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6.土地利用・交通分野の対策・施策の実施に伴う課題及び解決
6.土地利用・交通分野の対策・施策の実施に伴う課題及び解決方策 6-1 概要 地球温暖化対策のために土地利用・交通分野においても様々な対策・施策を展開してい く必要があるが、そうした対策・施策の実施にあたっては課題も少なくない。とりわけ地 域づくりは長期的・継続的な取組みを必要とするため、それを持続的に支える制度や財源 が不可欠である。また、多様な関係者が存在する地域づくりの過程においては、関係主体 間の合意形成も大きな課題である。 このような認識から、昨年度の地域づくり WG では、合意形成を促進するために今後取り 組むべき地域づくりの共通課題を「計画策定」「制度」「資金調達」「人づくり」の4点 として整理した。 本業務では、これら4つの観点に基づいて、土地利用・交通分野の取組みに関する課題 や論点をさらに詳細に整理し、そのうえでそれぞれの課題の解決方策について検討を行っ た。 出所:平成 22 年度地域づくり WG 資料 図 6-1 低炭素型地域づくりの共通課題 90 6-2 計画策定上の課題と解決方策 計画策定上の課題と解決方策に関しては、(1)科学的な計画策定、(2)総合的・横 断的な計画策定の2つの観点から下表の通り整理を行った。 科学的な計画策定 横断的な計画策定 表 6-1 計画策定上の課題 課題 解決方策 施策の評価は可能な限り正確に(=定量 計画の科学的根拠を担保する手法の整 的に)なされる必要があるが、既存のCO 備・普及(CO2削減量推計手法としての 2削減量推計モデルでは、施策の実施に 土地利用・交通の統合モデルの開発) よる都市構造への影響や地球温暖化対 策としての効果を十分に適切に評価でき ない。 推計手法が専門的であり、自治体担当者 モデルの操作性向上、マニュアル作成や が容易に扱えない。 研修の実施等による自治体担当者の活 用支援策の具体化。 計 画 策 定 後 の 評 価 に 際 し て 実 施 効 果 低炭素化対策の実施効果のモニタリング (CO2 削減)のモニタリングが重要である 手法の確立。(交通量ベースの計測手法 が、完璧なモニタリングは困難である。次 等) 善策の検討が課題であると考えられる。 インフラ整備・建設時も含めたCO2排出 インフラ整備・建設時も含めたCO2排出 量も無視できないとの指摘があるが、そ の評価手法、体制の確立。 の評価体制は整備されていない。 科学的な計画策定が、社会的合意形成 科学的な計画策定を社会的合意形成の 確立に役立てる場の創出。 の確立に十分に活用されていない。 異なる施策間の連携(土地利用施策と交 施策・政策の総合的な効果を勘案し、そ 通施策の連携、土地利用・交通と他の都 れらの連携を十分に図ることで、施策・政 市政策との連携等)が十分に図られてい 策間の矛盾を解消し、かつ相乗効果を活 ない。 用した全体最適を目指す。 庁内・地域内連携体制の構築が十分に 庁内・地域内連携体制の構築。 図られていない可能性がある。 91 (1)科学的な計画策定 1)CO2 削減量推計モデルの開発と普及 実行計画の策定時には、CO2 排出量の削減目標を盛り込むことが要求されている。適 切な目標設定のために、土地利用・交通分野の施策の排出削減効果をできる限り正確に (定量的に)評価するための手法が必要となる。 将来の自動車由来の CO2 排出量推計のためには、自動車の交通量を予測する必要が ある(CO2 排出量=交通量×排出係数)。しかしながら、既存の推計モデル(伝統的な 交通需要予測手法である四段階推計法等)では、土地利用条件(都市の人口分布等)を 所与のものとするため、交通ネットワーク(道路や公共交通網)や交通条件(交通量や 平均速度等)の変化が土地利用に及ぼす影響や、さらにそれが交通条件に及ぼす影響を 評価することができない。すなわち、既存のモデルでは「土地利用と交通の相互作用」 を扱えず、誘発・開発交通を考慮できないため、施策による都市構造への影響や低炭素 化としての効果の十分に妥当な評価ができない27。 この問題を克服するためには土地利用と交通を一体的に扱うことのできるモデルが 必要となり、本業務ではそのための手法として土地利用・交通モデルの開発を進めてい る。土地利用・交通モデルでは、土地利用モデルによって出力される人口分布が交通モ デルの入力となり、また交通モデルによって出力される交通条件が土地利用モデルの入 力となることで、土地利用と交通の相互作用を表現している。 またこのモデルでは、複数の施策の組合せの評価にも対応することができる。例えば、 公共交通インフラの整備と集客施設の中心市街地への誘導という二つの施策を考えた とき、これらは単体で行うよりも同時にあわせて実施することでより高い効果が得られ ると考えられる。現実的にはこのようにいくつかの施策のパッケージとしてコンパクト シティ政策を推進することになり、したがってそれらの相乗効果(負の相乗効果も含め て)を評価できることは望ましい。 27 環境省(2009)「地球温暖化対策地方公共団体実行計画(区域施策編)策定マニュアル」や国土交通省(2011)「低 炭素都市づくりガイドライン」では、施策の効果評価のための CO2 削減量推計モデルを記載しているが、いずれも ここで言う「土地利用と交通の相互作用」を考慮したものではない。 92 土地利用・交通モデル 総人口・企業数 交通ネットワーク (道路、公共交通) 人口分布 トリップ数 交通量の発生・集中 土地利用条件 (人口分布等) どこにどれだけの交通量 が発生・集中するか? 家計(企業)の 効用(利潤)最大化 目的地選択 どこに住む(立地する)か? どれだけ移動を行うか? どこへ行くか? 地代 交通手段選択 地主の利潤最大化 どの交通手段を使うか? (自動車?鉄道?徒歩?) どれだけ土地を 供給するか? 経路選択 土地利用・ 交通モデル LRT整備による土地利用(人口分布 等)の変化やそれに伴う交通行動の 変化を見ることができる。都市構造が どれだけコンパクトになるかを評価で きる。 交通モデル (伝統的な四 段階推計法) LRT整備による土地利用(人口分布 等)の変化はモデルの中では評価で きない。都市構造がどのようにコンパ クトになるかは外生的に与える。 どの経路を使うか? 交通条件 (交通費用等) 交通モデル (伝統的な 四段階推計法) モデルで出力される交通条件(自動車の交通量や速度) をもとにCO2排出量を算出 出所:土地利用・交通 SWG 資料 図 6-2 土地利用・交通モデルのイメージ(黄枠:入力変数 赤枠:モデル内で更新される変数) 本業務の分析でも示したように土地利用・交通モデルの開発は進みつつあるが、一方 で地方自治体の計画策定担当者の間には、現状の推計手法でさえ「専門的で分からない」 との声も少なからずある。計画策定のための科学的手法そのものの開発・整備とあわせ て、自治体の担当者が簡便に扱えるような操作性の向上を図り、マニュアル作成や研修 実施などを通じた活用支援も進めていくことが必要であると考えられる。 出所:環境省(2011)「地方公共団体における地球温暖化対策の推進に関する法律施行状況調査結果」 図 6-3 温室効果ガス排出量の算定・推計で困難だったこと また、より根本的な課題として、わが国ではこのような科学的手法による対策・施策 の定量的な評価を規定する法律が整備されておらず、高々、個別に任意で評価が行われ 93 ているに過ぎないという実情がある。この課題については、「制度上の課題と解決方策」 で詳しく検討する。 2)モニタリング手法の検討 ある地域の自動車からの CO2 排出量の厳密な測定は、現実的には不可能である。し かし一方で、計画の実施後には、その効果(CO2 削減量)のモニタリングを通じて、適 宜計画の評価や見直しを図ることが重要であることも事実である。現状、このような CO2 排出のモニタリングは行われていないが、近似的に CO2 排出量を把握するための 手法およびその具体的な活用の仕組みについて検討が必要ではないかと考えられる。 なお、計測手法に関しては、大きく分けて下表のような方法が提案・検討されている が、いずれも課題があり、今後検討を進めていく必要がある28。 方法 ①燃料消費 量をベース とする方法 ②交通量を ベースとする 方法 ③プローブ による計測 表 6-2 CO2 モニタリング手法の比較 概要 利点 課題 燃 料 消 費 量 × CO2 排出係数が(下記の 燃料消費量の統計29は地方運輸局別にし CO2 排出係数に 交通量ベースに比べて) かないため、より詳細な地域の交通施策 より CO2 排出量を 比較的議論の余地なく得 への活用が困難。 推計 られるため、ある程度厳 また、燃料の消費が具体的にどの地域で 密な計測が可能。 なされたのかの把握ができない(燃料の 販売と消費は、それぞれ地域が異なる可 能性あり)。 交 通 量 ( 台 キ ロ ) 交通量が把握できれば、 CO2 排出係数の設定においては平均的 ×CO2 排出係数 細 か い 地 域 単 位 で も な交通状況(平均旅行速度、車種別構成 により CO2 排出 CO2 排出量の推計が可 等)を考慮しているため、特定の地域にお 量を推計 能。 ける分析においては注意が必要。 また、交通量の把握に関しては、例えば パーソントリップ調査を実施している地域 ではその結果を活用できるが、同調査は 調査間隔が長く(10 年程度)、より短い期 間に定期的に交通量把握のための調査を 行うことが望ましい。 自動車にプローブ 自動車毎の移動距離や 全ての自動車にプローブを設置するに を設置し、移動距 速 度 を 正 確 に 把 握 で き は、技術的な課題(プローブや CO2 計測 システムの開発)および制度的な課題(全 離・速度等を把握 る。 ての自動車にプローブ設置を義務付ける して CO2 排出量 ことの合意形成が容易でない等)が残る。 を計測 3)インフラ整備・建設時の CO2 排出の評価 LRT等の鉄軌道系交通に関しては、そのインフラの整備・建設、さらに運用や維持 管理における CO2 排出量は無視できないほど大きく、ライフサイクル分析の必要性が 指摘されている30。例えば、稲村ら(2002)による東北新幹線のライフサイクル CO2 排 出分析によると(評価対象期間 60 年)、走行時排出量(電力)は全体の 23%であるの 28 小根山(2009)「CO2 排出量推計手法を巡る課題」,土木学会・土木計画学研究委員会「環境・地域・社会資本問 題検討小委員会」第 2 回資料 29 30 他を参照。 自動車輸送統計年報には、地方運輸局別、業態別、車種別の燃料消費量が掲載されている。 加藤ら(2000)「新規鉄軌道整備による CO2 排出量変化のライフサイクル評価手法の開発」,土木計画学研究・論 文集 等 94 に対して、施設の建設及び修繕を合わせると 54%を占める。 走行時の CO2 排出のみならず、インフラ整備・建設時の CO2 排出も含めた評価手法 の検討、評価体制の確立が必要であると考えられる。 出所:稲村ら(2002)「高速道路と新幹線のライフサイクル炭素排出量の比較研究」,運輸政策研究 図 6-4 東北新幹線のライフサイクル CO2 排出分析(評価対象期間 60 年) 4)社会的合意形成への活用 科学的な計画策定は、社会的合意形成の確立の観点からも重要であると考えられ、 CO2 削減効果の推計結果等の具体的な活用も今後の検討課題の一つである。 例えば英国ではいくつかの代替案の社会・経済・環境への影響の試算結果を定量的に 示したうえで地域住民らを交えて議論するワークショップを行う枠組み等がある(下表 のような代替案評価をもとに地域住民らとの協議を実施、詳細は事例参照)。こうした 仕組みも参考にしていくべきであると考えられる。 出所:野澤(2003)「マルチモーダルな交通計画の評価手法に関する研究―英国のアプローチ」,国 土交通政策研究第 18 号 図 6-5 英国ヘイスティングスにおける交通計画評価例 95 (2)総合的・横断的な計画策定 1)土地利用と交通の連携 土地利用計画と交通計画は、相互に連携が図られなければならないが、そうした土地 利用と交通の連携が不十分であるために、低炭素化の観点からは矛盾した施策が同時に 取られるケースもある。 例として、宇都宮市では、市街中心部における通過交通を排除して渋滞を緩和するた め、1970 年代から 1990 年代にかけて郊外に環状道路を整備した。これにより、渋滞が 緩和された中心部では CO2 排出は削減されたと考えられるが、長期的には郊外開発が 進み、自動車依存型の都市構造を生む結果となった。このような結果を防ぐには、道路 整備とあわせて郊外の幹線道路沿いの土地利用規制(宅地開発や大型店舗の出店等)を 行うべきであったと考えられる。 また、米国の大都市のように高度な市街地集積が進んでいても公共交通の整備や郊外 の土地利用コントロールが不十分であるために自動車への依存が大きくなる例もある31。 庁内連携の推進等(後述)によって土地利用と交通の相互連携を図り、このような施策 間の矛盾の回避に努める必要がある。 あるいは、施策間の相乗効果を狙うという意味でも、土地利用と交通の連携は重要で ある。例えば、富山市では公共交通網の整備とともに沿線への居住促進策を実施してい る。このように各施策は単体で実施するよりも複合的に同時に取り組むことでさらなる 効果が期待される。 出所:環境省(2009)「地球温暖化対策地方公共団体実行計画(区域施策編)策定マニュアル」 図 6-6 宇都宮市の環状道路整備と土地利用の変遷 31 谷口(2011)「コンパクトシティへの処方箋―低炭素化と交通の視点から」,運輸と経済 96 2)他の都市政策との連携 エネルギー・緑化等の低炭素まちづくりの他分野との連携も重要である。コンパクト シティ整備により、エネルギーシステムの有効活用や、緑地の効率的な確保が期待され、 一体的に進めていく意義があると考えられる。 また都市政策の目的としては、言うまでもなく低炭素化のみならず、経済発展や地域 の活性化、防災性の向上、教育や福祉の充実といった様々なものが考えられる。したが って、総合計画や都市マスタープランで掲げられる諸目標との整合を保持しつつ、地球 温暖化対策のための様々な取組みを、都市の総合的な政策のなかに十分な実効性を持た せる形で具体的に織り込んでいくことが重要である。 3)庁内・地域内の連携体制 このような施策・政策間の連携を促進するため、実行計画策定マニュアルでは、庁内 の関連部局間との調整や、協議会設置等による地域内推進体制の構築を奨励している。 計画策定時の体制としては、大半の自治体が「庁内の関連部局と連携」する体制をと っており(都道府県で 91%、市区町村で 67%)、計画策定の段階では部局間で協力体 制を組むことが浸透してきていることが伺える。一方で協議会等の活用は半数程度にと どまり(都道府県で 48%、市区町村で 54%)、庁内に加えて地域内の協力体制も強化 していくことが今後の課題と言える。 一方で、実施状況の確認や計画の見直し等のフォローアップの段階になると、庁内の 部局間連携の割合が減っており(都道府県で 91%→53%、市区町村で 67→60%)、部 局内のみで対応する割合が増えている(都道府県で 4%→30%、市区町村で 16%→33%)。 低炭素まちづくりは長期的かつ総合的な取組みを必要とし、そのためには計画策定後も 継続的なフォローアップ体制を組み、適宜計画の見直し・改善を行っていくことが望ま しい。フォローアップの段階でも連携体制を維持することが今後の課題と言える。 97 出所:環境省(2011)「地方公共団体における地球温暖化対策の推進に関する法律施行状況調査結果」 図 6-7 計画策定時の体制(参加した関係者の構成) 出所:同上 図 6-8 計画のフォローアップ時の体制 また、今年度実施した地方自治体所属委員(土地利用・交通 SWG)へのヒアリングか らも、庁内連携体制は浸透しつつあるものの、低炭素化の観点から総合的・横断的な計 画策定が十分に適切に行われているとは言い難い現状が伺える。施策間の連携の在り方、 矛盾を解消するための配慮事項等を具体化していくことが重要と考えらえる。 【自治体所属委員(土地利用・交通 SWG)へのヒアリング】32 「総合的・横断的な計画策定に関する所属自治体での課題について」 <小島委員(名古屋市)> ○実行計画の策定は、庁内横断的な体制でなされてきているが、まちづくり等に係る分野の事業実施には 環境部局が直接関与する部分は少ない。 ○それぞれの計画・事業の個別目的・目標に基づく取組みが中心となり、温暖化やエネルギー関連の視点 からの施策・対策は二の次になりやすい。 <村上委員(富山市)> ○都市部局において、公共交通を軸とした集約型都市構造を目指し都市マスタープランを作成した。一方 で、道路や河川、公園等の社会資本整備の所管は建設部局となっており、コンパクトシティ化に向けた社会 資本の整備・管理のあり方、整備方針が明確にされていない状況である。(来年度より連携調査を開始予 定) 円滑な連携を推進するためには、そのような横断的な計画策定のあり方を定める国の 32 委員個人の見解であり、自治体としての見解を示すものではない。 98 計画制度の検討・整備も必要であると考えられる。欧米ではそのような枠組みを導入し た事例もあり、そこでの課題などもある程度整理されつつある。こうした事例も参考に しつつ、横断的な計画策定を促進するための計画制度について検討を進めていく必要が ある。(国の計画制度体系については、「制度上の課題」も参照) 【参考:ノルウェーの TP10 制度の概要】33 ○TP10 は、ノルウェー国内 10 の主要都市(オスロ、ベルゲン等)を対象に 1989 年から進められた交通計 画プログラム(ガイドライン)であり、環境配慮への高まりに応えるため、土地利用や交通等の各部門の横断 的な計画策定を義務付け、土地利用政策、交通投資、公共交通等の統合を図った。 ○TP10 の主要目的は、①土地利用計画と交通計画の一体化、②環境政策の一環としての公共交通の重 視、③自動車交通削減方針の明確化、④自動車交通を抑制した代替交通シナリオの検討の4つである。 ○ガイドラインでは、土地利用と交通計画の一体的計画を実現するための仕組みとして、異なる政府レベル 間、部局間の協力関係を強く要求している。 <TP10 の結果> ○どの都市でも、土地利用・交通モデル等も用いた分析に基づき、公共交通重視や環境重視のシナリオを 実施することが TP10 の目的に合致するという報告がなされた。 ○しかし、最終的な提言に至っては、トレンド型か、それに準ずる代替案が採用されるケースが多かった。 <反省点> ○部局間の協力体制については、いずれもプロジェクトチーム的な進め方がなされたが、結果として発言力 の強い部局がイニシアチブを取ることになった。