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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅

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Page 1 京都大学 京都大学学術情報リポジトリ 紅
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仏典の中の樹木 : その性質と意義(1)
満久, 崇麿
木材研究資料 (1972), 6: 9-33
1972-03-25
http://hdl.handle.net/2433/51293
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
総 説 (
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仏
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中
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典
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久
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Takamar
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1 緒
言
熱帯樹木の性質を調べていると,その中に宗教 とくに仏教に関連 した植物の名がしば しば 出て くることに
気がつ く。このことは仏教が前 6世紀にイン ドに興 り,東方に発展 し, 1世紀にはシルクロー ドから中国に
伝えられ,さらに朝鮮半島をへて,すでに 6世紀 の中頃 日本に伝来し,わが国の文化,美術に大 きく貢献 し
たことを考えれば当然のことで,今更気がつ くのはむ しろ うかつな話であるか もしれない。これ らの植物は
本来,仏教 々義の説 明や宗教活動のために利用された ものであるが,この うちのかな りの数の樹木が,建築
材料,家具材料あるいは美術工芸材料 として,また香料植物,薬用植物,花井植物 として,すでに古 くから
われわれ 日本人の生活の中に とけこんでいる。それに もかかわ らず,仏教樹木 として案外われわれに理解 さ
れていないのは,それな りの理由があったか もしれぬが, 1つには 日本では仏典 自体が理解す ることよりも
む しろ儀式用 として利用されていたことに原因しているといえ よう。
植物 と人類の公的な関係は,歴史学的には最古の原始人 と考えられ るアウス トラロピテクスが地球上に出
現 した時代にはじまる訳であろ うが,地球上の植物がゆたかにな り,人類の智慧が進んだホモサ ピエンスの
時代からその近密度が急速にました ものと推定され る。その後,前3
0〇
0
年頃から歴史上にあらわれたセム族
の問にはすでに聖木崇拝の習慣があ り,樹木は よく比境に使われ,大木は力,長寿のシンボルであ り,果実
の豊作は神の恩恵,不作は神の怒 りであった。
したがって仏典に もまたこのような思想が流れてお り,そ こに登場す る樹木を通 して古い時代の人間生活
に対す る樹木のかかわ り方,いわば樹木文化史の一端を うかがい知ることができ,木材学にたず さわ る者に
とっても興味深い ものがある。この事がサンスク リッ ト語 もパー リー語 も,また仏教学 も,わずかに垣間み
たにす ぎない筆者をして,おこがましくもt
Lの仕事にか りたてた 1つの理由でもあろ う。
さて,とれ らの樹木の検索 と解説には,国訳一切経,P
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yを 3つの主軸にして,末尾の各書を参考にさせていただいたが, 仏典関係の参考書には仏教専門語が
用いられていて,一般に理解 しに くいものもあるので,できるだけその意味を失なわない程度で解 りやすい
ものになおしたものもある。失礼をお詫びす ると共に, これ らの著者,訳者の方 々に深い敬意 と感謝を捧げ
たい。
樹木はサンスク リッ ト語,パー リー語原語のはっきり判っているもの,漢訳語でも確実に学名の把撞でき
るものだけを抽出して正確を期 した。しかし,上記の原語 と樹木学名 との間にはまだ不明な点の多い ものも
あ り,筆者の浅学のために思わぬ誤 りを犯 しているものがあるか もしれない。これ らについてはそれぞれ専
門の方 々の御叱正をいただ き訂正 してゆ きたい と念願 している。
本文は国訳一切経 とい う尤大な仏典の うち,主 として法華部,華厳部お よび阿含部 と世界古典女学全集の
仏典 Ⅰ, Ⅱに よって調査 した ものの,さらにその一部で,まさに氷山の一角にす ぎない。また調査の 目的は
*木質材料学研究部門 (
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- 9-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
広 く仏教樹木の木材利用におけるポジションをはっきりさせ ることであ り,木材の組織や材質について専門
的に深 く立ちいることを避けた。今後 もこの意味で時間の許すかぎ り引続 き調査を進めて逐次発表 し,機会
をみて再整理 したい と思っている。
樹木の配列は植物分類表に よらないで,仏典にたびたびあらわれ るもの,仏教 々義 と樹木利用の 2つの面
から重要 と思われ るもの,あるいはそれに関連の深い ものから順次配列 しただけで,それ以外に特別の意味
をもっている訳ではない。
各論の見出しの樹木名は原則 として和名を用い, ついで学名, サ ンスク1
)ッ ト名 (またはパー リー名),
漢訳名または中国名の順 としたが,サンスクリッ ト名や漢訳名などを見出しに使った方が一般に判 りやすか
った り,纏めやすい場合にはこの順序をいれかえた。また樹木名には非常に多 くの和名,漢訳名,中国名,
イン ド名があ り,中途半端な羅列はかえって混乱をまね くおそれがあるので,最 も代表的なものだけに とど
め他は省略 した。
写真は,国内では大部分京都府立植物園,東京大学小石川植物園,国立衛生試験所伊豆薬用植物栽培試験
場,静岡県有用植物園,太地熱帯植物園お よび京都大学古曽部温室などで撮影 したもので,その際多 くの方
々に御世話になった。また主要樹木の 1つであるオーギヤシの写真は佐竹利彦氏の,またサーラーの写真は
イン ド林業試験場長お よびナラヤナムルチ博士の御好意に よったものであ り,パキスタン,イン ド,セイ ロ
ンお よびシンガポールの各植物園でのものは当研究室の 大学院学生 滝野真二郎君 をわず らわ した ものであ
るCこれ らの方 々には深い感謝の意を表 したい0
2 総
論
仏教にはいろいろの樹木,花井,香木,香花が,単なる教義上の比境 として,あるいは身を清め,精神を
安定させ,悟 りの場を作 り,悟 りえの境地をたすけ,悟 りを祝福す るものとして,あるいはまた人間の平等
を説 き, 自然界の調和を尊ぶ比職 としてなど,いろいろの意味で引用されてい る。この うち,比較的単純な
教義上の比職 として 引用されている 場合が最 も多い ようであるが, 単純なだけにまた きわめて 明快でもあ
り,樹木の特性を よくつかんだものが多い。
これ らの内,通俗的に有名なものは
アショカ
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の 3樹種である。アショカは釈迦の生誕,結婚に,イン ドポダイジュはその成道 (
悟 りをひ らくこと)に,
サーラはその入滅 (
死)に関連があ り, これを仏教 3霊樹 と呼んでいる。 イン ドポダイジュはイチヂク属
で, 日本で普通ボダイジュと呼んでい るシナノキ属のものとは種類が違 う。最後のサーラはイン ドの 3大有
用樹種の 1つでもある。これに
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を加えて仏教 5木 ともい う。タマ リン ドは釈迦や仏弟子たちが よくこの木の縁蔭の下で冥想 し,説教を した
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sL.とともに学林樹木であるとされているが,筆
といわれ,ギ t
)シャ薯学のプラタナス Pl
者の調査 した範囲では仏典にほでてこない。 簡単に断定はできないが,タマ リン ドは焚語で Aml
a とよび
マンゴーの Amr
a と似ていることからマンゴーと混同されたのではないか と思われ る。 それは ともか く,
タマ リン ドはイン ドからマライにかけて広 く栽培されているが,果実は食料 として非常に用途が広 く,古い
樽代にはイン ドの主要食料の 1つであった。材 もまた諸器具用 として有用な樹木である。エソジュは中国原
産で,中国では神聖樹でもある。仏教 とともに 日本に伝来した といわれているが,おそらく中国, 日本あた
りで 5木に加えられたものであろ う。これ も種子,材 ともに有用な樹木である。
- 1
0-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
さて上述 した ように学林樹木 としてほ筆者はタマ リン ドよりもむ しろ
マ ン ゴー
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をあげたい。仏典に よれば釈迦はたびたび多 くの弟子たち と共に各地のマンゴー林に滞在 し,その緑蔭の下
で思索 し,説教 しているが,その生活は丁度 日本の林間学校のようなものであったろ うと想像 され る。彼等
はまた, マンゴーの林内で, おそらくは南国の 名栗 といわれ るその果実を も 十分楽 しんだことであろ う。
サーラも平家物語などで釈迦入滅 の木 としてあま りに も有名にな りす ぎているが,本来はむしろ学林樹木 と
して重要な役割を果 している。
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)がある。それは一般には
仏教樹木には今 1つ有名なグループとして f
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の 5種であるが,はじめの 4種が レギュラーで, よく天からふ りそそ ぐいわゆる 「
天華」 として扱われ る。
大デイ コ,大マンジュシャカは単にデイ コ,マンジュシャカの偉大さ,美 しきを強張 しただけであるが,い
ずれ も仏陀や菩薩の冥想や悟 りの喜びを祝い,会い難いことにあ う喜びの慶祝華である。これ らの天華や,
極楽世界をはじめ とす る多 くの仏国土を象徴す るクーラ,タマ-ラなど,神話的な世界の植物に実存の植物
をあてている所に,脱 しきれぬ人間性があらわれていて,面白 くもあれば,またかなし くもある。しかし,
こうい う話はどの神話 も共通的 なものを もっている。 旧約聖書, 創世紀にでる ノアの 箱舟の 材料は 昔は
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usだろ うといわれていたが,この執 まFr
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nus説が有力 だそ うだし, トロイアの木馬は Ab
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で作 られたそ うである。
3霊樹や 5木 とい う名は 後年イン ド以外の国, おそらく 日本あた りでつけた ものではないか と思われ る
が,仏典には釈迦が祇園精舎で比丘たちに述べた説教の中に 「
五樹の教え」〉とい うのがあ り,5樹木が次の
ような意味に引用 されている。
「ニグローダ, ウ ドンバーラ, プラクシャ,カッチャパ,カピッタ-の種子は小さいが放任 してお くと大
木 とな り, 他のいろいろの小木を被圧 して, その生長を邪げる。 これ と同様に心が正 し くない と五蓋 (
貴
