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物質の状態、原子の世界、結晶と対称性

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物質の状態、原子の世界、結晶と対称性
地球惑星科学基礎V演習
物質の状態、原⼦の世界、結晶と対称性
第1回
瀬⼾雄介
http://pmsl.planet.sci.kobe-u.ac.jp/~seto
物質の状態
圧⼒とは
圧⼒: 単位⾯積の⾯にはたらく⼒
⼒が強くなるほど
⼒がかかる⾯積が⼩さいほど
圧⼒は⼤きくなる
単位は
bar ( ≒ 1気圧 )
Pa (パスカル 100kPa = 1 bar)
torr (トール 760torr = 1 bar)
など..
富⼠⼭の⼭頂:
0.6 気圧
エベレストの⼭頂︓
0.3 気圧
マリアナ海溝の底︓
1100 気圧
プロパンガスのボンベ:
8 気圧
⽔道の蛇⼝から出る⽔:
~2 気圧
⾃動⾞のタイア:
2~3 気圧
圧⼒鍋の中:
2.5 気圧
⽕⼒発電所の
タービン:
400 気圧
温度とは
⼆つの物体の間で熱の流れがない
とき、⼆つの物体の温度が等しい
A
B
C
単位は °C (セルシウス度)
°F (ファーレンハイト度)
K (ケルビン)
など..
炭素の融点:
3550℃
レニウムの沸点: 5600℃
微視的には、構成粒⼦(原⼦)の平均的
な運動エネルギーをあらわす尺度
太陽の表⾯:
5500℃
太陽の中⼼:
1600万℃
⼈類が達した最⾼温度:
5億度℃
温度と圧⼒による状態変化
• H2Oの相関係
温度 vapor
(⽔蒸気)
100℃
温度と圧⼒によって物質
はさまざまな状態(気体・
液体・固体)に変化する
liquid
(⽔)
0℃
solid
(氷)
-100℃
0.006
気圧
1
⽔(H2O)の場合
温度
100℃
Ice-Iの結晶構造
0℃
I
-100℃
VII
温度や圧⼒が変化すると、固体の
V
VI
「中⾝」(結晶構造)が変化する
III
II
0
liquid
Ice-IIIの結晶構
造(⽔)
Ice-VIIの結晶
構造
VIII
気圧
10,000
気圧
20,000
少しだけ
•
熱⼒学の復習
熱⼒学第1法則
– エネルギーは保存される
– エネルギーのひとつの形態として“熱”というものがある
– 系の内部エネルギー(U)は、外から流⼊してくる熱(δQ)と、外から受け
取る仕事(δW)の分だけ変化する
dU = δW + δQ
δQ
dQだけ熱が流⼊
dVだけ体積が増加
U
圧⼒ P
U
dU = δW (= -P dV)
•
熱⼒学第2法則
– 温度は⾼い⽅から低い⽅へ流れる
– 全系のエントロピーは増⼤する
⾃発的な状態変化は⊿Sall>0になるように進⾏する
dU = δQ
熱⼒学第2法則
• カルノーサイクルの考え⽅
⽔銀柱の⻑さ L1
外に放出する仕事
物体C
L2
外から受け取る仕事
L2 → L1
Q2
L 1 → L2
Q1
外に放出する仕事
物体X
L1
・物体Xから物体CにQ1だけ
熱を吸わせる
・⽔銀柱の⻑さが変わらない
ように、吸った熱の分は、
体積を膨張させて外に放
出する
外から受け取る仕事
物体Y
L2
・⽔銀中の⻑さがL1か
らL2になるまで、体
積を膨張させる。
・物体Cから物体YにQ2だけ
熱を与える
・⽔銀柱の⻑さが変わらない
ように、与えた熱の分は、
外から圧縮してもらう
・⽔銀中の⻑さがL2か
らL1になるまで、体
積を圧縮させる
カルノーサイクルと仕事効率
L1
L2
外に放出
物体C
L1 → L2
外から受取
L2 → L1
Q2
Q1
物体X
物体Y
外に放出
①
L1
②
③
カルノーサイクル①→②→③→④を⼀周した
後、物体Cは何の変化も受けていない