具体的には、道路事務所や都市計画局の影響力が大きか ったのに対して、公共交通や環境の担当部局が占める役割は小さかった。 ○モデル分析の結果が、レポートとして整理されたのみで、実際の提言や計画策定には十分に活用されな かった。 ○法的拘束力がなく、ガイドラインの要求も比較的幅を持たせたものであったため、結果として従来型の交 通計画を許容することにつながったと考えられる。 33 谷口ら(1997)「土地利用・交通計画の融合に関する模索と限界:ノルウェーの TP10 に関する批判的検討」,土木 計画学研究・講演集 99 6-3 制度上の課題と解決方策 計画策定上の課題と解決方策に関しては、(1)地域の個別施策実施に伴う制度的阻害 要因、(2)低炭素まちづくりに関する国の計画制度体系の2つ観点から下表の通り整理 を行った。 表 6-3 制度上の課題 課題 解決方策 施策によっては、その実施・普及に際して 関連法の整備・改正に向けた検討や、特 区制度あるいは社会実験などの活用。 既存法制度の制約による障壁がある。 地域の個別施策実 施に伴う制度的阻害 要因 低炭素まちづ くりに 関する国の計画制 度体系 -公共交通整備(路面電車(LRT)、モノ レール)、ロードプライシング、カーシェア リング、トランジットモール、駐車場供給 抑制、パークアンドライド、コミュニティサ イクル、バス路線のクリームスキミング規 制 -容積率緩和、道路空間への建築制限 緩和、市街化区域の再構成、農地転用 規制緩和、用途規制緩和 地方自治体の土地利用・交通計画策定 に関して地球温暖化問題の法的位置付 けが不十分ではないか。 環境影響評価や費用便益分析における 地球温暖化問題に関する規定が不十分 ではないか(任意であり、義務ではな い)。 排出削減目標の実効性にかかる規定が 不十分ではないか。 100 土地利用・交通計画の根拠法(都市計画 法等)において地球温暖化への対応を明 確に位置付け。 計画や事業の立案時における地球温暖 化への影響評価規定の強化。 より実効性を有する(責任の明確化など) 排出削減の仕組みの導入。 (1)地域の個別施策実施に伴う制度的阻害要因 個別の施策・対策については、その実施や普及に際して既存の法制度が障壁となってい る場合がある。そのような制度的な阻害要因を整理した。 これらについては、関連法の整備や改正等に向けた検討を行い、改善を図る必要がある。 法改正が難しい場合には、特区制度や社会実験等の活用により、段階的に制度改革を進め ていく方向性も考えられる。 1)交通分野 交通分野の施策の制度的阻害要因を下表の通り整理した。 表 6-4 関連法 LRT・路面 電車整備 軌道法 モノレール 整備 軌道法 道路法 ロードプラ イシング 道路交通法 大気汚染防 止法 地方自治法 34 交通分野の施策の制度的阻害要因 制度的課題 課題内容 LRT・路面電車は原則、軌道法に基づく「軌道」扱いとなり、同法規定の運行 方法(編成長制限 30m、最高速度制限時速 40km 等)に従う必要がある(軌 道運転規則第 46 条及び 53 条)。そのため、自動車に対して優位性のある 交通手段・サービスの提供に制約がある34。 ※ ただし、道路外の線路敷設も可能であり(新設軌道) 、その区間の運転 方法は鉄道に準ずるものとされる。(富山 LRT では軌道区間と鉄道事 業区間があり、後者においては最高速度時速 60km である) ※ また編成長に関しては、わが国の路面電車では、乗員が運賃収受を行 うことが一般的であり、編成長を大きくするには運賃収受方法の見直し も必要であると考えられる(信用乗車方式の導入35、改札システムの改 善等)。 モノレールは軌道法の適用を受けることが一般的だが、その場合、モノレー ル軌道を道路上に建設しなければならない(軌道法第 2 条)。 ※ わが国のモノレールは、鉄道事業法に基づく「鉄道」と軌道法に基づく 「軌道」の両方が存在するが、1972 年制定の「都市モノレールの整備の 促進に関する法律」に基づき道路整備特別会計からの補助が受けられ るため、それ以降に設置されたモノレールでは軌道法の適用が一般的 である。 「道路無料開放の原則」(道路法第 49 条、道路の管理に関する費用は国等 の道路管理者が負担)が定められており、一般道路走行への課金は困難で あるという指摘がある36。 課金に関する規定がなく、同法を課金の法的根拠とすることはできない37。 同法による取組みでは道路交通法の措置を要請しているが(大気汚染防止 法第 21 条及び 23 条)、上記の通り道路交通法では課金の規定がない。 課金収入が、地方自治法の収入規定(第 224-227 条)による分担金、使用 料、手数料のいずれにも該当しないため、条例による制度化の場合には課 金の根拠に関して法整備が必要となる38。 栗山ら(2003)「日本の環境配慮型交通施策導入プロセスにおける問題点の検討」,第 11 回地球環境シンポジウム 講演集 35 わが国では不正乗車に対する罰金は正規運賃の 2 倍までと規定されており(軌道運輸規定第 8 条)、実効性のある信 用乗車方式の導入に向けての課題も残る。 36 環境省(2010)「ロードプライシング制度の在り方に関する報告書」 37 東京都(2001)「ロードプライシング検討委員会報告書」 38 同上 101 39 40 カーシェア リング 車庫法 トランジット モール 道路交通法 駐車場供 給抑制 駐車場法 パークアン ドライド 駐車場法 コミュニティ サイクル 道路法 路線のクリ ームスキミ ング規制 (バス) 道路運送法 原則としてカーシェアリング事業者は、事業所(=使用の本拠)から 2km 以 内の場所にしか車両ステーション(=保管場所)を設置できない(車庫法施行 令第 1 条) 。また、この規定により「乗り捨て」サービスの供給が事実上不可 となる39。 ※ ただし、警察庁は無人車両ステーションを使用の本拠として認め得ると の見解を発表している40。 トランジットモール(歩行者と公共交通が同時に通行を許可されるような道 路)に関する明確な規定がない。そのため、その安全対策に関して警察関係 者の理解・協力が得られにくい。 ※ 現実的には(社会実験の事例等)、道路を歩行者専用道路とした上で (道路交通法第 8 条第1項)、許可車両(同第 8 条第 2 項)としてバス等 の通行を許可する必要がある。許可車両については、警察署長の許可 が必要となる。また、許可車両に路面電車・LRT を含める解釈は難しい とされる41。 駐車場附置義務(駐車場法第 20 条に基づき地方公共団体が条例で定め る)により、現状はむしろ一定数以上の駐車場確保が義務付けられている。 ※ 欧州では駐車場附置に関して面積当たり台数の上限値を設けて規制し ている地域もある42。 駐車場附置義務によって都心部に一定数の駐車場が確保されていること が、パークアンドライド利用の誘因を削ぐ可能性があると考えられる43。 コミュニティサイクルを民間事業で行う場合、ステーション等設置のため道路 占用許可が必要となる(道路法第 32 条)。その際、「無余地性の基準」(道路 敷地以外に余地がなくやむを得ないこと)が適用されることから、設置が厳し くなる(同法第 33 条)。 バス事業の新規参入時に、運行時間帯のクリームスキミング(採算性の高い 時間帯に多く運行すること)に対する規制はあるが44、路線のクリームスキミ ング(採算性の高い路線で多く運行すること)に対する規制はない。このた め、地域の面的な交通ネットワークの効率化が阻害される恐れがある。 交通エコロジー・モビリティ財団(2006)「カーシェアリングに関する環境負荷低減効果及び普及方策検討報告書」 「自動車の保管場所証明等事務に係る『自動車の使用の本拠の位置』の解釈基準について」(平成 15 年 10 月 15 日 付け警察庁丁規発第 74 号) 41 神田(2009)「わが国のLRTに関する施策の変遷と制度の発展経緯」,国際交通安全学会誌 42 大沢(2011)「海外の駐車場の動向―自動車社会が進展する世界を見据えて」,都市と交通 43 栗山ら(2003)「日本の環境配慮型交通施策導入プロセスにおける問題点の検討」,第 11 回地球環境シンポジウム 講演集 44 「一般乗合旅客自動車運送事業の運行計画の届出等の処理要領」(2001 年 9 月 27 日国自旅第 90 号) 102 2)土地利用分野 土地利用分野の施策の制度的阻害要因を下表の通り整理した。 表 6-5 関連法 容積率緩 和 都市計画法 建築基準法 道路空間 への建築 規制 道路法 建築基準法 区域区分 の適切な 運用に基 づく土地利 用の誘導 都市計画法 等 農地転用 規制緩和 農振法 農地法 用途規制 緩和 都市計画法 建築基準法 混合用途 の適用 都市計画法 建築基準法 土地利用分野の施策の制度的阻害要因 制度的課題 課題内容 建築物の容積率は、用途地域別に都市計画で定める数値以下でなければ ならず(建築基準法第 52 条)、コンパクトシティ整備の観点からは、都心部 の土地利用の高度化を図るうえで制約がある。 ※ 特例容積率適用区域制度(建築基準法第 57 条の2)等の緩和措置は あるが、特例容積率適用区域は全国で1地区(東京都千代田区)しか 指定例がなく、その活用に関して地方公共団体へ技術的助言を行う等 の措置が国土交通省により検討されている45。 ※ 「地区外の環境保全など幅広い環境貢献措置を評価した容積率の緩 和」を都市再生特別地区の運用改善として実施できるよう、2010 年に 都市計画運用指針を改正した。 複数街区をまとめて一定規模の敷地として開発することが求められる場合な どに、既存の一般道路の通行機能を残しつつ、道路上空を活用し、道路空 間と建築物の立体的利用が有効な場合もあると考えられるが、道路空間へ の建築は制限されている(建築基準法 44 条)。 ※ 例外規定(道路法第 32 条、建築基準法 44 条)はあるものの、そのさら なる緩和措置が検討されている46。 区域区分に基づき土地利用を誘導するための将来の制度運用の考え方が 明確に定まっていない。 ※ 都市の集約化に向けた区域区分(都市計画法第 7 条)検討の方向性と して、現に市街化区域となっておりかつ一定の居住があるエリアについ て、「逆線引き」のように負荷をかけて土地利用を誘導するやり方は、居 住の不安定をもたらし、現実的でない場合があるとする意見がある。そ れよりも、市街化区域を安定的な非建築的土地利用(緑地、都市農地 等)を抱き込んだ区域として再定義し、より空間のメリハリを強化する方 向で市街化区域・市街化調整区域それぞれの誘導手法を実施すること が有効ではないかとして、国土交通省にて具体的方策が検討されてい る47。その際、農振法や都市緑地法等との連携に留意して一体的な制 度運用を行うことが重要であると考えられる。 ※ また、従来の人口フレーム方式(国土交通省「都市計画運用指針」)に 代わる市街化区域の設定方法についても検討の必要があると考えられ る。 農地転用規制(農振法第 15 条の 2、農地法第 4 条、第 5 条)について、分 散した市街地の集約を図るうえでは、市街化を図るエリアにおいては農地転 用規制を緩和する措置が必要となる場合があると考えられる。 用途規制の方法は、業態や外形基準によるものが主である(建築基準法第 48 条)。コンパクトシティの観点からは、より多様な業態を容認するなど、用 途規制緩和が求められる場合もあると考えられる。(このような社会情勢の 変化を踏まえた合理的な用途規制のあり方について、国土交通省にて検討 中)48 都市の集約化に向けて、特に都心部においては複合的な用途を可能とする ことが有効であると考えられるが、このためには「混合用途地域」に係る制度 の整備が必要となる49。 45 内閣府(2011)「規制・制度改革に関する分科会第二次報告書」 46 同上 47 2011 年 2 月 17 日社会資本整備審議会・都市計画制度小委員会資料 48 内閣府(2010)規制改革会議資料 49 同上 103 (2)低炭素まちづくりに関する国の計画制度体系 地域の土地利用・交通分野における計画策定のあり方を規定する国全体の計画制度体系 についても検討を行い、課題を整理した。 わが国では、実行計画の策定において土地利用・交通関連の施策が義務的記載事項に盛 り込まれ(2008 年 6 月改正)50、また京都議定書目標達成計画(同年 3 月閣議決定)にお いても地方公共団体の役割として低炭素まちづくりへの取組みが明記されるなど、近年 様々な働きかけが進んでいる。 しかしながら、欧米諸国に比べるとわが国の計画制度体系による地方公共団体の地球温 暖化対策に関する規定は依然として緩やかなものであり、地域で長期的に対策を推進する ための安定的な基盤が不十分であるとの課題が指摘されている51。ここでは、1)土地利 用・交通計画における地球温暖化問題の法的位置付け、2)環境影響評価に関する規定、 3)排出削減の実効性に係る規定の三つの観点から、先進事例として英国及び米国カリフ ォルニア州の計画制度体系との対比をふまえながら、わが国の制度体系の課題について検 討を行った。 英国では、1980 年代サッチャー保守党政権下で道路容量の増大が国策として行われ、90 年代になると環境問題が深刻化した。1997 年に政権交代によりブレア労働党政権が誕生 し、交通政策の改革が行われた。ブレア政権の交通政策の柱とされる「新交通政策(A New Deal for Transport)」では、持続可能な発展を支える交通システムのビジョンとして、① 異なるモードの交通間の連携、②環境との連携、③土地利用計画との連携、④教育、健康 及び富の創造のための施策との連携が提示された。また地域計画の枠組みを確立し、ある いは地方の役割や責任の強化を進めてきた。 一方、米国に関しては、京都議定書の離脱に象徴されるように、連邦政府としての地球 温暖化問題への取組みは必ずしも活発ではなく、オバマ政権誕生以降も、全米規模の排出 量取引制度等を盛り込んだクリーンエネルギー安全保障法案(American Clean Energy and Security Act of 2009)が上院で否決されるなど、足並みは揃っていない。そのような中、 米国では地方政府(主に州政府)が温暖化対策の推進に役割を発揮し、世界的にも先進的 な取組みを進めつつある。中でも近年特に積極的な姿勢を見せているのがカリフォルニア 州である。同州は、高度に自動車に依存した社会で、温室効果ガス排出量のうち約4割を 運輸部門が占めており(2002 年)52、自動車由来の排出量削減が最重要課題の一つとなっ 50 51 地球温暖化対策の推進に関する法律第 20 条の 3 第 3 項 屋井(2011)「地球温暖化と気候変動に対応する交通体系・計画制度のあり方」,運輸政策研究 鈴木ら(2011)「英国と米国カリフォルニア州の交通計画体系における都市間交通と気候変動の考慮」,運輸政策研 究 52 カリフォルニア州政府資料(2005) 104 ている。 交通 土地利用 EU 国 EIA指令(1985) SEA指令(2001) 計画法 (Planning Act 2008) 計画方針声明・指導書 (PPS, PPG) 政策声明(NPS) 地域 環境 SEA規則(2004) 気候変動法(2008) 炭素削減計画(2009) NATA 気候変動 行動計画 地域戦略(RS) 地域交通戦略(RTS) 地方 地方交通計画(LTP) 事業 個別プロジェクト 持続可能性 評価(SA) 地方開発計画(LDF) 環境影響評価(EIA) 規定 出所:鈴木ら(2011)などをもとに作成 図 3-9 交通 連邦 政府 土地利用 環境 陸上交通長期法 (SAFETEA-LU) CTPに関する州法 SB 391 (2009) 州 カリフォルニア州 交通計画(CTP) 事業 評価 英国の計画制度体系 地域間ブループリント(CIB) 都市圏 連携 気候保護法 SB 375 (2008) 地球温暖化解決法 AB 32 (2006) 州環境質法 (CEQA) 地域交通計画 (RTP) 持続可能コミュニティ戦略 (SCS) 個別プロジェクト 規定 出所:同上 図 3-10 米国カリフォルニア州の計画制度体系 105 評価 1)地域の土地利用・交通計画における地球温暖化対策の法的位置付け ①英国 英国の交通政策では、国の方針を規定する国家政策声明(National Policy Statement: NPS)の策定にあたり、インフラ整備等に伴うCO2排出の削減を図るなどの地球温暖 化問題への配慮を行うことが、計画法(Planning Act 2008、NPS に関する規定を含む) により義務付けられている。地域(regional)・地方(local)政府による具体的な交通計 画の策定(地域交通戦略(Regional Transport Strategy)及び地方交通計画(Local Transport Plan))は NPS に準拠するものとされており、地球温暖化に配慮した計画の枠組みが検 討される。 土地利用政策についても同様であり、国の政策を定める計画方針声明(Planning Policy Statement: PPS)において、PPS の気候変動に関する追補(Planning and Climate Change Supplement to Planning Policy Statement 1)により、地域での計画立案時に地球温暖化へ の影響を考慮することが明記されている。これを受けて、地域戦略(Regional Strategy) 53 及び地方開発計画(Local Development Framework)において、地球温暖化に配慮した 土地利用計画が策定される。 さらに、計画方針指導書(Planning Policy Guidance: PPG)54において、地域・地方に おける土地利用計画と交通計画の統合が図られている。具体的には、地域レベルで、地 域戦略は地域交通戦略を包含するものとされている。 ○Planning Act 2008(抜粋)55 Part 2 5 National Policy Statements (7) A national policy statement must give reasons for the policy set out in the statement.(国家 政策声明には、声明において定められる政策の根拠が記載されなければならない。) (8) The reasons must (in particular) include an explanation of how the policy set out in the statement takes account of Government policy relating to the mitigation of, and adaptation to, climate change.