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スイスアルプス野外実習 2007 気象測器レポート

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スイスアルプス野外実習 2007 気象測器レポート
スイスアルプス野外実習 2007
気象測器レポート
加藤健吾(総研大極域科学専攻)
高橋雅博(北大環境科学院)
< 1. Introduction>
1-1. General background
気象観測は、地球環境を科学する上で最も基礎的な資料を得るのに必要である。
今回の気象観測の目的は、Rhone 氷河に於ける気象特性と Rhone 氷河の維持機構、流動
特性、水文現象等を解明する上で基礎データとなる気象項目を得ることである。また、気
象観測から得られた気温データを用い、Degree-day 法から推定した氷河消耗量と氷河上に
埋めた stake から垂直方向を実測した氷河消耗量とを比較した。
1-2. Previous works
気象観測は、世界中のあらゆる場所で行われおり、様々なものに利用されている。
Degree-day 法は、気温データのみを使って融雪量を推定するものであることから、多く
の観測項目を得るには困難な山岳地などでよく利用されている。
1-3. The reason why we do the measurements
今回気象観測を行うのに使用した WXT510 は、自動で連続した気象観測ができ、
Campbell CR1000 は、また Degree-day 法は、気温データのみを用いることから、氷河上
の複数点でも容易に氷河消耗量を推定できることが挙げられる。
1-4. Goals of the study and report
Rhone 氷河に於ける気象特性と Rhone 氷河の維持機構、流動特性、水文現象等を解明す
る上で基礎データとなる気象項目を得る。
Degree-day 法を用い、推定消耗量と実測消耗量を比較し、推定精度を検討する。
< 2. Method and result>
2-1. Study site
今回 Rhone 氷河に於いて観測を行った。Rhone 氷河は、スイスで 9 番目に大きな氷河で
標高約 2300m~3500m にある。Rhone 氷河に於ける各観測点の詳しい場所を Figure1 に
示す。気象観測を行った地点は、標高 2540m。消耗量を実測した各観測点は、標高が高い
方から 0607(2400m)、0608(2350m)、0609(2310m)、0610(2290m)、0611(2270m)の 5 点。
気象観測は、2007 年 7 月 14 日~9 月 7 日に渡って Figure 1 に占めした場所で行った。
実測消耗量の測定は、2007 年 7 月 12 日~9 月 1 日に行った。
0607
気象観測点
0608
0609
0610
0611
Figure1. Map of the study site
2-2. Measurement methods
WXT510 は、風速、風向、降水量、降水時間、降水強度、気圧、湿度、気温を測ること
ができる。風向、風速は、3 個のトランスデューサーが双方向に作る超音波の到達時間から
導きだすことができる。降水は、電気式降水センサーで水滴の衝撃を検知することで量、
時間、強度を測定することができる。装置概要を Figure2 に示す。
Figure2. WXT510
Degree-day 法は、一般に次式で表わされる。
∑M=f∑T
∑M:消耗量(mm)
f:融雪係数(mm/℃・day)
∑T:積算暖度(℃・day)
積算暖度とは、気温が 0℃以上の値を積算したものである。観測された気温データは
5 分おきであるので、day の所は、5 分おきのデータを 288 で割り用いた。各観測点で
得られた実測消耗量と積算暖度から融雪係数を計算し、次に融雪係数を用いて推定消耗
量を計算する。融雪係数は、各観測期間毎に計算し、その期間の加重平均での値を用い
た。
2-3. Result
‹ 気象データのまとめ
2007 年 7 月 14~9 月 7 日の間に Rhone 氷河に設置した気象観測器に記録された気象デー
タの各測定成分について Table と Figure にまとめた。
Table 1
: 5 分間ごとに記録されているデータを一日単位でまとめなおしたデータを示す。
Table 2
: Table 1 の Rhone 氷河の気象データを月ごとにまとめたデータを示す。
Figure 3 : 8 月 9 日~8 月 28 日の間の気温、気圧の相関図を一日単位で示す。
Figure 4 : Table 1 のデータより 7 月 14~9 月 7 日の間の気温と気圧の相関図を示す。
Figure 5 : Table 1 のデータより 7 月 14~9 月 7 日の間の湿度と気圧の相関図を示す。
Figure 6 : Table 1 のデータより 7 月 14~9 月 7 日の間の降水量と気圧の相関図を示す。
Figure 7 : Table 1 のデータより 7 月 14~9 月 7 日の間の風向、風速と気圧の相関図を示す
イベント
*1
状態
*2
弱風
?
