプレイしてる人たちに不真面目とは⋮⋮本当に言
いたいけど言えん。
﹁スカートに頭を突っ込んでっ!﹂
あれかああああっ!!! サキちゃん、そんな事言わないで!
﹁どうしたっ!?﹂
それだけだ! それ以降は平謝りしただけだ!
﹁パンツをなめたっ!﹂
してない! いや、口が当たったかもしれんけど⋮⋮。
なめるなんて事は断じてしてない!! そんな事はしてない!!!
﹁最低だっ!﹂
﹁最低ねっ!﹂
﹁最低っす!﹂
772
﹁最高よっ!﹂
﹁最低だっ!﹂
﹁最低ねっ!﹂
﹁最低だっ!﹂
﹁最低ねっ!﹂
﹁最低っす!﹂
⋮⋮⋮⋮ラリーを続けながら﹃最低!﹄とみんなで叫ぶ⋮⋮。
いじめ? これは新手のいじめ?
止めたいっ! この試合を今すぐにでも止めてやりたい!!
くそう、真面目に試合しつつ馬鹿な話をするんじゃない!
サキちゃん、もしかしてずっとそんな事を俺に思いながら俺と接し
てたのか?
﹁ああ、ヤス兄、大丈夫だから﹂
773
サツキ、下手ななぐさめは余計みじめだぞ。
﹁⋮⋮ま、いっか﹂
⋮⋮何がだ?
⋮⋮ふう、立ち直った。つい、気がそれてしまったが、試合は現在
6−5のままだ。
そんなに長い時間へこんでた訳じゃないぞ。
さっきから、ラリーが続いてる。
今、オカシイコさんがロブをあげた。
ん? ちょっとミスったのか、あんまり高くない。
﹁そいやっさーっ!﹂
うん、もう﹃最低!﹄コールは無くなったな。
﹁これは、決める!﹂
サキちゃんがジャンプした。
スマッシュの体勢だ。
﹁でやっ!!﹂
774
サキちゃんが、思いっきり振り切った。
オカシイコさんの足下に向かってまっすぐ一直線にボールが飛ぶ。
よしっ!これでジュースだな!
﹁うえっ!?﹂
なに!? か、かなり不格好だけど、ボレーで返した!
ふわっと誰もいない所にボールが返っちゃった。
やばっ! 追いつけるか!? ミキミキ!
﹁えいっ!﹂
よし、当てた!
かえれ!ボール!
775
﹁ゲーム。ゲームカウント4−3。ウィナー、オカ&オカ﹂
結局最後はネットにはばまれた。
⋮⋮いい勝負だったんだけどな、残念だ。
優勝は相手の中学。母校は準優勝と言う結果だ。
﹁ありがとうございました!﹂
握手を交わすオカ姉妹とサキちゃん&ミキミキ。
﹁⋮⋮負けましたよ﹂
サキちゃんがオカシイコさんに話しかけてる。
﹁いや、最後のあんたのスマッシュのは偶然当たって返っただけだ
し。今度対戦するときは、もっと完璧に勝ってみせるから!﹂
﹁私達だって負けませんよ!﹂
うん、まだ県大会があるんだからな。
そこでまた両チームとも、思う存分暴れてくれ!
ま、それよりまずは明日の個人戦だ!
﹁サツキ、明日こそ負けんなよ!﹂
776
﹁分かってるよ! 絶対優勝してやるんだから!﹂
その意気だ! サツキ!
777
90話:サツキの中総体、地区予選決勝決着︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
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読者の方々が読んでくれたおかげです。
ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
778
91話:月曜日の朝
7月13日日曜日。個人戦の開始だ。
個人戦、個人戦はこの地区は6位まで進出できる。
サツキ&クロちゃんペアは1回戦は普通に4−0で勝ち上がった。
で、2回戦の相手は、シード扱いになっていたのが去年個人戦で東
海大会まで勝ち進んだという昨日のダブルス2のフクシマ&カミム
ラペアの2人組だ。
vs
フクシマ&カミムラは白熱した。
⋮⋮いきなりこんな所で優勝決定戦をやるのか?
サツキ&クロちゃん
サツキ、昨日はフラットサーブしか打たなかったのだけど、実はス
ライスもスピンも打てた。強い相手との対戦の為に隠し持ってたの
かな?
クロちゃんの豪速球のフラットサーブも相手はとるのが精一杯くら
いで、サービスエースも何回も決めていた。
相手側も自分達のサービスの時はきっちりキープし、お互いにブレ
イクさせないまま3−3の同点でファイナルゲームに突入。
ファイナルゲームになると、徐々にお互いのサーブを攻略し始めた。
リターンエースも時々決まったり、ラリーがずっと続いたり、ファ
イナルゲームはジュースの連続。
何回続いたんだろ? 途中から数えるのやめてしまったから分から
779
ん。
最後、ギリギリのコースを狙ったサツキのボールがわずかに外れ、
ゲーム。
ゲームカウント4−3でフクシマ&カミムラペアの勝ちだ。
2回戦敗退と言う結果だから、結局個人戦ではサツキ&クロちゃん
ペアは県大会に出場すら出来なかった⋮⋮。
しかもサツキ&クロちゃんペアだけじゃなく、他のブロックでも強
豪同士を1、2回戦で当てて潰すという訳の分からないトーナメン
トになっていた。
明らかに組み合わせが間違ってる!
オカ姉妹とキリ&マイマイペアもいきなり1回戦で当たると言う訳
の分からん組み合わせ。
何考えてんだ? 主催者。
結局キリ&マイマイペアが4−3で負けて、オカ姉妹が勝ち進んだ。
⋮⋮俺の母校、オカ姉妹と相性悪いな⋮⋮。
ぎりぎりフクシマ&カミムラペアは県大会出場を決めたけど、それ
でも5位と言う結果。
フクシマ&カミムラペアは準々決勝、ベスト4決定戦でオカ姉妹と
当たった。サツキ&クロちゃんペアでの対戦でばててしまってたフ
クシマ&カミムラペアは実力を全然出せず、オカ姉妹に負けた。
東海大会出場していたチームが5位で終わってしまうとか、ありえ
ないだろ!?
そのオカ姉妹も、キリ&マイマイペアとフクシマ&カミムラペア、
780
それと昨日の疲れも残ってたのか、準決勝でどっかの中学のペアに
敗退。
オカ姉妹は結局4位と言う結果になった。
優勝したのはタナカ&スズキペア。昨日の決勝のダブルス1のペア
だ。
確かにそこそこは強かったが、むこうのブロックに強豪がどこも入
ってなかったという結果だよな。
⋮⋮俺の母校からの個人での県大会出場は0か。実は昨日の決勝相
手は県大会に3ペア出場してるからな。明暗くっきり分かれた結果
だ。
ん? サキ&ミキペアは、今日は昨日の試合の疲れで動けなくなっ
てた。仕方が無いので棄権していた。
⋮⋮オカ姉妹はぴんぴんしてるのに、サキ&ミキは動けなくなるの
はおかしいとか言うか?
あいつら、オカ姉妹のコンビプレーを、運動量でカバーしてたから
な。
オカ姉妹より多く動いてたのは間違いない。
無駄な動きが多いと言えばそれまでだが、そこはプレースタイルの
違いだ、仕方が無いと俺は思う。
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サツキ、クロちゃん、キリ、マイマイ、棄権したサキちゃんもミキ
ミキもみんな泣いてた⋮⋮。
確かに﹃お前らは途中で負けたんだ﹄と言われればそれまでなんだ
ろうけど⋮⋮くそ、納得できない。こんな結果。
﹁まだ、団体戦があるだろ! 県大会まで後2週間半、頑張って団
体戦で見返してやれよ!﹂
﹁うん、頭ではわかってるつもりなんだけど、やっぱり悔しいよう、
ヤス兄⋮⋮﹂
いつも笑ってくれるサツキがこんな風になってしまうのは悔しい。
⋮⋮こう言う時ってほんとなんて言えばいいんだろう?
俺もこう言う時は何言われても、﹃あ、そ。どうせ他人事だろ﹄っ
て聞こえてしまって、なんともならんもんな。
父さん、母さんも車で応援に来てたので、サツキ以外のみんなをひ
とりひとり送ってやり、俺とサツキは2人で家に帰った。
⋮⋮結局、夕飯も食べんと、何もしゃべらないまま布団に潜り込ん
でしまった。
ま、サツキが寝息をたてるまではここで見てるか。
⋮⋮明日には元気になれよ、サツキ。
⋮⋮ほんと、個人戦はありえなかったな。本気で主催者の頭をぶん
殴ってやろうかと思ってしまう。
782
⋮⋮朝だ。 気になってあんまり眠れてない。
今日は7月14日月曜日、サツキの中総体地区予選が終わった翌日
だ。
今は6時半、そろそろサツキを起こさないとまずいんだが。
サツキの部屋の前に立つ。
うう⋮⋮なかなか入りにくい⋮⋮。
﹁⋮⋮サツキー、入るぞー﹂
返事が無いのはいつもの事だ。
まだ寝てるのかな?
そーっとドアを開ける。
⋮⋮うん、まだタオルケットが膨らんでる。
﹁おい、サツキ。起きれるか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮くー⋮⋮⋮⋮﹂
783
ん? 普通に寝てるだけか?
とりあえずゆさゆさとサツキの体をゆらしてみる。
﹁起きろ、サツキ。遅刻するぞ﹂
﹁んー、や⋮⋮﹂
⋮⋮いつも通りの反応だなあ。
﹁起きろ! サツキ!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あー、もう朝?﹂
寝ぼけてるけど、起きたな。
﹁おはよ、サツキ⋮⋮もう、大丈夫?﹂
﹁⋮⋮おはよ、ヤス兄⋮⋮えと、何が?﹂
﹁あ、えと昨日のさあ﹂
﹁ああ、そんなん一晩泣いたらすっきりしちゃったよ。ヤス兄の言
う通り、まだ団体戦もあるしね! 今日から県大会まで、突っ走る
よ!﹂
ふぅ、よかった。元気なサツキだ。
﹁じゃ、学校行こっか!﹂
サツキが元気よく立ち上がろうとしたんだけど、
784
﹁あぅ、めちゃくちゃ体重い⋮⋮﹂
すぐにへたり込んでしまった。
﹁⋮⋮昨日の疲れが残ってるな、今日は部活やらずに家に帰ってし
っかり休養しろよ﹂
﹁⋮⋮はーい、んじゃヤス兄、中学まで迎えに来てくれる?﹂
﹁え? あー、えと⋮⋮そだな! 自転車漕いで行くから待ってな
!﹂
﹁ありがと! ヤス兄、中学から2人で自転車で乗って帰るのは久
しぶりになるね!﹂
﹁あ、うん⋮⋮そうだな!﹂
嬉しそうなサツキを見ると、どうにかしてやろうと思ってしまう。
サツキにはばれないようにしないとな。
⋮⋮ま、何とかするさ。
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91話:月曜日の朝︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ヤス君は主催者を怒ってますが、強豪同士が初戦等で当たる事はよ
くある事です。
特にサツキ達みたいに今年の代から強くなった場合はシード権がな
いので、古豪とすぐに当たってしまうのはたびたび起こります。
それでは今後ともよろしくお願いします。
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92話:兄妹
7月14日月曜日の3時間目が終わった所だ。
時刻で言うと11時30分。
今から俺は忍者のようにこっそりと姿をくらませねばならない、サ
ツキの為に。
サツキ達の学校が終わるのは12時半。中学校は夏休み前の短縮授
業になっている。
その後、部活で軽く反省会を行うと話してた。それが終わるのが大
体1時半だな。
つまり、できれば1時半。どんなに遅くとも2時にはサツキの中学
校の前で自転車に乗って待ってなきゃならんと言う事か。
⋮⋮はぁ、大変だ。
ここから家に帰るのに50分くらいかかる。そっから学生ってばれ
ないような格好に着替えるのに10分、自転車で中学の前に行くの
に20分。
昼休みまでいると、ほんとにギリギリなタイミングになるから、実
行するなら今しかない。
⋮⋮今回はケンに助けを頼むわけにはいかんからな。余計大変だ。
﹁さて、どう帰ろっかな⋮⋮﹂
787
﹁ん? ヤス? 何の事言ってるんだ?﹂
やばっ、ケンだ!
﹁いや、何でも無いぞ﹂
﹁ふーん⋮⋮しかし、今日はめんどいよなあ、何で午後全部使って
富士山清掃しなきゃいかんのだ? しかも俺たちのクラスだけ他の
クラスのノルマ倍とか⋮⋮ありえないよな﹂
﹁⋮⋮ああ、そうだな﹂
そう、今日は﹃富士山学習﹄とか言う学校行事の日なのだ。以前配
られたスケジュール表、見てみると載ってる。
その実態は何をするのかというと、富士山の清掃らしい。
年々汚くなってる富士山を、地元民で綺麗にしようというのが趣旨
なんだってさ。
で、この前思いっきり歌って学校中に大迷惑をかけた俺たちのクラ
スだけ、ノルマが倍になってる。
実は俺だけ3倍なんだけど⋮⋮。
これ、学校全体をあげての行事な上、地域住民まで巻き込んでの作
業だから、サボったらかなりめんどくさそうなんだけど⋮⋮まあサ
ツキのお願いだからな。
実際今日風邪とかで休んだ人でも、代わりに何かしらするらしいし。
サボった場合は一体何するんだろうなあ⋮⋮。
788
ま、俺にとっては優先度はサツキのお願いの方が上に決まってる。
﹁なんかヤス、挙動不審だぞ? 何か悪いもん食ったか?﹂
まあ、気付くよな。ケンは。
今回ケンにサポートを頼めないのは、ケンに大迷惑がかかるからだ。
ケンが知らなかったら、ケンに責任は何も来ないけど、ケンが知っ
てたら、一緒になって何かしないといけなくなるからな。
いや、別に終わってみたら大した事無かった⋮⋮って事になるかも
しれんけど、念には念を入れてだ。
うーん⋮⋮。この集団監視の中、こっそり帰るのはどう考えても無
理だ。
⋮⋮忍者を目指すのではなく、全てをぶっ壊して突き進む戦車にな
った方が良さそうだ。
﹁おーい、ヤス。聞いてるか?﹂
﹁じゃ、俺は突っ走る﹂
﹁は? 突然何言ってんだ? もうすぐ学年主任の先生が来るぞ﹂
そうか、次の授業はあの学年主任か。⋮⋮やばいな、急がんと。
﹁じゃ、ケン! また明日な!﹂
﹁いや、訳わかんねーよ! 一応説明しろって!﹂
説明してる時間は無いからなあ。説明もまた明日な。
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まあ、めっちゃ緊迫してるように言ってるけど、ただ単にサツキと
下校するだけだ。
﹁あ、おい! 近藤! 授業が始まるぞ! どこへ行く!﹂
やばっ!学年主任だ。
﹁俺は近藤じゃありません! ヤスです!﹂
訳の分からない言い訳をして学年主任の横をすりぬける!
﹁おい、鞄まで持って何してる、近藤! ⋮⋮こら、ヤス! ヤス
!!﹂
あ、今ヤスって学年主任まで言ったな。
俺の事、名字で呼ぶ最後の人なんだけど⋮⋮。いつまで続く事か。
学年主任が道を塞ごうとしてるけど、俺のがギリギリ速い!
パシッ!
﹁っ! ヤス!!﹂
ん? 何か手に当たったけど、そんなん気にしてられん! 急いで
逃げるぞ!
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﹁ふう、何とか逃げ切った﹂
今は駅前だ。
電車が来るのを待ってる。
こうしてボーッとしてると、昨日の試合の事が思い出されてくる。
サツキ達⋮⋮悔しそうにしてたよな⋮⋮。
あんな思いするぐらいならスポーツなんて⋮⋮って思うけど⋮⋮。
でも、やっぱりフクシマ&カミムラペアとの試合中は凄い楽しそう
にしてたしな。
それに県大会に向けて頑張ろうと思ってるサツキを見てると、羨ま
しい気持ちになってくる。
それに比べて、今の陸上部長距離は⋮⋮現状に文句言ってたって仕
方ないな。
別に陸上部全体がひどい訳じゃない。陸上部の中でも、ユッチは凄
く頑張ってる。
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アオちゃんや、ゴーヤ先輩、キビ先輩も頑張ってるって話をよく聞
く。
あんだけユッチが頑張ってる隣で、自分は何やってるんだろうって
時々思う。
⋮⋮なんとなく、自分の左腕を見た。
せっかく誕生日に、サツキとポンポコさんにこの時計、もらったん
だもんな。
ちょっとは使ってやらないと、この時計ももったいないよな⋮⋮。
確かに、練習場所も無いし、指導者もいないし、モチベーションが
あがらない環境だし⋮⋮練習環境は最悪だけど、どうにだってなる
よな。
サツキだって小6のとき、ソフトテニスの相手なんて壁しかなかっ
たんだ。
そんな環境でも腐らず毎日素振りや壁打のような基礎を続けてたか
ら、東海大会出場するような選手と互角に戦えるようになったんだ
もんな。
高校入学時は高校なんて適当に過ごそうって思ってたけど⋮⋮
⋮⋮俺も、頑張ろ。
⋮⋮あ、電車が来た。
792
家に帰り、服を着替え、ついでに時間が余ったから軽く昼食を作っ
た。
⋮⋮さて、自転車に乗って中学へ行きますか!
校門前についた、時刻は1時半。予定通りだ。
もう既に校門前にはサツキが待ってる。一緒にクロちゃんとサキち
ゃんもいる。
﹁お待たせ、サツキ! ⋮⋮待ったか?﹂
793
﹁ああ、全然? 今、ヤス兄の事話してたんだよー﹂
﹁⋮⋮また失敗談?﹂
これ以上、失敗談を広めないで欲しいな、妹よ。
﹁いーえー、褒めてたんですよね。こんな兄がいていいなって﹂
⋮⋮お、サキちゃん、ほんとか?
﹁中学校での評判、今でもめちゃくちゃ悪いですけどね。最近だと、
いきなり高校生なんかが平日に乗り込んで来るなんて何事だって!﹂
⋮⋮あげて落とすのはかなりへこむんだぞ、サキちゃん。
﹁それに、ヤス先輩ってほんと頼りないですし﹂
⋮⋮どこまで落とすつもりだ、サキちゃん。
﹁あ、でも、最高の先輩だと思ってますよ。その人の好さがほんと
最高です。⋮⋮聞いてませんでした? 私は﹃最高よっ!﹄って叫
んでましたけど﹂
えーと⋮⋮。最低って言われまくってへこんでたからなあ⋮⋮聞き
そびれてた。
﹁あの試合で、ほんとは﹃でも誠心誠意謝ってくれたーっ!!﹄と
か叫ぼうと思ってたんですが、﹃最低!﹄コールになったので、言
うに言えず⋮⋮すみません、ヤス先輩﹂
794
や、過ぎた事はまあいいさ。
﹁それに、私にとっては最高のお兄ちゃんだよね。ヤス兄って、い
っつも一緒にいてくれるし、泣きたい時そばにいてくれるし、私が
落ち込んでるときは笑わせようと頑張ってくれるし、いつでも私の
味方でいてくれるし﹂
サツキ、そんな事当たり前じゃん! 家族ってのはどんな時だって
無条件で一番の味方になるんだぞ!
﹁ほんとありがとね⋮⋮これからも迷惑かけるけど、よろしくね、
ヤス兄﹂
うん⋮⋮こっちこそ。
﹁じゃあ、帰るか!﹂
﹁あ、せっかく自転車で来てくれて悪いんだけど、クロちゃんとサ
キちゃんも久しぶりにうちに呼びたいから、歩いて帰らない?﹂
﹁うん、もちろんいいよ﹂
﹁さすがヤス兄! じゃ、かえろっか!﹂
そう言って、今日は俺、サツキ、クロちゃん、サキちゃんの4人で
帰っていった⋮⋮。
いつも感じてるけど⋮⋮妹がいてくれる嬉しさ、本当に感じた日だ
ったな。
795
93話:ヤス、罰を受ける
今日は7月15日火曜日だ。
憂鬱だ、昨日の凄くいい気分がどこかへ吹き飛んでしまったかのよ
うに憂鬱だ。
今、4時間目の授業が終わった所だ。
さ、行くか。富士山⋮⋮。
今日学校へ来たら、当然のごとく職員室へ呼び出された。
昨日の事だよな、そりゃ。
学年主任の前で堂々と帰ったんだから。
頭を延々と下げ続けるつもりだったんだけど、職員室に入ったら何
か様子が違う。
学年主任だけが顔を真っ赤にして怒ってた。
気の弱い先生達は﹃ガンバレ∼﹄と遠巻きに見てる。
796
えと⋮⋮。俺、何かしたか?
﹁さて、近藤康明。何で呼び出されたか、わかってるよな?﹂
学年主任が話しかけて来た。
﹁⋮⋮ええ、昨日サボった事です﹂
こ、こわー。
﹁ま、それもあるんだが⋮⋮﹂
他に何かしたっけ?
﹁昨日、俺にぶつかったな﹂
⋮⋮そういや、手に何かぶつけたような気もするが。
﹁お前のせいで⋮⋮﹂
えーと? なんなんだろ?
﹁俺の趣味が先生全員にばれたじゃないか! 妻にも言ってないの
に!﹂
⋮⋮。
知らんがな!
いいじゃんか! 趣味ぐらい!!
797
﹁⋮⋮俺の趣味はボードゲームです⋮⋮これでおあいこですし、ゆ
るしてもらえますか?﹂
﹁そんなわけあるか!﹂
まあ、そうだろうな。言ってみただけだ。
﹁⋮⋮どんな趣味ですか?﹂
﹁言えるか!﹂
そんな恥ずかしい趣味だったのか?
﹁ぬいぐるみ集めですよねー、センセ﹂
﹁室井先生! 言わないでください!﹂
室井? ああ、ウララ先生か。 ってかウララ先生⋮⋮そんなはっ
きりと言わなくても。
﹁隠す事無いじゃないですか、かわいらしい趣味ですよねー﹂
まあ、隠すから余計にばれた時いたたまれなくなるんだけど。
⋮⋮でも、ぬいぐるみ集めは公言したくないな。
﹁うるさい! 大体昨日も言ったが俺の趣味は本当はそれじゃない
!﹂
﹁なに言ってるんですか? 写真集まで作ってたのにー、クマのぬ
798
いぐるみに猫のぬいぐるみ、他にもたくさんかわいらしかったです
よ﹂
写真集? ⋮⋮ああ、昨日俺がぶつけたのってアルバムかなんかかな?
﹁ああもう! だからちがう! こうなったら全部言ってやる!﹂
⋮⋮何を?
そう叫ぶと、学年主任はごそごそと鞄を漁り始めた。
いや、しかし意外と学年主任の先生もフランクだな。
宿泊研修のときの怖さは全くない。
とりだしたのは、ぬいぐるみ。
先生⋮⋮いくら好きだからって学校まで持ってこなくても。
⋮⋮しかし、また面白い顔の犬のぬいぐるみだな。
こういうの、サツキが喜びそうだなあ。
﹁これは自作だ!!﹂
自作? このぬいぐるみがか?
や、確かに市販されてなさそうな手作り感はあふれてるけど。
えと⋮⋮つまり?
﹁俺は⋮⋮ぬいぐるみ作りが趣味なんだあああっ!!!!なんだあ
ああっ⋮⋮だあっ⋮⋮﹂
799
⋮⋮凄いカミングアウトだったなあ。
バスにゆられながら、そのときの職員室の事を思い出す。
180cm越えで、体重も90kgはありそうな体育会系の人が、
ぬいぐるみを抱えて編み編みしてる⋮⋮。
やばいっ⋮⋮光景を想像したら不気味すぎるっ!!
というか、なんであんないいタイミングでウララ先生は校内放送の
電源をオンにしてるんだ!?
⋮⋮あの瞬間
﹁ぬいぐるみ作りが趣味なんだああああっ!!!!﹂
という叫びが校内中に響き渡った。
学年主任の趣味、先生全員だけにしかばれてなかったのに、学校中
に広まったんだよな。
学年主任、強面だけじゃなかった。お茶目な一面をかいま見れて楽
しい。
800
今日は早く帰れそうにない事は既にサツキに電話で言ってある。
⋮⋮まあ、富士山に行く事は伝えてないけど。昨日の事がばれたら
気使わせちゃうし。
サツキは今日はクロちゃんの家で夕飯を呼ばれるから気にしないで
って言ってた。
どうやら、昨日休んだ人は今日かわりに富士山清掃をするらしい。
俺の他にも何人かちらほらと同じバスに乗ってる。みんな1袋ずつ
ゴミ袋を持ってる。
⋮⋮俺だけ9袋なのが悲しい。
9袋と言うのは、苦︵9︶労しろと言う事らしいぞ。96袋最初は
渡そうとしてたからなあ。学年主任の先生⋮⋮
そんなん一日で終わるか!?
あれ? あそこに座ってるやつ⋮⋮どこかで見た事あるような?
えーと⋮⋮?
﹁何だよ? ヤス、人の顔じろじろ見て﹂
誰? 何で俺の名前知ってるんだ?
﹁おーい、俺の事覚えてないのか?﹂
801
会った事はあると思うんだが⋮⋮。誰だっけか?
﹁毎日顔を合わせてるぞ﹂
えーと? 知らんなあ。
﹁ほんとに覚えてないのか? ノンキだよノンキ﹂
えーと⋮⋮ああ、そういやそんなやついたなあ。
いつ以来だろ?
声も全然聞いた事ないんだけど。
﹁昨日は偶然風邪引いててさ。今日わざわざかわりに行かなきゃい
けなくなったんだ。めんどい﹂
サツキと下校する為にサボった自分に比べやまともな理由だ。
﹁富士山ってそんなに汚いんか?﹂
いや、知らね。
﹁ってか、でお前、ゴミ袋そんなに持ってんの? ゴミ拾いが趣味
とか?﹂
そんな訳無いだろ!? ペナルティと言うやつだよ。
﹁お前、一言もしゃべらんなあ。部活中もおんなじやつとしかしゃ
べったとこ見た事無いけど﹂
802
うっさい、人見知りなんじゃ。
﹁ま、いいや。頑張ってくれ﹂
お前こそな。
しかし、ノンキってどんなやつかまだよく分からん。
﹁何でこんなにゴミがある⋮⋮?﹂
マナーを守れ! 汚すぎだ! 特に岩陰に隠しているやつ! 見え
ないからいいって思ってるんじゃない!
803
﹁くぅ⋮⋮生ゴミとかクサすぎ⋮⋮涙でそう﹂
すぐに一袋一杯になったけど、富士山全体のゴミは全然減った気が
しない。
とりあえず、ゴミでいっぱいになった袋は脇に置いといて、新たな
ゴミ袋を取り出す。
⋮⋮はあ、どうすりゃこんな風にできるんだろなあ。
遠くから見るとあんなに綺麗なのになあ⋮⋮。
﹁おお、頑張ってるじゃん! もう一袋終わったのか? すげえな
あ﹂
ん、誰だ? ⋮⋮ああ、ノンキか。
﹁このペースならさっさと終わるよな。はい、俺の分もよろしく﹂
は? 何言ってんだ? こいつ。
﹁おれさあ、まだ風邪気味なんだよね。 そんなやつに重労働させ
ちゃいかんでしょ﹂
お前のどこが風邪気味なんだ? 咳もしてないし、声も枯れてねえ
じゃん!
﹁ほい、じゃあよろしく﹂
﹁⋮⋮って、おい! 袋投げ捨てんな! これがゴミになるじゃん
!﹂
804
﹁昨日お前もサボったくせに真面目だな。んじゃな﹂
﹁おいっ! 自分の分は自分でやれよ!﹂
大体お前﹃も﹄ってなんだ!? ノンキ、風邪って嘘なんじゃねえ
か!
ちくしょ、ノンキのやつ、もってるゴミ袋全部投げ捨てやがった。
ノンキを追いかけようと思ったけど、ゴミ袋が飛んで行ってしまう。
やばっ! 取りに行かないと!
慌てて追いかけた。
ゴミを拾いに来てゴミを増やすなんてありえん!
﹁てやっ!﹂
最後のゴミ袋をジャンピングキャッチ! さすがおれ!
ふぅ⋮⋮危ない危ない。
ひぃふぅみぃ⋮⋮全部で9袋ある。サボったやつは9袋って事か。
くぅ⋮⋮ノンキのやつ、既に帰りやがった。
何であいつの分まで俺がやらなきゃいけない!?
﹁⋮⋮⋮⋮しょうがない、富士山の為だ﹂
ノンキがやらないからと言って、俺も帰ると言うのはありえないか
805
らな。
⋮⋮頑張ろ。
806
もう夜の20時だ。
ようやく15袋。もう周りは真っ暗で、ゴミを見つけるのも難しい。
﹁はぁ、なにやってんだかなあ、俺﹂
いつもなら今頃サツキと⋮⋮サツキに会いたいなあ。
﹁やほ、ヤス兄。まだやってたの?﹂
﹁へ? ⋮⋮ってサツキ!? 何でこんなとこにいんの!?﹂
﹁ケンちゃんに聞いたんだ。ヤス兄が富士山にいるって。それで、
クロちゃんのお母さんが送ってくれた。クロちゃんとサキちゃんも
いるよー﹂
﹁ども、ヤス先輩﹂
﹁昨日振りですねー、元気にしてましたか?﹂
おお、クロちゃんにサキちゃん。⋮⋮びっくりだ、ライトまでわざ
わざ持って来てくれてる。
﹁ヤス兄、昨日、無理なら無理って言ってくれればいいのに。毎回
毎回私のわがまま聞く必要ないよ?﹂
﹁あははは⋮⋮﹂
807
結局ばれちゃったかあ。
﹁だから今日はヤス兄へのお礼って事で、手伝うよ!﹂
﹁え? いいのか?﹂
﹁もちろん! その為に来たんだもんね﹂
ありがと⋮⋮サツキ。
﹁私たちも手伝いますよ﹂
﹁ヤス先輩、代わりに今度なんかごちそうしてくださいね﹂
﹁あ、うん⋮⋮ありがと﹂
⋮⋮ゴミ拾いみたいな単純作業でも1人でやってると楽しくないけ
ど、みんなでやってりゃすぐだったな。
昨日といい今日といい、ほんとありがと。サツキ。
クロちゃんとサキちゃんもありがとな。
⋮⋮うん、終わってみりゃ、いい一日だった。
808
93話:ヤス、罰を受ける︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
2話連続で、ほのぼのと終わりました。
本来はこの話はヤス君が何かしらドジして終わりにするはずでした
が、気付いたらこんな話に。
後、ノンキ久々に出てきました。覚えてる人、いるでしょうか?
まともにしゃべったのは初めてです。
また全然でなくなると思いますが。その内活躍⋮⋮するはずなんで
すけどね。するかなあ⋮⋮。
ところで、富士山のゴミ。すごいらしいです。
こんなページとか見ると、結果が分かります。
http://fujisan1.docomo−sys.com
/eco/Top.aspx
家電に家具、タイヤに車⋮⋮観光に来てポイって感じじゃなくて、
明らかに投棄を目的で捨ててますね。
きれいにしていきたいです。
それではまた、今後ともよろしくお願いします。
809
94話:あの話は今?
今日は7月16日水曜日。
昨日の罰の疲れがぬけない⋮⋮おかげでせっかく真面目に練習しよ
うと思ったのに、体が重くて動かなかった。
や、一応10kmは走ったぞ。ポンポコさんから、練習で10km
走れんやつが、試合で10km走れる訳が無いって言われてたから
な。
それにしても疲れた⋮⋮。
いや、嬉しい疲労だけどな。富士山まで、サツキが来てくれるなん
て。
ありがとう! 学年主任!
今は部活も終わり、ケンとの帰宅中だ。駅のホームで電車を待って
いる。
今日は遅くなってしまった。
普段はケンを置いてさっさと帰ってるんだけど、体が重くて時間が
かかってたら、いつのまにかこんな時間だ。
⋮⋮サツキより先に帰れるかな?
﹁何にやけてんだ? ヤス?﹂
810
﹁ケンか。俺はこの2日間幸せに浸っていたんだ。それを振り返っ
ていただけだ﹂
﹁不気味だぞ、ヤス﹂
うるさい、この幸せがケンに分かるものか。
﹁そういえば、ヤス。あの小説はどうなったんだ?﹂
﹁ん? 何の事だ?﹂
﹁えーと、いつだったかな? 6月の中頃に反省文って言ってコメ
ディ小説書いてたじゃん。﹃ご飯戦隊! 炊飯ジャー!﹄だったっ
け?﹂
﹁なんだよそのタイトル! どこの大食らいだ!?﹂
﹁あれ? 違ったっけ? えーと、うんと﹃夜更かし戦隊! もう
朝ジャー!﹄﹂
﹁不健康すぎる! お子様に見せられない!﹂
﹁これも違ったか。ええと、﹃別人戦隊! 誰ジャー?﹄だったよ
な?﹂
﹁何で疑問系なんだよ!? そんな戦隊頼りなさすぎだろ!?﹂
﹁悪い悪い⋮⋮あ、思い出した。﹃変人戦隊! モッコリジャー!﹄
だろ?﹂
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﹁嫌だよそんなタイトル!? 何か生々しすぎ!﹂
﹁ええと、それじゃ⋮⋮﹃おもらし戦隊! ジャージャージャー!﹄
﹂
﹁ケン! 適当に言い過ぎ!﹂
くそ、絶対わざと言ってやがるだろ。
﹁﹃円陣戦隊!オウエンジャー﹄だよ! ケン読んだんだから覚え
とけよ!﹂
﹁ああ、そういやそんなタイトルだったな。ウララセンセの朗読し
か覚えてないや﹂
このウラララブ野郎め!
﹁⋮⋮まあいいや⋮⋮で、ケン。そのオウエンジャーがどうかした
のか?﹂
﹁いや、エンディングだけはまあどっかに載せてみて、評価しても
らったら? って俺言ってたじゃん﹂
﹁ああ、似たような事言ってたな﹂
﹁で、結局どうしたのかなって思ってさ﹂
﹁ああ、ネットに載せたよ⋮⋮でも、最近は更新してないな﹂
﹁ふーん、どこに載せたんだ?﹂
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﹁えっと、﹃小説家になろう﹄ってサイト。ケン、知ってるか?﹂
﹁は!? お前馬鹿じゃない!? なんでわざわざそこに歌詞を載
せるのさ!?﹂
﹁はあ、何かまずいのか?﹂
詩の投稿もOKって書いてあったから投稿しただけなんだが。
﹁⋮⋮馬鹿なやつめ⋮⋮ちなみにヤスは自分の家で投稿してんの?﹂
﹁ああ、そりゃそうだけど?﹂
携帯で投稿してたら、金がかかってしょうがない。
⋮⋮1回家で投稿するの忘れた時、携帯で投稿したけど。
﹁よし、じゃあ今からヤスの家にいって俺が﹃小説家になろう﹄に
ついて語ってやろうじゃないか。毎日読んでいる俺に任せなさい!﹂
﹁え? 今日くるの? 家はいいんか?﹂
いきなり来られても何も準備できんのだが。
﹁ふふ、大丈夫だ。 既に今日はヤスの家に泊まるとメールしてあ
る﹂
﹁いつの間にしてんだよ!? だいたい了解取ってからにしろよ!﹂
ああ⋮⋮、今日も幸せの余韻に浸っていたかったのに⋮⋮。
813
ケンが来るとドタバタするからなあ。それはそれで楽しいけどさ。
﹁何騒いでんの?ヤス﹂
⋮⋮ん?
﹁ああ、ユッチとアオちゃんか。部活お疲れさん﹂
﹁はい、お疲れさまです﹂
﹁お疲れー⋮⋮で、ヤスとケンは何騒いでたのさ﹂
﹁ええと、いきなりケンがうちに止まりにくるとか言い出したんだ
よ﹂
勘弁してくれよ。
﹁ふーん、ヤスの家かあ﹂
⋮⋮おい、ユッチ。何興味を持ってる!?
﹁ヤス君の家、なかなかいいお家でしたよ?﹂
﹁え? アオちゃん行った事あるの?﹂
﹁ええ、大山祭の帰りに﹂
興味津々でこっちを向くな! ユッチ!
﹁いいなあ、ボクも行ってみたいなあ﹂
814
来なくていいよ!?
﹁ちょうど今日さ、ボクの家、おにいちゃんとおねえちゃんだけな
んだよね﹂
だからどうした?
﹁たまには2人っきりにさせてあげたいでしょ?﹂
いやいや、兄と姉を2人っきりにさせてどうする?
﹁ボクもあの2人のラブラブっぷりを見せつけられるのは居心地が
悪いからさあ、今日はヤスの家に泊めさせてくれない? サツキち
ゃんも居るでしょ?﹂
おいおい、それって。
﹁兄と姉て⋮⋮それはあれか? ⋮⋮危ない関係と言うやつか?﹂
﹁へ?﹂
きょとんとした顔をしたユッチ。
⋮⋮みるみるうちに赤くなって来た。
﹁バカあ! エロ! 変態! ドスケベ! ヤスの頭は年中そんな
事しか考えてないのかあ!?﹂
﹁え? や、だってユッチが﹃お兄ちゃん﹄、﹃お姉ちゃん﹄って
いったじゃん!﹂
815
﹁おにいちゃんってのはお姉ちゃんの旦那さんの事だあ! それぐ
らいわかれえ! この馬鹿! 馬鹿!! 馬鹿ヤス!!!﹂
無理だろ!? 今の文脈は勘違いするって!?
﹁や、わかるぞ普通。﹂
﹁わかりますよ、ヤス君﹂
四面楚歌!? 俺の味方は無しか!?
﹁この変態いいい!!!﹂
よ、ようやくユッチが落ち着いてくれた。
816
今むこうでアオちゃんがなだめている。
お、こっち戻って来たなあ。
﹁と言う訳でヤスの家に今日は泊めてね。お姉ちゃんにも連絡しと
いたからさ。サツキちゃんにも会いたいし﹂
おいっ!? 何で俺に黙って話を進めるんだ!?
﹁アオちゃんの家は無理なの!?﹂
﹁すみません、私の家、アパートなので狭いんですよ。 友達泊め
るスペースもあんまり⋮⋮﹂
わ、悪い事を聞いてしまった。
﹁あ、あと私は今日は家で妹が待ってますから、ヤス君の家には行
けませんので。ヤス君、わざわざ誘ってくれたのにすみません﹂
俺誘ってないよ!? いつの間にそんな話になってる!?
ふぅ⋮⋮。
﹁⋮⋮しょうがない、ケンもユッチもうちに来いよ﹂
寝床くらいなら準備できる。
⋮⋮夕飯どうしようなあ。
817
94話:あの話は今?︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
どうでもいい話ですが、キーワード、﹃駅伝﹄削って﹃家族﹄を入
れました。 ⋮⋮駅伝、全然始まりませんから。
ついでに、カテゴリ、﹃幼馴染﹄削って﹃ホームドラマ﹄が入りま
した。何で﹃幼馴染﹄って基本異性の幼馴染の事になるんでしょう?
それでは、今後ともよろしくお願いします。
818
95話:ユッチとおから
ケンとユッチと俺の3人で家に到着。
⋮⋮よし、まだサツキは帰って来てないな。
﹁おし、それでは今日の献立を考えよう。ユッチは料理できるか?﹂
ケンに聞いてもしょうがない。ケンは全く料理する気がないからな。
﹁もちろん! 何を隠そう、ボクの趣味は料理だよ!﹂
﹁ほほう、それは楽しみだ﹂
﹁ヤスとサツキちゃんに今まで食べた事無いようなの食べさせてあ
げるからね!﹂
﹁や、創作料理は普通失敗するんだから。レシピ通り作れ、レシピ
通りに﹂
﹁ええ? ⋮⋮しょうがないなあ。で、今日は何を作るつもりなの
?﹂
﹁んー、鮭のバター焼き、キノコのソテーにでもするつもりだった
んだけど、4人分は無い﹂
﹁ああ、突然来ちゃったもんね。ごめん﹂
気にすんな、ケンなんて前もって泊めてくれって頼んだ事なんてほ
819
とんどないぞ。
﹁と言う訳で、野菜多めの鮭のチャンチャン焼きにでもする。鮭は
少ないが我慢しろ﹂
﹁はいはい、了解。何か手伝う事ある?﹂
﹁いや? むしろ手伝うな﹂
ユッチはユッチで一品料理を作ってくれるのを期待してるんだから。
﹁なんでだよ!? ボクが手伝うのがそんなにやなのかあ!?﹂
いや、そんな事は言ってない。鮭のチャンチャン焼きだけじゃ寂し
いから、もう一品作って欲しいだけだ。
﹁ボクの料理を馬鹿にしてるんだな!? そうなんだな!?﹂
﹁見た事無いから知らん﹂
﹁くそお! ヤスってばいっつもいっつもボクの事馬鹿にしてえ!﹂
今回は馬鹿にしたつもりは全くないんだが⋮⋮。
﹁そんなに自信あるなら、1人で作ってみろ、冷蔵庫にあるやつ何
でも使っていいぞ。批判してやるから﹂
﹁そこは批判って言う所じゃない! ﹃感想﹄とか言えよお!﹂
﹁ああ、ごめんごめん。わざと﹂
820
﹁ヤスの馬鹿あ!﹂
ま、ようやく何か作ってくれる気になったみたいだ。
俺の料理が主菜だから、ちゃんと副菜か汁物あたりを作ってくれる
と嬉しいが、そこはユッチの気配りに期待しよう。
﹁ただいまあ、疲れたあ⋮⋮﹂
お、サツキが帰って来たな。
俺の料理もちょうど一区切りついた所だ。
﹁サツキ、お帰り﹂
﹁サツキちゃん、お久しぶり!﹂
821
﹁あ、ユッチ先輩じゃないですか!? 何でうちに?﹂
﹁サツキちゃんに会いたくなったんだよ!﹂
あ、そうだったんか?
﹁ありがとうございます! わあ、妹が出来たみたいです!﹂
﹁い、いもうとお!?﹂
サツキ、ユッチがちっちゃいのは認めるが、一応年上だ。
そこは嘘でもお姉ちゃんって言ってあげようよ。
﹁ユッチ、料理の方はいいのか?﹂
﹁あ、うん。今終わったとこ、ボクの料理を見てびっくりするよ!﹂
ユッチ! 料理にびっくりはいらん! 奇抜なアイディアは本当に
危険だ!
⋮⋮俺は居間でホットプレートで料理してたから、ユッチの料理が
どんなんかまだ見て無いんだ。
まあ、楽しみだな。
822
﹃いただきまーす!﹄
とりあえず、みんなでいただきますだ。
﹁あ、ボクの料理持ってくるから先に食べてて﹂
﹁ほーい﹂
さてさて、鮭のチャンチャン焼きの出来はどうかな?
⋮⋮うん、まあまあの出来だな。
この料理は、普段野菜を取りたがらない子供ももりもり食べるおす
すめ料理だぞ。
とりあえず、冷蔵庫にある野菜、切ってぶち込めばいいだけだしな。
もやしやキノコ、人参にキャベツ、ピーマン、タマネギにねぎ。
後は⋮⋮お好きなのどうぞ。 トマトとか入れてもいいけど、どう
なっても知らんぞ。
ジャガイモとかアスパラガスとか入れてもあうんじゃないかな。
今回、俺はみそと醤油と砂糖とみりんで味付けしてる。
辛いのが好きな人は豆板醤とか入れてもうまいぞ。
﹁うん、なかなかだね、ヤス兄。クロちゃんとサキちゃんとで作っ
たお好み焼きもよかったけど﹂
﹁やっぱりホットプレートとか鍋で、みんなでつついたりわいわい
しながらつつき合う料理っていいよな。ってかヤスってそう言う料
理が多いよな?﹂
﹁そうだなあ、食事はみんなで食うもんからな﹂
823
そう言う料理は楽ってのもあるんだけどな、実は。
﹁おまたせ! ちょっとヤス! 持つの手伝って!﹂
は? ユッチ、何をお前は作ったんだ?
﹁こぼしちゃうからあ! 早く!﹂
﹁っておい! その量はなんだ!!﹂
﹁ちょっと意気込みすぎちゃって﹂
意気込みすぎだ!
どん! とテーブルに置かれたのは、卯の花、ハンバーグ、ほうれ
ん草の白和え、春巻き⋮⋮。
作りすぎ! というか、ハンバーグとか春巻きって何!? こんな
量ほどひき肉無かったよ!?
﹁どうだあ!? びっくりしたか! ボクの料理﹃おからづくし﹄
!﹂
確かにびっくりだ。違う意味で。
おから⋮⋮確かにたくさん買っといたけどな。
安いし、栄養価は高いし、冷凍保存しとけば意外と持つし。
ああ、あのおから全部使われたのかな? 1月分のつもりだったの
に。
824
﹁まずは基本の﹃卯の花﹄! これはおいしいよね!﹂
確かにおいしいさ! 1週間に1回は食卓に並んでるぞ! でもそ
んなに作ってどうする!?
﹁そして﹃おからハンバーグ﹄! 食べごたえあるのにヘルシー!
しかも栄養もばっちり!﹂
そんなに食べたらヘルシーもくそも無いわい!
全部で⋮⋮15個かあ。
﹁おからとほうれん草の白和え! 意外とこの組み合わせはあうん
だよ!﹂
お、そのレシピはいただきだな。今度作ってみよ。
﹁そして、﹃おから春巻き﹄! 春巻きの中身はおからとミックス
ベジタブル! 1個だけトウガラシ入り!﹂
そう言うロシアンルーレットはやめて! サツキといい、何でそう
言うのが好きなのさ!?
﹁ついでにいま、デザートに﹃おからクッキー﹄焼いてるから、楽
しみにしててね﹂
いや、そんなに食えんから。誰が食うんだ?
825
⋮⋮⋮⋮当然ながら、食べきれなかった。
いや、ユッチの趣味が料理という話は本当だったぞ。
全部めっちゃ上手かったし。 ただ、作りすぎだ。とりあえず﹃おからづくし﹄は冷めてしまって
もおいしかったり、あたため直せばおいしいから冷蔵庫に入れとい
た。鮭のチャンチャン焼きは今食べた方が確実においしいからな。
⋮⋮ああ、ちなみにトウガラシ入り春巻きを食ったのは俺だ。
そう言うのが当たる運命なんだろうか? こう言うのは作った本人
に当たるべきだ!
ユッチには悪いが、今は食いきれん。明日の俺たちの食事だな。
﹃ごちそうさまでした!﹄
うん、わいわいと楽しき食事だった。
相変わらずユッチがいじられてたけど。
826
95話:ユッチとおから︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
鮭のチャンチャン焼き、おいしいですよ。
レシピは以下の所から、
http://cookpad.com/recipe/1060
25
食べてみたいと思ってくれた方、作ってみてください^^
親が料理してるなら、親に頼んでみてください^^
おからづくし、私卯の花大好きです。
母親に毎週リクエストしてたら、他の家族から睨まれました。
おから料理はここからどうぞ
http://www.okara.jp/oishii/ois
hii2.html
おからはヤス君は言ってる通り、安くて栄養価が高いので、おすす
めです。
⋮⋮1月分も買う必要はないですが。
それでは今後ともよろしくお願いします。
827
96話:ケンの小説談義∼小説家になろう∼
﹁そうそう、今日ここに来た本当の目的を忘れてた﹂
ケン、今更何を言う。
﹁ヤスの﹃小説家になろう﹄への投稿作品を読まないとな!﹂
﹁え? ヤス兄、そんなの書いてたの?﹂
﹁ほら、以前﹃円陣戦隊オウエンジャー﹄って書いてたじゃん? あれのエンディングだけを﹃小説家になろう﹄ってサイトに投稿し
たらしいよ﹂
﹁小説家になろう? ケンちゃん、悪いけど知らない﹂
﹁サツキはそもそもパソコンに興味ないからな。俺も基本パソコン
触らないし。パソコン使うのはウェブで調べものする時くらいだな﹂
﹁じゃあなんで﹃小説家になろう﹄に投稿したのさ?﹂
ユッチが聞いて来た。
ユッチは﹃小説家になろう﹄を知ってるんだな。
まあ、色々理由があるんだが⋮⋮。
﹁んー、うちの学校文芸部ないから、ネット以外に見せれる場がな
さそうだった。手軽に投稿できそうなサイトだったからな。評価し
てもらうんなら、いろんな人に見てもらった方がいいだろ?﹂
828
﹁と言う訳で、早速読むぞ!﹂
﹁読まんでいい! 読者数が全然伸びないから、最近放置なんだ!﹂
⋮⋮ネタも思いつかんし。
﹁まあ、いいからいいから、読ませなさい﹂
﹁ボクも読ませてよ、ヤス﹂
﹁私も読みたい﹂
くぅ、3対1は卑怯だ。断れん。
﹁読んでください⋮⋮﹂
やっぱ俺、ヘタレだ。
829
今、パソコンの前に4人で顔をつきだして、俺の投稿したオウエン
ジャーを読んでいる。
﹁ヤスってこんなに世の中に不満持ってんの?﹂
﹁や、理不尽な事はたくさんあると思うけど、ここまでは思ってな
いぞ。まあ、政治欄読んでると腹立ってしょうがないけどな﹂
どっかの党とか。ええ加減さっさと解散しろってんだ。
﹁はあ、ヤスは﹃小説家になろう﹄を分かってないな﹂
﹁なんでだ?﹂
﹁まず、これを﹃小説家になろう﹄に投稿する時点でおかしい﹂
﹁だから何でだって聞いてるじゃん﹂
さっさと教えてくれ。
﹁いいか、﹃小説家になろう﹄は﹃小説﹄の投稿サイトだ。﹃小説﹄
だぞ。確かに﹃詩﹄や﹃エッセイ﹄も投稿してもいいとは書かれて
いるが、大多数の読者は基本的に﹃詩﹄や﹃エッセイ﹄はもとめて
いない﹂
830
⋮⋮確かに﹃小説家になろう﹄だもんな。
﹁﹃詩﹄はだから読者数が伸びないのは当たり前なんだ。よっぽど
面白いなら知らんけど、それでも﹃詩﹄はきつい﹂
ケンの言う通りかもしれんが⋮⋮。
﹁どうやってそれがわかるんだ? もしかして、﹃詩﹄の読者数も
多いかもしれんだろ!?﹂
﹁簡単だ。﹃小説家になろう﹄の姉妹サイト﹃小説を読もう﹄にア
クセスしてみろ﹂
ふむ、やってみるか。
﹁アクセスしたな。じゃあ、メニューから、﹃小説検索﹄をクリッ
クだ﹂
ほうほう。ポチッとな。
ユニークアクセス
﹁よし、んで小説が一覧でばーっと出力されてるだろ。今はこれは
﹃新着順﹄になっているな。とりあえずこれを﹃昨日の読者数多い
順﹄に並び替えてみろ﹂
おし、こうだな。
﹁上位は何人だ?﹂
﹁えーと⋮⋮8000人超えてんなあ﹂
831
すげえなあ。どうやったらこんなに読まれるんだろ?
﹁まあ、1位は凄い読まれてるからな。とりあえず置いといて、2
00位くらいを見てみろ。20件ずつ表示されてるから、1、2、
3って書かれている所の10をクリックして、一番下の作品が20
0位だ﹂
ええと、こう言う事か?
﹁ふむふむ、201人か﹂
ってか、ガクンと減るんだな。
﹁1位と比べたら少ないが、200位でもまだ200人くらいの人
が読んでる。それに対し、﹃ジャンル﹄を﹃指定無し﹄から﹃詩﹄
にしてみるとすごいぞ﹂
何が凄いんだ?ケン。
とりあえず、ポチポチと画面を動かす。
﹁﹃詩﹄の1位は何人だ?﹂
﹁えっと⋮⋮22人﹂
すくなっ! ありえん! 何で﹃詩﹄はこんなに読まれないの!?
﹁わかったか? つまり、﹃詩﹄は﹃小説家になろう﹄のほとんど
の読者は読もうとしないんだ。﹃詩﹄で投稿した時点で、読者数は
諦めた方がいい。もちろん、そう言うのを読んでくれる人もいるけ
ど、少数だな﹂
832
﹁はぁ、そっか⋮⋮﹂
あれだけ頑張って書いたのになあ。
残念だ。
﹁﹃小説家になろう﹄の読者ははっきりとした傾向があるぞ。みん
なに読んでもらいたいと思うのなら、自分の書きたい物を書くので
はなく、読者に合わせる必要もあるかもしれん﹂
﹁ほうほう、どんな傾向があるんだ?﹂
俺はプロじゃないから、そこまではしたくないけどやっぱり読んで
欲しいもんなあ。
ユニークアクセス
﹁﹃昨日の読者数多い順﹄のまま、もう一度﹃ジャンル﹄を﹃指定
無し﹄にして、1位から1個1個見てみな。分かり易すぎだから﹂
そうなんか? 投稿しかした事無いから知らんかった。
えと⋮⋮こうだな。
よし、1個1個見てみるか。
﹁見るのはとりあえず﹃ジャンル﹄だけでいいぞ﹂
了解。えっと⋮⋮。
1位のジャンル:ファンタジー
2位のジャンル:ファンタジー
3位のジャンル:ファンタジー
833
4位のジャンル:ファンタジー
5位のジャンル:ファンタジー
6位のジャンル:ファンタジー
8位のジャンル:ファンタジー
9位のジャンル:ファンタジー
10位のジャンル:ファンタジー
12位のジャンル:ファンタジー
13位のジャンル:ファンタジー
15位のジャンル:ファンタジー
⋮⋮⋮⋮はて? これは何だ? ああ、ぬけてる7位、11位、1
4位は﹃コメディ﹄と﹃恋愛﹄だ。
﹁すなわちそう言う事だな。確かにそれら上位の作品は面白いのか
もしれん。だが、そんなに偏っているのは読者の傾向としか言いよ
うがない。現在の読者の傾向は、﹃ファンタジー﹄を読むと言う事
だ。だから、他のジャンルで書いてる人は明らかに不利になるぞ﹂
なるほど⋮⋮。
﹁ついでに面白いページを見せてやろうじゃないか﹂
なんだそれは?
﹁﹃小説を読もう﹄の上のメニューの部分に﹃分類から探す﹄とあ
るのわかるか?﹂
ええっと⋮⋮ああ、これだな。
﹁それをクリックしてみろ﹂
834
ほいほい、ポチッとな。
﹁そこのページを下にスクロールしてみると⋮⋮﹂
スクロール? ああ、下に動かせって事か。
ほいほい。
﹁﹃人気のカテゴリ﹄と﹃人気のキーワード﹄がわかってしまうん
だな﹂
おお、すげえ! ちなみに円陣戦隊オウエンジャーの﹃カテゴリ﹄
は﹃社会問題﹄だったんだが⋮⋮げ、7人しかいねえ!?
﹁まずはカテゴリ。とりあえず、1000超えの上位を見ると、異
世界、架空戦記、性転換、らぶえっち、ファンタジー、恋愛だな﹂
えと⋮⋮つまり?
﹁異世界、架空戦記、ファンタジーは基本的にジャンルは﹃ファン
タジー﹄もの。性転換、ラブエッチ、恋愛は基本的にジャンルは﹃
恋愛﹄ものだ﹂
うわ、読者の傾向丸分かりじゃん!
﹁﹃人気のキーワード﹄も、右隅に﹃もっと見る﹄をクリックする
事で、何人が検索したか分かるぞ﹂
そうなのか、えと⋮⋮これだな。ポチッとな。
835
﹁今度の1000超えの上位はハーレム、ラブコメ、最強、異世界
迷い込み、異世界召喚だなあ﹂
⋮⋮﹃最強﹄はいまいちよく分からんがやっぱり﹃ファンタジー﹄
か﹃恋愛﹄なんだな。
﹁恋愛でも、読者の大半は基本ありえない設定が大好きだぞ。いき
なり誰かと同居する事になったり、フラレタ直後に別のかっこいい
人から告白受けるとか等々。主人公がモテモテなのに超鈍感、優柔
不断というのは、ハーレム系の王道になってるな﹂
そうなんだあ⋮⋮。
読者は現実で味わえない事を小説にもとめるんだろうか?
﹁ついでに﹃ジャンル﹄の検索回数とかも分かると面白いのにな。
今度要望書でも送ってみよ﹂
ケン、行動派だな。
﹁はあ⋮⋮せっかく頑張って毎日更新とかしてたけど、﹃詩﹄じゃ
どうしようもないなあ﹂
﹁ふっ、まだまだだな、ヤス﹂
何がだ?
﹁毎日更新では読者数は伸びん! むしろ下げるのだ!﹂
ほんとかよ?
836
﹁おし、じゃあシミュレーション開始だ。ユッチが演技するから﹂
﹁へ? ボク?﹂
今までぼーっとやり取りを見てたユッチにいきなり振るケン。
﹁おう! よろしく! ⋮⋮さてさて、ある日、ユッチは﹃円陣戦
隊オウエンジャー﹄というタイトルを発見しました。そのときの感
想を一言﹂
﹁え? えーと? ﹃だっさいタイトル。よくこんなタイトル付け
たねこの作者﹄﹂
うわ、むかつく!
﹁まだ2話しか投稿されてないので、もうちょっと投稿されてから
読もうかと思ったユッチ﹂
わざわざ演技をしなくていいぞ、ユッチ。あたふたして面白すぎ。
﹁3日後、5話まで投稿されてます。さて、読んでみるかとユッチ
が行動を起こす﹂
慌ててクリックしてるなあ。
⋮⋮げ、5話目、﹃円陣戦隊﹄じゃなくて﹃エール戦隊﹄になって
やがる。
﹁さてさて、ここできちんと文章が書けているかを気にする人は、
誤字や脱字、文章の書き方等でミスがあるとそのまま読むのをやめ
てしまいます﹂
837
くぅ、そうなのか?
﹁しかし、毎日更新だとどうしても推敲の時間がとれません。見直
しの時間もとれません﹂
そうなのだ。本当にとれない。
﹁まずはそう言った読者を逃します﹂
な、なるほど⋮⋮。
﹁そして、最近部活で忙しくて、全然ネットを見れなかったユッチ。
なんとなく﹃円陣戦隊﹄を見てみたら、すでに14話まで行ってま
す﹂
ふむふむ、しかし⋮⋮ユッチ、大根役者だな。
﹁ここで一言﹂
﹁え? また? え、えーと⋮⋮﹃けっ、こんな進まれちゃ読む気
もしねーよ﹄﹂
見事な棒読みありがとう、ユッチ。
しかし、やっぱりむかつく。
﹁そうなのです、毎日更新は一気に進んでしまうから、一時読むの
をやめて、読み直そうとした時に読者の読む気がなくなるのです﹂
なんでデスマス調なんだ? 変だぞ?
838
﹁ここで第二の読者を無くします﹂
さっきから無くしてばかりじゃん。
﹁さあさあ、どんどん話が進んで、いつの間にか100話到達です﹂
そんなにいってないけどな。
﹁ユッチは立場を変えて、今初めて﹃円陣戦隊オウエンジャー﹄を
発見した事にしましょう﹂
﹁ええ!? 何それ? ど、どうすればいいのさ?﹂
ユッチ、そんなに真面目にせんでもいいぞ、遊びなんだから。
﹁さあ、100話と言う数字を見て一言﹂
﹁あ、う、うーんと⋮⋮﹃ながっ! そんなに長いの読む時間もっ
たいないしな、他のよもっと﹄﹂
﹁そうなのです! 長くなればなるほど、後々読むのが大変です!
﹃小説家になろう﹄には1000話越えの話があったと思います
が、徹夜してしまいました﹂
ってケン読んだんかい! ってか1000話超えとかあるんか。
その作者すげえな。
﹁こうして、毎日更新は徐々に新規読者から読みづらくなって行く
のです⋮⋮第3の読者を失う訳ですね﹂
839
なるほど⋮⋮。
﹁同じ10万字でも、30話で書いたのと60話で書いたのだと、
30話の方が手軽に読める雰囲気があるからな。無理矢理毎日更新
せず、不定期に、でも更新頻度は高くが読者アップの方法だな﹂
﹁何で不定期?﹂
定期的だと行かんのか?
﹁定期的にすると、1回でも更新されなくなった時読者が離れる可
能性があるからな。最初から不定期にしとけば読者もその心構えで
読んでくれる。また、定期的にすると、リピーターも更新日しか覗
いてくれないから、ユニークアクセスが増えにくそうじゃん?﹂
ああ、不定期にすると﹃今日は更新されてるかな﹄ってリピーター
が毎日のように覗いてくれる訳だな。
﹁ま、毎日更新は始めちゃうと大変だからな、頑張れ!﹂
もう円陣戦隊は不定期になっちゃったけどな。
840
96話:ケンの小説談義∼小説家になろう∼︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
自分の作品の首を絞めるような記述をしましたが、毎日更新は続け
ますので今後ともよろしくお願いします。
以下、調査結果^^
小説内のジャンルの順位や、カテゴリ、キーワードについては今日
調べたわけではないので、変動があるのは了承ください。
そんなに大きく変わってないかと思います。
ちなみに、11月4日に﹃ユニークアクセス数の多い順﹄、1位∼
100位までのジャンルの合計を調べましたら
ファンタジー 37個
恋愛 23個
ファインフィクション 13個
コメディ 11個
戦記 11個
学園 4個
冒険 1個
となってました。﹃小説家になろう﹄ではファンタジー、恋愛系が
やっぱりすごく読まれますね。
同様に1位∼100位を﹃キーワード﹄や﹃カテゴリ﹄で、ファン
841
タジー系、恋愛系が含まれてるもの︵例:ジャンルは﹃コメディー﹄
だけど、カテゴリに﹃恋愛﹄が含まれている︶というもので分類し
ましたら、
ファンタジー 45個
恋愛 49個
ファンフィクション 12個
戦記・架空戦記 13個
上記以外 2個
という結果に⋮⋮。︵恋愛ファンタジーなど重複があるので合計1
00個にはなってません︶
ジャンルは﹃コメディー﹄でも、ほとんどの作品のカテゴリに﹃恋
愛﹄か﹃ファンタジー﹄が入ってました。
﹃小説家になろう﹄に投稿していて、読者数が伸びないと思ってい
る小説家の方、次回作はカテゴリ、キーワード、ジャンルを狙って
みると、伸びるかもしれないです。︵保証は出来ません、申し訳な
いです︶
それではまた。
842
97話:ユッチのおすすめ∼カカの天下∼
﹁ケンは講釈長過ぎ! ボクが今﹃小説家になろう﹄で一番面白い
小説を教えてあげる!﹂
ふむ、なんだそれは?
﹁その名も、﹃カカの天下﹄!!﹂
﹁ほー、カカア天下? 奥さんが強そうな家庭だ﹂
﹁違うって! ﹃カカの天下﹄! カカって言う小学5年生の女の
子が主役の小説だよ! スポーツ万能、運動神経抜群、面白い事が
大好きな子なんだ!﹂
あ、そうなんか。 ﹁⋮⋮校庭のカカは皇帝閣下! カッカッカッカッカ⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮あれ? すべったか? なら⋮⋮
﹁オカカカカ食べ、カカカタタタキ!﹂
843
⋮⋮えと⋮⋮。
﹁⋮⋮えーとだな、スポーツ万能の女の子って校庭では大人気で王
様っぽそうじゃん? だから皇帝閣下なんだよ。2つ目のはカカち
ゃんがオカカおにぎりを食べて、そのお礼に肩たたきしたって意味
なんだが⋮⋮言ってみるとめちゃくちゃかむんだぞ⋮⋮﹂
ギャグとか早口言葉の解説って恥ずかしいんだが⋮⋮。
﹁ヤス、皇帝の場合は﹃閣下﹄じゃなくて﹃陛下﹄だぞ﹂
ケン、ギャグに冷静につっこまないで!
﹁ヤス兄、﹃オカカカカ食べ﹄じゃ、﹃オカカおにぎり﹄がカカち
ゃんを食べてるよ﹂
ふむ、それはそれで面白いからいいや。
⋮⋮ユッチには白い目で見られてる。
てめえ、空気読めって目で見てるよ⋮⋮。
﹁⋮⋮ごめんなさい。言ってみたくなりました﹂
俺にボケは向いてないなあ。
﹁いい? 話し続けるよ。さっきケンが毎日更新は大変だ! って
言ってたけど、この﹃カカの天下﹄は1年以上も毎日更新を続けて
るんだよ! すごいよね! それに基本は1話完結だからどこから
読んでも楽しいよ! ほんとおすすめ!﹂
844
ほうほう、それなら長い話でも関係無しに読めそうだ。
﹁そうだな。﹃カカの天下﹄は﹃ファンタジー﹄でも﹃恋愛﹄でも
ないのに、毎日2000人以上もの読者に読まれてる。万人に親し
まれる話だと言う事だな﹂
なるほど。
﹁基本的にはコメディだから、気を張りつめて読む必要は無いよ﹂
﹁おお、それはサツキが大好きそうじゃんか。サツキ、読んでみよ
か﹂
﹁そうだね! 笑えそうだし﹂
笑える話は最高だもんな。
﹁俺のおすすめはサエちゃんだな﹂
﹁ケン、サエって誰?﹂
﹁カカちゃんの親友。プラスカカちゃんの想い人﹂
ほうほう、カカちゃんはサエちゃんと言う子に恋してる訳か。
サエちゃんって男だったのか。 女の子っぽい名前だったから勘違
いしてた。
﹁どんな人なんだ?﹂
845
﹁んー、一言で言うなら﹃黒い﹄﹂
﹁なんだよ、それ!? わけ分からんよ!﹂
﹁ああ、﹃腹黒い﹄って事だな﹂
﹁⋮⋮それ、いいやつなのか?﹂
﹁ああ、最高だ! 人を小馬鹿にしまくってる所が面白い!﹂
﹁駄目じゃん、むかつくじゃん!﹂
﹁違うんだなー、サエちゃんは最後の一線は踏み込まない子だぞ﹂
﹁⋮⋮どういう意味だ?﹂
﹁小馬鹿にしつつも、ちゃんとその子が本当に傷つく事は言わない
ような子だぞ。 自称﹃黒い﹄だけど、俺としては実は﹃純白﹄も
似合うんじゃないかって思うね﹂
ほー、それはそれは。
﹁ああ、でもいっぺんやりすぎちゃってカカちゃんのお母さんに怒
られてたなあ。サユカちゃんの初恋デートの時﹂
まあ、やりすぎちゃう事は誰にだってあるさ。
その後、きちんと反省する事が大事だ。
﹁ボクのおすすめはトメさん!﹂
846
﹁誰それ?﹂
﹁トメさんはカカちゃんのお兄ちゃんなの! トメさんのシスコン
っぷりは共感できるよ。妹に毎日ツッコミいれてる、やさしいお兄
ちゃん!﹂
おお、それは面白そうだ。
﹁初恋はお姉ちゃんだしね﹂
﹁トメさん! 親友になりましょう! ⋮⋮あ、小説か﹂
残念。家族自慢し合いたかったのに。
﹁ヤス、カカちゃんとトメさんは本当にいるぞ﹂
お、それは本当なのか?
﹁分身がラジオに出演してるぞ、全国放送で流れてる。知る人ぞ知
る!という局だけどな﹂
﹁分身って何!? その時点でおかしいだろ!? 大体知る人ぞ知
るって何さ!? わざわざ隠してるのか!?﹂
﹁まあ、それは大人の事情ってやつだ。気にするな﹂
ケン! ちゃんと説明しろ!
﹁ええと、タイトルは﹃カカラジ!﹄だったな。毎日放送してる訳
じゃないけどな﹂
847
﹁⋮⋮いつ放送されてるんだ?﹂
﹁25日に1回流れてる、前回は7月3日だったな﹂
﹁25日に1回って何だよ!? 普通は1週間に1回とか、1月に
1回とかじゃね!?﹂
﹁まあ、それは大人の事情ってやつだ。気にするな﹂
またかよ!? 気になるよ! 25日って何!?
﹁今度の放送は7月28日、もしくは11月30日だな﹂
﹁何で2つ? 11月30日ってめっちゃ先やん﹂
﹁まあ、それは大人の事情ってやつだ。気にするな﹂
﹁そればっかりじゃん!﹂
﹁最近カカちゃんとサエちゃんは結婚したらしいぞ。﹂
﹁カカちゃんって小学5年生だろ!? どうやって結婚するんだよ
!?﹂
﹁まあ、それは子供の事情ってやつだ。気にするな﹂
﹁大人を子供に変えたからって言ってる事ほとんど同じだよ!﹂
﹁10月のどっかだったな﹂
848
﹁ずっと先じゃん! まだ7月だよ!?﹂
﹁うう、ボクの紹介のはずなのに、ケンに奪われたあ⋮⋮しかもヤ
スも途中からケンとの話に夢中になるしい⋮⋮﹂
﹁ユッチ先輩、気にする事無いですよ。ケンちゃんは元々そう言う
キャラですし。ヤス兄もケンちゃんといるときはいっつもあんな感
じですもん﹂
849
﹁サツキちゃん! ありがと! サツキちゃんってほんといい人だ
ね!﹂
﹁でも、ヤス兄は私が話すときはケンちゃん無視して聞いてくれま
すけどね﹂
﹁⋮⋮おにー、サツキちゃんなんか嫌いだあ!﹂
﹁兄の自慢したかっただけです、ごめんなさい﹂
﹁サツキちゃん、本当にヤスの事大好きだねえ﹂
﹁ま、まあ⋮⋮それはいいじゃないですか! それより、﹃カカの
天下﹄、読ませてもらいますね﹂
﹁あ、うん! 是非読んで! 絶対絶対絶対おすすめだから!﹂
﹁はい! カカちゃんって実際にいるんですよね。カカちゃんにも
いつか会ってみたいなあ﹂
﹁あ、ボクも! 会ってみたいね﹂
﹁あ、そういえば、もうすぐ県大会なんですよ。夜更かしは辛いん
で、悪いんですけどゆっくり読みます﹂
﹁気にしない! もうすぐ県大会なんだ。応援行ってもいい?﹂
﹁もちろんです! 是非来てください!﹂
850
いつの間にユッチも応援に来る事になってんだ?
851
97話:ユッチのおすすめ∼カカの天下∼︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ルシカ先生、ありがとうございましたm︵︳︳︶m
ルシカ先生の了解は得てますので、お気になさらずにお願いします。
⋮⋮あれだけ小説内で著作権無視しといてというツッコミもあるか
と思いますが^^
面白い小説を紹介するって難しいですね。
カカ天は面白そうだと思っていただければ成功かなとおもってます。
使わせていただいたお礼としてリンク先を貼っておきます。
それでは。
852
98話:ケンのおすすめ∼オーダーメイド∼
なるほど、カカの天下は面白そうと言うのはよく分かった。
⋮⋮トメさんとは、今度どっかで会ってみたい。
﹁さてさて、さっき﹃小説家になろう﹄で読まれる為には、ジャン
ル、カテゴリ、キーワードをしっかり選ぶ事と話したな﹂
ああケン、そうだったな。
﹁まあ他にも、読者が気になるタイトルや気になるあらすじにする
のは大事だな。﹃日々の生活﹄みたいなありきたりなタイトルとか
﹃ああああ﹄とか意味不明なタイトルをつけてもなびかんし、あら
すじに﹃これは面白い小説です﹄って書かれてたりすると逆に引く
よな﹂
まあ、自分で自分の小説を高く評価しててもなあ。
﹁あらすじやタイトルも検索対象になるからな。例えば、キーワー
ドを10個入れたいと思っても、5個までしか入らんだろ? そん
な時、あらすじに入れとけば検索対象になるぞ、例えばあらすじに
﹃異世界迷い込み最強ハーレムラブコメどたばたストーリー!﹄と
か書いておくと、検索で﹃異世界迷い込み﹄﹃ハーレム﹄﹃最強﹄
﹃ラブコメ﹄﹃どたばた﹄が全部ヒットする﹂
そこまで書くやつっているのか?
﹁そして! もう一つ大事な事があるのだ! それはだな⋮⋮⋮⋮﹂
853
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
854
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ケン、溜めすぎだ! お前はみのもんたか! もったいぶるな、さ
っさと言え。
﹁第1話だ!﹂
はあ、溜めまくった割には⋮⋮何の事やら。
﹁何の事かよく分からんと言う顔をしてるな。お前の円陣戦隊でい
いから、読者数の﹃話別アクセス﹄と言う所を見てみな﹂
﹁へいへい﹂
えと、こうだな。
﹁これをみてみると、1話だけグンと伸びて、その次の話から平行
線になってるだろ?﹂
855
確かに。
﹁これはすなわち、﹃円陣戦隊オウエンジャー﹄は1話だけ読んで
やめていった人がすごく多いと言う事だ!﹂
まあ、確かにな。
﹁ネット小説は1話目がすごく重要だ! ここで失敗すると、2話
目以降読んでくれない読者はすごく多い!﹂
はあ、なるほど。
﹁だが、1話目以降からどんどん面白くなって行く小説も当然なが
らある! 俺が紹介するのはそんな作品﹃オーダーメイド﹄だ!﹂
⋮⋮もしかして、今までの全部前置きか? 長過ぎじゃね?
﹁1話目に一気に登場人物が5人登場して、さらに6話目は視点が
いきなり変わる。この辺りで混乱してしまうかもしれないが、そこ
から面白くなる!﹂
なるほど、1話目でやめてしまうと、その後の面白い部分が読めな
いと言う事なんだな。
﹁﹃オーダーメイド﹄ってタイトルからすると、メイドの話か?﹂
﹁まあ、登場人物の中にメイドは登場するぞ。ロボットだけどな﹂
ふむ、そうなのか。⋮⋮ってロボット!?
856
﹁そう、友達に誘われて冗談半分で送った応募が、主人公に当たっ
てしまったという話だな!﹂
﹁あ、ありえねえ⋮⋮﹂
そんなありえん話はありなのか?
﹁いやいや、この話の場合は主人公にロボットが当たるまでの経緯
も笑えながらも納得できる話になってるから、ヤスも気に入ると思
うぞ﹂
﹁そうなんか? それなら読んでみたいなあ。いきなり﹃メイドロ
ボット﹄登場! とか設定面白すぎだし﹂
﹁ヤス兄ってメイド好きだっけ?﹂
﹁いや? むしろロボットに惹かれるけど﹂
どんなロボットだろなあ。4次元ポケット持ってるのか、それとも
100万馬力が出せちゃうのか。
﹁まあ、メイドロボットの機能は読んでみてのお楽しみだな。ああ、
恋愛話になってるけど、全然ドロドロした話じゃなくて基本ほのぼ
のしたホームコメディになってるからな。楽しく読める話だから読
んでてもほのぼのできるぞ﹂
そか、それならいいや。
﹁恋愛話でドロドロとかヌチャヌチャとかベトベトとか勘弁してっ
857
て感じだし、ホームコメディなら面白そうだ﹂
﹁ヤス兄、恋愛でドロドロは言うけどヌチャヌチャとベトベトって
何?﹂
﹁さあ? 適当に言ってみただけ⋮⋮ユッチは何で赤くなるんだ?﹂
﹁う、うるさいうるさいい!! ヤスがドロドロとか言うからだあ
!﹂
知らんわい! ﹃ドロドロ﹄って聞いて赤くなるユッチの感覚が変
だ!
﹁ちなみに主人公はハーレム系の王道の鈍感君だ、ヤスとは無縁だ
な﹂
うっさい!どうせ俺はモテんよ。
それを言うならケンだってモテないじゃんか!
﹁結論として﹃オーダーメイド﹄に限らず、最初の一話が気に入ら
んかったからと言って読むのをやめてしまわないで、せめて10話
くらいまで読んでみろと言うのが願いだな。﹃オーダーメイド﹄は
15話でもちょっと混乱するけど、まあそこまで読んでくれた人は
最後まで読んでみろ!﹂
﹁⋮⋮ケン、﹃オーダーメイド﹄に思い入れでもあんのか?﹂
﹁おう! 何であんなに面白いのに、読者が2000人いってない
のか不思議でならんからな! 2000人超えてる作品にひけをと
らん面白さだと思うぞ! 定期更新にしてるから、増えにくいのは
858
確かにあるんだが⋮⋮やっぱ恋愛話にした場合はネトネトとかグチ
ョグチョとかダラダラとかが好きなんかな、読者って﹂
﹁⋮⋮だから何で赤くなる? ユッチ﹂
﹁うるさいうるさいい! ダラダラとか言うなあ!﹂
わけ分からんぞ、ユッチ。ダラダラって赤くなる要素あんのか? だらけてるイメージしかわいてこないぞ。
﹁ちなみに俺のおすすめはしよりちゃんだ! 5重人格の女の子!
1人で5度おいしい!﹂
よく分からん例えを使うな! しかし⋮⋮5重人格か、どんな女の
子だろ?
﹁しかし⋮⋮ケン、1つ聞いてもいいか?﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁﹃オーダーメイド﹄って主人公モテモテで、何人もの女にすかれ
てるんだろ?﹂
﹁ああ、そうだぞ。うらやましいのか?﹂
﹁いや、そうじゃなくて⋮⋮どうやってエンディング迎えるんだろ
?﹂
﹁さあ? 作者に聞けば?﹂
859
聞いて教えてくれるわけないじゃん!
﹁ハーレムもので多いのは、﹃ハーレムエンド﹄って言って、全て
の女の子と付き合うと言う話か、一番主役っぽい人と結局結ばれて、
他の女はふられると言う話が多いよな﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁﹃オーダーメイド﹄はきっとハーレムエンドにはしないと思うけ
どな⋮⋮、まあ、まだまだ全然終盤を迎えてないんだ。最終回を期
待するなんて失礼だぞ﹂
そだったな。ごめんなさい。
﹁と言うわけで、期待して読むように﹂
﹁ああ、了解﹂
さて、暇を見てどっかで読んでみるか。
860
ま、こんな感じでおしゃべりして、22時にはみんな布団に入った。
ユッチが21時半頃にはあくび連発してたからな。
ユッチ⋮⋮お前ってほんとに健全な子供って感じだなあ。
⋮⋮ケンもさっさと寝たなあ。
ま、好都合だけどな。
861
98話:ケンのおすすめ∼オーダーメイド∼︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
zens先生、ありがとうございます。
zens先生のオーダーメイドは、最近は毎週木曜日に更新されて
ます。
上位陣に確実にひけをとらないと思います、むしろ個人的にはオー
ダーメイド、﹃小説家になろう﹄では最低でもベスト5には入ると
思ってます。
⋮⋮しかし、紹介文と言うのはやっぱり難しいです。
もっと面白い、を言いたいのに、あまり書けてません。
﹃紹介文の書き方﹄でも勉強しようかなあ。
﹃オーダーメイド﹄へのリンクを貼っておきますのでもしよろしけ
れば皆さんも読んでみてください。
話は変わりますが、ケン君が色々説明してますが、補足します。
﹃キーワード﹄は﹃完全一致﹄の設定のようで、﹃兄妹﹄といれて
も、検索かけたとき﹃兄﹄や﹃妹﹄ではヒットしません。同様に﹃
ハーレム!?﹄としてしまうと、﹃ハーレム﹄ではヒットしません
ので、キーワードから読者数を増やしたい場合は気をつけてくださ
い。
﹃タイトル﹄や﹃あらすじ﹄は﹃部分一致﹄っぽいので、﹃兄妹の
862
追記:上記の検索システムは﹃小説を読も
ストーリー﹄と入れれれば、﹃兄﹄﹃妹﹄﹃兄妹﹄の3種類、ヒッ
トします。
2008/11/16
う﹄にてです。﹃小説家になろう﹄の﹃小説を読む﹄から検索をか
けると、普通にヒットしました。
いやいや、きちんと下調べしないとこういう間違いに遭いますね。
気をつけます。
それでは今後ともよろしくお願いします。
863
99話:1年生1学期終業式
まずはオーダーメイドから読み始めたけど、中々面白い。
ちょっと寝不足だ。
今日は7月18日金曜日。
大山高校の終業式だ。
高校入学してからたかだか4ヶ月なのに、色々あった気がする。
⋮⋮悪い事の方が多かった気もするけど、まあそれに見合うだけの
いい事があったよな!
終業式の定番である、校長先生の挨拶も夏休みに関する注意事項も
終わり、今は1年3組のホームルームだ。
﹁さて、各教科の担任毎に、宿題はもらってるかな?﹂
ウララ先生、やな事を思い出させないでください。
特に学年主任の教科はありえない量をだされたんだが⋮⋮。
あれは俺のせいなんだろうか?
﹁あ、みんな嫌そうな顔したね。だめだよ、ちゃんとやらないと。
2ヶ月も遊びほうけたら今まで覚えた事全部忘れるんだから。数学
みたいなのはやりなおせば﹃ああ、そうだった!﹄と思い出すかも
864
しれないけど、暗記科目なんかボロボロ忘れちゃうんだよ﹂
まあ、暗記科目なんてそんなもんだ。
子供は遊びたい年頃なのさ。⋮⋮俺はバイトがぎっしり詰まってる
けどな。
﹁ついでに1年3組には特別素敵な宿題をプレゼントしちゃいまし
ょう!﹂
げっ!なんだそれ!?
クラス中から一斉にブーイングが響き渡る。
そりゃそうだ。わざわざ宿題なんてやりたくもない事を増やされた
らたまんない。
﹁では発表! いつも友達とばっかりいないで、たまには家族と仲
良くしてください﹂
はあ? 何を当たり前の事を⋮⋮。
﹁あのね、私弟がいるんだけど、最近家族といないのよ。昔は日曜
日とか家族で公園に遊びに行ったりしてたのに⋮⋮﹂
ウララ先生! 自分が出来てないからって生徒にさせようと言うの
は変ですよ!
﹁いなくなってみて初めて大事さが分かるものよね﹂
弟さんが死んじゃったみたいな言い方やめましょう、縁起でもない。
865
﹁家族って大事よ。なので、夏休みという期間、時間は有り余って
るんだから、たまには親孝行なり家族孝行してみてね﹂
うーん⋮⋮
﹁ウララ先生、親孝行って何すりゃいいんですか?﹂
﹁うーん⋮⋮子供は元気でいる事、笑ってる事が最大の親孝行とも
言うけど、例えば普段両親がやってる事を肩代わりしてあげるとか
かな?﹂
﹁仕事? どう考えても無理です﹂
うちの両親は同じ職場で働いてて、だからときどき家でも専門用語
が飛ぶけど、チンプンカンプンすぎる。
﹁そんな事しなくていいよ、ほら掃除とかあるでしょ?﹂
﹁全部俺がやってます﹂
父さんも母さんもやる暇無いし。
﹁炊事、洗濯とか?﹂
﹁最近全部俺がやってます﹂
両親、いそがしいからな、先週なんて24時に帰ってきたし。
サツキも部活で帰ってくるの最近遅いから、俺がやらにゃ。
﹁マッサージとか?﹂
866
﹁毎週日曜日やってます﹂
父さんも母さんも疲れてるからな。
﹁一緒に過ごすとか?﹂
﹁毎週日曜日は家族の時間です﹂
何を今更そんな当たり前の事を。
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
またみんなして黙ってしまった。変な事言ったか?
﹁⋮⋮こほん、と言うわけでみんな、家族孝行しましょう﹂
うわ、俺放置!? 結局俺は何すりゃいいのさ!?
﹁さらに、せっかくなのでこのクラスは全員﹃全国高校生英語スピ
ーチコンテスト﹄に申し込んでおきましたから﹂
は!? わけ分からん! 今のどういう流れでそういう事になった
の!?
﹁﹃全国高校生英語スピーチコンテスト﹄。テーマは﹃家族﹄、こ
867
の夏休みの間、家族と過ごしてみて、その時に思った事をそのまま
Come
back!﹄﹂
発表してみてください。そしてうったえるのよ! ﹃Oh,my
brother!
ウララ先生の弟さんの事なんて知りません!
﹁予選は浜松で、﹃9月20日土曜日﹄に行いますから、その日は
開けておいてくださいね。ちなみに決勝は﹃11月8日土曜日﹄だ
からね﹂
そんな先の予定考えてません。
﹁さて、では後はみんなのお楽しみの通知表です!﹂
あーうーという阿鼻叫喚?が聞こえてくる。
このクラス、もしや成績悪いやつばっかりなのか?
﹁大丈夫です。このクラスは学年3位の成績ですよ!﹂
学年3位って⋮⋮5クラスしかないから中間じゃん。
自慢できん⋮⋮。
﹁学年1位の人と最下位の人がいますからね。このクラスは⋮⋮ケ
ン君、頑張ってね﹂
﹁はいっ! まかせてください!﹂
お前かあああ!!!
進級できるのか!? 絶対に進級しろよ!
868
ま、俺はそこそこの成績だった。
ちなみに学年1位とはアオちゃんの事らしい⋮⋮。すげえな、アオ
ちゃん。
今は放課後の部活だ。
今はまだ練習開始前で、とりあえず、短距離長距離一緒にいる。
﹁あれ? ヤマピョン来てないな﹂
きょろきょろと周りを見回してみたけど、やっぱりいない。
869
﹁ポンポコさん、今日ってヤマピョン休みだったの?﹂
とりあえず、ヤマピョンと同じクラスのポンポコさんに声をかける。
﹁いや? 普通に学校には来てたぞ。相変わらず教室の隅っこで挙
動不審でキョドキョドしてたが﹂
ああ、クラスでもそんな感じなのか⋮⋮ヤマピョン。
﹁そういえば、部活に来てないな。ヤスは聞いてないのか?﹂
﹁いや? 俺は全く﹂
﹁ふむ、ただ遅れてるだけかもしれんし、風邪気味で帰っただけか
もしれん。今の所は様子見でいいのではないか?﹂
まあ、そだな。
﹁それより、ヤスはちゃんと練習しているのか?﹂
﹁うーん⋮⋮ポンポコさんに言われた通り、ちゃんと10キロ以上
は毎日走ってるし、合計タイムは測ってるけど、今の俺の実力で、
どれくらいで走ればいいかさっぱり分からん﹂
﹁確かに⋮⋮ヤスは試合に出た事もないし、ちゃんとしたコースで
走ってないからな⋮⋮来週7月26日あたりは空いてるか?﹂
﹁あ、えーと⋮⋮ごめん、バイト。一応午前中は空いてるけど﹂
870
ケンに予定表を渡された時、思わず叫んでしまった。
本来は日曜日に入って欲しいのに、俺が日曜日はどうしても嫌だと
言い張ったら、代わりに他の日にかなり入れられてしまった。
空いたのはサツキのソフトテニスの県大会、東海大会、全国大会と、
部活の合宿中だ。
や、東海、全国大会出れるかは分からんけどあけておきたいじゃん
か。
﹁まあ、長距離は午前中の涼しい時間の方がいいからな。午前中に
タイムトライアルを行わないか?﹂
﹁うーん⋮⋮﹂
そんな事した後、バイトがきちんとできるか疑問だけど⋮⋮。
﹁今のままではどうにもならないぞ。ちゃんとした競技場でタイム
を測ってみないか?﹂
うーん⋮⋮厳しそうだが⋮⋮。
﹁おし、OKだ。 ポンポコさん、いつがいいんだ?﹂
﹁7月26日土曜日8時半、場所は御殿場市陸上競技場でどうだ?﹂
﹁うい、了解﹂
﹁では、練習頑張れよ﹂
﹁ありがと、ポンポコさん﹂
871
さ、頑張ろ。
今、俺もヤマピョン同様練習は2年生とは別にしてる。
怒られないかって?
ふふふ、秘密のアイテムがあるのだ!
その名も﹁ネコミミ﹂!!
﹃練習中はウララ先生にこれつけとけって言われた﹄って言ったら、
お前と一緒に練習したくないと、1人で練習できるようになった。
バンザイ! ネコミミ! ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮代わりに何か大切なものを失っている気がする⋮
⋮。
872
99話:1年生1学期終業式︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ようやく終業式。⋮⋮長過ぎ?
こんな調子で3年間、書ききれるか不安ですが、とりあえずは書い
ていきます。
高校生活や中学生活3年間、というあらすじでまともに書ききって
るネット小説ってほとんどないんですよね。
大抵途中で放置になりますが⋮⋮そうならないように頑張ります。
全国高校生英語スピーチコンテスト、昨日あったようです。
本来はこの話は11月7日に投稿する予定だったのですが、ネット
小説の話が延びに延びて、こうなりました。
http://www.byuh.jp/index.htm
がそれに関するサイトです。テーマが﹃家族﹄と言うのを読んだ瞬
間﹃ネタに使お﹄と反応してしまいました^^
次回、とうとう100話です。
ヤス君の1人称と言うスタンスは変えたくないですが、何か考えま
す。思いつかなかったら、いつも通りの投稿になりますので。
それでは今後ともよろしくお願いします。
873
100話:雑談という名の登場人物おさらい
終業式の後の部活も終わって、今はもう夜だ。
サツキとケンの3人でババ抜きをしつつ、のんびりしてる。
﹁ま、なんとか1学期乗り切ったなヤス。今だから言うけど、入学
当初は怖かったぞー。いつヤスが不登校になるか﹂
﹁なんでだよ!? 俺、そんなにひきこもりになりそうに見えるか
!?﹂
﹃うん﹄
サツキ、ケン⋮⋮声を揃えるな。
﹁きっとケンちゃんがいなかったら、高校やめてたよね﹂
﹁サツキ、それはない!﹂
﹁はいはい、そう言う事にしとこっか﹂
なんか、気になる言い方をするなあ。
﹁それにしても、高校入ってケンちゃん以外の人とそんなに仲良く
なるなんてね。ポンポコ先輩、ユッチ先輩、アオちゃん先輩⋮⋮3
人も家に遊びに来たよ﹂
﹁ああ、そういやそうだったな﹂
874
なんだかんだ言って陸上部だけだけど。
﹁しかもみんな女の子!﹂
﹁⋮⋮言われてみれば﹂
﹁何かつまんない反応だなあ⋮⋮ま、いいや。ちなみにヤス兄とケ
ンちゃんは3人の事どう思ってるの?﹂
﹁友達﹂
﹁右に同じ﹂
﹁その返答、つまんなさすぎだよ! 普段のヤス兄とケンちゃんな
ら、滑ってでもネタを披露するとこでしょ!?﹂
サツキ、俺とケンは漫才コンビじゃない!
﹁もういいから、せめてもうちょっと詳しく言ってよ。それじゃ面
白くないよ﹂
えと、そんな所にまで笑いをもとめるのか?
﹁まずはアオちゃん先輩についてどうぞ。はい、ケンちゃん﹂
﹁アオちゃん、本名﹃木野あおい﹄、二つ名は﹃天然﹄、一人称は
私、外見の特徴としてはポニーテールをしていて背は高め、可愛い
と言うよりは綺麗と言うイメージ。その他の特徴として﹃です﹄﹃
ます﹄と言った敬語で話す。家族構成は母、本人、妹の3人暮らし
875
でアパートに住んでいる。誕生日は11月11日。成績はとても良
く、今回の通知表でも体育以外はオール5。中学時代の部活は吹奏
楽部で、高校はユッチに誘われ陸上部になった⋮⋮こんなとこか?
ああ、あと趣味はぬいぐるみ集めと言っていたな。学年主任と気
があったりするかもな﹂
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄
﹁ん? どした?﹂
﹁いや、おかしいだろ!? 何でそんなに知ってるんだよ!? 家
族構成とか、ありえねえだろ!?﹂
﹁ふっふ、企業秘密だ﹂
嘘付け!? わざわざ隠す必要がどこにある!?
﹁睨むなって。いつも部活が終わってヤスが先に帰ってる時に、ア
オちゃんとユッチと帰るからな。色々話してるだけだぞ﹂
あ、そか。
﹁うわ、ヤス兄、ケンちゃん置いてってるの? それはかわいそじ
ゃない?﹂
サツキより早く家に帰る為だ。
ケンには犠牲になってもらおう。
﹁で、ヤス兄はアオちゃん先輩の事はどう思ってるの?﹂
876
﹁⋮⋮変人?﹂
何故か王道好きだし。そういえば、俺に最初にちょっかいかけてき
たのもアオちゃんだったなあ。
﹁うわ⋮⋮ヤス兄に言われたらおしまいだね﹂
ひどっ!? 俺はどこまでもノーマルなのに!
﹁後は、妹さんをすごいかわいがってたな。あれはかなりのシスコ
ンだぞ﹂
﹁それこそヤスが言ったらおしまいだな﹂
サツキ、ケン⋮⋮俺を怒らせようとしてるのか? そうなのか?
﹁じゃ、次。ユッチ先輩は?﹂
﹁ユッチ、本名﹃ユウ﹄、二つ名は﹃黒の弾丸﹄、覚えてるか?﹂
ごめん、忘れてた。ついでにそういや俺も名字は知らねえや。
﹁一人称はボク、外見の特徴としては色黒、ショートカット、そし
てなんと言ってもちびっ子。時々小学生低学年に見えるのは俺だけ
か?﹂
大丈夫だケン、俺もだ。
﹁その他の特徴として叫ぶ時﹃だあ!﹄﹃るう!﹄と語尾を伸ばす。
誕生日は12月9日。家族構成は現在父、母、義兄、姉、本人の5
877
人暮らしで5LDKに住んでいる。この他に実の兄もいるらしいけ
ど、今は別に暮らしてるらしいぞ﹂
ほう、義兄の他に実兄もいたのか。 義兄の事、おにいちゃんって
よんでたけど、実兄のことはなんて呼ぶんだろ?
﹁成績は悪い、学年でしたから数えて1番目だ﹂
あれ? ケンが最下位だって⋮⋮。
﹁俺とユッチが同率最下位だったからな﹂
おまえら!? もっと頑張れよ!!
﹁今回の通知表でも体育だけ5。中学時代の部活は陸上部で、高校
も陸上部になった⋮⋮こんなとこだな。趣味は料理だ。うまかった
よな﹂
確かに。今度レシピを色々教えてもらおうかな。
﹁で? ヤス兄はどう思ってるの?﹂
﹁面白い、いじりがいがありすぎ、最高﹂
﹁⋮⋮ケンちゃん、ユッチ先輩はヤス兄のおもちゃにされてるの?﹂
変な言い方をするな! サツキ!
﹁⋮⋮でもあの陸上に打ち込むひたむきさは尊敬できるよな﹂
878
ああいう頑張ってる人を見てるのは気持ちいい。
﹁なるほどなるほど﹂
何がなるほどなんだ? サツキ。
﹁じゃあ、ポンポコ先輩は?﹂
﹁ポンポコさんは俺、あんまり話してないからなあ。たくさん話し
たというと、サツキちゃんの誕生日の時くらいかな?﹂
あ? ケンはそうなんだ。
﹁とりあえず、知っている情報はこんなとこだな。ポンポコ、本名
不詳、二つ名﹃軍師﹄、1人称は私、外見の特徴としては瓶底眼鏡
をしていて3つ編み、たれ目。ぽっちゃりとしていているけど、胸
はあんまない。その他の特徴としてしゃべり方は男っぽくて、面白
い。誕生日は6月21日だったか? ⋮⋮後は知らんなあ﹂
それだけ覚えてれば十分だ。そんなに話した事ないって言ってるの
によく覚えてんな。
﹁んじゃ残りの情報は私が教えたげる。家族は父、母、兄が3人、
弟が2人、ポンポコ先輩の計8人。普段、父は単身赴任してて母は
それについてっちゃってるから兄弟だけで暮らしてる。ついでに兄
弟全員がすごいシスコン﹂
確かに、家に遊びに行っただけで袋だたきにされそうになったもん
な。
879
﹁成績は差が激しいみたい。﹃文系はいいが、理系の数字の羅列は
見ているだけで頭が痛くなる﹄って言ってたよ。中学時代の部活は
美術部。趣味は時代劇、特に三国志が大好き。ポンポコ先輩、最高
だよね!﹂
サツキはポンポコさん、お気にだからな。
﹁と言うわけで、ヤス兄はポンポコ先輩についてどう思ってるの?﹂
﹁すごく気のあう友達。しゃべってると趣味とか結構合うんだよね。
ポンポコさんは親友って言ってくれたなあ﹂
﹁ふーん、そんな感じかあ﹂
サツキ、さっきから含みのある言い方が多いぞ。
﹁そういえば、ヤス兄って男友達はいないの? 普段ケンちゃんと
しかいないよね?﹂
﹁ヤスにはいないぞ。そもそも高校で話す同級生が俺とその3人く
らいしかいない﹂
﹁うわっ、意外と寂しい人間関係だね﹂
お前ら、ちょっと調子に乗りすぎだぞ。
﹁ヤス、ヤマピョンは友達なのか?﹂
﹁さあ⋮⋮。ヤマピョンとはほとんど話が出来んし。そういや今日
はどうしたんだろね?﹂
880
部活、結局出てこなかったなあ。
﹁ケンちゃん、ヤマピョンって誰?﹂
﹁ヤマピョン、本名﹃山本武﹄、二つ名﹃猫娘キラー子犬﹄、一人
称俺、特徴としては茶髪、地毛だけど。町中でありえないぐらい挙
動不審の茶髪の人物を見たら、ヤマピョンの可能性が高いな。で、
なんでかヤスにまとわりついてる。何で?﹂
しらね。俺が聞きたい。
﹁体力テストの結果だけ見ると、運動神経は実はめちゃくちゃいい
ぞ、あいつ﹂
﹁え? そうなの?﹂
﹁シャトルランは負けた。他の種目もかなりの僅差だったな﹂
え? ケンと僅差ってかなりのもんだぞ。
﹁真面目に運動すれば強くなりそうだけど、それは個人次第だな﹂
そか。
﹁他にヤスがしゃべった事のあるのはマルちゃんとノンキってやつ
だな。こいつらも陸上部だ。ヤス、陸上部以外の人ともたまにはし
ゃべれよ﹂
うっさい、ケンみたいに社交的じゃないんじゃ。
881
﹁ま、この2人はどうでもいっか、今後も当分しゃべる事はないだ
ろ﹂
ひどいな、ケン。
﹁覚えておくと助かるのは俺たち3人と今までのヤツラだな。後は
ほぼサブキャラだ、いつの間にか昇格の可能性はなくはないが﹂
ケン、何を言ってんだ?
﹁ヤス兄、高校には他にどんな人がいたの?﹂
﹁入学時の谷田太郎とか言うやつ? 今頃何してんだろ? 後は短
距離でキング、ジャックってやつがいたなあ⋮⋮短距離女子の先輩
にゴーヤ先輩、キビ先輩って人がいるけど、この2人はすごく真面
目で練習熱心だ。先生は学年主任くらいしかキチンとしゃべってな
いな。高校ではこんなもんかな?﹂
﹁他の知り合いは私の友達くらい?﹂
﹁そだなー。クロちゃん、サキちゃん、キリ、マイマイ、ミキミキ
⋮⋮後、俺としてはオカ姉妹はいっぺんしゃべってみたいな﹂
﹁めずらしっ! ヤスがそんな事言うってありえねえ!﹂
おもしろいんだって! あの2人。﹃最低!﹄って言われたけど。
﹁大体こんなもんか﹂
882
結構しゃべってるな。うん、もうサツキにもケンにも人見知りなん
て言わせねえぞ。
﹁ヤス、大事な人物を1人忘れているぞ﹂
﹁ん、誰だっけ?﹂
﹁我らが陸上部の顧問、ウララ先生だ!﹂
﹁ああ⋮⋮忘れてた﹂
﹁忘れるな! ウララ先生、本名﹃室井春乃﹄、二つ名﹃ねらい打
ち﹄、一人称私、外見の特徴は巨乳、背はそんなに高くない、ロン
グヘア、何よりすごい美人!﹂
確かに美人だが、ケンのフィルターがかかっているのは確かだな。
惚れた弱みか。
﹁誕生日は3月23日。現在23歳だ。家族構成は母、父、ウララ
先生、弟の4人、ウララ先生は弟大好きだな﹂
﹁⋮⋮今日もそんな事言ってたな﹂
﹁嫌いな事は陰口、ヤスがアホな発言してても、正面から言われる
分には全く気にしちゃいないぞ﹂
そうなのか。よかった。
﹁それからだな! ⋮⋮⋮⋮⋮﹂
883
ケンのやつ! 途中で止めればよかった⋮⋮。
その後延々と1時間以上も聞かされる身にもなってくれ。
サツキはさっさと寝ちゃうし。
くそー。
884
100話:雑談という名の登場人物おさらい︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
以上、現在の登場人物おさらいでした。
書ききってから、一番の主要人物であるヤス、サツキ、ケンの3人
のプロフィールを書いてない事に気付きました︵−−;
この3人はまた今度。
サブキャラではオカ姉妹がお気に入りです。
それでは。
885
101話:ヤス、初バイトをする
今日は7月19日土曜日⋮⋮。
暑い⋮⋮何で俺はここにいるんだろう?
﹁ヤス、似合ってるぞ!﹂
﹁うっさい! 何が似合ってるって言うんだ!﹂
﹁その麦わら帽子が最高だ! どっかの農家のおっちゃんに見える
ぞ!﹂
﹁ケンだって麦わら帽子付けてるじゃん!﹂
﹁ヤスは老け顔だからな、余計似合って見える﹂
﹁老け顔って言うな!﹂
⋮⋮今俺たちがいる所は、静岡の公営プールだ。
886
ケンが言うには
﹁高校生が出来るバイトなんて限られてるからな。コンビニ、ガソ
リンスタンド、レストランみたいな接客はヤスには無理だろ? だ
ったら、夏季限定で座ってるだけで金がもらえる監視員ってよくね
?﹂
と言う事だったんだが⋮⋮。
ちなみに俺もケンも一通り泳げる。サツキと一緒にスイミングに通
ってた期間も少しあったけど、それよりかはケンの兄貴に叩き込ま
れたときのが上達したな。
ケンの兄貴、本当にスパルタだもんなあ⋮⋮。
ってか、監視員の仕事は何が座ってるだけでいいだ! その前の事
前研修とかありえん時間取らされたぞ!
や、確かにプール事故とか怖いから、事前研修大切なんだけどな。
と言うわけで、俺は今プールを監視している。
暑い⋮⋮このくそ暑い中、プールに入れず、ただ見てるだけってか
なりきつくないか?
時間は14時、一番暑い時間帯だ。13時半から午前の部の人と交
887
代して監視中だ。朝の8時から13時までプール事故が起きないよ
うに、プールに関するマナーやここのプールの構造等をみっちり教
えられ、さらには人工呼吸の仕方や心臓マッサージの仕方等、一通
り教わった。
ここの公営プールは夏休みだけの解放で、その間だけ臨時でバイト
を雇うらしい。
きちんとしたプールの監視員は2∼3人で、それ以外はバイト。そ
の人がみっちりバイトをしごくと言うのが毎年の事。
全員キチンとした監視員を揃えるのは大変らしく、水上安全法指導
員等の資格を持った監視員なんてほとんどいないし、そう言う人は
金もかかるので、バイトで何とかすますんだとさ。
まあ、今年はその資格持ってる監視員がしっかりしてて、みっちり
研修受けたからいいけど、ちゃんとしてない監視員で適当な研修し
か受けてない人ばっかりのプールとか怖いな。
⋮⋮飛び込んで女子生徒にぶつかるとか危ない事やめて、プールで
はマナー守ろ。
俺が見てるのは大人のプール。小学生5年生からしか入れないって
プールを監視中。
ちなみにケンは子供のプール見てる。
しかし⋮⋮羨ましいなあ、楽しそうだなあ⋮⋮暑いなあ⋮⋮
888
今は14時50分。よ、ようやく休憩だ。
な、なげえなあ⋮⋮。
﹁ただいまから10分の休憩時間となります。プールで泳いでいる
人は一旦プールサイドにあがって休憩してください、休憩しないと、
体が冷えてしまったり、足をつって溺れて見知らぬ監視員と人工呼
吸する羽目になります、初めてのキスが監視員とならない為にも、
休憩を入れましょう﹂
どんな説明だよ!? いや、確かに言ってる事は正しいんだけど、
その説明はないだろ!?
みんなの慌ててあがるところが面白い。まあ、そんな説明をうけた
ら誰だってあがりたくなるよな。
この間に監視員はプールを泳いで変なものが落ちてないかとか、現
在の水質のチェックを行う。
多い落とし物はゴーグルにロッカーの鍵。
ロッカーの鍵は取りにこなきゃ帰れないけど、ゴーグルは諦めて帰
る人が多いとか⋮⋮。
﹁⋮⋮え、これって?﹂
889
えーと⋮⋮、どう見てもこれって⋮⋮。
﹁⋮⋮すみません、こんなものが落ちてたんですが⋮⋮﹂
﹁え、あ、あ、まあ、そう言うのも落ちてるもんだ、とりあえず届
けとけ﹂
﹁⋮⋮あ、はい⋮⋮﹂
どうやってこんなんおとすんだろ?
ようやく終わった⋮⋮。
一応監視台にはパラソルがついてるんだけど、あんまり効果はない。
日差しはほとんど体にくらう。どうにか顔だけは当たらないように
首をひねってたりするんだが⋮⋮。
Tシャツきてる人もいたけど、俺は脱ぐのが面倒だったから、海パ
ン一丁で監視してた。
こう何事もないと何か起こらんかなあと不謹慎な事を考えてしまう
俺は、監視員には向いてねえなあ。
890
後はプールサイドの掃除と明日の準備をして、終了だ。
時給は750円。俺は8∼13時半と13時半∼19時に別れてて、
俺は全部午後の部だから、1回出るごとに750×5.5=412
5円ずつ溜まるわけか。
全部で30日入ってるから⋮⋮ちゃんといけば4125×30=1
23750円。
おお、すげえ!
﹁お疲れ! ヤス! どだった?﹂
﹁何もなかった。何もなさ過ぎて暇でしょうがなかった﹂
パラソルの上でじっとしてるって拷問でしょうがない。
かと言っていなくなったらもしもの時に困るし⋮⋮難儀なバイトだ
な。
﹁まじかよ!? うらやましいなあ。こっちなんかちびっ子達が言
う事聞かんとそこら中走り回るし、休憩時間だって言っても全然プ
ールから上がろうとしないし、しまいには﹃ボクの歯落っこちちゃ
ったー﹄とか言い出す子供が出て来てさ。乳歯なんだから気にすん
なって話だよな!﹂
﹁ま、まあプールで歯が落っこちる子なんて中々いなさそうだけど
な﹂
﹁ま、明日は休みだ! ゆっくり休むぞ! そして明後日からまた
働いてお金を貯めるのだ!﹂
891
﹁⋮⋮そういやケンって何でお金いんの?﹂
俺みたいに携帯代が払えないとかアホな理由なのか?
﹁ああ、兄貴の所に毎回行くのって金かかんだよな。毎回親にせび
るのって悪いだろ? だったら夏休みに金貯めとこうと思ってな﹂
なるほど、ケンもちゃんと親御さんの事考えてるんだな。
﹁じゃな! ヤス!﹂
﹁おう、また明後日かな?﹂
﹁おう!﹂
さて、帰りますか。
ようやく家に着いた、時刻は19時半。
今から飯作りだな。今日は⋮⋮焼きそばにでもするか。
お、サツキも今部活の帰りか。午前中からずっとやって⋮⋮って、
892
すごい長い時間練習してんなあ。
﹁お帰り、ヤス兄⋮⋮⋮⋮って、プッ⋮⋮ごめん⋮⋮ククク⋮⋮毎
回狙ってるの? ⋮⋮く、苦しい⋮⋮﹂
は、何がだ?
﹁鏡見て来たら? ププッ⋮⋮我慢できない、ヤス兄、ごめん。あ
はははははははっ!!!﹂
え? え? サツキ? な、何でいきなり笑われてんの!?
慌てて洗面所まで行って鏡を見た。
﹁って、おい!! ありえん!! あうう、顔が、顔がああああ!
!!﹂
どうなってるかって?
ええと⋮⋮右半分だけ真っ黒に焼けて、左半分は普通の色⋮⋮。
パラソルで日に当たらんようにしてたら、こうなってしまったよう
だ⋮⋮。
くそう⋮⋮これからこんな顔で過ごすのかよ⋮⋮。
893
101話:ヤス、初バイトをする︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
着ぐるみバイトでもさせたかったんですが、どこのサイト探しても
着ぐるみバイト募集なんてありませんでした。
残念です⋮⋮と言うわけで、監視員バイト開始です。
それでは。
894
102話:ユッチ、怒る
月曜日の部活では、アオちゃん、ポンポコさん、ウララ先生にまで
大爆笑された。
この日焼け、どうにかならんか!?
その後からの1週間はきつかった⋮⋮。
バイトって疲れるもんなんだな。かんかん照りの下ってのはきつい
もんだ。
そういや、この1週間、部活に全くヤマピョンが来なかったな。
⋮⋮ほんとどうしたんだろ?
895
今日は7月26日土曜日。
ポンポコさんとの約束の日だ。
サツキと一緒に家を出る。サツキは今日も1日部活だ。
﹁頑張れよ! サツキ﹂
﹁ほーい、ヤス兄もね﹂
あいよー。
電車に乗って、御殿場陸上競技場に到着だ。
ってか、陸上競技場って200円で利用できるんだな。
立派な設備だから、もっと高いかと思ってた。
200円くらいなら、近くの人なら頻繁に通っても大した額にはな
らんな。
896
ってか定期で来れるとこにあったんだなあ。
﹁あれ? 何でヤスがいるのさ?﹂
﹁え? ユッチこそなんでいるんだ?﹂
駅から陸上競技場での道で、偶然ユッチにあった。
びっくりだ。ポンポコさんしかいないと思ってたのに。
﹁だって女子は毎週土曜日ここで練習してるもんね﹂
﹁へ? そうなの?﹂
﹁そうだよ。⋮⋮そっかそっか、男子もついにやる気になったんだ。
嬉しいね。⋮⋮今まで男子は誰も来た事ないんだよ、ケンは来るか
と思ってたんだけど﹂
ケンは予定が入ってないと週末は兄貴のアパートに行くからなあ。
⋮⋮ああ、夏休みのバイト、ケンは土日、全部休んでる。兄貴のア
パートに行くからって。
一緒に働こうって言ったくせに。
﹁ってか今日来るの俺だけだけど﹂
﹁へ? ⋮⋮な、なんでだよ!? 他の男子連中はどうしたあ!?﹂
﹁や、俺に言われても⋮⋮﹂
そもそも土曜日女子がどこで練習してるか知らんかったし。
897
﹁ほんとにヤス以外誰も来ないの!?﹂
﹁えと、そうだけど⋮⋮俺も今週たまたま来ただけで⋮⋮﹂
﹁はあ!? 来週以降は来るつもりないの!?﹂
﹁あ、えっと⋮⋮﹂
⋮⋮まずい事言ったかな?
﹁くそお⋮⋮キングとかジャックとかアホな事言ってた1年生とか
土曜日には練習来ない、他の男子の短距離連中も上の大会目指すっ
て言ってた割にそんなに練習しないでいたりして何考えてるかよく
分かんない、ケンもウララセンセーってへいこらして練習しようと
しない、そもそも長距離は全然やる気ない⋮⋮男共はそんな連中ば
っかりかあ!?﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
確かに県大会、見に来てたのって女子しかいなかったよな。土曜日
練習してるのも女子だけみたいだし。
男子陸上部に対してユッチが怒るのも最もだ。
⋮⋮ただ、ケンだけはちゃんとやってると思う。ケンの兄貴のアパ
ートに遊びに行った翌週の月曜日、たいてい筋肉痛になってんだか
ら。ケンだけは責めないでやってくれないかな。
﹁くうう、今まで我慢してたけど、全部言ってやる! 部活って何
なのさ!? 大会とかでいい記録狙ったり、上の大会目指したり、
ひとりひとりが目標を達成しようと頑張るもんじゃないの!? 適
当な気持ちでなあなあとやるもんなのかあ!?﹂
898
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
適当な気持ちで入部した自分には耳が痛い。
﹁楽しく部活ってのはボクも全然構わないよ!? でもさ、楽しく
の意味、はき違えてない!? みんなでただにゃははと笑ってるの
もそれはそれで楽しいのかもしれないけどさ、試合で毎回1回戦で
負けるとか、地区予選で勝負にもならずに消えてくとか。そんなん
で楽しいかあ!?﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
⋮⋮さっきから耳が痛い。
﹁低いモチベーションの人って周りにすっごい悪影響与えるんだよ
! ゴーヤ先輩とかキビ先輩だって男子連中見て毎回やる気失せて
るんだからあ! やる気でない理由、愚痴ったっていいし、文句言
ったっていいよ! ボクだってやる気でないときあるから! でも、
男子連中のやる気のなさ、限度ってもんがあるだろお!﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
たまに、すっごい目でゴーヤ先輩やキビ先輩が長距離を見てくるの
はそう言う理由だったんだな。
﹁ヤスだってそうだよ! 最近は前よりちょっとはやるようになっ
たけどさ、ボクから見たら他の男子連中と変わんないよ! アップ
もダウンもほとんどやらないでさっさと帰っちゃってさ、毎日ボク
より先に帰ってるでしょ!? 夏休みに入ってバイト始めたのは知
899
ってるけど、ケンもやってるんだろお!? ケンよりあんなに早く
帰る理由がどこにあるのさ!? 毎回毎回長距離が短距離より早く
終わるとかありえないよ!﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁謝るだけかあ! 何か言い返してみろお!﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁⋮⋮くそお、ヤスなんか大っ嫌いだあ!!!﹂
⋮⋮ユッチ、行っちゃったな。
はあ、完全に嫌われたかなあ⋮⋮。
﹁おはよう、ヤス﹂
﹁あ、ポンポコさん、おはよ﹂
﹁⋮⋮ユッチのやつ、完全にキレてたな。ほとぼりが冷めるには時
間がかかりそうだ﹂
900
﹁ポンポコさん。全部聞いてたの? いやいや、お恥ずかしい﹂
﹁まあ、ユッチが怒るのも分かるがな﹂
ポンポコさんも怒るんかな?
﹁他の人が怒っても、やる気になるかどうかは本人次第だからな﹂
そか、そう言う考えもあるのか。
﹁ヤスも、言い訳ぐらいしたほうがいいぞ﹂
﹁や、まあ⋮⋮ユッチの言う通りだし。⋮⋮でも、謝るだけっての
はよくなかったかな?﹂
﹁そうだな、ユッチの場合は逆効果だったかもな。⋮⋮そういえば、
話は変わるがサツキから聞いたぞ。今週月曜日、弁当腐らせたんだ
って? しかもちょっとだけ挑戦して食べて、バイト中ぎゅるぎゅ
るお腹言わせながらバイトしてたと聞いたぞ﹂
うわ、恥ずかし!
サツキ、そんな事をポンポコさんに言わなくていいから!
⋮⋮まあ、まずは今日のタイムトライアル、頑張ってみますか。
901
102話:ユッチ、怒る︵後書き︶
おはようございます。
数話前の投稿にて、ジャンルの検索回数が⋮⋮と書きましたが、
﹁ジャンル検索回数ですが、現在、人気ジャンルの集計はしており
ません。
小説家になろうでは2008年末から2009年にかけサイトの大
規模リニューアルを計画しております。
その際、人気ジャンルの集計を提供できないか検討させていただき
ます﹂
との事。
まあ、期待しましょう。
それでは。
902
103話:初タイムトライアル
さて、ポンポコさんと競技場に着いた。
うん、確かにユッチの言ってた通り、ゴーヤ先輩もキビ先輩も、ア
オちゃんもウララ先生もいるな。
毎週土曜、こんな施設で練習してたんだ。
それにしてもあっついなあ。こんなかんかん照りにならなくてもい
いのに。
﹁さてヤス、時間はあまりないのだろ? 私は今から朝のミーティ
ングしてくるが、こっちに来て女子と話はしてないでさっさとアッ
プしろよ﹂
﹁うい、了解﹂
ユッチの近くに行くの、今は気まずいしな。
おし、んじゃ荷物置いてさっさとストレッチしますか。
﹁⋮⋮おいヤス、いきなり座り込んで何しようとしてる?﹂
﹁へ? ストレッチだけど? 違うの?﹂
﹁⋮⋮時間があるなら、最初にストレッチしてからでもいいが、時
間がないだろ? まずは、ジョグをしろ。 ジョグの意味は覚えて
るか? ゆっくりしたペースで走る事だぞ。ジョギングみたいなも
のと思っておけ﹂
﹁うい﹂
903
そっか、そういや短距離も一番最初にジョグしてたなあ。
⋮⋮ジョグ、今までアップの時してなかったな。
﹁最低でも2キロは走れよ。あと、適当に走らず、フォームを意識
しろ﹂
2キロって言うと⋮⋮5周か。
ポンポコさんに言われた通り、フォームを意識してタッタッと走る。
って俺⋮⋮、練習方法に関して何も知らんなあ。
﹁うし、5周っと﹂
さて、時間もないし体操とストレッチだ。
10分弱かけて体操とストレッチを終わらせ、その後いつもやって
る流しをした。
70∼80パーセントの力で走るやつだ。
とりあえず流しは5本ほどした。タイムトライアルなんて初めてだ
し、終わった後どんな風になるか分からんから、早めに始めたい。
﹁おしっ、やるか﹂
距離は前にポンポコさんの誕生日で言われた5000m。
どんな結果になるか分からんけど、とりあえず走ってみよう。
⋮⋮ってユッチからすんごい目で睨まれたけど⋮⋮またなんかやっ
たか? 俺。
904
﹁ヤス、それだけのアップでいいのか? 30分もしてないぞ﹂
﹁へ? いや、でもポンポコさん、これでも普段に比べたらきちん
とやってるんだけど﹂
普段のアップなんて15分も時間取ってない。
﹁⋮⋮アップは個人によってやり方は様々だが、1時間程度が目安
だ。少ない人でも40∼50分はやっている。その程度はやらない
と、体がほぐれず、温まらないからな。今、ヤスはジョグに10分、
体操とストレッチに7分、流しに8分しかかけてない。この後バイ
トがあるからと、いくらヤスが時間がなくて早く帰りたくてもそれ
では駄目だ⋮⋮怪我するぞ﹂
﹁えーと⋮⋮そなの?﹂
﹁大会の先輩たちのアップ、見ていないか?﹂
﹁見てたけど、長距離の先輩たち、こんなもんしかしてないよ。だ
から長距離は短距離よりアップ時間が短いのかなって思ってたんけ
ど⋮⋮﹂
﹁そんなわけないだろう? もっとアップはゆっくり丁寧におこな
え。練習時でも大会時でもアップ方法は一緒だからな﹂
﹁あ、うん﹂
そか、だからユッチが睨んで来たのか。
﹁⋮⋮心配だな。そんなんでちゃんとラップタイム、測れるのか?
905
そもそも測った事あるのか?﹂
﹁えーと、今まで合計タイムは測ってたけど、学校周りって1周8
20mじゃん? そんな適当な距離のタイムを測ってもしょうがな
いかって測ってないんだけど﹂
﹁⋮⋮計算すれば、820mでも1kmあたりに直せるから。それ
ではペースが分からんだろ?﹂
﹁まあ、確かに﹂
﹁どこまでも心配なヤスだな。⋮⋮今日はタイムは私が測ってやる。
ウララ先生に言ってくるからもういっぺんストレッチして待ってろ﹂
﹁うい﹂
はあ、今日は怒られてばっかりだ。
きちんと時間をかけてストレッチをし直して、もういっぺん軽く走
った。
﹁そろそろいいな? タイムトライアル始めるぞ﹂
﹁うい、了解﹂
ポンポコさんに言われ、5000mのスタート地点に立つ。
﹁私はスタート地点で、ラップタイムを叫ぶから。ゴールは12周
半走った所だぞ。⋮⋮準備はいいか?いくぞ、よーい﹂
パン!
906
時計を押してスタートした。
タッタッと気持ちのいいペース程度で走る。5キロメートルもある
から、最初とばしすぎるともたないしな。
えと、地区大会で最下位の人が19分程度で走っていたな。⋮⋮1
キロ3分50秒で走ると大体それぐらいになるか⋮⋮。
今、1周通過した。
﹁98秒! ヤス、やる気あるのか!﹂
え? えーと⋮⋮400m通過を98秒って言うと⋮⋮1kmあた
り⋮⋮245秒⋮⋮4分5秒!? やばい、遅く走りすぎてた!
遅れた分を取り戻さないと!
慌てて俺はペースをあげた。
さっきより風を強く感じる。自分のペースがあがっているのが分か
る。だけど、どのくらい速くなってるのか全然分からない。
このペースだと、何秒なんだ!? 速いのか? 遅いのか? 遅い
んだったらもっとあげないとまずいんじゃないのか!?
そう思ってさらにペースをあげた。かなり息が苦しいが、まだ何と
かなる。
907
2周目を通過した。
﹁84秒!﹂
おし、さっきの分を取り戻しただろ。
このペースでいってやる!
3周目通過。今、1200mか⋮⋮。
⋮⋮後まだ9周半残ってんの?
き、きつい。
﹁86秒!﹂
しかもペース落ちてるし⋮⋮。
どうしろって言うのさ⋮⋮?
これで7周か⋮⋮?
908
﹁106秒! 体を前に傾けるな! 背筋を伸ばせ!﹂
そ、そんな事言っても⋮⋮。
﹁ヤス君! 給水しなさい!﹂
あと少しで3000mと言う所で、ウララ先生がコップで水を差し
出してくれた。
⋮⋮息苦しいんだ、そんなんのめるかよ⋮⋮。
﹁脱水症状になるから! 無理してでも飲みなさい!﹂
⋮⋮無理矢理手渡された。
落としそうになったけど、無理矢理口に含む。
ほとんどこぼしてしまったけど、何とか一口飲めた。
﹁残りは頭からかぶりなさい!﹂
もうほとんど入ってないけど、頭にぶっかけた。
⋮⋮ほんと暑い⋮⋮。
909
今10周通過した⋮⋮⋮⋮。
﹁114秒! 後1キロ!頑張れ!﹂
⋮⋮きつい、息がきつい。⋮⋮まだ後2周半残ってるよ。
ポンポコさんが頑張れと応援してくれているが、足があがんないっ
す⋮⋮。
いや、走るのやめてえ⋮⋮。
ドスンドスンと言う走りになってしまっているが、一歩一歩走るの
が本当にしんどい。
早く終われ⋮⋮。
﹁123秒! 後200メートルだ! 腕を思いっきり振れ!﹂
アドバイスの声が遠い⋮⋮。
あの角を曲がれば、ゴールまで後少しだ。
ウララ先生が手を振っているのが見える。
あそこまで全力で残りを走る!
910
ドタドタと大きな音を立てて、最後の直線を駆け抜ける。
ゴールと同時に地面に倒れ込んだ。
どすんと言う大きな音を立てて、仰向けに転がる。
も⋮⋮むり⋮⋮うごけん。
﹁ぜー⋮⋮ぜー⋮⋮ぜー⋮⋮ぜー⋮⋮﹂
﹁ヤス君、走り終わってコース内に倒れちゃだめだよ。他に走って
る人の邪魔になるでしょ。倒れるにしてもせめて中に入るか、外ま
で出なさい﹂
鬼⋮⋮か⋮⋮ウララ⋮⋮先生⋮⋮は⋮⋮!
﹁む⋮⋮り⋮⋮﹂
﹁うん、しゃべれるなら大丈夫ね。立って歩きましょう、むしろジ
ョグしてもいいかもね﹂
ほんとに⋮⋮鬼⋮⋮だ!
ふらふらと立ち上がって、歩き始める。
膝がガクガクと笑ってるんだが⋮⋮。
た、倒れそう⋮⋮。
﹁ヤス君、走り終わったら、トラックに対して礼をしなさい﹂
は⋮⋮? なんで?
﹁礼儀は大切にしないと駄目だよ。 野球でもグラウンド入る時、
﹃ちわっす!﹄とかいうでしょ?﹂
911
ああ⋮⋮い、言ってたけど⋮⋮普通に﹁おはようございます﹂⋮⋮
だったけど。
﹁練習前、本練習後、練習後、きちんと礼は欠かさないように。マ
ナーと言うのは大事だから。どんなスポーツでも、スポーツに限ら
ずとも必要よ。逆にこう言う事が出来ない人はどんなに強くても認
めないわ﹂
う⋮⋮きつい⋮⋮。
﹁⋮⋮ありがとう⋮⋮ございました﹂
このまま倒れてえ⋮⋮。
﹁それじゃ、このままコースの外を1周歩きましょうか。お疲れさ
ま﹂
﹁⋮⋮先生⋮⋮もう話しかけないで⋮⋮ください⋮⋮﹂
何も考えずぶっ倒れてたい。
ふらふらとポンポコさんのいるスタート地点まで歩いた。
912
ポンポコさんが待ってる。まだ息が切れてる。
﹁ヤス、お疲れ。タイムは21分59秒、400mのラップ毎は、
98、84、86、96、100、105、106、111、11
4、114、127、123、ラストが55だ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮まあ、頑張ろう﹂
⋮⋮何か諦めてないっすか!?
﹁今日も色々叫んでみたが⋮⋮他にも欠点が多すぎて何から言えば
いいんだ?﹂
俺に聞かないで!?
﹁まあ、完走したのは偉かったぞ﹂
⋮⋮そこしか褒める点がないんでしょうか?
913
う、うごけん⋮⋮。
クールダウンをしたいけど、疲れて動けん。
﹁それにしても⋮⋮最後スパートをかけていたが、ヤスはスパート
のスピードもあまりでないのだな。フォームもぐちゃぐちゃだし、
タイムも私が思ってたより悪いぞ﹂
才能もないし、走り方も悪いし、現状の実力もないし、スピードも
ないし⋮⋮これは三重苦ならぬ、四重苦か!?
﹁ヤス⋮⋮聞いてるか?﹂
﹁あ、うん⋮⋮でも、そんだけ俺の評価が低いと⋮⋮練習する意味
あるかなって⋮⋮﹂
﹁ふむ、少々言い過ぎたか?⋮⋮県大会等を見て実力差が激しかっ
たり、ここの高校の現状を見て、やる気が出ないのも分かる。上を
見ればきりがないしな﹂
うむうむ、その通りだ。
﹁だが、才能があまりなくても練習である程度までは伸びるのが長
距離と言う種目だ。特に高校生レベルならば、今からでも十分戦え
るぞ。高3までは2年もあるしな﹂
﹁ほんとう?﹂
914
﹁本当だ。愛知県で長距離トップの高校のエースについて調べてみ
るといいぞ。その高校のエースは中学校までお前と同じ野球部だっ
たそうだ﹂
﹁や、それはそいつが潜在能力がすごかっただけじゃないのか?﹂
﹁ふむ、才能か? そういえば、そんな事言った気もするな﹂
忘れるなよ!ショックだったんだからな!
﹁まあ、確かに長距離にも才能はあるぞ。どんなに練習しても勝て
んヤツは出てくる。⋮⋮だが、それはどんな競技でも同じだ。突き
詰めれば、どの種目にもトップなんて1人しかいないしな。﹂
極論だけど、それはそうだな。
﹁だが、さっきも言ったが、高校生、しかも県のレベルならどうに
かなる。県出場レベルならば、そうだな⋮⋮15分30秒程度を出
せばよほど強い年に当たらない限りは、県に出場できるぞ。東海大
会出場なら、15分00秒くらいで出場可能だ。⋮⋮私は15分台
ならば、練習で出せるようになると思っている。目標設定はヤスに
任せるが﹂
県出場か⋮⋮ユッチは東海出場を目標にしてたって言ってたけど⋮
⋮でも、今の俺、22分かかったんだぞ?そんなんで15分30秒
で走るなんて出来んのか?
﹁私は提案するだけだぞ。今後、あの2年生達とのほほんと走りた
いと言うならそれもヤスの勝手だ﹂
915
﹁ごめん! それだけは絶対嫌!﹂
あの空気には全然なじめなかった。長距離は野球と違って1人でや
る競技なんだから、他の人がいなくても何とかなる!
﹁県出場か⋮⋮この高校で出来たらすごいよなあ﹂
﹁⋮⋮他の人が見ても別にすごいと全く思わんがな﹂
﹁え? なんで?﹂
﹁短距離で何人も出場してるからな、400mハードルの県出場の
敷居が低くて、長距離の方が難易度が高くても、どちらも同じ県出
場だからな。一般人は同じように見るさ﹂
な、なるほど⋮⋮。
﹁東海出場になれば、400mハードルの出場でも一気に難しくな
るからな。私が褒めるのは東海出場以上だな⋮⋮それに、目標は高
く設定した方がいいぞ。低い目標だとそれに合わせた練習しかしな
くなるからな﹂
﹁うーん、スラムダンクで、目標は全国制覇だ! と言い切ったり
するのと同じ事かな﹂
﹁⋮⋮漫画で話す理由が分からないが、その通りだ﹂
ん? たとえが悪かったか?
﹁あ! 三国志で劉備が平民の状態から君主になる事を目指すよう
916
なもんか﹂
﹁そうだな、そのたとえは正しい。あそこで目標設定が低かったら、
おそらく蜀を建国する事も、優秀な人材達が揃う事もなかっただろ
う。だからこそ、県出場とは言わず、もっと高い目標を立てろ﹂
ええ!? さっきまで目標設定は俺に任せるって言ったじゃん!
﹁じゃあ、全国制覇?﹂
﹁疑問を持つような言い方をするな。それだったらもっと目標を低
くしろ。そもそも、人間が道具なしで空を飛びますと言ったって、
それはどう頑張っても実現不可能なのだぞ﹂
さっきと言ってる事違います! 俺の全国制覇はそのレベルですか?
﹁⋮⋮⋮⋮いや? それなら⋮⋮⋮⋮やっぱ無理だな﹂
何だ?その意味深な発言は!?
﹁今のは気にするな、最低目標として、東海大会出場を目指そう。
タイムとしては15分00秒が目標だな﹂
おい!? 結局完全にポンポコさんが決めてるじゃん!
﹁まだあと、高3のインターハイ県大会まで2年あるんだからな。
私は短距離を見るからヤスを見る事は出来んが、しっかり練習する
んだぞ﹂
ええ!? しかも目標設定だけしといて完全放置!?
917
﹁では、私は短距離の練習に戻るからな、頑張れよ﹂
⋮⋮そう言って、ポンポコさんは短距離練習に戻っていった。
いや、無茶だろそれは⋮⋮。
ようやく動けるようになり、クールダウンしてこうと思ったんだが
⋮⋮ふと、時間を見たらすでに11時半。
えーと⋮⋮バイト先行くのに今から逆算すると⋮⋮あれ? やばい
っ! これ以上のんびりしてたら遅刻する!!
﹁ありがとうございました!﹂
礼だけ大声で叫んで、着替えもせずに急いで競技場から帰った。
ま、まにあって⋮⋮。
918
⋮⋮結局、間に合ったには間に合ったんだけど、そんなへろへろじ
ゃ仕事にならんから帰れと怒られた。
昼飯も食わずに急いだのに⋮⋮。
あーうー。
919
103話:初タイムトライアル︵後書き︶
おはようございます。
今までで一番長いです。ついつい書いちゃいました。
ってかヤス君のタイム、こんな遅くしちゃって今後の展開をどうし
ようと悩んでます。
それでは。
920
104話:サツキの中総体県大会、前日
今日は7月28日月曜日。部活中だ。
ちょっとユッチにお願いがあるんだが⋮⋮頼みにくいなあ。
﹁あのさ、ユッチ⋮⋮ちょっといいか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮なにさ?﹂
うわ、めっちゃ不機嫌だし⋮⋮。
﹁えとさ、明日サツキの応援、来てくれるんだろ?﹂
﹁⋮⋮ああ、うん。午後からだけどね﹂
午前は部活だからな。
俺は明日、部活は休んで朝から応援行くけど。
﹁でさ、俺に怒ってるのは仕方ないからもういいんだけど、サツキ
の応援はちゃんとやってあげて。ついでに今の状態もサツキには見
せないで欲しいんだけど⋮⋮﹂
﹁それは、サツキちゃんの前では仲良くしろって事?﹂
﹁ああ、うん。お願いできないかな? サツキに他の事考えさせた
くないし﹂
﹁⋮⋮明日だけだから﹂
921
﹁ありがと、恩に着ます﹂
部活も終わり、バイトも終わった帰り道。
ケンとのんびり歩いてる。
﹁それにしても、大変だな! ヤス!﹂
﹁⋮⋮ケン、なんでお前はそんな明るいんだ?﹂
ユッチは男子全員にキレてんのに。ケンだって例外じゃないんだぞ。
922
﹁ま、元々ユッチは俺とヤス以外の男とは話さないしな。他の男子
はどうも思わんさ﹂
あれ? そだったっけ? ⋮⋮そういや、しゃべってるとこ見た事ないなあ。
﹁そして俺は﹃ケセラセラ﹄!﹂
﹁幸せを呼ぶ生物? 何言ってるんだ?﹂
﹁それは﹃ケサランパサラン﹄! わざわざボケなくていいぞ、ヤ
ス﹂
や、素で間違えた。
﹁﹃ケセラセラ﹄は﹃なるようになる﹄って意味だぞ。ちゃんとや
ってりゃその内誤解も解けるさって思ってるからな!﹂
うう、そう思えるケンが羨ましい。
ついでにほんと、雑学だけは知ってるな、ケン。
﹁ま、実際ユッチの言う通りだからな。キングとかジャックって叫
んでたヤツラ、何したいのかよく分からんし。短距離でも男子では
まともにやってるの、ハードルで県大会行った先輩くらいだ。その
先輩も普段ハードルのちゃんとしたコーチがいる所に個別に練習行
ってたりしていない事も多いから、残ってる連中は適当なメンバー
ばっかりだ。真面目にやってる女子から見りゃ、男子の現状腹立つ
のも無理ないな﹂
﹁⋮⋮ケンは変えようとか思わんのか?﹂
923
﹁ユッチの言う事も分かるけど、俺は俺。人は人。遊びで陸上やっ
てる人も俺はありだと思ってるからな。強制的にやらせてスポーツ
嫌いになるよか、遊びでも続けれるならそれはそれでいいんじゃな
い? 野球と違って陸上はリレーを除けば個人競技だし、適当にや
って迷惑かけるなんて事ないだろ?﹂
そか、ケンはそう言う考えか。ひとりひとり考え方は違うもんだ。
﹁ま、ヤスには本気でやって欲しいと思ってるけどな!﹂
﹁⋮⋮あいよ、頑張るさ﹂
﹁お? 入学時とちょっと変わったねえ﹂
﹁ま、色々あってな﹂
サツキとか、ユッチとか、ポンポコさんとか、ウララ先生にも影響
受けたな⋮⋮もちろんケンもだな。
いやあ、影響受けやすいなあ、俺。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮誰か忘れてるような。
﹁うむうむ、いい事だ。⋮⋮明日は俺、バイト入っててサツキちゃ
んの応援には行けんけど、頑張れって言っといて。メールでも送っ
とくけど﹂
﹁ほいほい、了解﹂
﹁んじゃな! ヤス!﹂
924
﹁おう、またな!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮あ! アオちゃんの事忘れてた!
925
サツキの部活は昨日は完全休養、今日の練習は軽くで明日に疲れを
残さないようにしてる。
今は22時。今日は父さん、母さんも早くに帰って来て、家族みん
なで団らん中だ。
﹁ヤス兄、お父さん、お母さん、明日は頑張るからね!﹂
﹁ああ、応援してるぞ﹂
ほんとに頑張れ、サツキ。
この2週間。ありえないくらい練習して来たからな。
最後の2週間で何が変わる? って思うかもしれんが、﹃俺たちは
これだけやったんだ!﹄っていう自信を持つ事が大事だ。
4年分の積み重ねも全部発揮してやれな。
﹁今度の団体戦は絶対カミムラ、フクシマペアに勝ってみせるんだ
から!﹂
﹁そだな、その為にもまずは決勝まで行かないとな!﹂
﹁うん、絶対、絶対に負けないもんね!﹂
926
﹁ケンも応援行けないけど頑張れって﹂
﹁ああ、メール来たよ。ケンちゃんらしいメール﹂
﹁なんだそれ?﹂
﹁えっとね、﹃相手はヤスだと思え! そうすりゃ気兼ねなく打ち
まくれるだろ﹄だって﹂
ケン! なんてメールを送ってるんだ!?
﹁明日はケンちゃんのアドバイス通り、ヤス兄だと思って相手コー
トにばしばしぶちこんでやるからね!﹂
﹁やめて! いや、思いっきりプレイはして欲しいけど、何で俺!
?﹂
﹁だってヤス兄だもん﹂
訳分からんよ! 理由になってないから!
父さんも母さんもウンウンうなずいてないでなんか言ってやってよ!
﹁じゃ、明日はヤス兄、応援よろしくね!﹂
その前に理由教えて!
﹁みんな、お休みー﹂
﹁ああうう、お休み﹂
927
結局なんでか分からんかったな。
最近、褒めてくれてたのになあ、なんなんだろ?
ま、いいや。明日は頑張れよ! サツキ!
928
104話:サツキの中総体県大会、前日︵後書き︶
おはようございます。
﹁俺は俺、人は人﹂
でも、仲がいいやつくらいは一緒にがんばりたいなあと私は思って
ます。それ以外の他の人がどうあろうと﹁気にしない﹂というスタ
ンスです。
それでは。
929
105話:サツキの中総体県大会、開始
さあ、県大会当日だ。
サツキ、緊張して眠れんかとも思ったけど、スーピー寝てた。
俺が起こさなかったら確実に寝坊してたんだが⋮⋮。
その図太さは羨ましいぞ、サツキ。
静岡の県大会団体戦は計32校の出場だ。
サツキの中学の地区からは2校しか出場できんけど、浜松市からは
6校、静岡市からは4校出場してる。
ってか、明らかに不平等だろ!
いくら学校数が違うからってその校数の差は何だ!?
⋮⋮ま、言ってもしゃあないな。
サツキ達はもうちょい後からの試合なので、ちょっと観戦してた。
今見ているのはうちの地区の優勝校だ。
⋮⋮やはり、カミムラ&フクシマペア、オカシイコ&オカエリペア
は強い。
930
もうひとつのスズキ&タナカペアもぎりぎりで勝ってた。
⋮⋮あの調子なら決勝まで行きそうだ。
前回の個人戦ではあの学校に惜敗させられたからな。
今度こそサツキ達には決勝で勝ってほしい。
サツキ達の1回戦は浜松の中学の1位とだ。
さすがに1位だから、今まで見て来た浜松の中学とはきっとレベル
が違うだろ。
いきなりの強豪だな⋮⋮。大丈夫か?
﹁ヤス兄、ま、見ててよ。フクシマ&カミムラペアに雪辱を果たす
までは負けらんないもんね﹂
﹁そだな。頑張れ!﹂
931
ある程度練習して、ラリーをして試合開始だ。
﹁7ゲームマッチ、ダブルス1。サツキ&クロダ vs イダ&テ
ンマ﹂
井田さんと天満さんか⋮⋮ふむ、韋駄天か? めっちゃ足速そうな
名字だな。
まずはイダさんからのサービスだ。
﹁だっ!﹂
ん? 叫び声の割にはたいしたことないサーブだな。スピードも大
して速くないし、コースもうちごろだ。⋮⋮これが1位って⋮⋮浜
松市は弱いのか?
﹁せいっ!﹂
よしっ、ナイスだサツキ。前衛のテンマさんの合間を縫って、決め
てやったぞ。
あのコースなら間に合わんだろ。
⋮⋮え? イダさん。足はやっ!! それが追いつくとかありえん
ぞ!
﹁だっ!﹂
932
ギリギリだけど、追いついて返した。
だが、返しただけだ、うちごろだ。 いてまえ! クロちゃん!
﹁でやっ!﹂
スマッシュが来るのを予想したのか、イダ・テンマともに後ろに下
がる。
スコーンとコートの隅っこに打つ。 あれなら、テンマさんもとれ
んだろ。
スマッシュが決ま⋮⋮らない!? ⋮⋮ありえん、あのスマッシュ
にも追いつくのか、テンマさん。
﹁えいっ!﹂
また返し易い球を⋮⋮今度は前衛にあがって来たサツキの前に飛ぶ。
﹁ほい﹂
サツキはスマッシュが決まらないと思ったのか、ドロップショット
を放った。
2人とも後衛に下がってるんだから、今度こそとれんだろ。
⋮⋮うわ、イダさんがつっこんで来た。
追いつくのか?
﹁だああああ!!!﹂
思いっきりラケットを滑り込ませて、ぽん、と打ち上げた。
933
やばい、2人そろって前衛に立ってる!?
ポン、ポン。
イダさんの打ったボールはサツキとクロちゃんの頭を超えてこっち
のコートに落ちた。
﹁ワン・ゼロ﹂
⋮⋮今のワンプレー見ただけだけど、こいつら、とにかく足が速い。
さすが韋駄天。
1位なだけあるな。強敵だ。
ちなみに今どんなプレーだったかというとだな⋮⋮。
□□□イ□□
□□□←□□
□□□←□□
□□テ←□□
□□□←□□
︱︱︱←︱︱
□□←□□□
□□←□ク□
□□←□□□
□□●□□□
□サ□□□□
まずはイダさんのサーブ。
イダさんとテンマさんはサーブの時、真ん中よりに立ってた。
934
●□□イ□□
→□□□□□
→□□□□□
→□テ□□□
□→□□□□
︱→︱︱︱︱
□→□□□□
□→□□ク□
□→□□□□
□→□□□□
□サ□□□□
サツキはテさんの右側を狙って返した。
ここを抜けると後衛の人︵今回はイダさん︶は普通は追いつけない
もんなんだが
□イ□□□□
□←□□テ□
□←□□□□
□□←□□□
□□←□□□
︱︱︱←︱︱
□□□●ク□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□サ□□□□
敵はぎりぎり追いついて返した。
935
返したは返したんだけど、スマッシュが打てるチャンスボール。
スマッシュを打たれると思った前衛の敵さんは後衛に下がる。
で、クロちゃんが思いっきり打った。
□イ□□□□
□□□□テ●
□□□□□→
□□□□→□
□□□□→□
︱︱︱︱→︱
□□□□ク□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□サ□□□□
これで決まったかと思ったんだけど、後ろに下がってたテンマさん
が返す。
□イ□□□□
□□□□テ□
□□□□←□
□□□□←□
□□□←□□
︱︱←︱︱︱
□□●□ク□
□□□□□□
□サ□□□□
□□□□□□
□□□□□□
936
この球に対してサツキが思いっきり前進してドロップショットを放
つ。
□イ□□□□
□□□□テ□
□□□□□□
□□□□□□
□□●□□□
︱︱→︱︱︱
□サ→□ク□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
□□□□□□
これは追いつけんだろ、と一瞬サツキとクロちゃんの動きが止まっ
たんだけど、
イダさんが猛ダッシュで突っ込み
□□□□□□
□□□□テ□
□□□□□□
□イ□□□□
□□←□□□
︱︱←︱︱︱
□サ←□ク□
□□←□□□
□□←□□□
□□←□□□
937
□□●□□□
ポコンとサツキとクロちゃんの頭上を越えて、相手のポイントだ。
相手チーム、打球はたいしたことないけど、とにかく足が速い。
これは追いつけないだろ。というところに打っても追いついて返し
てしまう。さすが韋駄天。
⋮⋮相手の応援もすごいな。
﹁ナイスだ! イダテン!﹂
﹃イダテンって言うな!!!﹄
あ、言われるの嫌いなんだ、韋駄天ってかっこいいのに。
俺も韋駄天といわれたい。
⋮⋮強敵だな、負けるなよ。サツキ、クロちゃん。
938
105話:サツキの中総体県大会、開始︵後書き︶
おはようございます。
県大会、とうとう始まりました。
ちなみに大会中ってどうやってネタを作ればいいんでしょう?
どうしても試合中はコメディ要素が少なくなりそうな雰囲気です。
最近PCを変えたら、名前の1個目の誤変換が増えました。
サツキ↓皐月。 ケン↓県。 ヤス↓安。
前のPC、かなり学習してたんだなあとついつい感心してしまいま
した。
でも、﹁ほうれんそう﹂を変換したとき、一番最初に出たのが、﹁
ほうれん草﹂ではなく、﹁報連相﹂と出たときはちょっとへこみま
した。
どんだけビジネスライクなPCだよ⋮⋮。
ちなみに﹁報連相﹂とは、﹁報告・連絡・相談﹂の略です。
間違ったまま仕事を進めて全部終わったあと上司へ報告したら、間
違った時間が無駄になるから、上司へのちょくちょく報告すること
は必須。
連絡も報告と似た感じと思ってます。
わからんことあって、1人で3時間かけて解決するより、さっさと
相談して30分で解決したほうがいいよね。って感じですかね。
新入社員になるとき、多分一度は聞くんじゃないかなと思います。
939
←詳しくはここ参照。
http://www.digital−sense.co.jp
/cc︳new/sub/10︳1.html
しかし⋮⋮、こんなビジネスライクなPCはちょっと嫌。
それでは。
940
106話:サツキの中総体県大会、イダテン
さ、次もイダさんのサーブだ。
今度の後衛はクロちゃんだ。思いっきり返してやれ!
﹁だっ!﹂
うん、やっぱりサーブはたいしたことない。
いけっ、クロちゃん!
﹁でやっ!﹂
おし、ナイスレシーブ!
相手の前衛、テンマさんの真正面に突き刺さるようなレシーブをク
ロちゃんが返す。
かなりのスピードだ。
﹁ふごっ!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ぷっ﹂
くくくっ、わ、笑っちゃだめなんだが⋮⋮。
ぽん、ぽん⋮⋮。
ボールが転がる。
うずくまっているが大丈夫だろうか?
941
﹁は、鼻がツーンとするよー!!﹂
﹁テンマちゃん、よけなさい!﹂
⋮⋮めっちゃ大丈夫そうだな。
今のはクロちゃんのレシーブが前衛のテンマちゃんの真正面に返さ
れた。
真正面ってのは意外と取りにくく、しかもクロちゃんのレシーブに
かなりのスピードがあったもんだから、よけきれず顔面にボールが
ペシッ! と当たったわけだ。
しかし、﹃ふごっ!﹄か⋮⋮言ってしまうのもわかるが、面白すぎ
⋮⋮。
﹁うん、痛いの治ったよ! 再開しよっか!﹂
﹁いや! テンマちゃん! 危ないから! その顔でやらないで!
不気味すぎるよ!﹂
﹁え? 何のこと?﹂
﹁気づいてよ! ダラダラだよ! 流れてるよ!﹂
﹁え⋮⋮ダラダラ? イダちゃんそんな事言わないでよ﹂
﹁何で顔が赤くなるの!? 鼻血! 鼻血!! 鼻血!!!﹂
﹁鼻血? 誰が?﹂
942
﹁テンマちゃんだよ! 監督! ティッシュティッシュ!﹂
お、監督、さっと立ち上がったな。迅速な監督だ。
﹁ティッシュがもったいないからその顔でやれ!﹂
いや! それはないだろ! ほんとに今にもぽたぽた落ちそうだか
ら! テニスコートに血の雨が降るから!
﹁いやです!﹂
﹁ええ? 私大丈夫だよ? 早く始めようよ﹂
な、なんてアバウトな子だ。テンマちゃん。
﹁テンマちゃんがよくても私がいやなの!﹂
イダさんは普通な子みたいだなあ⋮⋮大変だな、イダさん。
ってかサツキ、ウケすぎ。そっちのコートで一人腹抱えてうずくま
ってるのは変だぞ。
ようやく鼻にティッシュを詰め込んで、試合再開だ。
﹁鼻が詰まって動きにくいよう﹂
943
﹁鼻血が止まるまで我慢しなさい!﹂
うん、頑張れ。鼻血なんて早けりゃ5分あれば止まるだろ。
﹁えと、試合再開しますよ?﹂
困ってるなあ、審判。あんまりこういうこと、なさそうだもんな。
﹁ワンオール、サーバー、テンマ﹂
そか、次はテンマちゃんのサーブか。
イダさんを見る限り、テンマちゃんもあんまりサーブがうまくない
んじゃないかと勝手に思ってるんだけど。
﹁おし、いくよ! 必殺! ツイストサーブ!﹂
お、すげえ。 テンマちゃんツイストサーブが打てるのか。
﹁ふりゃ!﹂
すかっ。
﹁ふぉ、フォールト﹂
﹁ありゃ? 失敗失敗﹂
⋮⋮ええと、県大会レベルでからぶる人ってほとんどいないと思う
んだけど。
ほんとにツイストサーブがうてるのか?
944
﹁テンマちゃん、ツイストサーブはやめよ?﹂
﹁ええ、大丈夫だよ、見ててよ!﹂
イダさん、頑張れ。しかし、ああいうのほほんとした子はどう扱え
ばいいんだろうなあ?
ってかやっぱりツイストサーブなんて打てないんじゃないの?
﹁次こそ! ツイストサーブ!﹂
パシッ!
お、今度は当てた。
パサッ⋮⋮。
﹁だ、ダブルフォールト。 ワン・ツー﹂
てか、さっきのボール、あんまり回転がかかってなかったように見
えたんだけど⋮⋮。
ツイストサーブってすごい回転が必要じゃなかったっけ?
﹁ふっ、まだまだだね﹂
﹁それはテンマちゃんのことだよ!﹂
うん、そのとおり。イダさんナイスツッコミ。
﹁よし、次はスカッドサーブに挑戦しようかな﹂
945
﹁お願いだから、普通にサーブして!﹂
﹁ええ? もう、しょうがないなあ。イダちゃん、わがままだよ﹂
﹁こっちのセリフだよ⋮⋮﹂
ええと、頑張れ。イダさん。
さて、ワン・ツーから、もう一回テンマちゃんのサーブだ。
ってか、普通のサーブってどんなサーブ?
﹁ふりゃ!﹂
あ、ほんとに普通。普通のフラットサーブか。スピードもそこまで
速くもなく。
レシーブはクロちゃんだ。
﹁でやっ!﹂
おしっ、いいコースに返したぞ。
946
相手チームは走るのが速いからな。足元に打てば打ちづらいだろ。
﹁えいっ!﹂
お、テンマちゃん、返したな。相手チーム、やっぱり返すことだけ
は上手?
しかし、返った先には前衛に突っ込んできたクロちゃんが待ち構え
てる。
いけ、クロちゃん!
﹁でやっ!﹂
ナイススマッシュだ!端っこに打ったし、今度こそとれんだろ!
﹁えいっ!﹂
くぅ、テンマちゃん、ぼけてるけど足が速い、後さっきに比べて反
応もいいな。
⋮⋮正面が苦手?
ふわっと打ち上げた。
こっちのコートの後ろに落ちる。
クロちゃんが前衛にあがるのを見て、後衛に下がっていたサツキの
真正面だ。
﹁せやっ!﹂
急角度の球が相手コートに返る。
ただ、なんとなく追いつかれるような⋮⋮。
947
﹁うわっ!?﹂
お? 回転をかけてたのか、サツキ。
途中でボールが別の方向に跳ねて、テンマちゃんのフォームが崩れ
た。
﹁えいっ!﹂
変なフォームのまま、無理矢理打った。
ほわわわん、とボールが浮き上がったのだが、こっちのコートに戻
ってくるか? ぎりぎりのところだが⋮⋮。
あ、ネットに当たった。どっちに入る?
﹁向こうに入らんかーーーっ!!﹂
⋮⋮ぽてん。
叫んだテンマちゃんのコートに落ちた。
﹁あれえ? おかしいね。イダちゃん、気合を入れて叫ぶと相手コ
ートに落ちるんじゃなかったっけ?﹂
﹁それ漫画だから! お願い! 恥ずかしいから叫ばないで!﹂
﹁なんか恥ずかしい? イダテンって応援されるほうが恥ずかしい
よ?﹂
﹁それも恥ずかしいけど! テンマちゃんの叫びも恥ずかしいから
948
!﹂
﹁もう、さっきからイダちゃんわがままだよ!﹂
﹁どっちがよ⋮⋮﹂
頑張れ、イダちゃん。
﹁⋮⋮ええと、ワン・スリー。サーバー、イダ﹂
頑張れ、審判。
さてさて、イダちゃんのサーブだ。
﹁イダちゃん、鼻血止まってきたよ。ティッシュとってもいい?﹂
﹁もうちょっとつけてなさい! また出てくるかもしれないから!﹂
﹁うぅ、かっこ悪いよう﹂
イダちゃんとテンマちゃん、なんか姉と妹みたいだ。
﹁まじめにいくよ! だっ!﹂
949
うん、そんなにスピードの出てないフラットサーブだ。
レシーバーはサツキ。また回転かけて返してやれ!
﹁せやっ!﹂
今度は別の打ち方をしたっぽいな。スライスか?
バウンドした後、跳ぶ方向が変わったけど、イダちゃんは跳ぶ方向
がわかってたのか、そこで待ち構えてた。
﹁だっ!﹂
クロちゃんの頭上を越えようとする球だ。が、ちょっと低そうだけ
ど届くか?
﹁クロちゃん! 無理しないで!﹂
﹁いや、これならいけるよ!﹂
パシーンとスマッシュを打つ。
テンマちゃんの方向か。
﹁テンマちゃん! アウト!﹂
﹁ふぇ?﹂
イダちゃんの叫びに反応してか、ぽこん、と中途半端なスイングに
なった。
うん、確かにさっきのはアウトっぽいな。
またちょっと高めだけど、クロちゃんなら届く。もう一回行け! クロちゃん!
950
﹁でやっ!﹂
さっきの中途半端なスイングの後、ポケッと見てしまってるテンマ
ちゃんの方向に、またとぶ。
﹁ぶへっ!﹂
しゅぽんっ!
⋮⋮⋮⋮ぶっ。
わ、笑うな俺。我慢しろ。
また鼻に当たったテンマちゃんは鼻を押さえてうずくまってる。
ね、狙ってるのか? クロちゃん。
﹁イダちゃん、鼻痛いよー﹂
﹁だからよけなさい! 今のは絶対アウトだったよ!﹂
確かによければ確実にコートの外だったな。
﹁いたわってよー。鼻痛いんだよ﹂
まだ鼻押さえてる。よっぽど痛かったのか?
﹁ほら! うずくまってないで、さっさとたちなさい﹂
手を貸してあげるイダちゃん。
951
﹁ありがと、イダちゃん﹂
手をとるテンマちゃん。
﹁ってネチョ? 何このぬるぬるした手は⋮⋮﹂
﹁どうかしたのイダちゃん?﹂
﹁テンマちゃん! 顔! 顔!!﹂
﹁顔がどうかした? かわいい?﹂
﹁赤い! 鼻血! 鼻血!! また出てる!﹂
﹁うえぇ? またあ?﹂
﹁ティッシュはどうしたの!?﹂
﹁あれ? どこだろ?﹂
ああ、さっきしゅぽんって吹っ飛んだからな。
コートのどっかに落ちてんじゃないか?
﹁ってことはこのヌチャヌチャしたのって⋮⋮﹂
﹁ああ、きっと鼻血だねえ。後、ちょっと鼻水も出ちゃったかな?﹂
﹁汚いから! 何でそんなの私の手につけるの!?﹂
﹁手を出してくれたんだもん!﹂
952
﹁拭いてから手をとってよ!﹂
﹁ええ? 服で拭くの? しょうがないなあ﹂
﹁ごめん! 私が悪かったから私の服で拭かないで! ああ! 服
が鼻血でー!!!﹂
﹁ありがと、イダちゃん。もう大丈夫だね。じゃ、起こして﹂
﹁大丈夫じゃないから! 鼻血がぽたぽたたれてきてるから! 先
生! 早く、ティッシュティッシュ!﹂
﹁さっきコートに落ちたのがあるぞ。それを使えば?﹂
﹁汚いですから! 新しいのくださいよ!﹂
﹁紙は大切に使わないとだめだぞ﹂
﹁そうかもしれませんけど! 鼻血がコートにたれるー!!!﹂
苦労人だな。
頑張れ、イダちゃん。
953
ええ、あんまりにも大騒ぎするから、鼻血が止まるまでゲームを中
断することになった。
サツキも笑えてしょうがないみたいだったし、ちょうどいいか。
ようやく鼻血が止まって再開だ。
イダちゃんの汚れた服がちょっとかわいそう。
﹁え、えと、ゲーム、ゲームカウント0−1?﹂
⋮⋮忘れたのか? 頑張れ、審判。
954
106話:サツキの中総体県大会、イダテン︵後書き︶
おはようございます。
顔面にボールを食らって⋮⋮はまさに昨日私がテニスしてて経験し
ました^^硬式でしたが。
そういえば、久々にパロッた気がします。
﹁向こうに入らんかーーー!!﹂
ああやって叫んで自分のところに落ちたらきっとすごく恥ずかしい。
ところで新しいPC、なんか変換がやっぱり変。
めっちゃだいじょうぶそうだ↓めっちゃだ異常武装だ
どんな武装をしてるんだ?とちょっと思いました。
それでは。
955
107話:サツキの中総体県大会、イダテン本領発揮?
さあ、ゲームカウントは0−1、今度のサーブはサツキからだ。
﹁せいっ!﹂
コースを的確に狙ったフラットサーブだ。いいコースだな。
しかし、レシーバーのテンマちゃんも速い。すでに回り込んで、無
理してフォームを崩すこともなくフォアで返す。
﹁えいっ!﹂
おっ? 今回のは偶然かなかなか難しいコースだ。
サツキの足元でバウンドする。
﹁せいっ!﹂
難なく返すサツキ。
敵なら小憎らしくてたまらないだろうが、味方だから心強い。
相手のコートの浅めのところに入っていく。
﹁必殺! ショートクロス!﹂
⋮⋮テンマちゃん、自分から方向を教えてどうする?
その叫びを聞いたサツキは、打つ前からショートクロスの対応に走
った。
﹁ふりゃ!﹂
956
びゅっとサツキとクロちゃんの間を抜けるストレート⋮⋮。
テンマちゃん。それはショートクロスとはいわない気が⋮⋮
ちなみにショートクロスってのは
□□□□□□
□□□□□□
テ□□□□□
□\□イ□□
□□\□□□
︱︱︱\︱︱︱
□□□□\□
□ク□□□●
□□□□□□
□□□□□□
□□□□サ□
こんな球筋のはず。
だからサツキはさっさとボール方向に走ったんだけど、
なぜかテンマちゃんは
□□□□□□
□□□□□□
□テ□□□□
□□←イ□□
□□←□□□
︱︱←︱︱︱
□□□←□□
957
□ク□←□□
□□□←□サ
□□□←□□
□□□●□□
こんな球を打った。
フェイントというか⋮⋮つられたサツキを馬鹿というべきなのか?
﹁やったね! イダちゃん、決まったよ!﹂
﹁⋮⋮まあいいよ﹂
返答に困ってるなあ、イダちゃん。
﹁ゼロ・ワン﹂
﹁な、なんかずるい⋮⋮﹂
﹁どうどう、サツキちゃん。抑えて抑えて﹂
ま、ありなのかなあ。
次もサツキのサーブだ。レシーバーはイダちゃん。
﹁もうひっかからないからね! せいっ!﹂
ちょっと怒ってるサツキのフラットサーブ。
相変わらずコースがいい。
﹁だっ!﹂
958
しかし、コースがどんなによくてもイダちゃんも回りこんでる。
やっぱ足が速いな、イダちゃんもテンマちゃんも。
サツキのバック方向へ返球が返る。
﹁せいっ!﹂
サツキは普通に返しただけなんだけど、テンマちゃんが割り込んで
きた!
テンマちゃん、そこまで入ってくるか!?
﹁スマッシュ!﹂
スコン! とボールを地面にたたきつけた。
サツキもクロちゃんもとれない⋮⋮。
くそ、やられたか。
﹁ネットオーバー﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁あれ? またやっちゃった?﹂
﹁テンマちゃん! いい加減前衛のとき、ネットオーバーしないで
っていったでしょ! もう今までに何回してるの!?﹂
﹁あははー、ごめんごめん﹂
﹁さっきの球もぎりぎり追いついて打つからネットオーバーとかミ
959
スしちゃうんだよ! 無理だと思ったら任せてよ!﹂
﹁はーい﹂
﹁わかったのかなあ⋮⋮﹂
頑張れ、イダちゃん。
ネットオーバーはその名のとおり真ん中のネットを越えちゃいけな
いってやつなんだが⋮⋮。
やる人いるんだなあ。
﹁ワン・オール﹂
サーブは変わってクロちゃんだ。
豪速球サーブを決めてやれ!
﹁やっ!﹂
クロちゃんのスピードのあるボールがイダちゃんへ向かう。
﹁だっ!﹂
スピードをものともせず返すイダちゃん。
ほんとにどんな球でも返すな。イダちゃんは。
これは⋮⋮狙うならテンマちゃんか?
﹁よっ!﹂
テンマちゃんの頭上を越えるロブ。
テンマちゃんも届かないから⋮⋮
960
﹁残念無念! 届くもん! スマッシュ!﹂
うおい! 届くんかい!?
や、確かにかなりのジャンプ力があれば届きそうな高さにクロちゃ
んは打ったけどさあ。
⋮⋮テンマちゃん、身体能力高いな。
届くと予想してなかったサツキとクロちゃんは反応できず、テンマ
ちゃんのスマッシュが決まる。
﹁ワン・ツー﹂
くっ、この試合、テンマちゃんだけが活躍してる気がするな。
サツキ、お前も目立て!
さて、次はクロちゃんのサーブ、レシーバーはテンマちゃんだ。
﹁やっ!﹂
豪速球サーブ。フォールトも多いけど、入ればサービスエースにな
ることも多いんだが⋮⋮
﹁えいっ!﹂
鼻にボールをぶつけたり、ネットオーバーもしてたけど、さすがは
浜松1位。
サービスエースはなかなか決まりそうにないな。
﹁やっ!﹂
961
ボールを返した後、一気に前進するクロちゃん。
ダブル前衛? でいいんだっけな。
さて、テンマちゃんはどう打つ?
﹁えいっ!﹂
サツキとクロちゃんの間へ返したか。
お見合いすんなよ。
﹁やっ!﹂
クロちゃんのボレー。
意外と打ちづらかったのか、ただ当てただけ、という感じのボレー
だ。
﹁必殺! スーパーロブ!﹂
また叫ぶ。
スーパーロブってどんなロブだよ!?
ってかその叫びにつられて2人して後衛に下がるな!
﹁ふりゃ!﹂
シュッと球が駆け抜ける。
自分のコートから相手コートの浅い部分へ急角度に入るボール。
⋮⋮それはさっき叫んでたショートクロスだと思う。
﹁ワン・スリー﹂
962
﹁へっへー、どうだ! 私のスーパーロブは! すごかったよね!
イダちゃん!﹂
﹁はいはい、すごいすごい﹂
おざなりだ、イダちゃん。
あきらめの境地に入ってる感じがする。
﹁今のどう見てもロブじゃないし! 何で私はつられちゃうの!?﹂
﹁ど、どうどうサツキちゃん﹂
⋮⋮頑張れ、サツキ。
さあ、サツキのサーブだ。
後1ポイント相手に取られたら、このゲームはブレイクされちゃう
からな。
次のポイントは絶対取れよ、サツキ。
﹁もう、耳栓でもしてプレイしたい気分⋮⋮せいっ!﹂
気持ちはわかる、頑張れ、サツキ。
今度のサーブはスピンサーブか。
レシーバーのイダちゃんもバウンドを予測してすでに打つ体制だ。
963
﹁だっ!﹂
サツキのバックの方向へ打ちごろの球を返すイダちゃん。
別にサツキはバックが苦手じゃないぞ!
いけ! サツキ!
﹁せいっ!﹂
テンマちゃんとイダちゃんの間を抜けるボールだ。
決まるか?
と、ここでまたテンマちゃんが割り込んできた。
反応が早いな、テンマちゃん。
﹁いっくぞー! スマッシュ!﹂
すかっ!
﹁だっ!﹂
シュッとイダちゃんのバックが決まる。
反応できないサツキとクロちゃん⋮⋮。
﹁ゲーム、ゲームカウント、ワンオール、チェンジサービス﹂
﹁どうだー! 私とイダちゃんの﹃時間差アタック!﹄﹂
﹁テンマちゃん、本気でからぶったでしょ! 私任せようと思った
もん!﹂
﹁信じてたよ、イダちゃん⋮⋮私のサインを受け取ってくれたんだ
964
ね﹂
﹁いつサイン出したの!?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮あの空振り?﹂
﹁その﹃間﹄は何!? 何で疑問系なの!? やっぱりただの空振
りなんでしょ!?﹂
﹁にゃはは、気にしない気にしない﹂
﹁⋮⋮誰か代わって⋮⋮﹂
頑張れ、イダちゃん。その子の相手ができるのはきっと君だけだ。
それにしても、今回のポイント、全部テンマちゃんが絡んだな。
こっちのポイントもテンマちゃんのネットオーバーだし。
⋮⋮サツキ、目立て!
﹁あんなフェイントずるいよ!﹂
﹁ど、どうどうサツキちゃん﹂
﹁私たちも取り入れようよ!﹂
﹁こ、今回は時間がないね、また次回﹂
﹁うんっ! 練習だね!﹂
そんなめったに起こらないような状況の練習必要か?
まあ、ここで負けたら終わりなんだからな。
965
頑張れ、サツキ、クロちゃん。
966
107話:サツキの中総体県大会、イダテン本領発揮?︵後書き
︶
これからお休みになる方もそしてお目覚めの方も、時刻は4時にな
りました︵フジテレビ風に︶
おはようございます、朝の4時に投稿しています。
今107話書き終わりました。
私はこれから寝ようかどうか困ってます。
今寝たら今日の仕事寝坊しそうだし、かといって起きていたら仕事
中寝そうだし⋮⋮。
夜更かしは危険ですね⋮⋮気をつけてください。
ところで、テニスの﹃ジュース﹄は本来は﹃デュース﹄らしいです。
いろいろ調べてて知りました。
ずっとジュースといっていた自分、はずかし!
下記、ちょっとした企画。
紹介文を書くのって意外と楽しく、ルシカ先生、zens先生にも
結構好評だったので、またどっかで97話、98話のようなヤス君、
ケン君、サツキちゃん達による紹介をしたいなあと思ってます。
もしこの小説を紹介してほしいという方がいたら、連絡いただけれ
ば、紹介をしていきたいと思ってます。
967
使わせてもらった小説にはリンクをはりたいと思ってます。
何かありましたらは﹁作者紹介ページ﹂の﹁メッセージを送る﹂か
らお願いいたします。
それでは!
968
108話:サツキの中総体県大会、1回戦終盤
その後、テンマちゃんの発言に振り回されつつも、何とかスリーオ
ールにまで持ち込んだサツキ&クロちゃん。
ってかサツキもクロちゃんもつられすぎ。何でわざわざ反応するん
だ?
や、確かに時々本当に言ったとおりのコース狙ったり、ロブ打った
りするけど、いつもどおりの反応を見せれば追いつけるのに。
それよりすごいのがイダちゃんかな。
テンマちゃんの天真爛漫なプレイのサポートをどこまでもやってい
る。
うん、すごい。
今、7ゲーム目だ。
現在ファイブ・スリーで負けてる。
次はイダちゃんのサーブ、レシーバーはクロちゃんだ。
﹁だっ!﹂
そんなにスピードのないサーブだ。
クロちゃんなら軽く返せる。
﹁くっ!?﹂
イ、イダちゃん、ここへきてスピンサーブなんて打ってきやがった。
今までずっとフラットサーブしか見てないもんだから、クロちゃん
の反応が遅れた。
969
﹁へっへー! 決めてやるから! ふりゃ!﹂
すぱん!
待ち構えてたテンマちゃんのスマッシュが決まる。
﹁シックス・スリー﹂
やばいな⋮⋮マッチポイントだ。
次にポイントを取られたら負けてしまう。
﹁サツキ! 負けんな!﹂
﹁ヤス兄に言われなくたって! 負けないんだから!﹂
よし、まだまだあきらめていない。
イダちゃんのサーブは続く。
今度のレシーバーはサツキだ。
﹁これで決めちゃうから! だっ!﹂
今度もまたバウンドの後、別方向にはねた。最後の最後まで隠し玉
をとっておくとは、やるなあ、イダちゃん。
サツキ、返せ!
﹁せいっ!﹂
レシーブに関しては、サツキだってイダちゃんに負けちゃいない。
970
イダちゃんのバックの方向へ返球した。
イダちゃん、わざわざフォアに回り込んで返してきた。
足が速いとそんな芸当もできるのか。
﹁だっ!﹂
イダちゃんも無理なく返す、
と、ここでサツキが前に出てきた。
﹁せいっ!﹂
今イダちゃんがいる方向とは、まったく反対の方向へ返す。
⋮⋮さすがのイダちゃんも追いつけない。
﹁おしっ! ナイスだサツキ!﹂
﹁ありがと! ケンちゃんのアドバイスが効いたね!﹂
ん? それはどう意味だ?
﹁やっぱり相手がヤス兄だと思うと違うね! 思い切りの良さが出
てくる!﹂
何で!? 何で俺だと思うと思いっきり打てるの!?
はあ⋮⋮ちなみに、今のプレーはイダちゃんがちょっとミスったな。
□□□□イ□
□□□□□□
□□□□□□
971
□□□□□□
□□テ□□□
︱︱︱︱︱︱
□□□□□□
□□□□□□
□□□□ク□
□サ□□□□
□□□□□□
こんな感じからイダちゃんがサーブを打って、
□□□□イ□
□□□□□□
□□□□□●
□□□□□→
□□テ□→□
︱︱︱︱→︱
□□□→□□
□□□→□□
□□→□ク□
□サ□□□□
□□□□□□
サツキはイダちゃんのバック方向に返す。
バックで返せばいいのに、足が速いもんだからわざわざ回り込んで
□□□□□□
□□□□□□イ
□□□□□←
□□□□←□
972
□□テ□←□
︱︱︱←□︱
□□□←□□
□□●□□□
□□□□ク□
□サ□□□□
□□□□□□
こんな球を返した。
すかさずサツキが、前に出て
●□□□□□
→□□□□□イ
→□□□□□
→□□□□□
□→テ□□□
︱→︱︱︱︱
□→□□□□
□サ□□□□
□□□□ク□
□□□□□□
□□□□□□
まったく反対方向に打つ。
さすがのイダちゃんもここまで離れたらとることはできんな。
﹁フォー・シックス﹂
こっからはサツキのサーブだ。
相手のレシーバーはテンマちゃん。
973
今まで散々振り回されたんだ。おもいっきり仕返しをしてやれ!
﹁ヤス兄の顔面にぶつけるつもりで⋮⋮﹂
⋮⋮おいサツキ、何不穏当なこと言ってやがる。
﹁せいっ!﹂
フラットサーブだ。
サツキにしては珍しく、コントロールより勢い重視っぽい球を打っ
たな。
テンマちゃんがレシーブする。
﹁えいっ!﹂
相手チームはクロちゃんの豪速球サーブを返してるからな。
サツキのサーブはそんなに速いと感じないだろう。
﹁せいっ!﹂
前に出ながら、サツキが返す。
テンマちゃんも同様に前に出てきた。
﹁秘技! ボレー!﹂
や、ボレーって秘技じゃないし。
﹁ふりゃ!﹂
げ、ネットに当たって入った。
974
こんなところでコードボールかよ!?
追いつけ! クロちゃん!
﹁ていっ!﹂
ぎりぎりクロちゃんが追いついた。
コートの奥に歩点と落ちる。
相手チームはイダちゃんもテンマちゃんも2人して前に出てきてた
から、なんとかポイントをゲット。
⋮⋮し、心臓に悪すぎる。
今のはマジで負けたかと思った。
﹁シックス・ファイブ﹂
次はイダちゃんがレシーバーだ。
めったなことではサービスエースはとれない。
﹁⋮⋮あれはヤス兄、どへたくそなヤス兄﹂
おいサツキ! その暗示はなんだ!? たとえ気休めでもむかつく
ぞ!
﹁せいっ!﹂
今度はスピンサーブか。
いろいろ混ぜてうつな、サツキは。
バウンドで方向が変わるけど、それもちゃんと予測して打つイダち
ゃん。
975
﹁だっ!﹂
イダちゃんの球はサツキのフォアの方向へ。
打ちごろの球だ。いけっ!
﹁せいっ!﹂
テンマちゃんとサイドの隙間を狙った球。
テンマちゃんが反応しきれてない。
イダちゃんが走って走ってバックで返球する。よ、よく追いつくよ
なあ。
﹁だっ!﹂
返したけど、イダちゃんはそのままコート外だ。
今はコート内にテンマちゃん1人しかいない。
ボールはクロちゃんの前に。
クロちゃん、決めてやれ!
﹁やっ!﹂
スパーン! と相手コート内にスマッシュを打つ。
あのコースならさすがのテンマちゃんでも⋮⋮追いつかないな。
よし、ワンポイントゲット。
﹁デュース﹂
ようやくデュースにまで持ち込んだな。
こっからだぞ。気を抜くなよ、サツキ! クロちゃん!
976
vs
イダちゃん
109話:サツキの中総体県大会、1回戦決着
ダブルス1、サツキ&クロちゃん
マちゃん。
現在は7ゲーム目、デュースまで持ち込んだぞ。
こっからが勝負だ。
vs
サーバーはクロちゃん、レシーバーはテンマちゃんだ。
今日はまだ1回もサービスエースが決まってない。
次こそ決めてやれ!
﹁やっ!﹂
クロちゃんのファーストサーブ。
テン
かなりのスピードのはずなのに、テンマちゃんはすでに回りこんで
待ちのフォームだ。
ほんとフットワーク軽いな。
﹁えいっ!﹂
テンマちゃんが返す。
サービスエースはならんかったか。
とここで、今まで前衛のときはあんまり動かんかったけど、サツキ
が動いた。
﹁せいっ!﹂
スパーンとテンマちゃんの方向へスマッシュを打つ。
977
﹁わわっ!?﹂
まだ振り切った体勢からラケットを戻してないテンマちゃんはどう
しても振り遅れてしまったな。
﹁アドバンテージサーバー﹂
おし、これでもう1ポイントとればサツキたちの勝ちだ。
今度のレシーバーはイダちゃん。
クロちゃんのファーストサーブはネットに当たってしまった。
次はセカンドサーブだ。
﹁やっ!﹂
サーブと同時に前にダッシュするクロちゃん。
サツキも後ろに下がろうとはせず、前衛のままだ。
最後の最後で、超攻撃的に攻めることにしたな。
﹁だっ!﹂
イダちゃんはサツキとクロちゃんの間を狙う。
﹁やっ!﹂
ボレーでテンマちゃんの方向に返すクロちゃん。
ボールはテンマちゃんのバック方向へ。
﹁バックは嫌い! ふりゃ!﹂
978
テンマちゃん⋮⋮終盤だけど、苦手なコースをわざわざ暴露しない
ほうがいいぞ。
テンマちゃんはフォームが崩れつつ、前かがみになりながらも何と
か返したけど、ふわふわっとボールがあがった。
これはチャンスボールだ。打て! サツキ!
﹁テンマちゃん! よけなさい!﹂
﹁ふぇ?﹂
﹁せいっ!﹂
シュッ!
﹁ふぎゃ!﹂
ぽん、ぽん⋮⋮。
⋮⋮や、わざとじゃないぞ。サツキも。
相手の顔を狙うつもりで打つと、いい方向に結構飛ぶから相手を狙
って打てとか聞いたことあるけど、本当に狙うわけじゃないんだぞ。
スマッシュを決めるとき、テンマちゃんの方向ばっかり行くのは、
やっぱりイダちゃんだと返球されると思うからなんだろうな。
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁ああ、気にしないで。この子がドンくさいだけだから﹂
﹁ううぅ⋮⋮イダちゃん、ひどいよう﹂
979
﹁私の服鼻血と鼻水でべとべとにしといて何言ってんの! 試合は
終わったんだからさっさと立って挨拶するの! 大体軟球なんだか
らそんな痛くないでしょ!?﹂
﹁鼻血でたもん、痛いもん﹂
﹁子供みたいに駄々こねない!﹂
﹁中学生だもん、子供だもん﹂
﹁はいはい、わかったから。立つよ﹂
﹁⋮⋮はあい﹂
⋮⋮お母さんと子供みたい。
﹁ゲーム、ゲームカウント4−3、ウィナー、サツキ&クロダ﹂
何とか勝てたか⋮⋮。
最後、ちょっとテンマちゃんがかわいそうだったが。
1回戦でここまで苦戦するとは、やっぱり県大会、レベルが高い。
980
﹁ありがとうございました!﹂
終わったあと、コートの真ん中まで行って握手してる。
﹁イダちゃんだっけ? どんな球でも拾うんだもん、やになっちゃ
ったよ﹂
﹁そっちこそ。⋮⋮ええと、サツキちゃんだったかな? とりにく
い球ばっかり打つくせに。返球するのでいっぱいいっぱいだったよ﹂
﹁ありがと﹂
﹁それに⋮⋮クロちゃん? だったかな? あのファーストサーブ
の速さはとるの大変すぎだよ﹂
﹁イダちゃん、そんな事いって一回もサービスエースとらせてくれ
なかった⋮⋮スマッシュもイダちゃんにはほとんど決めれなかった
し﹂
﹁あはは⋮⋮それが取り柄だもんね。⋮⋮まだ、ダブルス2、3が
あるからね。負けないよ﹂
﹁こっちこそ﹂
軽く談笑して、ベンチに引き上げる。
﹁ねえ、私は? 私はすごくなかった? 何で私は褒めてくれない
の?﹂
981
テンマちゃん⋮⋮不憫。
頑張れ、テンマちゃん。
ダブルス2では、キリ、マイマイが4−3でぎりぎり打ち勝ち、母
校の2回戦進出が決まった。
県大会でも、勝敗が決まったあとも1回戦だけはダブルス3までや
る。
まあ、わざわざ遠くから県大会に来て、試合もせずに帰るとかむな
しいからな。
ダブルス3のサキちゃん、ミキミキは地区大会のときよりずっと動
きがよくなってた。
なんだろ、無駄な動きが減ったって言うのかな? オカ姉妹との対
戦の後、動けなくなってたことがかなり悔しかったんだろう。
982
今までよりスムーズに動いて、無駄な体力を消費してない感じだ。
結果も4−1と、かなりの強さをみせつけていた。
総合結果は全勝、浜松1位に全勝できたんだから、かなりの自信を
持っていいぞ! みんな。
﹁サツキ、お疲れっす!﹂
﹁あ、変態ヤス兄。応援ありがと!﹂
﹁何で変態!? ⋮⋮いや、いい。言うな。自分でもわかってるん
だから﹂
地区大会でもそうだったけど、県大会になって応援の人も増えた。
でも、やっぱり女子ばっかりだ⋮⋮。男子は男子の応援に行ってる
んだろう。
サツキに声をかけたときも、すっごい不思議な目で周りから見られ
たし。
みんなの眼が言っている。
﹃何でお前はここにいるんだ?﹄
と。⋮⋮くそう、応援って大変だ。
﹁それにしても、ヤス先輩﹂
﹁なに? クロちゃん﹂
﹁夏休みとは言っても、部活とかいろいろありません? 今日は暇
983
だったんですか?﹂
﹁無理矢理1日空けた。部活は休んだ。バイトも休みもらった﹂
﹁なんでですか?﹂
﹁サツキの応援が優先順位1番上だからな。来るに決まってる!﹂
﹁⋮⋮さすが先輩ですね﹂
なんだ? そのあきらめたかのようなセリフは。
﹁ねえサツキちゃん、兄弟って時々うっとうしくならない? 最近
私、妹がつきまとってきてうっとうしいんだけど﹂
﹁え? そっかな? なんで?﹂
﹁⋮⋮サツキちゃんにそんなこと聞いても無駄だった﹂
クロちゃん、疲れたような声を出すな。
﹁ヤス兄、ユッチ先輩はいつ来るの?﹂
﹁部活が終わってからって言ってたから午後から。1時頃にはつく
んじゃない?﹂
﹁ってことは⋮⋮昼休みくらいにつくのかな。じゃ、応援は準決勝
からだね。それまではなんとしても負けられないね﹂
もちろんだ。
984
決勝でカミムラ&フクシマペアにリベンジを果たすためにも、頑張
れ、サツキ。
985
109話:サツキの中総体県大会、1回戦決着︵後書き︶
おはようございます。
相手の顔面を狙って打てってのは我流の先輩から聞いた話なので、
うそかほんとか知りません。
普通はベースライン︵サーブを打つライン︶からネットの50cm
∼1m上あたりを狙えとか言うんでしたっけ?
調べてみて、確かに相手コートにいる人の顔ってその辺りだなあと
思ってしまいました︵テニスのネットの高さは1.06m︵軟式︶︶
実践して上手くなったという人がいたら教えて下さい。
下手になったという人いましたら、ごめんなさい。
それでは今後ともよろしくお願いします。
986
110話:サツキの中総体県大会、お昼休み
2回戦、3回戦はそんなに強くなかった。
2回戦はサツキ&クロちゃんが4−0、キリ&マイマイが4−2で
勝った。
3回戦はサツキ&クロちゃんが4−1、サキちゃん&ミキミキが4
−0で勝った。
サキちゃんとミキミキの成長っぷりがすごい。
この2週間、何をしてたんだろう。
1回戦で対戦した浜松1位のチーム、イダちゃん、テンマちゃんの
学校はやっぱり強かったんだな。
フクシマ&カミムラ、オカ姉妹の中学も順調に勝ち進んでいる。
残すところは午後の部、準決勝と決勝だけだ。
残りの試合の組み合わせはこんな感じだな。
オ カ 姉 妹 静
の 岡
中 1
学 位
┌│┤│└
決勝
┐│├│┘
987
サ 富 ツ 士 キ 1 の 位 中
学
さてさて、時刻は12時45分、今はお昼休み。
勝ち残っている学校はもちろん、負けてしまった学校も観戦のため
に残ってて、いろんなところで弁当食べてる。
﹁ヤス兄、今日も弁当作ってくれたの?﹂
﹁もちろん!﹂
サツキのために作らないわけがない。
﹁さすが⋮⋮ありがと、ヤス兄﹂
﹁どもども、どういたしまして﹂
というわけで、みんなで適当にベンチを探して座る。
さて、今日の弁当はと⋮⋮。
988
﹁どだ! 今日の作品名は﹃おにぎり山!﹄ 腐らないようにご飯
を炊くときに梅干を入れてみたぞ! 味はシソ、梅、サケ、オカカ
!﹂
びっくりして声もでまい。
ついでに保冷剤入れてるし、これなら腐らないよな?
﹁⋮⋮量多くない?﹂
﹁地区大会のときコンビニ弁当だったクロちゃんとサキちゃんの分
も入れて計4人分作ってみた、時々ならコンビニ弁当もいいけど、
毎回は味気ないし﹂
おかずがないし、シソ、梅、サケ、オカカを1個ずつ1人4個計算
で計16個。
なかなか大変だった。
﹁あ、でも今日は私、お母さんがお弁当作ってくれましたよ?﹂
﹁私もお父さんが⋮⋮﹂
﹁へ?﹂
989
⋮⋮⋮⋮。
﹁サツキ、サキちゃんとクロちゃんのも食え!﹂
﹁無理だよ! 3人分も食べれるわけないでしょ!? この後の試
合どうするの!?﹂
﹁⋮⋮気合?﹂
﹁食べすぎでおなか痛くなって動けないのがオチだよ! 私の分は
食べるから﹂
うーん、まあそりゃそうなんだけど⋮⋮。
この大量のおにぎりをどうしよう?
俺が全部食べるのか?
ちょっと悩む⋮⋮。
﹁サツキちゃん! お待たせ!﹂
﹁あ、ユッチ先輩! こんにちは!﹂
990
﹁こんちは!﹂
お、ユッチ到着か。
﹁ごめんごめん、遅くなって。まだ勝ってる?﹂
﹁はい、何とかですけど﹂
﹁またまたあ、謙遜しない!﹂
おい、ユッチ、俺は無視?
まだケンカのこと、怒ってんのかなあ。今日だけは仲良くしてくれ
るって言ってたのに。
﹁それにしても、おなかすいたあ⋮⋮﹂
﹁ユッチ先輩、どうかしたんですか?﹂
﹁部活の後、あわててこっち来たら、どこにも寄る暇なくてさあ、
今からコンビニ行ってくる!﹂
お、それは好都合だな。
﹁ユッチ、こんちは﹂
﹁あ、ヤス、こんちは!﹂
あ、よかった。いつもと同じ反応。
ふう、約束守ってくれるみたい。
991
﹁どうかしたんですか? ユッチ先輩?﹂
﹁ん? なにが?﹂
﹁あれ? や、なんでもないです﹂
どうかしたか? サツキ。
﹁ユッチ先輩、それじゃ、ヤス兄が作ってくれた弁当食べません?
ヤス兄、作りすぎちゃって﹂
﹁いいけど⋮⋮というか⋮⋮このおにぎりの山は何?﹂
だから作品名﹃おにぎり山﹄⋮⋮まんまだな。
﹁4人分らしいです﹂
﹁2人なのに?﹂
﹁4人分です﹂
﹁⋮⋮ヤス、馬鹿?﹂
そこまではっきり言われるとなんかへこむ。
﹁いや、ユッチ、これにはいろいろ思惑があってだな﹂
﹁どんな?﹂
あ、えーと⋮⋮。
992
﹁たくさん食べて、ユッチの背をおっきくしよう?﹂
﹁うるさいうるさい! ボクの背が小さいからって、馬鹿にすんな
あ!﹂
じゃ、えーと⋮⋮。
﹁たくさん食べて、頭がよくなろう? 最下位おめでとう﹂
﹁な、なんでボクの成績知ってるのさあ!?﹂
﹁⋮⋮さて、どうしてでしょう?﹂
にやっと笑ってみる。
﹁ヤスが言っても、気持ち悪いわあ!﹂
⋮⋮ユッチ、むかつくぞ。
﹁ま、それはおいといて食べてくれ。ちゃんとユッチが何も食べず
に来ることを見越してこれだけ作っておいたんだから﹂
﹁あ、そうだったんだ?﹂
違うけど、そういうことにしといたほうが平和だ。
﹁そうそう、俺のこの気配りに感謝するように﹂
﹁ヤス兄、何をえらそうに⋮⋮ユッチ先輩の分なんて考えてなかっ
993
たくせに﹂
﹁サツキ、言うな!﹂
ああもう! なんかユッチ怒ってるじゃん!?
﹁ヤスは別にボクの分とか考えてたわけじゃないんだよね?﹂
﹁あ、や、まあ。だってほら、ユッチが弁当持ってくるかもしれん
じゃん? そういう時無駄になるじゃん?﹂
﹁なら、わざわざウソつくなあ! この馬鹿ヤス!﹂
ぼかり、と殴られた。
痛い⋮⋮。
結局、俺が2人分食べる羽目になった。
残したら、いくら防腐頑張っても腐るし。
﹃ごちそうさまでした!﹄
994
苦しい⋮⋮2人分はきついっす。
995
110話:サツキの中総体県大会、お昼休み︵後書き︶
おはようございます。
ヤス君の
﹁さて、どうしてでしょう?﹂
どの場面かわかる人はかなりのジブリファン?
女子テニスの応援が女子ばっかで男子がいるのはきつい言うのは、
私の友達が彼女の応援に行くとき、毎回そういう目に遭ってたので、
それを基にしてます。
その友達、寒がりなんで秋冬の時はでっかなコート羽織って、口を
隠すようなマフラーして応援に行ってたので⋮⋮そんな男が女子ば
かりのコートに立っているのを想像すると⋮⋮。
今後ともよろしくお願いします。
996
111話:サツキの県大会中総体は置いといて
もうすぐサツキの準決勝が始まるな。
今、サツキたちはアップしてる頃だろう。
⋮⋮応援に行きたいのに、何で俺はコートから離れていってるんだ
ろ?
現在俺はユッチに連れられ、どんどん別の方向へ行っている。
﹁あのさ、ユッチ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
返事がない。
﹁おーい、ユッチ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
返事がない。
﹁えーと⋮⋮ユッチ?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
返事がない。
﹁返事がない。ただの屍のようだ﹂
997
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
スルーですか、ユッチ⋮⋮。
とりあえず、人通りの全然いない裏路地までつれてこられた。
ええと、ユッチ、なんか怒ってる?
﹁⋮⋮えとさ、どうかした?﹂
さっきから全然口を利いてくれんけど、とりあえず俺から声をかけ
てみる。
﹁⋮⋮今日の部活はどうしたのさ?﹂
﹁サツキの応援行くから、休み。ウララ先生には言っといたけど、
ウララ先生から聞いてない?﹂
﹁ヤスからボク聞いてないし﹂
や、そりゃユッチに言う必要ないし。それにあのケンカの後、ユッ
998
チって声をかけるなあって雰囲気を出しまくってたじゃん。
﹁今日はサボったって事?﹂
これってサボりになるのかなあ。
﹁や、だからサツキの応援だって﹂
﹁部活行ってから来ればいいだろお! 部活休む理由がどこにある
の!?﹂
﹁ええと⋮⋮サツキの出てる試合、全部応援しときたいし﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
変な事言ったかな?
﹁う、運動は1日休むと3日前に戻るんだよ! 2日休んだら6日
間かかるんだからあ! 1週間休んだら⋮⋮えと⋮⋮20日?﹂
﹁21日だぞ﹂
今のは九九だ。その計算、小学2年生で習うんじゃないか?
1日休むと3日前に戻ると言うのは聞くけど、2日休めばは6日、
3日休めば9日って倍倍計算してくものなのか?
﹁あと⋮⋮適度に休息しないと体壊すぞ。ケンから聞いたけど、隔
週木曜日あたりって短距離でも軽めの練習してるんだろ?﹂
﹁え? えーと⋮⋮? そういえば楽だなって思って家で追加で練
999
習してたけど﹂
それじゃ意味ない、ユッチ。ウララ先生の配慮が何の意味もなくな
ってる。
⋮⋮なんか日曜日もすごい量の練習してそうだ。
確かに休みすぎたら強くならないけど。
確かにがむしゃらに練習するだけでもかなり強くなるけど。
﹁それに俺、今日は帰ってから一応走るつもりだったけど⋮⋮﹂
﹁え、そうなの?﹂
ユッチは俺をサボり魔として認識しているのか? や、前がひどかったからな。そう思われてもしょうがない。
﹁後、ユッチだって家族で旅行に行くときとかは部活休むだろ? それと一緒じゃん﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
あれ? なぜ黙る?
﹁このシスコン野郎!! ヤスなんか大っ嫌いだあ!!!!﹂
走り去っていくユッチ。取り残される俺。
﹁⋮⋮ええ? なんで!?﹂
え? どこで地雷踏んだ?
気に障るような発言、今回はしなかったような気がするんだけど⋮
1000
⋮。
ま、まあとりあえず置いとこう。
それよりさっさと準決勝のサツキの応援に行かないと、そろそろ間
に合わなくなりそうだ。
準決勝が始まるサツキのコートに返りたいんだけど⋮⋮ユッチ。こ
こはどこだ?
1001
﹁よ、ようやく戻ってこれた⋮⋮﹂
めちゃくちゃ迷った。ユッチのやつ、グネグネと曲がりまくったか
ら。
目の前に準決勝のコート。
今、試合はどうなってんだ!?
﹁ヤス兄! どこ行ってたの!?﹂
﹁あ、サツキ﹂
﹁﹃あ﹄じゃないよ! もう準決勝の試合終わっちゃったよ!﹂
﹁え!? ウソ!?﹂
﹁ウソじゃないよ! ユッチ先輩はちゃんと応援にいてくれたのに、
何でヤス兄はいないの!?﹂
おい、ユッチ。何1人だけちゃっかり戻ってやがる!
﹁それで試合は勝ったのか?﹂
﹁ふふ、もちろん!﹂
﹁かなりの苦戦でしたけど﹂
﹁クロちゃん、言わなくていいよ!﹂
1002
そんなに苦戦だったのか、ちょっと詳細を聞いてみたい。
﹁ダブルス1が私たちのペアで、4−3﹂
うわ、ぎりぎりじゃん。やっぱり準決勝だと相手も強くなるんだね。
﹁ダブルス2がキリ&マイマイのペアで、2−4で負けました﹂
ああ、キリとマイマイ、負けちゃったのか。
﹁ダブルス3がサキちゃん&ミキミキのペアで、4−2で勝ちまし
た﹂
トータル、2−1か。
サキちゃんとミキミキが安定して勝ち続けてる。
決勝でも期待できそうだ。
﹁ヤス兄、決勝はちゃんと応援してよね! 今度こそカミムラ&フ
クシマに勝ってみせるんだから!﹂
﹁あいあい、負けんなよ!﹂
﹁ラジャ!﹂
1003
相手も決まったみたいだ。
決勝の相手は静岡1位を破って、カミムラ&フクシマのチームが決
勝にきた。
地区大会のときの再現だな。
決勝が楽しみだ。
1004
111話:サツキの県大会中総体は置いといて︵後書き︶
おはようございます。
あんまり気にしなくてもいいことなんですが、
サツキの中学校は一応静岡の中の﹃駿東﹄地区と言うところに当て
はまります。
で、調べてみたら、﹃駿東﹄地区、中学女子ソフトテニス、めっち
ゃ弱かったです⋮⋮。
県大会団体戦ここ最近は全部一回戦負け。
個人戦でも1、2回戦敗退ばっかり。
団体戦なんか、2006年はこの地区から2校出場枠があったのに、
2007年から1校だけになってました。
これにのっとると、サツキ達は県大会出場できなかったことになり
ます⋮⋮。
生徒たちの才能とかではなくて、こんなのは指導者がへぼいだけな
んですが⋮⋮もうちょい頑張れ! 指導者!
それでは今後ともよろしくお願いします。
1005
112話:サツキの中総体県大会決勝、応援って?
さあ、いよいよ決勝だ。
今度こそちゃんと見とかなきゃ。
相手は地区大会との同カード、フクシマ&カミムラペアのいる中学
校。
﹁あれ? サツキとクロちゃん、ダブルス1じゃないの?﹂
﹁そうだよ、フクシマ&カミムラペアはダブルス3で出るって聞い
たから、私たちもダブルス3に変わったんだ﹂
﹁なるほど⋮⋮﹂
今度こそ勝ってほしい。
vs
ナカタ&スズイ
見てみると、組み合わせはこんな感じになってた。
ダブルス1
キリ&マイマイ
ダブルス2
オカ&オカ
カミムラ&フクシマ
vs
vs
サキちゃん&ミキミキ
ダブルス3
サツキ&クロちゃん
ん? ダブルス1は誤字か? タナカ&スズキだろ?
1006
まあいいや、準決勝までの試合を見ていても、タナカ&スズキペア
はそんなに大したことはなかった。
ダブルス2からが本当の勝負だな。
まずはキリ&マイマイ、ガンバ!
﹁お疲れ⋮⋮キリ、マイマイ﹂
﹁⋮⋮なに? あいつら⋮⋮個人戦でもいなかった気がするんだけ
ど⋮⋮﹂
﹁なんか応援席で聞いたんだけど、あの中学、団体戦は2年生は出
さない方針らしい﹂
﹁2年生!? あいつら2年生なの!?﹂
﹁らしいよ、個人戦は途中で棄権したんだって﹂
1007
﹁何で決勝からでてくるの!?﹂
﹁さあ⋮⋮勝ち負けにこだわった結果かなあ﹂
﹁うう⋮⋮2年生相手に手も足も出ないなんて⋮⋮﹂
ま、な。
2年生で既にあんなにうまいって言うのは反則だろ。
フクシマ&カミムラペアも2年生からすごくうまかったって聞くけ
ど。
結局キリ、マイマイは1−4で負けた。
相手チームのナカタ&スズイ⋮⋮突然出てきたくせして強すぎだろ。
﹁ごめん﹂
﹁私たちが勝ってくるから! 気にしない!﹂
おお、いい意気込みだ。
サキちゃん、ミキミキ、ファイトだ。
1008
﹁ダブルス2、サキ&ミキ vs オカ&オカ﹂
さあ、地区大会からの再戦だ。
あの時は僅差でオカ姉妹に負けちゃったからな。
今回はぜひ勝ってほしい。
⋮⋮そういえば、どっちがオカシイコでどっちがオカエリだっけ?
顔が一緒だからわからない。
サーブはオカのどっちかからだ。
﹁いくっすよ!﹂
ええと⋮⋮﹃っす﹄って言うのがオカエリだったかな?
オカエリさんのサーブか。
﹁っす!﹂
シュッ!
﹁ナイスサーブ!﹂ コースもスピードもすごくいい。
レシーバーのミキミキも反応したけど、ネットだ。
﹁⋮⋮ユッチ、なぜ白い目で見る﹂
﹁ヤスはどっちの応援なのさ?﹂
1009
﹁そりゃ、サキちゃんとミキミキの応援に決まってるだろ!﹂
﹁じゃあ、ポイントとられて、なんで拍手するのさ!?﹂
﹁ええと⋮⋮ユッチは大リーグとかの応援見たことないのか?﹂
﹁ないよ、ボク野球に興味ないし﹂
一番わかりやすい例なんだけど。知らないならしょうがない。
﹁んじゃマラソンとか、日本の選手とケニアの選手が競ってたとき、
気持ちは日本の応援にならない?﹂
﹁ボク、ヌデレバのファンだからケニアの選手応援する!﹂
﹁⋮⋮ええと⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮そう言われたら話が続かないじゃんか、話の腰を折るやつ
め。
﹁じゃあ⋮⋮うーん⋮⋮たとえばユッチがだぞ、400mの予選に
出場するじゃん?﹂
﹁ボク専門は100mだし。400mはリレーでしか走らない﹂
細かい事を⋮⋮最後まで話させてくれ⋮⋮。
﹁で、大会新記録! という事になったとするじゃん?﹂
﹁あ! それはすごいいいシーンだよね! 気持ちいい瞬間だった
1010
よ⋮⋮﹂
出したことあるんか、すげえな。
﹁ボクの記録、次の年にすぐに塗り替えられたけど。第2回の大会
じゃしょうがないよね﹂
⋮⋮つっこみづらい⋮⋮。
﹁ま、まあ、その出した瞬間はめちゃくちゃ気持ちいいわけじゃん
?﹂
﹁そうだね!﹂
﹁でも、出した瞬間にもかかわらず、みんながみんな無関心だった
らどう思うよ? サキちゃん! ナイスレシーブ!﹂
今のはサキちゃんがリターンエースを決めた。
﹁うーん⋮⋮﹂
この例えでわかるかなあ?
﹁想像ついたか? 例え敵側でも、ナイスプレーをしたら、褒める
! これが本来の観戦だと思うぞ。観客が全員無関心のアウェーに
行ったって、やる気がおきないじゃん﹂
﹁ええ!? でも敵の応援なんていやだあ!﹂
﹁そういう場合は、おもいっきり怒ってやれ! ﹃このやろう!﹄
1011
ってな気持ちでな。無関心が一番プレーヤーはつらいもんなんだぞ、
ユッチもそんな経験ないか?﹂
競歩見てたときは、俺も無関心になってたが⋮⋮。俺も偉そうなこ
といえないなあ。
﹁ああ! なるほどお! スタート前にもかかわらず、ボクのほう
を見ないでしゃべってたチームメイトとか、やる気うせるよね!﹂
お、わかったか?
﹁あと、ボクがまだ練習してるのに、興味もなくパパッと帰るヤス
を見ると、ムカつくんだあ!﹂
ええ!? 俺に矛先が向くの!? ってか、その言い方って、俺は
ユッチが終わるの待たないとだめなの?
﹁それは置いといて﹂
﹁置いとくなあ!﹂
置いとかせてくれ。
﹁罵倒でも相手のミスを望むような言い方はだめだぞ。それで、相
手チームでもファインプレーをしたら反応する! これが俺の観戦
スタイルだな﹂
﹁なるほど、よくわかったあ! とにかく怒ればいいんだね!﹂
⋮⋮ほんとにわかったのか? ユッチ。
1012
﹁⋮⋮おしい! 頑張れ!﹂
サキちゃんのコートの横へのアウト。
狙いすぎたな。
ユッチとしゃべってる間に、ワン・ツーでオカ姉妹が1ポイントリ
ード。
﹁いくっすよ!﹂
しゅっ!
かなりのスピードだ。コースはさっきのサービスエースほどじゃな
い。
ミキミキ、返せ!
﹁ふんっ!﹂
ミキミキのレシーブ。
オカエリさんが前に突っ込んでくる。
サーブ&ダッシュって言うんだったかな?
﹁決まりっす!﹂
1013
ミキミキのレシーブの位置を完璧に予測したのか、真正面でのボレ
ーだ。
⋮⋮上手い。
サキちゃんとミキミキの間を抜けて決まった。
﹁ワン・スリー﹂
後1ポイントでこのゲームとられるのか⋮⋮。
﹁このやろお!!!!﹂
へ? ユッチ?
﹁うまいんだあ! むかつくんだあ!﹂
1014
声でかすぎだから! びっくりしてるから! やりすぎだから!!
﹁ナイスプレーだあ!﹂
怒ってるのか、喜んでるのか訳わかんないから!
﹁ごめん! 俺が悪かった!! ごめんなさい!!! だから黙っ
てくれ!﹂
﹁なんでだよ!? ヤスが怒れっていったんじゃん!﹂
﹁過剰反応だから!﹂
過ぎたるは及ばざるが如しということわざを知らんのか!?
﹁⋮⋮あれが変態のヤスなんだね、エリ﹂
﹁気をつけないと駄目っすね、シイコ姉﹂
ごめん、くじけそう⋮⋮。
1015
112話:サツキの中総体県大会決勝、応援って?︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
前は夜中に書いて朝に投稿というスタイルでしたが、最近は4時ご
ろに起きて書いてます。
眠い⋮⋮。
ところで、スポーツ漫画やバトル漫画でどんどん強くなっていって、
ありえないレベルの強さになるのってこんな理由かなと思いました。
現実的に書こうとすると、たとえばテニスだと、同じプレーの繰り
返しになってマンネリになります。
バトル漫画でも、同じ攻撃方法、同じ倒し方の繰り返しでは読者が
飽きるから、どんどん強くしていかないといけないんだろうなあと
思います。
元から主人公最強の話は、基本なんでもありな世界になりますね。
弱い主人公を作戦で違和感なく勝たせることができる漫画家、作家
って偉大です。私もそんな作品が書けたらなあ⋮⋮頑張ります。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。
1016
113話:サツキの中総体県大会決勝、あくび
話したこともないのにオカ姉妹にはめっちゃ警戒され、ユッチには
翻弄され、踏んだり蹴ったりだ。
ちくしょー。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮よし、気持ちを切り替えたぞ。
今、試合はオカシイコさんがスマッシュを決めて第1ゲームをキー
プした。
これで1−0、オカ姉妹が1歩リードだ。
﹁ナイスッス、シイコ姉!﹂
﹁ありがと! エリ! この調子でバンバン行くよ!﹂
1017
﹁ういっす!﹂
オカ姉妹、ノリノリだな。
それに対して、サキちゃんとミキミキの2人はめちゃくちゃ動きが
悪い。
さっきのユッチの突然の叫び声にもほとんど無反応だったし⋮⋮。
﹁なあサツキ。サキちゃんたち、何かあったんか? 地区大会の決
勝とか、勝負を決める試合でも伸び伸びとプレイしてたのに、全然
動けてないぞ? ばてたのか?﹂
﹁そんな訳ないじゃん! あの2人、今日まで2週間だけど、ばて
ないように毎日走りこんでたんだよ! さっきの準決勝見てても、
ばてた感じ全然なかったもん﹂
俺、準決勝見れなかったからわからん。
﹁じゃあ、何であんなに動き悪いんだろ?﹂
﹁多分⋮⋮﹂
なんだ? サツキ。
﹁前回、オカ姉妹にぎりぎりだけど負けちゃったでしょ? だから、
今度こそ絶対勝ってやろうって意気込みすぎてるんじゃないかな?﹂
﹁気負いすぎて動きがかたくなってるって事か⋮⋮﹂
たしかに、どんなスポーツでも絶対決めてやるって思えば思うほど、
ガチガチになっちゃうもんだもんな。
1018
﹁ヤス兄、空気を和ませらんない?﹂
﹁どやって?﹂
﹁ヤス兄にまかせた﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮無理。そういうのはケンの得意分野。俺は地味に
過ごすのが目標な人間だぞ。
﹁⋮⋮まずいな﹂
1019
現在、3−0だ。
さっきからストレートで点を取られ続けてる。
しかもほとんどのポイントはサキちゃんかミキミキのイージーミス
によるポイントだ。
ぎりぎりの低い球を狙おうとしてネットにかけてしまったり、コー
スを狙おうとして結局アウトになってしまったり⋮⋮。らしくない。
サキちゃんとミキミキのプレイはとにかく動き回って相手からのボ
ールをとって、相手のミスを待つプレイだ。
あせればあせるほどミスが増えるという、悪循環にはまってる。
﹁とにかく肩の力が入りすぎてるな﹂
どうにかして肩の力を抜かせないと⋮⋮。
﹁ヤスはどんなことして肩の力抜くのさ?﹂
ユッチが聞いてきた。
﹁そうだな、やっぱり深呼吸? んで周りを見回して、サツキとか
ケンの顔を見るとかかなあ﹂
家族とか友達とかの顔をみるとなんとなく落ち着いたりするよな。
特にサツキとケンなんか、どんなに俺があせってても基本にゃはは
と笑ってるもんだからあせってる自分がばかばかしくなってくるし。
﹁⋮⋮ふーん﹂
﹁なんだそのつまらなそうな反応は、﹃なるほど、わかったあ!!﹄
とか驚いて見せろよ﹂
1020
﹁ボクはそんな反応したことない!!﹂
や、ついさっきしてたじゃん。
﹁だってヤスにしちゃ普通すぎるんだあ!﹂
﹁普通の何が悪い! 大体俺ほど普通のやつがどこにいる!﹂
﹁自分で普通って言う人ほど普通じゃないやい!﹂
⋮⋮うわ、むかつく。
﹁そうなのか? じゃあ﹃私は変人です﹄って言ってる人のほうが
普通なのか?﹂
﹁屁理屈こねるなあ!!﹂
屁理屈だったか⋮⋮。ま、まあいいや。
﹁そういうユッチは?﹂
﹁え、ボク? ボクは試合前は﹃あくび﹄する﹂
は? ﹃あくび﹄?
﹁⋮⋮今、ヤスは﹃あくび﹄を馬鹿にしたなあ?﹂
や、そりゃだって﹃あくび﹄って退屈なときとか眠たいときとかに
でるもんだろ?
1021
まじめな試合前に﹃あくび﹄って⋮⋮ふざけてる感じするじゃん?
﹁﹃あくび﹄を馬鹿にすんなあ!﹂
﹁馬鹿にはしてないけど⋮⋮﹂
﹁﹃あくび﹄すると緊張してたのが取れるんだぞ!﹂
﹁⋮⋮なんでやねん﹂
﹁知らない、でもなんとなく取れるんだぞ!﹂
そんなむちゃくちゃ言うな! でも、それがほんとならきっとすごく効果的だ。
﹁けど、試合中のサキちゃんとミキミキに﹃あくび﹄しろって叫ぶ
のか!?﹂
﹁ヤス兄が叫んでね﹂
いやだ、そんなこっぱずかしい事できるか!
⋮⋮俺たちは怒鳴りあっているように見えるけど、実際のところは
小さな声で言い合ってるだけだぞ。
﹁ゼロ・ツー﹂
今、ミキミキがダブルフォールトをしてしまい相手のポイントにな
った。
やばい! このままじゃ本当になにもできんまんま試合が終わって
しまう!
1022
﹁しかたない! サツキ、クロちゃん、ユッチ、キリ、マイマイ。
みんなでサキちゃんとミキミキに﹃ふわああああ!﹄って叫ぶぞ﹂
6人でやれば恥ずかしさも6分の1だからな。
﹁ヤス兄、何で擬音?﹂
﹁わかりやすいだろ!﹂
﹁うーん、そっかな⋮⋮ま、わかったよ! ヤス兄!﹂
﹁みんなもいいよな﹂
﹃ラジャ!!﹄
よし、いい返事だ。
﹁いくぞ! いっせーのーで!﹂
﹁ふわあああああーーー!!!!﹂
1023
⋮⋮⋮⋮あれ? 何で俺一人の声しかしないの?
てかユッチはクロちゃんに口ふさがれてるし。
﹁みんな! 何で言わないんだ!?﹂
﹃恥ずかしいですし⋮⋮﹄
ええ!? みんな﹃ラジャ﹄って言ったじゃん!
﹁クロちゃん! なんでユッチの口ふさいでんの!?﹂
﹁ユッチ先輩、叫びそうでしたもん﹂
そりゃ俺、叫べって言ったじゃん!
﹁やっぱりあのヤスって人は要注意人物っすよ。いきなり変なこと
叫んだっす﹂
﹁そうだよね、男1人だけここに覗きに来てるってのも怖いよね﹂
⋮⋮くそう、オカ姉妹め、言いたい放題言って⋮⋮くじけそう。
1024
サキちゃんとミキミキもあんまりにもびっくりしたみたいでこっち
を見て反応してくれた。
そんときにサツキがいろいろ説明して、﹃あくび﹄を試してた。
かなり緊張は取れたみたいだから結果オーライなんだけど⋮⋮また
恥ずかしいネタが増えたなあ。
1025
113話:サツキの中総体県大会決勝、あくび︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
すみません、投稿が遅くなりました。
朝に2000文字くらい書いたところで、
﹁予期せぬエラーが発生したので⋮⋮終了します﹂
と出て、強制的に閉じられ、保存もできないまま、修復もしてくれ
ず⋮⋮︵T︳T︶
というわけで気分転換のため別の書いてたりしました。
ちなみに﹃あくび﹄。
﹃あくび﹄は緊張解くのには本当にいいらしいです。
ほかにもストレスがたまりまくっている人はあくびがよく出るそう
です。あくびによってストレスを緩和させるとか。
なので﹃あくび﹄をしている人を見て﹁お前はやる気がない!﹂と
怒るのはやめたほうがいいかもしれません。
では。
1026
114話:サツキの中総体県大会決勝、明日へ
サキちゃんとミキミキはかなり落ち着いたっぽい。
すでにゲームカウントは0−3、このゲームもゼロ・ツーと敗色濃
厚なところまで来てしまっているが、まだこっから巻き返しだって
できる!
あきらめたら、そこで試合終了だ!
﹁ファイトだ! サキちゃん! ミキミキ!﹂
﹃はいっ!﹄
応援の声も聞こえるようになったみたい。
さっきからほんと無反応だったし。
﹁ここからが勝負! ふんっ!﹂
レシーバーはオカエリさん。
﹁もう遅いっす!﹂
なかなか厳しいコースに返すオカエリさん。
コートの奥深くに返す。
﹁まだ勝てるもん!﹂
1027
お⋮⋮とうとう言葉のキャッチボール開始?
そういうノリでやったほうがサキちゃんもミキミキも実力が発揮で
きるっぽいからな。
いい傾向だ。
﹁手遅れっす!﹂
今度は弾道の低いとりにくそうな球を返すオカエリさん。
と、ここへサキちゃんが割り込んできた。
﹁ヤス先輩の評判ほどじゃない!﹂
そう叫びつつ、スマッシュを決めるサキちゃん。
⋮⋮サキちゃん、ひどいっすよ⋮⋮それ。
俺の評判ってどんだけ手遅れなの?
﹃ナイス!﹄
⋮⋮みんなで拍手してるけど、なんか拍手する気が起きない⋮⋮。
﹁ヤス! いいプレイをしたら褒めるんだろお! ヤスがやらない
でどうするんだあ!﹂
﹁ええと⋮⋮﹂
ユッチ、あれを褒めろと?
﹁大丈夫だよ、ヤス兄。ヤス兄の本質をわかってくれる人はいつか
きっと見つかるよ﹂
1028
サツキ、微妙すぎる慰めをどうもありがとう。
﹁ワン・ツー﹂
ま、俺の評判なんざ置いといて、今はサキちゃん、ミキミキだ。
さあ、調子が出てきたぞ。
負けんな!
﹁オレ様の調子が悪かったからって、図にのるなよ! ふんっ!﹂
⋮⋮なんだそれ。ミキミキ、キャラ変わりすぎだろ。
ミキミキがサーブを打つ。
今度はオカシイコさんのレシーブだ。
﹁ワンポイントごときで調子にのるなよ!﹂
ポン、とコートの後ろ気味で構えているミキミキを見て、コートの
浅いところに打つオカシイコさん、⋮⋮やらしい。
というか、どこの悪役だ、オカシイコさん。
﹁たっぷりと礼をさせてもらうぜ!!﹂
⋮⋮まだ言うかミキミキ、礼ってなんやねん。
全力で前に走って追いつく。
1029
その間にサキちゃんは後衛に下がる。
﹁だまれ! ミキミキ!﹂
オカシイコさんもミキミキって言うのか。
前を狙った後、後ろを狙うオカシイコさん。
前に後ろにと振ると、確かにミスをしやすいからな。
﹁おしゃべりが過ぎるぜ! 行くぞ!﹂
サキちゃんが返す。
確かにしゃべってばっかだけどな。お前ら。
﹁やってくれたっすね!﹂
オカシイコさんがジャンプしてボールを打ち落とす。
やべ! この球はとれるか?
﹁なめるな、オカエリ!﹂
とった、腕をぐんと伸ばしてとったぞ。
ナイスだサキちゃん!
﹁ぐあっす!﹂
オカエリさんが返そうとしたけど、さっきので決めたと思って気が
抜けたのか、フォームを立て直してなかった。
無理矢理返そうとしたけど、ラケットのフレームに当たって変な方
向にボールが飛んでった。
ってか⋮⋮みんなノリノリだな。
1030
あくびだけでそこまで変わるか? というかお前らどんだけガチガ
チにプレイしてたんだよ。
﹁この私がやられるとはっす⋮⋮﹂
や、まだ1ポイントとられただけだから。
お前ら有利なんだからその言い方はいやみだ。
﹁オカ姉妹! おぼえとけ! お前らを倒すのは、このサキミキだ
!!﹂
サキちゃん、そのセリフはやられキャラが言うセリフだ!
﹃私たちを本気で怒らせるとは命知らずな!﹄
⋮⋮オカ姉妹、それもやられキャラだ。
ってか、お前ら試合中にパロってんじゃない!
﹁ツ、ツーオール﹂
頑張れ! 審判!
1031
なんとか粘ってるサキちゃんとミキミキ。
まあ、今は3−0で負けてるけど、本来の実力差はまったくないん
だ。デュースが続いて均衡状態になってもおかしくない。
だけど、さっきからアドバンテージレシーバーになってばかり。
あと1ポイントで相手の勝利が決まってしまうという状態だ。
今もアドバンテージレシーバー、どうにか粘れ⋮⋮。
ミキミキのサーブも何回目だろ。結構続いてる。このゲーム。
﹁やっぱりオカ姉妹とのゲームはこうじゃないとね! ふんっ!﹂
確かに。さっきからミキミキ、伸び伸びと試合をしてる。
勝ち負けを意識しすぎるよりかは、試合そのものを楽しまないとな。
レシーブはオカエリさんだ。
﹁ようやく面白くなってきたっすね!﹂
無難に返すオカエリさん。
オカ姉妹も同様のようだ、ほんとに楽しそう。
﹁まだまだこっからだよ!﹂
1032
サーブ&ダッシュ、前に出てきて、ボレーを打つミキミキ。
﹁きついコースを⋮⋮っす!﹂
かなりコートの奥深くを狙ったが、決まらずボールはふわっとした
ロブになってこっちのコートへ。
いけっ! サキちゃん!
﹁これは決める!﹂
狙いをつけようとしたけど、オカシイコさんが走りこんでサキちゃ
んが狙ってたコースに上手に入り込んだ。
﹁ちっ!﹂
サキちゃん、無理矢理コースを変えた。
オカシイコさんもオカエリさんも届かないコースだ。
でも、インかアウトかきわどい⋮⋮どうなんだ?
﹁アウト!﹂
無常な審判の声が飛ぶ⋮⋮。
﹁ゲーム、ゲームカウント4−0、ウィナー、オカ&オカ﹂
負けた⋮⋮か。
やっぱり緊張が解けるのが4ゲーム目で、しかも2ポイントとられ
た後だったって言うのがきつかったな。
俺たちももうちょい早くサキちゃんとミキミキに何か声をかけてあ
1033
げられたらなあ。
﹁ごめん、負けちゃった⋮⋮サツキちゃんとクロちゃんにつなげら
んなかった﹂
⋮⋮サキちゃんとミキミキがうつむいてる。
俺とユッチはなんだかんだ言っても部外者だからな。
こういうときはあんまり口を突っ込まないほうがいいよな。
﹁サキちゃん、まだつながってるから。東海大会があるじゃん!﹂
⋮⋮あ、そか。
東海大会は4位までいけるんだもんな。
﹁そこであの中学に勝てばいいよ! 何べん負けたって最後に笑え
1034
ばそれで勝ちなんだよ! だから落ち込む必要はなし! 笑っとこ
!﹂
ま、まあそりゃそうだな。
すごい理論だな、サツキ。
⋮⋮⋮⋮悔しい癖して。まったくサツキは。
﹁さて、また明日から特訓だからね!﹂
確か、東海大会は8月8日だ。
⋮⋮今年は静岡で開催してくれて助かった。
三重とかでされたら応援行きたくても、遠くて大変だからな。
明日から頑張れ!
1035
114話:サツキの中総体県大会決勝、明日へ︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ようやくサツキの中総体県大会編、終了です。
⋮⋮今までで一番長いです、今までは一応インターハイ地区予選が
最長だったので、陸上小説とぎりぎりいえましたが︵言えないとい
う意見が大多数かと思いますが︶
⋮⋮さて、次回どうしましょう?
ずっと前に作成したスケジュール表見たら、
7月19日 バイト初日
7月26日 タイムトライアル
7月29日 サツキの中総体県大会
8月8日 サツキの中総体東海大会
8月○○日 ⋮⋮。
⋮⋮おい、過去の自分。またテニスかよ。
何か考えます。
それでは今後ともよろしくお願いします。
1036
115話:ヤス、16にして走志す?
今日はサツキの中総体県大会が終わった翌日、7月30日だ。
今日は県大会個人戦の日だから、サツキ達は見に行くのかと思った
けど、それより完全休養して、明日からの練習に備えるのだそうだ。
ちなみに昨日、﹃明日から特訓だ﹄ってサツキが言ってたけど、な
んだかんだ言って大会って疲れるからな。今日は休みだ。
さ、俺は部活に行ってくるか。
⋮⋮せめて16時にはおきろよ、サツキ。
お、駅で電車を待っているあの姿は、ケンか。
﹁おはよう、ケン﹂
﹁おう、おはよ。サツキちゃんから聞いたけど、昨日は惜しかった
な。また2位か﹂
1037
﹁だな、しかも今回は決勝はサツキ、でられないまま終わっちゃっ
たからな。リベンジに燃えてたから、かなり悔しかっただろうなあ﹂
﹁⋮⋮そっか﹂
﹁でもやっぱり、悔しそうだったとか言ってもサツキたち、楽しそ
うだよな。やっぱり部活ってああいう風じゃないとな﹂
﹁ふむ、それでそう思ったヤスはどうするんだ?﹂
﹁タイムトライアルで、自分の現状もわかったことだしな。ちょっ
とは頑張ってやってみようかと﹂
﹁ほう、あのやる気無い長距離集団でどこまでできるか見ものだな﹂
﹁なんとかするさ、1人で練習するためのアイテム﹃ネコミミ﹄も
あることだし﹂
⋮⋮これに頼るのは本当に別の何かを失っている気がしてならない
⋮⋮。
﹁最近﹃猫娘﹄が定着してきたな! その調子で頑張れ!﹂
そんなの定着したくねえ!
1038
お、偶然だな。
電車に乗ったらユッチとアオちゃんがいる。
﹁おはよ、ユッチ、アオちゃん﹂
﹁へ?﹂
﹁あ、おはようございます、ヤス君、ケン君﹂
﹁ういっ! おはよっ!﹂
﹁⋮⋮おいユッチ、何でお前は﹃へ?﹄なんだ?﹂
﹁な、なんでもない!﹂
﹁さっきからユッチ、嬉しそうにヤス君とサツキちゃんの話ばっか
りしてたからびっくりしたんじゃないですか?﹂
﹁あ、アオちゃん、そうなんだ?﹂
﹁はい﹂
1039
どんな話してたんだろ。気になる。
﹁うるさいうるさいい! 仲良くしとくのは昨日だけだからなあ!
今日からまた話しかけてくるなあ!﹂
﹁今、話しかけてるのはユッチなんだけど﹂
﹁ううううるさいい!! 揚げ足取るなあ!﹂
あ、別の車両ににげてっちゃった。
﹁一昨日までは文句しか言って無かったですけど、何かしたんです
か?﹂
﹁さあ? 昨日はサツキの応援しかしてないけど﹂
ま、多少は緩和されたっぽいな。よかった。
﹁そういえば、ヤス君はインターハイの結果知ってます?﹂
﹁へ? 何それ?﹂
なんかあったっけ?
﹁ヤス、昨日からインターハイの陸上が始まったんだぞ﹂
﹁え? そうなの?﹂
最近バイトとか、サツキの事ばっかりだったから、全然知らない。
1040
﹁どこでやってんの?﹂
くまがや
﹁⋮⋮ヤス君、陸上部なんですから、ちょっとは興味持ちましょう
よ。埼玉の熊谷市です﹂
﹁くまがやって⋮⋮あの﹃あついぞ熊谷!﹄がキャッチコピーの?﹂
﹁そうですよ﹂
﹁何でそんな暑いところでわざわざするのさ!?﹂
﹁陸上競技場内は照り返しでどこだって暑くなりますよ、静岡の陸
上競技場でも40度超えることありますし﹂
﹁いやいや、それでも熊谷だぞ。去年最高気温を突破したようなと
ころだぞ? 日本で一番暑いところなんだぞ! そんな暑いところ
で競技すんの? 死ぬだろ? 俺この前のタイムトライアルでも死
にそうになってたんだけど﹂
どうせなら涼しいところでやればいいのに。
﹁インターハイは毎年県をかえますから、しかたありませんよ。そ
れに、ちゃんと5000mは考慮して17時とか18時に試合です
よ?﹂
⋮⋮あ、そうなんだ。いろいろ考えてるんだな。
﹁でも、5000mウォークの決勝は14時からですけど﹂
﹁死ぬだろ! あれって速い人でも20分以上かかる競技じゃなか
1041
ったか!?﹂
確か県大会では22分とちょっとだった。
炎天下の中そんな時間競技してたら⋮⋮日射病になりませんように。
﹁決勝は明日ですから、曇ってくれることを祈りましょう⋮⋮﹂
アオちゃん⋮⋮その祈り方、すでに倒れてしまった人が出たみたい
だぞ。
さ、学校だ。
﹁さてと⋮⋮と﹂
練習前にだ。
﹁ポンポコさん、ちょっといいか?﹂
﹁む? なんだ?﹂
1042
﹁ポンポコさんって実は結構陸上競技詳しい?﹂
﹁⋮⋮﹃実は﹄とつけるのが少し腹立たしいが、ヤスよりは知って
るつもりだぞ﹂
お、やっぱり。
タイムトライアルのときもいろいろアドバイス叫んでたからな。
﹁じゃさ。現状の俺の練習方法ってどんなのがいいんだろ?﹂
﹁⋮⋮ふむ、やる気になったか?﹂
﹁ま、ね﹂
﹁孔子は15にして学を志すと言ったが、ヤスは16か﹂
﹁別に学じゃないけど﹂
﹁そういういらんことは言わんでいい﹂
あ、怒らせた?
﹁⋮⋮遅かった?﹂
﹁いや? どんなに遅くたっていいじゃないか。極論すれば60過
ぎてからでも何かを志してもいいと思うぞ。顔は老けてるが、ヤス
は若いんだからな。全然遅いということは無い﹂
わざわざ老けてるいわんでいい!
1043
﹁よし、私が明日までに一兄とヤス用のメニューを考えてやる! 覚悟しておけ!﹂
⋮⋮お手柔らかにお願いします。
1044
115話:ヤス、16にして走志す?︵後書き︶
おはようございます。
くまがや
熊谷、行った事ないのですが、どれくらい暑いんでしょう?
また、5000mwとか5000mってなぜか15時とか14時と
か暑い時間にやったりするんですよね。 朝9時とかじゃいかんの
かなあ⋮⋮。
そして、孔子、15にして学志す、これって2倍説があるんですよ
ね。
⋮⋮実際に学志すのは7歳の事ですか。
それに基づくと、15歳のときは﹁30にして立つ﹂なので、立っ
てないとです。
私は全然無理でした。 ⋮⋮ま、どんな事でも遅すぎると言うこと
はないと思います。 気にせずいろいろ試してみるのがいいのでは
と。
偉そうに言ってしまいました、不快になったかたすみませんm︵︳
︳︶m
それでは今後ともよろしくお願いいたします。
1045
116話:ポンポコノート
昨日もヤマピョンいなかったなあ。
これで夏休みに入ってから1回も部活に出てないんだけど⋮⋮。
今日は7月31日木曜日だ。
昨日、ポンポコさんに練習方法をいろいろ考えてもらうのお願いし
たから、
今日何かしらもらえることを期待してる。
﹁あ、ヤス君おはようございます﹂
﹁おはようさん、アオちゃん﹂
アオちゃんのほうが先に着いたか。
ユッチはまだ着替えてんのかな?
﹁おはよう、ヤス﹂
﹁お、ポンポコさん、おはよ﹂
1046
ポンポコさんも来たか。
﹁ヤス、メニューを考えておいたぞ﹂
おお。ありがたい。
﹁私と一兄、そして二兄、三兄、四、五も一緒になって考えた大作
だ。よくよくかみ締めて読んでくれ﹂
げ、あの兄弟全員の合作かよ!?
﹁なんですか? それ﹂
﹁俺の練習メニュー、ポンポコさんに作ってもらったんだ﹂
﹁そうですか、ヤス君、頑張ってくださいね!﹂
サンクス。アオちゃん。
﹁一兄、二兄、三兄は協力的だったんだが⋮⋮﹂
﹁四、五がどうかしたのか?﹂
﹁いや、四、五が﹃俺のポンポコにそんな頼みをするとは何を偉そ
うな!﹄とすごいメニューを組もうとしてな。﹃誰がいつお前のも
のになったのだ?﹄と言ってやった﹂
四、五⋮⋮シスコンっぷりに磨きがかかってないか?
1047
﹁その上で、さらに全員で推敲までしたのだぞ、これほどのメニュ
ーはなかなか無いはずだ﹂
﹁⋮⋮一さん以外って陸上経験者なの?﹂
﹁いや? 一兄だけだが?﹂
駄目じゃん!
﹁大丈夫だ。四、五が無理矢理何かを加えようともしたが、結局メ
ニューに関して考えたのは一兄と私だけだ。他の兄弟は心構えや日
常生活について考えてくれている﹂
⋮⋮なるほど。
﹁こっちが練習メニューだ。それと⋮⋮このノートを渡そうか﹂
いろいろ書いてあるプリント用紙と、なんかA4のノートを渡され
た。
﹁え? ありがと⋮⋮でも、ノートって何に使うの?﹂
﹁ヤスは中学のとき、野球部だったのだろ? そのときに﹃今日の
練習﹄とか書いていなかったか?﹂
﹁ああ⋮⋮書いたなあ、面倒でしょうがなかったけど﹂
監督の命令で無理矢理書かされてた。毎日ぎっしり1ページ書かな
いといけないって⋮⋮あれはしんどかった。
時計もらった直後も少し書いてたけど、意味があるか分からなくて
1048
やめたなあ。
﹁今、私も書いてますよ、ユッチに勧められたんです。でも、全然
面倒じゃないですよ﹂
﹁へえ﹂
さすがユッチ。
ってか、ユッチとアオちゃんはどんな風に書いてんだろ?
﹁まあ、それと同じだな。名づけて﹃ポンポコノート﹄だ﹂
⋮⋮すまん。俺には反応できない。
﹁例えば、メニューでは練習が16000mだったとするだろ?﹂
ながっ!そんなメニューあるの!? 試合は5000mまでしかな
いけど、そんなに走るの!?
﹁しかし、土砂降りの雨の場合はちゃんと練習できない。練習して
風邪でもひいたら元も子もないからな﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁練習メニューのプリントも渡したが、実際のところはそのとおり
の練習にならない日も多い。イベント、天気、怪我などでメニュー
は変わってくるからな﹂
﹁ふむふむ﹂
1049
﹁そんなとき、日々の練習メニューをきちんと書いておけば、後で
どんな練習したかがわかるだろ? そうすれば後々の反省材料にも
使える。月々、どの程度走ってきたかがわかり、練習量が少ないか
多いかがよくわかる。また、今までどれだけ練習してきたかが目に
見える形で表現されるからな。自信にもつながるだろう?﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁⋮⋮ヤス、本当にわかってるのか? さっきから﹃ふむふむ﹄し
か聞いてないのだが﹂
﹁え? や、わかってるよ﹂
しまった、メニューを読んでて返事がめんどくって﹃ふむふむ﹄し
か言ってなかった。
﹁ノートは大きい字で余白をたくさんとって書けよ? 1日1ペー
ジくらいで使え﹂
﹁え? それは紙もったいなくない?﹂
﹁紙の無駄遣いか? そんなのは気にするな。そういう必要な事な
のに削るというのはよくないぞ﹂
﹁そうなの?﹂
﹁確かヤスは字が汚いのだろ? きれいな字でまとめるのが上手い
人は1ページにどれだけ書いてもうまくまとめられるが、下手な人
は後で見直す気持ちになるためにも大きな字で余白だらけで書くの
がいい。日付も入れろよ。きれいにまとめられるようになったと思
1050
ったら、後は自分の自由にしろ﹂
﹁あれ? 俺字が下手だって言ったっけ?﹂
﹁あ、私がポンポコさんに言いました﹂
﹁アオちゃん! 俺の駄目なとこ教えないで!﹂
恥ずかしいじゃん!
⋮⋮ま、まあいいや。
﹁そういやパソコンとかじゃ駄目なの? 例えばブログなら紙を使
わなくても⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ヤス、ペーパーレスと世間で言われているが、何でもかんで
も電子化にすればいいと思っているのか? そういう考えの人がい
るとしたら馬鹿だな﹂
言い切ってしまった⋮⋮。
﹁まあ、この場合はパソコンでもいいかもしれん。ブログなどに﹃
今日の練習﹄と書いて載せている人もいるが、ヤスの場合は紙のほ
うがいいと思うぞ﹂
﹁なんで?﹂
﹁理由は3つある。1つ目として、パソコンは画面を見てるだけだ。
それで記憶に残るという人ならそれでも構わないが、きちんと手で
書いたほうが、何をしたかが頭に残りやすい、他にもブログで書い
た場合、見直しづらいというのがあるな、ブログというのは意外と
1051
過去の検索はしづらいぞ﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁2つ目として、その手軽さだ。ノートパソコンは携帯できるとい
っても、どこへでも持っていけるというわけではない。紙のノート
なら﹃軽い﹄、﹃壊れない﹄、﹃金が安い﹄の3Kだぞ﹂
﹁3Kって⋮⋮それを言うなら﹃きつい﹄、﹃きたない﹄、﹃危険﹄
だぞ!?﹂
﹁そうなのか? 3Kと言えば、﹃高身長﹄、﹃高学歴﹄、﹃高収
入﹄じゃなかったか?﹂
なんだそれは? 初めて聞いたぞ?
﹁いえいえ、3Kと言えば﹃顔﹄﹃金﹄﹃車﹄ですよ!﹂
⋮⋮アオちゃんの、あまりにも直接的だな。
﹁3つ目として、これが一番重要だが⋮⋮﹂
なんだろ?
﹁私が紙が好きだからだ﹂
最後は好みの問題なのね⋮⋮。
﹁ルーズリーフじゃ駄目?﹂
1052
﹁別に構わないが、なくしても知らんぞ﹂
⋮⋮なるほど。
横着な人は閉じるの後回しにして、無くすわけね。
﹁ノートの書き方としては、私の好みは3分割だな﹂
﹁どう3分割?﹂
﹁上と下に割って、上をさらに右と左に分ける。下はただのメモ書
き。上の左に練習メニューとタイム。右側に反省﹂
﹁ふむ﹂
﹁下のメモがいらないと思ったら、2分割にしたり、4分割にして、
2日分を1ページに書いてもいいが、好き好きだ。最初は人まねで
適当に書いてみて、最終的には自分の好きなように書けばいい﹂
﹁わかった、ありがと﹂
﹁後は、自分でも陸上の勉強をしてみることだな、﹃陸マガ﹄を読
んでみるとか、専門書を読んでみるとかしてみるといいぞ﹂
いろいろ教えてもらえて本当に助かる⋮⋮しかし。
﹁2つほど聞いてもいいか?﹂
﹁なんだ?﹂
﹁1つ目はメニューの一番上の﹃3M﹄﹃3H﹄って何?﹂
1053
﹁ああ、私たち兄弟で、練習に取り組むときの姿勢と気持ちを考え
てみた﹂
﹁ふむふむ﹂
ヒーロー
﹁﹃3M﹄は﹃まじめに﹄、﹃めげずに﹄、﹃マナーは大事に﹄だ。
﹃3H﹄は﹃速く﹄﹃走る﹄﹃主役﹄⋮⋮なかなかいいだろう!﹂
お、ちょっと得意げだな、ポンポコさん。確かに上手くまとめた感
じな気がする。
﹁え? ポンポコさん、何言ってるんですか? ﹃3M﹄と言った
ら﹃まじ﹄﹃もう﹄﹃無理﹄ですし、﹃3H﹄と言ったら﹃はげ﹄
﹃へんたい﹄﹃はら﹄ですよ!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
この空気、どうにかならんかなあ⋮⋮。
1054
116話:ポンポコノート︵後書き︶
おはようございます。
めっちゃ2日酔いなんですが⋮⋮。今日の仕事どうしましょう?
ペーパーレス。紙を使わず、全部電子化してしまおうというもので
すが⋮⋮
まあ、確かに分厚い紙束を渡されるのはありえないですが、紙を使
うの大事だと思います。
私が紙好きだってのもありますが^^
ところで、皆さんは﹃3K﹄、﹃3M﹄、﹃3H﹄と聞いたら何を
思いますか?
面白いのあったら教えていただけたらと思います。
それでは今後ともよろしくお願いします。
1055
117話:ポンポコノート、パートツー
アオちゃん、空気読んでほしいなあ。
えと、﹃3M﹄と﹃3H﹄⋮⋮やばい、ポンポコさんにせっかく言
ってもらったのに﹃まじ﹄﹃もう﹄﹃無理﹄と﹃はげ﹄﹃へんたい﹄
﹃はら﹄しか思いだせん⋮⋮。
後でアオちゃんにこっそりきこ。
﹁で、でさ。ポンポコさん。もう1個聞きたいことあるんだけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮だめだ、放心状態だ。
﹁ポンポコさん!﹂
﹁ん? な、なんだ、ヤス。突然大声出して﹂
ポンポコさん、ようやく復帰したか。
さっきまで固まってたからな。よっぽど自信作だったんだろう。
アオちゃんもむごいことを⋮⋮。
当のアオちゃん、ユッチが来たから気まずくなって逃げた。
やってしまったと思ったんだろう。
﹁聞きたいことが後1個あるんだけど﹂
1056
﹁ん、なんだ?﹂
﹁このノートの表紙にさ、﹃叫べ!全国出場!!﹄ってでかでかと
マジックで書かれてるこれは何さ?﹂
﹁ヤスがこれから毎日する行動だ﹂
⋮⋮は?
﹁せっかくやる気になったんだろ? しかし、そのモチベーション
を維持するのはあまりにも大変だ。特にヤスには長距離内で仲間が
いない。ユッチもすごいやる気だから、ユッチと話をすることであ
る程度は保てるかもしれないが、やはり種目の違いと言うのがある
からな。完全に一緒に練習できるわけではないから、やはりどこか
でだれてしまう可能性がある﹂
﹁ふむ﹂
それは正しい気がする。
﹁初心を忘れないためにも叫べ﹂
その発想の飛躍は何!? というかいつの間に全国大会出場になっ
たの!?
確か東海大会出場だったよ!?
﹁叫ぶのはいいことだぞ。ストレス発散になる﹂
俺ストレスは適当に発散してる⋮⋮はず。
1057
﹁叫んで他の人に周知させると言うのも大きな理由のひとつだ。不
言実行のが格好いいとか言うかもしれんが、何も言わなかったら、
後でなんとでもいえるからな﹂
ま、まあそうだが。
﹁だから叫べ﹂
﹁周知だけなら叫ばなくてもいいじゃん! 何その羞恥プレイは!﹂
﹁﹃羞恥プレイ﹄じゃない、﹃周知プレイ﹄だ﹂
﹁言葉遊びしてるわけじゃないから!!﹂
﹁⋮⋮ヤスならそれぐらい、今更だと思っていたのだが﹂
﹁そんなわけないじゃん!!﹂
﹁仕方ないな⋮⋮ユッチ、ちょっといいか?﹂
﹁へ? ボク?﹂
何でユッチがここで出てくる?
﹁ヤスと一緒に叫ばないか﹂
﹃はあ?﹄
何を言っている、ポンポコさん。
1058
﹁叫ぶのは気持ちいいぞ﹂
﹁ポンポコ、わけわかんないよ!﹂
大丈夫だユッチ、俺もだ。
﹁ユッチ、ヤスは今すごいやる気なのだ﹂
﹁え? そうなの!?﹂
ユッチ、そんなきらきらした無垢な目で俺を見ないでくれ!
﹁そのやる気を持続させるためにも叫ぶと言うことが必要なのだ﹂
﹁そ、そうなんだあ﹂
だまされるな! ユッチ!
﹁ふぉごふぉご!!!﹂
アオちゃんに口をふさがれて、しゃべることができない。
﹁だが、1人で叫ぶと言うのがいやらしくてな、そこでユッチが一
緒に叫んでほしいのだが﹂
﹁ボクが?﹂
ユッチと一緒でもやだから! この前やってわかったけど、2人で
やったって恥ずかしさは2分の1にはならないぞ。むしろ2倍だぞ!
1059
﹁ふぉごお! ふぉごお!﹂
﹁陸上部の中で一番やる気のあるユッチと叫ぶことで、モチベーシ
ョンを持続できるそうだぞ﹂
そんな訳ないだろ! ﹁ユッチ、違うから! やりたくないよ!﹂
ようやくアオちゃんの手を引き剥がしてユッチに叫ぶ。
﹁大丈夫ですよ、ヤス君のやりたくないは﹃わたし、本当はやりた
いんです⋮⋮!﹄っていう気持ちの裏返しですから﹂
またそれかよ! 懐かしいなおい!
﹁そうなんだあ!﹂
﹁信じるなよ! 馬鹿かユッチは!﹂
﹁ボクは馬鹿じゃない! 馬鹿って言うなあ! この馬鹿ヤス!﹂
⋮⋮ユッチ、﹃馬鹿﹄しか悪口のストックがないんか。
﹁というか俺の言うこととアオちゃんの言うことどっちを信じるの
!?﹂
﹁そりゃアオちゃんに決まってるだろお!﹂
くそう、アオちゃん⋮⋮今までそうやってユッチをだましてきたん
1060
だろ。
﹁私も叫ぶときは見てるから﹂
ならポンポコさんも叫べ!
﹁うい! わかったよ! ヤス、頑張ろう!!﹂
もういいや⋮⋮どうにでもなれ⋮⋮。
⋮⋮ユッチはもう怒ってないみたいだな、よかった。
お、ケンもようやく来たか。
﹁ユッチとケンは3Kと聞いて何を思う?﹂
ポンポコさん、﹃3H﹄と﹃3M﹄がよっぽど悔しかったんだろう
か。
残りの﹃3K﹄だけはまともな意見を聞きたいに違いない。
﹁何の話だ?﹂
1061
﹁いいから、答えてみてくれ﹂
⋮⋮強引だあ。
まあ、俺も気になるな。
﹁3Kと言ったら野球で三振を1イニングで3つ奪ったって事じゃ
ないか? すごいよな!﹂
さすがケン、兄貴が野球部なだけある。
考え方が野球になるんだな。
﹁ユッチは?﹂
﹁ぼ、ボク!? えーと⋮⋮﹂
﹁ユッチ⋮⋮何も思いつかないならそれでいいぞ﹂
﹁そんなあわれんだ目でボクを見るなあ!! あれだろ!? 新聞
のことだろ!?﹂
えーと⋮⋮何の話だ?
﹁知らないの? 馬鹿だね、馬鹿馬鹿! 馬鹿ヤス!!﹂
うわ、むかつく。
﹁ユッチ、それってもしかして﹃産経新聞﹄の事ですか?﹂
﹁へ? アオちゃん、違うの?﹂
1062
﹁今、ポンポコさんが言ったのは﹃3K﹄ですよ。3つのKです﹂
⋮⋮ええと、そんなに顔を真っ赤にしなくても。
﹁うるさいうるさいい!!! みんなみんな嫌いだあ!!!﹂
いっちゃった⋮⋮すぐに練習始まるんだけど。
1063
その後すぐ、ものすごく恥ずかしそうに戻ってきた。
ユッチ、ガンバ。
1064
117話:ポンポコノート、パートツー︵後書き︶
おはようございます。
叫ぶのは意外とストレス発散です。
私、毎日叫んでます︵>︳<︶
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
1065
118話:LSDってなんだろう?
さて、短距離と長距離に分かれての練習だ。
俺はすでに秘密アイテム﹃ネコミミ﹄を装着している⋮⋮。
1人で練習する口実だからしょうがないんだけどユッチにもアオち
ゃんにもすっごい馬鹿にされてる⋮⋮。
どうにか他の方法で1人で練習できんかなあ。
おっと、ポンポコさんにいろいろ教えてもらわなきゃ、わからん用
語がたくさんあるし。
﹁ポンポコさん、ちょっといいすか?﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁今日もらったメニューについて教えてほしいんだけど﹂
﹁ふむ⋮⋮何が知りたいんだ?﹂
﹁今日の練習内容﹂
1066
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ん? なんか変な事いったか?
﹁ちゃんと読んだのか? ヤス用にわかりやすく作ったつもりなの
だが﹂
﹁や、全然わからん。むしろ文字が多すぎて読む気がしない﹂
きっと丁寧に書きすぎてるんだろうなあ。その割に専門用語たっぷ
り。困ったメニューだ。
﹁私たち兄弟が何時間もかけて作った作品を⋮⋮﹂
ポンポコさん、今日はショック受けてばっかりだな。
﹁今日のメニューはここに書いてある、読んでみろ﹂
ポンポコさんが指した部分を見てみると⋮⋮。
﹁20km!?﹂
ありえん! そんなに走れるかよ!?
﹁別に大したことはないぞ?﹂
そんな訳あるか! 無理だって!
﹁体力のないヤスはまず体力をつけるところからはじめないといか
ん。本来はクロスカントリーと言って、アスファルトではない山道
1067
などを走るのが効果的なのだが、この学校の周りにはないからな﹂
﹁で、代わりに20km?﹂
無理だろ。確実に無理だろ。
﹁タイムは気にするな。一応タイムをとっても構わないが、とにか
くゆっくりと、長い距離を走るのだ﹂
﹁や、それでも無理だろ! 俺、10kmまでしか走ったことない
よ!?﹂
﹁その10kmはスピードを上げたのだろ? スピードを上げなく
ていいと言ってるではないか﹂
﹁⋮⋮スピードを上げないでいて、どんな効果があるのさ?﹂
﹁心拍数が高くなりすぎないように一定に保ち、有酸素運動に当た
る負荷で走れば,疲れにくい体を作ることができるのだぞ。たった
1kmでばてたヤスには必要なトレーニングだ﹂
⋮⋮なるほど。
悔しいが、事実だからな。
﹁このトレーニングはLSDと言われている﹂
﹁LSD?﹂
なんだそれは?
えーっと⋮⋮
1068
slow
distance﹄の略だ⋮⋮いま、ヤ
﹁らき☆すた・大好き?﹂
﹁﹃long
スはいったい何を言ったのだ?﹂
⋮⋮ごめんなさい⋮⋮本当にごめんなさい。
﹁﹃長い距離をゆっくりと﹄だ。今はヤスは知識もほとんどない状
態だろ? とりあえず言われたとおり走ってみろ﹂
まあ、そうだな。
ポンポコさん、知識が豊富そうだし言われたとおりやってみるか。
﹁では、私は短距離の練習に行くからな。頑張れよ﹂
﹁あいあい、ありがとー﹂
さて、頑張りますか。
1069
そこそこにアップして、スタートだ。
1周820mだから、20kmと言うと⋮⋮24∼25周か⋮⋮。
長いなあ。
1周目 てけてけと走る。
2周目 とことこと走る。
3周目 ちょこちょこと走る。
4周目 あきあきと走る。
⋮⋮まじめに飽きたんだが⋮⋮このスピードで同じ景色を見続ける
のは拷問ではないかい?
飽きないようにいろいろやってみるかあ⋮⋮。
5周目 腕を振り回しつつ走る。
6周目 鼻歌歌いつつ走る。
7周目 体を揺らしつつ走る。
1070
8周目 大声で歌いつつ走る。
﹁ヤス! 何をやっている! 遊ぶな!﹂
ポンポコさん、そう言われても、つまんないんだよ。
何かすること⋮⋮。思いつかん。一人しりとりでもするか?
⋮⋮ってか、歌ってたせいかばてた。
歌わなきゃよかった。
9周目 もんもんと走る。
10周目 むんむんと走る。
11周目 ぼーっと走る。
12周目 ぼんのうと走る。
﹁ヤス! フォームを意識して走らないと意味がないぞ! ダラダ
ラと走るな!﹂
やば、あんまりにもつまらんからほかごと考えて走ってたらすごい
適当なフォームになってたっぽい。
エロイ事ばっか考えてたなあ。
﹃敵は煩悩寺にあり﹄⋮⋮か。
1071
思いついた人、すばらしいな。確かにその通りだ。
13周目 しんどい⋮⋮いままでの練習の中で一番長いんじゃない
か? 走ったことない距離に突入すると、いきなり走れなくなるの
か?
14周目 ⋮⋮やば、体が動かん⋮⋮どしよ⋮⋮もう少し小さな声
で歌えばよかったかなあ⋮⋮関係ないな。
15周目 ⋮⋮も、無理。
﹁あ、足が重い⋮⋮﹂
しんどくて座ってたら、ポンポコさんがやってきた。
﹁⋮⋮ヤスは本当に野球部だったのか? それにしてはあまりに運
動能力が低い気がするんだが﹂
﹁⋮⋮や、まあ確かに野球部だったけど、引退後はほんとに運動し
てないし﹂
1072
サツキとの夜練もその時期は球出しとかしてただけだしなあ。
今部活してないんだから、運動する必要ないだろとか⋮⋮馬鹿なこ
といわなきゃよかった。
﹁まあ、これから当分の間はスピード練習は行わないからな。とに
かく距離を走れ。スピードをつけるのは体力を作ってからだ﹂
﹁うい⋮⋮了解﹂
情けないなあ⋮⋮俺。
﹁そういえば⋮⋮バイトはいいのか? いつもはもう帰ってるはず
だが﹂
﹁へ?﹂
ええと、時計は⋮⋮⋮⋮現在時刻⋮⋮12時⋮⋮。
やば!!!!
﹁遅刻だ!!﹂
﹁⋮⋮頑張れ﹂
﹁じゃね! ポンポコさん!﹂
﹁ああ、またな﹂
1073
⋮⋮結局、遅刻しました。
ええ、めっちゃ怒られました。
すみません。
⋮⋮次の日。
﹁すまん、LSDは普通同じところはぐるぐる回らん。飽きるから
な、言うのを忘れていた﹂
1074
ポンポコさん!! 勘弁して!!
1075
118話:LSDってなんだろう?︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
LSDの略であれを思いついてしまった瞬間、使おうか使わないか
悩みました。結局使ってしまいましたが^^;
アニメは見たことないんですよね。漫画だけ。
漫画はかなり面白かったです。
みんなで同じところをぐるぐる回るのはまだ平気なのですが︵一度
200mトラック100周を経験したことがあります︶私は1人で
同じところをぐるぐる回ってるのはつらいです。
1人で練習する場合は、いろんなところを散策するか、1周3km
以上あるようなところを回るとそんなに飽きはこないです。
それでは。
1076
119話:ばたんきゅー
今日は8月5日火曜日⋮⋮。
体が重い⋮⋮。
今は5時50分か⋮⋮そろそろ起きないとな⋮⋮朝の準備しないと
⋮⋮。
重い体を無理矢理立たせて、台所に立つ。
最近は弁当もかねてたからご飯食が多かったけど、今日は作るの無
理⋮⋮。
適当に卵焼き焼いて、後はレタスをちぎってミニトマトをのせ、楽
する為のごぼうサラダをのせてと。
後はパンと牛乳で。⋮⋮今日の献立はこれでいいや。もう他に考え
たくない⋮⋮。
えと、弁当はと⋮⋮。
ああ、思いつかん。昨日の残りでいいや。後は炊いといたご飯でお
にぎり作っとけ。
⋮⋮よし、できた。⋮⋮冷蔵庫に入れとこ。
⋮⋮じゃ、父さん母さんが起きてくるまで寝るか⋮⋮いやいや、部
活があるんだから準備しないと。
もそもそと食べる。あんま食欲がわかんけど、とりあえず食っとか
1077
ないとな。
よし、準備できたと。
時刻は7時50分。いつもよりちょっと早いけど、行くか。
たんたんたんたん⋮⋮。
あ、起きたな。
﹁父さん、母さん。おはよ﹂
おはよ、と挨拶してくれたけど、まだ寝ぼけてんなあ。父さんも母
さんも。
﹁んじゃ、部活行ってくるから、いってきます﹂
声かけたけど、夢うつつだな。ま、仕事になりゃビシッとするから
な。大丈夫だろ。
1078
学校についた。今は8時50分、練習は9時からだからな。
間に合った間に合った。
﹁おはようございます、ヤス君⋮⋮顔色悪いですけど、大丈夫です
か?﹂
﹁あ、アオちゃん、おはよ。だいじょぶだいじょぶ。ちょっと疲れ
気味なだけだから﹂
﹁そうですか? でも、今日は休んだ方が⋮⋮﹂
﹁練習して、速くなりたいし。休んだりしてたら、またユッチに怒
られちゃうし﹂
﹁私はヤス君は頑張ってると思いますよ、ユッチもそんな事で怒っ
たりしませんって﹂
﹁ありがと、アオちゃん﹂
﹁ヤス君、無理はしないでくださいね﹂
1079
﹁あいあい、了解﹂
ま、体重いけど、何とかなるだろ。
⋮⋮⋮⋮やばっ、体が全然動かん。
﹁おいヤス、今日は練習やめておけ。全然走れてないぞ。そんな状
態では怪我の元だ﹂
⋮⋮くぅ、ポンポコさんの言う通りなんだけど⋮⋮。
﹁もちょっと走ってみてから、確かめるよ﹂
後1周走ってみて、駄目だったらやめとこかな⋮⋮。
⋮⋮200m走ったけど、やっぱり全然体が動かん⋮⋮。
﹁ごめ、ちょっと休憩﹂
あんまりにもきついから、ちょっと走るのをやめて、徒歩に変えた。
あ、ちょっともう駄目。
がくっとその場にへたり込んでしまった。
あう、情けね。
﹁おい! ヤス! 大丈夫か!?﹂
﹁⋮⋮あはは⋮⋮無理⋮⋮﹂
﹁笑ってるな! おい、とりあえず日陰に移動しろ! こんな所で
倒れるな!﹂
1080
無理⋮⋮倒れたい。
⋮⋮ふぅ⋮⋮ケンとアオちゃん、ポンポコさんの3人掛かりで無理
矢理日陰に運んでもらった。
﹁おい、ヤス。大丈夫か?﹂
﹁しんどいっす⋮⋮﹂
⋮⋮しゃべるのもしんどい。
﹁失礼⋮⋮熱いな⋮⋮とりあえず、熱計るか。保健室に体温計くら
いあるだろ。ついでに氷持って来てくれ﹂
﹁あ、はい、わかりました﹂
﹁⋮⋮あ、ありがと。⋮⋮ポンポコさん⋮⋮アオちゃん﹂
﹁まあ、そこで寝といた方がいいぞ﹂
1081
うい⋮⋮了解。
﹁39度8分⋮⋮よく部活に来ようと思ったな、来る前に気付け﹂
﹁あはは、今日ずっとしんどかったのはそのせいかあ⋮⋮昨日まで
は平気だったんだけどなあ﹂
﹁昨日まで、どんな生活してたんですか?﹂
﹁えと⋮⋮平日は6時ちょい前に起きて﹂
﹁早いですね。そんな早く起きて何するんですか?﹂
﹁⋮⋮朝ご飯と弁当作り、あと洗濯﹂
1082
﹁主夫ですか!? ヤス君は﹂
⋮⋮俺も思った。
﹁それからどうするんですか?﹂
えと、きついんですが⋮⋮。言わないと駄目?
﹁えと⋮⋮部活⋮⋮弁当をサツキに届けて⋮⋮バイト⋮⋮﹂
﹁何で届けてるんだ?﹂
﹁⋮⋮この暑さじゃ腐るし⋮⋮﹂
﹁ああ、だからヤスは一度お腹を壊したんだな﹂
よく覚えてるね、ポンポコさん。
﹁ヤス君はどこでお昼食べてたんですか?﹂
﹁⋮⋮最初はサツキと食べてた⋮⋮アップとダウンちゃんとやるよ
うになったら時間が無くなったから食べてない⋮⋮﹂
﹁ヤス君⋮⋮本末転倒過ぎますよ、それは﹂
⋮⋮しょうがないっす。
﹁それで?﹂
⋮⋮ポンポコさん、まだしゃべらないといけないの?
1083
﹁帰ってから⋮⋮夕食作り﹂
﹁夕食もヤス君ですか? 親は何してるんです?﹂
﹁⋮⋮最近は⋮⋮2時頃まで仕事だったり﹂
﹁⋮⋮激務ですね。それでヤス君は家事は終わりですか?﹂
﹁えっと⋮⋮風呂掃除して、わかして⋮⋮その後、洗濯物とりこん
で、たたんで⋮⋮あと、トイレとか居間の掃除?﹂
﹁全部ヤス君ですか? サツキさんは?﹂
﹁最近21時には寝るから⋮⋮サツキは﹂
﹁サツキさん、寝るの早すぎですよ! もうちょっと分担してくだ
さいよ!﹂
サツキ、部活をすごく頑張ってるから。
﹁もうヤス君も寝ますよね?﹂
﹁えと⋮⋮父さんと母さんの夜食作り﹂
﹁ヤス君って馬鹿ですか?﹂
そこまで言われる?