欲,いか り,身心沈滞,精神不安定,莱)がほしいままに広が り善心を覆って障害 となる」(
法華経一樹経)
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これ らの樹木の特長については後章で説明す るが, この うち とくにニグロ-ダとカッチャパは巨大樹 とな
る。
前述 した ように,ある種の樹木はセム族時代にすでに長寿や力の象徴であ り,神聖なものであったが,仏
典の中でもある種の樹木は,単なる教義上の比職から次第に神秘的な色彩をおび,偉大なる悟 り,偉大なる
悟 りを得た老 とな り,あるいは金,級,戎泊など 7種の宝石,いわゆる七宝で作られた宝樹 となって,如来
たちの悟 りを祝福 し,仏国土を飾 る。イン ドボダイジュ,ニグロ-ダ,マンダーラヴァ,クーラなどがそ う
である。
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云
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aka:平川彰訳 本生経,仏
さて,樹木を教義上の比境に用いた例をあげると,た とえばジャータカ (
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木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
典 Ⅰ)では
「この世に仏陀 とい う大樹があるならば, よく一切の天人 (
霊的存在),世人 (
人間),阿修羅 (
魔神)た
ちの煩悩 とい う毒蛇を除 くであろ う。 もろもろの衆生 (い きもの)が仏陀 とい う大樹の涼しい木蔭に住むな
らば,煩悩 とい う毒は消失す るであろ う。・
・
・
・
-ア-ムラ (マンゴー)の木の花は多いが実を結ぶ ものが少な
い ように,菩提心 (
悟 りをえようとす る心)を起す ものは多いがこれを成就す るものは少ない」
マンゴーはこの文章の通 り花は沢山咲 くが結実は少ないoとい うよりむ しろ花 (
不完全花)が多す ぎると
い う表現の方が適切であろ う。
また,維摩経 (
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a:中村元訳 経歴経,仏典 I
I)では
「
汚れのないことがらはその林の樹木である。悟 りの心は浄 らかな妙なる華であ り,解脱 (
悟 りをひらく
こと)した と知 る智慧はその果実である」 と述べ
華厳経-離世間品第 3
8
7で普賢菩薩は次の ような煩を作っている。
「
菩薩は蓮華の如 く,藩を根 とし,安穏を茎 とし,智慧を蕊 とし,--・
また菩薩は妙法 (
仏法)の樹に し
て直心 (
菩提を願 う其欝の心)の地に生じ,伝 (
心を清浄にす る碍神作用)を種 とし,慈悲を限 とし,智慧
を もって身 となす。 方便 (
す ぐれた説得, 指導方法)を枝幹 となし, 定 (
安定不動の心)を菜 とし, 神通
(神通力)を聾 とし,一切の智 (
物事の実体を知 り迷を断ち決断 しうる力)を栗 となす」
また雑阿含経一種樹経,大樹経では
「
人が木を うえる時,はじめは小さいが, これに肥料を与え,水を与えて撫育すれば,ついには大樹 とな
る。これ と同様に貴欲,いか り,ぬすみその他の煩悩や執着に心をしぼられると,愛欲や愛欲を求める心,
坐,塞,柄,死,憂悲,悩苦など順次生じて,ついには四苦,八苦などいろいろの苦が集ま り大昔 (
1
0
8
苦)
となる」
とい う意味のことが述べ られ,中阿含経一戒経には
「
仏教におけ る戒は木の根の如 きものである。 木はその根を断つ と莱, 塞, 華, 果皆 うることができな
い。同様に比丘が守 るべ き戒を犯す と悟 りを うることはできない」
仏教はまた,人間の平等, 自然界のあ りのままの姿一調和一を尊び,この思想を樹木や動物を介 して,教
義の中に しば しば強調 している。
釈迦在世当時のイン ドにはバ ラモン教の影響でカス ト (イン ド特有の強い階級制度)がしかれ,バ ラモン
が最 も尊 く,次で王族,庶民の順で,隷民 (
征服 された先住民)が最 も下層階級 とされていたが,仏典はは
っき りこれを否定 しているo
「サーラの薪から生じた火は焼 く力があるが,他の木の薪から生じた火は焼 くはたらきがない とい うよう
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a:中村元訳,ブッダ
な区別はない。 ---これ と同様に人には生れの貴嬢に よる差別はない 」 (
の言葉,岩波文庫)
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i:中村元訳 金剛の針, 仏典 Ⅱ)では, さらに多 くの樹木が人間の平等のた
めに登場 して くる。
「ヴァタ, ヴァクラ,パラ-シャ,アショカ,クマ-ラ,ナ-ガケシャラ,シ リ-シャ,チャンバカなど
もろもろの木には菜について, 花について, 果実, 種子, 樹皮,樹幹あるいは芳香などについて区別があ
る。 しかし,バ ラモソ,王族,庶民,隷民には身体,四肢,皮膚,肉,血,骨などについて区別はない。ま
た,快,不快,坐,死,セックスなどに関 してもすべて平等である。・
--また, ウ ドンバーラやパナサの果
実のように,同一の樹木から生じた もろもろの果実は,皆同じであ り,枝から生 じた果実,小さな幹から生
じた果実,大 きな樹幹から生じた果実などとい う区別はない。これ と同じように, もろもろの人間に も区別
は存在しない。いずれ も同一の原人から生じた ものである・
・
・
・
-」
これ らの樹木の特長を引用の範囲で簡単に説 明す ると
-1
2-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
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aL.は大樹 とな り
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giL.は花に新酒のような 芳香があ り, 香水をとり,
果実,種子は食用 となる。
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aL.ほ ともに花がきれいであ り
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s?は葉,樹皮が香料 となる。
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aL.ほ花に芳香があ り,材は有用
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h.ほ花に芳香,樹豚から香料をとり
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aL.は花から香水をとり
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h・はともに果実が幹生である.
勝葦経で,ス リーマーラ夫人は
「
大地は 4つの大いなる重荷の支えとな ります。すなわち大地は大水の集まった大海 と,すべての山や土
地を支え,すべての植物- 草木,薬草,花,蘇-
の生育場所,そしてすべてのいきものの生活基盤で
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ma15-s
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a:高橋直道訳 勝葦経,仏典 I
I)
あ ります」(
といい,また法華経一薬草愉品で釈迦は弟子のマ--カッシャパに
「
全世界の山川糸谷に生ず る雑草, 潅木, 薬草, 樹木などの上に密雲が覆い雨ふ らす とき, これ らの植
物はその大小に応 じてひ としくうるをされ,それぞれその本分に従って生長 し,花を咲かせ果実をみのら
せる。如来の出現 も丁度この大雲の起 るようなものである。衆生 (いきもの)の能九 精根,体力に応 じ
て教えを説 き悟 りをえさせるものである--・
」
と教え,人類のみでな く自然界はすべて,あ りのままの姿で調和さるべ きことを説いている。
仏典にはまた, 各種の香木, 香花, 香油などがいたる所に出現する。 イン ドのような熱帯では, 日本で
想像する以上に多 くの香料がいろいろの 目的で利用されているが,仏教では香木や香料は人間の葺欲,いか
り,無知,その他あらゆる煩悩を払い,心身を清浄 と愛情で満たし,悟 りえの道をたすけるものであ り,普
た悟 りの喜びを祝い,仏を供養するものであ り,さらには仏国土の象徴でもある。
釈迦は阿含経で
「
王や大臣が諸香を使 うごとく,比丘や比丘尼は戒をもって塗香 となし,善を修得する」 (中阿含経一三
十愉経第 5),
「
たとえば百草薬木が皆地に よって生長 しうるように,いろいろの書法は皆不法逸 (もっぱら精進するこ
と)に よることを本 とす る。すなわち,不放逸が一切の書法の中で最上である。これは丁度,黒い沈水香
が諸香の中で最上であ り,赤栴檀が堅い香の中で最上であ り,優亮羅華が水陸の諸華の中で最上,末利華
が陸華の中で最上,闇浮巣がすべての果実の中で最上であるごとくである」 (
雑阿含経一不放逸根本経,
中阿含経一愉経第2
5
)
とい う意味の説話をしている。
大無量寿経,阿弥陀経,法華経,華厳経などに引用されている香花,香木は神話的なものが多いが,樹木
学の立場から,できるだけ沢山の樹木,香木がパ L
/- ドする数節を抜葦 して紹介 しよう。
釈迦が王舎城の著聞堀山中や舎衛城の祇園精舎で愛弟子のアーナンダやシャー リブ トラなどにのべた極楽
世界の話の中に
6
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0ヨークヤナ (
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ana,由旬 ‥長 さの単位で約 4
「
極楽世界には阿弥陀如来の菩提樹がある。その高さ1
km,1
2km,あるいは 1
4・
4km ともいわれる), 大枝が垂れること8
0
0ヨージャナ,根の高さと太 さ 5
0
0
ヨージャナ,常に葉,花,果実あ り,-・
・
・
・
また,そこには大河があ り,クマ-ラの葉,アガル,カーラア
- 1
3-
第 6号 (
1
9
7
2)
木 材 研 究 資料
ヌサー リン, タガラ, ウラガサーラチャンダナなどの最上の香を含む水が流れ, 青蓮華, 紅蓮華,黄蓮
華,自蓮華に覆われている。-・
・
・
・
またそ こには七重のクーラの行樹 (並木)があ り,七宝からなる池があ
る。池中には車輪ほ どの大 きさの蓮華があ り,青色,黄色,赤色,白色を発し,--昼夜 6回,鼻陀羅華
が雨 とふる」
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香水の原料)
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青
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黄
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華 (
Kumuda)
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Nympha
e
al
o
t
usL,
ラ(
でal
a)
Bo
r
as
s
usj
l
ab
e
l
l
i
fe
rL.荘厳樹
肇 (
Mandえr
a
va)
前
メ
鼻
陀
羅
出
出
しかし, これ らの話の中で 最 もわれわれの魂をゆさぶるのは, 一切衆生書見菩薩の 焼身の物語 りであろ
う。すなわち
「
悟 りをひらいた書見菩薩は恩師 日月浄 明徳如来に対す る供養は自己の肉体を捨てるにしかず と考え,柄
2
0
0
年,身に香油を
檀,薫陸,兜楼婆,畢力迦,沈水などの樹脂を食べ,瞭葡などの花の香油を飲む こと1
そそぎ自らの身を燃やす。この火は1
2
0
0
年 (あるいは 1
2
0
0
0年)間燃え続け,書見菩薩は再び生れ変 る.
