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石垣島付近の表面水温と群体サンゴ骨格年輪の関係 The relation

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石垣島付近の表面水温と群体サンゴ骨格年輪の関係 The relation
海洋科学技術センター試験研究報告 第40号 JAMSTECR, 40
(February 2000)
石垣島付近の表面水温と群体サンゴ骨格年輪の関係
山本 浩文 *1
南西諸島のサンゴ骨格の各環境因子を詳細に解析することによって,黒潮流域の海洋環境変動の長期的な特徴を把握
し,モンスーン,エルニーニョ現象など地球規模の気候変動と比較し,過去の気候変動の代弁者として使用できるかど
うかの検討を行っている。
本研究ではサンゴ試料分析を行うとともに,サンゴ古水温計として酸素同位体法を用いて古水温を推定した。また,微
量金属元素ストロンチウムを用いて過去の水温を推定するために様々な手法の精度の検討を行った。
さらに,沖縄県石垣島と黒潮,ENSO 監視海域の水温の関係から,石垣港検潮所における過去 85 年間の月平均海面水
温(SST)の解析を行い,黒潮 SST,ENSO との相関について検討した。その結果,石垣港の海面水温は過去 85 年間年
平均で1.2℃上昇したことが明らかになった。また,衛星データの SST,石垣港SST 及びサンゴ試料採取地点水温の分析
から,サンゴ年輪採取地点の水温は黒潮の水温変動をよく反映していることが分かった。黒潮の源流域である赤道太平
洋の水温異常であるENSOと石垣SSTとの関連を分析し,ENSOに伴う大気の状態の変化が石垣SSTに変化をもたらし
たと考えられる現象が得られた。これらの結果から,石垣島は地球規模の気候変動を反映する一つの地点であることを
導いた。
なお,本研究は平成 10 年度の財団法人日本海洋科学振興財団への委託研究で実施されたものである。
キーワード
:サンゴ骨格年輪,水温変動,黒潮流域
キーワード:
The relation between the sea surface temperature around Ishigaki
Island area and Coral skeletal growth records
Hirofumi YAMAMOTO *2
We have observed the long mean charactristic of ocean environmnt in the Kuroshio curennt area, according to analysis each
environmental factor of the coral skeletal growth records in detail and a study to compare global climate changes as the monsoon and
EL ni-no was carried out.
In this study, we analysis the coral skeletal samples by δ 18O, and estimate the past age temperature at the unit from a year to
several hundred.
We examination several methods by using a trace metallic element. And we analysis the long-term sea surface temperature (SST)
data of Ishigaki local meteolological observatory from 1914 to 1998. As a result, we have got an obvious fact. It was rise 1.2℃ the
year average of the sea surface temperature for 85 years at the port of Ishigaki. We compare IGOSS SST data from 1982 to 1997
around Ishigaki Island with a port of Ishigaki SST by the monthly surface of the sea temperature deviation. It show the same trend.
This means is reflect Ishigaki island temperature to the SST change of Kuroshio area. The last year result was harmony a port of
Isihgaki SST data with coral sample point SST data. It comes down to this, this time result is harmony the SST data at the coral sample
point with the SST change of Kuroshio area. We heve to further study the SST change around Ishigaki island in a global earth of view.
The source of Kuroshio current is the North equator ial current. We analys between unusual SST around North equator and ENSO by
the SST deviation of every month. It show that appear plus deviation of ENSO bihind the plus deviation Ishigaki SST. It consider the
change of air conditions with ENSO is the change of Ishigaki SST. In these way, Ishigaki Island reflect global climate change. This
report was carried out due to grant from the Japan Marine Science Fundation in 1998.