﹁何時に寝るんですか?﹂
1084
﹁父さんと母さんが帰ってから⋮⋮最近は3時とか﹂
﹁倒れるに決まってるじゃないですか!? 3時間も寝てませんよ
!? それで部活とバイトをやるなんて無理に決まってます! 何
で先に寝ないんですか!?﹂
﹁えと⋮⋮おかえり?﹂
﹁馬鹿ですか? ええと、兄馬鹿? 子馬鹿って言えばいいんでし
ょうか?﹂
うわ、ぼろくそ⋮⋮⋮⋮でも、帰ったときのおかえりって嬉しくな
い?
﹁今のが平日か? 日曜日は?﹂
ポンポコさん、もうしゃべりたくないんだけど⋮⋮。
﹁えと⋮⋮6時半に起きて﹂
﹁もっと寝なさい﹂
目が覚めるんだよ⋮⋮前も説明した気がする⋮⋮それはケンとサツ
キにか。
﹁洗濯して、昼食と夕食の準備して﹂
﹁何で昼食?﹂
1085
﹁みんなが起きるのが14時とか﹂
﹁馬鹿?﹂
何回馬鹿って言われただろ?
﹁その後、買い物行って、1週間分の食材買って﹂
﹁それもヤス君ですか? せめて他の日にしたらどうです?﹂
﹁前は土曜日午前だったけど⋮⋮競技場に練習に行くようになった
ら時間がない﹂
﹁⋮⋮えと﹂
﹁で、3人が起きたら昼食で、その後3人にマッサージして﹂
﹁ヤス君がしてもらいなさい﹂
⋮⋮あはははは。
﹁⋮⋮みんなでボードゲーム⋮⋮最近はモノポリー﹂
﹁完全にモノポリーにはまってるな﹂
そうかも。
﹁⋮⋮準備しといた夕食を食べて﹂
﹁ふむ﹂
1086
﹁おしゃべりしたら、両親とサツキは風呂入って21時には寝る﹂
﹁だから早すぎですって! 何でそんなに早いんですか!?﹂
﹁さあ⋮⋮﹂
3人ともよく寝るからなあ⋮⋮。
﹁それからヤス君は何してるんです?﹂
﹁⋮⋮明日の朝ご飯の準備と弁当の準備⋮⋮ああ、洗濯物取り込ん
で、アイロンかけたりもしてる。ついでにみんな寝相が悪いから布
団かけ直してる﹂
﹁馬鹿ですか? 馬鹿ですね?﹂
⋮⋮また言われるし。
﹁ヤス君の家族はヤス君のありがたみを分かった方がいいですね﹂
なんじゃそりゃ?
﹁ヤス、今日はユッチの家で療養しとけ﹂
﹁け、ケン! な、何でボクの家なのさあ!? アオちゃんの家は
!?﹂
﹁私の家狭いですし﹂
1087
﹁ポンポコは!?﹂
﹁兄弟がうるさい﹂
﹁ケンは!?﹂
﹁俺、午後からバイトやもん﹂
⋮⋮俺の家でいいんでない?
﹁そもそもヤスの家でいいだろお!?﹂
⋮⋮ナイス、ユッチ。
﹁ヤスの家、今誰もいないぞ﹂
⋮⋮そういやそうだな。
﹁ああああうううう﹂
ユッチ、そんなに嫌なのか?
﹁バイトは俺が連絡しといた。代わりの人探してくれるってさ﹂
﹁あー、うん﹂
ありがとさん、ケン。
じゃ、寝よ。お休みなさい⋮⋮⋮⋮。
1088
119話:ばたんきゅー︵後書き︶
おはようございます。
ばたんきゅーは死語らしいですが、この響きが好きなので、結構使
ってます。
昨日、私も風邪引きまして、ヤス君同様39度8分まであがりまし
た。そしたらこんな話になりました。
風邪引いたら、あったかくして寝るのが一番です。
では。
1089
120話:ダークヤス、降臨
﹁では、連れて行きますね﹂
﹁お願いします﹂
ウララ先生の車に乗せられて、俺とユッチ、それにアオちゃんも来
る事になった。
サツキや俺の両親にはケンが連絡入れといてくれるらしい。
﹁残念だ、バイトがなかったら俺も行きたかったのに﹂
﹁ケン君、なんでですか?﹂
﹁すぐ分かるって﹂
⋮⋮アオちゃん、ケン、何の話だ?
1090
30分くらい車にゆられて、ユッチの家に到着。
意外と広い。
大きな庭もあるし。
﹁ユッチの家は5LDKなんですよ﹂
⋮⋮そうなんか。
﹁ただいまあ!!﹂
ユッチ⋮⋮頭痛いから声押さえてくれ。
﹁おかえり、早かったね、何かあった?﹂
若いお姉さんだな、ユッチのお姉ちゃんか?
﹁ちょっと陸上部の友達が⋮⋮﹂
﹁ああ、アオちゃん? どうかしたの?﹂
1091
﹁アオちゃんじゃなくて⋮⋮﹂
﹁んー?﹂
⋮⋮おい、俺を見て何故固まる?
﹁ユッチが! ユッチが男を連れて来た!!﹂
⋮⋮叫ばないで。
﹁今日はお赤飯!? それともユッチの好きなサシミにしようか?
もちろんわさび抜きで﹂
⋮⋮ユッチ、わさび駄目なのか。
﹁ボクの苦手なものを暴露しないでよお!!﹂
⋮⋮ユッチ、うるさい。
﹁ついにユッチにも春が⋮⋮﹂
﹁違うからあ! そんなんじゃないからあ!﹂
⋮⋮頼むからどっかに横にならせてくれ。立ってるの辛いんだ。
﹁あの、ヤス君が死にそうだから、寝るとこ貸してあげれません?﹂
ありがと、アオちゃん。
﹁じゃあ、ユッチの布団に寝かせましょうか?﹂
1092
﹁何でボクのなのさあ!? 他にもあるだろお!?﹂
﹁そしてユッチが暖めてあげるのよ﹂
﹁絶対嫌だからあ!﹂
どうでもいいから早くして⋮⋮。
ようやく、客用の布団に寝かせてもらった。
⋮⋮。
﹁具合、どうですか?﹂
⋮⋮。
1093
﹁もういっぺん熱測ってみましょうか?﹂
⋮⋮。
﹁39度9分ですか。下がりませんね﹂
⋮⋮。
﹁返事がありませんね、眠ったんでしょうか?﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁大体、無理しすぎなんだよ、ヤスは! 毎日3時間しか寝てない
って馬鹿じゃない?﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁そうですよ、そうなる前に休みましょうよ﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁はあ⋮⋮陸上の知識も全然ないしさあ﹂
﹁あははは﹂
﹁うっさい!!!!﹂
1094
﹁⋮⋮ヤス?﹂
﹁寝かせろってんだ! 病人はいたわれ! 人間として常識だろ!﹂
﹁ど、どうしたんですか?﹂
﹁どうしただ!? うるさいって言ってるんだ! 日本語分かりま
せんかあ?﹂
﹁い、いえ⋮⋮﹂
﹁大体だな! 3時間しか寝てないって言うが、俺が好きでやって
んだ! 父さん、母さんにお帰りって言ってあげたいのの何が悪い
んだ! アオちゃん、言ってみろや!﹂
﹁え、いや、私もお帰りは言ってますが⋮⋮﹂
﹁じゃあいいじゃんか! 挨拶は人間として当たり前の事なんだぞ
! 小学生の頃に﹁オアシス運動﹂やっただろ!? それをやって
るって言っただけで馬鹿馬鹿連発される筋合いはねえんだ! こら
! 何か間違った事俺言ってるか!?﹂
﹁間違った事は言ってませんが、それで体を壊してしまっては⋮⋮﹂
1095
﹁そうか? 寝不足だけが原因かなあ?﹂
﹁何が言いたいのさ!?﹂
﹁時間がなくて練習前のアップ、練習後のダウン省略しようとする
とどっかの誰かさんが睨むんだよなあ⋮⋮﹂
﹁なんだよ!? ボクの事って言いたいのかあ!?﹂
﹁もちろん。朝に俺がご飯作って、昼からバイトなの知ってるくせ
に、間に合いそうになくて慌てて帰ろうとすると、睨まれるんだよ
ね﹂
﹁アップダウン、ちゃんとしないと怪我するんだぞ!﹂
﹁はあ⋮⋮ダウンをやると時間なくて昼飯食い損ねてるんですけど。
かと言ってダウンせずそのまま帰ると1日睨んだりするし。あれっ
てすっごいストレスになるんだよね﹂
﹁ボクのせいでストレス溜まったって言いたいのかあ!?﹂
﹁プレッシャーはすごいよね、俺、初心者なのに﹃そんな事も出来
ないの?﹄って言われ続けられてるみたいでさあ﹂
﹁もう4ヶ月も経ってるだろお!?﹂
﹁私だって少しは覚えましたよ?﹂
﹁ふん、アオちゃんはいいさ。陸上経験者のユッチが延々としゃべ
ってるし、ウララ先生って指導者がいるんだから。俺には誰が教え
1096
てくれたって言うのさ﹂
﹁だったら自分で調べろよお!﹂
﹁はあ⋮⋮やだやだ。熟達者になると、初心者の考えなんかなんも
思いつかんくなるんだよね。⋮⋮どうやって調べるのさ?﹂
﹁本とか!﹂
﹁どんな本がいいの? 俺しらなーい﹂
﹁ネットとか!﹂
﹁どのサイトがいいの? 多すぎて分かりませーん、言ってる事、
サイトごとに違ってたりするしさあ、⋮⋮そもそも何を聞けばいい
かすら分かんない状態で調べられると思うの? 出来る人って嫌だ
ねえ、相手が分かってるもんだと思って何でもしゃべるからさあ﹂
﹁⋮⋮うううう﹂
﹁後さ、自分が出来てないのに、俺にいちいち意見してくるのもむ
かつくんだよね。ポンポコさんとか、俺にはノートを作る時、﹃余
白をたくさん取って見やすく作れ﹄とか言っておいて、自分が作っ
て来たメニュー見づらくて仕方がないんだもんよ。人に言う前に、
自分を直せって話だよ﹂
﹁そう言うなら自分で作れよ!﹂
﹁さっきもいっただろ? 俺、知識なんもありませーん、調べる時
間もありませーん﹂
1097
﹁夏休みなのにそんなに日程入れるヤス君が悪いんですよ﹂
﹁バイトの日程は決めたのケンだけどねー﹂
﹁何かあったら、その時その時で言えばいいんじゃないですか? そうすればストレス溜まりませんよ﹂
﹁そうだあ! アオちゃんの言う通りだよ!﹂
﹁ふーん⋮⋮言っていいんだな。そう言ったな、じゃあ聞けよ。全
部聞けよ!﹂
﹁は、はい﹂
﹁ヤス、怖いよお⋮⋮﹂
1098
翌日。
﹁すみませんでしたあ!!﹂
﹁ヤス君の本音って、真っ黒ですね、びっくりしました⋮⋮﹂
何で俺、言った事全部覚えてるんだろう⋮⋮。
漫画みたいに風邪のときの記憶、飛べばいいのに。
熱はひいた。一晩大汗をかいたら、何とかひいた。
まだ頭は痛いが、じきに治るだろう。
﹁ボク、ヤスにそんな風に思われてたのかあ⋮⋮﹂
﹁や、あれはダークな俺だから! いいとこあるって思ってるから
!﹂
﹁でも、サツキちゃんや両親の愚痴は1個もなかった﹂
﹁そりゃそうだ、不満ないもん﹂
﹁ボクには不満だらけって事だろお?﹂
⋮⋮えっと、アオちゃんもユッチも落ち込まないでくれ。
確かに本音っちゃあ本音だけど、そこまで強く思ってたりしないか
ら。
﹁人間として終わってるって言われました⋮⋮﹂
1099
﹁ボクも言われた⋮⋮﹂
﹁すみませんでしたあ!!!﹂
俺の方こそ、人間として終わってる。
1100
120話:ダークヤス、降臨︵後書き︶
おはようございます。
病人の看病の王道パターン
ユッチとアオちゃんがおかゆ作って
﹃あーん﹄
みたいなアマアマな展開を期待してた人、すみません。
風邪引いたときって、頭ボーッとしてるから、暴走しませんか?
⋮⋮自分だけでしょうか?
オアシス運動
オ:おはようございます
ア:ありがとう
シ:しつれいします
ス:すみませんでした
と、挨拶がきちんとできるように小学校等でよく行われていた運動
です。
今でもあるんでしょうか?
別の所では
1101
サ:さようなら
をいれた﹁オアシスさ運動﹂というのもあるそうです。
それでは今後もよろしくお願いします。
1102
121話:ヤスvsトイレ
今日は8月7日木曜日。
昨日一昨日はユッチの家で大変お世話になった。
ダークな部分しか見せてなかったけど、ちゃんと感謝してるんだぞ。
服の替え、5着も準備してもらって、消化にいいおかゆにすりりん
ご、ヨーグルト等々⋮⋮ありがとうございます。ユッチのお姉さん、
お義兄さん。
そして、暴走してしまってごめんなさい、ユッチ、アオちゃん。
ユッチ達がある程度立ち直ってから聞いた話なんだけど、ユッチの
お姉さんとお義兄さんが入って来た瞬間、愚痴がぴたっと止まって
無口になってたそうだ。
確かに黙った記憶が残ってる。
﹁なんでおねえちゃんがいる間は愚痴らないんだよお!?﹂
﹁や、親しい人以外にまで愚痴って聞かせちゃ駄目じゃね?﹂
﹁ああ、ヤス君の中で私とユッチ、いつの間にか﹃親しい人﹄に昇
格してたんですね﹂
はっきり聞くな、恥ずかしいから。
﹁だ、だ、だからって、ボクへの愚痴をボクに聞かせるなあ!!!﹂
1103
⋮⋮ごめんなさい。
﹁ユッチ、照れなくてもいいですよ﹂
﹁照れてないい!!﹂
あ、逃げた。
⋮⋮サツキ、父さん、母さんからもそれぞれ電話が来てた。
すごい心配してくれてたのは口調から分かったんだけど、留守電の
最後に必ず
﹁暴走しないでね、ヤス兄﹂
と入ってたのは⋮⋮俺、どんだけ行動パターンが読まれてるんだろ
う⋮⋮。
今は自分の家、昨日の朝に父さんが迎えに来てくれた。
午前、会社を休んで来てくれてありがとう。
1104
今日は1日のんびりと過ごすのだ。
部活もバイトも、熱はひいたけどぶり返すのが怖いから念のため休
ませてもらった。
ケンが色々手を回してくれたみたいで、バイトの代わりが見つかっ
てよかった。
朝6時、いつも通りに起床、朝ご飯の準備開始⋮⋮?
あれ? 何かシャーシャー音がどっかからするんだけど⋮⋮気のせ
いか?
ま、いいか。準備準備。
準備完了!
あー、ちょっとトイレに行きたくなってきたな。朝から行ってなか
ったもんな。
﹁トイレトイレっと﹂
1105
⋮⋮?
何かシャーシャーと言う音がどんどん大きくなっている気がするん
だが⋮⋮?
﹁うおい!? なんでこの辺水浸し!?﹂
まずいだろ!?
家中水浸しになるじゃん!
水が流れてる元は⋮⋮トイレかよ!?
﹁まじ!? 勘弁してよ!?﹂
俺んとこのトイレ、きちんと下まで下げとかないと、水がだだ漏れ
になるからな⋮⋮。
もしかしてそれが原因か!?
ドアを慌てて開けた。
﹁うおいっ!!﹂
なんか、金属のパイプと、白の陶器の部分の接続部分から水が噴出
してる!!
シャーシャーの音の正体はこれかあ!?
﹁ってか、これどうやって止めればいいのさ!?﹂
⋮⋮ええと、とりあえず上の蓋を開けてみるか。
﹁わ、わからん⋮⋮﹂
1106
生まれてこのかた、トイレが壊れた事なんてないっす。
トイレの構造なんて知る訳ないに決まってるじゃないっすか。
﹁きょーうもあーさからりっぱなうんちー⋮⋮できないー!!!﹂
どどどどど、どうしよう!? 歌ってる場合じゃないだろ!!
ええと、とりあえず吹き出してる部分を押さえ込んじまえば出てこ
なくなるよな。
そうすりゃ万事解決だろ!!
﹁よしっ! とりあえずテープ!!﹂
居間からテープを取ってくる。
⋮⋮水に濡れて、ひっつかない。
﹁駄目じゃん! 次! タオル!﹂
タオルをまきまくって押さえてみる。
お、収まった⋮⋮これで一件落着か?
⋮⋮あ、あれ?
どんどんしみ込んで、結局だだ漏れに⋮⋮。
1107
﹁やっぱ駄目じゃん! 次! 力ずく!﹂
手で無理矢理押さえ込んでみる。
お? 止まった。この力ずく作戦。意外と有効?
このままそーっと離してみる。
シャーーーーーー⋮⋮。
駄目だ! 出てしまう! 慌てて押さえ直す。
⋮⋮お、止まった。
再挑戦、そーっと離してみよう。
シャーーーーーー⋮⋮。
えっと⋮⋮。押さえ続けないと止まらない?
もう一度押さえてみる。
お、止まった。
ええと、つまり俺はこのままずっとこうしてないと駄目と言う訳か
なあ?
⋮⋮トイレ、したいのに。このままじゃできない。
床、びしょびしょのまんまだし、どうしよう?
1108
⋮⋮おや? 押さえ方が緩くなったか? 何かまた水が漏れて来た
んだが⋮⋮。
シュポン!!
﹁へ?﹂
ドバアアアアアアアアア!!!
﹁どえええええええ!?﹂
パイプが、パイプが抜けたあ!!!
どうすりゃいいの!?
はめ直そうとしても、水圧で入ってくんない!!
﹁そ、そうだ! 俺の指で!﹂
水の出口を押さえてしまえば!
﹁ぶはあっ!?﹂
1109
俺は馬鹿か!?
水の出口狭めたら、勢い増すの当たり前じゃん!!
うわあ⋮⋮全身びしょぬれだあ⋮⋮。
﹁⋮⋮あ、おはよ、ヤス兄? 何遊んでるの?﹂
﹁サツキか!? おはよ! 水が止まんないんだよ!! どうにか
なんない!?﹂
﹁⋮⋮水もしたたるいい男? ヤス兄には似合わないね﹂
﹁いいから! 寝ぼけてないで教えて!?﹂
﹁⋮⋮私も知らない。お父さんかお母さん呼んでくるね﹂
﹁お願いします!!﹂
というかなんで俺、さっさと父さん起こさなかったんだろ?
寝ぼけまなこの母さんが降りて来た。
﹁おはよ! 母さん! これどうにかして!﹂
おはよとあいさつした後、かあさんは目をぱちくりさせた。
1110
さすがにこの惨状は⋮⋮。
ふらふらと居間に何かを取りに行ったっぽいんだけど⋮⋮。
取ってきたのはマイナスドライバー。
⋮⋮それでなにすんの?
母さんはパイプの下の方にマイナスドライバーを持ってって、キュ
ッとひとひねり。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
止まりました⋮⋮。
母さん、ありがとう。嬉しそうにVサインだしてる。
ってかここ1時間くらいの俺の苦労は一体⋮⋮。
﹁ヤス兄、また風邪引くよ? 落ち込んでないで先着替えたら?﹂
﹁⋮⋮そだね、そうするよ﹂
1111
⋮⋮結局、母さんによると水道のパイプが腐食してたので、それが
原因で漏れたみたいです。
俺が今日1日中家にいるので、対応お願いされました。
後、床の水の処理もしなきゃなあ。
⋮⋮1日ぼーっとできると思ったのに。
1112
121話:ヤスvsトイレ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
愚痴は親しい人にしか言いませんよね。
誰かに愚痴られたら
﹁あ、こいつは俺の事を信用してるんだな﹂
りっぱな⋮⋮﹂
と思って、温かい目で見守ってやってください。
﹁きょーうもあーさから
⋮⋮汚くてすみません。
﹃トイレのうた﹄から借りました。
それでは。
1113
122話;ヤスのちょっといい話?
﹁ふぅ、終わった終わった﹂
ようやく水浸しの床から水を全部拭き取ってやった。
いやいや、大変だった。
ついさっき水道屋さんも来て、きっちり直してってくれたからな。
うちのトイレ、かなり老朽化してたけど、
﹁このままでも十分大丈夫ですよ﹂
と言ってくれた。いい人だ。簡単な修理方法も教えてくれたし。
やな人だと、まだまだ大丈夫なのに、こっちが分からないのをいい
事に
﹁もう買い替えないと駄目ですよ﹂
と言う人もいるとか⋮⋮。
﹁⋮⋮世も末だねえ﹂
⋮⋮俺はどこぞのじじいだ⋮⋮。
1114
現在、午後2時。
﹁暇だ⋮⋮﹂
する事がない。
・宿題⋮⋮終わった。すげえだろ。こう言うのは早く終わらせて残
りは遊ぶと言うのが一番楽しく夏休みを過ごせるんだ。英語はアオ
ちゃんに、古典と歴史はポンポコさんに丸投げしたしな。楽勝楽勝。
・サツキ⋮⋮いない。
・テレビ⋮⋮この時間、つまらない。
・本、漫画⋮⋮家にあるのは全部読んだ。
・電話⋮⋮みんな忙しそうだよなあ。友達少ないな、俺。
﹁暇だ⋮⋮﹂
風邪引いて療養している身だからなあ、どっかへふらふら出かける
と言う訳にも⋮⋮図書館くらいならいいかなあ。
えーっと、これからなんかイベント⋮⋮。思いつかんなあ。
1115
﹁久々にお菓子作りにでも挑戦するかあ﹂
暇だと突然したくなるんだよなあ。
さあ、ひよこのエプロンしてと。キッチンに立つ。
うむ、やっぱりひよこエプロンだよなあ。サツキからのプレゼント
なり。
﹁ヤスの3分クッキング∼♪ テケテンテンテン♪ テケテンテン
テン♪ テケテンテンテンテンテテテテテ∼♪﹂
鼻歌と言えばこれだよなー、絶対3分じゃ終わらんけど。
﹁さてさて、今回作るのはみんなが大好き﹃フルーツケーキ!﹄﹂
⋮⋮俺はどこへ向かって解説しているんだろう?
1116
﹁準備するものは、薄力粉200g、ベーキングパウダー小さじ2、
りんご半分、砂糖70g、塩小さじ1/3、卵1コ、牛乳100c
c、水100cc、グラニュー糖小さじ2、バター小さじ2!﹂
バターがない人は、マーガリンでもいいらしいぞ。レシピにはみか
んもあったけど、家にみかんなかったから、使わない。
﹁今回はびっくりな器具を使って簡単にケーキを焼いちゃいましょ
う! その名も﹃ご飯戦隊! 炊飯ジャー!﹄﹂
⋮⋮ごめんなさい。ただの炊飯ジャーです。家のは5合炊きだ。
何何? 上の分量は9合炊きなので、5合炊きの場合は3分の2か
ら2分の1にしてお試しくださいか。
⋮⋮面倒だな、2個作ればいっか。
ただいまレシピを見てます。
﹁さて、まずは⋮⋮何何?﹃1.ジャーの内釜の底の部分に、バタ
ーを多めに塗る。グラニュー糖小さじ1をふる﹄﹂
ぺたぺた、ぱっぱっ。よし出来た。
﹁次は、﹃2.皮をむいて1厚さに切ったりんごとみかんを並べ、
グラニュー糖小さじ1をふりかける﹄﹂
⋮⋮1厚さって何だろう? そんな単位あったっけ?
まあ、適当に薄く切って、並べればいいよな。半分の分量だからリ
ンゴは4分の1個だな。
むきむき、むきむき。とんとん。置き置き。よしできた。
1117
﹁それからっと、﹃3.小麦粉にペーキングパウダーを加えて、泡
立て器でかき混ぜ、塩と砂糖を加え、更にかき混ぜる﹄﹂
よしよし、泡立て器かあ。
﹁いざ、尋常に!﹂
まぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜ!!
﹁はー、疲れる。⋮⋮と言うかどれくらい混ぜればいいか書いてな
いな﹂
まあ、適当でいいって事だろ。
こんなもんでいっか。
﹁次々∼♪﹃4.計量カップに卵を割りほぐし、牛乳と水を入れて
250ccにする﹄﹂
カン! パカッ! ポトッ。 トクトクトクトク。 ﹁オッケー!﹃5.粉に4.を加えて、泡立て器を使って混ぜる。
溶かしバターを加えて混ぜる﹄﹂
よし、混ぜるぞ。
まぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜ
まぜ!!!!
﹁ありがとうございまーす! いつもより多く混ぜております!﹂
1118
誰にお礼言ってるんだかなあ。
﹁さ、ラストラスト。﹃6.ジャーの中に流し入れて、スイッチを
入れる﹄﹂
えーと、半分の容量をまず入れるんだからと。
﹁こんなもんか﹂
残りはラップして冷蔵庫に入れとこ。
﹁ん? 後もうする事無し?﹂
暇じゃん。余計に混ぜたりしたけど、すぐに終わっちゃったじゃん。
﹁炊飯ジャーじゃ、中の様子見る事も出来んしなあ⋮⋮﹂
膨らんでいくのを見るの、意外と楽しいんだよね。
1119
結局、ネット小説見て、暇潰してた。
こう、あまり評価が高くない作品の中から面白い作品を見つけるの
がいい。
この面白みを知ってるのは俺だけだな⋮⋮と。
お、1作品目が出来上がったようだ。
﹁おー、なかなかうまそうじゃね?﹂
1120
炊飯ジャーで始めて作ったにしては上出来だ。
﹁2個目♪ 2個目♪﹂
いやいや、料理は楽しい。
片付けがめんどいけどな。
﹁うむ、2個出来てしまった⋮⋮﹂
こんなにたくさんどうするんだろう?
そんなにおっきなケーキじゃないけど、2個は⋮⋮。
あ、そだ。ちょうど家にぶどうがあったなあ。
1121
2個とって、それぞれのケーキのど真ん中に置いて⋮⋮と。
﹁この2つのケーキを隣に並べて∼♪﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮俺は馬鹿だ⋮⋮何やっているんだろう。
⋮⋮あ、そう言えば。
時間は18時か。
夕飯の支度して、今のうちにケーキを箱に入れて、その他諸々して
⋮⋮と。
﹁ただいま! ヤス兄、元気?﹂
﹁お帰りっと、元気元気。もう大丈夫。心配かけたなー﹂
﹁そっか、大丈夫なんだね。よかったよ﹂
心配ありがと、サツキ。
﹁だけど、年1回のヤス兄の大暴走、見たかったなあ、面白いもん﹂
こら、サツキ。
﹁あれはちょっとしたイベントだよねってケンちゃんとメールして
たんだ﹂
﹁あ、そうそう、ケンケン﹂
﹁ケンちゃんがどうかした?﹂
1122
﹁サツキも今からケンの家行かね?﹂
﹁え? なんで?﹂
﹁明日行けなさそうだし﹂
﹁⋮⋮そっか、そうだねー、いこっか﹂
おし、行くぞ。
サツキを後ろに乗せて、ケーキを崩さないようにキコキコ。
⋮⋮ケンの家に到着。
もうバイトもあがってるだろ。
1123
ピンポーン。
﹁はいはーい﹂
お、ケンだ。
﹁おーっす! おれおれ﹂
﹁オレオレ詐欺は現在受け付けておりません﹂
ガチャッ。
﹁⋮⋮サツキ、帰ろっか?﹂
﹁まあ、気持ちは分かるけど、リトライだよ、ヤス兄﹂
サツキが言うなら仕方ないな。
ピンポーン。
﹁なんですかー?﹂
あいつ、俺だって分かってるな。
﹁あ、ケンちゃん? ワタシワタシ﹂
﹁なんだよ、サツキちゃんいるなら先に言えよ、待ってろ、玄関行
くから﹂
⋮⋮ワタシワタシ詐欺はいいんか?
1124
﹁おっす! 風邪はもういいんか?﹂
﹁ああ、元気元気﹂
﹁そか、今日ユッチとアオちゃんから、暴走してるヤスを聞いたん
だけど、やっぱり現場に居たかったなあ﹂
﹁だよね、私も聞きたかったなあ、後で詳細教えてね﹂
﹁了解了解﹂
⋮⋮俺のダーク版ってそんな面白いの?
﹁で、今日はどしたんだ?﹂
﹁ああ⋮⋮ほら、サツキ﹂
﹁はいはい﹂
﹁⋮⋮ん?﹂
﹃ハッピーバースディイブ! ケン!﹄
1125
﹁⋮⋮は?﹂
﹁や、明日のほんとのケンの誕生日は、サツキの東海大会とかぶっ
てるから、もしかすっとお祝いできないかもだし﹂
﹁と言う訳で、今日お祝いにやってきました! 16歳、おめでと
! ケンちゃん!﹂
﹁⋮⋮ああ、そう言う事かあ! ありがとな! ヤス! サツキち
ゃん!﹂
﹁このケーキはヤス兄作だから、お礼はヤス兄に言ってね﹂
﹁あいよ、ありがとさん! ヤス。あけていいか?﹂
﹁ま、ここであけてもいいけど﹂
落とすなよ。
﹁よしよし﹂
パカッ。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
1126
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮。
﹁ごめんなさい!!! 直すの忘れてました!!!﹂
﹁や、いいけどさ。ヤス⋮⋮このケーキ名は﹃おっぱいケーキ﹄と
かでいいのか?﹂
違う! フルーツケーキです!
﹁すみませんでしたあ!!!﹂
﹁ヤス兄、飢えてるんだね⋮⋮今度エロ本買って来てあげるよ﹂
サツキ、それは止めて!
ってかそんな哀れんだ目で見ないで!!
﹁まあ、家族にもこれで見せとくよ。来たついでに夕飯ヤスたちも
食ってく?﹂
1127
﹁あ、ヤス兄! 久しぶりにごちそうになろっか?﹂
や、夕飯は構わないけど、それを直してからにしてください。
﹃ごちそうさまでした!﹄
夕飯はおいしかった、ケーキも自分で言うのもなんだがおいしかっ
た⋮⋮でも恥ずかしかった。
くそう、今度はもうちょっとちゃんと作ってやるからな!
1128
122話;ヤスのちょっといい話?︵後書き︶
おはようございます。
と言う訳でケン君の誕生日は8月8日でした。
⋮⋮ええと、いい話じゃないですか?
わざわざ親友の誕生日の前日に誕生日に行けないかもしれないから
ケーキを持って行く。
⋮⋮暇つぶしに作ったケーキ。
ま、まあ誕生日にわざわざ何か贈り物作る自体いい話じゃないです
か!?
ケーキのレシピは
http://allabout.co.jp/gourmet/
cookingabc/closeup/CU20030220a
/index.htm
からお借りしました。炊飯器はものによっては米しか炊飯できない
そうなのでご注意を。
それでは。
1129
123話:東海大会前、名前って大事だよね
さあ、今日は8月8日。
とうとう東海大会だ。
東海大会は愛知・岐阜・三重・静岡の4県から4校ずつ、計16校
が出場する。
因縁の相手、フクシマ&カミムラ、オカ姉妹と対戦するには最低で
もベスト4以内に入らないと対戦できない。
⋮⋮なかなか遠い道のりだ。
開会式も終わり、それぞれの中学校で散り散りになって行く。
俺も、さっさとサツキのいる中学のところへ移動。
﹁おはよーっす﹂
﹃ヤス先輩、おはようございます!﹄
﹁どもども﹂
﹁それにしてもヤス先輩、暇ですねえ、地区大会から全部いるじゃ
1130
ないですか﹂
前もその会話した気が⋮⋮。
﹁応援はいないよりいた方がいいっしょ?﹂
﹁まあ、いてくれた方が面白いからいいんですけどね﹂
面白い⋮⋮どうせなら心の支えとか言ってくれると⋮⋮それはそれ
でくさいな。
﹁おはよっす!﹂
ん?
⋮⋮お、因縁の相手、オカ姉妹。
﹁あー、えと、オカ妹?﹂
サツキ、名前覚えてあげれ。
﹁私はエリっすよ、オカ妹って呼び方は止めて欲しいっす﹂
﹁あ、ごめん﹂
1131
﹁や、別に構わないっす、サツキさん﹂
﹁わ、よく覚えてるね?﹂
﹁何となく覚えたっす﹂
なんとなく⋮⋮よく分からん。
﹁それで、私がシイコ。いきなりだけど、よろしく﹂
こちらも一通り自己紹介。
﹁後、これは私の兄でヤス兄﹂
﹁﹃これ﹄って言うなよ! ⋮⋮ども、ヤスです。よろしく﹂
ずざざっ!
﹁⋮⋮おい、エリさん、シイコさん、何故距離を取る?﹂
﹁スカートに頭つっこんでパンツなめるような人間のそばにいたら
危険っす!﹂
1132
﹁試合中にいきなり奇声を発する人間は危険!﹂
⋮⋮⋮⋮事実だけどさあ。
や、パンツはなめてない。
﹁ほら、私が言った通りヤス先輩の評判ってもはやかなり手遅れっ
ぽいですよね?﹂
サキちゃん⋮⋮あんたが手遅れにさせた気もします。
と言う訳で、別に俺に用がある訳でもないっぽいので、俺から距離
を取って話してる。
⋮⋮これ、他の人から見たらいじめじゃね?
﹁﹃言いたい事は1個だけだ! 決勝で会おう!﹄﹂
⋮⋮それ言う為だけに来たんかい。
﹁フクシマさんとカミムラさんからの伝言っす、私らは別に用はな
1133
いっす﹂
それならフクシマ&カミムラが来いよ! なんでエリ&シイコが来
るの!?
﹁ちょっと時間あるし、ちょっと話でもしよっかなと思って来たの﹂
ああ、そう言う事か。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮俺は遠くから見てるだけ、会話に参加できない。
何か寂しいっす。
﹁そういえば、立ち入った話聞いていい?﹂
サツキ、変な事聞くなよ。
﹁ん、いいよ?﹂
﹁なんでエリ、シイコ? 親、狙いすぎじゃない?﹂
﹁ああ、よく聞かれるんだ、その質問﹂
あ、そなんだ。
﹁一応由来は、私は個性がない普通の子じゃなくて、﹃面白い子﹄
に育ってくれますように、という意味で付けたらしいよ。⋮⋮でも、
﹃おかしいこ﹄じゃ意味違わない!?﹂
﹁あははは⋮⋮﹂
1134
﹁笑い事じゃないよお。ほんと、こんな名前ってだけで意味もなく
いじめられたもん。私子供出来たら絶対普通の名前にしてやるんだ
から!﹂
⋮⋮シイコさん、ガンバ。
﹁私は﹃いつか誰かと結婚して、その人が家に帰って来た時、いつ
でも﹃お帰り﹄って迎えて、円満な家庭を作ってあげられますよう
に﹄とか言われたっす。⋮⋮でも結婚したら﹃オカエリ﹄じゃなく
なるっす﹂
﹁岡さんと結婚したら?﹂
﹁名字で選ぶなんて嫌っすよ、偶然付き合った人が岡だったらいい
っすけど﹂
冗談に真面目に返されたっぽい。
﹁サキちゃんとミキミキよりはましだねー。単純にインパクトがあ
るからってその名前にされたんだもんね﹂
﹁多分私たちも一緒だよ。色々由来を言ったけど、結局何かインパ
クトが欲しいからこの名前にしたんだよ﹂
﹁そして犠牲になるのは子供達っす﹂
﹁まあでも、私たちは結婚すれば普通になるもんね﹂
﹁ああ、何か最近すっごい変な名前付ける親がいるんでしょ?﹂
1135
﹁らしいよ? 男の子に女の子の名前付けたり、女の子に男の子の
名前付けたり﹂
ああ、女なのに﹃マサル﹄とか、男なのに﹃ミドリ﹄とかか?
男女両方使える﹁マコト﹂﹁カオル﹂当たりにすればよかったのに。
そういえば、ユッチの﹃ゆう﹄もどっちでも使える。
﹃アキラ﹄﹃ユウキ﹄﹃トオル﹄も一応どっちでも使えるかな。
﹁ええ! そんなのまだ可愛いよ、日本人なのに無理矢理当て字で
外人の名前付ける親いるらしいよ!﹂
﹁﹃ダイアナ﹄ちゃんとか﹃ティアラ﹄ちゃんとか﹃ミーシャ﹄ち
ゃんとか⋮⋮﹃ジュリエッタ﹄って名前もいるらしいっす﹂
⋮⋮どう反応すればいいんだろうね。
﹁それぐらい全然いいよ!﹂
サツキ、もっとひどいのがあるんかい。
﹁上手に付けたつもりで、失敗すると悲惨だよ!﹂
どんなのだ?
﹁クラスに﹃心﹄と﹃太﹄で、﹁しんた﹂って子がいるんだけどさ。
誰も何も言わないからクラスの誰も気付いてないのかも知れないけ
ど﹂
1136
⋮⋮その子、いつか馬鹿にされる⋮⋮。
﹁﹃心太﹄って﹃ところてん﹄だよ! 毎回毎回自分の名前でとこ
ろてんって書いてるんだよ!﹂
うん、ガンバレ。その子。
適当におしゃべりして去ってった。
俺ももうちょいエリ&シイコとしゃべってみたかった。
﹁サツキ、ほんとに﹃ところてん﹄っているの?﹂
﹁いるよ? もっとひどいのもいるけど、何考えて付けたんだろね﹂
まじか。
﹁ココナちゃん﹂
﹁普通じゃん、どんな字?﹂
﹁﹃心﹄の﹃中﹄﹂
1137
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
俺、ヤスアキでよかった。
名前は普通がいいな、普通が。
1138
123話:東海大会前、名前って大事だよね︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
名前⋮⋮大事ですよね。
私は自身の名前、気に入ってます。
親になった時、子には普通の名前付けたいなあと思います。
⋮⋮いつなれるんだか⋮⋮。
それでは。
1139
124話:サツキの中総体東海大会、ダブルス1
サツキの東海大会、一応組み合わせ表でも見るか。
☆
静愛三岐愛三静岐
岡知重阜知重岡阜
一四二三二三四一
位位位位位位位位
┌┴┌┴┌┴┌┴
︳┌┤└︳┌┤└
︳︳┌│┤│└︳
︳︳︳決勝︳︳︳
︳︳┐│├│┘︳
︳┐├┘︳┐├┘
┐┴┐┴┐┴┐┴
愛三岐静静愛岐三
知重阜岡岡知阜重
一四二三二三四一
位位位位位位位位
︳︳︳︳★︳︳︳
み、見づらい⋮⋮何でノートの紙に書かれてんだ?
とりあえず、サツキ達の所には★をつけてみた。
⋮⋮1回戦は愛知の三位とか。
⋮⋮負けんなよ。
1140
ダブルス1はいつも通り、サツキとクロちゃんだ。
﹁ダブルス1、サツキ&クロダ vs イツカ&カトウ﹂
⋮⋮今勝ってるからここにいるんだろうに⋮⋮。
まずはサツキからのサーブだ。
﹁せいっ!﹂
いつものフラットサーブだ。
﹁フォールト﹂
あれ? 今日は審判、辛目か?
サツキがフォールトするなんて珍しい。
﹁おっかしいなあ⋮⋮せいっ!﹂
サツキ、落ち着けや。
そんなあわててセカンドサーブを打たなくてもいいのに。
パサッ。
次の球はネットにはまった。
﹁ダブルフォールト、ゼロワン﹂
あれ? サツキがそんなミスするなんて⋮⋮。
1141
ダブルフォールトなんて久々じゃね?
﹁サツキ! 落ち着け! リラックスリラックス!﹂
﹁わかってるよ! ヤス兄!﹂
ほんとかよ⋮⋮気、張りまくってんじゃん。
﹁今度こそ! せいっ!﹂
りきむな、サツキ。
﹁フォールト﹂
くそ⋮⋮サツキのやつ、さっきまでめっちゃ普通だったのに突然ど
うしたんだ?
﹁サツキちゃん、とりあえずのんびり打とう? 入れないとどうし
ようもないよ﹂
﹁そうなんだけど⋮⋮﹂
﹁調子悪いのは誰だってあるからさ、いつもみたいにコース狙うの
はやめとこ?﹂
﹁⋮⋮わかった﹂
めっちゃ不満顔だな⋮⋮サツキ。
まあ、いつもみたいに打てないだけでも腹立つよな。
1142
﹁⋮⋮せいっ!﹂
ようやく入った。でもいつもの球速もコースの正確さもない。
ただ入れただけって感じだ。
﹁たあっ!﹂
相手方のリターンが決まる。
⋮⋮さすが東海大会に出場してきただけはある。
簡単なコースに打ってしまうと、もともとそんなにスピードのない
サツキの球は簡単に返されてしまう。
⋮⋮これは、サツキのサーブのときはこのままじゃやられたい放題
だぞ⋮⋮。
気負いすぎるなよ、サツキ⋮⋮。
1143
そっからも防戦一方だった。
とにかくサツキの調子が悪い。
気負いすぎてるって言うのももちろんあるんだけど、いつも以上に
動きが重い感じがする。
⋮⋮もしかして、練習の疲れが取れてないのか?
﹁なあサキちゃん、昨日って練習って何時に終わったの﹂
﹁え? 昨日は疲れ取るためって朝の11時には終わりましたよ?﹂
﹁⋮⋮昨日、サツキが帰ってきたの19時近かったんだけど、何し
てたか知らない?﹂
﹁や、知りませんよ? ﹃ヤス兄が心配だから先帰るね!﹄って練
習終わったと同時に帰りましたし﹂
いやいや、見てないし。
1144
⋮⋮サツキのやつ、こっそり1人で練習してたな。
俺が風邪引いてる間、サツキが家事してたんだからあんま寝てない
だろうし⋮⋮その間、練習量が減ったからその分を取り返そうとや
ったんだろうけど、前日でどんなにもがいても、そんなには伸ばせ
ない。逆に疲れで動けなくなってる。
﹁⋮⋮どうしよ?﹂
﹁サツキちゃんのことはヤス先輩が一番知ってるんじゃないですか
? 何か一声かけてあげてくださいよ﹂
何かって言っても⋮⋮。
今は0−2で負けてる。このゲームも完全におされ気味で、もう1
ポイントとられたらこのゲームもとられてしまう。
今のサツキ、本当に体が重いのか、全然走れてない。
いつもは豪快なクロちゃんのサポートをちょこまかと走り回ってる
のに、それがことごとく取れないでいる。
相手もさつきが動けてないのがわかるのか、集中的にさつきの方向
を狙っている。
いま、サツキのほうへスマッシュが打たれた。
﹁たあっ!﹂
﹁わっ!?﹂
頑張って腕を伸ばしてとろうとしてるけど、いかんせん足が動いて
ないもんだから届かない。
1145
﹁ゲーム、ゲームカウント0−3﹂
次のゲームとられたら負けか。
﹁ほら、何か声かけてあげてくださいよ!﹂
⋮⋮ま、あれだな。
﹁サツキ!﹂
﹁⋮⋮何さ﹂
﹁好きだ!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁死んでしまえ! バカ兄!﹂
﹁笑ってるサツキのがもっと好きだ!﹂
﹁うるさいよ! ヤス兄﹂
﹁だから笑って! そんなぶすっとプレイすんなよ!﹂
﹁あーはいはい! 恥ずかしいから! 笑えばいいんでしょ! 笑
えば! もう話しかけて来ないでよ!﹂
そうそう、笑ってくれればいいんだ⋮⋮。
話しかけてくるななんていうなよう⋮⋮。
1146
﹁さすがヤス先輩です。見事な変態っぷりでした﹂
﹁⋮⋮サキちゃんは褒めてるの? けなしてるの?﹂
﹁ご想像にお任せします﹂
⋮⋮うわ、気になる。
その後も相変わらず、動きは重いままだったけど、どうにかクロち
ゃんにサポートしてもらいつつ、1ゲームは取り返した。
けど、結局反撃もここまで。
サツキたちは1−4で負けた。
﹁ごめんねクロちゃん、役に立とうと思ってこっそり練習して、そ
れでへたれてちゃ意味ないね﹂
﹁気にしない、まだ勝負は決まってないんだから﹂
1147
﹁うん、そだね。お願いね! キリ、マイマイ、サキちゃん、ミキ
ミキ!﹂
そうだ。
負けたからって気にしすぎちゃ駄目だ。切り替えるんだぞ、みんな。
1148
124話:サツキの中総体東海大会、ダブルス1︵後書き︶
こんばんは、今日中に何とか投稿できました。
昨日飲みでつぶれ、朝起きたら出勤時間、帰ってきたのが21時。
⋮⋮いろいろ厳しかった。
明日以降もきちんと投稿するつもりですので、よろしくお願いしま
す。
1149
125話:サツキの中総体東海大会、終わり
﹁ゲーム、ゲームカウント、2−4、ウィナー、カツマタ&カツタ﹂
終わった⋮⋮。負けちゃったか。
ダブルス2、キリ&マイマイペアが2−4で負け、この時点でサツ
キ達の中学の負けが決まった。
⋮⋮相手に負けたって言うより、自分に負けたって感じだった。
今まで地区予選からダブルス1のサツキ&クロダペア、負けた事な
かったからな。
知らず知らず、ダブルス2のキリ&マイマイは﹃自分らは負けても
まだ大丈夫﹄という安心感の中対戦してたんだろう。
今回は﹃自分らが負けたらもう後がない﹄というプレッシャーの中
対戦してたからな。
動きがいつもより固かった。
色々叫んでみたけど、今回は何も効果なかったな。くそう⋮⋮無力
だ。
﹁ほらサツキもクロちゃんも、まだサキちゃんとミキミキの試合が
残ってんだから! 泣くのは後!﹂
﹁他人事だと思って⋮⋮ヤス兄の馬鹿あ﹂
﹁はいはい、胸なら貸してやるぞ﹂
﹁⋮⋮うるさい、変態兄﹂
1150
へこむから⋮⋮そんな事言わないで⋮⋮。
さ、泣いても笑っても、これがサツキ達の中学のラストの試合だ。
しっかり応援してやろう。
﹁ダブルス3、サキ&ミキ vs マダ&カトウ﹂
うわ、まだ勝つ気かよ⋮⋮
負かせたれ! サキちゃん&ミキミキ!
まずはマダさんのサーブだ。
どんなサーブを打つんだ?
ん? 上から打たないの?
﹁テイッ!﹂
アンダーサーブだっけ? 打つ人始めて見た。
⋮⋮うわ、すごい回転。アンダーサーブで打つとあんな回転がつく
んだ。
めちゃくちゃ返しにくいところにサーブが飛んでくる。
﹁ふんっ!﹂
1151
無理矢理変なフォームで返すミキミキ。
返れっ!
パサッ⋮⋮。
﹁ネット、ワンゼロ﹂
いきなり始めてのサーブとの対戦か。
苦戦しそうだ。
もう1回マダさんのサーブ。
﹁テイッ!﹂
またアンダーサーブ。
サキちゃん、とれるか?
﹁こんなもん、余裕!﹂
お、すげえ、本当に取った。
﹁むかつくな⋮⋮テイッ!﹂
マダさん⋮⋮怖いから。
マダさんは低めの球を打つ。
トンッ⋮⋮。
1152
げ、コードボールかよ!?
ミキミキ、とれるか!?
﹁⋮⋮やっ!﹂
慌てて飛び込んだけど届かない。
⋮⋮狙ったのか?
あ、何か謝ってる。
わざとじゃないなら気にしない。
まあ、低め低めを狙うとどうしてもコードボールも出ちゃう事ある
よな。
﹁ツーゼロ﹂
しかし、ポイントを取られた事には変わりない。
このままずるずると点を取られ続けるのは避けたいな。
次はカトウさんのサーブだ。
﹁デイッ!﹂
カトウさんは上からのサーブなんだな。
中々のスピードのフラットサーブだ。
﹁ふんっ!﹂
そう言うサーブはクロちゃんが同じ中学にいるから慣れてる。
バック方向を狙われたけど、落ち着いて返した。
﹁軽々と返してくれちゃって⋮⋮デイッ!﹂
1153
低めの弾道で返す。
トンッ⋮⋮。
うわっ、またコードボールかよ⋮⋮。
﹁このっ!﹂
サキちゃんが飛び込む。
何とか追いついて返したけど、既にマダさんがスマッシュの体勢だ。
﹁テイッ!﹂
スパンッ!
決まったか⋮⋮。
2回連続コードボールって、かなり不運だな⋮⋮。
﹁スリーゼロ﹂
やばいな、完全に向こうに運が行ってるっぽい。
﹁あわてんなよ! 運が悪かっただけなんだから!﹂
﹃わかってます!﹄
おし、大丈夫そうだ。
もう1回カトウさんのサーブ。
1154
これを決められたら1ゲーム目がとられてしまう。
﹁デイッ!﹂
サキちゃんがレシーバーだ。
いつも通り返してやれ。
﹁ばっかやろう!!﹂
⋮⋮サキちゃんってストレス溜まってんのかなあ。
﹁これで終わりだよっ!﹂
トンッ⋮⋮。
3回連続!? ありえん!
絶対偶然じゃないだろ!?
﹁相手、絶対コードボール狙って打ってるよ﹂
﹁だよね、それができるレベルは確かにすごいんだけど⋮⋮むかつ
くね﹂
⋮⋮不謹慎な話をするなよ。
﹁もう最後だし⋮⋮﹂
﹁⋮⋮やる?﹂
⋮⋮やめなさい。
1155
⋮⋮やるの範囲がそれでよかった。
何をやるのかと思ったら、ただ単に相手をめちゃくちゃ走らせると
言ういつものプレイ通りだった。
対抗して相手にボールをぶつけまくるとか、こっちもコードボール
を狙うとか、そんな事は止めてくれてよかった。
現在ゲームカウントは3−3。
ゲームカウントはならんでるが、ポイントは後1ポイントでこっち
の勝利だ。
相手はバテバテ、もう走れそうにない感じ。
対するこっちの2人組はまだまだ元気。
⋮⋮お前ら、どんだけ体力をつけてきたんだよ。
ラストを決めるかどうかのサーブはサキちゃんだ。
1156
レシーバーはカトウさん。
⋮⋮みんな、まだ試合は終わってないんだ。
確かにこれで、お前らの中学のテニスは終わりになっちゃうんだけ
どな⋮⋮まだ泣きそうになってんなよ。
﹁だあっ!﹂
おもいっきりサーブが打たれた。
小細工も何もないまっすぐなサーブ。
﹁デイッ!﹂
何とか返す、カトウさん。
トンッ⋮⋮。
また、ここでコードボールが来た。
これは本当に偶然起きたコードボールだろう。
ただ、狙われまくって慣れてしまったのか、ミキミキの反応が速か
った。
﹁ふんっ!﹂
思いっきりマダさんとカトウさんの真ん中を貫いてスマッシュが決
まる。
﹁⋮⋮ゲーム、ゲームカウント4−3。ウィナー、サキ&ミキ﹂
1157
終わったか⋮⋮。
真ん中でお互いに握手をすませて、こっちのベンチに戻ってくる。
全体としては、
ダブルス1 ×
ダブルス2 ×
ダブルス3 ⃝
の1−2で、東海大会1回戦負けが決定した訳だ。
﹁お疲れさま、サキ、ミキ﹂
﹁ありがとうございます⋮⋮先生﹂
試合には勝ったけど、チームは負けたんだもんな。
⋮⋮。
﹁今日までお疲れさま、みんな⋮⋮レギュラーのみんな、よく頑張
ったね。大会に出られないまま終わっちゃったみんなも、サポート
ありがとうね。ここまで戦って来れたのも、陰ながらのサポートや、
応援があったからだよ﹂
﹃はい⋮⋮﹄
﹁私たちは日本一頑張ったんだから⋮⋮いつか思い出になるかもし
れないけど、今は思いっきり泣こう?﹂
﹃はい⋮⋮ううううええええん﹄
1158
エリさんとシイコさんとの約束、守れなかったな⋮⋮サツキ達の夏
はここで終わった。
1159
126話:甘えん坊
東海大会が終わって、8月9日土曜日。
昨日はみんなで思いっきり泣いて、互い互いに今までの思い出を話
し合ってた。
1回戦負けを聞いてから、オカ姉妹もこっちにやってきて、今まで
の試合について振り返ったりしてた。
特にサキちゃん、ミキミキとは思い入れが深かったみたいで、延々
としゃべってたなあ。
今日もまだ話し足りないみたいで、サツキ、クロちゃん、サキちゃ
んの3人でクロちゃんの家に集まってお疲れ様会をやるらしい。
東海大会の結果は愛知、岐阜、三重、静岡のそれぞれの県の1位が
ベスト4に残り、愛知が1位、三重が2位、岐阜が3位、静岡が4
位と言う結果になった。
フクシマ&カミムラ、オカ姉妹がいる中学校はフクシマ&カミムラ
が勝ってたけど、残りのオカ姉妹、ナカタ&スズイペアが負けてし
まって、4位と言う結果に終わっていた。
東海大会から全国大会に残れるのは2位までだから、全国にいける
のは愛知の1位と三重の1位の2校だ。
あの中学、個人戦でも残ってるのはフクシマ&カミムラのペアだけ
で、オカ姉妹は県大会で終わってる。
⋮⋮オカ姉妹も、昨日で夏が終わったってことだ。
1160
試合、見てたけどオカ姉妹も号泣してた。
なんか、今までやってたことが終わってくって言うのは寂しさを感
じるな。
今は12時半、部活を終え自宅に帰り昼食をのんびりと食べたとこ
ろだ。
﹁それじゃ、行ってきます! ヤス兄!﹂
﹁はいよ、いってらっしゃい﹂
楽しくやってきてくれ、サツキ。
今日は夕飯もクロちゃんの家で食べてくるって言ってたからな。
夕飯他に一緒に食べる人⋮⋮父さんも母さんも帰ってこれんだろう
し、ケンも兄貴のアパートに遊びに言ってるし⋮⋮
1161
ユッチとかポンポコさん、アオちゃんあたりを誘えばよかったかも。
今日は一人で夕食かあ⋮⋮。
っと⋮⋮そろそろバイト行かないとな。
監視員バイト⋮⋮暑いし、きついし⋮⋮土曜日はケンがいないから
余計にきついんだよなあ。
﹁終わった⋮⋮長いなあ﹂
次回バイトするときはもっとぼけーっと出来るバイトを探したい。
1162
や、監視員バイトってぼけーっとできそうなんだけど、逐一見張っ
てようと思うとしんどいんすよ。
ケンからは
﹁もっとヤスは肩の力抜いていいと思うぞ、と言うか抜け! そん
な状態でもしも事故起こったらどうすんだ? 逆に体が動かなくっ
ておぼれてる人と一緒になっておぼれるなんてあほなオチになっち
まうかもだぞ﹂
とこの前のバイトのとき、言われてしまった。
確かに肩に力入りすぎると何か起こった時に動きが鈍くなるもんな
あ。
うむ、力加減が難しい。
今は帰り道、自転車をキコキコこぎながら家に向かってる。
TRRRRR、TRRRRR、TRRRRR⋮⋮。
﹁お? 誰だ?﹂
とりあえず自転車止めて電話番号見てみると、サツキから。
﹁ん? 何の用だろ?﹂
1163
とりあえず電話に出てみる。
﹁はいはーい、近藤です。サツキ、どした?﹂
﹁あ、クロダです! ヤス先輩ですか!?﹂
﹁あ、クロちゃん? 何でサツキの携帯使ってるの?﹂
﹁ちょっとやばいんです! 早く家来てくれませんか!?﹂
﹁はあ⋮⋮状況がよく分からんのやけど﹂
﹁いいからお願いします! わ、わ、サツキちゃん! やめて! やめてー!!﹂
へ、サツキ?
﹁な、なあ!? サツキがなんかしてんの!?﹂
サツキがオイタをしたのか!?
﹁やーめーてー! ぬーがーさーなーいーでー! こーわーさーな
ーいーで!!﹂
サツキ!? 何やってんの!!?
﹁クロちゃん!? 大丈夫!!?﹂
﹁はうっ!?﹂
1164
プツッ、ツー、ツー、ツー。
き、きれた⋮⋮。
サツキ!? 本当に大丈夫か!?
サツキの電話に折り返しかけなおしてみたけどさっきから
﹁お客様のおかけになった電話番号は現在電波の届かないところに
いるか、電源がきれているため、かかりません。お客様のおかけに
なった電話番号は︱︱﹂
くそっ、さっきクロちゃんからの電話がきれたときに電源もきれや
がったか?
⋮⋮ヤバそうだ! 早くクロちゃんの家に行かないと!!
クロちゃんの家に到着!
ドタドタとクロちゃんの部屋のある2階へと上がる。
ドア開ける⋮⋮ん? となんか声が聞こえてくる。
1165
﹁なんでヤスおにいちゃんがいないのー!? ヤスおにいちゃんい
ないのやだよー!﹂
ヤスおにいちゃん⋮⋮懐かしい呼び名だな。
﹁さ、さっきクロちゃんがヤス先輩呼んだから、もうすぐ来るよ﹂
﹁さっきもサキちゃんそういったもん、ヤスおにいちゃんはわたし
がきらいになっちゃったんだもん﹂
﹁そ、そんなことないよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮じゃあヤスおにいちゃんはなんできてくれないの⋮⋮?﹂
や、もう来てます。入るタイミングを逃しました。
﹁き、来てくれるよ⋮⋮﹂
﹁そんなことないもん、ヤスおにいちゃん、さいきんいっしょにね
てくれないもん﹂
﹁や、ふつうだよ⋮⋮﹂
﹁そんなことないもん、さんがつまではねてたもん﹂
﹁そ、そうなんだ⋮⋮﹂
サツキ⋮⋮暴露しないで。
﹁ヤスおにいちゃーん⋮⋮ヤスおにいちゃーん﹂
1166
⋮⋮泣いてる?
⋮⋮早く部屋に入ろう。
﹁サツキ! お待たせ!﹂
⋮⋮立ち聞きしてたから、微妙に気まずい。
﹁あ、おにいちゃん!﹂
泣いてたサツキがもう笑ってる。
さっきまで泣いてたみたいで、目はちょっと赤くなってるけど。
﹁っておい!?﹂
ガスッ!
﹁アイタタタタ⋮⋮サツキ、いきなり飛び込んでくるなよ﹂
突然サツキに抱きつかれ、ついついしりもちついてしまった。
﹁おにいちゃんだあ⋮⋮ヤスおにいちゃんだあ﹂
⋮⋮ゴロゴロと顔をこすりつけないで。かわいすぎるから。
ついつい頭をなでてしまう。
﹁えへへ∼。ヤスおにいちゃん∼﹂
くるくると嬉しそうな声を出してるサツキ。
1167
⋮⋮⋮⋮⋮⋮かわいすぎる!!
﹁あ、あのヤス先輩?﹂
﹁あ、へ? え? 何?﹂
いかん⋮⋮理性が飛ぶところだった。
﹁なんかサツキちゃん、私の家にあったチューハイをジュースと勘
違いして飲んじゃって⋮⋮そしたら突然﹃ヤスおにいちゃん∼!﹄
って暴れだしちゃって﹂
⋮⋮言われてみれば、部屋の中が荒れまくってる。クロちゃんが抑
えようと頑張った形跡が見られる。当のクロちゃんは部屋の隅っこ
でばててる。
﹁もっとなでてよ∼﹂
﹁ああ、はいはい﹂
﹁えへへへ∼﹂
ああもう、かわいいなあ。
﹁で、でですね﹂
あ、ごめん⋮⋮また忘れてた。
﹁サツキちゃん、こんなんになっちゃっいましたし、ヤス先輩、連
1168
れて帰れませんか?﹂
⋮⋮そだな、連れて帰るか。
﹁ほら、サツキ。帰るよ﹂
﹁だっこ∼﹂
だだっ子め⋮⋮俺も抱きついちゃいたい。
﹁おんぶじゃだめ?﹂
﹁じゃあおんぶ∼﹂
﹁はいはい、じゃあ背中にのって﹂
﹁わ∼い!﹂
よっと。
ああ、サツキってやっぱり軽いなあ。
﹁じゃあかえろっ! ヤスおにいちゃん!﹂
﹁あいよ! ⋮⋮後片付けできなくってごめんね、サキちゃん、ク
ロちゃん﹂
﹁あ、いいですよ。また今度です﹂
﹁はいよ、またね﹂
1169
﹁ばいばーい﹂
背中で大きく手を振るサツキ。
⋮⋮ん、帰るか。
自転車では帰れないからトコトコと歩いて帰る。
﹁ヤスおにいちゃん! きねんしゃしんきねんしゃしん!!﹂
﹁はいはい、何でとるの?﹂
﹁わたしのケイタイ! ほらほら、かおちかづけてよ∼﹂
⋮⋮よっと。
﹁じゃあいくよ! はい、ピース!﹂
カシャ!
﹁わーい、ヤスおにいちゃんとのツーショットー!!﹂
これくらいでそんなに喜んでくれるんだなあ。
1170
﹁これ、わたしのまちうけにするもんね!!﹂
お∼、うれしいね∼。
﹁ヤスおにいちゃん! きょうからまたいっしょにねようね!﹂
って前寝なくなった時、サツキが嫌がってたような⋮⋮いいのか?
﹁ねーるーのー!!﹂
﹁うん、寝ような﹂
﹁わーい!﹂
⋮⋮。
翌日。
1171
6時半か⋮⋮と言うかサツキ、手を放してくれないなあ⋮⋮かわい
いなあ。
12時。
﹁⋮⋮う、うーん﹂
お? 起きたか?
﹁おはようさん、サツキ﹂
﹁お、おはよ⋮⋮あ、あれ? ヤス兄? 何で!?﹂
﹁昨日の覚えてない?﹂
俺は酒飲んだときのこと、覚えてないし。
﹁き、昨日? ⋮⋮⋮⋮⋮!!!﹂
え? あれ?
サツキの顔がみるみる赤くなっていってる。
﹁ヤス兄! 出てけー!!﹂
1172
﹁や、手繋いだままだし﹂
﹁⋮⋮! うるさいうるさいうるさい! でてって!﹂
慌てて追い出された⋮⋮。
﹁ヤス兄! 昨日の事は忘れて!!﹂
え!? やだよ。
﹁お願いだから忘れて! 違うんだから! 違うもん! 違うんだ
もん⋮⋮﹂
や、昨日の嬉しかったから忘れない。
﹁ああうう⋮⋮顔をあわせられない⋮⋮﹂
全部覚えてるのか、サツキは。
3時間くらいみんなでなだめて、ようやく部屋から出てきてくれた。
まだ顔、真っ赤だったけど。
もう、かわいいなあ。
1173
126話:甘えん坊︵後書き︶
こんばんは。
またやりすぎちゃった感が⋮⋮まあいいや。
というか、﹁主人公が変態﹂って評価をもらってしまったその日に
この投稿ってどうなんだろう⋮⋮。
最近投稿時間がバラバラで申し訳ないです。
今後ともよろしくお願いします。
1174
127話:ラジオ体操
今日は8月12日、部活も夏休み期間にはいって朝はのんびりでき
る日だ。
⋮⋮⋮⋮なのになんで俺は6時に目が覚めてしまうんだろう? 今
日は目覚ましも止めたのに⋮⋮。
とりあえず起きるか。起きて適当に準備しよ。
﹁終わっちゃった⋮⋮﹂
なんか昨日の残り物とかパンとかで適当に朝飯作ってたら10分で
できてしまった。
なんだこの手抜きっぷり⋮⋮まあ、たまにはいっか。
﹁しかし、暇だなー﹂
こうも何もすることがないと言うのもつまらない。新聞も最近はほ
とんどオリンピックネタだからな。
それは昨日のテレビで大体知ってるし。
﹁ふむ⋮⋮新聞もテレビもなしとなると⋮﹂
1175
たまにはラジオ?
ケンによれば意外と面白いのも多いらしい。
カカラジとか、前回は聞き損ねたからなあ。今回は聞いてみたい。
﹁前回は7月28日だったから⋮⋮それに25日を足してと⋮⋮8
月22日か﹂
まだまだ先だなあ。
ま、とりあえずつけてみるか。
⋮⋮ガー⋮⋮ガー⋮⋮
ありゃ、チャンネルが合ってねえや、えと、クルクルと⋮⋮。
お、合った。
﹁あーたーらしーいーあーさがっきたっ!﹂
おー懐かしい、ラジオ体操か。小学校のとき眠れるサツキを無理や
り起こして毎日行ったなあ。
﹁きーぼーおのあーさーだっ!﹂
全然おきてくれないときはこの前みたいにおんぶして⋮⋮懐かしい。
﹁よろこーびにむねをひーらけっ おおぞーらあーおーげーっ!﹂
サツキが小6のときも一緒になって、中1のときまで行ってたなあ。
1176
﹁ラジオーのっこーえにーー すこやーかなっむーねをー!﹂
中1になっていったときは笑われた⋮⋮くそう。
﹁この香る風に 開けよ﹂
でも、次の日からケンも一緒になってきてくれたなあ。
﹃それ 一 二 三!﹄
﹁おし! 今日の朝は一緒にやってみっかあっ!﹂
﹁全国の皆さん、おはようございます!﹂
﹁おはようございまーす!﹂
近所の皆さん、ごめんなさい。
なんかテレビとかでも、
﹁おはようございます﹂
って言われると、ついつい挨拶してしまうんだよ。
﹁今日は夏休みと言うことで、長野県長野市の小学校に来ています
! 小学生のみんな、おはよーう!﹂
﹃おーはーよー!!!﹄
わお、元気だ、長野県民。
1177
さすが長寿県民の県だ。
⋮⋮あんま関係ないな。
まあ、元気でいいことだ、うむうむ。
﹁それでは第一体操を始めます!﹂
チャーチャッラチャラララチャーチャーラチャラララチャラララチ
ャラララチャーラーララー︱︱。
﹁腕を前から上に上げて大きく背伸びの運動からー、はい!﹂
はいはーい。
﹁1、2、3、4、背すじを十分に伸ばしましょー、手足のうんど
ー﹂
なんかしゃべってる人のリズムが楽しい。
﹁1、2、3、4、さあかかとの上下運動をしっかりとおこないま
しょー﹂
あ、そうなんかあ。
かかと、上下させてたんだ。腕をぶるぶる振るだけだと思ってた。
﹁腕をまわしまーす﹂
え? これだけ? やったことない人わかるんか?
﹁外回し! 内回し! 腕をしっかりと伸ばして大きく回します!﹂
1178
内と外ってどっちだよ⋮⋮知らねえよ。
﹁いいち、に! さん、しい!﹂
や、そんな力強く言わなくても。
﹁足を横に出して胸の運動!﹂
⋮⋮胸の運動ってどないやねん。
この辺から覚えてないんだけど。
﹁横振りー﹂
こ、こうか? 胸を左右に振ってみる。
﹁斜め上に大きくー!!﹂
斜め上ー!? 斜め上って何ー!?
斜め上に大きくジャンプ!! ⋮⋮こんな運動あったっけ?
﹁横曲げのうんどー!!﹂
あ、横曲げってあれか。
体上半身を左右に倒して、片方の腕は腰に当てて、もう片方は大き
く伸ばすやつだな。
﹁体を横に曲げて、胸の横をよく伸ばしまーす、5、6、7、8﹂
うっす⋮⋮体が硬い⋮⋮朝って余計に体が硬いな⋮⋮。
1179
﹁前後に曲げる運動でーす﹂
これか、体が硬いのがばれて嫌いなんだが⋮⋮。
﹁弾みをつけてやあらかく、両手を腰に当てて状態をそらせまーす﹂
﹁あ゛ーーっ﹂
あいたたたた⋮⋮。
﹁1、2、3、4、5、6﹂
﹁う゛あ゛ーっ﹂
後ろに体をそらせるときって何か言いたくならないか?
﹁腕を振って体をゆすります﹂
⋮⋮?
何それ?
﹁左!右!﹂
手をバタバタさせながら左右にジャンプ!
﹁斜め後ろに大きく!﹂
斜め後ろに大きくジャンプ!
﹁右、左、3、4、大きく!﹂
1180
右左にジャンプ!
⋮⋮⋮⋮こんな運動、絶対なかった⋮⋮⋮⋮。
﹁足を戻して手足のうんどー﹂
手足の運動って一番最初にやったやつだよな?
﹁肩、上﹂
肩? 上?
肩を上にあげる?
﹁肩、下、指先までしっかりとのばしましょー﹂
肩を下に下げる?
指先伸ばしながら?
こ、これでいいのか?
大した運動になってないんだが⋮⋮。
﹁足を開いて斜め下ー﹂
さっきからわからん⋮⋮。
﹁やわらかく曲げて﹂
とりあえずやわらかーくしんきゃくをしてみる。
﹁正面で胸をそらせます、やわらかく、そらせまーす﹂
1181
しんきゃくしながら胸をそらせる!?
ど、どうすんの⋮⋮?
﹁と、ととととと﹂
どしん!
ととと尻もちついてしまった。
違うだろ、これ。
﹁12、56、体を大きく回しましょう!﹂
体を回すのか?
ええと⋮⋮。
﹁1、2、3、4、5、6﹂
その場でぐるぐる回ってみる。
め、目が回るー。
﹁腕で大きく引っ張るようにして﹂
な、なんじゃそりゃー!!!
腕を伸ばせばいいんだな! そうなんだな!
﹁うおりゃああああ!!﹂
﹁5、6、両足とびの運動です!﹂
あれ? こんなに目が回った状態でジャンプすんの?
1182
﹁1、2、3、4﹂
むり、むり、むり、むり。
﹁開いて、閉じて、開いて、閉じて﹂
手をグーパーさせつつジャンプジャンプ。
﹁手足のうんどー﹂
またか、多いなー。
﹁ゆったりとうごいて、はずんだ息を整えますよー﹂
ああ、本当に息、はずんでる。
ラジオ体操ってこんなにはずんだっけ?
﹁深呼吸ですー﹂
お、ようやく最後か。
﹁ふかーくいきをすってー﹂
すーーーー。
﹁はきまーすー﹂
﹁はーーー﹂
1183
﹁繰り返しましょー﹂
すーーーー。
﹁はーーー﹂
ふう、長かった。
てててーてててー、ててててててー
あれ?
﹁続きまして、ラジオ体操第2ー﹂
﹁まじ!? そんなんあったっけ!?﹂
まだ目が回ってるー。
1184
﹁おはよー、ヤス兄⋮⋮何ドタバタしてたの?﹂
﹁おはよ、サツキ⋮⋮早いな⋮⋮﹂
﹁なんかあんまりにもドタバタうるさかったから目がさめちゃった﹂
珍しい⋮⋮。
﹁で、なにばててるの?﹂
﹁や、第2体操は鬼だ⋮⋮﹂
﹁は?﹂
いいんだ⋮⋮わかってもらえなくたって。
第2体操の苦しみがわかるのは俺だけだ。
1185
127話:ラジオ体操︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ラジオ体操、今日の朝久々にやったのでこんな話になりました。
ラジオ体操のセリフ、聞いてるだけだと何すればいいかさっぱり分
かりませんね。
⋮⋮今日、妹から
﹁最近話が雑﹂
と怒られました。
時間がなくて、書ききった後見直ししてなかったせいで会話のリズ
ムがめっちゃ悪かったらしいです。
あと、サツキの東海大会をおざなりにさっと終わらせたのもムカつ
いたらしい⋮⋮そんなつもりはなかったんですが、ごめんなさい。
読みにくくてすみません、気を付けます。
それでは、皆さんも見捨てずによろしくお願いします。
1186
128話:お盆
8月13日、今日からお盆だ。
俺やサツキのおじいちゃん、おばあちゃんは母さんの方は俺らが生
まれる前に早くして亡くなってしまったらしいし、父さんの方も俺
らが小さい頃に死んじゃったから、もういない。
ほんとに小さい頃だったから、全然覚えていないんだよな⋮⋮。
俺もサツキも葬式のときはぽけーっと座ってたらしい。
母さんも父さんも、おじいちゃんやおばあちゃんの事になると、す
ごく懐かしそうに話してる。
きっとすごく仲が良かったんだろう。
⋮⋮ちょっとくらい覚えてたかったな。
1187
﹁サーツキ! そろそろ行くぞ!﹂
﹁もうちょっと待ってよ! 帽子かぶって行きたいんだもん! あ
と少しで決まるから!﹂
﹁父さんも母さんももう待ってるから、早くしろよー!﹂
﹁はーい!﹂
ま、5分くらいで降りてくるかな。
﹁お待たせ!﹂
﹁ういうい﹂
全員で車に乗り込み、出発だ。
﹁まずはどっちにいくの?﹂
﹁父さんのほう﹂
﹁ほーい、了解﹂
俺たちが今から行くのは、墓参り。
1188
彼岸、お盆は欠かさず行ってるんだけど、もうちょい多い頻度で行
かないと墓の回りってすぐに草でぼうぼうになっちゃうんだよな。
もうちょっと行く回数は増やした方がいいんだろうな。毎日通って
る人もいるって言うし。さすがに毎日はちょっと遠いからそれは無
理だなあ。
さてと、着いたっと。
俺の家の墓はっと⋮⋮あ、ここだ。
﹁んじゃ、お父さん、お母さん、ヤス兄、掃除しよっか﹂
﹁はいよ﹂
サツキが墓石を拭いて、母さんが前の花の片付け、父さんと俺で雑
草を抜き抜き。
⋮⋮前の彼岸から来てなかったから、荒れ放題だ。
ちょいちょい、とつっつかれた。
1189
⋮⋮父さんか。
サツキと俺が構わないなら、もっとちょくちょく来たいって聞いて
きた。
﹁俺は全然構わないよ、サツキは?﹂
﹁私もー﹂
うん、自分の家の墓が荒れ放題ってのは気分がいいもんじゃないも
んな。
このお墓、見に来れるのうちの家族だけだし。
⋮⋮うん、こんなもんだろ。
雑草は抜いてゴミ袋に入れて、捨てに行った。
戻って来たら、母さんとサツキで花を供えてる。
お供え物もほんとはあった方がいいらしいけど、1回やった時にカ
ラスに荒らされてからはもうお供え物はしない事にしたって聞いた。
﹁次って何やるんだった?﹂
﹁水鉢に水はるんじゃなかったっけ?﹂
1190
﹁あ、そっかそっか﹂
とぽぽぽぽぽ。
﹁ほいほい、それじゃヤス兄、墓石に水かけてね﹂
﹁あーい﹂
ま、サツキの背だと墓石の上からかけんのしんどいからな。
ちゃぷちゃぷちゃぷちゃぷ。
﹁ういうい、かけ終わったっす﹂
﹁ん、それじゃ、はい﹂
火のついた線香を受け取る。
⋮⋮合掌。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
ふぅ。
﹁じゃ、次は母さんの方か﹂
1191
﹁お寺には?﹂
父さん、母さんも首を横に振る。
まあそりゃそうか。
母さんの方はすごくいい坊さんだったけど、こっちの寺の坊さんは
⋮⋮この前の13回忌の時しか覚えてないけど⋮⋮。
﹁じゃ、母さんのとこいこっか﹂
﹁あいあーい﹂
﹁⋮⋮あれ?﹂
めずらし、今日会うなんて。
﹁こんちは、アオちゃん!﹂
﹁アオちゃん先輩! こんにちは!﹂
﹁⋮⋮あ⋮⋮ヤス君にサツキちゃん⋮⋮それにご両親ですか? こ
1192
んにちは﹂
⋮⋮⋮⋮何かめっちゃブルーなんだけど。
や、お寺の前で陽気って言うのも微妙だが。
﹁ど、どうしたんですか? アオちゃん先輩!﹂
﹁いえ、ただ単に今から祖父と祖母に会いに行くのが嫌なだけです
よ﹂
⋮⋮はて?
﹁お盆と正月が憂鬱って珍しいですよね。 でも、未だに祖父と祖
母が苦手で﹂
﹁アオちゃん先輩、昔何かあったんですか?﹂
や、俺も聞きたいけど、そんな直球で聞いていいのか?
﹁⋮⋮よくある話ですよ、私の両親って親に大反対されての結婚で、
駆け落ち同然だったんですよね﹂
⋮⋮よくあるのか知らんけど。
中々ヘビーそう。
﹁それで経緯ははしょりますが、父の方がぽっくりいっちゃいまし
て⋮⋮あはは﹂
あははって⋮⋮笑えないです。
1193
﹁もう父方の祖父祖母、息子が亡くなってしまってから、母に対し
て大激怒しちゃいまして。﹃お前のせいで!﹄って⋮⋮私の父、他
に兄弟もいませんでしたし﹂
⋮⋮どこの昼ドラだ⋮⋮。
﹁私も妹も、母同様祖父祖母にはそんな訳であまり好かれてないん
ですよ﹂
⋮⋮。
﹁ただ、正月や盆は会わないわけにはいかなくて、ちょっと憂鬱な
だけです⋮⋮よくある話ですよ⋮⋮﹂
﹁会わないわけにはいかないの?﹂
﹁毎年、連れていかれるので⋮⋮﹂
⋮⋮そっか。
﹁アオちゃん先輩!﹂
﹁は、はい! なんですか?﹂
﹁アオちゃん先輩のおばあちゃんもおじいちゃんも、さびしいんだ
と思いますよ!﹂
﹁は、え?﹂
﹁そんな事言わないで遊びに行きましょうよ!﹂
1194
﹁え? え? 何でですか?﹂
﹁だって、毎年連れてくんですよ! 嫌だったらさっさと﹃もう来
んな!﹄って言いますよ!﹂
﹁そ、そうですか?﹂
﹁そうですよ! 大体子供や孫が嫌いな親や祖父祖母はいないんで
すよ! ね、お父さん、お母さん!﹂
父さんも母さんもうんうん、とうなずいてる。
悲惨な事件も時々報道されるけど、俺もほとんどの親はそうだと思
ってる。
﹁それに、よく言うじゃないですか! ﹃おじいちゃんおばあちゃ
ん孝行、したい時におじいちゃんおばあちゃんはなし﹄って!﹂
﹁おいサツキ、それ言うなら﹃親孝行、したい時に親はなし﹄だぞ﹂
﹁最近は寿命が延びてるから私のでいいの!﹂
んなむちゃくちゃな。
﹁それに、ついこないだテレビで言ってましたよ! ﹃いじめてた
嫁の介護に 助けられ﹄って!﹂
﹁アオちゃんは嫁じゃないぞ﹂
﹁細かいツッコミはなしだよ! ヤス兄! ⋮⋮だからアオちゃん、
1195
おじいちゃんおばあちゃんも今はかたくななのかもしれませんけど、
いつか仲良くなれますって!﹂
﹁そ、そうですか?﹂
﹁そうですよ! 頑張ってください!﹂
﹁あ、はい⋮⋮ありがとうございます、サツキちゃん﹂
﹁はい! ⋮⋮あ、それじゃまだ墓参りありますし、またです、ア
オちゃん先輩!﹂
﹁またですね、サツキちゃん、ヤス君﹂
﹁はいよ、またね﹂
1196
﹁サツキ、何か懸命だったけど⋮⋮﹂
﹁⋮⋮だって、ヤス兄は思わないの?﹂
⋮⋮。
﹁私たちにはもうおじいちゃん、おばあちゃんいないんだもん⋮⋮
せっかくまだいるんだから仲良くして欲しいもん﹂
﹁そっか⋮⋮そうだな﹂
﹁⋮⋮だから、今家族とは思いっきり仲良くするんだもんね! ヤ
ス兄! お父さん! お母さん!﹂
もちろんだ。
これからもよろしく、サツキ、父さん、母さん。
1197
128話:お盆︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
家族とは仲良くしたいですね。
⋮⋮昨日、妹がいるって書いたら妹から
﹁あーあ、書いちゃった。ヤスと同じくらいのシスコンって思われ
るかもよ?﹂
と言われました。
⋮⋮いやいやいやいや!!! DNA鑑定なんてしてません! 結
婚するんだなんて宣言しません! 恋愛感情抱いたことありません!
やー、びっくりした。
変な事言うな、妹よ。
それではまた。
1198
129話:お盆明け
8月18日月曜日、今日からまた部活が始まる。
結局お盆も、墓参りの日を除いてバイトの休みが取れなかったから、
あまり休めた感じがしないんだが⋮⋮。
今は学校にて、部活が始まる前だ。
﹁ヤス、おはよっす!﹂
﹁ケンか、おはよ﹂
⋮⋮ってか、お互い黒くなったなあ。
受験期で真っ白になったけど、部活とバイトで真っ黒だ。
⋮⋮肌の色な。2人して日焼けしまくってる。
﹁ところでケン、最近すごく切実な相談があるんだが﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁そろそろネコミミを止めたい﹂
⋮⋮⋮⋮あれ? 何で反応しない?
﹁ヤスにも羞恥心ってあったんだな⋮⋮﹂
﹁あるに決まってるだろ!? いきなり何言ってんの!?﹂
1199
﹁ネコミミで学外を走るやつに羞恥心があるとは思えん﹂
く、正論を。
﹁そろそろ俺の羞恥心も限界なんだよ!﹂
﹁ってかヤス、誰かヤスにネコミミ強制してたか?﹂
﹁や、してない﹂
してないけど、しないと困る事があるんだよ。
﹁じゃあ、やめればいいじゃん﹂
﹁やめると、他の長距離メンバーと練習をせにゃならんのだ﹂
今はネコミミを理由に別々に練習してるからな。
考え直してみると⋮⋮どんな理由だよ⋮⋮。
﹁ふむ⋮⋮すなわちヤスは、他の長距離のメンバーと別々に練習が
出来ればそれでいいと言う事だな。そしてその理由が欲しいと﹂
﹁その通り!﹂
さすがケン、付き合いが長いだけあって俺の考えてる事をよく汲み
取ってくれる。
﹁じゃあ簡単じゃん﹂
1200
﹁何?﹂
﹁お前らとは練習したくないんだ! って言えばそれですむ話だろ
?﹂
や、そんな事を荒立てるような事はしたくないんだが。
﹁⋮⋮駄目なのか。すなわちヤスは、他の長距離メンバーがヤスと
は練習したくないと思わせればいいと言う事か﹂
﹁ま、そういうことになるのかな?﹂
﹁肥だめにつっこんだら?﹂
﹁やだよ! どんなに臭いんだよ!?﹂
﹁1週間風呂入るの止めたら?﹂
﹁それも臭いって!﹂
﹁毎朝ニンニクたっぷりの餃子でも食べて来たら?﹂
﹁だから臭いってば! 何でそんなに臭いのがいいんだよ!?﹂
﹁臭いときっといい事があるぞ﹂
﹁どんなだよ!?﹂
﹁満員電車でも自分の周りはがらがら﹂
1201
﹁それだけの為にどれだけのもん犠牲にすんの!?﹂
全く⋮⋮汲み取ってくれると思った自分が馬鹿だった。
その後もいろいろケンが考えてくれたが、明らかにウケ狙いのもの
しか言ってくれない。
﹁おはようございます、ヤス君、ケン君﹂
﹁おはよー、ヤス、ケン⋮⋮ふわあ﹂
ん? アオちゃんとユッチか。
ってかユッチ、ちゃんと起きてこい。
﹁ヤス君、ちょっとだけ仲良くなりましたよ!﹂
﹁ん? おじいさんおばあさんの事?﹂
﹁そうです! どうやったかと言いますと、ふたりとも囲碁が大好
きなんですよ﹂
ふむ。
﹁そこで、囲碁やりませんかって誘って⋮⋮﹂
なるほど、趣味から仲良くなった訳か。
﹁囲碁って初めてだったんですけど、なかなか43を作るのって難
しいですね⋮⋮﹂
﹁は?﹂
1202
や、俺も囲碁は難しいからやった事ないけど、43なんて言葉あっ
たか?
﹁黒の場合は33、44はアウトって難しすぎですよ﹂
何言ってんだ?
﹁ヤス君、どうやったら5つ並べられるんでしょう?﹂
⋮⋮えーと。
﹁それは5目並べで、囲碁じゃないぞ﹂
﹁え!? そうなんですか!?﹂
⋮⋮おじいさん、おばあさん、初めての人に囲碁させてもどうにも
ならんから、わざと5目並べにしたのかな?
頑張ったんだなあ。
ま、少し仲良くなれたみたいでよかった。
﹁⋮⋮こほん、ところでさっきまでヤス君とケン君は何話してたん
ですか?﹂
﹁ヤスがやる気ない人とどうやって別に練習しようか考えてた﹂
﹁やる気にさせればいいのさあ﹂
⋮⋮ユッチ⋮⋮あくび噛み締めながら、そんな無理なこと言うな。
1203
﹁それならぴったりのアイテムがありますよ!﹂
﹁や、もうアイテムに頼りたくないんだけど﹂
ネコミミとか⋮⋮もう嫌。
﹁大丈夫です! 端から見たら普通の人です!﹂
訳分からん、なんだそれは。
﹁その名も、﹃ブラジャー﹄!﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁あれ? どうしました?﹂
﹁それって女子が付けるもんじゃん! 何でおれ!?﹂
アオちゃんとかゴーヤ先輩とかキビ先輩とかウララ先生とか⋮⋮え
と。
1204
﹁⋮⋮ヤス﹂
﹁はいいっ!?﹂
﹁今、あからさまにボクから視線をずらしただろお!?﹂
﹁いやいや! そもそも胸を凝視するってセクハラじゃん!﹂
﹁アオちゃんの胸見といて何言ってんだあ! このへんたいい!﹂
その言い方変! 誤解されるから!
﹁どうせボクは胸がないよお! このやろお!﹂
﹁俺何も言ってないじゃん!﹂
﹁目が言ったあ!﹂
んな無茶な!
﹁これでも毎日頑張って牛乳飲んでるんだあ!﹂
﹁え?﹂
それにしては背が⋮⋮やばっ。
﹁⋮⋮⋮⋮ヤス﹂
﹁はいいいっ!﹂
1205
﹁今思った事正直に言ってみてよ、殴らないから﹂
ほんとかよ、めっちゃ握りこぶし作ってるじゃん。
﹁言えよお!﹂
﹁えっと⋮⋮背、かわいらしいなとか⋮⋮﹂
﹁チビって言いたいんだろお! このバカああ!!﹂
ゲシッ!
﹁いってえええ!!!﹂
脛! すね! スネ! すねは駄目だろ!
殴らなくても蹴るんじゃん!
﹁ヤス、そんな顔に出しちゃ駄目だろ、ポーカーフェイスを学べ﹂
⋮⋮無理!
⋮⋮⋮⋮痛い⋮⋮。
1206
130話:ブラブラ
いたたたたた⋮⋮。
すねは痛い、と言うかすねは蹴らないで欲しい。
﹁いたたた⋮⋮で、話し戻るけどアオちゃん、何でブラ?﹂
﹁﹃俺、ブラしてるんですよ﹄と言えば、普通の人はひくかなって
思いまして﹂
いやいや! なんでアオちゃんは俺をそんな変態にしたがるの!?
﹁大丈夫です! 最近男性用のブラというものが登場したんですよ
!﹂
﹁⋮⋮何それ?﹂
男性用ブラって⋮⋮必要ないやん。
﹁まだまだ知名度は低いかもしれませんが、楽天市場の﹃ウィッシ
ュルーム﹄という会社が販売してます﹂
まじか、冗談じゃなくてそんなんがあるんか。
﹁ええと、宣伝文句は﹃必要ないかもしれません﹄﹂
まさにその通りやん。
1207
﹁﹃でも⋮⋮ やさしくなれるんです。安心できるんです﹄だった
と思いますが⋮⋮うろ覚えです﹂
無関係なのにそれだけ覚えてるんがすごい。
﹁やさしくなれるらしいですよ?﹂
﹁⋮⋮俺がやさしくないみたいな言い方だな﹂
﹁ヤス君ってやさしいですか?﹂
﹁えーと⋮⋮人間として終わってるって言われたあ﹂
⋮⋮ユッチ、根に持ってるなあ⋮⋮。
﹁ヤスは家族、友達限定でならやさしいぞ﹂
ケン、それの何が悪い?
﹁あと、安心できるらしいですよ?﹂
﹁俺、そんなに不安症?﹂
﹁時々挙動不審ですよね﹂
挙動不審って言うならヤマピョンだろ。
⋮⋮そういやヤマピョン今日も来てないなあ。
これでまるまる1月来てない訳か。どしたんだろ?
﹁と言う訳でとりあえず付けてみてくださいよ﹂
1208
﹁どういう訳だよ!? 大体ブラなんてないじゃん!﹂
﹁ユッチのならつけれるんじゃないです?﹂
﹁アオちゃん!? 何変な事言ってるの!? 何でボクの!?﹂
きっと⋮⋮。
﹁⋮⋮ヤス?﹂
﹁はいいっ!?﹂
﹁今ボクの胸が小さいからボクのならつけれるんだなとか思っただ
ろ﹂
そこまで邪推するなよ!
﹁いやいやいやいや! 今のは失礼な事言ったのアオちゃんだろ!
俺何にも言ってないから!﹂
﹁目が馬鹿にしたあ! ヤスの目はボクをいつも上から見下すんだ
あ!﹂
﹁してないって! 上から目線なのは身長差あるんだからしょうが
ないじゃん!﹂
﹁うううう⋮⋮ヤス、ずるい! 背をわけろ!﹂
無理!
1209
﹁見てろよお! 絶対絶対将来はボインボインのムチムチプリンに
なって見せるんだからあ!﹂
俺は⋮⋮いやいや、そんな事は言えません。
﹁ユッチ、ヤスは小さい方が好きだぞ、俺は逆だけど﹂
ケン! 言わないで!
﹁ヤスの好みなんて聞いてないもん!﹂
俺も別に言ってないんだけど。
﹁⋮⋮ところで⋮⋮ユッチ、ムチムチプリンって何ですか?﹂
﹁あれ? アオちゃん知らないの?﹂
﹁ええ﹂
そりゃな、知らんよな。
﹁⋮⋮ユッチ、ボインボインとかムチムチプリンって死語だぞ﹂
﹁へ? そなの﹂
﹁うん﹂
⋮⋮⋮⋮えと。
⋮⋮そんなに真っ赤にならんでも。
1210
﹁ヤスの馬鹿あ! 聞き流せよお!﹂
ポカッ!
痛いから! ポカポカ殴るな!
﹁ほらほら、ユッチもそんなに怒っちゃ駄目ですよ﹂
﹁ヤスが悪い!﹂
無理矢理なすり付けるな、ユッチ。
﹁ヤス君も、そう言うのを聞いたら聞き流してあげるのもやさしさ
かもしれないですよ?﹂
﹁そっか? どうなんだろ? その場で言ってやった方がやさしい
んじゃない?﹂
死語とか、間違った使い方を延々としゃべり続けるよか、その場で
さっさと間違いを訂正してやった方が恥ずかしいのはその瞬間だけ
だったりするし。
﹁でも、ヤスだって死語使いまくってるぞ﹂
﹁⋮⋮そうだっけ?﹂
そんなに使ってたっけ?
﹁ヤス、伏せ字は?﹂
1211
﹁ちょめちょめ﹂
ほにゃららとかもあるかな?
﹁仲いい人に﹃ヤス!﹄って呼ばれたときは?﹂
﹁なんじゃらほい﹂
のほいさっさ? これは言わんか。
﹁納得したときは?﹂
﹁なるほど! ザ! ワールド!﹂
⋮⋮番組名だっけ?
﹁自分がわからない事をボケるときは?﹂
﹁分かりま千円、すいま千円﹂
よく言うだろー。
﹁謝る時にボケなきゃと思ったら?﹂
﹁アイムソーリー、ヒゲソーリー!﹂
ついでに総理は馬鹿ソーリー。
⋮⋮や、ほんとにこんな感じに続くんだって。
1212
﹁人がしょうもないボケをしたときは?﹂
﹁ずこー!!﹂
こけた音な。
﹁びっくりしたときは?﹂
化け狸!﹂
﹁オドロキ 桃ノ木 山椒の木! 狸に ブリキに 蓄音機 ぶん
ぶく茶釜は
⋮⋮途中から余分だけど。
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
﹁あれ? どうかした?﹂
﹁私、初めて聞きましたよ﹂
いやいや! そんな事ないだろ。
﹁ボクは全部知ってるよ﹂
﹁だよな! さすがユッチ!﹂
別に死語じゃないんじゃん!
よく知っててくれた、えらいえらい。
﹁ボクはこどもじゃないい! 頭をなでるなあ!﹂
1213
ポカッ!
だから痛いって! ポカポカ殴るな!
﹁⋮⋮間違った認識のやつが2人そろうと間違ったまま気付かない
んだな﹂
﹁ですね。ユッチとヤス君、そろうと危険かもしれませんね﹂
﹁⋮⋮アオちゃんが言うこっちゃないけどな﹂
1214
130話:ブラブラ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
男性用ブラは本当にあります。
冗談で調べたらあってびっくりでした。
←ちなみに楽天のページですが。
http://item.rakuten.co.jp/wish
room/mensbra/
というか部活に来たはずなのに、こいつら話ばっかりしてるなあ。
それでは今後もよろしくお願いします。
1215
131話:飽きない為の工夫
さて、そろそろ練習だな。
ケン、ユッチ、アオちゃんは短距離、俺は長距離に向かう。
﹁ヤス、ちょっといいか?﹂
﹁ん? ポンポコさん。どうかした?﹂
﹁いや、今日はヤスの練習に付き合おうと思ってな﹂
﹁え? 短距離の練習はいいの?﹂
﹁今日は短距離は休み明けと言う事で、軽めに体を慣らすそうだ。
練習内容も聞いたが、そこまでマネージャーが必要そうに感じなか
ったのでな﹂
おお、それはありがたい。
﹁ところで、今日は﹃時間走﹄をしないか?﹂
﹁時間走?﹂
なんだそりゃ?
﹁距離を設定せず、時間を設定して走るのだ。今までの20キロ走
れというのはそれに対して﹃距離走﹄というものだな﹂
1216
ふむふむ。
﹁今までヤスは20キロ走れとか、16キロ走れとか、そのように
言われていただろ?﹂
や、ポンポコさんのメニューだけど。
﹁そうではなく、﹃今日は1時間走る﹄というように設定して走る
のが時間走だな⋮⋮今日は2時間にでもしておこうか﹂
2時間って⋮⋮ながっ!!
﹁ペースは距離走の時同様気にしなくていい。今のヤスに必要な事
は多く走って、体を長距離向きの体に変えることだ﹂
なるほど⋮⋮でも。
﹁そんなゆっくり走ってばっかりでいいの? 試合ではもっと速く
走るじゃん﹂
﹁前にも言ったが、疲れない体を作るのが先決だ。どんなにスピー
ドがあっても、1000メートルしか維持できなかったら、500
0メートルでは勝てないぞ﹂
そうなんかなあ?
﹁さらに言うなら、体が出来てない上にアスファルトでしか練習場
所がないという状況でスピード練習なんぞしたら、100%怪我す
るぞ。ヤスは体が固いのだろ? 俺は怪我がしたいと言っているよ
1217
うなものだぞ﹂
﹁アスファルトで走るのって怪我しやすいの?﹂
﹁そうに決まってるではないか﹂
﹁何で?﹂
﹁単純に考えてみろ、海岸の砂浜を握りこぶし作ってぶん殴るのと、
芝生をぶん殴るのと、学校の土のグラウンドをぶん殴るのと、アス
ファルトをぶん殴るの、どれが一番痛そうだ?﹂
えーっと⋮⋮何かボケた方がいいか?
⋮⋮思いつかん。
﹁そりゃアスファルトだよな﹂
﹁その通りだ。走っているときも同様の衝撃が足にきていると思っ
てみろ﹂
﹁⋮⋮痛そうだな﹂
﹁実際に痛いのだ、だからアスファルトで走ると怪我をしやすいの
だな﹂
ふーむ。
﹁なので、毎日のようにアスファルトを走るのはお勧めできないの
だが⋮⋮学校周りしか練習場所がないと言うのは本当に辛いな﹂
1218
うむうむ、かわいそうだな、俺。
﹁だからせめて今日だけはと思って、私が監視をするからと学校周
り以外も走れるよう許可をもらって来たぞ、アスファルトがではな
いところを見つけたらそこで走ろう﹂
﹁え? いいの?﹂
学校周りをぐるぐる走り続けるのは本当に、本当に飽きたから、そ
れはめちゃくちゃ嬉しい。
﹁今日練習をしているのは陸上部だけだしな。他の教師に見とがめ
られる事もない。ウララ先生も了解してくれたぞ﹂
﹁ありがと! ポンポコさん!﹂
﹁ただ、新学期が始まったら、やはりきちんと監督してくれる先生
を見つけるべきだな。知識はなくても先生が見てくれると言うだけ
でもできることがグンと増える﹂
確かに。
そう言う意味でも顧問してない先生で、長距離担当の先生が欲しい
な。
﹁今日のところは私は自転車でヤスを追う。自分のペースで走って
くれ﹂
﹁あいあいさー﹂
﹁⋮⋮ヤス、今日、死語の話をしていたようだが、﹃あいあいさー﹄
1219
は死語だからな﹂
﹁え!? そんな事ないって! このセリフ、サツキも絶対言うか
ら!﹂
﹁⋮⋮好きにしてくれ﹂
そこそこにアップをして、2時間の距離走、スタートだ。
時計をストップウォッチモードに変えて、ポチッとな。
﹁ヤスの好きな方に向かえばいいぞ﹂
ほいほい、んじゃ右。
﹁走りながら、景色を楽しんでみるのもいいぞ﹂
1220
なるほど⋮⋮ってか、今日が曇りでよかった。
今までの距離走の時とか、晴ればっかりだったからなあ。
⋮⋮単純に暑さにやられただけな時もないか?
もう一回右。
﹁後は、あまり大通りには出ないようにな、信号が多くて止まらな
ければならない事も多い上、人通りが多かったりすると、ぶつかり
そうになって走るどころじゃなくなる。小道でも車通りが多いとこ
ろは危険だから避けてくれ﹂
や、俺この辺りの地理そんなに詳しくないんだけど⋮⋮。
どうやって走れと?
まっすぐまっすぐ。
﹁夜は逆に大通りの方がいいが﹂
﹁⋮⋮なんで?﹂
﹁小道は暗いので、もしヤスが走ってても走っている事に気付かれ
ないぞ。そして車が交差点でいきなり飛び出て来て交通事故だ。大
通りなら結構明るいから、よっぽど危険な運転者、酔っぱらいとか
だな、以外は交通事故にはならんと思う﹂
ぽんぽこさん、色々考えてるんだなあ。
えーと⋮⋮次は左っと。
﹁前のときのように走りながらボケるなよ﹂
⋮⋮走りながら歌ったり、腕振り回したりした事か?
1221
あれは疲れるからもういいよ。
えーと⋮⋮まっすぐ。
﹁じゃあ、頑張ろう、ヤス﹂
はいはーい。
30分経過。
﹁そんな感じでいいぞ。今はスピードより、走りきる事が大切だ﹂
うい、了解。
1222
1時間経過。
﹁走るのに飽きてないか?﹂
﹁や、大丈夫﹂
ぐるぐる回らないだけでも、こんなに飽きがこないものなんだなあ。
後、自転車でポンポコさんが一緒になって走ってくれてるのも大き
い。1人で走る時より、全然飽きない。
﹁そうか、その調子でいこう﹂
﹁ういうい﹂
1時間半経過。
さすがに足が重い。
90分も走り続けるってした事なかったからな。
⋮⋮ま、本当にゆっくりだったけど。
1223
﹁ヤス、そろそろ学校に引き返した方がいいぞ﹂
ういうい、了解。
﹁じゃ、戻る。それで学校ってどっち?﹂
﹁⋮⋮は?﹂
﹁⋮⋮へ?﹂
あれ?
﹁ポンポコさん、覚えてないの?﹂
﹁ヤスの好きな方へ行けって言った時点でコースはヤス任せだった
からな﹂
﹁あれ? それって帰り道は私が覚えておいてやるから好きに走っ
ていいぞって意味じゃなかったの?﹂
﹁いや? てっきり私はヤスが⋮⋮﹂
﹁俺はポンポコさんが⋮⋮﹂
﹃⋮⋮⋮⋮﹄
1224
迷子?
﹁と、とりあえず来た道を引き返そっか?﹂
﹁うむ、そうだな﹂
⋮⋮帰れるかなあ?
2時間経過⋮⋮。
﹁どこだろう? ここ﹂
もう訳が分からない。
﹁とりあえず、心配させるといけないから、ウララ先生に連絡入れ
ておく﹂
1225
携帯、あるんだ。
よかったあ。
﹁その間にヤス、コンビニかガソリンスタンド、交番あたりを見つ
けたら聞いてみてくれ﹂
﹁了解っす﹂
えと⋮⋮、お、あそこにコンビニ発見。
テケテケと。
﹁いらっしゃいませー﹂
⋮⋮おし、都合良く誰もいないし。
﹁⋮⋮あの、すみません﹂
﹁はい、何でしょう?﹂
﹁⋮⋮ここはどこ?﹂
﹁⋮⋮はい?﹂
1226
何とか道筋を教えてもらって、残りの行程は遅くなるといけないか
らと言う事で2人乗りして帰った。
後でポンポコさんから、
﹁ヤス、﹃ここはどこ?﹄は無いぞ。お前はどこぞの記憶喪失者だ
?﹂
﹁や、だってしょうがないじゃん!﹂
﹁単純に﹃大山高校までの道筋教えてください﹄でよいではないか
? コンビニからの道筋、教えてくれるぞ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮あ、そっかあ!!﹂
うわ⋮⋮めっちゃ恥ずかし。
1227
131話:飽きない為の工夫︵後書き︶
おはようございます。
私、1人で400mトラックを走ると5周で飽きるんですよね^^;
トレーニングジムに置いてあるランニングマシーンは5分も経たず
に飽きます。
と言う訳で、1人で練習するときは見知らぬ土地を開拓したり、景
色のきれいな所を走ったり、工夫して走ってました。
ジョギングやウォーキング、全然続かないと言う人、適当に工夫し
てみてると続くようになるかもしれません^^
それでは。
1228
132話:人の為=偽り?
今日は8月20日水曜日、東海大会で勝っていれば、サツキの全国
大会の日だ。
サツキは大会が終わってから、お盆頃までは元気に振る舞ってたん
だけど、最近はホケーッと過ごしてる事が増えた。
夏休み中、ソフトテニス一直線だったしなあ⋮⋮。
それ以前も、かなりの時間をソフトテニスに費やしてきたし。突然
何でもする時間が出来ましたって言われてもぼけっとするしかする
事がないんかな。仲のいいクロちゃんとサキちゃんは家族旅行に行
っちゃったって言うし。
今は朝の7時。サツキは昨日20時にははやばやと寝たもんだから、
今は既に起きてきてる。
﹁サツキさ、元気か?﹂
﹁んー⋮⋮﹂
﹁宿題は終わったかあ?﹂
﹁まだー⋮⋮﹂
﹁今日は何すんの?﹂
﹁考えてないー⋮⋮きっとゴロゴロするー⋮⋮﹂
1229
⋮⋮駄目だこりゃ。完全な無気力になっちゃってる。
﹁サツキ! 今日は俺と部活行かねえ?﹂
﹁えー、なんでー?﹂
﹁家にいても暇だろ? せっかく早起きしたんだしさ、高校来てみ
ろって。ケンもユッチもポンポコさんもいるし!﹂
﹁あ、それはいいかも。久々にポンポコ先輩に会いたいし!﹂
﹁そうそう。大体サツキは高校はうちの高校受験するんだろ? 今
のうちに学校見学しとけって﹂
﹁あいあいさー、ヤス兄﹂
ほら、やっぱり言うじゃん。
あいあいさーは死語じゃない!
1230
さてさて、学校到着。
﹁ヤス兄っていっつも早いんだねー、何してんの?﹂
﹁んー⋮⋮掃除?﹂
そう言いつつ、ほうきを持つ。
ついでにサツキにも手渡し。
﹁⋮⋮ヤス兄、こんな所でまで主夫しなくてもいいのに﹂
えーと、主夫と違うし。
﹁というか、何でヤス兄が掃除するの?﹂
﹁んー、下級生としてのけじめ? 他にもあるけど﹂
﹁え、そんなに厳しいの? 結構前にお疲れ様会に飛び入り参加し
たときはそんな厳しいイメージがなかったけど﹂
﹁全然厳しくないぞ? むしろほぼ完全な無礼講だ﹂
他の部活もこんなもんなんかな? どうなんだろ?
1231
﹁じゃ、やらなくてもいいんじゃない?﹂
ま、その通りなんだけど。
﹁まあ、長距離の2年生って全く尊敬できんけど、一応仮にもあれ
でもなんとかぎりぎり上級生なんだから、表面上だけでも上下関係
ってのはきちんとすべきだと思うし﹂
﹁今の言い方ってはっきり言ってけなしてるよね。大体表面上って
行ってる時点で全然きちんとすべきと思ってないように聞こえるけ
どね﹂
うるさい、ギリギリの譲歩じゃ。
﹁他の理由は何?﹂
﹁んー、上手く言葉にできんけど、強いて言うなら気持ちよく練習
したいから?﹂
﹁ああ、ヤス兄、なんとなくわかったよ﹂
﹁だろ? せっかくだからきちんとした所で練習したいじゃん?﹂
﹁うんうん、もしヤス兄が﹃学校を綺麗にするのは、学校のみんな
の為に﹄とか言ったら寒気がしたね﹂
絶対言えねー、そんな聖人君子みたいな言葉。
﹁俺ももしサツキがそんな事言ったら正気を疑うけど﹂
1232
﹁無理無理! 実際にはそう言う人もたくさんいるんだろうけど、
私には無理!﹂
﹁だよなー!﹂
﹃あははははは!﹄
﹁⋮⋮何の話してるんですか?﹂
うわ、びっくりした。
﹁おはようございます! アオちゃん先輩!﹂
﹁アオちゃん、おはよーさん、今日は早いねー﹂
﹁おはようございます、ヤス君、サツキちゃん。今日は何か早く目
が覚めちゃいまして⋮⋮それで、何の話してたんですか?﹂
サツキがここにいる事にはつっこみ入れないんか。
﹁ヤス兄が掃除する理由﹂
﹁あ、夏休みに入ってからところどころ綺麗になったと思ったら、
ヤス君がいつも掃除してたんですね、誰がしてるのか不思議だった
んですよ﹂
きちんとやり始めたのは、やる気になり始めてからだからなあ。
1233
﹁それで、何がそんなに楽しかったのですか?﹂
﹁ヤス兄が﹃みんなの為に﹄って言って掃除をしてる姿を想像した
ら笑えただけですよ﹂
﹁うわ、想像したら寒気がした﹂
夏なのに。
﹁別にいいじゃないですか、みんなの為。何が悪いんです?﹂
﹁いやー、無理。家族とか友達以外の為に何かしてあげようって気
は基本起きない﹂
や、目の前で泣いてる子供とか困ってる人見たら何かしようと思う
けど。
﹁え? だって掃除してるじゃないですか﹂
﹁いやいや、別にみんなの為にしてる訳じゃないし。自分の為だし﹂
﹁⋮⋮よくわからないんですが﹂
俺もこの辺りの感情は上手く説明できん。
﹁や、実際に﹃みんなのため﹄って言ってる人いるじゃん? 俺、
あの言葉無理なんだよ。﹃これはみんなの為なんだ﹄って聞いた瞬
間に何か嘘っぽく感じちゃうんだよな﹂
1234
﹁中々やらしい考え方ですね﹂
やっぱそう思うよな。
﹁うむうむ、自分でもそう思うんだけどさあ。でも字でみると﹃人
の為﹄とは﹃偽﹄なんだぞ﹂
﹁一応そうですね。⋮⋮でも、みんなに喜んでもらえたときって嬉
しく感じません? じゃあもっとやってやろうって思うんじゃない
ですか?﹂
﹁や、それはそうなんだけど⋮⋮こう、なんだろ⋮⋮それは結局み
んなに喜んでもらえると言う事があってこそじゃない? 言い換え
れば、褒めてもらいたいからする、喜んでもらえるからするって言
うのは結局自分の為じゃね?﹂
﹁そんなものでしょうか?﹂
﹁俺個人的な話だと、それがどんなに人にとって為になる事でも、
それについてありがたみを感じてもらえなかったり、それが原因で
嫌がられたりさ、怒られたりすることだったらやりたくないんだけ
ど﹂
﹁そんな事ってあるんですか?﹂
えーと⋮⋮いい例が思いつかん⋮⋮。
⋮⋮まじでありえなさそうなのしか思いつかん。どうしよう?
﹁ヤス兄の経験談だと、小学校2年生の時に褒めてもらえると思っ
て学校の草むしりして誰にも褒められなかった、って言って3日で
1235
やめたよね﹂
﹁サツキちゃん、よくそんな昔の事を覚えてますね﹂
﹁お母さんがこの前話してて、思い出しました﹂
この前の日曜日な。
﹁と、言う訳で﹂
﹁どんな訳ですか?﹂
うるさいやい、自分でもよく分かんなくなったから終わらせたいん
じゃ。
﹁ここの掃除するのも、ただ単に自分の為であって、決して誰かの
為でないと言う事を覚えておいていただきたい﹂
﹁しゃべり方もまとめ方も意味不明だよ、ヤス兄﹂
⋮⋮ごめんなさい。
1236
﹁ところで、ヤス君?﹂
﹁ん、なに?﹂
﹁頑張ってしゃべってましたから言わなかったんですけど、﹃偽﹄
と言う字、この場合の﹃為﹄と言うのは﹃ため﹄じゃなくて﹃なす﹄
という事ですよ﹂
紙に書いて教えてくれるアオちゃん。
﹁そもそも、﹃為﹄っていうのは象を手なずけると言うことを表す
んですよ﹂
ふむふむ。
﹁だから、﹃偽﹄って言うのは﹃人が事象を手直しする﹄という事
を言ってるんですよ﹂
﹁ええと、つまり?﹂
﹁人が﹃本当の事実﹄を改変し、﹃別の物﹄にしちゃったら、その
別の物は﹃偽り﹄ですよね﹂
ううむ、なるほど。
1237
﹁そう言う由来で﹃偽﹄という時になったのであって、決して﹃人
の為﹄は﹃偽﹄と言う訳ではないですよ?﹂
なに!?
﹁ヤス兄、私たち勘違いしてたね⋮⋮﹂
﹁ああ、目からうろこだ⋮⋮﹂
ほんと、何か言うときは気をつけよ。
1238
132話:人の為=偽り?︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
この話書くまで、ずっと﹃偽﹄と言う字は﹁人の為﹂という字だな
あ⋮⋮と勘違いしてました。
まだまだ勘違いは多そうです。
ただまあ、﹃誰がため﹄と言われてもやっぱりピンと来ない自分。
純粋に他の人のためになるからしてあげようとは思えないんですよ
ね。こう、﹃感謝してもらえるかなあ﹄﹃褒められないかなあ﹄と
見返りをもとめてしまうんですよ。
純粋に他の人のために何か出来る人はすごいです。
それでは。
1239
133話:マネさんのお仕事
さてと、今日の掃除はこんな所でいっか。
お、みんなも来たな。
まあ、俺が話す人なんて限られてるけど。いつもと一緒。
﹁おは﹂
﹁おはようございます! みなさん!﹂
⋮⋮サツキにとられた。
﹁あれ? サツキちゃんじゃん? 何で高校に来てんの?﹂
だよな、ケン。まずは普通それを聞くよな。
﹁ヤス兄に無理矢理⋮⋮﹂
嘘をつくな、サツキ!
1240
﹁ヤス! 嫌がるサツキちゃんを無理矢理連れてくるつもりなんて
どういうつもりだあ!﹂
ほら⋮⋮ユッチは絶対真に受けるんだぞ。
﹁頼み込んで連れてきてもらったんですよ、ユッチ先輩﹂
﹁⋮⋮え? あれ? どういう事?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮サツキ、ユッチをからかうなよ。絶対何でも信じるんだ
から﹂
素直ってことだよな。
そこがユッチのいいとこなんだけど。
﹁今、ボクの事バカにしただろお!?﹂
﹁してないしてない!﹂
﹁嘘だ!!﹂
お前はひぐらしのレナか!?
最近、ユッチ絶対に被害妄想が激しい!
1学期の頃、そんなにユッチいじってたかなあ⋮⋮いじってたな。
﹁ところで、サツキちゃんは今日はどうするんですか?﹂
アオちゃん、ナイス!
ユッチとの話は置いとこう。
1241
﹁ええとですね、とりあえずみんなの見学でもしてるつもりなんで
すけど⋮⋮﹂
﹁なら、マネージャーをやってみないか?﹂
﹁マネージャー⋮⋮ですか?﹂
ほうほう、ポンポコさん、不思議な事を。
﹁ただ単に練習見てるだけよりも、きっとどんな練習をしているか
よく分かるぞ﹂
﹁そんなもんですか?﹂
﹁そんなものだ、見学では参加した気にならないだろう? マネー
ジャーというのは練習を共にしている訳ではないが、参加している
からな﹂
﹁でも、何すればいいか知らないですよ?﹂
﹁今日は暑いからな、まずはそこのスポーツドリンクの粉末を溶か
して飲み物を作っておく﹂
ほお、ポンポコさんそんな事してたんだ。
﹁今日はミニハードルを利用するからあそこの倉庫から持ってきて、
並べておく﹂
ほうほう。
1242
﹁その後、短距離はドリルと言うフォームを矯正したりするための
メニューがあるからな、私はケンのフォーム等を注意してたりする
が、サツキはとりあえず見てみたらどうだ?﹂
ポンポコさん、そんな事までしてんのか。
﹁流しをやった後は、本練習に入るからタイム計測だな、長距離と
違って短距離は自分でタイムを測る事は難しいから、やはり誰かが
計らないと駄目だ﹂
ふむふむ。
﹁後は、練習後のサーキットトレーニングのかけ声だな。サツキは
声がよく通るから、みんな喜ぶぞ﹂
ポンポコさんも十分声とおるけど。
﹁そうだ、ヤスもサーキットトレーニングやってみなよ! サーキ
ットトレーニングは体全体の運動だから、腹筋だけ、背筋だけみた
いな運動にはならないから、すっごくいいんだぞ!﹂
﹁ほお、そんなにいいのか?﹂
﹁うん!﹂
﹁じゃあ、やってみるか?﹂
﹁⋮⋮ヤス、やってもいいが、初めは回数は少なめに設定しろよ。
間違ってもケンと同じだけやろうとするなよ﹂
1243
﹁ポンポコさん、なにそれ!? ケンと同じだけできないって言う
んか!?﹂
﹁それはそうだ、ケンは4月に入部したときからやっている、今日
初めてやろうと言うヤスとは5ヶ月も違う﹂
⋮⋮それはそっか。
﹁短距離と長距離では必要な筋肉も違うからな、短距離のケンと同
じ回数出来なければならないと言う訳でもない﹂
﹁そっか﹂
﹁ちなみに今日のヤスの練習は何だ?﹂
﹁ええと⋮⋮20キロ﹂
8月に入ってから、風邪でぶっ倒れた時以外は毎日10キロ以上走
ってるなあ。
体力、ついてんだろうか?
﹁サツキに短距離を任せるから、私がまた自転車でつこう。その方
が飽きないだろ﹂
﹁ああ、1人で走るよりすごくいい。⋮⋮ありがと、ポンポコさん﹂
﹁よし、では始めるか﹂
﹁サー! イエッサー!﹂
1244
﹁⋮⋮私は女なのだが﹂
あれ? 何か間違えたか?
﹁ヤス君、サーは﹃sir﹄ですよ? ﹃sir﹄は男性に対する
敬称ですから、ポンポコさんに言うのは変ですよ?﹂
⋮⋮アオちゃん、学校の先生みたい。
でも、ごめんなさい、ポンポコさん。
⋮⋮ふう。
結構しんどかったけど⋮⋮。
﹁⋮⋮よし、完走できたではないか﹂
﹁や、やっぱり隣でポンポコさんがずっと並走してくれたからかな。
1人で走るよりずっと短く感じた﹂
1245
﹁だが、いつも私が並走できると言う訳でもないしな⋮⋮やはり、
1人で練習し続けると言うのは難しいな﹂
﹁じゃあ、ポンポコさんから見て長距離メンバーで一緒に練習して
くれそうな人いる?﹂
﹁⋮⋮来年に期待しようか﹂
駄目じゃん! 全くいないの!?
﹁その空気に慣れ親しんでしまうと、抜けるのが難しいと言うのは
よくあるからな﹂
そっか⋮⋮1年半ものんびりした環境でやってきた先輩方にいきな
り本気で練習しようと言っても無理な所はあるかもしれん訳か。
﹁それはそうと、俺も少しは進歩した?﹂
﹁いや、まだまだ全然だ﹂
ちぇ、少しくらい褒めてくれてもいいのに。
﹁ヤス、お疲れさん!﹂
﹁ありがとさん、ケン﹂
﹁ヤス兄もちゃんとやってたんだね。家事ばっかやってて練習でき
てるのかちょっと心配だったんだけど﹂
﹁すごいだろ!﹂
1246
﹁うん、ヤス兄って本当にすごい﹂
⋮⋮そんな風に素直に褒められると照れる。
﹁それでは、サーキットトレーニングを始めるか? 短距離はもう
終わってるから、残るはヤスだけだが﹂
﹁うい、やろうやろう﹂
﹁じゃあ、私がかけ声はだそう﹂
サンクス。
﹁お、俺ももう1回やろっかな﹂
﹁ケン、いいの?﹂
﹁ヤスの分くらいなら出来るさ﹂
⋮⋮何かむかつく。
﹁じゃあ、ボクもやってやろおじゃんか!﹂
﹁え? ユッチも? できるの?﹂
﹁大丈夫、2人1組の所はアオちゃんにお願いするから! いいよ
ね?﹂
﹁いいですよ?﹂
1247
そう言う意味じゃなくて、体力持つの? って意味だったんだけど
⋮⋮ま、いっか。
さあ、やるべ。
1248
133話:マネさんのお仕事︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ひぐらしのあのセリフは有名ですよね?
私はびびりました⋮⋮。
とりあえず、元ネタは下記のです。
http://jp.youtube.com/watch?v=
iUIoBnu−vEA
年末に向けて忘年会シーズンです。
今日も午後から忘年会。
12月の最後のあたりでは4日連続があるんですが⋮⋮大丈夫かな
⋮⋮胃。
更新はそんな時期でも止めずに突っ走る予定ですので、よろしくお
願いします。
1249
134話:ぶきっちょヤス
さて、いよいよサーキットトレーニング開始だ。
﹁今日はヤスは初めてだからな、1セットだけにしとけ﹂
﹁ん? 普段ケンは何セットやってんの?﹂
﹁3セットから5セットくらい﹂
⋮⋮えーと、そんなにケンと俺って運動能力の差があんの?
﹁気にするな、ヤス。初めての場合はどうしても肩に力が入ってし
まうからな。疲れやすくなる﹂
﹁ありがと、ポンポコさん﹂
⋮⋮しかし、サーキットトレーニングは何をやるんだろう?
﹁では、始めるぞ。まずは縄跳び﹂
﹁⋮⋮へ? 縄跳びってなにすんの?﹂
あや跳びとか交差跳びなら⋮⋮。
どうかあれだけは止めてくれ。
﹁二重跳びだ﹂
1250
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮終わった。
﹁どうした? ヤス﹂
どうしたっていうか⋮⋮ポンポコさん、言えないっす。
﹁もしかして、ヤスは二重跳びが出来ないのか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮その通りです﹂
⋮⋮くう、何でこんなみんながいる中で恥ずかしい事を言わなきゃ
ならんのだ。
﹁小学生の頃は出来てないの知ってたけど、まだ出来てなかったん
か。中学校では出来るようにならんかったのか?﹂
﹁や、中学校になってからはそもそも縄跳びやってないから﹂
﹁まあ、確かにやらんくなるよな﹂
もうやらなくなった事をいい事にできないまま放置してたら、まさ
か高校になっていきなりやれって言われるとは⋮⋮どっかでもっと
練習しとけばよかった。
﹁それならもしかすると出来るようになっているかもしれないぞ﹂
﹁え? なんで?﹂
ポンポコさん、理由を教えてくれ。
1251
﹁小学生はまだ体が未発達だろ? 運動神経も比例して低いではな
いか﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁成長して運動神経があがれば、今まで出来なかった事も自然と出
来ているようになるかもしれん﹂
﹁ほほお﹂
それだったら嬉しい。
﹁まあ、小学校1年生の運動神経でも出来る人は出来てるが﹂
励ましてから落とすな!
余計へこむ!
﹁とりあえず、やってみたらどうだ? 実は出来ると言う事もある
かもしれんぞ﹂
﹁ラジャー﹂
ポンポコさんに縄跳びを手渡されて、挑戦開始。
1252
1回目。
﹁よっと﹂
まずは何回か普通に跳んでみる。
ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょ
ん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、
ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょ
ん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん、
ぴょん、ぴょん。
﹁ヤス、いい加減にやってみろよ。見てる方が飽きる﹂
﹁や、だって、こう、たい、みんぐ、が、つかめ、なくて﹂
ぴょんぴょんしながらしゃべると言葉が途切れる。
﹁いつまでも一重跳びやっててもしょうがないぞ﹂
﹁わかって、るんだ、けどな﹂
しょうがない、そろそろチャレンジだ。
﹁よっと!﹂
びゅんびゅん!
1253
﹁あれ?﹂
一回跳び終わった時点で既に着地してしまってて、地面に足をつけ
ながら2回目をまわしてる。
﹃⋮⋮﹄
うう、そんなかわいそうな子を見るような目で見ないでくれよう。
﹁あるある探検隊! あるある探検隊! 今だに 二重が できま
せん! はい!﹂
﹁⋮⋮ヤス、できないからって何かでごまかそうとすると惨めだぞ﹂
﹁⋮⋮﹂
そんな事言われたって⋮⋮。
その後も何度もチャレンジしてみたけど、全く出来なかった。
﹁くそう、なんでだろうなあ⋮⋮﹂
1254
みんなはサーキットでこれをやってるって事は二重跳び出来るって
事だよな。
﹁みんなはいつ頃出来るようになったん?﹂
何となく聞いてみたい。
﹁⋮⋮私も実は出来なかったりするんだよね﹂
﹁え、サツキも!?﹂
兄妹そろってか。
﹁出来てたらヤス兄に話してるよ﹂
そっか。
﹁家で練習しよっか、サツキ﹂
﹁そだね﹂
うん、1人でやるより2人でやった方が、何となく張り合い出るし
な。
サツキは今はあんまりスポーツできるような格好じゃないから、練
習出来ないし。
﹁俺は小2で出来るようになったなあ、ってヤスは知ってるか﹂
確かにケンは小2で出来るようになったなあ。
出来るようになった瞬間を見てたけど、羨ましかった。
1255
﹁私は小学校のいつかは忘れましたけど、できてましたね﹂
うん、アオちゃんもか、羨ましい。
﹁ボクは小5で出来るようになったあ!﹂
﹁へえ、ユッチって運動神経よさげだからもっと早くできるように
なったんかと思ってた﹂
思ってたより遅い。
﹁ボク、別に運動神経良くないよ?﹂
そうだっけ?
﹁ユッチは結構運動神経いいですよ﹂
﹁何言ってるのさあ!? 全然だよ!﹂
いいって言われてるのに。謙遜のしすぎは嫌みだぞ。
﹁確かに何かが出来るようになるまでは時間がかかりますから、そ
う言う意味では悪いですよね、バレーボールでもアンダーサーブが
入るようになるのに1月以上かかりましたし﹂
﹁アオちゃん、ボクの事話さないでよお!﹂
ああ、うん。
やだよね、昔の悲しい事暴露されるの。
1256
﹁ユッチはコツつかむと、そこからの上達は早いんですけどね﹂
﹁ふふん、今ではハヤブサ跳びも三重跳びが出来るんだぞお!﹂
おお、すげえ、三重跳びかよ。
﹁どうやってできるようになったんだ?﹂
﹁ん? 練習﹂
⋮⋮。
すごい端的な説明ありがとう、ユッチ。
﹁こう、そうじゃなくてコツとか﹂
﹁ええと⋮⋮出来るようになるためのコツは、ちゃんとジャンプし
て速くまわすことだよ?﹂
ものすごく当たり前の事じゃん!
﹁ええと、後は猛特訓あるのみだあ! ヤス!﹂
説明それだけ!?
﹁まあ、ヤス。今日はサーキットトレーニングは止めて、縄跳び訓
練にしようか。他のメニューだけこなしてもいいが、縄跳びできな
いのも悔しいだろ?﹂
1257
そりゃそうだ、みんなの生暖かい目がすごく悔しい。
まあ、他の部活のメンバーはもうとっくに練習終わって帰ってるの
に、俺に付き合ってくれてる事には感謝してる。
﹁では、やってみるか﹂
﹁ラジャー! ポンポコ教官殿!﹂
﹁⋮⋮ヤスの中では今変な返事がブームなのか?﹂
﹁ん、何となくマイブーム﹂
変なブームだとは自分でも思うが。
1258
134話:ぶきっちょヤス︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
投稿遅くなりました、申し訳ないです。
起きたら14時でして⋮⋮昨日22時に寝たのになあ。
⋮⋮16時間か、幼稚園児でももっと起きてるよ⋮⋮。
ちなみに途中の
﹁あるある︱︱﹂
は﹃レギュラー﹄というコンビのネタです。
こんなネタです。
http://jp.youtube.com/watch?v=
Fc1CKQ6MQrE&feature=related
それでは、今後ともよろしくお願いします。
1259
135話:二重跳び特訓中
ただいま二重跳びの練習中。
さっきから何十回とやっているが、中々出来ない。
﹁腕を大きく振り回しすぎだぞ! もっとコンパクトにまわせ! そうしないと速く回せないだろ!﹂
了解、ポンポコさん。
⋮⋮全然出来ん。
﹁ヤス、コンパクトにまわそうと思ったら、手首でまわそうとしな
いと駄目だぞ。腕でまわしてたら全然速く回らんぞ﹂
了解、ケン。
⋮⋮やっぱり出来ん、手首でまわすってどうやんの?
﹁ヤス、コンパクトにまわそうと思ったら、肘を腰に当てるんだあ
! それで腰から肘を離しちゃ駄目だぞ! そうすると嫌でもコン
パクトに回るからあ! そうしたらできるから!﹂
なるほど、腰に肘をつけてまわすんだな。
⋮⋮お、ほんとだ、回しづらいけど速く回る。
ナイスアドバイス、ユッチ。
1260
﹁まだちょっと腕でも回ってるけど、いい感じだぞお! ヤス!﹂
びゅんびゅん!
⋮⋮お?
﹁今、1回出来た?﹂
﹁うん、出来ましたよ。ヤス君﹂
おお、やった!
﹁や、でも1回出来て止めちゃ駄目じゃん。続けないと﹂
あ、そだった。
まあ、0回から1回になっただけでも進歩だよな!
さあ、こっからだ!
⋮⋮さっきから何度も何度も挑戦してるんだけど、1回は出来るん
だけどなかなか2回が出来ない⋮⋮。
1261
﹁ヤス、1回目ジャンプしてから次のジャンプが遅い、そこでいつ
も引っかかってる﹂
ポンポコさん、それはわかってるんだよ。
でも、どうすればいいかわかんないんだよ。
﹁ヤス、高くジャンプしようと思っても膝をそんなに曲げちゃ駄目
だろ。 次のジャンプが出来ないじゃん﹂
了解、ケン。
あんまり膝を曲げないように高くジャンプ!
⋮⋮やっぱり出来ん。
﹁ヤス、とりあえず縄無しで高くジャンプしなよ! ボクも昔そう
やったから。それで、リズムを覚えるんだよ! 一重跳びは何とな
く出来るけど、二重跳びはリズムが大事なんだあ!﹂
リズム⋮⋮リズムかあ。
んじゃ、ユッチに言われた通りやってみるか。
ぴょん、ぴょん、ぴょん、ぴょん。
⋮⋮意味あるのか? これ。
﹁ヤス、着地から次にジャンプするときはあんまり時間入れちゃ駄
目だぞ! すぐジャンプだあ!﹂
ういうい、了解。
1262
ぴょんぴょんぴょんぴょん⋮⋮。
﹁そうそう、そんな感じ。それで、跳ぶ時に2回拍手するんだよ﹂
拍手? 何で?
﹁二重跳びのリズムってそのリズムに似てるんだあ﹂
そうなのか⋮⋮こうか?
ぴょん、ぱちぱち。
ぴょん、ぱちぱち。
﹁なんで、拍手すると着地の時にとまるのさ? さっきと同じよう
にジャンプしないと!﹂
あ、そっか。
ぴょんぱちぱちぴょんぱちぱちぴょんぱちぱちぴょんぱちばちぴょ
んぱちぱちぴょんぱちぱちぴょんぱちぱちぴょんぱちぱち⋮⋮。
﹁そうそう、そのリズムだあ! ヤス、覚えた?﹂
﹁んー⋮⋮なんとなく﹂
﹁じゃ、もう一回縄跳びもってやってみようよ! 縄跳び持ったか
らって今とジャンプの仕方も変えちゃ駄目だよ﹂
﹁あいあい、了解﹂
1263
では、縄もって再挑戦。
ぴょんぴょんぴょんぴょん。
﹁よっと!﹂
ぴしっ!
あちゃ、1回も出来ずに失敗してしまった。
﹁ヤス、一重跳びの所からさっきと跳び方変わってるよ! さっき
の跳び方を意識して!﹂
ういうい。
では、もう一回。
ぴょんぴょんぴょんぴょん。
﹁よっと!﹂
1回! すぐにジャンプ!
2回! すぐにジャンプ!
ぴしっ!
﹁あちゃ、2回か⋮⋮﹂
1264
でも、大きな進歩だ!
﹁すごいじゃん、ヤス! 2回跳べれば、コツをつかんだようなも
んだあ!﹂
﹁そうなんか?﹂
﹁1回から2回の時とおんなじように跳べばいいだけだもん! 2
回も20回も一緒だよ!﹂
﹁そうなんだ﹂
﹁そうそう! ハードルは0回から1回の所と、1回から2回の所
で苦労するもんなんだからあ! 後は反復練習あるのみだね!﹂
﹁了解!﹂
じゃ、やるか!
﹁ヤス君、ユッチ。 もう14時ですし⋮⋮今日はやめません?﹂
14時か。11時頃からやってたから⋮⋮3時間も付き合わせてた
のか。
﹁へ? 14時!?﹂
なんだ?
ケン、何を慌ててる?
﹁バイトあるじゃん! 時計してるヤスがのんびりしてるから大丈
1265
夫だと思ってたのに!﹂
﹁や、俺今日バイト休みだし、昨日言わなかったっけ? ってかシ
フト表見て無いのか?﹂
﹁聞いてねえよ! シフト表だって自分の入る日は覚えてんだから
見ないって! 遅刻っていうか、もうバイト始まってるじゃん!﹂
﹁⋮⋮御愁傷様、ケン﹂
﹁くそお! 覚えとけよ! ヤス!﹂
﹁や、俺のせいじゃないし﹂
﹁知ってるけど悔しいんだ! んじゃな! みんな!﹂
慌てて帰ってった⋮⋮今日のバイト、上司怖い人だったなあ。頑張
れ、ケン。
﹁と言う訳でナイスアドバイスありがと、ユッチ!﹂
﹁どういたしまして! サツキちゃんと一緒に練習してね!﹂
﹁ラジャ﹂
﹁はい、ユッチ先輩!﹂
﹁ポンポコさんとアオちゃんも付き合ってくれてありがと﹂
﹁うむ⋮⋮教えるつもりだったのに、ユッチにいいところ全部とら
1266
れたな﹂
﹁そうですね﹂
うん、出来てないって言われても具体的に何すればいいかわかんな
かったりするんだよな。
その点ユッチの説明ってすごくわかりやすかった。
﹁前にヤスに、出来るようになると出来なかった人の気持ちがわか
んなくなるって言われたから、出来た時何してたかなあって思い出
しながらいろいろ言ってたんだあ﹂
ユッチって本当に素直だな。
⋮⋮うん、ユッチには変な事吹き込まないようにしないと。
﹁それでは、帰りますか。みんなでどこかで昼ご飯食べていきます
?﹂
﹁そだね、アオちゃん! ポンポコとヤスとサツキちゃんは?﹂
﹁えーと⋮⋮﹂
どうしよっか。
﹁行こうよ、ヤス兄、帰って今から準備するのめんどくさいじゃん﹂
まあ、そだけど。
ちょっとよりたいとこもあるんだけど、みんなで昼食べてからでも
いっか。
1267
﹁んじゃ、行こか﹂
﹁あいあいさー、ヤス兄﹂
﹁サツキも変な返事がマイブームなのか⋮⋮悪いが、私は二兄と三
兄が昼食を準備しているのでな。申し訳ないがまた今度誘ってくれ﹂
﹁はい、わかりました﹂
今頃ポンポコさんが帰ってこないーって言ってるんだろうか?
⋮⋮あの兄弟ならありえる。
ま、出来んくて嫌だった二重跳び、出来るようになってよかった。
帰ってからも練習しよ。
1268
135話:二重跳び特訓中︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
二重跳びが出来るようになったのは私も高校入ってからです。
ヤス君は3時間で出来るようになってますが、私は高校の時特訓始
めて3日かかってました^^
小中高と運動部に所属しときながら、それだけかかってたりするん
で、ちょっとやそっと練習して出来なくても、チャレンジを続けれ
ば出来るようになると思います。
最近縄跳び跳んでないけど出来るかなあ?
それでは!
1269
136話:ファミレスにて
さて、俺、サツキ、ユッチ、アオちゃんの4人で昼食のお店探し。
駅前に1つラーメン屋さんがあったんだけど、そこそこ客もいて、
あんまり長い間いる事が出来そうになかったので、電車に乗って別
の駅へ。
適当なファミレスを見つけて、そこに入る。
﹁さてと、みんなドリンクバーはつける?﹂
﹁もちろん!﹂
﹁もち!﹂
1270
﹁もちろんです﹂
うん、とりあえずドリンクバーと。
﹁他は⋮⋮とりあえずみんなでつっつける物頼もっか?﹂
﹁了解、ヤス兄﹂
さてさて、隣に座ってるアオちゃんとメニューを見てと。
女子だけど、サツキもユッチもアオちゃんもかなり食べるんだよな。
俺と同じくらい食べる。
それぐらい運動してるって事なんだよな。
﹁⋮⋮こう、外で食べるときってどうにかして安く済まそうって考
えない?﹂
﹁考えますよ? みんなで食べに行ったとき、よく﹃そんな高い物
頼むんですか!?﹄って心の中で叫んでます、後は安くてもお腹の
足しにならない物は除外ですね。デザートはこの後ユッチがいつも
作ってくれますから、頼まないです﹂
よし、同志がいた。
⋮⋮ってかユッチすごいな。
﹁と言う訳で、まずサラダは﹃ガーデンサラダ﹄だよな﹂
﹁もちろんですよ、﹃肉サラダ﹄って頼んだら怒りますよ?﹂
﹁わかってるって﹂
1271
よしよし。
﹁で、他はっと⋮⋮ピザは好き?﹂
﹁好きですよ﹂
﹁おし、んじゃ﹃野菜とキノコのピザ﹄﹂
﹁﹃ガーリックトースト﹄は4つですからこれも頼みましょう﹂
﹁ういうい﹂
他には⋮⋮。
﹁肉系で一番安い﹃ハンバーグステーキ﹄で﹂
﹁いいですね、あと私ほうれん草が好きなんですよ﹂
﹁んじゃこの﹃ほうれん草のソテー﹄つけよっか?﹂
﹁こっちの﹃ほうれん草のオーブン焼き﹄じゃ駄目ですか?﹂
﹁おっけーっす﹂
んじゃ、これもと。
﹁こっちはこんな感じでいっか﹂
今ので大体1500円くらい。
1272
4人で割れば大した値段じゃない。
﹁そうですね、ユッチ達も何か頼むでしょうし﹂
まあ、サツキもいるからびっくりするような高いメニューは選ばな
いだろう。
﹁そっちは決まった?﹂
﹁決まったよー、ヤス兄﹂
んじゃ、呼び出しボタン、ポチッとな。
﹁はいはーい、今行きまーす!﹂
元気なバイトの人だな。
﹁お待たせしました! ⋮⋮えっと、ご家族ですか?﹂
﹁はい、そうですよ﹂
サツキが返事した。
⋮⋮よく分かったな、前にポンポコさんの家の家族にサツキとあん
まり似てないって言われたから、気付かないと思った。
﹁家族サービスですか、いいですねえ。⋮⋮ととと、失礼しました。
ご注文は何ですか?﹂
﹁えっと⋮⋮﹂
1273
とりあえず、俺とアオちゃんで決めたのを頼んでと。
﹁サツキの方は何かある?﹂
﹁えっとね、﹃ソーセージとポテトのグリル﹄と﹃ミラノ風ドリア﹄
、あと﹃ほうれん草のソテー﹄!﹂
ありゃ、ほうれん草がかぶったな。
﹁もう1個、店員さんのおすすめをお願いします!﹂
⋮⋮また、店員さんが困るような事を⋮⋮。
﹁えっと⋮⋮そうですね、そちらのお子様に﹃キッズプレート﹄な
んてどうでしょう?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮はあ?﹂
何言ってんだ? この店員さん。
﹁えと、だからですね、そちらのお子様に、このメニューですよ。
﹃キッズプレート﹄﹂
ユッチに手を向けて、﹃キッズプレート﹄のメニューを指差しなが
ら言う。
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹄
ま、まずくないか?
1274
﹁ボクは高校生だあ! この馬鹿あ!﹂
﹁へ? あ、あれ? 小学生じゃないんですか?﹂
﹁違ううう!!!﹂
⋮⋮小学生と間違えられるって結構へこむんだろうな。
﹁あれ? でも、家族サービスって言いましたよね? 奥さんに、
旦那さんに、お子さんに、お子さんのおばさんですよね?﹂
アオちゃん、俺、ユッチ、サツキの順に言っていく。
﹁奥さんですか⋮⋮﹂
アオちゃん、落ち込むな⋮⋮俺も旦那かあ⋮⋮。
﹁おばさんって初めて言われた⋮⋮ヤス兄、私ってそんなに老けて
るかなあ?﹂
いや、むしろ若い。
ひどいのは店員さんだと思う。
﹁ほら! やっぱりおばさんですよね!? 旦那さんの妹なんだか
ら、おばさんであってるじゃないですか!﹂
﹁おばさんって言うな!﹂
﹁す、すみません!﹂
1275
ああ、そういや若くてもおばさんにはなり得るから、この店員さん、
サツキの年齢は間違えてないか。
﹁ボクは一体何歳に見えるのさあ!?﹂
﹁あれ? 8歳から9歳くらいですよね? こ、高校生?﹂
﹁ボクはこれでも15だあ! 8歳って何だあ!? 8歳って!﹂
﹁あれ? そ、それじゃ奥さんって30以上? わ、若いですね⋮
⋮25、6、に見えてました﹂
﹁私もまだ15なんですけど⋮⋮30以上ですか⋮⋮﹂
﹁す、すみませんでしたあ! あ、あれ? 家族なんですよね? 双子? 2姉妹のお父さんとおばさん? に、似てない姉妹ですね
?﹂
もうめちゃくちゃ混乱してるな、この店員さん。
﹁いや、この2人が兄妹だから家族ですって答えただけですが⋮⋮
全員15と16ですよ?﹂
⋮⋮確かにわかりにくかったかもな。
でも、お父さんって⋮⋮15のお父さんって最低でも33じゃね?
⋮⋮俺、16なんだけど⋮⋮。
﹁す、すみませんでした! それでは失礼します!﹂
復唱するのも忘れて戻ってしまった。
1276
﹁おばさん⋮⋮﹂
﹁30以上⋮⋮﹂
﹁8歳児⋮⋮﹂
や、みんなへこんでしまった⋮⋮言われ慣れてないと、へこみ方も
ひどいな。
慣れてしまってる俺って一体なんなんだろう⋮⋮?
1277
136話:ファミレスにて︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
年末用に書き溜めようとしてるのですが、その日の分しか書けませ
ん⋮⋮。
年末、頑張らないと更新が危険だ⋮⋮。
それでは!
1278
137話:N、H、K
とりあえず、全員分の飲み物を持って来てっと。
﹁ほれ﹂
﹁⋮⋮何、ヤス兄?﹂
﹁お茶お茶。飲め飲め、愚痴ならお兄ちゃんが聞いてやるぞ﹂
﹁私はまだおばさんじゃないもん!﹂
や、気にしすぎ。
そう怒りながらもお茶を受け取り飲むサツキ。
﹁⋮⋮ふぅ! ヤス兄、おかわり!﹂
﹁⋮⋮その飲みっぷりはおじさん臭いぞ、サツキ﹂
﹁おばさんに間違えられるなんて、飲まないとやってられないじゃ
ん!﹂
﹁⋮⋮どこぞの中年サラリーマンだ﹂
まあ、とりあえずおかわりを持ってくるか。
1279
﹁ふぅ、やっと落ち着いたあ⋮⋮﹂
﹁何杯飲めば気が済むんだよ⋮⋮﹂
というか、何で俺が何往復もしなきゃいけないんだよ。
﹁じゃ、そろそろ乾杯しよっか?﹂
﹁既に何杯も飲んでるやつが言うな﹂
﹁あははは、気にしない、ヤス兄﹂
⋮⋮まあいいや。
よし、アオちゃんとユッチも立ち直ったな。
﹁⋮⋮ってかサツキ、何に乾杯すんの?﹂
特にお祝いする事もお疲れ様ってする事も無い気がするんだが⋮⋮。
﹁それは決まってるさあ!﹂
﹁なんだ? ユッチ﹂
1280
何も無いだろ?
﹁もちろん、ヤスがとうとう二重跳びを出来るようになった事を祝
って!!﹂
﹃かんぱーーい!!﹄
おいこら! そこの3人!
﹁ユッチ、そんな事大声で言わないでいいから!!﹂
﹁なんでだよ? 出来なかった事が出来るようになるっていい事だ
ぞ?﹂
﹁や、そうなんだけどさ!﹂
この年で二重跳びが出来るようになったって言うのを大声で言われ
るのは恥ずかしいんだ!
﹁んぐっ、んぐっ⋮⋮ふう⋮⋮おかわりよろしく、ヤス兄﹂
﹁何で!? サツキ速すぎだろ!﹂
さかずき
﹁ヤス兄、乾杯と言う字は﹃杯を乾かす﹄って書くんだよ? だか
ら一気に飲むんだよ﹂
﹁や、それ将来アルハラになるぞ﹂
﹁大丈夫! 私が飲みたいから飲むんだよ! 人には強制しないよ﹂
1281
﹁⋮⋮ならいっか?﹂
⋮⋮いいのか?
さてさて、続々と頼んだメニューも来て、食事開始だ。
⋮⋮うん、この﹃ほうれん草のソテー﹄、中々上手い。
﹁ところで、ヤス君はきちんと準備できてますか?﹂
﹁ん? 何の?﹂
﹁合宿ですよ、明後日からですよ?﹂
﹁ああ⋮⋮お金も払っといてなんだけど、行こうかどうしようか⋮
⋮﹂
﹁なんでですか?﹂
﹁サツキが心配﹂
﹁⋮⋮どこまで妹好きなんですか⋮⋮﹂
妹の授業参観が観たくて学校を抜け出したアオちゃんも似たような
1282
もんだろ。
﹁大丈夫だよ! ヤス兄! ﹃ひとりでできるもん!﹄﹂
﹁⋮⋮サツキ、それは小学生だ﹂
⋮⋮懐かしい。
﹁あのシリーズ、面白かったのにねー﹂
﹁あれ見ながら、真面目に料理の練習したりしたよな﹂
﹁あの時のヤス兄の包丁の持ち方は怖かったー⋮⋮なんで終わっち
ゃったんだろ?﹂
﹁やっぱりせっかく面白かったのに、視聴率を狙うばっかりに奇抜
なのを狙うからいけないんだろうな﹂
﹁そうそう、昔ながらのでいいのにね﹂
﹁だいたいN、H、Kなら視聴率を気にしすぎなくてもいいじゃん、
毎月徴収してるんだから﹂
﹁だよね! 大河ドラマでもわざわざあんなに俳優を豪華にして狙
わなくてもいいのにね﹂
﹁まあ、一応それで視聴率が上がってるらしいけど﹂
﹁関係ないよ。N、H、Kはそもそも視聴率を目的をした局じゃな
いんだよ!﹂
1283
﹁そうだな﹂
なんだっけ? 公共放送? 公共の放送をしてるかは疑問だよなあ。
そもそも公共放送ってどんな放送なんだろ?
﹁でも、N、H、Kが視聴率稼ぎに走るのも﹃毎月支払ってんだか
らちゃんとしたの作れよ!﹄みたいな投書がバカバカきてるからな
のかもねー﹂
﹁いやいや、そう言う人に限って﹃うちは見てませんから!﹄って
追っ払って金は払わないんだよ﹂
﹁さすがにいないよ! 払わない人は無干渉だよ!﹂
﹁そんなもんか?﹂
﹁そんなもんそんなもん﹂
⋮⋮ほんとか?
﹁それより、払わないと罰則ってあるの?﹂
﹁ケンが言ってたけど、無いらしいぞ。なんか家にテレビ置いてて、
N、H、Kの徴収を16年間未払いだった人がついに支払う事にし
たらしいんだけど、その16年間分の支払いは無いんだって﹂
﹁ええ!? ならうちも払うの止めよーよ。そもそも最近テレビ自
体ほとんど見ないじゃん!﹂
1284
﹁や、まあ払うかどうかの決めるのは父さんと母さんだし﹂
でも父さんも母さんもテレビ見てないし、俺もサツキも見なくても
別に平気だしなあ。
⋮⋮あ、でも日曜朝の﹃ゴーオンジャー﹄が見れなくなるのやだな
あ。
⋮⋮﹃ゴーオンジャー﹄のために受信料を払うのか? うちの家族
は⋮⋮。
﹁私の家、払ってませんよ?﹂
﹁ボクの家もお﹂
﹁え? なんでさ﹂
﹁テレビありますけど、映りませんし﹂
﹁⋮⋮アオちゃん、それって何に使うんだ?﹂
﹁ビデオとかDVD見るのに使うんですよ﹂
﹁⋮⋮なるほど﹂
⋮⋮何かそれで十分な気がしてきた。
ニュースは新聞があるし、ラジオもあるし。
﹁ユッチ先輩の家は何で払わないんですか?﹂
﹁テレビ無いもん﹂
1285
﹁あれ? ユッチって映画好きじゃなかった? テレビで見ないの
か?﹂
﹁映画はパソコンで観るから大丈夫だあ!﹂
﹁⋮⋮なるほど﹂
パソコンでもDVD借りて観れるし、無料で観れるサイトもあるし、
それでいいんかも。
﹁こんな感じにみんな払わなくなったらどうなるんでしょうね?﹂
﹁さあ? 民間放送になるだけなんじゃない﹂
俺らが気にするこっちゃないさ。
﹁それで、結局ヤス君は合宿どうするんですか?﹂
⋮⋮あ、そだった、その話だったな。
なんでこんなに話がずれたんだろう?
1286
137話:N、H、K︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
⋮⋮全く別の話にするつもりだったのに、何でこんな話になってし
まったんだろう?
別に受信料払うと損って話じゃないですよ?
でも、最近は携帯電話でもテレビ見れますし、パソコンでも地デジ
のチューナーつければ見れますし⋮⋮今の集金基準ってなんなんで
しょう?
ちなみに16年間未払いの人の話のネタはここから。
http://news.ameba.jp/special/2
008/07/15417.html
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
1287
138話:海派? 山派?
﹁で、結局ヤスは合宿に来るの?﹂
ユッチが答えを催促してくる。
⋮⋮どうしよ?
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
﹁どうしよ?﹂
﹁ヤス兄! そんなに悩んで結局結論でないの!?﹂
や、だってサツキ置いてきたくないし。
1288
﹁そんなに悩むんでしたら、サツキちゃんも連れてったらどうです
?﹂
﹁え? いいの?﹂
﹁さあ⋮⋮今から申し込んで大丈夫なのかわかりませんけど。女子
の部屋ってウララ先生、ゴーヤ先輩、キビ先輩、ユッチ、ポンポコ
さん、私、私の妹の7人なんですよね﹂
おい、アオちゃん⋮⋮俺に対してどれだけ妹好きなんだとか言っと
きながら、自分はちゃっかり妹連れてってるんかい。
﹁確かウララ先生が8人部屋借りたって言ってましたから、1人入
れるんじゃないですか?﹂
﹁そうなんか⋮⋮明日ウララ先生に聞いてみよか﹂
﹁サツキちゃんはいいんですか?﹂
﹁家にいても寂しいですから、ついていけるなら、ついてきたいで
す﹂
⋮⋮明後日出発なのに、大丈夫なんかな?
1289
最後に出てきた﹃ほうれん草のオーブン焼き﹄をつついてる。
うむ、ほうれん草うまい。
﹁ところで、合宿ってどこ行くんですか?﹂
ありゃ? 言ってなかったっけ?
﹁富士山ですよ﹂
﹁また? 今年で3回目じゃない? ヤス兄﹂
﹁そうなんだよ。なんか、ウララ先生がすんごい低予算合宿を実行
したいらしい﹂
﹁はあ? なにそれ?﹂
﹁去年、他の部で3泊4日にもかかわらず、4万円とかすごい額を
払った部があるんだって﹂
﹁うわ、すごいね。それ﹂
﹁で、低予算で実行するならって事で。宿泊施設は青年の家﹂
1290
﹁ふーん、ヤス兄っていくら払ったんだっけ?﹂
﹁10000円﹂
﹁あれ? 何泊?﹂
﹁5泊6日だけど?﹂
それは言った気がするんだけど。
﹁だよね? 安すぎない?﹂
﹁高校の合宿で、研修が目的だから宿泊費ただだし﹂
﹁あ、そうなんだ﹂
﹁現地集合ですし﹂
⋮⋮近いからできることだよなあ。
最寄りの駅まで定期の範囲内だから、必要なのはバス代だけで往復
720円なり。
﹁食費が1日1600円だったかな? んでスーツ代が160円﹂
﹁1600×5+160×5?﹂
﹁ユッチ、いくら?﹂
﹁へ? えっとえっと⋮⋮1、2、3、4⋮⋮﹂
1291
⋮⋮ユッチ、指じゃ足らんと思うぞ。
﹁ああ、もうわかんないやあ! 1600円と160円で大体20
00円ぐらいだから10000円集めたんだろお!?﹂
﹁そうですね、ユッチ。えらいねー﹂
﹁今、アオちゃん馬鹿にしてるだろお!﹂
﹁してませんよ? ユッチが今やった概算は小学校6年生で習う科
目ですよ、ちゃんと小学校の頃の勉強が身に付いてるじゃないです
か﹂
⋮⋮小学校6年生って⋮⋮ユッチ高校生じゃん。
すごい馬鹿にしてる気がする。
﹁が、がいさん? なんだった?﹂
⋮⋮頑張れユッチ。小学生に負けんな。
﹁余ったお金は保険料とか雑費とか﹂
﹁安いねー、5泊6日で10000円って﹂
﹁だなあ﹂
何かこれだけ安いと一瞬詐欺にでもあった気になってしまうな。
﹁でもさあ﹂
1292
なんだ? ユッチ。
﹁ボク、山より海がよかったなあ﹂
﹁そか? 合宿が山でもいいじゃん﹂
ユッチは海派なのか。
﹁何言ってるんだよ! 海だよ海! せっかく夏なんだし、泳ぎた
いだろお!?﹂
﹁別に山も悪くないと思うけど。 夜とか涼しくて過ごしやすいじ
ゃん﹂
﹁暑くてこそ夏だあ! そして思いっきり泳ぐんだあ!﹂
﹁それは合宿の趣旨から外れてるだろ!?﹂
﹁ヤス、何言ってるんだあ!? 泳ぐのは全身運動なんだから、陸
上競技にもいい影響出るんだぞ! 特にヤスの長距離は余計だぞ!
?﹂
﹁⋮⋮そなの?﹂
﹁水の中だから怪我しにくいし、心肺機能はあがるし、全身に筋肉
つくし、長距離にとってはいい事尽くめじゃん﹂
そうなのか。
1293
﹁ね? アオちゃんも海がいいよね?﹂
﹁私は山派ですけど﹂
﹁くそお! アオちゃんの裏切りものお!!﹂
﹁だって山は星が綺麗ですもん﹂
﹁海だって綺麗だよ!﹂
﹁富士山でしたら御来光の瞬間が素敵じゃないですか﹂
﹁海の日の出だって素敵だよお!﹂
﹁後、緑が多い方が好きですし﹂
﹁富士山は火山だあ!! てっぺんは木なんか生えて無いじゃんか
あ!!﹂
﹁⋮⋮ユッチは私を山嫌いにさせたいんですか?﹂
﹁え? え? そ、そんな事無いよお?﹂
﹁じゃあいいじゃないですか。山が好きでも﹂
﹁でもでもでもでも!﹂
残念、ユッチ。説得失敗。
﹁⋮⋮サツキちゃんは?﹂
1294
﹁私、海好きですよ?﹂
﹁だよねだよね!﹂
﹁山のがもっと好きですが﹂
﹁くそお!! みんなみんなボクの敵だあ!!!﹂
⋮⋮頑張れ、ユッチ。
⋮⋮実は俺もユッチと一緒で海派だったりするんだが、面白いから
黙っとこ。
1295
138話:海派? 山派?︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
PV100000アクセス突破しました!
皆さんが読んでくださっているおかげです。
ちなみに青年の家に関する情報はこちら。
http://fujinosato.niye.go.jp/
正式名称は﹃国立中央青少年交流の家﹄です。
ご家族でも空きがあれば利用できる︵宿泊費250円︶ようですが、
夏休み、春休みはかなり埋まるみたいですね、ほとんど利用できな
さそうです。
ただ、夏休みでもキャンプ場は結構空いているようです。
それでは!
1296
139話:耳をすませても︵前書き︶
この話は映画﹃耳をすませば﹄のネタバレが混じってます。
また、﹃耳をすませば﹄が大好きな人は不快に思うかもしれません。
初めに謝っておきます、ごめんなさい。
1297
139話:耳をすませても
﹃ごちそうさまでした!﹄
⋮⋮と言う訳で、おいしくいただきました。
みんなで大体3000円。1人あたり750円。
この値段であれだけ食べれれば十分だろ。
﹁んじゃまたね! ヤス、サツキちゃん!﹂
1298
﹁また明日です、ヤス君、サツキちゃん﹂
﹁あいあい、またなー﹂
﹁合宿で会えたらいいですね!﹂
ユッチとアオちゃんと挨拶を交わして別れた。
ってもう17時か⋮⋮。
ずいぶん遅くなったなあ。
﹁ヤス兄、私たちも帰ろっか?﹂
﹁や、ちょっと寄りたいとこあるんだけどさ﹂
﹁こんな時間に? どこ?﹂
﹁部活の同級生の家﹂
﹁あれ? ヤス兄の高校にいる友達ってケンちゃん、ポンポコ先輩、
ユッチ先輩、アオちゃん先輩の他にいるの?﹂
事実だけど⋮⋮失礼なやっちゃ。
﹁前に話した事あったっけ? ヤマピョンってやつ﹂
﹁ええと⋮⋮覚えてない﹂
ま、そんなもんだろ。
1299
﹁終業式の時から部活に来てないんだけど、別に風邪引いてる訳で
もなさそうだし、旅行に言ってる訳でもないっぽいんだよね﹂
﹁あ、その人幽霊部員なんだ﹂
﹁そうそう、で、どうしてんのかなあと見に行こかと﹂
﹁わざわざその人の家まで? ヤス兄、場所わかるの?﹂
﹁住所は調べた! 地図でも調べた!﹂
これで道間違えたらもうどうしようもないな。
﹁そう言う事じゃなくて、どやって住所調べたの?﹂
﹁ん? ポンポコさんに聞いたら、こっそり教えてくれた﹂
⋮⋮堂々と教えてしまうのはなあ。
一応個人情報だからな。
﹁ヤス兄、ストーカーと間違えられないでね﹂
や、男が男にストーカーするって何なんだろう?
﹁と言う訳で、サツキも行くか?﹂
﹁そだねー、行く行く!﹂
﹁よっしゃ、レッツラゴー!﹂
1300
﹁おー!﹂
移動中の電車内ではその前にストーカーって単語が出たもんだから、
とある映画の話でついつい盛り上がってしまった。
﹁や、あれこそストーカーだろ?﹂
﹁学校の図書館の本で、気にしてもらえるように先に本借りたって
人?﹂
﹁そうそう﹂
﹁いいじゃん、あの映画。ありえなさっぷりに笑えるよ?﹂
﹁だよな、ありえないよな? そもそもきっかけがありえないし。
学校の図書館に本って何冊あるんだよ﹂
﹁えっと、私の中学校は10000冊くらいって言ってたよ﹂
あの舞台の学校はもっと多そうだったなあ。
﹁んで、1年で何冊読めるんだ?﹂
1301
﹁1日1冊って考えても、365冊だよね﹂
﹁それも無理そうだけど⋮⋮まあそうしよっか。始まりは夏休みだ
ったんだから、1年生のしょっぱなからいきなり一目惚れして読み
始めたって思っても365×2+100くらいで840だろ? ん
で2人が全く同じ本を読むなんて、ほぼありえないじゃん﹂
主人公の女の子、人気作品だけじゃなくて、誰も読まなさそうなめ
っちゃぶっとい小説とかも借りてたし。
大体話した事も無いのに、その女の子の好きな小説がわかる訳無い
んだから、男の方は無作為に読むしか無いわけだ。
それじゃやっぱり同じ本は読めんだろ。
﹁そうすると、2人のきっかけはそもそも無かった訳だよね﹂
﹁そうそう﹂
﹁⋮⋮でもさ、ヤス兄﹂
﹁ん? 何?﹂
﹁あれは男の巧妙な手口に決まってるんだよ﹂
﹁どういう事だ?﹂
﹁読書カードなんて、借りてなくても書けるよ? それか、借りて
も読まなくても良い訳だよ﹂
﹁まあ、確かに﹂
1302
﹁それで、とりあえず10000冊全部に自分の名前をせっせと書
くわけだよ﹂
﹁くらっ! こわっ!﹂
誰も見て無い図書館の隅っこで、こっそり読書カードに名前を書い
ていく⋮⋮怖すぎだ。
﹁で、後でばれないように日付も少しずつずらして書いておく訳だ
よ、ヤス兄﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁実際にあの2人は読んだ本の話、してたっけ?﹂
﹁えっと⋮⋮してたかなあ?﹂
してなかった気がする。
﹁でしょ? 男の方は図書館でこそこそっとすれ違ったり、隣に座
ったりはしてたけど、本は読まずに女の子を見てたんだよ﹂
﹁中々怖いなー、それ﹂
﹁男の方は本の話をすると読んでない事がばれてしまうから、さっ
さと自分のテリトリーのバイオリンの話に変えていった訳なのだよ﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁大体中学校行きつつバイオリン作りに情熱を燃やしてたら、授業
1303
中にこっそりくらいしか本読む時間無いよ。でも授業中ってあんま
り読書って進まないんだよね﹂
﹁うん、確かに﹂
こっそり読書しててついつい没頭して突然当てられるときなんてた
まったもんじゃない。
﹁そして、長い時間会ってるとボロが出るから、ある程度女の子に
恋愛感情を植え付けたと思った瞬間にイタリアへ逃げる訳だよ﹂
﹁なるほどー﹂
﹁告白してオッケーもらったところで映画は終わってるけど、次の
日に女の子の方が自分の書いた小説を読ませようと手渡しした瞬間、
別れの始まりだね﹂
﹁な、なるほどー﹂
そこまで深読みはしなかった。
﹁ってか、こそこそっとすれ違ったり、隣に座ったりって⋮⋮つき
まといじゃん。やっぱりストーカーじゃないか?﹂
﹁ヤス兄、どんなにストーカー行為っぽくても女の子の方がストー
カーだと認識してなきゃ、きっとストーカーじゃないよ﹂
そうなのか。
﹁あの映画はありえなさっぷりに笑うのと、歌に聞き入るのが楽し
1304
む方法だよね﹂
﹁歌か。歌と言えば替え歌の﹃コンクリートロード﹄。全文聞いて
みたいな﹂
﹁あれ、全歌詞作って欲しいよね﹂
﹁今度適当に作ってみよか﹂
﹁いいよ、やろやろ﹂
うん、決定。
道に迷いながらも、ようやく見つけた山本さん、ヤマピョンの家。
ってかもう18時半かよ⋮⋮。
おそっ! 14時頃にはここにいるつもりだったのに。
やっぱり、二重跳びに苦労したからなあ。
ま、さっさとインターフォン押しますか。
1305
139話:耳をすませても︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
こんな話書いといてなんですが、私﹃耳をすませば﹄大好きなんで
すけどね。
ちなみに中学校の平均蔵書数は現在9119冊︵平成19年度調査︶
だそうです。
うち、小説だけなら規定上は全蔵書の4分の1程度だから2000
∼3000。さらに、ヒロインは町の図書館の本の図書カードまで
⋮⋮毎日1冊読んでったとしても、やっぱりほとんどの本でヒロイ
ンの方より先に読むのはきつくないでしょうか?
⋮⋮と、映画や小説の無理がある部分につっこみ入れ始めるときり
がないので、この辺りで。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
1306
140話:突撃、山本さんちの晩ご飯
ピンポーン
山本さんち、ヤマピョンの家のインターフォンを押す。
﹁はいはい﹂
お? 結構おばあちゃんっぽい声。
﹁ども、ヤマピョンの同級生のヤスですが⋮⋮﹂
﹁ヤマピョン⋮⋮?﹂
やば、ヤマピョンじゃわからんよな。
⋮⋮本名なんだっけ?
﹁⋮⋮武の事かい?﹂
﹁そうそう! 武君の同級生のヤスってもんです﹂
よかった、言ってくれて。
﹁はいはい、ちょっと待っててなあ﹂
よし、突然の訪問だったけど何とかなったな。
﹁ヤス兄、今のってほとんど﹃オレオレ詐欺﹄だよね﹂
1307
﹁え? そうだった?﹂
﹁だって、むこうに名前を言ってもらうのを待ってるんだもん﹂
﹁あ⋮⋮﹂
そう言われれば⋮⋮まずかったかな。
﹁味をしめてだまさないでね、ヤス兄﹂
﹁しないって!﹂
俺はそんなに要領良くないって。
﹁そだね、ヤス兄って、不器用だもん、出来なくていいよね﹂
﹁⋮⋮﹂
今、サツキには褒められたんだろうか? けなされたんだろうか?
1308
と言う訳で、山本さんちにお邪魔いたしました。
まさに晩ご飯が始まる所に来たっぽくて、もうヤマピョンの両親と
祖母、ヤマピョンが食卓に座ってる。
﹃お邪魔しまーす﹄
⋮⋮ってか俺ら、この瞬間ってほんとにお邪魔っぽいよなー。
﹁⋮⋮あ、ヤス⋮⋮﹂
﹁ヤマピョン、こんばんはっす﹂
﹁⋮⋮こ、こんばんは⋮⋮﹂
ありゃ、やっぱりどもってんなあ⋮⋮。
もしや、家でもこんな感じ?
﹁初めまして、ヤス兄の妹のサツキです﹂
﹁⋮⋮あ⋮⋮えと⋮⋮﹂
頑張れ、ヤマピョン。
﹁ああ、この子は人見知りが激しくてねえ⋮⋮武って言うんで、仲
良くしてなあ﹂
1309
⋮⋮あう、言われた。
ヤマピョンに頑張って欲しかったんだけど。
﹁⋮⋮や、ヤス⋮⋮?﹂
﹁うい? 何?﹂
﹁⋮⋮えと⋮⋮何⋮⋮?﹂
⋮⋮何って!? 俺が聞きたいっすよ。
﹁ほらほら、ヤス兄が何で来たか言わないと駄目じゃん﹂
﹁あ、そか﹂
忘れてた。そりゃ何の用事って聞くよな。
﹁ヤマピョン。部活、来ない?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮や﹂
や、そんな一言で拒絶をしなくても。
﹁まあまあ、確かに上級生の先輩達はやってらんないかと思うけど
さあ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁走りたいように走らせてくれないし﹂
1310
俺は﹃ネコミミ﹄つけて、やりたいようにやりまくってるが。
﹁他にも世の中理不尽な事なんてそこら中にいっぱいある訳っすよ。
先輩のありえない行動くらい大したこっちゃないってぐらい﹂
﹁何か実感こもってるね、ヤス兄﹂
﹁そりゃそうだ、先輩の行動なんて大した事無いさ﹂
﹁例えば?﹂
﹁父さんと母さんの話とか聞いてりゃなあ。めちゃくちゃスケジュ
ールが厳しい無理な発注が来るとか、納期の1週間前に営業の人が
突然仕様の変更を軽く引き受けてきて、泣く泣く作業したり。 ん
で帰ってくるのが夜中の2時∼3時になったり⋮⋮﹂
﹁それでいて、﹃新入社員は毎日遅刻してくる!﹄って嘆いてたね。
﹃19時は帰らせてんのにー!﹄って﹂
﹁んで、遅刻しないでって注意したら﹃こんな職場やってらんない
!!﹄ってドロンしたり﹂
﹁25過ぎてそれは無いよねー。お前はキレる10代か! って﹂
﹁そんなこんなで8月は日曜日潰れてた日もあったもんなあ⋮⋮く
そう、せっかくの家族の団らんの時間を﹂
﹁他にもニュース見てるとすごいよね﹂
1311
﹁まあ、いろいろあるよなー﹂
﹁モンスターペアレント!﹂
﹁あんな人ら、実在するんか?﹂
﹁個人情報だだ漏れ!﹂
﹁信頼して届けてた個人情報がだだもれって何だ! って感じだよ
な。ってか個人情報が入りまくってるパソコンでどんな人ともファ
イルの共有が出来るソフト使ってたって⋮⋮確かWinnyだった
よな﹂
﹁お医者さんがいない!﹂
﹁小児科、無いの辛いよなー﹂
﹁産婦人科もだよ。無いの本当に困るよね⋮⋮﹂
﹁は!? サツキはまだ早いだろ!?﹂
﹁あはは、当たり前じゃん。将来の話だって。びっくりしすぎだよ﹂
だよな⋮⋮よかった! 本当によかった! 本当に本当によかった!
﹁ヤス兄のが料理が上手!﹂
﹁⋮⋮それのどこが理不尽?﹂
﹁私の立場が無いじゃん!﹂
1312
知るかい! そもそもそんな事ないと思うんだけど。
﹁⋮⋮ま、こんな感じで理不尽な事なんてそこら中に転がってる訳
さ﹂
﹃⋮⋮﹄
あら? 話が逸れすぎたか?
⋮⋮しまったな。ヤマピョン一家がじっと俺らを見てる。
﹁と言う訳で、ヤマピョンもあれぐらいの理不尽に負けちゃ駄目だ
ぞ、いつからでも良いから部活にいこう﹂
﹁無理矢理話まとめたねー、ヤス兄﹂
こら、チャチャを入れるな。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
えーと⋮⋮かなり無反応。
どうしよう?
﹁ごめんねえ⋮⋮この子、しゃべりだすまでに時間がかかるんよ。
ゆっくりまっててやあ﹂
あ、そういやそうだった。
﹁⋮⋮い、いつか⋮⋮﹂
1313
﹁ん?﹂
﹁⋮⋮い、いく⋮⋮﹂
おお、来てくれ。
そろそろ本当に1人で練習が寂しいんだ。
ポンポコさんも時々は付き合ってくれるけど、やっぱり一緒に走る
人が欲しい。
﹁せっかくだで、夕飯食べてく?﹂
﹁え? 悪いですよ?﹂
と言うか、まだ昼食べ終わってあんまり時間が⋮⋮。
﹁大丈夫、たくさんあるからねー﹂
と言ってヤマピョンのおばあちゃんは、キッチンの方に行って2皿
持ってきてくれた。テーブルに置かれたのはシチュー。
夏野菜がどっさり入ってて、上手そう。
﹁これ、なんて言う料理ですか?﹂
﹁夏野菜シチューだよ﹂
まんまやな⋮⋮しかし上手そう。
﹁レシピ、後で教えてもらえます?﹂
﹁⋮⋮ヤス兄、これ以上料理上手にならなくていいよ、ほんとに私
1314
の立場無いじゃん﹂
﹁大丈夫、俺にとっての一番の料理はサツキの作ってくれたチャー
ハンだから!﹂
﹁ああ、うん、ありがと⋮⋮実は結構適当なんだけどな﹂
﹁なんか言った?﹂
﹁ううん? なんでも?﹂
ま、いいや。
お言葉に甘えていただこう。
それでは、手と手のシワを合わせて、﹃しあわせ﹄だったかな。
﹃いただきます!﹄
1315
うん、上手かった。昼からあんまり時間無かったけど、食が進んだ
なあ。
食事中におばあちゃんにレシピも教えてもらったし。今度作ってみ
よ。
⋮⋮おばあちゃんってええなあ。
﹃ごちそうさまでした!﹄
こういう家族の団らんってやっぱええなあ。
1316
140話:突撃、山本さんちの晩ご飯︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
前回に引き続き、今回はユニークアクセス20000突破いたしま
した!
皆様、ありがとうございます!
−−−−−
昨日、職場でいろいろと理不尽な目にあったもんで、こんな話にな
ってしまいました。
その後、一部始終を見てた別の先輩がとても慰めてくれました。
その先輩いてくれてほんと良かったなあと思った瞬間。
−−−−−
ちなみに夏野菜シチューはここから借りました⋮⋮今冬ですが。
http://cookpad.com/recipe/60893
それでは!
1317
141話:合宿開始
今日は8月22日。
今日から合宿開始だ。
快晴になってよかった。
昨日サツキも合宿に連れてけないかウララ先生に聞いたら、なんと
かOKをもらえた。
無理だと思ってもとりあえずいろいろ聞いてみるもんっすね。
﹁サツキ、行くぞー!﹂
1318
﹁待ってよ、ヤス兄! まだまとめてないんだから!﹂
﹁って何でそんなに荷物が多いんだ?﹂
﹁女の子は荷物が多い物なんだよ、ヤス兄﹂
や、中2で2泊3日の修学旅行の時サツキはあんまり荷物持ってな
かったぞ。﹃荷物が多かったら邪魔じゃん﹄って言って小さなリュ
ック1つにまとめてた気が⋮⋮。
﹁お待たせ! ヤス兄!﹂
﹁うい、行こか⋮⋮ってほんとに荷物多いな、何が入ってんの?﹂
﹁いろいろ。女の子の荷物を聞くなんて野暮だよ、ヤス兄﹂
こらサツキ、そればっかやん。
今回はスポーツバッグ一杯に詰め込んできてる⋮⋮なに入ってんだ
ろ。
1319
合宿所である青少年の家に到着。
富士山の麓にあって、今日は快晴なもんだから富士山がものすごく
綺麗に見える。
もうほとんどの部活のメンバーは来てる。あそこにケンとヤマピョ
ン以外の男子がひとかたまりになってて、向こうにユッチとアオち
ゃん、アオちゃんの妹さんにポンポコさん、んでさらに向こうにゴ
ーヤ先輩とキビ先輩とウララ先生。
⋮⋮来てないのはケンとヤマピョンくらいかな。
お、ユッチが気付いてこっちにやって来た。
﹁おはよっ! ヤス、サツキちゃん!﹂
今日は朝なのに元気だ、ユッチ。
﹁ういっす、おはようさん﹂
﹁おはようございます、ユッチ先輩﹂
﹁晴れてよかったねえ、去年は霧がすごくてってウララ先生言って
たもん﹂
﹁だな、晴れ女でもいるんじゃない?﹂
﹁ボク、晴れ女だよ! 今まで運動会とか大会で雨ふった事無いぞ
!﹂
ほおほお。
1320
﹁週間天気予報見てたら合宿のうち2日は雨降るらしいですよ?﹂
﹁あ、あれ? そうなんだ?﹂
⋮⋮サツキ、そんな事言っちゃユッチがかわいそうだ。
﹁確か3日目と5日目だったと思います、雨の日の練習って何する
んですか?﹂
﹁雨の日は大体筋トレかなあ⋮⋮そっか、雨、降るんだあ⋮⋮﹂
ユッチ、そんながっかりすんな。
﹁よっしゃ! 9時ジャスト、ギリギリセーフ! おはようさん、
ヤス。時間ぴったりだっただろ﹂
﹁おはよ、ケン。10秒遅刻だ﹂
﹁細かすぎだろ!﹂
﹁遅れたには違いないぞ⋮⋮ってかケンの荷物多すぎじゃないか?﹂
1321
﹁そうなんだよ、これが重くってバス降りた後走れなくってさ、そ
れが無かったら余裕で間に合ってたな﹂
﹁遅刻の言い訳?﹂
﹁うむ!﹂
や、堂々と言うな。
﹁その荷物、一体全体何が入ってるんだよ﹂
﹁いろいろ。男の荷物を聞くなんて野暮だぞ、ヤス﹂
うっさい! サツキと同じ事言うな!
﹁それじゃ、全員揃ったので、最初のミーティング初めましょっか﹂
﹁あれ? ウララ先生、まだヤマピョン来てませんよ?﹂
﹁ああ、昨日ヤマピョン君のおばあちゃんから連絡あって、合宿は
休むそうよ﹂
そっか、合宿来ないかあ⋮⋮残念。
﹁さて、改めてみんなおはよう﹂
﹃おはようございます!﹄
﹁青少年の家では、いろいろルールがありますから、きちんとそれ
1322
守ってね。他の団体も利用してますから、迷惑をかけないようにし
てね。特に4月、集団宿泊研修でここに来た時に夜中抜け出したヤ
ス君とポンポコさん、気をつけるように﹂
﹃はーい﹄
やな記憶を思い出したなあ。
ってかそれより俺はガソリン引火のが怖かった⋮⋮アオちゃんと仲
良くなったきっかけだったけど。
﹁変な規則がある訳じゃないし、基本的なマナーを守ってればそん
な違反するなんて事は無いと思うわよ﹂
うい、了解。
﹁洗濯は空き時間を見て部屋ごとに自分たちでやってね。そんなに
数がある訳じゃないし、他の団体さんも利用するから占領しないよ
う気をつけて﹂
ういうい、了解。
﹁食事は弁当の時以外はバイキング形式です、食べ過ぎなさい﹂
何で!? 訳分からん!
﹁小食じゃ合宿、持たないわよ。練習でお腹が重くて動けないって
ほどには食べちゃ駄目だけど、たくさん食べてね﹂
そう言う事ですか⋮⋮んじゃ﹃食べ過ぎなさい﹄じゃなくて、﹃キ
チンと食べろ﹄くらいに言ってくださいよ。
1323
﹁じゃあ前にプリント渡しといたけど、もう1回1日の時間の流れ、
説明するね。プリント出せる人は出して﹂
ほいほい、了解。
隣にいるサツキと一緒に見る。
ちょっとずれるときもあるらしいけど、大体こんな流れ。
06:30 起床
07:00 朝のつどい、ラジオ体操
∼
07:20 07:30 朝食
∼
08:00 09:00 午前練習
∼
11:30 12:00 昼食︵弁当の時もあり︶
∼
12:30
13:30 午後練習
1324
∼
16:00
17:00 夕べのつどい
∼
17:20
18:30 夕食
∼
19:00
20:00 どっかで入浴
∼
21:00
21:15 お勉強
∼
22:30
22:30 明日の連絡
∼
22:40
23:00 就寝
﹁ふーん⋮⋮あんまり自由時間って無いんだね﹂
﹁まあなあ⋮⋮遊びにきた訳じゃなくて、合宿だし。こんなもんな
んじゃん?﹂
1325
﹁っていうか、私毎朝起きられるかなあ⋮⋮﹂
﹁いつもみたいに俺が起こしに行っていいのか?﹂
﹁私だけだったら良いけど、ポンポコ先輩とかユッチ先輩とかアオ
ちゃん先輩が寝てる中入ってったらまずいんじゃない?﹂
うん、だよな。
﹁まあ、誰かに起こしてもらいな。アオちゃんとか朝きちんとして
そうだし﹂
ユッチは寝てそ。
﹁あいあい、ヤス兄﹂
﹁⋮⋮と言う訳だから、よろしくね﹂
ウララ先生の説明もちょうど終わった。
﹁練習に関してだけど、短距離は私が見ますが中長距離はどうする
の?﹂
﹁あ、俺が考えときました﹂
2年の先輩が答えた。
﹁そう⋮⋮よろしくね﹂
﹁はい﹂
1326
ウララ先生、ちょっと心配そうだけど⋮⋮まあ、ウララ先生も短距
離長距離両方見る事は出来ないから、しょうがないわな。
俺はどうしよう。まだメニュー自分で考えれるだけの知識、無いし。
ポンポコさんからも聞いてないし。
﹁それでは、荷物を置いて、所長さんに挨拶したら、早速今日の練
習開始しましょう!﹂
﹃はい!﹄
ではでは、合宿開始っす。
1327
141話:合宿開始︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃青少年交流の家﹄の起床時間や就寝時間、朝の集い、夕べの集い
の参加等は決まってます。
その辺りは面倒かもしれないですが、安さには負けます。
富士山のふもと以外にも青少年交流の家はありまして、
北海道、岩手県、福島県、群馬県、石川県、岐阜県、兵庫県、島根
県、広島県、愛媛県、熊本県、沖縄県
の全国に計13カ所あります。
詳しくは
http://ja.wikipedia.org/wiki/%
E5%9B%BD%E7%AB%8B%E9%9D%92%E5%
B0%91%E5%B9%B4%E4%BA%A4%E6%B5%
81%E3%81%AE%E5%AE%B6
を見てください。
そういえば、今日は全国高校駅伝です。
女子が午前10:05∼11:55
男子が午後0:15∼2:55
でNHK総合にて放送されますので、興味のある方は。
東海地方の女子出場校は
1328
岐 阜
三 重
愛 知
愛 知
静 岡
中津商
津商
豊川工
豊川
三島北
三 重
愛 知
静 岡
中京
上野工
豊川工
藤枝明誠
東海地方の男子出場校は
岐 阜
女子は20回記念なので、東海地方から1校余分に出れるようで豊
川工業高校が選ばれてました。
その他の地域の出場校に関しては
http://www.nhk.or.jp/rr/
で見られます。
あとがき、長々と失礼いたしました。
それでは今後ともよろしくお願いいたします。
1329
142話:合宿1日目、短距離と
所長さんに挨拶して、シーツを受け取って、それぞれの部屋に行く。
陸上部員は現在全部で19人。
2年生男子7人女子2人、1年生男子7人女子3人。
人数を上手に分割するために、部屋割りは2年男子、1年男子、女
子、という部屋割りになってる。
ヤマピョンが休んだので1年男子の部屋は俺、ケン、マルちゃん、
ノンキ、キングとジャックの6人だ。
⋮⋮なんとなく、ケン以外とはしゃべらん気がするなあ⋮⋮。
んじゃ、荷物置いて、服を着替えてレッツラゴー。
集合場所ではウララ先生がもういる。
早いな⋮⋮一番で来たつもりだったのに。
﹁あ、ヤス君ヤス君﹂
﹁はい、何ですか?﹂
1330
﹁今日の午前、短距離と練習しない?﹂
﹁はえ?﹂
何で?
﹁今日の午前の短距離の練習、走るフォームを直すため練習なのよ﹂
ほうほう。
﹁もちろん、長距離と短距離じゃ走るフォームは違う所もあるけど、
共通部分も結構あるし﹂
ふむふむ。
﹁例えばヤス君! あなたの腕振り!﹂
﹁はい? 何か変ですか?﹂
普通に振ってるつもりなんだが。
﹁横に振っちゃ駄目だよ? 振るなら縦に振らないと﹂
﹁なんでですか?﹂
﹁横に振ったら腕の運動の方向が横向きになるでしょ? 走る方向
はまっすぐじゃない? 運動方向は一緒にした方が楽になるんだよ﹂
⋮⋮なるほど、横方向に振ると運動の力が横に逃げるのね。
1331
﹁他にも直した方が良いなって思うとこ、たくさんあるのよ﹂
げ、そんなにあるんか。
﹁フォームがよくなれば、スピードも上がるし、疲れにくくなるか
ら。やってみない?﹂
﹁あい、やります﹂
﹁決定! 午前、あんまり距離走れなくなるから、その分午後でた
くさん走ってね﹂
あう、やっぱり距離は走るべきなのね。
さてと、女子のメンバーが揃ってやってきた。
ってか男子来るの遅いなー。来てるのケンともう1人短距離の先輩
だけなんだけど。
1332
﹁⋮⋮って何でサツキが運動する格好でいるんだ?﹂
﹁え? だってみんなが練習してる間、ボケーッとしてるなんて暇
じゃん﹂
﹁いやいや、またマネさんやるのかと思ってた﹂
﹁マネージャーはあれはあれで面白いけど、私はやっぱり見てるよ
りやる方が好きなんだよね﹂
まあそだな。サツキは何でもやりたがるし。
﹁と言う訳で参加? 靴は?﹂
﹁一昨日お父さんとお母さんからお金もらって、昨日ポンポコ先輩
とユッチ先輩と買いにいったの﹂
﹁いつの間に⋮⋮﹂
ってか合宿のためだけに買いにいったの?
⋮⋮あ、だからサツキの荷物、あんなに多かったのか。靴とかシャ
ツとか、練習するために必要なもんが大量に入ってたのね。
﹁それにアオちゃん先輩の妹さん、ミドリちゃんって名前なんだけ
ど、がポンポコ先輩の手伝いをするから。そんなにマネージャーば
っかりいらないでしょ?﹂
アオちゃんの妹がミドリちゃんか⋮⋮。
アカちゃんとかいたら、戦隊ものになりそ。
1333
﹁ま、そうかもな﹂
﹁来年は私も大山高校陸上部にいるんだし、今から参加しても良い
かなって﹂
﹁もうそこまで決まってるの!? テニスは?﹂
﹁大山高校ソフトテニス部ないじゃん﹂
﹁や、硬式テニスはあるぞ?﹂
﹁うーん、それはそうなんだけど⋮⋮クロちゃんサキちゃんが、大
山高校受験しないんだよね。2人とも私立で推薦もらえそうだって﹂
ソフトテニスの推薦かな。それならサツキももらえるんじゃん?
﹁ふむふむ、それで?﹂
﹁キリもマイマイもミキミキも大山高校受験しないんだよね﹂
﹁んで?﹂
﹁他の3年生の部活の友達も大山高校受験しないんだよね﹂
﹁だから何さ?﹂
﹁テニス部入っても友達いないわけだし、それじゃもういっかなっ
て﹂
1334
﹁あ、そう言う事か﹂
何となくわかる気もする。
﹁﹃あいつら以外の連中と甲子園にいく気には、たぶん⋮⋮なれね
えと思うからな﹄って気分﹂
サツキはテニスだし甲子園じゃないけどな。
﹁ケンの家にあったっけ? その漫画﹂
﹁そうそう、ケンちゃんちで読んだ。あの人はかっこよすぎだね﹂
﹁だな! あれはかっこ良かった。サツキもそんな仲間と巡り会え
たって幸せっすよ﹂
﹁そうだね⋮⋮クロちゃん達とテニスをしてきたいって気持ちもあ
るんだけど、大山高校にも行きたいし。テニスするならあのメンバ
ーでって思ってたから、できないなら次はまた新しい部活をってね
!﹂
⋮⋮でも、大山高校なんて、別にそんな特色ある学校じゃないぞ?
飛び抜けた進学校でもないし、部活がすごい訳でもないし。
﹁サツキは大山高校でいいの?﹂
東海大会までいってんだ。クロちゃんとかと一緒に私学を受ける道
もあるだろうに。
﹁大山高校がいいの! ポンポコ先輩もユッチ先輩もアオちゃん先
1335
輩もいるし! ⋮⋮ま、ヤス兄もいるし﹂
こら! 最後の一言余分だぞ!
まあでも⋮⋮サツキが来てくれるってのは嬉しい!
﹁じゃ、来年から一緒に登校しよな!﹂
﹁そだね、ヤス兄! また来年から一緒に登校だね!﹂
うん、楽しみ楽しみ!
よし、やる気も出てきた所で、練習頑張ろ。
1336
142話:合宿1日目、短距離と︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
昨日、﹃ネット小説ランキング﹄を覗きにいきましたら、﹃小説家
になろう﹄は今後登録拒否するとの事でした。
現在登録しているものも順次削除していくそうです。
昨日、私も登録削除してきました。
私自身﹃ネット小説ランキング﹄から﹃小説家になろう﹄の存在を
知ったので、ネット小説ランキングから﹃小説家になろう﹄を知っ
た方、結構いるんじゃないかと思ってます。
この措置は寂しいですが、仕方ないですね。
﹃ネット小説ランキング﹄さん、今までありがとうございます。
サツキの
﹃あいつら以外の⋮⋮﹄はあだち充先生の名作﹃ラフ﹄という漫画
の一言。
この一言のために昨日本屋に行って、該当の漫画を見つけて立ち読
みし、さらについついはまって買って帰ってきた自分って⋮⋮。
それでは今後ともよろしくお願いします!
1337
143話:合宿1日目、午前練習
﹁お前が俺らと一緒に練習したがってないのは知ってるから。別に
この合宿でも好きにしたら良いよ﹂
長距離の先輩に短距離と練習するって伝えたときの一言。
ものすごい突き放されてしまったなあ⋮⋮。
﹁⋮⋮隠してたつもりなんだけどなあ﹂
ちょっとへこむ。
﹁いや、ヤスは分かりやすすぎだったぞ﹂
﹁ケン、まじ!?﹂
﹁まじまじ。やっぱりヤスにはポーカーフェイスは無理っぽいな﹂
そだな、俺には無理だ⋮⋮やましい事はしないようにしよ。
長距離連中とはギスギス感があってちょっとやだけど⋮⋮まあ、頑
張りたいし、好きにさせてもらいます。
1338
﹁さて! それでは短距離の練習を始めます﹂
ういうい、了解です。ゴーヤ先輩。
﹁まずはいつも通りアップをしましょう、ヤス君とサツキちゃんは
後ろからついてきといてね﹂
﹃はーい﹄
テケテケとジョグ開始。
ここの青少年交流の家のグラウンドは土のグラウンドだ。
試合が行われるような陸上競技場にあるゴムゴムのタータントラッ
クで練習したいと思うなら、別の所をかりにいかないと駄目らしい。
短距離は合宿の間のうち、1日だけ行くって言ってたかな。
﹁ヤス君! ジョグだからって適当に走らない! 足を思いっきり
あげる必要は無いけど、きちんと足をあげて着地する! 足をずっ
て走るなんて、普段の練習でも絶対しないでしょ!?﹂
ウララ先生から叱責が飛ぶ。
⋮⋮確かに。
ゆっくりとしたペースだから足をズッ、ズッ、って地面を滑らせて
た。
⋮⋮よし、これでいいな。
﹁ヤス君! 前かがみにならない! 足下を見るからそうなるんだ
よ! 前を見て走りなさい!﹂
1339
前かがみ? そんな風になってんの?
⋮⋮前かがみになるとあかんのか?
﹁ヤス君、前かがみになると足が出ないんだよ。体全体で前かがみ
になれば、自然と前に出てくけど、ヤス君の場合は腰が曲がってる
でしょ?﹂
あ、そうなんだ⋮⋮そう言えば、﹃ちびまる子ちゃん﹄でも同じ話
があったなあ。
⋮⋮すげえな、﹃ちびまる子ちゃん﹄。
よいしょ、腰を伸ばしてっと。
⋮⋮あ、そうそう腕は縦に振るんだったな。
﹁ヤス君! 腕振りに関して注意はしたけど、力はいりすぎだよ!
5000m走るのに、そんなに力んでたらもたないよ! 腕を振
る方向はまっすぐに振るのが良いけど、肩の力抜いて走りなさい!﹂
そかそか。リラックス、リラックス。
﹁ヤスく︱ん! 私確かに力抜けって言ったけど! 体傾けないで
! 右に傾いてるよ!﹂
うん、了解。 背筋を伸ばしてっと。
﹁だから力むなー!!!﹂
⋮⋮あう。
1340
ジョグが終わって、ストレッチ中、ウララ先生とポンポコさんの声
が聞こえてきた。
﹁ウララ先生、だから言ったではないですか。ヤスに教え込むのは
骨が折れると﹂
﹁ここまでとは思わなかったわ。ポンポコさん、あなたの感想を軽
く受け止めてた⋮⋮﹂
﹁直すといい所が多すぎるから、そうなるのだな⋮⋮﹂
﹁そうね⋮⋮最低限、あれさえなおれば⋮⋮﹂
⋮⋮なんかすんごい批判されてるんですが。
﹁ヤス、気にするな﹂
﹁気にするよ!﹂
1341
けちょんけちょんに言いおって。
﹁違う違う、今回は私が悪かったのよ﹂
なんで?
﹁一度にいろいろ言い過ぎました。走りながらじゃ、そんなに気が
回らないよね﹂
そういやそうか。
﹁後で、走ってる時のビデオでも見せつつ、注意すればよかった﹂
﹁ビデオとってるんですか?﹂
﹁ミドリちゃんがとってるよ﹂
あ、アオちゃんの妹さんね。
﹁これからフォームを直す練習するけど、今日ヤス君が意識するの
は1個だけ!﹂
﹁なんですか?﹂
﹁体をまっすぐにする! それだけ!﹂
﹁え? それだけで良いんですか? 一番最初に注意されたのは腕
振りでしたけど﹂
﹁ヤス君、マラソン中継見た事ある?﹂
1342
﹁ありますけど?﹂
﹁みんながみんな同じ腕振りしてた?﹂
﹁覚えてません﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
こう返答したら、困るのは分かってたけど。本当に覚えてないんだ
からしょうがない。
ウララ先生の中では﹃そう言えば、してないですね﹄﹃でしょ、腕
振りを意識するのも大事だけど⋮⋮﹄みたいな話を続けるつもりだ
ったんだろうなあ。
﹁ま、まあ今回は腕振りまで意識しなくて良いわよ。1個1個覚え
ていけば良いの。まずは体をまっすぐに!﹂
おれってそんなに曲がってる?
﹁ヤスは息が切れてくると必ず右に曲がって前かがみになる。辛い
のは分かるが、スピードが落ちても良いから、体をまっすぐにして
右に倒れないようにな﹂
了解、ポンポコさん。
﹁あと⋮⋮意識しすぎて力むなよ﹂
こらポンポコさん! 1個じゃなかったんかい!
1343
1時間半程度、延々といろいろした。
モモアゲ、腰振り、体幹、腕振り⋮⋮普段と全然違う動きばっかり
したもんだから体が痛い。
ついでにサツキもへろへろになってる。初練習でいきなり合宿参加
はきついんじゃないのか?
﹁ヤス、サツキちゃん、まだ初日の午前なんだけど⋮⋮大丈夫か?﹂
﹁大丈夫大丈夫、午後練まで休めば何とかなるさ、な、サツキ!﹂
﹁そうだよ! まだまだいける!﹂
﹁そっかな? ってか午前練、まだ終わりじゃないぞ﹂
﹃へ?﹄
そなの?
1344
﹁はい、一旦こっち注目!﹂
ウララ先生の説明が入る。
﹁さて、今回、ドリルの中で走るフォームを意識しましたね。それ
を意識しながらまずは流し100m5本! ⋮⋮全力で走るのは午
後にしときましょう﹂
ま、まあそれくらいなら。
﹁その後、いつも通り筋トレ3セット! あ、ヤス君とサツキちゃ
んは始めてだったかな? 腕立て30、腹筋各種20、背筋50を
3セットね﹂
はう!? ⋮⋮って腹筋﹃各種﹄って何?
﹁サツキちゃんは1セットか2セットにしておいた方がいいよ﹂
﹁嫌です! やります!﹂
﹁⋮⋮えと、無理しないでね﹂
忠告聞いとけ! サツキ!
﹁ダウンして、終了です。昼食まで時間が無いし、テキパキとね!﹂
﹃はいっ!﹄
短距離陣⋮⋮特に女子、元気だ。
1345
流し5本の後、筋トレ開始。
ポンポコさんが掛け声を出す。
﹁まずは腕立て、よーい1!﹂
ふんっ!
﹁2!﹂
ふんっ!
⋮⋮。
﹁30!﹂
﹁ふんがっ!﹂
どだっ!
﹁次、腹筋用意! 2人1組になって!﹂
ちょっと時間あけてよう⋮⋮。
って腹筋で2人1組? 足を持つのか?
﹁ヤスはゴーヤ先輩と組んでくれ、サツキはキビ先輩と﹂
1346
ん、了解。
まずは普通に足持ってもらって20回。
さらに、ひねって左右にそれぞれ20回。
ひねると腹筋だけでなく、側筋もつくとか。
側筋ってのは腹の横の部分な。
サツキとの夜練の時に腹筋はなれてるから、余裕余裕。
﹁次!﹂
あ、まだあるんだ。
﹁ヤスは初めてだよね。まずはヤスが下になろっか﹂
﹁はい﹂
﹁えっと、まず仰向けになって寝転んで﹂
はいはい、了解です。
ごろんっとな。
﹁って!? ゴゴゴゴゴゴゴーヤ先輩!?﹂
いきなり俺の顔をまたいできた。
﹁ん? どっかした?﹂
1347
いやいや! この格好変だろ!?
⋮⋮えっとだな、
頭□□□□□足
こんな感じで寝転んでたら
ゴーヤ先輩が
■
■
■
■
■頭□□□□□足
→
ゴーヤ先輩
こんな感じに立ったのだ。
﹁変な事気にしちゃ駄目だよー、気にしたら負けだよー﹂
そ、そうなのか?
﹁それじゃ、私の足首もって﹂
﹁あ、あい﹂
こわごわとつかむ。
﹁しっかり握らないと辛いよー﹂
1348
﹁あい!﹂
がしっとつかむ。
﹁両足あげてー﹂
ういー。
﹁私が思いっきり手で足を押すから、地面に落とさずにまた足あげ
てね﹂
了解っす。
﹁1!﹂
﹁うおっ!?﹂
そんなに思いっきり押すんか!?
﹁2!﹂
﹁ふんっ!﹂
﹁3!﹂
﹁まだまだ!﹂
できるできる!
1349
﹁右!﹂
﹁ふぎゃっ!?﹂
へっ? まっすぐ押されるだけじゃないの!?
右キツっ!
﹁左っ!﹂
﹁ぎゃん!﹂
そんな思いっきり押さないで!
﹁右っ!﹂
左右交互にやるのか。
﹁右っ!﹂
また右!? 油断したっ!
﹁まっすぐ!﹂
きっつい!
﹁⋮⋮あれ? 今何回したっけ?﹂
ゴーヤ先輩! 覚えてないんすか!?
﹁まあ、多分3回くらいだよね﹂
1350
絶対もっとやってるっす!
あとで覚えてろ! ゴーヤ先輩!
し、しんどかった⋮⋮3セット、何とかやりきったぞ⋮⋮ダウンの
ジョギングも終わってストレッチ中。
向こうではサツキが伸びてる⋮⋮ゴーヤ先輩とキビ先輩、スパルタ
じゃね?
﹁ヤス、始めての短距離との練習はどうだった?﹂
﹁ポンポコさん。⋮⋮しんどかったっす、でも楽しかった﹂
いい汗かいたって気分。
1351
﹁うむ、頑張ってたぞ﹂
ありがとっす。
﹁水をさすようで悪いのだが、腕立て伏せなのだが﹂
あれ? なんかあったか?
﹁次回からは腕立て伏せの時、あごをつける。それで、あごをあげ
たときは腕もきちんと伸ばすんだ﹂
﹁⋮⋮ポンポコさん、まじ?﹂
﹁まじだ﹂
﹁掛け声に間に合わねえっすよ﹂
﹁最初は数をこなせなくてもいい。適当に手を抜くと、結局自分が
損をする﹂
げ、短距離ってそんなにきちんとやってんの?
﹁⋮⋮耳を貸せ、ヤス﹂
ん? なんだ?
﹁周りをきょろきょろ見るな⋮⋮確かに短距離でも手を抜いている
人が結構いる﹂
1352
⋮⋮そなのか。
﹁人の目を盗んで休もうとか、筋トレ適当にやったりとかだな﹂
ふむふむ。
﹁だが、だからといって﹃あいつもそうやってる﹄ってヤスまで適
当になったら、損するのは自分だ、後々結果に現れてくるぞ﹂
﹁そりゃそう言うものだろ? そいつらにも言ってやればわかるん
じゃない?﹂
誰か知らんけど。
﹁ヤスは前にそんな経験をしたから分かるのだ﹂
⋮⋮ああ、野球時代の話な。
﹁今までそんな経験が無いと分からないものだ。私は絶対に新人戦
から変わると思っているから今は何も言わない﹂
﹁何だそれ?﹂
﹁人に言われても、気付かんものだろ? 新人戦でタイムという事
実が出てしまえば、このままじゃいかんと思うはずだ﹂
ふむ、確かにな。
﹁⋮⋮ストレッチ終わったか? では昼食に行くか?﹂
1353
﹁うい、いこか﹂
﹁合宿中のメニューはまた一兄と考えたぞ﹂
﹁毎度毎度ありがと、ポンポコさん﹂
どうすればいいか困ってたし、本当に助かります。
でも⋮⋮午前で結構ばててるんだけど⋮⋮午後練、できっかなあ。
1354
143話:合宿1日目、午前練習︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
昨日書くつもりだったんですが、全国高校駅伝。
男子の佐久長聖高校、速かったですね。
女子は愛知の豊川高校が優勝してました。
個人的にすごいなと思ってしまったのが、女子の豊川工業高校だっ
たりします。
県立な上、工業高校ですから、女子の人数、そもそも全然いないん
ですよ。調べたら全校女子生徒数26人。
そのなかで、陸上部女子ってたった8人しかいなかったです。
たった8人という中、タスキをつないで。
県駅伝では出場権は得られなかったけど、東海大会で準優勝を果た
して、全国大会に出場。
⋮⋮すんごいなあ。
今後も頑張って欲しいです。
それでは!
1355
144話:肉か野菜か⋮⋮それが問題だ
うあ⋮⋮ばてたばてた。
最初の練習でこんなにばてていいんだろか。
さてさて、昼食昼食。
部屋で服を着替えて、食堂へ行く。
⋮⋮食べ過ぎろって言われたが、何食べよっかなあ。
﹁ヤス、午後はどうするんだ?﹂
﹁んー⋮⋮ポンポコさんがメニュー、考えてくれたからそれを元に
練習するけど?﹂
ケンの質問に適当に返事しつつ、バイキングからメニュ−を考える。
やっぱり昼は米だろ。
﹁午後のメニューって何て書いてあったんだ?﹂
1356
﹁えっとな⋮⋮確かずっとジョグしてろみたいな事が書かれてたぞ﹂
﹁何分?﹂
﹁2時間﹂
﹁は?﹂
﹁2時間だよ⋮⋮とにかく走り込めってことらしい。んで、青年の
家の中なら、どこ走っても特に問題ないから、好きに走れって﹂
但し書きがついてたな、普通の道を走るんじゃなしに、変な所を走
れとか。
ええと、何何? ﹃どこがいいかと言うと、坂道、草っぱら、でこ
ぼこ砂利道がいいぞ﹄
⋮⋮トンネルと一本橋入れたらパクリやん。
まあいいけど、1人で2時間って嫌なんだけどなあ⋮⋮誰かいねっ
かな。
﹁ケン、一緒にやらね?﹂
﹁2時間も延々と走りたくない﹂
⋮⋮だよな、寂し。
米にみそ汁にトマト、キュウリ、ハム、卵焼き、リンゴ、ポテトサ
ラダ⋮⋮食べるのはこれくらいでいっか。後は、大根サラダでもね
えかなー。
⋮⋮ないな。キャベツでいいや。
1357
盆を持ってうろついて、適当に空いてる席に着いた。
﹁やほ? ご一緒してもいいかな?﹂
ん? 珍しい⋮⋮ゴーヤ先輩とキビ先輩だ。
﹁いいっすよ。 ヤスもいいか?﹂
﹁ん、俺も構わないですよ﹂
﹁ありがとね、では失礼しまーす﹂
キビ先輩がケンの方に、ゴーヤ先輩が俺の方に座る。
⋮⋮話した事ないんだけど、突然なんなんだろう?
﹁いやいや、ヤス、そんな緊張しないでよ。こっちまで緊張するじ
ゃない﹂
﹁や、ゴーヤ先輩、しますって﹂
﹁え? 私らそんなに怖い?﹂
別に怖くはないけど⋮⋮話した事無いし。
そもそも、嫌われてると思ってたし。
﹁ううむ、由々しき問題だよ、ケン。ヤスからこんなに怖がられて
るとは﹂
﹁大丈夫っす。人見知りだったヤスはどっかに消えましたから! 今はいじれば喜ぶんで、適当にからかってください﹂
1358
ひでえ! 別に喜ばねえって!
﹁まあまあ、そんなに緊張しないで、まずは食べましょ!﹂
うい、了解です。キビ先輩。
﹃いただきます!﹄
まさか、ゴーヤ先輩とキビ先輩と一緒に食事とは⋮⋮びっくりっす。
﹁ところで、一つ聞いてもいい?﹂
キビ先輩に話しかけられた。
﹁ヤスは何考えてるの? その食事﹂
﹁はい? 何か変ですか?﹂
﹁変だよ! ゴーヤもだけど、ヤスもすごく変!﹂
﹁んー⋮⋮ゴーヤ先輩、俺の食事、何か変ですか?﹂
﹁いや? 普通だ﹂
1359
だよな。うん、変じゃない。
﹁変だって! そのキャベツは何!? 君たちはウサギか!﹂
⋮⋮そんなに多いか?
まるまる一皿分キャベツをのせたし、多いと思う人は多いかも。
﹁キビ、野菜は美味いのだよ。キビこそハムにベーコンにソーセー
ジに卵焼き⋮⋮野菜も食べるべきじゃないか?﹂
﹁肉も卵も、おいしいじゃない!﹂
﹁野菜だろ? 想像してみるといい。冬の寒い日に、家族でおでん
をつついている時に食べる大根のとろっとした美味さを⋮⋮﹂
﹁おでんと言ったら卵でしょ!﹂
﹁じゃあ別のを想像してみるといい⋮⋮コトコト煮込んで、とろっ
とろになったキャベツやネギをぱくっと一口⋮⋮﹂
﹁とろっとろに煮込んだものなら、牛すじ肉のがおいしいよ!﹂
どっちもおいしいでいいのではと思ってしまうコウモリな俺。
﹁野菜だ!﹂
﹁肉!﹂
﹁野菜!﹂
1360
﹁肉!﹂
﹁野菜!﹂
﹁肉!﹂
﹁野菜!﹂
﹁肉!﹂
⋮⋮そ、それで言い争わなくても。
﹁ふう⋮⋮私とキビで食事に行くと、いつもここで平行線になるん
だが⋮⋮ケンとヤス、何か言ってやってくれないか?﹂
﹁だそうだ、ヤス。主夫として何か1言﹂
﹁や、俺主夫じゃないし。ケンの方こそなんか言えよ﹂
﹁俺肉好きだもん。キビ先輩に1票!﹂
﹁だよねだよね! アイラブ! 肉!﹂
や、キビ先輩。そこまで言い切らなくてもいいのに。
﹁⋮⋮ケン、午後の練習覚えておけよ﹂
ゴーヤ先輩。そこ怒る所じゃないです。
﹁でもケンって俺んちで食べる時、野菜も普通に食ってないっけ?﹂
1361
今のケンの皿にも普通にあるし。
﹁自分の家でも食ってるぞ。幼稚園の時は肉肉! って感じだった
けど。そういやヤスの家で食べるようになってから野菜食うように
なったな﹂
﹁ふふん、俺の料理の腕がいいからだな﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ケン、突っ込み入れてよ!﹂
﹁ノーコメントで﹂
や、﹃何言ってやがるー﹄とか突っ込んでくれんと俺、ただの馬鹿
じゃん。
くそう⋮⋮恥ずかしい。
﹁ほらヤス、さっさと何か言えって﹂
﹁俺はまんべんなく好きなんだが⋮⋮﹂
強いて言うなら卯の花とチャーハン?
﹁そう言う逃げの言葉はつまらんぞ、ヤス。さあ言え。肉か? 野
菜か?﹂
ケン、何だその﹃生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ﹄みたい
な2択は!?
1362
﹁じゃ、じゃあ野菜で?﹂
﹁よしヤス! いい奴だな君は﹂
や、ゴーヤ先輩。それくらいでいい奴って言われても。
﹁やな奴やな奴やな奴!﹂
えええ!? それだけでやな奴って言われるんですか? キビ先輩!
﹁あれだな、恋愛シミュレーションゲームで、どっちの好感度をあ
げるか!? みたいな2択だったな﹂
そんな変な分析いらんから!
﹁ちなみにキビ先輩は野菜はとらないんすか?﹂
ケンがキビ先輩に聞いた。
﹁野菜、あんまりおいしいと思った事ないんだよね。そのキャベツ
とか、味しないじゃん﹂
ふむふむ。
﹁ゴーヤ先輩は肉、駄目なんすか?﹂
ゴーヤ先輩にも聞いた。
﹁いや? 肉も食べる。ただ野菜が好きと言うだけだ﹂
1363
⋮⋮なるほど、言い争っていたけど、実際の所はキビ先輩が野菜嫌
いと言うだけだったのか。
﹁ヤスは今日から私の敵だからね﹂
キビ先輩! ひどいっす!
﹁⋮⋮そうだそうだ、肉野菜論議は置いといて、ケンとヤスに1個
言っときたい事あったんだ﹂
﹁ん? 何ですか? ゴーヤ先輩﹂
﹁自由時間自体あまりないが、暇あったら女子の部屋遊びに来ると
いい﹂
﹁へ? いいんですか?﹂
﹁もちろん! 是非来てね!﹂
キビ先輩も同意してくれた。
﹁ありがとうございます! 是非!﹂
ケン。そんな嬉しそうに言わんでも。
や、まあ、俺も嬉しいんだけどな。
1364
﹃ごちそうさまでした!﹄
これだけ食えりゃ満足じゃ。
次は午後練だ、頑張るべ。
1365
144話:肉か野菜か⋮⋮それが問題だ︵後書き︶
メリークリスマス!
スーパー行くとチキンバスケットやケーキがぽんぽん置かれてたり、
商店街行くと流れている曲がクリスマスソングだったり、街に出る
といろんな家庭でイルミネーションがあったり、クリスマスムード
一色です。
小5くらいまではサンタさん、本気で信じてました。
皆さんはいくつまで?
それでは!
1366
145話:嬉しい応援、ムカつく応援
﹁ヤス、午後練の意義、分かってるか?﹂
﹁あれだろポンポコさん、﹃探検しーよおー、林の奥までー﹄だろ
?﹂
﹁⋮⋮何言っているのだ? ヤスは﹂
﹁違うのか? ここに﹃坂道、草っ原、でこぼこ砂利道﹄って書い
てあるから、てっきり山を散策してトトロを見つけてきて欲しいの
かと﹂
﹁トトロがいたらいいだろうな⋮⋮違うだろう!﹂
⋮⋮ノリツッコミ?
﹁いいか? 青少年交流の家は車もいないし、いろいろな所走り放
題だ﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁そして芝生もいっぱいだ、でこぼこ道だっていっぱいだ﹂
﹁昼飯食べて?﹂
﹁腹一杯だ﹂
1367
﹁心が満たされ?﹂
﹁胸いっぱいだ﹂
﹁みんなの歌であったのは?﹂
﹁﹃おっぱいがいっぱい﹄だ﹂
﹁今、総理は?﹂
﹁いっぱいいっぱいだ⋮⋮だから違う!! 何を言わせるのだ﹂
や、ポンポコさんが自分で言ってるんです。
﹁えっとだな⋮⋮私はどこまで話した?﹂
﹁芝生いっぱい、でこぼこ道がいっぱい﹂
﹁そうだどうだ、そう言った整備されていない道を走るとだな﹂
﹁足をグキッとひねる?﹂
﹁そうそう、この前木の根っこでグキッとやってしまって⋮⋮だか
ら違うだろう!!!﹂
今日はノリツッコミが好きだな、ポンポコさん。
﹁足がいろんな場に対応できるようになるのだ﹂
﹁でも、陸上競技場とか、道路って整備されてるよ?﹂
1368
﹁アスファルトは綺麗に舗装されているように見えて、実はでこぼ
こと言う話を聞いた事は無いか?﹂
﹁いや、そうなの?﹂
﹁そうなのだ。だから、どんな足場でも対応できるようになるクロ
スカントリーの練習は勧められるのだな。他にもクロスカントリー
は坂道を上ったり、下ったりと心肺強化にも役立つ。⋮⋮普段の練
習もそんな練習が多くできればいいと思うのだが﹂
﹁毎日ここで練習できたらなあ、って無い物ねだりだな﹂
﹁⋮⋮そうだな。できないできないって嘆くのではなく、できない
中で何ができるのかを考えてやらないとな﹂
うんうん、そうだよな。
﹁まあ、今は普段できない分、合宿中はとにかくクロスカントリー
を走れ。楽そうな道は選ばず、楽しそうな道を選んでいけよ﹂
﹁了解﹂
﹁午前にせっかくフォーム修正の練習をしたんだ。きつくなっても
背筋は伸ばしておくようにな﹂
﹁ラジャー!﹂
1369
軽くストレッチをして、スタート。
まずは坂道⋮⋮この坂道200mくらいあるだろ⋮⋮すんごいなが
っ!
﹁よっと﹂
ふっ完走! ⋮⋮きつかった。⋮⋮よしっ、あっちの道を探そっ!
ここはキャンプ場か⋮⋮。
ってか他の客も利用してるんだよな。
変なとこには入らんようにしないと。
﹁うおいっ!﹂
﹁ご、ごめんなさい!﹂
言ったそばから、バーベキュー中のどっかの団体に突っ込んでしま
った。
⋮⋮気をつけよ。
1370
きっつ⋮⋮。
さすが富士の麓、山だけあって坂道だらけだ。
⋮⋮今、1時間くらいか。
ちょうど陸上競技場の近くに戻ってきた。
﹁頑張れよ!﹂
あれは誰だっけ?
えーっと⋮⋮長距離の先輩だったな、もう練習終わったんかい⋮⋮
お前が頑張れや。
﹁お、ヤス、頑張れよお!﹂
﹁ヤス、ファイト!﹂
﹁ヤス兄、頑張ってねー!﹂
1371
お? あれは⋮⋮ユッチ、ケン、サツキか。
あれ? さっきはムカついたのに⋮⋮思ってた以上に嬉しいな。
﹁そっちもな! ユッチ、ケン、サツキ!﹂
おし、頑張りますか!
お、終わった⋮⋮いろんな所を散策しながらだったから飽きはしな
かったけどきつかった⋮⋮。
普段の道より、坂道だらけってだけでこんなにきついのね。
﹁お疲れ、ヤス!﹂
1372
まだまだ元気だな、ユッチ。
﹁体が重い⋮⋮歩きたくない⋮⋮﹂
﹁私もー⋮⋮ヤス兄ー、おんぶー﹂
サツキ、今の俺には無理。おぶってあげたいけど。
﹁2人とも、まじめにまだ1日目だぞ? 大丈夫なのか?﹂
﹁明日になれば大丈夫なもんさあ﹂
ほんとだなユッチ、信じるぞその言葉。
﹁そういえば、応援ありがとな﹂
﹁そっちこそありがとお!﹂
﹁不思議なんだけどさ⋮⋮途中で長距離の先輩から声かけられたん
だけど、ただただムカついただけだったんだよな﹂
﹁それで?﹂
﹁その後のユッチとケンとサツキの応援は逆に嬉しかったんだよな、
なんでだろ?﹂
﹁ヤス兄が女好きなだけじゃない?﹂
いやいや、ケンの応援も嬉しかったって言ったじゃん!
1373
﹁ボクも長距離の先輩から声かけられたけどムカついたなあ⋮⋮言
い方が適当だったのかなあ?﹂
そんなに適当な感じじゃなかった気がするが⋮⋮。
﹁簡単な事だろ?﹂
﹁ケン、何?﹂
﹁信用してない人とか、嫌いな人からってさ、褒められても、励ま
されても、何言われてもムカつかね?﹂
﹁もちろん﹂
そんなもんだろ?
﹁その声かけてくれた先輩、ヤスとユッチはどう思ってるんだ? ⋮⋮それだけじゃん?﹂
あ、そっか。
﹁ボク、よくわかんなかったあ。どういう事?﹂
ケンの説明ってめちゃくちゃ分かりやすいと思うんだが⋮⋮なんて
答えよう?
﹁ユッチ、アオちゃんの事は好きか?﹂
ケンが何か説明し始めた。
1374
﹁大好きだよ!﹂
あれだけいじられてても好きなんだなあ。
﹁声かけてくれた先輩は?﹂
﹁嫌いだあ!﹂
そんな大声で叫ぶな! 誰が聞いてるか分からんぞ!
﹁で、さっきの話に戻るけど、嫌いな先輩からだと何言われてもム
カつかね?﹂
﹁えっとえっと⋮⋮そお?﹂
違うのか? ムカつかないのか?
﹁逆だよ! ムカつく事しか言わないから、嫌いになるんだよお。
あの先輩は自分が頑張っても無いのに頑張れって言ったからムカつ
いたんだよ﹂
⋮⋮結局ケースバイケースって事だよな。
﹁いやいや、好きだったら、ムカつく事言われても気にならないっ
て﹂
﹁ムカつく事を言ってくるのが先だあ!﹂
﹁嫌いになるのが先だって!﹂
1375
﹃卵が先か、鶏が先か﹄議論なんだが⋮⋮。
﹁ヤス兄、ほっといて先戻らない?﹂
﹁そだな﹂
戻ろ戻ろ。
﹁ヤス兄、おんぶ!﹂
﹁結局してほしいんかい﹂
少し動けるようになった事だし、ま、いいだろ。
﹁よっこいせっと⋮⋮﹂
やっぱりサツキって軽いなあ。
﹁⋮⋮なんか前に比べて甘えっ子になったなあ﹂
酒飲んだときからか? かわいいからいいけど。
﹁ヤス兄、おっちゃん臭いよ、そのセリフ﹂
﹁おっちゃんって言うな!﹂
俺はまだ16だ!
1376
145話:嬉しい応援、ムカつく応援︵後書き︶
メリクリ!
昨日とか全く用事はなかったんですが、思いっきり残業をくらって、
帰宅したら、夜飯食べて風呂入って寝るだけ状態になったのはちょ
っと寂しかったです。
でも、さっさと帰って1人でメリクリってしてるのもやっぱり寂し
いです。
皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
それでは!
1377
146話:アオちゃんのお勉強理論
さてと、夕食も食べ終わって、風呂にも入ってさっぱりして、今か
ら勉強の時間だ。
何で合宿来てまで勉強? と思う人もいるかもしれないが、そこは
高校生の本分だしな、しゃあないさ。
学校の教室みたいな場所を借りて、勉強開始じゃ。
⋮⋮⋮⋮zzz。
⋮⋮zzzZZZ。
zzzzzzZZZZZZ。
や、みんな寝すぎだろ。ウララ先生は他事が忙しいらしくて、見に
これてないので、サボり放題とはいえ⋮⋮。
⋮⋮俺も寝よかな。
﹁ヤス君ヤス君﹂
﹁ん? アオちゃん、何?﹂
退屈だったので、話かけてきてくれてちょっと嬉しい。
﹁これだけ寝るのはまずいと思うんですよ﹂
﹁いいんじゃない? 疲れてるんだよ、みんな﹂
1378
﹁さっきまで女子の風呂場前で騒いでたじゃないですか﹂
﹁俺は知らん﹂
ケンと普通に風呂に入ってただけだし。
﹁と、言う訳で私とポンポコさんで、何か始めようと話してた訳で
すよ﹂
﹁えっと、んで?﹂
﹁ヤス君にも仲間になっていただこうと思いまして、何か聞きたい
ですか?﹂
﹁⋮⋮特に﹂
勉強と思うと、何も聞く気が起きん。
﹁ヤス君、やりましょーよ﹂
⋮⋮始めるったって⋮⋮。
﹁ああ! なるほど!﹂
﹁と、突然なんですか?﹂
﹁開始の﹃始﹄って言う字はだからそんな字なんだなあと﹂
﹁はい? 何の話ですか?﹂
1379
﹁何かが始まるときは﹃女﹄の﹃ム﹄ダ﹃口﹄から始まるから、始
まるって言う字はこう書くんだろ?﹂
﹁ほほう? ヤス、今馬鹿にしただろう?﹂
﹁いやいや、ポンポコさん! 馬鹿になんてしてないっすよ!﹂
﹁そうか? かなりイラッときたのだが﹂
﹁いやいや、気にしすぎだって!﹂
﹁⋮⋮まあいい﹂
ふう、あぶね。思った事は口に出さん方がいいなあ⋮⋮そう思って
出さずにいられた試しが無いなあ。
﹁ヤス君? この前の﹃偽り﹄もそうでしたけど今回の﹃始まり﹄
という字も違いますよ?﹂
﹁え? まじ?﹂
また? 俺って勘違いだらけじゃね?
﹁じゃあヤス君、人間の始まりってなんだと思います?﹂
﹁猿﹂
人間は猿から進化したんじゃなかったっけ?
1380
﹁⋮⋮ごめんなさい、言い方が変でした。人間の一生の始まりって
どこからだと思います?﹂
﹁えっと⋮⋮赤ちゃんだろ?﹂
﹁その通りです。では赤ちゃんってどこから生まれます?﹂
﹁女性からじゃん﹂
﹁その通りです。⋮⋮わかりましたか?﹂
﹁何が?﹂
﹁始まりという字の由来です﹂
﹁⋮⋮えーっと? 分かりやすく言って?﹂
﹁人間の始まりは、女の人のお腹ですよね? ﹃女﹄の人が土﹃台﹄
となって人が﹃始﹄まる訳です﹂
キュッキュッとホワイトボードに書いていく。
﹁﹃始﹄と言う字はこういう成り立ちですよ?﹂
﹁⋮⋮なるほど﹂
全ての始まりは女性から⋮⋮納得。
いやいや、変な事は言うもんじゃないね。
﹁それにしてもアオちゃん、詳しいね。さすが勉強好き﹂
1381
⋮⋮あんまり褒め言葉じゃないな。
﹁別にそんなに勉強好きとは思いませんが⋮⋮勉強嫌いと言う人は、
勉強と思うから嫌いなんですよ﹂
なにそれ?
﹁勉強するようになるには、必要に迫られるか、勉強を勉強と思わ
ないかのどちらかですよね﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁例えば、ヤス君とポンポコさんなんてこれの典型じゃないですか
?﹂
﹁俺?﹂
﹁私か?﹂
何かあったか?
﹁ヤス君の場合は、両親が忙しくて、買い物も料理もしないといけ
ないんですよね?﹂
﹁まあ、別に嫌じゃないけど、そうなのかな?﹂
﹁それで、買い物行く時に﹃どっちが安いかなあ﹄と計算しながら
買い物する訳ですよ﹂
1382
﹁ふむふむ、確かに考えつつ買ってるな﹂
﹁そんな事を小学校のうちからしてたら、計算得意になりますよね﹂
﹁そう言えば、そうかも﹂
算数でつまずいた事はあんまりないなあ。
﹁計算が得意になってしまえば、なかなか数学苦手にはならないで
すよ﹂
そういうもんか? まあ確かに小中と数学だけは平気だったなあ。
﹁ヤス君は必要に迫られて算数が出来るようになったという典型で
すよね。対するポンポコさん、歴史が大好き。歴史に関しては勉強
しろと言われなくても、どんどん覚えていきますよね?﹂
﹁ふむ、そうだな﹂
﹁勉強を勉強と思わないで、楽しく覚えてるから勉強できるんです
よ﹂
﹁⋮⋮なるほど﹂
そう言うもんか。
﹁基本的には、後者の勉強を勉強と思わず、という方が持続すると
思うんですよ﹂
﹁何で?﹂
1383
﹁前者の必要に迫られて、では必要でなくなったら勉強しなくなり
ますから。例えば、今ではパソコンが漢字も変換してくれますから、
漢字もきちんと覚える必要が無くなりましたよね? 昔の人より、
漢字勉強しなくなってると思いますよ?﹂
確かに⋮⋮そしてどんどん忘れていくと。
﹁そういや、そんな考え持ってるアオちゃんとすんごい仲いいのに、
ユッチって勉強嫌いだよね﹂
ちょっと不思議。
何であんなに嫌いなのか。
﹁ユッチは全然興味持ってくれなくて⋮⋮この高校に合格したかっ
たら、勉強しないとどうにもなんないですよ! って脅して泣く泣
く勉強させました。本来はそのような事したら、一層勉強嫌いにな
っちゃうんでしなかったんですが⋮⋮時間が無くて﹂
ユッチは必要に迫られたから勉強した訳か。
んで、高校合格して、必要なくなったから今寝てると。
⋮⋮よっぽどこの高校に合格したかったんだなあ⋮⋮なんで?
﹁ケン君も勉強、嫌いですか?﹂
﹁いや? そんな事無いぞ﹂
ケンは勉強、実は好きだ。
だから雑学をいろいろ知ってる訳だ。
1384
﹁その割には成績悪いですよね?﹂
﹁テスト勉強とかは嫌いだからな。﹃テストのための勉強って何だ
よ!﹄って言って勉強しないもん。他にも最初の授業で先生が﹃将
来のためだぞ!﹄って言った先生の授業で、﹃どんな風に将来に役
立つんですか?﹄って聞いて、﹃将来のためなんだ!﹄って言って
しまった先生の授業は全部寝たり﹂
﹁中々極端ですね﹂
その先生が悪い。
﹁﹃勉強のための勉強﹄って言われると全然やる気が起きないんだ
ってさ﹂
学校でも、先生が﹃この部分はテストにでるからしっかり覚えろよ
ー﹄って言った瞬間に寝るよな。
普通の奴と逆だ。
﹁そう言う事ですか⋮⋮じゃあ嫌いなのはユッチだけと﹂
﹁そだな﹂
﹁合宿中のこの時間の目標はこれにしましょうか?﹂
﹁これ?﹂
どれ?
﹁ユッチに勉強の興味を持たせる、です﹂
1385
﹁ふむ⋮⋮いいかもしれんな、宿題も終わっている事だし﹂
﹁ポンポコさんもアオちゃんも英語と歴史、助かりました﹂
﹁こっちこそ、数学助かったからな﹂
﹁私も読書感想文、書くの大変だったので助かりましたよ﹂
うむ、これぞギブアンドテイクだ。
﹁では、今日は時間ありませんし、明日から﹃ユッチ、救済大作戦﹄
開始ですね﹂
﹁ラジャ﹂
おしおし、暇見て作戦を練るか。
﹁ところでヤスは何時に起きる?﹂
﹁普段は6時だけど?﹂
﹁時間があるな⋮⋮早朝練、やるか?﹂
﹁何それ?﹂
﹁朝早く起きて少し走っておく、とにかく今のヤスはたくさん走る
のが第一だからな。目覚めにもいいぞ﹂
﹁うーん⋮⋮ポンポコさんは?﹂
1386
﹁私は朝が弱いから⋮⋮頑張るが﹂
うん、頑張ってくれ。
﹁んじゃ、やろかな﹂
今日の勉強時間は終わりっと、ほぼ相談で終わってしまったが。
⋮⋮そう言えば、早朝練やるよって軽く言ってしまったが⋮⋮体、
持つかな?
1387
146話:アオちゃんのお勉強理論︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
⋮⋮夏休み、長いです。
100話目から夏休み、いま146話。
なかなか2学期になりませんね⋮⋮。
進行は遅いですが、きちんと書いていきますので、今後ともよろし
くお願いいたします。
1388
147話:合宿2日目、掛け声だして
山の夜って夏でも冷えるな。
長袖の服持って来といてよかった⋮⋮。
もう就寝時間だが、みんなまだ起きてるみたい。
﹁⋮⋮だか⋮⋮合⋮⋮言⋮⋮イ⋮⋮トだろ?﹂
⋮⋮この声はノンキか? ⋮⋮どうでもいい、俺は眠い。⋮⋮寝ま
す。
﹁⋮⋮う、うーん⋮⋮﹂
⋮⋮朝5時50分か、よく寝た。
枕が変わると寝れない事も時々あるけど、今日はぐっすりだったな
1389
あ。
きっと疲れてたんだな⋮⋮体はそこら中筋肉痛だし。
他のヤツラはっと⋮⋮まあ、まだ寝てるわな。
よっこいせっと⋮⋮体が重っ!
﹁くう、こんなんで大丈夫か? まあでも⋮⋮ポンポコさんと約束
あるし⋮⋮いきますか!﹂
玄関を出て、グーッと背伸びをする。
﹁や、早朝に起きるってやっぱりええなあ﹂
⋮⋮お前はどこのじじいかと言う声は受け付けんぞ。
早朝はいいもんなんだぞ。道路でも車がめっちゃ少なくって、誰も
いないなか、何でもし放題。
ポンポコさんが来るまで、軽く体操して体ほぐしとこ。
﹁おはようございます﹂
ん? アオちゃんか? ポンポコさんが来ると思ってたけど。
1390
﹁おはよ、アオちゃ⋮⋮ってミドリちゃん?﹂
﹁そうですよ? 誰だと思ったんですか?﹂
﹁アオちゃん。声もしゃべり方もそっくり﹂
﹁そうですか!? 私の目標はお姉ちゃんなので嬉しいです!﹂
アオちゃんは目標にしない方が⋮⋮ごほん。
﹁ってかミドリちゃん、早いねー﹂
﹁ヤス先輩こそ早いじゃないですか。こんな朝早くに何するつもり
だったんですか?﹂
﹁えーと⋮⋮ポンポコさんと待ち合わせて﹂
﹁逢い引きですか?﹂
なんでやねん!
﹁朝練朝練。朝体を動かすといいらしいし﹂
﹁そうですか。でもポンポコ先輩、くーくー寝てましたよ?﹂
﹁なぬ!?﹂
﹁ポンポコ先輩の目覚まし時計、ピーピー鳴ってましたけど、バシ
ンって叩かれてご臨終してました﹂
1391
⋮⋮なんじゃそりゃ。
朝弱いって言ってたけど、そこまで弱いとは。
﹁その目覚ましで私だけ起きちゃって⋮⋮みんなよくあんな音聞い
て寝てられるなあと思っちゃいました﹂
﹁⋮⋮って、そこの部屋朝弱すぎじゃね?﹂
ウララ先生もいたはずなんだが⋮⋮。
それでいいんか? ウララ先生。
﹁お姉ちゃんも朝弱いんですよね﹂
アオちゃんもか。結構意外。
﹁ヤス先輩はいつもこんなに早いんですか?﹂
﹁ああ、うん。いっつも6時には起きてるかなあ﹂
﹁何してるんです?﹂
﹁家事と⋮⋮最近はラジオ体操﹂
あの時からはまってしまった。
眠くても、ラジオ体操してるうちに目が覚めるんだよな。
﹁お姉ちゃんから聞いてましたけど⋮⋮ヤス先輩ってほんとに主夫
ですね﹂
1392
いやいや! 主夫じゃないから! 学生だから!
﹁ってかミドリちゃんの方こそ、いつもこんなに早いの?﹂
﹁私は普段は起きるの7時頃です、今日は目覚ましに起こされまし
た﹂
そかそか。
﹁ところでミドリちゃん、暇?﹂
﹁暇ですよ?﹂
﹁付き合ってくれない? 朝練に﹂
﹁いいですよ⋮⋮でも、朝練って何するんですか?﹂
﹁さあ⋮⋮ポンポコさんからは走れとしか聞いてないんだよね。ま、
適当に走るよ。⋮⋮で、多分あの自転車借りていいと思うから、俺
にくっついてきてくれない?﹂
﹁はい、分かりました﹂
おし、それじゃ、レッツゴー!
1393
いきなり朝に速く走って、午前練午後練に支障が出るのはやだから
な。
ゆっくりと走ろ。 んでフォームを意識してっと。
﹁ヤス先輩﹂
﹁ん、何?﹂
﹁私、バスケ部に入ってるんですけど﹂
﹁あ、ミドリちゃん、バスケ部なんだ?﹂
背が高いし、これで俊敏だったら言う事なしだな。
﹁そうなんです。それで練習前は必ず走るんですが⋮⋮走るときっ
て声出しません?﹂
﹁あ、俺も野球部時代声出してたよ⋮⋮やるかい?﹂
﹁やりましょう!﹂
﹁ミドリちゃんとこは、なんて掛け声?﹂
﹁私のとこは、﹃ファイト!﹄﹃ハイ!﹄﹃元気?﹄﹃おー!﹄﹃
頑張ろー!﹄﹃よし!﹄でしたよ? ﹃ファイト!﹄﹃元気?﹄﹃
1394
頑張ろー!﹄を誰か1人が言って、﹃ハイ!﹄﹃おー!﹄﹃よし!﹄
がみんなで言います﹂
﹁ほおほお﹂
中々リズムが良くていい感じじゃないですか。
﹁ヤス先輩はどんなのだったんですか?﹂
﹁﹁ふぁいとー、ぜ!﹂﹃おおっ!!﹄﹁ぜ!﹂﹃おおっ!!﹄﹁
ぜ!﹂﹃おおっ!!﹄って感じ?﹂
﹁﹁ぜ!﹂って何ですか?﹂
何だったんだろ? ⋮⋮そういや知らない。
﹁きっと﹃愛してるぜ!﹄の﹃ぜ!﹄とかっすよ﹂
﹁野球部みんなで﹃愛してるぜ!﹄ですか?﹂
こわっ! ﹃愛してるぜっ!﹄ ﹃おおっ!﹄ ⋮⋮そんな声出し3年もやってたのか?
﹁他にも掛け声で何か無いでしょうか﹂
﹁んー⋮⋮祭りでミコシ担いで﹁俺たち一番!﹂﹃俺たち一番!!﹄
﹁俺たちゃ最強!﹂﹃俺たちゃ最強!!﹄ってのがあったけど﹂
﹁なかなか豪快な掛け声ですね﹂
1395
﹁4、4に分かれてればどんな感じでもよかったな﹂
うん、1人1人いろいろひねってた。
﹁私がバスケで聞いた事があるのは、自分の小学校をローマ字で叫
ぶんですよ﹂
﹁ローマ字?﹂
わざわざ?
﹁例えば、ミドリ小学校があったら﹁エム!﹂﹃アイ!﹄﹁ディー
!﹂﹃オー!﹄﹁アール!﹂﹃アイ!﹄﹁ミ・ド・リ! ファイト
!﹂﹃オー!!﹄みたいに掛け声してました﹂
ローマ字を最初に言う理由が分からんなあ。
ミドリ、ファイトー! じゃ駄目なのかなあ。
﹁やっぱり掛け声の王道はファイト! オー! でしょうか?﹂
﹁そだな。⋮⋮ま、普通にやろか?﹂
﹁はい!﹂
んじゃいくべ。
﹁ファイト!﹂
﹁おー!﹂
1396
﹁ファイト!﹂
﹁おー!﹂
﹁ファイト!﹂
﹁おー!﹂
はっ、はっ、はっ、はっ⋮⋮。
﹁ヤス先輩、大丈夫ですか?﹂
﹁だ、大丈夫。で、でも、意外、と疲れ、たよ﹂
﹁それはやっぱりあの上り坂を叫びながら上ったからですね﹂
﹁や、やめて、くれなかった、じゃん﹂
﹁律儀ですね。いつやめるのかなあと思って見てました﹂
1397
え!? やめてよかったの!?
そ、それ、言ってよ⋮⋮。
1398
147話:合宿2日目、掛け声だして︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
私が高校のときは
﹁がんばっていきまっしょーい!﹂
⋮⋮数秒待ち。
﹃おおおおおっ!!!﹄
みたいな掛け声でした。
数秒間が空くせいで、﹃おおおおおっ!!!﹄の部分、声が揃いま
せんでした。
あの間は何だったんだろう?
それでは!
1399
148話:サーキットリレー
今から朝の集い。
﹁⋮⋮﹂
半分も来てない。2年の男子の先輩だけじゃん。
﹁女子の部屋、多分みんな寝てますね﹂
﹁1年男子の部屋もっぽい﹂
みんな朝弱すぎっすよ。朝練終わった後、起こしにいけばよかった。
旗を揚げて、所長さんが挨拶して、今青年の家を利用している団体
の紹介、注意事項の連絡で終わり。あっさりしてる。
さ、今からラジオ体操だ!
﹁ヤス先輩、何を踊ろうとしてたんですか?﹂
1400
﹁⋮⋮ミドリちゃん、聞かないで⋮⋮﹂
⋮⋮穴があったら入りたい⋮⋮ラジオ体操ってあんなんだったんだ
⋮⋮家で毎朝やってたラジオ体操と全然違う。
あんなに飛び跳ねてた自分って何なんだろう?
さてさて、午前練習開始。
今はさすがに全員揃ってるな。
﹁朝はすみませんでした、明日から気をつけますね﹂
うん、ウララ先生。団体紹介の時ちょっと恥ずかしかったぞ。19
人で来てますって紹介されて9人しかいないって。
﹁ところで、やっぱり合宿来たら普段とは違った遊び心、欲しいよ
ね﹂
ウララ先生、突然何を言うんですか?
﹁筋力トレーニングもいつもと違った方法でやったら楽しくできる
んじゃないかなって思う訳よ﹂
そんなもんか?
1401
﹁なので私とポンポコさんで考えました、名付けて﹃サーキットリ
レー!﹄﹂
⋮⋮なんじゃそりゃ。
﹁長距離の人も参加していいわよ﹂
参加していいって言われてもな⋮⋮今日のメニューもあるし。
とりあえず、ポンポコさんを見てみた。昨日もらったメニューには
そんな事書かれてなかったし。
ポンポコさん、うなずいてる。参加しろって事だな。
よし、参加してみっか。
結局参加者は短距離男子の半分と、短距離女子全員+サツキ、俺で
男子4人女子5人の計9人。
男子での参加はケンと2年の先輩2人。
長距離は別メニューをやるからって不参加、短距離の残りの男子は
筋肉痛がひどいとか、体がめっちゃ重いって理由で不参加。
1402
﹁さてさて、リレーなんだから当然バトンをつなぐ訳だけど、今回
はタッチでいい事にしましょう⋮⋮でも、9人かあ⋮⋮全員参加を
期待してたんだけどな⋮⋮半分なのね⋮⋮﹂
ウララ先生、がっかりしないでくださいよ。
﹁ウララ先生! 俺が10人分働きます!﹂
﹁⋮⋮ありがとね、ケン君﹂
お、ちょっと元気取り戻した。
﹁それじゃ、チーム分けしましょう!﹂
ふむふむ、どんな風にわけるんだろ?
﹁実力が均衡しないと面白くないからね! まずはそれぞれのチー
ムのリーダー! マー君とボーちゃんとケン君!﹂
2年の男子の先輩2人とケンか。さすがケン。
ん? ⋮⋮男子で俺だけ外されたあ⋮⋮。
﹁マー君チームにユッチとアオちゃん!﹂
なるほど⋮⋮ユッチとアオちゃんが同じチームか。
﹁ボーちゃんチームにゴーヤさんとサツキちゃん!﹂
ふむふむ⋮⋮って事は
1403
﹁ケン君チームにキビさんとヤス君!﹂
やな奴って連呼されたキビ先輩とか。
まあ、やな奴ってのは冗談だろうし、大丈夫だろ。
﹁まず、400メートルのスタートラインがスタートね﹂
ふむふむ。
﹁1人あたり、230メートル。第2走者が200メートルライン
で交代よ﹂
30メートル余分じゃね? 200メートルから、何をするんだろ
う。
﹁まず、30メートル手押し車! サツキちゃん、手押し車は分か
る?﹂
﹁すみません、知りません﹂
﹁まず、1人が腕立て伏せをおこなう時の姿勢になって、もう1人
がその人の両足を持って立ってもらうの。で、その状態で前に進ん
で行くの﹂
結構きついんだよな、しかもそれが30メートルか。
﹁30メートルラインにはタイヤがありますから、そこまで頑張っ
てください﹂
﹁タイヤって⋮⋮まさか﹂
1404
﹁ヤス君、その通り! そこから20メートル、タイヤ押し!﹂
きっつ!
﹁タイヤはポンポコさんとミドリちゃんで戻しますから、そのまま
にしておいてください﹂
ポンポコさんとミドリちゃんも大変だあ。
﹁そこから50メートルはジョグしてください、そこで息整えてね﹂
ふむふむ。
﹁そこで腕立て、足あげ腹筋、ひねり腹筋、背筋、スクワットを各
種20!﹂
⋮⋮何か地味にきついな。
﹁勝負だからって急いで雑にやらず丁寧にやってね。特にスクワッ
トはちゃんとしたスクワットをやってね﹂
﹁ちゃんとしたってどんなスクワットですか?﹂
﹁まず、背筋を伸ばす。きついとまるめたくなるけど腰にくるから
止めましょう﹂
まあ、そりゃそうだよな。
﹁呼吸はしゃがむ時に吸って、立つときに吐く﹂
1405
⋮⋮それは知らんかった。
﹁後は、ひざを曲げる時、内側に曲げない事、さらにひざを曲げる
ときはひざを前に出しちゃ駄目だよ⋮⋮こんなものかな﹂
了解っす!
﹁そこからスキップをしながら50メートル!﹂
スキップか、そこは楽か?
﹁スキップし終わったら、そこに縄跳びが置いてあるから二重跳び
20回やってね﹂
ふふん、サツキと合宿前日に特訓したからな。
成果を見せてやる。
﹁二重飛び20回終わった時点でバービージャンプ20回!﹂
おい! いじめだろ!
﹁ヤス兄、バービージャンプってどんなの?﹂
﹁立ってる状態から、素早くしゃがむ、手をつく、足を伸ばす、足
を元に戻す、ジャンプ!﹂
めちゃくちゃきついんだぞ、これ。
﹁ラスト50メートル流して走ったら、次の人の手押し車で足もっ
1406
てあげてね﹂
ああ、だから200+30で230メートルなのか。
﹁まあ、きっと他の人がやってる間、休憩できるから大丈夫よ﹂
ほんとか? 信じるぞ。
﹁制限時間はなし! エンドレスリレーね!﹂
終わらない? 終わらないのか?
﹁負けたチームはどうしましょうか?﹂
負けてへこんだ状態から、さらに追い討ちをかけるのか?
﹁荷物持ちや、さらに腹筋させる等は、体の酷使をしすぎになるか
ら止めておいた方がいいのではないか?﹂
ナイスだポンポコさん! その通り! 変な事は止めようよ!
﹁じゃあ、わさび?﹂
なにその拷問! わさびたっぷりの寿司とかじゃなくてわさび!?
﹁なあ! 負けたチームじゃなくて、勝ったチームにご褒美にしよ
!﹂
﹁勝ったチームのメンバーをどうするんだ? ヤス﹂
1407
ケン、お前も考えてくれ!
﹁えっと⋮⋮勝ったチームは今日1日1個だけ誰かに言う事聞かせ
れる!﹂
﹁つまり、賞品は後で考えよって事だな、ヤス﹂
﹁⋮⋮そうとも言います﹂
思いつかなかったんだよう。
﹁だが、名案だ。ご褒美のがいいよな﹂
だろ!?
﹁そうね、じゃあ勝ったチームは今日1日のどこかでビリのチーム
に1個だけ言う事聞かせれるって事で! ただし、常識の範囲内だ
からね!﹂
あれ? 罰ゲームも混じっちゃってる⋮⋮なんで?
﹁だって飴と鞭が必要でしょ?﹂
そうか⋮⋮そう言うもんか。
﹁ウララ先生! ウララ先生とマネさん達も参加しましょう!﹂
﹁ケン君、どういう事?﹂
﹁ウララ先生達もどっかのチームに所属するんです。所属したチー
1408
ムが勝った場合はウララ先生もビリに何か命令できて、負けた場合
は言う事聞くんです﹂
えーっと⋮⋮。
﹁要は馬券を買って賭ける感じか?﹂
﹁確かにそうだが⋮⋮言い方悪いぞ、ヤス﹂
すまん。
﹁いいわね、応援に熱も入るし﹂
﹁私達も構わないぞ﹂
お、ポンポコさん達ものったか。
﹁じゃあまずはミドリちゃん、どこのチームがいい?﹂
﹁もちろん、お姉ちゃんのチームです!﹂
﹁ポンポコさんは?﹂
﹁そうだな⋮⋮本命はボーちゃん先輩チームな気もするが、私はこ
こはあえてケンチームにする﹂
そうか、そこが本命なのか。
﹁って事は私がボーちゃんチームね﹂
1409
だな、ウララ先生がその本命チーム。
﹁じゃあ、10分後に始めますから! 体しっかりほぐしてね!﹂
おし、んじゃ頑張るべ!
1410
148話:サーキットリレー︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
以前、後書きでネット小説ランキングの話、書きました。
同様に書き始めた頃に携帯の方もランキング登録、とりあえずしと
こと思ってしといたんですよ。
どうなってるかと思って見に行ったら
⋮⋮削除されてました。
1月以上アクセスがないと消されるそうです。
⋮⋮自分の実力不足を痛感しますね。
精進します
ちなみにスクワット。私はスクワットするとき、毎回
﹁ひざ前に出すな!﹂
と怒られてました。
←正しい姿勢がのってます。
http://www.mft.jp/basic︳squat.
htm
←参考にさせていただきました。
http://diet.goo.ne.jp/member/t
opics/0510︳no2/02.html
1411
それでは!
1412
149話:サーキットリレー、パート2
俺達のチームの走順は俺、キビ先輩、ケンになった。
ボーちゃん先輩チームの走順はサツキ、ゴーヤ先輩、ボーちゃん先
輩。マー君先輩チームはユッチ、アオちゃん、マー君先輩だ。
サツキとユッチと勝負か⋮⋮。負けん!
﹁じゃあいきますね! よーい﹂
パン!
ウララ先生が手を叩いてスタート!
﹁ケン! 行くべ!﹂
﹁まかせい!﹂
手押し車は中学のときからやってたからな、さくさく行ける。
﹁⋮⋮ってユッチもサツキもめっちゃはやっ!?﹂
お前ら、ありえんだろ!?
﹁ユッチもサツキちゃんも軽いからな、んで2人とも筋力あるし﹂
そか、自分の体重を支えながら行く訳だから、軽いと負荷が少ない
のか。
1413
﹁ほらヤス、負けんな﹂
﹁当たり前だ!﹂
妹には負けたくねえ、兄の偉大さを見せてやる!
くう、手押し車はほぼ同時か。
次はタイヤ押しだ。
﹁3人とも、くじを引いてくれ﹂
﹁くじ?﹂
3本割り箸をもってこっちに差し出す。
⋮⋮ポンポコさん、何言ってんの?
﹁タイヤの大きさに違いがあるのだ。アタリをひけばあのでかいの
だな﹂
⋮⋮なるほど、確かに3個のタイヤのうち1個だけめっちゃでかい
のあるな。
あれはきついだろ。
﹁ボク1番にひくう!﹂
1414
く、先とられた。
﹁えと⋮⋮これだあっ! ⋮⋮あれ?﹂
⋮⋮ああ、割り箸のさきっちょに真っ赤な印がついてるな。
﹁ユッチ、おめでとう。アタリだ﹂
﹁うそお!?﹂
﹁ナイスユッチ! 俺らは軽いタイヤで先に行く!﹂
﹁ありがとうございます! ユッチ先輩!﹂
﹁えええっ!? ボクがあれ!? リタイヤしちゃうよお!﹂
どんまい、ユッチ。
うあ、きっつい!
だが、タイヤ押しのところでサツキを引き離した! ユッチはさら
に後ろ!
このまま独走だ!
えっと、次はジョグと⋮⋮。
﹁おし⋮⋮ここで50メートル!﹂
1415
次は腕立て、足あげ腹筋、ひねり腹筋、背筋、スクワット。
えっと腕立てはあごつけて、最後まで腕を伸ばすと⋮⋮。
﹁んがっ!﹂
腕立てって丁寧にやると本当にきつい⋮⋮。
﹁やっとヤス兄に追いついたっ!﹂
﹁ふっふ、追いついてないぞ。すでに俺は腕立て終わってるし﹂
﹁妹のために、ちょっと待っててよ!﹂
﹁駄目、いくら可愛いサツキと言えどもその願いは受け入れられま
せん﹂
﹁⋮⋮ちぇっ、買収失敗か﹂
そんな簡単に買収されません。
1416
筋トレゾーンを過ぎて、スキップ完了!
﹁おし、二重跳び!﹂
まだまだサツキとユッチは後ろだ。
この差を維持したままキビ先輩にバトンタッチだ!
ていっバシッ!
あれ? 一重跳びで失敗?
もう1回挑戦!
ていっバシッ!
⋮⋮なんで?
﹁って短いだろ! この縄!﹂
明らかに小学生用じゃん!
⋮⋮ユッチ専用か?
﹁くそう、時間ロスした!﹂
別の縄⋮⋮これなら大丈夫だな。
﹁ヤス兄、今度こそ追いついたね!﹂
﹁くそ、追いつかれたか!﹂
1417
サツキめ、筋トレゾーンのクリア速いな。
﹁二重跳びで追い越しちゃうもん!﹂
﹁⋮⋮俺は知っている。サツキの二重跳びの下手さを﹂
﹁ヤス兄に言われたくない!﹂
まあな、俺とサツキ、同レベルだし。
ユッチに追いつかれんためにも、急ぐぞ!
てやっ!
ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん⋮⋮。
よし、この縄ならできるな。
ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、
ひゅびしっ!
﹁くそっ、5回か﹂
後15回。
﹁私6回いったもんね! 私の勝ち!﹂
﹁サツキ、そう言うのは﹃ドングリの背比べ﹄と言うんだぞ﹂
﹁ヤス兄、そう言うのは﹃負け犬の遠吠え﹄と言うんだぞ﹂
うわ、ムカつく。
1418
次は勝つ!
ぴょんぴょんぴょんひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひ
ゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひ
ゅびしっ!
﹁どだ! 8回!﹂
﹁残念! 私9回!﹂
なに!? また負け!?
﹁今度こそ見てろ!﹂
﹁返り討ちだよ! ヤス兄!﹂
ぴょんぴょんぴょんぴょんひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、
ひゅひゅん、ひゅひゅん、ひゅひゅん、びしっ!
﹁6回か、サツキは?﹂
﹁私は5回だった﹂
﹁やった! 勝った!﹂
次も勝つからな!
﹁残念ヤス兄、私はこれで20回だもんね﹂
⋮⋮そうか、二重跳びは20回するんだったな。
1419
俺は現在5+8+6=19回。
﹁⋮⋮負けたあ!!﹂
﹁あいあい、頑張ってね。次はバービージャンプだったよね﹂
﹁やり方分かるか?﹂
﹁さっきケンちゃんに実演してもらったから大丈夫﹂
よし、それじゃ俺は二重跳び後1回をやるぞ。
﹁や、やっと追いついたあ⋮⋮﹂
ち、ユッチにも追いつかれたか。
﹁ヤスとサツキちゃんは今どこまでやった?﹂
﹁俺は二重跳び後1回﹂
﹁私は今からバービージャンプです﹂
﹁そっかあ。⋮⋮ボクはこっから挽回してやるからあ!﹂
自信満々だな。
﹁ええと⋮⋮ボクのは⋮⋮これこれ!﹂
あ、やっぱりあの短いのはユッチ専用なんだな。
1420
さ、後1回やるか。
ぴょんぴょんひゅひゅびしっ!
﹁げ、1回も出来んで失敗?﹂
﹁慌てたなあ、ヤス﹂
そうかも、サツキがバービージャンプ始めてるし。
﹁ボクがお手本を見せてあげる﹂
﹁や、別にいい﹂
さっさとやりたいし。
﹁ヤス! ちゃんと見てよお!﹂
﹁⋮⋮えっと﹂
﹁見てよ! やるからね!﹂
﹁⋮⋮はいはい﹂
なんか子供を見守る親の気分。
⋮⋮考えがおじさん化してる。
ぴょんぴょんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅ
んひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅ
んひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅんひゅひゅ
1421
んひゅひゅひゅんひゅひゅひゅんひゅひゅひゅひゅん!!
はやっ! 何その速さ! 途中から三重跳び! 最後四重跳びして
たし!
﹁どうだっ! すごいだろおっ!﹂
四重跳び、初めて見た⋮⋮。
﹁ねえ、すごいだろお?﹂
どうやればあんな風にできるんだろ? やっぱ年季の差か⋮⋮練習
しよ。
﹁すごいよねえ?﹂
⋮⋮ん?
﹁すごくないのかなあ⋮⋮﹂
うわ、ユッチ落ち込んでる。
﹁あ、ごめん! びっくりして声が出んかっただけ、すごいすごい﹂
﹁だろおっ! 最後の四重跳び、見てた?﹂
﹁見た見た、ちゃんと見てた、ほんとすごい﹂
うむ、ほんとすごいわかりやすい、反応が素直だ。
1422
﹁バービージャンプってすっごく大変だね、ケンちゃん楽そうにや
ってたのに⋮⋮でも終わりっと﹂
﹁げ!? サツキバービージャンプ終わったの!?﹂
﹁終わったよー、私のチームが一番だね! ユッチ先輩、ヤス兄の
足止めありがとうございました!﹂
くそ! ユッチが俺にお手本見せてたのはそう言う魂胆だったんか
い!
﹁え、ボク?﹂
⋮⋮ユッチ、素でやってたのか。
ってか俺が最下位になってるじゃん!
﹁急がんと!﹂
二重跳び早く終わらせないと!
ぴょんぴょんひゅひびしっ!
ぴょんぴょびしっ!
ぴょびしっ!
﹁あれ? あれ?﹂
﹁ヤースー! あーわーてーんーなー!!﹂
ケンが遠くからエールを送ってくれる。
そだな、深呼吸深呼吸。
1423
﹁ヤス君! 突っ立ってないで早くー!!﹂
キビ先輩、落ち着かせてよ!
﹁んじゃキビ先輩、頑張ってください!﹂
﹁ヤス君、お疲れさま!﹂
このサーキットリレー、1回だけでもかなりしんどいな。
⋮⋮しかし、結局最下位でバトンタッチかあ。
次の順番の時に挽回してやるっす!
1424
150話:サーキットリレー、パート3
サーキットリレー、11時も回ったしそろそろ終わりだろ。
もう全身が悲鳴を上げてる状態なんだが⋮⋮。
特にタイヤ押しがしんどい。
途中からくじじゃなくて好きなのでって言ったらケンがまずでかい
タイヤでやり始め、その後男子の先輩2人がでかいタイヤでやるも
んだから、なんか男子1人だけやらないのは⋮⋮と言う事で俺もデ
カタイヤ。
ズズズズズ⋮⋮。
よいしょ! これで20メートルじゃ!
こっからジョグかあ。
⋮⋮はあ、やっとサツキチームに追いついたな。
サツキは現在背筋中。
俺は今から腕立て⋮⋮。
﹁⋮⋮どえりゃあえらあ⋮⋮もうようせえへんわい!﹂
﹁ヤス兄、方言混ざりまくりだよ。どこの人?﹂
えーと⋮⋮。
1425
﹁⋮⋮とてもきつい⋮⋮もうできない!﹂
﹁なんかさっきより大変そうに聞こえないね﹂
⋮⋮知らんがな、それじゃあなんてしゃべればいいんだよ。
まあいいや、腕立て腕立て。
おいしょおいしょ⋮⋮。
﹁20!﹂ ⋮⋮な、なんとかできたあ。
﹁はあ、はあ⋮⋮どだ! 追いついたぞお!﹂
﹁⋮⋮ユッチ、ジョグの所をそんなスピードで走ってくるなよ﹂
﹁はあ、はあ、ま、負けたくないもん!﹂
ユッチめ、ほんとに負けず嫌いなやっちゃな。
だが、こっちこそ負けねえ!
1426
﹁さあ! ラスト5分!﹂
後5分か。今二重跳びが終わった。
﹁ヤス、おっさきい!﹂
くっそ、ユッチに必ず二重跳びで抜かれる。隣でサツキがバービー
ジャンプ中だ。
んが、俺もバービージャンプ!
﹁ヤースー!! いーそーげー!!!﹂
﹁ヤス君! 早く早く!!﹂
わかってるっす!
﹁ヤス兄、お先に!﹂
うわ、やば。
﹁あと4分!﹂
⋮⋮よし、終わった!
キビ先輩のとこまでダッシュ!
﹁お待たせしました!﹂
﹁お待ちしました! ヤス君! 行くよ!﹂
﹁ういっす!﹂
1427
今から手押し車。
今、アオちゃんとユッチが20メートル辺りにいるな。
だがアオちゃんはもうバテバテだから抜ける!
キビ先輩もかなりばててるけど、アオちゃんほどじゃない!
﹁あと3分!﹂
⋮⋮時間がない!
﹁あと2分!﹂
あ、ゴーヤ先輩&サツキがアオちゃん&ユッチを抜いた。
ゴーヤ先輩がタイヤ押しに入ったな。あのチームを越すのは無理そ
う。
アオちゃんも今手押し車が終わった。
﹁あと1分!﹂
よしっ、俺らも終わったぞ。
﹁キビ先輩! 後は任せました!﹂
﹁まっかせなさい!﹂
キビ先輩、タイヤ押し開始!
徐々にアオちゃんとの差が詰まってく。
1428
﹁10秒前!﹂
追い越せるか?
﹁9!﹂
﹁8!﹂
﹁7!﹂
﹁6!﹂
﹁5!﹂
並んだ?
﹁4!﹂
﹁3!﹂
﹁2!﹂
﹁1!﹂
﹃終了!!﹄
結局よくわからん⋮⋮勝った? 負けた?
﹁ごめん! 抜けなかった!﹂
1429
キビ先輩、負けたか⋮⋮残念!