これが後の薬王菩薩である」(
法華経一案王菩薩本事晶)
薫 陸香樹 (
Kundur
u(
ka)
) Bo
s
we
l
l
i
at
hr
i
fe
r
a? 樹皮から柔かい,芳香を もつ樹脂を分泌す る。こ
l
i
banum とい う
れを乳香 o
婆 (
Tur
us
ka)
o
l
i
ba
num のこと
兜
楼
畢
力 迦 (
Se
ph豆l
i
ka)
沈
水 (
Ag
ar
u)
前
出
瞭
葡 (
Camp
aka)
前
出
Nyc
i
a
nt
h
e
sAr
b
o
r
t
r
i
s
t
i
sL・花に芳香あ り
焼身は如来-の最高の供養であるが,同時にまた至高の悟 りを うるための悲願でもあ り・その精神は現代
の ヴェ トナムにおけ る比丘たちの世界平和-の崇高なる焼身の非願に も通じているo ミイラもまた,た とえ
生命がな くなっても肉体はそのまま残って,釈迦入滅後5
6
億7
00
0
万年をへて,弥勤菩薩のこの世えの出現を
まって再生を願 うものであ り,これはまた,現代の冷凍人間ベッ ドフォー ド博士の願に も通じているといえ
よう。いずれ も人間の悲鮫の究極の姿であろ うo
法華経,阿弥陀経,大無量寿経に考えられてい る宇宙は・法華経的表現を借れぼ
ガンヂス河の砂の数ほ
どもあるいろいろの仏国土,いはば仏国土系か らな りたち,その構想はあたかも近代科学に よって組立てら
Sah豆1
o
ka)の西方十万億土のかな
れた太陽系ないしは銀河系に相当し, 釈迦を教主 とす るこの婆婆世界 (
たには阿弥陀如来を教主 とす る極楽世界 (
Sukha
va
t
i
)があるo このような宇宙観は 1
0
0年あるいは 2
0
0年
-1
4-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
前には一般民衆に とっては単なる神話にす ぎなかったが,スブー トニック,アポロあるいはマ 1
)ナや火星 3
号がとぶ現代では,浄土であるかどうかは別として逆にいちぢるしく現実性をおびてきているoこの雄大な
構想は現代はともか く,科学知識の低かった当時では一流の知識人や予言者たちが一堂に集まってゼ ミナー
ルを開いても,とうてい生れるものでない。おそらく唯 1人の超霊感の持主に よって発想 されたものであろ
う。とすればやは り釈迦 自身の教えの中にすでにこの思想が含まれていた と考えるのが妥当であろ う。
歴史的事実 として,至高の悟 りをひらき仏陀 (
如来) となったのは釈迦ひとりであるが,後年になって釈
迦以前に 6人の仏陀がこの世に出現 したとい う考え方が生れた。これを過去六仏 といひ,あるいは釈迦を加
えて過去七仏 ともいっているOこれらの仏陀にはいずれ も釈迦のイン ドポダイジュに相当する菩提樹 (
菩提
すなわち悟 りをえた時の樹)があるので最後にこれを紹介してお く。
累婆戸仏 (
Vi
p
as
s
i
):
l
i
,Si
e
r
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o
s
Pe
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umum s
ua
v
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nsDC.
.
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P云t
a
戸 棄 仏 (
Si
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.
Pupdar
i
ka,Nym♪hae
al
o
t
usL.
累舎婆仏 (
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s
s
a
bhd):
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a,Sho
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aGa
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a,Al
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b
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h.
拘楼孫仏 (
Kakus
andha): Si
拘郡舎仏 (
Ko
n畠g
amana): Udumbま1
c
usgl
o
me
r
a
t
aRo
xb・
a,Fi
加 葉 仏 (
Ka
s
s
a
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Nyag
r
6
dha,Fi
c
usb
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gal
e
ns
i
sL・
3 各
1
) サ
論
ラ ー Shor
e
ar
obst
aGaer
t
n.Sal
a,沙羅 (双)樹
「
疎園精舎の鏡の声,諸行無常の響あ り,沙羅双樹の花の色,盛者必衰の理を顔す」で有名な沙羅双樹が
これである。釈迦が ヒラニヤヴァティ河畔で入滅 (
死)を予知し,弟子のアーナンダに命 じて,東西南北に
一対づつはえているサーラの木の間に,北を枕に床を用意させ浬巣 (あらゆる煩悩を滅 した完全最高の仏教
的理想境)にはい り入滅 した悲 しみの木 として, 日本人の間ではその名はあま りに もよく知られているが,
イン ドにおける重要樹種であることは意外に知られていない。おそらく木材学者の中でもこれがラワンの同
属であることに気のついている人は少ないであろ う。
サーラほイン ドにごく普通にある樹木でチーク Te
c
t
o
nagr
a
ndi
sL.f
.
,ヒマラヤシダー Ce
dr
usde
o
d
ar
a
Lo
ud.とともに 3大重要樹種 として各地に植林されているが, ヒマラヤ山麓, 中央イン ド東部およびベン
ガル州西部に多 く,古 くからよく純林をなし,釈迦や文殊菩薩らが遊行中しばしば,バッダサーラ林, ゴー
写真 ト Sho
r
e
ar
o
b
s
t
aGa
e
r
t
n.沙羅双樹の薫
くPr
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s
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,Fo
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s
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a
r
c
hl
ns
t
i
t
ut
e,De
br
aDun,および Dr
・D・Nar
a
yanam叫 iの御好意による)
- 1
5-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
シ ソガサ-ラ林, ローイッチャ、
サ-ラ林その他各地のサ-ラ林に滞在 して宗教活動を していた ことが仏典に
記載されてい る。 (華厳経一入法界品第3
9
,雑阿含経-疾漏尽経,因業経,採蘇経,中阿含経一算数 目健遠
3
,牛角婆羅林経,長阿含経-露庶経な ど)
経第 s,長寿王本起経第 7,無刺経第1
これはサーラの木が大 きく,葉が よく繁茂 し,その緑蔭は涼 し く,その林は丁度林間学校のように団体生
活に適 していたためでもあるが,サ ーラ林 の奥深 く 1人はなれて,樹下に結蜘妖座 し冥想す るために も利用
されてい る。 (中阿含経-長寿王本起経第 1)
釈迦が当時 のイン ドの 階級制度を否定 し, サーラの木を引用 して 人間の平等を 説いた話はすでに紹介 し
たが
「サ-ラ林を よく撫育すれば美林を うるごとく,戒を守れば よい結果を うるであろ う」 (中阿含経-算数
目健連経)
な どサ ーラほ仏典では,悲劇の木 として よりも,む しろ縁起の よい,有用樹 として引用 されてい る場合が多
いo事実サ -ラとい う言葉 自体は吉兆を意味 し,魔除けの意味で古代から椅子やベッ トに使用され,チ-ク
や ナガ ミパ ンの木 とともに船の材料 として用いた事が記述 されてい る。 日本の寺院でも霊樹 として,古い昔
写真 2 Sh
o
r
e
ar
o
b
us
t
aGa
e
r
t
n.沙羅双樹
(同 前)
写真 3 St
e
wa
r
t
i
a Ps
e
udo
Ca
me
l
l
i
a Max.
ナ ツツバキ (
比叡山浄土院)
に植栽された と伝えられ るものもあるが,熱帯樹 であるから露地では生育 しない。比叡山浄土院観前のサー
ラの木 と伝 えられ るものはナツツバキ St
e
war
t
i
aPs
e
udoCame
l
uaMax.であるとされてい る。
0
-5
0m, 樹幹直径 1-2.
5m, 枝下2
0mに達す る落葉 の大喬木であ り,その種子は焼
さてサーラは樹高4
けば食用になる救荒植物 で,1
8
9
7
年のイン ド大飢健の折に これが大いに役立った といわれてい る。また子葉
a
lbut
t
e
r とよび料理,燈火用に使われ る。
の油を s
イン ドでは一般に s
a
lと呼び, 前述 した ようにチーク, ヒマラヤシ ダーと並ぶ 3大有用樹種の 1つで,
とくにネパール,ベ ンガル北部,アッサ ム地方の ものが上質である。辺材は黄白色,心材は黄褐色から暗褐
色を皇 し,強度,耐久性,耐蟻性が よく,代表的な構造用材である。イ ン ドのパ ータ リブ トラ市にあるマウ
1
)ヤ朝 (
Maur
ya:前3
1
7
年∼前 1
8
0
年)の遺跡から s
a
lの梁が発掘 されてお り,その他の出土品からもこの
- 1
6-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
材がかな り用いられていたことが推定され,おそらく釈迦在世当時に も建築用材 として相当利用されていた
ことが推察される。鉄道枕木 として最適の樹種で第 2次世界大戦末期には年間 2
0
0万 トンも伐採され,その
中1
/
3が枕木に利用されていた (
Cho
wdhur
y,I
ndi
anWo
o
ds
)
。その他柱,柿,建築一般,橋脚,橋桁,電
柱あるいは船舶用 (とくに丸木船), 変った所では ピッケルアーム,テン ト棒など広 く土木, 建築用に使わ
れている。 またその樹皮はかつて 重要なタンニン資源であったが, 現在は燃料 としての 重要性がまだ無視
できないし, 最近はボー ド原料 としての 研究 もはじめられている。 樹皮を傷つけて採取 した 樹脂はカーラ
(
K51
a) とよび宗教儀式の薫香や蚊や りに用い,ボー トの コーキング剤,塗料 としても利用できる。 ただし
収量は少ない。
Sho
r
e
ao
b
t
us
aWa
l
l
.は Bur
mas
a
lと呼び, 亘-ラに よく似た材でタイではテン (
t
e
ng)
, ビルマでは
シ トヤ (
t
hi
t
ya)
,カンボヂヤではプチェック (
phc
he
k)
,ラオスではチック (
c
hi
c
k)とよび,ほぼサーラと
同じ用途をもっている。
2) イン ドボダイジュ Fi
c
usr
e
l
i
gi
os
aL.Bo
dhi
(
vr
ks
a),A岳
va
t
t
a,菩提樹
現世の無常を感じ出家した ゴータマシックルタ (
釈迦の王子時代の名)がさまざまな遍歴,苦行の末,最
後にナイランジャナ-河のほ とりの アシュヴァツタの 木の下で 至高の菩提 (
悟 り)をえて 仏陀になったこ
と, それ以後 この木を 菩提樹 とよぶ ようになったこと, あるいはその前後のさまざまの物語 りは 専門書に
de
nbe
r
gの TheVi
na
ya
Pi
t
akaに よ
詳 しく述べてあるが, その うち樹木にも関係の深い物語 りとして 01
ると,
「
悟 りをひらいた釈迦は 1週間イン ドボダイジュの下で神々の祝福を うけ,法悦にひた り,第 2週 目には
Aj
a
p5
1
a)の木の下に移 り, ここで再び冥想にふけ り, 第 3週にはムチ
冥想から立上ってアジャバ∼ラ (
Muc
a
l
i
nda)の木の下におもむ き,さらに 7日間冥想 した後,ラージャーダナ (
Ra
j
a
dana)の
ャ リンダ (
木の下に移って 1週間結伽扶重し解脱 (
煩悩の束縛からの解放一悟 り)の楽みを うけ,第 5週 目には再び
アジャバ-ラの木の下におもむ く」
写真 4 Fi
c
usr
e
l
i
gi
o
s
aL.イン ドボダイ
ジュ
(
小石川植物園)
写真 5 同 前
(
De
l
hi
,BuddhaJ
a
yant
iMe
mo
r
i
alPar
k.
