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韓国ソウル地域の病院調査・視察記
韓国病院記 ■ 日 程 ■ 訪 問 国・場所 ■ 調査病院 (5病院) 平成 26 年 3 月 19 日(水)~22 日(土) 大韓民国 ソウル市 〔19 日〕ソウルアサン病院 〔20 日〕サムスン医療院・がんセンター / 盆唐ソウル大学病院 〔21 日〕延世大学セブランス病院 / 建国大学病院 ・ソウルアサン病院は千葉大学副病院長の山本先生の推薦、その他の4病院は中山教授が病院建 築の観点から、韓国建築協会を通じて推薦されたものです。 ■ 調 査 者 (5名) 〔センター〕髙井理事長 / 三井総務副部長 / 足立施設助成課長 〔千葉大学〕中山教授 大学院工学研究科 井上将来計画検討係長 環境建築計画講座 医学部附属病院経営企画課 将来計画推進室 ■ スケジュール 3/19(水) 11:30 羽田空港(NH1163)→ 14:00 金浦空港 → 15:30 ソウルアサン病院 3/20(木) 10:00 サムスン医療院・がんセンター → 15:00 盆唐ソウル大学病院 3/21(金) 10:00 延世大学セブランス病院 → 梨花女子大(昼食)→ 15:00 建国大学病院 3/22(土) 16:40 金浦空港(NH1164)18:40 羽田空港 建国大学病院にて(左から足立、三井、髙井、中山、井上、ユン、キム(敬称略)) 2014.3.21 ■ 調査概要 1 ソウルアサン病院 (対応者)インターナショナルヘルスケアセンター コーディネーター チャ氏 山口氏 (病院概要) ・開院 1989 年 ・敷地面積 524,700 ㎡ ・診療科目 50 科目以上 ・総病床数 2,680 病床(ICU の 183 病床を含む) ・平均外来数 約 11,000 人/日 ・入院患者数 約 2500 人/日 ・手術件数 約 230 件/日 (ヒアリング概要) ・現代グループ創業者のチョン・ジュヨン氏が「恵まれない人々のために」との思いで設立し たアサン財団が運営。アサン病院の他に国内に7病院あり、地方では赤字覚悟で運営してい る。 ・医師 1,607 名、看護師 3,262 名、その他 2,509 名のトータル約 7,500 人が働いている。 ・患者、家族など、1日5~6万人が病院を訪れる。小さな町の規模であり、地下にはショッ ピングモールが併設されている。 ・外国人として日本、ロシア、中国、モンゴルからの患者が多い。また、中国、アメリカ、イ ンド、ベトナム、モンゴルからの研修医を受け入れている。 ・昨年に名古屋大学と学術交流協定を提携した。 ・臓器移植、心臓、がんが得意分野であり、年間 57,000 件の高難度手術を実施。 ・病院機能としての建物は西館、東館、新館の3つ。単独の病院ではアジア最大規模。 ・特にITに力を入れており、電子カルテ等完全なペーパーレス化を図っている。 ・診療支援室には大型のモニターが並べられ、全ての手術室、病室、外来、CT、MRI、PET 等の 医療機器の稼働情報がリアルタイムで確認できる。 ・患者は自分のスマートフォンから、投薬データや検査結果等に病医の外であってもアクセス することができる。外来の予約もできる。 ・院内に TV スタジオがあり、医学、治療に関する様々なビデオプログラムを制作し、ネット配 信している。 ・各自が思いつくアイデアの実現にむけて議論するスペース「アサンデザインセンター、アイ デアラウンジ」は病院内とは思えないポップな内装であり、ガラス壁面やホワイトボードに 各自が直接書き込み議論している。病院長が思いついたアイデアもここで議論されている。 ・医療の国際規格である JCI(Joint Commission International)認証の取得は考えておらず、 独自に AGS(Asan Global Standard)を策定し、医療の質の向上や安全対策に取り組んでい る。これは JCI や国内の病院認証基準のいいところをそれぞれ取り入れた基準。 病院全景。奥の建物左から西館、東館、新館。 患者のスマートフォンに組み入れられたアプリ(投薬管理画面と外来予約画面) 診療支援室 2 サムスン医療院・がんセンター (対応者)サムー設計 キム氏 (病院概要) ・開院 1994 年 ・建築規模 地上 20 階、地下 5 階、延床面積約 202,302 ㎡(本院) ・総病床数 約 1,982 病床 ・診療科数 40 科目 (ヒアリング概要) ・巨大かつ高度・最先端医療施設を保有し、①世界のハブ病院を目指す、②サムスングループ のシナジー効果(製品の宣伝)等を狙っている。 ・医師約 1,200 名、看護師約 2,000 名、その他職員を含むと約 6,500 人が働いている。 ・設計コンセプトは「狭い土地を、自然を取り入れつつ合理的に使う」。通常の病院設計では、 患者部分を少しでも広くし、その分医師、スタッフ部分が狭くなる傾向であるが、サムスン 独自の規格により、医師、スタッフ部分もゆったりと設計してある。 (基準の内容は秘密!) ・がんセンターは 2008 年にスタート。地上 11 階地下 8 階、延床面積 105,702 ㎡。655 病床、 20 の手術室、62 基のエレベータを有する。 ・病室は南側に室料の高い1~2人部屋を、北側に医師控室と室料の安い 6 人部屋を配置した。 ・各フロアの廊下突き当たりに VIP 病室を配置。 ・通常の 6 人部屋にはトイレ 2 基、シャワー1 基を配置。 ・通常、病室窓側の下にファンコイル型のエアコンを設置するが、ここでは天井にエアコンを 設置し、窓を大きくするとともに窓下のスペースも広く確保している。 ・病院本館とがんセンターは地階と2階に連絡通路を設けている。 ・屋上機械室は屋上ガーデンから見えないよう配置を工夫している。 ・丘陵の地下には霊安室が設けられて居り、式が行える様になっている。 がんセンター全景 ナースステーション ロビー2 階から地下 1 階を見下ろす 病棟廊下 個室病室 6人病室 3 ブン ダン 盆唐ソウル大学病院 (対応者)ジャンリム設計事務所 パク氏 (病院概要) ・開院 2003 年 ・階数 11 階建(新館) ・診療科数 23 科目 (ヒアリング概要) ・急増する老人医療に対する需要と地域住民向けの医療機関建設に対する政府の要請を受け設 立。 ・大学はソウル市内にあり、そこにも附属病院はある。ブンタン地区はソウルから車で 40 分ほ どの距離にある。 ・訪問者動線とは別に、バックヤード側にもスタッフやストレッチャー等の動線「バックコリ ドー」を確保している。 ・国内初で紙製カルテを廃止し、電子カルテシステムを採用。ラップトップや PDA により医師 がどこでも患者の医療記録等の情報を確認することができる。 ・ガラス張りの新館は西日対策として4階以上の病棟西面はダブルスキン構造が採用されてい る。太陽光線で熱せられた空気は2重のガラスの間を通り屋上へ排気される。 ・病室廊下が中廊下1本の場合は幅を広めに確保している。 新館全景模型(左は本館) 新館病棟西面はガラスによるダブルスキン構造 新館ロビー1 階と地下 1 階 4 延世大学セブランス病院 (対応者)セブランス病院 企画運営課長 キム氏 / 国際協力チーム パク氏 (病院概要) ・開院 1904 年 総合医療病院として開院 ・建築面積 16 万㎡、建設中のがんセンターは 10 万㎡ ・病床数 約 1000 病床、建設中のがんセンターは約 350 病床 ・診療科数 30 科目以上 (ヒアリング概要) ・病院の合言葉は「The First and the Best」。説明の中でも「我が病院が1番」が多く出てき た。JCI 取得は大学病院としてアジア初。 ・現在がんセンターを建設しており、2014 年 4 月にオープンする。 ・コンセプトは「病院らしくない病院」。ホテルやデパートを意識している。例えば、メインエ ントランスからは会計が見えず、広く落ち着けるソファーが置かれている。 ・ボランティアを多く配置しており、彼らが院内に気を配っている。 ・医大、歯科大、看護大、保健大を併設しており、教育にも力を注いでいる。 ・病院のエントランスから本館入口までを「グリーンアクセス」と称して、見通しを良く、圧 迫感を無くしている。このグリーンアクセスは本館を大きな開口により貫き、さらに奥まで 続いている。 ・病院敷地の裏には軍隊基地があるため、病院内で一番高層建物である本館の配置は、基地が 見えないよう考慮されている。 ・日本、中国、ロシア、モンゴル、アメリカ、ドイツのほかアラブからも患者が来る。中でも ロシアが一番多い。 ・IT 管理が発達しており、患者は IC カードで簡単に外来等の予約ができ、携帯電話に SMS で 待ち時間等が送られる。 ・ダビンチが4つあり、年間 1500 件程度の稼働実績がある。 ・平均在院日数は 9 日と大変短い。平均在院日数を短くして、回転数を上げることが収益上必 要。基本的に 1 次・2 次医療機関からの紹介患者の受入れ(それ以外は救急患者と家庭医療 科受診者)。退院後は紹介機関に戻すようにしている。 本院。グリーンアクセスが貫いている。 ロビー 来月オープンするがんセンター 5 建国大学病院 (対応者)建国大学病院 施設計画チーム バウム建築事務所 キム氏 / 国際部門 ソン氏 ユン氏 (病院概要) ・開院 1931 年 ・建築規模 地上 13 階地下 4 階延床面積約 8 万㎡ ・病床数 879 病床 ・手術室 18 室 (ヒアリング概要) ・国際診療室では、年間 5000 人の外国人患者を診ている。看護師 2 名を含む 6 名が英語と中国 語で対応している。 ・12 階に 26 の VIP 病室があり、最上級の 1 泊 30 万円の病室は、トイレが3つ、ヒノキのジャ グジー風呂、PC、プロジェクター、キッチンが完備。病院食はタッチパネルで注文すると届 けてもらえる。 ・通常の病室では、5 人部屋が一番多い。トイレ、シャワーは共用で廊下に設置されている。 ・地下ロビーには「KU ギャラリー」として芸術品が飾られていたり「KU ラウンジ」としてピア ノが置いてあり、演奏会が行われている。 ・最近オープンした地下にある国際診療室とヘルスケアセンターは、病院とは違う設計者・施 工者により作られており、病院全体と内装が全く異なり高級感がある。富裕層の患者をター ゲットとしている。 病院本館 2 階から吹き抜けを見る 一般病室ナースステーション VIP 病室ナースステーション 1 泊 30 万円の VIP 病室 ヘルスケアセンター ■全体を見渡してみると ・今回訪問した5病院はいずれも、規模、先端技術、水準といった点で韓国のトップクラスに 入るようなところばかりであり、建物の規模、内装において日本の国立大学病院とのギャッ プが大きかった。韓国の医療制度上、混合診療が可能であり、外来の本人負担率を高く設定 (OECD国中で最高)しており、「(金を)取れる人から取る。そのための病院。」という イメージが伝わってきた。 ・いずれの病院も国際部門を有し、海外からの患者に対応するための専門の部署を有している。 富裕層を対象にしっかりと稼ぎ、料金に見合ったサービスを提供している。その一方で、一 部屋(6人部屋)に 5~6 人が入院し、付き添いの家族がベッドサイドに簡易ベッドで寝泊 まりしているケースもあった。家族の絆を感じる。 ・IT 化が進んでいる。医師も患者もタブレットやスマートフォンで簡単に病院内外から情報に アクセスできる。病院独自に専用アプリの開発も進んでおり、これらを活用することで患者 の待ち時間等も減っている。 ・病院建築の特徴として、どの病院でも、何階にもわたる吹き抜け(アトリウム)や、広々と したロビー空間といった「ゆとりスペース」がとられていた。それぞれの設計者もこれを誇 りとしていた。開放感を確かに感じるが、その分メンテナンスや空調に係る経費は大きなも のであろう。この話はいずれの病院でも聞けなかった。 ・保険・医療及び予算上の制度・規制の違いから、韓国は日本以上に自由な発想で病院を作り、 運営している様子を窺うことができた。 ■ 韓国における医療制度:韓国の医療制度について理解しておくことが病院施設、設備の内容 を知る上で重要である。 1963 年 医療保険法が制定、1989 年に国民皆保険が実現、2008 年には、日本の介護保険に 該当する「高齢者長期療養保険」がはじまっている。このために医療施設は増加し,質は向 上している。混合診療を認めており、高機能、大型病院では高機能診療設備、検査機器の導 入、新しい治療機器等の導入を図っており、高額治療費の請求をおこなうことができる。 ■ 最後に 私たちの病院調査・視察の願いをご快諾くださいました、ソウルアサン病院、サムスン医療院・ ブン ダン がんセンター、盆唐ソウル病院,延世大学セブランス病院、建国大学病院のみなさまに深く感謝 申し上げますとともに、病院内の視察に際し懇切なご説明を頂戴いたしました建築設計事務所の 方々にも厚く御礼申し上げます。 有り難うございました。 平成 26 年 3 月 24 日 独立行政法人 国立大学財務・経営センター 理事長 髙井陸雄