﹁みんなー! お疲れさまー!! 動けるー!?﹂
﹃むー・りー!!﹄
今、みんなの心がひとつになった⋮⋮。
動けないなりによたよたとみんなで集まって、ウララ先生の話を聞
く。
﹁それでは結果発表!﹂
はいはい、もうわかってるけどな。
﹁1位はボーちゃん、ゴーヤさん、サツキちゃんのチーム!﹂
くっそ、結局サツキに負けたわけか。
﹁2位はマー君、ユッチ、アオちゃんのチーム。3位はケン君、キ
ビさん、ヤス君のチームね﹂
ういうい、結局最下位か⋮⋮残念。
1430
﹁みんな、お疲れ。それにしても⋮⋮しまったなあ⋮⋮こんなにき
つい練習になると思わなかった﹂
﹁そうなんですか?﹂
ウララ先生、勘弁してください。
﹁みんながまじめにやってくれたし。勝負が白熱したせいで、みん
なヒートアップしたもんだから余計だね。ごめん﹂
いえいえ。
﹁今日の午後の練習開始は30分遅らせますから、お互いにマッサ
ージをしっかりして疲れをとってください﹂
﹃はーい﹄
﹁では、ダウンを開始してください⋮⋮解散!﹂
﹃ありがとうございました!﹄
ウララ先生が去った。
﹁ところでヤス兄、今日1回は私の命令を何でも聞かないとだめな
1431
んだよね﹂
﹁あ!﹂
勝負に熱中してて忘れてた。
﹁まあ、私はヤス兄には命令しないでおこっかな﹂
﹁あれ? そなの?﹂
﹁ヤス兄はそんなことなくても、私のお願いなんでも聞いてくれる
もん﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
なるほど⋮⋮そういう目で見てるわけか、サツキは。
そういや後、命令できるのは誰だったっけ⋮⋮。
﹁ボーちゃん先輩とゴーヤ先輩は誰に何をお願いするんですか?﹂
ああ、そだそだ。ボーちゃん先輩とゴーヤ先輩だったな。
後はウララ先生か。
﹁後のお楽しみでしておいてくれ﹂
﹁俺も教えない﹂
くそ、わからないとは残念だ。
俺には何も言わないでくれよ。
1432
150話:サーキットリレー、パート3︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
4日連続の飲み会が昨日終わりました。
デレンデレンに酔っ払って電車に乗りこんだらメッチャ乗り過ごし
て終点まで行っちゃいました︵−︳−;
がんばれ、じぶん。
それでは!
1433
151話:レッツ女子部屋
か、体が重い⋮⋮。
昼ご飯も食べ終わって、今からマッサージタイム。
午後練まであと2時間くらいあるし、のんびりやるか。
﹁ケン、マッサージやろーや﹂
﹁おいおい、ちょっと待て。よーく考えてみろ﹂
﹁何をだ?﹂
考えるより先にさっさとやって気持ちよくなりたいんだが。
﹁昨日、ゴーヤ先輩とキビ先輩に言われた事を覚えてないか?﹂
﹁ええと⋮⋮肉か野菜か⋮⋮それが問題だ。だろ?﹂
﹁違う! その後だ!﹂
﹁その後?﹂
ええと⋮⋮なんかあったっけ?
﹁やな奴やな奴やな奴!﹂
冗談だとは思うがちょっとへこんだなあ。
1434
﹁ヤス、お前一番大事なことを忘れてどうする!﹂
﹁はあ⋮⋮なんだったっけ?﹂
﹁いつでも女子の部屋に遊びに来てくれと言われただろ!?﹂
﹁や、そりゃ覚えてるけど、だからって何かあったっけ?﹂
それより俺はマッサージをしてほしい。
﹁ヤス、よーく聞け。男にマッサージされるのと、女にマッサージ
されるの、どっちが嬉しいと思う?﹂
﹁ケンにしてもらうのが嬉しい﹂
ケン、マッサージ上手だし。ケンにしてもらった後はすごく楽にな
る。
﹁気持ち悪いこと言うな! ⋮⋮この枯れた野郎め、俺はヤスなん
かにマッサージされるより、ウララ先生にされたい!﹂
こら、﹃なんか﹄ってなんだ。﹃なんか﹄って。
﹁ケン、それは身を滅ぼす考え方だぞ﹂
歴史上でもどうやっても殺せなかった宿敵を倒すのは最後は色仕掛
けなんだぞ。
﹁ふふん、なんとでも言うがいいさ。と言うわけで俺は女子の部屋
に行くぞ。ヤスはいかないのか?﹂
1435
﹁めんどいから行きたくないんだが⋮⋮﹂
午前の練習で体中筋肉痛だし、午後練までゴロゴロしてたいなあ。
﹁ヤスも女子の部屋に行けばサツキちゃんにマッサージしてもらえ
るぞ﹂
﹁俺も行く!﹂
日曜日、サツキにしてあげるばっかりでしてもらったことない。今
日ならしてもらえるかもしれん。
﹁⋮⋮⋮⋮ま、いいや。んじゃいこか﹂
﹁イエッサー!﹂
おし、楽しみだ。
1436
さてさて、女子の部屋の目の前っす。
﹁おし、ここでヤスはノックせずに入って着替え中の女子の中に突
っ込み、大ブーイングを受けるんだよな﹂
﹁もうその話は止めて⋮⋮﹂
いつまでも蒸し返さないでほしい⋮⋮。
﹁何を言う! あれは事故って事になってお咎めなしなんてずるす
ぎるだろ!﹂
﹁うっさい! その後男子全員で1日中ねちねちねちねちと文句言
ってきやがって! それが十分なお咎めだったさ!﹂
﹁いや、それを女子全員から庇われてただろうが! 覗いたやつが
庇われるっておかしいだろ!?﹂
そこまで知らん! 勝手に俺の回りで事態が進んでっただけだ。俺
は何もしちゃいないぞ。
﹁⋮⋮ま、いいや。過去を蒸し返すことはむなしいからな﹂
﹁蒸し返したのはケンじゃねえか! 俺は忘れたかったよ!﹂
﹁ヤス&ケンです、入ってもいいですか?﹂
俺の話を無視すんな!!
⋮⋮まあいいや、同じ失敗は繰り返さない。今日はちゃんと返事が
1437
あるまで待つぞ。
﹁どーぞ! 待ってたよ!﹂
よし、キビ先輩が返事してくれた。
大丈夫そうだな。
﹁お邪魔しま﹂
﹁待てえ!!!﹂
な、なに? そんな急に言われても右手は急に止まらない!
ガチャ
⋮⋮干したパンツを片付けようとしてるユッチと目があった。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ええと﹂
どうしよう。反応がない。
﹁⋮⋮﹂
1438
﹁気にしなくていいんじゃないかな、うん﹂
⋮⋮返事がない。ただのしかばねのようだ。
﹁⋮⋮﹂
﹁俺、サツキのパンツを毎日洗濯してるから、そんなん見慣れてる
し﹂
﹁ヤス兄、変な事言うな!﹂
﹁や、事実じゃん?﹂
﹁⋮⋮﹂
あれ? サツキも黙っちゃった?
﹃⋮⋮で﹄
﹁⋮⋮で?﹂
﹃でてけえ!!!!﹄
ビシビシッ!
いたいいたいっ!! な、何が当たってるんだ?
⋮⋮洗濯バサミか。痛いから投げるな!
1439
慌てて部屋を出たけどまだ何か物がドアに投げられてる⋮⋮。
﹁さすがヤス、どんなに注意しててもエロい事しようと考えるんだ
な﹂
﹁そんなこと考えてない!﹂
ものすごく心外だ。
﹁ってかさっさと部屋から出ればよかったのに。そんなにユッチの
パンツが見たかったのか?﹂
﹁や、別に? 今さらクマさんパンツを見ても⋮⋮﹂
﹁言うなあっ!!﹂
やばっ! 口が滑った!
﹁後で覚えておけよおっ!! ヤス!!﹂
⋮⋮ごめんなさい⋮⋮忘れさせてください⋮⋮。
1440
151話:レッツ女子部屋︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
すみません⋮⋮遅くなりました。
書いてたら妹が隣で
﹁今投稿してもだれも読まないよー、私も紅白見るもん﹂
と言ってきました。
⋮⋮妹め。
まあ、気にしないで投稿です。
それではよいお年を。
1441
152話:マッサージ、真っ最中
﹁ああー、気持ちいい!﹂
⋮⋮。
﹁ここはどうだ?﹂
﹁そこ、そこ!﹂
⋮⋮⋮⋮。
﹁んじゃここは?﹂
﹁痛っ! 強くしすぎだよ、もっとやさしくやってよ!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁ああ、すまん⋮⋮このくらいか?﹂
﹁ああ、いい感じだよ⋮⋮すごい気持ちいい﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁ふっ⋮⋮俺の指技は天下一品だからな﹂
﹁⋮⋮あのー﹂
1442
聞いてくれよう。
﹁ねえ、ボクも後でやってよお!﹂
﹁私も!﹂
無視しないでよう。
﹁うーん、これ罰ゲームなんだけど。ユッチとキビ先輩でお互いに
やってくれんかな﹂
﹁それじゃ私からお願いしてもいいかな。ユッチとキビ先輩の分ま
でやる事を﹂
﹁了解っす! ウララ先生!﹂
完全に無視されてるっす。
﹁うっ⋮⋮はふぅ⋮⋮あうっ⋮⋮さすがケンちゃんだね。ケンちゃ
んのマッサージものすごく気持ちいいよ﹂
﹁ありがと、サツキちゃん﹂
﹁⋮⋮あの、俺も部屋に入れていただけませんでしょうか?﹂
﹃ダメ﹄
うう、いれてよう。
俺だけ、さっき覗いた罰って事で部屋内に入る事を禁止されてしま
った。
1443
ユッチとサツキが部屋内に入ってもいいよって言ってくれるまで俺
は女子の部屋に入れない。
さっきから部屋の目の前で正座して反省してんだけど、全然許しち
ゃくれないよ。
⋮⋮くそう、ケンの奴楽しそうだなあ。一人だけ女子の部屋ん中に
入っちまいやがって。
﹁ヤス、なんで部屋の前で正座してるんだ?﹂
﹁あ、ゴーヤ先輩⋮⋮反省中です﹂
ジュースを右手に持ったゴーヤ先輩を前にして、右手を壁に当てて
うなだれたポーズ。
﹁⋮⋮何を言っているのかよく分からないけど無意味な反省はやめ
ておいたほうがいいのでは? 反省だけなら猿でもできるよ﹂
⋮⋮懐かしい、そのフレーズ。
﹁そんなところでボケっとしてるなら、ロビーに来ないか? そし
て私とマッサージしよう﹂
﹁え、いいんですか?﹂
やってほしいからうれしいけど⋮⋮なんでゴーヤ先輩が誘ってくれ
んだろ?
﹁⋮⋮ヤスは何考えてる? 行くのか? 行かないのか?﹂
﹁行きます!﹂
1444
﹁それじゃほら、立て﹂
﹁あい!﹂
さっと立ち上がり⋮⋮あれ?
﹁うわっと!﹂
﹁お、おい、ヤス!﹂
﹁す、すみません! し、しびれたんですよ⋮⋮﹂
足が動かん⋮⋮正座なんて久々だったし。
ガチャ
﹁ヤス、ボクも言いすぎたあ。もう入ってきても⋮⋮﹂
⋮⋮ん?
﹁ヤスう! な、な、なにをやってるんだあっ!!﹂
な、何のことだ?
﹁なんでゴーヤ先輩に襲いかかってんだあっ!﹂
﹁ち、ちがうって⋮⋮足がしびれてて立てない﹂
﹁ヤスの頭はやっぱりいっつもピンク色かあ! どこでも発情しち
1445
ゃってえ!!﹂
﹁ユッチ、俺の話も﹂
﹁うるさいうるさいいっ! もう女子の部屋には入ってくるなあっ
!﹂
聞いて!
﹁ああうう、どこまでも誤解が深まっていく⋮⋮﹂
﹁ユッチは大丈夫だろ。明日には忘れるんじゃないか?﹂
﹁そんなもんですか? ユッチとは夏休み中、まったく口きいてく
れなかった時ありましたよ?﹂
﹁私が誤解を解いておいてやるから安心しなさい﹂
1446
ゴーヤ先輩⋮⋮すっごいいい人だ。
﹁さて、それじゃあマッサージ始めるか。どっちが先にやる?﹂
﹁あ、俺がやりますよ﹂
﹁そうか、それじゃよろしく﹂
﹁あい﹂
にぎにぎ、にぎにぎ。
﹁ううううう﹂
うにうに、うにうに。
﹁はうううう﹂
ふにふに、ふにふに。
﹁ははひひ、ヤス、くすぐったい。もうちょっとちゃんとやってく
れ﹂
﹁ラジャッ!﹂
ぎゅっぎゅっ、ぎゅっぎゅっ!
﹁ああ、いい感じだぞ。ヤス﹂
﹁ありがとうございます⋮⋮ところで、聞いてもいいですか?﹂
1447
﹁ん? なんだ? あーうー♪﹂
﹁や、合宿中から俺によくしてくれるんで、なんでかなあって思い
まして﹂
﹁あーあー、そりゃ合宿前は私もキビもヤスのこと嫌いだったしな
あ﹂
﹁げ﹂
なんとなくそう思ってたけど、直接言われるとグサッとくる。
﹁まあまあ、ヤスだって思うだろ?﹂
﹁何をですか?﹂
﹁一所懸命走ってる隣でネコミミ付けたバカがのんびりと、ちょっ
とだけ走ってすぐに帰ってるんだぞ。これだけ聞けばムカつくだろ﹂
﹁⋮⋮否定できませんねえ﹂
実際俺がそんなやつみたら﹃なにやってんだか﹄って思うだろうし。
はた目からはそう見えるよなあ。
﹁そうやって合宿前に女子内で愚痴ったらアオちゃんもポンポコも
すごい怒ってな﹂
⋮⋮アオちゃん達が怒ってくれるとは。
1448
﹁一番怒ってたのはユッチだったけどな﹂
﹁え!? ユッチですか!?﹂
アオちゃん、ポンポコさんだけじゃなく、ユッチまで俺をかばって
くれるとは思ってなかったな。かなり嬉しい。
﹁と言うわけで、昨日今日と練習みて、しゃべって、﹃あ、意外と
いいやつじゃん﹄と思った次第だ﹂
﹁ありがとうございます﹂
好かれるって嬉しいもんっすね。
﹁⋮⋮ところで、罰ゲームなんだが﹂
げ、そういやゴーヤ先輩も誰かに命令できるんだったな。⋮⋮まさ
か俺にか?
﹁ヤスはキビに野菜を食わせたくはないか?﹂
﹁はえ?﹂
何の話?
﹁あのキビの偏食っぷりは嫌なんだよ、弁当の中身とか肉! 肉!
! 肉!!! という感じだ。カレーライスでも人参、じゃがいも
は食べようとしない。一緒に食べると見てるだけで胸焼けがしてく
る﹂
1449
確かに、この前の昼も全部肉だったな。
﹁ヤスが料理得意というのはユッチから聞いてるからな。ヤスの任
務は﹃合宿中にキビに野菜を食わせよ﹄だ。よろしく頼むぞ﹂
﹁⋮⋮むずかし、ってかユッチも得意ですよ?﹂
﹁罰ゲームくらったのはヤスだからな。頑張れー﹂
はう、むずかしすぎ。どうしよっかなあ⋮⋮。
﹁⋮⋮うん、ありがと。マッサージ気持ちよかったぞ、次は私だな﹂
﹁あい。お願いしまっす!﹂
さ、楽しみ楽しみ。
﹁いくよ⋮⋮ふんっ!﹂
﹁ぐえっ! ⋮⋮ご、ゴーヤ先輩?﹂
﹁せいっ!﹂
﹁ぎゃん!! ⋮⋮ちょ、ちょっと待って?﹂
1450
﹁おんどりゃあ!﹂
﹁や、やめてー!!! ストップストップ!!﹂
﹁まだまだだ、ヤス!!﹂
⋮⋮ギブギブ!!! 無理無理!!!
﹁じゃ、午後練始めよっか!﹂
ウララせんせえ⋮⋮おれ、マッサージしてもらったはずなのに⋮⋮
体が痛いっす⋮⋮。
1451
152話:マッサージ、真っ最中︵後書き︶
あけましておめでとうございます!
それにしても、ほかの作者の話ではお正月の話だったりするんです
が、私のは夏真っ盛り。
⋮⋮そんなもんです。
ちなみにゴーヤ先輩の掛け声﹁おんどりゃあ!﹂等は妹の趣味。
おんどりゃあ
それでは今年もよろしくお願いします!
1452
153話:ユッチのおべんきょ、前準備
午後の練習は軽く、とポンポコさんに言われ、今日は昨日の半分の
時間、1時間のクロスカントリー。
⋮⋮あんまり軽くないっすよ。ポンポコさん。
﹁明日しっかりやるからな。今日は軽めにしておこう﹂
﹁⋮⋮まじですか?﹂
体がマジしんどいです。
﹁弱音を吐くな。全国大会出場が目標なのだろう?﹂
﹁⋮⋮いつの間にか、どんどん目標が高くなってない?﹂
﹁気のせいだ。私がうそをついたと思ってるのか?﹂
﹁いえいえ! そんなことないよ!﹂
ちょっと目が怖かったっす、ポンポコさん。
1453
さて、練習も終わってキビ先輩にどうやって野菜を食べさせようか
考えてたら、いつの間にか夕食の時間。
⋮⋮やっぱりキビ先輩と一緒に食べんと好みがわからんからなあ。
﹁キビ先輩、一緒に飯食ってもいいですか?﹂
﹁ん、いいよ? 珍しいね﹂
おし、成功。
﹃いただきます!﹄
食事を開始したんだが⋮⋮キビ先輩。今日はほんとに肉だけですね。
せめて米くらい食べましょーよ。
﹁なに? 君もゴーヤみたいに何か言うつもり?﹂
﹁いやいや! そんなことないですよ!﹂
1454
﹁大体さあ、ライオンだってトラだって豹だってチーターだって肉
しか食べないんだから、私が肉食べてたっておかしくないでしょ?﹂
いや、動物も野菜の成分食べてますよ。
内臓の部分とか、生肉を食うことで、生きていくのに必要な野菜の
成分があるって話です。
キビ先輩も生肉を⋮⋮豚肉生で食べたらお腹壊すな。
﹁疲れてるときって肉食べたくなるでしょ?﹂
疲れてるとこってりした肉は俺は食べたくなくなるんですが。
﹁肉は体にいいよね? ウララ先生も食べ過ぎろって言ってたし﹂
俺的には食べ過ぎたら逆効果だと思うんですが。
﹁ヤス君。誤解してるようだけど、別に、私肉しか食べないわけじ
ゃないよ? 卵も魚もしっかりたべてるよ?﹂
ええと、基礎食品群と言うものがありまして、今キビ先輩が言った
のは全部第1群の﹃たんぱく質﹄に分類されるんですが。
﹁⋮⋮ほらヤス君、君もしゃべってよ。私だけしゃべってるじゃな
い﹂
﹁あ、すみません﹂
﹁それに手が動いてないよ。私に見とれるのもいいけど、君も食べ
なよ﹂
1455
﹁あ、はい﹂
見とれてたというよりも、珍しいものをしげしげと観察してたと言
うほうが適切だけど⋮⋮言わぬが花だよな。
キビ先輩と夕飯も食べた。
あれだけ﹃肉﹄って感じだと、どうやって野菜を食わせたらいいか
すごく悩むんだが。
⋮⋮どうしよ⋮⋮。
⋮⋮思い浮かばん、明日考えよ。
風呂も入って今日もまた勉強タイム。
1456
相変わらずみんなぐっすりお休みの時間だ。
⋮⋮起きてんの、俺たち除くと2、3人しかいないじゃん。
ま、これなら騒いでもいいだろう。
﹁ヤス君、やりますよ。ユッチへの呼びかけよろしくお願いします﹂
﹁了解、アオちゃん!﹂
ゴーヤ先輩がちょっと話してくれたみたいで、とりあえずユッチの
俺に対する怒りは少し収まったみたい。
⋮⋮まだ女子部屋に入ることは許してくれないけど。
⋮⋮ま、今はいいや。ユッチ起こそ。
﹁ユッチ、起きろ!﹂
﹁はいい! おにいちゃん! ごめんなさい!﹂
⋮⋮は?
﹁⋮⋮あ、あれえ? や、ヤス? お、おにいちゃんは?﹂
しらん。ユッチはいっつも義兄に起こされてるわけか。
﹁なんだよおヤス、今は昼寝の時間なんだから起こすなよお!﹂
こらユッチ、そんな堂々と﹃昼寝の時間﹄って言うなよ。
﹁ユッチ、今は何の時間でしょう?﹂
1457
﹁昼寝の時間でしょ? アオちゃん﹂
こらこら、それなら部屋で寝たほうがましじゃん。
﹁違いますよ、一応はおべんきょの時間ですよ﹂
﹁みんな寝てるんだから昼寝の時間でいいじゃん!﹂
まあ、確かにみんな寝てるけど。
﹁ユッチ、お願いですから見てくださいよ。せっかく昨日この時間
全部使って考えたんですから﹂
﹁⋮⋮しょうがないなあ、面白くなかったら寝るからあ﹂
くう、何で上から目線なんだよ。ユッチ。
﹁ありがとうございます。それではポンポコさん、ヤス、アオちゃ
んの3人で送る、﹃劇団ポコポンお勉強講座﹄を始めます!﹂
﹁劇団ポコポン? 何それえ?﹂
﹁なんとなくです﹂
そこツッコミいれるところじゃない、ユッチ。⋮⋮俺もいれたかっ
たけど。
﹁ところで、ユッチ。血液型なんでしたっけ?﹂
﹁ボク? ボクはO型だよお?﹂
1458
そうなんだ、ユッチはO型か。
﹁アオちゃんはAB型だよね! ⋮⋮えっとポンポコとヤスの血液
型聞いたことあったっけ?﹂
﹁いや? 教えたことないぞ。俺は﹂
﹁待って! 当てて見せるからあ!﹂
⋮⋮血液型当てか。血液型ごとに性格が違うっていうやつだろ。
意外と当たってる気がするんだよな。
﹁えっと⋮⋮その細かいとこまでうるさい性格はA型だろお!﹂
細かいところまでうるさいってなんだ。全国のA型の人に謝れ。
ちゃんと気が回ると言え。
﹁ま、とりあえず秘密﹂
﹁それだけ前振りして、秘密ってなんだよお。 気になるから教え
てよお﹂
まま、すぐわかるから。
﹁ちなみにケンは何型だと思う?﹂
﹁ケン? ケンはABだろお? あれだけすごく変なんだからAB
に決まってるよお﹂
1459
その発言も全国のAB型に謝れ。
﹁ユッチ? それは私がすごく変だって言いたいんですか?﹂
﹁え? そ、そんなことないよお! だ、大丈夫だよ。アオちゃん
はそんなに変じゃないよ? ちょっとだけだよ!﹂
ユッチ、全然フォローになってない。
﹁ケンはAだ﹂
﹁うそお!? 変な人がAだったっけ?﹂
﹁さっきから失言が多いぞ、ユッチ。そんなんでは政治家にはなれ
ないぞ﹂
﹁あんな人たちになりたくないからいい!﹂
⋮⋮今一瞬、ユッチはしゃべらないほうがいいのではと思ってしま
った。
﹁と言うわけで今からこの3人で劇をやりますから。ポンポコさん
がお母さん役、アオちゃんがお父さん役、ヤスが子供役です﹂
﹁ヤスが子供なの!? このでっかいのが子供かあ⋮⋮﹂
﹁ユッチ、うっさい!﹂
ミスキャストだと自分でも思ってるよ!
1460
﹁ついでにポンポコさんがお父さんで、アオちゃんがお母さんのが
合ってないかなあ?﹂
それは俺も思った。
でも、これのがいいんだってさ。
﹁では、ポンポコさん。始めましょうか﹂
﹁うむ﹂
それでは、始まり始まりー。
1461
154話:ポコポン昼ドラ劇場
﹁ポンポコ、お前のおなかもずいぶん大きくなりましたね﹂
﹁そうだな⋮⋮もうすぐ出産予定日だからな。どんな子供が生まれ
るか楽しみだ﹂
﹁ようやく生まれた私たちの子ですから。きっとポンポコに似てか
わいい子が生まれてきますね﹂
﹁そうか⋮⋮っつつつつつ⋮⋮﹂
﹁ど、どうしたんですか!? ポンポコ!﹂
﹁痛いのだ! いたたたたた⋮⋮﹂
﹁も、もしかして陣痛ですか!? まだ予定日まで2週間あるって
言ってませんでしたか!?﹂
﹁し、しらん⋮⋮アオ、電話してくれないか!?﹂
﹁あ、はい!﹂
1462
﹁はあ、はあ、はあ﹂
﹁頑張ってください! ほら、ひっひっふー、ひっひっふー!﹂
﹁すぅ⋮⋮ひっひっふー! ひっひっふー! ひっひっふー! ひ
っひっふー!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮わ、私も緊張してきちゃいました⋮⋮が、がんばって﹂
﹁ひっひっふーうん、ひっひっふーうん、ひっひっひっひぃひぃひ
ぃ⋮⋮﹂
﹁あ、あたま出てきましたよ! あと少しです!﹂
﹁はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ! 痛い痛い
いいいいいいい!!!﹂
﹁ほ、ほぎゃー!! ほぎゃーー!!! ほぎゃあ!!!﹂
1463
⋮⋮俺は何でこんなことを叫んでんだろう。
﹁生まれましたよ! でっかな女の子です!﹂
⋮⋮俺、男なんだからそこは男にしてくれよ。
﹁はぁ、はぁ、はぁ⋮⋮﹂
﹁ほらあ⋮⋮かわいいでちゅねー﹂
﹁ほぎゃ、ほぎゃ﹂
﹁わ、もう返事しましたよ﹂
ただ泣いているだけ⋮⋮。
﹁ほぎゃああああ!!!﹂
﹁元気な子ですね。はい、ポンポコも抱いてみてください﹂
﹁ああ⋮⋮でかいな﹂
﹁ほぎゃあ!!﹂
﹁ほんとにでかいな⋮⋮﹂
しげしげと見ながら言わないで⋮⋮。
1464
﹁おめでとうございます、今日で退院ですね﹂
﹁⋮⋮ああ﹂
﹁はい、診断書みたいですね﹂
アオちゃんが紙を持った。
﹁⋮⋮あれ?﹂
﹁どうした?﹂
﹁⋮⋮この子、O型なんですが﹂
﹁それがどうかしたか?﹂
﹁私AB型ですよ。ポンポコは﹂
1465
﹁⋮⋮Bだが﹂
﹁AB型とB型から生まれるのはA型、B型、AB型だけですよ!
O型の子なんて生まれないですよ﹂
すっげえ説明的なセリフ。
﹁ほぎゃ﹂
﹁⋮⋮そうか、Oなのか﹂
﹁ポンポコ、誰との子ですか!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ほぎゃほぎゃ﹂
﹁⋮⋮ポンポコ、言いなさい﹂
﹁ほぎゃあ﹂
﹁これは⋮⋮ケンとの子だ﹂
あれ? そなの? そんな設定だったっけ?
﹁なるほど⋮⋮ケンはA型ですから、O型の子が産まれても不思議
じゃないですね⋮⋮いつの間にですか?﹂
﹁⋮⋮家庭を顧みないお前にはうんざりだったんだ﹂
1466
なに語りだしてんだ。
﹁ほぎゃあ﹂
なんとなく言ってみる。空気読んでねえなあ。
﹁し、仕方ないじゃないですか! 仕事仕事が大変だったんですか
ら﹂
﹁もうその言い訳はいい。お前が不倫をしていることは知っている
のだから﹂
﹁な、何の話ですか!?﹂
﹁知っている。お前がゴーヤと付き合っていることは﹂
﹁へ? 私?﹂
おいおい、先輩まで巻き込むなよ。
﹁し、知りませんよ﹂
﹁今日もこの後会うのだろ? 知っているぞ、病院の裏で待ってる
ことを﹂
﹁な、何のことですか?﹂
﹁だったら電話してみるか?﹂
﹁好きにしたらいいじゃないですか﹂
1467
TRRRRR、TRRRRR
ほんとにPHS使うんかい。
﹁もしもし、アオ! 電話待ってたよ! 今からどこに行こう!﹂
ゴーヤ先輩、ノリよすぎ。
﹁⋮⋮﹂
﹁どうしたアオ。返事がないよ﹂
﹁ほぎゃあ!!﹂
空気読まずに泣いてみる。
﹁⋮⋮今のって、赤ちゃん? も、もしかしてそこに奥さんいるの
?﹂
プツッ。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ほぎゃ﹂
1468
﹁⋮⋮で?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮言う事はなしか﹂
﹁ぽ、ポンポコだってケンと浮気したんじゃないですか! ど、同
罪ですよ﹂
﹁⋮⋮そうだな、同罪だ。⋮⋮私たち、今日で別れよう﹂
あ、あれ? そ、そんな結末っすか?
﹁そ、そんなこと言っていいんですか? その子のお金はどうする
んです?﹂
﹁なんとか育てるさ、いざとなったら私1人で育ててみせる、な?﹂
な、と俺に言われても。
﹁ほぎゃほぎゃ﹂
﹁よしよし⋮⋮では行くか﹂
﹁ま、まってください、もう一度話し合いましょう﹂
﹁さよなら⋮⋮もう会うこともないな﹂
ポンポコさんと俺、退場。
1469
﹁ど⋮⋮どうしてこんな事になってしまったのでしょう⋮⋮それも
これもあの子がO型だったせいです。こうなったらケンを殺して私
も死にます!﹂
アオちゃん、シャープペンシルで寝てるケンの首筋にプスリ。
﹁いってえ!! 何すんだよ!﹂
⋮⋮演技できない男だな、ケン。
﹁どうも、ありがとうございましたあ!﹂
以上、ポコポン劇団でした。
1470
155話:よくわかる解説
﹁どうでした、ユッチ?﹂
﹁どうって⋮⋮浮気はだめだよねえ?﹂
ああ、うん。この話見てればそう思うだけかも。
﹁いえ、それはそうなんですが。 もっと他の事思いませんでした
?﹂
﹁ああ、あれだよね⋮⋮ヤス!﹂
﹁へ? 俺?﹂
なんかやったっけ?
﹁もっとちゃんと演技しなよお。﹃ほぎゃほぎゃ﹄、すっごい棒読
みだったよ﹂
﹁やだよ。あれでもすっごく恥ずかしかったんだ﹂
これ以上は恥ずかしくて出来るかい。
﹁でも、ゴーヤ先輩までが熱演してる中、浮いてたぞお! ああい
うのはまじめにやったほうが恥ずかしくないんだぞ!﹂
﹁ユッチだって演技するの下手じゃんかよ! すっげえ棒読みだっ
1471
たじゃん!﹂
﹁え? ボクいつ演技なんてやったっけ?﹂
﹁﹃小説家になろう﹄の小説談義したとき﹂
﹁あの時ボク、ものすごく一生懸命演技やったよお!!﹂
まじか⋮⋮それはごめん。
﹁そういえば、ヤスってO型でいいの?﹂
﹁ああ、俺O型。だからおおらかだろ?﹂
﹁⋮⋮ええと⋮⋮どこが?﹂
﹁これだけいじられてても怒らない!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮えと﹂
﹁⋮⋮ごめん、何も言わないで﹂
自分で言ってちょっとむなしかった。
﹁⋮⋮話がずれましたがこれは生物の遺伝の話ですよ﹂
﹁ええ? ⋮⋮どこがあ?﹂
﹁AB型とB型からはO型が生まれないって部分です﹂
1472
ま、実際その部分だけだからな。
﹁そりゃ生まれてこないでしょ? だって血液型って親と一緒にな
るんだろお? AB型とB型の子供だったら、それもらってAB型
かB型になるもんじゃないの?﹂
﹁違いますよ﹂
﹁⋮⋮そうなの?﹂
﹁子供は母と父、両方から半分ずつ遺伝するんです。人間は誰でも
血液型の遺伝情報を2個持ってるんですよ。そしてそのうち1つを
親からもらうんです﹂
﹁2個?﹂
﹁たとえば血液型で言えば、私はABですよね。Aという遺伝情報
とBという遺伝情報の2個持ってるわけですよ﹂
﹁ボクはOだけだよ? A型とかB型の人も1個だけじゃん﹂
﹁ユッチはOとOの遺伝子を持っているんですね。A型やB型の場
合はAA型という場合とAO型という2種類がありますね﹂
⋮⋮ややこしい。
﹁⋮⋮?﹂
アオちゃん、ユッチもきっとわかってない。
1473
﹁⋮⋮ええと、表にしてみましょうか﹂
そういって、アオちゃんがホワイトボードに書き書き。
血液型|遺伝子型
A |AA、AO
B |BB、BO
O |OO
AB |AB
﹁こんな感じです﹂
﹁⋮⋮AOってのはOにはならないの?﹂
﹁Oは劣性って言って、AやBがいると表面に出てこないんです。
Oは自分が2個集まったときだけ、表に出てくるんです﹂
﹁そうなんだあ﹂
﹁子供が生まれる時、親の遺伝子型から1個ずつもらって血液型が
決定するんです。血液型の問題が出たときはこの表を覚えておけば
大丈夫ですよ﹂
﹁⋮⋮ふーん﹂
わ、すんごい興味なさげ。
﹁うーん⋮⋮ユッチ、いろいろ組み合わせましょうか﹂
﹁なにを?﹂
1474
﹁第1弾! ユッチとヤス君の間に子供が出来たら﹂
﹁何で俺!?﹂
﹁何でボクとヤスなのお!?﹂
人を使うな!
﹁いいじゃないですか。遊びですよ﹂
や、遊びでもいろいろ恥ずかしいっす。
﹁しかし、ユッチとヤスの子か⋮⋮ユッチに似て小さくなるのか?
ヤスに似て大きくなるのか?﹂
﹁そうだな⋮⋮どっちになるのだろう?﹂
そこ、ケンとポンポコさん! 考えなくていいから!
﹁ええと、ヤスがO型でボクもO型だから⋮⋮O型しか生まれない
んじゃないかなあ?﹂
﹁その通り⋮⋮簡単すぎましたね。何でヤス君、O型なんですか?﹂
知らんがな! 神様にでも言ってくれ!
﹁第2弾! そこで話してるポンポコさんとケン君に子供ができた
ら﹂
1475
﹁⋮⋮ヤス、これ言われるのやだな﹂
だろ? ケンもたまには俺の気持ちを分かってくれ。
﹁えっと⋮⋮ポンポコがB型で、ケンがA型なんだよね﹂
﹁そうですよ。今回はポンポコさんはBO型、ケン君はAO型と言
う事にしましょうか﹂
﹁ええと⋮⋮ポンポコからはBとO⋮⋮ケンからはAとO⋮⋮組み
合わせるとBとA、BとO、OとA、OとOの4つ⋮⋮ヤス、これ
であってるのかなあ?﹂
﹁あってるぞ、あと少し﹂
﹁えっと⋮⋮表を見ると⋮⋮BとAだとAB型、BとOだとB型、
AとOだとA型、OとOだとO型⋮⋮全部生まれる?﹂
﹁その通りです! ユッチ、大正解です﹂
﹁⋮⋮えへへえ﹂
はにかむユッチの顔、ちょっとかわいらしい⋮⋮うん、飴をあげた
くなるな。
﹁遺伝は高校ではメンデルの法則を覚えておけば大丈夫です。エン
ドウ豆とか色々ありますけど、今のと考え方は全部同じですよ﹂
﹁ほんとお?﹂
1476
﹁ほんとです。性別のとかはややこしいですが一緒です﹂
﹁性別ってどんなのさあ?﹂
﹁XXが女性で、XYが男性ですね。さっきと同じように考えるだ
けです﹂
﹁えっとお⋮⋮女のXと男のXって一緒なの?﹂
﹁一緒ですよ﹂
ユッチ、細かいところを聞くなあ。
﹁YYってのはないの?﹂
﹁雌雄同体の生物、カタツムリ等ならありえますが死んでしまうそ
うですね。例外はあるかもしれませんが、よく知りません。人間に
はありませんよ?﹂
﹁人間にはないの? なんでえ?﹂
﹁女の方にYが無いからですよ﹂
﹁⋮⋮よくわかんない。何でYYは無いんだあ?﹂
﹁⋮⋮えっと⋮⋮﹂
アオちゃん、どう回答すればいいか困ってる⋮⋮。
﹁ユッチ、想像してみろ﹂
1477
﹁ヤス、何を?﹂
﹁女の方にはXしかないんだぞ。つまりYを持ってるのは男だけっ
て事だ﹂
﹁それでえ?﹂
﹁今、XXとXYしかいないと言う事はだ、子供を生んで、YYを
作るんだぞ﹂
﹁それでそれで?﹂
⋮⋮もうそろそろ察してえ。
﹁子供を作るには夜の運動をしなきゃいけないんだ。Yを持ってい
るのは男だけ、つまりは男と男、例えばマルちゃんとノンキで夜の
運動をしても、子供はできないぞ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮。
1478
﹁おえええええ⋮⋮すごいの想像しちゃったじゃないかあ!! な
んてこと言うんだあ!﹂
﹁ってかユッチこそ途中で察してくれよ!!﹂
﹁わざわざマルちゃんとノンキとかいうなあ!! これからあの2
人を見る度に想像しちゃうじゃんかあ!﹂
﹁俺のせいか!?﹂
﹁ヤスのせいだよお!!﹂
まじか⋮⋮身近な例の方が分かりやすいと思ったんだが⋮⋮。
﹁わかった。別の話で忘れさせてやる﹂
﹁ちゃんとした話にしてよお?﹂
えーっと⋮⋮。
﹁分かった。ちゃんと勉強の、しかも遺伝の話だ﹂
﹁うんうん﹂
﹁さっきのXX、XY、どっちが女でどっちが男か、分からなくな
るかもしれんだろ?﹂
﹁うんうん﹂
1479
﹁こうすると絶対忘れない﹂
﹁どうするのさあ?﹂
﹁Yの字をじーっと見てみろ⋮⋮﹂
﹁じいーっ⋮⋮見たけど、何?﹂
﹁Yと言う字には棒がある、そして男にも棒がある。XXとXYで、
Yという棒がある方が男って事だあ!!﹂
﹁⋮⋮死ねえっ!!!﹂
ボカッ!
﹁いてっ! 殴るな!﹂
ポカポカ!
﹁痛いから! ほんとにこうするとだな!﹂
ボカボカ!
﹁痛いって! 忘れないんだぞ!!﹂
﹁うるさいうるさいいっ!! ヤスのドエロッ!!﹂
﹁痛いっ! やめいっ! 誰かユッチ止めて!﹂
﹁無理です。ユッチ、そうなると止めれませんもん﹂
1480
アオちゃん、今俺を見放しただろ!
ウララ先生が来る直前にユッチの怒りは収まった。
⋮⋮体中が痛い。
﹁ヤス君、明日もユッチに何か教えましょうね﹂
﹁⋮⋮まじ?﹂
﹁まじです。ユッチの勉強嫌いの半分は私のせいですし。毎日やり
ますよ﹂
アオちゃん⋮⋮俺が勉強嫌いになりそ。
1481
155話:よくわかる解説︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
よく分からなかった方、ごめんなさい。
下ネタが苦手な方、ごめんなさい。
でも、言い訳ですけど、遺伝の話って絶対下ネタはいりますよね?
でも自分が高校生の時、生物の授業で下ネタ無かったなあ⋮⋮まじ
めだったなあ⋮⋮先生。
⋮⋮あと、何にでも例外はあります。
AB型とO型からは普通はO型は生まれませんが、生まれる例もあ
るそうです。
それでは、今後ともよろしくお願いします。
1482
156話:合宿3日目、登山
ようやく合宿も3日目だ。
いつもより1日が長い気がする。濃厚な一日を送っているからだと
思おう。
今日も早朝練、ミドリちゃんしか起きてこなかったので、ミドリち
ゃんと声だして走ってた。
その後、部屋でぐーすか寝てるメンバーを叩き起こして朝の集いに
参加。
今日は朝の集い、全員集合したぞ。
明日からもちゃんと起こしとこ。
﹁ヤス、体は大丈夫か? 痛いところ等は無いか?﹂
﹁全身筋肉痛⋮⋮あと、昨日ユッチに殴られたところが痛い﹂
﹁⋮⋮後半は自業自得だな﹂
1483
ポンポコさん、慰めてくれよう。
﹁で、今日のメニューなのだが、﹃登山﹄だ﹂
﹁江戸時代の大名?﹂
﹁それは﹃外様﹄だ﹂
﹁超有名な歌手グループ?﹂
﹁それは﹃サザン﹄だ﹂
﹁もう駄目だ⋮⋮俺は死ぬ⋮⋮﹂
﹁﹃無惨﹄だな⋮⋮違う! 何故ヤスはボケる?﹂
や、ノッてくれるからつい。
﹁﹃登山﹄、聞けば分かる通り、山に登るのだ﹂
﹁どこの?﹂
﹁目の前にあるだろう? 富士山に決まっている﹂
﹁どこから?﹂
﹁ここからに決まっているではないか。5合目まで車で行こうと思
ったか?﹂
﹁うん、思ってた﹂
1484
﹁残念だな、むしろここから5合目までが本番だ。そこからは徒歩
で観光しよう﹂
﹁⋮⋮ポンポコさん、なんか不穏な言葉が聞こえたんだが﹂
﹁何の事だ?﹂
﹁5合目からは﹃徒歩で観光﹄って言ったよな。んじゃここから5
合目まで、どうやっていくんだ?﹂
﹁走る﹂
﹁⋮⋮ほんとに?﹂
﹁ヤス、﹃3H﹄を覚えていないのか?﹂
﹁ええと⋮⋮﹃はげ﹄﹃はら﹄﹃へんたい﹄だよね?﹂
あれ? 間違ってたっけ?
﹁⋮⋮﹃速く﹄﹃走る﹄﹃ヒーロー﹄だ。忘れたのか?﹂
ごめん、忘れてました。
﹁ヤスはヒーローになるのだからな。だからこそ、しっかり走れ﹂
ヒーローになるなんて言った事無い気がする⋮⋮。
﹁ヤス、全国大会に出ようと思うのなら、他の人よりも頑張らなけ
1485
れば駄目だ。楽して勝てるなんて思うな﹂
了解っす。ポンポコさん。
⋮⋮もう全国大会の部分にツッコミ入れるの止めよ。
﹁今日は短距離のマネージャーはミドリに任せてる。私はヤスにつ
いていくから﹂
﹁ポンポコさん、ついてくってどうやってするの?﹂
ポンポコさんが走った所、見た事無い。
正直、俺がどんなに遅くてもついていけるとは思えないんだが。
﹁大丈夫だ、私にはこれがあるからな﹂
⋮⋮すげえ! 免許じゃん!
﹁16の誕生日の後に、原付の免許を取ったのだ。これで原付でヤ
スについていくから、心配するな﹂
ポンポコさん、すごすぎだ。
﹁では、準備運動をして、早速山登り、始めようか﹂
﹁ラジャ!﹂
1486
さてさて、ポンポコさんと一緒に山登り開始。
⋮⋮意外と楽じゃん。坂、そんなにきつくないんかな?
﹁ヤス、飛ばしすぎるな。途中で確実にばてるぞ﹂
大丈夫大丈夫、そんなに速いペースで走ってないさ。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ⋮⋮。
﹁だから言っただろう、無理するなと。まだ5合目まで半分以上あ
るぞ﹂
1487
まじ⋮⋮? これ以上走るのめっちゃきついんだけど。
﹁ヤス、とりあえず腕をブラブラさせてみろ。意外と楽になるぞ﹂
了解っす、ポンポコさん⋮⋮。
﹁両手に力を入れすぎるな。スピードも上げなくていいぞ。のんび
りといこう﹂
スピードはあげたくてもあげられないっす。
﹁ほらヤス。そろそろ給水しておけ。持てるか?﹂
⋮⋮うい。きつくて返事する余裕も全くないな⋮⋮。
1488
⋮⋮ちくしょ。富士山、登り坂ばっかりじゃん。下り坂が走りたい
⋮⋮平坦な道が恋しい。
﹁ヤス、こっから少し平坦な道があるぞ﹂
まじか⋮⋮、よかった。
﹁そしてそれが終わったら、急な登り坂だ﹂
くっそ! 喜ばせて悲しませるんだな。
﹁その急な登り坂が終われば、もうゴールは目の前だ。頑張れ!﹂
おし! もうすぐゴールな訳だ。
﹁ヤス、平坦な道でペースをあげると、その後の登り坂が地獄だぞ。
ちょっと落とした方がいい﹂
⋮⋮もうすぐゴールという言葉を聞いて、ついペースをあげてしま
った。
﹁よし、そのペースだ。のんびりいこう﹂
⋮⋮ういっす。
1489
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ⋮⋮。
なんだよ⋮⋮この坂は。崖じゃね?
﹁ヤス、この坂を原付で一緒に上るのはきついんだ。悪いが、先に
行って待ってるからな﹂
ラジャ。一人旅かあ⋮⋮寂し。
まじ歩きたい⋮⋮ってか歩いてる方が速い気がしてくる⋮⋮足があ
がらん⋮⋮手が振れん⋮⋮体が曲がっちまう。
﹁ヤス、後200メートルだ! ラストファイト!﹂
うい⋮⋮。ってかもうラストスパートもかけられません。
﹁後100メートルだ! 下を見てないで前見てみろ!﹂
前⋮⋮? あ⋮⋮ポンポコさんが手を振ってる。
﹁ここまで登りきるんだ! 頑張れ!﹂
ゴールまで、あと少しなんだ⋮⋮長かった。
﹁後50だ!﹂
⋮⋮はあ⋮⋮はあ⋮⋮はあ⋮⋮はあ⋮⋮はあ。
﹁ラストスパート!﹂
1490
⋮⋮無理っす。
﹁よし、ゴールだ。ヤス﹂
⋮⋮終わったのか?
﹁よく頑張ったな。お疲れさま﹂
⋮⋮ありがと。
⋮⋮バタッ。
﹁おい! 大丈夫か!? 急に倒れるな!﹂
ちょっと休ませてえ⋮⋮。
1491
156話:合宿3日目、登山︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
昨日はすみません⋮⋮。
仕事から帰る↓書き始める↓眠いので﹁5分だけ﹂と寝る↓起きた
ら今日の夜中2時⋮⋮。
めっちゃへこみました。
毎日投稿、途切れましたがまた毎日投稿続けますので、今後ともよ
ろしくお願いします。
それでは。
1492
157話:ちょこっと観光
ばたっと倒れた後、いまだに起き上がってない。
かれこれ30分近く転がってる気がする。
ようやく呼吸とか、足とかが戻ってきた。
﹁おい、ヤス⋮⋮そろそろ起きれないか?﹂
﹁了解っす⋮⋮よっこいしょっと﹂
うわ、立つのがきつい。
もうちょっと転がっていたい気もするけど⋮⋮立つか。
﹁お疲れ。よく頑張ったではないか﹂
﹁ポンポコさんが並走してくれたからっすよ﹂
あんなしんどい道、1人で走ってたら絶対途中で止めてる。
﹁それにしても⋮⋮走りきったんだなあ﹂
﹁気分はどうだ?﹂
﹁や、気持ちいい。完走直後はもうしんどくて、この道は2度と走
るもんかって気分だったけど⋮⋮達成感って言うのかな。やりきっ
たんだなあってしみじみ思う。こういう気分になれるんなら、また
走ってもいいさなって﹂
1493
﹁それはよかった、それなら明日もここ走るか?﹂
﹁それは無理⋮⋮体がもたないっす﹂
﹁冗談だ、怪我してしまったら元も子もないからな﹂
よかった⋮⋮なんて怖いことを言うんだよ。ただでさえそこら中筋
肉痛だってのに。
﹁んじゃ俺の体もなんとか動くようになったし、そろそろ帰る?﹂
そういや帰りはどうするんだろ?
ポンポコさんが乗ってるのは原付だから2人乗り出来んし⋮⋮。
やっぱまた走んのかな。
﹁帰るにしても、まずは体操、ストレッチをきちんとしてからだな
⋮⋮だがヤス、ここはどこだ?﹂
﹁富士山5合目じゃん﹂
今更何を言うんだ、ポンポコさんは。
﹁そうだ。そしてせっかく富士山5合目まで来たのだから、登って
みる気はないか?﹂
﹁⋮⋮走って?﹂
﹁いや、ここからは原付では登れないからな、観光気分で登ってみ
ないか﹂
1494
﹁あ、そういや走り出す前にも言ってたな﹂
﹁そうだ。富士登山がアスファルトの道だけと言うのは寂しすぎる
だろう?﹂
確かに、せっかくきたのにここで終わりってのもつまらんな。
﹁だから登ろう、頂上や8合目まで登る時間は無いかもしれないが、
行けるところまでのんびりとな﹂
﹁いいねえ、のんびりとって言うの。⋮⋮でもさ、昼食時間には間
に合うの?﹂
﹁大丈夫だ、私たち2人は弁当をもらってきてるからな。夕べの集
いにさえ間に合えば何も文句は言われない﹂
﹁おお! ポンポコさん準備がいい。その働きっぷりはまさにマネ
さんの鏡っすね﹂
ってか完全に専属マネージャーになってもらっちゃってるんだが⋮
⋮俺はありがたいけど、迷惑じゃないだろか?
⋮⋮怖いから聞くの止めよ。
﹁よし、行くぞ﹂
﹁ラジャ!﹂
1495
﹁やっぽー!!﹂
山に来たらこれだろ。
﹁おいヤス、それを言うなら﹃やっほー﹄だろ。そもそも富士山で
はやまびこは聞こえんと思うぞ﹂
﹁いいんだよ、聞こえなくたって。高いところに来たらなんとなく
叫びたくなるじゃん﹂
﹁⋮⋮そう言うものか?﹂
﹁そういうもんそういうもん、ポンポコさんも叫んでみなよ。いく
ぞ﹂
﹁ちょっとまて、私は叫ぶとは言ってない﹂
﹁せーの﹂
﹃やっぽー!!﹄
ほんとに言ってくれるとは⋮⋮最近ノリがいい、ポンポコさん。
﹁それにしても標高が高いと、やっぱり景色もいいなあ。晴れてよ
かった﹂
1496
雨が降ったり、霧が出てたりしたらこんないい景色は見られないか
らなあ。
﹁今日は雨の予報だったがな﹂
﹁朝、ユッチが﹃晴れたあ!!﹄ってすごく喜んでたなあ﹂
初日ユッチ、﹃雨、降るのかあ⋮⋮﹄ってすごく落ち込んでたから
なあ。
﹁ユッチが昨日の夜、せっせとてるてる坊主作っていたぞ﹂
﹁晴れますように?﹂
﹁そうだ。20個くらい作って、全てのてるてる坊主に拝んでいた﹂
ユッチがやっているのを想像すると何となく微笑ましい。
俺とかケンがやってたら⋮⋮不気味だ。
﹁今でも全てのてるてる坊主がぶら下がっている、見に来るか?﹂
﹁残念だけど、俺今女子の部屋に入るの禁止されてるし﹂
ケンは確か許されてるよな⋮⋮何かずるい。
﹁ああ⋮⋮ユッチか﹂
﹁そうそう、昨日の勉強時間の前からユッチ怒らせてたのに、勉強
時間の時にかんかんにさせちゃったからなあ﹂
1497
⋮⋮今日なんて俺を見た途端逃げられた。
ちょっとへこむ。
﹁今日のあの時間に挽回すればいい、今日は何をやるつもりなのだ
?﹂
﹁えーっと⋮⋮アオちゃんは、詩でも読んでみますって言ってたけ
ど⋮⋮﹂
面白いのだろうか? それ。
﹁ヤスの方が変な事考える事が好きだろう? アオちゃんに任せる
のではなくヤスが考えろ﹂
こら、変な事考えるのが好きって何やねん。
血液型の話は確かにドラマ風にしようって俺が言ったけど⋮⋮昼ド
ラ風にしたのはアオちゃんとポンポコさんだ。
途中から完全アドリブにしやがって。
﹁楽しみにしているぞ、ヤス﹂
ポンポコさんも考えてえな。
1498
2時間ぐらい山登りを楽しんで、昼食もポンポコさんと食べて、今
から青少年交流の家に帰宅。
今はもう5合目まで下山してる。
﹁うむ、綺麗だったな﹂
﹁ああ⋮⋮﹂
﹁それでは帰るぞ﹂
﹁⋮⋮やっぱり走って?﹂
﹁もちろんだ﹂
そりゃそうか。まあ下りだし、上りより楽だろ。
﹁ただし、下りはスピードが出てしまうからな。スピードを上げす
ぎると、足の負担が大きくなり危険だ。下りは登りより、走り方の
技術が必要だ。あえてスピードを上げようとはするなよ﹂
﹁了解っす﹂
まあ、行きと同様のんびりと走りますか。
んじゃ、レッツラゴー。
⋮⋮あれ?
﹁おいヤス、人の話を聞いたのか!?﹂
1499
いや⋮⋮でも、足が止まらないー、これだけのスピードで走れるの
楽しー。
﹁おい、聞いてくれ!﹂
⋮⋮しょうがない⋮⋮ああ、楽しかった。
足が速い人って、あんなスピードを体感できんのね。
﹁ふう⋮⋮ヤス、頑張るなら平坦な道や上り道で頑張ってくれ、今
は走り方を意識して走ろう﹂
﹁ラジャ﹂
⋮⋮ゴール。
上りのときよりやっぱり楽だったな。
﹁⋮⋮﹂
﹁どしたの? ポンポコさん、すごい疲れてるけど﹂
俺とは逆だなあ。
﹁ヤスが悪いのだ! 何故何度もペースを上げようとする!?﹂
1500
﹁ブレーキが利かないんだよ﹂
﹁嘘をつけ。私が怒る度にすぐに下げていた。こっそりとペースを
上げようとしても分かるからな﹂
⋮⋮ばれていたか。
﹁あはは。まあまあ、今日だけ許してください﹂
﹁⋮⋮明日の午前、覚悟しておけよ﹂
こわっ⋮⋮ポンポコさん、目がめちゃくちゃ怖いです。
1501
157話:ちょこっと観光︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
富士山って上り道たくさんあるから、5合目と言っても高さがたく
さんあるんですね。
多分自分の行った事がある5合目は一番低いところなんだろうなあ
⋮⋮。
それでは今後ともよろしくお願いします。
1502
158話:ユッチのおべんきょ、第2弾
もう夕飯食べ終わって、風呂にも入って、これからまた勉強の時間。
今日は昨日よりも起きてる⋮⋮って言っても、勉強すんぞというよ
り俺たちが何するのか見たいだけって雰囲気がすごくあるんだが⋮
⋮。
ゴーヤ先輩やキビ先輩に興味津々で見つめられてる⋮⋮それ、めち
ゃくちゃプレッシャーがかかるんだけど。
キビ先輩、昨日みたいに寝ててくださいよ。
﹁ヤス君、今日はユッチに話す事何かありますか?﹂
﹁ええと⋮⋮いろいろ考えたんだけどいいのが思いつかん、アオち
ゃんの方は?﹂
﹁1つ考えましたよ。それじゃ、今日は私が何かやりますね﹂
﹁結局何やんの?﹂
﹁秘密です、楽しみにしててください﹂
ってか前は詩って言ってたよな。
詩って何を読むんだ? ユッチが好きそうな詩⋮⋮ユッチの趣味な
んて知らないよ。
﹁ユッチ、今日もやりますよ﹂
﹁今日もお? またヤスが変な事言って終わりになるんだろお?﹂
1503
こらこら、昨日だってまともにやっていただろうが。
﹁今日はヤス君は考えてないので大丈夫です! 全部私の案ですか
ら﹂
﹁もっとやだあ!! どうせスパルタなんだろお!?﹂
⋮⋮高校受験の時、アオちゃんはユッチにどんな教え方をしたんだ
ろう⋮⋮。
﹁大丈夫です。楽しめる内容にしたつもりですよ﹂
﹁⋮⋮高校受験の時もそう言ってたもん、﹃つもり﹄にだまされた
んだもん﹂
甘い言葉を最初は言って、実は違っていた⋮⋮これだけ聞くと詐欺
みたい。
勉強したがらん人に勉強させるときなんて大体そんなもんだ、甘い
言葉か強制させるか洗脳させるか。
﹁でも、ほっといたら高校、落ちてましたから﹂
﹁うん、しょうがないんだけどね﹂
まあ、2人が納得してるならいいや。
﹁そう言う訳で、今日は﹃詩﹄をやりましょう!﹂
あ、やっぱり詩なんだな。
1504
詩って言うと何やるんだろ。ってか詩人自体ほとんど知らないなあ
⋮⋮石川啄木とか?
﹃からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる たびをしぞおもう﹄⋮⋮あ、これは別の人の作品だ、ってかめっち
ゃ古い人のやん。
石川啄木は⋮⋮﹃はたらけど はたらけど 我が暮らし⋮⋮﹄だっ
たな。
﹁詩? どんなのがあったっけえ⋮⋮﹂
ユッチもやっぱりあんまり知らなさそうだ。
﹁例えば、中学のときの教科書には﹃名付けられた葉﹄等がありま
したね﹂
﹁それなら俺は歌でも歌ったぞ。中2の音楽コンクールの時﹂
ってか思いっきり歌詞を間違えて恥ずかしかった⋮⋮。
絶対替え歌のせいだよなあ⋮⋮ケンと替え歌作って遊んでたら、そ
の替え歌をまんま音楽コンクールで歌ってしまった。
合唱曲でケンと替え歌作って遊ぶの止めとけばよかった。
﹁⋮⋮? 覚えてないやあ﹂
﹁ヤス君、歌ってください﹂
﹁何でそうなるの!? 別に歌う必要なくない!? そもそもちゃ
んとした歌詞覚えてないんだよ。替え歌しか覚えてない﹂
﹁替え歌でも私はいいですよ? 歌ってるうちにちゃんとしたのを
1505
思い出すかもしれませんし﹂
そんなもんか?
﹁でも、歌う必要は無いだろ﹂
﹁大丈夫です、絶対に下手でも笑いませんから。それに歌を聞いた
方が詩の内容も覚えますって﹂
替え歌の内容を覚えてもしょうがないだろ。始まりすら覚えてない
⋮⋮。
﹁ヤス、歌って歌って! ヤスの歌まだ聞いた事無いしさあ﹂
ユッチ、そんな無邪気な目で見るな。その目で見られると断りづら
い。
﹁⋮⋮ええと⋮⋮んじゃいきます、タイトルは﹃名付けられた屁﹄﹂
﹁題名変わってるじゃんかあ!?﹂
そりゃ替え歌なんだから。
﹁ぼくらの尻にー ぼくらの屁ー♪ 何千、何万、屁をこいてー♪
あの子の小さなー あの子の小さなー 鼻がまーがるー♪﹂
﹁うるさいい! もう歌うなあ!﹂
何で!? 歌えって言ったじゃん!
1506
﹁ヤス君、替え歌でもそれはあんまりですよ?﹂
﹁いや、替え歌はめちゃくちゃにするもんだろ? かの有名な﹃コ
ンクリートロード﹄だってそうじゃん﹂
﹃カントリーロード﹄の替え歌な。
﹁あの名作とヤスの適当な替え歌と一緒にするなあ!!﹂
﹁おい、適当とは何だ! ケンと1晩徹夜して作成した名作だぞ!﹂
﹁1晩しかかけてないじゃんかあ! 作詞家をなめるなあ!﹂
遊びくらいならそれでいいじゃんか。徹夜までしたこの意気込みを
褒めてくれ。
﹁ヤス君、結局思い出せました?﹂
﹁いや全然。結局﹃名付けられた屁﹄しか思い出せん、屁でいいな
ら続き歌うけど﹂
﹁もう歌わなくていい!﹂
﹁こらユッチ。俺の歌、聴きたいってユッチが言ったんだぞ﹂
﹁うるさいい! ちゃんとした﹃名付けられた葉﹄が聴きたい!﹂
くっそ、俺とケンの合作﹃名付けられた屁﹄をバカにしたな。
﹁ヤス兄、そう言えば今私、国語便覧持ってるよ?﹂
1507
﹁載ってんの?﹂
﹁うん、ほらここ﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
ほんとに載ってるやん。
って事は俺わざわざ替え歌を歌う必要なかったんじゃね?
﹁さすがサツキちゃん! 準備がいい!﹂
﹁いえいえ⋮⋮ヤス兄、これで歌詞もわかるから歌えるね﹂
まじ? また歌うの?
﹁ヤス、歌って歌って!﹂
だからユッチ、その無邪気な目はやめて!
ええ、結局独唱しました。
﹁ヤス兄、何かところどころ抜けてたけど﹂
1508
合唱曲だから独唱で歌えばそうなるって。しょうがない。
こんな場所じゃなくて、せめてカラオケで歌わせて⋮⋮。
﹁そういえば、歌の話じゃなくて、詩の話でした。この後話します
ね﹂
アオちゃん、最初からそれやって!
1509
158話:ユッチのおべんきょ、第2弾︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
著作権、50年経てば無くなるんですね。
こんなページがありました。
←著作権の消滅した作家名一覧
http://www.aozora.gr.jp/siryo1.
html
何かをパロるときはここからにしようかなあ⋮⋮。
すんごいネタが古くなりそ。
参考にさせていただいたページ一覧
東京書籍
http://ten.tokyo−shoseki.co.jp
/text2006/chu/kokugo/top.htm
浜島書店
http://www.hamajima.co.jp/koku
go/kokubin−taiou−2006/
石川啄木 一握の砂
http://www.aozora.gr.jp/cards/
000153/files/816︳15786.html
1510
在原業平ー平安大事典
http://heianjiten.fc2web.com/n
arihira.htm
名付けられた葉
http://www013.upp.so−net.ne.jp
/chorus︳at︳home/songs/nazuke/n
azuke.htm
それでは今後ともよろしくお願いします。
1511
159話:川柳、考え中
﹁さてユッチ、詩とはどんなもの言うか知ってますか?﹂
﹁ええと⋮⋮知らない﹂
俺も知らん⋮⋮短い話?
﹁韻を踏んだり、形式にのっとって書かれ、感動等を伝える文学作
品ですね。古い時代では漢詩の事だけを指して﹃詩﹄と言ってたん
ですよ。最近では韻を踏んでなくても雰囲気が詩みたいだと﹃詩﹄
と言うようにもなりました。これを﹃自由詩﹄と言います﹂
ほうほう、そうなのか。
﹁韻を踏むと言えば漢詩ですよね。ではユッチ、形式にのっとって
書かれる日本で一番短い詩とは何でしょう?﹂
なんかどっかのクイズ番組みたい。
﹁えと⋮⋮ええとお⋮⋮﹂
﹁ユッチ、教えてやろか?﹂
﹁ヤス! 絶対言わないでよ! ボクが答えるんだからあ!﹂
﹁はいはい﹂
1512
﹁えっとお⋮⋮ここまででかかってるんだよお! 分かってるのに
⋮⋮のどまででかかってるのに、もぞもぞするう﹂
実はそう言うときは出てこない事の方が多かったりするんだよな。
結局その後に誰かが言うのを聞いて﹁そうそうそれ!﹂となる事が
多かったり。
﹁ええとお⋮⋮﹂
﹁ユッチ、ヒントやろか?﹂
﹁⋮⋮なにさあ? オーディエンス? テレフォン? フィフティ
フィフティ?﹂
﹁⋮⋮ミリオネアじゃないし。大体4択問題じゃないじゃん﹂
﹁それじゃあなんだあ?﹂
﹁ヒントその1、昔からある奴だな﹂
﹁そうですね、室町時代頃からだったと思います﹂
あ、意外と最近。
百人一首とかさらに昔からだから、これももっと昔からあるもんだ
と思ってた。
﹁む、室町時代の事なんて忘れたよお⋮⋮﹂
﹁んじゃヒントその2、有名なのと言えば﹃奥の細道﹄だよな﹂
1513
﹁そうですね、どんなのがあるかは知ってますか?﹂
﹁﹃夏草や兵どもが夢の跡﹄とか⋮⋮あとは﹃古池や蛙飛びこむ水
の音﹄﹂
﹁おしいです、﹃古池や﹄の方は奥の細道で詠んだ物じゃないんで
すよ﹂
残念、そうだったんか。
﹁2人で話してないでよお! ボクにも教えてよお!﹂
﹁今、ヤス君が言ったじゃないですか。分かりませんでした?﹂
﹁5、7、5で詠むやつだよね! 何かもやもやと浮き上がっては
くるんだけど⋮⋮分かんないやあ﹂
﹁答えは﹃俳句﹄ですよ﹂
﹁あ、そうそう! 俳句俳句! ああ、何かすっきりしたあ﹂
ユッチ、ほんとに分かってたんかい。
﹁5、7、5だけじゃなくて季語と言いまして季節に関わる物も入
れないと俳句になりませんけどね。入らなかったら﹃川柳﹄になっ
ちゃいますから﹂
﹁俳句と川柳じゃどう違うのさあ?﹂
﹁分かりやすいのは季語があるかないかですね。他にも川柳の場合
1514
は面白みを持たせるものだったり、風刺している物が多いです﹂
﹁風刺?﹂
﹁世間のありえないようなほんとの話を皮肉って詠むんですよ﹂
﹁例えばどんなのがあるの?﹂
意外と食いついてるなユッチ。
﹁ユッチは新聞は読みますか?﹂
﹁読むよ。漫画のとこ﹂
ユッチ、それは読むとは言わない。
﹁⋮⋮ええと⋮⋮読売新聞にですね、﹃よみうり時事川柳﹄という
ものが掲載されてるんですよ。それが社会風刺してて、そうなんだ
あっておもえますよ﹂
そうなんだあ、知らなかったあ⋮⋮。
﹁俺が知ってるのは﹃サラリーマン川柳﹄ってやつ﹂
﹁あ、それボクも知ってるう! あれは面白いよね!﹂
﹁だよな⋮⋮会社に入るとあんな感じなんかなあ﹂
社会人の本音っぽいのがポロリと読めて面白い。
1515
﹁そだ! 今日は川柳の日って事にしとこお! それなら勉強する
!﹂
﹁あ、あれ? 私は﹃俳句﹄をやろうと思ってたんですが﹂
﹁アオちゃん、まあユッチが勉強やるって言いだしたんだからよし
だと思っとこ﹂
それが本当に勉強かどうかは知らんけど。
﹁せっかくいろいろ集めたんですが⋮⋮それで創作した物を﹃おー
いお茶﹄に投稿しようと思ってましたのに﹂
⋮⋮そこまで考えてたのか。ちょっとびっくり。
と言う訳で、川柳大会を開催。
参加者はゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん、ユッチ、ポンポコさ
ん、ケン、サツキ、ミドリちゃん、俺⋮⋮起きてるの女子ばっかや
ん。
﹁ユッチ、﹃テーマ﹄は何にする?﹂
ケン、何が言いたいんだ?
1516
﹁﹃テーマ﹄? なんかいるの?﹂
﹁例えば、よみうり時事川柳なら時事問題について詠むだろ? サ
ラリーマン川柳ならサラリーマンの立場で詠んでるじゃん。他にも
ネットでは﹃足クサ川柳﹄とかあって、足のニオイに関する内容を
詠むのとかがある﹂
そんなのまであるのか。
足クサ川柳⋮⋮﹃臭うねと 誰かが言うと 俺を見る﹄⋮⋮。
⋮⋮自分で想像して悲しくなりました。
﹁ちなみに探してみると色々あるぞ⋮⋮えっとだな⋮⋮﹂
あ、今携帯で調べてんのね。
﹁﹃マネー川柳﹄﹃おむすび川柳﹄﹃男と女のフォト川柳﹄﹃生活
習慣川柳﹄﹃ビール川柳﹄﹃身近な怒りの川柳﹄﹃おそうじ川柳﹄
﹃大掃除川柳コンテスト﹄﹃憩い川柳﹄⋮⋮﹃オタク川柳﹄なんて
のもあるぞ﹂
めちゃくちゃ多いな。川柳読むのって流行ってるんだろうか。
﹁あ、いくつかは応募期間終わっちゃってんなあ⋮⋮もう発表され
ちゃってんのもいくつかあるなあ﹂
﹁そうなんか﹂
﹁お、﹃高校生川柳﹄なんてのもあるぞ、福岡大学と静岡理工科大
学とキャンパスNowってところが別々でやってるっぽい﹂
1517
へえ、そんなにいろんなところがやってんのか⋮⋮まだ探すと他に
もありそ。
﹁と言う訳でユッチ、﹃テーマ﹄を決めようじゃん?﹂
﹁ええと⋮⋮それじゃあ﹃あるある川柳﹄! 日頃の生活でさあ、
﹃そういうひといるよね﹄、﹃それあるよね﹄、﹃やっちゃうよね﹄
って事を言うんだあ!﹂
⋮⋮なるほど。
﹁よし、んじゃそれでやろか。みんなもOKっすか?﹂
﹃了解!!﹄
はいほー、そんじゃ考えよ。
できるだけ他の人とかぶらないように⋮⋮。
1518
159話:川柳、考え中︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃あるある川柳﹄、募集です。
送っていただけたら是非載せたいので、教えてくださいm︵︳
m
それでは今後ともよろしくお願いします。
︳︶
1519
160話:あるある川柳
川柳考え中⋮⋮考え中⋮⋮考え中⋮⋮終了。
おし、いくつか思いついた。
こんだけ考えればかぶりはしないだろ。
﹁ヤス、OK?﹂
﹁OKっす!﹂
誰から発表していくんだろ。
﹁まずは私から!﹂
キビ先輩からか。
﹁歯のすきま すじがはさまる とれないよ﹂
﹁あー、わかるな。ゴマとかネギとか、確かに全然とれない﹂
確かに、ゴーヤ先輩の言う通り、ゴマとかネギって歯にはさまって
全然とれんし、あとガムとかキャラメルとかも歯に引っ付いてなっ
かなかとれなかったりするよな。
﹁そうなの! 牛肉とか鶏肉とかタコとか⋮⋮この前は魚の骨が歯
にはさまっちゃってさあ⋮⋮﹂
キビ先輩、肉ばっかやん!
1520
﹁わかるわかる、何とか舌でとれないかって口の中モゴモゴするん
だが﹂
﹁でも、思いっきり舌を動かしてるのも恥ずかしいよね﹂
⋮⋮まあ確かに肉のすじって舌をモゴモゴしてても全然とれないん
だが。
﹁キビ先輩、そう言うときは爪楊枝っすよ! こう﹃しー、しー﹄
って﹂
﹁ヤス兄、親父臭い﹂
﹁⋮⋮傷つく事言うなよ、サツキ。でも爪楊枝ってすごいんだぞ。
糸楊枝でもいいんだけど、とにかくシャカシャカするだけでもどか
しいやつがすっきりするんだぞ﹂
﹁ヤス兄、親父臭い﹂
﹁連呼しないで! 何で駄目なのさ!? 爪楊枝!?﹂
﹁ヤス兄、親父臭い﹂
くそお⋮⋮この爪楊枝のすっきり気分が分かってくれんのか?
⋮⋮まあいいよ、次いこ次。
﹁次は私が言ってもいいか?﹂
次はポンポコさんか、どんなの考えたんだろ?
1521
﹁﹃近頃の⋮⋮﹄ 言うおじいちゃん 横はいり﹂
﹁いるいるう! そう言うおじいちゃん、すっごいいるう! 行列
のご飯屋でようやくボクの番って時にささっと横はいりして﹃ねえ
⋮⋮﹄って声かけようとしたらギロッと睨んできたおじいちゃん!
そしてボソッと﹃近頃の若いもんは⋮⋮﹄ってさあ⋮⋮なんでえ
!?﹂
﹁いますよね。﹃近頃の若いもんは言葉遣いがなっとらん!﹄と怒
っておきながら、自分自身全然ちゃんとしゃべれてないおじいちゃ
んおばあちゃん﹂
ユッチとアオちゃん、すんごい同意してるんだけど⋮⋮よっぽどや
な事だったんだなあ。
﹁おじいちゃんおばあちゃんだけじゃなくて、おっちゃんおばちゃ
んでも多いよなあ⋮⋮そう言う人﹂
﹁そうそう! ﹃電車で騒ぐな!﹄ って怒ってるおばちゃん達、
バスの中で友達と﹃あっはっは!﹄ って騒いでたりするんだあ﹂
﹁﹃電車で騒ぐな!﹄ と怒る人とバスで騒ぐ人、同一人物とは限
りませんけど、どちらにしても﹃近頃の若いもんは⋮⋮﹄とひとく
くりにしないで欲しいですね﹂
やっぱりユッチもアオちゃんもなんかすごい実感こもっていってる
なあ⋮⋮。
そんなにすごい人にぶち当たったんかな。
1522
﹁ねえねえ! 次、ボク言ってもいい!?﹂
﹁駄目、やっぱり主役のユッチはトリだろ?﹂
﹁なんでだよお!? トリってすごい大変じゃんかあ! 誰かやり
たい人に任せてよ!﹂
﹁トリやりたい人はいないって⋮⋮﹂
﹁じゃあ多数決にしようよお! トリはヤスがいいと思う人!﹂
⋮⋮。
﹁あれ? なんでえ?﹂
﹁残念だったな、今日はいじられ役は俺じゃない⋮⋮ユッチだ﹂
﹁自分でいじられ役って言うなあ!﹂
確かに⋮⋮何言ってるんだ俺は。
﹁⋮⋮まあいい、トリはユッチガンバ!﹂
﹁くそお、ヤスのバカあ!﹂
トリにならなきゃバカでいい⋮⋮最初が好きな人もあんまいないけ
ど。
⋮⋮でもケンはどんなにしらけた空気でもトップバッターが好きだ
よな。
先にやっておくと後の人のやつは気楽に見れるからって。
1523
﹁それじゃあ、ユッチ先輩じゃなくて私が言ってもいいですか?﹂
﹁⋮⋮どおぞお⋮⋮ヤス、覚えてろお⋮⋮﹂
さてと、拗ねてるユッチはほっといて3番手はミドリちゃんか。
﹁5枚以上 ひらがな増やして 行変える﹂
﹁⋮⋮ん? 何それ?﹂
よく分からなかったんだけど。
﹁読書感想文みたいな作文書く時やりません? ﹃原稿用紙5枚以
上書きなさい﹄って書かれていたら、﹃思いました﹄は﹃おもいま
した﹄にかえたり、﹃した所﹄は﹃したところ﹄みたいにかえて字
数を稼ぐんですよ﹂
﹁あ、それ私もしたよ! 5枚以上なんて何書けばいいの!? っ
て感じだもんね!﹂
﹁⋮⋮サツキ、お前は小学校4年の時に全てひらがなで提出しただ
ろ﹂
担任の先生がびっくりしてた。
﹁あははー、気にしない。ヤス兄﹂
ちょっとは気にしてくれ!
せめて自分の名前くらいは漢字で書いとけよ。
1524
﹁それで、句点とか読点を増やしたり、﹃と思いました﹄って部分
を﹃私は思わされたかもしれない事もないんですが、どうなのでし
ょうか?﹄みたいに変えて、なんとか文の最後を一番上に持ってい
くんですよ﹂
何か無理矢理字数を増やした感がバレバレなんだが⋮⋮。
﹁やるやる! 原稿用紙って20文字だから、まるまる19文字ぐ
らいそれで稼げるんだよね! 後さ、﹃何何すべきだ﹄って文って
さ、﹃何何しなければならない﹄って変えるとすごい字数増やせる
よね﹂
﹁ですよね! ﹃しなければならない﹄って言葉、お得ですよね!﹂
多分そう言う事考えるより、﹃と思いました。だから僕たちはこれ
からこうしていかなければならないんだ!﹄とか新たに適当に1文
作った方が行数は稼げるんだが⋮⋮まあいいや、小学校の頃、俺も
よくやったし。
﹁そろそろ俺が言っていい?﹂
今のうちに言っとかないと、アオちゃんやケンとかぶるかもしんな
いし。
﹁どぞ、ヤス兄﹂
﹁いいぞ、ヤス﹂
おし、何故かサツキもケンも親切。
1525
﹁58︵ごじゅうはち︶ 3個まとめて 198︵いちきゅっぱっ︶
!﹂
﹁⋮⋮? さっぱりわからないぞ、ヤス﹂
﹁ボクも分かんなかったあ⋮⋮﹂
﹁ケンとユッチは分からないか⋮⋮分かりにくかったかな? えと、
サツキはわかるよな、よく一緒にスーパーに買い物に行くし﹂
﹁わかるけど、わかりにくいよ。ヤス兄、この川柳じゃ解説が必要
だね﹂
そか、分かりにくいか⋮⋮5、7、5にまとめようと思うとこうな
っちまう⋮⋮もうちょい上手く詠めんかなあ。
﹁スーパーでよく見かけん? 先週だと、人参が1本58円でまと
め売り3本だと198円になってたんだ。あとしめじも1つ98円
で売られてて、2つで198円だったんだよ。もちろん産地も大き
さも一緒だぞ﹂
﹁ヤス、それのどこが変なんだあ?﹂
⋮⋮気付けユッチ。
﹁ユッチ、58×3っていくつですか?﹂
﹁ええと⋮⋮だいたい200円くらい?﹂
1526
何でだいたいになるんだよ!? 間違っちゃいないけど! 確かに
買い物のときはそうやって計算するけどさ!
﹁正確には174円なんですよ﹂
﹁うんうん、それでえ?﹂
﹁と言う事は、人参を個別で3個買えば174円になりますよね。
3つまとめ売りで198円⋮⋮まとめて買う方が普通は安くなるん
ですけど、高くなってますね﹂
﹁あ、ほんとだあ! おかしい! そのスーパー!﹂
﹁私が見た事あるものですと、キャベツ1/2玉が108円、キャ
ベツ1玉98円というものや、白菜1/2玉168円、白菜1玉1
50円というものがありましたよ﹂
﹁だよな、あるよな! なんで安くなるんだ!? って思っちまっ
た﹂
﹁私の家ですと、白菜1/2玉あれば十分なのですけど⋮⋮1玉買
うかすごく悩むんですよね、結局買っちゃいましたけど﹂
そうか、買ったのか。
﹁その後、毎日白菜でしたね、お姉ちゃん﹂
﹁帰ってみたらお母さんも白菜1玉買ってましたからね﹂
あ、それもよくある! 安いと思ってついつい買ったら、家族みん
1527
な買っちゃってたって事。
﹁それにしてもヤス兄、それ高校生の川柳じゃないよね。どっちか
って言うと主夫の川柳だよ﹂
﹁確かにそうですね﹂
﹁ヤスはいつでも家計を考えているのだな、えらいぞ﹂
﹁うん、えらいよ! ヤス﹂
⋮⋮なんかみんなして俺を主夫にしたがってないか?
俺は主夫じゃないってば!
﹁さて、次は誰だ?﹂
﹁次は私が詠ませてくれ﹂
⋮⋮ゴーヤ先輩か。どんなの詠むんだろ。
﹁頼れると 付き合ってみたら 頼りない﹂
⋮⋮きっつう。聞きたくねえなあ。
﹁ありますよね。付き合う前と付き合った後ではイメージが全然違
ってたって事。最初は優しい人だったんですけど、付き合うといき
なり偉そうになったりするんですよ﹂
﹁そうなんだよ。頼れる人と思ってたら口先だけで全然頼りなくて、
幻滅だった﹂
1528
﹁ああ、あの3年の先輩ですか?﹂
⋮⋮名前が出てこない。今頃どうしているんだろう。
﹁そう、3日で別れた。成田離婚より速いな﹂
﹁他にも、2人っきりのときと人前のときですごく態度が変わる人
いません?﹂
﹁それくらいなら普通じゃないか? 人前ではカッコつけたいもの
だし、アオちゃんだって2人っきりになるとちょっと甘えたくなっ
たりしないか?﹂
そんなものなのか⋮⋮将来の参考に⋮⋮。
﹁あ、確かにそうですね﹂
﹁それより私は四六時中メールとか電話してくる彼は駄目だったな
あ⋮⋮そこまで束縛されたくない﹂
⋮⋮サツキにしまくってるけど、実はサツキには嫌がられてる?
うん、そんな事無いよな。兄妹の場合には関係ないな。そう思っと
こ。
﹁用事もないのに電話してくるんですよね﹂
﹁そうそう、最初は楽しかったんだが、内容の無いメールのやり取
りに飽きてしまって﹂
1529
﹁ありますあります! それで返信するのやめましたら、何で返信
しないんだよって言ってきて、めんどうになっちゃいました﹂
﹁友達同士でも私の場合は無意味メールを何度も送ってきて欲しく
ないな。ただそう言う事が好きな人も結構いるな﹂
そうなのか? サツキに無意味に日記みたいなメール送ってるのま
ずい?
﹁そうですね、返信を求めてこなかったらまだましなんですけど﹂
おし、俺はまだましだ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮でも、日
記メールは自粛しよ。
﹁⋮⋮ところでゴーヤ先輩は彼からの絵文字、顔文字はOKですか
?﹂
え!? 駄目なん? 俺使いまくってるけど。
﹁ありなんじゃないか? 私は全然気にしてないが?﹂
﹁彼じゃないんですけど高校入学した時にアドレス交換した男子か
らこんなのが送られてきたんですよ⋮⋮ええと⋮⋮これです﹂
お、見てもいいんか?
どれどれ⋮⋮?
−−−−−−
入学ぉたがぃにぉめでとヽ︵゜・^*︶^☆.。.:*・゜☆祝☆
1530
♪
す︵=^。^=︶
バイバイキーンまたぁしたぁ!!
や︵=^O^=︶
ヨロシクニャン・:*:・゜'★.。・:
゜・*:.。.☆^︵*^・゜︶ノ
これから︵*・.・︶ノ
*:・゜'☆♪
それじゃぉ︵=^o^=︶
みぃ︵=^−^︶/
バビブベボー ヾ︵◎皿◎︶↓
−−−−−−
⋮⋮すげえな、顔文字でここまでやるのか。これ誰がだしたんだろ
? 文面から行くと大山高校1年の男子の誰か⋮⋮知りたいけど知
りたくないな。
﹁⋮⋮私は男子からこれもらったらひく﹂
﹁私もひきました﹂
1531
⋮⋮ゴーヤ先輩とアオちゃんで盛り上がってるけど⋮⋮。
⋮⋮話についてけずぽかーんと聞いてる人はと⋮⋮ケン、サツキ、
ユッチ、ポンポコさん、キビ先輩⋮⋮おし、俺だけじゃない!
しかし⋮⋮ミドリちゃんがウンウンうなずきながら聞いてるのが気
になる⋮⋮付き合った経験あり、もしくは今付き合ってんのかな。
⋮⋮はええな、小学6年生。
﹁⋮⋮そろそろ次言っていいか?﹂
ポンポコさん、ちょっと不機嫌だ。
完全にアオちゃんとゴーヤ先輩、ミドリちゃんの3人の世界に入っ
てたからなあ⋮⋮。
﹁あ、いいですよ。次私が言いましょうか?﹂
﹁ああ、よろしく頼む﹂
﹁ええとなんでしたっけ⋮⋮そうそう﹃あしたやろ あしたになっ
た あしたやろ﹄﹂
﹁なるほどな⋮⋮﹂
﹁確かに、めんどい事ってそうするよな﹂
﹁ケン君もですよね﹂
1532
﹁やるやる、夏休みの宿題なんて母ちゃんに﹃あしたやるぞ﹄って
言っておきながら明日になってみて遊びに誘われたらそのまま遊び
にいって、家帰ったら﹃めんどい、あしたやろ﹄って思うんだよ﹂
﹁ですよね﹂
﹁それで8月31日、しんどい思いするんだよなあ⋮⋮9月1日が
土曜日とか日曜日だと宿題が何とか終わるから大喜びしてる﹂
﹁あ、それボクもボクも!﹂
お前ら、まじめに進級してくれよ。
高校からは留年もあり得るんだからな。来年後輩になってるとかい
やだからな。
﹁今年は大丈夫ですか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ケン、目を逸らすなよ!﹂
﹁ボクは大丈夫だもん、切り抜けるもん﹂
﹁ユッチ、開き直るなよ!﹂
⋮⋮9月2日はテストだったりするんだが⋮⋮大丈夫かな。
﹁後言ってないのは誰でしたっけ?﹂
1533
﹁ええと⋮⋮ケンとサツキとユッチかな﹂
﹁そだね。えっと、私とケンちゃんは同時進行!﹂
﹁ああ、似た感じのだったからな﹂
ふむ、似た感じの⋮⋮どんなのだろ。
﹁それじゃあまず私から! ﹃5分だけ 布団の中で 3時間﹄﹂
﹁次は俺! ﹃後5分 ゲームをしてて 3時間﹄﹂
﹁ああ、サツキもケンもよくやるよな。土日は特に﹂
﹁そうなんだよね、布団の中ってポカポカしてて気持ちいいから、
1回起きても﹃5分だけ寝とこ﹄って思って結局3時間以上寝ちゃ
うんだよね﹂
﹁俺も、後5分やるとセーブポイントが見えてきて、キリがいいと
こまで行くよなって思ってたら、結局次の町まで行こって思ってつ
いつい3時間も⋮⋮﹂
﹁ってかサツキもケンも⋮⋮3時間じゃないだろ。そこは6時間っ
て言うべきじゃん?﹂
﹁ヤス兄、言わないでよ! せっかく控えめに言ったのに!﹂
いや、6時間でも十分控えめに言ったつもりだったんだが⋮⋮。
﹁実はもう1個あるんだよね、ケンちゃん﹂
1534
﹁そうそう、もう1個あるんだよ﹂
⋮⋮なんじゃらほい。
﹁それでは発表! ﹃ごめんなさい プリンを食べたの 私です﹄﹂
﹁﹃ごめんなさい スイカを食べたの 俺でした﹄﹂
﹁お前らかあ! 俺の食後の楽しみを奪った張本人達は! この前
は﹃知らない﹄って言ったじゃんか!﹂
﹁こう言う事よくあるよね、ケンちゃん﹂
﹁そうなんだよな、心の中でやましい事があると、つい知りません
って言っちゃうよな﹂
﹁サツキ! ケン! そこになおれ! 説教タイムだ!﹂
﹃すみません 心の中で 舌を出す﹄
﹁謝罪の気持ちゼロじゃねえかあ! 反省しろやあ!﹂
1535
はあ、はあ、はあ⋮⋮。
﹁ヤス兄、そんなにプリンが大事だったんだね。ほんとにごめん⋮
⋮﹂
﹁ヤス、スイカ食べちまってごめんな⋮⋮﹂
なんか、俺がものすごくけちくさいやつみたいだ。
もういい⋮⋮過去の事は気にしない!
﹁さあトリだ。ユッチ、派手なやつを頼むな!﹂
﹁は、派手って何さあ? ハードル上げないでよお⋮⋮﹂
﹁そんなに困るな、十分楽しんでるんだから気楽に行け﹂
﹁うん、わかったあ⋮⋮えっとね⋮⋮﹂
うん。
﹁ええと⋮⋮﹂
うんうん。
﹁えっとお⋮⋮﹂
溜めるなよ。余計に期待が高まるぞ。
﹁い、いくよお? ﹃どうしよお? 身近な人の カミングアウト﹄
1536
﹂
﹁あれ? ねえ! 誰か返事してよお! そんなに﹃ないない﹄な
内容だったかなあ⋮⋮?﹂
⋮⋮いや、﹃あるある﹄な事なんだけど、その川柳にどうしよう⋮
⋮?
﹁これ、思ったのボクだけなのかなあ⋮⋮﹂
カミングアウトの内容にもよるけど⋮⋮ユッチ、最近誰か身近な人
に衝撃の事実をカミングアウトされたのか?
1537
160話:あるある川柳︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
読んでくださった方、﹁ああ、あるある﹂﹁いるいる﹂﹁やっちゃ
うやっちゃう﹂と思っていただけたでしょうか?
どれか1個でも﹁あるある﹂と思ってもらえたら嬉しいです。
﹁あるある川柳﹂、今後も募集したいです。
小説内でポロリと紹介させていただきます。
←顔文字、お借りしました。ありがとうございます。
http://www.facemark.jp/facemar
k.htm
それでは今後ともよろしくお願いいたします。
1538
161話:合宿4日目スタート
ユッチが誰にどんなカミングアウトされたのかは結局分かんないま
ま﹃あるある川柳大会﹄はお開き。
どんなカミングアウトだったのかは気になるけど、ま、個人のプラ
イバシーに関わりそうだし聞かないのが吉だよな。
合宿4日目⋮⋮正直最終日まで後3日もつ気がしない。
ミドリちゃんとの早朝練習も走ろうと思っても体が動かなかったも
んだから、ミドリちゃんと散歩してた。
走ってる時と散歩してるときじゃ、景色が違って見えるもんだなあ。
朝の集いも終わって朝食。
⋮⋮ポンポコさん⋮⋮どんなメニューを言い渡してくるんだ?
﹁みんな、ちゅうもーく!﹂
⋮⋮ウララ先生なんでしょか?
1539
﹁今日で合宿も4日目ね⋮⋮体が重くない人、挙手!﹂
⋮⋮誰の手もあがんねえなあ。
ってか3日も練習してきて体が重くない方がおかしいな。
﹁はい、ありがと⋮⋮了解しました。昨日の練習でも体が動いてな
い人がほとんどだったたので、今日は午前は軽く流して、午後はフ
リーにします、午後は練習する人だけ後で私に教えてちょうだい﹂
⋮⋮合宿きてんのに、ええの?
﹁いつも言ってるけど、怪我しては元も子もないからね。特にゴー
ヤとユッチとケン! あなた達はやりすぎるから、気をつけなさい
! ゴーヤは春の大会みたいな結果になりたくないでしょ? あな
た達3人は午後は練習しちゃ駄目﹂
﹁えええっ!?﹂
﹁ユッチ、こっそりやるのも駄目だからね。ミドリちゃんに監視し
てもらいますから。どんな事でも休むときは休んでやるときはやる、
ですよ﹂
﹁はあい⋮⋮﹂
﹁ゴーヤもケンも分かった?﹂
﹁はい、分かりました⋮⋮骨身にしみてます﹂
﹁はい﹂
1540
﹁よし! それじゃ今日も一日、頑張っていきましょう!﹂
﹃はい!﹄
さてと、俺も午後は休ませてもらお⋮⋮練習も午前だけと思えば気
も楽だ。頑張ろー。
⋮⋮午前練習はなにやんだろ。
﹁ポンポコさん、ちょっとよい?﹂
﹁ん、なんだ?﹂
﹁今日のメニュー、何やろう?﹂
﹁⋮⋮初日にメニューを渡したではないか。紙にはなんて書いてあ
る?﹂
﹁ええと⋮⋮クロスカントリー。でも、メニュー変わっちゃってる
から﹂
﹁確かに、サーキットリレーも富士登山もメニューには書いてなか
ったな﹂
2日目はもともと15キロ⋮⋮3日目は2時間走⋮⋮なげえ。
﹁そうだな⋮⋮せっかく坂道やでこぼこ道が多いのだから、紙の通
りクロカンをしてくれ﹂
﹁ウエディングケーキ﹂
1541
﹁﹃クロカンブッシュ﹄だな﹂
﹁細胞から新しい命﹂
﹁﹃クローン﹄だな﹂
﹁安田大サーカス﹂
﹁﹃クロちゃんです﹄﹂
﹁ナイスモノマネ! すっごい上手!﹂
ポンポコさん、最高っす。
﹁⋮⋮殴っていいか?﹂
ごめんなさい、調子に乗りました。
﹁⋮⋮まあいい、ところで体の調子はどうだ?﹂
﹁重い、午後の練習は休ませてもらおうかと思ってる﹂
﹁そうか、それでは1時間で行こう⋮⋮クロスカントリーは自転車
で追えないからな。1人で練習になるが頑張ってくれ﹂
﹁了解、しかし⋮⋮全力で走るメニューが無いけどいいんだろか﹂
﹁ヤスが800メートルや1500メートルの選手なら絶対必要だ
ろうな﹂
1542
﹁5000メートルなら?﹂
﹁今はまだ必要ない⋮⋮と私は思う﹂
﹁なんで? ラストの競り合いになったら、足が速くなっとかない
と勝てないじゃん﹂
﹁ヤス、私は思うのだが⋮⋮ラストの競り合いになる前に大差で勝
ててしまえば、ラストのスパートの必要は無いのではないだろうか
?﹂
﹁まあ、そりゃそうだけど⋮⋮﹂
﹁確かに5000メートルでもラスト勝負までもつれてしまう事は
多い、しかしラスト100メートルでどれだけタイムを縮められる
かと言うと、2、3秒だろう? それより、体力をつけて今まで1
周ごと400メートルを90秒でしか走れなかった所を89秒で走
れるようになった方がタイムは伸びないか?﹂
﹁ふむふむ﹂
確かに、単純計算で12秒5速くなる訳だ。
﹁ヤスが5000メートルをしっかり走りきれる地力がついてきた
ら、スピード練習も取り入れよう。今は下地を作っている段階だか
らな﹂
﹁分かった⋮⋮ありがと、ポンポコさん﹂
1543
﹁あせるなよ、あせってもいい事は無いぞ、出来ることをやってい
こう﹂
ラジャ!
あう、つ、疲れた⋮⋮だが、クロカン1時間完走! ⋮⋮2日目は
2時間走れたのに。今日は無理そう。
とりあえずストレッチっと⋮⋮。
﹁お疲れさま、ヤス﹂
﹁あ、ウララ先生、お疲れ様です﹂
﹁ヤスは午後の練習、どうするの?﹂
﹁ちょっとしんどいので、休ませてもらおうと思ってます﹂
﹁うん、分かった﹂
1544
わざわざひとりひとり回って聞いてんのか。すごいな。
﹁ところで話があるんだけど﹂
﹁何かネタですか?﹂
﹁⋮⋮私って授業とか部活中そんなに変なことばっかり言ってる?﹂
﹁ええと⋮⋮時々。俺はおもろいなあと見てますけど﹂
授業中いじられたときとか、最初はムカついてたけど、ウララ先生
は今、授業でも部活でも試行錯誤してるんだなあと見ている今日こ
の頃。
生徒の興味を惹くためにわざと変なことを言って成功したり失敗し
たり。
頑張れ2年目教師と心の中で思いつつ、昼食後の5時間目のウララ
先生の授業はついつい寝てしまって⋮⋮ごめんなさい。
﹁それは今は置いときましょう。後でじっくり聞くからね﹂
あれ、やぶ蛇!?
﹁今相談したいことは、先生が生徒相手に愚痴ってちゃ駄目なんだ
けど、長距離の子達、どうにかなんないかなあ⋮⋮﹂
えと、俺に言われても。
﹁私が長距離にちゃんと練習しろって言っても多分聞かないと思う
の。私でも彼らの立場だったら聞かないと思うし﹂
1545
﹁え、何でですか?﹂
﹁だって私、長距離の練習見れてないもの。長距離の子達にとって
は部外者みたいなものでしょ。信頼関係築けてないのよね⋮⋮﹂
俺は全然思ってないけど、確かにそうかも。
普段全然部活を見に来ない顧問が、突然ぶらっと練習を見に来て何
か言ってきたって、たとえそれがどんないい事言ったとしても﹁あ
んたは俺らの何を知ってんの?﹂って無視するだけだろうなあ。
﹁結局私1人じゃ短距離と長距離、両方見れてないのが原因なのよ
ね。練習結果聞いてコメント言うくらいしか出来ないから。同じ時
間で練習してたら同時に見ること、無理だし﹂
普段、短距離と長距離だと練習場所が違うからな、確かに同時に見
るのは難しいかもしれない。
﹁ヤス、どうにかならないかな?﹂
﹁えと、俺にどうしろと?﹂
俺自身も長距離メンバーと別に練習しちゃってる身だから、多分俺
も部外者扱いにしかならないと思うぞ。
今から信頼関係築こうと思っても﹃今まで放置してた身で何言って
やがる?﹄ってなりそうだし。
﹁私もどうすればいいか思いつかなかった。時間ある時に一緒に考
えてくれない?﹂
﹁あ、はい﹂
1546
あ、言っちゃった。
﹁ありがと、他の子にも練習するかどうか、一応聞いとかないとね。
それじゃ﹂
⋮⋮考えることになってしまった。
あー、うー⋮⋮最近安請け合いをしすぎな気がする。
1547
161話:合宿4日目スタート︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ポンポコさんの長距離練習方法に対する考え方、私の考え方なので
すが、これに対し、
﹁そんなことない、長距離でもスピード練習いるだろ﹂
と思う人もいるかと思います。
まあ、あくまで小説ですので軽く流してください︵^^;
それでは!
1548
162話:告白のセリフ
合宿4日目の午後、今からは完全な自由時間。
さてと、午後からは何しよっかなあ⋮⋮。
やっぱり頼まれ事、1個は潰しとこ。
1人じゃ難しいし、ここはあやつに頼むか。
﹁ユッチ、ちょっといいか?﹂
﹁⋮⋮何さあ?﹂
うわ、めっちゃ不機嫌。
午後練習禁止にされたのがそんなに嫌だったんか。
ほんと練習好きだなあ。走るのが大好きなんだな。
﹁今、ゴーヤ先輩に頼まれ事されてるんだけどさ﹂
﹁それでボクが何か関係あるの?﹂
﹁ユッチにお願い。手伝って、飴あげるから﹂
1549
﹁ボクは子供じゃないい!﹂
いいやん、飴。疲れた頭には糖分満点の飴っすよ。
﹁⋮⋮何頼まれたんだあ?﹂
﹁俺に与えられた任務は﹃キビ先輩に野菜を食わせろ﹄。合宿中に
4回くらい一緒に食べたけど、ほんとに肉しか食わんのな﹂
体に悪そ。
﹁それで、ボクにして欲しい事って何?﹂
ユッチって昨日怒ってても、たいていの場合次の日にはいつも通り
になってくれてるからうれしい。しゃべってくれなかったときはよ
っぽど腹に据えかねてたんだな。
﹁ヤス、何して欲しいの?﹂
おっと、ぼけっとしてた⋮⋮えっとだな。
﹁これから、俺と料理を一緒に作ってください﹂
﹁わ、ヤス先輩、プロポーズですか?﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は?
何言ってんのミドリちゃん?
﹁結構新しいセリフでしたね、お姉ちゃん﹂
1550
﹁そうですね、料理でよく聞くのは﹃俺のためにみそ汁を作ってく
れ﹄ですけど、やっぱり料理が出来る男性の言う事は違いましたね﹂
ほんとに﹃みそ汁を作ってくれ﹄って言うプロポーズはあるんだろ
うか?
﹁でも、ヤス先輩、分かりにくいですよ? 王道の﹃結婚しよう﹄
でいいじゃないですか?﹂
﹁キザなセリフはひく場合も多いですからね。それでユッチ、返事
はなんて答えるんですか?﹂
﹁うるさいうるさいい! 結婚する訳ないだろお!! そもそもボ
クはまだ15だあ!!﹂
﹁16になったら結婚ですか?﹂
﹁ばかばかばかあ! 勝手にすすめるなあ!!!﹂
﹁⋮⋮ヤス先輩、残念ながらプロポーズは失敗ですね。セリフを間
違えたようです﹂
⋮⋮だからプロポーズじゃないし。
﹁それでは、ユッチを落とすための、ヤス君のキザなセリフ集!﹂
﹁なんだそれは!? やらねえよ!﹂
﹁大丈夫です、遊びだって分かってますから。それでは言ってみま
1551
しょう!﹂
くそお⋮⋮無茶ブリを⋮⋮。
まあいいや、遊びだし言ってみるか。それじゃあ⋮⋮。
﹁﹃僕は君の太陽になってみせる!﹄﹂
﹁ヤス先輩、頭はげるって事ですか?﹂
﹁﹃僕の胸に飛び込んでおいで!﹄﹂
﹁そんな事言われたらそのまま吹っ飛ばしてやりますね﹂
﹁﹃一緒のお墓に入りましょう﹄﹂
﹁結婚前にそんな死んだときの事なんて聞きたくない、1人で入っ
てろお!﹂
﹁﹃君に似合う花なんて無い⋮⋮君が美しすぎるからさ!﹄﹂
﹁そのセリフは花を知らなさすぎですね﹂
﹁﹃君は僕の心をいやしてくれる、唯一のオアシスだ!﹄﹂
﹁友達少ないですね。こころ、病んでるんですか?﹂
﹁﹃俺にしか渡せないプレゼントを上げる⋮⋮それは俺の名字さ!﹄
﹂
﹁近藤って名字多そうだなあ﹂
1552
﹁﹃毎日愛をささやこう﹄﹂
﹁ぼそぼそぼそ⋮⋮暗いです﹂
﹁﹃一緒に明日と言う朝日に向かおう!﹄﹂
﹁1人でいってらっしゃーい﹂
﹁﹃世界に君さえいれば、僕は何もいらない﹄﹂
﹁どこの引きこもりですか﹂
﹁﹃僕の子猫ちゃん﹄﹂
﹁死ね﹂
﹁﹃君を可愛がりたい、ほら、にゃーってないて﹄﹂
﹁頭、大丈夫ですか?﹂
﹁﹃僕の白衣の天使だね﹄﹂
﹁病院いきましょう﹂
﹁﹃毎日ご主人様って聞きたいです﹄﹂
﹁変態だあ!﹂
﹁﹃君に触れるだけで、僕の心は熱く燃え上がってしまうよ﹄﹂
1553
﹁何か寒くなってきましたね﹂
﹁﹃僕は一生あなたを裏切りません!﹄﹂
﹁⋮⋮それって普通だよねえ?﹂
﹁﹃君の瞳に乾杯!﹄﹂
at
you,
lo
kid.﹄ですね。誤訳とも言われ
﹁﹃カサブランカ﹄ですか。原語は確か⋮⋮﹃Here's
oking
てますが、私は好きですよ﹂
﹁﹃結婚してくれなきゃ、死ぬからね﹄﹂
﹁脅迫だあ!﹂
﹁﹃君と結婚できるなら、僕は死んでもいい﹄﹂
﹁死んじゃったら駄目じゃないですか﹂
﹁﹃僕に一生ついてきてくれるかい?﹄﹂
﹁私は並んで歩きたいです﹂
﹁﹃僕達2人には輝かしい未来が待っている!﹄﹂
﹁そういえば、キザなセリフって何故か僕が多いですね、何ででし
ょう?﹂
1554
﹁﹃お医者さんごっこ、またしようね﹄﹂
﹁幼稚園児かあ! この変態い!﹂
﹁﹃僕の人生の中に君と言う1ページを刻ませてくれ﹄﹂
﹁女性はアルバムですか、振ると言う1ページを刻んでやります﹂
﹁﹃いつも君を見ていたい﹄﹂
﹁ストーカーですね﹂
﹁﹃君と僕とのラブストーリーが今、始まるんだ﹄﹂
﹁言った瞬間終わりがきますね﹂
﹁﹃この手をとっていただけますか? お嬢様﹄﹂
﹁⋮⋮足で踏みつけたい気分だあ﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ああ、もう! 何言っても
ほとんど駄目じゃん!
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ええと⋮⋮。
﹁黙っちゃいましたね⋮⋮﹂
﹁﹃好きだ! 結婚しよう!﹄﹂
﹁⋮⋮ヤス兄⋮⋮プロポーズ?﹂
1555
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は?
﹁今、誰に向かって言ってたの? 3人に同時プロポーズ?﹂
﹁いやいや、違うぞサツキ! 誤解誤解! 遊び遊び!﹂
﹁﹃結婚しよう﹄が遊びなの? ヤス兄、ひどい﹂
﹁違うってば!﹂
﹁何が違うの?﹂
﹁いろいろ!﹂
﹁ヤス君、浮気現場を見つけられた男性みたいになってます﹂
静観してないでサツキの誤解を解いてくれ!
1556
﹁くそー、サツキめ。最初っから気付いてただろ。﹃あははー、う
そうそ、冗談冗談﹄って﹂
﹁いや、サツキちゃん、瞬間泣きそうな顔してたぞ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ケン、それほんと?﹂
﹁まじまじ﹂
⋮⋮気をつけよ。
﹁しっかし⋮⋮ヤスの歯の浮くセリフ集、俺も聞きたかったなあ﹂
﹁大丈夫ですよ、全部録音してありますから﹂
﹁アオちゃん何で!? そんなもん捨ててくれ!﹂
﹁物はしっかりと残しておいた方が楽しいじゃないですか﹂
﹁﹃物より、思い出﹄にしようよ!﹂
﹁物があった方が思い出は振り返れると思いますよ?﹂
そんな思い出消してしまいたい!
1557
162話:告白のセリフ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
サブタイトル、恋愛っぽいのに、中身は全く関係ないです。期待し
た方すみません。
妹には
﹁女性キャラ多いのに、恋愛色にならないねえ﹂
とツッコミ入れられました。
確かに登場人物の男女比だけなら明らかにハーレムものだしなあ。
参考にさせていただきました。
←﹃君の瞳に乾杯﹄について
http://detail.chiebukuro.yahoo.
co.jp/qa/question︳detail/q1311
088993
それでは今後ともお願いします。
1558
163話:お買い物
そだそだ、プロポーズのセリフをしゃべるつもりじゃなかったんだ。
﹁と言う訳でユッチ、料理に協力して? ユッチの料理の腕前なら
大丈夫﹂
﹁そ、そうかなあ?﹂
﹁イケルイケル。ユッチの料理上手いもん﹂
﹁へへ、それじゃ協力してあげるよお﹂
ちょっと照れてるユッチ、はにかんだ顔が結構可愛い⋮⋮なんかお
父さんになった気分だ。
よし、ユッチの協力ゲット。
おしおし、後は⋮⋮。
﹁ヤス兄、なんで﹃料理を作ろう﹄が﹃プロポーズ﹄の話に変わる
のさ?﹂
﹁俺もわかんね﹂
1559
かなりの無茶振りをされた気がする。
﹁サツキも協力してや、サツキがいれば100人力だし﹂
﹁いいけど、レシピはあるの? 調理道具はあるの?﹂
﹁調理道具はある、アウトドアだけど。レシピは無い、レシピ見な
いで作れるもんを探さんと駄目だなあ﹂
﹁夕飯ドタキャンして大丈夫なの?﹂
﹁ドタキャンじゃないらしいぞ、もともと今日は野外でみんなで食
べようって企画だって﹂
ウララ先生談。
ちなみにレストランのドタキャンは前日午後15時まで。
野外炊事・お弁当の食数変更は3日前まで。申し込みはお早めに。
﹁そうだっけ?﹂
﹁昼食の時、ウララ先生が言ってたじゃん﹂
ウララ先生、いろいろ企画考えてて⋮⋮引率者って大変だあ。
﹁夕飯楽しみだなあ。やっぱ企画って大事だよな﹂
﹁そだね、つまんない企画はいらないけどね﹂
﹁まあな⋮⋮だが、企画は企画をしていかないと企画にならない﹂
1560
﹁言いたい事は分かるけど、普通の人はわからないよ? ヤス兄﹂
さすが、どんな風に言ってもサツキには伝わる。ツーカー兄妹だな。
﹁企画は失敗しなけりゃ面白くならない、最初っから全部上手く行
くなんてありえないもんな。と言う訳で俺はどんどん挑戦してどん
どん失敗したいと思うんだが﹂
そんな事やるなと怒る大人は最低じゃ。
﹁自分で失敗したいって言わなきゃいい言葉なのにねーヤス兄﹂
あう、ミスった。
挑戦したいで止めときゃよかった。
﹁そう言えばヤス兄。材料は?﹂
﹁今ユッチがウララ先生に聞きに行ってる﹂
﹁ふーん⋮⋮そうなんだ﹂
お、ちょうど戻ってきた。
﹁ウララ先生、今日の16時から買い物に行く予定だったんだって。
作ってくれるなら任せた! って頼まれたあ。お金ももらってきた
よお﹂
⋮⋮あれ? ウララ先生丸投げっすか?
1561
﹁ヤス兄、参加者のはずなのに企画者の仲間入りになったね﹂
だなあ、そんなつもりじゃなかったんだが。
うーん⋮⋮アウトドアメニューで野菜食うって何があるんだろ。
﹁アウトドアの定番だったらやっぱりバーベキューだよねえ?﹂
﹁鉄板使うんなら焼きそばでもいいよな﹂
﹁カレーもあるよね﹂
﹁魚に枝ぶすっとさして、塩焼きもいいよねえ﹂
ああ、それめっちゃ上手い。
﹁ってかここで言っててもしょうがなくないか? 買い物行こ、買
い物﹂
﹁そうだね、ヤス兄﹂
ジャージ姿の3人衆。
バスにゆられてスーパー着。
﹁キビ先輩じゃないけど、アウトドアならやっぱりメインは肉だよ
1562
なあ﹂
﹁そだねえ、魚でもいいけど焼けるのに時間がかかりそうだあ﹂
そだな。
﹁ヤス兄ヤス兄、安い安い﹂
サツキ、なんか俺が安物みたいな言い方止めてくれ。
﹁ほらエビ! エビ! エビでげそ!﹂
イカ娘を知っている人はどのくらいいるかなあ。
﹁エビの串焼きにでもする?﹂
﹁イカも安いでゲソ﹂
イカ娘がイカ食ったら共食いやん。
﹁イカとエビがあるんだったら、パエリアとか良さげじゃね?﹂
﹁それ、いい! でも鍋が無くないかあ?﹂
﹁フライパンで代用すりゃいいじゃん、ついでにパエリアはサツキ
が得意だぞ﹂
﹁照れるでゲソ。そんな事ないでゲソ﹂
まだその口調かい。
1563
まあいいや、放置放置。
﹁1品目はサツキの作ったパエリアで。2品目はどうする?﹂
﹁主食が決まったんだから、次は主菜だよねえ?﹂
まあ、パエリアだけでも十分いけるけど。
﹁肉を食べなイカ? 鶏肉が安いでゲソ﹂
﹁⋮⋮焼き鳥か?﹂
﹁いいんじゃないかなあ。それで肉の間にネギとかタマネギとか挟
んでおけば、キビ先輩も野菜食べるんじゃない?﹂
﹁そんな簡単にいくのか? カレーでも人参食べないらしいじゃん﹂
﹁それじゃあツクネにしようよ、こっそり混ぜるのさあ﹂
ふむ、子供相手によくやる戦術だな。
嫌いな物はみじん切りにしてハンバーグに混ぜるとか。
﹁ボクも最近それでピーマン好きになったんだよ﹂
そなのか⋮⋮。
子供相手にとか思ってごめん、ユッチ。
﹁俺は﹃グリーンマントのピーマンマン﹄を読んだ時、ピーマン大
好きになったぞ﹂
1564
﹁ヤス、子供だあ!﹂
うわ、ユッチに言われたくねえ。
﹁ユッチ、ピーマンマンを知らんだろ? めっちゃかっこいいんだ
ぞ。風邪引いた時にピーマンマンがやってきて,バイキンマンをや
っつけてくれるんだぞ!﹂
﹁ヤス兄はピーマンマン体操大好きだったゲソ。将来の夢はピーマ
ンマンだったんでゲソ﹂
﹁サツキ、言うなよ! 保育園時代の話だ!﹂
﹁大丈夫だよお! ボクの幼稚園時代の将来の夢は赤ちゃんマンだ
ったよ?﹂
⋮⋮仲間がいた! さすがユッチ!
ふう、買い物終了。
⋮⋮重い、重すぎる⋮⋮。
1565
﹁ヤス兄、頑張れー﹂
﹁次の電柱までだあ!﹂
⋮⋮21人分の荷物って多すぎだろ?
﹃ジャンケン負けた人全部持とう!﹄ なんて提案しなけりゃよか
った⋮⋮。
1566
164話:アウトドアクッキング
お、重かった⋮⋮。
﹁ヤス兄、荷物持ちお疲れー、結局全部ヤス兄が持ったね﹂
くそお、ジャンケンは運のはずなのに⋮⋮。
何で勝てんかったんだ!?
﹁ヤス兄、ばててないでさ。もう16時だよ。下準備始めよ?﹂
⋮⋮そだな、いくら簡単な料理を作ろうと思っても、20人分を3
人で作ろうと思うと、結構時間がかかりそうだ。
みんな食うしなー。特にケン、キビ先輩はすっごい食う。
他の女子も、アオちゃんもゴーヤ先輩も、女子だからって関係なく
食うし。
まあ、運動部だからな。食わなきゃな。
﹁ヤス兄は力持ちだもんね、力仕事お願いね!﹂
﹁あいあいさー﹂
そんなに力持ちじゃないけど、サツキの頼みだったら断れないもん
な。
1567
﹁ふふんふんふん♪﹂
ユッチの料理、この前は別々に作った事から見て無かったけど、す
んごく楽しそうに作るなあ。
好きな事にはどこまでものめり込む女の子、ユッチ。
﹁ユッチって何で料理するようになったん?﹂
﹁ん? だって料理って楽しいだろお?﹂
﹁そうか? サツキがキャンプにいって、父さん母さんが帰るの遅
くて1人で食べる時になった時、めちゃくちゃつまんなかったけど﹂
作ってあげる人がいてこそだよな。
﹁ボクもそんなもんだよお? おねえちゃんと一緒に何かするのが
大好きで、一緒によくしてたのが料理だったんだあ﹂
そか、お姉ちゃんの影響か。
﹁昔はすんごい失敗もしたんだあ⋮⋮危うく火事になりかけそうに
なったり、慣れてきた頃にお姉ちゃんとしゃべりながら包丁切って
たら手の上に包丁落としそうになったり﹂
今、しゃべりながら包丁握ってるんだけど。
1568
そう言う事言われるとすごく怖い。
﹁今、ボクのマイブームはキノコ!﹂
なるほど、だから食材がキノコだらけな訳か。
﹁俺の家遊びにきたときはおからだったのか?﹂
﹁その通りだあ! 今でもおから大好きだよ?﹂
まあそれはいいや。
﹁きのこ・の・こーのこ♪﹂
お、サツキナイス選曲。
﹁げんきのこー♪﹂
スーパーでこの曲を聞くとついつい買っちゃうんだよな。
﹁きのこはみんなと♪﹂
ついでにレシピも紹介してくれるのでちょっと嬉しい。
﹁いいかんじ∼﹂
ほんといい感じー。
﹁きのこ・の・こーのこ﹂
1569
﹁げんきのこー﹂
﹁お肉ーに混ぜても﹂
﹁う・ま・い♪﹂
と言う訳で、キノコみじん切りー。
トリひき肉に混ぜて、一品目はキノコハンバーグ。
お肉とキノコは2:3くらいの比率。
お肉、こんぐらいでも十分上手いのだ。
ボリュームたっぷり、しかもヘルシー。
おからに匹敵する魅力的な素材、それがキノコ!
さてと⋮⋮ハンバーグを1人3個食うとして⋮⋮だいたい60個作
るわけか。
⋮⋮すげえ量だな⋮⋮アウトドアでやる料理じゃないな。
﹁きのこのこのこ♪﹂
﹁げんきのこ﹂
﹁しめじーにまいたけえりんぎぃ♪﹂
ついでにえのきにしいたけぇ。
﹁きのこ・の・こーのこ﹂
﹁げんきのこー﹂
﹁パエリーア入れても﹂
1570
﹁お・い・し♪﹂
2つ目の料理はキノコのパエリアー。
キノコ好きにはたまらんはずー。
キビ先輩が食べてくれるように狙ったのはハンバーグの方なんだが
⋮⋮こっちのパエリアもエビたっぷりだし、キビ先輩食ってくれん
かなあ。
﹁キビ先輩が野菜を食べるには、やっぱり隠さないと駄目かな?﹂
キノコハンバーグみたいに。
﹁そんな事無いんじゃないの? 野菜嫌いの子供って、きっとほと
んどが食わず嫌いなんだよ﹂
そういや、昔のケンがそうだったな。
﹁違うよ、サツキちゃん。お母さんがおいしそうに食べないからだ
よ﹂
ほんとかい。
﹁それと、最初に食べた印象が﹃まずい﹄だと、食べなくなるって
いうよねえ。ボク、いまだにレバーは駄目なんだあ﹂
﹁なんで?﹂
﹁お肉! っと思って食べたら、普通のお肉と全然食感が違うんだ
もん。それからレバーが駄目なんだよお﹂
1571
なるほど、確かに食感が違う。
においが駄目っていう人もいるよな。
﹁他の食材で補完できるんなら、無理して食べる必要も無いんじゃ
ん?﹂
レバーが駄目でもあさりで鉄分を補うとか。
できればサプリメントよりも食材のがいいよな。
サプリメント、味気ないもん。
﹁ヤス兄もちっちゃい頃のトラウマあるよね﹂
﹁サツキだってあるじゃん﹂
﹁どんなのどんなのお?﹂
﹁サツキは大根おろしが駄目だよな﹂
﹁だってお父さんがあんなにおいしそうに食べてたのに、あんなに
からいなんて反則だよ﹂
あの時の顔は面白かった。
﹁サツキってさ、初めて大根おろし食べたときにめちゃくちゃから
いのに当たってさ、それからはそんなにからくないって言っても全
然食べないんだよ﹂
﹁だってからそうなんだもん﹂
﹁ポン酢に混ぜるとからくないぞお?﹂
1572
﹁⋮⋮無理だもん﹂
﹁この、強情なやつめ﹂
﹁ヤス兄だって梅干し駄目じゃん﹂
﹁すっぱいから嫌﹂
﹁ヤス兄ってば、昔飴と間違えて食べてびっくりして吐き出したん
だよ﹂
﹁甘そうに見えた、赤いからりんご飴だと思った﹂
﹁吐き出した時にケンちゃんの顔面にぶつけたよね﹂
﹁後悔はしていない﹂
あれが俺とケンの最初の会話だった⋮⋮。
⋮⋮しょぼっ!
1573
﹁大体下ごしらえできたねー﹂
﹁そだな﹂
後は焼くだけ。
﹁キビ先輩、食べてくれるかなあ?﹂
さあ⋮⋮でも、食べて欲しいな。
1574
164話:アウトドアクッキング︵後書き︶
こんばんは、2日連続でギリギリです。
ほんとごめんなさい。
子供の好き嫌いはやっぱり親の影響ですよね。
子供が嫌いな野菜によくランクインするピーマン、私はピーマンず
っと好きでした。
最初に食べたピーマン料理が多分ピーマンの肉詰めだったからだと
思います。
めちゃくちゃ上手いですよ、ピーマンの肉詰め︵^^
ピーマン嫌いの人、是非食べてみてください。
参考にさせていただきました。
←私はレバーが大嫌いです!
http://detail.chiebukuro.yahoo.
co.jp/qa/question︳detail/q1113
355206?fr=rcmd︳chie︳detail
←タオとアービーの実録!子育てコーチング:きのこハンバーグ
http://blog.livedoor.jp/kosoda
te︳coach/archives/7311849.html
←おいしいきのこはホクト
1575
http://www.hokto−kinoko.co.jp/
class/01.html
それでは。
1576
165話:ユッチのおべんきょ、第3弾
負けた⋮⋮。
﹁くそお、なんでキビ先輩はユッチメインのキノコハンバーグとサ
ツキメインのキノコのパエリアは食べて,俺メインの料理は食べて
くんないんだよ﹂
﹁だってヤスの料理、肉無かったんだもん﹂
⋮⋮そりゃサラダだもん。
せめてハムかシーチキンでも入れりゃよかったなあ。
﹁それとキノコはもう十分食べたもん、一生分食べた感じ。ハンバ
ーグにもキノコはいってるとは思わなかったし﹂
⋮⋮キノコサラダにしたのは失敗だったか。
キノコで統一しようとしたのがそもそも間違いの元だな。
﹁ヤスのも食べたよ? せっかく作ってくれたのに食べないなんて
悪いじゃん﹂
うん、一口だけな。
キビ先輩はゴーヤ先輩の分までハンバーグを食べて、代わりにサラ
ダの方はゴーヤ先輩がほとんど食べてたぞ。
﹁そう言う気持ちで家でも野菜食べましょうよ﹂
1577
﹁家ではみんな肉だよ?﹂
そか、親の影響か。
じゃあしゃあないな。
﹁キノコって思ってたよりもおいしいね﹂
キビ先輩、それハンバーグを食べて言ってるだろ。
﹁⋮⋮結局キビ先輩に野菜を食わせるを成功させたんはユッチだっ
たって事か?﹂
残念。
﹁細かくいうと、きのこッて菌類だから野菜とは言えないんだけど、
まあ野菜でいいか﹂
﹁あ、お疲れです。ゴーヤ先輩﹂
﹁ヤスのキノコサラダもうまかったぞ? とりあえずお疲れ、ヤス﹂
﹁ありがとございます﹂
⋮⋮任務完了?
﹁それじゃ、合宿後も引き続き頼むな﹂
﹁何をですか!?﹂
﹁キビへの弁当?﹂
1578
﹁何でですか!?﹂
﹁なんとなく。楽しそうなシチュエーションだろ? 綺麗な先輩2
人と一緒に食事﹂
ええ、綺麗? キビ先輩は可愛い。ゴーヤ先輩はかっこいいと言う
表現は似合うけど、綺麗は⋮⋮。
﹁何か言いたげだな、怒らないから言ってみろ?﹂
⋮⋮いや、いいです。怒りそうです。
﹁自分の分の弁当作ってるんだから、1個も2個も5個も一緒だろ
?﹂
﹁いえ、5個は面倒です。そもそも夏休み終わったら作るつもり無
かったです﹂
何を言ってんだ、全く。
﹁残念⋮⋮ヤスの愛妻弁当を食べてみたかっただけなんだけど﹂
﹁妻じゃないですから! ⋮⋮食べたいだけでしたら、家にくれば
夕飯ごちそうしますよ?﹂
大抵ケンもいるし。
3人分と4人分ならそう面倒じゃない。
﹁同棲の誘い? 駄目だぞ、思春期の男の子﹂
1579
﹁あほですか﹂
誰が同棲と言った。
﹁こう、ちょっとぐらいドキッとしないとからかいがいが無くてつ
まらないぞ﹂
﹁気の無い口調で言われてもドキッとしませんよーだ﹂
﹁本気だぞ?﹂
え?
﹁冗談だぞ?﹂
﹁どっちですか!?﹂
﹁モンモンと悩め、若者よ﹂
年齢1つしか違いませんよ!
1580
﹁⋮⋮いよいよユッチのおべんきょも3日目突入ですね﹂
まあ、この前の川柳は勉強と言っていいのか分からなかったけど。
﹁ポンポコさん、何か準備してますか?﹂
﹁私はしていないな、アオちゃんはしているのか?﹂
﹁私も全く。何か面白そうな⋮⋮と考えるのって難しいですね﹂
そうだな、10個考えて、笑ってくれそうなのが1個あればいい感
じ⋮⋮後はスベりそう。
﹁ヤス君は何か考えました?﹂
えーっと⋮⋮。
﹁これとか?﹂
﹁⋮⋮図画工作ですか?﹂
ん、まあ似たようなもんだ。
これもぶっちゃけ勉強って訳じゃなさそうだけど。
﹁ヤス、段ボールなんぞで何するんだ? 環境問題でも語るつもり
1581
か?﹂
﹁そんなめんどい事しないっすよ。大体それ、楽しいか?﹂
﹁さあ⋮⋮段ボール箱を使って収納しようと言う話なら、奥様方は
大満足じゃないか?﹂
奥様がどこにいるねん。
﹁古くなってきたらリサイクルして、収納ボックスやたんす、本棚
は買わないでおく。中々環境にやさしい生活をしている気がしない
か?﹂
環境にやさしいと言うより、財布にやさしい生活だなあ。
﹁まあ、確かに段ボール、上手く使えばいろいろ収納できるよな﹂
﹁私の家はそこら中でそうしてるぞ、ただだしな﹂
﹁え、見た目悪くね?﹂
ポンポコさんの家、そんなに汚かったイメージが無いんだが⋮⋮。
﹁綺麗に使えば見た目もばっちりだ、ヤスも私の家にきた時、どこ
かで見かけたと思うぞ﹂
覚えてない⋮⋮。
﹁意外と段ボールって暖かいですよね?﹂
1582
﹁そうなん? 知らない﹂
﹁猫とか、寒いと段ボールの中に入ってくーくー寝てますよ? 一
度どれだけ暖かいんだろうって真似して段ボールの中で眠っちゃっ
たときがありまして、首寝違えちゃいました﹂
アオちゃんのドジ話、久々に聞いたなあ。
﹁まあそれは置いといて、今日の参加者何人だろ? 増えれば増え
るほど材料とかカッターとかたくさんいるじゃん﹂
﹁そうですね⋮⋮昨日の川柳で遊んだメンバーって考えればいいん
じゃないですか?﹂
﹁オッケー﹂
んじゃ9人分って事で⋮⋮プラス2くらい準備しとけばいいかな。
1583
165話:ユッチのおべんきょ、第3弾︵後書き︶
おはようございます。
この話書いてて、面白い授業をやる先生はすごいなと思いました。
特に英数国理社5教科。
⋮⋮まじめに思いつきません。すごいな先生。
私の場合、数学は中学時代と高3の時に、面白い先生がいたので、
好きになりましたね。そういう先生の影響は大きい。
それでは今後ともお願いします。
1584
166話:作って遊ぼ!
さてさて、勉強の時間。
さすがにユッチも2日連続で何かしたから、今日も何かするもんな
んだろうと待ってくれてるな。
﹁ユッチユッチ、今日は俺がネタを考えたぞ﹂
﹁ふーん、ヤスかあ﹂
⋮⋮なんだそのどうでもよさそうな声は。
﹁そだよね、一昨日がポンポコ、昨日がアオちゃんだったんだから、
今日はヤスの番だなあ﹂
一昨日、別にポンポコさん作じゃないんだけど。
﹁それで、今日は何するのさあ? 図画工作?﹂
﹁いや? 立派な理科の実験っすよ﹂
﹁うそお!? 理科あ? 図工にしか見えないよお?﹂
⋮⋮そこまで言われる筋合いはねえ。
ちなみに今俺が持ってきたのは段ボール、ガムテープ、コンパス、
カッター、ろうそくとチャッカマン、あともう一つ、蚊取り線香。
そんなにこの組み合わせは変か?
1585
﹁まず、完成系を見せてやろう!﹂
ドン!
後ろに隠してた完成品をユッチの目の前に置く。
﹁ただの段ボール箱じゃん、そんなの作りたくないよお﹂
﹁何を言ってるんだよ、これを見たらボクも作りたいって言いだす
に決まってるから﹂
﹁ホントかなあ?﹂
﹁まずはチャッカマンで蚊取り線香にチャッカ﹂
チャカチャカ。
﹁ふんふん、どうするの? ワクワクさん﹂
こら、誰がワクワクさんだ。
﹁よくみてろよ、ゴロリ。この穴に蚊取り線香から出てくる煙を入
れていくんだ﹂
モクモク、モクモク、いっぱいになったな。
﹁ふんふん、それでえ?﹂
﹁この穴の方をゴロリに向けるんだぞ。そして段ボールの側面を手
のひらでポンッと叩いてみるんだ﹂
1586
ポンッ。
﹁ブワッ⋮⋮⋮⋮⋮⋮ケホッケホッ、何するんだよう?﹂
﹁すごいだろ、これが空気砲だ!﹂
﹁な、何でボクに向けたんだあ?﹂
﹁⋮⋮なんとなく? よいこのみんなは真似しちゃ駄目だぞ﹂
﹁誰に向かってしゃべってるんだあ!﹂
﹁テレビでワクワクさん、最後らへんでカメラ目線になって言いそ
うじゃん﹂
﹁まだ終わりじゃないだろお!? 作って遊ぼおだよ? ボクまだ
全然作ってないよ﹂
たしかにそだ。自分がつくったもんだから作った気になってた。
﹁でも、すごいね! それ、どうやって作るの? ボクも作りたい
なあ﹂
お、ほんとに作りたいって言ってくれたじゃん。
﹁まあまあ、慌てなさんな。まずは原理解説しないとべんきょにな
らないだろ?﹂
﹁えええ!? ワクワクさんはそんな事言わないよお﹂
1587
ええと⋮⋮そうだったっけ? んじゃあ。
﹁ゴロリ、これはすごく簡単だからね。一緒に作ってみよう!﹂
﹁やったあ!﹂
⋮⋮あれ? 原理の説明はどこに行った?
﹁ヤス君、ただの遊びになってるじゃないですか﹂
⋮⋮ごめんなさい。
あれえ? 勉強のつもりだったのになあ。何か上手くユッチにのせ
られた気がする。
⋮⋮と言う訳でみんなで作成。今日のメンバーも昨日と一緒。
﹁さ、んじゃ作っていくよ? まずはこのたたまれた段ボール、も
う一度組み直そう﹂
﹃はーい﹄
なんだか保父さんになった気分だ
﹁できたかな? そしたら、箱の内側をガムテープで貼ります﹂
1588
﹁なんで内側にはるのさあ? 外側だけでも十分じゃない?﹂
﹁確かに別に外側だけでも十分なんだけど、内側と外側、両方貼っ
ておくと空気の漏れが少ないぞ、そしたら勢いの強い空気砲が出来
るぞ﹂
﹁そうなんだあ! じゃあ内側にもちゃんと貼る!﹂
﹁それで、手で持つ部分とか、穴があいてる段ボールもあるから、
そう言うところもガムテープで貼っておこう﹂
⋮⋮⋮⋮おし、できたかな?
﹁次に、コンパスを使って、段ボールの真ん中に円を書こう。円が
大きすぎると全然空気飛んでかないから、直径10センチメートル
くらいの小さめの穴にしといて﹂
﹁ヤス、何で丸なんだあ? 三角でもいいじゃん﹂
﹁三角でも大丈夫だ。でも、一番飛ぶのが丸だぞ﹂
多分だけど。自分が試したときはそうだった。
﹁んで、出来た円にそってカッターを刺して、のこぎりで切るよう
に切ろう。手を切らないように注意してな﹂
﹁よし、切れたよ。ヤス兄、次はどうするの?﹂
﹁これで完成! 簡単だろ?﹂
1589
おしおし、サツキ以外の人も全員できたな。
﹁ホント簡単だったね。これでどうやるの?﹂
﹁あとは側面をポンッと叩けば空気が飛んでくぞ。思いっきり叩く
より、ポンポンと軽く、はねるように叩いたほうが空気が飛ぶから、
試してみ?﹂
﹁ヤス⋮⋮それ言うの遅いよお﹂
ユッチ⋮⋮思いっきり叩きおったな。
何で1回たたいただけで段ボールが潰れるんだよ。
﹁ユッチ、作り直しだな﹂
﹁ええええ!? みんなもうできてるのにボクだけまた!?﹂
他のメンバーはもう遊び始めてっからなあ。
お、ケンはすげえな。部屋の隅っこから一番隅っこのろうそくに当
てて消しちゃった。
﹁まあ⋮⋮しょうがないじゃん、手伝うから﹂
﹁ありがとヤス! ボクが組み立てるから、ヤスはガムテープきっ
てえ!﹂
ういうい、了解。
﹁急いで急いで!﹂
1590
いそがすな! ﹁ヤス、そんな短くきるなあ!﹂
分かるかそんなもん!
⋮⋮やっと出来た。
今、ユッチが煙を入れてる。
﹁ありがとおヤス。 一発目は決めてたんだ﹂
﹁何を?﹂
﹁⋮⋮くらええ! ヤスう!﹂
﹁⋮⋮プハッ⋮⋮ごほごほっ﹂
突然何をする、ユッチめ。
﹁さっき仕返しだあ! わかった? ワクワクさん。煙を人に向け
たら駄目なんだぞ!﹂
なるほど⋮⋮ごめんなさい。
1591
166話:作って遊ぼ!︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
最近投稿時間が不定期になりまして、申し訳ありません。
朝に投稿できるよう頑張ります。
空気砲、簡単に出来ますので、やってみたいと言う方は是非。
細かい作り方はこのページを参考にしてみてください。
http://www.j−muse.or.jp/tamate
bako/kousaku/cb11/index.html
それでは。
1592
167話:空気砲の原理
さて、一通り遊び終わって今はケンとユッチとアオちゃんで雑談中。
﹁ヤス、この空気砲って別に煙を溜めなくても打てるんだよね?﹂
﹁打てるぞ? 煙を溜めた方が打った方向がよく分かるってだけだ﹂
﹁そうなんだあ⋮⋮すごいねえ、これ﹂
だな。初めに思いついた人はすごいなあ。
﹁ねえねえ! なんで空気が吹っ飛んでくの?﹂
﹁ユッチ、段ボールの中には何が入ってると思う?﹂
﹁ええと⋮⋮何も入ってないよねえ?﹂
﹁いやいや、何か入ってるだろ? 出てく物が﹂
﹁ええと⋮⋮気合い?﹂
﹁確かにユッチは気合い入れてるな。⋮⋮って違うだろ!?﹂
﹁愛情?﹂
﹁﹃愛しのあなたに飛んでけー﹄﹂
1593
⋮⋮俺はバカだ⋮⋮。
﹁怒りと憎しみ?﹂
﹁⋮⋮ユッチは何を思って空気砲を打ってるんだ?﹂
﹁じょ、冗談だよお⋮⋮ええと⋮⋮煙だよね﹂
﹁そうそう、煙。煙の他にも入ってるぞ﹂
﹁⋮⋮わかんない﹂
﹁名前を見ると書いてある、これは﹃空気砲﹄だぞ﹂
﹁⋮⋮空気?﹂
﹁正解! それでだな、空気砲の横を叩く事で、中の空気を外へ押
し出す訳だ﹂
﹁どうして空気が出てくのさあ? 叩いただけじゃ出て行かないん
じゃないの?﹂
⋮⋮変なツッコミを。ここで納得してくれればいいのに。
﹁よし、この図を見てみろよ?﹂
カリカリ⋮⋮。
┐││││┘
─⃝ ⃝
1594
─ ⃝ ⃝
─
─ ⃝
─ ⃝
─⃝ ⃝
┌││││└
﹁空気砲はこんな感じだな。丸は空気だと思ってくれ。閉じられて
ない方が段ボールの穴な﹂
﹁うん﹂
←
┐││││┘
─⃝ ⃝
─ ⃝ ⃝
─
─ ⃝
─ ⃝
─⃝ ⃝
┌││││└
→
﹁で、両側から叩いて、圧力をかける訳だ。中の空気はどうなると
思う?﹂
﹁ええとお⋮⋮空気って動くの?﹂
﹁空気が動くと風になるんだぞ、日常的にも空気は動いてる訳だ。
んで、空気もボールと一緒だぞ。力を加えられたら、同じ方向へ動
1595
く﹂
﹁ふうん、それじゃあこうなるのかなあ﹂
←
┐││││┘
─⃝ ⃝
─←⃝ ←⃝
─ ← ←
─ ⃝→
─→ ⃝→
─⃝ ⃝
┌││││└
→
﹁そうそう、そんな感じに動く訳だ。それで、その空気達が真ん中
についたらどうなる?﹂
﹁真ん中にきて⋮⋮﹂
←
┐││││┘
─
─
─⃝⃝⃝⃝
─⃝⃝⃝⃝ ─
─
┌││││└
→
1596
﹁こうなるんだよね? これで終わり?﹂
﹁いやいや、ボールとボールがぶつかり合ったら、ボールはどうな
る? 止まるっけ?﹂
﹁ええとお、跳ね返ったり別の方向に飛んでったりするよねえ?﹂
﹁ボールの場合はそうだよな。でも、実はこの空気達は後ろからも
どんどんと空気が迫ってきてる訳だ﹂
←
┐││││┘
─← ←
─⃝ ⃝↑後続の空気
─
─⃝⃝⃝⃝
─⃝⃝⃝⃝ ─
─ ⃝ ⃝↑後続の空気
─ → →
┌││││└
→
﹁すると、どうなるんだろう?﹂
﹁左には壁があって⋮⋮後ろには戻れないからあ⋮⋮右方向へ行く
の?﹂
お、ユッチが書き始めた。
1597
どれどれ?
←
┐││││┘
─
─← ←
─⃝ ⃝
─ ↓⃝⃝⃝⃝
─ ↓⃝⃝⃝⃝ ─ ⃝ ⃝
─ → →
─
┌││││└
→
﹁そう言う事! それで空気が飛んでく訳だな﹂
ふう⋮⋮何とか説明できた。
﹁じゃあさあ、なんで煙はドーナツになってるのさあ?﹂
⋮⋮まじ?
俺もそんなに詳しくないんだよ。きちんと説明できる自身が無いん
だよ。 ﹁まずさ⋮⋮段ボールの中には空気が入ってるって言っただろ?﹂
﹁うん﹂
﹁いま、空気は右方向へ飛んでいった。でも、段ボールの大きさは
1598
変わってない訳だろ。じゃあ中に入ってる量も一緒だと思わないか
?﹂
﹁ええとお⋮⋮そうかもお﹂
﹁って事は、出てった空気の分、どこから空気を入れよう?﹂
﹁段ボールであいてるとこって穴の部分しか無いよお?﹂
﹁って事は穴の部分から空気が入ってくる訳だな、さっきの図で説
明するぞ﹂
←
┐││││┘
─← ←
─⃝ ⃝↑後続の空気
─ ●↑
─ ↓⃝⃝⃝⃝
─ ↓⃝⃝⃝⃝ ─ ●↑
─ ⃝ ⃝↑後続の空気
─ → →
┌││││└
→
﹁黒い丸が入っていく空気な﹂
﹁駄目じゃん。ドーナツにならないよ?﹂
1599
﹁説明が前後しました⋮⋮ごめんなさい。こういう空気とかを効率
よく出し入れする時、渦をつくるのが一番効率がいいんさな﹂
﹁うずう?﹂
﹁そうそう、後続からどんどん﹃はやくいけやあ﹄と言われてるか
ら、出来るだけ速く出ようとする。その時に内側は入る空気、外側
は出てく空気って整列して空気は出入りする訳だ﹂
←
┐││││┘
─← ←
─⃝ ⃝
─ ↓⃝⃝
─ ●●↑入る空気
─ ●●↑入る空気
─ ↓⃝⃝
─ ⃝ ⃝
─ → →
┌││││└
→
﹁何で整列するのさあ?﹂
﹁人間だって出てく方、入ってく方って分けるだろ? 出入りする
分けずに入り乱れたら、全然前に進んでかないさ﹂
バーゲンなんか、ぐちゃぐちゃになってるせいで全然前に動いてか
ないし。
1600
﹁整列すると、空気は渦になってる訳だ。だから煙は渦上になって
る訳だ﹂
﹁なるほどお!﹂
﹁効率よく出てくために並んだ格好なんだから、そりゃよく飛んで
くと思わね?﹂
﹁そうだよね⋮⋮よくわかったあ! ありがと!﹂
ふう⋮⋮ちょっとごまかしたところもあるけど、まあ納得してくれ
たようでよかった。
﹁ヤス、そろそろ何か対抗戦でもやらねえ?﹂
﹁対抗戦? それ、何やるんだ?﹂
ケン、面白いやつ頼むな。
﹁ええとだな⋮⋮3つくらい考えてみた﹂
その瞬間に3つか、すげえな。
﹁まず、ろうそくが10本あるじゃん﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁ろうそくを縦に1直線に並べて、はじっこから空気砲を打って、
どこまでろうそくが消えるか挑戦﹂
1601
なるほど。
﹁2個目は空気砲ボーリング、鉛筆を10個ボーリングとおんなじ
ように並べて、いくつ倒せるか挑戦﹂
それも結構面白いかも。
﹁3個目はサバイバルゲーム。ひとりひとりの空気砲に吹っ飛びや
すい物をくっつけて、それを空気砲で吹っ飛ばす。くっつけたもん
が落っこちた時点でその人は負け。個人戦でも団体戦でもOKだぞ、
団体戦の場合はチーム全員がやられた時点で終わりかな?﹂
﹁おお、それが一番面白そうじゃん! ⋮⋮けど、吹っ飛びやすい
物って何がある?﹂
﹁風船とか? ⋮⋮持ってないなあ﹂
そりゃ合宿に持ってきてたらすごい。
﹁スーパーのビニール袋で代用できるんじゃないですか?﹂
⋮⋮出来るんだろうか?
﹁こうやって息を吹き込んで空気を詰めて、上の部分をしばって閉
じるんですよ﹂
おお、何となく吹っ飛びそう。
アオちゃん,すげえ。
﹁それで、細かく切ったティッシュを濡らして、これで段ボールに
1602
はガムテープでくっつけて、ビニール袋は軽くしばります﹂
﹁ほおほお﹂
﹁段ボールの上にくっつけて、空気砲でポンっとやってみましょう﹂
⋮⋮おお! 吹っ飛んだ!
﹁アオちゃんすげえ!﹂
﹁いえいえ⋮⋮﹂
﹁てれるなてれるな! すごいすごい﹂
﹁そんなに褒めないでくださいよ⋮⋮﹂
﹁いやだって、すごいじゃん! ビニール袋が風船代わりになるな
んて大発見だろ? すごいすごい﹂
﹁ヤス、しつこいぞ﹂
⋮⋮ごめんなさい。
1603
と言う訳でチーム分けをしてみた。
透明のビニールチーム︵チームハーパン︶:ゴーヤ先輩、ケン、ユ
ッチ、サツキ
白のビニールチーム︵チームジャージ︶:キビ先輩、アオちゃん、
ポンポコさん、ミドリちゃん、俺
﹁いきなりやられたりしたら可哀想だから、3回戦な﹂
﹃OK!﹄
﹁例によって、罰ゲームはありだろ?﹂
またか⋮⋮ケン、お前はなぜ罰ゲームをつけようとする?
そして何故みんなはそう言うのにノル?
﹁ヤスは昔から大ドジをしているとよく聞くからな。罰ゲームは負
けたチーム全員が過去の恥ずかしい思い出を言っていくという事で
どうだ?﹂
ゴーヤ先輩、やめて! そういうので勝てた事無いんだよ!
⋮⋮くそお、一致団結しやがって⋮⋮結局罰ゲームはそれになって
しまった。
まあいい、勝てばいいんだ。勝てば。
1604
167話:空気砲の原理︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
今日は何とか朝のうちに投稿できました︵^^
空気砲の原理はこんな感じです⋮⋮きっと。
分かりにくかったり、間違ってたら教えてください。
それでは今後ともよろしくお願いします。
1605
168話:空気砲対抗戦
空気砲対抗戦、まずは最初にケンのルール説明。
とりあえず、寝てるメンバーを起こすのは悪い⋮⋮というかここで
やろうとすると寝てる人が邪魔なので場所移動。
﹁じゃ、まず簡単にルールをおさらいするぞ。これは空気砲サバイ
バルゲームだ。段ボールにひっついたビニール袋が落ちた時点でそ
の人は退場。ただし、相手の手で落ちた場合はセーフ。空気砲を自
分で振り回して落っことしたら失格だからな﹂
﹁はい、わかりました﹂
﹁3回戦ある。最終的に勝ち数が多い方の勝ちな﹂
﹁わかった﹂
﹁一応制限時間を設けるか? 長引いて3回戦終わんなかったらな
んとなく気持ち悪い﹂
﹁10分でどうだ?﹂
﹁うーん⋮⋮ポンポコさんの言う通り、何も無ければそれで終わる
んだけど。もう一度ビニール袋を膨らませたり、ティッシュを付け
替える時間が必要だろ? 10分で回そうとすると、終わらなくな
いか?﹂
﹁それでは5分でどうでしょう?﹂
1606
﹁んー⋮⋮それなら時間内に終わるし、その後の罰ゲームも出来る
な。5分でいこか﹂
よし、決まったな。
ついでに制限時間を決めてる間に、チーム名を何となく改名してみ
た。
チームパーマンズ︵旧ハーパン︶:ゴーヤ先輩︵1号︶、ケン︵パ
ーヤン︶、ユッチ︵ブービー︶、サツキ︵パーコ︶
チームジャジーズ︵旧ジャージ︶:キビ先輩︵木村拓也︶、アオち
ゃん︵仲居将大︶、ポンポコさん︵蚊取信号︶、ミドリちゃん︵否
餓鬼語呂︶、俺︵臭無強︶
⋮⋮なんかすんごい当て字をしてしまった。特に蚊取信号からはメ
チャクチャだな。﹃夜露死苦﹄を思い起こされるなあ。
﹁こらあヤス! 何でボクがサルなんだあ!﹂
﹁一番ちっこいから﹂
﹁チビって言うなあ!﹂
﹁一番猿っぽいから?﹂
﹁どこがだあ!﹂
﹁ええとだな⋮⋮動物占いの猿は、じっとしている時間がないほど
活動的。オダテてほめまくれば、実力以上の力を発揮。お調子者と
言われるほどの盛り上げ上手。好奇心いっぱい。異常に信じやすく、
1607
だまされやすい。早合点でおっちょこちょい。子どものような無邪
気なプライドがある。ささいなことで感情的になりやすい。らしい﹂
﹁それのどこがボクだあ!?﹂
ええ⋮⋮自覚ないの?
﹁そもそもボクは動物占いは黒ヒョウだあ! ガオー、何だぞお!﹂
ええ⋮⋮占い当たんねえなあ。
﹁そういえば、ヤスこそどこがクサナギだあ! 全国のファンに謝
れ!﹂
﹁だからちゃんと字を変えてみただろ? 悪いか﹂
よわし
﹁なお悪いわあ! ヤスなんて弱で十分だあ!﹂
うわ、むかつくわあ。
﹁見てろよユッチ、一瞬で葬り去ってやるからな!﹂
﹁返り討ちにしてやるう!﹂
﹁いいか? 始めるぞ?﹂
﹁OKだ。ケン、始めよう﹂
﹁んじゃ開始!﹂
1608
よし、負けねえ!
1回戦、開始。
﹁いっくぞお! ヤス!﹂
おいユッチ、そんな風にアホみたいに1人で突っ込んでくるとだな。
﹁一斉射撃!﹂
﹁ラジャ! キビ先輩!﹂
ポンポンポンポン!
﹁⋮⋮あ、あれ? 落ちたあ!!﹂
そりゃ落ちるだろ。狙い撃ちされるんだから。
﹁よし、数の上では5対3。めっちゃ有利になったぞ﹂
﹁くそお、ジャジーズめえ、覚えてろお﹂
1609
⋮⋮パーマンズごときには負けん。
﹁単騎突入!﹂
今度はパーコ︵サツキ︶か。
ってかさっきのユッチの二の舞になるぞ。
﹁あれ? そんなところで止まってどうすんのさ?﹂
届かねえよ?
﹁ふっふ、発射!﹂
⋮⋮何言ってんだ?
ポン、ポン、ポン。
﹁げ、吹っ飛んだ!?﹂
﹁私のも吹っ飛んじゃいました﹂
﹁私のもです!﹂
げ、3人一気にやられた訳か。
﹁ヤス兄達が雑談してる間に作っておいたんだよね、長距離ゴムゴ
ム空気砲﹂
くそお、ゴムの力を使った訳か。
ってかサツキ、いくら俺らがぼけっと立ってたからって狙いよすぎ
1610
だろ。
こっちの残ってるのはポンポコさんとキビ先輩か⋮⋮。
﹁あははは! ヤス、一瞬でやられてるう!﹂
﹁それより一瞬でやられたユッチに言われたくないな﹂
﹁うるさいやい、次は生き残ってるもんね﹂
﹁また最初に死ぬんじゃね?﹂
﹁何おお!?﹂
﹁何だよ?﹂
﹁ユッチ、ヤス君、負けた物同士でけなしあってるって空しくない
ですか? なんて言うんでしたっけ? 傷のなめ合い?﹂
⋮⋮。
﹁そだな、空しいな﹂
﹁そだねえ﹂
﹁応援しようか﹂
﹁そだねえ﹂
﹁負けんなジャジーズ!﹂
1611
﹁返り討ちだあ! 頑張れ、パーマンズ!﹂
1回戦、あのままサツキの長距離砲が功を奏してパーマンズが勝っ
てしまった。
﹁ねえみんな、作戦会議をしたいと思うんだけど﹂
﹁キビ先輩、なんですか?﹂
﹁さっきは相手が攻めて来るのを待ってたでしょ? でも、それで
負けちゃった訳じゃない﹂
﹁ふむふむ⋮⋮﹂
﹁今度は全員でなだれ込んでやるの!﹂
﹁確かに、サツキのは遠くまで届くけど、速射は出来ない感じだっ
たから、近くで取り囲んでやれば勝てるな﹂
﹁でしょ? 次は責めていくよ!﹂
オッケーっす!
1612
2回戦
﹁ゴーゴーゴーゴー!!!!﹂
叫びながら俺もキビ先輩も一緒になって突っ込んでいく。
﹁ええ!? ちょちょちょちょっとまってよお!?﹂
慌てるなよユッチ、慌てるとだな。
﹁ああ、落ちたあ!?﹂
自分で振り回して落としただけだからな。
﹁またボク参加できないのかあ⋮⋮﹂
ええ⋮⋮なんか悪者みたい。
﹁ヤス兄、ひどいねえ﹂
﹁ヤス、ひどいな﹂
ふん、サツキもケンも、俺はそんな事言われても動揺しないからな!
﹁サツキちゃんは近づいたら脅威じゃない、まずはめんどいケンを
1613
狙うよ!﹂
﹃ラジャ!﹄
アオちゃんとミドリちゃんがコンビになってまずはケンの背面に回
り込む。
﹁ポンポコ、ヤス、左右に分かれて!﹂
﹁了解!﹂
俺とポンポコさんでケンの左右に分かれる。
﹁おい⋮⋮5人同時ってどうやって対応するんだよ!?﹂
知らん。
﹁さらばケン!﹂
ポンポンポンポンポン!
﹁ちぇっ、相打ちか⋮⋮しゃあないよな、ゴーヤ先輩、サツキちゃ
ん、後頑張って﹂
﹁すまん、ケンにやられた、ジャジーズ、後はよろしく頼むぞ﹂
さすがケン、ちゃっかりポンポコさんをやってやがる。
﹁アオちゃん、ミドリちゃん、ヤス、後2人だよ! どんどん囲ん
でいこう!﹂
1614
ういっす!
2回戦はあのまま押し切って、俺らの勝ち。
ラスト勝負に持ち込んだな。
﹁キビ先輩、ラストはどうしますか?﹂
さっきみたいにはいかんだろ。
パーマンズも対策を組んでくるだろうし。
﹁さっきと基本的には一緒でいいと思うんだけど⋮⋮ところで、勝
負は非情にいくべき?﹂
﹁なんのことっすか?﹂
﹁確実に勝つんだったら、人数減らした方がいいんだよね。って事
は最初に狙うのはすぐに慌ててくれるユッチなんだけど﹂
ああ、1回戦も2回戦も最初にやられてほとんど参加できないのに、
また狙うのは可哀想って事?
1615
﹁でも、ユッチ手を抜かれると怒るんですよね。自分が狙われない
とその事を察知して﹃こらあ!﹄って怒るんじゃないでしょうか?﹂
﹁ううん⋮⋮んじゃタイマンにしたら? 囲まれなかったらユッチ
も慌てないだろ?﹂
﹁多人数戦の意味が無いけど、楽しむって意味ならそれがいいかも
ね。じゃあ私がゴーヤを狙うね﹂
キビ先輩がゴーヤ先輩か。
﹁私とお姉ちゃんでケン先輩狙います﹂
ケンは手強いから、アオちゃん、ミドリちゃんの2人で狙うっての
はいいだろ。
﹁んじゃ俺がサツキで﹂
﹁ヤスがサツキを狙ったら、勝負にならないだろう? ﹃ヤス兄⋮
⋮ひどい﹄とか言われて慌てるのがオチだ﹂
﹁いやいやポンポコさん、そんな事無いってば!﹂
ゲームの場に私情は持ち込まないっす。
﹁そうか? それでは私がユッチを狙うか﹂
おし、作戦が決まった。
今回こそ勝って罰ゲームは食らわないからな!
1616
3回戦
﹁それじゃ、みんな負けちゃ駄目だよ!﹂
らじゃ!
﹁サツキ! 行くぞ!﹂
﹁返り討ちだよ、ヤス兄!﹂
ポン。
﹁遠くから狙われたって当たんないぞ! サツキ﹂
ポン、ポン、ポン。
﹁そんな精度が低かったら当たんないよ? ヤス兄﹂
ポン。
﹁近づいたら速射できる速射型のが有利だぞ﹂
ポン、ポン、ポン。
﹁空気のスピードはこっちのがあるもんね!﹂
1617
ポン。
おっとあぶねえ。今のかすってたな。
サツキ、狙うのはまじ上手いな。
﹁ヤス兄、どうしたのかなあ? そんな風に空気砲を上向けてたら
ヤス兄も狙えないんじゃない?﹂
やらしい奴め、下におろした途端に狙う意図がすごく感じられるぞ。
﹁タイムアップを狙う戦術なんて面白くないよ? 当たって砕けて
よ、ヤス兄﹂
﹁⋮⋮砕けはしないけど、当たってやるよ﹂
要はサツキより先に袋を落とせばいい話だろ。
さっと落として1発打って、またさっと上げる。
サッ、ポン、サッ。
﹁残念ヤス兄、そんな適当な打ち方じゃ当たんないよ?﹂
﹁ふふん、今狙ったのはビニール袋じゃないのさ⋮⋮﹂
﹁じゃあどこ狙ったの⋮⋮わっ!?﹂
﹁狙ったのはサツキの顔だあ!﹂
ひるんだ好きに突進! そして超至近距離で空気砲発射!
1618
ポン!
﹁おし、サツキ打ち取ったリー!﹂
﹁ちぇっ、負けたかあ⋮⋮ジャジーズJrに負けるなんて﹂
サツキ、チーム名が変わってる。ジュニアをつけるな。
ゴーヤ先輩。
﹁さてと、他のメンツはと⋮⋮﹂
キビ先輩 vs
﹁負けたらキビの真夏の海岸のあの話を暴露してもらおうか⋮⋮﹂
﹁そっちこそ負けたら、桜の下で起きたあの事件を暴露してね⋮⋮﹂
﹁ふふふ⋮⋮﹂
﹁あはは⋮⋮﹂
⋮⋮なんかこええ。近づかん方がいいなあ。
アオちゃん&ミドリちゃん vs ケン。
﹁ふふふ、アオちゃん⋮⋮ミドリちゃんもやられた事だし、これで
終わりだ!﹂
﹁ミドリ、目を、目を開けて!﹂
﹁お姉ちゃん⋮⋮今までありがとう⋮⋮﹂
1619
﹁そ、そんな、ミドリ? ミドリーーー!!﹂
﹁ふははは⋮⋮別れはすませたかな?﹂
﹁よくもミドリを⋮⋮許さないです!!﹂
⋮⋮なんかうぜえ。何あのミニ劇場。
関わりたくないなあ。
残るは⋮⋮ポンポコさんとユッチか。
﹁これ面白いねえ。1、2回戦ももっとやりたかったなあ﹂
ぽん、ぽん。
﹁だからな。狙うのはビニール袋だがなんで後ろのカーテンしか当
たらないんだ?⋮⋮聞いてるのか? ユッチ﹂
﹁狙ってるよお⋮⋮定まらないだけだもん﹂
﹁⋮⋮よほど下手だな﹂
﹁ポンポコだって当たってないじゃんかあ﹂
﹁ユッチが動くからだ﹂
﹁くそお⋮⋮当たらないなあ﹂
⋮⋮なんかしょぼい。
1620
突入してったら一瞬で終わらせられそうだ。でもそれはユッチが可
哀想か?
﹁ヤス兄、どこかに突入していかないの?﹂
﹁⋮⋮なんか全部関わっちゃ駄目な空気が流れてないか?﹂
﹁そだね⋮⋮それじゃ見てよっか?﹂
﹁そだなあ﹂
⋮⋮ラスト勝負なのに盛り上がらんなあ。
1621
168話:空気砲対抗戦︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
結構どうでもいい話ですが、いつの間にかこの作品、物語の長さで
は小説家になろうで100位以内にランクインしてました。
うん、長いなあ。読んでくださっている方、感謝です。
←空気砲サバイバルゲームについて、参考にさせていただきました。
http://sc−smn.jst.go.jp/8/bang
umi.asp?i︳series︳code=C073301&
i︳renban︳code=023
それでは!
1622
169話:恥ずかしい思い出話
結局、ユッチがポンポコさんを倒し、アオちゃんvsケンはアオち
ゃんが勝利。ゴーヤ先輩vsキビ先輩はキビ先輩がゴーヤ先輩を破
って、タイムアップ。
3回戦は倒した数が3対2で俺らの勝ちと言う事になった。
﹁それでは、結果発表!﹂
キビ先輩の司会。
何かすんごい嬉しそう。
﹁結果はジャジーズの勝ち!﹂
俺、久々にこういう勝負で勝てたなあ。高校入って以来じゃないか?
﹁パーマンズの面々は過去の恥ずかしい話を暴露していってもらい
ましょう!﹂
サツキとケンの事はほとんど知ってるからな。
個人的にはゴーヤ先輩とユッチの恥ずかしい話が楽しみだ。
﹁それじゃまずは俺から!﹂
ケンからかあ⋮⋮。
﹁実は⋮⋮俺の最初のキスの相手はヤスです⋮⋮﹂
1623
﹁おいケン! 何故それを言う! そもそもあれはノーカンだろ!
? 忘れるんじゃなかったのかよ!?﹂
あの時は俺よりケンのが悲惨だったけど。
﹁んー、何となく。というか俺の恥ずかしい思い出でヤスが絡んで
ないのが無いんだが﹂
﹁だからって最大級のを暴露すんなよ!?﹂
﹁いや? それより俺は中学1年の﹂
﹁言うな!﹂
あれもケンのが悲惨だったろうが。
お互いに忘れたい事件をどこまでも引っ張ってくるな。
﹁シチュエーション聞きたいよね。私も知らないんだよ﹂
そりゃサツキにもしゃべってないし。
﹁まあ、それぐらいよくある事だ。気にするな﹂
ゴーヤ先輩、確実にそんなシチュエーションは無いと思います。
﹁次は私が言う!﹂
⋮⋮次はサツキかあ。どんなの言うんだろ?
﹁私が小学4年の夏休み⋮⋮ヤス兄とケンちゃんとボーリングに行
1624
って﹂
だからケンもサツキも何故俺を絡める?
﹁ヤス兄だっけ? ﹃カーブ投げてやる!﹄ って言って投げよう
としたらすっぽ抜けて後ろに転がして﹂
ええ、ええ、ありましたよ。そう言う事も。
﹁ジュース飲んでた私がよけようとしてびっくりしてスポーンとジ
ュース投げちゃったんだよね﹂
﹁あったなあ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮何でサツキもケンも懐かしい顔なんだ?﹂
﹁お隣さんのカップルっぽい2人にぶっかけちゃったんだよねえ﹂
﹁あったなあ⋮⋮﹂
﹁忘れようよ、その話﹂
﹁向こうの女の人が﹃ヨースケ、大丈夫!?﹄って言ってたの聞い
たヤス兄が慌てて何か言おうとして﹃ヨースケさん、スケスケっす
ね! よー透けて見えるっすよ! 彼女もスケッスケ! このスッ
ケベエ!﹄って⋮⋮﹂
⋮⋮俺、昔から変わってねえなあ。
﹁それさあ、サツキの恥ずかしい話じゃないじゃん﹂
1625
俺の恥ずかしい話やん。
﹁そんな事無いよ? ヤス兄のセリフ聞いたみんながつい彼女の方
見ちゃってさあ⋮⋮つい私﹃あれ? 何か入ってない?﹄って声が
出ちゃったもん。恥ずかしかったあ⋮⋮﹂
﹁いやいや!? それ俺のせい!?﹂
確かに引き金は全部俺だけど。
﹁ケンちゃんが何かフォローしようとして、激怒されたんだよね?﹂
﹁﹃大丈夫っす! 揉めば大きくなるって言いますよ! 彼氏に揉
んでもらってください!﹄ だったかな? ⋮⋮慌ててたとはいえ、
めっちゃセクハラ発言してたなあ﹂
﹁んで、その2人が彼氏彼女じゃなくて﹃ただの姉弟だ!!﹄って
怒られて、慌てて3人で逃げたんだよな﹂
﹁あれからそこのボーリング場行ってないね﹂
﹁⋮⋮行けねえって﹂
﹁⋮⋮そ、その姉弟もその事件がきっかけで一層仲良しになったか
もしれないですよ? 大丈夫ですよ?﹂
﹁フォローありがと、アオちゃん﹂
ってかあの姉の方の人、なんで弟とのお出かけでわざわざ⋮⋮邪推
1626
は止めよ。
ふう⋮⋮なんか⋮⋮自分が罰ゲーム食らった方がましだった気がす
る。
ケンとサツキで2つ分ばらされたんだけど。
﹁次は私がいこうかな﹂
﹁ええ!? またボクトリい!? いやだあ、ゴーヤ先輩、ボクに
先にやらせてくださいい!﹂
﹁ん、それならいいぞ? 何か言ってくれ?﹂
﹁ほんとですか? ありがとうございます! えっと⋮⋮えっとえ
えとお⋮⋮﹂
考えとこうよ、ユッチ。
﹁やっぱり先に私が言おう。ユッチはその間何か考えておく事﹂
﹁あうう⋮⋮﹂
御愁傷様、ユッチ。
﹁ええとだな、駅のホームにいた人を友達だと思って﹃おっはよう
!﹄と頭どついたら、見た事無い人だった﹂
﹁まあ、よくあることだよな。ヤス﹂
﹁ああ、そう言う話、よく聞くなあ﹂
1627
﹁そうなんだよ。ここで﹃間違えてしまってごめんなさい﹄って言
ってしまえばよくある話ですんだんだけど、ついつい何とかごまか
そうとしちゃってだな﹂
何かなさそうな話になってきた。
﹁駅のホームにいた人全員に﹃おっはよう!﹄と頭をどついてみた。
ほとんどの人はノリがよくて﹃おっはよう﹄と返してくれたぞ?﹂
⋮⋮豪快だなあ、ゴーヤ先輩。
﹁だが、最後の人に﹃おっはよう﹄とした時、白い目で見られてな。
飛び跳ねてた自分が急に恥ずかしくなった﹂
ま、まあその人はきっと虫歯かなんかで機嫌が悪かったんすよ。
﹁ゴーヤあ⋮⋮なんでその話なの? 桜の木の下のエピソードは無
いの?﹂
﹁それを言わせるなら、キビの真夏の海岸の話を暴露してやるぞ﹂
﹁私勝ったじゃない! 何で暴露されなきゃいけないの!?﹂
﹁では、私がどの話を言おうが別にいいではないか?﹂
﹁それはそうだけど⋮⋮﹂
ゴーヤ先輩のが一枚上手だな。
しかし⋮⋮気になるなあ⋮⋮どんな話なんだろ。
1628
﹁さあユッチ、ラストだな﹂
ゴーヤ先輩、役目が終わったと言う感じで清々しいっすね。
さて、ユッチはどんな話するんだろう?。
﹁ええと⋮⋮ボク⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮ユッチ?
﹁ボク⋮⋮﹂
⋮⋮ユッチ、そんな泣きそうな顔になるなよ。
﹁ユッチ、思いつかなかったり、言いたくない事は言わなくていい
ですよ? あくまでみんな﹃あれはあれで思い出だなあ﹄って思え
るようになったからしゃべってるだけですから﹂
﹁ええ⋮⋮でもお﹂
﹁ユッチ、これはただの遊びですよ? そんな必死にならなくて大
丈夫ですって。昨日転んじゃったあくらいの話でいいんですよ?﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮ごめんなさい⋮⋮﹂
気にすんなユッチ⋮⋮こっちこそ悪のりしすぎたな。
まあ⋮⋮ケンとかサツキの思い出がすさまじかったもんなあ。同レ
ベルの恥ずかしい話披露って中々出来ない.
⋮⋮何かしんみりしちゃったなあ。しょうがないけど。
1629
﹁それじゃ代打? ヤス君いきましょうか?﹂
﹁何でだよ!? 俺勝ったよ!?﹂
﹁しょうもないネタの宝庫はヤス君と相場が決まってますよ﹂
それは偏見だ。そんな偏見の目で見ないでください。
しかし⋮⋮このまましんみり終わるのはなんか後々気まずいし、こ
こはユッチがとっつきやすそうなネタを考えるべきか?
﹁ええと⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮幼稚園の頃の将来の夢はピーマンマ
ンでしたが、小学校1年生の頃の将来の夢はサンタクロースでした﹂
﹁ヤス君、何でサンタクロースなんですか?﹂
﹁だって配るプレゼントで1年中遊べそうじゃん!﹂
トナカイに乗って空も飛んでみたいし。煙突から入るって言うのも
わくわくしそうじゃん。
﹁ユッチは小学生の頃は将来何になりたかったですか?﹂
﹁ボク? ボクは小学生のときはもりのパンやさんだったなあ﹂
﹁何でパンやさん?﹂
﹁おねえちゃんとおにいちゃんとパン焼くのが好きだったから﹂
今回のおにいちゃんは実兄の方か? 義兄の方か?
1630
﹁まあ、そこまでは分かるけど、何で森?﹂
﹁そういうタイトルの絵本があって、ボク、その絵本が大好きだっ
たんだあ⋮⋮今考えるとちょっと恥ずかしいね﹂
うん、子供の頃って絵本とかに影響うけるよな。
﹁ほらユッチ。今言えたじゃないですか。そんなに悩まなくてもそ
んな話でいいんですよ?﹂
﹁あ、そっかあ! わかった、ありがとお!﹂
はふぅ⋮⋮。
なんとかユッチが笑ってくれてよかった。
1631
169話:恥ずかしい思い出話︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ヤス君のボーリングのボールを後ろに吹っ飛ばす。
サツキちゃんのジュースをぶん投げちゃう。
ゴーヤ先輩の人を間違えて頭どつく。
ここまで、やった事あったりします︵^^
他所様に迷惑かけまくりですね。気をつけよ。
それでは今後ともよろしくお願いします。
1632
170話:5日目、雨
﹁なあ、今日女子に話しかけようとしたら、なんかすんごい変な顔
されたんだけど⋮⋮﹂
﹁ああ、それ僕も﹂
⋮⋮ノンキ、マルちゃん。それきっと俺のせいです、きっとノンキ
とマルちゃんが絡⋮⋮気持ち悪くなってきた。考えるの止めよ。
まあいいや、しーらねっと。お休みー。
5日目、朝。
玄関の前でミドリちゃんと立ち尽くしてる。
﹁⋮⋮雨だなあ﹂
﹁雨ですね﹂
﹁⋮⋮ザザブリだなあ﹂
﹁ザザブリですね﹂
1633
﹁⋮⋮走っていいんかなあ﹂
﹁風邪引きませんか?﹂
だよなあ。小雨なら行こうかとも思うんだけど、さすがにこれだけ
強いと⋮⋮。
﹁⋮⋮こういうのをたらいをひっくり返したような雨って言うんだ
ろうなあ﹂
﹁バケツじゃないですか?﹂
それだとバケツがなかった時代は困らねえ?
⋮⋮どうでもいいかあ。
﹁ミドリちゃん、今日、短距離ってタータン⋮⋮ええと⋮⋮ゴムゴ
ムの陸上競技場に行くって言ってなかった?﹂
﹁ええ、言ってましたよ?﹂
﹁練習、出来んのかなあ?﹂
﹁この雨じゃ無理じゃないですか?﹂
﹁だよなあ﹂
﹁ですねえ﹂
結局早朝練習は軽く体操して終わり。
何か拍子抜けだなあ⋮⋮。
1634
﹁みんな、注目!﹂
朝食の時間になって、ウララ先生がみんなに呼びかける。
﹁5日目、残念ながら大雨になってしまいました。天気予報による
と1日中大雨との事です。これだけの雨が降ってしまうと、さすが
に外で練習は出来ないです﹂
だよなあ⋮⋮。
﹁試合が差し迫ってなかったら練習してもいいんだけど、9月13
日、14日が新人戦だからね。今外で練習して風邪ひいたら絶対に
影響が残るし﹂
⋮⋮風邪引くとそんなに影響が残るのか。
そういや俺、新人戦に関して何にも聞いてないんだけど⋮⋮ええん
か?
﹁体育館とか空いているところ探してみたんだけど、どこも予約さ
れちゃってた﹂
まあ、夏休みだしいろんな団体が合宿にきてるもんなあ。
1635
﹁今日はどこかの教室借りて、筋トレですね﹂
げ、筋トレかあ。
﹁午前も午後も筋トレだけなのは悲しいので、今日も午前練習、午
後は練習無しにします﹂
そっか、了解。
﹁練習時間になったら、勉強してる教室に全員集合する事!﹂
﹃はい!﹄
うーん⋮⋮今日の天気じゃ洗濯しても乾かんよなあ。
後1日だし、洗濯しなくても何とか持つから、今日はもう洗濯する
のは止めるか。
⋮⋮家帰った時、すんごいにおいそう。
お、あそこで立ち話してんのはゴーヤ先輩とウララ先生ではないで
すか。
﹁はあ、失敗したなあ。今日こんな大雨になるんだったら、昨日の
午後まで練習して今日は完全休養の方がよかったかなあ﹂
何か重めの話。こそっと聞いてよ。
﹁昨日の午前の時点で動けてなかったですよ? 間違ってないです
1636
よ﹂
﹁ありがと⋮⋮うーん⋮⋮昨日の時点で降水確率見たら20%だっ
たんだけどなあ﹂
そうなのか、20%なら今日練習しようと思うよなあ。
﹁ごめん、タータントラックで練習できないまんまになっちゃって﹂
﹁大丈夫ですよ。タータントラックじゃないと練習できない訳じゃ
ありませんし。何より毎週土曜日タータンで練習してるじゃないで
すか﹂
﹁⋮⋮そだったね﹂
﹁いつもウララ先生言ってるじゃないですか。﹃練習なんてどこで
もできる。大事なのは強くなりたいっていう気持ち﹄って﹂
ほお。
﹁そうだっけ? 私が言ったのは﹃強い気持ちがあっても、その生
徒が磨けば光る原石でも朱に交われば赤くなって錆びるよねー﹄と
しか⋮⋮﹂
おい。
﹁いえ、その後﹃逆にそこらへんに転がってる石でも頑張って磨け
ば、すごい光るんだよ﹄って言ってくれたじゃないですか﹂
おお。
1637
﹁ああ、でも﹃磨いてくれる人が愚鈍者だと、結局割れちゃうけど
ね﹄って言わなかった?﹂
こら。⋮⋮磨いてくれる人ってのは指導者の事だよな。
﹁いえいえ、その最後に﹃私は指導者としては初心者です。でも、
私も努力して、みんなを綺麗に磨いてみせるから! 一緒に頑張り
ましょう!﹄って言ってくれましたよ?﹂
おおおお。
﹁あれ? 言い終わった後にぼそっと﹃割っちゃったらごめん﹄っ
て言ったよ﹂
こらこら。
﹁⋮⋮何でさっきからオチをつけるんですか?﹂
﹁何か盗み聞きしてる人がいるから﹂
⋮⋮バレてた?
﹁ええ? ヤスにもウララ先生のよさを分かってもらいましょうよ﹂
ゴーヤ先輩にもバレてた?
﹁そんな美化されたら恥ずかしいじゃない。大体私まだ何にも実績
残してないし﹂
1638
いやいや、恥ずかしがらなくて結構です。
﹁そんな事ないですよ? 去年、一昨年は県大会0人でしたけど、
今年は3人行きましたし﹂
おお? 標準が分からないから、すごいのかすごくないのか分から
ない。
⋮⋮しかし、これ、どうやって出て行けばいいんだろう。
﹁ヤス、そこで聞いてないで、こっちきたらどうだ?﹂
ゴーヤ先輩、ありがとうございます! 出に行きにくかったです。
テケテケとしゃべってるところに寄って行く。
﹁ごめんね。指導者としては、生徒に弱みを見せると不安がるから
せめて生徒の前ではしっかりしてなくちゃ駄目なんだけどね。人間
が出来てないよ﹂
いやあ、上が頑張ってるって思うだけで、下も頑張るもんですよ?
ウララ先生が頑張ってるって思うから、ゴーヤ先輩含む女子メンバ
ーはそれに答えようと思ってるんだから。
﹁まあまあ、私の愚痴はここで終わり! 午前の筋トレ、頑張って
いきましょ!﹂
﹃はい!﹄
1639
ふう、筋トレ終了!
練習は後は明日の午前だけだ! 頑張ろ!
1640
170話:5日目、雨︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
友達にユータ︵男︶って人がいるんですが、
﹁ユータってさあ﹂
と言おうとしたところ
﹁ユッチってさあ﹂
と言ってしまった⋮⋮頭がこの作品の事でいっぱいになってますね
︵^^;
それでは!
1641
171話:てるてる坊主
昼食後、ケンと2人で女子の部屋へ。
すでにユッチからは入ってもいいよって言ってもらってるし、今度
はちゃんとユッチの了解を待ってから入ったぞ。
今、ポンポコさんとゴーヤ先輩、ミドリちゃん、ウララ先生はどこ
かへ行ってるみたい。
多分明日の練習について話し合ってるんだろう。
今、女子の部屋にいるのはキビ先輩、アオちゃん、ユッチ、サツキ
の4人か。
﹁はぁ⋮⋮雨、ふっちゃったなあ﹂
⋮⋮ここにもウララ先生と同様落ち込んでる人が1人。
﹁今まで、こういうイベントの時に雨降った事ないのになあ⋮⋮﹂
﹁ユッチ、しょうがないですよ。天候には勝てませんよ﹂
﹁そうですよ? ユッチ先輩﹂
﹁そうかなあ? やっぱりボクのてるてる坊主へのお願いの仕方が
足りなかったんじゃないかなあ? それとも鈴が気に入らなかった
のかなあ﹂
てるてる坊主⋮⋮確かに全部に鈴をつけてる。すげえ。
⋮⋮けど、ちょっと思うのだが、隅っこの方で1個鈴の重みで逆さ
まになっちゃってる⋮⋮るてるて坊主だ。きっとへこむから言うの
1642
止めよ。
﹁ユッチ、いい事教えてやろうか?﹂
﹁何さあ?﹂
﹁てるてる坊主の歌、知ってるか?﹂
﹁知ってるよお⋮⋮てるてる坊主てる坊主明日天気にしておくれ∼
♪ だろ?﹂
﹁その後は知ってるか?﹂
﹁いつかの夢の空のよに 晴れたら金の鈴あげよ♪ だろお? だ
から全部に鈴つけたんじゃんかあ。金色じゃなかったから怒ったの
かなあ⋮⋮﹂
確かにかかってる鈴に銀色の鈴が混じってるけど、あんま関係ない
気がする。
﹁2番以降があるの知ってるか?﹂
﹁知らない。ってあるのお!?﹂
﹁実はあるんだな。2番は 甘いお酒もたんと飲ましょ♪ って酒
で釣るんだよ﹂
﹁それでそれで!? それじゃお酒を上げればいいの?﹂
﹁いやいや、今までユッチはお願いしてばっかだっただろ? それ
1643
でも晴れなかったんだったら最後は脅さないと駄目なんだぞ﹂
﹁ええ!? うそお! 何で脅すのさあ!?﹂
﹁ユッチ、てるてる坊主の3番は﹃それでも曇って泣いてたら∼ そなたの首をチョンと切るぞ∼♪﹄なんだぞ﹂
﹁ほんとなのお!?﹂
﹁ほんとほんと、だから今日は晴れてくれなかったんだから、脅し
てみ。明日は晴れるかもよ﹂
﹁何かいやだけど⋮⋮分かったあ! やってみる! ありがとお、
ヤス!﹂
おし、機嫌が直った。
﹁ヤス君、﹃もっけ﹄という漫画を読んだんですよね?﹂
﹁何の事? 知らんよ?﹂
﹁今の内容、﹃もっけ﹄の漫画そのまんまでしたよ?﹂
まじか⋮⋮オリジナルだと思ってたのに。
ちょっとショック。
﹁なあ、俺もさあ⋮⋮﹂
﹁何だケン?﹂
1644
﹁これどうしよ?﹂
﹁なんだそれ⋮⋮線香花火?﹂
﹁そうなんだよ! これ以外にも大量に持ってきてたんだよ! 打
ち上げ花火とかもさあ! 何で雨降るかなあ?﹂
そういや何でかケンのバッグ、すごいでかかったけど、花火が入っ
てたのか。
﹁まあ、来年までとっとけば?﹂
﹁ちゃんと保存しとけば来年まで持つらしいけど、何か空しくね?﹂
それは知らん。せっかく持ってきてくれたのにお疲れっす。
﹁ま、雨なら雨の楽しみ方があるよな? ヤス﹂
﹁そだな、トランプでも十分楽しめるし、﹃めちゃ×2イケてるッ
色とり忍者﹄とかでも十分楽しめるぞ?﹂
!﹄のコーナーの﹃七人のしりとり侍﹄とか﹃単位上等!爆走数取
団﹄とか﹃只今参上
見てるだけでもめっさオモロイっすよ。
﹁ヤス兄、﹃IQサプリ﹄とかは? 問題考えるのが大変そうかな
?﹂
ああ、あるある。
﹁他にも古いんだけど﹃マジカル頭脳パワー﹄の﹃マジカルバナナ﹄
1645
﹃マジカルチェンジ﹄﹃マジカル伝言ゲーム﹄とかあるぞ﹂
ちょっと古いが、確かにその辺りは面白い。
﹁さあユッチ、どれがいい?﹂
﹁ええとお⋮⋮トランプ! ボクの家テレビないからテレビの内容
言われても分かんないよ﹂
あ、そか。忘れてた。
⋮⋮あれ?
﹁ユッチ、﹃作って遊ぼ!﹄のワクワクさんとゴロリ知ってただろ
? テレビないのにおかしくない?﹂
﹁ああ、だって昔はテレビあったもん。ボクがずっとテレビ見てば
っかりだったから、無くなっちゃったんだあ﹂
⋮⋮可哀想に。
﹁んじゃトランプで行こか。ちなみにユッチが知ってるトランプゲ
ームって何がある?﹂
﹁ババ抜き、七並べ、神経衰弱⋮⋮あと、豚のシッポ!﹂
﹁お、豚のシッポ知ってるんだ? サツキとケンは知ってるし⋮⋮
キビ先輩とアオちゃんも知ってる?﹂
﹁私は知ってますよ﹂
1646
﹁私も知ってるよ、おいしいよね﹂
⋮⋮おいしいって何?
﹁え? あれでしょ? 豚のシッポ部分の肉でしょ?﹂
⋮⋮知らねえ。そんなところ食った事ねえよ。
﹁キビ先輩、豚のシッポって言うのはトランプゲームの1つですよ﹂
﹁ええ!? 食べられないの?﹂
キビ先輩、トランプ食べるんかい。
﹁ま、まあいいや。豚のシッポやる?﹂
﹁やるやるう!!﹂
﹁それではキビ先輩のために簡単にルール説明しましょうか﹂
アオちゃん、お願い。
﹁まず、トランプを裏側にしてこんな感じに丸く並べます﹂
Q↑こんな感じ
シャシャッと床の上に丸く並べられた。
上手いなー。俺必ずどっかにかたよるんだけど。
﹁この形が豚のシッポの様に見えるから、豚のシッポと言うゲーム
1647
名なんですね﹂
﹁あ、そうだったんだあ!﹂
ユッチ、知らなかったのか?
﹁このトランプの中からひとりひとり1枚ずつ取っていって素早く
真ん中に置くんですよ﹂
﹁ふんふん﹂
﹁それで、真ん中に置いたカードが、前の人が置いたカードと同じ
マークか同じ数字の時、もしくはジョーカーだった時にみんな一斉
に真ん中のカードめがけて叩く訳です﹂
﹁それでそれで?﹂
﹁一番遅れた人、すなわち一番上に手がある人ですね。その人が真
ん中に置かれてたカードを全部もらわなければなりません。全ての
カードが丸い部分から無くなったとき、一番多くカードを持ってい
た人が負けですね﹂
﹁わかった!﹂
﹁あと、お手つきをした場合もカードをもらわないといけませんか
ら。慌ててお手つきをすると負けますよ﹂
﹁大丈夫! 反射神経なら負けないよ!﹂
お、自信満々じゃないっすか。キビ先輩。
1648
そう言う人に限って負けるんだぞ? 目にもの見せてやるからな。
1649
171話:てるてる坊主︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃もっけ﹄、戦闘描写のない妖怪漫画です。ネットで調べたらかぶ
ってるのに気付き、立ち読みしに行きましたが、おもしろかったで
すよ︵^^
ネタがかぶったのはへこみました⋮⋮少し変えてそのまま使わせて
もらいました。
小説等で、知らないだけで実はネタがかぶってるってどれくらいあ
るんでしょう?
それでは!
1650
172話:豚のシッポ
さてと⋮⋮豚のシッポ、いよいよ開戦だ。
﹁最初の一枚目は⋮⋮ダイヤの10か﹂
﹁普通な始まりだね⋮⋮﹂
﹁いきなりジョーカーとか来るのはつまらんだろ﹂
そだな⋮⋮。
﹁次は⋮⋮スペードの4﹂
緊張する。一瞬でも気を抜いたら出遅れるからな。
﹁ダイヤの2﹂
ふう⋮⋮。
﹁クラブの3﹂
また違うな⋮⋮。
﹁ハートの6﹂
⋮⋮関係ないな。
1651
次は俺の番か。
﹁ダイヤの6⋮⋮マークが違うな﹂
シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!
え? あれ!?
﹁ヤス、マークだけじゃなくて数字も見なきゃいけないんだぞ。そ
んな初歩的な事も忘れたのか?﹂
うあ、ケンの野郎、ムカつく。
﹁ヤス兄、6枚もらってねー﹂
﹁ちっ、しゃあない。もらってやるよ﹂
﹁負けた人が偉そうに言ってもしょぼいですよ、ヤス君?﹂
アオちゃんめ、空気砲対抗戦の時もノリノリだったけど、どうやら
ゲーム中は性格が変わるらしいな。
⋮⋮久々で勘が取り戻せれてないな。もっと気合いを入れんと!
1652
現在真ん中に置かれている枚数は6枚だ。次はアオちゃんの番だ。
今、アオちゃんがひっくり返した。
ビクビクビクッ!
﹁えっ!?﹂
バシンッ!
﹁あれ? 今ってジョーカーだったよね?﹂
﹁ふっふっふっ、キビ先輩、よく見てくださいよ﹂
﹁え? あれ? ⋮⋮ジョーカーじゃないじゃん! これ、クラブ
のジャックじゃん! 何でこんな紛らわしいの!?﹂
﹁ひっかかりましたね! 俺たちのフェイントに!﹂
﹁ヤス兄、実はヤス兄もまともに間違えただけでしょ﹂
﹁うん、実は。キビ先輩が先に叩いてなかったら俺がお手つきする
とこだった﹂
﹁うわあ、私。ヤスの手助けしちゃった訳? 嫌だねー﹂
﹁なんとでもいうがいいですよ。今最下位はキビ先輩と言う事実は
ひるがえりませんよ!﹂
﹁ヤス兄、魔王の手先みたい﹂
1653
﹁最下位じゃなくなって嬉しいんですよ﹂
サツキ、アオちゃん、そんなに俺の心を読むな。
現在真ん中には4枚。
ピクッ!
バシン!
﹁なんだよお! ただのスペードのエースじゃんかあ! ジョーカ
ーかと思ったのに! ケンのフェイント上手すぎだよお!﹂
﹁フェイントの魔術師と呼ばれた俺の技術にかなうと思うな!﹂
﹁ケンちゃん、野球部時代は空振りの魔術師じゃなかった?﹂
﹁⋮⋮サツキちゃん、悲しい思い出を思い出させないでくれ﹂
﹁3年夏はバントの仕事人だったっけ?﹂
﹁サツキ、それは俺。ケンはパシリ1号だったっけ?﹂
﹁何でそんないじめ的な2つ名?﹂
﹁ヤスとか俺とか他の野球部メンバーの中でラッキーマンが何故か
1654
ブームになった﹂
﹁古っ! 何年前の作品!?﹂
さあ⋮⋮忘れた。
﹁足が速いケンはスピードマンか一匹狼マンと言う話になった﹂
ラッキーマンと言う漫画の中に、スピードマンってキャラと一匹狼
マンってキャラがいるんだよな。
﹁俺はどう考えても一匹狼っぽくねえって言われた﹂
﹁まあ、それはそうだよね﹂
﹁で、スピードマンに決定したんだが、漫画の中で途中から﹃パシ
リ1号﹄って言われるようになってただろ?﹂
﹁そうだったかなあ⋮⋮覚えてない﹂
﹁まあ、漫画でパシリ1号って名前変わったもんだから、俺の2つ
名もそのままパシリ1号に移行﹂
﹁悲惨だねー﹂
﹁まあ、中学校の話だし、今は関係ないな﹂
﹁だな﹂
﹁お⋮⋮こんな思い出話を語れるようになったって事は、ヤスも中
1655
学の野球部の事、どうでもよくなってきたか?﹂
﹁そだなー﹂
今、毎日が楽しいし。
﹁いいなあ⋮⋮ヤスは﹂
﹁ん、なんだ? ユッチ﹂
﹁なんでもなあい⋮⋮﹂
⋮⋮何の話? ⋮⋮まあいいや。
﹁さて、ユッチ! 豚のシッポ、負けねえぞ!﹂
﹁⋮⋮ふん! 今はまだボクのが勝ってるんだもんねえ!﹂
現在、真ん中には14枚。中々揃う事なくここまできてしまった。
⋮⋮カードはスペードのキング。
これを取ってしまうとほぼ確実に下位は決まってしまう。
﹁き、緊張するね﹂
﹁キビ先輩⋮⋮しゃべっている間にとられますよ?﹂
1656
﹁ヤス、そう言う事言わない!﹂
事実だからな⋮⋮。
﹁も、もう! もちょっと和やかな空気で﹂
シュシュシュシュ!
﹁え!?﹂
今、ジョーカーが出た。
キビ先輩の注意がそれてたおかげで取らずにすんだが、俺の手が一
番上だからな。
あぶねえあぶねえ。
﹁キビ先輩? 15枚どおぞ?﹂
﹁うわ、くやしい!﹂
パチン!!
﹁いってえ!! 何するんですか! キビ先輩!﹂
﹁何か悔しかったんだもん! 別に真ん中に振り下ろすだけならル
ール違反じゃないでしょ!?﹂
や、そりゃそうだけどさあ。
﹁キビ先輩、今何枚なんですか?﹂
1657
﹁ええと⋮⋮1、2、3⋮⋮⋮⋮22枚﹂
﹁他、ヤス兄が6枚、ユッチ先輩が5枚ですね﹂
最下位はキビ先輩に決定だろ。
﹁今、シッポのQに残ってるのは21枚か﹂
﹁キビ先輩、ヤス兄かユッチ先輩のどっちかに残りを集中させれば、
最下位を免れますよ!﹂
そんな事が出来るもんかい。
﹁それはサツキとケンはミスらない自信があるって事だな﹂
﹁もっちろん、今のヤス兄の反射神経には負けないよ?﹂
⋮⋮ここまでこけにされて黙ってられるかい。
﹁サツキに絶対1枚はとらせてやるからな!﹂
﹁志が低いよ、ヤス兄﹂
⋮⋮しもた。
現在9枚⋮⋮。
1658
ピクピクッ!
うわっと、あぶね!
バシン!
﹁いった! キビ先輩! それずるいっすよ!?﹂
今、すんでのところで止まった手をキビ先輩に上から押し付けられ
た。
﹁え、何で? ケン君、これってルール違反?﹂
﹁全く。ルールの範囲内です。技術の一つですよ﹂
﹁はっはあ! ざまあみろ! ヤス!﹂
﹁まだキビ先輩が不利なのは変わんないっすよ!﹂
現在俺が16枚、キビ先輩が22枚、ユッチ5枚⋮⋮残り11枚。
ユッチに勝てないの決定しちゃったやん。
現在真ん中に置かれてるのは3枚。
﹁ジョーカーだ!﹂
1659
シュシュシュシュシュ!
﹁ああ!? 私!?﹂
﹁ふっふ、サツキ。油断したな﹂
﹁ヤス兄がジョーカーひいたから早く反応できただけじゃん﹂
﹁サツキ⋮⋮運も実力のうち。と言う言葉を知らないのかね?﹂
﹁今のヤス兄がいっても哀れだね﹂
﹁そんな事ないさ⋮⋮一矢報いる事が出来たんだからな﹂
﹁私、このゲームでヤス兄を嵌めてないよ?﹂
ん? そだったっけ? 最初はただ単に俺が遅かっただけ、2回目
はケンとユッチとキビ先輩の連係プレー⋮⋮ほんとじゃん。
﹁言葉の使い方は気をつけようね、ヤス兄﹂
ごめんなさい⋮⋮。
現在、キビ先輩22枚、俺16枚、ユッチ5枚、サツキ4枚、残り
7枚。
1660
現在4枚⋮⋮残り3枚。
﹁このまま合わなかったら、キビ先輩の負けは自動的に決定ですね﹂
﹁こずるい手は使っちゃ駄目だよ。ヤス﹂
どやって使うねん。
﹁ハートのエースか⋮⋮﹂
残り2枚。
キビ先輩が残り2枚のうち1枚をひく。
﹁クラブのエース﹂
スパパパパーン!!!
﹁くそお! 遅れたあ!!﹂
一番上にある手はユッチか。
ふぅ⋮⋮。
﹁キビ先輩、この時点で順位決定ですね﹂
1661
﹁⋮⋮残念、負けちゃったかあ﹂
﹁結果は1位ケン、2位サツキ、3位ユッチ、4位俺、5位キビ先
輩って順ですね﹂
﹁うん、これ中々白熱するね﹂
﹁ですよね!? キビ先輩面白いでしょお? 豚のシッポ!﹂
﹁んじゃまたやるか?﹂
うん、いいね。やろやろ。
﹁たまには罰ゲーム、無しで楽しもか。毎回罰ゲームありってなん
か息詰まるもんな﹂
﹁おお、ケンにしては良い提案!﹂
﹁⋮⋮なんかヤスに対してだけは罰ゲームをありにしたくなったな﹂
﹁ごめんなさい! 普通にやろ!﹂
﹁ん、冗談だ。普通にやろ﹂
ふう、危ない危ない。
1662
途中でゴーヤ先輩とミドリちゃんもやってきて、交代交代で遊んで
た。
⋮⋮うん、こんな時間も良いな。
1663
173話:ユッチのおべんきょ、ラストステージ
豚のシッポもしっかり楽しんで、とうとう合宿最後の夜になった。
雨は相変わらず降り続いていて、多少小雨にはなったけどとても花
火をするような天気じゃないな。
﹁ま、最後の夜って言ったって、することはおべんきょだけどなあ﹂
﹁何言ってんだよヤス。勉強した覚え、あるか?﹂
⋮⋮そう言われれば⋮⋮2日目からユッチに勉強に興味を持っても
らうって言って始めたけど、2日目は昼ドラ劇場、3日目はあるあ
る川柳、4日目は空気砲対抗戦⋮⋮あれ?
﹁俺らって実は遊んでばっかりじゃね?﹂
一応は少しだけ勉強、入れてるけど。
まあ、ユッチがこう言う感じで何かに興味を持ってくれると成功な
んだけどな。
﹁ちなみに今日は何をして遊ぶんだ?﹂
﹁んー⋮⋮何も考えてない﹂
アオちゃんかポンポコさんが考えてくれる事を祈ろう。
1664
合宿最後の勉強時間。
今日はなんだかポンポコさんがすごく張り切ってる。
なので、俺とアオちゃんはもう口を出さずぼけっと見てる事にして
る。
﹁最後くらいは私も何か考えないとな⋮⋮なので、私は漢字につい
て教えようと思うのだが﹂
﹁ええ!? ボク、漢字くらい書けるよお!﹂
﹁本当か? それでは﹃かんぺき﹄と言う字を書いてみるか。これ
が書けたら別のを考えよう﹂
﹁そんなの簡単だよお!﹂
キュッキュッとホワイトボードにユッチが﹃完壁﹄と書いた。
﹁どうだあ!﹂
﹁⋮⋮おしい﹂
ホントに惜しい。こうやって間違える人、よくいるんだよな。
1665
﹁ユッチ、﹃かんぺき﹄の﹃ぺき﹄は下が﹃土﹄じゃなくて﹃玉﹄
だぞ﹂
﹁ええ!? そうなの!?﹂
そうなの。完璧に間違えてたな。
﹁残念だったなユッチ、今日は漢字の勉強と言う事になった﹂
﹁⋮⋮めんどくさあ﹂
﹁⋮⋮嫌そうだな。漢字の成り立ちの説明などを考えていたが、た
だの漢字の書き取りだけにしようか﹂
﹁もっといやあ! 漢字の成り立ちでお願いい!﹂
﹁そうだな、初めからそう言えば良いのだ﹂
ポンポコさん、怖いっす。
そしてユッチ、簡単に話を持っていれすぎな気がするぞ。
1666
﹁まず、漢字には象形文字、会意文字、形声文字、指事文字の4つ
がある、他にも2つあるが、それは置いておこう﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁象形文字は物の形をかたどった物だな。代表的な物には﹃人﹄﹃
田﹄﹃川﹄﹃大﹄などがあるな﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁会意文字とは、象形文字を組み合わせて新たな文字を作る物だな。
代表的な物には﹃森﹄﹃男﹄﹃名﹄﹃林﹄がある﹂
へえ、﹃名﹄もそうなんだ。どんな意味があるんだろ?
﹁⋮⋮﹂
﹁形声文字というのは、片方に音を含み、もう片方何に関係するか
を示す物を付けた物だ。漢字の7割以上は形声文字だ。代表的な物
には﹃青﹄﹃先﹄﹃草﹄﹃村﹄などがある﹂
﹁⋮⋮くー、くー﹂
ポンポコさん、ユッチが寝始めてるぞ。説明だけじゃなくて、手を
動かさせようよ。
﹁指事文字と言うのは、物の形を見せるのが難しく、このような字
で、物事を表すよって漢字の事だ。代表的な物には﹃一﹄﹃二﹄﹃
1667
三﹄などがあるな﹂
﹁ざ、べすとはうす﹂
﹁﹃1、2、3!﹄﹂
﹁お嫁サンバ﹂
﹁﹃いち、に、サンバ! に、に、サンバ! お嫁、お嫁、お嫁さ
んばー♪﹄﹂
﹁アントニオ猪木﹂
﹁﹃1、2、3、ダー!!﹄﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ああ、びっくりしたあ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁今のってポンポコだよねえ?﹂
﹁⋮⋮ヤス、チャチャを入れようとするな!!﹂
ええと⋮⋮今のチャチャか?
1668
﹁ポンポコ、モノマネすっごく上手だねえ!!﹂
﹁⋮⋮ユッチ、それは言わなくていい。忘れてくれ⋮⋮﹂
ポンポコさん、悪のりしすぎたかな? ⋮⋮ごめん。
﹁⋮⋮それでだ、普段使われている漢字というのは大体500くら
いだろ?﹂
そんなにあったかな? もっと少ない気もする。
﹁うそお!? もっと使ってるよお! この前読んだ小説、分から
ない漢字たくさんあったもん﹂
﹁そんな小説は読まんでいい、わざわざ難しい漢字を多用して読み
づらくするのはバカな奴のする事だ﹂
うわ、過激な発言。
﹁三国志はいいの? 普段使わない漢字まで使いまくってる気がす
るぞ﹂
﹁あれはいいんだ。面白いから﹂
⋮⋮矛盾してんじゃん。
﹁話を戻すが、500文字程度で本来なら十分な気もするのだが、
小学校で1000程度、中学校でも同じぐらい覚えさせている﹂
1669
そやね。
﹁こんな教育である事をなげいてもしょうがないからな。覚えよう﹂
﹁ええ⋮⋮﹂
﹁これを覚えるだけなら、ただひたすら書き取りすれば、覚えてし
まえる物だが﹂
﹁ええ⋮⋮﹂
うわ、すごい嫌そう⋮⋮そりゃそうか。
﹁しかし、それでは面白くはないだろう? だからついでに、漢字
の成り立ちも覚えてもらおうという訳だ﹂
﹁ええ⋮⋮﹂
ほんと嫌そう。まあ、今日のはホントに勉強っぽい話だしなあ。
﹁3日間、勉強と言っても遊びみたいな物だったからな、ビシバシ
やるぞ﹂
﹁いやだいやだいやだあ!!!﹂
⋮⋮まあ、ユッチ、頑張れ。
今日は俺は隣でぼーっと見てるだけにしよ。
1670
173話:ユッチのおべんきょ、ラストステージ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
漢字の成り立ち、面白いのもありますがこの覚え方より書き取りた
くさんすれば覚えますよ⋮⋮自分はそう覚えました。ただ、成り立
ちは調べると面白いです。
以下、使った会意文字の由来紹介。
男:﹃田﹄んぼで﹃力﹄仕事をするのは﹃男﹄
林:﹃木﹄がいっぱい。
森:﹃木﹄がもっといっぱい。
n
名:﹃夕﹄方、自分の姿が見えない時に﹃口﹄から声を出して﹃名﹄
を名乗り、自分の存在を示す。
こんな感じです。
他にも色々ありますので、興味のある方は調べてみては︵^^
←参考にさせていただきました。
漢字家族:http://ww81.tiki.ne.jp/
othing/kanji/moji︳2.html
それでは!
1671
174話:合宿最終日
ユッチの勉強最終日は結局、延々とポンポコさんがスパルタでユッ
チに漢字を教えていた。
ユッチ、お疲れっす。
これで漢字、嫌いにならなきゃいいけどな。
そして迎えた合宿最終日。
﹁晴れた晴れた晴れた晴れた晴れたあ!!﹂
や、そんなにはしゃがなくてもな。
今日は富士山もメチャクチャくっきり見える快晴。
しかも雲一つない日本晴れっす。
いやあ⋮⋮まじ富士山が綺麗。
こういう日に富士登山すると、すっごい気持ちいいんだろうなあ。
﹁ヤスの言った通り、てるてる坊主に脅したらすっごい効果あった
あ!﹂
﹁うん、そりゃよかった﹂
﹁これからはてるてる坊主にお願いする時は、まずは鈴あげて、そ
の後酒を飲ませて、最後は脅す事にするう!﹂
1672
⋮⋮てるてる坊主にどうやって酒飲ませるんだろう。
﹁ありがとね! ヤス﹂
﹁ああ、どういたしまして﹂
ふう、めちゃめちゃ嬉しそうにしてくれるのはいいんだけど⋮⋮。
﹁ヤス兄、昨日の天気予報では、今日の降水確率何パーセントだっ
たの?﹂
﹁⋮⋮0パーセント﹂
﹁やっぱりね﹂
そりゃな、降らないって言う自信がなかったらユッチにおすすめし
たりしないっすよ。
﹁ちなみに言うと、この辺り一帯、東海、関東、甲信越は全部0パ
ーセント﹂
﹁降らないの確定してたんじゃん﹂
﹁まあ、実はそうなんだけどさ。ユッチが喜んでんだから良いじゃ
ん。嘘をついた訳でもないし﹂
﹁まあ、そうなんだけど⋮⋮一歩ずれると詐欺な気がする﹂
﹁ああ、んじゃユッチがあれだけお願いしてたから、今日の降水確
率が0パーセントになったんだって思っとこう﹂
1673
﹁⋮⋮ヤス兄? どういう事?﹂
ごめんサツキ、何が言いたいのか自分もよく分からなかった。
そしてグラウンドに来てみたら⋮⋮。
﹁⋮⋮ぐちゃぐちゃだあ⋮⋮﹂
あれだけはしゃいでたのに。
まあ、昨日一日中ザーザー雨降ってたからなあ⋮⋮。
どう頑張っても土のグラウンドはぐちゃぐちゃになっちゃうだろ。
﹁うーん⋮⋮これじゃ練習できないね。これだけ水たまりだらけじ
ゃ、練習しようがないもの﹂
やっぱりそうか⋮⋮。
んじゃ、今日は何やるんだろ?
﹁それじゃ! グラウンドから宿泊所行くところに長い坂があるで
しょ? あの坂で坂ダッシュをしましょう!﹂
坂ダッシュかあ⋮⋮俺はどうしよ。
1674
ポンポコさんの方をちらっと見てみる。
﹁そうだな⋮⋮ヤスはまたクロスカントリーをしに行ってもいいし、
短距離と合同で坂ダッシュをしてもいいかもしれん﹂
﹁坂ダッシュしてもいいの? スピード練習は今の俺じゃすると危
険って言ってなかった?﹂
﹁いや、本来はそうなんだが⋮⋮クロスカントリーの練習は多かっ
たので、飽きてないかと思ってな﹂
﹁んー、平気。いろんな所走ってると飽きないもんっすよ。1時間
過ぎるとすんごいきついけど﹂
﹁わかった、それでは1時間半行ってこい﹂
﹁何で!? 1時間過ぎたらきついって言ったじゃん!﹂
﹁ヤス、きつくない練習なんぞ練習と思うな。勝つためには楽しく、
だが思いっきり練習して体を使わないと絶対に勝てないぞ﹂
⋮⋮まあ、そりゃそうか。
﹁それでは、きちんとストレッチ、体操したら頑張ってこい﹂
﹁アイサー!﹂
さ、頑張るべ。
1675
はあ、はあ、今1時間だ。
かなり足にきてるし、息もきっつい⋮⋮でも、これで合宿最後なん
だからな。
絶対最後までやりきってやる。
お? 坂ダッシュ始まってるじゃん。
ミドリちゃんが合図を出してるんだな。
﹁15本目、ヨーイ!﹂
パン!
ケン、ボーちゃん先輩、マー君先輩が走る。
⋮⋮うわ、全力疾走じゃん。
﹁次、ヨーイ!﹂
パン!
次は2年の先輩2人と1年2人。頑張れー。
1676
﹁次、ヨーイ﹂
次は女子か。
ユッチ、アオちゃん、サツキ、ゴーヤ先輩、キビ先輩が一斉にスタ
ート。
⋮⋮やっぱり現状だと、アオちゃんとサツキは遅れるんだなあ。
特にアオちゃん⋮⋮中学時代は吹奏楽部だったし、スポーツそのも
のをこれだけやるようになって、まだ5ヶ月だ。
かなりしんどそう、初心者が経験者に追いつこうとしていくって大
変だ。
﹁アオ、ちゃん、ファイ、ト!!﹂
﹁⋮⋮ぜー⋮⋮ぜー﹂
ん、ごめん。
答える余裕、ないわな。
は、は、は、は。
﹁お疲れ、ヤス﹂
﹁あり、がと、ポンポ、コさん﹂
1677
﹁合宿、結局どれくらい走ったと思う?﹂
﹁さ、さあ?﹂
﹁初日2時間、2日目1時間、3日目3時間半、4日目1時間、5
日目0、6日目1時間半、計9時間⋮⋮朝練習込みでちょうど10
時間くらいか⋮⋮﹂
そ、そか。朝練習、きてなかったけどミドリちゃんからいろいろ聞
いてたんかな。
5日目は雨だったから、雨じゃなかったらもっと走ってたって事か。
﹁1キロ6分くらいで走っているとして、単純計算100キロ走っ
たと言う事だな。多分もっと走っていると思うぞ﹂
そ、そんなに走ったのか。
﹁来年は200キロを目指すか﹂
おいおい⋮⋮そんなに走れるんか?
﹁実力が確実に伸びているから大丈夫だ。どんどん走るぞ﹂
た、楽しそうっすね、ポンポコさん。
﹁49本目、ヨーイ!﹂
パン!
⋮⋮短距離、まだやってたんかい。
1678
やってるのはユッチとゴーヤ先輩、キビ先輩、ケン、ボーちゃん先
輩、マー君先輩か。
サツキとアオちゃんはあそこでぶっ倒れてる。
﹁あの2人はもう限界そうなのに走ろうとしたからな、これ以上無
理矢理やらせても危険と言う事でウララ先生が止めた﹂
そか。
﹁止めようとしても、まだ行けると走ろうとしてた。あの負けん気
はいいな﹂
さすがサツキ! 俺の妹!
アオちゃんもお疲れっす!
﹁ラスト! ヨーイ!﹂
1679
﹁今日で合宿は終わりです、みんな、6日間お疲れ様﹂
今は帰りの準備万端になってウララ先生の話を聞いている。
﹁明日は完全休養にします。ユッチ、練習しちゃ駄目だからね﹂
﹁え、あ、はあい!!﹂
あやつ⋮⋮走る気満々だったな。
﹁今度会うのは明後日、8月28日ね! 28、29日の2日は学
校で練習します﹂
ああ、30日はタータントラックでの練習か。
﹁長々と話すのは面倒だから、これで今日は終わり! ちゃんとま
っすぐ家に帰ること!﹂
﹃はい!﹄
⋮⋮つい返事したけど⋮⋮俺らは小学生か。
﹁みんな、お疲れ様でした﹂
﹃お疲れ様でしたー!!!﹄
合宿、乗り切ったー!!!
1680
174話:合宿最終日︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
一年の合宿編、終わりです。
141話∼174話。
34話かあ⋮⋮長かったなあ。
夏休みも後5日。
そろそろ2学期編の話ですね。
それでは!
1681
175話:合宿で得た物、無くした物
今日は8月27日水曜日。合宿の翌日だ。
⋮⋮昨日は家に帰った後、サツキと2人でゴロンと布団に転がった
ら朝まで目が覚めなかった。ま、6時にちゃんと起きてしまうのは
習性かな?
毎日しっかり寝てたつもりだったんだけど、かなり疲れてたんだな
あ。
﹁どっこいしょっと⋮⋮﹂
隣でまだ寝てるサツキを起こさんようにこっそりと起き上がって立
つ。
体がそこら中痛い。まだ自分の体は休息をすごく求めてる。
しかし、サツキは良いとしても父さんと母さんの朝食の準備をしな
いと⋮⋮俺がいなくても余裕余裕って言ってたけど、どうしてたん
だろ?
のそのそと台所に向かう。
﹁⋮⋮まじか⋮⋮﹂
台所の凄惨な状況につい立ち尽くしてしまった。
45リットルゴミ袋が1つどんと置かれていて、それ以外にも小さ
いコンビニの袋がそこら中にぽんぽん放置されている。なんか生ゴ
ミと牛乳パックとペットボトルがごちゃ混ぜに入ってるんだけど、
あれってやっぱり分別しないと駄目か? 駄目なんだろうなあ⋮⋮。
使ったっぽい茶碗とか皿が洗われず、流しのとこに積み上げられて
1682
るのを見ると、洗う気が⋮⋮。
明らかに2∼3日分よりも多く溜まってるって事は日曜日にも皿洗
いしなかったんだろうな。日曜日、もしかして仕事だったんかも。
⋮⋮父さん、母さん⋮⋮忙しいのは知ってるけど⋮⋮。
見なかった事にして別の部屋に行って寝たいけど、後回しにしても
きっと片付けんの自分だもんなあ⋮⋮。
﹁やるかあ⋮⋮﹂
朝飯作るだけのつもりだったのに、皿洗いとゴミ捨てが待っている
とは⋮⋮こんなの予想できねえよ。
﹁終わった! やっと終わった!﹂
まさか30分もかかるとは⋮⋮全く、こびりついた汚れは取るのが
めんどい。
﹁次は朝飯ー、何があるかなー﹂
冷蔵庫をパカッと開けてみる。
﹁⋮⋮﹂
1683
何もない。1週間前には何かあったはずなのに。
冷凍庫にも野菜室にも何もない。見事に空っぽ。あるのは調味料と
か、ジャムみたいな物だけ。
﹁そりゃねえよ⋮⋮卵も牛乳すらないじゃん﹂
まあ、腐るもんも結構あったからしょうがないにしても、これで朝
飯何を作れと言うのだろう⋮⋮父さんも母さんも、きっと朝はコン
ビニで済ませてたな。
⋮⋮他をいろいろ見て回ったら、そば、乾麺、スパゲッティ、イン
スタントカレー、ミートソース、モモ缶⋮⋮何とかなりそう。
﹁うん、カレーでいっか﹂
何か手抜き感がありありだけど、たまにはいっか。
ご飯炊いておく間に、洗濯場へ。
﹁⋮⋮﹂
父さん、母さん⋮⋮どんなに忙しくても日曜日は休みを取ってくだ
さい。
この洗濯物の山は一体なんなんだろう?
俺にこれの片付け、全部やれって事なんだろうか?
合宿に持ってったシャツとかも全部洗っときたいし⋮⋮。
﹁4回くらい回せばいいかあ⋮⋮﹂
ぎゅうぎゅう詰めにすると、あんまり汚れとれないしなあ⋮⋮。
1684
﹁とまあ、今日起きてからは1日中こんな事をやってた﹂
ホント何やってたんだろうね。あの後も掃除、買い物、布団干しと
そんな事ばっかりやってました。
今はケンとバイトの帰り道。バイトはメチャクチャしんどかった。
家でクーラーが効いた中どうでもいいようなテレビを見てゴロゴロ
してたいのに延々とプールの監視をしてなきゃいけないって⋮⋮。
全く、合宿の次の日までバイトなくしてもらっとけばよかったな。
﹁ヤスっていつでも一人暮らしできそうだよな﹂
﹁いやあ、きっと俺、一人暮らしだったら掃除も料理もやらなくな
るんじゃないかなあ? 俺1人なら別に適当でいっかあって思いそ
う﹂
まあ、サツキや両親と別々に暮らすなんて全然考えてないけど。
﹁そういやサツキちゃんは起きたんか?﹂
1685
﹁俺がバイト行く前はまだ寝てた。今日は1日中寝てんじゃない?﹂
﹁サツキちゃんならありえそうだな﹂
だよなあ。
﹁けど、こんな事ばっかりやってた1日だったんだけど、合宿が終
わって日常的な生活が戻ってくると何かほっとするな。ケンもそう
思わないか?﹂
﹁そうか? 何となくもう終わっちゃったんかあ⋮⋮って寂しく思
わねえ? 俺としては合宿、めっちゃきつかったけど、めっちゃ楽
しかったからさ。もっと続いたらなあと思う訳だ﹂
﹁んー⋮⋮俺はあんまり寂しくはねえなあ。確かに楽しかったけど、
そろそろ普通の生活が恋しいと言うか⋮⋮﹂
﹁ヤス、それはホームシックにかかっていたと言うやつか?﹂
そうなのか?
⋮⋮たった6日でホームシックってどんだけ自分寂しがりや?
﹁合宿でヤスが得た物はホームシックだったって訳だ﹂
そんなのいらねえ!
﹁ヤス、家に帰ったら、もう1個きっと得た物があるぞ。いや、な
くした物かな⋮⋮﹂
なんだその意味深な言葉は。すごい気になるだろ!
1686
﹁なくしたー!!﹂
﹁ヤス兄、突然どうしたの?﹂
ようやくサツキも起きた。今サツキは居間でゴロゴロしてる。
﹁体重をなくした!﹂
﹁えーっと⋮⋮わけ分からないよ?﹂
﹁いや、合宿行く前は俺62キロあったんだよ﹂
﹁うんうん、それで?﹂
﹁風呂上がりに体重計のったら57キロになってた! 5キロ無く
した!﹂
びっくりだ。こんなに体重が減っちゃってるなんて。
1687
﹁サツキも乗ってみろよ。絶対やせてるから!﹂
﹁いいけど⋮⋮ヤス兄、絶対見ないでよ﹂
﹁見ない見ない、気にしないで乗れって﹂
⋮⋮⋮⋮。
お、戻ってきた。
﹁⋮⋮私、全く変わってなかった﹂
﹁⋮⋮あれ?﹂
﹁ヤス兄、きっと食べてないだけでしょ﹂
﹁いやいや! そんな事無いって! 食べたけどやせたんだって!﹂
﹁⋮⋮ダイエットしている女性への宣戦布告?﹂
いやいや、違うって! 誰もそんな事言ってないって!
⋮⋮やばい、めっちゃサツキの機嫌が悪くなってきてるんだけど。
﹁大丈夫! サツキ今でもやせてるから! もうちょっと脂肪つけ
た方がいいんじゃとか思ったり⋮⋮﹂
﹁⋮⋮それって胸がないって言いたいんだよね?﹂
しもた、変な言い方してしまった。
1688
⋮⋮完全に機嫌を損ねてしまったなあ。サツキの奴、自分の部屋に
戻っちゃった。
ええと⋮⋮結局、合宿で得たもの、ホームシック。
合宿でなくしたもの、体重、サツキの機嫌⋮⋮⋮⋮⋮⋮へこむなあ。
1689
175話:合宿で得た物、無くした物︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
真面目っぽいタイトルで、中身はあんまり真面目じゃないです。
私は合宿とか、旅行が終わった後家に帰るとホッとする人です。皆
さんはどうですか?
それでは。
1690
176話:遅刻しないための
今日は8月29日金曜日。
今はサツキと一緒に部活へ向かうところ。
合宿の後、一昨日から部活も再開されてサツキも毎日一緒に来るよ
うになって、短距離女子と一緒になって練習してる。
今のうちから一緒になって部活に出とけば、体力も落ちないですむ
から、大山高校に入学してすぐにあるインターハイ地区予選の時か
ら試合に出れるもんな。
⋮⋮ちなみに機嫌を損ねたサツキにはシフォンケーキを焼いてどう
にか許していただきました。
怒らせる度に何かしらデザートを作って機嫌を直してもらってる自
分。
⋮⋮ま、まあいいや。
﹁来年からはこうやって毎日登下校するんだなー﹂
﹁そだね、ヤス兄⋮⋮楽しみ? それとも面倒?﹂
﹁楽しみに決まってるじゃん。何でそんなこと聞くんだ?﹂
﹁べっつにー﹂
⋮⋮変なサツキ。でもホント楽しみ。
﹁時々はここにケンちゃんも混じるのかなー?﹂
1691
﹁ケンって朝、学校に来る時間まちまちだからよく分からん﹂
朝は目覚ましかけても気付かずに寝てる事がよくあるって言ってた
し。
高校生になったんだから自分で起きろって親も放置らしくって時々
遅刻してくる。
﹁下校は一緒になるんだね﹂
﹁そうなんじゃん? ケンはいつもはユッチとアオちゃんと一緒に
帰ってるって言ってたから、下校は5人でって事になりそうだな﹂
﹁2学期からは私もヤス兄の部活行くから、今年の2学期から帰り
は一緒だよ﹂
おお、楽しみだ。
さてさて、今日の掃除はこんなもんでいっか。
⋮⋮お、アオちゃん到着。
﹁ヤス君、サツキちゃん、おはようございます﹂
﹁おはようさん﹂
﹁おはようございます﹂
1692
﹁毎朝早いですね。また掃除ですか?﹂
﹁ん、まあそれもあるけど。集合時間ギリギリでつくのって怖いじ
ゃん。﹃間に合うかな? 間に合わないかな?﹄ってドキドキしな
がら行きたくないし﹂
ケンはそう言うのが好きって聞いたけど。俺にはよく分かりません。
﹁それはそうですね。小学生の時に﹃5分前集合を実行しよう﹄っ
てありましたけど、それを実践してる訳ですか﹂
﹁いや? そんな事は全く考えてない﹂
﹁あれ? そうなんですか?﹂
﹁あれはアホだろ。小6の修学旅行の時に9時集合って言ってるの
に、8時56分に到着したとき、﹃1分遅刻だぞ!﹄って怒られた。
9時集合って言っといて実際は8時55分集合とか訳が分からない﹂
9時1分に遅刻して怒られるならわかるんだが。
﹁ヤス君にしてはギリギリですね﹂
出発前にごたごたがあった気がするんだけど⋮⋮覚えてねえな。
﹁ヤス兄が﹃サツキも連れてくー!!﹄ってごねたんです。確か私
も﹃私も行く!﹄って叫んでましたけど﹂
⋮⋮よく覚えてんな。サツキ。
1693
﹁その時は結局母さんがヤス兄と私を言い聞かせたんだよね﹂
⋮⋮恥ずかしい記憶は忘れたままにしておこう。
﹁ま、まあ何か5分前集合ってどうなんだろうな﹂
﹁そうだよねー。それなら初めから8時55分集合って言っとけば
いいのにね﹂
﹁そして8時55分集合を実践するために結局8時50分集合にな
るんじゃね?﹂
﹁さらに8時50分集合が8時45分集合になっていくんだよね、
そして45分が40分に、40分が35分に35分が30分に⋮⋮﹂
﹁だんだんと早くなっていく訳だ﹂
﹁そうそう。最終的にはすごい早くに集まるんだよね。バーゲン日
の開店前のデパートとか、話題ゲームの発売日前のおもちゃ屋とか、
コミケの前とか﹂
⋮⋮それはまた別な話な気がする。そもそも俺ら全部行った事ない
じゃん。
﹁まあまあ。先生方にとっては5分前になっても現れなかったヤス
君に対して﹃どうしたんだろう?﹄ってビビってたんじゃないです
か? 修学旅行でしたら電車の出発時間もあるでしょうし﹂
﹁んー⋮⋮電車の出発時間は確かかなり後だったから、あんまり関
係ない気がする﹂
1694
ええと⋮⋮はっきり覚えてない。
﹁確かにヤス君の言う通り5分前集合ってよくわからないですけど
ね。5分前集合なんて意識しててもたった5分じゃドジった時に確
実に遅刻しちゃいますもん﹂
﹁わかるわかる。俺もそうなんだよ﹂
5分前ーって考えながら動くと確実に5回に1回は遅刻した。
﹁私たちみたいなトラブルメーカーには5分前なんて意味ないです
よねー﹂
﹁だよなー⋮⋮アオちゃんは遅刻しないようにどんな風にしてる?﹂
﹁私は実際の集合より30分前集合って自分の中で決めておいて、
それに少しくらい遅れてもいいよって考えながら動くと大抵大丈夫
ですね。ヤス君とサツキちゃんはどうですか?﹂
﹁俺もアオちゃんと一緒。ただし、普通の約束は30分前、大事な
約束事は1時間前、ケンとの約束の時は10分前って分けるけど﹂
ケンはどうせギリギリにしか到着しないので、30分前につくと待
ち時間が暇すぎる。
﹁私はヤス兄に予定を言っときます。ヤス兄って予定は忘れないか
ら、任せとけばほぼ失敗しないんですよねー﹂
﹁⋮⋮サツキ、俺がいない時はどうすんねん﹂
1695
﹁ヤス兄⋮⋮私の前からいなくなるの?﹂
﹁うーん⋮⋮それは絶対ないな﹂
﹁じゃあ大丈夫じゃん﹂
そうだな、大丈夫か。
⋮⋮なんか間違ってる気もするんだが⋮⋮気のせいか?
﹁⋮⋮おはよお﹂
﹁おっす!﹂
お、ユッチとケンが現れた。
相変わらずユッチは眠そうだ。
﹁おはよー、ケン&ユッチ。⋮⋮ユッチは待ち合わせって遅刻しな
いように何か考えてる?﹂
﹁⋮⋮突然何の事だあ?﹂
﹁今、そう言う話してたんだよ。いいから教えてや﹂
﹁ヤス、何で俺には聞かんのだ?﹂
﹁お前は遅刻を気にしないから﹂
﹁気にしてるって! ギリギリ5秒くらい前に毎回つくだろ!﹂
1696
﹁5秒くらい後につく事もしばしばだが﹂
﹁えっと⋮⋮そだっけ?﹂
こら! 忘れんな!
﹁⋮⋮まあいいや、んじゃケンは?﹂
﹁よくぞ聞いてくれた! 前はわざと時計を早めたりしてたんだけ
ど、あんまり意味ないよなー、結局実際の時間を計算して、﹃まだ
大丈夫﹄って考えて遅刻するんだよ﹂
それはわかる。俺もやった事がある。
﹁最近はもう携帯だな、家でなきゃいけない時間を計算しといて、
その時間になったら携帯鳴るようにしとく﹂
﹁⋮⋮毎回ギリギリじゃん。鳴るようにする時間、早めた方がよく
ね?﹂
﹁駄目駄目、ギリギリにしとかずに10分前とかにしとくと結局ま
だ10分あるって思って漫画読み始めたりするから﹂
⋮⋮ケンの場合、意識改革をするしかしょうがないなあ。
﹁んじゃ最後、ユッチはどんな事する?﹂
﹁ボク? ボクは遅刻しないよお﹂
﹁なんで?﹂
1697
﹁ボク、遅刻すると罰が待ってるんだもん﹂
なんじゃそりゃ。
﹁いつも夕食はボクとおねえちゃんとおにいちゃんの3人で食べて
るんだあ﹂
ふむふむ、お父さんとお母さんはどこへ行った?
﹁その時に今日あった事、いろいろ話するんだあ。そしたら、その
日に誰かと待ち合わせして遅刻すると、絶対おねえちゃんが気付く
んだよ﹂
すげえな、ユッチのおねえちゃん。
⋮⋮ユッチが分かりやすいだけか。
﹁遅刻はおねえちゃん、ものすごく怒るんだよねえ⋮⋮﹃遅刻する
ような男とは付き合うなあ!﹄ っていつも言ってるんだあ﹂
ユッチのおねえちゃん、待ちぼうけを食らった事があるんだろうか
⋮⋮。
﹁ヤス、合格だぞ﹂
﹁ケン君は不合格です。陸上部ではヤス君だけですね﹂
またそんな話をして⋮⋮。
﹁ケンとアオちゃん、何の事だあ?﹂
1698
﹁ユッチの恋人候補ですよ。ヤス君はオッケーって事ですね﹂
﹁え、え、えええ!?﹂
ユッチ、聞き流せよ。
﹁アオちゃんのバカあ! 何でヤスなんだよお!?﹂
﹁もうお互いの家にいった事ありますし。お泊まりもしましたよね
? ご両親にも会った事あるんじゃないですか?﹂
ユッチのおねえちゃんとおにいちゃんにはあった事あるけど、両親
は見てないな。
﹁そっか。挨拶まで済ませてるとは⋮⋮2人とも手が早いな﹂
お互いの両親に挨拶した事あるのはポンポコさんだな⋮⋮。
またからかわれるので言うのやめよ。
﹁ケンとアオちゃんのバカあ! いっつもいっつもボクとヤスをく
っつけようとするなあ!﹂
﹁ユッチ、顔真っ赤です。照れちゃって、可愛いです﹂
﹁うるさいうるさいい! 照れてないい!!﹂
ユッチ⋮⋮こういう話は無視しようよ。
騒ぐとノルんだから⋮⋮俺もすぐに反応してしまうけど。
1699
176話:遅刻しないための︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
私の場合は﹃予定より30分早い時間が待ち合わせだと思う﹄とい
うヤス君とアオちゃんの方法を普段やってます。
同じように遅刻魔の友達には、12時集合だったら、初めから11
時45分集合で。と嘘ついときます。
大抵11時55分くらいのちょうどいい時間にきてくれます︵^^;
遅刻魔の友達に是非お試しください。
それでは今後ともよろしくです。
1700
177話:初めてのバイト代
今日は8月30日。夏休みも後2日だ。今日も午前中部活で1時間
半走ってきて、午後からバイト。
そのバイトも今ようやく終わった。
﹁お疲れっしたー!﹂
﹁おお、お疲れさん。お前らは今日で最後のバイトだったかな?﹂
﹁そうです、明日のシフトには入ってません﹂
﹁明日は8月最後、お前らに取っては夏休み最後の日か。明日も入
るか?﹂
﹁無理っす! 宿題が真面目にヤバいです! 全然終わってません
!﹂
⋮⋮ケン、合宿終わってからのこの数日間、全く宿題に手を付けて
ないな。
今年は絶対手伝わないぞ。毎年手伝ってひどい目にあってきたんだ
からな。
﹁俺も明日は無理です、すみません﹂
明日は久々に家族で過ごす時間。先週先々週と日曜日は家族で過ご
せてない。
明日はのんびりと家で家族で過ごしたい。申し訳ないが休ませても
1701
らお。
﹁残念⋮⋮お前らが入ると俺が楽できたのに﹂
⋮⋮先輩、正直っすね。
﹁まあいっか、他の奴に入ってもらうし。これが給与明細な。バイ
ト代は銀行に振り込んであるから﹂
﹁ありがとうございます! それではまた会う日まで﹂
﹁おう! また来年、よろしくな!﹂
⋮⋮ごめんなさい、来年は結構です。
﹁ヤス、給料どんくらいいった?﹂
﹁ええと⋮⋮11万円﹂
すげえ! お年玉でもこんな数字見た事無いし。こんなに手元に入
ってきていいんだろか。
﹁ケンは?﹂
﹁ん? 教えねえ﹂
1702
﹁おい! 人に聞いといてそれは無いだろ!﹂
﹁冗談だよ。えっとだな⋮⋮13万円﹂
⋮⋮すげえ。俺より2万も多いじゃん。
﹁⋮⋮ケン、めっちゃ稼いだな﹂
﹁今年の夏休みはバイト三昧だったしな﹂
﹁確かに。部活以外の時間ってほとんどバイトだったんじゃなかっ
たか? 去年一昨年は家で遊んだり、どっか遊びにいった記憶があ
るんだけど、今年はほとんどないんだけど﹂
﹁だな、俺なんかヤスがぶっ倒れたときに代わりにシフトに入った
ら、他の人からも頼まれちゃってさ。18日連続出勤というのを経
験したぞ﹂
﹁⋮⋮そりゃすごい﹂
毎日バイトし続けて、18日目っていうのはどんな気分になるんだ
ろう?
﹁座りっぱなしのバイトはもういいや。忙しくても動き回ってるバ
イトがいい﹂
それならファミレスのホールがいいんじゃね?
土日のランチの時間はいつもてんてこ舞いになってる気がする。
﹁ところで、ヤスはバイト代は何に使うんだ?﹂
1703
﹁言わなかったか? 携帯代だ﹂
﹁いやいや、11万あるだろ? ヤスの携帯代なんて月に2000
円いかないんじゃなかったか?﹂
﹁⋮⋮ああ⋮⋮お前の嫌がらせメールが無くなったら一気に200
0円以下になったよ﹂
最初の月が1万円越えしたのは全てケンのせいだったって事だ。
﹁俺何にも聞こえなーい﹂
﹁聞けよ!﹂
﹁分かった、聞くことにする。だがヤスの言葉は右の耳から入って
左の耳へ出て行く﹂
﹁頭に残せよ!﹂
﹁今、俺は見ざる言わざる聞かざる﹂
﹁見ろ、言え、きゅけ!﹂
﹁⋮⋮きゅけ?﹂
﹁かんだ⋮⋮﹂
くそう、しまらねえなあ。
1704
﹁まあ⋮⋮携帯代に関してはごめん﹂
﹁よし、それでいい﹂
まったく、最初っから謝っておけばいい物を。
﹁んじゃ、過去の話は水に流すとして⋮⋮ええと、何の話だった?﹂
﹁ヤスのバイト代の使い道﹂
﹁んー、やっぱりサツキと遊びに行くのに使う。映画に行ったり、
ボーリング行ったり、サファリパーク行ったり⋮⋮クリスマスは今
までよりいいもんプレゼントできそうだし、スケート遊びにも行け
るし、来年の夏休みに海にいくのに使ってもいいよな﹂
おお、11万あればいろんなところ行き放題ではないですか。
﹁⋮⋮ヤス、駄目学生と言っていいか?﹂
﹁なんでやねん!﹂
﹁自分をよく見せようって言葉だったら﹃バイト代は一所懸命働い
てくれてる親にあげるんだ﹄とか﹃バイト代は貯金して、大学入学
のための学費の足しにする﹄とか言うもんだぞ。バイト代は全て遊
びに使いますって駄目学生じゃん﹂
別にバイト代を全部遊びに使うつもりは無いんだが。
﹁自分をよく見せようとは思わんが⋮⋮まあ親に何かプレゼントっ
ていうのはやりたいな、今日はこの金使ってごちそうにしよ。ケン
1705
も来るか?﹂
﹁お、ごちそうさま﹂
ん、後で適当にメニュー考えよ。
﹁結局ヤスのバイト代はサツキちゃんへ貢ぐ金に全部消えてくのか
?﹂
⋮⋮その言い方はやめてくれ。何か俺がサツキの金づるみたいじゃ
んか。ほぼ確実にサツキと遊ぶ金で11万も使わねえぞ。
﹁それ以外には部活の靴。5月に買ったのにもう結構いたんできて
るんだよな。この辺とかそろそろ穴開きそう⋮⋮底もすごいすり減
ってきてるんよ﹂
﹁ああ、それはあるな。俺も結構ぼろぼろになってきたからそろそ
ろ新しい靴買おうって思ってたんだよ。ついでに新人戦のためのス
パイクも買っときたいし﹂
⋮⋮そういや俺、新人戦についていまだに何にも聞いてない。今度
ウララ先生かポンポコさんに聞いとこ。
﹁んじゃまたユッチに頼むか﹂
﹁ポンポコさんもついてきてもらった方がいいんじゃん? 長距離
はポンポコさんのが詳しいだろ﹂
そだな。
1706
﹁んじゃ、また今度靴買いに行こか﹂
﹁オッケ﹂
ふう⋮⋮なんだかんだ言って初めてのバイト、何とか無事終わって
よかったあ。
1707
177話:初めてのバイト代︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
バイトの話、ほとんど何も無いままバイト終わっちゃいました⋮⋮
ちょっと失敗。
ところで、ケン君は18日連続と言っていましたが、私の連続バイ
トは2週間連続が最高です。
後半になってくるとバイトに入った瞬間から疲れた気分、バイト先
で流れてた音楽が頭の中でいつも流れるようになりました。
もっと長く働くとどうなるんでしょう?
それでは今後ともよろしくです。
1708
178話:夏休みを振り返る雑談
今日で夏休みも終わり、明日から学校だ。今日はケンもおらず、サ
ツキの部屋で2人でおしゃべり中。
今頃ケンは終わらない宿題を必死でこなしているのだろう⋮⋮御愁
傷様。
きっとユッチもこなしてるんだろうなあ⋮⋮あ、ユッチは開き直っ
てたな。
﹁ヤス兄、夏休みって長いねえ﹂
﹁夏休みなんてそんなもんだろ? 長いけど振り返ってみれば短い
ってものじゃん?﹂
﹁でも、すごく密度の濃い夏休みだった気がするんだけど﹂
﹁だなあ⋮⋮いろいろイベントがあったからじゃないか?﹂
﹁何かイベントなんてあった? 私の中総体とヤス兄の合宿くらい
じゃなかった?﹂
﹁それが長かったんだろ? 十分イベントじゃん﹂
﹁ヤス兄⋮⋮もしも来年、海に行ったり、旅行に行ったり、祭りに
行ったり、夏のどっかの大会に出場したりしたら、来年はすごい密
度の夏休みって事になるよ? 来年も当然合宿はあるし﹂
ん、確かに大変そうだ。たかだか2つのイベントで密度が濃いなん
1709
て言ってたら、来年、体が持たないんじゃないか?
﹁⋮⋮まあ、いいんじゃないの? 来年の事は来年考えよ?﹂
﹁あ、ヤス兄、今考えるの放棄したでしょ﹂
⋮⋮ばれたか。
だって来年の事を不安がってたってしょうがないじゃん。
﹁ところでヤス兄、また話せる女の子が増えてたね﹂
ええと⋮⋮そうだったっけ?
﹁ゴーヤ先輩とキビ先輩とミドリちゃんの事﹂
﹁陸上部関係だけじゃん﹂
﹁男子とはしゃべらないくせに﹂
サツキ、何か刺々しいぞ。
﹁また夏休み前の時みたいに今回はゴーヤ先輩とキビ先輩とミドリ
ちゃんの紹介、する?﹂
﹁いや、別に3人とも詳しく知らないからいい﹂
﹁知ってる事だけで良いから話してよ﹂
ええと⋮⋮。
1710
﹁ゴーヤ先輩、本名不詳、生年月日不詳、しゃべり方は何となく男
っぽい、外見も綺麗や可愛いよりかっこいいが似合う、野菜が好き、
陸上部のキャプテン、専門種目は400m、3年の先輩とは3日で
破局した、その先輩以外とも付き合った経験はあるっぽいけど、今
誰かと付き合ってるかどうかは知らない⋮⋮﹂
あれ? こんなもんしか知らね。
﹁なんだ、ヤス兄が知ってる事って私も知ってる事だけなんだね﹂
そりゃそうだ、しゃべるようになったのは合宿からだぞ。
﹁あ、あとゴーヤ先輩のマッサージはマッサージじゃないぞ。地獄
を一瞬見た﹂
﹁⋮⋮それ知らない﹂
⋮⋮怖いから、サツキ。
なんでこんな責められてる気がするんだろう?
﹁次、キビ先輩は?﹂
﹁キビ先輩、名前も生年月日も知らん。専門は400mハードル、
肉好き、外見を言い表すなら、可愛い? かなあ。えっと⋮⋮彼氏
はいた事ない?﹂
﹁うん、いないって言ってた。食事の食べる量にみんなひくんだっ
て﹂
サツキのがよく知ってんじゃん。
1711
﹁確かによく食べるけど、俺はそんなに違和感感じないけどなあ。
大体運動してるんだったら食べなきゃ駄目だろ﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮黙るなよ、怖いよ。
﹁最後、ミドリちゃんは?﹂
﹁ええと、アオちゃんの妹なんだから、本名は木野ミドリだろ。確
か字は、﹃緑﹄じゃなくて﹃翠﹄って言ってたかな。なぜか﹃すい﹄
ちゃんって言い間違えられる事があって、それは嫌らしい。生年月
日は2月22日。覚えやすいだろ? アオちゃんが大好きでべった
り。アオちゃんに彼氏が出来たときはものすごく嫉妬したって聞い
たぞ。でも実は自分も付き合った事は1回あるとか。アオちゃんが
彼氏を作って笑ってる時にどんなもんなんだろうって⋮⋮﹃お姉ち
ゃんといた方が楽しい、全然つまんなかった﹄って言ってたけど。
すごいシスコンだよな。それと家事はアオちゃんと一緒によくやる
らしいんだけど、お姉ちゃんについつい任せちゃってあんまり得意
じゃないらしい。後、今はバスケットボール部に所属してるんだっ
て。背が高いからセンターなのかと思ったけど、何でもやるオール
ラウンダーなんだって言ってたぞ。全員が何でもこなせるようにな
る事が部の方針なんだって﹂
﹁⋮⋮ヤス兄⋮⋮詳しいね﹂
﹁そりゃ、合宿中毎朝会ってたし、その時にしゃべるさ﹂
﹁何で会ってるの!?﹂
1712
﹁早朝練。ポンポコさんが一緒にやってくれるって言ってたけど、
全く起きてこなかったから、ミドリちゃんが毎回付き合ってくれた﹂
﹁⋮⋮ヤス兄が早朝練してたなんて聞いてない﹂
﹁そりゃ、サツキはどう頑張っても起きんだろ?﹂
﹁決めつけないでよ、私だって起きようと思えば起きれるんだから﹂
﹁合宿中朝の集いに何回遅れたっけ?﹂
﹁ヤス兄⋮⋮ひどい﹂
ええとそんなくらい顔しないで欲しいんだけど
⋮⋮なんかすっごいひどい事をしてる気がしてきた。
﹁⋮⋮いいんだもん、明日から私は毎日帰り道一緒だもん﹂
﹁ん? 聞こえない。もうちょい大きい声で言って?﹂
﹁なんでもない! それより、夕方から高校行って部活やるし、勉
強大変だと思うんだよね。ヤス兄、教えてね!﹂
⋮⋮どしたの? サツキ?
﹁や、そりゃ手伝って言えばいくらでも手伝うぞ?﹂
﹁ヤス兄、ありがと!﹂
1713
⋮⋮安請け合いしちゃった気もするけど、サツキの笑顔が見られる
ならいいやあ。
1714
178話:夏休みを振り返る雑談︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
明日から2学期編開始です。
まだ2学期編の話、何も書いてません。
一番やっちゃったなあと言うのが夏休み始まる前にネタにした英語
スピーチコンテストです。
英語が思い浮かばん⋮⋮何書こう?
こんな調子ですが、これからもよろしくです。
1715
179話:1年2学期開始
今日は9月1日月曜日、長かった夏休みも終わってとうとう学校が
始まる。
ま、今年は休みと言っても部活とバイトばっかりしてて、全然休み
って感じはしなかったから夏休みボケってのは無いな。
今なっがい始業式も終わって、もうすぐホームルームの時間。
﹁ケン、無駄なあがきはやめようや﹂
﹁ヤス、話かけないでくれ。今日の提出分はギリギリで終わりそう
なんだ﹂
﹁今日の提出分って⋮⋮何の事だ?﹂
﹁ヤス、宿題の提出は全部教科担任だろ? って事はその教科の最
初の授業までに終わってればいいんだ。今日集めんのはきっとウラ
ラ先生のだけだ﹂
ああ、なるほど。ウララ先生はこの後のホームルームで集めるだろ
うって事か。
﹁後何枚?﹂
﹁後1枚! 昨日バッグひっくり返したら30枚くらいプリントが
出てきてさあ。まさかあんなに多いとは思わなかった。と言う訳で
これ以上話かけないでくれ﹂
1716
ん、了解っす。
﹁みんな、お待たせ!﹂
タイミングよくウララ先生が来ちゃったぞ。大丈夫か、ケン。
﹁きりーつ! 気をつけー、おはよーございます!﹂
﹃おっはよーございます﹄
﹁着席!﹂
⋮⋮俺、号令も慣れたなあ。
﹁はい、みんなおはよ。⋮⋮みんな黒くなったねー、遊びすぎ?﹂
俺は部活とバイトで真っ黒になりました。
4月は白かったアオちゃんも今は真っ黒に日焼けしてる。
﹁さくっと2学期の日程を話したらすぐにホームルームは終わりま
しょうか⋮⋮明日は課題テストもあるし﹂
やな言葉を⋮⋮何で休み明けに毎回テストやるんだろ?
﹁明日課題テストなのはおいといて、まず9月20日、全国高校生
スピーチコンテストの予選があります。みんなちゃんと夏休み中に
考えておいた?﹂
すみません、何も考えてません。
1717
my
love
Satsuki
,
and
family.﹄で終わってます。
俺の文章は﹃I
ove
I
l
﹁次に9月22日、球技大会。今年は男子がバレーとサッカー。女
子がバレーとバスケになりましたから。ヤス君とケン君、後で勝て
るように決めといてね﹂
﹁はいっ!﹂
⋮⋮すげえ、ケンのやつ、話を聞いてないと思ってたけどちゃんと
聞いてたのか。
宿題をこなしつつ返事が出来るんだな。
しかし⋮⋮勝てるようにってどやって決めればいいの?
﹁それから9月29日には校技があります、1年では茶道を学びま
すので、なんとなく茶道の雰囲気を味わってみて﹂
ん、了解。
﹁11月4日、マラソン大会。運動部のみんなはしっかり目立って
ね﹂
うわ⋮⋮めっちゃプレッシャー。
﹁12月には進路希望調査がありますから。大山高校では2年生か
ら理系と文系に分かれるので、この時までに文系か理系か進路を考
えておく事﹂
うわ、1年の時からもう進路の事考えなきゃいけないんかよ。
1718
﹁また、2年生になったら特進クラスと言うのがありますから、興
味ある人は特進クラスにすすんでください﹂
特進クラスねえ⋮⋮興味ない。
﹁別に特進にすすまなくても、勉強はできるけどね。朝早く、放課
後、昼休みに個別に先生に質問にきてもいいよ﹂
そこまで勉強熱心にはなれません。
﹁2学期はいろんな部活で新人戦やコンテストがあると思うから、
頑張ってね!﹂
ういっす⋮⋮何にも聞いてないけど。
﹁それじゃ、これでホームルームは終わり! 英語の宿題は最初の
授業の時に集めるからね。まだ終わってない人は頑張って終わらせ
ておく事﹂
﹁まじ!? 今終わったところなのに!﹂
残念だったな、ケン。
﹁でも、古典担当の学年主任から﹃最初の授業で返却するから明日
までに集めといてくれ﹄って頼まれちゃったので、古典の宿題は提
出してね。今日忘れた人はちゃんと明日持ってくる事﹂
﹁終わった⋮⋮白紙っす⋮⋮﹂
御愁傷様、ケン。
1719
まともにやったら確実に明日までに終わる分量じゃない事は言わな
いでおこう。
﹁それじゃ、解散。ヤス君号令お願い。⋮⋮あ、ヤス君は後で職員
室の私のとこ来てね﹂
⋮⋮また?
﹁きりーつ!﹂
ガタガタッ。
﹁気をつけー、礼!﹂
﹃さよーなら!﹄
で、何故か呼び出されたので職員室へ。
﹁失礼しまーす﹂
えっとウララ先生の机はと⋮⋮学年主任の机の上、いつの間にかぬ
いぐるみでいっぱいだなあ⋮⋮手作り感でいっぱいだ、何となくい
い感じ。
1720
全校生徒にバレた時点で開き直ったな。
⋮⋮ま、それは置いといてウララ先生のところへ⋮⋮何か資料を作
成してるみたい。
﹁ウララ先生、ヤスです﹂
﹁はーい、待ってたよ﹂
くるっとこっちに向き直る。
﹁えっと、何の用でしたっけ? 7月終わりにある先生の授業で天
井からムカデが落っこちてきて、﹃ム、ム、ム、ムッカデーー!?﹄
って叫んで、授業妨害になった事ですか?﹂
﹁それは聞いたけど、それは不可抗力でしょ?﹂
あ、それはおとがめなしか。
﹁桜の木にタオルが飛んでって取ろうと木登りしたら太い枝をバキ
ッとやった事でしょうか?﹂
﹁ううん? その事じゃないよ?﹂
あれ? それはバレてないのか。
﹁んじゃ今日の始業式のとき、退屈で輪ゴムをいじって遊んでたら、
ピューンって吹っ飛んでって眠ってる教頭先生のでこにパチンと当
たった事ですか?﹂
﹁あれはお前か! 痛かった、痛かったぞー!﹂
1721
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮あれ?
﹁ヤス、桜の木の話と輪ゴムの話は後でしっかりとみんなで聞きま
すからね﹂
⋮⋮先に言っといて謝れば、罪は軽くなると思ったのに⋮⋮黙っと
けばよかった。
ええと⋮⋮それじゃ何だろ?
﹁ウララ先生、お待たせいたしました﹂
あれ? 何でポンポコさんも来てんの?
﹁ヤス、ごめんねー、まだ新人戦の話なんにも聞いてないでしょ。
短距離と他の中長距離には話してたんだけどね﹂
⋮⋮何故俺だけ仲間はずれ?
﹁ヤスは他の長距離と別に練習してるから忘れられたのだ﹂
あ、そっか。⋮⋮でも忘れないでほしい。
﹁と言う事でヤスは何に出たい?﹂
﹁えっと⋮⋮ポンポコさん? どうしよ?﹂
﹁別に何でもいいぞ。ヤスの好きにしたらいい。ただし、中長距離
は800、1500、3000障害、5000、5000ウォーク
の中から選ぶ事だな﹂
1722
﹁⋮⋮んじゃ5000メートルで﹂
﹁1種目でいいのか?﹂
﹁ん、スピード練習なんもしてないし、障害飛ぶ練習もしてないし、
歩く練習もしてないから。5000しかないでしょ﹂
﹁了解した。⋮⋮ウララ先生、よかったです﹂
﹁だねー﹂
⋮⋮何が?
﹁実はもう種目のエントリー、終わっちゃってるんだよね。ヤスの
希望聞かずに5000メートルで出しちゃったからさ﹂
何で勝手にすすんでるの!?
﹁他の中長距離の希望聞いたら、5000メートルしか空きがなか
ったんだよね。じゃあ聞いてないけどヤスは5000メートルでい
いかなって。1500メートルって言われたらどうしようかと思っ
てた。ヤス、5000メートル希望者だし﹂
うん、そうなんだけどさあ。
それなら最初っから﹃あんたは5000メートルだから﹄って宣言
しといてくれればいいのに。
﹁ヤスにとって、初めての大会だからね、気楽に行ってね﹂
1723
ういっす。
﹁それじゃ⋮⋮この話は終わりにして、ヤス? 周りを見てご覧?﹂
周り?
グルグルッとな⋮⋮⋮⋮周りに厳つい教育指導の先生方&教頭先生。
﹁ええと⋮⋮なんでしょうか?﹂
﹁桜の木﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁輪ゴム﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁まあ、ちょっとこっち来ような、ヤス﹂
isn't
good
enough.
Good
ねね、ごめんなさいで許して! これぐらいなら警察もきっとごめ
んなさいで許してくれるよ!
﹁Sorry
Bye!﹂
﹁ウララ先生、ヘルプミー!﹂
luck!
ウララ先生! 帰らないでー! ポンポコさんも行かないでくださ
い!
1724
いやあ、久々の反省文だあ、75枚⋮⋮きっついなあ。
今日の教訓⋮⋮口は災いの元。
1725
179話:1年2学期開始︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
どうでもいい話ですが、
﹁紙のリサイクルをしよう!﹂
と書かれた紙が燃えるゴミに捨てられていました。
何となく笑えました。
−−−
どうでもいい話ですが、
﹁今日はそんなに寒くないですね﹂
と会議室で先輩に会議前に話しかけたら
﹁そんなことねえよ、寒い!﹂
とどうでもいい言い争いになりました。
その後、続々と会議するメンバーが入ってくるのですが、全員
﹁うー、さみいさみい﹂
と言いながら入ってきました。
勝ち誇った先輩の顔が悔しかったです。
⋮⋮自分の感覚はおかしい。
1726
参考にさせていただきました。
←
謝ってすむ問題じゃないよを英語で言うと?
http://success−english.net/can
yousay/sorry.htm
それでは今後ともよろしくです。
1727
180話:評価、酷評︵前書き︶
今回、半分ぐらいひがみが入ってます。
1728
180話:評価、酷評
今日は9月5日金曜日。
ケンが無理矢理宿題を終わらせて、俺も無理矢理反省文書いて、よ
うやく暇な時間が出来た。
で、お疲れ様って事で騒ごうとケンがうちに泊まりにきたと言う流
れ。
⋮⋮騒ぐはずだったのに、今やっているのは﹃集中力ゲーム﹄。盤
面を2人で食い入るように見つめている。
さっきまでサツキも入って3人でやってたんだけど、サツキは今風
呂に入ってる。
﹁どした? ヤス。ヤスの番だぞ﹂
﹁や、﹃小説家になろう﹄の評価システムについて考えてた﹂
﹁なんで集中力ゲームをやりながらそんなんを思うんだよ⋮⋮それ
がどうかしたか?﹂
無言になるといろんな事を考えだすもんだ。
﹁こう、相互評価ってどうにかならんか?﹂
﹁相互評価って評価しますから評価してくださいってやつか?﹂
﹁そうそう、それ﹂
﹁んー⋮⋮なんで?﹂
1729
﹁だってさあ、ランキングに評価順ってあるじゃん﹂
﹁まあ、確かにあるな﹂
﹁相互評価でも評価なんだよ﹂
﹁そりゃそうだよな﹂
﹁相互評価って普通★1とか2は付けんだろ?﹂
﹁まあ、だろうなあ。そんな事したら相手の心証が悪くなりそうだ
し﹂
﹁で、相互評価の信頼性って基本的には5なんだよ。すごい高得点
なんだよ﹂
﹁だろうなあ、大抵の場合長々と書くから、文字数が少ないための
信頼性の低下と言うのはないし。そもそも相互に評価するんだから、
小説家になろうで書いている人が書くわけだ。そうすると信頼性っ
て5じゃなかったか?﹂
﹁だよな。ってことは相互評価をすると評価順でかなり上位にくる
んだよ﹂
﹁まあ、別にいいんじゃね?﹂
﹁なんでさ? 読者の立場からすると、面白そうな作品が探しづら
いんだよ﹂
1730
﹁なるほど⋮⋮俺はアクセスランキングで探してるからあんまり気
にした事がないけど、読者の立場からすればそうなのかもな﹂
﹁だろ?﹂
﹁いや、ヤスが書いてる作品の評価があがらんのでひがんでるのか
と﹂
オウエンジャーの事か? ⋮⋮ってかあれ小説じゃないし。小説じ
ゃない作品の評価をしてもらうのは悪い。
こそっと磁石を盤面に置いてっと⋮⋮おし、くっつかない。
﹁ケンの言う事を真に受けるんだったら、書き手の立場から考える
と別に良いんじゃねって事か?﹂
﹁んだ﹂
﹁なんで?﹂
﹁ええとだな⋮⋮大衆ウケしてる作品は相互評価してなくても上位
にいってるだろ?﹂
﹁そだな﹂
﹁つまり、書き手が相互評価うざいって言うんだったら、相互評価
してる書き手に相互評価依頼せずとも勝ってみろやあって事だな﹂
﹁⋮⋮なるほど﹂
俺も書いてる時はそう言う考えでいこか⋮⋮しかし、読者としては
1731
相互評価の評価と純粋に評価をもらった評価は区別されていて欲し
い。
﹁それより俺がめんどいなあって思うのは、過去の面白い作品を見
つけづらい評価法だなあって思うんだが﹂
﹁なんで?﹂
﹁完結した作品だと、徐々に読者も減ってくだろ? そうするとア
クセスランキングでも上位に来ない﹂
ふむふむ。
﹁評価ポイントでも、今、4半期得点というのだろ? これは最近
受けた評価で順位を決める訳だ。そうすると過去の面白い作品は見
つけづらい﹂
ふむふむ。
﹁小説家になろうのトップページでも、現在の順位を伝えてるって
だけじゃん? 個人的には何かしら基準を満たした作品は、殿堂入
り作品とかして欲しいんだけど⋮⋮ウメさんにそこまで要求するの
は厳しいかな?﹂
まあなあ⋮⋮ここ、個人運営のサイトだし、ただでこれだけのシス
テム使わせてもらってると思うとな。
﹁そう言えば、ケンの意見としては評価と言えば、酷評はありなの
か?﹂
1732
﹁酷評もそりゃありだろ? 何で?﹂
﹁や、酷評をウケてへこんで書くのやめるって人いないかなって思
っただけ﹂
﹁うーん⋮⋮それは確かにな。遊びで書いてるだけの人に﹃つまん
なかった﹄って書かれると人によっては書く気を無くすだろうなあ﹂
﹁だろ?﹂
﹁⋮⋮しかし、書いても書いても感想が来ないのもそれはそれで寂
しいぞ﹂
⋮⋮それはそうかも。
﹁確かサツキちゃんが持ってる漫画にそれに関して何か載ってたぞ
?﹂
﹁なんの漫画?﹂
﹁エスパー魔美、第1巻。藤子・F・不二雄原作の話だな﹂
﹁ええと⋮⋮何ではっきり覚えてんだ?﹂
﹁最近サツキちゃんの部屋で読んだから﹂
﹁おい! 何で俺が知らん間にサツキの部屋に入ってんだよ!?﹂
﹁ちゃんとサツキちゃんの了解はもらってるし、サツキちゃんも同
じ部屋にいたぞ?﹂
1733
⋮⋮ケンなら大丈夫と言うのは分かってるんだが、何故か腹立たし
い。
﹁いい加減そのシスコン治らんかなあ⋮⋮サツキちゃんもヤスにぞ
っこんだししょうがないか﹂
﹁何か言ったか?﹂
﹁いや? 何も言ってないぞ。それでだな、その1巻にこんなセリ
フが載ってたんだな⋮⋮っと⋮⋮ヤスの番だぞ﹂
ち、ケンの奴も成功したか。そろそろ難しい置き場しか無いんだが。
﹁⋮⋮どんなセリフ?﹂
﹁魔美のお父さんって画家なんだけど、ある時評論家に描いた絵を
コテンパンに酷評されたんだな。幼稚で稚拙とか﹂
﹁ほうほう﹂
﹁で、酷評した人を悪者扱いにしてた魔美に言ったんだ。﹃公開さ
れた時から、見る人全員が批評をする権利がある。批評されるのが
嫌なら誰にも見せないでおけばいいんだ﹄って感じな言葉を言った
んだよ。詳しくは覚えてないから適当なのは了承してくれ。ちゃん
とした言葉のが心に残るから読んでみてくれ﹂
何か宣伝っぽい気がするのは気のせいか?
後でサツキの部屋に読みにいこ。
1734
﹁ふむふむ、書き手は批評されっぱなし?﹂
﹁その次に﹃批評する権利もあるが、僕にだって怒る権利はある!﹄
って言ってるぞ﹂
なるほど⋮⋮つまり、公開した時点で、酷評は受ける覚悟を持って
いないと駄目って事か。
ただし酷評を受けた後はどう反論しても、どう反省しても、それは
個人の自由と言う事だな。
﹁⋮⋮荒らしもありになるのか?﹂
﹁それは無しだろ。荒らしと酷評は別もんだろ? まあ、酷評を荒
らしと言う人もいるけど⋮⋮それは知らん﹂
だよな。
﹁話は戻るが、最後の魔美のお父さんのセリフ、めっちゃかっこ良
かったぞ﹂
﹁どんなのだったん?﹂
﹁﹃あいつにもけなしようのないすばらしい絵を描いてやるさ﹄⋮
⋮うろ覚えだからちょっとずつ違ってるかもしれん﹂
そうやって藤子先生自身が思ってきたんだろうなあ⋮⋮。
すごいなあ⋮⋮。
﹁⋮⋮藤子先生って偉大だな﹂
1735
﹁だな⋮⋮まあ、プロとアマの違いはあるかもしれんけど﹂
それはそうかも。
﹁個人的には書き手はめげずに頑張れ、読者は酷評書く時は無理矢
理でもいいから理由も書いて、と思う﹂
確かに、ちょこっとでも理由書いてくれれば﹃うん、言われた通り
直そ﹄とか﹃残念だけど、感性が合わんのだな﹄と思えるからな。
⋮⋮おし、酷評されてもへこみつつ頑張ろ。
今は盤面に集中して⋮⋮磁石をそっと置いてみる。
カチャカチャカチャッ!!