)
- 1
7-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
これらの樹木については後章で逐次説明す るが Fi
c
us(イチヂク属)にはいわゆるイチヂク F.Car
i
c
aL.
の ような有用果樹,イン ドゴム F.e
l
as
i
i
c
aRo
xb.などのような有用,観葉植物,イン ドボダイジュのよう
な神聖樹などが含 まれてお り, 果樹のイチヂクは 日本では庭に植えると病人は断えないが 子孫が絶えると
か, 病人の うな り声で木が育つなどといわれ 忌樹 として喜ばれないが, イン ドでは イン ドボダイジュのほ
か,パ ンヤソ樹 F.b
e
nghal
e
ns
i
sL.
, ウ ドンゲ F.gl
o
me
r
at
aRo
xb・などは,神聖樹,智慧の木,あるい
は縁蔭樹 として大切にされている。
さてイン ドボダイジュほ後世仏陀の偉大さを象徴す るものとして次第に神秘化 され,荘厳化 され,巨大化
されてゆ く。た とえば釈迦が悟 りをひらいた時,その地には七宝造 りのイン ドボダイジュが出現 し (
華厳経
-世主妙厳品第 1,法華経一捉婆達多品第1
2
, 化成愉品第 7), 阿弥陀如来の極楽世界には一本の巨大なイ
ン ドポダイジュがあ り (
前述),常にさまざまな色,形の菜,花,果実を もち,これが微風に吹かれるとき,
その妙音は無限の世界に達 し, これを聞 くものは耳の病を患 うことな く,この木を見,その香を知 り,その
味をなめるものは病気にあわず心の乱れ ることはない (
大無量寿経)0
c
usをいわゆる花のない木 として現実的
このような神話的なものは別 として, きわめてまれであるが, Fi
t
ani
pat
a の中に
な扱いをしている例 もある。前述の Sut
「イチヂクの木の林の車に花を求めても得 られない ように,もろもろの存在の うち堅 固なもの (
本性)を
見出しえない修行者は, この世 とかの世を ともに捨てる」
イ ン ドボダイジュほ, 後述す るように よく中国原産のボダイジュと間違えられ るが, イン ドジュズ ノキ
El
aeoc
ar
pusGal
u
'
t
r
usRo
xb.ともよく間違えられ るoイ ン ドジュズノキの種子は菩提子 (金剛子)とい
い直径約 1c
m,ほぼ球形で表面に凹凸があ り,これをそのまま,または磨いて作った数珠は功徳無量 (ムク
Pi
ndusMukur
o
s
s
iGa
e
r
t
n.の種子で作った数珠は功徳千倍,水晶は功徳百万倍) といわれているO
ロジ Sa
ネックL
'スなどに も用いるC ネパール, アッサム, ベンガルからマライまで分布生育 している。 気乾比重
0.
4
-0
.
4
5
の軽い木で箱額に使 うこともあるがあま り利用されない。
写真 6 El
ae
o
c
ar
pusGani
t
r
usRo
xb・イン ドジュズ ノキ
(
Si
ng
a
po
r
e,Bo
t
ani
cGar
de
ns
・
)
イン ドボダイジュは常緑で高さ 6-2
0
m,樹幹直径 1-2mに達 し,写真でみ るように樹高の割に樹幹が
太 く,枝が四方にはって樹冠が広い。葉は卵形であるが先端がきれいに長 くのびた独特の形を もち鮮麗な青
緑色を墓 してお り, イン ドの代表的な縁蔭樹である。 若葉は食用, 飼料にな り, 樹皮からタンニンが とれ
i
po
lと呼び,灰色をして
る。 またシェラック樹脂を分泌す るラック虫が よく寄生す る。 イン ドでは材を p
.
5
5
位で箱物や農器具用材に適す るが本来神聖樹 としてあま り利用 しないo木はこれを材 と
軽軟,気乾比重0
-1
8-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
して利用するばか りが能ではない。樹木 として活かした方がはるかによい場合 も多い。イン ドポダイジュ,
ベンガルボダイジュ,アショカなどは,このような樹種であろ う。
日本では温室でしか育たないが,葉の形 と色調が非常にきれいなので,最近は式場の生花用に引張 りだこ
だそ うである。そのせいかどうかしらぬが,京都近辺の温室にあるイン ドボダイジュは,いつみても素っ裸
に されてお り, 丁度,やせおとろえて, あばら骨の うきでたガンダーラ (
Gandhar
a)の苦行する釈迦像を
連想させていたいたしい。
3) ボダイジュ
Ti
l
i
aMi
que
l
i
anaMax.菩提樹
イン ドポダイジュほよくこのシナノキ科,属のボダイジュと間違えられる。この木は中国原産の落葉樹で
葉がイン ドボダイジュに一寸似ているため,中国で間違えられ,そのまま日本に伝えられたものであろ うと
いわれている。 永万 3年 (
1
1
6
8
年), 僧栄西が中国天台山の菩提樹の種子を持帰 り,福岡県の香椎神社に う
えた とも,あるいは比叡山の西塔に植えた とも伝えられているのが最初である。その後,仏樹 として多 くの
寺院に植えられ,いろいろの伝説 もうまれている。
写真 7 Ti
l
i
aMi
q
u
e
l
i
a
n
aMax.ボダイジュ
写真 8 同 前
(
比叡山浄土院)
樹高は普通1
0
-1
5m, 樹幹直径約 6
0c
m に達す る喬木で, 6月頃淡黄色の花がさき果実は小粒の球形で
核は堅 く数珠用に珍重される。材は比較的軽軟で,気乾比重0.
6
2,黄白色撤密でキャビネッ トや細工物に適
す るが霊樹 としてあま り使用しない。
4) ベンガルボダイジュ Fi
c
usb
e
ngal
e
ns
i
sL・Nyagr
6
dha,Va
t
a,(/i)Aj
a
pal
a
Ni
gr
o
dha,尼拘律
(
類)樹
通称 Banya
nt
r
e
e と呼び, 前述の Vi
na
yaPi
t
akaに よれば, 釈迦がイン ドボダイジュの下で障 りをひ
らいた後第 2週 目と第 5週 目に,またラリタグィスタラ (
La
l
i
t
a
vi
s
t
ar
a:渡辺照宏訳 仏教上,岩波文庫)
に よると第 6週 目に,それぞれこの木の下で 1週間坐禅冥想 した由緒の木で,高さ2
0
-3
0mに達する常緑の
喬木である。葉は卵形,直径 1
-ノ
2c
m の球形の実が沢山なるが普通食用にはならない。 樹幹完満,枝葉繁
茂 してよい縁蔭樹 とな り,イン ドでは豊穣 と長寿 と神聖のシンボルとされている。枝から多数の気根を出し
- 1
9-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
写真 9 Fi
c
usb
e
nghal
e
ns
i
sL ベ ンガルボダイジュ
(
小石川植物園)
これが地上に達す ると,つ ぎつ ぎに丁度樹幹のようになるので,一本の木があたかも林のようになるo写真
1
1はカルカッタ植物園にある世界最大 といわれるベ ンガルポダイジュの気根の部分で,樹令約 2
0
0年以上
樹高約2
7m,主幹の胸高直径約 5m,気根の数1
0
4
4
本 (
1
9
6
5
年現在)
,樹冠直径約 1
3
0m,周囲 5
0
0mで,樹
0
0m トラックで
下に数千人の人が遊ぶ ことができるといわれ る。京都大学農学部の北側にあるグラン ドが 5
あるか らその巨大さが想像できよう。これ らの性質を仏典では次のように引用 している。
仏教の理想を人間の相の中に表現 しようとす るためには,3
2相をそなえることが必要であるが,その中に
其 青眼相 と大直身相 とい うのがある。眼は青蓮華のように青 く,身体は広大端直であたかもニグロ-ダのご
とくでなければならぬ (中阿含経-3
2
相経第 2,華厳経-入法界品,雑阿含経-婆韓沌経)。 釈迦は正 しく
そのような相をそなえていた。
「
悟 りはあらゆるものの うち最 もす ぐれたものであるから丁度 ニグロ-ダのようであるOあまね く一切の
ものを覆って匹敵す るものがな く, ウ ドンバーラのようである」(
仏説無量寿経巻下)
「
貴欲,嫌悪などの煩悩は 自身から生ず る。それはあたかもニグロ-ダの新 しい若木が枝から生ず るよう
なものである」(
Sut
t
a
ni
p
a
t
a:中村元訳
ブツダの言葉,岩波文庫)
0 同 前
写真1
(W .P
a
ki
s
t
a
n,La
ho
r
e
,La
ur
e
n
t
hGa
r
d
e
n・
)
- 2
0-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
写真1
1 同 前
(
Cal