Key Words : Coral skeletal growth records, sea water fluctuation, Kuroshio current
*1 海洋観測研究部
*2 Ocean Research Department
35
1 はじめに
冬期の上昇が著しい。図2に年平均 SST,夏期6∼8月
西太平洋では西向きの北赤道海流がフィリピンにあた
り,
そこで分岐して北に向かうものは黒潮の源流となる。
の3ヶ月平均SST及び冬期12∼2月の3ヶ月平均の推移
を示し、SSTの上昇を直線で近似した。それによると,過
一方,
南に向かうものはミンダナオ海流と呼ばれている。
このように西太平洋は複雑な循環系からなっている。ま
去 85 年間の SST 上昇は,年平均で 1.2℃,夏期のそれは
0.6℃及び冬期は 1.9℃であった。SST の上昇は主に冬期
た,このような海流系はアジアモンスーンに大きく左右
されている。さらに,エル・ニーニョ,ラ・ニーニャ現
の SST 上昇によるものであることが明らかになった。
さらに,年平均 SST の上昇の長期傾向をみるために,
象とも密接な関係があることが最近判ってきた。このよ
うに西太平洋は世界気候研究に重要な海域であり,海洋
月平均SSTの60ヶ月移動平均を図3に示した。実線は多
項式による平滑曲線である。これによると 1945 ∼ 1970
観測データとともにサンゴやその化石など過去の代弁者
による古気候の復元が重要な鍵となる。こうした自然現
年間は SST 上昇は抑えられており,1925 ∼ 1945 年及び
1975 ∼ 1998 年間は SST 上昇が大きく,特に 1980 年以降
象に伴う水温変動や水塊の変動を面的にとらえるような
古気候の復元研究は,大気・海洋のモデル研究と関係し
の SST 上昇が著しい。この SST 上昇パターンは,全球的
な地表気温の傾向1) とよく一致している。
て,気候変動の仕組みを深く理解し,その変動を予測し
対策をたてていく上でますます重要な位置を占める。
2.2 石垣港 SST と黒潮 SST
本研究では石垣島が地球規模の気候変動の影響を受け
ている場所であることを示唆し,石垣島でのサンゴ年輪
黒潮は台湾と西表・石垣島との間を北上して,東シナ
海陸棚斜面に沿って進み,九州鹿児島の南で再び太平洋
を用いた古環境解析を行った。また,より精密な古環境
解析を行うため同位体希釈 - 表面電離型質量分析法によ
にでる。石垣島は,この黒潮流路からすこし東にずれて
おり黒潮反流域にあるといえる。
る手法を確立したので報告する。
石垣港 SST と黒潮 SST を比較してみる。黒潮 SST とし
ては,IGOSS(Integrated Global Ocean Services System)の
2 石垣島の海面水温と海洋変動との関係
本解析では石垣島地方気象台石垣検潮所の表面海水温
北緯 24 ∼ 25 度,東経 122 ∼ 123 度海域の月平均 SST を
使用した。図4は 1982 ∼ 1997 年の石垣港と黒潮域の月
データ(Sea Surface Temperature : SST)を使用した。デー
タは 1914 年から現在までで,1996 年3月末までは毎日
平均 SST 偏差を示したものである。両者はほぼ同じ傾向
を示している。特に 1983 年,1988 年の正偏差の値はよ
10時に観測され,1996年4月からは自記記録式水温計に
よる毎時の SST に変更された。
く一致している。すなわち,石垣港の SSTは黒潮 SST の
変動をよく反映しているといえる。
2. 1 石垣港 SST データの上昇傾向
2.3 石垣 SST と ENSO
石垣港 SST データのうち,1914 年から 1998 年までの
85年間の月平均SSTの変化を図1に示す。この図から85
黒潮の源流は北赤道海流であり,赤道太平洋の水温異常
である。ENSO との関連を想起させる。ENSO と黒潮と
年間に SST が徐々に上昇している様子が見られる。特に
の関連を明らかにするため 1970 ∼ 1998 年の東部太平洋
図1 石垣港検潮所の月平均の SST の変化
Fig. 1 The change of month mean SST Ishigaki port tidal point.
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図2 石垣 SST の年平均,夏期及び冬期の平均の変化
Fig. 2 The annual mean SST at Ishigaki and the change of the avarege summer and winter season.
図3 石垣月平均 SST の 60ヶ月移動平均とその平滑曲線
Fig. 3 Monthly mean SST at Ishigaki and the smooth line derived by 60 month running mean.