﹁うああああっ! 引っ付いたあ!﹂
﹁残念だったなヤス、今回はヤスの負けだな﹂
これだけくっついちゃったら、後は適当に置いてっても全部置ける
もんなあ⋮⋮。
﹁ちっくしょ⋮⋮現在の戦績はいくつだったっけ?﹂
﹁えっとだな⋮⋮俺の2勝、ヤスの2勝、サツキちゃんの10勝だ
な﹂
⋮⋮俺らしょぼいな。
1736
180話:評価、酷評︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ケン君のセリフはエスパー魔美第1巻、﹃くたばれ評論家﹄から借
りました。
﹃集中力ゲーム﹄はこんな感じのです。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83
%94%E3%83%BC%E3%83%97%E3%83%AB
−%E9%9B%86%E4%B8%AD%E5%8A%9B%E
3%82%B2%E3%83%BC%E3%83%A0/dp/B
000I6BMP8
それで﹃読者数が増やせない﹄の感想が﹃ウェブ小説斜め読み﹄と
言うところで、﹃相互評価﹄についても取り入れて欲しいと書かれ
てたのでこんな話になりました。
ウェブ小説斜め読み
←
http://novelreview.blog4.fc2.c
om/
ぶっちゃけ、相互評価は﹃相互感想﹄にすると、文句はへるんじゃ
ないかと思ったりしてます。
どうなんでしょう?
それでは今後ともよろしくです。
1737
181話:ゴロゴロ
今日は9月6日土曜日、快晴だ。
昨日あのままケンは泊まってった。今日はそのまま兄貴のアパート
へ行くらしい。
俺はと言うと、サツキと陸上競技場へ部活。
﹁ヤス兄、タータントラックの陸上競技場で走るのと土のグラウン
ドで走るのってそんなに違う?﹂
あ、そっか。サツキはまだタータントラックで走った事無いんだっ
け。
合宿はタータントラックで練習する日にどしゃ降りだったからなあ。
﹁んー⋮⋮俺はそんなに実感はわかないけど⋮⋮ユッチいわく、す
ごい変わる。特にスパイクを履いて走ると本当に違うって言ってた
ぞ﹂
俺はあんまり分かんないんだけど⋮⋮短距離の方がタータントラッ
クの恩恵を受けるのかな。
まあ、時間走とか全力で走らず長い距離を走るだけじゃ、分からん
のかも。
﹁そうなんだ、でも私スパイク持ってないんだけど﹂
﹁普通のアップシューズでも結構変わるんだって。慣れないうちは
スパイク履くと感覚が違うから走りづらいかもって言ってたぞ﹂
1738
﹁そんなもんなの?﹂
﹁やっぱりスパイクの裏についてるピンがあると結構変わるもんな
んじゃん?﹂
ユッチに見せてもらった事があるんだけど、短距離ってあんなピン
が長いのを付けて走れるんだろうかと思ってしまった。
﹁ま、楽しみにしとけ﹂
﹁あいあい、ヤス兄﹂
﹁わ、よくテレビで見るトラックだー! すごいねヤス兄、こんな
ところで練習できるんだね!﹂
﹁だよな、俺も初めて見たときびっくりした。場所によってはすっ
ごい有名選手が練習してたりするんだって﹂
1739
俺が来た期間では見た事無いけど。
﹁わ、わ、芝だよヤス兄! ゴロゴロしよーよ!﹂
﹁⋮⋮それは何か違わね?﹂
陸上競技場の芝はゴロゴロするためじゃなくて、槍投げとか投擲種
目のためのだった気もするんだが。
﹁いいじゃん、気持ち良さそうだもん﹂
﹁ん、まあ確かにそうなんだけどな﹂
芝生まで行くと暑いんです。みんなが来るの待ってる間は日陰にい
たいんです。
﹁ヤス兄、そんな日陰にいちゃ駄目だよ! ヤス兄の名前なんだと
思ってるの?﹂
﹁⋮⋮康明だけど?﹂
それがどうかしたか?
﹁でしょ? ﹃明﹄るい日射しをめいいっぱい浴びて健﹃康﹄に過
ごそう! だよ。ひなたに来ようよ﹂
﹁絶対違うし﹂
元気に明るく。これだけだった気がするが。
1740
﹁まあいいじゃん、こっち来てゴロゴロしようよ﹂
﹁なんだよそれ、無理矢理だなあ﹂
⋮⋮まあいいか。んじゃ、サツキの隣にお邪魔してっと。
﹁お邪魔しまーす﹂
﹁どぞどぞ﹂
ポカポカの朝日、こういう日に布団を干しとくと気持ちがええだろ
うなあ。
やっぱり太陽のしたって言うのは気持ちいいな。
ゴロゴロー、ゴロゴロー。
﹁これくらいの時間ならそんなに暑くないねー﹂
﹁そだなー、暖かいってくらいかな。芝生が気持ちいいな﹂
﹁だねー。ひなたぼっこしながら寝てる人の気持ちがわかるねー﹂
﹁サツキはいっつも寝てるけどなー﹂
﹁ひどいー、こんな日はヤス兄も一緒になって寝てるじゃん﹂
﹁まー、そーなんだけどなー﹂
日向の下でゴロゴロしてると何となくのんびりした気分になって、
口調も間延びしてしまう。
まー、いっかー。
1741
ゴロゴロー、ゴロゴロー。
時々転がってみる。サツキも一緒になって転がってる。
﹁いたっ! ヤス兄ー、ぶつかってこないでよー﹂
﹁ごめんごめん、気付いたらぶつかっちゃった﹂
﹁気にしてなーい。一緒に転がろー﹂
﹁あいさー﹂
ゴロゴロー、ゴロゴロー。
﹁⋮⋮おはようございます、何やってるんですか?﹂
﹁おはよー、アオちゃん。何してるって、朝の運動だよなー、サツ
キ﹂
﹁そー、朝の運動だよね、ヤス兄﹂
﹁はあ、そうですか。⋮⋮とりあえず、起きてお互いを見たらどう
ですか?﹂
ん? 何言ってんだアオちゃんは。
﹁サツキ、俺どうかなってる?﹂
﹁ヤス兄、私どうかしたかな?﹂
⋮⋮。
1742
﹁妖怪芝女だ! 芝女め、サツキはどこへやった!?﹂
﹁ザ・芝人間がいる! 芝人間、ヤス兄を返せ!﹂
﹁⋮⋮ボケなくていいですから、早く芝落としましょうよ﹂
⋮⋮そこはノリましょうよ。アオちゃん。
お互いに自分の手が届かないところは相手に払ってもらって、よう
やく元通りになった。
﹁うん、気持ちよかったな。サツキ﹂
﹁そだね、気持ちよかったね﹂
﹁⋮⋮おはよお。何が気持ちよかったんだあ?﹂
お、ユッチ到着。夏休みの宿題開き直ってたら、終わるまで部活禁
止令が出されてたユッチ。
9月4日までに全てを終わらせたのにはびっくりした。ただそのせ
いか昨日までいつも眠そうな顔してた。今日もまだ寝ぼけ顔。
1743
﹁おはようございますユッチ先輩、ヤス兄とゴロゴロと寝たのが気
持ちよかったんです﹂
﹁ふわあ⋮⋮ヤスと寝て気持ちよかったんだあ。どんなのしたのお
?﹂
⋮⋮絶対に寝ぼけてるし。意味が変わって聞こえるんだけど。
﹁朝の運動、でしたっけ?﹂
﹁⋮⋮朝のうんどお? 合宿の時の遺伝で⋮⋮はあ!?﹂
ユッチ、それとは意味違うから!
﹁ヤスう! お前は何考えてるんだあ!﹂
﹁話を聞け。寝たって言うのはここでだぞ﹂
﹁ここで寝たって⋮⋮、神聖な陸上競技場をなんだと思ってるんだ
あ!﹂
﹁違う! 誰がここでそんな事するか!﹂
﹁別のところ!?﹂
﹁⋮⋮違うって、ユッチって実はエロエロだろ? 何でいっつもそ
んな風に脳内変換されるんだよ!﹂
﹁ヤス君の方がそんな感じですけどね﹂
1744
⋮⋮アオちゃん、変なチャチャ入れない。
﹁ボクはスケベじゃない! ヤスのスケベ! スケベ! スケベエ
!﹂
⋮⋮3連続で言われるとへこむ。
﹁ヤス兄がスケベなのは事実だけどね﹂
⋮⋮サツキ、そんな事言われたから余計へこんだ。
1745
181話:ゴロゴロ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
⋮⋮全く別の話を書くつもりだったんですが、いつの間にかこんな
話になってました。
⋮⋮自分ってエロイな。
それでは今後ともよろしくです。
1746
182話:ペース走
アオちゃん、ユッチ、サツキの3連コンボにとことんまでへこまさ
れて、ちょっと暗い気分。
ウララ先生がやってきた後、ポンポコさん、ゴーヤ先輩、キビ先輩
と言った残りの女子陸上部も到着。
まずはちょっとしたミーティング。
﹁さて、来週はとうとう新人戦です。ユッチは部活禁止期間、少し
は走れてた?﹂
﹁なんとか⋮⋮1時間くらいは時間見つけて走ってました﹂
へー、部活禁止期間でも練習してたんか。よく走る暇があったなあ。
﹁ユッチとアオちゃん、ヤスにとっては高校初めての大会だからね。
アオちゃんとヤスは本当の初めてだから緊張しちゃうと思うけど、
気楽に行きましょう﹂
﹁はい、わかりました﹂
﹁ユッチは中学の時に試合経験はある。でも、高校初って事は変わ
りないからね。気負いすぎないように﹂
﹁はい﹂
﹁個人種目でも、リレーでも、練習してきた事をそのままだせばそ
1747
れでいいから⋮⋮ちゃんとした陸上競技場で練習ができるのは今日
で最後だからね。がんばりましょう!﹂
﹃はい!﹄
さ、頑張ろ。
﹁ポンポコさん、いろいろ聞いていいかい?﹂
﹁ん? 何だ?﹂
﹁まず1つ目、女子メンバーって誰が何に出場すんの?﹂
﹁何を今更⋮⋮と、ヤスは聞いてないんだったか? 本人達からも
聞いてないのか?﹂
﹁いや、聞いてない。俺が知ってんのはケンの種目だけ﹂
ケンが出るのは400mとマイル。
100とか200とかに出ると思ってたんだが⋮⋮予想大はずれ。
長めの距離のが得意なんだな。
﹁まず、全員出場が決定しているのがリレーだな﹂
そりゃそうか、女子4人しかいないし。
1748
﹁4継とマイル⋮⋮分かるか?﹂
﹁4×100リレーと4×400リレーの事だろ? 分かるよ﹂
以前、アオちゃんから教えてもらった。何となく覚えてる。
﹁4継の走順もマイルの走順もキビ先輩、ユッチ、アオちゃん、ゴ
ーヤ先輩だ﹂
ふむふむ、そうなんか。
﹁個人種目はゴーヤ先輩が400m。一本に絞った﹂
へえ、そうなんだ。
前回の大会では怪我で途中で断念になったからな。リベンジだ。
﹁キビ先輩が100mハードルと400mハードル。400mハー
ドルの方がメインだな﹂
ふむ、ハードル種目2つか。
前回は⋮⋮400mハードルは失格になったんだったな。キビ先輩
もリベンジだ。
﹁アオちゃんは400mオンリー。リレーのみにしようかと言う話
もあったが、個人種目にも経験として出ておくべきだと言う結論に
なった﹂
﹁何でリレーのみにしようかって案になったのさ?﹂
1749
個人でもそりゃ出たいもんな。
﹁リレーが2種目とも決勝に行くとすると、4継の予選、決勝、マ
イルの予選、決勝。この時点で4回走っている。まだ始めて5ヶ月
のアオちゃんがさらに個人競技で走って体力が持つかが疑問だ﹂
なるほど⋮⋮。
﹁後はユッチか。ユッチは100mと200mに出場だ﹂
そっか。頑張って欲しい。
﹁聞きたいのはそんなところか?﹂
﹁ん、後今日のメニュー﹂
﹁⋮⋮そうだな⋮⋮ペース走をやってみるか。ペース走と言うのは
分かるか?﹂
﹁⋮⋮わかりません﹂
知識、全然増えねえなあ。
﹁⋮⋮ペース走と言うのはだな、決められたペースで一定の距離を
走る練習方法だ。有酸素運動で、持久力を高めるのはもちろんだが、
決められたペースで走る事で、自分の体にペースを覚えさせると言
う目的もある﹂
﹁えっと、どういう事?﹂
1750
﹁例えば、メニューが1キロmを3分40秒のペースで16キロ走
る、だとする。こういう練習を続けていけば1キロ3分40秒のペ
ースというのが大体どれくらいと言うのが分かるだろ?﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁それを覚える事で、試合等で、今自分が走っているペースはどの
くらいなのか、と言う事が分かってくる。一流のランナーは時計を
見なくても大体のタイムは分かると言うぞ﹂
﹁そうなんか⋮⋮で、今日のメニューって1キロ3分40秒、16
キロ?﹂
1キロ3分40秒って事は⋮⋮5キロを18分20秒⋮⋮めっちゃ
速いやん。
﹁今のは一例だ、今日は1キロ4分、10キロで行こう﹂
﹁⋮⋮できるか?﹂
それでも速い気がする⋮⋮。
﹁まあ、試しにやってみよう。やってみなければ出来るか出来ない
かも分からないぞ﹂
確かに、そりゃそうだ。
﹁今9時5分だから⋮⋮9時40分スタートでいこうか。タイム、
読み上げようか?﹂
1751
﹁んー⋮⋮一応時計あるけど、お願いしよっかな﹂
﹁了解した。アップはきちんとしとけよ﹂
了解っす。
体操、ジョグ、ストレッチ、流しをやって、400mのスタートラ
インへ。
﹁最初は特にタイムがずれやすいからな。200mの時点で一旦自
分の時計でタイムを見てみたほうがいいぞ。1キロ4分と言う事は
400m96秒、200m48秒だ﹂
﹁了解っす﹂
﹁あと、1キロごとのラップ、自分の時計でも計っておくといいぞ。
私も見ておくが200m地点はちょっと遠くて大体のタイムしか計
れない﹂
1キロ地点と2キロ地点は場所が違うもんな。
確かにこっから200メートル地点は遠いから、正確なタイム知り
たいんだったら自分で計った方が良さげだな。
1752
﹁それでは行くぞ。ヨーイ﹂
パン!
腕時計のストップウォッチを入れて、スタート。
前回のタイムトライアルでは、最初にのんびり行き過ぎて失敗した
からな。今回は最初ちょっと速めに入ろう。
タッタッと一定のリズムで走る。腕の振りもちょっと強めにして⋮
⋮。
⋮⋮今、200m。タイムはっと⋮⋮45秒か。
ちょっとはええな。少しだけ落として走るか。
一旦腕をだらんとして、腕の振りをさっきよりちょっと小さめにす
る。
⋮⋮しかし、まだ10時前のくせに、あっちいなあ⋮⋮。
おし、400mを通過。タイムはどんなもんなんだろ。
﹁93秒! ちょっと速いぞ、少し落として行こう!﹂
93ー45=48⋮⋮おし、この200は48で走れてる。いい感
じのペースじゃないっすか。
このままのペースでっと⋮⋮。
もうすぐ800m通過。さっき600mで時計をちらっと見たけど、
400から600の200mは47秒で通過してた。
まだまだこのペースでいけそうだ。
いま、800メートル通過。
﹁95秒! いいペースで走れてるぞ! ヤス!﹂
1753
おしおし。
こういうセリフ、ポンポコさんから聞けるとすっごい嬉しい。
1キロ通過。現在のタイムはっと⋮⋮3分54秒か。
1キロ4分以内で走れてる。いい感じだ。
今、2キロ。まだまだ足も軽いし、腕もつらくない。
まだまだいけそうだ。
﹁ヤス、96秒! いいペースだぞ!﹂
おし、ナイスペース。
今回の1キロはと⋮⋮3分59秒か。
めっちゃいい感じやん。
1754
ふう、4キロだ。
さっきの3キロの通過は4分1秒。ちょっと遅れたけど、まだまだ
大丈夫な範囲なはずだ。
﹁97秒! ヤス、給水だ。飲め﹂
了解、ポンポコさん。
ポンポコさんからペットボトルを受け取る。一気飲みすると腹痛く
なるので、ちょっとだけ口に含む。
残りの水は頭からぶっかけ、ペットボトルは他の利用者の邪魔にな
らないように内側へ投げ捨てとこう。
﹁ヤス、投げすぎだ!﹂
あら⋮⋮ポンポコさん、走って俺の放ったペットボトル、取りにい
ってる⋮⋮。
ごめん、ポンポコさん。
今6キロ。4、5キロ地点ではラップタイム押すのを忘れてしまっ
た。
1755
﹁98秒! もう半分切ってる、頑張れ!﹂
サンクス、ポンポコさん。
6キロの通過は⋮⋮24分5秒。3キロから6キロのラップが12
分11秒か⋮⋮ちょっと落ちてんな。
少し息も切れ始めてるけど⋮⋮足はまだ重くない。腕も重くない。
首も曲がらない。
今日はまだまだいけそうだ。ちょっと腕振り強くしてみるか。
﹁ヤス、力む必要はない! むしろ一旦腕をだらんとさせろ!﹂
ラジャ⋮⋮一旦手を下ろして、ブラブラッと⋮⋮少し楽になったな。
おし、腕をあげてさっきと同じように振る。
﹁このままファイトだ、ヤス!﹂
9キロ、後1キロだ。
7キロの地点でも一旦給水。暑くてほてってた体には気持ちよかっ
た。
息もかなり切れてて、つらいけどもう残り1キロと思えばまだいけ
る。
9キロの通過⋮⋮36分6秒。7キロの通過は4分2秒、8キロの
1756
通過は4分ジャスト、この1キロは3分58秒だった。
残りを3分53秒で走れば40分切れるのか。
⋮⋮切ってみてえ。
﹁ヤス兄、ファイトー!﹂
﹁ヤス、ファイトだあ!﹂
ありがと、サツキ、ユッチ。
9200m。残りは後800mだ。
﹁ヤス! 95秒! そのペースで走りきれ!﹂
⋮⋮ラジャ。
スピードあげたいけど、残り200あたりまで我慢。
その辺りからならスピードをあげてもいいだろ。
9600m通過。
ラスト400m!
﹁92秒! いい感じだぞ! 残り400だ!﹂
お、ペースあがってきてるじゃん!
まだいけそうだし、あと少し行ったらもうちょっとペースあげてみ
よか。
1757
9800m、後200。もうゴールは目の前だ。
腕を大きく振って、ペースアップ。
﹁ラストだ! 頑張れヤス!﹂
おう、頑張ります!
﹁39分51、52、53、54、55、56﹂
ゴール!
おし! 40分切れた!
⋮⋮お? 今日はタイムトライアルしたときみたいにぶっ倒れない
な。
このままジョグしにいく事も出来そうだ⋮⋮行くか。
テッテケテッテケとジョグ開始。
⋮⋮まだ短距離は練習中か。
これからリレーのバトン練習っぽい。
﹁ヤス、お疲れさまあ。前より速くなったねえ﹂
﹁お⋮⋮ユッチ、それほんと?﹂
﹁ほんとだよお﹂
﹁うわ、めっちゃ嬉しいっす。ありがと!﹂
1758
練習の成果ってやつ? ホント嬉し。
3周ほどダウンジョグをしてポンポコさんの元へ。
そのままその場でストレッチ開始。
﹁ヤス、お疲れ。調子はどうだ?﹂
﹁余裕って訳じゃないけど、まだまだいけそう﹂
﹁⋮⋮それを余裕と言うのではないか?﹂
⋮⋮確かに。
﹁10キロの正式タイムは39分57秒。1キロごとは3分54、
3分59、4分1、4分4、4分4、4分4、4分2、4分ジャス
ト、3分59、3分50だ﹂
おお、ラストあがってんなあ。
﹁中盤ちょっと中だるみしたが、今日の段階では上出来だろう⋮⋮
ここまで出来るとも思ってなかったしな﹂
⋮⋮何かボソッとひどい事言った。
1759
﹁ってか、タイムトライアル5000mの時よりめっちゃタイムの
びたな﹂
あの時は5000mを21分57秒。×2したら43分54秒。単
純計算でも4分速くなってる。
タイムって言う数字が出ると実感が湧くなあ。
﹁まあ、あの日はすごく暑く、最初に突っ込みすぎてばててたとい
うのもあるが⋮⋮それでもヤスの実力は伸びてると思うぞ﹂
﹁まじ!?﹂
ポンポコさんから直接そんなセリフが聞けるとは⋮⋮。
﹁夏休み期間中、かなりの距離を走り込んだからな。8月だけでも
300キロくらいは走ったのではないか?﹂
﹁ええと⋮⋮多分そんくらい﹂
もうちょっと走った気もするけど。
ポンポコさんからメニューを教えてもらうようになったのがちょう
どその頃かな。
﹁それだけ走れば地力もついてくる。今後ももっと走るぞ﹂
なんか、生き生きしてんなあ。ポンポコさん。
﹁まあ、まだまだ他のランナーと争えるレベルには達していないが
な。ようやくスタート地点に立ったところか﹂
1760
⋮⋮褒めて落とすのやめようよ。ポンポコさん。
﹁スタートが遅くても、頑張れば他の選手にも追いつき、勝てるよ
うになる。頑張ろう、ヤス﹂
﹁おお、頑張ります﹂
おし、頑張ろう。
1761
183話:走順の考え方
今日は9月7日日曜日。新しい靴を買いにいく。
昨日、ユッチとポンポコさんに新しい靴を買いにいくのについてき
て欲しいって聞いてみた。
ユッチは用事があるって事で来るのはポンポコさんのみ。
ケンも来れないって言ってたから、ポンポコさんと2人で行く事に
なるのか⋮⋮。
今は12時45分、待ち合わせ時間まで後15分。
⋮⋮ポンポコさんはまだ来てないな。
﹁ヤス兄ヤス兄、何でそんなに微妙な顔なの?﹂
﹁えっとだな⋮⋮サツキには本当に分からないか?﹂
﹁んー⋮⋮わかんない﹂
﹁前にもあったじゃん。何でみんなついて来たんかなって。靴買い
に行くだけだからつまらないよ?﹂
ポンポコさんは既に父さん母さんとも面識あるから、ポンポコさん
が居づらいって事はないだろうけどさ。
1762
﹁We
always
say.
on
Sunday
is
だよ、
gat
fami
cannot
weekday.
we
the
day.Because
easily
ly's
her
ヤス兄﹂
﹁⋮⋮何言ってるかわかんねえ﹂
父さんと母さんはコクコクとうなずいてるから、サツキがなんて言
ったか分かったんだろうなあ。
when
﹁あれ? ヤス兄もうすぐスピーチコンテストあるんじゃないの?
大丈夫なの?﹂
there
﹄だよ。ヤス兄﹂
game
up.
end
ああ、9月20日にあるやつな。
a
it
is
﹁あれはそもそも諦めてるし﹂
﹁﹃It
giving
﹁⋮⋮日本語で言ってくれ、なんて意味だ?﹂
﹁頑張って調べてね、ヤス兄﹂
⋮⋮分かんないまんまかい。
﹁それより、もしかしてそんな事言うって事は私たち、お邪魔虫?﹂
﹁全然、むしろすごく助かる﹂
1763
﹁⋮⋮ヤス、どういう意味だ? 私と2人でいるのは嫌だと言う事
か?﹂
⋮⋮すごいタイミングやね、ポンポコさん。
同級生と日曜日に2人でお出かけとか、別にデートじゃないって分
かってても緊張するんすよ。そんな経験ないんだよ。
ポンポコさんが決して嫌って訳じゃないんで、許してください。
﹁今日はヤスの新しい靴を買うと言う事でいいのか?﹂
﹁えっとですね⋮⋮私もスパイクが欲しいなって思ってるんですが﹂
﹁サツキも買うの?﹂
﹁だってこれから毎日練習するんだし、来年のインターハイ予選に
間に合うには今のうちからスパイクにも慣れておきたいじゃん﹂
まあ、そだな。
﹁私、来年のインターハイ予選は4継かマイルかどっちかのリレー
メンバー狙ってるからね﹂
気が早いな⋮⋮サツキ。
ま、その負けん気と言うか強気な姿勢は羨ましい。
1764
﹁リレーと言えば⋮⋮ヤス、4継の走る順はどうやって決めるか知
ってるか?﹂
ポンポコさん、突然だな。
﹁えーと⋮⋮クジ?﹂
﹁バカか?﹂
真面目に答えたつもりだったんだけど⋮⋮。
今回の新人戦での走順﹃キビ先輩、ユッチ、アオちゃん、ゴーヤ先
輩﹄ってクジで決めたんかと思ってた。
﹁走順の考え方は色々ある⋮⋮だが、1走は想像つくだろう?﹂
﹁あ、私分かります。スタートが上手い人ですよね﹂
あ、なるほど。全然気付かんかった。
﹁そうだな。やはりスタートが上手い、下手で大きく左右されるか
らな。1走はスタートの上手い人がなる﹂
言われてみればその通りだよな⋮⋮何で気付かんのだろ?
﹁後は1走と3走はカーブだから、コーナリングが上手な人を選ぶ﹂
ふむふむ⋮⋮そういうもんなのか。
﹁2走と4走はストレートだから、スピードに乗りやすい。また2
1765
走はバトンパスの仕方で一番長く走れる。2走がエースのチームと
言うのも多い﹂
⋮⋮ユッチが女子メンバーの中でエースなのか?
﹁他は、後半にベテランを持ってくるというの考え方もあるな。後
半にあの人が待っていると思うと、精神的に楽に走れるだろう?﹂
まあ⋮⋮どんなに足が速くても後で待ってる人がドジな人だと、ち
ょっと心配になるかも。
⋮⋮アオちゃん、ユッチ、キビ先輩がアンカーって何か心配になる
な。アンカーがゴーヤ先輩というのが一番いいのかも。
﹁バトンパスの相性とかは関係ないの?﹂
﹁それはあるだろうな。実際1年以上もずっと一緒に練習を続けて
きたゴーヤ先輩とキビ先輩でバトンパスをするのが一番スムーズだ
った﹂
ユッチとアオちゃんはまだ大山高校に入学して5ヶ月だから、そこ
で経験の差が出てくる訳か。
⋮⋮ゴーヤ先輩とキビ先輩、お互いにバトンパスしないやん。
﹁バトンパスを考慮して1アオちゃん、2ゴーヤ先輩、3キビ先輩、
4ユッチと言う案もあったのだが⋮⋮アオちゃんはまだスタートが
あまり上手くない。かと言ってエース区間の2、4走にアオちゃん
と言うのはアオちゃんに負担が大きい﹂
確かに⋮⋮どこも重要だと思うけど、それでもエース区間に選ばれ
たらすごいプレッシャーだろ。
1766
﹁みんなで話し合った結果この走順になった。今の女子陸上部なら
これがベストだろう﹂
ふむ⋮⋮いろいろ考えなあかんのだな。
﹁ヤス、他人事のように聞いているが長距離にも11月には駅伝が
あるのだぞ。その時、どの区間に誰を使うか⋮⋮そろそろ考えてい
かなければいけないぞ﹂
そか、そうだよな。
⋮⋮あれ?
﹁俺、長距離で誰が速くて誰が遅いとか全然知らねえ﹂
﹁⋮⋮頑張ってくれ、ヤス﹂
ポンポコさん、今考えるの放棄しただろ!?
⋮⋮全然思い浮かばねえなあ⋮⋮。
1767
183話:走順の考え方︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
途中のサツキの英語、私自身が苦手なので間違ってるかもしれませ
ん。
間違ってたらごめんなさい。
1つ目は
﹁いつも言ってるじゃん。日曜日は家族の日だって。だって平日中
々時間とれないんだもん﹂
2つ目は
﹁諦めたらそこで試合終了ですよ﹂
と言っているつもりです。
それでは。
1768
184話:マンネリ
日曜日は結局、今履いてるのと同じ靴を買った。
サツキはタータントラック専用のと土でも使える兼用のスパイク、
2足買った。
⋮⋮靴って金かかる。
今日は9月8日月曜日。
部活では15キロ走ってきた⋮⋮しかし、今週の土日が試合のはず
なんだが、ポンポコさんからメニューを減らせとか何も聞いていな
い。このままいつも通り走っていてもいいんだろうか?
練習量を減らして試合に疲れを残さないようにするとかやるもんな
んだと思ってたんだけど、ちがうのかな?
家に帰ってきて、今はサツキと2人で夕食中。
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
1769
﹁⋮⋮は?﹂
⋮⋮朝じゃないから寝ぼけてなんかない⋮⋮はず。
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁妹よ、突然意味の分からないセリフを言うな。俺たちは会話が減
ってきてしまっている熟年夫婦か﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁いやそんな事はないな、最近は毎日最低でも4時間はサツキとし
ゃべっている。朝起きて1時間、休み時間に30分、放課後部活、
帰り道で1時間、夕食、夕食後に2時間。うん、全然マンネリじゃ
ないじゃないか﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁⋮⋮夫婦ちゃうやろ! と言うツッコミが欲しかったんだが⋮⋮
そうか会話の内容か? 会話の内容がマンネリなのか? いや、歌
に本に漫画にゲームに料理に友達に部活に勉学に、果てはブリーフ、
トランクスという議論までしているというのに⋮⋮﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁すまん悪かった。議論したのは﹃青のり﹄か﹃石焼きイモ﹄のど
ちらが名曲かと言う話で、下着の話をしたわけではない。怒るのは
分かったから別の言葉を発してくれないか?﹂
1770
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁ああそうだ、確かにマンネリだ。3日連続でカレーは飽きるよな﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁だが聞いてくれサツキ、カレーは3日目からが一番おいしいんだ。
じっくり素材を吟味して弱火でコトコト時間と手間ひまと愛情を込
めて煮込んだカレーな上に3日も置いたカレーなんだぞ。いくらマ
ンネリと言われようとこんな最高のカレーを食べれるって幸せじゃ
ないか?﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁悪かったサツキ。素材は確かに吟味した。だが安さで吟味をした。
その時点で最高のカレーと言うのは嘘になるかもしれない。だがそ
れでも弱火でコトコト時間と手間ひまと愛情を込めて煮込んだカレ
ーだ。マンネリかもしれないが3日目になると味にも深みが出てき
てマンネリではないだろう?﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁まだマンネリと言うか妹よ。というか﹃じっくりことこと以下略﹄
ってヤックンだろ、お前はヤス君だろとか言って欲しかったんだが。
古かったか? そうか分かったぞ。あれだな、食後のデザートが毎
回桃だったのがいけなかったのだな。だが桃と言ってもだな、白桃、
黄桃の缶詰を使い分け、さらには缶詰でもSSKとはごろもフーズ
を使い分けてみたんだ。どうだ、マンネリではないんじゃないか?﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
1771
﹁分かったサツキ、レパートリーが最近少なかったか? 一応その
メニューを一度作れば次に作るのは最低でも1月先にはしているつ
もりなんだが﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁すまんサツキ、確かにユッチに教えてもらったおからシリーズは
週1で作っているな。だがきちんとハンバーグ、卯の花、春巻きと
手を変え品を変えメニューを出して飽きがこないようにしているつ
もりだ。明日もおからで何か作ろうと思っていたのだが⋮⋮別の物
にするか﹂
﹁ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね﹂
﹁まだ言うか妹よ。そろそろ別の言葉が聞きたいし、夕飯のネタが
しつこい気がしてきたんだが⋮⋮もしかしてマンネリって夕飯の事
じゃないのか?﹂
﹁うん﹂
﹁夕飯の席で初めて会話が出来た。それは嬉しいんだが﹃うん﹄し
か言ってくれないのはどうなんだ妹よ﹂
﹁私たち最近、マンネリズムだよね﹂
﹁省略をやめただけじゃん!﹂
﹁私たち最近、mannerismだよね﹂
1772
﹁発音いいな。だがさっきと一緒だぞ﹂
﹁私たち最近、何か足りないよね﹂
﹁恋人同士みたいな言い方やな⋮⋮それはそれで嬉しいんだが、何
が言いたいんだ?﹂
﹁思うんだよね。ヤス兄が頑張って、ヤス兄がボケて、ヤス兄がい
じられて、ヤス兄がドジって⋮⋮﹂
﹁全部俺やん﹂
﹁何かオチを付けるのってヤス兄なんだよね。たまには別のオチも
いるんじゃないかなあ﹂
﹁時々はユッチがオチ作ってたり、アオちゃんがなんかして終わっ
たりする事もあるぞ﹂
﹁そう言えばそうだね。でもさ、やっぱり最後はヤス兄が何かフォ
ローしようとしてオチを付けるんだよ﹂
﹁⋮⋮そうだったか? ⋮⋮結局サツキはなにがしたいの?﹂
﹁ときめきが安らぎに変われば刺激と言うスパイスだって必要だよ
ね、ヤス兄﹂
﹁おいサツキ、お前は誰にときめきを抱いた事があるんだよ⋮⋮そ
の歌手が大好きだったのは知ってるから﹂
﹁大好きだったのに⋮⋮。それは今は置いといて、ヤス兄、スパイ
1773
スが欲しいんだよ﹂
﹁分かったスパイスだな。今回のカレーは確かにカレールーから作
ってしまった。前にハウスとS&Bとグリコを混ぜて作ってみたら
ものすごくうまかったからついついルーから作るようになった。だ
がサツキがスパイスから作って欲しいと言うのなら次回のカレーは
シナモン、ターメリック、コリアンダー、ブラックペパー、クミン、
レッドペッパーと言ったスパイスを使って作ってみよう﹂
﹁ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ﹂
﹁久しぶりに作るな、本格的なカレーは﹂
﹁ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ﹂
﹁今欲しいのか? 今あるのはせいぜいトウガラシとこしょうくら
いだ。それでいいならすぐに渡すぞ﹂
﹁ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ﹂
﹁⋮⋮サツキ、壊れたスピーカーみたいに同じセリフを繰り返すん
じゃなくて、言葉のキャッチボールをしようよ﹂
﹁ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ﹂
﹁⋮⋮サツキがボールを受け取ってくれない⋮⋮ごほん、スパイス
って何すればいいのさ?﹂
﹁んー⋮⋮突然光に包まれて異世界に行きたいよね?﹂
1774
﹁どうやってやるんだよ。大体それやると漫画だと打ち切りになる
やん﹂
﹁んー⋮⋮どっか私とヤス兄で旅にいこっか?﹂
﹁それも漫画なら打ち切りになるネタやん、スパイスにならんって。
ものすごくやってみたいけど﹂
﹁んー⋮⋮新しい友達見つける?﹂
﹁⋮⋮俺そんなに友達少ないか? ついでにそれって大抵今までい
た人が消えていくよな⋮⋮交流が変わるから?﹂
﹁んー⋮⋮それじゃ宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探しに
いってみようか?﹂
﹁ああ、うん、えと、ええと⋮⋮いいともー!!﹂
⋮⋮俺はバカだ。
﹁んー⋮⋮やっぱりどれもしっくりこないね。現状維持でいっかな
?﹂
﹁そうそう、こんな感じのほのぼのした生活がいいんだよ。マンネ
リと言うと悪く聞こえるが、アオちゃん的に言えば﹃王道﹄なんだ。
﹃変化を求めようよ﹄って言ってくる奴にはこう言ってやれ﹂
﹁んー⋮⋮ヤス兄、なんて言ってやるの?﹂
﹁﹃あなたとは違うんです!﹄﹂
1775
⋮⋮こんな感じで今日ものほほんとご飯を食べてる俺とサツキ。
1776
185話:ヤスの小説紹介
9月9日火曜日、みんな新人戦に向けて調整に余念がない⋮⋮はず
なんだけど、今日もみんな思いっきり練習してた。もちろん自分も。
⋮⋮何でだろ?
部活も終わってちょっと雑談中。
﹁なあユッチ、ネット小説でおすすめの短編小説って知らね?﹂
﹁何でボクに聞くんだあ?﹂
﹁確かユッチもネット小説、読んでたじゃん﹂
﹁ボクも読むけどさあ、ケンに聞いた方が良いんじゃない? ケン
の方が詳しいよきっと﹂
﹁ケンにも聞いた、そしたら泣けた﹂
﹁そんな感動作だったんだあ!? なんてタイトルなんだあ?﹂
﹁違う違う、短編小説を教えてくれって頼んだのに、4万字以上の
短編を紹介された﹂
﹁⋮⋮お疲れ、ヤス﹂
ほんと疲れた⋮⋮ケンは長い小説のが好きだというのがよく分かっ
た。
1777
通学中のちょっとした時間にチョコチョコッと読む小説を紹介して
欲しかったのに。
﹁と言う訳で、今回はケンに聞くのはやめとこうと思って。どんな
んがいっかな?﹂
﹁ええとお⋮⋮ヤスの趣味ってどんなのだったあ?﹂
﹁バトル物で主人公が最強と言うのは駄目、仲間に最強キャラがい
て、そいつがばんばんやっつけるってのもあんま好きじゃない、特
にインフレしてく話はやめて。恋愛要素はあってもいいけどそれが
中心で回らない事が条件、もしくはコメディ中心の恋愛ならありか
な。異世界に吹っ飛んでもいいけどいきなりすごい力が使えるのは
嫌、笑いでも涙でも感動が欲しいなあ⋮⋮うん、基本的には何でも
OKだぞ﹂
﹁どこがだあ! むちゃくちゃ条件厳しいじゃんかあ! ファンタ
ジーもの、たくさんあるけどそんなのないわあ!﹂
﹁⋮⋮そうか? これくらいの条件、文庫本とか書籍ならゴロゴロ
してね?﹂
﹁そ、そおだっけえ?﹂
﹁そりゃそうだ。例えば大長編作品﹃フォーチュンクエスト﹄とか、
ものすごく平凡な能力の集まりじゃん﹂
個人的にはそこがいいんだが。
﹁え? 読んだ事ない、聞いた事ない﹂
1778
残念、知らないか。
﹁主人公最強物でも、﹃スレイヤーズ﹄ならいいと思わね? イン
フレもないし﹂
﹁し、知らない⋮⋮﹂
﹁不思議な雰囲気を醸し出してるのだったら﹃キノの旅﹄とか﹃モ
モ﹄とか﹂
﹁知らないよお⋮⋮﹂
﹁恋愛ファンタジーだったら﹃はにかみトライアングル﹄とか﹂
﹁し、知らないよお⋮⋮﹂
﹁バトルファンタジー物だったら﹃ブレイブストーリー﹄とか﹃ド
リームバスターズ﹄とか﹃バトルロワイヤル﹄とか﹃指輪物語﹄と
か。他にも恋愛ファンタジーなら﹃月と貴方に花束を﹄とか﹃いぬ
かみっ!﹄とか。ほのぼのホームコメディっぽいファンタジーなら
﹃狂乱家族日記﹄とか﹃吉永さんちのガーゴイル﹄とか⋮⋮後何が
あったっけ?﹂
﹁⋮⋮ボクが知るかあ! ボク、ネット小説しか読んでないもん!﹂
ええ? ネット小説でもいいけど本も読もうよ。特に本は出版社の
お眼鏡にかかった本しか出版できないんだから、誤字脱字みたいな
のはほぼ無いし読みやすいのが多くて探しやすい。⋮⋮なんでこれ
出版できたんだろうってのも結構混ざってるけど。
1779
﹁ネット小説読むだけじゃなくて、本の小説読んだ方がいいと思う
んだが﹂
ネット小説への冒涜だろうか?
﹁そうかなあ⋮⋮ネット小説の方が手軽だよお?﹂
﹁確かに手軽だなあ⋮⋮携帯あればいつでも読めるし﹂
﹁でしょお? それに文庫本って分厚いんだもん。中学校の頃に﹃
リアルバウトハイスクール﹄って言うのをお勧めされたんだあ。借
してくれたのは何でか6∼8巻だったんだけどさあ。分厚いよねえ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ヤス、何で黙るんだあ!﹂
確かに短いのを見つけたくてユッチにおすすめ短編を聞いたんだけ
ど⋮⋮﹃リアルバウトハイスクール6巻﹄の薄さはびっくりもんな
んだけどな。あれを分厚いと言われると﹃屍鬼﹄とか絶対におすす
めできんじゃん。
﹁ちなみにユッチはどんな小説が好きなんだっけ?﹂
﹁すぐ読めるやつ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁だから何で黙るんだあ!﹂
1780
だって困るやん。すぐ読めるやつって⋮⋮どれだけすぐ読めればい
いんだろう?
﹁んじゃ全然本を読まないユッチにおすすめの本の小説を3冊紹介
するぞ。みんなスラスラ読めるのを考えるから﹂
﹁ええ!? 別にいいよお﹂
そんな事言わない。
普通の本にも面白いのがたくさんある事を教えたいじゃん。
﹁まずは1冊目、﹃魔女の宅急便﹄﹂
﹁はえ? それなら映画で見たよ?﹂
﹁もともとは本なんだよ。本から映画になったの﹂
﹁もう映画で見たからいいよお﹂
﹁映画化されたのはごく一部だけだぞ。他にもたくさんあるから是
非読んでみるといいと思う。本自体は分厚いけど、1話1話はネッ
ト小説並みに短いし﹂
﹁分かった。読んでみるう!﹂
﹁2冊目は﹃雨やどりはすべり台の下で﹄﹂
俺が小学生の時に夢中になった作品の1つ。
1781
﹁⋮⋮聞いた事ない﹂
﹁小学校って家が近く同士で一緒に学校行ったりするじゃん。その
メンバーで遊んでたら、急に雨が降ってくるんだよ﹂
﹁ふんふん﹂
﹁すべり台の下で雨宿りをするんだけど、暇でする事がないんだ⋮
⋮そこで、みんなでお話をするんだよ。みんなみんなが不思議なエ
ピソードを持っててさ。何となく心がなごむんだ⋮⋮﹂
今でも大好きな本。
﹁これも1話1話、すっごく短くてスラスラ読めるから、ユッチも
好きになると思うぞ﹂
﹁わかった⋮⋮ありがとお!﹂
﹁3冊目は﹃天井うらのふしぎな友だち﹄﹂
﹁ボク、これも聞いた事ないなあ⋮⋮全然知らないなあ﹂
まあそれが普通だろ、有名な話以外は聞いた事ないもんだし。
﹁小さい頃はあんなに大切にしてたのに、大人になったら忘れてし
まった⋮⋮そんな大事な物を思い出させてくれるほのぼのとした話
だぞ⋮⋮これもそんなに長くないからすらっと読めると思うぞ﹂
ユッチなら何となく﹃天井うらのふしぎな友だち﹄を見る事が出来
るんじゃないかなあって思ってしまう。
1782
﹁普通の本にも色々あるもんなんだねえ。普通の本は大人とか、ま
せた子供が読む物だったと思ってたあ﹂
今まで本当に本読む機会なかったんだなあ。読書感想文はどうして
たんだろ?
⋮⋮紹介した3冊は全部児童書だと言う事は黙っとこ。
1783
185話:ヤスの小説紹介︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
⋮⋮小説レビューになってます。
﹃はにかみトライアングル﹄は﹃乃木坂春香の秘密﹄を書いてる人
です。
個人的には﹃乃木坂春香の秘密﹄より﹃はにかみトライアングル﹄
のが好きです。
それでは。
1784
186話:ユッチのおすすめ∼ええじゃないか∼
ふう、普通の本の話でついつい熱くなってしまったけど、もともと
はネット小説の話だったな。
﹁それでユッチ、話は戻るんだけど面白い短編のネット小説は無い
か?﹂
前にユッチに教えてもらった﹃カカの天下﹄が面白かったから、ユ
ッチが選ぶ物に結構期待してる。
﹁ええとお⋮⋮短編じゃなくても気軽に読めたらいいんだよねえ?﹂
﹁ん、それでも全然構わないぞ﹂
﹁それだったら絶対お勧めな小説があるぞお! その名も﹃ええじ
ゃないか﹄!﹂
﹁﹃ええじゃないか﹄? 全然短編じゃないだろ﹂
結構長そうだからスルーしてたんだけど⋮⋮。
﹁そうだけど、1話1話が短いからさくさく読めるよお。1話完結
の話もたくさんあるし﹂
﹁あ、そうなんか﹂
学校行く電車の中で読みたいのを探してたから、それはいいな。
1785
﹁主人公みっちゃん、本名三井、またの名を﹃旦那﹄、﹃直君﹄、
﹃珍獣使い﹄、﹃先輩﹄は今高校1年生!﹂
あだ名多いな。ってか﹃先輩﹄って固有名詞じゃないだろ。
﹁変な人に囲まれてドタバタな日々を送ってるんだあ﹂
⋮⋮ものすごくはしょったあらすじだな。
もうちょい紹介しようよ。
﹁分かりにくさは全然ないよ。ひとりひとりが個性的ですごく分か
りやすい﹂
個性的⋮⋮いい言葉だ。変人と言う言葉は全て個性的にできる。
﹁でも実は、主人公のみっちゃんが一番変。みっちゃんって自分の
事普通だって言うんだよお。自分の事普通だあって言う人って変な
人ばっかだあ﹂
﹁そうか? ﹃私は変態﹄っていう人って普通か? ほぼ確実に変
態だろ﹂
﹁私は変態なんて言うやついるかあ!﹂
いるいる。結構いるぞ。
﹃俺変態﹄って突然宣言する人とか。﹃俺、ブラコンだから﹄と堂
々と宣言する男とか。
﹁ボクのお気に入りな子は保護者っていう主人公の後輩の女の子!
1786
見てるとすっごい可愛いよ! 応援したくなってきちゃうもん!﹂
﹁⋮⋮後輩なのに保護者?﹂
﹁あだ名だよお。あだ名﹂
⋮⋮変なあだ名。由来は何なんだろ?
﹁その子、どんな子?﹂
﹁しゃべったら面白くないだろお? 読んでみてのお楽しみだよ﹂
まあ、そりゃそうだけど。もうちょっとしゃべってくれ。
⋮⋮どんな話なのか上手く核心をしゃべらずにあらすじを説明する
のが上手い紹介なんだろうなあ⋮⋮難しい。
﹁もう保護者ちゃん、猛烈にみっちゃんにアタックしてるんだけど
⋮⋮主人公のヘタレっぷりとか毒舌を見てると、もっと保護者ちゃ
んを過保護なぐらいに構おうよおって思うんだあ﹂
保護者を過保護⋮⋮変な言葉。
⋮⋮頑張れ保護者。
﹁それってどこの話だっけ?﹂
﹁愛知県三河地方。そっちに旅行にいったらみっちゃん達に会えな
いかなあ⋮⋮﹂
静岡からなら結構近いもんな。どんな人か見てみたかったり。
1787
﹁それとね! 主人公のみっちゃんって過去にすっごいトラウマが
隠されてるみたいなんだよねえ。どんなトラウマなんだろお?﹂
﹁まだ公表されてないの?﹂
﹁全然なんだよねえ。みっちゃんって謎だらけなんだよ。そういう
トラウマすごいあるっていってるのに、公開された謎はおねえちゃ
ん恐怖症くらい。姉からどんな事されたかもそんなにわかんないし﹂
100話こえても謎を隠し続ける男みっちゃん。
﹁確かシリーズ化されてたよな?﹂
﹁そうだよ? 今﹃ええじゃないかさん﹄がもうすぐ始まろうとし
てるとこじゃないかなあ。全部で200話は超えてたんじゃないか
なあ﹂
200話こえても未だ謎だらけの男ってすげえな。
﹁あれだけ隠してるってことはよっぽどの謎なんだよね! 最近す
っごい期待してるんだあ!﹂
﹁ふむ⋮⋮どんな謎が隠されているんだろうなあ。ここはいっちょ
考えてみよか﹂
﹁先の事考えていいの?﹂
﹁想像するのは読者の権利だろ? ﹃ひぐらしのなく頃に﹄なんて
そこら中で推理合戦が繰り広げられたじゃん﹂
1788
﹁知らないよお!﹂
く⋮⋮これも知らないか。残念。
﹁⋮⋮ん、まあいいや。どんな謎があるんだろ? 初恋が姉だった
とか?﹂
﹁⋮⋮それって変かなあ?﹂
﹁いや。全然変じゃないだろ。むしろ結構普通なんじゃん?﹂
俺は妹だし。
﹁けど⋮⋮初恋は好きとも言えずにはかなく散る物なのさ⋮⋮いつ
の間にか好きな人に恋人が出来てて告白前に振られたり﹂
﹁⋮⋮﹂
あれ⋮⋮このタイミングで黙っちゃった?
⋮⋮ユッチのトラウマに触れてしまったか?
﹁ええと他にみっちゃんのトラウマっていうと⋮⋮試合でぼろ負け
したとかかな?﹂
﹁うう⋮⋮﹂
やばっ、これもみっちゃんのトラウマじゃなくてユッチのトラウマ
なのか?
﹁ええと! 中学生でお漏らししたとか!﹂
1789
﹁うううう⋮⋮﹂
これもかよっ!? 俺の過去だってボケるつもりだったのに。
ええと⋮⋮。
﹁イチゴを食べてるとき、﹃にゅうりんくれ!﹄って叫んだ!﹂
﹁ええ? にゅ、にゅうりん? ⋮⋮乳輪!?﹂
﹁そうそう。本当はだな﹂
﹁この変態い!! 誰にそんな事言ったんだあ!﹂
女性店員さんだけどだな⋮⋮ってちょっと聞いて。
﹁変態変態いい!﹂
痛い痛い! 殴るなっ! 止まれっ!
﹁このエロヤスウ!﹂
いったあ⋮⋮実はただ﹃練乳くれ!﹄って言おうとしたって話なの
に。
1790
最後まで聞いてえな。
﹁ま、ちゃんと聞いてくれなくたって﹃ええじゃないか﹄だよな﹂
おし、帰って読んでみよ。
1791
186話:ユッチのおすすめ∼ええじゃないか∼︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
とりえなし先生、使わせていただきありがとうございます。お願い
させていただいてからようやく紹介が出来ました。
現在は﹃ええじゃないかさん﹄も始まってます。
⋮⋮ほんとに紹介って難しい。
面白い小説ってただ一言﹃面白い﹄って言えばいい気がします。
と言う訳で、既に知っている人も多いかもしれませんが﹃ええじゃ
ないか﹄⋮⋮﹃面白い﹄です。興味ある方は読んでみてください。
それでは。
1792
187話:初心者のパソコン攻撃︵前書き︶
やらないでくださいね。
1793
187話:初心者のパソコン攻撃
9月10日水曜日。ケンが泊まりにきてる。
ケンって1週間のうち3日はうちに居る気がするんだが⋮⋮自分の
家はいいのか?
ま、ケンの事は置いといて⋮⋮ネタが無い。
﹁ヤス、どした? パソコンじっと睨んで﹂
﹁ケン、最近思ったんだが⋮⋮ネタが無い﹂
﹁何の話だ?﹂
﹁書いてる小説﹂
﹁ええと⋮⋮オウエンジャーの事か?﹂
﹁そうそう、それ。ネタが無いんすよ﹂
﹁そんなん探せばいくらでもあるだろ。こっちの都合関係無しに無
理矢理送られてくる裁判員制度でもいいし、セキュリティの穴を狙
ってちゃっかりヤフオクとかで買い物されてる話にしてもいいし、
えん罪の話でもいいし﹂
﹁いやー、﹃小説家になろう﹄って600字以上じゃないと投稿で
きないんだよ。その辺の話ってなかなか600字を超えないのさ﹂
﹁余裕だろ? 特にパソコンに関しての嫌がらせはそこら中にネタ
1794
が転がってるぞ﹂
﹁⋮⋮例えば?﹂
﹁ええと⋮⋮簡単なのだとサーバーに多大な負荷かけてサーバーダ
ウンさせるのとか﹂
何じゃそりゃ。
﹁ほとんどの個人が運営してるサイトって言うのは、そんなにいろ
んな人が来るとは思ってないと思うんだよ。1日に100人くらい
?﹂
﹁そうなんか﹂
﹁で、Vectorみたいなサイトからフリーソフト、有名なのだ
とJMeterとかがあるよな。それで負荷テストをかけるソフト
をダウンロード﹂
⋮⋮なんか先が分かるんだが⋮⋮。
﹁で、誰もが使えそうなパソコンで、しかもインストールできてし
まう環境のパソコンを使って1分間に1000アクセスするように
負荷をかける。それを1日中やり続けたら、その日、その人のサイ
トは開きませんって状態になってしまうわけだ﹂
⋮⋮怖いな。
﹁でも、わざわざそんな事はしないだろ﹂
1795
﹁まあなあ⋮⋮大体そんな事したら普通は攻撃されてるって判断受
けて途中で遮断されるんじゃないかな⋮⋮﹂
﹁なんだよその歯切れの悪さ。他にもあんの?﹂
﹁俺がやった事あるのはjavascript。自分のパソコンで
やってみたんだけど、あれをやったらそのサイト運営してる人への
いじめだな﹂
﹁なんじゃそりゃ。ジャヴァスクリプトとか⋮⋮そんなん専門的知
識が無きゃどうにもならんだろ﹂
﹁いや。何の知識も無くてもだな、コピペで出来てしまうから恐ろ
しい﹂
﹁コピペ⋮⋮﹂
﹁コピーアンドペーストの略だぞ﹂
﹁わかってるから! ⋮⋮で、どんなの?﹂
﹁大手の掲示板とかではまずないと思うんだけど、万が一java
scriptが使えたりすると、その掲示板にアクセスした途端何
にも出来なくなる﹂
﹁なにそれ。そんなんできんの?﹂
﹁ええとだな⋮⋮このページのこれコピー﹂
﹁ふむふむ﹂
1796
<script
type=
けど、とりあえずコピー。
te⋮⋮よく分からん文字の羅列だ
﹁とりあえずメモ帳開いて、これ貼付けて﹂
﹁ういうい﹂
ペコッとな。
﹁新規でtest.htmlって名前で保存、終了﹂
﹁⋮⋮こんだけ?﹂
って1文だけなんだけど、これだけでどうにかなるもんなんか?
﹁そ、これだけ。で、出来たそのファイル、ダブルクリックしてみ﹂
﹁うーい⋮⋮﹂
ポチポチッ⋮⋮でっかい画面と、なんか小さい窓が別に出てきたな
あ。
﹁んでどうすりゃいいんだ?﹂
﹁まあ、適当にいろいろいじってみろって﹂
﹁へいへい⋮⋮﹂
とりあえずこの小さな窓閉じるか。
1797
あれ?
⋮⋮あれ?
﹁なあケン、この小さい方、OKボタン押しても全然閉じてくんな
いんだけど﹂
﹁そう言う仕様﹂
⋮⋮まじかよ。
どうすりゃ閉じんの?
﹁なあ、左上の終了ボタン押しても終わってくんねえんだけど⋮⋮
ってかそもそも左上の終了ボタン押せないじゃん﹂
﹁ああ、safariだとそうなるみたいだな、ってかそういやヤ
スの家はMacだったな﹂
や、そこはどうでもいいから。
﹁メニューでも終了が選べんじゃん。どうやって終了させんのさ?﹂
﹁無理矢理。俺がそれやってみたときは強制終了でしか終わらせれ
んかった﹂
﹁強制終了⋮⋮﹂
しゃあないな⋮⋮電源ボタンなが押してと。
﹁別にパソコン本体を強制終了させる必要は無かったんだが。sa
fariだけ強制終了させればよかったんだけど﹂
1798
﹁それ先に言えよ!﹂
くそ、もう1回立ち上げて⋮⋮。
﹁なあ、さっきのやつってずっとOKボタン押し続けるとどうなる
んだ? いつか終わるのか?﹂
﹁いや? 無限ループって言って、強制終了されるまでは延々とあ
の画面が出続けるぞ﹂
⋮⋮嫌やなあ。
﹁で、javascriptが使えてしまう投稿できるサイトにだ
な、さっきの一行をポイッと投稿しちゃうとだな﹂
﹁さっきの窓が延々と出続ける訳か﹂
﹁そう言う事だな、しかもそのサイトに1日1000人アクセスす
ると考えるとだな﹂
﹁1000人がその日1日強制終了しなきゃいけなくなる訳か﹂
まじ嫌やなあ⋮⋮。
﹁それくらいならまだいいぞ、もしトップページで強制終了させら
れるようになって、しかも管理人がほとんど見なくなってると、も
うそのサイトはお陀仏だな﹂
﹁ケン、やるなよ﹂
1799
﹁やらねえよ、ヤスこそやるなよ﹂
俺もやりません。
お、立ち上がったな。もう1回safariを起動させてっと。
﹁初心者ですらこんな事が出来てしまうんだ。熟練者ならもっとす
ごい事が出来るんだろうな﹂
﹁そう言いつつ、実はケンももっといろいろ出来るんだろ?﹂
﹁攻撃をか? それは無理。時計作ったり、背景を変えたりくらい
だな。俺、まだかじりたてなんだからそんなに知らね﹂
﹁ほんとかよ⋮⋮あれ?﹂
﹁ん? ヤスどした?﹂
﹁さっき、500文字くらい書いといた小説が全部消えた⋮⋮﹂
﹁⋮⋮強制終了効果?﹂
﹁効果じゃねえよ! 被害じゃねえか! ⋮⋮ちっくしょ、また書
き直しかよ﹂
﹁どんまい、ヤス。ちなみにどんなん書いてたんだ?﹂
﹁兄妹編、サツキと俺の話﹂
﹁⋮⋮消えて正解じゃね?﹂
1800
﹁なんか言ったか?﹂
﹁何にも? 次頑張ってくれ﹂
いやあ⋮⋮頑張れって言われても、データが消えるって萎えるなあ
⋮⋮。
1801
187話:初心者のパソコン攻撃︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
先輩と飲んでたら次の日になってしまい、投稿できませんでした。
すみません。
今日2つ投稿いたします。
やろうとしないでくださいね。
それでは。
1802
188話:初心者のパソコン攻撃パート2
執筆中の小説が消えてへこんでたけど⋮⋮パソコン攻撃のネタは使
えそう。
ケンにもうちょい聞いてみよ。
﹁ケン、さっき言ってたヤフオクの何たらって何さ?﹂
﹁人のyahooIDを勝手に使うんだよ、で、そのID使ってオ
ークションする訳だ﹂
﹁使えんの? パスワードが分からなきゃ使えないだろ﹂
﹁やろうとすりゃ分かるだろ。誰もやらないだけで﹂
﹁ええと⋮⋮どして?﹂
﹁犯罪じゃん、良心が痛むだろ﹂
⋮⋮そりゃそうか。
﹁まあ、良心がない人もいるだろ。ネットって匿名性が強いし﹂
﹁いやいや。そんな考えでバレないと思って軽い気持ちでやるとつ
かまるぞ?﹂
そういや、ネットで誰か分からないだろうって変な書き込みして捕
まるってニュース、聞いた事があるな。
1803
﹁⋮⋮でもパスワードなんて簡単には分からんだろ?﹂
﹁そうか? 分かりやすいパスワードだと簡単だぞ。例えばIDが
W0382Dだとして、パスワードがこれの順番を入れ替えてW8
32D0とかだったら、いっこいっこ調べてっても﹂
﹁ええと、順列を使う訳か⋮⋮6P6で6×5×4×3×2×1で
720通り﹂
あ、そんなに多くねえな。
﹁ヤス、出来なくはない数字だろ?﹂
確かに⋮⋮そのパスワードは危険だなあ。
﹁でもさあ、そういうパスワードにしなきゃいいって事だろ?﹂
﹁そういうパスワードじゃなくても危険はいっぱいだぞ。他にも全
検索と言うのがある﹂
﹁なんやのそれ?﹂
﹁例えばさ、yahooIDだったらパスワードは6字以上32字
以下らしいんだよ﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁yahooIDは掲示板とか見りゃ簡単に分かっちゃう訳だ﹂
1804
﹁まあ、そうだな﹂
﹁yahoo以外だと、8文字以内でしかパスワードを設定できな
いところも結構あるんだよ﹂
そういや小説家になろうは8文字以内だったなあ。
﹁だから、大体の人は8文字以内でパスワード作ろうとするんだ、
長くすると忘れるし。8文字以内のパスワードで、しかも数字だけ
なら何分で全検索出来る?﹂
﹁数字だけってどゆこと?﹂
﹁パスワードを数字だけで書くって事。数字は0∼9の計10文字、
6文字以上8文字以下の数字の組み合わせって何通りだ?﹂
﹁ええと⋮⋮8の10乗+7の10乗+6の10乗だから⋮⋮⋮⋮
1億1100万か﹂
1億ちょい。すげえ量じゃん。
﹁これだけあればパスワード破られるなんて無いんじゃん?﹂
﹁そうか? じゃあ実験してみるか。1億通り、ヤスのパソコンで
ループさせてみよう﹂
﹁ループ?﹂
﹁プログラムというのは、普通何かの処理をする訳だ。何もしない
でってのはありえん﹂
1805
何の事言ってるんかさっぱり分からん。
﹁ここで何もせず、ただ1億ループさせると言うプログラムを組ん
でみる﹂
おお、ケンってプログラム書けんのか。
﹁で、実行﹂
⋮⋮。
﹁1って出てきたけど?﹂
﹁1秒で1億ループしたって事だな﹂
﹁⋮⋮すごいのかよく分からん。結局何をしたの?﹂
﹁それなら、分かるようにループを表示させてみるか。結構時間か
かるけど﹂
まあ、好きにしてくれい。
1806
﹁ヤス、終わったぞ﹂
﹁んあ? ああ、忘れてた﹂
ケンがやってた何かが終わるまで暇だったので、延々と潜水艦ゲー
ムで盛り上がっていた。
潜水艦ゲーム、意外とハマる。
﹁えっと⋮⋮99999998、99999999ってあって⋮⋮
最後に9443って書かれてるぞ﹂
﹁つまり、9443秒かかったって事だな﹂
﹁えっと⋮⋮時間に直すと⋮⋮2時間37分23秒か。結構時間か
かったな﹂
﹁でも時間がかかったと言っても2時間半だろ? こんな風にya
hooのログイン画面でパスワードを入力して、﹃ログイン﹄って
ボタンを押すプログラムなら、書ける人ならすぐできるぞ﹂
って事は数字だけのパスワードなら、2時間半で破られるできる訳
か⋮⋮危ねえな。
そういや俺のyahooパスワード、数字だけだったなあ⋮⋮今の
うちにパスワード変えとこ。
﹁⋮⋮おし、自分だけがわかりそうな数字と小文字﹂
これなら破られないだろ。
1807
﹁ケン、こうしとけばyahooIDのパスワードがバレて、勝手
に買い物されるって事がないって事だよな﹂
﹁そうだな。⋮⋮ところでヤス、買い物できるところって他にもあ
るよな﹂
ええと⋮⋮どこがあるかな?
﹁goo、livedoor⋮⋮msn、hotmailの所もも
そうか﹂
﹁んじゃさ、どこのパスワードが破りやすいか、ヤスのパソコンで
適当に見てみねえ?﹂
オッケー。
パスワードについて適当にまとめてみた。
まずyahoo
文字数、6∼32字
使える文字、英数字の大文字小文字、記号多数、計92文字
1808
アンダーバー
︵0∼9、a∼z︶記号は︳だけ、
何回パスワード間違えても大丈夫
次にgoo
文字数、4∼10文字
使える文字:半角英数小文字
計37文字
何回パスワード間違えても大丈夫
3番手はlivedoor
文字数、6∼12文字
使える文字、半角英数小文字︵0∼9、a∼z︶記号は使えない、
計36文字
何回パスワード間違えても大丈夫
4番バッター、msn
文字数:6∼16文字
使える文字:英数字の大文字小文字、記号多数、計92文字
ある程度パスワード間違えると、IDとパスワードの他にこの文字
を入力しなさいと出てくる
﹁⋮⋮ケン、これだけ見ると、狙い目はgooか?﹂
﹁そうだな﹂
ってか4文字のパスワードって何やねん。
使える文字を考えると37の4乗だから⋮⋮電卓電卓⋮⋮1,87
4,161⋮⋮少なすぎだろ。1億通りが2時間半なんだから。1
1809
80万通りって150秒?
﹁逆にmsnは狙いづらそうだな。全検索するプログラムじゃ破れ
なさそうだ﹂
﹁なるほど﹂
さすが天下のマイクロソフト。
﹁ただ⋮⋮どっか1カ所破ると関係なさそうだよなあ﹂
﹁何で?﹂
﹁ヤスはそんなにたくさんのパスワードを使うのか?﹂
﹁⋮⋮使わないなあ﹂
だって忘れるやん。
ついさっき小説家になろうとyahoo、パスワード一緒にしたし。
⋮⋮やっぱ変えとこ。
﹁だろ? んで、送られてきてるメールとか、登録情報見ると、他
のIDも分かったりするし。yahooメールに他のサイトのパス
ワードが送られてる場合もあるし。どっかのサイトのパスワード破
れば全部破れる可能性、なきにしもあらずだな﹂
﹁⋮⋮﹃小説家になろう﹄はどうなんだろ?﹂
小説家になろうのIDは﹃作者にメッセージを送る﹄のとこから全
部分かる。
1810
破られにくい仕組みになってるといいんだけど。
﹁ヤス、一応調べてみるか?﹂
﹁OKっす﹂
︵0∼9、a∼z︶記号は使えない、
おまけのつもりの5番手、小説家になろう
文字数:1∼8文字
使える文字:半角英数小文字
計36文字
ログイン:何回失敗しても大丈夫
⋮⋮。
﹁⋮⋮ケン、やばくね?﹂
﹁⋮⋮やばいだろ﹂
だよな⋮⋮1文字とかヤバすぎる。36通りしか無いやん。
﹁ま、まあ1文字でも設定できちゃうけど、登録する時には3文字
以上8文字以下でお願いしますって書かれてるから3文字からしか
ないんじゃん?﹂
﹁そ、そうだな﹂
1811
8文字のパスワードにしとけば、36の8乗だから⋮⋮⋮⋮2兆8
211億990万7456通り。大丈夫だろ。
﹁これ、ただ単に総当たりしてるだけだからなあ⋮⋮辞書に登録さ
れてるって検索方法使うとすんごい速くなるらしいんだよな﹂
﹁何それ?﹂
﹁例えばさ、夏が好きな人がsummerってパスワードにしとく
訳じゃん﹂
﹁うんうん﹂
﹁summerって英語辞書見たら乗ってるだろ? そんな風に辞
書に乗ってる言葉だけを選んでパスワード破りをしようとすると、
さっきの全検索の9443秒よりものすごい短時間で検索できるん
だよ。英語だけじゃなくて日本語も同様だぞ。紅葉が好きでmom
ijiってパスワードも辞書登録されてるからな﹂
﹁⋮⋮﹂
さっきsatsuki5ってパスワードにしてたけど、satsu
kiって単語も辞書登録されてそう⋮⋮。
⋮⋮後で直しとこ。
﹁ケン、けどパスワード破りができるなんて一部の選ばれた人だけ
だろ? そういう人から狙われたらしょうがないじゃん﹂
﹁いやいや、ちょっと勉強すれば出来るって⋮⋮お、ヤス。検索し
1812
てみたらこんなフリーソフトがあった﹂
﹁どんなん?﹂
﹁Seleniumだって。きちんとリンクがはってあるかどうか
とか、パスワード入力した後きちんと処理されるか、firefo
xとかIEから使えるソフト﹂
﹁はあ⋮⋮それで、それをどう使うん?﹂
﹁や、ちゃんとしたプログラムの知識無くても、このソフト使えば
誰でもパスワード全検索させる事が可能っぽいなあと思っただけ﹂
確かに⋮⋮このソフトで、こういう文字をパスワードに入れて、ロ
グインボタンを押しなさい。
駄目だったら次の文字を入れなさい⋮⋮って作っておくと、後は延
々と繰り返しさせれば、誰かのIDにいつの間にかログインできち
ゃいましたってなる訳か。
⋮⋮やばいじゃん! 素人がパスワード破り、できちゃうじゃん!
﹁⋮⋮でもさ、小説家になろうぐらいだったら、たとえパスワード
破られたとしても登録情報はペンネームと生年月日と性別しかない
から﹂
それだけでも十分危険な気もするが、まあ大丈夫だろう⋮⋮。
﹁大事なのを1個忘れてるぞ、ヤス﹂
﹁⋮⋮メールアドレスもあるやん﹂
1813
やばいやん。
﹁だな、メールアドレスがyahooとかgooだったりして、パ
スワードを一緒にしてたら⋮⋮﹂
﹁yahooとかgooとかのパスワードまで破られちゃうやん﹂
﹁さらに⋮⋮yahooとかgooにクレジットカードの情報を書
いてたら﹂
﹁買い物し放題?﹂
﹁それだけですむんかな? 登録情報に住所とか自分の名前も入れ
てる場合とか、成り済ましも余裕だろ?﹂
﹁ほんとだ!﹂
うわ、怖くなってきた。
﹁⋮⋮ケンさあ、連絡フォームでウメさんに10回ぐらいログイン
ミスったらログインできんように変えてくれって頼んだ方が良くね
?﹂
﹁や、それってめっちゃ大変だろ。ウメさんにそこまで頼んじゃ駄
目なんじゃないか? やっぱりパスワード管理は自分で、だろ?﹂
そっか⋮⋮そだな、難しいパスワードにしとけば破られないだろう
し。
パスワード管理はきちんとしとこ。
1814
188話:初心者のパソコン攻撃パート2︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
新人戦手前なので、陸上の話にするつもりだったんですが、時間が
なくてストックにあったこんな話になりました。
陸上の話、あんまり書いてないので﹃タスキ﹄というタイトルって
変だよなあ、と自分自身が最近思います。
徐々に増やしたいです。
ウェブで安易な発言すると捕まります。一例。
http://internet.watch.impress.
co.jp/cda/news/2009/01/08/2203
8.html
それでは今後ともよろしくです。
1815
189話:調整いいの?
9月11日木曜日、部活前。
﹁ユッチユッチ、今日はちょっとしたびっくりがあるぞ?﹂
﹁何さあ、エロス﹂
⋮⋮なんかすごい言葉を言われた気がしてしょうがないんだが⋮⋮
聞き間違いか?
﹁ユッチ、よく聞こえなかった。もう1回言って?﹂
﹁何さあ、エロス﹂
⋮⋮なんなんだろう。ユッチが何かに目覚めた?
﹁⋮⋮ユッチ、その発言は何だ?﹂
﹁エロいヤスを省略してエロスだあ! エロスにはぴったりだろお
?﹂
⋮⋮ものすごい不名誉なあだ名だな。
エロスという字を1文字変えてメ
ユッチには俺=エロって言う方程式ができちゃったのか。 嫌やな
あ⋮⋮。
﹁ユッチ、そのあだ名やめね?
ロスにしようよ﹂
1816
﹁なんでえ? メロスってあれだろ? 走れメロスだろ?﹂
お、ユッチちゃんと読んでんじゃん。
﹁あんなかっこいい人はヤスには似合わないんだあ! エロスがい
いんだあ!﹂
メロスは確かに分不相応だけどさあ⋮⋮エロスはやめようよ。
俺が嫌なのもあるんだけどさあ⋮⋮。
﹁エロス、エロス、エロス、エロスう!﹂
⋮⋮いろいろと気付け、ユッチ。
﹁ユッチ、ちらっと後ろ見てみ?﹂
﹁ええ? 後ろお? ⋮⋮あれえ、サツキちゃん!?﹂
﹁こんにちはユッチ先輩! 合宿以来です!﹂
﹁お久しぶりい⋮⋮でも、なんでここにいるんだあ?﹂
﹁今日から部活、一緒に練習させていただくんですよ。よろしくお
願いします﹂
﹁ウララ先生にもOKもらってるし。ちょっとびっくりだっただろ
?﹂
﹁うん、びっくりしたあ⋮⋮よろしく! サツキちゃん!﹂
1817
﹁ユッチ、先輩らしく頑張れよ﹂
﹁うん、頑張るう! サツキちゃん、みんなが来るより先に練習始
めよっかあ!﹂
ユッチ、めっちゃやる気になってるやん、頑張れ。
⋮⋮んじゃサツキの挨拶も終わった事だし、俺も負けずに頑張ろか
あ。
﹁ところでユッチ先輩、欲求不満ですか?﹂
﹁はあ!? サツキちゃん、何言ってるんだあ?﹂
﹁だって﹃エロス、エロス﹄って叫んでたじゃないですか? 何か
あったのかなって﹂
﹁ちちち、違うよお! ボクじゃなくてヤスの事だよお!﹂
﹁ヤス兄? ヤス兄、確かに変態ですけど⋮⋮さっきのはどっちか
って言うとユッチ先輩が欲求不満に見えましたよ﹂
﹁それ、ほんとお!?﹂
﹁ええ、ものすごく﹂
﹁⋮⋮エロスってあだ名やめるう⋮⋮﹂
⋮⋮ナイスサツキ。
1818
ジョグが終わって現在ストレッチ中。
お、ポンポコさんもようやく来た。
﹁ポンポコさん、こんちは﹂
﹁すまない、ホームルームが長引いてな﹂
別に俺に謝る事じゃないけど。
﹁ポンポコさん、今日はメニュー何やろ?﹂
昨日は1時間半ジョグ。合宿中、いろんな所を走り回ってた時は長
く感じなかったけど、学校の周りを淡々と90分回るって飽きる⋮
⋮。
やっぱり真面目に練習する誰かと一緒に走りてえなあ⋮⋮そうすり
ゃ楽しくできるだろうに。
﹁そうだな、今日は12キロ走ろう。学校周りは坂があるから、ス
ピードは1キロ4分40でいこう⋮⋮いけるな?﹂
﹁1周820メートルで、1キロ280秒だから⋮⋮1周あたり2
1819
30秒か﹂
以前、1キロ4分で10キロ走ったんだからいけるだろう。
けど⋮⋮。
﹁1つ質問よいでしょうか? ポンポコさん﹂
﹁ん、なんだ?﹂
﹁試合前って調整しないの? 試合に疲れを持ったまんま挑むって
あんまりよろしくないのではと⋮⋮﹂
﹁短距離で練習量を減らしている人はいるか?﹂
﹁短距離男子メンバー、ほとんどの人が明らかに練習量落としてる﹂
一緒に練習してない俺でもそう思う。きっと一緒に練習するともっ
と感じるんだろう。
女子メンバーはむしろ増えてる感じもする。今日サツキが練習に来
て、明らかにユッチがやる気になってるから、さらに練習量、増え
るんじゃないかな。
﹁⋮⋮﹂
ポンポコさん、話の持っていき方を間違えたな。続けようが無くな
ってる。
﹁⋮⋮まあいい。短距離の話は置いておこう﹂
あ、逃げた。
1820
﹁今のヤス、自分で考えてみて調整をしただけで地区大会を勝ち抜
いて県大会に出れる実力がついていると思うか?﹂
﹁⋮⋮まだ無理かな﹂
﹁ならば、大会の事は考えずどんどん練習した方が強くなれると思
わないか? 新人戦は練習の1つだと思っておいた方が気楽に走れ
るだろう?﹂
﹁⋮⋮だな。その通りかも﹂
﹁そもそも地区予選ぐらいで調整なんぞ考えるな。ヤスの目標はど
こだったか思い出せ﹂
⋮⋮ええと、最初に決めた時は東海大会出場だったと思ってるんだ
けど。
﹁全国出場?﹂
﹁何故疑問系なんだ? 疑念を持つな。はっきりくっきりすっきり
かっきり宣言しろ﹂
﹁⋮⋮イエッサー﹂
もう何も言うまい。
﹁⋮⋮そうだな、昼休みに屋上で叫ぼうと言っていて忘れていた。
そのせいで初心を忘れたのかもしれん。明日から叫ぼうか﹂
1821
﹁ええ!? まじでやんの!?﹂
﹁もちろんだ﹂
⋮⋮やめよと言ってもやるのだろう。
﹁せめて来週からにしない? ほら、明日金曜日だし何か区切り悪
いじゃん。月曜日からの方がタイミングがいいっしょ?﹂
﹁ヤス、アオちゃんの﹃あるある川柳﹄、なんだったか覚えている
か?﹂
﹁覚えてない。﹃人間とは忘れる生き物﹄だよ。ポンポコさん﹂
合宿なんて昔の事、忘れるさ。
全部覚えてたら頭パンクしちゃうし。
﹁⋮⋮﹃あしたやろ あしたになった あしたやろ﹄だ。その通り
だと思う。きっと先延ばしにすればするほどやらなくなるものなん
だ。﹃思い立ったが吉日﹄だぞ。タイミングなんて考えないで明日
からやろう﹂
﹁⋮⋮了解っす﹂
んじゃ明日から叫びますかあ⋮⋮とりあえずケンとユッチは巻き込
もう。
﹁では、短距離のサポートがあるから行く。練習頑張ってくれ﹂
﹁アイサー。ポンポコさん、毎度いろいろ教えてくれてありがと!﹂
1822
うし、12キロ頑張ろ。
1823
190話:新人戦前日
9月12日金曜日。
とうとう試合前日だ。
今日の部活は90分走、その後筋トレ。ほんとにポンポコさん、前
日まで練習量を減らす気がなかったな。
⋮⋮ふぅ⋮⋮明日なんだなあ⋮⋮。
⋮⋮ふぅ⋮⋮。
﹁ヤス、そんなに緊張すんな! 前日から緊張してたら体が持たね
えぞ!﹂
﹁⋮⋮ケンは何でそんなに元気なんだ? 実はケンも緊張してて空
元気を出してるだけなんじゃね?﹂
﹁⋮⋮﹂
しもた。図星をついてしもた。
﹁⋮⋮えと⋮⋮﹂
まずい、言葉が続かん。
﹁はい、短距離も中長距離も注目!﹂
ウララ先生、ナイスタイミング。
1824
﹁明日からとうとう新人戦です。1年生にとっては初めての大会、
緊張するなと言っても無理よね﹂
うんうん、そうなんすよ。いくらポンポコさんが練習のつもりで挑
めばいいと言ってくれても、大会と思うと俺のチキンハートじゃこ
んな緊張に耐えられないっすよ。
野球の時も緊張してたなあ⋮⋮。
﹁過去の偉人達は言いました⋮⋮﹃手に人と書いて飲め﹄﹂
それやって効果あった事ないっす。
﹁過去の偉人達は言いました⋮⋮﹃全ての人をタクワンと思え﹄﹂
それってジャガイモじゃなかったっけ? カボチャかな? それも
俺、効果あった事ないっす。
﹁過去の偉人は言いました⋮⋮﹃自分で自分を褒めたい気分です﹄﹂
それって走り終わった後のセリフですよね?
走る前にそのセリフを言う意味がよく分かりません。
﹁過去の偉人達は言いました⋮⋮﹃なるようにしかならない﹄﹂
先生がそれ言っていいんですか?
﹁過去の偉人達は言いました⋮⋮﹃人のうわさも75日﹄﹂
えっと、どんだけ失敗しても75日経ちゃ忘れるさ。そんなに緊張
1825
しないで思いっきり失敗しろやあって事か?
めっちゃ分かりにくいっす。
﹁過去の偉人達は言いました⋮⋮﹃それはそれ、これはこれ﹄﹂
すみません、意味不明です。
﹁過去の偉人は言いました⋮⋮﹃どあほう この いつまでも ガ
チガチ キンチョー しまくり男﹄﹂
⋮⋮俺、桜木じゃないっす。
﹁今までのはどうでもいいわ﹂
え!? 何だったの!?
﹁言いたいのは1個だけ、﹃楽しめ!﹄﹂
⋮⋮何やのそれ?
﹁日常生活では、緊張とは無縁。せっかく緊張できる場が向こうか
らやってきた。そんな場を体験できるんだから、その場をみんな楽
しめ! ガチガチ緊張しちゃってて何も思い出せないなんてもった
いないよ!﹂
⋮⋮そうかあ。
﹁練習でやってきた事と同じ事をすればいいの。後は楽しんだもの
が勝つのよ! 楽しめ!﹂
1826
ういっす。
﹁ウララ先生⋮⋮それでももう緊張して楽しめないです﹂
アオちゃんか、普段緊張とは無縁みたいな感じだけど⋮⋮やっぱり
誰もが緊張するんだなあ。
﹁アオちゃん、アオちゃんは何をそこまで緊張してるの?﹂
﹁試合です﹂
﹁何で試合で緊張するのかな。試合のグラウンド? 毎週土曜日に
練習してるじゃない?﹂
﹁⋮⋮やっぱり見てる人が居るからでしょうか?﹂
﹁私、いっつもアオちゃんの事見てるでしょ? 緊張してないじゃ
ない。土曜日でもどこか別の高校が練習してる事あるでしょ? 全
然知らない人に見られてても平気じゃない﹂
﹁でも⋮⋮こんな経験した事ないですし﹂
﹁うん。そうだね。でもそれはみんな一緒。誰もが初めては怖いも
の。失敗してもいいんだから。思いっきりぶつかっていきなさい﹂
﹁⋮⋮はい﹂
緊張、解けきってないけど⋮⋮これ以上は頑張れとしか言いようが
ないな。
1827
﹁明日は100、400、1500、100mH、110mH、4
継。明後日14日は200、800、5000、400mH、マイ
ル。自分の出場する種目が何時に招集で開始か、わかってるね﹂
俺は5000、2日目の16時半から⋮⋮すごい最後の方だ。
ほとんどの人が2種目以上出場して、明日は応援のみってのはほと
んどいない。
長距離の先輩で2人1種目の人が居るか。
﹁さてさて、1年生諸君、今まで使う機会がなかったから渡さなか
ったけど、みんなにもユニフォーム! ひとりひとり受け取ってね
!﹂
おお、ついに手に入るのか!
﹁まずは女子から⋮⋮ユッチ﹂
﹁はあい!﹂
めっちゃ元気や。そんなに緊張してなさそう。
さすがに場慣れしてる。
﹁アオちゃん﹂
﹁⋮⋮はい﹂
⋮⋮大丈夫か?
﹁次男子、ケン﹂
1828
﹁はいっす!﹂
ケンのやつ、空元気続行中だな。でも、ガチガチに緊張して暗いま
んまじゃ周りを心配させるだけだし﹃空﹄でも元気にはちがいない。
俺もケンを見習おう。
﹁ヤス﹂
﹁え!? あ、ばい!﹂
﹁⋮⋮ばい?﹂
慌てていい間違えたんです。流して、ウララ先生。
﹁はい、ヤス﹂
⋮⋮おお、黒が基調で、白と赤のラインが入ったユニフォーム⋮⋮
俺も着るんだなあ⋮⋮。
﹁ゼッケン、安全ピンで付けとく事忘れないようにね! それじゃ
今日はしっかり寝て、明日に備えよう!﹂
﹃はい!﹄
﹁お疲れ、みんな!﹂
﹃ありがとーございました!﹄
⋮⋮さ、明日からだ。
1829
191話:新人戦地区予選開始
9月13日土曜日、新人戦が今日から2日間。
天気は曇り、風もほとんどない。今日は天気予報によると1日中曇
りらしい⋮⋮走る分には暑すぎず、すごい好条件の天気だ。
場所取りのために6時半に家を出た。サツキも一緒に来てくれてる
んだけど⋮⋮よく起きれたなあ。
現在は競技場最寄りの駅を降りて、サツキとのんびり歩いてる。
﹁ヤス兄、緊張して眠れない事なかった? ちゃんと寝れた?﹂
﹁寝れた寝れた。ぐっすり寝れた﹂
﹁私が添い寝してあげたおかげだね﹂
﹁だな﹂
﹁⋮⋮同意しないでよ。ヤス兄﹂
⋮⋮まあ本当は2人とも自分の部屋で寝てたけど、つい同意したく
なった。
ってか俺の試合、今日じゃねえもん。そんな緊張しててもしゃあえ
なあと思ってしまったんすよ。
﹁それにしても⋮⋮いっくら俺が今日出場しないからってさあ⋮⋮
ビデオもブルーシートも俺が持てってどうなんだろうな?﹂
﹁いいじゃん、明日は誰かに変わってもらえばいいだけだよ﹂
1830
ま、そりゃそうか。
﹁ヤス兄、今日はケンちゃん、出場するの?﹂
﹁出場するぞ。ケンは400だ﹂
﹁県大会、行って欲しいね﹂
﹁いきなり行けたらすごいよな﹂
﹁ケンちゃん、速いもん。行けるって!﹂
だな。精一杯応援しよ。
⋮⋮うし、サツキと話してる間に愛鷹広域公園陸上競技場到着。イ
ンターハイ地区予選の時と同じ場所。
地区予選では県大会出場者3人だった⋮⋮今回はもっと出場してほ
しい。
短距離陣のレベルがどんなもんか全然知らんからなあ⋮⋮。
﹁ヤス、サツキ、おはよう﹂
﹁お、おはよう。もう来てたのかポンポコさん、早いねえ﹂
﹁楽しみだったからな。小学生の時、遠足前に眠れない心境になっ
ていた﹂
そこまで楽しみだったんかい。
﹁でもヤス兄、まだ私たちしかいないっておかしくない? 他の人
1831
たち遅いね﹂
﹁ユッチ、アオちゃん、キビ先輩、ゴーヤ先輩の4継メンバーは今
頃来てんじゃないかなあ⋮⋮で、隣の土のグラウンドでアップして
ると思うぞ﹂
﹁うそ、早いね! まだ8時前だよ?﹂
﹁予選開始が9時からだからな﹂
今日は朝の集合はなくて全員バラバラにやってくる。
ユッチ達に合わせようとすると、自分の試合はもっと遅くからなの
にすごく早くに来なきゃいけなくなるとか文句が出たから⋮⋮って
かチームメイトなら来いよ。
ダッダッダッダッダダダダダダダダダダダダアア⋮⋮⋮⋮。
﹁ヤス兄⋮⋮あれ何? まるでバーゲンの開幕ダッシュだよ?﹂
﹁場所取り﹂
1832
ポンポコさんいわく、陸上競技場開門の名物らしい。係のおっちゃ
んがどんだけ叫んでも止まる事の知らない高校生軍団。
いつからこんな風になったんだろう?
﹁⋮⋮必要?﹂
﹁いらんと思う。場所くらいそこら中に開いてるし﹂
というか学校ごとに定位置が決まってるっぽくって、あれだけ慌て
なくても大抵場所はとれる。
﹁⋮⋮ヤス、あそこまで急ぐ必要はないと思うが、そこまでのんび
りするのはどうなんだ? 早く来た意味がないだろう?﹂
﹁今日なんか曇りなんだから屋根がない所に陣取ったって平気じゃ
ん﹂
日向にいると暑くてそれだけで体力が無くなる。休んでいる時は出
来るだけ日陰に居る方がいいと昨日ポンポコさんから聞いた。
﹁万が一晴れたらどうするのだ?﹂
⋮⋮急ごっ。
ふう、何とか屋根のあるとことれた⋮⋮トイレの前だけど。
1833
﹁ヤス、場所取りお疲れだったな。ウララ先生からプログラムをも
らってきた。見てみるか?﹂
﹁うい、見る見る﹂
ついでに今日の出場者を書き込んでこっと。準決勝、決勝は行ける
女子
4×100mR予選
か分からんし、とりあえず予選だけ書いとくか。えっと⋮⋮
9:00
︵3組1着+5︶
男子
4×100mR予選
3組7レーン、キビ先輩、ユッチ、アオちゃん、ゴーヤ先輩
9:20
︵4組1着+4︶
女子
400m予選
2組2レーン、男4人
9:40
︵5組2着+6︶
1組6レーン、ゴーヤ先輩
男子
400m予選
4組8レーン、アオちゃん
10:10
︵10組1着+14︶
女子
100mH予選
8組1レーン、ケン
その他2人
11:10
︵3組2着+2︶
1組3レーン キビ先輩
1834
11:35
男子
︵3組1着+5︶
女子
110mH予選
100m予選
3組4レーン ボーちゃん先輩
12:00
︵9組1着+15︶
男子
100m予選
9組8レーン ユッチ
12:50
男子
1500m予選︵4組4着+4︶
︵14組1着+10︶
マー君先輩
その他2人
13:50
男3人
⋮⋮おし、書けた。
﹁ヤス兄、﹃男3人﹄とか﹃その他2人﹄って書き方はないんじゃ
ない?﹂
﹁だってめんどいやん﹂
しゃべった事がほぼ皆無の人はこんなもんでいいんでないかと。
﹁ヤス兄、前言ってたじゃん。﹃一応仮にもあれでもなんとかぎり
ぎり上級生なんだから、表面上だけでも上下関係ってのはきちんと
すべき﹄って。この書き方じゃヤス兄、とてもじゃないけど敬意を
払ってないよ?﹂
1835
﹁⋮⋮最近、俺思うようになったんだ。上級生だからって敬意を払
う必要はないんじゃないかって⋮⋮﹂
﹁え、どうして?﹂
﹁振り返ってみると、俺下級生に敬意を払われた事がない﹂
﹁どんまいだよ、ヤス兄﹂
⋮⋮言うんじゃなかった。
ん、後で書き直しとこ。
﹁ヤス、サツキ。そろそろ最初の種目の4継が始まるぞ。応援に行
こうじゃないか﹂
﹃ラジャ!﹄
ユッチ、アオちゃんの初デビュー。しっかり応援しよ!
1836
192話:女子4継
まもなく9時、自分の出番でもないのになんだかドキドキしてきた。
俺とサツキとポンポコさんはバックストレートのはじっこ、第2走
者から第3走者がバトンを渡す場所辺りの応援席に座って、4継の
大山高校の出番を待っている。
﹁ただいまより静岡県東部高等学校新人陸上競技選手権大会を開始
します。ただいまのグラウンドの状況をお知らせします。気温25
度、湿度65%、東北の風0.4m﹂
アナウンスの声⋮⋮地味に始まるもんなんだなあ。
﹁ただいまより女子4×100mの予選開始です﹂
まずは1組目。
うちの高校は3組目だからもうちょい先だな。
ユッチ達は決勝まで出られるんかな。
⋮⋮ユッチもアオちゃんも、もちろんゴーヤ先輩もキビ先輩も毎日
頑張ってたし、決勝進出してほしい。
⋮⋮2組目まで終了。
今までのトップチームのタイムは49秒66。49秒台をたたき出
1837
したのはこの高校1校だけだ。足が速いってのももちろんだけど、
その高校、やっぱりバトンパスがすごくスムーズだ。つええなあ。
んで決勝には1着を除いた上位5チームまで出場できるわけだけど、
現在の4番手は52秒66、5番手のタイムは53秒04。
決勝進出するには52秒65を出せばかなり安全圏、そして最低で
も53秒03を出さなければならないって事だな。
﹁おはよっ、もうアオちゃん達走っちゃったか!?﹂
﹁おはよっすケン。まだ走ってないぞ、ちょうどこれから走る。け
どギリギリだ﹂
﹁ほんとにすまん⋮⋮昨日なかなか寝られなくってさ、やっと寝れ
たと思ったら気付いたら朝だった。そして遅刻した﹂
まあ、そういう事もあるけど。
﹁それでアオちゃん達何レーン? 一応確認だけど⋮⋮どういう走
順だった?﹂
﹁7レーン、んで1走がキビ先輩で、2走がユッチ、3走がアオち
ゃん、4走がゴーヤ先輩だ。目の前でアオちゃんが走ってるだろ?
もうコースに入ってるぞ﹂
アオちゃんが目の前で軽くタタッと走ってる。
﹁あ、ほんとやな⋮⋮アオちゃん、頑張れよ!﹂
お、こっちに気付いた。ちょっと表情が硬いけど笑って手振ってき
てくれてる⋮⋮昨日までガチガチに緊張してたけど、緊張はちょっ
1838
と解けたかな。
﹁ヤス兄、ビデオ撮らなくていいの?﹂
あ、そだそだ忘れてた。キビ先輩にビデオの撮影頼まれてたんだ。
準備準備。
﹁予選第3組、第1レーンを空けまして、第2レーン、伊東工業。
第3レーン、富士見北。第4レーン、伏見。第5レーン、富士宮東、
第6レーンを空けまして、第7レーン、大山、第8レーン、三島南
の計6チームの出場です﹂
⋮⋮計6チームか。まずはキビ先輩⋮⋮頑張れ。
﹁位置について⋮⋮ヨーイ﹂
パン!
ピストルが鳴る。と同時に一斉に第1走者がスタートを切る。
おし! キビ先輩もいいスタート切った!
﹁キービ、ファイト!﹂
﹃キービ、ファイト!﹄
﹁キービ、ファイト!﹂
﹃キービ、ファイト!﹄
ケンの掛け声の後に全員でハモって大声で叫ぶ。
1839
キビ先輩、上体をぐっと起こして足あげて⋮⋮めっちゃ綺麗。
おし、キビ先輩が8レーンの人との差をぐんぐん詰めてる。そのま
ま行け!
キビ先輩がユッチに近づいてきた。
ユッチが前傾姿勢になりながらキビ先輩の走りを見つめる⋮⋮今ユ
ッチも走りだした。
⋮⋮おし! すごいい感じでバトンパス出来た! 詰まったり、無
駄な減速もなく、スピードに乗った状態でのバトンパス。
﹁ユッチ、ファイト!﹂
﹃ユッチ、ファイト!﹄
﹁ユッチ、ファイト!﹂
﹃ユッチ、ファイト!﹄
ユッチがピッチを上げて走る。
他の走者よりも足の回転がメチャクチャ速い。
言い過ぎじゃなく真面目に他の走者が1歩踏み出す間に2歩足を動
かしてるみたいに見える。
⋮⋮はええ⋮⋮試合で走るの初めてみたけど、ユッチってこんなに
速かったんか。
8レーンの走者は既に追い越して、2、3レーンのメンツとはどん
どん差を広げてる⋮⋮5レーンの走者とは中々差が開かないな。
5レーンの走者も強いな。
﹁ユッチ負けんな! 頑張れ!﹂
1840
﹁ユッチ先輩ラストファイト!﹂
﹁ユッチーー!!﹂
第3走者、アオちゃんが待つ。
アオちゃんがスタート。まだユッチ結構離れてる気がするんだけど
⋮⋮。
ユッチ速い、グングン追いついてく⋮⋮けどやっぱりアオちゃんの
スタートが少し速い。そのままだとリレーゾーンを超えるんじゃね
えか? ﹁アオちゃんヤバい!﹂
ケンが叫んだ、聞こえるか?
聞こえたのかどうかは分からないけど、アオちゃんがちょっと減速
した。
﹁はいっ!﹂
ユッチが左手で持ったバトンを差し出す。
﹁はいっ!﹂
アオちゃんが少し手を後ろにやり、右手で受け取る。
おし、ギリギリリレーゾーン内!
審判も⋮⋮おし、全員白旗!
確か白旗はOKだったって事だよな。
1841
﹁アオちゃん、ファイト!﹂
﹃アオちゃん、ファイト!﹄
﹁アオちゃん、ファイト!﹂
﹃アオちゃん、ファイト!﹄
アオちゃんはやっぱりまだ経験が短いからそこまで速くないな。
⋮⋮内側走ってる5レーンの走者がグングン迫ってくる⋮⋮ち、追
いつかれた。
そのままスーッと追い越してく。
4レーンの選手にも追いつかれそう⋮⋮。
﹁アオちゃん頑張れ!﹂
﹁アオちゃん先輩、あと少しです!﹂
﹁アオちゃん、負けんなー!﹂
第4走者、ゴーヤ先輩。
⋮⋮アオちゃんがかなり近づいてきてからスタート。
あれだけスタートが遅いとスピードにのれないんじゃないか?
⋮⋮お、かなりスムーズにバトンパスできたな。さすがゴーヤ先輩。
第4レーンとほぼ同時にバトンパス、何とか第4レーンの選手には
抜かれずにバトンパスできたな。
⋮⋮現在2着争い。
﹃ゴーヤ! ゴーヤ! ゴーヤ! ゴーヤ! ゴーヤ! ゴーヤ!
1842
ゴーヤ! ゴーヤ!﹄
ラスト勝負! 争ってる4レーンの高校も確実にエースが4走を走
ってる⋮⋮今どっちが勝ってるのかここからじゃ全然分からない。
⋮⋮ゴーヤ先輩、頑張れ!
﹃ラスト! ゴーヤー!﹄
4レーンの高校とほぼ同時にゴールイン。
﹁⋮⋮なあ、どっちが勝った?﹂
﹁わからんかった、こっからじゃ遠すぎてわかんねえよ﹂
だよな⋮⋮放送を待つしかないな。
﹁ただ今行われた4×100mリレー第3組の速報です﹂
お、待ってました。
﹁1着、第5レーン、富士宮東。タイム、50秒75﹂
まあ、ここはダントツだったから置いとこう。
﹁2着﹂
1843
⋮⋮どっちだ?
﹁第4レーン、伏見。52秒77﹂
うわ、負けた。
﹁3着、第4レーン、大山。52秒80﹂
⋮⋮うわ、差はたった0.03秒かい⋮⋮。
﹁以下の順位は、電光掲示板をご覧ください﹂
﹁ポンポコさん、決勝進出は?﹂
﹁残念ながら無理だった。先ほどの伏見高校がプラス5の5番目の
順位だ。大山高校はプラス6番目だったな﹂
﹁そっか﹂
⋮⋮って事は4継の順位は9位って事か。
﹁県出場って何位までだっけ?﹂
﹁12位までだ﹂
﹁そか、県大会出場出来たんじゃん! オッケーじゃんね﹂
﹁そうだな、県大会で伏見高校に勝ついいタイムを出せばいい﹂
1844
だよな⋮⋮それじゃ頑張った選手達に⋮⋮すぅー。
﹁いいぞいいぞ、キービ!﹂
﹃いいぞいいぞ、キービ!﹄
﹁いいぞいいぞ、ユッチ!﹂
﹃いいぞいいぞ、ユッチ!﹄
﹁いいぞいいぞ、アオちゃん!﹂
﹃いいぞいいぞ、アオちゃん!﹄
﹁いいぞいいぞ、ゴーヤ!﹂
﹃いいぞいいぞ、ゴーヤ!﹄
﹁いいぞいいぞ、大山!﹂
﹃いいぞいいぞ、大山!﹄
まずはリレー、お疲れっす!
1845
192話:女子4継︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
私もケン君みたいに前日緊張で全然寝られなくて、ようやく寝付け
たのが朝の3時とか4時で、起きたら遅刻確定と言う経験がありま
す。
結構寝られなくなりますよね? 自分だけでしょうか?
それでは。
1846
193話:400、400、400!
﹁んじゃ俺もアップいってくる﹂
﹁ケンちゃん、頑張ってね!﹂
﹁ケン、頑張れよ!﹂
﹁任されよ! ⋮⋮といいたいけど、初めてだからどんなもんかさ
っぱり分からん。ま、俺なりに頑張る﹂
うん、頑張れ。
﹁ケン、招集忘れるなよ。30分前までにゼッケンつけたユニフォ
ームもって招集所へ行くんだぞ。んで大山高校、ケンです、ゼッケ
ンは444って言ってゼッケン見せるんだぞ。そのまま400mの
スタート地点まで行って、自分が呼ばれるまでアップしつつ待機す
るんだからな﹂
しゅうとめ
﹁分かってるって。お前は小言の多い姑か!﹂
⋮⋮そんなに口うるさかったか?
まあいいや、ケン、行ってこいや。
1847
男子4×100mリレーは2組目2レーン、47秒32で5着。
まあ、この記録じゃ決勝進出も県大会出場も出来ないだろ。
お、ユッチ&キビ先輩。
﹁ユッチ、キビ先輩、お疲れ様っ! 県大会出場おめでとっ!﹂
﹁ヤス、ありがと﹂
﹁ヤス、ありがとお!﹂
﹁ってかユッチめっちゃ速いなあ⋮⋮びっくりした﹂
きっと練習で見てる時は男子も一緒になってやってるからあんまり
際立ってるように見えなかったんだな。
﹁ありがとお⋮⋮でもボクとアオちゃんのところで上手くバトンパ
スできなかったあ⋮⋮ちゃんとできてれば決勝に出れたのに。すっ
ごい悔しいい﹂
地団駄を踏みそうな勢いだ。負けん気の強さはユッチが陸上部ナン
バーワンだよな。
﹁まま、県大会出場は決定してんだから! 反省前に喜んどこうよ﹂
﹁ううん⋮⋮そうかなあ﹂
1848
﹁そうだよ! ユッチすごかったし!﹂
﹁えへへえ⋮⋮ありがとお﹂
⋮⋮よし、笑った。
﹁それと、アオちゃんも粘ってたな。4レーンの高校に抜かれるか
って一瞬思ったけど、ギリギリ踏ん張ってた﹂
﹁うん、アオちゃん先輩かっこ良かった﹂
﹁今日走る前に妹が応援にくるんだって張り切ってたあ﹂
ああ、妹のミドリちゃん、来てるのか。それで緊張が少しほぐれた
のかな?
﹁⋮⋮っと、そう言えばアオちゃんとゴーヤ先輩は?﹂
﹁アオちゃんもゴーヤ先輩も、9時40分から400mがあるもん。
すぐにそっちの招集に行ったよお﹂
⋮⋮そう言われれば。
9時15分頃に走って、9時40分にすぐに試合って⋮⋮短距離っ
てめっちゃ忙しいんやなあ。
﹁キビ先輩、確かゴーヤ先輩って1組目じゃありませんでした?﹂
﹁そうだよ。休む時間がほとんどないんだよね﹂
1849
うわ、大変。
﹁女子でも男子でもそう言う人結構いるよ? 特にメンバー少ない
うちみたいな高校だと。前に走り高跳びとマイルに出場してる人い
て、走り高跳び1回飛んだ後、マイル走って、そのまま走り高跳び
の競技してるとこに戻ってまた飛んでた﹂
それはきつすぎだろ。
まあでも⋮⋮条件は一緒って事っすね。
﹁ヤス兄、男子リレー終わったよ﹂
﹁お、男子リレーは県行けそう?﹂
﹁⋮⋮全然だ、23校中19位だ﹂
残念。
﹁すぐゴーヤ走るよ! さっきみたいに応援してよ﹂
﹁ういっす﹂
予選のゴーヤ先輩は62秒52というタイムだった。
着順は2位だったので既に準決勝に通過決定。
1850
﹁ゴーヤ先輩⋮⋮まだ全力じゃないよな﹂
ラスト流して走ってたし。
﹁そうだな、インハイ予選の時に既に61秒台を出している、今回
は60秒台を狙うと言っていたぞ﹂
おお、調整してないのにそれだけのタイムが出るっていうのは、そ
れだけ自信があるんか。
まじ準決勝、決勝に期待っすな。
次はアオちゃんの番⋮⋮。
﹁ユッチ、アオちゃんは準決勝行けそうなの?﹂
﹁走ってみなくちゃ分かんないよお⋮⋮でも、まだちょっと難しい
かなあ﹂
﹁そっか﹂
﹁初試合、いいタイム出して欲しいよねえ﹂
﹁そうだな⋮⋮と出てきた﹂
アオちゃんは8レーン、大外だ。
前にゴーヤ先輩から8レーンは追う目標がいないから走りにくくて
嫌なんだって聞いたけど、アオちゃんはどうだろ?
﹁位置について⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
1851
パン!
⋮⋮スタートが明らかに出遅れたな。
﹁アオちゃん、ずっと練習はしてるんだけど、まだスタート苦手な
んだあ。でもこっからだよ。頑張れえ、アオちゃん!!﹂
そうだな、400mもあるんだ。
スタートの出遅れは取り戻せるだろ。
﹁ファイトお! アオちゃん!﹂
﹃ファイトー! アオちゃん!﹄
﹁ファイトお! アオちゃん!﹂
﹃ファイトー! アオちゃん!﹄
ユッチの声に続けて全員が声を揃えて応援をする。
100mを通過。⋮⋮7レーンの人に並ばれた。3、4、5、6と
言った内側レーンの選手もどんどんと迫ってくる。
﹁負けんな! ついてけアオちゃん!﹂
﹁頑張れえ!﹂
⋮⋮お、安定してきた。7レーンの人に追いつかれてから、突き放
されずにずっとついてってる。
⋮⋮200m通過。今俺たちの目の前を走ってる。
1852
﹁アオちゃん、頑張れ!﹂
﹁アオちゃん先輩、ファイトです!﹂
お⋮⋮7レーンの人のスピードが落ちてきた。アオちゃんのが外側
走ってるのにはなされない。
このコーナーで3、4、5、6レーンの選手達はタタタッと抜いて
った。アイツらとはまだレベルが違う。
﹁おねえちゃん、がんばってー!!﹂
残り100m。
300m地点近くの応援席にミドリちゃんが声張り上げてる。
ここまで聞こえるってすごい大きな応援だ。
後100、きっつそうだけど⋮⋮頑張れ!
⋮⋮。
﹁5着か⋮⋮﹂
多分準決勝は無理だろう。
﹁アオちゃんすごく頑張ってたあ。最後までスピードも落ちなかっ
たもん﹂
﹁⋮⋮お、速報でた﹂
タイム⋮⋮67秒38。
アオちゃんにとってこのタイムがいいのか悪いのかはよく分かんな
いけど、アオちゃんの勝負は冬を越した春だな。
1853
お疲れっす、アオちゃん。
女子の400が終わって次は男子⋮⋮8組目、とうとうケンの番だ。
あの野郎、黒のユニフォーム、めっちゃ似合ってるやん。
ケンのあれだけ真剣な顔は久々だ。いっつもああいう顔をしてたら
きっとモテるだろうに。
⋮⋮全選手の紹介が終わって、今からスタートだ。
﹁位置について⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
パン! パアン!
﹁ん⋮⋮なんだ?﹂
﹁フライングがあったみたいだな。その場合はピストルを2回なら
すのだ﹂
フライングか⋮⋮ってケンか。
﹁一度フライングするとビビってスタートミスりやすくなるって聞
くけど⋮⋮﹂
ケンならきっと大丈夫だ。
2度目のスタート⋮⋮。
1854
﹁位置について⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
パン!
おし、今度はちゃんとスタートできた。
﹁ケン、ファイトー!!﹂
お⋮⋮速い、すっげえ速い。
2レーンに既に追いついた。
﹁速いな⋮⋮ケン﹂
200m通過。3レーンの選手にも追いついた。
現在の順位は⋮⋮きっと2位か3位だ。
﹁負けんな、ケン! そのまま突っ走れ!﹂
﹁ケンちゃん、頑張って!!﹂
300m通過。
ぐっと足をつきだして、全然スピードが衰えない。
5レーンの選手が前にいて、徐々に追いついてきた。ラスト20で
並んだか!?
そのままゴール。
ラストは俺の目だと追いついたように見えたけど⋮⋮よく分からん。
⋮⋮1位か2位って事だな⋮⋮。
1855
﹁ケンはいいな、あれだけのスピードで走りながら、まだまだ走れ
そうじゃないか。ラストスパートも落ちなかった。短距離より80
0m、1500mの方が向いているんじゃないか?﹂
﹁⋮⋮ポンポコさん、確かケンって100志望だった気がするんだ
けど﹂
﹁向いてる種目に転向していくのはいい事だと思うが?﹂
まあ、そりゃそうだけどな。
⋮⋮お、速報が出た。
⋮⋮あれ?
Not
Finishの略で失格の意味だ。
ケン﹄の右側にDNFって表示されてるんだけど﹂
﹁なあポンポコさん、ケンのタイムでてないんだけど。んで﹃ハヤ
カワ
﹁⋮⋮DNFはDid
ケンは何をやったのだ?﹂
⋮⋮俺に聞かれても知らんがな。
⋮⋮戻ってきたケンに聞いたら、思いっきり走ってたら2レーンに
入り込んでしまったらしい。
コースアウトで失格とか。
黄色い旗をあげた人が近寄ってきて突然失格言い渡されたんだと。
1856
ちなみにポンポコさんの時計だと、51秒9。審判の人に聞いたら、
ラストは5レーンの選手追い抜いてて、写真判定では52秒01で
通過してたって言ってた。
さらに言うと、52秒01、有力選手が体力温存して走ってるって
のもあるんだけど予選タイムではナンバーワンだったりした。
⋮⋮ケンの初試合は幻のタイムとなった。
1857
194話:お昼休み、双子理論
その後、100mハードルと110mハードルでキビ先輩とボーち
ゃん先輩がそれぞれ決勝進出を決め、
100mではユッチが13秒40を出して準決勝進出、その後ゴー
ヤ先輩が400mで61秒57の自己ベストを出して決勝進出を決
めた。ゴーヤ先輩はまだまだいいタイムが出せると意気込んでる。
マー君先輩の100mは11秒99と、マー君先輩自身初めて12
秒切りを果たしたけれども、全体で27番目のタイム、惜しくも準
決勝進出はならなかった。
他のメンバーは⋮⋮散々な成績なので割愛。
現在、グラウンドでは女子の3000mウォークが行われてる。う
ちの高校が誰も出場してないので、この時間を利用してサツキ、ケ
ン、アオちゃんと昼食中。
今日のメニューはご飯にミックスベジタブルを入れて、ケチャップ
かけてじゃっじゃっと適当に炒めたなんちゃってチャーハン、鳥の
唐揚げ、ほうれん草を入れた卵焼き、ポテトサラダ、そしておやつ
にバナナ。
楽しみにしていたバナナはユッチのお腹の中に。﹃バナナは元気が
出るから食べたいんだあ!﹄って言われてついあげちゃった。
3本も持ってきたのに全部食べられたのがちょっとショック。
﹁ヤス兄、もう県大会出場が決定してる先輩って結構いるんだよね﹂
﹁ああ、結構多いぞ。⋮⋮えっと、今んとこ県大会出場は女子が4
継、100mH、400mの3種目、男子が110mHの1種目か﹂
1858
インターハイ地区予選の時は全日程が終わって4種目しか出場でき
なかったのに対し、今回の新人戦ではすでに4種目出場してる。
﹁ケンちゃんもコースアウトしなかったらきっと県大会出れてたの
にね﹂
﹁サツキちゃん、その事は忘れてくれ⋮⋮すっげえショックを受け
てんだから﹂
⋮⋮レースから戻ってきたとき、全然しゃべろうとしなかったもん
なあ。
別に他の競技者の走路妨害をしたわけでもなく、内側に入ってショ
ートカットをしたわけでもないんだから⋮⋮と言っても審判いわく、
隣のレーンにかなり入り込んだらしいので仕方ないのかも。
﹁そういや、ポンポコさんが言ってたぞ。ケンは短距離より中距離
のが向いてんじゃねって﹂
﹁なんで?﹂
﹁体力がある。400m走ってもなおスピードが落ちない﹂
﹁⋮⋮俺、もともとは100m志望だったんだけど﹂
﹁それじゃあ何で今回、400mに出る事になったん?﹂
﹁ウララ先生の勧め。俺は最速になるまで時間がかかるから100
より400の方が向いてるだろうと言われた﹂
最速になるまで時間がかかるのに50m走は6秒3か⋮⋮うらやま
1859
しい。
﹁ウララ先生もケンは長い距離走った方が向いてるんじゃないかっ
て思ってんじゃん。ケンさ、400だけじゃなくって800とか1
500に挑戦してみない?﹂
﹁800、1500じゃ短距離で練習できねえじゃん! ウララ先
生に教えてもらえないじゃん!﹂
⋮⋮ケンは煩悩の固まりだ。俺も人の事は言えないが。
﹁ケン君、よく考えてみてください﹂
お、アオちゃんが何か説得に入りだした。
﹁好きな人にアタックする場合は押してばっかりじゃ駄目なんです
よ。いつもすごく近くにいたら、恋愛感情は生まれません。よく言
うじゃないですか。﹃押して駄目ならひいてみろ、それが駄目なら
横に開けろ﹄ですよ﹂
⋮⋮ドアの話になってるやん。
﹁えっと、つまりは短距離で練習してたら存在が近すぎて相手にし
てくれないけど、中距離に移ればちょっと存在が離れるから意識し
てもらえるって事か?﹂
﹁そうですそうです!﹂
⋮⋮ありえないだろ。
1860
﹁確かになあ⋮⋮﹂
ケン、納得するな!
﹁や、でも俺短距離のが上位狙える気がするんだけど。長距離の才
能はあんまりないかと﹂
確かにケンの足の速さなら短距離向いてる気がする。
﹁ケン君、長距離は才能じゃないですよ。なぜなら短距離より長距
離の方が遺伝子に左右されないんですよ﹂
﹁⋮⋮アオちゃん、遺伝子って何?﹂
ここで遺伝子が出てくる理由が分からん。
﹁東京大学は東京大学教育学部附属中等教育学校で双生児枠と言う
のを設けていまして、そこで双子の研究と言うのしているんですよ。
その研究によりますと、双子で学力とか運動能力の差を双子で比較
した時に、短距離は双子でそんなに変わらないそうですけど、長距
離の場合は短距離より差が出るらしいんですよ﹂
ええと⋮⋮同じ遺伝子を持っていると、短距離の実力はそんなに変
わらないが、長距離は変わってくる。つまり、短距離はもって生ま
れたものが結構関係してくるが、長距離は頑張りゃ強くなるって事
かな?
⋮⋮なんでアオちゃんは東大の研究を知ってるの?
﹁もちろん、短距離でも練習すれば強くなると思います。ですけど、
中長距離に転向してみるのも面白いかもしれませんよ﹂
1861
﹁練習量がすっごい多いケンちゃんなら、長距離って向いてるかも
ね﹂
﹁800m以上ならクラウチングスタートでスタートしなくてもい
いですよ。1500mからならコースアウトの失格もないですよ﹂
﹁⋮⋮考えさせて﹂
俺的にもケンが一緒に練習してくれるってなら嬉しい。
ケン、長距離に転向してくんねえかなあ。
﹁そういうアオちゃんは中長距離に転向しようとかは考えないの?﹂
﹁私が中長距離転向したらリレーが組めないじゃないですか。それ
にリレーってすごく面白いんですよ﹂
⋮⋮単純に自分が好きな種目をやればいい気もするな。
﹃ごちそうさまでした!﹄
ケチャップライス、簡単で上手い。また今度つくろ。
1862
﹁ヤス兄、そろそろユッチ先輩の100準決勝だよ。応援いこ﹂
﹁そだな。行くか﹂
⋮⋮ユッチが県大会出場できますように。
1863
194話:お昼休み、双子理論︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
今日は熱出してぶっ倒れてました。1日寝ていたら回復しましたが
⋮⋮3ヶ月に1回熱を出すなんて⋮⋮どれだけ体弱いんだって気が
します。
双子理論、短距離の方が差がないとは言いますが、なんだかんだ言
って練習量で変わってくると私は思います。
ちなみに長距離以上に差が出るのは球技だそうです。
技術的なものは遺伝より練習が大きく関係するみたいです。
参考にさせていただきました。
←
ok
http://www.eps4.comlink.ne.jp/
aasaka/twin7.html
http://oku.edu.mie−u.ac.jp/
umura/blog/node/2356
それでは。
1864
195話:ユッチ、100、準決
ユッチの100m準決勝がもうすぐ始まる。
ユッチの応援のためにホームストレート側の応援席に陣取る。
ユッチは1組6レーン。
﹁ヤス、ユッチの応援が終わったら、合間を見て走っておけよ﹂
﹁⋮⋮へ?﹂
ポンポコさんに突然話を振られてびっくり。
﹁へ? じゃないだろう? ヤスも明日は試合なのだぞ。試合前日
に練習しないと言うのはありえないだろう?﹂
﹁そういうもんなの?﹂
﹁そういうもんなのだ﹂
そりゃそうか。野球でも試合前日普通に練習してたし。
そう考えりゃ前日に練習しないってのは変だな。
﹁まだこの後キビ先輩、ボーちゃん先輩、ゴーヤ先輩って続くから
応援しないと﹂
﹁全員の試合が終わってから練習を開始してもいいが、帰るのが遅
くなるぞ﹂
1865
﹁⋮⋮﹂
どうしよっかなあ⋮⋮早めに家に帰って夕飯の準備したいし。
﹁女子100が終わった後、男子100と男子3000m障害が挟
まれて1時間ぐらいの余裕はある﹂
﹁急げばキビ先輩の100mハードルの決勝に間に合う訳か⋮⋮試
合前日はどんな練習がいいもんなの?﹂
﹁そうだな⋮⋮さすがに今日まで激しく練習をして疲れをためてし
まっては駄目だな﹂
⋮⋮試合2日前に90分走るメニューを考えといて⋮⋮。
試合2日前なら試合当日までに疲れが取れるからいいのか。
﹁いつも通りジョグ、ストレッチをした後、今日は軽く30分ジョ
グをして、1000mを流しで走ってみよう。練習量が少ないから
と言って、ダウンをしないと言うのは駄目だからな﹂
確かにそれくらいのメニューなら1時間ちょいで戻って来れるから、
キビ先輩の100mH決勝に間に合うな。
⋮⋮けど。
﹁俺、1000m走なんて今までやった事ないぞ﹂
どれくらいのペースで走ればいいのか分かりません。
﹁明日5000mを走る時のペースか、少し遅い程度でいいと思う﹂
1866
﹁ごめん、明日どれくらいのペースで走ればいいか知らないっす﹂
﹁教えてなかったか? 明日、ヤスの目標は18分20秒だ。だか
ら今日は3分40秒から45秒くらいで走ってみよう﹂
⋮⋮今初めてしりました。ええと⋮⋮400m換算なら88秒から
90秒くらいか。
﹁ってか俺、夏休み前は22分近くかかってるんだけど﹂
3分以上もタイムを縮めるなんて出来んのか?
﹁今のヤスなら出来るぞ。実は18分切りも出来るのではないかと
思っているしな﹂
﹁⋮⋮ほんと?﹂
﹁ヤス、ヤスが信じられなくても私は信じてる。私を信じろ﹂
⋮⋮嬉しいけど、プレッシャーっす。
でもそういってもらえるなら、絶対切れるよう頑張ります。
﹁ただいまより女子100mの準決勝開始です﹂
⋮⋮お、ユッチが出てきた。
1867
女子100m準決勝は3組2着+2。2着以内に入れば確実だけど、
ユッチの予選タイムは1組目の中では4番目だった。
決勝に残るには2人抜かなきゃいけないって事だ。
﹁ユッチ、頑張れよー!!﹂
⋮⋮あれ? 聞こえてねえのかな? 予選の時はこっちに気付いて
手振ってくれたのに。
﹁なあアオちゃん、ユッチ、何かすっごい緊張してね?﹂
﹁そうですね。色々あるんですよ﹂
﹁⋮⋮色々って何さ。事情は知っているけど、私からは話せません
ってにおいがぷんぷんするっすよ﹂
隠すような事なのか?
﹁それはそうですね。確かに私、事情は知ってますけどユッチのプ
ライバシーですし。知りたければユッチ本人から聞いてください﹂
﹁⋮⋮そんな言えないような話なんか?﹂
﹁さあ、どうでしょう? こう言う時って、﹃知ってしまったらも
う後戻りは出来ません、事情を知らなければ平凡で楽しい生活が送
れます⋮⋮事情を知ってしまったら山あり谷ありの苦しく険しい道
のりが待ってます⋮⋮本当に聞いてしまってもいいのですか?﹄と
言って悶々と悩ませるのが王道ですか?﹂
﹁そんな事しなくていいから! そんな大層な話なんかい!﹂
1868
﹁よくある話です、きっと聞いても山も谷もないです﹂
﹁それならそんな前振りいらなくね!?﹂
﹁悩むヤス君の姿を見てみたくて﹂
﹁見ようとしなくていいから!﹂
﹁ヤス、アオちゃん、きちんと応援しないか。試合が始まるぞ﹂
⋮⋮ポンポコさん、失礼しました。今はユッチの応援に集中しよう。
﹁位置について﹂
ユッチがスタートブロックに足をのせ、タータントラックに手をつ
き、クラウチングスタートの体勢に入る。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
パン!
一斉にスタート。ユッチも綺麗なスタートを切る。
﹁ユッチ! ファイトー!﹂
﹁ユッチ先輩、ファイトです!﹂
⋮⋮予選の時よりフォームが変な気がする。何か動きが固い気が⋮
⋮。
1869
﹁負けんなユッチ!﹂
精一杯みんなで声援を送ったけど、ユッチのフォームは固いまま⋮
⋮そのまま、フォームを立て直せないままゴールしてしまった。
着順は6位。この時点でどう頑張っても決勝進出は不可能な成績。
後はタイム差で県大会進出が出来るかどうかなんだけど⋮⋮6位じ
ゃ厳しいよな。
タイムは⋮⋮13秒66か。
予選の時は向かい風、今回は追い風だったのに、予選の時より0.
24秒遅くなってる。
﹁⋮⋮ユッチ、結局なんだったんだろ﹂
﹁ユッチ先輩、ガチガチだったね﹂
だなあ⋮⋮。
﹁100mって怖いな。気持ちがぶれてたり、スタート失敗したり
⋮⋮ちょこっとミスるだけで立て直せないやん﹂
5000mや10000mみたいな長い距離ならミスっても途中で
リカバリーできるのに。
﹁そうだね、それにトップより遅れたって言っても1秒も差がない
んだもんね﹂
1組目のトップの選手は12秒73。
ほんとにコンマ何秒を争う競技なんだな⋮⋮。
1870
⋮⋮3組目まで終了。ユッチの順位は24人中19位。
県大会進出、出来なかったかあ。
﹁ユッチ先輩、落ち込んでないかな? すっごい意気込んでたのに﹂
だなあ⋮⋮戻ってきたときなんて声をかければいいんだろう。
﹁ヤス兄、ヤス兄も明日試合なんだよ。気にしすぎててもどうしよ
うもないんだから。自分の事をまず頑張ってよ。応援してるから﹂
あいよ。んじゃ、ユッチの事は考えるのやめて、練習行ってきます
か。
1871
195話:ユッチ、100、準決︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
バレンタインの話が今日は並ぶんだろうと思ってますが、自分の話
はそんなの関係ねえ、の状態です。
ところでそろそろ200話です。何かいい企画ないかなと思ってま
すが⋮⋮やって欲しいというものあれば教えていただけますと嬉し
いです。
全く思いつかなければ、100話のときのように普通の話になるか
もです。
それでは。
1872
196話:ヤス、試合前日、1000m
ポンポコさんに教えてもらったメニューをこなすために陸上競技場
の隣にあるスポーツ広場へ。
そこでまずはジョグ&ストレッチ、そしてゆっくり30分ジョグ。
ふう⋮⋮まずは30分ジョグ終わりっと。
スポーツ広場では俺の他にも競技者が試合前のアップや、練習をお
こなっている。こいつらの中にもしかしたら明日俺と5000mで
勝負する奴がいるんかもな。⋮⋮負けたくねえな。
おし、それでは1000m走始めるか。
⋮⋮位置について⋮⋮ポチッとな。
タッタッとリズム良く走る。腕は力みすぎないように、体は傾かな
いように。
400mごとのラップタイムは88から90だよな⋮⋮確か初めて
ペース走をしたときのタイムは96だったから、あれより6秒あげ
ればいいって事か。
まあ1キロしか走らないし、何とかなるだろ。
200m通過⋮⋮タイムはと⋮⋮46秒か。ちょっと遅いな。もう
ちょいあげるか。
少し腕を強く振ってリズムをあげる⋮⋮こんなもんか? やっぱり
1人で走ってると全然ペースが分かんねえな。
⋮⋮400m通過、92秒⋮⋮駄目じゃん! ペース変わってない
じゃん! やっぱ絶対にあげるんだって気持ちで体を動かさないとペースって
1873
中々あがんないもんだなあ⋮⋮。
こなくそっ! こうなりゃちょっと思いっきり走ってやる。
足を前に出してストライドを広く取って、大股にして走る。
ペースをあげたから、向かってくる風の勢いが一気に強くなった。
これぐらいあげりゃタイムが伸びてくるだろ。
はっ、はっ、はっ、はっ⋮⋮少しペースをあげたからちょっと息が
切れた。まだまだいけるけどな。
⋮⋮800m通過、600mは見忘れた。で、タイムはと言うと、
82秒⋮⋮あげすぎだろ俺。
この1000m走は明日ある5000mの練習のつもりで走ってる
んだから、最後にラストスパートかけても意味ないだろ。
このまま残り4000m残ってるつもりでゴールしないとな。
落ち着け、俺。
タッタッタッタッ⋮⋮。
﹁ゴール! さあ、現在のヤスの1000mのタイムは⋮⋮3分4
1秒!﹂
ラストの200mは47秒! ⋮⋮ペースバラバラやん!
俺、前日にこんなペースで走ってて大丈夫か?
⋮⋮なんかもうちょい上手なペースで走って明日にのぞみたかった
な。
﹁ま、ウララ先生が言ってたよな、﹃なるようにしかならない﹄だ﹂
1874
初試合、明日は頑張るさ!
その後ダウンを行って今日の練習は終わり。
そろそろキビ先輩の決勝が始まるよな⋮⋮キビ先輩が入賞できます
ように。
陸上競技場に戻ってきて、大山高校陸上部員が座っている応援席へ。
⋮⋮お、ちょうどポンポコさんの席の隣が開いてるな。
﹁お待たせっ、ポンポコさ⋮⋮あれ?﹂
電光掲示板に男子400m決勝とでかでかとかかれている。確か男
子400m決勝ってキビ先輩の100mH、ボーちゃん先輩の11
0mH、ゴーヤ先輩の400mの後じゃなかったっけ? ⋮⋮俺の記憶違いか?
﹁すまんヤス、時間が1時間あると思っていたのだが、40分しか
なかった。もう既にキビ先輩もボーちゃん先輩も、つい1分前にゴ
ーヤ先輩も走ってしまった﹂
﹁⋮⋮はえ?﹂
1875
ええと⋮⋮3人分全員見損ねた?
﹁ええと⋮⋮まじっすか?﹂
﹁まじだ⋮⋮すまん﹂
いや、ポンポコさんが謝る事じゃないんだけどね。俺がちゃんと調
べなかったってだけなんだし。
しかし⋮⋮見たかった。
﹁んじゃさ、キビ先輩、ゴーヤ先輩、ボーちゃん先輩の結果ってど
うだったの?﹂
﹁まず、キビ先輩が4位入賞だ。ボーちゃん先輩も6位入賞を果た
している﹂
﹁おお、キビ先輩もボーちゃん先輩もすげえ! 特にキビ先輩、見
たかった。だってさ、キビ先輩の走りってめっちゃ綺麗だもんなあ﹂
﹁えー、そんな褒められたら照れるよ﹂
⋮⋮キビ先輩、既にそこにいたんですか。ちょっと⋮⋮いえ、かな
り恥ずかしいです。
﹁ゴーヤ先輩は60秒14と、自己ベストを1秒以上も縮めての3
位入賞だ﹂
﹁うわ、ゴーヤ先輩すごいな! すごいって褒め言葉しか思い浮か
ばんやん﹂
1876
3位入賞ってメチャクチャすごい!
﹁インターハイ地区予選、怪我をして途中で断念した時の悔しさが
バネになったのだろうな﹂
﹁怪我しても負けても泥水すすってでも這い上がって花開く⋮⋮こ
う言うのをなんて言うんだっけ? 臥薪嘗胆?﹂
﹁ガシンショウタンは復讐のために頑張るセリフだからな⋮⋮今回
は粉骨砕身ではないか?﹂
﹁そうそう、フンコツサイシン。いやあ、ゴーヤ先輩って男らしい
ねえ。惚れるわあ﹂
﹁キビ、女なのに男に男らしくて惚れるって言われるのってどう思
う?﹂
⋮⋮なんでゴーヤ先輩、既にここにいるんですか? つい1分前に
走ったって聞いたのに。
﹁いいじゃん、愛の告白だよ﹂
そんな風に受け取らないで!?
﹁そうか。それなら返事をしないとな。ヤス、ごめんなさい﹂
﹁ヤス、振られたよ﹂
⋮⋮⋮⋮泣いてもいいですか?
1877
196話:ヤス、試合前日、1000m︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
最近自分の両親くらいの方々とよく話をする機会があるのですが⋮
⋮その中で今までに4∼5人の方が
﹁俺の娘紹介してやろうか?﹂
とノリノリで話してくれました。
おお、本当ですか!? と言う嬉しい気分。
﹁でも俺は娘はお前みたいなタイプとは合わないだと思うけどなー、
アハハー﹂
⋮⋮4∼5人いてみんなこんな感じでした。この人たち、娘紹介す
るつもり絶対ありません⋮⋮こんちくしょう。
それでは。
1878
197話:新人戦2日目
1日目は、俺が落ち込まされて、あの後すぐに解散になった。
そう言えば、最後の集合時にもユッチとアオちゃん見かけなかった
けど、あの2人どこ行ったんだろう。ユッチ、100mの準決勝の
時、ちょっと変だったもんなあ。アオちゃんはよくある事って言っ
てたけど、本人がどう思ってるかは別問題だもんな。
ユッチ、落ち込んでなきゃいいけど⋮⋮。
今日は9月14日日曜日。
ついに、俺の初試合の日がやってきた。
まだ父さんと母さんは寝てるけど、俺の試合時間になる前には競技
場に来て応援してくれるって。
俺、まだ全然速くないし恥ずかしいからいいよって断ったんだけど、
絶対見に行くって強情だった。恥ずかしいけど、反面ちょっと嬉し
い。
﹁ヤス兄、ユニフォーム持った? ゼッケンつけた? シューズ持
った? お弁当持った? おやつ持った?﹂
﹁大丈夫だよ! どんだけ俺は緊張してんだ﹂
ってかおやつって何だよ。一応バナナは持ったけど。
﹁だってシャツを後ろ前反対に着てるんだもん。ヤス兄って今それ
1879
ぐらい緊張してるんだよね? だったらヤス兄に任せとくのはやめ
て、今日は私がちゃんと確認しなきゃって思うよ﹂
⋮⋮ほんとだ、恥ずかし。直しとこ。
おいしょ、パパッとシャツを脱いで着替え直す。
﹁ヤス兄、レディーが見ている前で生着替えするのはどうかと思う
よ﹂
﹁そこを突っ込むなら、その生着替えしてる俺をじっと見続けてる
サツキもどうなの。と言い返すよ?﹂
何を今更と言う気もしなくはない。レディーってどこにいるのと言
うツッコミを入れようとも思ったけど殴られそうな気がしたのでち
ょっとやめた。
﹁そんな細かい所突っ込んでるとはげるよ、ヤス兄﹂
⋮⋮なんか負けた気分。
﹁おし、準備できたし行こか﹂
﹁今日、ヤス兄の試合って16時半からだったよね。もっと遅くに
行ってもいいんじゃないの?﹂
﹁ん、確かにそう言われてるんだけど、やっぱり応援したいじゃん。
ケンとかユッチとかアオちゃんとか﹂
キビ先輩とゴーヤ先輩も。キビ先輩の試合が9時からだったから最
低でもそれに間に合うようには行きたいよな。
1880
﹁そだね、応援しときたいもんね﹂
そそ、だから行くべ。
家にいたら緊張して落ち着かんからさっさと競技場に行きたいって
気持ちもすごくあるんだけどね。
駅前。
﹁⋮⋮サツキ、やっぱり今日、俺すっげえ緊張してるみたい﹂
﹁どうしたの? ヤス兄﹂
﹁財布を、忘れて、愉快な、お兄ちゃん♪﹂
﹁財布を忘れたって普通に言えばいいよ、ヤス兄﹂
だってさ、失敗した時ってボケてごまかしたくなるじゃん。
電車乗っていくのに財布忘れたってバカじゃん。
﹁サツキはお金持ってる?﹂
﹁ヤス兄に任せてたから持ってない﹂
そこまで頼られてると思うと嬉しい気もしなくはないけど、ちょっ
と頼りすぎなんでないかい?
﹁⋮⋮一旦帰るか﹂
1881
﹁だね。間に合う?﹂
余裕余裕、9時に競技開始だけど8時に着くように家でてるんだか
ら。
競技場到着、現在8時30分。
きちんと競技開始時間には間に合った。みんなと合流するために大
山高校の集合場所を探しに行く。
⋮⋮あった⋮⋮昨日と同じトイレの前か。女子トイレの前って言う
のほんとどうなんだろうね。
﹁ヤス、サツキ、おはよう。今日は遅いな﹂
﹁ポンポコさん、おはよっす。家に財布を忘れてとりに帰ってたん
すよ﹂
﹁⋮⋮緊張してるのだな﹂
うーん⋮⋮緊張してるってあんまり態度に出してないつもりなんだ
けど。
﹁ヤス、顔に緊張してますって書いてあるぞ﹂
﹁まじ!? そこまで顔に出てる?﹂
﹁でている。ヤスの競技開始時間は16時半なのだからな。そんな
に緊張していたら体が疲れてしまうぞ。リラックスする事﹂
1882
﹁⋮⋮出来るかどうかは別問題にして、了解っす﹂
はあ⋮⋮このあがり症どうにかならんかなあ。ま、やっぱり場数を
踏まないと駄目だよな。
﹁そういやユッチは? ここにいないみたいだけど﹂
﹁まだアオちゃんとユッチは来てないな﹂
ユッチ、大丈夫かいな⋮⋮自分が気にしすぎてもしゃあないな。
んじゃ気を紛らわすために今日のタイムスケジュールでも見てみま
すか。
女子
400mH予選
ついでにまた書き込んどこ。
09:00
3組1着+5
男子
400mH予選
3組7レーン キビ先輩
09:20
4組1着+4
女子
200m予選
2組3レーン ボーちゃん先輩
09:45
8組2着+8
男子
200m予選
1組1レーン ユッチ
10:35
12組1着+12
3組6レーン マー君先輩
1883
男子
800m予選
期待できない2人組
11:30
5組2着+6
女子
4×400mR予選
期待できない3人衆
12:05
2組2着+4
1組7レーン
男子
4×400mR予選
キビ先輩、ユッチ、アオちゃん、ゴーヤ先輩
12:25
4組1着+4
男子
5000m決勝
ホニャララ先輩、ボーちゃん先輩、ケン、マー君先輩
16:30
俺ことヤス
長距離の先輩2人、名前はまだ無い
﹁ヤス兄、緊張してるのは分かるけど、ボケるのも程々にね。﹃期
待できない2人組﹄とか見た人怒るよ﹂
﹁リラックスしろってポンポコさんに言われたので、こうやって色
々して気を紛らわせている訳っすよ﹂
⋮⋮今からこんなんで大丈夫なんだろうか?
1884
198話:ユッチ、昔話
全然ユッチとアオちゃん、来ねえな。
そろそろ9時になっちゃう。ユッチの試合開始、9時45分からな
んだからそろそろ来てないとまずいんだけど⋮⋮どっかで練習して
んのかな。
﹁ポンポコさんさ、ユッチかアオちゃんの携帯番号、知らない?﹂
﹁さっきからかけているが、全然出ない。着信音は鳴るから電車に
乗っている訳でもなさそうなのだが﹂
⋮⋮まったくあの2人組は、どこで何やってんだか。
﹁ポンポコさん、ちょっとユッチとアオちゃん探してくる。このま
まじゃ試合に間に合わないだろ﹂
﹁探すと言っても、みつからないと思うぞ。どこで何をしているの
か分からないのに、みつけようがないだろう﹂
ま、確かにその通りなんだけど。
﹁ユッチが部活をサボるのはありえないから、もう陸上競技場のど
っかには来てるだろ。って事は、その辺で迷子になってるか、アッ
プに集中しすぎて時間忘れているかどっちかって思わない?﹂
迷子になる事はないだろうから、アップしてる気がする。
⋮⋮まずはスポーツ広場に行くか。
1885
﹁ヤス兄、私も行くよ﹂
﹁あいあい。んじゃ行くか﹂
﹁うん﹂
やってきましたスポーツ広場。今日、試合の選手がそこかしこでア
ップをしてる。
結構多いな。男子200に出場する選手のちょうどアップ時間なの
かな。
﹁あ、ヤス兄、いたいた。ユッチ先輩だけだけど﹂
お、よかった⋮⋮。ユッチがサボる事はありえないって断言しつつ
もちょっと不安だったんだよな。
ユッチはしゃがんでストレッチしてるのかな? 何かポケッと座っ
てるだけにも見えるけど。
﹁ユッチ! おはよっす﹂
﹁ユッチ先輩! おはようございます!﹂
﹁⋮⋮﹂
ありゃ⋮⋮聞こえなかったか?
1886
﹁ユッチ、おはよー﹂
﹁⋮⋮何さあ⋮⋮﹂
うわ、すっげえブルー。
﹁どうしたんですか? ユッチ先輩﹂
﹁ヤスとサツキちゃんには関係ないだろお⋮⋮﹂
いやまあ、そう言われると確かにその通りって思っちゃったりする
んだけどな。
相談受けて聞くだけ聞いたって俺なんか何も出来ないし。
昨日、アオちゃんはよくある話って言ってたよなあ⋮⋮どんな話な
んだろな。
﹁ユッチ先輩、吐くと楽になりますよ﹂
サツキ、吐くと楽になるって⋮⋮警察の取り調べじゃないんだから
さ。
﹁別にいいじゃんかあ⋮⋮ほっといてよお⋮⋮﹂
あかん⋮⋮今日のユッチめっちゃ暗いなあ。
﹁何があったか知りませんけど、そういうときはせめて怒らないと
駄目ですよ﹂
﹁何でやねん﹂
1887
﹁だって﹃悲しみよりも怒りの方がまだましだ﹄だよ、ヤス兄﹂
⋮⋮紫のバラの人っすか。
﹁うつむいてへこんでたって心のもやもやは晴れないですよ。ユッ
チ先輩﹂
﹁うるさいなあ⋮⋮ボクのもやもやなんてたいした事無いんだから
ほっといてって言っただろお﹂
こら、心配してるサツキに向かってうるさいとは何やねん。
﹁だから吐けばいいんですよ。さあ、吐いてください﹂
すっげえ聞き出し方。
﹁⋮⋮昨日の100m準決勝の時に、中学校の同級生に会ったんだ
あ。その同級生もボクと同じ陸上部の部員で、一緒にリレー組んで
走ってた。ボクが3走でその人が4走。県大会の決勝、6位以内に
入れば東海大会出場出来るって時に、2走の人と3走のボクのとこ
ろでバトンパスを失敗したんだあ﹂
⋮⋮ああ、新入生歓迎会の時にちょこっとそんな話を聞いたような。
﹁ああ、それで走れなかったその人にすっごい恨まれてるって事か﹂
﹁そこはどうでもいいんだけど⋮⋮﹂
どうでもいいんか、俺の中学時代の出来事とはちょっと違う?
1888
﹁走ってない人も2年生も集まって陸上部員みんなですっごい泣い
てさあ⋮⋮でもボク、なんでか泣けなかったんだよねえ⋮⋮それで
今まで一緒に頑張ってきたのに、何でそんな冷めてんのってみんな
で怒ってきてさあ。でも本当に全然泣けなかったんだよねえ﹂
うーん⋮⋮俺の場合は野球で負けたとき、2、3人は泣いてたけど、
ほとんどの人は泣かなかったなあ。
﹁あんまりにも怒るもんだからこっちもつい怒っちゃってさあ。﹃
泣くお前達の方が頭おかしいんだあ!﹄って叫んで⋮⋮で、それか
ら全く口聞かなくなっちゃったあ﹂
⋮⋮仲直りできなかったのか。
﹁それで昨日の準決勝で会った時にすごい意識しちゃって、ボロボ
ロの走り⋮⋮今日の200mの予選でも、同じ中学校の人が1人い
るんだあ。顔合わせたくないなあ﹂
精神的な部分って影響するもんなんだな。
﹁そういやサツキ達は全員泣いたな﹂
﹁⋮⋮うう⋮⋮やっぱりボクがおかしいんだあ⋮⋮ボクなんて血も
涙も無い冷血動物なんだあ﹂
⋮⋮。
﹁ヤス兄、ユッチ先輩の傷口に塩をぬりたいの?﹂
⋮⋮ごめんなさい。
1889
﹁でもさ、泣けなくなるって事よくあるって。例えばさ、悲しみは
大きすぎると涙も出てこないって言うじゃん﹂
﹁ユッチ先輩の場合違う気もするけどね﹂
﹁ケンが泣いているのをみると泣きたい気持ちが消えて笑えてくる﹂
﹁ヤス兄、最低﹂
はう⋮⋮泣きたくなってきた。
﹁後さ、結果に納得がいってると泣かないよな。たとえ試合に負け
ても、自分自身がその結果に納得してると別に涙は出てこない﹂
﹁ボク、それも違う気がするう﹂
まあ、バトンパス失敗した張本人がその結果に納得って言うのは変
か。
﹁涙を見せるのは恥だ﹂
﹁フランダースの犬を見て私の前で号泣したヤス兄が言っても説得
力無いね﹂
﹁涙は見せない、背中で泣く、これぞ男の美学﹂
﹁ルパンだね﹂
﹁ええと⋮⋮後は、友達と思ってないやつとは悲しみを共有できな
1890
いよな﹂
﹁それはそうかも。クロちゃんサキちゃんとだったから泣けたんだ
もん﹂
ふう⋮⋮ようやく同意をもらえた。
﹁と言う訳でユッチ、泣けない事のどこが恥だ! ユッチは普通だ
!﹂
﹁そ、そうなのかなあ?﹂
﹁そうだ! むしろそいつらの方がおかしいんだ!﹂
﹁そ、そうだよねえ﹂
﹁そうだ! 会ってもそんなやつら気にすんな!﹂
﹁うんうん!﹂
﹁﹃そんなやつらぶっ倒してやるんだあ﹄って気持ちでぶつかって
いけやあ!﹂
﹁分かったあ! あんなやつらぶっ殺してやるう!﹂
﹁⋮⋮と言う訳でそろそろ時間やばいんじゃないのか?﹂
﹁あ、ほんとだ。それじゃ試合に行くからあ!﹂
﹁ユッチ先輩、頑張ってください!﹂
1891
﹁うん、ぶっ殺しにいってくるう! 見てろよお、アイツらあ!﹂
⋮⋮やりすぎた? ほんとにぶっ殺しにいきそうな勢いだ。
まあいいや、﹃悲しみよりも怒りの方がまだましだ﹄だ。
頑張れ、ユッチ。負けるな、ユッチ。
1892
198話:ユッチ、昔話︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
中学卒業式のとき、友達が泣いているのを見て笑ってしまった自分
は最低です。
それでは。
1893
199話:こわくないなく頃に
﹁ところでヤス兄、キビ先輩の試合って何時からだった?﹂
﹁9時から⋮⋮ってもう9時回ってるじゃん!﹂
確かキビ先輩は3組目だったから急げば間に合うかも。
急いで戻ろ!
ええ、残念ながらキビ先輩もボーちゃん先輩も、出場している40
0mHを応援する事は出来ませんでした。
応援席に行ったら、キビ先輩が座ってる⋮⋮話かけづらい。
﹁き、キビ先輩⋮⋮お疲れ様です﹂
﹁ヤス、今日は私の走り、見た?﹂
﹁い、いえ⋮⋮ちょっと見損ねまして⋮⋮﹂
⋮⋮何かいきなり機嫌が悪くなってるんですが。
﹁⋮⋮ヤス、私の試合を見る気はないのかな? かな?﹂
﹁や、そんな事無いですよ﹂
1894
﹁じゃあ何で見てくれなかったのかな? かな?﹂
こ、怖いですよ⋮⋮キビ先輩。なんだかそのうち斧を持って襲って
きそうです。
﹁ちょっとユッチが心配になって、様子を見に行ってたんですよ。
別にキビ先輩が見たくなかったなんて言ってないですよ﹂
﹁ふーん⋮⋮ユッチ、かぁいいから⋮⋮ふふふ⋮⋮かぁいいもんね﹂
笑わないながらそんなセリフ言わないでください。
﹁き、キビ先輩もきれいっすよ?﹂
﹁でもヤスはかぁいいものが好きなんだもんね。きれいって言われ
てもしょうがないよね? よね?﹂
⋮⋮ほんとに怖いです。俺には既にキビ先輩の目の色が変わって見
えます。
﹁ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁別に怒ってる訳じゃないんだよ? だよ?﹂
﹁ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁あれ? や、やだなあ⋮⋮ヤス⋮⋮ヤス?﹂
﹁ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ご
めんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
1895
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい⋮⋮﹂
﹁ヤス、怖い⋮⋮ひぐらしごっこはやめよ?﹂
あ、やっぱり怖かったか。
ってかキビ先輩の試合は毎回見損ねてるし、ほんとごめんなさい。
ちなみにキビ先輩もボーちゃん先輩も見事決勝に進出が決まったら
しい。
2人とも自己ベストを記録するいい走りをしたとか⋮⋮見たかった。
この時点でキビ先輩もボーちゃん先輩も県大会に出場決定。すげえ
なあ⋮⋮。
次がユッチの競技、女子200mだ。
サツキと俺は大山高校陸上部が集まってる応援席で、ユッチの登場
を待ってる。
この後ある男子200mに出場する人と補助員の以外はほとんどみ
んなここに集まって、ユッチの応援。
さあユッチ、まずは準決勝進出だ。
﹁ユッチ先輩、あれだけ張り切ってたんだから大丈夫だよね、ヤス
兄﹂
﹁そうだな。ユッチ、昨日見てたらすっごい速かったし、今日もあ
んなに元気になってたんだから大丈夫だろ⋮⋮お、出てきた﹂
1896
おお、ユッチの奴めっちゃ元気そう。さっきまで芝生でぽつねんと
座ってたのが嘘みたい。思いっきり飛び跳ねて、走ってる。
応援席からサツキと2人で手を振ったら、こっちに気付いて手を振
り返してくれた。
﹁ヤス兄の励まし、大成功だね﹂
﹁ユッチにもそう言ってもらえたらいいけどな﹂
おし、その意気込みでそのまま予選突破だ!
1人1人が自分の足に合うようにスタートブロックの取り替えを行
い、最後のスタートの練習をする。
⋮⋮そして、競技開始時間になり1組目の選手全員がスタートライ
ンにつく。
﹁位置について⋮⋮﹂
スタートブロックに足をのせ、ぎゅっぎゅっと足を踏みしめてスタ
ートブロックに合わせる。
ユッチ⋮⋮いったれよ!
﹁ヨーイ⋮⋮﹂
パン!
﹁ユッチ先輩、ファイト!﹂
﹁ユッチ、頑張れ!﹂
⋮⋮あれ? 遅くね?
1897
﹁ユッチ! どうした!﹂
﹁頑張って、ユッチ先輩!﹂
⋮⋮あれ? 全然スピードが上がっていってない気がするんだけど。
100mラインを突破。ユッチは⋮⋮4位。
やっぱり昨日の予選の感じよりなんとなく遅い感じがするんだけど
⋮⋮きのせいか?
残り100で直線走路に入ってもなかなかスピードが上がらない⋮
⋮。
﹁ユッチ、頑張れー!!﹂
⋮⋮結果は4位、タイムは28秒90。準決勝に行けるかどうかも
怪しいタイム⋮⋮。
﹁⋮⋮ポンポコさん、ユッチって200mは苦手だったりするの?﹂
﹁そんなことはないぞ。練習でも27秒前半を出している﹂
﹁⋮⋮じゃあ、なんであんなタイムになったんだろ?﹂
ベストタイムより1秒以上遅いって何だろう。
﹁いつもの走りをしていなかったからな。体が固い上に何故か前傾
1898
姿勢になっていた﹂
﹁⋮⋮もしかして俺があんな事言ったせいかも﹂
﹃落ち込んでないで怒れや﹄って言ったせいで、気持ちだけ前にい
っている状態になったんかも。
﹁ヤスのせいではないだろう。ヤスの一言でそんな簡単にタイムが
あがったり下がったりはしない。それはうぬぼれというやつだぞ﹂
⋮⋮そか。でも、俺のせいじゃないとしても気になる。
﹁私、ユッチの所行ってきますね﹂
﹁あ、アオちゃん、俺も行く﹂
俺もついてってユッチの様子、見たい。
﹁ヤス君は駄目ですよ。こう言う時は女の子同士の方がいいんです
よ﹂
﹁⋮⋮そなの?﹂
﹁そうですよ。そう言うものなのです﹂
⋮⋮よく分からないが、アオちゃんが言うならそういうものなんだ
ろう。
ま、心配してみんなで押し寄せても迷惑かもしれんし、ユッチの事
はアオちゃんに任せよう。
今日は自分自身の事を頑張らないとな。
1899
199話:こわくないなく頃に︵後書き︶
ひぐらしネタを知らない人、ごめんなさい。
1900
200話:ユッチの涙
アオちゃんが励ましたみたいだけど、まだユッチは落ち込んでるみ
たい⋮⋮そりゃそうか、あれだけ張り切って挑んだ200m予選で
ボロボロの結果だったんだから。
4×400mリレーも今日あるから、それに影響しなきゃいいけど
⋮⋮。
男子200m、マー君先輩がいい走りをして頑張ってたけど、残念
ながら予選敗退、準決勝進出はならず。
男子800mは⋮⋮言える事は何も無いっす。
そして、女子4×400mリレー、通称マイルの競技開始時間。
決勝進出は2組2着プラス4。1組目が8校出場、2組目が7校出
場で、出場校は計15校。
県大会は12位までが出場できるから、県大会に行けなくなるのは
3校だけ。
よっぽどの事が無い限り、ゴーヤ先輩もキビ先輩もいるんだから、
県大会は出場できるだろう。
ゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん、ユッチの4人は既に招集を済
ませ、スタートの位置に集まっている。
﹁なあポンポコさん、ユッチは大丈夫かな? さっきまで応援席で
ずっと暗い顔で座り込んでたけど⋮⋮﹂
﹁心配だが、もうスタートラインに行ってしまっているからな、私
たちではどうしようもない﹂
1901
そ、そうなんだけどな⋮⋮結構ポンポコさん、ドライだな。
⋮⋮第1走者のキビ先輩がスタートラインに立った。
﹁キビ先輩、ファイトー!﹂
キビ先輩、笑いながら手を振り返してきてくれた。キビ先輩は場慣
れしているっていうか、余裕があるな。
﹁ユッチとアオちゃんが心配だけど、キビ先輩とゴーヤ先輩が引っ
張ってってくれるから大丈夫だよな﹂
﹁そうだな。普通に走れば、大山高校は入賞できる実力を持ってい
る。後は全員が全員、実力通りの力を発揮するだけだ﹂
⋮⋮ポンポコさんのお墨付きだぞ。めったに褒めてくれないポンポ
コさんが、絶対にいけるって言ってんだ。
ゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん、頑張って⋮⋮ユッチも頑張れ
よ、気持ちで負けんな。
ついに開始時間がやってきた。審判がピストルを上にかかげた。
﹁位置について⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ヨーイ﹂
パン!
キビ先輩がいいスタートを切った。
やっぱりキビ先輩の走り、めっちゃきれい。
8レーンのランナーにどんどん追いついていく。
﹁キビ先輩、ファイトー!﹂
1902
俺たちに出来る唯一の事、応援。ひたすらに声を張り上げる。
俺たちの応援がちょっとでも、キビ先輩の励みになるかもって、大
声で叫ぶ。
第2走はユッチ、キビ先輩は誰よりも速くバトンを渡した。ユッチ
もこれなら気持ちをリラックスして走れるだろ。
﹁ユッチ、落ち着いていけえ!﹂
第2コーナーを回った。ここからセパレートコースじゃなくて、オ
ープンコースになる。
決まったコースを走るのではなく、ランナー達が自分の走る領域を
奪い合う。
ユッチ⋮⋮いけ!
⋮⋮リレーが終わった。
﹁⋮⋮ゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん⋮⋮ごめんなさい⋮⋮本
当にすみませんでしたあ⋮⋮﹂
1903
泣きそうな顔してるユッチ。
絶対に泣くもんかって思っているのか、泣く事を我慢しているのか、
涙は流れていない。
⋮⋮あの瞬間、いいポジションに入ろうと焦ったユッチは、6レー
ンのインコースに入ってしまった。
その瞬間に大山高校は失格。焦らなくても、1番を走ってたんだか
ら落ち着いてポジショニングすれば、いけたと思うんだけど⋮⋮。
失格になってしまったため、大山高校は女子4×400mでの県大
会は残念ながら出来なかった
。
今はゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん、ユッチの4人で集まって、
話をしてる。
﹁なんでユッチが謝る必要があるんだろうな?﹂
﹁だって⋮⋮ボクがミスしたせいで県大会出場も出来なくなっちゃ
って⋮⋮﹂
﹁ユッチは手を抜いて、そんな失敗をしたの?﹂
﹁そんな事は無いよお⋮⋮でも、県大会行けなくなっちゃったのは
ボクのせいだもん⋮⋮﹂
﹁一生懸命やった結果だったら、私は何にも言わないよ。むしろ、
よく頑張ったねって言いたいよ﹂
﹁⋮⋮キビ先輩、でもお﹂
1904
﹁ユッチ。失敗したんだと思ったんだったら、その失敗を糧にして
くれればそれでいいよ。それでユッチがもっと伸びてくれると思っ
たら、楽しみじゃないか﹂
﹁ありがとお、ゴーヤ先輩⋮⋮でも⋮⋮怒ってない、アオちゃん?﹂
﹁何で怒る必要があるんですか?﹂
﹁吹奏楽部に入りたかったはずなのに、ボクが無理矢理誘っといて、
ようやく来た初めての大会でこんな結果に終わっちゃって⋮⋮怒っ
てない?﹂
﹁全然です。むしろ吹奏楽部に入ってたら、こんな風にユッチと一
緒に頑張れるって事が出来なかったんですから。ユッチには感謝し
てますよ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
みんなが沈黙して、しばらくの時間が経ったころ、うつむいてるユ
ッチがゆっくりと話し始めた。
﹁⋮⋮ボク⋮⋮実は中学校の頃、チームメイトの事、きらいだった
んだあ⋮⋮だって、口だけばっかり頑張るって言ってて、全然頑張
ってくんなくって、ボクがバトンミスした時も、ブツブツ文句ばっ
1905
かり⋮⋮﹂
⋮⋮。
﹁なんかボク1人で空回りしてた気分だったんだあ⋮⋮﹂
⋮⋮。
﹁でも⋮⋮大山高校にこれて、ゴーヤ先輩に会って、キビ先輩に会
って⋮⋮一緒に頑張れる仲間がいるって言うのが本当に嬉しかった
んだあ﹂
⋮⋮。
﹁ほんとは家の近くの高校だったり、もっと別の高校に行きたかっ
たりしたはずなのに⋮⋮ボクのわがままにずっとついてきてくれた
アオちゃんには、すごく感謝してるう⋮⋮﹂
⋮⋮。
﹁ボク⋮⋮このチームで一緒に走る事が出来て、本当に嬉しいです。
ゴーヤ先輩⋮⋮キビ先輩⋮⋮そして⋮⋮アオちゃん⋮⋮これからも
よろしくお願いします﹂
﹁よろしくだな﹂
﹁うん。これからもよろしく﹂
﹁こちらこそよろしくです、ユッチ﹂
1906
⋮⋮よかったな。ユッチ。
ユッチの話が終わったその時⋮⋮ぽろりとユッチの目から一筋の涙
が流れた。
部活で初めて流れたユッチの涙は悲しみの涙じゃなくて、チームが
1つになれた、嬉しさの涙だった。
1907
201話:ヤス、試合開始
4×400mリレー女子が失格で敗退した後、男子4×400mリ
レーも決勝進出はならず。
男子4×400mリレーが敗退した時点で、大山高校陸上部で残っ
ている競技はキビ先輩の400mH決勝、ボーちゃん先輩の400
mH決勝、そして俺+先輩2人が走る5000m決勝の3種目。
まだまだ時間があるって言うのに緊張する⋮⋮。
現在15時、そろそろ俺の試合開始時間が近づいてきた⋮⋮。
ユッチはあの後アオちゃんに頭をなでられながらわんわん泣いて、
今はすごい晴れやかな顔してる。さっきからずっと笑顔でアオちゃ
んとゴーヤ先輩と話してる。
⋮⋮俺が緊張して何べんもトイレ行ってる横でアオちゃん達ともの
すごく楽しそうに話をされると⋮⋮。
あ、なんだかムカついてきた。
﹁⋮⋮ていっ!﹂
チョッオップ!
﹁いったあ!﹂
ふっふっふ、ざまあみろ。
1908
﹁何するんだあ!? ヤスう!﹂
﹁ユッチの顔を見ていたら、なんだか腹が立ってきた﹂
﹁なんだよそれえ、ボクヤスに何かしたあ!?﹂
﹁ユッチは何もしていない。だがユッチだからチョップした、反省
はしていない﹂
﹁訳分かんないよお⋮⋮反省しろお!﹂
﹁だが断る﹂
﹁⋮⋮意味わからない言葉使うなあ! ちゃんと反省しろお!﹂
⋮⋮うるさいやい、そんな晴れ晴れとした顔をしやがって。緊張し
ているこっちの気持ちになってみろい。
﹁ユッチ、怒っちゃ駄目ですよ。ヤス君の今のチョップは下手な愛
情表現なんですから﹂
﹁そうなのお?﹂
﹁そうですよ、好きな子をいじめたい男の子の心理を分かってあげ
ましょう﹂
﹁アオちゃん、やめて﹂
そんな小学生の心理はとっくに卒業したから!
1909
⋮⋮くそ、ユッチをいじってたら緊張もほぐれるかと思ったけど全
然緊張がほぐれない。
﹁なあポンポコさん、試合前のアップってどれくらいやるのがいい
んだ?﹂
﹁いつも通りにやるのが一番だぞ、ヤス﹂
﹁いつも通り⋮⋮って4、50分くらいって事?﹂
試合前ではちょっと少ない気がする。
﹁その通りだ﹂
﹁でもさ、試合なんだからちょっとは多めにやっとこうとか、早め
に動いといた方がいいんじゃないかとか思うんだけど﹂
⋮⋮そう言うものじゃないのか?
﹁ヤス、練習とは何のための練習だと思う?﹂
﹁そりゃ、強くなるために決まってるだろ﹂
ポンポコさん、何を今更当たり前の事を。
﹁じゃあ、何故強くなる必要があるのだと思う?﹂
﹁そりゃ、試合に勝つために決まってるじゃん。勝てたら嬉しいし、
負けたら悔しいし⋮⋮﹂
1910
誰だって勝ちたいものだろ。負けてもいいから楽しくって気持ちも
分かるけど、それでもやっぱり負けてばっかりじゃ楽しくない。
﹁つまりヤスは試合に勝つために、今まで練習してきたのだろう?
アップの仕方も、フォームの修正も、毎日毎日長い距離を走って
いるのも、勝つためだ﹂
﹁⋮⋮そうだな﹂
最終目標はやっぱり、勝つ事、だよな。
﹁ならば、練習の時から﹃これから試合を走るのだ﹄と言う気持ち
で、アップしている事が望ましいと私は思う。練習用のアップと試
合用のアップで違う⋮⋮と言うのは変だと思う。それでは練習とい
うものが練習のための練習になってしまっている﹂
⋮⋮そういえば、中学校の時もよく怒られたなあ⋮⋮お前らは練習
のための練習をしたいのか? 試合のための練習をしたいのか? どっちなんだー!! って⋮⋮。
﹁ヤスは8月から、1か月半と言う短い期間だがきちんと練習をし
てきた。その練習と同じようにアップをして、練習と同じように試
合を走ってくれば、自ずと結果はでると思うぞ。少しは自信を持て﹂
﹁⋮⋮分かった。ありがと、ポンポコさん﹂
⋮⋮練習と同じように、練習と同じように⋮⋮俺、できるかなあ?
1911
競技開始1時間前。練習の時よりちょっとアップ始めるのが速いけ
ど、40分前には招集に行かなきゃいけないし、そろそろアップ始
めるか。
ゼッケンつけたユニフォーム、さっさと着て、靴ひもしっかりと結
んで⋮⋮よし、準備OKだな。
競技開始40分前。ジョグをすませ、ストレッチ中。ストレッチも
普段より力が入る。
後は軽く走って、流しをして⋮⋮そろそろ招集に行くか。
試合20分前。アップも完了、招集も済ませた。サツキにラップタ
イムを叫んでもらうために付き添いをお願いして、5000mのス
タートラインまでやってきた。後は試合開始を待つだけだ。
周りにはだんだんと5000mに出場する選手が集まってきている。
﹁⋮⋮なんかみんな俺より速そうに見える﹂
﹁ヤス兄、弱気になっちゃ駄目だよ。気持ちで負けるな!﹂
だってほんとに強そうなんだよ。
この辺りでみんな走ってるけど、すごい速いんだよ。
1912
﹁サツキ、こう言う時ってどうやって気持ちを奮い立たせればいい
んだろうな⋮⋮﹂
野球部時代も何度も経験してたはずなのに、すっかり忘れちゃって
る。
﹁ヤス兄、まずは大きく深呼吸だよ﹂
スー、ハー。スー、ハー。⋮⋮だめだ、全然落ち着けない。
﹁そして、周りをぐるっと見渡してみるんだよ﹂
⋮⋮あ、あそこにユッチとアオちゃんがいる。ユッチが思いっきり、
アオちゃんが静かに手を振ってくれてる。
⋮⋮ゴーヤ先輩とキビ先輩も別の所で座って見てる。
ケンはゴール地点付近の応援席にいるな。
﹁ヤス兄、あそこにお父さんとお母さんも応援きてるんだよ﹂
あ、ほんとだ。ほんとにきてくれたんだなあ⋮⋮ちょっと恥ずかし
いけど、すごく嬉しい。
﹁⋮⋮⋮⋮や、ヤス!﹂
⋮⋮はえ? ⋮⋮あ、ヤマピョンじゃん⋮⋮。
﹁⋮⋮が、がんばって⋮⋮﹂
⋮⋮わざわざ、俺のために応援きてくれたんか。
1913
﹁周りを見てちょっと落ち着いた? これだけいろんな人に応援も
らってるんだよ。期待に答えないとね。頑張って、ヤス兄!﹂
﹁⋮⋮ああ、頑張る﹂
サツキ、ありがとさん。ちょっと落ち着けた。
﹁それでは整列してください﹂
⋮⋮試合開始の言葉を審判が告げる。
俺のナンバーは47。2列目のアウトコース。
ポンポコさんからは最初は抑えめに入れ、残り1000mになった
ら好きなように走れって言われてる。
さあ、初陣だ。ケンやユッチやアオちゃん、みんないい走りをして
た。あいつらに負けない走りをしないとな。
﹁それでは位置について﹂
﹃お願いします!﹄
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
パン!
1914
202話:ヤス、5000m
パン!
ピストルの音が鳴ると同時に一斉にランナーがスタートする。
ガツッ!
隣の奴が俺に肘をあててきた⋮⋮この野郎、なにすんだ。
自分よりアウトコースからスタートをした選手がインコースに入ろ
うと俺の方に寄ってくる。
⋮⋮うわ、邪魔だろ! 俺が走りにくいじゃんかよ。
俺のコースに入って来んなよ。
こんな奴にインコースを譲りたくない。
譲ってたまるか!
そいつと肘をぶつけ合いながら、100mを通過。このやろ、ひけ
よ。
﹁ヤス! 無理をするな! まずは後ろにひけ!﹂
⋮⋮ち⋮⋮了解、ポンポコさん。
ポンポコさんのアドバイスに従ってアウトコースを走っている選手
にコースを譲る。
にやっと笑っていったそいつの顔がムカついてしょうがない⋮⋮あ
の野郎!
﹁気にするな! それでいい!﹂
⋮⋮だな。5000mもあるんだ。他のランナーから肘打ち食らっ
1915
たくらいで怒ってちゃ駄目だろ。
ふぅ⋮⋮気持ちを落ち着けろ。気持ちを落ち着けるんだ。あんな奴
は無私だ無視。
一旦気持ちを切り替える為に腕をブラブラさせて、仕切り直す。
⋮⋮おし、こっからだ。
⋮⋮400m通過。まだ全然ばらけてなくって集団の状態だ。
先頭はメチャメチャ速くって、67! と言う叫び声が聞こえた。
⋮⋮67秒って何だよ。
﹁ヤス兄、79秒! ファイト!﹂
79秒!? 目標は88秒ラップで刻むはずだったのに⋮⋮今の俺
には速すぎだろ。
⋮⋮ちっ、周りのペースに影響されたな。
﹁ヤス! ゼッケン596の後ろにつくのだ!﹂
⋮⋮あれ? ペース落とせって言われるかと思ったのに、ポンポコ
さんのアドバイス違ってたな。
596⋮⋮596⋮⋮あいつか。
ターゲット確認、任務を遂行する。
﹁いいぞ! ぴったりと真後ろにつけ﹂
らじゃ!
1916
⋮⋮1200m通過。
電光掲示板を見たら、1000mの通過は3分25秒だった。
俺にとってはめっちゃ速いペース⋮⋮ちょっときついけど、まだま
だいける。
現在の俺はポンポコさんのアドバイス通り、596の後ろにぴった
りついてコバンザメのようにはなれない。
足の運びも腕の振りのリズムも596に合わせて走っている。
⋮⋮こうやって走ってると、思った以上に体が動く。
﹁ヤス兄! 84秒!﹂
⋮⋮速すぎる気がする。俺、こんな速く走れたっけ?
おし、このままこの596についていってこの速いペースを維持し
ていこう。
タッタッタッタッ⋮⋮。
なんだかだんだんとこのペースより速く走る事が出来る気がしてき
た。
⋮⋮俺、この596のランナー抜けるんじゃねえか?
1300m、カーブから直線に切り替わる所からアウトコースに出
て596を抜こうと試みる。
﹁ヤス! 無理に抜こうとするな! ついていけ!﹂
1917
⋮⋮ちぇっ、抜いていってやりたかったのに。でも⋮⋮アドバイス
には従っとくか。
アウトコースに出たけど、また596の真後ろに戻って足の運びを
揃える。
見てろよ、この596のペースが落ちてきたら抜いてってやる。
2000m通過。
まだ俺はゼッケン596の後ろにぴったりとついている。
ペースが速くて、ちょっときついんだけどおいていかれるのは悔し
い。
⋮⋮さっきゼッケン596より速く走れると思ったのは勘違いだっ
たみたいだ。
﹁ヤス兄! 84秒!﹂
この596ってランナーすげえな。さっきから延々と84秒を刻ん
で走ってるんだけど。
⋮⋮お、ランナーが1人落ちてきた。
最初にハイペースに入りすぎたんだな。もうバテバテじゃんか。
ゼッケン596と一緒になって落ちてきたランナーをすっと追い越
していく⋮⋮⋮⋮快感だ。
人を追い越していくってなんて気持ちがいいんだろう。
⋮⋮おし、このゼッケン596についていけばどんどん追い抜いて
いけるな。
腰巾着っぽく見えようが、このゼッケン596に絶対ついてってや
1918
る。
⋮⋮3200m通過。
きっつい⋮⋮3000mまではなんとかついていけてるって感じだ
ったのに、3000m越してから途端に体が動かねえ⋮⋮。
まだ無理矢理体を動かしてゼッケン596においていかれないよう
にしてるけど⋮⋮。
﹁ヤス兄、85秒!﹂
くそっ、ちょっとペースが落ちたか。ゼッケン596との差がちょ
っと開いてる。
⋮⋮はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮もっと動けよ、足。
﹁ヤス、ここが踏ん張りどころだぞ! がんばれ!﹂
⋮⋮そんなこと分かってるよ⋮⋮でも、さっきとおんなじように走
ってるつもりなのに、離されていくんだよ。
すっ⋮⋮。
ちっ、後ろから追い抜かれたか⋮⋮って何だよあいつ。
3300m地点でトップの野郎が追い抜いていきやがった。
ああ、今俺、1周おくれになっちゃったのか。
⋮⋮ちっくしょお⋮⋮なんだよこの実力差は。
1919
気持ちが萎える⋮⋮。
﹁ヤスう! ファイトお! 負けるなあ!﹂
﹁ヤス君! ファイトです!﹂
頑張ってる、これでも頑張ってるつもりだよ。
これ以上どう頑張れって言うんだよ。
3400m通過⋮⋮後4周もあんのかよ。
ゼッケン596の選手とは結構離されてしまった。
くっそ、こっから追いついてやりたいけど⋮⋮遠いな。
﹁ヤス! 負けちまえ! 笑ってやるぞ!﹂
⋮⋮ケンのやろう⋮⋮なんかムカついた。
てめえなんぞに笑われてたまるかってんだ。
重くなってなかなか動いてくれない腕を、またもう一度だらんと下
におろしてブラブラさせる。
ぶらっとさせた後、もう一度腕を上げて、仕切り直しだ。
絶対596に追いついてやる!
1920
⋮⋮4000m通過。
後1000m⋮⋮。
﹁ヤス兄! 93秒! 頑張ってー!!﹂
くっそ⋮⋮気持ちを切り替えても、ペースはあがらねえ⋮⋮むしろ
落ちてきやがる。
ゼッケン596の選手とはかなり差が開いていっている。
はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ⋮⋮。
もう息も切れ切れ⋮⋮走る事がつらい⋮⋮。
こっちがこんなきつい思いで走ってるってのにゼッケン596のや
ろう、ゆうゆうと走りやがって⋮⋮⋮⋮まだゼッケン596のあい
つに追いつく事は諦めてないからな。
後600m、1周半だ。
﹁ヤス兄、90秒! 頑張って!﹂
90秒だと⋮⋮はあ⋮⋮はあ⋮⋮くそ、ペース、さっきからあげて
るつもりなのに全然あがらねえ。
ゼッケン596のやつとはずいぶん離されちったな⋮⋮。
このままじゃきつい。
1921
﹁ヤス! 残り400mでスパートをかけてみろ! まだ前のラン
ナーを追い抜けるかもしれんぞ!﹂
⋮⋮ほんとだな、信じるぞその言葉。
ラスト400。追いつけそうな射程距離範囲内を走っている選手は
⋮⋮2人!
ゼッケン564って野郎と、もう1人、バテバテになってる427
って選手だ⋮⋮427⋮⋮あいつ、俺に肘打ち食らわせたやろうじ
ゃんか。
﹁ヤス! あいつら抜けたら坊主になってやんぞ!﹂
⋮⋮聞いたからな⋮⋮ケン。お前を坊主にしてやんよ。
目の前のターゲット、まずは427。
400mからラストスパートって聞いたからな。腕を思いっきり振
って、風を切って走る。
負けねえ!
残り、20m、10m⋮⋮よし、427に追いついた。
はあ⋮⋮はあ⋮⋮ち、何でペースをあげるんだよ。素直に抜かれと
け!
はあ⋮⋮2人でまたつばぜり合いを始める。てめえ、バテバテなク
1922
セして肘打ちして来るんじゃねえ!
﹁ヤス兄、84秒! そんな奴に負けんなー!﹂
ああ、負けねえ。
427がインコース、俺がアウトコースに位置して残り200mに
突入⋮⋮この瞬間に564は抜いた、後は427だけだ!
インコースに入りたい俺は無理矢理内側に入って427をひかせよ
うとするんだけど、その度にペースをあげて応戦してくる。
残り100mに入った、ラスト勝負。
﹁ヤス、追い越せ!﹂
追い越せ⋮⋮ない。くそお、少しずつ置いてかれてる。ラスト10
0mで明らかに相手側がペースが1段階あがりやがった。
⋮⋮ポンポコさん⋮⋮足が動かん⋮⋮腕重い⋮⋮400mからスパ
ートって無理だろ⋮⋮。
﹁ヤスう! ファイトお!﹂
﹁ヤス君! 頑張って!﹂
くそっ、腕が⋮⋮足が⋮⋮。
目の前に427がいるのに⋮⋮。
50、40、30⋮⋮ゴールされた⋮⋮くっそお。
⋮⋮俺もゴール⋮⋮はっ、はっ、はっ、はっ⋮⋮も、もう無理⋮⋮
一歩も動けねえ⋮⋮。
ゴールしたと同時に、トラックの内側に入ってばたりと倒れた⋮⋮
1923
くっそお⋮⋮427、抜けなかった⋮⋮。
1924
203話:新人戦、終了
ふう⋮⋮ようやく起き上がれるぐらいになった。とりあえずいつま
でもトラックの内側でぶっ倒れてたら邪魔なので、ランナーの邪魔
にならないように外へ出る。
⋮⋮そういや、結局俺のタイムと順位ってどのくらいだったんだろ?
﹁ヤス、お疲れさん﹂
﹁ありがとケン⋮⋮疲れた⋮⋮腰ゼッケン外してくれえ⋮⋮自分で
とるのがつらい﹂
﹁へいへい⋮⋮最後、惜しかったな﹂
﹁ああもう、完全な実力不足。ものすごくばててるように見えたゼ
ッケン427番があれだけラストスパート出来るなんて思ってなか
ったのに﹂
﹁確かにな、俺も見てて427の方は抜けると思ってた。ま、56
4は抜けたんだからよしとしろよ⋮⋮おし、とれたぞ﹂
﹁サンキュ。でも、競り合いで負けたんだぞ⋮⋮くっそお、めっち
ゃ悔しい!﹂
﹁初めての試合だしな、まだまだこれからだろ﹂
﹁⋮⋮そだな、まだまだこれからだ﹂
1925
﹁そうそう。んじゃ、ヤス、お疲れさん!﹂
﹁サンクス! ケン!﹂
ケンとパチン! っとハイタッチを交わす。野球部時代から、勝っ
ても負けても最後はハイタッチで締めてる俺たち。今も変わらない。
んじゃ、サツキの待ってる5000mのスタートの所までいくかあ。
﹁ヤス兄、お疲れ!﹂
⋮⋮っと、サツキ、荷物もってこっちまで来てくれたんか。
﹁かっこよかったよ。つい笑っちゃったあ﹂
⋮⋮なんか変な言葉が聞こえた気がしたんだけど。
﹁⋮⋮おいサツキ、今の会話おかしくないか? かっこよくてどう
して笑う?﹂
﹁だって、私にとってヤス兄って運動音痴のイメージしか無いんだ
よね。野球でも空振りばっかりだったし、短距離走もそんなに速く
ないし﹂
﹁失礼なやつじゃ﹂
事実だから言い返せないのが悔しいが。
﹁そのヤス兄が、他の選手を何人も追い抜いてくんだよ。あっはは
って笑うしか無いよね﹂
1926
﹁いろいろと失礼な奴じゃ﹂
俺が今まで努力してきた結果だろうが。
﹁ヤス兄、ほんとお疲れさま。これからもファイトだね!﹂
﹁あいよー⋮⋮って事で、俺の順位とタイム、分かったら教えてく
れねえ?﹂
﹁えっとね、私のストップウォッチで計ったタイムは17分52秒
87。順位は多分33、34位くらいだと思う。ちょっと数えそこ
ねた気がするから分かんない﹂
﹁え⋮⋮18分切れた!? ほんとに!?﹂
﹁ほんとほんと﹂
まじかあ⋮⋮ちょっと感動⋮⋮。
切れるとは全然思ってなかったもんなあ。
﹁ラップタイムはどうだった?﹂
﹁ん、えーとね、79、84、84、83、84、84、85、8
5、90、93、94、84、ラストが41だった﹂
﹁途中まではすっごいいい感じのタイムなのにな⋮⋮94まで落ち
たんだなあ﹂
もうちょっと途中のペースが落ちないように頑張らないとなあ。
⋮⋮あ、ポンポコさんだ。
1927
﹁お疲れさま、ヤス﹂
﹁ありがと⋮⋮ほんといろいろとアドバイスありがと⋮⋮どうやら、
18分を切れたみたいっす!﹂
﹁おめでとう⋮⋮ヤスなら出来ると思ってたぞ﹂
ポンポコさんにはすっげえ期待されてる気がする。
プレッシャーもかかるけど、やっぱり励みだよな。
﹁3000mから4000mが今後の課題だ、途中落ちないよう頑
張ろう⋮⋮次は17分切りだな﹂
﹁ラジャッ!﹂
やあ、それにしても自分が速くなっていく事が実感できる瞬間って
楽しい。
﹁その前に駅伝があるからな、何キロを走る事になるか分からない
が、次の目標はこれだ。頑張っていこう﹂
駅伝か⋮⋮先輩たちと一緒に走る訳か⋮⋮大変そうだあ。
﹁しかし⋮⋮やはり一緒に練習する相手が欲しいな﹂
﹁そんなもん?﹂
1人で走るのは飽きるから、確かに欲しいと言えば俺も欲しいけど。
1928
﹁今日ヤスがいいタイムを出せた理由の1つに、596の選手をペ
ースメーカーにしたというのがある。ペースメーカーがいると、自
分1人で走るよりも、ずっといいタイムで走れる。だからこそ今日
ヤスは18分切りが出来たと思う﹂
なるほど⋮⋮3000mまであの596の選手につき続けたことで、
1人で走るよりいい走りが出来たのか。
サンキュー596。
﹁練習でも同様だろう。一緒に練習する仲間がいれば、ペースメー
カーを順番に変えることで速いペースで長い距離を走る練習が出来
ると思う﹂
﹁ほおほお﹂
誰か一緒にやってくんねえかな。ケンがもしかして中長距離に転向
するかもしれんし、そしたら一緒に練習できるかも。
ヤマピョンもそろそろ、部活来てほしいなあ。
﹁それでは、しっかりダウンをしてくれ。なんだかんだ言っても試
合はすごく疲れるものだからな﹂
ラジャア。
1929
ふう、ダウン終了。帰りの準備しとこ。
男子5000m決勝が大山高校が出場する最後の種目だったから、
これで新人戦は終了。
俺の正式なタイムは17分53秒22、成績は35位だった。
今回は県大会に出場したのは⋮⋮女子4継、キビ先輩の400mH、
100mH、ゴーヤ先輩の400m、ボーちゃん先輩の110mH、
400mHの計6種目。
ケンやユッチの失格が無かったらもうちょい県大会に⋮⋮﹃たら﹄
﹃れば﹄の話はやめとこ。
﹁ところでサツキ、サツキは試合見てて、どの競技やりたいって思
った?﹂
﹁私? 見てて面白いなって思ったのは800m、1500mだね。
駆け引きもあるし、特に最後のラストスパートが面白いよ﹂
確かに、最後のラストスパートの瞬間、地力のある選手とない選手
の差がさーっと開いていく。
置いてかれた方は空しさを感じるかもしれんが、勝った時はものす
ごく気分がいいだろう。
﹁やっぱり中距離は﹃陸上の格闘技﹄って言われるだけあるよな﹂
﹁うんうん⋮⋮けど、大山高校は女子で中長距離してる人いないし、
それに私リレーもやりたいんだ。だから400、800を専門にや
りたいって思ってる﹂
なるほどなあ⋮⋮サツキは400、800か。
1930
﹁頑張れよ。来年のインターハイの目標は兄妹揃って県大会出場!﹂
﹁ありがと、頑張る。ヤス兄も頑張ってね﹂
あいよ。サツキに負けないように俺も頑張ろ。
お、ウララ先生来たな。
﹁みんな、お疲れ! この後すぐに戻らないといけないの! 申し
訳ないんだけどこのまま解散! 話はまた明日! 今日はゆっくり
休むこと!﹂
めちゃ慌ててんなあ⋮⋮まじ忙しそうだ。
﹃ウララ先生お疲れ様でした!﹄
﹁お疲れ、またね!﹂
⋮⋮走って戻ってったウララ先生。1分もいなかったな、それだけ
忙しいって事か⋮⋮お疲れ様です。
うん、次の目標は17分切り、そして駅伝。2つの目標に向けて頑
張れ、俺!
1931
203話:新人戦、終了︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
更新する時間がまちまちになってますので気をつけます。
新人戦、終了です。私も初めての試合はすごく緊張しました。
ペースメーカーっているといないでは大違いです。
練習相手、いるといないでは大違いです。
1人で練習してる人、誰か巻き込んで練習するといいですよ︵^^
それでは。
1932
204話:坊主
今日は9月16日、新人戦が終わって2日目だ。
昨日は反省会含め、話だけで終了。しっかり休むようにと言われた。
こっそりユッチと俺とサツキの3人でのんびりと走ってたのはここ
だけの話。
﹁ヤス兄、何でそんなもの学校に持ってくの?﹂
﹁ちょっとある約束してたの思いだした。任務を遂行するためには
これが必要なのだ﹂
﹁⋮⋮よく分かんないけど、変な事はしないでね。ヤス兄﹂
俺は変な事はしたことはないぞ。
全く失礼な妹だ。
何事も無く学校も部活も終えて、放課後。
今日はまだ疲れが残ってるからってまた長い距離をのんびりと走っ
た。
こうやって走るってのも楽しいんだよな⋮⋮120分もなきゃだけ
ど。ポンポコさんのメニューって長い距離が多いよな。
もう短距離連中もほとんど帰っちゃってて、残ってるのは俺と、俺
1933
を待ってるケンとサツキのみ。
さてと⋮⋮ようやく任務を遂行できる時間がやってきた。
﹁ケン、ちょっといいか?﹂
﹁んあ? なんだヤス? さっさと帰ろうや﹂
﹁や、俺が5000m走ってるときにケン叫んだじゃん。﹃あいつ
ら抜けたら坊主になってやんぞ!﹄って。それを今日実行しようか
と思って﹂
﹁いや、俺ちゃんと﹃あいつら﹄って言っただろ? ヤス、2人の
うち1人しか抜けなかったじゃん。その時点でその約束は無効だろ﹂
﹁いやいや、2人のうち、1人は抜けた訳じゃんか。つまり約束事
のうち、半分までは達成できた訳じゃん。テストでも半分しか出来
てなくても0点にはならずに50点になる訳だろ﹂
﹁へ理屈だね、ヤス兄﹂
へ理屈でも押し通せば理屈だ。
﹁だからご褒美として、約束の半分を遂行させてくれ。要は髪を半
分切りたいって事﹂
﹁⋮⋮髪の毛を半分くらいにするって事か?﹂
﹁そうそう。半分なら別にいいだろ?﹂
1934
はさみを取り出してじょきじょき鳴らす。
﹁⋮⋮まあ、そろそろ床屋に行きてえって思い始めてたから、それ
くらいだったらいいけど。虎刈りにすんなよ?﹂
﹁ケン、虎刈りって何?﹂
﹁虎刈り⋮⋮刈り方が下手なために、髪が深く刈ってあったり、浅
く刈ってあったり、刈りあとがふぞろいで虎の毛のようにまだらに
なっている状態の事を虎刈りというのだ﹂
﹁ええと⋮⋮俺、髪の毛切った事無いからちょっとぐらいなっても
許してくれ﹂
﹁まあ、それくらいいいぞ。最悪失敗しても床屋に行き直せばいい
事だし。んじゃ頼む﹂
ブルーシートを広げて、その辺に転がってるいすをブルーシートの
上に置いて、首にタオルを巻いて髪を切ってもらう体勢になるケン。
⋮⋮かかったな、ケン。
さっきまで見せていたはさみは片付けて、鞄の中から準備していた
あるものを取り出す。
まずはケンが逃げられないように全身をぐるぐるとヒモでしばっと
く。
﹁おい! こらヤス! 何のつもりだよ!?﹂
﹁や、ケンが動いたら危ないじゃん? だったら動けないようにし
とこうかと思って﹂
1935
﹁それはいい! その右手に持ってるものはなんだよ!﹂
﹁ん? これ? 見て分からん?﹂
﹁分かるけど! なんではさみじゃなくてそれ使うんだよ!?﹂
ぽちっと電源ボタンを入れる。
ウイイイイィィン⋮⋮。
そう⋮⋮俺が右手に持ってるものはバリカンだ。
﹁髪の毛を半分にするためじゃん。今さら何言ってんのさ、ケン﹂
﹁半分って髪の毛の﹃長さ﹄を半分にするんじゃないのかよ!?﹂
﹁何言ってんだ、ケン。俺がそんな器用な真似できる訳無いじゃん。
俺がするのは髪の毛の﹃数﹄を半分にするだけ﹂
ちょっと聞けば分かっただろうに。ふっふっふ⋮⋮楽しみだ。
﹁待て待て。というか何故サツキちゃんはヤスの暴走を見ているん
だ? 止めてくれよ﹂
﹁ん? 止めたら面白くないじゃん。私は面白い方の味方だよ。ケ
ンちゃん﹂
﹁こ、この兄妹ども⋮⋮﹂
小学校の時から俺らと接してきて、そんな初歩的な事も忘れてしま
うとは⋮⋮焦ってるな、ケン。
1936
﹁サツキもやる? 半分くらい﹂
﹁いいね、バサッとやっちゃお﹂
﹁ちょっと待て待てまてまてマテマテ待てーっ!﹂
ジャキジャキジャキジャキ⋮⋮バサバサバサバサッ。
﹁まじか⋮⋮今どこを切った?﹂
﹁ん? てっぺん﹂
﹁ケンちゃん、現在てっぺんハゲだよ。カッパみたい﹂
﹁ちょっと待て⋮⋮まさかお前ら兄妹、カバーつけてないとかない
だろうな?﹂
﹁カバー? そんなんあったっけ? サツキ﹂
﹁んーと⋮⋮あ、ヤス兄の鞄の奥にあったよ﹂
﹁おいおいおいおいおい! カバーつけずに刈ったのか!? それ
って1mmハゲって事か!?﹂
﹁んー⋮⋮カバーつけないとどうなんの? サツキ、知ってるか?﹂
﹁確か、カバーつけとくと3mm、6mm、9mm、12mmって
選べるんじゃなかったっけ?﹂
1937
﹁そうだよ! せめて坊主にするにしても9mm、12mmくらい
ならまだ許せたのに! よりによって1mmかよ!?﹂
⋮⋮ふっ。なんかこれだけ焦っているケンを見るのは楽しい。
﹁んじゃ、次サツキの番か﹂
﹁はいほー。それじゃ、バリカンかりるね、ヤス兄﹂
﹁サツキちゃん! 今からでも遅くない! バリカンにカバーをか
けてくれ! 12mm⋮⋮いや、3mmでも構わないから﹂
﹁あれ? このバリカン、レバーがついてる。えっと⋮⋮刃の長さ
を調整できるんだね。説明書持ってきてる? ヤス兄﹂
﹁おいおい! サツキちゃん! 無視するなよ!﹂
残念だったなケン。サツキは楽しい事が目の前にあると人の話は聞
かなくなるぞ。知らなかったのか?
﹁えっと⋮⋮お、説明書あった。なになに? ﹃カット調整レバー
付きです。このレバー1つで、カバーをつけなくても3mmから、
なんと0.3mmまでのカットが可能です。しかもどんなに押し付
けても、頭皮を傷つける事はありません﹄だって、すげえな。0.
3mmだって﹂
﹁へえ、すごいね! ヤス兄﹂
﹁ちょっと待てサツキちゃん! さっきより目がキラキラしてる気
がするのは俺の気のせいか!? おい、なんでレバー回してるの!
1938
?﹂
﹁ん? ちょっとでも長くなるように3mmの設定に変更しようと
してるの⋮⋮これが3mmの設定かな。わっかんないなあ。でも、
試してみれば分かるよね﹂
﹁ちょっと待てサツキちゃん! 試すって何だ!? 誰で試すんだ
!? やめてやめてやめてやめてやめてやめてー!!﹂
ジャキジャキジャキジャキ!
﹁あれ? なんかさっきより短くなっちゃったね、ヤス兄﹂
﹁だなあ⋮⋮間違えちゃったな。まったくドジだなあ、サツキは。
こらっ﹂
﹁えへっ﹂
﹁そこのバカ兄妹! ﹃こらっ﹄﹃えへっ﹄じゃねえよ! 絶対確
信犯だろ!? 俺の髪どうすんだよ!?﹂
﹁んー⋮⋮ちょうど半分くらいになったか?﹂
﹁今縦にまっすぐ道が出来てるけど⋮⋮まだ半分いってないんじゃ
ない? 頭の上に十字路を造るとちょうど半分ぐらいになりそうだ
ね﹂
﹁なるほど、十字路だな﹂
サツキ、ナイス発想。
1939
﹁おいおい! 十字路ってなんだ!? 俺の髪は道路じゃねえぞ!﹂
﹁ちょっとした比喩表現じゃんか。な、サツキ﹂
﹁ね、ヤス兄﹂
﹁﹃な﹄﹃ね﹄じゃねえ! お願い、ストップストップ!﹂
⋮⋮懇願してるなあ⋮⋮だが止めない!
ウィイイイイイイン⋮⋮ジョキジョキジョキジョキ!
﹁はあ⋮⋮すっきりしたあ⋮⋮サツキもラストやるか?﹂
﹁やるやる!﹂
ウィイン⋮⋮ジョキジョキ、ジョキジョキ⋮⋮バサッ。
﹁人の髪を切るって楽しいね、ヤス兄﹂
﹁またやろうな、サツキ⋮⋮ケン、鏡見るか?﹂
﹁⋮⋮﹂
ケン、自分の頭見ても完全に沈黙したなあ⋮⋮何を思ってるんだろ。
﹁よし、これでおしまいだな﹂
よいしょ、ヒモほどいてっと。
1940
﹁それじゃサツキ、帰ろか﹂
﹁⋮⋮なあ、ちょっと待ってくれ﹂
﹁ん? ケン何?﹂
﹁この頭はきついから、いっその事全て坊主にしてくれ⋮⋮情けは
無用だ⋮⋮﹂
﹁え? まじ? いいの?﹂
﹁いい⋮⋮ひと思いにやってくれ⋮⋮﹂
﹁んじゃ遠慮なくやるか、ケン⋮⋮動くなよお﹂
ジャキジャキ、ジャキジャキ、ジャキジャキ、ジャキジャキ。
髪をバサバサと落としていくこの瞬間がたまんなく楽しい。
﹁うん、完璧じゃね?﹂
ツルッツルの坊主頭。本当に毛が無い。
触りてえ⋮⋮ぺちぺち叩いてみたいなこの頭。
ぺちぺち⋮⋮ぺちぺち。
うわ、すげえ叩き心地いいじゃん。
﹁⋮⋮﹂
ドンッ!
1941
いってえ! 突然ケンにタックルを食らった。
あまりに唐突だったもんだからよろめいて持ってたヒモとバリカン
落としてしまった⋮⋮。
﹁おい!? 何すんだよケン!? ⋮⋮ケン?﹂
⋮⋮やばい、なんかケンがキレてる⋮⋮。
ちょっとやりすぎたか?
﹁⋮⋮コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カ
ー!﹂
﹁ちょっと待てケン! 俺が悪かった! 謝るからストップストッ
プ!﹂
﹁コノウラミハラサデオクベキカー!﹂
⋮⋮次の日。
﹁おはよーアオちゃん﹂
﹁あ、おはようご⋮⋮どうしたんですか? ヤス君?﹂
﹁いろいろとありまして⋮⋮﹂
1942
⋮⋮あの後、俺も揃って0.3mm坊主になりました。
サツキに延々と大笑いされたのはちょっと心の傷でやんす。
﹁ヤス、何か悪い事をしたのか?﹂
﹁ヤスだからやりかねんよな﹂
﹁むしろ今までの事を猛省してまるめたんじゃん?﹂
⋮⋮クラスのこの反応は何だろう。俺ってそんなに悪い事してたか
なあ⋮⋮。
﹁おっすヤス! アオちゃん!﹂
﹁あ、おはようございます、ケン君。 イメチェンですか? すご
く似合ってますよ!﹂
﹁⋮⋮ほんとか? ありがとアオちゃん!﹂
⋮⋮その反応の違いは何だアオちゃん。
﹁何か、ケン君さわやかになったね﹂
﹁スポーツ少年って感じでいいね﹂
﹁かわいらしい! なでなでしたい!﹂
⋮⋮何故かケンを殴りたくなってしまった⋮⋮ちょっと悔しい思春
期の俺。
1943
204話:坊主︵後書き︶
参考にさせていただきました.
バリカン
←
http://www.rakuten.co.jp/direc
t−com/587961/587963/
0.3mm坊主頭、こんな感じです。
←
http://www2.tokai.or.jp/santam
a/bosea.htm
このページによると、ハンカチ王子=12mm、えなりかずき=9
mm、亀田=3mmぐらいらしいです。
スラムダンクの桜木花道の頭は9mm∼12mmくらいな気がしま
す。
私は高校時代に6mmやった事があります。
それでは。
1944
205話:下ネタ︵前書き︶
下ネタ多いです。
苦手な人注意してください。
1945
205話:下ネタ
坊主頭はクラスメイトから散々に言われたけど、部活のメンバーか
らは好印象。
﹁おお、ヤス、いい頭じゃないか﹂
﹁うんうん、すっごいよくなったあ﹂
ポンポコさん、ユッチ、それほんとか?
クラスメイトからは今までの悪行を反省して出家したんじゃないか
とまで言われたので、ちょっとへこんでたんだけど。
﹁うむ、いい頭になった、触っていいか?﹂
﹁ね、ね、さわっていいよね?﹂
そう言いつつ、ゴーヤ先輩とキビ先輩には延々となでてもらった。
かわいい先輩に触ってもらうと言うのはとても気持ちいい⋮⋮すみ
ません、俺、エロイです。
坊主頭になって、ちょっとよかったなと思った瞬間。
1946
と言う訳で、坊主頭も嫌ではなくなって部活も終わり、今日もケン
が泊まりにきてる。
漫画を読みつつ、まったりと話してる。サツキは俺の布団でお休み
中。
﹃ヤングほにゃらら﹄を現在読んでるんだが⋮⋮この表現はなしじ
ゃね?
﹁なあケン、エロシーンってどれくらい書いてもいいんだろう?﹂
﹁いくら書いても構わんだろ。マガジンでも書かれてるだろ﹂
﹁ジャンプでは規制があったりするじゃん﹂
﹁それはそうだけどな。ヤングジャンプとかヤングマガジンとか、
年齢制限ないじゃん。ホテルシーンが書きまくられてる作品を保育
園児から読めるだろ﹂
﹁ん、まあそうなんだけど﹂
﹁だからそう言うのを読みたくないと思ったら読まなきゃいいんだ
よ﹂
﹁いや、下ネタは好きなんだよ。なんかそう言うの聞くと妙に笑え
てくる。行き過ぎると﹃それは勘弁﹄って気分になるけど﹂
﹁保育園児が﹃ピーコ!﹄﹃ピーコ!﹄っていいながら大喜びする
のと同じ心境だな﹂
⋮⋮俺の精神年齢って保育園児?
1947
﹁個人的には、読み手がそれで妄想できなきゃいいんじゃねって思
うんだけど、どうなんだろうな﹂
﹁⋮⋮なるほど、そんなもんか﹂
確かにエロ本は全部妄想のための本だから、下ネタで妄想できなき
ゃそれでいいのか。
⋮⋮そうなのか?
﹁18禁じゃない小説とか漫画では、下ネタ書く時って色々工夫し
てるよな。放送禁止用語はローマ字にかえるとかしてあるだろ﹂
﹁ああ、確かにケンの言う通りそれ見た事ある﹂
﹁他にも放送禁止用語は伏せ字を使う﹂
﹁ああ、あるある。そう言う作品﹂
しかし、意味が確実に分かってしまう伏せ字ってあるよなあ。
﹁ケン、そう言う意味のない伏せ字ってどうなんだろう? だって
さあ、あそこの3文字を言うとき、伏せ字を絶対に入れないと駄目
となると、のどちんことかパチンコとかでも伏せ字を入れないと駄
目なのか?﹂
﹁さあ? それで伏せ字が入ってるのは見た事ないなあ﹂
﹁他にも、坊さんのシーンの時って﹃ぽくぽくちーんぽくぽくちー
ん﹄ってやるだろ? これも駄目になるだろ?﹂
1948
﹁多分、坊さんが出てくるシーンって葬式とかだろ? そんなシリ
アスなシーンに﹃ぽくぽくちーんぽくぽくちーん﹄なんてしょうも
ない表現使わねーよ﹂
んー⋮⋮そうかもな。
﹁佐藤さんちはこめをいちまんこ食べた、って表現も伏せ字が必要
になるのか?﹂
﹁いや、必要にならんと思うけど。と言うか伏せ字にされたら読め
ねえじゃん﹂
まあ確かに。佐藤さんち⃝こめをいちま⃝こ食べた⋮⋮読めない上
に逆に何かエロイ。
﹁あ、あとさ。犬にしつけをする作品があるじゃん。その作品で﹃
ちんちん!﹄﹃ほら、ちんちん!﹄﹃ちんちんだってば!﹄﹃もう
! なんでちんちんができないの!?﹄﹃ちんちん⋮⋮ちんちん⋮
⋮ちんちんしてよう⋮⋮﹄﹃もうやだ! ちんちん出来なくていい
よ!﹄﹃ちんちん! ⋮⋮立った! やったあ!﹄﹃よくちんちん
できたねーえらいえらい﹄とか、書かれてたら駄目なのか?﹂
﹁知らん。ってかヤス、そんなに﹃ちんちん﹄って連呼するなよ⋮
⋮しかも﹃立った! やったあ!﹄はねえよ﹂
すまん、ケン。
﹁大体、犬のしつけのちんちんの語源は﹃鎮座する﹄の鎮からだか
らな。決してあそこが見えるからじゃないぞ﹂
1949
なに!? 知らんかった⋮⋮。
﹁﹃ちんちん電車、発車しまーす﹄も違うのか?﹂
﹁当たり前だろ!? なんで電車とあそこが結びつくんだよ!?﹂
﹁⋮⋮発射の部分?﹂
﹁⋮⋮ヤス、いっぺん人生やり直した方がいいぞ﹂
く⋮⋮サツキやユッチには死んだ方がいいって言われた事があるけ
ど⋮⋮まさかケンにまで言われるとは。
﹁ま、それは置いといて、直接的な表現でもエロくなきゃどんどん
言ってもいいのかな?﹂
﹁いいんじゃね? 確か﹃みつどもえ﹄って漫画で小学生が﹃チク
ビが立ったー!!﹄って叫んでたぞ﹂
⋮⋮そのシーン俺も知ってるけどその表現だけ聞くとビビる。
改めて聞くとすげえな少年チャンピオン。
﹁ケン、つまりエロイ言葉を言っても実は全然違う事をやる分には
きっといいんだな﹂
﹁⋮⋮知らんよ、ってかそう言うエロイ言葉を使わなきゃそれで済
むんじゃん? アオちゃんが全然気にしなかったり、ユッチは怒っ
て殴った後はけろりとしてるけど、嫌いな女子も結構いると思うぞ﹂
﹁エロイ言葉を言うのは何となく楽しい﹂
1950
﹁ヤス兄、スケベだね﹂
⋮⋮いきなり会話に加わるな。寝てると思ったぞ。
﹁こんな変態の近くで寝てちゃ駄目だぞ、サツキちゃん﹂
﹁大丈夫だよ、ヤス兄は私がおあずけって言ったら絶対何もしない
から﹂
﹁俺は犬か!?﹂
﹁ヤス兄、ちんちん﹂
﹁はいっ!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁おいっ! サツキ! 何やらせんだ!?﹂
ついつい条件反射で手を挙げて立ち上がってしまった。
﹁⋮⋮よくしつけたね、サツキちゃん﹂
﹁昨日の努力の賜物だね﹂
﹁⋮⋮昨日何してたん?﹂
﹁おうまさんごっことおいぬさんごっこ。馬も犬もヤス兄﹂
1951
﹁⋮⋮お前ら兄妹、どこで人生間違えたんだ?﹂
⋮⋮言わないでくれ。
1952
206話:酔っぱらい
今日は9月19日金曜日。
⋮⋮ありゃ。
﹁⋮⋮しもた﹂
﹁どしたの? ヤス兄?﹂
もう夜中の23時なのに、珍しくサツキが起きてる⋮⋮明日起こす
のはめんどくさそうだなあ。
父さんと母さんは今日は既に帰ってきてるけど、もう寝てる。明日、
土曜日はちゃんと休みが取れたんだって嬉しそうに話してた。
父さんと母さん、明日は新婚気分に戻って2人でデートしてきます
と俺とサツキに宣言してました⋮⋮ごちそうさまです。
俺は英語スピーチコンテストがあり、サツキもスピーチコンテスト
の観戦に来るので、俺たちのことは気にせず新婚さんになって楽し
く過ごしてきてと伝えといた。
明日は明日で、陸上の大会とはまた違った緊張感がある⋮⋮今日、
寝れるかな?
﹁歯ブラシが切れてる。新しいのにかえようと思ったのに﹂
﹁ありゃりゃ。やっちゃったね、ヤス兄﹂
﹁スーパーもう締まってるし⋮⋮仕方ないなあ、コンビニ行くかあ﹂
こう言う時は24時間コンビニエンスストアは便利だ。
1953
﹁私も一緒に行こっかな﹂
﹁ん? 歯ブラシ買いに行くだけだぞ? 大体もうパジャマなんだ
から、着替え直すのめんどくさいだろ?﹂
そう言う俺ももうパジャマなので着替え直さないといけないんだが。
﹁大丈夫大丈夫、30秒で着替えてくるから﹂
そう言って2階に着替えにいってしまった。
⋮⋮なんでそんなに着いてきたいんだろ?
﹁お待たせヤス兄! ⋮⋮何でヤス兄、まだ着替えてないの?﹂
﹁サツキが早すぎなだけ! どんな早着替えだよ﹂
今30秒も無かったぞ。
﹁私の芸の1つ。隠し芸でやってがっかりされた芸の1つだね﹂
﹁何で?﹂
﹁男子の目の前でやったら、何も見えなかったってがっかりされた﹂
﹁そんな事しなくていいから! ってかするな!﹂
まったく、世の男共にサツキの肌を見せてたまるかってんだ。
1954
と言う訳で、サツキと2人で24時間年中無休のコンビニエンスス
トアへ。
﹁真夜中に子供達だけで外に出るってなにか悪い事してるみたいで
ドキドキするんだよね﹂
﹁だから着いてきたかったの?﹂
﹁そうだよ。冒険してるみたいじゃん﹂
﹁家から5分のコンビニ行くだけで大冒険な上にドキドキできるっ
て幸せやなあ﹂
﹁現実に戻すような事言わないでよ、ヤス兄﹂
ドキドキって言うなら、未成年の深夜徘徊で捕まるかもって思うと
すごくドキドキするな⋮⋮。
⋮⋮ものすごくリアルだったので、考えるのはやめよう。
コンビニ着。
コンビニの前では不良がたむろ⋮⋮してないな。
代わりに背広来たおっちゃんが1人コンビニの自動ドアの前を千鳥
足で歩いてる。
﹁ハイホー、ハイホー、しごーとが好きー⋮⋮んな訳ねーだろ! 1955
ばっかやろお⋮⋮﹂
酔ってますなあ⋮⋮んで、自動ドアの前でふらふらされると邪魔で
仕方が無いんですが。
まあ、避けて入ろ。
﹁こらあ、そこの坊主の兄ちゃん﹂
⋮⋮なんで俺、声をかけられるんだろう?
﹁お前なあ⋮⋮未成年者誘拐だぞ。どんなに人生が嫌になってもだ
な、犯罪に手を出しちゃいかんだろ﹂
⋮⋮俺とサツキが歩いてるとそんな風に見えるんすか。ちょっとシ
ョックです。
もういいや、ほっといてコンビニ入ろ。
﹁ちょっと待ちいや。人が話しとんのに無視するってどういうつも
りや? 俺がお前ぐらいの20代後半の頃はだな、もっとしゃきっ
としとったぞ﹂
﹁⋮⋮サツキ、俺どうしたらいいの?﹂
酔っぱらいの撃退法を誰か教えてください。
ってか20代後半って⋮⋮慣れたけどさ、一応言わせてくれ。俺ま
だ10代後半です。
﹁とりあえず私がヤス兄の歯ブラシ買ってくるよ。緑でいい?﹂
﹁ん。それでよろしく﹂
1956
サツキがコンビニに入ってく。店内は店員さん以外誰もいないっぽ
いし、大丈夫だろ。
﹁あんちゃんなあ、あんなかわいい子にお兄って呼ばせるってどう
いう神経しとんのや﹂
⋮⋮うざっ。
﹁おい、聞いとんのか?﹂
﹁聞いてますよ⋮⋮﹂
聞きたくないけど、聞こえてくる。勘弁してくれ。
﹁いいか、犯罪に手を出すのはいかんぞ。俺がお前ぐらいの頃は暴
走族に向かってうっせえ! って言ってヤツラを横から蹴り飛ばし
て、クラッシュさせた事もあるけどな。そんなもんだ、すげえだろ﹂
こら、それ犯罪だろ。自慢すんな。
﹁何しやがるって言ってきたけどな、思いっきりぶん殴ってやった
らシッポ巻いて逃げた﹂
それも犯罪だろ。暴行罪、暴行罪。
﹁痛かったと思うなあ。俺の力はそこらの空手家よりすげえからな﹂
⋮⋮空手家なめんな。
1957
﹁俺がその気になりゃあな、世の中のチンピラどもを黙らせるなん
て余裕なんだよ。会社のくそ上司だって、一瞬で潰せるんさ﹂
﹁はあ⋮⋮すごいっすね。んじゃやりゃいいじゃないっすか﹂
どうでもいい、解放してくれ。
﹁でもな、上司を潰すって人間としてどうよ、と思う訳だ。どんな
野郎でも人間にはちがいねえしなあ。俺が若い頃は気に入らない上
司とは徹底的に戦ってやったんだけどな。あっはっは!﹂
⋮⋮う、うぜえ。サツキ、早く戻ってきてくれ。そんな所でお菓子
を物色してないでくれ。
﹁お前もな、俺みたいに出来る人間になれよ。今のまんまじゃ全然
なんだからな﹂
⋮⋮あなたが出来る人間には見えません。
﹁はあ、そうっすね、頑張りますよ﹂
﹁﹃そうっすね﹄じゃねえだろ! もっと別に言う事あるだろ﹂
⋮⋮何を言えと。
﹁⋮⋮俺、今でも色々できますよ﹂
﹁何若造が偉そうな事言ってんだ!﹂
⋮⋮他の事言えって言ったんやん。
1958
﹁いやあ、俺全然だめですから﹂
﹁なんだよ、そのネガテブな発言は! もっとポジテブに生きろよ
!﹂
⋮⋮殴っていいっすか?
﹁⋮⋮出来る人になれるように頑張りますよ﹂
﹁お前なあ、頑張るって言うだけなら誰でも言えんだよ。もっとち
ゃんと言えよ。これだから近頃の若いもんは使えねえんだよ﹂
ええと⋮⋮おやじ狩りというものをやってみたくなりました。
カッターねえかな。包丁でもいいや。
﹁⋮⋮んじゃ何やりゃいいんすか?﹂
﹁答えを求めようとするな! 自分で考えないと駄目だろ﹂
本気でサツキ、戻ってきて。万札で歯ブラシとおかし買わなくても
いいやん。小銭あるやん。
﹁世界が笑顔でいっぱいになる事が出来るようにするっす﹂
﹁そんな抽象的な答えはいらねえんだよ! 目上への敬語もなって
ねえし。俺の部下にはそんな部下は全くいらねえなあ﹂
あんたの部下にはなる気は全くありません。
1959
﹁⋮⋮まずは言葉遣い、直そうと思います﹂
﹁ちっちぇえなあ。もっとでっかい事考えらんないのかよ。壮大な
事考えないと人間ちっちゃくなるぞ﹂
お願い、女性店員さんと談笑してなくていいから、弱い兄貴を助け
てくれ。
﹁おい、聞いてんのか?﹂
﹁聞いてますよ﹂
﹁嘘だな、聞いてんのか?﹂
⋮⋮聞いてるって言ってますやん。
﹁聞いてますってば﹂
﹁本当の事言えよ。怒んねえから﹂
﹁だから聞いてますってば﹂
﹁何で嘘をつくかなあ⋮⋮もう1回聞くぞ、聞いてんのか?﹂
﹁⋮⋮聞いてません。これでいいですか?﹂
﹁聞けよ!﹂
⋮⋮⋮⋮なんだろう、このモヤモヤとした感情。これが殺意っても
のなんだろうか。
1960
﹁ヤス兄、お待たせー﹂
﹁待ったぞ、本気で待った﹂
﹁⋮⋮だからな、俺が若い頃は、聞いてんのか? おい、聞いてん
のか?﹂
⋮⋮帰ろう。
﹁ヤス兄、面白かったねー。ヤス兄とあの変なおじさん見てて店員
さんと盛り上がっちゃった﹂
﹁俺は全然面白くなかった。絶対酒には飲まれないようにする﹂
⋮⋮酒は飲んでも飲まれるな⋮⋮名言だなあ。
そう、しみじみ思った秋の夜。
1961
206話:酔っぱらい︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
酒飲むと延々と説教や自分の自慢し始める人、いますよね。
最近こういう人と飲んで、何言っても全否定されました。ちょっと
しんどかったです。
自分が否定されるようなことばっかり言ってただけかもしれないで
すが︵^^
そして次の日、何も覚えていないと言うおまけつき。その人とまた
飲みにいくと同じ説教開始と言うエンドレス。
まだ未成年の方も成年の方も、酒には気をつけてください。
それでは。
1962
207話:English speech contest
9月20日土曜日⋮⋮いやな日だ。
今日は俺たちが住んでる静岡の右端の駿東地区から、浜松まで来て
る。
﹁全国高校生英語スピーチコンテストは、2つの目標を掲げていま
す﹂
そう、今日は高校生英語スピーチコンテストの予選なのだ。ウララ
先生がクラス全員分を応募したため、今日はこんなところにきてる。
開会式、司会の声。
﹁1つ目の目標⋮⋮それは、英語で、自分の考えを伝えられる力を
身につけていくという事です。英語が話せる事で世界中の人が友達
になれます。高校生の英語教育は、書く事、読む事が重視されてい
ます。最近ではセンター試験の英語でリスニングテストも加わりま
したが、唯一、話すという教育がなされていません。読む事も出来
る、書く事も出来る、英語を聞く事も出来る⋮⋮でも﹃話せない﹄、
これではこれからの国際化の波に飲み込まれてしまいます。このス
ピーチを通して、皆さんが世界に目を向け、自らの可能性を伸び伸
びと追い求める気持ちをはぐくんでいただけたら幸いです﹂
司会の声が右の耳から入って左の耳から出て行く。何も頭に残らな
い。
﹁2つ目の目標⋮⋮それは、家族のきずなに思いを向けることです。
今日、家族の大切さが見過ごされています。﹃家族﹄をテーマとし
1963
た、このスピーチをとおして、あらためて家族の大切さを思い出し
ていただけたらと思います﹂
﹁サツキ⋮⋮何を話せばいいんだろね。﹃家族って大事だよ﹄、こ
の一言で済む話なのに、4分も話できないっすよ﹂
﹁お父さんはこんなにのんびりやさん、お母さんはこんなにポヤヤ
ヤンとしてるとかでいいんじゃないの?﹂
﹁父さん、母さんの事を語れと言われりゃ、1時間以上語れるぞ。﹂
4分でおさめろなんて無理だ。
﹁ちなみにサツキのかわいらしさなら1日以上話せるが﹂
﹁ありがと、ヤス兄﹂
む、今日は素直だな。こんな素直なサツキも可愛い。
今、マルちゃんが発表してる、次が俺の番。英語が苦手な俺にとっ
ては本当にいやな日だ。
こんな時、アオちゃんみたいに英語が得意だったら、もうちょっと
気楽にこの日がのぞめただろうに。
1964
﹁ヤス兄、緊張しすぎ。この前の陸上新人戦の時より緊張してない
?﹂
﹁そんな事は無いぞ、サツキ﹂
﹁⋮⋮ヤス兄、手と足が同時に出てるよ﹂
⋮⋮。
﹁絶対緊張してるでしょ、もっとリラックスしないと。深呼吸深呼
吸﹂
スーハー、スーハー⋮⋮深呼吸って緊張がとけるものなのだろうか?
あまり緊張がとけないっす。
﹁こういう時はユッチにみたいなやつが子供みたいにワーワーはし
ゃいでくれると気がまぎれるんだけどな﹂
﹁ヤスう! だれが子供だあ!﹂
⋮⋮ユッチがなんでいるんだろう⋮⋮確か参加するのは俺んとこの
クラスだけだった気がするのに。
﹁せっかくアオちゃんとヤスの応援に来たのにい! そんな事言う
んだったらボク、ヤスの応援なんかしてやんない!﹂
ごめんなさい、まさかこんな遠くまで応援に来てくれるとは思って
ませんでした。
1965
﹁ユッチ先輩、ケンちゃんの応援は?﹂
﹁ええと⋮⋮ケンはどうでもいいやあ。きっと適当にスピーチする
だけでしょお﹂
ケン、ひどい言われようだぞ、頑張ってユッチを見返してやれよ。
と、とうとう俺の番が来てしまった⋮⋮審査員も観客も静かに俺の
スピーチを待っている⋮⋮そんな身構えないでくれ。
,
everyone
⋮⋮なんでそんな冷たい視線を送るんだよ。もっとあたたかな目で
見守ってくれよ。
﹁ハ、ハロー。エブリワン?︵Hello
?︶﹂
⋮⋮なんで俺は疑問系で挨拶してんだ。
Yasuaki
Kondo.
I
am
Japan︶﹂
﹁ア、アイム ヤスアキ コンドー. アイ アム ジャパン︵I
'm
﹁⋮⋮プッ﹂
あ、あれ? 何か間違えたか?
fam
﹁マイ ファミリー イズ フォー パーソン ファミリー。ファ
ーザー、マザー、ヤンガーシスター、アンド ミー︵My
1966
ily
four
me︶﹂
mother
is
her,
and
,
Fat
sister
family.
younger
person
,
ふう、一言一言にすごく緊張してしまう。
day
of
my
I
want
family︶﹂
,
to
spea
﹁トゥデイ、アイ ワント トゥ スピーク ア デイ オブ マ
a
イ ファミリー︵Today
k
おし、だんだんと落ち着いてきた。こうやって人前で話すときは、
ゆっくりと大きな声で元気よくしゃべると緊張しないって何かで読
んだ。
I
knock
up
abnormal!﹂
is
late
r
everyday︶﹂
sister
﹁マイ シスター イズ レイト ライザー.ソー、アイ ノック
so
アップ エブリデイ︵My
iser.
is
dangerous!﹂
really!?﹂
﹁He
is
﹁⋮⋮What!?
﹁He
⋮⋮なんだかすごい観客席がざわついてるんだけど⋮⋮変な事言っ
たかな。
﹃俺の妹はねぼすけで、毎朝ノックし、叩き起こしてます﹄って言
ったつもりなんだけど⋮⋮こんなにざわつく言葉をいったつもりは
無いんだが。 1967
﹁アイ ワント トゥ ビー ウィズ マイ シスター.ビコーズ
ve
B
シー イズ べリ キュート アンド ベリー ホームリー.︵
and
sister.
cute
my
very
with
is
be
to
want
I
she
homely︶﹂
ecause
ry
lowest.﹂
contradicted.﹂
the
is
is
﹁⋮⋮He
﹁He
⋮⋮なんでこんなにぶつくさ言われなあかんねん。﹃妹といつも一
緒にいたい。だって可愛いし、家庭的だから﹄⋮⋮間違ってないや
ろ?
she
younger
,
,
w
sist
deli
example
﹁フォー イグザンポー、ホウェン アイ フォーゴット ラバー
the
rubber
,シー デリバリー イット︵For
forgot
I
hen
it︶﹂
having
vered
he
die!﹂
done!?﹂
should
what
﹁Is
er
﹁He
⋮⋮今、誰かがdieって言ったぞ? 死ねって言われたのか? ⋮⋮何で?
used
it
at
was
pleased.
once︶﹂
very
S
﹁アイ ワズ ベリー プリーズド.ソー アイ ユーズド イッ
I
ト アト ワンス︵I
o
1968
It
Who!?﹂
sister!?
﹁⋮⋮What!?
﹁His
!﹂
is
incestuous
俺のスピーチ、審査員や観客がよくざわめくな。
もしかして俺、さっきから何か間違えてんのかなあ⋮⋮ちゃんと辞
書で調べて書いたはずなんだけど。
Wait!﹂
﹁アイ アム﹂
﹁Wait!
here
now!﹂
⋮⋮なんで止めんねん、まだ確実に4分もしゃべってないだろ。
﹁Come
﹁ホワイ? っておいおい!? 何で連れてかれんの俺!? スト
ップストップ! 引っ張らないで!?﹂
まだ大事な事言ってない!
sister
is
the
highestーーーーー
﹁マイ シスター イズ ザ ハイエストーーーーーーーーー! ︵My
ーー!︶﹂
1969
なぜか、こってり怒られた。
サツキとケンには大爆笑された。ウララ先生からもすごく笑われた。
アオちゃんからは同情の目で見られた。ユッチは何故俺が追い出さ
れたかが分かってなかった、俺も未だに分からない⋮⋮誰か教えて
くれ。
1970
207話:English speech contest︵後
書き︶
こんばんは、ルーバランです。
TOEIC300点台の自分が書いたものです。間違ってたら教え
ていただけると嬉しいです。
Kondo.
I
late
so
ve
B
I
Japan
riser.
everyday.
is
am
以下、ヤス君の言おうとしてた事と審査員が受け取った事を比較し
Yasuaki
てます。
I'm
ヤス:私は近藤康明です。私は日本人です。
up
sister
審査員:私は近藤康明です。私は日本です。
My
knock
ヤス:妹は寝坊助です。私は毎日叩き起こします。
審査員:妹は寝坊助です。私は毎日妊娠させます。
and
sister.
cute
my
very
with
is
be
to
want
I
she
homely.
ecause
ry
ヤス:妹といつも一緒にいたい。妹はとっても可愛いし、家庭的だ。
rubber
,
she
del
審査員:妹といつも一緒にいたい。妹はとっても可愛いし、ださい。
forgot
I
very
pleased.
was
once.
it
at
when
used
it.I
I
ivered
So
1971
ヤス:私が消しゴムを忘れたとき、妹が持ってきてくれた。とても
嬉しかった。すぐ使った。
審査員:私がコ⃝ドームを忘れたとき、妹が持ってきてくれた。と
ても嬉しかった。すぐ使った。
イギリス英語とアメリカ英語で意味がかわるそうです。
イギリス人とアメリカ人で会話をしたら、意味のとり違いでケンカ
になりそう⋮⋮。
←参考にさせていただきました。
http://www.eigotown.com/ryugak
u/longstay/special/uk︳vs︳us.sh
tml
それでは。
1972
208話:少女漫画
今日は9月23日火曜日⋮⋮昨日は球技大会だった。
サッカーをやっていたんだが、俺もケンも球技はとことんまで駄目
なので、思いっきり足を引っ張ってました。
最下位決定戦で2人でゴール決めた時は歓声が上がったなあ⋮⋮相
手の応援席から。
クリアしたつもりのボールがケンの後頭部に当たり、そのまま自分
のゴールへ⋮⋮それが決勝点になったからなあ⋮⋮。
という訳で少々落ち込み気味。昼休み、自分の机に突っ伏してぐだ
ぐだしてる。
﹁ヤス君ヤス君! お待たせしました、ようやく持って来れました
よ!﹂
﹁⋮⋮なんのこと?﹂
﹁忘れたんですか? ヤス君が少女漫画、どうしても読んでみたい
って言うから持ってきたんじゃないですか﹂
アオちゃん⋮⋮俺そんな事言ったか?
﹁⋮⋮まあ、ヤスなら普通?﹂
﹁や、別に読んでもいいんじゃん?﹂
1973
﹁そうそう、俺も読んだし﹂
お、今回は何か変な目で見られてないっぽい。
﹁そうか? ヤスが真剣な目をしながら少女漫画を読みふけってる
ところを想像してみ?﹂
﹁⋮⋮まあ、漫画にもよるんじゃん? ﹃ときめきトゥナイト﹄と
﹃フルバ﹄は俺も読んだぞ﹂
﹁俺は﹃姫ちゃんのリボン﹄と﹃赤ずきんチャチャ﹄読んだ﹂
ふるっ。
﹁⋮⋮俺がおかしいのか?﹂
﹁適当な奴、お前も読んでみるといいかもよ。﹃スローステップ﹄
とか少女漫画だけどとっつきやすいと思うぞ﹂
確かにとっつきやすいけど、﹃スローステップ﹄が読めても他の少
女漫画が読めるかどうかは疑問だ。
﹁ん、わかった。そうしてみる﹂
⋮⋮ふう、よかった。変人にならなかったな。
﹁以前、ヤス君から﹃ベッドシーンはエロ本で読みたい﹄と聞きま
したので、そういったシーンが無いものを選びました! ﹃ベッド
シーンのあるエロ本﹄は妹のサツキちゃんに買ってもらってくださ
いね!﹂
1974
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
﹁なあ、ヤスって普段アオちゃんとどんな会話してんの?﹂
﹁アオちゃんが気にしないからってエロい言葉をかけまくってんじ
ゃね?﹂
﹁捕まった方がよくないか?﹂
﹁しかも妹って何だよ﹂
﹁⋮⋮義妹?﹂
﹁そんな漫画みたいなのはないだろ⋮⋮やばっ﹂
⋮⋮いいよいいよ、どうせこのクラスでの俺の評判なんて墜落寸前
なんだから。
時々思うんだが、アオちゃんって本当に天然なんだろうか? わざ
とというか、狙って言ってないか?
﹁ってかアオちゃんの家ってそんなに漫画あんの?﹂
﹁母も読みますから。母が結構買ってくるんですよ﹂
1975
ふーん、そうなんだ。
﹁で、何を持ってきてくれたの?﹂
﹁1つ目は以前サツキちゃんからリクエストがあった﹃桜蘭高校ホ
スト部﹄です!﹂
1つ目って⋮⋮そんなにたくさん持ってきてくれたんだろうか?
﹁恋愛も多少ありますが、コメディ中心で楽しく読める作品です。
まだ完結はしてませんが、サツキちゃんも好きだと思いますので、
是非ご一読を!﹂
どもども⋮⋮ってなんで10冊以上も一気にくれるんだろう?
これだけでも持ち帰るの大変なんだけどなあ。
﹁2つ目は学園コメディ﹃おちゃらかほい!﹄﹂
⋮⋮聞いた事無いなあ。
﹁10年ほど前に﹃ちゃお﹄で連載されていた作品です。やぶうち
優先生作です﹂
ええと⋮⋮漫画家の名前を言われても分からない。というか10年
前もの作品をよく見つけてきたなあ。
﹁ギャグ中心の作品ですから、サツキちゃんにもおすすめですよ。
絶版になっちゃってますが、ネットで探してみると見つかるかもし
れません﹂
1976
ふむふむ、後2巻くらいならもらってもいいか。
﹁ありがとさん﹂
﹁3つ目は﹃花ざかりの君たちへ﹄!﹂
そんなに一気に渡さないで!
﹁以前ドラマ化されたそうですが、私の家テレビが映らないので見
られなかったんですよ﹂
﹁ほおほお﹂
﹁ドラマ化する時に内容も所々変わったみたいですし、是非読んで
みてください!﹂
﹁ありがと⋮⋮って何この量!?﹂
﹁それはだって全23巻ありますし﹂
⋮⋮いきなり全巻持ってきてくれなくてもいいのに。
﹁4つ目は﹂
﹁まだあるの!?﹂
もうすでに40冊近く持ってるんだけど⋮⋮これ持ち帰るの一苦労
だし。
1977
﹁これが最後ですから、大丈夫ですよ﹂
﹁⋮⋮それならいいんだけど﹂
あんまりよくないけど。
﹁ラストは﹃ラブ★コン﹄です﹂
﹁⋮⋮あれ? それ映画化されたやつじゃない?﹂
﹁あ、知ってたんですか。残念です⋮⋮﹂
﹁いや、映画は見に行ってないから中身は全然知らないんだけど⋮
⋮﹂
﹁それなら是非読んでください! ヤス君も読みましたらキュン死
にしちゃいますよ!﹂
﹁⋮⋮キュン死にって⋮⋮﹂
﹁ヤス君が﹃キュン死にしちゃった﹄なんて言ったら私、キモ死に
しちゃいますけど﹂
よく分からないがバカにされてる気がする⋮⋮何かアオちゃんひで
え。
﹁それでは、どうぞ﹂
﹁ありがと⋮⋮ってまた全巻?﹂
1978
﹁それはそうですよ、一気に読みたくないですか? 私頑張って持
ってきたんですよ﹂
勧めてくれるその心は嬉しいんだけど⋮⋮。
どうやってもって帰ろう。
1979
208話:少女漫画︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
自分もすっかり忘れていた81話の続きです。
少女漫画レビューになってますね。
女子が少年漫画購入するのは抵抗ない気がするのですが、男子が少
女漫画を買うのは抵抗がある気がします︵私の偏見︶。少女漫画も
面白いので、もっと気軽に買えたらなあと思う今日この頃。
それでは。
1980
209話:夕食、サツキと
今日は9月30日火曜日。
一昨日の日曜日はサツキと父さんと母さんとでポニョを見に行った。
偶然ユッチに会ったのにはびっくり。
ついついユッチとユッチの家族と、ポニョ話で盛り上がってしまっ
た。
ポニョ、かわええなあ。
⋮⋮と、そんなポニョの熱がいまだに冷めきらない俺とサツキの火
曜日の夕飯。
今日の夕飯は魚の塩焼き。ポニョを見た後に魚を食べるのは何かシ
ュール。ポニョポニョ。
﹁ヤス兄ヤス兄﹂
﹁ん? 何だ? まんまるおなかの女の子﹂
﹁⋮⋮今週の金曜日さ、私の中学授業参観なんだよ﹂
﹁ぽにょぽにょ、それで?﹂
﹁⋮⋮昨日お父さんとお母さんに聞いてみたんだけど、ちょっと無
理そうなんだよね⋮⋮きてくれるって言ったんだけど﹂
﹁うんうん﹂
まあ、父さん母さん、年がら年中忙しそうにしてるもんなあ。
1981
前大変じゃないのって聞いたら、職場が一緒だから年がら年中一緒
にいられて幸せなんだよ、とのろけられた。ごちそうさまです。
周りの社員の人たちも、バカップルが近くにいちゃ大変だろう。
﹁ヤス兄、よかったら来てくれないかな? 先生にはあの兄を読ん
でもいいですかって事もう話してて、しょうがないなあって苦笑い
されながらもOKもらってるんだ﹂
﹁こら、﹃あの﹄ってなんだよ﹃あの﹄って﹂
﹁まあまあ、それでヤス兄、来てくれない?﹂
﹁いいぞ﹂
ってか今さらやん。
前回も行ってるんだし。
﹁ヤス兄、高校はいいの?﹂
﹁何とかお願いする。サツキのお願いは断らない、おねだりは断る
けど﹂
﹁ヤス兄、お願いとおねだりの違いがよく分かんない﹂
﹁俺の感覚の違い、そんなに気にしないでいい。⋮⋮けど、1学期
の授業参観の時は呼ばなかったじゃん﹂
こっそり⋮⋮いや、堂々と見に行ったけど。
﹁今回の授業参観ってさ、発表なんだよね﹂
1982
﹁発表?﹂
﹁そうそう発表、別名プレゼンテーションだって。クラスの前で何
でもいいから発表してみようって言う先生の企画﹂
﹁なにそれ? 何でそんな事を? 俺の時はそんなんなかったぞ﹂
﹁なんて言ってたかなあ⋮⋮﹃今後、皆さんは人前で発表すると言
う機会が増えていくと思います。しかしながら、学校教育はそんな
場を中々設けてくれません﹄﹂
中々大胆なことを言う先生だ。学校に仕える身でありながら、学校
教育に駄目だしするか。
﹁﹃そこでせっかくの授業参観ですから、発表の場と言うのを設け
たいと思います﹄﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁﹃どんな事でもいいですよ。自分の趣味、好きな本、好きなアー
ティスト、最近の悩み事、将来について、部活動など⋮⋮とにかく
発表に慣れると言う事が大事なのです﹄﹂
へえ⋮⋮そうなんだ。俺が中学の頃は、そんな事考える先生、自分
の周りにいなかったのに。
﹁﹃1人で発表すると言う事がちょっと緊張するというと言う方は
ご父兄の方とご一緒にやってみてください﹄﹂
1983
﹁ああ、そういう事。つまり発表を俺に一緒にやって欲しいって事
でいいのか?﹂
﹁そう。お父さんとお母さん、私の発表を一緒に考えてもらう時間
とれそうにないでしょ?﹂
﹁だなあ⋮⋮金曜日に時間とって授業参観に来る事は出来るかもし
れんけど﹂
﹁うん、だからヤス兄に一緒にやって欲しいなって思って⋮⋮駄目
?﹂
﹁全然構わない、むしろ面白そう﹂
﹁ほんと!? ありがと!﹂
うんうん、これくらいで喜んでくれるならいくらでも請け負ってや
るぞ。
﹁ところで、制限時間は何分?﹂
﹁3分﹂
﹁ちょっと待て、サツキのクラスって全員で何人だったっけ?﹂
﹁クラス全部で33人だよ﹂
﹁⋮⋮99分かかるじゃん﹂
﹁時間無いから代表者10人。代表者選出は公平にクジ。当たらな
1984
かった人は質問しようねって事で落ち着いたんだ﹂
⋮⋮サツキ、クジに当たったのね。普段はクジとかやってもポケッ
トティッシュばっかりなのに、何でそんなんばっかり当たるんだか。
﹁それじゃ、サツキは何を発表したい?﹂
﹁うーん⋮⋮抽象的なんだけど、何をどうやってでも来た人に笑っ
て欲しいよね﹂
﹁⋮⋮﹂
サツキ、それは難易度が高い。
全く見ず知らずの人に笑っていただく事が出来ると言うのはそれだ
けで飯を食っていけるんだぞ。
﹁他にしたい事はないか?﹂
﹁うーん⋮⋮ヤス兄、自分自身がやってて面白くない事を人に見て
もらうってどうなんだろうね?﹂
﹁うーん⋮⋮多分見てる側はもっと面白くないだろうと思う﹂
﹁だよね。だから何か面白い事、一緒に考えよ? それでクラスメ
イトに笑ってもらうんだ!﹂
﹁⋮⋮大変だあ⋮⋮﹂
サツキならテニスの話でも、映画の話でも、漫画の話でもどんな話
でも話せるだろうに⋮⋮サツキが挑むと言ってるんだからしゃあな
1985
いな。
﹁まんまるおなかの元気な子、楽しんで考えようさ!﹂
﹁⋮⋮ヤス兄?﹂
﹁何? まんまるおなかの女の子、サツキよ﹂
﹁まんまるおなかっていうな!﹂
⋮⋮ごめんなさい。
ま、何か考えるかあ。
1986
209話:夕食、サツキと︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
お願いとおねだりの違い、いまいち分かりませんでした。
手元にあった簡単な辞書でおねだりについて調べてみました。
ねだり↓ねだる事。せがむ事。
ねだる↓せがむ事。
せがむ↓ねだる事。
⋮⋮この辞書使えねえ。
それでは。
1987
210話:コンドコント
10月3日金曜日。
サツキの授業参観日。
父兄の人と一緒に、なんでもいいから発表をするという授業。
授業参観のはずなのに、俺は現在サツキと2人で、サツキのクラス
の壇上にあがっている。サツキのクラスメイトとその親達の視線は
俺とサツキに向いてる。
⋮⋮これって参観じゃなくて参加だよな。
うん、これからは授業参観日と言わず、授業参加日と言おう。
それじゃ、発表しますか。
﹁どーも、近藤家の兄ヤスです!﹂
﹁妹のサツキです!﹂
﹃2人合わせて﹃コンドコント﹄です!﹄
﹁コンドウとコントをかけたんだね、ヤス兄﹂
﹁その通りだ! うまいだろう?﹂
1988
﹁んー⋮⋮70点ってとこだね﹂
﹁ん、まあまあだな。合格点って事だろ﹂
﹁1000点満点で﹂
﹁低いなおい! 低すぎだろ!? もうちょっとひねりが必要なの
か妹よ。 ⋮⋮それじゃあ﹃コンドコンビ﹄とかはどうだ?﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁突然話を変えるな妹よ﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁こら俺の話を聞いてくれよサツキ﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁言葉のキャッチボールをしようじゃないか妹よ。あれだぞ、人の
話を聞かないというのは友達から﹃KY﹄と言われるようになるん
だぞ、﹃麻生? あっそう﹄とか言ってもKYだからな﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁聞いてくれよサツキ! ⋮⋮ごほん。そうだな、大事だ。テニス
の時の試合にオカエリさんと言う子がいたな。名字が岡、名前が恵
里だった﹂
1989
﹁双子の姉がシイコだったね、名字と合わせてオカシイコ。普通な
子だったのに﹂
﹁変な名前にするとそれだけで目立っちゃうから、変な名前の子供
って出来る限り目立たないように、普通でいるようにしようとする
んだって。だからオカシイコさんはおかしくなかったんだよ﹂
﹁変な名前にしちゃ駄目だよね。オカ姉妹は結婚すれば名字が変わ
るからまだいいよね﹂
﹁逆に結婚して変な組み合わせになる事もあるよな。ユッチ家の姉
の名前を知っているか?﹂
﹁知らないよ、何なの?﹂
﹁マコト﹂
﹁いい名前じゃん。どんな名字でも変な組み合わせにならなさそう
だよ﹂
﹁ふっふ、残念﹂
﹁もったいぶるな、ヤス兄﹂
あいと
﹁すみません⋮⋮結婚した相手の名字が﹃相戸﹄なんだって。組み
合わせたら﹂
﹁﹃愛と誠﹄だね﹂
﹁﹃君のためなら死ねる!﹄﹂
1990
人間が自分を偽ってはな
﹁プロポーズのセリフはきっとそれだね﹂
﹁﹃たとえどんなに生き恥をさらそうと
らぬもの。それが⋮⋮愛!﹄﹂
﹁しつこい、ヤス兄﹂
﹁すみません、他にも﹃愛と誠﹄の名セリフを紹介したくなりまし
た﹂
﹁言い訳するな。﹃男らしい男になれい﹄、ヤス兄﹂
﹁サツキもしつこく名セリフを紹介してるじゃん!﹂
﹁人がしているからと自分もするのか? ﹃男らしい男になれい﹄、
ヤス兄﹂
﹁くう、こんこんと言いやがって。お、コンビ名思いついたぞサツ
キ、﹃コンコンコンドコンド﹄とかどうだ?﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁だから俺の話を無視するな!﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁妹よ、俺の話ってそんな無視したくなるのか?﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
1991
﹁妹よ、無視したくなってもたまにはにこやかに返事してくれよ。
へこんで立ち直れなくなるぞ﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁文句を言っても効果がない⋮⋮ごほん。ああ、大事だな。知って
るか妹よ﹂
﹁何を?﹂
﹁サツキが生まれたとき、サツキじゃなくて別の名前にしようとし
てたんだが、その名前﹂
﹁知らないよ、何?﹂
むう
﹁夢が生まれると書いて、夢生ちゃんだったんだぞ﹂
﹁いい名前じゃん。私たちに子供が出来たら付けてあげようよ﹂
﹁そうだな、つけてあげよう⋮⋮って違う。ようく考えてみろサツ
キ。俺たちの名字は何だ?﹂
﹁近藤だよ?﹂
﹁続けて読むと﹂
﹁近藤夢生ちゃん﹂
﹁近藤夢生、コンドウムウ、コンドームウ、コンドームだったんだ
1992
あ!﹂
﹁ヤス兄、死んでしまえ!﹂
﹁いたいだろ、思いっきり殴るな!﹂
﹁ヤス兄、死んで?﹂
﹁そんな笑顔で言わないでくれ。子供が出来てもそんな名前にしな
いから﹂
コンドウイサミ
﹁芸能人とかぶるのも何か恥ずかしいよね﹂
ゆう
されど空の高さを知る﹂
﹁勇という名前もやめような。近藤勇になる﹂
大海を知らず
﹁新撰組だね﹂
﹁井の中の蛙
﹁ヤス兄、﹃恥ずかしいセリフ禁止!﹄﹂
﹁そのセリフは歯の浮くようなセリフを禁止するんだ。下ネタは禁
止されていないな。近藤夢生は言い続けてもいいか?﹂
﹁妹にセクハラをして楽しい?﹂
﹁ごめんなさい、今度から気をつけます﹂
﹁よろしい﹂
1993
﹁⋮⋮お、コンビ名思いついたぞサツキ。﹃コンドコンドまた今度﹄
って言うのはどうだ?﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁またかよ!?﹂
﹁ヤス兄、名前って大事だよね﹂
﹁無限ループしたいの? コンビ名について意見聞かせてくれよ﹂
﹁ずっと言ってるじゃん、﹃名前って大事だよね﹄って。コンビ名
はもっと考えようよ。適当に決めるのはやめようね﹂
﹁そう言う意味かよ!? 最初から主語を言わんかい!﹂
﹁ずっと﹃名前﹄って主語を言ってたでしょ。キャッチボールして
ないのヤス兄だよ﹂
﹁俺の方かよ!?﹂
﹁ヤス兄、KYだね。イニシャルもKYだし﹂
﹁俺はYKだ!﹂
﹁だから﹃読め、空気﹄でしょ?﹂
﹁もうええわ、﹃ありがとうございました! 今度今度また今度!﹄
1994
211話:授業参観、桃島姫
俺とサツキのコント﹃コンドコント﹄の後、サツキのクラスメイト
達がどんな質問してきたか⋮⋮。
しんた
心太君からの質問
﹁あんたら兄妹で恋人?﹂
⋮⋮﹃私たちに子供ができたら﹄のくだりでそう思ったらしい。
まったく、最近の中学生はませてんなあ。
他にもいろいろ質問されたけど、何とかのらりくらりと乗り切り、
俺とサツキの発表は終わった。
まったく緊張する、人前で発表なんてしたくないな。
ちなみにサツキの発表は7番手。残り3人発表が残ってる。
さっきまで緊張しっぱなしだったもんだからここまでどんな発表が
あったかほとんど覚えてないんだよな⋮⋮ここからはクラスの連中
がどんな発表をするのかのんびりと見れる。ちょっと楽しみ。
ひでとし
8番手、英敏君の発表。外見、がたいがいい。
﹁ども、こんな名前にされたけどテストの順位は下から数えてのヒ
デです。小学校のあだ名は﹃名前負け﹄でした。意味がわからず笑
ってましたが、最近知ってものすごくむかつきました。この間、﹃
1995
名前負け﹄と俺の名を呼んだやつ、ちょっと殴っちゃいました。泣
かれました。泣けばすむと思ってんのかともう一回殴りました。思
いっきり泣かれました。今では俺の恋人です﹂
⋮⋮のろけ? すごい馴れ初めですな⋮⋮ちょっとムカついた、ク
ラスの男子の半分以上がちょっとムカッとした。
やまと
9番手、大和君の発表。
﹁宇宙戦艦ヤマト、合唱で歌うとすごくかっこいい。キンタの大冒
険、独唱で歌ったら女子全員に白い目で見られた。正義の味方はあ
てにならないを歌ったら、﹃そりゃあんたにはできねえよ﹄と笑わ
れた。かたくり粉を歌ったら、﹃たまにはまじめな歌を歌ってくれ﹄
と命令された。じゃあとTSUNAMIを歌ったら、﹃うまくてむ
かつく﹄と怒られた。僕はどうしたらいいんだろう﹂
カラオケは楽しければいいと思います。頑張れ大和君。
ここな
10番手、トリ、心中ちゃんの発表。
﹁ご父兄の皆様こんにちは。今日は、私の考えた昔話を発表します
! 題は﹃桃島姫﹄﹂
⋮⋮桃太郎? 浦島太郎? かぐや姫?
﹁昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました﹂
ふむふむ、すごく普通の入りじゃないか。桃太郎のプロローグと一
緒じゃないか?
1996
﹁おばあさんは川へ洗濯に、おじいさんは山へしばかれにいきまし
た﹂
こわっ! 何でおじいさんしばかれにいくの!?
﹁おじいさんがぼこぼこにされていると、一本のきらきら光る竹が
ありました﹂
うわっ、ものすごく脈絡なく竹が光りだしたな。桃太郎の場面から
一気にかぐや姫のシーンに移ったのか。
﹁﹃こ、この竹はなんだ!﹄ぼこぼこにされながらおじいさんは叫
びました。そして持っていた斧で竹をパカンと割りました﹂
斧を持ちながらぼこぼこにされんな!
﹁すると、なんと竹の中になんとも愛らしい男の子がいるではあり
ませんか。おじいさんは言いました。﹃なんともおいしそうな男の
子だ。かえってばあさんと食べよう﹄﹂
こええよ! って竹の中にいるのはかわいらしい女の子!
﹁ぼこぼこにしていた亀が言いました﹃これ、小さな男の子を食べ
ようとするのはやめなさい﹄﹂
亀はぼこぼこにされる役! いじめるのを助けるのは浦島太郎!
﹁おじいさんの魔の手から男の子を救い出した亀は、竜宮城へ男の
子を連れて行きました。男の子を食べ損ねて悔しい思いをしている
おじいさん、家に帰ってみたらおばあさんがなんとも大きな桃を持
1997
っているではありませんか﹂
⋮⋮この話はどこへ収束するのだろう。
﹁喜んだおじいさん、包丁を持ってきて桃をパカンと割りました。
すると、中から凛々しい女の子が出てきました。開口一番﹃キビ団
子よこせ﹄﹂
⋮⋮やな女の子だ。
﹁すくすくと育った女の子﹃桃島姫﹄。年頃になってきて、そろそ
ろ結婚する相手がほしくなってきました。鬼退治という建前で結婚
相手を探しに旅に出ます﹂
かぐや姫は天皇からも言い寄られていたのに⋮⋮﹃桃島姫﹄、もて
ないのか。
頑張れ桃島姫。
﹁結婚相手を探しにとうとう竜宮城まで来てしまった桃島姫、そこ
で出会ったのは、かつて亀に助けられた竹から生まれた男でした﹂
⋮⋮そか、竜宮城で物語の冒頭で出てきた男と女が再開するわけか。
﹁男は桃島姫を見て言いました。﹃ばぶー!﹄。めでたしめでたし﹂
めでたくないだろ!? それで終わっていいのか!?
⋮⋮などなど、こんな発表会でした。
1998
サツキと部活しに高校に行ったら、職員室に呼び出しをくらった。
実は先生から授業参観に行く事の了解はもらえず、高校を抜け出し
てサツキの中学校に向かったもんだから、けちょんけちょんに怒ら
れた。
そんな規律に厳しくならなくたってちょっとくらい⋮⋮ごめんなさ
い。
また反省文を書かされるはめになったのだが、そろそろ反省文に書
くネタがないなあ⋮⋮4月から合計でもう500枚以上も書いてる
し⋮⋮それだけ書けば反省することないっすよ。
1999
211話:授業参観、桃島姫︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
笑いとは、素人が狙ってできるものではない。
と思った昨日と今日でした。
プロの芸人ってすごいなあとしみじみ感じました。
それでは。
2000
212話:ケンの小説書き方講座
﹁ケン、改行ってどう思う?﹂
今日もケンが俺の家に遊びにきてる⋮⋮ほぼ毎日の事だが。
明日は新人戦県大会って言うのに、自分らが試合に出ないと思うと、
泊まりにきて夜更かしだ。
﹁なんだ薮から棒に﹂
﹁うーん、俺ってさ、紙になってる本ならまだ字が詰まってても読
めるんだよ﹂
﹁そういやヤス、この前﹃レベル7﹄を真剣な目で読んでたな﹂
﹁ああ、あれは面白かったぞ⋮⋮ってそうじゃなくて﹂
﹁ん? 結局なにが言いたいんだ?﹂
﹁や、ネット小説で字が詰まってるのは読むのがつらい、だんだん
と目がチカチカしてくる﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁で、ネット小説書く場合ってどれくらい改行を入れるのがいいん
だろ?﹂
﹁さあ?﹂
2001
⋮⋮なんだそりゃ。
﹁ヤス、ヤスの場合は改行が多い方が好きって事だよな﹂
﹁そうそう﹂
﹁でもだな。人によってはメチャクチャちっちゃい字で、とにかく
1画面にすごく情報が入ってる方が好きって人もいるんだよ﹂
⋮⋮まじか。目、痛くなんないんだろうか?
﹁ってか10代、20代の方が傾向としてパソコンのちっちゃい字
に抵抗が無いって聞くんだが⋮⋮﹂
﹁そんな奴ばっかじゃないって。目の前に俺と言う例外もいるだろ
?﹂
﹁そだな。だからネット小説を書く時は字の大きさは設定しないの
がいいって聞くぞ﹂
﹁そのままの大きさがいいって事?﹂
﹁そうそう。携帯の設定とか、インターネットエクスプローラの設
定で字を大きくしたり小さくしたりできるからさ。読んでいる人に
任せる訳だ。同様に改行も読みづらくならない範囲内なら、書く人
の好きずきでいいんじゃないかな? 他にも書く作法はいろいろあ
るらしいけど﹂
﹁どんな作法があんの?﹂
2002
﹁3点リーダやダッシュは2個並べて使う﹂
﹁ああ、よく聞く。文を書く時の基本じゃね?﹂
﹁3点リーダの使いすぎは厳禁﹂
﹁なんで?﹂
﹁テンポが悪くなるらしい。3点リーダを書いてる時は読者も1拍
おく訳だ。1文に1個3点リーダがあったら読みづらいんだって﹂
そうなのか。知らなかった。
﹁んじゃ次にいこか。エクスクラメーションマークやクエスチョン
マークの後はスペースを1個入れるらしい﹂
﹁そうなん? 読みやすくなるのか?﹂
﹁そうらしいぞ?﹂
あんまり意識した事なかったなあ。
﹁段落を変えた時はスペースを1個入れる﹂
﹁それは知ってるけど⋮⋮前そうやって書いてるネット小説、携帯
で読んだらすんごい読みにくかったんだけど﹂
﹁それはあるな。ヤスがさっき言ってた改行? あれも改行が少な
くて字が詰まってると、パソコンで読みやすくても携帯だとかなり
2003
読みづらくなってると思うぞ﹂
確かに。延々と文字だらけで、切れ目を見つけにくい。
﹁ただ、携帯で読みやすくしようと思うと、パソコンでは物足りな
く思えるかもしれないけどな﹂
﹁どういうこと?﹂
﹁例えばだ、1話が2万字の小説、携帯で読むのはしんどくないか
?﹂
﹁それはそうだな﹂
﹁けど、1000字の小説、携帯で読む分にはお手軽でいいけど、
パソコンで読むのは物足りなくないか?﹂
﹁それもそうだな﹂
﹁どっちに読みやすくするかは書いてる内容にもよるんじゃない?﹂
﹁そっか⋮⋮なるほどなあ。文法注意ってそんなもん?﹂
﹁文字の統一もそうなんじゃん?﹂
﹁えっと、どういう事?﹂
﹁例えば、﹃サツキ、好きだ、だいすきだ、すごくスキだー!﹄み
たいな文の時に、ひらがなとカタカナと漢字を混ぜると読みづらく
ね?﹂
2004
﹁何でサツキを例文に持ってくるんだよ!?﹂
﹁こう言う時はどれか1つに統一しないとな﹂
無視すんな!
⋮⋮って文字の統一、それ全部やるのすごくめんどそうだな。
でも、ラノベでも統一されてるよなあ。売られる物ってやっぱり文
章校正されてるんだな。
﹁後、どうとでもとれちゃう表現は避けるべき﹂
﹁ええと⋮⋮例えば?﹂
﹁最近やったゲームで﹃男達が漁に出ていないから大変だ﹄ってセ
リフがあったんだよ﹂
﹁そりゃ大変だろ、漁師が仕事にいかずにグータラされたら妻達は、
大変でしょうがないじゃん﹂
﹁いやいや、これはそう言う意味じゃなかったんだ﹂
⋮⋮どういうこと?
﹁﹃男達が漁に出てて、村にいないから、女手だけでいろいろ生活
していかなきゃいけないもんだから大変なんだ﹄って意味だったん
だよ﹂
⋮⋮わかんねえ。それは分からん。
2005
﹁こういう表現はやめような﹂
﹁ラジャ﹂
﹁他には﹃の﹄は使いすぎない﹂
﹁えっと⋮⋮﹃のっぽなノンノンとのんびりやなノノののんきなの
うさぎょう﹄とか?﹂
﹁いや、そう言う事じゃなくてだな﹂
なんでだよ、今﹃の﹄を9つも使ったぞ。
﹁例えばだ、﹃俺の妹のサツキの白のパンツを洗うとき、胸の奥の
どこかの部屋が突然鼓動を始める﹄とか﹂
﹁だからなんでサツキを例文に使うんだよ! しかもそれじゃ俺変
態じゃん!﹂
﹁違うのか?﹂
﹁んなわけないだろ! 大体毎日洗ってたら見慣れるわい!﹂
﹁初めて洗った時は?﹂
﹁とてもドキドキした⋮⋮って違うだろっ!﹂
﹁そうだな。話を戻すと、これは結局﹃妹のパンツでドキドキした﹄
だけでいいって事だろ﹂
2006
﹁端折りすぎだろ! 変態度があがってねえか!?﹂
﹁いいじゃん、ヤスは変態なんだから﹂
﹁それもそうか⋮⋮って違うから!﹂
全く、俺のどこが変態だ。
﹁でも、一緒に寝たりしたいだろ?﹂
﹁それはそうだ! サツキと一緒に寝たい! 一緒に風呂に入りた
い! 普通だろ!?﹂
﹁ヤス兄の変態﹂
⋮⋮えっと⋮⋮サツキ?
﹁⋮⋮サツキ、どこから聞いてた?﹂
﹁﹃サツキと﹄って聞こえたから入ってきたら﹃一緒に風呂に入り
たい!﹄って﹂
何でそんだけピンポイントなのさ!?
﹁ヤスに近づくと食われるぞ、サツキちゃん﹂
﹁そだね、離れてないとね﹂
﹁ごめん! 俺が悪かったから!﹂
2007
サツキは自分の部屋に逃げてった。
くっそ、ケンの奴、ちゃっかりサツキの部屋に入り込みやがって。
うわ、開かねえ。つっかえ棒でもつけられたか?
﹁俺も部屋に入れてよ! サツキ!﹂
﹁だーめ、煩悩を無くしてからね﹂
﹁ヤスには無理だろ﹂
﹁そだね、ヤス兄エロエロだしね﹂
サーツーキー⋮⋮仲間に入れてください。
2008
212話:ケンの小説書き方講座︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
最近、仕事が帰れなくて、書く暇がないです⋮⋮言い訳です。ごめ
んなさい。
他にも﹃ドカーン﹄みたいな擬音語は使わないとか、会話文を続け
ず地の文を上手く使うとか、いろいろ文法作法はあるみたいなので
すが⋮⋮ぶっちゃけまだまだです。
読みやすく、楽しく読んでいただけるよう今後も頑張っていきます
ので、今後ともよろしくお願いします。
2009
213話:新人戦県大会
10月4日土曜日。
今日と明日が新人戦県大会だ。
今日はユッチ、アオちゃん、ゴーヤ先輩、キビ先輩の4継から、ゴ
ーヤ先輩の400m、キビ先輩の100mハードルと続き、ラスト
はボーちゃん先輩の110mハードルがある。大山高校が出場する
のはこれら計4種目だ。
地区予選の結果から見て、今日の種目で東海大会にいけそうなのは
ゴーヤ先輩の400m。ゴーヤ先輩がぎりぎり出場できるかできな
いかってラインだ。
4継はぎりぎり県大会に出れたってタイムだから、正直東海大会出
場は厳しいんじゃないかなと思ってるけど、やってみなきゃわから
ないって言うのがリレーだよな。有力チームだったチームがバトン
ミスして涙をのむとか、オリンピックや世界陸上でも時々見かける
んだし。頑張っていい成績を残してほしい。
タイム的には厳しいけど、ハードルは他の種目よりハプニングが起
きやすいので、キビ先輩にもボーちゃん先輩にも東海大会出場の可
能性はある。
今、時刻は9時20分。そろそろユッチ、アオちゃん、ゴーヤ先輩、
キビ先輩が出場する4継が始まる時間だ。
ユッチたちは1組7レーン。4継は5組3着+1、3着以内には入
れれば準決勝進出。
2010
⋮⋮ってかどうでもいいけどねむい。⋮⋮ふわあ⋮⋮応援席に座り
ながら今にもまぶたが閉じそうな状態で、どうにか寝ないようにす
るために必死にいろいろ考えをめぐらせてみた⋮⋮しかし、全然効
果がない。ふわぁ⋮⋮。
﹁ヤス兄もケンちゃんも応援する態度じゃないよ? もっとしゃき
っとしてよ﹂
﹁そう言われても、眠いもんは眠い⋮⋮ふわあ﹂
⋮⋮今なら満員電車で立ちながらでも寝れそう。ケンなんかすでに
ふねをこぎはじめてる。
﹁馬鹿だね。今日試合だってのに、なんで昨日夜更かしなんかする
の?﹂
﹁なんか自分が出場しないと思ったらつい⋮⋮﹂
昨日、サツキが寝てからケンと2人で囲碁をはじめたら、ついつい
熱中してしまって気づいたら朝の6時になってしまってた。結局一
睡もせずサツキを起こして、県大会を開催する、ここ草薙総合運動
場陸上競技場まで電車に揺られながらやってきた。
⋮⋮俺もケンも何やってんだかなあ。
﹁ヤス兄もケンちゃんも、新人戦が終わってから気が抜けすぎだよ。
練習が作業になってない?﹂
﹁そんなこと言われても⋮⋮目標みたいなものがないし﹂
2011
﹁ヤス兄、目標とは与えられるものじゃないんだよ。自分で見つけ
るものなんだよ﹂
﹁妹よ。自分で目標が見つけられる人間はほんの一握りだ。その他
多くの一般人は、今生きているだけで、目標を見つけられないまま
日々をすごしているのだ。自分の現状を知らない人のなんと多いこ
とか。人間なんてそんなもんだ﹂
﹁⋮⋮なんでそんな達観してるの?﹂
眠いから。眠いと自分でもよくわからないことを考え始める。
﹁新人戦終わったとき、ヤス兄言ってたじゃん。﹃駅伝に向けて、
17分切りに向けて頑張る!﹄って。そのときの気持ちはどこ行っ
たの?﹂
﹁人の思いはどんどん変わってしまうものなんだ。サツキ、女心と
秋の空が移ろいやすいように、男心も移ろいやすいものなんだ⋮⋮﹂
﹁気持ち悪い﹂
⋮⋮妹よ、一刀両断ですな。そんなバッサリ言わないでくれ。
﹁どんな小さな目標でもいいから目標を見つけようよ、ヤス兄﹂
﹁んじゃ、1日1日を頑張って生きることを目標にする﹂
おお、適当に言ったつもりなのになんかいい目標に聞こえる。
2012
﹁ヤス兄、頑張るっていうのは目標じゃないよ。なにか具体的なこ
とを言わないと。そんな逃げ口上を言うのは政治家だけで十分だよ﹂
今日のサツキ、なんか厳しい、平静にしゃべってるけど、明らかに
俺とケンに対して怒ってるよな。でも眠いんだ。ふわあ⋮⋮。
﹁ユッチ先輩、また夏休みのときみたいにそのうち口きいてくれな
くなるよ。私も口きいてあげないから﹂
﹁それはやだ、口はきいてほしい、でも眠い﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁サツキ?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁えーと、サツキ?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁冗談やめてこっち向いて﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁サツキ!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ごめんなさい! 今日からちゃんとするから! 口きいてくださ
2013
い!﹂
﹁うん、約束だよ。ヤス兄⋮⋮はい﹂
﹁ん? なに?﹂
サツキが小指を差し出す。強引に俺の右手を取って、小指と小指を
からめた。
﹁指きりげんまん、ウソついたらハリセンボンのーます、指切った
! ヤス兄、またボケッとしたら承知しないからね!﹂
確かにサツキの言うとおり、最近練習をただ淡々とこなすだけの日
になってたよな。
11月には駅伝もあるんだから、そこでしっかり走るためにもちょ
っと気を引き締めなおすか⋮⋮。
﹁お、キビ先輩が出てきた﹂
時刻は9時半になった。今日最初の種目、女子4×100mリレー
予選がいよいよ始まる。
キビ先輩に続いて、アオちゃんもゴーヤ先輩もユッチも出てきた。
4人で円陣を組んで、何かを声を掛け合ってる、他の学校の人たち
も、何か声を掛け合って、自分達のポジションに散っていく。⋮⋮
はあ、仲間がいていいなあ。
俺も一人じゃなしに誰かと走りたい⋮⋮。
いかんいかん、俺のことを考えるのはあとあと。今はリレーメンバ
ーの応援だ。
頑張れ、みんな。
2014
214話:県大会、女子4継
女子4×100mリレー⋮⋮第一走者のキビ先輩がスタート位置に
着いた。
大山高校は7レーン。前方の8レーンの走者を追っていくポジショ
ンだ。
﹁位置について⋮⋮よーい﹂
パン!