外から受取
L2
④
P
物体Cが外界にした仕事(左図の⻩⾊部分)は、
受け取った熱Q1と放出した熱Q2の差である。
W = Q1 - Q 2
物体Cが外界にした仕事Wと、⾼熱源から得
た熱Q1の⽐を仕事効率という
η = W / Q1 = (Q1-Q2) /Q1
①
④
②
③
V
仕事効率は⽔銀柱の⻑さだけで決まる量であ
る。(作業物質の種類によらない)
η = η (L1, L2)
熱⼒学的温度
仕事効率 η(L1,L2) = 1- Q2/Q1
熱⽐ ζ (L2,L1)= 1- η(L1,L2) = Q2/Q1
もし、⽔銀柱の⻑さがそれぞれL1, L2, L3 の熱源X, Y, Zがあり、任意
の⼆つを選んでカルノーサイクルを考えると・・・
ζ (L1,L3) = Q1/Q3 = Q1/Q2・Q2/Q3 = ζ (L1,L2)・ζ (L2,L3)
ζ (L1,L2) = ζ (L1,L3) / ζ (L2,L3)
L3の⻑さを基準(たとえば1mm)とすれば、 ζ (L1, L3=1mm) ª T(L1)
と表すことができるので、
ζ (L1,L2) = T(L1) / T (L2) = Q1 / Q2
熱⼒学的温度
…要するに、何か基準になるもの(Z)を⽤意すると、XとYの熱⽐はT(L)
という関数(具体的な形は分からないかもしれない)の⽐であらわすことができる
たとえばその基準を⽔(沸点が100で融点が0)にすればセルシウス温度
計の⽬盛りとすることができる
物体
エントロピーとは
吸熱
放熱
P
δQ1 (吸熱)
T1
P
T2 →T1
T1 →T2
T2
δQ2 (放熱)
T1 / T2 = δQ1 / -δQ2
δQ1/T1 + δQ2/T2 = 0
V
∲
V
δQ / T = 0
(任意のサイクルに関して)
dS = δQ/Tという量を考えると、任意のサイクルに関して、
∲ dS = 0 という関係が成り⽴つ
このSをエントロピーと呼ぶ
エントロピー増⼤とは
Te: 外界(exterior)の温度
Ts: 系(system)の温度
⊿Q
Te: 外界の温度
Ts: 系の温度
⊿Q
もし系の温度(Ts)zが外界の温度(Te)より低ければ、
熱(⊿Q>0)は外界から系へ流れる
系のエントロピー変化は
外界のエントロピー変化は
⊿Ss=⊿Q/Ts
⊿Se=-⊿Q/Te
全体のエントロピー変化は
⊿Sall= ⊿Ss+⊿Se= ⊿Q/Ts - ⊿Q/Te=⊿Q(1/Ts – 1/Te)>0
もし系の温度(Ts)が外界の温度(Te)より⾼ければ、
熱(⊿Q>0)は外界から系へ流れる
系のエントロピー変化は
外界のエントロピー変化は
⊿Ss= -⊿Q/Ts
⊿Se= ⊿Q/Te
全体のエントロピー変化は
⊿Sall= ⊿Ss+⊿Se= -⊿Q/Ts + ⊿Q/Te=⊿Q(-1/Ts + 1/Te)>0
要するに、エントロピー増⼤とは温度の⾼い⽅から低い⽅へ熱が流れるということ
系の⾃発的な変化 その1
系の体積が変化せず、外界の温度が⼀定の場合
Te: 外界(exterior)の温度
Ts: 系の温度
⊿Q
U: 系の内部エ
ネルギー
もし系の温度(Ts)が外界の温度(Te)より低ければ、
熱(⊿Q>0)は外界から系へ流れる
系のエントロピー変化は
外界のエントロピー変化は
全体のエントロピー変化は
⊿Ss=⊿Q/Ts
⊿Se=-⊿Q/Te
⊿Sall= ⊿Q/Ts - ⊿Q/Te>0
系の内部エネルギーUは流⼊した熱の分だけ増加する
内部エネルギーの変化量 ⊿U = ⊿Q
⊿Ss - ⊿U/Te > 0
⊿U - Te ⊿Ss < 0
外界の温度が⼀定で、系が外部に仕事をしない(系の体積が⼀定)とき、
⊿U - T ⊿S = ⊿(U – T S) が負になるように⾃発的変化は進⾏
F = U – T S という量が最⼩になるとき、系はそれ以上変化しない(安定化する)