気温
→
→
→
温暖
→
温暖
→
→
気温(欠測のため)
↓
↓
気圧低下、強風
↓
?
?
?
?
→
気圧
↓
高湿、気圧、多雨、強風
荒
↑
気温大、気圧
↑
気圧
↓
?
?
?
?
?
寒冷、高湿、多雨、強風
荒
寒冷、高湿
荒
寒冷、気温中,高湿、気圧
↑
↑
→
↑
↑
温暖、気温
→
→
→
気温
↓
高湿、気圧、多雨、強風
↓
気圧
↓
寒冷、高湿、気圧、低気圧、強風 ↑
寒冷、高湿、気圧、強風
↑
気圧
↑
気圧
↑
気圧
好
温暖、高気圧、強風
好
温暖、気圧、強風
↓
気圧、多雨
↓
気圧、突風、多雨
↓
?
?
?
気温変動中
→
気圧
↓
寒冷、気圧、高湿、強風、多雨 荒
寒冷、気圧、強風
↑
寒冷、気圧、低湿、湿度、強風 ↑
↑
<10℃
<14℃>0℃ <8℃ <85%
<3.5
<5m
<15m
南
<1000
>0℃
北
平均気温stdev 最高 最低 日較差 平均湿度 stdev平均気圧 stdev 最高気圧最低気圧 日較差 平均風速 最大風速 卓越風向 降水量
(℃)
(℃) (℃) (℃)
(%)
(hPa)
(hPa)
(hPa) (hPa)
(m/s)
(m/s)
(mm)
7/14
1.9 0.6 3.7 0.8
2.8
69.5 2.1
758.0 0.2
758.2
757.7
0.5
1.9
3.7 無
0
7/15
4.5 2.4 9.3 0.7
8.6
53.3 7.9
757.7 0.3
758.4
756.9
1.5
4.5
9.3 無
0
7/16
9.9 2.0 13.5 6.4
7.1
54.7 5.2
756.9 0.4
757.9
756.1
1.8
4.9
9.8 南
0
7/17
10.4 1.8 13.5 7.7
5.8
59.7 4.9
756.3 0.5
757.0
755.3
1.7
4.5
7.3 南
0
7/18
10.7 1.9 15.0 7.5
7.5
61.6 6.3
756.1 0.4
757.0
755.2
1.8
2.9
9.5 無
27
7/19
10.8 1.5 13.4 8.2
5.2
60.2 6.0
754.8 0.5
756.1
753.9
2.2
4.2
8.5 南
21
7/20
9.5 1.7 12.6 6.3
6.3
69.1 12.0
753.5 0.4
754.5
752.8
1.7
4.0
10.1 無
760
7/21
8.6 0.2 9.2 8.2
1.0
68.4 4.2
752.2 0.8
753.7
751.2
2.5
3.6
9.0 南
6
7/22
5.9 1.0 8.1 3.8
4.3
72.5 6.5
748.6 0.2
749.0
748.2
0.8
2.9
6.8 無
0
7/23
6.0 0.8 7.4 4.3
3.1
75.9 5.7
744.9 1.8
748.3
741.4
6.9
6.9
14.6 南
524
7/24
7/25
7/26
7/27
9.7 1.4 12.3 7.2
5.1
66.5 8.7
754.3 0.1
754.7
754.1
0.6
2.6
4.2 北
0
7/28
7.4 1.2 9.8 5.1
4.7
73.9 8.8
753.9 0.4
754.6
753.2
1.4
4.2
12.4 北
1
7/29
5.7 1.8 9.4 2.7
6.7
78.3 14.2
751.7 1.4
754.1
748.3
5.8
3.0
9.1 無
6
7/30
2.3 1.4 5.1 0.3
4.8
85.0 5.6
746.8 0.8
748.5
745.3
3.2
9.4
17.7 北
4686
7/31
5.2 0.5 6.7 3.7
3.0
38.1 12.4
749.3 0.5
750.4
748.4
2.0
4.8
8.8 北
0
8/1
8.8 3.5 14.5 3.8 10.7
46.3 10.8
751.5 1.2
753.5
749.8
3.7
2.3
6.2 北
0
8/2
8.4 2.1 11.6 4.3
7.3
64.3 17.9
751.8 0.8
753.7
750.2
3.5
4.1
10.8 北
252
8/3
8/4
8/5
8/6
8/7
8/8
-0.6 0.4 0.1 -1.3
1.4
96.2 0.2
743.2 0.3
743.9
742.6
1.3
4.2
18.0 無
5754
8/9
-1.7 0.7 -0.1 -3.4
3.3
94.5 3.0
743.2 0.6
744.3
742.0
2.3
3.2