(その根拠には、当該政策による気候変動の緩和、もしくは気候変動への適応に ついての考慮が含まれなければならない。) ○Planning Policy Statement: Planning and Climate Change - Supplement to Planning Policy Statement 1(抜粋)56 (p. 10) Decision Making Principles 10. Regional planning bodies and all planning authorities should apply the following principles in making decisions about their spatial strategies:(地域の計画主体及び当局は、空間戦略の策 定において以下に掲げる諸原則を採用するよう努めるものとする。) 53 地域戦略の制度は、2010 年の政権交代に伴い廃止された。広域の計画策定は権限移譲が曖昧であることや時間がか かることなどがその理由とされるが、廃止には反対論も多く、現在新たな仕組みが検討されている。 54 PPS の前身。本稿記載の PPG13 を含めていくつかは PPS とあわせて現在も有効。 55 (原典出所)http://www.legislation.gov.uk/ukpga/2008/29/contents(訳は価値総合研究所、以下同様) 56 (原典出所)http://www.communities.gov.uk/publications/planningandbuilding/ppsclimatechange 106 – the proposed provision for new development, its spatial distribution, location and design should be planned to limit carbon dioxide emissions;(新規開発及びその空間配置等の計画にお いては、二酸化炭素排出の制限が考慮されるよう努める。) – new development should be planned to minimize future vulnerability in a changing climate; (新規開発においては、気候変動に対する将来の脆弱性を最小化するよう努める。) – climate change considerations should be integrated into all spatial planning concerns;(全ての 土地利用関連の懸案事項において、気候変動への考慮がなされるよう努める。) – mitigation and adaptation should not be considered independently of each other, and new development should be planned with both in mind;(新規開発等においては、気候変動の緩和と それへの適応が総合的に考慮されるよう努める。) – appropriate indicators should be selected for monitoring and reporting on in regional planning bodies’ and planning authorities’ annual monitoring reports. Such monitoring should be the basis on which regional planning bodies and planning authorities periodically review and roll forward their planning strategies.(モニタリング及び報告のために、適切な指標 を採用する。モニタリングは、地域計画を定期的に点検し、適宜改善を行うための基礎とする。) ○Planning Policy Guidance 13(抜粋)57 20. Local authorities should seek to ensure that strategies in the development plan and the local transport plan are complementary. (略)(地域当局は、開発計画及び交通計画における戦略 が相補的となるよう努めるものとする。(略)) ②カリフォルニア州 米国では、陸上交通長期法(SAFETEA-LU)が連邦政府の交通政策を示しており、こ れ に よ り 各 州 や 都 市 圏 58 は 、 そ れ ぞ れ 州 長 期 交 通 計 画 ( Statewide Long-range Transportation Plan: SLTP)及び地域交通計画(Regional Transportation Plan: RTP)の策 定が義務付けられている59。 連邦法である SAFETEA-LU 自体は地球温暖化について言及しておらず、一般的に SLTP や RTP において地球温暖化問題への配慮が要求されているわけではないが、カリ フォルニア州の SLTP であるカリフォルニア州交通計画(California Transportation Plan: CTP)では、温室効果ガスの排出削減をその目的の一つとして明記している。さらに、 CTP における地球温暖化問題への配慮をより具体的に規定するため、2009 年に CTP に 関する州法 SB391 が制定された。SB391 では、地球温暖化解決法(州法 AB32、2006 年 制定)で掲げられた 2020 年までの排出削減目標を達成するために、実現可能かつ最大 限の排出削減をどのように達成していくかについて CTP の枠組みで対処することを要 求している。 また、同様に AB32 を受けて 2008 年に制定された州法 SB375(気候保護法)において、 温室効果ガス削減の観点から交通計画と土地利用計画の連携が図られている。これによ り各都市圏は、RTP に持続可能コミュニティ戦略(Sustainable Community Strategy: SCS) を含めることが要求されている。SCS は、RTP に基づく交通計画と、土地利用計画を統 57 (原典出所)http://www.communities.gov.uk/publications/planningandbuilding/ppg13 58 都市圏計画機構(Metropolitan Planning Organization: MPO)。カリフォルニア州には 18 の MPO が存在する。 59 ただし陸上交通長期法は 2009 年 9 月に失効し、現在後継法が審議されている。 107 合し、当該地域に割り当てられた温室効果ガスの排出目標をどのように達成していくか についての計画を示すものとされる。 さらに、州規模でのマルチモーダル交通体系60を打ち出すという SB391 の要請を受け て、地域間ブループリント(California Interregional Blueprint: CIB)の枠組みが導入され た。CIB は、マルチモーダル交通体系の検討に加えて、その評価のための定量的モデリ ング手法(土地利用・交通の統合モデルを含む)の開発なども目的とし、2012 年末まで に成果がまとめられる予定となっている61。CIB の成果は、次期 CTP の策定(2015 年予 定)や、各都市圏での RTP 及び SCS の策定において活用されることになっている。 ○SB 391(抜粋)62 Section 65072.2 Require the CTP to address how the state will achieve maximum feasible emissions reductions in order to attain a statewide reduction of greenhouse gas emissions to 1990 levels by 2020 and 80-percent below 1990 levels by 2050. Need to take into consideration:(州の温室効果ガ ス排出量を 2020 年までに 1990 年と同程度、2050 年までに 1990 年比 80%減とするために最大限 かつ実行可能な排出削減をどのように達成するかについて CTP で対処することを要求する。下記項 目について考慮するものとする。) – the use of alternative fuels, new vehicle technology, tailpipe emissions reductions;(代替燃料、 新自動車技術、排出ガス削減の活用) – and the expansion of public transit, commuter rail, intercity rail, bicycling, and walking.(公共 交通、コミューターレイル、都市間鉄道、自転車、徒歩の利用拡大) ③日本 わが国では、地方公共団体の総合計画や都市マスタープランの根拠法(地方自治法、 都市計画法等)において、地球温暖化問題への配慮に関する記載がなく、個別の地域、 個別の対策・施策ごとに任意で地球温暖化対策がなされているのが現状である。例えば、 各地方自治体の都市計画マスタープランを見ると、地球温暖化対策について具体的な対 策等の明確な位置付けがあるものは、政令指定都市では 85%に上るものの、全国の自治 体では約 30%にとどまる(2008 年)63。 今後は、実行計画の策定時に都市計画との連携を図ることなどにより、地域全体の計 画に地球温暖化対策を位置付ける自治体は増えていくことが期待される。しかしこの方 向性をより確実なものとするためには、地域の土地利用・交通計画のあり方に関する国 の制度体系を、欧米の計画制度体系等も参考としつつ、検討していく必要もあると考え られる。 60 61 62 63 複数交通機関の連携による効率的で良好な交通体系。 カリフォルニア州政府交通局(2010)「California Interregional Blueprint – Progress Report」 (原典出所)http://www.dot.ca.gov/hq/tpp/californiainterregionalblueprint/Documents/workshop_docs/SB_391.pdf 社団法人日本都市計画学会低炭素都市づくり研究会調べ。 108 2)環境影響評価等における地球温暖化対策の規定 ①英国 英国では、地域・地方レベルでの計画策定の際に、環境・経済・社会への影響を予測・ 評価するための持続可能性評価(Sustainability Appraisal)を行うことが義務付けられて いる。特に地域戦略の策定においては、地球温暖化への影響やそれへの対策についての 評価が、地域戦略に関する法律(Policy Statement on Regional Strategies)により義務付 けられている。 ○Policy Statement on Regional Strategies(抜粋)64 Chapter 2 2.6 The Regional Strategy should:(地域戦略に関して、下記項目を満たすよう努めるものとする。) – Be based on a sound evidence base, supported by sustaibability appraisal(略);(持続可能性評 価の裏付けのもと、妥当な根拠に基づく。) – Set out the policies(略), in particular bringing together: policies for sustainable economic growth, the development and use of land and policies designed to contribute to the mitigation of, and adaptation to, climate change, and other relevant policies(略).(経済の持 続的発展や土地利用・開発のための政策と、気候変動の緩和や適応のための政策、及びその他関連 政策に総合的に配慮した政策を打ち出す。) 事業レベルでも、環境影響評価(Environmental Impact Assessment)のためのガイドラ インに、計画立案に際に地球温暖化への影響が評価項目として含まれている(ただし、 実際の評価項目は案件毎の設定)。 また、交通分野では、計画から事業までを対象として NATA(New Approach to Appraisal) と呼ばれる評価システムが適用され、費用便益分析に加えて地球温暖化を含めた環境影 響評価などが行われる仕組みになっている。評価に際しては、可能な限り定量性が重視 され、また土地利用との統合を評価項目に含むことも特徴的である。 表3-6 評価要因 細目 騒音 局所的大気質 温室効果ガス 景観 1.環境への 影響 街並み 歴史的文化遺産 生物多様性 水質 健康 旅行環境 2.安全性 64 事故 安全性 NATA の評価項目 内容 自動車の走行、鉄道運行による騒音 窒素酸化物(Nox)、浮粒子状物質(PM)等の濃度 CO2、メタン等の排出量 地域の自然(野原、森林、小川等)、文化的な特徴(石造 りの壁、石橋等)への影響 物理的、社会的な都市空間の特徴への影響(ビルや構 造物、空間の配置状況等) 芸術的、歴史的建造物、遺跡等への影響 学術上貴重種生息地への影響 河川、地下水、湖水等の水質への影響 歩行やサイクリングによる身体活動への影響 移動時の情報提供、心理的負荷(路面状態、形状等によ る)への影響 自動車、鉄道での負傷数 監視カメラ、緊急電話、出入口等の設備の充実度 (原典出所) http://www.communities.gov.uk/archived/publications/planningandbuilding/policystatementregionstrat 109 移動時間短縮、移動経費低減、事故減少、料金収入等 の便益、並びに投資・管理費用 3.経済性 定時性 道路混雑に伴う定時性への影響 広範な経済影響 地域経済への貢献、開発計画との関連等 交通手段多様性 利用可能な交通手段(機関)の数 4.アクセス 交通分断 道路、鉄道等で交通遮断される徒歩・二輪利用への影響 の容易さ 公共交通へのアクセス 公共交通機関へのアクセス 交通手段間連携 待合環境、乗換え利便性、接続信頼性等 5.統合 土地利用計画との整合 全国、地方の土地利用計画との整合性 その他計画への影響 その他計画に与える影響 出所:野澤(2003)「マルチモーダルな交通計画の評価手法に関する研究―英国のアプローチ」,国 土交通政策研究第 18 号(原典:英国交通省資料) 費用対効果 ②カリフォルニア州 カリフォルニア州では、交通計画に係る環境影響評価は、個別事業に対して国家環境 政策法(NEPA)やカリフォルニア州環境質法(CEQA)に基づく手続きとして実施され る。このうち、州独自の環境影響評価プロセスである CEQA では、2010 年に温室効果 ガス排出による地球温暖化への影響を評価対象とすることが規定された。CEQA のガイ ドライン65では、事業に起因する温室効果ガスの排出量を定量的に評価するための手法 の利用や、州の排出削減目標との整合性の考慮などが要求されている。 ③日本 わが国では、戦略的環境アセスメントのガイドライン(環境省)の中で「主な評価項 目」の一例として温室効果ガスについての記載はあるが、実際の評価項目として採用す るか否かの選択は現状では任意となっている。ただし、環境影響評価法に基づく基本的 事項の見直しに際し、各事業種において温室効果ガスに関する記載を積極的に書き込む べきと指摘されており、特に建設工事に関係する CO2 について記述の強化を検討する 必要があるとされている。なお、費用便益分析マニュアル(国土交通省)では、便益の 算定において温室効果ガスの影響は考慮されない。 計画や事業の立案段階から地球温暖化対策への配慮を盛り込むことを促進するため には、環境影響評価の対象となる各事業種における主務省令での温室効果ガスの積極的 な扱いについて検討の必要があると考えられる。 3)排出削減の実行性に係る規定 ①英国 英国では、排出削減の実効性を高めるため、気候変動に関して世界初となる長期的な 対策を想定し、かつ拘束力を有する気候変動法(Climate Change Act)が制定され(2008 年)、さらに 2009 年には気候変動法に基づいて炭素削減計画(Carbon Budget)の制度 が創設された。 65 http://ceres.ca.gov/ceqa/guidelines/ 110 炭素削減計画は 2050 年の長期目標に向けた道筋を示すために 5 年毎に期間を区切っ て国内の排出量を規定するもので、部門別(家庭・エネルギー等の8部門)に定められ た目標値は、各省庁に割り当てられる(例えば、第1期(2008-12 年)の削減計画では、 総削減目標のうち 21%が交通部門に当てられており、そのうちの 76%が交通省の管轄、 下図参照)。この計画を達成できなかった省庁の長には、その理由の説明、及び将来の 計画期間において排出超過分を埋め合わせるための代替計画の策定が義務付けられて いる。 出所:英国政府(2010)「Climate Change: Taking Action」 図 3-11 炭素削減計画による部門・省庁別削減量割当て ②カリフォルニア州 カリフォルニア州の各都市圏では、SB375 の規定により、SCS に示す目標が達成され ない場合には、代替計画戦略(alternative planning strategy: APS)を作成しなければなら ない。APS は、SCS の目標達成の阻害要因を特定し、実現可能な開発計画とその方法を 提示するものとされる。 ③日本 わが国では、政府が「京都議定書目標達成計画」を発表し、長期的な削減目標に関し ては国全体の目標値を掲げている。また地方公共団体の実行計画には、削減目標の記載 が義務付けられている。 しかしながら、英国やカリフォルニア州のような具体的な拘束力を持つ規定はなく、 実際に誰がどのように目標を達成していくのか、達成しなければならないのか、達成で きなかった場合にはどうするのか、といった具体的な目標達成の道筋や責任の所在が曖 昧になっている状況である66。削減目標により実効性を持たせるためには、何らかの拘 束力を有するより具体的な制度についての検討が必要であると考えられる。 66 東京都による事業所対象の排出総量削減義務のように、地方公共団体独自の取組み例はある。 111 以上で示した各国の計画制度体系に関する検討内容を下表に整理する。 