F : ヘルムホルツの⾃由エネルギー
系の⾃発的な変化 その2
外界の温度と圧⼒が⼀定で、系の体積が変化する場合
もし系の温度(Ts)が外界の温度(Te)より低ければ、
熱(⊿Q>0)は外界から系へ流れる
Te: 外界の温度
Pe: 外界の圧⼒
Ts: 系の温度
P⊿V
⊿Q
U: 系の内部エ
ネルギー
系のエントロピー変化は
外界のエントロピー変化は
全体のエントロピー変化は
⊿Ss=⊿Q/Ts
⊿Se= – ⊿Q/Te
⊿Sall= ⊿Q/Ts – ⊿Q/Te>0
系の内部エネルギーUは流⼊した熱の分増加し、外
部にした仕事分だけ減少する
内部エネルギーの変化量 ⊿U = ⊿Q – Pe⊿V
⊿Ss –(⊿U+Pe⊿V)/Te > 0
⊿U +Pe⊿V–Te ⊿Ss < 0
外界の温度と圧⼒が⼀定(⊿T=0, ⊿P=0)のとき、
⊿U – T ⊿S +P⊿V= ⊿(U – T S +PV) が負になるように⾃発的変化は進⾏
G = UーT S +PVという量が最⼩になるとき、系はそれ以上変化しない(安定化する)
G : ギブズの⾃由エネルギー
物質の状態
• 物質の状態には気相・液相・固相がある
• 物質の状態は系の⾃由エネルギーを最⼩にする
⽅向に変化
– ⾃由エネルギーは
• 温度 (T)
• 圧⼒ (P)
• 化学組成
などによって決まる物理量
• ほとんどの固相は結晶
– 結晶は温度や圧⼒に応じて様々に変化する
(例:⿊鉛⇔ダイアモンド)
⾃由エネルギー最⼩の原理
外界の温度と圧⼒が⼀定であれば、ギブスの⾃由
エネルギー(G)が最⼩のとき、系は安定化する
G = U – TS +PV
⼀定
⼀定
• 温度(T)が⾼いとき、系の安定化にはエントロピー
(S)が⼤きく寄与する
例:⾼温では、物質は気体状態(エントロピーの⾼い状態)に
変化する
• 圧⼒(P)が⾼いとき、系の安定化には体積(V)が⼤き
く寄与する
例:⾼圧では、物質は⾼密度(体積の低い状態)に変化する
ところで…、実際の物質を形作っている原⼦は、こ
のような熱⼒学法則を知っているのだろうか︖
原⼦の世界
原⼦の世界
原⼦(分⼦)それ⾃体は熱⼒学の法則とは無関係に
運動する
近いと反発する
遠いと引き寄せあう
• 原⼦と原⼦の間には、距離に応じて様々な⼒が働く
– 近いとき: 電⼦雲の重なりによる斥⼒
– 遠いとき: 双極⼦相互作⽤やクーロン⼒などによる引⼒
• 多数の原⼦からなる場合、ある原⼦は周りの原⼦すべて
から⼒を受けて、運動する
原⼦の世界
⼀つの例として…
レナード・ジョーンズ ポテンシャル
   6   12 
 (r )  4      
 r   r  
引⼒
この距離がもっとも
ポテンシャルが低い
接線の傾きが正: 引⼒
斥⼒
r: 原⼦間の距離
ε: 定数 (全体的なポテンシャルの⼤きさ)
接線の傾きが負: 斥⼒
σ: 定数 (ポテンシャル極⼩距離)
希ガスの原⼦間相互作⽤をうまく表現しているといわれている
レナードジョーンズポテンシャル
   6   12 
 (r )  4      
 r   r  
引⼒
100
80
60
40
斥⼒
20
r: 原⼦間の距離
ε: 定数 (全体的なポテンシャルの⼤きさ)
σ: 定数 (ポテンシャル極⼩距離)
0
⼩
‐20 3
4
5
6
7
8
9
10
‐40
‐60
‐80
‐100
100
100
80
80
⼩
60
40
20
40
80
40
20
0
0
4
5
6
7
8
9
10
‐20 3
‐40
‐60
‐60
‐80
‐80
⼤
60
20
‐40
‐100
σ
60
0
‐20 3
100
σ が⼤きくなるとポテンシャル
エネルギー最⼩距離が⼤きく
なる
ε
4
5
6
7
8
9
10
‐20 3
4
5
6
7
8
9
10
‐40
‐60