c
ut
t
a,Ⅰ
ndi
anBo
t
ani
cGar
de
n・
)
。
釈迦の父王シュツ ドダーナの居城であるカビラ城外には立派なニグロ-ダ樹園があ り,釈迦は後年,高弟
や比丘たち とともにたびたびこの樹園に滞在 して宗教活動をしていた ことが中阿含経,雑阿含経あるいは増
壱阿含経の中の各経に記述されている。
ニグロ-ダはまた過去六仏の第 6番加薬仏の菩提樹であることはすでに説 明した。善住尼拘類樹王にまつ
わ る面白い寓話 もある (中阿含経一教曇弥経第1
4)0
ベ ンガルボダイジュはイン ド各地に植栽 されているが, ヒマラヤ山中腹 とデ ッカン山地に 自生 している。
材は耐久性が強 く,テン トの支柱や器具類に適す るが,霊樹 として普通使用 しない。
5
) 7 シ ョ カ Sar
ac
ai
ndi
c
aL.A岳
o
ka,阿輸迦樹,無憂樹
仏教 3霊樹の 1つで,釈迦の生誕 と結婚に関係の深い 目出度い木であるが,サーラやイン ドボダイジュほ
ど日本人にほしられていない。釈迦生誕に関す る伝説を前述のラリタグィスタラや仏本行集経に よると
「
未来の仏陀たるべ きゴータマボサ ツ (
釈迦)がシャーキャ一族の王シュツ ドダーナの妃マ-ヤの右脇腹
から母胎にはいると,妃は今迄に経験 した ことのない観害 と心の安定を覚え,城 内のル ンビニ-園のアシ
0カ月,妃は王城内にお こるさまざ
ョカの木の園にお もむ き父王を迎えてこのことを伝える。-・
-托胎後 1
まな不思議な前兆に よって出産の近い ことを予知 し,ル ンビニ-園にお もむ く。時は早春,園内の木 とい
う木には時ならぬ ものまで花が咲 き揃い,妃があるプラクシャ (
Pl
akg
a,前出)の木 (
一説にはアショカ
の木)に近づ くと自然に枝が垂れ下 り,妃が右腕をのは して一本の枝をつかんだ時,ボサ ツは母の右脇腹
から歩み出る。生れたばか りのボサ ツが大地を歩む と,大地が割れ大 きな蓮華が咲 き出る。ボサ ツはこの
蓮華の中に立ち "私は世界の第一人者である。最高者である。これは私の最後の誕生である。私は生 と死
の苦を うち消そ う"と第一声をほなつ」
長阿含経一初大本経第 1に よると, この第一声は, われわれ 日本人になじみの深い 「
天上天下唯我独為
等」 となる。
シュツ ドダーナはわが子にシック-ルタと名付け る。
「シック-ルタ太子の周囲には幼少の頃から,将来出家 して仏陀 となるべ きさまざまの奇蹟があらわれ る
ため,王や古老たちは太子が成年に達す るとその遁世をおそれて,早 く美 しい妃を選ぼ うとし,アショカ
の赤い花を篭に もって宝石で飾 り,国中の乙女を城に集め,太子の手か ら乙女たちに花をお くらせ る。最
後の花がつ きた時に,同じシャーキャ王族の姫ヤショーダラがあらわれ,太子は姫にアショカの花の代 り
に指輪を与える」
- 21-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
この姫が後年シッタールタ太子の妃になる。
アショカは樹高 6- 7mの落葉の中喬木で,葉は写真でみるように長楕円按針形の小葉からなる偶数羽状
2 Sa
r
a
c
ai
nd
i
c
aL.アショカ
写真1
(
Si
ng
a
po
r
e
,Bo
t
ani
cGar
de
ns.
)
写真1
3同 前
複葉で,新葉は淡紫紅色を呈 して下垂す る。春に燈黄から緋紅色の花が円錐花序につ き,その美 しさは他に
比べ るものがない といわれている。 とくに夜間に芳香をはなつ。中部 ヒマラヤから東部 ヒマラヤの山麓に多
く,セイ ロン,マ レイに分布 している。
6
) プラクシャ (ビン ドラ) Fi
c
usi
nf
e
c
t
or
i
aRoxb.Pl
a
ks
ha,Bhi
ndur
a,毘陀羅樹
釈迦生誕樹は普通アショカの木になっているが,ラ リタグィスタラに よるとアショカは入胎樹,プラクシ
ャが生誕樹 となる。この木は よくイン ドボダイシュと間違えられ るが,大方広仏華厳経不思議分境界分に よ
ると
4 Fi
c
usi
n
fe
c
t
o
r
i
aRo
xb.プラクシャ
写真1
(
W.Pa
ki
s
t
an,La
hor
e
,La
ul
e
nt
hGar
de
n・
)
- 2
2-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
「
釈迦はイン ドポダイジュの下で悟 りをひらいたが,その木は きわめて荘厳で,マンダーラヴァ, ビン ド
ラをのぞいては比肩 しうるものがない」
4
でみるように卵形披針状,樹形 もイン ドボダイジュよ りひ と
と記述 して区別 している。落葉樹で葉は写真1
回 り低い。ベ ンガル,アッサム州に多 く,若葉を食用にす ることもある。材は とくに利用 されない。
7
) ジャンボラン Euge
nl
aJambo
l
anaI
J
am.J
ambu,閣浮樹
ラ リタグィスタラや中阿含経一味曽有経,雑阿含経一阿育王因縁経などに よると,シッタールタは幼少の
頃から将来仏陀 となるべ き相をそなえていたが,ある日ただ 1人城内のジャンプ-の木の下に静坐 して冥想
にふけ る。太陽が懐 くにつれ,他の木の蔭は動いてゆ くが, このジャンプ-樹の蔭だけは動かずにいつ まで
も太子の上を覆っているのがみ られた とい う。これ と同じ内容の話は,太子が仏陀 となった後年ジャンプをクーラやサーラにかえて伝えられている (中阿含経一味曽有経)。 ジャンプ一にはこのような神話的,寓
話的物語 りが非常に多いが, それは ともか く, 釈迦はその生涯において いろいろの木の下で 冥想にふける
が,おそらくこのジャンプ-が最初の冥想樹であろ う。
5 Euge
ni
aJamb
o
l
a
naLam.ジャンボラン
写真1
(
W.Paki
s
t
a
n,Laho
r
e,La
ur
e
nt
hGar
de
n.
)
ジャンボランはイン ド各地に広 く分布 している常緑的落葉樹で,樹高 6-1
0mの潅木性喬木であるo葉は
広い卵形で,果実は渠果で生食でき,酒や酢の原料に もなるので,果実を 目的 として村落や家の周囲に も植
栽 されている。 仏典ではこの実を 「
不死の実」「
黄金の実」 とも呼び, 総論でものべた ようにすべての果実
の うちの最上のものとしている。
j
aman) と呼び,赤灰色を呈 し,濃いF
E
E
J
責を もつ ものもあるo気乾比重0.
7
7位で耐久性 も
材をジャマン (
かな りよい。強度的性質はチークに似てい るがやや硬 く,一般建築構造材や枕木 として使用 され る。また合
板用に も使われ るがやや重いのが難点である。選材す ると非常に よい木理がえられ るので家具,キャビネッ
ト用に喜ばれ, 将来家具用材 としてのびる可能性があるといわれている。 カソボヂヤではプ リン (
pr
i
ng)
とよばれ る材の中に含 まれていて,建築,構造,枕木用材あるいは農器具,杭,造作用 として広 く使用 され
ているようである。
8
) オーギヤシ Bor
as
s
usf
l
abe
l
l
i
f
erL.Tal
a,多羅樹
pa
l
myr
a pa
l
m) と呼ばれ るが, ビルマではタン (
t
an) または トディ (
t
o
ddy)
一般にパル ミラヤシ (
とよび,イン ド, セイロン, ビルマからマライにかけて, ココヤシ Co
c
o
snuc
i
fe
r
aL.に次 ぐ重要 なヤシ
として植栽されているが,一部野生化 した所 もある。 高さ1
0
-3
0m,直径 6
0
-9
0c
m に も達する。葉は掌
バイ タ
状で,屋根を葺 き,繊維でむ しろ,篭などを作る。古代にはこの菜を乾燥 して紙 のように した ものを貝 (
多
- 2
3-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
ラ ヨ
ウ
荏)葉 とよび,イン ドでは主に経文を刻んだ。 日本におけ る仏教の研究はおもに漢訳本に よっていたが,サ
ンスク リッ ト語の古貝葉が法隆寺や大阪府高貴寺などに保存され,法隆寺のものは推古天皇 1
6
年 (6
0
8年)
小野妹子が中国から持帰ったものと伝えられてい る。 花硬から出る液を t
o
ddy と呼び甘 く, 煮つめて砂糖
代用 とした り,酒を作 る。上記の樹木名はこれからきた ものであろ うo幼巣はジェ リ-状で風味がある。樹
幹は内側は柔かいが 外側は褐色で堅 く強 く耐水性に とむo気乾比重 0
.