赤道海域の NINO3 区(西経 90 ∼ 150 度,北緯 5 度∼南緯
5度)と石垣港の毎月のSST偏差を図5に示した。NINO3
2.4 海水温に敏感なサンゴ
1998年の夏はサンゴの大規模な白化現象が見られた年
区は ENSO 監視区域である。1970 ∼ 1998 年間で大きな
ENSO としては,1972 ∼ 1973 年,1982 ∼ 1983 年,1986
である。サンゴの白化は,一般に高い水温が直接の原因
であるといわれている。1998 年は 1997 ∼ 1998 年の観測
∼ 1987 年,1997 ∼ 1998 年に起こっている。図5から明
らかなようにこれらの大きなENSO正偏差に少し遅れて
史上最大と言われたENSOが原因と考えられる高い海水
温が沖縄海域でも見られた。図6に 1996 ∼ 1998 年の3
石垣港 SST の正偏差が現れる。その遅れは数ヶ月程度で
ある。北赤道海流・黒潮の流速を考えると,ENSO によ
年間の石垣港 SST の変化を示した。1996 年の月平均 SST
は 21.5 ∼ 29.5℃で平均 25.2℃,1997 年は 21.2 ∼ 28.3℃の
る赤道域の水温異常が,海流を通して石垣島に直接伝
わったとは考えにくい。むしろ,ENSO に伴う大気状態
範囲で平均 25.1℃,1998 年は 22.2 ∼ 30.1℃で平均 26.2℃
であった。年平均水温が 26℃以上となったのは,石垣 85
の変化が石垣SSTに変化をもたらしたと考えるのが妥当
である。
年間のうち 1998 年を除くと,1988 年のみである。1998
年の月平均 SST は 23.2 ∼ 30.0℃の範囲で年平均 26.0℃で
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図4 石垣港と黒潮域の IGOSS 格子点の月平均 SST 偏差の関係
Fig. 4 The relation of the monthly SST deviation Ishigaki Is.and IGOSS data around Kuroshio area.
図5 NINO3 区(西経 90 ∼ 150 度,北緯5度∼南緯5度)と石垣港の月平均 SST 偏差の変化
Fig. 5 The change of the monthly SST deviation NINO3 area and Ishigaki port.
あるが,大規模なサンゴ白化は報告されていない。1988
年と 1998 年の冬から夏の水温変化を比べると,1998 年
な情報が含まれる。骨格の成長速度は1年に約 1cm で,
サンゴ骨格年輪を1 mm 間隔で削りだして分析,解析す
の4月が1988年のそれより1.5℃高いことが注目される。
サンゴ白化と水温との関係を明らかにするには,月
ると,過去数百年間の海水温などの変化を月単位で明ら
かにすることができる2)。
データのみならず,日,時間データの解析も必要である。
また,サンゴ生息現場での直接データの解析も必要であ
サンゴ骨格中の金属元素の主成分はカルシウム(Ca)
であるが,骨格が形成されるとき,カルシウムに似たマ
る。この意味から,1998 年の石垣北東部のサンゴ礁での
水温連続観測データは貴重である。また,過去のサンゴ
グネシウム(Mg)
,ストロンチウム(Sr)やバリウム(Ba)
などを海水から微少量取り込む。サンゴ骨格中のカルシ
白化の痕跡を押さえることにより,短期の気候変動を押
さえることも可能となる。
ウムに対するストロンチウム比(Sr/Ca)は海水温によっ
て決まることが1970年代に発見されていたが,水温変化
3 サンゴ骨格年輪から過去の水温を推定
に対する骨格の Sr/Ca の変化があまりにも小さくて,水
温計として実用化しなかった。オーストラリアのグレー
3.1 サンゴの水温計
サンゴ骨格は木の年輪と同じような成長輪が存在する。
トバリアリーフのハマサンゴ骨格のカルシウムに対する
マグネシウム比(Mg/Ca)と現場温度を調べたところ,水
その年輪の数を数えることによって年代を知ることがで
きる。また,年輪にはそれが形成されたときのいろいろ
温に対する骨格Mg/Caの変化はSr/Caの約4倍に及び,誤
差 0.4℃で水温を復元できることを発見した(図7)
。最
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図6 1996 ∼ 1998 年の石垣港の旬平均 SST
Fig. 6 SST at Ishigaki port from 1996 ∼ 1998.
3.2 サンゴ骨格年輪の酸素同位体分析による
古水温の推定
こういった背景の中,微量金属が水温計として利用で
きるのは,海水中で炭酸塩とイオン交換反応が起きてい
るためと考えられる。すなわち,
CaCO3 + Me2+ ←→ MeCO3 + Ca2+
サンゴ骨格のカルシウムと並ぶ主成分は酸素である。
酸素には16Oのほかに18Oという重い同位体がわずかに存
在する。炭酸カルシウムが海水中で形成されるとき,海
水の酸素との間で酸素同位体交換が行われる。
すなわち,
1/3CaC16O3 + H218O ←→ 1/3CaC18O3 + H216O
同位体交換平衡化で炭酸カルシウムが形成されると,
炭酸カルシウムの酸素同位体比(18O / 16O,δ18O として
図7 グレートバリアリーフのハマサンゴ骨格のMg/Ca比と海面
水温の関係。この関係から海面水温を±0.4℃の誤差で求め
られる
Fig. 7 The relation between the Mg/Ca ratio of Proites Sp. skeletons at
Greatbaria reaf and seasurface temperature.