各走者が一斉にスタート。キビ先輩もきれいなスタートを切る。
﹁キビ先輩ファイト!﹂
﹁キビ先輩、ガンバ!﹂
キビ先輩の走り、やっぱりめっちゃきれい。
けど、すごくいい走りをしてるのに、やっぱり県大会は地区大会と
はレベルが違う。
地区大会の時は8レーンの選手にグングンと追いついていっていた
のに、今回は中々追いつけない。
﹁キビ先輩! ラスト!﹂
第1走者のキビ先輩から、第2走者のユッチへとバトンがつながる。
すごくスムーズなバトンパス。バトンパスの時に他のレーンの選手
達より、かなりタイムを稼いだみたいに見える。
2015
⋮⋮ここ1ヶ月、すっげえ練習してたもんな。
﹁ユッチ、ファイト!﹂
﹁ユッチ、負けるな!﹂
いつものユッチのちょこまかした走り。他の人が一歩足を踏み出す
間にユッチは2歩すすんでいる。
まさに風を切るって表現が正しい感じ。 風を切ってユッチが走る。
第2走者は他の高校もエースが勢揃いしている区間のはずだけど、
ユッチは全く見劣りする事なく走っている。
さすが大山高校の小さなエース。自分で自分の事、黒の弾丸って言
うだけあるよな。
第3走者、アオちゃんにバトンが渡る。
ユッチとアオちゃんのバトンパス、地区予選ではもたついてかなり
のブレーキになってたけど、今回の県大会ではスムーズに渡った。
アオちゃんへは他のレーンの走者より、ちょっと速くバトンを渡す
事が出来た。ひいき目が入ってるかもしれないし、ほんとに一瞬の
差だったけど、多分大山高校が一番にバトンを渡したように見えた。
おし! この時点で、大山高校はトップに立ってるって事だろ。
﹁アオちゃん! 行けえ!﹂
⋮⋮やっぱりアオちゃん、陸上始めてからまだ半年だからな。キビ
先輩やユッチに比べて、走りが少し遅く見える。
実際、ユッチからアオちゃんに渡ってから、他の走者に追いつかれ、
そのままスーッと追い抜かれていっている。
2016
﹁アオちゃん! 踏ん張れ!﹂
﹁アオちゃん! 頑張れ!﹂
くそお⋮⋮アオちゃんが半年間どんだけ頑張ったって言っても、今
までの積み重ねとか、経験って言う大きな差があるよな。
コーナーを回ってゴーヤ先輩にバトンが渡った。
この時点で大山高校は6位。アオちゃんの所で5人に抜かれてしま
った。ゴーヤ先輩が頑張って3人を抜かないと準決勝にはいけない。
﹁ゴーヤ先輩、ファイトです!﹂
﹁ゴーヤ先輩、抜いてー!﹂
無茶な応援だとは思うけど、やっぱり3人追い抜いて、準決勝に残
って欲しい。
6レーンを走っている5位のランナーとは少しづつ差を縮めていっ
ている。
﹁ゴーヤ先輩、負けんな!﹂
⋮⋮⋮⋮。
2017
﹁⋮⋮負けたかあ﹂
﹁負けちゃったね﹂
ゴーヤ先輩、5位の選手に限りなく切迫はしたけれど、結局追い抜
く事は出来ず、6位のままゴールした。
タイムは速報で52秒51。地区予選の時より、0.29秒速くな
っている。
それでも準決勝にすすむ事すら出来ないなんて、県大会のレベルの
高さを思い知らされるな。
﹁⋮⋮言っちゃいけない事なんだけど、大山高校のリレー、東海大
会出場できるかどうかってアオちゃんのレベルアップにかかってる
よな﹂
前にポンポコさんに女子1人1人の100mのベストタイムを聞い
たとき、ユッチが一番速くて12秒台の記録を出した事があるって
聞いた。
ゴーヤ先輩とキビ先輩も13秒台の記録を持っているって聞いた。
それに対して、アオちゃんは未だゴーヤ先輩やキビ先輩のタイムよ
り、1秒以上も遅いタイムの記録しか持ってない⋮⋮。
﹁それはそうだよね。でもそんな事アオちゃん先輩に聞こえるよう
に言っちゃ駄目だよ、ヤス兄﹂
それくらい分かってるよ。そんな事言われたらきっと責任感じるだ
ろうし。
アオちゃんも自分自身のレベルアップにかかってるって事は自覚し
てるだろうし、そんな事言われなくてもきっと頑張るだろう。
2018
﹁けど、来年は私も入るし、他の1年生も入るよ。もしかするとア
オちゃん先輩がリレーメンバーから外されるって事もあるかもしれ
ないけどね﹂
﹁⋮⋮シビアな意見っすね、サツキ﹂
聞きようによっては、アオちゃんを落として私が入ってやるから、
アオちゃんいらないよって聞こえる。
﹁そっかな? 私もリレーメンバーにはいって一緒に走りたいって
言ってるだけなんだけど﹂
⋮⋮言い方によって、こっちの聞こえ方が全然違うもんだな。
サツキも来年あそこで一緒に走っていられるよう、頑張ってな。
﹁ヤス兄も、ユッチ先輩やアオちゃんに負けないよう、頑張ってね﹂
﹁あいあい﹂
今日はなんだか、サツキが何故か俺を頑張らせようとせっつく⋮⋮。
サツキと指切りげんまんもしたし、俺も今日からまた気持ち切り替
えて頑張ります。
2019
214話:県大会、女子4継︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
⋮⋮また遅くなりました。すみません。
日曜日に書き溜めしておかないと、今週みたいにぼろぼろです。
明日は1日書く事に費やそうかな。
それでは。
2020
215話:﹃頑張れ﹄って言わないで
今日は10月7日火曜日。新人戦県大会から2日たった。
新人戦県大会はあれから、個人個人が善戦をしたけれど、残念なが
ら大山高校から東海大会に出場できた人はいなかった。個人で出場
していた、ゴーヤ先輩、キビ先輩、ボーちゃん先輩はいずれも準決
勝までは勝ち進んだけれども、決勝進出はならず、準決勝で涙を飲
む結果となった。特にゴーヤ先輩はあと一人、あとたった0.1秒
速ければ決勝進出できたというぎりぎりのラインまでいっていただ
けに、悔しさもひとしおだろう⋮⋮。
﹁120分!﹂
ふう、今日の本練習、終了。後は筋トレとダウン。
県大会のときから、気持ちを入れ替えて、一つ一つの練習をただこ
なすのではなく、意味を考えて練習するように切り替えた。その分、
充実はしてるけど、意識を切り替えただけで、いつもより練習がき
っついきっつい。
お、新人戦も終わって、春まで大会がないけど今日も短距離、まだ
2021
練習やってんなあ⋮⋮頑張ってるな。
﹁アオちゃん! ユッチ! 頑張れー!﹂
﹁うん! ありがとお! ヤスも頑張れえ!﹂
うん、ユッチ元気やな。
⋮⋮俺もあと少し、頑張りますかあ。
練習も終わり、ケンとサツキと帰ってるところ。今日はユッチとア
オちゃんも一緒。
ガタゴトと電車に揺られながら、サツキの中学校の話で盛り上がっ
てた。
﹁⋮⋮あの、ヤス君。お願いがあるんですけど﹂
﹁ん? 何?﹂
出来ることならやってやんぞ。
﹁申し訳ないんですが⋮⋮﹃頑張れ﹄って言わないでくれませんか
? これから私も言わないようにしますので⋮⋮﹂
﹁⋮⋮えと、何で?﹂
2022
﹁そうだよお、何でそんな事言うのさあ?﹂
応援すんなって言われるとちょっとへこむんだけど。
俺の応援、そんなに嫌か?
﹁⋮⋮私、頑張ってないですか? これでも頑張ってるつもりなん
ですよ﹂
﹁⋮⋮えと、アオちゃんは十分頑張ってるよ、うん﹂
﹁うん、ボクもアオちゃん頑張ってると思うよお﹂
﹁じゃあ、これ以上、私に何を頑張れって言うんですか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮えと﹂
そんな追いつめるつもりで言ってた訳じゃ全然ないんだけど⋮⋮、
でも、アオちゃんの目が本気ですって訴えてる。
﹁ごめんなさい。いやな奴って思ってくれて構いませんので。よろ
しくお願いします﹂
﹁⋮⋮﹂
何となく気まずい空気が流れた⋮⋮。
そのあと、何もしゃべらないまま、ユッチとアオちゃんとは電車を
降りて分かれた。
2023
帰り道、サツキともケンとも何もしゃべらないままノロノロと歩い
て、ようやく家についた。
簡単に夕飯を作って、サツキとケンと3人で居間で食べてる時によ
うやく、おずおずと聞けた。
﹁⋮⋮なあケン、﹃頑張れ﹄って言っちゃいけないのかなあ﹂
﹁さあ、人それぞれだと思うが⋮⋮最近アオちゃん、練習について
いけてない自分にいらだってるから。新人戦が終わってから﹃私が
足引っ張ってるんです﹄って時々つぶやいてる﹂
ケンも何かしゃべりたかったのか、すぐに返事してくれた。
そうなのか⋮⋮思い詰めてるな、アオちゃん。
でもな⋮⋮。
﹁確かに俺もさ、﹃頑張れ﹄って言われると﹃もう頑張ってるよ!﹄
って叫びたくなる時もある。﹃もっと頑張れよ!﹄って言われた瞬
間は﹃うっさい、死ね!﹄って、そいつをぶっ殺すって思った時も
ある。けどさ⋮⋮じゃあなんて声かけりゃいいんだろう? ﹃そん
な頑張ろうとしなくていいよ﹄とか?﹂
﹁ええ? 私、頑張ろうとしてる時に﹃頑張んなくていいよ﹄って
言われるのは嫌だよ。何か水をさされた気分﹂
まあなあ⋮⋮俺も嫌。
﹃頑張んなくていいよ﹄って言われると﹃俺、期待されてないんか
なあ﹄って思ってしまったり。被害妄想が激しいとは思うんだけど。
2024
﹁頑張った後の人には、﹃頑張ったね、お疲れ!﹄でいい気がする
んだけどさ。まだアオちゃん、頑張ってる途中だもんな﹂
﹁それじゃ﹃頑張ってるよね﹄とかどう? ヤス兄﹂
﹁何か上から目線が気がするのは気のせいか? 俺、同年代からそ
んな風に言われたら、﹃お前は何様だ!﹄って叫ぶぞ﹂
﹁俺、﹃何様だ﹄って怒られたら、﹃俺様だ!﹄って言い返すぞ﹂
それ言ったら、相手は逆上する気がする。
﹁私は﹃お子様だよ!﹄って開き直る﹂
おお、それ言われたら相手はお子様ならしょうがないって⋮⋮思わ
ないか、思わないな。
﹁ヤス兄は?﹂
﹁えっと、えっと⋮⋮﹃こんなの、お互い様だ!﹄って言ってやる
!﹂
﹁結構まともな返答だね、ケンちゃん﹂
﹁神様だ! とかボケると思ってたのにな、サツキちゃん﹂
神様、仏様、稲尾様⋮⋮その辺りは恐れ多くてそんな事言えません。
﹁ヤス兄、他には?﹂
2025
ええ? まだ考えんの?
﹁﹃そんな怒っちゃってえ、ご苦労様﹄とにやりと笑いながら﹂
﹁殴られるね﹂
﹁結婚してたら、﹃私、奥様よ。おほほ﹄って笑う﹂
﹁おほほなんて笑う奥様いねえよ﹂
﹁ギャンブルしてたら﹃へっへっへ、いかさまさ﹄って言う﹂
﹁捕まるぞ﹂
﹁俺が女子だったら﹃私、お嬢様ですわよ、おーっほっほっほ!﹄
って高笑いするんだが﹂
﹁なんか﹃お嬢様﹄と言うより﹃女王様﹄だな﹂
﹁サツキには﹃お兄様とお呼び!﹄って言うんだけどなあ﹂
﹁分かった、これから﹃貴様﹄って呼ぶ事にするね﹂
﹁ごめんなさい! これからもヤス兄って呼んでください!﹂
﹁ヤス⋮⋮サツキちゃんに頭が上がんねえなあ⋮⋮御愁傷様﹂
⋮⋮もういいよ、この話。
2026
﹁ケン、結局何の話だったっけ?﹂
﹁頑張れって言わないでって話。なんだかんだ言っても頑張れって
無責任な言葉だからな。どこかで愚痴をはければすっきりするんだ
ろうけど﹂
﹁聞くぐらいだったら俺、いくらでもするんだけど。ケンもするだ
ろ?﹂
﹁したいけどな。アオちゃんが俺らに話してくれるかはまた別﹂
﹁まあ、アオちゃんって自分からは中々弱音を吐かなそうかも﹂
﹁今は何もしないってのが一番なのかもな﹂
そうなのかなあ⋮⋮頑張ってる人を無視するのって嫌だけど⋮⋮そ
れがいいのかな。
しょうがない、明日からそうするか。
2027
215話:﹃頑張れ﹄って言わないで︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
﹃頑張れ﹄という言葉、皆様はどう感じますか?
私もわかりません。
日曜日、書き溜めようかなあと後書きで書いてましたが、フリーゲ
ームにはまって1日中フリーゲームしてました。﹃偽りの神話﹄っ
てゲームなんですけど、やってみたらめっちゃ面白かったです。
おかげで全然かけてないです︵TT
頑張って更新していきますが、更新できてない日がありましたら、
﹃あのやろう、遊んでやがんな﹄と馬鹿にしててください。
それでは。
2028
216話:ブルーなアオちゃん
今日は10月11日土曜日。いつものように競技場へ行って練習を
する。
アオちゃん、部活中だけじゃなくって、クラスにいるときでもちょ
っとブルー。前はクラスの中心になってクラスメイト達とおしゃべ
りしてたんだけど、最近は自分の席についたまま、机に突っ伏して
る。クラスの中ですらそんな感じ、部活中ではなおさらブルー。ゴ
ーヤ先輩ともキビ先輩ともサツキとも、ユッチすらともほとんど話
してない⋮⋮。
今週の月曜火曜辺りはまだ明るかったんだけど⋮⋮必死で練習して
いる気はするのだけれど、思い詰めすぎな気がする。
ううむ⋮⋮何か声をかけたいんだけど⋮⋮﹃頑張れ﹄って声をかけ
ないようにって思ったら、なんて声をかけたらいいか突然分からな
くなった。普段全然しょうもない話もたくさんしてるはずなのに、
﹁この話はしないで﹂って言われた途端、何も話せなくなってしま
った。
どんな話をしても、どっかで﹃頑張れ﹄って言いそうな気がしてし
まう。
最近はもう朝の挨拶くらいしか話が出来なくなった。帰り道、アオ
ちゃん、ユッチ、ケン、俺ら兄妹の5人で帰ってる時もしばしば無
言の時が流れてしまい、何とも⋮⋮。
﹁サツキ⋮⋮本当に困った﹂
﹁私に困ったって言われても困るよ。だって私も困ってるんだもん。
私もアオちゃん先輩に﹃頑張れ﹄って言いたいもん。ユッチ先輩も
2029
アオちゃん先輩にもっと頑張れって言いたいと思ってるよ﹂
うん、俺も頑張れって言いたい。頑張れって言葉は実は頑張ってい
る人にかけたい言葉だよな。
頑張ってない人には頑張れなんて声をかける気にもならない。
﹁どうにかして、アオちゃんに頑張れって言葉をかけてあげられな
いかなあ⋮⋮﹂
﹁ヤス兄、この前、ケンちゃんとしばらくは静観しようって決めた
でしょ。そっとしといて欲しいって時もきっとあるんだよ﹂
⋮⋮毎度毎度妹に諭されている俺、何か情けない。
陸上競技場についた。⋮⋮あ、アオちゃんだ。アオちゃん今日は早
いな⋮⋮。
﹁アオちゃん、おはよっす﹂
﹁⋮⋮あ、ヤス君、おはようございます﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
2030
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮や、やばい。まったく会話がはじまらん。アオちゃんも挨拶す
るときだけこちらを向いてくれたけど、すぐに目をそらしてうつむ
いてしまった。地面と延々とにらめっこ。
そんな思いつめたような顔しないでくれよ。
﹁い、いやあアオちゃん、今日はいい天気やね﹂
﹁⋮⋮今にも雨が降ってきそうな曇天ですが。まるで私の心みたい
です﹂
⋮⋮え、えと⋮⋮。
﹁き、昨日の野球面白かったよな﹂
﹁うちの家、テレビありませんが﹂
⋮⋮そうだった。まずい会話を振ってしまった。
﹁き、今日はまだみんな来ないなあ⋮⋮ユッチとかポンポコさん、
来るの遅いな﹂
2031
﹁いつもこんなもんですよ﹂
﹁そ、そうだったっけ?﹂
﹁ええ﹂
﹁そうだよな、まだ8時半だもんな。練習は9時からなんだから、
こなくても普通だよな﹂
﹁⋮⋮﹂
会話が終わってしまった。他には⋮⋮何かネタネタ。
﹁ってか、今日アオちゃん早いね﹂
﹁私が早く来るの変ですか?﹂
﹁いや、別に変じゃないけどさ⋮⋮珍しいなあって思って﹂
﹁私が早く着ちゃいけないって言うんですか?﹂
﹁や、そんなことは全然ないんだけどさ﹂
﹁ならいいじゃないですか﹂
﹁や、そりゃいいよ。別に悪いなんて全然思ってないよ﹂
﹁⋮⋮﹂
あう、話がさっきから全然続かない。
2032
﹁さ、最近どう?﹂
﹁何のことですか?﹂
えっと⋮⋮どうって聞いたけど、俺はいったい何がききたいんだろ
う。
﹁体調とか﹂
﹁普通ですよ﹂
﹁悩みとか﹂
﹁普通ですよ﹂
﹁成績とか﹂
﹁普通ですよ﹂
﹁そ、そうなんだあ⋮⋮﹂
﹁ええ﹂
⋮⋮⋮⋮サツキ、助けて。このブルーなアオちゃんに何か会話を振
ってやってください。
サツキのほうを振り返ってみたけど、サツキのやつ、﹃私は無理!﹄
って感じで遠くに逃げている。⋮⋮こんな状態のアオちゃんとずっ
と俺が会話するの?
俺も逃げさせてください。
2033
﹁き、昨日さ。サツキとスパイダーマン2のDVDを借りて見てた。
スパイダーマン、かっこいいよな。誰に感謝されるでもなく、誰に
その功績をたたえられるでもなく静かに人を助け、去っていく⋮⋮
すげえよな﹂
﹁見てないです。わからないです﹂
﹁あ⋮⋮そ、そうなんだあ﹂
﹁⋮⋮﹂
あ、あれ? もっと話が盛り上がるつもりだったのに⋮⋮。
﹁﹃やなせたかし﹄さん作詞の﹃アンパンマンのマーチ﹄ってさ。
﹃愛と勇気だけが友達﹄ってどれだけ友達いないんだよって思わな
い?﹂
﹁別にどうでもいいです﹂
﹁あ、そう⋮⋮でも、実は﹃やなせたかし﹄さん作詞、歌﹃アンパ
ンマン﹄の﹃勇気のルンダ﹄では﹃勇気ひとつが友達なんだ﹄⋮⋮
うわあい、友達減ったあ!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁んでんで、映画﹃それいけ!アンパンマン 手のひらを太陽に﹄
では﹃やなせたかし﹄さん作詞の﹃手のひらを太陽に﹄が主題歌な
んだけど、﹃みみずだって おけらだって あめんぼだって みん
なみんな生きているんだ 友だちなんだ! とんぼだって かえる
2034
だって みつばちだって みんなみんな生きているんだ 友だちな
んだ! すずめだって いなごだって かげろうだって みんなみ
んな生きているんだ 友だちなんだ!﹄なんだよ。みみずもいなご
もって⋮⋮どれだけ友達やねん! って感じだよな﹂
﹁そうですね﹂
⋮⋮どうでもよさげに返事された⋮⋮。サツキにもう一度助けを求
めたけど、ごめんと手を合わせてる。
⋮⋮俺ももう、無理っす⋮⋮今日はそっとしておこう。
2035
216話:ブルーなアオちゃん︵後書き︶
最近更新頻度が低くてごめんなさい。
2036
217話:人付き合いが上手になる10のこと
元気付けようと思ったはずなのに、逆に落ち込まされてしまった⋮
⋮。
サツキに元気付けてもらおう。
﹁サツキ、俺を慰めて﹂
﹁ヤス兄、どんまい。玉砕するってわかってても果敢に飛び込むそ
の勇姿を私は忘れないよ﹂
⋮⋮慰め?
﹁﹃思いつめている人を元気付ける10のこと﹄とか、出版してく
れないかなあ。そんなんがあったら絶対買って読むのに﹂
例えばこんなキャッチフレーズ、﹃現金出して元気になる本! 人
に教えちゃ厳禁だよ!﹄
⋮⋮買う人いるかな?
﹁駄目だよ、そういう本って大抵参考にならないこと多いもん。前
に﹃人付き合いがうまくなる10のこと﹄みたいな本を買って読ん
でたけど、何も参考にならないって怒ってなかった?﹂
﹁ああ、そうそう。10項目あって全部試してみたんだけど、何も
うまくいかなかった﹂
まったく、﹃これを読んだらあなたも人付き合いの達人!﹄ とか
2037
偉そうなこと書くなやって思うわ。引っかかる俺も俺だけど。
﹁どんなのがあったの?﹂
﹁1つ目、﹃どんなときでも、ムカついてるときでも笑顔でいよう﹄
。頑張って笑ってみた。保育園児が突然泣き出して逃げていった﹂
俺の笑い顔、そんなに怖かったんだろうか⋮⋮俺には絶対に愛想笑
いは無理だ。笑うなら心の底から笑いたい。
﹁2つ目、﹃相手に感謝するときは、言葉だけでなく、体で伝えま
しょう﹄って書いてあったから、体で表現してみた。逃げられた﹂
﹁何したの?﹂
﹁﹃ありがとう!﹄を尻文字で表現してみた﹂
﹁⋮⋮馬鹿?﹂
⋮⋮ひでえ。いや、俺も途中で何かおかしいなあとは思ったけど。
﹁3つ目は⋮⋮﹃あいづちをうつと話は盛り上がる﹄ってあった。
とりあえずなんも考えず﹃そやねー﹄ってあいづちをうってみた。
泣かれた﹂
﹁何で?﹂
﹁﹃自分って生きてちゃ駄目な人なんだ⋮⋮﹄って愚痴られてた時
に﹃そやねー﹄って返事してしまった﹂
2038
﹁それはヤス兄が悪い﹂
本当にごめんなさい。偶然商店街で買い物してたらすれ違って、泣
かれてしまったあのときからずっと会っていないけど、今どうして
いるんだろう。元気でいてくれたらいいなあ。
﹁えっと⋮⋮4項目では﹃人は気をつかわれていると思うと、恐縮
してしまう。思ったことはどんどん言って、素のままの自分を出し
たほうが、人間関係はうまくいく﹄って書いてあった。しばらく口
を聞いてもらえなくなった﹂
﹁なんて言ったの?﹂
﹁﹃手伝ってくれてありがとう。まさかお前が手伝ってくれるなん
て思っても見なかった﹄﹂
﹁ヤス兄、ものすごいけなしてるね﹂
うん、だって今までお願いしても何もしてくれなかった人がいきな
り何かしたら、そう思っちゃうって。
⋮⋮思ったことをすべて言ったら、人間関係は崩壊すると思った⋮
⋮建前って大事だよな。
﹁5つ目は﹃血液型でも何でも、どんなことでもいいから共通点を
見つけると、仲良くなれるよ﹄って書いてあった。中2のクラス替
えで初めて話す人と、いろいろ共通点を探してみた。次の日から話
をしないまま卒業した﹂
﹁なんで?﹂
2039
﹁たまたま誕生日が一緒だったんだけど、﹃So
会話が終了した﹂
what?﹄で
﹃誕生日が一緒なんだよ﹄﹃おお、すごい偶然じゃん!﹄⋮⋮﹃だ
からなんなんだろう?﹄とつい言ってしまった。きっとそう思って
しまう俺の心がよくないのだろう。
﹁6つ目は⋮⋮確か﹃人の目を見て話をしよう﹄と言うのだった。
目を見ながら話をしていたら、﹃何ガンつけてんだよ﹄とからまれ
そうになった。逃げた﹂
﹁ヤス兄、﹃見る﹄と﹃にらむ﹄は全く別のものだよ?﹂
別だと言われても、どう違うのか俺にはわからないんすよ。
﹁7項目、﹃人の話の腰は折るな、最後まで聞こう﹄って書いてあ
った。頑張って聞いていたら1時間にも及ぶ壮大な話を聞かされた。
オチがなかった。﹃オチなしかよ!﹄って突っ込んでしまったら、
それ以来何も話をしてくれなくなった﹂
﹁ヤス兄、さっきから本のせいじゃなくて、ヤス兄が悪い気がして
しょうがないよ?﹂
⋮⋮そっか? 俺は本のとおりに実践してみただけなんだが。
﹁8個目は﹃一緒に喜ぼう﹄とあった。クラスメイトが歓声を上げ
てたから、混じって一緒に歓声を上げてみた。﹃何こいつ﹄みたい
な白い目で見られた。9つめ、﹃定番の会話と言うものがあるので
覚えておくと会話が続きます﹄って書いてあった。﹃天気﹄﹃休日
の過ごし方﹄﹃芸能人﹄などなど﹂
2040
﹁天気の話題ってさっきアオちゃん先輩にふって一瞬で会話が終了
してなかった?﹂
﹁そうなんだよ。天気の話題なんて﹃今日はいい天気ですね﹄﹃そ
うですね﹄で会話終わるやんね﹂
その後どうやって続けていけばいいのかがわからない。それを教え
てほしいのに、そこまでは書いてなかったので、この本使えねえな
あと思ってしまった。
﹁ラストは﹃人はもともと教えたがり。知らないふりをしておくと、
話が弾む﹄って書いてあった。だから﹃ごめん、知らないやあ。教
えてくれない?﹄って答えたら﹃ググレカス﹄って言われた。会話
が終了した﹂
ググレカス⋮⋮ググレカス⋮⋮誰だよググレカスなんて言い始めた
やつは。
﹁⋮⋮ヤス兄、ご愁傷様。それにしても不器用だね﹂
やっぱり俺、不器用なのかなあ⋮⋮。
﹁ものすごく悔しかったので、家に帰った後、その本は物置の奥深
くに沈めた。二度と太陽を見ることはないだろう﹂
大体本を読んだだけで全ての人が人付き合いが上手になるんだった
ら、世界中で誰も人付き合いが下手で悩む人なんて生まれねえよ。
﹁うん、それがいいよ。人付き合いの方法なんて1人1人違うもん
2041
だよね。ヤス兄のそのぶきっちょな人付き合いの仕方、私好きだよ﹂
﹁ありがと、サツキ﹂
サツキにそう言ってもらえるだけで、悩みなんて吹っ飛びます。
﹁面白いもん﹂
⋮⋮喜ばせといて、へこます。なんだか目から雨が降ってきた⋮⋮。
2042
217話:人付き合いが上手になる10のこと︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
本の言葉なんてあてにならねえよと思いつつ、﹁○○が驚くほどで
きるようになる本﹂みたいな本をつい買ってしまいます。
そして買った後後悔します⋮⋮。
それでは。
2043
218話:上には上が、下には下が
ども、アオちゃんとサツキに落ち込まされて限りなくブルーな気持
ちです。
お、ようやくウララ先生や他の女子部員もやってきた。
﹁おはようポンポコさん⋮⋮ふぅ﹂
﹁おはようヤス。朝一番に私の顔を見ていきなりため息をつくとは、
なかなかいらだつ行為をしてくれるではないか。私に会う事がそん
なに憂鬱か? なんだか顔が暗いぞ﹂
﹁ああ、ごめんごめん。気にしないでくれ⋮⋮ふぅ﹂
﹁だからため息をつくなというに、ため息は幸せを奪うというのだ
ぞ﹂
﹁奪うんじゃなくって、逃げるじゃなかったっけ? まあどうでも
いっかあ⋮⋮ふぅ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
ビコンッ!
いったあ⋮⋮。
﹁あの、ポンポコさん。ものすごく痛いので予備動作無しのデコピ
ンは勘弁していただけないでしょうか﹂
2044
﹁ヤスが悪い。人の顔を見てため息をつくな﹂
﹁ポンポコさんのせいじゃないから、気にしないでいて欲しいっす﹂
むしろ、気を許した相手じゃないとため息は出ないんだぞ。だから
目の前でため息してもらったら光栄に思うんだ! ⋮⋮無理か。
⋮⋮ま、いいや今日の練習やろやろ。
﹁ポンポコさん、今日のメニューはなんぞや﹂
﹁そうだな、今日は⋮⋮﹂
﹁ヤスとポンポコ、ちょっといいかな﹂
⋮⋮ん?
﹁なんですか? ウララ先生﹂ ﹁今日、ヤスさ、女子陸上部と400m勝負しない?﹂
﹁⋮⋮なんでですか?﹂
突然それをやる意味が分からん。
﹁レペだと思ってさ。今までヤス、スピード練習やった事無かった
でしょ? たまには気分を変えてこんな練習してもいいんじゃない
?﹂
﹁⋮⋮レペって何?﹂
2045
全く聞いた事がない。
﹁ポンポコ、解説﹂
ウララ先生、ひでえ。ポンポコさんを歩く辞書みたいに使ってるっ
すよ。
﹁レペとは、レペテーションの略だ。1000mや2000mとい
った距離を2∼3本程度走る、そして間に10分から20分程度休
憩を取る。走る時の気持ちとしては、全力走に近い。ただし、2本
目や3本目も1本目と同様のタイムで走らなければならない⋮⋮大
体こんな所だな。ただし長距離が400mのレペテーションなんぞ
やらないぞ﹂
⋮⋮駄目やん。
﹁まあまあ、たまにはいいでしょ? いつも1人で練習してるヤス
君に、一緒に練習する楽しさを時々でいいから味わってもらいたい
って言う先生の気持ちがわからない?﹂
﹁わかりません﹂
そんな嬉しそうに何かを企んでいる顔で言われたって、警戒だけす
るっす。
﹁⋮⋮ヤス、坊主になって丸くなったと思ったのに、丸くなったの
は頭だけなのね。性格は全然丸くなってない。もうちょっと素直に
人の言う事聞けるようにならないと人生渡っていけないわよ﹂
2046
性格は髪切ったぐらいじゃ変わらないですよ。素直になんてなれな
くたっていいし。
﹁ま、いいから戦いなさい﹂
﹁何ですかそれ!? ポンポコさんもなんか言ってやってよ!﹂
﹁ヤス、長距離の練習で400m1本だけという練習は確かに効果
が高いとは思えないが、たまには遊び気分で参加するのもありだと
思うぞ。実際毎週土曜日はいつもペース走をやっていたが、そろそ
ろ最近の練習は飽きたのではないか?﹂
﹁飽きた﹂
毎週土曜日と言うか、平日もほとんど似たような練習。めっさ飽き
た。
﹁変化が必要なのだから、今日はそんな練習をしてもいいんじゃな
いか?﹂
なるほど⋮⋮そんな考えもありか。
﹁今日は最後の晩餐と思って楽しめ。別に今後も楽しくやるつもり
だが﹂
⋮⋮最後の晩餐ってそう言う意味で使うのか?
2047
結局、女子との400mの勝負をする事になってしまった⋮⋮まあ、
決まったからには一生懸命やるだけだ。
40分程度アップをして、400mのスタートラインにつく。
﹁今回はセパレートコースでいきましょう。スタートブロックを出
すのが面倒なので、スタンディングスタートでやります﹂
⋮⋮えっと、セパレートコースは⋮⋮走るコースが決まってて、選
手同士がぶつかり合ったりしないこと。スタンディングスタートっ
て言うのは立ったままスタートする事だよな。
﹁3レーン、キビ! 4レーン、アオちゃん! 5レーン、ゴーヤ
! 6レーン、ヤス! 7レーン、サツキ! 8レーン、ユッチ!
厳正なるクジの結果、このようになりました﹂
﹁はあ⋮⋮ボク大外かあ﹂
⋮⋮大外って嫌なのか? 走った事無いからよく分かんねえな。
﹁それでは準備はいい?﹂
﹁オッケーっす!﹂
高校入学時より、かなり体力ついてんだ。負けねえぞ。
2048
﹁位置について⋮⋮ヨーイ、ドン!﹂
ドンの合図とともにポンポコさんがストップウォッチのスイッチを
押して、6人一斉にスタート。
﹁キビ、アオちゃん、ゴーヤ、ヤス、サツキ、ユッチ全員が一斉に
スタートしました!﹂
⋮⋮ウララ先生、実況するのやめてください。
まずは目の前を走ってるサツキに追いつかないと。
って速いな!? 全然追いつけねえ!?
たかだか400mだ、最初から全力で行く。腕を大きく振って足も
大きく伸ばしてストライドを広くとって走ってるのに。ユッチのち
ょこまかした走りにも、サツキのはねるような走りにもどっちにも
追いつけない。
100m通過⋮⋮スタートから100mまではカーブコースだから、
内側を走ってる俺の方が速いはずなのに全然追いつけなかった⋮⋮
サツキってこんなに速かったっけ!?
⋮⋮まずいって、このまま負けちゃったら兄としての尊厳と言うか
風格と言うかがボロボロに崩れちまう。
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ⋮⋮。
⋮⋮後ろからタッタッという軽やかな足音とともに、不気味な息づ
かいが聞こえる⋮⋮まだ200mもいってないんすけど。
チラッと横を見たら、もうゴーヤ先輩が横を走ってる。ゴーヤ先輩
に簡単に抜かれるわけにはいかないと思ってペースをあげようと試
みたけど、簡単に離されてく⋮⋮まじかよ。
2049
⋮⋮200m通過。未だに1レーン外を走っているサツキに追いつ
けん。ユッチには逆にさっきの200mで離されてしまった。ゴー
ヤ先輩はもう遥か彼方。
ラスト100mのストレートに入る前にサツキに追いつかねば!
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ⋮⋮。
ドタドタと足音をたてながら、必死で後ろに腕を振って走る。って
か5000mの走りとは全然違うきつさがある⋮⋮。
肺が苦しい。息が吸いたい。息を吸わせろ⋮⋮。
⋮⋮そんな事を思いながら走ってたら、内側からキビ先輩がささっ
と抜いていきやがった⋮⋮チクショ、なんだよこいつら。
﹁みんな、ラストファイト! ラストスパート!﹂
ラスト100m。かなり前にゴーヤ先輩、結構前方にキビ先輩、ち
ょっと前にユッチ。
隣をみるとサツキ⋮⋮ここでサツキに負けるわけにはいかねえだろ。
たった300mで息も絶え絶えになってる⋮⋮っていうか肺が痛い。
肺が⋮⋮。
残り50mを切った。まだサツキとの並走は続いている⋮⋮気持ち
で負けた方が負けだろ。
2050
⋮⋮残り40⋮⋮あれ?
内側、4コースを走っていたアオちゃんが突然視界に入ってきた。
ずっと後ろを走ってると思ってたから、まさか隣を走られるとは思
ってもみなかった。
⋮⋮まずい、なんかアオちゃんの方がペースが速い。
⋮⋮30、20って抜かれた!? 待てまてまてマテ!? アオち
ゃんに負ける訳にもいかんだろ!?
必死で追いすがる! 負けない負けない! 負けたくない! ﹁結果発表∼。ドンドンパフパフー﹂
⋮⋮明るいっすねウララ先生。なんだかこちとらものすごい吐き気
がするって言うのに。
長距離の練習もきついんだけど⋮⋮短距離走は吐く。まじで吐く。
むしろ吐かせてください。
2051
﹁1位、ゴーヤ! タイム、60秒42! スタンディングスター
トで争う相手がいない中、このタイムは立派だよ﹂
﹁ありがとうございます﹂
﹁2位、キビ! タイム、62秒55⋮⋮不思議なんだけど、何で
ハードルがあってもそんなにタイムが落ちないの?﹂
﹁練習の賜物です!﹂
﹁3位、ユッチ! タイム、63秒72。400mはやっぱりちょ
っと苦手かな?﹂
﹁大外嫌いなんだよお。クジ、大外れだあ⋮⋮﹂
﹁4位、アオちゃん! タイム、66秒29! 新人戦地区予選の
時から、1秒以上もタイムが縮んでるよ﹂
﹁⋮⋮でも、まだまだです⋮⋮﹂
﹁5位、サツキちゃん。 タイム、66秒42。今からこのタイム
なんて、期待の新人だね﹂
﹁ありがとうございます!﹂
﹁6位⋮⋮プッ﹂
﹁そこ、笑うなあ!﹂
2052
﹁ごめんごめん、66秒66。ぞろ目賞を進呈しましょうか!﹂
⋮⋮嬉しくねえ。
﹁さてさてアオちゃん、本当にまだまだかなあ﹂
﹁⋮⋮まだまだ全然です。私の今のタイムじゃチームの足引っ張っ
ちゃいます﹂
﹁アオちゃん、4月の入学時、陸上初心者だったでしょ? そもそ
も運動自体ほとんどしてこなかったでしょ?﹂
﹁そうですけど⋮⋮﹂
﹁なんと、中学から野球で運動してきたヤス君に勝てちゃった!﹂
⋮⋮もしかして、この結果、ウララ先生は予想してたのか?
﹁ヤス君に勝ててもしょうがないです﹂
⋮⋮アオちゃんもひでえ。
﹁アオちゃん、上ばっかりみてると、疲れちゃうよ? 時々は振り
返ってみて、自分がどれだけ成長したのか、考えてみてもいいんじ
ゃない? ほら、4月の時にはどんなに頑張っても勝てそうになか
ったヤス君に勝っちゃったでしょ? 下には下ができてくるよ?﹂
⋮⋮俺をダシに使わないで。
﹁⋮⋮振り返る余裕があればそうします。頑張っているつもりなん
2053
ですけど⋮⋮結果が伴ってこなければ意味が無いです⋮⋮頑張るっ
て何なんでしょう。もっと頑張れって事なんでしょうか?﹂
﹁結果は伴ってるよ? そんなに張りつめない事。確かに上には上
がいるものだけど、それ以上に下には下がいるものだよ。ほらこん
な所にも﹂
みんなでこっちをみないで!? ⋮⋮だからウララ先生、俺をダシ
に使わないで。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
あ、アオちゃんダウンに行っちゃった⋮⋮。
﹁ありゃあ、﹃私って実は強くなってたんですね!﹄って元気にな
って欲しかったんだけど、失敗しちゃったなあ﹂
⋮⋮そして俺の心に傷を作るんですね、ウララ先生⋮⋮。
2054
218話:上には上が、下には下が︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
高1時代、私も400mのベスト、66秒でした。
そして高1の新人戦、5000mで最初の400mのタイムが68
秒、1500mでは66秒で走ったりしてました。
みんなに﹃バカ?﹄って言われました。
66秒でしか走れなかったので、短距離女子には普通に負けました
︵T︳T
それでは。
2055
219話:君は君だよ
専門種目ではないとはいえ、女子部員全員に、妹にまで負けてしま
って激しく落ち込んでいます。
⋮⋮まあ、負けることなんて慣れてるけどさ。なんだか負け犬根性
が身にしみてしまっているようで嫌やなあ⋮⋮。
﹁ところでヤス?﹂
﹁⋮⋮なんですかウララ先生﹂
落ち込ませた張本人が何か俺に用ですか?
﹁落ち込んでるみたいだから一言言っておくけど、私が手塩をかけ
て育てているメンバーなんだから、負けて当然よ﹂
⋮⋮ウララ先生。あなためっちゃムカつきますね。負けて当然だと
思っている人に無理矢理参加させた訳っすか。
﹁ヤスくらいに負けるようだったら、陸上部顧問引退するわよ﹂
ものすごく腹が立つ。いっそのことひきずり下ろしてやりたいと思
うのは俺だけではないはず。
あの時、アオちゃんとは0.5秒も差がなかったよな。あと少しで
ウララ先生を顧問からひきずりおろせたのに⋮⋮。
﹁悔しかったらもうちょっと強くなってきなさいよね﹂
2056
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮あ。はい!﹂
あー、ようやくわかった。発破をかけようとしてくれてたんですね。
ウララ先生の気持ちはわかったけど⋮⋮このムカついた気持ちを発
散させたい。
﹁ウララ先生、とりあえず1回だけ殴らせてください。叩くでも蹴
るでもチョップでも何でもいいです﹂
﹁駄目駄目、鬱屈した気持ちは走って解消してね﹂
﹁⋮⋮﹂
くう、すました顔が余計にムカつく。殴りてえ。
その後ポンポコさんが400m1本勝負だけじゃ練習量が少なすぎ
ると言い出し、10000m、キロ4分のペース走をやった。
400mですでにかなり肺に来てたので、ものすごいきつかった。
短距離の練習に参加したくないと言う気持ちがとても芽生えた1日
だったな。
練習も終わって、今は帰り道。相変わらずアオちゃんはブルーなま
ま。
2057
﹁アオちゃん、元気を出してよお﹂
﹁ユッチ、私は元気ですよ﹂
さっきからユッチが必死でアオちゃんを励ましてるんだけど、ぬか
に釘、のれんに腕押し、馬の耳に念仏といったことわざが思い浮か
んでくるぐらい、アオちゃんから手ごたえのある反応がかえってこ
ない。俺も、アオちゃんには元気になってほしいんだけど⋮⋮。
﹁全然元気じゃないよお。アオちゃん、明るくなってよお、今の時
点で今のタイムだってことなんて、そんなに気にすることないじゃ
んかあ﹂
﹁そうだぞ、そんな事言ったらアオちゃんに負けた俺なんかどうす
るんだよ。立ち直れないじゃんか。引きこもりになっちゃうぞ﹂
﹁⋮⋮﹂
ええと、ちょっとくらい反応してほしいなあと思うのは俺だけでし
ょうか。自虐ネタはひろってくれないとものすごくさびしい気持ち
になるぞ。
﹁そうだよお? ヤスなんか、こんなに馬鹿みたいに元気なんだよ
お? アオちゃんがへこむ必要どこにあるのさあ﹂
⋮⋮ユッチに馬鹿といわれるとは⋮⋮人生をやり直したい気持ちだ。
﹁楽観的な人がうらやましいです。私には無理なんです﹂
2058
⋮⋮なんか俺がなにも考えてないみたいないい方しやがって⋮⋮追
い詰められてないと知っていたら怒るんだが。
﹁ボク、元気なアオちゃんのほうが好きだあ!﹂
﹁元気じゃない私は嫌いなんですね﹂
﹁そ、そそそそんなことないよお!?﹂
﹁元気な君が好き∼、きーみがーつーらいーきーもちにーなるとと
ーたんにかーぜは さーむくなる﹂
﹁ヤス君に言われても別にうれしくないです﹂
⋮⋮俺の存在って一体なんなんだろう⋮⋮せっかくのスマップの名
曲なのに、なにも意味がない。ものすごくこのあたりの風が寒くな
ったのは気のせいじゃないはず。
﹁ボクはボクだし、ゴーヤ先輩はゴーヤ先輩、キビ先輩はキビ先輩、
アオちゃんはアオちゃんだよお! ほかの人と比べて何か意味があ
るの? どんなときだってアオちゃんはアオちゃんなんだから、そ
んなにアオちゃんが悩む必要ないよお!﹂
﹁私が強くならなければ、ゴーヤ先輩、キビ先輩と一緒にインター
ハイに出られないじゃないですか。強くならなければならないんで
すよ﹂
﹁でもでもお! もっと楽しくやろうよお! アオちゃんはアオち
ゃんのペースでいけばいいと思うんだよお! あせってもいい結果
が出るわけじゃないんだからあ!﹂
2059
﹁君は君だよ∼
だから誰かの 望むように
1人なんだよ♪ 君
生きなくていいよ♪
できやしないんだかーら
だから僕にはかけがえない
他の誰にも かわりなんか
君は君だよ∼
は君だよ∼
ー♪﹂
﹁⋮⋮﹂
あれ? すべったか? 俺の中では最高の1曲を歌ったつもりなの
に。なぜ、この曲で反応してもらえないんだろう⋮⋮。だが、俺は
俺だ。どれだけすべっても俺は自分のキャラをつらぬきとおす。
﹁アオちゃんさあ、あせりすぎだよお。さっきゴーヤ先輩やキビ先
輩とインターハイって言ってたけど、まだ半年も先なんだよお? 半年間、ずっとそんな気持ちでいるつもりなのお? もっと明るく
jama
jan
jama
jama ちゃ
いこうよお。新人戦でいい結果が出せなかったぐらいでへこたれな
jan
いでさあ、もっとしぶとくいこうよお﹂
﹁jan
んと! シブトク 強く! 明るくいきまーしょう!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ヤスは黙ってろお!﹂
⋮⋮俺なりにアオちゃんを元気付けようと思ってんのに。そんなに
ダメなのか⋮⋮。
﹁そうだあ! アオちゃん、ボクの家においでよお。ちょうどおね
えちゃんとおにいちゃん、外へデートに行ってて明日まで帰ってこ
2060
ないから今日はボク1人なんだあ。お父さんもお母さんも出かけて
て帰らないって言ってるし。ボク、さびしいから来てくれないかな
あ?﹂
﹁⋮⋮私がいてもつまらないですよ?﹂
﹁大丈夫だよお! アオちゃんがいたほうがすごく楽しいもん!﹂
﹁盛り上がらないです﹂
﹁それも大丈夫! ボクとヤスとサツキちゃんで盛り上げるからあ
! ね、ヤス、サツキちゃん!?﹂
ええと、俺にふるの? 黙っとけって怒ったくせに。
⋮⋮ユッチのことなんか知ったことかと断ろうと思いつつも、つい
うなずいてしまった。
必死なユッチの目を見てると断れない。アオちゃんにも元気になっ
てほしいし。
サツキも同様に俺の隣でこくんとうなずいている。
﹁ありがとお! じゃあ今日はボクとアオちゃんとサツキちゃんと
ヤスの4人でパジャマパーティだね!﹂
﹁私まだ行くって言ってませんけど﹂
﹁⋮⋮アオちゃん、お願いだから来てよお⋮⋮アオちゃんがいない
パジャマパーティなんてお肉がないすき焼きみたいなもんだよお⋮
⋮﹂
﹁⋮⋮わかりました⋮⋮でも、すぐに寝ますから﹂
2061
﹁ありがとお! アオちゃん!﹂
⋮⋮なんか強引だけど、今日はユッチの家でパジャマパーティ開催
することに決まった。
アオちゃん、ユッチ、サツキ。
かわいい女の子3人とパジャマパーティ。ちょっとだけドキドキ。
2062
219話:君は君だよ︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
スマップの名曲3つです。
1曲目、笑顔のゲンキ。
2曲目、君は君だよ。
3曲目、はだかの王様。
スマップの曲の中で、﹃君は君だよ﹄は﹃世界にひとつだけの花﹄
に匹敵する名曲だと思っていたりします。私はしっかりCD持って
いたり︵^^
ぜひ一度聴いてみてください。
それでは。
2063
220話:パジャマパーティ開催
今、ちょうどユッチの家に着いた。現在午後15時。
女子3人とドキドキのパジャマパーティ!
頑張って生きていればこんな役得もあるなあ。
﹁お邪魔しまーす﹂
とりあえずユッチの家の居間に入ってくつろぐ。
ユッチの居間には4人が並んで座れそうなでっかいソファ。ふかふ
かのカーペット、ピンク色と白のしましまカーテン、そして観葉植
物があって⋮⋮とても洋風な感じなのに、なぜかど真ん中にコタツ
が置いてある。んで、パソコンの上にノートパソコン。
⋮⋮。
﹁ヤスう、なんで部屋の中をじろじろ見回してるのさあ?﹂
﹁この部屋において、コタツが違和感をかもし出していると思うの
は俺だけか?﹂
そりゃ、コタツは置いておきたいとは思う。コタツに入るとどんな
人でもごろごろしたい気持ちになるという魔法のアイテムだからな。
でも何かが違うと思うのは俺だけか?
﹁いいじゃんかあ。コタツに入って、ねっころがりながらパソコン
にDVD入れて、映画を見るときの幸せな気分がヤスにはわかんな
いのお?﹂
2064
ものすごく分かる。とても気持ちがいい。それこそ至福のひととき
だな。ついでにお菓子が手に届くところにあったら最高だ。
コタツムリになることの幸せさ、夏でもずっとコタツをだしておき
たくなるもんな。
﹁この前来たときはユッチの家、ちゃんと見れなかったからさ、な
んだか見回したくなるんだよ﹂
﹁じろじろ見るのはマナー違反だよ。ヤス兄﹂
ごめんなさい、わかってるけどついやってしまうんです。
﹁ヤスってボクの家に来たときのこと全然覚えてないのお?﹂
﹁うん、風邪ひいてふらふらだったからほとんど覚えてないんだよ
なあ⋮⋮﹂
ものすごくダークな自分になったことだけ覚えてる。
﹁ヤス兄、すごい発言連発したんだよね﹂
﹁そうだよお! あのときのヤス、ひどかったあ! ね、アオちゃ
ん?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
く⋮⋮返事は無しか。アオちゃん、ユッチの家に来るまでもどんど
ん無口になっていって、最後の方はほとんどしゃべろうとしなかっ
た。今も部屋のすみっこにぽつねんと座って、会話に参加しようと
してこない。
2065
﹁⋮⋮えっとお。⋮⋮ヤスうー﹂
﹁ヤス兄、お願い﹂
こら、ユッチもサツキもそんな捨てられた子犬のような目で俺を見
ないでくれ。俺もさっきからアオちゃんに話題をふっては撃沈して
いる様子を2人とも見てるだろおが。
⋮⋮ええとええと、何かいい話題ないかな?
﹁あ、そうだ! ユッチ! インターネットを使ってもいいか?﹂
﹁え? うん、いいよお。でも何に使うんだあ?﹂
﹁この前、ケンから﹃面白いページがある﹄って教えてもらったん
だよ。﹃うそこメーカー﹄って言うページだって。なんか自分の名
前を入力すると、その名前に見合った何かが表示されるとかどうと
か⋮⋮今からやってみねえ?﹂
﹁うそこメーカー? 初めて聞いたあ﹂
や、俺も実際にやってみるのは初めて。でも何かしてみてとりあえ
ずこの空気を何とかしたい。
ええと、yahooから﹃うそこメーカー﹄って検索してっと⋮⋮
お、出た出た。
﹁へえ、いろいろあるねえ﹂
﹁だな、﹃四字熟語メーカー﹄﹃脳内フェチメーカー﹄﹃カレンダ
ーメーカー﹄⋮⋮適当にやってみよか﹂
2066
﹁ヤス兄ヤス兄、この﹃コンビ名メーカー﹄って言うのやろうよ!
﹃コンドコント﹄よりいいコンビ名つけてくれるかも!﹂
⋮⋮俺としてはコンドコント、かなり改心のコンビ名なんだけどな
あ。
﹁んじゃ、﹃近藤康明﹄と﹃近藤五月﹄のコンビ名は⋮⋮﹂
お、出た出た⋮⋮﹃怠慢センチメンタル﹄
⋮⋮ええと、どんな反応をすればいいんだろう?
﹁これのほうがいいよね。私とヤス兄が今度何かやる時のコンビ名
は﹃怠慢センチメンタル﹄で決まりだね﹂
﹁ええ!? それはないだろ﹂
﹁ほかの人でもやってみようよ、ユッチ先輩とアオちゃん先輩でや
ってみません?﹂
﹁いいよお! アオちゃんも見てみない!?﹂
﹁⋮⋮そうですね﹂
お、興味持ってくれたのか。ようやく重い腰を上げてくれた。
﹁んじゃ、﹃木野あおい﹄と⋮⋮ユッチって名字なんだっけ?﹂
かわべ
﹁河辺だよ? って何でいまだに知らないのさあ!?﹂
2067
知る機会がなければ知らないものさ。
﹁んじゃ﹃河辺ゆう﹄と﹃木野あおい﹄で⋮⋮﹂
﹃母乳審議委員会﹄
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮すげえコンビ名だな。母乳審議委員会だって﹂
﹁⋮⋮この変態い!﹂
痛い痛い! ユッチ殴るな! これ俺が作ったわけじゃないから。
このホームページで出ただけだから! 文句はこのホームページ作
った人に言ってくれよ。
ユッチが落ち着いたところで、その他全員分の組み合わせをやって
みた。
﹃近藤五月﹄﹃木野あおい﹄⋮⋮﹃パンチラ研究所﹄
﹁パンチラ研究するのはヤス兄なのにね﹂
2068
﹁そうだな⋮⋮ってちゃうやろ!?﹂
﹃近藤康明﹄﹃木野あおい﹄⋮⋮﹃エロチックマゾヒスト﹄
﹁なんかまたエロイのが出てきた。どっちがMだろうね?﹂
﹁⋮⋮﹂
やばっ、また無言になっちゃった。
⋮⋮最初は思い悩んでたのって陸上のことだけだったはずなのに、
いつの間にか日常生活全部で思い悩むようになっちゃってる。悪循
環が悪循環をうんでるよなあ⋮⋮。
﹃近藤五月﹄﹃河辺ゆう﹄⋮⋮﹃母乳審議委員会﹄
﹁あれ? また同じのだね。すごい偶然﹂
﹃近藤康明﹄﹃河辺ゆう﹄⋮⋮﹃落第レボリューション﹄
﹁い、いやだあ! ヤス、ボクとコンビを組むのは絶対やめてよね
!﹂
﹁こっちだってお断りだよ! なんだよ﹃落第レボリューション﹄
って!﹂
﹁ヤスがボクに悪い影響を与えるからきっとこんなコンビ名になる
んだあ!﹂
﹁うわ、人のせいにするのやめろって!﹂
2069
﹁だって絶対そうなんだあ!﹂
うわ、めっちゃムカつく。
﹁⋮⋮ふふっ﹂
お、今少しだけアオちゃんが笑ってくれた。やっぱり笑ってるアオ
ちゃんのほうが絶対にいい。もっと元気になってほしい。
その他にもいろんな﹃うそこメーカー﹄で一喜一憂してた。 ちょ
っとずつアオちゃんが元気になってきたところで、居間でのおしゃ
べりはここまでにして、ユッチの部屋にあるゲームでもしようって
ことになった。先にサツキとアオちゃんが立ち上がって2階に上が
って行く。パソコンの電源を落として俺も上がろうとしたところで、
突然ユッチに呼び止められた。
﹁ねえねえヤス、今ボクが何考えてるかわかる?﹂
﹁⋮⋮4人でわいわい楽しくあそぼ、だろ?﹂
﹁それは全く考えてなかったあ﹂
ちぇ、違うのか。
﹁分かってるって。今日はアオちゃんが主役。ゲームをしつつ、ア
オちゃんの話を聞いて、アオちゃんをみんなで元気付けてあげよう
2070
だろ?﹂
﹁違うよお﹂
あれ? これも違うの?
﹁ヤスには料理作っててほしいんだあ﹂
﹁⋮⋮え、俺不参加!?﹂
それはひどすぎじゃないっすか?
﹁女の子同士じゃないと話せない話ってあるんだからあ。料理はヤ
スに任せるからあ! よろしくねえ!﹂
そういってユッチは俺を置いて2階に上がっていってしまった。
あれ? あれ? なんか間違ってないか?
役得⋮⋮なんて思ってしまったのは、まだまだ俺が未熟な証拠⋮⋮。
﹁しゃあない、やるかあ。えっと、んじゃ冷蔵庫見てと⋮⋮﹂
ガチャ。
冷蔵庫を開けた途端、つい呆然と立ち尽くしてしまった。⋮⋮マジ
かユッチ、これはないだろ。何もない。見事に何もない。野菜もな
い、肉もない、魚もない、冷凍食品すらない。あるのは調味料だけ
というからっぽっぷり。どんな腕利きの料理人でも材料がなかった
ら料理はできないだろ。
﹁ユッチ、これは俺に買い物にも行ってこいって意味なのかなあ⋮
2071
⋮﹂
この状況ってパシリ、むしろ下僕?
⋮⋮さっきまで楽しい気持ちだったのに、突然心が寂しくなってき
ました。
2072
220話:パジャマパーティ開催︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
﹃ブログのネタなどに⋮⋮﹄とあったので、小説のねたにしてみま
した。
﹃うそこメーカー﹄のひとつ、﹃兜メーカー﹄で、自分の名前︵本
名︶を入力しました。
﹃屁﹄と出ました。
﹃勇﹄など、かっこいい字を期待していただけにショックでした。
﹃うそこメーカー﹄、携帯からでも遊べるみたいですので是非。リ
ンク張っておきます。
それでは。
2073
221話:主夫、ヤス
ユッチに無理矢理押し付けられた料理を作るために、スーパーへ買
い物に行って来た。
キャベツと豚肉こま切れが安かったので、それを買うことにする。
キャベツと豚肉、どちらも定番の品だよな。バラエティもとても豊
富。
えっと、それじゃ何にするか考えようか。キャベツと豚肉といえば
真っ先に思いつくのはホイコーローだな。肉だけじゃなくて、味噌
がからんだキャベツがたまらなくうまい。しゃきしゃきとした食感
にして食べてもうまいんだが、邪道といえどクタクタになるまでい
ためたキャベツでも、みその味がキャベツにしっかりとしみこんで
いて、野菜のうまみがぐっと出てきてすごくうまい。そして直接食
べるだけじゃなくて、肉とキャベツをアツアツのご飯の上に載せて、
ホイコーローのタレをちょびちょびっとかけて、がっと食った時の
幸福感に勝るものはなかなかない。
他には⋮⋮キャベツと豚肉の重ね煮もうまい。なべの底にキャベツ
を敷いて、その上に軽くゆでておいた豚肉を並べて載せる。順々に
キャベツ、肉、キャベツ、肉、と載せていき、最後はキャベツでふ
たをする。お好みでねぎやきのこを入れて、しょうゆ、砂糖、みり
ん、酒、めんつゆなどで味付け、だしは面倒なので味の素。最後に
お好みでねぎやえのきを上に載せて、後はなべに蓋をして弱火でぐ
つぐつ煮るだけ。水分はキャベツから出てくるから大丈夫。これが
まためっちゃうまい。キャベツのとろとろっとした食感に、ゆでた
おかげで余分な脂分がなくなりあっさりした豚肉がすごいマッチす
る。キャベツから出てきた水は、そのままスープに。キャベツのう
2074
まみと肉のうまみがぎゅっと詰まったスープになってて、なべの中
に入っているスープはおいしくてスプーンがとまらない。いろんな
サイトでは薄切り肉がいいって書いてあるけど、こま切れ肉や切り
落としでも十分代用可能っす。味付けはめんつゆじゃなくて、コン
ソメにしてもいけるし、ケチャップ味でもまたグー。肉をひき肉に
して、味をケチャップ味にすると、なんちゃってロールキャベツの
出来上がり。このキャベツと豚肉の重ね煮、キャベツを白菜に替え
てもやっぱりうまい。白菜が旬で、玉が大きい冬でも、家族4人で
1玉ぺろり⋮⋮ちょっと言い過ぎか。
忘れちゃいけない、和田アキ子様がパッケージの﹃煮込みラーメン﹄
! 王道のしょうゆ味、ちょっとピリッとしたみそ味、こってりと
したとんこつ味。お、今まで食べたことがない、まろやかキムチ味
ってのと、こくうまちゃんこ風ってのがある。初めてパッケージを
見たときは﹃人気タレントの力を借りて売ろうとしてる商品なんぞ﹄
とか見下し気分満載だったんだけど、一回どんなものか買ってみて、
一口食べたときから大ファンです。俺が大好きなのはやっぱり王道
のしょうゆ味。みそやとんこつもいいけど、何度も食べたくなるっ
てんだったら絶対にしょうゆ。アオちゃんじゃないけど、昔ながら
のというか、ラーメンの王道とも言えるしょうゆが一番だ。煮込み
ラーメンを食べると、本当にCMみたいに﹃おかわり!﹄﹃おかわ
り!﹄みたいな食卓になる。こんなフレーズが思い浮かんでしまう
よな。﹃まーいっぱいまーいっぱいと、たいがいにしとかんといか
んよ! 永谷園はいかんわあ、うますぎるもーん﹄⋮⋮ごめん、鎌
倉ハムさん。
安いこま切れ肉を使って、トンカツにしてもいい。こま切れ肉の揚
げ物なんて⋮⋮と思うかもしれないが、意外と作れてしまう。から
っと上げて、キャベツは千切りにして添える。トンカツはおろしポ
ン酢で食べてもうまいし、普通にソースをかけてもうまい。他には
2075
愛知県が有名だけど、ザ、みそカツ。ごっつうまい。初めて食べた
ときは、名古屋はええよー。みそカツがあるでねー、やっとかめ!
って感じだったわー。後は、店でしか食べたことがないんだけど、
梅肉ソースというものがあった。すっぱいんかなあと思って食べた
ら、すごくさっぱりしてて、うまかった。ま、一番思うこと、それ
はやっぱりトンカツはジュースィー。
後は⋮⋮しょうが焼きもいいよな、キャベツはやっぱり千切りにし
て。酒のおつまみにも最高だと聞いたことがあるけど、ご飯のお供
に最高なのがこの豚肉のしょうが焼きだよな。時々コストの低さか
らB旧グルメとのたまう輩もいるが、生姜焼きのうまさは、半端な
い。うまいほめ言葉が見つからないのがとても残念だ⋮⋮。ところ
で、ここで豚肉のしょうが焼きをするときに、絶対にやっちゃいけ
ないことがひとつあるよな。それはキャベツにドレッシング。これ
は邪道だ。確実に邪道だ。キャベツにソース、これも駄目だ。キャ
ベツにマヨネーズなんて絶対に駄目だ。じゃあキャベツはどうやっ
て食べるのか。それは豚肉にかけたジュワジュワのタレとキャベツ
をからめて食べるのが一番おいしいのだ! だから、しょうが焼き
のときに出たタレはフライパンから一緒に皿の上に盛り付ける。た
だし、タレが多くなりすぎてくどくならないように。
⋮⋮そんなことを延々と考えつつスーパーの中をうろうろ⋮⋮こん
なことを毎週日曜日に考えていたりする自分⋮⋮。おいしいものを
作るとすっごく喜んでくれる、作りがいのある家族がいるとついつ
い張り切ってしまうな。
はあ⋮⋮どれにするかすごく悩む。どれにしても絶対うまいと思う
んだけど⋮⋮うーん⋮⋮今回はあれにするか。
2076
さて、場所は戻ってユッチの家。
俺の準備は万端。そろそろ18時ころになるし、ちょっと早いけど
ユッチたち呼ぶか。
2077
221話:主夫、ヤス︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。まったくといっていいほどオチ無し
です、すみません。
ホイコーローを食べたいなあと考えていたら、こんな話に。
おいしいものを食べると幸せになれますよね。
先週土曜日、焼肉屋に行きました、せんまい、生レバー、ホルモン、
上ミノ、上タン塩などなどを食べました。とても幸せでした。その
後2次会でくしかつ屋にいきました。豚くしかつ、うずらなどを食
べました。不幸せになりました。そんなもんです。
それでは。
2078
222話:みんなで頑張ろう
﹁⋮⋮﹂
﹁えと⋮⋮サツキ?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁えと⋮⋮ユッチ?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁なあ、アオちゃんさあ﹂
﹁⋮⋮﹂
誰か、この重苦しい空気をどうにかしてくれないか。俺がいない間、
この3人の間でどんな会話があったか知らないけど、夕飯出来たぞ
って呼びにいった瞬間からこの空気だった。ユッチもサツキもアオ
ちゃんのブルーな空気に伝染したのか、めっちゃ暗い。
﹁な、なあ! とりあえず夕飯にしよう! 俺、ものすごく色々考
えた結果このメニューにしたんだぞ。夕飯はおいしく食べようぜい
ぜい!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮笑うことが大好きで、落ち込んでいる時間がもったいないと思
2079
っているサツキや、どんなときでもいつでも元気なユッチまでここ
まで落ち込むとは⋮⋮ネガティブな気持ちというのは伝染すると聞
いた事があるけど、本当なのかも。
﹁さてさて、俺が考えた今日のメニュー。キャベツ、ねぎ、豚肉、
いか、あげ玉、そして小麦粉と卵等々で作った生地のもと。そして
目の前にはホットプレート⋮⋮見て分かる通り、お好み焼きだあ!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
誰からも返事が無い。お通夜でもあるまいし、静かに食卓を囲うの
はやめよ?
﹁お好み焼きと言う名の通り、さっきの代表的な具材以外にも、も
ち、キムチ、もやし、にら、エビ、ホタテ等々、いろいろ準備して
みたぞ! かけるものもソースにしょうゆ、マヨネーズにからし、
ケチャップと何でも取り揃えた!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮お願いします、声を聞かせて。ここまでノリノリな自分がバカ
みたいなので、どなたか発言をお願いいたします。
﹁ほれほれ、ユッチ。何か作ろう!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
こらユッチ、女の子同士じゃないと話せない話をいっぱいしたんだ
ろうが。アオちゃんを元気にするんじゃなかったのかよ。
2080
﹁ほら、ユッチのために子供向けのベビースターラーメンも準備し
てみたんだぞ﹂
﹁⋮⋮はあ?﹂
﹁ユッチ、ベビースターラーメン好きだろ? うまい棒の方がよか
ったか? どっちも子供が大好き!﹂
﹁ボクは子供じゃないい! 夕ご飯にお菓子を準備なんてするなあ
!﹂
⋮⋮始めて声が聞けた。罵声なのになんだか嬉しい。
﹁はいはい、分かったから何か作ってみ? それともお子様用のお
好み焼きを作ってやろうか? 甘口、やわらか、ミニサイズ﹂
﹁子供扱いするなあ! ヤスだって精神年齢小学生のくせにい!﹂
精神年齢小学生という言い方をすると駄目なやつに聞こえるので、
童心を忘れずに成長したと言ってくれ。
﹁はいはい⋮⋮ま、一枚目は俺が作るか﹂
サラダ油をしいておいたホットプレートの上にまずは生地を薄く伸
ばす。その上にたっぷりのキャベツ。ちょっとだけあぶっておいた
肉をのせて、ネギ、あげ玉、イカを順々にのせていく。最後にもう
1回生地を上からかける。
﹁ヤスのお好み焼きって普通なんだねえ⋮⋮﹂
2081
﹁普通なものほど美味い。王道こそ最強。アオちゃんもそう思うだ
ろ?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ありゃ、まだアオちゃんに話を振るのは早かったか。
そうこうしてる間に一番下の生地がいい感じに焼けてきているので、
フライ返しを使ってホイッとひっくり返す。フライ返しでひっくり
返す瞬間、過去にお好み焼きを何十回とひっくり返してきたにもか
かわらず、なんだかすっごい緊張してしまう⋮⋮いくぞ。
﹁ほいさっ!﹂
べっしゃあ!
﹁あっはっはあ! ヤスったら失敗してるう! へったくそお!﹂
﹁ユッチ、うるさい! いつもの使い慣れたフライ返しを使えばこ
んな失敗しないって!﹂
﹁ヤス兄ってば、失敗を道具のせいにしちゃ駄目だよ﹂
⋮⋮ユッチもサツキも、俺が失敗した瞬間に元気になりやがって。
そんなに人の失敗が楽しいか⋮⋮⋮⋮楽しいな。
﹁いいんだよ! 失敗してもこうやってフライ返しできれいに形を
整えていけば!﹂
はみ出してしまった具材をフライ返しでちょちょいと整えていき、
ぎゅっぎゅっとお好み焼きを上から押さえつける。
2082
﹁うああ! ヤスう! 何生地の上から押さえつけてるんだよお!﹂
﹁ん? 上から押さえつけるとジューって音が気持ちよくていいだ
ろ?﹂
﹁何バカな事言ってるんだあ! そんな事したらせっかくふっくら
したお好み焼きが出来上がるはずなのに、硬くなっちゃうだろお!﹂
﹁え? そういうものなの? 屋台で売ってるお好み焼きって大抵
上から押さえつけてない?﹂
﹁それは早く焼けるようにするためだあ! 上から押さえつけない
なんて当たり前だあ!﹂
⋮⋮当たり前だあ! ってほんとかあ?
きゃんきゃんとユッチと言い争いをしながら、俺作のお好み焼き完
成。4等分してそれぞれの皿に盛りつけ。
﹁やっぱり硬いんだあ⋮⋮もっとふわっとできるはずなのにい⋮⋮
よおし、みてなよおヤス、次はボクがつくるう!﹂
﹁ふんっ、それだけ大口を叩いたんだから、うまいやつを作ってみ
ろやあ!﹂
﹁みてろおヤスう!﹂
おしおし、じっくりみてやろうじゃないか。
って⋮⋮ええっ!?
2083
﹁ちょちょちょい、いきなり何やってんの!?﹂
﹁ええ? 肉とイカ以外は全部混ぜちゃったほうが、簡単にできる
んだよお? 関西風お好み焼きはみんなこうやって作るんだあ﹂
﹁⋮⋮そなの?﹂
﹁そおそお。いっぺん食べてみたらおいしいのが分かるからあ、黙
って座ってみてなよお﹂
ジュジュジュジュジュジュー⋮⋮
﹁ユッチ、いい音たてるねえ﹂
﹁いいだろお。屋台でも、この音聞くとついつい頼みたくなっちゃ
うんだよねえ﹂
﹁焼き上がっていく様子をじっと見てるのもいい﹂
﹁焼いてる時に漂うこの匂いもたまらないんだあ﹂
﹁分かる分かる。お好み焼きは4段階の楽しみが出来るよな。耳で
楽しみ目で楽しむ。鼻で楽しみ、最後は口で楽しむ﹂
﹁うんうん!﹂
ユッチとおしゃべりをしつつ、焼き上がるのを待つ。
いやあ、ほんといいにおい。
﹁ねえヤス兄、ユッチ先輩。ホットプレートのあいてるところで私
2084
も作っていい? ユッチ先輩が作ってるのみてたら私も作りたくな
っちゃって﹂
﹁どぞどぞー﹂
サツキもいつもの調子が戻ってきた。後はアオちゃんだけ。
﹁ほれ、アオちゃんも焼いてみ。お好み焼きは自分のお好みで作る
のが楽しく、人が作ったのと食べ比べるともっと楽しい﹂
﹁⋮⋮わかりました⋮⋮﹂
おしおし、この場の食卓に参加するきっかけをつかませた。
このままアオちゃんを引き込んで⋮⋮⋮⋮!?
﹁うおおい! アオちゃん、さすがに生地が多すぎじゃないか!?﹂
﹁アオちゃんアオちゃん、キャベツそれだけしか入れないんじゃお
好み焼きじゃなくて生地焼きだよお! ネギも入れてネギ焼きにし
ようよお!﹂
﹁アオちゃん先輩、豚肉入れすぎですよ! 重なってます!﹂
﹁⋮⋮みなさん、これが私のお好み焼き。食べれば分かります。こ
れがおいしいんです﹂
うそお!
﹁さっきヤス君も言ったじゃないですか。﹃お好み焼きは自分のお
好みで作るものだ﹄と﹂
2085
いや、言ったけど程度があるって!
﹁ああ、アオちゃん先輩! 私のお好み焼きにくっつきます! ガ
ードしてガードして!﹂
﹁アオちゃんん! ボクのお好み焼きの上にひっくり返さないでよ
お! ああああ⋮⋮ボクの最高傑作があ⋮⋮ううう、ひっくり返す
とき慎重にやってよお!﹂
﹁お好み焼きをする時は、ホットプレートの上は戦場と化すんです
よ。知らなかったのですか?﹂
⋮⋮そんな話は聞いた事が無い。
﹁アオちゃん、肉が飛んだ!﹂
﹁イカも飛んだあ!﹂
﹁ホタテが! ホタテが空を舞ってる!﹂
﹁もやしが、もやしが立ったあ!﹂
﹁みなさんあせりすぎです、冷静な心を持ちましょう﹂
﹃焦らせてる張本人が言うなあ!!﹄
2086
⋮⋮。
﹁あれ? めっちゃうまいな。このみんなで作った混ぜこぜ焼き﹂
あんな作り方をしたのにびっくり。
﹁でも、もうどの部分を誰が作ったのか全然分かんなくなっちゃっ
たね﹂
﹁うまけりゃそれでいいって﹂
﹁そだね﹂
いやあ、一時は大惨事になるかと思ったけど、この混ぜこぜ焼きが
何故か成功を収めてる。
﹁みんなの慌てっぷり、ちょっと面白かったですね﹂
﹁楽しんでたのはアオちゃんだけだけどな﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
ごめん、嫌みを言ってしまった。
﹁はふぅ⋮⋮おいしかったあ﹂
2087
その後もみんなでがやがやと叫び合いながらお好み焼きを作って食
べた。最後は残った具材を全部1つのボールに入れてどでかいお好
み焼きを焼くぞーって作ってみた。みんなで一致団結して頑張って
ひっくり返す。ユッチの顔に生地が飛んで大笑い。
﹁ヤス兄、またやりたいね。お好み焼き﹂
﹁んだな。今度はもんじゃ焼きとかに変えてみたいな﹂
自宅でもんじゃ焼きは難しそうだけど、楽しければよし。
﹁⋮⋮とここでちょっと話も変えるけど﹂
﹁ヤスう、なんだよお﹂
﹁アオちゃんさあ、前﹃頑張れって言わないで﹄って言ってたじゃ
ん﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁﹃頑張れ﹄っていう言い方変えよ。﹃みんなで頑張ろう!﹄﹂
﹁⋮⋮?﹂
﹁頑張れって聞くと、﹃自分は頑張ってないけどアオちゃんは頑張
れよ﹄とか﹃俺は頑張っているんだから頑張れよ!﹄って聞こえる
けど、俺もユッチもサツキも、そういうわけじゃなくってさ﹂
﹁⋮⋮﹂
2088
﹁みんなで頑張っていけばいいと思うんすよ。1人で思い悩む必要
は無いと思うんすよ﹂
﹁⋮⋮でも﹂
﹁成果が出ない悩みってみんな一緒だよ。1人で悩むより、みんな
で考えようよ。お好み焼きだってさ、1人っきりで焼くより、みん
なで食卓を囲みながらわいわい作った方がおいしいじゃないっすか。
スポーツだって一緒っすよ。1人っきりでやってるより、みんなで
頑張ってやっていった方がきっと結果がついてくるよ。だから﹃み
んなで頑張ろう﹄よ﹂
﹁お好み焼きと陸上を混ぜこぜにするヤス兄﹂
なぜチャチャを入れる⋮⋮サツキ。
﹁そうですね、みんなで頑張ろうですよね⋮⋮うじうじしててもし
ょうがないですもんね﹂
そうそう、そう考えよ。
﹁ユッチ、サツキちゃん、ヤス君⋮⋮ごめんなさい、いろいろと﹂
﹁いやいや、﹃こんな時に言う言葉はごめんなさいじゃないんだよ﹄
って声をかけるのが王道か? アオちゃん﹂
﹁それで﹃ありがとう﹄って返事するのが王道ですね﹂
ですな、お互いに軽口を叩いてははっと笑いあう。
2089
﹁また思い悩んだらみんなで集まってお好み焼き、焼かせてくださ
いね﹂
そだな、そんな時はまたお好み焼きを焼こう。
⋮⋮これからも﹃みんなで﹄頑張っていこう。
2090
222話:みんなで頑張ろう︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
アオちゃんの悩みについて工場長先生からアドバイスをいただきま
して、大変参考にさせていただきました。
工場長先生、本当にありがとうございます。
それでは。
2091
223話:交換日記
今日は10月13日、パジャマパーティもわいわいと終えて、休日
も家族でのんびりと過ごし、学校が始まるなあと何となく憂鬱にな
る月曜日。
授業と授業の合間の10分の休み時間をグデーッと過ごしてる。
﹁ヤス君ヤス君、交換日記しませんか?﹂
アオちゃんが話かけてきたけど⋮⋮なんか、耳がおかしくなった気
がしてしょうがない。
﹁⋮⋮アオちゃん、今なんて?﹂
﹁交換日記ですよ! 小学生の頃、やりませんでした? 甘酸っぱ
い思いがいっぱい書かれている交換日記です﹂
聞き間違いじゃないみたい。
小学生の頃、やってみたいなあと思いつつ、自分から言うのも気恥
ずかしくて結局出来なかった思い出ならあるな。
﹁⋮⋮なんで高校生で?﹂
﹁面白そうじゃないですか﹂
﹁⋮⋮それだけ?﹂
﹁普段言えない思いが交換日記なら書けるかもしれませんよ。それ
2092
に、なかなか話せなかった悩みなども、交換日記に書いて知って欲
しいって気持ちもあるんですよ﹂
﹁そうか、それならわかる﹂
アオちゃん、1人で思い悩んでたけど、交換日記なら書けるかもし
れない。
﹁ですよね。気持ちを伝える方法って昔から手紙だったりしますよ
ね。告白でラブレターがある理由はそれですよ。﹃言葉で言うのは
恥ずかしいけれど⋮⋮手紙なら思いが伝えられる﹄という内気な私
みたいな人の告白手段なんですよ﹂
﹁内気? 誰が?﹂
﹁私がです﹂
⋮⋮さっきから耳がおかしくなったようでしょうがない。
﹁⋮⋮どこが?﹂
﹁ヤス君は知らないかもしれませんが、私って好きな人の前ですと
恥ずかしくて何にもしゃべれなくなるんですよ。告白なんて無理で
した﹂
﹁⋮⋮﹂
何を言ってやがるんだか⋮⋮と思う自分はきっと嫌なやつだ。
﹁そんなんだったら付き合ってから大変でしょ?﹂
2093
﹁慣れます﹂
⋮⋮そういうもんなのか? よく知らん。
﹁ヤス君は告白した経験はありますか?﹂
﹁⋮⋮ないっすね﹂
﹁きっとそれで分からないんですよ。面と向かって告白ってすっご
い勇気がいるんですよ。でも、告白方法で一番多い方法は﹃面と向
かって﹄らしいですけど﹂
そうなんだ。
﹁へぇへぇへぇへぇへぇ。5へぇ﹂
﹁⋮⋮少ないです﹂
何となく直接告白がが一番多い気がするじゃん。
﹁⋮⋮話がずれましたね。それで、話を戻しますけど交換日記しま
せんか?﹂
﹁いいけど、参加者って誰がいるの?﹂
苦手な人が参加してる交換日記じゃ思った事は書けないだろ。
﹁先日のパジャマパーティのメンバー4人でやろうと思ってます。
ユッチからはもうOKもらってますよ﹂
2094
﹁いいっすよ﹂
ユッチ、アオちゃん、サツキ、俺の4人なら何の気兼ねも無く書け
る。そのメンツなら交換日記をやっても楽しそうだ。
﹁そういえば何を使ってやんの? 最近は携帯で交換日記とか出来
るらしいけど﹂
﹁やっぱり交換日記と言ったらノートです! 交換日記を相手に渡
す時に誰かに見られて﹃熱いねー、ひゅーひゅー﹄と言われ、﹃ち、
違うよお! ボク知らないもん!﹄﹃そ、そうだぞ。ユッチなんか
⋮⋮﹄﹃⋮⋮なんかって何さあ! ヤスう!﹄と言うシチュエーシ
ョンを見てみたいです。携帯でしたらそんなシチュエーションが生
まれないじゃないですか!﹂
⋮⋮小学生でもそんな場面に出くわさない気がするのは俺だけだろ
うか?
﹁順番ですけど、私↓ユッチ↓ヤス君↓サツキちゃんの順番でやり
ましょう。ノートは私が準備しますから自分の番まで楽しみにして
ください! 内容は何でもありでいきましょう。参加者以外にはケ
ン君にもポンポコさんにも見せちゃ駄目ですよ﹂
﹁あーい﹂
⋮⋮どんなのが来るのか楽しみ。
2095
3日後。10月16日。
﹁ヤス、お待たせえ! ヤスの楽しみにしてるう!﹂
お、待ってました。
ユッチから手渡されたノートを受け取る⋮⋮可愛いノートやなあ⋮
⋮カエルさんとくまさんのイラストが表紙。
⋮⋮俺が持っても大丈夫だよな?
﹁ヤス、ちゃんと書いてよお!﹂
﹁了解っす﹂
まずは家帰って、アオちゃんとユッチがどんなの書いたか見てから
ね。
さてと⋮⋮夕飯食べて、サツキもケンも寝たし。
交換日記見てみますか。
−−−−
2096
10月14日、あおい
こんばんは、あおいです。
ドラえもんは、あおいです。
海は、あおいです。
水は、あおいです⋮⋮本当にあおいですか?
アオダイショウは、あおいかもです。
土曜日は、あおいです。なぜあおいのですか?
隣の芝生はあおいです。
最近ヤス君、あごが、あおいです。ヒゲですね。
ジーンズは、あおいです。
結婚式は、あおいです。あおいものつけます。マリッジブルーにな
ります。
あおい野菜は、みどりです。ミドリ、最高の妹です。
地球はあおかったです、今もあおいですか?
あおいって何回言ったでしょう?
−−−−
⋮⋮シュールだ。こんな文を書くのか。初めて知った。
ってかヒゲ濃いって⋮⋮ショックだ、毎朝頑張ってるのに。
まあいいや、次々。
ユッチはどんなの書いてんだろ?
−−−−
10月15日 ユウ
やほほーい、ユッチだよお。
えっと⋮⋮あおいあおい⋮⋮16つだあ。
2097
あおいがいっぱい。アオちゃんすごいねえ。ボクそんなにおもいつ
かないよお。
えっとお、カメール、カメックス、ギャラドス、ゴルダック、ニョ
ロモ、ニョロゾ、ニョロモン、メノクラゲ、ドククラゲ、タッツー、
シードラ、
ラプラス、シャワーズ、オムナイト、オムスター、フリーザー!
やったあ、16ついったあ! ボクすごい!
なんだかひさしぶりにポケモンやりたくなっちゃったあ。
ゆうごはんはおねえちゃんとニラ王つくったあ。おねえちゃんには
やっぱりかなわないよお。
きょうは、ブタをみたいなあとおもってるんだった。
おねえちゃんがのぞいてきたあ、ニヤニヤしててやなかんじー。
あ、DVDどこにもっていったかなあ。
おねえちゃん、のぞかないでよお。
ポケモンレッド、レッドはユッチ、ライバルはアオイ、ゼニガメを
ヤスではじめたよお。
もののけしかみつからないよお。どこやったかなあ。
ヤス、ばんごはん、なにつくったの?
あ、はしってくるんだった。じゃあねー!
−−−−
⋮⋮めっちゃ読みにくい。
ユッチの文、順番がメチャクチャじゃないっすか。
しかも漢字が全然ないし、唯一使ってる﹃王﹄⋮⋮ニラ王ってきっ
と﹃ニラ玉﹄だよな?
﹁ってかなんで俺だけポケモン?﹂
アオちゃんとユッチは人間なのに。
2098
俺も人間になりたい。
﹁⋮⋮そうか、交換日記って甘酸っぱい思い出じゃなくて、変な事
書くものだったんだな﹂
1つ勉強になりました。
2099
223話:交換日記︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹁王﹂と﹁玉﹂⋮⋮パソコンだと間違えませんけど、手書きで間違
えて大笑いされた経験あります。誤字には気をつけよう。
パソコンで昨日﹁氏名﹂と書く所を﹁指名﹂と書いて、大量印刷︵
約2000枚︶してしまい、1から印刷し直しました。ど叱られま
した。誤字には気をつけよう。
それでは。
2100
224話:待ってる時間も
今日は10月17日金曜日。
お昼休みののんびりした時間帯。ケンと校庭に来て昼食中⋮⋮だっ
たのだが。
﹁見つけたぞヤス、今日という今日はやってもらうからな﹂
﹁⋮⋮ポンポコさん、勘弁してください﹂
﹁残念だったなヤス、とうとうみつかっちまったなあ﹂
⋮⋮今までずっと逃げていたのだが、とうとう昼休み、ポンポコさ
んに捕まってしまった。
﹁いいや、勘弁なんぞしない。夏休みの時に昼休みは屋上に来て叫
ぶと約束してたではないか﹂
約束とは当事者間の合意⋮⋮双方がいいよって言って初めて成り立
つものだと思います、一方が強引に決めた取り決め、それは強制と
いうものだと思います、ポンポコさん。
﹁私は毎日屋上で待っていた。だが、待てども待てどもヤスは来な
い﹂
そりゃ行きたくねえんだもん。
﹁こうなったら引っ張ってでもヤスを連れて行く。そう一念発起し
2101
て校舎内を探したが、全然ヤスがみつからない﹂
そりゃ隠れたもん。ポンポコさんの姿が見えたら逃げたし。
﹁1つ聞きたいのだが、何が嫌なのだ?﹂
﹁恥ずかしいだろ。ポンポコさん、ようく考えてみてくれ。誰もが
まったりと過ごしている昼休みに校舎の屋上で、俺が1人で大声で
叫んでいる⋮⋮みんながニヤニヤと俺の事を指を指すのが想像でき
ちゃうじゃんか﹂
﹁ヤス、人の噂も75日だ、人の噂なんてすぐに消えてなくなる。
ヤスがどんなに恥ずかしい事をしようと75日経ってしまえば皆忘
れる。気にするな﹂
﹁このことわざを聞くといつも思う⋮⋮75日ってなげえよ! 俺
は75日も耐えられません﹂
﹁75日とは、季節が変わる事を言うのだ。春から夏に変わってし
まえば、噂なんて忘れてしまう。だから悪い噂が立てられようと、
季節が変わってしまえばみんな忘れるんだからくよくよするなとい
うことわざだ﹂
へえ、知らなかった。
﹁だからヤス、ヤスがどんな変な事をした所で季節が変われば皆忘
れる。屋上へ行ってやろうじゃないか﹂
嫌です。どれだけ他人がその事を忘れようが、本人にとっては一生
の傷になって残るんです。
2102
﹁ちなみにしってるかヤス、英語だとこれは﹃世間の噂もたった7
日﹄と言うことわざに変わるんだぞ﹂
よく知ってるなケン⋮⋮しかし、7日と75日ってずいぶん差があ
る気がするのは気のせいか? 75日は嫌だ。
﹁ヤス、遊びでも本気の勝負でも、ヤスはギリギリの所でいつも負
けているだろう? ついこの間もアオちゃんとサツキにコンマ数秒
の所で負けていた﹂
﹁大きなお世話です﹂
ほんとに大きなお世話じゃ。
﹁ヤスは負け癖がついている!﹂
⋮⋮ものすごく大きなお世話じゃ。
﹁気持ちで最後の最後、相手に負けているのだ。思いっきり叫んで
負け犬根性を全て吹っ飛ばして気持ち改革だ﹂
﹁めんどいから嫌。そんなんで負け犬根性無くなるんかい。ってか
負け犬って言うな﹂
﹁そう言い訳をして何もしないから負け組になるんだ﹂
⋮⋮でも、勝ち続けるって、いつも自分を精進し続けながら、負け
ないように気を張っていないといけないんだろ。大変じゃん。や、
そもそも﹁勝ち組﹂﹁負け組﹂という言葉はあるけど、個人的には
2103
今を思いっきり楽しんでいる人が勝ち組と思います。
﹁ヤス、拒否権も黙秘権もヤスには無いのだ。おとなしく私につい
てきて、叫ぼう﹂
犯罪者ですら黙秘権はあるのに⋮⋮どれだけ俺の権利は無いんだろ
う⋮⋮?
﹁ああ、ヤスう。やっと来てくれたんだねえ﹂
ケンは1人教室に戻ってポンポコさんと俺と2人で屋上にのぼって
行ったら、ユッチが誰もいない屋上の中、1人でちょこんと座って
いた。
⋮⋮なんでここにユッチがいるんだっけ?
﹁ユッチっていっつも昼休み、ここに来てたの?﹂
﹁そうだよお。だって約束したじゃん、一緒に叫ぼって。ボクが屋
上に来てなかったら、約束が守れないだろお?﹂
確かに、ユッチとはそんな話をしたかもしれないけど、ずっと来な
かった俺を律儀に待つ必要は無い気がする。
2104
﹁俺、屋上で叫ぶの嫌だって言ったじゃん。ずっと来ない可能性だ
ってあっただろ?﹂
﹁嫌だって言っても、いつか来るかもしれないからさあ。やっぱり
待ってたいって思ったんだあ﹂
﹁来てよって言えばよかったじゃん。毎日あってんだから、いつで
も言う機会があっただろ?﹂
﹁来たくなってから来て欲しいなあって思ったんだあ。いやいやや
るのはつまらないだろお?﹂
そりゃそうだけどさ。
﹁来るかどうか分からないのに待ってたんか⋮⋮待ってる時間って
すごく長く感じられてつらいだろうが﹂
待ってる時間って言うのは、何かしてる時間よりもすごく長く感じ
られてしまうもんだし。
俺には無理っす。30分待ったら、帰るか探しに行くかしそうだ。
﹁別に気にしないよお。待ってる時間も、楽しみの1つだもん。楽
しみの時間は、長い方がいいもん﹂
⋮⋮ごめんなさい。今まで来なかった事、ユッチにすごい悪い事し
てたな。明日からちゃんと来るようにしよ。
2105
224話:待ってる時間も︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹁待ってる時間も∼﹂というセリフの元は﹃H2﹄のどっかです。
知らなくても特に問題ありません。使っていいのかという問題はあ
りますが⋮⋮優しい目で見逃してください。
それでは。
2106
225話:さけべ
まだ今日の昼休みは結構時間が残ってる。
屋上には誰もいない。さけぶには絶好のタイミングだ。
﹁んじゃユッチ、今からさけぼっか﹂
﹁うん!﹂
すごくうれしそうに返事をしてくれるユッチ。それじゃ、一緒にさ
けぶか。
すぅ⋮⋮はぁ⋮⋮すぅ⋮⋮。
﹁県大会に出場するぞー!﹂
﹁県大会に出場するぞお!﹂
﹁東海大会に出場するぞー!?﹂
﹁東海大会に出場するぞお!! ⋮⋮ヤス?﹂
﹁全国大会に出場するぞ?﹂
﹁全国大会に出場するぞお⋮⋮なんでさっきから疑問系なんだあ!
ヤスう!﹂
﹁や、だって現状の俺、地区大会36位だし。この状態で全国に出
場だあってなんだか⋮⋮﹂
2107
﹁気持ちで負けるな、ヤス﹂
⋮⋮んなこと言っても、言葉に出しても心で無理だと思うことはな
んとも本気でさけべないっす。
﹁ヤスの言うとおり、現実と向き合うことも大事だ。だが、それと
同時に、大きな目標も立てよう。小さな目標を立てても、﹃いつか
できる﹄とあまり努力できない。全国出場という大きな目標を立て、
必ず達成するのだと強い気持ちを持とう﹂
それは聞いたけど⋮⋮俺にとっては雲の上というか⋮⋮。
﹁全国大会出場なんて夢物語に聞こえる﹂
﹁思っているだけでは夢はいつまでも夢だぞ、ヤス。夢を描くのは
楽しい。夢を追うことは苦しい。だが、夢を達成した瞬間はもっと
楽しい。できなくても、夢を追っていた時期は苦しくとも振り返れ
ばとてもいい思い出だ﹂
ポンポコさん、どれだけ壮大な夢を今まで追っていたの?
﹁⋮⋮と私の父が言っていた。だからヤスもがんばれ﹂
⋮⋮ポンポコさんの父はどんな夢を描いて、追っていたんだろうか。
人生の先達者の意見、しっかり参考にさせていただこう。
﹁んじゃユッチ、やり直しさせて﹂
﹁いいよお!﹂
2108
ユッチが快くOKしてくれた。
すぅ⋮⋮はぁ⋮⋮すぅ⋮⋮。
﹁インターハイ、強豪校がどうしたー!﹂
﹁インターハイ、強豪校がどうしたあ!﹂
﹁俺たちは、ぜったいぜったい県大会に勝ち進むぞー!﹂
﹁ボクたちは、ぜったいぜったい県大会なんかで負けないぞお!﹂
﹁東海大会でも、観客の度肝をぬいてやるぞー!﹂
﹁ボクたちは東海大会出場選手ぐらい、軽くぶったおしてやるんだ
あ!!﹂
﹁全国大会に出場するぞおー!!﹂
﹁全国大会で大活躍だあ!!﹂
⋮⋮ふぅ。
﹁なんか、さけぶとすっきりするなユッチ﹂
﹁ほんとだあ、なんかすっきりしたあ﹂
恥ずかしいって気持ちも、屋上に俺ら3人以外誰もいないからか、
特に沸いてこない。
2109
﹁さけぶとストレスが発散できるというからな。思っていることを
言葉にすることで開放が手に入り、大声を上げることそれ自体がス
トレス発散に役立つ﹂
﹁へえ、そうなんか﹂
毎日がストレスの人には効果絶大? 俺も時々さけぼっかなあ。
﹁特に誰にも聞かれていないところでさけぶのが効果が高いらしい。
誰かに聞かれていると思うと、それがストレスになる﹂
いわゆる、﹃王様の耳はロバの耳﹄効果だな。あれは結局聞かれち
ゃって⋮⋮その後どうなったんだっけ?
馬鹿には見えない服を着てるんだと言い張る王様に対して﹃はだか
の王様﹄って言いたくて全然いえなかった王様の執事や側近の人た
ちはストレスがたまって仕方なかったに違いない。
屋上には誰もいないので、確かに恥ずかしい気持ちはわいてこない。
ストレス発散には絶好ですな。
﹁ヤスもユッチも、学校生活や家で、いろいろとストレスがたまっ
ているのではないか?﹂
﹁まあ、俺はいろいろあるな﹂
﹁僕も結構たまってるよお?﹂
ほんとか!? 最近のユッチ、いっつも明るいしストレスとは無縁
かと思ってた。
﹁ここでたまには大声でさけんでみたらどうだ? ここなら私たち
2110
以外誰も聞いていないぞ﹂
﹁あっ、それ面白そう! ボクやってみていい?﹂
⋮⋮ユッチ、そんな簡単にのせられるなよ。
﹁いいぞ、どんどんやってみてくれ。ヤスはどうだ?﹂
﹁ポンポコさんがやるなら﹂
人にやらせて自分だけ逃げようったってそうはいかねえよ。
﹁私のストレスはヤスで発散しているから大丈夫だ﹂
⋮⋮はい?
﹁イライラしてストレスがたまって、何かにあたりたくてたまらな
いときは、ヤスにどぎついメニューを言い渡して楽しむ。これが私
のストレス発散方法だな﹂
﹁⋮⋮それはひどくないっすか? それで怪我したらどうするんす
か﹂
ポンポコさんのメニュー、信じてやってきたのに。時々ストレス発
散に使われていたとは。
ってか俺がぜーぜー言ってるの見て楽しむってどれだけSなんすか。
﹁怪我しない程度に考えてやっている。ヤスのレベルアップにもつ
ながるのだから気にするな﹂
2111
気にするよ! そんなことサラッと言わないでくれ!
﹁じゃあ、先にボクが叫ぶう!﹂
ユッチ、そんなにストレスがたまってるなんて思ってなかったけど、
ユッチは何をさけぶんだろ。
ユッチのさけびがちょっと楽しみ。
2112
226話:ザ・自己分析
あの後、ユッチが﹁全ての全校生徒に告げるう、ボクは高校生だあ
っ!!!﹂って叫んだと同時に生徒指導の先生一同が屋上に乗り込
んできた。それからも何かを叫ぼうとしてたユッチの口を押さえ、
その場にいた俺とポンポコさんも生徒指導室に連れて行かれた。
先生が﹃またお前か﹄みたいな目で見たので、説教の時間はめっち
ゃ短かった。俺、反省質の常連になってるから、先生も怒るのを諦
めているらしい。
説教の時間は短いけど、そのかわり反省文は山のように書くように
言われた。そんなに書く事ありませんがな。
後からケンとアオちゃんに聞いた話によると、学校中に響き渡って
いたらしい。
俺とユッチの叫び声はそんなに大きかったのか?
今は6時間目が終わった放課後のホームルーム。せかせかと反省文
を書くという内職中。
今回の反省文の量は計75枚、今回は擬人風に書き上げてる。円陣
戦隊では校内放送で読まれると言う屈辱を味わったが、読み上げら
れないようにまともな反省文で書き上げてみせる。
﹁さて、早く帰りたくてうずうずしてると思うけど、ちょっと先生
2113
の話を聞いてね﹂
⋮⋮ウララ先生、何かもったいつけた言い方やな。
ちょっと気になったので、原稿用紙に向かっていた手をいったん止
めて、ウララ先生の方を向く。
﹁みんな覚えてるかな? 1学期の終わり頃に﹃自己分析﹄ってや
ったでしょ?﹂
⋮⋮そんなのやったっけ? 全然覚えてない。
﹁ああー⋮⋮やったやった!﹂
﹁全部で100問くらいあってめっちゃめんどかった﹂
﹁変な質問、多かったよね?﹂
﹁﹃周りの全ての人はスパイだと思う﹄みたいなのとか﹃私は今ま
で生きてきて一度も嘘をついた事が無い﹄とかだよね﹂
ああ、思い出した、あったあった。
あれがどうかしたか?
﹁ようやく結果が届いたので、今からみんなに配ります。3者面談
の時に配ろうかとも思ったんだけど、みんなでお互いに結果見たい
かなって思って﹂
ふむふむ、なるほど。
自己分析がどんな結果になったのかは俺としてもちょっと楽しみだ。
2114
﹁これをみて、自分がどんな学部や学科に行きたいか、どんな職業
に向いているのかなっていう1つの指標にしてね﹂
学部ねえ⋮⋮俺なんか理系か文系かも決めてないのに。どっちが向
いてんだろね。そもそもどんな学部があるかすら知らないや。
ま、まだ先があるさ。
﹁はい、ヤス君﹂
﹁はいどうも、ウララ先生﹂
⋮⋮さてさて、俺はどんな性格だって分析されたのかな?
ーーー
あなたはとても分かりやすい性格をしています。
ーーー
⋮⋮ほおほお、俺、分かりやすい性格なんか。機械にまで分かりや
すいって言われるとは、どこまで分かりやすいんだ俺。
ーーー
自主性:
あなたは、自分の意見がしっかりしていますが周りの意見に流され
る人です。
2115
ーーー
﹁どっちやねん!? めっちゃ分かりにくいやん!﹂
⋮⋮突然大声で叫んだせいで、クラスメイトの視線が一斉に俺に注
がれる。視線が痛い。
﹁ええと、お気になさらず﹂
俺も周りの視線は気にしないようにしよう。
ーーー
規律性:
あなたは、みんなで頑張ろうと口では言いますが、実は心の奥底で
は自分が頑張ってればそれでいいと思っています。
ですが、1人になったら1人になったで寂しがり、みんなと一緒に
やりたがります。
ーーー
﹁俺って嫌なやつ⋮⋮その上、ひねくれ者ですな、俺。こんだけひ
ねくれてていいんだろうか﹂
ーーー
積極性:
あなたは、一所懸命何でもやろうとしますが、実はとても面倒くさ
がりや。
ーーー
﹁だからどっちなんだよ⋮⋮﹂
2116
この自己分析、本当に役立つんだろうか。
−ーー
思考性:
あなたは物事をとても深く考える性格をしています。しかし、結論
はいつも表面的です。
周りの人は悩み抜いた結果がそれかいなとツッコミを入れたくなり
ます。
ーーー
⋮⋮俺っていろいろ考えてるつもりなんだけど、結局これって悩む
意味が無いって事なんかなー⋮⋮ちょっとこの紙を破りたくなった。
ーーー
情緒の安定:
普段は大人びていて落ち着いているように見えますが、いつもどこ
かで慌ててます。結局あなたどっちなんですか?
ーーー
﹁それは俺が聞きたいよ! それを答えるのが自己分析じゃねえの
!?﹂
⋮⋮なんで機械にまでこんなバカにされた気分にならにゃあかんの
だ。腹立つー。
ーーー
社交性:
皆無です。
ーーー
2117
うぜえ、めっちゃうぜえ! もうちょっとオブラートに包むとか、
なにかしらあるだろ!
皆無って何さ!? フォローの言葉も何も無し!?
ーーー
慎重さ:
途中まではとても慎重に物事をすすめようとします。ですが、最後
の最後になってありえない適当さで物事をすすめ、今までの積み重
ねをなにもかもを棒に振る性格をしています。
ーーー
⋮⋮意味ねえ。なんてダメな人間なんだ、俺。
ーーー
持久力:
いつか身に付く⋮⋮かもね?
ーーー
何で疑問系!?
ーーー
指導力:
⋮⋮⋮⋮⋮ぷっ。
ーーー
機械にまで笑われる俺の指導力。この自己分析を作った野郎をぶん
殴りに行きたい。
ーーー
総評:
2118
あなたは自己矛盾を多く抱えて生きています。あれを絶対したい、
でもしたくない気持ちでもいっぱい。このような二律背反の考えが
常にせめぎあっています。結局あなたはどうしたいのでしょうか?
ーーー
﹁だから、俺に教えてくれるんじゃなかったのかよ!? 俺に聞い
てどうするよお前!?﹂
ーーー
そんなあなたはどの学問にも向いてると言えますし、どの学問も不
向きだとも言えます。よく言えばオールラウンダーですが、私に言
わせれば﹃中途半端!﹄ または﹃器用貧乏!﹄
ーーー
中途半端、器用貧乏と言われるとは⋮⋮俺は馬鹿にされるの言葉を
聞きたいんじゃない。どの学部が向いているかを聞きたいだけなん
だ。
ーーー
人に頼るな、自分の道は自分で考えるんだ。
ーーー
﹁うぜえ! 何でてめえが説教たれるんだよ!﹂
ーーー
さあ、そんなあなたにはどんな人がいいかを紹介しましょう。
ーーー
⋮⋮出会い系か? いつから自己分析表は出会い系に変更になった
んだ?
2119
そんなもの当たるかと思いつつついついみてしまう、ダメな俺。
ーーー
エントリーナンバー1!
自己矛盾だらけのあなたを全部包み込んでくれる、お姉さん系
あなたの意味不明の言動も笑って受け止めてくれるお姉さんを探し
てみましょう。
ーーー
⋮⋮俺の言動、そんなに意味不明?
笑って受け止めてくれるお姉さんなんて⋮⋮どこかにいないかな。
ーーー
エントリーナンバー2!
あなたの変な所に気がつかない、ちびっ子がいいですよ。
2人揃って好き勝手な発言を繰り返す、お子さまカップルの出来上
がりだああ!!!
ーーー
どんなカップルやねん。
ちびっ子ちびっ子⋮⋮ふと頭に浮かんだのは、ユッチ。
ちびっ子と言われて同級生を思い浮かべんなよ、俺。
ーーー
エントリーナンバー3!
あなたの変人っぷりにずっと前から対面していてもう慣れてしまっ
た幼馴染。
あなたにもし幼馴染がいたら、唯一のチャンスかも。
ーーー
2120
いねえよ、未だに昔からの付き合いがあるのはケンだけだっつーの。
ケンがパートナー⋮⋮おえぇ⋮⋮。
ってかこの自己分析作ったやつ、妄想しすぎだろ。
幼馴染と結婚することって、現実にどれくらいあるんだろうか。
⋮⋮あ、サツキを入れたらサツキもずっと前から対面してたって事
になるのか?
⋮⋮考えるのはやめよう。
ーーー
エントリーナンバ−4!
男らしい女性は、豪快にあなたを引っ張っていってくれます。
でも、時には女性も甘えたいもの、そんなときあなたがしっかりリ
ードできたら春到来の予感?
今のあなたには無理ですね。
ーーー
﹁うるせえ! お前に言われたないわい!﹂
自己分析表、他にも色々細かな事が書かれていたけど、鞄の中にし
まってもうみないようにした。
ムカつくなあ⋮⋮さっさと部活行こ。
﹁ヤス、さっきから何1人で騒いでたんだ?﹂
ケンと廊下を歩いてて、話しかけられた。
﹁ちょっと自己分析の結果にムカついて。⋮⋮ケンは自己分析の結
果はどうだったんだ?﹂
﹁ん? みるか?﹂
2121
ケンが鞄からささっと自分の自己分析表を出して、俺に渡してくれ
た。
ええと⋮⋮何々?
ーーー
総評:
この自己分析から、あなたの性格の傾向はうまく抽出できませんで
した。
ーーー
⋮⋮あれ? これだけ?
﹁え、まじこの1文だけ?﹂
﹁ん? まじだぞ。他に何にも書かれてなかった﹂
﹁⋮⋮自己分析の意味ねえなあ⋮⋮何の役にも立たんやん﹂
﹁それでいいじゃん﹂
⋮⋮はえ? 自己分析の結果が出ないって何か悔しくないか?
﹁俺の性格は俺が決める! 機械なんぞに決められてたまるかって
の! こんな紙切れ1枚に俺の何が分かるんだって話だよ。あなた
はこの学部学科が向いてますって書かれたからその学部に行きます
なんて、そんな事はしたくねえよ﹂
﹁⋮⋮なるほどお﹂
2122
﹁ヤスも変な事書かれてたからって気にすんなよ。それよか練習す
っぞ練習﹂
﹁おー! 分かった!﹂
うおし、何か腹立ってた気持ちがどっかに吹っ飛んだ。頑張るぞ俺!
⋮⋮でも、あの自己分析表はとっとこ。
2123
226話:ザ・自己分析︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
屋上で何かを叫ぼうと思いましたが、1話分のネタが思いつかず、
断念しました。今後、叫ぶネタが揃ったら、屋上で叫ぶかもしれま
せん。叫びたいネタがありましたら、教えてくださると嬉しいです。
ケン君のセリフ。
﹃自分自身の性格は自分で決める。機械なんぞに決められたくない﹄
高校時代の友人のセリフです、今でも思い出します。
それでは。
2124
227話:死ねばいいのに
10月18日土曜日。
今日も快晴! いい練習日和っす。そんでは、陸上競技場へ行って
練習練習。
陸上競技場では、いつもと同じ通り女子短距離と俺。女子短距離は
ウララ先生の元に集まって今日の練習メニューについて何か聞いて
いて、俺はちょっと離れた所でポンポコさんと2人で話をしてる。
﹁ポンポコさん、今日のメニューはなんやの?﹂
﹁そうだな、何がいいか⋮⋮。ところでヤス、そろそろ駅伝の時期
だ﹂
﹁ほやね、それがどうかしたか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
あれ、沈黙しちまった。何か変な事言ったかな。
﹁ヤス、いつ駅伝があるか知っているか?﹂
2125
﹁11月2日﹂
ウララ先生が配った年間スケジュールに載っていた。
﹁それでは駅伝は何区間あるか知っているか?﹂
﹁7区間だろ? それくらい知ってるよ﹂
﹁距離はそれぞれ何キロか知っているか?﹂
なんだか矢継ぎ早に聞いてくるな。俺がどれだけ知っているか、そ
んな知りたいのか?
﹁えっと⋮⋮1区が10キロ、2区が3キロ、3区が8.0975
キロ、4区が5.0975キロ、5区が3キロ、6区が3キロ、7
区が10キロの計42.195キロ走るんだろ?﹂
﹁間違いだ⋮⋮どこからそんな情報を知った?﹂
﹁﹃奈緒子﹄って漫画﹂
最近映画化された。陸上漫画の名作だと思っているのだが。
﹁ついにヤスは漫画と世界が混ざり始めたか⋮⋮末期だな﹂
﹁ちょっとポンポコさん!? 俺を奇人扱いしないでよ!? 区間
距離、これで違うの!?﹂
あんだけ丁寧に色々描写していたので、間違いは無いと思ってたん
だけど。
2126
﹁漫画の情報をうのみにするな、あくまで漫画は漫画、娯楽作品だ。
物語を面白くするために、現実ではありえない事を書く事もしばし
ばだろう? 漫画で新しい事を知ったと思ったら、ほんとかどうか
調べてみる事だ﹂
﹁⋮⋮ラジャ﹂
間違いだったのか。ちょっとショック。
﹁実際の区間距離は1区10キロ、2区3キロ、3区8.0975
キロ、4区8.0975キロ、5区3キロ、6区3キロ、7区5キ
ロだ。それでヤス、そろそろ駅伝の時期だ﹂
﹁ほやね、それがどうかしたか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
さっきより、沈黙の時間が長い。何か俺は変な事を言っているのだ
ろうか。
﹁ヤス、ひとつ聞きたいのだが、なぜ他人事のように返事をするの
だ?﹂
﹁だって他人事やん﹂
﹁⋮⋮ヤスは長距離をやっているだろ? なぜ他人事になる?﹂
確かにそれはその通りなんだけど。
2127
﹁駅伝って7人走るものじゃん﹂
﹁その通りだ﹂
﹁駅伝って1人では走れないじゃん﹂
﹁その通りだ﹂
﹁俺って1人じゃん?﹂
﹁そこは間違いだ。大山高校には長距離を走っている1年2年は他
にもいる﹂
うん、最近まではそう思ってた。だから駅伝、頑張ってみよかあっ
て思ってた。
﹁ポンポコさんの言う通りなんだけど⋮⋮一緒に練習してる訳でも
無し、一緒のチームという感じでも無し。一緒に走るという気分が
わいてこないと言うか。そう言えば、自分が走らなくても大山高校
の長距離、1年と2年でぎりぎり7人いるんだから、出られるし﹂
ノンキとマルちゃん、中長距離の先輩が4人、400、800をや
っている先輩が1人。この先輩を入れれば、なんとか7人いる。こ
の先輩は去年も駅伝出たらしいし。
﹁⋮⋮他のメンバーを巻き込んで頑張ろうという気は起きないか?﹂
﹁うーん、ノンキにマルちゃん、先輩たちか⋮⋮﹂
まったく起きてこねえ。ほんとにわいてこねえ。全然感じねえ。
2128
﹁⋮⋮ウララ先生も﹃ヤスに長距離の事、話してみたけど、あれか
ら何も言ってこない﹄と聞いていたが、その考えではウララ先生の
所に行くはずも無いな﹂
ああ、そう言えば夏合宿の時にウララ先生から長距離メンバーにつ
いて、今後どうしていくか相談を持ちかけられたけど、自分じゃど
うしようもないなって放置してたな。
﹁ユッチから聞いたのだが、ヤスがアオちゃんに﹃みんなで頑張ろ
う﹄と励ましたそうではないか。それは口からでまかせか?﹂
﹁や、でまかせじゃないけどさ。俺の中の﹃みんな﹄ってのは例え
ばアオちゃんだったり、ユッチだったり、サツキだったり、ケンだ
ったり、ゴーヤ先輩、キビ先輩、ポンポコさんだったりするんだよ
ね。頑張ってるメンバーと励まし合って頑張っていきたいんであっ
て、頑張ってないメンバーとは、どうでもいっかって感じ?﹂
頑張ってない人を頑張せるってのはとても大変だし。頑張らせる事
を頑張るはめになって、とても疲れそうだ。
﹁⋮⋮ヤスの気持ちも分からなくはないのだが、駅伝は走っていい
のではないか?﹂
﹁でも、あのメンバーと⋮⋮って思うと気持ちが萎えるんす﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
また黙ってしまった。一体何を考えているのだろう。
2129
﹁もう1回聞くのだが、駅伝を走る気はないのか?﹂
﹁ないっすねえ﹂
﹁最後に聞く⋮⋮本気で駅伝を走る気はないのか?﹂
なんだかポンポコさん、さっきから念を押すなあ。何をそんな聞き
たいんだろ。
﹁あのメンバーとじゃ、無いっすね﹂
﹁⋮⋮そうか、分かった﹂
そう返事するとポンポコさんは後ろを振り返り、短距離が練習して
る方へ歩いてった。
﹁⋮⋮あれ? ポンポコさん、今日のメニューまだ聞いてないっす
よ?﹂
⋮⋮返事が無い。俺、どうすりゃいいんだろう?
﹁ポンポコさん、聞いてる?﹂
返事がやっぱり無い。
﹁ポンポコさん! 聞いて!?﹂
⋮⋮お、やっとゆっくり振り返ってくれた。うつむいて俺の方向い
てくんないけど。
2130
﹁あのさポンポコさん﹂
﹁⋮⋮ねばい⋮⋮に﹂
ん? なんか言ったか?
﹁ポンポコさん、よく聞こえない。もう1回言って?﹂
﹁死ねばいいのに﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮え?
そうつぶやいた後、またこっちも向かず、短距離の方へ歩いてった。
あれ? えと? 俺の聞き間違いっすよね?
⋮⋮あれ?
2131
227話:死ねばいいのに︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
きっついタイトルですみませんm︵︳
﹁毎日投稿ってやっぱり大変だわあ﹂
と妹にぼやいたら、
︳︶m
﹁そんなのとっくに崩壊してるじゃん。今さら何言ってんの?﹂
ときっつい一言をいただきました。
毎日投稿、出来ていないのに見にきてくださる方々、感謝です。
それでは。
2132
228話:人の気持ちを考える
﹁ヤス兄、最低﹂
﹁⋮⋮えと、なんで?﹂
﹁ヤス君、それはヤス君が悪いですよ﹂
﹁⋮⋮だから何で?﹂
﹁ヤス兄、それぐらい自分で考えてみてよ。考えたら分かるでしょ
?﹂
⋮⋮考えてみた。さっぱり分からない。
﹁⋮⋮﹂
﹁ヤス君、分からないんですか?﹂
﹁⋮⋮分からないっす。何で俺、ポンポコさんから﹃死ねばいいの
に﹄なんて言われなあかんの?﹂
﹁本当に分かんないの? ヤス兄?﹂
⋮⋮さっぱり分からん。ポンポコさんを怒らせるような発言をした
記憶が無い。
﹁ヤス兄、今すぐポンポコ先輩の家に行ってきちんと謝ってきた方
2133
がいいよ﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ヤス君、黙ってないで何か言いましょう﹂
⋮⋮言ったら絶対ぼろくそに反論するだろ。そんなんはごめんっす。
今は練習が終わってサツキ、ユッチ、アオちゃんと帰宅途中。今日
はポンポコさんからメニューを与えられなかったので、先週と同じ
15キロ、キロ4分で走ってた。先週はポンポコさんが応援してく
れたから張り合いがあったけど、今日は一言も声をかけてくれなか
った⋮⋮寂しい。
ポンポコさんから﹃死ねばいいのに﹄って言われた事と、ポンポコ
さんがそう言って怒るまでの会話を話したら、サツキとアオちゃん
からけちょんけちょんにおとしめられ、やや落ち込んでます。
﹁ヤス君、ヤス君の言い分もきっとありますよね? 聞きますから、
どうぞ話してください﹂
俺の言い分は、さっき話した所で終わりなんだが⋮⋮もう一度話す
か。
﹁ええとだな、駅伝って1人で走る訳じゃないじゃん、7人揃って
走る訳じゃん﹂
﹁そうですね﹂
﹁7人の仲間ってマルちゃんとかノンキとか、やる気の無い先輩と
2134
か、そんな人ばっかりなんだよ。やる気が起きないんだよ﹂
﹁そうだね、その通りだと思うよ﹂
﹁俺は、そんなやる気ないメンバーとは一緒に走る気がおきないな
って思うんだよ。だったら走らなくてもいいじゃん﹂
﹁ヤス兄、最低﹂
⋮⋮なんで最低って言われるの?
﹁ヤス兄、周りの人の気持ちになって考えてみようよ﹂
﹁俺は全ての物事を主観的にしか見る事が出来ないんです! あな
たとは違うんです!﹂
⋮⋮。
⋮⋮。
⋮⋮。
あなたとは違うんですを何となく使ってみたくなった。
だが、周りの白い目を見ると使っちゃダメだったのかと後悔。
﹁ヤス君、今はふざけるのはダメですよ。それで周りの人の気持ち
になって考えてみてください﹂
﹁人の気持ちなんて分かんないっすよ﹂
2135
﹁ヤス君、分からなくても考えるんです﹂
⋮⋮ええと、どう考えればいいかな。
﹁ノンキとマルちゃん、先輩の立場に立って考えてみる。今まで一
緒に練習をしてこなかったヤスとか言うやつが、突然駅伝メンバー
に入る事になった。その時のみんなの心﹃何あいつ﹄﹃邪魔やなー﹄
﹃いいよいいよ、無視してればいい事やん﹄﹂
⋮⋮考えなければよかった。みんなしてそんな事考えているんだろ
うか。激しく落ち込む。
﹁そんなメンバーどうでもいいんです、忘却の彼方にいってくださ
い﹂
ノンキ、マルちゃん、先輩方⋮⋮アオちゃんの中ではみなさん忘れ
去られようとしています。
﹁ヤスう、それ誰だったあ?﹂
そしてユッチの中では既に忘れ去られています。
﹁私は覚える必要の無いものは覚えないよ﹂
サツキにいたっては覚える気がありません⋮⋮お前らはお前らでひ
どくないか?
﹁もっと大事な人の気持ちを考えてください﹂
⋮⋮⋮⋮分かりません、誰の事言ってんの?
2136
﹁ヤス兄、ポンポコ先輩の気持ち、考えてみようよ﹂
ポンポコさんの気持ちがわからないから相談しているのであって、
分かったらきっと怒らせてない。
﹁ポンポコ先輩って夏休みあたりから、ヤス兄のためにメニューを
考えて、この練習をするとこんな効果があるって意義を教えて、時
にはヤス兄1人の練習に自転車に乗ってつきあって、練習ノートの
書き方も心構えもヤス兄のために考えて⋮⋮ポンポコ先輩の気持ち、
わかった?﹂
﹁わからん﹂
﹁えっとね、それぐらいヤス兄の事を手塩にかけて育ててるわけな
んだよ。ポンポコ先輩にとっては、ヤス兄は弟子みたいな気分じゃ
ないのかな﹂
なるほど。俺はポンポコさんにとって弟子と言う立場に置かれてい
たのか。
﹁やっぱり師匠にとって、弟子の成長をみるのはとても楽しいもの
でしょ。だから、頑張って育ててる弟子の成長を試合でみたいって
気持ちがポンポコ先輩にはあると思うんだよ。にもかかわらず、弟
子から﹃やる気ありません﹄﹃走る気はありません﹄なんて言われ
たら、弟子の活躍をみる事を期待してた師匠の気持ちに立って考え
ると、裏切られた気持ちになるんじゃない?﹂
⋮⋮なるほど。
2137
﹁﹃ポンポコさんは俺にとってはただの同級生で、師匠でもなんで
もない。勝手に期待して勝手に裏切られた気分になって、そんな気
持ち知ったこっちゃない﹄って言っちゃったらそれまでだけど、そ
れだけヤス兄に期待してくれてるポンポコ先輩の気持ちも分かろう
よ、ヤス兄﹂
﹁⋮⋮すみません﹂
﹁謝る相手はポンポコ先輩だよ、ヤス兄﹂
⋮⋮すみません、今は心の中で謝る。今度あったらきちんと謝ろう
⋮⋮いや、今からポンポコさんの家に行こかな。
2138
228話:人の気持ちを考える︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。いきなり昨日投稿できずに
ごめんなさい。
人の気持ち⋮⋮私は人の気持ち、さっぱり分からないんですよね。
相手の立場に立って、自分だったらこうして欲しいと思う事、人に
とってはどうでもいい事だったりします、逆に自分にとってはどう
でもいい事が、普通の人には嬉しい事だったり︵T︳T
自分にとっちゃどうでもいい事だけど、人はこうしてもらえると嬉
しいって考えながら行動するのって、とても疲れます。何かいい方
法は無いでしょうか。
それでは。
2139
229話:ポンポコさんの兄弟
あれから、ユッチ達とはすぐに分かれてポンポコさんの家に向かい、
ようやくポンポコさんの家についた。
いつもはサツキについてきてもらってたんだけど、今回は1人でポ
ンポコさんの家に向かう。
すー、はー⋮⋮。
インターフォンを押すだけというのにすごく緊張してしまう。
﹁緊張するな、いつもと同じように挨拶して、いつもと同じように
謝って、いつもと同じように笑えばいいんだぞ﹂
⋮⋮インターフォンを押す人差し指の震えがさっきから止まらない。
拒絶されたらどうしようかと言うこの恐怖が俺を踏みとどまらせて
しまっている。
﹁いやいや、ごめんなさいを言わないといつまでたってもポンポコ
さんに嫌われたまんまだぞ。俺⋮⋮﹂
自分で自分にいい聞かせながらもなかなか最後の一歩が踏み出せん。
﹁あれ? ヤスじゃん、そんな所で突っ立ってどしたの?﹂
⋮⋮後ろから声をかけられて、ふと振り返るとポンポコさんのお兄
さんの1人、三太さんが立っていた。なんだかお久しぶり。
買い物帰りなのか右手にエコバッグをもってる。
2140
声をかけられると思ってなかったので、ちょっとびっくり。
﹁あ、お久しぶりです。ちょっとポンポコさんに用がありまして﹂
﹁⋮⋮用件は?﹂
俺がポンポコさんの名前を出した途端、いきなり雰囲気が変わった。
そ、そんな声を低くしないでください。めっちゃ怖いっす。
﹁ええとですね、ちょっと今日ポンポコさんを怒らせてしまいまし
て﹂
﹁⋮⋮今なんと?﹂
さらに1オクターブ声が低くなった。ヘビに睨まれたカエルの心境
を少し理解した。
﹁今日ポンポコさんを怒らせて﹂
﹁⋮⋮﹂
最初は柔和な顔つきだった三太さん。いつの間にか般若のような顔
つきになっている。
こ、こええ。漫画とかだと三太さんのバックからズゴゴゴゴゴ⋮⋮
みたいな効果音が聞こえてきそう。
﹁⋮⋮貴様だったのか﹂
な、なにがでしょうか。三太さん。
2141
﹁部活から帰ってくるなり妹が部屋に閉じこもってる原因となった
のは貴様か!﹂
そ、そんなにポンポコさん、落ち込んでるんでしょうか⋮⋮。
﹁妹を泣かせたのは貴様かー!﹂
な、泣いた!? それはや、やばいっす⋮⋮。
﹁死刑!﹂
三太さん、俺の話もちょっとだけさせてください!
言い訳しようと口を開いた瞬間エコバッグから大根を取り出して振
り上げてきた。
﹁ちょっと待って! それ絶対めっちゃ痛い!﹂
﹁妹が貴様につけられた心の痛みはこんなものじゃない!﹂
まだ三太さんには何も説明してない! ⋮⋮ポンポコさんを泣かせ
たって事で、きっとその時点で情状酌量の余地はないんだろうな⋮
⋮。
頭上からすごいスピードで大根が落ちてくる。
﹁ストップストップ!﹂
俺が声を張り上げた時は時既に遅し。目の前が真っ白になる。
ボキッ!
2142
大根が自分の頭上で2つに割れた音がした。同時に自分の頭にも鈍
痛が走る。
﹁いったあ⋮⋮﹂
﹁ち、今ので夢の世界へ旅立たせるつもりだったのに、まだ意識が
あるか。こうなったら次はフライパンだな﹂
⋮⋮なんか不穏な言葉が聞こえた。フライパンて何? フランスパ
ンの聞き間違いだよな?
エコバッグからフランスパンが出てくることを期待していたのだけ
ど、やはり出てきたのはフライパン。
それを大きく振り上げて、俺に迫ってくる。
﹁三太さん! それは夢の世界じゃなく死後の世界へ旅立っちゃい
ます!﹂
﹁それもまた一興!﹂
いや! 全然面白くないから!
迫ってくる三太さんから逃げるため、急いで玄関まで行き、ドアを
開けてポンポコさんの家の中に逃げ込む。
急いで鍵をかけなきゃ!
慌てているせいかなかなか鍵がかからない。三太さんがドアノブを
ひねって開けようと言う瞬間、ようやく鍵をかけることに成功⋮⋮。
ふう、助かった。
﹁こらあ! ヤス! ここを開けろ! 今開けたら許してやる!﹂
めっちゃ許す気0じゃないっすか!? そんな口調で言われてもこ
2143
こを開けるわけにはいかないっす!
﹁⋮⋮三兄、さっきから何騒いでんの? ってヤスじゃん、今日は
どうしたの?﹂
背中の声を聞いて、後ろを振り返れば四狼。
﹁四狼! ヤスをふんじばれ! ポンポコを泣かせた張本人だ!﹂
⋮⋮三太さんが声をかけた途端、四狼の顔つきが変わった。
親の仇にでもあったような顔。そこまで俺が憎いか。
﹁待ってろヤス、今から包丁を持ってきてやるからな⋮⋮﹂
四狼⋮⋮発言が過激すぎる。こちらを警戒しながら、台所の方へ向
かっている。ほんとに包丁を持ってくる気じゃないだろうな⋮⋮。
しかし、この状況はどうしよう⋮⋮どちらに逃げようとも敵が待っ
ている。前門の虎、後門の狼⋮⋮。
自分が身動きとれずにいる状況を見て、もう俺が動くことが無いと
判断したのか、一旦台所に消えた四狼。
四狼がいなくなった、三太さんは中に入って来れない⋮⋮動くなら
今がチャンス。今なら2階にあるポンポコさんの部屋まで障害物は
何も無しでいける!
四狼がまた姿を現す前に玄関からポンポコさんの部屋まで一気に駆
け上がる!
半ばまであがった所で四狼がまた台所から姿を現した。
﹁待てや! てめえはポンポコの部屋には絶対入れさせん!﹂
2144
やばいやばいやばいやばい! まじで包丁もってやがる! 何考え
てんだよあいつ!
残りの階段を一気に駆け上がり、一番手前のポンポコさんの部屋に
逃げ込み、近くにあったものでつっかえ棒をたてて四狼の侵入を防
ぐ!
﹁てめえ! あけろや!﹂
どんどんと激しい音を立ててドアを叩くが、つっかえ棒が邪魔をし
て四狼は中に入って来れない。
四狼に何を言われようと、絶対に開けません⋮⋮助かった。
⋮⋮ポンポコさんにあいにきただけで、なぜこれほどまでに障害が
あるんだろうなあ。
さ、とうとう本番のポンポコさん⋮⋮一番の難関、ちゃんと許して
もらおう。
2145
230話:妄想少年
﹁⋮⋮﹂
さっきまでドアをどんどんと叩いてた四狼は諦めたのか、ドアを叩
くのをやめている。
⋮⋮そんなことはどうでもいいんだ。俺は今とても困っている。ポ
ンポコさんの部屋の中、俺はずっと壁を凝視。
﹁⋮⋮頼む、この状況を誰かどうにかしてくれ⋮⋮﹂
神に祈っているが、どうにもならないことは分かってる。謝ろうと
思ってここまで来た。この部屋の中まで、ポンポコさんの兄弟に追
われながらも四苦八苦しながらやってきた。
⋮⋮⋮⋮や、そんなすごい状況なのかは人によると思うんだけど。
俺にとっては天国と地獄の狭間で悶え苦しむ状況なんです。
ええと⋮⋮部屋の中に入ったら、ポンポコさんがベッドで寝ていた
んすよ。んで、パジャマに着替えてたんすよ⋮⋮なんでか、ちょこ
っと胸の辺りがはだけていたんです。そしてブラをしてないんです
⋮⋮女子って寝る時ブラをしないものなんだろうか。そういやサツ
キもしてないな。
さっきから壁を凝視しながらも、横目でどうしてもちらちらと見て
しまう⋮⋮この本能、どうにかならないだろうか、さっきから理性
が押さえつけているけど、大暴走を引き起こしそうだ⋮⋮ポンポコ
さん、早く起きてくれ。
2146
﹁くそお、普段から見ていればきっとこんな緊張することはないだ
ろうに⋮⋮﹂
明日からサツキの胸をじっと凝視していようか。
うん⋮⋮いい考えかもしれん。緊張してしまうのはきっと慣れてい
ないからだ。だから今、隙間から垣間見える胸だったり太ももだっ
たりについつい目が行ってしまうんだ。普段からそんなんを見慣れ
ていればきっと何も思わない、何も感じなくなる。そうだ! 見慣
れてしまえばいいんだ。家に帰ったらエロ本とDVDをたくさん買
って⋮⋮いやいや、俺は何を考えているんだ。生を見ないとダメじ
ゃないか! そうしないといつまでたっても慣れないじゃないか!
何も感じられなくなるには生を見るしか無い!
⋮⋮ん? 何も感じなかったらそれはそれでダメじゃないのか? 性欲というのは人間の3大欲求の1つなんだ。これが無くなってし
まったら子孫繁栄が出来ない⋮⋮よし、自分に言い聞かせるぞ。こ
うやって女性の体を見たいと思ってしまうのは自然の現象なんだ、
だから大丈夫だ⋮⋮⋮⋮そう言えば、女性の胸を見慣れてしまった
ら、このドキドキ感は無くなってしまうのだろうか⋮⋮きっと無く
なってしまうだろう。
あれ? それもダメじゃないか!
ううむ、悩ましい問題だ。どうするか⋮⋮そうか! 見えそうで見
えなければきっと延々とドキドキし続けられるはずだ。ええと⋮⋮
これを何と言うんだったかな。⋮⋮そうだ、チラリズム! チラリ
ズムと言うやつだ。 チラリズムはただすっぽんぽんでいるよりも、
女性の美しさが際立つと言う話も聞いたことがある。女性の恥じら
う姿がとても美しいのだとか。
よし、明日からサツキに頼んで風呂上がりには少しだけはだけて、
チラリズムというのを実践してもらうぞ。
2147
未来のことは決まった⋮⋮それよりも現状をどうにかしないとだ。
明日からサツキにチラリズムを実践してもらうとして、今チラリズ
ムで俺の3大欲求の1つを延々と膨らませているポンポコさんのパ
ジャマ姿をどうやってしのぐか⋮⋮ちらっと横目で見ると、今もま
だポンポコさんはスースーと寝てる⋮⋮そして俺が見ている目の前
でくるっと寝返りを打つ。さらにパジャマが乱れて余計胸がはだけ
る。
﹁⋮⋮って何みとんねん!? 俺!?﹂
いや、胸の部分の最後の1線が見えなかった。ギリギリで見えなか
った。ホッとした気もするが、ものすごく残念な気持ちでいっぱい
だ。
⋮⋮いや、なぜ俺はここまで恐れているのだろう? 今ポンポコさ
んは寝ているじゃないか。寝てるときに堂々と見ようがバレないじ
ゃないか。
⋮⋮おい自分、バレなきゃ何をしてもいいのか?
⋮⋮いいかな、いいだろ、いいに決まってる。
ゴミのポイ捨ても誰も見て無い所なら誰だってやっているじゃない
か。立ちションだって40すぎのおっさんが誰も見て無いと思って
やってるじゃないか。赤信号だって車が来てない、誰も見て無いと
思ったらちゃっかり渡るじゃないか。1000円札が落ちてたら交
番に届けるけど、100円だったら周りをきょろきょろ見て、﹃ラ
ッキー﹄って自分の財布に入れるじゃないか。
いいんだ。バレなかったら胸をみてもいいんだ。おし、今度こそ最
後の1線まで見るぞ見るぞ見るぞ見るぞ!
2148
グワッと振り返ると、ポンポコさんがパチッと目を覚まし、起き上
がった。
⋮⋮⋮⋮同時に乱れていたパジャマもきちんと元通りになり、はだ
けていて見えそうで見えなかった最後の1線は見れないままとなっ
てしまった⋮⋮。
⋮⋮俺は何であんなに決断をためらったのだろう⋮⋮もう2度とこ
んなチャンスは無いかもしれないと言うのに⋮⋮いつか見れる日が
来るのだろうか。
﹁⋮⋮そこで何をしているのだ? ヤス?﹂
﹁落ち込んでいるんです﹂
見て分かるだろ。千載一遇のチャンスを逃したんだ。そりゃ落ち込
むだろう。
﹁私が聞きたいのは何でそこにいるんだと言うことなのだが﹂
﹁⋮⋮さあ?﹂
ええと⋮⋮俺は何をしにここへ来たんだっけ?
﹁⋮⋮今、私はヤスと話したくはない。出ていってくれ﹂
2149
⋮⋮あ、思い出した!
﹁おっぱいを見に来たんじゃない! 謝りにきてるんだ!﹂
2150
230話:妄想少年︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
⋮⋮何を書いてんだ自分。
それでは。
2151
231話:謝れば大抵のことは許される⋮⋮かも
﹁⋮⋮﹂
﹁ごめんなさい﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ごめんなさい﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ごめんなさい﹂
反応してくれない。ポンポコさん、すっごい怒っているみたい。
⋮⋮そりゃそうか。勝手に部屋に侵入して密室にしたあげく、寝て
いるポンポコさんの胸をまじまじと見ようとしたんだから。
ポンポコさんはパジャマ姿のままベッドの上に腰掛け、俺を見下ろ
している。俺はと言うと、フローリングの床の上に正座中。
床に額をこすりつけ、土下座しながら延々と謝ってます。
﹁ごめんなさい⋮⋮﹂
﹁今、ヤスはどのことについて謝っているのだ?﹂
かなり不機嫌な声音で質問してきた。頭を上げたけど、ポンポコさ
んはそっぽを向いたまま一向にこっちを向いてくれない。
2152
﹁ええと⋮⋮駅伝に出る気が無いなんてふざけたことを言っていた
ことと、胸を見ようとしていたことです﹂
﹁⋮⋮﹂
怒っていて本当に怖いんですが⋮⋮。
返事をしていただけないでしょうか。
﹁えと⋮⋮ポンポコさん?﹂
﹁それで、今は駅伝に出場する気持ちは?﹂
﹁ありますあります! やる気ばりばり!﹂
﹁本当か? 午前中、全く出る気がないと言っていたではないか﹂
うん、その通りです。
﹁ぶっちゃけ、あのメンバーと出場すると言うのは正直気がすすま
ないっす﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁それでも、今は出たいっす﹂
﹁なぜだ? 出る理由は無いぞ﹂
﹁今まで、全くもって使えなかった自分なんかを精一杯サポートし
てくれて、励ましてくれて、いろいろと教えてくれた、ポンポコさ
んのために出たいっす﹂
2153
ポンポコさんの為に⋮⋮そう考えたら、すごくやる気が出た。それ
を教えてくれたサツキに感謝。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
ありゃ、外したか? また全く返事をしてくれなくなっちった。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ふふっ﹂
お、笑ってくれた。
﹁聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフを吐くな。私の
顔が赤くなる﹂
⋮⋮確かに俺は何を口走ってんだ。めっちゃ恥ずかし。
顔がめっちゃ熱くなってきてしまった。
﹁ふふ⋮⋮駅伝を走る人としてはヤスのその言葉はあまりいい心が
けではないが、今はそれで十分だ。頑張ってくれよ﹂
ふぅ⋮⋮ようやく俺を見て笑ってくれた。今、許してもらえたって
事なんだよな。
﹁ところで、そこまで宣言したのだ。いい成績を残すことを期待し
ているぞ﹂
﹁⋮⋮頑張ります﹂
﹁そうしなければ許さないからな﹂
2154
⋮⋮許してもらえてませんでした。でも、もう怒ってみないみたい
だしいっかあ。
﹁そう言えば、1個聞きたいんだけど﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁なんでポンポコさんって俺にこんなに親身になって教えてくれる
の? 不思議でしょうがないんだけど﹂
夏休み頃から不思議でしょうがなかったこと。
ポンポコさんが俺に懇切丁寧になって教えてくれる理由って無かっ
た気がする。
﹁そうだな⋮⋮ヤスがやる気になってくれたことが1つと⋮⋮もう
1つがとても大きな理由なのだが﹂
﹁⋮⋮もう1つは?﹂
すごく楽しみだ、俺ってどこかにそんなに魅力が!?
﹁よく言うではないか。﹃出来の悪い子ほど可愛い﹄と。教えてい
ることを3歩進んで2歩下がるくらいにしか覚えてくれないが、そ
れでもそんなヤスがどれくらいモノになるのか、楽しくて仕方ない
のだな﹂
⋮⋮なあ、今の褒め言葉だよな。誰か褒め言葉だと言ってくれ。
﹁大丈夫だヤス、ヤスはきっとやれば出来る子だ﹂
2155
⋮⋮ポンポコさん、ありがとう。少しだけ寒い心が温かくなったか
もしれない。
その後しばらくポンポコさんの部屋でとりとめの無いことをつらつ
らと話していたのだが⋮⋮
﹁さて、そろそろだな﹂
﹁⋮⋮ポンポコさん、何のこと?﹂
﹁罰に決まっているだろう?﹂
﹁まじ何のこと!? 許してくれたんじゃなかったの?﹂
﹁駅伝のことはいい成績を残すと言うことで一時的に許した。もう
1つの方は全く許していない﹂
⋮⋮もう1つの方?
﹁寝込みを襲おうとしたのだろう?﹂
なんかランクが上がってる!?
2156
﹁ポンポコさん! 未遂です! 何もしてないっす!﹂
﹁ヤス、未遂は罪だぞ? 殺人未遂、傷害未遂、恐喝未遂⋮⋮さあ、
罪にならないものはあるか?﹂
﹁⋮⋮ええと﹂
確かにそうなんだけど、何かが違うような⋮⋮。
﹁無実だと言い張るのならば、私を泣かせた罰と言うことで﹂
⋮⋮言い返せない。さっきまで目が赤かったもんな。
ポンポコさんに手を引かれ、1階の居間まで連れてこられた。
そしてそこには、ポンポコさんの兄弟、一さん、二さん、三太さん、
四狼、五王の5人が勢揃いしてます。
みなさん⋮⋮顔が真っ赤、頭から角が生えてきそうな勢い。ポンポ
コさんを泣かせた俺をとても怒っている様子が目に見えて分かる。
俺が居間のど真ん中に座らされ、一二三四五兄弟&ポンポコさんが
俺を取り囲むように座る。
なんだこの圧迫感。何をされるのだろう⋮⋮。
﹁さあヤス君、ここにうつぶせに寝転がろうか﹂
一さんの命令によりうつぶせになる。この状態では何も反抗できな
い。
﹁バンザイして﹂
2157
バンザーイ⋮⋮。両手を上げた所で、四狼と五王に両手をつかまれ、
身動きできないようがっちりロックされた。
ついでに二さんと三さんが俺の足をもつ。全く身動きができない。
﹁ええと⋮⋮これから何をされるのでしょうか﹂
﹁死ぬよりも苦しい楽しみを与えてあげるから、安心しなさい﹂
どっちだよ!? 苦しいの? 楽しいの?
ポンポコさんと一さんが俺の両脇に座る⋮⋮なんかヤバそうな雰囲
気がぷんぷんですよ。みなさん。
﹁な、な、何する気なんすか!? ええと、手をにぎにぎさせてな
いでください! ⋮⋮あっ、あはっ、あはっ⋮⋮⋮⋮な、なにする
んで!? はははははははっ!﹂
脇やめて! 脇弱いの! 俺脇ダメなの!
﹁あはっは、は、は、ははっ、だめ⋮⋮ひぃひぃひぃひぃーっひっ
ひっひっ! やめてやめてやめてや! っはははははっ!!!﹂
足もやめて! 足の裏弱点なんです! 首筋もだめえ! 太ももと
か、そんな所触らないでー!! ﹁あひっあひっ! あはっははあははっははははっは! ひぃひぃ
ひぃ⋮⋮ひぃ⋮⋮あはははあはははは!!﹂
い、息が⋮⋮。
2158
﹁はっ⋮⋮はっ⋮⋮はぁ、ははっは! た、たすけ⋮⋮﹂
﹃だーめ♪﹄
こ、こいつ⋮⋮ら⋮⋮。
も、む、むり⋮⋮。
﹁あはは⋮⋮ひひひ⋮⋮ふふふ⋮⋮へっへっ⋮⋮おほほのほー﹂
⋮⋮よ、ようやく終わった⋮⋮ピクピクと痙攣を起こしてます。終
わってから10分以上たっているのに、立ち上がれない。
まだ笑いが止まらない⋮⋮。
まさに苦しみと楽しみ、天国と地獄でした⋮⋮。
﹁今度妹を泣かせたら、こんなもんじゃ済まさないからな﹂
⋮⋮了解しました、一さん⋮⋮。
俺は二度とポンポコさんを泣かさないと心に誓ったある日の夕暮れ。
2159
231話:謝れば大抵のことは許される⋮⋮かも︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
くすぐって息が出来なくなっている人を見るのは楽しいと思います。
そう思う自分はきっと変人です。
それでは。
2160
232話:あらし
ごおおおおお⋮⋮
﹁すげえ音⋮⋮父さんと母さん、こりゃ帰って来れねえな﹂
つい15分前くらいから、風も雨もいきなり強くなった。
特に雨がすごい。外に出たら前が見えないんじゃないかって気がす
るな。
今日は10月21日月曜日、くすぐりの刑にあった翌日。頑張るぞ
って意気込んでいたら季節外れの台風がやってきた。午前から上陸
するぞおというニュースが学校に伝わり、12時に早々と暴風警報
が発令。午後から学校が休みになった。
﹁ヤス兄、雨戸も閉めとこうよ﹂
﹁そだな。これからもっと強くなるって言うし⋮⋮閉めとこうか。
他にも窓が開きっぱなしになってるところないかちゃんと確認しと
こうな﹂
﹁うむ、ヤス、頑張れ!﹂
⋮⋮。
﹁ものすごい不思議な事が1つあるんだが⋮⋮﹂
﹁なんだ? 苦しゅうない、申してみよ﹂
2161
﹁どうしてケンがここに居るんだろう?﹂
﹁帰れないからに決まっておろう。マロにこのような嵐の中帰れと
申すのか?﹂
⋮⋮やめい、そのしゃべり方。
﹁や、台風が来てんのは知ってたんだからさあ。今日くらい家にく
るのやめときゃいいのに﹂
﹁今日は何故か父ちゃんも母ちゃんもばあちゃんも兄貴の家いっち
ゃってさあ。1人で家に居るの暇じゃん﹂
⋮⋮台風が来て心配になったのか? いや、台風がくるから退避し
たのかな。ケンも連れてきゃいいのに。
﹁⋮⋮それでも台風の日に友達の家に泊まりにくるのは変だと思う
んだが﹂
俺の感覚、変なのかなあ。
﹁まあいいや、帰れないと言うのは事実だし。泊まってけ﹂
﹁さっすが! ありがと!﹂
﹁週3でケンが泊まりにきてるとなんだか感覚がおかしくなるなあ
⋮⋮﹂
週3で友達が泊まりにくるって言うのは普通なのだろうか?
2162
﹁俺って週3がヤスの家で、週2が兄貴の家で週2でばあちゃんの
実家行って週0が自分の家で寝てるんだが⋮⋮どこが俺の家なんだ
ろうなあ?﹂
⋮⋮うちに泊まりに来すぎなだけじゃね? って週0ってその時点
でそこ、お前の家なのか?
﹁たまには自分の家族で過ごせよ﹂
﹁過ごしているぞ、うちの家族の仲の良さを知らんのか。この前な
んぞばあちゃんの家で風呂入ってたら、突然母ちゃんと父ちゃん、
ばあちゃんに兄貴までが風呂に押し掛けてきた。とても困った﹂
⋮⋮すげえな。
﹁ちゃんと俺の母ちゃんからヤス家に泊まるのは毎回了解もらって
るから大丈夫だ﹂
⋮⋮まあ、父さんも母さんもケンが泊まりに来るの喜んでるし、い
いんだけどな。
﹁泊まるのなら仕事をしような。ケン、雨戸閉めるの手伝え﹂
﹁うぬ? この住人は客に仕事を押し付けるのかえ?﹂
﹁週3で家に泊まっている時点でケンは客じゃねえ﹂
﹁全く人使いが荒いのう⋮⋮﹂
そういいつつ率先して雨戸を閉めるケン。
2163
わざわざ憎まれ口叩かなきゃいいのに。
⋮⋮ふう、閉め終わった。
﹁ヤス兄、ケンちゃん、お疲れー。閉め忘れないよね?﹂
﹁おう、大丈夫﹂
ちゃんとチェックしたし。
﹁しっかし⋮⋮台風、すげえなあ⋮⋮上陸しても威力がほとんど弱
まってないんだって﹂
﹁怖いねー、嵐って﹂
だよなー。年1∼2回上陸するかしないかだけど、そんな時は外歩
けないもんな。
﹁突然連想ゲーム! ﹃あらし﹄と言えば﹂
﹁ほんとに突然だな、ケン﹂
﹁まあいいから。たまにはボードゲームで過ごす以外にもこんな時
間の過ごし方もいいだろ?﹂
まあ、いいけどな。
﹁やっぱり﹃あらし﹄と言えばジャニーズだろ。最初の歌しか知ら
ないが﹂
2164
﹁今年大ヒットしてるのに、なんで最初の歌だけなんだ? ヤス﹂
﹁バレー見てたら覚えてしまった。すごく悔しい﹂
﹁ヤス、何で悔しいんだ?﹂
﹁バレーを見たくてバレー見てたのに、延々とジャニーズが出てき
た。ジャニーズは嫌いじゃない、むしろ好きだけど、バレーに出て
来るジャニーズ軍団はうざい﹂
﹁ジャニーズファンへの挑戦だね﹂
ごめんなさい。だが反省はしない。
なぜならば本当にうざいからだ。
﹁最近特にひどいし。バレーの試合中でもカメラ回ると応援無視し
てカメラに向かってメガホン叩くとかさ。そんなもん見たくねえ!
さっさと選手映せやあ! とテレビに向かってつい叫んでしまっ
た﹂
応援席映すんでもさあ、必死でメガホン叩いてる人映した方がよっ
ぽど好印象。タレントとか歌手をゲストやサポーターで呼んでもい
いけど、ちゃんとバレーファンの人連れてきてよ。
﹁﹃あらし﹄といえば私は山嵐かなあ﹂
﹁どの山嵐? ネズミ?﹂
﹁柔道﹂
2165
ああ、その山嵐。
﹁あれ、すごいよな。俺は空気投げがすごいと思った﹂
﹁柔道ってすごいよね。ベテランになると小さい人が大きな人を本
当にぶん投げちゃうもんね﹂
そう言う柔道を見るとすごく面白い⋮⋮。あの頃はよかった。
今の柔道、見ててもつまらない。ポイント稼ぎしかしない柔道とか、
つまんなさすぎ。
お互いに何も技が決まらないまま判定で勝負が決まるとか⋮⋮見て
る側は面白くない。
﹁それじゃ最後、ケンちゃんは﹃あらし﹄と聞いたら?﹂
﹁俺は⋮⋮インターネットの﹃荒らし﹄かな﹂
﹁ああ、あるな。﹃炎上﹄とか﹂
﹁﹃炎上﹄した所を紹介するブログとか、あるよな﹂
そんなのもあるのか。
﹁﹃炎上﹄する場合って内容も内容の場合が多いけどな。常識はず
れの内容とか、反感を持ちそうな批判を書いた瞬間、危険性が増す
よな﹂
﹁ほうほう﹂
﹁中学生でおこづかい5万もらってるけどすくないんよおとか﹂
2166
﹁⋮⋮﹂
﹁ん? どしたヤス?﹂
﹁ちょっと先月の家計簿調べてる﹂
えっと先月はと⋮⋮5万って先月の家の﹃食費+光熱費﹄じゃんか。
それが事実なら、一度バイトでいいから仕事をしてみろと言いたい。
金を稼ぐのって、本当は大変なんだぞ。簡単に金を稼げるって言う
のは大抵裏があるんだから。
﹁なにか書き込みをする時は、言動に気をつけような。サツキも気
をつけろよ﹂
﹁それより、嵐、雨戸締め切ってるのに音すごくない? どっかか
ら入り込んでる気がするんだけど﹂
⋮⋮まじ? ちゃんと調べたんだけどなあ⋮⋮もう1回チェックす
るかあ。
1階は⋮⋮異常なし。
﹁ケンに2階は任せといたけど、本当に大丈夫か?﹂
﹁ヤスの部屋にサツキちゃんの部屋にヤス達の両親の寝室だろ? 全部閉めたぞ﹂
⋮⋮おい。
﹁もしやケン、2階のトイレの窓、閉めてないのか?﹂
2167
1階のトイレの窓はさっき気付いて閉めた。ちょっと濡れてたけど、
まあ許容範囲内だった。
﹁あれ? トイレに窓なんてあったっけ?﹂
﹁ある! トイレの窓、においこもるから普段開いてるんだよ! って事は⋮⋮﹂
急いでトイレに行こ!
﹁⋮⋮はう⋮⋮まじか﹂
床、水浸し。トイレットペーパーもグチョグチョ、全滅。
﹁うわ⋮⋮ほんとすまん、こりゃひどいな﹂
気にすんな⋮⋮明日にでもトイレットペーパー、買いにいかんとな。
お小遣い5万円もらってるとか言う人、俺にトイレットペーパー買
ってよ。
2168
232話:あらし︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ええと、﹃言動には気をつけよう﹄と言っときながら、ジャニーズ
ファンと柔道ファンを敵に回すような発言、ごめんなさい。
それでは今後ともよろしくです。
2169
233話:ヤスの挑戦
今日は10月21日、昨日の台風が嘘みたいな晴天。
駅伝まであと2週間弱。
今日からなにが出来るか分からんけど⋮⋮ポンポコさんのためにも
何かしら結果を残したいな。
﹁と言う訳でウララ先生、どうしましょうか﹂
﹁⋮⋮ええと、何の話?﹂
﹁夏合宿のとき、俺に﹃長距離の生徒達をどうにかしたい﹄って言
ってたじゃないですか。今から相談しましょうよ﹂
﹁2ヶ月も前の話を今さら持ち出されても困るわよ。完全に忘れて
たわ﹂
⋮⋮まあ、俺もそんなの考えたくなくて逃げてたから人のこと言え
んよな。
今さらなんで長距離メンバーを説得しようかと言うと、全てはポン
ポコさんのため、ひいては自己満足のためなんだけどな。
やっぱり駅伝はチーム競技。俺1人が頑張った所で、結果なんてた
かが知れてる。全員がやる気になって挑戦しないと、結果が残せな
い。
それじゃポンポコさんを喜ばせられないだろ。
あのやる気の無い長距離メンバーを説得すんのは大変だけど、頑張
2170
ろー。
﹁まあいいけど、それでなにをしようと思ってるの?﹂
﹁部内レースをもう1回やればいいと思うんですよ。今なら自分、
負けない自信がありますよ。半年前は最下位だった自分に負けたら、
長距離メンバーも﹃俺ら、今までなにやってたんだろうなあ﹄と言
う気分になったら、きっと心を入れ替えて練習を励むと思うんです﹂
﹁短距離の生徒達は、新人戦で今まで頑張ってきた人たちとどこか
手を抜いた人で、明暗くっきり分かれたから﹃このままじゃまずい
んだな﹄って感じてくれたみたいで頑張るようになったけど⋮⋮長
距離の生徒達って新人戦が終わってからも特になにも変わってない
よ? 今までと同様、ざわざわ雑談しながらだらだら走って、早々
と帰って。部内レースをした所でほんとに変わる?﹂
﹁⋮⋮さあ?﹂
﹁そんなこと考える前に、長距離の生徒達とヤスが話し合って、﹃
もっと頑張ろう!﹄って言葉を投げかける努力をしないと﹂
話し合いかあ⋮⋮俺、話し合いって嫌いなんだよな。口喧嘩に勝て
たことが無いし。
いつの間にか言いくるめられることしか無いし。みんな細かい所揚
げ足ばっかりとって、自分の言いたいことと全然違うことに文句言
うし。
﹁それが長距離の生徒をやる気にさせる一番の近道だよ? やって
みなよ﹂
2171
﹁ええ、俺1人でですかあ? ⋮⋮ウララ先生も手伝ってください
よ﹂
﹁んー⋮⋮いいよ。やってみましょうか﹂
おし、ウララ先生を仲間に巻き込んだ。
今日の放課後が勝負だ。
放課後、長距離の先輩、マルちゃん、ノンキ、計6人を前にして語
り始める。
ウララ先生はまだ来てない。職員会議で遅れるらしい。が、俺1人
でも説得してみせる!
﹁⋮⋮と言う訳で、後2週間しか無いけど頑張りましょう!﹂
﹁⋮⋮はあ?﹂
﹁2週間後、駅伝があるじゃないですか。そこで順位が悪くとも頑
張って、何かしら成果を残しましょう!﹂
﹁はあ⋮⋮﹂
うわ、すげえ反応が悪い。
﹁今さらなにを言ってんだ? 後2週間でどうこうなる訳ないだろ
2172
?﹂
⋮⋮正論だ。だが、俺は子供だ。正論にはへ理屈で返す!
﹁えっとですね、2週間ではどうこうならないかもしれませんが、
今から頑張れば1年と2週間後にはどうこうなりますよ! 来年の
駅伝のためにも、その通過点である2週間後の駅伝を気持ちよく走
りましょう!﹂
﹁気持ちよく走るだけだったらのんびり練習しときゃいいだろ? 俺たちゃ楽しくやりたいんだよ﹂
⋮⋮くそ、言うことを聞いてくれない。
﹁その通りです。楽しくやるのは俺も大賛成です。 でも、楽しく
の意味、はき違えてませんか? みんなでただにゃははと笑ってる
のもそれはそれで楽しいのかもしれないけど、最下位で駅伝走って、
そんなんで楽しいでしょうか?﹂
ユッチの言葉を借りた。俺の中でかなりきつい一言だった、きっと
先輩方にも届くはず。
﹁楽しい﹂
⋮⋮あれ?
﹁いいか、俺たちは楽しくやりたいの。みんなでわいわいがやがや
やりながら楽しみたいの﹂
ユッチの言葉、何でこんなに伝わらないの? 俺の言い方がそんな
2173
にまずかったのか?
﹁で、でもですね。スポーツやるからには一所懸命頑張ってこそじ
ゃないですか?﹂
﹁ホノルルマラソン、東京マラソン、シドニーマラソンなどなど、
毎年たくさんの競技があるが、記録をめざす競技者だけじゃなくて、
ただ完走をめざすだけの競技者、出場そのものが記念であり目的の
競技者も多数いるだろ? 俺たちはそれくらいでいいの﹂
﹁し、しかしですね。今までの自分より、ちょっとだけ強くなれた
って思った時の快感って味わってみたくないですか?﹂
﹁よく考えてみ? 確かにそれは快感かもしれない。だがそこにた
どり着くまでに一体俺らはどれだけの苦労をしなければならないの
だろう⋮⋮楽して勝てるならそれでもいいが、苦労してまで、つら
い思いをしてまで勝ちたくない﹂
﹁﹃若い時の苦労は買ってでもしろ﹄ですよ﹂
﹁若者に仕事させたい大人が言う戯れ言だぞ﹂
⋮⋮な、なぜそんなにひねくれているんだろう?
﹁ですけど、騙されたと思っていっぺん頑張ってみませんか?﹂
﹁騙されるくらいなら手を引く。そんなに頑張りたいんだったら1
人で頑張れ。楽しくやってるメンバーを巻き込むな﹂
そう言い捨てて、先輩たちは去っていった。
2174
⋮⋮くう⋮⋮やっぱり今まで一緒に練習をやってこなかった俺なん
かの言葉、響く訳がないんだよ。
2175
233話:ヤスの挑戦︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ごめんなさい。
3月31日、中途半端にしか書かれていないのに、酔っぱらった勢
いで投稿しました。
4月一日に修正し、大きく追加されてます。
本当に申し訳ないです。
そんな自分ですが今後ともよろしくお願いします。
2176
234話:思いは伝わらないもの
⋮⋮思いは伝わらない。
どれだけ言葉を選んでも、どれだけ直球な言葉を投げても、聞く耳
を持ってくれない人ってきっといるんだ。
自分が思っていることなんて100分の1も伝わらないんだ、きっ
と。
﹁⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
﹁こらヤス、何でわざわざ俺の前にきてため息をついてんだ﹂
﹁俺が1人になりたくて歩いていった所にたまたまケンがいただけ
だ﹂
﹁何かムカつくが⋮⋮で、なにがあったんだ?﹂
﹁かくかくじかじかって事があったんだよ﹂
﹁そうかそうか、かくかくしかじかって事があったんか⋮⋮って分
かるかあ!﹂
﹁そうなんだよ、小学校時代からの腐れ縁である悪友ですら俺の思
いは伝わらない。先輩たちに伝わるわけが無いんだよな﹂
﹁そんなんで伝わるかあ!﹂
﹁心が通じ合えばきっと伝わるのに﹂
2177
﹁ヤスと心と心が通じ合ったらそもそも気持ち悪いわあ! ちゃん
と説明しろよ!﹂
⋮⋮まあそりゃそうか。
と言う訳で少々面倒だったけど、経緯を1から説明。
﹁まずは土曜日にポンポコさんとケンカしたんだよ、駅伝に出るか
出ないかで。俺は出ないって言ったんだ。ポンポコさんが怒ったん
だ。んで、ポンポコさんの家に行って俺が結局謝った。んでくすぐ
り地獄の計にあった所でポンポコさんがいい結果を残せば許してや
ると言うことになった。だったらいい結果を残してやろうじゃない
かと今日長距離のメンバーにも協力をあおごうと話し合いをするこ
とになったんだ。頑張って結果を残した時の爽快感は何事にも変え
がたいんだ。若い時の苦労は買ってでもするんだと説得をしてみた
んだけど、全然分かってくれないんだ。俺はどうしたらいいんだろ
うなあと言うことなんだ﹂
完璧な説明だ。これだけ場面も説明したら、きっとありありと情景
が浮かんでくるに違いない。
﹁要は女にかっこつけたいヤスのわがままで、やる気の無い先輩た
ちに無理矢理練習させようとしたのか?﹂
⋮⋮確かにその通りなんだが。なにも伝わってない気がしてならな
い。
﹁ケン、動機なんてどうだっていいじゃん。箱根駅伝に出場した経
験があり、かつ区間賞までとったことのある選手の逸話なんだが、
中学校で部活を選ぶとき、﹃可愛い女の子が陸上部にいたから﹄と
2178
いう理由で陸上を始めたんだぞ﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁その可愛い女の子がいなかったら区間賞の箱根選手は生まれなか
ったんだ。動機はどうでもよくないと思わねえ?﹂
﹁それは大賛成だ。だが他のメンバーを無理矢理やらせる理由には
ならないぞ﹂
﹁なんでやねん!﹂
ウララ先生が目的で入ったケンならこの気持ち分かってくれると思
ったのに。
﹁可愛い女の子がいるから頑張りたいと言うのはヤスの勝手。他の
人に頑張らせようと思うなら、その人たちにもメリットが無いと﹂
メリットねえ⋮⋮思いつかん。
﹁ならケンさ、どんなメリットがあるんだ。んで、どうすれば言う
ことを聞かせられるようになるんだ?﹂
﹁んー⋮⋮仲良くなる。友達の頼みはメリット無しでも聞きたい﹂
﹁やだ﹂
いろんな人と仲良くなったら、今まで仲が良かったやつとの付き合
いが減るじゃん。
2179
﹁ま、今さらなんだけど、ヤスって排他的だよなあ⋮⋮そだな。他
に俺が思いつくので、何かをさせたいって思うなら、﹃もので釣る﹄
﹃異性で誘惑する﹄﹃情にうったえる﹄﹃おだてる﹄﹃みんなやっ
てる﹄﹃交換条件を出す﹄かなあ﹂
﹁何だみんなやってるって?﹂
﹁今これが大人気! って聞くとついやりたくなっちゃうことって
よくないか? 前に流行ったやつだとビリーズブートキャンプとか﹂
⋮⋮すみません、家に1回も使ってないビリーズブートキャンプが
転がってます。
ケンに見せたことは無かったはずなんだが。
﹁流行ってるからと言って買ってみた健康志向の商品が家に転がり
まくってるとか﹂
すみません、サツキと2人でいろいろ買ってしまいました。
あしつぼマッサージとか、お灸とか面白そうって色々買いました。
﹁ボーカロイドとか﹂
すみません、家のパソコンに歌わない初音ミク、鏡音リン、レンが
眠ってます。
⋮⋮自分の行動が読まれるって何かムカつく。
﹁他には﹃カウントダウン﹄とかがあるよな﹂
﹁なんだカウントダウンって?﹂
2180
﹁セールで﹃今だけ! 先着300名様限り! もう残り100し
かありません! 早い者勝ちです!﹄と言われるとそんなに欲しく
ないのに買っちゃいたくなる﹂
⋮⋮先着100名様と言う言葉に踊らされてお年玉はたいて買った
ミニコンポ、買った直後にiPodが出始め、音楽はパソコンで聞
くようになり、ミニコンポはほこりをかぶる事になった。
﹁電車に走れば間に合うって思うと駆け込むとか﹂
﹁あるある、待っててもすぐに次の電車が来るって分かっててもつ
いダッシュするんだよ﹂
﹁で結局間に合わなくて立ち往生するんだよな。ヤスならありえそ
うだ﹂
⋮⋮なぜ分かる。俺の行動パターン。
﹁あげくの果てに駅員さんに怒られて﹂
⋮⋮。
﹁でも結局怒られた内容は全て忘れて、また駆け込み乗車するんだ
よな﹂
﹁⋮⋮俺の行動を読むなあ!﹂
﹁さっきは思いは伝わらないって怒ったじゃん﹂
⋮⋮それはそれ。そんな昔のことは忘れた。
2181
どうにかして都合のいいことだけ思いが伝わるといいなあと思って
しまった。何かいい機械でも発明されないかなあ。
2182
234話:思いは伝わらないもの︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
箱根駅伝の某選手の話は地方局の実況がしゃべってました。
立派な動機なんていらないです。きっかけなんてこんなもんで十分
ですよね。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2183
235話:ぷよぷよお弁当
今日は10月22日、お昼休み。
昨日はなにも変わらなかった。ウララ先生を引き連れてもう1回長
距離の先輩たちを説得に向かったが全くもって変わらなかった。
俺が毎日弁当作ってやるぞともので釣ってみた。男からの弁当なん
ぞいらんと言われた。
⋮⋮サツキには大好評なのに。
今頑張ればもれなくウララ先生と1日デートが出来るぞと異性で誘
惑してみた。ウララ先生に殴られた。体罰反対。
﹁病気で戦ってる友達に、﹃俺は試合で負けない、だからお前も病
気に負けんな﹄って励ましてきたんだ! だから俺は負けられない
んだ!﹂って情にうったえてみた。﹃なに作り話してんの?﹄って
サツキのツッコミが入った。
全員から白い目で見られた。
他にも色々試したんだが、めんどいからいや、しんどいからいや。
面白くないからいや。いやん、ばかん。そんな言葉ばかりかえって
きて疲れた⋮⋮もういや。
﹁てめえらあ! 人の言うことをちったあ聞けやあ!!﹂
﹁や、ヤスう。いきなりどうしたんだあ﹂
2184
この怒りを思いっきり叫びたい気持ちなのだ。
屋上にていつもの﹃全国行くぞお!﹄という雄叫びをした後、ユッ
チとポンポコさんと3人で昼食。
ポンポコさんは今日は近くのコンビニで買ったサンドイッチを食べ
てる。
﹁ねえねえ。今日のボクのお弁当はぷよぷよお弁当なんだよお﹂
﹁ぷよぷよお弁当?﹂
聞いたことが無い⋮⋮一体それはなんじゃらほい。
﹁見てみてえ! すごいでしょお!﹂
パカッと開かれたお弁当箱の中身を見てみると、まんまるに握った
おにぎりが1、2、3、4つ。ぐるぐるに海苔を巻いてご飯が見え
ないくらい真っ黒にして、チーズと海苔で目ん玉作ってた。
﹁ボクの改心の出来なんだよお! 中身は鮭、オカカ、梅干しとも
う1個はシーチキン!﹂
ナイスなチョイス。どれもうまそうだ。
2185
﹁く、かわいいじゃねえか⋮⋮﹂
お弁当にかわいらしさを求めるとは⋮⋮料理は味がうまけりゃそれ
でいいかと思う時もあるが、こんなかわいらしいお弁当を見せつけ
られてしまうと、見た目も大事だと思わざるをえない。
﹁でしょでしょお? ヤスにはあげないからね﹂
⋮⋮見せつけるだけかい。1個くらい食べさせてくれよ。
﹁だがユッチ、今のままでは大きな欠点がある﹂
﹁⋮⋮はあ? なんなのさあ﹂
﹁それはぷよぷよおにぎりじゃない⋮⋮それではまっくろくろすけ
おにぎりだあ!﹂
そう、ユッチのおにぎりは海苔で巻かれているため真っ黒なのだ。
それではカラフルでいろんな色を持ってるぷよぷよとは言えない。
﹁ヤスのバカあ! なんて事言うんだよお! これはぷよぷよだよ
お!﹂
﹁ほほお? どこがぷよぷよだというのかな?﹂
﹁かわいいじゃんかあ! このかわいらしさがぷよぷよなんだよお
!﹂
確かにかわいらしい、くりくりっとしたまんまるなおめめ。食べて
しまうのがもったいないくらい⋮⋮だが!
2186
﹁ユッチ、残念ながら真っ黒なぷよぷよなんていないんだ。いるの
は赤ぷよ、緑ぷよ、青ぷよ、黄ぷよ、紫ぷよの5色のぷよぷよだけ
だ﹂
﹁黒ぷよがいたっていいじゃんかあ! すごくかるめに握ったから
柔らかくてプヨプヨしてる所もぷよぷよっぽいじゃんかあ!﹂
﹁ふむふむ⋮⋮あくまでユッチはぷよぷよだといいはるんだな﹂
﹁ヤスがなんと言おうとこれはプヨプヨだあ!﹂
ふっふっふ⋮⋮かかったな、ユッチ。
﹁ユッチ⋮⋮ぷよぷよと言うのはな⋮⋮4つくっつくと消えるのだ
あ!﹂
そう宣言すると同時に4つ並んだぷよぷよおにぎりのうちの1個を
すかさずユッチの弁当箱からかすめとり大口を開けて自分の口の中
へ放り込む。
﹁ああああああああ! ヤスう⋮⋮ボクのぷよぷよおにぎり食べる
なあ!﹂
﹁ふぁやいものふぁちゃだあ⋮⋮お、オカカ味だ。うまいなあ﹂
ちょっとうまくしゃべれなかった⋮⋮早い者勝ちだあ。
ギリギリ崩れない程度まで軽く握られてて、ふんわりとした食感。
オカカの風味が口いっぱいに広がる。めっちゃうまい。おかか最高!
2187
﹁ボクが一番楽しみにしてたおかかあ! ヤスのバカバカバカあ!﹂
﹁ポンポコさんも1個もらってみ? めっちゃうまいぞ﹂
﹁そうか、ではいただくとするか⋮⋮ふぉもふぉも⋮⋮うまいな。
特にこのすっぱさがたまらないな﹂
﹁ああああ! ポンポコお! 今、梅干し食べたでしょ! 今日の
梅干しは贅沢に紀州の梅干し使ったのにい!﹂
﹁ふむ⋮⋮今まで梅干しは苦手だったのだが、この紀州の梅ならう
まい。次もよろしく頼む﹂
﹁ボクが食べるはずだったのにい! なんでヤスとポンポコが食べ
ちゃうんだよお! 自分で作ってきてよお!﹂
ユッチの料理、うまいんだもん。つい食べたくなっちゃった。
﹁⋮⋮私は料理が苦手だから⋮⋮今までも失敗ばかりだ⋮⋮そんな
私にはこんなおいしい料理は無理だ⋮⋮﹂
⋮⋮あれ? ポンポコさん、別に落ち込む必要ないっすよ?
さっきまで怒ってたユッチもポンポコさんが暗く変わったのをみて、
静かな声になった。
﹁料理は愛情と真心だよお? それだけあればポンポコも絶対出来
るよお?﹂
⋮⋮料理は慣れだと思った自分、ユッチに負けた気分になった。
確かに、これだけの手間ひまがかかっているユッチの料理は愛情と
2188
真心がいっぱいだよな。だからきっとおいしいんだ。
﹁みんなそう言う。だが私には無理だ﹂
みんな最初はそんなもんな気もするけど⋮⋮。
﹁大丈夫だよお! 今度ボクが教えてあげるよお! ヤスも一緒に
やってくれるからさあ!﹂
おいユッチ、俺別にやるなんて言ってないっす。
﹁本当か? ユッチ﹂
﹁うん!﹂
俺はうんって言ってないからな。
﹁⋮⋮ありがとう、ユッチ、ヤス﹂
ポンポコさん、感謝しないで欲しいっす⋮⋮めっちゃ断りにくくな
った。
⋮⋮ユッチもポンポコさんも嬉しそうだしいっか。
2189
235話:ぷよぷよお弁当︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
ぷよぷよおにぎりはこんなイメージ。
http://setuyakumama−resipi.see
saa.net/article/15268465.html
なんだかお弁当が欲しくなりました。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2190
236話:ユッチとヤスの料理教室
10月22日の放課後。
くぅ⋮⋮疲れた。
今日の練習は15キロ、大体外周18周。
最近は毎日1キロ4分のペースでいつも走っている。ポンポコさん
から与えられたノルマ。
5日連続で15キロをキロ4分で切れるようになったら次のステッ
プに進もうとのこと。
今日で3日目、このキロ4分ペースで走るぐらいなら大抵大丈夫だ。
﹁お疲れヤス﹂
﹁ありがとっす、ポンポコさん﹂
短距離の練習の合間を見ていつも様子を見に来てくれるポンポコさ
ん。
ほんとにいつもありがとうと思ってます。
﹁ところでヤス、ちょっとタイムを見せてくれ。出来ればこの3日
間全てのタイムがあると嬉しい﹂
いっすよ⋮⋮この3日間分の記録を書いた通称﹃ポンポコノート﹄
を手渡す。
﹁⋮⋮ヤス、3日とも同じような傾向があるのだが、11∼15周
目のタイムが落ちすぎだぞ。今のヤスの実力ならここまで中だるみ
はしないと思うのだが﹂
2191
﹁へ? そんなにタイム落ちてる?﹂
﹁10周目までのラップの平均は1キロ3分55秒、ここまではと
てもいい感じだ﹂
ありがとっす。
﹁だが、11周目から15周目、平均4分5秒まで落ちている。1
キロ4分8秒まで落ちている時もあるな﹂
﹁⋮⋮全体でタイム、きれているからいいかって思ってるけどダメ
なんかな?﹂
﹁理想は同じタイムでずっと走り続けるのがいい。そこまでは求め
ないが、さすがに落ちすぎだ。おそらくヤスの中で無意識に、﹃も
うノルマは達成できるから多少は手を抜いてもいい﹄という心理が
生まれているのだろう﹂
⋮⋮そんなこと考えたこと無いんだが。
無意識って怖いなー。
﹁11∼15周目は意識的にペースを挙げることを考えて走るよう
にな﹂
﹁ラジャです﹂
明日から気をつけよ。
2192
その後筋トレして練習も終わり、みんなと帰るとこ。
校門前で俺、サツキ、ケン、ユッチ、アオちゃん、ポンポコさんの
6人でちょっとしゃべってる。
﹁やすう、今日はヤスの家に泊まっていい?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は?﹂
いや、前にもユッチを泊めたことはあるから深い意味は無いとは思
ったけど、ドキッとしたぞその言葉。
﹁ユッチ、そんな危険な言葉をヤスに言っていいのか? ヤスはけ
だもの、変態だぞ﹂
⋮⋮ケン、俺は一体なんなんだ? そんなことをした記憶は全く無
い。
﹁そうですよユッチ、自分を大事にしてください﹂
アオちゃんまで何を言い出す。
﹁ケンもアオちゃんもメチャクチャ言うなよ! ってか、サツキも
ケンもいるんだから何も起こりようが無いだろうが。2人とも変な
ことを口走るな!﹂
﹁はあ⋮⋮アオちゃん、ユッチが勇気を振り絞ってヤスの家に泊ま
りに行きたいって言ったのに、ヤスのこの反応はどうよ﹂
2193
﹁ヘタレですね﹂
﹁だよな、ヘタレだよな﹂
﹁今後ヤス君のことはヘタレ野郎とでも呼びましょうか﹂
﹁おおいいね、そのあだ名﹂
ひでえ、事実を言っただけなのに。
﹁アオちゃんもケンも変な事言ってないでよお。今日はボクとポン
ポコの2人で泊まりに行きたいんだあ。いいかなあ﹂
﹁⋮⋮なんで?﹂
﹁お昼休みにポンポコに料理教えるって言ってたじゃんかあ。じゃ
あ、ヤスの家でやりたいなあって﹂
あ、ほんとにやるのか。てっきり﹃やろうやろう﹄って言って結局
やらないまま忘れ去られていくかと思ってたのに。
﹁もうボクもポンポコも今日はヤスの家に泊まりに行くって言って
あるからさあ、ダメかなあ?﹂
⋮⋮おい。
﹁既に決定事項か? 俺がダメって言ったらどうするつもりだった
んだ?﹂
﹁ケンに﹃ヤスの家は後で確認とればいい。絶対大丈夫だから﹄っ
2194
て教えてもらったから﹂
⋮⋮ケン、客用の布団の準備とか、泊まりにきた分の夕飯とか、そ
の辺りをちょっとは考えてくれ。
結局ユッチもポンポコも泊まりにくることになった。
アオちゃんだけ泊まりに来れなかったので、電車での別れ際何だか
寂しそうだったけど、しょうがない。
アオちゃんは今度何か誘いましょうか。
俺の家に着いて、サツキにはポンポコさんとユッチ用の布団を出し
てもらい、ケンはとりあえず変なことを口走った罰として居間で正
座させてる。しかしケンのやつ、正座に慣れてるのか全く効果が見
られない。もうちょっと効果的な罰がないだろうか。
んで、俺とユッチとポンポコさんの3人は現在台所に。3人も並ぶ
とちょっと狭い。
﹁それではユッチ先生、ヤス先生、今日はよろしく頼む﹂
ポンポコさん、先生って何だかこそばゆい。
﹁ユッチ、なにを作るか考えてるのか?﹂
2195
﹁何にも? ヤスが考えてくれたんじゃないのお?﹂
⋮⋮ユッチに期待しちゃダメだったか。
﹁さてポンポコさん。凝った料理を作ろうと思うと料理は難しいか
もしれないが、簡単な料理ならそこまで難しくない﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁ついでに手抜きをしようと思えば結構できてしまう﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁例えばご飯! 昔はお米を研がなければならなかったけど、今で
は無洗米がある。炊飯ジャーの中に米と水を分量通りに入れて、後
はボタンをポチッと押すだけでふっくらおいしいご飯の出来上がり
!﹂
技術の進歩って素晴らしい。
﹁ヤスう、無洗米は邪道だあ!﹂
﹁ええやん、楽できるんだし﹂
﹁ダメだあ! そうやって楽しようとしてちゃおいしくならないん
だあ!﹂
﹁なに言ってんだユッチ、無洗米にしたからってそうそう味が落ち
る訳じゃないぞ﹂
2196
むしろ研ぐのが下手な人の場合は無洗米の方がおいしく炊けるのだ
とか。
﹁ええええ!? そうなのお!?﹂
﹁そうだぞ、もしユッチが食べた無洗米がまずい無洗米だったんな
ら、それは選んだブランドが失敗だったんじゃん?﹂
無洗米でもうまいもんはうまい。
﹁そうなのかなあ⋮⋮ボクが食べた無洗米、まずかったんだけどな
あ⋮⋮﹂
隣でブツブツ文句言ってるユッチはほっといて、ポンポコさんに作
り方を教えましょか。
﹁と言う訳でポンポコさん、やってみよう。今日は5人だから⋮⋮
3合くらいたいてみよう﹂
ユッチとサツキ、ケンも俺もかなりの量を食べるので3合。
余ったら余ったで父さんと母さんの夜食にすればいいし。
﹁ほい、計量カップで1合、2合⋮⋮﹂
﹁1合、2合⋮⋮﹂
おしおし、ポンポコさん、間違える訳が無いよな。
﹁それで水をラインまでいれて⋮⋮﹂
2197
うんうん、こんな所は間違えないよな。
後は蓋を閉めて炊飯ボタンを押すだけ⋮⋮こんなん見る必要も無い
だろ。
﹁⋮⋮あれ? ポンポコさんどこへいくんすか?﹂
﹁いや、ちょっと欲しいものがあってな⋮⋮あ、これだ﹂
⋮⋮はい?
何故かポンポコさん、棚から食塩を取り出す。
﹁⋮⋮えっと、何に使うの?﹂
﹁昨日二兄が作ってくれた塩味のお粥がすごくおいしかったのでな。
今日もその味を再現してみたいのだ﹂
そういいながら大量に塩を炊飯器の中に入れようとするポンポコさ
ん⋮⋮ってぼーっと見てちゃダメだろ!
﹁ストップポンポコさん! ダメダメダメダメ!﹂
﹁なにがダメなのだ?﹂
ダメって言ってんのに、手を止めず塩を投入。
⋮⋮ああ⋮⋮うわあ⋮⋮ポンポコさん⋮⋮そんなに塩入れてどうす
るんすか。しょっぱくて食えたもんじゃないっすよ。
﹁なぜがっくりしてるのだ? ヤス﹂
2198
﹁ええと⋮⋮最初からやり直しをしなければならないことがショッ
クです﹂
塩水捨てて、洗えばきっと食べれるよな。無洗米なのに洗わなけれ
ばならないとは⋮⋮無念。
2199
236話:ユッチとヤスの料理教室︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
一昨日昨日と2日連続で投稿できず、誠に申し訳ないです。年度始
めなので残業が多い⋮⋮。
初心者の料理の失敗って大抵何かオリジナルなことをしようとして
失敗するケースが多い気がします。
私が女友達にホワイトデーの時にゼリーを作ったら、友達も真似て
彼女にゼリーを返してました。
友達は﹃ゼリーの中に果物入れたらさらにうまいんじゃねえ?﹄っ
て思ったらしく、バナナを入れたそうです。
﹁味見した?﹂
と聞いたら、﹃そんなんうまいと思ったからしてない﹄と答えてま
した。友達の彼女に渡したとき、バナナは真っ黒になってたとか。
味は⋮⋮。
レシピ通りに作ろうと思った逸話。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2200
237話:おふくろの味 vs あしたのもと
夕飯を丁寧にポンポコさんに教えつつ作っていたら、夕飯がかなり
遅くなるかもしれないと言うことで、俺とユッチで適当に調理。ポ
ンポコさんはそれまでケンの相手。
んで、ユッチとの相談の結果、今日の料理はホイコーローと豚汁に
なりました。
ユッチが豚汁、俺がホイコーロー。
さてホイコーローか。さっさと調理して食べたいし⋮⋮豆板醤やら
色々使って料理するのは面倒だしなあ、あれ使うかな⋮⋮。
﹁こらあヤス! なに使おうとしてるんだあ!﹂
﹁なにって⋮⋮これ?﹂
俺が手に持ってたのはCookDoの﹃回鍋肉﹄。
これ使うと楽なんすよ。料理が。
﹁そうそうそれえ! そんなの使うなあ! 手抜きをするなあ!﹂
⋮⋮またもやユッチに手抜きと怒られた。ユッチって料理にこだわ
りあるよなあ。
﹁なんで?﹂
別にいいやんなあ、あしたのもと、味の素。主婦の味方、主夫の味
2201
方。
味の素は楽でいいぞ。煮干しやら昆布やら鰹節からだしをとるのが
めんどいときに使うほんだし。とりあえず失敗しないし。
﹁そう言うの使っちゃったらいつまでたっても味付け覚えないじゃ
んかあ! 失敗しながらでもちょっとずつ味付け覚えてかないと料
理なんか全然うまくならないんだあ!﹂
﹁いいやん、味付けは味の素、ハウスにおまかせで。楽でええぞお﹂
﹁よくないい! そう言うの使うと、おふくろの味がなくなっちゃ
うだろお! いろんな家でいろんな味があるから料理って面白くて
おいしいんだよお! どこの家に言ってもおんなじ味なんて面白く
ないじゃんかあ!﹂
﹁ユッチが作ってる時点でおふくろの味じゃないぞ。娘の味? お
子さまの味?﹂
﹁へ理屈こねるなあ! お子さまって言うなあ!﹂
ち、へ理屈だとバレたか。
﹁ヤス、料理は真心だよ! 愛情だよ! 気持ちだよ!﹂
﹁味の素を使ってても愛情はこもっている。俺の料理は妹への愛で
いっぱいだぞ﹂
﹁ヤス兄、気持ち悪い﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
2202
サツキ、いつの間にそこに立ってた? 本人にあの言葉聞かれるっ
てすごく恥ずかしいんですが。
﹁⋮⋮ユッチ、ようく考えてみてくれ。もしも世界中の人が自宅で
全て味付けをするようになったとするじゃないか﹂
﹁うんうん﹂
﹁そうしたら、CookDoみたいな味付けを簡単にしてくれる商
品を作っているところはどうなる? つぶれてしまうだろ?﹂
﹁ええとお⋮⋮そうかもお﹂
﹁だったら使ってもいいじゃないか! CookDoの﹃回鍋肉﹄
を使うことで、CookDoで働いている何万人もの従業員さんの
明日の食い扶持になるんだぞ。これは人助けなんだ!﹂
﹁そ、そうなんだあ⋮⋮﹂
おし、説得成功。ユッチを説得するのは簡単だな。
﹁ユッチ先輩、騙されちゃダメですよ。タバコ吸ってる人が周りの
人に迷惑かけまくってても﹃俺たちは高い税金払って国に貢献して
るんだ﹄ってへ理屈こねてるのと一緒ですよ﹂
﹁⋮⋮あ、そうかあ! ヤスう、騙したなあ!﹂
ち、バレたか⋮⋮サツキが隣にいて説得するのは大変だ。
2203
﹁ちなみに煙草を吸ってる方で﹃高い税金を払って国に貢献してい
るんだ﹄というのは大嘘ですよ。煙草税よりも煙草によって起きる
病気の医療費等の方が高く税金がかかりますから。煙草吸ってる人
はとりあえず今の10倍ぐらいは税金払って欲しいです﹂
﹁え、ええとお⋮⋮さ、サツキちゃん?﹂
⋮⋮。
﹁ちなみに煙草を吸ってるやつでマナー守ってるって言う人は信用
なりませんね。そう言ってるくずが私がテニスしてる最中に煙草の
においまき散らしました。テニスコートに煙草を捨てました。その
人が煙草吸いながら歩いてて火傷させられそうになりました。どこ
でどう迷惑になるか分からないんですから喫煙者は喫煙コーナーで
だけ煙草吸ってろって感じですね﹂
﹁ど、どうしたのお?﹂
⋮⋮おーい、ユッチがビビってるぞお。
﹁ちなみに煙草を吸ってる人でグルメだと言う人は詐欺師ですよ。
煙草を吸うと味覚と嗅覚がくるいますから。喫煙家で大金払ってお
いしくもない料理食べて満足してる人を見ると鼻で笑っちゃいます
ね﹂
﹁サツキちゃん、こ、怖いよお?﹂
⋮⋮サツキ、ユッチが泣きそうになってるから少し落ち着こう。
﹁ちなみに﹃煙草なんていつでもやめられるんだ﹄って言い放った
2204
先生が中学にいるんですが、﹃だったらやめて﹄って言って3年た
ちましたが未だにやめてません。3年我慢したんですし、最近そろ
そろキレる10代になってもいいかなと思います﹂
﹁⋮⋮サツキ、とりあえずそのへんにしとこうな、煙草が嫌いなの
知ってるから﹂
⋮⋮サツキの場合はその先生が原因で大嫌いになったってのもある
んだけどな。
﹁いっつもヤス兄のバカ話聞いてるんだから、たまには私も愚痴く
らい言わせてよ﹂
いつもサツキは言いたい事言ってる気がするんだが、気のせいだっ
たかなあ⋮⋮。
﹁んじゃ、結論として味の素のCookDoを使うと言うことでい
いかな﹂
﹁ダメダメダメえ! 何でそんなことになっちゃうんだよお!?﹂
⋮⋮ダメかなあ⋮⋮? いい気がするんだけどなあ。
﹁味の素を使った料理より、1から全部作った料理の方が料理人の
気持ちがこもってて、すっごくおいしくなるんだあ!﹂
﹁ほほう、ユッチさんや。1から全部と言いましたな﹂
﹁うん、それがどうかしたあ?﹂
2205
﹁だったら、味噌を使う時は豆から作ると言うのか? 塩を使う時
は海水を煮立てて作ると言うのか? 砂糖を使う時はサトウキビか
ら作ると言うのか!?﹂
﹁え、ええとお⋮⋮﹂
﹁豚肉を使う時は豚を1から育てると言うのか!? キャベツを使
う時はキャベツを畑から栽培すると言うのか!? 柿を使う時は柿
の木から作ると言うのか!? 桃栗3年柿8年なんだぞ!?﹂
﹁そ、そりゃそうだけどお⋮⋮﹂
﹁ちなみにこれには続きがあって、梅はスイスイ13年、梨はゆる
ゆる15年、柚の大バカ18年、ミカンのマヌケは20年だ﹂
ユッチには偉そうに言ってるけど実は俺も昨日知りました。
これぞ明日使える無駄知識。
﹁そ、そんなにかかるのお!?﹂
﹁そうなんだぞ。1から全部作ると言うことはこう言うことだ。ど
う考えたって無理だろう?﹂
﹁そ、そうだねえ⋮⋮﹂
﹁だったら出来合いのものを使って、ちょっとくらい楽をしようと
思ってもいいんじゃないのか?﹂
﹁そ、そうかなあ﹂
2206
おし、あと一息。あと一押しすればユッチは俺の理屈に納得してく
れるはず。
﹁ヤス兄、適当なへ理屈こねてユッチ先輩困らせちゃだめだよ﹂
﹁そ、そうだよね! へ理屈だよね! ヤス、ちゃんと作ろうよお﹂
ちぇ、やっぱりダメかあ。たまにはCookDoで楽しようと思っ
たのに⋮⋮また今度使うか。
今日は豆板醤から作ろ。ええと、豆板醤豆板醤⋮⋮あ、あった。⋮
⋮って、これもCookDoやん。俺って味の素に貢献してるなあ
⋮⋮。
2207
237話:おふくろの味 vs あしたのもと︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
毎日投稿が崩壊気味で、本当に申し訳ありません。
煙草って、喫煙者に﹃私の前で吸わないでください﹄って言ってい
いものなんでしょうか? 麻雀してる時は諦めてますが、食事中は
やめてほしいと思ってます。
桃栗は地方によって違いがあり、他にもいろいろ種類があるそうで
す。
それでは今後ともよろしくです。
2208
238話:タコさんウインナー
いつもより大勢での夕食。
食事って友達やら家族やらとたくさんで食べるとやっぱり楽しいっ
すよね。
夕飯も終わって、いよいよポンポコさんに料理を教える事になった。
今から作るとなると、やっぱり明日のお弁当を作るのがいいよな。
ユッチと俺の間にポンポコさんが立つ。
﹁まずはボクがお弁当を作るときの基本を教えます!﹂
﹁うむ、ユッチ先生、それとヤス先生。よろしく頼む﹂
﹁⋮⋮えへへえ﹂
なんだユッチ、突然ニヤニヤ笑い始めて。
ちょっと気持ち悪いぞ。
﹁先生って言われるのって気持ちいいよねえ。ボク、将来先生にな
ろうかなあ﹂
ユッチが先生なんかになったら⋮⋮意外と似合うか?
生徒と一緒にキャイキャイ騒いでそうな先生だな。
2209
﹁じゃあねえ、ポンポコ、お弁当を作る時に一番考えることってな
んだと思う?﹂
﹁そりゃあ弁当と言えばうまい、やすい、はやいの3原則だろ﹂
﹁違うう! ヤスには聞いてないい!﹂
あれ? 簡単に安くおいしく作ることこそ弁当の極意だと思うんだ
が。
﹁いい、耳にタコができるまで言うけど、料理は愛情と真心なんだ
よ。やすい、はやいなんてのは2の次なんだあ﹂
愛情と真心があれば、猛勉強してうまくなるからそう言われるだけ
なんだと思う俺は嫌な人間だよなあ。
⋮⋮過去にいくらサツキが作ったものでも、食えなかった料理があ
ったもんなあ。サツキにも内緒でこそっと庭に埋めたのは思い出だ。
﹁お弁当の基本は﹃色﹄!﹂
⋮⋮色?
﹁どんな料理でも﹃色﹄はとっても大事なんだけど、お弁当はもっ
と大事なんだあ。だってお弁当ってどうしてもさめちゃうでしょ?
いつもの料理なら出来立てほかほかのいいにおいや、あつあつの
食感があるからちょっとくらいいろどりが乏しくても食欲がわくん
だけど、お弁当はさめちゃってるもんね。いいにおいも出来立ての
料理に比べるとなくなっちゃってるから、ボク、お弁当を作る時は
いつもどうしたらおいしく見えるかなって考えるんだあ﹂
2210
⋮⋮ふむ、なるほど。
﹁いろどりを考えると言うんだったら⋮⋮肉そぼろ、卵そぼろ、イ
ンゲンを使って3色ご飯にすると簡単だぞ﹂
﹁おおお? ⋮⋮ねえ、何でヤスは簡単なものばっかり考えるんだ
あ?﹂
﹁朝は時間が無い﹂
朝は毎日が戦争だ。ラジオ体操を始めてからまさに戦争だ。
﹁ヤス、そんなに朝、時間が無いかなあ? ⋮⋮1時間あれば作れ
るよお?﹂
﹁サツキと父さん母さんを起こして、洗濯して朝ご飯を作りながら
お弁当を作る、合間を見てゴミを出して、晴れてたら時々布団を干
して。朝は忙しい。まさにてんてこ舞いなのだ﹂
﹁はああ⋮⋮ヤスってほんとに専業主夫なんだねえ﹂
﹁うむ、ヤスはまさに主夫の鏡だな﹂
⋮⋮俺、ほんとは高校生なんだけど。しみじみと主夫って言われる
と、俺って一体なんなんだろうと思ってしまう。
﹁でもねポンポコ、時間が無くてもちょっと工夫すればすごくいろ
どり鮮やかなお弁当になるんだあ! 赤色が無いなあと思ったら、
ミニトマトを1個ちょこんと入れるとすごく見栄えが良くなるんだ
2211
あ﹂
﹁ミニトマトは旬が過ぎるといきなり高くなるから我が家の食費を
握っている身としては年がら年中使えないのが欠点だよな﹂
うちでは夏休みの間だけ使ってた。
﹁緑色が足りないなあと思ったら、キュウリを入れるだけで何とな
くきれいになるんだよお﹂
﹁キュウリは生野菜だから夏場には入れちゃダメだぞ。おなか壊す
ぞ﹂
一度おなかを壊して一日中トイレにこもりっきりだったことがある
なあ。
授業が始まってもずっとトイレに入りっぱなし。
﹁黄色が足りないなあと思ったら、卵焼きを入れればいいの﹂
﹁毎日卵焼きを入れてると怒るんだよ。たまには別の物が食べたい
って﹂
簡単だから毎日でも使いたいのに。高級な卵を使っても、そんなに
高くなく使える財布にも優しい物価の優等生。値上がりしてても物
価の優等生には変わりない。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁あれ? ユッチってば突然黙ってどしたの?﹂
2212
﹁ヤスう! 何でボクの言うことイチイチ否定するんだあ!﹂
⋮⋮否定なんてしてたっけ?
﹁いい!? 今日はボクが﹃先生﹄なの! ヤスは﹃生徒﹄なの!
ボクの言う事聞いてよ!﹂
﹁俺、生徒なの? 確か俺も先生だった気がするんだけど﹂
﹁いいの! たまにはボクが先生になってもいいでしょ! ボクも
先生になりたいんだあ! 尊敬されたいんだあ!﹂
⋮⋮何かいろいろごめんユッチ。
﹁それじゃあね、ポンポコ。今日は料理をかわいらしく見せるタコ
さんウインナーに挑戦!﹂
﹁⋮⋮うむ、分かった﹂
タコさんウインナーかあ。ってかポンポコさん、そんなに緊張しな
くてもそこまで難しくないから。
﹁まずは大きすぎず、小さすぎずのちょうどいい大きさのウインナ
ーを1個取り出します!﹂
﹁⋮⋮うむ、こ、こうか?﹂
⋮⋮ポンポコさん、袋破ってウインナー取り出しただけっすよ?
﹁そして、ウインナーの下半分に切れ目を入れます﹂
2213
﹁⋮⋮ふ、ふむ⋮⋮こ、こうだな!﹂
﹁ポンポコさん! ウインナーはまな板の上に置いて! 手に持っ
てやらないで!﹂
⋮⋮めっちゃこええ。危うくリストカットする感じに見えてしまっ
た。
﹁こ、こうだな⋮⋮ふん!﹂
﹁包丁振り下ろすな! 左手は猫の手! 目を逸らさないで!﹂
こ、こわすぎ⋮⋮台所にいるのが嫌だ。ポンポコさんと料理をして
るとスプラッター映画になりそうだ。
﹁うん、切れ込み入れたねえ。そしたら後はフライパンでちゃちゃ
っと炒めるだけで、切れ込みの部分が丸まってタコさんらしくなる
んだよお﹂
⋮⋮、ユッチ、ポンポコさんから目を離すなよ。
フライパンで炒めるだけでもなにをしでかすか分からない⋮⋮!
2214
どうにかこうにかタコさんウインナーは出来上がりました。
その後、まんまるサッカーボールおにぎりと、スクランブルエッグ、
ほうれん草のゴマ和えを作って何とか完成⋮⋮つ、つかれた。
お弁当作りがこんなに疲れるとは思わなかったっすよ。
2215
238話:タコさんウインナー︵後書き︶
自分で話を書きながら、いつまで料理をしてるんだと思いつつあり
ます、こんばんは、ルーバランです。
この話、始めて20話くらいで思いましたけど、タイトル間違えて
ますよね。作者本人がタスキじゃねえなあと思ってしまってます。
今さら変えようが無いので、気長におつきあいいただけたらと思っ
てます。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2216
239話:交換日記セカンド︵前書き︶
今回の話は﹃223話:交換日記﹄を読んでから読んでくださいね。
2217
239話:交換日記セカンド
ふう、ようやくみんな寝た。
とりあえずサツキの部屋にポンポコさんとユッチ、俺の部屋にケン
が寝てる。
⋮⋮さてと⋮⋮今日の交換日記っと。今回2回目。ちょっと楽しみ。
−−−
10月16日 やすあき
どーも、ヤスでやんす。
ふっふ、ユッチ残念だったな。
アオちゃんはあおいと何回言ったかだが、﹁10月14日 あおい﹂
と書いているだろう?
すなわち合計17個が正解なのだ! どうだアオちゃん、俺はユッ
チみたいに引っかかりはしないぞ。
ちなみに今日の夕飯は以前にユッチが作ってくれた春巻きだったぞ。
サツキにも父さんにも母さんにも、みんなに大好評の春巻きだ。
今度また何か家にきて作ってくれ。
ユッチの料理、絶対においしいから楽しみ。
−−−
⋮⋮自分の文章って読み返してみるとすっげえ恥ずかしいな。﹃ヤ
スでやんす﹄とかどれだけ寒い親父ギャグだよ。
2218
これをすでにサツキもアオちゃんもユッチも読んだって事だよな⋮
⋮どんな反応が返ってくるんだろ?
−−−
10月17日 さつき
おはー、サツキです。
ユッチ先輩もヤス兄も間違いですよ。﹁アオダイショウ﹂と﹁あお
かった﹂もここではカウントするはずです。
だから﹁あおい﹂は19回言ってるんですよ。
今日はケンちゃんとヤス兄が自己分析の紙をもらってました。ケン
ちゃんのは面白みがなにも無くて、ヤス兄のは突っ込みどころだら
けでしたよ。
今度アオちゃん先輩もユッチ先輩も見てみてください。
今日の夕飯はカボチャのスープとイカめしでした。カボチャのスー
プは私が、イカめしはヤス兄が作りましたけど、カボチャのスープ
にイカめしは合わないです。ヤス兄ってなに考えてるんでしょうね?
−−−
サツキめ⋮⋮なんでこんなこと書いてんの!? あのイカめしはサ
ツキもおいしいって言ってくれたじゃん!
﹁あれえ? ヤス、何読んでるのお?﹂
﹁うわ! びっくりした⋮⋮もう寝たと思ってた﹂
﹁なんだか目がさえて眠れなくなっちゃったんだあ﹂
2219
⋮⋮まあ、そう言う時もあるよな。
﹁今は俺、交換日記読んでた。今ちょうどサツキのを読んだとこ﹂
﹁ああ、サツキちゃんの! そういえばサツキちゃんってヤスのこ
とばっかり日記に書いてるよねえ、ちょっとびっくりしちゃったあ﹂
⋮⋮そだったっけ? 全然気がつかなんだ。
﹁これからアオちゃんの読むんだよねえ? ボクも一緒に読んでい
い?﹂
﹁ユッチは昨日読んだだろ?﹂
もう知ってる内容読むだけなんだけど、それでいいのか?
﹁いいの! ヤスと一緒に読みたいんだあ!﹂
ユッチ、お前は子供かよ⋮⋮子供だよなあ。
−−−
10月19日 あおい
こんばんは、あおいです。
ユッチもヤス君もサツキちゃんも残念です。
私は﹃あおいって何回言ったでしょう﹄って書きました。
確かに16回書きましたけど、16回言ってません。
答えは0回です。
2220
ひっかかりました、ちょっと優越感です。
最近、ヤス君の影響でカードゲームで遊ぶようになりました。
今、私のマイブームは﹃タブラの狼﹄、別名﹃汝は人狼なりや?﹄
です。
クラスメイトと10人くらいで集まってやってます。
今度やりましょう。
−−−
い、嫌らしい⋮⋮お前は一休さんか!? とツッコミを入れたくな
るな。
⋮⋮そういえば、最近昼休み、女子がすっごい集まって何かやって
るなあ。
タブラの狼⋮⋮聞いた事ない。
どんなのか楽しみ、今度アオちゃんとやらしてもらお。
さ、次はユッチだな。
﹁ちょっとストップストップう! ボクのいないところで読んでよ
! 目の前で読まれるの恥ずかしいよお!﹂
﹁やだ。ユッチが一緒に読みたいって言ったんだから。ついでだか
ら音読もしてみようか﹂
﹁やめろやめろお! ヤスのバカあ!﹂
聞こえなーい。
−−−
2221
10月21日 ゆう
やほほーい、ユッチだよお!
アオちゃん、やられたあ⋮⋮わからなかったあ。
ヤス、ボクがまえにヤスのいえでつくったハルマキ、つくってるん
だねえ。えへへえ、ちょっとうれしい。
こんどニラ玉のおいしいつくりかたもおしえてあげるよ。
そうだあ! こんどアオちゃんとヤスとボクと3入でなにかいっし
ょにつくらない?
あ、ポケモンだけど、いまニビシティ! ヤス︵ゼニガメLv10︶
はイワークにかったよお!
ヤス、つよいつよい!
それじゃ、歩ってくるから、まったねえ!
−−−
音読してる間中、ユッチの顔が真っ赤になって真っ青になって、ま
さに百面相。ぎゃーぎゃーわめいてたけど、無視して最後まで読み
切った。
﹁⋮⋮ユッチ、誤字多い、ひらがな多い。読むのが大変。ニラ玉は
直ってるけど⋮⋮﹃3入﹄って絶対3人だろ? ﹃歩ってくる﹄っ
て﹃走ってくる﹄だろ?﹂
﹁うるさいうるさいい! 音読なんかしてえ! ヤスのバカあ!﹂
﹁恥ずかしかったら漢字勉強しとけよ﹂
﹁うるさいい! 見てろおヤス! 次の日記では絶対絶対漢字だら
2222
けでヤスには読めないような日記にしてやるんだからあ!﹂
おし、楽しみにしてるぞ。
次のユッチの日記を楽しみに、今日の俺の分、後でかいとこ。
2223
239話:交換日記セカンド︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
昨日の夜は20時∼25時まで延々と説教されてました。そんな理
由で昨日は投稿できませんでした。ごめんなさい。
223話からずいぶん間があきました。
ところで、小説内にも書きましたけど、自分の書いた文章を読み直
すのって恥ずかしいですね。
これから交換日記シリーズは時々末尾に書いとこうと思います。
それでは今後ともよろしくです。
2224
240話:お弁当作戦
今日は10月23日木曜日。
今は午前中の授業が全部終わって、お昼休み。
さてと、昨日ユッチとポンポコさんと作ったお弁当。かなりの量を
作っちゃったんだよな。
父さん、母さん、サツキの分プラス、ケンの分までお弁当を包んで
もまだ余った。
余った分をなんとなく学校まで持ってきちゃったんだけど、この量
を一人で食べるのは絶対に無理。
どうしよっかなあ⋮⋮。
このお弁当を食べてくれる人を探しにただいま2年生の教室へやっ
てきました。あの人たちならきっと食べてくれるだろうし⋮⋮しか
し、知らない人だらけの教室に入っていくのはとても勇気がいるも
んだなあ。
こそこそと教室の後ろのドアから入ったんだけど、上級生の先輩た
ちからなんだあいつ? みたいな目で見られて、とても居心地が悪
2225
い。
ええと、お目当ての人物は⋮⋮あ、いた。
﹁こんちはっす、先輩方。一緒に食べましょう﹂
声をかけたのは、なんだかとってもお久しぶりな気がするゴーヤ先
輩とキビ先輩。
﹁突然どうした? ヤス﹂
﹁昔、お弁当を作ってきてくれとゴーヤ先輩に頼まれた気がしまし
たので、今日作ってきました﹂
えっと、正確には夏休み4日目の事だったな。
お弁当を作ってきたと言うよりも余ったから食べてくださいってだ
けなんだけどね。
﹁⋮⋮ああ、ようやくヤスも綺麗な先輩2人と一緒に食事したくな
ったんだな﹂
﹁ええ!? ほんと!? 私綺麗? いやあ、口がうまいね、ヤス
は﹂
⋮⋮誰もゴーヤ先輩もキビ先輩も綺麗だなんて言ってません。
﹁ヤスさあ、思った事すぐ顔に出すのやめてよ。結構傷つくんだよ﹂
﹁俺何もいってないっすよ!?﹂
2226
﹁今ものすごく、﹃別にあんたら2人なんて全然綺麗だなんて思っ
てねえよ、はっ﹄って顔したもん﹂
﹁それじゃ俺最低じゃないですか! そこまでは思ってないです!﹂
﹁ちょっとは思ったってこと? うわあ、ヤスってひどいなあ﹂
うわ! 口が滑った。
﹁ごめんなさい! ﹃私綺麗﹄って言葉をきいて﹃口裂け女﹄を想
像しました! ﹃化けの皮をはぐとすごい顔になるんだあ、あはは
あ﹄とかほんの少し思いました! でも、ほんの少しだけです!﹂
﹁⋮⋮ゴーヤ、私時々思うんだけど、ヤスの心ってものすごく黒い
よね﹂
うわ、さらに口が滑った!
﹁ごめんなさいごめんなさい! ﹃もしも俺が魔法の鏡だったら﹃
私綺麗?﹄って聞かれた瞬間に割れるなあ﹄とか心の底でちょっぴ
り思いました! でもほんのちょっとだけです!﹂
﹁⋮⋮うん、すごくひどい。どうやるとこんなに真っ黒になるのだ
ろうと時々考えてしまう﹂
ごめんなさい! でもきっと俺はまともな人間!
前も思ったけど、キビ先輩はかわいい、ゴーヤ先輩はかっこいいっ
て感じで、綺麗ってイメージじゃないからそんな事を考えただけで
す!
2227
﹁それでですね! ご飯を一緒に食べませんか?﹂
﹁ヤスってば、強引に話を変えたね。ま、いいよ。ところでヤス、
お肉ある?﹂
﹁⋮⋮ええと、ウインナーがありますよ﹂
﹁ウインナーだけ? もっとお肉ないの?﹂
﹁ええと、ハムと卵ならありますけど﹂
﹁うーん、それぐらいあればいっかな﹂
キビ先輩、まだ肉ばっかり食べてるのかなあ。野菜も食べてほしい
なあ。
﹁ヤス、野菜は何がある?﹂
﹁ほうれんそうの胡麻和えがあります﹂
ゴーヤ先輩は相変わらず野菜好きだし。キビ先輩の分まで野菜食べ
ちゃ駄目ですよ?
机を引っ付けてお弁当を広げる。
﹁おお⋮⋮ゴーヤ、サッカーボールだよ! タコさんウインナーだ
よ! こっちのおにぎりなんて目玉引っ付けて目玉の親父を作って
るよ! あ、これポニョじゃない?﹂
﹁そですよ、映画を見てからポニョが好きになりまして作ってみま
した﹂
2228
ポンポコさんがサッカーボールおにぎり作っている間に、なんか面
白いの作れないかなあと試してみた。意外とポニョに見える。
目玉の親父おにぎりはCOOKPADの中のレシピに載ってた。ご
飯にねり梅、海苔を適当に載せたらほんとにできてしまった。CO
OKPADって面白いレシピも結構載ってるよな。
きゅうりにハムを巻いてつまようじをぷすっとさしただけの料理と
もいえないようなものも、つまようじを赤白黄色のカラフルなもの
にしたら、突然綺麗なものになった。
ユッチの言うとおり、色ってすばらしいな。
﹁凝ってるなあ。いつもこんな感じなのか?﹂
﹁今日は特別です。いつもはもっと適当な感じですよ﹂
﹁ねえね、ヤス、早く食べよ。私この目玉の親父おにぎりが食べた
い!﹂
どぞどぞ。
﹃いただきます!﹄
2229
﹁もう一個タコさんいただき!﹂
﹁キビ先輩、ウインナーばっかり食べてないで、ほうれんそうとか
も食べてくださいよ!﹂
﹁ほうれんそう、うまいな﹂
﹁ゴーヤ先輩! ほうれんそうばっかり食べてないでほかのも食べ
てくださいよ!﹂
﹁ちゃんとポニョを食べてるぞ﹂
﹁私も目玉の親父食べてるじゃない﹂
﹁その言い方怖いです! やめてください!﹂
﹁何言ってる。ヤスも猫を食べてるじゃないか﹂
﹁猫じゃないです! ﹃猫まんま﹄おにぎりです!﹂
くう、おにぎりが食べづらくなったじゃないか。
﹁ああ⋮⋮おいし。ヤス、また明日もお願いね!﹂
⋮⋮え?
2230
﹁これから毎日作ってきてくれるんでしょ?﹂
﹁そんなこといってないっす!﹂
﹁明日はキティちゃんが食べたい﹂
人の話を聞いて!
﹁私はおむすびマンでいいぞ﹂
ゴーヤ先輩まで!?
﹁楽しみにしてるからね、よろしく!﹂
⋮⋮え? 決定事項?
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮まじで?
2231
240話:お弁当作戦︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
何とか間に合いました⋮⋮。
それでは。
2232
241話:ヒロインって
お弁当、ゴーヤ先輩たちに明日も作る約束を押し付けられてなんと
なくブルーな気持ちで午後の授業に向かった。
⋮⋮眠い。昨日ユッチと夜通し語り明かしたからなあ⋮⋮もうちょ
っと早めに寝ればよかった。
ようやく午後の授業も終わって、これから部活だ。
はあ、今日も15キロかあ⋮⋮なげえ。このペースで走れば1週間
で100キロ行くぞ。
4週間で400キロメートル。東京から名古屋まで行けちゃうやん。
﹁はあ⋮⋮﹂
﹁ヤス、しょぼくれた顔してるな。もうちょっと元気出せよ﹂
ケンと廊下を歩きながら部活へ向かう最中。意味もなく元気なケン
がちょっとだけ小憎らしい。
﹁部活動のはずなのに、毎日毎日1人で走っているとこんな気分に
なってくる﹂
﹁そうか?﹂
そうだよ。ケンも1人で延々と走ってみろよ。
2233
﹁こう、部活動ってさ﹃部長! もうできません⋮⋮﹄﹃何を言っ
ている、頑張るんだ!﹄﹃でも、もう足が⋮⋮﹄﹃このぐらいでへ
こたれるな! いいか、お前は大山の柱になれ﹄⋮⋮みたいなノリ
があってもいいんじゃないかなあと思うわけっすよ。何が悲しくて
600人も生徒がいながら1人でテッテケ走ってなきゃならないん
だろうと時々思うんすよ﹂
1人でできないことを集まってするからこそ価値があるんじゃねえ
のかなあとかくさいことを考えてしまう。
﹁ポンポコさんがスポコンなノリでヤスにいろいろ教えてくれるだ
ろ? それで満足しとけよ﹂
確かにポンポコさんはスポコンで俺に陸上を教えてくれる。だが⋮
⋮。
﹁ポンポコさんってマネージャーだろ? マネージャーって言った
ら一般的なイメージだとヒロインなわけだよ﹂
﹁ヤス、恋愛漫画の読みすぎ﹂
そんなことはない、世間一般のイメージではマネージャー=ヒロイ
ンのイメージはどこにでもあると思うぞ。
﹁やっぱりマネージャーといったらさ、暑い中練習して、汗を流し
て頭から水かぶってるときに﹃はい﹄ってタオルを手渡してくれる
ような事してほしいじゃん。それとか﹃あちー﹄ってだらだらして
るときに、冷たいポカリをほっぺにびしっと押し付けて﹃ほらあ、
しゃきっとなさい!﹄みたいに鼓舞してくれる子とかがいいよな﹂
2234
﹁⋮⋮変質者? 妄想たくましいやつだな﹂
いいやん、想像の中でくらい。ポンポコさんなんて絶対そんなこと
やってくれなさそうだし。
むしろポンポコさんなら疲れてぶっ倒れてる俺に﹃ほら、さっさと
たって歩け﹄って言いそうだ⋮⋮ってか言われたな⋮⋮なんだか悲
しくなってきた。
﹁マネージャーと部長では求められるポジションが違うとおもわね
え? スポコンなノリで頑張っていこう! って言ってくれるのが
部長。一生懸命頑張ってるそんな中、癒しの空気を運んでくれるの
がマネージャー﹂
サツキがタオルくれたりジュースを持ってきてくれたりするなんて
事をしてくれたら最高なんだけど、サツキは俺に対してそんなこと
絶対してくれないしなあ⋮⋮。
﹁だからそれはヤスの妄想だろ? 人に押し付けんなよ﹂
﹁勝手な想像だから気にしないでくれ。ただまあ、俺の中のマネー
ジャーのイメージはそんな風なんだよな。けどポンポコさんはお師
匠様って感じで全然マネージャーって感じじゃないんだよなあ。っ
てかポンポコさんってあんまりヒロインってイメージじゃないじゃ
ん? ってかまったくないじゃん﹂
﹁ヤス、ポンポコさんに失礼だぞ﹂
﹁それを言ったら陸上部女子ってヒロインっぽいイメージの人って
誰もいないけど﹂
2235
ポンポコさんとゴーヤ先輩は男勝りだし、ユッチはお子様だし、キ
ビ先輩は肉好きだし、アオちゃんは変人だし。
﹁ヤス、陸上部女子を全員的に回す発言をしたな﹂
﹁ケンしか聞いてないんだからええやん。ヒロインといったら可憐
! 清楚! 純粋! うちの陸上部女子には誰もいない!﹂
﹁ヤスう! 覚えてろお!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮ええと⋮⋮何でユッチが聞いてんの?
﹁隣の部室、女子陸上部だって忘れてないか? ヤス﹂
﹁覚えてるけど、そんなに声って聞こえるもんか?﹂
﹁ヤスの声なんて丸聞こえだあ! 絶対絶対覚えてろお!﹂
そんなに聞こえるものなのね⋮⋮。
着替え終わって部室から出ると、陸上部女子の面々が勢ぞろいして
ました。
⋮⋮ええと、皆さんめっちゃこわいっす。白い目でユッチ、アオち
ゃん、ポンポコさん、ゴーヤ先輩、キビ先輩ににらまれてる。まさ
に蛇ににらまれた蛙状態です。特にポンポコさんがものすごく冷た
い。自業自得と言えばそれだけなんだけど⋮⋮。
2236
男子とかサツキに助け舟を求めようと視線を送ったけど、だれもか
れもが見て見ぬふり⋮⋮。
今日1日、陸上部はみんなおれの敵になった。
⋮⋮俺は1人だ。
2237
241話:ヒロインって︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
ふと思いましたが、この話のヒロインは誰なんでしょう?
最初の登場人物の設定では、名前のある女キャラはサツキとポンポ
コさんの2人で、ポンポコさんがヒロインでした。そんな設定はど
こかに消えましたが。
それでは今後ともよろしくです。
2238
242話:数字ゲーム
今日は10月24日金曜日、駅伝まで後1週間くらい。
先輩たちを説得しようとして失敗して、それから何もしないまま残
り時間だけが少なくなってしまっている。
いまだに走順すら決まっていないのはいいんだろうか。
そんなことをつらつらと考えてたら、5時間目の授業、現代社会の
始まり。今まで勉強してきて思ったんだけど⋮⋮現代社会の勉強っ
て一体何をやればいいんだろう。
﹁さてさて、今日は今週あったテストを返すぞ﹂
⋮⋮ぶーぶー。終わってしまったもんは見たくもないわい。
ってか何が悲しくてテストばっかりせなならんのじゃい。
﹁文句言うな! 俺たちだってテスト作り、テストの採点と頑張ら
ないかんのだから﹂
⋮⋮ぶーぶー。
テストなんてなければいいのに。
⋮⋮62点か。まあまあだな。
﹁このクラスはまあいいほうだったぞ、平均点は61点だったから
なあ﹂
2239
⋮⋮セーフ。ぎりぎり半分以上だ!
﹁アオちゃん、何点だった?﹂
今回のテスト結構難しかったし、アオちゃんも一緒くらいだろ、き
っと。
﹁えっと⋮⋮100点です﹂
﹁⋮⋮はあ?﹂
耳がおかしくなった。きっと耳垢がたまりすぎているに違いない。
今日の夜サツキに耳掻きしてもらおう。
﹁もう1回言って?﹂
﹁えっと⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮100点です﹂
﹁⋮⋮まじ?﹂
信じられなくて、隠そうとしてるアオちゃんの答案用紙を後ろから
こそっと覗き込んで点数を見る。そこには﹁100﹂という数字が
でかでかと書かれていた。
﹁うわ、まじだ! ありえん!﹂
⋮⋮授業中なのについ叫んでしまった。でも100点だぞ100点。
空白もケアレスミスも1個もないんだぞ。わかんないところが一個
もなかったってことだぞ。
2240
﹁ありえんってなんですか。勉強した結果ですよ﹂
﹁勉強していようがなんだろうが、100点なんて人間のとる数字
じゃない!﹂
人間ミスがあるものなんだぞ。俺なんて専門職の﹃専﹄っていう字
の右上に﹃専`﹄ってわざわざつけて思いっきり×をもらったって
言うのに。そんなんまでなかったのか。
﹁⋮⋮私ロボットですか?﹂
そこまでは言ってないっす。
﹁テストでいい点をとってそんなに楽しいか? 点数で争うなんて
めんどくさいじゃないか﹂
﹁楽しいですよ。争わないと面白くないです﹂
⋮⋮なんてやつだ。
﹁いいやん、点数が悪くたって。所詮テストなんて数字ゲームだ﹂
﹁数字ゲームで競わないと、目標が見えなくてやる気が出ないです﹂
﹁競う必要なんてどこにあるのさ? ナンバーワンにならなくても
いい、もともと特別なオンリーワンなんだから﹂
﹁頑張らない人がその歌を曲解するんです﹂
2241
ああいえばこういう人だな、アオちゃんは。
﹁100点満点じゃ次のテストであがりようがないんだぞ。最高点
までのぼりきったらおちるしかないじゃないか。それじゃ面白くな
いだろ?﹂
﹁それはそうですけど、100点取るのは気持ちいいですよ。毎回
100点をとり続ければいいですし﹂
﹁なんていやなやつなんだ! 毎回100点をとるなんて!? こ
ちとら平均点いくかいかないかでひいひい言っているのに!﹂
﹁ご愁傷様です﹂
うわ、ものすごい突き放された。グサッとくるなあ。
﹁くう、馬鹿にしやがってえ⋮⋮そんなに勉強が好きなら教科書に
でもなるがいいさ﹂
﹁私は生き物ですらないですか⋮⋮﹂
そうだそうだ、アオちゃんなんて無機物で十分だ。
﹁もっと人間味のある答えを書かないと駄目だろ。俺なんて﹃白血
病などの血液疾患の治療として造血幹細胞移植が必要な患者のため
に、血縁関係のない健康な人から提供される﹁骨髄液﹂を患者に斡
旋する仕組みのことを何バンクと言うか﹄って問題があったじゃん﹂
﹁骨髄バンクですね﹂
2242
﹁あんまりにもわかんなくて、空白にせず何か書けばもしかして当
たるかなあと思って﹃愛人バンク﹄って書いたら減点5点食らった
ぞ﹂
誰だ、無理矢理でもなんでもとりあえず空白にせず埋めてみろなん
てアドバイスした人。とっちめてやる。
﹁ヤス君、頭おかしいです﹂
⋮⋮ごめんなさい。でも最初に浮かんだ言葉がそれだったんだよ。
直感を信じたら自爆したんだよ。
﹁ほかにもわかんなかったところは全部いろいろ埋めてみた。﹃親
などによって保護された状態から逃れることを求め、情緒的な不安
定さを抱きながらも家族から独立しようとすることをなんと言うか﹄
﹂
﹁﹃心理的離乳﹄ですね﹂
﹁﹃馬鹿じゃないの?﹄って書いたら3点減点された﹂
﹁ヤス君のほうが馬鹿です﹂
﹁﹃身近にいる人ともコミュニケーションがとれず、周りの人から
自分が認められてないんじゃないかと思うことをなんと言うか﹄﹂
﹁﹃孤独感﹄ですね﹂
﹁﹃俺のこと﹄ってかいたら1点くれた﹂
2243
﹁先生に同情されたんですよ﹂
﹁﹃必ずしも客観的な根拠がないにもかかわらず、能力や容姿など
についてほかの人と比べ悩みがちになることをなんと言うか﹄﹂
﹁﹃コンプレックス﹄ですね﹂
﹁﹃先生のこと﹄って書いたら﹃ほっとけ!﹄ってコメントの後、
10点減点された﹂
﹁ヤス君、本気でテストを受けてますか?﹂
何を言う、俺はいつも本気だぞ。テストではいつもこんな感じだ。
ええと⋮⋮でも、適当に書いたところ空白にしとけばプラス17点
かあ⋮⋮79点。結構上位になりそうだ。
﹁ヤス君はこのラストの問題はどう書いたんですか?﹂
﹁ん? ﹃現在の日本の借金はどうやって返済しますか? あなた
の意見を述べてください﹄って問題?﹂
﹁そうですそうです﹂
﹁んーと⋮⋮﹃韓国と中国に国債を買ってもらって、大量にお金を
発行して国債を返せば借金かたづくんじゃない?﹄って書いて0点
だったけど?﹂
﹁⋮⋮ヤス君ってめちゃくちゃ書きますね﹂
自由記述は点の取れる書き方をするより、自分の考えを適当に書い
2244
た方が面白いやん。
﹁そこでおしゃべりしてる2人、授業中だぞ。特にヤス、今度同じ
ような内容書いたらテストそのものを0点にするからな﹂
⋮⋮先生、ごめんなさい。それだけはご勘弁を。
2245
242話:数字ゲーム︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
私が高校生の頃、
﹃∼∼の事を○○バンクと言う。○○を埋めよ﹄
のような問題が出て、本当に
﹃愛人バンク﹄
と書いて減点食らったことあります。呼び出しくらいました。
それでは今後ともよろしくです。
2246
243話:のんびり
部活も終わって、ケンとサツキが居間でダラダラしてる。
ケンは今週月曜日からずっとうちに泊まりっぱなし。両親が揃って
9日間の休暇を取って旅行に出かけたとか。ついでにうちの両親も
合わせたかのように有休を取って旅行に行ってる。いつまでも新婚
気分なお二人さん。出かける時に弟と妹どっちが欲しいとか聞いて
きた。とりあえず弟って言ってみたけど、本当に作ってくる気じゃ
ないだろうな。父さんと母さんなら本当にやりそうだ。
﹁ヤス兄ー、ひまー﹂
﹁ヤスー、なんかしろー﹂
⋮⋮なんだこいつら。なぜ皿洗いをしながら芸をしなけりゃならん
のじゃ。
まあ、でもサツキの為に何かやってやるかあ⋮⋮。
﹁飴ってアメー﹂
﹁今、居間?﹂
﹁うしがうっしっし﹂
﹁沿道に咲くエンドウ豆﹂
﹁おかしらが聞いた﹃私、おかしいかしら?﹄﹂
﹁画鋲を踏んだ、がびょーん﹂
﹁几帳面な記帳﹂
﹁クジラの時計はくじくじららら﹂
﹁ケジラの時計はけじけじららら﹂
﹁ゴジラの時計はごじごじららら﹂
2247
﹁サバを読む鯖﹂
﹁シンバル、ふんばる﹂
﹁スキー、大スキー﹂
﹁セーターを着せーたー﹂
﹁﹃総会にいってきたんだ﹄﹃そーかい﹄﹂
﹁だじゃれをいうのはだれじゃ﹂
﹁チーターがおこっちーたー﹂
﹁デパートでパート﹂
﹁トナカイと中居に言っとかない?﹂
﹁内臓がないぞうとは言わせないぞう﹂
﹁忍者は何にんじゃー﹂
﹁ヌードが食べるヌードル﹂
﹁猫が寝転んだ﹂
﹁飲んべえを頼んべえ﹂
﹁パンダはどこにいる? ﹃ジャパンだ!﹄﹂
﹁ビビンバ食べた、びんびんばー﹂
﹁ブラジャーをつけろ、﹃ぶ、らじゃー﹄﹂
﹁弁当を食べんとう﹂
﹁奔放な綿棒﹂
﹁真っ暗なまくら﹂
﹁ミルキーを見る気?﹂
﹁無性にムショにいきたい﹂
﹁綿棒の変貌!﹂
﹁もやし、燃やしとけ!﹂
﹁薬用を焼くよう?﹂
﹁ユーラシア大陸って、だれがユーラシア﹂
﹁鎧を着た、よろよろ﹂
﹁落第したラクダ﹂
﹁リゾートでリゾット﹂
﹁ルンバを踊るんば﹂
2248
﹁レバー食べればー﹂
﹁ロシアって恐ろしーやあ﹂
﹁私、渡したわ!﹂
どうだ! ナイスギャグ47連発!
﹁ヤス兄ー、親父ー﹂
﹁ヤスー、つまらーん﹂
く⋮⋮身を挺してボケたのに、なぜここまで言われにゃいかんのだ。
﹁お前らうっさい。皿洗い終わるまでは2人でなんかしてろよ﹂
﹁ヤス兄が不貞腐れたー﹂
﹁ヤスー、子供だなー﹂
てめえらの方が子供じゃ! 俺は皿洗いしてんの! 相手してらん
ないの!
﹁ヤス兄ー、構ってよー、暇だよー﹂
﹁ヤスー、なんかしろー﹂
⋮⋮怒っていいですか?
﹁インターネットでも見とけよ。何か面白いニュースやってるかも
しれんだろ﹂
2249
﹁ヤス兄が何か変な事してくれる方が面白いー﹂
﹁そうだー、何か変な事しろー﹂
こいつら⋮⋮自分らでなんかしろよ。
﹁だっふんだ! アイーン﹂
﹁ヤス兄、パクリはダメだよー﹂
﹁このパクリやろー﹂
⋮⋮ケンだけでも殴っていいですか?
﹁お前らさー、文句言うなら手伝えよ。そうしたらすぐにでもそっ
ち行けるんだからさ﹂
﹁今日の皿洗いはヤス兄の仕事ー、私の当番は明日ー﹂
ここ数ヶ月、皿洗いはサツキの当番の時でも俺が何故かやっている
のだが、それを知っていてサツキは言っているのか?
テニスに燃えてた時と、終わった後の脱力感の時は文句は無かった
けど、それ以降もなぜ俺がやっているんだろう?
﹁ヤスはそう言う星のもとに生まれたんだ、諦めろ﹂
﹁⋮⋮どんな星のもとやねん﹂
﹁サツキちゃんと俺にこき使われる星のもと﹂
2250
⋮⋮殴るより重大な処罰をつけてやる。明日のケンの食事は絶対な
しにしてやるからな。
今日の交換日記
−−−
゜▽゜︶/ サツキです。
10月24日 さつき
こんばんはー︵
今日はヤス兄が寒ーい親父ギャグを連発してました。
そもそも
﹁ケジラの時計はけじけじららら﹂
﹁ビビンバ食べた、びんびんばー﹂
なんてギャグですらないですよねー。私とケンちゃん、2人でどん
な反応していいかとっても困りましたー︵>︳<︶ いくつかつい
クスッと笑ってしまったのがあるけど、どれの事かはヤス兄には教
えてあげないもんねσ︵^┥゜︶
ヤス兄としゃべりたかっただけなのに、なんでわざわざ親父ギャグ
を連発するの? ヤス兄︵*´ο`*︶=3
そろそろ駅伝ですね≡≡≡ヘ︵*゜∇゜︶ノ 思いっきり応援した
いけど、ヤス兄が長距離の人たちとうまくいってなくてちょっと心
配です。
2251
ヤス兄がもうちょっといろんな人と仲良くしてると、安心ですけど
⋮⋮そうすると私と一緒にいてくれる時間が減るのかな? それは
嫌なんですよ。
⋮⋮ちょっとジレンマです。
アオちゃん先輩、ユッチ先輩、ヤス兄が外交的になりつつも私と一
緒にいてくれる、そんな風になってくれるよう、何かいいアドバイ
スはありませんか? アドバイス待ってます!
それではお休みなさい︵︳︳︶.。oO
2252
243話:のんびり︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
どうでもいい夜の1日です。
でも、こんな風に家族とおしゃべりしながら、夜が更けていく事に
私は幸せを感じます。
それでは。
2253
244話:お久しぶり
今日は10月25日土曜日曇り。今日も陸上競技場へ練習に来てる。
今日がポンポコさんとの最終試験。月曜から金曜日まで15キロを
キロ4分で走りきった。今日は10キロをキロ3分50で走れとの
お達し。
これがクリアできたら、今後スピード練習も徐々に取り入れていこ
うとポンポコさんが言ってくれた。ポンポコさんいわく、本来は長
い距離をずっと走り続ける練習だけというのはあまりよくないらし
い。
﹁ポンポコさん、何で?﹂
﹁理由はただ1つ﹂
⋮⋮なんやろ?
﹁私が飽きる﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮なんでそんなに主観的な物言いなの? ﹁﹃ヤスが同じ練習ばかりしていたら飽きるから他の練習も取り入
れたい﹄みたいな言い方してくれないの?﹂
﹁なにを言う? 所詮言葉なんぞ全ては主観的だぞ。﹃あの人はこ
う思ってるんだ!﹄﹃ここにトイレが無いとみんなが困るんだ!﹄
なんて全ては自分の意見にすぎない﹂
2254
や、どうなんだろう?
﹁みんながそう思っていると言いたいのなら、その辺りを利用する
人たちにアンケートをとるなりインタビューするなりして、みんな
の意見をまとめないとダメだ。100人いて80人が﹃そこにトイ
レが欲しい﹄と言えば、みんなの意見になるかもしれない﹂
⋮⋮そう言われればそうかも。
﹁﹃私が見てて飽きるからヤスには同じ練習ばかりさせたくない。﹄
説得力は無いかもしれないが、全くもって嘘は混じっていないぞ。
人の気持ちを読もうと頑張った時期もあったが⋮⋮私には無理だっ
たから⋮⋮だから私はどれだけ説得力がなくとも﹃あの人はこう思
っている、だからこうしたい﹄なんて意見は言わないようにしてい
る﹂
つまり、ポンポコさんは全ての事を主観的に話すのか。まあ、分か
りやすいよな。
逆にあの人がこう思ってるなんて言葉を使いまくってる人なんて、
自分の意見は無いんか!? と突っ込み入れてしまいたくもなるよ
な。
﹁俺を見て飽きることなんてないさ、今後も記録伸ばしてポンポコ
さんを魅了させてやるよ﹂
﹁⋮⋮ふっ﹂
⋮⋮鼻で笑われたあ。かっこつけてくさいセリフ言ったのに、めっ
ちゃショック。
2255
﹁はいはーい! みんな、ちゅうもーく!﹂
ポンポコさんと俺、そして別の話をしてたユッチ、アオちゃん、サ
ツキ、ゴーヤ先輩、キビ先輩の計7人がウララ先生の呼び声に反応
して、振り返る。
﹁さて、今日は練習に入る前に、嬉しいお知らせがあります!﹂
なんやろ? 本当にウララ先生、嬉しそうだ。そんなにいいことな
んだろうか?
﹁とうじょーう!﹂
⋮⋮ものすごくもったいつけて、たいした事無いことだったらなん
か言ってやろ。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あ、あれ?﹂
なんだそりゃ、なんにもないじゃんか。
﹁も、もう1回ね⋮⋮打ち合わせちゃんとしたのにな﹂
2256
ボソッと変な言葉が聞こえたぞ、ウララ先生。
﹁はい、とうじょーう!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あ、あれえ? ちょ、ちょっと待っててね?﹂
⋮⋮どんな事を目論んでたのか知らんけど、相方がボロボロのよう
ですな。
﹁⋮⋮ほら、恥ずかしがらなくても大丈夫だから。もっとシャキッ
として、出てきてよ﹂
ものすごく恥ずかしがりやのようですな。誰が出てくるんだか。
⋮⋮あれ? おお⋮⋮まじで!?
﹁⋮⋮⋮⋮お、おはよ⋮⋮ござい⋮⋮ます⋮⋮﹂
ウララ先生に引っ張られながら、出てきた人物は蚊の鳴くような小
さな声で挨拶をした。
現れたのはヤマピョン。夏休み前に部活に出てこなくなり、それか
ら合宿前に1回、新人戦の時に1回会って以来、ずっと会ってなか
2257
った。
いつ来てくれるかなとずっと待ってたけど、やっと来てくれたんだ
⋮⋮思わず顔が笑ってしまう。
﹁平日は、怒ってばっかりだった2年の長距離の先輩がいるから来
るのが怖いってヤマピョンから相談されてて、それなら土曜日にき
てみたらどう? って誘ってみたの。そして今日、ヤマピョンが来
てくれました! これから一緒に頑張っていきましょう!﹂
うん、頑張っていこう。
﹁⋮⋮こ、こ、こ⋮⋮これから⋮⋮よ、よろ⋮⋮し⋮⋮く⋮⋮⋮⋮﹂
﹁よろしく、ヤマピョン﹂
今日から1人じゃない。一緒に頑張っていけるメンバーが出来たん
だ。
その後、今日の練習メニューである15キロ、キロ4分をヤマピョ
ンと一緒に走った。ヤマピョンは今まで部活に来てなかったにもか
かわらず、15キロを俺と一緒に走りきってしまった。今までずっ
と1人で走っていたとは言ってたけど、才能の差をちょっと感じて
しまう。
ちょっと悔しかったけど、それよりも来てくれたことがなによりも
うれしい。また来週からもよろしく、ヤマピョン。
2258
今日の交換日記
−−−
10月25日 あおい
こんばんは、あおいです。
サツキちゃんへ、ヤス君が社交的になっちゃったら、少しずつ妹離
れしてしまうかもしれないって心配してるみたいですけど、大丈夫
ですよ。ヤス君のシスコンは早々簡単に治りません。
学校でヤス君と話しますと、8割方サツキちゃんの話ですよ? 最
近ちょっと耳にタコができてきました︵^^
今日はヤマピョン君が久しぶりに部活に来ました。
みんなうれしそうでしたけど、ヤス君が一番うれしそうでしたね。
ようやく一緒に練習できるメンバーが1人出来たのですから、当た
り前かもしれません。よかったですね。
ところで、ちょっとだけ悔しかったこと。何で私が話しかけた時だ
けヤマピョン君、返事してくれないんですか? ユッチが話しかけ
てもサツキちゃんが話しかけても、ちゃんと会話してましたのに、
何故か私が話しかけた時だけ
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
とずっと無言でした。いつ返事してくれるんでしょう⋮⋮とじっと
見つめていましたら、逃げ出してヤス君の後ろに隠れました。
何でわざわざ逃げるのでしょうか? ⋮⋮私、そんなに怖いのでし
ょうか?
2259
245話:ため息をつきましょう
10月26日日曜日。現在、今日の夕飯を作ってる途中。
インターネットでおいしそうなメニューを公開してるレシピを見て
て、作ってみようと思ったんだけど⋮⋮あああ、やっちまったなあ
⋮⋮。
はぁ⋮⋮。
﹁ヤス兄、ため息ついてどうしたの?﹂
﹁牛すじ肉を煮込んでトロットロにしようとしたんだけど、途中で
めんどくなってアク抜きを適当にしたんだよ、そしたら何か少し牛
くささが残ってしまった⋮⋮におう﹂
﹁そんなににおう?﹂
﹁サツキもかいでみたらきっと分かる﹂
﹁んー⋮⋮ちょっとにおうね﹂
﹁だろ? アク抜き適当にやらなきゃよかった⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
もうこのメニューは居間でゴロゴロしてるケンに全部食べさせよう
か。
それはちょっともったいない気がする、それなりにおいしいレベル
だし。でもやっぱり、手抜きしちゃいかんなあ⋮⋮はぁ⋮⋮。
﹁ヤス兄、ため息をつくと幸せが逃げるって言うよ。ため息ついち
2260
ゃ駄目だよ﹂
﹁落ち込んでるときくらいため息つかせてくださいな﹂
﹁⋮⋮ヤス兄、ヤス兄は今幸せじゃないの?﹂
﹁何言ってんだ? サツキがいて、父さん、母さんがいて、馬鹿な
悪友がいて、これ以上の幸せは無いだろうが﹂
他の人が俺の事をどう言おうと、俺は幸せ。逆に周りから見てどん
なに幸せそうに見えても自分自身で不幸だと思ってる人は不幸だと
思うぞ。
﹁なら、その幸せが逃げちゃわないように、ため息つくのをやめよ
うよ﹂
﹁ため息つくと、そんなに幸せが逃げてくんかな?﹂
﹁そうじゃないの? 私たちのクラス、数学の授業で、ある先生に
1時間ずっとその話をされたよ﹂
⋮⋮その先生、すげえな。授業をせずにそんな事を延々と話してた
のか。
﹁俺はそんな風には思わないんだけどな、1回ため息つくと気が楽
になるし⋮⋮今から夕飯だし、そんときにケンにも聞いてみよか﹂
﹁うんうん、了解﹂
それじゃこの牛すじ肉の煮込みを持っていきますか。
2261
﹃いただきます!﹄
サツキとケンと俺の3人での食事。最近はケンがこの食卓に座って
ても全然違和感がない。
﹁ん? ヤス、今日の料理は失敗か?﹂
⋮⋮こう言われた時、食事代を請求してやろうかという考えが浮か
ぶ。
﹁ま、ヤスの料理はちょっと失敗しててもうまいけどな﹂
そしてこう言われて、まあいっかと許してしまう自分がいる。甘い
なあ俺⋮⋮はぁ。
﹁あ、またヤス兄ため息ついてる! ため息ついちゃ駄目って言っ
たでしょ﹂
2262
だからため息ぐらいつかせてくれよ。家の中でまでため息つかない
ようにって気を使いたくない。
﹁ねえねえケンちゃん、﹃ため息つくと幸せが逃げる﹄ってほんと
なのかな?﹂
﹁ん? どうなんだろな? 俺は全然違うと思うけど⋮⋮多分、世
間一般的には﹃ため息つくと幸せが逃げる﹄って、自分の幸せが逃
げてくみたいなイメージじゃん?﹂
﹁多分そんな感じだと思うぞ﹂
﹁でもさ、ため息ってつくと気が楽になるじゃん﹂
うん、俺はため息つくと気持ちが楽になる。今日みたいに失敗した
時は1回ため息を盛大について気持ちを切り替えてる。
﹁つらい気分が逃げてくって事は、ついた本人は幸せになるって事
じゃね?﹂
﹁⋮⋮って事は﹃ため息つくと幸せが逃げる﹄って言うのは迷信な
のかな﹂
むしろ、﹃ため息つくと幸せになれる﹄って言い直していいんじゃ
ないか。
﹁いやいや、迷信だとは思わんぞ。俺はため息つくと幸せが逃げて
くのは自分じゃなくてそれを見た周りの人なんじゃないかって思う。
例えばさ、朝学校で会った時に、いきなり友達にため息つかれたと
するじゃん。なんかブルーな気持ちにならね?﹂
2263
そんなにため息をつきまくる友達が周りにいないからよく分からん
な⋮⋮想像してみよ。
﹁普段元気な人がため息ついてたら﹃どうしたんだろ﹄って心配に
なるかもしれんけど⋮⋮確かにケンの言う通り毎日会う度にため息
つかれたら、ちょっとうざいかも﹂
﹁毎日ため息ついてる人、私のクラスにいるよ。30分に1回くら
いため息ついてる﹂
そりゃ多いな⋮⋮だから数学の先生、1時間まるまる﹃ため息つく
な!﹄って説教したのかな。
﹁ものすごいたくさんため息ついてるって人は、ほんとに1日1日
がしんどいのかもしれんから、そう言う人に﹃ため息つくな!﹄っ
て怒ると積もり積もった心のうっぷんが晴らせなくなるかもしれん
から、一概に﹃絶対にため息つくな!﹄って怒るのはまずい気もす
るけど⋮⋮出来る限り人前でため息はつかん方がいいよな﹂
なるほど。
﹁分かった。ため息つくのはサツキの前だけにする﹂
﹁ヤス兄、何で私の前だけはつくの!?﹂
﹁家族だから。家族の前では素の自分をさらけ出したいじゃん?﹂
﹁⋮⋮毎日はつかないでね﹂
2264
ラジャ。
さて、食事を再開するか⋮⋮あれ?
﹁牛すじ肉の煮込み、誰が全部食べた?﹂
まだ俺、全然食べてない。
﹁あ、私とケンちゃんでぺろり。ヤス兄、箸置いてるから食べない
と思ってた﹂
そんなわけないやん!
⋮⋮食事は戦争やな、食事中に話してても箸は休めないようにしよ。
しかし、いくら失敗したって言っても、ちょっとくらい食べたかっ
た。
はぁ⋮⋮心の中で盛大にため息。
今日の交換日記
−−−
10月26日 ゆっち
やほほーい、ユッチだよお。
まえにヤスが﹁ひらがなばっかでよみにくい﹂なんてボクのことば
かにしたから、今日はこっからかんじでかいてやるう!
佐津姫ちゃん、安はいつまで立ってもシスコンだよお。姉放れした
安なんて創造できないよお。だって安だもん。
2265
あ、ポケモンだけど、居間かすみと大戦中! ヤスはカメール︵L
V16︶に神化したよお! 全然スターミーにかてないい⋮⋮もう
ちょっとつよくさせてから朝鮮しないとだめかなあ⋮⋮。
どうだあ! ボクだって幹事で描こうと想えばできるんだぞお! えっへん!
それじゃ、まったねえ!
2266
245話:ため息をつきましょう︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
ため息はストレス発散だったりします。
ため息ついてる人、うざいと思っても生暖かい目で見守ってくださ
い。︵ため息をよくつく私です︶
ユッチの交換日記の誤字は仕様です。
読みづらかったらごめんなさい。
それでは今後ともよろしくです。
2267
246話:つるの一声
10月27日、月曜日。
駅伝は11月2日、とうとう駅伝まで1週間きった。なのにいまだ
に走順すら決まっていない。しょうがないので、もう1度先輩たち
と駅伝について話し合うことにした。
今は昼休み。先輩たちを探してあっちをふらふらこっちをふらふら
と歩き回っている最中。
⋮⋮あ、先輩1人見つけた。
﹁先輩、ちょっといいですか?﹂
﹁やだ﹂
⋮⋮⋮⋮え?
その先輩は一言言い捨てると、歩いて去っていってしまった。あれ
? なんか俺まずい発言をしたかな?
しょうがない、別の先輩探して話してみるかあ。あ⋮⋮別の先輩だ。
﹁先輩、ちょっといいですか?﹂
﹁ちょっとならいいよ﹂
おし、この先輩ならちょっとくらい話を聞いてくれそうだ。
﹁あのですね﹂
﹁はい、ちょっと経った﹂
2268
⋮⋮⋮⋮え?
その先輩も去ろうとしてく。
﹁や、ちょっと待ってくださいよ! 俺の話し聞いてくださいって
!﹂
﹁さっき﹃ちょっと﹄待っただろう? これ以上お前の話を待つつ
もりなんてないぞ﹂
いやいや! そんな小学生みたいな屁理屈してないでさあ! もう
ちょっとひきとめようと頑張ってみたんだけど、俺を無視してさっ
さといってしまった⋮⋮何で俺と会話しようとしてくれないの?
くそお、3人目にチャレンジ! もっといい感じに話し合えたらい
いのに。
おし、3人目の先輩を発見、これから任務を遂行する!
﹁先輩、ちょっといいですか?﹂
﹁⋮⋮なあにい?﹂
お、今度の先輩はものすごく普通そうだ。この先輩なら話を聞いて
くれるかもしれない。
﹁11月2日、とうとう駅伝じゃないですか?﹂
﹁そうだねえ﹂
おいおい、長距離部員だろう? なんで駅伝の日をきいて﹃そうだ
ねえ﹄なんて返事がかえってくるんだよ。
2269
﹁そうなんですよ。それでですね、いまだに駅伝の走順すら決まっ
てないですしそもそも誰が出場するかどうかも決まってない状態じ
ゃないですか﹂
﹁そうだねえ﹂
﹃そうだねえ﹄じゃなくて、そうなの! 何でそんなに他人事なん
だよ⋮⋮ったく、去年は一体どうやって決めてたんだかな。
﹁俺はこのままじゃまずいと思うんですよ。区間ごとに距離が全然
違いますから、早めに区間を決めてさっさとそれぞれの練習に入ら
ないといけないと思うんですよ。といってももう遅すぎですけど﹂
﹁そうだねえ﹂
﹁とりあえず、俺とヤマピョン、スピード練習は全然してませんか
ら、3キロみたいなスピード区間で使われたらまったく手も足も出
ないと思うんですよ。ヤマピョン、足は速いけど緊張しいだから1
区は無理だと思うんです。だから3区の準エース区間にヤマピョン
をおいと久野がベストだと思うんです。俺は4区がいいです﹂
﹁そうだねえ﹂
⋮⋮。
﹁ええと、俺の話聞いてます?﹂
﹁そうだねえ﹂
2270
﹁話聞いてないですよね﹂
﹁そうだねえ﹂
﹁まじめに聞いてほしいんですけど﹂
﹁そうだねえ﹂
﹁あなた、馬鹿ですよね﹂
﹁死ね﹂
聞いてるんじゃん! ちゃんと返事しとくれよ!
最後捨て台詞を吐いて、その先輩も去っていった。⋮⋮俺ってそこ
まで嫌われているんだろうか?
軽くへこんでくる。
その後も先輩を見つけては話しかけてみたんだけど、軽くあしらわ
れるか、逃げ出されるかでまったく相手してくれなかった。何でこ
んなに避けられなきゃならないんだろう?
﹁あれ、ヤス? どうかしたの?﹂
⋮⋮この声はキビ先輩か。
振り返ってみると、ゴーヤ先輩とキビ先輩の2人が並んでた。2人
そろって俺が作った焼きおにぎり弁当をほおばっている。立ち食い
はみっともないですよー、とどうでもいい事を思ってしまう。
2271
﹁いやあ、長距離の先輩に声かけてるんですけど、だーれも俺の話
聞いてくんなくって﹂
﹁あははー、ヤス、嫌われ者なんだねー﹂
はうっ。キビ先輩の無邪気な一言にグサッと来た。どんなに笑顔で
もそんないわれたらちょっとへこむぞ。
﹁しかしヤス、何で突然そんな事をはじめたんだ?﹂
﹁そろそろ駅伝じゃないですか。自分が走るためにも先輩たちを説
得して回らなきゃどうにもならんのです、出場するメンバーも走順
も全部先輩が決めてるんだから﹂
どれだけ強かろうが、上の命令には従わねばならない⋮⋮厳しい世
の中だなあ。
﹁ヤス、ヤスは先輩たちと仲直りでもしたいのか?﹂
﹁いいえ? 自分が駅伝に出られればそれでいいですよ?﹂
頑張ってきた成果をサツキ、ユッチ、アオちゃん⋮⋮そしてなによ
りもポンポコさんに見てもらいたいというだけ。先輩たちなんぞ今
はどうでもいい。
﹁それならヤス、そんなばかばかしいことに時間をとらなくてもい
いぞ﹂
﹁⋮⋮なんでです?﹂
2272
﹁すぐにわかる﹂
⋮⋮なんやろなあ?
﹁ええ、来週日曜日にある駅伝ですが、3区ヤマピョン、4区ヤス
は決定しましたので、よろしく﹂
先輩たちを差し置いて、1足跳びにウララ先生に直談判してみたら、
あっけないほど簡単に物事が決まっていった。
⋮⋮⋮⋮権力の力って恐ろしいとです。
今日の交換日記
2273
−−−
10月27日 やす
どーも、ヤスでやんす。
今日はとってもしんどかったっす。先輩たち1人1人に説得に回っ
たんだけど、誰1人俺の話を聞いちゃくれませんでした。
嫌われてると思ったけど、まさかここまでとは思わなかったなあ。
とりあえず駅伝に出場できるようになってよかったです。
ユッチへ
佐津姫ちゃん↑ 五月ちゃん
安 ↑ 康
立っても ↑ 経っても
姉放れした ↑ 妹離れした
創造 ↑ 想像
居間 ↑ 今
大戦中 ↑ 対戦中
神化 ↑ 進化
朝鮮 ↑ 挑戦
幹事 ↑ 漢字
描こう ↑ 書こう
想えば ↑ 思えば
だぞ。特にサツキの名前を間違えたのは許せん! 今度成敗してや
るから覚悟しとけ! これだけ誤字が多いと、ひらがなばっかりの方が読みやすかったな
あ⋮⋮適当に漢字使えばいいってもんじゃないんだぞ。漢字の勉強
がんばれー。
2274
それでわ。でわでわ。
2275
247話:矛盾
今日は10月28日。駅伝出場も決まって、ちょっと一安心な気持
ち。
今は現国の授業が終わって、その続きでずっと本を読み続けてるん
だけど⋮⋮うーん⋮⋮これは駄目だろ。
﹁ヤス君、何を気難しげな毒を盛られたような顔してるんですか?﹂
何か微妙な言い回しをしてくれるなあ。
﹁アオちゃんか、この小説読んでたんだ。面白いんだけど、ものす
ごい矛盾を感じるんだよ﹂
﹁どんな内容なんですか?﹂
﹁ええと⋮⋮女3人、男1人が主人公の話で﹂
﹁ハーレム物ですか?﹂
﹁いや? 現代バトルもの。と言ってもファンタジー要素はなくて、
バトルは全部銃とかだな。ってか表紙を見ればハーレム物じゃない
のは分かるだろ?﹂
人数比を聞いただけでハーレムとか考えるのはやめましょう。
﹁そうですね、というかヤス君が普通の書籍を読むなんて意外です﹂
2276
﹁何を言う。漫画やラノベやネット小説以外にも、ちゃんと読んで
るぞ。例えば﹃魔女の宅急便﹄とか﹃ホワイトアウト﹄とか﹃模倣
犯﹄とか﹃ぼくらの七日間戦争﹄とか﹃夏の庭﹄とか﹃スタンドバ
イミー﹄とか﹃ぼくは勉強ができない﹄とか﹂
﹁⋮⋮映画化された物だけですね﹂
﹁いやいや﹃悪霊がいっぱい!?﹄とか﹃ダレン・シャン﹄とか﹃
DIVE!﹄も読んでるよ﹂
﹁⋮⋮漫画化された物だけですね﹂
﹁いやいやいやいや﹃おっぱいバレー﹄とかも読んだよ?﹂
﹁今度映画化されますよ?﹂
そうなの!? ⋮⋮﹃おっぱいバレー﹄は偶然だからしょうがない
やん。
﹁この話に戻るけど、女3人のうち2人はおばさんだし、男はおじ
さんで子持ちだし﹂
﹁⋮⋮はあ、それでどんな矛盾を感じたんですか?﹂
﹁この主人公の男、最初はめっちゃへぼキャラなのに、途中からめ
ちゃめちゃかっこ良く変身するんだよ﹂
﹁何か転機でもあったんじゃないですか?﹂
2277
﹁ああ、転機はあったな﹂
﹁ならいいじゃないですか﹂
﹁でもさあ⋮⋮人間ってそんなに一瞬で強くなるか? 銃を扱えな
かった人が、特訓も無しに気の持ちようでいきなり強くなれるもん
か?﹂
﹁その辺りは考え方次第じゃないですか? 本なんですし、気にし
なくていいと思いますが﹂
﹁そうなんかなあ⋮⋮﹂
﹁そもそも、矛盾のない小説や漫画ってありますか?﹂
﹁わかんね。でもこの作品、大賞までとってる作品なんだけど⋮⋮
賞を受賞してる作品ですら矛盾って起きるもんなんかなあ?﹂
﹁さあ、どうなんでしょう? でも、それぐらいは矛盾って言わな
いんじゃないですか? 漫画とかだともっとすごいやっちゃったっ
て言うのがたくさんありますよ﹂
﹁ええと⋮⋮どんなの?﹂
﹁例えば⋮⋮ドラゴンボールのクリリン﹂
﹁どこが?﹂
﹁鼻がない設定のはずなのに、天下一武道会、ジャッキーチュンと
の対戦で鼻くそ投げてます﹂
2278
ああ、確かに矛盾してる。けど、そこまで重要な失敗じゃない気が
するのは俺だけか?
﹁例えば⋮⋮名探偵コナン﹂
﹁あれは無理矢理な解決が多すぎだろ﹂
コナンの存在自体がおかしい時点で、推理ものとして読まなくても
いい気がする。
﹁例えば⋮⋮地獄先生ぬ∼べ∼﹂
﹁単行本で謝ってたからいいんじゃない?﹂
弾劾裁判という名目で、あんなにミスがあったのかあとちょっとウ
ケた。
それ以外にもミスがたくさんあったらしいけど。
﹁例えば⋮⋮ドラえもん﹂
﹁別に秘密道具があれば何でもありだろ?﹂
﹁いえいえ、ドラえもんの体重知ってますか? 129.3キロで
すよ?﹂
﹁それで?﹂
﹁のび太君、ドラえもんを道具無しで持ち上げた事があるんですよ
?﹂
2279
﹁⋮⋮それはすごい﹂
﹁他にも、のび太くんの学年、漫画では変わったりするんですよ。
小学4年生になったり小学5年生になったり﹂
それは連載してた漫画が小学館の﹃小学ほにゃらら年生﹄の年齢に
合わせてただけじゃん?
﹃あさりちゃん﹄もときどき年齢が変わった事があるような⋮⋮大
してそこは重要じゃないからいいんじゃないか?
よくあるよくある。
﹁小説でも、例えば﹃ズッコケ三人組シリーズ﹄、連載がものすご
く長かったので時系列にするとすごい事になりますよ?﹂
﹁や、それはしょうがないんじゃない? 成長しない人たちが主人
公の時点で所々おかしくなるのは諦めた方がいい気がする﹂
そう言う事を本編の中でネタにしてた作品もあったような⋮⋮ええ
と⋮⋮﹃天国に涙はいらない﹄とかこないだアオちゃんに借りた﹃
おちゃらかほい!﹄とか⋮⋮﹃おちゃらかほい﹄面白かった、少女
漫画なのに笑えるとはやるじゃないか。
﹁ほら、今ヤス君も矛盾しましたよ?﹂
﹁え? 俺何か矛盾した?﹂
﹁賞をとるような小説では矛盾しちゃ駄目って最初に言いましたけ
ど、﹃ズッコケ三人組シリーズ﹄、巖谷小波文芸賞を受賞してます
よ﹂
2280
﹁⋮⋮まじ?﹂
﹁まじです﹂
うわ、まずった。
﹁参考書等は矛盾が生じてしまったらまずいですけど、小説は長引
けば長引くほど矛盾やミスは生じるものだとおもいますよ。読む側
は﹃ああ、しょうがねえなあ﹄と言う気持ちで見てあげるのもあり
なんじゃないですか? ズッコケ三人組シリーズはファンが矛盾を
指摘するのも楽しんでた事もあるみたいですが﹂
それは知らんかった。
﹁⋮⋮そうなのか﹂
うん、オウエンジャーも多少のミスはご愛嬌? そんな感じで書い
ててもいいのかな?