8位で,柱,たる木, カヌーな どに,
また中空に して水管にも使用す るな ど非常に利用価値が高いので,イン ドの農家では家の周囲に植え, lつ
の風物 となってい る。 これ とパ ンノキ Ar
t
o
c
a
r
puss
p
p.を数十本植えておけば, デカンショ節ではないが
半年は楽に寝て くらせ るとい う。
さてクーラが最初に釈迦に関連 して仏教史上にあらわれ るのはその 婚約の 時であろ う。 アショカ の項で
のべた ように シッタールタ太子 はヤショーダラ姫を妃にきめたが, 婚約をす るためには当時の習慣にした
がって, ライバル と武技を競って 勝ちぬかねはならぬ。 彼はこの競技で 従兄弟のデイバ ダックと最後の決
戦を行ない, 鉄製 の的 もろとも 7本のターラの幹を 1本の矢で打ちぬ き, 美事ヤショーダラ姫をかち とる
(
Be
c
kh,Buddhi
s
mus:渡辺照宏訳 仏教上,岩波文庫,方広大荘厳経-現芸品第1
3
)
0
仏典ではクーラの木はまた宝多擢樹 (
七宝でできたクーラ)の行樹 (
並木)あるいは七重行樹 (
七重の並
木) として,蓮華,マ ンダーラヴァ,クマ-ラなどとともに阿弥陀如来の仏国土である極楽 世界や毘産遮耶
仏の仏国土たる蓮華蔵荘厳世界をはじめ多 くの仏国土を象徴す る荘厳樹 として扱われ る (阿弥陀経,大無量
寿経,華厳経一法蔵世界品第 5,人法界品など)0
写真1
6 Bo
r
as
s
usjl
ab
e
l
l
i
fe
rL.オーギヤシ
(
Bang
ko
k,佐竹氏写)
7 同 前
写真1
(
Ce
yl
o
n,Pe
r
a
de
ni
ya,Ro
ya
lBo
t
a
ni
cGa
r
de
ns
.佐竹氏写)
イン ドでは古 くから, 霊場の参道などの両側にオーギヤシの並木を作 る習慣がある (
写真1
7)。 また法華
経一入法界品第39には タ-ラの万能性を比職にした次のような説話がある。
「
菩薩の菩提心はグーラのようなものである。その根茎枝葉華巣を一切の衆生は常に とって愛用 し,しば
ら くもやむ ことなし。菩提心 もまたか くのごとし。はじめ悲願の心を発揮 して より成仏 (
悟 りをひらくこ
- 24-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
と)に到 るまで正法 (
仏法)は世に任 し,常時一切の世界を利益 して問歓す ることなし」
オーギヤシはごくまれに枝を出す こともあるが,普通樹冠部をきれば枯死す る。仏典でもしば しばその根
本を断絶す ることを 「クーラーの頭を きる」 ごとしと表現 している。た とえば,雑阿含経一大空法経に次の
ような釈迦の言葉がある。
「
老死即ち断ぜば則ちその根本を断ず るを知 らん。多羅樹の頭をきるが ごとし。未来世において不生法を
成ぜん。行即ち断ぜば-・
-」
これは仏教の真理である因果関係を教えた もので,苦悩の原因を除去すればおのずから苦悩から解放 され
浬巣を うるとい う意味である。 またテ- リーガータ (
The
r
i
Gat
豆:早島鏡正訳 長老尼の詩,仏典 I)に,
王女 スメ-ダが仏教に帰依 し,父王に出家を顕 う対話の中に も次のような言葉がある。
「はかない栄華はなんの役に も立ちません。私は もうもろもろの欲望を離れすてて,丁度 クーラの木の切
株のようになっています」
9
) マ ン ゴ ー Mangi
f
e
r
ai
ndi
c
aL.Amr
a,(/i) Amba葦羅樹
南国の名果マンゴーの果樹,樹高2
0
-3
0m,直径0.
8-1.
0mに達す る常緑の大木で,葉は長楕円形で,黄
色または帯緑色の小さな花が頂生の大 円錐花序に沢山つ き,芳香があるが,不完全花が多 くその割に結実が
少ない。 それでも随分沢山の果実がなる (
写真1
9
)
。 原産地はイン ドまたは ビルマといわれ,両国 ともにマ
ンゴーについてはいろいろの伝説があ り,仏前に よくこの果実を供える。 ヒマラや山麓からビルマにかけて
多 く,広 く東南アジア地区に果実を 目的 として栽培 されている。
マンゴーは仏教に非常に縁の深い学林樹木で,釈迦はその遊行中しばしば各地のマンゴー林に滞在 してい
る (
雑阿含経,長阿含経)0
その中でもバーバー村の鍛冶屋の子チュンダのマンゴー林,べ-サ !
月寸の遊女アンバパーラの寄進 したマ
ンゴー林が有名である (
長阿含経一散陀難経第 4,増壱阿含経一勧請品第1
9
,雑阿含経一番羅女経)0
釈迦はチュンダのマンゴー林に滞在中,彼が とくに釈迦のために作った食事 (
一般には野猪の肉といわれ
るが一説には栴檀樹茸 り白檀の木にできた茸"ともい う-長阿含経,遊行経第 2)のために赤痢状のはげ し
9同 前
写真1
(
W・Pakistan,Lahore,LaurenthGarden.)
写真1
8 Ma
n
gi
fe
r
ai
ndi
c
aL.マンゴー
(小石川植物園)
- 2
5-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2
)
い陵痛になやまされ,その死を早めた と伝えられている。アンバパーラほパ- 1
)一語でマンゴーの果実 とい
う意味で,彼女はべ-サ リ城のマンゴー林にすてられていた (
一説には奈樹の癌から生れた ともい う一長阿
含経,遊行経第 2)のを管理人が拾い育ててこの名をつけた といわれている。美貌で後に高級遊女になった
が,後年釈迦に帰依 しマンゴー林の寄進を申出た。当時イン ドには強い階級制度がしかれ,このような職業
の女性からの寄進を釈迦が うけいれ るか どうか注 目されたが,人間は平等であ り区別はない とす る釈迦は快
くこれを うけアンバパーラ女が歓喜 した と伝えられ る。
教義の比境 としてもマンゴーは よく引用され るO
「
無常想 (諸行無常 とい うこと)を修得すれば, 一切の執着, 菱, 無智などを断つ ことができるO これ
は,丁度マンゴーの枝を暴風がゆ り動かせば,その果実がことごとく落ちるようなものである」 (
雑阿含
経-樹経)
「マンゴーの木の花は多いが 実を結ぶ ものは少ない。 これ と同様に 衆生の中に 菩提心を起す ものは多い
が,これを成就す るものは少ない」 (ジャータカ :前出)
なお,漢訳阿含経ではしばしばマンゴー林に捺林 とい う訳語が出て くる0校は中国でカ リン Cy
donl
aSi
-
ne
t
t
s
i
sThoui
n.を意味 し, 脊羅横,春摩勤 とい う字 もあて
てい るが,中国原産でむしろ寒地に適 しイン ドには生育 しな
い。マ ンゴーより樹形が低 く,葉 もマンゴーの長楕円形按針
状に対 して卵形であるが果実の形,大 きさが似ているために
混同されたのか もしれない。カ リンの果実は非常に よい香 り
をもつが生食できないoパー リー原語からみても捺林はマン
ゴ-林を意味 し,長阿含経-初大本径第 1ではアンバパーラ
ー女を奈女 と訳 し 「
奈樹の癌節 より生る」 としていることか
らも上の推定に間違いはない と考えられ る。
マンゴーはイン ドで a
m,amba ともよび,材は褐色,気
6
-0.
7で耐水性強 く,強度 もほぼチークなみである
乾比重0.
が,変色しやす く製材後す ぐ乾燥す る必要がある。シッソ-
Da
l
b
e
r
b
O
i
aSi
s
s
o
oRoxb.や イン ドチャンテ ン Ce
d
r
e
l
aTo
o
na
Ro
xb.とともに用途の広い材で床板, 天井板 その他 一般建
築,一般家具材および箱 (とくに茶箱)の材料 として利用が
ha
ye
t
,タイでは ma
多いC 合板に も使える。 ビルマでは t
n
川ang
p
a とよんでいるがこの木の栽培は材 よりもむ しろ果
実にある。台湾の台車から彰化に通ず る沿道数 km にわたっ 写真2
0 Cyd
o
ni
aSi
ne
ns
i
sThoui
n・ カ 1
)ソ
て林務局管理の美事なマンゴーの並木があ り,果実は国庫収
(箕面 ・勝尾寺)
人にあてられているそ うだが, 日本の 1級国道なみの帝のラッシュにあの美事さがいつ まで続 きうるかひ と
ごとならず気がか りである。
1
0
) ビャクタン Sant
al
m al
bum L・Candana,檀香 (樹)
実生でよく発芽 し 1年位は 自生す るが,その後は根に多 くの寄生根を出して,他の木の眼に寄生しない と
0mに達
育たない とい う珍 らしい半寄生木で,その育成には特殊の技術を要す る。葉は卵形披針状,樹高約 1
する常緑の中喬木である。材は一般に交錯木理が多 く,辺材は白色,心材は産地に よって淡黄色から紫褐色
を皇 し,外気にさらされ ると暗色をおびる。原産はイン ド南部であるが,広 く東南アジア,ポ リネシア群島
に分布 してい る。
辺材には香気はないが心材中にサ ンタロールを主成分 とす る精油を含んでいて芳香を発 し,
とくに精油分が多 く香気の強い部分は香木 として愛用され,これを栴檀 といい,色調に よって自栴檀,黄栴
- 2
6-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
.
9
檀,紫 (
蘇)栴檀 ともよんでいるが,漢訳仏典では樹木 も香木 もともに栴檀 と訳 している。 気乾比重約 0
で硬 くて重 く,仏像,彫刻,宝石箱,装飾家具,楽器,変った所では高級棺材 としてかつて中国へ相当量輸
出されていたが,現在は どうであろ うか。 日本では白檀の扇子が最近 目につ く。また心材を粉末にして薫香
にするが,イン ドではこれを練って塗香 として愛用す る。心材 とくに根株から水蒸気抽出した精油を白檀油
とよび,ペニシ リンが発見 され るまでは有名な性病の薬であった。
写真2
2 Me
l
i
aAz
e
d
a
r
ac
hL varj
a
po
ni
c
aMa
ki
no.
センダン (
京都植物園)
写真2
1 Sa
ni
a
l
um al
b
um L.ビャクダン
(
台湾 ・墾丁 ・熱帯植物園)
anda
l(
wo
o
d)はいずれ も死語の c
andanaから転じた といわれ, イン ドでも通常
漢語の栴檀,英語の s
s
anda
lwo
o
d と呼んでいる。 日本でい うセンダン科,属のセンダン Me
l
i
a Az
e
dar
ac
h L.var.j
a
po一
m'
c
aMaki
no には中国語の棟 とい う字があてられ,全 く別の樹種である。 日本のセンダンには花,材 とも
に芳香はないが, これに最 も近いタイワンセンダン Me
l
i
aAZ
e
da
r
a
c
hL.の花には- I
)オ トロープに似た
a
di
r
a
c
ht
aL.も花に芳香を もち,種子から香油が とれ,材を焼
芳香があ り,同属のイン ドセンダン M.Az
くか,摩擦す ると芳香を発して涼気をさそ うといわれているO
「
栴檀は双葉 より香 し」の栴檀はもちろん白檀のことで,観仏三味海経巻第 1の
「センダソがイラン華中に生 じ,まだ双葉に もならぬ うちは発香せず,唯 イランの臭気のみあるが =栴檀
の根芽漸 々生長 し,わずかに木 とならん と欲 し香気まさに盛な り=」
から出た ものである。
マガタ国の王子アジャータサ ッ トが父王 ビンピサ-ラを幽閉 して死に到 らしめたのは有名な話であるが,
釈迦は祇園精舎で比丘たちに 「
後年王 とな り, この悪行を悔い仏教に帰依せ り。これ恰 もイランの毒樹 より
栴檀を生ぜるごとし」 と無根の場所から信仰が生 じた ことをのべている (
増壱阿含経一括信士品第 6)。イ
r
apda,Ri
c
i
nusc
o
mmuni
sL. トウダイグサ科の トウゴマでいわゆるヒマシ油の木である。
ランは焚語 e
l
b
e
r
gi
aspp.のものが混入され るが, 本来のシタン Pie
r
o
c
a
r
Pus
日本でツタ.