表される)は 海水の酸素同位体比と水温によって決まる。
このことは,1950 年代に予想され,貝殻などによって実
用化されている。サンゴ骨格についても,1970 年頃から
研究されはじめた。石垣島の伊原間における 3m のハマ
サンゴの表層6年分の骨格年輪の酸素同位体比,海水の
酸素同位体比及び現場水温の測定から,
δ 18O サンゴ − δ 18O 海水 = − 0.162t℃ − 0.586
近では,Sr/Caも分析法の改良により,高い精度で水温が
復元できるようになっている。
また,サンゴ骨格中の Sr/Ca が,サンゴの種類,成長
という関係式を得た。この式は酸素同位体交換平衡と
は少しことなっており,サンゴ骨格炭酸カルシウムは非
速度,
健康度によって影響されないと断定はできないが,
その影響は小さく水温算出にとって大きな問題とならな
平衡で形成されるといえる。しかし、水温を求める上で
事実上の問題はない。海水の酸素同位体比(δ 18O 海水)
いというのがごく最近のサンゴ骨格研究者の総意となっ
ている3)。
は年間を通してほほゼロであるので、サンゴの酸素同位
体比の測定からサンゴ骨格年輪ができた時の海水温を求
めることができる。この式をつかって,3mのハマサンゴ
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図8 石垣島ハマサンゴ群体から求められた 100 年ごとの海面水温の変化
Fig. 8 The change of seasurface temperature of every hundred years depend on Proites Sp. at Ishigaki Is.
の 100 年ごとの5∼6年間の水温変化を復元した(図
ころ最も良い精度で測定できる手法である。
8)
。図8から明らかなように 1900 年頃の水温は最近と
比べて,年間を通して平均 0.6℃低い。1800 年頃は,最
同位体希釈 - 表面電離法による Caの分析に関しては,
従来は Ca - 42 及び Ca - 44 ないし 43 トレーサーを用い
近と比べると年平均で1.4℃低く,
特に冬よりも夏の水温
の低下が著しい。200 年間の連続した測定はまだ終わっ
た手法(ダブルスパイク法)が用いられてきた。Ca のよ
うな質量数の小さな元素の場合,フィラメント上での蒸
ていないが,石垣の海は 200 年前から徐々に暖まってき
たことが分かった。1988 ∼ 1993 年の水温変化によると,
発時の同位体分別効果が大きいため,十分な精度を得る
ためにはダブルスパイクによる同位体補正が必要とされ
1988年当初に異常に高い冬の海面水温が見られる。これ
は 1986 ∼ 1987 年のエル・ニーニョに関連した海水温異
てきた。サンゴ骨格の Sr / Ca 分析は Minnesota 大学のグ
ループがはじめに行ったが6),彼らもまたその方法を用
常と考えられる。エルニーニョによる赤道域の海面水温
異常は数か月から1年後に石垣島に現れる。石垣の海は
いた。ただし,ダブルスパイク法は,ルーチン測定の前
段階であるスパイク溶液の調整のために数百回の測定が
黒潮系の海水であり,黒潮は赤道域の海流とつながって
いる。石垣島の海面水温変化を把握することは,間接的
必要であり,多数のルーチン測定を必要とするサンゴ年
輪研究の場合,たびたびスパイク溶液を作成する必要が
ではあるが太平洋の変動を押さえることを示唆する。
生じるため,必ずしも最適な実験方法とはいえない。
今回は,Ca - 43のシングルスパイクを用いた実験方法
4 サンゴ水温計の測定法の確立
4.1 同位体希釈 - 表面電離型質量分析法のよる
の確立を行った。7),8) シングルスパイク法(Sr - 84 ト
レーサーと合わせてダブルスパイク法ともいわれる)は
サンゴ骨格の Sr/Ca 分析
微量成分の精度の良い分析法の一つとして,目的成分
スパイク溶液調整をほとんど必要とせず,同位体補正を
十分に行うことができた場合は,多数試料測定に適した
の濃縮された同位体を利用する同位体希釈法がある4)。
その原理は,試料の既知量に目的成分の濃縮された同位
方法といえる。
図 10 に実験法を示す。粉末試料を洗浄後,約 0.2mg を
体(トレーサーあるいはスパイクとよぶ)を含む化合物
の一定量を加えた時の目的成分の同位体比の変化から成
溶液に溶かす。試料 0.1mg で Sr 及び Ca の測定が可能で
ある。試料溶液を濃度を求めておいたスパイク溶液と混
分量を求める。
サンゴ骨格の Sr と Ca の存在比は骨格が形成された時
合し,ホットプレートで蒸発乾固させる。その際,フィ
ラメント接触面の表面積を大きくするため低濃度の燐酸
の水温と良い相関があることが知られている5),6)。Srと
Ca はそれぞれ 84 - 86 - 87 - 88,40 - 42 - 43 - 44 という安
も混合する。乾固させた試料及びスパイク混合物をごく
微量の塩酸で再溶解し,フィラメントに塗付する。今回
定同位体を持ち,また炭酸塩の形でトレーサーが入手可
能であることから同位体希釈法による高精度分析に適し
実験に用いた表面電離型質量分析計はVG社の354型で,