表3-7 地域の土地 利用・交通計 画における 地球温暖化 対策の法的 位置付け 環境影響評 価等におけ る地球温暖 化対策の規 定 排出削減の 実効性に係 る規定 英国・カリフォルニア州・日本の計画制度体系の比較のまとめ 英国 カリフォルニア州 日本 (交通)国家政策声明におい 州の交通計画での地球温暖 実行計画において土地利用・ て地球温暖化への影響を考 化問題への考慮を、州法で義 交通分野の地球温暖化対策 の実施を義務付けているが、 慮することを義務付け。これ 務付け。 を受けて地域・地方の計画が 州及び都市圏レベルで、地球 地域の土地利用・交通計画 温暖化対策の観点から土地 の根拠法(都市計画法等)に 策定される。 (土地利用)地域・地方の計 利 用 と 交 通 の 統 合 を図 るよ 地球温暖化対策への配慮の 記載はない。 画策定時に気候変動への影 う、州法で規定。 響を考慮することを計画方針 声明で規定。 地域・地方レベルで土地利用 と交通の統合が図られる。 地域戦略の立案時に持続可 州環境質法(CEQA)により、 温室効果ガスに関する評価 能性評価に基づく地球温暖 個別事業を対象として温室効 はの位置付けが弱い。(対象 化への影響評価を義務付け。 果ガス排出量を評価項目とし 事業主ごとに技術的事項等を 定める主務省令において、評 NATA によって環境(地球温 て規定。 価すべき項目として温室効果 暖化を含む)や経済への影響 ガ ス が 位 置 付 け ら れ てい な を定量的に評価。 い) 法的拘束力を有する炭素削 州全体および各都市圏の削 国や地方自治体がそれぞれ 減計画の制度により部門・省 減目標を設定。各都市圏には の目標を設定。ただし、拘束 庁別の排出量を割当て。 削減目標達成が義務付けら 力はなし(拘束力のある削減 れ、未達成の場合の責務も規 義務について地域独自の取 組み例は存在)。 定。 112 6-4 資金調達上の課題と解決方策 資金調達上の課題と解決方策に関しては、(1)公的関与のあり方、(2)地方公共団 体の財源問題の2つの観点から検討を行った。 公的関与のあり方 地方公共団体の財 源問題 表 6-8 資金調達上の課題 課題 解決方策 わが国の公共交通機関では事業者の独 安定した社会基盤構築に向けた公共サ 立採算が基本とされるため、地方の事業 ービス供給のための資金調達の仕組み 者を中心に厳しい経営状態が続いてい の導入。(補助制度の整備・拡充、上下 る。そのため路線縮小や廃止等が進んで 分離方式の導入、PFI の活用など) おり、公共交通の利用促進が十分に進ん でいない。 公的関与のあり方に関して検討の余地が あるのではないか。 地方公共団体にとって低炭素まちづくり 具体的にどのような予算が不足している のための予算規模が不十分。 のかを明らかにした上で、地方公共団体 また、コンパクトシティ整備に向けての総 が低炭素まちづくりのために使用できる 合的な施策の実施のために柔軟に予算 十分かつ柔軟な予算制度を整備する。 を使える仕組みが十分に整備されていな (補助・交付制度や税制の検討) い。 (1)公的関与のあり方 1)わが国の公共交通の現状 「公共交通を骨格としたコンパクトシティ」の実現には、公共交通インフラ等の大規 模施設・設備の存在が大きな役割を果たす。これらの中には、事業としての採算性は必 ずしも見込めず、その資金については相当程度を公的な補助等により賄う必要性が大き いと考えられるものも少なくない。しかしながら、わが国においてはそのような公共交 通の維持確保のための公的関与が不十分であるという課題が指摘されている67。 わが国の公共交通機関では、事業者の商業採算性をベースとした運営が基本とされ、 一般的には市場における需給バランスのもとで交通サービスの供給がなされてきた。鉄 道業界では、大都市圏を運行する事業者には年間百億円以上の純利益を確保するものも ある一方、地方の鉄道事業者は概して厳しい経営を強いられている。全国 96 の地域鉄 道事業者(中小民鉄もしくは第三セクター)のうち 7 割強の 70 社が営業赤字となって おり、中でも輸送密度 3,000 人(1 日 1km あたり)未満の事業者に限ると 93%の事業者 が赤字である(2007 年度)68。バスや路面電車など他の公共交通についても、地方を中 心に厳しい経営状況にある事業者は少なくない。 このような厳しい経営状況は、しばしば運賃の値上げや運行頻度の減少など交通サー ビスの低下を招き、不採算路線が縮小・廃止に追い込まれることもある(2000 年度以降 全国で 600km 超の鉄軌道路線が廃止)。その結果地域住民の公共交通離れが進み、交通 事業者の収益の一層の悪化につながる。こうしてますます自動車に依存した地域構造に 67 68 「平成 22 年度低炭素社会づくりのための中長期ロードマップ検討業務調査報告書」第6章 平成 19 年度鉄道統計年報より。なお「地域鉄道」とは、同年報の分類による「地方旅客鉄道」から第三種鉄道線を除 いたもの。 113 なるという循環も散見される。 表 6-9 岡山市内公共交通乗車人員の推移(各年度の平均) 路面電車乗車人員の推移 路線バス乗車人員の推移 人員 人員 年度 年度 (単位:千人) (単位:千人) 13,381 25,084 1950~57 年 1966~69 年 11,702 22,134 1958~65 年 1970~73 年 8,655 20,358 1966~73 年 1974~77 年 7,122 16,695 1974~80 年 1978~80 年 4,805 11,679 1981~90 年 1981~90 年 3,915 9,868 1991~99 年 1991~99 年 3,585 8,687 2000~09 年 2000~09 年 3,333 8,388 2010 年 2010 年 出所:岡山電気軌道株式会社資料 出所:国土交通省資料 図 6-12 全国廃止鉄軌道路線延長の累計(平成 12 年度以降) このような事情を受けて、近年、インフラ整備に関する補助制度の整備が進められて いる。例えば、LRT(路面電車)に対しては、下表のような補助制度が創設されている。 表 6-10 国土交通省による LRT インフラ整備支援制度 名称 概要 路 面 電 車 走 行 空 間 LRTの走行路面(路面、停留所等)の整備に対して支 改築事業・交通結節 援。 点改善事業 都市交通システム整 総合的な都市交通の戦略に基づく LRT 施設(車両除く) 備事業 の整備(レール、車庫、変電所等)に対し包括的に支援。 利 用 環 境 改 善 促 進 LRTシステムの構築に不可欠な施設(低床式車両、制震 等事業(旧LRTシス 軌道、車庫、変電所等)の整備に対して補助。BRT シス テム整備補助) テムやICカードシステムの整備も支援。 出所:国土交通省資料等をもとに作成 補助率(対象) 1/2 (地方公共団体) 1/3 (地方公共団体等) 1/3 (鉄軌道事業者) 2)欧米の公共交通政策との比較 一方で、運営費補助はほとんどなく、これは欧米諸国の公共交通機関が公的資金投入 を前提に運営されていることと対照的である。このことは、公共交通の運営体制や財源 制度の違いなども密接に関連している。欧米では、自治体からの運行委託もしくは公営 の場合が多く、運営費への公的資金投入は、不採算を補うだけでなく、公共性の観点か 114 らあえて運賃水準を低く抑えるためにも行われている69。例えばフランスでは、都市内 公共交通の運営費用に対する運賃収入の割合は 32%に過ぎない(2006 年)。そのため の財源としては、ドイツでは鉱油税(日本のガソリン税に相当)、フランスでは交通税 (従業員の給与総額に応じて事業所から徴収)をそれぞれ充当している。このような海 外の公共交通の運営の仕組みなども参考としつつ、公共交通への公的関与のあり方につ いて検討の余地があるのではないかと考えられる。 表 6-11 都市内公共交通の運営に関する比較 欧米 日本 (米国、フランス、ドイツ等) 自治体からの運行委託もしくは公営。サ 基本的には事業者による商業採算性を 運営体制 ービス水準(運行頻度や運賃など)につ ベースとした運営であり、事業者がサー いての決定権は行政にある。 ビス水準を決定する。 基本的に公的資金投入を前提とする運 赤字補填のため公的資金が投入される 運営費に対する公 営。赤字補填のためだけでなく、運賃水 ケースはある。 的資金投入 準を低く抑えるために多額の公的資金 が投入されるケースもある。 米国 33.5%(2005 年) 鉄道は 100%超、バスは 93%70 運営費に対する運 フランス 32%(2006 年) 賃収入の割合 ドイツ 71%(2006 年) 出所:阪井(2009)「LRTに関する制度・施策の現状と課題」,国際交通安全学会誌 等をもとに 作成 【参考:フランスの交通政策】71 <交通基本法の制定(基本理念・制度)> ○「人は誰もが移動する権利を持つ」という交通権を明記。交通弱者の移動を確保するため公共交通の強 化が求められるようになった。 ○1996 年の改正時に環境保護に関する規定が盛り込まれた。(都市において環境負荷の高い自動車利用 を削減し、徒歩・自転車・公共交通を強化することを義務付け) <交通負担金(公共交通の財源)> ○コミューン(市町村)は、公共交通の整備・運営費の財源として交通負担金を徴収する権限を持つ。(1971 年にパリで初めて実施され、その後地方都市でも適用。現在は人口1万人以上のコミューンで実施されてい る) ○交通負担金は、従業員数 10 名以上の企業から給与総額の一定割合を税金として徴収。税率は人口規 模などにより異なる(パリでは 2.6%、一方で人口 10 万人未満の都市では上限 0.9%とされる。ただし軌道 系交通を導入する場合は 1.75%まで設定可)。徴収は URSAFF(社会保険庁に相当)が行い、法人税のよ うに直接企業から徴収するため、個々の従業員の負担感は少ないとされる。 <自治体による運行委託(公共交通の運行形態)> ○公共交通の運行は、自治体が事業者に委託。契約時にサービス内容と補助金額を策定する。 ○運賃を安く設定するために補助金の導入が前提となっている。都市内公共交通の運営費に対する運賃 収入の割合は約 32%に過ぎない(2006 年)。 ○補助金額は一定であるため、散漫な経営は防止される。黒字経営となった場合には補助金の削減より も、運賃の値下げや便数増加などサービス改善が優先される。 ただし、例えば公共交通の運行に関する公的資金の投入を増やすとした場合に、非効 69 服部(2006)「路面電車新時代 LRT への軌跡」 70 鉄道は事業者 140 社全体、バスは 30 車両以上保有の事業者約 250 社について。 71 市川(2002)「交通まちづくりの時代―魅力的な公共交通創造と都市再生戦略」等を参照 115 率的な経営を行う事業者に対して補助を行うことになれば、財政負担も増し、地域住民 の合意を得ることも難しくなる。したがって、事業者の選定に関する入札制度の導入な ど、より効率的な運行を確保するための仕組みの導入も必要になる。 例えば英国では、バス交通は基本的には民間事業者による商業採算性に基づく運営で あるが、これだけでは必ずしも住民や行政が期待する公共サービスが保証されないため、 特定の路線や時間帯の運行に関しては自治体が運行委託を行っている。その際、入札を 実施して事業者の選定を行っている。 また、逆に公共交通を運行する事業者が容易に撤退しないような仕組みも、資金調達 とあわせて制度面からも検討していくことが、安定的な公共交通サービス確保のために は重要である。 出所:阪井(2009)「LRTに関する制度・施策の現状と課題」,国際交通安全学会誌 図 6-13 英国マンチェスターの路線バスにおける商業ベース路線(グレー)と運行委託路線(黒) 3)資金調達の仕組み わが国の公共交通の運営状況を改善するための資金調達の仕組みの有力な考え方と して、①上下分離方式、②民間資本の活用がある。 ①上下分離方式 上下分離方式は、「運行事業者とインフラの整備主体が別人格であって、インフラの 整備に公的主体が関与する」ような公共交通機関の整備・運営の仕組みと定義される72。 すなわち、線路や橋梁、駅舎等のインフラ(下)の建設や保有と、運行やマーケティン グ等(上)とを分離する手法であり、地域鉄道の維持・再生の手段として近年わが国で も導入事例が見られる。 72 平成 12 年 8 月 1 日付け運輸政策審議会答申第 19 号「中長期的な鉄道整備の基本方針及び鉄道整備の円滑化方策につ いて」 116 出所:国土交通省鉄道局資料(2009) 図 4-14 通例の方式と上下分離方式 前述のようにわが国の地域鉄道事業者の約 7 割は営業赤字となっているが、その費用 のうち多くの割合を施設保有に係る経費(維持管理費・減価償却費等)が占めている。 仮に施設保有に係る経費を除外すると約 9 割の事業者は黒字になるとの試算もある。こ のことは、地域鉄道を維持するためには、必ずしも欧米のように運営費までを含めて手 厚く補助をする必要はなく、インフラ整備に関してのみ公的機関が関与する上下分離方 式のような仕組みによって相当程度の改善が期待できることを示唆している。 出所:国土交通省鉄道局資料(2009) 図 4-15 地域鉄道のコスト構造 117 出所:同上 図 4-16 地域鉄道の経営状況(施設保有に係る経費を含む場合と含まない場合) 近年のインフラ整備に伴う補助制度の拡充は、上下分離方式による公共交通機関の整 備における地方自治体の負担を軽減することになり、今後この仕組みの活用が促進され るものと期待される。 一方で、上下分離方式には問題点も指摘されている。その主なものは、「上・下」の 責任が分散されるために、一体的な方針のもと公共交通サービスを供給することが難し くなる、という意見である73。地域の総合的なまちづくりの中で公共交通の意義と責任 の所在を明確に位置付けることが、上下分離方式による公共交通整備における課題と言 える。 ②民間資本の活用(PFI) わが国では、公民連携のあり方として第三セクターが普及した。しかし、第三セクタ ーは整備・運営の責任の所在が不明確であるケースが多く、実際に全国で破綻が相次い でいる。 これに代わって近年注目を集めているのがPFI(Private Finance Initiative)、すな わち民間企業の資本とノウハウを用いた公共サービスの供給である。PFIでは、一般 的に官民の責任とリスクの分担が明確であり、民間の利潤動機を活用することができる。 わが国では導入事例は少ないが、海外ではパリ(フランス)の大規模コミュニティサイ クル事業のように、公共負担を最小に抑え、かつ革新的な公共サービスを供給している 例もある。(後述の事例参照) 73 正司(2005)「サービスの質(内容)の維持と規制改革:鉄道における“上下分離”方策についての一考察」,関西鉄 道協会都市交通研究所『規制改革の展開と都市交通事業の経営』 118 (2)地方公共団体の財源問題 自治体所属委員へのヒアリングや環境省のアンケート調査から、現状の予算規模では、 施策を実施するための十分な財源を確保できていないという認識を持つ自治体が多い実 情が伺える。地方自治体の地球温暖化対策のための十分な財源の確保について、そのため の枠組みを検討する必要があると考えられる。 【自治体所属委員(土地利用・交通 SWG)へのヒアリング】74 「地方公共団体の財源問題に関する所属自治体での課題について」 <小島委員(名古屋市)> ○福祉、高齢化対策、防災対策などの需要増と都市施設等の維持管理費が増大している現状では、地球 温暖化対策に使える予算が根本的に不足している。 ○地域の特性に応じた自由度の高い自治体への補助金・交付金が必要。(省庁連携による対象範囲の拡 大を含む) <村上委員(富山市)> ○「環境都市モデル行動計画」を策定し、現在、計画に位置付けた事業の約8割に着手しているが、これら を市の財源のみで短期間に整備することは不可能である。多額の費用を要するハード整備については、国 からの支援を最大限活用して取り組む必要がある。 ○中長期的に地球温暖化対策に取り組むための、省庁縦割りの補助制度でなく、地球温暖化対策に柔軟 に活用できる新たな補助制度の創設や規制緩和による支援策が必要。 出所:環境省(2011)「地方公共団体における地球温暖化対策の推進に関する法律施行状況調査結果」 図 6-17 温暖化対策を計画する上で困っていること・障害となっていること また、コンパクトシティ整備のためには、単一事業だけでなく、様々な施策を総合的に 実施することが不可欠であり、各自治体が地域の特性を鑑みて主体的かつ柔軟に予算を使 えるような仕組みが必要となる。しかしながら、従来の「ひもつき補助金」に象徴される ように、そのような柔軟な予算制度は十分には整備されていなかった。 74 委員個人の見解であり、自治体としての見解を示すものではない。 119 こうした事情を受けて、近年、社会資本整備総合交付金(国土交通省)等のように、自 由度の高い交付金制度が整備されつつある状況である。ところが一方で、このような自由 度の高い交付金制度の整備により、自治体によってはむしろ環境分野、あるいは事業採算 性に乏しい地域公共交通の整備等へ予算が回らなくなる可能性についても指摘されてい る75。低炭素まちづくりのための柔軟な予算制度を整備しつつも、その適切な運用のあり 方について検討してく必要があると考えられる。 75 谷口ら(2011)「まちづくり交付金活用自治体による評価指標設定と自己評価の傾向分析」,都市計画論文集 120 6-5 人づくり上の課題と解決方策 人づくり上の課題と解決方策に関しては、(1)地方公共団体の担当者、(2)地域づ くり推進の担い手の2つの観点から検討を行った。 地方公共団体の担 当者 地域づくり推進の担 い手 表 6-12 人づくり上の課題 課題 解決方策 各地方公共団体の計画策定・実施担当 人材育成支援の強化。(マニュアルや事 者の育成。(すでにマニュアルや事例集 例集の整備・配布、研修会等の開催、専 の配布等を実施しているが、地方自治体 門家派遣、情報提供など) からはより具体的な人材育成支援・情報 また、そもそもどのような人材が必要で、 どこに不足しているのかをより詳細に明 提供を求める声が多い) らかにし、具体的な対策を明確化する。 協議会・NPO等の活用が十分でなく、地 計画立案、施策実施段階における協議 域内協力体制の浸透が課題。 会・NPO等の活用、及びそれらの育成と 活動支援。 一般住民への働きかけの余地があるの 一般住民への情報提供・啓発。(モビリテ ではないか。 ィマネジメントの実施など) (1)地方公共団体の担当者 地方自治体の担当者が計画策定の際に参照すべきノウハウの蓄積、成功事例の共有化が、 十分になされていないとの指摘がある76。実際に、自治体所属委員へのヒアリングや環境 省のアンケート調査では、人材育成や情報提供に関してより積極的な支援を要望する声も 多い。