/と呼ばれ る材には よく Da
anda
lwo
o
d, 日本では紅木紫檀, 古 くは赤栴檀 とよび, 仏
s
a
nt
al
i
nusL・は材に香気があ り, 欧州では s
像,器物,彫刻に用いた ことがいろいろの古典に記 されてお り現在 も三味線の梓,胴には最高級品である。
- 2
7-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2
)
京都嵯峨清涼寺の釈迦如来立像は,寺伝では牛頭栴檀をもって蘇 られた如来の像 (
増壱阿含経一優墳王経
?)の模像で,イン ドー中国一 日本のルー トで将来 した とされ,赤栴檀を以て作 られ, =香あ りて夏月汗を
生ず 'ともいわれている。また室生寺の弥勤菩薩,高野山金剛峯寺の枕本尊,法隆寺の九面観音菩薩はいず
れ も寺伝では将来仏で白檀造 りとされてお り,京都伏見区法界寺の薬師如来立像は赤栴檀,京都高雄神護寺
の薬師如来立像,七本松清和院の河崎聖観音立像は弘法大師作のいずれ も檀像 と伝えられてお り,京都大原
野村勝持寺の胎内仏薬師如来小像は白檀の一木造 りとされているが, これ らの仏像とくに将来仏の由来,材
質については諸説い りみだれているものもある。
仏典に出て くる栴檀の種類にもあいまいな所があるが大体次の 3種類になる。
ウラガサーラチャンダナ
(
Ur
ag
a
s
ar
ac
andana)
,蛇心憎香,海此岸栴檀
ゴーッィルシャチャンダナ
(
Go
昌
i
r
!
ac
andana),牛頭栴檀
K豆
1
anus
ar
i
nc
andana)
,隔時焼香
カーラーアヌサー リンチャンダナ (
ゴーッィルシャチャンダナは イン ド南部の 山地からでる黄栴檀で, 最 も香気の強い高級品, 赤銅色の栴
檀や赤栴檀 もこの部類にはいるとされている。 カーラーアヌサー リンチャンダナは 筆者には K5
1
a
nus
ar
i
n
(
St
yr
acBe
nz
o
i
n Dr
yand,安愚香樹) と c
andana(栴檀)に分けた方が妥当ではないか と思われ るが一般
には 1種類 として扱われている。
これらの栴檀は当時のイン ド人たちが薫香や塗香 として身につけ,暑気を払 う心身清浄剤 としていた こと
辛,建築,家具,その他器物の用材 として仏廟や僧房の一部に使用 (
法華経一序品,方便品,信解品など)
されていた ことは歴史的な事実であ り,また如来たちや法華経を信奉する人 々が ロから青蓮華の香を出し,
一
一切の毛孔から栴檀の香を出す とい う表現はあながち仮空のことではない。しかし一般には栴檀は如来たち
の坐誕,成道 (
悟 りをひらくこと)あるいは説教を慶祝 して空中からふ りそそぎ,如来を供養 し,仏国土に
薫 るとい う神話的な取扱いの方が多い。
栴檀を教義の解説に利用している例を 1つあげると,弥勤菩薩がスダナ王子に
「
黒栴檀香は もし一鉢を焼けば,その香普 く小千世界 (
仏教で考える世界の 1つの単位)に薫 じ,三千世
界の中に満つ る珍宝の価値は皆およぶ こと能はざるごとし。菩薩の菩提心の香 もまたか くのごとく,功徳
は普 く法界に薫 じおよぶ ものなし。白栴檀香はもし身に塗れば一切の熱悩を除 き,心身清浄ならしめ る。
菩提心 もよく一切の煩悩 (
貴欲,いか り,無知などその数 1
0
8とい う)を除 き智慧をえて清涼ならしむ」
(
華厳経-入法界品)
変った例 としては-青年が美 しい尼僧スパーを誘惑 しようとして
「
新 しい布団をしき,栴檀の香木で美しく作 られ,その香 りのす る高価な臥床に寝て下 さい」
r
i
Gat
h云:早島鏡正訳 長老尼の詩,仏典 Ⅰ)o
と口説 く一節がある (チ- リ-ガ一夕 The
中阿含経一遊行経第 2に よれば,釈迦は臨終の折,弟子のア-ナンダに命 じて
「
私の遺体を火葬にする峰は転輪王 (7つの神通力 と4つの徳を備えで世を治める神話上の帝王,神話で
は よく釈迦にた とえられ る) と同じように栴檀香櫛 (
棺)におさめ,栴檀その他の香木を薪にせ よ」
と遺言しているが,イン ドでは昔から薪の中に加えられ る白檀の枝の量が死者の貧富の尺度 となるといわれ
てい る。
現在でも火葬は聖なるガンジス河などの河畔で衆人環視の中で行なわれ るが,上記の尺度がいまなお残っ
ているかどうか筆者ほしらない。
ll
) タ マ ー ラ Ci
t
l
namOmum Tamal
aNee
s?Tam豆1
a,多摩羅抜香樹
葉に芳香を もち, チャンダナその他の香木や マンダーラヴァなどとともに, しばしば 仏典にあらわれ る
那,かな り問題のある樹種で,いろいろの辞書から結局次の 3種があげられ る。
xant
ho
c
h
ymusPi
c
l
o
r
i
usRoxb.(
Ga
r
c
i
ni
axani
ho
c
h
ymusHk・
)
- 2
8-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
Laur
usCas
s
i
aL.
ci
nna
mo
mum ni
t
i
dum Bl
.
ト
i
i
i
i
dum はあま り生育 していない らし く,Ho
o
ke
r も?をつけてい るので筆者にはそれ
この内最後 の C.n
.
以上立入 る資格はない。
漢訳仏典ではほ とん どが X.Pi
c
t
o
r
i
usとしてい る。 Ho
o
ke
rに よるとこのシ ノニムに Ga
r
c
i
ni
axa
nt
ho
-
r
e
l
l
aDe
s
r・には別名 Ta
ma
l
aの名があるが, この両樹種はいずれ も葉に芳雫
c
h
ymusHk.があ り,G.mo
ur
usCa
s
s
i
aのシ ノニムには
がな く,仏典のクマ-ラとは別のものと考えるのが妥当である。La
Ci
nna
mo
mum Ta
ma
l
aNe
e
s.
Ci
nna
mo
mum z
e
yl
a
ni
c
um Br
e
yn.
があ り,仏典の内容から考えて, このどち らかがタマ-ラであるとみ るのが妥当であろ う。前者はイン ドヒ
マラヤ山地方原産,後者はセイ ロン原産 であるが,非常に よ く似 てお り,セイ ロンニッケイの総称 で,セイ
ロンからビルマ,マ ライ地区にかけて栽培 されてい る。昔か ら有名な香料,薬用植物 で,高 さ1
0
m前後の廃
線喬木,菜を もむ と芳香を発 し,若葉は淡紅色できれいである。ニッケイ類の樹皮 の上皮をのぞいて乾か し
た ものを桂皮 と呼び,そのまま粉末に して菓子や料理 の香辛料 としてい るが,セイ ロンニッケイの粉末は と
くにシナモンと呼んでい る。また桂皮や根を蒸溜 して桂皮池,葉か ら肉桂水を作 り香料,健 胃剤 とす る。
写真2
3 Ga
r
c
i
ni
a xa
nt
ho
c
h
ymus Hk・
クマ ゴノキ (
伊豆薬用植物培栽試験場)
写真2
4 Ci
nnamo
mum z
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yl
a
ni
c
um Br
e
yn.
セイ ロンニッケイ(
伊豆薬用植物栽培試験場)
総論で述べた ようにクマ-ラの菓 (
t
am51
a
p
at
t
r
a)は神秘化 され, センダンやマ ンダーラヴァの花 とと
もに,仏国土や仏塔を荘厳 し芳香で満す (
大無量寿経,観無量寿経,阿弥陀経その他)0
I
l
r
e
l
aはアラ「
ダマン諸島に分布 し,果肉をシャーベ ッ トや薬味原料 とす るため栽培 されてい る。 また G.mo
ダル とよび,イン ドのベ ンガル,アッサ ム地方か らビルマ,タイに産 し,樹液か ら黄色染料が とれ る。同属
1
に果物 の女王 といわれ るマ ンゴスチ ンの木 G.ma
ngo
s
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a
naL.がある。
1
2
) シ・
.