10.1 無
872
8/10
0.3 2.4 5.0 -3.0
8.0
91.9 7.3
744.9 1.2
747.1
743.1
4.0
2.7
11.1 無
3
8/11
5.0 2.7 8.8 0.9
7.9
81.7 12.6
747.3 0.6
748.4
746.2
2.2
3.0
7.3 無
0
8/12
6.8 1.8 10.5 4.0
6.5
72.2 10.7
747.8 0.4
748.4
746.9
1.5
2.6
8.5 北
2
8/13
6.7 1.5 9.5 4.0
5.5
81.2 10.0
749.2 0.9
750.7
748.0
2.7
2.0
5.4 無
3
8/14
7.7 1.8 11.4 5.1
6.3
80.4 9.6
750.7 0.6
751.8
749.6
2.2
2.4
5.7 無
42
8/15
9.6 2.4 14.3 6.0
8.3
74.1 6.9
751.5 0.5
752.4
750.4
2.0
4.0
9.7 無
0
8/16
6.8 1.7 9.3 3.3
6.0
89.3 7.8
749.3 0.7
750.8
748.1
2.7
2.9
12.8 南
292
8/17
2.3 0.8 3.9 0.8
3.1
87.8 11.3
750.2 0.6
751.4
749.4
2.0
3.7
8.6 無
471
8/18
5.9 2.6 9.7 1.2
8.5
70.6 8.3
749.8 0.5
751.1
749.0
2.1
3.3
7.3 無
2
8/19
4.7 0.9 8.1 3.3
4.8
90.8 5.8
747.1 1.0
749.1
745.4
3.7
1.9
4.6 無
1644
8/20
1.4 1.1 3.9 -0.8
4.7
95.5 2.0
741.8 1.9
745.3
738.7
6.6
2.7
18.1 南
305
8/21
0.0 0.5 0.9 -0.9
1.8
94.4 3.9
739.6 1.5
742.7
737.5
5.2
3.9
22.9 南
5
8/22
1.3 1.5 4.3 -0.5
4.8
87.6 8.6
743.9 1.4
746.2
742.1
4.1
5.5
23.8 無
0
8/23
2.7 1.4 4.8 0.5
4.3
80.5 9.9
748.2 2.2
752.2
745.4
6.8
4.6
9.7 南
319
8/24
5.8 2.3 9.1 2.4
6.7
61.1 3.8
755.5 2.2
759.2
752.3
6.9
3.0
7.0 無
1
8/25
8.5 1.7 12.1 5.2
6.9
53.2 8.7
760.8 1.2
762.1
759.0
3.1
3.5
8.0 北
5
8/26
10.0 1.1 12.2 7.3
4.9
58.4 7.1
761.1 0.5
762.1
760.1
2.0
5.2
10.0 北
0
8/27
10.0 0.7 12.0 8.6
3.4
63.4 8.0
757.5 1.3
760.2
755.3
4.9
5.0
10.4 北
44
8/28
8.5 0.9 11.2 6.0
5.2
81.4 7.3
753.1 1.1
755.4
751.3
4.1
2.8
10.7 無
2906
8/29
5.8 1.6 8.9 3.1
5.8
88.9 9.3
749.1 1.0
751.4
747.3
4.1
4.1
15.2 無
3663
8/30
8/31
9/1
3.7 0.4 4.6 2.8
1.8
69.6 4.3
751.8 0.3
752.4
751.2
1.2
7.2
10.3 北
1143
9/2
3.6 2.7 8.8 0.2
8.6
74.8 15.0
751.7 0.4
752.3
750.9
1.4
2.8
7.2 北
31
9/3
3.3 1.4 6.2 1.4
4.8
82.8 6.2
749.1 1.7
751.2
743.8
7.4
3.6
16.1 北
551
9/4
-3.0 0.6 -0.5 -4.0
3.5
87.8 4.9
744.0 1.1
745.4
741.1
4.3
15.6
29.4 北
2477
9/5
-4.9 0.9 -3.3 -6.3
3.0
68.9 11.0
748.3 1.3
750.4
746.3
4.1
14.8
20.0 北
95
9/6
0.3 1.6 3.0 -2.9
5.9
26.8 19.6
749.3 1.5
751.6
746.3
5.3
13.2