専門的なスキルを有する人材を長期的視点で育成するため、具体的な人材育成支援 について検討していく必要がある。また、技術的なノウハウだけでなく、ビジョンの共有 を図ることも重要である77。 出所:環境省(2011)「地方公共団体における地球温暖化対策の推進に関する法律施行状況調査結果」 図 6-18 温暖化対策を計画する上で、国の支援として要望したい事項(非経済的障壁) 76 「平成 22 年度低炭素社会づくりのための中長期ロードマップ検討業務調査報告書」第6章 77 谷口(2011)「コンパクトシティへの処方箋―低炭素化と交通の視点から」,運輸と経済 121 【自治体所属委員(土地利用・交通 SWG)へのヒアリング】78 「人づくりに関する所属自治体での課題について」 <小島委員(名古屋市)> ○環境部門における「まちづくりが分かる人材」、まちづくり部門における「環境が分かる人材」の育成が課 題である。 ○市民や事業者によるまちづくりの取組みと連携し、事業起こしができる人材が不足している。 ○地域における低炭素まちづくりに向けた基礎資料づくり、計画策定、ガイドラインづくりに関する支援制度 を充実させてほしい。 <村上委員(富山市)> ○地球温暖化対策等の計画策定や事業の実施にあたっては、これまでの行政分野にはない専門的な分野 であることから、高度な専門的知識や経験を有した職員が不足している。 ○国には、先進事例の紹介、講習会の開催や、専門家の派遣など、職員の専門性向上につながる支援を 期待する。 (2)地域づくり推進の担い手 1)協議会・事業者・NPO 等 計画の策定と実施に際しては、協議会、事業者や NPO 等の地域の多様な関係者との 連携が望まれ、実行計画策定マニュアル等のガイドラインでも、地域内協力体制の構築 が奨励されている。しかしながら、 「計画策定上の課題と解決方策」でも述べたように、 現状はそれが十分に達成されていない。 まちづくりの持続性という観点からも、地方自治体の担当者は短期間に交代するケー スも多い事情もふまえると、一般住民のボトムアップ的な取組みを促進するような NPO やコーディネーター等の存在も欠かせない。地域づくりの担い手となる組織や人材の育 成、あるいは彼らの活躍する「場づくり」への支援が重要である。 2)一般住民 コンパクトシティ整備のための施策には、住民の持つ情報や意識のあり方によって、 その効果が相当左右されるものも多い。例えば、公共交通網を整備したとしても、まず はその存在や利便性について地域住民に認識してもらう必要がある。さらに交通手段の 選択に際して、自動車と公共交通のどちらを利用するかは、運賃や所要時間などの情報 に加えて、環境問題等に関する知識や考え方も影響し得る。そのため、施策の効果を高 めるために、一般住民への情報提供及び啓発が果たす役割は小さくない。近年、そのよ うな態度・行動変容を促す取組みとしてモビリティマネジメントが注目されており、実 施事例が増えている79。 また、住民への働きかけは、社会的な合意形成を確立する観点からも重要である。と りわけ大規模な公共投資を伴う施策や不公平感を与えかねない施策の導入にあたって 78 委員個人の見解であり、自治体としての見解を示すものではない。 79 鈴木ら(2006)「国内 TFP 事例の態度・行動変容効果についてのメタ分析」,土木学会論文集 122 は、合意形成の有無が施策の成否に大きく影響する場合もあり、また事業実施のための 財源確保の問題とも密接に関連する。そのため、コンパクトシティ整備や地球温暖化対 策の意義に関して、十分なコミュニケーションを図り、合意形成を得る必要がある。そ の際、科学的な計画策定の成果の応用や、多様な政策評価の指標の中で地球温暖化等の 環境問題を適切に位置付けた議論が重要であると考えられる。 123 6-6 事例集 (1)概要 これまでに取り上げた4つの課題に関して、国内外の先進事例を調査した。掲載事例は 下表の通りである。 なお、必ずしもコンパクトシティ整備が主目的ではなくても、本業務の趣旨に照らして その取組みの手法や効果などが参考になると考えられるものも掲載した。 表6-13 掲載事例一覧 (関連課題は、「計」=計画策定、「制」=制度、「金」=資金調達、「人=人づくり」) 関連課題 事例 都市名 計 制 金 1 公共交通中心のまちづくり クリチバ市(ブラジル) ○ 2 公共交通を基軸としたまちづくり 富山市 ○ ○ 3 コンパクトシティ形成 青森市 ○ 4 公共交通中心の持続的まちづくり ケンブリッジ(英国) ○ ○ 5 LRTを軸としたまちづくり ストラスブール(フランス) ○ ○ 6 スマート・ウェルネス・シティ構想 三条市 ○ 7 エネルギー域内自給型の都市再開発 マルメ(スウェーデン) ○ 8 混雑税による道路課金 ロンドン(英国) ○ ○ NATA による計画評価と利害関係者との ヘイスティングス(英国) ○ ○ 9 協議 10 ロードプライシング シンガポール ○ 11 トランジットモール 那覇市 ○ 離れた地域での環境資産保全等による容 名古屋市 ○ 12 積率緩和 13 大規模貸し自転車サービスの導入 パリ(フランス) ○ 14 地域鉄道存続のための公的支援 和歌山県 ○ 15 上下分離方式による地域鉄道運営 鳥取県 ○ 16 コミュニティバスの運行 武蔵野市 ○ 17 市民共同によるコミュニティバスの運行 京都市 ○ 18 定期借地権を活用した商店街再開発 高松市 ○ 19 職場でのモビリティマネジメント 京都府 20 住民を対象としたモビリティマネジメント 福岡市 21 学校でのモビリティマネジメント 茨城県 22 地域住民との連携による公共交通活性化 日立市 23 大学を活用した地域公共交通人材育成 ウィスコンシン州(米国) 124 人 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ (2)事例集 1)公共交通中心の都市計画(クリチバ) 公共交通中心の都市計画 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定 【ポイント】 ・ 土地利用と交通の連携 ・ 他の都市政策との連携 所管 クリチバ(ブラジル) 実施時期 1971 年以降 背景・目的 【背景】 ・ ブラジルの地方都市クリチバでは、1950-60 年代にかけて人口の爆発的増加に伴う住環境の 劣悪化が問題となり、市当局は抜本的な対策を求めて都市マスタープランのコンペを行った。こ のコンペで最優秀賞を取った都市計画の専門家でもあるジャイメ・レルメルは、1971 年に市長 に就任し計画を実行に移した。 ・ 計画のモットーは「人間のための都市計画」。自動車に依存しない公共交通中心の都市政策を 目指した。この基本路線は市長が交代しても途絶えることなく、現在まで受け継がれる。 【目的】 自動車依存からの脱却、公共交通中心のまちづくり 内容 【概要】 BRT整備を中心とした公共交通網の整備及びその周辺への立地開発の誘導。自動車に依存しな いまちづくりによる環境都市の実現。 【主な取組み】 <BRT関連> ・ 世界初のBRT導入(1974 年)。BRTは地下鉄と比較すると概ね工事に要する費用及び期間が それぞれ 1/100、1/10 とされる。決して財政的に豊かとは言えないクリチバで公共交通を整備す るには適した手法だったと言われる。 ・ ①チューブ型プラットフォーム入場時に料金を支払うことで乗降車時間の短縮、②単一料金で複 数路線利用可(乗換時に新規切符購入の必要なし)、③急行専用レーンの設置、④最大3両連 結による大量輸送などの利便性向上のための工夫がなされている⇒「バスの地下鉄化」 ・ BRT沿線への開発誘導。BRT路線には 5 本の幹線道路があり、その沿線でのみ高層建築が 許可される(幹線から 2 ブロック以内を高度開発地域に指定)。これにより市街地の乱開発を防 止し、都心、繁華街の線状の展開を行っている。このため用途地区計画と主要幹線道路計画は 常に一体的に検討されることとなっている。 ・ 9 ヶ所あるBRTのターミナルでは、市民通りが設けられ、市役所や銀行などの施設が揃う。必要 な用事をまとめて簡単に済ませることができ、BRTの利便性向上に貢献している。 チューブ型プラットフォーム BRT 用レーン 125 線状の高層建築開発 BRT 路線図 効果・実績 備考 <その他> ・ 総延長 150km に及ぶ自転車専用道路の整備。 ・ 市内中心部での駐車場の削減。 ・ 緑地整備。一人当たり緑地面積 51.5 平方メートルは、世界の都市ではオスロに次いで二番目 に大きい。(参考:サンパウロ市ではわずか 0.6 平方メートル) 【CO2削減関連効果】 ・ BRT利用者の 28%が自動車利用からの転換。 ・ 他のブラジルの同規模都市との比較で、一人当たり燃料消費量が 30%少ない。 【その他効果・実績】 ・ BRTを含めたバス交通システムには 10 企業が参加し、計画には市も関わっているが、全て採 算が成り立っており、市からの補助金はなし。 ・ 計画導入前は 60 万人程度であった人口は現在約 180 万人(2006 年)と三倍にもなり、商工業 の発展もあってブラジル国内でも有数の経済的に豊かな都市となった。 【類似事例】 BRTを中心とした脱自動車依存のまちづくりに関しては、ボゴタ(コロンビア)等で類似事例あり。 【参考資料等】 ・ Goodman, Laube and Schwenk(2005), “Curitiba's Bus System is Model for Rapid Transit,”Race, Poverty and Enviornment, winter 2005/2006, pp.75-76. ・ Wikipedia-クリチバ http://ja.wikipedia.org/wiki/クリチバ ・ グッドニュースジャパン-クリチバの軌跡 http://goodnews-japan.net/news/blog/category/kurichiba 126 2)公共交通を基軸としたまちづくり(富山市) 公共交通を基軸としたまちづくり 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定、資金調達 【ポイント】 ・ 土地利用と交通の連携 ・ 庁内部局間の連携 ・ LRT導入に伴う「上下分離方式」による資金調達 所管 富山市 実施時期 2006 年 4 月 富山LRT開業 2007 年度 都市マスタープラン策定 背景・目的 【背景】 ・ 富山市には、市街地の外延化に伴う低密度化(DID 人口密度 40.3 人/ha(平成 17 年)は全 国県庁所在地で最低)及び自動車交通への高い依存(県全体の自動車保有 1.72 台/世帯(平 成 21 年)は全国で二番目に多い)という特徴がある。このため、①車を使用できない者にとって 不自由となる、②行政コストの増大、③中心市街地の不活性に伴う都市全体の魅力低下など の問題が危惧されている。 ・ 2002 年初当選の森雅志市長のもと、このような問題に対処するための一貫した都市政策が進 められてきた。2007 年度策定の都市計画マスタープランは、わが国におけるコンパクトシティ政 策の先駆けとして知られる。 ・ 2008 年に「環境モデル都市」に選定されたことを受けて、翌年「富山市環境都市モデル計画」を 策定。低炭素化も主要目的と位置付けられるようになる。 【目的】 公共交通を基軸としたまちづくり 内容 【概要】 LRTを中心とした公共交通とそれら周辺の生活圏からなる「串とお団子」型コンパクトシティの形 成。 出所:富山市(2008) 【主な取組み】 <LRT関連> ・ 日本初の本格的LRTである富山ライトレールの導入(2006 年 4 月開業)。もともと利用者の減 少が著しかった旧JR富山港線の軌道を再利用した。 ・ ①停留所の改良(全駅バリアフリー等)、②乗継ぎバスの再編成、③集客施設等へのアクセス 改善、④ICカード導入、⑤パークアンドライドの導入などのLRT利便性向上施策。 127 富山のLRT 出所:富山市(2008) <土地利用関連> ・ 公共交通沿線居住の促進。鉄軌道から 500m、バス停から 300m以内を公共交通沿線居住推 進地区に指定し、区域内での住宅取得に対して 30 万円/戸(二世帯住宅、区域外からの転入 ではさらに 10 万円上乗せ)、共同住宅を建設する事業者に対して 70 万円/戸の補助制度を導 入。(公共交通沿線住宅取得支援事業及び公共交通沿線共同住宅建設促進事業) ・ 中心市街地立地の促進。都心地区での住宅を建設・取得する人に対する「まちなか住宅取得 支援事業」、郊外から都心の賃貸住宅に転居する人に対する「まちなか住宅家賃助成事業」、さ らに事業者向けに「まちなか共同住宅建設促進事業」「まちなか住宅併設店舗等整備支援事 業」などの補助制度がある。 ・ 中心市街地の活性化。総曲輪地区の再開発等。 <その他> ・ 高齢者運転免許証自主返納制度(免許証を自発的に放棄する高齢者に対して、約2万円相当 の公共交通乗車券を提供) 【予算措置】 <LRT関連> LRT整備の総費用は約 58 億円。その内容と負担の内訳は下表の通り(単位:億円)。 表 富山 LRT の整備費用と負担内訳 項目 連続立体交差事業 街路事業 鉄道事業補助 その他 合計 金額 負担内訳 国 33 17 8 8 4 7 2 1 10 58 23 9 出所:深山ら(2008) 県 市 8 4 1 13 事業者 3 10 13 ・ このうち、連続立体交差事業は富山駅付近連続立体交差事業(2005~2017 年度、総費用 250 億円)を指す。また、街路事業は「路面電車走行空間改築事業」として、鉄道事業補助は「LRT システム整備補助」として、いずれも国からの補助制度を利用80。 ・ 事業者とは第3セクター富山ライトレール株式会社であり、資本金 4 億 9800 万円のうち、富山 市が 1 億 6500 万円、県が 8000 万円を出資し、公共の出資比率が 49%(残りは地元企業等)。 事業者負担の 13 億円についても富山市の単独補助による支出(「富山市富山港線路面電車整 備事業等補助金交付要綱」の「整備事業補助金」)。 ・ 富山ライトレールは、施設の維持・更新費に関しても富山市からの補助金(「富山市富山港線路 道路法第 56 条・道路整備費の財源等の特例に関する法律第5条等。 80 128 面電車整備事業等補助金」の「運行事業補助金」)及び基金条例による基金(「富山市富山港 線路面電車事業助成基金」)による支援を得ることができる。一方で、人件費等の運営費につ いては、運賃収入などの自助努力により賄い、公的な赤字補填は行われないこととなってい る。 目標 効果・実績 目標・課題 備考 【実施体制】 ・ 庁内に「コンパクトなまちづくりによるCO2削減推進本部」を設置(2008 年)。環境、都市計画、 交通、福祉など多様な関連部局が広く参加する連携体制を築いている。 2025 年までに公共交通沿線に居住する市民の割合 42%。(2005 年時点では 28%) 【CO2削減関連効果】 ・ LRT開業以降、利用者が大幅増。(いずれも平成 17 年度(旧富山港線)と 18 年度の比較) 平日:2,266 人/日→4,988 人/日(120%増) 休日:1,045 人/日→5,576 人/日(434%増) ・ そのうちおよそ1割が自動車からの転換。 【目標】 ・ 2025 年までに公共交通沿線に居住する市民の割合 42%。(2005 年時点では 28%) 【課題】 ・ 富山県の世帯あたり乗用車保有台数は 1.73 台と依然高く(2008 年 3 月末、財団法人自動車 検査登録情報協会)、すでに拡大した郊外も含めて具体的にどのようにコンパクトシティ整備を 進めていくかが今後の大きな課題である。 【類似事例】 ・ 郊外から都心部への住替え補助制度については、金沢市、福井市などで類似事例あり。 ・ 上下分離方式については、後述の和歌山電鉄、若桜電鉄の事例も参照されたい。 【参考資料等】 ・ 富山市(2008)「富山市都市マスタープラン」 ・ 富山市(2009)「富山市環境都市モデル計画」 ・ 中出文平(2010)「富山市―串と団子型コンパクトシティへの取り組み」,川上光彦ら編著『人口 減少時代における土地利用計画』(学芸出版社)第 19 章 ・ 深山剛・加藤浩徳・城山英明(2007)「なぜ富山市ではLRT導入に成功したのか」, 『運輸政策 研究』, No.10(1), pp.22-37. 129 3)コンパクトシティ形成(青森市) コンパクトシティ形成 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定 【ポイント】 ・ 他の都市政策(除雪負担の軽減、福祉)との連携 所管 青森市 実施時期 1998 年 中心市街地再活性化基本計画 1999 年 都市計画マスタープラン策定 背景・目的 【背景】 ・ 1970-90 年代にかけて、郊外開発を行った結果、中心市街地から郊外への人口流出及び大規 模施設の移転が進んだ。 ・ インフラ整備等の行政コストの非効率化が顕在。特に全国の県庁所在地で唯一の特別豪雪地 帯でもあることから、高額な除雪費(約 20-30 億円/年)が問題となっていた。 【目的】 都市のコンパクト化を図ることで、行政コストの削減を図ると同時に、中心市街地活性化を目指 す。 内容 【主な取組み】 <エリア別のまちづくり計画> 市街地をインナー、ミッド、アウターの三区画に分類し、それぞれの地域特性に応じた都市整備を 推進。 青森市の将来都市構造 出所:青森市(1999) インナーシティ (2,000ha) ミッドシティ (3,000ha) アウターシティ (65,400ha) 各区分の土地利用方針 ・ 都市の中枢性を高める商業・行政機能と都心との近接性を 生かした居住機能等を配置 ・ 土地の高度利用を進めてコンパクトシティの中核部を形成 ・ ゆとりある居住機能やそれを支える近隣的商業機能を配置 ・ コンパクトな都市づくりとそれを支える都市活力のバランス を維持 ・ 豊かな自然を守るため農業・自然機能を配置 ・ それらの維持に必要な集落の配置を通じて、コンパクトシテ ィ形成を後方から支援 出所:青森市(1999)をもとに作成 130 効果・実績 課題 備考 <中心市街地活性化> ・ 行政、商業、医療、文化等の各施設に歩いて回れる「ウォーカブルタウン」を目指し、各都市機 能を集約。 ・ 大型複合商業施設「アウガ」の建設。 <「まちなか居住」の推進> ・ 「まちなか居住誘導エリア」の設定(中心市街地を含む 337ha)。 ・ 青森駅前にライフサポート付き高齢者向けマンション建設(107 戸)他、分譲マンション建設推 進。 ・ 借上げ公営住宅の提供。(同時に郊外の老朽化した公営住宅を廃止) <その他> ・ 郊外での市街化抑制。 【CO2削減関連効果】 1999 年から 2005 年の間、一人当たり旅客自動車CO2排出量が 25%減少。 