J ソ ー Dal
ber
gi
aSi
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ooRo
xb・Si
l
l
岳
a
pa F舎婆 (F満智,申恕)樹,印度黄檀
- 29-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2
)
マンゴー,サーラとならぶ学林樹木で,釈迦たちはたびたび コ-サ ラ,マラー, クルー国 (
いずれ も釈迦
6
大国の 1つ)の各地のシソサパー林に滞在 して宗教活動を行なっている (
雑阿含経一
看三
世当時のイン ドの1
申恕林経,頻頭城経,私陀迦経,繋 紐多羅経,中阿含経一仏藍経第 6,波羅牢経第1
0
,蝉韓経第 7,求法経
第 2など,長阿含経一遊行経第 2)0
釈迦はある時 ラーi
>ヤグリ- (
王舎城)郊外のシソサバ-林におもむ き,数枚のシソサパーの菜を手に と
って比丘たちにい う。
「
私の手にしている菜は林内のシソサバ-の葉の数に比較す ると非常に少ない。これ と同じように私が覚
知 してい ることは 非常に多いが, 話す ことは非常に少ないから, 各 自それぞれ 増上欲を起 して (
努力し
て)無間覚 (自ら悟 ること)を学びなさい」
これ も総論で述べた ように,釈迦が比丘たちにそれぞれの能力,環境,精進に応 じで悟 りを得させ ようと
す る考え方を示 した ものといえよう (
雑阿含経一申恕林経)0
写真2
5 Dal
b
e
r
gi
aSi
s
s
o
oRo
xb・シッソー
(
W.Paki
s
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an,Laho
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e,La
ur
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T
de
n・
)
シッソーは高さ2
5
-3
0
m, 直径 7
0
-8
0c
m に達す る落葉樹で, 葉は 3- 5葉の複葉であるo 仏典のご
と くイン ド各地にあるが, とくにパ ンジャブ, ウッタル地区に多い。 通常 s
i
s
s
oまたは s
hi
s
ham と呼び
Dal
b
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fo
l
i
aRo
xb.(
r
o
s
ewo
o
d) と共にイン ドの重要樹種である。 材は黄褐色から暗褐色を星 し,
8前後,木理がきれいで D・l
ai
i
fo
l
i
a とともに高級家具 とくに椅子, キャビネッ トおよび車輪,
気乾比重 0.
運動具などに用いられる。
1
3
) ヒマラヤシダー Ce
dr
usDeodar
aLoud・De
va
dar
u,雪松 (木権,天木香樹)
法華経方便品第 2に
或有起石廟 栴檀及沈水 木橋井飴材 屯瓦泥土等
(
或は石廟一仏廟-を起て,栴檀及び沈水,木橋並びに飴の材,執瓦泥土等でなす)
この木橋の原語は De
va
dar
u すなわち C・De
o
da
r
aLo
ud・でいままでの仏教樹木中唯一の針葉樹であ
るo漢訳仏典では木橋 または天木香樹 とした ものが多 く,訳註に 「
形白檀に似て微かに香気があるといわれ
る」 とされてい る。天木香樹は一般に Juni
pe
r
usr
i
gi
daS・e
tZ・で別名和白檀 ともいい,J・c
hi
ne
ns
i
sL
に も白檀 とい う別名がある。C.De
o
da
r
a と J・r
i
gi
daは葉の形やつ きかた も比較的 よく似てお り,いずれ
も共通的な樹脂の香 りかあることや昔から 「シダ-」 と 「ジュニパー」が混同されていた ことなどを考える
と,天木香樹 とい う漠訳語や註のような混乱がおこる可能性は十分考えられ る。しかし漢訳語木権の根拠が
z
yphus
,橋は Il
l
i
c
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umr
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l
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gi
o
s
um S・e
tZ・にあてられてい る。
どこにあるのかわからない。 漢字木密は Zi
- 30 -
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
o
darと呼び,・
総論で述べた ようにサーラ,チークと共に 3大重要樹種
さて ヒマラヤシダーはイン ドで de
である。標高2
0
0
0
-2
5
0
0mに生じとくに ヒマラヤ山脈周辺に多 く,原産地では樹高5
0m,直径 3mの巨木 と
なる。日本には庭園樹 とt
/てなじみの深い木であるが材は案外利用されていないo材は淡黄白色で,気乾比
重 0.
5
6
,心材に揮発性のデオダール油を含み独特の香気がある。耐久性が強 くイン ドでは枕木に最 も多 く利
用 されているが,その他建築,橋梁の構造部材,床板,屋根板など一般建築,箱類などにも使用され るO節
か ら樹脂がいつまでもしみ出るので家具にはあま り使用されない。
De
o
darや r
o
s
ewo
o
d(
Dal
b
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r
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al
ai
i
f
o
l
i
a)で作った木棺が Har
a
pp
a遺跡 (前3
0
0
0
年∼前2
0
00
年頃西パ
キスタンからイン ドにかけてのインダス河流域に栄えた都市)から発見 されてお り,その耐久性のよさを物
語っている。
dr
usDe
o
darLo
ud.
写真26 Ce
ヒマラヤシダー (
京都植物園)
写真27 Te
c
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o
nagr
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. チーク
(
伊豆薬用植物栽培試験場)
1
4
) チ ー ク Te
c
t
onagr
andi
sI
J
・f
.S豆ka,直樹,柚木
仏典にはそ うたびたびは出てこないが,長阿含経阿摩尽経第 1での釈迦の話によると,育,声摩 とい う大
kas
anda に住み子孫
王に 4人の王子がいたが, ざん言によって国を追われ, ヒマラヤ山南部の直樹林 Sえ
をふやした。これが釈迦族の先祖であるとい う。したがって直樹林は釈迦族発生の地で,その意味で仏教史
的に重要な樹種であるが,たびたび述べたように材の性質,蓄積など,木材利用学的にもイン ドの重要樹種
である。
5
-45
m,直径 1- 2mに達する大木で,葉は卵形,楕円形で写真2
7でみるように非常に大 きい。イ
樹高2
ン ド, ビルマ,タイ,マ レイ,ジャワからセ レべス島に分布する。生長に遅速があ り,台湾では1
0
年で胸高
0c
m に達 したとい う記録がある。 環孔材の特長 として生長,比重の適度のものが強度的に最 も材質
直径 3
がす ぐれ,チークの場合年輪密度 2
-・51/
c
m がよい とされている。材質や用途については説明するまでもな
6
-0.
7,辺材は灰白色であるが心材は黄褐色で耐久性が よく,虫害にも強いの
いと思われろが,気乾比重0.
で産地では鉄道の客車,貨車,船舶および家具用重要樹種である。
わが国にも高級家具,キャビネッ ト用に輸入されているが,色調,材質は ビルマ産が最 もよく,タイ国,
- 31-
木 材 研 究 資料
第 6号 (
1
9
7
2)
イン ドネシャ産が これに次 ぐといわれている。 イン ド産はやや 色調がこいが, 木理がきれいだ ともい う。
Si
s
s
o
o と共に吸脱湿速度の遅い材で, この点 も家具材 としてす ぐれている。
イン ドでは t
e
ak,ビルマでは kyun と呼びその蓄積は世界一 といわれ る。 タイ国でも Sho
r
e
aにつ ぐ主
要樹種である。
1
5) シ ー タ ー Me
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?Si
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a,
F陀樹
テ-ラガータ (
The
r
a
Gat
ha:早島鏡正訳 長老の詩,仏典 Ⅰ)に
「ひ とりでシーター林にはい り,満足し,心の安定に任 した修行者は,身毛のさかだつ ことのない勝利者
であ り,身体に関す る心の専注を守 りつづける堅固者である」
「
美 しい花のさ くシーター林 の冷やかな洞窟のなかで,わたしは手足に水をそそいでひ とり径行 しよう」
白
i
t
a
vana,F陀林)があ り,夢葱 として暗 く (
andha)
,夏なお
とい う詩があるo舎衛城郊外にシーター林 (
寒 さを覚える (
岳
i
t
a)くらいであったので,一名暗林,寒林 ともいい,釈迦は よくこの林の中の 丘に 住んで
いた とい う。
また増壱阿含経一安般品第1
7では Andha
vana(安陀林,暗林)は舎衛城郊外の比丘尼専用の園林で,比
丘専用の祇園精舎に相対す るものであった らしい と訳註 してお り,雑阿含経では安陀林は疎開精舎内にあっ
て,釈迦は よくここで冥想にふけった とのべている。こういった ことから戸陀林 と安陀林は同一ではないか
とい う説があ り,またシーターは園の所有者の名ではないか とい う人名説 もでているo
写真2
8 Me
l
i
aAZ
adi
r
ac
ht
aL. イン ドセンダン
(
De
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hi
,BuddhaJ
a
yant
iMe
mo
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alPar
k・
)
楽譜 台
i
t
a 自体いろいろの意味をもっているが, 上のテ-ラガーターの詩からむ しろこれを樹木名 と考え
るのが妥当であるかもしれぬ。その場合,次の 3樹種がでて くる。
Cal
amusRo
t
ang L
Co
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aMyxaL.
_
P
Me
l
i
aAz
adi
ra
c
ht
aL.
C.Ro
t
ang は トウ属, ロタン トウであるか らまず該当しない とすれば, あ との 2樹種のいずれかになる
adi
r
ac
ht
a ではないか と思 う。
訳であるが,上のいろいろの事例から筆者は最後の M.Az
朗.Az
adi
r
ac
ht
aは常緑の樹高1
2
-1
5mに達する通直な高木で,菜はセンダソに似ているが写真のように
銀歯が鋭 く,輪生である。白色小形の花が版生円錐花序について,蜜のような香気をはなつ。イン ド原産で
ヒマラヤ地区に多いが全国に分布 し, ビルマ,イン ドネシャ,フィ リピンに及んでいる。イン ドでは神聖樹
とされ,衛路衛,縁蔭樹 としても有名である。 M.Az
e
da
r
ac
hL.とともに種子は ビーズとして装飾用 とな
- 3
2-
満久 :仏 典 の 中 の 樹 木
るが,種子油をイン ドでは ne
e
m,セイロンでは mar
g
O
S
a,ジャワでは mi
nba と呼び薬用にする。材は焼
くか,摩擦すると芳香を発 して涼気をさそ うといわれている。マホガニーに似て,辺材は灰色,心材は赤褐
色で硬 く,かな り耐久性があ り,家具,キャビネッ ト用に利用する。
C.Myxa は常緑ではあるが潅木性の小喬木である。 葉は大体楕円形,核巣は約 2c
m の卵形で,果肉は
食用,薬用になる。 -ヂプ トからイン ド, セイロン, ビルマ, マライに分布する。 またこの葉は Gr
e
wi
a
microcosL.の葉 と共に,葉巻 タバ コの覆葉 として愛用され,そのために栽培することもあるとい う。 材は
灰色で気乾比重約0.
5
3,厚板,家具,箱などに利用す る。
参
考
文
(
未完)
献
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He
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岩波文庫)岩波書店.
Sut
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