21.9 北
2
9/7
4.2 2.3 8.5 0.0
8.5
49.6 18.3
752.5 0.6
753.6
751.6
2.0
5.7
13.6 北
4
月日
Table 1. Climatological data from automatic weather station
備考
データ欠測あり
データ欠測あり
データ欠測あり
データ欠測あり
データ欠測
データ欠測
データ欠測
データ欠測あり
データ欠測あり
データ欠測あり
データ欠測あり
データ欠測
データ欠測
データ欠測
データ欠測
データ欠測
データ欠測あり
風が凪いだ?時がある。
データ欠測あり
データ欠測
データ欠測
データ欠測あり
*1 イベントについて
各成分に特徴的なイベントを検出するために、作為的にそれぞれの成分に域値を設定した。
下記に代表的なイベントとその条件、名称を示す。
温暖:平均気温が 10℃以上、又は最高気温 14℃以上、
寒冷:平均気温が
0℃以下、又は最低気温 0℃以下
気温:気温の日較差が 8℃以上
高湿:平均湿度が 85%以上
気圧:気圧の日較差が 3.5hPa 以上
強風:平均風速が 5m/s 以上、又は最大風速が 15m/s 以上
多雨:一日の降水量が 1000mm 以上
また、表中の赤字で示した数字は各成分が全期間中の測定で最大になる値であり、緑字は
最低になる値である。
*2 状態について
天候の状態について示したものであり、気圧の日較差をパラメータとして定めている。
↑:天候が回復する傾向にある。
→:天候が安定している。
↓:天候が悪化する傾向にある。
好:好天
荒:荒天
?:データの欠測により不明
平均気温(℃)
最高気温(℃)
最低気温(℃)
平均気圧(hPa)
平均湿度(hPa)
平均風速(m/s)
最大風速(m/s)
全体
5.2
10.8 (7/19)
-4.9 (9/5)
750.7
72.4
4.6
29.4 (9/4)
降水量(mm)* 降水量/day (mm)
26920.0
585.2
7月
7.2
10.8 (7/19)
753.0
65.8
4.3
17.7 (7/30)
6031.4
8月
5.2
10.0 (8/26)
-1.7 (8/9)
749.5
78.5
3.4
23.8 (8/22)
16584.0
691.0
9月
1.0
4.2 (9/7)
-4.9 (9/5)
749.5
65.8
9.0
29.4 (9/4)
4304.3
614.9
1.9 (7/14)
* 降水量は測定できた日の積算値
402.1
7 月は 15 日、8 月は 24 日、9 月は 7 日間
Table 2. Summary of monthly climatological conditions in Rhonegletscher
Figure 3. Relationship between temperature and air pressure from Aug 9 to Aug 28
Figure 4. Relationship between temperature and air pressure
Figure 5. Relationship between humidity and air pressure
Figure 6. Relationship between rain precipitation and air pressure
Figure 7. Relationship between wind and air pressure
‹ 氷河消耗量のまとめ
各観測点で得られた融雪係数(cm/℃・day)を観測期間毎に表したものを Table3 に、各観
測点の実測消耗量を Figure8 に、推定消耗量と実測消耗量の比較を Figure9~13 に示す。
7/15-7/17 7/17-7/21 7/21-7/27 7/27-8/12 8/12-8/27
8/27-9/1
平均
0607
0.028
0.062
0.146
0.290
0.154
0.030
0.709
0608
0.053
0.073
0.115
0.343
0.250
0.124
0.958
7/21-8.12
8/12-8/27
8/27-9/1
平均
0.735
0.240
0.134
1.237
7.27-8.12
8/12-8/27
8/27-9/1
平均
0.266
0.270
0.143
0.850
7/15-7/17 7/17-7/21
0609
0.068
0.060
7/18-7/21 7/21-7/27