【その他効果】 2005 年以降、インナーの人口減少に歯止め。まちなか居住誘導エリア全体では未だに人口減少 傾向があるものの、重点地区(エリア内 117ha)では 2000 年以降人口増加。 ・ アウガ運営の第三セクターが、再開発事業融資金利の支払いなどで 2008 年度事実上の債務 超過状態。 ・ 中心市街地活性化への過大な投資は、議会でも追及されるなど、必ずしも市民の理解を得られ ていない。 【参考資料等】 ・ 青森市(1999)「都市計画マスタープラン」 ・ 環境省(2009)「地方公共団体における施策事例(地球温暖化対策地方公共団体実行計画策 定マニュアル参考資料)」 ・ 海道清信(2010)「青森市―コンパクトシティのこれまでとこれから」,川上光彦ら編著『人口減少 時代における土地利用計画』(学芸出版社)第 18 章 131 4)公共交通中心の持続的まちづくり(ケンブリッジ) 公共交通中心の持続的まちづくり 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定、制度 【ポイント】 ・ 科学的計画策定。 ・ 土地利用と交通の連携。 ・ 他の都市政策(住宅、経済開発)との連携。 ・ 駐車場供給抑制の実施。 所管 ケンブリッジ(英国) 実施時期 2000 年 第1次地域交通計画策定 2003 年 県基本計画策定 2006 年 第2次地域交通計画策定 背景・目的 【背景】 ・ 人口約 12 万人、800 年近くの歴史を有するケンブリッジ大学を中心とする大学都市。 ・ 1990 年代以降開発圧力が高まり、①都市部や幹線での交通混雑増、②不十分な住宅供給と 関連交通施設整備、③バス利用の低迷(同規模自治体との比較)、④農村地域との間の公共 交通サービスの不備、⑤交通事故の増加などの問題を抱えていた。 ・ これら課題に対処するため、2000 年に第1次地域交通計画(LTP1)を策定(2001-06 年の五 カ年計画)。 ・ 2003 年に県レベルでの土地利用計画を定める基本計画の策定を受けて、LTP1 を改正。住宅 需要増などが見込まれる中、地域経済ニーズに適う交通システムの整備が目標として盛り込ま れた。 【目的】 ・ 上記諸課題の改善・解決。 ・ 安全で持続的(特に経済や環境を考慮)な交通システムの整備。 ・ 自動車移動ニーズの最小化とアクセシビリティの向上。 内容 【主な取組み】 <交通関連> ・ バスを中心とした公共交通網の整備。あわせて、①運行頻度の増加、②低床バス導入による バリアフリー化、③分かりやすい時刻表の配布など住民への情報提供、④車両の改善などの 利便性向上施策を実施。 ・ パークアンドライドの充実(市内5ヶ所、約 5,000 台分)。 ・ 市内中心部の交通規制。バス・タクシー・自転車以外の車両進入禁止区域が 1997 年に設定さ れ、以降拡張されている。 ・ 自転車利用環境の整備。 ・ 駐車場供給抑制。附置義務で上限値を設定。 ・ 廃止された鉄道路線を利用したBRT整備(Cambridgeshire Guided Busway , 2011 年夏開 業予定)。2006 年策定 LTP2 の最主要プロジェクトとされる。 ↑専用レーン(整備中)を走行するBRT ←自転車の多い市内中心部 132 効果・実績 備考 <土地利用関連> ・ 郊外への立地規制。 ・ 公共交通へのアクセスを考慮したニュータウン開発。住宅需要は今後増加が見込まれているた め、宅地開発と持続的なまちづくりが総合的に検討されている。 ・ 大学や研究所の近辺に手頃な賃貸住宅を確保できるような住宅制度。良質な研究環境を維持 するため。 <その他> ・ 土地利用・交通計画の策定に、地元の実業家、政治家、大学研究者などからなる NPO 「Cambridge Futures」が参画。 ・ 計画策定においては、その中心メンバーの一人であるケンブリッジ大学マーシャル・エシュニッ ク教授の開発したコンピュータ土地利用交通総合分析モデル(MEPLAN)を活用。 【CO2削減関連効果】 ・ LTP1 の期間中(2001-06 年)、バス利用者及びパークアンドライド利用者がそれぞれ 45%、 71%増加。⇒2005 年に運輸省から地域交通サービスに関する優秀賞を受賞。 ・ 市内への流入交通量が 2001 年比で 4.4%減少(2004 年)。 ・ 市内中心部の交通手段としては自転車の利用割合が最も多い。 【その他効果】 ・ 交通事故死亡・重傷者数が、1994-98 年の間の平均に比べて 23%減少(2005 年)。 【参考資料等】 ・ ケンブリッジ市議会 HP http://www.cambridge.gov.uk/ccm/portal/ ・ Cambridge Futures HP http://www.cambridgefutures.org/index.htm ・ Wikipedia – Cambridgeshire Guided Busway http://en.wikipedia.org/wiki/Cambridgeshire_Guided_Busway ・ 中野宏幸(2007)「英国のバス事業と新地域交通戦略-規制緩和下におけるコラボレーションの 取組み」,『運輸政策研究』, No.10(2), pp.22-33. 133 5)LRTを軸としたまちづくり(ストラスブール) LRTを軸としたまちづくり 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定、資金調達 【ポイント】 ・ 施策間の連携。 ・ 大規模公的支援による資金調達。 所管 ストラスブール(フランス) 実施時期 1994 年 LRT開業 背景・目的 ・ 1962 年にそれまでの路面電車が廃止されて以降、渋滞や騒音、大気汚染など様々な都市交 通問題が深刻化していた。 ・ 1989 年にLRT推進派市長が当選し、LRT整備を軸とした交通計画が策定される。当時の自動 車の交通分担率 72%を 50%にまで引き下げることを目指した。 内容 【主な取組み】 <LRT整備> ・ 1994 年LRT開業。2010 年 11 月時点で、総延長 55.8km、A~F線の6路線が運行。 ・ 完全バリアフリー(低床化)。自転車やペットの持込みも可。 ・ 開業に合わせて、LRTとの接続性向上のためバス網を再編。また一枚の切符でバス・LRT間 の乗り継ぎが可能。 ・ 郊外の停留所にはパークアンドライドを整備。その駐車料金(LRT運賃込)は約3ユーロで、こ れは都心部の平均的な駐車料金約1~2時間分に相当する。 LRT路線図(2010 年、「P+R」の表示はパークアンドライド設置停留所) 出所:Mobilicites.com 134 トランジットモール ストラスブールのLRT <中心市街地への自動車流入抑制> ・ 都心部を貫く幹線道路を遮断し、迂回するバイパス道路を整備。 ・ 都心部で一方通行や通行禁止など交通規制を導入。 効果・実績 【予算規模】 ・ LRTの初期(A線)整備費用は 3 億 9300 万ユーロ。 ・ 実際の運行はストラスブール交通会社(第3セクター)が担当するが、運賃収入は運営費のおよ そ 2/3 で(ただしバスも含む)、残りは自治体の税金で賄われる。 【CO2削減関連効果】 ・ 公共交通利用者の大幅増。 ・ 都心部の自動車交通量が 15%減少。 表 LRT開業前後の利用客数の変化(表内数字は平日の利用人数) 9 月期 10 月期 1995 年 1994 年 1995 年 1994 年 60,000 63,000 LRT 146,000 155,000 157,000 169,000 バス 206,000 155,000 222,000 169,000 合計 出所:辻本(2009) 【その他効果】 備考 【参考資料等】 ・ Mobilicities.com http://www.mobilicites.com/ ・ 辻本勝久(2009)「地方都市圏の交通とまちづくり」(学芸出版社) 135 6)スマート・ウェルネス・シティ構想(三条市) スマート・ウェルネス・シティ構想 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定 【ポイント】 ・ 他の都市政策(健康増進)との連携。 ・ 庁内連携体制の構築。 所管 三条市 実施時期 2009 年より 背景・目的 【背景】 ・ 2006 年より健康運動教室の開催や食育の推進を展開(筑波大学及び株式会社つくばウェルネ スリサーチとの連携)⇒「狭義の健康施策」 ・ 2009 年「スマート・ウェルネス・シティ首長研究会」(幹事:筑波大学大学院久野教授)発足に参 画、本構想の立ち上げ⇒まちづくりを「広義の健康施策」として位置付け。 【目的】 ・ 地域公共交通施策を含めたまちづくりも視野に入れることで、市の健康施策をより幅広く総合的 に推進。 内容 【概要】 公共交通網整備等の交通施策と中心市街地活性化等の土地利用施策を、「広義の健康施策」と して位置付け。 出所:「三条市スマート・ウェルネス・シティ・プロジェクト」 (健康のための地域づくりの総合的推進に関する省庁連絡会資料) 【主な取組み】 ・ デマンドバス・タクシー、コミュニティバス、高校生通学ライナーバスの運行(いずれも平成 19 年 度地域公共交通総合連携計画で定められた事業の社会実験として実施)。移動の足を確保す ることで、特に高齢者の外出を促す。 ・ 空き店舗活用(新規出店者支援等)、まちなかコンシェルジュ事業等による中心市街地活性化 プロジェクト(平成 23 年度予算 856 万円) 136 出所:同上 【実施体制】 ・ 福祉、産業、建設等の庁内関連部局が連携して事業を展開。 ・ 筑波大学とも連携。三条市は実験フィールドの提供により、大学は研究成果をふまえた提言等 により、互いに貢献し合う関係。 出所:同上 効果・実績 備考 【適用実績】 輸送人員(人/日) 292.4 三条市デマンド交通 152.6 高校生通学ライナーバス 18.8 井栗地区コミュニティバス 出所:三条市(2011) ※三条市デマンド交通は 2010 年 10-12 月、その他は同年 4-12 月実績 【CO2削減関連効果】 ・ バス待ち時間や自家用車による家族送迎の減少。 【参考資料等】 ・ 「三条市スマート・ウェルネス・シティ・プロジェクト」(健康のための地域づくりの総合的推進に関 する省庁連絡会資料) http://www.city.sanjo.niigata.jp/common/000038558.pdf ・ 三条市(2011)「三条市地域公共交通活性化・再生総合事業 平成 22 年度事後評価」 137 7)エネルギー域内自給型の都市再開発(マルメ) エネルギー域内自給型の都市再開発 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定 【ポイント】 ・ 他の都市政策(エネルギー)との連携。 所管 マルメ(スウェーデン) 実施時期 2001 年 背景・目的 【背景】 ・ 国際住宅展示会の開催にあわせて、港湾地区(ウェスタンハーバーBo01 地区)を近未来型の 持続可能都市モデルとして再開発。 ・ およそ 350 のアパートを建設。企業誘致も積極的に行っている。 【目的】 ・ 交通、エネルギー等あらゆる面で環境に配慮した都市再開発。高密都市の環境適応として国 際的な先進モデルケースを目指す。 内容 【主な取組み】 <交通関連> ・ 歩行者及び自転車優先の徹底。 ・ 他地区へのバスアクセスの充実。全ての住居は最寄りのバス停から 300 メートル以内に位置す る。また地区を運行するバスの燃料は代替エネルギーで賄われる。 ・ カーシェアリングの導入。 <エネルギー関連> ・ 域内のエネルギー需要の全てが、域内で生産された再生可能エネルギー(太陽光発電、風力 発電、バイオガス、ヒートポンプ等)により供給されるシステムを構築。例えば、域内のビルやア パートに総面積 1,400 平方メートルの太陽光パネルを設置。 <その他> ・ 住民や企業を対象としたモビリティマネジメントの実施。 個性的な住宅と太陽光パネル Bo01 地区全域 138 効果・実績 備考 【CO2削減関連効果】 ・ 域内生産の再生可能エネルギーのみによって、域内エネルギー需要の完全自給を達成。 【その他効果・実績】 ・ 2006 年までに 950 の居住棟が完成。また域内だけで 6,000 人を雇用。 【参考資料等】 ・ マルメ市 HP – Bo01, expo area http://www.malmo.se/English/Western-Harbour/Plans-and-on-going-projects/Bo01-ex po-area.html ・ 同上– Vastra Hamnen The Bo01-area http://www.malmo.se/download/18.7101b483110ca54a562800010420/westernharbour 06.pdf 139 8)混雑税による道路課金(ロンドン) 混雑税による道路課金 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定、制度 【ポイント】 ・ 科学的計画策定。 ・ ロードプライシングの導入。 所管 ロンドン(英国) 実施時期 2003 年 混雑税導入 背景・目的 【背景】 ・ 混雑税(Congestion Charge)導入前のロンドンは、市街中心部での渋滞が深刻化していた。 (自動車の平均速度は時速 10 キロメートル強、経済的損失は一週間あたり数億円との推計も) ・ 1998 年に英国政府が地方自治体に対して混雑税や駐車課金の実施権限を付与したことを受 けて、2002 年にリビングストン市長が混雑税の導入を決定。翌年より運用が開始された。 【目的】 課金によって、渋滞の緩和・解消、公共交通機関など他の交通手段への転換の促進、大気汚染 の改善を図る。 内容 【概要】 市内中心部の約 21 平方キロメートルのエリアに流入する自動車に対して、混雑税が課される。平 日の 7-18 時のみ実施。 混雑税対象区域(オレンジ色で示される部分) 出所:ロンドン交通局 HP 【主な取組み】 ・ 課金額は 10 ポンド(2011 年 1 月改正時点)。ただし近隣住民や免許タクシー、エコカー運転者 に対しては割引あり。 ・ 利用者の混雑税支払いは、携帯電話やインターネットの他、各種小売店で行うことができる。 ・ 不払いに対しては、120 ポンドの罰金(支払いのタイミングにより増減あり)。混雑税の支払い状 況は、市内各所に設置された監視カメラによる車両ナンバーとの照合で確認。 ・ 混雑税収入は、公共交通網の整備や道路の安全性向上のために使われるとされる。 140 課税ゾーンを表す標識と道路標示 効果・実績 ・ 導 入 効 果 の 評 価 に 、 コ ン ピ ュ ー タ 土 地 利 用 交 通 総 合 分 析 モ デ ル ( MEPLAN ) を 活 用 。 (MEPLAN については、ケンブリッジの事例参照) 【CO2削減関連効果】 ・ 混雑税導入により、課税区域内の1日あたり自動車交通量がおよそ 19 万台から 12-13 万台程 度に減少。 ・ この減少分の内訳は、50-60%が公共交通利用への転換、20-30%が課税区域を避けての移 動と推計される。 ・ 課税区域内の渋滞が 30%減少。 ・ 2003 年の課税区域内の交通由来のCO2排出量は前年比 16.4%減少。 都心部(課税区域)における1日あたり自動車交通量の変化 出所:ロンドン交通局(2007) 課題 備考 【その他効果・実績】 ・ バスの混雑による運行時間の遅れが 60%減少。また、待ち時間が 33%減少。朝のピーク時の 利用客数が 29,000 人増加。 ・ 課税区域での交通事故負傷者数は、混雑税導入前は年間約 2,600 人であったのが、2005 年 には 1,629 人に減少。(ただし混雑税の寄与がどの程度かは不明) ・ 2006 年度の混雑税収入は 252.4 百万ポンド(混雑税に伴うシステム運営管理費は 130.1 百万 ポンド)。これはロンドン交通局の年間収入の 8.5%にあたる。 ・ 市内の特定地区のみを対象としているため、域内の輸送コスト増など経済的な不公平に伴う問 題が指摘されている。 ・ 車両ナンバープレートの偽造や盗難が相次いでいる。(250 台に1台は偽造であり、また年間4 万台分のプレートが盗まれた(2006 年)との報告がある) 【類似事例】 ・ 都市中心部への自動車流入への課金については、シンガポール、メルボルン、トロント、オス 141 ロ、ベルゲン等で類似事例あり。 【参考資料等】 ・ ロンドン交通局(Transport for London) HP http://www.tfl.gov.uk/roadusers/congestioncharging/ ・ ロンドン交通局(2007)「London Travel Report 2007」 ・ Wikipedia - London congestion charge(英語) http://en.wikipedia.org/wiki/London_congestion_charge ・ 日本高速道路保有・債務返済機構(2010)「欧米のロードプライシング」, 高速道路機構海外調 査シリーズ第 9 号. 142 9)NATA による計画評価と利害関係者の協議(ヘイスティングス) ロードプライシング 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 計画策定、制度、人づくり 【ポイント】 ・ 科学的な計画策定 ・ 国の計画制度体系 ・ 住民への働きかけ 所管 ヘイスティングス(英国) 実施時期 2000 年 背景・目的 ・ 英国で 2000 年に導入された GOMMMS(マルチモーダル交通計画の評価手法)の初の適用 事例として、同年、ヘイスティングス周辺における交通計画の評価が行われた。 内容 【取組み概要】 ・ 計画案として、様々な計画を組み合わせた5つの戦略が提案された。各戦略はそれぞれ、公共 交通サービスの改善、バイパス整備、駐車場整備等を含む。 ・ 各戦略について NATA による評価を行い、環境、安全性、経済性、アクセスの容易さ、統合に 関して代替案比較を行った。また、交通モデルを用いた代替案評価も実施した。 ・ これらの評価の結果を用いて、住民ら利害関係者との協議、調整が行われた。 【利害関係者との協議】 ・ 政府関係者、地元議員、民間企業関係者等からなる運営グループを設置し、随時ディスカッショ ンを実施。 ・ 2000 年6月~8月の間に、計 24 回の公聴会を開催し、合計で約 4,500 人が参加。 ・ 地域の 199 の企業に対して、交通政策に関する電話インタビューを行い、産業界からの意見集 約を行った。 ・ 地域の約 1,400 世帯に対して交通に関するアンケート調査を行い、住民からの意見集約を行っ た。 ・ その他、ワークショップ等を複数回開催し、地元住民らとの意見交換を行った。 ・ 2000 年 8 月までにおよそ 300 の意見書が提出された。 評価対象計画案(出所:野澤(2003)) 143 NATA による評価結果(出所:同上) 実績 備考 協議の結果を反映し、最も望ましい戦略を選定し、最終報告書が作成された。しかし、提案に含ま れていた新規バイパス整備の申請が却下されたため(2001 年7月)、最終的な実施計画は未策 定の状況。 【参考資料等】 ・ 野澤(2003)「マルチモーダルな交通計画の評価手法に関する研究―英国のアプローチ」,国土 交通政策研究第 18 号(原典:英国交通省資料) 144 10)ロードプライシング(シンガポール) ロードプライシング 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 制度 【ポイント】 ・ ロードプライシングの導入。 所管 シンガポール 実施時期 1975 年 通行料徴収制度導入 1998 年 ERPシステム導入 背景・目的 ・ シンガポールは人口密度が非常に高く、市街中心部への交通流入量抑制のために 1975 年に 通行料徴収制度を導入。 ・ 1998 年に現行の電子道路課金(Electronic Road Pricing: ERP)システムを導入し、自動的 に課金される仕組みとなった。 内容 【主な取組み(現行の ERP システムについて)】 ・ 市街中心部、及び中心部に乗り入れる三つの高速道路を対象に課金。 ・ 市内 80 ヶ所に設置されたガントリー(架空ゲート)により通行をチェック、課金を行う。自動車に はICキャッシュカードを差し込む車載器(In-vehicle Unit)が搭載され、ガントリーの下を通行 すると自動的に料金が引かれる。車載器は、旅行者など短期滞在者向けにレンタル制度も用 意されている。 ・ 料金は 30 分ごとに設定され、さらに車種や場所によっても異なる。乗用車の場合、概ね 0.5~ 3.5 シンガポール・ドル程度に設定される81。混雑度などの実績をふまえて、三か月に一度料金 体系が改定されることになっている。 ・ 何らかの理由(車載器未搭載、キャッシュカードの残高不足等)で料金が徴収されなかった場 合、追徴金もしくは罰金が科される(ガントリー設置の監視カメラにより車両のナンバープレート が読み取られる)。二週間以内であれば通行料+10 シンガポール・ドルだが、それを過ぎると 70 シンガポール・ドルの罰金が科される。さらに罰金の支払いを怠ると、懲役刑となる場合もあ る。 ・ 通行料等の収入は、公共交通機関の整備や鉄道駅周辺の住宅整備など、土地利用と交通が 連動した社会資本整備に充てられる。 ERP ガントリー 効果・実績 81 通行料を表示する標識 【CO2削減関連効果】 ・ ERP導入以降、対象区域内の交通量が 13%減少。(一日当たり 270,000 台→235,000 台) ・ ピーク時の自動車通行の平均速度が 20%上昇。 【その他効果・実績】 ・ ERP による通行料及び追徴金等の収入は年間約 8,000 万シンガポール・ドル。なお、ERP シ ステムの運営費用はその約 2 割にあたる約 1,600 万シンガポール・ドルである。 1 シンガポール・ドル=約 65 円(2011 年 7 月現在) 145 備考 【参考資料等】 ・ シンガポール陸上交通局(Land Transport Authority) HP http://www.lta.gov.sg/motoring_matters/index_motoring_erp.htm ・ Wikipedia – Electronic Road Pricing(英語) http://en.wikipedia.org/wiki/Electronic_Road_Pricing ・ 東京都環境局 HP-シンガポールのロードプライシング http://www.kankyo.metro.tokyo.jp/vehicle/management/price/country/singapore.html ・ 日本高速道路保有・債務返済機構(2010)「欧米のロードプライシング」, 高速道路機構海外調 査シリーズ第 9 号. 146 11)商店街のトランジットモール(那覇市) 商店街のトランジットモール 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 制度 【ポイント】 ・ トランジットモールの導入。 所管 那覇市 実施時期 2001 年 社会実験として導入。 2007 年 本格実施の開始 背景・目的 ・ 国際通りは、那覇市のメインストリートとして発展してきたが、交通渋滞や環境悪化、さらには郊 外大型店の進出などにより商店街の衰退などの問題を抱えていた。 ・ 2001 年~05 年の間、「人にやさしいまち、歩いて楽しいまち」のコンセプトのもと、同通りにて 11 回のトランジットモール実証実験を実施(国土交通省の補助による社会実験)。 ・ 2007 年より毎週日曜日の本格的な実施を開始。 内容 【主な取組み】 ・ 毎週日曜日 12 時~18 時の間、国際通り(県道 39 号線)の一部区間約 1.3km をトランジットモ ール化。 ・ 実施中、一般車両の進入は規制され、また通りを運行する路線バスも迂回コースを走る。 ・ 一方、通りの移動を便利にするため、専用のコミュニティバスを 20 分間隔で運行。歩行者の安 全確保のため、時速 8km の低速で音楽を鳴らしながら運行される。運賃は 200 円。 ・ 商店街で一定金額以上の買い物をした人に、100 円相当のコミュニティバス乗車補助券を配 布。 ・ 商店街活性化のため、オープンカフェやストリートパフォーマンスを実施。 トランジットモール実施エリア トランジットモールの様子 【実施体制】 ・ 本格導入に向けて委員会を設置。国や県の関係者、市長、警察などを含めた構成となってお り、特に地元警察の協力を得た意義は大きい。 ・ 宣伝のため、県内の広報・マスコミを積極的に活用。 147 効果・実績 備考 ・ 商店街来場者は、実施前 20,974 人(2003 年休日平均)だったところ、トランジットモール実施時 平均 28,405 人に増加。 ・ 騒音問題の改善。 【参考資料等】 ・ 国際通り県庁駅前商店街 HP http://www.kokusai-ekimae.info/index.html ・ 富山市第 3 回まちづくりセミナー「国際通りトランジットモールの取組み」資料 http://www.city.toyama.toyama.jp/data/open/cnt/3/2964/1/3.pdf 148 12)離れた地域での環境資産保全等による容積率緩和(名古屋市) 離れた地域での環境資産保全等による容積率緩和 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 制度 【ポイント】 ・ 容積率緩和制度の導入。 所管 名古屋市 実施時期 2010 年 都市再生特別地区運用指針策定 背景・目的 ・ 都心部における民間の開発意欲を活用して、市内における緑地や歴史的建造物の保全・活用 を図ることを目的として、都市再生特別地区制度を活用した容積率緩和の仕組みを導入した。 内容 【取組み概要】 ・ 都市再生特別地区82を活用し、離れた地域であっても緑地や歴史的建造物の保全を都市再生 への貢献(都市再生特別地区の要件)として評価し、特別地区内の建築物の容積率割り増しを 認める。 ・ 緑地保全に関しては、従前のような同一地区内の環境整備等とは異なるので、例えば開発事 業者による未整備の都市計画公園・緑地内の民有緑地の寄付等も公共貢献の評価対象として 想定している。 容積率緩和のイメージ(出所:名古屋市(2010)) 実績等 備考 82 ・ 2011 年8月に、離れた地域の緑地や歴史的建造物の保全を図る内容を含む都市再生特別地 区の提案を受け、2012 年中の都市計画決定を目指しているところ。 【参考資料等】 ・ 名古屋市(2010)「都市再生特別地区運用指針」 都市の再生に貢献し、土地の合理的かつ健全な高度利用を図る特別な用途、容積、高さ、配列等の建築物を誘導する 必要があると認められる区域として都市計画に定める地区。 149 13)大規模コミュニティサイクルの導入(パリ) 大規模コミュニティサイクルの導入 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 資金調達 【ポイント】 ・ 民間資本の活用。 所管 パリ(フランス) 実施時期 2007 年 7 月 ヴェリブ開始 背景・目的 【背景】 デラノエ市長は 2001 年の就任以来、環境保護と交通渋滞緩和の観点から自動車利用削減に力 を入れてきた(LRT整備、セーヌ川定期船運行、カーシェアリング等)。その一環として自転車利用 を積極的に推進している。 【目的】 自転車利用環境の向上、またそれに伴う公共交通利便性の向上により、自動車からの転換を図 る。 内容 【概要】 大規模貸し自転車サービスの導入、及び自転車利用環境整備。 【取組み概要】 <ヴェリブ関連> ・ 乗り捨て型貸し自転車サービス「ヴェリブ」(Velib)の導入(2007 年)。 ・ 広告大手 JC Decaux 社との共同事業。 ・ パリ市全域で約 1,800 カ所の無人ステーションが設置されており(市内中心部では 300 メートル 毎に設置されていることになる)、2 万台以上の自転車が 24 時間利用可能(2011 年 5 月時 点)。 ・ 特にバスや地下鉄など公共交通との結節点に重点的に設置され、公共交通の利便性向上も図 られている。 ・ 利用には「登録料」(パスの購入)及び「利用料」(使用時間に応じて課金)の支払いが必要。 (登録料) パスの種類 料金 (利用料) 使用時間 料金 1日(24 時間) 1.70€ ~30 分 無料 1週間 8€ ~60 分 1€ 1年間 29€(学生 19€) ~90 分 ~120 分 2€ 4€ ※いずれも 2011 年 5 月時点 ・ 基本的には短距離の移動手段を意図しており、また自転車の回転効率向上や盗難防止のため にも、利用料は長時間使用になるほど割高になるよう設定。一方、30 分以内であれば何度利 用しても無料。 ・ 自転車は壊れにくいよう頑丈に設計されており、重量 22.4kg とやや重い。位置確認のため GPS が取り付けられている。 ・ 委託を受けた管理会社が定期的にステーションを巡回し、故障車両の修理や、車両の偏在解 消のための移動を行っている。 ・ 観光の足として、観光客にも積極的に宣伝。 150 ヴェリブの自転車 ステーション <その他> ・ 自転車レーンの大規模整備・拡張。 ・ 中心市街地への自家用車乗入れ規制、路上駐車スペースの削減。 効果・実績 課題 備考 【予算】 <ヴェリブ関連> ・ ヴェリブのサービスに関わる整備・運営の費用は全て JC Decaux 社負担。 ・ 市は JC Decaux 社に対し、1,628 ヶ所の市所有の屋外看板に独占的な広告掲載の権利を付 与。 【実績】 ・ ヴェリブサービス開始一年で、のべ 2,750 万人が利用。20 万人が年間パスを購入。 ・ 自転車道路は 8km(1995 年)から 371km(2007 年)へ大幅に拡張。 【CO2削減効果】 ・ 一連の施策で 2001~07 年の間に市内の自動車交通量が 20%減少したという調査結果はある が、ヴェリブ導入による自動車からの転換及びCO2削減効果は不明。 <ヴェリブ関連> ・ 当初の想定を上回る盗難・破損の多さに、JC Decaux 社はパリ市に修理維持費の一部負担を 求めた。2009 年、盗難・破損台数が一定数を越えた場合、市が 400 ユーロ/台を支払う契約 改正を行った。 ・ あまりの利用率の高さに、供給が需要に追い付いていないことが問題となっている(利用したい 時に利用できない等)。 【類似事例】 オスロ、ストックホルム、ウィーン、バルセロナ等、また国内では富山市で類似事例あり。 【参考資料等】 ・ ヴェリブ HP(英語) http://en.velib.paris.fr/ ・ Wikipedia – ヴェリブ http://ja.wikipedia.org/wiki/ヴェリブ ・ 芝原隆(2009)「第2回パリのレンタサイクル「ヴェリブ」の効果と課題」, 広報誌「みんてつ」(社 団法人日本民営鉄道協会), Vol.32, pp.22-25. ・ AFPBB News「パリ市がレンタル自転車システム導入、環境問題への新政策」(2007 年 6 月 14 日) http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2239313/1691234 151 14)地域鉄道存続のための公的支援(和歌山県) 地域鉄道存続のための公的支援 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 資金調達、人づくり 【ポイント】 ・ 公的資金の投入。 ・ 地域づくり推進の担い手の育成及び活動支援 所管 和歌山県、和歌山市、貴志川町 実施時期 2005 年 沿線自治体による支援方針発表 2006 年 新規運行主体の和歌山電鉄が事業継承 背景 ・ 貴志川線の利用客数は、1970 年代以降モータリゼーションの進展などを受けて減少著しく、 2004 年度の年間輸送人員 192.5 万人はピーク時(1974 年度)のおよそ半分。 ・ 2003 年、運営事業者の南海電鉄が同線の廃止検討を表明。翌年 9 月、鉄道事業法に基づく事 業廃止届提出。 ・ 2004 年より沿線住民らによる貴志川線存続を求める住民運動が活発化し、これを受けて自治 体は公的支援の方針を発表。 ・ 公募により和歌山電鉄(岡山電気軌道株式会社が貴志川線継承会社として設立した子会社) が運行主体となることが決定。2006 年 4 月に事業継承。 内容 【沿線自治体による貴志川線支援の取組み】 <和歌山県> ・ 和歌山市と貴志川町の鉄道用地取得費を補助金で全額負担。 ・ 将来の大規模修繕費(変電所等)として 2 億 4000 万円負担。 ・ これらの補助に際して、①県は鉄道運営主体として参画しない、②和歌山市と貴志川町が 10 年以上の運行を担保する、ことを条件とした。 <和歌山市、貴志川町> ・ 鉄道用地を買い取り、保有。土地を和歌山電鉄に無償貸与。 ・ 和歌山電鉄への赤字補填について、和歌山市 65%、貴志川町 35%の割合で、累計 8 億 2000 万円を上限に 10 年間負担。 ・ 運営事業者の公募、選定。 沿線自治体による支援スキーム 出所:国土交通省鉄道局(2009) 【その他取組み】 ・ 存続を訴える住民運動では、市民団体が和歌山大学の協力のもと独自に費用便益分析を実 施。貴志川線の存続が、社会的に見て年間 14.8 億円の黒字をもたらすことを示した。 ・ 2006 年 1 月、持続可能な和歌山都市圏の実現を目指して「和歌山 21 世紀型交通まちづくり協 152 議会」が設置された。国と自治体、交通事業者、経済団体、市民団体、有識者などから成り、交 通計画の策定やモビリティマネジメントの取組みを行っている。 ・ 和歌山電鉄は、約 2000 万円を投じて車両の内外装を改装。このうちおよそ半額は住民からの 寄付。 ・ 和歌山電鉄は、「貴志川線運営委員会」を毎月開催。和歌山電鉄関係者と、地域住民、沿線学 校の学生などで組織され、貴志川線の運営に関する意見交換、イベント企画などを行う。 改装によりユニークな車両が運行 効果・実績 ・ 2006 年度利用客数は前年度比 10%増。 貴志川線年間輸送人員推移 出所:国土交通省鉄道局(2009) 備考 【参考資料等】 ・ 和歌山電鐵株式会社 HP http://www.wakayama-dentetsu.co.jp/ ・ 国土交通省鉄道局(2009)「地方鉄道関係の補助制度について」 ・ 辻本勝久(2009)「地方都市圏の交通とまちづくり」(学芸出版社) 153 15)上下分離方式による地域鉄道運営(鳥取県) 上下分離方式による地域鉄道運営 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 資金調達 【ポイント】 ・ 公的資金の投入、上下分離方式の導入。 所管 鳥取県、若桜町、八頭町 実施時期 2008 年 法定協議会設置、総合連携計画策定 2009 年 鉄道事業再構築実施計画認可、上下分離方式導入を伴う新体制移行 背景 ・ 若桜線は、沿線の過疎化などを受けて利用者が年々減少しており、2008 年の年間利用者数は ピーク時(1999 年)の約 64%にまで減少した。運営事業者の若桜鉄道(県などが出資する第三 セクター)は、赤字補填基金が 2008 年度までに枯渇する見込みとなった。 ・ 2008 年 7 月、運営改善方策検討のため、沿線の若桜町と八頭町及び若桜鉄道が法定協議会 を設置。 ・ 2009 年、国土交通省により鉄道事業再構築実施計画83の認定(計画期間:2009~2018 年度 の 10 年間)。これを受けて、上下分離方式による新運営体制への移行を行った。 内容 【若桜線運営体制】 <鳥取県> ・ 若桜町、八頭町に対する財政支援(2009 年度は 2,500 万円)。 <若桜町、八頭町> ・ 2009 年 4 月に、若桜鉄道が所有する線路、駅施設などの譲渡を受け、保有。第 3 種鉄道事業 者としてこれらの維持管理を行い、第 2 種鉄道事業者である若桜鉄道に無償貸与する。 ・ 両町は、国土交通省より鉄道軌道輸送高度化事業補助費として 10 年間、年あたり約 1 億円の 設備投資費用補助を受ける。内訳は鉄道施設の維持修繕 4 億 2000 万円、鉄道施設の老朽更 新等 3 億 1000 万円など。 再構築事業スキーム 出所:国土交通省鉄道局(2009) 83 地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の規定に基づく。 154 【その他取組み】 ・ 沿線自治体職員への鉄道通勤奨励、自治会による計画的な回数券購入など、地域での利用促 進の取組みを行っている。 ・ 再構築事業の一環として、観光資源(SL 運転体験等)を活用した増収も図る。 効果・実績 備考 若桜鉄道路線 出所:若桜町・八頭町(2009) ・ 若桜鉄道は、各種の取組みによる増収と維持管理負担の軽減により、計画期間中を通じて概 ね収支均衡を維持。 【参考資料等】 ・ 若桜鉄道株式会社 HP http://www.infosakyu.ne.jp/~wakatetu/ ・ Wikipedia-若桜鉄道 http://ja.wikipedia.org/wiki/若桜鉄道 ・ 国土交通省鉄道局(2009)「地方鉄道関係の補助制度について」 ・ 若桜町・八頭町(2009)「若桜鉄道の再構築と活性化―過疎のまちの挑戦」 155 16)コミュニティバスの運行(武蔵野市) コミュニティバスの運行 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 資金調達 【ポイント】 ・ 公的資金の投入 所管 武蔵野市 実施時期 1995 年 ムーバス運行開始 背景・目的 交通空白地域の交通ニーズに対応し、多くの人が気軽に出かけられるようなまちを目指す。 