﹁でも、書く側は読者のそんなところに甘えないで、書き間違いが
生じないように書かないといけないと思いますけどね。一番大きな
ミスですと、人名を書き間違えたりすると確実に読者は混乱します
よ?﹂
﹁はうっ⋮⋮﹂
アオちゃん、きっつい一言をありがとうございます。
⋮⋮気をつけよう。
2281
247話:矛盾︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
男1人女3人⋮⋮という話は﹁葬列︵小川勝己著︶﹂です。
長編です。ジャンルとしては、アクションとサスペンスかな? 興
味がある方はぜひ。
﹁おっぱいバレー﹂はちょうど今公開中、4月18日公開です⋮⋮
今度の休み、自分も見にいこかな。
それでは今後ともよろしくです。
2282
248話:携帯板小説家になろう
今日は10月29日水曜日。
学校も部活も終わって家でサツキとケンとごろごろしてる。もうす
ぐ駅伝があるというのに、自宅ではのんびりしてます。まあ、いつ
もいつも緊張してる訳にもいかんから、これぐらいのんびりしてる
のがちょうどいいんじゃないかなあと思う。
で、携帯をぽちぽちいじっているんだが⋮⋮携帯って小さくてやっ
ぱり使いづらい。
﹁ヤス兄、何うんうんうなってんの?﹂
サツキ、うんうんはうなってない。
﹁何か変なもん食って腹壊したか?﹂
うっさい、ケンじゃあるまいしそんな事しねえよ。
﹁や、暇だったから携帯でインターネットを使ってたんだけど、や
っぱり携帯って使いにくいな﹂
目の前にパソコンあるんだからパソコンで見てりゃよかった。
﹁どこがだ?﹂
﹁まずパソコンに比べて遅い﹂
﹁そりゃしょうがねえだろ﹂
2283
﹁パソコンに比べて画面が小さい﹂
﹁それもしょうがないよ、ヤス兄﹂
⋮⋮まあしょうがないんだけどさあ。ちょっとくらい﹃そうだね、
使いにくいよね﹄って同意してくれよ。
﹁んで、携帯から﹃小説家になろう﹄にアクセスして、読んでたん
だけどパソコンだと1ページで表示してくれるのに、携帯版はいく
つものページにわけられて不便﹂
﹁それもしょうがない事なんだぞ、ヤス﹂
﹁なんで?﹂
1ページにドバって書いてくれた方が見やすいじゃん。
﹁携帯には表示限界というものがあってだな﹂
﹁ふむふむ﹂
﹁例えばdocomoでは1画面の表示できる容量は2キロバイト
以内を推奨、どんなに多くても5キロバイトは超えるなって言って
る⋮⋮資料はかなり古そうだったけど﹂
﹁2キロバイトってどんなもん?﹂
﹁全角の1文字が2バイトだ、1キロバイトは1024バイトだな﹂
2284
てことは⋮⋮。
﹁2キロバイトって言うと2048バイトだから出来る限り102
4文字以内におさめろって言ってる訳か﹂
5キロバイトで考えても2560文字⋮⋮確かに表示できないな。
﹁んじゃ、検索の条件の違いもしょうがないのか?﹂
﹁携帯の画面でジャンルとかキーワードとか、検索条件ふやせない
のはしょうがないだろ。携帯のちっこい画面で片手だけでいろいろ
設定をポチポチやるのはめんどくてしょうがないからな﹂
﹁確かに﹂
⋮⋮やっぱり、パソコンがあるんだったらパソコンかなあ⋮⋮や、
でも携帯の手軽さは捨てがたい。
電車の中とか、つまらん授業のときとか⋮⋮ごほん。
﹁携帯の小ささで、パソコンぐらい速くインターネットできたらい
いのにな﹂
﹁最近は携帯電話も進化してるけど⋮⋮なんだかんだ言って携帯で
いろいろ調べたりするのは大変だよ﹂
﹁⋮⋮ケン、なんか実感こもってるな﹂
﹁携帯で調べ物しようと思っても、パソコンではきれいに見られる
ページでも携帯じゃ見られないページっていくらでもあるからな。
wikipediaも携帯は対応してないから読みづらくてしょう
2285
がない﹂
へえ、wikipediaって携帯対応してないのか。
﹁前、花見の名所を調べたくて携帯電話でwikipediaのペ
ージ開いて、﹃桜﹄って検索したら﹃除算記号﹄って認識されて調
べらんなかった﹂
⋮⋮何をどう間違えれば﹃桜﹄が﹃除算記号﹄になるんだ?
﹁ケンちゃん、携帯対応もしてる﹃小説家になろう﹄ってすごいん
だね﹂
﹁そうそう、﹃小説家になろう﹄のシステムはすごいんだぞ﹂
﹁そっか、﹃小説家になろう﹄ってすごいんだ⋮⋮﹂
なんか俺ら﹃小説家になろう﹄のCMをしているみたいだ。
﹁ところで、これだけ調べにくい、書きにくい携帯で頑張って書い
て投稿している作者たちが、どうにもこうにもネタに詰まって﹃す
みませんが⋮⋮﹄とどっかで聞いていると﹃ちったあ調べろよ、い
ろいろ調べればすぐでてくんだろ﹄って言ってるのを見るとどうに
もこうにもむかついてしゃあないんだが。しかもマナーが悪いと言
う人に限って大抵タメ口で返信してたりするんだよな。自分を振り
返れよって話だよ﹂
﹁ケン、それは言うな⋮⋮﹂
﹁いいや、1回くらい言うぞ。そもそもだな、質問してきた人にそ
2286
れくらい調べろよって言う人って変だと思うんだよな。わからない
から質問するんだよ。できないから質問するんだよ。質問して何が
悪いんだよ﹂
﹁ケンちゃん、それを言うのは危険だよ﹂
﹁だいたいさ、ぐぐれって言葉言う人うざいんさ。確かにGoog
leにはお世話になるかもだけどさ、みんながみんなGoogle
で検索できると思うなって話だ。パソコンが詳しい人は、なぜか人
を見下す傾向強いよな﹂
﹁ええと、それ以上言うと、どっかから聞きつけた人があらしに回
るかもしれんからストップストップ﹂
﹁ダメだ! 今日は最後まで言わせろ!﹂
^−^︶ノ︵*
^−^︶ノ
ダメだ! ケンが暴走した! こうなったらケンは止まらない!
今日の交換日記
−−−
こんばんはー、サツキです︵
アオちゃん先輩、ユッチ先輩、ありがとうございます! ヤス兄は
なにがあっても私の味方のヤス兄のままって事ですよね。アオちゃ
ん先輩とユッチ先輩から聞いて安心しました︵^O^
ヤス兄、絶対に私を裏切ったやだからね!
2287
もうすぐ私の中学、文化祭なんです。ヤス兄の駅伝が終わった次の
日です。
アオちゃん先輩もユッチ先輩ももしもおひまでしたら、見に来てく
ださいねo︵〃^▽^〃︶o
ヤス兄はその前に駅伝頑張ってね!
それじゃ、また!
2288
249話:部内抗争
10月31日、金曜日。天候曇り。
学校も終わり、今日の部活が始まる。
今、準備運動してる最中、ポンポコさんと今日のメニューについて
話し合ってる。
﹁ヤス、そろそろ調整をした方がいいぞ﹂
﹁調整?﹂
ポンポコさん、なにをおかしな事を。
﹁明後日が駅伝なのだ。今日も明日も思いっきり練習してしまった
ら、体力が残らないだろう?﹂
﹁あれ? でもポンポコさん、新人戦の時には﹃ヤスなんぞが調整
したってどうにもならんわ、このボケ﹄って言ってなかった?﹂
﹁誰がそんな事を言った!﹂
⋮⋮あれえ? そう言われたような記憶がかすかにあるんだけど⋮
⋮違ったかなあ。
﹁全く⋮⋮変な事を言うな。私はそこまで毒舌ではない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮そうだっけ?﹂
2289
ポンポコさんほどの毒舌なんてそんなにいない気がするんだが。
﹁そうだ! 私は毒舌などではない! ⋮⋮まったく、話がずれた
な。 確かに私は新人戦では調整するより練習した方がいいと言っ
た。なぜなら十分に実力がついていないのに調整だけしてもタイム
がそこまであがると思えないからだ﹂
﹁お、って事は俺って結構実力ついたって事?﹂
﹁ふっ⋮⋮寝言は寝ていえ﹂
うわあ⋮⋮鼻で笑われたあ⋮⋮。
﹁だが、ヤスは言ってくれたではないか。﹃駅伝は私の為に走る﹄
と﹂
うん、言った。今でももちろんそのつもりだぞ。
﹁だったらそう言ってくれた人に、1秒でも速く走って欲しいと言
うのが乙女心というものだろう?﹂
乙女? 誰が? 男心の間違いじゃね?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮今思ったことを口にしてみよう、ヤス﹂
﹁いえ⋮⋮結構です﹂
何か絶対怒りそうだもん。
﹁大丈夫、私怒らない、私嘘つかない﹂
2290
いや、絶対怒ってるだろ! ポンポコさん、口が笑ってるけど目が
怒ってるんだもん。口調も片言になってるもん。
﹁いいから言うのだ!﹂
⋮⋮はい。
両ほほが真っ赤になるぐらいビンタされた⋮⋮ジンジンする。とっ
ても痛い。
﹁くそお⋮⋮口だけじゃなく、心も災いの元なのかなあ⋮⋮﹂
しかし、どうしろと言うのだろう。何も考えるなと言う事なのだろ
うか⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮⋮こ⋮⋮こんに⋮⋮ちは⋮⋮﹂
2291
﹁ういっす、ヤマピョンか、こんちはー﹂
いやー、今週から一緒に練習する相手ができてめっちゃ楽しい。1
人で走るより、仲いい誰かと一緒に走るのって本当にサイコー。仲
いいメンツとじゃなくても、誰かの歩調に合わせて走るのって気持
ちがすごく楽になる。ヤマピョン様々だね。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
のんびりとストレッチ中。背中をグーッと伸ばす。気持ちいい。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
今度はふとももー。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
ふくらはぎー⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮﹂
2292
アキレス腱ー⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮はぁ﹂
﹁な⋮⋮な、な⋮⋮なに⋮⋮?﹂
﹁いや、何でも無い。ただ、いいなあと﹂
﹁⋮⋮⋮⋮?﹂
ヤマピョンといると何だか和む。静かな時間を過ごすには最適な相
手だよな。
﹁そういやポンポコさんから聞いたんだけど、今日から駅伝まで、
2日間しか無いけど、調整に入るってさ﹂
﹁⋮⋮そ、そう⋮⋮な、な⋮⋮⋮⋮やる⋮⋮⋮⋮?﹂
﹁んーと、ポンポコさんいわく、40分から50分ぐらいジョグし
た後、駅伝で走る位の早いペースで外周を1周走って、その後流し
を3本暗いやっとくといいんじゃないかなと言う事だ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮わ、わか⋮⋮た﹂
﹁わからん﹂
⋮⋮何だよ、突然口を挟むなよ。
2293
﹁⋮⋮え⋮⋮⋮⋮だ、⋮⋮だれ⋮⋮?﹂
﹁中長距離のキャプテンをつとめてる2年の先輩。先輩、何ですか
?﹂
ウララ先生の特権を使って3区4区で走れる事が決まった時点で、
先輩たちなんてどうでもいいやあと言う気持ちになってしまってい
る。
⋮⋮俺って嫌なやつだ。
﹁駅伝についてだ。ウララ先生が勝手にお前らを3区4区に決めて
しまったが、俺らは全くもって納得していない﹂
﹁え? 何でですか?﹂
そもそも先輩たち、駅伝に出たいかどうかすら分かんなかったし。
﹁俺たちは俺たちで、もう区間も決めていたんだ。3区は俺が走る
予定だった﹂
はあ⋮⋮そですか。
﹁ヤスは5区か6区を走ってもらう予定だった﹂
5区と言うと⋮⋮3キロか、6区は確か5キロだったな。
﹁ヤマピョンの出場する区間は無い! そもそもヤマピョンは補欠
に名前がのっている事自体がおかしいと思っている。だいたい今ま
で幽霊部員だったやつになんで3区なんて花形区間をまかせなきゃ
ならないんだ﹂
2294
⋮⋮自分が花形区間を走りたいだけじゃね? この先輩。
﹁幽霊部員なんぞに3区は任せん。同時に一緒に練習をしていない
ヤスに重要区間の4区は任せん!﹂
⋮⋮この自己中心的野郎め⋮⋮。
﹁別にいいじゃないですか。俺、先輩より頑張ってきた自信があり
ますよ。頑張ってきた人が走る。何か問題ありですか?﹂
﹁問題ありだ! 駅伝はチームだ! タスキをつないで初めて駅伝
だ。つなぐ相手によって士気が変わる!﹂
⋮⋮何を言ってるんだか。
﹁だったら俺とヤマピョンを6区7区、もしくは1区2区に置いて
ください。つなぐ相手は1人ですみます﹂
﹁ヤマピョンは走らせないと言ってる﹂
⋮⋮強情な。
﹁それなら、部内レースで決めましょうよ。速い人が代表として駅
伝を走る⋮⋮何か問題ありですか?﹂
﹁だから幽霊部員なんて走らせたくは﹂
﹁幽霊部員なんかに負けるような練習しかしてこなかったんですか
? 先輩。大口叩くなら勝ってくださいよ﹂
2295
﹁⋮⋮やってやろうじゃん﹂
挑発に乗りやすい先輩だな。
﹁今日、外周5周して、速い方から順番に駅伝を走ると言う事で決
定だからな﹂
﹁了解です﹂
めっちゃ短っ! って思ってしまったが、ここは同意しとくか。
⋮⋮絶対勝って駅伝に出場してやるからな。
2296
249話:部内抗争︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
駅伝は高3の秋までやってました。高3の秋、駅伝前日の練習が﹃
試合のペースで自分の区間の1.2倍の距離﹄⋮⋮先生、いじめで
すか? と思いました。最初は1.5倍だったのをみんなで言い合
ってやめてました。
高校の先生は調整をほとんどやろうとしない先生でしたねー。
それでは今後ともよろしくです。
2297
250話:部内レース、2回目
いきなり決まってしまった部内レース、1人1人のタイムを測って
もらう為、ポンポコさんが来てくれた。
﹁⋮⋮ス﹂
距離は外周5周。メートルにして4100mってとこ。長い時には
20キロ走ってる自分にとっては短くてしょうがない。
﹁⋮⋮ヤス﹂
向こうの方で、何で5周も長い距離でタイムアタックやるんだよー。
とぼやいている先輩をみると、どう転んでも負ける気がしない。っ
てか今までのんびりと練習してきた先輩やノンキ、マルちゃんなん
かに誰が負けるかっての。
﹁⋮⋮⋮⋮ヤス﹂
ポンポコさんに鍛えられた自分を見せてやる、圧倒的な差を見せて
勝ってやるんだから。
﹁ヤス!﹂
﹁あ、なに? 色々考えててボケっとしてた﹂
﹁今ヤスが考えてた事をあててやろう。﹃あんなヤツラには絶対負
けねえ﹄﹂
2298
⋮⋮なんで分かるんだろう?
﹁ヤスの顔がまさにそう言っていた。ヤスが思った通り、確かに負
ける事は無いと思うが⋮⋮慢心はダメだからな﹂
﹁⋮⋮ありがと、ポンポコさん﹂
あぶねえあぶねえ、ポンポコさんの言う通りだ。こんななめきった
気持ちで出場なんかしたら、きっとどこかでポカをする。
﹁本当は駅伝2日前にこんな事をしたくはないんだが⋮⋮これをや
らないとヤスが出場できないと言うなら仕方ないな﹂
﹁⋮⋮ごめん﹂
﹁ヤスが謝る事ではない。とりあえず今は全力を尽くす事だ﹂
ありがと、ポンポコさん。
準備運動もアップも終わった。それぞれにアップしていた、長距離
部員全員がスタートラインに集まる。駅伝出場にエントリーされて
いるのは全部で9名。内8名が中長距離の部員。1人は短距離の人。
去年3キロ走ってもらった人だ。
道幅が狭いから、先輩たちが前列、1年生が後列の2列に並ぶ。
﹁ヤマピョン、絶対勝って出場するぞ!﹂
2299
﹁⋮⋮う、⋮⋮⋮⋮⋮う、ん⋮⋮!﹂
おし、ヤマピョンもやる気だ。
絶対に負けねえからな。
﹁では、合図は私がする。位置について⋮⋮ドン!﹂
ポンポコさんの合図とともに一斉にスタート。同時に自分の時計も
ストップウォッチをスタートさせる。
まずは前列がばらけるまでは前に出れないから、後ろにて様子を見
る。
タッタッタッタッ⋮⋮。
400m通過⋮⋮それにしてもゆっくりなペースだな。いつもアッ
プの時にやってるジョグと同じか、それより遅いくらいだ⋮⋮。
これじゃストレスがたまっちまう。レースなんだぞレース。やる気
ねえのかよ。
抜け出そうかとも思ってるんだけど⋮⋮ただ、前方に先輩が4人、
両隣にノンキともう1人先輩。後方にマルちゃんと完全に囲まれて
しまっている。これじゃ身動きが取れない。
﹁⋮⋮﹂
ヤマピョンも全く動けない⋮⋮これだけぐるりと囲まれてしまった
2300
ら、周りに合わせる事しかできん⋮⋮ちくしょ。
タッタッ⋮⋮タッタッ⋮⋮。
相変わらずのんびりとしたペース。もうすぐ1周になると言うのに、
誰1人として息をきらす様子も無いし、むしろ談笑しながらでも走
れそうだ。
これじゃ練習にならん⋮⋮しかし、この囲い、どうやって抜け出せ
ばいいんだよ?
1周通過。いつもの何倍もの時間がかかった気がしたが⋮⋮タイム
は一体どれくらいなんだろう?
﹁⋮⋮4分﹂
⋮⋮はあ? 4分? ポンポコさんの言い間違いでもなく、俺の聞
き間違いじゃないよな?
﹁ヤス、本当に4分だ! 間違いない!﹂
⋮⋮えっと4分って事は⋮⋮1周あたり820mなんだから⋮⋮1
キロあたり4分54秒ってとこか。
遅すぎだろ!? 競歩でももっと速いタイムで歩くんだぞ。走って
てこのペースってなんだよ!
2301
⋮⋮いやいや、ありえない。こんなペースで後4周も走るってのか
? やってらんないだろ。
⋮⋮これ、もしかして先輩の作戦か? このままずっと囲ったまま
身動きとれないで、ずっと過ぎていくって⋮⋮くそう、このコース
がトラックだったら大外回りしてでも先輩たちを追い越してやるの
に。この外周はずっと歩道。細い道のまま820m。
このままじゃ先輩たちを抜く事ができない。
タッ⋮⋮タッ⋮⋮タッ⋮⋮タッ⋮⋮。
3周、このペースのまま走り続けた⋮⋮もう限界だ。
﹁ヤマピョン、強行突破するぞ﹂
﹁⋮⋮う⋮⋮⋮⋮うん!﹂
ぼそぼそとヤマピョンと内緒話をする。先輩たちに聞こえていよう
が構わない。一気に突き抜けてやる。
壁を作っている先輩たちの人1人通れないような隙間に無理矢理割
り込む。体をぶつけてでも構わない。
2302
﹁⋮⋮ってえな!﹂
⋮⋮うっさい。先輩たちがまたコースを塞ごうと体をぶつけてくる
が、肘で応戦する。
ガツガツと肘をぶつけ合いながらコースを奪い合う。
﹁⋮⋮っひっこんでろ!﹂
腕を大きく振りかぶって先輩が肘打ちを食らわせてくる。
﹁邪魔だ! どけえ!!﹂
先輩だというのも構わずに大声で叫んで、逆に肘打ちを食らわせる。
思いっきり先輩のみぞおちに入ったらしく、グエッと言う変なうめ
き声が聞こえたけど気にしない。
俺が隙間を広げ、先輩達の壁を突破したと同時に、後ろから俺に引
っ付いてヤマピョンも壁を突破する。こっから先は思いっきり走れ
る。
﹁ヤマピョン⋮⋮こっからが勝負だからな!﹂
﹁う⋮⋮⋮⋮う、ん!﹂
しゃ、いくべ!
2303
⋮⋮はっはっはっはっ⋮⋮⋮。
﹁ヤス、スピード練習を全くしていないのに、それだけスピードを
急激に上げたら、きついに決まっている﹂
⋮⋮はあっ⋮⋮はあっ⋮⋮い、息が⋮⋮話しかけないで⋮⋮。
﹁いいか、いくら理不尽な目にあってもカッカしてはいけない、そ
れこそ相手の思うつぼだ﹂
⋮⋮⋮⋮はふぅ。
﹁ヤス、ヤス、聞いているのか?﹂
よ、ようやく落ち着いてきた。
﹁ポンポコさん、あれだろ? ﹃よく覚えとけ、魔法使いってのは
つねにパーティーで一番クールでなけりゃならねえんだ。全員がカ
ッカしてる時でもただ一人氷のように冷静に戦況を見てなきゃいけ
ねえ⋮⋮少なくともオレはアバンと組んでた時にゃそうしてたぜ﹄
だろ?﹂
﹁⋮⋮何を言っているのだ?﹂
2304
ありゃ、ポンポコさんは﹃ダイの大冒険﹄を知らないか。
とりあえず、ものすごく苦しかったけれど、何とか1番になれた。
ラスト400でヤマピョンが仕掛けてきたけど、先輩に食らわせた
ように肘打ちを仕掛けて、ヤマピョンが一歩引いた所でそのまま全
力疾走。
ギリギリの勝負だった⋮⋮。
﹁ヤス、試合で肘打ちは人を選べよ。報復にあってしんどい思いを
する﹂
⋮⋮気をつけよ。
その後、結果を重視するようにとのウララ先生の鶴の一声があり、
ヤマピョンが3区、俺が4区の元の鞘に納まった。
おし⋮⋮明後日は頑張るぞ。
2305
250話:部内レース、2回目︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
私、最近やさぐれてます。私がやさぐれるとヤスもやさぐれるよう
です。
それでは今後ともよろしくです。
2306
251話:高校駅伝、当日
2008年11月2日。
とうとうこの日が来てしまった。駅伝当日だ⋮⋮。
準備は昨日の夜のうちにした、ゼッケンつけた。靴持った。タオル
持った。
忘れ物はない⋮⋮ないとわかっているのにさっきから荷物チェック
をしに何度もリュックを開け閉めしてる。
できるだけのことやった⋮⋮かもしれない。
やるだけやったと言い切れない自分が悲しい。振り返ればあれもで
きたんじゃないかとかこれもできたんじゃないかとか、そんな考え
ばかりが浮かんでしまう。やり残したことなんて何もないよなんて
言葉、いっぺんでいいから言ってみたいすよ。
あああ、もうめっちゃネガティブになってしまってる。大体こうい
う考えしてる時ってのは負ける時なんだよな。テストでも﹃あれを
もう少し見てたらその先に答えが載っていたはずなのに!﹄とか思
うことがしばしばあるもん。そういう時は大抵テストの点も悪いん
だよ。
まあ、自信満々のときも大抵油断して負けるんだけど⋮⋮負けるこ
とばっかりが頭に浮かんできちまうなあ⋮⋮くそお。
﹁ヤス兄、緊張しすぎだよ。今からそんなに緊張しててどうするの
?﹂
﹁サツキ、そんなこと言ってもだな、緊張してしまうものは緊張し
てしまうんだぞ。サツキもテニス、東海大会出場してたときは緊張
してただろ?﹂
2307
﹁緊張してたけど、ヤス兄ほどじゃなかった気がするー﹂
ウソ付け、東海大会では緊張して実力発揮できない飯終わっちゃっ
たくせに。
⋮⋮人間ってのどもと過ぎれば熱さを忘れるもんだ。
誰かが言っていた。﹃緊張を楽しめ!﹄前にも思ったことかもしれ
ない。でも思うだけで、いつも楽しめないまま時間だけが過ぎてい
く。
ああもう! さっきからばてて倒れて道端にうずくまって棄権して
る自分の姿ばっかり想像しちまう! うがあ!
﹁あー、あー、マイクテスト、マイクテスト。サツキ少佐、ただい
まの時刻を報告する。ただいま日本時間にして6時44分26秒で
ある。さて、ヤス2等兵のミッションスタートの時刻はいったい何
時であるか? どうぞー﹂
こらケン、誰が2等兵だ。誰が。それにトランシーバー持ってるわ
けでもないのに目の前で会話してるんだから﹃どうぞー﹄とか言う
なよ。
﹁11時45分00秒であります! ケンちゃん大佐! どうぞー﹂
そうだな、男子駅伝のスタート時間が確か11時45分だった。ち
なみに俺は4区だからその1時間ちょっと後にスタートだな。
﹁すなわち、後5時間もあるということだ﹂
5時間前から緊張してんなよー。って和ませてくれるんだろうが、
それぐらいで緊張が解けたら誰も緊張しないって。
2308
﹁これから5時間もの間、サツキ少佐と俺はこのヤス2等兵の放つ
重苦しい空気に耐えねばならぬのだろうか? どう思う? サツキ
少佐﹂
﹁そのとおりであります! 拷問なのであります!﹂
﹁⋮⋮お前ら! ちょっとは俺のこと励ましてくれるとかないの!
?﹂
くそお、信じてたのに。もっと重苦しい空気を吐き出してやる。
﹁多数決なんだからこれ以上暗くならないようにしろよ。むしろ明
るくなれって﹂
﹁いやじゃ。多数決なんてくそくらえじゃ﹂
﹁民主主義は多数決なんだぞ。すべての物事は多数決にて決定され
ていく。少数意見のものは殺されるんだぞ﹂
⋮⋮いや、それはありえないから。ってかそれってまんま﹃キノの
旅﹄のパクリだろ。
昨日夜遅くまで居間でサツキと2人でずっとごそごそしてると思っ
たら、ずっと﹃キノの旅﹄を見てたのか⋮⋮ここは﹃多数決の国﹄
じゃないんだから。勘弁してくれよ。
﹁とまあ、冗談はこれくらいにしといてさ。そろそろ家でねえ? 集合時間に間に合わなくなるだろ?﹂
⋮⋮あんまり冗談に聞こえなかったのは俺だけだろうか?
2309
向かう先は小笠山総合運動公園。電車に揺られながらあたりを見渡
す。
自分と同じようにジャージ姿の人もちらほら見られる。きっとあい
つらも駅伝出場するんだろうなあ。何でみんな早そうに見えるんだ
ろう? ヨワヨワしたランナーってどっかにいないかなあ?
﹁ヤス兄、走順ってもう決まってるの?﹂
﹁そりゃ決まってる。このプリントに載ってるけど⋮⋮見るか?﹂
サツキにプリントを渡す。サツキはまだ長距離部員、誰も知らんだ
∼
小笠山総合運動公
ろうから興味ない気がしてたんだけど、そんなに見たかったんか?
−−−−−
1区
走者:キャプテン︵2年︶
距離:10キロ
区間:小笠山総合運動公園静岡スタジアム
園内
2区
2310
走者:ノンキ︵1年︶
距離:3キロ
区間:小笠山総合運動公園内
3区
走者:ヤマピョン︵1年︶
距離:8.0975キロ
区間:小笠山総合運動公園内
4区
走者:ヤス︵1年︶
距離:8.0975キロ
区間:小笠山総合運動公園内
5区
走者:ワンニャンコ︵2年︶
距離:3キロ
区間:小笠山総合運動公園内
6区
∼
∼
小笠山総合運動公園内
小笠山総合運動公園内
小笠山総合運動公園内
∼
小笠山総合運動公園静岡スタジ
小笠山総合運動公園内
小笠山総合運動公園内
∼
∼
∼
走者:キシモっちゃん︵2年︶
距離:5キロ
区間:小笠山総合運動公園内
7区:ヨッシー︵2年︶
距離:5キロ
42.195キロ
区間:小笠山総合運動公園内
アム
合計
2311
補欠:マルちゃん︵1年︶ ツボ︵2年︶
−−−−−
﹁ヤス兄、今回の駅伝って小笠山総合運動公園内をぐるぐる回るだ
けなんだねー﹂
﹁ほやね、去年は浜岡総合グランドからはじまって菊川市、御前崎
市といろんなところ走り回ったけど、今年は何でだろな﹂
公道を走ることこそ駅伝の醍醐味な気もしなくはないが。
﹁応援する側からすると、いろんな人が走れるの見れて面白いって
思うけどな﹂
まあ⋮⋮いろんなところ走ると、応援している人の前、ランナーは
一瞬で通り過ぎちゃうからなあ。何度も往復してくれる方が見てる
ほうもいいのかもな。どっちがいいかわからん。
﹁ま、気楽にいけよ。実力的に、負けて当然な試合だ。どんな無茶
したって、誰も文句いわねえって﹂
﹁励ましてるのか、けなしてるのかよくわからんセリフだったけど
サンキュ﹂
⋮⋮ま、ケンの言うとおり、できる限り気楽にいこう。
2312
251話:高校駅伝、当日︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
どこかでも書いてますが、この小説の舞台は静岡です。
nagata/
大会などの場所や記録は、﹃静岡陸上競技協会﹄のホームページを
参考に書いてます。
http://www2.wbs.ne.jp/
t&f/
静岡はきちんと記録が載っていていいですね。愛知、岐阜、三重、
静岡で見たとき、愛知、岐阜はまったくデータがなく、三重と静岡
は記録が豊富に載ってます。
﹃多数決の国﹄はキノの旅1巻第2話です。
キノの旅は不思議な話が多いですね。
それでは。
2313
252話:駅伝、開始
それぞれの区間に散る前に、いったん長距離部員全員が小笠原総合
運動公園、入り口前に集合する。2年の先輩達、ノンキ、マルちゃ
ん、ヤマピョンは俺が来たときにはすでに全員そろってた。
短距離部員は今日は任意参加。と言ってもユッチ、アオちゃんをは
じめほとんどの部員が応援に駆けつけてきてくれてる、ありがとう
ございます。
﹁みんな、おはよ!﹂
﹃おはようございます!﹄
ウララ先生のはきはきした挨拶。それに対して自分らも元気な声で
返事する。
﹁いい天気になってよかったねー。今日は気温20度越えるんだっ
て。絶好の大会日和! 今日は長距離のみんなが主役なんだから、
思いっきり走って思いっきり玉砕してきてね!﹂
玉砕って⋮⋮当たって砕けちゃ駄目だろ!
﹁私自身長距離種目は完全な素人で、どんな練習をすればいいかわ
かってない現状がずっと続いてます。練習も短距離中心に指導する
毎日が続いてて、長距離の練習を見ることができず、とても申し訳
なく思ってます﹂
ウララ先生、そんな自分を卑下しちゃ駄目だろ。
2314
﹁そんな中、自分たちで自分なりに練習を考えて、今日までやって
きてくれてありがとう﹂
や、ども、そんなに褒められると照れます⋮⋮って俺自身は自分で
なんも考えてないけど。ポンポコさんに全部考えてもらってるだけ
だし。
﹁今、長距離内、ちょっとゴタゴタしてるけど⋮⋮人それぞれ、思
いようはさまざまだもんね。ゴタゴタしてるのはしょうがないです。
走るのが好きだから走ると言う人、自分の限界に挑戦するのが好き
だと言う人、勝つのが好きだと言う人、声援を浴びたくて走る人、
応援がうれしくて走る人、Mだから走る人、そこに道があるから走
る人、特に目的もなく、友達が陸上部にいたから陸上部を選んだ人、
親にスポーツを勧められてなんとなく陸上に入った人、健康のため
に陸上を始めた人、美容のために走る人、やせるために走る人⋮⋮
みんな何で陸上を始めたか、なんでここにいるのか、理由はそれぞ
れ違うけど、駅伝のいいところって、そんな人たちがひとつの目標
に向かって頑張れるところ。だと思うのね﹂
⋮⋮なるほどなあ⋮⋮ばらばらなメンバーがタスキを通じてひとつ
になれる⋮⋮ちょっといい話な気がする。
﹃Mだから走る﹄とか言わなきゃなあ⋮⋮もっといい話になった気
がするんだけど。
﹁今日は長距離のみんな、理由はばらばらでもひとつの目標に向か
って頑張ってください!﹂
﹃はい!﹄
2315
﹁いい返事ね、陸上部員一同、精一杯応援します!﹂
﹃はい!﹄
さ、頑張るべ。
時刻は11時30分。
そろそろ1区のスタートの時間が近づいてきた。
今はもう俺は自分の区間のスタート地点近くに来て待機してる。他
のメンバーも全員移動した。
キャプテン、10キロ走れるのかな? ⋮⋮キャプテンが10キロ
走ってる姿見たことないんだけど。練習中に区間距離以上の距離を
走ってないと、その距離は走れないってポンポコさんからよく聞く
んだけど⋮⋮それが事実だと自分までタスキがつながらないなんて
ことないよな。
﹁ヤス兄、緊張してる?﹂
いろいろなことを堂々巡りに考えていたら、サツキに声をかけられ
た。
走る人にはそれぞれ付き添いがついてる。キャプテンのところには
ゴーヤ先輩。ノンキのところにはマルちゃん。ヤマピョンのところ
にはケン。俺の付き添いにはサツキが来てくれた。
俺が走りきった4区と5区の中継点ではワンニャンコ先輩と、ポン
ポコさんが待っている。
2316
付き添いになっている人以外は、走るコースのいろんなところに散
って、それぞれの携帯で、現在何キロ地点通過、現在何位。と言う
ことを伝えてくれる。
﹁緊張してるって言うか⋮⋮心配してる。俺のとこまでタスキがつ
ながるかなあって。その後に自分がタスキつなげられっかなあって﹂
﹁大丈夫だよ。いつもどおりのことをすれば、いつもどおりの結果
がかえってくるんだよ。ヤス兄は今まで毎日10キロ、12キロ、
15キロ、20キロって距離を走ってきてるんだから、それに比べ
れば8キロなんて短すぎだよ﹂
ん、まあそりゃそっか。
﹁大会で実力以上の結果が出せるって言うのは、本当にごく一部の
人間だよって私思うんだ。どんなスポーツでも、練習でやってきた
結果がすべてだよ﹂
ん、まあそりゃそうだ。
﹁ヤス兄は頑張ってきた。だから大丈夫!﹂
サツキに太鼓判を押してもらえると、本当に大丈夫な気がしてくる
から不思議。
﹁サツキ、今何時?﹂
﹁今11時43分、あと2分でスタートだね﹂
後2分かあ⋮⋮今回の参加校は46チームにオープン参加が4チー
2317
ム。スタート位置は陸上競技場内からスタート、最初にトラックを
一周してから、公園内のロードコースになる。去年、うちのチーム
は下から数えての順位だったから、今年のスタート位置は2列目だ。
ううん⋮⋮頑張って真ん中ぐらいの順位に入りたいなあ⋮⋮。
﹁11時45分、先輩がスタートした時間から俺もアップ開始する
から﹂
﹁りょーかい﹂
後1分⋮⋮俺にとって初めての駅伝が始まる。なんでも初めてって
のはどきどきする。
⋮⋮⋮⋮30秒前⋮⋮20秒前⋮⋮10秒前⋮⋮いま、一斉にスタ
ートした。
頑張れ、先輩。
2318
252話:駅伝、開始︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃Mだから走る﹄⋮⋮10000mの試合開始前に審判に言われた
言葉です。
﹁長距離選手はみんなMだよなー。この炎天下の中、10000m
も延々と走るなんて正気の沙汰じゃねえよ。Mじゃなきゃできねえ
よ。ほんとお前らMだよなー。頑張れよー﹂
と言われた記憶があります。激励のつもりだったんだろうなあ⋮⋮。
それでは。
2319
253話:ただいまアップ中
﹁ヤス兄! 今2区のノンキ先輩に渡ったよ!﹂
⋮⋮ふう、タスキがつながったか。正直キャプテンの実力、まった
く知らないもんだからつながらないかもとひやひやしてた。本当に
よかった。
今はアップのジョギングが終わって、サツキの隣でストレッチして
る。1区が今走り終わったって事は、2区が大体10分程度、3区
が27分程度として⋮⋮俺のスタートまで40分ってとこか。
38分くらいって聞いた
﹁キャプテンのタイムってどのくらい?﹂
﹁んー、正確な時間はわかんないけど、
よ、区間順位は⋮⋮45位だって。下から6番目だね﹂
﹁つながってくれればいいよ﹂
一番悔しいのは途中棄権になってタスキがつながらないこと。
もちろん、その選手の体が第一優先だから、走れないと思ったら走
らせちゃ駄目なんだろうけど。
﹁ヤス兄、ノンキ先輩って速いの?﹂
﹁んーと⋮⋮一緒に練習してないから全然知らないけど、確かそん
なに速くなかった気がする﹂
むしろ遅かった気がする。新人戦で800mに出場して予選落ちし
2320
てた記憶がかすかにある。
﹁ヤス兄がタスキもらうの、下から数えての順位になりそうだね﹂
﹁しょうがない、それだけの練習しかしてこなかったんだし⋮⋮ま
あ、上位で来られたら来られたですごいプレッシャーになるから、
下位でいいよ。その方が気楽に走れるし﹂
ちょっと後ろ向きな返答。でもそれが事実。
﹁⋮⋮ヤス兄さ。今年はもうどうしようもないけど、来年、どうす
るの?﹂
﹁⋮⋮来年?﹂
来年のことなんて考えたこともない。来年なんかあったっけ?
﹁んーとね、来年だけじゃなくってね。毎年12月頃には御殿場市
で駅伝大会やってたりするでしょ?﹂
﹁ん、そういやそだな﹂
毎年御殿場市で駅伝が開かれてる。区間は6区間、総距離30キロ
だとか。小学生から40歳以上の大人まで参加してる地元に根付い
た大会。確か今年で第16回大会になるはず⋮⋮。
﹁ポンポコ先輩に教えてもらったんだけど、伊東市でも駅伝があっ
たり、浜名湖一週駅伝とかもあるらしいよ﹂
へえ、冬ってそんなに駅伝があるんか。
2321
﹁大山高校も、そういった駅伝大会に出場してるんだ。でも、今の
ままじゃやっぱり最下位争いしかできないと思うんだ。ヤマピョン
先輩と一緒に練習するようになって、ヤス兄はそれで満足してるか
もしれないけど⋮⋮駅伝って1人や2人じゃ絶対勝てないよ﹂
﹁ま、そだな﹂
﹁でしょ? だったら、キャプテンもノンキ先輩も巻き込んでさ。
もっと頑張ってみてよ﹂
⋮⋮うーん⋮⋮めんどい。
﹁ポンポコ先輩、前に言ってたんだよね。﹃マラソンや普通のトラ
ック競技は、1人1人でやる競技なのだ。凡人がどんなに頑張って
も絶対的な才能を持った化け物が勝ってしまう。でも、リレーや駅
伝なら、勝てるチャンスが残るのだ。一人一人が少しずつタイムを
縮めるだけで、チームとしてものすごくタイムが伸びる。それこそ
が駅伝やリレーの面白さだと私は思う。凡人が天才に勝てる瞬間、
私は見てみたいのだ﹄って﹂
へえ⋮⋮。
﹁ヤス兄、去年の静岡高校駅伝の優勝タイム、知ってる?﹂
﹁や、まったく知らん﹂
﹁2時間13分32秒! さあヤス兄、大体1キロ当たり何分だと
思う?﹂
2322
えっとえっと⋮⋮。
﹁3分10秒くらいかな﹂
﹁そうそう! って事はね。単純計算すると、1人1人が5000
mで15分50秒で走れれば、静岡県高校駅伝では優勝できるんだ
よ!﹂
や、そんな夢みたいな計算法があってたまるかい。
15分50秒を出すこと自体がめっちゃ大変な上に、その実力を持
った人間を7人そろえないと静岡では優勝できないんだろ。
そういうのをとらぬ狸の皮算用って言うんだぞ。
﹁ポンポコ先輩言ってたよ。15分50秒は簡単じゃないかもしれ
ないけど、練習しだいで誰もが狙えるタイムだって﹂
﹁誰もがって⋮⋮才能ある人なら誰もがとかじゃないの?﹂
﹁そんなことないよ、小学校のとき、徒競走がクラスで下から数え
て何番目みたいな人でも出せるタイムなのだぞって言ってたもん﹂
⋮⋮なんだその具体例は。
﹁ポンポコ先輩にいいかっこしたいんでしょ? ポンポコ先輩だっ
て最下位争いのチームを指導してるより、上位を狙うチームと頑張
ってくほうが絶対に面白いと思うんだ。ヤス兄だってそう思うでし
ょ、私もヤス兄がチームを引っ張ってってほしいなあ⋮⋮あ、ケン
ちゃんから電話きたから出るね﹂
⋮⋮はあ⋮⋮最初は自分ひとりが頑張ってれば、サツキもポンポコ
2323
さんも満足してたのに、いつの間にかみんなにも頑張ってもらえる
よう頑張れって⋮⋮要求あがってんなあ。
サツキの期待には絶対答えてやりたいけど⋮⋮大変だなあ。
ストレッチを終え、もう一度軽くジョグをした後、流しに入る⋮⋮
うん、体は重くない。調子も悪くない。
やってやる⋮⋮やってやるぞ。
﹁ヤス兄、ついさっきノンキ先輩がヤマピョン先輩にタスキをつな
いだって! 今順位は46位! ノンキ先輩、1人抜かれちゃった
みたいだね﹂
そか、ノンキ、お疲れ。そしてヤマピョン、頑張れ。
いよいよ俺の番が近づいてきた⋮⋮。
2324
253話:ただいまアップ中︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
どうでもいいこと。きしもっちゃん、ワンニャンコ、ツボ、ヨッシ
ーは大学時代の自分や友達のあだ名です。
それでは。
2325
254話:ヤス、走る
﹁ゼッケン、10番! 10番の学校!﹂
運営委員の人がメガホンを使ってゼッケン名を叫ぶ。
⋮⋮あ、俺だ。思ってたより来るのが速いな。ヤマピョン。
﹁ヤス兄、今呼ばれたね。頑張って!﹂
﹁あいよ、がんばってくるっす﹂
サツキに激励をもらって、スタートラインに立つ。ヤマピョンが頑
張ったみたいで、俺の後ろにまだ10人くらいいる。今現在40番
目。
えっと、ヤマピョンのやつ6人抜いたのか、すげえな。
﹁ゼッケン24番! ゼッケン52番! ゼッケン17番! ゼッ
ケン51番!﹂
えええ!? そんな一気に来るの!?
何で3区も走ってていまだに団子状態になってるのさ!?
ゼッケン24、52、17、51をつけた各高校のランナーが俺の
隣に立つ。
⋮⋮なんかみんな強そうだ。
﹁ヤス兄! 負けるなー!﹂
気楽に言うなー!
2326
⋮⋮あ、ヤマピョンが見えてきた。
普段、練習中はほとんど顔色変えず、息もそんなに切らさないヤマ
ピョンが、もう今にも倒れそうな感じ。いつやめてもおかしくなさ
そうな雰囲気だけど、それでも頑張ってここまで持ってきてくれた
んだ。
﹁ヤマピョン! ラストファイト!﹂
﹁ヤマピョン先輩! 頑張って!﹂
後ろからスパートをかけてヤマピョンに猛追する4人のランナー達。
ヤマピョンも気づいてるっぽいんだけど、足が全然動かないのか、
スパートをかけられない。
ヤマピョンが俺の声に気づいたのか、のろのろとタスキをはずす。
﹁ヤマピョン! 頑張れ!﹂
あと100m⋮⋮あ、1人に抜かれた。
2人目、3人目にもすっと追い越され、最後の1人も今にも追い抜
かれそうだ。
俺にタスキを渡そうとするヤマピョン、俺もヤマピョンからタスキ
を受け取ろうと手を伸ばす。
今タスキがつながった。
﹁お疲れヤマピョン!﹂
なんとか4人目のランナーに抜かれる前にタスキを受け取ることが
できた。
2327
声をかけると同時に、前を走るランナーを追う。まだ10mも離さ
れてない、すぐに追いつける。
ちょっと走ったところでタスキを肩にかけ、キュッと紐を引っ張り、
腰に紐を入れて引き締める。あ⋮⋮ストップウォッチをスタートさ
せるの忘れてた。今からでもとりあえずやっとこ。
﹁⋮⋮﹂
どさっと倒れる音がした、ヤマピョン⋮⋮タスキを渡したと同時に
ぶっ倒れたか。
お疲れっす。
次は、俺の番だ。前のやつらにくらいついてやる。
スタート同時に速いペースで前を走っている3人に追いつく。後ろ
からもう1人のランナーもくっついて総勢5人のグループになった。
﹁はっ⋮⋮はっ⋮⋮﹂
タッタッというリズムで、テンポよく走る。この集団、いつもの練
習よりかなりペースが速いな。新人戦のときに延々とくっついてた
あの人よりも速く走ってる気がする。
⋮⋮このペースはやばいか? や、いけるいける。この集団から遅
れて一人で走るのと、この集団にくっつくのだったら、くっついて
いった方が絶対タイムが速いだろ。
2328
くっついていくと決断する。そうと決めたらどこまでもくっついて
いってやる。
﹁はあっ! はあっ! はあっ!﹂
ち、隣で走ってるやつ、めっちゃ息荒い。なんか気になってしょう
がない。
まだきっと1キロも走ってないぞ。そんなにいき荒れてて大丈夫か
いな。
﹁はあっ! はあっ! はあっ!﹂
﹁はあっ! はあっ! はあっ!﹂
くっそ⋮⋮何で俺まで⋮⋮こんな息遣いになってんだよ。こいつら
ペース速すぎだろ。ちったあペース落とせってんだ。
現在もまだ5人の集団で走り続けている。誰も脱落しない、誰も抜
け出さないと言う状況。けど、集団の中でも大きな違いがある。
俺と隣のやつは息をぜいぜいならしながら走ってるのに対し、前方
で集団を引っ張っている2人と、後ろにコバンザメのようにくっつ
いてる1人はまったくもって息を切らせた様子が無い。
﹁はあっ! はあっ!﹂
2329
つーか、今何キロなんだよ。区間距離とかどこにも書いてないんだ
けど⋮⋮後どれくらい走ったらいいんだよ。
ちらっとストップウォッチを見たら、10分10、11、12⋮⋮。
俺のスピードって大体1キロ3分50から4分だから⋮⋮まだ2キ
ロ半くらいしか走ってないのか⋮⋮。
まだ5キロ半残ってる⋮⋮見なきゃよかった。
﹁ヤス、がんばれー!﹂
⋮⋮あ、ゴーヤ先輩とキビ先輩⋮⋮応援ありがとっす、でも頑張れ
ないっす。きついっす。
ちらっと横目で2人を見て、5人の集団のまま駆け抜ける。
﹁はあっ! はあっ! はあっ!﹂
﹁はあっ! はあっ! はあっ!﹂
⋮⋮息がきつい。隣のやつ、即効でくたばりそうなのに、いつくた
ばってくれるんだろう⋮⋮。
また時計を見たら、今は15分48秒⋮⋮ここで後ろにくっついて
いた1人がずるずるとはなれていってくれた。
⋮⋮ふ、ふう。ようやく1人脱落か、息切れしてなかったからもっ
2330
とついてくるかと思ってたんだけど。それよか俺の隣で息を乱して
るやつが脱落してほしい。この息切れの息遣いは気になってしゃあ
ない。
﹁ヤスう、ファイトだあ!﹂
⋮⋮ユッチ、サンキュ。あとちょっと頑張ろうって気になった。
﹁ヤス君、一緒にがんばりましょう!﹂
⋮⋮アオちゃん、確かに﹃一緒に頑張りましょう﹄とは以前言った
気がするけどさあ。何かが違うぞ。絶対に何かが間違ってるぞ⋮⋮
やべえ、気が抜けてしまった。
﹁はっ! はっ!﹂
さっきよりさらに呼吸が荒くなってきた。
でも、この集団から遅れると、ずるずるといってしまいそうでペー
スを落とそうにも落とせない。まだこの集団のペースが落ちない。
⋮⋮誰か俺より先に脱落してくれよ。
⋮⋮やっばい、唾がたまってきた。いつもなら飲み込むんだが⋮⋮
唾⋮⋮はき捨てるか⋮⋮。
いやいや、なんかやっちゃいけない気がしてきた。ユニフォームに
2331
つけるのも絶対いやだし⋮⋮うん、飲みこもう。
﹁んぐっ⋮⋮ごほごほっ! はあっ! はああっ!﹂
やばっ、めっさ息がつらい。やっぱりはき捨てりゃよかった。
⋮⋮ど、どうにか息を整えないと⋮⋮。
﹁はっ! すーっ⋮⋮はああっ! はっはっ!﹂
意識的に呼吸を整えようと、思いっきり息を吸おうとしたら、余計
苦しくなった。あかん、何馬鹿なことばっかりやってんだ俺。
﹁はっはっはっはっ!﹂
やばい、集団を引っ張ってる人たちがペースをあげやがった⋮⋮俺
一人だけどんどん遅れてく。
ち⋮⋮違うなあ。俺一人だけペースが落ちてるんじゃんよ。あの呼
吸を乱してるやつにまでどんどんおいてかれていく。
まちやがれよ⋮⋮てめえら⋮⋮俺のペースに合わせろってんだ⋮⋮。
ちらっと時計を見直したら、今は20分34⋮⋮5⋮⋮6⋮⋮今よ
うやく5キロ越えたあたりか? まだ3キロあるんかよ⋮⋮。
中間地点はどこだったんだろうなあ⋮⋮。
2332
25分⋮⋮0⋮⋮1⋮⋮2⋮⋮遅れてから地面と時計ばかり見てし
まう。駄目駄目だ、俺。せっかくみんなが頑張ってつないできてく
れたのに⋮⋮きっついんすよ。
﹁はあっ⋮⋮はあっ⋮⋮﹂
遅れたと同時に、自分の足が遅くなったことを実感する。
体に感じる風も、周りの風景の動きも、突然遅くなった。
﹁はあ⋮⋮はあ⋮⋮﹂
まるで歩いてるみたいだ⋮⋮ほんとに動かない。
タッタッと走っていた足音も、今ではドスンドスン⋮⋮。
くそお⋮⋮どうにか動けよ。
﹁はっはっはっはっ﹂
息遣いが聞こえてきた⋮⋮誰の音だ? チラッと後ろを振り返って
みると、先ほど遅れた奴がまた俺に追いついてきてた。
⋮⋮まじか。この野郎はしっかり自分のペースで走り続けて立って
事だよな。
隣に並ばれた。俺の方をチラッと向いて、またすぐに前に向き直り
走り始める。相手にされないまま追い抜かれそうだ。
﹁くっそ⋮⋮はっ⋮⋮はっ⋮⋮﹂
2333
そう簡単に抜かせるかよ。
﹁⋮⋮はあっ! はあっ!﹂
落ちてたペースを無理矢理上げようと腕をぶんぶんふって、勢いつ
けて走ったけど、いったん落ちてしまったペースは全然元に戻らな
い。全然ついていけない。
駄目だ、完全に体力が切れてる。
追いつこうと言う気力すらわいてこない。
⋮⋮誰だよ。体力が切れたら精神力でカバーとかふざけたことを言
った奴。体力切れたと同時に気力も精神力も集中力も何もかもふっ
とんでるんだけど。
﹁はっ⋮⋮はっ⋮⋮﹂
ゴールはまだか⋮⋮。
2334
﹁はっ⋮⋮はっ⋮⋮はっ⋮⋮﹂
息がきつい。わけがわからない。
時計を見た。29分48⋮⋮49⋮⋮まだゴールが無いんだろうか
⋮⋮。
応援してる人がさっきからラストファイト! っていってくれてる
からゴールが近いと思ってるのに、全然ゴールが見えてこない。
﹁ヤス、残り400だ! スパートだ!﹂
あ、ポンポコさんだあ⋮⋮。ポンポコさんにいい走りを見てもらお
うと思ってたのになあ⋮⋮。
全然な走りを見せてしまった。
﹁ヤス! スパートだ! 抜かれるぞ!﹂
⋮⋮まじか⋮⋮? 後ろを振り返ったら、1人のランナーが俺を追
い越そうとスパートをかけている。
⋮⋮このまままた順位を落とすのか⋮⋮? 嫌や。
﹁ヤス! 振り返るな! 前を見ろ!﹂
⋮⋮りょーかいっす⋮⋮ポンポコさん。
ずっと地面ばかり見てたけど、前を見たら次の走者のワンニャンコ
先輩が待っている。
そうだった⋮⋮タスキをつながなきゃ。
﹁ヤス! タスキをはずせ!﹂
2335
ポンポコさんの声に反応して、重い腕を持ち上げて無理矢理タスキ
をはずす。
ぎゅーぎゅーに握り締めて、残りの距離を走る。
後ろからは少しずつ足音が大きくなってきた。
﹁ヤスー!﹂
⋮⋮ワンニャンコ先輩に⋮⋮とにかくタスキを⋮⋮。
後ろのランナーの息遣いまで聞こえてきた⋮⋮やばい。
﹁ヤスー!﹂
⋮⋮あ、ワンニャンコ先輩が大きくなってきた⋮⋮。
﹁⋮⋮おねが⋮⋮します⋮⋮﹂
右手をワンニャンコ先輩に突き出し、ぐるぐるに丸めたタスキを渡
す。ほぼ同時に後ろから来たランナーも次の走者にタスキをつなぐ。
﹁お疲れ!﹂
バシン! と背中をたたかれ、ワンニャンコ先輩は走っていった。
⋮⋮タスキ⋮⋮つなげた⋮⋮。
2336
255話:ごめんなさい
﹁ヤス、お疲れ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁初めての駅伝はどうだった?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁とりあえずヤス、返事をして欲しいし、私のほうを向いてほしい﹂
試合が終わって路上に倒れこんだあと、補助員の人達に持ち上げら
れ、芝生の上まで運んでもらった。
ようやくまともに呼吸ができるようになったけど、それからずっと
ポンポコさんに返事が出来ないままだった。
﹁⋮⋮⋮⋮ごめんなさい﹂
ポンポコさんの方をむかず、そっぽをむいたまま謝罪の言葉だけを
2337
口にする。
﹁ふう⋮⋮ようやく返事をしてくれたか。しかし、何を謝る必要が
あるのだ?﹂
﹁⋮⋮だって﹂
⋮⋮駅伝はもうとっくに終わってる。もうそこかしこで駅伝の片付
2時間
けが始まってるけど、いまだに俺とポンポコさんは4区と5区の中
継点で座りこんでる。
結局、大山高校の結果はチーム全体では区間順位44位。
43分42秒。オープン参加を抜くと、下から3番目と言う結果。
俺個人の試合成績も散々だった。4区8.0975キロ、俺のタイ
ムは31分59秒。区間順位45位。下から6番目。
ポンポコさんにいい走りを見せたい。ポンポコさんのために走りた
い。その結果がこれ⋮⋮
⋮⋮今まで一生懸命俺のためにいろいろサポートしてくれたポンポ
コさんに合わす顔がない。それでずっと隣に座ってくれてるポンポ
コさんに背を向けて話を聞いてる。
﹁今回の結果に悔やんでいるならば、ヤスに責任はない。ヤスは私
の練習に全部つき合ってくれたしな﹂
﹁そんなことないだろ⋮⋮ポンポコさん、ほんとごめん﹂
﹁あやまる必要はない、今回の結果はすべて私の責任だ﹂
⋮⋮なんでさ? ポンポコさんに責任はないだろ。
﹁区間が決まってないからと、ヤスに一回も試走をさせなかった。
コースがわかっていないと、走りようがないことが多々ある。残り
2338
何キロかさっぱりわかっていないだろう? 自分のペースが速いの
か遅いのかもそれではわからない﹂
⋮⋮確かにわからなかったけど、区間を決まらなかったのは長距離
部員が決めようとしなかったのが原因で、ポンポコさんに責任はな
いだろ。
﹁ヤスに1回もインターバル、レペテーションといった練習をさせ
なかった。まずは体力をつけてからと思っていたが、今回みたいな
速い展開になったときに、体が対応できてなかった。新人戦が終わ
ってから、週に1回で良いからヤスにスピード練習も取り入れさせ
るべきだったな﹂
毎日、アスファルトの外周しか使えない中、頑張ってメニューを考
えてくれてるポンポコさんに、そこまでお願いできない。
﹁そして⋮⋮ヤスにプレッシャーをかけすぎてしまったな。すまな
かった﹂
⋮⋮それこそ間違いだ。俺はポンポコさんほど駅伝に対して強い思
いを抱いてなかったし。緊張し始めたのも前日からだ。
試合が終わってから初めてポンポコさんの方を向く。
﹁やっぱり俺が悪いっすよ。ごめん﹂
﹁私のほうこそだ⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁いや、俺が⋮⋮﹂
﹁違う、私が⋮⋮﹂
2339
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮なんかさ、お互いに後悔しあってるって空しくない?﹂
﹁⋮⋮そうだな、失敗と言うものはどうしても起きてしまう。下を
むいてばかりいたらダメだ、後悔は忘れて、反省だけ残そう﹂
﹁そうそう、また次の試合に向けて﹃上を向いて歩こう﹄か﹂
﹁ふふっ、﹃涙がこぼれないように﹄だな﹂
うん。
﹁それではヤス、今日の反省を忘れないうちに、明日にでも思いっ
きり走らないか?﹂
﹁明日?﹂
﹁今日の結果、満足いってないだろう?﹂
﹁まったく﹂
﹁明日、また納得の行く走りをしようじゃないか﹂
﹁⋮⋮ほやね、よろしくお願いします﹂
﹁ああ、よろしく﹂
2340
⋮⋮うん、明日思いっきり走ろ。
今日の交換日記 あおい
︱︱︱
こんばんは、あおいです。ヤス君、お疲れ様でした。頑張ってるヤ
ス君、かっこよかったですよ。結果は残念でしたけど、ヤス君はこ
れからですもんね。
記念に走った皆さんのタイム残してみました。これをばねにこれか
らも頑張りましょうね!
[]は順位です。
1区 キャプテン 10キロ
総合タイム 38分17秒[45]
区間タイム 38分17秒[48]
2区 ノンキ 3キロ
総合タイム 50分08秒[46]
区間タイム 11分51秒[50]
3区 ヤマピョン 8.0975キロ
総合タイム 1時間20分07秒[43]
区間タイム 29分59秒[31]
2341
4区 ヤス 8.0975キロ
総合タイム 1時間52分06秒[44]
区間タイム 31分59秒[45]
5区 ワンニャンコ 3キロ
総合タイム 2時間3分25秒[43]
区間タイム 11分19秒[40]
6区 きしもっちゃん 5キロ
総合タイム 2時間23分25秒[44]
区間タイム 20分00秒[49]
7区 ヨッシー 5キロ
総合タイム 2時間43分42秒[44]
区間タイム 20分17秒[48]
ヤマピョン君のタイムがちょっといいのでしょうか? 長距離は詳
しくないのでいまいちわかりません。
それでは失礼しますね。
2342
256話:ダブルブッキング
駅伝を走った後の夕食。久しぶりにサツキが腕によりをかけた手料
理を作ってくれた。
卯の花、焼きナス、焼きしいたけ、イワシの生姜煮、豚肉の冷しゃ
ぶ、さらにはポテトサラダまで⋮⋮俺の好きなメニューがずらり。
手間隙かかるメニューも関係なしに作ってある。
﹁ヤス兄、今日は頑張ったもんね、お疲れ様﹂
⋮⋮ああ、こういう一言が頑張ってきてよかったって思える。
﹃いただきます!﹄
一口、俺の好物のイワシの生姜煮を口に運ぶ⋮⋮めっちゃうまい。
﹁うまいっす﹂
うまいと思ったときはこの一言だよな。ほんとうまい。
﹁ありがと、ヤス兄﹂
⋮⋮ああ、幸せ。
2343
ただいま食事中。幸せいっぱい、胸いっぱい。こんな幸せな気分に
なれるんだから食事っていいよなあ。
卯の花は言うまでもなく申し分なし。焼きナスはカツオブシをふり
かけたり、ショウガをつけて食べてみたり、刻みネギを軽くまぶし
たり、醤油を軽くたらしただけで食べたり、食べ方いろいろ、おい
しさいろいろ。豚の冷しゃぶもぽん酢とごまだれ2通りの食べ方が
楽しめてグー。モヤシもシャキシャキしててぽん酢との相性も最高。
ポテトサラダの中にはキュウリにニンジン、卵にハムといった王道
なものの他に、もうひとつ。それはチーズ。本当に合う合う。味が
濃厚になるというか⋮⋮うまうま。
食事もほとんど食べ終わった。そういやポンポコさんと約束してた
こと、サツキに言ってなかったなあ⋮⋮。
﹁あ、明日昼前にポンポコさんともっかい駅伝コース走るんで﹂
﹁⋮⋮﹂
あれ? サツキ、なぜ黙る? そしてサツキ、なぜ箸を置く?
﹁⋮⋮ど、どしたのサツキ?﹂
﹁⋮⋮私の文化祭見に来るっていう約束は?﹂
﹁⋮⋮あ﹂
2344
忘れてた。
﹁ヤス兄、﹃あ﹄って何? ﹃あ﹄って? もしかして、忘れてた
?﹂
やばい、サツキの目がメッチャ冷たい。口も笑ってないし、目も笑
ってない。
﹁そ、そんなことないぞサツキ。全く忘れてない。しっかり覚えて
る。忘れるわけないじゃん!﹂
⋮⋮う、嘘も方便だよな。こういうときの嘘はきっと言ってもいい
んだよ。
﹁ヤス兄、目が泳いでるんだよねえ⋮⋮﹂
﹁気のせい気のせい! サツキの気のせい!﹂
こ、この顔どうにかならんのか!? すぐに自分の心が顔に出る。 ﹁ふうん⋮⋮まあいいけど⋮⋮じゃあポンポコさんとの約束は断る
んだよね?﹂
﹁ええっと⋮⋮﹂
どどど、どうしよう⋮⋮約束ってそんな簡単に断っちゃったらだめ
だよな。
﹁ヤス兄⋮⋮私の文化祭なんてどうでも良いんだよね。クロちゃん
やサキちゃん、クラスのみんなで作ってきた出し物も、別に見たく
2345
ないんだよね﹂
﹁見たい見たい! 俺が見たくないなんて思うわけないだろ! そ、
そうそう! ポンポコさんとの約束は夕方なんだよ! 夕方サツキ
の文化祭が終わってから、もう一回走る約束だったんだよ!﹂
ほんとは午前中⋮⋮後でポンポコさんにお願いしとこう。
﹁さっきは﹃昼前に﹄って言ったよ?﹂
うわ、俺の馬鹿! なんて事を口走っている!?
﹁違う違う! 昼前じゃなくって昼飯前だよ!﹃俺にとっちゃ昼飯
前のことさ、はっはーん﹄って意味だよ!﹂
﹁それを言うなら﹃朝飯前﹄だけど﹂
あうう⋮⋮どんどんドツボにはまっていく⋮⋮。
﹁私文化祭終わった後、ヤス兄、ユッチ先輩たちとどっか行きたい
なって思ってたのに⋮⋮﹂
ごめんなさいごめんなさい⋮⋮。
﹁わかったサツキ! ﹃朝飯前﹄に走ってくる!﹂
朝4時くらいに走ってくればどうにかなる! 電車動いてないなあ
⋮⋮。
﹁いいよヤス兄、もう来なくて。アオちゃん先輩とユッチ先輩は来
2346
てくれるし。文化祭終わった後はアオちゃん先輩とユッチ先輩と3
人でおいしいもの食べに行くんだもん。ヤス兄なんかポンポコ先輩
と走ってくればいいんだもん﹂
ああ、サツキが拗ねた⋮⋮。
﹁そもそもさあヤス兄、私と部活とどっちが大事なの?﹂
えええ? そんな究極の質問を答えないとだめなの? 答えは10
0%決まってるんだけど、どう答えてもしこりが残りそうじゃない
ですか?
﹁ヤス兄、何で黙るのさ⋮⋮﹂
こ、答えないとダメっすか?
﹁別に怒らないからさ、思ったことをそのまま言ってみてよ﹂
何度もそんな事を聞かないで⋮⋮そんなのサツキに決まってるじゃ
ん!
⋮⋮あ、そういえば女性はそんな答えを求めていないって聞いたこ
とがあるな。ずいぶん前にどっかのテレビ番組で青木さ〇かさんが
﹃私と仕事どっちが大事なの!﹂って言われたときの正解の返事は
⋮⋮
﹁サツキ⋮⋮﹃そんな質問させてごめんね﹄﹂
これが正解。そんな質問させるぐらいさびしい思いをさせてごめん
⋮⋮これで機嫌が直るはず⋮⋮。
2347
﹁ごまかすなあ!﹂
ゴスッ!!
⋮⋮腹蹴られた。みぞおちに入りました⋮⋮痛いです。涙が出そう
です。ものすごく痛いです。
いつもならやりすぎたって謝ってくれるサツキがうなってる俺を冷
たく見下して、2階に上がっていってしまった。痛いよ⋮⋮お腹も
痛いし、心が痛いよ。
青木さ〇かさん⋮⋮きっとその質問に正解はないと思います。
2348
256話:ダブルブッキング︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹁私と仕事、どっちが大事なの!?﹂
﹁お前に決まってる!﹂
﹁⋮⋮なら、明日は仕事にいかないでよ﹂
﹁無理﹂
⋮⋮﹁無理﹂じゃなくて﹁オッケー﹂って言えたら、正解は﹁お前
に決まってる﹂だと思うんですが⋮⋮言えないだろうなあ⋮⋮。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2349
257話:ラジオ
今日は11月5日。
駅伝の次の日は、結局サツキの文化祭に参加。サツキたちの劇﹃ホ
ームアローンズ﹄はなかなかよかった。﹃ズ﹄って時点でアローン
じゃないじゃんとつい突っ込みを入れてしまった時点で自分は負け
ていた。
文化祭が終わった後、アオちゃん、ユッチ、サツキとケーキバイキ
ングに行って、それからサツキを連れて19時ころにポンポコさん
と会ってきた。
んで、負けた悔しさをぶつけに駅伝の4区を思いっきり走った。
駅伝の疲れ+ケーキが腹に残ってて、あんまりいい走りが出来なか
ったけど、駅伝のタイムよりかはましなタイムが出せたからいいや。
11月4日は大山高校のマラソン大会。3日連続はしんどすぎる⋮
⋮。
そして今日、気が抜けた走りを続けていたら、そんな自分を見かね
てポンポコさんが今日は一日休みを入れようと発案して、家でゆっ
くり休んでおります。漫画や小説だと、何かが終わった直後から次
の目標に燃えているって人が大勢いるけど、俺は1個終わるともう
無理。しばらくやる気が冬眠してしまう。
﹁しかし、暇だ﹂
時刻はまだ17時。夕飯の準備をそろそろ始めてもいいけど、短距
離は今日もしっかり練習中で、サツキもきっと家に帰ってくるのは
19時半すぎになると思う。まだちょっと早い。⋮⋮家で1人。何
2350
もすることが無い。
﹁何かやること⋮⋮ラジオでも聞くかあ⋮⋮﹂
ラジオ体操をしてから、ラジオって意外と面白いと気付く。
何かやってないかなー。
﹁こんばんは、夕方のニュースの時間です﹂
こんかつ
ブーム・あなたはどう感じますか?﹄
ほおほお、ニュースね。最近の時事問題ってどんなのがあったっけ。
﹁今日の特集は﹃
です﹂
⋮⋮﹃こんかつ﹄って何?
﹁今までは自然に適齢期が来ると、結婚できていました。でも、最
近はそんな時代ではなくなってきたようです。結婚したい人たちの
結婚活動をレポート!﹂
ああ、﹃こんかつ﹄って結婚活動のことか。
﹁中々結婚できない、理想の恋愛が出来ないって言う人⋮⋮私もな
んです。私と結婚してください!﹂
はぅ、アナウンサーさん、何をぶっちゃけてるんですかあ!?
﹁私の何がダメなんですか!? お見合いしても普通に出会っても、
会う人会う人、﹃ごめん、ほんとにいい人なんだけど。ずっと友達
でいてね﹄って⋮⋮なんなんですか!?﹂
2351
﹃いい人﹄とは断りの常套文句。頑張れアナウンサーさん。
﹁この前なんて東京駅でコンタクトを落として困っている方と会っ
て、一緒になって探して、見つけた時に2人の手と手が重なり合っ
て⋮⋮そのままお礼に食事に一緒に行くことになってちょっとオシ
ャレなレストランでおいしいワインを飲んで、ちょこっとお話しし
たら趣味がお互い一緒で、お互いにDEEN大好きだってわかって
今度一緒にコンサートに行こうねって話をしてその場で電話番号も
メールアドレスも交換したのに、とてもいい雰囲気だと思ったのに
! まさに運命だと思ったのに! それから何の音沙汰もないんで
すよ、連絡してもいつも通話中なんですよ!﹂
着信拒否と言うやつですか⋮⋮。
すげえ妄想⋮⋮妄想だよな?
﹁いいですよどうせ私は痛い人ですよ。ドライですよさめてますよ
ひねくれてますよ不細工ですよいつもファブリーズのにおいがする
ねなんてからかわれてますよ髪を伸ばせばうっとうしいと言われ髪
を切ればクセッケがはねまくりストレートパーマをかけると頭の形
が変と言われるですよネガティブですよ人の不幸は密の味の人です
よ。最低ですよわかってますようるさいですよそんな事言うなです
よ﹂
誰もそんな事言ってないですよ。自己嫌悪に落ちるなですよ。頑張
れアナウンサーさん。君は﹃一人じゃない﹄
﹁こほん⋮⋮このニュースの途中でまた後ほど放送させていただき
ます。視聴者のご意見、ご感想もどしどし募集しています。ご意見
やご感想をラジオ放送のエヌエヌエヌアットマークホニャララへメ
2352
ール、もしくは03−××××−××××へ留守電で送ってくださ
い﹂
ふーん⋮⋮アナウンサーさんみたいに焦っている人がたくさんいる
のかな?
ま、俺はまだ高校生だしまだ関係ねっかあ。別の番組別の番組っと
⋮⋮カチャカチャ⋮⋮。
﹁どーも、今日もミュージックレコードの時間がやってまいりまし
た。今日の司会進行はサクライです! 今日は昔懐かし90年代の
名曲を、視聴者の皆様からリクエストしてもらって紹介して参りま
す。記念すべき最初のリクエストは⋮⋮﹃筋肉少女帯﹄の﹃踊るダ
メ人間﹄だあ!﹂
いや、踊るダメ人間って何さ! おい! 聞いたこと無いけどタイ
トルから言って名曲というより迷曲な雰囲気が感じられるぞ!
﹁﹃ダメ! ダメ! ダメ! ダメ! 人間!!﹄﹂
おい、どんな歌だよ! こういう変な歌嫌いじゃないけど⋮⋮チャ
ンネル変えよ変えよ。
﹁ようこそ、お兄ちゃん!﹂
ども、ヤス兄です⋮⋮って何のことやねん。
﹁あいたかったです! おにいちゃま!﹂
⋮⋮何この番組?
2353
﹁はい、今日は深夜枠からこんな時間にお邪魔してきちゃいました
ー。いつもとちょっと違うスペシャルバージョンです﹂
﹁それでは、これから30分、わたしたちと一緒に楽しい時間を過
ごしてくださいね、おにいちゃん♪ チャンネル変えちゃやだよ!﹂
⋮⋮もえーって言えばいいんだろうか?
サツキがこんな風にぶりっこになる⋮⋮いやー! 鳥肌が立ってき
たー!!
﹁だめだめ! かゆすぎ! 早く別のに変えよ!﹂
カチャカチャカチャカチャ!
ジージー⋮⋮なかなか合わねえな。
カチャ!
お、どこかにあったみたい。
聞いてみよ。
﹁みなさん、こんにちは! 司会のトクです!﹂
2354
257話:ラジオ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
婚活⋮⋮自分もしよかなあ⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
2355
258話:ここ知り!
﹁みなさん、こんにちは! 司会のトクです!﹂
﹁こんにちは、アシスタントのメイです﹂
﹁今日も元気よく、私トクとメイの2人で﹃ここ知り!﹄をお送り
いたします﹂
﹁﹃今日も﹄って今日がはじめてですよ?﹂
﹁⋮⋮メイさん、ちょっといいかい?﹂
﹁なんですか? そんな小声でしゃべったら何も聞こえません﹂
﹁聞こえないようにしゃべっているの! いいか、ようく聞くんだ。
この世はウソの上にウソが何重にも塗り固められてできているんだ﹂
﹁そ、そうだったんですか?﹂
﹁そうに決まっているじゃないか。例えば、全然人気がなくて今に
も打ち切りになりそうな漫画でも必ず﹃大好評連載中!﹄という決
まり文句がいたるところに書かれている﹂
﹁そ、そういえばそうですね﹂
﹁映画でも、﹃10月1日公開!﹄というCMが作られていると、
必ず10月1日にはどれだけ映画館に閑古鳥が鳴いていようが﹃大
2356
ヒット上映中!﹄になる﹂
﹁大ヒット上映中というところがウソなんですね!﹂
﹁そうだ。わかってきたじゃないか、それでこそ俺のアシスタント
だ﹂
﹁ありがとうございます! トクさん﹂
﹁おし。それでは気を取り直して⋮⋮このコーナーは視聴者の皆様
方が知らないから知りたい! と言う事をメール・手紙・もしくは
FAXで送っていただいて、それに私たちが答えると言うかたちで
お送りします﹂
﹁私たちが知らなかったらどうするんですか? トクさん﹂
﹁⋮⋮メイ、ちょっと頭だせ﹂
﹁はい、出しました﹂
﹁脳天ビリビリ頭突きい!!!﹂
﹁痛いっ! 痛いです、トクさん! 私Mじゃありません。いじめ
ないでください!﹂
﹁いいか、ようく聞くんだ。俺たちが知らないって言った時点で、
このコーナーの存在意義がなくなるんだ﹂
﹁何でですか?﹂
2357
﹁なぜなら、ここに送られてくるメールや手紙は、何か答えがほし
いから送ってくるんだ。そんな癒しを求めて送っていただいたメー
ルに﹃僕しらなーい﹄が通用すると思うな。知らなければ必死で調
べて、その上で返答をするんだ﹂
﹁め、目からうろこが落ちました⋮⋮トクさんはそんなにも皆様の
ことを考えていたんですね。今の今まであんた何様と思ってました
けど﹂
﹁⋮⋮メイさんや、もう一回頭突きされたいみたいだな?﹂
﹁いえいえ! もう十分です!﹂
﹁おし、仕切りなおして⋮⋮それでは早速記念すべき第1回目の質
問から! ペンネーム匿名希望さんから﹃来年大学を卒業なんです
が、就職面接に落ちてばかりなんです⋮⋮どうすれば受かりますか
?﹄﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮い、いきなり重い話題ですね﹂
﹁まさかこんなところにこんなメールが届くなんて思ってなかった
な﹂
﹁ですよね。﹃うちの犬の名前はどんなのがいいでしょうか?﹄の
ようなしょうもない話題だけだと思ってました﹂
2358
﹁俺たちこそ、この業界をなめていたな﹂
﹁それで、自虐はこのくらいにして、どんな風に答えるんですか?﹂
﹁⋮⋮そうだなあ、ぶっちゃけ俺自身が第1志望落ちたんだよなあ。
それで今ここにいるんだが﹂
﹁そんな事ぶっちゃけちゃ駄目ですよ! 第2志望でいやいやここ
にいるみたいじゃないですか!﹂
﹁入ってから好きになったからいいの﹂
﹁⋮⋮ああいえばこういう人ですね。トクさんは﹂
﹁うるさい。ちなみに﹃必ず受かる面接必勝法﹄、俺第1志望受け
る前に読んだけど、何にも参考にならなかったなあ﹂
﹁本の意味ってないですねえ﹂
﹁そうそう、それで本を書いた人にクレームを入れたって、別に就
職先がみつかる訳でもないからなあ。﹃あんた本当に私の書いたと
おりの事をやったの?﹄って言われるだけで終わりだろうしな。﹂
﹁トクさん、それってこの質問に対して、﹃面接に正解なんてない
んだ﹄って言って逃げるつもりですか﹂
﹁いやいや、そんなことはない。ええと⋮⋮すごい単刀直入って事
を言うと、﹃運がよければ、きっとある﹄﹂
﹁それ言っちゃったらどうしようもないじゃないですか﹂
2359
﹁でもきっと事実。どんだけ不景気でも、ハローワークの求人はな
くならない。んでだな大企業を選ばず、地元を選ばず、給料を考え
ず、でも辞めずにすみそうなところ⋮⋮と自分の中にある無意識の
条件を1個1個削っていくと、何かがきっと見つかる﹂
﹁いま、1個条件残しましたよね。というか、そんな事いっても資
格を持ってなかったらなれない職業も多いですよ?﹂
﹁看護士や医者や弁護士はそうだよな。だけどさそうじゃない職業
もいっぱいあるわけじゃん? ﹃俺は事務になりたいんだ﹄とか﹃
絶対コンサルに入りたい﹄とか職種を自分の中で制限してると思う
んだよ。例えば面接で﹃私、大学時代にロボットに関する研究をし
ていました。なので、機械いじりなら普通の人には負けません﹄と
宣言するわけだよ﹂
﹁そうですね﹂
﹁でもさ、大学でどんな研究してようが、同じ事を企業に入ってか
らできると思うことが間違いなんだよな。大学の研究なんてほとん
ど役に立たないと思うほうが正しいぞ﹂
﹁トクさん、大学の存在を全否定ですか?﹂
﹁そんなことは言わないっすよ。けど、そうやって大学時代の経験
を⋮⋮なんて考えずに職種を選ばずなんでも受けてみるときっと何
かある﹂
﹁やっぱり大学の存在を全否定じゃないですか﹂
﹁⋮⋮メイさん、あんたもしつこいっすね。大学とは知識だけを学
2360
ぶところじゃないんだよ。それだったら専門学校や資格学校とどん
な違いがあるんだ? むしろ専門学校のが実用的なことを教えてく
れるかもしれんぞ﹂
﹁トクさん、どこまで大学の存在を否定するんですか﹂
﹁最後まで話しは聞いてくれい。大学とは﹃考え方﹄を学ぶ場なん
すよ。高校までは与えられた課題をこなすというのが基本的なスタ
ンス﹂
﹁はいはい﹂
﹁大学の研究は、テーマから研究の仕方まで、全部自分で考えて構
築していくんすよ。この過程において、いかにして自分で考えてど
うすればよりよい成果が得られるかということを考える頭ができる
わけっすよ﹂
﹁はぁ⋮⋮﹂
﹁こら、メイさん。4大卒なのになんで意味がわからないというホ
ケッとした顔をしているんだよ﹂
﹁私の卒論、英語の本の翻訳して終わりでしたもん﹂
﹁⋮⋮それ卒論ちゃうやろ﹂
﹁私の友達、いろんな論文をコピペして作って提出して卒業してま
したよ?﹂
ひょうせつ
﹁それ剽窃だから! 論文で絶対にやっちゃいけないタブーっすよ
!?﹂
2361
﹁みんなやってましたよ?﹂
﹁どこの大学やねん﹂
﹁匿名希望です﹂
﹁ち、うまい逃げ口上を⋮⋮と話がそれましたな。面接に受からな
いって言ってるこの匿名希望さんが﹃いろんなところを受けたけど、
みんな落ちました﹄というなら、やっぱり面接がよくないのかな?﹂
﹁面接って基本的には化かしあいですよね﹂
﹁ま、そだな。でも俺は﹃どんな資格を持っていますか?﹄で﹃映
画検定と時刻表検定です﹄と答えた﹂
﹁トクさん、あなた馬鹿ですか?﹂
﹁盛り上がったぞ? ﹃時刻表検定って何!?﹄って﹂
﹁人事の方、やさしいですね﹂
﹁履歴書の自己PRに﹃あんまりウソつかないことです﹄って書い
たら﹃あんまりって何? それを書くならせめて普通は1回もって
書かない?﹄って質問された。﹃1回もウソついたことがないって
言ったらそれがウソになりますから。だからあんまりって書きまし
た﹄って答えた。大笑いされた﹂
﹁普通そんなこと書きませんよね。そういうのを馬鹿正直と言うと
思います﹂
2362
﹁﹃うちのほかにもエントリーシート出してますよね。どこ出して
ますか?﹄って聞かれた後、﹃そのうち第1志望はどこですか?﹄
と聞かれて﹃○○です﹄って別の名前を言った﹂
﹁⋮⋮よくそんなんで受かりましたね。そこは嘘でも﹃御社です﹄
って言いません?﹂
﹁その後、﹃うちが内定出した後、第1志望受かったらどうします
か?﹄って聞かれて、﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮第1志望に
行きます﹄って言った。でも受かった﹂
﹁⋮⋮トクさん。あなた、就職なめてますね。この就職氷河期にな
んて事を言ってるんですか!﹂
﹁なあ、受かってびっくりした。ええと、後で人事の人に聞いたら、
﹃その素直さがわかりやすくてよかった﹄って笑ってた﹂
﹁⋮⋮こんなやつを受からした人事を恨みます﹂
﹁メイさん、なにやら不穏な言葉が聞こえましたが?﹂
﹁気のせいです﹂
﹁⋮⋮まあいいや。俺が受かる理由も別に普通だぞ。俺が入社する
前年、﹃御社命です!﹄﹃受かったら絶対にここ来ます!﹄って言
って受からせた人が、全部大企業に内定決まった途端﹃やっぱりや
めます﹄のメール1回で音信不通になったんだって﹂
﹁学生不信になりますね﹂
2363
﹁だろ? これだけ分かりやすい俺が受かるって言うのも、企業の
ニーズとあっていたのだ!﹂
﹁でも、面接はなめてますよね。なんで映画検定ですか﹂
﹁うっさい、俺より最近の人のほうが就職なめてる。履歴書に印鑑
押すとこあるやん。シャチハタ押してくる馬鹿がいたり﹂
﹁ほんとですか?﹂
﹁ほんとほんと。ほかにも履歴書に顔写真はってきてねって書いた
ら、証明写真じゃなくてスナップ写真を貼ってきたり。証明写真で
もスーツじゃなくて私服のを貼ってきたり﹂
﹁そんな馬鹿いるんですか?﹂
﹁いるいる。誤字があっても、書き直ししなかったり。鉛筆で書い
てきたやつもいた。最悪なのはミノ虫を書いてきたやつ﹂
﹁すごいですね﹂
﹁面接のときに、私服で着たり﹂
﹁さすがにこの匿名希望さんもそのあたりはちゃんとしてるんじゃ
ないですか?﹂
﹁後さ、面接のときにいきなり﹃面接の練習できました﹄って言っ
たり﹂
﹁落ちますね﹂
2364
﹁ハローワークにもホームページにもちゃんと書いてあるのに﹃初
任給いくらですか?﹄って聞いてきたり﹂
﹁それも落ちますね、最低限の調べはしとかないと。ですよね﹂
﹁﹃必ず受かる合格マニュアル﹄って本の文例を復唱されたり﹂
﹁面接官、そんなのまで目を通してるんでしょうか﹂
﹁さあ? 俺は偶然読んでたから、その瞬間に落とすことにしたけ
ど﹂
﹁⋮⋮なかなか厳しいですね﹂
﹁やる気のないやつは捨て置くさ。ほかには⋮⋮﹃1分程度で自己
PRをしてください﹄って聞いたら﹃私、負けず嫌いです﹄の一言
で終わったり﹂
﹁もうちょっとがんばってほしいですね﹂
﹁そだな。あとは口べたでいいから本当にあった具体例をちょっと
くらい言ってほしいなあ。﹃負けず嫌いなんです。バスケットで負
けてたとき、ついムキになっちゃって、ルーズボールの取り合いで
相手をふっ飛ばしちゃいました。でもそれぐらい勝ちたいって気持
ちは人には負けません﹄とか。上手なウソつかれると、判断のしよ
うがなくなって困るけど﹂
﹁ただ﹃負けず嫌い﹄って言うだけじゃなくって、何か例を入れる
んですね﹂
2365
﹁そうそう、その人その後、﹃残業多いけど大丈夫?﹄って聞いた
ら﹃残業はしたくありません﹄って答えた﹂
﹁いままでのやり取りでどれだけ好印象でも残業に耐えられなくて
やめるかもって思います﹂
﹁﹃最後になりますが、質問はありますか?﹄って聞いたら﹃特に
ありません﹄って答えた﹂
﹁やる気ないんでしょうか?﹂
﹁﹃最後になりますが、質問はありますか?﹄って聞いたら﹃受か
りますか?﹄って聞かれた﹂
﹁すごいこと聞く人いますね。なんて答えたんですか?﹂
﹁﹃今、落ちました﹄って言おうと思ったけど、﹃回答をお待ちく
ださい﹄って答えた﹂
﹁トクさん、意外と無難な答えをしますね﹂
﹁面接のときは面接受ける側もなんだかんだ言って普通はまじめ。
なので、何百人と受けてこようとできる限りこちらも誠意を持って
対応するのが俺のポリシー﹂
﹁トクさん、変なこだわりが多いですよね。だから女性にもてない
んですよ﹂
﹁うるさい。俺のことはどうでもいいだろう、今は匿名希望さんの
質問に答えましょう。ぶっつけ本番だと、素人が見てもまずいんじ
2366
ゃん? と思うミスがあったりするので、面接の練習はやった方が
いいよな。それと1人で面接の練習やってると、自分じゃわからな
いミスがあったりするから、まじめないい先輩や、社会人に面接の
練習をしてもらうといいと思うよ﹂
﹁突然トクさんがまともなことを言い始めました。びっくりです﹂
﹁メイさん、後で覚えておけよ⋮⋮長くなりましたが、そろそろま
とめますか。匿名希望さんの質問に答えると﹃場所を選ぶな、職種
を選ぶな、面接の練習は誰かに見てもらいながらしろ、条件は選べ、
でも聞くな、そうすればいつか受かる﹄くらいでいいかな?﹂
﹁いいと思います﹂
﹁長くなったあ⋮⋮メイさんや、今回は質問1個で終わりですな﹂
﹁そうですね、トクさんの無駄話がなかったらもう1つ2つ質問に
答えられたと思いますが﹂
﹁メイさん、後で反省会だからな﹂
﹁⋮⋮トクさん、こわいです﹂
﹁それではまた今度!﹂
2367
変なコンビだったなあ⋮⋮また今度も聞いてみよ。
2368
258話:ここ知り!︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
トクさんの話は8割は実話です。創作も混じってますから、全部を
信じないでくださいね。
それでは今後ともよろしくです
2369
259話:ラブレター?
今日は11月10日月曜日。
先週の部活は休みをもらったり、カンケリとか、キックベースボー
ルとか、ポートボールとか、フリスビーをしたり、いっぱい遊んで
リフレッシュした。
ポンポコさんいわく、秋は時々リフレッシュしたほうがいいんだっ
て。
特に短距離は春まで競技がないから、目標を見失うことも多いそう
だ。そんな中単調な繰り返しの練習ばかりをしていると、先週の自
分みたいに気抜けすることが多いらしい。で、気抜けした状態でど
れだけ練習しても効果は上がらない。
いったんいろんな事して遊んで、心身ともにリフレッシュして、﹃
走りたいなあ﹄という気分になってから走ると効果が高いのだとか。
⋮⋮なるほどなあ⋮⋮奥が深い。
今日からまたリフレッシュ期間は終わり、気分を切り替えて練習開
始。
授業も終わりケンととぼけた会話をしながら下駄箱に向かう。
上履きを脱いで外履きの靴に履き替えようとしたとき、なんやら見
慣れぬものがひとつ⋮⋮。
⋮⋮なんだこれ? 手紙?
手にとって裏表をぴらぴら見てみる。花柄のかわいらしい封筒に、
裏側にはリボンのシールでとめられている。
﹁おお! 変人なヤスにも、春が来たぞ。なんと⋮⋮ヤスにラブレ
ターが!﹂
2370
のぞきこんできたケンが大声でさけぶ。
﹁⋮⋮﹂
いやちょっと待て。何かがおかしいだろ。
﹁誰に?﹂
﹁ヤスに﹂
﹁⋮⋮何が?﹂
﹁ラブレターが﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮はあ?﹂
﹁反応鈍いな、ヤス﹂
いやだって何で俺に? 自慢じゃないがこの高校で俺、めっちゃ評
判悪いよ?
どこかで誰かにほれられるタイミングなんてあったかなあと思って
しまうよ?
明らかにケンのいたずらだろ。きっとそうだ、そうに違いない、そ
うに決まってる。
﹁言っとくが俺のいたずらじゃないからな﹂
なぜ俺の思考が読める!?
2371
﹁ってか誰がこんなのをくれるんだよ? 高校で俺のことよく思っ
ているやつなんてほとんどいないだろ?﹂
反省文500枚以上も書いた自分。最初の印象であいつは何かをや
るやつと思われてしまったようで、俺の顔を見るとものめずらしそ
うに見てくるやつまでいる始末だ。
﹁何でそんなに自虐してんだよ? ヤスに手紙をくれるぐらいヤス
のことをよく思ってる人も何人もいるって﹂
﹁ふむ⋮⋮だれ?﹂
﹁ユッチ﹂
﹁友達やん﹂
﹁他にもアオちゃんとポンポコさん﹂
﹁いやいや! そのあたりの陸上部メンバーにまで嫌われてたら俺
学校これないっす。めっちゃへこむ。って他にはいないの!?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁黙るなよ!﹂
﹁ううむ⋮⋮﹂
﹁悩むなよ!﹂
2372
なんだよ。いつもしゃべる人以外は俺のことよく思ってないって事
じゃんか。
﹁ってことはこの手紙は俺に恨みを持った誰かが、この手紙をもら
うことであたふたする俺の様子を見て喜んでんだろ﹂
﹁⋮⋮小学生じゃあるまいし、そんなめんどい嫌がらせするやつい
ないと思うんだが﹂
﹁そんなことはない! こういうのの中にこしょうを入れておいて
くしゃみをする俺をどこかで笑うんだよ! それを見るのは結構快
感だぞ﹂
﹁ヤス、ネクラだぞ﹂
いやあ、悪いことを考えるとどんどんと連鎖してしまう。悪い癖だ
と思うんだけど。
﹁ヤス、どうでもいいからさっさと開けろよ﹂
﹁いや、こしょう爆弾が﹂
﹁入ってないから! さっさと開けろ!﹂
ケンにうながされて恐る恐る開ける⋮⋮うむ、こしょう爆弾は入っ
てない。手紙が一枚入っているだけだ。
﹁ヤス、さっさと読んでみろって﹂
あいあい。2つに折りたたまれた手紙を開いて中身を見てみる。
2373
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁なんだよ。黙るなって!﹂
俺が黙って手紙を見てるのに痺れを切らしたケンものぞきこんでき
た。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
うん、まあ、ケンも黙るよな。
これをもらって、俺はいったいどうしたらいいんだろう?
−−−
今日の交換日記 やすあき
どーも、ヤスでやんす。
今日はびっくりな事があった。
なんと、俺の下駄箱の中に手紙が入ってた。
いやもうほんとびっくり。誰が俺の事好きなんだろう? とちょっ
とだけドキドキしながら手紙を開けました。
で、開いたときに書かれていたのがこれなんだけど、俺とケンで頭
をひねらせたけどさっぱりわかりませんでした。
誰かわかったら教えてください。手紙の中、ひらがなばっかりだっ
たんだけど、ユッチじゃないよな? ユッチだったらもうちょっと
2374
字が下手だし。
−−−−
さささかかだだだださささ。
−−−−
最初の一文がこれ。ちょっとびびった。
−−−−
じ─ね─き
│┼│┼│
え─て─く
│┼│┼│
ご─に─ま
┘└Пコ┌┐コП┌□
−−−−
ほんとに何が書かれてるんでしょう? ちょっと不気味なんだよ。
誰か解いてほしいっす。
んで、最後の一行がこれ。
−−−−
09451136021217193017184023.
−−−−
分かったら教えてください。アオちゃんとサツキ、ついでにユッチ
もよろしく。
2375
んじゃまたー。
2376
259話:ラブレター?︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
よくある、﹁読者への挑戦!﹂というのをやってみたくなりました。
そんなに難しい暗号文じゃない︵と思います︶。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2377
260話:ねむねむ
今日は11月11日火曜日。手紙事件の翌日。
さっきから何度も呼んでるんだけど、まったく布団から出てこよう
としないサツキ。
そろそろ起きろよ。
﹁サツキー、朝だぞ。起きろー﹂
﹁ううん⋮⋮後5分﹂
﹁サツキの後5分は3時間だから駄目。遅刻するからさっさと起き
ろー﹂
﹁ううん⋮⋮いやー、神様が私にもっと寝ろって言ってるー﹂
﹁神様って誰だよ、神様はいないっていっつもサツキいってるじゃ
ん﹂
﹁私が神様ー﹂
⋮⋮訳がわからん。寝ぼけてるわけじゃなしにただ寝たいだけだろ
妹よ。
﹁サツキは人間。神様じゃないから今日も元気に起きよー﹂
﹁ヤス兄、お母さんみたーい。へんー﹂
2378
うっさい、似合わなくて悪かったな。ってかサツキめ、もう完全に
起きてるだろ。布団から出てこい。
﹁神様になれないんだったら女王様でいいー﹂
﹁はいはい、サツキ様。そろそろ起床の時間ですよ。起きましょう
ね﹂
﹁私に命令するなー。私は女王様なのだー、ヤス兄、私にひざまず
けー﹂
今日はなんだか変だなー、サツキ。何があったのやら。
﹁はいはい、我が家の王女様。下賎なわたくしめの諫言をどうか聞
いてはくださいませんか?﹂
﹁ひざまずいたら聞いたげる﹂
⋮⋮めんどいけどやったるかあ。
フローリングの床に膝をつけ、頭をたらして、サツキに対してひざ
まずく。
﹁これでよろしいですか? サツキ様、ささ、起きてくださいな﹂
﹁や﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ムカ。
﹁もう女王様ごっこは終わり! 起きた起きた!﹂
2379
﹁私は私の事を客観的にみて、まだ睡眠が必要だって分かるの。だ
から寝るの﹂
﹁どんな言い訳だよ! 人はそんな風に客観的に自分のことは見ら
れないって!﹂
﹁私は自分の事を客観的に見る事が出来るのー。あなたとは違うの
ー﹂
⋮⋮いや、確かにずいぶん前に﹃あなたとは違うんです﹄って言っ
てやれって話したけどさあ。俺に言わないでくれよ。
﹁遅刻するぞー。中学って遅刻したら居残りで勉強しないといけな
くなるから、高校に部活来れなくなるんじゃないか?﹂
﹁後5分なら遅刻しないよ、ヤス兄﹂
ここで俺とやり取りしてすでに5分は立っていると思う。遅刻が刻
一刻と迫ってきてるんだが。
﹁朝ご飯食べられないぞ? サツキ﹂
﹁いいもーん。10秒チャージするから。今は安眠の方が大事ー﹂
その味気ない食事はないだろう。惰眠をむさぼるためだけにどれだ
け多くのものを犠牲にするんだ、サツキは。
﹁そんなこと言うならサツキには弁当も10秒チャージでいいか?﹂
﹁⋮⋮うーん﹂
2380
そこは悩むなよ! 何をどう考えても惰眠よりも快食だろう!?
﹁今日のお弁当何ー?﹂
﹁炊き込みご飯、ミニトマト、ブロッコリー、デザートに柿﹂
﹁寝るー﹂
まじ!? 俺の弁当10秒チャージに負けるの!?
﹁満足できないサツキには白身魚のフライ! タルタルソースつき
!﹂
﹁⋮⋮うーん⋮⋮﹂
まだ悩むの!? ﹁マカロニサラダもつけちゃおう!﹂
﹁うーん、それじゃ起きよっか﹂
⋮⋮そこまで頑張らないと食べてもらえない俺の弁当っていったい
なんなんだろう⋮⋮。
﹁うーん⋮⋮ねばってみるもんだねー。ねばればねばるほどお弁当
のグレードが上がるんだよね。これから毎日ねばろっかな﹂
﹁やめい! そんなことするならほんとに10秒チャージにするぞ
!﹂
2381
こう言いつつ、お弁当を作り始めてから1回も10秒チャージにし
たことがないからサツキも調子に乗るんかも知れない。
明日あたり本当に10秒チャージにしてみよっかな。でもなあ⋮⋮
サツキに食べてもらわないとお弁当作る張り合いがないし⋮⋮悩ま
しい。
﹁あ、そだそだ。サツキ、ほれ、交換日記﹂
﹁ありがとー、ヤス兄。さあさあ、ヤス兄は今日はどんなこと書い
てるのかなー﹂
﹁おい、ここで読むな! 俺がみてないところで読めって!﹂
自分が書いたものを自分の目の前で読まれるってなんとも恥ずかし
い。毎回サツキにはそう言ってるんだけど、毎回俺の目の前で読ん
でニャハハと笑う。まったく、サツキと言うやつは。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁あれ? どしたのサツキ?﹂
いつもは笑うはずなのに。んーと⋮⋮そんな黙るような文だったっ
け⋮⋮あ。
﹁あの暗号文がわかんなくて悩んでるんだろ! 俺もさっぱりわか
んなくてさあ、サツキはどれか1個でもわかった?﹂
﹁⋮⋮﹂
2382
﹁あれ? サツキってば何でそんなにむっつりしてんのさ?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁おーい、サツキ?﹂
﹁ヤス兄のバカ、マヌケ、オタンコナス!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は?
俺の方を向かずにどたどたと階段を下りていく。さっきまですっご
く機嫌がよかった気がするんだけど、突然怒り始めるなんて⋮⋮何
で?
昨日の交換日記、なんか悪いこと書いてあったかなあ⋮⋮。
−−−−
今日の交換日記 さつき
こんばんは、サツキです。
今日はちょっと怒ってます︵ ̄∩ ̄#
手紙もらったくらいで浮かれるな、ヤス兄! ヤス兄なんてもう知らない○=︵`◇´*︶o
あ、アオちゃん先輩。誕生日おめでとうございます!
2383
プレゼント、お邪魔じゃなかったら使ってくださいね︵*^◇^︶
/゜・:*︻祝︼*:・゜\︵^◇^*︶
それじゃ!
2384
260話:ねむねむ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
今さらですが、サツキはブラコンです。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2385
261話:拗ねたサツキ
﹁おーい、サツキー﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁弁当弁当! 弁当忘れてるって!﹂
﹁いらないもん、10秒チャージするもん﹂
﹁朝も10秒チャージしてたじゃん! 味気なさすぎだろ!﹂
﹁10秒チャージはおいしいもん﹂
うん、確かにおいしい⋮⋮って違う!
﹁時間あるのに! なんで俺の作ったご飯食べくんないの!?﹂
﹁やなもんはやだもん﹂
なぜゆえ!?
﹁今日はサツキの好きなカップケーキも作ったのに!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮や、やなもんはやだもん﹂
今、実は迷ったよな。もっと言ったら持ってってくれたりしないか
な。
2386
﹁サツキの好きなチョコ味のカップケーキも作ったのに!﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
おし、後1息!
﹁抹茶味もココア味も作ったんだ! 持ってってくれ!﹂
﹁ヤス兄、うるさあい! やなもんはやだもん!﹂
しもた、言い過ぎた? どうすれば喜んでもらえるのか⋮⋮妹心は
分からん。
﹁⋮⋮なあ、なに怒ってるの?﹂
﹁怒ってないもん﹂
﹁ならさならさ、怒ってないならさ、俺の愛兄弁当持ってって﹂
﹁や﹂
今日は11月12日水曜日⋮⋮昨日からずっとこんな調子。
サツキが拗ねたよう⋮⋮。
俺何かしたかよう⋮⋮。
﹁それじゃ、いってきます﹂
﹁ちょ、ちょっと待って! 俺まだ準備できてない!﹂
2387
﹁先に行くからのんびり準備すれば?﹂
﹁待って、すぐ行くから! まだ急がなくたって余裕で間に合うだ
ろ!﹂
﹁間に合わないから先いくもん﹂
⋮⋮バタン、と玄関のドアが閉まった。
時計をみるとちょうど7時になったところ。サツキが中学校に行く
のに、どれだけゆっくり歩いても絶対に間に合う時間。
サツキ、なんでだよう⋮⋮。
﹁うう⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ううう⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁うううう⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
2388
﹁ううううううううううううううううううううううううううううう
ううううううううううう﹂
﹁ヤス君、いい加減ものすごくうっとうしいのですが﹂
うんうんうなっている朝、ホームルーム前。まだウララ先生は来て
いない。
ずっとうなっていたらアオちゃんに注意された。
﹁アオちゃんには分かるだろ? この胸が張り裂けそうな思いが﹂
﹁わかりません、わかりたくもありません﹂
﹁いいや、分かる。アオちゃんも妹のミドリちゃんに嫌われたらき
っと俺みたいになるんだ﹂
﹁ミドリが私を嫌いになるなんてたとえ世界が滅びてもありえませ
ん﹂
その自信はどこからくるんだ。羨ましい。
いや、昨日までの俺もサツキに嫌われる訳が無いってアオちゃんみ
たいに自信満々だったんだよなあ。
﹁はあ⋮⋮﹂
﹁サツキちゃんに嫌われたんですか?﹂
﹁そうみたいなんすよ﹂
﹁サツキちゃんに嫌われるような事したんじゃないですか?﹂
2389
﹁何もした記憶が無いんすよ。俺なんかしたかなあ?﹂
本当に何かした記憶が無い⋮⋮昨日の朝まではサツキもいつも以上
に機嫌が良かったし。
﹁きっと何もしなかった事が原因ですよ。昨日も何もしませんでし
たし﹂
﹁⋮⋮何の話?﹂
昨日って何かあったかなあ⋮⋮ええと、﹃もやしの日﹄だったかな?
まさか昨日の夕飯がもやしじゃなくてニラだったのが問題なのか!
? ⋮⋮そんな訳無いか。
﹁昨日は私の誕生日だったのに何もしてくれませんでした﹂
あ、昨日ってアオちゃんの誕生日だったんだ。
﹁知らなかったから仕方ないし﹂
﹁ケン君がヤス君にも私の誕生日教えたって言ってましたよ? そ
う言ったケン君も忘れてましたけど。覚えててくれた友達はユッチ
とサツキちゃんだけです﹂
﹁はて⋮⋮教えられた事なんてあったっけ?﹂
ま、2人に覚えててもらえりゃ十分じゃん。
ってかアオちゃんだって俺の誕生日の時に何もしてくれてないじゃ
ん。おあいこおあいこ。
2390
﹁そんなだからサツキちゃんに嫌われるんですよ。イベントごとは
忘れないのが女性にモテる第1歩ですよ﹂
﹁そういや、つい最近サツキの文化祭を忘れそうになってた﹂
﹁それですよ! そういう積み重ねこそサツキちゃんの心が離れて
く原因です﹂
⋮⋮そうなのかなあ⋮⋮。
﹁文化祭の後は普通だったぞ。どっちかって言うと楽しげというか
⋮⋮﹂
﹁そう言えば確かにサツキちゃん、文化祭終わった後のケーキバイ
キングはすごく幸せそうでしたね﹂
﹁だろ? だから文化祭が原因だとは思えないんだよなあ。何した
のかなあ⋮⋮そういや昨日の朝、交換日記渡した後から機嫌が悪く
なった気がするんだよな﹂
交換日記を渡す前のサツキはノリノリと言うか暴走気味と言うか⋮
⋮可愛かったからいいんだけど。
﹁交換日記ですか⋮⋮そこに謎がある訳ですね。実はまだ読んでな
いんですよ、今読んでみますね﹂
そう言ってアオちゃんは鞄の中から交換日記のノートを取り出して
読み始めた。
⋮⋮ちょっと反応が怖い⋮⋮ど、どうなのさ?
2391
﹁⋮⋮ふう﹂
﹁で、で? どだった? 原因分かった?﹂
原因が分かると助かる。
﹁ヤス君の日記が悪いんです﹂
﹁え? 何か変な事書いてあった? 暗号文しか書いてないと思う
んだけど﹂
﹁暗号文が悪いんですよ。後は自分で考えてください﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ううう⋮⋮なんなんだろう?
このもんもんんとした気分、誰か答えを教えてください。
今日の交換日記 あおい
2392
−−−−
こんにちは、あおいです。
サツキちゃん、頑張れです。
今度ヤス君なんてほっといて私とユッチとサツキちゃんでどこかへ
遊びに行きましょう。
今度の日曜日にでも気晴らしにウィンドウショッピングにでもいき
ませんか?
ヤス君は来ちゃダメですよー。
それではまた。
2393
261話:拗ねたサツキ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ども、昨日でユニークアクセス50000突破です!
皆様が読んでくれるおかげです。今後ともよろしくお願いします。
2394
262話:顧問を探せ
﹁おはよー! ヤス兄﹂
﹁⋮⋮お、おはよ?﹂
今日は11月13日木曜日。何故かサツキがすっごい元気。
﹁ん? どしたのー?﹂
﹁い、や? あ、れ? 昨日は怒ってなかった?﹂
﹁え? 全然怒ってないよー? ヤス兄、ボケた?﹂
や、ボケてない。ボケてない⋮⋮本当になんかあった?
﹁ほらヤス兄、早く学校行こうよー﹂
﹁あ、うん?﹂
﹁ヤス兄、今日のお弁当なに?﹂
﹁えっと⋮⋮おにぎり、鮭フライ、野菜炒め、梨の4点セット。昨
日のカップケーキも残ってるけど﹂
カップケーキ⋮⋮昨日いらんって言ったし、今日もいらんかな? ⋮⋮サツキ好みの味にしたつもりだったけど、ケンにでもやるかあ。
2395
﹁あ! まだ残ってたんだね。今日持ってってもいい?﹂
﹁あ、うん⋮⋮いいけど?﹂
あれ? いらんのだと思ってたけど⋮⋮。
﹁ありがと! ヤス兄! それじゃ早く学校行こ!﹂
⋮⋮はて? まあ、何があったかよく分からんけど、サツキの機嫌
がいいならいっかあ。
やばい、顔がにやけてしまう。カップケーキをもらってくれた事に
すっごい喜んでしまっている俺がいる。
﹁と言う訳でポンポコさん、今日の俺はすごく機嫌がいいんす。め
っちゃきつい練習でもどんと来いって感じっす!﹂
﹁⋮⋮まあ、好きにしてくれていいが、今日の練習は無いぞ﹂
﹁なんで!?﹂
ものすっごいやる気だったのに。
﹁ヤス、前に少し話したような話していないような記憶に無い事な
のだが﹂
2396
﹁どっちやねん﹂
﹁ここ大山高校では、外周くらいしか練習はできないが、できない
なりに練習をしようという話をしたと思うのだ﹂
﹁ああ、したした。無い物ねだりをしてたってしょうがないよなー
って話をした﹂
﹁そうだ。その話だ。だが⋮⋮そもそも本当に無い物ねだりなのか
?﹂
﹁なんで? 練習場所も顧問もいないじゃん。土曜日以外は外周く
らいしか練習できる事無いんじゃん?﹂
﹁そこだ。そもそもなぜ長距離に顧問がいないのだ?﹂
﹁⋮⋮さあ? ウララ先生がいるからじゃない?﹂
﹁ウララ先生だけでは全てを見る事が不可能なのが現状だろう? ならばもう1人顧問をもらってもいいのではないか?﹂
﹁⋮⋮できんの? そんな事﹂
﹁できないかどうかは聞いてみないと分からない。とりあえず聞く
だけならタダだ、今日は職員室でいろんな先生に頼み込もう。長距
離専門の顧問がいるだけで、出来ることはグンと広がる。例えば、
練習場所も遠くに行ける、子供だけではできない事も大人ならば可
能になる、朝練習も可能になるかもしれない﹂
2397
﹁そうやね﹂
朝練習はいやじゃ⋮⋮睡眠時間が厳しすぎる。俺はできれば7時間
は寝ていたい人間なんだぞ。
最近は6時間しか寝てない。1時間ぐらい平気と言うな。その1時
間が大事なんだ。
﹁陸上に詳しい先生が顧問になってくれたら、私が考えるメニュー
より遥かにいいメニューを組んでくれるかもしれんしな﹂
ポンポコさんのメニュー、十分すごいと思うんだけど⋮⋮ま、それ
は置いといて、暇そうな先生探すかー、顧問になってくれそうな先
生⋮⋮顧問探しって言うと、なんだか﹃あひるの空﹄を思い出すな
ー。
﹁他あたってくれ﹂
﹁ごめんなー、いそがしいんや﹂
﹁ウララ先生が既に顧問にいるだろう?﹂
﹁ごめんなさい﹂
﹁問題児の面倒か⋮⋮考えさせて﹂
2398
﹁嫌です⋮⋮問題児の面倒なんて﹂
﹁ヤスがいるなら勘弁﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
全滅。
﹁なあポンポコさん、俺って行かなかった方がよかったんかなあ?﹂
特にヤスがいるなら勘弁と言いやがったあの先生。覚えてろ。
﹁関係ない、断る口実が欲しいだけだ﹂
うん、まあそう言ってくれれば嬉しいんだけど。
﹁だがヤス、なぜ故にお前はそんなに評判が悪い?﹂
ええと⋮⋮理由は⋮⋮反省文を毎回書いている、反省文に反省を書
かない、校長のアソコにヘッドバッドを食らわした事がある、教頭
のデコに輪ゴムをぶつけた事がある、木登りして枝を折った、サツ
キの中学に行く為に2回抜け出したっけ? そういや火災一歩手前
事件もあったなあ⋮⋮等々⋮⋮。
﹁うん、しょうがない﹂
﹁しょうがないのか⋮⋮しょうのないやつだ﹂
ごめんなさい、ダメな俺でごめんなさい。
﹁まあ、他にも先生はいる。文化部で週1の部活の顧問ならば兼任
2399
してくれるかもしれん。まだ探しようがある﹂
﹁そやね、頑張ろー!﹂
その後、文化部にも色々回ってみたけど、とりあえず、今日の成果
⋮⋮全滅。
ふう⋮⋮ただ走るよりきつい、また明日頑張るべ。
今日の交換日記 ゆう
−−−−−
やほほーい、ユッチだよお。
ヤスう! ボクの字はきたなくないい!
ヤスの字のほうがきたないくせにい。ボクおこってるんだからあ。
そうそう、ヤスのあんごう、さいしょのだけはわかったぞお! ケ
ータイのボタンだよ!
⋮⋮あとはさっぱりわかんなかったあ⋮⋮ううう。
さいごのすうじって、きっと2つで1もじなんだよね!
09+45+11+36+02+12+17+19+30+17+
2400
18+40+23.
ここからどうするんだろう? わからないよお。
それじゃ、走ってくるねえ! バイバーイ。
2401
263話:待っていたのは?
11月15日、金曜日。現在昼休み中。弁当を食べ終わって、ケン
と2人で手紙とにらめっこしてる最中。
ユッチから交換日記をもらった後、下駄箱にあった手紙の暗号解読
に延々と悩んでます。
﹁なあ、最初のこの分ってやっぱり﹃すきです﹄でいいんかな?﹂
﹁⋮⋮いいんじゃないか?﹂
ケンにも手伝ってもらってるんだけど、さっきからケンはやる気が
ない。
今の﹃いいんじゃないか﹄と言うセリフも﹃︵どうでも︶いいんじ
ゃないか﹄と言うこと。
ケンのやろう、ちょっとぐらい一緒に考えてくれよ。
最初の1文の暗号文は﹃さささかかだだだださささ﹄。
携帯電話でメールを打つときどうやってるか考えたら、﹃すきです﹄
になった。
さささ⋮⋮さが3つ↓さし﹃す﹄
かか⋮⋮かが2つ↓か﹃き﹄
だだだだ⋮⋮だが4つ↓だぢづ﹃で﹄
さささ⋮⋮さが3つ↓さし﹃す﹄
とりあえず、なんで暗号文で送ってきたのかは意味不明だけどラブ
レターには違いない。
2402
﹁なあ、誰なんだろうな﹂
﹁さあ⋮⋮ふぁあ﹂
このやろう、めんどくさがりやがって。
﹁ケンってさ、実はもう答えがわかってるとかないよな?﹂
﹁⋮⋮わかってるけど?﹂
﹁だったらはよ教えろよ!﹂
何で教えないのさ!?
﹁なんか悔しいだろ、なんでヤスにだけラブレターが来るんだ?﹂
それだけかよ!? そんな理由!?
﹁⋮⋮まあでも、そやなあ。誰が待ってるか知らんけど、待ってる
相手もかわいそうだしなあ﹂
﹁あ、そなの? 誰かまってんの?﹂
﹁んーとな、最後の数字ばっかりの文、ここにそうかいてあるんだ
よ﹂
﹁どう書いてあんの?﹂
﹁えっとな、あの数字はすべてこの法則で書かれてるんよ﹂
2403
そういって、シャープペンシルを持って、ノートに殴り書きを始め
た。
ふむふむ⋮⋮。
00∼04 あ∼お
05∼09 か∼こ
10∼14 さ∼そ
15∼19 た∼と
20∼24 な∼の
25∼29 は∼ほ
30∼34 ま∼も
35∼37 や∼よ
38∼42 ら∼ろ
43 わ
44 を
45 ん
﹁ああ! ﹃あ﹄が00だったのか﹂
01が﹃あ﹄だとずっと思ってた。おかげで全然できなかった。
﹁んで、この法則にしたがって﹃094511360212171
93017184023﹄を解読すると﹂
ええと、何々? ﹃こんしゆうすつとまつてます﹄になるわけか。
﹁んで、﹃ゆ﹄は小さい﹃ゆ﹄とか、読めるように﹃こんしゆうす
つとまつてます﹄を変換すると﹂
2404
⋮⋮こんしゅうずっとまってます。﹃今週ずっと待ってます﹄にな
る訳か。
﹁あ、今日が最後なんやね﹂
この手紙を見つけたのが月曜日。今日が金曜日。厳密には土曜日も
あるんだけど、学校休みだし待っちゃいないだろう。
﹁んで、2つ目の暗号が、これだろ?﹂
シャープペンシルでとんとんと該当箇所をたたく。
−−−−
じ─ね─き
│┼│┼│
え─て─く
│┼│┼│
ご─に─ま
┘└Пコ┌┐コП┌□
−−−−
﹁例えばこれ、﹃コ﹄、左側が開いているじゃん。んで、この3か
ける3の魔法陣の中で、左側が開いている文字ってどれだ?﹂
ええと、ええと⋮⋮。
﹁﹃え﹄?﹂
﹁そそ、そんな感じ﹂
2405
んじゃあ一番最初の﹃┘﹄は左下が開いているから﹃ご﹄になる訳
か⋮⋮。
﹁そうやって見てくと、これは﹃ごじにえきまえにきて﹄になる﹂
﹁ほおほお﹂
﹁で、全文を続けて読むと、﹃好きです。5時に駅前に来て。今週
ずっと待ってます﹄になる﹂
﹁ほおほお﹂
駅前って学校の駅前でいいんかな? まあ、それ以外の駅前じゃわ
かりようがないし、きっと大山駅前だろう。
﹁まあ、朝5時っていうのは考えにくいから、夕方5時にとりあえ
ず大山駅前まで行ってみたらいいんじゃね?﹂
あいあい。了解。
2406
というわけで、部活をこっそり抜け出して駅前までやってきました。
とりあえず来ましたが、手紙をくれた人には悪いけど、断るつもり。
やっぱりきちんと断っといた方がいいと思うし。
時刻はそろそろ17時になるところ。いったい誰が待っているんだ
ろうねえ。
﹁げっ、ほんとに来た⋮⋮﹂
﹁⋮⋮はい?﹂
なんかすごいいやそうな声が聞こえたなあ。
﹁ほらー! ムムのいったとおりきたー。ぜったいくるっておもっ
てたもん﹂
﹁はいはい、ムムの言ったとおりだね﹂
親子っぽい30代前半くらいの父と、ちっちゃな娘2人がとわいわ
いやってるけど、まああれじゃないよな。⋮⋮ってか父親っぽいほ
うどっかでみたことある気が⋮⋮。
﹁⋮⋮ああ、キキ先生。何やってんですか?﹂
キキ先生、本名西森貴樹、理科の先生。授業をやると面白くクラス
全員がおきているけど、雑談をするとクラス全員が寝始めると言う
どこかおかしい先生。
タカキ
﹁違う、私の名前は貴樹。お前のクラスのせいでだれも本名で呼ん
2407
でくれなくなったんだ。﹂
﹁いいじゃないですか。親しみがあって﹂
﹁妻にまでキキって言われるのは嫌なんだ⋮⋮貴樹ってよばれたい
⋮⋮﹂
⋮⋮ええと、とりあえず、ごめんなさい。
でも、どうして奥さんにそのあだ名がばれたんだろ?
﹁キキ先生、誰か待ってる人いませんでした? ここで待ってるっ
て手紙もらったんですけど見当たらないんですよね﹂
﹁それムム! ムムが書いたー!﹂
﹁⋮⋮﹂
あれ? うそ?
﹁ええと、ムムちゃん?﹂
﹁そー! にしもりむむ! よろしく、ヤスおにいちゃん!﹂
﹁⋮⋮え?﹂
えと、思考がおっつかないんですが。ええと、幼稚園児が手紙くれ
たって事? 高校の下駄箱の中に?
﹁パパにいれてもらったんだー﹂
2408
ああ、キキ先生がねえ⋮⋮ってキキ先生何やってんすか!?
﹁⋮⋮ええと、ムムちゃんって何才?﹂
﹁6さい! ねんちょーさんなのー﹂
あ、さいですか⋮⋮何がどうしてこうなったのかさっぱりわかんな
くて、キキ先生に説明してくれと目で訴える。
自分の目線の意味が伝わったのか、キキ先生が口を開いた。
﹁絶対にお前に娘はやらんぞ﹂
伝わってなかった! そんなこと考えたことないです! 大体俺今
16才! 6才に手を出したりしたら犯罪です!
﹁ロリコンヤスなんかを娘が気に入るなんて⋮⋮私はなんて不幸な
んだ﹂
キキ先生、俺ロリコンじゃないです! どこからそんなデマが流れ
たんですか!?
﹁ヤス、今日だけだからな、明日以降ムムに会える日はないと思え
!﹂
や、まあ会わなくてもいいんだけど。西森先生はムムちゃんを抱っ
こすると、そのまま抱きかかえて帰ってく。
﹁ああ、パパー、ムムもっとヤスおにいちゃんとしゃべるー!﹂
﹁今日は変えるの、ママもミミもご飯待ってるんだから﹂
2409
﹁はーい⋮⋮それじゃヤスおにいちゃーん、またねー!﹂
﹁またねー﹂
抱きかかえられたムムちゃんが俺に向かって手を振りながら小さく
なってく。
⋮⋮ええと、結局何がなんだかわからないまま時間だけが過ぎてい
ったんですが。幼稚園児に告白されたって事なのか?
しかも断るの忘れたし⋮⋮何しに来たんだ俺。
2410
264話:ちょこっとデート気分
11月15日土曜日午後。
サツキがアオちゃんとユッチとウィンドウショッピングに行くとい
う日。
日曜日は家族の日と決めてあるので、土曜日の部活が終わった後に
なったとの事。
アオちゃんに俺が一緒に行くことは禁止されたので、一緒に行けな
い⋮⋮俺も参加したいよう。
ウィンドウショッピングしているサツキ達を尾行するわけにも行か
ず、家で1人でいるのもつまらない。何もすることがない⋮⋮。
﹁だからって、私を付き合わせるって言うのはひどいんじゃないか
な? かな?﹂
ええと、今キビ先輩とファミレスに来てる。帰ろうとしてたキビ先
輩を無理矢理誘ってここに来た。
⋮⋮またキビ先輩がヒグラシモードになってる、ちょっと怖い。
﹁だって、このまま俺帰っても家で1人なんですよ。さびしいんで
すよ﹂
﹁それって私を付き合わせる理由になってないんじゃないかな? かな?﹂
﹁ええと、たまにはキビ先輩と2人っきりでお昼を食べるのも楽し
いんじゃないかなあって思った次第です﹂
2411
﹁今更そんなこと言っても、﹃他の人も誘ったけど、暇だったのが
キビ先輩だけでした﹄って言葉は忘れてないよ﹂
⋮⋮ごめんなさい。つい口が動きました。
土曜日に練習来ているメンバーはサツキ、アオちゃん、ユッチの他
にウララ先生、ゴーヤ先輩、キビ先輩、ポンポコさん、ヤマピョン。
ウララ先生は期末テストの準備が何もできてないって帰っていった。
ポンポコさんは家族で出かけるらしく、兄弟達が家で待っていると
か。ヤマピョンもおばあちゃんとどっかにいくらしい。んで、ゴー
ヤ先輩はデート。最近また彼氏ができたとか。
﹁どーせ私は暇人ですようだ。ゴーヤみたいに彼いないし﹂
⋮⋮なんだかキビ先輩がすねてます。
﹁まま、俺と今デートしてると思ってくださいな﹂
﹁ヤスとデートしても、ねえ﹂
キビ先輩、そんな風に言われるとへこみます。
﹁それにしても俺にとってはすごく不思議なんですよね、キビ先輩
ってかわいいからすぐできると思うんですよ﹂
﹁あはは、ありがとー。でもただ単にヤスの目がおかしいんじゃな
い? 今まで同年代で私をかわいいって言ったのヤスだけだよ﹂
そっかな、かわいいと思うんだけどなあ。キビ先輩の友達、かわい
いって言うのを恥ずかしがって言わないだけなんじゃない?
2412
もう1回キビ先輩の顔をじっと見てみる。ちょっと小麦色な健康そ
うな肌、とろんとしたお人好しそうな目、小鼻、ちっちゃな顔。に
こって笑ったときにできるえくぼがチャームポイントだよな。
﹁うん、やっぱりめっちゃかわいいと思います﹂
﹁そんな風におだてても何も出ませんー﹂
﹁しかし、それだけかわいいのにモテないというのは⋮⋮やっぱり
肉の食いっぷりが駄目なんじゃないですか?﹂
目の前でステーキランチをバクバク食ってるキビ先輩をまじまじと
見てつい言ってしまった。
﹁ヤスってばひどいなー。別に食べ方ぐらい人の好き好きでいいで
しょ?﹂
﹁あ、はい。その人の好きなように食べればいいんじゃないかなと
思います﹂
ま、そうなんだけど⋮⋮なんていうかキビ先輩の食べ方は豪快だ。
フォークで肉をぶっさして噛み千切ったりしてるわけじゃないんだ
けど、ひときれひときれが大きく切ってあって、口いっぱいにほお
ばってる。豪快と言うよりかは子供っぽい感じかな。
そんな食べ方のキビ先輩を見てると、話題の﹃肉食女﹄ってやつを
思い出してしまう⋮⋮って違うか。肉食女ってのは恋愛に対して積
極的なだけで、まんま肉を食らう女のことを言うわけじゃないよな。
﹁そういえばキビ先輩って誰か好きになった人とかいないんですか
?﹂
2413
﹁んーと⋮⋮高1の頃に先輩を妹と取り合って負けたことならある
よ﹂
﹁⋮⋮﹂
なんてヘビーなことをさらっと言うんすか⋮⋮聞かなきゃよかった
っす。
﹁ってか妹さん、いたんですね﹂
﹁あ、知らなかった? 大山高校にいるよ。2年生で吹奏楽部﹂
﹁あ、双子さんですか﹂
﹁そーそー、双子の妹。顔そっくりだし、きっと初めて見た人は見
分けつかないよ﹂
へえ、そうなんだ。俺、人の顔覚えるの苦手だからきっと間違える
な。
﹁その先輩と妹がいまだに続いててさー、先輩とばったり会うと結
構気まずかったりするんだよねー、先輩の隣に妹がいるとなおさら。
もう慣れたけど﹂
⋮⋮キビ先輩が慣れたって言ってるならいいんだけど。
自分が心配そうな顔をしていたのかもしれない。あははとキビ先輩
が笑って手を振った。
﹁まー、ヤスが気にすることじゃないよ。気にしない気にしない。
2414
どうしても気になるなら、誰かいい人紹介してね﹂
俺が紹介できる友達はケンとヤマピョンくらいしかいないんで、俺
に期待しないでください。
⋮⋮でも、キビ先輩を好きになりそうな人いそうな気もするんだけ
どなあ。
今日の交換日記 さつき
−−−−−
こんばんはー、サツキです!
今日はすごい楽しかったですね、アオちゃん先輩、ユッチ先輩!
またウィンドウショッピング行きましょうね!
ヤス兄は1人でさびしくなかった? ストーカーみたいな事してな
いよね︵笑︶
すごいかわいい服見つけたから、つい1着買っちゃったんだよ︵*
^−^︶
いつか着るから楽しみにしててね。
ヤス兄、手紙送ってたムムちゃんには会えたんだね。
わたしも木曜日に会ってきたよ。かわいかったねー、あの子の手紙
なら大歓迎♪
2415
それじゃ、また︵͡ー͡︶ノ
2416
264話:ちょこっとデート気分︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
機嫌が悪かったサツキが機嫌を直した理由⋮⋮ムムちゃんに会って
話してきたから。
わかりにくくてごめんなさい。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2417
265話:失言はぽろっと言ってしまう
今日は11月17日月曜日。
昼休み、屋上にて作戦会議。何の作戦会議かというと、長距離専門
の陸上部顧問をもらおうというやつだ。
集まっているメンバーはポンポコさん、ヤマピョン、そしてユッチ。
﹁それでは第2回、﹃長距離陸上部の顧問を見つけよう﹄作戦会議
を始める﹂
ポンポコさん、第1回っていつありましたっけ⋮⋮って野暮なこと
を言うのはやめよう。
﹁そういや何でユッチはここにいんの?﹂
﹁いたら悪いのかあ!? ボク屋上でお弁当食べてたんだからいて
もいいだろお!?﹂
﹁や、別に悪いとかじゃなくて、長距離の話だからユッチが聞いて
ても面白くないんじゃないかなあと思っただけであって﹂
長距離の顧問を誰にしようなんて、短距離にはまったく関係ないし、
どうでもいい事かなあって思ってしまうんだけど、そんなことない
んかな?
﹁⋮⋮なにさあ⋮⋮ボクだって参加したいんだあ⋮⋮それともボク、
いらない子なの?﹂
2418
﹁あ、違う違う。そりゃもちろん、ユッチも参加してくれて全然か
まわないんだけど﹂
そんなさびしそうな声で言わないで。悪気はまったくなかったんで
す。
﹁﹃けど﹄なんだあ⋮⋮やっぱりボク、いらない子なんだあ⋮⋮﹂
﹁違う違う! そんなつもりはまったくないっす! むしろユッチ
いてほしい! いてくれてすっごい嬉しい! ってかいなければ駄
目だ!﹂
﹁⋮⋮ほんとお? ヤス、嘘ついてないかあ?﹂
﹁ほんとほんと! ミスターポポ、嘘つかない! ヤス君も、嘘つ
かない!﹂
﹁ほんとおにほんとお? 嘘つきは泥棒のはじまりだぞお?﹂
﹁ほんとにほんと! ねえポンポコさん﹂
俺の言葉だけじゃ信じてもらえないかと思って、ポンポコさんに振
ってみる。
ポンポコさんならきっといい事を言ってくれる。
﹁そうだな。ユッチのいない作戦会議なんぞ、わさびが入っていな
い寿司のようなものだからな﹂
﹁⋮⋮ポンポコお、どういうことお?﹂
2419
﹁わさびが入っていない、すなわち刺激がないということだ﹂
﹁⋮⋮えへへえ、そうだよねえ。ボク、いてもいいんだよねえ!﹂
おお! すげえポンポコさん、ユッチの機嫌が直った!
﹁そうだよねえ! やっぱり何事も刺激がないと駄目だよねえ! ね、ヤス!﹂
﹁ううむ⋮⋮そうか? 俺はまったりが好き。寿司でもさび抜きの
寿司のほうが好きだったりするんだけど。なんだろ⋮⋮刺激が強す
ぎると言うか、鼻にツーンとくるのがきついと言うか。みんなはど
う思う?﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
あ、あれ? 何でみんな黙るんすか?
﹁うううう⋮⋮﹂
ゆ、ユッチ。何でうなってんの? もしかして俺なんかまずい事い
った?
﹁違うぞユッチ。ヤスが言いたかったのは本当に寿司の話であ﹁ヤ
スのバカあ! どうせボクなんかいらない子なんだあ!﹂
2420
ええええ! まってユッチ!
走り出したと思ったら、止めるまもなくまっしぐらに階段に駆け下
りていってしまった。
ユッチが見えなくなってぽつねんと取り残されたポンポコさん、ヤ
マピョン、俺の3人。ええと、何がいけなかったんだろう?
﹁ヤス⋮⋮何てことを言うのだ﹂
﹁あ、あれ? やっぱり今のって、俺が悪いんだよね?﹂
﹁当たり前だ、さっさと追いかけろ﹂
は、はいっす!
ええと⋮⋮ユッチ、どこいったんだろう? とりあえずユッチのク
ラス行ってみるか? 確かユッチは1年2組。
教室前まで来て、ちらっと2組を覗いてみたけどユッチはいないみ
たい。うーん⋮⋮ユッチの行きそうなとこってどこなんだろう? ユッチのクラスメイトで誰か知らないかなあ?
﹁すみません、ちょっといいっすか?﹂
入り口にたむろしてる女子の1人に声をかけてみる。友達としゃべ
ってるところ申し訳ない。
2421
﹁はい? 何か用ですか?﹂
﹁ええと、ユッチがよく行きそうなところ知らない?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ユッチ?﹂
ありゃ、ユッチってクラスの中じゃユッチって呼ばれてないのか。
名字なんだったかな⋮⋮忘れた。
﹁ええと、ゆうっていうちびっ子﹂
﹁⋮⋮河辺さんのこと?﹂
﹁そうそう! 河辺河辺。めっちゃ元気なやつ!﹂
そだそだ。河辺って名字だった。思い出せてよかった。
﹁⋮⋮元気? それって人違いじゃないの? 河辺さん、すごい静
かな人だよ﹂
﹁⋮⋮静かあ?﹂
あいつのどこが? アオちゃんや先輩達をいっつも引っ張りまわし
てわーわー騒いでるじゃん。
﹁そうだよ? 河辺さんって休み時間も席についてぽけーっとして
るし、昼休みはいっつもどこかいってるし﹂
﹁そうそう、クラスのなんでもランキングで静かな人と何考えてる
のかよくわからない人ナンバーワンにランクインしてるよね﹂
2422
ユッチって嬉しいときはすごい笑顔で、怒ってるときはぷんすか怒
って⋮⋮何考えてるのかすごく顔に出るタイプだと思いますが。
あいつが静かねえ⋮⋮なんでだろ?
﹁まあ、ユッチがどこにいるかは知らないってことっすよね。あり
がとっす﹂
いっつも1人でいるってことはクラスメイトでユッチと仲よさそう
な人はいないという事だよな。
ここで話聞いててもユッチはみつからなさそうだったので、さっさ
と別のところを探す事にした。
⋮⋮それにしてもユッチが静かって考えられないだろ。
結局そこらじゅう探し回ったけど、ユッチがどこにいるかまったく
見つけられないまま昼休みが終わってしまった。
⋮⋮しゃあない、放課後部活がはじまったときに謝ろ。
2423
265話:失言はぽろっと言ってしまう︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
昨日の夜、あまりにも眠くて20時に寝たら、2時に目が覚め、そ
の後眠れないと言う事態に陥りました。
今とても眠いです⋮⋮アホだ自分⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
2424
266話:はばとはぶ
ユッチが部活に来ない⋮⋮。
﹁ポンポコさん、俺のせいかなあ⋮⋮﹂
﹁どうだろうな? 原因のひとつかもしれないが﹂
⋮⋮あうう。ひどいこといってしまった。
﹁わたしも詳しく知らないが中学のときに、はばにされた経験があ
るそうだな﹂
﹁はばにされる?﹂
なんだそれ。初めて聞いた。
﹁仲間はずれにされることを﹃はばにされる﹄と言わないか?﹂
﹁や、それは﹃ハブにされる﹄じゃなかったっけ?﹂
﹁そうなのか? ヤマピョンは知っているか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮む、村八分?﹂
﹁そうそう、それ。﹃村八分にする﹄をはしょって﹃むらはちぶに
する﹄﹃むらはぶする﹄﹃ハブる﹄から、﹃ハブにされる﹄って言
うようになったはずだぞ﹂
2425
うん、なんかすっきりした。だから﹃ハブにされる﹄の方が正しい
んだよな。
そう言えば、以前にユッチが仲間はずれにされてたって話、聞いた
事あるような⋮⋮仲間はずれと言うか仲直りできなかったと言うか。
﹁ユッチって1人でいるの嫌いそうだよなあ⋮⋮﹂
﹁そうだな﹂
﹁今日の昼休みも、みんなでわいわい騒ぎたかっただけなんだよな﹂
﹁⋮⋮そうかもしれないな﹂
﹁ひどい事言ったなあ﹂
﹁気にしろ﹂
⋮⋮はい、気にします。
気にするなって言ってくれることをちょっと期待してたのに、厳し
いです。ポンポコさん。
﹁それで、ヤスはどうするのだ? 今から部活をサボってユッチに
謝りに行くのか、練習が終わってから謝りに行くのか?﹂
⋮⋮その2択しか無いんすね。明日謝るとか、電話やメールで謝る
とか言う選択肢は無いんだろうか。
﹁ええと⋮⋮練習してから謝りに行きます﹂
2426
ヤマピョンいるし。俺1人先帰ったらまずいだろ。
﹁そうか。それなら今日の練習は10000mを1キロ、3分50
秒のペースくらいにしておこうか﹂
﹁了解っす﹂
いつもよりは短い⋮⋮きっとポンポコさんなりに早く練習が終わる
よう考えてくれたんだろう、やっぱり長いけど。
﹁ユッチと仲直りするまで、ヤスは顧問探しをしなくていいからな。
私とヤマピョンで何人か当たることにする﹂
⋮⋮ラジャです。
アップも終わり、スタート位置につく。
﹁1000mごとにヤマピョンとヤスが先頭を交代するように。自
分でペースを作る力をつけよう﹂
﹁了解、ポンポコさん﹂
﹁それでは行くぞ⋮⋮ヨーイ⋮⋮スタート﹂
ヤマピョンと2人、同時にスタートする。まずは俺が先頭に立つ。
タッタッ、と軽快なリズムで走る。ヤマピョンの足音と自分の足音
が重なり、よりいっそうリズムよく走れる。
2427
さてと⋮⋮練習さっさと終わらせて、ユッチに会いに行かないとな
⋮⋮。
⋮⋮ひぃ⋮⋮はぁ⋮⋮。
﹁ヤス! 後1000mだ。死ぬ気でヤマピョンに食らいつけ!﹂
オニ⋮⋮ポンポコさんの頭にツノが見えるよ⋮⋮。
3000mあたりからずっとヤマピョンが俺の前を走り、引っ張り
続けている。
⋮⋮ひぃ⋮⋮はぁ⋮⋮。
あかん、ここまで頑張ってみたけど、もう無理だって。無理だと思
った瞬間から、徐々にヤマピョンとの差が開いてきた。
5m、10m⋮⋮1度開いた差は中々縮める事はできない。
⋮⋮つーか、ヤマピョンペースあがってるし。3分50って言った
んだから3分50で走ってえな。
﹁ヤス! 遅れるな!﹂
無理⋮⋮ムリ⋮⋮むーりー⋮⋮。
2428
ぜっ⋮⋮はっ⋮⋮ぜっ⋮⋮はっ⋮⋮。
何とか10000m走りきった。タイムは⋮⋮38分10秒⋮⋮は
ええな。この前キャプテンが駅伝で走った10キロのタイムよりは
ええ。
ヤマピョンは俺よりかなり前にいたから、もしかすると38分きっ
たのかも知れない。
ヤマピョンを見ると、まだまだ余裕があるのかその辺りを歩いてい
る。もっと走りたいと言う様子さえ垣間見える。
全然呼吸も整ってなく、地面にへたり込んでいる自分とは大違い。
なんなんだろうね、このやるせなさ。高校入学時の実力はヤマピョ
ンのが確実に実力が上ってのは知ってるけど、ヤマピョンが部活に
来て練習やり始めたの、ここ最近なんだぞ。俺、ずっと練習やって
きてるんだぞ⋮⋮なんで未だにこれだけ実力に差があるんだよ⋮⋮
⋮⋮これが才能の差ってやつなのかなあ。ヤマピョンと練習すると、
頑張る意味が感じられなくなってくる。
﹁お疲れヤス。今日はちょっと集中力が欠けていたな。とくに最後
1000mは集中力が完全に切れていたぞ﹂
﹁⋮⋮そっすか?﹂
﹁そうだ。ユッチの事が気がかりだったのは分かるが、練習をする
のだと決めたら、他の事は忘れるように。目の前の事だけに集中す
るようにする事だな﹂
2429
⋮⋮ユッチの事が気がかりだったのもあるんだけど、集中力散漫だ
ったのはそれが理由じゃない。ヤマピョンのせいだよ。
﹁ダウンをしたらすぐにユッチの家に行くよ。顧問探しのほう、ポ
ンポコさんよろしく﹂
﹁ああ、わかった﹂
﹁⋮⋮⋮⋮やす⋮⋮ご苦労さま⋮⋮﹂
⋮⋮ヤマピョン、自分が疲れてないからって、どれだけ上から目線
だよ。
なんか腹立たしかったので、返事しないままダウンをして帰る事に
した。
ユッチは家にいるかなあ。
2430
266話:はばとはぶ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
私の地元では﹃はばにされる﹄だったんですが、ネットで調べると
﹃ハブにされる﹄のが多く出てきました。
皆さんはどちらを使いますでしょうか?
それでは今後ともよろしくお願いします。
2431
267話:正解は不正解
ユッチを傷つけちゃったから、謝りに来た。今ユッチの家の前に立
っている。
ユッチ、いるかなあ⋮⋮いなかったらどうしようか。
玄関前でうだうだと悩んでいても仕方ないので、ポチッとインター
フォンを押してみる。
﹃はーい﹄
あ、ユッチのお姉さんだ。
﹁ユッチの友達の近藤ですが、ユッチいますか?﹂
﹃あ、ゆうの事? 今ねー、いないのよー﹄
⋮⋮まだ家に帰ってきてないのか。
﹃そうやってゆうが伝えてって言ってるの﹄
﹃バカバカバカあ! それじゃボクがここにいるってヤスにばれち
ゃうじゃんかあ!﹄
⋮⋮ああ、うん。ユッチがいるってのがすごいよくわかった。ちゃ
んと家には帰って来てたか。これでユッチが家にいなかったらどう
しようかと思ったよ。
ってか、居留守使おうと思うなんて⋮⋮よっぽどあいたくないんか
2432
よ。
﹃ヤス君、あがって晩ご飯でも食べてかない?﹄
﹃ええええ!? お姉ちゃん、なんでえ!?﹄
⋮⋮そこまで嫌がられること言ったのか? 俺⋮⋮ちょっとへこむ。
﹁や、でも家で妹が待ってるんで帰らないと﹂
﹃そうだそうだあ! 帰れえ!﹄
﹃⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ゆう?﹄
﹃⋮⋮な、なにい? お姉ちゃん﹄
ユッチのお姉さんの声が1オクターブ下がった。空気も一瞬凍りつ
いたみたいな気がする⋮⋮ユッチのお姉さん、怒らせると怖そうだ。
﹃今はお姉ちゃんがヤス君と話してるの。だからゆうは黙ってなさ
い﹄
﹃⋮⋮は、はい﹄
おお、さすが姉。あのユッチを黙らせた。お姉ちゃんパワー強し。
﹃妹さんってサツキちゃんだったっけ? サツキちゃんもうちに呼
べばいいよ。ご飯は大勢で食べた方がおいしいよ﹄
それは確かに。
2433
﹁それじゃお言葉に甘えて一緒にいただきます﹂
﹃どうぞどうぞ﹄
﹃うううう⋮⋮お姉ちゃんのバカあ﹄
ユッチがなんかうなってたけど気にしない。
と言うわけでサツキもユッチの家にやってきて、ユッチのお姉さん、
ユッチ、俺、サツキの4人で食事することになった。
お姉さんの旦那さんは今日は仕事で遅くなるんだとか。
サツキが来るまで、居間でユッチとユッチのお姉さんと3人でいた
んだけど、ユッチが1回もこっちと目をあわそうとしてくれない。
会話もさっきからユッチのお姉さんが間に入ってつっかえつっかえ
しゃべってる。なんだか気まずい⋮⋮ユッチとこんな会話をする羽
目になるとは。
﹁ユッチ先輩、ユッチのお姉さん先輩、お招きありがとうございま
す!﹂
﹁サツキちゃん、ユッチのお姉さん先輩ってやめてね。お姉さんか
マコ姉くらいで呼んでよ。おばちゃんって言ったら頭殴るからね⋮
⋮と、さあ、4人そろったところで突然ですがクイズです!﹂
2434
ちょっとそこのお姉さん、ほんとに突然ですな。
﹁今日の晩御飯はなんでしょう!?﹂
知るかあ!?
﹁1番、バンジー! 2番、バンバンジー! 3番、バンバンバン
ジー! さあ、正解は!?﹂
﹁はい!﹂
﹁はい、ヤス君!﹂
﹁バンバンバンババンジー!﹂
﹁⋮⋮ぶー﹂
あれ? あの不朽の名作のCM⋮⋮こんな感じだった気がするんだ
けど⋮⋮。
﹁ヤス兄、センスわるう﹂
ええ!? ここはあえてまねるんじゃないのかよ!?
﹁あはは! ヤスってばバカだあ!﹂
﹁う、うるさいな! これしか思いつかなかったんだよ!﹂
と言うかここはこれが大正解じゃないの!?
2435
﹁ボクだったらそんな答えしないもんねえ。ヤスはばかだあ!﹂
⋮⋮むか。今、俺だけじゃなくてバンバンバンババンジーのCMを
やったあの芸能人様までバカにしたな。それは許されない。それだ
けは許しちゃいけない!
﹁だったらユッチだったらどうやって答えるんだよ! 言ってみろ
い!﹂
﹁そんなの、バンバンジーに決まってるじゃんかあ!﹂
⋮⋮ええと。
﹁⋮⋮普通だな﹂
﹁普通ね。ゆうったらなんのひねりもないね﹂
だよな。お姉さんもそう思うよな。
﹁えええ!? だって今日のご飯、バンバンジーなんでしょお? バンジーもバンバンバンジーも食べられないよお?﹂
﹁そうなんだけどね﹂
そのとおり。お姉さんの言うとおり、確かにバンバンジーで正解な
んなんだろうけど、それは違う。
ってかそもそもバンバンバンジーってなんなんだろう?
﹁⋮⋮ユッチ、わかってねえな。芸人の正解は不正解なんだぞ﹂
2436
﹁ヤスう、何言ってるんだあ?﹂
﹁いいか、クイズ番組でただ正解を回答する芸人なんてそんなやつ
は芸人じゃないんだよ。芸人たるもの、いかに観客を盛り上げる回
答をするかがかぎなんだ! つまり、芸人にとっての正解は最も観
客を喜ばせた答えが正解なんだ! 芸人にとって正解は正解じゃな
いんだ! ユッチ、芸人ならばあえて不正解を狙うんだ!﹂
﹁ボクは芸人じゃないい!﹂
﹁何を言う、俺達はコンビ名﹃落第レボリューションズ﹄でデビュ
ーするんだと誓ったじゃないか!﹂
﹁ヤスう、ボクにその名前を言うなあ!﹂
⋮⋮なんで?
﹁ユッチ、今度のテストで赤点取ると留年の可能性がかなり高くな
るらしいの﹂
﹁お姉ちゃん、そんなこといわないでよお!﹂
ってかそんなにユッチの成績って悪いのか。
⋮⋮あれ? 今ユッチと普通にしゃべれてるじゃん。
これってユッチのお姉さんのおかげかなあ、ありがとうございます
⋮⋮お姉さん。
2437
267話:正解は不正解︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
ちょっとなつかしのCMをパロりました。ご存知でしょうか?
どこかでこのCM、見られないかなあ⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
2438
268話:握手で仲直り
ただいまユッチの家で晩御飯中。バンバンジーを食べながら、会話
に花が咲いてます。
それにしても⋮⋮このバンバンジー、うまい。特にこのたれ⋮⋮絶
対に市販のバンバンジーのたれとかじゃないよな。ユッチの家で作
ったたれっぽいんだけど⋮⋮ほんとどうやって作ってるんだろう。
なんかユッチ家代々に伝わる作り方とかあるんだろうか⋮⋮後で教
えてもらえないかな。
﹁そういえば、ゆうとヤス君って何でけんかしたの?﹂
お姉さん、聞かないで! せっかくユッチが機嫌直して普通にしゃ
べってるのに。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮別になんにもないよお﹂
﹁あ、そうなのユッチ? もう怒ってない?﹂
怒ってないんだったら嬉しいんだけど。
﹁⋮⋮﹂
﹁おーい、ユッチ?﹂
﹁⋮⋮﹂
返事がない。返事をしてくれない。ここで﹃返事がない。ただの屍
2439
のようだ﹄って言ったら、きっとまた怒るんだろうな⋮⋮。
﹁ユッチ、返事して﹂
﹁⋮⋮﹂
ああ、せっかく普通に話してくれるようになったのに、まただんま
りになっちゃった。しかも俺の顔を見ないよう、俺に背を向けて、
誰がお前と話すもんかあって雰囲気をぷんぷんとかもし出してる。
﹁もうゆうってば。黙ってちゃ何にもわからないでしょ!﹂
﹁⋮⋮ボク別に何にもないもん。ヤスとなんか、いっつも話してな
いんだもん。ボク、いつもと一緒なんだからあ﹂
﹁何言ってるんだか。いっつもヤス君の話ばっかりしてるくせに﹂
え、そうなん?
﹁してないしてないい! お姉ちゃん、変な事言わないでよお!﹂
﹁ユッチってば毎日ヤス君の話してるんだよ。今日はあのヤスがま
た変な事してたあって﹂
へえ、そうなんかあ。って変な事って⋮⋮ユッチの家で俺はどんな
風に話されてるんだろう?
﹁してないしてないい! お姉ちゃんのバカあ!﹂
﹁ええ? そうだったかな? 昨日なんて﹃ヤスがまたボクのお﹁
2440
言うなあ! お姉ちゃんのバカあ!﹂
﹃ボクのお﹄⋮⋮続きはなんなんだろう? すごい気になる。
﹁で、ヤス兄、結局ヤス兄とユッチ先輩って何でけんかしてるの?﹂
別にけんかしてるわけじゃないんだけどな。ユッチだけが怒ってて、
一方的に話してくれないだけだから。
﹁うーん、俺がユッチにひどい事言ったから﹂
﹁ひどいこと?﹂
ええと⋮⋮あのときの話をすればいっか。
ユッチのお姉さんとサツキに、ユッチを怒らせてしまった経緯をか
いつまんで話した。
﹁⋮⋮とまあ、こんな感じです﹂
﹁ヤス兄ってば空気読めないねー﹂
⋮⋮はい、反省しています。
2441
﹁それにしても⋮⋮ゆうもそれぐらいで怒らないの﹂
﹁だってだって、ヤスってばボクのこと仲間はずれにしようとする
んだもん! ボクの事いらないって言うんだもん!﹂
﹁そんな事言ってないでしょ。ヤス君はわさびが苦手って言っただ
けじゃない﹂
﹁ボクわさびだもん!﹂
⋮⋮ごめん、訳がわからない。
﹁そうなの? ゆうはわさびだったんだね。だったら明日の晩御飯
はわさびたっぷりつけたさしみにでもしようかな﹂
﹁だめだめだめえ! さしみは大好きだけど、わさびはだめえ! さしみはおしょうゆだけつけて食べるのがおいしいんだあ﹂
おいユッチ、今聞き捨てならんことを聞いたぞ。この前俺がわさび
が苦手だって言ったときに怒ったくせに、ユッチもわさび嫌いなん
じゃんか。だったら怒るなよ。
﹁ゆうはわさびでしょ。だったらお仲間のわさびも好きに決まって
るでしょ﹂
﹁わさび鼻にツーンと来るから嫌いなんだあ! お姉ちゃんだって
ボクわさびが嫌いだって知ってるでしょお!?﹂
嫌いな理由も一緒やん。だったら何で俺、この前怒られにゃいかん
かったんだろうと思ってしまう。
2442
﹁でも、ゆうはわさびなんでしょ?﹂
﹁ボクわさびじゃないもん!﹂
⋮⋮30秒前に行ったことがもう覆された⋮⋮すまん、俺会話につ
いていけてないわ。
普通の姉妹の会話ってどこの家庭でもこんな風なんだろうか?
﹁ほら、ヤス兄。黙って聞いてないで、悪いなって思ってたらユッ
チ先輩に言うことがあるでしょ?﹂
ああ、そうだった。なんだかんだ言っても、俺がユッチを傷つけた
んだから、俺がわるいのには違いない。だったらユッチに言わなき
ゃならないことがあるよな。
﹁ユッチ、ごめんなさい﹂
﹁⋮⋮ふんだ。ヤスなんて知らないんだからあ﹂
﹁ごめんなさい﹂
﹁⋮⋮ふ、ふんだ!﹂
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
﹁ふんだ、謝ったって許さないんだあ!﹂
⋮⋮どうやったら許してくれるんだろう。
2443
﹁ヤス君、もう謝らなくていいよ。ゆうったら怒ってないんだから。
ヤス君に謝らせていい気分になってるし﹂
﹁お姉ちゃん! そんなことないもん! ボク怒ってるんだからあ
!﹂
﹁ゆう、いい加減にしなさい!﹂
﹁⋮⋮はあい﹂
⋮⋮さすがお姉ちゃん。お姉ちゃんパワー恐るべし。ユッチってば
さっきからお姉さんの言うことをすっごいよく聞いてる⋮⋮あれが
普通の年上の姿だよなあ。俺なんてサツキに馬鹿にされまくり。ど
っちが年上だかわかんなくなるときもあるし⋮⋮威厳も尊敬もあっ
たもんじゃないもんなあ。
﹁しょうがないなあヤス。もうボク怒ってないから仲直りしてあげ
るよお﹂
﹁⋮⋮ゆう、ゆうは本当に仲直りする気あるのかな? ちょっとお
姉ちゃん、イライラしてきたなあ⋮⋮﹂
﹁お姉ちゃん、ごめんなさいい! ボクが悪かったから怒らないで
え!﹂
ほんとユッチってばお姉ちゃんに頭が上がらないんだなあ。
﹁ヤスう、仲直りしてもいい?﹂
﹁こちらこそ。仲直りさせてください﹂
2444
すっと右手をユッチの前に差し出す。
﹁⋮⋮うん! 仲直りの握手だあ!﹂
ユッチとぎゅっと握手。ぶんぶんと上下に振り回す。ものすごく嬉
しそうに笑ってるユッチ。
⋮⋮あ、ようやくユッチが俺に向かって笑ってくれた⋮⋮よかった
あ。
2445
268話:握手で仲直り︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
わさび、私は好きなんですよね。
好きなんだけど、ついつけすぎて涙を流してます。
ほどよい量を上手につける方法、何かないかなあ。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2009/5/17
追記:120話の﹃ダークヤス、降臨﹄でユッチがわさび嫌いって
事書いてましたね。
完全に忘れてました︵ーー; 別に矛盾が生じた訳ではないですが、
書いた事はできる限り忘れないよう気をつけます。
2446
269話:ある昼下がりの午後
﹁ヤスう、おっはよお! いい天気だねえ﹂
今日はバンバンジーを食べた翌日。11月18日火曜日。
ユッチのいう通り今日はすっごくいい天気。くも1つない、まさに
日本晴れと言うやつですな。11月でもこういう日は日向にねっこ
ろがってうたた寝をしたかったりする。
ユッチ、昨日はしょぼんとしてたけど今日はめっちゃ明るい。やっ
ぱりユッチは元気じゃないとな。
﹁おっす。ところでユッチ、今は12時30分だ。太陽は俺たちの
真上にいる。そんな時間に﹃おっはよお﹄はないんじゃないか?﹂
今日もまた屋上でお弁当を食べながら﹃長距離陸上部の顧問を見つ
けよう﹄作戦会議がある。まだポンポコさんもヤマピョンも屋上に
来てないので、ユッチと俺の2人。
﹁ええ!? 別におはようっていつ言ってもいい言葉でしょ?﹂
んな訳あるかい。
﹁おはようってどう書くか知ってるか? ﹃お早う﹄って書くんだ
ぞ。真っ昼間なのに﹃お早う﹄って変だろ?﹂
﹁ううん、でもボクのお父さんもお母さんも、仕事場でいっつも﹃
おはようございます﹄って言ってるよお?﹂
2447
それ、芸能界と水商売だけだと思ってたんだけど⋮⋮違うのか。
﹁ユッチのお父さんとお母さんって芸能人?﹂
﹁ええ? 違うよお。お父さんもお母さんも芸能人じゃないよお?﹂
芸能人じゃないのか。ユッチの家ってでっかいから実は両親は有名
な芸能人で、お金をがっぽがっぽ儲けてるのかと思った。
﹁それじゃ水商売の人?﹂
﹁ううん、違うよお? だいたい水商売って50過ぎてても大丈夫
なのお?﹂
全く知らん。水商売の世界ってどんな風なんだろうね。
﹁ボクのお父さんとお母さんは普通の会社員だよ﹂
﹁そうなんだ? でも俺の父さんと母さんも普通の会社員だけど、
仕事場で昼に挨拶する時は﹃こんにちは﹄って言ってるぞ﹂
会社によって全然違うものなのかな?
﹁でも、やっぱり俺としては12時の挨拶、こんにちはにして欲し
いなあと思うんだけど﹂
そう思うのは俺だけか?
﹁でもでもお、何時から何時までが﹃おはよう﹄なのさあ? 何時
から﹃こんにちは﹄なのお?﹂
2448
さあ⋮⋮答えの無い問題を出さないで欲しい。
﹁ボクとアオちゃんとポンポコとで先生とすれ違った時、ボクが﹃
おはよう﹄って言って、アオちゃんが﹃こんばんは﹄って言って、
ポンポコが﹃こんにちは﹄って言ったんだあ。先生混乱してさあ﹃
おはこんばんち!﹄って言って逃げてったよお﹂
﹃おはよう﹄と﹃こんばんは﹄が一緒に使われる事ってないと思う
んだけど。ユッチの感覚、何かがおかしいと思ってしまう。
﹁そう言えばどっかで聞いた話だけど、マックでは朝の開店から1
1時まで﹃おはようございます﹄で、11時∼18時まで﹃こんに
ちわ﹄、18時から閉店までが﹃こんばんわ﹄であいさつするらし
いぞ﹂
マックで使っているだけで、これが正しいと言う訳じゃないと思う
けどな。
﹁ヤスう、マックじゃないだろお。マクドだろお﹂
﹁なんでやねん﹂
﹁マクドナルドをなんだから﹃マクド﹄に決まってるんだあ! ち
っちゃい﹃つ﹄なんてどこにもないじゃんかあ﹂
﹁でも、メニューに﹃ビックマック﹄ってあるけど? ﹃ビックマ
クド﹄なんて言わないじゃん﹂
﹁でも大阪でドナルドさんがそう言ってたんだあ!﹂
2449
⋮⋮それって大阪だからじゃね? 静岡ではマックだと思います。
ってかドナルドさんは大阪まで何しに行ってたんだろう。
﹁ユッチ、マクドナルドには﹃朝マック﹄も﹃エッグマック﹄も﹃
マックシェイク﹄も﹃マックフライポテト﹄あるんだ。でも、﹃マ
クドポテト﹄も﹃エッグマクド﹄も﹃朝マクド﹄も﹃マクドシェイ
ク﹄もないんだぞ。さあ、ユッチよ。﹃マック﹄と叫ぶのだ﹂
﹁いやだあ、ボクはマクドって言うんだあ!﹂
まあ、別にマクドって呼んでくれてもいいんだけど。ってか、そも
そもマクドナルドと言えばいいんじゃないかと思ってしまった自分。
ロッテリアはロッテって略さないし。
﹁ってか何の話だったっけか?﹂
﹁ええとお⋮⋮お昼におはようなんて言うなあって話だよお﹂
そだったそだった。ものすごい脱線してるなあ。
﹁ボク、4時間目はずっと寝てて今起きた所だから﹃おはよお﹄で
いいんだあ!﹂
﹁おいユッチ、授業ねるなよ! ただでさえ留年の可能性があるん
だろ!?﹂
昨日その話聞いたばっかりだよ。テストの点が悪くても真面目に授
業受けてますって見せとくと温情で進級させてくれたりする事もあ
るかもしれないけど、寝てたりして問題児になってたら、こっそり
2450
と進級とかも無くなりそうじゃん。
﹁だってだって、あの数学の先生、面白くないんだもん﹂
﹁いや、でもだなあ⋮⋮﹂
﹁いいんだあ! 今度のテストはアオちゃんが教えてくれるって言
ってたんだからあ!﹂
や、まあユッチがそれでいいならいいっす。
﹁ユッチと一緒に進級したいから、絶対に留年なんてしないでくれ
よ﹂
﹁うん、わかったあ!﹂
それからもずっとユッチと何か話してたら、昼休みが終わってしま
った。
⋮⋮ポンポコさん、来なかったんだけどどうかしたのかなあ。
2451
269話:ある昼下がりの午後︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
私が家族や友達と会話する時はいつもこんな感じです。話がどんど
んずれていきます︵^^;
それでは今後ともよろしくです。
2452
270話:いじられない宣言!?
今日の部活はポンポコさんもヤマピョンも来なかったなあ。ユッチ
と言い、最近はサボるのが慣習になってんのか? 今更ほかの長距離メンバーと一緒に練習するわけにも行かないので、
仕方がないから1人で練習してきた。
それにしても⋮⋮部活に来ない人が現れたり、顧問が見つからなか
ったり、やる気のないメンバーがたくさんだったり。ほんと問題ば
っかりだ。
何も考えずただ走っていたいなあ。
家に帰ってきて、サツキとケンと俺、いつもの3人。居間でゴロゴ
ロしてます。
﹁サツキ、ケン。俺は決めた!﹂
﹁何をー? ヤス兄﹂
サツキ、聞いたらびっくりするぞ。
﹁⋮⋮突然どうしたんだ? ヤス﹂
よしよし、ケンも注目しているな。今、2人に前々からちょっと思
っていたことを話そうと思います。
2453
﹁ふっふっふっ⋮⋮聞いて驚け2人とも、今俺はここに宣言する!
今日から俺は、いじられない!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮あれ、反応がないな。
﹁ケンちゃん、リモコンとって﹂
﹁あいよ﹂
﹁ありがと。最近のバラエティは芸能人だけが盛り上がってて面白
くないよねー。やっぱり映画が面白いよ﹂
﹁そだな。んでサツキちゃん、借りてきたやつの中で、どの映画見
る?﹂
⋮⋮おいそこの2人。
﹁お前らさあ、﹃なんで?﹄とか理由を聞こうと思わないの!?﹂
﹁ええ、めんどいじゃん﹂
2454
﹁そうだよ。それより私映画見たいもん﹂
俺の存在は映画以下ですかそうですか。
﹁いいから聞いてくれよ! 映画ならいつでも見れるじゃん!﹂
﹁えー、ヤス兄。話したいの?﹂
﹁話したいんです! 聞いてください!﹂
﹁しょうがないなあ、ちょっとだけだよ﹂
ありがとう⋮⋮ってなんだか俺、立場低いな。
﹁それでヤス兄、突然どうしたの?﹂
﹁よくぞ聞いてくれた。俺、4月からずっと⋮⋮いや、小学校の頃
からケンとかサツキにいじられっぱなしだったじゃん。近頃俺、思
うようになったんだ。﹃俺⋮⋮今のままでいいんだろうか﹄って﹂
﹁いいんじゃないのー﹂
⋮⋮俺の重大な決心なはずなのに、何でこんなに反応が軽いんだ?
いやいや、ここで負けちゃ駄目だ。
﹁やっぱり高校生になったんだから、そろそろいじられキャラは卒
業しなくちゃいけないと思うんだよ! ほら、都合よく陸上部には
2455
もう1人ユッチと言ういじられキャラがいるじゃん﹂
﹁いじられキャラ2人いてもいいんじゃない?﹂
﹁そうだよ、ヤス兄。ユッチ先輩にだけいじられキャラを押し付け
ちゃ駄目だよ﹂
⋮⋮なんでサツキもケンも俺をいじられキャラにしたがるんだろう。
﹁ここで、いじられキャラを卒業できなかったら俺は一生いじられ
キャラのままかもしれない、いや、いじられキャラになってしまう、
いじられキャラにならなければならなくなるんだ。きっとそうなん
だ。だからこそ今日ここでサツキとケンに俺の決意を聞いてもらっ
てだな﹂
﹁ふわぁ⋮⋮﹂
⋮⋮こらケン、あくびなんてしてないで、ちゃんと俺の話を聞けよ。
﹁今ここに宣言する。今日俺は、いじられキャラを卒業します!﹂
﹁ケンちゃん、ポッキー食べない?﹂
﹁お、いいね﹂
﹁何で最後まで俺のセリフを聞こうとしないんだよ! ポッキーは
おいとけよ﹂
﹁ヤス兄、ポッキーゲームするー?﹂
2456
﹁あ、するするー⋮⋮⋮⋮⋮⋮ってそうじゃなくてさ!﹂
くそ、危うく話が脱線しかけた。ポッキーゲームよりも今はこの話
だ。
﹁したくないの?﹂
﹁したいけど!﹂
﹁したいんだー、ヤス兄の変態ー﹂
﹁何でサツキから話しふっといて俺が変態に⋮⋮って違う! 俺は
もういじられないって決めたんだ!﹂
﹁うんうん、分かったよヤス兄。それじゃケンちゃん、話も終わっ
たし、映画見よっか﹂
﹁そだな﹂
﹁待て待て待て、まだ話は終わってないって!﹂
話が終わるまで、映画を見るのはちょっと待ってくれ。
﹁私はラットレースが見たいなー﹂
﹁俺はバックトゥザフューチャーの方がいいな﹂
﹁⋮⋮なあ、サツキもケンも何で無視するんだよ?﹂
人って最後まで話しを聞いてくれないとさびしいんだぞ。最後まで
2457
話しを聞いてくれるってのはうれしいんだぞ。
﹁や、だっていじられたくないんだろ? じゃあヤスに話しかけち
ゃ駄目じゃん﹂
﹁ケン、ちょっと待て! 今ものすごい問題発言が飛び出たぞ。俺
に話しかける理由っていじるためだけなの!?﹂
﹁そりゃなあ。やっぱりヤスの存在意義っていじられてなんぼだろ
?﹂
ええ? 俺がここにいる理由っていじられるためでしかないの? 俺からいじられるをとったら何も残らないの!?
﹁ちょちょちょ、そりゃないだろ!? 俺にももっとこう何か別の
ものがあるだろ!?﹂
﹁サツキちゃん、なんかあるか?﹂
﹁んー⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
サツキ、悩まないでくれよ。サツキにとって俺ってそれぐらいの存
在でしかないの?
﹁家事?﹂
﹁ああ、それはあるな。一家に一台、ヤスがほしい﹂
﹁一台って何だよ。俺って物なのかよ!?﹂
2458
勘弁してくれよ、これ以上何か言われると泣いてしまいそうです。
﹁ヤスさあ、そんなこと考えるのはやめといた方がいいぞ。人は生
まれてきたときから、いじる側といじられる側に分かれていると思
うんだよ﹂
ええと、それって俺は生まれてきたときからいじられるべくして生
まれてきたと言うことなんでしょうか。なんていやなんだ⋮⋮。
﹁って言うか今ヤス兄っていじられてるよねー﹂
﹁⋮⋮あうう﹂
そういえば、宣言する前からずっとサツキとケンのペースだった気
がする。こんな宣言をしてるときでさえ、俺はサツキとケンにいじ
られているのか⋮⋮。
﹁でもさー、ヤス兄っていじられるのきらいなの?﹂
﹁いや⋮⋮時々いやになることもあるけど、別にそこまでいやじゃ
ないなあ﹂
むしろこの言葉の掛け合いが好きだったりする時もあるんだよな。
﹁じゃあいいじゃん。ヤス兄は今のまま、いじられっぱなしでも﹂
そうなんかなあ⋮⋮何かが違う気もする。
﹁ヤスさ、世の中にはどんなにいじってほしくてもいじってもらえ
ない人ももしかするといるかもしれないんだ﹂
2459
そうかな⋮⋮そうかもしれないな。
﹁だからな、いじられるってのはおいしいことだと思うんだよ。俺
もサツキちゃんも、他のみんなもヤスだから安心していじれるんだ
よ﹂
そうなんだな⋮⋮確かにそうかもしれないな。いじられるって言う
のはおいしい事なんだよな。
﹁だからさ、ヤス。いじられるのやめるなんて言う宣言は取り消さ
ないか?﹂
﹁そうだな⋮⋮うん、そうするよ﹂
﹁おし。それじゃこれからもヤスの事、どんどんいじるから楽しみ
にしといてくれ。んじゃ話もまとまったところで、どの映画見る?﹂
⋮⋮どこかで何かをまちがえたような気がしなくもないが、まあい
いや。俺は今のままで。
さて、映画何見よっかなあ。
2460
270話:いじられない宣言!?︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
昨日、﹃なろうがもし∼﹄と言うのを書いてたらこちらを書く時間
が⋮⋮アホだ自分。
いじられるのが好きって言う人いますよね。私はいじるのもいじら
れるのも好きだったりします︵^^
それでは今後ともよろしくです。
2461
271話:禁則事項です
11月22日土曜日。天気は曇り。今日もまた陸上競技場へ。
陸上競技場に来てみたら、1つの人影⋮⋮あれは、アオちゃんか。
﹁おはようございます、アオちゃん先輩﹂
﹁あ、おはようございます。サツキちゃん﹂
﹁おはようさん。 アオちゃんさ、何でマスクしてんの? この時
期だったら花粉症も関係ないし⋮⋮風邪?﹂
﹁いいえ。なんでしているのかと聞かれましたら、風邪の予防と答
えます﹂
⋮⋮なんのこっちゃ。
﹁⋮⋮そういやさ、今日ポンポコさん来てる?﹂
﹁いいえ? まだ来てないですよ? あとヤマピョン君もまだ来て
ませんね﹂
そっか、まだ来てないかあ。
今週ずっとヤマピョンもポンポコさんも来なかった。
まあいつか来るだろうと思って、ポンポコさんのクラスまで見に行
く事もしてない、ウララ先生によると学校を休んでる訳ではないら
しい。学校に来てるんだったら何で部活に来ないんだろうな。
2462
﹁大丈夫ですって、きっと新型インフルエンザを警戒して、2人と
も家に引きこもってるんですよ﹂
﹁⋮⋮アオちゃん、何の話?﹂
﹁海外では既に死者も出てますし⋮⋮今日本でも感染者が150人
を超えたそうですよ? とりさんが危ないって言ってたはずでした
のに、実は危険だったのは豚さんだったんですね﹂
﹁だから何の話?﹂
﹁大阪や兵庫では休校してる学校も4000校を超えるとか超えな
いとか⋮⋮お悩み相談室ではそんな電話対応で追われっぱなしにな
ったとからしいですよ? ほんと怖いですね。ヤス君もサツキちゃ
んも家に帰ったらうがい手洗いをしっかりして、外に出たら人ごみ
に行ったらダメですよ?﹂
﹁だから何の話だよ!?﹂
﹁禁則事項です♪﹂
唇に人差し指をあててにっこり笑うアオちゃん⋮⋮ちょっとだけか
わいいとか思ってしまったけど、それ以上にアオちゃんをどつきた
くなってしまった。アオちゃん、お前は未来人か。
﹁おっはろお! ヤス、サツキちゃん﹂
﹁おはようさん⋮⋮ユッチは今日も元気だな﹂
2463
﹁ボクはいつだって元気だよお?﹂
嘘をつけ、ついこの前ものすごくしょぼくれてたやんけ。
﹁ちなみにユッチ、﹃おっはろお﹄とは﹃おはよう﹄と﹃はろー﹄
を混ぜ合わせたもので、午前と午後の境目あたりに使うセリフだ。
午前中に使うのは変だぞ﹂
﹁いいじゃんかあ、ボクがどういう風に使ってもお﹂
﹁ヤス兄、理屈っぽいよ。基本的に通じれば何でもいいんだよ﹂
﹁や、でも日本語はできる限り正しく使ったほうが﹂
﹁ヤス兄、正しい日本語なんてないんだよ。本人と話してる相手が
いいと思えば、それが正しい日本語だよ。そもそも﹃やんけ﹄なん
て言葉使ってるヤス兄がそんな事言っても説得力ないよ﹂
何で俺の心を読まれているんだろう? そして正論を話したはずな
のになぜ俺がせめられる事になったんだろう⋮⋮。
結局ヤマピョンもポンポコさんも部活に来ないまま土曜日の練習が
終わってしまった。
2464
練習内容、いっつもポンポコさんに考えてもらってたもんだから、
何すればいいか分からず、先週と全く同じ練習メニューをこなす事
にした。15キロ、1キロあたり4分⋮⋮つらかった。
﹁ヤス兄、お疲れー﹂
﹁ありがと、サツキ﹂
短距離の練習は俺が走りきる頃にはもう終わってて、ストレッチし
てる。
ちっくしょ、1人だけひいひい唸ってるのは何だか悔しいぞ。
﹁まじ疲れたあ⋮⋮1人で練習ってきつすぎっすよ。やっぱり練習
相手が欲しいっす。何でヤマピョンもポンポコさんも来なくなった
んだろうね?﹂
﹁ヤス兄がなんかしたんじゃないの?﹂
﹁した覚え全くないんだけどなあ。ううんと⋮⋮ちょっといじった
りしたのかなあ⋮⋮﹂
その記憶すらない。仮に俺が何かやらかしたんだったら、この前の
ユッチみたいにオーバーな反応してくれたら、分かりやすいのに。
﹁ヤス兄。ヤス兄はいじられるのが快感なのかもしれないけど、み
んながみんなそう言う訳じゃないんだよね。いじられた事をいじ﹃
め﹄られたと思ったのかもねー﹂
﹁や、別にいじられるのが快感なわけじゃないから! そんな爆弾
発言しないで!﹂
2465
俺別にMじゃないっすから! なかなか誰にも信用されないけど、
これ、本当に本当だからな!
﹁でも、些細な事で人って傷つく事もあるんだから注意してね、ヤ
ス兄﹂
﹁散々俺をいじって傷つけてるサツキのセリフじゃないよな﹂
﹁ヤス兄はいいの﹂
﹁何でだよ!?﹂
差別だろ!? 理由を聞かせてもらわんと納得いかねえ!
﹁禁則事項だよ♪ ヤス兄﹂
唇に人差し指をあててにっこり笑うサツキ⋮⋮うん。かわいいし、
理由聞けなくても、まあいっかあ。
今日の交換日記 さつき
ーーー
2466
こんばんはー、サツキです!
今日は部活終わった後、ヤス兄と商店街に買い物にいって来ました!
そしたらヤス兄ったら、あるお店の前で突然立ち止まって、何かを
ものすごい凝視してたんですよ︵ ̄︳ ̄@︶ 何みてるのかなあっ
て思ったら、女の子向けの子豚の目覚まし時計︵ ̄︵●●︶ ̄
−;︶
﹃すっげえかわいい⋮⋮﹄とかつぶやいてないでね。私、ちょっと
恥ずかしかったんだからヾ︵−
それじゃあ、また!
2467
271話:禁則事項です︵後書き︶
こんばんは⋮⋮そして何か色々ごめんなさい。
インフルエンザには気をつけましょう。私も明日からマスクです。
それでは今後ともよろしくです。
2468
272話:見て見ぬふり
11月26日水曜日。
今週になって気分を一新して部活にきてくれっかなあと期待してた
んだけど、残念ながら昨日の部活でも、ヤマピョンもポンポコさん
も部活に来なかった。
ついでにどうでもいい話だけど、1時間目の理科担当、キキ先生も
授業に来ていない。家庭の都合でいったん家に帰ったためにこれな
くなったんだとか⋮⋮家庭の都合って何なんだろうね?
おかげさまでただいま自習の時間。そういえばムムちゃんとはあれ
から会ってないけど元気にしてるのかな?
﹁アオちゃん、ポンポコさんからなんで部活に来てないのか聞いて
ない?﹂
﹁さあ、特に詳しい話は聞いてませんが。でもポンポコさんは今日
から部活に来るらしいですよ?﹂
そか、ポンポコさんは今日から部活に来てくれるんか。
﹁﹃なぜ私がヤスとヤマピョンのためにこんなに苦労しなければな
らないのだ。もう知らん﹄とぶつぶつ文句を言ってましたが、ヤマ
ピョン君と何かあったんですか?﹂
﹁いや? まったくした覚えがない﹂
﹁忘れてしまっただけなんじゃないですか? いじめたほうはいじ
めたことをすぐ忘れてしまいますが、いじめられたほうはいじめら
2469
れたことをいつまでも覚えているといいますよ?﹂
﹁⋮⋮俺、そんなにいじめっ子になりそうな雰囲気に見える?﹂
ちょっとショック。俺、いじめようなんて思った事はないぞ。ヤマ
ピョンをいじめた事だってもちろんまったくない。
﹁うーん、そうですね。どちらかというとヤス君はクラスでいじめ
られている人を見て見ぬ振りして、﹃どうか俺に火の粉が降ってき
ませんように﹄と祈っている人な気がします﹂
﹁ええと、たぶん現場に直面したらその通りやり過ごす気がするん
だけど⋮⋮そこまではっきり言われるとちょっとへこみます﹂
﹁ダメですよ、やっぱり正義感たっぷりに腕を振り上げて﹃やめる
んだお前たち!﹄って言わないと﹂
﹁アオちゃんがやれば?﹂
﹁⋮⋮ヤス君って冷たいです﹂
だって、注意したことで一緒になっていじめられるの怖いじゃん。
ビバ、見てみぬふり。
﹁それにさアオちゃん、高校生にもなってクラスでいじめをしよう
なんて人はそうそういないでしょ?﹂
﹁そんなことないですよ。たとえいじめはなくても、見てみぬふり
をついしてしまう場面はたくさんありますよ﹂
2470
﹁ええ? なんかあるか?﹂
﹁デパートで迷子になってぐずっている男の子﹂
﹁きっと時間がなんとかしてくれるよ﹂
アオちゃんからすっごい冷たい目で見られた。
⋮⋮つい、口から本音が。だって迷子なのかどうなのかなんて見て
るだけじゃわからんやん。
飴落っことして泣いてるだけなのかもしれないし。
﹁先生に後輩が無実の罪でものすごく怒られていました。無実を晴
らせるのはヤス君だけです。ヤス君ならどうしますか?﹂
﹁後で大変だったねーってなぐさめとく﹂
その場で無理やりかばおうとしたって﹃第3者は黙っとけー!﹄と
火に油を注ぐようなもんやん。
﹁目の前で空き缶のポイ捨てをしてる人がいました。ヤス君ならど
うしますか?﹂
﹁とりあえず空き缶を拾っといて、コンビニに通りかかったら捨て
とく﹂
﹁ポイ捨てした人はどうするんです?﹂
﹁別にどうも? なんか注意すんの、めんどいし﹂
きっと言っても治らない。人は変わらない。ごみを拾っただけでも
2471
俺は偉い。
﹁さっきからヤス君、最低です。ヤス君なんて、痴漢にあってる女
性がいても見てみぬふりだったりする人なんですよ﹂
﹁いやいや! そんなことないっす! サツキがあってたらその痴
漢ぶっとばす﹂
﹁見知らぬ女性だったら?﹂
﹁がんばろー﹂
身内、友達だったら助けるけど、まったく見ず知らずの人が痴漢に
あっててもなあ⋮⋮その痴漢がナイフとか持ってたらどうすんの?
正義感ぶって怪我とかしたら洒落にならんっすよ? しかも痴漢
ってきっとほかの人が見てもいまいちわからないよ? 満員電車だ
ったらなおさらだよなー。 ま、きっと俺より腕力が強くって、正
義感が強い誰かが助けてくれるさ、がんばろー⋮⋮なかなか嫌なや
つだな、俺。
﹁私だったら?﹂
﹁がんばろー﹂
﹁ヤス君、ぶん殴っていいですか?﹂
アオちゃんがにっこり笑って握りこぶしを作っている⋮⋮めっちゃ
怖いです。
ごめんなさい、冗談です。アオちゃんだったらがんばります。
2472
﹁いいです。ヤス君がそういう人だって言うことはわかりましたか
ら﹂
どうやら呆れられたようだ。でもしょうがないんです、それが俺な
んです。
﹁それでは最後にもうひとつだけいいですか? 学校の校門前でう
ろうろして、いかにも迷子みたいで、水色の幼稚園の制服を来て、
黄色い帽子をかぶって、帽子からツインテールをのぞかせてる幼い
女の子を見かけましたらどうしますか?﹂
⋮⋮アオちゃん、やけに具体的だな。もしかして校門前に誰かいん
の?
なんだかアオちゃんの言葉が気になって、窓越しに校門前を見てみ
た⋮⋮確かにさっきアオちゃんが言っていた特徴のツインテールの
女の子がうろうろしてる。⋮⋮後姿だけじゃ誰かわからないなあ。
こっちむかないかな?
⋮⋮⋮⋮あ、向いた。
﹁あっ!﹂
ムムちゃん! 何でこんなとこにきてるの!? 何をどう考えても
幼稚園の時間だろ?
ほんとに迷子なんかもしれんと心配になって、あわてて席を立って
ざわついてる教室から飛び出す。
階段下りて、下駄箱前に来て、靴履き替えて校門前まで走る。近く
まで来て見ると今にも泣きそうな顔になっているムムちゃん。
﹁おひさ、ムムちゃん﹂
2473
とりあえず、軽く声をかけてみる。
﹁⋮⋮ふえ? ⋮⋮あー! ヤスおにいちゃんー!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮どーしたのー? とつぜん笑い出してー?﹂
﹁や、なんでもないっす﹂
⋮⋮いけない、おにいちゃんと呼ばれて喜んでる俺がいる。妹喫茶
というものが商売で成り立つ理由を感じてしまった。
瞬間的ににやけてしまった顔をとりあえず元通りにする。⋮⋮絶対
俺今変な顔してるよ。
﹁ムムちゃん、こんなとこでどした?﹂
﹁んーとね! パパがおべんとうを忘れたのー﹂
﹁そかー﹂
キキ先生、あわてんぼうだねー。
﹁それでムムね、﹃はじめてのおつかい﹄にちょうせんしたのー!﹂
﹁そかー﹂
はじめてのおつかいね、俺が始めてのお使いをしたのは5歳のころ
だったような⋮⋮ちょっと自慢だったのに、うしろでこっそり母さ
2474
んがついてきてたことに気づいたときはショックだったよな。
﹁1人でここまで来たんだよー、えらいでしょ!﹂
﹁そかー⋮⋮1人でかー。お母さんとお父さんはー?﹂
やばい、語尾がうつってる。
﹁ないしょー! パパをびっくりさせようと思って!﹂
⋮⋮⋮⋮え?
や、それってさ、普通に考えて⋮⋮⋮⋮迷子?
﹁ムムちゃん、迷子?﹂
﹁迷子じゃないよー? ないしょできただけだもん﹂
それが迷子だから! 隣のトトロのめいちゃんと一緒じゃないっす
か!? 今頃村で総出でムムちゃん探してるっす!
﹁ムムちゃん! すぐにお母さんに電話しよ! 学校にいるよーっ
て! 電話番号わかる!?﹂
﹁ムム、知らないよー?﹂
ああ、もう!
﹁職員室いこ職員室! ムムちゃん探してるよ﹂
﹁ムムあしいたいー。おんぶー﹂
2475
﹁はいはい、おんぶ!﹂
ムムちゃんを背中に乗せて、職員室へダッシュ。
﹁わー! ヤスおにいちゃんはやーい! もっともっと!﹂
あいあーい⋮⋮って思ってたら、キャーキャーさけぶムムちゃんが
気になったみたいで、そこらじゅうの窓から授業中にもかかわらず
学生と先生の顔、顔、顔⋮⋮。
なんか、今後激しく誤解される気がしてしょうがない。
﹁ムムちゃん! だまってつかまってろい!﹂
﹁ヤスおにいちゃんが怒ったー!﹂
さらに大声でさけぶムムちゃん⋮⋮誤解が起きないことを祈ってい
ます。
やっぱりムムちゃんは迷子になっていたらしく、ご近所さんがみん
なで家事をほっぽって探してたらしい。
キキ先生が迎えに来たときは、ムムちゃんは自分と職員室でジュー
スを飲んでました。
この心配してるのに⋮⋮とキキ先生が怒りたいけど、見つかってよ
かったと喜んでて、ものすごい複雑な顔をしてた⋮⋮や、まあ見つ
2476
かってよかったね。
そして、オチというかなんと言うか⋮⋮。
﹁あ、ロリ君、お疲れ様です﹂
﹁⋮⋮アオちゃん? なにそのあだ名は﹂
﹁幼女に対しては見て見ぬふりをせず真っ先に飛び出していったヤ
ス君は、今後ロリ君と呼ぼうと思いまして。クラス全員一致で可決
ですよ﹂
⋮⋮やめてください。それこそがいじめじゃないでしょうか?
2477
272話:見て見ぬふり︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
昨日おとといと投稿できず、申し訳ありません。
7時出勤の12時帰宅でしたので⋮⋮と言い訳です、これからがん
ばります。
それでは今後ともよろしくです。
2478
273話:ささいな事
﹁おっすロリ助﹂
﹁やほお、ロリい﹂
﹁ロリ兄。頑張って﹂
⋮⋮一番目からケン、ユッチ、サツキ。何か俺、間違えたことした
のか? 迷子のムムちゃんを無事保護しただけのはずなのに⋮⋮お
んぶするぐらいはいいんじゃないかなあと思うんですが。
﹁確かに俺は子供好きだし、年下も好きだ。けど、そんな風に言わ
れるのは心外っす﹂
﹁やっぱりロリいじゃんかあ﹂
だからやめい。ロリと言うな。あだ名がロリなんて⋮⋮。
﹁というかユッチ、お前にロリとは言われたくない﹂
﹁なんでだあ!?﹂
﹁⋮⋮だってなあ、ユッチの存在がロリだし﹂
﹁ボクはロリじゃないい! ボクは高校一年生だあ!﹂
﹁⋮⋮見た目は小学4年生﹂
2479
﹁ヤスの馬鹿あ!!﹂
ボクッ⋮⋮。
みぞおちを殴られた⋮⋮みぞおちだけはやめて。息が苦しい⋮⋮。
﹁くそお、なんでこんな目に逢わなければなんないんだよ﹂
﹁日頃のおこないです。ロリ君﹂
ひろめた張本人のアオちゃんがなんかほざいてる⋮⋮いじめだと思
って俺がひきこもりになってもいいのか?
練習前の雑談もウララ先生の挨拶も終わって、長距離と短距離に分
かれて練習開始。
⋮⋮お、ポンポコさんが来てる。ほんと1週間ぶりぐらいに会った
な。
﹁おっすポンポコさん、お久しぶり﹂
﹁⋮⋮ひさしぶりだな、ヤス﹂
⋮⋮なんだか不機嫌なのは気のせいでしょうか? なにか俺、また
やらかしたんだろうか? きっと何かやらかしたんだろうな。何か
やらかしたに違いない。
2480
﹁ポンポコさん、ごめんなさい﹂
﹁ん? なぜヤスが謝るのだ?﹂
﹁や、だってポンポコさんが怒ってるみたいだったから何かしたか
なあと思って﹂
﹁私はそんなにヤスに怒っているか?﹂
﹁うん﹂
﹁⋮⋮⋮⋮まあいい、今回はヤスにまったく怒っていない。しかし
⋮⋮﹂
﹃しかし⋮⋮﹄いったい何なんだろう?
﹁ヤス、これからはヤマピョンなんて考えないで2人3脚で頑張っ
ていこう﹂
どして? この1週間、ポンポコさんってばヤマピョンとなにかあ
ったのか?
﹁先週のいつかの練習から、突然ヤマピョンが練習行かないと言い
出したのだ﹂
﹁はあ⋮⋮﹂
﹁私かヤスかが何かやったか延々と聞き出していたのだが、なかな
か口を割ってくれなくてな。ようやく聞けたかと思ったらものすご
2481
くしょうもない理由でな﹂
はあ、もったいぶらないと教えてください。
﹁﹃ヤスが無視した﹄と言っていたぞ﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮今、いつどこで何を無視したのか思い出そうと記憶を
掘り返していたんだけど、本当に記憶にない。まったく持って記憶
にない。
﹁﹃そもそもヤマピョンの声は小さいから聞こえないこともよくあ
るのだから無視したかどうかなぞわからないだろう﹄と言ったのだ
が、まったく聞いてくれないのだ﹂
﹁ごめん。俺、いつかどこかで無視したっけ? 全然覚えてない﹂
﹁記憶にないくらいの程度のことだったのだろう? 仮に今ヤスが
謝ってヤマピョンが部活にくるようになったとしても、また知らず
知らずのうちにヤマピョンの事を無視するかもしれないだろう? そのたびにヤマピョンが部活こなくなって、そのたびにヤマピョン
を説得するなぞやりたくない。私はそんなことをやりたくて陸上部
に入部したわけではない﹂
んー⋮⋮そういうサポートもマネージャーの仕事かなとか一瞬思っ
たりもしたけど⋮⋮まあ、そりゃ何を無視したかは覚えてないけど、
それぐらいで部活にくるのをやめようとするのを必死で止めるのに
労力割かれて、ユッチやゴーヤ先輩が走っているサポートができな
いって何やらむなしいもんな。
﹁1週間もバカバカしいことに付き合わされてうっぷんがたまりに
2482
たまっている。今日からビシバシ鍛え上げてやるからな﹂
﹁え? えーと⋮⋮﹂
鍛え上げてもらうというより、ものすっごいポンポコさんのストレ
ス解消に付き合わされているに過ぎない気が⋮⋮
﹁なんだ? 不満そうな口振りだな。練習したくないのか?﹂
﹁いやいや! めっちゃ練習したいっすよ! 俺、練習大好きー﹂
﹁そうか、そんなに好きか。それなら今日のメニューは20キロく
らい走ろうか﹂
⋮⋮ポンポコさんって絶対にSだよな⋮⋮。
あおい
なんとか20キロ完走したけど⋮⋮足腰がヘロヘロでしばらく動け
ませんでした。
今日の交換日記
−−−−
こんばんは、あおいです。
ヤス君、ポンポコさんが帰ってきてよかったですね。
それにしても⋮⋮。
ヤマピョン君とポンポコさんの2人一緒に休んでましたから、
﹁なぜ部活に来ないのだ?﹂
2483
﹁⋮⋮ポンポコさんがヤスとばかり仲良くしているから⋮⋮﹂﹁べ、
別にヤスとはなんでもないぞ﹂
﹁ほんと? てっきり俺⋮⋮﹂
﹁そんなことあるわけないだろう﹂
﹁そ、それなら俺と⋮⋮﹂
﹁実は私も﹂
のようなラブラブといいますか見てられないといいますか、そんな
展開を期待してましたのに残念です。
そんな話もお聞きしたいです。
そういえば、ユッチやヤス君、サツキちゃんには浮いた話はありま
せんか?
それでは失礼します。
2484
273話:ささいな事︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
今までにロリというあだ名の人はいませんでしたが、﹁ガン○ャー﹂
と言うあだ名になった友達いましたね。私もつけられた本人も最初
︳︶m
なんのことか知らず、平気な顔してましたが⋮⋮知ってからは苦笑
いするしかない︵^^
知らない方は知らないままでいてくださいm︵︳
それでは今後ともよろしくです。
2485
274話:コイバナ
今日は11月27日木曜日。
部活が終わった後、ユッチとアオちゃんがうちに泊まりに来た。今
日はケンが久しぶりに泊まりに来ないからサツキと2人だと喜んで
いたのに残念⋮⋮。まあ、大勢なら大勢で楽しめるからそれはそれ
でいいんだけど⋮⋮1個だけ納得できない事がある。
﹁ええと、一言いいか。毎度毎度お泊り会をするのは俺もかまわな
いし、楽しいからかまわないんだけどな、俺んちの頻度が高い気が
するのは気のせいか?﹂
﹁気のせいですよ、ヤス君﹂
嘘をつけ嘘を。アオちゃんの家なんてそもそも行ったことないんだ
ぞ。狭いから無理だって聞いてるけど、一度くらい遊びに行っても
いいかなあと思う。アオちゃんの家はダメなのか?
﹁いいじゃんヤスう、ボクの家とアオちゃんの家、学校から遠いん
だもん﹂
まあ、それはそうだけど。
﹁いいじゃんヤス兄、私たちの家で﹂
﹁構わないことは構わないんだけど⋮⋮サツキも他の家に遊びに行
ったりしたくない?﹂
2486
﹁んー⋮⋮私は私の家が一番好きだよ。ヤス兄の料理も食べられる
し。ヤス兄がいつもいるし。私、ヤス兄に﹃おかえり﹄って言って
もらうの結構好きなんだよね﹂
⋮⋮うん、やっぱり我が家が一番だよな!
我が家最高!
﹁それではただいまから第1回、﹃みんなのコイバナを語ろうの会﹄
をはじめたいと思います!﹂
パチパチパチ⋮⋮。
アオちゃんの宣言とともに、まばらな拍手が居間に響く。
今日はお泊まり会で、コイバナをしようという話で集まってる。も
のすごいアオちゃんが乗り気。夕飯も食べ終わって、昨日のアオち
ゃんの交換日記に書かれてたコイバナをしようという流れになった。
﹁何ですか、みんなノリ悪いですね。私1人で開会宣言して、私1
人で元気に拍手しているのは少々寂しいですよ﹂
﹁だってボク語るような思い出話ないもん。そんなことアオちゃん
ならしってるくせにい﹂
﹁いえいえ、実はユッチにも私も知らない隠された秘話があったり
するかもと思いまして﹂
2487
﹁ないよお! だってボク男嫌いだもん﹂
⋮⋮ええと、ユッチさんや。分かってると思うけど、俺は男ですよ?
﹁男嫌いになったのは中1くらいからだったじゃないですか。小学
校の頃はなにかありませんでしたか?﹂
﹁ないよお。ボクはその頃は好きな人なんていなかったもん。それ
で中学校はいってからずっと男嫌いだもん﹂
アオちゃんや、間違いなく人選を間違えてると思います。好きな人
がいなかった人とコイバナしようと思っても無理だろ。
⋮⋮そしてアオちゃんにもユッチにも本当に言いたい。俺は男です
よ?
﹁ユッチ先輩は小学校のころは男嫌いじゃなかったんですか?﹂
﹁そうだよお? 男子に混ざってサッカーとかドッジボールとか、
運動場を走り回ってたんだあ﹂
﹁へえ、それでなんで男嫌いになったんですか?﹂
﹁⋮⋮ええとお⋮⋮それはあ⋮⋮﹂
﹁ユッチ、﹃それは?﹄﹂
俺も聞きたくなってついつい口を挟んだ。
﹁うるさいうるさいい! とにかく嫌いなんだあ! 男はやなやつ
ばっかりだあ!﹂
2488
⋮⋮ええと、俺ほんとに男なんだけど。男に思われてないのかなあ。
というか、俺、嫌われてるのかなあ⋮⋮。
﹁ユッチ先輩、ヤス兄が落ち込んでるので、何かフォローしてあげ
てください﹂
﹁そうですよ、ヤス君も﹃一応﹄男ですよ?﹂
⋮⋮俺、一応なの? 半分女とか全くないですよ。正真正銘の男で
すよ?
﹁ええとお⋮⋮ううんと、ヤスはなんていうか、男らしくないから
あ﹂
﹁⋮⋮男らしくないって何?﹂
俺、そんなに女女してる? 女々しい? 男らしいとは思ってなか
ったけど、ズバッと言われるとちょっと傷つくな。
﹁ユッチ先輩、フォローになってないですよ?﹂
﹁えっとえっと⋮⋮よくわかんない﹂
そりゃねえよ⋮⋮答えがないってきつすぎ。
﹁いいじゃないですか、とりあえずヤス君はユッチが唯一普通に話
せる男ってことなんですから﹂
﹁ケンも別に平気だろ?﹂
2489
﹁ううんと⋮⋮ケンも別にそんなに苦手じゃないけど、ヤスのが平
気だあ﹂
⋮⋮喜んでいいんだよな。とりあえずこの場面は喜んでもいいはず
だよな。
﹁ケンちゃんとヤス兄だと、ヤス兄のほうが男として見られてない
って事だよね﹂
できる限りそう思わないようにしとこうと思ってたのに⋮⋮サツキ、
わざわざ言わないでくれよ。
﹁ま、まあまあ、ユッチの話はそれくらいにしておきましょうか。
次はヤス君かサツキちゃんのコイバナを聞かせてくださいよ。お二
人ともカレカノがいたりはしないんですか?﹂
﹁ないな、今までに0人﹂
﹁私もー﹂
﹁私、人選を間違えたのでしょうか⋮⋮﹂
うん、間違えてる。ものすごい間違えてると思う。カレカノが今ま
でにいたことがない人を3人連れてきたってコイバナは盛り上がら
ないだろ。最低限今彼氏がいるゴーヤ先輩を連れてこないと話は続
かないんとちゃうか?
﹁それじゃ、3人にお聞きします。今好きな人はいませんか?﹂
2490
﹁いないよお?﹂
﹁サツキ﹂
﹁このバカ兄。どうどうとそんなこと言わないでよ﹂
﹁まあ、いいじゃん。みんな知ってるし﹂
﹁私、やっぱり人選を間違えたのでしょうか⋮⋮﹂
だからそうだって。
﹁アオちゃんのコイバナすればいいんじゃないの?﹂
﹁⋮⋮そうしましょうか﹂
⋮⋮するのか。冗談のつもりだったのに。
人のコイバナって、25%はノロケ、25%は浮気、25%は別れ
話、25%は玉砕話だよなあ。
アオちゃんの話はどれに入るんだろうね。
2491
275話:大げんか
﹁そういやアオちゃんのほうこそ、誰かと付き合った経験あるの?﹂
夏合宿に聞いた話ぶりだと、過去に何人かと付き合ってるんだろう
なあと思ってるんだが。
﹁今付き合ってますよ? 知りませんでしたか?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮今なんと?﹂
﹁今付き合ってます﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ええ!?﹂
初めて聞いた。全然知らなかった。
﹁というかいつから?﹂
﹁この4人でパジャマパーティーやった後ぐらいからですね﹂
⋮⋮そうだったのか。ってか土曜日なんか部活終わった後、ほとん
どユッチと買い物行ったり遊びに行ったりしてるし、昼もクラスメ
イトと食べてたりしてるし、部活帰りも俺らと帰ってるし⋮⋮全然
男っ気がないと思ってたんだけど。日曜日くらいにしか会ってない
んじゃん?
﹁ところでアオちゃん先輩、﹃一応﹄男のヤス兄がここにいるんで
2492
すが、彼氏がいるのにここに泊まりに来てていいんですか?﹂
﹃一応﹄のところ、そんなに強調しないでくれ、サツキ⋮⋮。まあ
でも、本当に彼氏さん、嫌がらないのかね。
﹁大丈夫ですよ、友達のところに泊まりに行くのに何か問題ありま
すか? 別にヤス君と2人っきりになる訳じゃありませんし﹂
⋮⋮そうなのか? 普通なのか? どうなんだ? けど、俺だった
らサツキが男友達の家に泊まりに行くなんて言ったら、絶対止めそ
うな気がするんだが。過保護と思われようがそうするぞ。
﹁⋮⋮⋮⋮ボクもしらなかったあ﹂
ってユッチも知らなかったのか。んじゃ俺が知るはずないよな。
﹁あれ? ユッチに話してませんでしたっけ?﹂
﹁聞いてないよお? なんでなのお?﹂
﹁あまりユッチが恋愛話が好きじゃないから話さなかったのかもし
れませんね。コイバナを好きじゃないユッチにその話をしてもしょ
うがないですし、意味ないですから﹂
﹁なにその言い方あ!? うううううう⋮⋮確かにボク、コイバナ
好きじゃないけどお⋮⋮なんでなんにも話してくれないんだあ! ボクはアオちゃんになんでも話してるのにい!﹂
ど、どうどう。クールダウンしようぜユッチ。
アオちゃんも言葉をちょっとだけ選ぼうよ。
2493
﹁ええと、なんでといわれましても⋮⋮聞かれなかったからとしか
言いようがないのですが。私、ユッチに何もかも話してるわけじゃ
ありませんし﹂
﹁なんだよそれえ!﹂
ユッチ、そんな大声ださないで! アオちゃんも火に油をそそがな
いでください! 今は夜! ご近所さんからクレームきちゃう!
﹁じゃあアオちゃんって聞かないと何にも教えてくれないのお!?﹂
﹁別にそういうわけじゃないですよ。そんな極端な話にしないでく
ださい﹂
﹁でもさあ!﹂
ああ、ユッチの怒る気持ちはすっごい分かる。分かるけどお願い!
ちょっとだけ落ち着いてください! もうすぐ9時になろうと言
うのに、よいこはおねんねの時間です!
﹁別にユッチだって私になんでも話してるわけじゃないですよ﹂
﹁何その言い草あ! ボク話してるよお!?﹂
﹁そうですか? では聞きますが、今日の朝御飯、ユッチなに食べ
ました? 聞いてないです。ユッチのお兄さんとお姉さん、この前
の3連休に2人で鳥羽に旅行に行ったそうですが、ユッチからは聞
いてないです。この前のテスト、ユッチは悪かったからって何も話
してくれませんでしたよね﹂
2494
⋮⋮アオちゃん、そんな揚げ足とりみたいなことしなくても⋮⋮。
﹁そ、それはそうだけど、それとこれとは別だろお!﹂
﹁あ、あのさユッチ、ちょっとだけ声のトーンをだな﹂
たまりかねて口を挟もうと声をかけてみたんだけど、アオちゃんと
ユッチの2人の間で火花が散っていて、まるで俺の声なんか聞いち
ゃいねえ。
﹁それに、パジャマパーティの後、普段話せないいろんな話をしよ
って言ってアオちゃんが交換日記はじめたんだろお! そういう大
事な事を何にも書いてくれないなら何のための日記なのさあ!﹂
﹁ええと、ユッチ、怒るのは分かるんだけど⋮⋮﹂
﹁ヤスは黙っててえ! これはボクとアオちゃんの問題なんだあ!﹂
⋮⋮はい。
﹁別にユッチに話さなきゃいけない義務があるわけではないですし。
相談するような事も全くなかったんですよ。今話したんですから構
わないじゃないですか﹂
あ、アオちゃんさあ。アオちゃんもアオちゃんでクールダウンしよ
うぜ。そう言う言い方をするといろんな人の反感かっちゃうぞ。
﹁アオちゃんは困った時しかボク達に何にも話してくれないんだあ
! 今日だってどうせ都合が悪い事があるから集めようって魂胆な
2495
んだろお!?﹂
﹁そんなことないですよ。ただ4人で集まってしゃべりたかっただ
けですってそんな風に思われるのは心外です!﹂
﹁嘘だ嘘だ嘘だあ! アオちゃんの言う事なんて信じられないんだ
あ!﹂
あああ⋮⋮泥沼というかなんというか。そしてこんな時にも﹃明日
のご近所さんへの対応どうしよう﹄とか﹃今日は眠れないかもなあ﹄
としょうもない事を考えている。
﹁私の言う事信じてくれないんですね⋮⋮そんな風に考えるユッチ
嫌いです!﹂
あああ⋮⋮言ってはいけない最後の一言を。
﹁⋮⋮アオちゃんがボクの事を﹃嫌い﹄って言ったあ﹂
﹁言いましたよ?﹂
﹁﹃嫌い﹄って言ったあ⋮⋮﹃嫌い﹄って言ったあ!﹂
﹁それがどうかしましたか?﹂
﹁ううううう⋮⋮アオちゃんなんかあ! アオちゃんなんかあ!﹂
そう言い捨てると、ドアをバシンと開けて、ドタバタと2階に上が
って行く。
アオちゃんはアオちゃんで、2階に上がって行ってしまったユッチ
2496
の事なんて全く見る事もしないで、座り込んでいる。
﹁ええと⋮⋮サツキ、どうしよ? とりあえず俺がユッチのほう見
てこよか?﹂
﹁あ、私がユッチ先輩を見に行くから、ヤス兄はこっちの対応よろ
しく﹂
そう俺に頼むと、サツキはユッチの後を追いかけて行った⋮⋮サツ
キめ、楽なほうを選んだだろ。アオちゃんのほうが機嫌なおしても
らうの大変な気がするんだよ。
⋮⋮はああ、最近そこかしこでケンカばっかりしてる気がする。ヤ
マピョンもまだ部活に来てないし⋮⋮平和な毎日が欲しいよう。
2497
276話:ノロケ
﹁ええと、アオちゃん?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮何ですか?﹂
⋮⋮怖いです。声をかけただけで睨まないでください。
﹁ええとさ、謝りに行かなくていいの?﹂
﹁何で私が謝りに行くんですか? 私悪くないですから﹂
強情そう。俺もユッチの励ましにいきたい⋮⋮サツキ、代わってく
れよ。
﹁ヤス君もそう思いませんか? 別に友達だからって全部が全部、
話さなくても構わないと思いませんか?﹂
﹁ええと、そうだと思うよ?﹂
ケンには何もかも知られている気がしてしょうがないけど。
﹁ですよね! でしたら別にユッチに話してなくてもいいじゃない
ですか﹂
﹁多分さ⋮⋮ユッチが怒ったのってそこじゃないと思うんだけど﹂
﹁何ですか?﹂
2498
﹁話してくれなかったのを怒ったんじゃなくて、話してもしょうが
ないって言ったアオちゃんに怒ったんじゃないかなあと思うんです﹂
﹁結局は一緒じゃないですか。どちらにしても話をしてないんです
から﹂
いや、それはそうなんだけどね。
﹁アオちゃんだってさ、ユッチの話をもっといろいろ聞きたいと思
わない?﹂
﹁聞きたくないです﹂
怒ってる⋮⋮怒ってる、アオちゃんが怒ってる。
﹁だいたい、ユッチってわがままなんですよ。2人で映画を見に行
こうとしたら、私が恋愛映画を見たいって言っても、必ずアニメか
コメディ、もしくはアクションを見る事になりますし﹂
﹁ふむふむ﹂
それぐらい普通。俺の中ではわがままにならないっす。
﹁ユッチったら公園でブランコで遊んでますと、全然代わろうとし
ないんですよ? 私や他の人がずっと待ってるのに﹂
﹁ふむふむ﹂
⋮⋮何歳の頃の事を根に持っているんだろう。意外とアオちゃん、
2499
根に持つんだなあ。
﹁中学校の時なんて体験学習で保育園に2人で行った時、保育園児
とずっと遊んでて、何にもしないんですよ! ﹃あらあら、手のか
かる保育園児が1人増えちゃったわねえ﹄なんて皮肉言われたとき
の私の気持ち分かりますか!?﹂
﹁ああ、うん。わかるわかる﹂
ユッチが子供達と遊んでいる姿が想像できてしまった。中学校のと
きから相変わらずなんだなあ。でも、それはそれで和むからいい気
もするんだけどなあ。
﹁この前、ゴーヤ先輩とキビ先輩とユッチと私の4人で中華レスト
ランに行った時、かに玉をみんなで注文したら、ユッチが1人でか
に食べちゃったんですよ!﹂
﹁かに玉のかにがなかったら、ただのたまごやきだね。そりゃかに
も食べたいよな﹂
﹁そうなんです! 1人で食べちゃわないで私に半分よこせってヤ
ス君も絶対そう思いますよね﹂
⋮⋮おいアオちゃん。ゴーヤ先輩とキビ先輩はいいんかい。
﹁最近一番許せないのは私が楽しみにとっておいたハーゲンダッツ、
クリスピーサンド、キャラメル味。冷凍庫に入れておいたらユッチ
が遊びにきた時に無くなってたんです! ずっと大事にとっておい
たのに﹂
2500
⋮⋮ハーゲンダッツ、高いと言っても300円っすよ。頑張って色
んなものを節約したら買えなくはないのではと⋮⋮こんな事を言っ
たら、あとが恐いので言えません。
それにしても、食い物の恨みは恐ろしいな。
﹁分かりますかヤス君、ユッチってわがままなんです!﹂
﹁ああ、うん、そだね﹂
話を聞いてたらアオちゃんも十分わがままじゃないかなあと思って
しまい、少々同意しづらい。
﹁ですよね、今回だってユッチのわがままなんですよ! 私悪くな
いです﹂
⋮⋮そうだったっけ?
﹁私の彼氏も結構わがままなんですよ﹂
⋮⋮なぜそして彼氏の話に突然シフトするんだろう?
﹁デートの場所も結構彼氏が決めちゃうんですよね﹂
さいですか。
﹁意外と私、花や紅葉が好きなんですよ。なので公園や植物園に行
きたいとしばしば思ってるんですが。彼があまり花好きじゃないみ
たいで、まだ行ってないんです﹂
さいですか。もうすぐ12月だし、花はしばらくお休みです。
2501
﹁そういえば今度、彼と富士サファリパークに行く予定ですよ。私
動物も好きなので楽しみです。家にも猫がいるんですよ﹂
さいですか。ノロケですか。
﹁それでこの前彼とお昼を一緒に食べたんですが、変な食べ方する
んですよ﹂
さいですか。
﹁嫌いなものから食べるというのを遵守しているらしくてですね、
まずはキャベツを全部食べてました。その後にご飯、漬け物、ハン
バーグ、最後にみそ汁を飲んでって⋮⋮おかしいですよね﹂
﹁そうっすね﹂
﹁みそ汁も具だけ食べて、汁は全部飲まないんですよ。もったいな
いです﹂
さいですか。
﹁ちょっとだけ疑問に思って話したんですけど、昔っからこう言う
食べ方してるから直したくないんだって言われちゃいました﹂
さいですか⋮⋮突然どうでもいい事を思ったんだけど、彼氏持ちの
女友達に彼氏の愚痴聞かされるって結構めんどいっすね。ノロケ話
もものすごくどうでもいいのですが。せめて俺が彼氏さんの事を何
か知っていたら⋮⋮いや、それでもやっぱりめんどそう。
2502
﹁カラオケ行ったらすごかったですよ。古い歌が好きらしくてです
ね。アリスと言うグループ知ってますか?﹂
﹁知らないっす﹂
本当にめんどかったので、めんどそうに返事。
﹁そうですか。それ以外にも﹃青春時代﹄と言う歌などを歌ってま
したよ。それとですね⋮⋮﹂
俺のめんどさも全くアオちゃんには伝わらなかったようで、ずっと
話し続けるアオちゃん⋮⋮。
いつの間にやらユッチとのケンカの話からアオちゃんの彼氏さんの
ノロケ話に完全に置き換わってしまった。
⋮⋮サツキ、俺もユッチ担当がいい。まじで代わってほしいです。
2503
276話:ノロケ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ところで、ノロケ話ってめんどうだと思いませんか?
私は玉砕話を聞くのは楽しいです⋮⋮最低だ自分。
それでは。
2504
277話:就寝前、サツキと
﹁ヤス兄、バカ?﹂
﹁⋮⋮言わないでくれ、サツキ﹂
ユッチがサツキの部屋で泣きつかれて眠ってしまったらしく、ユッ
チを残してサツキだけ下におりてきた。
今アオちゃんはお風呂に入ってきてるんだけど⋮⋮俺の戦績を聞い
た瞬間のサツキの一言がこれ。
﹁ヤス兄、バカ?﹂
﹁⋮⋮何度も繰り返さないでくれ、サツキ﹂
サツキに言われなくたって分かってるよ。俺だってこの1時間くら
い、俺は何やってんだろうなあと思いながらアオちゃんのノロケを
聞いてたんだよ。
﹁何で私がユッチ先輩のことを励ましてる最中に、アオちゃん先輩
のノロケにつきあってるの?﹂
﹁ごめんなさい⋮⋮﹂
なんか口を挟めなかったんだよ⋮⋮違うな、ただ面倒だっただけだ
な。
﹁アオちゃん先輩とユッチ先輩を仲直りさせなきゃいけなかったん
2505
じゃないの?﹂
﹁そうなんだよ。俺も最初はそのつもりで話を聞いてたはずなんだ
けど⋮⋮どこで間違えたんだろう?﹂
﹁バカ﹂
なんだろう、すごいぐさっとくる一言です。サツキ、ジト目でそん
な事を言わないでくれ。
﹁しょうがないじゃん、サツキだってきっとアオちゃんを目の前に
すると反論するのも面倒になるぞ﹂
﹁バカ﹂
ものすごい軽蔑したかのような目で言われるこの一言⋮⋮立ち直れ
なくなりそう。サツキがひどいよ。
﹁もういいじゃん俺の事はさ。それよりサツキ、サツキはユッチの
事、元気づけてあげられた?﹂
﹁まだ全然なんだよね、アオちゃん先輩に嫌いって言われた事がす
ごいショックだったみたい﹂
そりゃしょうがないよな、ユッチってほんとアオちゃんの事大好き
だし。
﹁やっぱりユッチ先輩を元気づけるのは、アオちゃん先輩しかいな
いと思うんだよね。なのにヤス兄ってば⋮⋮﹂
2506
﹁だからごめんってば﹂
しつこいぞ、サツキ。
﹁また明日、2人を仲直りさせる為に頑張らないとだよね! 今度
も私ユッチ先輩担当、ヤス兄アオちゃん先輩担当でお願いね!﹂
﹁えええ!? やだよ、またノロケになるかもしれないし﹂
今までクラスでも部活でも、彼氏の話してるところ見なかったから、
ものすごい誰かに話したかったんだろうなあ⋮⋮でも、俺がその話
し相手になるのはいやだ。ゴーヤ先輩も彼氏いるんだから、ゴーヤ
先輩とそう言う話すればいいのに。
﹁私もいやだもん。ヤス兄、私が嫉妬したり、ドキドキしたり、ほ
んわかしたりする話が嫌いなの知ってるくせに﹂
﹁大丈夫だサツキ、アオちゃんのノロケは嫉妬もドキドキもほんわ
かもしないぞ。ただ﹃めんどくせえなあ﹄と思うだけだぞ﹂
﹁もっといや、私はユッチ先輩を励ましたいの﹂
⋮⋮サツキ、ユッチの事好きだもんなあ。いつも頭をなでている。
サツキ、一言だけ思うのだが、ユッチは年上だぞ?
﹁と言う訳で頑張らなかったヤス兄は居間で寝る事!﹂
﹁えええ!? 何でさ!?﹂
﹁ユッチ先輩とアオちゃん先輩に私の部屋で寝てもらったら、空気
2507
が重苦しくてしょうがないでしょ? ユッチ先輩がヤス兄の布団で
寝るの﹂
﹁何でユッチ? 大体ユッチ今サツキの部屋で寝てるんだからその
ままサツキの部屋で寝させてあげればいいじゃん﹂
﹁そうするとアオちゃん先輩がヤス兄の部屋で寝る事になるでしょ
? 彼氏がいるのに他の男の人の布団を使って寝るのっていやなの
かなって思って﹂
⋮⋮そんなもんなのか? それだったらそもそも男友達の家に泊ま
りにくるのどうよと思うんだけど。
﹁そうだサツキ! 久しぶりに一緒に寝ない?﹂
﹁や﹂
1文字ですよ奥さん。1文字で拒絶を表されました。
﹁いいじゃんサツキ、2人で暖め合おうよ﹂
﹁や﹂
⋮⋮こんな事で俺はめげないぞ。
﹁サツキ、寝よう﹂
﹁変態﹂
⋮⋮ま、負けるものか。
2508
﹁夏休みだって一緒に寝たじゃん﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
あれ? 突然黙っちゃって。どうしたんだ? サツキ。
﹁ヤス兄、そんなことはナカッタヨ?﹂
なぜ片言になる。そして顔がまっかっかだぞ。サツキ。
﹁いや、でも一緒に﹂
﹁ヤス兄、そんな事はなかったんだヨ? いい思い出でもダメな思
い出なんだよ? 私は全てを忘れるんだから、ヤス兄も全てを忘れ
てよ﹂
﹁いや、めっちゃ覚えてるだろ。顔真っ赤だし﹂
﹁いいの! あれはなかった事にするの! 私が﹃おにーたん﹄な
んて言った事はなかったの!﹂
﹁﹃おにーたん﹄は言ってないぞ。にゃんにゃんと顔をこすりつけ
てくれたけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ヤス兄のバカ! バカ!! 忘れて!﹂
痛い! なぐるな! 俺はサンドバッグとちゃうから!
﹁いつつつ⋮⋮分かったっすよ。サツキと寝るのは諦めたけど⋮⋮
2509
ほんとに居間しか俺の寝るとこがない?﹂
﹁居間でいいでしょ? こたつで寝れば?﹂
⋮⋮サツキが冷たいよう⋮⋮しょうがない、もう一個客用布団があ
るし、それを居間にしいて寝るかあ。
⋮⋮自分の家なのになんで?
2510
278話:ただしイケメンに限る
11月27日木曜日の朝。
アオちゃんとユッチ、サツキと俺の4人でご飯を食べて、4人で登
校したのに、気まずい空気は全然無くならなかった。
雨降って地固まればいいけど、そのまま地面が崩れちゃいそうな勢
いっすよ。
﹁と言う訳でキビ先輩に質問です。仲直りのきっかけはいかにして
作ればよいのでしょうか?﹂
昼休みにゴーヤ先輩とキビ先輩に会いにきたら、キビ先輩しかいな
かった。ゴーヤ先輩は彼氏と弁当を食べに行っているらしい⋮⋮全
くどいつもこいつも。
﹁そんなの知らないよ﹂
キビ先輩、冷たいっす。
﹁大体さ、ヤスとケンがケンカした時、どうやって仲直りしたか思
い出せばそれだけで済む事でしょ?﹂
﹁いやあ、俺もケンも彼女いたことないんですよ。だからそう言う
2511
事でケンカした事ないんですよね。そもケンとケンカした事ほとん
どないですし。なので、ゴーヤ先輩がキビ先輩を置いて1人彼に会
いに行っている状況において、キビ先輩はどんな気分なんかなあと
思いまして﹂
﹁⋮⋮ヤス、殴っていいかな? かな?﹂
﹁ごめんなさい! 悪ふざけが過ぎました!﹂
﹁ほんとにもう⋮⋮別にどうでもいいけどね。ゴーヤが誰とつきあ
ってようが、彼とどっかに行ってようが、そんなこと気にならない
よ。ゴーヤはゴーヤだし﹂
﹁へえ、ねたんだりしないんですか? ﹃なんで私にはできないの
に、ゴーヤにだけ⋮⋮﹄みたいな醜い嫉妬心を持っていたりしない
のかなあと﹂
人間だもの。そう言うのが全くないって言われたほうが逆に気持ち
悪い。
﹁やっぱり、殴っていいかな? かな?﹂
﹁ごめんなさい! ついキビ先輩だと何を言っていいかもって思っ
ちゃうんです!﹂
﹁先輩だと思われてないって事かな? かな?﹂
キビ先輩の目が怖いよー。
﹁ごめんなさい! でもなんかキビ先輩はフレンドリーなんです!
2512
他の先輩には言えそうにない事も言えるんです!﹂
﹁まったく⋮⋮まあいいけどね。そうそう、アオちゃんとユッチの
話に戻すけど、ケンカしたときって言うのは、2人とも冷静になっ
て相手の話を聞くってのが一番かもね。ユッチはコイバナ好きじゃ
ないかもしれないけど、アオちゃんはコイバナ好きなんでしょ? いつも話したい話題をユッチにできないアオちゃんも多少はストレ
スたまるんじゃない?﹂
⋮⋮アオちゃん擁護派が1人。んー、俺もサツキもユッチ派だった
から、ちょっと新鮮。
﹁ま、ぶっちゃけゴーヤのノロケを聞くのは時々うざいなって思う
けどねー。そういえばゴーヤの今回の彼氏さん、料理が得意なんだ
って。だから弁当交換しながら食べてるらしいよ。やっぱりこれか
らは料理が得意な男だよね﹂
﹁俺、そこそこには料理できますよ﹂
今キビ先輩と食べている弁当も俺が作ってきたやつだし。あまり時
間がなかったので、おにぎりとサラダと冷凍食品と言う手抜き弁当
だけど。
﹁料理だけじゃダメだよね、やっぱり掃除洗濯などなど、家事も何
でもござれじゃないと﹂
﹁俺、毎日やってますよ?﹂
﹁あとはスポーツができるといいよね、一緒にスポーツできると気
持ちいいでしょ﹂
2513
﹁陸上部ですから俺、問題無しっすね﹂
おお、実は俺、モテる要素満載なんじゃない?
﹁⋮⋮ヤス、浮かれている君に真理を教えてあげる﹂
﹁な、なんですか?﹂
﹁モテる要素として、確かに家事は必要かもしれない、運動ができ
るに越した事はない⋮⋮でもね、必ずそう言った言葉の文末にはこ
の言葉が隠れてるの﹂
﹁な、なんですか? もったいぶらないで言ってくださいよ﹂
﹁家事ができる男がいい⋮⋮﹃ただしイケメンに限る﹄﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮真理だ⋮⋮負けた。
﹁女の子、みんながみんな﹃男は内面だよねー﹄とか言ってるけど、
必ず文末に﹃ただしイケメンに限る﹄という言葉がつくんだよ。男
に対する全ての言葉は文末にこれがついてるんだよ﹂
まじすか!?
﹁それじゃあ、﹃男性のモテる要素は高収入、高学歴、高身長﹄と
言う言葉も?﹂
﹁ただしイケメンに限るんだよ﹂
2514
まじか⋮⋮いくら頑張ってもダメじゃないか。
﹁それじゃあ、﹃イエス、ウィーキャン!﹄も!?﹂
﹁ただしイケメンに限るんだよ﹂
そうか、どんな事もイケメンにしかできないのか⋮⋮。
﹁﹃人生にはモテ期が3回ある﹄っていうのも?﹂
﹁ただしイケメンに限るんだよ﹂
そうなのか!? じゃあ俺はいくら待っていてもモテ期が来ないじ
ゃないか!?
﹁﹃満20歳以上の日本国民はすべて平等に選挙権があります﹄と
言う言葉も?﹂
﹁ただしイケメンに限るんだよ﹂
なんてこった⋮⋮。人生お先真っ暗すぎじゃねえか。
﹁大丈夫だよヤス、﹃男は顔じゃない﹄って言う人もいるんだから﹂
﹁そ、そうっすよね! 男は顔じゃないですよね!﹂
キビ先輩、いい事言ってくれた! やっぱり男は中身だろ!
﹁でも、その言葉の文末にも﹃ただしイケメンに限る﹄がつくけど
ね﹂
2515
﹁キビ先輩のバカあ!﹂
キビ先輩にそう言い捨てると、弁当箱をほっぽり出して、2年生の
教室から駆け出した。
⋮⋮いいんだいいんだ。人間は生まれながらにして不平等なんだか
ら。
2516
278話:ただしイケメンに限る︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
面白そうだったのでここのネタを借りました。
http://ikemen.loplass.net/
それでは今後ともよろしくです。
2517
279話:のんびりと夕食中
部活も終わって、今は居間にいて夕食中。
今日の夕食は天ぷらなり。ちくわ、カボチャ、いんげん、いも。ど
れもこれもうまいけど、今日はタマネギの天ぷらがうまくできた。
ふう⋮⋮でも料理はうまくできても﹃ただしイケメンに限る﹄んだ
よなあ⋮⋮。
﹁大丈夫だよヤス兄、私イケメン嫌いだもん﹂
﹁⋮⋮ほんとか?﹂
﹁ほんとだよ。だってイケメンの人って大抵ボケないんだよね﹂
﹁ほうほう﹂
確かに、イケメンがボケてるのは見ないよなあ。
﹁かといっていけるツッコミをする訳でもないんだよね。おいしい
ところしか突っ込まないんだよ﹂
﹁そうなのか!?﹂
ズリイなイケメン。それはダメだろイケメン。滑ったボケも拾って
こそ本当のツッコミだろ。
﹁やっぱり話術の巧みな人か、体張ってる人がいいよねー。顔はと
りあえずどうでもいいよね﹂
2518
うんうん、そういう言葉が聞きたいよ。﹃ただしイケメンに限る﹄
なんて聞きたくないよ。
﹁んでもさ、聞いてみたいんだけどサツキの一番好きな顔ってどん
な顔?﹂
﹁え? んーとね⋮⋮それじゃあヤス兄にしとくよ﹂
﹁おお、ありがと! 俺も一番好きなのはサツキだから﹂
そう言った瞬間ちょっとサツキの顔が赤くなった。多分ちょっと俺
の顔も赤い⋮⋮。
くさいセリフは俺に合わないな⋮⋮。
﹁⋮⋮お前らさあ、兄妹で見つめ合うのも、俺無視するのもやめて
くんないか﹂
ち、兄妹のひとときを邪魔するやろうめ。ケンはとりあえず天ぷら
食べとけ。
﹁ケンちゃんってば無視されてひがんでるー﹂
﹁はいはい、ひがんでるひがんでる。だから無視すんな﹂
そこまで無視してたつもりじゃなかったが⋮⋮そんなにうっとうし
かったか?
﹁しかし⋮⋮話し変わるけどユッチの落ち込みっぷりどうにかなら
んかな? ヤスもサツキちゃんも現場にいたんだろ? 慰めようが
2519
ないのか?﹂
﹁サツキが頑張ってずっと励ましてくれたんだけど⋮⋮全然やね。
俺としてはアオちゃんがユッチに﹃ひどい事言ってごめんなさい。
私、ユッチが大好きです﹄って言ってくれればそれだけで解決だと
思うんだけど﹂
アオちゃん、自分は悪くないって相当意固地になっているみたいだ
しなあ。
﹁ケンカでも何でも、謝るのが遅れれば遅れるほど、何だか謝りに
くいよな。ヤスとサツキちゃんはそんな経験ない?﹂
それは確かにそうだよな。でも頭では謝らなくちゃ分かるけど分か
るけど、謝れないんだよ。
謝れてしまえば何でこんな簡単な事ができなかったんだろうって思
うけど、その一言を言う事がすごく難しいんだよな。ほんと﹃ごめ
んなさい﹄の一言ってとっても難しい⋮⋮。
自分もケンカしたらきっと中々謝れないだろうなあ⋮⋮。
﹁そう言えば、俺とサツキとケンのこの3人でケンカした事って何
かあったっけ?﹂
﹁私とヤス兄は全くないよー。ヤス兄、私にはホント怒らないから。
ヤス兄と私ではケンカした事あのとき1回きりだと思うよ﹂
ああ⋮⋮サツキを大泣きさせた時の話な。確かにあれから1回も怒
ってないなあ。
﹁俺とヤスもそんなにケンカしないよな﹂
2520
﹁そうだよな、なんでだろ?﹂
もうそろそろケンとの腐れ縁も10年になろうと言うのに、ケンカ
した事なんて片手で足りるからな。
﹁ヤスが俺に怒らないからだろ? あれだけいじられても怒らない
ヤスは貴重だと思うぞ﹂
﹁んー⋮⋮やっぱりその理由は怒ると楽しい空気がなくなるからだ
な。ピエロが怒ったらサーカスは台無しだろ? それと一緒だよ。
どれだけムカつこうが、いじられてる間は俺はピエロを演じるのだ
よ﹂
決まった⋮⋮なんて名セリフだ。
﹁今、﹃決まった⋮⋮﹄とか思ったでしょ。ヤス兄﹂
うん、なかなかうまい例えを思いついたなと思ったぞ。
﹁でも、ヤス兄っていじられててもそんなにムカついてないんだよ
ねー、本物のピエロとは違うよね﹂
うん、その通りだぞ。でもそれをわざわざ言わないでくれ、妹よ。
﹁私とケンちゃんは結構ケンカしてるよね﹂
﹁そなの? なんで?﹂
ケンからもサツキからもそんな話は初めて聞いた。
2521
﹁最近ケンカしたのは、ヤスが寝てる時に額に﹃肉﹄と書くか書か
ないかで議論になって﹂
⋮⋮しょうもない事でケンカしてんな、2人揃って。
﹁後、ケンちゃんが俺も交換日記やりたい! って話でケンカにな
ったね﹂
別にケンが入ってええやんと思ってるけどダメなんか?
﹁サツキちゃんが﹃ユッチ先輩、ケンちゃんの事苦手だからダメ!﹄
って言ってケンカになった。なんか俺ユッチに嫌われるような事し
たか?﹂
﹁ケンちゃんは男だからダメなんだよ﹂
⋮⋮サツキ、俺男だよ? ユッチもアオちゃんもサツキも、俺の事
どんな風に思ってんの?
﹁そうか⋮⋮じゃあしょうがないな﹂
ケン! そこで納得しないでくれ! ケンもどう思ってんだよ俺の
事!?
﹁ま、いずれにしてもアオちゃんとユッチ、早く仲直りして欲しい
よな﹂
だよな、今日の部活ユッチが1人落ち込んでるだけだったのに、本
当にお通夜にでもいるみたいな雰囲気だったもんな。
2522
ユッチ、この半年間でほんとに陸上部のムードメーカーになったん
だなあ。
⋮⋮色々仲直りの手段、考えるか。
2523
280話:仲直り大作戦
今日は11月28日金曜日。
部活が始まる前のひととき、サツキと俺の2人で仲直り大作戦を実
行する。
元気がなくずっとうつむいているユッチの前に2人で並ぶ。
﹁どもー、ヤスです﹂
﹁どもー、サツキです﹂
﹁2人合わせて、﹃怠慢センチメンタル﹄です!﹂
⋮⋮ユッチ、無反応。芸人さんが登場するとき、観客が無反応って
きっついんだろうなあ。
﹁俺、﹃コンドコント﹄のが好きなのに⋮⋮﹂
﹁いいの! 私は﹃怠慢センチメンタル﹄が好きなんだから﹂
そりゃサツキが好きなほうにするけどさあ。
﹁⋮⋮2人揃って何やってるんだあ?﹂
いじいじとありをつついていたユッチがようやくノロノロと顔を上
げる。
⋮⋮そんな真っ暗な顔してないで、ユッチにはニコニコしてて欲し
いな。
2524
﹁まま、無用なツッコミはいいから、とりあえず俺らのコントを見
てください﹂
﹁⋮⋮どおぞお⋮⋮﹂
どおぞおと言いつつ、また顔を下に向けてありをつつき始めるユッ
チ。
⋮⋮ものすごいローテーションっぷりだな。まずはこのへこみっぷ
りを元気づけないと。
﹁ども、ユッチを元気づける兄妹コンビ﹃怠慢センチメンタル﹄!
それでは最初のお題から、ショートコント﹃鼻﹄﹂
﹁ヤス兄って最近調子に乗ってるよね?﹂
﹁どこが!?﹂
﹁ラブレターもらった事を鼻にかけたり﹂
﹁6歳の子にもらっただけだから!﹂
﹁テストの点がよくて鼻高々になってたり﹂
﹁ああ、それはちょっと自慢﹂
﹁何度も聞かされてちょっと鼻につくんだよね﹂
﹁いいじゃん、自慢したいんだもん﹂
2525
﹁そろそろヤス兄の鼻っ柱をへし折りたいんだよね﹂
﹁ふっ、折れるもんなら折ってみろ﹂
﹁てりゃ﹂
バキッ。
﹁鼻が! 鼻があ! ツーンと来るツーンと! ってかサツキ、寸
止めはどこいった!? 打ち合わせでは寸止めして、んで意味ちゃ
うやろって突っ込んで終わりのはずだろ!?﹂
﹁殴るって楽しいね、ヤス兄﹂
﹁サツキ、変な事に快感を覚えないで!﹂
⋮⋮無言のユッチ⋮⋮俺、殴られ損じゃね?
﹁ええと⋮⋮それでは次のお題、ショートコント﹃ケンカ﹄﹂
一旦2人の距離を置き、サツキが俺のもとに駆けてくる。
﹁ヤス兄ヤス兄、今日新しい服買ったんだよ! 見て見て!﹂
﹁んー、かわいいかわいい﹂
﹁ヤス兄! 見てないじゃん! 何で見てくれないの?﹂
﹁見てる見てる、似合ってる似合ってる﹂
2526
﹁おざなりな返事してないでよ! そんな事言うヤス兄、嫌い!﹂
﹁そうか、でもお﹁⋮⋮うううう⋮⋮ふぇえええん⋮⋮﹂
﹃嫌い﹄って言葉に反応したみたいで、ユッチが泣き出してしまっ
た⋮⋮泣くなよユッチ。これただのショートコントだよ。
ユッチが泣いてしまって、こっちのショートコント全く見なかった
ので、締めの言葉が最後まで言えずに終わってしまった。
﹁ヤス兄、普通にユッチ先輩に色々話したほうがよかったんじゃな
い?﹂
﹁⋮⋮やっぱりそう思うか? 俺もそう思ったんだけど、ショート
コントにしてみたくなった﹂
﹁ヤス兄⋮⋮ホントに仲直りさせる気あるの?﹂
﹁あるある! 俺はどんなときでも大真面目!﹂
﹁⋮⋮ほんとう?﹂
﹁ほんとうほんとう! 俺さ、空も飛べるはずってホントにずっと
思ってて、手をバタバタさせながら一生懸命ジャンプしてたよ。木
から落っこちてでっかいたんこぶ作ったけど﹂
﹁そう言えばヤス兄って小学生までいつか空を飛ぶんだって叫んで
たね。微笑ましいと思っていいのかなあ?﹂
﹁他にも、魚はずっと海の中にいられるんだから人間だって水の中
で一生暮らせるんじゃないかって一生懸命風呂場で特訓したぞ﹂
2527
﹁ヤス兄が前に風呂場で溺れてたのってそう言う事だったんだねー
⋮⋮バカ?﹂
必死で俺の真面目っぷりを説明してみたけど⋮⋮ジト目でサツキが
睨むよ。
﹁⋮⋮ううっ⋮⋮ぐずっ⋮⋮﹂
ユッチ、そんなに﹃嫌い﹄って言葉に反応しなくたっていいのに。
アオちゃんだってものの弾みで言っちゃっただけなんだからさ⋮⋮
多分。
﹁ユッチ先輩、ほら泣かない泣かない。いい子いい子﹂
⋮⋮サツキ、ユッチは高校1年生だぞ。幼稚園児を相手にしてるん
じゃないんだぞ。
﹁サツキちゃああん⋮⋮ヤスがいじめるよお⋮⋮﹂
⋮⋮おい、何で俺がいじめた事になってるんだ? 情緒不安定すぎ
だぞ、ユッチ。
﹁ユッチ先輩、いじめっ子のヤス兄なんて気にしちゃダメですって﹂
﹁誰がいじめっ子だ誰が。それを言うならサツキのほうがいじめっ
子だろうが﹂
﹁私いじめっ子じゃないもん、いじりっ子だもん﹂
2528
別にうまい事言えと要求したつもりはないぞサツキ。
﹁ほらヤス兄、何かいい事言ってユッチ先輩元気づけてあげてよ﹂
⋮⋮サツキ、それは無茶ぶりすぎないか?
いきなり泣いてる人を元気づける魔法の言葉なんてみつからないっ
すよ? それでも何かしら言葉をかけないと⋮⋮ええとええと。
﹁イルカとクジラの違いは⋮⋮大きさだけなんですよ﹂
﹁ヤス兄、悩んだ末にトリビアでパクリ?﹂
⋮⋮サツキが凍えるような視線を俺に送るよ、そんな視線で見ない
で!
﹁⋮⋮ううう⋮⋮﹂
あああ、ユッチ泣かないで!
﹁ええとだな⋮⋮ユッチ、キンキキッズを知っているか?﹂
﹁ボクジャニーズはトキオしか聞かなあい⋮⋮﹂
⋮⋮そですか。
﹁キンキキッズの歌にだな、こんなタイトルの歌があるんだよ。﹃
愛されるより愛したい﹄﹂
﹁⋮⋮それでえ? ⋮⋮ぐずっ⋮⋮﹂
2529
﹁これってさ、友達同士でも言えると思うんだよ﹃好かれるよりも
好きでいたい﹄みたいな感じでさ﹂
﹁⋮⋮どおいうことお?﹂
﹁アオちゃんに嫌いっていわれてもユッチは好きでいればいいんさ。
ただそれだけ。そしてそれをアオちゃんに伝えればいいんだよ﹂
﹁⋮⋮でもお⋮⋮﹂
﹁ユッチはアオちゃんの事、好き?﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮﹂
﹁その気持ちをアオちゃんにいってみ? きっと上手くいくから﹂
﹁⋮⋮うん⋮⋮わかったあ﹂
まだあんまり元気がないけど、部室の中にいるアオちゃんのところ
へのそのそと歩いてった。
部室の中に入ってしばらくした後、何だかユッチの嬉しそうな笑い
声が聞こえてきたから、きっと成功したに違いない⋮⋮うん、万事
解決。
﹁ユッチ先輩、上手くいってよかったね。でもさヤス兄、ちょっと
いい?﹂
﹁んー、何だサツキ?﹂
﹁オチはないの?﹂
2530
﹁ないよ!? 何でオチがいるのさ!?﹂
﹁ヤス兄だから﹂
⋮⋮そんな役回りいやだ。
2531
280話:仲直り大作戦︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ふと思ったのですが、﹃好かれるよりより好きでいたい﹄じゃなく
て﹃好かれなくても好きでいたい﹄って一歩間違えたらストーカー
ですね︵ー︳ー;
それでは今後ともよろしくです。
2532
281話:ここ知り! パート2
今日は11月30日日曜日、部活も学校も何の予定もなく、のんび
りできる日。
たまにはこう言う何にもない日っていいよな、心と体がリフレッシ
ュされる。
さて、サツキはまだ寝てるし、父さん母さんも寝てるし⋮⋮暇つぶ
しにまたラジオでも聞くかな。あの変な2人組いないかな?
﹁みなさん、こんにちは! 司会のトクです﹂
﹁こんにちは、アシスタントのメイです﹂
お、いた。放送時間バラバラやね。んじゃ聞いてみるか。
﹁今日も元気よく、私トクとメイの2人で﹃ここ知り!﹄をお送り
いたします﹂
﹁2回目になりましたね、トクさん。私1回目で打ち切りになると
思ってましたよ﹂
﹁実はこっそり俺も思ってた。上が気まぐれだと下は困るよなー。
本当下っ端はつらいよ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁ん? どしたメイさんや。突然黙りこくって。ダメ上司ばっかり
で仕事がいやんなったか?﹂
2533
﹁⋮⋮トクさん、この会話上司にも聞かれてるんですが大丈夫です
か?﹂
﹁いやあ、素敵な上司ばっかりでボクまいっちゃうなあ!﹂
﹁⋮⋮わざとらしすぎです。こんなトクさんは置いといてさっさと
質問コーナーにいきましょう⋮⋮このコーナーは視聴者の皆様方が
知らないから知りたい! と言う事をメール・手紙・もしくはFA
Xで送っていただいて、それに私たちが答えると言うかたちでお送
りします﹂
﹁前回から今回まで、全然ファックスもメールも来なかったけどな、
あははあ﹂
﹁トクさん、そんな裏話言ってどうするんですか! 必死で打ち切
りを止めたプロデューサーさんの思いを無にするつもりですか!?﹂
﹁いやあ、まあファックス番号も電話番号もメールアドレスも、そ
もそも質問待ってますーなんてことすら宣伝しなかったから、来な
いのもしょうがないんだけどね﹂
﹁来るわけないじゃないですか!? 何で宣伝しなかったんですか
あ!?﹂
﹁ああ、だってさあ。ここの放送局の裏番組で﹃カカラジ!﹄って
のがあるんだけどさあ﹂
﹁ダメですよ、﹃カカラジ!﹄は放送禁止用語です! 著作権侵害
です!﹂
2534
﹁あちらのプロデューサー、ルシカ様に了解をもらおうとしてると
ころです﹂
﹁あ⋮⋮そうですか、ってまだもらってないんだったら駄目じゃな
いですか!? 事後承諾は駄目ですよ!?﹂
﹁⋮⋮あ、今OKもらえたって﹂
﹁放送中にもらっててどうするんですかあ!?﹂
﹁いやまあ、それはおいといて﹃カカラジ!﹄がもう盛大に読者か
らの応募を募集してるんだよ。しかも面白そうなネタばっか﹂
﹁どんなのがあるんです?﹂
﹁﹃ファンキーな脅迫状待ってます、脅迫状コーナー﹄﹂
﹁ええと⋮⋮私たちの宣伝してくれるまで毎回﹃ここ知り!﹄の度
に﹃カカラジ!﹄の悪口ぶちまけます﹂
﹁ここで言わんと﹃カカラジ!﹄で応募してこいよ﹂
﹁何となく宣言してみたかったんです、でも本当にやってやります
よー﹂
﹁まあいいけど、他には﹃ふつおたコーナー﹄﹂
﹁﹃私ふつうなおたくだもん! コーナー﹄ですか?﹂
2535
﹁﹃ふつうなおたより待ってます! コーナー﹄だぞ。メイさんや。
プロデューサー、ルシカ様にも確認とってるから﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁私何も言ってません! 聞いてません! みてません!﹂
﹁⋮⋮まあいいけど、他には﹃CMコーナー﹄﹂
﹁すごいですね、スポンサーがついてるんですか?﹂
﹁﹃もしもな寸劇、見てみませんか? もしもコーナー﹄﹂
﹁それって、もしも私たちがカカラジに出演したらーとかもありで
すか?﹂
﹁ん、まあそんな感じ。ルシカ様のお眼鏡にかなうには中々難しそ
うだけど。ってか裏番組に出演してちゃあかんだろ﹂
﹁﹃カカラジ!﹄の方が面白いです﹂
﹁メイさん、自分の番組をバカにしないでくれ! ⋮⋮とまあカカ
ラジは読者からの募集コーナーをこれだけたくさんやってるんだよ。
特捜!﹄略
ここで俺らも読者に応募するところ真似したらパクリになるんじゃ
ないかな? ただでさえ俺らの番組﹃そこが知りたい
して﹃そこ知り!﹄のパクリだと思われてんのに﹂
﹁誰からも指摘受けてないのに何自分で言ってるんですか!? パ
2536
クってないじゃないですか。そもそもトクさん﹃そこ知り!﹄みた
事あるんですか?﹂
﹁全くないからどんな番組かも全然知らん﹂
﹁そもそもその番組って東海地方でしか放送してない番組ですしね﹂
﹁あ、そうなの? そりゃ知らねえよな。﹃ここ知り﹄って番組名
を作ってから、﹃そこ知り!﹄の存在を知った。プロデューサーも
知らないまんま﹃ここ知り!﹄ってタイトルにしたんだって﹂
﹁ダメですよー、特許とってあったら危ないですよ! ﹃訴えてや
る!﹄ になりますよ﹂
﹁メイさんこそパクってるじゃないですか、ダメっすよ﹂
﹁だって島田さんのファンですもん﹂
﹁知らんがな⋮⋮しかし、知らなかったじゃ済まされないのがこの
世の中なんだよな。きっつい世の中だねえ﹂
﹁何悟った顔しちゃってるんですかあ!? 今日のコーナーどうす
るんです?﹂
﹁さあ? どうしようかなあ﹂
﹁トクさん、質問に答えるコーナーで読者から応募をお願いしない
でどうやってやるんですかー!?﹂
﹁⋮⋮自作自演?﹂
2537
﹁空しすぎですよ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮サクラ?﹂
﹁詐欺じゃないですか! サクラって詐欺ですよ?﹂
﹁このコーナーはサクラの皆様からの応募によって成り立っていま
すって最初に宣言したら詐欺じゃなくね?﹂
﹁サクラの意味がないじゃないですか!? 自作自演と同レベルで
すよ!﹂
﹁そやね、まあ適当にやるよ。と言う訳でそろそろ質問コーナーに
移りましょうか。﹃ここ知り!﹄のアシスタントの1人、匿名希望
さんからのご質問﹃私の仕事相手が全然言う事聞いてくれません!
言う事聞いてくれない人に言う事聞いてもらうにはどうすればい
いんでしょうか?﹄だって﹂
﹁﹃ここ知り!﹄のアシスタントって私しかいないじゃないですか
!? 匿名になってないですよ!﹂
﹁メイさんや⋮⋮言う事聞いてくれない人って俺の事か?﹂
﹁いえいえー、別にそんな事は言ってないですよ?﹂
﹁⋮⋮まあいいや、この質問に回答しよか。昔近所のおばちゃんに
全く同じ質問を俺したんだよ。そしたら﹃我慢しろ﹄だって﹂
﹁何ですかそれ!? トクさんの言う事ずっと我慢しないといけな
2538
いんですか!?﹂
﹁やっぱり俺の事かい⋮⋮後で覚えとけよ。んでな、おばちゃんが
言うには﹃3年我慢して何でもかんでも相手の言う事聞いてみい。
きっと信用して何でもまかせてもらえるようになっから。そしたら
言う事聞かせるまでもなく好き勝手できるんだあよ﹄﹂
﹁ふんふん﹂
﹁仕事上では、とにかく必死こいて相手の言う事聞いてみると、相
手がどんどん自分の事を信用し始めるらしいんだよ﹂
﹁⋮⋮なるほど、まさに﹃石の上にも3年﹄と言うやつですね﹂
﹁俺は途中で言う事聞くのが嫌になったから嘘か本当か知らん﹂
﹁ダメじゃないですかあ!?﹂
﹁ほれほれ、まずは我慢する事から始めないと﹂
﹁トクさん相手に我慢なんて誰がしますかあ!?﹂
﹁ひでえなあ⋮⋮﹂
﹁もっと手っ取り早く言う事聞かせる方法ないんですか?﹂
﹁金﹂
﹁アホですかあ!? そんな関係嫌です!﹂
2539
﹁わがままやなあ⋮⋮俺だってメイの言う事ならちったあ聞くぞ﹂
﹁じゃあ今日の収録の後一緒に飲みに行きましょう! トクさんの
おごりで﹂
﹁いやだ、金がない。メイさんのおごりならいくぞ﹂
﹁私のほうが給料少ないんですからちょっとくらい譲歩してくれて
も⋮⋮せめて割り勘にしてくださいよ﹂
﹁お前と飲みにいくと割り勘でも割に合わんのだが⋮⋮お前大酒飲
みだし﹂
﹁⋮⋮たまにはいいじゃないですかあ⋮⋮飲みに行きましょうよ﹂
﹁⋮⋮しゃあない、安いところな﹂
﹁はい、ありがとうございますトクさん! うふふー、まってろよ
ー。名酒﹃龍月﹄!﹂
﹁メイ⋮⋮それはウン十万の酒じゃね? ⋮⋮割り勘なんて言わな
きゃよかった⋮⋮それでは皆さん、今回はこの辺で﹂
⋮⋮質問の解決してない気もするんだけどいいのかなあ?
2540
︳︶m
281話:ここ知り! パート2︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ルシカ先生ありがとうございましたm︵︳
﹃ふつおた﹄﹃もしも﹄等々今もずっとカカラジにて募集してます
から、送ってみようかと思った人はルシカ先生のメッセージフォー
ム︵http://syosetu.com/g.php?c=w
1358b&m2=3&to=w1358b︶までどうぞ︵'−'
*︶
トクさんとメイさんが適当に答えます。
そして﹃ここ知り﹄で何か聞いてみたいと言う人も募集してます︵
^^
私のメッセージフォームまでよろしくお願いします。
それでは。
2541
282話:グチグチ
12月1日。とうとう今年も残り1ヶ月になりました。
やっぱり冬ともなってくるとちょっと寒いっすね⋮⋮。
既に部活は始まっていて、現在ウォーミングアップ中。今ちょうど
ジョグが終わってストレッチ。
今日は初めに短距離メンバーとフォーム修正のドリルをしてから練
習に入る⋮⋮ちなみに60分ジョグ。
ゴロンと土の上に寝転がったら何かうとうとしてしまう。
﹁⋮⋮ヤス、眠そうだなあ﹂
﹁⋮⋮ユッチもな﹂
﹁⋮⋮ユッチ、ヤス、ぼーっとしてて大丈夫か?﹂
﹁ポンポコさん、ごめん、眠い⋮⋮ふぁああ﹂
ポンポコさんの顔を見ながら大あくび。
﹁ボクもお⋮⋮ふわあ﹂
その後ユッチも大あくび
あくびって伝染するなあ。
﹁⋮⋮ユッチもヤスもやる気はなしか? それなら帰ればいい﹂
2542
﹁いやいや! やる気ありありっすよ! そんな帰れなんて言わな
いで!﹂
結構傷つきますから!
﹁そうだよお! 後5分経ったら元気になるんだからあ!﹂
﹁今の2人は眠りたいようにしか見えないな﹂
﹁6時限目があんまりにも退屈だったんだよ、そこで寝ちゃったせ
いで未だに引きずってるっぽい﹂
﹁ボクもボクも。ボクなんか5時間目からずっと寝てたあ﹂
⋮⋮それは寝すぎだろ。⋮⋮寝る子は育つって言うのに、ユッチ育
ってないなあ⋮⋮閑話休題。
﹁しょうのないやつらだ﹂
﹁⋮⋮しょうがないじゃん。だって先生の声が子守唄でさあ。﹃ゆ
ーりかごーのー 歌をー カーナリアーがー歌うよー﹄って聞いて
る気分だった﹂
﹁そうだよねえ⋮⋮どうして先生の声って子守唄ばっかりに聞こえ
るんだろお?﹂
ユッチってほとんどの授業で寝てんのか?
﹁ユッチは子守唄に聞こえない先生っていないの?﹂
2543
﹁ウララ先生と学年主任の先生はずっと起きてるよお? あ、あと
理科のキキ先生と体育のチチ先生と家庭科のトト先生、音楽のララ
先生は起きてる﹂
結構起きてるやん。
﹁起きれない先生の授業って何?﹂
﹁ええっと⋮⋮オーラルコミュニケーション、数学、現代社会、情
報、現国⋮⋮それだけかなあ﹂
﹁ああ、数学のあの先生は気持ちはすごく分かる、俺んとこの6時
間目はまさにその先生が授業だったんだよ﹂
あれで最後まで聞いていられる人はきっと異世界人だ。
﹁⋮⋮2人の気持ちは分かるが﹂
﹁だろ? クラスの半分以上が寝てたし、起きてた人も携帯いじっ
てたり、本読んでたり⋮⋮ああいう先生って何考えてんだろう﹂
うちのクラスがおかしい訳じゃないぞ、ほとんどの人が起きて聞い
てる授業もあるんだから。
﹁私たちが授業を聞いてなくても、どうでもいいのだろう。どれだ
け適当な授業をしていても給料はもらえる﹂
⋮⋮金か。
﹁ボクそんな先生いやだあ。なんで先生になったんだろお?﹂
2544
だよな⋮⋮そんな先生、教えるって立場についちゃ駄目だろ。
﹁失業がないからではないか?﹂
﹁それなら市役所とか、別の公務員になればいいのに﹂
大企業の正社員でもクビってそんなにないんじゃないのか? よう
知らん。
﹁私たち学生に希望を見出せなくなったのではないか?﹂
⋮⋮いやいや。先生がそれを思ったらおしまいだろ。
﹁他には⋮⋮給料が他の公務員より高いからではないか?﹂
﹁ええ? 先生って残業代でないからむしろ他の公務員より安いら
しいよ﹂
﹁⋮⋮そうなのか?﹂
﹁そうだぞ。特に部活動。ウララ先生なんて、土曜日俺達の部活動
見てくれても、手当てが1200円しかつかないらしいよ﹂
﹁えええ!? そうなのお!?﹂
﹁そうだぞユッチ﹂
﹁ウララ先生、土曜日の部活終わったあと、時々ボク達にご飯おご
ってくれるよお?﹂
2545
﹁それをやったら赤字だよな。部活動の顧問なんて、お金のこと考
えたら絶対割に合わないぞ﹂
﹁そうだったんだあ⋮⋮そんなこと聞いたらウララ先生と土曜日、
ご飯食べにいけないよお﹂
﹁前にウララ先生に聞いたら﹃あはは、子供が遠慮なんてするな!
申し訳ないって思わないでほしいなあ。どうしても気になるんだ
ったら、お返しに頑張ってくれたらそれでいいよ﹄って言ってた﹂
﹁⋮⋮うん、ボク今日からもっと頑張るう!﹂
うん、頑張ろう⋮⋮それにしても、そうやって頑張ってる先生がい
る中、頑張らない先生って何考えてんだろうね。
他の先生を見てて何も感じないんだろうか。古典の学年主任とか、
すごい丁寧な授業をする。
学年主任は、とにかく俺らの手と口を動かす。毎回小テスト実施し、
全員で音読し、鬼のような量の演習プリントを作成してやらせて⋮
⋮寝る暇ねえもんなあ。
﹁あんまりにもつまらなくって、全員が眠ってたり内職してても気
にせず授業をする先生を弾劾するシステムってないんかなあ﹂
﹁単純な事ではないか。先生に﹃先生の授業はつまらない。ちゃん
と授業しろ﹄と宣言すればいいのではないか?﹂
﹁⋮⋮後々怖いやん。問題児になりたくないし﹂
﹁ヤスは反省文、何百枚も書いているのだろ? すでに問題児だ。
2546
今更ではないか?﹂
⋮⋮まあ、書いてるけどさあ。問題児って言わないでくれ。
﹁ヤス、言ってみてよお。ボクも今度言うからさあ﹂
﹁⋮⋮分かった。いつか先生に宣言してみる﹂
あの先生の授業ずっと聞いてるのも苦痛だもんな⋮⋮どうなるかな
あ。
﹁さてユッチ、ヤス。駄目先生を愚痴りたくなるのは分かるが、自
分自身が頑張ってからだな。ヤスはジョグ120分行こうか﹂
﹁何で倍!?﹂
﹁ヤス、﹃目上の人に文句を言う時は、目上の人の1.5倍の働き
を見せるか、目上の人より2倍頑張らなければならない﹄と言う格
言があるのだぞ。だから倍だ﹂
﹁⋮⋮初めて聞いた﹂
﹁ボクもお﹂
⋮⋮俺、無知やなあ。
﹁私が作ったからな﹂
﹁ポンポコさんかよ!?﹂
2547
そりゃ知らねえよ!
﹁しかし、文句を言うなら、自分がこれだけやってからだと、私は
思う﹂
んだな⋮⋮選挙権あんのに行かなくって﹃今の政治家腐ってる﹄っ
てわめいたって誰も聞く耳持たねえさな⋮⋮俺選挙権ないのに何考
えてんだ、そんな大人にならないように頑張ろう。
⋮⋮おし、頑張るべ。
2548
282話:グチグチ︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
部活動の手当て、平成21年あたりから︵すみません、きちんと調
べてないので正確な日時は知りません︶2400円に増額されたら
しいです。作中は平成20年12月1日の話なので、1200円と
書いております。
4時間
3,000
2,400
円
円
・部活動指導業務手当
6時間
けど、部活動手当てを増やして教員特別手当というのが減ったとか
読みましたが⋮⋮本当なのでしょうか? 仕事から帰ったらもうち
ょっと調べてみよう。
それでは今後ともよろしくです。
2549
283話:3者面談
12月2日火曜日。今日はサツキの3者面談の日。
中学3年生での3者面談と言えば、やっぱり進路の話。
俺が中学3年の時は早かったなー。
﹃⋮⋮大山高校にします﹄
﹃わかった﹄
⋮⋮5秒。学校の中でも最速。母さんが私が来る意味なかったねっ
て苦笑いしてた。あれはあれで思い出だ。
﹁ヤス兄、今日はお母さん来てくれるから、授業参観の時みたいに
中学校に来なくていいからね﹂
﹁や、俺は行くぞ﹂
高校進学という大事な分岐点に立っているサツキ。どこに進学する
かでそれからの3年間がだいぶ変わってくる。俺もその話し合いに
参加して、サツキの話を聞きたい。
﹁別に来なくて大丈夫だよ。私は大山高校進学するって決めてるん
だし。学校裁量枠ってので確実にいけると思うし﹂
や、まあ確かに東海大会出場、県準優勝選手ならその辺の適当な高
校なら人間的に問題なければ無条件合格出しそうだよな。
2550
﹁でも俺は行く﹂
﹁⋮⋮ヤス兄、頑固だねー。好きにすればいいんじゃない? また
変質者と間違えられないでね﹂
あれは先生が悪い。俺が悪いんじゃない⋮⋮はず。
さてと⋮⋮こっそりというか堂々と5時間めの授業から抜け出し、
サツキのいる中学校へ。
ケンに色々とお願いすると悲惨な目に遭うと言う事は1学期の授業
参観の時に身にしみているので今回はアオちゃんにお願いする事に
した。
まあ⋮⋮アオちゃんもケンと同じくらい何か変な事言ってくれそう
な気がしたけど⋮⋮しょうがないな。
のんびりと歩きつつ、サツキの通う中学校に到着。確かサツキのク
ラスは3年4組だったな⋮⋮ちょうどサツキの3者面談の時間が始
まるくらいだろ。
教室前まで来たら、もうサツキと母さんは中に入ってるみたいで、
すでに次の人が待っている。
⋮⋮あちゃ、ちょっと遅かったか。
﹁何でダメなんですか!?﹂
⋮⋮サツキ?