‐80
‐100
‐100
100
80
60
40
20
0
‐20 3
‐40
‐60
‐80
‐100
⼤
4
5
6
7
8
9
10
ε が⼤きくなるとポテンシャルエネル
ギー全体が⼤きくなる (原⼦間の相互
作⽤が⼤きくなる)
物質のさまざまな状態
ε:10, σ:50, T: 5
ε: 10, σ:50, T: 5
初期状態: 気体
ε:10, σ:50, T: ~1
原⼦間相互作⽤
が⼩さい
or
温度が⾼い
原⼦間相互作⽤が⼤きい
or
温度が低い
固体
原⼦間相互作⽤が中くらい
or
温度が中くらい
気体
ε:10, σ:50, T: ~3
液体
熱⼒学状態量と原⼦運動の統計量
• 多数の原⼦の統計量が熱⼒学的状態量を⽰
している
– 内部エネルギー(U)
原⼦集団をバラバラに引き離すためのエネルギー
– 温度 (T)
原⼦集団の平均運動エネルギー
– 圧⼒ (P)
原⼦集団が単位⾯積の壁に及ぼす単位時間当たりの運動量変化
– 体積 (V)
原⼦集団が占める空間の⼤きさ
– エントロピー (S)
原⼦集団がとりうるあらゆる状態の数の対数
結晶と対称性
固体の中⾝
すべての原⼦の引⼒と斥⼒がつり合う距離を実現するような配置
平⾏四辺形の繰り返し単位 (単位格⼦)
60°回転
固体の状態(原⼦が⾃由に動き回らない状態)のとき、⼀般に原⼦は規則正し
く周期的に配列する
結晶
結晶とは
結晶: 単位格⼦とよばれる基本単位が3次元的に整然
と、無限に積み重なったもの
単位格⼦
単位格⼦の⼀辺の⼤きさ 〜 1 nm (= 10-9m = 10億分の1メートル)
結晶の”中⾝” - 結晶構造 岩塩(NaCl)
鉄(Fe)
Fe
Cl
Na
単位格⼦の中では原⼦がある規則性(対称性)に従って配置している
結晶の”要素”
•
箱(単位格⼦)の形状
•
箱の中の原⼦位置/種類
Fe
•
Cl
鉄(Fe)
原⼦の形状(結合様式)・原⼦の振動・⽋陥
このような要素の
• 表現⽅法
• 解明する⼿段・考え⽅
• 実際の結晶への応⽤
を知ることがこの授業の主題です
Na
岩塩(NaCl)
複雑な結晶の構造
カンラン⽯ (Mg2SiO4)
⽯英(SiO2)
ザクロ⽯ (Mg3Al2Si3O12)
b
b
c
c
c
a
b
空間群 P3221
Si
O
x
y
z
0.4697
0
2/3
0.4135 0.2669 0.7858
a
a
空間群 Pbnm
Mg
Mg
Si
O
O
O
x
0
0.9915
0.4262
0.7657
0.2215
0.2777
y
z
0
0
0.2774
¼
0.094
¼
0.0913
¼
0.4474
¼
0.1628 0.0331
空間群 Ia-3d
Mg
Al
Si
O
x
0
0
3/8
0.033
y
1/4
0
0
0.051
z
1/8
0
1/4
0.653
地平線まで続く道 1
道道106
鏡に映る⾵景に変化がない
鏡
鏡映対称
地平線まで続く道 2
道道106
⽩線から⽩線まで進んでも周りの⾵
景に変化がない
並進対称
廻る⿃
180°回転しても図形は不変である
天使と悪魔
120°回転しても図形は不変である
⼀列にならぶ
繰り返し単位
平⾏移動すると、元の図形と区別ができない
⾵呂敷模様
平⾏移動すると、元の図形と区別ができない
対称性とは
• ⼀般にある対象についてそれを不変にす
る変換が定義されるとき、その変換を対
称操作(あるいは対称要素)という
例:
ある図形を回転しても元の図形と区別できない
→ 回転に関して対称
f(x,y) = x+y という関数
→ xとyの交換に関して対称
振り⼦運動する物体
→ 時間の反転に関して対称
この授業では「図形」に関する対称を対象とします
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