内容 【取組み】 ・ 路線バスの停留所から 200m 以上離れた「交通空白地域」及びバス便が一日 100 往復以下の 「交通不便地域」を巡回するようルートを設定。吉祥寺駅、三鷹駅、武蔵境駅を起点とする 7 路 線を運行。 ・ バス停間隔は約 200m。料金は 100 円均一(未就学児無料)。 ・ バス車両は定員約 30 名の小型バス。車いす対応。 ・ 吉祥寺北町のバス停にパークアンドライドを設置。ここでの駐車料金は、商店街での買い物で 割引き適用がある。 ムーバス ムーバス路線図 出所:武蔵野市 HP 実績 【実施体制】 ・ 市がルート等を計画し、民間事業者(関東バス及び小田急バス)に運行委託。車両やバス停な どの施設は市が用意し、事業者に無償貸与。 ・ 運転士は、定年退職者を時給制にて採用。人件費削減を図るとともに、高齢者の再雇用対策と しての役割も持たせている。 当初は補助金での運営を前提とした「福祉事業」としてのスタートだったが、1998 年度より運賃収 156 備考 入のみで黒字経営を続けている。 【類似事例】 京都市、金沢市、長崎市などで類似事例あり。 【参考資料等】 ・ 武蔵野市 HP http://www.city.musashino.lg.jp/cms/guide/00/00/03/00000321.html ・ Wikipedia – ムーバス http://ja.wikipedia.org/wiki/ムーバス 157 17)市民共同によるコミュニティバスの運行(京都市) 市民共同によるコミュニティバスの運行 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 資金調達、人づくり 【ポイント】 ・ 公的資金の投入。 ・ 地域づくり推進の担い手の育成及び活動支援 所管 京都市 実施時期 2001 年 「醍醐地域にコミュニティバスを走らせる市民の会」発足 2004 年 コミュニティバス運行開始 背景 ・ 京都市醍醐地区では、1997 年の市営地下鉄開通に伴い市バスが撤退し、地区内の移動がか えって不便になっていた。地区内には坂が多く、高齢化の中で住民の移動の困難化が問題とな っていた。また、地区内の観光施設(醍醐寺など)へのアクセス向上も課題とされていた。 ・ このような状況の中、コミュニティバスを求める住民ニーズが高まり、2001 年 9 月に「醍醐地域 にコミュニティバスを走らせる市民の会」が発足。翌年、同会は運行計画案を提示し、地域内の 全世帯に配布、意見が集められた。 ・ 運行委託先の事業者選定、国の路線バス運行許可取得を経て、2004 年 2 月醍醐コミュニティ バスが運行開始。 内容 【取組み】 ・ 5 路線あり、1 日約 170 便(各路線毎時 1~3 便)を運行。 ・ 路線の選定に際して、地下鉄駅や地区内の中核病院(武田総合病院)へのアクセス、観光客の 移動利便性などを考慮。住宅街もきめ細かく運行し、高齢者などの交通弱者にも配慮した。 ・ 始発時刻は病院の受付開始前である午前 7 時頃、最終バス時刻は通院や買い物などを終える 午後 8 時頃に設定。 ・ 料金は、大人 200 円、小人(小学生以下)100 円。一日乗車券 300 円(大人・小人共通)。 ・ 車両は低床の小型バスで、車いすの乗客などは乗務員が乗降を補助。 市民活動におけるコミュニティバスの位置付け 出所:醍醐コミュニティバス HP 158 コミュニティバス路線図 出所:醍醐コミュニティバス HP 【実施体制】 ・ 運行経費のうち、運賃収入で 1/2、残りを個人会員(個人応援団)及び企業会員(パートナーズ) からの寄付で賄う。行政の補助は一切なし。 ・ パートナーズには、バス停の副名称に店舗名をつけたり、時刻表等に広告を掲載するなどの特 典が与えられる。 実績 備考 コミュニティバス事業スキーム 出所:醍醐コミュニティバス HP ・ 開業 7 年で、のべ 300 万人が利用。 【参考資料等】 ・ 醍醐コミュニティバス HP http://www16.ocn.ne.jp/~daigobus/ ・ 辻本勝久(2009)「地方都市圏の交通とまちづくり」(学芸出版社) 159 18)定期借地権を活用した商店街再開発(高松市) 定期借地権を活用した商店街再開発 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 資金調達 【ポイント】 ・ 定期借地権の活用。 所管 高松市 実施時期 2002 年 市街地再開発組合設立 2006 年 再開発ビル完成・オープン 背景・目的 ・ 市内中心部にある丸亀町商店街は、郊外大型店との競合等により通行量、売上ともにピーク時 の半分程度にまで減少していた。 ・ 中心市街地活性化の起爆剤とすべく、商店街A街区再開発を実施。 内容 【概要】 再開発の中心となるマンション併設ビル(高松丸亀町壱番街)の建設・運営 【取組み】 ・ 土地の所有形態は従前のままとし、その上に定期借地権(60 年)を設定して建物を建設。地権 者はそれぞれの土地を所有し続け、まちづくり会社(第3セクター高松丸亀町まちづくり株式会 社)と定期借地権契約を結び、土地を貸し出す。 ・ まちづくり会社は建物を所有・管理し、家賃からビルの管理経費を差し引いて地権者に分配す る(地代の劣後化)。家賃収入は店舗の売上により増減するリスクを含み、地代もこれに影響を 受ける(オーナー変動地代家賃制)。 ・ 店舗を設置・経営する側にとっては、保留床価格に土地価格が反映されないので、床価格を低 くおさえられ、まちづくり会社から低家賃で商業床を取得できる。 ・ テナント誘致には地元立地の大型百貨店が協力。 ・ 地権者・まちづくり会社・各テナントが共同でリスクを負担することで、目標を共有し、協力し合 う。地権者 21 人のうち 14 人は出店を前提としてまちづくり会社の共同出資に参画。 出所:高松市(2007) 商店街A街区の様子 160 【実施体制】 まちづくり会社は、公共出資比率 5%の民間主導型第3セクター。残り 95%は地元商店街振興組 合が出資。 効果・実績 備考 【予算】 市街地再開発事業では、総事業費 69 億円のうち補助金約 28 億円。その他都市再生ファンド等を 活用。 ・ 商店街の売上高が最も低いときの 3.3 倍になった。 【参考資料等】 ・ 高松市 HP http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/1910.html ・ 高松市(2007)「事業計画情報:高松丸亀町商店街A街区」 http://www.city.takamatsu.kagawa.jp/file/1906_L17_gaiyou.pdf ・ 高松丸亀町商店街 HP - 再開発について http://www.kame3.jp/redevelopment/ ・ まちなか再生ポータルサイト – まちなか再生事業事例紹介 http://www.machinakasaisei.jp/project/casestudies/kagawa01.html 161 19)職場でのモビリティマネジメント(京都府) 職場でのモビリティマネジメント 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 人づくり 【ポイント】 ・ 一般住民への働きかけ 所管 京都府 実施時期 2005 年より 背景・目的 ・ 宇治市では、人口や企業の集積が進み公共交通も発達しているにも関わらず、自動車利用率 が高いという問題を抱えていた。 ・ 交通渋滞緩和やCO2排出削減の観点から、情報提供と個人の意識への働きかけによるモビリ ティマネジメントを中心とした社会実験を実施。 内容 【取組み】 ・ ワンショットTFP(トラベルフィードバックプログラム)。動機づけ冊子の配布とともに一度だけア ンケートを実施。対象は宇治商工会議所登録の全ての事業者約 150 社の従業員約 4,400 名。 ・ 標準TFP。ワンショットTFPの内容に加えて担当者が個別に複数回のフィードバックを返す。対 象は複数の企業や役所のマイカー通勤者 235 名。 ・ 自治体職員や一般住民を対象とした講習等の実施。 ・ 次年度以降継続して、交通行動の変化をモニタリング。 配布された冊子掲載の時刻表 効果・実績 【実施体制】 地元商工会議所や企業との連携。 【CO2削減関連効果】 ・ 鉄道・バスの利用者がそれぞれ 29%、23%増加(朝7~9時、特定の駅・バス停の乗降者数を 計測) ・ 事業所近辺で自動車利用の減少、及び徒歩の増加(特定の交差点で交通量を計測) ・ 自動車通勤者の約1割が公共交通など他の交通手段に転換。 ・ 上記の効果として、CO2排出量 14.4%削減。 162 各駅定期券外降車人数の変化 出所:京都府資料 備考 【その他効果】 ・ 健康増進効果として、一週間のカロリー消費量が 17%増加。 【類似事例等】 大阪府、兵庫県などで類似事例あり。 【参考資料等】 ・ 京都府 HP http://www.pref.kyoto.jp/tdm/1214285801581.html ・ 京都府―宇治地域通勤交通社会実験推進会議(2006)「宇治地域通勤交通社会実験報告書」 163 20)住民を対象としたモビリティマネジメント(福岡市) 住民を対象としたモビリティマネジメント 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 人づくり 【ポイント】 ・ 一般住民への働きかけ 所管 福岡市 実施時期 2004 年より 背景・目的 ・ 福岡市では、都心部(天神地区)への自動車の集中に起因する様々な問題(道路混雑、環境問 題、事故等)を抱えていた。様々な施策が試みられたが、根本的な解決にはならず。 ・ 一方で、市内に利便性の高い公共交通へアクセスできる地域は多い。 ・ 2004 年より、市民一人一人の意識による行動変容を促すために、一部地域を対象にモビリティ マネジメントを実施。 ・ 継続的な推進体制確立のため、2009 年に協議会「福岡モビリティマネジメント推進連絡会」が 発足。 内容 【概要】 公共交通利用促進のためのモビリティマネジメント 【取組み】 ・ 個別家庭訪問形式のTFP(2004 年実施、対象 1,054 人)。 ・ 家庭へのポスティング形式によるTFP(2007 年実施、対象 36,000 人)。地区ごとの通勤マップ を配布するなど大規模かつ効率的な効果を期待。 ・ 区役所での転入者を対象とした冊子等による情報提供(2010 年 3 月より城南区役所にて実 施)。新規居住者に対して市内の公共交通の利便性をアピールする。 ・ 住民を対象としたセミナー・シンポジウム等の開催。 転入者に配布する地図や時刻表 出所:池田ら(2010) 効果・実績 【実施体制】 国、自治体、学識経験者、交通事業者等からなる協議会。 【CO2削減関連効果】 ・ 家庭訪問形式TFPでは、最初のコンタクトから 2 ヶ月後、9 ヶ月後、21 ヶ月後に効果測定のため のアンケートを実施。TFP前との比較でそれぞれ、自動車利用時間が 21.6%、24.6%、25.3% 減少。 164 ・ ポスティング形式の大規模TFPでは、1 ヶ月後に再アンケート実施。平均で 8.5%の自動車利用 時間減少。 備考 家庭訪問形式TFPの効果 (灰色:情報提供を行わなかったグループ、青色:情報提供を行ったグループ) 出所:西尾(2009) 【参考資料等】 ・ 国土交通省九州地方整備局福岡国道事務所 HP http://www.qsr.mlit.go.jp/fukkoku/mm/index.html ・ 池田稔浩・中村俊之・北村清州・須永大介・牧村和彦(2010)「福岡におけるかしこいクルマの使 い方を考えるプログラム―福岡モビリティマネジメント推進連絡会の活動」, 第 5 回 JCOMM 発 表資料. ・ 西尾崇(2009)「道路行政におけるモビリティマネジメントの取組み」, 第 4 回 JCOMM 発表資 料. 165 21)学校でのモビリティマネジメント(茨城県) 学校でのモビリティマネジメント 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 人づくり 【ポイント】 ・ 一般住民への働きかけ 所管 茨城県 実施時期 2006 年より 小学校における交通教育実施 2007 年より 高校新入生対象のモビリティマネジメント実施 背景・目的 将来の公共交通の利用者である児童・学生向けに、学校教育の場を活用して公共交通の重要性 を呼び掛ける。 内容 【主な取組み】 <小学校における交通教育> ・ ひたちなか市内の小学校で、6年生のクラスを対象にゲーム(交通すごろく)を通して公共交通 の重要性について授業。 ・ 授業や教材作成にあたって、筑波大学大学院谷口綾子講師の協力を得る。 <高校新入生を対象としたモビリティマネジメント> ・ 県内の高校の新入生を対象に、「公共交通利用促進」リーフレットを配布。公共交通が環境に やさしいこと、公共交通の存続には多くの人の協力が必要であること等を呼び掛ける。 ・ あわせて「バスお試し乗車券」も配布。 高校新入生に配布されるリーフレット 出所:茨城県公共交通活性化会議 HP 実績 備考 【実績】 <高校新入生を対象としたモビリティマネジメント> 県内 122 校約 3 万人に対して配布。 【類似事例】 学校でのモビリティマネジメントに関しては、川西市などでも事例あり。 【参考資料等】 ・ 茨城県公共交通活性化会議 HP http://www.koutsu-ibaraki.jp/index.html 166 22)地域住民との連携による地域公共交通活性化(日立市) 地域住民との連携による地域公共交通活性化 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 人づくり 【ポイント】 ・ 地域づくり推進の担い手(NPO、事業者等)の育成及び活動支援 所管 日立市 実施時期 2009 年 3 月 「日立市地域公共交通活性化・再生総合事業」策定 背景 山間部集落を中心に公共交通空白地が目立ち、環境配慮や交通弱者対策のため、自家用車利 用の抑制及び公共交通の確保が望まれていた。 内容 【取組み】 ・ 公共交通に関する「責任と費用の分担」の理解促進のため、地元住民やバス事業者を交えた 懇親会やシンポジウムなどを多数開催。 ・ 地域コミュニティがNPOを設立し、全住民から会費を集めて乗合タクシーを運行(山間部・中里 地区)。市はその活動支援を行う。 ・ 地域コミュニティとバス事業者(日立電鉄交通サービス株式会社)がバス路線を維持するために 協定を締結し、乗車促進に取組む活動を支援。バス事業者は住民との協議内容をふまえて路 線を再編成し、一方で住民はノーマイカー運動等のバス利用を促す試みを地域ぐるみで実施。 出所:日立市公共交通会議 HP 効果・実績 備考 【予算】 「日立市地域公共交通活性化・再生総合事業」として、総事業費 3 億 5,620 万円のうち 1/2 を国 (国土交通省)が補助。 【実績】 ・ 中里地区の乗合いタクシーは、デマンド方式で1日4便運行。2009 年 4~12 月の間にのべ 4,410 人が利用。 ・ 地域住民の意識の醸成、合意形成の確立。取組み実施後の懇親会等でも、公共交通とそのた めの地域負担の継続の必要性が確認された。 ・ これらが評価され、国土交通省より「平成 22 年地域公共交通活性化・再生優良団体大臣表彰」 を受けた。 【参考資料等】 ・ 日立市公共交通会議 HP http://www.city.hitachi.ibaraki.jp/index.html?id=11 167 23)大学を活用した地域公共交通人材育成(ウィスコンシン州) 大学を活用した地域公共交通人材育成 関 連 課 題 ・ 【関連課題】 ポイント 人づくり 【ポイント】 ・ 地域公共交通を担う人材の育成 所管 ウィスコンシン州(米国) 実施時期 1970 年代~現在 背景・目的 交通政策に関して著名な地元大学を活用した地域公共交通を担う人材育成。 内容 【概要】 ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の公共交通教育開発センター(Center for Transportation Education and Development)における地域公共交通に関与する人材育成。 【主な取組み】 <教育関連> ・ 公共交通担当の自治体職員への教育・研修。財政や運営、リスク管理から政策立案まで幅広く 学ぶことができる。GIS を活用した公共交通計画のオンラインコースもある。 ・ 公共交通(主にバス)の管理者や運転手を対象とした教育・研修。「公共交通車両マネジメント」 「乗合いバスの効率的運用」「乗客支援」などの講座がある。 ・ 教材の作成は大学教員やコンサルタントが担当。 ・ RTAP84に基づく受講者には、受講料の8割を州が補助。 表 主な講座(出所:運輸政策研究機構(2011)) 講座名 内容 対象 公共交通車両マネジメント(Transit ・ 車両保守のマネジメント 運転手、ト Fleet Management) ・ 車両保守施設のデザイン レ ー ナ ー 、 とコンサルティング 管理者等 乗客支援:指導者資格(Passenger ・ 乗客への対処方法 運転手、ト Assistance: Certification for ・ 訓練計画の立て方 レーナー、 Trainers) ・ コミュニケーション方法 管理者等 公共交通 公 共 交 通 の 基 礎 ( Fundamentals ・ 公共交通の財政 計画担当 of Public Transit) ・ 運営、計画、管理 者 ・ マーケティング ・ 安全確保 公共交通の政策展開(Operational ・ 意思決定プロセス 公共交通 Policy Development for Public ・ 政策立案 計画担当 Transportation) 者、管理者 等 費用 2 日間 750 ドル 3 日間 725 ドル 2 日間 200 ドル 2 日間 650 ドル 「乗客支援」講座 84 The Rural Transit Assistance Program の略。米国連邦交通庁による地域公共交通計画策定や教育・技術支援に対し て資金提供を行う枠組み。 168 実績 備考 <その他> ・ 知見やノウハウの蓄積などの研究活動。 30 年以上の教育実績 【参考資料等】 ・ ウィスコンシン大学公共交通教育開発センターHP http://www4.uwm.edu/SCE/dci.cfm?id=17 ・ 運輸政策研究機構(2011)「米国における地域公共交通に関する人材育成の動向」,『運輸政 策研究』, Vol.14, No.1, pp.81-85 169