2551
何が理由でもめてるのか知らないけど、教室内からサツキの叫ぶ声
が聞こえた。
⋮⋮サツキの進路で議論になるような事ってほとんどないような⋮
⋮何をダメだしされたんだろう。
﹁サツキさん、ちょっと落ち着いて。ダメとは言ってないですよ。
私はただサツキさんが大山高校以外をあまり調べていないようなの
で、他にも高校があるから、そんなに急いで結論を出さずに考えま
しょうと言っただけです﹂
﹁考えました、結論を出しました。大山高校に決めました。お母さ
んもお父さんもヤス兄も賛成してます。これ以上何か考える必要が
ありますか?﹂
⋮⋮ないな。
﹁でも、家族のご意見だけでなくもっと大勢の人の意見も聞いてみ
ましたか? 私に相談してもらっても構いませんし。3者面談と言
うのはそう言う為の場なのですから。別に私でなくても他の先生の
意見を参考にするのもいいと思いますが﹂
﹁家族以外に誰の意見を聞く必要があるんですか? 私が高校を受
験できて、思いっきり部活ができて高校生活を満喫できて⋮⋮そん
な生活ができるのはのはお父さんがいてくれて、お母さんがいてく
れて、ヤス兄がいるからです。中学卒業したらハイサヨナラな先生
に何を尋ねろと言うんですか?﹂
サツキ、先生にもずけずけ言ってますな。中学卒業したら中学の先
生とは無関係ってのはその通りだけど。
2552
﹁でもですね、ご家族の意見を否定する訳ではないですが、私たち
先生のほうが色々な高校を知っていますよ。先生でなくても友達と
話し合ったりしてもいいと思います﹂
その言い方は俺や母さんの意見を否定しているだろ⋮⋮あ、母さん
が静観を決め込んだ。
﹁友達は友達、私は私です。私と私の友達は、友達がこうするから
私もこうするなんて馴れ合いの関係ではないので、どこに行くか知
っていればいいです。進路は自分で決めます﹂
かっけえ。妹ながら先生に啖呵を切るその姿⋮⋮さすが俺の自慢の
妹。
﹁でもですね⋮⋮﹂
﹁先生、大山高校の何がダメなんですか?﹂
﹁いえ、ダメとは言ってないですよ、でも﹂
﹁さっきから﹃でもでも﹄ってダメって言ってるようなもんじゃな
いですか!﹂
⋮⋮まあ、どう考えてもダメって言ってるように聞こえるな。サツ
キに一票。
﹁大山高校、結構遠くありませんか?﹂
﹁ヤス兄も通ってます。別に遠くありません!﹂
2553
どうどう、声のトーン落とそうな、サツキ。外で待ってる次の人ら
が興味津々だぞ。
﹁授業参観に何故かいた⋮⋮あの兄ですか。同じ高校を目指すんで
すか﹂
﹁⋮⋮悪いですか?﹂
睨みつけながらそんな発言をするなよサツキ。もっと穏やかに面談
しようよ。
外で見てる俺がヒヤヒヤするから。
﹁いえ、悪いとは言ってないですよ? でも、サツキさんはソフト
テニスで東海まで行っていますよね? せっかくなのでテニスが盛
んな高校に行った方がいいと思うんですよ﹂
﹁大きなお世話です。私は高校では陸上やるって決めてるんです﹂
先生に向かって大きなお世話とか言わないほうが⋮⋮サツキ、先生
には媚売っとけばいいんだよ。それが一番内申点がよくなる道っす
よ⋮⋮そう思いながら全然媚を売れなかった自分が言うこっちゃな
いなあ⋮⋮。
﹁そうですか。けれどサツキさんの成績だと、大山高校は冒険と言
うほどではないけど、安全と言う訳でもないところですよ。もう少
し安全圏を狙っておいたほうがいいのではないですか?﹂
サツキ、1学期の通知表が5なのは体育だけだったよな。主要5教
科はテストで変な回答しかしないので成績が2ばっかり。確か平均
するとオール3くらいだったような⋮⋮真面目にやれば4ぐらいす
2554
ぐにつくはずのくせに。
﹁別に一般入試受けなくても学校裁量枠って言う推薦枠で入れませ
んか?﹂
﹁ソフトテニス東海大会出場の事ですか⋮⋮残念だけど大山高校に
はソフトテニスの裁量枠はないですよ?﹂
⋮⋮え? そうなの?
教室の中をのぞいてみるとサツキも母さんも知らなかったみたいで、
2人揃ってぽかーんとしてる。
﹁はい、サツキさん。ここを読んでみてください﹂
﹁あ、はい⋮⋮﹃大山高校学校裁量枠その1。体育的活動について。
陸上競技、野球、ダンス、ハンドボール、バスケットボール︵女︶、
バレーボール︵女︶における実績、適性、活動意欲︵県大会出場以
上、又は同程度の資質能力を持つ者︶とする﹄⋮⋮あれ?﹂
あ、ほんとだ。ソフトテニスはないんだね。
﹁なので、サツキさんの実績を使いたいのでしたら、美島南高校な
どのがいいかと思いますが﹂
﹁いいんです! 私は大山高校行きたいんです!﹂
﹁でしたら、一般入試になりますね。けれど、もう1度考え直しま
せんか?﹂
﹁先生、しつこいです! 私はヤス兄と一緒の高校行くんです!﹂
2555
⋮⋮やば、顔が笑ってしまう。そんなに俺と一緒の高校行きたいと
思ってくれてるなんて。
けどちょっとだけクールダウンしような。先生が何と言おうと気に
すんなって。
﹁サツキさん⋮⋮私はあなたを心配して言ってるだけですよ。その
言い方はないと思いませんか?﹂
﹁別に先生に心配なんかしてもらわなくて結構です!﹂
﹁⋮⋮私はサツキさんの為を思って言ってるんですが﹂
﹁私の為じゃなくて先生自身の為ですよね? 先生の受け持ちの中
で高校に落ちた人を作りたくないからですよね? 私の為だと言う
んでしたら第1志望の高校に受かるように応援してください﹂
サツキ、それは大体の先生において真実だと思うけど、そんな事を
本人には言わないほうがいいと⋮⋮もしかすると本当にサツキの為
を思ってるかも⋮⋮それはないな。
﹁⋮⋮わかりました。サツキさんの第1志望は大山高校ですね。頑
張ってください﹂
ふう⋮⋮ようやく落ち着いたか。手に汗握る面談だった⋮⋮普通っ
てこの進路相談ってほとんどが雑談で終わるものなんじゃないのか
ね。何でこんなケンケンゴウゴウと議論し合ってるんだろうね。
﹁ありがとうございました﹂
2556
がたがたと席を立つサツキと母さん。
サツキってば母さんがいなかったら、先生につかみかかってたんじ
ゃないかってぐらい興奮してたなあ。
ま、サツキ⋮⋮一般だとこれからちょっと勉強せんといかんから大
変かもしれんけど頑張れ。
2557
283話:3者面談︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
サツキの発言がひどい、先生がかわいそうと思った人は、きっとい
い人です︵^^; 私はひねくれてます︵−︳−;
それでは今後ともよろしくです。
2558
284話:受験勉強、サツキと
﹁ヤス兄、勉強教えて﹂
⋮⋮3者面談から家に帰ってきて、最初の一言がこれ。
﹁夏休みに約束したよね。勉強見てくれるって。でもヤス兄全然見
てくれてない﹂
﹁や、それはサツキが部活から帰って夕飯食べてケンと遊んだ後に
すぐに寝るからだろ? 教える時間がないじゃん﹂
﹁そんな事ないもん、勉強しようと思えばできたもん﹂
⋮⋮﹃やろうと思えばできた﹄と言うのは﹃できなかった﹄と同義
なんだぞ、サツキ。
﹁⋮⋮まあ、構わないけど。どれ勉強すんの? 苦手教科をとりあ
えず無くそうと思うんだけど、サツキの成績ってどれくらいだった
っけ?﹂
﹁数学3、国語2、英語4、社会2、理科2、体育5、音楽4、美
術3、技術家庭が3﹂
ええと⋮⋮28か。まあ、大山高校の合格は31くらいって言われ
てるから、どうにかなる成績だろ。
﹁ってか社会とか理科が悪いのは暗記しろとしか言いようがないん
2559
だけど﹂
﹁それじゃ暗記の仕方を教えてよ﹂
﹁⋮⋮知らん。メモリーツリーでもやってみたら? 全く俺は覚え
れなかったけど﹂
万人受けしないやり方を進めるなよな。まったくもう。
﹁自分ができなかったやり方をおすすめしないでよ。ヤス兄﹂
﹁んー⋮⋮はっきり言ってあんなしちめんどくさいやつ作るより、
俺的にはただひたすらに問題集を解いていくほうが覚えられたな。
サツキは英語の成績はそこそこじゃん。どうやって覚えたんだ?﹂
﹁え? えっとね、単語帳を読むだけだよ?﹂
⋮⋮それだけで英語を覚えられるとはうらやましい。
﹁それじゃ、国語はどうやって成績あげるの?﹂
ええと、俺も国語は成績3だったからそんなに自信ないんだけど。
﹁現状を知るんだったら、とりあえず何か問題をやってみるのがい
いよな⋮⋮とりあえず何か呼んでみるか? 太宰治の﹃羅生門﹄と
かどうよ﹂
﹁別にいいよ?﹂
よし。んじゃ羅生門を読んでみよか。
2560
くれがた
げにん
﹁⋮⋮ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨や
みを待っていた﹂
﹁そういえばヤス兄、羅生門って何?﹂
﹁京都にあったでっかい門のこと。今はもうないけど、花園児童公
にぬり
園っていう公園の中に羅生門跡というのが残ってるらしいぞ。見て
もしょうがないような石碑が残ってるだけだけど﹂
﹁へー﹂
⋮⋮興味ないのに聞いたな。サツキのやつ。
きりぎりす
﹁広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の
剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている﹂
﹁ヤス兄、キリギリスは怠け者ってほんとなのかな?﹂
﹁や、実は結構働き者らしいぞ。キリギリスの活動時期は夏から秋
にかけてで、冬は卵なんだって。だからありに食べ物をもらいにい
くことなんてありえないし﹂
﹁へー、そうなんだ﹂
﹁むしろアリの方が怠け者なんだぞ﹂
﹁あ、それ知ってる。実はアリは80%しか働いてなくて、残り2
0%は働かないってやつだよね﹂
2561
﹁そうそう、それ﹂
﹁でも働かないアリも、環境が変わると働くようになるんでしょ?﹂
﹁実は違うらしいぞ。働くアリ達を全部引っこ抜いた環境に変える
と、働き始めるのは次に働いていたアリ達なんだって﹂
﹁え、じゃあ働かないアリは?﹂
﹁働かないまま。怠け者はどうなろうとも怠け者ってことらしいよ﹂
﹁へー﹂
﹁でも、まだその話は研究中らしい。堂々と言い切るのは絶対に駄
目だぞ﹂
間違った常識として広まってしまうと後々訂正がとても大変だし。
﹁何でヤス兄そんなこと知ってるの?﹂
﹁全部ケンから聞いた﹂
とそんなことはどうでもいいじゃん。⋮⋮今は羅生門の話だろう。
今は2:8の法則の話でもアリとキリギリスの話でもないぞ。
いちめがさ
もみえぼし
﹁続きを読むぞ。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほか
にも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうな
ものである。それが、この男のほかには誰もいない﹂
﹁そういえばヤス兄、著作権って何年なの?﹂
2562
﹁50年だぞ。だから太宰治とか森鴎外とか芥川龍之介とか夏目漱
石の話は誰がウェブ上に公開しても、誰が出版してもいいんだぞ﹂
﹁へえ、それじゃ中身を適当に書き換えて出版しても問題ないんだ﹂
⋮⋮問題ないけど、普通はやらないな。
﹁というかヤス兄、これって勉強になるの?﹂
⋮⋮ええと⋮⋮きっとならないけど。
﹁もっとちゃんとした勉強やろうよ。これじゃいつものおしゃべり
と一緒だよ﹂
サツキが口を挟むから先に進まないんだと俺は思う⋮⋮しかし、ち
ゃんとした勉強ってどんなのなんだろう?
﹁んじゃ羅生門はおいといて、適当にどっかの問題に答えてみよう。
ネットで適当に見つけてきた問題を言ってくぞ。改正中学の問題﹃
あなたが、人の人生や経験を知って、頭を下げたい気持ちになった
ときのことを、思い出して書いて下さい﹄﹂
﹁地面に500円玉が落ちててラッキーと思ったとき﹂
⋮⋮確かに頭下げて拾おうと思うけどそういうことじゃないと思う。
﹁﹃どうやら謙虚さがなくなると、人間でも機械でも何でも﹃わが
まま﹄になってしまうようである﹄というところを読んで、あなた
は何を考えましたか﹂
2563
﹁わがままの何が悪い﹂
⋮⋮悪かないけど。その答えだと多分落ちるよ。
﹁﹃不意に悲しくはないはすなのに、涙が流れた﹄とありますが、
ではなぜ涙が流れたのでしょうか﹂
﹁あくびをかみ殺したから﹂
⋮⋮うん、確かにあくびをかみ殺すと涙出るよね。
﹁田舎がいいか都会がいいか、どちらか一方の立場に立ち、論じな
さい﹂
﹁地元がいいよね﹂
⋮⋮ええと、こういう問題の場合はとりあえずどちらかの立場に立
って答えないと0点っすよ?
﹁あなたが後世に残していきたいと思う日本語を一つ挙げ、その理
由を書きなさい﹂
﹁確信犯﹂
⋮⋮すでに誤用されまくりの日本語なんですが。
﹁サツキさ、絶対まじめに答えてないだろ。国語の記述は一般的な
答えを書かないと正解にならないんだぞ﹂
2564
﹁でもさヤス兄、まじめに答えて何が楽しいの?﹂
⋮⋮サツキ、そんな事いってると落ちるぞ。
﹁とりあえず、こんなことやっててもサツキの実力どれくらいかわ
かんないし、過去問やってみて今どれくらい出来るのか調べてみた
ら?﹂
﹁うーん⋮⋮そうする。ありがとヤス兄﹂
平成21年度版﹄⋮
そう言うとサツキは勉強机に向かい、過去問をやり始めた。最近父
さんが買ってきた﹃静岡県公立高校入試問題
⋮俺も去年やったなあ。
﹁ヤス兄、今日中に1年分終わらせるから。寝ないで待っててね﹂
もうそろそろ21時なんですが⋮⋮5教科やったら2時過ぎそう⋮
⋮寝させてよ。
2565
284話:受験勉強、サツキと︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
働かないアリはやっぱり働かない←
http://cbn.la.coocan.jp/blog/2
009/02/post︳40.html
このブログの方の私見でしたが、働かない2割のアリは防衛的役割
なのだとか。働かない2割のアリがいると研究発表した人の環境は
研究室で、外敵がいないから働いていないように見えるとの事⋮⋮。
誰かこの話が本当かどうか研究してくれないかな。
それでは今後ともよろしくです。
2566
285話:冬のアイス
サツキが高校の入試問題をやってみたところ、通知表で2がついて
る理科や社会も結構得点が取れることが分かった。1、2年の単元
は問題なし。
問題なのは3年生になってからの問題ばっかりだった。
きっと部活ばっかりやってた結果だろうなあ⋮⋮部活が原因とか言
うと、サツキのやつ怒りそうだけど。
国語もそれほど問題なし。記述式の問題が難ありだったけど、漢字
とか表現とか古文とか、答えがひとつと分かりきっているところで
は点を稼げるみたいだったので、全体的には平均点を超えそう。
⋮⋮3年生の単元を重点的にやれば今から頑張っても内申自体がそ
こそこあがるだろうし、なんとかなるよな。
今日は12月3日水曜日。
来週から期末テスト。今日からテストが終わるまで部活も休みにな
るので家に引きこもってサツキとケンと勉強中。とりあえず1段落
着いたらサツキとケンとちょっとだけ走りに行く予定。
﹁ねえねえケンちゃん、アイス食べたくない?﹂
﹁おお、食べたい食べたい。そろそろ一息入れる頃合だよな﹂
⋮⋮お前ら今は冬だ。そして開始15分で雑談を始めるな2人とも。
2567
﹁冬のアイスといえば雪見だいふくだよね﹂
﹁あー、すっげえわかる。コタツに入りながら、雪見だいふくは最
高だよな﹂
あのもちもちっとした食感がたまらない⋮⋮いやいや、冬にアイス
は邪道だ、それよか2人とも勉強しろよ。
﹁その雪見だいふくを食べながらちらほらとふる雪を見れたらそれ
に勝る幸せはないよね﹂
妹よ、お手ごろ価格な幸せだな。でもきっと大富豪になるよりも、
そういう幸せのがいいのかも。
﹁さあ、雪よ。ふってこい!﹂
⋮⋮ケン、残念ながら今日の降雪確率は0%だ。降水確率も0%だ。
﹁やっぱり雪見だいふくにはココアだよね。雪見だいふくをあった
かーいココアに入れて食べるの、おいしいんだよね﹂
﹁そうか? きな粉のがうまくないか?﹂
あったかーいココア⋮⋮コタツ⋮⋮そして雪見だいふく⋮⋮お前ら
暖まりたいのか、寒がりたいのかどっちなんだよ。
﹁雪見だいふく食べたらきっとすごく勉強がはかどる気がしない?
ケンちゃん﹂
2568
﹁そやね。きっと3時間でも4時間でも勉強するよな﹂
絶対しないから。今お前らが雪見だいふくを食べたら遊び始める。
﹁ケンちゃん、雪見だいふく食べたいよねえ⋮⋮﹂
﹁そうだな、誰か買いに行って来てくれないかな⋮⋮﹂
⋮⋮アオちゃんがいてくれたらこの2人の暴走をとめることができ
るんだろうか。
﹁きっと1番年上の人がやさしいから雪見だいふくを買ってきて、
年下の私たちにプレゼントしてくれるよね、ケンちゃん﹂
﹁そうだよな。きっと寛大な心で俺達に雪見だいふくを買ってきて
くれるよな、サツキちゃん﹂
けど、アオちゃんがいるとおまけにユッチがついてきそう。そうす
るとユッチまでそろって雪見だいふく食べたいって言い出す気がす
る⋮⋮最終的にはアオちゃんも混じって4人そろって雪見だいふく
談義になるんだろう⋮⋮余計うるさいよなあ⋮⋮悩ましや。
﹁ヤス兄、私たちの話聞いてる?﹂
﹁聞いてない﹂
﹁ヤスってば聞いてるじゃん﹂
⋮⋮しまった、反応してしまった。
2569
﹁ヤス、雪見だいふく食べたくないか?﹂
﹁食べたくない﹂
﹁またまたあ、そんな強情張っちゃって。知ってるよ? ヤス兄が
雪見だいふく大好きだってことくらい﹂
確かに好きだけど。それとこれとは話は違う。
﹁ヤス兄が買い物に言ってる間頑張って勉強するからさ、ごほうび
として買ってきてよ﹂
ごほうびとは求めるものではない。与えられるものだ。ついでにな
んで俺が買いに行くことになってるんだ?
﹁ヤス、鞭ばっかりじゃ人は頑張る意欲をなくしてしまうんだ。た
まには飴が必要じゃないか?﹂
﹁ん、飴。のど飴。はっか味。ちょっとだけ鼻にツーンとして、眠
気も解消。試験勉強のお供にぴったり﹂
飴と言えばハッカ。イチゴやりんご味もいいけど、このツーンと来
る感じがたまらない。
﹁⋮⋮ヤス、わかってねえよ。全然分かってねえ!﹂
俺が怒られる筋合いはない。むしろ俺は怒りたい気分なんだが。勉
強しろよ。
﹁眠気解消にはホットコーヒーの中に雪見だいふくをぽとりと落と
2570
した雪見コーヒーこそが最高だろうが!﹂
それって眠気解消になるのだろうか。いや、そもそもコーヒーに雪
見だいふくってうまいのか?
﹁コーヒーの中にはカフェインがたっぷり入っている! カフェイ
ンは眠気予防にぴったりだ! さらに集中力を増す効果もある! 雪見だいふくとホットコーヒーを重ね合わせることで、苦いのが苦
手な人にだっておいしくいただける! これぞ最強の試験勉強のお
供だろうが!﹂
⋮⋮そうかな?
﹁まだわかってないようだな、だったらこの事は分からなくてもい
い。でもこれだけは分かれ。雪見だいふくを食べると俺たち3人は
幸せなんだ!﹂
それはそうだけどな。
﹁だからヤス、雪見だいふくを買ってきてくれ﹂
﹁自分で買えよ﹂
俺が金払う必要がどこにある。ってかケン、お前勉強しろよ。
﹁⋮⋮ヤスが冷たい。まるでアイスのようだ﹂
冷たいと言われる筋合いはない。
﹁サツキもケンも、きちんと勉強しろよ。サツキは受験が、ケンは
2571
進級がかかってんだろ﹂
﹁ケンちゃん、ヤス兄が冷たいね。教育ママゴンみたい﹂
⋮⋮なんと言われようと聞く耳もたん。
2時間経過⋮⋮ケンもサツキも黙々と勉強中。
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮むう﹂
﹁⋮⋮ふぁ﹂
⋮⋮ちょっとサツキが飽きてるかな? ケンも少々行き詰っている
様子。
﹁ほい、サツキ、ケン。お疲れさん。いったん休憩しよか﹂
﹁⋮⋮え? あ! 雪見だいふく!﹂
さっきこっそり抜け出して、急いでコンビニまで走って買ってきた。
﹁ありがとー、ヤス兄﹂
﹁サンキュー! ヤス﹂
2572
なんだかんだ俺も甘いよなー⋮⋮ま、これぐらいのごほうびはあげ
てもいいよな。
そんなこんなで、もうちょっとだけ勉強を続ける俺たち3人。
2573
285話:冬のアイス︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
オチなしです、すみません。雪見だいふくだけの話ですね。
なんだか雪見だいふくが食べたくなってきました。
それでは今後ともよろしくです。
2574
286話:ナンバーワンとオンリーワン
今日は12月5日金曜日。
今日もまた居間でサツキとケンと俺の3人が集まって勉強中。カリ
カリとシャープペンシルの音が居間に響く。
うん、この調子で勉強してればサツキも志望校合格できるだろうし、
ケンも進級余裕だろ⋮⋮それより今回は自分自身がちょっとやばい
んだよな。
﹁そういえばヤス兄、ヤス兄の自慢って何?﹂
﹁なんだサツキ、藪から棒に﹂
ただいま勉強中。意外とテスト範囲が広くてそんな雑談をしてる場
合じゃない。いつまでたっても範囲が終わらない。
﹁いいから教えてよ﹂
⋮⋮しかたない、ここらでいったん休憩にして雑談でもしよか。
俺がシャーペンを置くとサツキもケンも手を止めた⋮⋮お前らよっ
ぽど休みたかったんだな。
﹁俺の自慢は、サツキって言う妹がいること﹂
﹁それは知ってる﹂
⋮⋮知ってるのか。
2575
﹁そうじゃなくて、自分のことで特技とかってなにかないの?﹂
﹁自分のことねえ⋮⋮別にないな﹂
家事とか別に特技じゃないしなあ。別に誰かに自慢するようなこと
でもない。
﹁駄目だよヤス兄、やっぱり何かひとつ得意なことが1個くらいな
いと﹂
﹁なんでさ? 別に俺は俺。このままでいいっすよ﹂
﹁んーとね、なんとなく。確かに特技なんてなくても大丈夫だと思
うけど、やっぱり特技が1個ある人ってすごいと思うんだよね。射
撃とかあや取りとか﹂
それじゃのび太くんじゃん。まあ、確かにあれだけ得意だとすごい
よな、かくし芸くらいにしか使えなさそうだが。
﹁サツキちゃんの言うとおりだぞヤス。特技は1個くらいあったほ
うがいいと思うぞ﹂
⋮⋮なんでだよ。そんなにかくし芸の役に立つのが大事か? 俺は
かくし芸大会やるときは、こっそりと拍手する黒子役がいい人間だ。
特技なんてなくてもいいじゃん。
﹁自己紹介のとき困る﹂
別に困らない。趣味とか好きなこととか話しておけば場は持つだろ。
むしろ延々と特技を話されても、聞いてる方はめんどくさい。
2576
そういや自己紹介に趣味と特技と書く欄があるけど、基本的に両方
一緒のことを書きたいと思ってしまう自分。
﹁他には⋮⋮就職のときに困るんじゃないか? 今の時代はやっぱ
りナンバーワンよりオンリーワンを目指す時代なんだぞ、ヤス。そ
んな歌もあることだし﹂
ああ、あの歌な。世界にひとつだけの。
﹁ところで⋮⋮あの歌が歌われるようになってからずいぶんたつし、
ものすごい今更なんだけど⋮⋮ナンバーワンとオンリーワンってな
んだ?﹂
歌を聴いてもいまいち分からない。
﹁ナンバーワンは頑張って世界の頂点に立つことでしょ? それで
オンリーワンはみんながみんななれるものって思ってた﹂
⋮⋮そうなのか。全然分からなかった。
﹁ええと、つまりは﹃がんばらなくたっていいさ、もともと俺らは
唯一の存在さ。勉強しなくたって、運動しなくたって遊んでたって
もともと俺らは特別なのさ﹄って頑張らないことを推奨する歌か﹂
すげえな、ニートがわんさかできそうな歌だ。
﹁ヤス兄、あの歌はそうじゃないよ。﹃一生懸命になればいい﹄っ
ていってるでしょ? ﹃世界の頂点になんてどうでもいいよ、私た
ちは我が道を行くんだから!﹄ってオタクを増やすための歌だよ﹂
2577
⋮⋮や、違うと思う。
﹁違うだろヤス、サツキちゃん。﹃恋人なんて選ばなくてもいい、
たくさん愛人を作るんだ﹄ってことだろ﹂
⋮⋮ひでえ。ケンの解釈のが1番ひでえ。
﹁ケンちゃん、その解釈はさすがにひどくない?﹂
サツキの解釈も十分ひどかったと思う。俺もひどかったけど。
﹁でもさサツキちゃん、この歌詞の花って、﹃人﹄の事だろ?﹂
まあ確かに⋮⋮僕らは世界にひとつの﹃花﹄って歌詞でも言ってる
もんな。
﹁だからこの歌の歌詞に﹃花﹄をすべて﹃男﹄とか﹃女﹄とか﹃子
供﹄とかにあてはめて考えてみると、俺の解釈がきっと正しいんだ
よ﹂
﹁⋮⋮そうなのか?﹂
﹁そうだぞ、よく聞いてみると⋮⋮﹃女屋の店先に並んだ﹄﹂
いやいや! 女屋ってなんだよ!? その時点で危険だろ!
﹁﹃いろんな女を見ていた﹄﹂
優柔不断なのか、プレイボーイなのか、女泣かせなのか⋮⋮そんな
感じに聞こえるな。
2578
﹁ちょっと中略して、﹃そうさ 僕らは 世界に一つだけの男、一
人一人違う種を持つ その子供を生ませることだけに一生懸命にな
ればいい﹄﹂
⋮⋮異常なまでにエロそうな歌に変わったな⋮⋮ケン、お前はそれ
でいいのか。そんなことを考えてていいのか。
﹁そして2番では﹃その人が抱えていた色とりどりの女束と嬉しそ
うな横顔﹄なんだぞ﹂
女束⋮⋮すげえなおい。どんなハーレム状態だよ。
ってかケン、何かこの歌に恨みでもあるのか? あるのか?
﹁ケンちゃん、さいてー﹂
﹁ええ!? ⋮⋮でもこの歌はきっとこういう妄想から誕生したに
ちがいないんだって!﹂
や、さすがにそんなことは無いと思う。
﹁ケンちゃん、さいてー﹂
﹁なあ! ヤスも俺の意見に賛成だろ!?﹂
﹁全然﹂
まったくもって思わない。ケン、さいてーだと思ってる。
﹁ヤス、お前は最後の最後で裏切るのか!?﹂
2579
や、俺最初っからケンの味方になってないし。いつだってサツキの
味方だし。
﹁ヤスもサツキちゃんも、もうちょっと俺の話を聞くときっと俺の
気持ちが分かるから、もうちょっと俺の話を聞こう﹂
﹁サツキ、そろそろ休憩終わらせて勉強しよか﹂
﹁そだね、ヤス兄﹂
﹁おい! そこの兄妹! 話聞いてくれよ!﹂
ケンがまだぎゃーぎゃー何か叫んでるけど、俺もサツキも無視して
勉強再開⋮⋮ま、ケン。自業自得と言うやつだ。
2580
286話:ナンバーワンとオンリーワン︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
不快に思われた方すみません。
こんな話ですが、私あの歌好きです。カラオケ行くと大抵歌います
⋮⋮それなのに、なんでこんな話になったんだろう。
それでは今後ともよろしくです。
2581
287話:インターバル走
12月6日土曜日。来週からテスト週間だけど、なぜか俺とサツキ
は陸上競技場にいる。
﹁なあサツキ、何で俺らはここに来る事になったんだっけ?﹂
﹁ポンポコ先輩に呼び出されたからでしょ? さっきからこの会話
何回もしてるよ﹂
そうなんだけどな。今日はアオちゃんもユッチもウララ先生も来な
いというのに、何で俺だけ呼び出されたんだとか一瞬思っただけっ
す。1人でいくのが空しかったので無理矢理サツキにはついてきて
もらったけど。
﹁ヤス兄もつきあいいいよねー。別にテスト週間っていうのを言い
訳にして断ればよかったんじゃない?﹂
ま、そうなんだけど。ポンポコさん、俺の為に色々考えてくれてる
しちょっとくらい期待には答えたいなと思うんだよ。
﹁サツキもこの3日間、勉強漬けでいたからちょっとばかり疲れた
だろ。部活に来て走るのもいい気分転換になるじゃん?﹂
﹁残念だったなヤス。今日は気分転換というつもりはないぞ﹂
⋮⋮ついた早々いやな言葉を言うね。ポンポコさん。
2582
﹁おはよう、ヤス、サツキ﹂
﹁おはようございます! ポンポコ先輩﹂
﹁おはようさん⋮⋮何だかさっき不穏な言葉が聞こえたんだが気の
せいか?﹂
﹁気のせいではないぞ。今日はちょっと厳しくいこうかと思ったか
らな﹂
⋮⋮なんでこんなテスト前って変な時期に厳しくいこうとか思うん
だろう?
﹁ところで、サツキまで連れてきてどうするのだ? 今日は短距離
は休みだぞ﹂
﹁まあええやん、サツキを家で1人にさせるのも退屈だろうし﹂
俺もサツキいてくれたほうがいいし。
﹁まあいいが⋮⋮ところでヤス、毎週土曜日は毎回ペース走をやっ
ていたが、そろそろ飽きているのではないか?﹂
﹁うん、飽きた﹂
毎週土曜日と言うか、平日もほとんど似たような練習。めっさ飽き
た。
﹁4ヶ月もただ黙々と毎日10から20キロ走ってきたのだ。かな
り体力はついてきている﹂
2583
﹁ふむふむ⋮⋮﹂
﹁しかし、体力は伸びているがスピード自体は全くあがっていない。
スピード練習をしていないから当然なのだが﹂
まあ、そりゃそうだ。
﹁短距離のようないのちっきり走ると言う走り方は覚えなくていい
が、速いペースで走ってもすぐにばてない体を作る必要がある﹂
⋮⋮なるほど。
﹁今までは速いペースの練習をすると故障しそうな実力だったが、
もうそろそろそんな練習をしてもいい頃間と思う。次のステップだ
な﹂
おお! ついに俺も、次へのステップを認められたか。
﹁そうだな⋮⋮大体週に2回スピード系の練習をする事にしようか。
スピード系の練習をすると、全体的な走行距離は短くなる。その分
は他の時に走ることにしようか﹂
﹁オニ!?﹂
今まで毎日15キロとか走ってたから、それ以上って20とか25
!?
無理無理無理無理!
﹁ふむ⋮⋮別に今まで走っていなかった日曜日などにちょっとだけ
2584
走る、等をすれば解消される。そんなにしんどい思いをする事はな
いはずだ﹂
﹁⋮⋮そういうものか? ってか何で走行距離にそんなにこだわる
のさ?﹂
﹁私自身の考えでな、﹃質より量﹄という考えがあるのだ。単純に
考えてみても、1月に100キロ走っている選手、1月に500キ
ロ走っている選手のほうが、力がつくと思うだろう? 例え100
キロ走っている選手が効率のいい練習方法をしていたとしても﹂
まあそりゃそうかも。だが500キロは申し訳ないけどやりたくな
い。今でも1月に400キロぐらいなのに。今まで以上に走るって
言われても絶対に無理。
﹁だからスピード練習を取り入れたからと言って走行距離が減って
しまってはダメだ。むしろ実力がついてきたのだからそれにみあう
だけの量を増やさないとな﹂
⋮⋮ラジャっす。
﹁今日はそうだな⋮⋮インターバル走をやってみるか。ヤスはイン
ターバル走と言うのを聞いた事はあるか?﹂
﹁聞いた事はあるけどどんな練習かは知らない﹂
﹁⋮⋮ヤス、もう少しどんな練習方法があるかと言うのを調べたほ
うがいいと思う﹂
⋮⋮すみません。なんかポンポコさんの言う通りにまかせたら何と
2585
かなる気がしてしまうんです。
﹁インターバル走とは、簡単に言うと、思いっきり走ってゆっくり
走ると言うのをを繰り返す練習だ﹂
﹁⋮⋮それにどんな効果があるの?﹂
レースでは同じペースでしか走らないのに、意味がないとか思って
しまう。
﹁この練習をこなす事によって、心肺機能の向上がはかれる。また、
揺さぶりにも対応できるようになる。さらには、インターバル走は
ものすごくきつい練習の1つだから、メンタル面で強くなれる。ペ
ース走ではそのような効果が期待できない﹂
⋮⋮なるほど。
﹁もう1つ言うと、ペース走だけだと、試合のようなペースで走る
事がまずない。インターバル走ならば、試合のようなペースで走る
事が出来る。これが大きい﹂
なるほど、練習中に試合の状況を体感できると言う事か。
それなら、インターバル走を実践する意味はあるな。
﹁そうだな⋮⋮今日は400メートルのインターバル走を15本、
ゆっくり走るところは200メートルでつなぐ。400メートルは
80秒、ゆっくり走るつなぎは90秒でやってみようか﹂
⋮⋮まあ、なんとかなるか。とりあえず頑張ってみよう。
2586
そうやって軽く考えてた俺だけど、あとあとものすごく後悔する事
になった。
2587
287話:インターバル走︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
陸上経験者でしたら、インターバル走がどれだけきついか分かるか
なと思います。
経験した事ない人は、一度やってみると分かります︵^^ ⋮⋮そ
んな事経験する必要ないですね。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2588
288話:ちょっとだけ頑張ろう
アップも終えて、今日の練習開始。
﹁それでは、400メートルのスタート地点に立つ。そしてサツキ
に200のスタートラインに立ってもらい、それぞれがタイムを読
み上げるからな﹂
ふむふむ。確かにサツキが200メートル地点に立っている。
あ、今手を振った。
﹁先ほども話したが、400メートルを80秒。つなぎの200メ
ートルが100秒。これを15本。今回、つなぎの200メートル
をゆっくりなペースに設定したつもりだから、何とかなると思う﹂
了解っす。
﹁400メートルを80秒で走れれば、5000メートルで17分
が切れる。17分切りが果たせたら、とりあえず静岡東部地区では
ちょうど真ん中あたりのレベルまでに追いつくな﹂
⋮⋮これでようやく真ん中レベルか。まあ、4ヶ月で真ん中レベル
まで達せるってのは結構すごいよな。
﹁んー⋮⋮俺って結構強くなってんのかな? あんまり実感ないけ
ど﹂
﹁大会がないから実感がわかないのも仕方ないかもしれんな、来年
2589
春を楽しみにしておけ﹂
ラジャッ! ポンポコさん、来年のインターハイ予選、見てろよ。
﹁それではそろそろ始めるか﹂
ポンポコさんに促されてスタートラインに立つ。今日の練習である
インターバル走の開始。
﹁では行くぞ、1本め、よーい、スタート!﹂
ポンポコさんの合図と同時に走る。
タッタッタッタッ⋮⋮、ところでポンポコさん、400メートル8
0秒ってどんなもんのペースで走ればいいんだ?
今までペース走では96秒とか、速くても88から90秒くらいで
しか走った事ないから全然分からん。
⋮⋮分からないままとりあえず走り続ける⋮⋮200メートル通過。
﹁41、42、43⋮⋮ヤス兄、43秒!﹂
⋮⋮おそ。400メートルを80秒で走らないかんのに、200メ
ートル通過が43秒じゃいかんだろ。
⋮⋮こっからペースをあげて巻き返さないと!
腕を一旦だらんとさせて、気持ちを切り替えた後ペースをあげる。
タッタッタッタッ⋮⋮さっきより風を強く感じる。スピードが上が
っているってことだよな。
2590
よし、このペースで行こう。
タッタッタッ⋮⋮ポンポコさんが大きくなってきた。
﹁ヤス、78、79、80、81⋮⋮81秒!﹂
⋮⋮ちぇっ、ちょっとだけタイムが遅くなったか。走り終わってい
ったん足を止め息を整える。
﹁ヤス、とまるな! 歩くな! ゆっくりと走れ!﹂
ポンポコさん、息ぐらい整えさせてくれ。⋮⋮ポンポコさんに促さ
れて少しずつ走り始める。
﹁ヤス、100秒以内にサツキのいる地点まで走るのだぞ! 遅れ
ては意味が無いぞ!﹂
⋮⋮オニ⋮⋮オニがそこにいるよ。まあ、100秒もあるんだから
そんなに急がなくても大丈夫だろ。
そう思ってのたのたと走る。
﹁ヤス兄、スタート30秒前! 急がないと遅れるよ!﹂
⋮⋮100秒って思ってた以上に短いんですね。あわててスピード
を上げてスタートラインに立つ⋮⋮あれ? 100秒もあったのに
あんまり疲れが抜けてないっすよ。この状態で2本目?
﹁10秒前、5、4、3⋮⋮2本目よーい、スタート!﹂
サツキの声にあわせて2本目をスタートする。
2591
1本目は前半遅くて後半速かったからな。一定のペースで走れるよ
ううまくペース配分しないと⋮⋮。
タッタッとうまくペースを考えながら走る。80秒⋮⋮80秒⋮⋮。
﹁38、39、40⋮⋮41秒!﹂
げっ、これでもまだ遅いのか。ペース配分ってほんとに難しいな。
ペースをちょっとだけあげて、うまく80秒にもっていけるよう走
る。
はっはっ⋮⋮15キロ走ってるときでもこんなに速く息が切れるこ
となんて無かったのに、スピードが上がるだけでいきなり息が切れ
るな。
まだ2本目立ってのに、こんなんで15本もできるんだろうか。
﹁77、78⋮⋮ヤス兄、80秒だよ!﹂
⋮⋮おし、今回はうまくいった。
⋮⋮でもきつい。2本目ですでにきついです。
﹁8本目、よーいスタート!﹂
サツキの声とともにスタート。ようやく折り返し地点まできた。ま
だ残り半分もあるのか⋮⋮。
﹁ヤス、ファイトだ!﹂
2592
頑張ってまーす⋮⋮。
﹁79、80、81⋮⋮ヤス兄、82秒!﹂
はっはっはっはっ⋮⋮さっきから思いっきり走っているにもかかわ
らず、80秒が出せなくなってきた。
かなりきつい。けど残り半分もある⋮⋮無理だろ。
﹁ヤス、いけそうか?﹂
﹁きつい⋮⋮はっはっ⋮⋮後7本なんて無理﹂
﹁ヤス、先の事は考えるな﹂
⋮⋮何の話だよ、ポンポコさん。
﹁後7本もあるからきついと思う。﹃とりあえず次の1本だけ、ち
ょっとだけ頑張ってみよう﹄と思ってみる。その1本終わったらや
めようくらいに思っておいていいぞ﹂
⋮⋮ラジャ。
﹁それでは9本目行くぞ。よーい、スタート!﹂
⋮⋮とりあえず、この9本目だけ、ちょっとだけ頑張ってみよう。
2593
﹁ヤス! ラスト15本目いくぞ、よーい、スタート!﹂
ポンポコさんの声とともに、15本目スタート。へろへろになりな
がらも何とかここまでこれた。
10本目から12本目あたりはこれ走ったらもうやめよう⋮⋮と思
いながら走ったけど、毎回毎回サツキとポンポコさんに叱咤され、
﹃次走ったらやめよう﹄と思いながらも、何とか走ってこれた。1
3本目ぐらいになると、終わりが見えてきたので頑張れた。
⋮⋮ようやく最後の走りだ。最後は80秒以内で走れるよう頑張ろ
う。
タッタッと1本目2本目のときのような軽快な走りはできず、ドタ
ドタとしたみっともない走り方になってしまってる。
それでも最後まで走りきってやる!
﹁38、39、40⋮⋮ヤス兄、41秒!﹂
⋮⋮ちぇ、ちょっと遅れてんのか。
﹁後200だよ、頑張って!﹂
サンキュ、サツキ。
⋮⋮ラスト200メートルだ。
2594
だんだん、ゴールに立っているポンポコさんに近づいてきた。
﹁ヤス、ファイトだ! 74、75、76、77、78⋮⋮79秒
!﹂
⋮⋮ゴール! 終わったあ!
ゴールとともにばたりとグラウンドに倒れる。
⋮⋮ぜえ⋮⋮はあ⋮⋮。
ほんとは走りきっていきなりぶっ倒れるなんてもってのほかなんだ
けど、休ませてくれ⋮⋮。
﹁ヤス、お疲れ。頑張ったな﹂
⋮⋮ポンポコさんも今日はきつかったのを見越してくれたのか、何
も言わずにいてくれる。
﹁初めてのインターバル走の経験だったから、かなりきつかったと
思うが、これをやると少々スピードが速くてもついていけるように
なるからな﹂
⋮⋮了解っす。
﹁陸上競技場が使える毎週土曜日は、これからこういうスピード練
習をするからな。覚悟しておけよ﹂
⋮⋮まじすか⋮⋮こんなきっついのが毎週あるんすね。
﹁そんなこの世の終わりのような顔をするな。慣れれば今日ほどは
きつくなくなるはずだ﹂
2595
ポンポコさんのきつくないはかなりきついに入ると思われますたい。
﹁平日は今までどおり長い距離を走る。こちらも徐々にペースを速
いペースに切り替えていこう﹂
⋮⋮オニだ⋮⋮真のオニがここにいるよ。
2596
288話:ちょっとだけ頑張ろう︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃あとちょっとだけ頑張ってみよう﹄と言うのは、マラソンランナ
ー君原健二さんの考え方です。
マラソンを走っているとき、﹃あの電柱まで走ったらやめよう﹄と
思いながら走るそうです。私もその言葉を参考に走ってました。
http://plaza.rakuten.co.jp/jud
odistance/diary/200804160000/
→とりあえずこのページとか見てみると、もう少し詳しく載ってま
す。
この考え方はミヒャエルエンデの﹃モモ﹄という本の﹃ベッポ﹄と
いう登場人物も同じ考え方だったりします。気が向いたら、図書館
へ行って﹃モモ﹄、読んでみてください。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2597
289話:笑顔のユッチ
12月9日。今日で期末テスト3日目、ちょうどテストのど真ん中
の日。
テストの真っ最中。科目は数学。
カリカリというシャープペンシルを必死で動かす音がそこらじゅう
から聞こえる。
早い人やすでにあきらめてる人は手を止めてボケッとしてる。
⋮⋮俺はと言うと、必死で動かしている人の1人。途中の計算式で
計算をミスっているらしくて、何べんやっても答えがうまくでない。
⋮⋮後この1問とけば完答なのに。
﹁⋮⋮それまで! 鉛筆置いて、後ろから解答用紙集めてー﹂
うあああ! 解けなかったあ! なんか悔しい。自分の答案はもう
計算式でぐちゃぐちゃになってる。これだけ頑張ったんだから努力
点とかくれねえかな⋮⋮ま、無理か。
﹁ヤス君、お疲れ様です。調子はどうですか?﹂
﹁いやあ、もう全然駄目。1日目と2日目なんてぼろぼろだったし﹂
土日はほとんど勉強しなかったからなあ。土曜日、インターバル走
が終わったあとしんどくて何にもする気が起きずすぐに寝ちゃって、
日曜日も同様。
そんな状態で月曜日、テスト初日に臨んだらまったく分からなかっ
た。あの土曜日の練習さえなければ⋮⋮別にポンポコさんを恨んじ
2598
ゃいないが。
﹁そういえばヤス君、知ってますか?﹂
﹁んー、何を?﹂
﹁今日、ユッチの誕生日ですよ﹂
⋮⋮知らなかった。どっかで聞いたような気もするけど、完全に記
憶から抜けてるなあ。
﹁何か準備してあげると、ユッチすごく喜びますよ﹂
﹁や、そうは言ってもだな。明日もテストがあるからそんな時間は
そうそうとれないっすよ。アオちゃんの方こそなんか準備したの?﹂
時間があればポンポコさんのときみたいになんか探しに行って買い
物。と言うこともできるんだけど。今回は本当に時間がない。
﹁私は今日の朝あげてきましたよ﹂
ふむ。アオちゃんと合同でプレゼントと言う策はもう使えないわけ
か。
﹁私のときみたいに、何にもしないって言うのもありですけどね﹂
⋮⋮アオちゃん、根に持ってるな。ものすごい皮肉っている声色だ。
いいじゃん、アオちゃんって誕生日の時には彼氏いたんでしょ。誕
生日は彼氏さんから豪勢なプレゼントをもらえたりしたんじゃない
の? それで十分やん。
2599
﹁まあ、ユッチだって俺の誕生日のとき何もなかったんだからそれ
でもいいよな﹂
うん、それでいいんじゃん? また来年考えよう。
﹁⋮⋮ヤス君、ヤス君にとってユッチとはなんなんでしょう?﹂
⋮⋮なんだいきなり。アオちゃんが大真面目な顔をして俺に問いか
けてきた。不正解を言ったらものすごくまずいようなことが起きる
気がしてしまう。
﹁えっと⋮⋮友達だけど﹂
まずいことが起きる気がしたとしても⋮⋮友達としか言いようがな
いからなあ。
﹁じゃあ逆に、ユッチにとってヤス君とはなんなんでしょう?﹂
⋮⋮なんだこの禅問答のような質問は。答えの無い質問ほど答えに
くいものは無いんだぞ。
﹁⋮⋮友達じゃないの?﹂
﹁そうですよね。でもそれだけじゃないんですよ?﹂
⋮⋮なんでやねん。
﹁ユッチにとってヤス君って唯一の男友達だったりするんですよ?﹂
2600
﹁いや、知らんから。ってかケンは?﹂
﹁ケン君はユッチの中では﹃陸上部の同級生﹄って立場です。以前
ユッチに聞きました﹂
﹁なんて?﹂
﹁﹃ケン君ってどう思いますか?﹄って聞いたら、﹃えっとお⋮⋮
ただの同級生だけどそれがどうかしたあ?﹄って答えてました﹂
⋮⋮ケンは友達って思われてないんだなあ。不憫。
別に同性の友達が大勢いりゃそれでいいやん⋮⋮ってユッチのクラ
スメイトの反応、ずいぶん前に一度見たけど、クラスでもあんまり
仲よさそうな人いなかったなあ。同性の友達も少ないのかな⋮⋮ま、
友達は人数じゃないさ。俺も友達少ないし⋮⋮うん、なんだか悲し
くなってきた。
﹁多分ユッチの中ではヤス君ってその中でも﹃すっごく仲のいい友
達﹄って枠組みにはいると思いますよ﹂
⋮⋮そんなこと言われてもだな。
というか友達をランク付けしちゃあかんだろ⋮⋮と言っても、ケン
を一番の友達って言ってる自分もランク付けしてるんだよな。
﹁ほらほら、なんだかすごく何かをしてあげたくなってきませんか
?﹂
アオちゃんに促されて何かするのはなんだかすごく悔しいんだけど
⋮⋮確かにユッチに何かしたくなってきた。
んー⋮⋮帰ってなんか準備するかあ。
2601
⋮⋮今、ユッチの家の前。テストが終わってまっすぐに家に帰って、
ドタバタしながら準備して、ようやく到着。
﹁すう⋮⋮はあ⋮⋮﹂
な、何故か緊張する⋮⋮緊張なんかしなくていいのに。
⋮⋮よし、押すぞ。
ピンポーン⋮⋮。
﹁はいはあい﹂
お、ユッチだ。
﹁俺俺、ヤスヤス﹂
﹁あ、ちょっと待ってねえ﹂
ちょっと待った後、ドタバタという音がして玄関が開く。ユッチが
現れた。
﹁こんちはあ! ヤスう、突然どうしたんだあ?﹂
﹁あのさ、今日ユッチの誕生日じゃん﹂
2602
﹁あ、知ってたんだあ! ボク、ヤスの事だから知らないと思って
たあ﹂
ユッチの顔がすごく嬉しそうな顔になった⋮⋮誕生日って覚えてる
だけでも嬉しく思えるもんなのか。
﹁わざわざお祝いの言葉言いにきてくれたんだあ。ありがとお!﹂
﹁お祝いの言葉だけじゃなくて⋮⋮ほい。プレゼント﹂
ほいっと紙包みをユッチの手の上に載せる。
﹁⋮⋮ええ!? ボクに?﹂
⋮⋮目をまんまるにしながら俺に聞いてくるユッチ。ってかそんな
に驚かなくても。
﹁そうそう⋮⋮ってそんなに意外か?﹂
ユッチが中を開けたら、そこには色とりどりのクッキー。
⋮⋮すみません、時間がなくてそれぐらいしか作る事が出来ません
でした。
﹁うううん⋮⋮ありがとお⋮⋮ヤスう﹂
え? 何でそんな泣きそうな声になってんの!?
﹁あ、え、あ、え? ど、ど、どしたの? ユッチさんや?﹂
2603
﹁あ⋮⋮ご、ごめんねえ。ボク、嬉しくても涙って出ちゃうんだあ
⋮⋮﹂
⋮⋮や、もうそれ今日急場しのぎで作ったもんだからそこまで喜ば
れると俺の心が痛いっす。
﹁⋮⋮ボク、すごく嬉しい⋮⋮ありがとお! ヤス!﹂
﹁あ、こちらこそ。よろこんでくれてありがと﹂
⋮⋮来年はもうちょっと、頑張って何か作るかな。
﹁あ、そうそう! 夕飯家で食べてってよお! サツキちゃんもこ
っちに呼んで! 今日もっとヤスとサツキちゃんと話したいんだあ
!﹂
⋮⋮えっと、明日テストなんですが。
﹁⋮⋮ダメかなあ? ヤス﹂
おいユッチ、その上目遣いとかずるいだろ!? そんな風にお願い
されたら断れないっす! ユッチめ、いつの間にそんな技を⋮⋮ま、
でもこれだけ喜んでるユッチのお願い断るのも気が引けるよな。明
日の事は忘れて、今を楽しもう。
その後、サツキもユッチの家に呼んで、ユッチと3人で楽しく遊ん
だ、こんなひとときもあっていいな。
2604
290話:作戦会議
12月15日、月曜日。
テストは⋮⋮やばかった。今日から順々にテストが返ってきてるん
だけど、軒並み平均点をきると言う大惨事に見舞われてしまってい
る。これから返ってくるテストもほとんど手応えと言うのを感じて
いないから、きっと同じくらいの点数なんだろうなあ⋮⋮。
やっぱりテスト週間にも関わらずユッチの誕生日、ついついユッチ
とサツキと遊んでしまったのが痛かったな。⋮⋮まあしょうがない。
ユッチの笑顔のほうがテストより大事だ⋮⋮何アホな事考えてんだ
自分。
今は昼休み。また屋上にのぼってポンポコさんとユッチ、今日はも
う1人キビ先輩が参加してと昼ご飯を食べながら話してる。
﹁それでは第3回、﹃長距離陸上部の顧問は誰だ!?﹄作戦会議を
始める﹂
ポンポコさん、前回と微妙というかかなり作戦名が違っている気が
するのですが⋮⋮野暮な事を聞くのはやめよう。
﹁第2回はユッチが途中退場してしまったため、ほとんど話が出来
なかったな。その後ヤマピョンが部活に来なくなったり、テスト週
間に入ってしまったりして中々時間がとれなかったが、今日こそ具
体案を詰めていこう﹂
隊長、未だにヤマピョンは部活に来ていません。ま、それは置いと
こう。
2605
﹁前回の戦績を報告しよう。前回私とヤスの2人で顧問になってく
れる先生を探しに歩き回った。結果、全滅だった﹂
﹃ヤスがいるから嫌﹄なんて言われた、悲しい出来事が思い出され
る⋮⋮。
﹁が、まだ聞いていない先生もいる。その中で部活の顧問になって
いない、あるいは顧問にはなっているが、大して忙しい部活の担当
ではない先生をピックアップしてみた。2年数学担当の元木先生、
1年音楽担当のララ先生、1年生理科担当のキキ先生の3人だ。今
回はこの先生達がターゲットだ﹂
ふむふむ⋮⋮キキ先生ってあのキキ先生だよな。なんとも顔をあわ
せにくいんだが。ムムちゃんは元気にしてるかなー。
﹁ウララ先生に確認したところ、この3人の先生なら、本人さえや
る気になってくれたなら、時間的にも余裕があるので顧問になって
くれることも可能だと言うことだ。しかし、前回と同様ただ歩き回
ってお願いするだけではきっと顧問にはなってくれないだろうと思
う﹂
⋮⋮ふむふむ。
﹁そこで聞きたい。何かいい作戦はないか?﹂
⋮⋮さあ。
﹁はいはいはいはいはあい!﹂
2606
﹁ユッチ、元気でよろしい。けどな、﹃はい﹄は1回でいいぞ﹂
﹁⋮⋮ヤスってば、なんだか口うるさいお父さんみたいだあ﹂
やめい、この年でお父さんなんて呼ばれたくないわい。
﹁それでユッチ、ユッチの作戦とはなんぞや﹂
﹁部活参観! 先生達にね、﹃ボク達こんなに頑張っているんです
!﹄って見てもらえば、きっと誰か1人くらい、顧問になってくれ
る先生がいるよお!﹂
⋮⋮先生達ってそんなに性善説に基づいた行動をしてくれるもんな
んかなあ。
﹁ユッチ、残念ながら長距離陸上部は弱い、そして私とヤスくらい
しか今のところやる気になっている人がいない﹂
﹁⋮⋮そうなんだあ。そうだよねえ⋮⋮いい案だと思ったのにい﹂
いや、普通に考えたらきっといい案だぞ。落ち込む必要はないぞ、
ユッチ。
﹁人質とって脅せば誰だって言う事聞くんじゃない?﹂
﹁キビ先輩、犯罪ですから!﹂
漫画みたいに上手くいく訳ないじゃないですか!?
﹁そういうヤスは何かない?﹂
2607
﹁んー⋮⋮やっぱり外堀から埋めていくのが一番だよな﹂
﹁ヤスう、﹃そとぼり﹄ってなんだあ?﹂
﹁昔々、そこら中で戦がまだまだあったとき、自分たちの村を守る
ため村の周りには堀があったんだ。城跡を見ると白の周りってでっ
かいくぼみがあるだろ?﹂
﹁うんうん﹂
﹁んでだな。城を攻める時にはまずその外堀を埋めると、どこから
でも攻められるようになるんだ。この事から、外堀を埋めると言う
のは、ある目的を達するために、周りにある障害を取り除く事、も
しくは遠回しな作戦をとる事を言うんだよ﹂
﹁ヤス、それが顧問を手に入れようという話と何か関係あるの?﹂
ええと、実はあまり関係ないんです。最近覚えたうんちくを語りた
かっただけっす。
⋮⋮こんな事は言えないな。
﹁えっとですね。何が言いたかったかと言うと、直接先生本人にお
願いしても断られるんだったら、先生の家族とかをまず説得してか
ら、家族に﹃顧問をやれ!﹄って言わせたらやってくれるんじゃな
いかなあとか思ったり﹂
﹁ヤス、どうやって家族にお願いするのだ?﹂
﹁⋮⋮さあ?﹂
2608
今適当に思いつきで言っただけだし。
﹁⋮⋮ヤス、そう言うのを﹃机上の空論﹄と言うのだ﹂
はい、その通りです。すみません。
﹁ヤスう、﹃きじょうのくうろん﹄ってなんだあ?﹂
﹁机の上でやってみたら、どう考えても上手くいくのに、実際にや
ってみると全然上手くいかない。頭でっかちになってて動きが全く
伴っていない考えの事を﹃机上の空論﹄というんだぞ﹂
﹁ふうん⋮⋮じゃあ﹃きじょうのくうろん﹄なんて言わないで、そ
う言ってくれればいいのにい﹂
机上の空論と言ったのは俺じゃないです。俺に文句を言わずポンポ
コさんに言ってください。
﹁あ、でも前にヤスってキキ先生のお子さんと仲良くしてたよねー﹂
⋮⋮ムムちゃんの事っすね。別に仲良くしてた訳ではないと思いま
す。
﹁キキ先生も愛娘のお願いだったら聞いてくれるんじゃない?﹂
﹁ふむ⋮⋮それならヤスがとりあえずキキ先生の攻略係だな﹂
えええ!? なんかキキ先生には恨まれてるから嫌ですよ!?
2609
その後、なんだかんだとポンポコさんとキビ先輩に説得され、キキ
先生をおとさなくちゃいけなくなってしまった⋮⋮なんてめんどい
仕事を押し付けるんだ。
﹁頑張れヤスう! 応援してるう!﹂
⋮⋮ユッチ、応援してくれるなら交代してくれ。
2610
291話:キャッチボール
昼休みも午後の授業も終わって、これから部活。ほんとならキキ先
生の説得に行かなきゃ行けないんだけど、どう説得すればいいか分
かんないので、とりあえず部活に来た。
部活前もだんだんと寒くなってきて、1人1人がウインドブレーカ
ーを着込んでいる。
﹁ヤス君ヤス君、ヤス君って野球部だったんですよね﹂
﹁ん、そーだけど?﹂
アオちゃんがなにやらうれしそうな顔で俺に尋ねてきた⋮⋮アオち
ゃんのこういう顔は何やら企んでいていて危険な顔なんだが⋮⋮。
﹁あのですね、部室の中をあさっていましたら、こんなのが見つか
ったんですよ﹂
そう言って取り出したものは野球の軟球とグローブ。
﹁部活はじまるまでのちょっとの間、キャッチボールしませんか?﹂
﹁あ、いいね﹂
意外とまともな事考えてた⋮⋮アオちゃん、ごめんなさい。
久々にやるなあ。キャッチボール。入部はじめはボールがどこ飛ん
でくかわからない状態だったなあ⋮⋮。
2611
お互いに適当な距離をおいてキャッチボール。
俺からアオちゃんにボールを投げる。キャッチボール経験のなさそ
うなアオちゃんにも取れるよう、ゆるめのボールをほいっと投げる。
ちょうどアオちゃんの胸の辺りへ。アオちゃんも上手にキャッチ。
﹁おお、ヤス君すごい上手ですね﹂
いや、それぐらいで上手と言われても⋮⋮まあでも、褒められて悪
い気はしない。
﹁それじゃ私の番ですね、行きますよー!﹂
アオちゃん、思いっきり振りかぶって投げる! それる! 飛びつ
いてとる!
⋮⋮はぁ、はぁ⋮⋮危ない。どこへ飛んでいくか分かったもんじゃ
ない。
﹁ナイスキャッチです! ヤス君!﹂
⋮⋮や、まあ初心者だからしょうがないんだけどな。
その後も暴投しまくりそれまくりのボールを走りながら腕を思いっ
きり伸ばしてとる。
なかなか安定しないけど、それでも何べんも何10回も投げてるう
ちに、思いっきりそれたボールと言うのはなくなってきた。
﹁ヤス君、すごいですね。私、この前別の野球経験者を名乗ってる
人ととキャッチボールやりましたけど、全然続きませんでしたよ。
すぐにボールを後ろにそらしちゃうんです﹂
2612
そりゃーその人がアオちゃんに対して本気ボールばっかり投げたか、
アオちゃんの投げるボールを頑張ってとろうとしなかったかどっち
かだろ。
﹁もうちょっと速めのボールでもきっと取れますよ。あと時速5キ
ロぐらい上げてください﹂
⋮⋮ごめん、そんな微妙な力加減は無理っす。時速5キロ上げるっ
てどれくらいあげればいいんだろう。
取り合えずちょこっとだけスピードを上げてやってみた。
さっきよりもちょっとだけ速いボールをアオちゃんめがけて投げて
みる。
﹁⋮⋮わっ! とれた。とれましたよヤス君!﹂
おっ、これぐらいのボールなら取れるんだな。なかなかやるじゃん。
﹁よし、んじゃ次はさらに速いボール投げてみよか﹂
﹁え? いえいいです。このぐらいのボールでキャッチボールしま
しょう!﹂
そか。それならそれでいいか。
そんな感じでボールを投げあう俺とアオちゃん。
﹁そういや、富士サファリパークはどうだった?﹂
俺がアオちゃんにボールを投げる。
2613
﹁えっと⋮⋮面白かったですよ?﹂
アオちゃんからボールがかえってくる⋮⋮なんだその微妙な返事は。
﹁面白くなかったん? 話したくないならそれでいいけど﹂
びゅん。アオちゃんに投げ返す。声をかけるたびにボールを投げる。
﹁いえ、そう言う訳ではないんですが⋮⋮色々ありまして。それに
ヤス君もユッチもサツキちゃんも、そういう話嫌いですよね﹂
ああ、行った相手って彼氏さんとだったっけ。ノロケ話になるから
話すの遠慮してたのか。
﹁んー、ノロケられるのは好きじゃないけど、話を聞くのは嫌いじ
ゃないぞ﹂
﹁どっちですか。ややこしいですね﹂
んーとですな。
﹁彼氏自慢と彼氏との比較とかの話みたいに彼の話だけを延々とさ
れると、別に聞いてても面白くもなんとも無いんだけどな。サファ
リパーク行ってきたよーぐらいの話だったらどってことないし、聞
いてみたいけど﹂
﹁⋮⋮よくわからないです。ユッチなんてさらによくわかんないで
す。時々どの話していいか迷うんですよね﹂
お互いにボールを投げながら言葉も投げる。キャッチボールしつつ
2614
言葉のキャッチボールもしてる。
﹁そりゃまあ、ユッチはまだまだ子供なんだから、大人のアオちゃ
んがその辺はセーブしてあげないと﹂
﹁ユッチと私は同い年です﹂
﹁アオちゃんのほうが精神年齢大人でしょ?﹂
﹁⋮⋮そうですか?﹂
いや、どう考えたってアオちゃんのが大人だろ。ユッチを見てたら
何だか小学生か!? って思う時もあるじゃん。
﹁そうだよ。ユッチってなんて言うかまだまだ子供じゃん。キャッ
チボールするときだってさ、アオちゃんはめいいっぱい投げるかも
しれないけど、俺はアオちゃんにとりやすいボールを投げ返さない
と、まったく続かなくて面白くないじゃん﹂
﹁それはそうですが⋮⋮それが今の話と何か関係ありますか?﹂
﹁言葉のキャッチボールのときだってそうだって。ユッチはいっつ
も全力投球で言葉を投げつけるかもしれないけどさ。アオちゃんは
ユッチがとりやすい言葉を投げてあげる。ユッチが全力投球だから
ってアオちゃんまで全力投球してたら、ユッチにとっちゃ全く面白
くなくて、そりゃユッチ怒っちゃうでしょ?﹂
﹁⋮⋮そんなものですか?﹂
﹁そんなもんそんなもん﹂
2615
大人はいっつもセーブしてあげなきゃダメなもんさ。俺たち子供は
全力投球してくうちに力加減を覚えてく。
﹁ヤス君とユッチが話してるとき、ヤス君いっつも全力投球な気が
しますが﹂
﹁俺は子供だからいいの﹂
アオちゃんは俺よりもきっと大人。だから頑張れ。
﹁⋮⋮何だか理不尽です!﹂
アオちゃんがコントロール無視して思いっきり投げる。わっ、とど
かね!
ゴツッ。
⋮⋮ケンの頭へ一直線にボールが吸い込まれていった。
﹁⋮⋮いっつううう! だれだっ!?﹂
⋮⋮ま、軟球だし大丈夫だろ。
ゴルフボールの直撃を食らった事がある俺に比べりゃたいした事無
いさ。
2616
291話:キャッチボール︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃大人は子供に対して投げ返しやすいボールを⋮⋮﹄
と言うのは、この前研修に行った時に言われた言葉です。いい言葉
だと思い、使わせていただきました。
けれど、最近大人になりきれなかった20代、30代の子供達がと
きどきいますよね⋮⋮困ったもんです︵−︳−;
ゴルフボール直撃は実話。めっちゃ痛かったです。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2617
292話:鍵かけなかった人が悪い?
12月16日、部活の顧問としてキキ先生になってもらうため、ど
うやってアプローチしようと考えながら、結局何もしないまま学校
行って部活やって、とうとう帰りの電車を降りてしまった。
はあ⋮⋮どうすりゃいいんだかなあ。いい方法が全く思いつかない
っす。
⋮⋮あれ? ﹁ヤス兄、どうかした?﹂
﹁いや、俺の自転車がない﹂
今、サツキとケンと俺の3人がいるのは最寄り駅の自転車置き場。
⋮⋮ない、ない、ない⋮⋮自転車がない!
﹁どっか置く場所間違えたんじゃねえの?﹂
ケン、それはない。俺ははっきりとここに置いた記憶がある。毎日
同じ場所に置いてるんだから間違えるはずはない。
﹁ヤス兄、今日ここに置いて鍵かけていった?﹂
⋮⋮鍵? 鍵ねえ⋮⋮かけてったんなら今自分の手元にあるはずだ
けど⋮⋮俺が持っているのは自宅の鍵だけ。
ねえなあ。
2618
﹁みつからないっすな、今日の朝ボーッとしててかけるの忘れたっ
ぽい﹂
朝っぱらからずっと、どうやってキキ先生とムムちゃんを落とすか
と言う事ばかり考えてたからなあ。
﹁ヤス兄、もしかして盗まれたんじゃないの?﹂
﹁⋮⋮はあ? あんな中古で買ったギアもついてないボロボロの自
転車を盗む奴なんかいるのか?﹂
唯一の利点と言えば、後ろに2人乗りできる座るとこがついてる事。
サツキを後ろに乗せる事が出来るから、俺にとっては最高の自転車
だったんだが。
﹁ヤス、関係ないぞ。むしろそう言う自転車のほうが、罪悪感を感
じずに盗んでく﹂
﹁⋮⋮まじ?﹂
﹁まじまじ。ぼろぼろの自転車のほうが、﹃あれ? これ誰も使っ
てないんじゃね? しかも鍵かかってないし。ま、放置自転車なら
使っていこかなあ﹄という軽い気持ちで盗んでく﹂
⋮⋮なんてこった。新品と中古が並んでいたら、﹃新品のがお得だ
ろ﹄と新品を盗んでくもんだと思ってた。
﹁よく聞くだろ? 突然のにわか雨が降ってきて傘を持ってないと、
きれいながら付きの傘よりコンビニの傘のが盗まれやすいんだ﹂
2619
﹁え? あれって自分の傘と人の傘を間違えて持ってってる事がほ
とんどなんじゃないのか?﹂
﹁んー⋮⋮そうかもしれないけど、やっぱり盗んでいく人も結構い
ると思うぞ﹂
⋮⋮人って自分の欲求に忠実なのな。
﹁ま、運が悪かったと思って諦めとけよ﹂
⋮⋮そうだな。めっちゃ悔しいけど。
翌日、昼休み。今日の昼飯のメンバーはケンとアオちゃん、そして
キビ先輩。今ちょうど自転車窃盗事件について話してたとこ。
﹁それはヤス君﹃が﹄悪いですよ﹂
﹁なんで!? 俺なんか悪い事した!?﹂
﹁例えばですよ? ﹃み、水が欲しい⋮⋮﹄と思っている喉がカラ
カラの男性がいたとしますよ? そんな男性の目の前になみなみと
水が注がれたコップが置かれています。たとえ﹃飲んじゃダメ﹄っ
て注意書きが書かれていたとしても、その男性は飲んでしまいます
よ﹂
2620
﹁えええ!? そんなもん!?﹂
﹁そんなもんです。だから自転車の場合なら﹃今日は大事な大事な
あの日なんだ! 間に合わないかもしれない!﹄と思っている人が
いるとします﹂
⋮⋮あの日って何だろう?
﹁そんなとき、ボロボロ自転車が目の前にあります。犯罪とは知り
ながらも﹃これに乗れば間に合う!﹄と思った瞬間、その人の罪悪
感はどこかへ行ってしまいます。簡単に乗れてしまう自転車がなけ
れば誰だって諦めて一生懸命走っていきますよ。だからそんな盗ま
れやすい環境にしてしまった、鍵をかけなかったヤス君が悪いんで
す﹂
まじか⋮⋮盗まれてまでお前が悪いなんて言われるとは思わなかっ
た。
って事は俺、盗まれたら盗み返していいんだな。鍵かけなかった奴
が悪いんだろ?
﹁⋮⋮アオちゃんさあ、ヤスも悪かったかもしれないけど、そんな
言い方するとヤス、今度自転車盗むぞ﹂
⋮⋮ケン、俺の考えを読むな。けど、やっぱり俺﹃も﹄悪かったり
するのかな。
﹁ヤス君、自転車を盗むのは犯罪ですよ﹂
⋮⋮盗まれたほうが悪いんとちゃうんかい。
2621
﹁2人とも分かってないね。ヤスは同情される事はあっても、悪い
ところなんか全くないよ﹂
あ、俺悪くないの?
﹁例えばさ、田舎で無人販売やってるところあるでしょ? あれも
お金払わずに持ってく人がいるって話聞くけど、人の良心を信じて
る経営者が悪い事になるの? 違うでしょ?﹂
⋮⋮キビ先輩が天使に見える。
﹁ひったくりにあわないように、道路側に鞄を持たないようにしま
しょうって言ってるけど、その事を忘れてて道路側に鞄持ったらひ
ったくりにあったら、鞄を盗まれた人が悪いの? 違うでしょ?﹂
⋮⋮キビ先輩が聖母に見える。
﹁キビ先輩! なんだかキビ先輩に膝枕したくなりました! して
いいですか!?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮あれ? キビ先輩が無言になってしまった。
あれ? キビ先輩が立ち去ってしまった⋮⋮。
あれ? やっぱり今のはまずかっただろうか? 何だか甘えたくな
ってしまっただけなのに。
﹁今のはヤスが悪い﹂
﹁今のはヤス君が悪いです﹂
2622
2人して声を揃えて言わないで⋮⋮反省します⋮⋮。
2623
292話:鍵かけなかった人が悪い?︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
昔私、自転車盗まれた事あったんですよね、鍵かけるの忘れてて。
それを部活の友達に話したら
﹁それはお前﹃が﹄悪い﹂
とほとんどの人が同情もせんと口を揃えて言いました︵−︳−;
﹁盗んだほうが悪いだろ? 盗まれたほうが悪いんか?﹂
と聞いたら、
﹁鍵をかけずに盗まれたほう﹃が﹄悪い﹂
と宣言しました。
んでその後、部活に遅刻しそうな時に放置自転車︵鍵かかってない︶
を借りて乗ってったら、
﹁人間の屑﹂﹁さいてー﹂﹁お前頭おかしいんとちゃうの﹂などな
ど⋮⋮。
たとえ鍵をかけてなかろうが、盗まれたほうは悪くないと私は思い
ますが、どう思いますでしょうか?
それでは今後ともよろしくです。
2624
293話:きっと受けてみたい英語の授業
今日は12月17日水曜日、そろそろ冬休みが近づいてきた。
朝からいつもの事ながらドタバタと何とかサツキを起こして、それ
ぞれの学校へ行く。いつも通りの風景。そしていつも通りの授業。
今日の1時間目はウララ先生の授業だ。
ホームルームからそのまんま英語の授業に移ってくから、何か長い
気がするんだよなあ⋮⋮。
﹁ふああ⋮⋮﹂
﹁ヤス、寝不足?﹂
﹁いえ、全然ですよ? 昨日は珍しく9時間も寝ちゃいました﹂
父さんと母さん、すごく遅くなるって電話があったから、待たずに
21時に熟睡。
24時に寝ても6時に起きる。21時に寝ても6時に起きる。人間
って不思議。
﹁それだけ寝てて今眠いって言うのは、私の授業がつまらないって
事かな?﹂
ええ!? そんな風にとられるの?
﹁いえいえ! そんな事ないですよ! でも授業って言うのはどん
な子守唄よりも効果があるんですよ﹂
2625
﹁⋮⋮やっぱり私の授業がつまらないって聞こえるわね﹂
﹁いえいえ!? 全然そんな事ないですよ! むしろウララ先生の
授業は教科書を使わないので面白いですよ!﹂
﹁今日は教科書使ってるんだけどなあ﹂
⋮⋮まずい。どんどんドツボにハマってしまってる。
﹁しょ、しょうがないですよ。俺は自分の心に正直にしか生きられ
ないんです﹂
﹁⋮⋮開き直ったわね﹂
いいじゃないか、自分の心に正直に生きたって。
﹁だ、だいたい英語なんて日本にいたら、全然使わないんですよ。
洋書も誰かが翻訳してくれたら読めばいいんですし﹂
英語なんていらないいらない。
﹁⋮⋮開き直りすぎね、ヤス⋮⋮はぁ、こういう生徒にも英語に興
味を持たせるってどうすればいいんだろう⋮⋮﹂
俺に愚痴らんといてください。
﹁やっぱり、英文和訳ばっかりっていうこの教え方がいけないのか
もね、もっとオーラルコミュニケーションの授業みたいにリスニン
グやスピーチをやったほうが面白いと思うのに﹂
2626
や、オーラルコミュニケーションのほうもなんでかリスニングもス
ピーチもやらずに文法ばっかり覚えさせられてます。俺はすぐに忘
れていって全く覚えてないけど。
﹁⋮⋮ふう、ヤスもナベリンもおじさんも、みんな眠そうにしてる
から教科書の授業はとりあえずここまでにしましょうか﹂
⋮⋮ウララ先生って雑談多いよな。そのせいで教科書の授業、遅れ
気味。
﹁そう言えばさっきヤスが翻訳された本を読めばいいって言ってた
よね﹂
うん、言った言った。
﹁授業だと、英文和訳、和文英訳ってすごく多いと思うでしょ? 前にも話した事あると思うけど、ジョークとかって訳しようがなか
ったりするんだよね﹂
ええと⋮⋮1学期のどこかで聞いたような聞かなかったような。
﹁でも、そもそも単語自体が英語になかったりする日本語もあった
りするんだよね﹂
へえ⋮⋮ってそれこそ訳しようがないじゃん。
﹁だから英語を英語として頭で覚えるって言う事が出来れば、1番
いいんだけど⋮⋮まあ、むずかしいよね﹂
2627
うん、それ無理。
﹁ウララ先生! どんなのがあるんですか?﹂
﹁うーん⋮⋮例えば部活でよく使う﹃頑張れ﹄とか﹂
﹁へえ⋮⋮頑張れって英語ないんだ。﹃ファイト﹄って違うのか?﹂
﹁ヤス、残念! ﹃ファイト﹄って言うのは英語だと﹃戦え!﹄と
か﹃ケンカしろ!﹄みたいな意味になるんだよね﹂
⋮⋮全然違う意味じゃん。試合中に選手に向かって﹃ファイト!﹄
⋮⋮ボクシングとかならありなのか?
﹁じゃあ、なんて言うんですか?﹂
on!﹄とかかな? 試合前
Luck!﹄とかも使うよね﹂
﹁応援する場合だったら﹃Come
には﹃Good
へえ⋮⋮そうなんだ。頑張れって言葉が1対1で対応してたら楽な
のに。
﹁他には﹃もったいない﹄って言葉に完全に対応する言葉も英語に
はないんだよね。状況状況によって使い分けないとダメなんだよ﹂
ふうん⋮⋮そんなもんか。やっぱり他国の言葉覚えんのってめんど
いな。
﹁こう言うのって歴史的なものもあるんだよね。例えば日本だった
ら﹃出世魚﹄って聞いた事あるでしょ?﹂
2628
ああ、ブリとかスズキとかね。
﹁日本は魚を食べる習慣があったから、一回り以上も大きさが違っ
て味も形も違う魚を、元は同じだからって一緒の名前じゃ、不便だ
よね﹂
それはそうかも。
﹁だから色んな名前が使われたりしてた。逆に肉は海外はロースホ
ルモンレバーなどなど、色々な部位によって名前を変える。日本だ
と昔は﹃豚肉﹄﹃牛肉﹄とこれだけ﹂
ふむふむ。
﹁その国々によって大事にされてたものはやっぱり色んな名前を付
けるんだよ﹂
⋮⋮なるほどお。勉強になりました。
﹁はいはい! ウララ先生! 私日本語にあって英語にない言葉知
ってます!﹂
﹁へえ、ナベリン。何何?﹂
﹁﹃包茎﹄と﹃童貞﹄!﹂
びくびくっ!!
2629
⋮⋮クラスのかなりの男子が反応してしまった⋮⋮うん、同士達よ、
頑張ろう。
2630
293話:きっと受けてみたい英語の授業︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
童貞⋮⋮男性も女性も﹃virgin﹄
包茎⋮⋮一応、﹃phimotic﹄という言葉があるらしいです。
ほとんど使われないそうですが。
http://www.chikawatanabe.com/b
log/2005/03/post︳3.html
→ここから引用させていただきました。
それでは今後ともよろしくです。
2631
294話:はい、あーん
今は昼休み。
ポンポコさんはクラスメイトと今日は昼ごはんを食べるみたいで、
今日の昼飯メンバーはユッチと2人。屋上で食べるのはあまりに寒
いので、誰もいない空き教室で昼ごはんを食べてる。
⋮⋮キキ先生を落とす作戦はいまだにうまくいっていない。
﹁ねえねえヤス、ボクの今日のお弁当、すごいとおもわない!?﹂
﹁ううむ⋮⋮﹂
ってか実績も無く、ほとんどのメンバーにやる気も無い状態じゃ、
長距離の顧問なんてやってくれないだろうな。
﹁自信作、豚シャブサラダあ! ゴマとポン酢と両方のタレも持っ
て来てみたんだよお?﹂
﹁ふむふむ⋮⋮﹂
やっぱりまずは先輩とかマルちゃん、ノンキをやる気にさせなあか
んよな。駅伝出るにもやる気あるメンバーで出場しなけりゃ勝ち目
はないし。ん、今日の部活のときにもう1回話してみよう。
﹁この玉子焼きも、シラスとネギ入れて、背が伸びるようにって願
いを込めてたりするんだあ﹂
﹁うんうん⋮⋮うん?﹂
2632
シラスを入れてカルシウムとって背が伸びるようにって⋮⋮涙ぐま
しい努力をしてるんだな、ユッチ。背が伸びるためには骨格を矯正
するとかゼラチンをたくさん取るとかあるらしいけど⋮⋮骨格自体
が小さそうだから効果が薄そうだな、ユッチの場合。
﹁んん? ヤス、ボクの話聞いてたあ?﹂
﹁聞いてた聞いてた。ちゃんと聞いてたって﹂
途中からだけど。最初らへんまったく聞いてない。ごめんユッチ。
﹁それならいいけどお⋮⋮他にもね。ウサギご飯とか、ちょっとだ
け手を加えてみてるんだあ﹂
ちょっとだけユッチのお弁当箱を覗き込んでみる⋮⋮いつもユッチ
のお弁当ってカラフルでかわいらしくて、とても手の込んだ弁当だ
けど、今日のはいつにもまして力が入ってんな。
﹁ねえねえ、ヤスう?﹂
﹁ん、なんだユッチ?﹂
﹁お弁当、いくつか交換してもいいかなあ?﹂
⋮⋮ええと。俺の弁当とユッチの弁当を見比べてみる。あきらかに
ユッチの弁当の方がレベルが高い。等価交換しようと思ったらユッ
チの弁当のおかず1品と俺の弁当全部を交換しないとユッチにとっ
ては割に合わない気がしてしまう。
2633
﹁んー⋮⋮ユッチ、ユッチに悪いから遠慮しとくよ﹂
﹁ええ!? なんでえ!? 食べてみたくないのお!?﹂
食べてみたいけど、そこまで手の込んだ手作り弁当と、俺の﹃イシ
イのおべんとクン、ミートボール﹄が主役のお手軽弁当を交換する
って言うのはなんだか悪い。や、﹃ミートボールポン﹄っておいし
いけど。
﹁とても食べてみたいけど﹂
﹁だったらボクの自信作、食べてみてよお!﹂
⋮⋮何でそんなに食べさせたいねん。
﹁ええと、それじゃ俺は﹃イシイのおべんとクン、ミートボール﹄
をあげるから、ユッチの弁当の中からどれかくれ﹂
﹁あ、うん! ええとね⋮⋮それじゃあボクの自信作、﹃豚シャブ
サラダ﹄あげるう!﹂
おお、なんか1番豪華そうなのをくれんのか。なんだか悪い気がし
てしまう。
﹁ね、ね、ヤスう! お弁当交換の時の王道と言ったらこれだよね
え!﹂
⋮⋮ユッチ、何をたくらんでいるんだ? や、ユッチはたくらむと
かそんなことをするやつじゃないな。
2634
﹁はい、あーん﹂
そう言ってユッチは箸で豚肉を一切れつかんで、俺に差し出してき
た。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
無理! 無理だからそれ! 絶対に無理! だ、だれも見てないか
もしれないけど恥ずかしすぎる!
ってかユッチ、何でそんなに嬉しそうなんだ?
﹁あれえ? 何でヤス食べてくれないんだあ?﹂
﹁ええと、ユッチ、その王道は誰から聞いたんだ?﹂
﹃王道﹄という言葉を聞くと、どうしても誰かさんを思い出してし
まう。
﹁アオちゃん﹂
やっぱりアオちゃんかあ! 最近﹃王道﹄って言葉言ってなかった
気がしたのに。ユッチに変なこと吹き込むなよ!
﹁⋮⋮ヤスう、もしかしてボクから箸渡しされるのいやなの?﹂
﹁それ箸渡しじゃないから!﹂
箸渡しってお葬式に使う言葉! ものすごく縁起が悪いからそんな
言い方しない!
2635
﹁ええ!? それじゃあこれってなんて言うのお?﹂
﹁⋮⋮さあ?﹂
そういえば、﹃はい、あーん﹄ってなんて言うんだろ? うーん⋮
⋮﹃はい、あーん﹄って名詞、ないよなあ。
﹁ユッチ、﹃はい、あーん﹄でいいんじゃない?﹂
﹁うん、わかったあ! それじゃあヤス、﹃はい、あーん﹄﹂
だから無理だから! そんな新婚さん夫婦みたいな事できないっす
! 父さんと母さん、いまだに時々やってるけど。
﹁ヤスう⋮⋮なんで嫌なんだよう⋮⋮﹂
なんで泣きそうな声になるんだよ⋮⋮ユッチ、そんな声だすのはず
るいぞ。
⋮⋮ええと、これは俺に恥を捨てろということか?
﹁はい、あーん﹂
口を大きく開ける俺⋮⋮は、恥ずかしいから早く俺に食べさせて。
﹁はい! あーん!﹂
ゆっくりと俺の口の中に豚肉を入れるユッチ⋮⋮まるで雛鳥になっ
た気分だ。
﹁どお? おいしい?﹂
2636
﹁うん、うまい﹂
確かにこれはうまい。うまいんだけど、めっちゃ恥ずかしい。
﹁えへへえ⋮⋮﹂
はにかみながら笑うユッチ⋮⋮かわいい、頭なでなでしたくなって
きた。
﹁ケン君、真昼間からラブコメしている人がいますよ﹂
⋮⋮なんだかどっかで聞いたことある声がする。
﹁誰かが見てるかもしれんのに、よく恥ずかしくないな﹂
﹁誰も見ていないと思うと大胆な行動がとれてしまうものなんです
よ。ケン君﹂
⋮⋮なんでそこにいるんだろう? あの2人組。
﹁えええ!? アオちゃん、いつからいたのお!?﹂
﹁﹃ねえねえやス、ボクの今日のお弁当、すごいとおもわない!?﹄
のところからです﹂
最初からかよ!? そんなところ覗くなよ!
﹁⋮⋮ケンはいつから見てたんだ?﹂
2637
﹁アオちゃんと同じところからいたぞ﹂
お前もかよ! お前ら趣味悪すぎだぞ!
⋮⋮その後は4人で食べたけど、ずっとユッチが怒った顔してた⋮
⋮さっきみたいなはにかんだ顔が見たいな。
2638
294話:はい、あーん︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹁はい、あーん﹂って名詞で当てはまる言葉あるんでしょうか?
それでは今後ともよろしくです。
2639
295話:話し合い
授業が終わり、部活が始まる前のちょっとした時間。
⋮⋮駅伝前に説得失敗して諦めてたけど、もう1回だけチャレンジ
してみよう。
﹁先輩方、よいですか?﹂
﹁いや﹂
⋮⋮あ、あきらめないぞ。
﹁先輩方、よいですか?﹂
﹁いや﹂
⋮⋮な、なんでやねん。も、もう1回だけ。
﹁先輩方、よいですか?﹂
﹁⋮⋮何?﹂
おお、ようやく反応してくれた。
﹁あのですね、お願いがあるんですよ﹂
﹁いや﹂
2640
⋮⋮め、めげないぞ。
﹁内容だけでも聞いてくれませんか?﹂
﹁いや﹂
⋮⋮頑張れ俺、負けるな俺。
﹁あのですね、陸上、頑張ってみませんか?﹂
﹁⋮⋮やっぱりその話か。前に嫌だって言ったじゃん﹂
確かに先輩達、そう言ったけど俺としては頑張ってほしいんです。
﹁何でそんな嫌なんです?﹂
﹁⋮⋮ヤスさあ。考えてもみろよ。長距離を真面目に走るのってめ
っさしんどいんだよ﹂
まあ、しんどいけど。でもそれだけの理由だったら、なんで長距離
を選んだんだろう?
﹁それにさ、散々しんどい思いをして、勝てないってどうよ﹂
⋮⋮まあ、勝てないと楽しくないのは確かにそのとおりかもしれな
い。けど、初めはみんなそんなもん。徐々に楽しくなってくるもの
だろ。
﹁俺らの代でウララ先生って顧問が来てくれたけど、短距離の顧問
じゃん。長距離に顧問いないじゃん。俺高校から陸上始めてさ、右
2641
も左も分からないまま誰も教えてくれない状態だったりしたんだよ。
何を頑張れというのさ?﹂
⋮⋮それは。ちょっとだけ同情してしまう。先輩達も、入部したて
の瞬間はもっとやる気だったんだろうな。でも、指導してくれるポ
ンポコさんみたいな人も、練習を見てくれる顧問も、一緒になって
頑張ろうって言ってくれる先輩もいない。練習する環境もまったく
整っていない。
⋮⋮やる気がなくなってしまうのもしょうがないのかもしれない。
俺は指導してくれるポンポコさん、一緒にガンバろって言ってくれ
るケンやユッチ、アオちゃんがいるってだけですごく恵まれてる。
﹁今は顧問じゃないですけどポンポコさんがいます。長距離の練習
をいろいろ知ってますから頑張り次第でかなり伸びますよ。で、そ
れとですね。今ポンポコさんともう1人顧問を見つけようって考え
てるんですよ﹂
﹁ヤス、別にいいよ﹂
⋮⋮先輩、まだ全部説明してないっす。
﹁俺達、どんなに長くても5月の初旬に引退なんだよな。あと実質
5ヶ月かな。今からどんなに頑張ったところでどうにかなるもんか
? どうにもならんもんだろ﹂
⋮⋮たいていの人は﹃もう少し早く始めていれば⋮⋮﹄って後悔す
るらしいけど。そんなもんなんだろうか? 本当に5ヶ月じゃどう
にもならないものなんだろうか?
﹁4ヶ月で確かにヤスは17分台までタイムを伸ばしたけど、けど
2642
やっぱり4ヶ月だとそれぐらいだろ? 上の大会を目指せない、先
が見えないって時点でやる気なんてもうないよ﹂
⋮⋮そんなもんか。
﹁来年の駅伝に出るって訳には行かないんですか?﹂
﹁3年の秋まで陸上やれってか? それこそ無理無理。大学受験も
あるし、そこまでの情熱を陸上に傾けられない﹂
⋮⋮そっか。3年秋まで陸上をやろうとすると、どうしても受験勉
強に差しさわりがあるもんな。
﹁⋮⋮わかりました。ありがとうございました﹂
﹁ま、ヤスはヤスで頑張れ。応援だけはしてる﹂
⋮⋮あーい。
﹁ところで、マルちゃんとノンキはまだ1年以上あるわけだけど、
頑張る気はあるか?﹂
先輩達と俺の話をいままで隅っこで聞いてた2人に軽く質問してみ
る。
﹁ぼ、僕はいいよ。もともと陸上を頑張るとかそういう理由で陸上
部に入ったわけじゃないし﹂
⋮⋮確かマルちゃんってやせるために陸上部はいったんだったよな。
まったくやせてない気がするけど。そのままの練習方法じゃいつま
2643
でたってもやせない気もするな⋮⋮まあ、俺が口出しすることじゃ
ない。
﹁ノンキは?﹂
﹁⋮⋮俺も別にいい。陸上に強い思い入れがあるわけじゃないし﹂
﹁最初っからみんながみんな陸上に思い入れがあるとは思わないけ
どな。練習して、強くなったことを実感して初めて楽しく感じられ
るんかも知れないし﹂
ってかそういうものだろ。テニスだって相手とラリーが続くように
なったとき初めて面白いと思えるようになるもんだ。それまでは特
別な人以外は早々競技に対して思いいれなんてあるものじゃない。
﹁でも俺は今のままでいい。ヤスは上の大会目指して頑張れば?﹂
⋮⋮そか。まあ、それならそれでしゃあないな。
﹁先輩方、わざわざ話聞いてくれてありがとうございました、それ
では﹂
そういい残して、俺はポンポコさんの下へ。先輩達の説得が失敗し
たからって俺のやることが変わるわけじゃない。
今日の練習を頑張るだけ。毎日少しずつ頑張っていれば、いつかき
っと何とかなるさ。
2644
296話:スルー力
ふう⋮⋮今日の部活はしんどかった。や、練習がしんどかった訳で
はなく、空気がしんどかった。ユッチが昼休みに覗き見された事を
未だに怒っていて、部活の最中もアオちゃんとケンに対して一言も
口聞こうとしてない。アオちゃんがどんなに話かけようと無視した
まんま。
帰りの電車の中でもむっすーとした顔をしたまんまずっと黙りこく
って⋮⋮3人の間に挟まれた俺とサツキの身にもなってくれ。
ま、何はともあれあの重苦しい空気から解放されて、今日はケンも
来ず、サツキと2人。ただいま夕飯中。
カチャカチャと静かに食器と箸の音が響く。会話はないけど、電車
に乗ってる時のギスギスした感じとは違って穏やかな空気が漂う感
じ。
⋮⋮ああ、なごむ。
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
静かな時間は終わり、今からはおしゃべりタイム。こういう時間も
好き。
ふむ、スルー力か。何か以前に読んだ事がある気がするが⋮⋮。
2645
﹁スルーってするう?﹂
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
﹁それがスルー力だぞサツキ。ところでそこまで華麗にスルーされ
ると﹃スルーってするう?﹄って言っちゃった自分ってどうなの?
とかちょっと思ってしまう。だからそんな簡単にスルーなんてし
ないでくれサツキ﹂
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
﹁やっぱりスルーするんだなサツキ。ところで﹃スルー力﹄ってカ
タカナで﹃するーか﹄って書いてあるように見えるな。﹃スルー力﹄
、﹃スルーカ﹄⋮⋮うん、すごく似てる。スルー力って言葉、初め
て目にする人は﹃するーりょく﹄って読めるのかな?﹂
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
﹁だからそんなに華麗にスルーするなと言うに。華麗にスルーと言
えば聞こえはいいが、スルーされたほうとすれば無視されたと言う
事なんだぞ。スルー力なんて言うかっこいい言葉を使うのはやめた
ほうがいいと思うぞ。プー太郎もニートと言う﹃なんか響きよくな
い?﹄みたいな言葉が出来てから一気に増大したのかもしれないし﹂
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
﹁ああそうか、どこまでもスルーすると言うのだなサツキよ。もし
もスルー力検定と言うのがあったら今のサツキなら100点満点を
取れると思うぞ。だがどんなに華麗にスルーされても俺はめげない
ぞ、いつまでもギャグを言い続けてやる。﹃カレーってかれーなー﹄
2646
とか﹂
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
﹁今のは華麗とカレーと辛いの3つを掛けた自分としては改心のネ
タだったのだが、それまでもスルーすると言うのかサツキ。ってか
カレーってかれーとか、今でこそ親父ギャグと何故かバカにされて
しまっているが、古くは掛詞として短歌や俳句の重要な表現のはず
だったのだが、なぜゆえそこまで﹃さむー﹄と言われたりスルーさ
れたりしなきゃいけないんだろう? どう思うよサツキ?﹂
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
﹁俺の発言は全スルーなわけだな、サツキ。いいよいいよ。それな
ら俺もサツキの返事スルーするからー﹂
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
⋮⋮返事しないぞ。
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
⋮⋮返事するものか。
﹁ヤス兄、スルー力って知ってる?﹂
﹁⋮⋮ああ、知ってるよ﹂
俺、意思弱いなー。まあ、俺が根負けするのはいつもの事だ。今さ
ら気にする事じゃないな。
2647
﹁スルー力ってのは物事をスルーする能力の事であり、ここでいう
スルーはやり過ごしたり見て見なかったことにしたりすることを言
うんだぞ、サツキ。それで、これがどうかしたのか? 何か言いた
い事あんの?﹂
﹁うん﹂
﹁ふう、ようやく違う言葉を話し始めたなサツキ。ところで聞きた
いんだけど、俺がずっと返事しなかったらサツキってずっと﹃スル
ー力って知ってる?﹄って言い続けたのか?﹂
﹁全然? ヤス兄がずっと返事しないなんてありえないもん。そろ
そろちゃんと返事してくれるかなーって思ってた﹂
⋮⋮俺、いつも思うけど行動パターン読まれすぎじゃないかな。
﹁それでサツキって突然スルー力について話し出しちゃって、どう
かしたのか?﹂
﹁んーとね、今日ずっとユッチ先輩、アオちゃん先輩の話スルーし
てたでしょ?﹂
﹁ユッチのあれはスルーとは言わないんじゃないか? スルーって
言うのはさも何もなかったかのごとく振る舞う事をスルーって言う
んじゃないの? ユッチの場合はアオちゃんの言葉はすっごいよく
聞こえてるんだけど、ボク無視したいんだあみたいな態度があから
さまに出てたし﹂
﹁私ね、電車の中、すごく居心地悪かったんだよね﹂
2648
﹁俺も俺も。もうあんな居心地悪いのこりごりだ。アオちゃんかケ
ンと話しようとするとユッチが睨んでくるし、かと言ってユッチに
話しかけたらアオちゃん達が神妙な面持ちで見つめてくるし﹂
﹁それでね、ユッチ先輩がアオちゃんの話スルーしないようにして
ほしいなと思ったんだよ﹂
﹁それはすごくそう思うんだけど、人のことを言う前にまず俺の発
言をスルーしまくっているサツキが見本を見せるべきだと思う。今
日何回俺の話スルーしたんだよ、サツキ?﹂
﹁ヤス兄ならいいの﹂
何でやねん。ぐれるぞ。
﹁ヤス兄だから気楽にスルーできるんだよ。私がこんな事出来るの
ヤス兄だけなんだからね﹂
⋮⋮よろこんでいいのか、悲しんでいいのかよく分からない褒め言
葉、ありがとう。
とりあえず、喜んどきます。
⋮⋮こんな感じで今日も夕飯を食べている俺とサツキ。
2649
296話:スルー力︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
昨日投稿できなくて、来てくださった方すみません。
ネコネコパニック1、2と言うゲームをダウンロードして遊んでた
ら、いつの間にか24時になってました。面白かったですよー⋮⋮
⋮⋮ホントごめんなさい!
スルー力については下記から借りました。
http://d.hatena.ne.jp/keyword/
%A5%B9%A5%EB%A1%BC%CE%CF
それでは今後ともよろしくです。
2650
297話:進路相談
今日は12月18日木曜日。今年も授業のあるのは今日と明日の2
日だけ。
終業式が12月22日で、そっから先は冬休み。
﹁はふぅ、今年はもう勉強する気なんか全くおきないっすねー、ケ
ンもそう思わね?﹂
﹁そだな、もうテストも何もないし、冬休みが過ぎれば忘れるし﹂
﹁そうそう、今から勉強する意味なんてないって﹂
気楽に行こう、気楽に。
﹁もう今年も終わりだなあ⋮⋮後残ってる今年のイベントと言えば
クリスマス、大晦日くらいか?﹂
クリスマスだからと言って何も予定はないけどな⋮⋮ちょっと寂し
くなった。
﹁ケンもヤスも、残念だけどクリスマス前にももう少しイベントあ
るんだよね。通知表とか﹂
⋮⋮ウララ先生、そんな背中から話かけないで欲しいです。そして
通知表とか嫌な事を思い出させないで欲しいです。今回絶対成績落
ちてるもん。
2651
﹁はいはい、ホームルーム始めるから席について﹂
ウララ先生の言葉でドタバタと全員が席に着く。
﹁さてさて、もうすぐ冬休みですが、その間に1個やってもらわな
きゃ行けない事を忘れてました﹂
⋮⋮堂々と忘れてたって言わなくてもいいのに。そうすればバレな
いだろうに。
﹁ここ大山高校は2年生で理系か文系かに分かれるんだよね。それ
で2年生になったとき、理系にいきたいか文系にいきたいかを決め
て欲しいんです﹂
⋮⋮そういえばまだ何も考えてなかったなあ。といっても社会とか
英語があんま好きじゃない俺は最初っから理系って決めてたからど
うだっていいんだけど。
﹁ついでに知ってると思うけど、大山高校には﹃特進クラス﹄って
言うのもあるから、そっちに行きたい人は﹃特進クラス﹄にまるつ
けて提出してください﹂
んー⋮⋮勉強漬けの毎日になりたくないし、普通のクラスでいいや。
﹁今から進路希望調査票と言うのを配りますから、それを12月2
2日の終業式までに提出してください﹂
期間みじかっ!
﹁右上に﹃12月15日﹄とかプリントされてるけど気にしないよ
2652
うに﹂
⋮⋮本当は12月15日に配る予定だったんだな。
﹁これからの進路を決める事になるかもしれないそこそこに重要だ
ったりなかったりする選択肢の1つだから、どっちにしようか迷う
っていう人や、まだ何も考えてないって人は家族や友達とよく相談
して決めてね﹂
⋮⋮あんまり重要そうに聞こえなかったのは自分だけかなあ。
﹁ま、ぶっちゃけ本気の本気な人が理転、文転しようと思えば出来
る人は出来ちゃうからねー﹂
⋮⋮学校教育全否定っすね。教師がそれ言っちゃいかんでしょ。
﹁けど、意志が薄弱だと自分で思う人はよく考えたほうがいいよ。
周りが文系だらけの中、1人理系の勉強をするっていうのは精神的
にきついものがあるし﹂
ふむふむ。まあ、俺は理系にいくから問題ない。
﹁それじゃ今から配るから、みんなよろしくねー﹂
⋮⋮とりあえずケンぐらいには聞いてみるか。
2653
﹁ケン、理系に行くか文系に行くか決めてるか?﹂
﹁俺? 俺は一応文系に行こうと思ってるけど? 何で?﹂
⋮⋮そうか、ケンは文系か。ってことは高2になった時点で、クラ
スは別々になる訳か。
﹁や、俺は理系に行くつもりだったから、ケンが文系にいくんだっ
たら別々のクラスになるんだなあと思っただけ﹂
﹁んー、まあしょうがないんじゃん? ってか今までだって別々の
クラスになった事なんてちょくちょくあるんだから、そんな気にす
るこっちゃないと思うんだけどな﹂
⋮⋮まあ、そりゃそうなんだけど。
﹁ってかケンって何で文系なんだ?﹂
﹁俺、体育教師になるつもりだから。知ってるか? 体育教師って
文系か理系かっていわれると、何故か文系になるらしいぞ﹂
へえ、そりゃ知らなんだ。ってかケンが体育教師を目指してるって
のも初めて聞いた。
﹁ヤスのほうこそ、何か将来の目標かなんかがあって理系を選ぶん
か?﹂
﹁⋮⋮いや、まだ何にも決まってない。ただ単に数学と理科が苦手
2654
じゃないからって理系に行こうと思ってるだけ﹂
既に目標が決まってるっていうケンがちょっとだけすげえと思う。
ま、あせる事なんてないと思ってるけど。
﹁ウララ先生も言ってたけど、やる気さえあれば文系から理系に変
更する事も問題無いんんだから、今はそんなもんの気持ちでいいん
じゃん? ま、ヤスはヤスなりに頑張れよ﹂
⋮⋮サンキュ、ケン。頑張るよ。ってかお前のほうこそ頑張れよ。
今日の交換日記 ヤス
−−−
どもー、ヤスでやんす。
テスト期間中は全く書かずにいたら、かなり長い間停滞させてしま
った。申し訳ないっす。
ところで俺のクラスでは今日進路希望調査票をもらったんだけど、
ユッチとアオちゃんは理系にいくか文系にいくか決めてる? サツ
キは関係ない話でごめん。
俺、今を生活するのが楽しくて、先の事なんか全く考えてなかった
んだよな。
もし、なんか目標みたいなもんがあれば教えて欲しいっす。
2655
それでは、でわでわ︵^^
2656
297話:進路相談︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
高校生で最初の分岐点と言えば、理系にするか文系にするかの選択
かと思います。
将来の事考えてない人は、自分の好きな科目があるほうを選べばい
っかなと思ってます。
それでは今後ともよろしくです。
2657
298話:冬休み直前
12月19日。2学期最後の授業の日。
今日を乗り切れば後は冬休みが待っていると思うと、何だか頑張れ
る。
﹁ケン、冬休みはどっか行くか?﹂
去年の冬休みは受験勉強でそんなに遊べなかったからな。今年は思
う存分遊んでやる!
⋮⋮それにはやっぱりサツキとケンがいないとな。
﹁んー⋮⋮とりあえずクリスマスに1個やってみたいことがあるん
だが﹂
﹁ん? 何?﹂
﹁えっとだな⋮⋮1回クリスマスに教会に行ってみたくないか?﹂
⋮⋮なんで?
﹁クリスマスって言うとイエス・キリストの生誕を祝う日だろ? クリスマスツリーを飾ってベッドにケンタッキーフライドチキンを
食べてるのがクリスマスじゃないだろ?﹂
⋮⋮ま、まあそりゃそうだ。ってか今までクリスマスにケンタッキ
ーフライドチキンを食べたことはないんだが。クリスマスに﹃クリ
スマスそばだー!﹄とかあほなこと言ってざるそば大食いしたこと
2658
はあるけど。
⋮⋮そういやなんでクリスマスになるとケンタッキーフライドチキ
ンを食べようという話になるんだろう?
﹁んで、夕飯を食べ終わったら今日履いた靴下を枕元に置いて、サ
ンタクロースを待っていたらいつの間にか寝ちゃって朝になって、
だまされたって嘆くのがクリスマスじゃないだろ?﹂
﹁ケン、今日履いた靴下を枕元に置くってどこからの情報だ?﹂
そんなのくさくて置きたくねえよ。くさくて眠れねえよ。それを信
じるケンもケンだよ。
﹁んとだな、靴下を置くってやつの起源は貧乏ながらも何とか生活
をしていた幼女達を哀れに思ったおっさんが金でも恵んでやるかと
煙突から金貨を投げ入れたら、たまたま干してた靴下の中に入った
事からはじまるんだよ﹂
⋮⋮いい話のはずなのに、ものすごくおっさんがやなやつに聞こえ
てしまうから不思議。ものの言い方って大切だなあとちょっとだけ
思ってしまった。
ってかそんな話だったっけ? 貧乏でもう明日生きる金もない少女
達の話じゃなかったか?
﹁そして金貨を恵んでもらった幼女達はまた誰かが金貨を投げ入れ
てくれないだろうかと期待するようになってしまい⋮⋮﹂
﹁それ別の話だから! 切り株とウサギの話だろ!﹂
﹁ち、ばれたか﹂
2659
ばれるから! このばちあたり! 世の中のサンタクロースさんた
ちに謝れ!
﹁他にもさ、クリスマスにはいろいろ思い出があるんだよ。けどさ、
毎年毎年靴下おいといても1回も来なくて、悩みまくったはてに母
ちゃんに聞いたら﹃クリスマスはサンタさんが煙突から来てくれる
んだけど、うちの家には煙突がないからサンタさんきてくれないん
だよ﹄って言われるのがクリスマスじゃないだろ?﹂
⋮⋮ケン、そんなこと言うのはきっとお前の親ぐらいだ。ケンのお
母さん、さすがにケンがかわいそうだと思います。
﹁だから一度くらいクリスマスって本当はどんな風にすごすのかっ
て見てみたいんだよな。近くの教会でいいから、いっぺん体験して
みたい﹂
﹁ふむ⋮⋮それはそれで悪くないか。でも教会って信者以外でも入
れるのか?﹂
﹁そりゃ入れるだろ。教会って結構アットホームに迎え入れてくれ
るらしいぞ﹂
それもそうか、それなら行ってみたい。
クリスマスはサツキとケンと、暇そうなユッチとかポンポコさんと
か集めてクリスマスパーティでもしようかと思ったけど、教会で過
ごしてみるって言うのも悪くないのかもしれない。
﹁おし、んじゃその日は俺とヤスとサツキちゃんの3人で教会へっ
てことでよろしく。他に誰か誘うか?﹂
2660
﹁んー⋮⋮ま、3人でいいんじゃん? アオちゃんもポンポコさん
も、ゴーヤ先輩とか先輩達だって家そんなに近くないし﹂
うん、まあ確かにな。ってかアオちゃんとゴーヤ先輩はクリスマス
はデートしてそうだよな。そんな日に誘えない誘えない。
それにしても⋮⋮教会か。今まで1回も行ったことないんだけど、
どんな感じなんだろう?
賛美歌というのを聞いてみるのも面白そうだ。
﹁そういやさケン、ケンってサンタさんって何歳まできた?﹂
﹁んーと⋮⋮俺が物心ついたときはきてなかったからなあ⋮⋮幼稚
園のときの友達にクリスマス、自分だけサンタさんこなかったって
言って笑われたのはなかなかな思い出だな﹂
⋮⋮ケンのお父さん、お母さん。もちょっと子供の夢を壊さないよ
う頑張ってくださいよ。
﹁ヤスは?﹂
﹁俺は小6まで来た。そして小5まで本当にトナカイが空を飛ぶと
思ってた﹂
小6の頃にもらったラジコンカーの中に、﹃保証書、おもちゃのも
ん太﹄って近所のおもちゃ屋さんの保証書が入ってて、﹃これ何?﹄
って母さんに見せたとき、少し夢が壊れてしまった。ちょっとだけ
寂しくなった。
﹁⋮⋮しかし、小6までってうらやましいな﹂
2661
うん、きっと﹃おもちゃのもん太﹄さえなかったら今でも信じてる
気がする⋮⋮そういや今年のクリスマスプレゼントまだ考えてなか
ったな。今年はなんにしよう⋮⋮うん、楽しみになってきた。
2662
298話:冬休み直前︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
私、ヤス君同様サンタは小6まで信じてました。
そしてドラゴンボールも小6まで信じてました。いつかきっとかめ
はめはが打てる⋮⋮! 空が飛べる⋮⋮!
皆さんはどのくらいまで信じてましたか?
それでは今後ともよろしくです。
2663
299話:Sなポンポコさん
今日は12月20日土曜日。
昨日で授業も終わり、気分は完全に冬休み気分。夏休み同様、冬休
みの宿題も課題を出された瞬間に英語はアオちゃん、社会はポンポ
コさん、数学と理科は俺、と分担してさっさと終わらせたので宿題
も残ってない。後は冬休みを満喫するだけ!
⋮⋮そのはずなんだけど、すごく気が重い⋮⋮。
﹁そんな真っ暗な顔をするなヤス﹂
するよ、そりゃ真っ暗にもなるよ。1000×7ってなんだよ。
今日は毎週恒例、陸上競技場で練習の日。そこでポンポコさんに言
い渡されたメニューが1000メートル×7のインターバル走。間
を200メートルでつなぐ。
タイムは1000メートルを3分25秒、200メートルを1分1
5秒と言い渡された。
この前の400×15のインターバル走を考えると、今回の練習も
めっちゃきついに違いない。
﹁ヤス、もしかして練習メニューが少なくて暗い顔をしているのか
? それなら1000×10ぐらいに増やしてみるか?﹂
﹁いえ! 結構っす!﹂
1000×7でも気が重いのに、1000×10なんて言われたら
逃げ出します。
2664
﹁そうか? 設定タイムはそんなに速く設定していない。代わりに
あまり400メートルの部分、リカバリというのだが、を短くして
みた。頑張れヤス﹂
頑張るよ、頑張るけど⋮⋮。
﹁ポンポコさんってさあ、絶対Sだよね﹂
﹁⋮⋮ヤス、突然ひどいことを言い出すものではないぞ﹂
﹁や、だってさあ。ポンポコさんのメニューって絶対なっがいしき
っついもん。俺、ポンポコさんが陸上に詳しいって知らなかったら
絶対ついていってない﹂
﹁⋮⋮? 何言ってるのだヤス? 私は陸上については全然詳しく
ないぞ﹂
⋮⋮またいきなり。だったら何でそんなに練習メニューが詳しかっ
たりすんのさ。
﹁確かに、本を読んだり、一兄に練習メニューを教えてもらったり
して知識は蓄えたが、実際に実践させているのはヤスが初めてだ﹂
⋮⋮どういうこと?
﹁﹃これぐらいのタイムが出せるなら、もう少し練習をきつくして
もいい﹄というのは、知識として知っているだけで、実際に私自身
が目で見て知っているわけではないからな。私にはまったく陸上の
経験はない﹂
2665
そういえば、ずっとずっと昔、陸上の経験はないって言ってたよう
な気がしないでもない。練習方法いろいろ知ってるから、いつの間
にか陸上経験あるものだと思ってた。
﹁というか、今までヤスに話した事はなかったか? 私の中学の頃
の部活は美術部だぞ。陸上の経験なぞあるわけがないだろう﹂
そうなんだ、美術部だったんだ⋮⋮運動部ですらないのね。今度ど
んな絵を書いたのか見せてもらお。
﹁まあ、つまりは今私は具体例を覚えているわけだ。意外と練習を
きつくしても、人は壊れないものなのだな﹂
⋮⋮え? つまり俺ってポンポコさんの実験台ってことっすか?
﹁大丈夫だ。経験者の一兄からしっかりアドバイスをもらいながら
ヤスに指導をしている。陸上に関する本も何冊も読んだ。陸マガは
毎月欠かさず買って読んでいるぞ﹂
それはすごい⋮⋮のかな?
﹁大丈夫だ、きっとなんとかなる。2人3脚で頑張っていこうと誓
ったではないか﹂
誓ってはいないけどな。
2666
﹁⋮⋮はっはっーはぁ⋮⋮﹂
﹁お疲れヤス。やればできるではないか。設定タイムはあまり守れ
なかったが﹂
⋮⋮ごめん、話しかけないでくれ⋮⋮。い、息が⋮⋮酸素が⋮⋮。
﹁リカバリ中、ヤスは歩こうとするが、どれだけきつくても走らな
いと余計にきつくなるぞ。練習も効果が薄れるぞ﹂
き、きついんすもん。歩かせてくれよ。
﹁これから冬休みだから、毎日陸上競技場にも通える。思う存分こ
ういう練習ができるな。楽しみだ﹂
まじか⋮⋮俺にとっては悲しみだ。
今日の交換日記 あおい
2667
−−−
こんばんは、あおいです。
ヤス君、交換日記、自分のところで止めすぎです。私ちょっと怒っ
てますよ。
今度こんなにとめたらメンバーから抜けてもらいますからね。
⋮⋮それで、文系か理系かですか。
私は文系に行くつもりなんですよ。法学部か経済学部のどちらかに
行くつもりですから。
ただ、進学するお金があるかどうかが微妙なところなんですよね⋮
⋮お金がないので高校卒業したら働こうかなとも思ってるんです。
この前調べてみたら、国立でもありえないぐらいお金が高いんです
ね、大学ってそういうところなんでしょうか?
1年目で82万円払えって書かれているんですよ、毎年54万払え
って書かれてるんですよ。税金ふんだくりまくってるくせに、国立
でも全然安くないんですよ? 国のお偉方ってまったく何やってる
んでしょうか。
だから法学部か経済学部にいって、うまく抜け道を勉強したいんで
すよね。
⋮⋮そういえば、今のうちにバイトしてお金ためた方がいい気がし
てきました。
ユッチ、ヤス君、一緒にどこかでバイトはじめませんか?
それでは失礼します。
2668
299話:Sなポンポコさん︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
国立大学なのに、何であんなに高いんだろうとしばしば思います。
それでは今後ともよろしくです。
2669
300話:地球の秘密
12月22日、月曜日。終業式も終わり自宅でまったりとしてる。
﹁ヤス兄、2学期も終わったねー﹂
﹁そだなー、なんだかんだと過ぎていったなー﹂
9月、2学期が始まる瞬間は4ヶ月もあんのかー。冬休みが待ち遠
しいなあ。と思いながら学校に行くけど、12月になると短かった
なあと感じる。
長いようで振り返ると短い。
﹁そういえばヤス兄、今日のホームルームでね、すっごい真面目な
本読んだんだよ﹂
⋮⋮めずらしい、サツキからそんな話を振ってくるなんて。真面目
な本ってサツキあんま好きじゃないはずなのに。
﹁へえ、どんな話なん?﹂
﹁﹃地球の秘密﹄﹂
⋮⋮ああ、なんか中学校の頃、英語で読んだ気がする。全然覚えて
ないけど。
﹁ちょっと感動しちゃったよ。私も地球環境のために何かしないと
か、柄にもないこと考えちゃった﹂
2670
サツキがそんなことを言い出すなんて⋮⋮あれってそんなに感動作
なのか?
﹁ヤス兄、地球ってね。48億年もの長い時間をかけて、今みたい
な住みやすい環境が出来上がったんだよ﹂
﹁サツキ、46億年だぞ﹂
﹁ヤス兄、細かいところの突っ込み入らないから﹂
⋮⋮細かいか? 2億年ってものすごく大きな違いな気がするが。
﹁それでね、今地球に何が起きてるか知ってる?﹂
﹁温暖化、砂漠化、森林伐採、環境汚染、オゾン層の破壊、酸性雨、
その他いろいろ。例えば温暖化。北極の氷なんて予測より10年く
らい速く溶けて言ってるらしいぞ。んで、今後もどう頑張ったって
二酸化炭素の排出量は減らせない。先進国がどれだけ頑張って二酸
化炭素の排出を抑えようとしたって、発展途上国が発展すればする
だけ電気の消費量も増加する。つまりは石化燃料の使用も増大する
と言うわけだな。バイオ燃料とか、新しい燃料の研究も進められて
るけどなかなか進まないだろうなあ﹂
アメリカなんて京都議定書、いまだにサインしようとしないし。あ
の自由主義国家は﹃石化燃料と地球温暖化について、明確な関連性
はわからないじゃないか!﹄とか駄々をこねて石化燃料を今後も使
い続けて、温暖化に大きく貢献するんだろうな。
﹁んでだな、日本は石化燃料使わないために代替エネルギーに何を
2671
使おうと考えて、原子力を大量に使ってるんだけど⋮⋮、日本って
地震だらけの国じゃん。原子力っていわば核爆弾なんだよな。原子
力発電してるところに、大地震がおきたらどうなると思う? 大事
故が引き起こされるに決まってるだろ? 十分に対策してるといっ
ても、地震なんて自然災害、どれくらいの規模がくるかなんて予測
できない。核爆弾食らうとどうなるかなんて、日本って世界で唯一
の被爆国だから重々承知してるはずなのに、それでも原子力発電所
をどんどんと増やそうとしてるんだぞ。ちなみに日本って核は未保
有だって言ってるけど、原子力発電所をちょっと改造すればすぐに
でも核爆弾を作る技術を持ってるんだぞ。すごいな日本﹂
言ってることとやってることが矛盾してる国⋮⋮ま、そんなもんだ。
﹁⋮⋮つまんない。せっかく私、﹃地球の秘密﹄読んで勉強してき
たんだから、私にも少しぐらい説明させてよ﹂
⋮⋮﹃知ってる?﹄って聞かれたから答えただけなのに。なぜ責め
られるのだろう?
﹁ヤス兄、それでね、私も地球のために何かしなきゃいけないって
思ったんだよ﹂
ふむ⋮⋮地球のためね。
﹁1番簡単なのは、電気代節約だよな。夜更かししないとか、夏も
冬も自宅ではエアコンもストーブも使わないとか﹂
﹁ヤス兄、夏場にクーラー使わないなんて死んじゃうよ﹂
﹁図書館とかにずっと退避。公共のものを利用するというのが、1
2672
番環境にもやさしいし、なにより財布にやさしい﹂
﹁﹃地球の秘密﹄にはリサイクルについて書いてあったよ﹂
﹁それも正しいんだけど、そもそも買わないっていう選択肢が一番
重要なんだぞ。買わなければごみは出ない。環境にやさしく、何よ
り財布にやさしい﹂
肉もトレイのを買うんじゃなくて、包みで買うとトレイのごみが出
なかったりな。そっちのが安いし。
﹁なるほど、ケチが一番の環境保護に役立つんだね﹂
⋮⋮それはそうなんだけど、なんだか﹃ケチ﹄って言われると嫌だ
な。
﹁とりあえず今日からちょっとだけ環境にやさしい人間を目指すよ、
ヤス兄。頑張ろうね!﹂
あいあいさー。目標を作るのはいいことだぞ、サツキ。頑張れ。
俺は今までどおり生活するだけだけどな。
⋮⋮さ、明日から冬休みだ! 楽しみだ。
2673
今日の交換日記 ゆう
−−−
やほほーい、ユッチだよお。
ボクはとりあえずぶんけいで出したよ? でも、まだへんこうでき
るんだよねえ?
でも、アオちゃんぶんけいで、ヤスはりけいなのかあ。
ボク、2年生はアオちゃんとヤスと3人でおなじクラスになりたか
ったなあ。
そういえば、ポケモンクリアしたよお! でんどう入りしたメンバ
ーは
ヤス:カメックスLv50
サツキ:ピジョットLv50
ポンポコ:ダグトリオLv48
ミドリ:バタフリーLv49
マコト:ベトベトンLv51
カオル:ラッタLv46
おねえちゃんをベトベトンにしたらおねえちゃんがおこったんだあ。
いいよねえ、ベトベトンつよいじゃんかあ!
それじゃあ、まったねえ!
2674
300話:地球の秘密︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
300話記念で何か考えてたのですが、最近﹃地球の秘密﹄を読ん
で紹介したくなりました。
10数年前に作られたものですが、とてもいい話です。
ぜひ読んでみてください。
←公式サイト
http://www.aikaeye.com/
⋮⋮そういえば、今私の家ってテレビもエアコンもないんですが、
それでもテレビやエアコンを買うとエコポイントもらえるってなん
だか不思議です。別にエコポイント要らないですが。
それでは今後ともよろしくです。
2675
301話:クリスマスパーティ、開催!
今日は12月24日、クリスマスイブ⋮⋮と言っても今日は午前中
部活だったりした。
アオちゃんとゴーヤ先輩はこれからデート、ポンポコさんは家族で
どっかに行くらしいけど、それ以外の陸上部員は用事がない。
という訳で、暇人陸上部員でクリスマスパーティでもするかあとい
う話になっている。メンバーは俺とサツキとケンとユッチとキビ先
輩の5人。
明日は俺とサツキとケンの3人で教会に行ってみようという話にな
ってるから、明日にパーティすることはできないし、今日やるのが
ベストだろう。
﹁ヤスヤスう! どこにいくんだあ?﹂
﹁えっと⋮⋮なんも考えてないぞ。ユッチの家でいいんじゃん?﹂
ちょっと遠いけど、ユッチの家が一番広いし。
﹁えええ? ボクの家? もっと別のところ行こうよお。せっかく
のクリスマスなんだからあ﹂
﹁ユッチ、クリスマスパーティってのは基本的にはホームパーティ
だと思うんだが﹂
カラオケ店の1部屋を借りてわいわい騒ぐのもありだと思うけど、
普通はホームパーティをやる気がする。
2676
﹁ふうん、そんなもんなんだあ? けど、ボクの家は今日は無理!
ボク、今日はできる限り遅くに帰るってお姉ちゃんと約束してる
からあ﹂
そうなのか。じゃあしょうがないな。
﹁キビ先輩の家はどうですか?﹂
﹁私の家もちょっと駄目かな。私、今日と明日は外でぶらぶらする
予定だし﹂
自宅にいること禁止されてんのか? 何で?
つっこんで聞いてみたいけど、あんまり話したくなさそうなので、
触れないでおこう。
﹁ヤス兄、やっぱり今日も私たちの家でいいんじゃない?﹂
自分の家でやると、片付けがめんどくさいというのがあるんだよな
あ。
ま、サツキがいいって言うならいいか。
﹁んじゃ、俺とキビ先輩で必要なもん適当に買ってくるっす。サツ
キは先家帰って準備しといて﹂
﹁何でキビ先輩?﹂
サツキが不審そうに聞いてくる。や、ただなんとなくキビ先輩がい
っかなーと思っただけで、そんな深い理由があるわけじゃないんだ
が。
2677
﹁サツキが帰らないと家あかないし、ケンが先行ってくれると適当
に飾りつけしてくれるし、ユッチが先行ってくれるとサツキと適当
に料理作ってくれる気がするし。ユッチ、サツキ、冷蔵庫にあるの
なんでも使っていいんでよろしく。キビ先輩いるから肉料理多め、
さめてもおいしい料理という感じでよろしく﹂
﹁あいさー﹂
﹁わかったあ﹂
おし、なかなかいい言い訳だったんじゃないかな⋮⋮さてと、何が
いるかな。
﹁ヤス、あれだけは絶対買っていこうね!﹂
⋮⋮あれ? あれってなんだ? クリスマスには絶対必要って言う
ようなもの⋮⋮わからん。
﹁キビ先輩、あれって何ですか?﹂
﹁うまい、ふとい、おおきい!﹂
﹁⋮⋮ゆっふぉー?﹂
頭の後ろからぴょこんと手を出してみる⋮⋮なんとなくピンクレデ
ィー。
﹁違うって、肉だよ! 肉棒だよ!﹂
﹁太くっておっきい肉棒?﹂
2678
⋮⋮あれのことか? や、ちがうよな⋮⋮でもあれしかないよなあ。
﹁キビ先輩、変態ですか? というか何を買えというんですか﹂
⋮⋮キビ先輩の顔がきょとんとした顔になり、真っ赤になり、鬼の
ような顔に変わっていく⋮⋮。やばっ、確実に地雷を踏んでしまっ
たっぽいです。
﹁⋮⋮ヤスう⋮⋮怒らないから今何を考えたか言ってくれるかな?
かな?﹂
⋮⋮そんな顔で言っても、すでに怒ってるじゃないっすか! 言え
るわけないっすよ!
﹁⋮⋮ええと、その﹂
﹁⋮⋮んー?﹂
⋮⋮笑顔だけど目が笑ってない⋮⋮無理無理無理無理! 怖いっ!
⋮⋮適当にキビ先輩とパーティに必要そうなものを買ってきた。ホ
2679
ールケーキとかお菓子各種、キビ先輩がどうしても買いたいといっ
た﹃うますぎるもん﹄鎌倉ハムの魚肉ソーセージ、お茶、オレンジ
ジュース、サイダーなどなど。他にもクラッカーとクス玉といった
パーティ必需品、そしてなぜかタスキ、バトン、ハチマキ、その他
各種⋮⋮何に使うんだこんなもん。
キビ先輩からこれを買えと命令されたんだが、バトンとかハチマキ
なんて使わないだろ⋮⋮ま、まあいいけどさ。
﹁ただいまーっす﹂
﹁お邪魔しまーす﹂
﹁お帰りー、ヤス兄。もう料理の準備も飾りつけも終わってるよー﹂
﹁へっへえ。すごいだろお!﹂
⋮⋮早いなおい。
居間に行ってみると、すでにクリスマスツリーもつけられて、机の
上にはクリスマスっぽいテーブルクロスが広げられ、その上にはい
ろいろと料理が並んでいる。とり皿と6人分のコップも準備完了。
部屋の中も折り紙とかその他もろもろ使って綺麗に飾り付けが完了
している⋮⋮ほんと早いな、どんな裏業を使ったんだ?
﹁メインは面倒だったからサンドイッチね。好きなときに好きなも
のはさんで食べて。ケンちゃんはもう食べてるけど﹂
フライング! フライング! ケン、そこで食べちゃ駄目だろ。
﹁あとはリクエストが肉だったから、焼き鳥シリーズをいろいろ作
ってみたんだあ﹂
2680
サンドイッチに焼き鳥⋮⋮合うのか? まあ、どっちも箸を使わな
いで食べられるという美点があるよな。
﹁栄養バランス考えて、ちゃんと野菜焼きも食べてくださいね、キ
ビ先輩﹂
﹁ええ⋮⋮サツキちゃん、焼き鳥だけじゃ駄目かなあ? ねぎまな
ら食べるからさあ﹂
キビ先輩、ねぎまのねぎって量的にはほとんどないんですけど。
﹁けど、ねぎまってねぎの部分がある分、他の焼き鳥より損した気
分になるんだよね﹂
何言ってるんですかキビ先輩、ねぎまはねぎがあるからうまいんじ
ゃないですか。ねぎのないねぎまなんて、ねぎまじゃないっすよ。
﹁駄目ですよお! キビ先輩、年齢を重ねて美肌を保つには、肉を
減らして野菜を食べないと駄目なんですよお!﹂
﹁⋮⋮ユッチ、それは私が1人だけ年増って言いたいのかな? か
な?﹂
﹁ボボボ、ボク、そんなこと言ってないよお!﹂
⋮⋮さすがにキビ先輩、邪推しすぎだと思います。ユッチなんてそ
んな言葉の裏を考えるなんてことはまったくしないやつなんだから。
﹁キビ先輩、とりあえずみんな席について乾杯しないっすか?﹂
2681
ナイスだケン!
﹁そ、そうそう、今日は怒るのやめて楽しくやりましょうよ! せ
っかくのクリスマスです!﹂
﹁そだねー、ごめんねユッチ。今日はもう怒らないことにするよ﹂
ええ、ええ。もう怒らないでください。キビ先輩の怒り顔って怖す
ぎなんです。
まだちょっと怯え気味のユッチのコップにオレンジジュース、サツ
キと俺のコップにお茶、キビ先輩とケンのコップにサイダー。
﹁それでは皆さん、コップを持って! ⋮⋮ここはキビ先輩が音頭
を取るか?﹂
﹁ええ? 私?﹂
そだな、やっぱり先輩が音頭をとるのがベストだろ。
﹁キビ先輩、お願いします!﹂
﹁ええと⋮⋮あんまりこういうのした事ないんだけどなあ。ええと
⋮⋮4月からユッチ、ケン、ヤス⋮⋮みんなが入ってきていろんな
事がありました﹂
うん、あったあった。
﹁正直、ユッチ以外は陸上経験者じゃないなんて状態で、﹃大丈夫
かこいつら﹄と思ってしまいました﹂
2682
⋮⋮まあ、事実だし。今でも大丈夫か? という状態だし。
﹁それでもちょっとずつ手応えが見えてきてます。ユッチもアオち
ゃんも強くなったし。来年、できる限り長く、みんなと陸上を続け
てきたいと思ってます。絶対に夏まで続けたいです﹂
夏といえば⋮⋮インターハイ、もしくは最低でも6月の東海大会に
は出場したいって事か⋮⋮でっかいなあ。
﹁来年、サツキちゃんが4月から入部してくれるの楽しみにしてる
ね!﹂
﹁はい!﹂
⋮⋮ええ先輩やあ。
﹁ではでは、長々としたスピーチはこれぐらいにして。来年が私た
ちみんなのいい年であることを願って、乾杯!﹂
﹃かんぱーい!﹄
ただいまより、クリスマスパーティ、開催!
2683
301話:クリスマスパーティ、開催!︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
何でこの時期にクリスマス情報を調べているんだろうと不思議な気
分になりました⋮⋮そしてなぜか忘年会とごっちゃになっている気
がします。
それでは今後ともよろしくです。
2684
302話:談笑中
ユッチとサツキの作った料理の数々をほおばりながら、適当に談笑
するクリスマスパーティ。
いつもやってる事なのに、クリスマスというだけで、何だか楽しく
なってくるから不思議。
なんかユッチはもう一品準備するんだあって言って台所にこもって
る。さてさて、どんなのが出てくることやら。
﹁ヤス、今日は無礼講だからね﹂
﹁え、キビ先輩いいんですか?﹂
﹁いいのいいの、気にしない気にしない。タメ口でも構わないよ﹂
おお、キビ先輩優しい。
⋮⋮けど、俺がキビ先輩に対して礼講だった日があった気がしない
んだが。
というか俺めっちゃ無礼だし。
﹁大体私なんか、あと2週間遅かったらヤス達と同級生だったんだ
もん。年齢的にはそんなに変わんないよ。それに双子って早産にな
る人が多いらしいけど、私らもすっごい早産だったらしいんだよね﹂
へえ、そうなんだ。
﹁もうちょっとお母さんが粘ってたらもしかすると同級生になって
たかもねー﹂
2685
キビ先輩と同級生、それはそれで楽しそう。
﹁キビ先輩の誕生日いつです?﹂
﹁3月20日だよ。魚座のO型﹂
別に星座と血液型までは聞いてない。聞いてどうしろと言うんだキ
ビ先輩。
﹁ふっふー、ヤス君、今君は重大なミスを犯したよ﹂
⋮⋮何かミスったっけ?
﹁私の誕生日、知っちゃったんだから、きっと何かしてくれるんだ
よね? ユッチやポンポコから聞いてるよ、すごい豪華なプレゼン
トをあげてるんでしょ?﹂
ええと⋮⋮ユッチの時はクッキー持ってっただけなんだけど。そん
なに期待されてもとても困る。
﹁ま、まあ何か考えます。けど、期待しないでくださいよ﹂
﹁はいはーい、楽しみにしてます。ふっふ、儲け儲け﹂
⋮⋮儲け儲けとか言わないでくださいよ、キビ先輩。それにしても
⋮⋮ふう、変な悩み事が増えた。
﹁ヤスとキビ先輩って結構仲いいよな? 1学期の頃とか話してる
の見た事なかったけど。いつからそんなに仲良くなったんだ?﹂
2686
んー、そう言えばキビ先輩といつからか仲良くなったな。2人でご
飯食べに行くなんて以前は考えられなかったし。
ええと⋮⋮いつからだったっけ?
﹁ヤスがお弁当作ってきてくれたときからかな? 今でも週1回く
らい作ってきてくれるよ﹂
﹁キビ先輩が食べたいって言ったんじゃないですか。まあ1人分増
えるくらいは構わないですよ﹂
﹁でも、ヤスが作ってきてくれるの不定期なんだよねー。どうせな
ら毎日作ってきてくれればいいのに﹂
﹁適当弁当でいいならいいですよ? キビ先輩に弁当作る時って結
構頭使うんですよ。いかに野菜を混ぜ込むかって﹂
﹁私、最近はヤスのおかげで野菜も食べるようになったよ。そんな
気を使わなくたって大丈夫だよー﹂
﹁何を言うんですか、今日だってまだ野菜食べたって行ってもねぎ
ましか食べてないじゃないですか。野菜スティックとか野菜焼きも
食べなさい﹂
﹁やだ、肉がない焼き鳥なんてやだよ。スキヤキでも主役の肉がな
いと食べる気しないでしょ?﹂
それはそうだけど、脇役がいるからこそ主役が引き立つと思うんだ
が⋮⋮主役ばっかりの映画なんて見ててつらい気がする。
2687
﹁ヤス兄⋮⋮ときどき豪華だなーってお弁当があったけど、キビ先
輩の為だったんだね﹂
さ、サツキ、何で怒ってるんでしょうか。声がものすごく低いです
よ? 目がすごく睨んでますよ?
﹁や、だって家族以外の人に食べてもらうんだったらさ、ちょっと
くらい見栄はりたいじゃん。どうだすげえだろーってやりたいじゃ
ん﹂
﹁へー、そうなんだそうなんだ。私には適当弁当でよくて、キビ先
輩には豪華弁当なんだー﹂
そっぽを向いてもぐもぐとサンドイッチを食べるサツキ⋮⋮サツキ、
何でそこで拗ねる。
ええやん、冷凍食品使ったって。弁当毎日作るの大変なんだぞ。毎
日弁当を作る俺の大変さをちょっとは分かってくれ。
﹁そ、そういえば、キビ先輩とユッチって今日も明日も家に帰らな
いみたいなこと言ってましたけど、明日はどうするんですか?﹂
む、無理矢理話題転換! この話題から早く逃げ出したい!
﹁私? 私は明日は本屋にでも行ってブラブラするよ﹂
⋮⋮キビ先輩、せっかくのクリスマスなのに、1人本屋で過ごすな
んて寂しすぎですよ。
﹁キビ先輩は何で家に帰らないんすか?﹂
2688
おお、聞きたい事をさくっと聞いてくれるケン、ナイスだケン。
﹁んーとね⋮⋮妹と先輩がいるからねー、なんか気まずいんだよね。
気をつかわれるのも嫌だし﹂
⋮⋮頑張れキビ先輩。
﹁あ、そうだ! 明日、俺とサツキとケンの3人で教会に行ってみ
ようって話しありますけど、キビ先輩もどうです?﹂
﹁んー⋮⋮それじゃいこっかな。教会のクリスマスって確かにどん
な雰囲気なのか見てみたいよね﹂
﹁ケンもサツキもそれでいい?﹂
﹁俺は別に構わないぞ﹂
﹁私もいいよー、ケンちゃんいるし﹂
⋮⋮サツキの声になんだかとげがあるように感じるのは気のせいで
しょうか。
﹁それじゃ私はヤスと仲良くしてこっかなー、明日楽しみだねー、
ヤス﹂
あうあう、なんかサツキの目が怖いんですが⋮⋮⋮⋮俺何もしてな
いっすよ?
す、すごく居心地が悪い⋮⋮誰か空気を変えてくれ。
2689
303話:ジェンガ
﹁おっまたせえ! やっぱりクリスマスと言ったらチキンだよねえ
!﹂
ナイスユッチ! 重苦しいこの空気を吹っ飛ばすには、ユッチって
最高だ。
﹁冷蔵庫の中漁ってたら、手羽元がみつかったんだあ! ぱりっと
唐揚げにしてみたよお!﹂
⋮⋮手羽元? ⋮⋮手羽元⋮⋮その言葉を聞いてユッチの手に乗っ
ている皿をちらっと見てみる。
ああ、それ明日の主食! 父さん母さんが好きな手羽元のサッパリ
煮を作ろうと思ってたのに!
⋮⋮仕方ない、ユッチには何使ってもいいって言ってあったからな
あ⋮⋮手羽元だけはダメって言っときゃよかった⋮⋮はぁ⋮⋮。
﹁な、なんだよおヤスう。ため息なんかついちゃってさあ! ⋮⋮
も、もしかしてヤスって、唐揚げ嫌いだったあ?﹂
﹁そんな事ないぞユッチ。むしろ唐揚げは大好きだ﹂
ってかそんな不安な声ださなくてもええのに。
﹁そっかあ⋮⋮よかったあ﹂
⋮⋮や、そこまで安心せんでも。俺好き嫌いは少ないぞ。
2690
﹁キビ先輩もサツキちゃんもどんどん食べてねえ。ボクの自信作な
んだからあ﹂
ユッチ、ケンを忘れてる。今ケンが手を伸ばそうとして、自分は食
べていいものかどうか悩んじゃってるぞ。自分の宙に浮いた手をじ
っと見てる。
﹁ヤスヤスう、これ食べたらそろそろ何かして遊ぼお。ヤスの家っ
て色々ゲームがあるんだよね?﹂
⋮⋮ふむ、確かにアナログゲーム系は各種取り揃えているけど、ど
れがいっかなあ。
オセロとか将棋は2人までしか遊べないし、モノポリーはユッチ苦
手そうだし、人生ゲームは1回にちょっと時間がかかりすぎるよな。
﹁ヤス兄、パーティゲームと言えばあれじゃない?﹂
﹁ふむ、あれか⋮⋮そうだな、あれでも持ってくるか﹂
﹁ヤスう、あれって何だあ?﹂
ん、まあ見てのお楽しみって事で。
ドン、っと自分の部屋から直方体の箱を持ってくる。
久々にやるなあこれ。
2691
﹁おお、ジェンガだああ! ボクジェンガ大好きい! ボク、ジェ
ンガやって負けた事ないもんねえ!﹂
﹁ホントかよ? 悪いけど俺とサツキもケンもすごく強いから、そ
のつもりで﹂
以前、やりまくったからな。抜く時のコツとか全て頭に入ってるぞ。
﹁ふっふー、ヤスには負けないんだからあ! 鼻面をあかしてやる
んだからあ﹂
﹁ユッチ、それを言うなら鼻をあかすだぞ﹂
⋮⋮あ、赤くなった。
﹁うるさいうるさいい! 絶対負けないんだからあ!﹂
ユッチめ、このゲームは冷静になれなかった方が負けだぞ。この時
点でユッチの負けは見えたな。
﹁ヤスヤス、私ジェンガってやった事ないんだけど、どういうゲー
ム?﹂
キビ先輩はやった事ないのか。
﹁ジェンガって言うのはこんな感じにきれいに積み上げたタワーの
中から、自分の好きなところから抜き取って、一番上に置いてくん
ですよ。上においてくにしたがってどんどん不安定になっていき⋮
⋮最後このタワーをぶっ倒した人が負けです﹂
2692
シンプルだけど奥が深い。戦略も駆け引きも重要。それがジェンガ。
﹁へえ、なんとなく分かったよ。とりあえずやってみよっか⋮⋮あ、
あと負けた時の罰ゲーム、私とヤスで勝ってきたからそれ使おうね﹂
そっか、あの何に使うかよく分からない変なのシリーズは罰ゲーム
の為にあったのか。ようやく判明した。
⋮⋮ジャンケンの結果、
1.ユッチ
2.ケン
3.サツキ
4.俺
5.キビ先輩
という順番でブロックを引っこ抜いていく事に決定した。
⋮⋮うし、それじゃゲーム開始。
﹁それじゃボクからだねえ! まずは安全なところから⋮⋮﹂
3本並んでるうちの真ん中、するするっと抜けるブロックを抜いて
一番上に乗せるユッチ。
⋮⋮もっと大胆なチャレンジばかりをするかと思ったら、なかなか
堅実なプレイをする。
﹁んじゃ、次は俺だな﹂
ケンはジェンガをやる時だけは慎重になる。崩れなさそうなところ
をとにかく狙う⋮⋮今回も簡単なところを探し当てて、するっと抜
いて上に乗せる。
2693
確かにチャレンジャーになるより簡単なところを選んでいった方が、
どっかで誰かがミスってくれるからな。
﹁私だねー、ヤス兄にちょっとくらいプレッシャー与えとかないと﹂
﹁サツキ、やめてえな。共同戦線はろうよ﹂
﹁だめだめー、戦いの場では人は非情にならないとダメなんだよ。
ヤス兄﹂
そう宣言して、影響の大きい一番下からえいやっと抜き取るサツキ。
⋮⋮今、いきなりぐらぐら揺れたんすけど。まだ1ターンめなんだ
からもうちょっと慎重になろうよ、サツキ。
﹁ささ、どうぞどうぞヤス兄﹂
⋮⋮どこ抜こう。まだ1ターンめなんだから俺も慎重にいこうかね。
﹁ヤス兄、手が震えてるよー﹂
﹁震えてないから! 集中してるから話かけるな!﹂
﹁ヤスってば怒鳴っちゃってこわあ。邪魔しちゃおっかなー﹂
﹁キビ先輩、テーブル揺らすの反則ですから!﹂
﹁あれあれヤスう、ビビってるう!﹂
﹁ビビってない!﹂
2694
⋮⋮くそお、何で俺が抜く時だけこんなにチャチャが入るんだよ。
そっと上の方で抜きやすそうなブロックを抜いて、一番上に乗せる。
よし、揺れなかった。
﹁最後は私だね。どっから抜くのがいいかな﹂
﹁次の人にプレッシャー与えるんだったら、不安定になりそうなと
ころを抜くと言う選択。とりあえず自分の番をしのぎたいんでした
らどこからでも抜きやすそうなのを選べばいいっすよ﹂
﹁ケン、抜きやすそうなのなんて全然分かんないよ﹂
﹁ジェンガのブロックっていっこいっこ大きさがちょっとずつ違う
んで、分かりやすいところだと浮いてるのが丸和借りだったりする
のもありますよ。それでも分からない時は触ってみれば分かります
よ、揺れない程度に指で押してみればいいんです。まずは適当に勘
でやるんす﹂
﹁分かった⋮⋮よっと。あれ? 意外と簡単に抜けるもんだね﹂
﹁まだ序盤ですからね。どんどん難しくなりますよ﹂
﹁はーい。コツは今ので何となく分かったし⋮⋮負けないよ!﹂
おお、キビ先輩が燃えている⋮⋮俺も負けられねえ。次からが勝負
だな。
2695
303話:ジェンガ︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
うたた寝してたらおでこと唇を蚊に食われました。
もともとたらこ唇なのですがさらに膨らみました。
めっちゃ変⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
2696
304話:ジェンガー!
第1戦目、サツキ以外の全員が堅実な攻めをして、なかなか崩れる
と言う事がない。
⋮⋮ってかサツキ。お前が引っこ抜いた後必ずぐらぐら揺れるんだ
が。
そんな中自分の番にされる俺の身にもなってくれ。
⋮⋮またサツキがチャレンジして、何だか難しいところを引っこ抜
く。
サツキのところで倒れればいいのに、なぜか後一歩のところで倒れ
ないまま、俺の番⋮⋮だめだ、どこを抜いても倒れそう⋮⋮ぐらぐ
ら揺れるよ、ジェンガがゆれるよ。
そーっと、そーっと⋮⋮どこが安全だろう⋮⋮この右端のやつが一
番安全そうだよなあ⋮⋮おっとと、今ちょっと揺れた。
﹁ジェンガあ!﹂
﹁うわっ! 何だ!?﹂
俺が抜いている時に叫ぶなユッチ!
﹁ああ、残念。もうヤスが倒すかなあと思ったんだあ﹂
だからって叫ぶなユッチ。これで倒れても俺の負けになるんだから。
﹁ってか何で﹃ジェンガ!﹄って叫ぶんだ?﹂
2697
﹁ヤス、知らないのお? ジェンガでは倒れた瞬間にみんなで﹃ジ
ェンガあ!﹄って言うんだぞお!﹂
﹁知らねえよ! それ絶対どっかのローカルルールだから!﹂
﹁そんなことないもん! ボクの家ではいっつも言ってたもん!﹂
ユッチの家だけだろ? ユッチ家ルールなんじゃないのか?
﹁そう言うルールもあるよ? ヤス兄﹂
﹁⋮⋮え? まじ?﹂
俺が知らないだけか?
﹁まじだよ。ヤス兄が遅れてるだけじゃない?﹂
⋮⋮まじかあ。ちょっとショック。何がショックってユッチが誇ら
しげにしているのが一番ショック。
﹁ってかまだヤスの番だぞ、終わった気になってちゃダメだろ﹂
分かってるよケン、そんなに急かすな。さっき途中まで抜いたブロ
ックは、これ以上抜くと本気で崩壊しそうだったので、ここでスト
ップ。
﹁ええ!? ヤスってばそこでブロック止めるの? そんな後少し
で抜けそうなのに抜くのやめるのやめてよ! ものすごく不安定に
なってるよ!?﹂
2698
や、だってそこ抜くと絶対倒れそうなんだもん。まあ、これも戦略
の1つだ。
別のところで抜きやすそうなものを探して⋮⋮お、これなんか良さ
げ。
狙いを定めてそーっと抜いていく。
﹁たあおれろ、たあおれろ! たあおれろ、たあおれろ!﹂
⋮⋮やばい、ユッチがまじうざい。
この緊迫している中、全然集中できん。次ユッチの番になったとき
覚えてろよユッチめ。
﹁⋮⋮﹂
ゴクリ⋮⋮と喉の鳴る音が聞こえる。スッと俺の右手に一本のブロ
ックが握られる。
おし! 峠は越えた!
後は上に置くだけ⋮⋮おし、置けた!
﹁見たか、これで俺の負けはないだろ!﹂
もう目の前のジェンガはそよ風が吹くだけでも壊れそうな様相にな
っている。
キビ先輩、ユッチ、ケン、サツキの4人が抜く間にこのジェンガは
倒壊するに違いない。
﹁ささ、キビ先輩の番ですよ、どぞどぞー。どうぞぶっ壊してくだ
さい﹂
2699
﹁ヤスってば何かムカつくねー。絶対もう1回ヤスの番にさせてや
るんだから!﹂
⋮⋮ふっ。人の事考える前に、まず自分の現状を見ないとダメです
よ。キビ先輩。
そーっとね、そーっと⋮⋮ち、成功したか。
﹁ヤス、ヤスへの番がまた一歩近づいたよ﹂
キビ先輩、うっさいとです。まだ3人もいます、ユッチ、ケン、サ
ツキの誰かがミスしてくれます。
﹁ねね、みんなにジェンガの大技見せてあげるよお!﹂
⋮⋮ジェンガに大技もくそもあんのか?
﹁さっきヤスが引っ張って、でっぱっちゃってるこのブロック。こ
のままどんだけ慎重に慎重に引っ張っても絶対に抜けないんだあ﹂
その通り。だから俺は諦めて別ブロックを抜いたんだ。
﹁これをお⋮⋮えいっ!﹂
ピコンっ。
デコピンの要領ではじく⋮⋮すげえ! とれちゃった!
しかも引っこ抜いた後の塔はぐらぐら揺れる事もなく、安定してそ
びえ立っている。
﹁後はこれを上に載せるだけえ⋮⋮えっへん、すごいだろお!﹂
2700
﹁ユッチ、すごいすごい!﹂
﹁でしょでしょお!﹂
﹁あんな技初めてみた! なかなかあんな技真似できないよ﹂
﹁へっへえ。ヤスもボクの事見直しただろお! ボクが特訓に特訓
を積み重ねて編み出した技なんだあ﹂
﹁てりゃ﹂
ピコンっ。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
ケンがユッチのやったデコピンジェンガを模倣して成功させる。
吹っ飛ばしたブロックをひょいっと一番上に乗せて、ケンの番は終
了⋮⋮。
あれ? 何でそんな軽々とやってんだ?
﹁あ、なんだ。ユッチ、意外と簡単にできるもんだな、これ﹂
⋮⋮ケン⋮⋮ユッチを立ててやろうぜ。あれだけ得意げになってた
ユッチが可哀想じゃん。
﹁ううう⋮⋮ボクが1月かけてようやく編み出した技なのにい⋮⋮
ケンのバカあ﹂
2701
それに1月かけるユッチもユッチだと思うけどな。
﹁ヤス兄、私が成功したらヤス兄の番になっちゃうね﹂
⋮⋮そうじゃん、今は落ち込んでいるユッチの事を気にしてる場合
じゃないじゃん。
﹁⋮⋮サツキ、ミスれ!﹂
﹁ヤス兄ってば私の失敗を祈るんだねー﹂
や、だって俺次の自分の番、成功させる自信ないんだもん。
サツキが負けるなんて言うのはちょっと嫌だけど、俺の負けっての
はもっと嫌だ。
﹁でも、ヤス兄の番まで回るんだからねー、ずっとブロックを見続
けて、浮いてるブロックを見つけたんだから﹂
そう言うと、サツキはある1つのブロックを見定めて、するすると
ブロックを抜いて上に乗せる。
⋮⋮ここへ来て安パイを見つけ出すか。やるなサツキ。
﹁ヤス兄、私が見てるかんじ、もう安全なのは1個もないよ? ど
うする、ヤス兄?﹂
安パイはないのか⋮⋮試しに何本かちょんちょんと指でつついて抜
けそうなブロックを確かめたけど、どのブロックを動かしても崩壊
しそうだ。
それじゃここはやっぱり、俺もユッチのあの技、デコピンジェンガ
を成功させるしかないよな。成功させればぐらぐら揺れる事もなく、
2702
ブロックを引っこ抜く事が出来る。
狙うは右端と真ん中の2本のブロックが残っているところ。
勢いよく右端を引っこ抜けば、真ん中のブロックだけで支えられる
はず⋮⋮上手く右手の中指に力を入れて⋮⋮。
いけえ!
べコンっ、がらがらがらがら⋮⋮⋮⋮。
﹁⋮⋮﹂
塔が崩れ落ちた⋮⋮。
デコピンを食らわせる時に、1つ上のブロックにも少しかすってし
まったのが原因だ⋮⋮ちっくしょ、俺の負けか。
﹃ジェンガー!!﹄
⋮⋮てめえら、声を揃えて叫ぶなあ!
2703
304話:ジェンガー!︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
遅くなりすみません。
デコピンジェンガ、下の動画のような技です。
http://www.youtube.com/watch%3
Fv%3DJMyteHPvsiA
それでは今後ともよろしくです。
2704
305話:罰ゲーム
罰ゲーム⋮⋮ジェンガを始める前に1人3つずつ紙に罰ゲームを書
いて箱に入れてある。
あまり過激なのにすると自分が引く羽目になったときにひどい思い
をするので、みんなそこそこの罰ゲームにしてあると信じているん
だけど⋮⋮。
サツキとか面白ければどんなのでも書きそうだもんなあ⋮⋮ユッチ
も何も考えずに罰ゲーム書きそうだし。
﹁それじゃ、まずはヤス兄の罰ゲームだねー﹂
⋮⋮サツキ、そんなうれしそうな顔するな。
﹁ヤスの罰ゲームはー♪ 何が出るかなー?﹂
⋮⋮キビ先輩もそんなうれしそうな顔をするな。
﹁﹃タスキとネコミミをつけてコンビニに行き、アイスを買って温
めてくださいと言ってくる。もちろん食べてね﹄﹂
ネコミミは慣れたからいいとして、﹃アイスを買って温めてくださ
い﹄って⋮⋮誰だ!? そんなの書いたやつ。
﹁さあさあ、ヤスう! 行ってきてねえ!﹂
⋮⋮くそお、ユッチにまですっごいうれしそうな顔をされ⋮⋮なん
かすっげえ悔しい。
2705
﹁タスキはたくさん種類があるからね。どれがいい?﹂
買ってきたけど⋮⋮なんかあまりいいのがなかった気がする。
﹁ええと、どれどれ? ﹃本日の主役﹄﹂
⋮⋮俺、脇役でいい。
﹁﹃1日プリンセス﹄﹂
男なんですが。
﹁﹃今夜のシンデレラ﹄﹂
だから俺男なんですが。12時に魔法が解けるのも嫌だし。
﹁﹃世界一の幸せ者﹄﹂
確かにそんなのつけてコンビニ買いに行くなんて幸せな人かもしれ
ん。頭に花が咲いているよ。
﹁﹃私は幸せ☆﹄﹂
だからやだって。不幸せだよ。
﹁﹃どんだけ∼﹄﹂
嫌だよ。それをつけることが﹃どんだけー﹄って感じー。
2706
﹁﹃羞恥心﹄﹂
⋮⋮もう羞恥心のかけらもねえよ。
﹁あ、これでいいじゃん。﹃スケベ代表﹄﹂
﹁いやだよ!? それだったら俺﹃世界一の幸せ者﹄がいい!﹂
﹁だってヤス、ムッツリスケベだし﹂
ムッツリじゃないって! どんなんだよムッツリスケベって!
﹁ヤス兄はそんなにムッツリスケベじゃないよ? 結構オープンだ
よ?﹂
オープンスケベ⋮⋮それはそれでいいんだろうか?
﹁ヤスヤスう、ムッツリとオープンの違いってなんだあ?﹂
﹁ムッツリスケベってのはスケベだけど、自分は紳士ですよって振
舞っておいて、タガが外れるとものすごいエロくなるに走る人物。
オープンスケベは常にエロい事を話題にしてる人物だな﹂
⋮⋮ってユッチ、何で俺に聞くんだよ? 100パーセントケンの
が詳しいんだから、ケンに聞けよ。
﹁だったらヤスはオープンだよねえ﹂
﹁あ、ユッチもそう思う? 私もヤスはオープンだと思うんだ﹂
2707
⋮⋮俺ユッチにもキビ先輩にもそんな事を話した記憶ほとんどない
んだけど。なんでそんなにエロイってイメージが定着してんの?
﹁まま、罰ゲームなんだから﹃スケベ代表﹄で行こうな、ヤス﹂
ケン、俺に選択の余地はないのか⋮⋮ないんだな。
徒歩で5分、コンビニ前⋮⋮まだ15時ごろ、普通の客も何人もい
る中、ネコミミと﹃スケベ代表﹄というタスキをつけてコンビニの
中へ。
⋮⋮視線が痛い、ものすごく視線が痛い。この様子も全員が後ろか
らついてきてニヤニヤ見てるし。
早く入ってアイス買ってこよ。
⋮⋮やっぱりせっかくのクリスマスなんだからちょっと奮発してハ
ーゲンダッツとか買っておこうかな。レンジでチンしてもらうアイ
スは100円の安いやつでいいや。
﹁いらっしゃいませー⋮⋮?﹂
そんなかわいそうな人を見るような目で俺を見ないでください⋮⋮
そしてくすくす笑わないでください。
﹃スケベ代表﹄⋮⋮こんなタスキ嫌。
ぴっ⋮⋮ぴっ⋮⋮。
2708
﹁合計で1680円になります﹂
来た、もうひとつの罰ゲーム⋮⋮今言わないと。
﹁これ、温めてもらえますか?﹂
﹁⋮⋮はい?﹂
﹁だから、これ温めてもらえますか?﹂
﹁ええと、これを?﹂
⋮⋮めっちゃ俺不審者。通報されないかな。ってかあきらかに罰ゲ
ームっぽいことしてるんですから、ノリよく温めてやってください
よ⋮⋮。
﹁しょ、少々お待ちいただけますか?﹂
⋮⋮店員さん、奥に消えていってしまった。ぽつねんと取り残され
た俺。お願い、早く帰ってきて。﹃スケベ代表﹄っていうタスキを
つけたままこんなところに突っ立っていたくないんです。
あ、戻ってきた。
﹁お客様、大変申し訳ありません。当店ではそのようなサービスは
おこなっておりません﹂
⋮⋮ええと、そんな申し訳なさそうに言われるとすごい罪悪感がわ
いてくる。けど、温めてもらわないと⋮⋮。
﹁すみません、俺を助けると思って今回だけ温めてもらえませんか
2709
?﹂
﹁お客様、大変申し訳ありません。当店ではそのようなサービスは
おこなっておりません﹂
⋮⋮ち、頑固な。
﹁温めてもらわないと俺、家に帰れないんです﹂
﹁お客様、大変申し訳ありません。当店ではそのようなサービスは
おこなっておりません﹂
⋮⋮店長にそういって突っ返せとか言われたな。ちくしょー、そん
なマニュアルなんて作るなよ。
⋮⋮結局温めてもらえなかった。
﹁ヤス兄、お疲れー。面白かったよ﹂
⋮⋮ああ、面白かっただろうな。外でワハハと笑うサツキとユッチ
の声が聞こえたし。
﹁もう罰ゲームは嫌だ! 次のゲームでは絶対に勝つから!﹂
2710
﹁そうやって力めば力むほど負けるもんなんだよ、ヤス兄﹂
⋮⋮いやいや、次こそは勝つから! 見てろよサツキ!
2711
305話:罰ゲーム︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
﹃アイス温めてください﹄を実際にやった人、いるみたいです。
←これとか。
http://vision.ameba.jp/watch.d
o?movie=862031
←これとか。これは実際に温めてもらったみたいです。
http://homepage1.nifty.com/uky
ou/toukou2/20020111.html
やってみた人いたら教えてください。
それでは今後ともよろしくです。
2712
306話:プレゼント交換
その後もジェンガの対決は白熱した、一進一退の攻防、駆け引き、
冒険か自重か⋮⋮まさに心理戦です。
2回戦:キビ先輩の負け
キビ先輩の罰ゲーム﹁今日1日、語尾にワンをつける﹂
﹁ううう、恥ずかしい⋮⋮ワン﹂
意外と似合ってます。キビ先輩。
3回戦:ユッチの負け
ユッチの罰ゲーム﹁﹃ど根性﹄の鉢巻をつけてすごす﹂
﹁これのどこが罰ゲームなのお?﹂
すみません、俺が書きました⋮⋮簡単すぎたか。鉢巻つけるって結
構普通なのか?
4回戦:キビ先輩の負け
キビ先輩の罰ゲーム﹁今日1日、ぶりっ子になる﹂
﹁⋮⋮ねえ、この罰ゲーム書いた人誰?﹂
キビ先輩、それは言わないお約束です。俺じゃないけど。ついでに
ワンを言うの忘れてますよ?
2713
﹁⋮⋮なんかあたしの罰ゲームって期間が長いのが多いよお⋮⋮ワ
ン﹂
頑張れキビ先輩。もうなんか先輩の威厳がまったくないですね。も
ともとなかったけど。
5回戦:サツキの負け
サツキの罰ゲーム﹁30分走ってくる﹂
﹁なんか地味にひどい罰ゲームだね。パーティ中パーティに参加す
るなって事でしょ?﹂
そんな冷たい目でこちらを見ないで⋮⋮確かに書いたの俺だけど。
なんか陸上部なら陸上部っぽい罰ゲームがあったほうが面白いかな
って思ったんだよ。
ってかなんで俺だって分かるの?
そんなこんなでそろそろゲームも終わりにして次なるイベントをや
ろうと言う話に。
﹁ラディースアンドゼニトルマン! それでは、お待たせしました
! クリスマスと言えばこのイベント、プレゼント交換です!﹂
パチパチパチ⋮⋮司会者ケンの呼び声に、みんなで拍手。ってかケ
ン、ゼニトルマンはねえよ。銭取るマンって聞こえるよ。
2714
﹁みなさん、プレゼントは買ってきてくれたでしょうか? 誰が誰
のものになるかはくじ引きしだい! それぞの名前を書いたこのボ
ックスから、好きなものを1枚選んでください。それじゃまず先輩
のキビ先輩からどうぞ﹂
﹁はいはーい⋮⋮ワン﹂
⋮⋮なんか﹃ワン﹄って言ってもらうのがかわいそうになってきた。
誰だあんな罰ゲーム書いた人。
﹁キビ先輩、選んだ後もまだ見ないでくださいよ。みんなで﹃せー
の﹄で見ますからね。んじゃこっからは時計回りで﹂
そういって、俺、ユッチ、サツキの順にくじをとり、最後にケンが
余った一枚をとる。
﹁ところでケン、これ自分のプレゼントに当たったときはどうすん
だ?﹂
﹁んー⋮⋮なってないから大丈夫!﹂
⋮⋮その自信はどこからくるんだ!? なんか細工でもしたのかお
前は。
ま、いいか。なってないんだったらなってないで。さてと⋮⋮誰の
になったかな⋮⋮できればサツキのプレゼントがいいなあ。
﹁それじゃみんなで見ますよー、﹃せーの!﹄﹂
ババッと5人同時にくじを開く。
2715
結果⋮⋮。
ケンのプレゼント↓サツキ
サツキのプレゼント↓キビ先輩
キビ先輩のプレゼント↓ヤス
ヤスのプレゼント↓ユッチ
ユッチのプレゼント↓ケン
﹁ケンちゃんのプレゼントかあ⋮⋮なんかやな予感するんだよねー﹂
﹁ええ!? サツキちゃん、なんでさ?﹂
﹁ケンちゃんってこういう時って大抵変なものをプレゼントするん
だもん⋮⋮って何これ?﹂
﹁見て分かるだろ? ﹃ルービックキューブ﹄﹂
﹁それは分かるけど、これ私がもらってどうするの?﹂
﹁そりゃ遊ぶんじゃん? ヤスかユッチならもらって熱中してやる
と思ったんだけどな﹂
⋮⋮ケン、俺がもらってもそんなにうれしくないと思う。もう俺持
ってるし。どうしても解けなくて物置の奥に封印されてるし。
﹁誰がもらっても喜ばれそうなの選んでよ、ケンちゃん⋮⋮とりあ
えずありがと﹂
⋮⋮ケン、微妙だったな。
﹁で、サツキちゃんのプレゼントが私なんだねー⋮⋮ワン﹂
2716
⋮⋮もうワンって言わせるのやめません?
﹁あ、たこ焼き器だ!﹂
⋮⋮たこ焼き器? クリスマスにたこ焼き?
﹁なあサツキちゃん、サツキちゃんのプレゼントも俺と同レベルな
気がするんだが。どう思うよ?﹂
﹁そんなことないよ。私のプレゼントは実用的、ケンちゃんのプレ
ゼントは非実用的だもん﹂
俺に言わせりゃ50歩100歩だと思います。
﹁私最近これほしかったんだよね! ありがとサツキちゃん!﹂
キビ先輩が喜んでる分、どっちがいいプレゼントか勝負はサツキに
軍配が上がるかな⋮⋮やっぱり同レベルだと思うけど。
﹁どういたしましてー。ヤス兄に当たったら早速作ってもらおうと
思ってたんだけどね﹂
うん、サツキのプレゼントに当たらなくてよかった気がする。俺の
やらないかん事ができるだけじゃん。
⋮⋮さて、俺はキビ先輩のか。
﹁あ、運がいいねーヤスってば。私のプレゼントだよ、ワン﹂
﹁へえ、キビ先輩のプレゼントってそんなにいいもんなんですか?﹂
2717
﹁見れば分かるよー﹂
ほうほう、どれどれ⋮⋮?
﹁おお、マフラーですか﹂
マフラーか⋮⋮。
﹁あれ? もうちょっと喜んでもらえるかと思ったのに、結構微妙
な顔してるね、何で? 何で?﹂
﹁や、うれしいですよ?﹂
﹁本当? じゃあなんで疑問系?﹂
﹁うれしいですよ﹂
﹁なんか棒読みだなあ⋮⋮だったらもっとうれしそうな態度を体全
体で表現してよ。なんかあんまりうれしくないみたいじゃん﹂
⋮⋮ここで言っちゃまずいよな。タートルネックとか、マフラーと
かって首絞め付けられてる気分がしてあまり好きじゃなかったりす
るなんて⋮⋮。せっかくプレゼントしてくれたのに。
﹁うれしいですよ! 今度部活のときか学校行くときにつけていき
ますね!﹂
うん、要は慣れだ慣れ。毎日つけてりゃきっと慣れる。ありがとう
ございますキビ先輩。
2718
﹁あ、ボクはヤスのプレゼントなんだねえ! 何かな何かなあ?﹂
﹁そんな期待するなユッチ﹂
﹁期待してるよお! どれどれえ?﹂
がさがさと袋を開けるユッチ。ほんとにそんなに期待しないでくれ。
﹁あ、携帯ストラップだあ!﹂
うん、まあ誰がもらってもそんなに嫌がらないプレゼントって考え
たら携帯ストラップになった。
﹁無難だね、ヤス兄﹂
﹁無難だよ、ヤス⋮⋮ワン﹂
ええと⋮⋮いいじゃん! 無難でも。ユッチが喜んでるんだから。
﹁ありがとお! ヤスう! 今すぐつけるからあ⋮⋮どおどお?﹂
うんうん、無難に似合ってる。いやあ、もらってくれる相手がユッ
チでよかったかもしんない。他メンバーだったら﹁普通だねー、面
白くない﹂とか言われてそうだもんな。
﹁んで、俺がユッチのか⋮⋮なんか結構でかいな。何が入ってるん
だ?﹂
あれ? さっきまで明るかったユッチの顔が突然かげった。なんで
2719
そんな暗い顔になるんだ?
がさがさと大きな包みを開けて出てきたのは⋮⋮くまのぬいぐるみ。
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮なんか空気がしーんとしちゃっただろ。誰かなんかしゃべって
よ。
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮ケン、そんなアオ汁を飲んだときのような顔をするなよ。
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮ま、まあそりゃ顔も暗くなるよな。残念ながらケンはそんなに
ぬいぐるみは好きじゃない⋮⋮俺は好きだけど、ぬいぐるみ。
多分サツキかキビ先輩に当たればそこそこ喜んだだろうプレゼント
も、ケンに当たってしまえば困り物のプレゼントに早変わり。
ってかケンに当たるって事考えなかったのか? ユッチは。
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮え、えと、あのねあのねえ! 抱き枕にして眠ると気持
ちいいと思うんだあ!﹂
⋮⋮ケンがくまのぬいぐるみを抱き枕にして眠る⋮⋮きもっ。
﹁⋮⋮え、えとねえ! ブラッシングを続けて話しかけ続けてると
いつかきっと愛着がわいてきて、くまちゃんなしでは生きられない
体になってるよお!﹂
2720
それは嫌だ。さすがにぬいぐるみなしで生きられない体になるのは
嫌だ。
﹁⋮⋮⋮⋮あ、ありがとうなユッチ﹂
困りながらもお礼を言うケン。
﹁え、えと、ど、どういたましてえ!﹂
何とか返事をするユッチ⋮⋮もう1回プレゼント交換やり直そうか
と言いたくなってしまった。
⋮⋮まあこんなプレゼント交換もありだよな。
こんな風に、まだまだ続くクリスマスパーティ。
2721
306話:プレゼント交換︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
誰が誰にプレゼントをあげるかはさいころで決めました。適当です
ね︵汗︶
誰のものになるか分からないプレゼント交換⋮⋮昔、女子5人、男
子5人くらいでやった時に、リカちゃん人形が当たってものすごく
渋い顔をしていた男子がいました。その逆もまたしかりでしたが。
⋮⋮こういうときは無難なのが一番です︵^^
それでは今後ともよろしくです。
2722
307話:クリスマスソング
その後もほのぼのと盛り上がる5人組。BGMにはクリスマスソン
グ集。初めはおしゃべりに夢中になってたけど、一区切りついたと
ころでみんなしてBGMに流れている歌を聞き始めた。
今流れているのは俺のお勧め、ビーズの﹃いつかのメリークリスマ
ス﹄⋮⋮なんか物悲しいけれど、すごくいい。
⋮⋮さて、いつかのメリークリスマスも聞き終わったし、次は何入
れよかなあ。やっぱりさびしげな曲が終わったら、一転して明るい
曲を聴きたいよな。ドリカムの﹃サンタと天使が笑う夜﹄、キンキ
キッズの﹃シンデレラ・クリスマス﹄⋮⋮あ、プッチモニとかある。
lot
for
Fo
christ
You﹄が聴きたい﹂
Want
﹁ぴったりしたいX'mas!﹂⋮⋮クリスマスって入ってるから
Is
I
つい借りてきてしまったけど、どんなんやろ。
Christmas
﹁ヤス兄、私マライア・キャリーの﹃All
r
want
a
ふむ⋮⋮洋楽か。たまには洋楽もいいか。
don't
ええと⋮⋮これこれ。
﹁I
mas∼♪﹂
うん、この最初の所から、一気にテンポアップしてノリがよくなる
んだよな。名曲だよなあ⋮⋮。
ビートルズの音楽を延々と聴き続けれていると耳が慣れて聴けるよ
2723
うになると、英語も得意になるとかウララ先生言ってたけど、まっ
たく英語は得点があがらなかった。洋楽は好きになったので、無駄
ではなかったなあと思うけど。
﹁ヤスヤスう、﹃スノースマイル﹄はないのお?﹂
⋮⋮ユッチ、スノースマイルとは何ぞや? 初めて聞く曲なので、
まったく分からん。
﹁知らないのお? バンプオブチキンだよお!﹂
⋮⋮知らん。悪いがバンプオブチキンは﹃天体観測﹄しか知らん。
午前2時踏み切り前集合。あの曲はほんと最高だった。
﹁ってかそれ、クリスマスソングなのか? 今日はクリスマスソン
グしか用意してないぞ﹂
クリスマスソングならいろいろ用意したけど。なぜか手元には﹃あ
わてんぼうのサンタクロース﹄が握られている。﹃きよしこのよる﹄
も持ってるぞ。
﹁クリスマスと言ったらバンプだろお!? ヤスってば分かってな
いなあ﹂
⋮⋮そうなのか? そんな言葉初めて聞いたぞ。その﹃スノースマ
イル﹄ってやつにクリスマスを連想させるところがあればきっと借
りたけど。
このクリスマスパーティのために昨日、レンタル屋さんに行ってき
て﹃クリスマス﹄﹃サンタ﹄ってタイトルに入ってる曲を大量に借
りてきた。中にはどんな曲かもまったく知らんままとりあえず借り
2724
たやつもある。
おかげさんで普段はまったく聞かないさだまさしとかもなぜかCD
の山の中に入ってるぞ⋮⋮﹃おむすびクリスマス﹄ってどんな曲だ
ろね。変なタイトルだから面白い歌詞だと期待してるんだが。
﹁ヤスう、バンプは名曲ばっかりなんだから聴かないと駄目だよお。
聴かないヤスは人生の半分を損してるよお﹂
バンプを聞かないだけで人生の半分を損する俺の人生っていったい
なんなんだろうと一瞬考えてしまった。ってかユッチの人生ってバ
ンプにどこまで侵食されてるんだよ。
﹁ユッチってバンプオブチキンのファンだったのな。全然知らなか
った﹂
﹁うん、大大大ファンなんだあ! ヤスも絶対聞くといいよお! ボクのお勧めは﹃天体観測﹄と﹃ダンデライオン﹄と﹃カルマ﹄だ
からあ!﹂
﹁ん、わかった。気が向いたら聴いてみる﹂
﹁気が向かなくても聴くの! これは命令だあ!﹂
⋮⋮どんな命令やねん。ウララ先生の受け売りだけど、音楽とは音
Loveはある?﹂
を楽しむものなんだぞ。強制されて聞くものじゃないんだぞ。
﹁ヤス、その中にWhite
﹁あ、ありますよー﹂
2725
今年スピードが再結成するって言うことで、なんとなく借りてみた。
んじゃ、次はキビ先輩のリクエストにお答えして、ホワイトラブに
しますか。
﹁キビ先輩、スピード好きなんですか?﹂
﹁うん、初期が大好き﹂
﹁⋮⋮中期は?﹂
﹁びみょー﹂
⋮⋮再結成後は苦労しそうだな。
﹁ヤスう! なんでスピードがあってバンプがないんだあ!﹂
そんなこと言われても。別に家はCD屋さんじゃないからすべての
CDが置いてあるわけではないっすよ。
⋮⋮ぎゃーぎゃー文句を言ってたユッチも、ホワイトラブが流れ始
めると静かになった。
﹁へええ⋮⋮いいねえ⋮⋮この曲。最後のフレーズの﹃天使がくれ
た出会いは奇跡なんかじゃないよ﹄ってところから、ほんと大好き
い﹂
⋮⋮へえ、ユッチもこういう曲にあこがれたりするんだ。こういう
のもなんだけど、聞きほれている顔をしているユッチが見られるっ
てのは意外だった。普段は子供っぽい顔ばっかりしてるけど、そん
な顔もするんやね。
2726
﹁ヤス兄、次この曲ね﹂
﹁ヤス、その次はこれな﹂
﹁ヤスう、ボクは次これがいいなあ﹂
⋮⋮俺別にDJでも、使いっ走りでもないんだけど。
せっかくクリスマスソングのアルバムも借りてあるのに、みんなシ
ングルの曲ばっかり選別するのだろう⋮⋮俺の手間増えすぎっすよ。
2727
307話:クリスマスソング︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
I
Want
for
Christmas
クリスマスソングといえば、皆さんは何を連想しますか?
私は﹃All
You﹄を真っ先に連想しました︵^−^
Is
ユッチはバンプオブチキンのファンって考えてからバンプオブチキ
ンを聴きまくってます。
いいですねえバンプ。
それでは今後ともよろしくです。
2728
308話:うとうとサツキ
ある程度曲も聴いたところで、サツキとユッチがふわぁあとあくび
をし始めた。
もうすぐ22時だもんな、サツキはいつもならそろそろ寝る時間だ。
﹁サツキ、もう風呂入って寝た方がいいんじゃない?﹂
﹁まだ大丈夫なのー。今日はずっと起きてるのー﹂
や、別に大晦日じゃないんだからずっと起きてる必要はないと思う
ぞ。
﹁せっかくのクリスマスイブなんだからずっと起きてるのー、今日
1日は頑張るのー﹂
⋮⋮そこを頑張る必要あんのかなー。
﹁あのなサツキ、明日になれば今度はクリスマスが待ってるんだぞ。
クリスマスに寝不足でふにゃふにゃの状態だったら、なんも面白く
ないだろうが。せっかく教会に行ってみても、聖書の朗読が子守唄
なんてむなしすぎだし、教会の人にも失礼になるぞ﹂
﹁⋮⋮でも頑張るのー﹂
何がそんなにサツキを奮い立たせるのだろう?
こっくりこっくりと頭を揺らしながらもなんでか起きようとしてる
サツキ。
2729
﹁別にクリスマスイブは今年だけじゃなくて来年もあるんだからな。
今年のクリスマスイブをそんな名残惜しそうにしなくてもいいんじ
ゃないかい?﹂
﹁ヤス兄、それは違うよー。今年のクリスマスイブは今年しかない
んだよ。来年のクリスマスイブは今年とはまったく別のクリスマス
イブなんだよ﹂
⋮⋮そうなのか? そんなもんか?
﹁ヤス兄、今を生きるのが大事なんだよ。明日の事ばっかり考えて
ちゃ駄目なんだよ﹂
⋮⋮なぜ教訓話になる? ついでに半目になりながら話し続けるの
はよそう。ものすごく不気味だ。
﹁ヤス兄、こんな格言を知らないのー? ﹃まだ日が暮れない、働
けよ、あくことなく。そのうちに誰も働くことのできない死が来る﹄
﹂
知らん。誰だよそんな小難しいことを言った奴。そんなこと考える
くらいなら明日の献立を考えるぞ。
﹁つまりね、1日1日を精一杯生きろって言うことなんだよー。だ
から私は精一杯クリスマスイブを生きるのだー﹂
﹁サツキ、眠いなら寝た方がいいぞ。眠気によって頭が暴走しつつ
あるから。コタツに頭をぶつけながら、そんな変なセリフをセリフ
じゃない﹂
2730
﹁ヤス兄、このセリフはね、変なセリフなんかじゃないよ、ゲーテ
なんだよ。あのゲーテだよ。﹃イエス、ウィーキャン﹄のゲーテだ
よ﹂
それ全然違う人だから。﹃イエスウィーキャン﹄はまったく別の人
が言った言葉だから。そのネタは某有名雑誌の漫画で使ってたネタ
だからやめましょう。
﹁ゲーテってねー、いい言葉をたくさん残してるんだよ。﹃王様で
あろうと、百姓であろうと、自分の家庭で平和を見出す者が、いち
ばん幸せな人間である﹄とか﹃たやすくなる前は、何もかも難しい
ものだ﹄とか﹃ベストを尽くして情けなく失敗した。教訓は最初か
らするなだ﹄とか﹃他人に起こっている間はすべてがおもしろい﹄
とか﹃よくもクリリンをー!﹄もゲーテが言ったんだよ﹂
最後のだけは絶対違うから! なんでそこでドラゴンボールになる
の!?
﹁なあサツキ、眠いんだろ﹂
﹁眠くないもん、しゃっくりしてるもん﹂
それを言うならしゃっきりしてるかな? どう見てもしゃっくりは
してないなあ。
﹁もう寝ような、明日も早いから﹂
﹁だから私は今を生きるのー﹂
2731
⋮⋮駄目だこりゃ。何かのスイッチが入ってるみたい。
﹁ユッチもそろそろ寝た方がいいぞ。家に帰って寝るか? それと
も泊まってくか?﹂
﹁んー⋮⋮ボク、もう帰るのめんどくさあい⋮⋮泊まってってもい
い?﹂
オーケーっす。ってかそんな寝ぼけた顔のユッチをこの時間に帰ら
せるとどっかで事故しそうだ。
﹁キビ先輩はどうします?﹂
﹁うーん⋮⋮私も泊まってっていいかな? 今日はもう寝るけど﹂
﹁いいですよ。サツキの部屋に布団が3つあるはずなんで、敷いて
寝てください﹂
﹁りょーかい、それじゃシャワー浴びて寝るよ﹂
そう言って、居間から出てったキビ先輩。ユッチもそれに続いて出
て行く。
﹁ほら、キビ先輩もユッチも今日は寝るって言ってんだから、サツ
キももう寝ろよ。いつまでもコタツに頭突きし続けてんなよ﹂
﹁うん、寝るー﹂
⋮⋮あれ? さっきまでは今日はずっと起きてるって言ってたはず
なんだけどどうしたの?
2732
﹁サツキ、寝ろ寝ろって言ってた俺が言うのもなんだけど、今年の
クリスマスイブは今日しかないんだから今日は頑張って起きてるん
じゃなかったのか?﹂
﹁んー⋮⋮今の事ばっかり考えて、いっぱいいっぱいになるより、
やっぱり明日できることは明日やるのが一番だよ、ヤス兄。それに
クリスマスイブは今年だけじゃないし﹂
サツキ、今を生きるのが大事と言う話はどこへいったんだ!? 今
年のクリスマスイブは今日だけだって言ったのもサツキだぞ!
ユッチとキビ先輩が2階に上がっていくのと一緒に、サツキも風呂
に入って自分の部屋に眠りに行った。
⋮⋮訳が分からん。結局サツキは何がしたかったんだろう?
﹁ケン、さっきのサツキっていったい何がしたかったの?﹂
﹁んー⋮⋮見張りじゃん?﹂
﹁見張り? 何を?﹂
﹁まあ、いろいろ﹂
やっぱり訳が分からん。ま、寝ぼけると訳の分からん行動に出るの
はいつものことだしな。気にしないでおこう。
⋮⋮さてと、父さんと母さんが帰ってくるまでは、ケンと暇つぶし
でもしてるかあ。
2733
308話:うとうとサツキ︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
最近、﹃小説家になろう﹄で連載小説が更新されると、携帯やパソ
コンに更新情報がメールで飛んでくるって機能を作ってみたんです
が、既にそういうサービスを提供しているページがあるんですね⋮
⋮。
ネット小説更新チェック←
http://newnvs.ddo.jp/newnvs/
なんか悔しいです︵^︳^;
それでは今後ともよろしくです。
2734
309話:おにいサンタ
パーティも終わり、のんびりと残ったお菓子をかじりつつ、ケンと
だべっている。父さんと母さんはもう帰ってきて、さっさと夕飯食
べて寝た。仕事、お疲れ様です。
うーん、やっぱりスナックと言えば、かっぱえびせんだよなあ。
﹁ヤス、やっぱりスナックの王様はカールだよな﹂
はあ? 何言ってんだケンは。スナックの王様は﹃やめられないと
まらない﹄のかっぱえびせんだろうが。
⋮⋮まあいいや。なんかこの話題で議論しあうのが面倒だ。
ケンの言葉に適当にそやねー。と返事をしつつ、またさくさくとか
っぱえびせんを食べる。
⋮⋮ううむ、やっぱりいつまでたっても手が止まらない。やめられ
ないとまらない⋮⋮さすがかっぱえびせん。
2人してむしゃむしゃとスナックを食べてたら、ふとケンの手が止
まった。
﹁ところでヤス、ひとつ聞きたいんだけど﹂
﹁ん、なんだ?﹂
突然改まった口調で質問してくるケン。なんかそんなに俺に聞きた
いことでもあるんか?
﹁ヤスはユッチとポンポコさんとどっちが好きなんだ?﹂
2735
⋮⋮ケン、何でそういう話をするかなあ。
﹁や、どっちとか比べるもんじゃないだろ?﹂
﹁いやいや、夜といったら猥談に花を咲かせるべきだろ?﹂
⋮⋮猥談て。
﹁ええやん、どっちも好きって事でさ﹂
﹁いやいやヤス、俺が聞きたいのは﹃友達﹄として好きかとかどう
でもいいから、﹃恋人﹄にしたいのはどっち? って聞きたいんだ
よ﹂
いや、分かってるけど。
﹁こう、なんだろな、別にユッチともポンポコさんとも恋人になり
たいとか⋮⋮そういう感情はそんなに今のとこないんだが﹂
﹁そんなにって言う事はちょっとくらいあるんか?﹂
﹁ないない、別に恋人になってほしいとか思ってない﹂
言葉のあや。別にそんな気持ちはありませんがな。
﹁だったら、ドキドキとかムラムラとかモンモンとかニャンニャン
とか、そんな気持ちは沸いてくんのか?﹂
﹁そういうのはちょっとだけ⋮⋮って何言わせるんだよ﹂
2736
まったく、そりゃ高校生なんだからモンモンとかムラムラとかそう
いう気持ちはありますよ。あって何が悪い。
ええ、ええ、そんなよこしまな思いを抱いたせいでポンポコさんの
兄弟に危うく笑い死にさせられるところだったんだから⋮⋮やなこ
とを思い出した。
﹁と言うかなんでその2人なん?﹂
﹁今ヤスと仲がいいのってその2人だろ? アオちゃんは彼氏いる
から除外するとして﹂
ん、まあ確かに女子で仲いいの、その3人だけど。
﹁あ、もしかして他にいんの? 好きな人﹂
﹁いないいない﹂
いないって知ってるだろ。同級生で仲がいいのはその3人だけっす。
ってかユッチとポンポコさんとアオちゃんだけって⋮⋮陸上部だけ
かあ。交友範囲狭いなあ。
﹁突然転校してしまったあの子が忘れられないとか? んで来年進
級したら、また久しぶりの再開! って言う展開?﹂
﹁ないない﹂
そんなドラマチックな展開はドラマと漫画、フィクションの世界だ
け。
ってか、ケンは小学校のときから俺の事知ってるだろうが。そんな
人がいたらケンも知ってるって。
2737
﹁そう言えば、最近キビ先輩とも仲がよかったな。もしかしてキビ
先輩か?﹂
それもないっす。
返事もするのも面倒になってきて、ただ首を振るだけ。
﹁うーん⋮⋮んじゃもしユッチかポンポコさんかアオちゃんかキビ
先輩か、誰でもいいけど告白されたらどうする?﹂
﹁そんなことありえないから別にいい﹂
﹁⋮⋮ふむ、前にアオちゃんがヤスの家でコイバナに花を咲かせよ
うとしたけど、まったく盛り上がらんくって残念って話してたんだ
けど、そりゃ盛り上がらんよなあ﹂
こらケン、分かってるならそんな話題を振るなよ。
﹁やっぱりヤスの中での1番はサツキちゃんか?﹂
﹁そうそう、そのとおり﹂
そこだけは変わらんなあ。変えるつもりもないけど。
﹁⋮⋮ケンさあ、俺、時々思うんだよ。サツキとは小さい頃から一
緒に育ってきたけど、別に兄妹って訳じゃなくてお隣さんとかお向
かいさんとかだったら、もしかして今頃付き合ってたりするんかな
あとか。でもやっぱり兄妹じゃなかったら、どこかで疎遠になって
たかもしれないし﹂
2738
﹁⋮⋮ヤス、突然そんなことを語りだされても反応に困るぞ﹂
いいんだよ、ふと思ったことなんだから。
﹁兄妹で結婚もできればいいのにな。なんで遺伝子って近親だと駄
目なんだろな、神様がどっかで創り方をまちがえてしまったとしか
思えないよな。でもな、昔なんか近親婚だらけだったんだぞ。神様
だって姉弟で結婚してたりするのざらなんだから。ゼウスとヘラと
か。ガイアとウラノスとか。クロノスとレアとか﹂
﹁なあヤス、クリスマスイブに神様を冒涜する発言をされるともの
すごく困るぞ﹂
⋮⋮そっか。今日はまだクリスマスイブだったな。いいじゃん、ク
リスマスを祝う神様と今話してる神様って別の神様のはずだし。
﹁いいじゃんなあ、兄妹だって。何が駄目なんだろなあ﹂
﹁⋮⋮サツキちゃんに続いてヤスも壊れたか。クリスマスイブって
テンションが上がる日なんだな﹂
⋮⋮別に俺は壊れていない。
﹁なあ、ケン。どう思うよ﹂
﹁とりあえず寝ろ、明日になったらすべてを忘れてるから﹂
﹁⋮⋮大丈夫、俺は忘れない﹂
﹁いいから寝ろ﹂
2739
⋮⋮やること1個だけやってからな。
クリスマスの朝。
﹁ヤス兄、今年のサンタさんからは髪留めもらったよ!﹂
﹁⋮⋮へえ、よかったね﹂
なんかまだ眠い⋮⋮昨日は結局ケンと2時くらいまで延々としゃべ
ってたからなあ。
﹁今つけてるんだよ! 似合う?﹂
﹁うん⋮⋮似合う似合う﹂
⋮⋮ねみい。
﹁もう、ヤス兄ったらちょっとちゃんと見てよ!﹂
⋮⋮大丈夫、昨日しっかり見たから。すごく似合うのは確認済み。
﹁おっはよ。お、サツキちゃん、その髪留め似合うね﹂
﹁ありがと、ケンちゃん! ⋮⋮それに比べてヤス兄は﹂
2740
しょうがない、俺、昨日はあまり寝ていない。ケンもそんなに寝て
ないはずなのに、なんでそんなに元気なんだ?
﹁しょうがないなあ⋮⋮ヤス兄は。そんなふにゃふにゃした顔じゃ、
いつまでたっても彼女できないんだからね!﹂
大丈夫、そんな気になるのははきっと当分先だから⋮⋮こんな風に
バカが言い合えるサツキがいて、ケンがいて⋮⋮こんな日がこれか
らも続きますように。
2741
309話:おにいサンタ︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
タイトルと違って、あんまりサンタの話はないです。
ヤス君にこれから彼氏彼女ができるかは未定です︵^︳^;
それでは今後ともよろしくです。
2742
310話:大晦日
﹁もーいーくつねーるーと、おーしょーおーがーつー♪﹂
﹁もう後1回寝ればお正月だなー、サツキ﹂
﹁もうヤス兄、せっかく気分よく歌ってるんだから、チャチャ入れ
ないでよ﹂
すまんすまん。
今日は12月31日、2008年の最後の日。世間で言うところの
大晦日というやつだ。
12月25日に5人で行ってきた教会のクリスマスは、結構よかっ
た。結構教会って入りにくそうなイメージがあったんだけど、ケン
がいってたとおり、別にそんなに気構えして入るようなところじゃ
なかった。
俺らが行った教会は保育園も隣で運営してる教会で、ちっちゃい子
たちも大勢、自分達と同じくらいの年齢の人もちらほらいた。
意外や意外だったのは、クリスチャンってのはすっごい聖人君子っ
ぽい人を想像してたんだけど、全然そんなことなく話してみると結
構適当だったり、ごまかそうとしたりするもんだって言うのが分か
った。
⋮⋮うん、変な色眼鏡をかけてみるのはやめた方がいいよな。
まあでも、別に信者になろうとかそんな気持ちには全くならなかっ
たなあ⋮⋮5人とも25日に教会に行って、それからはもういっか
なあって話してた。
2743
今日は家族みんなで大掃除。普段掃除しないところ、窓とかたんす
の裏とか、物置とか1日中ドタバタしてた。いやあ、ほこりって見
えないところに結構たまるよな。
⋮⋮ようやく夜の21時も過ぎて、一区切りついて今はサツキと2
人で年越しそばをすすりながらテレビを見てる。
﹁大晦日といえば年越しそばだよな、サツキ﹂
﹁そう言えば何でそばなんだろうね? うどんでも冷麦でもそうめ
んでもきしめんでもいいと思わない?﹂
や、冷麦とそうめんは夏だろ。冬に冷麦とかそうめんはしないと思
う。
﹁そばのめんってのは細くて長いだろ? だから﹃細く長く生きれ
ますように﹄っていう思いを込めて大晦日にそばを食べるようにな
ったらしいぞ﹂
﹁だったらうどんの方が太くて長いんだから﹃太く長く生きれます
ように﹄っていう思いが込められるでしょ? 大晦日にはうどんを
食べるべきなんじゃない?﹂
ああいえばこういう妹め。屁理屈をこねるな。
﹁香川ではうどんを食べるらしいぞ⋮⋮ってかさ、別にサツキって
2744
そば好きだろ?﹂
﹁うん﹂
﹁じゃあ別にうどんじゃなくてそばでいいじゃん﹂
﹁なんかヤス兄の話に納得しそうになったのが悔しかったんだもん﹂
納得すればいいじゃん! 何でそこで悔しいって思うのさ!?
﹁全く、父さんと母さんの話は素直に聞くくせに、何で俺にだけは
そんなにひねくれるんだろな?﹂
﹁それはヤス兄だもん、しょうがないよ﹂
しょうがなくないから! 別に俺にも素直になったっていいんじゃ
ないのか!?
﹁そう言えばお父さんとお母さん、大丈夫かな?﹂
﹁今頃後悔してるんじゃん? だって大晦日の神社なんて、近所で
も大混雑だぞ﹂
今年は父さんと母さん、大晦日デートをしゃれ込むんだって言って
伊勢神宮まで行って、そのまま1泊してくるらしい。
⋮⋮そんな元旦の日に行ったら混むだろうに、父さんも母さんも物
好きだなーとちょっと思ってしまう。
﹁お父さんたちが帰ってくる時にはもう来年になってるんだね﹂
2745
﹁そだな、もう来年になってるな﹂
﹁ヤス兄、今年も終わりだね﹂
﹁そだな、今年も終わりだな﹂
﹁大晦日になると、なんだか今年のことを振り返りたくなってくる
んだよね﹂
﹁そだな、振り返りたくなってくるな﹂
節目節目のたびに、思えばこんなこともあったなあと、なんだか振
り返りたくなる。
春夏秋冬、すべての季節にそれぞれの思い出が残ってる。
﹁⋮⋮ヤス兄、ちゃんと返事してよ﹂
あれ? ちゃんと返事してたつもりだったけど。なんか変な返事し
たかな? ⋮⋮したんだろな。サツキがちょっと怒った顔してる。
ま、まあいいや。早く話題変えよ。
﹁ちなみにサツキ、サツキにとって今年の一番の思い出といえばど
れなんだ?﹂
﹁んー⋮⋮やっぱり私はテニスだよ。あれだけ熱くなれた夏はなか
なか来ないね﹂
﹁大丈夫だって。サツキなら陸上部に入って、やっぱりまた熱い夏
をすごすことになるって﹂
2746
﹁そうだね⋮⋮私ね、まだ高校に入学もしてないのにもう高校生活
が楽しみなんだよね﹂
いいな、そのポジティブ思考。
﹁ヤス兄の今年の思い出といえば何になるの?﹂
﹁俺? 俺はそだなー⋮⋮たくさんありすぎて、ひとつに決められ
ないや﹂
﹁そうかもね、入学して、合宿に行って、駅伝に出て⋮⋮それ以外
にもたくさんしたもんねー﹂
そうそう、いろいろあったし、いろいろ経験した。
﹁来年こそは陸上では県大会に出場したいな﹂
﹁⋮⋮ヤス兄、なんだか目標が低いよ? 毎日屋上で叫んでるんで
しょ?﹂
叫んでるけどさあ。なんか俺、何やってるんだろうって気分なんだ
よな。
や、だって俺の実力考えたら県大会出場とかそれぐらいがせいぜい
なんだもん。
﹁ま、そんな煮え切らないところもヤス兄だけどね﹂
⋮⋮すんません。
﹁何はともあれ、また来年もよろしくね。ヤス兄﹂
2747
﹁あいあい、よろしく、サツキ﹂
それでは、よいお年を。
2748
310話:大晦日︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
この作品って季節が逆転してるんですが⋮⋮なんだかほんとに今日
が大晦日な気分になってくるので不思議です。
それでは今後ともよろしくです。
2749
311話:あけましておめでとう
﹁ヤス兄、あけましておめでとー﹂
﹁あけましておめでと、サツキ。もうあけてから12時間くらいた
ってるけどな﹂
﹁別にいいでしょ、正月とは休むものなんだよ。そのために大晦日
に大掃除をしておせちを作るんだよ。堂々と休んで何が悪いの?﹂
それはそうなんだけど⋮⋮除夜の鐘も聞かずに紅白歌合戦も最後ま
で見ずに、10時頃には布団に入って起きてくるのは昼の12時っ
てどうなんだろうな。俺は昼じゃなくて夜中の12時にあけまして
おめでとうってやりたかったよ。正月の朝に1人で朝ごはん食べる
ってとてもさびしかったよ。雑煮を1人ですするのって結構さびし
いものがあるんだぞ。
2009年1月1日。今日から新しい1年が始まる。
最初の1日くらい、父さんも母さんもいないんだからサツキと同じ
ように朝寝坊しようと思ってたのに、なぜかいつもと同じ時間に目
が覚めてしまう。目覚ましもかけてないのに⋮⋮なんて嫌なんだ、
俺の体内時計。
んで、いつまでたってもサツキが起きてこないので、仕方なしにず
っとテレビを見てた。うん、やっぱり1月1日はニューイヤー駅伝
だよな。
今でもやってるけど⋮⋮トヨタ自動車九州⋮⋮何で今年は欠場して
しまうんだよ。山の神の走りを見たかったよ。テレビ見ながら﹁山
の神、ここに降臨!﹂って叫びたかったよ。
2750
﹁サツキ、俺は言いたい。大晦日くらい夜更かししようよ﹂
とりあえず、山の神が見れなかった悔しさをサツキにぶつけてみる。
﹁や﹂
一言で返答された。なんかあまり発散できた気がしない。
﹁や、じゃなくてだな。1年間365日のうち、子供達が唯一堂々
と夜更かししてもいい日として大晦日は定められているんだぞ。そ
んな日に10時に寝なくてもいいやん﹂
大晦日、サツキが寝てからも最後まで1人で紅白を見続けていた。
﹃ずん♪ ずんずんずんどこ♪﹄が頭からこびりついて離れない。
ドリフの人気にあやかりやがって、とか思って聞いてたはずなのに、
ついつい聴き入ってしまった自分がちょっと悔しい。うん、いい歌
だった。
﹁私は眠いときには寝るの。人間は夜起きていられるような体じゃ
ないんだよ? 早寝早起きこそが体にいいと思わない?﹂
﹁全然早くないけど。今もう昼の12時だぞ、サツキ﹂
もうちょっと粘って愚痴ってみる。
﹁ヤス兄さあ、正月から説教したって楽しくないでしょ? もっと
正月くらいはのんびりしようよ﹂
⋮⋮サツキ、お前は普段から十分のんびりしてると思うのは俺の気
2751
のせいなんだろうか。
﹁ヤス兄、そんな気難しい顔してないで、おせち食べよおせち。私
黒豆食べたくて仕方なかったんだー﹂
⋮⋮ま、いいか。
﹃いただきまーす﹄
大晦日からせっせと作ったおせち。もう何年も作り続けてるから、
慣れたもんだ。
﹁うん、やっぱりヤス兄の作る黒豆っておいしいよねー﹂
ありがとサツキ。別に何をしたというわけでもなく、ただおなべの
中に黒豆と一緒に釘を入れて、ストーブの上においておいただけだ
けどな。じっくりことこと、時々水がなくなってないかなーと覗き
にいく。それだけでおいしく出来上がり。
﹁これだけ上手に作れるなら、どこにお嫁に行っても問題ないよね﹂
﹁や、お嫁にはいけないから﹂
2752
しいていうならお婿さんな。そんな気はさらさらないけど、高校生
だし。
﹁ヤス兄っておせち料理の中で何が好き?﹂
﹁俺? そうだな⋮⋮甲乙つけがたいけど、俺は伊達巻卵﹂
﹁そうなんだ、私はやっぱり栗きんとんが好きなんだよねー、あと
数の子も好き⋮⋮って何で今年は数の子がないの?﹂
﹁ん? そりゃ必要ないから﹂
﹁なんでー? 私数の子食べたい!﹂
﹁数の子ってニシンの卵なんだぞ。んでな、ニシンってのが卵をた
くさん産むんだ。そこから子孫繁栄とか子供がたくさん生まれます
ように、ということを願って元旦に食べるんだけど、別に今年はう
ちに子供がたくさん生まれるようにって願うような人がいないし﹂
父さんも母さんも40超えてるし⋮⋮今から新しく弟か妹ができる
って事はないだろうということで、まあ数の子は買わなくてもいい
かと思い買ってない。俺もサツキもまだまだ無縁だし。
﹁そんなことないよ。この前私、﹃妹がほしい﹄ってお母さんに言
ったら﹃頑張ってみるね﹄って言ってたもん﹂
初めて聞いた⋮⋮ほんとですか? 母さん。
﹁なんかねー、お母さんももう一人ほしいらしいよ﹂
2753
⋮⋮ほんとですか? 母さん。
﹁その話したときお父さんもいたんだけど、お父さんも子供ほしい
みたいだよ。お父さんもその話聞いたら、﹃おーし、母さん。旅館
行ったら頑張ってみるか﹄って言ってたよ﹂
ええと、父さんは何を頑張るんでしょうか?
﹁それでね、お父さんもお母さんも﹃子供は何人いてもかわいいも
んだよー﹄って言ってたよ?﹂
⋮⋮それはそうかも。
﹁ヤス兄はほしくない? 弟か妹﹂
﹁ん⋮⋮できるならほしいな﹂
けど、生まれるとしたら俺が17になってからだよな⋮⋮すんげえ
年の差。サザエさん一家もびっくりだよ。その弟か妹かと並んで歩
いてても絶対に兄弟って見られない気がするなー。
﹁でしょ? ほら、数の子いるじゃん。ヤス兄、この後スーパー行
って数の子買って来ようね﹂
⋮⋮あれえ? 今の話ってもしかしてサツキ、数の子がほしかった
だけ?
﹁でも、ほんとに妹ができたらいいよね。きっとものすごくかわい
がっちゃう気がするんだよ﹂
2754
や、違うな⋮⋮ほんとに妹がほしいんだね。すごく期待してる顔だ。
そういえばユッチがはじめて泊まりにきたとき、妹ができたみたい
って喜んでたもんなあ。年上だけど。
母さん、無理せず頑張ってください。
2755
311話:あけましておめでとう︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
私の知り合いで一番年の差が離れてるのというと、12歳年の差の
兄弟がいます。1番大きな年の差兄弟って言うと、どのくらいなん
でしょう?
それでは今後ともよろしくです。
2756
312話:1年の計は元旦にあり
おせちも食べた。これから居間でごろごろしよう。
﹁ヤス兄ヤス兄、書初めしようよ!﹂
⋮⋮ええ、めんどい。
﹁俺、今日は1日中ぐうたら寝てたいんだけど﹂
﹁ええ? ヤス兄、こんなことわざを知らないの? ﹃1年の計は
元旦にあり!﹄﹂
や、知ってるけど。それがどうした。
﹁1年の事始にね、しっかりと目標を定めて何かをやろうと考えて
おかないと、その1年はうまくいかないよって意味なんだよ。だか
らね、書初めやろうよ。それで書初めに目標を書くんだよ﹂
﹁別に明日でええやん。今日はぐうたら過ごそうよサツキ。確か書
初めって1月2日に書くもんだろ﹂
﹁ヤス兄⋮⋮古きよき風習を守ることって大事だよね﹂
⋮⋮何を悟ったかのような顔して語りだしてんだサツキ。
﹁けどね、形式にこだわりすぎて、本来の意味を忘れてしまうのっ
て駄目だと思うんだよ﹂
2757
⋮⋮書初めの本来の意味ってなんだ?
﹁古きよき物をどんどんと取り壊し、形骸化した形式ばかりを守る
日本に未来はあるの!? ヤス兄!﹂
そんな大風呂敷を広げられても。日本の未来よりも、俺にとっては
今日一日をいかにしてごろごろ過ごすかのほうが重要なんだ。
﹁だからね、別に1月2日に書初めをする必要は無いんだよ。そも
そも書初めを1月2日にこだわる意味ってどこにあるんだろうね?﹂
⋮⋮さあ。
﹁だからね、書初めを今やってもいいと思うんだよ﹂
﹁ええと、形式にこだわりすぎてって言うなら、そもそも別に書初
めやらなくてもいいんじゃない? 今年の目標もマジックかなんか
で書いとけばいいんだし﹂
めんどい事はやらないようにやらないように。特に正月は出来る限
りサボってすごすに限る。
﹁ヤス兄のバカあ!﹂
ええ!? 何でここで怒るの!?
﹁ヤス兄、書初めをしないなんて日本人として間違ってるよ! 書
初めは日本人の赤ちゃんが生まれたとき、最初に行う儀式のひとつ
なんだよ!﹂
2758
んな訳ないやん。赤ちゃんが字書けるわけないし。
﹁ヤス兄、ヤス兄はまだ高校生なんだよ! 今からそんな会社勤め
で疲れた40代後半のサラリーマン子持ちが送る日曜日の過ごし方
みたいな日々をしてどうするの!?﹂
⋮⋮え? 俺ってそんな風に見えるの? 別に40代じゃなくても
10代でも休日は家でごろごろしたいと思うのって普通なんじゃな
いの?
﹁ヤス兄、だからこそ今日、今から書初めをするんだよ! これは
ヤス兄のためなんだから!﹂
﹁ええー⋮⋮﹂
﹁返事は﹃ええー﹄じゃないよ! ヤス兄!﹂
﹁はいはい﹂
﹁﹃はい﹄は1回!﹂
﹁はい﹂
⋮⋮どしたのサツキ? 何がそこまでサツキを書初めに突き動かそ
うとするの?
﹁ちなみに、ヤス兄が書く文字はこれだからね﹂
そういってサツキが1枚のお手本を差し出す。ええと⋮⋮どれどれ。
2759
﹃新星発見﹄
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮おい、サツキさんや﹂
﹁んー、何ー?﹂
﹁これ、何で俺が書かなくちゃいかんのさ?﹂
﹁ヤス兄ってね、高校入学とか、変化がないとずっとずっと同じこ
とを繰り返すんだよ。それはそれで悪いことじゃないんだけど、時
には冒険心を持って新しいことを始めたほうがいいと思うんだ。だ
からヤス兄にはこの﹃新星発見﹄って言葉を書いて欲しいんだよ。
この言葉には﹃新しい自分を見つけてほしい﹄って想いが込められ
てるんだよ﹂
﹁ええとな、もんのすごくいい言葉を言っているように聞こえるけ
どな。これ俺去年書いたんだよ﹂
﹁え? そうなの?﹂
﹁うん、中学の宿題で﹂
あ、サツキの顔が固まった。
﹁⋮⋮﹂
﹁なあサツキ、弁解したいことはあるか?﹂
2760
﹁ふっ、ヤス兄⋮⋮﹃立っているものはせめて兄ぐらいは使え﹄と
いうことわざを知らないの? 楽するためには手段を選ばないよ﹂
﹁全然違うけどな、それを言うなら﹃立っているものは親でも使え﹄
だ﹂
﹁お父さんお母さんにはこんなことさせられないでしょ?﹂
俺にはいいんかい!? ⋮⋮いいんだよな。なんか返答が分かって
しまったから、黙っておこう。
という訳で書初めの準備。なんだかんだと言い合いをして、結局サ
ツキの言うとおりの行動をすることになった。
﹁サツキはまず﹃新星発見﹄を書くとしてだな。目標は何書くんだ
?﹂
﹁そんなの書いてからのお楽しみだよ。先に答えだけ聞こうだなん
て駄目だよ、ヤス兄﹂
⋮⋮それもそうか。ええと⋮⋮俺は何書こうかな。書初めの紙って
2761
縦に長いんだよなあ。少なくても3文字。出来れば4文字がいいよ
な⋮⋮おし、あれに決めた。
紙を文鎮で押さえ、筆を墨汁につけて、すっと書き始める。字の上
手い下手は問題じゃない。これは勢いが大事なんだ。
﹁よし、できた⋮⋮﹂
うん、なかなかの力作じゃないかな。かなり満足だ。
﹁どれどれー、ヤス兄は何書いたの?﹂
﹁ん? 見るか? いい言葉だぞ﹂
﹃平和主義﹄
﹁うん、いい言葉なのかもしれないけど、ボツ﹂
﹁ええ!? 何で駄目なのさ!?﹂
﹁向上心が感じられないし、チャレンジ精神が感じられないし、何
より面白くないのが大減点だよね﹂
⋮⋮書初めに面白さを求めるなよな。サツキ。
﹁それに比べて私の見てよ。完璧だよ!﹂
ほほう、どれどれ?
2762
﹃安産祈願﹄
﹁おいおいおいおい!! なんて事書いてんの!? 駄目だろそれ
は!? ママは高校1年生とか笑えなさすぎだから!﹂
﹁お母さんが妹を頑張って産んでくれますようにって思いを込めた
だけなんだけど⋮⋮ヤス兄、どんなのを想像したの?﹂
⋮⋮サツキめ、絶対俺がこういう反応するって分かってて書いたな。
そうさ、その通りに焦ったさ。何が悪い。
ってかまだ妹が出来るかどうかも分かってないのに気が早すぎだろ。
サツキの奴。
﹁次は自分の目標を書かないとね﹂
そだよ。自分の目標を書く奴のはずなのに、母さんの目標を書くな
よな。
2枚目完成、今度はちょっとだけ冒険心を取り入れた文面にしてみ
たぞ。
﹁ヤス兄、できたー? 私は出来たよ﹂
﹁おお、俺も出来た出来た﹂
2763
さて、第2ラウンドサツキのはどんなのかな?
﹁ヤス兄、今度は同時に見せっこしよーね﹂
﹁おう、いいぞ﹂
﹃せーの!﹄
﹃七転八倒 ヤス﹄
﹃勇気鈴々 サツキ﹄
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ヤス兄、それ絶対7転び8起きと間違えたでしょ﹂
﹁サツキこそ、りんの字が間違ってるぞ。﹃鈴﹄じゃなくて﹃りり
しい﹄の﹃凛﹄だからな﹂
⋮⋮俺らバカだな。
﹁⋮⋮もう1回、今度はまた別のを書こうか、サツキ﹂
﹁そだね﹂
2764
第3回戦、いつの間にか俺とサツキの戦いに様変わりしている、ど
ちらが相手を納得させる言葉を作れるかという戦いだ。
﹁いくよ、ヤス兄!﹂
﹁こい、サツキ!﹂
何この掛け声と思いながらも楽しんでいるサツキと俺。
﹃せーの!﹄
﹃走りぬく﹄
﹃兄いじり﹄
﹁⋮⋮おい、サツキ。それがお前の今年の目標か?﹂
﹁うん、この前ケンちゃんとも、今年はどっちがどれだけヤス兄を
いじれるか勝負だねって話してたんだよ﹂
そんな勝負しなくていいから!
﹁ヤス兄のもやっとチャレンジ精神がある感じの文になったね。そ
れ、ヤス兄の今年の目標にしようね﹂
2765
⋮⋮走りぬく⋮⋮か。頑張って走りぬくか。
﹁最後はやっぱりこんな文字でどうかな、ヤス兄﹂
俺の耳元でささやくサツキ。
﹁ふむふむ⋮⋮ちょっとというか、かなりくさいけど、それがいい
んじゃないかな﹂
﹁くさいは余計だよ﹂
すまんすまん⋮⋮という訳で、サツキと2人で書いた最後の4文字。
﹃家族の絆﹄
うん、オッケーオッケー。いい感じに書けました。んじゃサツキ、
言葉どおりこれからも絆を大事にしていこうな。
2766
313話:ユッチ、家出をする?
今日は1月2日。
今日もまたサツキと居間でごろごろとテレビを見てる。
ただいま箱根駅伝、第5区。ものすごく速い人が1人山登りの道を
駆け上がっている。
⋮⋮ってかすごすぎ。あんなスピードで走り続けて最後まで持つの
かあの人は。
ピンポーン
んあ、誰か来たみたい。別にうちを訪ねてくるような親戚もいない
し⋮⋮正月早々誰だろ?
﹁はいはーい﹂
﹁やほほーい、ボクボクう﹂
﹁我が家には朴簿空という知り合いはいませんが﹂
﹁ユッチだよお! ヤスのバカあ!﹂
分かってたけど。なんとなくやってみたくなった。
﹁んで? ユッチってば突然どしたんだ?﹂
﹁遊びにきたあ!﹂
2767
⋮⋮や、今正月だよね? 正月って普通家族で一家団欒するもんじ
ゃないのか? それかおじいちゃんちとかおばあちゃんの家に行っ
てお年玉をもらうってのが正月の普通の過ごし方じゃないのか? 普段うちに入り浸っているケンですら3が日は家族ですごすって言
ってたぞ。
﹁⋮⋮もしかしてお邪魔だったかなあ? それならポンポコの家に
でも行ってこようかなあ⋮⋮﹂
﹁いやいや!? 大丈夫大丈夫! 大歓迎だから! ちょっと待っ
てろすぐ開けるから!﹂
ポンポコさんの家ってめっちゃ遠いやん! 何で家に帰らないの?
慌てて玄関までいってドアを開ける。
﹁あけましておめでとお! ヤスう!﹂
﹁あけましておめでとさん、ユッチ﹂
ちょっとだけ着物姿のユッチとか期待したけど、いつもどおりのト
レーナーにジーパンという、色気の無い格好。
それがユッチらしいといえばユッチらしいけど。
﹁まま、あがってあがって﹂
⋮⋮それにしても何でわざわざうちに来たんだろね。
2768
﹁あけましておめでとうございます! ユッチ先輩﹂
﹁あけましておめでとお、サツキちゃん﹂
サツキとユッチもお互いに挨拶を済ませて、3人そろってコタツに
入る。はああ⋮⋮あったかい。コタツにみかんさえあれば他に何も
いらない気分になってくる。うん、やっぱりコタツは最高だよな。
﹁あったかあい⋮⋮﹂
﹁そうですよねえ⋮⋮﹂
すでに目が別の世界に飛び立とうとしてるユッチとサツキ。コタツ
の魔力は偉大だ。
﹁ところでユッチ、突然どうしたんだ? 家出でもしてきたのか?
プチ家出なんて流行んないぞ﹂
﹁ち、違うよお。別に家出してきたわけじゃないもん﹂
んじゃなんやねん。ものすごく家に帰りたくなさそうだったけど。
﹁あ、あのねえ。今ボクの家ドラマなんだあ﹂
⋮⋮ごめん、意味不明です。
﹁昨日ね、おにいちゃんが帰ってきたんだよお﹂
﹁そりゃ、自分の家なんだからユッチのお義兄さんも帰ってくるだ
ろ⋮⋮ええと、薫さんだったっけ?﹂
2769
﹁それは義理のおにいちゃん! 本当のおにいちゃんが帰ってきた
んだよお!﹂
⋮⋮分かりにくすぎ⋮⋮ええと、今ユッチの家にはお義兄さんとお
兄さんとお姉さんがいるのか。
﹁ずっと1人暮らししてて去年もおととしも3年前も4年前も、正
月にもお盆にも帰ってこようとしなかったんだけど、突然帰ってき
たんだあ﹂
﹁ふうん、よかったじゃん﹂
全然家に居つこうとしなかった兄が帰ってくる⋮⋮ってかユッチ、
それならなおのこと家でお兄さんと過ごしたほうがいいじゃん。
﹁でも、おにいちゃんってばお嫁さんも連れてきたんだよお。あ、
まだ結婚はしてないんだけど﹂
⋮⋮はあ。さいですか。ってことは今ユッチの家にはお兄さんとお
義兄さんとお姉さんとお義姉さんがいることになるのか⋮⋮混乱し
てきた。
﹁お父さんがかんかんになってさあ⋮⋮おにいちゃんだって仕事が
すごく忙しかっただけかもしれないのにお父さんなんか﹃今までふ
らふらほっつきあるいとったような奴なんぞ知らん!﹄って言って、
それからどんどんヒートアップして、﹃お前みたいな奴に嫁はいら
ん!﹄って言い出したんだあ﹂
⋮⋮あれ? 普通って﹃お前みたいな奴に嫁はやらん﹄って言うも
2770
んじゃないの? 何かがおかしいぞそのセリフ。
﹁そのあとずっといい争いしてた時に分かったんだけど、おにいち
ゃんってば出来ちゃった婚みたいでさあ。お父さんが﹃むこうの親
御さんに顔向けできん⋮⋮﹄って嘆きだしちゃって﹂
うあ。大変だあ。ってか昨日帰ってきてから今日までずっといい争
いしてたのかな? それは嫌やなあ⋮⋮。
﹁映画とかドラマのワンシーンみたいだったよお。あんなビリビリ
した空気、ボクには耐えられないよお﹂
⋮⋮はあ、それで逃げてきたわけね。家出じゃないって言ってたけ
ど、家出みたいなもんだな。
﹁出来ちゃった婚じゃなかったらユッチのお父さんももうちょっと
穏便だったのかな。出来婚って英語だとショットガンウェディング
って言うぐらいだし﹂
孫が出来るからって気に入らん男に自分の娘をやらないといけない
娘さんの父親が、新郎に向かってショットガンを向けるからという
のが由来。
﹁そういうことなら、ユッチのお父さんの怒りが収まるまではのん
びりしてけば? サツキもいい?﹂
﹁うん、別にいいよ﹂
﹁ありがとお、ヤス、サツキちゃん﹂
2771
⋮⋮ん、まあゆっくりしてけ。
﹁はあ⋮⋮ヤスの家っていいよねえ⋮⋮ポカポカしてるっていうか、
平和っていうか、あったかあい⋮⋮ふわあ⋮⋮なんか眠くなってき
ちゃったあ⋮⋮﹂
ええとユッチ、それは多分ただ単にコタツに入ってるからだと思う
ぞ。
﹁ボクねボクね、今日1個だけ決心したんだあ。ボクが将来大人に
なって、いつかどこかで誰かと結婚するとしても、出来ちゃった婚
だけはしないんだあ﹂
⋮⋮それ、俺とサツキに宣言してどうすんだ? 俺らはいったいど
んな反応をすればいいんだ?
﹁はふぅ⋮⋮⋮⋮﹂
あ、寝た。
﹁ユッチ先輩ってばお疲れだね。昨日からずっとあんまり寝てなか
ったのかな?﹂
かもな。そういう仲が悪い空気ってユッチものすごく苦手そうだし、
すごく疲れたんだろうな。
⋮⋮ま、いい夢見てくれ。お休みユッチ⋮⋮けど、よだれはたらさ
ないでくれ。
2772
313話:ユッチ、家出をする?︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
ふと思ったんですが中学3年生や高校1年生って思いっきり反抗期
の時期ですよね?
反抗期の登場人物ゼロですね、みんな親好き⋮⋮まあいっか。
それでは今後ともよろしくです。
2773
314話:マーフィーカルタ
ユッチがすやすやと寝始めたら、さつきも一緒に寝息を立てている
⋮⋮。
2人並んで眠ってると、ほんとに姉妹みたいに見えてくるな、ユッ
チのが妹に見えるけど。
⋮⋮ああああ、ユッチってばこんなにヨダレたらして。ついでに髪
もぼさぼさじゃん。寝癖だらけだぞ。
ヨダレをふきふき。髪をときとき。
﹁んがあ⋮⋮ふぐぅ⋮⋮﹂
⋮⋮なんだその訳の分からん唸り声は。まったくしょうがないやっ
ちゃなあ。
﹁ヤス兄ってばそんな風にしてると、ユッチ先輩のお父さんみたい
だねー﹂
⋮⋮サツキってば起きてたのね。ってかやめてくれい。ユッチと俺
は同い年だ。親子に見られるのは心外だ。
﹁ほんと、ユッチ先輩みたいな妹がいたらいいのにね。いよいよお
母さんに頑張ってもらわないと﹂
⋮⋮サツキ、どんなに子供っぽく見えてもユッチは年上だからな。
なんか発言が変だからな。
2774
﹁んあああ⋮⋮よく寝たあ、ヤスう、今何時い?﹂
﹁ほんとよく寝てたなあ⋮⋮もうすぐ19時だぞ﹂
俺んちはもう夕飯食べ終わってしまった。ユッチも起こそうかと思
ったんだけど、あんまりにもぐっすり眠ってるもんだから、ついつ
い起こしそびれてしまった。
﹁ふわあ⋮⋮ボク、そろそろ帰らないといけないんだあ⋮⋮﹂
﹁さっきユッチの家にも電話しといたから。ユッチのお姉さんが﹃
泊まってきてもいいよ﹄って言ってたぞ﹂
﹁でもお⋮⋮﹂
﹁ってか今帰ったら俺んち来て寝ただけじゃん。駄目だろそれじゃ。
せっかく来たんだからもっと遊んでけよ﹂
﹁ふわあ⋮⋮ありがとお⋮⋮﹂
⋮⋮まだ寝ぼけてるな。
2775
﹁ところでユッチ、お正月と聞いて連想するものはなんだ?﹂
﹁かちぐりい﹂
⋮⋮確かに勝栗はおせち料理のひとつにあるけどさ。なかなか渋い
チョイスだな。
﹁他には?﹂
﹁かまぼこお﹂
﹁他には?﹂
﹁こぶまきい﹂
﹁他には?﹂
﹁くりきんとーん﹂
﹁他には? ってかおせち料理ばっかじゃん﹂
﹁それじゃあ⋮⋮おもちい﹂
﹁⋮⋮他には?﹂
﹁ぜんざーい﹂
﹁⋮⋮⋮⋮他には?﹂
﹁おぞうにー﹂
2776
くいもんばっかやん。この食いしん坊め。
﹁ユッチ先輩、食べ物以外では何がありますか?﹂
﹁ええとお⋮⋮初日の出だあ﹂
﹁他には?﹂
﹁ふくぶくろお﹂
﹁他には?﹂
﹁おそまつう﹂
それを言うなら門松かな。ううん⋮⋮なかなか俺らが期待するセリ
フを言ってくれないなあ。
﹁ユッチ先輩、カルタやりませんか?﹂
﹁あ、やるやるう!﹂
⋮⋮痺れを切らしたサツキが先に言ってしまった。まあいいけど。
﹁それでそれで? どんなカルタなんだあ?﹂
﹁マーフィーカルタって言うのがありましたので、それをやりたい
んですよ﹂
﹁まーふぃー? まーふぃーってなんだあ?﹂
2777
あ、ユッチは知らないかあ。
﹁ま、やってみりゃどんなのかわかるから。やらない?﹂
﹁うん、やるやるう!﹂
⋮⋮という訳で、ユッチと俺とサツキの3人で、カルタ開始。読み
手は母さん。
ひとり
﹁ふふん、﹃お手つきユッチ﹄って呼ばれた腕を見せてあげるんだ
からあ!﹂
駄目じゃん。なんかめちゃくちゃ弱そうだぞ。
﹃キャンプで食べるレトルトカレーはものすごくおいしい
部屋で食べるレトルトカレーはものすごくむなしい﹄
⋮⋮長いな。
﹁ええとええとお⋮⋮﹂
﹁はいっ! 残念、お手つきすら出来なかったなユッチ﹂
﹁うううう、次はボクが取ってやるんだからあ!﹂
⋮⋮でも、なんでレトルトカレーってキャンプで食べるとあんなに
2778
おいしく感じるんだろう?
﹃いくをカタカナで書くと卑猥﹄
﹁はいはいい! へっへえ、どうだヤスう!﹂
⋮⋮ユッチ、そんなに張り切ってとらなくてもいいぞ。
﹁ねえねえヤスう、﹃イク!﹄って卑猥? ﹃イクう!﹄⋮⋮ねえ、
今卑猥に聞こえたあ?﹂
⋮⋮ユッチ、俺にそんなこと聞かないでくれよ。俺はどんな反応す
ればいいんだよ。
﹁ヤスってばなんで無視するんだよお?﹂
⋮⋮無視させてくれよ! そこは無視だって! 母さん、早く次読
んで次!
﹃今年の流行語大賞は来年の死語である﹄
﹁はいっと。これわかるー。芸人で来年見ないなんてことざらだも
んね。私もやっと1枚取れたよー﹂
⋮⋮頑張れ芸人さん。
﹃一発屋といわれている人でも一発当てただけすごい﹄
2779
⋮⋮そやね。ほとんど当てた人いないね。
﹁はいっ、これあんまりマーフィーっぽくないねー﹂
﹃みんなやってるって言うみんなは大抵2、3人である﹄
﹁はい⋮⋮お母さんにおもちゃねだったときって大抵そうだったよ
ねー﹂
﹁そうそう、ケンの家で遊んだゲームが欲しくなったときとか、ケ
ンしかもってなかったのに⋮⋮﹂
⋮⋮なんか母さんの目がものすごくきつくなったんですが。昔のこ
となんだから許してやってよ、母さん。
﹃年上のギャグは笑えない﹄
﹁はいっ! まさにヤス兄のことだね﹂
﹁うっさいよ! しかもサツキ反応早すぎだし!﹂
﹁これだけはとらないとって思ってたんだよねー﹂
どれだけ笑えないと思ってるんだよ。なんか腹立つー。もういいよ、
次だ次だ。
2780
﹃ヤマザキ一番と、マーフィーの法則は、なんとなく似ている﹄
﹁はいっ!﹂
⋮⋮おいおい、マーフィーカルタ。そんな事書いていいんかい。ヤ
マザキから訴えられるっすよ。
﹃すべての商品は、次なるサービスのために問題点を作っておくも
のである﹄
﹁⋮⋮ええとお⋮⋮どこだあ?﹂
ユッチの左手の真下にあるのに⋮⋮ユッチが気づいてない、取れな
い。
﹃男は一度女性に生まれ変わってみたいと思っている。しかしその
動機は不純である﹄
﹁はいっ⋮⋮おいこら、何でみんなして俺の方を見る?﹂
﹁ヤス兄もそうなのかなあって思って﹂
⋮⋮邪推するのはやめてくれ。
﹁俺はあんまり思ったこと無いけど﹂
2781
﹁あんまりってことは1度はあるんだー?﹂
⋮⋮ええ、そりゃありますよ。悪いか。
﹃2人の出会いは運命だと言ったカップルが、分かれると運命は偶
然になる﹄
﹁はいっ⋮⋮そう言えばアオちゃんって、付き合うたびに運命って
いってるよお﹂
アオちゃん、運命っていくつあるんだよ。
﹃対岸の火事ほど面白いものは無い﹄
﹁はいっ⋮⋮これは真理だね﹂
﹁うん、真理だ﹂
﹁えええ? ヤスもサツキちゃんもひどいんだあ!?﹂
ええ? ひどいかなあ?
﹁ユッチ先輩、30mくらい離れたところで﹃ひどい⋮⋮私との関
係は遊びだったのね!﹄﹃そ、そんなことないさあ﹄って全くの他
人の修羅場を見てるの面白くないですか?﹂
﹁そ、そんなことないよお﹂
2782
ふ、悩んだな。その時点で対岸の火事は面白いと思っている人間の
1人ってことだな。
そして最後の1枚⋮⋮カルタは最後の一枚になったときは反応速度
だけが勝負だ。枚数を数えたところ、サツキ18枚、俺17枚、ユ
ッチ11枚⋮⋮俺の勝ちはもうないんだけど、せめて最後の一枚く
らいとってやりたいと思ってしまう。さあ、母さん⋮⋮読んでくれ。
﹃マーフィーの法則は宇宙の法則﹄
3人の手がいっせいに動く。
﹃はいっ!﹄
ぱしぱしぱしんっ!
⋮⋮3人の手を見てみると、ユッチの手が一番下にある。
﹁やったあ! ボクの勝ちい!﹂
⋮⋮負けたかあ。なんかこれだけ喜んでいるユッチを見ると、取っ
た枚数は勝ってるのに負けた気分になるから不思議だ。
試合に勝って勝負に負けた、そんな気分だ。
2783
﹁もう1回やろお! もう1回!﹂
おし、もう1回やるか! 次は1番になってやるからな。
2784
314話:マーフィーカルタ︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
マーフィーの法則 嘉門達夫
歌にもなってます。半分くらい歌詞からの引用です⋮⋮歌詞という
のか微妙ですが。
それでは今後ともよろしくです。
2785
315話:ユッチのいる家
今日は1月4日、そろそろ冬休みも終わる。そして明日からまた部
活だ。
しっかりと寝正月を楽しみたいと思ってたんだけど⋮⋮。
﹁ねえねえヤスう、初詣行こうよ初詣!﹂
﹁ヤス兄ヤス兄、初詣行こう!﹂
⋮⋮いまだにユッチが泊まっている。ユッチってば家に来てからず
っと騒ぎっぱなし。サツキもユッチの元気っぷりに引っ張られてい
るのか、普段よりはしゃいでる気がする。
ほんと、ユッチのいる家は元気な家になるなあ。なんか妹が2人に
なったみたいだ。
﹁それよりユッチ、そろそろ家に帰らなくていいのか?﹂
﹁大丈夫だあ。ちゃんとおねえちゃんには電話したもん。今日も泊
まってっていいよって言われたもん﹂
そか。けどなユッチ、まずこっちの了解を得てからにしてくれよ。
﹁ってかな、サツキにもユッチにも言いたいんだけど、今日って何
月何日だか分かってるか﹂
﹁1月4日だよ? ヤス兄﹂
2786
﹁そうだ、1月4日だ。もう正月から4日もたっている。4日もた
ってから初詣って何かおかしくないか?﹂
﹁おかしくないよ、今年初めてのお参りだったら例え2月でも3月
でも、12月でも初詣なんだよ。ヤス兄﹂
﹁そうだそうだあ、サツキちゃんの言うとおりだあ!﹂
言葉上は間違いじゃないのかもしれないけど⋮⋮12月はおかしい
と思う。
﹁ヤス兄も初詣行こうよ。今ならきっと全然人がいないんだから﹂
﹁それはその通りだと思うけど、伊勢神宮とか明治神宮みたいなで
っかな神社じゃなければ、1月2日くらいに行ったってもうほとん
ど人いないだろ﹂
いまさらになって何故突然行こうと言い出すんだ? 俺はごろごろ
したいのに。
﹁他にも私お守り買いたいんだよ。今年は﹃合格祈願﹄のお守り﹂
﹁ボクもボクも、おねえちゃんに﹃安産祈願﹄のお守り買ってあげ
るんだあ﹂
﹁や、俺は別に今年買いたいようなお守りが無いし﹂
しいて買うなら﹃健康第一﹄とか﹃身体健康﹄のお守りくらいだも
んなあ。
2787
﹁しかもお守りって結構処分に困るんだよな。あれってどうやって
捨てればいいんだろ?﹂
去年、自分も合格祈願のお守りを買ったんだけど、合格してしまっ
たら必要なくなるお守り。いまだに自分の机の仲に眠っている。燃
えるごみで捨ててしまってもいいんだろうか。
﹁なんだよさっきからあ、ヤスはボクたちと初詣行きたくないのお
?﹂
⋮⋮というか俺、1月1日に実は1人で初詣行ってきたんだよなあ。
サツキが全く起きる気配が無かったので、1人さびしく行ってきた。
ほとんどの人が家族連れだったり友達同士だったりカップルで来て
たり⋮⋮何で俺1人で歩いてるんだろうと悲しくなったぞ。
そんなことを言えるはずもなく、どう答えようか悩んでしまった自
分⋮⋮ええとええと。
﹁そういえばお兄さんの結婚は認められそうなのか?﹂
﹁わ、ヤス兄ってばものすごい強引な話題転換﹂
うっさいわい。話題を変えないと自分の立場が悪すぎじゃんか。
﹁それでユッチ、どうなん?﹂
﹁ううんと、まだ取っ組み合いのけんかしてるって言ってたよお﹂
長いなー、1月1日からずっとけんかしっぱなしじゃん。
﹁でもねでもね、おねえちゃんが言ってたんだけど、多分大丈夫だ
2788
って。犬同士がじゃれあってるようなもんなんだってえ﹂
そか、久々の再開に親子ともども喜んでるだけなのに、照れくさく
てけんかしてるみたいな感じだろ。きっとこんな感じだろ。
﹁おねえちゃんはおにいちゃんのお嫁さんと今仲良くなって、いろ
んな話してるっていってたよお⋮⋮それにしても、結婚って大変だ
ねえ﹂
そだな⋮⋮一生における最大のイベントだろうからな。いろんな人
がいろんな事を言うさ。
﹁おねえちゃんのときの結婚も大変だったんだあ。だってね、家継
がせるつもりだったおにいちゃんが家出てっちゃったから、おねえ
ちゃんが家を継ぐって事になったんだあ﹂
⋮⋮家を継ぐって話って、もう最近は廃れた話かと思ってたんだけ
ど、今でもあるんだなあ⋮⋮けど、家を継ぐってどういうことなん
だろ?
﹁婿に来てくれる人じゃないと駄目だからって言われてたんだあ。
けどおねえちゃんの旦那さんって一人っ子だったんだあ。家のお父
さんとも、相手のお父さんともずっとずっと話し合いしてたあ。今
のお姉ちゃんは幸せそうにしてるけど、あの時は大変だあって思っ
たよお﹂
そうなんだなあ⋮⋮全く実感わかないや。
﹁そう言えばさ、もうお兄さんの奥さんには子供いるんだよな﹂
2789
﹁うん、まだ生まれてないけどねえ。今4ヶ月なんだってえ﹂
へえ、4ヶ月か。ってことは出産は6月頃になるのかな。
﹁ってことはユッチって6月にはおばさんになるんだなあ。よかっ
たじゃん、﹃ユッチおばさん﹄﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
あ、黙った。
﹁どしたー? ユッチおばさん?﹂
﹁⋮⋮お﹂
﹁お? おしっこか? ユッチおばさん、トイレならあっちだぞ﹂
﹁おばさんって言うなあ!!﹂
痛いっ!? すね蹴るな! 痛いから⋮⋮歩けない⋮⋮鈍痛があ⋮
⋮。
﹁ユッチ先輩、ヤス兄は置いといて初詣に行きませんか﹂
うんうん唸っていたけど、サツキが俺のこと無視してユッチを初詣
に誘う⋮⋮痛いんだ、無視しないでくれえ⋮⋮。
﹁うん、いこおいこお!﹂
⋮⋮待って待って、俺も行くから⋮⋮けど、すねが痛い。歩けない
2790
⋮⋮。
2791
315話:ユッチのいる家︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
昨日は12時過ぎまで飲んでしまいました。
⋮⋮頭が痛いです。
それでは今後ともよろしくです。
2792
316話:初詣
さてさて、やってきました初詣。2回目だけど、初詣。場所は家か
ら一番近くの神社。神社の目の前にはお寺があるという、まあよく
見かける景色。
このあたりの人はお寺で除夜の鐘を聞いた後、そのままその足で神
社に初詣に向かうというのが一般的な流れらしい。
らしいというのは俺はいまだにその流れを経験したことが無いから
だ。サツキも母さん達もさっさと寝てしまい、一緒におまいりにい
くメンバーがいなかった。なので除夜の鐘は自宅でしかきいたこと
が無い。一度くらい間近で除夜の鐘聞いてみたいと思う。
ま、それは置いといてお参りだお参りだ。
﹁ヤス兄ヤス兄、綿飴食べたい﹂
﹁はいはい⋮⋮ってサツキ、お参りに来たんだからな。お祭りに来
たわけじゃないんだからな﹂
まったく、サツキが初詣来たいって言ったのに、綿飴にうつつをぬ
かすとは何事だ。綿飴は確かにおいしいけど。
﹁分かってるよー。あ、ユッチ先輩も綿飴食べません? ヤス兄の
おごりですよ﹂
﹁食べる食べるう!﹂
おいサツキ、いつから俺のおごりになったんだ?
2793
﹁それから、あそこに射的がありますよ。綿飴食べたら次は射的や
りませんか?﹂
⋮⋮もうお祭りに来たのかお参りに来たのか訳がわからない店の回
り方だな。
﹁やるやるう! ボク射的得意なんだよお!﹂
ちょっと文句を言ってやろうかと思ったけど諦めた。サツキとユッ
チがそろうとかしましいのはここ3日間でよく分かっている。女が
3人そろうとかしましいというのはよく聞くけど、サツキとユッチ
は2人そろった時点ですごいかしましい。
﹁ヤス兄、のんびり歩いてないで早く早く!﹂
⋮⋮ま、サツキもユッチも楽しそうにしてるし、あの2人を見てる
のはほほえましくもあるから別にいいんだけどね。こういうのに付
き合うのも楽しいし。
さてと、ようやく屋台めぐりも終わり、賽銭箱の前まで立って、お
参りだ。
﹁ヤス兄ヤス兄、5円玉頂戴!﹂
でた、5円玉。お参りの主役ともいえる5円玉。ご縁がありますよ
うにって言うもんな。
2794
財布の中から5円玉を探してサツキに渡す⋮⋮ってかサツキも財布
を持っているはずなんだけど何で俺にねだるんだ?
﹁ヤスヤスう! ボクには45円頂戴! ボクの家では始終ご縁が
ありますようにって45円お賽銭入れてたんだあ!﹂
なんでユッチにまでお金をあげなきゃいけないのかよく分からない
んだが。絶対もらえるもんだって目で見られると、あげたくなくな
るんだけど、今回はとりあえずあげる⋮⋮まあ、しょうがないか。
んじゃ俺は⋮⋮十分に5円がありますようにって、15円いれとこ
かな。
ジャラジャラと鈴を鳴らして、パンパンと2回拍手してお参りをす
る⋮⋮ええと、そう言えば何を神様にお願いするか考えてなかった
なあ⋮⋮今回はサツキが俺と同じ高校に入れますようにって祈って
おこかな。
﹁ヤス兄、何お願いした?﹂
﹁んー⋮⋮サツキが言ったら教えるぞ﹂
﹁じゃ、私も教えないもん。ヤス兄、いつか知らなかったこと後悔
するんだよー﹂
うわ、そんな言い方されると気になるじゃん。
よし、お参りもしたし、おみくじもしたし、お守りも買ったし。
2795
﹁サツキもユッチもそろそろ帰るか?﹂
﹁うん、帰る帰る。今日は大満足﹂
うん、そりゃおみくじで大吉がでりゃ満足だろうな。さっきやった
ときは自分なんて末吉だったから不満足だ。
⋮⋮帰り道、着物姿をした女性がしずしずと歩いている姿を見た。
きっとあの人もどっかにお参りに行くのかな。
﹁ヤス兄ってばそんなにまじまじと見ちゃ駄目だよ?﹂
﹁や、ごめんごめん。けどさっきの人、すんごい似合ってたなー﹂
大人の魅力というか、とても美人だった。着物姿の人を見るのって
なんでかどきどきしてしまう。着物を着ている人って何であんなに
魅力的なんだろう?
﹁ああいう人見ると、サツキとユッチにも着物を着てもらいたいと
か思うよな﹂
﹁私も着てみたいけど、残念だけど家には着物無いもんね﹂
﹁ボク、着物持ってるよお! 今度写真見せてあげるう!﹂
へえ、ユッチの家にはあるんだ? 2796
﹁今度着てみて欲しいなあ⋮⋮ってか今年着てきてくれればよかっ
たのに﹂
﹁そんなのしょうがないだろお⋮⋮ヤスって着物好きなのお?﹂
﹁うん、好き。特に2人の着物姿は絶対見てみたいなって思うな﹂
﹁ほんとお!?﹂
﹁ヤス兄ってばお世辞が上手いねー。珍しい﹂
サツキ、珍しいは余計じゃ。
﹁けど2人ともすごい似合うと思うもんな。着物ってさ、昔の日本
人みたいな体型の人がすごく似合うって言うじゃん。ボンキュッボ
ンじゃなくて、ずんどうで足が短くてっていう人。サツキもユッチ
もめっちゃ似合うって。間違いない﹂
﹁⋮⋮今のって殴っていいセリフですよね? ユッチ先輩﹂
﹁うん! もう思いっきり殴ってやらないときがすまないよお!﹂
ええええ!? 今の褒め言葉! 褒め言葉だから! 世界3大美女
の小野小町だってずんどうだって言われてんだから!
﹁ですよね⋮⋮覚悟してね、ヤス兄﹂
無理無理無理無理! せめてパーにしてパーに! グーはやめてえ!
2797
﹁頭がいたいっす⋮⋮﹂
﹁自業自得だよ、ヤス兄﹂
﹁そうだそうだあ! ゲンコ一発ですんで運がいいと思ええ!﹂
⋮⋮いいじゃんなあ⋮⋮ずんどう。ずんどうの何が悪いんだよう⋮
⋮。
2798
317話:正月あけ、初練習
1月5日、晴れ。今日からまた部活再開だ。
⋮⋮昨日までものすごいぐうたらと過ごしてたから、今日からまた
頑張らないとな。
陸上競技場に着くと、何となく引き締まった気分になるから不思議。
﹁おはようヤス、元気だったか?﹂
﹁おはようさんポンポコさん。元気元気。正月3が日でしっかり充
電できたよ。ポンポコさんは正月は何してた?﹂
﹁私か? 私は家族で温泉に行っていた。下呂温泉と言うところを
知っているか?﹂
﹁ああ、知ってる知ってる。岐阜県の山奥のどっかにある温泉﹂
行った事はないのでこの程度の知識しかないけど。
﹁よかったぞ。体の心からあたたまる。たまには温泉と言うのもい
いものだな⋮⋮﹂
ふむう⋮⋮そんなによかったのか。うらやましい。俺の家はどこも
行かずに寝正月してたからなあ。
﹁そう言えば私たちの高校の目の前にも温泉があったな﹂
﹁ああ、あったあった。名前なんだったっけ⋮⋮あしがら温泉とか
2799
だったっけか﹂
今まで目の前にあるにもかかわらず行った事がない。
﹁そんな名前だったな。今度部活帰りにでも行くか?﹂
﹁おお、いいねえ⋮⋮そうだ、春休みとかに部活のメンバーで温泉
巡りとかしてみない?﹂
陸上部のメンツでどっか遊びにいくって実はあんまりやってない気
がするんだよなー。いろいろわいわいはしてるけど、なんだかんだ
と俺の家で遊ぶくらいしかしていない。たまにはみんなでどっかで
出かけると言うのも楽しいかもしれんし。
﹁ふむ⋮⋮温泉巡りか⋮⋮それはいいかもな。ついでに春合宿とか
こつけるのもありだな﹂
⋮⋮ポンポコさん、旅行を楽しみましょうよ。合宿をする為に提案
した訳じゃないんですが。
﹁うむ、考えれば考えるほどいい案だと思う。ヤス、それでは陸上
競技場と温泉が近くにあり、かつある程度の人数が泊まれる宿泊施
設の手配を頼むぞ﹂
﹁ええ!? 俺がすんの!?﹂
﹁当たり前だろう? 発案者が動くのは当然ではないか﹂
ええ? 今その企画、ほとんどの起案はポンポコさんが決めてって
る気がするんだけど。
2800
﹁おそらく春合宿は自由参加になるからな。どのくらい参加するか
⋮⋮引率者のウララ先生、ゴーヤ先輩、キビ先輩、マー君先輩、ボ
ーちゃん先輩、ユッチ、アオちゃん、私、ケン、ヤス、サツキの計
11人くらいか。ヤス、10人程度泊まれる宿屋を捜せばよいと思
うぞ﹂
⋮⋮何か勝手にどんどんと話が膨らんでいく。俺はただ単に4、5
人くらいでぶらりとどっかに旅行行ければなあとか思ってただけな
のに。⋮⋮まあ、しょうがないか。
﹁とりあえず人数確認と宿の手配くらいはするよ⋮⋮ところですご
く気になる事が1つあるんだけど﹂
﹁ん? なんだ?﹂
﹁温泉は混浴だよな﹂
﹁1人で入っていろ﹂
⋮⋮うわ、ポンポコさん、反応がものすごい冷たいっす。いいやん
混浴、ロマンですよ⋮⋮いいや、俺が決めるんだし。混浴のある宿
屋探そ。
﹁さてヤス、今年最初の部活なのだが、やはり正月中走っていたと
しても少々なまるからな。今日は軽めに15キロ、キロ4分でいこ
う﹂
え? 俺正月中はずっとゴロゴロしてたっすよ? というか部活が
終わった去年の12月26日から全く練習してないっすよ?
2801
﹁多分3分50くらいでもヤスなら行けると思うが、いきなりスピ
ードを上げると怪我の元だからな。徐々にならしていこう﹂
⋮⋮いきなり15キロってきつすぎじゃないでしょうか。
﹁ヤス! 残り3キロ! この1周のタイムは100秒! この1
キロのタイムは4分13秒!﹂
⋮⋮はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮体が動かねえ⋮⋮めっちゃ重いんですが。も
う無理⋮⋮走るのやめてえ。
﹁へこたれるな! 最後まで走り通せ!﹂
無理っすよお⋮⋮。
﹁ヤス! 走りきらなかったら、明日は20キロ走らせるからな!﹂
鬼だ⋮⋮ポンポコさんって絶対に鬼だよ⋮⋮。
2802
⋮⋮はぁ⋮⋮はぁ⋮⋮な、なんとか15キロ走りきれたっす。
﹁⋮⋮ヤス、正月はどんな風に過ごしてた?﹂
﹁適当に過ごしてた﹂
﹁いいからきちんと答えろ﹂
⋮⋮こええ。ポンポコさんがめっちゃ怒っている雰囲気がひしひし
と感じられます。
﹁ええと、朝6時半に起きて、父さん母さんが9時頃に起きてきて、
3人で朝ご飯食べて、テレビ見て、12時頃になったらユッチとサ
ツキが起きてきて5人でご飯食べて、ゲームして遊んで、19時頃
になったら夕飯食べて、テレビ見て寝た﹂
﹁何故ユッチがいるのかがよく分からないが、とにかくまったく走
らなかったと言う事だな﹂
⋮⋮ええ、その通りです。
﹁ヤス、陸上において、いやどんなスポーツにも共通する事なのだ
が⋮⋮最も大事な事は何だと思う?﹂
⋮⋮知らないっす。
﹁人によって意見はさまざまだと思うが、私は﹃継続する事﹄が大
2803
事だと思っている﹂
継続する事っすか。
﹁才能のある人間は、多少頑張るだけで、グングンと伸びる。だが、
そんな人はごく一部の人間だ﹂
⋮⋮それはそうだろうな。
﹁もしかするとヤスにはすごい才能が眠っているのかもしれないが、
残念ながら私にはそれを見分けるだけの実力を持っていない﹂
そんな事ないっすよ。ポンポコさんはすごいっすよ。
﹁ヤス、才能のない人間同士で才能のある人間に勝つにはただただ
頑張るしかない⋮⋮けれど、ヤスが頑張らなかったら、絶対に勝つ
事は出来ない﹂
ポンポコさん、そんな悲しそうに言わないでくれ。
﹁正月くらいは休みたいと言う気持ちも分かる⋮⋮けれど﹂
ごめんなさい⋮⋮俺、基本めんどくさがりで、だらけてしまう人間
だけど⋮⋮。
ポンポコさんの期待に添えられるか分からないけど、これから手放
しで褒めてもらえるよう頑張ります。
2804
317話:正月あけ、初練習︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
正月ゴロゴロして、明けたら体が動かず直後の試合でボロ負けした
経験ありの私です︵−−
スポーツしてるかたは正月でもちょっとくらい体を動かした方がい
いです。
それでは今後ともよろしくです。
2805
318話:短所は長所?
1月7日、明日から3学期が始まる。
⋮⋮めんどい。ときどき思う。何故休みと言うのは一生続かないの
だろうとか。
部活が今ちょうど終わった。いつも一緒に帰ってるサツキはユッチ
とどっかに出かけるらしくて、今日はアオちゃんと2人で帰ること
に。
なんかユッチが泊まりに来るようになってから、サツキとユッチ、
すごく仲良くなった。俺としては妹が2人になった気分も少しある
けれど、それ以上にユッチにサツキをとられた気分だ。なんか悔し
い。
﹁ダメダメな事を考えてる顔してますね、ヤス君﹂
﹁いいじゃん、俺は元々ダメ人間なんだし﹂
﹁何でいきなり自虐するんですか﹂
なんとなく⋮⋮部活が始まって走れない自分の体を思うと、なんて
自分はダメ人間なんだと思う。マイナス思考はマイナス思考しか生
まないと分かっていても、ついついマイナス思考になってしまう自
分。
﹁そういう気分が落ち込んでる時は思いっきり遊ぶのが一番ですよ。
そうだ! 今から久しぶりにゲームセンターにでも行きませんか?﹂
2806
﹁ゲームセンター? 別にいいけど⋮⋮﹂
﹁ほんと久しぶりですよね。夏休み以来くらいでしょうか。腕はな
まってませんよね?﹂
﹁久しぶりって言うか⋮⋮俺、アオちゃんとゲームセンターに行っ
た記憶が全く無いんだけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮黙ってしまった。まあ、どうでもいいことだし、これ以上つっ
こみいれるのも面倒なので流しておくかな。
電車の中、ゲームセンターに向かう途中、適当に雑談してる。
﹁ところでヤス君って何をそんな落ち込んでるんですか?﹂
﹁⋮⋮自分の才能の無さと性格の悪さ﹂
﹁何か根本的なことで悩んでますね。何かあったんですか?﹂
⋮⋮アオちゃんに相談しても、どうなるわけでもないけど⋮⋮とり
2807
合えず相談してみよかな。
俺は正月明けで全然走れなくなっている自分と、そんな風になって
いるにも関わらずいろんな事がめんどくさいなあと感じてしまって
いる自分がいて、そんな自分がどっちも嫌いってことを話した。
﹁ヤス君、大丈夫ですよ。そんなことは今更じゃないですか﹂
⋮⋮アオちゃんに相談した自分がバカだったとか一瞬思ってしまっ
た。ってか相談させておいてそんな返事はねえだろ。
﹁ごめんなさい、ついヤス君にはへこませる一言を言いたくなって
しまうんですよね。今のは本心じゃないですよ?﹂
⋮⋮ああ、なんか信用できなくなってしまった。何でアオちゃんは
わざわざ俺に対してへこませるような一言を言いたくなるんだよ。
どんな嫌がらせだよ、おい。
﹁ヤス君、別に私はヤス君の事性格悪いなんて思ってないですよ?
自己中で、めんどくさがり屋で、人の話聞かない時も結構あるよ
ねと思いますけど﹂
﹁思ってるだろ!? アオちゃん俺のこと性格悪いなって思ってる
だろ!?﹂
﹁別に思ってないですよ?﹂
⋮⋮今の言い方で性格いいと思える人ってきっといないと思います。
﹁例えばヤス君、短所って考え方一つで長所にも早変わりするんで
すよ。例えば大雑把っていうのは細かいことにはこだわらないって
2808
言えますし、神経質っていうのは几帳面って考えられます﹂
まあ、そうか⋮⋮そんな風に考えればいいのか。めんどくさがり屋
は﹃おおらか﹄とかに言い換えればいいんだな、ちょっとだけ気分
が楽になる。
﹁まあでも、こんなの自分の短所に対する言い訳だと思いますけど
ね﹂
おい! あげて落とすなよ!
﹁例えばヤス君、ヤス君は今自分の事を自己中で、めんどくさがり
屋で、人の話聞かなくて、自分の意見を押し通すわけでもないのに
決まったことにはぐちぐち言って、マイナス思考で、才能も無くて、
優柔不断なのに﹃優柔不断の優の字は優しいって書くんだ!﹄と言
って自己弁護しようとして、それでオタクであることがばれると﹃
オタクの何が悪い!﹄って開き直って、バカなくせして自分は頭が
いいと思ってて、こんな自分はどうしようもないダメ人間だと思っ
ていると言いました﹂
言ってない。誰もそこまで言ってない。ってかやっぱりアオちゃん、
俺を落ち込ませようとしていないか?
﹁けれど、ヤス君のいいところは自分の短所を自覚しているところ
です。意外と自分の短所を分かってない人って多いんですよ﹂
⋮⋮アオちゃんのことだな。絶対にアオちゃんことだ。アオちゃん、
自分の毒舌についてきっと自分で気づいてないんだ。
﹁自分の短所が分かっている人は、何を治せばいいか分かりますよ
2809
ね? 短所だと思ってなければいつまでたっても治りません、治せ
ません﹂
きっとアオちゃんのその毒舌はいつまでたっても治らないというこ
とだな。
﹁周りの誰かが気づいて指摘してあげれば変わることもあるかもし
れませんが、自分が悪いと思ってない人は指摘されても気づけませ
ん。その点ヤス君は気づいているんですから﹂
⋮⋮後は自分の気持ちしだいで治せるってことかな⋮⋮ま、ちょっ
とだけ気分が晴れた。ありがとさん。
﹁ところでひとつ聞きたいんだけど、﹃優柔不断の優の字は優しい
って書くんだ!﹄がなんでオタクになるんだ?﹂
﹁あれ? それってヤス君が言いませんでしたっけ? ジャンプ漫
画のあれに載ってて、その言葉がすごい気に入ってるんだって自慢
げに私に話したじゃないですか﹂
﹁全く覚えが無い。というかジャンプ漫画のどれかにそんなセリフ
があったことを今知った﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
また黙ってしまった。アオちゃん、さっきから俺を誰かと混同して
ないっすか?
誰かと一緒くたにされるのはちょっと嫌だなあ⋮⋮ま、気にしない
でおこう。
2810
318話:短所は長所?︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
﹃優柔不断の優の字は優しいと書く﹄は﹃いちご100%﹄という
漫画のいつかどこかで誰かが言ってました。あの漫画はそのセリフ
しか覚えてません⋮⋮ファンの方ごめんなさい。
それでは今後ともよろしくです。
2811
319話:ゲーセン
﹁さてヤス君、どれをやりましょう!﹂
⋮⋮さっき俺を誰かと間違えたこともなんのその。全く気にせず明
るく振舞うアオちゃん。
まあ、それはそれでアオちゃんのいいところだよな、延々と気にさ
れたら逆にこっちが気を使ってしまうし。
アオちゃんと来たのは、アオちゃんの家の近くにあるゲームセンタ
ー。アオちゃんはストレスがたまると時々ここに来て思いっきり鬱
憤を晴らすのだとか。
⋮⋮想像できないなあ、なんかアオちゃんがゲームセンターでバリ
バリやってる姿なんて。
﹁ヤス君は何かやりたいのはないですか?﹂
ふむ、アオちゃんにこう言われたけど、さて、何をやろうか⋮⋮。
﹁ま、何でもいいよ。アオちゃんのお勧めで﹂
﹁そうですか? そうですね⋮⋮ヤス君は音ゲーは苦手そうですよ
ね﹂
﹁何を言う。そんな風に人を見た目で判断して、安易に人を決め付
けるのはその人の可能性を摘み取ることになるとは思わないのかね
? だったら音ゲーが得意そうな顔というのはどんな顔なのだね?﹂
﹁じゃあ得意なんですか?﹂
2812
﹁や、めっちゃ苦手﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮アオちゃんがめっちゃ冷たい目で俺を見るよ。なんだか背中に
ブリザードが見えるよ。いいじゃん、なんか言ってみたくなったん
だよ。それに実際事実なんだから言ったっていいじゃんか⋮⋮。
﹁⋮⋮ごめんなさい﹂
アオちゃんの人を射殺すような目が結局俺を謝らせてしまった。う
ん、やっぱりさっきのは自分が悪かったです。
﹁別に謝る必要はないですけど⋮⋮それではヤス君はどんなゲーム
が得意なんですか?﹂
﹁んー⋮⋮ぶっちゃけどれもこれも得意じゃないんだよなあ⋮⋮強
いてあげるなら﹃ワニワニパニック﹄かな?﹂
一応ワニたちに﹃まいった!﹄って言わせたこともあるし。もちろ
ん片手でだぞ。両手を使うとなんか途端に簡単になるけど、邪道な
気がして嫌い。
﹁またレトロなゲームが得意なんですねえ。知らない人もいるんじ
ゃないですか?﹂
﹁そんなこたないだろ。あれだけ一世風靡したゲームを知らない人
なんていないって﹂
2813
﹁実際このゲームセンターにはワニワニパニックおいてありません
し﹂
なに!? ありえないだろ!? あれだけ燃えるゲームをおかない
なんてどんな神経してんだ!?
﹁それでは、ここは私が一番おすすめするゲームをやりましょう!﹂
﹁おすすめ? どれ?﹂
きょろきょろと店内を見回す。王道でいくとユーフォーキャッチャ
ーとか、ハイパーホッケーをお勧めするかと思うんだけど。
﹁それは見てのお楽しみです﹂
⋮⋮何をやるか言ってくれい。アオちゃん、こんなところで期待感
をこめさせようと引っ張る必要はないのではないかと思うのですが。
﹁これです!﹂
⋮⋮ドンドーンという効果音が後ろで聞こえるような気がしてしま
った。
アオちゃんが指したのは﹃太鼓の達人!﹄。俺が音ゲー苦手なのを
知っていてそれを選択するとは中々いい根性をしている。
﹁ほら、今ちょうど誰もいないみたいですからやりましょう! ヤ
ス君は太鼓の達人をやった事はありませんか?﹂
﹁ない。あんまやりたいと思ったこともないし﹂
2814
音ゲーは苦手だからやらない。
﹁そうですか、ではいっぺん経験してみるといいですよ。ものすご
くハマりますから﹂
⋮⋮あんまりやりたくないって言ったのに。人の話を聞かないやつ
め。まあしょうがない、つきあうかあ⋮⋮チャリンチャリンと20
0円を投入する。
﹁曲は⋮⋮ヤス君の好きな曲を入れていいですよ﹂
うーん、どれがいっかな⋮⋮やっぱり簡単なのがいいよなあ。
﹁実は簡単なんだけど、やってるのをみるとすっげえあいつって思
わせるようなのはないの?﹂
﹁ないですよそんなの。難しいのはすごいように見えて、簡単なの
は簡単にみえます﹂
ち、やっぱりそうか。んじゃうだうだ考えるのも面倒だし、自分の
好きな曲入れてみるかな。
﹁それじゃ﹃リンダリンダ﹄で﹂
ええと⋮⋮カッカッと、太鼓のふちをたたいて曲を選択し、真ん中
をたたいて決定する。﹃リンダリンダ﹄という文字がでかでかと表
示され、もう1回真ん中を押して選択。
﹁﹃この曲で遊ぶドン!﹄﹂
2815
ほおほお、これで始まるわけだな。
﹁ヤス君はブルーハーツが好きなんですか?﹂
﹁ああ、もう大ファン。カラオケでブルーハーツを叫んでるだけで、
嫌なことなんて全部忘れられるぞ﹂
﹁そうなんですか。けど、初めてなのに結構難しい曲を選びました
ね﹂
⋮⋮アオちゃん、そういうのは決める前に言ってくれよ。
﹁﹃さあ、はじまるドン!﹄﹂
やばいやばい、始まっちゃうじゃん。アオちゃんに文句言うの考え
る前に集中しなきゃ。
﹁どーぶドンドンドドン⋮⋮みたいにドドカカ、うつくーしくドン
ドンドドンなりたいドドカカ﹂
おお、意外と簡単じゃないっすか。なんだよ、この程度のを難しい
なんていってたのかアオちゃんは。
﹁うつくしさーがあーるーかーらードンドンカッカッ⋮⋮﹂
おし、ここまでは完璧だ。さあ、きっとこっからが本番だよな。
﹁リンダリンダー!! ドンドンドンドン!﹂
やばいやばい! 速すぎ速すぎ! さっきみたいにゆっくりと太鼓
2816
よ流れてきてくれ!