0610
0.029
0.142
7/15-7/18 7/18-7/21 7/21-7/27 7/27-8/12 8/12-8/27
0611
0.060
0.045
0.124
Table 3
Figure 8
0.527
0.257
8/27-9/1
平均
0.099
1.112
Figure 9
Figure 10
Figure 11
Figure 12
Figure 13
< 3. Discusson>
3-1. Findings in the results
‹ 気象データについて
① 気象データ全般
9 月のデータは測定日数が短く、その期間中が荒天であったため、比較が難しい。
Table 2 で示されたように、Rhone 氷河では 8 月と比べ、7月は平均気温、最高気温がと
もに高いことから一年間で7月が一番温暖な時期であると示唆される。
平均気圧に関しても 7 月の方が高いが、これは気圧と気温が正の相関があること(Fig. 4)、
逆に平均湿度とは負の相関があること(Figure 5)からも矛盾しないと思われる。
また、平均風速、風向に関しては、7、8 月では特に差は見られず、通常 4~5m/s の範囲で
あるが、瞬間的に 10m/s 以上の風速になることもある。(Figure 7)
② 気候の変動パターン
Table 1、Figure 4 より測定期間中の 7 月 14~9 月 7 日の約二か月弱の間に気温と気圧の
急激な高低が繰り返し起こっていることが分かった。データの欠測のため不明確な点もあ
るが、気温、気圧が低下しているのは 7 月 23、7 月 30、8 月 8、8 月 22、8 月 29、9 月 4
日の前後であり、1 週間、または 2 週間のサイクルで起こっていることが分かる。
③ 気温、気圧の日周パターン
Table 1、Fig. 4 より 8 月 9 日~8 月 28 日の間は長時間のデータの欠測を含まず、気温と
気圧の顕著な高低を含む期間であることが分かる。一日単位の気候変動を観察するために
気温と気圧の生データ(5 分間隔で測定)を用いこの期間の詳細な解析を行った。(Fig. 3)
8 月 9~11 日にかけては気温、気圧の上昇、さらに 8 月 12~17 日の間は一日ごとのパターン
の類似が観察できる。この期間中は、気温と気圧は夜から朝方にかけて低下し、昼過ぎに
は上昇、夜にはまた低下するという合理的なパターンになっている。またこの期間のパタ
ーンは 7 月 15~20 日のパターン(date not shown)とも比較的類似しており、比較的穏やか
な気候であることから安定期と呼ぶことができる。
8 月 18~20 日は気温、気圧が著しく低下し、8 月 21 日の明け方において最低となり、気温
は氷点下になる。8 月 21~25 日にかけては気温、気圧の連続的な上昇が観察され、8 月 26
日には気圧は最高気圧、気温は 8 月の最高気温を記録するが、翌 8 月 27 日からは低下に転
じる事が観察された。
今回観察されたように、ローヌ氷河上では安定期が存在する事と気圧、気温の上昇による
好天、低下による荒天が繰り返し起こることが示唆された。
④ 風向、風速と気圧の関係性
ローヌ氷河の風向は大きく分けて、北向き(氷河末端から涵養域への方向)と南向きの風
向に分けられる。(Figure 7) これはローヌ氷河が南北の方向にそって存在するためだと考
えられる。一般的に風向き、風速は気圧の影響を強く受けると考えられる。そこで気圧と
風向、風速の関係性を観察するために Figure 7 を作成し関係性の検出を試みた。
Figure 4, 5, 6 からも気圧の低下時は悪天候を引き起こす傾向が観察されているが、同様に
風速も速くなるという結果はこの傾向と矛盾しない。
風向に関しては、同じ方向からの風向は 3-6 日間ほど続く傾向が観察されるが、気圧との特
徴的な関係性は観察できなかった。
⑤ データの欠測がおこる原因について
今回の観測期間中には計 20 日間でデータの欠測が観察された。さらに、その内 10 日間で
は完全にデータの測定ができていなかった。またデータの欠測は大きく分けて三回に分か
れて何日間か続いて起こっている。Table 1、Figure 4, 5, 6, 7 からも分かるように気圧の低
下に伴う悪天候のイベント(低温、多雨、強風)が起こる時には 9 月 5 日前後を除いて、デー
タが一部、または完全に欠測した。8 月 21 日と 9 月 5 日前後の荒天時には気温は 0℃以下