1度に 16 フィラメントを設置できる。Ca 及び Sr の1測
ている。固体試料であるサンゴ骨格の金属濃度の測定に
は表面電離型質量分析法を用いる。その原理は,目的物
定に必要な時間は約 1.5 時間である。通常1フィラメン
トは参照物質(サンゴ骨格の均一粉末)をセットし,15
質を金属フィラメント上で加熱することにより目的物質
が正イオンとして蒸発することに基づく。図9に各分析
フィラメントを測定試料に用いる。
参照物質の繰り返し測定の結果を図11に示す。ファイ
法によるサンゴ骨格の Sr/Ca 分析の精度を示す。図9か
らも明らかなように同位体希釈・表面電離法は現在のと
ル 55 **は Ca 濃度に関してバイアス補正してある。同
時に従来のCa - 42,44によるダブルスパイク法による分
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図9 Sr/Ca各測定法の精度比較
誤差棒の上の括弧内の数値はサンゴ年輪−水温スケールに換算した時の精度
Fig. 9 The comparison of accuracy each method of measurement.
図 10 同位体希釈−表面電離法によるサンゴ骨格の金属分析法
Fig. 10 The metal analysis method of coral skeletons by Isotop
Dilution - Thermal Ionization Mass Spectrometry (ID - TIMS).
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図 11 参照物質(Japanese coral - I)の繰り返し測定結果
Fig. 11 The result of repitition standard materials (Japanese colal - I).
析結果(n= 多数)を示す。6回の参照物質測定の標準偏
vironment Programme : CLIMATE CHANGE 1992, The
差は 0.5 ‰(2 σ)となり,従来法とほぼ同じ精度を得る
ことができた。確度に関しては、従来法から約 2 ‰高い
Supplementary Report to The IPCC Scientific Assessment, 139-165. (1992)
結果となった。これはCaの結果が従来法よりも低くなっ
たことに起因する。その原因はCa - 42の信号検出に用い
2)
山本浩文:群体サンゴ骨格年輪と海洋気候変動の関
係,海洋科学技術センター試験研究報告,第39号,
るディテクターカップにCa - 40からの干渉があったこと
によって同位体分別補正の際の収束値が真の値に対して
17-33.(1999)
3) Gagan, M. K. et al. : Temperature and Surface-Ocean
ずれたことによる。これは分析管内のフィルターを改良
することによって解決される問題である。
Water Balance of the Mid-Holocene Tropical Western
Pacific. Sceience, 279, 1014-1018. (1998)
今回の実験によって,サンゴ骨格の Sr/Ca 分析のシン
グルスパイクによる測定法が確立された。今後は今回見
4) 荒木峻 : 質量分析法(第三版) , 東京化学同人,
172pp,
(1978)
いだされた問題点を解決し,実際のサンゴ試料測定に適
用していく予定である。
5)
Smith et al : Strontium-Calcium Thermometry in Coral
Skeletons, Science, 204, 404-407. (1979)
5 おわりに
6)
Beck et al. : Sea-Surface Temperature from Coral Skeletal Strontium/Calcium Ratios, Science, 257, 644-647.
平成10年度本研究を実施するに際し,日本海洋科学振
興財団に研究委託した。その際に,東京大学大学院理学
(1992)
7) Mitsuguchi et al : Mg/Ca Thermometry in Coral Skel-
研究科地理学の茅根創博士,名古屋大学大気水圏科学研
究所の松本英二博士らに貢献いただいた。厚く御礼申し
etons, Science, 274, 961-963. (1996)
8)
Hart and Cohen : An ion probe study of annual cycles of
上げる。
参考文献
1)
World Meteorological Organization United Nations En-
42
Sr/Ca and other trace elements in corals, G. C. A., 60,
3075-3084. (1996)
(原稿受理:NVVV年S月NN日)
JAMSTECR, 40
(2000)
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