﹁リンダリンダリンダーア!! ドンドンドドカッ!﹂
す、すげえアオちゃん⋮⋮こんなに速いのに全然ミスらねえ⋮⋮っ
てか無理無理無理! もっとゆっくり! ゆっくりー!
﹁面白いかったですねー、やっぱり﹃太鼓の達人﹄は最高ですよ﹂
⋮⋮アオちゃんは大満足の顔、対する俺は不満顔。全然ノルマ達成
できなかった。たたけた率っていうのも50パーセントすらいかな
かったし。それに対してアオちゃんはたたけた率98パーセント⋮
⋮やりこんでるなあアオちゃん。
﹁次はどの曲やりましょう!?﹂
まだやるんかい!? もう別のやろうよ!
﹁今日はとことんまで付き合ってもらいますよ!﹂
なんか違う!? 今日は俺のストレス発散にアオちゃんが付き合っ
てくれるはずだったのに!?
﹁次は﹃イケナイ太陽!﹄行きますよヤス君!﹂
2817
まじで!? アオちゃん、さっきより難易度あがってますよ!?
﹁﹃さあ、はじまるドン!﹄﹂
始まっちゃったし! 勘弁してくれ!
2818
319話:ゲーセン︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
太鼓の達人、やったことあるんですが難しかったです。
一緒にやった友達が太鼓を習いにいっている人で、めっちゃうまか
ったです。
自分との差に泣けました︵ー︳ー;︶
それでは今後ともよろしくです。
2819
320話:誰にだっていろいろあるよね
﹁はあ⋮⋮すっきりしましたー﹂
⋮⋮俺は疲れたぞ。何で俺のストレス発散に付き合ってくれるはず
だったのに、アオちゃんがすっきりしてるんだよ。
あの後もドンドンと太鼓をたたきまくり、ダンスダンスレボリュー
ションで踊りまくり、鍵盤をたたきまくりと、ひたすら音ゲーばか
りをまわった。俺最初に音ゲー苦手だって言った気がするのに何で?
﹁ヤス君、今日はありがとうございました﹂
お礼言うのは俺の方だったはずなのに⋮⋮違うよね、何かが違うよ
ね?
﹁ちょっと私のほうも最近嫌なことがありましてですね。いらいら
してたんですよ﹂
﹁そうなんすか﹂
それで俺に対してなんかいつも以上に毒舌だったんすね。
﹁年末から年始にかけて、ほんとにいろいろありまして⋮⋮﹂
﹁そうなんすか﹂
﹁特に年始はひどかったんですよ﹂
2820
﹁そうなんすか﹂
﹁⋮⋮ヤス君、そこは﹃いったい何があったんですか?﹄くらい聞
いてくれてもよくないですか?﹂
や、だって聞いたらすごい愚痴につき合わされそうな気がしたんだ
もん。アオちゃんが聞いてくれって顔でこっちをちらちら見てたの
は知ってるけど。
﹁それでいったい何があったかというとですね﹂
俺聞きたいなんていってないんだけど。アオちゃんが勝手に独白を
はじめていく。
﹁あれはそう⋮⋮クリスマスイブのことでした﹂
クリスマスイブってサツキ達とパーティやった日のことだよな。そ
の日は確かアオちゃんはデートだからって不参加だった。
﹁あれだろ? 痴話げんかだろ? 犬も食わないといわれているや
つだろ?﹂
﹁ヤス君、勝手に話をはしょろうとしないでください﹂
﹁じゃああれだろ? アッハンウッフンな気持ちになったところで
シュバババーンとやろうとしたら、イヤンバカンみたいになってし
まい、結局しょぼーんって感じに終わったとかだろ?﹂
﹁ヤス君、頭大丈夫ですか?﹂
2821
ごめんなさい。自分でも途中から何を言っているのかわからなくな
りました。
﹁変な口出しばっかりしてないでちゃんと聞いてくださいよ﹂
ええ⋮⋮愚痴に口を挟まず聞き続けるのはめんどくさくてしょうが
ないんだが。サツキもケンも俺の愚痴にたいして茶化さず聞いたた
めしがないぞ⋮⋮聞かなきゃダメか?
﹁クリスマスイブといったら女の子だったら誰だってあこがれる1
日ですよね?﹂
知らん。とりあえずサツキもユッチもキビ先輩もいつもどおりだっ
たけど。
﹁15時に待ち合わせだったんですよ。私、楽しみで14時につい
たんですよ﹂
⋮⋮そこは早すぎなんではない? 待ち時間何して過ごすんだろう。
﹁けれど、15時になっても来ないんです。15時半になっても来
ないんです﹂
﹁携帯に電話すりゃいいじゃん﹂
昔の待ち合わせだとどうすればいいか分からないけど、今だったら
携帯という便利な道具があるからな。
⋮⋮ほんと昔の待ち合わせってどうやってやってたんだろう? 携
帯をもってしまうと途端に分からなくなる。
2822
﹁携帯に電話しても出ないんですよ。いつまでたっても﹃電波の届
かないところにいるか⋮⋮﹄ってアナウンスが流れてきて﹂
さいですか。
﹁結局来たのは17時半ですよ!? どう思います!?﹂
﹁大変だったねー﹂
﹁⋮⋮なんかヤス君、ムカつきます﹂
⋮⋮えええ、俺どんな反応すりゃいいのさ。これ以上どういう反応
もしようがないじゃないか。
﹁﹃大変だったね﹄に心がこもってないんですよ。ほんとにそう思
ってるならもっと気持ちを込めていってくださいよ﹂
﹁そ、それは、大変だったんだねえ!!﹂
﹁⋮⋮なんかものすごくわざとらしいです﹂
もういいよ、俺はどうせどんな風に言ったっていちゃもんをつけら
れるんだよ。そういう星の下に生まれてきたんだよきっと。
⋮⋮しかし、俺らがジェンガで楽しんでる中、アオちゃんは1人ぽ
つねんと寒空の中たたずんでいたわけか⋮⋮ええと、3時間半⋮⋮
ながっ!
やっぱり大変だったんだねえ。
﹁それで、その後はどうなったんだ?﹂
2823
﹁そのまま夕食に行くことになったんですけど、電車は混みますし
道には迷いますし予約の時間には遅れましたしで最悪でしたよ﹂
お疲れっす。そんな思いをするくらいなら家来てパーティに参加し
ときゃよかったっすね。
﹁遅刻したことも何にも謝ってくれませんでしたし⋮⋮ふぅ﹂
﹁大変だったんだねえ⋮⋮﹂
ここって別れちゃえばええやんと無責任に発言してもいい瞬間なん
だろうか?
⋮⋮よく分からん。そんなに嫌なら別れればいいのに。そうは問屋
が卸さないというのが彼氏彼女の事情というやつなのだろうか?
﹁んで、年明けには何があったん?﹂
どうしようもなくなったので話題転換。
﹁ヤス君には前話しましたっけ? うちって母子家庭なんですよ﹂
ええと、聞いた聞いた。
﹁それでですね、祖父母とはちょっとずつ仲良くなれてるのですが
⋮⋮﹂
よかったじゃん。
﹁叔父叔母従兄弟とはなかなか関係が修復されず⋮⋮﹂
2824
叔父叔母従兄弟と仲が悪いと何かきついことでもあるんだろうか?
俺なんて叔父叔母従兄弟の顔すら知らんぞ。
﹁なんかちくちくというかその場に居づらい雰囲気でして⋮⋮疲れ
ました﹂
⋮⋮そういうものなのか。
﹁俺んちはおじいちゃんおばあちゃんは既に死んでしまってて、叔
父叔母達は海外に行ってるからそういう家のつながりってどういう
ものなんかよう分からないんすよ﹂
﹁あ、そうなんですか?﹂
そうなんですよ。
﹁けど、アオちゃんがなんとなく大変なんだろうなあというのは分
かる⋮⋮年末年始、お疲れ様でした﹂
﹁⋮⋮ありがとうございます﹂
ま、誰にだっていろいろあるよな。明るく振舞ってるアオちゃんに
だって悩みがあるもんだ。
﹁はー⋮⋮すっきりしました﹂
アオちゃんの顔がほんとに晴れ晴れとした顔になっている。彼氏に
は彼氏の愚痴は言えないし、家族に叔父叔母の愚痴は言いづらいし、
ずっと自分の中で溜め込んでたんだろうな。ようやく全部吐き出せ
たって所かな?
2825
﹁そうか? それは良かった﹂
﹁ヤス君ってほんとにいいですね。私、ここまで気兼ねなくなんで
も言える人ってヤス君ぐらいしかいないですよ﹂
ありがとっす。何よりの褒め言葉です。
﹁これからも愚痴言いたくなったら付き合ってくださいね﹂
⋮⋮俺はアオちゃんの愚痴聞き係っすか⋮⋮ま、とりあえずアオち
ゃんのストレス発散になったみたいだからいっか。
2826
320話:誰にだっていろいろあるよね︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
なんでも愚痴れる友達がいるっていいですよね。
﹁何で何にも話さないんだ! なんでもきいたるから話せよ!﹂
と怒る人がいるのですが⋮⋮私は怒ってる人には話せない︵−︳−;
それでは今後ともよろしくです。
2827
321話:ユッチ、居座る
﹁おかえりー、ヤス兄﹂
﹁おっかえりい! ヤスう﹂
⋮⋮⋮⋮これは目の錯覚なんだろうか?
﹁ヤス兄ってば今日は遅かったねー。どこか遊びに行ってたの?﹂
﹁や、ちょっとアオちゃんとゲーセンに行ってたんだけど﹂
﹁あ、そうなんだあ﹂
⋮⋮⋮⋮やっぱりおかしい。ユッチがいるように見える。
﹁ヤスってば玄関に突っ立ってどうしたんだあ?﹂
お前のせいだお前の。何でいまだにここにいる?
﹁ユッチ、一言いいか?﹂
﹁なあにい?﹂
﹁今日は何月何日だろう?﹂
﹁1月7日だよお?﹂
2828
﹁始業式は何月何日だろう?﹂
﹁1月8日だよお? ヤスってば何がいいたいのさあ?﹂
﹁ここにいていいのかユッチは。明日の学校はどうするんだ?﹂
﹁大丈夫だあ! ほら、ちゃんと制服持ってきてるんだからあ﹂
そう言って自慢げに大山高校の制服であるブレザーを掲げるユッチ
⋮⋮違う、俺が言いたかったのはそういうことじゃないんだ。
﹁そろそろ家に帰らなくていいのか? ということを聞きたかった
んだよ。お姉さんとかお兄さんとか心配してないか?﹂
﹁大丈夫だあ! 今日制服取りにいっぺん家に帰ったんだからあ﹂
⋮⋮いや、そこは違うだろ! 何かが違うだろ!? 一旦家に帰っ
たんだったらそのまま家ですごせばいいんじゃないのか!?
﹁⋮⋮ええとだな、いまだにユッチの家ってお父さんとお兄さんが
大喧嘩してんのか?﹂
﹁ううん? もうおとうさんもおにいちゃんの結婚のことは﹃しょ
うがないな﹄って思ってるらしいし、昨日なんて2人でお酒飲んで
たらしいよお﹂
﹁じゃあ、もう家に帰ってもいいんでないか? と思うんだけど﹂
俺がそう聞いた瞬間、ユッチはがくっとうなだれてしまった⋮⋮俺、
今ひどいこと聞いたりしたか?
2829
﹁なんだよヤスう⋮⋮ボクがここにいちゃいけないのお⋮⋮?﹂
そういうことが言いたかったわけではないんだけど⋮⋮ってかそん
な言い方をしないでくれ。まるで俺が悪いことをしてるみたいじゃ
ないか。
﹁ってかユッチは家に帰りたくないのか?﹂
﹁ええええ? ええっとお⋮⋮そ、そんなことないよお?﹂
めっちゃ帰りたくなさそうだな。まあ、そんな風にしてるユッチを
無理矢理帰らせるのはちょっとかわいそうっちゃかわいそうかな。
﹁サツキはいいのか?﹂
ユッチが泊まるとしたら、今まで同様サツキの部屋に泊まることに
なる。サツキが一番迷惑をこうむることになるからな。
﹁私は別にかまわないよー﹂
⋮⋮まあ、サツキがいいって言うならいっかあ⋮⋮。
﹁ありがとお! サツキちゃん、ヤスう!﹂
⋮⋮そんなに喜ばんでも。ってかなんでそんなに家に帰りたくない
んだろう?
2830
時刻は21時。サツキとユッチが寝た後、こっそりユッチのお姉さ
んに電話してみる⋮⋮あれだけ帰りたくなさそうにしてるのは何か
理由があるに違いないもんな。
⋮⋮こういう電話ってなんか緊張するな。何も悪いことはしてない
し、後ろめたいことなんて何もないのに、サツキかユッチが起きて
きたらどうしようってびくびくしてしまっている。
﹁はい、河辺です﹂
あ、ユッチのお姉さんだ。
﹁もしもし、夜分遅くにすみません、近藤と言いますが﹂
﹁ああ、ヤス君? ゆうのこと?﹂
﹁そですそです、ユッチのことです﹂
近藤って言っただけで俺ってわかるってすごい。
﹁ごめんねー迷惑かけて。ユッチがわがまま言ってない?﹂
﹁や、全然迷惑なんてかかってないですよ。むしろ料理してくれる
し大助かりですよ? ⋮⋮けど、何でユッチって家に帰りたくない
んです?﹂
﹁ゆうってば家に帰りたがってないの?﹂
2831
うん、すごく。もともと感情が表情に表れる性格してるから、わか
りやすいやつではあったんだけど。あからさまに帰りたがってない
よなあ。
﹁そうなんだあ⋮⋮私が思う限りでは、理由は2つあると思うんだ
よね﹂
へえ、2つあるんか。
﹁ユッチって人見知りするでしょ?﹂
まあ、意外と。最近知ったことなんだけど、知らない人とか親しく
ない人の前だとものすごく静かになるらしい。けど、俺に対しては
初対面のときから思いっきり噛み付いてきたんだけど。何だこの違
いは。
﹁今家に兄の婚約者さんがいるから気を使っちゃってガッチガチに
緊張しちゃって、家にいたくないのが1つあるんじゃないかな﹂
⋮⋮なるほど。
﹁それでもう1つの理由ってなんですか?﹂
﹁さあ? ないしょー﹂
おい! 教えてくれるんとちゃうんかい!? 何でわざわざ内緒に
する必要があるんだよ!?
﹁それじゃクイズにでもしときましょうか? 正解がわかったら教
えたげるよ﹂
2832
﹁ええ? まじですか﹂
⋮⋮分かった後に教えてもらってもしょうがないじゃん。
﹁そんな不満そうな声出したってダメだよ。悩め悩めー﹂
うわ、ユッチのお姉さんってばめっちゃうざっ。
﹁まあ、そのうち帰ってこさせるようにするからさ。しばらくゆう
をよろしくね。それじゃねー﹂
ガチャ、ツー、ツー、ツー⋮⋮切れた。ってまじかよ⋮⋮しばらく
っていつまでだよ。
なんか腹をすかせた子犬に同情してえさをあげたらそのまま居付か
れるようになってしまった気分だ⋮⋮やっぱり最初にちょっと厳し
く言っておかなきゃダメだったんだな。
2833
321話:ユッチ、居座る︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
昨日の夜投稿するはずだったのですが寝てしまいました⋮⋮。
それにしても、読者数が分からないと読んでいただけているのか全
く分かりませんね︵−−; ちょっと心配です。
それでは今後ともよろしくです。
2834
322話:1年3学期開始
今日は1月8日。
短かった冬休みも終わり、今日から3学期⋮⋮ねみい。
﹁ヤスう、学校にいっくぞお!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ヤッスう! いっこおよお!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ヤスう、何やってんだよお。早く早くう!﹂
﹁⋮⋮うるさい、動く騒音機﹂
というかまだ5時半だ、まだサツキも起こしてない。ここからなら
家を7時に出ても学校には余裕で間に合うんだ。こんな時間から学
校行こうとすんな。
﹁な、なんだよお⋮⋮なんかヤスってば機嫌悪い?﹂
﹁ああ、とっても悪いっす。ここまで機嫌が悪くなったのは久々だ﹂
﹁えええ!? ヤスってばひどいなあ! ボクなんかしたあ?﹂
ああ、ものすごいした⋮⋮俺はひどくない。ひどいのはユッチだ。
2835
﹁ユッチさんや、こっちは夜中の1時まで起きてたんだよ。んでい
つもどおり6時に起きるつもりだったんだ﹂
﹁うんうん、それがどうかしたあ?﹂
﹃どうかしたあ?﹄じゃないだろう。
﹁それをいきなり朝の4時に﹃朝だあ!﹄ってたたき起こされてだ
な。﹃今日から学校だあ!﹄って耳元で叫ばれてだな⋮⋮機嫌が良
くなるはずないじゃん﹂
まだ外は真っ暗で、布団から出るとものすごく寒い。そんな時間に
布団をひっぺがえされて無理矢理起こされて、機嫌が良くなるやつ
がいたら見てみたい。
﹁だってだって、お弁当作る時間が必要じゃんかあ﹂
﹁⋮⋮4時に起きる必要はなかった。昨日のうちに準備しておいた
から6時に起きても十分間に合った﹂
まあ、ユッチみたいに作りこまれたお弁当を作るのは無理だけど。
お手軽弁当ならそれぐらいの時間で十分だ。
﹁なんだよさっきから文句ばっかり言ってえ⋮⋮そもそも1時まで
起きてるヤスが悪いんだよお! ちゃんとボクみたいに10時前に
は寝ないと!﹂
えっへんっと胸をそらせて自慢するユッチ⋮⋮しょうがないじゃん、
父さんと母さんが家に帰ってきたのが12時回ってたんだから。や
2836
っぱり家に帰ってきたとき誰かが起きてた方がほっとするって言う
かうれしかったりするもんじゃない?
そもそも、10時前に寝ることって別に自慢にはならないと思うん
だけど⋮⋮まあ、健康的だからいいのか。
﹁と言うかユッチって10時前に寝てても6時とか遅いときには8
時過ぎまで起きてこないじゃん。何で今日に限って4時に起きんの
?﹂
﹁ええとお⋮⋮なんでだろお? なんか今日は早く目が覚めちゃっ
たんだあ。きっと学校が楽しみだからだよお!﹂
ユッチ、お前は遠足が待ちきれない小学生か! 別に早く起きても
いいけどそれに俺をつき合わせるのはやめてくれよ!
﹁ってかユッチ、何でそんなに学校が楽しみなんだ?﹂
﹁え? ええとねえ⋮⋮ないしょお!﹂
⋮⋮なんだそりゃ。そんなに学校が楽しみな理由がユッチにはある
んか。
﹁ってか今日は始業式の後に、ユッチの大嫌いな課題テストをやる
んだが﹂
﹁え⋮⋮あれ? あれあれ? ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ええええ!?﹂
反応鈍いぞユッチ。そこまで完全に忘れていたか。
2837
﹁そ、そうだったっけえ?﹂
そうだぞ。ユッチって家に泊まりに来始めてからテスト勉強どころ
か宿題すら広げようとしてなかった気がするけど。ほんまに大丈夫
かいな。
﹁ヤスう! 今からテスト問題を教えて!﹂
﹁今回のテスト問題は8割が宿題から出るって先生が言ってたじゃ
ん。宿題丸暗記すれば点数取れるぞ﹂
俺が教えられることなんて何もない。
﹁ボクまだ宿題終わってないんだもん! そんなの無理だもん!﹂
⋮⋮知らんよ、どうすればいいんだ。
﹁ユッチ、昨日で冬休みは終わりだぞ。何で宿題が終わってないん
だ?﹂
﹁ヤスってば知らないのお? 宿題って言うのはどうやってやらず
にすませるかがポイントなんだぞお!﹂
んなわけないじゃん。どんな言い訳だよ。
﹁いいかユッチ、宿題って言うのはいかに楽に終わらせるかがポイ
ントなんだぞ。今回も俺はポンポコさんに全部社会系はやってもら
って、英語系はアオちゃんにやってもらってる﹂
﹁うわあ、ずっるう﹂
2838
なんもやってないユッチよりましだろ。俺は数学と理科を担当して
るからいいんだよ。
﹁だったら1時間でなんとか赤点取らずにすむように何とかしてよ
お﹂
無理無理。そんなカンで俺、ヤマを当てたためしがないから。
﹁⋮⋮はああ⋮⋮なんか突然憂鬱になっちゃったあ﹂
﹁頑張れユッチ。心の中で鼻で笑いながら応援だけはしておく﹂
﹁えええ!? なにそれえ!﹂
﹁そしてほんとに赤点取ったら心の底から大笑いしてやろう﹂
﹁ヤスのバカあ! サツキちゃん、ヤスがいじめるよお⋮⋮﹂
そういい捨てると2階に駆け上がってサツキの部屋へ消えていった
⋮⋮悪いが協力なんてしてやんねえ、4時にたたき起こされた恨み
はまだ消えちゃいないんだ。
﹁うっるさあああああい!﹂
﹁ご、ごめんなさああい﹂
ユッチが部屋に駆け込んでから数秒後、サツキの怒鳴り声とユッチ
の悲鳴が聞こえてきた。
ユッチ、お前はサツキにどんな起こし方をしたんだよ⋮⋮年下にま
2839
で怒鳴られるってユッチが不憫に思えてきてしまった。
⋮⋮やっぱりちょっとは協力しようかな。
2840
322話:1年3学期開始︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
ようやく1年の3学期です︵^︳^;
進行が遅くて本当にすみません。
それでは今後ともよろしくです。
2841
323話:テスト
新学期、始業式も課題テストも終わった。
﹁みんなお疲れー。冬休み明けでボケちゃってなかったかな?﹂
まあ、なんとかなりました。
﹁いよいよ3学期だね。もうすぐ皆さんも2年生になるわけだけど、
そろそろ理系に進むか文系に進むかは決まった?﹂
⋮⋮俺は理系に進むつもり。ケンとアオちゃんは文系に進むって前
聞いた。ユッチは文系でとりあえず出したけど、まだ悩んでるって
交換日記に書いてたなあ。ポンポコさんは聞いてないけど、数学が
苦手で社会が得意なんだったら、多分文系にいくだろうな⋮⋮って
もしユッチが文系に行っちゃったら、俺だけ理系になるんか。ちょ
っと嫌やなあ。
﹁1月中には決定しないといけないから、決断までの期間は後3週
間くらいです。きちんと考えておいてください﹂
あいあい、了解しました。
﹁それから、みんなすぐに忘れちゃうと思うけど、とりあえず3学
期分のスケジュール渡しておきますね﹂
そういうと、生徒たちにプリントを配るウララ先生⋮⋮3学期なん
てそんなに学校行事はないよな。
2842
1月
1月12日︵月︶成人の日
1月13日︵火︶百人一首
2月
2月3日︵火︶節分
かるた大会
2月10日︵火︶実力テスト
2月11日︵水︶建国記念の日
2月14日︵土︶バレンタインデー
2月18日︵水︶嫌煙運動の日
2月22日︵日︶猫の日
3月の日程
3月2日︵月︶卒業式
3月3日︵火︶ひな祭り
3月9日︵月︶∼3月13日︵金︶学年末テスト
3月14日︵土︶ホワイトデー
3月19日︵木︶終業式
3月20日︵金︶春分の日
⋮⋮ウララ先生、学校行事のイベントだけだとプリントが埋まらな
いからって適当にいろいろイベントを書き込んだな。
嫌煙運動の日とか、猫の日ってどうでもいいやん。バレンタインデ
ーとホワイトデーも、学校関係ないし。
﹁それでは3学期、あと3ヶ月ですが楽しくやっていきましょう﹂
2843
あーい。
ホームルームも終わり、これからいつものように部活。
毎日毎日10キロ15キロと走り続けてるけど、ただ練習を続けて
いるだけじゃ一体自分がどれぐらい強くなれたのかさっぱり分から
ない。
だんだんと練習がこなせるようになっていることを考えると、そこ
そこは強くなっているとは思うんだけど。
駅伝終わってから1回も試合に出てないし、そろそろ1回試合に出
てみて、自分の実力がどのくらいあがったのか試してみたい⋮⋮出
ることになったらなったで、まったく強くなってなかったらどうし
ようとか思ってしまうけど。
ジャージ姿に着替えてケンとグラウンドに出ると、すでにユッチと
ポンポコさんがいる。
﹁おーっす。ポンポコさん、ユッチ⋮⋮ユッチ、何でこの世の終わ
りみたいな顔をしているんだ?﹂
﹁わかるだろお⋮⋮ヤスのバカあ﹂
わからん、さっぱりわからん。俺ユッチに何かした覚えは全くない
ぞ。
2844
﹁ヤスが言った﹃こことこことこれさえ覚えとけばきっと赤点免れ
るぞ﹄って言ったところ、1問も出なかったじゃんかあ! どうし
てくれるんだよお!﹂
⋮⋮そ、そうだったっけ? 俺はそこそこできたような気がするん
だけど⋮⋮あれ? なんかそんな変なこと教えたっけ?
﹁ユッチ、ヤスにそういうのを期待しちゃいかんぞ。ヤスのヤマは
基本的にあたらないからな。当たる確立25パーセントくらいだ﹂
うっさいケン。大きなお世話だ。
﹁当たらない確立が100パーセントならば、ある意味才能だろう
と思うのだが、25パーセントではいかんともしようがないな﹂
うるさいですポンポコさん、だからこそまんべんなく勉強してはず
さないようにしてるんです。
﹁ポンポコさんはテストできたん?﹂
﹁英語と社会はそこそこにできた⋮⋮それ以外は⋮⋮聞くな﹂
ごめんポンポコさん。これ以上は聞かないようにする。
﹁何でケンはそんなに平気な顔してるのさあ? ボクは散々だった
のにい﹂
﹁俺はアオちゃんにヤマをしっかり当ててもらったからかなりのて
んが取れたと見込んでる。少なくとも40点は取れたからな﹂
2845
すくねえよ! テストで40点とって自慢すんなよ!
﹁えええ!? そんなにとれたのお!? いいなあ⋮⋮﹂
ユッチもそこでうらやましがるなよ。ってかそれでうらやましがる
ってユッチってどんだけ悲惨な点数なんだよ。
﹁ユッチ、ヤスに頼っちゃダメだぞ。やっぱりヤマをはってもらう
んだったらしっかり勉強が出来るアオちゃんに見てもらわないと﹂
﹁うん、わかったあ! これからはヤスにテストの意見を聞くのや
めることにするう! ケン、ありがとお!﹂
そこ! 2人して俺をバカにすんな!
⋮⋮結局ケンもユッチも、今後は俺を頼らず、アオちゃんを頼ろう
と言う話になった⋮⋮いいよいいよ、これからは絶対ケンにもユッ
チにも勉強は教えてやんないからな。
2846
324話:将来の夢
今日の部活も終わり、今から帰るところ⋮⋮冬休みの間はずっと陸
上競技場で練習してたから、学校だと感覚が違う。
というか外周を走る以外に練習方法がないから、ものすごく練習し
にくいんだけど⋮⋮しょうがないか。
帰るメンバーは俺、ケン、ユッチ、アオちゃんの4人。今日はサツ
キは高校には来ていない。これから3学期の間はサツキのやつも入
試が終わるまでなかなか来れなくなりそうだな。
今4人で電車に乗り込んだところ、時刻は17時半。ちょろちょろ
と席も空いているけど、4人全員が並んで座れるところがないので
立ったまま話をしてる。
﹁あのさあ、みんなに聞きたいんだけどお﹂
﹁どしたユッチ、バカにつける薬はないかとかか?﹂
﹁そんなわけないだろお!﹂
﹁ダメだなあ、バカにつける薬はないんだよ。なぜならばバカは風
邪ひかないからな。ユッチは風邪引かないか?﹂
﹁え? うん、ほとんど引かないけどお﹂
﹁バカなんだなあユッチ。よかったなあ﹂
﹁うるさいうるさいい! ボクはバカじゃないい! ヤスのバカあ
!﹂
2847
⋮⋮ユッチって反応が素直やなあ。ケンとかサツキにこういう軽口
たたいても、華麗にスルーするんだよなあ。
﹁ほらほら、ヤス君なんか無視しちゃえばいいんですよユッチ。そ
れで何が聞きたかったんですか?﹂
アオちゃんひでえ。無視はさびしいですよ。
﹁あのね、ボクのクラスのホームルームで進路について話があった
んだあ﹂
はいはい、うちのクラスでもあったぞ。
﹁みんなって理系か文系かもう決めたあ?﹂
﹁俺文系﹂
これはケン。
﹁私も文系です﹂
これはアオちゃん。やっぱりケンもアオちゃんも以前と変わらず文
系に行くこと決定なんだな。
﹁ヤス君は以前お聞きしたときは理系とおっしゃっていましたが、
やっぱり理系ですか?﹂
﹁ああ、俺は理系に行くつもり﹂
2848
これで2年生からはケンともアオちゃんともクラスが別になること
は決定だな⋮⋮うん、ちょっとさびしい。
﹁ヤスって完全に理系で決定なのお?﹂
﹁決定。社会と英語が苦手で、数学と理科が得意な時点で理系しか
ないだろ﹂
まあ、別に理系に言ったからといって英語が消えてくれるわけでは
ないんだけど。
﹁そうなんだあ⋮⋮ヤスは理系なんだあ﹂
﹁なんだユッチ、俺が理系だとなんか問題でもあるのか?﹂
﹁ううん、別にあるわけじゃないんだけど⋮⋮あるんだあ﹂
あるのかないのか、どっちなんだよユッチ。
﹁ユッチ、もしユッチが将来の夢がなんかおぼろげながら決まって
るんだったら、それ考えて理系か文系か決めたら? 将来の夢を考
えて、そこからどっちに言った方がより夢に近づけるかって考えて
決めるんだ﹂
そう言う俺はなんとなく理系だけど。将来の夢なんて全く決まって
ません。
﹁そうなんだあ⋮⋮そうやってみんなは決めるんだねえ﹂
納得させてしまった⋮⋮なんか嘘を教えてしまった気分だ。
2849
﹁と言うわけでユッチの夢を聞かせてくれよ。そしたらそっからど
っちに進むんか分かるかもよ﹂
﹁ええ!? や、やだよお! 絶対笑うんだもん!﹂
あ、ユッチは将来の夢があるのか。うらやましい。俺別につきたい
職業なんてないもんなあ⋮⋮。
﹁笑わない笑わない。ケンも笑わないよな﹂
﹁そりゃ笑わんよ。人の夢をバカにするのはダメだろ﹂
ほらな。そんなところで笑うやつなんていないって。
﹁そ、その前にみんなの夢聞かせてよお! そしたらボクも話する
からあ!﹂
﹁私の夢は検事、もしくは弁護士ですよ、前ユッチには言いません
でしたっけ?﹂
﹁あ、うん。アオちゃんの将来の夢は知ってる⋮⋮ケンはあ?﹂
﹁俺は体育教師﹂
﹁ふうん⋮⋮そうなんだあ。ヤスは決まってる?﹂
﹁んー⋮⋮偉そうなこと言っといてなんなんだけど、俺は決まって
ないんだよね。しいて言うなら、あったかい家庭を作りたいなあと
思うくらい﹂
2850
﹁いい夢じゃないですか。ヤス君﹂
ありがと、アオちゃん。ちょっとうれしいです。
﹁さ、私もケン君もヤス君もみんな話したんですから、最後はユッ
チの番ですよ。ユッチの将来の夢はなんですか? 笑いませんから
どうぞ﹂
﹁ほ、ほんとお? ほんとのほんとに笑わない?﹂
﹁ほんとほんと。絶対笑いません﹂
﹁じゃ、じゃあ言うよお⋮⋮⋮⋮﹂
ユッチ、そんなに顔を赤らめるような話題じゃないと思うんだが⋮
⋮。
﹁あ、あのね⋮⋮﹂
そんなに言いづらい職業なのか? 言うと笑える職業って漫才師?
芸能人とか? ウルトラマンになりたいんだあとか言ったらさす
がに笑うかもしれない。
﹁お⋮⋮﹂
﹁お?﹂
お菓子屋さん? お医者さん? お相撲さん? ⋮⋮最後のはない
か。お菓子屋さんか?
2851
﹁お、お嫁さんになりたいんだあ⋮⋮﹂
﹃⋮⋮﹄
⋮⋮い、意外⋮⋮3人そろって一瞬声が詰まってしまった、ユッチ
だったらスポーツ大好きだからインストラクターになりたいとかか
と思ってた。顔を真っ赤にしてみんなの反応を待っているユッチ⋮
⋮や、俺はな、なんて返答したらいいんだろう?
﹁ああ、もう! ユッチってばかわいすぎですね!﹂
﹁な、なんだよお。いいじゃんかあ! アオちゃん! 頭なでない
でよお!﹂
ああ、確かにユッチだったら料理すきだし子供好きだし。お嫁さん
って夢は向いてるかもなあ。
ううん、結局ちゃんとした夢が決まってないのって自分だけか。も
うちょっといろいろ考えないとなあ。
2852
324話:将来の夢︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
小さい頃の将来の夢をかなえた人ってどのくらいいるんでしょう?
かなわなくても夢は持ち続けていたいです。
それでは今後ともよろしくです。
2853
325話:ぱくり
1月12日月曜日。お姉さんに﹃そろそろ帰ってきなさい﹄と言わ
れ、ようやく家に帰ったユッチ。ユッチの兄とその婚約者さんはよ
うやく父親にも認められ、1月18日に内輪だけの結婚式を挙げ、
そのまま入籍するそうだ。まあ、よかったよかった。
てなわけで、久しぶりにユッチがいないサツキと2人だけの夕食。
サツキと自分の声しかしないこの食卓⋮⋮10日もいたユッチがい
なくなると、なんだか静かだ。
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
また唐突な話題を。何かあったかサツキ?
﹁ん? とうとうケンが捕まったか? いつかケンならやると思っ
てた﹂
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
﹁ケンがパクられるとしたら、どんな罪状だろうな。ああみえて、
傷害罪とか暴行罪みたいなことは絶対やらなさそうだもんな。やり
そうなことというと、自転車に乗って調子に乗って手放し運転とか
して、目の前歩いていたおばあちゃんをひいちゃって、﹃やっばー﹄
とか思った瞬間逃げ出して、そしたらそのおばあちゃんが骨粗しょ
う症の人で倒れた瞬間にそこら中が骨折してしまい重体とかかな?﹂
⋮⋮やば、なんかマジありえそうな事な気がしてしまった。骨粗し
2854
ょう症の人って軽くぶつかっただけでも骨折するっていうもんな。
気をつけよ。
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
﹁いやあ、今度冷えたカツ丼もって面会に行かないとな。パクられ
た気分はどうやって聞いてみてえ。んで最後にくさい飯でも食って、
1からやり直すんだなって言うんだよ﹂
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
⋮⋮今回もめっちゃ無視っすか、サツキ。や、俺もちょっと悪乗り
しすぎたけど。
﹁おし、今パクリについて考えてみるからちょっと待ってろよ、サ
ツキ﹂
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
⋮⋮待ってろよって言ってるんだからちょっとくらい待ってくれよ、
サツキ。
ええとええと⋮⋮おし、1個思いついた。
﹁ショートストーリー、﹃パクリ﹄。とある大阪の商店街にて、あ
る少女が憂鬱そうな顔をして空を見上げている。そこにたまたま通
りかかる絶ピー先生。﹃どうしたんですか? そんな物憂げな顔し
て﹄﹃いえ、ふと上を見上げたら、こんなものが﹄そこにあった看
板は、波平通り。さらにその上には波平の顔をした鉄腕アトム⋮⋮
あきれた顔の絶ピー先生。﹃パクリです! この世の中にはパクリ
ばかりが世に横行しているのです!﹄﹃確かにそうですね⋮⋮﹄﹃
2855
絶対に認可をもらっていないけれど、とりあえずドラえもんの絵を
描いてパンを焼いて﹃当店オリジナルのドラえもんパン!﹄といっ
たり、たまごっちの後のぎゃおっピーだったり⋮⋮絶望した! パ
クリばっかりのこの世の中に絶望した!﹄﹂
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
うあ、ものすごく考えて作ったショートストーリーだったはずなの
に、一言も言及されず流されるって⋮⋮。
﹁サツキ、そこはサツキが﹃ヤス兄がパクリだあ!﹄って行ってツ
ッコミをいれる瞬間じゃないか? ついでにピーって伏字にしてる
けど、ぎゃおっピーってピーのところ伏字にしちゃったらそのまん
ま商品名じゃんっていうつっこみも個人的にはほしかったんだけど、
そういうボケ殺しの対応はやめてほしいなとか思ったり。つまらん
なら﹃つまらん!﹄ってつっこみの方がよいんだけど。別の言葉を
しゃべって欲しいなあと思うのは俺だけだろうか﹂
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
延々とスルーかい。ちょっとさびしいぞ。
﹁サツキ、毎回毎回同じネタって言うのはダメだと思うんだよ。ほ
ら、芸人さんでも毎回毎回同じネタを使い続けているとさ、だんだ
んと視聴者に飽きられてきて、いつの間にやら消えていくって事が
多々あるじゃん。確かに王道という物を確立してしまえば、そのネ
タは何回でも使うことができると思うんだ。けどな、そんな王道な
んてものは確立するのはとても難しいんだぞ。一発屋って言葉がで
きてしまうのもそういう理由だぞ。ちまたで﹃フォー!﹄とか﹃だ
っちゅーの﹄なんてやってる人、全然見なくなっただろ? だから
2856
な、サツキがそのネタをいつまでも語ろうとするの、そろそろあか
んと思うんよ。というかそもそもネタでもないよな。ただ同じ言葉
をしゃべりつづけてるだけだし﹂
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
⋮⋮これだけ熱弁を振るったのに、無視してばっさり切られるとは。
やるなサツキ。
﹁おし、そんなに意固地になって﹃パクリってどう思う?﹄って聞
き続けるなら絶対別の言葉をしゃべらせてやるからな﹂
﹁ヤス兄、パクリってどう思う?﹂
ち、まだ言うかサツキ。ええとええと⋮⋮今度はもちょっとひねら
ないと駄目だよな⋮⋮おし、思いついた。
﹁ショートコント パクリその2。コンビニでパクリをし、逃げた
犯人を追っかけるコンビニ店長。走ってこけたパクリ。膝がパック
リと割れた。パクリの膝がパックリ割れた。パクリがパックリ割れ
た。パクリがパックリ!﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ええとサツキ、何かしゃべって﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ええと、﹃パクリってどう思う?﹄って言葉でもいいからし
ゃべって? サツキ﹂
2857
﹁0点だね。ヤス兄﹂
⋮⋮うん、言葉を変えさせることができたから、俺の勝ちなはずな
のに。何でこんなに負けた気分になっているんだろう。
頑張って考えたのに。
﹁それでヤス兄、パクリってどう思う?﹂
﹁ああ、パクリはよくないよな。著作権侵害になるもんな。これで
いいのかサツキ﹂
﹁うん﹂
⋮⋮なんか、とてもむなしい⋮⋮。
﹁ヤス兄、もっともっと修行しなきゃ駄目だよ﹂
はい、精進します⋮⋮。
2858
325話:ぱくり︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
久々にアクセス解析が復活したと思ったら、閲覧者数が激減してて
びっくりしました。
⋮⋮これが実力ですね、精進いたします。
それでは今後ともよろしくです。
2859
326話:百人一首大会
今日は1月13日火曜日。
午後の授業は全部中止になって、その時間全部使って百人一首大会
がある。
別に正月にやってるような緊迫したムードの百人一首大会ではなく、
100枚を適当に並べてグループ内で取り合うというルールの大会
だ。1年生が全部で5クラス、1クラス1人ずつの計5人のチーム
を作って、対戦をする。
一応クラスごとと個人ごとに順位を決めるらしい。
の
しのぶにも
むかし
⋮⋮へん、こんなので勝ったって嬉しくもなんともないやい。
﹁なんだかやる気のなさそうな顔をしているな、ヤス﹂
﹁当たり前っすよ﹂
﹁そして何故そんなにふてくされているのだ?﹂
のきば
なほあまりある
﹁自分の胸に聞いてみてくれ、ポンポコさん﹂
﹁⋮⋮さっぱりわからんぞ﹂
⋮⋮嘘をつけ嘘を。
き
﹁ポンポコさん、﹃ももしきや﹄﹂
﹁﹃ふる
2860
なりけり﹄﹂
たつたがわ
つゆにぬれ
みずくぐると
わがころもでは
からくれないに
﹁ポンポコさん、﹃ちはやぶる﹄﹂
﹁﹃かみよもきかず
わ﹄﹂
とまをあらみ
﹁ポンポコさん、﹃あきのたの﹄﹂
﹁﹃かりほのいほの
つつ﹄﹂
⋮⋮くそお、予想通りだったけど、俺が知っているたった3つだけ
の短歌を全部スラスラと言われてしまった。
﹁ポンポコさん、百人一首全部言えるっしょ﹂
﹁ふむ⋮⋮まあ言えることは言えるが﹂
⋮⋮やっぱり。ってか俺ってなんて運がないんだよ。そんな百首全
部覚えているような人がグループ内にいるなんて不運の何者でもな
いよ。
﹁ヤス、試合が始まる前から負けを認めてしまっていてはダメだぞ。
往々にして試合が始まる前から勝負というのは決まっているものだ
が﹂
﹁⋮⋮慰めてんのか落ち込ませようとしてるのかどっちだよ?﹂
﹁どちらでもない、ただ事実を言ったまでだぞ﹂
2861
﹁ポンポコさん⋮⋮事実というのは必ずもっとも残酷な一面をあわ
せもつものだ⋮⋮そう思わないかい?﹂
﹁何悲壮感を出しながらバカなことを言っているのだ﹂
ふーんだ。俺バカだもーんだ。バカがバカなこと言って何が悪いん
だー。
﹁いいかヤス、普通はどんな試合においても試合が始まる前から勝
敗なんていうものは決まっているものだ。何故なのか? それは地
力の差というものだな。走る特訓をたくさんした人がかけっこに勝
てる。それが普通だ﹂
今、百人一首大会の話をしていたはずなんだが、いつの間に陸上の
話に変わっているんだろうか。
﹁だがヤス、実力差がどんなにあっても勝ち負けがひっくり返ると
きがある。それは気持ちの問題だ。古代中国の孫子の兵法でも、士
気については重要に説いている。三国志演義でも曹操が食料不足に
なり兵士の士気が下がっているときに食糧管理の兵士をたたっきり、
その兵士を犠牲に士気を上げている﹂
そして陸上の話から何故一気に三国志の話に変わるのだろうか。
﹁ヤス、士気は大事だぞ。始まる前から仮に負けだと分かりきって
いても士気を下げてはダメだぞ﹂
⋮⋮やっぱりけなされている気がする。これはあえてお前は負ける
お前は負けるといい続けて、俺の士気を下げようとしているポンポ
2862
コさんの作戦なんだろうか。完全にポンポコさんの術中にはまって
しまってるな自分。
﹁﹃それではただいまより、百人一首大会を始めます。私、ウララ
が上の句をよみあげますのでよろしく﹄﹂
⋮⋮とうとう始まるな。俺とポンポコさん、それと残り別のクラス
の3人が床にちりばめられた百人一首カルタに目を注ぐ。
﹃む﹄
スパーン!
⋮⋮はえ? な、何が起きたんでしょうか? ポンポコさん以外の
メンバー全員、ポカーンとしている。
﹁反応が遅いな。決まり字というのを知らないのか?﹂
や、知らん。
あきのゆふぐれ﹄しかないのだ﹂
﹁1字決まりというのがあって、﹃む﹄で始まるのはこの﹃きりた
ちのぼる
⋮⋮そんな豆知識しらないっすよ。
﹁ってか知っててもそんなスピードではたけるはずねえだろ﹂
﹁ふっ、試合が始まる前から勝負というのは始まっているのだぞヤ
ス。先生が説明を続けている間、どれがどこにあるのかを調べてお
くのが百人一首の常套手段だ﹂
2863
⋮⋮どれだけ百人一首をやりこんでるんだよポンポコさん。
﹁﹃もろともに﹄﹂
スパーン!
⋮⋮や、5字よみあげただけでとられるとか無理だろ。俺なんて先
生が下の句詠んでくれないと分からないって言うのに。
﹁⋮⋮ふむ、まだ反応が遅れたな。まだまだだ﹂
ポンポコさん、もう十分強いから! それ以上強くならないで!?
⋮⋮ええと、戦績⋮⋮。
ポンポコさん 95枚。
俺 0枚。
それ以外のメンバー 2枚。
3枚はお手つきで消えていった⋮⋮ってか無理っす。下の句詠まれ
2864
る前に全てポンポコさんに取られました。もちろんポンポコさんが
個人優勝。そりゃ95枚もとったら優勝するよな⋮⋮。
ものすごいトラウマを作られた百人一首大会でした⋮⋮泣ける。
2865
326話:百人一首大会︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
先日結婚の話をちょこっと書きましたら、自分の周りで2組結婚報
告を受けました。
ほんとめでたいですね、おめでとうございます。
そして私にも春来てください。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2866
327話:お呼ばれ
今日は1月14日水曜日。今はもう部活が終わり、電車の中。ユッ
チとサツキとのんびりと帰ってるところ。
いつも一緒に帰ってるケンは今日はどっかより道するところがある
らしい。アオちゃんは誰か別の人と待ち合わせがあるんだとか。
﹁ヤスとサツキちゃんさあ、来週日曜日、1月18日にボクのおに
いちゃんの結婚式やるんだあ﹂
﹁あ、そうらしいですね。おめでとうございます﹂
﹁ってかユッチ、お前の兄さんって会社員だろ? 大阪のどっかの
企業に勤めてて、いまだにこっちでゴロゴロしてるって大丈夫なん
か?﹂
父さん母さんが出勤し始めてからもうかれこれ1週間以上経ってる。
1週間以上も連続で休み続けるなんてできんだろか?
﹁大丈夫らしいよお? ﹃あいつが結婚できたのか!?﹄ってみん
ながみんな大喜びらしくてさあ、会社全体でおにいちゃんの結婚を
お祝いして毎日酒盛りしてるんだってえ﹂
どんな会社だよ、どんだけ酒好きが集まってんだ!? 大丈夫かよ
その会社!?
﹁おにいちゃんの部下だけ悲鳴を上げたらしいけど﹂
2867
⋮⋮ご愁傷様です。
﹁それで、結婚式っていっても、全然結婚式みたいじゃない結婚式
なんだよお﹂
﹁どゆこと? 葬式みたいな結婚式でもやんのか?﹂
﹁そんなわけないだろお! 誰がそんなお先真っ暗な結婚式をやり
たがるかあ! ヤスのバカあ!﹂
や、前になんとなくカレンダーみたら1月18日って仏滅だったん
だもん。あえて仏滅の日を選んだのはなんでなんだろうと思って。
﹁んじゃ散歩道がバージンロード、野外ステージが教会代わり、会
場は原っぱ。参列者はたまたま公園に遊びに来ていた人全員。どこ
までもオープンにがモットー。野外結婚式とか?﹂
﹁あほかあ!﹂
⋮⋮意外と真面目に考えたのに。あ、でも雨が降ったらどうしよう
もなくなっちゃうな。
﹁んじゃ、山小屋がお色直しの部屋。山上で御来光を見ながら新郎
新婦の誓いのキス。誓うのは神様にでもなく、参列者でもなくお天
道様。乾杯の中身は富士山のバナジウム天然水。登山結婚式﹂
﹁そんなことやったらウェディングドレスがぼろぼろになっちゃう
だろお! ヤスのバカあ!﹂
つっこむところはそこじゃないと思う。
2868
﹁ごめんごめん、んで結局何の話だったっけ?﹂
﹁え、ええとお⋮⋮ヤスが変なことばっかり言ってるから忘れちゃ
ったじゃんかあ﹂
それは俺のせいじゃない。そういうのを責任転嫁というんだぞユッ
チ。
﹁ええとお⋮⋮あ、思い出したあ! ちゃんとした結婚式やろうと
したら、1週間前から準備してたんじゃ出来ないじゃんかあ。だか
らほんとにお昼に家の近くのレストランを借りてちょっとパーティ
して、後はボクの家でホームパーティみたいな感じで結婚式やるだ
けなんだあ。あ、家でパーティやるときはボクがコックさんになる
んだあ! すごいだろお!﹂
はいはい、すごいすごい⋮⋮ってかホームパーティって⋮⋮それを
結婚式と呼んでいいんだろうか? まあいいよな。本人達がそれが
結婚式だって思えばそれが結婚式だ。
﹁それでそれで、ほんと突然だから、おにいちゃんの友達も奥さん
の友達も声をかけてみてもほとんど参加できないみたいで。静岡に
いない人も多いんだあ﹂
そりゃしょうがないな、ってかもっとのんびり日程調整すればよか
ったんじゃなかろうか⋮⋮出来ちゃった婚で、だんだんとおなかが
大きくなっていくから目立つ前に結婚式をやっときたいとか考えた
のかな? けど⋮⋮おなかってどれくらいで目立ってくるもんなん
だろ?
2869
﹁だったらいっその事、奥さんの家族とボクの家族だけでやればい
いんじゃないかなあって話になったんだあ﹂
﹁ジミ婚ってやつですね﹂
﹁そうそうそれえ! でね、こっからが本題なんだけど⋮⋮⋮⋮⋮
⋮⋮⋮⋮⋮﹂
はやく言えユッチ。
﹁あ、あのさあ⋮⋮⋮⋮ヤスとサツキちゃんも結婚式に参加しない
かなあ?﹂
⋮⋮⋮⋮はい? ⋮⋮耳がおかしくなってしまったようだ。
﹁何で俺とサツキが参加すんの? お前の兄さんなんて俺全く知ら
んべさ﹂
ってかさっきユッチが身内だけの結婚式にしようって言ったばかり
じゃん。めっちゃ矛盾してるぞ。
結婚式自体に参加したことはないので、参加させてもらえるならそ
れはそれで楽しそうかもしんないけど。
﹁あ、あの、ええとね⋮⋮1月の初めの頃、ずっとボク泊めてくれ
てただろお? それでお父さんとお母さんがお礼もかねてヤスとサ
ツキちゃんの顔が見たいって言ってるんだあ﹂
別に結婚式にわざわざ会いに行かなくてもいいんじゃないかと思う
んだけど。そういうものなのか?
2870
﹁ヤス兄、行ってもいいんじゃない? と言うか私行きたい。人妻
姿見たい﹂
﹁それを言うなら花嫁姿だろサツキ﹂
そういえば、なんで人妻って聞くとエロティックに聞こえるんだろ
う? 主婦って聞くと﹃ふーん、あ、そう﹄と思うのに⋮⋮ま、ど
うでもいいか。
﹁サツキが行きたいというなら俺も行こうかな﹂
﹁ありがとヤス! サツキちゃん!﹂
﹁ユッチ、そんなに喜ばんでも。こっちこそ18日楽しみにしてる
から﹂
﹁うん、よろしくう!﹂
ま、18日を楽しみにしていよう。
2871
327話:お呼ばれ︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
腹減りました、チャーハンでも食べてきます︵>︳<︶
それでは今後ともよろしくです
2872
328話:着うたはおっくせんまん
今日は1月16日金曜日。
should
beではなく
ダラダラと英語の授業を受けてる途中です。
beを⋮⋮﹂
﹁と言う訳でここの助詞は
ld
cou
ふわあ⋮⋮基本的にウララ先生の授業って面白いんだけど、どうし
ても文法についてのところは眠くなってしまうな。
何か面白い事ないかなー⋮⋮。
プッ、プッ、プッ、ポーーーン⋮⋮プッ、プッ、プッ、ポーーーン
⋮⋮。
うわっ、やばっ。携帯サイレントモードにすんの忘れてた!
﹁⋮⋮誰かなー。私の授業中に時報なんて聞いている人は⋮⋮﹂
あ、すみません。俺です。
慌てて鞄から携帯を取り出す⋮⋮こう言う時に限って中々取り出せ
ない、そして今も延々と時報が鳴り続けている。
プッ、プッ、プッ、ポーーーン⋮⋮プッ、プッ、プッ、ポーーーン
⋮⋮。
とーまーれー! とーまーれー!
2873
﹁⋮⋮ヤスく︱ん?﹂
にこやかなウララ先生の顔が恐いっす! そしてみんなのニヤニヤ
した顔がつらいっす⋮⋮こっちを見んなあ!
がちゃがちゃと鞄を引っ掻き回して無理くり引っ張りだして音を止
める⋮⋮ふう⋮⋮ようやく収まった。
﹁ヤス君、携帯電話、便利だけど時と場合を考えましょうね﹂
⋮⋮ういっす⋮⋮すんませんです。
ようやく英語の授業も終わり、今から昼休み⋮⋮なんだか英語の授
業を受けてる間ずっと針のむしろに座っている気分だったよ。
﹁ヤス君って、変なのを着信音にしてるんですね﹂
﹁だよな、やっぱり変な着信音だなって思ったの俺だけじゃないよ
な﹂
ケンもアオちゃんが口を揃えて俺の着信音は変だと言う。別に俺と
してはそんな変な感じはしてないんだけどな。
﹁そかあ? 普通じゃん﹂
2874
時報、なんかいいじゃん。このなんともしょうもないこの音。脱力
感満載。
﹁ヤス君、今は着メロ、着うた、着うたフル、着ボイスなんてのも
あるんですよ? 無料で手に入る携帯サイトも結構あるんですから、
そう言うのにしようと思ったりはしないんですか?﹂
﹁ううん、全くせんなあ﹂
着メロ探すのめんどい。もともと入ってたこの時報の着信音で十分
かなと思っている。
﹁知ってるか? ヤスの好きなブルーハーツとかを着メロに出来た
りするんだが﹂
﹁別に興味ないなあ﹂
わざわざ携帯でまで聞こうとも思わないし。家に帰ってミニコンポ
で聞けばいいと思うんだけど、そういうもんじゃないんだろうか?
﹁ヤス君ってば頭硬いですねえ⋮⋮ケン君、こういう人には実際に
聞いてもらった方がきっと興味を持ちますよ﹂
﹁だな。ってかヤス、人がすすめているものをそんなむげに断るの
はダメだろ﹂
いやいや! ってかそっちこそ別に強制じゃないんだから無理矢理
やらせようとしないでくれよ。
﹁ちなみに私の着うたはこれですよ!﹂
2875
そう言ってアオちゃんが携帯を取り出して、着うた鳴るものを流し
始める⋮⋮。
﹃マホーウーノコートバー フターリーだけにはわかるー﹄
⋮⋮なんだっけこれ? ええと⋮⋮声は知ってるんだけど⋮⋮。
﹁分かんないんですか!? スピッツの﹃魔法のコトバ﹄ですよ!﹂
⋮⋮ええと⋮⋮分からん⋮⋮そんな歌あったっけ?
﹁映画﹃ハチミツとクローバー﹄の主題歌にもなったじゃないです
か!?﹂
﹁⋮⋮すまん。そもそも﹃ハチミツとクローバー﹄を知らない﹂
﹁なんでですか!?﹂
なんでですかって言われても⋮⋮ってか、自分が知ってるからって
相手も知ってるなんて思わないでくれよ。どんな名曲だとしても、
どんな名作だとしても、みんながみんな知ってるなんて事そうそう
ないんだよ。それが世の中なんだよ。
﹁分かりました⋮⋮もう1度ヤス君には色々と叩き込んであげます
ね﹂
﹁やめて!? 何を叩き込むつもりなのさ!?﹂
﹁スピッツのよさと少女漫画のよさを骨の髄まで教えてあげますよ﹂
2876
﹁いやいや!? 間違ってるから! 娯楽でそんな苦労したくない
から!﹂
﹁大丈夫です、気付いたら楽しくなってますから﹂
そんな中毒症状みたいな喜びは嫌だ!
﹁⋮⋮まあ⋮⋮アオちゃんとの事はまた後日決めるとして、次は俺
の着うただな﹂
次はケンか⋮⋮ってかケン、別に人の着うたを聞く必要なんか全く
ないと思うんだけど。
そう思いつつも、ケンが紹介したがってるのでとりあえず聞いとく。
﹁子供の頃、やった事あるよ、色あせた記憶だ。紅白帽頭にウルト
ラマーンウルトラマーンセブン!﹂
⋮⋮ええと? どっかで聞いた事あんな。これ⋮⋮ロックマンの替
え歌だったっけな。
﹁でも 今じゃそんな事も忘れて 何かにおわれるように毎日生き
てる!﹂
⋮⋮俺、毎日のんびり生きてるなあ。
﹁君がくれた勇気は﹃﹃おっくせんまん! おっくせんまん!﹄﹄﹂
ええええ!? なになに!? 何かクラスメイトが全員で﹃おっく
せんまん!﹄の瞬間になったら叫びだした。
2877
何でみんなしてそこだけ声あげんの!?
﹁ヤス、遅れてんなあ。﹃おっくせんまん!﹄のフレーズは耳にし
た瞬間、みんなして叫ぶのが決まりなんだぞ﹂
﹁ほんとかよ!? そんな話聞いた事もねえよ!?﹂
﹁ヤス君、流行に敏感に生きないとダメですよ?﹂
﹁や、2人揃って俺を嵌めようとしてるだけだろ。それ絶対におか
しいから﹂
﹁ま、信じなくてもいいけどな﹂
⋮⋮へん、誰が信じるかってんだ。
昼休みが終わり、5時間目の授業。
古典の学年主任の先生⋮⋮ちょっと苦手なんだよなあ。
﹁さて、漢文と言って最初に思いつく人物と言うのはおそらく孔子、
孟子⋮⋮﹂
⋮⋮今は先生が解説をしているけれど、いつあてられるか、いつ問
題を解かされるかと全員が戦々恐々としている。この学年ん主任の
先生の時だけは誰も寝た事がないんだよな。
2878
﹁子供の頃、やった事あるよ、色あせた記憶だ。紅白帽頭にウルト
ラマーンウルトラマーンセブン!﹂
ケンの鞄から先ほど大音量でなっていた﹃思い出は億千万﹄のフレ
ーズが流れ出した。
ケン⋮⋮俺がウララ先生の授業でミスった事を直後にやらかすなよ。
﹁⋮⋮おい、携帯の電源を切っておかなかった奴は誰だ?﹂
﹁あ、すいません。俺です﹂
﹁⋮⋮ケンか。さっさときってくれ。これだけ普及してしまったら
高校に持ってきている事は仕方ないと諦めているが、授業中は必要
ないから必ず電源を切っておくように﹂
⋮⋮そう言われつつも、ケンもあたふたしてさっきの俺と同様中々
切れないでいる。
おいおい、そろそろあの問題のフレーズのところに来ちゃうぞ。こ
れ、こんな授業中でも叫ばなきゃいけないんだろうか?
そんなことないよな。それはあるわけないだろ⋮⋮でも、さっきの
瞬間クラスメイトがみんなして叫んだ事は事実なんだよな。
⋮⋮ど、どうしよう!?
﹁君がくれた勇気は﹂﹃おっくせんまん! おっくせんまん!﹄
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
2879
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮な、何で誰も叫ばないんだ!?﹂
﹁そりゃ授業中だし﹂
⋮⋮そりゃそうか。
﹁ってか何で叫ぶの?﹂
おい!? さっき思いっきり叫んでたお前が何を言う!?
﹁ヤス、お前大丈夫か?﹂
⋮⋮せ、先生まで⋮⋮。
いいよいいよ、どうせ俺なんてKYなんだ。
2880
328話:着うたはおっくせんまん︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
自分の携帯の着信音はホントに時報に設定されてたりします︵^^;
時報が鳴ってる人見たら私かもしんないです。
それでは今後ともよろしくです。
2881
329話:頑張ってないように見えたかい?
今日は1月17日土曜日⋮⋮今日は陸上競技場で部活。
どうやら俺とサツキが一番乗りみたい。ユッチもアオちゃんもポン
ポコさんもまだ来てない。
⋮⋮お、見たことない別の高校も今日はいるなあ。
﹁ヤス兄ヤス兄、今日は人多いねー﹂
﹁そだな、いつもなら俺らと他にちらほら何人かいるだけなのに﹂
なんか結構部員が多い高校が来てるっぽいなあ⋮⋮。ええと、30
人くらいはいそう。
⋮⋮うらやましい。うちなんて今日来んの7人しかいないってのに。
﹁お、またどっかの高校のやつらが来たなあ﹂
﹁ああ、またおっそいところが来たんだろ。くそ、学校のグラウン
ドが使えたらこんな所来なくてもよかったのに﹂
⋮⋮な、なんか来た瞬間からやな感じだな。
﹁ってかうざいよなあ⋮⋮試合とかで、自分よりめっさ遅い人らが
のうのうと走ってるのを応援席で指くわえて見てるの﹂
﹁そうそう、他の学校の出場枠減らして、うちの学校の枠もっと増
やしてくれって思うよな﹂
2882
⋮⋮お前ら、俺を挑発してんの? ここ、怒っていい? ﹁ま、とりあえずもっと速い人が出場してくれりゃ納得いくんだけ
どな⋮⋮あんなタイムなら出なきゃいいのに﹂
切れる切れる。俺は今ここで絶対に切れる。
﹁ふざけんなあ!﹂
⋮⋮さ、サツキ? 俺が怒ってやろうとした瞬間、サツキの方が先
に大声で叫んだ。
向こうも陰口のつもりでしゃべってたのか、俺らが聞いてるのに気
づかなかったみたいで、めっちゃびっくりして目をぱちくりさせて
る。
﹁あんたらはそんなに頑張っているって言うの!? ヤス兄は全く
頑張ってないとでも言うの!? 頭おかしいんじゃないの! ああ、
ごめんね。おかしいからそんな発言がほいほい出るんだね。とりあ
えず人生1からやり直してきた方がいいんじゃないの?﹂
⋮⋮さ、サツキ言い過ぎ。
﹁あんたらはヤス兄の何を知ってるって言うのさ!? 全く知らな
いでしょ!? 朝起きたら朝食作って、お弁当作って洗濯して学校
行って帰ったら夕飯の準備して掃除して、私が寝た後も遅くまで起
きてお父さんお母さん帰ってくるの待って夜食の準備して⋮⋮夏休
みにはバイトしながら家の家事全部やりながら、時間をやりくりし
て、その中で部活を頑張ってるんだよ! これで頑張ってないって
思うの!?﹂
2883
⋮⋮うちの家の事情はまあ置いといてくれよ、サツキ。
﹁ヤス兄なんてあんた達と違って運動神経なんか皆無だよ! バッ
トを振れば空を切り、短距離走ればスタートは出遅れ、ラケット持
てばすっぽ抜けて﹃もうくんな﹄って怒られ、そんなヤス兄の17
分とあんたらみたいにちょちょいと練習すれば16分を切れるよう
な才能人と一緒にすんなあ! それとも何!? 才能なくて悩んで
る人、実力がない人はスポーツすんな、走るなとでも言いたいの!
?﹂
俺の運動神経がないの、そこまで強調しないでくれ。なんか自分が
惨めになる。
﹁⋮⋮や、別にそこまでは⋮⋮﹂
﹁言ってない? 言ったよね? 5分前の自分の言葉を思い出して
みたらどう!? 言ったから!﹂
⋮⋮確かに似たようなことは言ってた。
﹁それに、大山高校の部活動がどんな環境でされているかも全然知
らないでしょ!? 大山高校陸上部のってね、長距離のほとんどは
幽霊部員と同じくらいの状態なんだよ? あんたらみたいに専門の
コーチがいるわけでもなく、ちゃんとしたトレーナーがいるわけで
もなく、ちゃんとしたグラウンドもなく⋮⋮その上、みんながみん
なさっぱりやる気なくって、だらだら走ってそれで満足して⋮⋮そ
んな環境の中、一生懸命頑張るってどれくらい大変なことか分かっ
てんの!? わかんないでしょ? 入部した瞬間から先輩達が引っ
張ってくれて、なんも考えないでただひたすらに練習こなしてくれ
ばよかったあんたらには全くわかんないよね!?﹂
2884
⋮⋮も、もういいって、そんな怒らなくても。
﹁あんた達にはあんた達の苦労があるのは分かるよ? 鳴り物入り
で入部したにもかかわらず、どんだけ苦労しても、毎年毎年すっご
い新人が入ってきて、もしかするとあっさり自分の今のポジション
を奪われて⋮⋮3年生になってももしかすると試合にも出れず、し
ょぼしょぼとした3年間になるかもしれない。そんな苦労があるの
は知ってるよ? でもね、だからってあんたらがヤス兄をバカにす
るのは絶対許さないから!﹂
﹁⋮⋮ま、まあサツキ。それくらいにだな﹂
﹁まだまだ言い足りないよ、ヤス兄! あんな人をバカにしくさっ
たやつなんてもっと言ってやらないと気がすまないよ! 私、頑張
ってる人を鼻で笑う人だいっ嫌い! ヤス兄をバカにする人はもっ
とだいっ嫌い!﹂
サツキ⋮⋮俺のためにそんなに怒ってくれて嬉しいです。
﹁もういいから。サツキが怒ってくれたおかげで俺も胸がめっちゃ
すっとしたから⋮⋮ありがとな、サツキ。﹂
そういってさつきの頭をぽんぽんと叩く⋮⋮サツキも言いたい放題
言ったからか、ちょっとだけ落ち着いたみたい。
﹁ふう⋮⋮じゃあ、このぐらいで怒るのやめるよ。ヤス兄は私の自
慢の兄なんだから、今度変な事言ったらズッタズタのボッロボロに
して、一生消えない心の傷を作ってやるんだから!﹂
2885
﹁⋮⋮﹂
﹁返事は!?﹂
﹁は、はい⋮⋮﹂
こ、怖いぞサツキ⋮⋮なんか相手方には既に心の傷が出来ている木
がします⋮⋮でも、ほんとにありがと。
こんな妹がいるから、また明日もがんばろって思えます⋮⋮これか
らもよろしく、サツキ。
2886
329話:頑張ってないように見えたかい?︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
自分では精一杯頑張ってるつもりなのに、﹃もっと頑張れ﹄とただ
突き放されると、何をどうすればいいか分からなくなりますよね︵
−−; けど、それでも出来ることはただ頑張るしかないんですよ
ね⋮⋮ガンバろ、自分。
それでは今後ともよろしくです。
2887
330話:結婚式、朝
今日は1月18日日曜日。
ユッチのお兄さんと、その婚約者さんとの結婚式。今は自宅で出発
の準備をしてるところ。
﹁なあサツキ、俺らってどんな格好してけばいいと思う?﹂
やっぱりなんかフォーマルな格好をしたほうがいいんだろうか?
﹁別にいいんじゃない? 来るのはユッチ先輩の家族とお相手のご
家族だけなんでしょ? そんなかしこまる必要ないよ。いつもと同
じ格好、いつも同じ顔で行けばいいんじゃない?﹂
⋮⋮サツキ、どんなに頑張っても顔は変えられないっす。
﹁逆にそんなかしこまった格好で言ったらヤス兄と私、浮いちゃう
かもよ﹂
⋮⋮ふむ、それは一理ある。確かにサツキの言うとおりだ。
﹁そもそもヤス兄ってフォーマルな服なんて持ってるの?﹂
⋮⋮持ってないな。言われてみればその通り。格好のつけようがな
かった。ま、カジュアルだけどそれなりの格好、そんな感じで適当
にやっていこ。
あ、そだそだ。父さん母さんからご祝儀として持ってけーと、手元
2888
には自分とサツキの分、計2万円。これも持っていかないとな⋮⋮
ってかご祝儀ってたっかいなー。2万円は少な目とか母さんに聞い
た。将来、自分の友達とかに結婚ラッシュされたら、たまったもん
じゃなさそうだ。
ええと⋮⋮ご祝儀袋、俺の分とサツキの分と、2つに入れればいい
んだろか? それとも連名でひとつの袋に入れてしまえばいいんだ
ろか? ⋮⋮もうちょっとちゃんと母さんに聞いとけばよかった。
まだ今日は父さんと母さん、スーピーと眠ってるしなあ⋮⋮起こす
のも悪いよなあ。
﹁ヤス兄、何そんなに悩んでるの?﹂
﹁や、こういうのって家族まとめて入れるもんなんかな? それと
も俺とサツキばらばらで渡すもんか?﹂
﹁この前お母さんから聞いたら、一緒に入れるもんって言ってたよ
?﹂
⋮⋮そうなんか、知らなかった。いやあ、サツキが知っててくれて
助かった⋮⋮それにしても、イベントごとって参加するだけでもい
ろいろ考えなあかんのだな。
という訳でユッチの家に到着。インターフォンを鳴らしてユッチが
出てくるのを待つ。
2889
﹁おっはよお! ヤス、サツキちゃん、待ってたよお!﹂
﹁おはようございます! ユッチ先輩﹂
﹁おはようさん、ユッ⋮⋮チ?﹂
あれ? ⋮⋮見間違えたかな?
﹁な、なんだよおヤスう? そ、そんなに似合ってないかなあ?﹂
や、変って言うか⋮⋮めっちゃかわいいっすよ? ってかびびった
あ⋮⋮声を聞かなかったらユッチだってわかんなかったかもしんな
い。それぐらい今日のユッチは綺麗に見える。
いつもとは違った格好の、ドレスアップしたユッチが俺とサツキを
出迎えてくれた。
ピンク色のワンポイントで胸のところに小花の刺繍がついたドレス
を着ているユッチ⋮⋮普段は私服を見ると言ってもジャージ姿かト
レーナー姿みたいな姿しか見ないから、ドレスを着たユッチがめっ
ちゃかわいく見える⋮⋮。
﹁ヤスう、黙ってないでなんか言ってよお﹂
﹁ああ⋮⋮ごめんごめん、めっちゃ似合ってる、綺麗だぞユッチ﹂
⋮⋮ほんとに綺麗に思ったのでいつもなら悪態をついてしまうのに、
素直に口から出てきた。
﹁えへへえ⋮⋮ありがとヤス﹂
﹁ほんとに似合ってますよ、ユッチ先輩﹂
2890
﹁ありがと、サツキちゃん! ずっと前にお姉ちゃんが買ってくれ
てから、一度この服着てみたかったんだけど、こういうときしか着
る機会ないからさあ、ちょっと着てみちゃったんだあ⋮⋮似合って
るかどうか自信なかったんだけど、褒めてもらえてよかったあ﹂
そんな心配せんでも。
﹁ま、何はともあれ今日は呼んでくれてありがと⋮⋮なあ、今更な
んだけど俺らってほんとに参加していいもんなのか?﹂
俺とサツキ以外はみんな身内って思うと、いまだに場違いな気がし
て仕方がない。
﹁そんなの気にしない気にしない。おとうさんもおかあさんもぜひ
って言ってたよお﹂
⋮⋮そう言われても。
﹁それにね、ヤスとサツキちゃんいないとちょっと困ることもある
から大丈夫なんだあ﹂
困ること? なんじゃらほい?
﹁あ、それよりサツキちゃん、サツキちゃんもドレス着てみる気あ
るう? おねえちゃんのお下がりになっちゃうけど﹂
何が困るのか聞けないまま別の話題になってしまった⋮⋮まあそう
気にする必要もないか。
2891
﹁え、いいんですか!?﹂
﹁もっちろん! もうおねえちゃん全く着なくなっちゃった服が1
着あるんだけど、そのまま着ないでおいたらドレスがもったいない
じゃんかあ。サツキちゃんだったらすっごく似合うと思うよお!﹂
﹁あ、着ます着ます! 絶対着ます! やっぱり結婚式みたいなと
きにはドレス着てみたいですよねー﹂
﹁うんうん!﹂
おいサツキ! お前ユッチの家来る前に﹃フォーマルな格好してっ
たら浮くからやめろ﹄って言ったじゃん! 何でここへきて180
度意見が変わるんだよ!?
﹁それじゃ時間もないし早速着替えよお!﹂
﹁オー! それじゃヤス兄、また後でね﹂
そう言って家の中に消えていった2人⋮⋮なあ、もしかして俺だけ
この普段着で結婚式に出席することになるのか?
勘弁してくれよ⋮⋮。
2892
330話:結婚式、朝︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
結婚式に出席したことがないのに結婚式の話を書こうという暴挙に
出てしまいました。
それでは今後ともよろしくです。
2893
331話:ダブル結婚式?
サツキとユッチが消えてからもうかれこれ30分以上経った。
時間がないからといいつつこんなに待たされるとは⋮⋮女の準備に
待たされる男の気持ちってこんなもんなんかなあと感じながら、待
ちぼうけしている。
⋮⋮こういうのを待たされているときの気持ち、なんて言うんだっ
け? ええと、ああ、そだそだ。﹃俺はこんなところでこんなこと
をしている場合では絶対無いと思うんだ﹄だよな。
﹁お待たせ! ヤス兄!﹂
ふう⋮⋮やっときたか。もうちょい待ってる人の気持ちになってく
れ⋮⋮よ?
﹁どしたの? ヤス兄﹂
⋮⋮サ、サツキ⋮⋮?
﹁もう、固まってないで何か言ってよ! さっきユッチ先輩を見た
ときと全く同じリアクションだよ!﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
﹁ヤス兄、何で何にも言わないの?﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
2894
﹁サツキちゃん、ヤスってば完全に固まっちゃってるねえ。よっぽ
どサツキちゃんが綺麗だったんだよお﹂
⋮⋮うん、ユッチの言うとおりだ。
薄水色のドレスをまとって、目と頬と唇に少しだけ化粧をしている
サツキ⋮⋮濃くならない程度のほんとにうっすらとした化粧をまと
っている。たったそれだけなのに、こうまで違って見えるんだ⋮⋮
アイラインをキュッとえがいていつもより目がパッチリとさせて、
それでいてきつめの印象をいだかせない程度の化粧。
ほんとに俺とサツキって血がつながってるんだよな⋮⋮俺と同じ遺
伝子を持ってるとは思えないくらい綺麗⋮⋮。
﹁サツキ⋮⋮結婚しよう!﹂
﹁へ? え、えーと⋮⋮ヤス兄? 頭大丈夫?﹂
﹁俺は正常だ。サツキ、結婚しよう。今すぐ結婚しよう。そしてユ
ッチのお兄さんたちとダブル結婚式を挙げるんだ﹂
﹁あ、えーと⋮⋮ヤス兄? まずは正気に戻った方がいいよ? そ
れに今日はユッチ先輩のお兄さんの結婚式だから無理だよ﹂
﹁サツキちゃん、ツッコミどころはそこじゃないだろお!﹂
ユッチがやんやん騒いでいるが、別に気にしない。
﹁んー⋮⋮頼めば何とかなるって。きっとユッチのお兄さん、寛大
だから。会ったことないけど﹂
﹁どんなにユッチのお兄さんが寛大でも無理だよヤス兄。ヤス兄は
2895
16だし私15だし、後2年は待たないと﹂
﹁だからサツキちゃん、ツッコミどころはそこじゃないってえ!﹂
⋮⋮ちょっとユッチがうるさくなってきた。
﹁大丈夫だサツキ、法律も年齢も性別さえもぶっ飛ばして行くんだ。
大丈夫だ。きっと何とかなる﹂
﹁ヤス兄、別に性別はぶっ飛ばさなくてもいいよ?﹂
﹁だからサツキちゃん、ツッコミどころはそこじゃないってばあ!﹂
﹁ユッチ、ボケ担当のユッチがツッコミを語るな﹂
﹁ぼ、ボクはボケ担当なんかじゃないい!﹂
⋮⋮そうだったっけ? いっつもボケていたような⋮⋮まあいいや。
今はユッチはほっとこう。
﹁サツキ、今日が2人の新しい門出となるんだ。まずはここで結婚
式を挙げて、そのまま新婚初⋮⋮﹂
﹁あほかあ!!﹂
スコーン! ⋮⋮い、いてえ⋮⋮ユッチに思いっきり頭をひっぱた
かれた。
﹁何すんだよユッチ。バカになったらどうする?﹂
2896
﹁もともと大バカなんだから大丈夫だあ! こん⋮⋮のヤスのバカ
あ!! 変態い! 甲斐性なしい!﹂
﹁そりゃヤス兄は高校生なんだから、稼ぎがなくて甲斐性なしです
よね﹂
冷静にツッコミいれてないでユッチを止めてよサツキ!
﹁このとうへんぼくう! 優柔不断ん! たわけえ! まぬけえ!﹂
痛い痛い! ⋮⋮痛いけど、どこまで悪口が続くのか聞いてみたく
なってきた。
﹁このボケえ! バカあ! アホお! ⋮⋮ええとええとお⋮⋮﹂
﹁ユッチ、もう悪口のレパートリーはなくなったのか? 少ないな
あ、もうちょっと語彙を増やさないとダメだぞ﹂
﹁う、うるさいうるさいい!﹂
や、やばっ!? なんかさっきより力の入れ方が格段にあがってる
んだけど!?
﹁痛い! 痛いってばユッチ! ポカスカ殴るな!﹂
﹁殴ってない! 叩いてるんだあ!﹂
グーでもパーでも一緒だよ! どっちだって痛いから! あいたた
た⋮⋮やめいやめい! ユッチ興奮しすぎだから! ストップスト
ップ!
2897
﹁ユッチ先輩、せっかくのハレの日なんですから、けんかはダメで
すよ。それにせっかくドレスを着てるのに着崩れて台無しになっち
ゃいますよ?﹂
﹁ふうう、ふしゅう⋮⋮﹂
さかりのついた猫のように、いまだ興奮が冷めやらぬユッチ⋮⋮こ
ええ⋮⋮。
そう言えば俺、何でユッチに殴られてたんだっけ? 今ユッチに何
か悪いことしたっけ? ⋮⋮覚えがないなあ⋮⋮殴られ損な気がし
なくもない。
﹁あ、そろそろ時間ですね。ヤス兄、ユッチ先輩。レストラン行き
ませんか?﹂
﹁ふうう⋮⋮うん、わかったあ﹂
お、ユッチのやつ⋮⋮ようやく落ち着いたか?
﹁んじゃ行くか。ユッチ、案内よろしく﹂
﹁うるさあい! ヤスの変態い!﹂
⋮⋮なんか⋮⋮何もした記憶がないのに⋮⋮ええと、生まれてきて
ごめんなさい。
2898
332話:バージンロード
ユッチの家から徒歩5分、こじんまりとしてるけど、とても綺麗な
レストランについた。
内装はユッチたちの結婚式用に変えてあるのか、参列者用の丸テー
ブルが3つと新郎新婦用の四角いテーブルがおくに1つ。新郎であ
るユッチのお兄さんらしき人が既にいる。
白いタキシードに薄めのピンクのネクタイを着けて、背筋をピンと
伸ばして新郎席に座ってる。
ってかがちがちに緊張してるのか、すっごい無表情⋮⋮いや? 怒
っているのか?
﹁あれがボクの本当のお兄ちゃんで、トオルおにいちゃんなんだあ。
やっぱり嬉しいみたいだねえ。ものすごい笑顔だあ﹂
⋮⋮どこが!? 俺にはどうみても口を真一文字に結んでいるよう
にしか見えないぞ!?
﹁口のはしっこをじっと見てみると良く分かるよお? それとボク
のお兄ちゃんってすごく笑うことを我慢しようとするんだあ。それ
で目と目の間にしわが出来るんだけど、しわが増えれば増えるほど
喜んでる証拠なんだあ﹂
⋮⋮ええ、ユッチに嬉しいときの判別方法を教えてもらったけど⋮
⋮さっぱり分からん。やっぱり無表情に見える⋮⋮ユッチみたいに
もっと感情を表に出してくれ。
﹁それで今日の結婚のお相手はアキラおねえさん﹂
2899
⋮⋮ふむふむ。
﹁ユッチのお姉さん夫婦の名前ってなんだったっけ?﹂
﹁マコトおねえちゃんとカオルおにいちゃん﹂
ええと、ユッチの本当のお兄さんがトオル、義理のお兄さんがカオ
ル、本当のお姉さんがマコト、義理のお姉さんがアキラ⋮⋮。
﹁⋮⋮ユッチの家って絶対に名前聞いただけじゃ男か女かわかんな
いな﹂
﹁あ、そう言えばそうだねえ﹂
ユッチの父さんと母さんは絶対狙ってつけてたんだろうな。もう一
度改めてくるっと周りを見ると、俺ら以外のメンバーは全員既に到
着してるみたい。ユッチの父さんと母さんらしき2人組があるテー
ブルの一角に座っている。ユッチのお姉さん夫婦も同じテーブルに
着席。
もう1つの丸テーブルには新婦さんの母親と妹だろうか? が2人
既に席について、談笑している。
﹁つーかさ⋮⋮みんなめっちゃフォーマルな格好じゃね? 俺だけ
めっちゃ浮いてないか?﹂
参列者は俺を除いて男性は全員黒、もしくは紺のスーツに白ネクタ
イ。女性は全員ドレス⋮⋮おおい、セーターを着てしまっている俺
を誰か助けてくれ。
2900
﹁別に気にするなあ! ボクとサツキちゃんとヤスの3人はみんな
とはまた別のテーブルに座るんだから。これならそんなに気になら
ないだろお?﹂
全然。めっちゃ気になるから。誰か俺にスーツを貸してくれ。
﹁それより、後ちょっとしたらバージンロードを新婦さんが入場す
るんだから、ヤスはさっさと座ったあ!﹂
お前らの着替えが遅かったのが原因だ⋮⋮と口を出したくなってし
まったが、ここはあえて黙っておこう。
⋮⋮そういや、お店の入り口から新郎さんへの席まで白いじゅうた
んが敷いてあるな。結婚式に出席するんだから多少知識を蓄えとこ
うとウェブをちらほら見たけど⋮⋮なんか挙式と披露宴がごちゃご
ちゃに混ざっている気がするが、こういうのが結婚式なんだろうか?
﹁ヤス兄、そんな首をひねったってどうしようもないよ? どんな
ことだってとにかく笑えればそれでいいんだよ﹂
﹁それはなんか違う気がする﹂
⋮⋮けど、まあいっか。
﹁そういやさ、バージンロードって直訳すると処女道だよな。でき
ちゃった結婚って事は全然バージ﹂
﹁アホお!﹂
スコーン!
2901
⋮⋮⋮⋮いったあ⋮⋮今回は絶対にグーで殴っただろ。痛さの度合
いが全然違ったぞ。
﹁ヤスう、今日は一生でもっともおめでたい日なんだから! そん
なあほなこと言うなあ!﹂
まだ最後まで言ってない⋮⋮ってか一生でもっともおめでたい日っ
て結婚式の日なのかな? なんか心がもやもやするけど。
﹁ユッチ先輩、それは違いますよ。結婚式は確かにおめでたい日か
もしれないですけど、﹃もっとも﹄おめでたい日ではないですよ﹂
﹁ええ!? なんでなんでえ!?﹂
﹁ユッチ先輩、結婚式はひとつの区切りに過ぎませんよ。それから
の1日1日の生活が家族にとって﹃もっとも﹄おめでたい日なんで
すよ。そこに優劣なんてないですよ﹂
⋮⋮ああ、なるほど。
﹁ええ!? でもでもお! やっぱりウェディングドレスってあこ
がれるでしょお!﹂
﹁ユッチ先輩、私もウェディングドレスを着るのはあこがれますけ
ど。でも、結婚の日が一生でもっともおめでたい日って言っちゃっ
たら、それからの毎日がなんだかさびしくなるじゃないですか。﹃
これ以上の喜びは私にはないの?﹄って。私は今日がどんなにすば
らしく笑える日でも、それでなおそれ以上に笑える明日を期待しま
す﹂
2902
ああ、そうだなあ⋮⋮そうだよなあ、いいこと言うなあサツキ。け
ど、そこで﹃おめでたい﹄とか﹃嬉しい﹄じゃなくて﹃笑える﹄っ
て言うところがサツキだよなあ。
﹁ええ、でもお⋮⋮﹂
﹁ユッチ先輩、例えば全然家事をしてくれない旦那に怒ったユッチ
先輩、たまたまけんかしちゃったら、いつもは全然作ってくれない
旦那が謝罪の意味を込めてこっそりと作ってくれたポトフ。それか
ら少しずつ家事を手伝ってくれるようになるんですよ﹂
﹁ああ、幸せだねえ⋮⋮おめでたいねえ⋮⋮﹂
﹁ユッチ先輩、例えば縁側で夫とお茶をすすりながら、孫達が庭で
遊んでいるのを眺めている。こんなシチュエーションはどうですか
? そしてちょうどそれが金婚式の日﹂
﹁ああ、幸せだねえ⋮⋮おめでたいねえ⋮⋮﹂
﹁ユッチ先輩、結婚は確かにおめでたいです。けれど、本当におめ
でたいのはきっと結婚してからなんですよ。結婚は幸せな﹃家庭﹄
を作るための﹃過程﹄なんですから﹂
﹁そうだねえ⋮⋮それ、今日お父さんがスピーチで言おうとしてた
あ。お父さんどうするんだろお⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
チラッと玄関口を見ると、新婦さんっぽい人が既にスタンバイして
る。たぶんサツキの話も全部聞こえただろう。
2903
﹁⋮⋮﹂
ちらっとユッチのお父さんを見てみると、すごく渋そうな顔をして
いる。
﹁⋮⋮﹂
ちらっとサツキを見ると、どどど、どうしようって顔であたふたし
てる。
﹁⋮⋮﹂
ちらっとユッチを見ると、なんかポヤヤヤーンとした顔してほうけ
てる⋮⋮幸せなやつめ。
⋮⋮ま、なんとかなるさ。それよりも俺に誰かスーツを貸してくれ。
2904
332話:バージンロード︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
﹁結婚は幸せな﹃家庭﹄を作るための﹃過程﹄﹂⋮⋮ちょっと自信
作なフレーズです︵ ̄ー+ ̄︶
それでは今後ともよろしくです。
2905
333話:誓いの言葉
新婦、入場⋮⋮父親と並んで入ってくる新婦さん、白いウェディン
グドレスを着て⋮⋮めっさ綺麗。
ほとんどの女の人がウェディングドレスに憧れるのが分かる気がす
るわあ⋮⋮。
父親にエスコートされてゆっくりと自分の席に向かって歩き、着席
する。そのまま父親は新婦側の席に座る。
﹁今日皆さまの前で、2人が永遠の愛を誓います。2人はお互いに
誓い、ご両親、御家族、今日お見えのみなさまに誓います。そして
皆さまに二人の結婚をご承認頂きたいと存じます。それでは、ただ
いまより新郎、トオルと、新婦、カオルの結婚式を始めます。本日
司会は、この店の店長である私が務めさせていただきます﹂
⋮⋮何で店長? ま、まあ変なところを思うのはやめよう。
﹃それでは、お2人の固い意思が込められました、誓いの言葉をお
願いいたします﹄
誓いの言葉? 誰かが新郎新婦に﹃健やかなる時も病める時も⋮⋮
生涯愛することを誓いますか?﹄って聞くんじゃなくて、自分達で
誓いの言葉を話すのか。神に誓うのではなく、出席者に誓うという
この誓いの言葉が、今流行の人前式というやつなんだな。
﹃誓いの言葉、私達二人は本日ご出席頂いた大切な皆様方の前に誓
います﹄
2906
2人同時に同じ言葉を話すトオルさんとアキラさん。
﹁私トオルは、アキラを生涯妻とし、愛し続ける事を誓います。ど
んなに仕事が忙しくなっても、育児、家事に協力し、幸せな家庭を
築きます。結婚記念日にはアキラの大好きなひまわりを満開に咲か
せます﹂
⋮⋮結婚記念日って今日だよな。今日って冬だよな⋮⋮ひまわりは
どう頑張っても咲かせられない気がするんだけど。
﹁私アキラは、トオルを生涯夫とし、愛し続ける事を誓います。今
以上に料理についても勉強し、彼を喜ばせ、時には共に泣き、時に
はけんかをしても、いつも笑っていられる、明るい家庭を彼と一緒
に作っていきます﹂
⋮⋮トオルさんって笑うんだろうか。アキラさんの前ではすごく笑
うのかもしれない。好きな人の前だと人が変わる人っているって聞
くし。
﹃私たち2人はこれから生まれる新しい命と共に、幸せな家庭を築
いていきます。どんな時も今のこの気持ちを忘れない事をここに誓
います⋮⋮2009年 1月18日﹄
﹁夫トオル﹂
﹁妻アキラ﹂
⋮⋮ああ、ええなあ⋮⋮お2人さん、おめでとうございます。
その後、司会に促されて指輪の交換をして、婚姻届にサインをする
2907
トオルさんとアキラさん。
﹁それではここで、とわの愛を込めまして誓いのキスを交わしてい
ただきましょう﹂
あ、そ、そうなのか。キ、キスするのか⋮⋮父さん母さんがいつで
もどこでも気にせずキスしてんのは見てるんだけど、なんか父さん
母さんがキスしてるのを見るのとは違うな⋮⋮。
うわあ、ドキドキしてきた。ブッチューってすんのか? むっちゅ
ーってすんのか?
⋮⋮凝視できなくなってしまって、ついついキョロキョロと周りを
見てしまう。あ、ダメだ。こんな風に落ち着きなくしてるの自分だ
けだ。ちゃ、ちゃんと見ないと⋮⋮。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮。
チュッとトオルさんとアキラさんがキスをした。時間にしてほんと
1秒にも満たないくらいの短いキス⋮⋮。
⋮⋮な、なんかあたふたしてた自分がバカみたいだ。何で自分はブ
チューみたいな濃厚なのを想像したんだろう⋮⋮何考えてんだ自分。
そして司会が俺達、参列者に向かって呼びかける。
﹁みなさま方の立会いのもと、今ここに新しいご夫婦が誕生致しま
した。はれてご夫婦となられました河辺トオルさんとアキラさんの
これからにみなさま方とご一緒に祝福をし、みなさま方にお二人の
結婚をご承認をいただきたいと存じます。ご承認いただく方は拍手
をお願いいたします﹂
パチパチパチパチ⋮⋮今日ここに集まった人たちが、大きな拍手を
店内に響かせる。
2908
﹁みなさま、ありがとうございます。ここにトオルさんとアキラさ
んの結婚式がとどこおりなく執り行われました。みなさま方のご協
力に改めて感謝申し上げます﹂
ふう⋮⋮こうやって結婚式って進んでいくんだなあ。
﹁2人の終生変わらぬ愛と、すえながい幸せを祈りまして、新郎、
トオルさん、新婦、アキラさんの結婚式を閉式とさせていただきま
す﹂
⋮⋮あ、これでお開きなんだ。意外と結婚式って短いんだなあ。入
学式とか卒業式みたいにとても長いものなんかと思ってた。
﹁これより、新郎、新婦、ご退場でございます。みなさまの大きな
祝福の拍手にて、お二人をお送りいただきたいと思います﹂
ここで退場なのか。パチパチパチパチ⋮⋮。
俺達の拍手と共に、店内から出て行くご夫妻⋮⋮ああ、結婚式でバ
ージンロードをなんで父親と入ってくるのかようやく分かった気が
する。
今までの人生においては父親と歩んできた、これからは新郎と歩ん
でいくんだ⋮⋮そういう意味が込められてるのか。だから入場と退
場で連れ添う相手が変わるんだ。
おめでとうございます。
2909
333話:誓いの言葉︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
流れはあっていたんだろうか? と心配になりつつ書きました︵−
−;
それでは今後ともよろしくです。
2910
334話:結婚式、昼
結婚式が終わった後、ここでこのままお食事会。
ウェディングドレスが汚れてしまうかもしれないからと、新婦さん
はウェディングドレスからパーティ用の普通のドレスに着替えてる。
新郎さんも真っ白のタキシードから普通のスーツに着替えなおして
いる。これがいわゆるお色直しというやつなのかな。
﹁そういやユッチってもうすぐ叔母さんになるって話、前にしたじ
ゃん﹂
﹁その話をするなあ!﹂
うわ、めっちゃ顔が赤くなった。ユッチにとって叔母さんというセ
リフはタブーみたい。だが、どんなにユッチが怒ろうが、もうすぐ
叔母さんになるには違いない。これからもこのネタでユッチをから
かおうと俺は思っている。
﹁んでもうすぐ叔母さんになるユッチが今日の夕飯でコックをつと
めるんだよな?﹂
﹁だから叔母さんって言うなあ! ⋮⋮あ、そうだよお。今日の夕
飯はボクがコックなんだあ。それがどうかしたあ?﹂
﹁いや、何を作るつもりなのかなあって思って﹂
あ、さっきまで怒っていた顔がすごくうれしそうな顔に変わった。
ころころと表情が変わるやつだなあ。
2911
﹁ふっふ、よく聞いてくれたあ! 聞いて驚くなよお! 今日はボ
クフルコースを作るつもりなんだからあ!﹂
ふむふむ、フルコースか⋮⋮。フルコースといえば、前菜、スープ、
魚料理、肉料理、デザートと順番に出てくる料理だよな。一品一品
を手間ひまかけて作らなきゃいけないんだから、結構大変なはず。
⋮⋮ユッチのやつ、なかなか手のこんだものを作るみたいだな。
﹁最初の前菜はきのこと鳥のササミを使って、あっさりとオリーブ
オイルのドレッシングを使ったサラダを作るんだあ﹂
﹁ふーん、そうなんか﹂
想像してみたら、意外とうまそうだ。今度作ってみよ。
﹁ヤスう! もっと驚いてよお!﹂
どっちやねん、驚けばいいのか? 驚いちゃいけないのか?
﹁まったくもお。それでそれで、次に出てくる料理はコーンスープ
を作ろうと思ってるんだあ﹂
⋮⋮おし、んじゃ今回はユッチのリクエストどおりとりあえず驚い
てみよう。
﹁うっわあ、すっごいなあユッチ! コーンスープなんてなっかな
か出来ねえよ! さっすがユッチ、すごいぞユッチ、びっくりだユ
ッチ、天才だなユッチ!﹂
2912
おお、我ながら完璧な驚き方。これだけ驚けばユッチも満足だろ。
﹁⋮⋮サツキちゃん、なんかものすごくイラってきたのはボクだけ
かなあ?﹂
﹁大丈夫です、私もなんだかとてもイラってきました。後でヤス兄
を2人で殴っときましょう﹂
﹁うんうん! そうしよ!﹂
何でやねん!? 驚けって言ったから驚いたんじゃないか! 何か
悪いことを俺はしたか!?
ふう⋮⋮人間ってのは難しい。お、最初の料理がきたみたい。
﹁お待たせいたしました、本日のオードブル、きのこと鳥のササミ
のサラダでございます﹂
﹁⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮なあユッチ、俺、今ものすごく驚いたよ﹂
﹁ヤスう、絶対に驚く瞬間が間違ってるだろお!﹂
や、そんな事言われても。ユッチが作るつもりだったものがそのま
んま出てきたらやっぱりびっくりするだろ。しかし、プロの料理人
と料理対決したら、ユッチがどんなに料理が得意でも勝てないよな
あ⋮⋮こうなったら何か別の料理を考えないとだな、ユッチ。
﹁ってかユッチさあ、昼にコース料理を食べるのに、夜にもフルコ
ースを作る必要はないんじゃないのか?﹂
2913
﹁う、うるさいなあ! ボクお昼がコース料理だなんて知らなかっ
たんだから仕方ないだろお!﹂
⋮⋮そこは知っとけよユッチ。今は同じ家に住んでんだから。
﹁ってかさ、フルコースなんて作ってたら、ユッチ台所に缶詰じゃ
ん。せっかくのお祝いの場に参加できないじゃん。フルコースは別
の機会にしてさ、もっとお手軽料理にしたほうがええんじゃない?﹂
﹁あ、ええとお⋮⋮それはそうだねえ。けどさあ﹂
ん、何かまずいことでもあんのか?
﹁ユッチってトオルお兄さんと仲良くないのか?﹂
﹁ううん、そんなことないよお? ボクおにいちゃん大好きだもん﹂
ええなあトオルお兄さん⋮⋮サツキも時々こんなセリフ言ってくれ
ないかなあ⋮⋮チラッとサツキを見たら、にこやかにアッカンベー
ってされた。どうやら何があろうとそんなセリフを言ってくれるつ
もりはないらしい。くそお、たまには言ってほしいなあ。
﹁じゃあ、ちょっとくらい結婚式で何やるか聞きゃいいのに﹂
﹁あ、うん。そうだったんだけどねえ⋮⋮﹂
⋮⋮なんか歯切れ悪いな。また心に何かを溜め込んでいるようだユ
ッチのやつは。そんなに1人で抱え込んでないで、誰かにぶっちゃ
けちゃえばいいのに。
2914
﹁ヤス兄ってば、そんな風にユッチ先輩を責めちゃダメだよ。もっ
とユッチ先輩の気持ちになって考えてあげないと。ユッチ先輩、久
しぶりにお兄さんに会って緊張してたんですよね?﹂
﹁う、うん。そ、そうなんだあ!﹂
残念サツキ、外したみたいだぞ。ユッチが悩んでいるのはそのこと
じゃないようだ。人の気持ちになって考えるって事ほど難しい事は
ないもんだ。
まあ、いつかどこかでユッチが言ってくれるのを期待しつつ、でて
きた2品目のコーンスープをすすっていよう。
⋮⋮ユッチ、かぶりすぎだぞ。
2915
334話:結婚式、昼︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
最近天気予報が外れすぎです。日本の天気は当てにくいといいます
が、もうちょっと精度を高めてほしいと思います。
それでは今後ともよろしくです。
2916
335話:ライフカード
あの後パクパクと出てくる料理を平らげ、今は家に帰ってきて、ユ
ッチの部屋でくつろいでる。
サツキとユッチも普段着に着替えて動きやすい格好に変わった。
つい先ほど新郎新婦の2人は役所に結婚届を出しに行った。ああ、
ほんとに幸せそうな2人組み。背中に羽が生えたみたい。
﹁おし、サツキ。ネタあわせやるぞ﹂
ただ招待されるだけじゃなんやら悪いなあという気持ちになり、サ
ツキとお呼ばれされることが決まってから、なんかネタねっかなー
と考えて作ってきた。まだちょっとうろ覚えのところがあるので、
もう少ししっかりと練りこみたいと思っている。
﹁ええ? 今やるの? いつ帰ってくるかわかんないじゃん。聞こ
えちゃうかもしれないし﹂
﹁大丈夫だって、まだ当分帰ってこないから﹂
こっから市役所までは結構な距離がある。それまで何回かネタあわ
せが出来るはず。
﹁という訳でユッチ。しっかり見て、面白いかどうか判別してくれ
よ﹂
﹁うん、わかったあ⋮⋮﹂
2917
⋮⋮夕飯にユッチが作るつもりだった料理がほとんどかぶってしま
っててめっちゃへこんでしまってる。ここは笑って元気になっても
らわないと。
﹁んじゃいきます。ショートコント、﹃選択﹄﹂
﹁ああ、ヤスヤス。ちょっといいかね?﹂
﹁あ、何でしょうサツキ課長?﹂
﹁今日の18時からなのだが、突然先方からどうしても大事な打ち
合わせがしたいと連絡があってだな。ヤス、悪いが出席してくれな
いかね?﹂
︵⋮⋮な、なんだってー!? 今日はあいつとの大事な大事な結婚
記念日だってのに、何でそんなときに限って会議なんて入るんだよ
!? せっかく花屋にひまわりの予約までしたってのに⋮⋮ここは
すっぽかそうか。いやいや、すごく重要な案件だって言ってるしな
⋮⋮︶
﹁ん? どうした? 都合でも悪いのかね?﹂
︵⋮⋮課長にはいつもお世話になってる。だがしかし! 今日だけ
はダメだろう⋮⋮いやでも⋮⋮︶
﹁どうしたのだね?﹂
︵どうすんの!? どうすんの俺!?︶
﹁さあ、ここで皆様にご選択! 出て来たのは4枚のカード! ﹃
2918
正直﹄﹃嘘をつく﹄﹃笑う﹄﹃謝る﹄、人生はあなたのカードの選
択にかかっています! さあさあ、どうすんの!?﹂
バババッ! と4枚のカードを広げてユッチの前に差し出す俺。け
ど、ユッチはなかなかカードを選んでくれない。
﹁うん、いいんじゃないかあ⋮⋮?﹂
おいユッチ!? ここでどれか1枚選んでくれよ!? 話が進まな
いじゃん!?
﹁ダメだねヤス兄、ユッチ先輩乗り気じゃないもん﹂
くそお、俺はどんなに頑張ってもオダギリにはなれないというのか
⋮⋮ライフカードネタ。面白いと思ったのに。
ボケッと差し出した4枚のカードを見ているとなんだかむなしくな
ってきて、とりあえずカードは下におく。
﹁そういやユッチさあ、トオルお兄さん、今は天にも昇る心地なん
だろうな。将来お嫁さんになりたいユッチは、結婚式参加してどん
な気分だった?﹂
﹁うん、そうだねえ⋮⋮﹂
おいユッチ、返事になってないぞ。ちゃんと返事してくれよ。
﹁ああ、それにしてもあの料理うまかったなあユッチ﹂
﹁うん、そうだねえ⋮⋮﹂
2919
⋮⋮意気消沈しすぎだろ。いくらユッチが企画してた料理とかなり
かぶっちゃったとしてもだな⋮⋮ってか、ほとんどの料理がかぶっ
たとか、どんな偶然なんだろう。
﹁ユッチ先輩、きっとどっかで聞いたんですね。そのメニューが頭
になんとなく残っちゃったから、メニューがかぶっちゃったんです
よ﹂
﹁うん、そうだねえ⋮⋮﹂
あかんなあ、せっかくの結婚式なんだから、もっと明るくならない
とだぞユッチ。
トントン。
さっきのねたでも笑ってもらえなかったユッチに対して、いかにし
て元気付けようか考えていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
⋮⋮お、誰だろ? ユッチのお姉さんかな?
﹁遊んでるところ悪いけどお邪魔しますよ。ええと、ヤス君とサツ
キちゃんだったかな﹂
あ、ユッチのお父さんだ。そういやまだきちんと挨拶してなかった
⋮⋮まずったなー。
さっきまでうつむいてたユッチも、ちょっとだけ顔を上げてユッチ
のお父さんの方を向く。
﹁あ、ええと⋮⋮どうもはじめまして。ユッチの友達で近藤康明っ
て言います。ユッチにはいつも学校でお世話になってます﹂
2920
﹁こんにちは! ユッチ先輩の後輩で、ヤス兄の妹のサツキです!﹂
兄妹ともども正座をして深々とお辞儀をしています。お辞儀ってえ
えなあ。相手がどんな顔をしているかわからんですむし。
﹁ああ、これはご丁寧にどうも。ゆうの父です。いつもゆうから話
は聞いてるよ。最近はヤス君とサツキちゃんの話しばっかりだった
から気になってたんだ﹂
ああ、どもども。ありがとうございます。
﹁お、おとうさん、変な事言わないでよお!?﹂
ユッチが変なことを言ってなきゃ変なことは言わないさ。
﹁ところで⋮⋮ひとつ聞きたいのだが﹂
あいあい、なんでしょう?
﹁ゆうとヤス君は付き合ってるのか?﹂
ん⋮⋮まあ、もしかしてそういうネタは来るかなあとか思ってたけ
どな。
﹁そんな訳ないじゃんかあ! お父さんのバカあ!﹂
うん、まあそう言う事です。
﹁だがゆう、付き合ってもいない男友達の家にだな、そんなにほい
ほいと泊まってもいいのか? ヤス君、君は何を思ってゆうを泊め
2921
てた?﹂
﹁や、別になんも考えてないです﹂
⋮⋮あれ? ユッチのお父さんの顔がちょっとだけ険しくなったぞ。
﹁ほう? それはつまり、私には話す必要はないということかな?﹂
あっれえ? なんかすっごい怒ってる?
﹁お父さんってば、やめてよお。別にヤスは家に泊めてくれただけ
だってばあ! 何もなかったよお!﹂
﹁いやいや、人の娘を捕まえて、半同棲のような生活をしていたの
だろう? 私は納得いく話が聞けなければ許せん﹂
ユッチ、自分の家に居場所がないって家に転がり込んできただけな
んだけど⋮⋮だけど、正直にそれを言ったらすごく機嫌が悪くなる
よなあ⋮⋮ここで俺はどういう選択をするべきなんだ? 後ずさっ
た瞬間、ふと、さっき床においておいたライフカードが手に触れた。
そのカードには⋮⋮﹃謝る﹄
﹁ごめんなさい﹂
特に理由はないけど、とりあえず謝ってみた。
﹁﹃ごめんなさい?﹄、ヤス君、もしかしてゆうに手を出したのか
!? ヤス君!?﹂
はあう!? もしかして最悪な選択をしてしまったんじゃないのか
2922
!?
﹁何とか言いたまえヤス君!?﹂
ごめんなさい! さっきのライフカードやりなおさせてください!
⋮⋮それから30分後、結婚届を出しに行った2人が帰ってきたこ
ろにようやく誤解が解けた。
カードの切り方って大事ですね。適当にきっちゃダメですね⋮⋮。
2923
335話:ライフカード︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
︳︶m
ライフカードのネタ、多分3年位前にかなり話題になったCMです。
知らない人ごめんなさいm︵︳
それでは今後ともよろしくです。
2924
336話:一生懸命恋しました
結局ユッチはフルコース作るのはやめて、いつも通りの家庭料理。
肉じゃがとかお芋のにっころがしとか⋮⋮うまうま。ほんとユッチ、
いいお嫁さんになれるぞ。
みんなでユッチの家庭料理、おいしくいただき、その後は居間でく
つろぎタイム。
ご両人の両親がいつの間にやら仲良くなっている。
﹁それでは、そろそろお二人のご結婚をお祝いして私、1曲歌いま
す!﹂
おお、カオルお姉さん。ノリノリやね。
﹁ゆう! カラオケセット準備!﹂
﹁サー、イエッサー!﹂
おお、ユッチが隣の部屋から素早く家用カラオケセットを持ってき
た。
ユッチの家ってそんなのもあるのか。
﹁あなた、マイク準備!﹂
﹁サー、イエッサー!﹂
ユッチが持ってきたカラオケセットの中から、マイクを抜いてカオ
ル姉さんに渡す。
2925
何かユッチも、旦那さんも手慣れてんな。もしかしてこんな感じに
カラオケ大会が始まるのはユッチの家では定番なんだろうか?
﹁ヤス君とサツキちゃん、バックダンス準備!﹂
﹁サー、イエッ⋮⋮サー?﹂
ちょい待て待て待て! 打ち合わせも何も無しに勝手にバックダン
サーにするんじゃない! いきなり踊れる訳ないじゃん!
﹁ユッチ、曲入れて! タイトルは⋮⋮結婚闘魂行進曲﹁マブダチ﹂
!﹂
﹁サー、イエッサー!﹂
ユッチ、サーなんて言ってないで止めてくれ! マブダチなんて踊
れねえよ!
タッタッタッタッタラララー⋮⋮。
やばいやばい、イントロが流れ始めてしまった。カオル姉さんがノ
リノリで踊り始めた、俺も真似して踊らないと!
所々に替え歌が入ってるっぽいけど、歌を聴く余裕は俺にはないっ
す。バックダンスに必死です。
何か楽しそうに俺よりきれいに踊っているサツキを見るとちょっと
悔しいっす。
2926
⋮⋮はあ、はあ。なんとか踊りきれた。
﹁ヤス兄ってばロボットじゃないんだから、もっと滑らかに踊りな
よー﹂
サツキ、そんな突然指名されて出来る訳ないじゃん!
﹁次は俺が歌う!﹂
﹁サー、イエッサー!﹂
you
celebrate!﹄
お、今度はカオル姉さんの旦那さんっすか。
﹁ゆう、曲のタイトルは﹃Can
﹂
﹁サー、イエッサー!﹂
ユッチ、そこはサーじゃないよ! 旦那さんの野太い声で安室奈美
恵を歌ってちゃダメだろ!
やーめーてー! 安室が、俺の安室奈美恵が汚れていくう⋮⋮。
﹁怖かったー、怖かったーでも﹂
お前が怖いわ⋮⋮やめて、安室が、安室が泣いているよ。ってかそ
の声でかわいらしく歌うな! ものすごいきもい!
2927
⋮⋮永遠に続くかと思われたCan
you
celebrate
も歌い終わった。終わってよかった⋮⋮汚れちまった、汚れちまっ
たよ⋮⋮安室奈美恵。
﹁ほら、ヤス君やサツキちゃんも何か歌わないか? 別に結婚にち
なんだ歌じゃなくてもなんでもいいぞ﹂
﹁あ、ほんとですか。んじゃー俺は⋮⋮﹂﹁あ、私﹃てんとう虫の
サンバ﹄が歌いたいです!﹂
⋮⋮サツキに先越された。マイクに伸ばした手が空しく宙をきる⋮
⋮ってか﹃てんとう虫のサンバ﹄て⋮⋮おいそこの平成生まれの妹
よ、お前中学生だろ⋮⋮ま、いいけど。
サツキがマイクを持って前に立って楽しげに歌う⋮⋮歌ってホント
楽しくなっていいなあ。
﹁そういやユッチは何にも歌わないのか?﹂
﹁え? ボク? ボクはいいよお。下手だもん﹂
﹁カラオケに上手い下手は関係ないんだぞ。カラオケで最も大事な
のは楽しく歌うこと。ただそれだけだぞ。大体下手な奴はカラオケ
you
cele
で歌うななんて言ったら俺とかケンとかカラオケに入室禁止になっ
ちまうよ﹂
なので、散々心で罵倒したお兄さんの﹃Can
2928
brate﹄も楽しそうだったから一応ありだ。出来ればあの声な
ら平井堅とか歌って欲しいけど
﹁ええ!? ヤスとケンってそんなに下手なのお?﹂
﹁へたへた、どへた。でも気にしない。楽しく歌えればそれでよし﹂
まあ、下手だからって鼻で笑ったりする奴とかがいたり、人が歌っ
ている時に興味なさそうにしてるとつまらんくなるけど。そう言う
意味ではケンと行くカラオケが最高だよな、気兼ねしないし。
﹁ううん、でもさあ⋮⋮﹂
何を考えるんだユッチ。カラオケの最中は考える事なんか何もない
ぞ。
you
celebrate﹄﹃てんとう虫のサンバ﹄が
﹁ユッチ、結婚式の定番曲といえば今3人が歌った﹃マブダチ﹄﹃
Can
あがるよな﹂
﹁うんうん﹂
﹁他に思いつくの、何がある?﹂
﹁ええ? そんな急に言われても思いつかないよお﹂
ま、いいからいいから。適当に言ってみてくれよ。
﹁⋮⋮ええと、ええっと⋮⋮⋮⋮郷ひろみ﹃お嫁サンバ﹄とか?﹂
2929
⋮⋮また古いのを。お前らはホントに10代か。知ってる俺も俺だ
けど。
﹁知ってるけど歌えないから却下﹂
﹁ええ!? ボク歌えるよお!?﹂
⋮⋮ユッチ、お前はホントに10代か? ﹁とにかく却下。他に何かないか?﹂
﹁ええと⋮⋮湘南ノ風の﹃純恋歌﹄﹂
﹁知らんから却下﹂
あ、ちょっとユッチの顔がムカってきた。
﹁ドリームズカムトゥルーの﹃未来予想図II﹄はあ?﹂
﹁とりあえず却下﹂
あ、さらにユッチの顔がムカってきた。眉間にしわが寄ってるぞユ
ッチ。
﹁じゃあじゃあ! スマップの﹃らいおんハート﹄お!﹂
﹁理由は特にないけど却下﹂
﹁却下ばっかりじゃんかあ! 何なんだよヤスう! 特に最後の理
由はないけど却下とか意味分かんないしい!﹂
2930
﹁何となく言ってみたくなったんだ。悪いか﹂
﹁悪いわあ!﹂
そうか悪いのか⋮⋮すまん。
﹁ええとだな、俺はユッチとモーニング娘。の﹃ハッピーサマーウ
ェディング﹄を一緒に歌いたかったんだけど⋮⋮ユッチが中々言っ
てくれないから﹂
﹁だったら最初からそう言えよお!﹂
すまん、その通りっす。
﹁で、どう? 歌う?﹂
﹁うん、ヤスと一緒なら歌うう!﹂
おし、ユッチ巻き込み成功。
﹁んでだな⋮⋮色々とやりたい事があるんだけど﹂
﹁うんうん⋮⋮﹂
2931
サツキの歌も歌い終わり、その次、お父さん世代が﹃パパパパーン、
love
you
forever∼♪﹂と歌いきり、
パパパパーン、パパパパン、パパパパン、パパパパン、パパパパン﹄
﹁I'll
また今度カオル姉さんにマイクが回っていきそうになってる時にス
トップをかけた。
﹁んじゃ次! 俺とユッチでモーニング娘。の﹃ハッピーサマーウ
ェディング﹄歌います!﹂
⋮⋮あれ? なんでユッチの家族がみんなしてこっちを向いて固ま
ってんの?
﹁ゆうが、歌うのか!?﹂
﹁今夜はお赤飯を炊かないと!﹂
いや、そんなに大げさに言う事ないのに。
﹁うるさいうるさいい! 別にボクが歌ったっていいだろお!﹂
⋮⋮今までユッチってそんなに歌った事なかったのか?
﹁まあいいや、ユッチ、イントロ始まったぞー﹂
﹁あ、おととお⋮⋮コングラチュレイショーン♪﹂
イントロが始まったと同時に踊りだすユッチ⋮⋮何故踊りをマスタ
ーしているんだ?
おお、ノリノリな上にめっちゃ上手いじゃんユッチ。何でこんなに
うまいのに今まで歌わなかったんだろ。
2932
うう、俺の方が下手すぎてへこむ。実力差が激しすぎる⋮⋮だけど、
気にしない。今は歌を楽しもう。
ささ、ここで俺は一旦退場。そして今回の新婦さんにマイクを渡す
⋮⋮結婚式ではありふれたやり方かもしれないけど、まあ、面白い
だろ。
⋮⋮曲も一旦止めて、新婦のアキラさんの声を待つ一同。
﹁⋮⋮ええと、紹介します。大阪でメーカーに勤めている⋮⋮河辺
徹さんです﹂
アキラさん、ノッてくれてありがとー。
﹁⋮⋮仕事一筋の真面目な人です。背は、見ての通り私と同じくら
いで小さくて、今日は髪もきちんと整えてるけど、普段はぼさぼさ
で、顔もいっつも仏頂面で、ほとんど笑った事なんて見た事ありま
せん﹂
おいおい、アキラさん、いいんすかそんな事言っちゃって。
﹁でも、別に感情がないって訳じゃなくて、出すのがちょっと不器
用なだけの人なんです。ときどきはにかむように笑う顔がとっても
好きです﹂
ごちそうさまです。
﹁この年になってまるで少女みたいに恋して、好きになれる人に出
会えて、結婚できて、とても幸せです﹂
2933
あちい、あちい、冬なのにあちい。ここは砂漠のど真ん中か?
﹁お父さん、お母さん⋮⋮今までわがままいっぱい言ってごめんな
さい⋮⋮何にも手伝いしてこなかったし⋮⋮反抗ばっかりしてたし
⋮⋮でも⋮⋮そんな不出来な私を⋮⋮﹂
あれ、あれ? ええ? 何で涙ぐんでんの?
﹁ここ⋮⋮まで育ててくれ⋮⋮てありがと⋮⋮うっ⋮⋮うございま
す⋮⋮﹂
﹁うん⋮⋮うん⋮⋮﹂
アキラさんの両親も泣いてるし! 号泣してるし! ええ!? な、
なんで!?
﹁これからは旦那さんとこれからうまれてくる子供と3人、いっぱ
いいっぱい幸せになります⋮⋮今までありがとうございました⋮⋮
!﹂
﹁うん⋮⋮! うん⋮⋮!﹂
そう言いきると、アキラさんは俺にマイクを返してくれた⋮⋮。え
えと、今返されても⋮⋮。
周りを見回してみると、新郎側の家族までほとんどがもらい泣きし
てる。ここまでみんなして泣いてる中、俺とユッチは歌わなければ
ならないんだろうか?
ふとユッチを見ると、ユッチも困った顔でこっちを見てる⋮⋮サツ
キを見ると、﹃ヤス兄どうすんのー?﹄みたいに面白そうな顔をし
ている。
2934
くそお、小悪魔め。こうなったら最後まで歌いきってやる!
﹁ユッチ、最後まで歌うぞ!﹂
﹁ええ!? この中でえ!? ⋮⋮わかったあ﹂
ミュージックスタート⋮⋮。みんながわんわんと泣き止まない中、
明るいテンポの曲が部屋に響き渡る⋮⋮おおい、笑ってくれよう。
歌聞いてくれよう。
さあ、最後のセリフだ!
﹁産休♪﹂
⋮⋮⋮⋮だ、誰も聞いちゃいねえ⋮⋮サンキューと産休を掛けた究
極のネタを。
ただ1人サツキだけがけたけたと笑ってる。ネタに笑ったと言うよ
りシチュエーションに笑ってやがるなあいつ。
﹁ヤスのバカあ! 大恥じゃんかあ!﹂
痛い痛い! 俺のせいじゃない! 泣き出したみんなが悪いんだよ
!?
﹁バカバカバカバカあ!﹂
ユッチ、殴るなあ!
2935
結局、ユッチは拗ねちゃったけど、みんな大満足のカラオケ大会に
なりました。
まあ⋮⋮めでたいのかな?
2936
336話:一生懸命恋しました︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。投稿遅くなりすみません。
こんな話を書きつつ、虎舞竜の﹃ロード﹄を聞いていた自分はもの
すごいひねくれ者だと思いました。
それでは今後ともよろしくです。
2937
337話:ディベート、テーマ決め
結婚式も無事終わり、2人のご夫婦は大阪に帰っていった。
⋮⋮はぁ。赤ちゃん見たかったなあ⋮⋮出産後こっちに戻ってこな
いかなあ。
今日は1月20日。
クカーと寝たい気分の午後の授業、しかもホームルームで自由に使
っていい時間。
何をするでもなく、ただ寝たいのだが、何かをしなければならない
らしい⋮⋮めんどい。
﹁さあさあ、今日はディベート大会というのをやってみましょうか﹂
ウララ先生が、なんだかやる気なご様子だけど⋮⋮ディベートって
なんだっけ。
﹁ディベートというのが何か分かる人?﹂
﹁はいっ!﹂
⋮⋮ケン、はええな。ほんとに分かってんのか?
﹁あー、じゃあケン﹂
﹁ディベートって言うのは議論の事で、あるテーマにしたがってみ
んなが意見を言い合うことを言います!﹂
2938
へえ、そうなんだ。知らなかった。
﹁残念ケン、惜しいんだけどちょっと違う﹂
何だ違うのか。あれだけ自信満々に言ってたからてっきり正しいも
のと思ってた。
﹁ケンが言っているのはどっちかって言うとディスカッションのこ
とだね。ディベートって言うのは、あるテーマを決めて、異なる2
つの意見に分かれて、議論することがディベートなの。もっとも最
近だとディベートもディスカッションも混同されて使われるように
なってるけど﹂
⋮⋮そうなんか。
﹁例えば、﹃安楽死は是か非か﹄という議論のテーマを作るとする
でしょ? そこで是と思う人と非と思う人の2チームに分かれて、
意見を言い合うの。これがディベート。それで、第3者がどっちの
意見の方が筋が通っていたか、論理的だったか、勢いがあったかと
いうことを判定して勝ち負けを決めるの﹂
ふむふむ。
﹁教育的な意味というのはいろいろあるけれど、一番の理由は私が
見てて面白いからやりたいんだけどね﹂
うあ、超個人的な理由だな。まあいいけど。
﹁40人もの人数でディベートしようとすると、どうしても全く意
見が言えない人も出ると思うから、8人ずつのチームになって、そ
2939
れぞれ分かれてディベートをやってみましょう。今回はお遊び気分
でやるだけだから、別に勝ち負け判定はしなくていいよ﹂
ういうい、了解。
﹁今、13時5分だから⋮⋮10分間でテーマを決めて、13時1
5分になったら議論開始。きちんとテーマを決めないとグダグダに
成るから注意しなさいね﹂
あーい⋮⋮どんなテーマがいいかな。
とりあえず近くの席の人と机をくっつけて、8人チームになってデ
ィベートのテーマ決め。
﹁んじゃ、司会進行役がいないと困るだろうから、とりあえず俺が
司会進行してくぞ﹂
おお、偉いぞケン。そんなめんどい仕事を自分からやりたがるなん
て。
﹁なにかやりたいテーマがある人はいるか?﹂
﹁﹃ウルトラマンは救世主か破壊神か!﹄﹂
﹁ウルトラマン見たことないから却下﹂
﹁⋮⋮﹂
2940
⋮⋮かわいそうに。けど、そんなにウルトラマンに関して議論した
かったんだろうか。
﹁他にも﹃卵が先か鶏が先か﹄とか、﹃邪馬台国は九州か近畿か﹄
とか、議論が難しそうなテーマは言わんでくれよ。誰もが議論でき
そうなテーマでよろしく﹂
おお、なんかケンが上手に仕切ってる。すげえぞケン。
﹁ヤス、お前は何かあるか?﹂
﹁え? 俺? ちょっと待ってくれ⋮⋮⋮⋮﹃自衛隊は是か非か﹄﹂
﹁真面目すぎてつまらんから却下﹂
おいケン、じゃあ聞くなよ!? せめて案のひとつにくらい入れて
くれよ!
﹁あ、じゃあじゃあ、私いい? ﹃彼氏にするなら2枚目か3枚目
か!﹄﹂
﹁なあ、なべりん⋮⋮俺ら男なんだけど﹂
﹁いいじゃない、男が男に恋をする。ザ、めくるめくやおいの世界
へ! 例えば毎日毎日一緒に登校して一緒に下校するヤスケン。下
校した後、電車から降りて周りには誰もいなくなって⋮⋮すっと小
指をケンの手に絡ませるヤス、ぎゅっと握り返すケン、見つめ合う
2人、近づく吐息⋮⋮そしてあんなことやこんなことや⋮⋮﹂
2941
﹃やめろお!﹄
ついケンと口がそろってしまった。
﹁ああ、やっぱり息もぴったりね﹂
ほんとやめて! 変な世界を想像しないで! 気持ち悪すぎるから!
﹁ん、まあ一応テーマのひとつとして入れておくとして⋮⋮他には
?﹂
﹁じゃあ俺は﹃彼女にするならクーデレかツンデレか﹄を押したい﹂
俺としてはどっちでもええなあ⋮⋮強いて言うならデレデレがいい。
デレデレのデレデレがいい。
﹁あ、私は﹃新しい家族が出来るなら弟か妹か﹄﹂
なんか、初めて普通のテーマがが聞けた気がする。
﹁﹃SかMか﹄﹂
嫌だよそんなテーマ!
﹁ヤスとケンだったら、ケンが責めでヤスが受けかな﹂
﹃だからやめろお!﹄
くそお、なべりんめ。想像力が豊か過ぎるだろ。
2942
﹁あ、私も意見言っていいですか? ﹃男女の友情は成立するか﹄
をやりたいです﹂
ふむ、アオちゃんの意見はアオちゃんにしてはなかなか普通だ。
﹁﹃大事なのはお金か、それとも愛か﹄なんてどう?﹂
ううん⋮⋮これは難しいテーマだ。お金がなければ飯は食えないが、
愛がなければ生きていく意味がない⋮⋮。死んだように生きるか、
生き生きと死ぬか⋮⋮俺には答えが見つからん。
﹁さっき却下されちゃったから、もう1個テーマいっときたい。﹃
ケータイは必要か﹄﹂
なんだかんだ言ってケータイを買ってしまったが、ケンとサツキ、
ユッチとポンポコさん、あとキビ先輩。ほとんどのメールと電話は
この5人だ。
なんかたった5人なら、別にわざわざケータイ使わなくてもなあと
か思ってしまう。
﹁あ、じゃあ最後は俺が言っていいか? ﹃生まれ変われるとした
ら男か女か﹄⋮⋮うん、時間的にもうそろそろ決めないといけない
な。それじゃあこっからは多数決で。自分以外のでこの議論をした
いと思えるやつを選んで、手を上げてくれ。1人2回まで手を上げ
ていいってことでよろしく﹂
ううん⋮⋮悩むなあ⋮⋮俺はどれにしよかなあ。
2943
337話:ディベート、テーマ決め︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
私が高校のときにやったテーマは、
﹃都会が言いか田舎がいいか﹄
でした。
最終的に﹃どこまでが都会でどこまでが田舎か﹄というグダグダな
議論になりました。
﹁東京以外は全部田舎だ!﹂
という人もいましたねー。
こんなテーマでやって欲しいというのがあれば、
それで議論をしてみたいと思います。ご意見ありましたら是非お願
いします。
それでは今後ともよろしくです。
2944
338話:年下派? 年上派?
結局、俺らのチームの議題はケンの独断と偏見で﹃付き合うなら年
上か年下か﹄というテーマになった。
今まで1人1人があげていったテーマはいったいなんだったんだと
ちょっと言いたい。
同年代が1番といって、議論には参加せず、司会進行とジャッジを
引き受けてくれた人が男子と女子で1人ずついて、年下派に俺、な
べりん、アオちゃん。年上派ににケン、男子学生1人、女子学生1
人と分かれた。
⋮⋮ぶっちゃけ俺もオブザーバーの立場で見てたかったなあと思う。
﹁それでは、ただいまより﹃付き合うなら年上か年下かどっちがい
い?﹄というテーマでディベートを開始します﹂
ういうい。
﹁まずは年下派から意見をどうぞ﹂
﹁はい!﹂
おお、なべりんめっちゃやる気だな。
﹁年下の男が1番です! やっぱり年上と付き合ってしまうと、男
でも女でも先に老ける! もしも年上の男と付き合ってみなさいよ、
自分がやりたい盛りのときにもう相手が萎えてたら最悪ですよ!﹂
2945
﹁ええと、なべりんさん。何をやりたいんすか?﹂
﹁決まってるじゃないですか! 夜に男と女がベッ﹂
﹁ストップ! なべりん、ここ高校で、授業中で、まだお昼だから
! そういう猥談は夜中にやってくれ!﹂
おお、えらいぞ司会者。よく止めた。
﹁でも、生物学的に見たって絶対に若い生殖能力が高い個体になび
くのは当然じゃないですか。そう考えたら出来る限り若いツバメを
逃がさないように捕まえとくのがベストじゃないですか﹂
﹁⋮⋮ああ、なるほど。それは確かにそうかも⋮⋮なんだか私、年
下の男がいい気がしてきた﹂
⋮⋮おい、頑張れよ司会者。なべりんの詭弁にそんな簡単にゆれる
なよ。
﹁なべりん、何を言ってんだ! 年上と付き合うほうが、年下と付
き合うよりもすばらしいに決まっているだろう!﹂
⋮⋮ケン、そんなに熱くなるなよ。
﹁年上の方が包容力があって、頼りになって、面倒見がいい。これ
が相場だ。それに対して年下はわがまま、自分勝手というのが相場
だ。経済的に見たって年上の人と付き合った方が﹂
﹁それはケン君の偏見ですよ。ケン君、年上だからって面倒見がい
いというのはケン君の妄想です。そもそもですね、年下の方がわが
2946
ままだって言いましたが、年上のがもっとわがままです﹂
﹁アオちゃん、そんなことは無いって!﹂
ケン、頭ごなしに全否定したって議論には勝てねえぞ。
﹁ケン君、いいですか? 年上の人というのは年下の人と付き合う
とき、必ずと言っていいほど年下の人の優位に立とうとするんです
よ。これは女性でも男性でも一緒ですね。これを﹃面倒見がいい﹄
なんていい言い方をしてるのかもしれませんが、年上の人は思い通
りに行かないとムカムカしてきますよ﹂
﹁⋮⋮そんなことはないだろ。だいたい﹁ひとつ年上の女房は金の
わらじを履いて探せ﹂という言葉があるじゃん。男にとっては年上
を見つけたほうがいいってことだろ?﹂
﹁昔は年上の女性というのは、落ち着いていて、家事もしっかり出
来て、という方が多かったので年上女性を見つけたほうが⋮⋮とい
う話ですね。ひとつくらい年上ならば年齢差もさして気にならず夫
婦に見えますし、話も合いますし、いいこと尽くめですよって話で
すよね﹂
﹁そうそう、それ! ほら、やっぱり年上と付き合う方がいいんじ
ゃないか﹂
ケン、議論相手にフォローされてちゃまずいだろ。
﹁ですが、この話も諸説ありまして男性は年下の女性ばかりを好ん
でつまもうとしてるのを嘆いた年上女性がひがんで作ったという説
もありますよ﹂
2947
﹁え? そうなん?﹂
﹁仮に正しかったとしても、これはかなり昔の言葉ですから今でも
信憑性があるかは大いに疑問な気がしますがいかがでしょうか? 例えば年上の女性だからといって、包丁を持ったことがないなんて
方もいるかもしれませんよ﹂
﹁⋮⋮そうなのかもしれんなあ﹂
⋮⋮もしもアオちゃんの言葉が間違いだとしても、信じてしまった
時点でディベートはケンの負けな気がする。
﹁さて、今のところなべりん、ケン、アオちゃんの3人しか発言し
てませんが、他の方はいかがですか?﹂
﹁僕は特に⋮⋮﹂
﹁ヤス君はどうですか?﹂
⋮⋮ん、俺か。ようやく俺の出番が来たか⋮⋮まったく、みんなし
てぎゃーすか訳の分からない議論をして。理由なんかこれ以外にな
いだろう。
﹁年下のがかわいい﹂
うん、究極の理由だろ。これ以外に何があるってんだ。
﹁⋮⋮まあ、ヤス君ってロリコンですしね﹂
2948
﹁⋮⋮ヤスだからしょうがないよな﹂
﹁なんでだよ!? 年下のがかわいい! だから年下派! これ以
上のどんな理由付けが必要なんだよ!?﹂
﹁はいはい、そうですね﹂
うっわムカつく。この司会者めっちゃ殴りたい。
その後もアオちゃんの活躍により、年下派の圧勝に終わったけど俺
にとってはなんか腹立たしい時間に終わってしまった。
あの司会者、覚えてろ。
2949
338話:年下派? 年上派?︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
気分はズタボロです。ふとした思い付きでディベート大会なんて⋮
⋮よく分からない議論になっててごめんなさい。
それでは今後ともよろしくです。
2950
339話:面接練習
今日は1月24日土曜日。ただいま夕食中。
今日のメインメニューは肉巻き。オクラ、アスパラ、インゲン、に
んじん、ねぎ、もやしなどなど適当な野菜を豚ばら肉で巻いてじゅ
ーじゅー焼くだけ。味付けは塩コショウのみ。
ほかに適当にサラダ作ったんだけど、サツキが他にも何かほしいと
ごねたのでナスとがんもどきの煮物を作ってみた。
⋮⋮うん、うまい。自分で自分を褒めてあげたい気分だな。
﹁サツキちゃん、この肉巻きおいしいねえ﹂
﹁そうですねユッチ先輩⋮⋮ってちょっとケンちゃん! ねぎ巻き
ばっかり食べないでよ。私の分がなくなっちゃうでしょ﹂
﹁それを言うならユッチだって、オクラ巻きばっかり食べてるじゃ
ん。好きなもんを食べればいいじゃんか﹂
﹁私もねぎ巻きが1番すきなの!﹂
﹁残念! こういうのは早い者勝ちだから、いただきー﹂
﹁ああ! 最後の1個! ケンちゃんのバカー!﹂
⋮⋮そんなにぎゃーぎゃー言わなくても、ねぎ巻きくらいまた作る
よ。
2951
﹁ってかキビ先輩、さすがに野菜を分けて肉だけ食べるのはやめま
しょうよ。それに肉巻きだけじゃなくてなすとかも食べましょうよ。
どんな偏食っぷりですか﹂
﹁大丈夫だよねー。きっとヤスが食べてくれるから﹂
⋮⋮なんでこんなに人がいるんだろう。サツキと俺の2人だけの夕
飯のつもりだったのに。ケンは前々から家に入りびたりだったけど、
最近ユッチとキビ先輩までちょくちょく家に泊まりに来るようにな
ってしまった。1月に入ってからほとんどサツキと2人の夕飯って
とってないなあ⋮⋮。
がやがやと騒がしい夕飯もそろそろ終わり。あんなにあった料理が
ぺろりと消えている⋮⋮うーん⋮⋮7人分くらい作った気がするん
だけど。みんなたくさん食うなあ。
﹁ごちそうさまー⋮⋮そう言えばヤス兄、高校受験って面接もある
んだよね﹂
﹁あるぞ。別にそこまで比重は高くないけど。よっぽどひどい面接
をしなければ落ちることはない﹂
俺が聞いたのはポンポコさんの弟の四狼が落ちたって話くらい。い
ったいどんな面接をしたんだろう。
﹁でもね、やっぱりちょっとくらいは面接の練習ってしといたほう
2952
がいいと思うんだよ。だからヤス兄、面接の練習相手やってよ。み
んなもお願いしていいですか?﹂
﹁ん、別にかまわないぞ﹂
﹁うん、ボクもいいよお﹂
他のみんなもOKしてる。まあ、それぐらいどってことないっすよ。
﹁ありがと! それじゃまずはヤス兄が面接受ける人やってね﹂
﹁なんでだよ!?﹂
普通はこれから面接受けるサツキが面接を受ける人をやって、俺は
面接官じゃないのか?
﹁まずはヤス兄がお手本見せてよ﹂
そう言われると断れない⋮⋮サツキに弱いなー俺。
という訳で、面接官をケン、キビ先輩、ユッチにやってもらい、俺
が受験者になる。
ええと、こういうのは部屋に入室する瞬間から面接は始まってるっ
ていうもんな。きっちりとサツキにお手本を見せてやらにゃ。
﹁失礼いたしまーす﹂
2953
部屋に入ったところでゆっくりとお辞儀をして、席の前に立つ。
﹁はい、それでは席について﹂
そうキビ先輩に声をかけられて、俺は椅子に座る⋮⋮おお、キビ先
輩なんだか面接官っぽいぞ。
﹁さて、まずは受験番号、名前、生年月日、中学校を言ってくださ
い﹂
﹁はい、受験番号1番、近藤康明、1992年6月22日生まれ、
中学は西中出身です﹂
﹁残念、近藤康明君、君は受験番号92番だよ﹂
いやいや!? 知らないから! そんなの答えられるわけないから!
﹁まあいいとして⋮⋮それでは最初の質問です。最近はまっている
ことはなんですか?﹂
﹁どつぼです﹂
﹃⋮⋮﹄
ああ、懐かしい⋮⋮去年の面接で同じことを聞かれて、﹃どつぼで
す﹄って言ったら面接官が全員閉口したんだよなあ⋮⋮。
あの頃は何もかもがうまくいかなくて、ほんとどつぼにはまってい
る感じだったし⋮⋮振り返ってみると、よく俺受かったな。
2954
﹁⋮⋮それでは次の質問です。中学校のときの1番の思い出はなん
でしょうか?﹂
﹁中総体、最後の試合のとき、自分のエラーでチームが負けてしま
ったことです⋮⋮あのことは忘れられません﹂
⋮⋮記憶としては忘れられないけれど、今となっては思い出になっ
たなあ。確か去年の面接の時には全然うまくいえなかった気がする。
﹁それでは次の質問です。﹃ペットボトル﹄の用途を10個言って
ください﹂
⋮⋮ペットボトルの用途て⋮⋮﹃飲み物を入れとく﹄以外に何かあ
るんだろうか。ケン、変な質問をすんのはやめてくれよ。
﹁ええと⋮⋮﹃飲み物を入れとく﹄﹃水筒﹄﹃セーターにする﹄﹃
貯金箱﹄﹃植木鉢﹄﹃ロケット﹄﹃猫よけ﹄﹃メガホン﹄﹃火事を
起こす﹄﹃ハリセンの代わり﹄﹂
ふう⋮⋮なんとか10個いえた。
﹁﹃飲み物を入れとく﹄と﹃水筒﹄は同じ用途です﹂
しらんがな! ケン、お前がやってみろよ。10個なんて無理だか
ら!
﹁それじゃあ次の質問だよお。﹃夏﹄とかけて!﹂
﹁﹃カップル﹄ととく!﹂
2955
﹁して、その心はあ!﹂
﹁どちらも﹃焼ける︵妬ける︶﹄!﹂
﹁つぎい﹃夏﹄とかけて!﹂
﹁﹃銀河鉄道の夜﹄ととく!﹂
﹁して、その心はあ!﹂
﹁どちらも﹃蜜柑︵未完︶﹄!﹂
﹁まだまだあ、﹃生ごみ﹄とかけて!﹂
﹁﹃秋葉系﹄ととく!﹂
﹁して、その心はあ!﹂
﹁どっちも﹃燃える︵萌える︶﹄!﹂
﹁ラストお! ﹃生ごみ﹄とかけて!﹂
﹁﹃麻生総理﹄ととく﹂
﹁して、その心はあ!﹂
﹁﹃ふしゅー︵腐臭、踏襲︶﹄⋮⋮ってかユッチ、なんだよその質
問は。高校面接でそんな質問は出ないと思うぞ﹂
﹁いいじゃんかあ、練習なんだしい﹂
2956
ま⋮⋮いいけどさ。
﹁それでは最後の質問です。あなたはこの高校に入って何をしたい
ですか?﹂
⋮⋮高校の面接のときも聞かれたなあ⋮⋮あの時はなんて言ったん
だっけ。
﹁ええと⋮⋮自分は先のことなんてほとんど何も考えてません。将
来何になりたいかとかも決まってないですし、ここの高校に決めた
のも自分の成績と照らし合わせた結果です。だから高校は言ってか
ら何をしたいなんていうのも何にも考えてませんが、今この一瞬を
一生懸命にやっていきたいって思ってます。以上です﹂
細かなところは覚えてないけど、大体こんなこと言った気がする。
﹁はい、分かりました。ありがとうございました﹂
﹁ありがとうございました﹂
席を立って、礼をして部屋を出る。
うん、なんか面接の練習やって、高校入学時の気持ちをちょっと思
い出せた。ちょっとよかったかもな。
2957
339話:面接練習︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
ふしゅー︵腐臭、踏襲︶で﹃踏襲﹄は本来は﹃とうしゅう﹄と読み
ますが、ミスではないのであしからずご了承ください。
それでは今後ともよろしくお願いします。
2958
340話:虫歯
今日は1月27日火曜日。
いつものように朝起きて朝ごはんの準備して⋮⋮その前に顔洗っと
こ。
バシャバシャ⋮⋮ふわあ⋮⋮目が覚める。やっぱり朝は顔洗うに限
るなあ。これをやらないを朝がきた気がしないよなあ。
あ、ついでにうがいでもしとくかあ⋮⋮。
んが、ガラガラガラガラ⋮⋮っぺ。
クチュクチュ⋮⋮キーン!
⋮⋮⋮⋮痛い。めっちゃ痛い。歯にしみた⋮⋮これってやっぱり虫
歯だよなあ。
﹁歯医者に行かなきゃいけないんかなあ⋮⋮嫌やなあ⋮⋮﹂
うん、きちんと歯磨きしとけば別に問題ないだろう。後は冷たいも
のを食べなきゃしみないわけだし。誰にもまだばれてないし、歯医
者に行くのはやめとこ。
2959
﹁ヤス兄ヤス兄、今日の夕飯そうめん食べたい﹂
﹁⋮⋮何でそうめん? 普通はそうめんを食べるの夏だろ﹂
冷たいじゃん。歯にしみるじゃん。
﹁なんとなく食べたくなったんだよ。ヤス兄だって夏に突然おでん
とか鍋食べたくなるときあるでしょ?﹂
﹁⋮⋮あるけどさ、今日は別のにしとかないか? そうめんじゃな
くてにゅうめんとか﹂
﹁じゃあざるそばが食べたい﹂
だから何で冷たいのをあえて食べようとするんだよ!? 今冬なん
だからあったかいのを食べようよ!
﹁ざるそばじゃなくてきつねそばにしないか、そんな冷たいの食べ
たら寒いじゃん﹂
﹁大丈夫だよヤス兄、コタツに入りながら食べればちょうどいいよ。
この前の大晦日にもそうやって食べたじゃん﹂
ああ、確かに食べた。年越しそばはコタツに入りながらあったかい
そばと冷たいそばを2つ準備して食べた⋮⋮何やってんだよ自分。
﹁ヤス兄、そばもそうめんも食べたくないの? 何かあった? ヤ
ス兄も好きでしょ?﹂
2960
﹁や、何もないぞサツキ。ただ単に今日はあんまりそばやそうめん
の気分じゃないだけだ﹂
﹁ううん⋮⋮しょうがないなあ⋮⋮じゃあそばもそうめんも諦める
よ﹂
ナイスだサツキ! 今日はあったかく鍋にでもしようじゃないか!
﹁それじゃひやむぎで﹂
﹁おいサツキ、そうめんもひやむぎも似たようなもんじゃん!?﹂
﹁全然違うよヤス兄、本来は製法が全然違うんだけど、最近定義さ
れている明確な違いといえば太さだよね。細いのがそうめん、太い
のがひやむぎだよ。そうめんは1.3mm未満じゃないとそうめん
って名乗れず、ひやむぎは1.3mm以上、1.7mm未満。1.
7mm以上のものはうどんになるんだよ。ほら、そうめんとひやむ
ぎ、全然違うでしょ?﹂
別にそこで豆知識を披露しなくてもいいよサツキ。俺にとってはど
っちも一緒だから。冷たいものを食べたくないんだよ。
﹁あ、そうだ。だったら冷やし中華にしようよ! トマトに、にん
じんに、ハムに、いり卵に、きゅうりに⋮⋮他にも沢山にして、ゴ
マだれのタレで食べるんだよ! すっごくおいしいよ!﹂
⋮⋮なんで今日はサツキそんなに冷たいものを食べたがるんだよ⋮
⋮。いつもは何が食べたいなんてほとんど言わないのに⋮⋮。
ま、まあ冷やし中華って名前ほど冷たくないし、冷やし中華ならい
2961
いかなあ。
﹁それと絶対に氷を乗せないとね! 冷たくない冷やし中華なんて
冷やし中華じゃないよ!﹂
⋮⋮サツキ、もしかして気づいてるのか? 俺が虫歯があるっぽい
ことに。だからそんな嫌がらせのごとく冷たくてしみる食べ物を食
べさせたがるのか?
﹁なあサツキ、別のにしないか? 別に夏になったらそうめんもひ
やむぎも冷やし中華もざるそばも、毎日のように食べられるんだか
ら﹂
﹁⋮⋮なんか今日のヤス兄って変じゃない?﹂
⋮⋮な、なんか変な事言ったっけか? いつもと同じように振舞っ
ているはずなんだけど。
﹁いつものヤス兄なら、私がこれ食べたいって言ったら絶対に作っ
てくれたもん。冬にスイカが食べたいって言ったらスイカを探しに
はるか遠くのスーパーまで買いに行って、夏に梨が食べたいといっ
たら、りんごに絵の具を塗って梨の色に変えて食べさせようとした
り、そんなヤス兄はどこ言ったの!?﹂
﹁⋮⋮俺、りんごに絵の具塗るなんてやったことあったっけ?﹂
﹁やったよ。それを私とヤス兄とケンちゃんの3人でわけっこして
食べた。ものすごくまずくて、しばらくりんごが食べられなくなっ
たでしょ?﹂
2962
⋮⋮ああ、あったなあ⋮⋮サツキとケンがおえって顔になった瞬間、
自分だけこっそり食べたふりして捨てたんだった。そんなにまずか
ったんかあ。りんごごめん。
﹁それで、今日は冷やし中華にしてくれるの? それとも無理なの
?﹂
﹁ああ、やるやる! 今日はサツキのリクエストにお答えして冷や
し中華にするっす!﹂
﹁ありがと、ヤス兄!﹂
⋮⋮俺、バカだ⋮⋮。
その後自分で作った冷やし中華に悶絶しながら、何とか完食しきっ
た⋮⋮。
うん、もういや⋮⋮すぐにでも歯医者にいこ。
2963
340話:虫歯︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
虫歯には気をつけよう。
それでは今後ともよろしくです。
2964
341話:歯医者
今日は1月28日水曜日⋮⋮来た、来てしまった⋮⋮。
歯医者に来てしまった、来たくないのに。今、待合室で延々と待ち
続けている⋮⋮。
くそお、しみなかったら絶対にこないのに。
﹁ヤス兄ってばそこまで緊張することないのにー﹂
いやなんだよ。あのキュルキュルキュル、キキキキーというドリル
の音がどうしてもいやなんだよ。
﹁痛かったら麻酔うってくれるから大丈夫だよ、ヤス兄﹂
﹁麻酔も嫌、あの治療が終わった後もフニャンとした感じが残り続
けてどうしても嫌﹂
﹁わがままだねー、ヤス兄﹂
うるさい、ってかサツキはなんでついてきてんだよ。わざわざつい
てこなくてもいいのに。
﹁大体さあ、歯医者って何さ!? 前に1回歯医者に行ったときに
さ、﹃痛かったら言ってくださいねー﹄って言ってさ、めちゃくち
ゃ痛かったけど、口の中にドリルがガガガガってやってる時にどう
やって痛いって言えばいいんだよ!?﹂
﹁えー? 歯医者ってたいてい﹃痛かったら手を上げてくださいね
2965
ー﹄とか、﹃痛かったらブザー鳴らしてくださいねー﹄って言って
くれると思うんだけど﹂
知らん。俺のときはなぜか﹃痛かったら痛いって言ってくださいね
ー﹄って言われた。言えるわけないじゃん!
﹁まあまあヤス兄、今日はきっとレントゲンとって終わりなだけだ
から、そんなに緊張することないよー﹂
だったらいいんだけどな⋮⋮ってよくないよ。レントゲンとって終
わりなんだったら、この歯が染みる状態が延々と続くじゃん。早く
治して、歯医者なんかには絶対来たくないよ。
﹁近藤さん、どうぞー﹂
﹁ほらヤス兄、よばっれたよー。言ってらっしゃーい﹂
﹁サツキはどうすんだ? 待ってんの?﹂
﹁うん、ヤス兄がいない家に帰っても暇だしさ。ここで単語帳でも
読んでるよ﹂
おお、サツキが勉強をするなんて、ちょっと兄は感動だぞ。
一部屋一部屋区切られていて、扉を閉めると完全な密室になってし
2966
まう部屋につれられた⋮⋮。
ここではどんなに泣き叫んでも、もしかして声が届かないのかもし
れない⋮⋮。
﹁はい、こんばんはー。まずはそこに横になってね﹂
やさしそうな仮面をかぶった鬼が座っている⋮⋮ちっ、そこで何を
するつもりだ。
﹁そんな緊張しないでね。はい、倒すよ﹂
緊張を解いた途端に何をするつもりだ。この外道が!
﹁ええと、そんなににらまれると、ちょっとやりづらいんだけど?
ほらほら、笑顔笑顔﹂
ふん、だまされないぞ。これが世に言う天使のような悪魔の笑顔と
いうやつなのだろ。悪魔は最初は必ず微笑みながら近づいてくると
いうからな⋮⋮だれが心を許すか。
﹁はい、大きく口開けて。あけないと治療できないよー﹂
⋮⋮くそ、俺は弱者だ。この悪魔の言うことを聞かなければならな
いとは⋮⋮。
﹁ううん⋮⋮結構汚れてるねー。ちゃんと歯を磨いてる?﹂
﹁うががあう﹂
しゃべれるかあ! 口に変なもんつっこまれた状態で何をしゃべれ
2967
というんだ!?
﹁うーん⋮⋮まだほとんど虫歯はないみたいだけど、気をつけない
とすぐに虫歯になるよ。ほらほら、こうちょっとこすってみると⋮
⋮ほら、何かつくでしょ? これが歯垢なんだけど﹂
﹁ふぐがああ﹂
﹁うんうん、そうだね。きちんと綺麗にしないといけないねー﹂
誰もそんなこと言ってねえ! しゃべらせろお!
﹁で、問診表見てみると、冷たいものを食べたり飲んだりすると、
歯がしみるって書いてあるね。どの辺が痛いのかな?﹂
﹁うぎ、ぐぎ﹂
⋮⋮ええと、とりあえずしゃべらせてくれえ⋮⋮。唇を引っ張るな
あ⋮⋮。
﹁ここかな、ここかな?﹂
﹁ぎがぐ⋮⋮﹂
﹃違う﹄といいたいのにうまく言えん。
﹁あ、ここだなー﹂
﹁ひう!!﹂
2968
﹁あ、ごめん、刺した﹂
﹃あ、ごめん、刺した﹄じゃねえ! 今、歯茎がえぐられたかのよ
うな感覚を受けたぞ。まじ勘弁しろよ。このヤブ!
﹁うん、ここだね。ここにちょっと虫歯が出来てる。そんなに大き
くなさそうだから、今日サクサクっと削って、治療しておこうか﹂
OK、それでいい。それでいいから早く終わらせてくれ。
﹁うん、じゃあいくよ。あ、痛かったらこのブザー押してね﹂
⋮⋮そう言ってサツキの言ったとおり、ブザーを渡してくれたが⋮
⋮なんか今までの仕打ちを考えるとあんまり押しても意味がないん
じゃないかって思う。
﹁じゃあ、そのまま口あけてて⋮⋮﹂
キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル
!!
いいやああああ! 誰か、代わってえ!
ブー、ブー、ブー!
﹁はい、むやみやたらにブザー押さないでね。痛いときだけに押し
てね﹂
﹁でうがっ!?﹂
2969
あああ、削られていく⋮⋮歯が⋮⋮歯が⋮⋮!
キュルキュルギュルギュル!!
﹁あががが!﹂
痛い痛い痛い痛い!! いたいっす! 何かどっか間違えて削って
ないか!?
ブー、ブー、ブー!
﹁だから、さっきも言ったけど闇雲にブザー押すのやめてね。痛い
ときだけに押してね﹂
痛いの! だから押してるの! 分かってくれえ! 痛いんだあ!
麻酔プリーズ! いっその事意識を吹っ飛ばしてくれえ!
キュルキュルギュルギュル!!
﹁あががぎゃがじゃああら!﹂
﹁ああ、うん⋮⋮思ったより深いねー。しみるんだからそりゃそう
だよね。まあ、金属は詰めなくても大丈夫だと思うよ。もうちょっ
と頑張ってね﹂
頑張れない! 20キロ走るのは頑張れても、この痛みは頑張れな
い!
ブー、ブー! ブー、ブー!
2970
﹁うん、痛いとは思うけどもうちょっと我慢してねー、後ちょっと
の我慢だからねー﹂
後ちょっとってどのくらい!? ってかこのブザーまじ意味ねえ!
⋮⋮終わった⋮⋮燃えた、燃え尽きたよ、真っ白にな⋮⋮。
﹁うん、他には虫歯ないし、きちんと歯磨けば大丈夫かな﹂
⋮⋮よ、よかった⋮⋮こんな思いは1度で十分だ。もう2度と歯医
者なんかには来るもんか。
﹁あ、でもレントゲンとって見ないとわかんないけど、奥の親知ら
ず、4本とも傾いて出てきてるっぽいからこれきっと抜かなきゃダ
メだと思うよ。それほっとくとまた虫歯になりやすくなるし、歯並
びも悪くなるし﹂
まじか⋮⋮くそ、親知らずども⋮⋮まっすぐ生えろよ。
﹁今日はこんぐらいにして、出来る限り早くに抜きに来てね﹂
2971
お前のとこでなんぞ誰が抜くかあ!
⋮⋮そう言ってやりたいけれど、言えない自分が悲しい⋮⋮。
2972
341話:歯医者︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
痛かったら言ってくださいといって、言ってもやめてくれた経験は
ありません。
何のために歯医者さんは聞くんだろう⋮⋮?
それでは今後ともよろしくです。
2973
342話:武勇伝
今日は1月31日土曜日。いつものようにケンがいるのはいいとし
て⋮⋮ユッチ、頼むから毎日入り浸るのはやめてくれ。1月のうち
20日くらいはうちで寝泊りしてるだろ。
⋮⋮まあ、ユッチがいたほうがサツキが喜ぶから、いいんだけどな。
ユッチの親御さんとかお姉さんは心配してないんだろうか。
現在夕飯を食べ終わり、4人が4方向からコタツに入ってる。俺と
サツキは高校受験に向けて勉強中。ケンとユッチはテレビを見て笑
ってる⋮⋮ちょうどこの時間はエンタの神様の時間か⋮⋮ってかお
前ら、うるさいぞ。勉強の邪魔だぞ。
⋮⋮うん、これじゃ集中できん。エンタの神様終わるまでちょっと
休憩しよかな。
﹁サツキ、ちょっと休憩しよか。ココアでも持ってくるよ﹂
﹁あ、ありがとヤス兄﹂
﹁ヤスヤスう! ボクのもよろしくう!﹂
﹁んじゃついでに俺のもよろしく﹂
テレビに集中してると思ったら、ちゃっかりそういうところだけは
聞いてるのな。邪魔ばっかしときながら、なんてあつかましいやつ
らだ。
一旦席を立ってサツキと自分の分のココアを持ってくる⋮⋮しぶし
ぶとケンとユッチの分も持って来た。
2974
﹁ヤスう、ありがとお⋮⋮はああ、おいしい﹂
⋮⋮ユッチ、そんなうまそうに飲むな。怒るに怒れなくなるだろ。
﹁それにしてもヤス兄、1年経つのって早いねー。中学3年になっ
たと思ったら、いつの間にかもうすぐ高校受験だよ﹂
﹁んあ? ああ、そう言えばそろそろ高校入学して1年になるな。
確かに早いな﹂
もうすぐ1年。自分自身、何が変わったかって言うと何も変わって
ない気がする。ちょっとは何か変わってたらいいなあと思う。
﹁どうかしたヤス兄?﹂
﹁いやあ、高校入っても俺って相変わらずだよなあとおもっただけ﹂
成長という言葉とは自分は無縁だ。
﹁そんなことないよヤス兄、高校入ってずいぶん変わったよ。うん、
妹の私が保証したげる﹂
ありがとサツキ、お世辞でも嬉しいっす。
﹁へええ、ヤスってば中学の頃と全然違うんだあ? ヤスの中学の
頃ってどんなんだったんだあ?﹂
別に何も変わってないぞユッチ。
2975
﹁ユッチ先輩、聞いてみたいですか? ヤス兄の武勇伝﹂
﹁うん! 聞きたい聞きたい!﹂
﹁聞かせなくていいよサツキ! ユッチも聞きたがらなくていいか
ら!﹂
﹁いやいや! ここは聞いとくべきだぞユッチ、ヤスは中学校のと
きからすごかったんだからな﹂
﹁ほんとお!? うわあ、聞いてみたいなあ﹂
ケンもユッチをあおるのやめてくれ! 何も変わってないから俺は!
﹁それじゃあケンちゃん、いつものやろっか﹂
﹁おおサツキちゃん、あれやるか﹂
⋮⋮あれ? あれってなんだ? 聞いたことないぞ。
﹁ケンちゃんいつものやったげて!﹂
﹁おう、聞きたいかヤスの武勇伝!﹂
﹁そのすごい武勇伝を言ったげて!﹂
﹁ヤスの伝説ベストテン! レッツゴー﹂
おいこら、てめえら、パクんなあ!
2976
﹁待ち合わせの1時間前に家を出る!﹂
﹁すごい、着いたの予定の2時間後! 武勇伝武勇伝!﹂
あったけど! 確かにあったけど⋮⋮悪いか、どうせ方向音痴だよ。
﹁習字で﹃幸運﹄と書いてみた!﹂
﹁すごい、﹃辛運﹄と書いて提出してた! 武勇伝武勇伝!﹂
言うな! ⋮⋮もしかしたらあのときからかな、運が悪くなったの
は。
﹁﹃好きだ﹄とメールを送信だ!﹂
﹁アドレス間違えアオちゃんに! 武勇伝武勇伝!﹂
﹁言うなよ!? そんな事!﹂
ってかお前ら、自分のネタを使えよ! 人のネタで話すな!
﹁すごいよ、すごすぎるよヤス兄﹂
﹁うるさい、ほめられても嬉しくもなんともない﹂
﹁ヤス、別に全く褒めてないぞ﹂
うあ、うぜえ⋮⋮いいよいいよ、どうせ俺はこういういじられキャ
ラのポジションなんだよ。
2977
﹁ケンちゃん、ヤス兄拗ねちゃったよ。壁に向かってぶつぶつ言っ
ちゃって不気味だよ﹂
うるさい、拗ねさせろ。散々にいじりやがって。
﹁ヤス兄ってば、これくらいのことでいじけちゃダメだよ﹂
これぐらいのこと⋮⋮なのか? 結構きついネタだった気がしてし
ょうがない。
﹁それにしても、ヤスってば変なこといろいろやってるんだあ﹂
﹁ユッチ先輩、これぐらいでびっくりしてちゃダメですよ。ヤス兄
の過去には今の100倍くらいはいろいろと変なことありましたよ﹂
﹁ええ!? ほんとお!?﹂
﹁うるさいユッチ、別にやりたくてやってるわけじゃない。勝手に
変なことが俺の方に舞い降りて来るんだよ﹂
﹁そんな訳ないじゃんかあ。ヤスはそういうの好きなんでしょお?﹂
んなわけないじゃん。誰が好きなものか。
﹁ユッチ、俺は平凡に生きて、平凡に部活をして、平凡に家事をし
て、平凡ながらも楽しい我が家なんてものを作り上げたいなあと思
っているただの小市民﹂
﹁しゃらくせー!﹂
2978
バキッといきなりケンに殴られた⋮⋮いてえよ。
﹁なにすんだよケン!﹂
﹁みんなと同じ人生なんてまっぴらなんだよ!﹂
﹁ケンちゃんかっこいい!﹂
⋮⋮ケンもサツキも、いまだにオリラジのネタをやっているつもり
らしい。だが⋮⋮。
﹁ふっ、甘いな。ケンもサツキも。その場で言うならもっとかっこ
いいセリフがあるんだ﹂
﹁ヤス、どんなのだあ?﹂
﹁﹃みんなと同じ事はしたくない﹄なんて言うセリフはみんな言っ
てんだよ! 本当にみんなと違う人になりたいんだったら、まずは
みんなと同じだって自覚しなきゃいけないんだよ!﹂
﹁おお、ヤスかっこいいぞお!﹂
サンクスユッチ。
﹁なんかヤス兄がかっこいい言葉いうとくやしいんだよね、なんで
だろ?﹂
いや、別に悔しがらなくていいじゃん。ユッチに見たいに素直にか
っこいいって言ってよサツキも。
⋮⋮そんなこんなで、今日も夜が更けていく。
2979
342話:武勇伝︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
いつのまにやら、連載開始してから1年経ってます︵^^;
サツキちゃんじゃないですけど、早いですね。
1年で342話⋮⋮1日2話以上投稿してる日もありますから、3
0日くらいサボったのかな。
今後も出来る限りサボらずに書いていこうと思いますので、これか
らもよろしくお願いいたします。
2980
343話:進路決定
今日は2月2日月曜日⋮⋮月曜日は憂鬱だ、また1週間が続くから。
﹁ヤス君、なんて暗い顔をしてるんですか?﹂
﹁なんか日曜日で疲れが取れなかった、日曜日はやっぱりぐうたら
したい﹂
﹁どこの中年親父のセリフですか、ヤス君﹂
﹁悪いか﹂
﹁悪いですよ。日曜日は活発に外で遊ぶ日ですよ﹂
誰もそんなことは決めてない。というか、月曜日から土曜日まであ
くせく働いて、日曜日は休むんだ。聖書にもそう書いてあるはずだ
ぞ⋮⋮ええと、﹁安息日には働いてはならない﹂だったかな⋮⋮こ
うやって聖書にまで定められてるんだから、日曜日くらいぐうたら
させてよ。別に信者じゃないけど。
﹁ヤス君、ほんとにお疲れですね。日夜仕事と戦い続けているサラ
リーマン戦士の顔になっていますよ﹂
﹁やめてくれい⋮⋮けど、ほんと日曜日でもぐうたらさせてくれな
いんだよ。最近ユッチが家に居ついててさあ。毎日毎日遊ぶのに付
き合わされるんよ﹂
2981
﹁なんだか子供が遊び盛りになってきたお父さんのセリフですね﹂
⋮⋮そんなに俺っておじさん化しているんだろうか。
﹁それにしても、ユッチったらそんなにヤス君の家に行ってるんで
すか?﹂
﹁うん、正月あたりから居つき始めて、先月だけで多分20日くら
いは泊まってるんじゃないかな﹂
﹁それはまた多いですね⋮⋮もう同棲って言ってもいいんじゃない
ですか?﹂
残念ながら同棲なんて甘い雰囲気はさらさらないぞ。この前なんて
ユッチはコタツに入りながら腹出して寝てやがった。ユッチには色
気も何もあったもんじゃないぞ。
﹁なあ、どうにかしてユッチに1人遊びさせとく方法はないか? 俺は寝たい﹂
﹁というか、そもそも家に来るなってユッチに言えばいいんじゃな
いですか?﹂
そこまで言うのはひどい気がする。ユッチってそういう拒絶にはす
ごく落ち込みそうな気がするし。
﹁まあユッチがヤス君の家に入り浸るのも多少分かりますけど。ヤ
ス君の家って和みますからね﹂
﹁そうかあ?﹂
2982
﹁ほら、他の人の家って行くと大抵、緊張しちゃうじゃないですか。
なんだかんだとお互いに気を使いますし﹂
﹁まあ、そやね﹂
﹁ヤス君の家って私1回か2回くらいしか言ったことないですけど、
まるで自分の家みたいなんですよ﹂
﹁そうかあ? 絶対そんなことないって﹂
アオちゃんの家って見たことないけど、やっぱりどの家にもそれぞ
れちょっとした違いがあると俺は思う。俺の家もそんな特別な家な
んかじゃない。
﹁そんなことありますよ。ヤス君の家って、いつでも﹃おかえりー﹄
って誰かが迎えてくれそうな雰囲気な家なんですよね。自分の家に
いるみたいに緊張せずに過ごせるんですよ﹂
⋮⋮そっかなー? 考えたことないや。
﹁ユッチなんてきっとコタツに入ってねっころがって、みかんたべ
ながらテレビでも見てるんじゃないですか?﹂
何故分かる? そしてそのままコタツに入りながら寝たんだよ。寝
てるの気づかずにユッチの頭蹴っ飛ばしたらもっのすごく怒られた。
そんなところで寝てるほうが悪いと俺は思う。
﹁ヤス君の家ってそんな感じですごく自然体でくつろげる雰囲気が
あるんですよ、だからユッチは毎日ヤス君の家に入り浸るんですよ﹂
2983
そうなのかなー? そんな高尚な分析をされても、俺にはよく分か
らないっす。
ピーンポーンパーンポーン
﹁1年生の河辺ゆうさん、河辺ゆうさん今すぐ職員室まで来てくだ
さい。河辺ゆうさん、河辺ゆうさん、今すぐ職員室まで来てくださ
い﹂
ちょうどユッチのうわさをしていたらユッチの名前が放送で流れて
きた⋮⋮何だろうな、なにやらかしたんだろ?
﹁ああ、なんだかユッチ、未だに文系か理系か決めてなかったみた
いなんですよ﹂
なんだあいつ、未だに決めてなかったのか? 悩みすぎだろ。俺な
んて進路希望調査表渡されたその日にさっさと理系で提出しちゃっ
たよ。
﹁ってかユッチの夢ってお嫁さんなんだろ? どっちに言ったって
そんなに変わんないんだし、別にそんなに深く考える必要もないと
思うんだけどな﹂
2984
﹁だからじゃないですか? 私みたいに将来の夢は検事って決めて
いれば、文系にいくって即決できますけど、ユッチはそんな風に決
められないですもん﹂
⋮⋮ふーん、そうなんか。
﹁そう言えばそもそもユッチって進学できるかどうかも微妙だった
気がしますが﹂
﹁はぁ? なんで?﹂
﹁成績があまりに悪いので﹂
﹁いやいや! 出席日数が足りてたらよっぽどのことがない限り留
年なんてしないだろ!? どんだけ成績悪いんだよ?﹂
﹁ええと、1学期と2学期の成績で赤ざぶが計4つです﹂
⋮⋮多すぎるだろおい。
﹁英数は2連続で1を取っていますから﹂
﹁ええ? ダメだろそれ。でも家にいるとき勉強してたためしがな
いぞ。アオちゃんさ、高校受験のときみたいにユッチの勉強見てや
ってよ﹂
﹁ヤス君、これからユッチをよろしくお願いします﹂
なんだそのお父さんが娘さんを任せるときに言うみたいなセリフは。
アオちゃんめ、完全に人任せにする気だな⋮⋮。
2985
ま、ユッチが留年しないようにあいつが家に来たら、勉強一緒にや
るかあ⋮⋮。
2986
343話:進路決定︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
理系にするか文系にするか、という話を書くのをすっかり忘れてて
慌てて書いた話。
伏線︵?︶を回収し忘れていること、まだまだありそうだなあ⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
2987
344話:ユッチ、勉強、はじめ!
﹁と言うわけでユッチ、勉強すっぞ!﹂
﹁⋮⋮何があ?﹂
いつものように家に転がり込んでいるユッチ。サツキが受験勉強を
している前で、コタツに入って﹃お茶にごす﹄を読みながらけらけ
ら笑っていた。どれだけ受験勉強の邪魔をしているんだ⋮⋮頭いて
え。
⋮⋮なんで自分の家にいるみたいにしてんのとか、もうそのことに
関しては何も言うまい⋮⋮。
﹁今日アオちゃんから聞いたけど、ユッチって実は留年するくらい
成績がやばいんだって?﹂
﹁そそそ、そんなことないよお!﹂
あせるところが怪しい⋮⋮。
﹁大丈夫なんだな。それは本当なんだな。アオちゃんもポンポコさ
んも、ユッチの勉強の手伝いする気はないって言ってたぞ﹂
﹁ええ! アオちゃん助けてくれないのお!?﹂
アオちゃんに助けを求める気満々かよ⋮⋮人頼みはダメだろ。って
かまったく勉強をしていないこの状態じゃ助けようがない気がする。
2988
﹁ユッチ、もう一度聞くぞ。本当に留年しないんだな?﹂
﹁う⋮⋮ううん⋮⋮ちょっとだけ危ないのもあるけど、たぶん何と
かなるよお﹂
﹁よしわかった。んじゃ別にほっといても大丈夫だな。とりあえず
俺とサツキは勉強してるので、静かにしてろよ﹂
﹁ああ! ごめん、ボクが悪かったよお! 勉強教えてよお!﹂
ごめんユッチ⋮⋮教えてと言われても、一緒に勉強をするだけで、
教えることは無理っす。
﹁ちなみにユッチ、ちょっとだけ危ないのってどの教科なんだ?﹂
﹁⋮⋮え、英語お⋮⋮﹂
⋮⋮今の俺、そんな怖い顔してるんだろうか? そこまでユッチに
びくびくされるような言い方はしてないと思うんだけど。
﹁了解、英語だけだな。んじゃ英語だけ集中的にやろう﹂
﹁ああ、ごめん! 数学もなんだあ!﹂
﹁おしわかった、英語と数学だけだな、無理してでも英語と数学の
得点をあげるぞ﹂
﹁む、無理するのお? だったら勉強したくないなあ⋮⋮﹂
⋮⋮どれだけ勉強嫌いなんだユッチは。いや、勉強好きな人なんて
2989
そうそういないと思うけどさ。
﹁留年はしたくないだろ?﹂
﹁うぅ⋮⋮それはそうなんだけどお⋮⋮でもでも、大丈夫だよお!
春休みに学校に通えば大丈夫だって聞いたもん!﹂
おいユッチ、もう補習を受ける気満々かよ。
﹁ユッチ、補習を受けるって言うことは部活にもこれないし、遊び
にも行けないし、毎日勉強付けの日々が待っているって事だぞ﹂
﹁ええ!? 部活にいけないのお!?﹂
そりゃそうだろ。補習やってる間に部活があるんだから。
﹁じゃあ、急いで勉強しないと! ちょっと本買ってくるう!﹂
﹁ちょっと待てユッチ! 教科書も問題集もあるだろ? いまさら
これ以上何買ってくるんだよ?﹂
﹁﹃ドラゴン桜﹄﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮あ、あれえ? 何かボクへんな事言ったあ? ドラゴン桜を
読めば東大合格できるような勉強方法が載ってるんでしょお!?﹂
2990
﹁⋮⋮﹂
﹁⋮⋮﹂
﹁ねえねえ!? 黙ってないで何か言ってよお!?﹂
﹁なあサツキ、ユッチに何か言ってやってくれよ﹂
﹁えっとー、なかなか言うの難しいよ?﹂
﹁大丈夫、ユッチならほんとの本音を言っても大丈夫だ。心で思っ
た事をまんま言ってやれ﹂
﹁えっと⋮⋮ユッチ先輩、﹃ドラゴン桜﹄なんか読んだって、絶対
に東大合格なんてできませんよ?﹂
﹁えええ!? なんでだよお?﹂
﹁ドラゴン桜を読めば東大合格できるなら、東大合格者がわんさか
ですよ。そもそもあそこに書いてある勉強法なんて﹃できる人﹄の
勉強法なんですから、﹃できない自分たち﹄がいくらやったって全
然伸びるわけないじゃないですか。ビートルズを100万回聞いた
としても、文法が覚えられるわけがないんですよ。聞いてるだけで
文法が覚えられるんだったら、中学の塾でも学校でもそこら中でビ
ートルズが流れてるはずなのに、そんな風景見たことないですよ。
メモリーツリーを書いて誰でも単語が覚えられるんでしたら、﹃誰
でもさくさく覚えられるようになる記憶術﹄みたいなタイトルの文
庫本が一向になくならないのはなぜなんでしょう? 古典の漫画を
読んでるだけで古文が覚えられるんでしたら、誰もレ点を覚えたり
ありおりはべりいますがりを覚えるのに苦労なんてしませんよ﹂
2991
﹁あ、アリオリハベリイマソガリ⋮⋮?﹂
こ、国語は大丈夫なんだよな? 5教科全部やばいなんていわれた
ら時間が足りないっすよ?
﹁あの漫画はきれいなところだけを見せた漫画ですよ。東大合格だ
ーって話で進めてますけど、特進クラスにいるのってたった2人じ
ゃないですか、残りの大多数の学生は学費だけ払わせて適当に扱っ
てるんですよ。﹃宇宙人﹄と﹃普通の人﹄の中間層にいる﹃できる
人﹄だけを扱った漫画だと私は思います。そういえばあの基礎クラ
スの人ってどうなったんだろうね、ヤス兄?﹂
さあ? どうなったんだろう?
﹁ユッチ先輩、﹃ドラゴン桜﹄を買いに行ってる暇があるんでした
ら、とりあえず英単語1個覚える方が有効ですよ﹂
﹁あ、うん⋮⋮﹂
おお、言い負かしてしまった⋮⋮ユッチの小さな背中がいつも以上
に小さく見えるぞ。
﹁私としてはユッチ先輩が同級生のほうが楽しそうですから、ぜひ
留年してほしいですけど﹂
﹁ぼ、ボク勉強するう! 絶対進級してやるんだからあ!﹂
後輩と同級生って嫌そうだもんなあ⋮⋮。
2992
﹁じゃあヤスう! 先生よろしくう!﹂
⋮⋮ええ? 俺が先生すんの? 誰かに教えられるほどの頭はあり
ませんっす⋮⋮。
2993
344話:ユッチ、勉強、はじめ!︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
ドラゴン桜ファン、ごめんなさい。
それでは今後ともよろしくです。
2994
345話:ユッチ、勉強中
まあ、勉強しろと言ったんだし、教えられる範囲では教えるとする
か。
んーと、英語と数学を教えないといけないんだよな⋮⋮。まあ、俺
も英語は苦手なので、まずは数学から教えよかな。
﹁それではユッチ、最初の問題だ! ﹃1+1﹄は?﹂
﹁にぃー⋮⋮ってヤスう! ボクをバカにしてるのかあ!?﹂
や、ユッチ前に九九を間違えてたこともあったし、もしかして小学
校1年生からやり直しかなあと思ったんだよ。
﹁そんなバカにした問題だしてないでちゃんとやってよお!﹂
⋮⋮ううん、ユッチの実力が分からないからどのくらいの問題を出
せばいいのやらサッパリなんだけど。
﹁ちなみにユッチって﹃かげんじょうじょ﹄はわかるか?﹂
﹁かげんじょーじょお? なにその魔法みたいな言葉はあ?﹂
﹁ユッチ、﹃かげんじょうじょ﹄は小学校レベルだぞ?﹂
﹁ええ? そうだっけえ⋮⋮ちょ、ちょっと待ってよお! 今思い
出すんだからあ!﹂
2995
ユッチ、どんな天才でもな、知らないことは思い出せないと思うぞ。
がんばって思い出そうとしても絶対に思い出せないと思う。
﹁ヤス兄も意地悪だねー。わざわざ﹃加減乗除﹄なんて難しい言葉
使わなくたって、タスヒクカケルワルって言えば絶対に分かるのに﹂
サツキがユッチには聞こえないようにひそひそ声で話しかけてきた。
﹁そりゃサツキ、ちょっと想像してみてくれ。ユッチが分からない
問題をだして、頭を抱えてウンウン悩む姿をみる⋮⋮これほどまで
に楽しい事があろうか、いや、ない﹂
うん、教師になる人って絶対にこれが楽しくて教師になるんだろう
な。教えたことをどんどんと吸収していく子供たちを見るのが面白
いなんて事はきっとなかなか無いよなあ。
⋮⋮あ、なるほど。だからこそ﹃できの悪い子ほどかわいい﹄なん
て言葉が生まれるんだな。納得。
﹁ヤス兄って心根って真っ黒だねー。それよかユッチ先輩をウンウ
ン悩ませるんならもうちょっとテストで得点に結びつきそうな事で
悩ませなよー。加減乗除の言葉の意味知ってたってテストの点には
何にも関係ないでしょ?﹂
まあ、そりゃそうなんだけど。知ってたって損しないんだからいい
じゃん。
﹁ヤスう! かげんじょーじょおってタスヒクカケルワルの事なの
かあ!?﹂
あ、ユッチにもサツキとの会話聞こえちゃってたか。
2996
﹁そだぞ。よかったなあユッチ、1つ賢くなったぞ﹂
﹁ううう⋮⋮ヤスに、ヤスなんかにここまでバカにされるなんてえ
⋮⋮テストで0点とるより屈辱だあ⋮⋮﹂
⋮⋮ええと、なぜゆえそこまで敵意をむき出しにするんだよ。
﹁もお、ヤス! ちゃんとボクに勉強教えてよお!﹂
⋮⋮教えられる立場のはずなのに、なんでこんなにユッチは偉そう
なんだろう。最終手段﹃そんなに反抗的なんだったら俺教えてやん
ねえ﹄って言いたくなってしまった。
まあ、これは絶対に言っちゃいけないセリフだよな。
﹁んじゃユッチ、タスヒクカケルワルの基本はマスターしてるんだ
よな?﹂
﹁当たり前だあ! バカにするなあ!﹂
いやあ、よかった。これが出来てると出来てないとじゃ全然違うも
んな。
﹁ユッチ、筆算はできるのか?﹂
﹁できるわあ! ボクを何だと思ってるんだあ!﹂
ええと⋮⋮今のところ小学3年生くらい。
﹁もう、そんなのはいいから高校の勉強を教えてよお!﹂
2997
﹁⋮⋮んじゃあ、2月10日にある実力テストに出てきそうな問題
を⋮⋮sin30°は?﹂
﹁⋮⋮サインサンジュード⋮⋮ええと、ええと、どっかで聞いたこ
とがある言葉なんだけどお⋮⋮﹂
ユッチって100%学校の授業、寝てるよな。ただの暗記問題なの
に。
﹁ユッチ、サインコサインタンジェントって聞いたことあるか?﹂
﹁あるよお! なんだったか思い出そうとしてるところお! ⋮⋮
胃の奥のほうまで出てきてるんだけど、そっから上がってこないん
だあ!﹂
威張るなよ。胃の奥って全然出てきて無いじゃん。出てくる気配が
無いじゃん。
﹁くそお、それって﹃ヒトヨヒトヨニヒトゴロシ﹄とか、﹃フジサ
ンロクニシンリキョウ﹄と﹃ヒトナミニオゴレヨオトコドモ﹄同じ
たぐいって言うのはわかってるんだけどお⋮⋮﹂
違うし。まったく別のたぐいだし。しかも語呂合わせ、ちょっとず
つ間違えてるし。人殺しとか真理教とかこわいよ⋮⋮誰に教えられ
たんだよ。
﹁ユッチ、時間切れ。サインコサインタンジェントってのは三角比
で使う言葉だな。細々といろいろ定義はあるけど、最低限sin3
0゜=1/2、sin45゜=√2/2、sin60゜=√3/2
2998
辺りを覚えておけばまあまあ点はとれるはずだぞ。適当に表作った
んで見といて﹂
﹁あ、うん。ありがとお⋮⋮ねえ、こんなに覚えるのお?﹂
﹁どんなにめんどくても覚えてくれ。勉強なんてしょせん全て暗記
なんだから﹂
数学だって理科だって、考えるより暗記する事を教える。それが勉
強というものなんだ。
﹁うう⋮⋮わかったよお⋮⋮進級の為だもんねえ⋮⋮﹂
泣き事を言われても、あれやれこれやれと言うことしか俺には言え
ねえ、頑張れユッチ。
2999
345話:ユッチ、勉強中︵後書き︶
こんにちは、ルーバランです。
勉強を楽しくやる方法ってなにかないかなあ⋮⋮
それでは今後もよろしくです。
3000
346話:なんとか力
今日は2月2日月曜日。すごく寒かったのでマカロニグラタンにし
てみた。マカロニたっぷり、チーズたっぷり、牛乳たっぷりのマカ
ロニグラタン⋮⋮あつあつのうまうま。冬場はやっぱりこういう熱
いものを食べるに限るな。
そしてデザートにはモモ。桃缶のモモだけど、甘くてとてもうまい。
ユッチは久しぶりに自宅に帰っていった。なんかどうしても帰らな
きゃいけなかったらしいんだけど、何かあったんだろうか? って
かまあ、帰るのが普通だよな。
という訳で今日はサツキと2人での夕飯⋮⋮ほんとに久しぶりだ。
ユッチには悪いがなんだかうれしい。
﹁ヤス兄、鈍感力って知ってる?﹂
﹁ちっちゃな事にくよくよしないでいる力のことだろ? そんな細
かいところばっかり見てるから成功できないんだ、そんなこと気に
しないでドッカーンとどでかいことをしろってことだろ﹂
毎度毎度、ずれた言葉を言うと完全にスルーし続けるからなサツキ
は。今日はもうさっさときちんと返事をしたぞ。
﹁ヤス兄、今のってもしかしてドッカーンと鈍感をかけたの?﹂
﹁そうそう、サツキ採点採点。何点だった?﹂
﹁んー、5点くらいかな? ギャグってのは聞いた瞬間に分からな
いと面白みがないよ。ヤス兄﹂
3001
⋮⋮なかなかきついな、妹よ。
﹁じゃあじゃあヤス兄、常識力って知ってる?﹂
﹁ええと⋮⋮どれだけ自分に常識があるかってことだっけ? 手紙
を書くときに﹃前略 毎日毎日寒い日が続いてますがいかがおすご
しでしょうか﹄と書くのは間違いとかそんなやつ﹂
﹃前略﹄じゃなくて﹃拝啓﹄って書くのが正しいんだったかな? ⋮⋮まあ別にそんな細かいことは気にしなくてもいい気がするけど。
﹁じゃあじゃあ、人間力って知ってる?﹂
⋮⋮知らないなあ⋮⋮なんだろう? 常識力を参考に言い換えると
⋮⋮﹃どれだけ自分に人間があるかってこと﹄⋮⋮ってことは人間
力が低い人は人間じゃなくなるんだろうか?
﹁ヤス兄、人間力って言うのはね、人間が持ってる力のことなんだ
よ﹂
﹁まんまじゃん! 最初にそんなことを言ったやつに﹃だからどう
した!﹄って突っ込みを入れたい⋮⋮つーかさサツキ、何でもかん
でも﹃りょく﹄ってつければいいもんじゃないだろ?﹂
﹁別に鈍感力も常識力も人間力も私が言い始めたことじゃないよー﹂
そりゃそうかもしれないけど。
﹁こうさあ、最近﹃ちょべりばー﹄とか﹃エムケーファイブー﹄と
3002
かさ、変な造語めっちゃ増えてきてるけどさあ﹂
﹁ちょべりばもエムケーファイブもすごく古いと思うよ、ヤス兄﹂
うるさい、思いつかなかったんだよ。
﹁それで若いもんらはけしからんって大人は怒るけどさ、鈍感力と
か女性の品格とか変な言葉を増産してんのって大人たちじゃん。そ
れにのっかって騒ぎ立てんのも大人たち、俺ら子供は冷たい目線で
そんな大人達を﹃あんな大人にはなりたくねえなあ﹄と見下すんだ
よな﹂
﹁なんかヤス兄、﹃真剣10代しゃべり場﹄に出てくる10代代表
みたい﹂
褒められてるのかけなされているのか、はたまたただの感想なのか
⋮⋮どう評価されたのかよく分からん。
﹁とりあえず適当な言葉に﹃力﹄ってつけてさ、﹃お前に足りない
ものは﹃なんとか力﹄なんだ!﹄って言われてもさあ⋮⋮どうしよ
うもないよな﹂
﹁それはあるよねー。﹃何とか力﹄って大抵、当たり前のことをさ
も難しそうに言ってるよね﹂
﹁もしくはものすごく難しいことをさも簡単そうに﹃なんとか力を
身に付ければいいんだ!﹄とかなー﹂
﹁鈍感力とか敏感力とかスルー力とか動力とか道力とか浮力とか富
力とか巫力とかだね、ヤス兄﹂
3003
⋮⋮何か変なのばっかりだぞ、サツキ。スルー力以降は全滅な気が
するぞ。
﹁ってかさ、﹃なんとか力﹄って適当に名前を付けてさ、それで適
当に持論を並べ立ててさ、それを適当に編集者が読みやすいように
書き換えて、出版したらベストセラーになって金が儲かるって⋮⋮
なんておいしい商売なんだろうな﹂
おお、考えてみたらその商売ってすっごいいいな、将来は批評家に
なろうかな。
﹁ほとんどの﹃なんとか力﹄はつぶれていくと思うけどねー﹂
いやいや、うまく当てればものすごく儲かるぞ。印税がっぽがっぽ
だぞ。
﹁例えばさ、﹃眼力﹄ってのがDSで大ヒットしたから次は﹃口力﹄
とかで一発当てれる気がするなあ﹂
﹁何? 口力って? 口臭がどれくら強いかで勝負するの?﹂
いやいや! 口臭力とかきつすぎだろ! 絶対売れなさそうだよ!
﹁口力⋮⋮すなわち口がどれだけ早く回るかを勝負する力だ。いか
にして相手を言いくるめるか、これが口力につながるんだよ。今の
時代はしゃべれないと勝ち残れない世の中になっていくんだから、
これからは眼力よりも口力の時代だよ!﹂
﹁ああ、要は口論に勝てる力って事だね。ヤス兄の口力じゃ、どう
3004
頑張っても勝ち残れない気がするけどねー﹂
⋮⋮俺ってそんなに口論弱いかなあ?
﹁ヤス兄はそれ以外の口力も弱いよね。ご馳走さまー﹂
﹁早いなサツキ⋮⋮って俺の分のモモは!?﹂
﹁ヤス兄、早い者勝ちだよー。これが口力だよ、ヤス兄﹂
話に夢中になっている場合じゃなかった⋮⋮なんか悔しい。
3005
346話:なんとか力︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
今日新書をちらちらと見ていたら、﹃教育力﹄やら﹃勉強力﹄やら、
とにかく﹃なんとか力﹄って話が多かったのでつい書いてしまった
話です。
安易に﹃なんとか力﹄ってつけないでほしかったりします︵−−
それでは今後ともよろしくです。
3006
347話:鬼は外
2月3日火曜日、今日は節分なり。家に帰ったら恵方巻きでも買っ
て食べようかな。
まあ、今はそれよりも部活部活。ふぅ⋮⋮アップも終わって、今か
ら本練習開始だ。
﹁ヤスヤスう! 鬼ごっこやろお!﹂
⋮⋮ええと、今日は15キロだったよな。
﹁ヤスう! 今から鬼ごっこやるんだあ! ヤス、参加しろお!﹂
変な声が聞こえたけど、きっと幻聴だよな。もしくは空耳だ。よく
聞こえる空耳だなあ⋮⋮うん、さっさと15キロ走って帰ろう⋮⋮
今日はサツキ、こっちに来れないからな。
サツキが家に帰る前に家にいたい。
﹁ヤスう! 無視するなあ! 早く鬼ごっこするぞお!﹂
⋮⋮ええと、今って部活の時間だよなあ。なんで鬼ごっこをするん
だろ?
﹁ヤス⋮⋮何でボク無視するんだよお? ボクのこと嫌いかあ?﹂
嫌いなやつをわざわざ家に泊めたりなんかしないが⋮⋮ってかなん
で部活中に鬼ごっこをするんだろう?
3007
﹁はああ⋮⋮しょうがないやあ⋮⋮ボク、1人鬼ごっこでもしよう
かなあ﹂
﹁ごめん! 無視して悪かった! 鬼ごっこしよう! すぐにしよ
う、今しよう、だから1人鬼ごっこなんてやらないで!﹂
﹁ど、どうしたんだあ? 1人鬼ごっこってそんなに驚くような遊
びなのお?﹂
﹁い、いや⋮⋮知らないならいいんだ⋮⋮﹂
ああ、びっくりした。降霊術をもしかしてやろうとしているのかと
思った⋮⋮。
1人鬼ごっこって別名ひとりかくれんぼ⋮⋮こっくりさんとかエン
ジェル様とかど同様の降霊術のひとつ⋮⋮取り返しのつかないこと
になりかねない遊び。
⋮⋮ユッチ、知らないとはいえ怖いことを言わないでくれよ。
﹁ところでユッチ、他に参加者は?﹂
﹁ボクとヤスだけだよお﹂
﹁⋮⋮うん、また今度やろうな。今は部活の時間だし﹂
1人鬼ごっこは危険だと思ったけど、2人鬼ごっこもありえないと
思う⋮⋮どんな鬼ごっこだよ。鬼ごっこというのは基本的には足の
速い人が勝つようなルールになっている。
2人鬼ごっこじゃどっちかがずっと鬼になるというとてもつまらな
い状況になるんじゃなかろうか。やっぱり鬼は複数いないと面白く
3008
ないよな。
人数がいるから作戦が広がる。待ち伏せや挟み撃ち、はたまた鬼じ
ゃないふりをして相手を捕まえる等など、何でもござれ。
やっぱり鬼ごっこは最低でも6、7人くらいはほしいよな。
﹁大丈夫だよお、鬼ごっこって走り回るんだから、部活の練習代わ
りにはもってこいだよお!﹂
﹁⋮⋮そうかもしれないけどな。なんで俺とユッチだけなんだよ﹂
﹁ヤスはボクと2人じゃいや?﹂
⋮⋮ええと⋮⋮なんと返事をすればいいんだ? ﹃いや﹄って返事
したらめっちゃユッチ傷つきそうだし⋮⋮かといって﹃うん、俺も
ユッチと2人っきりがいい﹄とか返事するのもなあ⋮⋮うわ、きも
っ。鳥肌が立ってきた。
﹁あはは、うそだよお。短距離はみんな参加してもらうつもりなん
だからあ。だからヤスも鬼ごっこやろうよお!﹂
﹁⋮⋮ううん⋮⋮まあいいけど⋮⋮ってかなんで鬼ごっこをやりた
いんだ?﹂
﹁節分だからに決まってるじゃんかあ! 節分と言えば鬼ごっこだ
よ!﹂
﹁⋮⋮そうなのか?﹂
知らなかった。節分といえば豆まきと恵方巻きとヒイラギの3つく
らいかと思っていた。
3009
﹁ヤスってば知らないのお? おっくれてるう! 節分に鬼ごっこ
をするのなんて常識じゃんかあ﹂
﹁⋮⋮常識、なのか?﹂
そんな常識初めて聞いた⋮⋮。
﹁それじゃあ、他の人も誘ってくるからあ!﹂
そう言ってユッチは短距離人が集合してるところに走ってった。
っていうか、なんでユッチは俺を最初に誘うんだろう?
﹁よおし! それじゃあ、鬼ごっこをやろお!﹂
パチパチパチパチ⋮⋮。
乾いた拍手が集まったメンバー内で響き渡る。参加者はケン、アオ
ちゃん、ポンポコさん、ゴーヤ先輩、キビ先輩、それとユッチと俺
の総勢7人。ユッチの勢いに押されて参加した面々だ。
﹁鬼は⋮⋮ヤスやってくれない?﹂
﹁俺?﹂
﹁うんうん! ヤス用にお面も作ってきたんだからあ!﹂
右手に持っているのは手作り感あふれる角が2本の赤鬼さんのお面
3010
⋮⋮まさか、昨日めずらしく家に泊まらずに自宅に帰ったのってそ
れを準備するためだけなのか?
⋮⋮遊びにそこまで情熱を燃やすユッチって⋮⋮すごいな。
﹁んじゃ、俺が鬼やるよ﹂
ユッチから手渡されたお面をつける⋮⋮このお面、視野が狭いな。
めっさ見づらい。
﹁みんな、豆持ったあ? ヤス、ボクたちが10秒数えるから頑張
って逃げてねえ﹂
⋮⋮ええと、なんか変な言葉が聞こえたような。そしてみんなの手
には袋いっぱいに詰められた豆。
﹁⋮⋮は? 何言ってるんだユッチ? 鬼ごっこといえば、鬼は追
うほうでお前らが逃げる方だろ?﹂
﹁あれ? ヤス知らないのお? 節分の日だけは、鬼は追われる方
に変わるんだよ? その日の鬼ごっこは鬼が逃げるんだあ﹂
⋮⋮え? 何そのルール? そんなルール絶対にないだろ。 って
かそれじゃただの豆まきじゃん。
﹃いぃち! にぃい!﹄
俺が納得する前にみんなして10秒数えだした。
はああ!? ちょっと待て待て!
﹃さぁん! よぉん! ごおお! ろおく! ななあ! はちい!﹄
3011
うっわ、こいつらとまらねえ! もう逃げるしかない!
8まで数えられた時点から逃げ出した俺⋮⋮やっばい、全然逃げら
れてない。
﹁じゅう! 鬼! 待てえ!﹂
うっわ! これどんないじめだよ!
⋮⋮結局、必死に逃げたけど散々に豆をぶつけられた。なんだか節
分が嫌いになりそうになった、そんな日だった。
3012
347話:鬼は外︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
仕事がちょっと忙しくて書いてる暇が⋮⋮すいません。
それでは今後ともよろしくです。
3013
348話:勝つのが好きなんだよ!
今日は2月7日土曜日。あいも変わらず陸上競技場で練習中、今日
は20キロを一人延々と走っていた。ポンポコさんはこの調子で練
習を続けていればいいって言ってくれてるんだけど⋮⋮俺ってほん
とに伸びてんのかなあ⋮⋮。
﹁ヤス兄、お疲れ様ー﹂
そう言ってタオルを渡してくれるサツキ⋮⋮サンキューです。
﹁まじ疲れたあ⋮⋮1人で練習ってきつすぎっすよ﹂
﹁ヤス兄って大体どれくらい走ってるの?﹂
﹁ええと⋮⋮1日平均15キロくらいかなあ。月間にすると400
キロくらい。ほんとにスピード練習はほとんど無くて、ただ長い距
離を延々と走る練習が多いなあ﹂
﹁5000メートルの練習って言うより、マラソンの練習してるみ
たいだねー﹂
⋮⋮確かに。マラソンに出てみたら意外といい記録出たりしないか
な。
﹁そろそろ2年生だし⋮⋮後輩で誰か陸上経験者が入ってきてほし
いよな﹂
3014
﹁どんな子が来てほしい?﹂
﹁ううんと⋮⋮そうだなあ。俺の要望だと、俺よりちょっとだけ足
が遅くて、だけど練習相手、もしかしたらライバルになりうるかも
しれないんだけど、やっぱりギリギリのラインで俺には勝てないち
ょうどいい実力を持った部員とかが理想だな。まじで来年1年生で
ひょんな事で入ってきたりしないかな?﹂
﹁自分より弱い相手を見つけようとしてる所がヤス兄だね。そこは
嘘でも﹃自分より強い相手が欲しい﹄って言う所でしょ?﹂
﹁いやあ、だって自分より強いやつ入ってきたら、肩身狭いじゃん﹂
長距離は不真面目部員が多いため、ただでさえ肩身狭いのに。
﹁ヤス兄のファンが5人は減ったねー﹂
⋮⋮俺にファンなんていねえよ。
﹁それにさ、自分よりちょっとだけ遅いやつが入ってきたときにさ、
﹃俺も高校に入学したての頃はへっぽこだったよ⋮⋮それもお前み
たいに才能もなくてさ、5000メートルも20分切るなんて夢の
また夢だったさ⋮⋮でもな、1年間練習すれば俺みたいなやつでも
ここまでになれるんだ! 頑張れ﹄みたいに後輩に偉そうに講釈た
れたいじゃん﹂
﹁ヤス兄、そこは嘘でも﹃後輩を励ましてあげたい﹄って言ったほ
うが好感度は高いよ﹂
ううん⋮⋮なぜゆえそこまで建前を使わなければならないんだろう。
3015
人に好かれるってめんどくさいなあ。
﹁ちなみにサツキだったらどっちが好感度高い?﹂
﹁私? 私は面白ければどっちでも。どうせなら﹃てめえなんぞ才
能の欠片もねえんだよ。ざまあみやがれ!﹄って言ったヤス兄が1
月後に完膚なきまでに負ける姿をみたいねー﹂
⋮⋮サツキ、黒いな。黒すぎるよお前。ちょっと前に俺に﹃心根真
っ黒だね﹄って言ったけど、絶対にサツキのが黒いと思うよ。
﹁というかさ、そもそもヤス兄、ライバルとか現れて燃えたいとか
そういう青臭いセリフは言わないの?﹂
ライバルか⋮⋮ライバルねえ。
﹁サツキ、お前は知ってると思うけど⋮⋮俺、闘うのは好きじゃな
いんだ⋮⋮勝つのが好きなんだよ!!﹂
﹁今、ヤス兄のファンが30人くらい消えてなくなったねー﹂
だから俺にファンなんかいないから。
﹁でもさでもさ、一生懸命練習してさ、頑張った身につけた走力で
さ、弱者を完膚なきまでに負かす瞬間ほど快感なことってなくない
?﹂
﹁ううん⋮⋮弱い人をいじめるのはあんまり面白くないんだよねー﹂
そうか、ちょっと意見が違うなあ。
3016
﹁それよりも自分と同じくらいの実力持った人だけど、体力だけは
私のほうが上で、じわじわとなぶっていって勝つって言うのが最高
だよね﹂
50歩100歩だけど⋮⋮絶対にサツキのが俺より黒い。
﹁ほんとに弱い人だと試合が始まる前から負けを認めてるけど、﹃
この試合は勝ってやる﹄って気持ちでいる人が﹃もうダメ⋮⋮﹄っ
て心が折れた瞬間の顔ほど胸がすっとするものはないよ﹂
⋮⋮ま、まあそうかもな。
﹁漫画でさ、﹃ダイの大冒険﹄ってあるじゃん。俺さあ、ポップが
一番好きだけど、その次にフレイザードとバーンは好きなんだよね。
むしろ、ダイの﹃汚いぞフレイザード、正々堂々と戦えないのか⋮
⋮﹄とか、ありえないと思うし﹂
﹁まあ、そこは同意だけどね。わざわざフォアが得意な選手相手に
フォアばっかり打つテニスプレーヤーなんていないもんね。苦手な
ところを見つけたら徹底的にそこをついて、どこまでも勝ちにこだ
わるのが本当の正々堂々だよね﹂
だろ? 戦なんだからどんな卑怯な手段を使ってでもとりあえず勝
たなきゃダメだろ。織田信長だって源義経だって奇襲で敵を打ち破
ってるんだから。負けてもいいから正々堂々なんて、そういうウソ
っぱちスポーツマンシップを教えちゃあかんてば。じゃあ正々堂々
って一体どういうのが正々堂々なんだって聞きたいぞ。だいたいダ
イの大冒険、後半になってくると﹃ミナカトールを使えばバーンの
力を半減させることができる⋮⋮﹄とか⋮⋮おい、フレイザードと
3017
やってること一緒やん。ダメじゃん正義の味方どもめ。何が正々堂
々だよ。
⋮⋮まあ、フィクションであれ、ノンフィクションであれ、戦いと
いうのは勝者が正義だからな。
﹁そういや陸上で汚い技ってどういう技を言うんだろ?﹂
﹁さあ? 長距離だったら肘打ちとか服をつかむとかそんな感じじ
ゃない?﹂
ううん、陸上はあんまり汚い技ってなさそうだな。投擲種目とか、
駆け引きなんてまったく無くて、自分との戦いが全てになるもんな
あ。
﹁ま、何はともあれ、﹃相手を落としてでも勝つ﹄なんてことが出
来ない種目を選んじゃったんだから、頑張ってねヤス兄﹂
あいあい、頑張りますたい。
3018
348話:勝つのが好きなんだよ!︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
選手宣誓で﹃スポーツマンシップにのっとり正々堂々と闘うことを
誓います﹄とありますが、正々堂々ってどんなのを言うんだろう?
としばしば思います。
それでは今後ともよろしくです。
3019
349話:味見
今日は2月11日⋮⋮祝日。ええと、建国記念日。まあ、自分にと
っては休みがあってうれしいぐらいしか思わないけど。
今日は部活もなく、1日中家でゴロゴロすると心に決めている。い
つものようにケンとユッチは家に転がり込んできてる⋮⋮前、アオ
ちゃんが言ってたけど、家ってそんなに居心地がいいんだろうか?
よく分からんなあ。
なんかサツキとユッチは台所でガチャガチャしてるけど⋮⋮まあ、
俺には関係ないや。俺はコタツでコタツムリー。
﹁はあ⋮⋮幸せ⋮⋮﹂
みかんを食べつつ、緑茶をすする。
はぁ⋮⋮これぞ日本の冬の過ごし方だよな。
﹁ヤス、ジジくさいぞ﹂
﹁うっさいケン、ケンがなんと言おうと、俺はせっかくの休みの日
くらい基本的にダラダラして過ごすと決めているんだ。ダラダラ過
ごすことは最高だぞ﹂
﹁ええとな、ヤスは外に出てはしゃぎたいとは思わないのか? せ
っかくの晴れの日なのに﹂
﹁晴れてても冬の外は寒い。コタツの中はあったか。さあ、外に出
る理由がどこにあろうか、いや、ない。コタツムリになる事ほど幸
せなことがあろうか。いや、ない﹂
3020
﹁ヤス⋮⋮お前の幸せって小さいな﹂
うるさいやい、何千億円あったって幸せじゃないやつは幸せじゃな
いんだよ。裕福になることイコール幸せだと思ったら大間違いだ。
自分が幸せと思ったらそれが幸せなんだ。文句あるか。
﹁ケン、そんなこと言うんだったらお前はコタツに入るな。文句を
言うやつに俺のコタツには入れさせん﹂
﹁ヤス⋮⋮お前の器も小さいな﹂
うるさいやい、これが俺だ。文句あるか。
﹁あ、ヤスう、ちょっとこっち来てえ﹂
台所から顔を出して俺を呼ぶユッチ⋮⋮ううん、このコタツを動か
しながら行くことが出来れば行くんだけど⋮⋮。
﹁めんどいからいやだ、用事があるならユッチがこっち来てくれ﹂
﹁なんだよお、ヤスのバカあ!﹂
それほどまでにコタツの魅力と言うのはすごいのだよユッチ⋮⋮は
ぁ⋮⋮幸せー。犬はバカだよなー、猫のが賢いよ。
犬は喜んで庭を駈けまわって、猫はコタツで丸くなる。猫に全面的
に同意だよ。
﹁あ、ヤス兄ヤス兄、ちょっと来てー﹂
3021
﹁あいあーい﹂
そう返事してコタツを出る俺。
﹁ヤスう! 何でサツキちゃんなら来てボクだと来ないんだあ!﹂
﹁ええと⋮⋮人徳の差かな?﹂
﹁何でだあ!﹂
ああもう、うるさい、これが俺だ。文句あるか。
﹁ヤス兄、毒見してー﹂
⋮⋮毒見? 毒見ってなんやねん。
﹁ほらほら、今度2月14日にバレンタインデーがあるでしょ? 今ユッチ先輩と手作りのチョコに挑戦してるんだよ﹂
へぇへぇ、去年までは市販の方がおいしいじゃんって言って作らな
かったのに、どんな風の吹き回しだ?
﹁と言うわけでヤス兄、毒見係してよ﹂
サツキの手の上にはチョコチップクッキー⋮⋮ふむ、なるほど。
普通の手作りチョコだと、硬くて歯が立たない、なんてことが起こ
りうるんだよな。確か、生クリームやら牛乳やらを上手に入れない
かんのだよな。
チョコチップクッキーなら硬くて歯が立たないなんてことも起こら
ないし、時間も手間も少なくて楽⋮⋮だったはず。
3022
チョコクッキーをひとつつまんで口にほおる。サクサクとした食感
に、ふんわりと甘い味が口いっぱいに広がる。
﹁お、うまいじゃん﹂
﹁ほんと? 甘すぎたりしない?﹂
﹁ん、大丈夫。すごくうまい。手が止まらなくなりそう﹂
うん、これはうまい。いいなこれ。2月14日はこれもらえるんだ
ろか?
﹁サツキちゃん、俺ももらっていい?﹂
﹁ケンちゃんはダメー。ケンちゃんは2月14日までのお楽しみー﹂
﹁⋮⋮⋮⋮ちょっと待てサツキ、そのチョコは誰に上げるつもりな
んだ?﹂
﹁んーと⋮⋮ユッチ先輩とポンポコ先輩、クロちゃんとサキちゃん、
それとケンちゃん﹂
⋮⋮ふう、良かった。もしやサツキに好きな人が出来て、その人に
あげるのかと思ってしまった。
﹁あげるのは全員女子なんだな。友チョコと言うやつか⋮⋮ああ、
びっくりした﹂
﹁おいヤス、俺は男だぞ﹂
3023
ケンはいいの、ケンは例外。
﹁あ、それとクラスメイトの男の子にもあげるつもり﹂
﹁だだだ、誰だ!?﹂
そんな話聞いたことないぞ!
﹁嘘だよー、ヤス兄もそんなに慌てなくてもいいのに﹂
ふぅ、嘘か⋮⋮良かった。
﹁ところでユッチは誰にあげるんだ?﹂
﹁ボク? えへへえ、ヤス、聞きたい?﹂
﹁いや、別に﹂
﹁ヤスう、聞きたいって言えよお!﹂
﹁別に聞きたくないし﹂
⋮⋮ちょっとだけ聞きたいけど。聞きたくないって言った方が面白
い。
﹁聞きたいって言うんだあ! ヤスのバカあ!﹂
ユッチ、ほんとに思ったとおりの反応を返すなあ。
﹁ケンちゃん、ヤス兄ってユッチ先輩からかうの好きだよねー﹂
3024
﹁いっつもからかわれてるから、たまにはからかいたいんだろ?﹂
﹁ヤス兄ってば器ちっちゃいねー﹂
﹁だよなー﹂
そこ、内緒話してるようだけどめっちゃ聞こえてるからな。いつか
覚えとけよ。
﹁んでユッチは結局誰に渡すんだ? 聞きたいから教えて﹂
﹁ええ? ええとね、ないしょー!﹂
だったら聞くなよ!
﹁ところでサツキちゃん、チョコあげる人の名前の中にヤスの名前
がなかったけど、ヤスの分はないのか?﹂
﹁ヤス兄の分はないよー﹂
﹁ええ!? まじで!? なんで!?﹂
﹁今食べたでしょ?﹂
食べたけど! 1枚だけなんだけど、それだけなの!?
﹁ヤス、いつかきっといい事あるさ﹂
⋮⋮ケンに変な風に慰められた。
3025
くそお、ホワイトデーは今回何も作んないからな。
3026
349話:味見︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
真夏にコタツの話を書いても暑い⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
3027
350話:バレンタイン
今日は2月14日、土曜日。世間のいろいろなところで新しいカッ
プルが誕生するバレンタイン。
ある人は市販のチョコを﹃て、手作りなんだからね!﹄って言って
手渡して、彼氏に聞こえないように﹃私の手作りじゃないけど、誰
かの手作りだからウソはついてないんだもん﹄ってつぶやいて自分
をごまかす日。
ある男にとってはとっても豪華なチョコレートケーキを手作りして、
自分で食べる日。
もしくは一生懸命頑張って手作りしたチョコなのに、彼氏に﹃う⋮
⋮うん、お、おいしい⋮⋮よ?﹄みたいな微妙な反応をされて、喧
嘩すると言う思い出をひとつ積み重ねる日。
またあるいは彼女のいない男がかわいい女店員さんがいるコンビニ
でチョコを買って、次の日に﹃俺チョコもらったもんね!﹄って意
味のない自慢話をして、﹃何をやっているんだ自分⋮⋮﹄って落ち
込む日。
またまたあるいはもらったチョコの数自慢をした時、﹃10個﹄と
か﹃20個﹄とか﹃30個﹄って言っている人は、実は﹃チロルチ
ョコ10個﹄だったり﹃チョコボール20粒﹄だったり﹃チョコフ
レーク30枚﹄だったりする日。
⋮⋮ま、どれもこれも俺には関係ないさ。今日も元気に部活だ。
﹁なんだかふてくされているが、どうしたのだ? ヤス﹂
﹁なんでもないっすよ、今日の練習メニューは何すか? ポンポコ
さん﹂
3028
﹁む、なんだか機嫌が悪そうだな﹂
別にサツキからチョコがもらえないからって機嫌は悪くなんてなら
ないっすよ。ああ、ならないさ。
﹁ヤス、悩みがあるなら相談に乗るぞ﹂
﹁別に悩みはないっすよ﹂
﹁⋮⋮なら、そんなムスッとした顔をするな。見ているこっちの機
嫌が悪くなる﹂
そんなに俺、ムスッとした顔をしているのだろうか。
﹁んじゃ、別に相談じゃないんだけど⋮⋮﹂
﹁なんだ?﹂
﹁ポンポコさんは誰かにチョコあげる?﹂
﹁私は誰にもあげるつもりはないが⋮⋮ヤス、1個ももらえないか
らそんなにふてくされているのか?﹂
ええと、そういうわけではないんだけど、似たようなもんか。
﹁ヤス、バレンタインにチョコを上げる風習と言うのは、日本ぐら
いなのだぞ。日本のお菓子メーカーの策略にまんまと乗せられてい
るだけだ。他の国では男から女にプレゼントをあげる日であったり
もするのだ。﹂
3029
﹁⋮⋮⋮⋮で?﹂
ここは日本だ。海外のことなんかどうでもいい。
﹁だからヤス、バレンタインに1個もチョコをもらえなかったから
と言ってひがむ必要はない。そもそもヤスは誰かからもらえるあて
はあったのか?﹂
﹁サツキ﹂
そう言った瞬間、なんだかポンポコさんから哀れなやつめ⋮⋮とい
うような眼で見られた⋮⋮なんか変な事を俺は言ったか?
﹁ヤス、バレンタインと言うのは普通、家族からもらう個数はカウ
ントしないものだと思うのだが﹂
﹁そうか?﹂
﹁⋮⋮ああ、私の兄弟たちもそんな顔をしていたぞ。というかな、
妹からチョコをもらえるのはうれしいものなのか?﹂
﹁うれしいだろそりゃ﹂
⋮⋮哀れみを持った眼から、なんだか呆れられた眼で見られた⋮⋮
何故だ。
﹁ヤスがシスコンだと言うことをすっかり忘れていた。なんだか悩
んでいる顔をしているから聞いてみたが、聞いた私がバカだったな﹂
3030
⋮⋮何故だ?
﹁では、今日のメニューは4000メートル×3で行こうか。タイ
ムは14分20、14分、13分40秒でいくぞ﹂
﹁⋮⋮ちょ、ちょっと待って!﹂
何だ? その鬼メニュー!?
﹁ん? ヤスにとっては楽すぎたか? それならばそれぞれ20秒
ずつ縮めよう。タイムは14分、13分40、13分20でいくか
らな﹂
﹁何でだ!? めっちゃきついんすよ!?﹂
4000×2でもきついのに! さらにそんなにスピードあげたら
しんじゃうっすよ!
﹁シスコンに人権はない﹂
﹁またまたあ、兄貴や弟さん大好きなくせにい。もう、テレ屋さん
なんだから。ポンポコさんったら﹂
﹁⋮⋮なんだか今無性にイラッときた。今日のメニューは4000
×4にしよう。タイムは全部13分20フラットで﹂
無理無理無理無理! ごめんなさい! 俺が悪かったからそんなメ
ニューを考えないでください!
3031
﹁お疲れ様ですヤス君⋮⋮なんだか異常にきつそうなメニューをや
ってましたけど﹂
﹁⋮⋮⋮⋮はっ⋮⋮はっ⋮⋮﹂
きつくて⋮⋮こ、声が出せん⋮⋮13分20フラットなんて無理で
すから⋮⋮。
﹁ヤス君も、ポンポコさんを怒らせたらメニュー量が倍増するって
分かってるのに、何で怒らせるんでしょうね?﹂
﹁⋮⋮はぅ⋮⋮ひぅ⋮⋮﹂
な、なんでだろう? ポンポコさんを見ていると、からかいたくな
ってしまうのは⋮⋮。
﹁好きな子にいたずらしたくなる子供の心理か、もしくはヤス君自
身が真性のMなんでしょうね﹂
﹁⋮⋮あぃいい⋮⋮﹂
⋮⋮ど、どっちでもない気がするけど、へ、返事が出来ん。
3032
あ、アオちゃん⋮⋮頼むから、変なうわさ、流さないでくれよ。
3033
350話:バレンタイン︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃かわいい女店員さんがいるコンビニでチョコを買って﹄⋮⋮ネッ
トサーフィンしてたら書いてあったネタ。
﹃ある男にとってはとっても豪華なチョコレートケーキを手作りし
て、自分で食べる日﹄⋮⋮ラブヒナのネタ。
︳︶
﹃チョコボール20粒﹄⋮⋮どこかの漫画の読んだネタなんですが、
なんだったかな⋮⋮知っている人いたら教えてくださいm︵︳
m
それでは今後ともよろしくです。
3034
351話:バレンタイン、そのに
﹁はふぅ⋮⋮﹂
ああ、ようやく声が出せるようになった。
⋮⋮ポンポコさん、どんなキッツいメニューを組むんだよ。やるほ
うの気持ちにもなってくれよ。
﹁ヤス兄、お疲れー﹂
ありがとっす、サツキ⋮⋮あれ?
﹁なんでもう着替えてんの?﹂
﹁ヤス兄、練習終わるの遅かったんだもん。練習終わってからもず
っと倒れてて動かないし﹂
しょうがないやん、しんどいんやもん。
﹁もうアオちゃん先輩とゴーヤ先輩は用事があるからって先帰っち
ゃったよ﹂
⋮⋮なにい? 薄情なやつらめ。ちょっとくらい待ってくれてても
いいのに。
﹁ん? 他の人は待っててくれてんの?﹂
﹁うん、これからみんなでお昼ご飯食べにファミレス行く予定だか
3035
ら。ヤス兄も行くでしょ?﹂
﹁ん。もちろん﹂
んじゃダウンして、行きますかー。
今から昼飯一緒に行くのはキビ先輩、ユッチ、ポンポコさん、サツ
キの4人⋮⋮バレンタインに何にも予定のない寂しいカルテット軍
団。
﹁ヤス兄、今何かすっごく失礼なこと考えたでしょ?﹂
﹁考えてない考えてない!﹂
⋮⋮まったく、サツキはすぐに俺の顔見て考えてることを読もうと
するんだから。おちおち変なこと考えられない。
﹁んでさ、どこ行くの?﹂
﹁今﹃ジョナる﹄派が2人、﹃デニる﹄派が2人なんだよ。ヤスは
どっちがいい?﹂
﹁⋮⋮キビ先輩、﹃じょなる﹄ってなんすか?﹂
3036
﹁え!? ヤスってば聞いたことないの!?﹂
⋮⋮そんなに有名な言葉なのか? 初めて聞いたぞ。
﹁えっへっへえ、ヤスってば知らないのお?﹂
⋮⋮くそ、ユッチに馬鹿にされるのは悔しすぎる。これは絶対に分
からないとダメだ。
﹁待ってくださいキビ先輩、きっと聞いた事がありますから⋮⋮え
えとええと⋮⋮﹃ジョンソンになる﹄を略して﹃ジョなる﹄﹂
﹁ヤス、ジョンソンとは誰だ?﹂
⋮⋮くそ、違ったか。
﹁ええと⋮⋮﹃ジョ、ジョ、ジョジョジ、ジョジョジの庭は﹄かな
?﹂
﹁ヤス兄、それを言うならしょじょ寺だよ?﹂
くそ、これも違ったか。
﹁あ、分かったぞ! ﹃ジョジョる﹄の変化形だろ。﹃ジョジョる﹄
ってのは﹃ジョジョの奇妙な冒険やろうぜ﹄だぞ﹂
﹁ヤスう、無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無
駄無駄あ! 大外れえ!﹂
3037
ユッチのやつ⋮⋮ノッてくれたのは嬉しいんだけど、なんかすごく
ムカつくわあ。
﹁ヤス、時間切れー。﹃ジョナる﹄ってのは﹃ジョナサンへ行く﹄
の略で、﹃デニる﹄は﹃デニーズへ行く﹄だよ﹂
キビ先輩⋮⋮じゃあそう言えばいいのに。訳の分からない略しかた
はやめてくれよ。
﹁ヤス兄、どっち?﹂
﹁んじゃ﹃デニる﹄で﹂
ふぅ、食べた食べた、思いっきり食べた。
デニッた後の帰り道、サツキと俺とユッチの3人で歩いてる。ユッ
チは今日も家に泊まるらしい。ほんとに親御さん、心配してないの
かね。
﹁ヤス、今日はバレンタインだよね? チョコもらえたあ?﹂
﹁⋮⋮1日中一緒にいたユッチがそれを言うか? もらえた瞬間を
ユッチは見たか?﹂
さっきのデニーズの中でもしかしてサツキかキビ先輩かユッチから
もらえたりしないかなーと期待したけど、誰もくれなかった。寂し
くなってついチョコレートパフェを頼んでしまったぞ。
﹁そうですよユッチ先輩、ヤス兄は誰からももらえてないですよ。
3038
しっかり見てたじゃないですか﹂
⋮⋮サツキ、わざわざ繰り返して言うなよ。自分で自虐するのはな
ぜだか平気なのに、サツキに言われたら、なんだかすごく寂しくな
ったぞ。
﹁それじゃあヤス、ボクがチョコあげようかあ?﹂
﹁⋮⋮なに、ユッチくれんの?﹂
ちょっとだけニヤッてしてしまった。もう今年はもらえないんだな
あと思ってたから。
﹁聞いてるのはボクなんだから! ボクの質問に答えてよお!﹂
⋮⋮なんだ? 何でそんなに必死?
﹁くれるなら欲しい⋮⋮かな?﹂
﹁何だよその言い方あ! ヤスってばほんとにほしい? すごくほ
しい?﹂
﹁⋮⋮や、そこまですごくほしいかと言われると⋮⋮﹂
念押しされてしまうと、何故だか﹃いらない﹄ってついつい言いた
くなってしまう。
﹁欲しいなら欲しいって言ってよお、そしたらあげるから﹂
﹁⋮⋮んじゃ、欲しいです﹂
3039
やっぱりもらえるものは嬉しい、そう思って欲しいと返事した俺。
するとユッチがバッグからごそごそとチョコが入った箱を取り出し
て俺に差し出した。
﹁はい、ヤス。ボクのバレンタインチョコだあ﹂
嬉しそうに笑って差し出してくれるユッチを見てたらなんかすごく
かわいく見えた。
⋮⋮ほんとにいつもより3割り増しくらいでかわいく見える⋮⋮な
んだか自分の目、おかしくなったかな?
﹁ありがとユッ﹁はい、あげたあ!﹂
俺が手を出してチョコを受け取ろうとした瞬間、チョコを持った手
を上げるユッチ⋮⋮ムカつく。
﹁あははあ! ひっかかったあ!﹂
⋮⋮ああ、なるほど⋮⋮﹃かわいさあまってにくさ100倍﹄とは
このことを言うんだな。
﹁ヤス、ばかだあ、あっははあ!﹂
⋮⋮⋮⋮とりあえずユッチを後で殴っとこう。いや、今殴っとこう
⋮⋮ゴチンッ。
脳天から拳骨をくらい、うずくまるユッチ。
﹁⋮⋮いったあ! 何するんだよお! ヤスう、暴力反対!﹂
3040
﹁なんかすごくムカついたから﹂
﹁そんな適当な理由があるかあ!﹂
いいじゃん、殴る理由なんてそこに頭があったから。それだけだ。
﹁何でヤス、怒るんだよお? ﹃はい、あげた!﹄って言って手を
あげる遊びやるだろお!?﹂
﹁高校生になってやってるやつは始めて見た﹂
﹁ふんだ! ちょっとしたお茶目じゃんかあ! 何が悪いんだよお
!﹂
﹁何もかもが悪い﹂
﹁ううう⋮⋮ばかばかばかあ! ほんとはほんとにこのチョコ、ヤ
スにあげるつもりだったんだけど、もうヤスには絶対にあげないん
だからあ!﹂
﹁ああ、いいよいいよいらないよ﹂
﹁ふうんだ、後で後悔しろよお! サツキちゃんと2人でヤスの前
ですっごくおいしく食べるんだからあ!﹂
⋮⋮いやな仕返しだな。勘弁しろよ。
3041
家に帰ってきて、もう夜⋮⋮ああ、1日が終わる。なんだか踏んだ
り蹴ったりな1日が⋮⋮もうちょっといい1日を期待してたのにな
あ⋮⋮。
﹁ヤス兄、結局チョコもらえたのー?﹂
うるさいサツキ、もらえなかったよ。目の前でずっと見てて知って
るくせに。というか俺の目の前でユッチとチョコをパクパク食べて
おいて何言ってやがる。
﹁しょうがないなあ⋮⋮ヤス兄、はい﹂
﹁んあ?﹂
1個の小さな包みを渡してくれたサツキ。中にはユッチと作ってた
チョコチップクッキーじゃなくて、チョコのトリュフが入ってる⋮
⋮。
﹁私から、ヤス兄へのバレンタインチョコだよ。ヤス兄のだけ特別
だからね﹂
﹁⋮⋮まじ?﹂
サツキから今年はもらえないかと思ってたので、すごく嬉しい⋮⋮
ああ、今日のいやなこととかしんどかったことが全部吹き飛んだよ。
﹁うん、まじまじ。ホワイトデーは3倍返しを期待してるからねー﹂
ラジャ! 楽しみにしとけよ、サツキ。
3042
351話:バレンタイン、そのに︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
﹃はいあげた!﹄、私はやられるほうだったなあ⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
3043
352話:ビターチョコ
今日は2月16日月曜日。
今日もいい天気だ、1日頑張っていこう、オー!
﹁⋮⋮⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
なんだよアオちゃん、せっかく自分が盛り上がってる時に、そんな
盛大なため息ついたりして⋮⋮これ、話しかけたら絶対面倒な話を
聞かされたりするんだろうなあ⋮⋮話しかけたくないんだけど、話
を聞いてくれってオーラがびんびんに出ているんだけど⋮⋮どうし
よ⋮⋮うん、無視しよう。
﹁⋮⋮⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
⋮⋮いやいや、やめてくれよ。隣でため息つかないでよ。困りごと
とか面倒ごとは俺の見えないところでやってくれよ。
﹁⋮⋮⋮⋮はぁ⋮⋮﹂
﹁ええと、どうしたのさアオちゃん﹂
負けた⋮⋮アオちゃんのため息に負けた⋮⋮くそお、無視するって
決めたのに、つい声をかけちゃったよ。
﹁ヤス君、聞いてくれますか?﹂
聞くも何も、話しかけてくれって雰囲気をずっとかもし出してたじ
3044
ゃんか。
﹁先日彼と別れたんですよ﹂
﹁おお、それはそれは、なんて面白そうなネタ﹂
﹁⋮⋮今何か言いましたか?﹂
いやいや、何も。恋愛話で一番面白いのは痴話げんか。それを対岸
の火事で聞くこと。芸能ニュースだってそうやん。誰と誰が離婚し
たって話のほうが誰と誰が結婚したってネタより大々的に放送され
るだろ?
﹁それでそれで、いつどこでどんな顛末だったん?﹂
﹁⋮⋮なんだかとてもノリ気ですね﹂
そりゃ、面白そうだもん。
﹁⋮⋮まあ、いいですよ。聞いてくれれば。私の元彼ってすごく嫉
妬深かったんですよ。私のケータイって元彼以外の男ですと、ケン
君のだけ登録されてるんですけど、それ認めてもらうのにもすごく
苦労したんですよ﹂
﹁はあ、そりゃすごいっすね﹂
ちょっとくらい嫉妬されるっていうのは愛されてるなあって思えて
うれしいらしいけど、嫉妬深さもそこまで来るとうざいだけ。
⋮⋮あれ? そういや、俺もアオちゃんにはケータイのアドレス教
えたはずだから、俺のアドレスも知ってるはずなんだけど⋮⋮。
3045
﹁ケータイに登録してるってだけでも、怒るんですからヤス君と交
換日記してるって言う話でも、すごく怒りそうだったんですよね。
だからいろいろ面倒になったのでヤス君のことはやすこちゃんって
事にしちゃってました﹂
いやいや!? ダメだろ! やすこちゃんって何さ!?
﹁で⋮⋮一昨日のバレンタインなんですけど⋮⋮⋮⋮あのですね⋮
⋮⋮⋮﹂
ありゃ、かなり言いづらい内容なのか⋮⋮なんだろ?
﹁あいや、分かったアオちゃん、みなまで言うな。言いづらいなら
ば俺が当ててやろうではないか⋮⋮ええと、﹃ありがと、アオちゃ
んからもらったこのチョコとっても甘いよ⋮⋮でも、これからもっ
とあまーい時間を過ごさないかい?﹄みたいなキザなセリフをはか
れてうざかった、だろ?﹂
﹁ヤス君がうざいですね﹂
⋮⋮一刀両断しないでくれ。
﹁ええとだな、じゃああれだ。﹃ちょっと大人の味のチョコにして
みたんですよ﹄ってアオちゃんが言ったら﹃ああ、ありがと⋮⋮じ
ゃあ、お返しにもっと大人の時間を過ごさせてあげる﹄って言われ
て、結局苦い思い出に終わったみたいな﹂
﹁ヤス君、大人の時間ってどんな時間ですか?﹂
3046
﹁あ、ええと、あ、うん⋮⋮ほら、ビルの屋上のレストランで夜景
をみるとか⋮⋮公園のベンチではとにえさをやるとか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ヤス君、子供ですね﹂
⋮⋮うわあ、すごく馬鹿にされた気分だ。
﹁じゃあじゃあ、大人なアオちゃんたちはこういう会話だろ!? ﹃私、あなたが喜ぶ顔がすっごく好きなんです﹄ってアオちゃんが
言う。そしたら元彼が﹃じゃあ、今からホテル行こうぜ、それが一
番喜ぶんだ!﹄って言って喧嘩別れした﹂
﹁ヤス君、セクハラです。死んでください﹂
⋮⋮うう⋮⋮大人になれって言うから大人になったつもりな発言を
したのに。
﹁別に、やすこちゃんが実は男だったってばれて、大喧嘩しただけ
ですよ﹂
⋮⋮なんか、そんな言い方されると別れた原因が、もんのすごく自
分な気がしてならないんですが。
﹁やすこちゃんの家にもお泊り行ったって話も何度かしてましたか
らねー﹂
⋮⋮俺か? 俺が悪いのか? 何もしてないのに。
﹁まあいいですよ。何度も待ち合わせには遅刻しますし、メール送
っても全然返って来ませんし⋮⋮私のほうもちょっと疲れちゃいま
3047
したし﹂
はあ⋮⋮そんなもんですか⋮⋮。
﹁チョコあげる前にやすこちゃんのことがばれたので、おかげでバ
レンタインチョコあげそこねちゃったんですよね。捨てるのももっ
たいないですし、もしよければヤス君、いかがですか?﹂
﹁⋮⋮はあ﹂
ええと、こういうのはなんていうんだろ? 義理チョコ? 本命は
ずれ?
﹁結構自信作ですから、食べちゃってください。それですっぱり全
部忘れますから﹂
はあ⋮⋮喜んでいいのかどう反応すればいいのか良く分からないけ
れど⋮⋮。
﹁ありがと、アオちゃん。いただきます﹂
そう返事して、アオちゃんから箱をもらい、ひとつ口に含む。
⋮⋮アオちゃんが作ったチョコは、なんだかひとつの恋の終わりを
連想させる、ちょっぴり苦いビターチョコだった。
3048
353話:言葉遊び
2月18日水曜日、そろそろ学年末テストも近づいてきた⋮⋮。け
れど、ユッチの勉強は全くはかどっていない。
⋮⋮ユッチの勉強のやりたがらなさはマジすごいな、このままじゃ
留年してしまうんじゃないかってすごく思う。
﹁というわけで、今日はポンポコさんが教師になって、ユッチに国
語を教えてくれます!﹂
﹁⋮⋮ヤス、教師と言うのはやめてくれ。なんだかむずがゆい﹂
﹁それじゃあポンポコ先生かなあ﹂
﹁⋮⋮ユッチ、先生もやめてくれ。私のことはいつもどおり呼んで
ほしい﹂
まったく、ポンポコさんってば照れ屋さんだなあ。
今日は俺の家にポンポコさん、ユッチ、俺の3人が集まって勉強会
を開いてる。せっかくポンポコさんもいるからということで、今日
の科目は国語。
﹁さて、ユッチとヤス、国語を勉強する時に勉強すべきなものはな
んなのだろう?﹂
﹁⋮⋮国語って勉強する必要あんのか?﹂
﹁そうだよお。勉強しなくたって点数取れるじゃんかあ﹂
3049
﹁成績1のユッチがそれを言うな﹂
﹁う、うるさあい! ボクはテスト用紙に名前を書き忘れただけだ
もん!﹂
⋮⋮嘘っぽい。高校生にもなってそんなミスをするやつはなかなか
いねえよ。
﹁ヤスもユッチも間違いだ。確かに国語なんてものは何を勉強すれ
ばいいのか意味が分からない﹂
﹁だろだろ? 最近教科書に載ってたのでさ、森鴎外の﹃舞姫﹄っ
ての読んだんだけど、何が面白いのかさっぱり分からなかったんだ
よ。男が女を身ごもらせておきながらも、女を置いて逃げようとし
て、そのショックで女は死んだ⋮⋮これのどこが面白いんだ? 教
科書に載る意味が分からない﹂
⋮⋮自分で言っといてなんだけど、歯に衣を着せない言い方をする
と、舞姫ってものすごく黒いな。ありえないぐらい黒いな。
﹁⋮⋮それは置いておいて、登場人物の感情なぞ、書いている人で
もその内分からなくなる。では、一体何を勉強すればいいのか⋮⋮
それは、漢字や文法などの基本的なところだ﹂
﹁はああ? そんなのなのお? もっとすごいことを教えてくれる
んじゃないのお?﹂
﹁ユッチ、テストと言うものは﹃誰もが解けるだろう﹄と思われる
サービス問題、﹃半分くらいの人が解けるだろう﹄という中級レベ
3050
ルの問題、﹃誰も解けないのではないか﹄という上級レベルの問題
の3段階で出るものだ。それでだ、﹃誰もが解けるだろう﹄という
サービス問題だけでも取れるようになれば、赤点にはならずにすむ
ことが多いのだ﹂
へえ、そうなのか。
﹁他の科目も同様だ。時間もないし、簡単な問題をひたすら反復す
ることで、取れるところから点をとる。これを目標に頑張ろう﹂
﹁イエッサあ! ポンポコお!﹂
⋮⋮ほんと、最初の10分くらいはユッチってやる気満々なんだよ
な。10分経つと必ず眠りだすか遊びだして、それ以降勉強したが
らない⋮⋮集中力が10分しか持たないってどうなんだろう。
﹁よしユッチ、それじゃ俺が適当にお題を出すぞ。副詞の勉強、﹃
にわかに﹄を使って文を作りなさい! 例えば、﹃あのアオちゃん
が彼氏と別れたなんて、にわかには信じがたい﹄とかか⋮⋮用法あ
ってるよな﹂
ちょっと心配、教える立場なのに間違えてちゃ恥ずかしいし。
﹁ええとお⋮⋮思いついたあ!﹃はにわかにわとりか、それが問題
だ﹄⋮⋮どおどお?﹂
﹁⋮⋮ええと、ユッチ、もうどこからつっこめばいいのか﹂
それを言うなら﹃生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ﹄もしく
は﹃卵が先か鶏が先か﹄のどっちかだと思う。つーかはにわはどこ
3051
から来た?
﹁ええ!? なんでだあ! ちゃんと﹃にわかに﹄って使ったよお
?﹂
⋮⋮ま、まあそうなんだけどな。
﹁んじゃ次のお題、﹃つらつら﹄を使って分を作りなさい! 例え
ば⋮⋮﹃日々の出来事をつらつらと日記に書き記していく﹄とかか
な﹂
﹁ふむふむ⋮⋮﹃オロナミンC飲んで、元気はつらつらあ!﹄、ど
お?﹂
﹁ユッチ、それを言うなら﹃元気はつらつ!﹄じゃね?﹂
﹁元気はつらつらあ! って言った方がもっと元気そうでしょお?﹂
すげえこじつけ⋮⋮いいのかそれで。
﹁もういい、次のお題! ﹃したたか﹄を使って文を作りなさい!
例文としては⋮⋮﹃タンスの角にすねをしたたかに打ち付けた﹄
とか﹂
﹁ふむふむ⋮⋮﹃あした隆夫さんと走りにくぞお!﹄﹂
﹁ユッチ、隆夫さんって誰やねん﹂
﹁ボクのいとこ。もう30過ぎのおじちゃん。ボクのいとこってね
え、上は40から下は1歳までいるんだよお?﹂
3052
⋮⋮ええと、ユッチに対してものすごく言いたい。
﹁だからどうしたあ!﹂
﹁すごいだろお!﹂
﹁知らんわあ! どうでもいいわあ!﹂
⋮⋮⋮⋮だ、だめだ⋮⋮ユッチとじゃ勉強にならねえ。どうしても
いつの間にやら言い争いになってしまってる。
﹁ヤス、お前はとりあえず退場しろ。ヤスがいたらユッチが勉強で
きないではないか﹂
﹁ええ? 俺そんなに邪魔してないよ? むしろユッチがはしゃい
でるだけじゃん﹂
﹁ヤスがノるからユッチがはしゃぐのだ。お邪魔虫は退場していて
くれ﹂
⋮⋮お邪魔虫か⋮⋮まさか、俺が邪魔になっていようとは。ポンポ
コさん、相変わらず言葉キツイっすよ。
﹁やあい、おっじゃまっむしい﹂
﹁ユッチもバカなこといってないで勉強するぞ﹂
﹁は、はあい!﹂
3053
ざまあみろ。ポンポコさんはドSだからな、俺がいて欲しいって後
から思っても後の祭りだからな。
⋮⋮ま、暇になってしまったし、俺は部屋で漫画でも読んでるかな。
3054
353話:言葉遊び︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
言葉遊び、どこが出展か知りませんが
﹃みるみるうちに﹄を使って文を作ってください。
というお題があり、
﹃ヤクルトおばさん、ミルミル家に持ってくる﹄
という回答を最近読みました。
このうまさには勝てません⋮⋮。
それでは今後ともよろしくです。
3055
354話:オレオレ
今日は2月20日金曜日。
ユッチもケンもおらず、サツキもちょうどコンビニに買い物に行っ
てて居間でひとりテレビをのんびりと見てる。
TRRRRRR⋮⋮TRRRRRRR⋮⋮。
あ、電話だ、俺の携帯からか。非通知になってる、誰だろ?
﹁もしもし、近藤ですけど﹂
﹁あ、もしもし、オレオレ!﹂
⋮⋮誰だよ。
﹁俺だってば俺!﹂
⋮⋮ケンの声じゃないし⋮⋮クラスメイトかな?
﹁ええと、何様ですか?﹂
﹁⋮⋮はぁ?﹂
しまった! どちら様ですかと聞くつもりだったのに。
﹁すみません、どちら様ですか?﹂
3056
﹁俺様だよ!﹂
⋮⋮うん、別に何様ですか? って聞いててもよかった気がする。
なんかうまい返しは⋮⋮。
﹁ああ、剛田様ですか﹂
﹁オーレはジャイアーン、ガキダイショー⋮⋮って違うだろ!?﹂
⋮⋮なかなかノリのいいオレオレ詐欺師様だな。
﹁ああ、ジェイリーガーですか?﹂
﹁オーレーオレオレオレーウィアザチャーンポン! ってだから違
う!﹂
⋮⋮チャンピオンじゃなくてちゃんぽんになっちゃった。頑張れジ
ェイリーガー。
﹁ああ、スペインの闘牛士様ですか?﹂
﹁ランララランララ ランララランラン ランララランララ ラン
ララランラン ランララランララ ランララランランラン オレ!
って俺はトレロカモミロかよ!?﹂
この歌を知ってるとは。なかなかやるな、オレオレ詐欺師。
﹁そうじゃなくてだな! こんなことをしてる場合じゃないんだよ
!﹂
3057
﹁ほおほお﹂
こんなことにノッてくれたのはオレオレ詐欺師さんだけどな。
﹁今な、お前の子供がコンビニで万引きをしてつかまったんだ!﹂
﹁俺、独身だけど﹂
﹃俺、16だけど﹄って言うと﹃なんだよ、金持ってなさそうだな﹄
って会話が終わってしまいそうな気がしたので独身って言ってみた。
さあ、オレオレ詐欺師さん、どう返答してくるか。
﹁今な、お前の兄弟がコンビニで万引きをしてつかまったんだ!﹂
﹁はあ、サツキがコンビニで万引きしたのか﹂
⋮⋮ありえねー。
﹁そうなんだよ! お前の弟のサツキが﹂
﹁妹だけど﹂
﹁⋮⋮っ、妹のサツキがコンビニで万引きして捕まったんだ!﹂
何でお前が知ってんだとかツッコミを入れたいけど、このオレオレ
詐欺師さんの話がどのように迷走していくかも聞いてみたい。
﹁その後、店長が現れてだな、﹃いいことさせてくれたら見逃して
やんよ﹄って言い始めて、お前の妹に手を出そうとしたんだ。それ
を危険に思った妹さんはとっさに万引きしたハサミを取り出してグ
3058
サッと店長のわき腹に刺しちゃったんだよ!﹂
⋮⋮ハサミってそんなに簡単に刺さるもんなんだろうか? つーか
ハサミを万引きする万引き犯ってなかなかいなさそー。
﹁ただいまー⋮⋮ヤス兄、誰から電話? にやにや笑ってどうした
の?﹂
﹁ああ、お帰りサツキ。今な、お前がコンビニで万引きして捕まっ
て、店長に暴行されそうになったところをハサミでグサッと刺した
って連絡があったんだよ﹂
﹁⋮⋮? ヤス兄、頭大丈夫?﹂
俺は大丈夫だ。慌てているのは今の会話を全て聞かせたオレオレ詐
欺師さんだ。向こうの慌てている声が聞こえてくるのが面白い。
﹁ち、違うんだ間違えた、万引きをしてつかまったのはお前のもう
ひとりの妹のメイちゃんだ!﹂
﹁俺兄弟はサツキひとりだけど﹂
﹁⋮⋮﹂
⋮⋮おい、沈黙するなよ。オレオレ詐欺は勢いが基本だぞ、きっと。
﹁ち、違うんだ間違えた、万引きをしてつかまったのはお前の腹違
いの弟のイツキ君だ!﹂
﹁すごいな、店長って男に手を出そうとしたのか﹂
3059
﹁⋮⋮っ﹂
あ、言葉に詰まった。
﹁あ、ええとだな⋮⋮違うんだ間違えた、万引きをしてつかまった
のはお前の種違いの妹の葉月ちゃんだ!﹂
﹁うん、まあ、母さんが種違いとかありえないんだけど⋮⋮ええか
げん、失礼なやっちゃな。きるぞ﹂
﹁すまん、待ってくれ! 違うんだよ、万引きをしてつかまったの
はお前の種違いで腹違いの妹なんだ!﹂
﹁それって赤の他人だよねー﹂
⋮⋮サツキ、顔近い。俺のケータイにサツキの耳を当てないで。ド
キドキするからちょっと離れて。
﹁赤の他人なんかじゃないだろ!? 人類は皆兄弟なんだ!﹂
なんだか宗教じみてるぞ。俺にどないせいっちゅうんだよ。
﹁だから助けると思って俺の口座に10万円振り込んでくれよ!﹂
﹁⋮⋮ああ、わかったよ﹂
なんだか面倒くさくなってきたので適当に返事をした。これで電話
きってくれたらいいんだけど。
3060
﹁ありがと、それじゃな!﹂
ガチャ、ツー、ツー、ツー⋮⋮あの、口座番号言ってくれないとど
う頑張っても振込めないんだけど、オレオレ詐欺師さん。
﹁ヤス兄、面白い人だったねー﹂
﹁オレオレ詐欺師さんな。ほんと笑いを抑えるのがきつかった。た
まにはああいう人から電話かかってくるのも面白いな﹂
﹁そだね⋮⋮あ、電話だー。私とって来るね﹂
俺とサツキが適当に談話してる時に、家の電話がなったのでサツキ
がとりに行った。
サツキ、電話長いなー⋮⋮﹃え!?﹄とか﹃ほんとに!?﹄って3
0分くらいキャーキャー騒いでるけど、いったい誰からの電話なん
だろうな⋮⋮あ、終わったみたい。
﹁ヤス兄ヤス兄!﹂
﹁んあ? そんな血相かえてどうしたー?﹂
﹁お母さん、妊娠したんだって!﹂
﹁⋮⋮はあ?﹂
なんか聞きなれない単語がサツキの口から飛び出た気がする⋮⋮。
3061
﹁私たちに妹か弟が出来るんだって! 出産予定日は10月1日ら
しいよ!﹂
﹁⋮⋮マジで!?﹂
ちょっと前にそんな話してたけど、マジでそんな話になろうとは⋮
⋮いや、びっくりだ。
﹁はあ⋮⋮オレオレ詐欺師さん、予言者みたいだねー﹂
そだな⋮⋮これがほんとの﹃嘘から出た真﹄というやつだな。
うん、新しい兄弟か。妹かな、弟かな⋮⋮楽しみだ。
3062
354話:オレオレ︵後書き︶
こんばんは、ルーバランです。
3人目の兄弟を作るつもりはなかったのに、いつのまにやらこんな
展開になってました︵汗
それでは今後ともよろしくです。
3063
355話:やれば出来る子
今日は2月21日土曜日⋮⋮母さんのドッキリ発言があった翌日。
自分が産む訳でもないのに何だかドキドキしてしまって中々寝付け
なかった。おかげで今日はすごく眠い。
﹁ふわあ⋮⋮ポンポコさん、おはよー⋮⋮﹂
﹁おはよう、ヤス⋮⋮1週間に1回はヤスはそんな風になっている
な﹂
なんでだろう? ときどき今日みたいに眠れなくなる日があるから
かな。
﹁弟か妹が出来るって聞いたら興奮してしまって⋮⋮なかなか寝付
けなかった﹂
﹁ほお⋮⋮今になって新しく兄弟が出来るのか﹂
そうなんすよ。びっくりっす。
﹁ポンポコさんは今出来るなら、妹と弟、どっちが欲しい?﹂
﹁私は母がもう49だからほぼないと思うが⋮⋮出来るなら妹だな。
男兄弟はいらん﹂
⋮⋮まあ、5人も男兄弟がいたらそうなるか。
3064
﹁ヤスはどっちが欲しいのだ?﹂
悩むんすよー。弟も妹もめっちゃ欲しいし。
﹁ヤスはどちらにせよ、とても兄バカになりそうだな。今でも兄バ
カなのだから﹂
﹁そりゃそうだ! サツキほどかわいい妹がいたら誰だって兄バカ
になるだろう?﹂
﹁⋮⋮シスコンは死ねばいい。今日のメニューは400×25で行
くか﹂
ちょいちょいちょい! 待って待って! なんか本数間違ってるっ
て!
﹁冗談だ、さすがにそこまで練習して壊れたら元も子もないからな﹂
⋮⋮ふう⋮⋮やめてくれよ。びびるなあ。
﹁そういや、この前ポンポコさん、ユッチに勉強教えてたっしょ?
はかどったん?﹂
﹁ああ、そこそこにはできたぞ。ユッチはやれば出来る子だ﹂
そうなのだろうか? 俺と一緒に勉強してた時、やれば出来るやつ
になったためしがないんだけど。アオちゃんも同じように言ってた
気がする⋮⋮。
﹁ヤスもアオちゃんも教え方が下手なのだ。ヤスは楽しく教えよう
3065
として脱線しすぎている。アオちゃんはきつく教えようとしすぎて、
勉強嫌いにさせている。どちらも両極端すぎる﹂
⋮⋮そんなこと言われても。というか﹃元気はつらつらあ!﹄なん
ていうやつにまともに教えろと言われても難しいっすよ。
﹁勉強に必要なのは飴と鞭。ただそれだけだ﹂
⋮⋮すげえ、すげえよポンポコさん。どうしたらそこまでの自信が
もてるんだよ。夏合宿でユッチを勉強嫌いにさせていたポンポコさ
んが何言ってやがると言う気分。
﹁いやでも、ユッチがきちんと勉強しようと思うなんて、とてもじ
ゃないけど考えられないんだよなあ⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ヤス、お前はユッチをなめすぎではないか?﹂
﹁や、ユッチなんてなめてもおいしくないし﹂
﹁まあそれは確かにおいしくないだろうな⋮⋮そうではなくて!﹂
なんか久々にポンポコさん、のってくれたなあ。
﹁ユッチは一所懸命になればすごい力を発揮する子だ。ヤス、その
芽を摘み取ろうとするな﹂
⋮⋮いや、俺は何もしないし。というか、発揮する﹃子﹄って⋮⋮
ユッチ同い年だぞ。ポンポコさんのが見下してないか?
﹁そう言えばユッチは理系に進むと言っていたぞ。ヤスとユッチは
3066
来年同じクラスになるかもな﹂
ふうん⋮⋮来年はユッチが同じクラスになるかもなのかあ⋮⋮退屈
しない1年間になりそうだなあ。
﹁2年と3年はクラス替えがないそうだから、同じクラスになった
ら2年間同じクラスになるのだな﹂
⋮⋮前言訂正、退屈しない2年間になりそうだなあ。
﹁ユッチとヤスがいるクラス⋮⋮と考えるならば、私も理系で出せ
ばよかったな﹂
﹁今からでも頼めば変えられるんとちゃう?﹂
﹁うむ⋮⋮それはそうなのだが、クラスが一緒になるとも限らない。
そもそも史学科を目指す自分が理系にいてはおかしいだろうし﹂
﹁歯学部だったら理系じゃん?﹂
﹁史学というのは歴史学だぞ。何か勘違いしているだろう?﹂
⋮⋮すみません、勘違いしてました。
﹁まあいい、今日のメニューは⋮⋮400×15でやろうか。40
0メートルは80秒、インターバルは200メートルジョグ、75
秒で行こう﹂
⋮⋮。
3067
﹁どうした? ヤス﹂
﹁⋮⋮あのさあ⋮⋮いつも思うんだけど、ポンポコさんのメニュー
って長くない?﹂
インターネットで検索してても、5000メートル走る人で400
×10とか12は見るんだけど、15までやるのはあんま見ない。
それくらいやってんのってフルマラソン走る人くらいじゃないの?
﹁ヤスはすぐに気持ちが折れるからな。途中で自分で自分に言い聞
かせている、﹃これ以上は無理﹄と。試合中、そう思わせないよう
にたくさん走れ。お前もやれば出来る子だからな﹂
⋮⋮ポンポコさんにとっては俺も子ども扱いなのね。同い年なのに。
﹁さあヤス、やるぞ﹂
﹁何を?﹂
﹁⋮⋮ヤス、今日のメニューは400×20に変更だな﹂
⋮⋮ほんの冗談なのに⋮⋮ポンポコさん、ちょっとくらい冗談通じ
てくれよ。
3068
⋮⋮。
﹁ヤス兄ー、生きてるー?﹂
⋮⋮。
﹁死んでたら返事してー﹂
⋮⋮死んでたら⋮⋮返事できない⋮⋮。
﹁ダメだー、まるで屍のようだー﹂
⋮⋮生きてまーす⋮⋮はぃ⋮⋮。動きたくない⋮⋮。
﹁ヤス兄ー、もうポンポコ先輩からかうのやめたらー?﹂
⋮⋮そうですねー⋮⋮いつも思うのに、いつもやる。バカな俺です
⋮⋮。
3069
355話:やれば出来る子︵後書き︶
おはようございます、ルーバランです。
﹃やれば出来る子﹄と言うセリフを聞くと、ポケビの﹃グリーンマ
ン﹄を思い出します。
ウドちゃんが歌ってますが、名曲です。
それでは今後ともよろしくです。
3070
356話:旅館探し
今日は2月22日日曜日⋮⋮適当にネットサーフィン中。
﹁ヤス兄、何見てるのー?﹂
アイスをぺろぺろなめてるサツキが俺に聞いてきた。もうすぐ高校
入試の日だっちゅうのになんかのんびりしてるよな、サツキのやつ。
ちなみに学力検査は3月4日、3月5日が面接、3月12日が合格
者発表⋮⋮きちんと合格できるのか当事者じゃない俺のほうがドキ
ドキしてしまっている。
﹁んー⋮⋮前にポンポコさんとさ、﹃春合宿やるぞー!﹄って約束
しちゃったからさ、よさげな旅館を探してるんよ﹂
﹁ふーん﹂
アイスに夢中で話半分で聞いてるサツキ⋮⋮聞けよ。
﹁この前アンケートとったじゃん﹂
﹁とったっけ?﹂
ええと⋮⋮サツキがいないときにやったっけな。
﹁で、そのアンケート結果をもとに、みんなの要望が全て満たされ
そうなところを探してるんだけど⋮⋮﹂
3071
﹁ふーん⋮⋮アンケートってどんなの?﹂
﹁ん? これこれ﹂
そういって1枚のアンケート用紙を渡す俺。
−−−−
︵^^︶/アンケート\︵^^︶
こんにちは、ヤスでやんす。
今回、3月の春休みに有志で合宿を行うことを予定しています。
そこで快適な合宿にするために、皆さんのご意見を募集したいと思
います。
アンケートにお答えください。よろしくお願いします。
当てはまるところに○をつけていってください。
1.名前
A.︵ ︶↑自分の名前を書いてね♪
B.匿名希望
2.この春合宿に参加しますか?
A.参加する
B.未定
C.参加しない
﹃以降のアンケートは2.の質問にA.またはB.と答えた方のみ
お答えください﹄
3.場所はどこか希望はありますか? 現在は温泉のあるところを
3072
どこか予定しています。特にない場合は未記入でお願いします。
︵ ︶
4.期間の希望はありますでしょうか? 現在は3泊4日、もしく
は4泊5日を予定しています。特にない場合は未記入でお願いしま
す。
︵ ︶泊︵ ︶日
5.参加可能日をお知らせください。
︵ ︶月︵ ︶日
∼
︵ ︶月︵ ︶日
6.海がいいですか? 山がいいですか?
A.海
B.山
C.川
D.滝
E.都会
F.どこでもいい
G.その他︵ ︶
7.その他何かありましたらご自由にご記入ください。
以上、アンケートにご協力いただきありがとうございましたm︵︳
︳︶m
3073
−−−−
﹁なんか他人行儀なのかなれなれしいのか分からない文面だねー﹂
﹁そうか?﹂
そんなに変な部分あったかな?
﹁最初だけ﹃ヤスでやんす﹄ってネタなのか良く分からない挨拶か
いてて、その後はすごい堅苦しい文章なくせして、意味不明なとこ
ろで顔文字使ってたり、音符使ってたり⋮⋮それとなんでここだけ
﹃自分の名前を書いてね♪﹄ってぶりっ子文章になってるの?﹂
﹁ええと⋮⋮親しみが持てるかなと﹂
﹁それと、﹃海がいいですか? 山がいいですか?﹄って聞いとい
て、﹃川﹄と﹃滝﹄と﹃都会﹄が選択肢にあるのは何でなの?﹂
﹁なんとなく⋮⋮面白いかなと﹂
﹁ヤス兄、﹃滝﹄なんて選ばれたらどうするの?﹂
その時はその時で考える。ってか結局選んだ人いなかったんだから
いいじゃん。
﹁名前の部分の﹃匿名希望﹄を作る理由もわかんないし﹂
﹁匿名希望の方が遠慮のない意見を書いてくれるかと思って﹂
﹁部内で匿名希望ってされても、絶対誰が書いたかばれるよねー﹂
3074
⋮⋮ええ、その通りです。サツキの言うとおり、不参加の人以外は
全員きちんと名前書いてくれてました。
というか、何で俺はサツキに文章の添削をされているんだろう? しかももう終わったアンケートなのに。
﹁それでヤス兄、参加者は何人くらいになりそうなの?﹂
﹁んーと、最初の予想通り10人くらい。1年はアオちゃん、ケン、
ユッチ、ポンポコさん、後ヤマピョン。2年がゴーヤ先輩とキビ先
輩、後マー君先輩とボーちゃん先輩﹂
最初の予想にヤマピョンが入ったくらいかな。
﹁サツキ、みんなのアンケート結果見てみる?﹂
﹁うん、見る見る﹂
ええと⋮⋮最初はアオちゃんの。
−−−−
1.名前
○A.︵木野あおい︶↑自分の名前を書いてね♪
B.匿名希望
2.この春合宿に参加しますか?
○A.参加する
B.未定
C.参加しない
3075
﹃以降のアンケートは2.の質問にA.またはB.と答えた方のみ
お答えください﹄
3.場所はどこか希望はありますか? 現在は温泉のあるところを
どこか予定しています。特にない場合は未記入でお願いします。
︵お金の工面が難しいので近場でお願いします︶
4.期間の希望はありますでしょうか? 現在は3泊4日、もしく
は4泊5日を予定しています。特にない場合は未記入でお願いしま
す。
︵3︶泊︵4︶日
5.参加可能日をお知らせください。
︵ ︶月︵ ︶日
∼
︵ ︶月︵ ︶日
いつでもいいです。
6.海がいいですか? 山がいいですか?
A.海
○B.山
C.川
D.滝
E.都会
F.どこでもいい
G.その他︵ ︶
7.その他何かありましたらご自由にご記入ください。
妹のミドリも連れて行きたいです。
−−−−
3076
﹁普通のアンケートだねー。ちょっとくらいどこかにボケを入れて
もいいのに﹂
いや、それが普通だって。集計する俺がめんどいから。こういうの
が一番いいんだって。
⋮⋮ええと、次はユッチか。
−−−−
1.名前
○A.︵ユッチ︶↑自分の名前を書いてね♪
B.匿名希望
2.この春合宿に参加しますか?
○A.参加する
B.未定
C.参加しない
﹃以降のアンケートは2.の質問にA.またはB.と答えた方のみ
お答えください﹄
3.場所はどこか希望はありますか? 現在は温泉のあるところを
どこか予定しています。特にない場合は未記入でお願いします。
︵ほっかいどうかおきなわだあ!︶
4.期間の希望はありますでしょうか? 現在は3泊4日、もしく
は4泊5日を予定しています。特にない場合は未記入でお願いしま
す。
︵15︶泊︵16︶日
5.参加可能日をお知らせください。
3077
︵ ︶月︵ ︶日
∼
︵ ︶月︵ ︶日
春休み全部合宿にしよお?
6.海がいいですか? 山がいいですか?
○A.海
B.山
C.川
D.滝
E.都会
F.どこでもいい
G.その他︵ ︶
7.その他何かありましたらご自由にご記入ください。
たっきゅうじょうがあるところがいいなあ。
おんせんたっきゅうやりたいんだあ。
−−−−
﹁ユッチ先輩、15泊16日ってすごいねー﹂
﹁誰がその金を用意するんだと俺は言いたい。こんなことやるんだ
ったら学校くらいでしか出来ないな﹂
﹁あ、学校合宿でもいいんじゃないの?﹂
﹁他の部活がいなければそれでもいいけどな。野球部とサッカー部
がいると、運動場に練習場所ほとんどないんすよ﹂
まったく、運動場もう少し広くならんかなあ⋮⋮。
3078
ええと、次はケン。
−−−−
1.名前
A.︵ケン︶↑自分の名前を書いてね♪
B.匿名希望
2.この春合宿に参加しますか?
○A.参加する
B.未定
C.参加しない
﹃以降のアンケートは2.の質問にA.またはB.と答えた方のみ
お答えください﹄
3.場所はどこか希望はありますか? 現在は温泉のあるところを
どこか予定しています。特にない場合は未記入でお願いします。
︵ ︶
4.期間の希望はありますでしょうか? 現在は3泊4日、もしく
は4泊5日を予定しています。特にない場合は未記入でお願いしま
す。
︵4︶泊︵5︶日
5.参加可能日をお知ら
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