まで低下したが、そのイベントと同期するような欠測は観察できなかったこと、その他の
欠測が見られる期間に気温のそこまでの低下は見られないことから気温と欠測の関係性は
ない事が示唆される。多雨と強風のどちらか、または両方が欠測に関係しているのかどう
かは今回のデータからは分からなかった。
3-2. Comparison with other works
Meteoswiss (http://www.meteoschweiz.admin.ch/web/en/research/projects.html)
のデータベースに登録されている Grimsel と Jungfraujoch の年間の気温データと Rhone
氷河の気温データの比較を行った。
Grimsel
標高 2182m、Rhone 氷河の近くである。
Jungfraujoch
標高 3454m
Grimsel と Jungfraujoch の 2007 年の 7、8、9 月の気温データと過去 30 年間の平均気
温データ(赤線)からは7月の平均気温が年間を通して一番高いという事がわかる。
このデータは今回の Rhone 氷河で観測された気温データと一致する。
また、これらのデータから 2007 年の Rhone 氷河の 7、8、9 月の平均気温は例年と比較し
て特に変わった点はないという事が示唆された。
さらに、Rhone 氷河では 7 月下旬、8 月 10 日、20 日前後、9 月初旬に寒冷な日があった。
それぞれ値は異なるが、Grimsel と Jungfraujoch でも同様の時期に寒冷な日があったこと
が観察できる。特に実習期間中にあたる 9 月上旬では、9 月 4 日に Untergrindelwald にて
雨と寒さ、Eigergletcher で雪に見舞われた。同様に Rhone 氷河でも 9 月 4 日は雨も降る
荒天であり、5、6 日と雨こそ降らないが、寒冷で風の強い日が続いた。9 月 5 日の
Jungfraujoch では快晴であり、気温も低く、風も強かったように感じたことから気象条件
が類似していたということも考えられる。
‹ 氷河消耗量について
標高が低いほど気温が高くなるため、氷河の消耗量も多くなることが考えられるが、
Figure8 から 観測点 0609 は多めに消耗し、観測点 0610 は少なめに消耗している。
標高差は約 20m と小さいが、消耗量は 138cm も差がある。Figure1 より観測点 0609 は、
観測点 0610 に対し傾斜が若干緩やかである。そのためより多く日射を浴びたと考えられ、
気温以外で融雪に関係する要素のひとつである日射による影響の違いから起こったもので
あると考えられる。これは、観測点 0609 の融雪係数の値が大きく、気温の割に消耗してい
て、逆に観測点 0610 の融雪係数の値が小さく、気温の割に消耗していないことからもわか
る。
Figure9~13 の推定消耗量と実測消耗量の比較では、概ねよく推定できているが、実測値
の中で 8/12 が最もずれている。これは、8/3~8/7 にかけて気温データが欠測しているため、
ずれが大きくなったと考えられる。
3-3. Future prospects
今後の展望として、第一に、気象観測期間の欠測日をなくし、継続したデータを得るこ
とが望まれる。今回の観測では Rhone 氷河に於いて気象観測と degree-day 法を用いて氷
河消耗量を推定した。今回は設置した気象観測点が氷河近傍の一点だけであったが、一点
の観測点だけでは氷河の周囲の気象条件を正確に把握する事はできないと考えられるため、
別の氷河近傍の場所に気象観測点を設置する必要がある。さらに広範囲な気象条件の推測
には周辺の気象ステーションのデータや、気象衛星のデータを使う必要がある。
また今回行った degree-day 法による氷河消耗量は、概ね精度よく推定できた。しかし他
の氷河に於いても適用できるかは、まだわからないので複数の氷河で確かめる必要がある。
< 4. Conclusion>
Rhone 氷河の夏期の気象条件の測定、解析を行い Rhone 氷河に於ける気象特性と Rhone
氷河の維持機構、流動特性、水文現象等を解明する上で基礎データとなる気象項目を得る
ことができた。さらに、Rhone 氷河に於いて degree-day 法を用いて氷河消耗量を精度よく
推定することができた。
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